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ワクチン2回接種後14日以上経ってから新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)した約3,000人(3,090人)を調べたところ、感染後の長引く症状(COVID-19後遺症)の発現率はワクチン非接種感染者に比べて41%低いことが示されました1)。COVID-19後遺症、すなわちCOVID-19以外では説明がつかない4週間を超えて続く症状があったと答えた人の割合はワクチン接種済み群では9.5%、非接種群では14.6%でした。そのようなCOVID-19後の長患いを減らすワクチン以外の手段の検討も始まっています2)。Merck & Coの飲み薬molnupiravir(モルヌピラビル)がCOVID-19患者の入院を阻止したり回復を早めたりできるかどうかの検討を含む英国オックスフォード大学主催のPANORAMIC試験3)では治療後3ヵ月と6ヵ月の経過が調べられます。試験の主眼ではありませんがそれらのデータが集まれば同剤で後遺症が生じ難くなるかどうかを知ることができそうです。Pfizerの飲み薬paxlovid(パクスロビド)の試験2つでも被験者の6ヵ月間の追跡が含まれています。比較的軽症のCOVID-19患者にもっぱら使われるそれらの抗ウイルス薬の検討のみならずCOVID-19入院患者の治療の長期の効果も調べられています。世界保健機関(WHO)主催の国際試験SOLIDARITYのヘルシンキ大学担当部分がその一つで、COVID-19治療の先駆けremdesivir(レムデシビル)で治療されたCOVID-19入院患者の1年間の追跡結果がまもなく揃うと研究者は見込んでいます。SOLIDARITY試験の他の2つの治療の追跡もなされています。1つは免疫抑制を担う抗TNF薬infliximab(インフリキシマブ)、もう1つは血管の炎症を鎮めうるチロシンキナーゼ阻害剤imatinib(イマチニブ)です。退院したCOVID-19患者の長期経過を改善しうる治療を見つけることを目指す英国での大規模試験HEAL-COVID4)では心血管標的薬2つが検討されています。1つは抗凝固薬apixaban(アピキサバン)で、もう1つは血管の炎症を鎮めると考えられているコレステロール低下薬アトルバスタチン(atorvastatin)です。退院間近の患者に試験に参加するかどうかを尋ね、退院後1年間の再入院や死亡がそれら薬剤の使用で減らせるかどうかが調べられています。退院したCOVID-19患者の再入院は少なくなく、退院後半年足らずのうちに3人に1人近い29%は再入院する羽目に陥っており、およそ8人に1人(12%)は命を落としています4,5)。COVID-19患者が入院を終えた後の死亡の最も確からしい原因は心肺系への影響であろうとHEAL-COVID試験を率いるケンブリッジ大学の集中治療医Charlotte Summers氏は述べています。シカゴ大学の呼吸器医師Ayodeji Adegunsoye氏はCOVID-19で入院して酸素投与を必要とした患者の肺に感染後だいぶ経ってから瘢痕病変・線維化組織が増えうることを観察しており、そのような患者への免疫抑制剤sirolimus(シロリムス)の試験を始めています2)。線維化を促す細胞が肺に集まるのをシロリムスが防いでくれることを同氏は期待しています。参考1)Risk of Long Covid in people infected with SARS-CoV-2 after two doses of a COVID-19 vaccine: community-based, matched cohort study. medRxiv. February 24, 20222)Can drugs reduce the risk of long COVID? What scientists know so far / Nature3)PANORAMIC / UNIVERSITY OF OXFORD4)HEAL-COVID / HEAL-COVID5)Epidemiology of post-COVID syndrome following hospitalisation with coronavirus: a retrospective cohort study. medRxiv. January 15, 2021