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シェーグレン症候群〔SS:Sjogren's syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義眼・口腔乾燥を主症状とし、多彩な全身臓器症状を呈し、慢性に経過する全身性自己免疫疾患である。疾患名は1933年に報告したスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレン(Henrik Sjogren *oはウムラウト)に由来する。■ 疫学中年以降の女性に好発(女性 vs.男性 14 vs.1)し、国内に少なくとも数万人(厚生労働省研究班推定)の罹患数とされ、潜在例はさらに多いと推定されている。■ 病因病理学的には、涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球浸潤とそれに伴う腺構造破壊、線維化が認められる。免疫学的には、リンパ球・サイトカイン・ケモカイン異常、高IgG血症、多彩な自己抗体産生が認められる。■ 症状1)腺症状ドライアイ(眼乾燥)、ドライマウス(口腔乾燥)が二大症状である。気道粘膜、胃腸、膣、汗腺などの分泌腺障害に起因する乾燥症状を認める例もある。2)全身症状・腺外臓器病変(1)全身:微熱、倦怠感(2)甲状腺:慢性甲状腺炎(3)心血管:肺高血圧症(4)肺:間質性肺疾患(5)消化器:慢性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変(6)腎臓:間質性腎炎、腎尿細管性アシドーシス(7)神経:末梢神経障害(三叉神経障害)、中枢神経障害(無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎)(8)関節:多関節炎(9)皮膚:環状紅斑(疾患特異性が高い)、高ガンマグロブリン性紫斑(下腿点状出血斑)、薬疹(10)リンパ:単クローン性病変、悪性リンパ腫(11)精神:うつ病■ 分類本疾患のみを認める一次性(原発性)とほかの膠原病を合併する二次性(続発性)に分類される。■ 予後腺症状のみであれば生命予後は一般に良好である。腺外症状、とくに悪性リンパ腫を認める例では予後が不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見1)血液検査異常(1)腺障害:血清唾液腺アミラーゼ上昇(2)免疫異常:疾患標識自己抗体(抗SSA抗体、抗SSB抗体)・リウマトイド因子・抗核抗体陽性、高ガンマグロブリン血症、末梢リンパ球数減少を認める。2)腺機能検査異常涙液分泌低下は、シルマーテスト、涙液層破壊時間(BUT)により評価する。乾燥性角結膜炎は、ローズベンガル染色、フルオレセイン染色、リサミングリーン染色を用いて評価する。唾液分泌低下は、ガムテスト、サクソンテストにより評価、より客観的には唾液腺シンチグラフィーが用いられる。涙腺、唾液腺の形態は、超音波あるいはMRI検査により評価される。3)腺外臓器病変に応じた各種検査肺野およびリンパ節の評価についてはCT検査が有用である。また、間質性腎炎の評価には尿検査が行われる。● 診断で考慮すべき点潜在例も多く、その可能性を疑うことが診断への第一歩である。ドライアイ、ドライマウスの有無を問診し、典型例では問診のみで診断がつくこともある。本疾患が疑われた際は、診断基準に沿って確定診断を行うことが望ましい。しばしば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)などの他の自己免疫疾患を合併する。診断のための検査が困難である場合には、専門施設への紹介を考慮する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 腺症状1)眼点眼薬(人工涙液、ムチン/水分分泌促進薬、自己血清)、涙点プラグ挿入術、ドライアイ保護眼鏡装用2)口腔催唾薬(M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体刺激薬)、唾液噴霧薬がそれぞれ用いられる。■ 腺外症状 全身症状に対しては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられる。免疫学的な活動性が高く、臓器障害を呈する症例では、ステロイドおよび免疫抑制薬が用いられる。● 治療で考慮すべき点眼症状に対しては治療が比較的奏功する一方で、口腔乾燥症状は改善が乏しい例も多い。腺症状に対するステロイドの有用性は否定的である。リンパ増殖性疾患、悪性リンパ腫を含む腺外症状もまれではないため、注意深く経過観察する。腺外臓器病変、ほかの膠原病を有する例は、リウマチ内科専門医へのコンサルトを考慮する。不定愁訴が多い例もあるが、本疾患を正しく理解をしてもらえるようによく患者に説明する。4 今後の展望欧米では、抗CD20モノクローナル抗体の臨床試験が報告されているが、その有用性については十分確立されていない。リンパ球などの免疫担当細胞を標的とした新規治療薬の臨床試験が国際的に進められている。5 主たる診療科リウマチ科(全身倦怠感、関節痛、リンパ節腫脹)、眼科(眼乾燥症状)耳鼻咽喉科(リンパ節腫脹、唾液腺症状)、歯科・口腔外科(口腔・乾燥症状)、小児科(小児例)6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難病情報センター シェーグレン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本シェーグレン症候群学会(医療従事者向けのまとまった情報)シェーグレン症候群財団ホームページ(米国)(医療従事者向けのまとまった情報)Up to date(医療従事者向けのまとまった情報)1)Firestein GS, et al. Kelley and Firestein’s Textbook of Rheumatology 10th edition.Philadelphia;Elsevier Saunders:2016.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 編集. シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年版.診断と治療社;2017.3)日本シェーグレン症候群学会 編集.シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2014.公開履歴初回2017年12月12日

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【第103回】オモチャのヘリコプターのプロペラは、思ったほど眼球を傷つけない

【第103回】オモチャのヘリコプターのプロペラは、思ったほど眼球を傷つけない いらすとやより使用 眼球の外傷は、いろいろなオモチャで起こりえます。私の子供も、よくオモチャを振り回して顔にケガをしています。 Alphonse VD, et al.Eye injury risk associated with remote control toy helicopter blades.Biomed Sci Instrum. 2012;48:20-26.この論文は、「さて、室内で飛ばすオモチャのヘリコプターが最近流行しているそうだ。この研究の目的は、そのオモチャのヘリコプターが眼球の外傷リスクと関連しているかどうか調べることだ」という唐突な書き出しで始まります。結構ムチャな展開だけど、こういう珍しい外傷の論文は、まれな事象をさもコモンなように書き出すことが重要です。市販されているオモチャのヘリコプターから5種類を選定し、そのヘリコプターのプロペラを物理学的に調べたのが本研究です。ヘリコプターのバッテリーをフルに充電した状態で、な、な、な、な、なんと死体を用いて眼球への有害性を調べました。「オモチャのヘリコプターが眼球に与える影響を調べたいので、ご遺体を使わせていただけないでしょうか」と遺族に許可を取ったのでしょうか、うーむ、どんな遺族が首を縦に振ってくれたのだろうか…。検証項目として、眼圧と、フルオレセインを用いて角膜の擦過傷を調べました。過去の文献によれば、外傷による眼圧上昇は、前房、レンズ、網膜などの多くの組織ダメージと相関することが報告されています。さて、眼圧は、114.3mmHgから744.7mmHgと幅広い上昇が観察されました。このときのプロペラの回転速度も、秒速16.0~25.4mとさまざまでした。角膜には擦過傷が観察され、前房にはわずかな外傷リスクがありましたが、レンズ、網膜、眼球破裂などの重篤なダメージはないことがわかりました。プロペラの種類による外傷リスクの差は観察されませんでした。死体を用いたこの検証によって、オモチャのヘリコプターのプロペラでは、想定されているほど重篤な眼外傷を起こさないことが明らかになりました。有用な研究ではありますが、やはり読了後に「なかなかそんな眼外傷ないよなぁ」と思わずにはいられませんでした。しかし、世の中にはこういう地道な研究を続けている人たちがいるのです。合掌。

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FFRジャーナルClub 第4回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第4回目の今回は、2017年3月ACCにて発表されたDEFINE-FLAIR試験の結果に関する論文がNEJMに掲載されたので紹介します。第4回 iFRの臨床的有用性を検証したDEFINE-FLAIR study19ヵ国49施設(日本から5施設)が参加し、iFR guide PCIとFFR guide PCIを前向きランダム化試験により比較検討した研究である。同様のプロトコルで行われたスウェーデン、デンマーク、アイスランドのnational registryを利用したSWEDEHEARTの結果も同時に発表された。DEFINE-FLAIR試験Davies JE, et al. Use of the instantaneous wave-free ratio or fractional flow reserve in PCI. N Engl J Med. 2017 March 18.SWEDEHEART試験Gotberg M, et al. nstantaneous wave-free ratio versus fractional flow reserve to guide PCI. N Engl J Med. 2017 March 18.まずiFRの概念と、FFRとの違いについて解説します。FFRは全心周期の平均圧、平均血管抵抗から平均血流を推測する方法であるのに対し、iFRは拡張期のある一定の期間(Wave free period:WFP)の、大動脈圧と冠動脈遠位部圧の瞬時の比を取るものである。iFRの概念は次の2つの理論的背景に基づく。WFPにおいては、心収縮などの影響を受けず圧に対し受動的に冠血流が流れている時相であり、圧-血流関係が直線的となるため、圧の比から血流の比を算出しうる。また、高度狭窄となるまで安静時血流は一定に保たれている。この2つの理論・仮定の範囲内であれば、iFRはFFR同様、狭窄重症度を定量的に評価しうることになる。FFRとの大きな違いとしては、最大充血にする必要がないので、最大充血惹起に伴うコスト(アデノシンのコストは国により異なるが高額である)や、時間、副作用を減らすことが可能である。一方で、安静時の計測のため、安静時血流が変動しているようなタイミング(造影剤やニトログリセリンの投与直後、PCIによる虚血の直後)や安静時血流が変化する病態(容量負荷疾患、大動脈弁狭窄症、透析患者、急性心筋梗塞患者、頻拍・高血圧状態など)では圧較差(iFR値)も影響を受ける。FFRとiFRの診断一致率は80%程度と良好であるが、さらに一致率を上げるために、hybrid approachが提唱されていた。これは、まずiFRを計測し、iFR値が0.86〜0.93であればアデノシンゾーンとしてFFRを計測する、それ以上・それ以下であれば、それぞれ虚血陰性・陽性としてその結果を採用するというものである。この手法を採用することにより、診断一致率は94%となり、またアデノシンの使用は61%減らすことが可能となる1)。しかしこれはあくまでFFRをgold standardとし、それにiFRの結果を合わせようとするものであり、iFRに独自の虚血域値を設定した場合の臨床的有用性を明らかにしよう、というのが今回のDEFINE-FLAIR studyの目的である。この研究では、少なくとも1病変以上に中等度狭窄と判断された病変を有する2,492例が登録され、前向きにFFR群とiFR群に1:1でランダム割り付けされた。急性冠症候群症例も組み込まれているが、非責任病変のみが登録可能であり、責任病変に対する血行再建治療が終了後に残枝に対する計測が行われた。FFR群ではFFRのみ、iFR群ではiFRのみ計測可能である。FFR 0.80以下、iFR 0.90未満(0.89以下)の病変は血行再建が行われ、それ以外の病変に対してはdeferが選択された。主要評価項目は、1年間のMACE(死亡、非致死性心筋梗塞、予定されていない冠血行再建の施行)である。対象患者の平均年齢は65歳、76%が男性で、80%が安定狭心症症例であった。症例あたりの計測枝数はiFR:1.27±0.61、FFR:1.29±0.63、計測値の平均はiFR:0.91±0.09、FFR:0.83±0.09。機能的に有意と判断された病変数(計測枝数に占める割合)はiFR:28.6%、FFR:34.6%とFFRで有意に多かった(p=0.004)。有意狭窄を1枝以上に認めた症例数は、iFR:426例(34.3%)、FFR:486例(38.9%)で、FFR群で多かった(p=0.02)。その結果、血行再建を受けた症例数は、iFR:590例(47.5%)、FFR:667例(53.4%)と、有意にFFR群で多かった(p=0.003)。PCI数が有意病変を有する症例数より多いのは、急性冠症候群などで機能的評価を行わずに施行されたPCI数も含まれているためである。1年後までに主要評価項目のイベントを生じたのはiFR群で78例(6.8%)、FFR群で83例(7.0%)であり、iFRはFFRに対し非劣性であった。画像を拡大するそれぞれの評価項目も2群間に有意差はなかった。この対象群における冠血行再建施行は、iFR 4.0% vs.FFR 5.3%、死亡+心筋梗塞は、iFR 4.6% vs.FFR 3.5%であった。画像を拡大する手技に伴う副次効果・症状は、iFR群39例(3.1%)、FFR群385例(30.8%)と、iFR群で有意に少なかった(p

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MRワクチン接種後に失明、偶然か必然かは不明

 予防接種後、まれに眼炎症が観察されることがあるが、ほとんどは永続的な視覚障害を生じることなく回復する。今回、近畿大学医学部眼科学教室の國吉一樹氏らは、インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、肺炎球菌結合型ワクチンならびに麻疹風疹混合(MR)ワクチン接種後に、両眼の急性失明を来した生後13ヵ月の日本人の健康な男児について報告した。後ろ向きの調査の結果、感染により滲出性網膜剥離とともに重篤な脈絡網膜炎が誘発されてリカバリンに対する自己抗体が産生され、自己抗体が急速に光受容体の機能を変化させたものと推察された。著者らは、「初期の感染はMRワクチン接種に起因した可能性がある」との見解を示したうえで、「われわれの知る限り過去に報告例はないので、ワクチン接種後の失明は偶然の一致によるものかもしれないし、ワクチン接種に関連しているのかもしれない」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2017年3月30日号掲載の報告。MRワクチン接種24日後に両眼の急性失明 研究グループは、急性失明を来した生後13ヵ月の日本人の健康な男児のカルテを後ろ向きに調査し、眼底およびフルオレセイン血管造影所見、超音波検査および光干渉断層計(OCT)所見、網膜電図検査所見について検討した。 ワクチン接種後に両眼の急性失明を来した男児のデータを検討した主な結果は以下のとおり。・男児が両眼の急性失明を来したのは、Hibワクチンと肺炎球菌結合型ワクチン接種31日後であり、MRワクチン接種24日後であった。・男児は、失明する10日前に風邪を呈していた。・視力低下発症1日後、超音波検査で滲出性網膜剥離が認められたが、4日後、眼底は正常であった。・男児の眼は物体を追わず、瞳孔対光反射はみられなかった。・前部ぶどう膜炎の徴候はなかった。・副腎皮質ステロイドで治療が行われたが、視力は改善しなかった。・網膜血管は次第に減少し、深部網膜にびまん性の小さな白い斑点状病変が現れた。・OCTで、外顆粒層の菲薄化とエリプソイドゾーンの消失が認められた。・網膜電図は記録できなかった。・これらの所見から、とくに外節の光受容体の重篤な機能障害が示唆された。・血清のウェスタンブロット法の結果、光受容体のカルシウム結合タンパク質であるリカバリンの抗体が検出された。

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FFRジャーナルClub 第2回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第2回目の今回は、本年11月14日に薬事承認を受け、日本での臨床使用開始に向け期待が高まっているFFR-CTに関連する論文を読みたいと思います。第2回 Denmark Aarhus University Hospitalにおける日常臨床でのFFR-CT使用に関する報告Norgaard BL, et al. Clinical use of coronary CTA-derived FFR for decision making in stable CAD. J Am coll Cardiol Img. 2016, Apr 7. [Epub ahead of print]冠動脈CT(以下、CTA)は、その陰性的中率の高さ、および検査へのアプローチのしやすさから、とくに日本では非常に広く使用されている。そのCTAの画像データから、スーパーコンピュータを用いて冠血流、冠内圧の情報を推測・計算する手法がFFR-CT(coronary computed tomography angiography derived fractional flow reserve)として報告されている1)~3)。今回は、実臨床におけるFFR-CTを用いた診断戦略の有用性、侵襲的検査(以下、ICA:Invasive coronary angiography)に対するゲートキーパーとしての役割について検討したsingle center、observational all-comers studyを紹介する。2014年4月からの1年間、Aarhus University Hospitalを受診し、安定冠動脈疾患が疑われた症例が対象である。外来にて、緊急を要さないCTAの依頼が出された連続1,248の症例が対象とされた。同施設では、新規発症で検査前確率がlow~intermediateの症例において、CTAが診断モダリティの第1選択として好んで使われていた。CTAはSiemens社製のdual-source CT scannerが使用され、心拍数60bpm以下を目標とし、経口・経静脈的β遮断薬が投与され、また全例でニトログリセリンの舌下投与が行われた。CTAの判読結果により下記の3つのリスクカテゴリーに層別化し、その後の診断手法を決定した。画像を拡大するFFR-CTは、CTAの画像データをHeart Flow社(カリフォルニア)に送り解析された。主要枝ごとに計算され、FFR-CT≦0.80を有意狭窄と判断した。結果:1,248例中75例(6%)は、心拍の不整、重度の石灰化などの理由で造影剤を注入する前に、ほかの検査アプローチあるいは治療方針(ICA、MPIあるいは薬物療法)に変更された。CTAの対象となったのは1,173例で、非典型的胸痛が763例(65%)と多くを占め、典型的胸痛が152例(13%)、非狭心症性胸痛が176例(15%)、呼吸困難が82例(7%)であった。検査時心拍数は58±9bpm(37~122)、Agaston scoreは0~4,830(四分位数範囲:0~54)。CTAを施行した1,173例中、33例(3%)は、解析するには画像が不十分であり(造影剤量不足、motion artifact、blooming artifact)、引き続きperfusion imagingが行われた。CTAの結果、858例はOMTが選択され、82例でICA、189例でFFR-CT、44例でMPI(myocardial perfusion imaging)が選択された。FFR-CTが依頼された189例において、FFR-CT解析が可能であったのは185例(98%)であった。185例中57例(31%)、740枝中72枝(10%)においてFFR-CT≦0.80を呈した。画像を拡大するFFR-CT後のICAにおいて、37例で確認のため侵襲的FFRが計測された。研究期間の開始から3分の2の時期までで計測されたのは35例中27例(77%)であったのに対し、後期3分の1では19例中10例(53%)であった。計測されたFFR値と、FFR-CT値の間には良好な相関を認めた(下図)。全体では、FFR-CT値がFFRよりも軽度(0.04)低値を示す傾向を認めたが、FFR-CT ≦ 0.80が侵襲的FFR陽性を示す診断率は37例中27例(74%)、53枝中37枝(70%)であった。画像を拡大するFFR-CT≦0.80にてICAに送られた49例中22例(45%)に血行再建(PCI n=12、CABG n=10)が行われた。FFR-CT≦0.75にてICAに送られた23例では、70%に血行再建(PCI n=10、CABG n=6)が行われた。CTAからFFR-CTの計測なしで直接ICAに送られた82例では53例(65%)に血行再建(PCI n=42、CABG n=11)が行われた。12ヵ月の追跡期間中(6~18ヵ月)、FFR-CT、ICA、MPIいずれの群においても重篤なイベントは生じなかった。FFR-CT値が0.80以上でありICAを行わなかった123例においても重篤なイベントはみられず、経過中胸部症状により2例にICAが行われたが、いずれも血行再建の必要性は認めなかった。結語:FFR-CTに基づいた診断戦略は妥当であり、有用な情報を与えてくれる。FFR-CT値>0.80によってICAをdeferしても、良好な短期予後が得られた。私見:FFR-CTは、CTAと比べて追加の検査の必要性はなく、その意味でとても使いやすい検査法といえる。一方、結果として出てきたFFR-CTの値を信じて、冠動脈造影検査や、カテーテル治療自体の適応を決定してよいのか、現時点ではまだ議論の余地がある。しかし、非侵襲的検査と考えると、今存在しているほかのどの検査法も決して100%ではなく、それらの情報を基に主治医が総合的に判断することにより、より正しいと考えられる結果を導いていく。その1つの検査法として考えれば、解剖学的な情報に加え、同時に機能的な情報が得られるというメリットは大きい。では、本検査を侵襲的検査のゲートキーパーの役割として使用するのはどうか? その意味で最も信頼されているのは負荷心筋シンチグラムと思われる。これは6万例を超える非常に大きなデータにより、負荷心筋シンチグラム陰性であればその後の予後が良好である4)、というデータが示されていることが大きい。また運動負荷で行えば、負荷時の自覚症状や心電図の所見が加味できることも重要である。FFR-CTは、負荷心筋シンチグラムに代わりうるか?CTAはもとより陰性的中率が高いことが示されている。侵襲的検査に送った結果、偽陽性が多い点が問題であった。また中等度狭窄が存在しても、虚血の有無に関しては再度負荷試験を行う必要があった。FFR-CTは、CTAの陰性的中率は変えずに陽性的中率を高めることが可能か? 本論文において最も重要と思うのは、FFR-CTが陰性であってICAをdeferした症例の予後である。約12ヵ月と短期間ではあるが問題となるイベントは生じていない。観察中2例に持続する胸痛があり再度のICAが行われたが、FFR-CT 0.88(LAD)でdeferされた症例のICAは血管不整所見のみ、FFR-CT 0.78(LAD)でdeferされた症例のICAは、びまん性の軽度病変で侵襲的FFR 0.84であった。FAME試験において、FFRガイド群、すべての病変をステント治療するAngioガイド群、そのどちらも自覚症状が消失したのは約70%である。何らかの症状があった場合に、過剰な再検査が行われる可能性がある。FAME試験では、再造影の際PCIを考慮する場合は、(FFRガイド群では)必ずFFRの計測が義務付けられていた。当面のイベントを減らす、ということよりもその担当医がFFRの再現性を実感し、その信頼度を高めていく、という意味でその意義は大きかったといえる。FFR-CTにおいても、その信頼を確立するまでは、多少時間が必要と思われる。“CTAである程度のプラークを認めたが、FFR-CTは陰性”、という症例の予後に関するデータを積み上げていくことが重要である。(執筆・監修:東京医科大学八王子医療センター 循環器内科 田中信大)参考論文1.Koo BK, et al. J Am Coll Cardiol. 2011;58:1989-1997.2.Min JK, et al. JAMA. 2012;308:1237-1245.3.Nørgaard BL, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;63:1145-1155.4.Shaw LJ, Iskandrian AE. J Nucl Cardiol. 2004;11:171-185.

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Dr.加藤の「これだけ眼科」

第1回 「眼底所見」はこれだけ 第2回 「糖尿病網膜症」はこれだけ 第3回 「緑内障」はこれだけ 第4回 「白内障」はこれだけ 第5回 「加齢黄斑変性」はこれだけ 第6回 「結膜炎」はこれだけ 第7回 「眼科コモンディジーズ」はこれだけ プライマリケア診療で眼科疾患と出会う機会は意外と多いもの。しかしながら、プライマリケア医が眼科診療を学習する機会はほとんどないのが現状です。このDVDでは、「これだけ知っておけば非眼科医として適切な眼科診療ができる」実践的な眼科診療のポイントをまとめました。日常診療でとくに重要な疾患を取り上げ、それぞれ紹介していきます。講師は、プライマリケア医への眼科教育に積極的に取り組む、京都府立医科大学眼科学教室/京都大学医学教育推進センターの加藤浩晃先生です。第1回「眼底所見」はこれだけ Dr.加藤のこれだけ眼科、第1回は先生方からリクエストの多い眼底所見について取り上げます。前半は最近の眼底検査機器とその特徴、後半は眼底所見のポイントについて糖尿病や高血圧などの内科疾患も含めて紹介します。眼底所見、これだけ知っておけば非専門医の標準レベル突破。第2回「糖尿病網膜症」はこれだけ 糖尿病患者の約2割が罹患しているといわれる糖尿病網膜症。緑内障に次いで失明原因の第2位です。糖尿病網膜症は糖尿病罹患5~10年で発症率が高まると言われていますが、中期以上に進行しないと自覚症状が現れない、厄介な合併症です。番組では、網膜症の進行度、症状と所見などの基本知識。発症予防のための血糖管理、眼科受診の間隔などの実践的知識を紹介します。糖尿病網膜症、これだけ知っておけば非専門医の標準レベル突破。第3回「緑内障」はこれだけ高齢疾患である緑内障。先生の患者さんにも大勢いらっしゃるのではないでしょうか?緑内障は症状が現れるころには、すでに中期以降に進行しているため、プライマリケア医による早期発見・治療はとても重要です。番組では、緑内障の眼底所見、頭痛や悪心嘔吐など身体症状を呈する緑内障発作の初期対応、また、抗コリン薬など緑内障禁忌薬が使える患者の見分け方などについてわかりやすく紹介します。緑内障、これだけ知っておけば非専門医の標準レベル突破。第4回「白内障」はこれだけ 高齢化とともに増加する白内障。患者さんから白内障について質問されることもあるのではないでしょうか?白内障は眼科の代表的疾患ですが、加齢だけでなく、糖尿病、ステロイドが原因となることもあります。また、転倒リスクや死亡率も上昇するとも相関するなど眼科以外の診療科とも関連の深い疾患です。番組では、白内障の初期サイン、眼底所見の特徴、また、眼科医がどのような検査治療を行っているかをわかりやすく紹介します。白内障、これだけ知っておけば患者さんに質問されても大丈夫です。第5回「加齢黄斑変性」はこれだけ 加齢黄斑変性は文字どおり加齢に伴い発症し、視野中心部の歪みを特徴する疾患です。有病率は50歳以上の80人に1人。失明原因の第4位と高齢者のQOLを著しく害する疾患です。しかしながら、病識が少ないため老化による視力低下として見過ごされることも少なくありません。番組では、加齢黄斑変性のサイン、眼科医が行う検査や治療などについてわかりやすく紹介します。加齢黄斑変性、これだけ知っておけば非専門医の標準レベル突破。第6回「結膜炎」はこれだけ 結膜炎は白目(結膜)に炎症が生じる非常にコモンな眼科疾患です。また、プライマリケア医でも十分治療できる疾患だと言われています。番組では結膜炎の3つのタイプ、ウイルス性、アレルギー性、細菌性の特徴と簡単な見分け方、さらに目の充血と出血の違いも紹介します。結膜炎、これだけ知っておけば非専門医の標準レベル突破。第7回「眼科コモンディジーズ」はこれだけ 前眼部で診察できる眼科コモンディジーズについて取り上げます。非眼科医が出会う眼科疾患の80%以上はまぶた、角膜、結膜、水晶体などの前眼部疾患です。この番組では、上眼瞼の翻転、フルオレセイン染色などプライマリケアでできる前眼部診察や、麦粒腫、ドライアイなど代表的な前眼部疾患診療のポイントについてわかりやすく紹介します。前眼部病変、これだけ知っておけば非専門医の標準レベル突破。

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第3回 ビグアナイド薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第3回】ビグアナイド薬による治療のキホン-ビグアナイド薬による治療のポイントを教えてください。 ビグアナイド(BG)薬は、主に肝での糖新生を抑制し血糖を低下させる、インスリン抵抗性改善系の薬剤です。そのほかに、消化管からの糖の吸収を抑制したり、末梢組織でのインスリン感受性を改善させるといった作用があります。非常に古くから使われている薬剤で、以前は、日本では1日最大用量750mgのメトホルミンしか使用できませんでしたが、海外での使用実績を踏まえ、それまでのメトホルミンの用法・用量を大きく見直し、高用量処方を可能としたメトホルミン(商品名:メトグルコ)が2010年から使用できるようになりました。 上記の作用でインスリン抵抗性を改善し、体重増加を来さないというメリットがあるので、とくに肥満の糖尿病患者さんや食事療法が守れない患者さんに適しています。 腎機能低下例、高齢者、乳酸アシドーシス、造影剤投与に関しては注意が必要ですが、単独で低血糖を起こしにくい薬剤ですので、注意が必要な点を守りながら投与すれば使いやすい薬剤です。-初期投与量と投与回数を教えてください。 通常、1日500mg(1日2~3回に分割)から開始します(各製品添付文書より)。食後投与のものと食前・食後いずれも投与可能な薬剤がありますが、最も異なる点は1日最大用量で、750mg/日(商品名:グリコラン、メデット)と2,250mg/日(同:メトグルコ)があります。メトグルコは通常、750~1,500mg/日が維持用量です。 メトホルミンの主な副作用として消化器症状がありますが、程度には個人差があるように感じています。消化器症状は用量依存性に増加するので、投与初期と増量時に注意し、消化器症状の発現をできるだけ少なくするために、増量する際は1ヵ月以上空けるとよいでしょう。-どの程度の腎障害および肝障害の時、投与を控えたほうがよいでしょうか。 メトグルコを除くBG薬は、腎機能障害患者さん(透析患者含む)には禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、腎機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に腎機能を確認して慎重に投与することとされており、中等度以上の腎機能障害および透析中の患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、血清クレアチニン値が「男性:1.3mg/dL、女性:1.2mg/dL以上」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。 ただし、高齢患者さんの場合、血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、実際の腎機能は低下していることがあるので(潜在的な腎機能低下)、eGFR(推定糸球体濾過量)も考慮して腎機能を評価したほうがよいでしょう。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスとの関連から、腎機能の評価としてeGFRを用い、「eGFRが30mL/分/1.73m2未満の場合にはメトホルミンは禁忌、eGFRが30~45mL/分/1.73m2の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする」としています2)。 メトグルコを除くBG薬は、肝機能障害患者さんには禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、肝機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に肝機能を確認して慎重に投与することとされており、重度の肝機能障害患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、「ASTまたはALTが基準値上限の2.5倍以上の患者さんおよび肝硬変患者さん」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。-造影剤と併用する時のリスクはどのくらい高いですか? 尿路造影検査やCT検査、血管造影検査で用いられるヨード造影剤との併用によるリスクの程度に関する報告はありませんが、ヨード造影剤は、腎機能を低下させる可能性があるため、乳酸アシドーシスを避けるために、使用する場合は「検査の2日前から検査の2日後の計5日間(緊急の場合を除く)」は服用を中止します3)。また、検査の2日後以降に投与を再開する際には、患者さんの状態に十分注意をする必要があります。-乳酸アシドーシスの頻度と、予防・管理の方法を教えてください。 BG薬による乳酸アシドーシス発現例が多く報告された1970年代を中心とする調査では、フェンホルミン(販売中止)で10万人・年当たり20~60例、メトホルミンでの頻度は10万人・年当たり1~7例程度と報告されています4)。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴として、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4.高齢者 を挙げています2)。 腎機能や心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者といった点は、医療従事者側が留意すべきことですが、脱水やシックデイ、過度のアルコール摂取といった点については、これらが乳酸アシドーシスのリスクになるということを患者さんにお伝えしたうえで指導する必要があります。 とくに、脱水には注意が必要です。夏場、室内でも脱水を起こす可能性があること、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などを来すシックデイのときには脱水を起こす可能性があるため、服薬を中止し、かかりつけ医に相談するなど、患者さんに指導する必要があります。炎天下で農作業を行う方も注意が必要です。とりわけ高齢者は脱水に気付きにくいという特徴があります。また、利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)を服用している場合にも注意が必要です。-高齢者に投与する際の用量について知りたいです。そのまま使い続けてよいのでしょうか。 メトホルミンは、高齢者では、腎・肝機能が低下していることが多く、脱水も起こしやすいため、乳酸アシドーシスとの関連から慎重投与するとされています。高齢者については、青壮年に発症し、すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合と、高齢になってから発症した場合に分けて考えます。すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合は、とくに問題がなければ、メトホルミンによって得られる効果を考慮して継続しますが、定期的に腎・肝機能については観察すること、また、用量についても、高用量は使用せず、私は500~750mg/日で維持するようにしています。 高齢になって発症した場合、とくに75歳以上では、慎重な判断が必要とされていますが2)、基本的には推奨されません。1)メトグルコ製品添付文書(2016年3月改訂)2)日本糖尿病学会. メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年5月12日改訂)3)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド20156-2017. 文光堂;2016.4)Berger W. Horm Metab Res Suppl. 1985;15:111-115.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第30回

第30回:造影CT検査を適正に行うために監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 CT(Computed Tomography)検査は物体を透過したX線の量をデータとして集めてコンピュータ処理し、物体の断面画像を得る検査です。現在、多くの施設で実用化されている装置はマルチスライスCTと呼ばれ、短時間で広範囲を撮影することができるうえ、立体的な画像(3D画像)を容易に撮像できるようになり、今日の日常診療で欠かせない検査となっています1) 。 今回の記事では造影CT検査撮像の適応、造影剤の副作用などを中心に、適正な使用について今一度整理をしてみます。 以下、American Family Physician 2013年 9月1日号2) より造影CT検査を適切に行うためには造影剤の種類・リスク・禁忌・造影剤使用が適切な臨床状況を知っておくことが必要である。<製剤の種類と投与経路>最もよく使用される造影剤はバリウムやヨード製剤があり、投与経路は経口・直腸・静脈・くも膜下投与が挙げられる。経口製剤は一般的に腸の病変が疑われる場合や、腹部・骨盤CTで使用される。直腸投与は直腸穿孔が疑われるときに適応となる。静脈製剤は血管組織や腹部・骨盤の固形臓器の評価の際に適応となる。くも膜下でのヨード製剤投与は脊髄造影で、脊髄・基底槽病変や脳脊髄液漏出の評価に用いられる。<造影剤の副作用>ヨードの濃度で高浸透圧か低浸透圧に分類され、ほとんどの施設は非ヨード性製剤(低浸透圧製剤)を使用する。重篤な副反応にはアナフィラキシー症状が挙げられ、頻度は1/170,000とされている。非ヨード製剤のほうが副反応は少ないとされている。造影剤の副作用のリスクとしては、薬剤アレルギーと気管支喘息が挙げられる。また腎障害も造影剤使用の際には注意が必要である。腎機能のスクリーニングとして、検査1ヵ月前にクレアチニンが測定され、一般的にクレアチニン1.5~2.0mg/dL以上、または増加傾向のときに他の投与方法を検討しなければならない。造影剤による腎症を起こすリスク因子は、慢性腎臓病・糖尿病・心不全・高齢・貧血・左室機能障害・大量の造影剤使用が挙げられる。<造影剤使用の注意点>静注製剤が忌避を検討すべきときは、造影剤への過敏性の既往・妊娠・甲状腺疾患に対するヨード製剤使用・メトホルミン製剤使用・腎不全が挙げられる。過敏反応はその重症度を評価し、それが小さな反応であれば前投薬(ジフェンヒドラミンとコルチコステロイド)でリスクが減る可能性がある。【アナフィラキシー反応の既往がある患者】緊急時以外は造影剤使用を控えるべきである。【妊婦】造影剤が胎盤を通過するため注意が必要である。アメリカ放射線学会では妊婦に対する造影剤使用の推奨があり、母体と胎児のケアに影響がある情報が造影剤使用でないと得られず、撮像指示医が妊娠後まで待てないと判断した場合に推奨される。【ヨード製剤で加療中の甲状腺疾患の患者】ヨード系造影剤使用で甲状腺へのI-131の取り込みが減弱し、治療効果が落ちるので使用を避けるべきである。【メトホルミン使用の患者】腎機能を変化させメトホルミン排泄を障害する可能性があり、代謝性アシドーシスのリスクが上がる (頻度はまれだが、腎機能障害の患者で相対的に多い)。アメリカ放射線学会の推奨では、腎機能正常時・合併症がないときはメトホルミン使用継続・クレアチニンの測定不要で、それ以外ではメトホルミン内服制限・クレアチニン測定が推奨される。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本放射線技術学会. CT検査. http://www.jsrt.or.jp/data/citizen/housya/ct-01/ (2016.6.30参照). 2) James V,et al. Am Fam Phisician.2013;88(5):312-316

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FDAが生体吸収性ステント承認

 米国食品医薬品局(FDA)は2016年7月5日、冠動脈疾患治療に対する初の完全生体吸収性ステントを承認した。Abbott Vascular社のAbsorb GT1生体吸収性スキャフォールドシステム(BVS)は、瘢痕組織の成長抑制のためにエベロリムスを溶出し、約3年間で徐々に体内に吸収される。 Absorb GT1 BVSは、poly(L-lactide)と呼ばれる生体分解性ポリマーで構成される。これは縫合糸など生体吸収性の医療機器に使用される材料である。ステントが不要になると、デバイスは生体に吸収され、動脈内の異物としての存在は徐々に消えていく。吸収後は、心臓専門医の識別のために、留置場所の動脈壁に4つの非常に小さなプラチナマーカーだけが残る。 FDAはAbsorb GT1 BVSの承認に当たり、薬剤溶出金属ステントとの主要心臓有害イベント発生率を比較した2,008例の無作為化試験のデータを評価した。1年後の主要心臓有害事象発生率は、Absorb GT1 BVS群で7.8%であり、対照群(6.1%)と臨床的な同等性を示した。また、1年後のデバイス内の血栓形成率は、Absorb GT1 BVS群で1.54%、対照群では0.74%であった。 Absorb GT1 BVSの禁忌は、エベロリムスまたはpoly(L-lactide)、poly(D、L-lactide)、プラチナなどのデバイス材料に過敏症またはアレルギーを有する患者。また、血管形成術の対象ではない患者、造影剤過敏症患者、アスピリンと他の抗血小板薬の長期併用療法が実施できない患者にも禁忌である。FDAのプレスリリースはこちら

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心房細動に対する肺静脈隔離:クライオバルーン法は高周波アブレーション法に効果として非劣性、同等の安全性(解説:今井 靖 氏)-534

 薬物治療抵抗性発作性心房細動に対して、カテーテルアブレーションによる肺静脈隔離術は、ガイドラインにおいて推奨される治療法として確立している。高周波カテーテルアブレーションが広く普及しているが、クライオバルーン法がそれに続く治療法として注目を集めており、本邦においても昨年秋から広く実施されるようになった。 この論文は、上記対象疾患に対して、クライオバルーン法が高周波カテーテルアブレーションに非劣性であることを示すために行われた、多施設ランダム化比較試験である。有効性におけるプライマリーエンドポイントは、治療後90日以内における最初の臨床的なイベント(心房細動、心房粗動または心房頻拍の発症、抗不整脈薬の使用、再度のアブレーション)とされた。 安全性におけるプライマリーエンドポイントは死亡、脳血管イベント、重大な治療関連合併症の複合とされている。762例がランダム化され、378例がクライオバルーン、384例が高周波アブレーションに割り付けられた。平均追跡期間は1.5年であった。有効性エンドポイントにおいては、クライオバルーン法では138例、高周波アブレーション群では143例に認められた(Kaplan–Meier法による1年間あたりのイベント発生推計;クライオバルーン法34.6%、高周波アブレーション法35.9%、ハザード比:0.96、95%信頼区間:0.76~1.22、非劣性評価においてp<0.001)。安全性におけるプライマリーエンドポイントは、クライオバルーン法において40例、高周波アブレーション法では51例に認められた(Kaplan–Meier法における年間あたりのイベント推計;クライオバルーン法10.2%、高周波アブレーション法12.8%、ハザード比:0.78、95%信頼区間:0.52~1.18、p=0.24)。 結論として、治療抵抗性発作性心房細動に対するクライオバルーン法は高周波アブレーションに対して非劣性であったが、全体としての安全性において差異は認められなかった。 クライオバルーン法は、この研究においては第1世代のバルーンが当初使用され、臨床試験の途中から第2世代のバルーンが用いられている。第1世代はバルーン全体が冷却される一方、第2世代のバルーンになり、肺静脈に接触する尖端側の半球側のみが冷却される構造に改良されている。なお、本邦に昨年秋から導入されたのはこの第2世代のクライオバルーンである。本研究においてもサブ解析で第1世代と第2世代のクライオバルーンが比較されているが、後者のほうが心房性不整脈などのエンドポイント発生が低い、すなわち有効性が高いという結果が認められている。一方、高周波アブレーション法も、最近は3次元マッピング法を基本として、カテーテル尖端圧(コンタクトフォース)の把握、一定部位に有効な通電が得られたと考えられる場合にタグを表示するVisiTag(Webster)など進歩が目覚ましい。3次元マッピング法は、放射線による透視を最小限に抑えて手技が実施できるところまで進化してきているが、クライオバルーン法は短時間にかつ簡便に肺静脈隔離が達成できる一方、透視と肺静脈に楔入されていることを確認するための造影剤使用を行わざるを得ないという点、肺静脈の解剖学的形態により、バルーン法による治療が困難な場合もある。 また、クライオバルーン法においては横隔神経麻痺の発症が比較的高いという懸念もあったが、日常臨床においては、横隔神経刺激における筋電図モニタリング(CMAP)の実施によりその障害も特に本邦では低率に抑えられている。肺静脈、左房の形態がバルーン法に適するかどうか事前にCT、MRIにおいて左房、肺静脈の形態把握をすることが肝要と思われる。 今回の研究により、新しいクライオバルーン法が高周波アブレーション法に非劣性であることが示されたことにより、患者ごとに適する治療手段で治療効果をさらに高めることが出来れば良いと考えられる。肺静脈・左房の形態が、クライオバルーンに適する場合はクライオバルーンを選択、形態的に適さない場合や肺静脈隔離以外に付加的に心房内線状焼灼、CFAE、GP ablation、rotor ablationなどを行う場合は高周波アブレーションを行う、といった具合に、症例ごとに至適化する必要性があると考えられる。

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eGFRが30未満は禁忌-メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。 わが国では、諸外国と比較し、頻度は高くないもののメトホルミン使用時に乳酸アシドーシスが報告されていることから2012年2月にRecommendationを発表、2014年3月に改訂を行っている。とくに今回は、米国FDAから“Drug Safety Communication”が出されたことを受け、従来のクレアチニンによる腎機能評価から推定糸球体濾過量eGFRによる評価へ変更することを主にし、内容をアップデートしたものである。メトホルミン使用時の乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴1)腎機能障害患者(透析患者を含む)2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4)高齢者 高齢者だけでなく、比較的若年者でも少量投与でも、上記の特徴を有する患者で、乳酸アシドーシスの発現が報告されていることに注意。メトホルミンの適正使用に関するRecommendation まず、経口摂取が困難な患者や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以下の事項に留意する。1)腎機能障害患者(透析患者を含む) 腎機能を推定糸球体濾過量eGFRで評価し、eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFRが30~60の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。なお、eGFRが45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態 すべてのメトホルミンは、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐などの胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者で禁忌である。利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)との併用時には、とくに脱水に対する注意が必要である。 以下の内容について患者に注意・指導する。また、患者の状況に応じて家族にも指導する。シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する。脱水を予防するために日常生活において適度な水分摂取を心がける。アルコール摂取については、過度の摂取を避け適量にとどめ、肝疾患などのある症例では禁酒する。3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者 すべてのメトホルミンは、高度の心血管・肺機能障害(ショック、急性うっ血性心不全、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓など低酸素血症を伴いやすい状態)、外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)前後の患者には禁忌である。また、メトホルミンでは軽度~中等度の肝機能障害には慎重投与である。4)高齢者 メトホルミンは高齢者では慎重に投与する。高齢者では腎機能、肝機能の予備能が低下していることが多いことから定期的に腎機能(eGFR)、肝機能や患者の状態を慎重に観察し、投与量の調節や投与の継続を検討しなければならない。とくに75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要である。「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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deferredステント留置はSTEMIの予後を改善するか/Lancet

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の治療において、ステント留置を即座には行わないdeferredステント留置と呼ばれるアプローチは、従来の即時的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に比べて、死亡や心不全、再発心筋梗塞、再血行再建術を抑制しないことが、デンマーク・ロスキレ病院のHenning Kelbaek氏らが行ったDANAMI 3-DEFER試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年4月3日号に掲載された。STEMI患者では、ステント留置を用いたPCIによって責任動脈病変の治療に成功しても、遺残血栓に起因する血栓塞栓症で予後が損なわれる可能性がある。これに対し、梗塞関連動脈の血流が安定した後に行われるdeferredまたはdelayedステント留置は、冠動脈の血流を保持し、血栓塞栓症のリスクを低減することで、臨床転帰の改善をもたらす可能性が示唆され、種々の臨床試験が行われている。deferredステント留置の有用性を無作為試験で評価 DANAMI 3-DEFER試験は、デンマークの4つのPCIセンターが参加する3つのDANAMI 3プログラムの1つで、STEMI患者においてdeferredステント留置と標準的PCIの臨床転帰を比較する非盲検無作為化対照比較試験(デンマーク科学技術革新庁などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、胸痛発症から12時間以内で、心電図の2つ以上の隣接する誘導で0.1mV以上のST上昇または新規の左脚ブロックの発現がみられる患者であった。 被験者は、deferredステント留置または即時的に標準的なプライマリPCIを施行する群に無作為に割り付けられた。プライマリPCIは薬剤溶出ステント留置が望ましいとされた。 deferred群では、病院到着時の冠動脈造影で梗塞関連動脈の血流が安定化する可能性がある場合は約48時間(最短でも24時間以上、この間にGP IIb/IIIa受容体拮抗薬などを4時間以上静脈内投与)後に再造影を行い、血流の安定化が確認されればステント留置を行わないこととした。 主要評価項目は、2年以内の全死因死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、予定外の標的血管の血行再建術の複合エンドポイントとした。 2011年3月1日~14年2月28日までに1,215例が登録され、deferred群に603例、標準的PCI群には612例が割り付けられた。予定外の標的血管血行再建術はdeferred群で高頻度 年齢中央値はdeferred群が61歳、標準的PCI群は62歳、男性がそれぞれ76%、74%であった。糖尿病がそれぞれ9%、9%、高血圧が41%、41%、喫煙者が54%、51%、心筋梗塞の既往歴ありが6%、7%含まれた。多枝病変は41%、39%であった。 発症から施術までの期間中央値は両群とも168分であり、フォローアップ期間中央値は42ヵ月(四分位範囲:33~49)だった。 主要エンドポイントの発生率は、deferred群が17%(105/603例)、標準的PCI群は18%(109/612例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.75~1.29、p=0.92)。 主要エンドポイントの個々の項目のうち、全死因死亡(p=0.37)、心不全による入院(p=0.49)、非致死的心筋梗塞の再発(p=0.49)には差がなかったが、予定外の標的血管の血行再建術はdeferred群のほうが有意に多かった(HR:1.70、95%CI:1.04~2.92、p=0.0342)。 また、心臓死(p=0.58)、PCIによる標的血管の血行再建術(p=0.11)、冠動脈バイパス・グラフト術(CABG)による標的血管の血行再建術(p=0.15)にも差はみられなかった。18ヵ月時の左室駆出率は、deferred群がわずかに良好だった(54.8 vs.53.5%、p=0.0431) 手技関連の心筋梗塞、輸血または手術を要する出血、造影剤誘発性腎症、脳卒中を合わせた発生率は、deferred群が4%(27/603例)、標準的PCI群は5%(28/612例)であり、両群間に差を認めず、個々の項目にも差はなかった。 著者は、「現在、類似の3つの臨床試験(MIMI試験、INNOVATION試験、PRIMACY試験)が進行中であり、これらの試験の結果がSTEMIにおけるdeferredステント留置の概念にさらなる光を投げかける可能性がある」としている。

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第31回 特別編「医療事故調査制度」の概要と展望

2015年10月より医療事故調査制度が正式に始まった。医療事故調査・支援センターとして指定された「日本医療安全調査機構」には、2016年3月現在、累計で188件の医療事故報告(相談は累計1,012件)が行われている。今後、さらに報告を収集・分析していくことで、同じような医療事故を防ぐ防波堤となり、患者さんの医療安全へつながることが期待されている。本コンテンツでは、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の構成員として、わが国の医療安全を担う新制度の構築に参画してきた医師・弁護士であり、「MediLegal」の執筆者である大磯 義一郎 氏(浜松医科大学医学部医学科医療法学 教授)に新制度の概要を聞いた。2015年10月に発足した医療事故調査制度の概要について教えてください。この医療事故調査制度の目的は、医療法の「第3章 医療の安全の確保」に位置付けられているとおり、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」です。また、医療法上、この制度の対象となる医療事故は、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とされています。そして、新医療事故調査制度では、この「医療事故」については、医療事故調査支援センターへの報告義務と調査義務が各医療機関の管理者(院長や施設長)に課せられています。どのような場合が「報告対象」に当たるかについては、1)「予期しなかった死亡」、かつ、2)「医療に起因する死亡」の2つの要件を満たす必要があります。1)の「予期しなかった死亡」とは、「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの」(医療法施行規則1条の十の二 第1項)と定義されており、国語辞典的な「そのようなことが起こるとは想定していなかった」という意味ではありません。省令では、(1)あらかじめ患者さんに説明していた場合、(2)診療録その他の文書等に記録していた場合、(3)管理者が医療従事者や医療安全管理委員会からの意見を聞き、当該死亡が予期できたと認めた場合のいずれにも該当しないと管理者が認めた場合には、本制度における「予期しなかった死亡」となるとしています。医療機関に対し、積極的に患者に情報提供をしたり、記録化を進めることで、報告義務を免除するというインセンティブを与えているのです。2)「医療に起因する死亡」とは、原則的には、侵襲的な医療行為(手術、処置、投薬、検査、輸血など)をいい、単なる療養、転倒や転落、誤嚥などの行為は本制度での「医療」には当たらず、報告の対象外とされています。発生した事故が、1)と2)の要件を満たすかどうかを最終的に管理者が判断することになります。その際、現場の医療従事者個人に過重な責任を負わせてきた過去の苦い反省を踏まえ、「当該医療事故に関わった医療従事者などから十分事情を聴取したうえで、組織として判断する」とされています。新制度では、院内調査が中心となり、その主体、調査手法については、管理者の幅広い裁量に委ねられています。したがって、外部委員を入れることは必須ではありません。最後に、医療機関が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告した事案について、遺族または医療機関が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した時は、医療事故調査・支援センターが調査を行うことができます。調査終了後、医療事故調査・支援センターは、調査結果を医療機関と遺族に報告することになります。画像を拡大する医療安全の議論から新制度発足まで、10年近くを要した経緯を教えてください。医療安全への取り組みは、一般に医療萎縮が始まったとされる大野病院事件が起こる、少し前からあった議論です。ただ、当時は医療安全が主たる目的ではなく、過熱した医療紛争の処理が中心的な課題でした。したがって、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、個別事案の医学的評価、すなわち、誰の責任かを明らかにすることが中心的な活動となりました。その後、大野病院事件が発生し、医療領域への司法の過剰介入により医療萎縮が起こり、日本の医療が崩壊しかけました。このままでは日本の医療は本当に崩壊してしまうというところまで来て、ようやくトカゲのしっぽ切り的な責任追及ではなく、真面目に医療安全を行おうという機運が生まれてきました。そこで、ちょうどモデル事業が終了するということで、厚生労働省の支援により「医療安全」を主目的に、さらに発展拡大する本制度、組織の発足へとつながりました。この新しい制度では、医療事故事例を収集・集積し、内容を分析することで、次の事故の発生を防止し、患者さんの安全に役立てようということが理念として掲げられました。事故を起こした個人の責任追及の場には、決してしないということです。ただ、患者訴訟団体やその他の団体のそれぞれの思いもあり、本制度の設計の際には議論が難航しました。しかし、最終的に当初の理念通り、2015年10月に正式にスタートすることとなりました。制度構築の途中でとくに議論された事項は何ですか?新制度構築の中でとくに議論された内容は、その理念と運用です。この制度の理念は「医療安全」です。これについては、審議会でも、ほぼ異論なく受け入れられました。しかし、運用については、議論の途中で「医療事故を起こした個人への責任追及」や「裁判で使える文書作成」などさまざまな意見も出されました。そこで、わが国の医療安全のエキスパートに意見を聞いたり、諸外国の同じような制度との比較・検討により、医療安全のためには『WHOドラフトガイドライン2005』でも示しているように、「非懲罰性」と「秘匿性」を報告システムに盛り込むことが重要となりました。「医療安全」とは、将来の同種事故の発生リスクを低下させることで、患者さんの生命を守ることを目的としています。それに加え、患者さんに直接医療行為を行う頻度が高いことから、「加害者」の立場に立たされやすい未来ある若い医師、看護師など医療従事者を守ることも重要です。そうでないと、再び医療萎縮が再燃し、かえって患者さんの利益を害することになりかねないからです。医療事故は、確率的に何万回かに1回は、必ず起きます。これは人的、物的さまざまな要因により、完全に防ぐことは不可能です。ですから、たまたまそのときに行為者となった医療者だけに責任を負わせるような従来の事故対応では、今後も事故の発生を減少させることはできません。そこで、今回の制度では、個人責任追及ではなく、医療をシステムとして捉え、科学的に検証を行い、医療安全という結果を出していこうということが話し合われました。何よりも大事なことは、これまでの「収集事業」のように、医療事故のデータを収集するだけではだめで、分析、検証し、次のアクションへつなげることが重要です。一例を紹介しますと、米国でも日本と同じように脊髄撮影造影剤での事故が起きています。当初、日本と同じように造影剤の添付文書に警告を入れましたが、また同じような事故が起こった。なぜ同じ事故が起こるのか、分析し、検証することで医療者のダブルチェック体制の構築や薬剤保管場所の分離、臨床現場での啓発など具体的な行動が推奨され、事故を防止する対策が取られています。そして、この間、日本で行われたような個人への責任追及は行われていません。新しい医療事故調査制度では、医療事故データを集め、きちんとPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すこと。すなわちデータ収集・分析後、対応策を考え、その効果検証を行い、さらにブラッシュアップし、新しいサイクルを回すことが運用として求められます。日本では、約十数年の間、医療安全対策について何ら結果が出せていない状態でした。そのため、医療事故を科学的に検証し、ブラシュアップしていくことで、アウトカムを出そうということになりました。医療事故発生時の対応やグレーゾーン事案での対応はどうなりますか?医療事故発生時のフローは最初に述べたようになりますが、新制度で重要なことは、事故が起こった場合に、最初に本制度における「医療事故」に該当するか判断しなければなりません。新制度では、予期要件(患者さんへの説明と同意、カルテに記載など)があれば、医療機関へのインセンティブとして報告を免除する仕組みもあり、同じ態様の死亡事故でも、個々のケースで報告するか・しないかが変わってきます。医療起因性があるかどうかも含め、報告事案になるかどうかを、管理者は初めに見極める必要があります。原則として、病院などが患者さんへインフォームドコンセントやカルテへの記載で死亡のリスクを明示していれば、報告の必要はありません。しかし、そうでない場合、当該事故が予期できなかったのかおよびその事故がはたして医療に起因する死亡事故なのかどうか、判断する必要があります。ここで注意しておきたいのが、誤診のようなそもそも事故ではない場合や介助などの医療起因性のない場合は含まないということです。本制度は管理者に幅広い裁量権を認めておりますので、グレーゾーン事案では、管理者の判断に負うところが大きいと言えます。新制度はそのように規定していますので、管理者が判断し、事故の報告をする・しないを決定することになります。ただ、将来的にはグレーゾーン事案も、医療事故調査・支援センターへの報告が望ましいと全国の管理者が考えるようになればと考えています。そのためにも、医療事故調査・支援センターは、これまでのように、個別事案の評価を行い、個人責任の追及を支援していくのではなく、医療安全をサイエンスとして分析・検証し、医療安全という結果を示すことができる組織へと変身していく必要があると考えています。今後の新制度の展望について教えてください。また、個々の医療機関でできることには何があるでしょうか。まず、新制度に望むものとして、医療事故として報告された事例を収集するだけでおしまいではなく、医療安全のために、集めたデータを解析して、対策を立て、それを現場に落とし込んで、その効果を検証するというサイクルを回してほしいということです。検証していくことが、日本の医療をより良くしていきます。その中で医療事故調査・支援センターの役割は、大きくなる可能性があります。センターは、個別具体的な事案に捉われるのではなく、将来の同種事故を防ぐため、サイエンスとして医療安全を行い、結果を出していくことが重要になってくるでしょう。また、個々の医療機関でできることとして、院内でも事故防止のため独自に決めたPDCAサイクルを回しながら、日々の診療に当たることです。その際、患者さんへのインフォームドコンセントやカルテへの記載など、きちんと行うべきことは必ず実施してほしい事項です。関連リンク厚生労働省医療安全対策日本医療安全調査機構

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フィーバー國松の不明熱コンサルト

第1回 循環器内科「パパッとエコーでわからないもの」 第2回 消化器内科「内視鏡、やってみたけど」 第3回 呼吸器内科「肺は大丈夫だけど、苦しい」 第4回 腎臓内科「腎臓がやられているというだけで…」 第5回 血液内科「骨髄検査は正常です」 第6回 神経内科「答えは脳ではない」 第7回 膠原病内科「それでもスティル病とは言えない」 第8回 感染症内科「ほかに何があるでしょうか?」 循環器、消化器、呼吸器…どんな臓器の専門医でも日々の専門診療のなかでなかなか原因が突き止められない「熱」に直面することがあります。そんな専門医が抱える不明熱を「熱」のスペシャリスト・フィーバー國松が徹底分析。各科で遭遇しやすいキホンの熱から、検査ではわからない困った熱まで、それらの鑑別方法、対処法を詳しく解説します。 国立国際医療研究センター病院で不明熱外来を担う講師は、院内外の各科からさまざまな不明熱のコンサルトを受け、日々、その発熱の原因究明に挑んでいます。本DVDで取り上げるのは、循環器、消化器、呼吸器、腎臓、血液、神経、膠原病、感染症の8領域。「熱」に自信を持って立ち向かえる!発熱診療の強力な手がかりをお届けします!第1回 循環器内科「パパッとエコーでわからないもの」第1回は循環器内科編。循環器内科でみられるキホンの不明熱、検査ですぐにはわからない困った不明熱を解説します。「循環器疾患で来たはずなのに発熱が続いている…」「救命後に下がらない熱…」特に入院中の患者によくみられる不明熱のさまざまな可能性と、原因究明のためのアプローチを、熱のスペシャリスト・國松淳和氏がご紹介します。第2回 消化器内科「内視鏡、やってみたけど」第2回は消化器内科編。自己免疫疾患から機能性疾患まで、幅広くさまざまな疾患を扱う消化器内科医が、しばしば遭遇する不明熱について解説します。内視鏡や生検では診断のつかない、困った熱の原因を探るためのヒントを紹介します。10歳代から20年以上続く発熱と腹痛の原因疾患とは…!?第3回 呼吸器内科「肺は大丈夫だけど、苦しい」第3回は呼吸器内科編。不明熱のコンサルトを受けることも多い呼吸器内科医が、本当に困る不明熱について解説します。呼吸器という限られた臓器のなかで感染症から、まれな悪性疾患まで、さまざまな疾患の可能性がありうる領域です。特に混乱しやすいのが、原因が呼吸器疾患でなかった場合…肺炎と肺炎随伴胸水と考えていた患者が、実は横隔膜下膿瘍だったなど。見落としがちな疾患をリストアップして紹介します。第4回 腎臓内科「腎臓がやられているというだけで…」第4回は腎臓内科編。腎臓内科で不明熱に遭遇した場合、熱源が疑えても「造影剤を使用しにくい」「試験的な投薬をしにくい」という問題があります。腎機能障害患者の不明熱に対して想起すべき鑑別疾患、絶対に行うべき検査について解説します。また、長期透析という特別な背景を持つ患者の不明熱については、どうアプローチすべきなのか!? 國松氏がコンサルトを受けた実際の症例も紹介。 第5回 血液内科「骨髄検査は正常です」第5回は血液内科編。「不明熱と血球減少」は臨床内科医にとって鬼門!そのため血球減少の相談が血液内科の先生に集中しがちです。そんな他科からのコンサルトや、基礎疾患のわからない外来患者を効率よく診断するために、血球減少を来すキホンの疾患リスト、ウイルス性疾患の鑑別点を紹介します。抗体検査はもちろん必要ですが、時として素早い臨床診断も重要です。第6回 神経内科「答えは脳ではない」第6回は神経内科編。”Help me! Help me!” は神経内科医が押さえておきたい熱が出る12病態の頭文字!病態ごとに想起すべき疾患名をリストアップして解説します。また、「循環器内科のまれで重篤な疾患」と勘違いされがちな感染性心内膜炎(IE)についてもレクチャー。心原性脳塞栓症の患者が来たら、まずはIEのハイリスク群からチェックしましょう!よくある疾患でも、その裏に隠れている疾患を見逃さないための注意が必要です。第7回 膠原病内科「それでもスティル病とは言えない」第7回は膠原病科編。発熱のコンサルトに慣れている膠原病科の先生は、その原因疾患が膠原病であれば困ることはありません。困るのはやはり、最大かつ永遠の好敵手であるリンパ腫!SLEや成人スティル病など、臨床診断を行う膠原病科医にとって、病理組織検査でなければ診断できないものこそ難問です。そんな膠原病科の不明熱について、熱のスペシャリスト國松淳和先生が、症例診断も交えて解説します。第8回 感染症内科「ほかに何があるでしょうか?」日頃から不明熱の精査に慣れている感染症内科の先生方が困るのは、感染症を検討し尽くしても診断のつかない不明熱!皮疹、高サイトカイン、菌血症様という代表的な症候から臨床診断するコツや、不明熱精査と同時に始める「不明熱治療」という考え方と方法について解説します。症例検討は、ほぼ無症候で40度以上の発熱を2年間も繰り返す12歳女児。その最終診断とは?

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循環器内科 米国臨床留学記 第5回

第5回:米国でよく使うけれど日本にない薬日本と米国の循環器領域の実臨床に、どのような違いがあるか見ていきたいと思います。米国で頻用されるわりに、日本で使われていない薬が幾つかあります。regadenoson 心筋シンチグラムアメリカで最も使用されている負荷薬剤はregadenoson(商品名:Lexiscan)で、80%以上のシェアを占めます。2008年にFDAに承認された比較的新しい薬剤です。負荷心筋シンチの薬剤として、日本ではアデノシンとジピリダモールが日本では使用されていると思います。これらの薬剤はアデノシンA2A受容体を介して、冠動脈の拡張を誘発します。しかしながら、同時にA1、A2Bなどの他のアデノシン受容体を刺激してしまうため、からだのほてり、息切れ、胸部不快感が起こり、房室ブロックや気管支れん縮を惹き起こすこともあります。regadenosonは、選択性adenosine A2A受容体刺激剤であり、副作用を起こす可能性が少なくて済みます。アデノシンと比べても急速に作用し、効果も長続きするため、持続静注が不要です。シリンジポンプも不要で、約10秒で静注すればよいので、きわめて使い勝手が良い薬です。 また、運動負荷試験で目標心拍数に到達しなかった場合は、アデノシンやジピリダモールでは、運動負荷を中止して、薬物負荷をやり直さなければなりません。運動負荷試験に費やした時間が無駄になります。regadenosonは運動負荷で目標心拍数に到達しないとわかった段階で、試験を薬物負荷に変更して、regadenosonを静注して使用することも可能です。regadenosonはアデノシンとの比較試験でも、有効性は同等でかつ副作用が少ないことが確認されています(Mahmarian JJ, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2009;2:959.)。実臨床でもregadenosonは痙攣の閾値を下げるため、てんかんの既往のある症例ではadenosineを使うことがありますが、基本的にはregadenosonを使うことがほとんどです。微小気泡コントラスト心エコーコントラスト心エコー法は、心腔内の異常構造物(腫瘍、血栓など)の同定や心室筋の壁運動、虚血性心疾患における心筋の灌流診断やviability評価にも非常に有用です。米国では、第2世代の微小気泡造影剤であるperflutoren脂肪マイクロスフェア(商品名:Definity)、perflutorenプロテイン型マイクロスフェア(同 Optison)が主に使用されています。 ご存じのように、米国の患者はBMIが高く、心エコーの解像度は日本人より悪いことが多いです。心エコーの20%以上で壁運動の描出が困難であるとの報告もあり、自然と微小気泡造影剤が必要な症例も多く、病院によっては技師の判断で使用が許されています。運動もしくはドブタミン負荷心エコーにも、微小気泡造影剤はよく使われます。われわれの施設では虚血性心疾患が疑われ、運動可能な症例に運動負荷心電図と心エコーを積極的に用いていますが、全例で微小気泡剤であるperflutorenを使用します。運動負荷心エコーは、時間や人手がかかりますし、運動直後は心臓が激しく左右に振れており、心筋の描出が難しいことが少なくありません。そういった事情のためか、日本では心筋シンチグラムに比べて、運動負荷心エコーを行っている施設は少ないと思われます。私自身も日本では負荷心エコーの経験は豊富ではありませんでしたが、負荷後の解像度が悪く、診断がつかないということが度々ありました。そのような症例でもperflutorenを使えば、収縮期の壁厚変化や心内膜の運動をより正確に評価できます。微小気泡造影剤は、血栓など異常構造物の描出にも有用です。図に示したのは、左室内に多数の小血栓を認めた症例です。perflutoren使用前は、解像度が悪く、心尖部は左室心内膜側の辺縁すらしっかり描出できません。perflutoren使用後は、左室心内膜側の辺縁が明確になり、血栓も容易に検出できています。 なお、perflutorenなどの第2世代微小気泡造影剤は、心内シャントが確認されている症例では、微小マイクロスフェアが細動脈にトラップされる可能性があるため、禁忌となっています。そのためperflutoren使用前に生理食塩水を使用したバブルテストを行い、心内シャントの存在を除外することが必要となります。私が日本にいた頃は、同じく第2世代であるレボビストが使用されていましたが、日本心エコー図学会によると供給が停止しており、日本で使用できる微小気泡造影剤の入手が難しいようです(参考:日本心エコー図学会 Q&A http://www.jse.gr.jp/QA/echo.html)。

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【GET!ザ・トレンド】今後も拡大が予想される新たな疾患概念「IgG4関連疾患」

2015年、Lancet誌のReviewで取り上げられた、本邦発21世紀の新たな疾患概念「IgG4関連疾患」。疾患概念の提唱者であり同Reviewの筆頭著者である東京都立駒込病院 副院長 神澤 輝実氏に、非専門家に向けたIgG4関連疾患の解説をしていただいた。IgG4関連疾患はどのような疾患ですか?一言でいうと、リンパ球とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化によって、全身のさまざまな臓器に腫大や結節などが生じる原因不明の疾患です。膵臓、胆管、涙腺、唾液腺などでの発症が知られていますが、頭からつま先までほぼ全身の臓器や部位が冒されます。罹患した臓器によって症状は異なりますが、概してステロイドが奏効し、治療の第1選択薬はステロイド薬です。以前から存在が知られている疾患の中にも、IgG4関連疾患と判明した、代表的な疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?まず、自己免疫性膵炎です。この疾患は以前から腫瘤形成性膵炎といわれ、特殊な膵炎として捉えられていましたが、IgG4関連疾患であることがわかりました。両側の涙腺や唾液腺が腫れるミクリッツ病、片側の唾液腺が腫れるキュットナー腫瘍、昔から知られているこれらの疾患も最近になってIgG4関連疾患であることがわかりました。また、原発性硬化性胆管炎(PSC)のうち高齢者が罹患するケース、以前から原因不明とされていた後腹膜線維症(オルモンド病)の一部もIgG4関連疾患だということがわかりました。さらに、未解明な部分も多いですが、橋本病、大動脈瘤、冠動脈瘤、下垂体炎の一部も、IgG4が関連しているのではないかといわれています。Lancet誌という高インパクトファクターの国際的医学誌にReviewが掲載されました。これは、世界的に意義が認められたということですね。世界的にみても、まさにトピックスだったのだと思います。Lancetに日本人の論文が載ることは少ないのですが、今回は多くのページを割いています。IgG4関連疾患は、新しい疾患概念であるとともに、全身の臓器に関連します。つまり、臓器横断的にすべての医療者に関係するのです。さらに、不要な医療が提供されていたことも1つの要因だと思います。米国では膵切除された2~2.5%が自己免疫性膵炎だったという報告があります。IgG4関連硬化性胆管炎などは、ステロイド以外の治療で臓器機能障害にまで悪化してしまう例もみられていました。このようなことから、世界的にも、広く知ってもらうべき疾患という判断から取り上げられたのだと思います。とはいえ、私がこの疾患概念が提唱したのが2003年、世界的に注目され出したのは2000年代後半からです。まだ発展途上の疾患だといえるでしょう。IgG4関連疾患は全身にわたる疾患ですので、非専門医の先生方も実地診療で遭遇することがあると思います。患者さんを見逃さないためのポイントを教えていただけますか?まず一般的に高齢者に多くみられることです。そのほか画像所見以外のポイントとしては、男女の罹患率がほぼ同じであるIgG4関連涙腺・唾液腺疾患以外のIgG4関連疾患では、男性の比率が高いIgG4関連疾患の結節は、あまり痛みがなく固い病変が多発するため、他臓器に発症していることもある血液検査では、約半分でIgGが高値となり、抗核抗体、リウマチ因子などが3~4割で陽性になる線維化、細胞浸潤があるが、生検してもがん細胞は出てこないといったことが特徴です。いくつかのIgG4 関連疾患で診断基準を設けていますので、ご参照いただきたいと思います(希少疾病ライブラリ「IgG4関連疾患」参照)。また、その際は、できる限り組織診断を加えて、類似疾患との鑑別をしていただきたいと思います。自己免疫膵炎の画像診断のポイントですが、自己免疫膵炎は膵臓がんと異なり、造影剤を用いたCTでは時間の経過により正常の膵臓と同様に染まってきます。ERP(内視鏡的逆行性膵管造影)所見も自己免疫膵炎に特徴的な主膵管不整狭細像を提示します。IgG4関連硬化性胆管炎では、原発性硬化性胆管炎が鑑別として重要となってきます。IgG4関連硬化性胆管炎では下部胆管の狭窄が多く、また限局した胆管の狭窄であり、その上流への胆管に拡張を認めるといった特徴があります。診断がついた後、非専門医がフォローするケースも多いと思いますが、その際役に立つポイントについて教えていただけますか?IgG4関連疾患におけるステロイド治療の適応は、一般的には有症状例です。しかし、悪化せず経過する例や自然に治癒する例もありますので、症状が軽い場合は経過観察するケースもあります。ステロイド治療についてですが、ほとんどの例が服薬でいったん改善します。しかし、ステロイドの減量中あるいは中止後に、2~3割の例が再燃します。再燃は、現病巣と違う臓器や部位に起こることもあります。そこで、再燃予防に少量のステロイドを比較的長期に服用していただきます。ステロイド治療開始後も画像上の改善が不十分な例や、血中IgG4の高値が持続する場合は、再燃することが多いため注意が必要です。こういったケースに遭遇した場合は、専門医に相談いただければと思います。ステロイド以外の治療法も開発されているのでしょうか?患者さんは高齢者が多いため、ステロイドを離脱する方向で治療していくのですが、再燃するとステロイド投与量が多くなりますし、離脱しにくくなってしまいます。欧米ではそういった例に対して、免疫抑制薬やリツキシマブを用いることもあります。日本では認可されていませんが、今後、検討されていくことになるでしょう。非専門医の先生方へメッセージをお願いします※IgG4関連疾患は2015年7月、医療費助成対象疾病の指定難病(指定難病300)となり、公費負担の対象となった。Kamisawa T, et al. IgG4-related disease. Lancet. 2015;385:1460-1471.

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ドライアイの涙点プラグ、製品間で保持率に差

 涙点プラグは中等症~重症ドライアイの症状を改善するが、製品によって保持率に差があることが、カナダ・クイーンズ大学のAshley R. Brissette氏らが行った無作為化二重盲検比較試験で明らかとなった。シリコン製のスーパーフレックスプラグ(米国イーグルビジョン社)とParasol(米国オデッセイ メディカル社)を比較したもので、6ヵ月後の保持率は後者が有意に高かった。「この結果は、中等症~重症ドライアイについて安全で効果的な涙点プラグ治療を受けるために患者の意思決定に役立つだろう」と著者はまとめている。American Journal of Ophthalmology誌2015年8月号(オンライン版2015年5月18日号)の掲載報告。 研究グループは、クイーンズ大学 Hotel Dieu Hospital単施設にて試験を行った。対象は中等症~重症ドライアイ患者50眼で、スーパーフレックスプラグ群またはParasolプラグ群に無作為化した。 主要評価項目は6ヵ月後のプラグ保持率、副次評価項目はシルマーI法(mm)、涙液メニスカス高(mm)、涙液層破壊時間(BUT)(秒)、フルオレセイン角膜下側染色スコア(米国立眼研究所[NEI]スケール)、リサミングリーン結膜染色平均スコア(NEIスケール)であった。 主な結果は以下のとおり。・6ヵ月後のプラグ保持率は、Parasol群68%、スーパーフレックス群32%で、有意差が認められた(p=0.011)。・6ヵ月後の人工涙液使用は、Parasol群で少なかった(p=0.024)。・どちらの群も、結膜染色を除きすべての副次評価項目は6ヵ月後に有意な改善を認めた。・プラグ保持率以外に、群間で有意差がみられたものはなかった。

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感度、特異度の話(その3)【Dr. 中島の 新・徒然草】(085)

八十五の段 感度、特異度の話(その3)前回、前々回は、突然の激しい頭痛で来た患者さんを診たら、たとえ頭部CTで出血を認めなかったとしても、安易に帰してはならない、というお話でした。というのは、事前確率(頭部CT撮影前にクモ膜下出血であると見込んだ確率)を80%とした場合、感度90%、特異度95%の検査を行って陰性であったとしても、事後確率が約30%になり、否定しきれないからです。安易に帰してはならないのであれば次の一手はどうするのか、というのが実習に来ていた医学生への質問です。 中島 「次の一手は5つ。君ならどうする?」 学生 「脳動脈瘤を探すために脳血管造影でしょうか」 中島 「いやいや、とりあえず自分の能力の範囲でどうするか、という話や」 学生 「どうしたもんでしょうか」 中島 「3D-CTA(三次元CT血管造影)なら、造影剤を静脈注射するだけで血管を描出することができるから特殊な技術は不要。だから3D-CTAで脳動脈瘤を探すというのが1つのオプションになる」 学生 「なるほど」 16列や64列のCTなら、3D-CTAで小さな脳動脈瘤を見つけ出すことができます。 中島 「他にないかな」 学生 「MRIはどうでしょう」 中島 「正解! ただし撮像法はどうする?」 頭部MRIを撮影するときには、正しい撮像法を選択しなくてはなりません。 学生 「MRA(MR血管撮影)でしょうか」 中島 「それも1つの方法やな。他には?」 学生 「う~ん」 確かに、MRAで脳動脈瘤の有無を確認するというのも1つの方法です。そのほかにクモ膜下腔に広がったわずかな血液を見つけ出そうという方法も考えられます。 中島 「髄液に混ざった少量の血液を見つけ出すためには、髄液が黒、血液が白になる撮像法で両者の間にコントラストをつけるといいわけ。そうすると?」 学生 「わかりません」 中島 「FLAIR(Fluid-Attenuated Inversion Recovery)という方法やと、髄液が黒、血液が白になるので、少量のクモ膜下出血がよくわかる」 学生 「なるほど」 MRIではターゲットと背景との間にコントラストをつけることが重要です。ターゲットも白、背景も白だったらコントラストがつきません。 中島 「ということは、逆に髄液を白、血液を黒で描出する撮像法でもエエわけや」 学生 「そうですね。どのような撮像法でしょうか?」 中島 「T2*強調画像(T2スター強調画像)がそれに当たるわけ」 学生 「おおーっ!」 T2*強調画像も少量の血液を検出するのに適した撮像法です。 中島 「ということで、MRIを撮影する場合にはMRA、FLAIR、T2*強調画像なんかを撮影するとCTの情報を補うことができる」 学生 「覚えておきます」 中島 「とはいえ、夜間休日にはMRIを撮影できないとか、そもそもMRIがない施設もたくさんあるよな。そんな場合はどうしたらいいかな?次の一手、その3や」 学生 「どうしたらいいのでしょうか?」 中島 「ヒントは、『針1本でできる』ことや」 学生 「針1本?」 中島 「そや。MRIなんかなくても針1本で可能。どんな田舎の診療所でもできることやぞ」 次の一手に唯一の正解があるわけではありません。あくまでも診療の場のセッティングの中でできることに限られます。まだまだ続くので、とりあえず1句MR(エムアール) 生かすも殺すも 撮像法

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第22回

第22回:成人の頸部リンパ節腫脹について監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 プライマリケアの現場で、頸部リンパ節腫脹はそれ自体を主訴に受診する場合のほか、急性疾患に罹患して受診した際に気付かれる、時に見られる症候の一つです。 生理的な範疇なのか、反応性なのか、それとも悪性なのかの区別をつけることが、臨床的には重要になります。 以下、American Family Physician 2015年5月15日号1)より原則として、経過が急性・亜急性・慢性かで鑑別を考える。急性【外傷性】外傷性の場合、組織や血管系の損傷による。少量であれば自然軽快するが、大きく、急性に増大する場合はすぐに処置や外科的精査を要する。剪断力が追加されると偽性動脈瘤の形成・動静脈瘻の形成につながる。その場合はスリルや雑音を伴った柔らかい、拍動性腫瘤として触れる。【感染・炎症性】最も多い原因である。歯や唾液腺のウイルス・細菌によるものが代表的である。性状は腫脹、圧痛、発赤や熱感を伴う。可動性がある。ウイルス性の上気道症状は1~2週続くことが一般的だが、リンパ節腫脹は上気道症状改善後3~6週以内に治まってくることが多い。そのため、上気道症状改善後にも頸部腫脹が続くことで心配して受診する患者さんもいる。病原ウイルスはライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザが多い。生検が適応になるのは、4~6週経っても改善しなかったり、夜間の寝汗・発熱・体重減少・急速な腫瘤増大といった悪性を示唆する所見があったりする場合である。よって、この点について病状説明を行うべきと考える。細菌性感染では、頭部・頸部がフォーカスの場合に主に頸部リンパ節腫脹を来す。肺外結核も頸部リンパ節腫脹を起こす。びまん性、かつ両側性にリンパ節腫脹があり、多発し、可動性もなく、硬く圧痛もなく、胸鎖乳突筋より後ろの後頸三角地帯に存在していることが特徴である。疑えば、ツベルクリン反応を行うべきだが、結果が陰性だからといって否定はできない。亜急性週~月単位の経過で気付かれる。ある程度は急速に増大しうるが、無症候性に増大するため発症スタートの段階では気付かれない。成人で持続する無症候性の頸部腫瘤は、他の疾患が否定されるまでは悪性を考えるべきである。喉頭がんなどでは診断が遅れる事で生存率が下がるため、家庭医にとって頭頸部がんの一般的な症状については認識しておくことが最重要である。【悪性腫瘍】頭頸部の原発性悪性腫瘍で最も多いのは上気道消化管の扁平上皮がんである。よくある症状としては、改善しない潰瘍・構音障害・嚥下障害・嚥下時痛・緩いもしくは並びの悪い歯・咽頭喉頭違和感・嗄声・血痰・口腔咽頭の感覚異常がある。悪性疾患を示唆するリンパ節の性状は、硬い・可動性がない・表面不整であることが多い。上気道消化管がんのリスクファクターとしては、男性・アルコール・タバコ・ビンロウの実(betel nut:東南アジアではガムを噛むようによく使用されている)である。口腔咽頭がんのリスクファクターは頭頸部扁平上皮がんの家族歴・口腔衛生不良である。扁平上皮がんの一部はヒトパピローマウイルス感染との関連も指摘されている(とくにHPV-16がハイリスク)。病変は急速に腫大し、嚢胞性リンパ節(持続性頸部リンパ節過形成)、口蓋・舌扁桃の非対称性、嚥下障害、声の変化、咽頭からの出血といった症状を来す。集団としてリスクが高いのは、35歳~55歳の白人男性で喫煙歴・重度のアルコール常用者・多数の性交渉相手(とくにオーラルセックスを行っている場合)の存在である。唾液腺腫瘍の80%近くが良性であり、耳下腺由来である。これらの腫瘍は一側性で無症候性、緩徐に増大し可動性のある腫瘤である。一方、悪性腫瘍では、急速増大、可動性がなく、痛みを伴い、脳神経(とくにVII)も巻き込むという違いがある。黒色腫のような皮膚がんもまた局所のリンパ節に転移する。局所のリンパ節腫脹を説明しうる原発の頭頸部がんが存在しない場合、臨床医は粘膜に関わる部位(鼻・副鼻腔・口腔・鼻咽頭)の黒色腫を検索するべきである。まれに基底細胞がんや扁平上皮がんからの転移でリンパ節腫脹を来すこともある。発熱、悪寒、夜間寝汗、体重減少といった全身症状は遠隔転移を示唆しうる。頸部リンパ節腫脹を来す悪性腫瘍の原発部位は肺がん、乳がん、リンパ腫、子宮頸がん、胃食道がん、卵巣がん、膵がんが含まれる。頸部はリンパ腫の好発部位であり、無痛性のリンパ節腫脹で出現して急速に進行し、その後有痛性へと変わる。びまん性のリンパ節腫脹や脾腫よりも先に全身症状が出現することが多い。転移によるリンパ節腫脹と比べ、リンパ腫の性状は弾性軟で可動性がある。Hodgkinリンパ腫では二峰性の年齢分布(15~34歳、55歳以上)があり、節外に症状が出る事はまれである。Non-Hodgkinリンパ腫では高齢者で多く、咽頭部の扁桃輪のようにリンパ節外にも症状が出る。リウマチ性疾患では唾液腺腫大を来すのは3%、頸部リンパ節腫脹を来すのは4%存在する。唾液腺腫大や頸部リンパ節腫大を来すリウマチ性疾患にはシェーグレン症候群やサルコイドーシスがある。慢性小児期から存在する先天性腫瘤がほとんどで、緩徐に進行し成人になっても持続している。慢性の前頸部腫瘤の原因として最も多いのは甲状腺疾患であるが、進行が緩徐であることがほとんどである。びまん性に甲状腺腫大がみられた場合、バセドウ病・橋本病・ヨード欠乏による可能性があるが、甲状腺腫を誘発するリチウムのような物質曝露によるものも考える。傍神経節腫は神経内分泌腫瘍で、側頸部の頸動脈小体の化学受容体・頸静脈・迷走神経を巻き込む。通常無症候性だが、機能性になる時はカテコラミン放出の結果として顔面紅潮・動悸・高血圧を起こす。診断的検査は血漿もしくは24時間蓄尿でカテコラミン・メタネフリンを測定する事である。診断手段成人の持続する頸部腫瘤に対しては、まず造影CTを選択する。大きさ・広がり・位置・内容などに関して評価しうる初期情報が得られるためである。加えて、造影剤は腫大していない悪性リンパ節を同定する助けにもなり、血管とリンパ節の区別の一助になりうる。造影CTでの精査は頸部腫瘤の評価に対しては第1選択として推奨される。しかし、ヨードを用いた造影剤検査は甲状腺疾患の病歴のある、もしくは転移性甲状腺がんの心配のある患者へは避けるべきである。PET-CTは予備的診断として使用するには効果的でなく、悪性腫瘍の最終的な評価目的で使用すべきである。超音波検査はCTの代わり、もしくは追加で行われるとき、嚢胞性疾患と充実性疾患との区別に有用であり、結節の大きさや血流の評価にも有用である。CTと超音波の使い分けとして、より若年で放射線被曝を減らしたい場合に超音波を選択する。また、造影剤腎症を避けるために腎疾患が基礎疾患にある方へは造影剤使用を控える。FNAB(fine needle aspiration biopsy:穿刺吸引生検)については、施行に当たり重要な構造物を含んでいないことが確認できていれば進めていく。FNABでは、細胞診、グラム染色、細菌培養、抗酸菌培養を通じて得られる情報が多い。FNABでの悪性腫瘍診断については、感度77~97%、特異度93~100%である。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) James Haynes, et al. Am Fam Physician. 2015; 91: 698-706.

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よくある話【2】見えなかったリスクに対する過小評価:カテ前出血リスクの定量的評価(解説:香坂 俊 氏)-377

われわれはどうも昔から「見えないところ」の評価であっても、自分たちの経験による見立てはそれほど大きく的をはずさない、と考えるようである。今回は、冠動脈インターベンション(PCI)の合併症の予測に関する話題であるが、この手技には穿刺に伴う出血や造影剤使用による腎症といった問題点がつきまとう。そうした合併症を誰が起こしやすく、誰が起こさないのかということは、医師の評価の「正しさ」に関わる事象であり、これまでその領域があまり問題視されたことはなかった。John Spertus氏は、これまでそうしたリスク評価について、循環器分野で先駆的な役割を果たしてきた。そのSpertus氏がこれまでの集大成として提示したのが今回BMJ誌に掲載された論文である。扱われている内容はPCIに伴う出血の予測である。米国にはbivalirudinという、わが国のアルガトロバン(商品名:スロンノン)に近いトロンビン阻害薬が存在し、このbivalirudinはPCIに際し標準治療よりも出血率を下げることができる、とされている。ただ高額な薬剤であり、症例を選んで使わなくてはならない。Spertus氏がまず提示したのは、そのbivalirudinの使用率である。その使用率を客観的に計算された出血リスクに応じて振り分けたのが下図となる。わかりにくいかもしれないが、1本1本の曲線が各ドクターのbivalirudin使用率を示していて、人によって使い方がさまざまであることがおわかりいただけるかと思う。ただ、注目すべきは、ドクターによってはリスクが低い患者にbivalirudinを多く使用し、リスクが高い患者に使用していないといった傾向がみられるというところである(赤矢印方向)。これは本来のbivalirudinの用途からすると合目的ではない。そこで、Spertus氏は各施設にその客観的に計算された出血リスクを提示し、PCIの同意書に強制的にその数値を印刷する、という介入を行った。すると、その結果として、bivalirudinの使用は以下のように変化した。右上がりの曲線(赤矢印方向)が多くみられるようになり、bivalirudinの使用がその目的に沿ったものとなっていることがうかがえる。リスクの提示でここまで医師の判断や行動が変化するということも驚きであるが、この研究の成果はこれだけにとどまらない。上の図は、客観的に計算された出血リスクが同意書に提示されるようになる前後での実際の出血率を表したものである。グラフ右側に注目していただきたいが、高リスク患者における出血率が劇的に改善している。幾多もの薬剤、そしてデバイスの進歩よりも明確な「予後改善効果」がここには示されており、この分野注)での画期的な成果として特筆すべきことと(自分には)思われる。おそらく、これからの医療はデータを積極的に活用する時代を迎え、こうしたリスク計算なしには成立しえない方向に向かっていくであろう。好むと好まざるとにかかわらず、それが患者さんの安全の担保につながるからである(定量的なリスク評価なしに手技や手術に踏み込むことは、海図を持たずに航海に出るに等しい)。そのランドマークとなる発見がここにあった、といつの日かいわれる時がくるのではないか。注:Spertus氏はこうした研究分野を好んでOutcome Researchと呼び、米国では今後臨床研究はTranslational Research、Clinical Trial、そして Outcome Researchの3つに分かれていくと多くの研究者が考えている。

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