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肺がん二次治療のマイルストーンになる試験かもしれない(解説:倉原 優 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(222)より-

肺がん領域における抗体医薬品といえば、セツキシマブやベバシズマブを思い浮かべる方も多いだろう(ただし現在セツキシマブは日本の肺がん診療で用いられていない)。 さて、このラムシルマブという抗がん剤も抗体医薬品である。ラムシルマブは胃がんの世界ではよく知られている。というのも、胃がんの2次治療において単剤使用(REGARD試験)1)あるいはパクリタキセルとの併用(RAINBOW試験)2)にて全生存期間を有意に延長することがすでに示されているからである。 では、肺がんの2次治療ではどうだろうかと検証したものがこのREVEL試験である。実臨床における肺がんの2次治療では、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を除くとドセタキセルやペメトレキセドといった薬剤を使用することが多い。ラムシルマブを使用することでその上乗せ効果が期待されるというのである。この研究デザインの特筆すべき点は、扁平上皮がん・非扁平上皮がんの両方を含んでいることである。ベバシズマブのように扁平上皮がんの患者は除外されていないのである。 REVEL試験の結果、肺がんの治療効果に関わる指標のいずれもがラムシルマブ併用群で有意に良好であったという結果が得られた。全生存期間のインパクトは決して強いとはいえないハザード比ではあるものの、ベバシズマブとは異なり扁平上皮がんに対しても効果が認められていることから、肺がん診療における臨床的意義は極めて大きいと考える。また、全生存期間の延長だけでなく忍容性も高かったことは注目に値する。 過去のセツキシマブにおけるFLEX試験3)で有意な結果が得られたものの、その後承認には至っていないことを考えると、同じ抗体医薬品であるラムシルマブも肺がんの治療選択肢としてすぐに用いられるようになるかどうかは現時点では不明である。ただ、QOLを低下させることなく生存期間を伸ばすことができる薬剤の登場は、固形がんの診療において望ましいことである。将来的にベバシズマブとラムシルマブのどちらを使うかという命題が出てくる可能性があるほど、個人的に期待したい薬剤である。

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ホルモン療法未施行前立腺がん患者に対するエンザルタミドの効果

 エンザルタミドは、ドセタキセル投与後進行例の去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対して承認されている抗アンドロゲン受容体阻害剤である。この試験では、ホルモン療法未施行患者群に対する、エンザルタミド単独使用の効果と安全性の評価を目的としている。オープンラベル、シングルアームの第II相試験で、ヨーロッパの12施設で行われた。対象は、テストステロン未去勢レベル、PSA2ng/ml以上、PS=0のホルモン未治療の前立腺がん患者。これらの対象患者に、エンザルタミド160mg/日を連日投与し、25週におけるPSAが80%以上減少患者の割合をプライマリエンドポイントとしている。ベルギー ルーヴァン・カトリック大学Tombal氏らの研究。Lancet Oncology誌2014年5月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・67例中62名92.5%(95%CI:86.2-98.8)で、25週における80%以上のPSA減少を認めた。・おもな有害事象として、女性化乳房24例、倦怠感23例、乳頭痛13例、ホットフラッシュ12例を認めた(いずれも軽度から中程度)。・Grade3以上の有害事象は、肺炎2例、高血圧4例(その他はいずれも1例)であった。 この試験の結果から、エンザルタミドはホルモン未治療の前立腺癌患者に対しても、一定程度の進行抑制と忍容性を有することが認められた。今後の非去勢前立腺癌に対する、さらなる研究が期待される。■「前立腺がんホルモン療法」関連記事ホルモン療法未治療の前立腺がん、ADTにアビラテロンの併用は?/NEJM

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Stage IV非小細胞肺がんの2次治療におけるラムシルマブの有用性/Lancet

 ラムシルマブ(国内未承認)+ドセタキセル併用療法は、Stage IV非小細胞肺がん(NSCLC)の2次治療において生存期間を有意に延長し、ラムシルマブ追加によるQOLの増悪も認めないことが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のEdward B Garon氏らが行ったREVEL試験で示された。ラムシルマブは、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)-2の細胞外ドメインを標的とするヒトIgG1モノクローナル抗体で、すべてのVEGFリガンドの結合と受容体の活性化を阻害する。本薬剤は、進行胃がんの2次治療に関する2つの第III相試験で、単剤またはパクリタキセルとの併用で生存期間を有意に改善することが示されている。Lancet誌オンライン版2014年6月2日号掲載の報告。ラムシルマブ上乗せの有用性を無作為化試験で評価 REVEL試験は、Stage IV NSCLCに対する2次治療としてのラムシルマブ+ドセタキセル療法の有用性を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢18歳以上、プラチナ製剤ベースの化学療法による1次治療中または終了後に病勢が進行した扁平上皮がんまたは非扁平上皮がん患者であった。 患者は、性別、地域、全身状態(PS)、前維持療法の有無で層別化され、1サイクル(21日)の第1日にラムシルマブ(10mg/kg)+ドセタキセル(75mg/m2)を投与する群またはプラセボ+ドセタキセル(75mg/m2)を投与する群に無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行、許容されない有害事象、患者の希望による治療中止、死亡のいずれかのイベントが起きるまで継続された。 主要評価項目は全生存期間(OS)とし、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効率(ORR)とし、有害事象、QOLの評価も行った。2次治療でとくに重要となる上乗せに伴う総QOLの増悪はなかった 2010年12月3日~2013年1月24日までに、6ヵ国26施設から1,253例が登録され、ラムシルマブ群に628例(年齢中央値62歳、男性67%)、プラセボ群には625例(61歳、66%)が割り付けられた。東アジア人(韓国、台湾)が各群に7%ずつ含まれた。データのカットオフ日(2013年12月20日)までに884例が死亡した(打ち切り率は29%)。 OS中央値は、ラムシルマブ群が10.5ヵ月であり、プラセボ群の9.1ヵ月に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.75~0.98、p=0.023)。また、PFS中央値はラムシルマブ群が4.5ヵ月、プラセボ群は3.0ヵ月で、やはり有意差を認めた(0.76、0.68~0.86、p<0.0001)。 担当医判定によるORR(完全奏効[CR]+部分奏効[PR])は、ラムシルマブ群が23%と、プラセボ群の14%よりも有意に良好であった(オッズ比[OR]:1.89、95%CI:1.41~2.54、p<0.0001)。また、病勢コントロール率(DCR、CR+PR+安定[SD])は、それぞれ64%、53%であり、有意差を認めた(1.60、1.28~2.01、p<0.0001)。扁平上皮がんと非扁平上皮がんのORR、DCRは全体の成績と同等であった。 治療関連有害事象は、ラムシルマブ群の98%(613/627例)、プラセボ群の95%(594/618例)に発現した。最も高頻度に認められたGrade 3以上の有害事象は、好中球減少(ラムシルマブ群:49%、プラセボ群:40%)、発熱性好中球減少(16%、10%)、疲労感(14%、10%)、白血球減少(14%、12%)、高血圧(6%、2%)であった。 治療関連有害事象による死亡(5%[31例]、6%[35例])およびGrade 3以上の肺出血(1%[8例]、1%[8例])の頻度は両群間に差はなかった。毒性は適切な減量や支持療法で管理可能であった。 著者は、「ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法は、Stage IV NSCLC患者の2次治療において生存期間を改善した」とまとめ、「プラチナ製剤ベースの1次治療が無効であった進行NSCLC患者の2次治療におけるVEGFRを標的とする治療法の有用性を示すエビデンスが得られた。また、新規のがん治療法のリスク・ベネフィット評価では、とくに2次治療においては緩和的効果をも考慮する必要があるため、QOL評価が重要となるが、ラムシルマブを追加しても、患者の自己申告による総QOLの増悪は認めなかった」と考察している。

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進行非小細胞肺がんの2次・3次治療におけるエルロチニブとドセタキセルの比較

 既治療のEGFR変異不特定の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者における、エルロチニブとドセタキセルの有効性を評価したDELTA試験の結果が、国立病院機構近畿中央胸部疾患センターの川口 知哉氏らにより報告された。同試験は、国内で行われた第III相無作為化試験である。Journal of Clinical Oncology誌 2014年5月19日号の掲載報告。 主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)、副次的エンドポイントは、全生存期間(OS)、奏効率、安全性、またEGFR野生型腫瘍に対する効果についても検討している。対象は既治療(1または2レジメンの化学療法治療歴あり、ドセタキセルおよびEGFR-TKIは未使用)、IIIBまたはIV 期かつECOG PSが0~2の非小細胞肺がん患者。 主な結果は以下のとおり。・2009年8月から2012年7月まで、エルロチニブ群(150mg/日)150例とドセタキセル群(3週毎に60mg/m2)151例に無作為割り付けされた(そのうちEGFR野生型:エルロチニブ群109例、ドセタキセル群90例)。・全体におけるPFS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、2.0ヵ月、3.2ヵ月であった(HR 1.22、95%CI:0.97~1.55、p=0.09)。・全体におけるOS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、14.8ヵ月、12.2ヵ月であった(HR 0.91、95%CI:0.68~1.22、p=0.53)。 EGFR野生型のサブセット解析では・PFS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、1.3ヵ月、2.9ヵ月であった(HR 1.45、95%CI:1.09~1.94、p=0.01)。・OS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、9.0ヵ月、10.1ヵ月であった(HR 0.98、 95%CI:0.69~1.39、p=0.91)。

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トラスツズマブ・アントラサイクリン併用は乳がん患者の心機能に影響を及ぼすか 

 HER2陽性乳がんにおけるトラスツズマブとアントラサイクリンレジメン併用の有効性は明らかになっている。一方、トラスツズマブ、アントラサイクリンは双方とも心毒性を有するが、その併用による心毒性を抑える方法については依然明らかになっていない。姫路赤十字病院乳腺外科の渡辺 直樹氏は、トラスツズマブとアントラサイクリン併用による心臓への忍容性について検討した。Breast Care (Basel)誌 2014年2月9日号の掲載報告。 2010年から2013年までの期間に、weeklyパクリタキセル→3週毎FEC(エピルビシン75mg/m2、フルオロウラシル、シクロホスファミド)+weeklyトラスツズマブを投与したHER2陽性乳がん(H+群)41例と、weeklyパクリタキセル→FEC100(トラスツズマブなし)を投与したHER2陰性(H-群)57例の2群で左室駆出率(LVEF)を比較した。LVEFは心エコー検査を用い、治療開始時、weeklyパクリタキセル施行後、FEC施行後に評価した。 主な結果は以下のとおり。・LVEFはH+群で、63.2%から60.9%へ減少(p=0.030)、H-群では63.9%から61.9%へ(p=0.009)減少した。・2群間のLVEF減少率は有意差を示さなかった(0.968 vs 0.978:NS, p=0.6457)。・重篤な心毒性またはうっ血心不全はどちらの群の中にもみられなかった。 3週毎エピルビシン75mg/m2とトラスツズマブの併用は、術後補助療法において心臓の忍容性低下を示さなかった。

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カルボプラチン+パクリタキセルは3週ごと?毎週?:進行卵巣がん(MITO-7試験)

 3週ごとカルボプラチン+パクリタキセル(3wCP)は、進行卵巣がん患者の一次治療標準療法である。一方、毎週パクリタキセル+ 3週ごとカルボプラチン療法は、日本の第III相試験で無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を延長している。本研究は、イタリアのSandro Pignata 氏らにより、毎週カルボプラチン+パクリタキセル(wCP)の3wCPと比較した有効性を評価することを目的に行われた。The Lancet Oncology誌2014年4月15日号(オンライン版2014年2月28日号)の掲載報告。 試験は、多施設無作為化オープンラベル第III相試験として、イタリアとフランスの67施設で行われた。FIGOステージIC-IV期の卵巣がん患者は、3wCP(カルボプラチンAUC 6mg/mL/分+パクリタキセル175mg/m2)6サイクル群とwCP(カルボプラチンAUC 2mg/mL/分+パクリタキセル60mg/m2)18週群に無作為に割り当てられた。プライマリエンドポイントはPFSとQOL(FACT-O/TOIスコアにて評価)であった。分析はintention to treatで行われた。 2008年11月20日から2012年3月1日の間に822例の患者が登録された。分析適応は810例で、404例が3wCP群に、406例がwCP群に割り当てられた。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値22.3ヵ月で、無増悪生存は449例であった。・PFS中央値は、3wCP群、wCP群でそれぞれ17.3ヵ月(95%CI:15.2~20.2)、18.3ヵ月(95%CI:16.8~20.9)であり、ハザード比は 0.96(95%CI:0.80~1.16、p=0.66)であった。・QOL(FACT-O/TOIスコア)は、3wCP群では各サイクルごとに悪化したが、wCP群では1週目に一時的に悪化したものの、その後は安定しており、2群間に有意な差があった(treatment by time interaction p<0.0001)・好中球減少(グレード3~4)は、3wCP群、wCP群でそれぞれ200/400例(50%)、167/399例(42%)。発熱性好中球減少症はそれぞれ11例(3%)、2例(0.5%)であった。・血小板減少(グレード3~4)は、3wCP群、wCP群でそれぞれ27例(7%)、4例(1%)であった。・神経障害(グレード2以上)は、3wCP群、wCP群でそれぞれ68例(17%)、24例(6%)であった。

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進行NSCLC1次治療のプラチナダブレット:VNR+CDDP vs DTX+CDDP

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、VNR+CDDP(VC療法)とDTX+CDDP(DC療法)の効果の同等性については議論の残るところである。中国・安徽省立医院のGuodong Shen氏らは、進行NSCLCの1次治療におけるVCとDC療法の比較を目的としてメタアナリシスを行った。Molecular and Clinical Oncology誌2014年1月2日号の掲載報告。 論文は、PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)、EMBASE、Chinese Biomedical Literature database(CBM)を通し2013年5月分まで検索され、9件の無作為比較試験(総患者数1,886例)が分析された。エンドポイントは、全奏効率、生存率と毒性であった。 主な結果は以下のとおり。・奏効率はDC群で有意に高かった(RR=0.83、95%CI:0.73~0.95、p=0.007)。・2年生存率はDC群で有意に高かった(RR=0.65、95%CI:0.50~0.84、p=0.001)。・1年生存率は同等であった(RR=0.90、95%CI:0.81~1.01、p=0.07)。・毒性については、VC群でグレード3/4の白血球減少(OR=1.26、95%CI:1.02~1.54、p<0.05)、貧血(OR=3.40、95%CI:2.42~4.76、p<0.05)、嘔吐(OR=1.58、95%CI:1.14~2.20、p<0.05)が多く、DC群でグレード3/4の下痢が多かった(OR=0.31、95%CI:0.18~0.55、p<0.0001)。グレード3/4の好中球減少、血小板減少、悪心については両群間で有意な差はなかった。 DC療法がVC療法と比較してQOLを改善するというエビデンスはないが、このメタアナリシスではDC療法の進行NSCLCの1次治療としての利点が示された。近年、がん細胞シグナル伝達研究の進化により、分子標的治療が新たな治療選択肢として現れた。著者らは、将来、これらのレジメンは標的治療を追加する際の潜在的プラットフォームとなる可能性があるとしている。

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第55回米国血液学会(ASH 2013)トレンドビュー 血液腫瘍治療の最新知見

第55回米国血液学会(American Society of Hematology 2013)が2013年12月7~10日、米国ルイジアナ州ニューオリンズにて開催された。同学会の内容から血液腫瘍治療の最新のトレンドを、がん研究会有明病院 血液腫瘍科部長/がん化学療法センター臨床部部長の畠 清彦氏に聞いた。iPS細胞研究と次世代シーケンス導入今回のASHでは、まずiPS細胞の基礎研究の広がりが印象的であった。iPS細胞の臨床応用にはまだ時間を要するが、血液系の分化・増殖という方向への展開が明確にみられた。また、次世代シーケンスの導入の活発化も最近の特徴であろう。治療の前後や治療抵抗性時における遺伝子の発現状況の比較や、急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)などにおける遺伝子異常の解析が盛んに進められている。この流れはしばらく続くと予測される。急性骨髄性白血病(AML)AMLについては、有望な新規薬剤のエビデンスの報告はほとんどなかった。印象的だったのは、米国で2010年に販売中止となったゲムツズマブオゾガマイシンの自主研究が着実に進められており、投与スケジュールの変更や減量、他剤との併用により、予想以上に良好な成績が得られていることであった。販売が継続している日本でも、使用機会は減少しているが、工夫の余地は残されていると考えられる。急性リンパ性白血病(ALL)ALLに関しては、フィラデルフィア染色体(Ph)陽性例(ABL-positive)に対するニロチニブと多剤併用化学療法(hyper-CVAD:シクロホスファミド+ビンクリスチン+ドキソルビシン+デキサメタゾン)の第II相試験で良好な成績が報告された。一方、Ph陰性例では有望な新薬は見当たらないが、B細胞性ALLに対するCD19抗体などの検討が進められている。慢性骨髄性白血病(CML)BCR-ABL遺伝子T315I変異陽性CMLの治療において、第3世代ABLキナーゼ阻害薬であるポナチニブの有効性が確認されている。米国では2012年に承認され、日本では現在申請中であるが、2次または3次治療薬として承認される見通しである。ただし、現在、T315I変異の検査が可能な施設は限られており、全国的な検査体制の構築が課題となる。慢性リンパ球性白血病(CLL)CLL領域では、プレナリー・セッションでオビヌツズマブ(GA101)+クロラムブシル(GClb)とリツキシマブ+クロラムブシル(RCbl)のhead-to-headの第III相試験(CLL11試験)の結果が報告された。GA101は糖鎖改変型タイプⅡ抗CD20モノクローナル抗体であり、B細胞上のCD20に選択的に結合し、リツキシマブに比べ抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性が強く、直接的な細胞死の誘導能も高いとされる。結果は、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値が、GClb群で26.7ヵ月と、RCbl群の15.2ヵ月よりも1年近く延長し(p<0.0001)、全生存期間(OS)中央値も良好な傾向がみられた(p=0.0849)。また、経口投与が可能なBurtonチロシンキナーゼ(BTK)阻害薬であるイブルチニブとリツキシマブ+ベンダムスチン(RB)との併用に関する第Ib相試験では、良好な安全性プロフィールが確認されるとともに、奏効率が90%を超え、推定1年PFSも90%に達しており、注目を集めた。現在、イブルチニブ+RBとプラセボ+RBを比較する無作為化第III相試験が進行中である。ONO-4059は、CLLの第I相試験で有望な結果が示されており、これから第II相試験が開始される。そのほか、イデラリシブ、BAY806946、IPI-145などのPI3キナーゼ阻害薬の開発が、今後、どのように展開するかに関心が集まっている。リンパ腫前述のCLLへの有効性が確認された薬剤の多くがリンパ腫にも効果がある可能性が示唆されている。活性化B細胞(ABC)型のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に対するR-CHOPへのイブルチニブの上乗せ効果を評価する第III相試験が開始されている。また、イブルチニブは単剤で再発マントル細胞リンパ腫にも有効なことが示されている。前述の経口BTK阻害薬であるONO-4059は、CLLだけでなく、リンパ腫に対する有用性も示唆されている。また、リンパ腫に対するGA101の検討も進められている。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬では、RAD001やパノビノスタットの検討が進められている。DLBCLについては、胚細胞B細胞(GCB)型に有効な薬剤の開発が課題である。T細胞性リンパ腫では、CD30抗体薬であるブレンツキシマブベドチンの有効性が第II相試験で示され、日本でもまもなく承認が得られる予定である。また、ブレンツキシマブベドチンは未分化大細胞型リンパ腫やホジキンリンパ腫の治療として、多剤併用化学療法への上乗せ効果の検討が進められている。一方、BCL-2拮抗薬であるABT-199(GDC-0199)は、CLLのほか小リンパ球性リンパ腫(SLL)に有効な可能性が第I相試験で示された。骨髄異形成症候群(MDS)MDSの治療では、オーロラキナーゼ阻害薬の進歩がみられたが、その有用性を見極めるにはもう少し時間を要する状況である。多発性骨髄腫多発性骨髄腫の領域では、第2世代プロテアソーム阻害薬であるカーフィルゾミブを中心とする臨床試験が数多く行われている。カーフィルゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(CRd)療法や、カーフィルゾミブ+ポマリドマイド+デキサメサゾン(CPd)療法の第II相試験で良好な成績が報告されていた。また、ダラツムマブなどいくつかの抗CD38抗体薬の開発が進められており、第I相試験で有望な成績が報告されている。さらに、経口プロテアソーム阻害薬であるMLN9708(クエン酸イクサゾミブ)とレナリドミド+デキサメタゾン(Rd)の併用療法は第I/II相試験で良好な成績が示され、現在、MLN9708+RdとRdを比較する第III相試験が進行中である。本試験は開始されたばかりであり、結果を得るには時間を要するが、有望視されている試験の1つである。最後に全体としては、BTK阻害薬のように、対象患者は限られるが有害事象が少ない薬剤を長期的に投与すると、QOLを良好に維持しつつ、徐々にCR例が増加するという状況がみられる。CML治療におけるイマチニブやダサチニブ、ニロチニブに相当する薬剤が、CLLやリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の治療においても確立されつつあるという印象である。ただし、単剤で十分か、他剤との併用が必要となるかは、今後の検討課題である。

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Postneoadjuvant treatment with zoledronate in patients with tumor residuals after anthracyclines-taxane-based chemotherapy for primary breast cancer - The phase III NATAN study (GBG 36/ABCSG XX) -- von Minckwitz G, et al.

術前化学療法後の腫瘍残存例に対するゾレドロン酸の効果 ほか1題ドイツからの報告である。術前化学療法後、腫瘍が残存した症例に対して、ゾレドロン酸使用群と観察群を無作為化割付し、プライマリーエンドポイントとして無再発生存率をみた。ゾレドロン酸(4mg静注)は最初の6回は4週間毎、次の8回は3ヵ月毎、その後の5回は6ヵ月毎に投与した。サンプルサイズは、無再発率が観察群58.0%、ゾレドロン酸群67.2%、α=0.05、β=0.20、脱落5%と仮定して、654例の患者数と316のイベントが必要とされた。最終的に693例がリクルートされ、ゾレドロン酸群343例、観察群350例であった。それぞれ65例、60例が5年未満の観察であり、まだ試験継続中である。エストロゲン受容体陽性(10%以上)は約79%、HER2陽性は約17%であった。結果として無再発生存率、全生存率ともにまったく有意差はなかった。ただし、閉経後では、ゾレドロン酸群で乳癌による死亡率は改善していた(HR=0.83、SE:0.06)。閉経後の定義の記載がなかったので、おそらく術前化学療法と手術後の割付時での評価だと考えられるが、どのように基準を設けていたかは不明である。最終結果はまだであるが、今後大きな変化はなさそうにみえる。次はビスフォスフォネート治療に関するメタ分析の報告であり、こちらがより重要である。Effect of bisphosphonate treatment on recurrence and cause-specific mortality in women with early breast cancer: A meta-analysis of individual patient data from randomized trials -- Coleman R , et al.2012年ASCOでもビスフォスフォネートの術後補助療法に関するメタ分析の結果が2演題報告されていたが、今回はEarly Breast Cancer Clinical Trials Collaborative Group(EBCTCG)'s Bisphosphonate Working Groupから一般演題で採用されていた。現在まで15年にわたり、ビスフォスフォネートの術後補助療法の臨床試験データが蓄積されてきた。これらの臨床試験から、ビスフォスフォネートは局所よりも遠隔転移を主に抑制し、骨転移に対して最大の効果が期待できそうである、女性ホルモン値の低い状況でのみ有効である、閉経前では非骨転移に対しては逆効果である可能性がある、といった仮説が予想される。そこで静注および経口ビスフォスフォネートとプラセボの無作為化比較試験からのデータを収集し、メタ分析を行った。プライマリーアウトカムは再発までの期間と遠隔再発までの期間、そして乳癌関連死である。あらかじめ計画されたサブグループ解析として、再発部位、初発遠隔再発部位(骨とそれ以外)、閉経状態、ビスフォスフォネートの種類、組織学的異型度、ビスフォスフォネートのスケジュール、年齢、エストロゲン受容体、リンパ節転移、ビスフォスフォネートの投与期間、化学療法の有無、各期間毎の再発率が検討された。全36試験(22,982例)のうち、22試験(17,791例、77%)でデータを収集できた。全再発率では有意差はなかったが(p=0.08)、遠隔転移ではビスフォスフォネート使用群で再発リスクが低かった(p=0.03)。遠隔転移のうち骨転移での再発率は有意差がみられたが(p=0.0009)、非骨転移では差がなかった(p=0.71)。局所再発、対側乳癌発生率も差はなかった。閉経後に限ってみると、遠隔転移による再発率(p=0.0003)と骨転移(p

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EC followed by paclitaxel(T) versus FEC followed by T, all given every 3 weeks or 2 weeks, in node-positive early breast cancer(BC) patients(pts). Final results of the Gruppo Italiano Mammella(GIM)-2 randomized phase III study -- Cognetti F, et al.

EC→T vs FEC→T:アンスラサイクリンへの5-FUの上乗せ及びタキサンdose denseの意義イタリアからの報告である。4群の無作為化比較試験(2×2要因計画)であり、リンパ節転移陽性の乳癌術後補助療法としてアンスラサイクリンとタキサンを用いる場合、1つは5-FUをアンスラサイクリンに上乗せすることの意義、もう1つはdose denseの意義を確かめるものである。レジメンとしてはEC(90/600)またはFEC(600/75/600)を4サイクル行った後、タキサンとしてパクリタキセル(P 175)を4サイクル行うものである。A群:EC x 4 → P x 4 q. 3 wB群:FEC x 4 → P x 4 q. 3 wC群:EC x 4 → P x 4 q. 2 w + PegfilgrastimD群:FEC x 4 → P x 4 q. 2 w + Pegfilgrastimプライマリエンドポイントは無再発生存率であり、セカンダリーエンドポイントは全生存率と安全性である。再発と第2の腫瘍、あるいは死亡について、20%のリスク低減が検出(OR=0.8)でき、α=0.05,1-β=0.80と仮定して、平均5.5~9年の観察期間で2,000例の必要症例数で、635例のイベントが要求された。最終的に2,091例が登録された(A:545例、B:544例、C:502例、D:500例)。閉経前後がほぼ半数ずつ、リンパ節転移1~3個が約60%、4~9個約25%、10個以上約15%であった。組織学的異型度はグレード1が6~8%、HER2陽性が20%以上に認められた。ホルモン受容体は約80%で陽性であった。治療完遂率はいずれもほぼ同様で、88~89%であった。EC(A+C)とFEC(B+D)を比較したとき、無再発生存率に差はなかった(p=0.526)。2週毎のdose denseと3週毎のstandardと比較したとき、dose denseのほうが有意に無再発生存率が高かった(p=0.002)。全生存率もdose denseで有意に良好であった。グレード3以上の有害事象は、好中球減少がdose denseに比べstandardで有意に多かったが、貧血はdose denseで有意に多かった。その他はほぼ変わりなかった。これらの結果からアンスラサイクリンとタキサンを逐次投与で併用するとき、5-FUによる生存率改善効果はないようにみえる。逆に5-FUが加わることによって、特有の有害事象が上昇する可能性はある。若干解釈を難しくしているのは、各薬剤の投与量の差である。さらに本邦の多くの施設ではFEC(500/100/500)が用いられており、EC(90/600)と比較するとE10、F500の増加および、C100の減少となる。参考になる過去の報告を挙げてみる。転移性乳癌390例におけるFEC3週毎6サイクルで、投与量500/50/500と500/100/500の比較では、奏効率はE100のほうが良いものの、無増悪生存期間、全生存期間にはまったく差がなかった(Brufman G, et al. Ann Oncol. 1997; 8: 155-162.)。このようなデータも加味すると、FEC(600/75/600、500/100/500あるいは500/50/500など)が、EC(90/600)に対して優越性をもっているとはいえない。タキサンが加わると投与量のわずかな差はさらに意味を持たなくなるだろう。またdose denseの意義であるが、本試験でのコントロールがパクリタキセル3週投与であり、これは標準とはいえない。通常臨床では術後補助療法でも転移性乳癌でもパクリタキセルの12回毎週投与が行われており、そのほうが効果も高いことが知られている(Sparano JA, et al. N Engl J Med.2008; 358:1663-1671. / Seidman AD, et al. J Clin Oncol. 2008;26: 1642-1649.)。そのことから本試験におけるdose denseが、効果面で真に現在のスタンダードレジメンより優れているかどうかは、少なくとも本試験からは不明である。後は治療期間、毒性、コスト、QOL評価も加味して今後の臨床での意義を議論していく必要があろう。過去の報告でも投与薬剤、投与量、投与スケジュールが一定していないため、何ら結論的なことを言うことはできない。本試験とは直接関係ないが、AC(60/600)とEC (90/600)ではどうだろうか。過去に治療効果と毒性の両面からしっかりした大規模な試験は残念ながら存在しない。小規模な臨床試験データを解釈するとエピルビシンのほうが毒性面(心毒性)で若干よいようにもみえるのだが、試験によって投与量や投与スケジュールが異なり、エピルビシンの明らかな優越性も証明できていない。エピルビシンはドキソルビシンに比べ高価であるという事実も加味して、日常臨床での使用を考えることが必要であろう。参考にdose denseに関する論文を2つ紹介するので、参考にしてほしい。Citron ML, et al. J Clin Oncol. 2003; 21: 1431-1439.米国からの報告で、リンパ節転移陽性乳癌に対する4群の無作為化比較試験(2×2要因計画)。1)sequential A(60) x4 → P(175) x4 → C(600) x4 with doses every 3 weeks2)sequential Ax4 → Px4 → Cx4 every 2 weeks with filgrastim3)concurrent ACx4 → Px4 every 3 weeks 4)concurrent ACx4 → Px4 every 2 weeks with filgrastim観察期間中央値36ヵ月,リンパ節転移1~3個59~60%、エストロゲン受容体陽性64~66%。無再発生存期間、全生存期間とも dose-dense>3週毎(p=0.010、p=0.013)。sequentialかconcurrentかでは差なし。Venturini M, et al. J Natl Cancer Inst. 2005; 97: 1724-1733.イタリアからの報告である。FEC(600/60/600) 6サイクルを2週毎(604例、Filgrastim使用)と3週毎(610例)で比較。リンパ節転移陰性36%、腫瘍のグレード15%、エストロゲン受容体陽性52%。観察期間中央値10.4年。死亡222例。10年生存率80%対78%(p=0.35)。無再発生存率63%対57%(p=0.31)。グレード1以上の有害事象はFEC2週群で多かったが、白血球減少は3週群で多かった(G-CSF)。グレード3以上の心毒性は両群とも0.2%。

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腋窩郭清の必要性に関する検討(ACOSOG Z0011の結果を踏まえ)

Radiation field design on the ACOSOG Z0011 trial -- Jagsi R, et al.乳房部分切除後の放射線照射野(ACOSOG Z0011)ほか1題ACOSOG Z0011試験は、センチネルリンパ節転移1~2ケ陽性で、乳房部分切除術と放射線治療、全身療法を行う乳癌患者に対して、腋窩郭清は不要であるということを証明してきた(Giuliano AE, et al. Ann Surg. 2010; 252: 426-432,Giuliano AE, et al. JAMA. 2011; 305: 569-575.)。観察期間中央値6.3年で全生存率、局所・所属リンパ節再発とも腋窩郭清(ALND)群とセンチネルリンパ節生検のみ(SLND)群で差がなかった。Z0011プロトコールは標準的な接線照射野を用いた全乳房照射を受けることを必要としていたが、リンパ節の直接的な治療のための鎖骨上リンパ節領域への照射は必須ではなかった。そのため所属リンパ節への照射がどれくらい行われたかについては今まで詳細な記載がなく、とくに放射線腫瘍医はALND群よりもSLND群で腋窩レベル1~2以上を含む照射野を用いたかもしれない、ということが推測されてきたのみである。それ故この情報の真偽が確かめられた。方法:ACOSOG Z0011では、1999年5月から2004年12月までに891例が登録され、856例がintent-to-treat sampleとして構成された。照射データは、登録から18ヵ月後に、再度改めて各症例の報告用紙を記載してもらい収集した。調査はすべての放射線腫瘍医に連絡し、中央判定のためにより詳細な放射線治療の記録を要求した。放射線治療のデータはQuality Assurance Review Center(QARC)に送られ、無作為化された患者の群を伏せて、2名の放射線腫瘍医によって評価された。鎖骨上リンパ節領域への照射が行われたか、Schlembachらによって報告されたように(Schlembach PJ, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2001; 51: 671-678.)、内側接線の頭側境界が上腕頭の2cm以内であったかどうか考慮した。結果:605例の患者において症例報告用紙が利用可能であった。過去に報告されているように、89%が全乳房照射を受けていた。そのうち15%(89例)は鎖骨上リンパ節領域への治療も受けていた。228例において詳細な放射線治療の報告が中央判定のために記録された。104例はALND群、124例がSLND群であった。患者背景では、SLND群で乳管癌がより多かった。228例のうち185例(81.1%)は接線照射のみであった。185例のうち142例(76.8%)で接線照射野の高さに関して十分なデータが得られた。ハイタンジェントはALND群の50%(33/66)、SLND群の52.6%(40/76)で用いられていた。228例のうち43例(18.9%)は3門以上の照射野を用いてリンパ節領域の照射が行われていた(ALND群22例、SLND群21例)。より多くのリンパ節転移があるほど、より高頻度にリンパ節領域への照射を受けていた(p

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サン・アントニオ乳癌シンポジウム2013〔会員聴講レポート〕

米国テキサス州サン・アントニオにて第36回サン・アントニオ乳癌シンポジウム2013が開催された。ケアネットでは、幅広く、実用的な情報をニュートラルに提供するため、ケアネット会員の現役ドクターによるシンポジウム聴講レポートを企画した。乳がん診療に携わる医療者の先生方に、現在そして今後の乳癌診療トレンドを紹介する。レポーター2013年のサン・アントニオ乳癌シンポジウムは、12月10日から14日の5日間で開催された。会期中気温は低く、外は寒かったが、会場内は例年より暖かく、比較的心地よく演題を聴くことができた。一般演題ではTumor infiltrating lymphocytes(TILs)に関するものが続けて3題あり、その重要性がアピールされていた。私が病理をみていた限りでは、臨床的にあまり有用なものであるとは考えていなかったが、将来的には治療方針の決定に関わってくるのかもしれない。また、アロマターゼ阻害剤について、ベースラインの症状とアドヒアランスの関係、ジェネリックとアドヒアランスの関係、エクササイズと関節痛への影響なども一般演題として採用されており、こういったことが非常に重要な課題として認識されているのだと感じられ、自身の診療を見直すきっかけになるものであった。アドヒアランスの低下は患者のQOLだけでなく、再発率の上昇や生存率の低下を招くため、内分泌療法開始前から注意を払う必要がある。今回は5日間を通してとても勉強になる演題が多かったように思う。その中で特に臨床的に重要だと思うものをピックアップした。レポート一覧

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An international study to increase concordance in Ki67 scoring -- Nielsen TO, et al.

Ki67スコアの一致率を高めるための国際的な研究 ほか1題2012年のサン・アントニオ乳癌シンポジウムでも報告された内容の続きであり、Ki67スコアの一致度を高めるための国際研究である。増殖マーカーはエストロゲン受容体陽性乳癌において予後因子と考えられている。Ki67は免疫染色にて、サブタイプ、予後、治療予測、術前化学療法の評価項目などで広く用いられている。EGAPP(Evaluation of Genomic Applications in Practice and Prevention)ワーキンググループでは、分析的妥当性が臨床的有用性の側面から重要であることを述べており、ASCO(米国臨床腫瘍学会)は再現性の面からKi67を日常臨床として用いることを推奨していない。Ki67評価に関する推奨についてはDowsett M, et al.J Natl Cancer Inst.2011; 103: 1656-1664.に記載されている。中央で染色された乳癌100症例のTMA(tissue microarrays)連続切片でのローカルのスコア法(第1相)から学んだことは、観察者内の一致率は良好(級内相関係数、ICC=0.94、95%CI: 0.93~0.97)だが、観察者間の再現性は満足すべきものではなかった(ICC=0.71、95%CI: 0.47~0.78)。Ki67の相違は主にスコアリングの方法によるものであった。正式な測定法がより一致した結果をもたらした(Polley MY, et al. J Natl Cancer Inst. 2013; 105: 1677-1683.)。第2相(a)では、トレーニングにより再現性が改善するかどうか検討された。共通の可視化スコアリング法でKi67をスコアする者を訓練できるか、臨床研究のために共通のツールを開発できるかが課題である。まずガラス上のTMAスライドで標準的なスコアリングを行い、次にWebベースで補正を行った。補正は、webベースのTMAイメージ(9のトレーニングと9の試験)で、Ki67は中央で染色され、スコアの範囲を評価している。良好な内的一致性を示す実際的なスコアリング法、陽性と陰性の核を可視化したサンプルからなるシンプルな構成、2つの関連施設を含む世界から19施設で評価を一致させるためにあらかじめ確立された特定の基準が設けられた。補正結果:施設によって茶色(陽性と判断する濃さ)の閾値が異なっていた。そのため、さらに陽性/陰性を考えるための染色サンプルイメージを追加した。スコアを行う者は、ばらつきと異常値が、あらかじめ決められた基準を満たすまでトレーニングセット分析を繰り返した。その結果、新たな症例でのテストにより17のうち12の施設で一致基準を満たした。結論として、施設はトレーニング可能であり、webベースの補正ツールを用いることで成績は改善傾向を示した。第2相(b)では、補正され、トレーニングされ、標準的な公式の可視化測定法をもった観察者により、一貫性のあるKi67インデックスを提供することは可能かどうかが評価された。第1相で用いられた50例の中央で染色された1mm TMAブロックを用いて、同一標本から3切片作成し、カナダ、英国、欧州、日本の16施設において、最初にウェブイメージで補正を完了し、同様のスコアリング法をガラス上で適応し、キーボードで入力したカウントデータを収集した。500の細胞核をカウントするまでの時間は中央値5.6分であった。ICCの目標値は0.9で有意に0.7を超えることである。結果はICC 0.92(95%CI: 0.88~0.95)であり、第1相でICC 0.75であった7施設も第2相でICC 0.90と上昇していた。施設間での個々の症例でのKi67インデックス10~20%のばらつきも、第2相ではかなり一致していた。Ki67のよく知られたカットオフ値のためのカッパ値(一致性の指標、1に近いほど一致)は、たとえば14%のカットオフ値ではカッパ0.73と良好であるにもかかわらず、17%において、ある施設でhighと判定されたものが、別の施設ではlowと判定されることになっていた。結論として、webベースの補正システムは有用なツールである。Ki67のカウント法は実臨床に適用できそうであり、研究デザインにおいてICCが0.7より有意に高いことを目標としたが、実施は0.9以上であった。これらの結果は、中央で染色されたTMAを適用したものであり、針生検(第3相)、全切片、染色の多様性の追加でも同様の成績が得られるか、が挙げられ、このスコアリング法の臨床的な妥当性はまだ確定されていない。本邦では病理医が非常に不足している。そのため病理医にかかっている負担は大変なものであり、その上に繊細な測定が求められるKi67はさらに負担を上乗せすることになろう。このような研究によって、世界的に基準が統一され、良好な一致率がみられるようになることが理想だが、一般病理医のレベルにこれらが適応されたときどうなるか、非常に疑問ではある。以下、個人的意見ではあるが、Ki67については病理医が測定部位を選定し、訓練された細胞検査士がカウントするのがよいのではないかと考える次第である。なぜなら一般的傾向として、細胞検査士は医師より基準に忠実であり、また細胞や核をよく見慣れている。臨床細胞学会などが主導で測定訓練を行い、基準を満たしたものをKi67測定認定検査士とすれば、技師の雇用にもつながり、病理医の負担軽減にもなり、Ki67測定の質も上がり、乳腺医にとっても依頼しやすくなるであろう。Ki67の染色性に関して、本邦から以下の報告があったが大切な内容であると考えられるため紹介する。Pre-analytical setting is critical for an assessment of the Ki-67 labeling index for breast cancer -- Arima N, et al.本邦からの報告である。本研究では、一般にKi-67の染色に関して組織管理の重要性についての注意が不十分であることから、組織固定の影響について検討している。(1)固定のタイプ:665例の切除標本は10%中性緩衝ホルマリンまたは15%で固定。(2)固定時間:A:固定までの時間:数時間から一晩。B:固定時間B-1.短い固定時間:腫瘍の一部を3時間ホルマリン固定後パラフィンブロックへ。48時間の固定と比較B-2.長い固定時間:腫瘍の一部を長時間固定(3)外科的に切除された腫瘍のKi-67ラベリングインデックス値への影響A:固定の前に新鮮な腫瘍組織の中央をカットした時の影響B:136例のコア針生検と外科的切除標本の比較結果:Ki-67値は15%よりも10%ホルマリン固定で有意に高かった。固定までの時間が長いと徐々に値は低下した。不十分な固定は劇的な低下の原因となった。逆に過固定は徐々に低下する原因となった。固定の直前に腫瘍の中央に割を入れた場合、コントロールと比べて有意に値が高かった。コア針生検と外科的切除標本とで有意な差はなかった。本報告ではいくつかの例を供覧し、Ki-67の染色性はエストロゲン受容体やHER2タンパクよりもはるかに固定条件の影響を受けやすいことを示していた。まとめると、最も良くないのは固定不良であり、固定の直前に腫瘍に割を入れること、標本を長時間(たとえば半日)固定しないまま放置しないことが大切である。過固定も望ましくないが、48時間くらいでは大きな変化はないようである。しかし、1週間も固定しているとやや染色性が低下してくるので注意が必要である。ホルマリンは10%の濃度が望ましいようである。意外だったのはエストロゲン受容体やHER2タンパクの染色性はかなり安定していたことであった。Ki-67は染色も評価も繊細であることを臨床医、病理医ともに肝に命じる必要がある。少なくとも記載された数値を、臨床医が盲目的に信じ臨床適応することだけはしてはならない。

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ステージ4乳がんの原発巣切除について

Surgical removal of primary tumor and axillary lymph nodes in women with metastatic breast cancer at first presentation: A randomized controlled trial -- Badwe R, et al. India転移性乳がんにおける原発巣切除の影響インドで行われた臨床試験である。従来より緩和のための外科治療としては潰瘍と出血のコントロールが挙げられる。動物実験では原発巣の切除は有害かもしれないというデータがある(Fisher B, et al. Cancer Res. 1989; 49: 1996-2001.)。一方で、最近の後ろ向きレビューでは、局所領域の治療が有効かもしれないことが示されている。本試験の目的は転移性乳癌において原発巣の切除が与える生存率への影響を評価することである。サンプルサイズはベースラインの中央生存期間が18ヵ月、生存期間の改善が6ヵ月とし、α=0.05、1-β=80%と仮定したとき、N=350が必要であると考えられた。転移性乳癌に対しアンスラサイクリン+/-タキサンを行ってCRまたはPRのとき無作為化割付を行い、局所領域治療を行う群と行わない群に割り付けた。無作為化は転移部位、転移個数、ホルモン受容体の有無で層別化した。350例のうち、手術群は173例で乳房部分切除術または乳房切除術を行い、卵巣切除を40例に行った。さらに放射線治療と内分泌療法を84例に行った。無手術群は177例で内分泌療法は96例に行い、卵巣切除は34例に行った。全生存率(中央観察期間の記載がないが5年は観察しているものと思われる)は、手術群(19.2%)、無手術群(20.5%)であり、有意差はなかった(p=0.79)。閉経状況、転移部位、ホルモン受容体の有無、HER2発現の有無でサブグループ解析を行ったが、いずれも差はみられなかった。遠隔転移の初回進行までの期間は手術群で有意に短かった(p=0.01)。以上から、局所領域治療は生存率への寄与はなく、転移性乳癌においてルーチンに行うことは控えるべきであり、局所コントロールと転移部の進行とのバランスの中で得失を考えながら行うべきと結んでいる。Early follow up of a randomized trial evaluating resection of the primary breast tumor in women presenting with de novo stage 4 breast cancer; Turkish Study (Protocol MF07-01) -- Soran A, et al.新規ステージ4乳がんにおける局所療法の評価(早期観察)トルコの臨床試験である。新規のステージ4乳癌における外科治療に関する試験のメタ分析では、外科治療を行ったほうが生存率は良好であったが、外科治療を行わなかったほうで予後不良因子が多い傾向がみられている(Harris E, et al. Ann Surg Oncol 2013; 20: 2828-2834)。すなわち選択バイアスがあるということである。本試験(MF07-01)の試験デザインとしては、新規のステージ4乳癌を全身治療群と初回局所治療(乳房+/-腋窩)+全身治療群に分け、プライマリーエンドポイントとして全生存期間、セカンダリーエンドポイントとして局所の無増悪生存期間、QOL、局所治療に伴う合併症を評価した。過去の後ろ向き研究から、3年生存率の違いが18%であることが想定され、脱落率は10%、α=0.05、β=0.9と仮定して、サンプルサイズは271例が必要であると考えられた。312例がリクルートされ、293例が適格であり、278例(局所治療群140例、全身治療のみ138例)が評価可能であった。局所治療は患者と医師の好み/癌の広がりによって乳房部分切除か乳房切除が選択され、腋窩リンパ節転移が臨床的/生検/センチネルリンパ節生検のいずれかで確認されたときには腋窩郭清が行われた。断端陰性であることが必要であり、乳房部分切除後は全乳房照射が行われ、乳房切除後は癌の進行度や施設の方針で照射が追加された。化学療法は、局所治療群ではその後に、全身治療群は割付後すぐに開始された。ホルモン受容体陽性のすべての患者は内分泌療法を受けた。C-erb-B2陽性(IHC3+ or FISH+)ではトラスツズマブが投与された。転移巣の局所治療(手術-放射線)は研究者の判断によって決められた。ビスフォスフォネートは治療する臨床医の判断によって使用された。全生存率は中央観察期間(局所治療群46ヵ月、全身治療群42ヵ月)において両群で有意差はなかった(HR=0.76、95%CI: 0.490~1.16、p=0.20)。ホルモン受容体別、HER2発現別、さらにトリプルネガティブに限ってみても差はなかった。年齢別、転移臓器1つのみ、骨転移のみに限っても差はなかったが、骨転移1ヵ所のみに限ると局所治療群のほうが有意に生存期間が長かった(p=0.02)。逆に多発肝転移/多発肺転移では局所治療群のほうが生存期間が短かい可能性がある。結論として、早期経過観察では全生存率に有意差はなく、さらに長期間の観察が必要である。サブグループの検討から、局所療法群は骨転移において生存期間が長い傾向かもしれない。とくに1つの骨転移でその傾向がより強い。55歳以下で生存期間を改善する可能性がある。進行の早いフェノタイプではベネフィットを得にくいようにみえる。多発肝転移/多発肺転移ではむしろ予後を有意に悪化させる可能性がある、ことが示唆された。TBCRC 013: A prospective analysis of the role of surgery in stage IV breast cancer -- King TA, et al.ステージ4乳がんにおける原発巣切除の役割(TBCRC 013)前向きの無作為化比較試験の結果が明らかになるまでの間、私たちはステージ4乳癌におけるマネージメントの前向きデータを集めることが求められた。TBCRC 013は、新規ステージ4乳癌の原発巣切除の役割を評価する多施設前向きレジストリー研究である。新規ステージ4乳癌をコホートA、原発巣術後3ヵ月以内に同定された転移性乳癌をコホートBとした。初回全身治療で効果があった場合には、外科治療について患者と話し合い決定され、無増悪生存期間、局所の緩和治療の必要性、生存期間が評価された。2009年7月から2012年4月までに14の施設から127例の患者がエントリーされた(コホートA:112例、コホートB:15例)。年齢中央値52歳、原発巣の腫瘍径中央値3.2cmであった。観察期間中央値は28ヵ月であった。多変量解析にて全生存期間は外科治療(p=0.01)、エストロゲン受容体陽性(p=0.01)、HER2陽性(p=0.01)で有意に予後良好であった。しかし、全身治療に反応した症例に限ると外科治療はもはや有意差はなかった。この結果は、初回またはセカンドライン以降の全身治療に反応せず、緩和的に外科治療を行った場合に予後改善効果がみられる、という解釈になると思われたのだが、その記載はなかった。いずれにしても症例数が少なく、外科治療の有効性を考えるには至らない研究であると考えられる。転移性乳癌における外科治療の役割については、以前にASCO 2012の報告で一度述べたが、それらはいずれも後ろ向きの研究結果である。今回のRCTの結果をみても、やはりやみくもに局所治療すべきはない。しかし、局所における癌の進行は患者のQOLを低下させるため、外科医と腫瘍内科がよく協議して、手術や放射線治療との組み合わせについて、そのタイミングを逸することなく、適応を考えていくべきであろう。本邦でも岡山大学の枝園忠彦先生が研究代表者として臨床試験(JCOG1017、PRIM-BC)が行われているので、それが完遂され、さらに有意義な結果が加わることを期待したい。

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切除不能大腸がんの化学療法の選択に遺伝子解析は有効か~FOLFOX or FOLFIRI

 切除不能大腸がんの一次治療における化学療法のレジメンとして、それぞれの患者さんにFOLFOXとFOLFIRIのどちらが適切なのかを化学療法開始前に知ることはできないだろうか。韓国・亜洲大学医学部のDo Yoon Kim氏らは、切除不能大腸がん患者において、従来の治療群と、治療前遺伝子解析による計画治療群とで奏効率を比較した。その結果、治療前遺伝子解析による計画治療群、とくにFOLFOX治療患者において、奏効率の改善が認められた。Journal of Surgical Oncology誌オンライン版2013年12月7日号に掲載。 登録された患者は、従来の治療か、治療前遺伝子解析に基づいて計画された治療のいずれかに無作為に分けられた。計画治療群(n=53)では、レジメン選択前に患者の血液サンプルを用いて遺伝子多型について解析した。標的遺伝子は、オキサリプラチンについてはXPD-751、GSTP-1-105、XRCC1-399、イリノテカンについてはUGT1A1であり、奏効率は化学療法3サイクル終了後にCTスキャンで測定した。 主な結果は以下のとおり。・全奏効率は、計画治療群で有意に高かった(67.9% vs 46.3%、p=0.020)。・FOLFOX治療患者では、計画治療群で奏効率が有意に高かった(77.1% vs 50%、p=0.018)。・FOLFIRI治療患者では、2群間の差は統計学的に有意ではなかった(50% vs 42.5%、p=0.776)。

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Vol. 2 No. 1 これからの血管内治療(EVT)、そして薬物療法

中村 正人 氏東邦大学医療センター大橋病院循環器内科はじめに冠動脈インターベンションの歴史はデバイスの開発と経験の蓄積の反映であるが、末梢血管の血管内治療(endovascular treatment: EVT)も同じ道を歩んでいる。対象となる血管が異なるため、冠動脈とは解剖学的、生理学的な血管特性は異なるが、問題点を解決するための戦略の模索は極めて類似している。本稿では、末梢血管に対するインターベンションの現況を総括しながら、今後登場してくるnew deviceや末梢閉塞性動脈硬化症に対する薬物療法について展望する。EVTの現況EVTの成績は治療部位によって大きく異なり、大動脈―腸骨動脈領域、大腿動脈領域、膝下血管病変の3区域に分割される。個々の領域における治療方針の指標としてはTASCIIが汎用されている。1.大動脈―大腿動脈 この領域の長期成績は良好である。TASCⅡにおけるC、Dは外科治療が優先される病変形態であるが、外科治療との比較検討試験で2次開存率は外科手術と同様の成績が得られることが示されている1)。解剖学的外科的バイパス術は侵襲性が高いこともあり、経験のある施設では腹部大動脈瘤の合併例、総大腿動脈まで連続する閉塞病変などを除き、複雑病変であってもEVTが優先されている(図1、2)。従って、完全閉塞性病変をいかに合併症なく初期成功を得るかが治療の鍵であり、いったん初期成績が得られると長期成績はある程度担保される。図1 腸骨動脈閉塞による重症虚血肢画像を拡大するDistal bypass術により救肢を得た透析例が数年後、膝部の難治性潰瘍で来院。腸骨動脈から大腿動脈に及ぶ完全閉塞を認めた(a)。ガイドワイヤーは静脈bypass graftにクロスし(b)、腸骨動脈はステント留置、総大腿動脈はバルーンによる拡張術を行った。Distal bypass graftの開存(黒矢印)と大腿深動脈の血流(白矢印)が確認された(c)図2 腸骨動脈閉塞による重症虚血肢(つづき)画像を拡大する2.大腿動脈領域 下肢の閉塞性動脈硬化症の中で最も治療対象となる頻度が高い領域である。このため、関心も高く、各種デバイスが考案されている。大腿動脈は運動によって複雑な影響を受けるため、EVTの成績は不良であると考えられてきた。しかし、ナイチノールステントが登場し、EVTの成績は大きく改善し適応は拡大した。EVTの成績を左右する最も強い因子は病変長であり、バルーンによる拡張術とステントの治療の比較検討試験の成績を鑑み、病変長によって治療戦略は大別することができる。(1)5cm未満の病変に対する治療ではバルーンによる拡張術とステント治療では開存性に差はなく、バルーンによる拡張を基本とし、不成功例にベイルアウトでステントを留置する。(2)病変長が5cm以上になると病変長が長いほどバルーンの成績は不良となるが、ステントを用いた拡張術では病変長によらず一定の成績が得られる。このためステントの治療を優先させる。(3)ステントによる治療も15cm以上になると成績が不良となりEVTの成績は外科的バイパス術に比し満足できるものではない2)。開存性に影響する他の因子には糖尿病、女性、透析例、distal run off、重症虚血肢、血管径などが挙げられる。また、ステント留置後の再狭窄パターンが2次開存率に影響することが報告されている3)。3.膝下動脈 この領域は、長期開存性が得難いため跛行肢は適応とはならない。現状、重症虚血肢のみが適応となる。本邦では、糖尿病、透析例が経年的に増加してきており、高齢化と相まって重症虚血肢の頻度は増加している。重症虚血肢の血管病変は複数の領域にわたり、完全閉塞病変、長区域の病変が複数併存する。本邦におけるOLIVE Registryでも浅大腿動脈(SFA)単独病変による重症虚血肢症は17%にとどまり、膝下レベルの血管病変が関与していた(本誌p.24図3を参照)4)。この領域はバルーンによる拡張術が基本であり、本邦では他のデバイスは承認されていない。治療戦略で考慮すべきポイントを示す。(1)in flowの血流改善を優先させる。(2)潰瘍部位支配血管すなわちangiosomeの概念に合わせて血流改善を図る。(3)末梢の血流改善を創傷部への血流像(blush score)、または皮膚灌流圧などで評価する。従来、straight lineの確保がEVTのエンドポイントであったが、さらに末梢below the ankleの治療が必要な症例が散見されるようになっている(図4)。創傷治癒とEVT後の血管開存性には解離があることが報告されているが5)、治癒を得るためには複数回の治療を要するのが現状である。この観点からもnew deviceが有用と期待されている。治癒後はフットケアなど再発予防管理が主体となる。図4 足背動脈の血行再建を行った後に切断を行った、重症虚血肢の高齢男性画像を拡大する画像を拡大する新たな展開薬剤溶出性ステントやdrug coated balloon(DCB)の展開に注目が集まっており、すでに承認されたものや承認に向け進行中のデバイスが目白押しである。いずれのデバイスも現在の問題点を解決または改善するためのものであり、治療戦略、適応を大きく変える可能性を秘めている。1.stent 従来のステントの問題点をクリアするため、柔軟性に富みステント断裂リスクが低いステントが開発されている。代表はLIFE STENTである。ステントはヘリカル構造であり、RESILIENT試験の3年後の成績を見ると、再血行再建回避率は75.5%と従来のステントに比し良好であった6)。リムス系の薬剤を用いた薬剤溶出性ステントの成績は通常のベアステントと差異を認めなかったが、パクリタキセル溶出ステントはベアメタルステントよりも有意に良好であることが示されている7)。Zilver PTXの比較検討試験における病変長は平均7cm程度に限られていたが、実臨床のレジストリーでも再血行再建回避率は84.3%と比較検討試験と遜色ない成績が示されている8)。Zilver PTXは昨年に承認を得、市販後調査が進行中である。内腔がヘパリンコートされているePTFEによるカバードステントVIABAHNは柔軟性が向上し、蛇行領域をステントで横断が可能である。このため、関節区域や長区域の病変に有効と期待されている9)。これらのステントの成績により、大腿動脈領域治療の適応は大きく変化すると予想される。膝下の血管に対しては、薬剤溶出性ステントの有効性が報告されている10)。開存性の改善により、創傷治癒期間の短縮、再治療の必要性の減少が期待される。2.debulking device 各種デバイスが考案されている。本邦で使用できるものはないが、石灰化、ステント再狭窄、血栓性病変に対する治療成績を改善し、non stenting zoneにおける治療手段になり得るものと考えられている。3.drug coated balloon(DCB) パクリタキセルをコーティングしたバルーンであり、数種類が海外では販売されている。ステント再狭窄のみでなく、新規病変に対しバルーン拡張後に、またステント留置の前拡張に用いられる可能性がある。膝下の血管病変は血管径が小さく長区域の病変でステント治療に不向きである上に開存性が低いためDCBに大きな期待が寄せられている。このデバイスも開存性を向上させるデバイスである。成績次第ではEVTの主流になり得ると推測されている。4.re-entry device このデバイスは治療戦略を変える可能性を秘めている。現在、完全閉塞病変に対してはbi-directional approachが多用されているが、順行性アプローチのみで手技が完結できる可能性が高くなる。薬物療法の今後の展開薬物療法は心血管イベント防止のための全身管理と跛行に対する薬物療法に分類されるが、全身管理における治療が不十分であると指摘されている。また、至適な服薬治療が重要ポイントとなっている。1.治療が不十分である 本疾患の生命予後は不良であり、5年の死亡率は15~30%に及ぶと報告され、その75%は心血管死である。このことは全身管理の重要性を示唆している。しかし、2008年と2011年に、有効性が期待できるスタチン、抗血小板薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の投薬が、虚血性心疾患の症例に比し末梢動脈閉塞性症の症例では有意に低率であると米国から相次いで報告された11, 12)。この報告によると、虚血性心疾患を合併しているとわかっている末梢閉塞性動脈硬化症ではスタチンの無投薬率が42.5%であったのに対し、虚血の合併が不明の末梢閉塞性動脈硬化症では81.7%が無投薬であった12)。本邦においても同様の傾向と推察される。本疾患の無症候例も症候を有する症例と同様に生命予後が不良であるため、喫煙を含めた全身管理の重要性についての啓発が必要である。2.いかに管理すべきか? PADを対照に薬物療法による予後改善を検討した研究は少なくサブ解析が主体であるが、スタチンは26%、アスピリンは13%、クロピドグレルは28%、ACE阻害薬は33%リスクを軽減すると報告されている13)。さらに、これら有効性の高い薬剤を併用するとリスクがさらに低減されることも示されている12)。冠動脈プラークの退縮試験の成績は末梢閉塞性動脈硬化症を合併すると退縮率が不良であるが、厳格にLDLを70mg/dL以下に管理すると退縮が得られると報告されており14)、PADでは厳格な脂質管理が望ましい。 抗血小板薬に関しては、最近のメタ解析の結果によると、アスピリンは偽薬に比しPAD症例で有効性が認められなかった15)。一方、CAPRIE試験のサブ解析では、PAD症例に対しクロピドグレルはアスピリンに比しリスク軽減効果が高いことが示されている16)。今後、新たなチエノピリジン系薬剤も登場してくるが、これら新たな抗血小板薬のPADにおける有効性は明らかでなく、今後の検討課題である。また、本邦で実施されたJELIS試験のサブ解析では、PADにおけるn-3系脂肪酸の有効性が示されている17)。 このように、サブ解析では多くの薬剤が心血管事故防止における有効性が示唆されているが、単独試験で有効性が実証されたものはない。さらには、本邦における有効性の検証が必要になってこよう。3.再狭窄防止の薬物療法 シロスタゾールが大腿動脈領域における従来のステント留置例の治療成績を改善する。New deviceにおける有用性などが今後検証されていくことであろう。おわりにNew deviceでEVTの適応は大きく変わり、EVTの役割は今後ますます大きくなっていくものと推測される。一方、リスク因子に関しては、目標値のみでなくリスクの質的な管理が求められることになっていくであろう。文献1)Kashyap VS et al. The management of severe aortoiliac occlusive disease Endovascular therapy rivals open reconstruction. J Vasc Surg 2008; 48: 1451-1457.2)Soga Y et al. 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