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エキスパートに聞く!「喘息治療の最新事情(成人編)」Q&A Part2

日常診療で抱く疑問に、専門医がわかりやすく、コンパクトに回答するコーナーです。成人気管支喘息について、会員医師からの疑問にご回答いただきました。嗄声への対処法について教えてください。嗄声は吸入ステロイド薬による喉頭への影響で起こる副作用です。嗄声に対して、うがいは重要ですので吸入のタイミングは、うがいがしやすい洗顔時がよいかと思います。しかしながら、うがいによって喉頭に到達した吸入ステロイド薬が必ずしも除去できるわけではありませんので、その点は念頭に置いていただければと思います。また、食事の直前に吸入することで、喉頭に付着している薬剤が食物とともに胃に送られ、嗄声が軽減されることもありますので、試してみる価値はあるかと思います。製剤的な観点からいうと、一般にエアロゾル製剤は嗄声を来しにくいといえます。なかでもプロドラックのシクレソニド(商品名:オルベスコ)は嗄声の影響が少ないとされていますので、お試しになるのもよいと思います。今後、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)が喘息の適応を取得すると聞いていますが、難治性喘息における効果や使用方法について教えてください。LAMAの知見はそれほど多くありませんが、吸入ステロイド薬でコントロール不十分な症例における上乗せ効果がLABAと同等であることが、最近報告されています。従来、喘息の適応がなかったため、吸入ステロイド薬にまずLAMAを上乗せするということはありませんでしたが、今後、知見が集積し、保険適用も通れば、そのような治療も行われるでしょう。これまでLAMAは、喘息ではβ2刺激薬に比べて効果が弱いと理解されており、LAMAがLABAと比較して同等であるかについてはさらに検討する必要があります。また、COPDを合併する喘息や、LABAで頻脈や振戦などの副作用が出るような患者さんにはLAMAの選択がよいと思います。さらに、喀痰細胞を使った研究で好酸球が少なく、好中球が多い患者さんにはLAMAの有効性が高いという報告もあるので、この点も今後使い分けのポイントになる可能性があります。

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エキスパートに聞く!「喘息治療の最新事情(成人編)」Q&A Part1

日常診療で抱く疑問に、専門医がわかりやすく、コンパクトに回答するコーナーです。成人気管支喘息について、会員医師からの疑問にご回答いただきました。高齢者にも吸入が十分可能な薬剤について教えてください。まず、ドライパウダー製剤とエアロゾル製剤の違いについてよくご理解いただき、各製剤を使い分けていただく必要があります。ただし、いずれの製剤でも十分な吸入指導は必須です。とくに高齢者の場合、一度説明をしても理解していないケースや忘れてしまうケースもあるので、繰り返しの吸入指導がきわめて重要です。ドライパウダー製剤ではある程度の吸気流量が必要ですので、吸気筋力が低下した高齢者にはエアロゾル製剤が有用です。ただ、エアロゾル製剤は速い速度で噴射される薬剤をゆっくり吸入する必要があり、手技に若干難しさがあります。うまく吸入できない高齢者では、スペーサーを併用していただければと思います。また、高齢者では認知症で吸入剤がうまく使えない、あるいは関節リウマチなどでエアロゾルが押せない方もいます。そのような場合には、介助者や家族にも吸入指導を行い、患者さんの吸気に合わせてエアロゾル製剤を口に吹き込むことで治療効果が得られます。最初から吸入ステロイド薬(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤で治療すべき患者さんと、吸入ステロイド薬のみでよい患者さんの判別方法について教えてください。呼吸機能検査が可能な場合、気流閉塞(閉塞性障害)が強くみられる患者さんには吸入ステロイド薬単剤よりも配合剤が適しているかもしれません。また、自覚症状が強い(とくに夜間眠れないような症状が続いている)患者さんにも、配合剤のほうがよいかと思います。しかしながら、吸入ステロイド薬単剤でもよくなる患者さんも多くおられますので、高価な配合剤の乱用は避けていただきたいと思います。難治性喘息に対する“奥の手”について教えてください。吸入ステロイド薬や配合剤を投与しても効果が乏しい、または悪化するような場合、製剤を変えることで改善することがしばしばあります。そのため、難治性喘息と思われるケースでは複数の薬剤を試していただき、それでも効果が不十分な場合には、ロイコトリエン受容体拮抗薬や徐放性テオフィリン製剤を併用してください。また、粒子径の大きいドライパウダー製剤で効果が不十分な場合には、粒子径の小さいエアロゾル製剤を上乗せすると、奏効することも少なくありません(ただし保険の査定にはご注意ください)。また、咳が強い難治性喘息の患者さんに対しては、トロンボキサン合成酵素阻害薬やトロンボキサンA2受容体拮抗薬が奏効することがあるので検討するとよいでしょう。さらに、近年は胃食道逆流症(GERD)の合併例が増加しており、そのような症例ではGERD治療薬を上乗せすることで、咳が改善することもしばしばあります。とはいえ、吸入手技を徹底するだけで症状がよくなることもありますので、基本に立ち返り、あらためて吸入指導を行っていただくことも重要だといえます。

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Dr.倉原の 喘息治療の不思議:知られざる喘息のリスク因子

はじめに喘息の患者さんを診療する場合、発作を起こさないようにコントロールすることが重要です。そのため、喘息治療薬を使いこなすだけでなく、患者さんの喘息発作の誘発因子を避ける必要があります。喘息発作のリスク因子として有名なのは、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎と同様のアレルゲンです。たとえば、スギ花粉、ブタクサ、ハウスダスト、ダニなどが挙げられます。しかし、世の中にはこんな因子によって喘息を起こすことがあるのか?という“軽視されがちなもの”や“知られざるもの”があります。教科書的なリスク因子はさておき、少し「へぇ」と思えるようなものを紹介しましょう。ストレス呼吸器内科医以外には実はあまり知られていませんが、ストレスは喘息のリスク因子として教科書的に重要です。これには炎症性サイトカインの産生亢進が関与していると考えられています。呼吸器疾患を診療している医師の間でも、ストレスは意外と軽視されがちなリスク因子だと思います。Busse WW, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1995;151:249-252.徹夜明けや過労などの身体的ストレスによっても喘息発作が起こりやすいことが知られています。受験前、面接前、入社前、五月病といった精神的ストレスによっても喘息発作を起こすことがあります。私もそういった患者さんを何人か外来で診ています。世界的にも最大規模のストレスとして数多くの研究がなされたアメリカ同時多発テロ事件では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と喘息の関連が指摘されています。Shiratori Y, et al. J Psychosom Res. 2012;73:122-125.Centers for Disease Control and Prevention (CDC). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2002;51:781-784.水泳喘息に対する呼吸リハビリテーションの一環として水泳が知られていますが、その反面、水泳そのものが喘息のリスクではないかと考える研究グループもあります。しかしながら、メタアナリシスではその関連は強いとは結論づけられていません。私の外来にも、ある水泳競技をしていた喘息患者さんがいました。その患者さんが引退後に吸入ステロイド薬のステップダウンができたのは、水泳をやめたからなのかどうか、いまだに答えは出ていません。Paivinen MK, et al. Clin Respir J. 2010;4:97-103.Goodman M, et al. J Asthma. 2008;45:639-647.ちなみにスキューバダイビングは喘息のリスク因子ではないかという議論もありますが、現時点では明らかな答えは出ていません。スキューバダイビングでは、温度や呼吸動態の急激な変化が呼吸機能上よくないと考えられています。Koehle M, et al. Sports Med. 2003;33:109-116.感情負の感情(怒り、悲しみなど)は前述のストレスと同じ機序で喘息のリスク因子と考えられていますが、これにはあまりエビデンスはありません。自宅で怒りを爆発させて喘息発作を起こし救急搬送されてきた患者さんを一度診たことがあります。これはおそらく怒鳴り散らしたことが主な原因でしょうが。ちなみに、面白い映像を見た場合と面白くない映像を見た場合を比較すると、面白い映像を見た場合に気道過敏性が有意に改善したという報告もあります。Kimata H. Physiol Behav. 2004;81:681-684.その一方で、あまり笑うと喘息発作を誘発するのではないかという報告もありますので、あまり感情の起伏は喘息にとってよくないものかもしれませんね。Liangas G, et al. J Asthma. 2004;41:217-221.排便トイレできばりすぎて、喘息発作を起こすことがあるそうです。これについてもリスク因子といえる研究はありません。個人的には一度も排便喘息を診たことはありません(問診が甘かったのかもしれませんが)。排便によってアセチルコリンの分泌が誘発され、これによって気管支攣縮を惹起するのではないかと考えられています。Rossman L. J Emerg Med. 2000 ;18:195-197.Ano S, et al. Intern Med. 2013;52:685-687.鼻毛これもリスク因子として書くにはかなり強引な気もしますが、結論からいうと鼻毛は長いほうがよいです。アレルギー性鼻炎の患者さんにおける喘息の発症に鼻毛の密度が与える影響について解析した論文があります。これによれば、鼻毛の密度の低さは喘息発症の有意な因子であると報告されています。厳密には鼻毛の“長さ”と“密度”は異なるのかもしれませんが……。Ozturk AB, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2011;156:75-80.おわりにこれ以外にも、症例報告レベルも含めると、アイスクリーム、くしゃみ、温泉、オリンピックなど数多くの喘息のリスク因子や喘息発作を誘発する因子があります。本稿でなぜ珍しい因子を記載したかといいますと、実は喘息診療においては多くのヒントが患者さんとの会話の中にあるのです。「実は最近インコを飼い始めたんです」、「おととい引っ越ししたばかりなんです」、「そういえば先月からシャンプーを東洋医学系の製品に変えたんです」・・・などなど。実はアレルゲンが明らかな喘息の場合、原因を回避すればよくなることがあります。何年も吸入ステロイド薬を使わなくても済むケースもあります。

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軽~中等症アトピー治療にピメクロリムスの選択肢も

 ドイツ・ミュンスター大学のThomas Luger氏らは、アトピー性皮膚炎(AD)に対するピメクロリムス1%クリーム(国内未承認)の公表された臨床データのレビューを行った。その結果、小児および成人の軽症~中等症ADの治療において、とくに敏感肌の部分について、ピメクロリムスは治療選択薬の一つとなりうる可能性があることを報告した。European Journal of Dermatology誌オンライン版2013年11月4日号の掲載報告。 ピメクロリムス1%クリームは、ADに有効な非ステロイド局所抗炎症治療薬だが、研究グループは、AD患者の医療ニーズに、ピメクロリムスはどのように当てはまるのか、レコメンデーションを明らかにすることを目的にレビューを行った。 主な所見は以下のとおり。・臨床試験において、ピメクロリムスを早期に用いることが病状再燃への進行を抑制し、迅速にかゆみを改善し、QOLを有意に高めることが実証されていた。・患者は、塗布が容易な薬剤を求めていた。そしてそのことが治療アドヒアランスを改善することに結びついていた。・局所ステロイド薬とは対照的に、ピメクロリムスは皮膚萎縮や表皮バリア機能障害を引き起こさず、敏感肌のAD治療において高い有効性を示した。・また、ピメクロリムスは局所ステロイド薬と比べて皮膚感染症を抑制し、そのほかのステロイド関連の副作用(皮膚線条、末梢血管拡張、視床下部・下垂体・副腎系抑制など)がなかった。・さらに、ピメクロリムスには、相当量のステロイド用量減量効果があることが、付加的ベネフィットとして示された。・著者は、「これらのデータに基づき、軽症~中等症のAD患者(疾患徴候や症状が軽症ADと確認された患者)の新たな治療アルゴリズムとして、ピメクロリムスは第一選択薬として推奨される」、また「局所ステロイド薬の治療後の軽症~中等症ADに対してもピメクロリムスは推奨される」と提案した。・そのほかにも、病変消退後のピメクロリムスによる維持療法は、病状再燃予防に効果がある可能性も示唆されていた。・以上を踏まえ著者は、「ピメクロリムスの臨床プロファイルは、小児および成人の軽症~中等症AD(とくに敏感肌部分)の第一選択薬となりうる可能性を示唆していた」と結論している。

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汚染メチルプレドニゾロン注射による真菌感染症、詳細が明らかに/NEJM

 米国で発生した汚染されたメチルプレドニゾロン酢酸エステル注射が原因の真菌感染症集団発生の患者について詳細が報告された。末梢関節感染が認められない人のうち、中枢神経系感染症は81%であり、また、E. rostratum(エクセロヒルム・ロストラツム)が検出されたのは36%だったことなどが明らかにされた。米国疾病管理予防センター(CDC)のTom M. Chiller氏らが、症例数が最も多かった6州の患者の診療記録を調査し明らかにしたもので、NEJM誌2013年10月24日号で発表した。なお、主な集団発生関連病原体のE. rostratumが原因の感染症については、その詳細はあまり明らかになっていないのが現状だという。症例数が多かった、フロリダ、インディアナなど6州の患者診療記録を調査 研究グループは、報告された真菌感染症の症例数が最も多かった、フロリダ、インディアナ、ミシガン、ニュージャージー、テネシー、バージニアの6州について、2012年11月19日までにCDCに報告された集団発生に関する診療記録を調査した。末梢関節の感染がある人は除外した。 臨床分離株と組織検体について、ポリメラーゼ連鎖反応法と免疫組織化学的検査を行い、病原菌の同定を行った。硬膜外膿瘍などの非CNS感染症、集団発生の後期に発生頻度増加 その結果、被験者328例のうち、中枢神経系(CNS)感染症が認められたのは81%にあたる265例で、非CNS感染症のみが認められたのは63例(19%)だった。 検体が入手可能だった268例のうち、96例(36%)でE. rostratumが検出された。 CNS感染症が認められた人において、脳卒中の発症は、脳脊髄液中の白血球数値が高く、グルコース値が低いことと関連していた。(p<0.001)。 非CNS感染症は、メチルプレドニゾロン注射の最終投与から診断までの日数中央値が、硬膜外膿瘍が39日、脳卒中が21日と、集団発生の後期に発生頻度が高かった。また、こうした非CNS感染症は、髄膜炎を伴う場合と伴わない場合があった。

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急性心筋炎を上気道炎・胃潰瘍と誤診して手遅れとなったケース

循環器最終判決平成15年4月28日 徳島地方裁判所 判決概要高血圧症で通院治療中の66歳女性。感冒症状を主訴として当該病院を受診し、急性上気道炎の診断で投薬治療を行ったが、咳・痰などの症状が持続した。初診から約2週間後に撮影した胸部X線写真には異常はみられなかったが、咳・痰の増悪に加えて悪心、食欲不振など消化器症状が出現したため、肺炎を疑って入院とした。ところが、次第に発汗が多く血圧低下傾向となり、脱水を念頭においた治療を行ったが、入院4日後に容態が急変して死亡した。詳細な経過患者情報本態性高血圧症の診断で降圧薬マニジピンなどを内服していた66歳女性経過平成9年2月19日感冒症状を主訴として来院し、急性上気道炎と診断して感冒薬を処方。その後も数回通院して投薬治療を続けたが、咳・痰などの感冒症状は持続した。3月4日胸部X線撮影では浸潤陰影など肺炎を疑う所見なし。3月6日血圧158/86mmHg、脈拍109/min。発熱はないが咳・痰が増悪し、悪心(嘔気)、食欲不振、呼吸困難などがみられ、肺全体に湿性ラ音を聴取。上腹部に筋性防御を伴わない圧痛がみられた。急性上気道炎が増悪して急性肺炎を発症した疑いがあると診断。さらに食欲不振、上腹部圧痛、嘔気などの消化器症状はストレス性胃潰瘍を疑い、脱水症状もあると判断して入院とした。気管支拡張薬のアミノフィリン(商品名:ネオフィリン)、抗菌薬ミノサイクリン(同:ミノペン)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)、胃酸分泌抑制剤ファモチジン(同:ガスター)などの点滴静注を3日間継続した。この時点でも高熱はないが、悪心(嘔気)、食欲不振、腹部圧痛などの症状が持続し、点滴を受けるたびに強い不快感を訴えていた。3月7日血圧120/55mmHg。3月8日血圧89/58mmHg、胸部の聴診では湿性ラ音は減弱し、心音の異常は聴取されなかった。3月9日血圧86/62mmHgと低下傾向、脈拍(100前後)、悪心(嘔気)が激しく発汗も多くなった。血圧低下は脱水症状によるものと考え、輸液をさらに追加。胸部の聴診では肺の湿性ラ音は消失していた。3月10日06:00血圧80/56mmHg、顔色が悪く全身倦怠感、脱力感を訴えていた。09:30点滴投与を受けた際に激しい悪心が出現し、血圧測定不能、容態が急速に悪化したため、緊急処置を行う。13:30集中治療の効果なく死亡確認。担当医師は死因を心不全によるものと診断、その原因について確定診断はできなかったものの、死亡診断書には急性心筋梗塞と記載した。なお死亡前の血液検査では、aST、aLT、LDHの軽度上昇が認められたが、CRPはいずれも陰性で、腎不全を示す所見も認められなかった。当事者の主張患者側(原告)の主張通院時の過失マニジピン(降圧薬)の副作用として、呼吸器系に対して咳・喘息・息切れを招来し、心不全をもたらすおそれがあるため、長期投与の場合には心電図検査などの心機能検査を定期的に行い、慎重な経過観察を実施する必要があるとされているのに、マニジピンの投与を漫然と継続し、高血圧症の患者には慎重投与を要するプレドニゾロンを上気道炎に対する消炎鎮痛目的で漫然と併用投与した結果、心疾患を悪化させた入院時の過失3月6日入院時に、通院中にはなかった呼吸困難、悪心(嘔気)、食欲不振、頻脈、肺全体の湿性ラ音が聴取されたので、心筋炎などの心疾患を念頭におき、ただちに心電図検査、胸部X線撮影、心臓超音波検査を実施すべき義務があった。さらに入院2日前、3月4日の胸部X線撮影で肺炎の所見がないにもかかわらず、入院時の症状を肺炎と誤診した入院中の過失入院後も悪心(嘔気)、頻脈が持続し、もともと高血圧症なのに3月8日には89/58mmHgと異常に低下していたので、ただちに心疾患を疑い、心電図検査などの心機能検査を行うなどして原因を究明すべき義務があったが、漫然と肺炎の治療をくり返したばかりか、心臓に負担をかけるネオフィリン®を投与して病状を悪化させた死亡原因についてウイルス性上気道炎から急性心筋炎に罹患し、これが原因となって心原性ショックに陥り死亡した。入院時および入院中血圧の低下がみられた時点で心電図検査など心機能検査を実施していれば、心筋炎ないし心不全の状態にあったことが判明し、救命できた可能性が高い病院側(被告)の主張通院期間中の過失の不存在通院期間中に投与した薬剤は禁忌ではなく、慎重投与を要するものでもなかったので、投薬について不適切な点はない入院時の過失の不存在3月6日入院時にみられた症状は、咳・痰、発熱、呼吸困難などの感冒症状および腹部圧痛などの消化器症状のみであり、また、肺の湿性ラ音は肺疾患の特徴である。したがって、急性上気道炎が増悪して急性肺炎に罹患した疑いがあると診断したことに不適切な点はない。また、心筋炎など心疾患を疑わせる明確な症状はなかったので、心電図検査などの心機能検査を実施しなかったのは不適切ではない入院中の過失の不存在入院後も心筋炎など心疾患を疑わせる明確な所見はなく、総合的に判断してもっとも蓋然性の高い急性肺炎および消化器疾患を疑い、治療の効果が現れるまで継続したので不適切な点があったとはいえない死因について胃酸や胆汁の誤嚥により急速な血圧低下が生じた可能性がある。入院中、胸痛、心筋逸脱酵素の上昇、腎機能障害など心疾患を疑わせる明確な所見もみられなかったので、急性心筋炎などの心疾患であるとの確定的な診断は不可能である。死因が心筋炎によるものであると確定的に診断できないのであるから、心筋炎に対する診療を実施したとしても救命できたかどうかはわからない裁判所の判断本件では入院後に胸部X線撮影や心電図検査などが行われていないため、死因を確定することはできないが、その臨床経過からみてウイルス性の急性上気道炎から急性心筋炎に罹患し、心タンポナーデを併発して、心原性ショック状態に陥り死亡した蓋然性が高い。診療経過を振り返ると、2月中旬より咳・痰などの急性上気道炎の症状が出現し、投薬などの治療を受けていたものの次第に悪化、3月6日には肺に湿性ラ音が聴取され呼吸困難もみられたので、急性肺炎の発症を疑って入院治療を勧めたこと自体は不適切ではない。しかし入院後は、肺炎のみでは合理的な説明のできない症状や肺炎にほかの疾病が合併していた可能性を疑わせる症状が多数出現していたため、肺炎の治療を開始するに当たって、再度胸部X線撮影などを実施して肺炎の有無を確認するとともに、ほかの合併症の有無を検索する義務があった。しかし担当医師は急性肺炎などによるものと軽信し、胸部X線撮影を実施するなどして肺炎の確定診断を下すことなく、漫然と肺炎に対する投薬(点滴)治療を開始したのは明らかな過失である。さらに入院後、3月8日に著明な低血圧が進行した時点で心筋炎による心不全の発症を疑い、ただちに胸部X線撮影、心電図検査、心臓超音波検査などを実施するとともに、カテコラミンを投与するなどして血圧低下の進行を防ぐ義務があったにもかかわらず、漫然と肺炎に対する点滴治療を継続したのは明らかな過失である。そして、血圧低下の原因は、心筋炎から心タンポナーデを併発しショック状態が進行した可能性が高い。心タンポナーデは心嚢貯留液を除去することにより解消できるから、心電図検査などの諸検査を実施したうえで心タンポナーデに対し適切な治療行為を実施していれば救命できただろう。たとえ心タンポナーデによるものでなかったとしても、血圧低下やショックの進行は比較的緩徐であったことから、ただちに血圧低下の進行を防ぐ治療を実施したうえでICUなどの設備のある中核病院に転送させ、適切な治療を受ける機会を与えていれば、救命できた可能性が高い。原告側合計5,555万円の請求に対し、4,374万円の支払い命令考察今回のケースは、診断が非常に難しかったとは思いますが、最初から最後まで急性心筋炎のことを念頭に置かずに、「風邪をこじらせただけだろう」という思いこみが背景にあったため、救命することができませんでした。急性心筋炎の症例は、はじめは風邪と類似した病態、あるいは消化器症状を主訴として来院することがあるため、普段の診療でも遭遇するチャンスが多いと思います。しかも急性心筋炎のなかには、ごく短時間に劇症化しCCU管理が必要なこともありますので、細心の注意が必要です。本件でもすべての情報が出揃ったあとで死亡原因を考察すれば、たしかに急性心筋炎やそれに引き続いて発症した心タンポナーデであろうと推測することができると思います。しかし、今までに急性心筋炎を経験したことがなければ、そして、循環器専門医に気軽に相談できる診療環境でなければ、当時の少ない情報から的確に急性心筋炎を診断し(あるいは急性心筋炎かも知れないと心配し)、設備の整った施設へ転院させようという意思決定には至らなかった可能性が高いと思います。もう一度経過を整理すると、ICUをもたない小規模の病院に、高血圧で通院していた66歳女性が咳、痰を主訴として再診し、上気道炎の診断で投薬治療が行われました。ところが、約2週間通院しても咳、痰は改善しないばかりか、食欲不振、悪心などの消化器症状も加わったため、「肺炎、胃潰瘍」などの診断で入院措置がとられました。入院2日前の胸部X線撮影では明らかな肺炎像はなかったものの、咳、痰に加えて湿性ラ音が聴取されたとすれば、呼吸器疾患を疑って診断・治療を進めるのが一般的でしょう。ところが、入院後に抗菌薬などの点滴をすると「強い不快感」が出現するというエピソードをくり返し、もともと高血圧症の患者でありながら入院2日後には血圧が80台へと低下しました。このとき、入院時に認められていた湿性ラ音が消失していたため、担当医師は抗菌薬の効果が出てきたと判断、血圧低下は脱水によるものだろうと考えて、輸液を増やす指示を出しました。しかしこの時点ですでに心タンポナーデが進行していて、脱水という不適切な判断により投与された点滴が、病態をさらに悪化させたことになります。心タンポナーデでは、心膜内に浸出液が貯留して静脈血の心臓への環流が妨げられるため、心拍量が低下して低血圧が生じるほか、消化管のうっ血が強く生じるため嘔気などの消化器症状がみられます。さらに肺への血流が減少して肺うっ血が減少し、湿性ラ音が聴取されなくなることも少なくありません。このような逆説的ともいえる病態をまったく考えなかったことが、血圧低下=脱水=補液の追加という判断につながり、病態の悪化に拍車をかけたと思われます。なお本件では、肺炎と診断しておきながら胸部X線写真を経時的に施行しなかったり、血圧低下がみられても心電図すら取らなかったりなど、入院患者に対する対応としては不十分でした。やはりその背景には、「風邪をこじらせた患者」だから、「抗菌薬さえ投与しておけば安心だろう」という油断があったことは否めないと思います。普段の臨床でも、たとえば入院中の患者に一時的な血圧低下がみられた場合、「脱水」を念頭において補液の追加を指示したり、あるいはプラスマネートカッターのようなアルブミン製剤を投与して経過をみるということはしばしばあると思います。実際に、手術後の患者や外傷後のhypovolemic shockが心配されるケースでは、このような点滴で血圧は回復することがありますが、脱水であろうと推測する前に、本件のようなケースがあることを念頭において、けっして輸液過剰とならないような配慮が望まれます。循環器

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重症型アルコール性肝炎の2剤併用療法、予後を改善せず/JAMA

 重症型アルコール性肝炎の治療において、プレドニゾロンにペントキシフィリン(国内未承認)を追加しても予後は改善しないことが、フランス・Hopital HuriezのPhilippe Mathurin氏らの検討で示された。重症型アルコール性肝炎は死亡リスクの高い疾患であり、プレドニゾロンおよびペントキシフィリンはその治療薬として推奨されている。これら2つの薬剤は相乗効果を示す可能性が示唆されていたが、これまで併用療法に関する無作為化試験は行われていなかった。JAMA誌2013年9月11日号掲載の報告。上乗せ効果をプラセボ対照無作為化試験で評価 研究グループは、重症型アルコール性肝炎患者に対するプレドニゾロン+ペントキシフィリン併用療法の有用性を、プレドニゾロン単独療法と比較する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。 対象は、年齢18~70歳の大量飲酒者で、直近3ヵ月以内に黄疸を発症し、Maddrey discriminant functionスコア(プロトロンビン時間と総ビリルビン値から算出)が≧32であることから重症型アルコール性肝炎が疑われ、生検にてこれを証明された患者とした。 被験者は、プレドニゾロン40mg(1日1回)+ペントキシフィリン400mg(1日3回)を投与する群またはプレドニゾロン40mg(1日1回)+プラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、28日間の治療が行われた。 6ヵ月生存率を主要評価項目とし、肝腎症候群の発現およびリール・モデルに基づく治療反応性(治療開始から7日目にスコアを算出し、治療反応なしと判定された場合)を副次評価項目とした。肝腎症候群は減少傾向に、ただし検出にはパワー不足の可能性も 2007年12月~2010年3月までに、ベルギーの1施設とフランスの23施設から270例が登録され、併用療法群に133例(平均年齢51.5歳、男性62.4%、生検で証明された肝硬変91.7%)、プラセボ群には137例(51.8歳、58.4%、94.2%)が割り付けられた。 6ヵ月後までに併用群の40例、プラセボ群の42例が死亡し、生存率はそれぞれ69.9%、69.2%であり、両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.63~1.51、p=0.91)。多変量解析を行ったところ、6ヵ月生存の有意な予測因子は、リール・モデル(p<0.001)と末期肝不全(MELD)スコア(p<0.001)だけであり、治療法、性別、年齢などとは関連がなかった。 7日目のリール・モデルによる治療反応性の評価では、併用群のスコアが0.41、プラセボ群は0.40と両群間に差はなく(p=0.80)、その後に治療に反応する可能性もそれぞれ62.6%、61.9%と差を認めなかった(p=0.91)。 6ヵ月後の肝腎症候群の発症率は、併用群が8.4%と、プラセボ群の15.3%に比べ低い傾向を示したものの有意な差はなかった(p=0.07)。 著者は、「プレドニゾロンへのペントキシフィリンの上乗せ効果は確認できなかった。重症型アルコール性肝炎に対するこれら2剤の併用療法は支持されない」とし、「本試験は、肝腎症候群の差を検出するにはパワー不足であった可能性がある」と指摘している。

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椎間板ヘルニアに対して椎弓間硬膜外ステロイド注入は有効か

 腰椎椎間板ヘルニアの治療において硬膜外注射は広く使用されているが、その有効性や必要性、適応症などについては今も議論が続いている。米国・ルイビル大学のLaxmaiah Manchikanti氏らは、腰椎椎間板ヘルニアや神経根炎の疼痛管理に対する最新の介入法である蛍光透視下の椎弓間硬膜外注射の有効性を評価するため、無作為化二重盲検比較試験を行い、この方法による局所麻酔薬の注入は有効であることを明らかにした。1年間の追跡では局所麻酔薬単独使用よりステロイド併用のほうが優れている可能性も示唆している。Pain Practice誌2013年9月(オンライン版2012年12月27日)の掲載報告。 研究グループは、腰椎椎間板ヘルニアまたは神経根炎患者120例を対象に、局所麻酔薬(リドカイン0.5%、6mL)単独使用と局所麻酔薬(リドカイン0.5%、5mL)+ステロイド(ベタメタゾン1mL)併用の椎弓間硬膜外注射を比較する無作為化二重盲検比較試験を実施した。 主要評価項目は、疼痛緩和および50%以上の機能改善である。 主な結果は以下のとおり。・2回の治療で3週間以上疼痛が緩和し有意な改善がみられたのは、局所麻酔薬単独使用群80%、ステロイド併用群86%であった。・1年間(52週)の平均治療回数は局所麻酔薬単独使用群3.6回、ステロイド併用群4.1回で、鎮痛が得られていた期間はそれぞれ33.7±18.1週および39.1±12.2週であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識・脊椎疾患にみる慢性疼痛 脊髄障害性疼痛/Pain Drawingを治療に応用する・無視できない慢性腰痛の心理社会的要因…「BS-POP」とは?

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妊娠中のステロイド外用剤、胎児への影響

 イギリスで実施された、妊娠中の副腎皮質ステロイド外用剤塗布の母体曝露について、その影響を調査した後ろ向きコホート研究の結果が、台湾・長庚記念病院のChing-Chi Chi氏らによって報告された。 それによると、副腎皮質ステロイド外用剤塗布と、口唇口蓋裂、早産、胎児死亡、アプガースコア低値、分娩方法との間には相関がみられなかったこと、一方で、低出生体重に関しては、副腎皮質ステロイド外用剤の塗布量が関与することが示された。JAMA Dermatology誌オンライン版2013年9月4日号掲載の報告。 調査はイギリスの国民保健サービスが主導し、参加者は、副腎皮質ステロイド外用剤を塗布している妊婦2,658人と、塗布していない妊婦7,246人であった。 主要アウトカムは、口唇口蓋裂、低出生体重児、早産、胎児死亡、アプガースコア低値、分娩方法であった。 主な結果は以下のとおり。・一次解析において、副腎皮質ステロイド外用剤の塗布と主要アウトカムに相関はみられなかった。[口唇口蓋裂(調整後リスク比:1.85、95%CI:0.22~15.20、p=0.57)、低出生体重(同:0.97、同:0.78~1.19、p=0.75)、早産(同:1.20、同:0.73~1.96、p=0.48)、胎児死亡(1.07、同:0.56~2.05、p=0.84)、アプガースコア低値(同:0.84、同:0.54~1.31、p=0.45)、分娩方法(p=0.76)]・薬剤の力価による層別解析においても、顕著な相関はみられなかった。・予備解析において、potent/ very potentクラス※の副腎皮質ステロイドを、全妊娠期間中に300g超使用した場合、低出生体重が有意に増加した(同:7.74、同:1.49~40.11、p=0.02)。※副腎皮質ステロイド外用剤の強さを、強いものからVery Potent、Potent、Moderate、 Mildの4段階に分類。

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クッシング病〔CD : Cushing's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クッシング症候群は、副腎からの慢性的高コルチゾール血症に伴い、特異的・非特異的な症候を示す病態である。高コルチゾール血症の原因に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が関与するか否かで、ACTH依存性と非依存性とに大別される。ACTH非依存性クッシング症候群では、ACTHとは無関係に副腎(腺腫、がん、過形成など)からコルチゾールが過剰産生される。ACTH依存性クッシング症候群のうち、異所(非下垂体)性ACTH産生腫瘍(肺小細胞がんやカルチノイドなど)からACTHが過剰分泌されるものを異所性ACTH症候群、ACTH産生下垂体腺腫からACTHが過剰分泌されるものをクッシング病(Cushing's disease:CD)と呼ぶ。■ 疫学わが国のクッシング症候群患者数は1,100~1,400人程度と推定されているが、その中で、CD患者は約40%程度を占めると考えられている。発症年齢は40~50代で、男女比は1:4程度である。■ 病因ACTH産生下垂体腺腫によるが、大部分(90%以上)は腫瘍径1 cm未満の微小腺腫である。ごくまれに、下垂体がんによる場合もある。■ 症状高コルチゾール血症に伴う特異的な症候としては、満月様顔貌、中心性肥満・水牛様脂肪沈着、皮膚線条、皮膚のひ薄化・皮下溢血や近位筋萎縮による筋力低下などがある。非特異的な徴候としては、高血圧、月経異常、ざ瘡(にきび)、多毛、浮腫、耐糖能異常や骨粗鬆症などが挙げられる(表)。一般検査では、好中球増多、リンパ球・好酸球減少、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高カルシウム尿症、高血糖、脂質異常症などを認める。■ 分類概念・定義の項を参照。■ 予後治療の項を参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)高コルチゾール血症に伴う主症候が存在し、早朝安静(30分)空腹時採血時の血中コルチゾール(および尿中遊離コルチゾール)が正常~高値を示す際に、クッシング症候群が疑われる。さらに、同時採血時の血中ACTHが正常~高値(おおむね10 pg/mL以上)の場合は、ACTH依存性クッシング症候群が疑われる(表)。次にACTH依存性を証明するためのスクリーニング検査を行う。(1)一晩少量(0.5 mg)デキサメタゾン抑制試験にて翌朝の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示し、さらに、(2)血中コルチゾール日内変動の欠如(深夜睡眠時の血中コルチゾール値が5μg/dL以上)、(3)DDAVP試験に対するACTH反応性(前値の1.5倍以上)の存在(例外:異所性ACTH症候群でも陽性例あり)、(4)深夜唾液中コルチゾール値(わが国ではあまり普及していない)高値(1)は必須で、さらに(2)~(4)のいずれかを満たす場合は、ACTH依存性クッシング症候群と考えられる。ここで、偽性クッシング症候群(うつ病・アルコール多飲)は除外される。次に、CDと異所性ACTH症候群との鑑別のための以下の確定診断検査を行う。(1)CRH試験に対するACTH反応性(前値の1.5倍以上)の存在(例外:下垂体がんや巨大腺腫の場合は反応性欠如例あり、一方、カルチノイドによる異所性ACTH症候群の場合は反応例あり)(2)一晩大量(8mg)デキサメタゾン抑制試験にて、翌朝の血中コルチゾール値の前値との比較で半分以下の抑制(例外:巨大腺腫や著明な高コルチゾール血症の場合は非抑制例あり、一方、カルチノイドによる異所性ACTH症候群の場合は抑制例あり)(3)MRI検査にて下垂体腫瘍の存在以上の3点が満たされれば、ほぼ確実であると診断される。しかしながら、CDは微小腺腫が多いことからMRIにて腫瘍が描出されない症例が少なからず存在する。その一方で、健常者でも約10%で下垂体偶発腫瘍が認められることから、CDの確実な診断のためにさらに次の検査も行う。(4)選択的静脈洞血サンプリング(海綿静脈洞または下錐体静脈洞)を施行する。血中ACTH値の中枢・末梢比が2以上(CRH刺激後は3以上)の場合は、CDと診断される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的療法CD治療の第一選択は、経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術(trans-sphenoidal surgery:TSS)であるが、手術による寛解率は60~90%と報告されている。完全に腫瘍が摘出されれば術後の血中ACTH・コルチゾール値は測定感度以下となり、ヒドロコルチゾンの補充が6ヵ月~2年間必要となる。術後の血中ACTH・コルチゾール値が高値の場合は腫瘍の残存が疑われ、正常範囲内の場合でも再燃する場合が多いために注意が必要である。術後の非寛解例・再発例は、各々10%程度存在すると考えられている。手術不能例や術後の残存腫瘍に対しては、ガンマナイフやサイバーナイフを用いた定位放射線照射を行う。効果発現までには長期間かかるため、薬物療法との併用が必要である。また、従来の通常分割外照射ほどではないが、長期的には下垂体機能低下症のリスクが存在する。■ 薬物療法薬物療法は、下垂体に作用するものと副腎に作用するものに大別される。1)下垂体に作用する薬剤下垂体腺腫に作用してACTH分泌を抑制する薬剤としては、ドパミン受容体作動薬[ブロモクリプチン(商品名:パーロデル)やカベルゴリン(同:カバサール)]、セロトニン受容体拮抗薬[シプロヘプタジン(同:ペリアクチン)]、持続性ソマトスタチンアナログ[オクトレオチド(同:サンドスタチンほか)]やバルプロ酸ナトリウム(同:デパケンほか)などが使用されるが、有効例は20%未満と少ない。2)副腎に作用する薬剤副腎に作用する薬剤としてはメチラポン(同:メトピロン)やミトタン(同:オペプリム)が用いられる。とくに11β‐水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは、高コルチゾール血症を短時間で確実に低下させることから、術前例も含めて頻用される。以前、同薬剤は、診断薬としてのみ認可されていたが、2011年からは治療薬としても認可されている。ミトタンは80%以上の有効性が報告されているが、効果発現までの期間が長く、副腎皮質を不可逆的に破壊することから、使用には注意が必要である。初回のTSSで寛解した場合の予後は良好であるが、腫瘍残存例や再発例は、高コルチゾール血症に伴う感染症、高血圧、糖尿病、心血管イベントなどのため、長期予後は不良である。4 今後の展望CD患者の長期予後改善のためには、下垂体に作用する新規薬剤の開発・実用化が急務と考えられる。近年、5型ソマトスタチン受容体に親和性の高い新規ソマトスタチンアナログSOM230(pasireotide)が開発されたが、わが国では治験中であり、まだ使用開始となっていない。また、最近では、レチノイン酸の有効性も報告されており、今後の臨床応用が期待される。5 主たる診療科内分泌代謝内科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター クッシング病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)

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国内初、乾癬治療の配合外用剤を承認申請

 レオ ファーマは23日、乾癬治療剤として、活性型ビタミンD3であるカルシポトリオールと副腎皮質ホルモン剤(以下、ステロイド)であるベタメタゾンジプロピオン酸エステルの配合外用剤の承認申請を行ったと発表した。 今回の申請は、主に日本における安全性試験ならびに尋常性乾癬患者を対象とした第III相試験の結果に基づいて同社が行ったもの。 乾癬は慢性かつ難治性の皮膚疾患で、日本における有病率は1,000人中1~2人と報告がある。乾癬の治療法には活性型ビタミンD3やステロイドなどの外用療法、光線療法、内服療法があり、近年は生物学的製剤による治療法が重症例に提供されるようになった。しかし、患者の大半を占める軽症から中等症に対しては、従来より活性型ビタミンD3やステロイドなどの外用剤による治療が主として行われており、単剤のみならず、多くの両剤併用、混合調製がされており、乾癬治療に用いられる外用剤には、より高い有用性ならびに投与の簡便性が求められているという。 今回申請した配合外用剤は、上記の課題を解決すべく開発したもので、2001年に尋常性乾癬に対する外用剤としてデンマークで上市されて以来、米国を含め世界97ヵ国で承認、販売されている薬剤で、尋常性乾癬治療の第一選択薬として世界的に汎用されているものである。日本では初めての活性型ビタミンD3とステロイドの配合外用剤(1日1回塗布)になる。 詳細はプレスリリースへhttp://www.leo-pharma.jp/ホーム/プレスリリース.aspx

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心肺蘇生でのVSEコンビネーション療法、神経学的に良好な生存退院率を改善/JAMA

 心停止患者の蘇生処置について、心肺蘇生(CPR)中のバソプレシン+エピネフリンとメチルプレドニゾロンの組み合わせ投与および蘇生後ショックに対するヒドロコルチゾン投与は、プラセボ(エピネフリン+生理食塩水)との比較で、神経学的に良好な状態で生存退院率を改善することが明らかにされた。ギリシャ・アテネ大学のSpyros D. Mentzelopoulos氏らが無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間試験の結果、報告した。先行研究において、バソプレシン-ステロイド-エピネフリン(VSE)のコンビネーション療法により、自発的な血液循環および生存退院率が改善することが示唆されていたが、VSEの神経学的アウトカムへの効果については明らかではなかった。JAMA誌2013年7月17日号掲載の報告より。20分以上の自発的な血液循環、CPCスコア1もしくは2での生存退院率を評価 研究グループは、昇圧薬を必要とした院内心停止患者について、CPR中のバソプレシン+エピネフリン投与と、CPR中またはCPR後にコルチコステロイドを投与する組み合わせが、生存退院率を改善するかを、脳機能カテゴリー(Cerebral Performance Category:CPC)スコアを用いて評価を行った。同スコアの1、2を改善の指標とした。 試験は2008年9月1日~2010年10月1日の間に、ギリシャの3次医療センター3施設(病床数計2,400床)を対象に行われた。被験者は、蘇生ガイドラインに従いエピネフリン投与を必要とした院内心停止患者で、364例が試験適格について評価を受け、そのうち268例が解析に組み込まれた。 被験者は、バソプレシン(CPRサイクル当たり20 IU)+エピネフリン(同1mg;約3分間隔で)投与群(VSE群、130例)か、生理食塩水+エピネフリン(同1mg;約3分間隔で)投与群(対照群、138例)に無作為化され、初回CPRを5サイクル受けた。必要に応じてエピネフリンの追加投与を受けた。無作為化後の初回CPR中、VSE群はメチルプレドニゾロン(40mg)も受けた。対照群は生理食塩水を受けた。 また、蘇生後ショックに対しては、VSE群(76例)に対してはヒドロコルチゾンをストレス用量で投与し(最大量300mg/日を7日間投与したあと漸減)、対照群(73例)には生理食塩水を投与した。 主要評価項目は、20分以上の自発的な血液循環(ROSC)、CPCスコア1もしくは2での生存退院率とした。CPCスコア1もしくは2での生存退院率改善は、VSE群が対照群の3.28倍 全蘇生患者についてフォローアップは完遂された。 VSE群の患者は対照群と比べて、20分以上のROSCの達成患者が有意に高率だった(83.9%対65.9%、オッズ比[OR]:2.98、95%信頼区間[CI]:1.39~6.40、p=0.005)。 CPCスコア1もしくは2で生存退院した患者の割合も有意に高率だった(13.9%対5.1%、OR:3.28、95%CI:1.17~9.20、p=0.02)。 蘇生後ショックの処置について、ヒドロコルチゾン投与を受けたVSE群のほうが、プラセボ投与を受けた対照群と比べて、CPCスコア1もしくは2で生存退院した患者の割合が有意に高率だった(21.1%対8.2%、OR:3.74、95%CI:1.20~11.62、p=0.02)。 有害イベントの発現率は、両群で同程度だった。

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血管撮影後の脳梗塞で死亡したケース

脳・神経最終判決判例タイムズ 971号201-213頁概要右側頸部に5cm大の腫瘤がみつかった52歳女性。頸部CTや超音波検査では嚢胞性病変が疑われた。担当医は術前検査として腫瘍周囲の血管を調べる目的で頸部血管撮影を施行した。鎖骨下動脈、腕頭動脈につづいて右椎骨動脈撮影を行ったところ、直後に頭痛、吐き気が出現。ただちにカテーテルを抜去し検査を中断、頭部CTで脳内出血はないことを確認して脳梗塞に準じた治療を行った。ところが検査から約12時間後に心停止・呼吸停止となり、いったんは蘇生に成功したものの、重度の意識障害が発生、1ヵ月後に死亡となった。詳細な経過患者情報52歳女性経過1989年8月末右頸部の腫瘤に気付く。1989年9月7日某病院整形外科受診。右頸部の腫瘤に加えて、頸から肩にかけての緊張感、肩こり、手の爪の痛みあり。頸部X線写真は異常なし。9月18日頸部CTで右頸部に直径5cm前後の柔らかい腫瘤を確認。9月21日診察時に患者から「頸のできものが時々ひどく痛むので非常に不安だ。より詳しく調べてあれだったら手術してほしい」と申告を受ける。腫瘍マーカー(CEA、AFP)は陰性。10月5日頸部超音波検査にて5cm大の多房性、嚢腫性の腫瘤を確認。10月17日手術目的で入院。部長の整形外科医からは鑑別診断として、神経鞘腫、血管腫、類腱鞘腫、胎生期からの側頸嚢腫などを示唆され、脊髄造影、血管撮影などを計画。10月18日造影CTにて問題の腫瘤のCT値は10-20であり、内容物は水様で神経鞘腫である可能性は低く、無血管な嚢腫様のものであると考えた。10月19日脊髄造影にて、腫瘍の脊髄への影響はないことが確認された。10月23日血管撮影検査。15:00血管撮影室入室。15:15セルジンガー法による検査開始。造影剤としてイオパミドール(商品名:イオパミロン)370を使用。左鎖骨下動脈撮影(造影剤20mL)腕頭動脈撮影(造影剤10mL):問題の腫瘤が右総頸動脈および静脈を圧迫していたため、腫瘤が総頸動脈よりも深部にあることがわかり、椎骨動脈撮影を追加右椎骨動脈撮影(造影剤8mL:イオパミロン®370使用):カテーテル先端が椎骨動脈に入りにくく、2~3回造影剤をフラッシュしてカテーテルの位置を修正したうえで、先端を椎骨動脈分岐部から1~3cm挿入して造影16:00右椎骨動脈撮影直後、頭痛と吐き気が出現したため、ただちにカテーテルを抜去。16:10嘔吐あり。造影剤の副作用、もしくは脳浮腫を考えてメチルプレドニゾロン(同:ソル・メドロール)1,000mg、造影剤の排出目的でフロセミド(同:ラシックス)使用。全身状態が落ち着いたうえで頭部CTを施行したが、脳出血なし。17:00症状の原因として脳梗塞または脳虚血と考え、血液代用剤サヴィオゾール500mL、血栓溶解薬ウロキナーゼ(同:ウロキナーゼ)6万単位投与。その後も頭痛、吐き気、めまいや苦痛の訴えがあり、不穏状態が続いたためジアゼパム(同:セルシン)投与。10月24日02:00血圧、呼吸ともに安定し入眠。03:00急激に血圧上昇(収縮期圧200mmHg)。04:20突然心停止・呼吸停止。いったんは蘇生したが重度の意識障害が発生。11月21日死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.血管撮影の適応頸部の腫瘤で血管撮影の適応となるのは、血管原性腫瘤、動脈瘤、蛇行性の右鎖骨下動脈、甲状腺がん、頸動脈球腫瘍、脊髄腫瘤などであるのに、良性の嚢胞性リンパ管腫が疑われた本件では血管撮影の適応自体がなかった。もし血管撮影を行う必要があったとしても、脳血管撮影に相当する椎骨動脈撮影までする必要はなかった2.説明義務違反検査前には良性の腫瘍であることが疑われていたにもかかわらず、がんの疑いがあると述べたり、「安全な検査である」といった大雑把かつ不正確な説明しか行わなかった3.カテーテル操作上の過失担当医師のカテーテル操作が未熟かつ粗雑であったために、選択的椎骨動脈撮影の際に血管への刺激が強くなり、脳梗塞が発生した4.造影剤の誤り脳血管撮影ではイオパミロン®300を使用するよう推奨されているにもかかわらず、椎骨動脈撮影の際には使用してはならないイオパミロン®370を用いたため事故が発生した病院側(被告)の主張1.血管撮影の適応血管撮影前に問題の腫瘤が多房性リンパ管腫であると診断するのは困難であった。また、頸部の解剖学的特性から、腫瘍と神経、とくに腕神経叢、動静脈との関係を熟知するための血管撮影は、手術を安全かつ確実に行うために必要であった2.説明義務違反血管撮影の方法、危険性については十分に説明し、患者は「よろしくお願いします」と答えていたので、説明義務違反には該当しない3.カテーテル操作上の過失担当医師のカテーテル操作に不適切な点はない4.造影剤の誤り明確な造影効果を得るには濃度の高い造影剤を使用する必要があった。当時カテーテル先端は椎骨動脈に1cm程度しか入っていなかったので動脈内に注入した時点で造影剤は希釈されるので、たとえ高い浸透圧のイオパミロン®370を使用したとしても不適切ではない。しかも過去には、より濃度の高い造影剤アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン(同:ウログラフィン)を脳血管撮影に使用したとの報告もあるので、単にイオパミロン®370のヨード含有濃度や粘稠度の高さをもって副作用の危険性を判断することは妥当ではない裁判所の判断1. 血管撮影の適応今回の椎骨動脈撮影を含む血管撮影は、腫瘍の良悪性を鑑別するという点では意義はないが、腫瘍の三次元的な進展範囲を把握するためには有用であるため、血管撮影を施行すること自体はただちに不適切とはいえない。しかし、それまでに実施した鎖骨下動脈、腕頭動脈の撮影結果のみでも摘出手術をすることは可能であったので、椎骨動脈撮影の必要性は低く、手術や検査の必要性が再検討されないまま漫然と実施されたのは問題である。2. 説明義務違反「腫瘍が悪性であれば手術をしてほしい」という患者の希望に反し、腫瘍の性質についての判断を棚上げした状態で手術を決定し、患者は正しい事実認識に基づかないまま血管撮影の承諾をしているので、患者の自己決定権を侵害した説明義務違反である。3. カテーテル操作上の過失、造影剤の選択椎骨動脈へ何度もカテーテル挿入を試みると、その刺激により血管の攣縮、アテロームの飛散による血管の塞栓などを引き起こす可能性があるので、無理に椎骨動脈へカテーテルを進めるのは避けるべきであったのに、担当医師はカテーテル挿入に手間取り、2~3回フラッシュしたあとでカテーテル先端を挿入したのは過失である。4. 造影剤の誤りイオパミロン®300は、イオパミロン®370に比べて造影効果はやや低いものの、人体に対する刺激および中枢神経に対する影響(攣縮そのほかの副作用)が少ない薬剤であり、添付文書の「効能・効果欄」には「脳血管撮影についてはイオパミロン®300のみを使用するべきである」と記載されている。しかも、椎骨動脈撮影の際には、造影剤をイオパミロン®370から300へ交換することは技術的に可能であったので、イオパミロン®370を脳血管撮影である椎骨動脈撮影に使用したのは過失である。結局死亡原因は、椎骨動脈撮影時カテーテルの刺激、または造影剤による刺激が原因となって脳血管が血管攣縮(スパズム)を起こし、あるいは脳血管中に血栓が形成されたために、椎骨動脈から脳底動脈にいたる部分で脳梗塞を起こし、さらに脳出血、脳浮腫を経て、脳ヘルニア、血行障害のために2次的な血栓が形成され、脳軟化、髄膜炎、を合併してレスピレーター脳症を経て死亡した。原告側合計4,600万円の請求に対し、3,837万円の判決考察本件は、良性頸部腫瘤を摘出する際の術前検査として、血管撮影(椎骨動脈撮影)を行いましたが、不幸なことに合併症(脳梗塞)を併発して死亡されました。裁判では、(1)そもそも脳血管撮影まで行う必要があったのか(2)選択的椎骨動脈撮影を行う際の手技に問題はなかったのか(3)脳血管撮影に用いたイオパミロン®370は適切であったのかという3点が問題提起され、結果的にはいずれも「過失あり」と認定されました。今回の事案で血管撮影を担当されたのは整形外科医であり、どちらかというと脳血管撮影には慣れていなかった可能性がありますので、造影剤を脳血管撮影の時に推奨されている「より浸透圧や粘調度の低いタイプ」に変更しなかったのは仕方がなかったという気もします。そのため、病院側は「浸透圧の高い造影剤を用いても特段まずいということはない」ということを強調し、「椎骨動脈撮影時には分岐部から約1cmカテーテルを進めた状態であったので、造影剤が中枢方向へ逆流する可能性がある。また、造影されない血液が多少は流れ込んで造影剤が希釈される。文献的にも、高濃度のウログラフィン®を脳血管撮影に用いた報告がある」いう鑑定書を添えて懸命に抗弁しましたが、裁判官はすべて否認しました。その大きな根拠は、やはり何といっても「添付文書の効能・効果欄には脳血管撮影についてはイオパミロン®300のみを使用するべきであると記載されている」という事実に尽きると思います。ほかの多くの医療過誤事例でもみられるように、薬剤に起因する事故が医療過誤かどうかを判断する(唯一ともいってよい)物差しは、添付文書(効能書)に記載された薬剤の使用方法です。さらに付け加えると、もし適正な使用方法を行ったにもかかわらず事故が発生した場合には、わが国では「医薬品副作用被害救済基金法」という措置があります。しかし、この制度によって救済されるためには、「薬の使用法が適性であったこと」が条件とされますので、本件のように「医師の裁量」下で添付文書とは異なる投与方法を選択した場合には、「医薬品副作用被害救済基金法」は適用されず、医療過誤として提訴される可能性があります。本事案から学び取れるもう1つの重要なポイントは、(2)で指摘した「そもそも脳血管撮影まで行う必要があったのか」という点です。これについてはさまざまなご意見があろうかと思いますが、今回の頸部腫瘤はそれまでのCT、超音波検査、脊髄造影などで「良性嚢胞性腫瘤であるらしい」ことがわかっていましたので、(椎骨動脈撮影を含む)血管撮影は「絶対に必要な検査」とまではいかず、どちらかというと「摘出手術に際して参考になるだろう」という程度であったと思います。少なくとも造影CTで血管性病変は否定されましたので、手術に際し大出血を来すという心配はなかったはずです。となると、あえて血管撮影まで行わずに頸部腫瘤の摘出手術を行う先生もいらっしゃるのではないでしょうか。われわれ医師は研修医時代から、ある疾患の患者さんを担当すると、その疾患の「定義、病因、頻度、症状、検査、治療、予後」などについての情報収集を行います。その際の「検査」に関しては、医学書には代表的な検査方法とその特徴的所見が列挙されているに過ぎず、個々の検査がどのくらい必要であるのか、あえて施行しなくてもよい検査ではないのかというような点については、あまり議論されないような気がします。とくに研修医にとっては、「この患者さんにどのような検査が必要か」という判断の前に、「この患者さんにはどのような検査ができるか」という基準になりがちではないかと思います。もし米国であれば、医療費を支払う保険会社が疾患に応じて必要な検査だけを担保していたり、また、DRG-PPS(Diagnostic Related Groups-Prospective Payment System:診療行為別予見定額支払方式)の制度下では、検査をしない方が医療費の抑制につながるという面もあるため、「どちらかというと摘出手術に際して参考になるだろうという程度」の検査をあえて行うことは少ないのではないかと思います。ところがわが国の制度は医療費出来高払いであるため、本件のような「腫瘍性病変」に対して血管撮影を行っても、保険者から医療費の査定を受けることはまずないと思います。しかも、ややうがった見方になるかもしれませんが、一部の病院では入院患者に対しある程度の売上を上げるように指導され、その結果必ずしも必要とはいえない検査まで組み込まれる可能性があるような話を耳にします。このように考えると本件からはさまざまな問題点がみえてきますが、やはり原則としては、侵襲を伴う可能性のある検査は必要最小限にとどめるのが重要ではないかと思います。その際の判断基準としては、「自分もしくはその家族が患者の立場であったら、このような検査(または治療)を進んで受けるか」という点も参考になるのではないかと思います。脳・神経

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原発性骨髄線維症〔 primary myelofibrosis 〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis)は、造血幹細胞レベルで生じた遺伝子異常により骨髄で巨核球と顆粒球系細胞が増殖し、骨髄に広範な線維化を来す骨髄増殖性腫瘍である。本疾患は骨髄組織における異型性のある巨核球の過形成を伴う、広範かつ過剰な反応性の膠原線維の増生による造血巣の縮小と骨硬化、および脾腫を伴う著明な髄外造血を特徴とする。■ 疫学わが国における推定新規発症例は年間40~50例で、患者数は全国で約700人と推定される。本疾患は高齢者に多く、発症年齢中央値は65歳、男女比は1.96:1である。■ 病因原発性骨髄線維症の40~50%には、サイトカインのシグナル伝達に必須なチロシンキナーゼであるJAK2において、617番目のアミノ酸がバリンからフェニルアラニンへ置換(V617F)される遺伝子変異が生じ、JAK2の活性が恒常的に亢進する。その結果、巨核球が腫瘍性に増殖し、transforming growth factor-β(TGF-β)やosteoprotegerin(OPG)を過剰に産生・放出し、二次的な骨髄の線維化と骨硬化を生じるものと考えられる。JAK2以外には、c-MPL(トロンボポエチンのレセプター)に遺伝子変異を有する症例が5~8%存在し、ほかにはTET2、C-CBL、ASXL1、EZH2などの遺伝子変異が報告されている。■ 症状初発症状のうち最も多いのが動悸、息切れ、倦怠感などの貧血症状であり、40~60%に認められる。脾腫に伴う腹部膨満感、食欲不振、腹痛などの腹部症状を20~30%に認め、ときに臍下部まで達する巨脾を来すことがある。ほかには紫斑、歯肉出血などの出血傾向や、発熱、盗汗、体重減少が初発症状になりうる。一方、20~30%の症例は診断時に無症状であり、健康診断における血液検査値異常や脾腫などで発見される。■ 分類骨髄線維症は骨髄に広範な線維化を来す疾患の総称であり、骨髄増殖性腫瘍に分類される原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis)と、基礎疾患に続発する二次性骨髄線維症(secondary myelofibrosis)に分けられる。二次性骨髄線維症は、骨髄異形成症候群、真性多血症、原発性血小板血症などの血液疾患に続発することが多く、ほかには固形腫瘍、結核などの感染症、SLEや強皮症などの膠原病に続発することもある。本稿では原発性骨髄線維症を中心に述べる。■ 予後わが国での原発性骨髄線維症466例(1999~2009年)の後方視的な検討では、5年生存率38%、平均生存期間は3.4年である。しかし、原発性骨髄線維症の臨床経過は均一ではなく、症例間によるばらつきが大きい。わが国での主な死因は、感染症27%、出血6%、白血化15%である。2008年にInternational Working Group for Myelofibrosis Research and Treatmentから発表された予後不良因子と、後方視的に集積したわが国での70歳以下の症例を用いた特発性造血障害に関する調査研究班(谷本ほか)による解析を表1に示す1,2)。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)増殖した巨核球や単球から産生される種々のサイトカインが骨髄間質細胞に作用し、骨髄の線維化、血管新生および骨硬化、髄外造血による巨脾、無効造血、末梢血での涙滴状赤血球(tear drop erythrocyte)の出現、白赤芽球症(leukoerythroblastosis)などの特徴的な臨床症状を呈する。骨髄穿刺の際、骨髄液が吸引できないことが多く(dry tap)、このため骨髄生検が必須であり、HE染色にて膠原線維の増生を、あるいは鍍銀染色にて細網線維の増生を証明する。2008年のWHO診断基準を表2に示す。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)低リスク群は支持療法のみでも長期の生存が期待できるために、無症状であればwatchful waitingの方針が望ましい。中間群および高リスク群では、適切なドナーが存在する場合には、診断後早期の同種造血幹細胞移植を念頭に治療にあたる。■ 薬物療法症状を有する低リスク群、移植適応のない中間群および高リスク群では、貧血や脾腫の改善などの症状緩和を期待して薬物療法を選択する。蛋白同化ホルモンであるダナゾール(商品名: ボンゾール:600mg/日)や酢酸メテノロン(同: プリモボラン:0.25~0.5mg/kg/日)は、30~40%の症例で貧血改善に有効である。少量メルファラン(同:アルケラン、1日量2.5mg、週3回投与)、サリドマイド(同:サレド、50mg/日)+プレドニゾロン(0.5mg/kg/日)、レナリドミド(同:レブラミド、5~10mg/日、21日間投与、7日間休薬)+プレドニゾロン(15~30mg/日)は、貧血、血小板減少、脾腫の改善効果が報告されている(保険適用外)。■ 脾臓への放射線照射・脾臓摘出脾腫に伴う腹部症状の改善を目的に脾臓への放射線照射を行うと、93.9%に脾腫の縮小が認められ、その効果は平均6ヵ月(1~41ヵ月)持続した。主な副作用は血球減少であり、23例中10例(43.5%)に出現した。脾摘に関しては、脾腫による腹部症状の改善や貧血に対し効果が認められているが、周術期の死亡率が9%と高く、合併症も31%に生じていることから、適応は慎重に判断すべきである。■ 同種造血幹細胞移植原発性骨髄線維症は薬物療法による治癒は困難であり、同種造血幹細胞移植が唯一の治癒的治療法である。しかし、移植関連死亡率は27~43%と高く、それに伴い全生存率は30~40%前後にとどまっている。治療関連毒性がより少ない骨髄非破壊的幹細胞移植(ミニ移植)は、いまだ少数例の検討しかなされておらず長期予後も不明ではあるが、移植後1年の治療関連死亡は約20%、予測5年全生存率も67%であり、期待できる成績が得られている。現時点では、骨髄破壊的前治療と骨髄非破壊的前治療のどちらを選択すべきかの結論は出ておらず、今後の検討課題である。4 今後の展望今後、わが国での臨床試験を経て実地医療として期待される治療としては、pomalidomide、JAK2阻害薬などがある。新規のサリドマイド誘導体であるpomalidomideの第II相試験が行われており、pomalidomide(0.5mg/日)+プレドニゾロン投与により、22例中8例(36%)に貧血の改善がみられた。現在開発中のJAK2阻害薬であるINCB018424(Ruxolitinib)は、腫瘍クローンの著明な減少・消失は来さないものの、脾腫の改善、骨髄線維症に伴う自覚症状の改善がみられている。ただし、生命予後の改善効果の有無は、今後の検討課題である。わが国での臨床試験が待たれる薬剤として、ほかにはCEP-701(Lestautinib)、TG101209などがある。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)1)Cervantes F, et al. Blood. 2009; 113: 2895-2901.2)Okamura T, et al. Int J Hematol. 2001; 73: 194-198.

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汚染メチルプレドニゾロン注射による脊椎真菌感染症、MRIで高精度に識別/JAMA

 汚染されたメチルプレドニゾロン注射を受けた人に対し、MRI検査を行うことで、脊椎または傍脊椎真菌感染症の有無を、高い精度で識別できることが明らかになった。米国・St Joseph Mercy HospitalのAnurag N. Malani氏らが行った試験の結果、報告したもので、MRI所見で異常が認められた36例中35例で、同真菌感染症である可能性が高いと診断されたという。米国では2012年に、汚染されたメチルプレドニゾロン注射(薬局で調製)が原因で、多州にわたる髄膜炎のアウトブレイクが発生している。JAMA誌2013年6月19日号掲載の報告より。汚染薬剤の注射を受け、副作用について未治療の172例にMRI検査 研究グループは、汚染されたメチルプレドニゾロン注射を受けていながら、その副作用について治療を受けていない患者、172例を試験の対象とした。被験者に対し、2012年11月~2013年4月にかけてMRI検査を行い、その所見による脊椎・傍脊椎真菌感染症の識別能について調べた21%にMRI所見異常、その大部分がCDC基準で脊椎・傍脊椎感染が高い可能性 その結果、被験者のうちMRI所見で異常が認められたのは36例(21%)で、硬膜外または傍脊椎に膿瘍や蜂巣織炎、くも膜炎、脊椎骨髄炎、椎間板炎、また中程度から重度の硬膜外・傍脊椎・硬膜内の増強が認められた。 そのうち35例が、米国疾病予防管理センター(CDC)の診断基準で、脊椎・傍脊椎真菌感染症の可能性が高い(17例)、または確定的(18例)であると診断された。 35例の患者全員に、抗真菌剤(ボリコナゾール、アムホテリシンBリポソーム製剤の併用・非併用)を投与した。そのうち24例は、外科的創面切除術を要したが、手術時点で17例(71%)が、臨床検査によって真菌感染症が確認された。なお、同17例中5例は、自覚症状がなかった。

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腰部硬膜外ステロイド注射によって椎体骨折のリスクが増加

 腰部硬膜外ステロイド注射(LESI)は神経根障害や脊髄神経の圧迫から生じる神経性跛行の治療に用いられるが、副腎皮質ステロイドは骨形成を低下し骨吸収を促進することで骨強度に悪影響を及ぼすことが示唆されている。米国・ヘンリーフォード ウェストブルームフィールド病院のShlomo Mandel氏らは、後ろ向きコホート研究において、LESIが椎体骨折の増加と関連していることを明らかにした。LESIの使用はこれまで考えられていたより大きなリスクを伴う可能性があり、骨粗鬆症性骨折のリスクを有する患者には慎重に行わなければならないとまとめている。The Journal of Bone & Joint Surgery誌2013年6月5日の掲載報告。 本研究の目的は、LESIが、椎体骨折のリスクを増加するのかについて評価をすることであった。 ヘンリーフォード ウェストブルームフィールド病院のデータベースから、ICD-9診断コードを用いて、椎間板障害など脊椎に関連した疾患を有する患者計5万345例(うち1回以上のLESIを受けていた患者は3,415例)を特定した。 LESI施行例3,000例を無作為に抽出するとともに、傾向スコアマッチングによりLESI非施行例3,000例を選び出し、両群における椎体骨折の発生率を生存時間分析にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・LESI施行群と非施行群で、年齢、傾向スコア、性別、人種、甲状腺機能亢進症、ステロイド使用に差はなかった。・生存時間分析の結果、注射回数の増加は骨折リスクの増加と関連していた。・注射が1回増えるごとに、骨折リスク(共変量調整後)は1.21倍(95%信頼区間:1.08~1.30)増加した(p=0.003)。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・無視できない慢性腰痛の心理社会的要因…「BS-POP」とは?・「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?・腰椎圧迫骨折3ヵ月経過後も持続痛が拡大…オピオイド使用は本当に適切だったのか?  治療経過を解説

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD: duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義筋ジストロフィーは、骨格筋の変性・壊死を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下をみる遺伝性の筋疾患の総称である。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)はその中でも最も頻度が高く、しかも重症な病型である。■ 疫学欧米ならびにわが国におけるDMDの発症頻度は、新生男児3,500人当たり1人とされている。有病率は人口10万人当たり3人程度である。このうち約2/3は母親がX染色体の異常を有する保因者であることが原因で発症し、残りの1/3は突然変異によるものとされている。まれに染色体転座などによる女児または女性のDMD患者が存在する。ジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失により発症するベッカー型筋ジストロフィー(BMD:becker muscular dystrophy)はDMDと比べ、比較的軽症であり、BMDの有病率はDMDの1/10である。■ 病因DMDはX連鎖性の遺伝形式をとり、Xp21にあるジストロフィン遺伝子の異常により発症する。ジストロフィン遺伝子の産物であるジストロフィンは、筋形質膜直下に存在し、N端ではF-アクチンと結合し、C端側では筋形質膜においてジストロフィン・糖タンパク質と結合し、ジストロフィン・糖タンパク質複合体を形成している(図1)。ジストロフィン・糖タンパク質複合体に含まれるα-ジストログリカンは、基底膜のラミニンと結合する。したがって、ジストロフィンは、細胞内で細胞骨格タンパク質と、一方ではジストロフィン・糖タンパク質複合体を介して筋線維を取り巻く基底膜と結合することにより、筋細胞(筋線維)を安定させ、筋収縮による形質膜のダメージを防いでいると考えられている。DMDではジストロフィンが完全に欠損するが、そのためにジストロフィン結合糖タンパク質もまた形質膜から欠損する。その結果、筋線維の形質膜が脆弱になり、筋収縮に際して膜が破綻して壊死に陥り、筋再生を繰り返しながらも、徐々に筋線維組織が脂肪組織へと置き換わっていく特徴を持っている。画像を拡大する■ 症状乳児期に軽度の発育・発達の遅れにより、処女歩行が1歳6ヵ月を過ぎる例も30~50%いる。しかしながら、通常、異常はない。2~5歳の間に転びやすい、走るのが遅い、階段が上れないなど、歩行に関する異常で発症が明らかになる。初期より腰帯部が強く侵されるため、蹲踞(そんきょ)の姿勢から立ち上がるとき、臀部を高く上げ、次に体を起こす。進行すると、膝に手を当て自分の体をよじ登るようにして立つので、登はん性起立(Gowers徴候)といわれる。筋力低下が進行してくると脊柱前弯が強くなり、体を左右に揺するようにして歩く(動揺性歩行:waddling gait)。筋組織が減少し、結合組織で置換するため、筋の伸展性が無くなり、関節の可動域が減り、関節の拘縮をみる。関節拘縮はまず、足関節に出現し、尖足歩行となる。10~12歳前後で歩行不能となるが、それ以降急速に膝、股関節が拘縮し、脊柱の変形(脊柱後側弯症:kyphoscoliosis)、上肢の関節拘縮もみるようになる。顔面筋は初期には侵されないが、末期には侵され、咬合不全をみる。10代半ばから左心不全症状が顕性化することがあり、急性胃拡張、イレウス、便通異常、排尿困難などを呈することもある。外見的な筋萎縮は初期にはあまり目立たないが、次第に躯幹近位筋が細くなる。本症では、しばしば下腿のふくらはぎなどが正常よりも大きくなる。これは一部筋線維が肥大することにもよるが、主に脂肪や結合組織が増えることによるもので、偽(仮)性肥大(pseudohypertrophy)と呼ばれる。知能の軽度ないし中等度低下をみることがまれでなく、平均IQは80前後といわれている。しかし、病理学的に中枢神経系に異常はない。最終的に呼吸障害や心障害を合併するが、近年の人工呼吸器の進歩により40歳位まで寿命を保つことが可能となっている。■ 分類X連鎖性の遺伝形式をとる筋ジストロフィーとしては、DMDやジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失によって発症するBMDのほかにX染色体長腕のエメリン遺伝子異常によって発症するエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD:emery-dreifuss muscular dystrophy)がある。■ 予後発症年齢は2~5歳、症状は常に進行し10~12歳前後で歩行不能となる。自然経過では20代前半までに死亡する。わが国では呼吸不全、感染症などに対する対策が進み、40歳以上の生存例も増えている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断本症が強く疑われる場合は、遺伝子検査を遺伝カウンセリングの下に行う。MLPA(Multiplex ligation-dependent probe amplification)法では、比較的大きな欠失/重複(DMD/BMD患者の約70%)が検出できる。微細な欠失/重複・挿入・一塩基置換による変異(ミスセンス・ナンセンス変異)の検出には、ダイレクトシークエンス法が必要となる。遺伝子検査で異常がみつからない場合も、筋生検で免疫組織学的にジストロフィン染色の異常が証明されれば診断できる。■ 検査1)一般生化学的検査血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase: CK)が中程度~高度上昇(そのほか、ミオグロビン、アルドラーゼ、AST、ALT、LDHなども上昇)する。発症前に高CK血症で気付かれるケースがある。そのほか、血清クレアチンの上昇、尿中クレアチンの上昇、尿中クレアチニンの減少をみる。2)筋電図筋原性変化(低振幅・単持続・多相性活動電位、干渉波の形成)を確認する。3)骨格筋CTおよびMRI検査4歳以降に大臀筋の脂肪変性、引き続き大腿、下腿の障害がみられる。大腿直筋、薄筋、縫工筋、半腱様筋は比較的保たれる。4)筋生検筋線維の変性・壊死、大小不同像、円形化、中心核線維の増加、再生筋線維、間質結合組織増加、脂肪浸潤の有無を確認する(図2(A))。ジストロフィン抗体染色で筋形質膜の染色性の消失(DMD)(図2(B))、低下がみられる。また、骨格筋のイムノブロット法で、DMDでは427kDaのジストロフィンのバンドの消失、BMDでは正常より分子量の小さい(もしくは大きい)バンドが確認される。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)DMDに対するステロイド治療以外は、対症的な補助治療にとどまっているが、医療の進歩と専門医の努力、社会的なサポート体制の整備などにより、DMDの寿命は平均で約10年延長した。このことはQOLや社会への参加など、患者の人生全体を見据えた取り組みが必要なことを強く示唆している。1)根本治療開発の状況遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療など精力的に基礎・臨床研究が進められている。モルフォリノや2'O-メチルなどのアンチセンス化合物を用いたエクソン・スキップ薬の開発に期待が集まっている。2011年初頭から、エクソン51スキップ薬開発のための国際共同治験に日本も参加し、これ以外のエクソンをターゲットにした治療も開発研究が進んでいる。また、リードスルー薬、遺伝子治療や幹細胞移植治療も北米・欧州を中心に、臨床研究がすでに始まっており、早期の臨床応用が望まれる。2)ステロイド治療DMDにおいてステロイド治療は筋力、運動能力、呼吸機能の面で有効性を認める。一般に5~15歳の患者に対して、プレドニゾロンの投与を行う。事前に水痘ワクチンを含む予防接種は済ませておくように指導する。ADL(日常生活動作)や運動機能、心機能、呼吸機能の評価と共に、ステロイドの副作用(体重増加、満月様顔貌、白内障、低身長、尋常性ざ瘡、多毛、消化器症状、精神症状、糖尿病、感染症、凝固異常など)についても十分評価を行う。ステロイドの投与量は必要に応じて増減する。なお、DMDに対するプレドニゾロンの効能・効果については、2013年2月に公知申請に係る事前評価が終了し、薬事承認上は適応外であっても保険適用となっている。3)呼吸療法DMDの呼吸障害の病態は、一義的には呼吸筋の筋力低下や側弯などの骨格変形による拘束性障害である。肺活量は9~14歳でプラトーに達し、以降低下する。深呼吸ができないため肺・胸郭の可動性(コンプライアンス)の低下によって肺の拡張障害と、さらに排痰困難のため気道閉塞による窒息のリスクが生じる。進行に応じ、呼吸のコンプライアンスを保つことが重要である。(1)舌咽頭呼吸による最大強制呼吸量の維持訓練に加え(2)気道クリアランスの確保(徒手的咳介助、機械的咳介助、呼吸筋トレーニングなど)を行うことは、換気効率の維持や有効な咳による喀痰排出につながる(3)車いす生活者もしくは12歳以降に車いす生活になった患者は定期的に(年に2回)呼吸機能評価を行う(4)必要に応じ、夜間・日中・終日の非侵襲的陽圧換気療法の導入を検討する4)心合併症対策1970年代には死因の70%近くが呼吸不全や呼吸器感染症であったが、人工呼吸療法と呼吸リハビリテーションの進歩により、現在では60%近くが心不全へと変化した。心不全のコントロールがDMD患者の生命予後を左右する。特徴的な心臓の病理所見は線維化であり、左室後側壁外側から心筋全体に広がる。進行すると心室壁は菲薄化、内腔は拡大し、拡張型心筋症様の状態となる。定期的な評価が重要で、身体所見、胸部X線、心電図、心エコー(胸郭の変形を念頭におく)、血漿BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)測定、心筋シンチグラフィー、心臓MRIなどを行う。薬物治療としては、心筋リモデリング予防効果を期待してACE阻害薬、β遮断薬の投与が広く行われている。5)栄養幼少期から学童初期は、運動機能低下と骨格筋減少によるエネルギー消費の低下、偏食による栄養障害の助長、ステロイド治療などによる肥満が問題となることが多い。体重のコントロールがとくに重要であり、体重グラフをつけることが推奨される。呼吸不全が顕著化する時期に急激な体重減少を認める場合、努力呼吸によるエネルギー消費量の増加、摂食量の減少など複数の要因の関与が考えられる。咬合・咀嚼力の低下に対しては、栄養効率の良い食品(チーズなど)や濃厚流動食を利用し、嚥下障害が疑われる場合は、嚥下造影などを行い状態を評価して対応を検討する。経鼻経管栄養は、鼻マスク併用時にエアーリークや皮膚トラブルの原因になることがある。必要に応じて経皮内視鏡的胃瘻造設術などによる胃瘻の造設を検討する。6)リハビリテーション早期からのリハビリテーションが重要である。筋力の不均衡や姿勢異常による四肢・脊柱・胸郭変形によるADLの障害、座位保持困難や呼吸障害の増悪、関節可動域制限を予防する。適切な時期にできる限り歩行・立位保持、座位の安定、呼吸機能の維持、臥位姿勢の安定を目指す。7)外科治療病気の進行とともに脊柱の側弯と四肢の関節拘縮を呈する頻度が高くなる。これにより姿勢保持が困難になるのみならず、心肺機能の低下を助長する要因となる。脊柱側弯に対して外科治療の適用が検討される。側弯の発症早期に進行予防的な外科手術が推奨され、Cobb角が30°を超えると適応と考えられる。脊柱後方固定術が一般的で、術後早期から座位姿勢をとるように努める。関節拘縮に対する手術も、拘縮早期に行うと効果的である。8)認知機能DMD患者の平均IQは80~90前後である。学習障害、広汎性発達障害、注意欠陥多動障害(ADHD)など、軽度の発達障害の合併が一般頻度より高い。健常者と比較して言語性短期記憶の低下がみられる傾向があり、社会生活能力、コミュニケーション能力に乏しい傾向も指摘されている。精神・心理療法的アプローチも重要である。4 今後の展望DMDの根本的治療法の開発を目指し、遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療などの基礎・臨床研究が進められているが、ここではとくに2013年現在、治験が行われているエクソン・スキップとストップコドン・リードスルーについて取り上げる。1)エクソン・スキップエクソン欠失によるフレームシフトで発症するDMDに対し、欠失領域に隣接するエクソンのスプライシングを阻害(スキップ)してフレームシフトを解消し、短縮形ジストロフィンを発現させる手法である。スキップ標的となるエクソンに相補的な20~30塩基の核酸医薬品が用いられ、グラクソ・スミスクライン社とProsensa社が共同開発中のDrisapersen(PRO051/GSK2402968)は2'O-メチル製剤のエクソン51スキップ治療薬として、現在日本も含め世界23ヵ国で第3相試験が進行中である。副作用として蛋白尿を認めるが、48週間投与の結果、6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://prosensa.eu/technology-and-products/exon-skipping)また、Sarepta therapeutics社が開発中のEteplirsen(AVI-4658)はモルフォリノ製剤のエクソン51スキップ治療薬で、現在米国で第2a相試験が進行中である。これまで投与された被験者数はDrisapersenより少ないものの臨床的に有意な副作用は認めず、74週投与の時点で6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://investorrelations.sareptatherapeutics.com/phoenix.zhtml?c=64231&p=irol-newsArticle&id=1803701)2)ストップコドン・リードスルーナンセンス点変異により発症するDMDに対し、リボゾームが中途停止コドンだけを読み飛ばす(リードスルー)ように誘導し、完全長ジストロフィンを発現させる手法である(http://www.ptcbio.com/ataluren)。アミノグリコシド系化合物にはこのような作用があることが知られており、PTC therapeutics社のAtaluren(PTC124)は、世界11ヵ国で行われた第2b相試験の結果、統計的に有意ではないもののプラセボよりも歩行機能の低下を抑制する作用を示した。現在欧州での条件付き承認を目的とした第3相試験が計画されている。なお、日本ではアルベカシン硫酸塩のリードスルー作用を検証する医師主導治験が計画されている。5 主たる診療科小児科、神経内科、リハビリテーション科、循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児科学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本小児神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部(研究情報)国立精神・神経医療研究センター TMC Remudy 患者情報登録部門(一般利用者向けと医療従事者向けの神経・筋疾患患者登録制度)筋ジストロフィー臨床試験ネットワーク(一般利用者向けと医療従事者向けの筋ジストロフィー臨床試験に向けてのネットワーク)患者会情報日本筋ジストロフィー協会(筋ジストロフィー患者と家族の会)

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炎症性バイオマーカー上昇、COPDの増悪リスク増大と関連/JAMA

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪の指標として、炎症性バイオマーカー(C反応性蛋白[CRP]、フィブリノゲン、白血球数)が有用な可能性があることが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のMette Thomsen氏らの検討で示された。COPDにおける呼吸器症状の増悪は、長期に持続する重篤な有害作用をもたらし、増悪が気道感染症の原因となることも多い。急性発作時は循環血中の急性期蛋白質や炎症細胞が増加するとの報告の一方で、安定期COPDでは全身性の炎症反応は低いものの炎症性バイオマーカーの上昇がみられる場合があるとのエビデンスや、炎症性バイオマーカーの上昇が不良な転帰と関連するとの研究結果もあるという。JAMA誌2013年6月12日号掲載の報告。マーカー上昇とリスク増大との関連を前向きコホート試験で検証 研究グループは、安定期COPD患者における炎症性バイオマーカーの上昇が増悪のリスク増大と関連するとの仮説を立て、これを検証するためにプロスペクティブなコホート試験を実施した。 解析の対象は、Copenhagen City Heart Study(2001~2003年)およびCopenhagen General Population Study(2003~2008年)の参加者のうち、スパイロメトリー検査(6万1,650例)でCOPDと判定された6,574例[年齢中央値67歳、男性47%、2回以上の増悪歴あり127人、GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)のGrade A/B 6,016例、C/D 558例、GOLDのGrade 1/2 6,109例、3/4 465例]であった。 増悪症状の未発現時に、ベースラインのCRP、フィブリノゲン、白血球数の測定を行った。増悪は、経口コルチコステロイド薬の単剤または抗菌薬との併用による短期的治療が行われた場合、およびCOPDで入院となった場合と定義した。CRPは3mg/L、フィブリノゲンは14μmol/L、白血球数は9×109/Lをカットオフ値として高値と低値に分類した。軽度、増悪歴なしでも有意な増悪リスク因子に フォローアップ期間中に3,083回のCOPD増悪が認められた(1人当たり平均0.5回)。 フォローアップ1年目のバイオマーカー上昇なし(9/1,000人・年)との比較における増悪の多変量調整済みオッズ比[OR]は、1つのバイオマーカー上昇の場合は1.2(95%信頼区間[CI]:0.7~2.2、17回/1,000人・年)、2つ上昇の場合は1.7(95%CI:0.9~3.2、32回/1,000人・年)、3つでは3.7(95%CI:1.9~7.4、81回/1,000人・年)であり、上昇マーカー数が増えるに従って増悪リスクが増大した(傾向性検定:p=2×10-5)。 全フォローアップ期間を通じてのORは、1つのバイオマーカー上昇の場合が1.4(95%CI:1.1~1.8)、2つ上昇で1.6(95%CI:1.3~2.2)、3つでは2.5(95%CI:1.8~3.4)であった(傾向性検定:p=1×10-8)。 基本モデルに炎症性バイオマーカーを加えることで、C統計量が0.71から0.73へ改善された(p=9×10-5)。また、軽度COPDや増悪歴のないCOPD患者においても、全体的な相対リスクとの一致が認められた。 3つのバイオマーカー上昇を認める場合の増悪の5年絶対リスクは、GOLD Grade C/Dの患者が62%(バイオマーカー上昇なしでは24%)、増悪歴ありの患者は98%(同:64%)、GOLD Grade 3/4の患者は52%(同:15%)であった。 著者は、「CRP、フィブリノゲン、白血球数の上昇はCOPDの増悪リスクの増大と相関を示し、この関連は軽度COPDや増悪歴のないCOPD患者にも認められた」とまとめ、「リスクを層別化するには、今後、これらのバイオマーカーの臨床的な価値についてさらに検討を進める必要がある」としている。

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