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中等症~重症アトピーの外用薬併用、アブロシチニブvs.デュピルマブ/Lancet

 中等症~重症のアトピー性皮膚炎(AD)患者において、外用療法へのアブロシチニブ1日1回200mg併用はデュピルマブ併用と比較し、かゆみおよび皮膚症状の早期改善に優れており、忍容性は同様に良好であったことが、ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのKristian Reich氏らが実施した第III相無作為化二重盲検実薬対照ダブルダミー並行群間比較試験「JADE DARE試験」の結果、示された。先行の第III相試験では、中等症~重症の成人AD患者において、プラセボに対するアブロシチニブの有効性が確認されていた。Lancet誌2022年7月23日号掲載の報告。ステロイド外用薬等との併用で早期治療効果を評価 JADE DARE試験は、オーストラリア、ブルガリア、カナダ、チリ、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、ラトビア、ポーランド、スロバキア、韓国、スペイン、台湾、米国の151施設で実施された(2021年7月13日試験終了)。全身療法を必要とする、または外用薬で効果不十分な18歳以上の中等症~重症のAD患者を対象とし、アブロシチニブ(1日1回200mg経口投与)群またはデュピルマブ(2週間ごと300mg皮下投与)群に1対1の割合で無作為に割り付け、26週間投与した。全例が、ステロイド外用薬(弱~中力価)、外用カルシニューリン阻害薬、または外用ホスホジエステラーゼ4阻害薬の併用を必須とした。 主要評価項目は、2週時のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS)スコアがベースラインから4点以上改善(PP-NRS4)達成、4週時の湿疹面積・重症度指数(Eczema Area and Severity Index:EASI)スコアが90%以上改善(EASI-90)達成に基づく奏効率とした。 無作為に割り付けされ、治験薬を少なくとも1回投与された患者を有効性および安全性の解析対象集団とし、両側有意水準0.05で逐次多重検定によりファミリーワイズの第1種の過誤をコントロールした。2週時のかゆみと皮膚症状、アブロシチニブで有意に改善 2020年6月11日~12月16日の期間に940例がスクリーニングされ、727例が登録・割り付けされた(アブロシチニブ群362例、デュピルマブ群365例)。 2週時にPP-NRS4を達成した患者の割合は、アブロシチニブ群(172/357例、48%[95%信頼区間[CI]:43.0~53.4])がデュピルマブ群(93/364例、26%[21.1~30.0])より高く(群間差:22.6%[95%CI:15.8~29.5]、p<0.0001)、4週時にEASI-90を達成した患者の割合も同様(アブロシチニブ群101/354例・29%[23.8~33.2]vs.デュピルマブ群53/364例・15%[10.9~18.2]、群間差:14.1%[8.2~20.0]、p<0.0001)であり、アブロシチニブ群のほうが主要評価項目を達成した割合が高かった。 有害事象は、アブロシチニブ群で362例中268例(74%)、デュピルマブ群で365例中239例(65%)に認められた。治療に関連しない死亡がアブロシチニブ群で2例報告された。

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生物学的製剤未使用の中等症から重症の活動性を有するクローン病患者における寛解導入および維持療法としてのウステキヌマブとアダリムマブの第III相比較試験(解説:上村直実氏)

 近年、クローン病の治療において5-アミノサリチル酸塩(5-ASA)、免疫調整薬、ステロイドなどを用いた従来の治療法が無効な場合に、抗TNFα阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブなど)、インターロイキン(IL)阻害薬(ウステキヌマブ)、抗インテグリン抗体薬(ベドリズマブ)といった生物学的薬剤が使用されることが多くなっている。新たに開発された生物学的製剤の有用性と安全性を検証するための臨床試験は薬事承認を目的としたものが多く、既存の治療において有効性に乏しい患者を対象としたプラセボ対照の無作為化比較試験(RCT)が常套手段となっており、実際のクローン病診療現場で治療方針に迷うことのある生物学的製剤同士を直接比較した検討は見当たらなかった。 今回、18ヵ国121施設が参加した国際共同研究として、過去に生物学的製剤が使用されていない中等症〜重症活動期のクローン病患者を対象として、世界市場の売上高が第1位のアダリムマブ(ヒュミラ)と第4位のウステキヌマブ(ステラーラ)の単剤療法の有効性を直接比較した二重盲検RCT(SEAVUE試験)の結果が、2022年6月のLancet誌に報告された。結果として、本試験の主要評価項目である試験開始から52週時の臨床的寛解率(クローン病活動指数:CDAIの低下)および、種々の副次的評価項目(内視鏡的有効性、入院率の低下率、ステロイドフリー率、腸管切除の減少率などクローン病の長期的な予後の改善に強く関連する項目)について、アダリムマブ群とウステキヌマブ群の両群間に有意な差は認められなかった。安全性に関しても既知のプロファイルと変化なく、両群間での差はなかった。 プラセボ抜きの実薬2剤を用いた直接的な比較試験には厳密にいえば積極的な治療を受けているという心理的効果を患者に与えるバイアスが生ずると思われるが、一般診療で頻用されている作用機序の異なる2つの薬剤、それも単剤療法同士の直接対決の結果は、従来治療法が奏効しない場合の第一選択生物学的製剤として使用する薬剤を検証する参考になるものとして有用である。診療の現場では個々の患者に対してどの薬剤が最適なのかに迷う機会が少なくなく、本試験のような高い有用性を有する薬剤同士の比較試験結果は診療現場にとって重要である。今後、日本でも同様の精度の高いガチンコ勝負と共に、患者背景の違いにより薬剤の選択方法を示唆するような臨床研究が期待される。

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「乳癌診療ガイドライン」4年ぶり全面改訂、ポイントは?/日本乳癌学会

 4年ぶりに乳癌診療ガイドラインが全面改訂され、第30回日本乳癌学会学術総会で「乳癌診療ガイドライン2022年版 改定のポイント」と題したプログラムが開催された。本稿では、乳癌診療ガイドライン2022年版の治療編(薬物療法、外科療法、放射線療法)の主な改訂点について紹介する。治療編全体における改訂点として、乳癌診療ガイドライン2022年版では冒頭に「総説」を追加。病気/サブタイプ別の治療方針のシェーマや各CQ/BQ/FRQの治療における位置付けを解説し、治療全体の流れを理解できる構成となっている。乳癌診療ガイドライン2022「薬物療法」の変更点 乳癌診療ガイドライン2022年版の「薬物療法」については遠山 竜也氏(名古屋市立大学)が登壇し、6つの新設CQを中心に解説。まず、早期乳がんに対するエスカレーション治療として、術後のアベマシクリブとS-1について、乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設された。アベマシクリブはmonarchE試験の結果から、ホルモン受容体陽性/HER2陰性で再発高リスクの患者に対する術後療法として「内分泌療法にアベマシクリブを2年間併用することを強く推奨」(CQ6)。S-1は現在承認申請中であるものの、POTENT試験の結果に基づき「内分泌療法にS-1を1年間併用することを強く推奨」した(CQ5)。両療法における“再発高リスク”の考え方についてはそれぞれ適格基準の表を乳癌診療ガイドライン2022年版では挿入したほか、総説でその位置づけを解説。遠山氏は「POTENT試験のほうが対象が広いので、そちらにしか該当しない症例にはS-1を、両基準に合致する症例は副作用のプロファイルや投与期間を考慮して使っていくことになるのではないか」と述べた。 周術期の免疫療法として、現在承認申請中ではあるが、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するペムブロリズマブについても乳癌診療ガイドライン2022年版ではCQが新設された。KEYNOTE-522試験の結果に基づき、周術期TNBCに対して「ペムブロリズマブの投与を弱く推奨」している(CQ16)。“弱く”という表現になった理由について同氏は、有害事象があること、どのような患者に対して投与すべきかに充分なコンセンサスがないことを指摘。「今回は先取りして取り上げ、このような表現となっているが、承認されたときには改めてディスカッションが必要」とした。 閉経前のホルモン受容体陽性/HER2陰性転移・再発乳がんに対する1次治療としてのCDK4/6阻害薬について、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版で初めてCQが設けられた。日本で承認済のパルボシクリブ・アベマシクリブについては閉経後患者対象の試験でPFS改善が報告されているが、リボシクリブについてのMONALEESA-7試験では閉経前の患者でPFSおよびOSが改善している。併用薬については、タモキシフェンとの併用群でQT延長がみられたことでFDA承認が見送られていることから、乳癌診療ガイドライン2022年版においても非ステロイド性アロマターゼ阻害薬との併用が推奨された(CQ18)。 その他、「残存病変に基づく治療選択」として、術後のカペシタビン(HER2陰性)とT-DM1(HER2陽性)について乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設されている(CQ10、CQ13)。乳癌診療ガイドライン2022年版「外科療法」の変更点 九冨 五郎氏(札幌医科大学)は外科療法における今回の乳癌診療ガイドライン2022年版改訂の目玉としてCQ2を挙げた。まずCQ2aでは、術前化学療法(NAC)前後の臨床的リンパ節転移陰性(cN0)乳がんに対する腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検について、2018年版では“弱く”推奨していたものを、乳癌診療ガイドライン2022年版では“強く”推奨に変更している。理由について同氏は、「新しい強力なデータが出たわけではないが、日常診療で9割近い先生が実施しているのなら、それはもう“強い”推奨ではないか、というボードでの議論を経て、変更している」と解説した。 臨床的リンパ節転移陽性(cN+)でNAC 後cN0の症例に対しては、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版では新たにtailored axillary surgery (TAS)を行う場合について推奨を追加。「TASによる腋窩リンパ節郭清省略を行うことを弱く推奨」とされた(CQ2b)。九冨氏は、現在targeted axillary dissection (TAD)の妥当性を検討する前向き試験が国内で進行中であることに触れ、「こういったデータが出てくれば、またガイドラインの記述も変わってくる可能性がある」とした。 Stage IV乳がんに対する原発巣切除については、乳癌診療ガイドライン2022年版ではメタ解析の結果を考慮して「予後の改善を目的とした原発巣切除は行わないことを強く推奨(CQ4a)」としたほか、「局所制御を目的とした原発巣切除は行うことを弱く推奨(CQ4b)」とされた。 また、今後保険収載される可能性を考慮し、乳房再建法としての脂肪注入について乳癌診療ガイドライン2022年版では新規のFRQが追加された。「細心の注意のもとに行ってもよい」という記述となっている(FRQ6)。 2018年版で8つあったCQは乳癌診療ガイドライン2022年版では4つとなり、それぞれFRQやBQに変更して取り上げられている。例えば低リスクDCISに対する非切除の意義については、日本も含め現在複数の無作為化試験や観察研究が進行中であることから、乳癌診療ガイドライン2022年版ではFRQとして記述された(FRQ1)。九冨氏は外科領域では大規模な無作為化試験が組みづらくエビデンスレベルが低いのが現状としたうえで、日本での試験もいくつか進行中で、日本からの発信が増えていくことに期待したいと締めくくった。乳癌診療ガイドライン2022年版「放射線療法」の変更点 放射線療法における乳癌診療ガイドライン2022年版での改訂・新設事項は以下の通り。吉村 通央氏(京都大学)がそれぞれの根拠となったデータとともに解説した。改訂:CQ1 寡分割全乳房照射/CQ3 APBI/ CQ5 腋窩LN転移1~3個のPMRT新設:BQ7 腫瘍径大および断端陽性のPMRT/FRQ2 RNI or PMRTの寡分割照射/ FRQ6オリゴ転移に対するSBRT 寡分割全乳房照射については、メタアナリシスの結果、局所再発率や全生存率、整容性に有意差はなく、急性皮膚障害についてはむしろ寡分割で低下しており、乳癌診療ガイドライン2022年版では「50歳以上、T1-2、化学療法を行っていない」という3条件以外の患者、これまで記載のなかったDCIS症例に対しても、寡分割照射を強く推奨している(CQ1)。 APBIの治療成績については4年間で長期の報告が複数出ており、それらのメタアナリシス結果から、乳癌診療ガイドライン2022年版では若年ではない低リスク症例に十分な精度管理のもとで行うなどの条件付きで、非推奨から弱い推奨へ変更された(CQ3)。なお術中照射については、「全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明した上で希望する患者に行うこと」とされた。 腋窩LN転移1~3個の患者に対するPMRTについては、EBCTCGや観察研究のメタアナリシスが行われている。それらを基に、ASCO/ASTRO/SSO PMRTガイドライン2016では、局所・領域再発率や乳がん死亡率を低下させるが、再発リスクの低い患者では害が益を上回る症例もあり、患者ごとに適応を決めるべきとされている。2018年版では、推奨の強さが合意に至らなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版では合意率は71%ではあったが「弱い推奨」に変更された。 リンパ節転移陰性で腫瘍径が大きい場合もしくは術後断端陽性の場合について、2018年版までは明記がなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版で初めて明記され、「PMRTを行うことが望ましい」とされた(BQ7)。 その他、2つのFRQが新設されている。1つ目は領域リンパ節照射あるいはPMRTにおける寡分割照射についてで、無作為化試験では治療効果・有害事象に有意差はなく、急性期皮膚炎は軽いことが報告されており、「エビデンスは十分ではないが総合的に検討して、行うことを考慮してもよい」とされた(FRQ2)。吉村氏は、新型コロナ流行の影響で、実際多くの施設でこの2年間は16回照射としていた状況があるとし、とくに有害事象は報告されていないと話した。 もう1つはオリゴ転移に対するSBRTについてで、無作為化第II相試験(SABR-COMET)の結果SBRTの追加で治療成績が良好との報告がある。同試験における乳がん症例は18%であることに注意が必要ではあるが、St Gallen2021でも80%以上のパネル医師がT2N1M1で根治を目指して局所治療を加えると回答している。そこで乳癌診療ガイドライン2022年版では、「症例を選択した上で考慮してもよい」とされている。ただし、今年のASCOで発表されたBR002試験の結果がネガティブだったことから、吉村氏は「今後の方向性に注意が必要」と指摘した。■関連記事POTENT試験の探索的解析結果、monarchEの適格基準でも検討

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酸素療法を伴う/伴わない中等度のCOVID-19肺炎患者におけるファビピラビル、カモスタット、およびシクレソニドの併用療法 第III相ランダム化比較試験(解説:寺田教彦氏)

オリジナルニュース中等症コロナ肺炎、ファビピラビル+カモスタット+シクレソニドで入院期間短縮/国内第III相試験(2022/06/15掲載) 本研究は中等症のCOVID-19肺炎患者におけるファビピラビル、カモスタット、およびシクレソニドの併用療法を評価した論文であり、2020年11月11日から2021年5月31日までに登録された本邦でのCOVID-19罹患患者を対象としている。登録患者は121人で、56人が単独療法、61人が併用療法だった。 本研究では、経口ファビピラビルにカモスタットとシクレソニドを併用することで安全性の懸念なしに入院期間の短縮ができたことが示されたが、本論文の結果が本邦のCOVID-19治療に与える影響は小さいと考えられる。理由を以下に示す。 まず、執筆時点での中等症のCOVID-19肺炎患者に対する治療とそのエビデンスを確認する。本邦ではCOVID-19に対する薬物治療の考え方 第13.1版等にも記載があるように、抗ウイルス薬としてレムデシビルを投与し、臨床病態によっては(酸素投与がある場合に)抗炎症薬としてデキサメタゾンやバリシチニブの投与が行われている。このうち、デキサメタゾンはRECOVERY 試験(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)で、世界で初めてCOVID-19患者治療で有意な改善を、バリシチニブもレムデシビルとの併用下で臨床的な改善が報告されている(Kalil A, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807.)。レムデシビルに関しては、中等症のCOVID-19に対する単剤治療での有意な臨床的アウトカムは見いだしがたいが、発症早期の患者に投与することで臨床的なアウトカムや死亡率を低下させた報告があり、抗ウイルス効果は期待されるだろう(Gottlieb RL, et al. N Engl J Med. 2022;386:305-315.)。そして、ステロイドを投与する患者に関しては、先行して抗ウイルス薬を投与したほうが臨床症状の改善が早くなり、重症化率を低下させるという報告がある(Shionoya Y, et al. PLoS One. 2021;16:e0256977.)ことを加味すると、COVID-19の酸素需要がある患者には、ステロイドなどの抗炎症薬の投与が望ましく、レムデシビルも抗炎症薬とともに投与することがよいだろう。 さて、本研究に戻る。本研究が開始された時期は、COVID-19に対する確立された治療薬はなく、各国で有効性が期待される薬剤を探っている状況だった。本研究で対象となった薬剤の、ファビピラビル、カモスタットとシクレソニドについて整理する。 ファビピラビルは本邦で開発され、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する承認があり備蓄されていた抗ウイルス薬である。COVID-19が流行した初期に期待された治療法の1つであったが、本邦で実施された多施設無作為化オープンラベル試験でも早期のCRP陰性化や解熱傾向は見られたものの、有意差には達しておらず(Doi Y, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e01897-20.)、現時点でCOVID-19の標準治療に位置づけられてはいない。 シクレソニドもCOVID-19の治療で有効性が期待されていた薬剤である。本研究と患者対象が一致したデータではないが、国内のランダム化比較試験ではシクレソニド投与群で肺炎増悪が多く(https://www.ncgm.go.jp/pressrelease/2020/20201223_1.html)、臨床的な改善を示すことができなかった。カモスタットも臨床的改善までの日数やICU滞在期間の短縮、死亡率などの改善を示すことができず、現時点で臨床的に常用されている薬剤ではない(Gunst JD, et al. EClinicalMedicine. 2021;35:100849)。 本研究は、作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで臨床的な効果が向上することを期待していたが、シクレソニドやカモスタットは個々の薬剤としては、明らかなデータの改善を示す研究はなく、併用による相加あるいは相乗効果の薬理学的な背景も記載はない。本文に記載があるように、サンプルサイズも小さく安全性のプロファイルに懸念が残る点、hard clinical primary outcome(臨床的に客観性の高い主要評価項目)が採用されていないという点といった問題があり、これらの併用薬の有効性を示すためには、より大規模の人数で、標準治療群とhard clinical primary outcomeについて比較をすることが望ましいだろう。 本研究結果は、現在のCOVID-19診療に与える影響は小さいと考えるが、本邦における感染症研究という観点からは、同研究が発表された意義は大きいと考える。 パンデミックを起こした感染症の臨床研究は、早期に有効な治療法を見いだすことが望ましく、速やかな臨床研究の実施が望ましいが、臨床研究を実施するには医師だけではなく、多くの職種の協力や適切なモニタリング、参加者の協力などの資金とともに環境整備が必要となる。本研究のようにパンデミック下での前向き研究実施には、労力と研究が遂行できる環境、それらの下準備が求められる。 新規感染症に対する創薬を行う場合は、適切な臨床試験のもとで適正な薬剤の評価が行われることが重要であり、本邦でも新規感染症に対する創薬を行うためには、このような臨床研究ができる環境をさらに整備してゆくべきであろう。 COVID-19診療について振り返ってみると、ワクチン接種や重症化リスクの高い患者に対する治療薬の整備により、重症化率、致死率はこの2年間で大きく減少しているが、未だに終息はしていない。重症化リスクの高くはない患者さんでも、症状の早期緩和、Long COVID罹患率の低下、他者への感染リスクを低下させるなどの社会生活を円滑に進めるための薬剤が期待されており、これらの問題を解決する薬剤が開発されることを期待したい。ただ、本邦ではワクチン接種も進んでおり、オミクロン株流行下でも、重症化率や死亡率は低下し、急性期症状持続期間も短縮していたことを考えると、オミクロン株で抗ウイルス薬の有効性を評価する場合には工夫が必要かもしれない。COVID-19の比較対象にしばしば出されるインフルエンザも抗ウイルス薬があるが、インフルエンザに対する抗ウイルス薬は発症後48時間以内に内服しなければ症状などの有意な改善が望めないように、急性期症状持続期間が短縮しているオミクロン株で治療効果を評価する場合は、速やかな抗ウイルス薬投与ができる環境で評価を行わないと臨床症状の改善で有意差を確認することは難しいかもしれない。 今後は、新型コロナウイルス・オミクロン株に対する抗ウイルス薬の評価が行われることになると考えるが、ウイルスの特徴も踏まえた上で、臨床現場でどのような患者さんに、どのように用いることで、どのような効果を期待するのかを適切に捉えた臨床試験を組み立て、評価を行うことがとくに望まれると考える。

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マスタープロトコルという研究プログラムの事前登録のあり方(解説:折笠秀樹氏)

 マスタープロトコルという研究プログラムが、ここ5年くらいで多くみられるようになりました。最初はがん治療においてでした。がん種ごとに治療薬の比較試験を行うのではなく、分子標的マーカーが陽性か陰性かによって、がん種にこだわらず比較試験が行われました。疾患に対して比較試験を行うという従来方式ではなく、バイオマーカー陽性に対して比較試験を行う方式です。そこでは疾患は何でもよいわけです。これがバスケットデザインと呼ばれるマスタープロトコルです。NCI-MATCHの例が挙がっています。 一方、がん種は1つに固定し、その中で数種類のバイオマーカーを取り上げ、バイオマーカーごとに比較試験を組む形の臨床試験です。これをアンブレラデザインと呼んでいます。どのマーカーに反応する治療薬が効果を発揮するかわからないので、どちらかというと探索的目的が強いと思われます。ALCHEMISTの例が挙がっています。 最後のマスタープロトコルの例は、COVID-19で登場したプラットフォームデザインです。COVID-19の治療法開発というプラットフォームを考え、その中でいろんな治療法を評価するプロトコルを次々と増やしていくものです。RECOVERYの例が挙がっています。ホームページもありますが、現時点では5つほどプロジェクトが走っているようです。英国主導で立ち上がったプロジェクトで、国際共同試験が行われています。あのビルゲイツ財団も資金提供しています。COVID-19は残念ながらまだ収束しておりません。いつ強力なウイルスが誕生するとも限りません。抗ウイルス薬のほかにもステロイド薬やモノクローナル抗体薬など、いろんな可能性がこのプラットフォームの中で評価されていくことでしょう。 マスタープロトコルとは、いろんなサブスタディからなる壮大なプログラムです。複数の臨床試験の集合体ともいえます。現在は、マスタープロトコルとして事前登録されていますが、サブスタディごとに事前登録をすべきだというのが結論のようです。私も同感です。RECOVERY試験というのが始まり、日本も加わるべきだと武見参議院議員がテレビ番組で紹介しているのを聞きました。2021年の中ごろだったかと思います。どんな臨床試験かと思い、すぐに調べましたが、まったく理解できませんでした。それも無理はありません。いくつかの臨床試験をまとめたプログラムだったからです。個々の臨床試験、すなわちサブスタディごとに論文も発表されることでしょうから、サブスタディを事前登録すべきというのは当然のことではないでしょうか。

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国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」【下平博士のDIノート】第101回

国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」今回は、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬「フィネレノン(商品名:ケレンディア錠10mg/20mg、製造販売元:バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)の進行を防ぐMR拮抗薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月2日に発売されています。なお、原則としてACE阻害薬またはARBが投与されている患者に使用します。<用法・用量>通常、成人にはフィネレノンとして20mgを1日1回経口投与します。ただし、eGFRが60mL/min/1.73m2未満の場合は10mgから投与を開始し、血清カリウム値・eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量します。なお、血清カリウム値が4.8mEq/L以下の場合は、投与量が10mgでもeGFRが前回の測定から30%を超えて低下していない限り20mgに増量します。一方、血清カリウム値が5.5mEq/L超える場合は投与を中止し、中止後に5.0mEq/Lを下回った場合には、10mgから投与を再開することができます。<安全性>2つの国際共同第III相試験(FIGARO-DKDおよびFIDELIO-DKD)では、安全性解析対象6,510例中1,206例(18.5%)において、臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。主な副作用は、高カリウム血症496例(7.6%)、低血圧92例(1.4%)、血中カリウム増加85例(1.3%)、血中クレアチニン増加69例(1.1%)、糸球体ろ過率減少67例(1.0%)などでした。また、重大な副作用として、高カリウム血症(8.8%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれ、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者における心臓や腎臓の機能低下を防ぎます。2.血圧が下がることにより、めまいやふらつきが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には注意してください。3.飲み合わせに注意が必要な薬剤が多数あります。服用している薬剤や健康食品、サプリメントがあれば報告してください。4.グレープフルーツやグレープフルーツジュースは、薬の効果を強めてしまう恐れがあるため、摂取を避けてください。5.この薬の服用により、血中のカリウム値が上昇することがあります。手や唇がしびれる、手足に力が入らない、吐き気などの症状が現れた場合はすぐに相談してください。また、カリウムの摂り過ぎや脱水、便秘には注意してください。6.(授乳中の方に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤を服用中は授乳しないでください。<Shimo's eyes>近年、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が心腎保護作用の点から注目されています。既存のMR拮抗薬としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)、エプレレノン(同:セララ錠)、エサキセレノン(同:ミネブロ)が発売されています。スピロノラクトンは女性化乳房などの副作用の課題があり、比較的それらの副作用が少ないエプレレノンも、中等度以上の腎機能障害患者(Ccr:50mL/min未満)や、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。一方で、エサキセレノンは本剤と同様にステロイド骨格を持たないという特徴がありますが、適応は高血圧症のみとなっています。2つの臨床試験では、CKDステージが軽度~比較的進行した糖尿病性腎症の患者さんに、ACE阻害薬・ARBによる既存の治療を行った上で本剤を投与した結果、主要評価項目である心血管複合エンドポイントの発現リスクは13%、腎複合エンドポイントの発現リスクは18%、プラセボ群に比べ有意に低下させました。こういった結果をもたらした国内で初めてのMR拮抗薬であり、2型糖尿病合併CKDの適応を持つ唯一のMR拮抗薬です。相互作用で注意すべき点として、本剤は主にCYP3A4により代謝されるため、強力なCYP3A4阻害作用を持つ薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン等)を投与中の患者さんには禁忌となっています。また、併用注意の薬剤も多数あるので、併用薬はサプリメント等を含め、細やかに聞き取りましょう。MR拮抗薬といえば血清カリウム値上昇に注意が必要ですが、本剤はACE阻害薬あるいはARBとの併用が原則となっていることから、血清カリウム値のモニタリングが必須となります。対象患者の腎機能について、eGFRが60mL/min/1.73m2未満では投与量に制限があります。また、eGFRが25mL/min/1.73m2未満の場合は、本剤投与によりeGFRが低下することがあるため、リスクとベネフィットを考慮し投与の適否を慎重に判断することとされています。なお、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジン(同:フォシーガ)が2021年8月にCKDの適応を取得し、カナグリフロジン(同:カナグル)も、2022年6月に本剤と同じ2型糖尿病を合併するCKDに対する適応を取得しています。参考1)PMDA 添付文書 ケレンディア錠10mg/ケレンディア錠20mg

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バイクに乗ってアレが目に当たるとヤバイ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第213回

バイクに乗ってアレが目に当たるとヤバイpixabayより使用われわれ異物論文の業界では、肛門、陰部に続く異物御三家が「眼」です。眼外傷は怖いです。いくつも論文を読んでいると、意外と眼予後っていいんだなと感じます。論文化されているものは、治療が成功した報告が多いですから、成功者バイアスが入っているのかもしれませんが…。Tamilarsan SS, et al.Ocular Injuries Due to Insect Spines (Ophthalmia Nodosa): Potential Hazard to Motorcyclists.Cureus. 2022 Mar 11;14(3):e23084.バイクに乗る時は、ヘルメットの着用が義務付けられています(道路交通法第71条)。50cc以下の原付も、走行時のヘルメット着用が義務付けられています。近所の大学生などが原付に乗っているとき、ハーフキャップタイプという眼が保護されていないヘルメットを被っていることがありますが、眼鏡をつけていない人などは、眼にほこりやゴミが入ることがあり、少し危険です。この論文は、バイクを運転している人で、運転中に昆虫が目に当たって眼球を損傷した4例のケースシリーズです。男性が3人、女性が1人で、年齢は18~24歳でした。視力が0.1まで低下した人もいました。全例に昆虫の毛状突起の角膜への侵入と、前房の障害が見られました。この昆虫の皮膚にある毛状突起が厄介で、これが角膜の中に入り込んでしまうと取れません。結節性眼炎に対しては、抗菌薬とステロイドの点眼をある程度継続する必要があります。前房から後房へ移動すると、眼科的には毛状突起が観察されなくなります1)。とにかく、眼を守るものを着用してバイクに乗りましょう、ということですね。ライダードクターの皆さんはご注意を。1)Ibarra MS, et al. Intraocular caterpillar setae without subsequent vitritis or iridocyclitis. Am J Ophthalmol. 2002 Jul;134(1):118-20.

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中等症~重症クローン病、ウステキヌマブvs.アダリムマブ/Lancet

 生物学的製剤未使用の中等症~重症活動期クローン病患者に対する導入療法および維持療法として、ウステキヌマブ単剤療法とアダリムマブ単剤療法はいずれも高い有効性を示し、主要評価項目に両群で有意差はなかった。米国・マウントサイナイ医科大学のBruce E. Sands氏らが、18ヵ国121施設で実施した無作為化二重盲検並行群間比較第IIIb相試験「SEAVUE試験」の結果を報告した。ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体ウステキヌマブと、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体アダリムマブは、いずれもクローン病の治療薬として承認されているが、どちらもプラセボ対照比較試験の結果に基づいており、患者への説明や医師の治療選択にとっては直接比較する実薬対照試験が必要であった。Lancet誌オンライン版2022年6月11日号掲載の報告。386例をウステキヌマブ群とアダリムマブ群に無作為化 研究グループは、生物学的製剤による治療歴のない18歳以上の中等症~重症活動期クローン病患者を、ウステキヌマブ群またはアダリムマブ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。適格基準は、クローン病活動指数(CDAI)スコアが220~450点、生物学的製剤未使用で従来の治療が無効または不耐容(あるいは副腎皮質ステロイド依存性)、ベースラインの内視鏡評価で1つ以上の潰瘍を有する患者とした。 ウステキヌマブ群は、約6mg/kgを初日(Day 0)に静脈内投与し、その後56週まで8週に1回90mgを皮下投与した。また、アダリムマブ群は、初日に160mg、2週目に80mg、その後56週まで2週に1回40mgを皮下投与した。いずれも単剤投与とし、投与量は変更しないこととした。 主要評価項目は、無作為割り付けされた全患者(intention-to-treat集団)における52週時の臨床的寛解率(CDAIスコア<150を達成した患者の割合)であった。 2018年6月28日~2019年12月12日の間に、633例が適格性を評価され、386例がウステキヌマブ群(191例)またはアダリムマブ群(195例)に割り付けられた。52週時の臨床的寛解率はウステキヌマブ群65%、アダリムマブ群61% ウステキヌマブ群では191例中29例(15%)、アダリムマブ群では195例中46例(24%)が52週時までに治療を中止した。 52週時の臨床的寛解率は、ウステキヌマブ群65%(124/191例)、アダリムマブ群61%(119/195例)であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差4%、95%信頼区間[CI]:-6~14、p=0.42)。 安全性については、両群ともこれまでの報告と一致していた。重篤な感染症は、ウステキヌマブ群で191例中4例(2%)、アダリムマブ群で195例中5例(3%)が報告された。試験開始後52週時までの死亡例はなかった。

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中等症から重症のクローン病の寛解導入に対するリサンキズマブの有用性:第III相試験の結果(解説:上村直実氏)

 クローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の治療は生物学的製剤の出現により大きく変化している。しかし、中等度以上の活動性を有するクローン病症例の中には、生物学的製剤の効果が得られない患者、時間の経過と共に効果が消失する患者、あるいは副作用により治療が中断される患者が少なくなく、いまだに新たな作用機序を有する治療薬の追加が求められているのが現状である。 わが国で乾癬などに対して2019年から承認され使用されている、IL-23p19阻害薬のリサンキズマブのクローン病寛解導入に対する有用性を明らかにした第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(ADVANCE試験とMOTIVATE試験)の結果が、2022年5月のLancet誌に掲載された。この2つの試験は適格条件の違いがあるものの、従来型の治療ないしは生物学的製剤の効果が不十分であった中等度以上の活動性クローン病患者を対象としたRCTで、12週後のリサンキズマブ群の臨床的寛解率と内視鏡的奏効率がプラセボ群に比して有意に高率であり、一方、有害事象の発生率はプラセボと同等であったと報告されている。この結果は、既存の生物学的製剤を用いても寛解導入に難渋している患者に対する大きな福音と思われる。 最近、クローン病治療に関する臨床研究におけるエンドポイントは、従来のクローン病活動指数(CDAI)に加えて内視鏡的効果を主要評価とするものが主流となりつつある。すなわち、クローン病治療のパラダイムシフトを反映し、再発リスクの低減、入院率の低下、ステロイドフリーの増加、腸管切除の減少など長期的な予後の改善に関連する内視鏡的治癒を治療目標とする試験が増えている。本研究はCDAI、便の回数、腹痛スコア、および全患者の中央判定による内視鏡的評価を網羅しており、今後、評価方法のモデルとなるかもしれない。 一方、リサンキズマブの臨床的寛解率は40%であり、今後、反応性の予測因子に関する分析が重要である。IL-12とIL-23を標的とするデュアル阻害剤であるウステキヌマブと異なり、リサンキズマブはIL-23p19に対する選択的なモノクローナル抗体である。リサンキズマブの有効性と安全性を検証するために、異なる作用機序を有する他の生物学的製剤と比較する試験が必要であり、現在進行中であるリサンキズマブとウステキヌマブの効果を検討する試験(SEQUENCE、NCT04524611)の結果が注目される。

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デュピクセント、日本人小児アトピー性皮膚炎患者に対し主要評価項目達成/サノフィ

 サノフィは2022年6月14日付のプレスリリースで、同社のデュピクセント(一般名:デュピルマブ)について、生後6ヵ月から18歳未満の日本人アトピー性皮膚炎患者を対象とした第III相試験の結果を発表した。本試験における主要評価項目EASI-75の達成割合は、プラセボ投与群と比較してデュピクセント投与群で有意に高く、小児アトピー性皮膚炎の症状軽減に対する同製剤の有効性が示された。安全性データは、これまでのデュピクセントの安全性プロファイルと一致していた。デュピクセントの小児患者のEASI-75達成割合は43%でプラセボ群は19% 中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者は、ステロイド外用剤(TCS)やタクロリムス外用剤による適切な治療を一定期間実施しても十分な効果が得られず、高頻度かつ長期間の再燃が認められる場合がある。しかし、若年層では治療選択肢が限られており、アンメットニーズが存在している。 デュピクセントは既に、既存治療で効果不十分な、成人のアトピー性皮膚炎患者に対して薬事承認されている。今回発表された試験は、多施設共同、ランダム化、プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験で、中等症から重症のアトピー性皮膚炎と診断され既存療法で効果不十分な、生後6ヵ月から18歳未満の日本人小児患者62名を対象としている。TCSを標準治療薬とし、デュピクセントを併用した群とプラセボ投与群との比較により、小児アトピー性皮膚炎に対するデュピクセントの有効性と安全性を評価した。 小児アトピー性皮膚炎に対するデュピクセントの有効性と安全性を評価した主な結果は以下の通り。・主要評価項目である、投与16週時点のベースラインからのEASI-75達成割合は、デュピクセント投与群で43%、プラセボ投与群で19%だった(p=0.0304)。・安全性データは、デュピクセントで確立している安全性プロファイルと一致するもので、新たな有害事象は報告されなかった。 本試験で確認されたデュピクセントの有効性と安全性の詳細は、今後学会で公表される見通し。現在、国内における小児アトピー性皮膚炎へのデュピクセントの使用は臨床開発中であり、今後、本試験の結果をもとに生後6ヵ月以上18歳未満の小児を対象とした、製造販売承認事項一部変更申請を国内で実施する予定としている。

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転移の有るホルモン感受性前立腺がんに対するエンザルタミド投与によるOSの改善(ENZAMET)/ASCO2022

 転移を有するホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対し、アンドロゲン遮断療法(ADT)とエンザルタミドの併用療法は、ADTと非ステロイド系抗アンドロゲン剤(NSAA)の併用療法に比べ、全生存期間(OS)を有意に改善することが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)においてオーストラリア・Monash大学のDavis Ian氏から報告された。 同試験(ENZAMET)は、オーストラリア・ニュージーランドを中心に実施された国際共同の無作為化第III相試験であり、2019年に中間解析結果として、エンザルタミドのOS改善が報告されていた。今回はその長期追跡結果報告である。・対象:mHSPC症例(1,125例)・試験群:エンザルタミド(160mg/日 連日投与)+ADT (Enza群)・対照群:NSAA+ADT (NSA群)・評価項目:[主要評価項目] OS[副次評価項目] 無増悪生存期間、安全性、QoLなど[探索的評価項目] 腫瘍量別によるOS、転移発生の時期ごとのOS、DTX併用の有無によるOSなど 主な結果は以下のとおり。・観察期間中央値は68ヵ月であった(データカットオフは2022年1月)。・OS中央値はEnza群では未到達、NSA群は73.2ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.58~0.84)、p<0.0001とEnza群で有意に良好であった。5年OS率はEnza群67%、NSA群57%であった。・治療期間中央値はEnza群で57.8ヵ月、NSA群は22.6ヵ月で、NSA群の76%は後治療としてエンザルタミドまたはアビラテロンの投与を受けていた。Enza群では26%がアビラテロンの後治療を受けていた。・主治医判断によるドセタキセル(Dtx)の併用は45%の症例(503例)であり、6サイクルまでの投与が実施された。・事前に規定されたサブグループ解析では、Dtx投与を受けたグループのOS HRは0.82で、受けていないグループでは0.60であった。(p=0.09) また、高腫瘍量グループのOSHRは0.79、低腫瘍量のグループでは0.54であった。(p=0.06)・探索的解析として、Dtx投与の有無を転移の時期(同時性か異時性か)と腫瘍量を考慮したOSのカプランマイヤー曲線を作成した。それによると、同時性転移でかつ高腫瘍量のグループでは、早期からDtx併用の有効性がみられた。 演者は、「エンザルタミド+ADT療法は臨床的に意味のあるOSの改善を示した。これは特にDTXが必要ないと判断された低腫瘍量の症例で最も有用だと考えられる。また、高腫瘍量で同時性転移を有する症例では、DTX併用投与が必要と思われる。」と結んだ。

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2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」【下平博士のDIノート】第99回

2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」提供:ユーシービージャパン(2022年4月現在)今回は、ヒト化抗ヒトIL-17A/IL-17Fモノクローナル抗体製剤「ビメキズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター、製造販売元:ユーシービージャパン)」を紹介します。本剤は、乾癬の症状の原因となる炎症性サイトカインIL-17AとIL-17Fを選択的かつ直接的に阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年1月20日に承認され、同年4月20日から発売されています。なお、次のいずれかを満たす患者に投与されます。光線療法を含む既存の全身療法(生物製剤を除く)で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ患者。難治性の皮疹または膿疱を有する患者。<用法・用量>通常、成人にはビメキズマブ(遺伝子組換え)として、1回320mgを初回から16週までは4週間隔で皮下注射し、以降は8週間隔で皮下注射します。なお、患者の状態に応じて16週以降も4週間隔で皮下注射可能です。<安全性>臨床試験で報告された主な副作用は、口腔カンジダ症(13.2%)、鼻咽頭炎(5.1%)、毛包炎(1.7%)、上気道感染(1.5%)、中咽頭カンジダ症(1.2%)、咽頭炎・結膜炎(1.1%)などでした。また、重大な副作用として、重篤な感染症、好中球数減少(各0.5%)、炎症性腸疾患(0.1%未満)、重篤な過敏症反応(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の症状の原因となる炎症性物質の働きを抑えることで皮膚の炎症などの症状を改善します。2.薬の使用により感染症にかかりやすくなる場合があるので、発熱、寒気、体がだるいなどの症状が現れた場合には、医師にご連絡ください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.口腔内や舌の痛み、白い苔のようなものが付着する、味覚がおかしく感じるなどの症状が現れた場合には、医師にお申し出ください。5.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選びましょう。高温や長時間の入浴によりかゆみが増すことがあるので、温度はぬるめにして長い入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売され乾癬に適応を持つ生物学的製剤は、本剤と同様にIL-17Aの作用を阻害するセクキヌマブ(商品名:コセンティクス)、イキセキズマブ(同:トルツ)およびブロダルマブ(ルミセフ)、IL-23阻害薬のグセルクマブ(トレムフィア)、リサンキズマブ(スキリージ)、ウステキヌマブ(ステラーラ)、チルドラキズマブ(イルミア)、TNF阻害薬のアダリムマブ(ヒュミラ)、インフリキシマブ(レミケード)およびセルトリズマブ ペゴル(シムジア)などがあります。本剤の特徴は、IL-17Aに加えてIL-17Fにも結合することです。乾癬の病態において、IL-17AとIL-17Fはそれぞれ独立して炎症を増幅すると考えられているため、両方を直接阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待できます。また、16週以降の投与間隔は8週間隔、患者さんの状態に応じて16週以降も4週間隔を選択することができます。安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。投与に際しての安全上の留意点については、日本皮膚科学会「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2018年版)」「ビメキズマブ使用上の注意」等で参照できると思います。本剤には2種類の剤形(シリンジ、オートインジェクター)が存在しますが、2022年6月時点においては医療機関で投与が行われます。薬局では感染症や口腔カンジダ症の兆候がないか聞き取り、必要に応じて生活上のアドバイスを伝えるなど、治療中の患者さんをフォローしましょう。参考1)PMDA 添付文書 ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/ビンゼレックス皮下注160mgオートインジェクター2)UCB Japan 医療関係者向けサイト

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第115回 COVID-19入院患者の生存が関節リウマチ薬で改善

関節リウマチの治療でよく知られる免疫調節薬2つ・J&J社のTNF 阻害薬・インフリキシマブ(infliximab)やBristol Myers Squibb社のCTLA-4活性化薬・アバタセプト(abatacept)が米国国立衛生研究所(NIH)主催のプラセボ対照無作為化試験(ACTIV-1 IM試験)でどちらも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の死亡を減らしました1)。COVID-19患者の免疫系は炎症を誘発するタンパク質を悪くすると過剰に解き放ち、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、多臓器不全、その他の死に至りうる合併症を招くことがあります。ACTIV-1 IM試験はそういう過度の免疫を抑制しうる薬剤で中等~重度COVID-19入院成人の回復が改善するかどうかや死亡を減らせるかどうかを調べることを目的として実施されました。NIHの舵取りのもとでCOVID-19治療/ワクチンの開発促進を目指す産官学の提携(ACTIV) の一環として2020年10月に始まった2)ACTIV-1 IM試験の被験者はいつもの治療に加えて免疫調節薬幾つかの1つまたはプラセボを投与する群に割り振られました。ほとんどの被験者にはいつもの治療としてステロイド・デキサメタゾンやギリアド社の抗ウイルス薬・レムデシビル(remdesivir)が投与されました。デキサメタゾンはおよそ85%、レムデシビルは約90%の被験者に投与されています。退院を指標とする回復までの期間が主要転帰(プライマリーエンドポイント)で、両剤ともその改善傾向をもたらしたものの残念ながらプラセボとの差は有意ではありませんでした。しかしながらより深刻で究極の転帰・死亡率の低下を両剤のどちらももたらしました。インフリキシマブ投与群518人の死亡率は10%、プラセボ群519人の死亡率は約15%(14.5%)であり、同剤投与群の死亡率はプラセボ群より率にして約41%(40.5%)少なくて済んでいました。アバタセプトも同様で、その投与群509人の死亡率は11%、プラセボ群513人の死亡率は15%であり、同剤投与群の死亡率はプラセボ群に比べて率にして約37%(37.4%)少なくて済んでいました。もう1つの試験薬cenicriviroc(セニクリビロック)は残念ながら無効で、同剤投与群への被験者組み入れは去年9月に打ち切りとなっています。cenicrivirocはAbbVie社の開発段階のCCR2/CCR5阻害薬です。インフリキシマブやアバタセプトと同様にCOVID-19入院患者の死亡を減らすことが試験で示されているEli Lilly社の免疫調節薬・バリシチニブ(baricitinib)は重度以上のCOVID-19患者に使用すべき治療選択肢の一つとすることが世界保健機関(WHO)のガイドラインですでに強く推奨されています3)。レムデシビルやデキサメタゾンなどのいつもの治療に加えて投与することで死亡率のかなりの低下が見込めるインフリキシマブやアバタセプトもCOVID-19入院患者の治療選択肢に仲間入りしうるとACTIV-1 IM試験のリーダーWilliam Powderly氏は言っています1)。参考1)Immune modulator drugs improved survival for people hospitalized with COVID-19 / NIH2)NIH Begins Large Clinical Trial to Test Immune Modulators for Treatment of COVID-19 / NIH3)Agarwal A,et al.. BMJ. 2020 Sep 4;370:m3379

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高リスクIgA腎症に対する経口ステロイドの効果と有害事象を勘案した治療法(解説:浦信行氏)

 IgA腎症の治療法として、ステロイド剤はRA系阻害薬と並んで基本的治療法の一つである。一部の例外的報告を除いて腎障害進行抑制効果や尿蛋白低減効果は有意であるが、その治療法にはかなりのバリエーションがあり、0.8~1.0 mg/kg/日程度の高用量、その半量程度の低用量、さらにステロイドパルス療法や隔日投与法などがあるが、高用量以外はいずれも有害事象の発症抑制を意図したものである。 本研究は多施設二重盲検RCTであり、当初高用量群とプラセボ群との比較であったが、実薬群で有害事象が多かったため観察期間の中央値が2.1年で中止となった。この時点で二重盲検が外れたことでデータの解析に多少のバイアスが掛かる結果となった。ただし、低用量による試験再開の結果でも、同様の臨床効果が得られたことから、その臨床的意義は低くはない。加えて有害事象は実薬群でプラセボ群より多かったとはいえ、高用量群の3分の1以下に留まっていることを考慮すれば、結果的に低用量群の優位性も示した結果となった。この結果は今後のステロイドによる治療に大きな示唆を与えるもので、低用量、隔日投与、パルス療法の意義も同方向にある。 この試験には中国人の参加が多いが、サブ解析では治療効果は中国人に比べ、非中国人のほうの効果が有意に大であった。過去にもカナダ在住のアジア人とそれ以外の人種の比較が報告されているが、その効果もアジア人で有意に低値であった(Barbour J, et al. Kidney Int. 2013;84:1017-1024.)とのことで軌を一にする成績であり、その遺伝子レベルでの解析など原因の解明が必要である。 ところで、本研究ではステロイドの効果は治療終了後の追跡期間で減弱していくことも指摘され、病因・病態に直結した免疫抑制療法など、より一層病態に根差した治療法の開発が必要である。

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高リスクIgA腎症への経口ステロイドで転帰改善、用量は?/JAMA

 高リスクIgA腎症患者において、経口メチルプレドニゾロンによる6~9ヵ月の治療は、プラセボと比較して、腎機能低下・腎不全・腎疾患死亡の複合アウトカムのリスクを有意に低下させた。ただし、経口メチルプレドニゾロンの高用量投与では、重篤な有害事象の発現率が増加した。中国・北京大学第一医院のJicheng Lv氏らが、オーストラリア、カナダ、中国、インド、マレーシアの67施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検比較試験「Therapeutic Effects of Steroids in IgA Nephropathy Global study:TESTING試験」の結果を報告した。本試験は、重篤な感染症が多発したため中止となったが、その後、プロトコルが修正され再開されていた。JAMA誌2022年5月17日号掲載の報告。メチルプレドニゾロンの用量を0.6~0.8mg/kg/日から0.4mg/kg/日に減量し、試験を再開 研究グループは、2012年5月~2019年11月の期間に、適切な基礎治療を3ヵ月以上行っても蛋白尿1g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)20~120mL/分/1.73m2のIgA腎症患者503例を、メチルプレドニゾロン群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 メチルプレドニゾロン群は、当初、0.6~0.8mg/kg/日(最大48mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~6ヵ月で減量・離脱(8mg/日/月で減量)するレジメンであったが、メチルプレドニゾロン群に136例、プラセボ群に126例、計262例が無作為化された時点で重篤な感染症の過剰発生が認められたため、2015年11月13日に中止となった。その後、プロトコルを修正し、メチルプレドニゾロン群は、0.4mg/kg/日(最大32mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~7ヵ月で減量・離脱(4mg/日/月で減量)するレジメンに変更するとともに、ニューモシスチス肺炎に対する抗菌薬の予防的投与を治療期間の最初の12週間に追加した。 2017年3月21日に修正プロトコルで試験が再開され、2019年11月までに241例(メチルプレドニゾロン群121例、プラセボ群120例)が登録された。 主要評価項目はeGFR40%低下・腎不全(透析、腎移植)・腎疾患死亡の複合で、副次評価項目は腎不全などの11項目とし、2021年6月まで追跡調査した。メチルプレドニゾロン群で複合アウトカムが有意に減少、高用量では有害事象が増加 無作為化された503例(平均年齢:38歳、女性:198例[39%]、平均eGFR:61.5mL/分/1.73m2、平均蛋白尿:2.46g/日)のうち、493例(98%)が試験を完遂した。 平均追跡期間4.2年において、主要評価項目のイベントはメチルプレドニゾロン群で74例(28.8%)、プラセボ群で106例(43.1%)に認められた。ハザード比(HR)は0.53(95%信頼区間[CI]:0.39~0.72、p<0.001)、年間イベント率絶対群間差は-4.8%/年(95%CI:-8.0~-1.6)であった。 メチルプレドニゾロン群の各用量について、それぞれのプラセボ群と比較して主要評価項目に対する有効性が確認された(異質性のp=0.11、HRは高用量群0.58[95%CI:0.41~0.81]、減量群0.27[95%CI:0.11~0.65])。 事前に規定された11項目の副次評価項目のうち、腎不全(メチルプレドニゾロン群50例[19.5%]vs.プラセボ群67例[27.2%]、HR:0.59[95%CI:0.40~0.87]、p=0.008、年間イベント率群間差:-2.9%/年[95%CI:-5.4~-0.3])などを含む9項目で、メチルプレドニゾロン群が有意に好ましい結果であった。 重篤な有害事象の発現は、メチルプレドニゾロン群がプラセボ群より多く(28例[10.9%]vs.7例[2.8%])、とくに高用量群で高頻度であった(22例[16.2%]vs.4例[3.2%])。

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甲状腺クリーゼ〔Thyrotoxic storm or crisis〕

1 疾患概要■ 概念・定義甲状腺クリーゼ(Thyrotoxic storm or crisis)とは、甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し、これに何らかの強いストレスが加わったときに、甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥った結果、生命の危機に直面した緊急治療を要する病態をいう。■ 疫学甲状腺クリーゼはまれな病態で、入院した甲状腺中毒症の1~2%を超えないと言われている。日本甲状腺学会と日本内分泌学会の共同委員会(赤水班)による2009年の全国調査では、わが国での発生率は入院患者10万人あたり0.2人であり、推計患者数は確実例が約150人/年、疑い例が約40人/年と算出された。致死率は約11%である。■ 病因病因は不明であり、クリーゼの発症は必ずしも甲状腺ホルモンの血中濃度によらない。急激な甲状腺ホルモンの放出や、交感神経系の活性化、重症疾患でみられる甲状腺ホルモンの感受性上昇や蛋白結合能の低下などの関与が考えられている。甲状腺疾患としてバセドウ病が最も頻度が高いが、機能性甲状腺腫瘍、アイソトープ治療、甲状腺手術、破壊性甲状腺疾患などでも報告されている。甲状腺外の誘因としては、感染症、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、虚血性心疾患、ヨード系造影剤の投与、強いストレスなど多岐にわたる。■ 症状甲状腺クリーゼでは複数臓器の機能不全が起きるが、代表的な症状は以下の通りである。1)甲状腺腫バセドウ病ではびまん性腫大を示すことが多く、結節性の甲状腺機能亢進症では、結節を触知することがある。亜急性甲状腺炎では局所の圧痛を示す。2)中枢神経症状甲状腺クリーゼの中心的な症状であり、意識障害、不穏、譫妄、精神異常、傾眠、痙攣、昏睡がある。3)発熱基礎代謝亢進にともない、発熱(38℃以上)とともに多汗を生じる。4)循環器症状高度の頻脈、心房細動、心不全症状、ショックを起こすことがある。5)消化器症状腸管蠕動運動亢進による下痢、嘔気・嘔吐、肝障害に伴う黄疸を示すことがある。また、肝機能不全による肝障害・黄疸を呈することがある。■ 予後現在においても致死率は高く、10~75%と言われていたが、わが国での全国疫学調査の結果では致死率10%以上であった。死因は、多臓器不全、腎不全、呼吸不全などで、また不可逆的な神経学的障害が残存することもある。予後規定因子として、ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全があり、入院時に重症度に応じて予後が不良となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)甲状腺クリーゼの診断には、古くからのBurch-Wartofskyの診断スコアが使用されてきたが、必ずしも科学的エビデンスに裏付けされたものではなかった。より一層科学的根拠に基づく診断基準を求めて、わが国では、赤水らによる甲状腺クリーゼの診断基準が策定された。必須項目は甲状腺中毒症の存在であり、(1)中枢神経症状、(2)発熱、(3)頻脈、(4)心不全症状、(5)消化器症状の5項目が主要な症状・症候として選択された(表1)。表1 甲状腺クリーゼの診断基準画像を拡大する甲状腺中毒症の存在下に、「中枢神経症状+他の症状項目が1つ以上あるもの」か、「中枢神経症状以外の症状項目が3つ以上あるもの」を、甲状腺クリーゼ確実例とする。中枢神経症状以外の症状項目2つ、または夜間・休日など甲状腺中毒症が確認できない状況下で、甲状腺疾患の既往、眼球突出、甲状腺腫の存在があり、確実例の条件を示す者を疑い例とする。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)診断基準の確定の後、甲状腺クリーゼの予後改善を目指して、診療ガイドライン2017年版が作成された。甲状腺クリーゼと診断された場合、二次ABCDE評価(Airway, Breathing, Circulation, Dysfunction of central nervous system, and Exposure & environmental control)を行ない、Acute Physiologic Assessment and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアに基づき集中治療の要否を判断する。冷却・解熱剤の投与とともに抗甲状腺薬、無機ヨードならびに副腎皮質ステロイドを開始する(図)。また、APACHEIIスコア9以上では集中治療室(ICU)での管理が勧められる。図 甲状腺クリーゼ治療のアルゴリズム画像を拡大する甲状腺クリーゼに至った誘因の除去を行い、感染症などの合併に関しては個別に治療を行なう。中枢神経症状に対する治療は精神科救急医療ガイドラインなどに準じて行うが、器質的疾患(脳血管障害・髄膜炎・代謝異常・中毒など)がクリーゼの誘因となりうるので鑑別診断を必ず行う。心拍数150/分以上の洞性頻脈や頻拍性心房細動を認める場合、β1選択性短時間作動型β遮断薬やジギタリス製剤で心拍数を管理し、必要に応じて電気的除細動も考慮する(表2)。表2 甲状腺クリーゼの各々の病態に対する治療の概要画像を拡大するその他、うっ血性心不全、急性肝不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性腎不全、横紋筋融解症、成人型呼吸促拍症候群(ARDS)などがみられる場合があり、予後不良となるので、各々の病態に応じた集学的治療が必要とされる。甲状腺クリーゼにおける治療的血漿交換の絶対的適応は、急性肝不全合併例で、相対的適応はクリーゼに対する治療開始24~48時間後においてもコントロール不能の甲状腺中毒症である。APACHEIIスコアならびにSOFA(Sepsis-related Organ Failure Assessment)スコアが予後と関連する。4 今後の展望今回のガイドライン作成にあたり、国内の多くの施設に症例報告収集の支援をいただいたが、ガイドライン発行後、治療の方法ならびに生存率なども変化しているため、現在日本甲状腺学会により前向きの全国調査が行われている。5 主たる診療科内分泌・代謝内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会 甲状腺クリーゼ(一般利用者向けのまとまった情報)難病情報センター 甲状腺中毒クリーゼ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼの診断基準(第2版)(医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017年版Digest版(医療従事者向けのまとまった情報)1)Akamizu T, et al. Thyroid. 2012;22:661-679.2)Burch HB, et al. Endocrinol Metab Clin North Am. 1993;22:263-277.3)Isozaki O, et al. Clin Endocrinol(Oxf). 2016;84: 912-918.4)Satoh T, et al. Endocr J. 2016;63:1025-1064.5)日本甲状腺学会・日本内分泌学会. 甲状腺クリーゼガイドライン2017.南江堂,2017.公開履歴初回2022年5月26日

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コロナ治療薬の早見表2種(年代別およびリスク因子有無別)

年齢別で使用できるコロナ治療薬ー新型コロナ重症化リスク因子がある人ー・重症化リスク因子とは、65歳以上の高齢者、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、妊娠後期などのこと軽症~中等症薬剤対象者内服点滴ラゲブリオパキロビッドパックロナプリーブゼビュディ(モルヌピラビル)(ニルマトレルビル・リトナビル)(カシリビマブ/イムデビマブ)(ソトロビマブ)発症から5日以内に5日間服用発症から5日以内に服用(1回に2種3錠を5日間服用)薬剤の大きさは約2cm薬の飲み合わせに注意が必要のため「お薬手帳」を持参して服用中のすべての薬を医療者に伝えましょう(とくに高血圧や不整脈治療薬、睡眠薬など)オミクロン株には無効アナフィラキシーや重篤な過敏症を起こす恐れがあるので投与~24時間は観察が必要発症から5~7日を目安に投与オミクロン株のBA.2系統には有効性減弱12歳以上かつ40㎏以上小児妊婦・授乳婦子どもを望む男女発症から7日以内に投与子供を望む男女が服用する場合、服用中と服用後4日間の避妊を推奨※※※65歳未満65歳以上※妊婦:治療上の有益性が危険性を上回る時に服用可、授乳婦:授乳の継続又は中止を検討出典:各添付文書、新型コロナウイルス感染症診療の手引き第7.2版、COVID-19 に対する薬物治療の考え方第13.1版Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.年齢別で使用できるコロナ治療薬ー新型コロナ重症化リスク因子がない人ー・薬剤が使用できる方は、重症度分類が中等症II以上(酸素投与が必要)の場合に限ります軽症※~重症薬剤対象者中等~重症点滴内服/点滴点滴内服ベクルリーステロイド薬アクテムラオルミエント(レムデシビル)(デキサメタゾン)(トシリズマブ)(バリシチニブ)投与目安は軽症者が3日間中等症以上が5日間(最大10日間)重症感染症の適応で使用発症から7日以内に使用。ステロイド薬と併用、人工呼吸器管理・ECMO導入を要する方に入院下で投与入院から3日以内に投与。総投与期間は14日間、レムデシビルと併用肝/腎機能障害、アナフィラキシーなどに注意投与目安は10日間血糖値が高い方、消化性潰瘍リスクがある方は注意が必要結核、B型肝炎の既往、糞線虫症リスクを確認。また、心疾患や消化管穿孔リスクがある方は注意が必要抗凝固薬の投与等による血栓塞栓予防を行う結核・非結核性抗酸菌症やB型肝炎リスクを確認※軽症は適応外使用小児妊婦・授乳婦子どもを望む男女3.5㎏以上※プレドニゾロン40㎎/日に変更※65歳未満65歳以上※妊婦:治療上の有益性が危険性を上回る時に服用可、授乳婦:授乳の継続又は中止を検討出典:各添付文書、新型コロナウイルス感染症診療の手引き第7.2版、COVID-19 に対する薬物治療の考え方第13.1版Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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熱中症で発症するかも?特発性後天性無汗症AIGAとは【知って得する!?医療略語】第10回

第10回 熱中症で発症するかも?特発性後天性無汗症AIGAとは汗をかかない病気があるって本当ですか?そうなんです。『無汗症』という疾患があります。実臨床では「不明熱の原因」「熱中症の隠れたリスクの可能性」として指摘されています。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】AIGA【日本語】特発性後天性全身性無汗症【英字】acquired idiopathic generalized anhidrosis【分野】脳神経【診療科】皮膚科【関連】特発性分節性無汗症・特発性純粋発汗不全症(IPSF)・自己免疫性自律神経障害薬剤性無汗症・二次性無汗症・乏汗症・神経障害性無汗症実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。不明熱の鑑別疾患リストに無汗症が報告されています。原因不明の微熱で病院を転々とする方で、全身状態は良好、炎症マーカーはすべて陰性、感染徴候はなく膠原病や悪性疾患を疑う所見にも乏しいとき、無汗症は想起されるべき疾患の1つかもしれません。無汗症には先天性と後天性がありますが、『特発性後天性全身性無汗症(AIGA)』は近年、難病指定されています(指定難病163)。無汗症では、気温が高くても汗をかかないため、熱の放散が障害され、体温調節ができずに容易に熱中症の症状を来たすとされています。新型コロナのためマスクをすることが当たり前の今日、マスクで呼気による体温調整が阻害されています。そのため、マスク装着時の体温調整は、非装着時と比較して、より発汗による体温調整に依存している可能性があり、全身性の無汗症の方は、例年以上に体温調節が難しく容易に熱中症を来たす可能性があります。無汗症の中でも、AIGAはステロイドパルスが有効だったとする論文報告が散見され、適切に診断すれば、患者さんのQOLを改善できる可能性があります。無汗症を見逃さないことがより重要になってくるかもしれません。筆者自身の診療シーンを振り返ると、救急外来に熱中症疑いで繰り返し搬送される患者さんの中に、脱水がないのにまったく汗をかいておらず、皮膚が乾燥している方を時々見かけていました。ご本人に聞いても、発汗することなく、急に熱中症の症状を来たしたと訴えていました。そのような患者さんの中に無汗症の方が混在していたのかもしれません。気温が急速に上昇してくるこれからの季節に注意したい疾患です。1)坂野翔子ほか. 日内会誌. 2018;107:p564-570.2)難病医学研究財団/難病情報センター:特発性後天性全身性無汗症 診断・治療指針3)柳下武士. 日皮膚会誌. 2021;131:p35-41.4)中根俊成. 臨床神経. 2019;59:p783-790.

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がん悪液質に新たな薬物療法が登場【非専門医のための緩和ケアTips】第26回

第26回 がん悪液質に新たな薬物療法が登場がんによる全身性炎症を背景に、食欲低下や倦怠感の症状と併せて骨格筋の減少が生じる「がん悪液質」という病態。今回はこれに対する薬物療法を紹介します。最近、新薬が出たことからホットな分野です。今日の質問がん悪液質により「食欲が湧かない。何とかしてほしい」と訴えられる患者さん。ステロイド投与も検討しましたが、年単位の予後予測なので、長期的なステロイド使用となることから躊躇しています。ほかに何か良い薬はありませんか?質問のように、がん患者の倦怠感や食欲低下には、ステロイドの使用がよく知られています。いくつかの臨床試験においても効果が確認されているので、使いたくなる場面も多いですよね。ただ、ステロイドは数週間程度の短期効果であることも知られています。大前提として、がん悪液質のさまざまな症状に対する介入は、できるだけ「早期」に「集学的な介入」が求められます。病状が進行した段階は「不応性悪液質」とされ、病態の改善よりもQOLをできるだけ低下させない緩和的治療が主体となります。では、比較的早期にがん悪液質に対して介入するチャンスがあった際、ステロイド以外に有効な薬物療法はあるのでしょうか?実はこの分野でホットな話題に、新薬の登場があります。アナモレリンという薬剤で、商品名はエドルミズ®です。2021年4月から発売が開始され、まだ市場に出て1年程度です。適応は悪性腫瘍(非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんにおけるがん悪液質)の効能または効果です。アナモレリンはグレリン様作用薬という薬剤です。あまり聞き慣れない方も多いでしょう。グレリンは胃から分泌され、食欲を促進する内因性ホルモンです。がん悪液質の治療標的として注目され、開発された薬剤がアナモレリンです。グレリンは食欲促進だけでなく、抗炎症作用や筋肉のタンパク分解を抑制し、合成を促進する効果があるとされます。アナモレリンはグレリンと同様の作用をする薬剤なのです。アナモレリンは経口薬で1錠50mgです。成人に対して通常1日1回100mg空腹時に内服するのが標準的な用法および用量となります。心不全や完全房室ブロックなどの刺激伝導障害のある方には用いることができません。肝障害やCYP3A4阻害薬との併用も禁忌となります。がん診療、緩和ケアの専門医にとっても、まだまだ使用経験が集積していないのですが、今後どのように臨床に活用されるのか注目の薬剤です。処方の際はしっかりと適応を見極め、注意点を把握しましょう。今回は、がん悪液質に対する新しい薬物療法についてご紹介しました。今回のTips今回のTipsがん悪液質に対して、アナモレリンは期待の新規薬剤。栄養療法、運動療法と併せて処方を検討しましょう。

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カムラティ・エンゲルマン病〔CED:Camurati-Engelmann Disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義カムラティ・エンゲルマン病は、進行性骨幹異形成症(progressive diaphyseal dysplasia)とも記載される常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる骨系統疾患である。本症は、1920年Cockayneによって初めて記載され、1922年Camuratiにより遺伝性であることが示唆された。1929年Engelmannにより、筋力低下と著明な骨幹異形成症を示す一例が報告され、本症の名前の由来となっている。現在では、過剰な膜内骨化による骨皮質の肥厚と長管骨骨幹部の紡錘形肥大、近位筋の筋力低下、四肢痛を特徴とする疾患としてカムラティ・エンゲルマン病(Camurati-Engelmann病:CED)の表記が広く用いられている。現在までに150例を超える症例報告がある。家系内解析では、表現型に大きな幅があることが知られている。■ 疫学筆者らが、2014年に行ったアンケート調査(国内医療機関[計2,531施設]に送付し、1,470施設から回答を得ることができた)では、16症例が報告された。このうち、13症例が新規だと考えられた。アンケートから推定された新規患者は30症例程度であり、既知の患者と合わせて60名程度のCED患者がいると考えられる。このアンケートでの患者の定義は、発症年齢は大半が幼児期であるが、その症状は幼児期と青年成人期で異なり、幼児期は、筋力低下、易疲労性を主徴とし、青年成人期は、骨幹の疼痛、めまい、難聴を主徴とするものを対象にし、2診断の項目で示すX線画像所見もしくは検査所見を持つものとしている。■ 病因筆者らは、このCEDの3世代にわたる大家系(21名)を見出し、その臨床表現型についての検討を行った。罹患者、非罹患者をX線学的に同定し、家系内連鎖解析を行った。これにより、疾患遺伝子が19番染色体長腕に位置するTGFB1遺伝子であることを突き止めた。しかしながら、この遺伝子にみられる変化は、TGFB1の構造遺伝子部分ではなく、関連蛋白(Latency associated protein:LAP)に存在する。当初の解析では、LAPドメインを不安定化する変異がTGFB1の遊離を促進することで成熟型TGFB1を増加させるものであると考えられていた。その後のシグナルペプチドでの変異やヒンジ以外の部分の変異での解析から、必ずしも成熟型TGFB1の増加必須なのではなく、情報伝達系として亢進する変異であれば、カムラティ・エンゲルマン病の表現型をとることが明らかになっている。■ 症状3主徴は、四肢の骨痛、筋力低下、易疲労感である。これらの3主徴の出現時期には、年齢依存性があることに注意が必要である。1)幼児期この時期の症状は、筋肉痛、筋力低下、歩行異常であり、骨痛を訴えることは少ない。2)思春期思春期前後から、運動後の骨痛や骨の自発痛が始まる。痛みの出現部位は、病変部である長幹骨の骨幹であることが多い。3主徴が整うのは思春期以後であることが多い。3主徴が整うころの体型としては、手足が長く筋肉の付きの悪い痩せ型であることが多く「マルファン様」と記載されることが多い。性別を問わず、思春期が遅れることも比較的よくみられる症状である。妊孕性に異常はみられない。3)成人期成人期以後は、上記の症状に加えて、頭蓋底の骨肥厚、骨硬化による症状が加わっていく。これには、神経孔の狭窄による神経麻痺などがあり、骨肥厚、骨硬化の進行により生じると考えられている。同様の病態生理から顔面神経マヒ、頭痛、うっ血乳頭、めまい、耳鳴、感音性難聴などの症状が生じうる。理由は不明であるが、女性患者の場合、妊娠によって四肢の疼痛が劇的に改善することが知られている。■ 予後妊孕性に問題はなく、生命予後が悪いという報告もない。しかしながら、頑固な耳鳴や日常生活に支障を来すほどの骨の自発痛は、患者を不安に陥れ精神的な不安定さを生じ、予期しない不幸な転帰をむかえることがあるので精神状態のフォローが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)疾患の診断には、上記の症状に加えて、X線画像所見が依然として最も価値があると考えられる。2014年の全国調査では、頭蓋骨側面、四肢長管骨X線画像所見もしくは骨シンチグラム画像所見で診断基準を設定して集計した。1)X線画像所見長幹骨骨幹の骨皮質の左右対称性の骨硬化像(*X線画像所見における頭蓋底の骨硬化像の有無は問わない)2)検査所見骨シンチグラムでの長幹骨骨幹の骨皮質の左右対称性とりこみ3)判定上記2項目のうち1項目を満たすもの図1 典型例頭蓋底の硬化像、頭蓋骨のびまん性の肥厚、長幹骨骨幹を中心とした硬化像。画像を拡大する図2 軽症例頭蓋底の硬化性変化はほとんどみられない。右尺骨近位部大腿骨遠位部の骨硬化、下腿の骨変化。画像を拡大する図3 典型例での99mTc-HMDP骨シンチグラフィー頭蓋底と長幹骨骨幹に左右対称的な取り込みを認める。画像を拡大する図1に典型例、図2に軽症例、図3には骨シンチグラフィーの所見を示す。X線画像所見では、軽症例で内骨膜中心の膜性骨化を示し、骨全体の変形は少ない。重症になるにつれ頭蓋底の骨硬化が進行し、外骨膜性の骨化が加わり骨の変形を来すのが観察できる。古典的には、赤沈の亢進、ALPの上昇の記載があるが、鑑別に用いることが可能なほどの診断的な意味はないと思われる。筆者らが経験した大家系においても、ALP、骨ALP、オステオカルシン、尿中デオキシピリジノリンなど汎用性の高い骨関連マーカーは、病気の存在、病勢と一致しない。また、この疾患の原因遺伝子であるTGFB1の血中濃度も病勢を反映するものではない。現在では、保険診療外ではあるがTGFB1遺伝子解析が可能となっており、機能亢進型の変異を検出することができれば診断を確定できるものと考えられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在までの報告からは、ステロイドの有効性を指摘するものが多い。プレドニンとして平均0.6mg/kg/日から開始し漸減する方法が一般的である。筆者らは、初期の投与期間を限定して、低容量で長期間服用する方法をとっている。しかしながら、投与方法については、一定の見解が得られていない。疼痛に対する効果はみられるものの、一過性であり周期的に繰り返し投与が必要である。最近、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のステロイド治療で使用されるDeflazacortでの治療経験が報告されるようになっており、経過が注目される1999年ビスフォスファネート製剤の有効性が報告されたが、筆者らの症例では効果はなく、2005年には第1世代、第2世代ビスフォスファネート製剤の否定的な追試が発表された。最近、第3世代のビスフォスファネートであるゾレドロンでの治療経験の報告がみられるようになっており経過を注視する必要がある。また、原因遺伝子がTGFB1の機能亢進にあることから、マルファン症候群と同じくロサルタンの応用が報告されるようになった。低血圧を惹起しない小児領域での実用的な量は、0.6~1.4mg/kg/日とされている。これまでの報告では、病態が完成していない思春期前の小児での成績がよく、成人後では改善が認められないとするものが多い。4 今後の展望現在、本疾患は、小児慢性特定疾病ではあるものの、指定難病には指定されていない。また、治療については、新規開発薬剤の適応拡大などが必要である。そのためにも難病政策として小児慢性特定疾病指定と指定難病指定の一元化が望まれるところである。5 主たる診療科整形外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カムラティ・エンゲルマン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2022年4月12日

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