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筋症状によるスタチン中止、関連性を見いだせず/BMJ

 スタチン投与時の重症筋症状の既往があり投与を中止した集団に、アトルバスタチン20mgを投与しても、プラセボと比較して筋症状への影響は認められず、試験終了者の約3分の2がスタチンの再開を希望したとの調査結果が、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のEmily Herrett氏らが実施した「StatinWISE試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月24日号で報告された。スタチンと、まれだが重度な筋肉の有害事象との因果関係はよく知られている一方で、筋肉のこわばり、筋痛、筋力低下などの重度ではない筋症状に及ぼすスタチンの影響は不明だという。また、非盲検下の観察研究の結果が広く知られるようになったため、多くの患者が筋症状の原因はスタチンと考えて治療を中止し、結果として心血管疾患による合併症や死亡が増加しているとされる。英国のプライマリケア施設の無作為化プラセボ対照n-of-1試験 研究グループは、スタチン投与時の筋症状の既往歴を持つ集団において、スタチンが筋症状に及ぼす影響を評価する目的で、2016年12月~2018年4月の期間にイングランドとウェールズの50のプライマリケア施設において無作為化プラセボ対照n-of-1試験を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術計画などの助成による)。 筋症状のためスタチン投与を中止または中止を考慮中の200例が対象となった。試験期間は1年で、参加者は6回の二重盲検下の投与期間(各2ヵ月)に無作為に割り付けられた。6回の投与期間のうち3回はアトルバスタチン20mgが、残りの3回はプラセボが投与された。最初の2回の投与期間は、1回がスタチン、もう1回はプラセボが投与され、3回連続して同じ薬剤の投与期間に割り付けられないようにした。 参加者は、各投与期間の終了時に、視覚アナログ尺度(0~10点。0点:筋症状なし、5点:中等度筋症状、10点:最も重度と考えられる筋症状)で筋症状の評価を行った。主解析では、スタチン投与期とプラセボ投与期の症状スコアを比較した。中止理由のうち筋症状は少ない 200例の参加者の平均年齢は69.1(SD 9.5)歳、115例(58%)が男性で、140例(70%)は心血管疾患の既往歴を有していた。総コレステロール値中央値は5.3mmol/L(IQR:4.4~6.2)だった。151例(76%)が、スタチン投与期とプラセボ投与期のそれぞれ少なくとも1回の症状スコアを提供し、主解析の対象となった。 主解析には、392回のスタチン投与期の2,638件のデータと、383回のプラセボ投与期の2,576件のデータが含まれた。視覚アナログ尺度による平均筋症状スコアは、スタチン投与期がプラセボ投与期よりも低く(1.68[SD 2.57]点vs.1.85[2.74]点)、両群間に有意な差は認められなかった(平均群間差:-0.11、95%信頼区間[CI]:-0.36~0.14、p=0.40)。 スタチンが筋症状の発現に影響を及ぼすとのエビデンスは得られず(オッズ比[OR]:1.11、99%CI:0.62~1.99)、筋症状は他の原因に起因しないとのエビデンスもなかった(1.22、0.77~1.94)。一般活動性、気分、歩行能力、日常的な作業、他者との関係、睡眠、生活の楽しみについても、両投与期で筋症状の影響に差はなかった。 試験終了から3ヵ月後の調査では、試験終了者の88%(99/113例)が「試験は有益だった」と回答し、66%(74/113例)は「スタチン投与をすでに再開または再開の予定」と報告した。また、プラセボ投与期よりもスタチン投与期で平均筋症状スコアが1単位以上高く、スタチンが筋症状の原因の可能性があると知らされた17例(15%)のうち、9例(53%)はスタチンを再開する予定とし、スタチンが原因の可能性はないと知らされた96例のうち65例(68%)が再開予定と回答した。 80例が投与を中止し、このうちスタチン投与期が34例(43%)、プラセボ投与期は39例(49%)であった。中止の理由のうち筋症状は少なく、忍容できない筋症状で投与を中止した参加者は、スタチン投与期が18例(9%)、プラセボ投与期は13例(7%)であった。試験期間中に13件の重篤な有害事象が報告されたが、試験薬に起因するものはなかった。 著者は、「n-of-1試験は、集団レベルで薬剤効果の評価が可能で、個々の治療の指針を示すことができる」とし、「今後は、他の種類のスタチンや高用量スタチン、一過性の有害作用を伴う他の薬剤のn-of-1試験に重点的に取り組むことが考えられる」としている。

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中国本土の研究者が書いた原著論文の8割が重複出版だった(解説:折笠秀樹氏)-1356

 スタチンによる心血管イベント抑制の効果は今では周知ですが、それが診療ガイドラインで推奨されるようになったのは2008年ごろのようです。それは累積メタアナリシスでも確認済みのようです。 原著論文は、過去の研究論文と重複してはいけません。新規の結果を示すのが原則だからです。そうでないと、それは重複出版(redundant publication)といわれます。本研究は、中国本土の研究者が書いた原著論文で、80%が重複出版に相当することを示したのです。2008年以降に上記と同じ効果を示す論文があったら、それは重複出版としたようです。すでにコンセンサスになっている結果を、原著論文として出版するのは研究者倫理に反します。ふつうなら、すでに明らかになっていることを結語した論文を投稿しても、それは既知だとして却下になるはずです。 今回は中国本土の研究者に限っていますが、それにしても重複出版が80%もあったのは大問題です。それらの論文では、96%が財源を明示していませんでした。87%はIRB承認を報告していませんでした。そして、中国語で書かれた論文が99.7%ありました。ほぼすべてです。いい加減な論文がまん延していることがわかります。これをみて、日本人著者は大丈夫かなと心配してしまいました。でも、このような新薬に関する臨床試験を、日本語の論文として出版する研究者はいなくなったのではないでしょうか。ただ、一昔前(2000年以前)までは治験論文を中心に、日本語で書かれた原著論文はたくさんありました。試験の品質は悪かったかもしれませんが、このような重複出版はなかったと信じています。 なんといっても、著者に中国人が入っていたのにはびっくりしました。もちろん、米国に住む中国人です。中国人が著者にいたため、中国語のデータベースを調査できたものと思います。ふつうの人なら、中国語は読めないからです。粛清されないか心配です。帰国しないほうが身のためでしょうね。 先端分野について、英語以外で書かれた論文はほとんど見向きもしなくなりました。今回怪しげな中国の論文が見つかったわけですが、誰も読まなければ害はなさそうに思います。ただ、それが英語論文で引用されると別の問題が生じるかもしれません。

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脳腱黄色腫症〔CTX:CerebrotendinousXanthomatosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義脳腱黄色腫症は、CYP27A1遺伝子変異を原因とする常染色体劣性の遺伝性代謝疾患である。■ 疫学「脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班」が実施した全国調査では、2012年9月~2015年8月の3年間に日本全国で40例の脳腱黄色腫症患者の存在が確認された1)。また、これまでにわが国から約60例の本症患者の報告がある。一方、ExAC(The Exome Aggregation Consortium)のゲノムデータベースを用いた検討による本症の頻度は、東アジア人で64,267~64,712人に1人と推測されており、わが国の潜在的な患者数は1,000人以上である可能性がある。■ 病因脳腱黄色腫症の原因遺伝子であるCYP27A1は、27-水酸化酵素をコードしており、本症の患者では遺伝子変異により本酵素活性が著しく低下している。27-水酸化酵素は、肝臓における一次胆汁酸の合成に必須の酵素であり、酵素欠損によりケノデオキシコール酸などの胆汁酸の合成障害を来す(図1)。また、ケノデオキシコール酸によるコレステロール分解へのネガティブフィードバックが消失するため、コレスタノール・胆汁アルコールの産生が助長される(図1)。上昇したコレスタノールが脳、脊髄、腱、水晶体、血管などの全身臓器に沈着し、さまざまな臓器障害を惹起する。下痢や胆汁うっ滞は、ケノデオキシコール酸の欠乏や胆汁アルコールの上昇などの機序によると推測される。図1 脳腱黄色腫症の病態画像を拡大する■ 症状・分類脳腱黄色腫症の臨床症状は、腱黄色腫、新生児期の黄疸・胆汁うっ滞、小児期発症の慢性下痢、若年性白内障、若年性冠動脈疾患、骨粗鬆症といった全身症状と、精神発達遅滞・認知症、精神症状、錐体路徴候、小脳性運動失調、てんかん、末梢神経障害、錐体外路症状といった神経症状に大別される。臨床病型は、多彩な臨床症状を呈する古典型、痙性対麻痺を主徴とする脊髄型、神経症状を認めない非神経型、新生児胆汁うっ滞型に分類される(表1)。古典型は、小児期に精神発達遅滞/退行、てんかん、歩行障害、慢性の下痢、白内障などで発症することが多い。腱黄色腫(図2)は20歳代に生じることが多くアキレス腱に好発するが、黄色腫を認めない例もまれではない。表1 脳腱黄色腫症の病型画像を拡大する図2 脳腱黄色腫患者のアキレス腱黄色腫画像を拡大する(A)肉眼所見 (B)単純X線所見 (C)MRI所見 T1強調像(文献3の図1A-Cを転載)■ 予後未治療のまま経過すると進行性の神経症状により、高度の日常生活動作障害を呈する。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)腱黄色腫、進行性の神経症状または精神発達遅滞、若年発症の白内障・下痢・冠動脈疾患・骨粗鬆症、新生児~乳児期の遷延性黄疸・胆汁うっ滞など本症を疑う症状を認めた場合、血清コレスタノールの測定を行う。血清コレスタノールは外注検査が可能であるが保険収載はされていない。血清コレスタノールが上昇しており、他疾患が否定されればProbable、さらにCYP27A1遺伝子の変異が証明されればDefiniteの診断となる。遺伝子検査は、脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班のホームページから申し込みが可能である。2018年に改訂された本症の新しい診断基準1,2)を表2に示す。表2 脳腱黄色腫症の診断基準画像を拡大する3 治療治療の基本は、著減しているケノデオキシコール酸の補充(保険適用外)である。ケノデオキシコール酸投与により胆汁酸合成経路の律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素へのネガティブフィードバック(図1)が正常化し、血清コレスタノールの上昇などの生化学的検査異常が改善する。また、その結果として組織へのコレスタノールの蓄積が抑制される。早期治療により臨床症状の改善も期待できる。ケノデオキシコール酸の投与量は成人例では750mg/日、小児例では15mg/kg/日が推奨されている2)。HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤、保険適用外)も血清コレスタノールの低下作用を有するが、臨床的な有用性のエビデンスは十分に蓄積されていない。LDLアフェレシス(保険適用外)も血清コレスタノールを低下させることが可能であるが、約2週間で治療前値に戻ってしまうことからケノデオキシコール酸やスタチン製剤による治療効果が不十分な例に実施を検討する。4 今後の展望現在わが国で、脳腱黄色腫症に対するケノデオキシコール酸の治験が進行中であり、近い将来保険適用になる可能性がある。わが国で実施した全国調査の結果では、本症の発症から診断までに平均で16.5±13.5年を要しており、特に小児期の未診断例が多いことが明らかになっている1)。現状では、診断の遅れにより重篤な神経系の後遺症を残している患者が多いが、発症早期に治療介入することで本症患者の予後が改善すると期待される。5 主たる診療科脳神経内科、小児神経科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班(医療従事者向けのまとまった情報)原発性高脂血症に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 脳腱黄色腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Sekijima Y, et al. J Hum Genet.2018;63:271-280.2)脳腱黄色腫症の実態把握と診療ガイドライン作成に関する研究班、原発性高脂血症に関する調査研究班編. 脳腱黄色腫症診療ガイドライン 2018. 2018.3)Yoshinaga T, et al. Intern Med.2014;53:2725-2729.公開履歴初回2021年2月15日

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スタチンの「不必要な」無作為化試験、中国で2千件超/BMJ

 中国で、冠動脈疾患に対するスタチン使用が臨床ガイドラインで強く推奨され始めた翌年以降に、スタチンの効果を検証するとして実施された不必要な(redundant)無作為化比較試験は2,000件超で、これら試験の被験者で対照群に割り付けられ、スタチンを服用しなかった被験者で発生した主要有害心イベント(MACE)は3,000例以上で、うち死亡が約600例だった。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のYuanxi Jia氏らが、2019年までに発表された冠動脈疾患に対するスタチンの無作為化比較試験を再調査し、明らかにした。不必要な臨床試験は資源を浪費し、とくにプラセボ対照試験の設定では、効果的な治療が受けられない患者に害を及ぼす可能性がある。科学出版物の最大の生産国となっている中国本土での臨床試験については、その必要性が深刻な課題になっていることが懸念されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「患者を保護するため不必要な臨床試験を改める早急な改革が必要だ」とまとめている。BMJ誌2021年2月2日号掲載の報告。ガイドライン推奨後2008年以降の試験について検証 研究グループは、中国本土で冠動脈疾患患者を対象に行われたスタチンを評価する不必要な臨床試験を特定し、それらの試験でスタチン治療が行われなかった患者が経験した過剰なMACE発生件数を推定するため断面調査を行った。 2019年12月までの文献データベースを検索し、中国本土で冠動脈疾患の患者を対象に行った、スタチンとプラセボまたは無治療を比較した2,577件の無作為化試験について分析を行った。被験者総数は25万810例で、冠動脈疾患の種別は問わなかった。 「不必要な臨床試験」の定義は、スタチン使用が臨床ガイドラインで強く推奨され始めた翌年2008年以降に、臨床試験が継続中または開始された試験とした。 主要アウトカムは、不必要な臨床試験の被験者で対照群に割り付けられ、スタチン治療を受けられなかったことにより発生した過剰なMACEの発生数、すなわちスタチンを服用していれば回避可能だった過剰なMACEの発生数だった。 また、スタチンの効果の統計的有意性が示された時点を確認するため、累積メタ解析も実施した。回避可能だったMACEは3,470例、死亡は559例 2008~19年に発表された「不必要な臨床試験」は2,045件で、対照群の被験者総数は10万1,486例、スタチン非投与は2万4,638人年だった。 報告された過剰なMACEは、3,470例(95%信頼区間[CI]:3,230~3,619)だった。 内訳をみると、死亡559例(95%CI:506~612)、心筋梗塞の新規発症または再発973例(897~1,052)、脳卒中161例(132~190)、血行再建術83例(58~105)、心不全398例(352~448)、狭心症の再発または悪化1,197例(1,110~1,282)、およびその他のMACEが99例(69~129)だった。

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残余因子に対する新たなアプローチ-evinacumabへの期待(解説:平山篤志氏)-1348

 LDLコレステロール(LDL-C)低下療法により動脈硬化性疾患(ASCVD)の発症は減少しているが、最大耐用量の各種薬剤を用いてもLDL-Cが低下しない患者群がある。従来のLDL-C低下薬は、主にLDL受容体を介する機序によるものであった。angiopoietin-like 3(ANGPTL3)の遺伝的欠如で、中性脂肪(TG)、LDL-Cが低下していることが明らかになり、高脂血症マウスでANGPTL3が過剰産生されていることから、新たな治療ターゲットとしてANGPTL3が注目されるようになった。ANGPTL3はlipoprotein lipase(LPL)活性を阻害することでTGが上昇するが、LDL-Cへの作用は明らかではない。ただ、ANGPTL3を低下させることで、TGおよびLDL-Cが低下することが明らかなことから、現在、ANGPTL3に対するanti-oligonucleotide(ASO)やモノクローナル抗体が作成され、治験が開始されている。とくに家族性高コレステロール血症(FH)では、LDL受容体が欠損、あるいは機能低下していることから従来の薬剤では十分なLDL-C低下効果が認められなかった。本論文では、ANGPTL3に対するモノクローナル抗体(evinacumab)を用いて、従来の治療で不十分であった難治性高コレステロールFH患者を対象に第2相の試験が行われ、最大投与量で50%以上のLDL-C低下効果が認められた。FH患者を対象としているが、FHだけでなく、糖尿病やメタボリック症候群でもLPL活性が高いことが知られ、スタチンなどを用いてLDL-Cを低下させても心血管イベントを低下させることができない残余因子と考えられている。ANGPTL3をターゲットとした脂質異常症の治療により、新たなリスク低下が実現するかもしれない。

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超高齢者でもLDLコレステロール上昇は心筋梗塞、動脈硬化性疾患のリスクである(解説:平山篤志氏)-1347

 LDLコレステロール(LDL-C)と動脈硬化性疾患の関連は、多くの疫学研究や大規模臨床試験で明らかにされてきた。しかし、75歳までのデータが多く、75歳以上さらに80歳以上の高齢者のデータはほぼなかった。本論文のCopenhagen General Population Study(CGPS)では動脈硬化性疾患の既往のない健康人を追跡した結果、高齢になればなるほど、心筋梗塞および動脈硬化性疾患(心筋梗塞、致死的冠動脈疾患、非致死的、致死的脳梗塞)の発生頻度が増加しかつ、LDL-C値が高くなればなるほど増加している。LDL-C 1mmol/L(ほぼ38.5mg/dL)の上昇の心血管イベント発生率に及ぼす影響は高齢になるほど大きかった。これまでは、疫学調査でも高齢者のfollow-upが十分でない、期間が短いなどの限界があったが、この研究ではほぼ100%の追跡ができている点、80~100歳が3,188人(全体の3%)、70~79歳が1万591人(全体の12%)と多数例が追跡されている点で実態を正確に反映していると考えられる。この対象にmoderate-intensity statinを使用することで、LDL-C 1mmol/Lを低下することで、5年間の心筋梗塞予防のNNTが80歳以上では80、70~79歳では145と他の年齢に比較して効果があると結論付けている。これはあくまで、これまでの介入試験でのLDL-C低下効果の結果からの類推であり、1次予防効果のエビデンスではないことに留意が必要である。ただ、わが国のエゼチミブを用いた75歳以上の高齢者を対象にしたEWTOPIA75試験でもLDL-C低下によるイベント抑制効果が示されている。超高齢化社会に突入したわが国で、高齢者、とくに超高齢者はポリファーマシー、フレイルなど多くの問題を抱えている。脂質低下療法は2次予防では、論をまたないであろうが、1次予防において積極的介入をすべきかどうかは今後明らかにする必要がある。

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IL-1阻害薬による残余リスク低減効果に期待(解説:佐田政隆氏)-1330

 rilonaceptはインターロイキン-1(IL-1)の可溶性受容体製剤である。IL-1α、IL-1β双方をトラップして阻害する。当初、関節リウマチでの応用が期待されたが、TNF阻害薬ほど劇的な効果は認められなかったという。希少自己免疫疾患であるクリオピリン関連周期性発熱症候群に対して、2008年にFDAによって承認されたが、日本や欧州では承認に至っていない。 原因不明の再発性心膜炎は、日常の循環器内科診療でたびたび遭遇する疾患である。心嚢穿刺など対症療法しかなく治療に難渋することが多い。本試験は、86人と比較的少数例を対象にした二重盲検第3相試験である。標準的治療を施しても再発する心膜炎の再発を、rilonaceptが有意に抑制した。今後、再発心膜炎への適応拡大が期待される。 さて、動脈硬化性疾患の2次予防、1次予防にスタチンが有効であることが確立している。しかし、スタチンによるリスク低下効果は3割程度であり、7割程度はLDLコレステロールを十分に低下させてもイベントが再発し、残余リスクと呼ばれ問題になっている。 動脈硬化の根本的病態は非感染性の慢性炎症であると20年以上前から提唱され、抗炎症薬が有効であることが期待されていた。積極的な2次予防治療後もCRPが高値の心筋梗塞既往例において、IL-1β中和抗体であるカナキヌマブが心血管イベントを抑制することを示したCANTOS試験が世界を驚かせたことが記憶に新しい。 rilonaceptが、同じIL-1阻害薬であるカナキヌマブと同じように動脈硬化性疾患の残余リスク低減に効果があるのではないかと期待される。今後の大規模臨床研究の結果が楽しみである。しかし、IL-1は、感染に対する生体防御のために必要な免疫の中心的な役割を担うサイトカインであり、その阻害による有害性を慎重に検討する必要がある。実際、CANTOS試験でも蜂窩織炎、致死的感染症、敗血症といった重篤な有害感染性イベントはカナキヌマブで有意に増加した。本試験でも50週程度の比較的短い期間で、注射部位反応と上気道感染症の有害事象がみられている。IL-1阻害治療の長期的安全性も、今後検討されなければならないであろう。

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メタ解析の論文(解説:後藤信哉氏)-1325

 臨床の科学ではPredefinedがキーワードである。Predefined Endpointの発現率を実薬とプラセボにて比較するランダム化比較試験は、EBMの主軸として重要な役割を演じている。ランダム化比較試験のメタ解析のエビデンスレベルは、ランダム化比較試験よりも高いとpredefineされている。Oxford大学が主導しているAntithrombotic Trialists’ Collaboration, Cholesterol Treatment Trialists’ Collaborationなどの主導したアスピリン、スタチンに関する大規模ランダム化比較試験のメタ解析は、アスピリン、スタチンの有効性、安全性の重要なエビデンスを提供した。有効性、安全性の方向が同一となる大規模ランダム化比較試験のメタ解析には大きな価値があると感じる。 メタ解析に科学的価値があるとpredefineされた結果、治療法・薬剤の有効性、安全性が単一のランダム化比較試験にて十分に確立されていない領域にもメタ解析が及んでいる。探索的なメタ解析に抵抗を感じるのは筆者だけであろうか? 大規模な仮説検証ランダム化比較試験の施行には膨大な努力とコストがかかる。Pubmed searchなどシステム的文献解析にも努力が必要かもしれないが、ランダム化比較試験の計画、実行よりも楽に見える。探索的なメタ解析は「楽をしてhigh impact journalに採択される」邪道に思えてしまう。 本研究にて探索された仮説は重要である。後遺症の残る可能性の高い脳梗塞では、発症時刻が明確でなくてもMRIのDWI-FLAIRがあれば、血栓溶解療法を安全に施行できるように筆者も思う。本研究では、単独では有効性を証明できていない4つのランダム化比較試験をメタ解析して、発症時刻が明確でなくてもMRIのDWI-FLAIRがあればt-PA投与による予後を改善できるとしている。頭蓋内出血は増えるがNet Benefitも良好としている。しかも論文はLancet誌に掲載されている。この論文のメタ解析の科学的価値は、Antithrombotic Trialists’ Collaboration, Cholesterol Treatment Trialists’ Collaborationのメタ解析とは質的に異なる。メタ解析のエビデンスレベルは高いとするよりも、「個別のランダム化比較試験にて有効性、安全性が検証された臨床試験」のメタ解析のエビデンスレベルが高いとpredefineしたほうがよいと筆者は考える。

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高用量オメガ3脂肪酸、高リスク患者のMACE発生を抑制せず/JAMA

 スタチン治療中の心血管高リスクの患者において、通常治療に加えてのEPAとDHAのカルボン酸製剤(オメガ-3CA)の摂取はコーン油摂取と比較して、主要有害心血管イベント(MACE)の複合アウトカムの発生に有意差はなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のStephen J. Nicholls氏らが多施設共同二重盲検無作為化試験「STRENGTH試験」の結果を報告した。EPAとDHAのオメガ-3脂肪酸が心血管リスクを抑制するかは明らかになっていない。一方で、オメガ-3CAはアテローム性脂質異常症や心血管高リスクの患者の脂質および炎症マーカーに対して好ましい効果があることが文書化されていた。著者は、「今回の結果は、MACE抑制を目的とした高リスク患者でのオメガ-3CAの使用を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2020年11月15日号掲載の報告。22ヵ国のスタチン治療中患者を対象に、コーン油と比較 オメガ-3CAまたはコーン油摂取について比較した試験は、北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの22ヵ国・675の大学または地域病院で、スタチン治療中で心血管リスクが高く、高トリグリセライド血症およびHDLコレステロール(HDL-C)が低値の患者を対象に行われた。2014年10月30日~2017年6月14日に登録が行われ、試験は2020年1月8日に終了、最終患者の受診は2020年5月14日であった。 被験者は、スタチン等の通常の治療に加えて、4g/日のオメガ-3CAを摂取する群(6,539例)または不活性比較群として機能することを目的としたコーン油を摂取する群(6,539例)に、無作為に割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠動脈血行再建術・入院を要した不安定狭心症の複合(MACE)であった。有益性の可能性が見込めず試験は早期に中止 1,384例の患者に主要エンドポイントのイベントが発生した時点(計画では1,600件)で行われた中間解析の結果、オメガ-3CAがコーン油よりも臨床的有益性を認める可能性は低いことが示され、試験は早期に中止となった。 治療中であった1万3,078例の患者(平均年齢62.5[SD 9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、LDL-C中央値75.0mg/dL、トリグリセライド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/dL)において、1万2,633例(96.6%)が主要エンドポイント発生に関する試験を完了した。 主要エンドポイントの発生は、オメガ-3CA群785例(12.0%)、コーン油群795例(12.2%)であった(ハザード比[HR]:0.99[95%信頼区間[CI]:0.90~1.09]、p=0.84)。 消化器系の有害事象の発現が、オメガ-3CA群(24.7%)でコーン油群(14.7%)よりも高頻度に観察された。

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難治性高コレステロール血症、evinacumabでLDL-C半減/NEJM

 難治性高コレステロール血症患者の治療において、アンジオポエチン様蛋白3(ANGPTL3)の完全ヒト化モノクローナル抗体であるevinacumab(高用量)はプラセボに比べ、LDLコレステロール値を50%以上低下させることが、米国・マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のRobert S. Rosenson氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月15日号に掲載された。ANGPTL3は、リポタンパク質リパーゼや血管内皮リパーゼを阻害することで、脂質代謝の調節において重要な役割を担っている。ANGPTL3の機能喪失型変異を有する患者は、LDLコレステロールやトリグリセライド、HDLコレステロールが大幅に低下した低脂血症の表現型を示し、冠動脈疾患のリスクが一般集団より41%低いと報告されている。evinacumabは、第II相概念実証研究の機能解析で、LDL受容体とは独立の機序でLDLコレステロールを低下させる作用が示唆されている。皮下投与で3用量、静脈内投与で2用量とプラセボを比較 本研究は、難治性高コレステロール血症患者におけるevinacumabの安全性と有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であり、20ヵ国85施設が参加した(Regeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18~80歳、難治性高コレステロール血症を有するヘテロ接合性または非ヘテロ接合性の原発性家族性高コレステロール血症で、エゼチミブの有無を問わず、最大耐用量のPCSK9阻害薬またはスタチンに抵抗性の患者であった。難治性高コレステロール血症は、アテローム性動脈硬化による心血管疾患がある場合は70mg/dL以上、ない場合は100mg/dL以上と定義された。 被験者は、evinacumabまたはプラセボを皮下または静脈内投与する群に無作為に割り付けられた。皮下投与では、450mg/週、300mg/週、300mg/2週、プラセボに1対1対1対1の割合で、静脈内投与では、15mg/kg/4週、5mg/kg/4週、プラセボに1対1対1の割合で割り付けられた。 主要エンドポイントは、ベースラインから16週のLDLコレステロールの変化率とした。HDLコレステロールも用量依存性に低下 272例が登録され、皮下投与例(163例、平均年齢54±13.2歳、女性62%、ヘテロ接合性72%)ではevinacumab 450mg群に40例、同300mg/週群に43例、同300mg/2週に39例、プラセボ群には41例が、静脈内投与例(109例、54.6±11.0歳、56%、81%)では、15mg/kg/4週群に39例、5mg/kg/4週群に36例、プラセボ群には34例が割り付けられた。全例がPCSK9阻害薬の投与を受けており、44%が最大耐用量のスタチン、30%がエゼチミブの投与を受けていた。 16週の時点で、皮下投与例におけるベースラインからのLDLコレステロール値の変化率の最小二乗平均値の差は、450mg群とプラセボ群が-56.0ポイント、300mg/週群とプラセボ群が-52.9ポイント、300mg/2週群とプラセボ群は-38.5ポイントであった(いずれもp<0.001)。また、静脈内投与例における変化率の最小二乗平均値の差は、15mg/kg/4週群とプラセボ群が-50.5ポイント(p<0.001)、5mg/kg/4週群とプラセボ群は-24.2ポイントの差であった。皮下投与例、静脈内投与例とも、2週後にはevinacumab治療への反応が認められ、16週まで維持された。 脂質値は、evinacumabの皮下投与および静脈内投与が、プラセボに比べて実質的に低下した。リポ蛋白(a)を除き、アテローム性リポ蛋白はevinacumabの用量依存性に低下した。 皮下投与例におけるHDLコレステロールの16週時のベースラインからの変化は、450mg群が-27.9%、300mg/週群が-30.3%、300mg/2週は-19.5%であり、プラセボ群は-1.7%であった。また、静脈内投与例では、15mg/kg/4週群が-31.4%、5mg/kg/4週群は-14.9%であり、プラセボ群は1.9%だった。 治療期間中の有害事象の発生率は各群54~84%の範囲であり、重篤な有害事象の発生率は3~16%の範囲であった。治療中止の原因となった有害事象は、3~6%で発生した。 著者は、「これらの結果は、ANGPTL3の阻害による、心血管疾患に対する潜在的な有益性を支持するものである」と結論し、「evinacumabで観察されたHDLコレステロール低下の重要性はまだ十分に解明されていないが、自然発生的な遺伝学的ANGPTL3欠損症の患者では、低HDLコレステロールは心血管疾患のリスク増大とは関連がなかったと報告されている」と指摘している。

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高LDL-C値の70歳以上、心筋梗塞・アテローム性心血管疾患リスク増大/Lancet

 非アテローム性心血管疾患・非糖尿病・スタチン非服用で、低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールが上昇した70~100歳集団は、心筋梗塞やアテローム性心血管疾患イベントの絶対リスクが最も高いことが、デンマーク・オーフス大学病院のMartin Bodtker Mortensen氏らが行った、同国一般住民を対象とした大規模コホート試験「Copenhagen General Population Study(CGPS)」で明らかにされた。一方で、同70~100歳集団は、同イベントの発症を5年間で1件予防するための必要治療数(NNT)が最も低いことも示された。著者は、「本試験のデータは、増え続ける70~100歳集団の心筋梗塞およびアテローム性心血管疾患の負荷を軽減するために必要な予防戦略にとって重要なものである」と述べている。先行研究では、70歳以上のLDLコレステロール値上昇は同イベント発症リスク増大と関連していないとされていた。Lancet誌2020年11月21日号掲載の報告。アテローム性心血管疾患・糖尿病、スタチン服用のない20~100歳を追跡 研究グループは先行研究の仮説を直近の70~100歳集団で検証するため、2003年11月25日~2015年2月17日に9万1,131例を対象に行われたCGPSの被験者データを解析した。被験者の年齢は20~100歳で、ベースラインでアテローム性心血管疾患や糖尿病がなく、スタチンを服用していない参加者を包含した。LDLコレステロール値は標準的な病院検査法を用いて測定された。 心筋梗塞およびアテローム性心血管疾患についてハザード比(HR)と絶対イベント率を算出し、5年間でイベント1件を予防するためのNNTを推算して評価した。LDL-Cが1.0mmol/L増でMIリスク1.3倍、70歳以上で増幅顕著 被験者9万1,131例は2018年12月7日まで、平均7.7(SD 3.2)年追跡を受けた。その間に1,515例が初回心筋梗塞を、また3,389例がアテローム性心血管疾患を発症した。 心筋梗塞リスクは、LDLコレステロール値が1.0mmol/L上昇するごとに増大することが、全年齢集団において認められた(HR:1.34、95%信頼区間[CI]:1.27~1.41)。同増大の関連は、いずれの年齢群においてもみられ(HRは20~49歳:1.68、50~59歳:1.28、60~69歳:1.29、70~79歳:1.25、80~100歳:1.28)、70~100歳でもリスクの増大はみられた。 アテローム性心血管疾患リスクも、LDLコレステロール値が1.0mmol/L上昇するごとに増大することが、全年齢集団において認められ(HR:1.16、95%CI:1.12~1.21)、70~100歳でもリスクの増大はみられた(HRは70~79歳:1.12、80~100歳:1.16)。 心筋梗塞リスクは、LDLコレステロール値5.0mmol/L以上上昇が3.00mmol/L未満上昇に比べ増大することも認められた。80~100歳のHRは2.99(95%CI:1.71~5.23)、70~79歳では同1.82(1.20~2.77)だった。 LDLコレステロール値の1.0mmol/L上昇ごとの心筋梗塞発症率(件/1,000人年)は、70~100歳群で最大で、年齢が下がるにつれて減少した。心筋梗塞を5年間で1件予防するためのNNTは、全集団が中程度のスタチン療法を受けた場合、70~100歳が最小で(NNTは70~79歳:145、80~100歳:80)、年齢が下がるにつれて増加した(同60~69歳:261、50~59歳:439、20~49歳:1,107)。

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高齢者でも積極的なコレステロール低下治療が有用だが個別的治療は常に念頭に置くべき(解説:桑島巌氏)-1323

 本論文は24の大規模臨床試験における75歳以上の高齢者2万1,492例について、コレステロール治療と心血管合併症リスク低下との関連をメタ解析した成績である。結果から言うと、75歳以上の高齢者でも若・中年者同様にコレステロール値は下げたほうが心筋梗塞、脳卒中などの心血管イベントリスクは有意に低下するという結果であった。 LDLコレステロール値を1mmol/L(38.67mg/dL)下げると心血管イベント低下率は26%で75歳未満の低下率15%と差がないという結果は、高齢者でもコレステロールの高い症例では心血管イベントは抑制できることを明瞭に示した。 このメタ解析は心血管リスクを有している高コレステロール例を下げることのメリットを実証したものであり、一般住民での追跡研究のメタ解析ではない。したがって、一般住民でのコレステロール値が低いほうが生命予後がよいか否かとの論争とは論点が異なる。 メタ解析の課題の1つである臨床試験の選択における恣意性に関しては、Cholesterol Treatment Trialist’s Collaboration(CTTC)の24試験も含んでおり問題がないと思われる。 メタ解析の避けられない短所として注意すべき点である患者背景の非均一性に関しては、多様性を特徴とする高齢者対象であるだけに、本研究の結果をそのまま臨床の場における高齢者の治療に当てはめるわけにはいかない。本メタ解析に含まれている臨床研究では、フレイルや認知機能障害、腎機能障害例の多くは除外されていることは念頭に置くべきである。また、有効性を検証するメタ解析では、有害事象や安全性に関する情報が希薄になりがちであることにも注意が必要である。 高齢者におけるリスクのある高コレステロール血症に対しても若・中年者同様に、厳格なコレステロール管理が重要であることを念頭に置きつつ、安全性を考慮しながら個別的な治療を心掛ける必要がある。

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1日1回の経口服用で腎性貧血を治療する「バフセオ錠150mg/300mg」【下平博士のDIノート】第63回

1日1回の経口服用で腎性貧血を治療する「バフセオ錠150mg/300mg」今回は、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬「バダデュスタット錠(商品名:バフセオ錠150mg/300mg、製造販売元:田辺三菱製薬)」を紹介します。本剤は、保存期・透析期にかかわらず、1日1回の経口服用で腎性貧血を改善し、患者さんのQOLやアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、腎性貧血の適応で、2020年6月29日に承認され、2020年8月26日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはバダデュスタットとして1回300mgを開始用量とし、1日1回経口投与します。以後は、患者の状態に応じて最高用量1日1回600mgを超えない範囲で適宜増減します。増量する場合は、150mg単位を4週間以上の間隔を空けて行います。休薬した場合は、1段階低い用量で投与を再開します。なお、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)で未治療の場合、本剤投与開始の目安は、保存期の慢性腎臓病(CKD)患者および腹膜透析患者ではヘモグロビン濃度で11g/dL未満、血液透析患者ではヘモグロビン濃度で10g/dL未満とされています。<安全性>CKD患者を対象とした国内全臨床試験において、副作用(臨床検査値異常を含む)は、総症例数481例中61例(12.7%)に認められました。主な副作用は、下痢19例(4.0%)、悪心8例(1.7%)、高血圧7例(1.5%)、腹部不快感、嘔吐各4例(0.8%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、血栓塞栓症(4.2%)、肝機能障害(頻度不明)が現れることがあります。本剤の投与開始前に血栓塞栓症のリスクを評価し、本剤投与中も血栓塞栓症が疑われる徴候や症状を確認する必要があります。<相互作用>本剤はOAT1およびOAT3の基質であり、BCRPおよびOAT3に対して阻害作用を有します。したがって、BCRPの基質となる薬剤(ロスバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、サラゾスルファピリジンなど)、OAT3の基質となる薬剤(フロセミド、メトトレキサートなど)との相互作用には注意が必要です。また、多価陽イオンを含有する経口薬(カルシウム、鉄、マグネシウム、アルミニウムなどを含む製剤)と併用した場合にキレートを形成し、本剤の作用が減弱する恐れがあるため、併用する場合は本剤の服用前後2時間以上を空けて投与します。<患者さんへの指導例>1.この薬は、赤血球のもとになる細胞を刺激し血液中の赤血球を増やすことで、貧血を改善します。2.吐き気、嘔吐、手足の麻痺、しびれ、脱力、激しい頭痛、胸の痛み、息切れ、呼吸困難などが現れた場合は、すぐに医師に連絡してください。3.この薬には飲み合わせに注意が必要な薬があります。新たに薬やサプリメントを使用する場合は、必ず医師または薬剤師に本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>腎性貧血は、腎機能の低下に伴いエリスロポエチン(EPO)の産生が減少することによって生じる貧血です。これまで、腎性貧血の治療にはEPOの補給を行うために、ダルベポエチンアルファ(商品名:ネスプ)やエポエチンベータペゴル(同:ミルセラ)などのESAが投与されてきました。これらの製剤は注射薬ですが、近年は内服薬であるHIF-PH阻害薬が開発され、患者さんの負担を軽減し、QOLが維持されやすくなりました。HIF-PH阻害薬は、低酸素応答機構がEPO産生を調節することを利用した、まったく新しい機序の腎性貧血治療薬であり、その機構解明の功績により、William G. Kaelin Jr.、Sir Peter J. Ratcliffe、Gregg L. Semenzaが2019年ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。2020年11月時点でロキサデュスタット錠(同:エベレンゾ)、ダプロデュスタット錠(同:ダーブロック)、エナロデュスタット錠(同:エナロイ)、そして本剤の4種類が発売されています。それぞれ適応、服用回数、腎機能などによる投与量、増量段階の回数や間隔、食事の影響などに違いがあります。本剤は食事の影響が比較的少なく、どのタイミングでも服用できます。また、CKD保存期でも透析期でも同じ投与量であり、腎機能によって投与量が異なることもありません。調節範囲も4段階と比較的少なくなっています。腎性貧血患者は、リン吸着剤などの併用により服用時点が多くなりがちなので、シンプルな服用方法はアドヒアランスの向上に役立つと考えられます。HIF-PH阻害薬の登場によって、腎性貧血治療が薬局薬剤師にとって身近なものになります。日本腎臓学会から「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation」が公表されていますので、一度目を通しておくとよいでしょう。参考1)PMDA 添付文書 バフセオ錠150mg/バフセオ錠300mg2)日本腎臓学会 HIF-PH 阻害薬適正使用に関するrecommendation

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スタチン+降圧薬のポリピル、アスピリン併用で心血管イベント抑制/NEJM

 心血管疾患がなく、中等度以上の心血管リスクを有する集団において、スタチンと3つの降圧薬の合剤であるポリピル(polypill)とアスピリンの併用療法はプラセボ+プラセボと比較して、心血管イベントの発生率が約3割低いことが、カナダ・マックマスター大学のSalim Yusuf氏らが行ったTIPS-3試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月13日号に掲載された。世界では毎年、心血管疾患による死亡が約1,800万件発生しており、その80%以上を低~中所得国が占めるという。血圧上昇とLDLコレステロール値上昇は、心血管疾患の最も重要な修正可能なリスク因子であり、降圧薬と脂質低下薬を組み合わせたポリピルが有益な可能性が示唆されている。一方、アスピリンは、心血管疾患患者に対する有用性が証明されているが、心血管疾患の1次予防における単独での役割、あるいはポリピルに含まれる1剤としての役割は明らかにされていない。ポリピル単独とアスピリン単独とポリピル+アスピリン併用を比較 本研究は、2×2×2ファクトリアルデザインの二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、9ヵ国(インド、バングラデシュ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、コロンビア、カナダ、タンザニア、チュニジア)の86施設が参加し、2012年7月~2017年8月の期間に患者登録が行われた(Wellcome Trustなどの助成による)。 対象は、心血管疾患がなく、INTERHEARTリスクスコア(0~48点、点数が高いほど心血管リスクが高い)で中等度または高リスクの50歳以上の男性および55歳以上の女性であった。被験者は、ポリピル(シンバスタチン40mg、アテノロール100mg、ヒドロクロロチアジド25mg、ramipril 10mgを含有)またはプラセボを毎日、アスピリン75mgまたはプラセボを毎日、ビタミンDまたはプラセボを毎月投与する群に無作為に割り付けられた。 今回は、ポリピル単独とプラセボ、アスピリン単独とプラセボ、ポリピル+アスピリンとダブルプラセボの比較の結果が報告された。 ポリピル単独およびポリピル+アスピリンとそれぞれのプラセボとの比較における主要アウトカムは、主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心停止への蘇生術、心不全、動脈血行再建)の複合とした。アスピリンとプラセボの比較における主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合であった。ポリピル+アスピリン併用群の主要アウトカム:4.1% vs.5.8% 5,713例が無作為化の対象となり、平均フォローアップ期間は4.6年であった。参加者はインドが47.9%と最も多く、次いでフィリピンが29.3%であった。ベースラインの平均年齢は63.9歳、52.9%が女性で、高血圧/血圧上昇が83.8%、糖尿病/血糖値上昇が36.7%で認められ、平均収縮期血圧は144.5mmHg、平均心拍数は77.0拍/分、平均LDLコレステロール値は120.7mg/dL(3.1mmol/L)だった。 試験期間中、ポリピル単独とポリピル+アスピリン併用を合わせた群はプラセボ群と比較して、平均収縮期血圧が5.8mmHg低く、平均心拍数が4.6拍/分少なく、平均LDLコレステロール値が19.0mg/dL(0.50mmol/L)低かった。 ポリピル比較の主要アウトカムは、ポリピル群(2,861例)が126例(4.4%)、プラセボ群(2,852例)は157例(5.5%)で発生した(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~1.00)。また、アスピリン比較の主要アウトカムは、アスピリン群(2,860例)が116例(4.1%)、プラセボ群(2,853例)は134例(4.7%)で発生した(HR:0.86、95%CI:0.67~1.10)。 ポリピル+アスピリン比較の主要アウトカム(初発)は、ポリピル+アスピリン群(1,429例)が59例(4.1%)、ダブルプラセボ群(1,421例)は83例(5.8%)で発生した(HR:0.69、95%CI:0.50~0.97)。初発と再発を合わせた主要アウトカムは、ポリピル+アスピリン群が64例、ダブルプラセボ群は93例で発生した(HR:0.68、95%CI:0.48〜0.96)。 副作用により試験を中止した参加者数は、ポリピル+アスピリン群とダブルプラセボ群で同程度であった(筋肉症状:5例、7例、消化管出血:3例、1例、胃腸症[dyspepsia]:3例、3例、胃炎:19例、22例、消化性潰瘍:3例、3例)。また、低血圧およびめまいの発生率は、ポリピルを投与された群が、それぞれに対応するプラセボ群に比べて高かった。低血圧およびめまいにより試験薬を中止した参加者は、ポリピル+アスピリン群が45例、ダブルプラセボ群は22例だった。大出血は、ポリピル+アスピリン群が9例、ダブルプラセボ群は12例で報告された。 著者は、「併用群の心血管イベントに関する有益性は、LDLコレステロール値と血圧の適度な低下に、アスピリンによる有益性が加わった場合に予測されたものと一致していた」としている。

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75歳以上への脂質低下療法、心血管イベントの抑制に有効/Lancet

 脂質低下療法は、75歳以上の患者においても、75歳未満の患者と同様に心血管イベントの抑制に効果的で、スタチン治療とスタチン以外の脂質低下薬による治療の双方が有効であることが、米国・ハーバード大学医学大学院のBaris Gencer氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年11月10日号に掲載された。高齢患者におけるLDLコレステロール低下療法の臨床的有益性に関する議論が続いている。2018年の米国心臓病学会と米国心臓協会(ACC/AHA)のコレステロールガイドラインでは、高齢患者に対する脂質低下療法の推奨度が若年患者よりも低く、2019年の欧州心臓病学会(ESC)と欧州動脈硬化学会(EAS)の脂質異常症ガイドラインは、高齢患者の治療を支持しているが、治療開始前に併存疾患を評価するための具体的な考慮事項を追加している。75歳以上における主要血管イベントをメタ解析で評価 研究グループは、高齢患者におけるLDLコレステロール低下療法のエビデンスを要約する目的で、系統的レビューとメタ解析を実施した(研究助成は受けていない)。 医学データベース(MEDLINE、Embase)を用いて、2015年3月1日~2020年8月14日の期間に発表された論文を検索した。対象は、2018年のACC/AHAガイドラインで推奨されているLDLコレステロール低下療法の心血管アウトカムを検討した無作為化対照比較試験のうち、フォローアップ期間中央値が2年以上で、高齢患者(75歳以上)のデータを含む試験であった。心不全または透析患者だけを登録した試験は、これらの患者にはガイドラインで脂質低下療法が推奨されていないため除外した。標準化されたデータ形式を用いて高齢患者のデータを抽出した。 メタ解析では、LDLコレステロール値の1mmol/L(38.67mg/dL)低下当たりの主要血管イベント(心血管死、心筋梗塞/他の急性冠症候群、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合)のリスク比(RR)を算出した。主要血管イベントの個々の構成要素のすべてで有益性を確認 系統的レビューとメタ解析には、スタチン/強化スタチンによる1次/2次治療に関するCholesterol Treatment Trialists' Collaboration(CTTC)のメタ解析(24試験)と、5つの単独の試験(Treat Stroke to Target試験[スタチンによる2次予防]、IMPROVE-IT試験[エゼチミブ+シンバスタチンによる2次予防]、EWTOPIA 75試験[エゼチミブによる1次予防、日本の試験]、FOURIER試験[スタチンを基礎治療とするエボロクマブによる2次予防]、ODYSSEY OUTCOMES試験[スタチンを基礎治療とするアリロクマブによる2次予防])の6つの論文のデータが含まれた。 合計29件の試験に参加した24万4,090例のうち、2万1,492例(8.8%)が75歳以上であった。このうち1万1,750例(54.7%)がスタチンの試験、6,209例(28.9%)がエゼチミブの試験、3,533例(16.4%)はPCSK9阻害薬の試験の参加者であった。フォローアップ期間中央値の範囲は2.2~6.0年だった。 LDLコレステロール低下療法により、高齢患者における主要血管イベントのリスクが、LDLコレステロール値の1mmol/L低下当たり26%有意に低下した(RR:0.74、95%信頼区間[CI]:0.61~0.89、p=0.0019)。これに対し、75歳未満の患者では、15%のリスク低下(0.85、0.78~0.92、p=0.0001)が認められ、高齢患者との間に統計学的に有意な差はみられなかった(pinteraction=0.37)。 高齢患者では、スタチン治療(RR:0.82、95%CI:0.73~0.91)とスタチン以外の脂質低下療法(0.67、0.47~0.95)のいずれもが主要血管イベントを有意に抑制し、これらの間には有意な差はなかった(pinteraction=0.64)。また、高齢患者におけるLDLコレステロール低下療法の有益性は、主要血管イベントの個々の構成要素のすべてで観察された(心血管死[0.85、0.74~0.98]、心筋梗塞[0.80、0.71~0.90]、脳卒中[0.73、0.61~0.87]、冠動脈血行再建術[0.80、0.66~0.96])。 著者は、「これらの結果は、高齢患者におけるスタチン以外の薬物療法を含む脂質低下療法の使用に関するガイドラインの推奨を強化するものである」としている。

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第23回 軽症の肺炎は入院適応ではないのか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)スコアだけで判断するのではなく、患者背景を意識したマネジメントを!2)再発予防も忘れずに!【症例】81歳女性、肺炎●受診時のバイタルサイン意識清明血圧139/75mmHg脈拍72回/分(不整)呼吸21回/分SpO296%(RA)体温36.9℃既往歴高血圧、心筋梗塞、心房細動内服薬タケルダ(一般名:アスピリン・ランソプラゾール配合剤錠)、リピトール(同:アトルバスタチン)、ラシックス(同:フロセミド)、エリキュース(同:アピキサバン)肺炎の重症度の判断みなさん、肺炎の重症度はどのように判断しているでしょうか?酸素化が悪くリザーバーマスクでの酸素投与を要する場合には、重症と判断することは可能ですが、指標は酸素投与量のみでは判断できませんよね。市中肺炎の重症度の指標としてCURB-65スコア(表1)、A-DROPスコア(表2)が有名です1)。A-DROPスコアは、わが国の高い平均寿命を考慮して年齢が修正されていますが、項目はほぼCURB-65スコアと同様です。A-DROPスコアでは、CURB-65スコアで呼吸数だった項目がSpO2になっていますが、必ず呼吸数は意識するようにしてください。意識障害の程度が項目に含まれているのも重要です。Sepsis-3で導入されたqSOFAでも呼吸数と意識状態は大事なバイタルサインでしたね2)。A-DROPスコアの5項目のうち、実臨床で軽視されがちなのが意識状態、そして脱水の有無でしょう。他の項目は簡単に評価できるのに対して、意識障害は発熱や認知症のせい、水分は摂れそうだから脱水はないだろうなどと考えてしまいがちですが、どちらも客観的な評価が必要です。普段の意識状態との比較、身体所見で脱水を示唆する所見を認めないかはきちんと確認しましょう。また、体温と重症度は比例せず、むしろ低い方が重症であることを覚えておきましょう。高熱だから重症、発熱を認めないから軽症というわけではありません。表1 CURB-65スコア画像を拡大する表2 A-DROPスコア画像を拡大する誤嚥性肺炎の重症度高齢者で多い肺炎の原因に誤嚥性肺炎が挙げられます。誤嚥性肺炎の重症度も市中肺炎と同様にCURB-65スコアやA-DROPスコアで評価してよいかというと注意が必要です。誤嚥性肺炎は嚥下機能障害などを認める患者に起こるが故に、患者背景に予後は大きく依存します。そのため、重症度評価は患者背景が含まれるPSI(Pneumonia Severity Index)スコア(表3)が有効とされます3、4)。PSIはA-DROPスコアと比較すると評価項目が多く、点数をつけるのは面倒と思うかもしれませんが、患者背景を意識しなければ適切な評価はできません。簡単に計算できるアプリケーション(MDCalc etc.)もあるので利用するとよいでしょう。表3 PSIスコア画像を拡大する軽症ならば帰宅?酸素投与が必要な症例は原則として入院となりますが、酸素需要がなく軽症であれば帰宅可能でしょうか。例えば本症例の81歳の女性が肺炎球菌性肺炎でA-DROPスコアが年齢のみの1点であれば帰宅は可能なのでしょうか。結論から言えば、スコアだけで判断することはできません。歩行可能で経口摂取が問題ない患者さんと、A-DROPスコアこそ1点であるものの食事が十分摂れず自身では動くことができない患者さんでは、対応が一緒のはずがないからです。また、既存の疾患によって複数の薬剤を内服している患者さんでは、食事摂取量によって、また抗菌薬投与によって薬剤の効果に変動がみられるかもしれません。高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)など患者さんの日常生活動作の評価だけでなく精神心理機能や社会経済因子、さらには服薬状況や事前指示取得など複数の項目を評価することが重要なのです。救急外来で診療をしていると多くの患者さんを対応し、軽症患者をなんとか帰宅させようとしてしまうものです。また、ベッド状況も厳しく入院の閾値は上がっているかもしれません。しかし、無理矢理帰して重症化して再受診となっては、入院期間はさらに延びてしまうでしょう。「急がば回れ」の精神で、初診時に先を見据えた適切な対応を行うことを心掛けましょう。1)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2017.2017.2)Singer M, et al. JAMA. 2016;315:801-810.3)Lanspa MJ,et al. J Hosp Med. 2015.10;2:90-96.4)Fine MJ, et al. N Engl J Med. 1997;336:243-250.

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ESMO2020レポート 肝胆膵腫瘍

レポーター紹介はじめにESMO VIRTUAL CONGRESS 2020はASCO 2020 Virtualに引き続き、オンラインでの開催となった。開催会場を模したトップページ上から各会場へとアクセスでき、これまでの開催のように人々が集う様子には新型コロナウイルス感染症の収束への願いが現れていた。本稿では肝胆膵領域からいくつかの演題を紹介したい。巨大肝細胞がんに対するFOLFOXを用いたHAICの有効性が示されるHepatic arterial infusion chemotherapy (HAIC) with oxaliplatin, fluorouracil, and leucovorin (FOLFOX) versus transarterial chemoembolization (TACE) for unresectable hepatocellular carcinoma (HCC): A randomised phase III trial 【Presentation ID:981O】Intermediate stageの手術不能でかつ穿刺局所療法の対象とならない多血性肝細胞がんに対して行われるTACEの有効性は、巨大な肝細胞がんに対しては病勢制御割合は50%未満、全生存期間は9~13ヵ月といまだ十分とは言えない。FOLFOXを用いたHAICの第II相試験での良好な抗腫瘍効果を受けて、巨大な切除不能肝細胞がん患者におけるFOLFOXを用いたHAICおよびTACEを比較する無作為化第III相試験の結果が報告された。最大径7cm以上で大血管への浸潤もしくは肝外転移のない切除不能肝細胞がんを有する、Child-Pugh分類A、ECOG PS0または1の患者が適格とされた。登録された患者はHAIC(オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン400mg/m2、1日目にフルオロウラシルボーラス400mg/m2、およびフルオロウラシル注入2,400mg/m2を24時間、3週間ごとに繰り返し6サイクルまで投与)またはTACE(エピルビシン50mg、ロバプラチン50mg、リピオドールおよびポリビニルアルコール粒子)に1対1で割り付けられた。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効割合(ORR)および安全性が評価された。データカットオフは2020年4月でフォローアップは継続されている。HAIC群に159例、TACE群に156例が登録された。患者背景に大きな差はなく、HAIC群/TACE群のHBV陽性例が88.1/90.4%、AFP 400ng/mL以上は52.2/48.1%であった。最大腫瘍径の中央値はHAIC群9.9cm(範囲:7~21.3)、TACE群9.7cm(7~19.8)であり、腫瘍数が3個以下であった症例はHAIC群51.6%、TACE群47.7%であった。治療回数の中央値はHAIC群で4回(2~5)、TACE群で2回(1~3)であった。治療のクロスオーバーはTACE群で多く、HAIC群では後治療として切除が行われた症例が多かった(p=0.004)。RECIST ver.1.1によるHAIC群のORRは45.9%とTACE群の17.9%に比べ有意に高かった(p< 0.001)。Modified RECISTによる評価でも同様にHAIC群が有意に高い結果であった(48.4% vs.32.7%、p=0.004)。主要評価項目であるOS中央値はHAIC群23.1ヵ月(95%信頼区間:18.23~27.97)、TACE群16.07ヵ月(95%信頼区間:14.26~17.88)であり、HAIC群で有意な延長を認めた(HR=0.58、95%信頼区間:18.23~27.97、p<0.001)。PFS中央値は、HAIC群9.63ヵ月(95%信頼区間:7.4~11.86)、TACE群5.4ヵ月(95%信頼区間:3.82~6.98)であり、HAIC群で有意に延長した(HR=0.55、95%信頼区間:0.43~0.71、p<0.001)。Grade3以上の治療関連有害事象はHAIC群で19%、TACE群で30%とHAIC群で少なかった(p=0.03)。巨大な切除不能肝細胞がんを有する患者に対するFOLFOXを用いたHAICはTACEに比べて有効性および安全性ともに良好であった。これまで本邦では5-FUおよびシスプラチンを併用したHAICは外科的切除およびその他の局所治療の適応とならない肝細胞がんを対象としてソラフェニブへの上乗せ効果を第III相試験で示すことができなかったことなどを含めて、標準治療とされてこなかった。しかし、今回のような巨大肝細胞がんに対するHAICの有効性の報告、および門脈腫瘍栓を有する肝細胞がんに対するHAICの有効性の報告などが続いており、今後の開発に注目していきたい。転移を有する膵管腺がんおよび神経内分泌腫瘍(NEN)に対する免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が検討されるThe Canadian Cancer Trials Group PA.7 trial: Results of a randomized phase II study of gemcitabine (GEM) and nab-paclitaxel (Nab-P) vs. GEM, Nab-P, durvalumab (D) and tremelimumab (T) as first line therapy in metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC)【Presentation ID:LBA65】ゲムシタビンおよびnab-パクリタキセル併用療法(GnP)は転移を有する膵がんに対する標準的な1次治療として確立されている。一方で、DNAミスマッチ修復機構の欠損(mismatch repair deficient:dMMR)を呈する場合を除き膵がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性は限られたものとされるが、線維芽細胞を含めた腫瘍環境因子による免疫チェックポイント阻害薬の耐性はゲムシタビンおよびnab-パクリタキセル併用により克服されるとの報告がある。これらを受け、抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ(D)および抗CTLA-4抗体であるtremelimumab(T)をGnP療法に上乗せする4剤併用療法は、11例のsafety run-inコホートでの安全性が確認されたうえで、その有効性がランダム化第II相試験で検討された。試験はカナダ全域より28施設が参加し行われた。全身状態の保たれた未治療の転移のある膵管腺がんを有する患者が適格とされ、GnP群(ゲムシタビン、nab-パクリタキセルそれぞれ1,000mg/m2、125mg/m2を1日目、8日目、15日目に投与、28日を1サイクル)または4剤併用群(GnP療法に加えてD 1,500mgおよびT 75mgを1日目に投与)の2群に2対1の割合でランダム割り付けされた。ECOG PS、術後補助化学療法歴の有無により層別化が行われた。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、安全性、ORRが設定された。OSの中央値をGnP群8.5ヵ月に対して4剤併用群13.1ヵ月(HR=0.65)、両側αエラー0.1、統計学的検出力0.8として150イベントが必要であると算出された。データカットオフは2020年3月15日とされた。4剤併用群に119例、GnP群に61例が割り付けられ、患者背景は両群に差はなかった。ECOG PS0/1は4剤併用群で22.7/77.3%、GnP群で23/77%、術後補助化学療法歴は4剤併用群で10.1%、GnP群で11.5%が有しており、アジア人が4剤併用群に8.4%、GnP群に9.8%含まれる集団であった。主要評価項目であるOSの中央値は4剤併用群9.8ヵ月(90%信頼区間:7.2~11.2)、GnP群8.8ヵ月(90%信頼区間:8.3~12.2)であり4剤併用群の優越性は示されなかった(層別HR=0.94、90%信頼区間:0.71~1.25、p=0.72)。PFSの中央値は4剤併用群5.5ヵ月(90%信頼区間:3.8~5.7)、GnP群5.4ヵ月(90%信頼区間:3.6~6.6)であった(層別HR=0.98、90%信頼区間:0.75~1.29、p=0.91)。ORRは4剤併用群30.3%、GnP群23.0%(オッズ比1.49、90%信頼区間:0.81~2.72、p=0.28)であり、PFS、ORRいずれも両群に有意な差はなかった。治療期間中のGrade3以上の有害事象は両群に差はなく4剤併用群で84%、GnP群で76%に認められ、倦怠感、血栓塞栓イベント、敗血症などが多かった。治療期間中のGrade3以上の検査値異常はおおむね同等であったが、リンパ球減少が4剤併用群で38%、GnP群で20%と4剤併用群で有意に高かった(p=0.02)。GnP療法へのデュルバルマブおよびtremelimumabの上乗せはOS、PFS、ORRいずれにおいても有意に改善することができなかった。現在cfDNAの網羅的遺伝子解析を用いて免疫学的観点からの有効性の探索が行われている。A multi-cohort phase II study of durvalumab plus tremelimumab for the treatment of patients (pts) with advanced neuroendocrine neoplasms (NENs) of gastroenteropancreatic or lung origin: The DUNE trial (GETNE 1601)【Presentation ID:1157O】TMB(tumor mutational burden)、PD-L1蛋白発現、およびリンパ球浸潤がいずれも低い、いわゆる「cold」な腫瘍である神経内分泌腫瘍(NEN)に対する免疫チェックポイント阻害の意義は限られたものである。しかしながら昨今、免疫チェックポイント阻害薬の併用がNENに対して良好な抗腫瘍効果を報告しており、今回抗PD-L1抗体であるデュルバルマブと抗CTLA-4抗体であるtremelimumabの併用療法がマルチコホート第II相試験で検討された。標準治療後に増悪した消化管、膵または肺を原発とする進行NENを有する患者が適格とされ、C1:ソマトスタチンアナログ(SSA)および分子標的薬または化学療法の治療歴を有する定型/非定型肺カルチノイド、C2:SSAおよび分子標的薬もしくは放射性核種療法の治療歴を有するGrade1/2消化管NEN、C3:化学療法、SSA、分子標的薬のうち2~4の治療歴を有するGrade1/2膵NENおよびC4:白金製剤を含む化学療法の治療歴を有するGrade3消化管および膵NENの4つのコホートに登録された。登録された患者はデュルバルマブ1,500mgおよびtremelimumab 75mgを4週ごとに4サイクルまで投与を受けた後、デュルバルマブ単剤療法を9サイクルまで継続して投与された。主要評価項目はC1からC3ではRECIST ver.1.1による9ヵ月時点の臨床的有効割合とされ、C4では9ヵ月時点の生存割合とされた。副次評価項目として安全性、PFS、OS、ORRおよび奏効期間(duration of response:DOR)が評価された。C1からC3では臨床的有効割合の閾値を30%、期待値を50%、C4では生存割合の閾値を13%、期待値を23%とし、片側αエラーを0.05、統計学的検出力を0.8として仮説検定に必要な症例数をそれぞれ28例および30例に設定された。C1/C2/C3/C4にそれぞれ27/31/32/33例が登録され、患者背景は以下のようであった。画像を拡大するC1からC3では主要評価項目である9ヵ月時点の臨床的有効割合はC1/C2/C3で7.4/32.3/25%であった。ORRはC1/C2/C3で0/0/6.9%(RECIST ver.1.1)および7.4/0/6.3%(irRECIST)であった。PFSはC1/C2/C3で5.3ヵ月(95%信頼区間:4.52~6.06)/8.0ヵ月(95%信頼区間:4.92~11.15)/8.1ヵ月(95%信頼区間:3.80~12.46)であった。C4では主要評価項目である9ヵ月時点の生存割合は36.1%(95%信頼区間:22.9~57)であった。ORRは7.2%(RECIST ver.1.1)および9.1%(irRECIST)であった。PFSは2.5ヵ月(95%信頼区間:21.5~2.75)であった。すべてのコホートにおける有害事象は倦怠感(43.1%)、下痢(31.7%)、掻痒(23.6%)などであった。進行消化管、膵および肺原発NETに対するデュルバルマブおよびtremelimumabの併用療法の抗腫瘍効果は十分なものではなかった。WHO grade3のNENに対する併用療法は事前に設定した統計学的設定を満たす結果であり、さらなる検討に資するものであった。これまで膵管腺がんおよび神経内分泌腫瘍はいずれもcold tumorとされ、免疫チェックポイント阻害薬の有効性は十分に示されていない。耐性克服のひとつの方向性として併用療法に大きな期待が寄せられていたが、今回の結果もまた厳しいものであった。免疫チェックポイント阻害薬の進行中のバイオマーカーの検討の結果が待たれるとともに、その他の薬剤との併用療法の開発などにも期待し、この領域における免疫療法の開発が継続していくことに期待したい。1次治療中にも転移を有する膵がん患者のQOLは損なわれているThe QOLIXANE trial - Real life QoL and efficacy data in 1st line pancreatic cancer from the prospective platform for outcome, quality of life, and translational research on pancreatic cancer (PARAGON) registry【Presentation ID:1525O】転移を有する膵がんは病勢が早く予後は不良である。GnP療法(ゲムシタビン+nab-パクリタキセル)はMPACT試験などの結果により転移を有する膵がんに対する1次治療として確立されているが、これを受ける患者のQOLに関する報告はいまだなかった。本研究は独95施設が参加する多施設共同前向き観察研究として行われ、GnP療法を受ける転移を有する膵がんが対象とされた。主要評価項目はITT集団における3ヵ月時点でのEORTC QLQ-C30のQoL/Global Health Status(GHS、全般的健康)が維持された患者の割合とされた。ベースラインと比較してスコアの変化が10ポイント未満であった場合に「QoL/GHS Scoreは維持された」と定義された。600人が登録され、患者背景は年齢の平均は68.7歳、男性/女性が58.2/41.8%、ECOG PS 0/1/2/3が32.0/48.7/12.3/1.5%、進行/再発は85.1/13.7%、膵頭部/体部/尾部は48.7/18.2/19.2%であった。GnP療法の投与サイクル数中央値(範囲)は4.0サイクル(0~12)で、45.7%で用量調整が行われており、後治療移行割合は48.5%であった。無増悪生存期間中央値は5.85ヵ月(95%信頼区間:5.23~6.25ヵ月)、全生存期間中央値は8.91ヵ月(95%信頼区間:7.89~10.19ヵ月)であった。Grade3以上の治療関連有害事象は貧血3.9%、好中球減少症5.1%、白血球減少4.3%などで、22例(3.8%)の治療関連死亡が報告された。EORTC QLQ-C30はベースラインでは588例(98%)、3ヵ月時点、293例(48.8%)で評価が可能であった。主要評価項目である3ヵ月時点でQoL/GHS Scoreが維持された患者の割合は61%であった。QoL/GHS Scoreが維持された期間の中央値は4.68ヵ月(95%信頼区間:4.04~5.59ヵ月)であった。単変量解析ではその他のサブスケールと同様にベースラインのQoL/GHS Scoreは生存に有意に寄与した(HR=0.86、p<0.0001)。多変量解析ではEORTC QLQ-C30の各サブスケールのうち、機能スケールでは身体機能(HR=0.86、0.82~0.96、p=0.004)、症状スケールでは悪心・嘔吐(HR=1.06、1.01~1.13、p=0.33)がそれぞれ生存に有意に寄与するものであった。これまでゲムシタビン単剤療法、mFOLFIRINOX療法およびオラパリブなどの第III相試験におけるQOLに関する報告はされていたものの、GnP療法を受ける転移を有する膵がん患者のQOLの情報は不足していた。今回はリアルワールドデータとしてGnP療法を受ける患者のQOLに関する検討が報告された。実臨床でも実感することであるかもしれないが、GnP療法を継続できている患者においても病勢増悪より先にQOLが低下している。転移を有する膵がんに対して、本邦でも今年ナノリポソーム型イリノテカンが承認されるなど治療の選択肢は着実に広がっている。治療をつなぐためにも、このような検討がさらに進んでいくことに期待したい。おわりに今回紹介しきれなかったが、胆道がんにおけるmFOLFIRINOX療法の有効性の報告や、欧州らしく免疫チェックポイント阻害薬以外にも多くの神経内分泌腫瘍に関する演題が多く報告されていた。ASCOに引き続くオンライン開催であったが、世界の最新のエビデンスに日本にいながらにして触れることができるなどオンラインだからこそのメリットもある。新型コロナウイルス感染症の早い収束を願うとともに、がん克服に向けた努力がさらに加速することに期待したい。

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COVID-19に対するスタチンの影響~メタ解析

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床経過に対するスタチンの影響については、相反する報告・見解が示されている。炎症反応の進行や肺損傷に対し保護的な役割を果たすというものと、逆に重症化やサイトカインストームに寄与しうるというものである。マレーシア・International Medical UniversityのChia Siang Kow氏らは、COVID-19の臨床転帰に対するスタチンの影響に関する4報の後ろ向き研究結果を用いてメタ解析を行った。American Journal of Cardiology誌オンライン版2020年8月12日号のCORRESPONDENCEへの報告より。スタチン使用者で新型コロナによる死亡または重症化のリスクが大幅に減少 2020年7月27日までに、スタチン使用者と非使用者との間でCOVID-19の重症度および/または死亡のリスクを評価した研究について、PubMed、Google Scholar、およびmedRxivデータベースを検索・抽出した。観察研究の質は、Newcastle-Ottawa Scale13を用いて評価された。 新型コロナに対するスタチンの影響を解析した主な結果は以下のとおり。・計8,990例のCOVID-19患者を対象とした4つの研究(中国2報、米国、イタリア)が抽出された。・プール解析の結果、スタチン非使用者と比較して、スタチン使用者では死亡または重症化のリスクが大幅に減少した(プール解析でのハザード比:0.70、95%信頼区間:0.53~0.94)。 著者らは、本解析において、COVID-19患者におけるスタチン使用による有害性は示唆されなかったとし、中強度から高強度のスタチン療法が新型コロナに効果的である可能性が示されたとしている。そのうえで、無作為化比較試験による評価が必要としている。

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フロセミドによるK値低下 カリウム追加ではなく抜本的な解決を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第26回

 今回は、フロセミド服用中に血清カリウム値が低下した症例です。フロセミドなどのループ利尿薬は、作用機序由来の低カリウム血症を来しやすいため、カリウム値の補正のためにカリウム製剤が追加されることがあります。今回は、カリウム製剤の追加ではなく、原因となるループ利尿薬そのものを変更することでカリウム値の改善ができたケースを紹介します。患者情報70歳、男性(施設入居)基礎疾患高血圧症、糖尿病、慢性心不全(HFpEF)、心房細動、認知症既往歴50歳時に心筋梗塞のため左前下行枝(LAD)にステント留置副作用歴スピロノラクトンが女性化乳房による乳房痛で服用中止訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理介護士が管理処方内容1.ベニジピン錠4mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタン錠8mg 1錠 分1 朝食後3.テネリグリプチン錠20mg 1錠 分1 朝食後4.グリメピリド錠0.5mg 1錠 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後7.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後8.ピタバスタチン錠2mg 1錠 分1 夕食後9.センノシド錠12mg 2錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、複数の基礎疾患に加え、慢性心不全を患っていました。認知症もあったため自宅での生活が困難となり、施設に入居して3年目です。2週間に1回の訪問診療で体調確認を行い、半年に1回血液検査を行っていました。訪問診療に同行した際に、医師より「筋力低下やふらつきなどの自覚症状の訴えはないが、利尿薬の影響もあってカリウム値が3.8mg/dLから3.3mg/dLに下がってきている。アスパラカリウム錠300mgを3錠 分3 毎食後で補正するのはどうか?」と相談がありました。そこで、いくつか考えるポイントがあったので整理することにしました。フロセミドの治療効果と代替薬の服薬負担を検討患者さんは、慢性心不全によるうっ血症状の浮腫を改善する目的でフロセミド錠を長期服用していました。低カリウム血症をこのままにした場合、不整脈などから心不全悪化の引き金になりかねないので、カリウムの補正は必須です。しかし、カリウム製剤は分3投与になるため患者さんの服薬負担が増すことから避けたいと考えました。また、フロセミド錠は作用時間が短く、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)も約50%と低いことから、利尿薬治療抵抗性などにつながると指摘されていることも気掛かりでした。そこで、同系統のループ利尿薬のトラセミド錠への変更を検討しました。トラセミド錠は、抗アルドステロン作用によるカリウム保持性があり、バイオアベイラビリティも外国人データで79~91%と高いため、長期的に服用しても安定感があると考えました。カリウム製剤を追加するのではなく、フロセミド錠をトラセミド錠に変更することでカリウムの補正にもつながります。なお、別の案としては、カリウム製剤ではなく、選択的アルドステロンブロッカーのエプレレノン錠を追加する方法もありましたが、今回は服用錠数を増やすことなく治療効果を維持することを優先して、トラセミド錠への変更を提案することにしました。処方提案と経過医師へカリウム製剤の追加投与ではなく、フロセミド錠からトラセミド錠への変更をすることでカリウムの補正が可能になることを提案しました。服用錠数や用法を変えずに対応できることが医師に評価され、2週間後に採血でモニタリングしてみようと処方提案が採用されました。フロセミド錠からトラセミド錠への変更後、下腿浮腫の増悪やうっ血症状の増悪はなく経過し、4週間後の採血結果は血清カリウム値が3.6mg/dLと補正されました。その後も電解質異常やうっ血症状の出現はなく経過しています。フロセミド錠10mg/20mg/40mg インタビューフォームトラセミド錠4mg/8mg インタビューフォーム

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FHホモ接合体のevinacumab併用、LDL-Cを40%低下/NEJM

 最大用量の脂質低下療法を受けているホモ接合型家族性高コレステロール血症(FH)の患者において、evinacumabを併用することでLDLコレステロール(LDL-C)値がベースラインよりも大幅に低下したのに対し、プラセボではLDL-C値がわずかに上昇し、24週の時点で群間差が49.0ポイントに達したとの研究結果が、南アフリカ共和国・ウィットウォータースランド大学のFrederick J. Raal氏らによって報告された。「ELIPSE HoFH試験」と呼ばれるこの研究の成果は、NEJM誌2020年8月20日号に掲載された。ホモ接合型FHは、LDL-C値の異常な上昇によって引き起こされる早発性の心血管疾患を特徴とする。この疾患は、LDL受容体活性が実質的に消失する遺伝子変異(null-null型)または障害される遺伝子変異(non-null型)と関連している。また、アンジオポエチン様3(ANGPTL3)をコードする遺伝子の機能喪失型変異は、低脂血症や、アテローム性動脈硬化性心血管疾患への防御と関連している。ANGPTL3に対するモノクローナル抗体であるevinacumabは、ホモ接合型FH患者にとって有益である可能性が示されていた。11ヵ国30施設が参加したプラセボ対照無作為化第III相試験 本研究は、11ヵ国30施設が参加したプラセボ対照無作為化第III相試験であり、2018年2月15日~12月18日の期間に患者登録が行われ、2019年7月29日にデータベースがロックされた(Regeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢12歳以上のホモ接合型FHで、許容できない副作用が発現しない最大用量の脂質低下療法を安定的に受けており、LDL-C値が70mg/dL以上の患者であった。 被験者は、evinacumab(15mg/kg体重)を4週ごとに静脈内注入する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、ベースラインから24週までのLDL-C値の変化率(%)とした。LDL-C値:47.1%低下vs.1.9%上昇 65例が登録され、evinacumab群に43例、プラセボ群には22例が割り付けられた。12~<18歳の患者が各群に1例ずつ含まれた。全体の平均年齢は41.7±15.5歳で、女性が35例(54%)であった。 ベースラインの平均LDL-C値は、最大用量の基礎脂質低下療法を受けていたにもかかわらず、evinacumab群が260mg/dL、プラセボ群は247mg/dLであった。全体の94%がスタチン(77%は高強度スタチン)、77%がPCSK9阻害薬の投与を、34%がアフェレーシスを受けており、63%が3剤以上の脂質修飾薬の投与を受けていた。 24週の時点で、evinacumab群ではLDL-C値がベースラインから47.1%低下したのに対し、プラセボ群では1.9%上昇しており、群間の最小二乗平均差は-49.0ポイント(95%信頼区間[CI]:-65.0~-33.1、p<0.001)であった。 また、LDL-C値の群間の最小二乗平均絶対差は-132.1mg/dL(95%CI:-175.3~-88.9、p<0.001)であった。 LDL-C値の低下は、null-null型変異を有する患者では、evinacumab群がプラセボ群よりも大きく(-43.4% vs.+16.2%)、非null型変異の患者でもevinacumab群で大きかった(-49.1% vs.-3.8%)。 主な副次アウトカムであるアポリポ蛋白B、非HDL-C値、総コレステロール値のベースラインから24週時までの変化率は、いずれもevinacumab群がプラセボ群よりも有意に低下した(すべてのp<0.001)。 有害事象は、evinacumab群が66%、プラセボ群は81%で発現した。evinacumab群で頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(16%)、インフルエンザ様疾患(11%)、頭痛(9%)、鼻漏(7%)であった。 有害事象により治療中止となった患者は両群とも認められず、死亡例もなかった。重篤な有害事象は、evinacumab群の2例(5%、尿路性敗血症、自殺企図)でみられたが、いずれも回復した。 著者は、「LDL-C値の低下に伴い、アポリポ蛋白Bはevinacumab群がプラセボ群よりも36.9ポイント低下した。この低下は、大量基礎脂質低下療法へのアフェレーシス追加の有無にかかわらず達成された」としている。

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