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レポーター紹介60年に1回の丙午の年を迎えた。2025年は乳がん診療において激動の1年であった。米国臨床腫瘍学会(ASCO)、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で薬物療法の標準治療を変えるエビデンスが、サブタイプ、周術期/転移再発のセッティングを問わず多数発表された。乳がんを専門に診療・研究をしている立場でも、広範なエビデンスのキャッチアップはかなり大変な年であった。ASCO、ESMOでここまで多くのエビデンスが発表されてしまうと、San Antonio Breast Cancer Symposium(SABCS)では薬物療法の話題は枯れてしまって、局所療法の話題が中心となるのではないかと思っていた。ところが。蓋を開けてびっくり、今回のSABCSでは新しい標準治療のエビデンスが多数発表された。以下に、厳選した5演題の結果を解説する。なお、SABCS2024からBest of SABCSのサイトで各演題の解説が見られるようになっている。登録が必要であるが無料なので、詳細を知りたい方はアクセスしてみてはいかがだろうか。なお、今回から日本のエキスパートによる日本語の解説も聞けるようである(私は未聴講)。INDEX1.lidERA試験(HR+/HER2-早期乳がん)2.EMBER-3試験(HR+/HER2-転移乳がん)3.ASCENT-07試験(HR+/HER2-転移乳がん)4.HER2CLIMB-05試験(HER2+転移乳がん)5.LORETTA試験(DCIS)1.lidERA試験(HR+/HER2-早期乳がん)lidERA試験はホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)乳がん周術期において、経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)の有効性を示した初めての試験である。転移乳がんにおいてはelacestrantやイムルネストラントがESR1変異を有するHR+HER2-乳がんにおける有効性を示した。lidERA試験では高リスクStageIを含むStageIIIまでのHR+HER2-早期乳がんを対象として、術後内分泌療法としてgiredestrantと標準的内分泌療法(ET)を比較する試験である。N0は腫瘍径が1cmを超えるかつG3/Ki-67≧20%、ゲノムプロファイリング検査で高リスク、あるいはT4を対象とした。周術期化学療法は許容された。閉経前患者は卵巣機能抑制を併用(タモキシフェン以外)した。12週以内のET±CDK4/6阻害薬は許容された。主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)であった。giredestrant群には2,084例、標準治療群には2,086例が割り付けられ、約40%が閉経前であった。StageIIが約50%、StageIIIが約40%、リンパ節転移はN1が約45%、N2以上が30%強と、比較的リスクが高いと考えられる患者が含まれた。それを反映して、約80%の患者で化学療法歴があった。内服期間は5年以上とされた。32ヵ月の観察期間中央値において、iDFSイベントはgiredestrant群で6.7%、標準治療群で9.4%で発生し、ハザード比(HR):0.70(95%信頼区間[CI]:0.57~0.87、p=0.00141)とgiredestrant群で有意に少なかった。休薬はgiredestrant群で多かったが、中止は両群ともに少数であった。有害事象は関節痛、ホットフラッシュなどが主であり両群間の差はほぼみられなかったが、関節痛、高血圧のGrade3以上はgiredestrant群でやや多い傾向がみられた。本試験をもって、高リスクHR+HER2-早期乳がんの術後治療に経口SERDの選択肢が現れた。一方で、本試験では現在高リスク患者に対する標準治療であるアベマシクリブ、ribociclibなどのCDK4/6阻害薬は併用されていない。また、日本においてはS-1も選択肢になりうる。2.75年時点でのiDFS絶対差2.8%は、monarchE試験における2年時点での3.5%とほぼ同等である(Johnston SRD, et al.J Clin Oncol. 2020;38:3987-3998.)。現時点ではET+CDK4/6阻害薬に対するオプションであるが、今後周術期治療における経口SERD+CDK4/6阻害薬のエビデンスの創出が求められる。2.EMBER-3試験(HR+/HER2-転移乳がん)イムルネストラントは第III相試験での有効性が初めて検証された経口SERDであり、EMBER-3試験の最初の結果が2024年のSABCSで発表された。今回はそのアップデートの結果が発表された。EMBER-3試験ではCDK4/6阻害薬併用を含む術後ET/終了後12ヵ月以内の再発、もしくは転移乳がん(MBC)に対する内分泌療法で病勢進行したHR+HER2-MBCを対象として、イムルネストラント(A)、標準ET(フルベストラントもしくはエキセメスタン)(B)、イムルネストラント+アベマシクリブ(C)、にランダム化された。主要評価項目は、ESR1変異を有する患者におけるA vs.B、全患者におけるA vs.B、全患者におけるC vs.Aを主治医判断における無増悪生存期間(PFS)で評価した。今回のSABCSではそのアップデートされた結果が発表された。まずひとつ目の主要評価項目であるESR1変異を有する患者におけるイムルネストラント単剤と標準ETを比較したPFS中央値は、5.5ヵ月vs.3.8ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.47~0.82、p=0.0007)と、イムルネストラント群における統計学的有意な改善が維持されていた。全生存期間(OS)の中間解析は50%のイベント発生割合で中央値が34.5ヵ月vs.23.1ヵ月(HR:0.60、95%CI:0.43~0.86、p=0.0043)とイムルネストラント群で良好な傾向を認めた。中間解析のため、この時点で定められた有意水準は満たしておらず、統計学的な有意差はまだ認められていない。探索的な評価項目である化学療法導入までの期間は15.6ヵ月vs.10.2ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.48~0.92)と、イムルネストラント群で長い傾向を認めた。 全患者におけるイムルネストラント+アベマシクリブとイムルネストラント単剤の比較では、PFS中央値10.9ヵ月vs.5.5ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.47~0.74、p<0.0001)とアベマシクリブ併用群で有意に良好な結果であった。その有効性はCDK4/6阻害薬治療歴のある患者群でも同様であり、またESR1変異の有無、PI3キナーゼ経路の変異の有無によらずアベマシクリブ併用群で良好であった。OS中央値は33%のイベント発生割合でアベマシクリブ併用群は未到達、イムルネストラント群は34.4ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.59~1.16、p=0.2622)と若干併用群で良さそうな傾向は認めたものの、有意差は認められなかった。EMBER-3試験の結果を踏まえて、本邦でもイムルネストラントはET中に進行したESR1変異を有する患者に対する標準治療となった。HR+HER2-MBCに対する内分泌療法は経口SERDを含め多くのエビデンスが存在し、またongoingの試験が多数実施されている。オプションが増えることは患者にとって良いことではあるが、それぞれの薬剤に異なるコンパニオン診断が設定されていること、薬剤が上乗せされることによる医学的、また経済的な毒性が増すことなど、実臨床では悩むことが多くなる。エビデンスを整理しそれぞれの患者にとっての最適な、有効かつ無駄のない治療戦略を立てていくことが、臨床医に求められている。3.ASCENT-07試験(HR+/HER2-転移乳がん)サシツズマブ・ゴビテカン(SG)はHR+HER2-ならびにトリプルネガティブ(TN)MBCの3次治療以降でPFSならびにOSを有意に改善した、TROP-2をターゲットとした抗体薬物複合体(ADC)である(Bardia A, et al. N Engl J Med. 2021;384:1529-1541.)。ASCENT-07試験はHR+HER2-MBCの化学療法の1次治療において、SGを主治医選択化学療法(TPC)と比較した第III相試験である。ASCENT-07試験では転移/切除不能病変に対する化学療法歴のないHR+HER2-MBCのうち、2ライン以上のET歴がある、もしくは1次治療としてのET±CDK4/6阻害薬治療中6ヵ月以内に増悪、あるいはET+CDK4/6阻害薬の術後治療開始後24ヵ月以内に再発した患者を対象として、SGとTPC(カペシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセル)を比較した。主要評価項目は盲検化されたPFSとされた。690例の患者が登録され、SG群に456例、TPC群に234例が割り付けられた。年齢の中央値は57~58歳、白人が約半数と、アジア人が40%含まれた。PS 0は60%であった。2ラインのETを受けた患者が約60%、1ラインのETを受けた患者が27%であった。約90%がCDK4/6阻害薬の投与を受けた。周術期にCDK4/6阻害薬を受けた患者は5%未満であり、アンスラサイクリン、ならびにタキサンを受けた患者が約半数であった。主要評価項目のPFS中央値は8.3ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.85、95%CI:0.69~1.05、p=0.130)と両群間の差を認めなかった。副次評価項目の主治医評価のPFSは8.4ヵ月vs.6.4ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.64~0.93、p=0.008)とSG群で有意に良好であったが、これはバイアスの可能性がある。副次評価項目のOSは27%のイベント発生割合で中央値は両群ともに未到達(HR:0.72、95%CI:0.54~0.97、p=0.029)とSG群で良好な傾向がみられた。TPC群の61%が後治療としてADCによる治療を受けていた。SGの安全性についてはこれまでの報告と変わらず、最も高頻度に起きる有害事象は好中球減少症であった。本試験はHR+HER2-MBCの化学療法の1次治療としてのSGの有効性を検証した試験であったが、主要評価項目のPFSにおける優越性は示せなかった。2次治療以降ではPFS、OSともに化学療法に対する優越性が示されているにもかかわらず、本試験で示されなかった理由は現時点では不明である。もう少しイベントが発生した段階でのOSについては慎重に評価する必要があるだろう。4.HER2CLIMB-05試験(HER2+転移乳がん)HER2CLIMB-05試験はHER2+MBCの1次治療におけるtucatinib(まもなく本邦でも承認が期待されている)の上乗せ効果を検証した第III相プラセボ対照二重盲検化試験である。tucatinibはHER2を対象とした新たなチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)で、HER2+MBCの3次治療(Murthy RK, et al. N Engl J Med. 2020;382:597-609.)や2次治療(Hurvitz SA, et al. Ann Oncol. 2025 Nov 17. [Epub ahead of print] )における有効性が示されている。本試験ではHER2+MBCに化学療法の1次治療としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(HP)およびタキサンの併用療法(THP)を受け、4~8サイクルまでのTHP中に病勢進行しなかった患者を対象として、HPにtucatinib 300mg BIDもしくはプラセボを維持療法として投与した。主要評価項目は主治医判断によるPFS、副次評価項目はOSや盲検化PFS、中枢神経(CNS)-PFSなどとされた。326例がtucatinib群、328例がプラセボ群に割り付けられ、HR+患者では内分泌療法の併用が許容された。PSは0が60%強、HRは陽性が50%程度、脳転移の既往が約12%に認められた。De novo StageIVが約70%であり、再発例は30%にとどまった。主要評価項目の主治医判断によるPFSは中央値が24.9ヵ月vs.16.3ヵ月(HR:0.641、95%CI:0.514~0.799、p<0.0001)とtucatinib群で有意に良好であった。サブグループ解析はいずれもtucatinib群で良好な傾向がみられた。HRステータスごとの解析ではHR-でより差が強まる傾向を認めた。OSはいずれも未到達(HR:0.539、95%CI:0.303~0.957、p=0.0320)とtucatinib群で良好な傾向がみられた。CNS-PFS(脳転移の増悪もしくは死亡をイベントと定義)については全体集団では差がみられなかったものの、登録時に脳転移を有していた患者ではtucatinib群で良好な傾向がみられた。これは過去の試験結果とも共通している。有害事象も既報と大きな違いはないが、tucatinib群で下痢が73%、肝機能障害が30%弱と毒性が強い傾向にあった。とくに、Grade3以上のALT上昇は13.5%に認められており、tucatinib投与の際には注意が必要である。プラセボ対照とはいえ両群間の毒性が明確に異なるため、いわゆるfunctional unblindingが起きて主要評価項目に影響を及ぼした可能性は否定できない。本試験をもって、HER2+MBCに対するTHPによる導入療法の後のHP+tucatinib療法が標準治療の候補となった。一方で、HER2+MBCの1次治療としてはDB-09試験(Tolaney SM, et al. N Engl J Med. 2025 Oct 29. [Epub ahead of print])の結果からT-DXd+ペルツズマブも今後有力な候補になってくる。HER2+MBCの1次治療はPFSの延長に伴い、治療期間が以前と比べて大幅に延長している。これらの薬剤の使い分けに当たっては、有効性は当然のことながら有害事象の程度、頻度、重篤度も十分に加味して選択する必要がある。5.LORETTA試験(DCIS)最後に日本からのオーラルの演題を紹介する。LORETTA試験は低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)を対象として、非切除かつタモキシフェン(TAM)による治療の有効性を検証した単群検証的試験である。日本臨床試験グループ(JCOG)で実施され、研究事務局は新潟県立がんセンターの神林 智津子先生、発表したのは前JCOG乳がんグループ代表である名古屋市立大学岩田 広治先生である。JCOG1505 LORETTA試験では、浸潤がんを伴わない低リスクDCISと診断された40歳以上の女性を対象として、手術を行わずにTAM 20mg/日を5年間投与する試験である。DCISはコメド壊死を伴わず、核グレードが1~2、ER+かつHER2-であることが低リスクと定義された。3~6ヵ月ごとに評価を実施し、浸潤がんが疑われる、もしくは腫瘍径の増大があれば針生検を実施し、浸潤がんもしくはグレード3 DCISの診断となれば手術が行われた。評価項目は5年累積同側乳房内浸潤がん(IPIC)発生割合であった。IPICは2.5%を期待値、7%を閾値と設定された。これはすなわち、全登録患者におけるIPICが14%以下であれば仮説が検証されることになる予定であった。344例が登録され、337例が適格とされた。登録患者のうち、核グレード1が70%、ER+は100%、PgR+は97%であった。MRIによる腫瘍径は78%で2cm未満であった。中間解析における主要評価項目の評価で18例のIPIC発生があり、本試験は早期中止となった。IPICは腫瘍径が2cm以上の患者で多い傾向が認められた。副次評価項目の5年OSは98.8%、5年対側乳房無病生存率は97.5%と予後は非常に良好であった。6年同側乳房内浸潤がん無発生生存率は89.7%、6年無手術生存率は76.4%であった。2024年に同様の試験であるCOMET試験(Hwang ES, et al. JAMA. 2025;333:972-980.)で、低グレードDCISに対する非切除療法の安全性が示されている。COMET試験ではガイドライン遵守群の同側浸潤がん5.9%に対してアクティブモニタリング群では4.2%であり、アクティブモニタリングの非劣性が示された。LORETTA試験では主要評価項目は達成できなかったものの、同側浸潤がんの発生は当初の予想より著しく多いわけではなく、また予後は非常に良好であることが示された。非切除を希望する一部の患者にとっては、非切除療法がオプションになりうることを示したとも言えるだろう。