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境界性パーソナリティ障害治療におけるω3脂肪酸とバルプロ酸併用

 境界性パーソナリティ障害(BPD)患者に対するオメガ3(ω3)脂肪酸の有効性について、いくつかのエビデンスが報告されている。以前行われたBPD患者43例を対象とした12週間のランダム化比較試験において、バルプロ酸単独療法と比較し、イコサペント酸エチル(EPA)およびドコサヘキサエン酸エチル(DHA)とバルプロ酸の併用療法の有効性が評価されている。併用療法は、バルプロ酸単独療法(対照群)との比較で、衝動性行動制御、怒りの噴出、自傷行為など、いくつかのBPD症状に対し、より有効であった。イタリア・トリノ大学のPaola Bozzatello氏らは、ω3脂肪酸の投与中止後、両群間の有効性の差が維持されているかを評価するため、24週間のフォローアップ試験を行った。Clinical drug investigation誌オンライン版2018年1月5日号の報告。 12週間のランダム化比較試験を完了した34例に対し、フォローアップを行った。12週間の試験後に両群間で有意な差を認めた評価尺度を用い、フォローアップ期間の開始時および終了時に評価を行った。評価尺度には、境界性パーソナリティ障害重症度指数(Borderline Personality Disorder Severity Index:BPDSI)の「衝動性(impulsivity)」および「怒りの噴出(outbursts of anger)」の項目、バラット衝動性尺度(Barratt Impulsiveness Scale-Version 11:BIS-11)、自傷行為インベントリ(Self Harm Inventory:SHI)が含まれた。統計分析には、反復測定による分散分析(ANOVA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間終了時、併用療法群内では、評価を行った4つの尺度すべてにおいて有意な差が維持されていたが、群間比較では、怒りの噴出のみで有意な差が維持されていた。・フォローアップ期間中の忍容性に関しては、臨床的に有意な副作用は認められなかった。 著者らは「BPD患者に対するバルプロ酸とω3脂肪酸の併用療法は、怒りのコントロールに関して、併用中止後も継続的な効果を示した」としている。■「DHA効果と脳」関連記事EPA、DHA、ビタミンDは脳にどのような影響を及ぼすか

42.

初回エピソード統合失調症の灰白質に対するω-3脂肪酸の影響

 初回エピソード統合失調症患者に対する追加療法としての、n-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)使用に関連する皮質厚の変化について、ポーランド・ウッチ医科大学のTomasz Pawelczyk氏らが評価を行った。Schizophrenia research誌オンライン版2017年10月24日号の報告。 イコサペント酸エチル(EPA)およびドコサヘキサエン酸エチル(DHA)、またはプラセボ(オリーブ油)2.2g/dを含む濃縮魚油で26週間の介入を行う、二重盲検ランダム化比較試験を実施した。皮質厚の変化を評価するため、介入前後にMRIスキャンを行った。各対象者のT1強調画像は、FreeSurferを用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・適切な品質のデータが得られた対象者は29例であった。・統合失調症への関連を示唆する機能不全である、左脳半球のブロードマン7野と19野の頭頂後頭領域において、群間に皮質厚減少の有意な差を認めた。・本結果は、高齢者および軽度認知障害を有する患者において実施されたこれまでの研究結果を支持し、とくに統合失調症のような神経変性疾患の初期段階にn-3PUFAが神経保護作用を有することが示唆された。 著者らは「本結果が再現されれば、n-3PUFAは、統合失調症の長期治療において抗精神病薬の有望な併用薬として、臨床医に推奨される可能性がある」としている。■関連記事統合失調症とω3脂肪酸:和歌山県立医大統合失調症患者の暴力行為が魚油摂取で改善初発統合失調症患者の脳変化を調査

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WATCHMAN留置後の血栓症の特徴を調査

 左心耳は非弁膜症性心房細動患者における血栓塞栓症の主要な発生源と考えられ、経皮的に左心耳を閉鎖することが、長期の抗凝固療法に代わる治療として使用される頻度が増えている。米国においては、WATCHMANが米国食品医薬局(FDA)が承認した唯一の左心耳閉鎖デバイスである。しかし一方で、WATCHMAN留置後、残存するデバイス周囲からの閉鎖漏れや予期できないデバイス関連血栓が懸念されている。Cedar-Sinai 医療センターのShunsuke Kubo氏、Saibal Kar氏ら研究グループは、心房細動患者におけるWATCHMANに関連した血栓形成の特徴や、その影響を調べた。Journal of American College of Cardiology誌2017年8月号に掲載。心房細動患者119例が対象、デバイス関連血栓症の発生率は3.4% 本研究では、2006~14年に連続してWATCHMANの植込みを受けた心房細動患者119例を対象とした。植込み後の経食道エコー(TEE)は、45日後、6ヵ月後、12ヵ月後に実施された。TEEで同定されたデバイス関連血栓の発生率、特徴と臨床経過が評価された。フォローアップのTEEにより、デバイス上に形成された血栓が4例(3.4%)に同定された。血栓が見つかった患者はいずれも慢性心房細動を有しており、血栓のない患者における慢性心房細動の有病率(40%)よりも高かった。また、血栓を有する患者においては、留置されたデバイスのサイズが大きかった(29.3±3.8mm vs. 25.7±3.2mm)。血栓を有するすべての症例で、研究のプロトコールで求められる抗凝固もしくは抗血小板療法が中断されていた。ワルファリンおよびアスピリンによる治療再開後、全症例で血栓の完全な消失がTEEにより確認された。全症例において、ワルファリンは6ヵ月で中止されたが、血栓の再発は認められなかった。フォローアップ期間の平均は1,456±546日で、血栓を有する患者における死亡、脳梗塞、全身の血栓症は認められなかった。短期間のワルファリン療法がデバイス関連血栓症に有効 本研究では、心房細動の頻度、デバイスのサイズ、抗凝固・抗血小板療法が、WATCHMAN留置後に生じるデバイス関連血栓に関与しうることがわかった。また、短期間のワルファリン療法はデバイス関連血栓症に有効であることが示され、その後の再発も認められなかった。■参考Incidence, Characteristics, and Clinical Course of Device-Related Thrombus After Watchman Left Atrial Appendage Occlusion Device Implantation in Atrial Fibrillation Patients(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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うつ病リスクが低下する日本人に適切な魚類の摂取量は

 魚類の消費やイコサペント酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)レベルがうつ病のリスク低下と関連していることが、観察研究のシステマティックレビューにより明らかとなっている。また、n-3PUFAの逆J字型効果が示唆されている。しかし、魚類の消費量の多い集団からのエビデンスは限られており、うつ病の標準的な精神医学的ベースの診断を用いた研究はない。国立がん研究センターの松岡 豊氏らは、日本人における魚類、n-3PUFA、n-6PUFAの消費とうつ病リスクとの関連を、集団ベースのプロスペクティブ研究にて調査を行った。Translational psychiatry誌2017年9月26日号の報告。 長野県佐久地域住民1万2,219例(1990年)を対象に、1995、2000年に食物摂取頻度調査を完了し、2014~15年にメンタルヘルス検査を受けた63~82歳の参加者1,181例を抽出した。魚類の摂取量およびPUFAの四分位に基づき、うつ病のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・95例が現在うつ病と診断されていた。・うつ病リスクが低下していたのは、魚類の摂取量の第3四分位(111.1g/日、OR:0.44、95%CI:0.23~0.84)、EPAの第2四分位(307.7mg/日、OR:0.54、95%CI:0.30~0.99)、ドコサペンタエン酸(DPA)の第3四分位(123.1mg/日、OR:0.42、95%CI:0.22~0.85)であった。・がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病で調整後のORは、魚類およびDPA摂取において有意なままであった。 著者らは「高齢者のうつ病予防に対し、中程度量の魚類の摂取が推奨される」としている。■関連記事たった2つの質問で、うつ病スクリーニングが可能魚を食べると認知症は予防できるのか統合失調症とω3脂肪酸:和歌山県立医大

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統合失調症とω3脂肪酸:和歌山県立医大

 統合失調症患者の機能的アウトカムに認知機能障害は強く関連しているが、その病態生理はよくわかっていない。健常人および精神神経疾患患者の認知機能に対するω3脂肪酸の関与が注目されている。和歌山県立医科大学の里神 和美氏らは、統合失調症患者におけるω3脂肪酸と認知機能、社会的機能、精神症状との関連を調査した。Schizophrenia research誌2017年5月18日号の報告。 対象は、統合失調症または統合失調感情障害患者30例。精神症状、認知機能、社会機能は、それぞれPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)、BACS(統合失調症認知機能簡易評価尺度)、SFS(社会的機能尺度)を用いて評価した。血清ω3脂肪酸は、ガスクロマトグラフィーを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・BACS総スコアは、EPAおよびDHAレベルと有意な相関が認められた。・また、抗精神病薬の1日投与量は、DHAレベルおよびBACS総スコアと有意な負の相関が認められた。・ステップワイズ重回帰分析では、SFSスコアがBACS総スコアと有意に関連していることが示唆された。 著者らは「血清ω3脂肪酸の減少は、認知機能障害と関連しており、統合失調症における社会的機能アウトカムに影響を及ぼす」としている。■関連記事統合失調症患者の暴力行為が魚油摂取で改善統合失調症に対するメマンチン補助療法に関するメタ解析脳内脂肪酸と精神症状との関連を検証:富山大

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統合失調症患者の暴力行為が魚油摂取で改善

 統合失調症患者の症状や暴力行為の減少と、毎日の魚油(DHA 360mgとEPA 540mg)摂取との関係について、中国・上海交通大学医学院のYi Qiao氏らが検討を行った。Schizophrenia research誌オンライン版2017年8月19日号の報告。 ICD-10基準を満たし、攻撃的行動尺度(MOAS)4点以上で、抗精神病薬治療を受けている統合失調症入院患者50例を対象に、魚油群(28例)またはプラセボ群(22例)に無作為に割り付け、12週間の投与を行った。評価は、ベースライン時および4、8、12週目に行った。 主な結果は以下のとおり。・PANSSおよびCGIスコアは、4、8、12週目に減少が認められたが、両群間で差は認められなかった。・MOASスコアは、4、8、12週目で有意に低下した。・12週目の魚油群のMOASスコアは、プラセボ群より有意な低下が認められた(t=-2.40、p<0.05)。 著者らは「暴力的な統合失調症患者に対する魚油(DHA 360mgとEPA 540mg)の投与による治療は、プラセボと比較して暴力性の減少を示したが、陽性および陰性症状の改善については優れていなかった」としている。■関連記事統合失調症患者の家庭での暴力行為に関する調査:東京大学日本人統合失調症、暴力行為の危険因子は:千葉大魚を食べると認知症は予防できるのか

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抗凝固薬の中和薬:マッチポンプと言われないためには…(解説:後藤 信哉 氏)-715

 手術などの侵襲的介入時におけるヘパリンの抗凝固効果はプロタミンにより中和可能であり、経口抗凝固薬は外来通院中の症例が使用しているので、ワルファリンの抗凝固効果は新鮮凍結血漿により即座に、ビタミンKの追加により緩除に中和できることを知っていても、中和薬の必要性を強く感じる場合は少なかった。止血と血栓は裏腹の関係にあるので、急性期の血栓、止血の両者を管理する必要のある症例の多くは入院症例であり、その多くは調節可能な経静脈的抗凝固療法を受けていた。 モニタリングせずに使用する経口抗トロンビン、抗Xa薬(いわゆるNOACs、DOACs)は、血栓イベントリスクの高い機械弁、僧帽弁狭窄症では使われていない。緊急手術が必要な状態になった場合、重篤な出血が薬剤により惹起されたとき、薬剤投与を中止して止血できるまで、どの程度の時間が必要であるかがわからない。プロトロンビンを濃縮した血液製剤などを使うと直感的に止血を実感できる。本研究ではトロンビンの酵素作用を直接阻害するダビガトランに中和抗体を作用させれば、即座に抗トロンビン効果は消失することを示した。臨床的な止血効果をおそらく医師は現場で実感したと想定するが、臨床試験にて有効性を数値で示すことはできなかった。 血液凝固カスケードは液相の反応が広く知られるが、現実の血液凝固の重要部分は活性化血小板膜上にて起こる。Xaは血小板上のプロトロンビナーゼ複合体の形成に未知の複雑なメカニズムで作用するので、Xaのおとりではプロトロンビン時間が正常化しても血栓イベントは増えるような結果であった。ダビガトランの抗体の作用は、Xa阻害薬の中和薬よりは作用が直線的である。それでも、「抗凝固薬を不必要に多用して、自然歴ではない出血イベントを多発させ、抗凝固薬の中和薬を多用する」のは、マッチポンプ的で患者にも社会にも不利益をもたらす。抗Xa薬の中和薬よりは直線的だがダビガトラン抗体に価値があるのかどうか、現時点では筆者にもわからない。 放置すれば近未来ほぼ確実に血栓イベントが起こる症例に、抗凝固薬を限局的に使用する世界が筆者には効率的に思える。

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循環器内科 米国臨床留学記 第20回

第20回 米国の電子カルテ事情日本でも電子カルテが一般的になっていますが、米国では電子カルテのことをElectrical Medical Record (EMR)と言います。今回は、米国におけるEMR事情について書いてみたいと思います。米国のEMRの特徴の1つとして、どこからでもアクセスできるというのが挙げられます。「今日は疲れたから、残りのカルテは家で書きます」といった感じで、インターネットで世界中のどこからでも電子カルテにアクセスできます。実際、私も帰国時に日本から米国の患者に処方したり、カルテをフォローしたりすることがあります。日本でも電子カルテが登場して久しいですが、インターネットを介して患者のカルテにアクセスするのはまだ一般的でないかもしれません。Medscapeのリポートによると、2016年の段階で91%の医師が電子カルテを使用しており、これは2012年の74%から比べても大幅な増加です。その中でも、41%と圧倒的なシェアを誇るのがEPICというシステムです。ほかのEMRと比べても、EPICはuser friendlyで使いやすく、日常臨床を強力にサポートしてくれます。私のいるカリフォルニア大学アーバイン校では、現在はEPICと異なるシステムを使っていますが、評判が悪いため、来年EPICに移行します。乱立していたEMRの会社も徐々に淘汰され、数社に絞られてきているようです。また、同じEMRシステムを使うと、異なる病院間でも情報が共有できるといったサービスもあります。以前いたオハイオ州のシンシナティーという町にはEPIC everywhereというシステムがあり、EPICを使っているシンシナティー市内すべての病院の情報が共有されていました。ほかの病院の情報に簡単にアクセスできると、無駄な検査を減らすことができます。EMRは、入院時に必要なオーダーを入れないとオーダーを完了できないシステムになっています。例えば、深部静脈血栓症(DVT)予防は、入院時に必須のオーダーセットに入っているため、オーダーせずに患者を入院させようとすると、ブロックサインが現れ、入院させることが難しくなっています。このようなシステムは日本の電子カルテにもあると思います。また、代表的なEMRのシステムには、ガイドラインに準じたクリニカルパスが組み込まれています。 主なものとしては、敗血症ショックセット、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)セット、急性冠動脈症候群(ACS)セットなどが挙げられます。例えばACSで入院すると、ヘパリン、アスピリン、クロピドグレル、スタチン、β遮断薬をクリック1つで選択するだけですから、確かに処方し忘れなどは減ります。オーダーセットは非常に楽ですし、DKAなどは勝手に治療が進んでいき、うまくいけば入院時のワンオーダーで、ほぼ退院まで辿り着けるかもしれません。しかしながら、一方で医者が状況に応じて考えなければいけないことが減り、時には危険なことも起こります。患者の状態は、1人ずつ異なりますから、tailor madeな治療が必要になります。実際、DKAで入院した患者がDKAオーダーセットによる多量の生理食塩水で心不全を起こすというようなことは、何度も見てきました。このほか、EMRで問題となっているのは、いわゆる“copy and paste”です。デフォルトのカルテでは、正常の身体所見が自動的に表示されます。注意を怠ると、重度の弁膜症患者にもかかわらず「雑音がない」とか、心房細動なのに脈拍が“regular”などといった不適切な記載となります。実際に、このようなことはしょっちゅう見受けられます。他人のカルテをコピーすることも日常茶飯事なので、4日前に投与が終わったはずの抗生剤が、カルテの記載でいつまでも続いているということもあります。Medscapeの調査でも66%の医者が“copy and paste”を日常的に(時々から常に)使用しているとのことでした。外来でのEMRは、Review of System、服薬の情報、予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌)、スクリーニング(大腸ファイバーなど)などをすべて入力しなければ、カルテを終了(診察を終了)できなくなっています。こうした項目を入力しないと医療点数(診療費)に関わってくるからです。その結果、EMRに追われてしまい、患者を見ないでひたすらコンピューターの画面を見て診療しているような状況に陥りがちです。こうなると、自分がEMRを操作しているのか、EMRに操作されているのかわからなくなります。いろいろな問題がありますが、EMRは日々進歩している印象があります。使い勝手は良いのですが、最終的には医者自身が頭を使わければ患者に不利益が被ることもあるため、注意が必要です。

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知ってますか?「derivation」と「validation」の意義と違い(解説:中川 義久 氏)-661

 PCI術後には、ステント血栓症などの血栓性イベント予防のために抗血小板薬としてアスピリンとチエノピリジン系薬剤に代表される、ADP受容体P2Y12阻害薬の併用投与(Dual Anti-platelet Therapy:DAPT)が主流となっている。DAPTを継続することは出血性合併症を増す危険性がある。血栓性イベントリスクと出血リスクの両者のトレードオフで比較すべき問題である。DAPTを継続すべき期間については明確な指針はないが、全患者に画一的な期間を設定するよりも、リスク評価に基づいて患者層別化することにより個々の患者に至適DAPT期間を設定することが医療の質を高める。このような個別化医療は時代の潮流であり、患者層別化のための方法論も進化している。 今回、スイス・ベルン大学のFrancesco Costa氏らは、新しい出血リスクスコアである「PRECISE-DAPTスコア」をLancet誌2017年3月11日号に発表した。これは、「年齢・クレアチニンクリアランス・ヘモグロビン値・白血球数・特発性出血の既往」という入手が簡易な5項目を用いて算出するものである。論文のタイトルは長いが紹介しよう。「Derivation and validation of the predicting bleeding complications in patients undergoing stent implantation and subsequent dual antiplatelet therapy(PRECISE-DAPT)score:a pooled analysis of individual-patient datasets from clinical trials.」である。このタイトルの文頭の「derivation and validation」という用語について考察してみたい。 症状・徴候・診断的検査を組み合わせて点数化して、その結果から対象となるイベントを発症する可能性に応じて患者を層別化することをclinical prediction rule(CPR)という。この作業は2つに大別される。モデル作成段階(derivation)と、モデル検証段階(validation)である。(1)モデル作成段階とは、データを元にCPRモデルを作成する段階である。このモデル作成のためにデータを使用した患者群をderivation sample(誘導群)という。この群のデータから誘導されたモデルであるから、この患者群におけるモデルの内的妥当性が高いことは当然である。この段階では、このモデルを他の患者群に当てはめても正しいかどうかは明らかではない。(2)モデル検証段階とは、別のデータを用いてモデルの検証を行う段階である。このためにデータを用いる患者群をvalidation sample(確認群)という。CPRモデルを一般化して当てはめて良いかどうか、つまり外的妥当性を検証する作業である。PRECISE-DAPTスコアを提唱する本論文においては、多施設無作為化試験8件の患者合計1万4,963例をderivation sampleとし、PLATO試験(8,595例)およびBernPCI registry(6,172例)をvalidation sampleとしている。本論文は、患者層別化のためのスコアリングモデルの作成作業を教科書的に遂行している。CPRモデル提唱論文における、derivationとvalidationについて語るに相応しい題材でありコメントさせていただいた。

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魚を食べると認知症は予防できるのか

 ここ20年の研究では、魚類およびDHAなどのn-3脂肪酸が高齢者のアルツハイマー病を含む認知機能低下を抑制することが示唆されている。スウェーデン・ウプサラ大学のTommy Cederholm氏は、2015~16年の研究結果をレビューした。Current opinion in clinical nutrition and metabolic care誌オンライン版2016年12月12日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・1件のプロスペクティブコホート研究より、高齢者ケア施設入居者の脳解剖では、海産物の摂取と神経性プラークおよび神経原線維変化との関連が認められた。・5年間の大規模介入研究より、n-3脂肪酸補充患者または対照患者において、認知機能への影響は認められなかった。・コミュニティ患者を対象とした2件のメタアナリシスより、高魚類摂取は、認知機能を保持することが認められた。・記憶愁訴の高齢者は、n-3脂肪酸の補充により、記憶課題に関する皮質血流を改善する可能性がある。・アルツハイマー病患者のレポートからの再計算では、血清n-3脂肪酸の増加と認知機能改善には用量反応性が示唆された。・しかし、コクランレビュー(3件の無作為化対照試験)では、n-3脂肪酸は、軽度/中等度アルツハイマー病患者において任意の6ヵ月間でメリットがないと結論付けた。 著者らは「魚類やDHAの摂取は、記憶愁訴やMCI高齢者において予防的メリットを有する可能性があり、軽度/中等度アルツハイマー病患者のサブグループにおいても、このようなメリットがあると考えられる」とし、「より一層の研究が必要である」としている。関連医療ニュース 日本食は認知症予防によい:東北大 魚を食べるほどうつ病予防に効果的、は本当か EPA、DHA、ビタミンDは脳にどのような影響を及ぼすか

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金子英弘のSHD intervention State of the Art 第7回

肺静脈隔離術後の抗凝固中止は脳梗塞リスク?今回はSHD interventionの話題からは少し離れますが、心房細動患者さんへの肺静脈隔離術後の脳梗塞リスクについて興味深い報告1)がJAMA Cardiology誌に掲載されましたのでご紹介します。肺静脈隔離術(Pulmonary vein isolation; PVI)は心房細動に対する標準的なアブレーション治療として確立されていますが、PVIが脳梗塞のリスクを軽減できるかについては明らかでありませんでした。本試験においては、PVI後に抗凝固療法を中止することに伴う脳梗塞リスクについて検討を行いました。対象は2006年1月から2012年12月までにスウェーデンのSwedish Catheter Ablation Registerに登録された合計1,585名の初回PVIが施行された心房細動症例(平均観察期間2.6年)です。抗凝固療法としてはワルファリンが用いられました。登録された1,585名のうち、73%は男性で平均年齢は59歳、CHAD2DS2-VAScスコアは平均1.5でした。1,175名が1年以上にわたってフォローされ、そのうち360名(31%)が1年以内にワルファリンを中止していました。その結果、CHAD2DS2-VAScスコアが2以上の症例ではワルファリン中止群でワルファリン継続群と比較して脳梗塞の発生率が上昇していました(1.6%/年 vs.0.3%/年、 p=0.046)。そしてCHAD2DS2-VAScスコアが2以上あるいは脳梗塞の既往がある症例ではワルファリン中止によって脳梗塞発症のハザード比がそれぞれハザード比4.6(p=0.02)、13.7(p=0.007)と上昇していました。 この結果から本論文では、ハイリスク症例においては心房細動に対するPVI後にワルファリンを中止することは安全ではないことが示唆されると述べられています。本連載でも心房細動症例における脳梗塞予防法である左心耳閉鎖術について取り上げたように、心房細動症例における脳梗塞予防は非常に大切です。もちろんPVIは心房細動の根治治療を目指す治療であり、脳梗塞予防だけが目的ではありません。しかしながらPVIが奏効した症例でもCHAD2DS2-VAScスコアが高い症例や脳梗塞の既往がある症例では抗凝固療法が中止できないとなると、今後の治療におけるdecision makingにも影響を及ぼす可能性があります。もちろん本研究は症例数・イベント数共に限られ、またレジストリ研究でもあることから、今回の結果のみから考察されることには限界があります。また、PVI治療後の心房細動再発の有無についても電気的除細動や再度のPVIなどの記録から判定していますので、ワルファリン中止群で心房細動の再発が見逃された結果として、多くの脳梗塞が発症した可能性もあります。一方で心房細動における脳梗塞予防を主眼においた場合には、現在、いくつかのヨーロッパの施設で試験的に行われているようにPVIと左心耳閉鎖術を一期的に行うというオプションも脳梗塞のハイリスク症例やPVI後の再発が予想される症例に対しては1つの現実的な選択肢かも知れません。また、本試験においてはPVI後の脳梗塞イベントが心房細動に伴う心原性脳梗塞であるかについても不明です。ワルファリンを中止した群での脳梗塞発生も1.6%/年であり、CHAD2DS2-VAScスコア2点以上の心房細動症例における脳梗塞の自然発生率2)を下回っています。したがってPVIが脳梗塞の抑制に無効だとはいえませんし、アテローム血栓性やラクナ梗塞など心原性以外のエチオロジーによるものだとすればPVIを行ってもこれらを予防することは出来ないのは当然です。一方でワルファリンは、血小板活性化因子であるトロンビンの産生を抑制しますので、抗凝固作用だけでなく、血小板凝集に対し抑制的に働く、と考えることができます。また、心原性脳梗塞だけでなく、非心原性脳梗塞に対する有用性も報告されていますので、3)、ワルファリン投与により心原性以外の脳梗塞が予防され、今回のような結果が導かれた可能性があります。議論が少し飛躍しますが、このようなことを考えた時にWatchman(R)(ボストン・サイエンティフィック社)を用いた左心耳閉鎖術後にバイアスピリンを永年継続させるというPROTECT-AF試験のプロトコールは「良い落としどころ」なのかも知れません。今後、さらに高齢化が進むことが予想される先進国において、心房細動症例における脳梗塞の予防はきわめて大きなテーマです。Watchman(R)の日本への導入機運も高まる中で、本論文を含めて、心原性脳梗塞のトータルマネージメントについて考えることが重要になってくると考えています。1)Sjalander S, et al. JAMA Cardiol. 2016 Nov 23. [Epub ahead of print]2)Lip GY, et al. Stroke. 2010 Dec;41(12):2731-27383)Mohr JP, et al. N Engl J Med. 2001;345:1444-1451.

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ヘパリン起因性血小板減少症〔HIT:heparin-induced thrombocytopenia〕

1 疾患概要■ 定義ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)は、治療のために投与されたヘパリンにより血小板が活性化され、血小板減少とともに新たな血栓・塞栓性疾患を併発する病態である。■ 疫学HITの頻度は報告によりさまざまであるが、欧米では約1~3%とされている。わが国においては多施設共同前向き観察研究の結果、ヘパリン治療を受けた患者の0.1~1%程度の発症率と考えられ1)、海外と比較してやや低い発症率と考えられる。■ 病因HITの発症において、血小板第4因子(platelet factor 4: PF4)とヘパリンの複合体に対する抗体(HIT抗体)が中心的な役割を果たす。PF4は、血小板α顆粒に貯蔵されているケモカインであり、血小板活性化に伴って流血中に放出される。PF4は血管内皮細胞上のヘパラン硫酸などのヘパリン様物質と結合するが、投与されたヘパリンはこの内皮細胞上のPF4と複合体を形成し、その結果PF4に立体構造の変化、新たなエピトープが露出すると推定されている。PF4・ヘパリン複合体に対してHIT抗体が産生され、HIT抗体はそのFab部分でPF4分子を認識する一方、そのFc部分が血小板上のFcγRIIA受容体に結合して、血小板を強く活性化する。また、HIT抗体は血小板のみならず、血管内皮細胞や単球の活性化も引き起こし、最終的にはトロンビンの過剰生成につながる。トロンビンは凝固系の中心的役割を担うだけでなく、血小板も強く活性化し、HITにおける病態の悪循環形成に関与していると考えられる2)。■ 症状典型例ではヘパリン投与の5~10日後にHITの発症を見るが、過去3ヵ月以内にヘパリンを投与された既往のある症例などでは、すでにHIT抗体が存在するためにヘパリン投与後HITが急激に発症することもある。通常血小板数は50%以上、また10万/μL以下に減少する。HIT症例では注射した部位に発赤や壊死などが起きやすい。HIT症例の35~75%に動静脈血栓症が起きるが、血栓症がすぐに起きない症例でもヘパリンを中止し、他の抗凝固療法を行わないと血栓症のリスクが高くなる。静脈血栓症としては深部静脈血栓、肺梗塞、脳静脈洞血栓などが知られるとともに、静脈血栓症より頻度は少ないが、動脈血栓症としては上下肢の急性動脈閉塞、脳梗塞、心筋梗塞などが起きる。■ 分類従来、ヘパリン投与後の血小板減少症は2つの型に分類されてきた。1型はヘパリン投与患者の約10%に認められ、ヘパリンの直接作用による非免疫性の機序で血小板減少が起きる。ヘパリン投与直後より、一過性の軽度から中等度の血小板減少が起きるが、血小板数は10万/μL以下になることは少なく、また、血栓症を起こすこともない。現在では本当の意味のHITではないと考えられ、ヘパリン関連性血小板減少症とも呼ばれる。2型は、免疫学的機序による血小板減少症と動静脈血栓症が起きるもので、現在はHITというと、この2型を意味する。2型には血小板減少が、ヘパリン投与後5~14日で起きる典型例と、直近(約100日以内)のヘパリン投与などにより、HIT抗体が高抗体価である患者にヘパリン投与した場合、数分から1日以内に急激に発症する症例があり、「急速発症型」と名付けられている。■ 予後HITの適切な治療が行われなかった場合、約50%の患者に動脈血栓症、静脈血栓症が起き、死亡率は10%を超える。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断ヘパリン投与後の血小板減少の程度、発症期間、血栓症の合併、注射した部位の発赤や壊死などのHITの臨床的特徴を用いた4T スコアリングシステムが開発され、臨床的に有用とされている3)(表)。低スコア(0~3)の場合は、ほぼHITの存在が否定できる。中間スコア、高スコアとHITの確率は高くなるが、血清学的診断の結果も考慮して、総合的に診断を行うことで、現在散見されるHITの過剰診断を防ぐことができる。画像を拡大する■ 血清学的診断免疫測定法などによるPF4・ヘパリン複合体検出法とHIT抗体が血小板を活性化させることを利用した機能的測定法がある。1)免疫測定法ELISA法、ラテックス凝集法、化学発光免疫測定法などがあり、後2法は保険収載されている。HIT検出の感度は高い(80~100%)が、特異度はやや低いとされており、免疫測定法によるHIT抗体陰性の症例はほぼ(90~99%)HITを否定しても良いとされている。偽陽性率が多い原因は、臨床的に意味がないと考えられているIgMやIgAを、実際にHITを引き起こすIgGとともに測り込んでしまうためと考えられている。強陽性例(とくにIgG抗体)は、弱陽性例よりもHITである可能性が高いと報告されている。2)機能的測定法HIT抗体が実際に血小板を強く活性化させるかどうかを判定する機能的測定法は、とくに特異度に優れており、臨床的にHITが疑われ、機能的測定法が陽性であれば、HITの診断に強く繋がる。患者血漿、ヘパリンを健康な人の血小板に加え、血小板凝集能を測定する方法、セロトニン放出などでHIT抗体の存在を評価する方法が行われている。ただ、機能的測定法は、高いクオリティコントロールと標準化を必要とし、わが国では研究室レベルにとどまる。最近、わが国では、HIT抗体により活性化された血小板より産生される血小板マイクロパーティクルをフローサイトメトリーで測定することにより、機能検査を行っている施設があり、臨床的に有用との評価を得ている4)。3 治療HITが疑われる場合は、ただちにヘパリンを中止し、HITの確定検査を行いながら、代替の抗凝固療法を始める。治療薬として投与されているヘパリンのみならず、ヘパリンロック、ヘパリンコーティングカテーテルなども中止する必要がある。また、HITによる血栓症がすでに起きてしまった場合は、血栓溶解療法、外科的血栓除去術も必要になることがあるが、この適応についてのわが国でのエビデンスは乏しい状態である。ワルファリン単独療法は、protein C、Sなどの低下によりかえって血栓症を増悪し、皮膚壊死などを来すので、禁忌である。ワルファリンは、抗トロンビン剤などの投与により血小板数がある程度回復したときに、投与を始め、臨床症状が安定化してからワルファリン単独投与に切り替える。アスピリンなどの抗血小板剤も、適応のある治療法とは認められていない。■ アルガトロバンとダナパロイドHITの治療法としてわが国で使用可能な薬剤は、アルガトロバン(商品名: ノバスタンHI、スロンノンHI)とダナパロイド(同: オルガラン)である。1)アルガトロバン合成トロンビン阻害剤であり、以前より脳血栓急性期、慢性動脈閉塞症などで認可されているが、最近になり医師主導型治験の結果、HITの治療薬として薬事承認された。アルガトロバンの初期投与量は、アメリカでは2.0μg/kg/分であり、aPTTを使用として投与前値の1.5~3倍になるように投与量を調節することが推奨されているが、日本人でこの量では出血傾向が起きるようであり、わが国での推奨初期投与量は0.7μg/kg/分(肝機能障害者では0.2μg/kg/分)である。2011年にはさらにHIT患者における体外循環時の灌流血液の凝固防止、HIT患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)にも適応が拡大された。2)ダナパロイド低分子量のヘパリノイドであり、ヨーロッパ、北米などでHIT治療薬として使用され、その有効性は確認されている。わが国では播種性血管内凝固症候群(DIC)への適応は承認されているが、HITへの治療量についてはまだ確立していない。ダナパロイドの添付文書では、HIT抗体がこの薬剤と交差反応する場合は、原則禁忌と記載されているが、最近の大規模臨床研究では、ヘパリンとの交差反応(血清反応および血小板減少や新規の血栓症発生などの臨床経過より評価)は3.2%とかなり低い値であった5)。アルガトロバンと異なり胎盤通過性がないなどの利点があり、症例によってはわが国でも選択されるべき薬剤の1つであろう。4 今後の展望HITは、わが国における一般の認識度の増加とともに症例数が増加してきており、簡便で信頼性のある診断方法の開発が望まれる。新規経口抗凝固薬(NOAC)のHIT治療薬としてのエビデンスはまだ少ないが、これから検討が進むことが期待される。5 主たる診療科輸血部、心臓血管外科、循環器内科 など患者を紹介すべき施設国立循環器病研究センター病院 輸血管理室6 参考になるサイト診療・研究情報国立循環器病研究センター病院 輸血管理室(医療従事者向けのまとまった情報)NPO法人 血栓止血研究プロジェクト HITセンター(医療従事者向けのまとまった情報)1)Kawano H, et al. Br J Haematol. 2011;154:378-386.2)Warkentin TE. Curr Opin Crit Care. 2015;21:576-585.3)Greinacher A. N Engl J Med. 2015;373:252-261.4)Maeda T, et al. Thromb Haemost. 2014;112:624-626.5)Magnani HN, et al. Thromb Haemost. 2006;95:967-981.公開履歴初回2016年12月6日

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EUCLID試験:クロピドグレルの先進性は驚異的(解説:後藤 信哉 氏)-615

 チクロピジン、クロピドグレルは、フランスの政財官が協調して作り上げた優れた抗血小板薬であった。作用標的は未知であったが、当時の標準治療であったアスピリンに対するランダム化比較試験を、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患を対象として行い勝利した。 米国にて、1997年に広い適応を取得した時点でも薬効標的は未知であったものの、これらの疾患におけるアスピリンに対するわずかな優位性に加えて、冠動脈ステント術後のステント血栓の予防には臨床家が実感できる効果があった。薬剤としての化学構造は、複雑、体内の代謝も未知、薬効標的分子も単離されないまま臨床家には広く使用された。世界のあまたの企業は、クロピドグレルの先進性にまったく追いつくことができなかった。 2001年に、7回膜貫通型受容体蛋白P2Y12が薬効標的として単離された。P2Y12はADPの受容体である。クロピドグレルはADPと相同性のないプロドラッグであったが、アストラゼネカ社はADP/ATP類似化合物として、P2Y12 ADP受容体阻害薬チカグレロル、カングレロルを開発した。最近の抗X薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬が各社ほぼ同時に開発する「me too!」ドラッグであることと比較すると、クロピドグレルの先進性、革新性は群を抜いていた。 カングレロルは、急性冠症候群を対象とする直接的な経静脈的P2Y12 ADP受容体阻害薬である。本邦の急性冠症候群は年間10万人なので、1回投与の価格を1万円としても、企業の収益は年間1万円×10万人=10億円にすぎない。1週間継続投与としても70億円なのでは、1,000億円クラスのブロックバスターを次々開発する大企業には、微々たる利益で開発の対象にならない。 チカグレロルは経口薬なので、1年服薬を継続すると考えれば、急性冠症候群で1日1万円の薬価とすると1万円×10万人×365日=3,650億円と商売になる。1万円の薬価は“べらぼう”なので1,000円にしても365億円、クロピドグレル並の200円にして70億程度と考える。クロピドグレルは特許を喪失して値崩れするだろうから、価格の競合を考えると市場をすべてとっても数億程度で大企業には魅力がない。 企業は、患者のための存在というよりも株主のための存在でもある。株主に大きな利益の期待を語れなければ良い経営者ではない。 チカグレロルでは、急性冠症候群のほかに脳血管疾患、末梢血管疾患、過去に血管病の既往のある糖尿病など、potentialな巨大市場を狙った「パルテノン計画」を発表した。 世界で年間数千億を売り上げた先進的、革新的なクロピドグレルが一社独占から開放されて価格競争の時代になっても、クロピドグレルに優る有効性、安全性を示すことができれば広い適応の取得が可能と考えた。 急性冠症候群を対象としたPLATO試験、心筋梗塞後1年以降の症例を対象としたPEGASUS試験は成功した。日本でも年間10万例の急性冠症候群を、発症後2~3年までチカグレロルで引っぱる科学的根拠を提示した(もっとも、日本で施行したPHILLO試験では急性期の有効性、安全性は示せなかったが…)。しかし、クロピドグレルの水準に達するためには脳血管疾患、末梢血管疾患における過去の標準治療と比較した有効性、安全性を示す必要がある。残念ながら、急性期脳卒中とTIAではアスピリンとの比較におけるSOCRATES試験にてチカグレロルの優越性を示すことができなかった。日本、アジア諸国では脳血管疾患の有病率が高く、世界人口におけるアジア人の比率も増加しているので、SOCRATES試験の失敗は開発企業には打撃であった。 症候性の末梢血管疾患は、近未来の血管イベント発生率が高い。メタ解析にてアスピリンによる心血管イベント予防効果が示されているが、標準治療が確立された領域ではない。急性冠症候群では90mg×2/日の用量にて、75mg/日のクロピドグレルに優る有効性を示した。 血栓イベントの発生に血小板が重要な役割を演じること、血小板による血栓形成にP2Y12 ADP受容体が重要な役割を演じていること、の2つの仮説が正しければ、急性冠症候群により強いP2Y12 ADP受容体阻害効果を示したチカグレロルは、クロピドグレルに優るはずであった。開発企業にとっても「チカグレロルが勝って当然」の試験であったと想像される。 しかし、結果はクロピドグレルとチカグレロルは同等であった。あらためて、クロピドグレルこそが革新的新薬であったことが確認された。 PLATO試験では、チカグレロル群の死亡率はクロピドグレル群より低く、死亡率の差は時間経過とともに拡大する傾向を認めた。死亡率低減効果は、チカグレロルの普及に大きく寄与した。しかし、今回のEUCLID試験では死亡率、心筋梗塞ともにクロピドグレル群において低い傾向であった。ランダム化のキーオープンの夜は、開発責任者は眠れなかったと想像される。 EBMの世界ではやり直しはできない。1万4千例近い大規模の末梢血管疾患における、抗血小板薬の有効性を検証する試験は過去に類をみない。私が開発責任者であれば、脳血管疾患、心血管疾患合併例を増やしたかもしれない。試験の登録基準を心筋梗塞後、脳梗塞後の末梢血管疾患とすれば、症例数を減らした試験はできたかもしれない。 しかし、あらためて、先行していたクロピドグレルは優れた薬であった。特許が切れて、広く社会に還元されたクロピドグレルの使用推奨により、医療コスト削減にも役立つ本試験のインパクトは甚だしい。

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リバーロキサバン、PCI施行心房細動患者の出血減らす:バイエル

 Bayer AGは2016年11月14日、第III相試験PIONEER AF-PCIの結果から、経口Xa阻害薬リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)の2つの治療戦略が、冠動脈ステントを留置した心房細動患者の出血リスクを、ビタミンK拮抗薬(以下、VKA:Vitamin K Antagonist)に比べ有意に減少させたと発表した。とくに、リバーロキサバン15mg/日と抗血小板薬剤の併用は、VKAと抗血小板2剤療法(以下、DAPT:Dual AntiPlatelet Therapy)の併用に比べ、臨床上著明な出血を41%減少させた。また、リバーロキサバン2.5mg×2/日とDAPTの併用は、VKAとDAPTの併用に比べ、臨床的に著明な出血を37%減少させた。これらの結果は、いずれも統計学的に有意であった。同様の結果が効果評価項目(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症)でもみられたが、この試験は統計学的に有意を示すにはパワー不足であった。 この米国で初めてのNOACとVKAとの無作為化比較試験であるPIONEER AF-PCIの結果は、2016年米国心臓学会議(AHA)学術集会のLate Breaking Clinical Trialセッションで発表され、同時にThe New England Journal of Medicine誌に掲載された。PIONEER AF-PCI試験について PCIによる冠動脈ステント留置を行った非弁膜症性心房細動患者2,124例を対象に、リバーロキサバンとVKAの効果と安全性を評価した世界26ヵ国による非盲検無作為化比較試験。主要評価項目は臨床的に著明な出血(TIMI major bleeding)。被験者は以下の3群に割り付けられた。・リバーロキサバン15mg/日+クロピドグレル(またはプラスグレル、チカグレロル)12ヵ月投与・リバーロキサバン2.5mg×2/日+DAPT(主治医の判断により1ヵ月、6ヵ月または12ヵ月)の後、リバーロキサバン15mg/日+低用量アスピリン投与、計12ヵ月・VKA+DAPT(主治医の判断により1ヵ月、6ヵ月または12ヵ月)の後、VKA+低用量アスピリン投与、計12ヵ月(ケアネット 細田 雅之)参考バイエル社(ドイツ):ニュースリリースPIONEER AF-PCI試験(ClinicalTrials.gov)原著論文Gibson CM, et al. N Engl J Med. 2016 Nov 14.[Epub ahead of print]

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金子英弘のSHD intervention State of the Art 第5回

TAVIの新たな課題~デバイス血栓症~世界的に急速に普及が進む経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)ですが、それに伴い術後の人工弁血栓症が新たな懸念として浮上しています。これまでの報告では「TAVI後の人工弁血栓の発生はきわめてまれである」とされてきました1)~3)。一方で、人工弁血栓がTAVI後の大動脈弁圧較差の原因となりうること3)、そして生体弁による外科的弁置換術後の血栓症も予想以上に多く、術後数年を経過してから発生すること4)もありうることが報告されています。われわれの施設でもTAVI後、約2年が経過した症例で人工弁に血栓が生じ、左冠動脈主幹部に塞栓症を起こし、重篤な転帰となった症例を経験しており5)、見逃すことのできない合併症と考えています。最近、TAVI後の血栓症について新たな興味深い報告が発表されましたので紹介したいと思います。本研究では、デンマークの単施設で行われたSAPIEN XTあるいはSAPIEN 3を用いたTAVIの連続登録症例460例のうち、術後1~3ヵ月以内にMDCTおよび経胸壁・経食道心エコーによる人工弁血栓症の評価が行われた405例で解析が行われました。その結果、28例(7%)の症例で血栓の発生が確認され、大きな人工弁(29mm)留置と、術後ワルファリン未使用が人工弁血栓の独立した予測因子であることが示されました。また、ワルファリン使用によって人工弁血栓が消退することも同時に報告されています6)。これまでの報告と同様に、今回の研究でも多くの症例で人工弁血栓症は無症候性で、脳梗塞の発症などのイベントとの関連を示すには至っていません。ただ、当院で経験した症例のように重篤な転帰に至る症例もあることから、TAVI後の人工弁血栓の臨床的意義、予測因子、そして予防法・治療法を明らかにすることは非常に重要です。TAVI後の抗血栓療法のレジメンとしては、心房細動を合併しない症例では、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬2剤併用を6ヵ月間、その後抗血小板薬1剤を継続することが推奨されています。しかしながら、今回の研究結果をみると、血栓症のリスクの高い症例では抗凝固療法を加えたプロトコルのほうが優れているのではないかとも考えられます。この点については、現在進行中のRandomized trialであるGALILEO trial、 POPular-TAVI trial、ATLANTIS trialなどの結果によって明らかになると思われます。これまでの連載で紹介したSAPIEN 3(エドワーズライフサイエンス社)など新世代デバイスの登場によって急性期の合併症が著しく減少したTAVIですが、その分、今後はこのような長期的な予後や管理について明らかにすることが重要になってくると考えています。ドイツでは年間1万3,000例以上のTAVIが行われ、私が勤務する施設においても年間300例以上と、大変多くの症例を経験することができています。これまではTAVIにおける症例選択やより安全なTAVIの施行に重点を置いてきましたが、今後は術後の至適治療という視点からもTAVIについて考えていきたいと思っています。1.Latib A, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2015;8.2.De Backer O, et al. Eur Heart J. 2016;37:2271.3.De Marchena E, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2015;8:728-739.4.Egbe AC, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:2285-2294.5.Neuss M , Kaneko H, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2016.6.Hansson NC, et al. J Am Coll Cardiol. 2016.

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EBMと個別化医療の混乱:クロピドグレルとCYP2C19(解説:後藤 信哉 氏)-569

 世の中には科学で推し量れない不思議がある。クロピドグレルは、チクロピジンの安全性を改善する薬剤として世界でヒットした。冠動脈カテーテルインターベンションを行う医師の経験するステント血栓症は、自らが惹起したと感じられる重篤な副作用なので、予防には全力を尽くす。プラビックスが特許を有していた、わずかの昔には、「薬剤溶出ステント後の抗血小板併用療法の持続期間」が話題であった。そのときには、「プラビックスを長期服用していればステント血栓が起こらないが、中止するとステント血栓が起こる」ことを前提として、長期使用の是非を論じていた。総じて、科学への貢献の視点では意味の少ない議論であった。 プラビックスの特許切れとともに「CYP2C19の遺伝子型」による「クロピドグレルの薬効のばらつき」という議論の熱が高まった。議論はファシズムのように集約された。「アジア人ではクロピドグレル活性体の産生速度の遅い遺伝子型が多い」、「活性体産生速度の遅い遺伝子型では心血管イベントリスクが多い」などが、比較的小規模の観察研究、クロピドグレルの薬効標的と直接相関しない血小板凝集率をアウトカムとした試験、クロピドグレルの後継を目指す新規のP2Y12 ADP受容体阻害薬開発試験のサブ解析などの結果として多数発表された。科学的真実にもっとも近いと思われるクロピドグレル活性体による薬効標的P2Y12 ADP受容体の阻害率に基づいた研究はほとんどない。多くのゴミのような論文が、「CYP2C19の遺伝子型」によってクロピドグレルを服用しても十分な「有効性がない」ような気持ちにさせる。2年前を振り返れば、「クロピドグレルを服用していればステント血栓を予防できる」との仮説に立っていた医師が、今は平然と「クロピドグレルを服用しても、遺伝子型によっては有効でない」とおっしゃる。クロピドグレルの本邦での開発では、世界と同じ75mgを採用するにあたって、本邦では用量過剰による出血リスクを考慮して25mgの錠剤を作成した。歴史的経緯を平然と無視して、単一の意見が支配する世界は学問的ではない。 クロピドグレルは、患者集団を均質と考えるEBMに依拠した。プラスグレル、チカグレロールもEBMに依拠する点はクロピドグレルと同じである。薬剤の臨床開発は、患者集団を均一と仮定したランダム化比較試験によった。もし、「CYP2C19の遺伝子型」による薬効のばらつきが真実であるなら、プラスグレル、チカグレロールは「CYP2C19の遺伝子型」のためクロピドグレルの薬効が不十分な小集団において、開発試験をやり直すべきである。多くの症例が安価なクロピドグレル後発品で問題ないことを示せば、高価な新薬を考慮すべき小集団を、遺伝子情報も踏まえて見出すことができるかもしれない。 医師は知的エリートでありたい。現在の前には連綿と続く歴史がある。少し風が吹くと、チリのようにふらつく考えでは頼りない。EBMで考えるのであれば、個別症例の特性以上にランダム化比較試験を構成する症例群の均質性を再考慮すべきである。均質性が確認されなければ、そのランダム化比較試験は失敗と評価すべきである。遺伝子型の相違に基づいた個別化医療を行うのであれば、遺伝子の差異から蛋白の差異、薬剤反応性の差異を構成論的に精緻に理解する演繹的方法か、遺伝子型を用いて新薬が有効性を発揮する小集団を帰納的に見出す方法論を確立すべきである。 本研究は後者の視点に立つ。遺伝子型は誰にも変えようがないので、後付け解析であってもランダム化の無作為性は担保されていると考える。アスピリンとアスピリン/クロピドグレルのランダム化比較試験ではあるが、両群に無作為に機能喪失型CYP2C19が含まれる。脳卒中急性期はもっとも血栓性因子の関与が大きい時期である。ゴミのような論文が多く、現在の方法的限界の中では、本論文はもっとも本当らしいメッセージを送っているようにみえる。一方、本当に有効性がクロピドグレルの薬効の差異に基づいていれば、重篤な出血合併症はCYP2C19が機能してクロピドグレルの薬効の強い併用例では増えるものとも想定される。筆者のような血小板の専門家からみれば、「やはりP2Y12 ADP受容体阻害率」とイベントの関係を示してほしい。

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ESS留置後のDAPT、6ヵ月と12ヵ月の比較

 薬剤溶出ステント(DES)留置後は、ステント血栓症を防ぐため、12ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)が推奨されている。近年の無作為化試験では、新世代のDES留置後のDAPTの3~6ヵ月投与は12ヵ月投与と同等の成績が得られることが報告されており、また新世代DESの死亡、心筋梗塞、ステント血栓症のリスクがベアメタルステントや第1世代のDESと比べて低いことも示唆されている。しかし、新世代のエベロリムス溶出ステント留置後のDAPTの最適な投与期間について、適切に計画、実施された試験は少ない。 今回、韓国の20施設で、エベロリムス溶出ステント(商品名:Xience Prime)留置後のDAPT 6ヵ月投与を12ヵ月投与と比較する医師主導型の前向き無作為化試験が実施され、JACC Cardiovascular Interventions誌オンライン版2016年5月11日号に発表された。主要評価項目に有意差なし 本試験では、2010年10月~2014年7月の間に、エベロリムス溶出ステントを留置した1,400例(平均ステント長45mm超)のうち、699例をDAPT(アスピリン100mg/日とクロピドグレル75mg/日)6ヵ月投与群に、701例を12ヵ月投与群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は1年後の心臓関連死亡、心筋梗塞、脳卒中、およびTIMI基準による大出血の複合とし、intention-to-treatを用いて解析を行った。 主要評価項目の発生は、6ヵ月群で15例(2.2%)、12ヵ月群で14例(2.1%)であった(HR:1.07、p=0.854)。definiteもしくはprobableのステント血栓症は6ヵ月群で2例(0.3%)、12ヵ月群でも2例(0.3%)発症した(HR:1.00、p=0.999)。686例の急性冠動脈症候群の患者(両群とも2.4%、HR:1.00、p=0.994)と糖尿病を有する506例(6ヵ月群 2.2% vs. 12ヵ月群 3.3%、HR:0.64、p=0.428)の間で、主要評価項目の有意な差は認められなかった。 2014年にThe New England Journal of Medicine誌に発表された大規模無作為化試験であるDAPT試験では、新世代のDES後でも12ヵ月を超えるDAPTの有用性が示されており、DAPTの最適な使用期間については答えが出ていない。報告者らは、今後、大規模な無作為化試験での1年超の追跡が必要であると結論付けている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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Vol. 4 No. 4 心房細動患者におけるDAPTを考える

掃本 誠治 氏熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学はじめに高齢化で増加している心房細動には、抗凝固薬が必須である。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行症例、心筋梗塞、それぞれに合併する心房細動頻度は、海外では約10%、本邦では6~8%程度と報告されている1-3)。心房細動とステントを伴うPCIを合併すれば、DAPT+抗凝固薬の3剤併用と考えるが、出血リスクが上昇する4-6)。心房細動合併PCIあるいは急性冠症候群(ACS)患者に対する抗凝固薬と抗血小板薬の組み合わせは、原疾患による血栓塞栓症リスクと抗血栓薬による出血リスクの有効性と安全性を考慮することが重要である。WOEST試験WOEST試験7)は、心房細動や機械弁留置後に抗凝固薬を服用する患者で、冠動脈ステント挿入後、クロピドグレルと抗凝固薬の2剤併用群[経口抗凝固薬(ワルファリン)+クロピドグレル284例]と、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と抗凝固薬の3剤併用群(ワルファリン+クロピドグレル+アスピリン289例)で、安全性と有効性を比較した試験で、平均年齢70歳、男性80%、抗凝固薬投与の理由として、心房細動が2剤併用群で69.5%、3剤併用群では69.2%、機械弁はそれぞれ10.2%と10.7%だった。結果として、1年間の出血イベントは、3剤併用群が有意に高値だった(3剤44.4% vs. 2剤19.4%)。また心血管イベントは、2剤併用群が有意に低かった(複合エンドポイント;1次エンドポイント+脳卒中+全死亡+心筋梗塞+ステント血栓症+標的血管再血行再建術;3剤併用群17.6% vs. 2剤併用群11.1%)。抗凝固薬を服用している患者でステント留置術を受けたとき、アスピリンを止めてチエノピリジン系抗血小板薬単剤と抗凝固薬の合計2剤にするというこれまでの発想とは異なることが不可能ではないことを示した意義は大きい。また、心房細動合併のステント留置術後の患者において、CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2が日本の実情を表している3)。2005年~2007年、26施設、1,057例、退院時ワルファリン群506例(48%)、非ワルファリン群551例(52%)を5年間フォローし、脳卒中(虚血性、出血性)、全死亡、心筋梗塞、大出血を評価。非ワルファリン群は、高齢、急性心筋梗塞、頭蓋内出血、貧血が多く、男性、薬剤溶出性ステント(DES)、末梢動脈疾患(PAD)が少なかった。そもそも、心房細動があってもDAPTで上記の因子が複数あれば、臨床現場においてはワルファリンを躊躇するのかもしれない。脳卒中は、ワルファリン群と非ワルファリン群で有意差がなく、虚血性、出血性でも有意差はみられず、心筋梗塞は、ワルファリン群で少なかった。プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)治療域内時間(TTR)が65%以上群では、65%未満群に比し脳卒中発症率が低値だった。非弁膜症性心房細動(NVAF)ACSやPCI直後ではない非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象として、本邦からJAST試験においてNVAF患者へのアスピリン150~200mg/日投与は、大出血が多く、無効と報告されている8)。海外では、ACTIVE W試験において、脳卒中リスクの高い心房細動患者に対し(17.4%に心筋梗塞既往)、DAPT(クロピドグレル+アスピリン)は、OAC(経口抗凝固薬)に比し心血管イベント抑制効果を示せなかった9)。さらに、NVAFでワルファリン不適合者に対するアスピリンとクロピドグレルのDAPTはアスピリン単独に比し脳梗塞抑制効果がみられたが、心筋梗塞死、血管死は差がなく、大出血イベントが多かった10)。以上の結果は、心房細動には抗血小板薬より抗凝固薬が必要であることを示している。ワルファリンのエビデンス冠動脈疾患には低用量アスピリンを終生投与するのが現在のガイドラインであるが、ワルファリンは50年以上日常臨床で使用されている薬剤で、急性心筋梗塞後のワルファリン vs. プラセボの大規模臨床研究でワルファリンの有効性が示されている11)。さらに心筋梗塞後、アスピリン vs. ワルファリン vs. アスピリン+ワルファリンの3群での比較研究では、アスピリン+ワルファリン併用群、ワルファリン群、アスピリン群の順に心血管イベント抑制効果が優れていた12)。しかし、この試験でのPT-INRは2.8~4.2と現在の実臨床より高値で設定されており、出血合併症が多かったこともあり推奨されなかった。安定冠動脈疾患を合併した心房細動患者のデンマークでのコホート研究では、ワルファリンに抗血小板薬を追加しても心血管イベントリスクは減少せずに出血リスクが増加した13)。以上は、出血リスクが低ければ、抗凝固薬が冠動脈疾患にも有効であることを示唆するものである。実臨床においては、本来抗凝固療法の適応でありながら、あえてコントロール不要の抗血小板薬を投与して、ワルファリンが躊躇される症例が存在した。そのようななかで、脳出血が少なく、PT-INRのコントロールが不要なNOACの登場は実臨床においては魅力的である。心房細動患者におけるACS合併またはステント留置時のガイドライン欧州心臓病学会からACS合併あるいはPCI施行の心房細動患者での抗血栓薬のjoint consensus documentが2014年に発表された14)。(1)脳卒中リスク CHA2DS2-VAScスコア(2)出血リスク HAS-BLEDスコア(3)病態 安定冠動脈疾患か急性冠症候群(待機的か緊急か)(4)抗血栓療法 どの抗血栓薬をどのくらい使用するか基本的には、出血リスクの高い3剤併用(DAPT+抗凝固薬)の期間を上記の条件にしたがって層別化し、可能なら抗血小板薬単剤+抗凝固薬に減量し、12か月以上では、左冠動脈主幹部病変などを除き可能なら抗凝固薬単剤への切り替えが推奨されている。また、VKAはTTR70%以上が推奨されており、VKAとクロピドグレルand/orアスピリンの症例ではINRは2.0~2.5が推奨されている。また、アクセス部位は橈骨動脈穿刺が推奨されている。AHA/ACC/HRSの心房細動ガイドライン2014でも、PCI後CHA2DS2-VAScスコアが2点以上では、慢性期にはアスピリンを除いて、抗凝固薬+抗血小板薬単剤が合理的であると記載されている15)。現在進行中の試験ACSあるいはPCIを受けた心房細動患者に対するNOACの臨床試験が進行中である(本誌p16の表を参照)16)。 RE-DUAL PCI試験は、ステント留置を伴うPCIを受けた非弁膜性心房細動患者を対象に、ダビガトランの有効性および安全性を評価する試験である。PIONEER AF-PCI試験は、ACS合併心房細動患者において、抗血小板薬に追加するリバーロキサバンの用量を検討する試験で、アピキサバンでも同様の試験が進行している。これらはステント留置術後急性期からの試験だが、本邦ではステント留置術後慢性安定期の心房細動合併患者を対象としたOAC-ALONE試験やAFIRE試験が進行しており、結果が待たれるところである。今後現在進行中の試験から新たなエビデンスが創出されるが、個々の患者において最適な治療法を見つけ出す努力は常に必要とされる(表)。表 ステント留置AF患者における抗血栓療法画像を拡大する文献1)Kirchhof P et al. Management of atrial fibrillation in seven European countries after the publication of the 2010 ESC Guidelines on atrial fibrillation: primary results of the PREvention oF thromboemolic events--European Registry in Atrial Fibrillation (PREFER in AF). Europace 2014; 16: 6-14.2)Akao M et al. Current status of clinical background of patients with atrial fibrillation in a community-based survey: the Fushimi AF Registry. J Cardiol 2013; 61: 260-266.3)Goto K et al. Anticoagulant and antiplatelet therapy in patients with atrial fibrillation undergoing percutaneous coronary intervention. Am J Cardiol 2014; 114: 70-78.4)Toyoda K et al. Dual antithrombotic therapy increases severe bleeding events in patients with stroke and cardiovascular disease: a prospective, multicenter, observational study. Stroke 2008; 39: 1740-1745.5)Uchida Y et al. Impact of anticoagulant therapy with dual antiplatelet therapy on prognosis after treatment with drug-eluting coronary stents. J Cardiol 2010; 55: 362-369.6)Sørensen R et al. Risk of bleeding in patients with acute myocardial infarction treated with different combinations of aspirin, clopidogrel, and vitamin K antagonists in Denmark: a retrospective analysis of nationwide registry data. Lancet 2009; 374: 1967-1974.7)Dewilde WJ et al. Use of clopidogrel with or without aspir in in patients taking oral anticoagulant therapy and under going percutaneous coronary intervention: an openlabel, randomised, controlled trial. Lancet 2013; 381: 1107-1115.8)Sato H et al. Low-dose aspirin for prevention of stroke in low-risk patients with atrial fibrillation: Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial. Stroke 2006; 37: 447-451.9)Connolly S et al. Clopidogrel plus aspirin versus oral anticoagulation for atrial fibrillation in the Atrial fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for prevention of Vascular Events (ACTIVE W): a randomised controlled trial. Lancet 2006; 367: 1903-1912.10)Connolly SJ et al. Effect of clopidogrel added to aspirin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 360: 2066-2078.11)Smith P et al. The effect of warfarin on mortality and reinfarction after myocardial infarction. N Engl J Med 1990; 323: 147-152.12)Hurlen M et al. Warfarin, aspirin, or both after myocardial infarction. N Engl J Med 2002; 347: 969-974.13)Lamberts M et al. Antiplatelet therapy for stable coronary artery disease in atrial fibrillation patients taking an oral anticoagulant: a nationwide cohort study. Circulation 2014; 129: 1577-1585.14)Lip GY et al. Management of antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients presenting with acute coronary syndrome and/or undergoing percutaneous coronary or valve interventions: a joint consensus document of the European Society of Cardiology Working Group on Thrombosis, European Heart Rhythm Association (EHRA), European Association of Percutaneous Cardiovascular Interventions (EAPCI) and European Association of Acute Cardiac Care (ACCA) endorsed by the Heart Rhythm Society (HRS) and Asia-Pacific Heart Rhythm Society (APHRS). Eur Heart J 2014; 35: 3155-3179.15)January CT et al. 2014 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation 2014; 130: 2071-2104.16)Capodanno D et al. Triple antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients with acute coronary syndromes or undergoing percutaneous coronary intervention or transcatheter aortic valve replacement. EuroIntervention 2015; 10: 1015-1021.

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Vol. 4 No. 4 DAPTを検証した臨床試験の数々、それらが導いた「答え」とは?

中川 義久 氏天理よろづ相談所病院循環器内科はじめに冠動脈疾患の治療においては、冠動脈血行再建を達成することが本質的に重要である。その手段として経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)が主流を占めている。冠動脈血行再建においてバルーン拡張によるPCIの有効性が報告されてから30年以上になる。バルーン拡張のみでは再狭窄率や再閉塞率が高いことが問題であり、これを解決するために金属製ステント(baremetal stent:BMS)が導入された。BMSを用いたPCIは通常治療として受け入れられるようになったが、それでも長期的には再狭窄によって再血行再建を要することが多く克服すべき問題であった。薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)は、BMSに比較して再狭窄を減少させることが示されている。第1世代DESであるシロリムス溶出性ステント(sirolimus-eluting stent:SES)とパクリタキセル溶出性ステント(paclitaxel-eluting stent:PES)が2004年8月から本邦で保険償還が認可され、実臨床において使用可能となった。これにより冠動脈ステント留置後1年の再狭窄率を10%以下に低下させた。現在のPCIではDES留置が通常である。DESは再狭窄を強く抑制するものの、これが血管内皮の修復反応の遅延をきたし、血栓性閉塞(ステント血栓症)の可能性が高い時期が長期間にわたってつづくことが問題とされる。ステント血栓症の予防のために抗血小板薬の適切な投与が重要となっている。ステント血栓症の予防のためにアスピリンと、チエノピリジン系抗血小板薬の併用投与(dual anti-platelet therapy:DAPT)が主流となっているが、その継続すべき期間については明確な指針はない。第2世代DESが登場し、臨床成績が向上してステント血栓症は減少している。さらに、2015年末からは第3世代のDESも実臨床の現場に登場する。DAPTの期間を短縮しても安全性が保たれるという方向の報告がある一方で、DAPTの期間を延長したほうがよいとの報告もあり、議論がつづいている。DAPTを継続することは出血性合併症を増す危険性があり、血栓症予防と出血性合併症の両者のトレードオフで比較すべき問題である。ステント血栓症の予防のためにDAPTを継続すべき期間について明確な結論はない。DAPTを長期間継続することによる頭蓋内出血などの重大な出血性合併症は患者の不利益ともなり、DAPTの至適施行期間を明らかにすることは、DES留置後の患者にとって大切である。DAPT導入の背景現在は使用頻度が減少しているが、BMSの臨床試験が日本で始まったのは1990年(平成2年)であった。その当時、筆者は小倉記念病院に在籍し、その現場を体験した。当時はDAPTという概念はなく、抗血小板薬としてアスピリンを投与し、さらにワルファリンによる抗凝固療法を行っていた。そのうえ、PCI術後には数日間のヘパリンの持続点滴も加えていた。しかし3%前後という高いステント血栓症の発生率と出血性合併症に悩まされていた。この経験からも明らかなように、抗凝固療法を強化してもステント血栓症を予防できないことはみな痛感していた。チエノピリジン系薬剤とアスピリンによるDAPTをBMS留置後1か月間施行することでステント血栓症の発生を抑制することが示され、ステント留置後の標準治療となった1)。その当時はチエノピリジン系薬剤としてクロピドグレルは存在せずチクロピジンのみであった。STARS研究の結果1)をみると、アスピリン単独や、アスピリンとワルファリンによる抗血栓療法に比べて、DAPTによってステント植込み手技の安全性が高まることがわかる。このデータをもとに、現在のDES時代においてもステント術後のDAPT療法として継承されている。現在では、チエノピリジン系抗血小板薬としては、チクロピジンよりも副作用が少ないクロピドグレルが最も頻用されている。short DAPTとlong DAPTDAPT継続期間については12か月間を基準として、それよりも短い期間(3か月から6か月間)で十分とする意見をshort DAPT派、1年を超えてDAPTを継続したほうがよいという意見をlong DAPT派と総括され、両派による活発な議論がつづいている。しかし、第2世代のDESが普及しステント血栓症は減少し、DAPTの期間は短縮する方向での知見が増加している。抗凝固薬を必要とする患者における抗血小板療法については、DAPTを含む3剤の抗血栓薬は避けたほうがよいとのコンセンサスは得られつつあるが、明確な指針は未だ存在しない。明確な指針はない状況においても各担当医は実臨床の現場で方針を決定しなければならない。DES留置後のDAPT期間、short DAPTで十分か?日本循環器学会のガイドライン2, 3)では、2次予防における抗血小板療法として、禁忌がない患者に対するアスピリン(81~162mg)の永続的投与(レベルA)、DES留置の場合にはDAPTを少なくとも12か月間継続し、出血リスクが高くない患者やステント血栓症の高リスク患者に対する可能な限りの併用療法の継続(レベルB)が推奨されている。本邦でのデータとしてCREDO-Kyoto PCI/CABG Registry Cohort-2に登録されたDES(主としてシロリムス溶出性ステント)留置患者6,309例における4か月のランドマーク解析がある4)。4か月の時点でのチエノピリジン系抗血小板薬継続例と中止例でその後3年までの死亡、心筋梗塞、脳卒中の発症率に差はなく、出血性合併症の発症はチエノピリジン系抗血小板薬継続例で多いことが報告されている。これは、日本人におけるDES留置後の至適なDAPT施行期間は、現在の第2世代DESよりもステント血栓症の頻度が相対的に高かった第1世代DESの時代においてすら、4か月程度で十分である可能性を示唆しているもので貴重なデータである。第2世代DESが登場し、臨床成績が向上しステント血栓症は減少しており、DAPTの期間を短縮しても安全性が担保されるという方向の報告が多い。この至適DAPT期間を検討するために大規模なメタ解析の結果が報告された5)。無作為化試験を選択し、DAPT投与期間が12か月間である試験を標準として、12か月未満のshort DAPT試験と、12か月超のlong DAPT試験の比較を行っている。アウトカムは、心血管死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・重大出血・全死因死亡である。10の無作為化試験から32,287例が解析されている。12か月の標準群と比較してshort DAPT群は、有意に重大出血を減少させた(オッズ比:0.58、95%CI:0.36-0.92、p=0.02)。虚血性または血栓性のアウトカムについて有意差はなかった。long DAPT群は、心筋梗塞とステント血栓症は有意に減少させたが、重大出血は有意な増大がみられた。また、全死亡の有意な増大もみられた(オッズ比:1.30、95%CI:1.02-1.66、p= 0.03)。この結果を要約すれば、short DAPTは、虚血性合併症を増大させることなく出血を減らし、ほとんどの患者においてshort DAPTで十分であることが示されたといえる。さらにDAPT期間についてARCTIC-Interruptionという無作為化比較試験の結果が興味深い6)。DESの留置後1年の間に虚血性または出血性イベントを経験しなかった患者において、1年以降のDAPT継続は1剤のみの抗血小板療法と比較し、虚血性イベントの抑制効果は示されず、重症または軽症出血のリスクの上昇が認められた。つまり、留置後1年間でイベントが起きなかった場合、その後のDAPT継続には有益性はなく、むしろ出血イベントのリスクが増大し有害であることが示されたことになる。この試験だけでなく、PRODIGY7)、DES LATE8)、EXCELLENT9)、RESET10)、OPTIMIZE11)などのshort DAPTとlong DAPTを比較した試験でも、長期間のDAPTは心血管イベントを減らすことはなく、出血性合併症を増加させるという結果が一貫性をもって示されている。本邦におけるshort DAPTを示唆する研究:STOPDAPT研究長期間のDAPT施行が抗血小板薬単独治療に比べて出血性合併症を増加させ、長期のDAPT施行をつづけても心血管イベントの発症抑制効果がないのであれば、DAPT施行期間はできるだけ短いほうが望ましいことは明確である。このためのエビデンス構築をめざして、本邦においてはSTOPDAPT研究が行われた。日本心血管インターベンション治療学会2015年学術集会(CVIT2015)においてNatsuakiらによって結果が発表された。この研究は、ステント血栓症の発生リスクが低い第2世代DESを代表するコバルトクロム合金のエベロリムス溶出ステント(CoCr-EES)が留置された患者において、チエノピリジン投与期間を3か月に短縮可能と担当医が判断した連続症例を登録し、ステント留置後3か月の時点でチエノピリジン投与を中止し、ステント留置後12か月の心血管イベント、出血イベントの発生率を評価する研究である。冠動脈にCoCr-EESの留置を受けた3,580人のうち3か月でDAPT中止が可能と判断された患者1,525人が登録された。チエノピリジン投与は4か月までに94.2%で中止され、1年追跡率は99.6%であった。definiteのステント血栓症の発生は皆無であった。選択された患者においてではあるが、CoCr-EES留置後3か月でのDAPT中止の安全性が示唆されたSTOPDAPT研究の意義は大きい。DAPT期間は延長すべき? DAPT試験2014年の第87回米国心臓協会年次集会(AHA2014)でDAPT試験の結果が発表されるまでは、short DAPTの方向に意見は収束しつつあるように思われていた。つまり、DAPT期間を延長することにより出血性合併症の発症リスクは増加し、虚血性イベントの明確な抑制は認められない、というものである。1年間または6か月間のDAPTで十分であり、むしろ論点は3か月間などいっそう短いDAPT期間を模索する方向に推移していた。この方向性を逆転するような結果が「DAPT試験」として報告されたのである12)。DES後の患者で、DAPT期間12か月と30か月というlong DAPTを比較する無作為割り付け試験である。米国食品医薬品局(FDA)の要請により実施された多施設共同ランダム化比較試験であり、冠動脈ステントを製造・販売する企業など8社が資金を提供した大規模研究である。DES後の患者9,961例を対象に、DAPT期間の長短によるリスクとベネフィットが比較検討された。その結果、30か月のlong DAPT群でステント血栓症および主要有害複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)が有意に低く、出血性合併症はlong DAPT群で有意に高かった。long DAPTのベネフィットが報告されたDAPT試験ではあるが、このDAPT試験に内在する問題点についての指摘も多い。本試験のデザインは、DES植込み直後にDAPT期間12か月と30か月に割り付けたわけではなく、植込み当初の1年間のDAPT期間に出血を含めイベントなく経過した患者のみを対象としている。背景にいるDES植込み患者は22,866人おり、そのうちの44%にすぎない9,961人が無作為化試験に参加している。この44%の患者を選択する過程でバイアスが生じている可能性がある。この除外された半数を超える56%の患者に、本試験の結果を敷衍できるのかは不明である。また、この試験の結果では30か月DAPT施行による主要有害複合エンドポイントの抑制は、心筋梗塞イベントの抑制に依存している。心筋梗塞が増えれば死亡が増えることが自然に思えるが、心臓死・非心臓死ともにlong DAPT群において有意差はないが実数として多く発生している。本試験で報告されている心筋梗塞サイズは不明であるが、心筋梗塞イベントが臨床的にもつ意味合いについても考える必要がある。PEGASUS-TIMI 54研究もlong DAPTを支持する結果であった13)。これは、心筋梗塞後1年以上の長期にわたるDAPTが有用か否かを検証する試験で、アスピリン+チカグレロルとアスピリン単独の長期投与を比較した研究である。その結果、有効性はアスピリン+チカグレロル群で有意に優れていたが、安全性(大出血)は有意に高リスクであることが示された。short DAPTかlong DAPTかの問題について決着をつけるには、さらなる研究が必要と思われる。DAPT試験の結果が発表されたあとに、DAPT期間についてのメタ解析がいくつか報告されている。その代表がPalmeriniらによって報告されたものである14)。その論文の結論は明確にDAPT期間の長短を断じたものではなく、患者個別のベネフィットとリスクを考えることを薦めるものであることに注目したい。全患者に均一のDAPT期間を明示することは現実的には困難であり、リスク層別化を考えることが大切と思われる。出血リスクが低く心血管イベントの発生するリスクが極めて高い患者でDAPT期間の延長を考慮することが現実的であろう。文献1)Leon MB et al. A clinical trial comparing three antithrombotic-drug regimens after coronaryartery stenting. Stent Anticoagulation Restenosis Study Investigators. N Engl J Med 1998; 339: 1665-1671.2)日本循環器学会ほか. 安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版).3)日本循環器学会ほか. ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版).4)Tada T et al. Duration of dual antiplatelet therapy and long-term clinical outcome after coronary drug-eluting stent implantation: landmark analyses from the CREDO-Kyoto PCI/CABG Registry Cohort-2. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 381-391.5)Navarese EP et al. BMJ 2015; 350: h1618.6)Collet JP et al. Dual-antiplatelet treatment beyond 1 year after drug-eluting stent implantation (ARCTICInterruption): a randomised trial. Lancet 2014; 384: 1577-1585.7)Valgimigli M et al. Randomized comparison of 6-versus 24-month clopidogrel therapy after balancing anti-intimal hyperplasia stent potency in all-comer patients undergoing percutaneous coronary intervention. Design and rationale for the PROlonging Dual-antiplatelet treatment after grading stent-induced Intimal hyperplasia study (PRODIGY). Am Heart J 2010; 160: 804-811.8)Lee CW et al. Optimal duration of dual Antiplatelet therapy after drug-eluting stent implantation: a randomized controlled trial. Circulation 2013; 129: 304-312.9)Gwon HC et al. Six-month versus 12-month dual antiplatelet therapy after implantation of drugeluting stents: the efficacy of Xience/Promus versus cypher to reduce late loss after stenting (EXCELLENT) randomized, multicenter study. Circulation 2012; 125: 505-513.10)Kim BK et al. A new strategy for discontinuation of dual antiplatelet therapy: the RESET trial (REal Safety and Efficacy of 3-month dual antiplatelet Therapy following Endeavor zotarolimus-eluting stent implantation). J Am Coll Cardiol 2012; 60: 1340-1348.11)Feres F et al. Three vs twelve months of dual antiplatelet therapy after zotarolimus-eluting stents: the OPTIMIZE randomized trial. JAMA 2013; 310: 2510-2522.12)Mauri L et al. For the DAPT study investigators: Twelve or 30 months of dual antiplatelet therapy after drug-eluting stents. N Engl J Med 2014; 371: 2155-2166.13)Bonaca MP et al. for the PEGASUS-TIMI 54 steering committee and investigators. Long-term use of ticagrelor in patients with prior myocardial infarction. N Engl J Med 2015; 372: 1791-1800.14)Palmerini T et al. Mortality in patients treated with extended duration dual antiplatelet therapy after drug-eluting stent implantation: a pairwise and Bayesian network meta-analysis of randomised trials. Lancet 2015; 385: 2371-2382.

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循環器内科 米国臨床留学記 第6回

第6回:米国で使用されている冠動脈疾患に対する新しい薬 ticagrelor、ranolazine前回に引き続き、日本では未承認ですがアメリカでは処方されている薬を紹介したいと思います。ticagrelor(商品名:Brilinta、日本では2016年2月現在、承認申請中)ticagrelorは、比較的新しいP2Y12受容体拮抗薬です。日本ではチカグレロルと呼ばれていると思いますが、アメリカではタイカグレロールと発音します。ご存じのとおり、日本では長らくチクロピジンしか使用できませんでしたが、その後クロピドグレルが登場し、最近ではプラスグレルも使用されていると思います。ticagrelorは、シクロペンチルトリアゾロピリミジン群に分類される新しい薬剤です。プロドラッグであるチエノピリジン系(クロピドグレルやプラスグレル)は肝臓で代謝された後、非可逆的にP2Y12受容体を阻害します。一方、ticagrelorは同じ受容体に直接かつ可逆的に作用します。結果として、作用が発現するまでの時間は短くなります。また、可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能も回復します。プラスグレルやticagrelorは血小板機能の抑制作用がクロピドグレルよりも早いため、急性冠症候群(ACS)の患者においては、より早い効果が期待できます。また、クロピドグレルに抵抗性のある患者は2割程度いますが、プラスグレルやticagrelorはその点でも優れています。ACS患者を対象にしたランダマイズド試験であるPLATO試験において、ticagrelorは、クロピドグレルに比べて死亡や心筋梗塞、脳卒中が少ないことが示されました(大出血イベントは同等、バイパス術に関連しない出血は増加)(図1)。表1 12ヵ月の時点での複合一次エンドポイント(心血管イベントによる死亡、心筋梗塞、脳卒中)の発生(PLATO試験) バイパス手術が必要となる3枝病変が予想されるようなACSの患者においては、P2Y12受容体拮抗薬の選択や投与のタイミングは難しい問題です。米国では、日本と比べて診断から手術までの時間が圧倒的に短いため、バイパス術が冠動脈造影の翌日となることも珍しくありません。初期投与(loading dose)だけなら気にされない心臓外科医もいますが、クロピドグレルやプラスグレルは手術を遅らせる原因となります(クロピドグレルやプラスグレルの使用中止後5~7日待つことが勧められている)。また、プラスグレルは、クロピドグレルに比べて、バイパスに関連した大出血イベントが有意に増加する可能性があります(TRITON-TIMI 38試験)。ticagrelorは可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能が回復します。実際、欧州心臓病学会(ESC)からの勧告でも、バイパス前の中止期間は、クロピドグレルとticagrelorでは最低でも3日となっていますが、プラスグレルは5日となっています。この待機時間は、入院費用が高い米国においては大きな問題です。このような背景から、現状では、費用の問題を除けばticagrelorが最も使いやすいP2Y12受容体拮抗薬と考えられています。同様の薬で静注薬であるcangrelorも2015年に認可されています。ranolazine(商品名:Ranexa、日本では未承認)ranolazineは、2006年に承認された慢性狭心症の薬です。2012年のガイドラインでは、β遮断薬に忍容性がないもしくは有効でない患者に、β遮断薬の代わりとしてもしくはβ遮断薬と組み合わせて用いることが、class IIaとして推奨されています。狭心症患者が多い米国では、経皮的冠動脈血行再建術(PCI)によって改善できない慢性狭心症の患者が非常に多く、治療に難渋することがあります。内向きの遅延ナトリウムチャネルを阻害し、心筋内のカルシウムを減らし、心筋の酸素消費を減らすと考えられていますが、詳しい効果の機序は不明です。TERISA試験は、14ヵ国で行われた、2型糖尿病と慢性狭心症を有する患者に対する前向きのプラセボ対照比較試験です。薬剤投与前の観察期間中の狭心症発作は、ranolazine群6.6回/週とプラセボ群で6.8回/週でしたが、薬剤投与開始後2~8週間後では、それぞれ3.8回/週(95% CI:3.57~4.05)と4.3回/週(95% CI:4.01~4.52)で、プラセボ群と比較してranolazine群で有意に減少したという結果でした(図2)。表2 ranolazine投与前後の狭心症状発生回数(TERISA試験) しかし、解釈には注意が必要です。というのも、有意といっても週0.5回というわずかなものでしたし、プラセボでも発作が減っていたのです。個人的には、プラセボ群でも発作が減る、狭心症状は経過とともに頻度が減っていくという結果のほうが、興味深く感じられました。実際には、ranolazineは最後の切り札といった感じで使用しています。なぜなら、前述のような軽度の改善効果に加えて、高価(1錠6ドル)であることもネックになっているからです。大規模で見ると改善効果があるのかもしれませんが、実際の臨床で効果を感じるのは難しい印象です。次回は、米国の心疾患治療で使用されている新しいデバイスについて書きたいと思います。

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