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神経障害性疼痛の実態をさぐる

神経障害性疼痛が見逃されているたとえば熱いものを触ったり、刃物で切れば痛みを感じる。そういう通常の痛みを「侵害受容性疼痛」といいます。末梢神経の終末にある侵害受容器が刺激されたときに感じる痛みです。侵害受容性疼痛の中には炎症に伴って起こる炎症性疼痛も含まれますが、これらを合わせて生体を守るための生理的な疼痛と呼んでいます。一方、「神経障害性疼痛」は、末梢神経から脊髄、さらに大脳に至るまでの神経系に何かの障害が起こったときに、エラーとして生じる痛みです。生体を守る意義はなく、病的な疼痛と考えられています。このように、神経障害性疼痛と炎症性疼痛は区別して考える事になっています。ただし、臨床的には炎症が遷延し持続的に痛みのシグナルが入力されるような状態では、神経系はエラーとしての過敏性を獲得するため、炎症性疼痛が続いた結果起こる痛みと神経障害性疼痛は明確に区別できないと考えられています。多くの神経障害性疼痛は痛みの重症度が高く、患者さんのQOLは著しく低下します。神経障害性疼痛は、まだまだ医療者に浸透していない痛みの概念です。神経障害性疼痛であることが疑われないで治療されているケースも多くみられ、神経障害性疼痛には特別なスクリーニングが必要だと考えます。神経障害性疼痛のスクリーニング痛みと一口にいっても、ナイフで刺された時の痛みと、炎や熱に手をかざした時の痛みは、おのずと性質が違ってきます。神経障害性疼痛の患者さんの多くは、「ヒリヒリと焼けるような痛み」「電気ショックのような痛み」「痺れたような痛み」「ピリピリする痛み」「針でチクチク刺されるような痛み」といった特徴的な性質の痛みを訴えます。一方、炎症性疼痛の患者さんでは、ズキズキする、ズキンズキンするといった、明らかに痛みの性質が異なった訴えをします。痛みの性質の違いは、痛みの発生メカニズムの違いを表していると考えられています。患者さんの自覚的な訴えから痛みの種類を鑑別するために、痛みの問診票が各国で開発されています。私たちはドイツでつくられた「PainDETECT」の日本語版を許可を得て開発し、その妥当性の検証試験を行っています。痛みの性質、重症度、場所、範囲、時間的変化を1つの質問用紙に記入する形のもので、臨床で使いやすい問診票になっています。侵害受容性疼痛なのか神経障害性疼痛なのか、あるいは両方が混合している疼痛なのかを分類することができます。画像を拡大する痛みの具体性を評価する痛みのスクリーニングにおいて、痛みの性質と共に痛みの具体性を評価することが重要です。たとえば捻挫をした患者さんにどこが痛いか聞くと、「足首のここが痛い、足首を伸ばすと痛い」と明確な答えが得られます。これは痛みの具体性が高いといえます。一方、器質的な異常を伴わない非特異的腰痛や、外傷後の頸部症候群(むち打ち症)では、「腰のあたりが全体的に痛い」とか、「何となく首の周りが痛い」といった部位を特定しにくい漠然とした痛みを訴えることがあります。そのような場合は痛みの具体性が低いと評価します。痛みの具体性が高いときには身体的な問題、器質的な異常があり、痛みの具体性が低い場合は器質的な異常がない(少ない)と判断し、心因性疼痛の要素の有無を考えます。器質的異常の有無は薬物療法の適応を考える際に重要なポイントになりますので、痛みの性質と共に具体性を聞くことは非常に有用です。神経障害性疼痛が合併しやすい疾患神経障害性疼痛が多く見られる疾患は、糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、脊柱管狭窄症です。たとえば帯状疱疹では、神経にウイルスが棲んでいて神経の炎症や障害が起きます。日本での大規模な調査研究で、これまで神経障害性疼痛ではないと考えられていた腰痛や膝関節症を含む多くの慢性疼痛患者さんの中にも、神経障害性疼痛が含まれていることがわかってきました。首から背中、腰の痛みを訴える患者さんの実に約8割が、神経障害性疼痛だろうと推察される報告もあります。手術後の痛みは意外に調べられていない領域です。傷が治れば痛くないと医療者が思っているので、患者さんが痛みを訴えにくい環境があるようです。開胸手術後は6~8割、乳腺の術後には5~6割、鼠径ヘルニアの術後では3~4割の患者さんが傷が治った後にも痛みを持っていることがわかっています。もちろん手術後に遷延する痛みの病態のすべてが神経障害性疼痛ではありません。術後遷延痛には、神経障害性疼痛とも炎症性疼痛ともいえない独特のメカニズムがありそうだ、ということが分子生物学的な病態研究によってわかってきています。薬物療法による神経障害性疼痛の治療神経障害性疼痛の治療は、侵害受容性疼痛とは治療戦略がまったく異なります。基本的に消炎鎮痛薬は効果がありません。神経障害性疼痛の第一選択薬はCa2+チャネルα2δリガンドであるプレガバリン(商品名:リリカ)と三環系抗うつ薬です。第二選択薬としては、抗うつ薬セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のうちの一つであるデュロキセチン(商品名:サインバルタ)、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)、抗不整脈薬メキシレチン(商品名:メキシチールほか)です。第三選択薬は、麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)です。まず初めにプレガバリンか三環系抗うつ薬を用います。効果が不十分であれば、いずれかに切り替えるか併用する。プレガバリンは添付文書では、朝と夕方に内服することになっていますが、私たちは就寝前の服用を勧めています。神経障害性疼痛の患者さんは痛みが強く不眠を訴える方が多いのですが、プレガバリンによる眠気の作用を逆に利用した服用方法です。プレガバリンの眠気は鎮静によって生じるものではなく、生理的な睡眠作用であることがわかっています。そのためか、患者さんもぐっすり眠れたという満足感を持つことが多いようです。そして第一選択薬で効果が不十分な場合は、第二選択薬への切り替え、あるいは第二選択薬との併用を行います。ただし三環系抗うつ薬とデュロキセチンの併用では、副作用として興奮・せん妄等のセロトニン症候群を起こす危険性があるので、三環系抗うつ薬とデュロキセチンは基本的に併用はしません。第二選択薬が無効な場合は、第三選択薬として麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)を使います。非がん性の慢性疼痛に対して使えるオピオイド鎮痛薬は、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(商品名:トラムセット)とフェンタニル貼付剤(商品名:デュロテップMTパッチ)が主なものです。ブプレノルフィン貼付剤(商品名:ノルスパンテープ)は変形性関節症、腰痛症のみが保険適応となっています。オピオイドは最も高い鎮痛効果を期待できますが、長期間使った場合に便秘や吐き気、日中の眠気などの副作用が問題になります。オピオイド鎮痛薬に対して精神依存を起こす患者さんもまれにですがいます。そのため、第一選択薬、第二選択薬が無効な場合にのみ使うことが推奨されています。オピオイド鎮痛薬使用における注意点非がん性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使い方は、がん性疼痛とは異なります。がん性疼痛の場合は、上限を設けずに患者さんごとに投与量を設定し、痛みが続いている間は使い続けます。痛みが発作的に強まったときには頓用薬も用います。一方、非がん性の疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合は、経口のモルヒネ製剤換算で120mgを上限に設定することが推奨されています。オピオイド鎮痛薬の使用期間は極力最少期間にとどめ、痛みが強くなったときの頓用は推奨されていません。これらのオピオイド鎮痛薬の使用に制限を設けている理由は、すべて精神依存の発症リスクを抑えるためです。がん性疼痛と非がん性疼痛では、オピオイド鎮痛薬の使い方の原則が違うことをご理解いただきたいと思います。オピオイド鎮痛薬の精神依存は、器質的な痛みの患者さんでは基本的に発症しないことがわかっています。器質的ではない疼痛、すなわち痛みの具体性の低い患者さんでは精神依存を起こす可能性が高まるので、オピオイド鎮痛薬を積極的に使用すべきではないと考えています。うつ病や不安障害といった精神障害を合併している患者さんも、オピオイド鎮痛薬による精神依存を発症しやすいことがわかっています。最も強い鎮痛効果を求めるときは、われわれはオピオイド鎮痛薬とプレガバリンを併用しています。プレガバリンには抗不安作用があり、それがオピオイド鎮痛薬による吐き気の発生に対する予期不安を抑制し、制吐効果が期待できます。オピオイド鎮痛薬と三環系抗うつ薬の併用も強い鎮痛効果が期待できますが、吐き気、眠気、抗コリン作用による口渇などを相乗的に増強してしまうため推奨していません。

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多発性硬化症治療の服薬をサポート 「イムセラヒルズ」サービス開始

 田辺三菱製薬は1日、多発性硬化症患者のくすりの飲み忘れ防止を支援するプログラム「イムセラヒルズ」を同日より開始した。 イムセラヒルズは、患者自身が携帯電話やパソコンから無料で会員登録ができる。多発性硬化症治療薬「イムセラ」の飲み忘れによる休薬期間を起こさないよう、飲む時間をメールで知らせる。また、安全性情報やチェックリストの提供に加えて、「さっぽろ神経内科クリニック」を中心とするチーム医療による6ヵ月間のメールマガジンの配信でも情報提供するなど、長く療養生活を続ける多発性硬化症患者をサポートするプログラムとなっている。 同社は2011年11月28日より多発性硬化症治療薬「イムセラ」を販売しているが、昨年12月より投薬制限が解除となり、長期処方される患者が増加している。多発性硬化症は厚生労働省の特定疾患にも指定され、国内における患者数は約16,000人と報告されている。詳細はプレスリリースへhttp://www.mt-pharma.co.jp/shared/show.php?url=../release/nr/2013/MTPC130201_IMU.html

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アレムツズマブ、再発寛解型多発性硬化症の再発を抑制:CARE-MS I試験/Lancet

 活動性の早期再発寛解型多発性硬化症(RRMS)の治療において、アレムツズマブ(alemtuzumab:国内未承認)はインターフェロンβ1aに比べ再発を有意に抑制するが、障害の集積の抑制効果には差がないことが、米国・クリーブランド・クリニックのJeffrey A Cohen氏らが行ったCARE-MS I試験で示された。ヒト化抗CD52モノクローナル抗体であるアレムツズマブは、血中のTリンパ球およびBリンパ球を枯渇させ、結果としてその再生を促すことで効力を発揮すると考えられる。未治療RRMSを対象とした第II相試験では、その疾患活動性の抑制効果が確認されている。Lancet誌2012年11月24日号(オンライン版2012年11月1日号)掲載の報告。アレムツズマブの有用性を無作為化第III相試験で評価 CARE-MS I(Comparison of alemtuzumab and Rebif Efficacy in Multiple Sclerosis)試験は、未治療の活動性RRMSに対するアレムツズマブの有用性を、インターフェロンβ1aとの比較において評価する無作為化対照比較第III相試験。 対象は、18~50歳、McDonald診断基準(2005年)を満たし、総合障害度スケール(EDSS)3点以下で、MRIで脳病変が確認された未治療のRRMSとした。これらの患者が、アレムツズマブ(12mg/日、ベースライン時に1日1回5日間、12ヵ月後に1日1回3日間)を静注する群またはインターフェロンβ1a(用量漸増後、44μg、週3回)を皮下注する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、再発率と6ヵ月後の障害の持続的集積の複合エンドポイントとした。再発は、48時間以上持続するMSに起因する神経症状の新規発現または増悪とした。障害の持続的集積は、6ヵ月後のEDSSで1点以上の上昇と定義した。再発率が54.9%有意に改善、障害の持続的集積は30%改善したが有意差なし 2007年9月7日~2009年4月17日までに16ヵ国101施設から581例が登録された。アレムツズマブ群に386例、インターフェロンβ1a群には195例が割り付けられ、それぞれ376例(97%)(平均年齢33.0歳、女性65%)、187例(96%)(同:33.2歳、65%)が解析の対象となった。 アレムツズマブ群の再発率は22%(82/376例)であり、インターフェロンβ1a群の40%(75/187例)に比べ54.9%有意に改善された[イベント発生の率比:0.45、95%信頼区間(CI):0.32~0.63、p<0.0001]。Kaplan-Meier法による2年無再発率は、アレムツズマブ群が78%と、インターフェロンβ1a群の59%に比べ有意に良好だった(p<0.0001)。 障害の持続的集積は、アレムツズマブ群が8%(30/376例)と、インターフェロンβ1a群の11%(20/187例)よりも30%改善したが、両群間に有意な差はなかった[ハザード比(HR):0.70、95%CI:0.40~1.23、p=0.22]。 アレムツズマブ群の90%(338/376例)に注射関連反応がみられ、そのうち3%(12/376例)が重篤と判定された。感染症がアレムツズマブ群の67%(253/376例)、インターフェロンβ1a群の45%(85/187例)にみられたが、ほとんどが軽度~中等度だった。ヘルペスウイルス感染症(主に皮膚ヘルペス)が、それぞれ16%(62/376例)、2%(3/187例)に認められた。 2年間で甲状腺関連の有害事象がアレムツズマブ群の18%(68/376例)、インターフェロンβ1a群の6%(12/195例)にみられ、アレムツズマブ群では免疫性血小板減少が1%(3/376例)に発現した。アレムツズマブ群の2例は甲状腺乳頭がんを発症した。 著者は、「アレムツズマブの一貫性のある安全性プロフィールと再発抑制におけるベネフィットは、未治療のRRMS患者への使用を支持するものだが、以前の試験で認められた障害の抑制に関するベネフィットが今回は確認できなかった」と結論し、「アレムツズマブの重篤な有害事象のリスクは適切なモニタリングで管理でき、治療可能である。アレムツズマブはRRMS治療において実質的に有効であり、有害事象とのバランスを考慮して使用すべきである」と指摘する。

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疼痛治療「プラセボでも一定の効果が」臨床試験に課題も

 線維筋痛症(FMS)の症状軽減に対しプラセボ以上の治療効果が期待できる薬物療法は少なく、有害事象による脱落率が増加するといわれてきた。最近のシステマティックレビューによると、慢性疼痛の試験において、治療薬の有用性や副作用のかなりの割合は、プラセボに起因することが実証された。Winfried Häuser氏らはプラセボおよびノセボ反応(プラセボにより副作用が発現すること)の大きさを測定し、FMS適応承認のための医薬品の臨床試験においてそれらが薬の有用性に及ぼす影響を評価した。Clinical and experimental rheumatology誌オンライン版2012年11月8日号の報告。 FMS患者を対象とした、デュロキセチン、ミルナシプラン、プレガバリン、ナトリウムオキシベートを用いた無作為化二重盲検プラセボ対照試験のうち、2012年6月30日までに報告された試験を、CENTRAL、MEDLINE、clinicaltrials.govより検索した。プラセボへの反応は、プラセボにより痛みが50%軽減する推定値を評価した。ノセボ反応は、プラセボ群における有害事象による推定脱落値を評価した。 主な結果は以下のとおり。・プラセボ群3,546例を含む18試験が抽出された。・プラセボにより痛みが50%軽減する推定値は18.6%であった(95%CI:17.4~19.9)。・プラセボ群における有害事象による推定脱落値は10.9%であった(95%CI:9.9~11.9)。・臨床ではプラセボ効果を期待する場合もあるが、治験医師はプラセボ効果を低下させることを目指している。また、臨床試験においてはノセボ反応を減らすことが重要である。関連医療ニュース ・とくにうつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用 ・検証!デュロキセチンvs.他の抗うつ薬:システマティックレビュー ・「片頭痛の慢性化」と「うつ」の関係

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整形外科領域にみる慢性疼痛

整形外科疼痛の特徴腰痛・関節痛といった整形外科領域の疼痛は慢性疼痛の3割以上を占め最も多い1)。なかでも腰痛が多く、肩および手足の関節痛がこれに続く2)。整形外科での痛みの発生頻度は年齢および性別により偏りがあるが、多くは変性疾患が原因となっていることから、50歳代頃から増加し60歳代、70歳代ではおよそ3割近くが痛みを訴える。高齢者においては、もはやコモンディジーズといっても過言ではないであろう。整形外科領域の痛みは慢性の経過をたどるものが多い。患者さんの訴えは「突然痛みが起こりました」と急性を疑わせるものが多いが、単純X線所見ではかなり時間経過した骨の変形が確認されることもしばしばであり、長期間にわたって徐々に進行し最終的に痛みが発症するケースが多いと考えられる。変性疾患の多くは荷重関節に生じ、加齢に伴い関節に痛みが起こる。日本人はO脚が多いため痛みは負荷がかかる膝関節に多くみられるのが特徴である。近年、食生活や生活習慣の変化に伴って肥満が多くなり、その傾向に拍車がかかっていることから、膝人工関節手術は年約10%の割合で増加している。また、肥満や運動不足との関係もあり、生活習慣病などの内科疾患との関連も深くなっている。一方、股関節の痛みは減少傾向である。出生時から足を真っすぐにしてオムツをしていた時代、日本人には臼蓋形成不全が多かったが、現在は紙おむつで足を開いている。その結果、臼蓋形成不全も先天性股関節脱臼も減少している。国民性の変化は整形外科治療に大きな影響をもたらしているといえるだろう。一昔前であれば、膝が曲がっていてもあきらめて治療を受けなかったが、今では膝が曲がっていると見た目も悪いし、痛いから手術したいという人が多くなっている。また、痛みがあれば家で寝ている人が多かったが、痛みを改善して運動や旅行をしたいなど積極的に治療を受ける患者さんが、多くなっている。慢性疼痛の病態慢性疼痛には、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、非器質性疼痛の三つの病態があるが、整形外科の患者さんでは約8割に侵害受容性疼痛の要素がみられる。疼痛の原因として多い変性疾患は軟骨の摩耗が原因であり、滑膜の炎症が併発して痛みを引き起こす。神経障害性疼痛も侵害受容性疼痛ほどではないが、整形外科領域でみられる痛みである。これは神経の損傷により起こる痛みであるが、以前はその詳細について十分に解明されておらず、また有効な治療薬がなかったため疼痛非専門医には治療が困難であった。しかし現在ではMRIなどの検査で診断可能であり、プレガバリンが末梢性神経障害性疼痛に効能・効果を取得したことにより、広く認知されてきた。侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛といった器質的疼痛のほかに機能性疼痛症候群がある。機能性疼痛症候群は諸検査で器質的所見や病理所見が明らかにできず、持続的な身体愁訴を特徴とする症候群である。その中には中枢機能障害性疼痛があり、線維筋痛症はその代表と考えられる。全身の筋肉、関節周囲などにわたる多様な痛みを主訴とし、種々の随伴症状を伴うが、その病態は明らかになっていない。治療アプローチ痛みの治療にあたっては、症状だけをみてに安易にNSAIDsで治療するのではなく、痛みの原因を明らかにすることが重要である。痛みの原因となるものには前述の変性疾患以外にも炎症性疾患や感染性疾患があるが、いずれによるものかを明らかにして、適切な評価と適切な原疾患の治療を行う。変性疾患の進行は緩徐であるため、極端にいえば治療を急がなくてもとくに大きな問題はない。炎症性疾患では、痛風やリウマチなど内科疾患の診断を行い、それぞれの適切な治療を速やかに行うことになる。感染性疾患は治療に緊急性を要し、中には緊急手術が必要となる場合もある。痛みの原因を調べる際には、危険信号を見逃さないようにする。関節疾患の多くは、触診、採血、単純X線検査などで診断がつき、内臓疾患との関連は少ないが、脊椎疾患では重大な疾患が潜在するケースがある。とくに、がんの脊椎転移は頻度が高く注意を要する。よって、高齢者で背中が痛いという訴えに遭遇した場合は、結核性脊椎炎などに加え、がんも念頭にておく必要がある。さらに、高齢者で特定の場所に痛みがあり、なおかつ継続している場合もがんである事が少なくない。また、感染性脊髄炎では、早期に診断し適切な治療を行わないと敗血症により死にいたることもある。このような背景から、1994年英国のガイドラインでred flags signというリスク因子の概念が提唱された。腰痛の場合、この危険信号をチェックしながら診療にあたることが肝要である3)。red flags sign発症年齢<20歳または>55歳時間や活動性に関係のない腰痛胸部痛癌、ステロイド治療、HIV感染の既往栄養不良体重減少広範囲に及ぶ神経症状構築性脊柱変形発熱腰痛診療ガイドライン2012より治療期間、治療目標、治療効果を意識すべし疼痛の治療期間は痛みの原因となる疾患によって異なる。たとえば変形性腰椎症など不可逆的な疾患では治療期間は一生といってもよく、急性の疾患であれば治療期間も週単位と短くなる。初診時にどのような治療がどれくらいの期間必要で、薬はどのくらい続けるかなどについて患者さんに説明し同意を得ておく必要がある。疼痛の診療にあたり、治療目標を設定することは非常に重要である。急性の場合は痛みゼロが治療目標だが、慢性の場合は痛みをゼロにするのは困難である。そのため、痛みの軽減、関節機能の維持、ADLの改善が治療目標となる。具体的には、自力で歩行できる、以前楽しんでいた趣味などが再開できる、買い物などの外出ができる、睡眠がよくとれる、仕事に復帰できる、などのようなものである。痛みは主観的なものであり、本人の感覚で弱く評価したり、疼痛(顕示)行動で強く訴えたりする。そのため、効果判定はADLの改善を指標として行う。患者さんへの聞き方として、少し歩けるようになったか、家事ができるようになったか、以前よりもどういう不自由さがなくなったかなどが具体的である。患者さんの痛みの訴えだけを聞いて治療しているとオーバードーズになりがちであるが、ADLの改善をチェックしていると薬剤用量と効果、副作用などのかね合いが判定できる。たとえば、痛みが少し残っていてもADLの改善が目標に達していれば、オーバートリートメントによる薬剤の副作用を防止できるわけである。痛みと寝たきりの関係寝たきり高齢者の医療費や介護費は一人年間300~400万といわれる。日本では寝たきりの高齢者が非常に多い。この高齢者の寝たきりの原因の第2位は痛みであることをご存じだろうか。痛みによりADLが落ち、寝たきり傾向になる。すると筋肉や関節機能が低下して痛みがより悪化し、重度の寝たきりになっていくという悪循環に陥る。寝たきりから自立するためには、痛みを減らして動いてもらうことが重要なのである。動くことで筋力がつき姿勢が矯正され痛みが改善する。バランスも良くなるので寝たきりの原因となる転倒も減るという好循環を生み出す。痛みの診療における運動の重要性は近年非常に注目されている。参考文献1)平成19年度国内基盤技術調査報告書2007;1-222)平成22年9月 厚生労働省「慢性の痛みに関する検討会」今後の慢性の痛み対策について(提言)3)矢吹省司:ガイドライン外来診療2012:P.243

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認知症のエキスパートドクターが先生方からの質問に回答!(Part2)

CareNet.comでは10月の認知症特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より認知症診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、朝田 隆先生にご回答いただきました。今回は残りの5問について回答を掲載します。6 アルツハイマー病と血管性認知症を簡単に鑑別する方法はあるか? 血管性認知症の具体的な治療方法は?6 この鑑別方法は認知症医療の基本と言えるテーマですね。鑑別については、血管性認知症では片麻痺をはじめとする神経学的な所見があり、その発症と認知症の発症との間に時間的な密着性があることが基本かと思います。そのうえで、段階的な悪化や、障害される認知機能の不均等さ(斑認知症)などの有無が鑑別のポイントになるでしょう。ところで、かつてはわが国で最も多いのは血管性認知症で、これにアルツハイマー病が次ぐとされていました。ところが最近では、両者の順位が入れ替わったとされます。また実際には、両者が合併した混合型認知症が最も多いともいわれます。それだけに、この鑑別は二者択一の問題から、両者をどう攻めたら効率的かの方略を考えるうえでの基本、という新たな意味を持つようになったと思います。7 アルツハイマー病とてんかんとの鑑別点は?7 認知症もどきの「てんかん」は最近のトピックスになっていますね。てんかんはややもすると子どもの病気というイメージがありましたが、最近では初発年齢が高くなる傾向があり、患者数も高齢者に多いという事実が知られるようになりました。てんかんも、明らかなけいれんを伴うタイプであれば、認知症との鑑別は簡単です。ところが、けいれん発作がないタイプのてんかんもあります。とくに海馬付近に発作の焦点をもつケースでは、主症状が健忘ということが少なくありません。注意深く観ているとそのような人では、時に数秒から数分、「ぼーっ」として心ここにあらずという状態が生じがちです。これが家族や同僚など周囲の人に気づかれていることも少なくありません。本人にはこのような発作中のことは、ほぼ記憶に残りません。また傍目には普通に過ごしているように見える時であっても、本人はぼんやりとしか覚えていないことがあります。このような状態が、周囲の人には認知症ではないかと思われてしまうのです。8 薬物治療を開始する際、専門医にアルツハイマー病の診断をしてもらうべきか? また、精神科へ紹介すべきなのはどのようなケースか?8 これもまた悩ましい問題ですね。と言いますのは、すごく診断に迷うような例外的なケースは別ですが、最も多い認知症性疾患はアルツハイマー病ですから、普通の認知症と思われたら、即アルツハイマー病という診断になるかもしれません。それなのにいちいち専門医にアルツハイマー病の診断をしてもらうべきなのか?というのもごもっともなことです。しかし、時としてアルツハイマー病と誤診されるものに、たとえば意味性認知症や皮質基底核変性症など、各種の変性性認知症があります。あるいは正常圧水頭症も、最大の可逆性認知症に位置づけられるだけに要注意です。臨床経過、神経心理学的プロフィール、神経学的所見、脳画像所見などから、これらとの鑑別がついているという自信があれば、紹介は不要でしょう。逆に、何となくひっかかりを覚えたら、必ず専門医に相談するようにされていれば、後悔を生まないことでしょう。次に、精神科医であれば誰でも認知症が診られるというわけではありません。しかし、他科の医師との比較で精神科医が得意とするのは、幻覚妄想などの精神症状や攻撃性・不穏興奮などの行動異常(両者を併せてBPSD)への対応でしょう。とくに暴力が激しくなった認知症のケースでは自傷他害の危険性も高いですから、早めに対応設備のある精神科の専門医に依頼されるようにお勧めします。9 抗アルツハイマー病薬の使い分けは? また、増量、切り替え、追加のタイミングは?9 ここでは、現在わが国で流通している抗アルツハイマー病薬の特徴と処方の原則を述べます。これらの薬剤は、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬に二分されます。前者にはドネペジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン(同:レミニール)、リバスチグミン(同:イクセロン、リバスタッチ)の3種類があります。後者はメマンチン(同:メマリー)です。前者について、どのようなタイプのアルツハイマー病患者にはどの薬が適切といったエビデンスレベルは今のところありません。総じて言えば、どれもそう変わらない、同レベルと言っても大きな間違いではないでしょう。たとえ専門医であっても、3つのうちのどれかで始めてみて、効果がないとか副作用で使いづらい場合に、次はこれでというパターンが一般的かもしれません。増量法は、それぞれ異なりますが、ガランタミン、リバスチグミンの場合は、副作用のために最大用量の24mg/日、18mg/日まで増量せずに中間用量を維持した方がよい場合もあります。適応については、ドネペジルは軽症から重症まですべての段階のアルツハイマー病に適応があります。野球のピッチャーにたとえるなら先発完投型と言えます。これに対してガランタミン、リバスチグミンは軽度と中等度例を適応としますので、先発ながら途中降板のピッチャーです。NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンについては、中等度と高度の例が適応ですからリリーフ専門のピッチャーと言えるでしょう。使用上の特徴として、コリンエステラーゼ阻害薬は複数処方できませんが、コリンエステラーゼ阻害薬と本剤の併用は可能なことがあります。この薬は原則として1週間ごとに増量していきます。ところが、わが国では15~20mg/日の段階で、強い眩暈や眠気などの副作用を来す例が少なくないことがわかっています。この副作用を防止するために、2~4週間毎に増量する方法を勧める専門医もいらっしゃいます。10 BPSDに対する抗不安薬や気分安定薬などの上手な使い方は?10 BPSDに対する治療の基本は薬物治療ではなく、対応法の工夫・環境調整やデイケアも含めた非薬物療法にあります。薬物は、それらでだめな場合に使うセカンドチョイスと位置づけたほうがよいと思われます。その理由として、せん妄や幻覚・妄想など精神面のみならず、錐体外路症状そして転倒などの副作用があります。また高齢者では10種類以上の薬剤を服用していることも珍しくありませんから、処方薬を加えることでさまざまな副作用を生じるリスクは指数関数的に上昇します。そうは言っても薬物治療が求められるのは、暴言・暴力、不眠・夜間の興奮、幻覚・妄想などのBPSDが激しいケースでしょう。このような場合に向精神薬を処方するとしたら、とくに以下の点を考慮してください。筋弛緩・錐体外路症状などの易転倒性を惹起する可能性、それに意識障害を起こす危険性です。そうなると、ほとんどの抗精神病薬(メジャートランキライザー)、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は使えません。また三環系の抗うつ薬も同様です。そこで、あくまで私的な方法ですが、私は漢方薬を好んで使います。抑肝散、抑肝散加陳皮半夏などが主です。抗不安薬では、鎮静効果を狙って非ベンゾジアゼピン系のタンドスピロン、睡眠薬としてはむしろ睡眠・覚醒のリズム作りを狙ってラメルテオンを使うことがあります。こうした薬剤で無効なときには、バルプロ酸やカルバマゼピンといった抗てんかん薬も使います。どうにもならない激しい暴力・攻撃性には最後の手段として、スルトプリドをごくわずか(20~30mg/日)処方します。多くの場合、適応外使用ですから、このことをしっかり説明したうえで処方すべきでしょう。

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概論:慢性疼痛治療(2)

痛みをとるのが難しい疾患確実な診断がついているにも関わらずなかなか治りにくい痛みは、神経障害性疼痛の要素を持っている慢性疼痛である。脊柱管狭窄症はいろいろな要素が混在しているので治りにくい。痛みがとれてもしびれが強いので患者はなかなか満足しない。手術後に、いつまでも痛みがとれない患者も多い。術創はすっかり治っているが傷跡が痛いという患者が結構いる。とくに肺野の手術では肋骨と肋骨の間を切り開くので、肋間神経が損傷され慢性疼痛となるケースが多い。手術は必要不可欠なものであるが、それ自体が慢性痛の発生源となってしまうこともあり、当然であるがその施行は慎重であるべきといえる。お年寄りに多いのは変形性膝関節症である。レントゲンをとれば確実に診断はつくが、なかなか痛みは治りにくい。程度によって薬物療法、装具療法、筋力増強、ヒアルロン酸関節内投与、人工関節置換術という治療体系となっている。さらによく遭遇する痛みで治りにくいのは、帯状疱疹後の神経痛である。確実に診断はつくのだがなかなか治らない。また、脳梗塞や脳出血を発症後に痛みが出現することがあるが、これも治りにくい。痛み経路の神経細胞が障害され、体中のどこにでもやっかいな痛みが出現する。これらの非常に治りにくい慢性疼痛の治療では、痛みを完全に取り除くことはなかなか困難なので、患者個々に治療ゴールを設定することが必要である。ゴールは痛みをゼロとすることではなく、QOLの向上にある。VASによる評価で20~30くらいが目安であることを患者に認識してもらうことで、満足度の向上を目指したい。解明されてきた神経障害性疼痛のメカニズム神経障害性疼痛の病態はこの10年間で研究が進み、痛みが発生するメカニズムがかなりわかってきた。それにより、ただ神経が障害されて痛みが生じるだけではなく、体内から神経障害を起こす物質が分泌されることが明らかになった。リン脂質から出るリゾホスファチジン酸や、ケガをすると必ず生じる神経成長因子が神経障害性疼痛の要因になる。神経障害性疼痛時に増えてくるTRP受容体の存在もわかってきた。TRP受容体は熱を痛みとして感じる受容体だが、神経障害があると通常なら反応しないような37℃のお湯でもTRP受容体が過敏になり痛みとして感じる。神経は神経線維がばらばらにならないようにグリアというバンドで束ねられている。グリアは神経を束ねる役目だけでなく、痛みの信号がくると活性化し、神経を刺激して痛みを起こす要因になることもわかってきた。また慢性の痛みは、脊髄より上位の視床、帯状回、前頭前野、扁桃体などを巻き込んでいることが判明してきた。このように痛みにはさまざまな要素がある。今後の疼痛治療は、これらの具体的な発生メカニズムに焦点を当てたものになっていくだろう。画像を拡大する進む医療者の疼痛教育疼痛治療の発展に寄与することを目的とした非営利団体JPAP®(Japan Partners Against Pain)は、2003年11月に設立され今年で活動10年になる。主な活動方針は次の2つである。(1)疼痛における最新知見や薬剤の適正使用等に関する情報を広く提供し、医療に貢献する。(2)疼痛に関する社会的理解と協力を得るための教育および啓発活動を実施する。現在会員数は約2500名で、緩和ケアに従事する医師、看護師、薬剤師、理学療法士などが会員である。現在の活動の中心は、がん患者の痛み治療である。講演会や症例検討会の実施、関連学会で展示ブースの出展などを行っている。緩和ケアチームの病院内外でのアピールやネットワークづくりのために、各地の優れた緩和ケアチームを表彰する活動も行っている。会員は現在募集中で、入会者には、がん性疼痛の適切な治療について解説したスライドキットを提供している。痛みの治療に関心のある医療者は、ぜひJPAPにご入会いただければと思う。JPAP®(Japan Partners Against Pain)

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新規ワクチン導入後の安全性を適正に検討するには?

 デンマーク・Aarhus大学病院のRasmussen TA氏らは、ワクチン接種と時間的関連はあるが起因とはなっていない背景疾患の発生数を予想し、小児の大規模ワクチン接種後に発生する有害事象の因果関係評価を補足するため、全デンマーク集団ベースのコホート研究を行った。同種の検討はこれまで行われていなかったという。結果を踏まえて著者は、「年齢、性、季節分布に基づく正確な背景疾患の発生率を組み込むことは、ワクチンの安全性評価を強化することにつながる。また新規ワクチン導入後に増大するリスクを議論するうえで、エビデンスベースの論点を提供することにもなる」と述べている。BMJ誌オンライン版9月17日号の掲載報告。 1980年1月1日以降出生の全新生児を対象とし、出生日から開始して、アウトカム設定した疾患で入院した日まで、または死亡、移住、18歳時点あるいは2009年12月31日まで追跡した。ワクチン接種率は82~93%であった。 急性伝染性または感染後多発性神経炎(ギラン・バレー症候群)、急性横断性脊髄炎、多発性視神経炎、顔面神経麻痺、アナフィラキシーショック、けいれん発作、多発性硬化症、自己免疫性血小板減少症、1型糖尿病、若年性関節炎または関節リウマチ、ナルコレプシー、原因不明の死亡の各発生率をアウトカムとして設定した(性、年齢、季節性で階層化)。 主な結果は以下のとおり。・新生児230万227人を追跡した。フォローアップ総計3,726万2,404人・年、追跡期間中央値16.8人・年であった。・アウトカム設定疾患の発生率は、自己免疫性血小板減少症0.32/100万人・年から、けいれん発作189.82/100万人・年までと、かなりの差があった。・最も頻度の高かったけいれん発作の発生率は、100万人・年当たり、1歳未満児475.43、1~3歳が593.49とピークで、その後は低下した(4~9歳47.24、10~17歳30.83)。・季節的な変動が最も顕著であったのは、アナフィラキシーショック(第1四半期と比べて第3四半期がほぼ3倍)、けいれん発作および多発性硬化症(冬に高率に発生)であった。・発生が稀なアウトカムおよびワクチンとの因果関係がないアウトカムも、仮定的ワクチンコホートにおいて多くのイベントを予想した。・たとえば、ワクチン接種後42日以内に起こる可能性として、100万児につき、1型糖尿病20例、若年性関節炎または関節リウマチ19例、顔面神経麻痺8例、多発性硬化症5例を予測した。

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多発性硬化症に対する新規経口薬BG-12、年間再発リスクを低下

 再発寛解型多発性硬化症に対し、新規開発中の経口薬BG-12(フマル酸ジメチル)は、プラセボと比較して長期の年間再発リスクを低下し、神経放射線学的転帰が有意に改善したことが示された。BG-12に関する第3相無作為化プラセボ対照試験「Comparator and an Oral Fumarate in Relapsing-Remitting Multiple Sclerosis:CONFIRM」の結果、報告されたもので、米国・クリーブランドクリニックのRobert J. Fox氏らが、NEJM誌2012年9月20日号で発表した。再発寛解型多発性硬化症は、一般に非経口薬(インターフェロンやグラチラマー酢酸塩)で治療されている。1,400例超を4群に分け2年間追跡、年間再発率を比較試験は28ヵ国、200ヵ所の医療機関で、再発寛解型多発性硬化症の患者1,417例を登録して行われた。研究グループは被験者を4群に分け、1群にはBG-12 240mgを1日2回投与、別の群には同1日3回投与、さらに別の群にはグラチラマー酢酸塩20mgを1日1回皮下注射、もう一群にはプラセボをそれぞれ投与した。被験者の平均年齢は、36~37歳、女性被験者の割合が約7割だった。主要エンドポイントは、2年時点の年間再発率だった。試験は、グラチラマー酢酸塩に対するBG-12の優位性や非劣性を検証するようにはデザインされなかった。240mgを1日2回投与で再発の相対リスクは44%減、3回投与で51%減その結果、2年時点の年間再発率は、BG-12 1日2回投与群が0.22、同1日3回投与群が0.20、グラチラマー酢酸塩群が0.29、プラセボ群が0.40であり、試験薬および実薬群はいずれもプラセボより有意に低下した。相対リスク減少率はそれぞれ、44%(p<0.001)、51%(p<0.001)、29%(p=0.01)だった。MRI診断では、BG-12 1日2回群、同1日3回群、グラチラマー酢酸塩群ともに、プラセボと比較してT2強調画像による高信号部の新たな出現または増大(3群ともp<0.001)が有意に少なかった。T1強調画像による低信号部の新たな病変(各群p<0.001、p<0.001、p=0.002)の数も有意に減少した。有害事象としてプラセボ群に比べ高率に認められたのは、顔面紅潮、BG-12群での胃腸症状などだった。一方、BG-12群での悪性新生物や日和見感染は認められなかった。

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概論:慢性疼痛治療(1)

慢性疼痛患者の7割が治療に満足していない痛みには、急性疼痛と慢性疼痛がある。外傷、熱傷、術後などに発生する急性疼痛に関しては、どの医療機関でもそれほど問題なく治療が行われていると思う。一般的な鎮痛薬や麻薬製剤、麻酔科的な手技で、急性疼痛は十分に管理できるからである。問題は慢性疼痛である。慢性疼痛患者は日本にどのくらいいるのか。2011年の中村らの調査1)では成人人口の約15%、2012年の矢吹らの調査2)では約23%の有病率であり、全国でおよそ2,000万人の方がたが慢性疼痛で苦しんでいると推計される。その慢性疼痛の中で圧倒的に多いのが腰痛であり、ついで肩、膝など運動器疼痛が、女性では肩こりや頭痛も多い。慢性疼痛患者の8割以上が整形外科を受診している。それではどのくらいの慢性疼痛患者が治療に満足しているか。いくつかの統計があるが、大体7割の患者が治療に満足していない、という残念な結果が出ている3)。なぜ満足しないか、一番の理由は、「痛みやしびれがとれないから」である。2番目の不満足の理由には、「納得のいく説明が得られないから」が上がっている。確かに慢性疼痛は除痛が難しい。なぜ痛みがとれないのか。圧倒的に多い腰痛について考えてみると、実は腰痛の85%は痛みの原因がわからない非特異的腰痛なのである4)。原因がわかる腰痛は、完全な圧迫骨折や脊柱管狭窄症、ヘルニアなど15%に過ぎない。そのため、原因に見合った治療が行えていないのである。原因がはっきりしないため、患者に満足のいく説明もしにくいのであろう。画像を拡大する画像を拡大する「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」の鑑別痛みを発生する要因はたくさんあるが、「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「心因性疼痛」と3つに分類することができる。侵害受容性疼痛とは、包丁で手を切ったとか、打撲やヤケドをしたといった侵害を受けたために生じる痛みである。神経障害性疼痛は、末梢神経系や中枢神経系における損傷や機能障害に起因する痛みである。心因性疼痛とは、文字通り心理的原因に由来する痛みである。実は慢性腰痛のほとんどの患者が何らかの心理社会的な問題を抱えていることがわかっているが、今回はこの心因性疼痛は除外して考える。画像を拡大する画像を拡大する慢性疼痛の治療をする場合に最も重要な点は、侵害受容性疼痛なのか、神経障害性疼痛なのか、あるいは混合性なのかを鑑別することである。痛みの種類により、効く薬が異なってくる。たとえば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、炎症のある侵害受容性疼痛であれば効くが、炎症は治まっているものの痛みだけが残る神経障害性疼痛にはほとんど効果がない。腰が痛いと患者が訴えると、NSAIDsで済ませてしまうケースが多々みられるが、神経障害性疼痛の要素が強い腰痛の場合にはNSAIDsは効かないのである。神経障害性疼痛には、神経の異常な興奮を抑えるための抗けいれん薬(Caチャネルα2δリガンド)とか、ノルアドレナリンやセロトニンに作用して痛みを抑える抗うつ薬を第一選択で使う。それでも効果がない場合は、痛みを感じる部位を直接抑えるオピオイド製剤を用いる。まず弱いオピオイド薬であるトラマドール製剤(配合剤を含む)を使い、さらに効果のない場合は強いフェンタニルやモルヒネなども組み合わせて使う。画像を拡大するごく普通の診察が最も重要であるプライマリケアで痛みの患者さんを診療する場合、まずは神経障害性疼痛という病態があることを理解することが一番重要だと思う。たとえば、腰痛であればNSAIDsを使用することが多い。ところが、とくに慢性腰痛の痛みには、神経障害性疼痛の病態を非常に色濃く含んでいる患者がいる。その場合は、NSAIDsの効果は弱く、抗けいれん薬が奏効することになる。神経障害性疼痛を診断するために最も必要なのは特別な検査ではなく、ごく普通の診察である。腰痛患者に、足のほうに響くしびれとか神経に沿った放散痛がある、また通常なら痛くない程度の軽い刺激で痛がるアロディニアがある。このような症状を呈する場合は、神経障害性疼痛の要素が強いといえる。たとえば帯状疱疹を触ると痛がる患者もいるし、痛がらない患者もいる。神経障害性疼痛の要素が多いか少ないかは、そのような普通の診察で推察することができる。また慢性疼痛の診断ではred flags(赤旗)といって、絶対に見逃していけない危険な疾患への注意も欠かせない。たとえば腰痛の場合では、がんの脊椎転移とか感染性脊椎炎などがred flagsであり、完全な麻痺が生じたり生命に関わる疾患である。めったに遭遇しないが、red flagsを見逃さないように注意深く診察することも必要である。概論:慢性疼痛治療(2)へ続く >>引用文献1)Nakamura M, et al. J Orthop Sci. 2011;16:424-432.2)矢吹省司ほか. 臨整外. 2012;47:127-134.3)服部政治ほか. ペインクリニック. 2004; 25: 1541-1551.4)Deyo RA, et al. JAMA. 1992;268:760-765.

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慢性疼痛診療プラクティス ~進化するnon cancer pain治療を考える~

本邦における非がん性の慢性疼痛は約23%の有病率ともいわれ、全国でおよそ2,000万人が慢性疼痛で苦しんでいると推計される。しかしなら、民間療法に頼る患者も多く、医療機関を受診しているのは一部であるといわれる。さらに、この受診患者における治療満足度は約3割と低い。また、疼痛は症状の一つにとどまらず、進展すると廃用症候群にもつながり、患者の予後にも大きな影響を与える。このような中、臨床現場での診療実態をふまえ、専門家に実験的な非がん性慢性疼痛診療の情報を紹介いただく。コンテンツ

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エキスパートに聞きました!「痛みの治療」に関する素朴なギモン Part2

CareNet.comでは8月の1ヵ月間を通し、痛み、特に神経障害性疼痛にフォーカスして様々な情報をお届けしてきました。そんな中で視聴者から寄せられた痛みの治療に関する質問に対し、小川 節郎 先生にご回答いただきます。(前編/後編シリーズ)治療効果の評価方法は?急性痛の治療ゴールは疼痛をゼロにすることですが、慢性疼痛治療のゴールはQOLの向上を念頭に置いた治療目標を決めることが必要です。その際留意すべき点は、慢性疼痛とくに神経障害性疼痛の場合、疼痛ゼロを目標とすると達成は困難で、かつ患者さんも満足しないという点です。たとえば、まずは眠れるようにしましょう、次に10分散歩できるようにしましょう、その次には旅行できるようにしましょう、といった目標を立てそれを達成できたかを評価するとよいと思います。また、客観的に評価する場合には、VASスケール*を用いるとよいでしょう。*VAS:Visual Analogue pain Scale最近発売されたプレガバリン(商品名:リリカ)、デュロキセチン(商品名:サインバルタ)、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤(商品名:トラムセット)の使い分けは?神経障害性疼痛と考えたらまずCaチャネルα2σリガンドであるプレガバリンを使っていただくのがよいと思います。第一選択薬であるプレガバリンや三環系抗うつ薬などで副作用が強く出る場合には、デュロキセチンをお使いになっても良いと思います。プレガバリンとデュロキセチンは一緒に使っても構いません。どの薬剤でも副作用が出ることがありますので、その際は患者さんとって副作用が少ない方、患者さんがよいと言った方を使うということになります。それでもだめな場合は、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤を追加するか、同剤に変更するかとなるでしょう。また、プレガバリンが奏効するタイプ、奏効しないタイプの見極めという質問がありましたが、残念ながらそれは使ってみないとわからないというのが現状です。プレガバリンの副作用のマネジメント、増量方法、離脱方法は?副作用についてですが、眠気が出る場合は、1週間程度、夜だけ投与してみるのも一つの方法です。その後、夜の1回量を増やす、昼間も飲ませるなど段階的に増やしてきます。また、体重増加が出るケースがありますが、その場合は薬剤の減量しかないといえます。増量についてですが、添付文書では75mgから開始となっているものの、その用量でスタートすると副作用がでて治療初期から失敗することもあります。プレガバリンには25mg錠があるので、25mg夜1回から使い始め、1週間単位で25mgずつ増量することにより副作用をマネジメントしながら効果を出してく方法もあります。また、用量上限の目安は300mgとしていただく方がよいと思います。離脱についても、増量と同じく徐々に行うことになります。たとえば、1週間ごとに25mgあるいは50mgずつ減量していくことでよいと思います。いつまで使ってよいか?という質問がありましたが、これは難しい問題です。たとえば、薬剤を使いながら患者さんの体力を向上させる手段を併用し、診療のたびに生活の質を聞いて、薬剤を使わなくてもよいと判断したら積極的に減らすというのも一つの方法です。糖尿病性神経障害に伴う痛みに対する有効な治療法は?アルドース還元酵素阻害薬エパルレスタット(商品名:キネダックほか)を使ったり、メキシレチン(商品名:メキシチールなど)を使用します。抗けいれん薬のCaチャネルのα2σリガンド、三環系抗うつ薬、SNRIのデュロキセチンなどが、第一選択薬、第二選択薬がワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピンなど)となっています。それでも効果がない場合、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤、さらにひどい場合は強オピオイドということになりますが、一定のところで折り合いをつけることが重要です。その基準は経口モルヒネ換算で120mg/日です。それを越えるようであれば専門的な治療法を考える必要があります。脳卒中後の疼痛(視床痛)への最新の治療法は?治療方法としては、薬物療法は神経障害性疼痛の薬物療法に準じます。薬物以外の最新の治療は脳刺激療法です。脳に電極を挿入する脳深部刺激療法、脳の表面に電極を当て磁気刺激をする経皮頭蓋磁気療法などがあります。指切断・幻肢痛の機序は?これは神経障害性疼痛の機序そのものといえます。切断された神経が脳の帯状回や視床、前頭前野機能を変化させるので、それらに対する治療法になります。治療方法としては、神経障害性疼痛の薬物療法、薬物療法以外では、末梢神経電気刺激、脊髄電気刺激療法、電気けいれん療法なども用います。これらの方法を実施される場合は、脳神経外科やペインクリニックにご相談いただければよいかと思います。

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「痛み」の診療に関する緊急アンケート その4 ~非がん性痛に対するオピオイド使用実態【整形外科編】~

対象ケアネット会員の整形外科医師208名方法インターネット調査実施期間2012年8月16日~8月23日Q1.非がん性の痛みに対し、オピオイドを使用することはありますか?Q2. Q1 で「B.使用しない」とお答えになった先生にお伺いします。非がん性の痛みに対し、オピオイドを使わない理由を教えてください。(いくつでも)Q3.今後、非がん性の痛みに対し、オピオイドの使用を継続、または新たに使い始めるにあたって、必要な情報がありましたら、教えてください。(自由記入)【必要な情報(一部抜粋)】保険でけずられないか?/便秘、吐き気に対する予防薬投与の保険適応について、はっきりした返答がほしい。慢性疼痛症例にオピオイドを使用した場合に、離脱できるのか?/処方をやめるに際しての患者のうまい誘導の仕方。/依存症とやめ方に不安あり、既往先行品との違いを説明ほしい/休薬の具体例副作用への対応/副作用の防止方法を具体的に教えてください。/副作用情報/副作用の発生率/副作用軽減のための対策使い方/適応/どのような患者に処方したらよいのかが分からない。/どの程度の疼痛に対してオピオイドが適応になるのか 術後鎮痛についてガイドラインみたいなオピオイド使用のマニュアルがあれば知りたいです。信頼できるメーカーからの説明がほしい他のクスリが効かない場合【ご意見(一部抜粋)】長期に使用するのに問題がある副作用がなくなればテレビ新聞などでよくでてくればみなもなれて使えるようになる。年数が必要オピオイドの適応症例があれば、使用する予定である

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「痛み」の診療に関する緊急アンケート その3 ~非がん性痛に対するオピオイド使用実態【内科編】~

対象ケアネット会員の内科医師503名方法インターネット調査実施期間2012年8月16日~8月23日Q1.下記に示すオピオイド製品のうち、非がん性(疼)痛に対する適応を持つと思うものをすべてお選びください。Q2.非がん性の痛みに対し、オピオイドを使用することはありますか?Q3.Q2 で「B.使用しない」とお答えになった先生にお伺いします。非がん性の痛みに対し、オピオイドを使わない理由を教えてください。(いくつでも)

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エキスパートに聞きました!「痛みの治療」に関する素朴なギモン Part1

CareNet.comでは8月の1ヵ月間を通し、痛み、特に神経障害性疼痛にフォーカスして様々な情報をお届けしてきました。そんな中で視聴者から寄せられた痛みの治療に関する質問に対し、小川 節郎 先生にご回答いただきます。神経障害性疼痛の鑑別診断は?一番重要なのは問診と簡単な神経学的検査です。たとえば、『1年前に帯状疱疹に罹患、原疾患は治癒したものの痛みが残っている』、『昨年脚を骨折、治癒したものの折った部位に痛みが残る』、などのケースでは炎症はすでになくなっているわけです。そのようなケースでは神経障害性疼痛の要素があると考えられます。また、『腰痛を有するが足の先まで痺れる』、『触ってみると痺れている部分の感覚が落ちている』など簡単な神経学的な所見が糸口になりえます。特に、触れただけで痛い、風があたっただけでも痛いなどアロディニア症状を呈する例では神経障害性疼痛の要素が強いといえます。神経障害性疼痛診療ガイドブック(南山堂)http://www.nanzando.com/books/30881.phpに掲載されている神経障害性疼痛の簡易調査票もご活用いただければと思います。肩手症候群、肩こり、頭痛、視床痛は神経障害性疼痛に含まれるのか?これらご質問の痛みにはすべて神経障害性の要素があるといえます。肩手症候群=神経障害性疼痛というわけではなく、肩手症候群の中に神経障害性疼痛の要素が含まれている患者さんがいるということです。頭痛も種類によっては神経障害性疼痛の要素が高いものがあります。頸性頭痛では頸椎から出る神経を傷害していることが多く、ビーンとした痛みを呈する場合などは神経障害性の要素が強いといえます。視床痛はほとんどが神経障害性疼痛といってよいでしょう。痺れと痛み、同じ認識で治療しても良いか?痺れ自体が十分解明されているとはいえないものの、神経繊維も違うようですし、最近は痺れと痛みは別のものであろうという認識になっています。もう少し時間が経過すると興味深い結果がでてくると思いますが、今のところは同じ認識で治療せざるを得ないというのが現状です。ペインクリニック専門医への紹介のタイミングは?オピオイド処方時は、「経口モルヒネ換算120mg/日でコントロールできないとき」というのも一つの目安だといえます。しかしながら、先生方ができる通常の治療経過で改善しない場合は、いつでも相談していただきたいです。慢性的に薬剤を出しているという状況は避けた方がよいでしょう。

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「痛み」の診療に関する緊急アンケート その2 ~「痛み」の評価、どうしてますか?~

対象ケアネット会員の内科医師244名方法インターネット調査実施期間2012年8月7日~8月13日Q1.痛みの強さに関して、客観的な指標を用いて評価していますか?Q2.帯状疱疹を発症し、皮膚科で抗ウィルス薬を処方されていた患者さん(60代、女性)が、発症後4日目で痛みを訴えて受診してきました。この患者さんの痛みに対し、どのような治療を行いますか?Q3.2011年7月に発刊された神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ編集)をご存じですか?

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特集 慢性疼痛 神経障害性疼痛 ペインクリニック学会レポート

2012年7月5日~7日、松江市のくにびきメッセにて、第46回日本ペインクリニック学会が「むすぶ」をメインテーマに開催された。この中から、プライマリ・ケアで遭遇するであろう“痛み”の演題を中心にレポートする。レポート帯状疱疹後関連痛(ZAP)のアンケート調査の結果から乳腺術後の遷延痛痛みの治療薬をどう選択するか 抗うつ薬痛みの治療薬をどう選択するか 抗てんかん薬「慢性の痛み」へのオピオイド適正使用を考える

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乳腺術後の遷延痛

慢性痛への早期介入の必要性東京慈恵会医科大学附属病院 麻酔科・ペインクリニック 小島圭子氏乳がんは、日本における女性のがんの1位であり、年間5万人が罹患し、現在も増加傾向にある。10年生存率はステージIで90%、ステージIIで80%程度と高く、治療や観察期間が長引く。さらに、手術の縮小化、入院期間の短縮、術後観察期間の長期化など乳がん治療を取り巻く状況は年々変化しており、それとともに慢性痛に関わる要素は増えている。こうした背景のもと、乳がんにおける術後慢性痛がとくに問題となっている。乳がん術後の慢性痛である乳房切除後疼痛症候群(Postmastectomy Pain Syndrome、以下PMPS)は、長期にわたり残存する。痛みの範囲は創よりも広く、痛みの部位は手術側の胸部皮下上腕、痛みの性質はひりひり、チリチリという訴えが多く、衣服がすれると増悪することが多い。また、痛み以外にも締め付けられる、肩に挟まっているなどの不快感を伴うことが多いのが特徴である。痛みの分類は神経障害性疼痛である。イギリスのMacdonald氏らの報告では、術後7~12年で22.4%、本邦のMatoba氏らの調査では、術後平均8.8年で21% 、Yamanouchi 氏らの調査では 術後3年で65%に発生したと報告されている。 腋下リンパ節郭清後では30~70%と高率に発生するとの報告もある。PMPSのリスクファクターとして、若年、肥満、独身、教育期間が短い、不安・うつ、拡大手術・腋下リンパ節郭清、術後の強い痛み、急性期の不十分な鎮痛・鎮痛薬の過少使用、術後合併症、がん治療などがある。手術については、拡大手術から縮小手術が主流となりリスクは減っているはずであるが、乳房温存術になっても痛みは減っていないという報告もみられる。また、腋下リンパ節郭清については、センチネルリンパ節生検が増加している。センチネルリンパ節生検と腋下リンパ節郭清後の痛みの発生率について前向き調査では、術後1年のPMPS発生率は、それぞれ46.8%、28.7%と、センチネルリンパ節生検の増加により痛みがかなり減っていることがわかる。加えて、手術後の合併症(リンパ浮腫、感染、出血など)を予防することが痛みの遷延防止にもつながっている。また、不安を緩和する心理療法の導入で急性痛が減ったと報告がある。術後の強い痛みは、鎮痛薬の過少使用もリスクファクターであり、術後の十分な鎮痛薬投与が推奨される。これらリスクファクターの改善にあたっては、中枢性感作を予防するためのプレガバリン、リドカイン投与による慢性痛の予防、二次障害予防のための早期リハビリなどを行う。いずれにしても、慢性痛に移行するリスクの高い患者への継続フォローを考えていくことが最も重要だといえる。ところで、前述のMatoba氏らの調査の中で、主治医に慢性痛を相談できないという患者が多くおり、主治医のキーパーソンとしての役割が大きいことが明らかになった。そこで、 日本乳癌学会の協力を得て、PMPSに対する意識と治療の現状調査を行った。対象は、日本乳癌学会専門医で、 647人から回答を得た(回収率34.7%)。その結果、PMPSの認識率は 70.5%と高かった。しかし、患者への対処はどうしていますか、という問いに対しては65%が経過観察と答え、治療を受けている割合が少ないことがわかった。治療薬をみると、PMPSでは効果が認められないと思われるNSAIDsが78.4%を占めた。さらに、現在の治療の効果に関しては約7割が不十分と答えていた。乳がんは増加しており、術後慢性痛はもはや一般的な問題である。慢性痛のリスクファクターが指摘されているが、術前、麻酔、術後急性期鎮痛、慢性期治療のいずれにおいても、 リスクファクターを改善できる余地があると思われる。一方、乳腺専門医に対する現状調査から、本邦においてもPMPSに対して治療が行われている割合が少なく、適切な治療が行われていないこと、治療が奏効していないことが明らかとなった。PMPSを減らすためには、周術期からリスクファクターを改善するためのさまざまなアプローチが必要である。慢性痛への早期介入の一環として、問題点を改善するためのさらなる研究が必要である。

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帯状疱疹後関連痛(ZAP)のアンケート調査の結果から

多角的痛み治療における薬物療法の現状と未来順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座 井関雅子氏ペインクリニックは痛みの総合医療であるが、帯状疱疹後関連痛(Zoster associated pain,以下ZAP)に関しては罹患期間の長短により選択される治療が変化する。また、侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛への変化、それらの混在病態など、永年の臨床的疑問がある。そのような中、痛みの専門医が選択している治療法を再確認するため、ZAPについて帯状疱疹の九世紀から神経痛にいたるまで、アンケート調査を実施した。アンケートは、日本ペインクリニック学会専門医に対し、2012年3月から行われた。回答数は536名であった。アンケートでは、ZAPの診療患者数、罹患期間別の全般的な治療法、罹患期間別・VAS別の薬物選択、最後にZAPに対するオピオイド使用について聞いた。ZAPの年間実患者数10~50人未満が半数を占めていた。発症から受診までの経過期間をみると、発症3ヵ月未満の占める割合が40%以上であり、ペインクリニックの専門医が急性期からZAPに関わっているということがわかった。罹患期間別の治療法発症2週間未満および2週間~1ヵ月未満の治療法として最も頻度の高い治療は薬物療法、その次に神経ブロック療法であった。一方、それ以外に光線療法やイオントフォレーシスも一定の割合で選ばれている。発症1ヵ月~3ヵ月未満、発症3ヵ月以上では、薬物治療が最も多く、神経ブロック療法は急性期よりかなり低い状態になっている。さらに、3ヵ月以上では、認知療法が増えていることも特徴的である。罹患期間別・VAS別の薬物療法選択(1)発症2週間未満VAS=30では、第一選択薬にはNSAIDsが選ばれている、しかし、プレガバリンも2番目に出ている。VAS=60も同様の傾向であるが、VAS=90では、それに加え、次の選択薬としてオピオイド、抗うつ薬が出てくる。(2)発症2週間~1ヵ月未満VAS=30では、やはりNSAIDsとプレガバリンが上位であるが、第二選択薬・第三選択薬には抗うつ薬、ノイロトロピンといったような薬剤が入っていきている。VAS=60 およびVAS=90でも同様であるが、抗うつ薬に加え、オピオイドが第二選択薬・第三選択薬に入ってくる。(3)発症1ヵ月~3ヵ月未満VAS=30では、プレガバリンが第一選択薬に、次に抗うつ薬が出ている。(4)発症3ヵ月以上VAS=30では、上記と結果は大きくは変わらず、プレガバリン、抗うつ薬が主体である。VAS=60およびVAS=90でもやはりプレガバリンが、最も多いが、さまざまな剤形のオピオイドや、抗うつ薬、SNRI等も選ぶ傾向がある。NSAIDsの割合は非常に少なくなっているものの一定割合の選択はある。ZAPに対するオピオイド使用使用時期については、発症初期の強い痛みに使用するとの回答が52.8%と約半数を占める。年齢制限をみてみると、高齢者には使わないという回答と、若年者には使わないという回答の2つに分かれる傾向があり、興味深いところである。さらに、弱オピオイドのみ使用とする回答が34.9%、強オピオイドも使用するという回答が34.0%あった。アンケート結果から、ペインクリニシャンは種々の治療法を組み合わせてZAPの治療を行っていることが分かった。また、ZAPの薬物療法については、この調査結果をもとに今後検討をする必要があると思われる。

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