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脊髄性筋萎縮症治療に新しい治療薬登場/ノバルティス ファーマ

 5月13日、中央社会保険医療協議会は、オンラインで総会を開催し、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療用製品としてノバルティス ファーマ株式会社が3月19日に製造販売承認取得したオナセムノゲン アベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ点滴静注)の薬価につき1億6,707万7,222円とすることを了承した。薬価収載は5月20日に行われ、同日に発売された。 ゾルゲンスマは、SMAの根本原因である遺伝子の機能欠損を補う遺伝子補充療法で、1回の点滴静注で治療が完了する。SMAの概要とゾルゲンスマの特性 対象疾患となるSMAとは、脊髄前角細胞の変性・消失によって進行性に筋力低下と筋萎縮を呈する下位運動ニューロン病。常染色体劣性遺伝性の希少疾病であり、発症年齢と最高到達運動機能によってI~IV型の4タイプに分類される。とくにI型(乳児型)SMAは、重症かつ高頻度にみられ、0~6ヵ月で発症し、患児の90%以上が20ヵ月前に死亡または人工呼吸器による永続的な呼吸管理が必要な状態となる。そのほかII、IIIまたはIV型においても、病状の進行により歩行機能の喪失および筋力低下により、社会生活が困難となり、QOLを著しく低下させる。 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は、平成30年度末、全国で858人(うち0~9歳は30人)と報告され、本症は遺伝性疾患による乳幼児の主な死亡原因となっている。 ゾルゲンスマは、SMAの原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron: SMN)タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ、野生型のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品。静脈内に投与され、SMAの根本原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補い、運動ニューロンでSMNタンパク質を発現させ、運動ニューロンの変性・消失を防ぎ、神経および筋肉の機能を高め、筋萎縮を防ぐことで、SMA患者の生命予後および運動機能を改善することが期待されている。また、導入したSMN遺伝子は患者のゲノムDNAに組み込まれることなく、細胞の核内にエピソームとして留まり、運動ニューロンのような非分裂細胞に長期間安定して存在するように設計されている。ゾルゲンスマの概要一般名:オナセムノゲン アベパルボベク製品名:ゾルゲンスマ点滴静注効能・効果:脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測されるものも含む)ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る。用法・用量:通常、体重2.6kg以上の患者(2歳未満)には、1.1×1014ベクターゲノム(vg)/kgを60分かけて静脈内に単回投与する。本品の再投与はしないこと。薬価:1億6,707万7,222円承認取得日:2020年3月19日薬価収載日:2020年5月20日発売日:2020年5月20日主な患者数:年間の投与対象患者数は15~20人程度

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第15回 治療編(1)薬物療法・その2【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第15回 治療編(1)薬物療法・その2前回は、主として末梢性疼痛に用いられる薬物療法について解説しましたが、今回は、末梢性神経障害性疼痛への除痛適応を持つ、新薬ミロガバリンプレガバリン、そして比較的副作用の少ない鎮痛薬ノイロトロピンについて説明しましょう。表に神経障害性疼痛の原因になりうる疾患を示しております。この中でも、末梢性神経障害性疼痛の代表症例として、糖尿病性末梢神経障害性疼痛、帯状疱疹後神経痛、椎間板ヘルニアによる慢性疼痛が挙げられます。画像を拡大する(1)ミロガバリン<作用機序>神経前シナプスの電位依存性カルシウムイオン(Ca2+)チャネルから流入したCa2+により神経が興奮して、サブスタンスP、グルタミン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)など、いわゆる神経伝達物質が放出されます。このCa2+チャネルにはいくつかのサブユニットで構成されておりますが、ミロガバリンはそのうちのでもα2δサブユニットに結合することによりCa2+チャネルの活動が抑制されることでCa2+の流入が低下します。その効果により、神経伝達物質の放出が抑制されて痛みが緩和されると考えられています。<投与上の注意>1日2回投与が基準です。2.5mg、5mg、10mg、15mg錠がありますが、基本的には5mgX2で開始しますが、患者さんが少しきついと感じられた時には2.5mgX2で開始し、副作用あるいは疼痛緩和効果が見られなければ、1~2週間ごとに10mgX2、15mgX2と漸増し、最終的には1日30mgまで投与します。副作用としては、傾眠、浮動性めまい、体重増加などがあります。高齢者では転倒・骨折の恐れがあるので、細心の注意が必要です。また、自動車運転などの機械操作は回避する必要があります。(2)プレガバリン<作用機序>前述のミロガバリンと同様の作用機序、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>ミロガバリンと同様ですが、中枢性神経障害に対する適応も有しています。元はカプセル剤でしたが、和製でOD錠になりましたので、疼痛時にはそのまま服用できるのが魅力です。25、75、150mgOD錠があり、1日4回まで、最高600mgまで処方できます。副作用もミロガバリンと同様で、眠気には注意が必要です。眠前に服用するとよく眠れるようです。(3)ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)<作用機序>ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスを摂取した家兎の炎症性皮膚組織から抽出した300種類以上非蛋白性生体活性物質を含んでおり、単一での効果成分は不明です。作用機序としては、下行性疼痛抑制系の活性化が考えられております。その他、抗炎症作用、興奮性神経ペプチドの放出の抑制、交感神経作用抑制、血流改善、神経保護作用などが推測されています。<投与上の注意>副作用には発疹、掻痒、悪心、眠気などが認められていますが、その発現頻度や重症度は極端に低いため、高齢者や長期療養者に対しても使いやすいことが特徴です。1日4錠(1錠4単位)を朝夕2回に分けて経口投与します。注射薬では1日1回1管を静脈内、筋肉内または皮下に注射します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。痛みの患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄. ペインクリニック. 2013; 34: 1227-12372)花岡一雄. ペインクリニック. 2011; 143: 441-4443)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S168

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入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第50回

入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」今回は、不眠症治療薬「レンボレキサント(商品名:デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、わが国で2剤目のオレキシン受容体拮抗薬です。より自然に近い催眠作用によって、スムーズな入眠と睡眠維持、翌朝の覚醒改善が期待されています。<効能・効果>本剤は不眠症の適応で、2020年1月23日に承認されています。<用法・用量>通常、成人にはレンボレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与します。なお、患者の症状により1日1回10mgを超えない範囲で適宜増減できます。本剤とCYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤(フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)を併用する場合は、1日1回2.5mgが上限となっています。<安全性>不眠症患者を対象とした国際共同第III相試験において、本剤が投与された884例(日本人155例を含む)中249例(28.2%)に副作用が認められました。主な副作用は、傾眠95例(10.7%)、頭痛37例(4.2%)、倦怠感27例(3.1%)などでした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.本剤は、覚醒と睡眠リズムを調整することで寝つきをよくし、より正常な睡眠の維持を促します。2.このお薬は、食直後を避け、就寝直前に服用してください。入眠後、一時的に起床して活動する必要がある日には服用しないでください。3.眠気や注意力・集中力・反射運動能力の低下など、薬の影響が翌朝以降も続くことがありますので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は行わないようにしてください。4.不眠症の改善は、適度な運動を心掛けるなど、生活習慣を見直すことも大切です。起床時間と就寝時間を一定にし、睡眠リズムを整えましょう。<Shimo's eyes>不眠症治療の中心的薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬剤が長年使用されていますが、長期服用時の依存形成や薬物の不適切使用が問題となっています。近年では、より自然に近い睡眠・覚醒リズムを整える薬剤として、2010年にはメラトニン受容体作動薬のラメルテオン(商品名:ロゼレム)、2014年にはオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(同:ベルソムラ)が発売されました。本剤は、国内で2番目のオレキシン受容体拮抗薬で、オレキシン神経伝達に作用して過剰な覚醒状態を抑制するため、より自然な睡眠を促し、中途覚醒時間を短縮することが可能と考えられています。本剤の特徴として、年齢による用量の制限がなく、また調剤時の一包化が可能となっているため、高齢者にも比較的使用しやすい薬剤といえるでしょう。第III相試験においては、入眠と睡眠維持の両方の改善を示し、プラセボと比較して翌日のふらつきや記憶力においても問題となる悪化は認められず、日中機能の改善が確認され、6ヵ月投与した中止後の離脱症状は見られませんでした。なお、<用法・用量>に記載のとおり、相互作用については禁忌ではないものの、肝薬物代謝酵素CYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤と併用する場合には、本剤の投与量を1日1回2.5mgに制限する必要があります。また、中等度肝機能障害の患者に対しては、本剤の血中濃度が上昇する可能性があるため、1日1回5mgが上限となっています。医薬品リスク管理計画書(RMP)における本剤の潜在的リスクとして、ナルコレプシー症状が挙げられています。副作用については、日中の過剰な眠気、睡眠時麻痺、入眠時幻覚がないかなど、細やかな聞き取りを心掛けましょう。参考1)PMDA デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg

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ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防に対する有効性

 実臨床における、せん妄予防に対するラメルテオンとスボレキサントの有効性について、順天堂大学の八田 耕太郎氏らが、調査を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2019年12月17日号の報告。ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防効果が示唆された 本研究は、多施設共同プロスペクティブ観察研究である。コンサルテーションリエゾン精神科サービスでトレーニングを受けた精神科医により、2017年10月1日~2018年10月7日に実施した。対象は、急性疾患または待機手術により入院した65歳以上の、せん妄は認められていないがせん妄のリスクを有する患者(リスク患者)、および診察前夜に不眠症またはせん妄が認められた患者(せん妄患者)。対象患者に対し、ラメルテオンおよび/またはスボレキサントが処方された。薬剤の処方は、各患者の裁量に委ねられた。主要アウトカムは、最初の7日間におけるDSM-Vに基づくせん妄の発症率とした。 せん妄予防に対するラメルテオンとスボレキサントの有効性を調査した主な結果は以下のとおり。・リスク患者526例では、ラメルテオンおよび/またはスボレキサントを使用した患者(15.7%)は、使用しなかった患者(24.0%)と比較し、リスク因子で制御後のせん妄発症率が有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.48、95%CI:0.29~0.80、p=0.005)。・せん妄患者422例でも、同様の結果であった(39.9% vs.66.3%、OR:0.36、95%CI:0.22~0.59、p<0.0001)。 著者らは「ラメルテオンとスボレキサントには、実臨床におけるせん妄予防効果が示唆された」としている。

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術後せん妄予防に対するメラトニンの効果~メタ解析

 術後せん妄の予防に、メラトニンやその類似体が有効なのかは、よくわかっていない。中国・南方医科大学のYunyang Han氏らは、メラトニンやその類似体の術後せん妄に対する効果を評価するため、システマティックレビューとメタ解析を実施した。Journal of Pineal Research誌オンライン版2020年3月7日号の報告。 PubMed、Cochrane Library、Web of Science、Embase、CINAHLデータベースより検索を行った。主要アウトカムは、術後せん妄発生率とした。 主な結果は以下のとおり。・ランダム化比較試験6件、コホート研究2件、ケースコントロール研究1件をメタ解析に含めた。・メラトニンおよびその類似体のラメルテオンは、成人のすべての手術集団において、術後せん妄の発生率を低下させることが示唆された(オッズ比[OR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.24~0.84、p=0.01)。・高用量(5mg)メラトニン投与は、術後せん妄発生率の低下に効果的であった(OR:0.32、95%CI:0.20~0.52、p<0.00001)。・手術前に消失半減期5回未満のメラトニン投与により、術後せん妄発生率が有意に減少した(OR:0.31、95%CI:0.19~0.49、p<0.00001)。 著者らは「現在の文献では、メラトニンやその類似体のラメルテオンは、術後せん妄の予防に有効であることが支持された。しかし、本結果は、研究の有意な異質性により制限を受ける可能性がある。心臓および非心臓手術におけるせん妄発生に対するメラトニンおよびその類似体の予防効果を明らかにするためには、さらなる研究が必要である」としている。

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成人社交不安症に対する薬物療法~メタ解析

 社交不安症(SAD)に対する薬物療法について、治療薬の有効性や忍容性、介入効果、エビデンスの質についての評価を含めた情報をアップデートするため、南アフリカ共和国・ケープタウン大学のTaryn Williams氏らは、システマティックレビューとメタ解析を実施した。Acta Neuropsychiatrica誌オンライン版2020年2月10日号の報告。 SAD治療における薬理学的介入またはプラセボと比較したRCTを、Common Mental Disorder Controlled Trial Registerおよび2つのトライアルレジスターより検索した。ランダム効果モデルを用いて標準的なペアワイズメタ解析を、統計解析ソフトRを用いてネットワークメタ解析を実施した。また、エビデンスの質も評価した。 主な結果は以下のとおり。・67件のRCTをレビューし、21件(45の介入)についてネットワークメタ解析を実施した。・パロキセチンはプラセボと比較し、症状の重症度を軽減させる効果が最も高かった。・優れた治療反応が得られた薬剤は、パロキセチン、brofaromine、ブロマゼパム、クロナゼパム、エスシタロプラム、フルボキサミン、phenelzine、セルトラリンであった。・ドロップアウト率は、フルボキサミンでより高かった。・有害事象によるドロップアウト率がプラセボより高かった薬剤は、brofaromine、エスシタロプラム、フルボキサミン、パロキセチン、プレガバリン、セルトラリン、ベンラファキシンであった。・オランザピンの治療効果は比較的高く、あらゆる原因によるドロップアウト率はbuspironeで高かった。 著者らは「パロキセチン治療によって症状の重症度が有意に減少したことを除き、プラセボと比較した薬物療法の効果は小さかった。SADの第1選択薬には、パロキセチンが推奨されるであろう」としている。

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処方薬が自主回収に 処方理由を掘り下げた代替薬の提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第16回

 製薬会社からの「自主回収のお知らせ」は、ある日突然アナウンスされます。「代替薬はどうしますか?」と医師に丸投げするのではなく、服用理由や副作用リスクを考慮しながら代替薬を提案しましょう。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患:慢性心不全、心房細動、高血圧症、糖尿病、症候性てんかん、甲状腺機能低下症既 往 歴:1年前に外傷性くも膜下出血で入院服薬管理:一包化処方内容1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠60mg 2錠 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.トルバプタン錠7.5mg 1錠 分1 朝食後5.レボチロキシンナトリウム錠50μg 1錠 分1 朝食後6.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後7.メトホルミン錠250mg 2錠 分2 朝夕食後8.リナグリプチン錠5mg 1錠 分1 朝食後9.テルミサルタン錠20mg1錠 分1 朝食後10.ラメルテオン錠8mg 1錠 分1 夕食後11.ミアンセリン錠10mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんの訪問薬剤管理指導を始めてから3ヵ月目に、MSDよりミアンセリン錠10mgの自主回収(クラスII)のアナウンスが入りました。理由は、安定性モニタリングにおいて溶出性が承認規格に適合せず、効果発現が遅延する可能性があるとのことで、使用期限内の全製品の回収と出荷停止が行われました。そこで、医師にミアンセリンから代替薬への変更を提案することにしました。服用契機は、入院中にせん妄が生じたため処方されたと記録されていました。また、以前からこの患者さんには不眠傾向があり、睡眠薬の代替としていることも考えられました。高齢者では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬により、せん妄や意識障害のリスクが懸念されるため、5HT2a受容体遮断作用により睡眠の質を改善するとともに、H1受容体遮断作用により睡眠の量も改善するミアンセリンが代替薬として少量投与されることがあります。なお、ラメルテオンもせん妄リスクのある患者で有効とするデータもあり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬のリスクを回避しつつ、せん妄と不眠症の両方の改善を目指していると思われました1)。これらの背景を考慮したうえで、代替薬としてトラゾドンを考えました。トラゾドンは、弱いセロトニン再取り込み阻害作用と、強い5HT2受容体遮断作用を併せ持つ薬剤です。睡眠に関しては、全体の睡眠時間を増加させ、持続する悪夢による覚醒やレム睡眠量を減らす効果を期待して処方されることもあり、せん妄と不眠症を有するこの患者さんには最適と考えました。処方提案と経過医師に「ミアンセリン自主回収に伴う代替薬」という表題の処方提案書を作成し、トラゾドンへの変更を提案しました。標準用量では過鎮静やふらつき、起立性低血圧など薬剤有害事象の懸念があると考え、少量の25mgを提案し、認知機能や運動機能低下の有害事象をモニタリング項目として観察することを記載しました。その結果、医師の承認を得ることができました。処方変更後、過鎮静やふらつきなどはなく、せん妄の再燃や入眠困難、中途覚醒などの症状もなく経過しています。1)Hatta K, et al. JAMA Psychiatry. 2014;71:397-403.2)山本雄一郎著. 日経ドラッグインフォメーション編. 薬局で使える 実践薬学. 日経BP社;2017.3)Sateia MJ, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2017:13;307-349.doi: 10.5664/jcsm.6470.

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神経疾患は自殺死のリスクを高めるか/JAMA

 1980~2016年のデンマークでは、神経疾患の診断を受けた集団は、これを受けていない集団に比べ、自殺率が統計学的に有意に高いものの、その絶対リスクの差は小さいことが、同国Mental Health Centre CopenhagenのAnnette Erlangsen氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年2月4日号に掲載された。神経学的障害は自殺と関連することが示されているが、広範な神経学的障害全体の自殺リスクの評価は十分に行われていないという。約730万人で、神経疾患の有無別の自殺死を評価 研究グループは、神経疾患を有する集団は他の集団に比べ、自殺による死亡のリスクが高いかを検証し、経時的な関連性を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(デンマーク・Psychiatric Research Foundationの助成による)。 1980~2016年に、デンマークに居住していた15歳以上の730万395人を対象とした。1977~2016年に、頭部外傷、脳卒中、てんかん、多発ニューロパチー、筋神経接合部疾患、パーキンソン病、多発性硬化症、中枢神経系感染症、髄膜炎、脳炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、認知症、知的障害、その他の脳疾患で受診した124万8,252例のデータを用いた。 主要アウトカムは、1980~2016年の期間に発生した自殺死とした。Poisson回帰を用い、社会人口学的因子、併存疾患、精神医学的診断、自傷行為で補正した発生率比(IRR)を推算した。ALSとハンチントン病で自殺死率が最も高い 1億6,193万5,233人年の期間に、730万人以上の集団(男性49.1%)で3万5,483人(追跡期間中央値:23.6年、IQR:10.0~37.0、平均年齢:51.9[SD 17.9]歳)が自殺死した。 自殺死の77.4%が男性で、14.7%(5,141人)が神経疾患の診断を受けていた。自殺死の割合は、神経疾患群が10万人年当たり44.0、非神経疾患群は10万人年当たり20.1で、補正後IRRは1.8(95%信頼区間[CI]:1.7~1.8)であり、神経疾患群で有意に高かった。診断からの期間によって、補正後IRRには違いがみられ、診断後1~3ヵ月が3.1(95%CI:2.7~3.6)と最も高く、10年以降は1.5(1.4~1.6)であった。 自殺死の補正後IRRが最も大きい疾患は、ALS(補正後IRR:4.9、95%CI:3.5~6.9)およびハンチントン病(4.9、3.1~7.7)であった。多発性硬化症の補正後IRRは2.2(1.9~2.6)、頭部外傷は1.7(1.6~1.7)、脳卒中は1.3(1.2~1.3)、てんかんは1.7(1.6~1.8)だった。 非神経疾患群と比較して、認知症(補正後IRR:0.8、95%CI:0.7~0.9)、アルツハイマー病(0.2、0.2~0.3)、知的障害(0.6、0.5~0.8)は、自殺死の補正後IRRが低かったが、認知症では診断から1ヵ月以内の補正後IRRは3.0(1.9~4.6)と高い値を示した。 また、神経疾患群では、神経疾患による受診回数が増えるに従って自殺率が上昇した(受診回数1回の補正後IRR:1.7[95%CI:1.6~1.7]、2~3回:1.8[1.7~1.9]、4回以上:2.1[1.9~2.2]、p<0.001)。 神経疾患群の自殺死は、1980~99年の10万人年当たり78.6から、2000~16年には10万人年当たり27.3に減少し、同様に非神経疾患群では26.3から12.7に低下した。 他の死因による競合リスクを考慮すると、アルツハイマー病を除く神経疾患群は非神経疾患群に比し、診断から1~3ヵ月に自殺死の累積発生率(絶対リスク)が増加していた。神経疾患群における30年間の自殺死の絶対リスクは0.64%(95%CI:0.62~0.66)であり、そのうちハンチントン病は1.62%(1.04~2.52)、筋神経接合部/筋疾患は1.19%(1.11~1.27)だった。 著者は、「ALSとハンチントン病の自殺死リスクが最も高いが、より頻度の高い疾患である頭部外傷や脳卒中、てんかんでも高い値を示した。認知症の診断直後のリスク増加は、引き続き注目に値する」としている。

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アレキサンダー病〔Alexander disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義最初の報告は1949年にAlexanderが記載した精神遅滞、難治性痙攣、および水頭症を認めた生後15ヵ月の乳児剖検例である。この症例の病理学的特徴は、大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に認められた多数のフィブリノイド変性で、後にこれはローゼンタル線維と同一であることが判明した。以後約50年間にわたりアレキサンダー病は「病理学的にアストロサイト細胞質にローゼンタル線維を認める乳児期発症の予後不良の進行性大脳白質疾患」と認識されてきた。しかし、2001年にBrennerらによりローゼンタル線維の構成成分の1つであるグリア線維性酸性タンパク(GFAP)をコードする遺伝子GFAPが病因遺伝子として報告されて以降、乳児期発症例とは臨床像がまったく異なる成人期発症で緩徐進行性の経過を示す症例が相次いで報告された。現在ではアレキサンダー病は「乳児期から成人期まで幅広い年齢層で発症するGFAP遺伝子変異による一次性アストロサイト疾患で、病理学的にはアストロサイト細胞質のローゼンタル線維を特徴的所見とする」と定義される。■ 疫学新生児期から70歳以上の高齢者まで幅広い年齢層で発症がみられる。わが国の有病者率は270万人あたり1人と推定される。しかし、未診断の症例や他の神経変性疾患(パーキンソン症候群や脊髄小脳変性症など)と診断されている症例が、少なからず存在すると思われる。臨床病型別頻度は、延髄・脊髄優位型が約半数と最も多く、大脳優位型が1/4強、中間型が1/4弱である(臨床病型については後述の「症状・分類」を参照)。わが国での全国調査によると延髄・脊髄優位型の約65%で常染色体優性遺伝形式を示唆する家族内発症がみられるが、遺伝学的あるいは病理学的検査により確定診断された家系の報告は非常に少なく、浸透率も不明である。一方、大脳優位型はほぼ全例がde novo変異である。■ 病因GFAP遺伝子変異による機能獲得性機序が考えられているが、病態には変異GFAPの発現量増加が重要と考えられている。これは、(1)ヒト野生型GFAPを過剰発現させたトランスジェニックマウスにおいてGFAP発現量に比例した寿命の短縮とローゼンタル線維の出現を認める、(2)変異GFAP遺伝子を単一コピーのみ導入したモデルマウスは臨床表現型を十分に示さない、という動物モデルの知見に基づく。ヒトのアレキサンダー病においてはGFAP遺伝子のmultiplicationの報告はなく、変異GFAPの量的変化に影響を与える遺伝的および環境因子の存在が示唆される。変異GFAPによるアストロサイトの機能障害としてプロテアソーム系の機能低下、ストレス経路への影響、異常なカルシウムシグナル変化、炎症性サイトカインの増加、グルタミン酸トランスポーターの発現低下と機能異常などが報告されている。もう1つの病理学的特徴である脱髄については、モデルマウスの研究からK緩衝系の異常によるミエリン形成や維持の障害が推測されているが詳細な機序は不明である。■ 症状・分類発症年齢により乳児型(2歳未満の発症)、若年型(2~12歳未満の発症)および成人型(12歳以上の発症)に分類されるが、近年、神経症状および画像所見に基づいた病型分類が提唱されており、本稿ではこの新しい病型分類を記載する。1)大脳優位型(1型)主に乳幼児期発症で、機能予後不良の重症例が多い。痙攣、大頭症、精神運動発達遅延が主な症状である。痙攣は難治性とされるが、コントロール良好で学童期ごろには軽減する症例も散見される。大頭症は乳児期に目立つ。経過とともに痙性麻痺、構音障害、発声障害、嚥下障害などの延髄・脊髄症状が顕在化する。新生児期発症例では水頭症、頭蓋内圧亢進、難治性痙攣を来し、生命予後は不良である。2)延髄・脊髄優位型(2型)四肢筋力低下、痙性麻痺、四肢・体幹失調、構音障害、発声障害、嚥下障害、自律神経障害(起立性低血圧、膀胱直腸障害、睡眠時無呼吸)といった延髄・脊髄症状が、種々の組み合わせで認められる。筋力低下にはしばしば左右差が認められる。上記以外の症候として約20%に筋強剛、約15%に口蓋振戦を認める(自施設解析データ)。大頭症、精神運動発達遅延は通常認めない。前頭側頭型認知症に類似した認知症を呈する症例もある。一過性の「反復性嘔吐」が唯一の症状で、MRIにて両側延髄背側に結節状病変を示す小児の報告がある。3)中間型(3型)発症時期は幼児期から成人期まで幅広い。大脳優位型および延髄・脊髄優位型の両者の特徴を有する。大脳優位型の長期生存例、および精神運動発達遅延を伴う延髄脊髄優位型のパターンが含まれる。精神運動発達遅延については、初診時まで医療機関で評価されず、小学生時に学力低下により支援学級に編入したなどの経歴をもつ症例がある。また、熱性痙攣やてんかんの既往歴をもつ症例も少なからず存在する。複視や側彎などの脊柱異常を伴うことも多い。■ 予後大脳優位型の生命予後は約14年と報告されている。新生児期発症例は、生後数週~数ヵ月で死亡することが多い。難治性痙攣や栄養障害、感染症などのため学童期までに死亡する症例が多いが、一方で学童期までに痙攣などが消失するなど、大脳症状が安定化する症例も少なからず認められる。このような症例は、学童期以降に歩行障害や嚥下障害などの延髄・脊髄症状が緩徐に進行して中間型に移行する。延髄・脊髄優位型の生命予後は、約25年と大脳優位型と比較すると良好だが、無症候あるいは非常に軽微な異常にとどまる症例から運動麻痺・球症状・呼吸症状が急激に増悪する症例まで症例差が大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)頭部および脊髄MRI検査による特徴的な所見がアレキサンダー病を疑う手がかりとなる。確定診断は遺伝子検査および病理学的検査による。近年は、遺伝子検査にて確定診断が行われる傾向にあるが、新規変異や非典型例では慎重な判定が必要となる。■ MRI検査1)大脳優位型前頭部優位の広範な大脳白質異常が特徴的である。その他、脳室周囲の縁取り(T2強調画像で低信号、T1強調画像で高信号を示す)、基底核と視床の異常、脳幹の異常(特に中脳と延髄)、造影効果がみられうる。2)延髄・脊髄優位型延髄・頸髄の萎縮・異常信号が特徴的である。典型的には橋が保たれた延髄・上位頸髄の著明な萎縮が認められ、その形状はオタマジャクシ様の特徴的な所見を示す(tadpole appearance)。高齢者や軽症例では延髄・頸髄の萎縮が目立たないことがあるが、このような症例では延髄錐体の異常信号と延髄外側および最後野付近の萎縮を伴い、水平断にて延髄にメダマチョウの眼状紋様の所見がみられる(eye spot sign)。大脳・中脳・橋の錘体路の異常信号は通常認めない。10代前半から20歳代の若年例では延髄の結節・腫瘤様異常がみられることが多い。その他、小脳歯状核門の信号異常やFLAIR像にて中脳の縁取り(midbrain periventricular rim)も高率にみられる所見である。大脳MRIではT2強調画像にて“periventricular garland”と表現される側脳室壁に沿った花弁状の高信号が認められる。この病変は造影効果を示すこともあり、この部分にはローゼンタル線維が多いとされる。3)中間型大脳優位型と延髄脊髄優位型の両者の特徴をもつ型と定義した通り、比較的広範な大脳白質病変と延髄・頸髄の萎縮・異常信号を認める。成人症例では大脳白質病変は嚢胞化を伴う傾向があり、延髄・頸髄の萎縮は高度である。■ 遺伝子検査これまで100種類以上のGFAP遺伝子変異が報告されている。大多数がミスセンス変異であるが、インフレーム挿入/欠失変異、終止コドン近傍のフレームシフト変異およびスプライス変異の報告もある。CpGが関与するR79、R88、R239、R416が置換される変異は、人種を越えて認められる。前3者が置換される変異は、大脳優位型および中間型に認められ、R416が置換される変異はすべての型で報告されている。一方、延髄・脊髄優位型において頻度の高い変異は特に存在しない。■ 病理学的検査大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に特徴的なローゼンタル線維を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では対症療法にとどまる。痙攣に対する抗てんかん薬の投与、栄養管理、併発する感染症に対する抗菌薬の投与、学習障害や認知機能障害に対する療育・ケアが行われる。痙性麻痺に対して抗痙縮薬や抗てんかん薬の投与が使用されることがある。4 今後の展望変異GFAP発現抑制を治療標的としたアンチセンス核酸とドラッグリポジショニングに関する動物実験レベルの報告がある。アンチセンス核酸を投与したモデルマウスの報告では安全性、髄液中のGFAP蛋白量の劇的な減少、ローゼンタル線維の消失が確認されている。近年、核酸医薬の技術発展は目覚ましく、神経難病領域においても脊髄性筋萎縮症では実用化されている現状を鑑みると、本症に対する治療開発も期待される。一方、ドラッグリポジショニングの候補薬剤としてセフトリアキソン、クルクミン、リチウムが報告されているが、いずれも現時点では臨床応用には至っていない。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」班 ホームページ(診断基準や典型的な画像所見なども掲載)難病情報センター アレキサンダー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Alexander WS. Brain. 1949;72:373-381.2)Brenner M, et al. Nat Genet. 2001;27:117-120.3)Yoshida T, et al. J Neurol. 2011;258:1998-2008.4)Prust M, et al. Neurology. 2011;77:1287-1294.5)Messing A, et al. Am J Pathol. 1998;152:391-398.6)Hagemann TL, et al. Ann Neurol. 2018;83:27-39.公開履歴初回2020年02月17日

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視神経脊髄炎治療薬の開発最前線

今日まで、視神経脊髄炎(NMO)を適応症に掲げる薬剤はない。そのため治療はエビデンスではなく、経験的な推奨に従って行われてきた。しかし多発性硬化症の一種と考えられていたNMOが、病理学的、免疫学的に異なる疾患であると明らかになるに従い、それらにターゲットを絞った治療薬が開発されるようになった。先頭を走るのは、ヒト化抗IL-6レセプターリサイクリング抗体であるサトラリズマブだ。2019年、NMO治療薬として日米欧で申請されるに至った。この薬剤は、インターロイキン(IL)-6受容体を選択的に阻害する。NMOの特徴であるアストロサイト傷害は、抗アクアポリン4(AQP4)抗体の増加によりもたらされる。サトラリズマブはその増加をもたらすIL-6シグナル系をブロックし、アストロサイト傷害を抑制すると考えられている。このサトラリズマブの有効性は、2つのランダム化試験で示されている。1つは、標準的治療下にあるNMO・NMO関連疾患患者83例をランダム化した "SAkuraSky試験" である(NCT02028884)。サトラリズマブはプラセボに比べ再発リスクを相対的に62%、有意に抑制した(2018年、欧州多発性硬化症学会報告)。また、過去1年以内に発症歴を有するNMO・NMO関連疾患患者95例をランダム化したSAkuraStar試験(NCT02073279)においても、プラセボに比べ相対的に55%、再発リスクを有意に抑制していた(2019年、欧州多発性硬化症学会報告)。またサトラリズマブによる神経性疼痛の軽減も、2次評価項目ではあるが、両試験から報告された。ただし。血清脂質悪化による心血管系リスク増加の可能性を懸念する声もある [Paul F et al. Expert Opin Investig Drugs. 2018; 27: 265] 。サトラリズマブに続き、現在、わが国で承認申請の準備に入っているのがイネビリズマブである(米国では申請済み)。同剤は抗CD19モノクローナル抗体であり、B細胞を血中から除去する。末梢血からのB細胞除去は、すでにNMO再発リスク低減との相関が示唆されている [Jacob A et al. Arch Neurol. 2008; 65: 1443] 。イネビリズマブは抗CD20モノクローナル抗体よりも未成熟なB細胞にも作用するため、期待が集まっている。NMO関連疾患99例をランダム化した”N-MOmentum”スタディにおいて同剤は、プラセボに比べ、NMO関連疾患発作のリスクを早退的に73%、有意に低下させた [Cree BAC et al. Lancet. 2019; 394: 1352]。

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脊髄性筋萎縮症治療薬の開発最前線

長らく治療薬のなかった脊髄性筋萎縮症(SMA)だが、2017年に日本初のアンチセンス核酸医薬であるヌシネルセン(商標名:スピンラザ)が登場して状況は一変した。SMAは、運動ニューロンの正常機能維持に必要なSMNタンパクをコードするSMN1遺伝子の変異に起因するが、ヌシネルセンはこの変異SMN1遺伝子のmRNA前駆体に作用し、正常なmRNAを産生する。遅発型SMA小児126例を対象とした第III相試験 " CHERISH " では、複数回投与により、偽手技群に比べ、15カ月後の運動機能(HFMSEスコア評価)を有意に改善した [Mercuri E et al. N Engl J Med. 2018; 378: 625] 。現在、さまざまな年齢層のSMA例を対象に、高用量ヌシネルセンによる運動機能改善作用を、低用量と比較するランダム化試験 "DEVOTE" が計画され、2月末には患者登録が始まる予定だ(NCT04089566)。わが国ではヌシネルセンを追いかける形となったのが、オナセムノジーン・アベパルボベック(AVXS-101、商標名:ゾルゲンスマ)である(米国では初のSMA治療薬)。SMN1のDNA変異部を除去し、正常DNAを導入する薬剤であるため、1回の投与で治療が完了すると考えられている。I 型SMAの15例を対象とした観察研究 "STARTS"では、単回投与により治療域に達した12例における20カ月後の、永続的補助換気を要しない生存率は100%であり、ヒストリック・コホートの8%を大きく上回った [Mendell JR et al. N Engl J Med. 2017; 377: 1713] 。2019年には4年間観察結果が米国神経学会で報告され、追加観察に同意した10例全例が、永続的補助換気なしで生存していた。同学会では、II 型SMAにおいても、同剤単回投与による運動機能改善が認められたとする、31例を対象とした第 I 相試験 "STRONG"も報告されている(NCT03381729)。一方、経口摂取が可能なリスジプラムは、SMN2のスプライシングを修飾し、正常なSMNタンパクの産生を増加させる。2019年11月には、II型、III型SMA例において、リスプラジム1年服用による運動機能改善がプラセボを有意に上回るとする、第II相試験 "SUNFISH" (NCT02908685)の結果が製造社により公表された。このデータをもとに申請の予定だとされる。

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術後せん妄予防に対するメラトニン~メタ解析

 外科の高齢患者は、術後せん妄発症リスクが高い。せん妄の予防には、非薬理学的介入が推奨されるが、せん妄の発症を減少させる確固たるエビデンスを有する薬剤は、今のところない。米国・アリゾナ大学のAshley M. Campbell氏らは、周術期のメラトニンが、外科手術を受けた高齢患者のせん妄発症率を低下させるかについて評価を行った。BMC Geriatrics誌2019年10月16日号の報告。 1990年1月~2017年10月に英語で公表された文献を、PubMed/Medline、Embase、PsycINFO、CINAHLおよびリファレンスより検索した。2人の独立したレビューアーが、タイトルおよびアブストラクトをスクリーニングし、コンセンサス生成とバイアス評価を含む文献全文レビューを行い、データを抽出した。術後入院患者(平均年齢50歳以上)のせん妄を予防するためにメラトニンまたはラメルテオンを使用し、その結果を報告した研究は組み入れ対象とした。固定効果モデルを用いてデータをプールし、フォレストプロットを生成し、せん妄発症率のサマリーオッズ比を算出した。不均一性は、Cochran's Q値およびI2値を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・335件をスクリーニングし、定性分析に6件、メタ解析に6件(1,155例)の研究を抽出した。・対象研究の患者平均年齢は、59~84歳の範囲であった。・介入群には、心臓胸部、整形外科、肝臓の手術の前夜または手術当日から1~9日間、メラトニンまたはラメルテオンを2~8mg/日投与していた。・せん妄の発症率は、介入群で0~30%、対照群で4~33%であり、メラトニン群で有意な減少が認められた。メタ解析のサマリーエフェクトによるオッズ比は0.63(95%CI:0.46~0.87、Cochran's Q=0.006、=72.1%)であった。・1つの研究を分析より削除すると、全体のオッズ比が0.310(95%CI:0.19~0.50)に減少し、不均一性も減少した(Cochran's Q=0.798、I2=0.000)。 著者らは「対象研究において、周術期のメラトニンは、高齢患者のせん妄の発症率を低下させることが示唆された。最適な投与量は明らかではないが、メラトニンおよびメラトニン受容体アゴニストの潜在的なベネフィットにより、外科手術を受けた高齢患者のせん妄予防に使用するための選択肢となりうる可能性がある」としている。

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第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?高齢糖尿病患者は罹病期間が長い例が多く、進行した合併症を有する例も多く経験します。今回はいわゆる三大合併症について解説します。合併症の進展予防には血糖管理だけではなく、血圧、脂質など包括的な管理が必要となりますが、すべてを厳格にコントロールしようとするがあまり“ポリファーマシー”となり、症例によっては、かえって予後を悪化させる場合もありますので、実際の治療に関しては個々の症例に応じて判断していくことが重要になります。Q1 微量アルブミン尿が出現しない場合も? 糖尿病腎症の管理について教えてください。高齢糖尿病患者でも、高血糖は糖尿病腎症の発症・進展に寄与するため、定期的に尿アルブミン・尿蛋白・eGFRを測定・計算し、糖尿病腎症の病期分類を行うことが推奨されています1)。症例にもよりますが、血液検査は外来受診のたび、尿検査は3~6カ月ごとに実施していることが多いです。高齢者では筋肉量が低下している場合が多く、血清Cre値では腎機能をよく見積もってしまうことがあり、BMIが低いなど筋肉量が低下していることが予想される場合には、血清シスタチンCによるeGFR_cysで評価します。典型的な糖尿病腎症は微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、ネフローゼ、腎不全に至ると考えられており、尿中アルブミン測定が糖尿病腎症の早期発見に重要なわけですが、実際には、微量アルブミン尿の出現を経ずに、あるいは軽度のうちから腎機能が低下してくる症例も多く経験します。高血圧による腎硬化症などが、腎機能低下に寄与していると考えられていますが、こういった蛋白尿の目立たない例を含め、糖尿病がその発症や進展に関与していると考えられるCKDをDKD (diabetic kidney disease;糖尿病性腎臓病)と呼びます。加齢により腎機能は低下するため、DKDの有病率も高齢になるほど増えてきます。イタリアでの2型糖尿病患者15万7,595例の横断調査でも、eGFRが60mL/min未満の割合は65歳未満では6.8%、65~75歳で21.7%、76歳以上では44.3%と加齢とともにその割合が増加していました2)。一方、アルブミン尿の割合は65歳未満で25.6%、 65~75歳で28.4%、76歳以上で33.7%であり、加齢による増加はそれほど目立ちませんでした。リスク因子としては、eGFR60mL/min、アルブミン尿に共通して高血圧がありました。また、本研究では80歳以上でDKDがない集団の特徴も検討されており、良好な血糖管理(平均HbA1c:7.1%)に加え良好な脂質・血圧管理、体重減少がないことが挙げられています。これらのことから、高齢者糖尿病の治療では、糖尿病腎症の抑制の面からも血糖管理だけではなく、血圧・脂質管理、栄養療法といった包括的管理が重要であるといえます。血圧管理に関しては、『高血圧治療ガイドライン2019』では成人(75歳未満)の高血圧基準は140/90 mmHg以上(診察室血圧)とされ,降圧目標は130/80 mmHg未満と設定されています3)。75歳以上でも降圧目標は140/90mmHg未満であり、糖尿病などの併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指すとしています。しかしながら、こうした患者では収縮期血圧110mmHg未満によるふらつきなどにも注意したほうがいいと思います。降圧薬は微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はACE阻害薬かARBの使用が優先されますが、微量アルブミン尿や蛋白尿がない場合はCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も使用します。腎症4期以上でARB、ACE阻害薬を使用する場合は、腎機能悪化や高K血症に注意が必要です。また「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、75歳以上で腎症4期以上では、CCBが第一選択薬として推奨されています4)。腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤(ESA)の使用については、75歳以上の高齢CKD患者では「ESAと鉄剤を用い、Hb値を11g/dL以上、13g/dL未満に管理するが、症例によってはHb値9g/dL以上の管理でも許容される」となっています。高齢者ではESAを高用量使用しなければならないことも多く、その場合はHbA1c 10g/dL程度を目標に使用しています。腎臓専門医への紹介のタイミングは日本腎臓学会より示されており、蛋白尿やアルブミン尿の区分ごとに紹介基準が示されているので、ご参照ください(表)。画像を拡大するQ2 網膜症、HbA1cの目安や眼科紹介のタイミングは?高血糖が糖尿病網膜症の発症・進展因子であることは高齢者でも同様です。60歳以上の2型糖尿病患者7万1,092例(平均年齢71歳)の追跡調査では、HbA1c 7.0%以上の患者ではレーザー光凝固術の施行が10.0%以上となり、HbA1c 6.0%未満の患者と比べて約3倍以上となっています5)。また、罹病期間が10年以上の高齢者糖尿病では、10年未満の患者と比べて重症の糖尿病性眼疾患(失明、増殖性網膜症、黄斑浮腫、レーザー光凝固術施行)の頻度は高くなりますが、80歳以上ではその頻度がやや減少すると報告されています6)。このように、高齢糖尿病患者では罹病期間が長く、光凝固術の既往がある例も多く存在します。現在の血糖コントロールが良好でも、罹病期間が長い例では急激に糖尿病網膜症が進行する場合があり、初診時は必ず、その後も少なくとも1年に1回の定期受診が必要です。増殖性前網膜症以上の網膜症が存在する場合は急激な血糖コントロールにより網膜症が悪化することがあり、緩徐に血糖値をコントロールする必要があります。どのくらいの速度で血糖値を管理するかについて具体的な目安は明らかでありませんが、少なくとも低血糖を避けるため、メトホルミンやDPP-4阻害薬単剤から治療をはじめ、1~2ヵ月ごとに漸増します。インスリン依存状態などでやむを得ずインスリンを使用する場合には血糖目標を緩め、食前血糖値200mg/dL前後で許容する場合もあります。そのような場合には当然眼科医と連携をとり、頻回に診察をしていただきます。患者さんとのやりとりにおいては、定期的に眼科受診の有無を確認することが大切です。眼科との連携には糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳が有用です。糖尿病連携手帳を渡し、受診を促すだけでは眼科を受診していただけない場合には、近隣の眼科あての(宛名入りの)紹介状を作成(あるいは院内紹介で予約枠を取得)すると、大抵の場合は受診していただけます。また、収縮期高血圧は糖尿病網膜症進行の、高LDL血症は糖尿病黄斑症進行の危険因子として知られており、それらの管理も重要です。高齢者糖尿病の視力障害は手段的ADL低下や転倒につながることがあるので注意を要します。高齢糖尿病患者797人の横断調査では、視力0.2~0.6の視力障害でも、交通機関を使っての外出、買い物、金銭管理などの手段的ADL低下と関連がみられました7)。J-EDIT研究でも、白内障があると手段的ADL低下のリスクが1.99倍になることが示されています8)。また、コントラスト視力障害があると転倒をきたしやすくなります9)。Q3 高齢者の糖尿病神経障害の特徴や具体的な治療の進め方について教えてください。神経障害は糖尿病合併症の中で最も多く、高齢糖尿病患者でも多く見られます。自覚症状、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下により診断しますが、高齢者では下肢振動覚が低下しており、70歳代では9秒以内、80歳以上では8秒以内を振動覚低下とすることが提案されています10)。自律神経障害の検査としてCVR-Rがありますが、高齢者では、加齢に伴い低下しているほか、β遮断薬の内服でも低下するため、結果の解釈に注意が必要です。検査間隔は軽症例で半年~1年ごと、重症例ではそれ以上の頻度での評価が推奨されています1)。しびれなどの自覚的な症状がないまま感覚障害が進行する例もあるため、自覚症状がない場合でも定期的な評価が必要です。とくに、下肢感覚障害が高度である場合には、潰瘍形成などの確認のためフットチェックが重要です。高齢者糖尿病では末梢神経障害があると、サルコペニア、転倒、認知機能低下、うつ傾向などの老年症候群を起こしやすくなります。神経障害が進行し、重症になると感覚障害だけではなく運動障害も出現し、筋力低下やバランス障害を伴い、転倒リスクが高くなります。加えて、自律神経障害の起立性低血圧や尿失禁も転倒の誘因となります。また、自律神経障害の無緊張性膀胱は、尿閉や溢流性尿失禁を起こし、尿路感染症の誘因となります。しびれや有痛性神経障害はうつのリスクやQOLの低下だけでなく、死亡リスクにも影響します。自律神経障害が進行すると神経因性膀胱による排尿障害、便秘、下痢などが出現することがあります。さらには、無自覚低血糖、無痛性心筋虚血のリスクも高まります。無自覚低血糖がみられる場合には、血糖目標の緩和も考慮します。また、急激な血糖コントロールによりしびれや痛みが増悪する場合があり(治療後神経障害)、高血糖が長期に持続していた例などでは緩徐なコントロールを心がけています。中等度以上のしびれや痛みに対しては、デュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬が推奨されていますが、高齢者では副作用の点から三環系抗うつ薬は使用しづらく、デュロキセチンかプレガバリンを最小用量あるいはその半錠から開始し、少なくとも1週間以上の間隔をあけて漸増しています。両者とも効果にそう違いは感じませんが、共通して眠気やふらつきの副作用により転倒のリスクが高まることに注意が必要です。また、デュロキセチンでは高齢者で低Na血症のリスクが高くなることも報告されています。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂; 2017.2)Russo GT,et al. BMC Geriatr. 2018;18:38.3)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;20194)日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社会; 20185)Huang ES, et al. Diabetes Care.2011; 34:1329-1336.6)Huang ES, et al. JAMA Intern Med. 2014; 174: 251-258.7)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int. 2004;4:27-36.8)Sakurai T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:117-126.9)Schwartz AV, et al. Diabetes Care. 2008;31: 391-396.10)日本糖尿病学会・日本老年医学会編著. 高齢者糖尿病ガイド2018. 文光堂; 2018.

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漫画で勉強【Dr. 中島の 新・徒然草】(292)

二百九十二の段 漫画で勉強年を取ると何をするのも面倒になり、つい読書よりも漫画に走ってしまいます。そんな私が発見したのが、漫画で勉強する方法です。成人スティル病とか、皮膚筋炎とか、多発性硬化症とか。漫画家自身がかかった疾患を詳細に描写しているのです。たとえば『なんびょうにっき』さとうみゆきさんという漫画家の成人スティル病闘病記です。アマゾンキンドル版なら簡単にスマホにダウンロードできます。成人スティル病が不明熱の原因となることは、誰でも知っているところですが、40℃超えの高熱が20日間以上続いて意識もうろう髪は汗で常にズブ濡れ状態サーモンピンク色のブキミな皮疹が浮き上がりカラダは衰弱。ちょっと動いただけで激痛が走るこれらが絵になっている上に、たとえ話が面白い。灼熱の砂漠に無理矢理連れてこられて力任せにきつく縛りあげられ、逆さ吊りで釜茹でされながらムチ打ちもされるというハードな拷問を受けている感じさすがに漫画家、表現が秀逸ですね。成人スティル病のサーモンピンク疹はあまりにも有名ですが、太もも一帯がびっちりと皮疹だらけで、まるでピンク色の短パンを履いているように見えた(ぷっくり隆起している)という絵が確かに印象的で、1度みたら忘れられません。アマゾンのカスタマーレビューで、71%の人が星5つを付けただけのことはあります。最後まで一気に読んでしまいました。とにかく馴染みのない病気を手っ取り早く知るのに、漫画ほど簡単で便利なものはありません。ほかにも『ふいにたてなくなりました。おひとりさま漫画家、皮膚筋炎になる』…皮膚筋炎『難病患者になりましたっ!漫画家夫婦のタハツセーコーカショーの日々』 …多発性硬化症『漫画家、パーキンソン病になる。』…パーキンソン病『ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!』…ギラン・バレー症候群など、色々な漫画があり、アマゾンのカスタマーレビューではいずれも高評価。とりあえず私はスマホにダウンロードし、これから読み始めようといったところです。何だかこれらの難病が、急に身近なものに思えてきました。このようなジャンルがもっと充実すると、我々医師にも有難いですね。ということで最後に1句漫画家の 難病日記 超リアル

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がん慢性疼痛の薬物治療に有意な差/JCO

 がん慢性疼痛に処方するオピオイドの効果は、どれでも同じではないようだ。中国・雲南省第一人民病院のRongzhong Huang氏らは、Bayesianネットワークメタ解析にて、がん慢性疼痛治療について非オピオイド治療を含む有効性の比較を行った。その結果、現行のがん慢性疼痛治療の有効性には、有意な差があることが示されたという。また、特定の非オピオイド鎮痛薬と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)について、オピオイドと同程度の有効性を有する可能性が示唆されたことも報告した。がん慢性疼痛にはオピオイドが主要な選択肢となっている。一方で多くの非オピオイド鎮痛薬は現在、その有効性について公表されたエビデンスが少ないまま、がん慢性疼痛に処方されているという。Journal of Clinical Oncology誌2019年7月10日号掲載の報告。 検討は、がん慢性疼痛の治療において、あらゆる全身性薬剤による治療および/またはそれらの組み合わせを比較している無作為化対照試験(RCT)を、電子データベースを検索して行われた。 主要アウトカムは、オッズ比(OR)で報告されている全体的な有効性とし、副次アウトカムは、標準化平均差(SMD)で報告されている疼痛強度の変化とした。 主な結果は以下のとおり。・検索によりRCT81件、患者1万3例、11種の薬物治療のデータを、解析に包含した。・大部分のRCT(80%)は、バイアスリスクが低かった。・全体的な有効性が高い薬物クラスは上位から、非オピオイド鎮痛薬(ネットワークOR:0.30、95%確信区間[CrI]:0.13~0.67)、NSAIDs(0.44、0.22~0.90)、オピオイド(0.49、0.27~0.86)の順であった。・上位にランクされた薬物は、リドカイン(ネットワークOR:0.04、95%CrI:0.01~0.18、累積順位曲線下表面解析[SUCRA]スコア:98.1)、コデイン+アスピリン(0.22、0.08~0.63、81.1)、プレガバリン(0.29、0.08~0.92、73.8)であった。・疼痛強度の低減については、プラセボに対して優越性を示す薬物クラスを見いだせなかった。・一方で、プラセボに対して優越性を示す薬物で上位にランクされたのは、ziconotide(ネットワークSMD:-24.98、95%CrI:-32.62~-17.35、SUCRAスコア:99.8)、dezocine(-13.56、-23.37~-3.69、93.5)、ジクロフェナク(-11.22、-15.91~-5.80、92.9)であった。

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世の中を丁寧に眺めると病気に気付ける

 バイオジェン・ジャパン株式会社は、6月13日に都内において希少疾病である脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)の啓発を目的に同社が製作した短編映画『Bon Voyage ボン・ボヤージ ~SMAの勇者、ここに誕生~』の完成記念メディアセミナーを開催した。 SMAは、運動神経に変化が起こり、次第に筋肉の力が弱くなり、生活に影響を及ぼす疾病である。そして、同社は、SMAの治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注)を製造・販売しているが、SMAの存在がまだ社会へ浸透していないことから、同社が短編映画を制作したものである。 作品は、SMAIII型の患者さんが抱える病識から診断に至るまでの課題をリアルに再現。そして、正確な診断をきっかけに自身と向き合い、夢に向かってさらに力強く生きていく姿を描いている。気付きにくい成人発症のSMAIII型 映画の試写のあと、疾患の概要について齋藤 加代子氏(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・特任教授)が「脊髄性筋萎縮症(SMA)について」をテーマに講演を行った。 SMAは、SMN1遺伝子の欠失により、運動神経に変化が起こり、次第に筋力が低下し、生活に影響を及ぼす疾患であり、わが国では指定難病となっている。罹患率は、10万例に1~2例と考えられ、約1,400例の患者が推定されている。 本症では、発症年齢や運動機能によって、次のI~IVの4つの型に分類される。・I型:生後6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では座位ができない。・II型:生後1歳6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では立位ができない(座位はできる)。・III型:生後1歳6ヵ月以降で発症。成長後の最高到達運動機能は支えなしで歩ける。(a型:生後18ヵ月~3歳までに発症/b型:3歳以降に発症)・IV型(成人型):20歳以降で発症。運動発達は正常範囲。 とくにIII型のSMAについて、IIIa型では10歳までに患者の約半数が、IIIb型では30歳までに患者の約半数が歩行機能を失うこともあり、学校診断や健康診断でいかに早期に発見し、治療介入できるかが重要だという。 同氏は、成人のIII型の症例(52歳・女性)を示し、13歳で発症し、当初「神経原性筋萎縮症」と診断され、47歳の確定診断まで34年を要したという例を紹介した。なかなか社会に浸透していないIII型の特徴として、「運動機能障害がゆっくりと進行すること」「下肢から上肢に徐々に筋力の低下がみられること」「手の震え、筋肉のぴくつきがあること」がある。また、よく間違われる疾患として、「肢帯型筋ジストロフィー」「筋萎縮側索硬化症」「球脊髄性筋萎縮症」があり、確定診断には、血液による遺伝学的検査が必要になる。 最後に齋藤氏は、「治療薬の進歩もあり、治療の選択肢も多くなった。できる限り早期介入が求められる。医療者も患者もさまざまなWEBサイトをみて学び、本症を理解してもらいたい」と希望を語り、レクチャーを終えた。病気に周りが気付く、患者は自分から診療へ飛び込むことが大事 続いて、本作の完成にあたりトークセッションが行われ、三ッ橋 勇二監督、主演の中島 広稀氏、出演者でSMA患者の上田 菜々氏、演技指導で同じく患者の下島 直宏氏、そして、医学監修の齋藤氏が登壇し、作品の意図、制作の裏話や作品への思いなどが語られた。 中島氏は「患者の発症から診断まで1年分を15分に詰め込んだ作品で、演技ではSMAIII型特有の歩き方が難しかった。演じていて心の問題を感じた。患者さんはひとりで悩みを抱えないことが大事」と感想を述べた。 下島氏は、「完成した作品をみて『人生を走馬灯のように感じた』」と述べ、発症から診断確定までの自身の軌跡を振り返った。「診断では医師との出会いが大事で、自分で診療へ飛び込んでいかないと診断につながらない」と助言を寄せた。 上田氏は、「撮影は、仲良く、楽しくできた。小学生のときにSMAと診断され、引きこもるようになったが、美容に興味を持ち、すこしずつ社会に出られるようになった。作品では、患者さんの悩みや家族の葛藤も描かれていて、最後のシーンでは鳥肌が立った」と作品への賛辞を送った。 齋藤氏は、「SMAは社会に出て活躍できる疾患なので、患者さんは前向きに良い人生を送ることが重要。患者さんは自分を責めず、精神的に良い状態を保つことが大切。また、SMAの症状を見かけたら周りが気付いて、診療を勧めるなど声がけをすることが大事」と語った。 三ッ橋氏は、「作品を通じて、社会に気付きを与えることができたらと思う」と述べ、SMAについては「世の中を丁寧に眺めることで、周りの人の病気に気付くことが大事だと思う」と作品への思いを語った。 なお、本作は、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で上映されるほか、下記のサイトから視聴ができる。

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日本におけるADHD児に対する薬物療法の変化

 東北大学の吉田 眞紀子氏らは、日本におけるADHD児に対する薬物療法の傾向について調査を行った。Journal of Attention Disorders誌オンライン版2019年5月5日号の報告。 2005年1月~2015年12月の健康保険請求データ367万2,951例を用いて、ADHD児7,856例の薬物治療の傾向を調査した。 主な結果は以下のとおり。・2007年に承認されたメチルフェニデート徐放性製剤の処方割合は、2009年で31.4%に達し(調整オッズ比[AOR]:2.72、95%信頼区間[CI]:2.12~3.51)、その後は頭打ちとなった(AOR:0.96、95%CI:0.94~0.98)。・アトモキセチンの処方割合は、2008年の6.1%から2014年には21.8%に上昇した(AOR:1.12、95%CI:1.13~1.18)。・アリピプラゾールおよびラメルテオンの処方割合が増加していた(傾向のp<0.001)。 著者らは「ADHD児に対する薬物療法に変化が認められた。ADHD児に使用される治療薬の安全性を監視する必要がある」としている。

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知ることから始める、多発性硬化症患者が輝く社会への転換

 2019年4月22日、バイオジェン・ジャパンとエーザイは、5月30日のWorld MS Day(世界多発性硬化症の日)に先駆け、「20-40歳代の女性に多く発症する神経疾患『多発性硬化症(MS)』~働き盛り世代の健康・家庭・仕事の両立に大きなインパクト~」と題するメディアセミナーを開催した。 多発性硬化症(以下、MS)は、日本では女性の患者数が男性の2.9倍で、20~40歳代で多く発症するとされる。この年代の女性は就職や出産、育児などのライフイベントが多く、社会への影響が大きいと考えられる。本セミナーでは、河内 泉氏(新潟大学 脳研究所・医歯学総合病院 神経内科 講師)が、MSの疾患概要と、MS患者が活躍できる社会の実現に向けた思いを語った。患者数が増えても周囲からの理解は得られにくい MSは、自己免疫因子が神経細胞に存在する髄鞘に障害を起こし(脱髄)、神経伝導を正常に行えなくすることで、さまざまな神経症状が現れる疾患である。MSの特徴としては、症状の再発と寛解を繰り返すことがある。日本では1970年代から直線的にMSの患者数が増加しており、現在は2万人以上の患者がいるとされている。 MSでは、神経の障害が起こる部位に応じて、人それぞれで異なる症状が現れる。代表的な症状としては歩行障害、視覚障害、感覚障害、うつ、疲労感、排尿障害などがある。歩行障害などは症状が表に現れるため周囲も理解しやすいが、視力障害や感覚障害などは理解されにくく、周りからのサポートも受けにくいのが現状である。MSの薬物治療の進歩 MSの治療目標は自己免疫をコントロールすることである。日本においては、2000年頃からMSの再発予防・進行抑制のための疾患修飾薬(以下、DMD)による治療が始まった。現在はインターフェロンβ1a、インターフェロンβ1b、グラチラマー酢酸塩、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブの6種類のDMDが国内で承認されており、貢献度・満足度の高い薬の選択肢が増えてきている。 河内氏は、DMD治療を継続することで、身体機能が障害されない状況を維持できる患者が多くなってきていると語った。法整備は進んでも、行き届かない就労支援 難病を持つ患者にとって「仕事と治療の両立」は達成すべき大きな課題である。日本では近年、「障害者雇用促進法」の改正など、難病と就労に関する法整備が進んできている。しかし、疾患の重症度によって受けられる支援が異なり、理解されにくい症状を持つ患者は就労支援を受けにくい傾向があるという。また、36%の患者がMSのために離職や転職をした経験があるとの報告1)も紹介された。MS患者では、症状により仕事のパフォーマンスが低下するプレゼンティーズムの問題があるほか、MSに対する偏見によって不当に面接で不採用になったり、周囲から差別を受けたりすることもあるという。 河内氏は、現在でもMS患者は家族や同僚のサポートが得られにくい状況にあり、MS患者の就労のために社会の価値観を転換させていくことが今後の課題である、との見解を示した。治療と出産・子育てとの両立 1950年以前には、女性のMS患者は病気が悪化するという理由で妊娠や出産を諦めるよう指導されていた。しかし、現在では、MSは自然流産や死産、先天奇形を増やす原因にはならないことが知られている。さらにDMDの開発により疾患活動性のコントロールが可能になり、女性のMS患者の妊娠、出産、育児が可能な時代になったといえる。河内氏は、MS患者が安心して子供を産んで育てるために、プレコンセプショナル・ケアとして母性内科学を発展させたうえで、疾患や薬について患者に指導をしていくことが大切であると強調した。

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国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」【下平博士のDIノート】第21回

国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」今回は、「ミロガバリンベシル酸塩錠(商品名:タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg)」を紹介します。本剤は、α2δサブユニットに強力かつ特異的に結合してカルシウムイオンの流入を抑制することで、興奮性神経伝達物質の過剰放出を抑制し、痛みを和らげることが期待されています。<効能・効果>本剤は、末梢性神経障害性疼痛の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年4月15日より販売されました。※2022年3月、添付文書改訂による「中枢性神経障害性疼痛」の効能追加に伴い、適応は「神経障害性疼痛」となりました。<用法・用量>通常、成人にはミロガバリンとして初期用量1回5mgを1日2回経口投与し、その後1回用量として5mgずつ1週間以上の間隔を空けて漸増します。維持用量は、年齢・症状により1回10~15mgの範囲で適宜増減します。なお、腎機能障害患者に投与する場合は、投与量および投与間隔の調節が必要です。<副作用>日本を含むアジアで実施された臨床試験において、糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者を対象とした854例中267例(31.3%)、帯状疱疹後神経痛患者を対象とした553例中241例(43.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、傾眠(12.5%/19.9%)、浮動性めまい(9.0%/11.8%)、体重増加(3.2%/6.7%)などでした(承認時)。なお、弱視、視覚異常、霧視、複視などの眼障害が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.過敏になっている神経を鎮めることで、しびれ、電気が流れているような痛み、焼けるような痛みなど、末梢神経障害による痛みを和らげます。2.服用中は、めまい、強い眠気、意識消失などが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作はしないでください。3.本剤の服用を長く続けたり量を増やしたりすることで、体重が増加することがあります。実際に体重が増加し始めた場合はご相談ください。4.この薬を突然中止すると、不眠、吐き気、頭痛、下痢、食欲低下などの症状が現れることがあります。自己判断で減らしたりやめたりしないでください。5.本剤を服用中に飲酒をした場合、注意力、平衡機能の低下を強める恐れがあるので注意してください。<Shimo's eyes>神経障害性疼痛は、『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(改訂第2版)』で「体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛」とされ、神経の損傷部位によって“末梢性”と“中枢性”に分類されます。本剤の作用機序は既存薬のプレガバリンと同様ですが、神経障害性疼痛全般に使用できるプレガバリンとは異なり、本剤の適応は「末梢性神経障害性疼痛」に限られています。末梢性神経障害性疼痛の代表例としては、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病の合併症による神経障害性疼痛(痛み・しびれ)、抗がん剤の副作用による神経障害性疼痛などがあります。本剤は低用量から開始して、有効性や安全性を確認しながら維持量に漸増します。腎機能障害のある患者さんや高齢者では副作用が発現しやすいため、慎重に症状や副作用を聞き取りましょう。とくに高齢者ではめまいなどの副作用が生じると、転倒による骨折などを起こす恐れがあるため、細やかな投与量の調節が必要です。神経障害性疼痛は罹病期間が長引きがちで、さらに不安や睡眠障害を引き起こすこともあり、患者さんのQOLに与える影響は甚大です。末梢神経障害性疼痛の治療選択肢が増え、痛みに悩む患者さんの生活に改善がもたらされるのは喜ばしいことです。なお、2019年1月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 タリージェ錠2.5mg/タリージェ錠5mg/タリージェ錠10mg/タリージェ錠15mg

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せん妄のマネジメントと予防のための薬理学的介入~メタ解析

 せん妄に対する薬理学的介入については、さまざまな調査が行われているが、全体的なベネフィットや安全性はよくわかっていない。台湾・林口長庚紀念医院のYi-Cheng Wu氏らは、せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入に関するエビデンスの評価を行った。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月27日号の報告。 せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入を検討した、2018年5月17日までのランダム化臨床試験(RCT)を、各種データベース(PubMed、Embase、ProQuest、ScienceDirect、Cochrane Central、Web of Science、ClinicalKey、ClinicalTrials.gov)より検索した。事前リストに従いデータを抽出した。PRISMA(システマティックレビューおよびメタ解析のための優先的報告項目)ガイドラインを適用し、すべてのメタ解析は、ランダム効果モデルを用いて行った。主要アウトカムは、せん妄患者の治療反応およびせん妄リスクのある患者におけるせん妄発生率とした。 主な結果は以下のとおり。・合計58件のRCTが抽出された。内訳は、治療アウトカムを比較したRCTが20件(1,435例、平均年齢:63.5歳、男性の割合:65.1%)、予防を検討したRCTが38件(8,168例、平均年齢:70.2歳、男性の割合:53.4%)であった。・ネットワークメタ解析では、ハロペリドールとロラゼパムの併用が、プラセボや対照群と比較し、せん妄の治療に最も高い奏効率を示した(オッズ比[OR]:28.13、95%CI:2.38~333.08)。・せん妄の予防については、ラメルテオンOR:0.07、95%CI:0.01~0.66)、オランザピン(OR:0.25、95%CI:0.09~0.69)、リスペリドン(OR:0.27、95%CI:0.07~0.99)、デクスメデトミジン塩酸塩(OR:0.50、95%CI:0.31~0.80)が、プラセボや対照群と比較し、せん妄の発生率を有意に低下させた。・いずれの薬理学的介入も、プラセボや対照群と比較し、すべての原因による死亡リスクと有意な関連は認められなかった。 著者らは「せん妄の薬理学的介入において、治療にはハロペリドールとロラゼパムの併用、予防にはラメルテオンが最良の選択肢である可能性が示唆された。また、せん妄の治療および予防に対するいずれの薬理学的介入も、すべての原因による死亡率を上昇させなかった」としている。■関連記事せん妄に対する薬物治療、日本の専門家はどう考えているかせん妄治療への抗精神病薬投与のメタ解析:藤田保健衛生大せん妄ケアの重要性、死亡率への影響を検証

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