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レポーター紹介2018年1月18日から1月20日まで米国サンフランシスコにて米国臨床腫瘍学会消化器がん会議(ASCO-GI)が開かれた。初日こそ雨であったものの、2日目、3日目は快晴であり過ごしやすい日程であった。学会ではOral Presentation、Poster Presentation、Rapid-Fire Abstract Session、Trials in Progress Sessionなどに分けられ、大規模臨床試験の結果だけでなく、小規模なデータや現在試行中の臨床試験の紹介も行われた。本稿では、そのなかのいくつかを紹介する。RAINFALL試験 抗VEGFR-2抗体であるラムシルマブ(RAM)は、RAINBOW試験、REGARD試験により胃がんに対する有効性が証明され、現在では本邦、NCCN、ESMOの胃がん治療ガイドラインにおいて、標準的な2次化学療法として位置付けられている。RAINFALL試験はRAMを1次治療として使用したときの効果、安全性を検証する第III相無作為化比較試験である。対象は、前治療歴のないHER2陰性胃がん・胃食道接合部がん症例であり、RAM+カペシタビン+CDDP(RAM群)、Placebo+カペシタビン+CDDP(Placebo群)に1:1に無作為割り付けされた。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目はOS、RR、Safety、QOL、PK profileであった。全体で645例が登録され、326例がRAM群、319例がPlacebo群に割り付けられた。主要評価項目であるPFSは、RAM群5.72ヵ月、Placebo群5.39ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.61~0.94、p=0.011)であり、統計学的に有意な結果であった。副次評価項目であるOSは、RAM群11.17ヵ月、Placebo群10.74ヵ月(HR 0.98、95%CI:0.80~1.16、p=0.68)であり両群に有意差を認めなかった。有害事象の解析では、高血圧、血小板減少、食思不振、消化管穿孔、出血、蛋白尿の比率がRAM群で高く認められた。後治療の導入率はRAM群46%、Placebo群51%であり、いずれの群でも2次治療以後にRAMを使用した症例が認められた。PFSはpositiveであったものの、その差はMedianでわずか0.3ヵ月であり、また、OSの延長効果は認められず、全体としてnegativeという趣旨の発表であった。興味深かったのが2次治療導入からのOSの解析であり、2次治療以後でRAMを使用した場合のOSは、RAM群7.7ヵ月、Placebo群8.8ヵ月、また2次治療以後でRAMを使用しなかった場合のOSは、RAM群6.5ヵ月、Placebo群6.7ヵ月であり、2次治療以後でRAMを使用したほうがOSは良好な傾向であった。Discussantはコストについても言及し、今回得られたPFSの延長0.3ヵ月(=9日)のためにかかるコストは、体重70kgの場合、1サイクルで7,457ドル、9サイクルで6万7,112ドルであり、その意義について疑問を呈していた。胃がんに対する1次治療としてのRAMはnegativeであったわけだが、今後の胃がん1次治療の新たな展開としては現在、免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験が進められており、本学会においても、ニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブ+化学療法(XELOX or FOLFOX)、化学療法の3群の比較試験 (CheckMate-649, TPS 192)や 、FOLFOX、XELOXでInduction治療を行った後に維持療法として同じ治療を継続するか、抗PD-L1抗体であるアベルマブに変更するかを比較するJAVELIN試験(TPS 195)などが、Trials in Progress Sessionにおいて紹介されていた。RAINFALL: A randomized, double-blind, placebo-controlled phase III study of cisplatin (Cis) plus capecitabine (Cape) or 5FU with or without ramucirumab (RAM) as first-line therapy in patients with metastatic gastric or gastroesophageal junction (G-GEJ) adenocarcinoma. (Abstract No.:5)Charles SREVERCE試験 本邦で行われたREVERCE試験がRapid-Fire Sessionで報告された。現在、進行再発大腸がんにおけるガイドラインにおいては、セツキシマブ(C)などの抗EGFR抗体の後にレゴラフェニブ(R)を使用することが勧められている。一方、治療早期にRを使用することにより良好な効果が得られることも報告されており、CとRのより適正な投与順序を探索する本試験が行われた。対象は、フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンなどの標準治療に不耐、不応となった、KRASもしくはRAS野生型の進行再発大腸がんであり、R→Cの順番で治療を行うR-C群と、C→Rの順番で治療を行うC-R群に無作為化割り付けされた。主要評価項目はOS、副次評価項目はTTF、PFS、RR、DCR、AE、QOLであった。当初180例の登録と132のイベントが必要とされたが、101例で登録終了となり、今回その結果が報告された。主要評価項目のOSは、R-C群17.4ヵ月、C-R群11.6ヵ月であり、R-C群において有意に良好であった(HR:0.61、95%CI:0.39~0.96、p=0.029)。先に行う治療のPFS(PFS1)は、R-C群(R)2.4ヵ月、C-R群(C)4.2ヵ月であり、後に行う治療のPFS(PFS2)はR-C群(C)5.2ヵ月、C-R(R)群1.8ヵ月であった。奏効率はRでは4.0%(R-C群)、0.0%(C-R群)、Cは20.4%(R-C群)、27.9%(C-R群)と、それぞれほぼ既報の通りであった。RをCの前に投与することでOSの延長がみられた、ということが今回の結果である。その機序であるが、PFSの比較をみるとR後のCのPFSが良好な印象である。Rの投与により、AKT系などさまざまな分子生物学的な変化が腫瘍細胞に起こることが基礎研究で明らかになっており、これらの変化がCの効果を増強した可能性は考えられるかもしれない。試験としては予定された症例数に満たず、Under Powerであることは念頭に置く必要があるが、これまで広く行われてきた治療方針と違う結果が示されたということは、その機序も含め、非常に興味深いところである。Reverce: Randomized phase II study of regorafenib followed by cetuximab versus the reverse sequence for metastatic colorectal cancer patients previously treated with fluoropyrimidine, oxaliplatin, and irinotecan.)(Abstract No.:557)Kohei ShitaraSAPPHIRE試験 RAS野生型進行再発大腸がんにおいてパニツムマブ(pani)+mFOLFOX6は標準治療の1つであるが、オキサリプラチン継続に伴う末梢神経障害は、患者のQOLを低下させるだけでなく、治療意欲の減退、治療継続性にも影響しうる重要な有害事象である。本試験は6コースのpani+mFOLFOX6を行った後に、そのまま同じ治療を継続するA群と、7コース目からはオキサリプラチンを休薬し、pani+5-FU+LVとして治療を継続するB群との2つの群を設定した無作為化第II相試験である。主要評価項目は無作為化後9ヵ月時点での無増悪生存率(PFS rate)であり、副次評価項目はPFS、OS、TTF、Safetyが設定された。本試験は2つの治療群のそれぞれの成績を検証するParallel-group studyという形がとられ、閾値30%、期待値50%、片側 α 値 0.10として各群50例、全体で100例の無作為化が必要な統計学的計算であった。164例が登録され、6コースのpani+FOLFOX後に腫瘍進行や手術移行などによる脱落を除いた113例がA群(56例)とB群(57例)に無作為化割り付けされた。主要評価項目である無作為化後9ヵ月(治療開始から約12ヵ月)時点でのPFS rateは、A群46.4%(95%CI:38.1~54.9、p=0.0037)、B群47.4%(95%CI: 39.1~55.8、p=0.0021)であり、両群ともに主要評価項目を満たした。副次評価項目であるPFSはA群9.1ヵ月、B群9.3ヵ月、RRはA群80.4%、B群87.7%であり、両群で近似した治療成績であった。Grade2末梢神経障害は、A群10.7%に対してB群1.9%であり、オキサリプラチンを早期で終了したB群において少なかった。昨年publishされたPan-Asian adapted ESMO consensus guidelinesにおいて、RAS野生型進行再発大腸がんにおいて原発巣が左側であれば1次治療からの抗EGFR抗体+doubletの使用が推奨され、本邦の各施設において同治療を行う機会は増えてくると予想される。そのときに、効果、有害事象をみながらであるが、早期にオキサリプラチンを中止し、pani+5-FU+LVという形で治療を継続しても、効果は大きくは落ちないことを示唆した結果であり、臨床での応用性は高いと考えられる。SAPPHIRE: A randomized phase II study of mFOLFOX6 + panitumumab versus 5-FU/LV + panitumumab after 6 cycles of frontline mFOLFOX6 + panitumumab in patients with colorectal cancer.(Abstract No.:729)Masato Nakamuraまとめ本稿では殺細胞薬、分子標的治療薬の演題につき報告したが、免疫チェックポイント阻害剤の話題も多くあり消化管、肝胆膵領域の化学療法も新たな時代に移ろうとしているのを実感した学会であった。