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原発性胆汁性胆管炎〔PBC : Primary Biliary Cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、病因・病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である。中高年女性に好発し、皮膚掻痒感で初発することが多い。しかし、多くの症例では無症候性の時期にたまたま発見され、長く無症候性のまま経過する。黄疸はいったん出現すると、消退することなく漸増することが多い。一部の症例では門脈圧亢進症状が高頻度に出現する(表1)。画像を拡大する従来、病名は「原発性胆汁性肝硬変」となっていたが、現在は早期に診断することができるようになり、またウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の効果もみられることから、現在診断されている多くの患者は肝硬変には至っていない。実際は肝硬変ではないにもかかわらず「肝硬変」が病名に入っていることで、患者の精神的負担が大きい、との患者団体の要請に応じ、2016年より世界的に、英文字略語のPBCはそのまま残し、「Primary Biliary Cholangitis(PBC)」と改名された。日本語では、「原発性胆汁性胆管炎」と改名されることになった。■ 疫学男女比は約1:7、診断時平均年齢は50~60歳で、幼小児期での発症はみられない1)。発生数は1980年の調査開始以来増加傾向にあったが、1990年代以降は横ばいで推移している。新たに診断される症例のうち約70~80%は無症候性PBCである。無症候性PBCを含めた総患者数は全国で約5万~6万人と推計される1)。■ 病因本症は種々の免疫異常とともに、自己抗体の1つである抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibody:AMA)が特異的(90%)かつ高率(90%)に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群などの自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすい。さらに、組織学的には障害胆管周囲にT細胞優位の高度の単核球浸潤がみられることなどから、病態形成には自己免疫学機序が強く関与していると考えられる。多くの疾患同様、本疾患も多因子疾患であり、遺伝学的要因を基盤に環境要因が作用することよって発症し、病態形成がなされることが想定されている。家族集積性のあることや一卵性双生児における一致率がきわめて高いことなどから、発症には遺伝的素因の関与が示唆される。HLA-DR8 (DRB1*08)が人種を超えて疾患感受性遺伝子として働いている可能性が想定され、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、HLA-DR以外の新たな疾患関連遺伝子多型の情報が集積されつつある2)。環境因子としては、大腸菌などの細菌からの感染が想定されている。また、工業地帯や汚染廃棄物処理施設の近郊で発症が多いとの疫学研究などより、大気汚染や化学物質、化粧品などによる抗原の修飾がPBC発症のきっかけとなっている可能性が想定されている。■ 症状本疾患にみられる症状は、(1)胆汁うっ滞に基づく症状(2)肝障害・肝硬変および随伴する病態に伴う症状(3)合併した他の自己免疫疾患に伴う症状に分けて考えることができる。病初期は無症状であるが(無症候性PBC)、黄疸を呈する以前から胆汁うっ滞に基づく搔痒感が出現する。身体所見としては、症候性PBCでは黄疸のほか、掻痒のために生じた掻き傷、高脂血症に伴う眼瞼黄色腫が観察され、肝臓は腫大していることが多い。本疾患は他の自己免疫性疾患・膠原病を合併しやすく、なかでもシェーグレン症候群、慢性甲状腺炎、関節リウマチの頻度が高い。門脈圧亢進症状を早期から呈しやすく、高齢者や進行例では肝細胞がんの併発も考慮する必要がある。■ 分類1)臨床病期分類皮膚搔痒感、黄疸、食道静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく症候を伴う症候性PBC(sPBC)とこれらの症候を欠く無症候性PBC(aPBC)に分類される。症候性PBCはさらに、皮膚掻痒感のみ認め血清総ビリルビン値が2.0mg/dL未満のs1PBCと、血清総ビリルビン値が2.0mg/dL以上の黄疸を認めるs2PBCに細分される1)。2)組織学的病期分類わが国の診療ガイドラインでは、サンプリングエラーを最小限にするように工夫された中沼らによる新しい分類の使用が推奨されている。1期(no progression)、2期(mild progression)、3期(moderate progression)、4期(advanced progression)の4期に分類される。3)特殊型特殊なタイプとして、以下の病態がある。(1)PBC-AIHオーバーラップ症候群(PBC-AIH overlap syndrome)PBCの特殊な病態として、肝炎の病態を併せ持ちALTが高値を呈する本病態がある。副腎皮質ステロイドの投与によりALTの改善が期待できるため、PBCの亜型ではあるが、PBCの典型例とは区別して診断する必要がある。(2)AMA陰性PBC、自己免疫性胆管炎(AIC)AMAは陰性であるが、PBCに特徴的な臨床像と肝組織像を呈し、PBC症例の約10%を占める。これらのうち抗核抗体陽性を呈する病態に対しautoimmune cholangiopathyあるいはautoimmune cholangitis(AIC)などの名称が提唱された。副腎皮質ステロイドの投与が奏効する症例もあり、UDCAの効果がみられない症例に対して試みられる。■ 予後PBCの進展形式は、緩徐進行型、門脈圧亢進症先行型、黄疸肝不全型の大きく3型に分類される(図)。多くは長期間の無症候期を経て徐々に進行するが(緩徐進行型)、黄疸を呈することなく食道静脈瘤が比較的早期に出現する症例(門脈圧亢進症型)と早期に黄疸を呈し、肝不全に至る症例(黄疸肝不全型)がみられる。肝不全型は比較的若年の症例にみられる傾向がある。黄疸期(s2PBC)になると進行性で予後不良である。5年生存率は、血清総ビリルビン値が5.0mg/dLで55%、8.0mg/dLを超えると35%となる。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、厚労省研究班の診断基準(表1)に則って行うが、(1)血液所見で慢性の胆汁うっ滞所見(ALP、γ-GTPの上昇)(2)AMA陽性所見(間接蛍光抗体法またはELISA法)(3)肝組織学像で特徴的所見(CNSDC、肉芽腫、胆管消失)の3項目が重要である1)。〔肝組織像が得られる場合〕(1)組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの。(2)AMAが陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの。〔肝組織像が得られない場合〕AMAが陽性で、しかも臨床像および経過からPBCと考えられるもの。■ 臨床検査成績慢性の胆道系酵素(ALP、γ-GTP)の上昇、血清IgMの高値、AMAの出現が特徴的である。■ 抗ミトコンドリア抗体(AMA)と抗核抗体AMAの対応抗原として、ピルビン酸脱水素酵素E2コンポーネント(PDC-E2)をはじめとするミトコンドリア内膜に存在するオキソ酸脱水素酵素複合体を構成する蛋白が明らかになっている。PDC-E2反応性CD4陽性T細胞がPBC患者の肝臓、所属リンパ節および末梢血で有意に増加していることが示され、本疾患の成立・維持に重要な役割を果たしていることが想定される。PBCではAMAのほか、抗セントロメア抗体、抗核膜孔抗体(抗gp210抗体)、抗multiple nuclear dot抗体(抗sp100抗体)など数種の抗核抗体も陽性化する。核膜孔の構成成分に対する抗gp210抗体は特異度ほぼ100%と疾患特異性が高く、PBC患者の約20~30%で陽性化する。本抗体は予後不良なPBC症例で陽性になる率が高く、PBCの臨床経過の予測因子として有用であることが示されている1)。■ 肝組織像自己免疫機序を反映する肝内胆管病変(CNSDC)がPBC肝の基本病理所見であり、肉芽腫の形成も特徴的である。肝内小型胆管が選択的に進行性に破壊される。その結果、慢性に持続する肝内胆汁うっ滞が出現し、肝細胞障害、線維化、線維性隔壁が2次的に形成され肝硬変に進行する。■ 鑑別診断・除外診断画像診断(超音波、CT)で閉塞性黄疸を完全に否定したうえで、慢性の胆汁うっ滞性肝疾患および自己抗体を含む免疫異常を伴った疾患という観点から鑑別診断が挙げられる(表2)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根治的治療法は確立されていないが、ウルソデオキシコール酸はPBC進展抑制効果を有し、現在第1選択薬である。予後の改善も期待でき、実際UDCAが投与される以前の時期と比較するとPBCの予後はかなり改善している。進行したPBCではUDCAで進展を止めることは難しく、肝硬変・肝不全に進行すれば肝移植が唯一の治療手段となる。血清総ビリルビン値が5.0mg/dL以上になると肝移植を考慮し、肝移植専門医へ紹介することが望まれる。■ 薬物療法1)ウルソデオキシコール酸(UDCA)(商品名:ウルソなど)胆道系酵素の低下作用のみでなく、組織の改善、肝移植・死亡までの期間の延長効果が確認されている1)。通常1日600mgが投与されるが、効果が不十分の場合は900mgに増量される。2)ベザフィブラート(同:ベザトールSR、ベザリップなど)UDCAの効果が乏しい症例でベザフィブラート(400mg/日)が有効な症例もみられる1)。UDCAとは作用機序が異なることから併用投与が望ましいとされる。3)副腎皮質ステロイド通常のPBCに対する投与は病態の改善には至らず、とくに閉経後の中年女性においては骨粗鬆症を増強する副作用が表面に出てくるので、むしろ禁忌とされている。PBC-AIHオーバーラップ症候群で肝炎所見が明瞭である場合は、本剤の投与が推奨される1)。■ 肝移植胆汁うっ滞性肝硬変へと進展した場合は、もはや内科的治療で病気の進展を抑えることができなくなるため、肝移植が唯一の救命法となる1)。肝移植適応時期の決定は、Mayo(updated)モデルや日本肝移植適応研究会のモデルが用いられている。移植後は免疫抑制薬を投与し、術後合併症、拒絶反応、再発、感染に留意し経過を追う。4 今後の展望本疾患を含め、自己免疫疾患の病因および発症原因の早期解明は期待しがたい。したがって、根本治療の開発にはまだ長い期間がかかるものと思われる。しかし、UDCAについては確実に長期効果もみられており、また、ベザフィブラートについては長期効果のレベルの高いデータは得られていないものの、作用機序に関する基礎データを含め、臨床データも集積しつつあり、UDCAとの併用効果が確立するものと思われる。一方、細胞レベルでの解析や、疾患感受性および進行に関与する遺伝子の解析データも出つつあり、病因の解明とともに、個別化医療が可能となる日もそう遠いものではないと思われる。5 主たる診療科内科、肝臓内科、消化器内科、肝臓移植外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療ガイドライン厚生労働科掌研究費補助金難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン2012(医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省難病情報センターホームページ 原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公的助成情報難病情報センター 各相談窓口紹介(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会東京肝臓友の会(患者向けの情報)大阪肝臓友の会(患者向けの情報)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班.原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2012年). 肝臓. 2012; 53: 633-686.2)厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイド. 文光堂. 2010.3)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 患者さん・ご家族のための原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック. 研究班2013事務局. 2013.4)The Intractable Hepatobiliary Disease Study Group supported by the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan Guidelines for the management of primary biliary cirrhosis. Hepatol Res. 2014; 44: 71-90.公開履歴初回2014年01月09日更新2016年03月29日

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自己免疫性膵炎〔AIP : autoimmune pancreatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)は、わが国から世界に発信された新しい疾患概念である。わが国におけるAIPは、病理組織学的に膵臓に多数のIgG4陽性形質細胞とリンパ球の浸潤と線維化および閉塞性静脈炎を特徴とする(lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis:LPSP)。高齢の男性に好発し、初発症状は黄疸が多く、急性膵炎を呈する例は少ない。また、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎などの種々の硬化性の膵外病変をしばしば合併するが、その組織像は膵臓と同様にIgG4が関与する炎症性硬化性変化であることより、AIPはIgG4が関連する全身性疾患(IgG4関連疾患)の膵病変であると考えられている。一方、欧米ではIgG4関連の膵炎以外にも、臨床症状や膵画像所見は類似するものの、血液免疫学的異常所見に乏しく、病理組織学的に好中球病変による膵管上皮破壊像(granulocytic epithelial lesion:GEL)を特徴とするidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)がAIPとして報告されている。この疾患では、IgG4の関与はほとんどなく、発症年齢が若く、性差もなく、しばしば急性膵炎や炎症性腸疾患を合併する。近年、IgG4関連の膵炎(LPSP)をAIP1型、好中球病変の膵炎(IDCP)をAIP2型と分類するようになった。本稿では、主に1型について概説する。■ 疫学わが国で2016年に行われた全国調査では、AIPの年間推計受療者数は1万3,436人、有病率10.1人/10万人、新規発症者3.1人/10万人であり、2011年の調査での年間推計受療者数5,745人より大きく増加している。わが国では、症例のほとんどが1型であり、2型はまれである。■ 病因AIPの病因は不明であるが、IgG4関連疾患である1型では、免疫遺伝学的背景に自然免疫系、Th2にシフトした獲得免疫系、制御性T細胞などの異常が病態形成に関与する可能性が報告されている。■ 症状AIPは、高齢の男性に好発する。閉塞性黄疸で発症することが多く、黄疸は動揺性の例がある。強度の腹痛や背部痛などの膵炎症状を呈する例は少ない。無症状で、糖尿病の発症や増悪にて発見されることもある。約半数で糖尿病の合併を認め、そのほとんどは2型糖尿病である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)自己免疫性膵炎臨床診断基準2018(表)を用いて診断する。表 自己免疫性膵炎臨床診断基準2018【診断基準】A.診断項目I.膵腫大:a.びまん性腫大(diffuse)b.限局性腫大(segmental/focal)II.主膵管の不整狭細像:a.ERPb.MRCPIII.血清学的所見高IgG4血症(≧135mg/dL)IV.病理所見a.以下の(1)~(4)の所見のうち、3つ以上を認める。b.以下の(1)~(4)の所見のうち、2つを認める。c.(5)を認める。(1)高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と、線維化(2)強拡1視野当たり10個を超えるIgG4陽性形質細胞浸潤(3)花筵状線維化(storiform fibrosis)(4)閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)(5)EUS-FNAで腫瘍細胞を認めない.V.膵外病変:硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎、後腹膜線維症、腎病変a.臨床的病変b.病理学的病変VI.ステロイド治療の効果B.診断I.確診(1)びまん型 Ia+<III/IVb/V(a/b)>(2)限局型 Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>の2つ以上またはIb+IIa+<III/IVb/V(a/b)>+VIまたはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVb+VI(3)病理組織学的確診 IVaII.準確診限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>またはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVcまたはIb+<III/IVb/V(a/b)>+VIIII.疑診(わが国では極めてまれな2型の可能性もある)びまん型:Ia+II(a/b)+VI限局型:Ib+II(a/b)+VI〔+;かつ、/;または〕(日本膵臓学会・厚生労働省IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針を目指す研究班. 膵臓. 2020;33:906-909.より引用、一部改変)本症の診断においては、膵がんや胆管がんなどの腫瘍性の病変を否定することがきわめて重要である。診断に際しては、可能な限りのEUS-FNAを含めた内視鏡的な病理組織学的アプローチ(膵液細胞診、膵管・胆管ブラッシング細胞診、胆汁細胞診など)を施行すべきである。診断基準では、膵腫大、主膵管の不整狭細像、高IgG4血症、病理所見、膵外病変とステロイド治療の効果の組み合わせにより診断する。びまん性の膵腫大を呈する典型例では、高IgG4血症、病理所見か膵外病変のどれか1つを満たせばAIPと診断できる。一方、限局性膵腫大例では、膵がんとの鑑別がしばしば困難であり、従来の診断基準では内視鏡的膵管造影(ERP)による主膵管の膵管狭細像が必要であった。しかし、昨今診断的ERPがあまり行われなくなってきたことなどを考慮して、MR胆管膵管撮影(MRCP)所見、EUS-FNAによるがんの否定所見とステロイド治療の効果を組み込むことにより、ERPなしで限局性膵腫大例の診断ができるようになった。■ 膵腫大“ソーセージ様”を呈する膵のびまん性(diffuse)腫大は、本症に特異性の高い所見である。しかし、限局性(segmental/focal)腫大では膵がんとの鑑別が問題となる。腹部超音波検査では、低エコーの膵腫大部に高エコースポットが散在することが多い(図1)。腹部ダイナミックCTでは、遅延性増強パターンと被膜様構造(capsule-like rim)が特徴的である(図2)。画像を拡大する画像を拡大する■ 主膵管の不整狭細像ERPによる主膵管の不整狭細像(図3、4)は本症に特異的である。狭細像とは閉塞像や狭窄像と異なり、ある程度広い範囲に及んで、膵管径が通常より細くかつ不整を伴っている像を意味する。典型例では狭細像が全膵管長の3分の1以上を占めるが、限局性の病変でも、狭細部より上流側の主膵管には著しい拡張を認めないことが多い。短い膵管狭細像の場合には膵がんとの鑑別がとくに困難である。主膵管の狭細部からの分枝の派生や非連続性の複数の主膵管狭細像(skip lesions)は、膵がんとの鑑別に有用である。MRCPは、主膵管の狭細部からの分枝膵管の派生の評価は困難であることが多いが、主膵管がある程度の広い範囲にわたり検出できなかったり狭細像を呈する、これらの病変がスキップして認められる、また、狭細部上流の主膵管の拡張が軽度である所見は、診断の根拠になる。画像を拡大する画像を拡大する■ 血清学的所見AIPでは、血中IgG4値の上昇(135mg/dL以上)を高率に認め、その診断的価値は高い。しかし、IgG4高値は他疾患(アトピー性皮膚炎、天疱瘡、喘息など)や一部の膵臓がんや胆管がんでも認められるので、この所見のみからAIPと診断することはできない。今回の診断基準には含まれていないが、高γグロブリン血症、高IgG血症(1,800mg/dL以上)、自己抗体(抗核抗体、リウマチ因子)を認めることが多い。■ 膵臓の病理所見本疾患はLPSPと呼ばれる特徴的な病理像を示す。高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と、線維化を認める(図5)。形質細胞は、IgG4免疫染色で陽性を示す(図6)。線維化は、紡錘形細胞の増生からなり、花筵状(storiform fibrosis)と表現される特徴的な錯綜配列を示し、膵辺縁および周囲脂肪組織に出現しやすい。小葉間、膵周囲脂肪組織に存在する静脈では、リンパ球、形質細胞の浸潤と線維化よりなる病変が静脈内に進展して、閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)が生じる。EUS-FNAで確定診断可能な検体量を採取できることは少ないが、腫瘍細胞を認めないことよりがんを否定できる。画像を拡大する画像を拡大する■ 膵外病変(other organ involvement:OOI)AIPでは、種々のほかのIgG4関連疾患をしばしば合併する。その中で、膵外胆管の硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎(ミクリッツ病)、後腹膜線維症、腎病変が診断基準に取り上げられている。硬化性胆管炎は、AIPに合併する頻度が最も高い膵外病変である。下部胆管に狭窄を認めることが多く(図4)、膵がんまたは下部胆管がんとの鑑別が必要となる。肝内・肝門部胆管狭窄は、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)や胆管がんとの鑑別を要する。AIPの診断に有用なOOIとしては、膵外胆管の硬化性胆管炎のみが取り上げられている。AIPに合併する涙腺炎・唾液腺炎は、シェーグレン症候群とは異なって、涙腺分泌機能低下に起因する乾燥性角結膜炎症状や口腔乾燥症状は軽度のことが多い。顎下腺が多く、涙腺・唾液腺の腫脹の多くは左右対称性である。後腹膜線維症は、後腹膜を中心とする線維性結合織のびまん性増殖と炎症により、腹部CT/MRI所見において腹部大動脈周囲の軟部影や腫瘤を呈する。尿管閉塞を来し、水腎症を来す例もある。腎病変としては、造影CTで腎実質の多発性造影不良域、単発性腎腫瘤、腎盂壁の肥厚病変などを認める。■ ステロイド治療の効果ステロイド治療の効果判定は、画像で評価可能な病変が対象であり、臨床症状や血液所見は対象としない。ステロイド開始2週間後に効果不十分の場合には再精査が必要である。できる限り病理組織を採取する努力をすべきであり、ステロイドによる安易な診断的治療は厳に慎むべきである。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)経口ステロイド治療が、AIPの標準治療法である。経口プレドニゾロン0.6mg/kg/日の初期投与量を2~4週間投与し、その後画像検査や血液検査所見を参考に約1~2週間の間隔で5mgずつ漸減し、3~6ヵ月ぐらいで維持量まで減らす。通常、治療開始2週間ほどで改善傾向が認められるので、治療への反応が悪い例では膵臓がんを疑い、再検査を行う必要がある。AIPは20~40%に再燃を起こすので、再燃予防にプレドニゾロン5mg/日程度の維持療法を1~3年行うことが多い(図7)。近年、欧米では、再燃例に対して免疫調整薬やリツキシマブの投与が行われ、良好な成績が報告されている。図7 AIPの標準的ステロイド療法画像を拡大する4 今後の展望AIPの診断においては、膵臓がんとの鑑別が重要であるが、鑑別困難な例がいまだ存在する。病因の解明と確実性のより高い血清学的マーカーの開発が望まれる。EUS-FNAは、悪性腫瘍の否定には有用であるが、採取検体の量が少なく病理組織学的にAIPと診断できない例があり、今後採取方法のさらなる改良が求められる。AIPでは、ステロイド治療後に再燃する例が多く、再燃予防を含めた標準治療法の確立が必要である。5 主たる診療科消化器内科、内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報自己免疫性膵炎診療ガイドライン 2020(日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)自己免疫性膵炎臨床診断基準[2018年](日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本膵臓学会・厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針の確立を目指す研究」班.自己免疫性膵炎診断基準 2018. 膵臓. 2018;33:902-913.2)日本膵臓学会・厚生労働省IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針を目指す研究班.自己免疫性膵炎診療ガイドライン2020. 膵臓. 2020;35:465-550.公開履歴初回2014年03月06日更新2016年03月22日更新2024年07月25日

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重度喘息へのICS/LABAは安全かつ適正か?/NEJM

 持続性喘息の患者に対し、吸入ステロイド薬(ICS)フルチカゾンと長時間作用性β2刺激薬(LABA)サルメテロールの併用投与は、フルチカゾン単独投与に比べ、死亡や気管内挿管などの重度喘息イベントのリスクを増大しないことが示された。米国グラクソ・スミスクライン社のDavid A. Stempel氏らが、1万1,679例を対象に無作為化試験を行った結果、明らかにされた。増悪リスクは、併用投与群が単独投与群に比べ約2割低かったという。喘息治療における安全かつ適正なLABAの使用については、広く議論されている。先行する2つの大規模臨床試験では、重篤な喘息関連イベントリスクがLABAと関連している可能性が報告されていた。NEJM誌オンライン版2016年3月6日号掲載の報告より。26週間投与し、安全性、有効性を比較 研究グループは、12歳以上の持続性喘息患者1万1,679例を対象に、多施設共同無作為化二重盲検試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはフルチカゾン+サルメテロールを(サルメテロール・フルチカゾン群)、もう一方にはフルチカゾンのみを(フルチカゾン単独群)、それぞれ26週間にわたり投与し、サルメテロール・フルチカゾンのフルチカゾン単独に対する非劣性を検証した。 被験者は、試験開始前1年以内に喘息の増悪が認められたが、直前1ヵ月間には認められなかった者を適格とした。また、これまでに生死に関わるほど重篤な喘息発作や、不安定喘息が認められた人は、被験者から除外された。 主要安全性評価項目は、死亡、気管内挿管、入院を要した初回重篤喘息イベント。主要有効性評価項目は、初回喘息増悪とした。1回以上の喘息増悪、フルチカゾン単独群10%に対しサルメテロール併用群8% 重度喘息イベントが認められたのは、被験者全体で67例(74件)だった。そのうち、サルメテロール・フルチカゾン群は34例(36件)、フルチカゾン単独群は33例(38件)と両群で同等であり、サルメテロール・フルチカゾンの安全性に関する非劣性が示された(ハザード比:1.03、95%信頼区間[CI]:0.64~1.66、p=0.003)。 喘息関連死はなく、喘息による気管内挿管を行ったのは、フルチカゾン単独群の2例のみだった。重度喘息増悪の発症リスクは、サルメテロール・フルチカゾン群がフルチカゾン単独群より21%低かった(ハザード比:0.79、同:0.70~0.89)。1回以上の喘息増悪が認められたのは、フルチカゾン単独群597/5,845例(10%)だったのに対し、サルメテロール・フルチカゾン群は480/5,834例(8%)だった(p<0.001)。

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巨細胞性動脈炎の寛解導入にトシリズマブは有効/Lancet

 巨細胞性動脈炎(GCA)患者に対し、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体トシリズマブと経口プレドニゾロンの併用投与は、経口プレドニゾロン単独投与に比べ、完全寛解率や、長期無再発生存率も高いことが示された。スイス・ベルン大学のPeter M. Villiger氏らが、巨細胞性動脈炎患者30例を対象に行った初となる無作為化試験の結果で、Lancet誌オンライン版2016年3月4日号で発表された。巨細胞性動脈炎に対し、糖質コルチコイド治療はゴールドスタンダードで重篤な血管合併症を防ぐが、罹患・死亡率が高い。トシリズマブは、巨細胞性動脈炎の寛解導入・維持に用いられていることから、研究グループは、新規および再発患者に対するトシリズマブの安全性と有効性を確認するため今回の検討を行った。投与後12週の完全寛解率を比較 検討は第II相プラセボ対照無作為化二重盲検試験で、2012年3月3日~14年9月9日の間、ベルン大学病院単施設で、米国リウマチ学会1990年版基準を満たした巨細胞性動脈炎の新規または再発診断を受けた50歳以上の患者30例を対象に行われた。 研究グループは被験者を無作為に2対1の割合で2群に分け、一方にはトシリズマブを(8mg/kg、20例)、もう一方にはプラセボを(10例)、4週に1回、52週(13回)にわたり静脈内投与した。なお、両群に経口プレドニゾロン(1mg/kg/日で開始し、徐々に0mgまで減量)が投与された。 主要評価項目は、12週目のプレドニゾロン投与量0.1mg/kg/日時点で、完全寛解が認められた患者の割合だった。12週時点で完全寛解はトシリズマブ併用群85%、プラセボ群40%と有意な差 被験者のうち巨細胞性動脈炎の新規発症者は、トシリズマブ+プレドニゾロン群16例(80%)、プラセボ+プレドニゾロン群7例(70%)だった。 結果、12週時点で完全寛解が認められたのは、プラセボ群4例(40%)に対し、トシリズマブ併用群は17例(85%)と有意に高率だった(リスク差:45%、95%信頼区間[CI]:11~79、p=0.0301)。52週時点の無再発生存率は、プラセボ群2例(20%)に対し、トシリズマブ併用群17例(85%)だった(リスク差:65%、95%CI:36~94、p=0.0010)。 プレドニゾロン中止までの平均生存期間は、トシリズマブ併用群(38週)がプラセボ群(50週)より短く(両群差:12週、95%CI:7~17、p<0.0001)、そのため52週間のプレドニゾロン累積投与量は、プラセボ群110mg/kgに対し、トシリズマブ群は43mg/kgと有意な少量投与に結び付いた(p=0.0005)。 重篤有害事象の報告は、プラセボ群5例(50%)、トシリズマブ群7例(35%)だった。

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多発性骨髄腫、最新の治療法と薬剤選択のコツは

 2016年2月15日、都内にて「多発性骨髄腫における最新治療」をテーマにメディアセミナー(主催:セルジーン株式会社)が開催された。本セミナーは、昨年末に未治療の多発性骨髄腫に対する追加承認を取得したレナリドミド(商品名:レブラミド)に関する最新の知見や、他の新規治療薬に関する情報が提供された。レナリドミドの追加承認に関するエビデンス レナリドミドが初発の多発性骨髄腫(以下、MM)治療に対する適応を取得した背景に、「FIRST試験」がある1)。本試験は、移植非適応患者における現在の標準治療であるMPT※)療法とレナリドミド+デキサメタゾン併用のLd※※)療法(継続治療群/18サイクル固定群)の3群間ランダム化比較試験である。この結果、以下の3点が示唆された。1. 継続的なLd療法群は他群より無増悪生存期間を有意に延長した2. 1の結果は75歳以上/未満でも同等の成績であった3. Ld療法において、両群における有害事象は75歳以上/未満で同程度であった 上記の結果から、Ld継続投与は高齢者にも安心して使用できる、移植非適応初発骨髄腫に対する標準治療になりうるとされた。レナリドミドの追加承認がもたらす影響 レナリドミドは2015年12月の効能・効果の追加承認取得を受けて、ファーストラインでの使用が可能となった。本邦において、これまで未治療MMではボルテゾミブが選択されるケースが多かったが、これからはレナリドミドも選ぶことができる。そのため、両薬剤の使い分けが重要になってくる。ボルテゾミブvsレナリドミド、最適な患者像を探る 演者の木崎 昌弘氏(埼玉医科大学総合医療センター 血液内科 教授)は、2剤の使い分けのコツや利点について、以下のような考えを提案した。・レナリドミド:経口であるため幅広い患者に使用でき、副作用もマネジメントしやすい・ボルテゾミブ:幹細胞に影響を与えにくく、移植を考慮している患者にも使用しやすい。副作用の1つである末梢神経障害は、皮下投与にすることで軽減可能 各製剤の利点・欠点を考慮し、安全性を重要視したうえで適切な患者を選定していくことが重要であるという。選択肢が増え続ける多発性骨髄腫治療、今後の展望は? 現在サードラインの位置づけであるポマリドミドは、ボルテゾミブ/レナリドミド投与歴なしの患者に対する使用を念頭に置き、セカンドライン取得に向けた試験を開始している。また、がん免疫療法薬など新薬の開発も始まっている。 さらに、既存の治療に対するエビデンス収集も着々と進んでいる。たとえば、Ld継続治療において、レナリドミド長期投与における二次発がんと、ステイロイド長期投与における白内障が問題視されている。これらを評価するための市販後調査が現在進行中である。 多発性骨髄腫は現時点では完治が難しく、また、移植以外の外科的療法で治療を行うことができない。そのため、いかに多くの薬剤が開発されるかが重要になってくる。木崎氏は治療選択肢の増加と生存期間に強い相関があることを述べたうえで、今後の治療薬開発の意義を強調し、セミナーを結んだ。※)MPT療法:メルファラン/プレドニゾロン/サリドマイド併用※※)Ld療法:レナリドミド/低用量デキサメタゾン併用

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ベーチェット病〔BD: Behcet’s disease〕

※疾患名にある「Behcet's」は「」が正しい綴りですが、WEB上では正しく表示されない場合があるため、本ページでは「Behcet's」としています。1 疾患概要■ 概念・定義ベーチェット病(BD)は、多臓器侵襲性の非肉芽腫性炎症性疾患であり、病因はいまだ不明の多因子疾患で、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍を4主病変として、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とする疾患である。病名の由来は、1937年、トルコのイスタンブール大学皮膚科のベーチェット教授の報告に基づく。近年、新患症例の減少と病態の軽症化が指摘されている。■ 疫学1972(昭和47)年にスモン、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス(SLE)とともに最初に厚生労働省(当時は厚生省)の特定疾患の治療研究事業対象疾患として指定された。疾患の伝播経路から「シルクロード病」ともいわれる。特定疾患医療受給者数は、2万35人で(2015年3月末現在の特定疾患医療受給者数は1万9,147人)、男女比はほぼ同数だが特殊型や重症型は男性に多い。■ 病因(図1)遺伝的にはHLA-B51やHLA-A26との関連、環境因子としてS.sanguinisや熱ショック蛋白(HSP)との関連などが報告されている。近年では、IL-10、IL23R/IL12RB2のほか、ERAP-1(Endoplasmic reticulum aminopeptidase 1)、TLR-4(Toll-like receptor 4)、NOD2(Nucleotide-binding oligomerization domain-containing protein 2)およびMEFV(Mediterranean fever)などの関与も報告されているが、病因はいまだ不明の多因子疾患である。近年、MEFVの関与を含め、臨床所見やコルヒチン(商品名:コルヒチン[わが国ではベーチェット病・同ぶどう膜炎に対しては未承認])に対する有効性などの類似所見から家族性地中海熱などの範疇である自己炎症症候群との関連が報告されている。画像を拡大するBDの病態は、獲得免疫および自然免疫の双方から説明される。獲得免疫では、IL-12などが関与するTh1型の免疫反応が生じることが報告されている(IL-10はTh1型の免疫反応には抑制的)。それらの過程にHLA-B51、HLA-A26などのMHCクラスⅠ遺伝子の関与が推測されているが、近年、BDにMHCに付与するペプチドをトリミングする網内系アミノぺプチダーゼ(ERAP)のSNPが疾患感受性遺伝子として報告され、BD発症におけるHLA-B51陽性との相乗効果が示唆されている。自然免疫では、臨床所見の類似性などから家族性地中海熱などの自己炎症症候群との関連が指摘されていたが、近年、家族性地中海熱の原因遺伝子MEFV M694Vが疾患感受性遺伝子であることが報告された。実際に、それらの疾患に過剰に産生される炎症性サイトカイン(IL-1、TNF)はBDの治療標的でもある。また、Toll様受容体4(TLR-4)およびヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の異常も指摘されていたが、近年の遺伝学的解析により、TLR4やNOD2も疾患感受性遺伝子として同定された。炎症性サイトカインの分子標的治療に加えて、将来、IL-10、HO-1、ERAPおよび細菌を標的とした治療の開発も期待できる。(田中良哉編. 免疫・アレルギー疾患の分子標的と治療薬事典. 羊土社; 2013. p. 230. より改変)■ 症状(図2)口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、毛嚢炎様皮疹、結節性紅斑様皮疹、皮下の血栓性静脈炎、外陰部潰瘍などの粘膜皮膚病変および虹彩毛様体炎、ぶどう膜炎などの眼病変を主病変とする。また、大関節を主とする関節炎や副睾丸炎、さらには、生命予後にも影響を与える腸管、神経、血管病変を副病変とする。画像を拡大する■ 分類(表1)口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍の4主病変すべてを併せ持つ完全型、および4主病変と5副病変(関節炎、副睾丸炎、腸管病変、血管病変、神経病変)の組み合わせにより、不全型(3主病変 or 2主病変+2副病変 or 眼病変+1主病変または2副病変)、疑い(主病変の一部のみ)、その他に分類される。また、副病変のうち、生命に関わるもの、あるいは後遺症を残す腸管、血管、神経病変が主病変で、不全型以上のものは特殊型として分類されている。画像を拡大する■ 予後重症の眼病変は日常生活動作を著しく障害するが、概して、特殊型を除き生命予後はよい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)BDには疾患特異的な組織像やバイオマーカーがなく、経過を通じての再発性アフタ性潰瘍炎、皮膚病変、眼病変、外陰部潰瘍の4主病変、関節炎、副睾丸炎、腸管病変、血管病変、神経病変などの5副病変の臨床症状の組み合わせにより診断される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)(表2)病因が不明で特異的な治療法はなく、一般的な生活指導のほかに、局所療法をはじめとした対症療法が主体となる。2007年1月に世界に先駆けて保険収載(効能追加)された難治性ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ(商品名:レミケード)や、シクロスポリン(同:サンディミュンほか)および眼症状、皮膚粘膜症状、関節炎などに対するコルヒチン(未承認)は効果が認められている。消化器病変、血管病変、中枢神経病変の特殊型には副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が有効な場合があるが、2013年5月、腸管BDにアダリムマブ(同:ヒュミラ)が、2015年8月には特殊型3型(腸管、血管、神経)のすべてにインフリキシマブが保険収載(効能追加)された。画像を拡大する4 今後の展望近年、病態の軽症化が指摘されている。理由は不明だが、その1つとしてインフラ整備の影響が考えられる。また、BDはTh1型の疾病であるが、Th2型の疾病であるアレルギー体質の増加なども指摘されている(シーソー現象)。病因に関しては、主として自然免疫系が関与する自己炎症症候群に分類する試みがあるが、BD患者には有意にHLA-B51が多いことから、自然免疫、獲得免疫の双方の関与が示唆される。さらに、近年の遺伝子学的研究により、IL-10、IL23R/IL12RB2、ERAP-1、TLR-4、NOD2、MEFVなどの疾患感受性遺伝子が新たに発見されており、今後、それらの機能解析によりさらなる進歩が期待できる。なお、厚生労働省ベーチェット病研究班では、世界的な診断、治療の標準化を目指して、特殊型の診療ガイドライン、眼病変の診療ガイドラインを報告しているが、平成28年度をめどにCQを含む新たなガイドライン作成のために厚労省BD班を中心として検証中である。治療面では、難治性ぶどう膜炎にインフリキシマブ、腸管BDに対してアダリムマブ、特殊型(腸管、血管、神経)に対してインフリキシマブが保険収載(効能追加)された。現在も、アプレミラストをはじめ、多くの臨床治験が施行中であり、さらなる治療の選択肢の増加が期待される。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、眼科、皮膚科、その他の内科(消化器内科、神経内科、血管内科、循環器内科)、外科(血管外科、消化器外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ISBD(International Society For Behcet’s Disease)(国際ベーチェット病協会の英文での疾患説明)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省科学研究費補助金 ベーチェット病に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病ドットコム ベーチェット病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ベーチェット病友の会(ベーチェット病患者と患者家族の会)NPO法人 海外たすけあいロービジョンネットワーク(眼炎症スタディーグループより改名)(眼炎症患者と患者家族の会)1)腸管ベーチェット病診療ガイドライン平成21年度案 ~コンセンサス・ステートメントに基づく~. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書.研究代表者 石ヶ坪良明). 2011 ; p.231-234.2)腸管ベーチェット病診療コンセンサス・ステートメント案(2012). ベーチェット病に関する調査研究 平成24年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2013; p.149-154.3)神経ベーチェット病の診断予備基準. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2011; p.239-234.4)ベーチェット病眼病変診療ガイドライン. ベーチェット病に関する調査研究 平成20~22年度(総括・分担研究報告書 研究代表者 石ヶ坪良明). 2011; p.197-226.5)Yoshiaki Ishigatsubo,editor. Behcet's Disease From Genetics to Therapies.Tokyo:Springer;2015.公開履歴初回2013年08月22日更新2016年02月16日

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ネフローゼ症候群〔Nephrotic Syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と低アルブミン血症(3.0g/dL以下)を示す疾患群であり、腎臓に病変が限局するものを一次性ネフローゼ症候群、糖尿病や全身性エリテマトーデスなど全身疾患の一部として腎糸球体が障害されるものを二次性ネフローゼ症候群と区別する(表1)。ネフローゼ症候群には浮腫が合併し、高コレステロール血症を来すことが多い。ネフローゼ症候群の診断基準を表2に示す。また、治療効果判定基準を表3に示す。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 疫学新規発症ネフローゼ症候群は、平成20年度の厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の調査では年間3,756~4,578例の新規発症があると推定数が報告されている。日本腎生検レジストリーの中でネフローゼ症候群を示した患者の内訳は図1に示すように、IgA腎症を含めると一次性ネフローゼ症候群が2/3を占める。二次性ネフローゼ症候群では糖尿病が多く、ループス腎炎、アミロイドーシスが続く。ネフローゼ症候群を示す各疾患の発症は、図2に示すように年齢によって異なる。15~65歳ではループス腎炎、40歳以上で糖尿病、アミロイドーシスが増加する。図2に示すように一次性ネフローゼ症候群は、40歳未満では微小変化型(MCNS)が最も多く、60歳以上では膜性腎症(MN)が多くなる。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は全年齢を通じて発症する。画像を拡大する画像を拡大する■ 病因ネフローゼ症候群において大量の蛋白尿が出るときには、糸球体上皮細胞(ポドサイト)が障害を受けている。MCNSの場合には、この障害に液性因子が関連している可能性が示唆されているが、その因子はいまだ同定されていない。FSGSは、ポドサイトを構成するいくつかの遺伝子の異常が同定されており、多くは小児期に発症する。特発性のFSGSは成人においても発症するが、原因は不明である。MNの原因の1つに、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体の存在が証明されており、ポドサイトに発現するPLA2Rに結合して抗原抗体複合物を産生することが示されている。MPGNは糸球体基底膜の免疫複合体の沈着位置によってI、II、III型に分類される。I型の原因は、補体の古典的経路による活性化が原因と考えられている。III型も同じ原因との説があるが、まだ明確にはわかっていない。II型は補体成分に対する、後天的な自己抗体が産生されることによるとされている。最近、MPGNはC3腎症として定義され、C3が主として糸球体に沈着する腎症群とする考え方に変わってきた。■ 症状1)浮腫ネフローゼ症候群には浮腫を合併する。浮腫の発症機序を図3に示す。画像を拡大する浮腫の発生には2つの仮説がある。循環血漿量不足説(underfill)と循環血漿量過剰説(overfill)である。underfill仮説は、低アルブミン血症のために、血漿膠質浸透圧が低下するとStarlingの法則に従い水分が血管内から間質へ移動することにより循環血漿量が低下する。その結果、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が活性化され、二次的にNa再吸収を促進し、さらに浮腫を増悪するとされる。2つ目はoverfill仮説であり、遠位尿細管や集合管におけるNa排泄低下・再吸収の亢進が一次的に生じて、Na貯留により血管内容量が増加した結果、静水圧が高まり浮腫を生じるというものである。この原因に、糸球体から大量に漏れてくるplasminなどの蛋白分解酵素が、遠位尿細管や集合管に存在する上皮Naチャネルの活性化に関連し、Na再吸収が亢進するとの報告もある。低アルブミン血症が徐々に進行する場合には膠質浸透圧勾配はほとんど変化しないこと、ネフローゼ症候群患者では必ずしもRAS活性化がみられないことなど、underfill仮説に反する報告もあり、とくに微小変化型ネフローゼ症候群の患者が寛解する際、血清アルブミン値が上昇する前に浮腫が改善し始めるという臨床的事実は、overfill仮説を支持するものである。浮腫成立の機序は必ずしも単一ではなく、症例ごと、また同じ症例でも病期により2つの機序が異なる比率で存在するものと思われる。2)腎機能低下ネフローゼ症候群では腎機能低下を来すことがある。MCNSでは低アルブミン血症による腎血漿流量の低下から、一過性の腎機能低下はあっても、通常腎機能低下を来すことはない。それ以外の糸球体腎炎では、糸球体障害が進めば腎機能の低下を来す。3)脂質異常症肝臓での合成亢進と分解の低下から、高LDLコレステロール血症を来す。■ 予後MCNS、FSGS、MNの治療後の寛解率を図4に示す。画像を拡大するMCNSは2ヵ月以内に85%が完全寛解する。FSGSは6ヵ月で約45%、1年で約60%が完全寛解する。MNは6ヵ月では30%しか完全寛解しないが、1年で60%が完全寛解する。平成14年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の報告で、膜性腎症と巣状糸球体硬化症に関する予後調査の結果が報告されている。膜性腎症1,008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59%であった。巣状糸球体硬化症278例の腎生存率は10年で85%、15年で60%、20年で34%と長期予後は不良であった。2 診断 (病理所見)ネフローゼ症候群の診断自体は尿蛋白の定量と血清アルブミン値、血清総蛋白量を測定することにより行うことができる。しかし、実際の治療に関しては、二次性ネフローゼ症候群を除外した後、腎生検によって診断をする必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 浮腫に対する治療浮腫に対しては、利尿薬を使用する。第1選択薬としてループ利尿薬を使用する。効果がみられない場合には、サイアザイド系利尿薬を追加する。それでも効果のない場合や、低カリウム血症を合併する場合には、スピロノラクトンを使用する。アルブミン製剤は使用しないことが原則であるが、血清アルブミン値2.5g/dL以下で、低血圧、急性腎不全などの発症の恐れがある場合に使用する。しかし、その効果は一過性であり、かつ利尿効果はわずかである。利尿薬に反応しない場合には、体外限外濾過による除水を行う。■ 腎保護を目的とした治療1)低蛋白食ネフローゼ症候群への食事療法の有効性に十分なエビデンスはないが、摂取蛋白量を減少させることにより尿蛋白が減少することが期待できるため、通常以下のように行う。(1)微小変化型ネフローゼ症候群蛋白 1.0~1.1g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下(2)微小変化型ネフローゼ症候群以外蛋白 0.8g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下2)身体活動度ネフローゼの治療において運動制限の有効性を示すエビデンスはない。しかし、身体活動を制限することにより、深部静脈血栓のリスクが増大する。このため、入院中の寛解導入期であっても、ベッド上での絶対安静は避ける。維持治療期においては、適度な運動を勧める。3)レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬微小変化型ネフローゼ症候群を除き、尿蛋白の減少と腎保護を目的として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。このとき高カリウム血症に注意する。RAS阻害薬を使用することにより、血圧が低下して、臓器障害を起こす可能性がある場合には、中止する。利尿薬との併用は、RAS阻害薬の降圧作用を増強するので注意する。アルドステロン拮抗薬を追加することにより、尿蛋白が減少する。■ 合併症の予防1)感染症の予防ネフローゼ症候群では、IgGや補体成分の低下がみられ、潜在的に液性免疫低下が存在することに加え、T細胞系の免疫抑制もみられるなど、感染症の発症リスクが高い。日和見感染症のモニタリングを行いながら、臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。肺炎球菌ワクチンの接種を副腎皮質ステロイド治療前に行う。ツベルクリン反応陽性、胸部X線上結核の既往がある者、クオンティフェロン陽性者は、イソニアジド300mgを6ヵ月投与する。副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の治療と並行して投与を行う。1日20mg以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には、顕著な細胞性免疫低下が生じるため、ニューモシスチス肺炎に対するST合剤の予防的投薬を考慮する。β-Dグルカン値を定期的に測定する。2)血栓症の予防ネフローゼ症候群では、発症から6ヵ月以内に静脈血栓形成のリスクが高く、血清アルブミン値が2.0g/dL未満になればさらに血栓形成のリスクが高まる。過去に静脈血栓症の既往があれば、ワルファリンによる予防的抗凝固療法を考慮する。D-dimer、FDPにて、血栓形成の可能性をモニターする。静脈血栓症由来の肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させて、血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し、PT-INRを2.0(1.5~2.5)とするように抗凝固療法を行う。肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを経静脈的に投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させる。また、経口FXa阻害薬を投与する。■ 各組織型別の特徴と治療1)微小変化型(MCNS)小児に好発するが、成人にも多く、わが国の一次性ネフローゼ症候群の40%を占める。発症は急激であり、突然の浮腫を来す。多くは一次性であるが、ウイルス感染、NSAIDs、ホジキンリンパ腫、アレルギーに合併することもある。副腎皮質ステロイドに対する反応は良好である。90%以上が寛解に至る。再発が30~70%で認められる。ステロイド依存型、長期治療依存型になる症例もあり、頻回再発型を示す場合もある。わが国で行われた無作為化比較試験にて、メチルプレドニゾロンを使用したパルス療法は、尿蛋白減少効果において、経口副腎皮質ステロイドと変わらないことが示されている。寛解導入後の治療は、少なくとも1年以上継続して行ったほうが再発が少ない。(1)再発時の治療プレドニゾロン20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。患者に、検尿試験紙を持たせて、自己診断できるように教育し、再発した場合にすぐに来院できるようにする。(2)頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群免疫抑制薬(シクロスポリン〔商品名:サンディミュン、ネオーラル〕1.5~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン〔同:ブレディニン〕150 mg/日、または、シクロホスファミド〔同:エンドキサン〕50~100 mg/日など)を追加投与する。シクロスポリンは、中止により再発が起こるリスクが高く、寛解が得られる最小量にて1~2年は治療を継続する。頻回再発を繰り返す症例や難治症例ではリツキサンを500mg/日 1回点滴静注投与することも検討する。2)巣状分節性糸球体硬化症巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は、微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)と同じような発症様式・臨床像をとりながら、MCNSと違ってしばしばステロイド抵抗性の経過をとり、最終的に末期腎不全にも至りうる難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。糸球体上皮細胞の構造膜蛋白であるポドシン(NPHS2)やα-アクチニン4(ACTN4)などの遺伝子変異により発症する、家族性・遺伝性FSGSの存在が報告されている。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)換算1mg/kg標準体重/日(最大60mg/日)相当を、初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮する。(2)ステロイド抵抗性4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合は、ステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。a)ステロイドに併用薬として、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白が1g/日未満に減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。b)ミゾリビン 150 mg/日を1回または3回に分割して投与する。c)シクロホスファミド 50~100 mg/日を3ヵ月以内に限って投与する。シクロホスファミドは、骨髄抑制、出血性膀胱炎、間質性肺炎、発がんなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、総投与量は10g以下にする。(3)補助療法高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。とくに第1選択薬としてACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブ(同:ゼチーア)の投与を考慮する。高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシス療法(3ヵ月間に12回以内)を考慮する。必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。3)膜性腎症膜性腎症は、中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患の中で、約40%と最も頻度が高く、その多くがステロイド抵抗性を示す。ネフローゼ症候群を呈しても、尿蛋白の増加は、必ずしも急激ではない。特発性膜性腎症の主たる原因抗原は、ポドサイトに発現するPLA2Rであり、その自己抗体がネフローゼ症候群患者の血清に検出される。PLA2R抗体は、寛解の前に消失し、尿蛋白の出現の前に検出される。特発性膜性腎症の抗体はIgG4である。一方、がんを抗原とする場合の抗体はIgG1、IgG2である。約1/3が自然寛解するといわれている。したがって、欧米においては、尿蛋白が8g/日以下であれば、6ヵ月間は腎保護的な治療のみで、経過をみることが一般的である。また、尿蛋白が4g/日以下であれば、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬は使用しない。わが国における本症の予後は、欧米のそれに比較して良好である。この原因は、尿蛋白量が比較的少ないことによる。このため、ステロイド単独投与により寛解に至る例も少なくない。通常、免疫抑制薬の併用により尿蛋白が減少し、予後の改善が期待できる。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8mg/kg/日相当を投与する。最初から、シクロスポリンを併用する場合もある。(2)ステロイド抵抗性ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を1日1回投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白1g/日未満に尿蛋白が減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。シクロスポリンが無効の場合には、ミゾリビン 150 mg/日、またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。リツキサン500mg/日 1回を、点滴静注することにより寛解することが報告されており、難治例では検討する。(3)補助療法a)高血圧(収縮期血圧130mmHg 以上)を呈する症例では、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。b)脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。c)動静脈血栓の可能性に対してはワルファリンを考慮する。4)膜性増殖性糸球体腎炎膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)はまれな疾患であるが、腎生検の6%を占める。光学顕微鏡所見上、糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状(lobular appearance)の細胞増殖病変を呈する。係蹄の肥厚(基底膜二重化)は、mesangial interpositionといわれる糸球体基底膜(GBM)と内皮細胞間へのメサンギウム細胞(あるいは浸潤細胞)の間入の結果である。また、増殖病変は、メサンギウム細胞の増殖とともに局所に浸潤した単球マクロファージによる管内増殖の両者により形成される。確立された治療法はなく、メチルプレドニゾロンパルス療法に加えて、免疫抑制薬(シクロホスファミド)の併用の有効性が、観察研究で報告されている。4 今後の展望ネフローゼ症候群の原因はいまだに不明な点が多い。これらの原因因子を究明することが重要である。膜性腎症の1つの原因因子であるPLA2R自己抗体は、膜性腎症の発見から50年の歳月をかけて発見された。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014(PDF)(医療従事者向けの情報)日本腎臓学会ホームページ ネフローゼ症候群診療指針(完全版)(医療従事者向けの情報)進行性腎障害に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けの情報)難病情報センターホームページ 一次性ネフローゼ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究」エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン作成分科会. エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014.日腎誌.2014;56:909-1028.2)厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会編.松尾清一監修. ネフローゼ症候群診療指針 完全版.東京医学社;2012.3)今井圓裕. 腎臓内科レジデントマニュアル.改訂第7版.診断と治療社;2014.4)Shiiki H, et al. Kidney Int. 2004; 65: 1400-1407.5)Ronco P, et al. Nat Rev Nephrol. 2012; 8: 203-213.6)Beck LH Jr, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 11-21.公開履歴初回2013年09月19日更新2016年02月09日

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大人の咳嗽に対してハチミツ+コーヒーが有用【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第60回

大人の咳嗽に対してハチミツ+コーヒーが有用 FREEIMAGESより使用 第31回で「ハチミツが小児の咳嗽に有効」という論文を紹介しました。親も快適に眠れるでしょうから、難治性の小児の咳嗽に対して、ハチミツは一考の余地がありそうです。 しかし、大人に対してはコーヒーと合わせて飲むほうが良いそうです。なにっ!? Raeessi MA, et al. Honey plus coffee versus systemic steroid in the treatment of persistent post-infectious cough: a randomised controlled trial. Prim Care Respir J. 2013;22:325-330. これはイランの大学病院で実施されたランダム化比較試験です。3週間以上続く感染後咳嗽の成人患者97人(平均年齢40歳)が被験者です。お湯200mLにハチミツ20.8gとインスタントコーヒー2.9gを溶かして8時間ごとに1週間飲み続けるハチミツコーヒー群(29人)と、ハチミツ+コーヒーの代わりにプレドニゾロン13.3mgを入れるステロイド群(30人)と、同じく鎮咳薬グアイフェネシン25gを入れるコントロール群(26人)を設定し、ランダムに割り付けました。ハチミツはイランの山奥で採れたものを用いました。スーパーで買ったんじゃないんでしょうか、高級ハチミツなんですかね? アウトカムは介入前と介入1週間後の咳の頻度をスコアで比較しました。97人中12人が脱落しているのが気になりますが、残りの85人で解析が行われました(ITT解析ではない)。その結果、ハチミツコーヒー群とステロイド群では有意に咳嗽の頻度が減りました。スコアの変化は圧倒的にハチミツコーヒー群で高かったようです。ハチミツコーヒー群は、ほぼ咳嗽スコアがゼロになっています。ハチミツだけでなく、コーヒーにもある程度気管支拡張作用がありますから、これも咳嗽の軽減に寄与したのかもしれません。なるほど、ハチミツコーヒーか。今度、難治性咳嗽の患者さんにも勧めてみようか。インデックスページへ戻る

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【GET!ザ・トレンド】今後も拡大が予想される新たな疾患概念「IgG4関連疾患」

2015年、Lancet誌のReviewで取り上げられた、本邦発21世紀の新たな疾患概念「IgG4関連疾患」。疾患概念の提唱者であり同Reviewの筆頭著者である東京都立駒込病院 副院長 神澤 輝実氏に、非専門家に向けたIgG4関連疾患の解説をしていただいた。IgG4関連疾患はどのような疾患ですか?一言でいうと、リンパ球とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化によって、全身のさまざまな臓器に腫大や結節などが生じる原因不明の疾患です。膵臓、胆管、涙腺、唾液腺などでの発症が知られていますが、頭からつま先までほぼ全身の臓器や部位が冒されます。罹患した臓器によって症状は異なりますが、概してステロイドが奏効し、治療の第1選択薬はステロイド薬です。以前から存在が知られている疾患の中にも、IgG4関連疾患と判明した、代表的な疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?まず、自己免疫性膵炎です。この疾患は以前から腫瘤形成性膵炎といわれ、特殊な膵炎として捉えられていましたが、IgG4関連疾患であることがわかりました。両側の涙腺や唾液腺が腫れるミクリッツ病、片側の唾液腺が腫れるキュットナー腫瘍、昔から知られているこれらの疾患も最近になってIgG4関連疾患であることがわかりました。また、原発性硬化性胆管炎(PSC)のうち高齢者が罹患するケース、以前から原因不明とされていた後腹膜線維症(オルモンド病)の一部もIgG4関連疾患だということがわかりました。さらに、未解明な部分も多いですが、橋本病、大動脈瘤、冠動脈瘤、下垂体炎の一部も、IgG4が関連しているのではないかといわれています。Lancet誌という高インパクトファクターの国際的医学誌にReviewが掲載されました。これは、世界的に意義が認められたということですね。世界的にみても、まさにトピックスだったのだと思います。Lancetに日本人の論文が載ることは少ないのですが、今回は多くのページを割いています。IgG4関連疾患は、新しい疾患概念であるとともに、全身の臓器に関連します。つまり、臓器横断的にすべての医療者に関係するのです。さらに、不要な医療が提供されていたことも1つの要因だと思います。米国では膵切除された2~2.5%が自己免疫性膵炎だったという報告があります。IgG4関連硬化性胆管炎などは、ステロイド以外の治療で臓器機能障害にまで悪化してしまう例もみられていました。このようなことから、世界的にも、広く知ってもらうべき疾患という判断から取り上げられたのだと思います。とはいえ、私がこの疾患概念が提唱したのが2003年、世界的に注目され出したのは2000年代後半からです。まだ発展途上の疾患だといえるでしょう。IgG4関連疾患は全身にわたる疾患ですので、非専門医の先生方も実地診療で遭遇することがあると思います。患者さんを見逃さないためのポイントを教えていただけますか?まず一般的に高齢者に多くみられることです。そのほか画像所見以外のポイントとしては、男女の罹患率がほぼ同じであるIgG4関連涙腺・唾液腺疾患以外のIgG4関連疾患では、男性の比率が高いIgG4関連疾患の結節は、あまり痛みがなく固い病変が多発するため、他臓器に発症していることもある血液検査では、約半分でIgGが高値となり、抗核抗体、リウマチ因子などが3~4割で陽性になる線維化、細胞浸潤があるが、生検してもがん細胞は出てこないといったことが特徴です。いくつかのIgG4 関連疾患で診断基準を設けていますので、ご参照いただきたいと思います(希少疾病ライブラリ「IgG4関連疾患」参照)。また、その際は、できる限り組織診断を加えて、類似疾患との鑑別をしていただきたいと思います。自己免疫膵炎の画像診断のポイントですが、自己免疫膵炎は膵臓がんと異なり、造影剤を用いたCTでは時間の経過により正常の膵臓と同様に染まってきます。ERP(内視鏡的逆行性膵管造影)所見も自己免疫膵炎に特徴的な主膵管不整狭細像を提示します。IgG4関連硬化性胆管炎では、原発性硬化性胆管炎が鑑別として重要となってきます。IgG4関連硬化性胆管炎では下部胆管の狭窄が多く、また限局した胆管の狭窄であり、その上流への胆管に拡張を認めるといった特徴があります。診断がついた後、非専門医がフォローするケースも多いと思いますが、その際役に立つポイントについて教えていただけますか?IgG4関連疾患におけるステロイド治療の適応は、一般的には有症状例です。しかし、悪化せず経過する例や自然に治癒する例もありますので、症状が軽い場合は経過観察するケースもあります。ステロイド治療についてですが、ほとんどの例が服薬でいったん改善します。しかし、ステロイドの減量中あるいは中止後に、2~3割の例が再燃します。再燃は、現病巣と違う臓器や部位に起こることもあります。そこで、再燃予防に少量のステロイドを比較的長期に服用していただきます。ステロイド治療開始後も画像上の改善が不十分な例や、血中IgG4の高値が持続する場合は、再燃することが多いため注意が必要です。こういったケースに遭遇した場合は、専門医に相談いただければと思います。ステロイド以外の治療法も開発されているのでしょうか?患者さんは高齢者が多いため、ステロイドを離脱する方向で治療していくのですが、再燃するとステロイド投与量が多くなりますし、離脱しにくくなってしまいます。欧米ではそういった例に対して、免疫抑制薬やリツキシマブを用いることもあります。日本では認可されていませんが、今後、検討されていくことになるでしょう。非専門医の先生方へメッセージをお願いします※IgG4関連疾患は2015年7月、医療費助成対象疾病の指定難病(指定難病300)となり、公費負担の対象となった。Kamisawa T, et al. IgG4-related disease. Lancet. 2015;385:1460-1471.

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若年性皮膚筋炎、プレドニゾン+MTXが有益/Lancet

 新規発症の若年性皮膚筋炎に対し、プレドニゾン+シクロスポリン併用またはプレドニゾン+メトトレキサート(MTX)併用は、いずれもプレドニゾン単剤と比較して有効であるが、安全性プロファイル、ステロイド節約効果においてプレドニゾン+MTX併用が支持されることが明らかにされた。イタリア・Istituto Giannina GasliniのNicolino Ruperto氏らが、22ヵ国54施設が参加した無作為化試験の結果、報告した。これまで皮膚筋炎および若年性皮膚筋炎の治療に関するデータは、大半が散発的で非無作為化によるケースシリーズ報告しかなかった。Lancet誌オンライン版2015年11月27日号掲載の報告より。プレドニゾンの単独と併用を比較 試験には、18歳以下で新規に若年性皮膚筋炎を発症し、未治療であり、皮膚または消化器系潰瘍のない患者を登録して行われた。 2006年5月31日~10年11月12日に、139例をプレドニゾン単独(47例)、プレドニゾン+シクロスポリン併用(46例)、プレドニゾン+MTX併用(46例)に無作為に割り付けて追跡評価した。患者、研究者は治療割り付けをマスキングされなかった。 主要アウトカムは、PRINTO20改善(6ヵ月時点で6つのコア指標のうち3指標で20%改善)に達した患者の割合、臨床的寛解までまたは治療不成功までの期間とした。 3治療群をKruskal-Wallis検定、Friedman's検定で比較し、生存分析はKaplan-Meier曲線とlog-rank検定にて行った。分析はintention to treat法による。 試験は、導入期(2ヵ月間)、維持期(22ヵ月間)、拡張期(3年以上)の3期にわたって行われ、本論では導入期と維持期2年以上を経過した結果を報告。追跡期間中央値は35.5ヵ月であった。臨床的寛解が観察されたのはMTX併用群のみ 6ヵ月時点でPRINTO20改善に達したのは、単独群24例(51%)、シクロスポリン併用群32例(70%)、MTX併用群33例(72%)であった(p=0.0228)。 臨床的寛解までの期間中央値は、MTX併用群41.9ヵ月であったが、他の2群では観察できなかった(MTX併用群の増大比2.45倍、95%信頼区間[CI]:1.2~5.0、p=0.012)。 治療不成功までの期間中央値は、単独群16.7ヵ月、シクロスポリン併用群53.3ヵ月、MTX併用群は観察できなかった(単独群の増大比1.95倍、95%CI:1.20~3.15、p=0.009)。 プレドニゾン中断までの期間は、単独群35.8ヵ月に対し、併用群は29.4~29.7ヵ月であった(p=0.002)。 有害事象の発現頻度は、シクロスポリン併用群で有意に多く、皮膚や皮下組織障害、消化器系システム障害、一般・全身障害がみられた。 感染症、寄生虫感染症はシクロスポリン併用およびMTX併用群で多くみられた。なお試験期間中の死亡例は報告されていない。

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アレルギー性鼻炎を改善へ、世界初の舌下錠登場

 シオノギ製薬株式会社は、11月26日都内にて、世界初の舌下錠タイプのダニアレルゲン免疫療法薬「アシテア」の発売を記念し、岡本 美孝氏(千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学 教授)を講師に迎え、「患者さんのQOL向上をサポートするアレルギー性鼻炎治療」をテーマにプレス向けの説明会を行った。国民の4割が有病者 アレルギー性鼻炎とは、「鼻粘膜のI型アレルギー疾患で、発作性反復性のくしゃみ、水性鼻漏、鼻閉を主徴とする」疾患である。疫学的実態に関して、アレルギー性鼻炎全体の日本国内での有病率は約4割と考えられている。ダニが原因の代表とされる通年性アレルギー鼻炎はとくに男性に多く、花粉症に代表される季節性アレルギー鼻炎は女性に多い。患者数は季節性アレルギーで近年増加傾向にある。 現在、アレルギー性鼻炎の治療法として、「抗原回避」「薬物療法」「免疫(減感作)療法」「手術療法」「鼻処置」「患者とのコミュニケーション」がある。なかでも広く行われている「薬物療法」と「免疫(減感作)療法」に焦点を当て、解説がされた。 ケミカルメディエーター遊離抑制薬や抗ヒスタミン薬、ステロイド薬などの薬物療法は、現在最も多く行われている治療であるが、これらは対症療法であり、アレルギー症状の治療という根本的な解決になっていない。その一方で、原因アレルゲンを皮下注射することで治療していくアレルゲン免疫療法(減感作療法)は、体質改善が図られ症状が軽快するものの、治療期間が2年以上と長期にわたり、途中離脱する患者の割合も多い。薬物療法か、免疫療法か それでは、薬物療法と免疫療法のどちらの治療法が良いだろうか? アレルギー性鼻炎患者の長期経過を、千葉大学医学部附属病院 耳鼻科アレルギー外来で追跡調査した結果が報告された。 小児通年性アレルギー鼻炎(n=55)において、薬物療法で改善以上が25%だったのに対し、減感作療法2年未満では69%、同療法2年以上は77%と減感作療法のほうが高い数値を示していた。また、成人通年性アレルギー性鼻炎(n=31)では、薬物療法で改善以上が40%だったのに対し、減感作療法2年以上は81%だったという。こうしたことからもアレルゲン免疫療法は、治療終了後も効果が長期間持続することが期待されているという。 このように、アレルゲン免疫療法(減感作療法)のデメリットを払拭する薬剤が待ち望まれる中で、患者の利便性、非侵襲性、重篤な副作用の軽減を目指し、アシテアが開発された。1日1回、2分で終了 アシテアは、世界で初めてのダニアレルゲン舌下錠であり、次のような特徴を持つ。 対象患者は、ダニアレルギー性鼻炎の成人および12歳以上の小児。禁忌は、病因アレルゲンがダニ抗原ではない患者、ダニエキスにショックの既往のある患者、重症の気管支喘息患者、悪性腫瘍などの全身性疾患のある患者である。また、過去にアレルゲンエキスでアレルギー症状を発現した患者、気管支喘息患者、高齢者、妊産婦(授乳中も含む)、非選択的β遮断薬服用中の患者は慎重投与となる。 用法・用量は1日1回、1回投与量100単位から開始し、300単位まで増量できる。服用方法は、薬剤を舌下に入れ、そのまま溶解するまで唾液を飲み込む(約2分間)だけである。ただし、服用後5分間はうがい、飲食は控えなければならない。 国内での第II/III相試験によると、投与1年後のアシテア300単位(n=315)とプラセボ(n=316)との比較で、平均調整鼻症状スコア(くしゃみ発作、鼻汁、鼻閉など)は、アシテア群の最小二乗平均が5.0に対し、プラセボ群が6.11と有意差が認められた。また、「軽度以上の改善」と評価した被験者割合は、アシテア群(244/306例)が79.7%だったのに対し、プラセボ群(200/310例)64.5%と、同じく有意差が認められた。初回投与は医師の監視下で 副作用はアシテア群で66.8%の報告があったのに対し、プラセボ群は18.6%であった。副作用の重症度は、軽度(98.1%)がほとんどを占め、アナフィラキシーショックのような高度なものは報告されなかった。主な副作用は、頻度順に口腔浮腫、咽喉刺激感、耳そう痒症、口腔そう痒症、口内炎などが挙げられた。副作用の発現時期は半数以上が投与開始後2週間以内であり、継続投与により発現頻度、程度は減弱していくという。そのため、副作用への注意として、初回投与時は約30分間、医師の監視下に置き十分な観察を行う。また、免疫療法では患者の離脱率が高いために、事前にメリット(長期の症状改善、自宅で服薬など)とデメリット(長い治療期間、副作用など)を患者によく説明することが、治療のポイントとなる。 最後に「効果持続期間の検証や新たな副作用の出現など、臨床の場でさらに研究を進めるとともに、効果測定や予測バイオマーカーの開発などが待たれる」と今後の課題を述べ、レクチャーを終えた。詳しい商品情報は、こちら(ケアネット 稲川 進)関連コンテンツケアネット・ドットコム 特集「花粉症」はこちら。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第24回

第24回:痛風の診断と治療、そして予防監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 先日、痛風結節のある患者が受診されました。高齢女性で、かなり食生活が乱れているようでした。診断と治療に関しての基本的な流れを確認しつつ、家庭医として予防についても考えてみました。厳密なプリン体摂取制限による尿酸値低下の影響は少ないといわれているものの、食事習慣の改善については根拠を持ってアドバイスをしたいと思っています。 以下、文献1より(一部文献3を含む)痛風は尿酸ナトリウム結晶により、主に第1中足骨関節(MTP:metatarsophalangeal joint)が侵される、有痛性の関節炎である。ほかにも横足根関節(MT:midtarsal joint)、足関節にも多く、長期罹患例では膝関節、手指関節にも生じうるが、股関節、肩関節はまれである。女性ホルモンが尿酸排泄を増加させるので、閉経前の女性は男性に比べて痛風の有病率が低いとされている。また、アルコール(とくにビール)、肉類(とくに赤肉、ジビエ、内臓)、魚介類(貝、大型海水魚)、フルーツジュース、高濃度果糖液の入った飲料などの摂取は痛風のリスクを高める。(表1) 画像を拡大する痛風の診断基準としては、米国リウマチ学会のもの(表2)が用いられることが多く、発症リスクの計算については、オンラインで利用できるものがある2)。鑑別診断は、偽痛風、化膿性関節炎(まれだが痛風との合併あり)をはじめとした感染症、外傷である。表2. 痛風の診断基準1. 尿酸塩結晶が関節液中に存在することまたは2. 痛風結節の証明または3. 以下の11項目のうち6項目以上を満たすことa) 2回以上の急性関節炎の既往があるb) 24時間以内に炎症がピークに達するc) 単関節炎であるd) 関節の発赤があるe) 第1中足趾節関節の疼痛または腫脹があるf) 第1中足趾節関節の病変であるg) 片側の足関節の病変であるh) 痛風結節(確診または疑診)があるi) 血清尿酸値の上昇があるj) X線上の非対称性腫脹がある(骨びらん周囲に骨硬化像を伴うことと、関節裂隙が保たれていることで、RAとの鑑別可能)k) 発作の完全な寛解がある上記のような診断基準ではあるが、可能な限り関節液中の尿酸-ナトリウム結晶の証明が求められる。超音波やMRI、CTは必ずしも診断には必要ないとされる。ただし、超音波において、軟骨表面の尿酸塩結晶の検出は、Double contour signとして有名である。痛風性関節炎の診断上の注意点3)1.痛風発作中の血清尿酸値は低値を示すことがあり、診断的価値は高くない2.関節液が得られたら迅速に検鏡し、尿酸塩結晶の有無を同定する3.痛風結節は診断上価値があるが頻度は低い急性期の治療については、副腎皮質ステロイドの経口投与とNSAIDsが同等に効果的である (推奨レベルB)。第1選択はNSAIDsであり、歴史的にはインドメタシンが好んで使用されているが、他のNSAIDsに比べて効果があるというエビデンスはない。ステロイドは短期間で終了すると再燃がありうるため、10~14日で漸減していく。コルヒチンはやや高価であり、鎮痛効果はなく、発症後72~96時間経過していると効果に乏しいとされる。再発予防の治療については、痛風の既往があり、かつ年2回以上の発作(CKD stage2以上では年1回以上)、痛風結節、または尿酸結石の既往がある場合には尿酸を下げる治療を考慮する。症状がなくても発作後3~6ヵ月は治療を継続し、症状がみられる場合には引き続き継続する。服薬についても選択肢は多くあるが、ここではフェブキソスタットとアロプリノールが同等に効果がある(推奨レベルB)と述べるに留める。日本での目標値としては尿酸値6mg/dL以下に維持するのが望ましいとされている。食生活習慣の改善としては、体重減少はリスクを下げる。果糖液、プリン体を多く含む動物性蛋白、とくにビールを含むアルコールを避けるべきである。一方で、プリン体を多く含む野菜は痛風のリスクを上昇させないといわれている。野菜や低(無)脂肪の乳製品の摂取が推奨される。(ただし、推奨レベルはC)※推奨レベルはSORT evidence rating systemに基づくA:一貫した、質の高いエビデンスB:不整合、または限定したエビデンスC:直接的なエビデンスを欠く※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Hainer BL, et al. Am Fam Physician. 2014;90:831-836. 2) Gout diagnosis calculator. the GP education and training resource.http://www.gp-training.net/rheum/gout.htm (参照2015.11.4). 3) 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会. 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン ダイジェスト版.http://www.tufu.or.jp/pdf/guideline_digest.pdf (参照 2015.11.4).

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免疫性血小板減少症〔ITP:immune thrombocytopenia〕(旧名:特発性血小板減少性紫斑病)

1 疾患概要■ 概念・定義特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患(特定疾患)に認定されている疾患であり、他の基礎疾患や薬剤などの原因がなく、血小板の破壊が亢進し減少する後天性の自己免疫疾患と考えられている。欧米では本疾患に対し、免疫性(immune)あるいは自己免疫性(autoimmune)という表現が用いられており、わが国においても本疾患の病名を免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)へと改定する予定である。血小板が減少していても、必ずしも出血症状を伴うわけではないことが“purpura”を削除した理由であり、この考え方は本疾患の治療戦略とも密接に関連する。■ 疫学わが国におけるITPの有病者数は約2万人で、年間発症率は人口10万人当たり約2.16人と推計される。つまり年間約3,000人が新規に発症している計算になる。最近の調査では、慢性ITPの好発年齢として20~40代の若年女性に加え、60~80代でのピークが認められるようになってきている。高齢者の発症に男女比の差はない。急性ITPは5歳以下の発症が圧倒的である。■ 病因ITPの病因はいまだ不明な点が多いが、その主たる病態は血小板の破壊亢進である。ITPでは血小板膜GPIIb-IIIaやGPIb-IXなどに対する自己抗体が産生され、それらに感作された血小板は早期に脾臓を中心とした網内系においてマクロファージのFc受容体を介して捕捉され、破壊されて血小板減少を来す。これらの自己抗体は主として脾臓で産生されており、脾臓は主要な血小板抗体の産生部位であるとともに、血小板の破壊部位でもある。さらに最近では、ITPにおける抗血小板自己抗体は巨核球の分化・成熟にも障害を与え、血小板産生も正常コントロールと比べ減少していることが示されている。■ 症状症状は皮下出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など皮膚粘膜出血が主症状である。血小板数が1万/μL未満になると血尿、消化管出血、吐血、網膜出血を認めることもある。口腔内に高度の粘膜出血を認める場合は、消化管出血や頭蓋内出血を来す危険があり、早急な対応が必要である。血友病など凝固因子欠損症では関節内出血や筋肉内出血を生じるが、ITPでは通常、これらの深部出血は認めない。■ 分類ITPはその発症様式と経過より、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然寛解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型と分類される。急性型は小児に多くみられ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多い。しかしながら、発症時に急性型か慢性型かを区別することはきわめて困難である。最近では、12ヵ月経過したものを慢性型とする意見もある。■ 予後ITPでは、血小板数が3万/μL以上の場合、死亡率は正常コントロールと同じであり、予後は比較的良好と考えられている。しかし、3万/μL以下だと出血や感染症が多くなり、死亡率が約4倍に増加すると報告されている。この成績より、血小板数3万/μL以上を維持することが治療目標となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ITPの診断に関しては、いまだに他の疾患の除外診断が主体であり、薬剤性やC型肝炎など血小板減少を来す他の疾患を鑑別しなければならない。とくに血小板数が3~5万/μL以下の症例で無症状の場合や検査コメントに血小板凝集(+)と記載されている場合は、末血用スピッツ内のEDTAにより誘導される「見かけ上」の血小板減少(EDTA依存性偽性血小板減少症)を除外すべきである(治療の必要なし)。ITPと同様に免疫学的機序で血小板が減少する二次的ITPとして、全身性エリテマトーデスなどの膠原病やリンパ系腫瘍、ウイルス肝炎、HIV感染などが挙げられる。詳しい病歴の聴取や身体所見、時には骨髄穿刺により先天性血小板減少症や薬剤性血小板減少症、さらには血小板産生障害に起因する骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの鑑別を行う。骨髄検査において典型的ITPでは、幼若な巨核球が目立つが巨核球数は正常あるいは増加しており、その他はとくに異常を認めない。PAIgG(Platelet-associated IgG:血小板関連IgG)は2006年に保険収載されたが、PAIgGは血小板に結合した(あるいは付着した)非特異的なIgGも測定するため、再生不良性貧血などの血小板減少時にも高値になることがあり、その診断的意義は少ない。2023年に血漿トロンボポエチン濃度と幼若血小板比率(IPF%)を組み込んだ新たなITPの診断基準が公表されている。一方、これらのバイオマーカーの測定は現時点で保険適用外であり、その保険収載が急務の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ITPにおける治療目標ITPの治療目標は血小板数を正常化させることではなく、危険な出血を予防することである。具体的には血小板3万/μL以上かつ出血症状が無い状態にすることが当面の治療目標となる。「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」では、初診時血小板が3万/μL以上あり出血傾向を認めない場合は、無治療での経過観察としている。血小板数を正常に維持するために高用量の副腎皮質ステロイドを長期に使用すべきではないとの立場である。図に「成人ITP治療の参照ガイド2019 改訂版」の概要を示す。なお、本ガイドは、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdfにて公開されている。画像を拡大する1)第1選択治療(1)ピロリ菌除菌療法(2010年6月より保険適用)わが国においては、ITPに関してH.pylori(ピロリ菌)除菌療法の有効性が示されている。ピロリ菌感染患者には、第1選択として試みる価値がある。出血症状を伴う例に対しては、ステロイド療法をまず選択し、血小板数が比較的安定した時点で除菌療法を試みる。(2)副腎皮質ステロイド療法ピロリ菌陰性患者や除菌無効例には、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第1選択となる。副腎皮質ステロイドは網内系における血小板の貪食および血小板自己抗体の産生を抑制する。血小板数3万/μL以下の症例で出血症状を伴う症例が対象である。とくに口腔内や鼻腔内の出血を認める場合は積極的に治療を行う。50~75%において血小板が増加するが、多くは副腎皮質ステロイド減量に伴い血小板が減少する。初期投与量としては0.5~1mg/kg/日を2~4週間投与後、血小板数の増加がなくても8~12週かけて10mg/日以下にまで漸減する。経過が良ければさらに減量する。2)第2選択治療(1)トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬ITPでは血小板造血が障害されているものの、血清TPO濃度は正常~軽度上昇に止まる。この成績より、血小板造血を促進する治療薬としてTPO受容体作動薬が開発され、2011年より保険適用となっている。薬剤としては、ロミプロスチム(商品名:ロミプレート/皮下注)やエルトロンボパグ オラミン(同:レボレード/経口薬)があり、優れた有効性が示されている。血栓症の発症や骨髄線維化のリスクがあるため、これらに関しては慎重にモニターすべきである。妊婦には使用できない。(2)リツキシマブB細胞に発現しているCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体で、B 細胞を減少させ、抗体産生を低下させる作用がある。わが国では2017年3月よりITPに対して適応拡大されている。(3)脾臓摘出術(脾摘)発症後6~12ヵ月以上経過し、各種治療にて血小板数3万/μL以上を維持できない症例に考慮する。寛解率は約60%。摘脾の1週間前より免疫グロブリン大量療法(後述)にて血小板を増加させる。近年では、TPO受容体作動薬などの新規薬剤の登場により、脾摘施行例は減少している。(4)新規ITP治療薬「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」公開後に新たに上市されたITP治療薬として、ホスタマチニブ([Syk阻害剤]およびエフガルチギモド(胎児性Fc受容体阻害剤)が挙げられる。これらの薬剤の治療上の位置付けに関しては、今後の検討課題である。3)難治ITP症例への治療法(第3選択治療)本項で述べる薬剤は、ITPへの適応は無いものの、文献などにて有効性が示唆されている薬剤である。4)緊急時の治療診断時、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血を認める症例や、脾摘など外科的処置が必要な症例には、免疫グロブリン大量療法やメチルプレドニンパルス療法にて血小板を速やかに増加させ、出血をコントロールする必要がある。血小板輸血は一般には行わないが、活動性出血を伴う重症例では血小板輸血も積極的に考慮する。4 今後の展望上記以外の新たなITP治療薬として、BTK阻害薬、新規TPO受容体作動薬、抗CD38抗体薬など種々の薬剤が開発、治験されており、これらの薬剤の上市が待たれる。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(医療従事者向けのまとまった情報)妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさのひろば(血液疾患患者とその家族の会)1)Cines DB, et al. N Engl J Med.2002;346:995-1008.2)冨山佳昭. 臨床血液. 2011;52:627-632.3)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2019;60:877-896.4)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2024;64:1245-1257.公開履歴初回2013年03月28日更新2015年11月02日更新2024年9月16日

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TG値1,000mg/dL以上を示す患者の臨床的特徴

 金沢大学附属病院で過去10年間に1,000mg/dL以上の高トリグリセリド(TG)値を示した215例の調査によると、全体の7.9%に冠動脈疾患の既往、5.6%に膵炎の既往があり、55.3%に脂肪肝が認められたことがわかった。また、多くが何らかの2次的要因によるTG上昇であることがわかった。深刻な高TG血症は、さまざまな状況により引き起こされる可能性があるため、潜在的な2次的要因を探ることの重要性が示唆された。Journal of clinical lipidology誌7・8月号掲載、金沢大学附属病院 多田 隼人氏らの報告。 日本人において1,000mg/dL以上の高TG値を示す患者の臨床的特徴についてのデータは少ない。 そこで著者らは、2004年4月~2014年3月までに金沢大学附属病院において、何らかの理由で血清TG値を測定された日本人7万368例のうち、空腹時血清TG値が1,000mg/dL以上を示した例の冠動脈疾患の存在、膵炎の既往、脂肪肝の存在、高TG値の潜在的要因について調査した。 主な結果は以下のとおり。・空腹時血清TG値が1,000mg/dL以上を示したのは215例(0.31%)であった(平均年齢46歳、男性170例、平均BMI 25kg/m2)。・WHOの表現型分類(フレドリクソン分類)では、I型4例(1.9%)、IV型97例(45.1%)、V型114例(53.0%)であった。・116例(54.0%)がアルコールを摂取しており、58例(27.0%)がエタノール換算60g/日以上の大量摂取をしていた。・糖尿病は64例(29.8%)に認められた。・一過性の重症高TG血症を59例(27.4%)に認めた。原因は副腎皮質ホルモン投与(19例)、抗うつ薬投与(18例)、急性リンパ性白血病の治療としてL-アスパラギナーゼおよびステロイド投与(15例)、乳がんのホルモン補充療法(9例)、βブロッカー投与(5例)、甲状腺機能低下症(4例)、妊娠(4例)、汎下垂体機能低下症(2例)であった。・脂肪肝は119例(55.3%)に認められた。・膵炎の既往は12例(5.6%)、冠動脈疾患の既往は17例(7.9%)に認められた。

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発作性夜間血色素尿症〔PNH : paroxysmal nocturnal Hemoglobinuria〕

発作性夜間血色素尿症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義発作性夜間血色素尿症(発作性夜間ヘモグロビン尿症、paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)は、血管内溶血を特徴とする後天性の血液疾患で、PIG-A遺伝子に変異を有する造血幹細胞がクローン性に増加するために発症する。■ 疫学欧米におけるPNHの発症頻度は100万人あたり15.9人とされているが、わが国では100万人あたり3.6人ときわめてまれである〔1998年(平成10年)度の厚生労働省の疫学調査研究班による〕。男女比はほぼ1:1で、わが国における診断時年齢は20~60代(平均年齢45.1歳)と、広く分布する。欧米例では血栓症の合併が多いのに対し、わが国では造血不全症状が主体になることが多い。■ 病因PIG-A遺伝子に変異があると、GPIアンカー型の膜蛋白の発現が低下する。補体制御蛋白CD55やCD59もGPIアンカー型膜蛋白であり、PIG-A遺伝子の変異があるとその発現が低下する。このように、PIG-A遺伝子変異のためにCD55やCD59の発現を欠失した血球をPNH型血球と呼ぶ。PNH型血球は補体に対する感受性が高まっており、血管内溶血を生じやすい。PNH型血球が選択されて増加する機序は完全には解明されていないが、まずPIG-A遺伝子変異の入った造血幹細胞が免疫学的な攻撃を免れて相対的に増加し、さらに何らかの別な遺伝子異常が加わってクローン性に増加するものと考えられている。■ 症状典型的には、血管内溶血による貧血と褐色尿(ヘモグロビン尿)が症状の主体となる。溶血性貧血に伴い、全身倦怠感、労作時の息切れ、黄疸がみられる。ウイルス感染などによって補体が活性化されると溶血発作が生じ、急激な貧血の進行をみる。溶血で生じたヘモグロビン尿は、腎障害を引き起こし、むくみなどが生じる。また、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症をしばしば合併する。わが国のPNH患者は造血不全を合併する頻度が高く、貧血に加えて白血球や血小板数の減少がみられることがある(汎血球減少)。汎血球減少がみられる患者においては、感染症や出血のリスクも増加している。■ 分類1)臨床的PNH:溶血所見がみられるもの古典的PNH:末梢血のPNH型血球の比率が高く、溶血症状あるいは血栓症状が顕著。骨髄不全型PNH:骨髄が低形成で汎血球減少を呈する型。再生不良性貧血―PNH症候群とも呼ばれる。混合型PNH2)PNH型血球を有する骨髄不全症:明らかな溶血所見を欠くが、末梢血に少数のPNH型血球が検出され、再生不良性貧血あるいは骨髄異形成症候群の診断基準を満たすもの。PNH型血球陽性の骨髄不全症では、抗胸腺免疫グロブリンやシクロスポリンなどによる免疫抑制療法に反応して血球が増加することが多い。■ 予後わが国におけるPNH患者の診断後の平均生存期間は32.1年、50%生存期間も25.0年と長く、慢性の疾患といえる。この間、溶血発作を反復したり、造血不全、腎障害などが徐々に進行したりするため、QOLは必ずしもよくない。死亡原因としては出血、感染、血栓症が多く、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍への移行、腎障害、および血栓症が予後を大きく左右する。近年、中等症以上の患者に対して、補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体のエクリズマブ(商品名:ソリリス)が積極的に用いられるようになった。こういった治療法の進歩によって、患者のQOLと生命予後の改善が期待されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 主な検査と診断血液検査、尿検査によって血管内溶血の所見を確認する。貧血、網状赤血球数増加、血清LDH値上昇、血清間接ビリルビン値上昇、血清ハプトグロビン値低下、尿潜血(ヘモグロビン)反応陽性は、血管内溶血を疑う所見である。PNHの診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球(CD55、CD59を欠損する血球)の検出が不可欠である。古典的なHam試験と砂糖水試験は、最近ではフローサイトメトリーにとって代わられている。FLAER法を用いたフローサイトメトリーでは、非常に高感度にPNH型血球を定量できる(保険診療外)。さらに骨髄検査によって、PNH型血球陽性の造血不全症(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群)との鑑別や、PNHの病型分類を行う。■ 重症度分類と指定難病特発性造血障害に関する調査研究班では、溶血所見に基づいた重症度分類を作成している。これによると、ヘモグロビン7g/dL未満または定期的な赤血球輸血を必要とする貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の8~10倍程度の高度な溶血を認める場合を「重症」、ヘモグロビン10g/dL未満の貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の4~5倍程度の中等度の溶血を認める場合を「中等症」とし、これに該当しない場合を「軽症」としている。ただし、血栓症の既往があれば、溶血の程度に関わらず「重症」とされる。平成27年1月から、PNHは「難病患者に対する医療等の法律」による指定難病となった。これにより、中等症以上の患者の医療費負担が大幅に軽減されるようになった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)PNHの根治を目指す治療法は同種造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)のみであるが、この治療法自体のリスクが大きいために、適応は若年で、かつ重症の骨髄不全症を伴う場合に限られる。さまざまな感染症が溶血発作の引き金になるため、日常生活では感染症の予防が重要である。溶血が長期にわたると、尿から鉄が失われるために鉄欠乏になったり、需要の増大のために葉酸欠乏になったりするので、血清フェリチン値や葉酸値をみながら鉄や葉酸の補充を検討する。溶血発作時には少量の副腎皮質ステロイドを用いることがあるが、糖尿病の発症や易感染性などの副作用のため、長期的な使用の有用性については意見が分かれる。貧血が高度の場合は赤血球輸血を行う。溶血により生じた遊離ヘモグロビンによる腎障害を防止するためには、輸液や利尿剤を用いるほか、高度の溶血発作時には人ハプトグロビン(商品名:ハプトグロビン)を投与することもある。血栓症の予防と治療には、ヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行う。骨髄不全型PNHでは、蛋白同化ホルモンや免疫抑制剤が用いられる。最近、保険適用となったエクリズマブ(同:ソリリス)は、補体溶血を抑制することによって、貧血をはじめとするさまざまな臨床症状を劇的に改善する。この薬剤には血栓症の予防効果もみられる。重症例では積極的適応、中等症では相対的適応とされる。ただし、エクリズマブ治療導入の際には、点滴治療を定期的、継続的に行う必要があること、エクリズマブを中止する際には高度の溶血発作が生じうること、髄膜炎菌など一部の感染症に対する免疫能の低下が起こりうること、および高額な薬剤であることを十分に説明し、髄膜炎菌に対するワクチンの接種を行ってから開始する。エクリズマブ治療開始後に、LDHが低下したにもかかわらず貧血の改善が乏しい場合には、赤血球の膜上に蓄積した補体による血管外溶血あるいは骨髄不全の合併を考える。エクリズマブ治療には、PNHに合併した骨髄不全の改善効果は期待できない。PNH患者の妊娠に関しては、血栓症による流産のリスクが高く、また貧血もしばしば高度になる。平成26年度に、特発性造血障害調査に関する調査研究班および日本PNH研究会によって「妊娠ガイドライン」が作成された。このガイドラインでは、妊娠前の治療状況や血栓症の既往の有無によって、ヘパリンあるいはエクリズマブの使用が推奨されている。4 今後の展望病態面では、PNH型血球クローン増加の機序、血栓症がみられる機序などに関し、さらなる研究の進展が期待される。治療に関しては、エクリズマブの登場によってPNHの治療戦略が刷新された。今後、エクリズマブ不応例への対応や、血管外溶血が顕在化してくる症例に対する治療、妊娠管理などに関して、さらなる知見の集積と指針の充実が待たれる。現在、エクリズマブ以外にも補体系を標的とした新薬の開発が進んでおり、今後、PNH患者のQOLや予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)日本血液学会(血液専門医研修施設マップで紹介先の候補を検索できる)日本PNH研究会(患者向けと医療者向けのかなり詳しい情報)患者会情報NPO法人PNH倶楽部(PNH患者と家族の会)公開履歴初回2013年02月28日更新2015年10月13日

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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クローン病への早期複合免疫療法は有用か/Lancet

 クローン病の薬物治療について、早期の抗TNF受容体拮抗薬および代謝拮抗薬による複合免疫療法(ECI)は、従来療法(症状や重症度に合わせて経時的に投与)と比べて、寛解維持などの症状コントロールについて有意な効果は示されなかった。しかし、重大有害アウトカムのリスクを有意に低下することが示された。カナダ・ウェスタンオンタリオ大学のReena Khanna氏らが、非盲検クラスター無作為化試験REACTの結果、報告した。著者は、「後者の所見はさらなる試験の検証仮説となりうるものである」と述べ、「ECIは、重篤な薬物関連有害事象や死亡のリスク増大とは関連していなかった」と強調し本報告をまとめている。Lancet誌オンライン版2015年9月2日号掲載の報告より。クラスター無作為化試験で、12ヵ月時点のステロイド未治療寛解率を評価 クローン病の薬物治療は、症状や炎症の程度によって、ステロイド薬、代謝拮抗薬、抗TNF-α受容体拮抗薬と段階的に使用していくのが特色である。一方で先行研究において、すでにECIの未治療患者に対する優越性などが報告されているが、感染症や、多剤レジメンの複雑さ、コストや地域医療への普及などへの懸念から、なお従来療法が標準療法とされている。これらの現状を踏まえて研究グループは今回、地域医療をベースにECIの有効性、安全性を検討するREACT試験(Randomised Evaluation of an Algorithm for Crohn's Treatment)を行った。 試験への全面的な協力に同意しクローン病患者60例のデータを提供することに応じた、ベルギーとカナダにある消化器診療所を選択し、無作為にECI群と従来療法群に割り付けた。割り付けはコンピュータで、地域性と診療所サイズを最小化して行われた。 各診療所では、18歳以上、クローン病、英語、フランス語もしくはドイツを話し、電話連絡が可能であり、インフォームド・コンセントの書面提供が可能であった最大60例の連続成人患者について2年間フォローアップを行った。 主要アウトカムは、12ヵ月時点で、診療所レベルで評価したステロイド未治療で寛解を維持(Harvey-Bradshaw Index[HBI]スコア4以下)していた患者の割合とした。寛解率に有意差はないが、重大有害アウトカムが有意に減少 試験は、2010年3月15日~2013年10月1日に行われた。60診療所がスクリーニングを受け、41診療所がECI群(22ヵ所)と従来治療群(19ヵ所)に無作為に割り付けられたが、2診療所(各群1ヵ所)が連続患者の情報提供ができない、診療所が閉鎖などを理由に中途で脱落。intention-to-treat解析は39診療所、1,982例を包含して行われた。 12ヵ月間のフォローアップ完了者は、ECI群921/1,084例(85%)、従来療法群806/898例(90%)であった。 12ヵ月時点の診療所レベル分析での寛解率は、ECI群66.0%(SD 14.0%) vs.従来療法群61.9%(同16.9%)で、同等であった(補正後差:2.5%、95%信頼区間[CI]:-5.2%~10.2%、p=0.5169)。 24ヵ月時点の患者レベル分析における重大有害アウトカム(外科的手術、入院、重篤な疾患関連合併症の複合)の発生率は、ECI群が有意に低かった(27.7% vs. 35.1%、絶対差[AD]:7.3%、ハザード比[HR]:0.73、95%CI:0.62~0.86、p=0.0003)。重篤な薬物関連有害事象の発生に差はみられなかった(1%[10/1,084例] vs.1%[10/898例])。

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なぜ骨粗鬆症になるのか?

骨粗鬆症の原因となるものは、何ですか?【骨粗鬆症】生活習慣病高血圧心臓病糖尿病薬による続発性骨粗鬆症ステロイド薬●骨粗鬆症の原因(危険因子)として、女性、加齢、喫煙、飲酒、生活習慣病、ステロイド薬使用などがあります!監修:習志野台整形外科内科 院長 宮川一郎 氏Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.

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喘息の最新治療~気管支サーモプラスティ

 2015年7月から、気管支喘息を外科的に治療するという国内初の医療機器「アレア気管支サーモプラスティシステム」が販売開始となった。これを受けて、2015年7月16日、都内にてメディアセミナー(主催:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社)が開催された。 これまで、喘息治療は吸入薬や内服薬などによる薬物治療が主体であった。しかし、吸入薬を使用する際の手技の差や、呼気量が低下しすぎて薬を吸うことすらできない患者の存在、薬を定期的に使用していても発作をコントロールできない場合があるなどの課題があった。さらに、発作が起きない状態が続くと薬物の使用を自己中断してしまうこともあるという患者のアドヒアランスの悪さも問題となっていた。これらの課題を解決する方法として、気管支サーモプラスティが注目されている。喘息の外科的治療・気管支サーモプラスティとは 「気管支サーモプラスティ(BT)」は、気管支鏡を用いた治療法である。気管支鏡に電極付きのカテーテルを挿入し、高周波電流にて65℃で10秒間気管支壁を温めることで、喘息の原因となる肥厚した気道平滑筋の量を健常人に近付け、気管支の収縮を抑制し、発作を起きにくくする。 治療は気管支を3つのブロックに分けて行われ、それぞれ約3週間空けて実施される。所要時間は1回あたり約1時間で、1~2泊の短期入院で行われる。BT施行後は、治療前と同じ喘息治療薬を継続するが、症状によっては減量を考慮することもできるという。 なお、本治療の適応は18歳以上の高用量吸入ステロイドおよび長時間作用型β2刺激薬で喘息症状が抑制できない患者である。BTが注目されている理由 BTは気管支をつまんだり焼いたりすることがない、非侵襲的な治療法である。 気管支平滑筋に直接作用するため、吸入薬の手技に問題がある、肺活量が落ちて吸入薬が吸えない、アドヒアランスに問題があるなど喘息患者の抱えるさまざまな問題を解決する可能性がある。 また、気管支鏡を応用した手技であるため、気管支鏡を実施している施設であれば比較的容易に施行できることも魅力の1つである。 さらに、3回という少ない回数の治療で効果が5年間継続することがわかっている。臨床試験において、喘息で救急外来を受診した患者は、BT施行前1年間と比較して、施行後は78%も減少していた(5年間の平均)。BTの注意すべき点 BTは施行直後1日以内に呼吸症状の一時的な悪化がみられることが多いという。しかし、適切な処置で通常1週間以内に症状は消失するため、施行後の慎重な観察が必須である。 なお、術中に発作の可能性がある体調不良の患者には施行できない。演者の太田 健氏(国立病院機構東京病院 院長)は、「術前の問診によるBT施行可否の判断と、あらかじめ患者の症状を安定させる薬を飲ませておくことで、術中の発作を予防しておくことが重要である。当院でBTを行った2症例は、術前3日間と術後2日間の経口副腎皮質ステロイド投与で問題なく施行できた」と語った。 さらに、演者の東田 有智氏(近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科 教授)は、喘息患者は気管支が敏感になっているため、気管支鏡を入れること自体がリスクであることを指摘した。そのうえで、「BT前後に副腎皮質ステロイドなど喘息症状を抑える薬を投与することで、リスクを抑制できる」と前投薬の重要性を繰り返し強調した。BTに望まれること BTを安全かつ効果的に実施するためには、治療時の前投薬の服用や治療後に今までの喘息治療薬を継続することなど患者に対する各種指導をしっかりと行っていくことが重要となってくる。 さらに、本治療法は欧米で2000年ごろから研究・臨床試験が開始され、2011年から一般的な治療となった新しい選択肢である。日本では本年4月から保険適用となったため、治療経験はまだ少ない。そのため、専門医が治療データを収集し、BT治療後も含めた喘息管理を行っていくことが望まれる。 BTの施行で従来の喘息治療薬を用いてもコントロール不能な患者、あるいはアレルギーや副作用などの理由で薬物を使用できなかった患者の症状を緩和できる可能性がある。BTの普及は、治療に難渋していた喘息患者にとって新たな治療の選択肢となりうると大いに期待されている。

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多発性硬化症再発へのステロイド、経口が静注に非劣性/Lancet

 多発性硬化症の再発に対し、高用量メチルプレドニゾロンの経口投与は静注投与に対して非劣性であることが判明した。フランス・レンヌ大学病院のEmmanuelle Le Page氏らが、199例を対象に行った二重盲無作為化比較試験の結果、報告した。高用量メチルプレドニゾロンの静注投与は、多発性硬化症の再発治療として推奨されているが、経口投与に比べて利便性に乏しく高価なことが指摘されていた。検討の結果、安全性についても同等であった。Lancet誌オンライン版2015年6月26日号掲載の報告より。治療開始28日後の改善率を比較 研究グループは、2008年1月29日~2013年6月14日にかけて、フランス13ヵ所の医療機関を通じて、多発性硬化症の再発から15日以内の18~55歳の患者199例を対象に試験を行い、高用量メチルプレドニゾロン経口投与の静注投与に対する非劣性を検証した。被験者は、Kurtzke機能評価尺度スコアの1項目以上で、1ポイント以上の増加が認められた。 検討では被験者を無作為に2群に分け、メチルプレドニゾロン1,000mg/日の3日間投与を、一方の群には経口投与(100例)、もう一方の群には静注投与(99例)にて行った。 主要エンドポイントは、28日時点の評価でコルチコステロイドによる再治療の必要性がなく改善が認められた人(Kurtzke機能評価尺度スコアの最も影響のあった部位で、1ポイント以上減少)の割合とした。 非劣性のマージンは15%と規定されていた。主要エンドポイント達成率は同等、経口群で不眠発生が高率 被験者の再発から治療開始までの平均期間は、経口群が7.0日、静注群が7.4日だった。 主要エンドポイントを達成した人の割合は、経口群が81%(82例中66例)、静注群が80%(90例中72例)で、経口投与の非劣性が示された(絶対差:0.5%、90%信頼区間:-9.5~10.4)。 有害事象発生率は、不眠症発生率が静注群で64%に対し経口群で77%と高率だったほかは、両群で同程度だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「経口投与は静注投与に対して非劣性であり、安全性も類似していた」とまとめつつ、「治療へのアクセス、患者の快適性そしてコストは重要である。しかし、常に臨床医は再発の徴候について適切に判断する必要がある」と慎重を期すよう指摘している。

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