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先生方から寄せられたおすすめリンク集

おさえておきたい情報Gene Reviews Japan日本先天代謝異常学会難病情報センターMinds ガイドライン ライブラリ※サイト名 「Mindsガイドラインライブラリ」※運営者 「公益財団法人日本医療機能評価機構」日本難病・疾病団体協議会小児慢性特定疾病情報センター国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター小児慢性特定疾病情報センター国立循環器病研究センターNORD Rare Disease Video Libraryお役立ち情報福岡みらい病院 無動とすくみ足(パーキンソン病のウエアリングオフ)難病・希少疾患動画シリーズ【クラッベ病】生まれた弟が難病…確実に死ぬ運命から救った兄貴…【魚の鱗病】生まれた時から皮膚がない…「悪魔の子」と呼ばれる難病ポンペ病患者と家族のメッセージ動画長崎北病院パーキンソン病体操ふじのくに 難病患者さんのためのガイドブック&動画

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ファブリー病に世界初の経口治療薬が登場

 2018年7月7日、アミカス・セラピューティスク株式会社は、同社が製造・販売する指定難病のファブリー病治療薬のミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)が、5月に承認・発売されたことを期し、「ファブリー病治療:新たな選択肢~患者さんを取り巻く環境と最新情報~」と題するメディアラウンドテーブルを開催した。希少代謝性疾患の患者に治療を届けるのが使命 はじめに同社の会長兼CEOのジョン・F・クラウリー氏が挨拶し、「『希少代謝性疾患の患者に高品質の治療を届けるように目指す』ことが我々の使命」と述べた。また、企業責任は「患者、患者家族、社会に希少疾病を通じてコミットすることで『治療にとどまらない癒しをもたらすこと』」と企業概要を説明した。今後は、根治を目標に遺伝子治療薬の開発も行っていくと展望を語った。なお、クラウリー氏は、実子がポンぺ病を発症したことから製薬会社を起業し、治療薬を開発したことが映画化されるなど世界的に著名な人物である。治療選択肢が増えたファブリー病 つぎに衞藤 義勝氏(脳神経疾患研究所 先端医療研究センター長、東京慈恵会医科大学名誉教授)が、「日本におけるファブリー病と治療の現状」をテーマに、同疾患の概要を解説した。 ライソゾーム病の一種であるファブリー病は、ライソゾームのαガラクトシダーゼの欠損または活性低下から代謝されるべき糖脂質(GL-3)が細胞内に蓄積することで、全身にさまざまな症状を起こす希少疾病である。 ファブリー病は教科書的な疫学では4万例に1例とされているが、実際には人種、地域によってかなり異なり、わが国では新生児マススクリーニングで7,000例に1例と報告されている。臨床型ではファブリー病は、古典型(I型)、遅発型(II型)、ヘテロ女性型に分類され、古典型が半数以上を占めるとされる。 ファブリー病の主な臨床症状としては、脳血管障害、難聴、角膜混濁・白内障、左室肥大・冠攣縮性狭心症・心弁膜障害・不整脈、被角血管腫・低汗症、タンパク尿・腎不全、四肢疼痛・知覚異常、腹痛・下痢・便秘・嘔気・嘔吐など全身に症状がみられる。また、年代によってもファブリー病は症状の現れ方が異なり、小児・思春期では、慢性末梢神経痛、四肢疼痛、角膜混濁が多く、成人期(40歳以降)では心機能障害が多くなるという。 診断では、臨床症状のほか、臨床検査で酵素欠損の証明、尿中のGL-3蓄積、遺伝子診断などで確定診断が行われる。また、早期診断できれば、治療介入で症状改善も期待できることから、新生児スクリーニング、ハイリスク群のスクリーニングが重要だと同氏は指摘する。とくに女性患者は軽症で症状がでないこともあり、放置されている場合も多く、医療者の介入が必要だと強調した。 ファブリー病の治療では、疼痛、心・腎障害、脳梗塞などへの対症療法のほか、根治的治療として現在は酵素補充療法(以下「ERT」と略す)が主に行われ、腎臓などの臓器移植、造血幹細胞などの細胞治療が行われている。とくにERTでは、アガルシダーゼαなどを2週間に1回、1~4時間かけて点滴する治療が行われているが、患者への身体的負担は大きい。そこで登場したのが、シャペロン治療法と呼ばれている治療で、ミガーラスタットは、この治療法の薬に当たる。同薬の機序としては、体内の変異した酵素を安定化させ、リソソームへの適切な輸送を促進することで、蓄積した物質の分解を促す。また、経口治療薬であり、患者のアドヒアランス向上、QOL改善に期待が持たれている。将来的には、学童期の小児にも適用できるように欧州では臨床研究が進められている。 最後に同氏は、「ファブリー病では、治療の選択肢が拡大している一方で、個々の治療法の効果は不明なことも多い。現在、診療ガイドラインを作成しているが、エビデンスをきちんと積んでいくことが重要だと考える」と語り、講演を終えた。酵素補充保療法とスイッチできるミガーラスタット つぎにデリリン・A・ヒューズ氏(ロイヤルフリーロンドンNHS財団信託 血液学領域、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)が、「ファブリー病治療の新たな選択肢:ミガーラスタット塩酸塩」をテーマに講演を行った。 はじめに自院の状況について、ライソゾーム病の中ではファブリー病がもっとも多いこと、患者数が年15%程度増加していることを報告し、家族内で潜在性の患者も多いことも知られているため、早期スクリーニングの重要性などを強調した。 英国のガイドラインでは、診断後の治療でERTを行うとされているが、その限界も現在指摘されている。ERTの最大の課題は、治療を継続していくと抗体が形成されることであり、そのため酵素活性が中和され、薬の効果が出にくくなるという。また、細胞組織内の分泌が変化すると、末期では細胞壊死や線維化が起こり、この段階に至るとERTでは対応できなくなるほか、点滴静注という治療方法は患者の活動性を阻害することも挙げられている。実際、15年にわたるERTのフォローアップでは、心不全、腎不全、ペースメーカー、突然死のイベント発生が報告され、効果が限定的であることが判明しつつあるという1)。そして、ミガーラスタットは、こうした課題の解決に期待されている。 ミガーラスタットの使用に際しては、ファブリー病の確定診断と使用に際しての適格性チェック(たとえば分泌酵素量や遺伝子検査)が必要となる。ERTと異なる点は、使用年齢が16歳以上という点(ERTは8歳から治療可能)、GFRの検査が必要という点である。また、ERTとの併用はできず、ERT中止後2週間後から服用ができるとされ、妊娠を希望する女性に対しては、服用開始後数年は妊娠できないことを説明する必要がある。 最後に同氏は、シャペロン療法の可能性について触れ「病態生理、診療前段階、治療とその後の期間、実臨床でもデータの積み重ねが大切だ」と語り、講演を終えた。ミガーラスタットの概要一般名:ミガーラスタット製品名:ガラフォルド カプセル 123mg効能・効果:ミガーラスタットに反応性のあるGLA遺伝子変異を伴うファブリー病用法・用量:通常、16歳以上の患者に、1回123mgを隔日経口投与。なお、食事の前後2時間を避けて投与。薬価:14万2,662.10円/カプセル承認取得日:2018年3月23日発売日:2018年5月30日

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線溶薬の種類と役割:脳と心臓は違うのかな?(解説:後藤信哉氏)-853

 脳梗塞、心筋梗塞とも臓器灌流血管の血栓性閉塞による。閉塞血栓を溶解し、臓器血流を再開させれば虚血障害は改善されると予想される。心臓ではフィブリン特異性のないストレプトキナーゼによる心筋梗塞急性期死亡率の減少が大規模ランダム化比較試験にて示され、線溶薬は1970~80年代にブームとなった。損傷、修復を繰り返す血管壁に、線溶を過剰作用させると出血する。心筋梗塞急性期の線溶療法では、頭蓋内出血が問題となった。この問題はフィブリン選択性の高いt-PA、さらに理論上フィブリン選択性をもっと向上させて薬剤を使っても解決できなかった。救急車での搬送中に線溶療法をして再開通が起こると、心室細動などの不整脈も起こることがわかって、心臓領域における線溶療法は廃れた。日本のように医療アクセスのよい国では、圧倒的多数の急性心筋梗塞は急性期にカテーテル治療により再灌流を受ける時代となった。 脳領域の再灌流療法の普及は心臓に遅れた。日本ではCTなどが普及していたが、症状では脳梗塞と脳出血の弁別ができないことも理由であった。太い血管に原因があれば、脳梗塞でも急性期カテーテル治療は可能となった。それでも脳領域では、カテーテル治療前に線溶療法をして早期再灌流を重視している現状にある。 今回の論文ではフィブリン選択性が高く、血中半減期の長いtenecteplase使用後の方が初期に開発されたt-PA使用時よりも、カテーテル治療開始時の血行再開通率、神経学的予後ともによいことが示された。心臓では、カテーテル治療前に線溶療法を施行すると予後は悪化する。再灌流までの時間は短縮するが、心筋内出血、線溶亢進に伴う反跳性の血栓性亢進などが原因と想定された。脳と心臓は違うのであろうか? 微小血管障害による心筋梗塞はあるかも知れないが、臨床的に注目されていない。本研究では、カテーテルによる血栓除去術の対象となった大血管の病変は、全体の10%に過ぎなかった。脳梗塞の急性期治療は心筋梗塞急性期治療を後追いしているように見えるが、カテーテル治療の適応範囲がまだ狭い。線溶療法と同時に普及したカテーテル治療により、線溶療法の質の評価が不十分となった心臓と異なり、脳では線溶療法の質の評価が詳細になされるかも知れない。凝固系、血小板とともに血栓性疾患の発症において重要な役割を演じる線溶系の役割が、脳領域の治療の進歩とともに詳細に解明されることを期待したい。

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STEMIへの線溶療法、薬剤により死亡リスクに差/Lancet

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者に対する線溶療法では、薬剤などによって重要な相違点があり、アルテプラーゼ急速投与、テネクテプラーゼ(tenecteplase)およびレテプラーゼ(reteplase)は、ストレプトキナーゼ(streptokinase)やアルテプラーゼ非急速投与より優先して考慮されるべきで、線溶療法への糖蛋白IIb/IIIa阻害薬の追加は避けるべきである。タイ・ウボンラーチャターニー大学のPeerawat Jinatongthai氏らが、無作為化試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果を報告した。線溶療法は、医療資源が乏しい環境下のSTEMI患者に対する、機械的再灌流に代わる治療法であるが、各種線溶療法を比較した包括的なエビデンスは不足していた。Lancet誌2017年8月19日号掲載の報告。約13万例を含む計40試験をネットワークメタ解析 研究グループは、PubMed、Embase、the Cochrane Library、ClinicalTrials.gov、WHO-ICTRPを用い、2017年2月28日までに発表された、成人STEMI患者の再灌流療法としての線溶薬の無作為化比較試験(対照は他の線溶薬、プラセボまたは無治療。単独投与または補助的な抗血栓療法との併用投与は問わず)を検索。STEMIに対する再灌流療法の適応が承認されている線溶薬(ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ、アルテプラーゼ、レテプラーゼ)を検証した試験のみを対象に、ネットワークメタ解析を行った。 主要評価項目は、30~35日以内の全死因死亡率、安全性評価項目は大出血(BARC基準の3a、3b、3c)。 選択基準を満たした試験は40件で、12種類の異なる線溶療法を受けた12万8,071例が解析に組み込まれた。死亡リスク増加、出血リスク増加の種類別特性が明らかに アルテプラーゼ急速投与(tPA_acc)+非経口抗凝固薬(PAC)と比較し、ストレプトキナーゼ+PACおよびアルテプラーゼ非急速投与(tPA)+PACは、全死因死亡のリスク増加と有意な関連が認められた。リスク比(RR)は、ストレプトキナーゼ+PACが1.14(95%信頼区間[CI]:1.05~1.24)、tPA+PACが1.26(同:1.10~1.45)であった。一方、tPA_acc+PACと、テネクテプラーゼ+PACおよびレテプラーゼ+PACは、死亡リスクに差はなかった。 大出血に関しては、テネクテプラーゼ+PACは、他のレジメンと比較して出血リスクの低下と関連している傾向があった(RR:0.79、95%CI:0.63~1.00)。一方、線溶薬+PACへの糖蛋白IIb/IIIa阻害薬(GP)の追加は、tPA_acc+PACと比較して、大出血リスクの増加がみられた。RRは、tPA+PAC+GPが1.27(95%CI:0.64~2.53)、テネクテプラーゼ+PAC+GPが1.47(同:1.10~1.98)、レテプラーゼ+PAC+GPが1.88(同:1.24~2.86)、ストレプトキナーゼ+GPが8.82(同:0.52~151.04)であった。 なお著者は、大出血の定義の異質性や、観察期間が短いこと、脳卒中の診断法に関する詳細が不明などを研究の限界として指摘し、「脳卒中の転帰に対する線溶薬の有効性については解釈に注意が必要である」と述べている。

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ポンペ病は早く気付いてほしい難病

 2017年3月30日、都内においてサノフィ株式会社は、4月15日の「国際ポンペ病の日」を前に、「治療方法がありながらも診断がつきにくい希少疾患『ポンペ病』」をテーマとしたメディアセミナーを開催した。セミナーでは、ポンペ病の概要についての講演のほか、患者・患者家族から「早く確定診断がなされ、治療ができる体制を望みたい」と要望が寄せられた。ポンペ病は小児だけの疾患ではない はじめに埜中 征哉氏(国立精神・神経医療研究センター病院 名誉院長)が、「治療可能になった遺伝性筋疾患~糖原病II型(ポンペ病)~」と題して、疾患概要を解説した。 ポンペ病は、筋疾患の中でも遺伝性代謝疾患である糖原病の1つに分類され、グリコーゲン分解に不可欠なライソゾーム酵素の欠損により、グリコーゲンの蓄積とライソゾームの巨大化を招き、筋肉に多量のグリコーゲンが蓄積される病態である。 ポンペ病の患者数は、わが国では10万人当たり0.1~0.3例とされているが、多くの見逃し例があると考えられている(参考にオランダでは10万人当たり2.5例、台湾では10万人当り5.9例)。 ポンペ病の症状は、大きく乳児型と遅発型(小児/成人型)の2種類に分けられる。 乳児型は生後数ヵ月より発育の遅れが観察され、特徴として頸屈筋の筋力低下、早期からの呼吸障害、心筋障害、肝臓腫大のほか、独歩・歩行困難がみられ、大腿部の筋肉の成長がみられないという。 遅発型は1~70歳と幅広い年代で発症が報告され、特徴として筋ジストロフィーに似た筋力低下(とくに下肢)、高血清クレアチンキナーゼ(CK)値の異常、呼吸筋が侵されやすいなどが挙げられる。とくに背部筋肉の萎縮は強く、側彎などもみられるという。ポンペ病は新生児スクリーニングで早期診断を ポンペ病の診断としては、臨床的診断のほか、病理診断で筋生検によるライソゾームの確認、生化学診断によるろ紙スクリーニング検査での酵素活性測定などが行われる(現在、国立成育医療センターをはじめ国内4ヵ所で可能)。また、遅発型であれば、CT所見で筋肉の萎縮(手の筋肉は維持されているのに、下腿が萎縮しているのが特徴)なども診断の助けとなる。 ポンペ病の治療では、呼吸管理、嚥下障害や歩行困難への対症療法のほかに、ヒト型酵素アルグルコシダーゼ アルファ(商品名:マイオザイム)が酵素補充療法として使用されている。マイオザイムは、隔週にて点滴静脈内投与を行うもので、患者は生涯続けることとなる。わが国では2017年3月現在、86例(乳児型11例、遅発型75例)のポンペ病患者が同薬で治療中という。 実際の効果について台湾から新生児スクリーニングで見いだされた5例の乳児型(生後11週以内に治療開始)では、24ヵ月を超えて生存できなかった従来群と比較して生存率が80ヵ月を超え、独歩ができない従来群と比較し20ヵ月までには独歩できる状態まで回復したことが報告され、早期の治療介入がより有効であることが示された1)。また、遅発型での治療では、乳児型のような劇的な効果は期待できないが、症状の進展を防ぐ、たとえば呼吸機能の維持などが期待できるという。 最後に埜中氏は、「本症は、まだ臨床現場で見逃されている可能性があり、とくに(1)筋ジストロフィーと診断された例、(2)筋疾患で診断がついていない例、(3)CK値が高い患者には、本症も念頭に入れて診断していただきたい。また、ポンペ病の簡単な診断法としてろ紙血による酵素活性測定があるので、わが国でも新生児の網羅的な検査ができるようになれば、早期の診断で有効な治療ができるのだから、早く制度化されることを望む」と述べ、講演を締めくくった。ポンペ病コールセンター 電話番号 0120-740-540 2017年4月15日(土)~5月12日(金)の期間限定 平日 9:00~17:00(土日祝日はお休み。ただし4月15・16日は受付)

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治療できるライソゾーム病 ―ポンペ病を見逃さないために―

ポンペ病(糖原病II型/酸性マルターゼ欠損症[AMD])ポンペ病は、ライソゾーム酵素である酸性α-グルコシダーゼの欠損・活性低下を原因とする常染色体劣性遺伝疾患で、多くの組織のライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積し、主に骨格筋や心筋、平滑筋が障害される。発症率は約4万人に1人と報告されており1-3)、国内では100人程度の患者が確認されている。治療としては、各症状に対する対症療法に加え、酸性α-グルコシダーゼを補充する酵素補充療法が行われる。ポンペ病を疑う特徴的な症状臨床症状はきわめて多岐にわたるが、発症する年齢により、乳児型と小児型・成人型(遅発型)の3つに分けられる。乳児型は生後6ヵ月までに発症し、心肥大などの重度の心機能障害、筋力低下・筋緊張低下(フロッピーインファント※)、呼吸障害、哺乳不良、発達障害などがみられるが、とくに心肥大と筋力低下・筋緊張低下はポンペ病を疑う。小児型は生後6~12ヵ月以降、成人型は10~60歳代に発症し、いずれも重度の心機能障害は来さないが、小児型では進行性ミオパチー、成人型では緩徐進行性ミオパチーを特徴とする。小児型・成人型では、近位筋の筋力低下、呼吸機能障害、早朝の頭痛、高CK血症などからポンペ病を疑う。最重症である乳児型は約3分の1の頻度を占め2)、心肺不全により生後1年以内に死亡する急速進行性の経過をたどるため4,5)、とくに早期診断・治療が求められる。※筋肉が柔らかくなり、正常な子供にみられない特異な姿勢になる。首の座りやお座り、はいはいや歩行といった発達が遅れる。ポンペ病の早期診断のためにポンペ病を疑う症状や所見が認められたら、「新生児マス・スクリーニング用ろ紙※」を用いた酸性α-グルコシダーゼ酵素活性測定による簡便なスクリーニング検査の実施が推奨される(図1)。本スクリーニング検査は、検体に乾燥ろ紙血を用いるため、侵襲が少なく、常温で郵送可能などの利点があり、国立成育医療研究センター臨床検査をはじめとした幾つかの医療機関で原則無料で実施されている。酵素活性測定の結果は、2~4週間程度で報告され、酵素活性低下が確認できれば、確定診断として遺伝子検査や筋生検が必要となることがある。ポンペ病は、患者数が少なく、疾患の認知があまりされていないうえに、他の疾患と類似した症状や所見を示すことがあるため、診断がつかないまま適切な治療を受けられないでいる患者さんが存在している可能性がある。ポンペ病の患者さんの予後を考えるうえでは、早期診断・治療がきわめて重要である。図1 ろ紙血検体作業・依頼方法(国立成育医療研究センターの場合)(1)1~2mL採血後、新生児マス・スクリーニング用ろ紙に血液を2、3滴滴下する。◇点線丸印からはみ出るように滴下する◇ろ紙の裏側にしみるまで滴下する拡大する(2)ろ紙に患者さんの名前(もしくはイニシャル、匿名化番号)、生年月日、採取日、性別を記入する。(3)吊り下げずにそのまま水平に置き、室温で5時間以上乾燥させる(2~3日の室温放置も可)。(4)完全に乾燥させた後、ビニール袋に入れ、郵送までの間、冷蔵で保存する。(5)「検査申込書(酵素活性検査用)」に必要事項を記入し、ろ紙血(ビニールに入れた状態)とともに常温で検査実施機関に郵送する。1)Hirschhorn R & Reuser AJJ. Glycogen storage disease type II: acid alpha-glucosidase (acid maltase) deficiency. In: Scriver CR, et al. eds. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. 8th ed. NewYork: McGraw-Hill; 2001.p.3389-3420.2)Martiniuk F. et al. Am J Med Genet. 1998;79:69-72.3)Ausems MG et al. Eur J Hum Genet. 1999;7:713-716.4)van den Hout HM. et al. Pediatrics. 2003;112:332-340.5)Kishnani PS. et al. J Pediatr 2006;148:671-676.

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封入体筋炎〔sIBM : Sporadic Inclusion Body Myositis〕

1 疾患概要■ 概念・定義封入体筋炎は中高年に発症する、特発性の筋疾患である。左右非対称の筋力低下と筋萎縮が大腿四頭筋や手指・手首屈筋にみられる。骨格筋には、縁取り空胞と呼ばれる特徴的な組織変化を生じ、炎症細胞浸潤を伴う。免疫学的治療に反応せず、かえって増悪することもある。嚥下障害や転倒・骨折に注意が必要である。■ 疫学厚生労働省難治性疾患克服研究事業「封入体筋炎(IBM)の臨床病理学的調査および診断基準の精度向上に関する研究」班(研究代表者:青木正志、平成22-23年度)および「希少難治性筋疾患に関する調査研究」班(研究代表者:青木正志、平成24-27年度)による調査では、日本には1,000~1,500人の封入体筋炎患者がいると考えられる。研究協力施設の146例の検討により男女比は1.4:1で男性にやや多く、初発年齢は64.4±8.6歳、初発症状は74%が大腿四頭筋の脱力による階段登りなどの障害であった。嚥下障害は23%にみられ、生命予後を左右する要因の1つである。顕著な左右差は、27%の症例でみられた。認知機能低下が明らかな症例はなかった。深部腱反射は正常または軽度低下する。約15%の封入体筋炎患者には全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強皮症、サルコイドーシスなどの自己免疫性の異常が存在するが、多発筋炎や皮膚筋炎と異なり、肺病変、悪性腫瘍の発生頻度上昇などは指摘されていない。血清のクレアチンキナーゼ(CK)値は正常か軽度の上昇にとどまり、通常は正常上限の10倍程度までとされる。研究班の調査ではCK値の平均は511.2±368.1 IU/Lで2,000 IU/Lを超える症例はまれであった。約20%の封入体筋炎患者は、抗核抗体が陽性とされるが、いわゆる筋炎特異的抗体は陰性である。■ 病因封入体筋炎の病態機序は不明である。筋病理学的に観察される縁取り空胞が蛋白分解経路の異常など変性の関与を、また細胞浸潤が炎症の関与を想起させるものの、変性と炎症のどちらが一次的でどちらが副次的なのかも明らかになってはいない。変性の機序の証拠としては、免疫染色でAβ蛋白、Aβ前駆蛋白(β-APP)、リン酸化タウ、プリオン蛋白、アポリポプロテイン E、α1-アンチキモトリプシン、ユビキチンやニューロフィラメントが縁取り空胞内に沈着していることが挙げられる。β-APPを筋特異的に過剰発現させたモデルマウスでは筋変性や封入体の形成がみられることも、この仮説を支持している。しかしながら、多発筋炎や皮膚筋炎の患者生検筋でもβ-APPが沈着していることから疾患特異性は高くない。筋線維の恒常性の維持は、蛋白合成と分解の微妙なバランスの上に成り立っていると想像される。封入体筋炎の病態として、Aβ仮説のようにある特定の蛋白が発現増強し、分解能力を超える可能性も考えられるが、一方で蛋白分解系が破綻し、異常蛋白が蓄積するという機序も考えられる。蛋白分解経路に重要なユビキチンE3リガーゼの1つであるRING Finger Protein 5(RNF5)の過剰発現マウスでは、筋萎縮と筋線維内の封入体形成が観察されている。骨格筋特異的にオートファジーを欠損させたマウスでは、ユビキチンE3リガーゼの発現上昇や筋変性・萎縮がみられることも報告されている。封入体筋炎の骨格筋に、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子産物であるTDP-43およびFUS/TLSが蓄積することも観察されている。TDP-43陽性線維は、封入体筋炎患者の生検筋線維の25~32.5%と高頻度に検出され、その頻度は封入体筋炎の病理学的指標とされてきた縁取り空胞やAβ陽性線維よりも高頻度である。家族性ALS関連蛋白の蓄積は、縁取り空胞を伴う筋疾患に共通する病理学的変化であり、封入体筋炎に対する疾患特異性は低いと考えられてきている。ユビキチン結合蛋白であるp62は、TDP-43以上の頻度で封入体筋炎の筋線維に染色性が認められる。近年、骨パジェット病と前頭側頭型認知症を伴う封入体性ミオパチーの家族例において、蛋白分解系の重要な分子であるVCPの遺伝子異常が見出されたが、このVCPも蛋白分解経路の重要な因子である。蛋白分解経路の異常は、封入体筋炎の病態の重要な機序と考えられる。封入体筋炎の病態として、炎症の関与も以前より検討されてきた。炎症細胞に包囲されている筋線維の割合は、縁取り空胞やアミロイド沈着を呈する筋線維よりも頻度が高いことから、炎症の寄与も少なくないと考えられる。ムンプスウイルスの持続感染は否定されたが、HIVやHTLV-1感染者やポリオ後遺症の患者で封入体筋炎に類似した病理所見がみられる。マイクロアレイやマイクロダイセクションを用いた検討では、CD138陽性の形質細胞のクローナルな増殖が、封入体筋炎患者の筋に観察され、形質細胞の関与も示されている。炎症細胞のクローナルな増殖は、細胞障害性T細胞が介する自己免疫性疾患である可能性を示唆している。ただ、封入体筋炎は、臨床場面で免疫抑制薬の反応に乏しいことから、炎症が病態の根本であるとは考えにくい。また、多発筋炎でも観察される現象であることから、疾患特異的な現象とも言いがたい。封入体筋炎は、親子や兄妹で発症したという報告も散見され、HLAなど遺伝的背景が推定されているが、元来は孤発性の疾患である。■ 症状封入体筋炎は慢性進行性で、主に50歳以上に発症する筋疾患であり、初発症状から5年以上診断がつかない例も多い。多発筋炎・皮膚筋炎が女性に多いのと対照的に、封入体筋炎は男性にやや多い。非対称性の筋脱力と筋萎縮が大腿四頭筋や手指・手首屈筋にみられる。肩の外転筋よりも手指・手首屈筋が弱く、膝伸展や足首背屈が股関節屈曲よりも弱いことが多い。■ 分類診断基準を参照されたい。■ 予後多くの症例では四肢・体幹筋の筋力低下や嚥下障害の進行により、5~10年で車いす生活となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1975年にBohanとPeterは炎症性筋疾患の診断基準を提唱したが、当時は封入体筋炎という概念が十分に確立されていなかった。1995年にGriggsにより封入体筋炎の診断基準が提唱され、2007年のNeedhamらの診断基準とともに国際的に広く用いられている。前述の難治性疾患克服研究事業の研究班では、全国の後ろ向き調査を基に、国内外の文献を検討し、診断基準を見直した(表)。本診断基準は、日本神経学会および日本小児神経学会から承認も受けている。表 封入体筋炎(Inclusion Body Myositis:IBM)診断基準(2013)(厚労省難治性疾患克服研究事業:希少難治性筋疾患に関する調査研究班)診断に有用な特徴A.臨床的特徴a.他の部位に比して大腿四頭筋または手指屈筋(とくに深指屈筋)が侵される進行性の筋力低下および筋萎縮b.筋力低下は数ヵ月以上の経過で緩徐に進行する※多くは発症後5年前後で日常生活に支障を来す。数週間で歩行不能などの急性の経過はとらない。c.発症年齢は40歳以上d.安静時の血清CK値は2,000 IU/Lを超えない(以下は参考所見)嚥下障害がみられる針筋電図では随意収縮時の早期動員(急速動員)、線維自発電位/陽性鋭波/(複合反復放電)の存在などの筋原性変化(注:高振幅長持続時間多相性の神経原性を思わせる運動単位電位が高頻度にみられることに注意)B.筋生検所見筋内鞘への単核球浸潤を伴っており、かつ以下の所見を認めるa.縁取り空胞を伴う筋線維b.非壊死線維への単核球の侵入や単核球による包囲(以下は参考所見)筋線維の壊死・再生免疫染色が可能なら非壊死線維への単核細胞浸潤は主にCD8陽性T細胞形態学的に正常な筋線維におけるMHC classⅠ発現筋線維内のユビキチン陽性封入体とアミロイド沈着過剰リン酸化tau、p62/SQSTM1、TDP43陽性封入体の存在COX染色陰性の筋線維:年齢に比して高頻度(電子顕微鏡にて)核や細胞質における15~18nmのフィラメント状封入体の存在合併しうる病態HIV、HTLV-I、C型肝炎ウイルス感染症除外すべき疾患縁取り空胞を伴う筋疾患※(眼咽頭型筋ジストロフィー・縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー・多発筋炎を含む)他の炎症性筋疾患(多発筋炎・皮膚筋炎)筋萎縮性側索硬化症などの運動ニューロン病※Myofibrillar myopathy(FHL1、Desmin、Filamin-C、Myotilin、BAG3、ZASP、Plectin変異例)やBecker型筋ジストロフィーも縁取り空胞が出現しうるので鑑別として念頭に入れる。特に家族性の場合は検討を要する。診断カテゴリー:診断には筋生検の施行が必須であるDefinite Aのa-dおよびBのa、bの全てを満たすものProbable Aのa-dおよびBのa、bのうち、いずれか5項目を満たすものPossible Aのa-dのみ満たすもの(筋生検でBのa、bのいずれもみられないもの)注封入体筋炎の診断基準は国際的に議論がなされており、歴史的にいくつもの診断基準が提案されている。本診断基準は専門医のみならず、内科医一般に広くIBMの存在を知ってもらうことを目指し、より簡便で偽陰性の少ない項目を診断基準項目として重視した。免疫染色の各項目に関しては感度・特異度が評価未確定であり参考所見とした。ヘテロな疾患群であることを念頭に置き、臨床治験の際は最新の知見を考慮して組み入れを行う必要がある。臨床的特徴として、「a.他の部位に比して大腿四頭筋または手指屈筋(とくに深指屈筋)が侵される進行性の筋力低下および筋萎縮」、「b.筋力低下は数ヵ月以上の経過で緩徐に進行する」とし、多くは発症後5年前後で日常生活に支障を来すことを勘案した。「数週間で歩行不能」などの急性の経過はとらず、診断には病歴の聴取が重要である。また、遺伝性異常を伴う筋疾患を除外するために「c.発症年齢は40歳以上である」とした。そして、慢性の経過を反映し「d.安静時の血清CK値は2,000 IU/Lを超えない」とした。さらに診断には筋生検が必須であるとし、「筋内鞘への単核球浸潤を伴っており」、かつ「a.縁取り空胞を伴う筋線維」、「b.非壊死線維への単核球の侵入や単核球による包囲」がみられるものとした。これらの臨床的特徴・病理所見の6項目すべてがみられる場合を確実例、臨床的特徴がみられるが、病理所見のいずれかを欠く場合を疑い例、病理所見が伴わないものを可能性あり、とした。欧米で取り入れられている免疫染色や電顕所見に関しては、縁取り空胞の持つ意義と同様と考え、診断基準には含めなかった。封入体筋炎の診断の際には、臨床経過が重要な要素であり、中高齢の慢性進行性の筋疾患では常に念頭に置くべきである。封入体筋炎症例の一部は病期が早いことにより、また不適切な筋標本採取部位などによって、特徴的な封入体を確認することができず、診断確定に至らない場合があると考えられる。最近、cN1Aに対する自己抗体との関連性が報告されているが、今後、病態解明の進展に伴い疾患マーカーが確立されることが望ましい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)封入体筋炎の治療は確立されていない。ほとんどの例でステロイドの効果はみられない。CK値が減少したとしても、筋力が長期にわたって維持される例は少ない。免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)は、封入体筋炎に対し、とくに嚥下に関して限定的な効果を示す例がある。しかし、対照試験では、一般的な症状の改善はわずかで、統計学的な有意差は得られず、治療前後の筋生検所見の改善のみが報告されている。根本的な治療がない現状では、運動療法・作業療法などのリハビリテーション、歩行時の膝折れ防止や杖などの装具の活用も有効である。さらに合併症として、致死的になる可能性のある嚥下の問題に関しては、食事内容の適宜変更や胃瘻造設などが検討される。バルーンカテーテルによる輪状咽頭部拡張法(バルーン拡張法)も封入体筋炎患者での嚥下障害改善に有効な可能性がある。4 今後の展望マイオスタチンの筋萎縮シグナル阻害を目的とした、アクチビンIIB受容体拮抗剤のBYM338を用いた臨床試験もわが国で行われている。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 封入体筋炎(医療従事者向けのまとまった情報)希少難治性筋疾患に関する調査研究班班員名簿(27年度)(医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省のホームページ 指定難病 封入体筋炎の概要・診断基準(医療従事者向けのまとまった情報)1)青木正志編、内野誠監修. 筋疾患診療ハンドブック. 中外医学社; 2013: p.75-82.公開履歴初回2014年02月06日更新2016年05月03日

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嚢胞性線維症〔CF : cystic fibrosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義嚢胞性線維症(cystic fibrosis:CF)は、欧米白人の出生2,000~3,000人に1人と、比較的高い頻度で認められる常染色体劣性遺伝性疾患であるが、日本人にはきわめてまれとされている。1938年にAndersonにより、膵外分泌腺機能異常を伴う疾患として初めて報告されて以来、現在では全身の外分泌腺上皮のCl-移送機能障害による多臓器疾患として理解されている。近年のCFに関する遺伝子研究の進歩により、第7染色体長腕にあるDNAフラグメントの異常(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR遺伝子変異)がCFの病因であることがわかってきた。このCFTR遺伝子変異は、世界中で400種類以上報告されており、△F508変異(エクソン10上の3塩基欠失によるCFTR第508番アミノ酸であるフェニルアラニンの欠失)が、欧米白人におけるCF症例の約70%に認められている。■ 疫学かつては東洋人と黒人にはCFはみられないと考えられていたが、現在では約10万人に1人と推測されている。わが国では厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班によってCFの実態調査が行われ、1952年にわが国での第1例の報告以来、1980年の集計で46例が報告された。その後、当教室における1993年までの集計によって、104例(男57例、女47例)のCF患者の報告を認めている。単純に計算すると、わが国におけるCF患者の頻度は出生68万人に1人の割合となるが、CFに対する関心が高まったことなどから、1980年以降の頻度は出生35万人に1人の割合となり、確定診断に至らなかった例や未報告例などを考慮すると、真の頻度はさらに高いものと思われる。また、2009年の全国調査では、過去10年間の患者数は44例程度と報告されている。日本人CF症例の遺伝子解析の検討は少なく、王らは3例のCF患児に、花城らはCF患児1例にそれぞれ△F508変異の有無を検索したが、この変異は認められなかった。また、古味らは、△F508変異に加えてCFTR遺伝子のエクソン11に存在するG542X、G551D、およびR553X変異の有無も検索したが、いずれの変異も認められなかった。筆者らは、NIH(米国国立衛生研究所)のgenctic research groupとの共同研究により5例のCF患者およびその家族の遺伝子解析を行い、興味ある知見を得ている。すなわち全例において、△F508変異をはじめとする16種類の既知のCFTR遺伝子変異は認められなかったが、single stand conformational polymorphism analysisにより4例においてDNAシークエンスの変異を認めた(表1)。この変異が未知のCFTR遺伝子変異であるのか、あるいはCFTR遺伝子とは関係しないpolymorphismであるのかの検討が必要である。画像を拡大する■ 病因1985年にWainwrightらによって、第7染色体上に存在することが確認されたCF遺伝子が、1989年にMichigan-Toronto groupの共同研究により初めて単離され、CFTRと命名された。RiordanらによりクローニングされたCFTR遺伝子は、長さ250kbの巨大な遺伝子で、1,480個のアミノ酸からなる膜貫通蛋白をコードしている(図1)。翻訳されたCFTR蛋白の構造は、2つの膜貫通部(membrane spanning domain)、2つのATP結合構造(nucleotide binding fold:NBF 1、NBF 2)、および調節ドメイン(regulatory domain)の5つの機能ドメインからなっている。1991年にはRichらの研究により、CFTR蛋白自身がCl-チャンネルであることが証明され、最近では、NBF1とNBF2がCl-チャンネルの活性化制御に異なる機能を持つことが報告されている。このCFTR遺伝子の変異がイオンチャンネルの機能異常を生じ、細胞における水・電解質輸送異常という基本病態を形成していると考えられている。CFTR遺伝子のmRNA転写は、肝臓、汗腺、肺、消化器などの分泌および非分泌上皮から検出されている。CFTR遺伝子変異のなかで過半数を占める主要な変異が、CF患者汗腺のCFTR遺伝子のクローニングにより同定された△F508変異である。この△F508変異は欧米白人におけるCF症例の約80%に認められているが、そのほかにも、400種類以上の変異が報告されており、これらの変異の発生頻度および分布は人種や地域によって異なっている(表2)。△F508変異の頻度は、北欧米諸国では70~80%と高く、南欧諸国では30~50%と低いが、東洋人ではまだ報告されていない。画像を拡大する画像を拡大する■ 症状最も早期に認められ、かつ非常に重要な症状として、胎便性イレウスによる腸閉塞症状が挙げられる。粘稠度の高い胎便が小腸を閉塞してイレウスを惹起する。生後48時間以内に腹部膨満、胆汁性嘔吐を呈し、下腹部に胎便による腫瘤を触れることがある。腸管の狭窄や閉塞がみられることもある。わが国におけるCF症例の集計では、27.9%が胎便性イレウスで発症している(表3)。膵外分泌不全症状は約80%の症例で認められ、年齢とともに症状の変化をみることもある。食欲は旺盛であるが、膵リパーゼの分泌不全による脂肪吸収不全のため多量の腐敗臭を有する脂肪便を排泄し、栄養不良による発育障害を来してくる。低蛋白血症による浮腫、ビタミンK欠乏による出血傾向、低カルシウム血症によるテタニーなどの合併症を認める場合もある。粘稠な分泌物の気管および気管支内貯留と、それに伴うブドウ球菌や緑膿菌などの感染により、多くは乳児期から気管支炎、肺炎症状を反復して認めるようになる。咳嗽、喘鳴、発熱、呼吸困難などの症状が進行性にみられ、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの閉塞機転に伴う病変が進展し慢性呼吸不全に陥り、これが主な死亡原因となる。胸郭の変形、バチ状指、チアノーゼなども認められる。CF患者では汗の電解質、とくにCl濃度が異常に高く、多量の発汗によって電解質の喪失を来し、発熱や虚脱などの“heat prostration”と呼ばれる症状を呈することが知られている。その他の症状として、閉塞性黄疸、胆汁性肝硬変、耐糖能異常、副鼻腔炎症状などをはじめとする種々の合併症状が報告されている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ CFの一般的な診断法表4にわが国のCF患者104例における確定診断時の年齢分布を示した。全症例の半数以上である64例(61.5%)が1歳までにCFと診断されており、新生児期にCFと診断された30例(28.8%)のうち29例が胎便性イレウスにて発症した症例であった。したがって、胎便性イレウス症候群では、常にCFの存在を念頭におき、メコニウム病(meconium ileus without CF)との鑑別を行っていく必要がある。CFの診断には、汗の電解質濃度の測定が必須であり、Cl濃度が60mEq/L以上であればCFが疑われる。Pilocarpine iontophoresis刺激による汗の採取法が推奨されているが、測定誤差が生じやすく、複数回測定する必要がある。当教室では米国Wescor社製の発汗刺激装置および汗採取コイルを使用し、ほとんど誤差なく簡便に汗の電解質濃度を測定している。CFを診断するうえで、膵外分泌機能不全の存在も重要であり、その診断は、脂肪便の有無、便中キモトリプシン活性の測定、PFD試験やセクレチン試験などによって行っていく。X線検査により、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの肺病変の診断を行う。画像を拡大する■ CFのマス・スクリーニング欧米において、1973年ごろよりCFの新生児マス・スクリーニングが試みられるようになり、1981年にCrossleyらが乾燥濾紙血のトリプシン濃度をradioimmunoassayにて測定して以来、CFの新生児マス・スクリーニング法として、乾燥濾紙血のトリプシン濃度を測定する方法が広く用いられるようになった。さらに1987年にはBowlingらが、より簡便で安価なトリプシノーゲン濃度を測定し、感度および特異性の点からもCFの新生児マス・スクリーニング法として非常に有用であると報告している。筆者らも、わが国におけるCFの発生率を調査する目的で東京都予防医学協会の協力を得て、CFの新生児マス・スクリーニングを行った。方法は、先天性代謝異常症の新生児マス・スクリーニング用の血液乾燥濾紙を使用し、Trypsinogen Neoscreen Enzyme Immunoassay Kitにて血中トリプシノーゲン値を測定した。結果は、3万2,000例のトリプシノーゲン値は、31.8±8.9ng/mLであり、Bowlingらが示した本測定法におけるカットオフポイントである140ng/mLを超えた症例はなかった(図2)。画像を拡大する■ CFの遺伝子診断CFの原因遺伝子が特定されたことにより、遺伝子診断への期待が高まったが、CF遺伝子の変異は人種や地域によってまちまちであり、本症の遺伝子診断は足踏み状態であると言わざるを得ない。欧米白人では、△F508変異をはじめとするいくつかの頻度の高い変異が知られており、これらの検索はCFの診断に大いに役立っている。しかしながら、わが国のCF症例における共通のCF遺伝子の変異は、まだ特定されておらず、PCR-SSCP解析と直接塩基配列解析を用いて遺伝子変異を明らかにすることが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法新生児期にみられる胎便性イレウスに対しては、ガストログラフィンによる浣腸療法などが試みられるが、多くは外科手術が必要となる。膵外分泌不全による消化吸収障害に対しては、膵酵素剤の大量投与を行う。しかし近年、膵酵素剤の大量投与による結腸の炎症性狭窄の報告も散見され、注意が必要である。胃酸により失活しない腸溶剤がより効果的である。栄養障害に対しては高蛋白、高カロリー食を与え、症例の脂肪に対する耐性に応じた脂肪摂取量を決めていく。中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、膵酵素を必要とせずに吸収されるため、カロリー補給には有用である。必須脂肪酸欠乏症に対しては、定期的な脂肪乳剤の経静脈投与が必要である。脂溶性ビタミン類の吸収障害もみられるため、十分量のビタミンを投与する。呼吸器感染に対しては、気道内分泌物の排除を目的としてpostural drainageと理学訓練(physiotherapy)を行い、吸入療法および粘液溶解薬や気管支拡張薬などの投与も併せて行っていく。感染の原因菌としてはブドウ球菌と緑膿菌が一般的であるが、検出菌の感受性テストの結果に基づいて投与する抗菌薬の種類を決定していく。1~2ヵ月ごとに定期的に入院させ、2~3剤の抗菌薬の積極的な予防投与も行われている。抗菌作用、抗炎症作用、線毛運動改善作用などを期待してマクロライド系抗菌薬の長期投与も行われている。肺機能を改善する組み換えヒトDNaseの吸入療法や気道上皮細胞のNa+の再吸収を抑制するためのアミロイド、さらに気道上皮細胞からのCl-分泌促進のためのヌクレオチド吸入療法などが、近年試みられている。4 今後の展望まずは早期に診断して、適切な治療や管理を行うことが大切であり、その意味から早期診断のための汗のCl-濃度を測定する方法の普及が望まれる。さらに遺伝子検索を行うにあたっての労力と費用の負担が軽減されることが必要と思われる。適切な治療を行うためには、今後も肺や膵臓および肝臓の機能を改善させたり、呼吸器感染症を予防する新薬の開発が望まれる。さらに遺伝子治療や肺・肝臓移植が可能となり、生存年数が欧米並みに30歳を超えるようになることを期待したい。5 主たる診療科小児科、小児外科、呼吸器内科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査 一次調査の集計(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業)難病情報センター:膵嚢胞線維症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病患者支援の会(内閣府認定NPO法人、腎移植や肝移植などの情報提供)Japan Cystic Fibrosis Network:JCFN(嚢胞性線維症患者と家族の会)1)成瀬達ほか.第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「難治性膵疾患に関する調査研究」平成21年度 総括・分担研究報告書. 2010; 297-304.2)Flume PA, et al. Am J Respir Care Med. 2007; 176: 957-969.3)清水俊明ほか.小児科診療.1997; 60: 1176-1182.4)清水俊明ほか.小児科. 1987; 28: 1625-1626.5)Wainwright BJ, et al. Nature. 1985; 318: 384-385.公開履歴初回2013年08月15日更新2015年12月15日

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CKDリスクを予測する新たなバイオマーカーの可能性/NEJM

 可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ受容体(suPAR)の上昇は、ベースライン時の腎機能正常者において、慢性腎臓病(CKD)の発症および推定糸球体濾過量(eGFR)の加速度的な低下と有意に関連することが、米国・エモリー大学医学部のSalim S Hayek氏らの検討で示された。血漿中のsuPARの高値は、多様な病態の患者集団において、不良な臨床転帰や巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病性腎症と関連することが知られている。これらの知見はまだ検証中であるが、腎臓病におけるsuPARの広範な役割が示唆されている。NEJM誌2015年11月12日号(オンライン版2015年11月5日号)掲載の報告。血漿suPAR値とCKD発症の関連を前向きコホート試験で評価 研究グループは、「血漿suPAR値はCKDの新規発症と関連する」との仮説を検証するために、心血管疾患患者を対象に大規模な前向きコホート試験を実施した(Abraham J and Phyllis Katz Foundationなどの助成による)。 2003~09年に、アトランタ市の3施設で心臓カテーテルを施行され、エモリー心血管バイオバンクに登録された3,683例(平均年齢63±12歳、男性65%、suPAR中央値3,040pg/mL)の血漿suPAR値を測定した。このうち2,292例(62%)で、登録時とフォローアップ期間中の受診時に腎機能の評価を行った。 suPAR値とベースラインのeGFR、eGFRの経時的変化、CKDの発症との関連につき、人口統計学的変量および臨床的変量で補正後に、線形混合モデルとCox回帰を用いて解析を行った。suPAR値の四分位数(Q1~Q4)別に、eGFRの変化およびCKDの発症の比較を行った。CKDは、eGFR<60mL/分/1.73m2と定義した。 ベースラインのsuPAR値が≧3,040pg/mL(中央値)の患者は、<3,040pg/mLの患者に比べ、年齢が高く、女性が多く、喫煙歴、高血圧、糖尿病、蛋白尿、冠動脈疾患、心筋梗塞歴の頻度が高く、高感度CRPが高値で、eGFRは低値であった(いずれもp<0.001)。CKD発症率が、Q3はQ1の2倍、Q4は3倍以上に ベースラインのsuPAR値が高い患者ほど、フォローアップ期間を通じてeGFR低下の程度が大きく、suPAR値が最大四分位群(Q4)の患者のeGFRの年間の変化が-4.2mL/分/1.73m2であったのに対し、最小四分位群(Q1)では-0.9mL/分/1.73m2であった(p<0.001)。 Q4のeGFRの年間の低下は、Q1およびQ2よりも大きく(いずれも、p<0.001)、Q3もQ1およびQ2に比べ年間の低下が大きかった(いずれも、p<0.001)。Q1とQ2、Q3とQ4の間には有意な差はなかった。 suPAR値関連のeGFRの低下は、ベースラインのeGFRが<60mL/分/1.73m2の患者では有意ではなく(-0.1%、95%信頼区間[CI]:-0.9~0.7)、≧60mL/分/1.73m2の患者では有意であり(-1.2%、95%CI:-1.8~-0.6)、これらの間には有意な差が認められた(交互作用検定:p<0.001)。 また、ベースラインのeGFRが低い患者ほどsuPAR値に関連するeGFRの変動が小さく、ベースライン時に正常(90~120mL/分/1.73m2)であった921例のsuPAR値関連eGFRの低下が最も大きかった(交互作用検定:p<0.001)。 一方、ベースラインのeGFRが≧60mL/分/1.73m2の1,335例におけるCKDの発症率は、suPAR値の四分位がQ1からQ4へ1段階ずつ上がるに従って有意に増加し(ハザード比[HR]:1.40、95%CI:1.26~1.55、p<0.001)、≧3,040pg/mLの患者は<3,040pg/mLに比べて約2倍高かった(HR:1.97、95%CI:1.53~2.54、p<0.001)。 また、suPAR値がQ1の患者に比べて、Q3の患者のCKD発症率は2倍(HR:2.00、95%CI:1.38~2.89、p<0.001)、Q4は3倍以上(HR:3.13、95%CI:2.11~4.65、p<0.001)に達し、Q4はQ3の約1.5倍であった(HR:1.51、95%CI:1.11~2.06、p=0.01)。 著者は、「suPAR高値は、ベースライン時の腎機能正常者においてCKDの発症およびeGFRの加速度的な低下とそれぞれ独立の関連を示した」とまとめ、「これらの結果は、suPARが、CKDのバイオマーカーとして不可欠の要件を満たすことを示唆する」と指摘している。

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肺気腫の進行抑制にA1PI増強治療は有効か/Lancet

 重症α1アンチトリプシン欠損症を有し肺気腫を合併した患者について、α1プロテイナーゼ阻害薬(A1PI)増強治療は、肺気腫の進行抑制に有効であることが示された。カナダのユニバーシティ・ヘルス・ネットワークのKenneth R Chapman氏らが、多施設共同二重盲検無作為化並行群間プラセボ対照試験RAPIDの結果、明らかにした。α1アンチトリプシン欠損症に対するA1PI増強療法の有効性について、これまで無作為化プラセボ対照試験による検討は行われていなかった。研究グループは今回、スパイロメトリーよりもα1アンチトリプシン欠損症での肺気腫進行度の測定感度が高い、CT肺密度測定法を用いた評価で検討を行った。Lancet誌オンライン版2015年5月27日号掲載の報告より。TLCとFRCの単独および複合で有効性を評価 試験は13ヵ国、28ヵ所の国立研究センターで、18~65歳の非喫煙者で、重症α1アンチトリプシン欠損症(血清濃度<11μM)を有し、1秒量(1秒間の努力肺活量;FEV1)が予測値の35~70%の患者を試験適格とした。肺移植、肺葉切除術もしくは肺容量減少術を施行または施行予定であった患者、または選択的IgA欠損症患者は除外した。 被験者はコンピュータを用いて1対1の割合で、A1PI静注60mg/kg/週またはプラセボを受ける群に無作為に割り付けられ、24ヵ月治療を受けた。 全患者および試験担当者(アウトカム評価者含む)は試験期間中、治療割り付けを認識していなかった。 主要エンドポイントは、CT肺密度測定による全肺気量(TLC)および機能的残気量(FRC)の、複合および個々の測定値で、0、3、12、21、24ヵ月時に評価(1回以上評価)した。 なお、本試験は、2年間の非盲検延長試験も完了している。TLC単独評価で有意な進行抑制効果を確認 2006年3月1日~2010年11月3日に、A1PI増強治療群に93例(52%)、プラセボ群に87例(48%)が無作為に割り付けられた。解析はそれぞれ92例、85例が組み込まれた。 年率でみた肺密度低下は、TLCとFRCの複合評価では、両群間で差はみられなかった。A1PI群-1.50(SE 0.22)g/L/年、プラセボ群-2.12(同0.24)g/L/年で、差は0.62g/L/年(95%信頼区間[CI]:-0.02~1.26)だった(p=0.06)。 しかしながらTLC単独でみた場合は、A1PI群の肺密度低下が有意に少なかった(差:0.74g/L/年、95%CI:0.06~1.42、p=0.03)。一方でFRC単独でみた場合は、有意な差はみられなかった(同:0.48g/L/年、-0.22~1.18、p=0.18)。 治療により出現した有害事象の頻度は両群で同程度だった。A1PI群は92例(99%)で1,298件が、プラセボ群は86例(99%)で1,068件の発生であった。また重篤な治療関連有害事象は、A1PI群は25例(27%)で71件、プラセボ群は27例(31%)で58件の発生であった。 試験中止となった重篤な治療関連有害事象は、A1PI群は1例(1%)で1件、プラセボ群は4例(5%)で10件の発生であった。 死亡は、A1PI群は1例(呼吸不全)、プラセボ群は3例(敗血症、肺炎、転移性乳がん)が報告された。 結果を踏まえて著者は、「CT肺密度測定法によるTLC単独評価で、A1PI治療が肺気腫の進行を抑制するというエビデンスが示された。FRC単独または両指標を併せたた評価において同様の所見は示されなかったが、今回示された所見は、重症α1アンチトリプシン欠損症を有し肺気腫を合併した患者について、肺構造を温存するために増強療法を検討すべきであることを示すものである」とまとめている。

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肝硬変患者の経過観察を十分に行わず肝細胞がんを発見できなかったケース

消化器最終判決判例タイムズ 783号180-190頁概要12年以上にわたって開業医のもとに通院し、糖尿病、肝硬変などの治療を受けていた55歳の男性。ここ1年近く、特段の訴えや所見もないために肝機能検査および腫瘍マーカーのチェックはしていなかった。ところが久しぶりに施行した肝機能検査・腫瘍マーカーが異常高値を示し、CT検査を受けたところ肝左葉全体を埋め尽くす肝細胞がんが発見された。急遽入院治療を受けたが、異常に気づいてから3ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報55歳男性経過1973年 糖尿病にて総合病院に45日間入院。9月3日当該診療所初診。診断は糖尿病、肝不全。1982年5月26日全身倦怠感、体重減少(61→51kg)を主訴に総合病院外来受診。6月1日精査治療目的で入院となり、肝シンチ、腹部エコー、上部消化管造影、血液検査、尿検査などの結果、糖尿病、胆石症、肝硬変、慢性膵炎と診断された。7月10日肝臓の腹腔鏡検査を予定したが、度々無断外出したり、窃盗容疑で逮捕されるなどの問題があり、強制退院となった。9月6日診療所の通院を月1~4回の割合で再開。その間ほぼ継続してキシリトール(商品名:キシリット)、肝庇護薬グリチルリチン・グリシン・システイン(同:ケベラS)、ビタミン複合剤(同:ネオラミン3B)、ビタミンB12などの点滴とフルスルチアミン(同:アリナミンF)、血糖降下薬ゴンダフォン®、ビタミンB12(同:メチコバール、バンコミン)などの投薬を続ける。食事指導(お酒飲んだら命ないで)や生活指導を実施。ただし、肝細胞がんと診断されるまでのカルテには、検査指示および処方の記載のみで、診察内容(腹水の有無、肝臓触知の結果など)の記載はほとんどなく、1982年9月6日から1986年2月19日までの3年5ヵ月にわたって腹部超音波、腹部CT、肝シンチなどの検査は1回も実施せず。1982年~1984年肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)、AFP測定を不定期に行う。1984年9月4日AFP(-):異常高値となるまでの最終検査。1985年 高血糖(379-473)、貧血(Hb 10.5)がみられたが、特段治療せず。1986年2月15日γ-GTP 414と高値を示したため、肝細胞がんをはじめて疑う。2月19日1年5ヵ月ぶりで行ったAFP測定にて638と異常高値のため、総合病院にCT撮影を依頼。腹水があり、肝左葉はほぼ全体が肝細胞がんに置き変わっていた。門脈左枝から本幹に腫瘍血栓があり、予後は非常に不良であるとの所見であった。2月21日家族に対し、「肝細胞がんに罹患しており、長くもっても7ヵ月、早ければ3ヵ月の余命である」ことを告知し、同日以降、抗がん剤であるリフリール®やウロキナーゼを点滴で投与した。2月25日当該診療所を離れ総合病院に入院し、肝細胞がんの治療を受けた。5月17日肝硬変症を原因とする肝細胞がんにより死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.早期発見義務違反1982年9月6日から肝硬変の診断のもとに通院を再開し、肝細胞がん併発の危険性が大きかったのに、1986年2月まで長期間検査をしなかった2.説明義務違反1986年に手遅れとなるまで、肝臓の障害について説明せず、適切な治療を受ける機会を喪失させた3.全身状態管理義務違反1985年中の出血を疑わせる兆候や高血糖状態があったのに、これらを看過したこのような義務違反がなければ、死亡することはなかったか、仮に死を免れなかったとしても少なくとも5年間の延命の可能性があった。病院側(被告)の主張過重な仕事と不規則な生活を続け、入院勧告にも応じなかったことが問題である。1985年中に肝細胞がんを発見できたとしても、もはや切除は不可能であったから、死亡は不可避であった。裁判所の判断説明義務違反医師は肝硬変に罹患していたことを説明し、安静を指示していたことが認められるため、その違反はないとした。全身状態管理違反血糖値の変化は生活の乱れによる可能性も高く、必ずしも投薬によって対処しなければならない状況にあったか否かは明らかではないし、出血の点についても、肝硬変の悪化にどのような影響を与えたのか不明であるため、その違反があるとは認められない。早期発見義務肝硬変があり肝細胞がんに移行する可能性の高い症例では、平均的開業医として6ヵ月に1回程度は肝機能検査、AFP検査、腹部超音波検査を実施するべきであったのに、これを怠った早期発見義務違反がある。しかし、肝細胞がんが半年早く発見され、その時点でとりうる治療手段が講じられたとしても、生存可能期間は1~2年程度であったため、医師が検査を怠ったことと死亡との間には因果関係はない。つまり、検査義務違反がなく早期に肝細胞がんに対する治療が実施されていれば、実際の死期よりもさらに相当期間、生命を保持し得たものと推認することができるため、延命利益が侵害されたと判断された。1,000万円の請求に対し、240万円の支払命令考察今回のケースでは、12年以上にわたってある開業医のところへ定期的に通院していた患者さんが、必要な検査が行われず肝細胞がんの発見が遅れたために、「延命利益を侵害された」と判断されました。今までの裁判では、医師の注意義務違反と患者との死亡との因果関係があるような場合に損害賠償(医療過誤)として支払いが命じられていましたが、最近になって、死亡に対して明確に因果関係がないと判断されても、医師の注意義務違反が原因で延命が侵害されたことを理由として、慰謝料という形で医師に支払いを命じるケースが増加しています。本件でも、「平均的開業医」として当然行うべき種々の検査を実施しなかったことによって、肝細胞がんの発見が遅れたことは認めたものの、肝細胞がんという病気の性質上、根治は難しいと判断され、たとえきちんと検査を実施していても死亡は避けられなかったと判断しています。つまり、適切な時期に適切な検査を定期的に実施し、患者の容態を把握しているかという点が問題視されました。肝細胞がんは年々増加してきており、臓器別死亡数でみると男性で第3位、女性で第4位となっています。なかでも肝細胞がんの約93%が肝炎ウイルス(HCV抗体陽性、HBs抗原陽性)を成因としています。また、原発性肝がんの剖検例611例中、84%が肝硬変症を合併していたという報告もあり、肝硬変患者を外来で経過観察する時には、肝細胞がんの発症を常に念頭におきながら、診察、検査を進めなくてはいけません。消化器

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血管撮影後の脳梗塞で死亡したケース

脳・神経最終判決判例タイムズ 971号201-213頁概要右側頸部に5cm大の腫瘤がみつかった52歳女性。頸部CTや超音波検査では嚢胞性病変が疑われた。担当医は術前検査として腫瘍周囲の血管を調べる目的で頸部血管撮影を施行した。鎖骨下動脈、腕頭動脈につづいて右椎骨動脈撮影を行ったところ、直後に頭痛、吐き気が出現。ただちにカテーテルを抜去し検査を中断、頭部CTで脳内出血はないことを確認して脳梗塞に準じた治療を行った。ところが検査から約12時間後に心停止・呼吸停止となり、いったんは蘇生に成功したものの、重度の意識障害が発生、1ヵ月後に死亡となった。詳細な経過患者情報52歳女性経過1989年8月末右頸部の腫瘤に気付く。1989年9月7日某病院整形外科受診。右頸部の腫瘤に加えて、頸から肩にかけての緊張感、肩こり、手の爪の痛みあり。頸部X線写真は異常なし。9月18日頸部CTで右頸部に直径5cm前後の柔らかい腫瘤を確認。9月21日診察時に患者から「頸のできものが時々ひどく痛むので非常に不安だ。より詳しく調べてあれだったら手術してほしい」と申告を受ける。腫瘍マーカー(CEA、AFP)は陰性。10月5日頸部超音波検査にて5cm大の多房性、嚢腫性の腫瘤を確認。10月17日手術目的で入院。部長の整形外科医からは鑑別診断として、神経鞘腫、血管腫、類腱鞘腫、胎生期からの側頸嚢腫などを示唆され、脊髄造影、血管撮影などを計画。10月18日造影CTにて問題の腫瘤のCT値は10-20であり、内容物は水様で神経鞘腫である可能性は低く、無血管な嚢腫様のものであると考えた。10月19日脊髄造影にて、腫瘍の脊髄への影響はないことが確認された。10月23日血管撮影検査。15:00血管撮影室入室。15:15セルジンガー法による検査開始。造影剤としてイオパミドール(商品名:イオパミロン)370を使用。左鎖骨下動脈撮影(造影剤20mL)腕頭動脈撮影(造影剤10mL):問題の腫瘤が右総頸動脈および静脈を圧迫していたため、腫瘤が総頸動脈よりも深部にあることがわかり、椎骨動脈撮影を追加右椎骨動脈撮影(造影剤8mL:イオパミロン®370使用):カテーテル先端が椎骨動脈に入りにくく、2~3回造影剤をフラッシュしてカテーテルの位置を修正したうえで、先端を椎骨動脈分岐部から1~3cm挿入して造影16:00右椎骨動脈撮影直後、頭痛と吐き気が出現したため、ただちにカテーテルを抜去。16:10嘔吐あり。造影剤の副作用、もしくは脳浮腫を考えてメチルプレドニゾロン(同:ソル・メドロール)1,000mg、造影剤の排出目的でフロセミド(同:ラシックス)使用。全身状態が落ち着いたうえで頭部CTを施行したが、脳出血なし。17:00症状の原因として脳梗塞または脳虚血と考え、血液代用剤サヴィオゾール500mL、血栓溶解薬ウロキナーゼ(同:ウロキナーゼ)6万単位投与。その後も頭痛、吐き気、めまいや苦痛の訴えがあり、不穏状態が続いたためジアゼパム(同:セルシン)投与。10月24日02:00血圧、呼吸ともに安定し入眠。03:00急激に血圧上昇(収縮期圧200mmHg)。04:20突然心停止・呼吸停止。いったんは蘇生したが重度の意識障害が発生。11月21日死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.血管撮影の適応頸部の腫瘤で血管撮影の適応となるのは、血管原性腫瘤、動脈瘤、蛇行性の右鎖骨下動脈、甲状腺がん、頸動脈球腫瘍、脊髄腫瘤などであるのに、良性の嚢胞性リンパ管腫が疑われた本件では血管撮影の適応自体がなかった。もし血管撮影を行う必要があったとしても、脳血管撮影に相当する椎骨動脈撮影までする必要はなかった2.説明義務違反検査前には良性の腫瘍であることが疑われていたにもかかわらず、がんの疑いがあると述べたり、「安全な検査である」といった大雑把かつ不正確な説明しか行わなかった3.カテーテル操作上の過失担当医師のカテーテル操作が未熟かつ粗雑であったために、選択的椎骨動脈撮影の際に血管への刺激が強くなり、脳梗塞が発生した4.造影剤の誤り脳血管撮影ではイオパミロン®300を使用するよう推奨されているにもかかわらず、椎骨動脈撮影の際には使用してはならないイオパミロン®370を用いたため事故が発生した病院側(被告)の主張1.血管撮影の適応血管撮影前に問題の腫瘤が多房性リンパ管腫であると診断するのは困難であった。また、頸部の解剖学的特性から、腫瘍と神経、とくに腕神経叢、動静脈との関係を熟知するための血管撮影は、手術を安全かつ確実に行うために必要であった2.説明義務違反血管撮影の方法、危険性については十分に説明し、患者は「よろしくお願いします」と答えていたので、説明義務違反には該当しない3.カテーテル操作上の過失担当医師のカテーテル操作に不適切な点はない4.造影剤の誤り明確な造影効果を得るには濃度の高い造影剤を使用する必要があった。当時カテーテル先端は椎骨動脈に1cm程度しか入っていなかったので動脈内に注入した時点で造影剤は希釈されるので、たとえ高い浸透圧のイオパミロン®370を使用したとしても不適切ではない。しかも過去には、より濃度の高い造影剤アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン(同:ウログラフィン)を脳血管撮影に使用したとの報告もあるので、単にイオパミロン®370のヨード含有濃度や粘稠度の高さをもって副作用の危険性を判断することは妥当ではない裁判所の判断1. 血管撮影の適応今回の椎骨動脈撮影を含む血管撮影は、腫瘍の良悪性を鑑別するという点では意義はないが、腫瘍の三次元的な進展範囲を把握するためには有用であるため、血管撮影を施行すること自体はただちに不適切とはいえない。しかし、それまでに実施した鎖骨下動脈、腕頭動脈の撮影結果のみでも摘出手術をすることは可能であったので、椎骨動脈撮影の必要性は低く、手術や検査の必要性が再検討されないまま漫然と実施されたのは問題である。2. 説明義務違反「腫瘍が悪性であれば手術をしてほしい」という患者の希望に反し、腫瘍の性質についての判断を棚上げした状態で手術を決定し、患者は正しい事実認識に基づかないまま血管撮影の承諾をしているので、患者の自己決定権を侵害した説明義務違反である。3. カテーテル操作上の過失、造影剤の選択椎骨動脈へ何度もカテーテル挿入を試みると、その刺激により血管の攣縮、アテロームの飛散による血管の塞栓などを引き起こす可能性があるので、無理に椎骨動脈へカテーテルを進めるのは避けるべきであったのに、担当医師はカテーテル挿入に手間取り、2~3回フラッシュしたあとでカテーテル先端を挿入したのは過失である。4. 造影剤の誤りイオパミロン®300は、イオパミロン®370に比べて造影効果はやや低いものの、人体に対する刺激および中枢神経に対する影響(攣縮そのほかの副作用)が少ない薬剤であり、添付文書の「効能・効果欄」には「脳血管撮影についてはイオパミロン®300のみを使用するべきである」と記載されている。しかも、椎骨動脈撮影の際には、造影剤をイオパミロン®370から300へ交換することは技術的に可能であったので、イオパミロン®370を脳血管撮影である椎骨動脈撮影に使用したのは過失である。結局死亡原因は、椎骨動脈撮影時カテーテルの刺激、または造影剤による刺激が原因となって脳血管が血管攣縮(スパズム)を起こし、あるいは脳血管中に血栓が形成されたために、椎骨動脈から脳底動脈にいたる部分で脳梗塞を起こし、さらに脳出血、脳浮腫を経て、脳ヘルニア、血行障害のために2次的な血栓が形成され、脳軟化、髄膜炎、を合併してレスピレーター脳症を経て死亡した。原告側合計4,600万円の請求に対し、3,837万円の判決考察本件は、良性頸部腫瘤を摘出する際の術前検査として、血管撮影(椎骨動脈撮影)を行いましたが、不幸なことに合併症(脳梗塞)を併発して死亡されました。裁判では、(1)そもそも脳血管撮影まで行う必要があったのか(2)選択的椎骨動脈撮影を行う際の手技に問題はなかったのか(3)脳血管撮影に用いたイオパミロン®370は適切であったのかという3点が問題提起され、結果的にはいずれも「過失あり」と認定されました。今回の事案で血管撮影を担当されたのは整形外科医であり、どちらかというと脳血管撮影には慣れていなかった可能性がありますので、造影剤を脳血管撮影の時に推奨されている「より浸透圧や粘調度の低いタイプ」に変更しなかったのは仕方がなかったという気もします。そのため、病院側は「浸透圧の高い造影剤を用いても特段まずいということはない」ということを強調し、「椎骨動脈撮影時には分岐部から約1cmカテーテルを進めた状態であったので、造影剤が中枢方向へ逆流する可能性がある。また、造影されない血液が多少は流れ込んで造影剤が希釈される。文献的にも、高濃度のウログラフィン®を脳血管撮影に用いた報告がある」いう鑑定書を添えて懸命に抗弁しましたが、裁判官はすべて否認しました。その大きな根拠は、やはり何といっても「添付文書の効能・効果欄には脳血管撮影についてはイオパミロン®300のみを使用するべきであると記載されている」という事実に尽きると思います。ほかの多くの医療過誤事例でもみられるように、薬剤に起因する事故が医療過誤かどうかを判断する(唯一ともいってよい)物差しは、添付文書(効能書)に記載された薬剤の使用方法です。さらに付け加えると、もし適正な使用方法を行ったにもかかわらず事故が発生した場合には、わが国では「医薬品副作用被害救済基金法」という措置があります。しかし、この制度によって救済されるためには、「薬の使用法が適性であったこと」が条件とされますので、本件のように「医師の裁量」下で添付文書とは異なる投与方法を選択した場合には、「医薬品副作用被害救済基金法」は適用されず、医療過誤として提訴される可能性があります。本事案から学び取れるもう1つの重要なポイントは、(2)で指摘した「そもそも脳血管撮影まで行う必要があったのか」という点です。これについてはさまざまなご意見があろうかと思いますが、今回の頸部腫瘤はそれまでのCT、超音波検査、脊髄造影などで「良性嚢胞性腫瘤であるらしい」ことがわかっていましたので、(椎骨動脈撮影を含む)血管撮影は「絶対に必要な検査」とまではいかず、どちらかというと「摘出手術に際して参考になるだろう」という程度であったと思います。少なくとも造影CTで血管性病変は否定されましたので、手術に際し大出血を来すという心配はなかったはずです。となると、あえて血管撮影まで行わずに頸部腫瘤の摘出手術を行う先生もいらっしゃるのではないでしょうか。われわれ医師は研修医時代から、ある疾患の患者さんを担当すると、その疾患の「定義、病因、頻度、症状、検査、治療、予後」などについての情報収集を行います。その際の「検査」に関しては、医学書には代表的な検査方法とその特徴的所見が列挙されているに過ぎず、個々の検査がどのくらい必要であるのか、あえて施行しなくてもよい検査ではないのかというような点については、あまり議論されないような気がします。とくに研修医にとっては、「この患者さんにどのような検査が必要か」という判断の前に、「この患者さんにはどのような検査ができるか」という基準になりがちではないかと思います。もし米国であれば、医療費を支払う保険会社が疾患に応じて必要な検査だけを担保していたり、また、DRG-PPS(Diagnostic Related Groups-Prospective Payment System:診療行為別予見定額支払方式)の制度下では、検査をしない方が医療費の抑制につながるという面もあるため、「どちらかというと摘出手術に際して参考になるだろうという程度」の検査をあえて行うことは少ないのではないかと思います。ところがわが国の制度は医療費出来高払いであるため、本件のような「腫瘍性病変」に対して血管撮影を行っても、保険者から医療費の査定を受けることはまずないと思います。しかも、ややうがった見方になるかもしれませんが、一部の病院では入院患者に対しある程度の売上を上げるように指導され、その結果必ずしも必要とはいえない検査まで組み込まれる可能性があるような話を耳にします。このように考えると本件からはさまざまな問題点がみえてきますが、やはり原則としては、侵襲を伴う可能性のある検査は必要最小限にとどめるのが重要ではないかと思います。その際の判断基準としては、「自分もしくはその家族が患者の立場であったら、このような検査(または治療)を進んで受けるか」という点も参考になるのではないかと思います。脳・神経

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ポンペ病〔Pompe Disease〕

1 疾患概要■ 定義ポンペ病(OMIM232300)は糖原病II型(GSD-II)であり、1932年ポンペにより報告された。ポンペ病はライソゾームに局在する酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の酵素欠損によりライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積する。■ 疫学遺伝形式として、常染色体劣性遺伝形式をとり、頻度は約4万人に1人といわれている。■ 病因ポンペ病では酸性α-グルコシダーゼの酵素欠損により、ほぼすべての臓器にグリコーゲンが蓄積する。肝臓、筋肉、心臓、消化器系の平滑筋、膀胱、腎臓、脾臓、血管、シュワン細胞などの細胞、組織に蓄積する。内耳の絨毛にも蓄積するために難聴も呈する。肥大型心筋症は、乳児型のポンペ病では特徴的な症状である。骨格筋の組織変化は、筋の種類、部位によりさまざまで、グリコーゲンの蓄積の程度、障害度は異なる。病初期は小さい空胞が認められ、徐々にリポフスチン、ミトコンドリア膜などが大量に蓄積し、オートファゴゾームが形成される。とくにfast-twitch type 2線維に多くみられる。組織の線維化に伴い、年齢と共に二次的な組織変化を認め、酵素治療しても不可逆的変化を来す。オートファゴゾーム内にグリコーゲンが大量に蓄積している。■ 症状ポンペ病の発症は、患者により異なり、0~60代までいずれの年齢にも発症する。臨床的には(1)乳児型、(2)遅発型(小児型、成人型)に分類される(表1)。画像を拡大する1)乳児型通常、患児は生後1.6~2ヵ月で哺乳力の低下、発育障害、呼吸障害、筋力低下などの症状を呈し、発症する。平均診断年齢は生後4~5ヵ月である(図1)。心肥大が病初期より著明であり(図2)、心エコー上心筋の肥大、心電図ではhigh voltage、short P-R intervalなどを呈する。年齢とともに運動発達の遅れが著明となり、頸定も難しく、寝返り、座位もできない。腱反射の低下、舌が大きく、肝臓も中等度に腫大している。酵素補充療法を施行しないと、通常は平均6~8.7ヵ月で死亡する。1歳を超えて生存する患者は少ない。画像を拡大する画像を拡大する2)遅発型患者の発症年齢は残存酵素活性により異なる。生後1歳頃から62歳まで報告されている。筋力低下、歩行障害、朝の頭痛、特徴的な上ずった言葉、顔面筋の萎縮、呼吸障害、ガワーズ徴候などが比較的初期症状である(図3)。主に骨格筋、呼吸筋、舌筋、横隔膜筋、四肢の筋がさまざまな程度で障害を受ける。心筋を障害するタイプは、小児型といわれる非定形型のタイプで障害する。患者は徐々に呼吸障害、構音障害、歩行障害が強くなり、人工呼吸器の装着、車いす状態となり、最後は呼吸障害、気胸、肺炎などを合併して死亡する。通常、発症年齢は27~36歳、診断年齢は34~41歳、人工呼吸器使用年齢は37~47歳、車いす使用年齢は平均41歳である。画像を拡大する■ 分類臨床的には、前述のように乳児型と遅発型(小児型、成人型)に分類される(表1)。■ 予後とくに乳児型では心筋、ならびに骨格筋など全身の組織に蓄積することにより、心肥大、筋力低下を来し、通常心不全を呈し2歳までには死亡する。遅発型では筋力低下に伴う歩行障害から呼吸筋麻痺を来し、人工呼吸器をつける状態で肺炎、気胸などを合併し、死亡する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断としては、1)臨床的診断、2)病理学的診断、3)生化学的診断(酵素活性、バイオマーカーなど)、4)遺伝子診断などがある。1)臨床的診断(表2)特徴的な臨床症状のほか、乳児型では心電図、心エコー、血清CPKの高値を認める。遅発型でも筋力低下、血清CPK、アルドラーゼの高値を認める。心電図ではPR間隔の短縮、QRSの高電位などがみられる。筋CT、MRIは筋の萎縮、変性を評価するのに重要である。小児型、成人型では椎骨脳底動脈領域に動脈瘤を形成しやすい。画像を拡大する2)病理学的診断ポンペ病の病理学的診断は生検筋でのライソゾーム内でのグリコーゲンの蓄積に伴う空胞化で特徴づけられる。成人型ではあまり組織変化が顕著でない症例もある。乳児型では筋線維が大小不同、筋線維の崩壊、オートファジーの形成、ライソゾーム内に著明なグリコーゲンの蓄積、PAS陽性物質の蓄積が認められる。成人型でも軽度であるが、PAS陽性、酸性ホスファターゼ染色陽性である。電顕所見ではライソゾームが巨大化し、ミエリン様封入体の蓄積もみられる。筋原線維の断裂なども著明である。3)生化学的検査(1)酵素活性の測定酸性α-グルコシダーゼの活性は、人工基質である蛍光基質4- methylumbelliferone誘導体を用いて、患者乾燥濾紙血、あるいはリンパ球、皮膚線維芽細胞で測定して著明に低下する。確定診断として、リンパ球、皮膚線維芽細胞で測定する。患者の診断は比較的、酵素診断で可能であるが、正常者の中にはpseudodeficiencyもおり、正常値の20~40%の酵素活性を示す。日本人の頻度は多く、約50人に1人といわれ、遺伝子診断により患者と鑑別する。保因者は約50%の活性であり、pseudodeficiencyとの鑑別も重要である。出生前診断も可能である。(2)尿中のバイオマーカーの測定ポンペ病患者の尿では、オリゴサッカライドが排泄され、4糖を液体クロマトグラフィー、あるいはタンデムマスで測定する。4)遺伝子診断酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の遺伝子は染色体の17q25.2-q25.3に局在する。GAA遺伝子は28kbでエクソンは20存在する。現在まで200以上の遺伝子変異が報告されている。最も多い変異は、乳児型あるいは成人型の一部でみられるc-32-13T>Gの遺伝子変異であり、欧米患者では約75%を占める。C1935C>Aは台湾に多く、cdel.525,delexon18変異はオランダなどのヨーローッパ諸国に多い。日本人ではc.1585_1589TC>GT、c1798C>Tが多くみられる変異として報告されている。pseudodeficiencyの遺伝子型としてはc1726G>A(p.G576S)、c2065 G>A (pE689K)が知られている。酵素活性は正常の20~40%程度を示す。頻度としては両者とも正常人の3~4%の頻度で見い出されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)最近、遺伝子工学により作成されたヒト型酵素アルグルコシダーゼα(商品名:マイオザイム)の酵素補充療法について、早期の治療による臨床症状の改善が報告されている。また、早期診断・治療のために新生児マス・スクリーニングの有用性が報告されている。ポンペ病の治療は、大きく分類して下記のような治療が挙げられる。1)対症療法●乳児型(1)心不全に対しての治療心筋の肥大、横隔膜の挙上などは呼吸障害の要因にもなる。心不全に対する強心薬、利尿薬などの投与、脱水に対する補液が必要。胸部X線、心エコーで病状をフォローする。(2)呼吸管理肺炎、細菌感染など起こしやすい。抗菌薬(マクロライド系)の投与、去痰薬の投与、排痰補助装置などのほか、必要に応じて酸素投与を行う。末期では人工呼吸器の装着をする。(3)嚥下障害に対する管理チューブ栄養などを行う。(4)リハビリテーション酵素補充療法とともに歩行訓練、四肢の運動などを補助する。(5)栄養管理嚥下できない患児に対しては、チューブ栄養、高蛋白食を基本として、高ビタミン、ミネラルを与える。●遅発型(1)呼吸管理初期のうちはタッピング、CPAP、人工呼吸管理など病状に応じて行う。呼吸状態を評価し、感染の予防、抗菌薬の投与、去痰薬の投与、CPAP、人工呼吸管理が必要。(2)嚥下障害の管理嚥下性肺炎の防止。(3)歩行障害に対しての管理歩行のためのリハビリ、装具の着装。(4)栄養管理高蛋白食、高ビタミン食、嚥下困難なときは刻み食、流動食。(5)感染症に対する管理感染症の管理、抗菌薬の投与。2)酵素補充療法酸性α-グルコシダーゼは、マンノース-6-リン酸あるいはIGF-IIレセプターを介して細胞内に効率良く取り込まれ、とくに肝臓、脾臓などの網内細胞に取り込まれる。しかし、心筋、あるいは骨格筋への取り込みは少ない。ポンペ病では、20mg/kgの高単位の酵素を投与することにより筋肉内に強制的に取り込みをさせている。早期治療した患者では著しい臨床症状の改善が認められている。Kishnaniは、乳児型ポンペ病(18例)において、52週の治療研究で95%の死亡率低下と侵襲的呼吸器装着を有意に低下させることができたと報告している。また、新生児マス・スクリーニングで発見され、生後1ヵ月以内に治療した患者では著明な成果が得られており、生存期間は、ほぼ正常な臨床経過を得ている。一方、遅発型の臨床試験では20mg/kg、2週間に1回の酵素補充療法により、6分間歩行ならびに呼吸機能の悪化を防ぐことができたと報告されている。ポンペ病の場合は、酵素に対する抗体産生により酵素治療に反応するgood responderあるいはpoor responderの症例が存在する。4 今後の展望1)シャペロン治療ファブリー病と同様にポンペ病患者の皮膚線維芽細胞レベルではN-butyldeoxynojirimycin(NB-DNJ)の添加により、一部の遺伝子変異のある患者で酸性α-グルコシダーゼ活性が50%以上、上昇する。しかし、いまだ臨床試験のレベルまでは達成していない。2)遺伝子治療レンチウイルスあるいはAAVベクターを用いてのin vivoポンペ病マウスでの遺伝子治療の成功例が報告されている。また、骨髄幹細胞へのex vivoでの遺伝子治療について、Lentiウイルスベクターを用いたポンペ病マウスへの治療に関しても報告されている。3)新生児スクリーニング乳児型のポンペ病では、とくに早期診断が治療と結びつき、重要と考えられる。台湾のChienらは20万6,088名の新生児を乾燥濾紙血を用いてマス・スクリーニングを行い、5名の患者を見出し、かつ生後1ヵ月以内に酵素補充療法を施行した結果、心拡大、筋に組織変化の改善を認め、いずれの症例も正常な発達ならびに呼吸障害を認めず、新生児スクリーニングの著明な成果を報告している。わが国でもパイロット的に新生児スクリーニングの開発が行われている。乳児型の早期診断、治療の重要性を示した貴重な成果と考えられる。5 主たる診療科小児科、神経内科、リハビリテーション科など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関する情報日本ポンペ病研究会(医療従事者向け情報と一般利用者向けのまとまった情報)難病情報センター(医療従事者向け情報と一般利用者向けのまとまった情報)患者会情報全国ポンペ病患者と家族の会1)Hirschhorn R, et al. Glycogen Storage Disease Type II: Acid-Alpha Glucosidase (Acid Maltase) Deficiency. In: Scriver CR et al, editors. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. 8th ed. NY: McGraw-Hill; 2001. p.3389-3420.2)Engel AG, et al. Neurology. 1973; 23: 95-106.3)Kishnani PS, et al. J Pediatr. 2006; 148: 671-676.4)衞藤義勝. ポンペ病(糖原病II型):診断と治療社.2009

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エキスパートに聞く!「COPD」Q&A

認知症や寝たきり患者さんのCOPD診断の方法は?この場合、呼吸機能検査や胸部所見もとれませんので厳しい状態ではありますが、換気不全については呼気CO2アナライザーを用いて確認可能です。換気不全があると呼気中CO2濃度は上昇します。間質性肺疾患など拘束性換気障害ではこのような現象はみられませんので、呼気中CO2濃度の上昇は閉塞性障害がベースにあるという根拠になります。長い喫煙歴がありCOPDの肺所見もあるが、スパイロメトリーは正常な患者に対する対応法は?横隔膜の平低化などの画像所見がある方で、スパイロメトリーが正常だということはまずなく、何か異常があるものです。しかし、閉塞性換気障害が確認できない場合でも、咳や痰などの症状がある場合、旧分類ではステージ0とされ、将来COPDになる可能性が高いため、禁煙が推奨されています。また、こういった方たちの進行をいかにして防ぐかというのは今後の課題でもあります。呼吸器・循環器疾患の既往がなく非喫煙者であるものの、スパイロメトリーが異常な患者に対する対応法は?このケースではさまざまな要素が考えられます。閉塞性換気障害があることを想定すると、まず喘息の鑑別が必要です。また、非喫煙者であっても受動性喫煙についての情報をとることも重要です。さらに、胸郭の変形の確認や、日本人にはほとんどいませんがαアンチトリプシン欠損の除外も必要です。それから、もう1つ重要なことは、再検査によるデータの確認です。患者さんの努力依存性の検査ですから、適切に測定されて得られる結果かどうかの確認はぜひとも必要です。COPDと心不全合併症例における治療方針は?原則としてCOPDについてはCOPDの治療を行いますが、薬物療法とともに低酸素血症への酸素投与が重要です。COPDにより誘導される心不全は、基本的には右心不全であり、利尿薬が選択されます。拡張性心不全に準じて、利尿薬とともに利尿薬によるレニン-アンジオテンシン系の刺激作用を抑制するためにACE阻害薬やARBの併用が勧められています。不整脈などの症状が出たら、それに合わせた対応が必要となります。吸入ステロイドを導入するケースは?吸入ステロイド(以下:ICS)はCOPDそのものに対する有効性はあまり認められていません。しかし、急性増悪の頻度を減らすことが認められています。そのため、ICSは増悪を繰り返す際に安定を得るために投与するのが良いと考えられます。また、現在は長時間作用性β2刺激薬(以下:LABA)との配合剤もあり、選択肢が広がっています。LAMA、LABA/ LAMA配合薬、ICS/LABA配合薬の使い分けについて教えてくださいLAMAおよびLABA/LAMAについては、さまざまな有効性が証明されており、COPDの薬物療法のベースとして考えていただくべきだと思います。ICS/LABA配合薬 については、上記ICSの適応症例に準じて、適用を判断していくべきだと思います。また、テオフィリンのアドオンも良好な効果を示し、ガイドラインで推奨されているオーソドックスな方法であることを忘れてはいけないと思います。*ICS:吸入ステロイド、LABA:長時間作用性β2刺激薬、LAMA:長時間作用性抗コリン薬

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75%が未治療!治療可能な筋疾患「神経内科医の積極的な診断を」

 第53回日本神経学会学術大会(5月22日~25日、東京国際フォーラム)における共催セミナー(ジェンザイム・ジャパン株式会社)にて、東北大学 青木 正志氏が「神経内科医が見過ごしてはいけない治療可能な筋疾患~遅発型ポンペ病診断のポイント~」と題して講演した。ポンペ病は小児の病気ではない「約60%が18歳以上で発症」 ポンペ病(糖原病II型)は酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の欠損または活性の低下を原因とする希少疾患であり、発症時期により乳児型、小児型、成人型に分類される。これまでポンペ病は、乳児・小児の疾患だと捉えられがちであったが、62%の症例が18歳以上で発症していることが報告された。推定患者300人、しかし治療率は25%程度 わが国におけるポンペ病の患者数は約300人と推定されている。しかし、実際に治療を行っている患者は約75名にとどまり、多くの患者は未治療のままである。発症時期が遅い成人型ポンペ病では症状の進行が緩やかで、診断に至るまでに長い年月を要することも少なくない。ポンペ病は現在治療薬が発売されており、治療可能な疾患であることから、積極的な診断が求められている。簡便な診断方法を推奨「乾燥ろ紙血検査」 ポンペ病の診断では、酵素活性測定、筋生検、遺伝子検査などが実施されてきた。しかし、酵素活性測定は実施可能な施設が限られていることや、侵襲的な筋生検の実施を躊躇することなどから診断の遅れが懸念されていた。現在では、簡便かつ非侵襲的にGAA酵素活性を測定することのできる「乾燥ろ紙血検査」が行われるようになっている。乾燥ろ紙血検査であれば、産科・新生児室で用いられるマス・スクリーニング用ろ紙に全血を滴下し、測定可能施設へ郵送による検査依頼を行うことができる。現在、ろ紙血検査対応可能な施設は、東京慈恵会医科大学と国立成育医療研究センターの2施設である。ポンペ病を疑うポイント それでは、どのような患者でポンペ病を疑い、検査を行えばよいのだろうか。青木氏は「原因不明の血清CK値上昇、近位筋の筋力低下、呼吸筋の筋力低下のいずれか1つでもみられた場合には検査を実施すべき」という。ポンペ病は早期に治療を開始することで、症状や予後の改善はもちろんQOLの改善も期待できるため、できるだけ早期の診断を推奨している。そして、ポンペ病と診断された際には、唯一の治療薬であるアルグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)による酵素補充療法が有用であることを、いくつかの症例を交えて紹介した。

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ライソゾーム病は予想以上に高頻度、プライマリ・ケアの課題となる可能性も

ライソゾーム病の遺伝子変異を有する新生児は予想以上に多く、その新生児スクリーニングは、今後、プライマリ・ケアの課題として浮上する可能性があることが、オーストリア・ウイーン医科大学のThomas P Mechtler氏らの検討で示された。ライソゾーム病はまれな疾患と考えられているが、白人の発症率は生児出生7,700人に1人の割合、アラブ人では先天性代謝異常の3分の1がこれらの疾患に起因するとされる。新開発の酵素補充療法、早期診断の必要性、技術的進歩により、ライソゾーム病の新生児スクリーニングへの関心が高まっているという。Lancet誌2012年1月28日号(オンライン版2011年11月30日号)掲載の報告。新生児スクリーニングの実用性を評価研究グループは、オーストリアにおいてゴーシェ病、ポンペ病、ファブリー病、ニーマン-ピック病A型およびB型の新生児スクリーニングの実用性と妥当性を評価するために、遺伝子変異解析を含む無記名の前向き試験を全国規模で実施した。2010年1月~7月までに、全国的な定期新生児スクリーニングプログラムの一環として、3万4,736人の新生児の乾燥血液スポット標本を収集した。無記名標本を用い、複数の疾患を同時に検出可能なエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析法(ESI-MS)にて、β-グルコセレブロシダーゼ(ゴーシェ病)、α-ガラクトシダーゼ(ファブリー病)、α-グルコシダーゼ(ポンペ病)、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ニーマン・ピック病A、B型)の酵素活性を解析した。酵素欠損が疑われる標本について遺伝子変異解析を行った。酵素活性低下の38人中15人がライソゾーム病3万4,736人の全標本が、ESI-MSを用いた多重スクリーニング法で解析された。38人の新生児に酵素活性の低下が認められ、そのうち15人に遺伝子変異解析でライソゾーム病が確認された。最も頻度の高い遺伝子変異はファブリー病(新生児3,859人に1人)で、次いでポンペ病(8,684人に1人)、ゴーシェ病(1万7,368人に1人)の順であった。陽性予測値はそれぞれ32%(95%信頼区間:16~52)、80%(同:28~99)、50%(同:7~93)だった。遺伝子変異は、主に晩期発症の表現型に関連するミスセンス変異であった。著者は、「ライソゾーム病の遺伝子変異を有する新生児の割合は予想以上に高かった。ライソゾーム病の新生児スクリーニングは、今後、プライマリ・ケアの課題として浮上する可能性がある」と結論し、「晩期発症型の遺伝子変異の頻度が高かったことから、ライソゾーム病は小児期以降に及ぶ広範な健康問題になると予測される」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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胸膜感染患者、t-PA+DNase併用療法によりアウトカム改善

胸膜感染患者には、t-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)+DNase(デオキシリボヌクレアーゼ)併用療法が有効であることが明らかにされた。t-PA療法、DNase療法それぞれ単独では効果が認められなかった。英国・オックスフォード大学のNajib M. Rahman氏らが、210例を対象に多施設共同無作為化二重盲検ダブルダミー試験「MIST2」を行った結果で、併用療法群のみドレナージが改善し、手術処置の減少、入院期間の短縮が認められたという。胸膜感染は30%以上が死亡もしくは手術照会となる。感染体液のドレナージが治療の鍵となるが、初の多施設共同大規模無作為化試験であった胸腔内線維素溶解療法(ストレプトキナーゼ注入)を検討した試験「MIST1」ではドレナージの改善はみられなかった。NEJM誌2011年8月11日号掲載報告より。210例をプラセボ、併用、各単独の4治療群に無作為化し有効性を検討Rahman氏らは、胸腔内線維素溶解療法の有効性について、t-PA、DNaseを用いた試験を行った。t-PAの使用は症例シリーズ研究から支持されるもので、DNaseは小規模動物実験で胸膜感染症への可能性が示されていた。試験は、2005年12月~2008年11月に英国内11施設から登録された210例を対象とし、ダブルプラセボ群、t-PA+DNase併用群、t-PA+プラセボ群、DNase+プラセボ群の、4つの3日間の治療群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、胸膜不透明度の変化とされた。測定は、半胸郭における浸出液が占める割合を胸部X線で撮影して測定し、1日目と7日目を比較した。副次アウトカムは、手術照会、入院期間、有害事象などが含まれた。胸膜不透明度変化、手術照会、入院期間ともプラセボと比べ有意に改善結果、胸膜不透明度変化の平均値(±SD)は、プラセボ群の-17.2±19.6%に比べ、t-PA+DNase併用群は-29.5±23.3%、併用群の変化が7.9%大きかった(差異:-7.9%、95%信頼区間:-13.4~-2.4、P=0.005)。一方、t-PA単独群の変化は-17.2±24.3%、DNase単独群は-14.7±16.4%で、プラセボ群との差は有意ではなかった(それぞれP=0.55、P=0.14)。また3ヵ月時点の手術照会発生率は、プラセボ群16%であったのに対し併用群は4%で有意に少なかった(オッズ比:0.17、95%信頼区間:0.03~0.87、P=0.03)。一方で、DNase単独群の発生率は39%で、プラセボ群よりも約3.5倍有意な手術照会率の増大が認められた(オッズ比:3.56、95%信頼区間:1.30~9.75、P=0.01)。入院期間は、併用群がプラセボ群よりも6.7日短縮した(差:-6.7、-12.0~-1.9、P=0.006)。単独群ではいずれもプラセボ群と有意な差は認められなかった。有害事象については、4群間で有意な差が認められなかった。(朝田哲明:医療ライター)

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アルコール性急性膵炎の治療に有効なターゲットを特定

独立行政法人理化学研究所は16日、英国・リバプール大学と共同で、アルコール誘発性の急性膵臓炎(膵炎)の発症初期に「イノシトール三リン酸受容体(IP3レセプター)」がかかわっていることを発見したと発表した。急性膵炎の主な発症原因として、アルコール依存症の患者に多く見られるアルコールの多量摂取が挙げられる。膵臓を構成する細胞内で消化酵素が異常に活性化すると、膵臓を部分的に消化してしまい、その損傷によって炎症を起こして、急性膵炎を発症させる。これまでの研究から、膵臓内の酸素濃度が低下する際にアルコールと脂質を材料として脂肪酸エチルエステル(FAEE)という化合物が作られることが知られている。この時、FAEEは膵臓細胞内のカルシウム濃度を過剰に上昇させ、トリプシンなどの消化酵素を活性化させると考えられている。膵炎発症のきっかけとなる細胞内のカルシウム濃度上昇の第一段階は、アルコールの刺激によって、細胞内のカルシウム貯蔵庫に貯蔵されているカルシウムが細胞質へと放出されることで始まる。研究グループは、FAEE量が増大すると、カルシウムが特異的なカルシウム貯蔵庫から2型、3型IP3レセプターを通って細胞質に放出されることを見いだした。さらに、理研グループが作製した2型、3型IP3レセプターを欠損するノックアウトマウスの膵臓細胞でFAEEによる毒性の減少が認められたことから、アルコールによる過剰なカルシウム上昇と消化酵素の活性化に、2型、3型IP3レセプターが重要な役割を果たすことが決定的となったという。本研究は、米国の科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』6月15日の週にオンライン掲載される。詳細はプレスリリースへhttp://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2009/090616/detail.html

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インドの急性冠症候群はSTEMIが多く、貧困層の30日死亡率が高い

インドの急性冠症候群(ACS)患者は先進国に比べST上昇心筋梗塞(STEMI)の割合が高く、貧困層はエビデンスに基づく治療を受けにくいために30日死亡率が高いことが、インドSt John's医科大学のDenis Xavier氏が実施したCREATE registryにより明らかとなった。2001年には世界で710万人が虚血性心疾患で死亡したが、そのうち570万人(80%)が低所得国の症例であった。インドは世界でACSによる負担がもっとも大きい国であるが、その治療およびアウトカムの実態はほとんど知られていない。Lancet誌2008年4月26日号掲載の報告。心筋梗塞疑い例を対象としたレジストリー研究CREATE registryは、インドの50都市89施設で実施されたプロスペクティブなレジストリー研究である。対象は、明確な心電図上の変化(STEMI、非STEMI、不安定狭心症)が見られ急性心筋梗塞(MI)が疑われる症例、あるいは心電図上の変化は見られないが虚血性心疾患の既往を有しMIが疑われる症例とした。臨床的アウトカムおよび30日全原因死亡率の評価を行った。70%以上が貧困層~中間所得下位層2002~2005年の間に2万937例が登録され、明確な心電図上の変化により診断がなされた2万468例のうち1万2,405例(60.6%)がSTEMIであった。全体の平均年齢は57.5歳であり、非STEMI例/不安定狭心症(59.3歳)よりもSTEMI例(56.3歳)のほうが若年であった。1万737例(52.5%)が中間所得層の下位層であり、3,999例(19.6%)が貧困層であった。症状発現から来院までの所要時間中央値は360分、来院から血栓溶解療法開始までの時間は50分。糖尿病が6,226例(30.4%)、高血圧が7,720例(37.7%)、喫煙者は8,242例(40.2%)であった。30日死亡率はSTEMI例および貧困層で有意に高いSTEMI例は非STEMI例よりも血栓溶解薬(96.3%がストレプトキナーゼ)(58.5% vs 3.4%)、抗血小板薬(98.2% vs 97.4%)、ACE阻害薬/アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)(60.5% vs 51.2%)、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)(8.0% vs 6.7%)の施行率が有意に高かった(いずれもp<0.0001)。逆に、STEMI例は非STEMI例/不安定狭心症に比べβ遮断薬(57.5% vs 61.9%)、脂質低下薬(50.8% vs 53.9%)、冠動脈バイパス移植術(CABG)(1.9% vs 4.4%)の施行率が有意に低かった(いずれもp<0.0001)。STEMI例の30日アウトカムが死亡8.6%、再梗塞2.3%、心停止3.4%、脳卒中0.7%であったのに対し、非STEMI例/不安定狭心症ではそれぞれ3.7%、1.2%、1.2%、0.3%と有意に良好であった(いずれもp<0.0001)。富裕層は貧困層に比べ血栓溶解療法(60.6% vs 52.3%)、β遮断薬(58.8% vs 49.6%)、脂質低下薬(61.2% vs 36.0%)、ACE阻害薬/ARB(63.2% vs 54.1%)、PCI(15.3% vs 2.0%)、CABG(7.5% vs 0.7%)の施行率が有意に高かった(いずれもp<0.0001)。貧困層の30日死亡率は富裕層よりも有意に高かった(8.2% vs 5.5%、p<0.0001)。治療法で補正するとこの差は消失したが、リスク因子およびベースライン時の患者背景で補正した場合は維持された。Xavier氏は、「インドのACSは先進国に比べSTEMI例が多かった。これらの患者の多くは貧困層であり、それゆえにエビデンスに基づく治療を受けにくく、30日死亡率が高かった」と結論し、「貧困層における病院へのアクセスの遅れを解消し、高額すぎない治療法を提供できれば、罹患率および死亡率が低減する可能性がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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