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2月10日のNew England Journal of Medicine誌に、早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることの効果を検証したKEYNOTE-522(KN522)試験の無イベント生存(EFS)の結果が報告された。ペムブロリズマブの上乗せによって病理学的完全奏効(pCR)率が改善することはすでに報告されていたが(Schmid P, et al. N Engl J Med. 2020;382:810-821.)、長期的な予後の改善が期待できるかどうかは、実臨床で広く使われるようになるかに大きく影響する。 結果は報告のとおりであり、ペムブロリズマブ上乗せによるEFSの改善が示され、統計学的有意差は示されなかったものの全生存(OS)についてもペムブロリズマブ群で良好な結果であった。術前化学療法の効果ごとの成績は、pCRを達成した群でnon-pCRよりも予後が圧倒的に良く、pCR群ではペムブロリズマブの有無による大きなEFSの差は認められなかったものの、non-pCR群では統計学的な有意差をもってペムブロリズマブ群でEFSが良好であった。KN522試験では術後9コースのペムブロリズマブ投与が規定されており、この試験結果をもって、術前化学療法へのペムブロリズマブ上乗せと、術後ペムブロリズマブ療法が標準治療となった。 一方、この試験結果はいくつかの新たな臨床的課題を私たちに突き付ける。ひとつは、pCR群における術後ペムブロリズマブ療法の意義である。EFSにおいて統計学的有意差はついておらず、またペムブロリズマブを含む免疫チェックポイント阻害剤は不可逆な甲状腺機能低下症など、患者の生活の質(QOL)に直結する有害事象がそれなりの頻度で発生する(Balibegloo M, et al. Int Immunopharmacol. 2021;96:107796.)。pCRを達成できた場合に術後ペムブロリズマブ療法を省略することが可能かどうか、臨床試験による確認が必要であろう。 もうひとつはnon-pCRの際の術後治療である。CREATE-X試験では、術前化学療法を実施したHER2陰性乳がんでnon-pCRの場合に術後治療としてカペシタビンを追加することの意義が示された(Masuda N, et al. N Engl J Med. 2017;376:2147-2159.)。日本では術後治療としての保険適用はないが、臨床では広く使用されている。また、OlympiA試験ではBRCA1/2生殖細胞系列の変異がある際に術後治療としてオラパリブを実施することの意義が示され、TNBCでnon-pCRだった症例も含まれている(Tutt ANJ, et al. N Engl J Med. 2021;384:2394-2405.)。したがって、術前化学療法を行ってnon-pCRだったTNBCの術後治療としての選択肢は、カペシタビン、オラパリブ(BRCA1/2変異あり)に、ペムブロリズマブが加わったことになる。これらのいずれを選択すべきかという疑問は今後解決していくべき課題のひとつである。さらには、カペシタビン+ペムブロリズマブ、オラパリブ+ペムブロリズマブについてはすでに安全性のデータが存在する。併用することでよりEFSを改善することができるのか、あるいはBRCA1/2変異のないTNBCに対してもオラパリブ+ペムブロリズマブは有効であるのか等、議論すべき話題は尽きない。