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「脳卒中再発予防のためには収縮期血圧130mmHg未満」を支持する結果(コメンテーター:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(105)より-

脳卒中既往歴のある症例の降圧目標値に関して、欧州のガイドラインは130/80mmHgとしている。これは、脳卒中再発予防におけるACE阻害薬ペリンドプリルの有用性を検討したPROGRESS試験の結果を参考にしている。一方、わが国のガイドライン2009年版では140/90mmHgとしているが、これに関しては反論も多い。脳卒中初発および再発の、最大のリスク因子は高血圧であることに議論の余地はなく、これまでの介入試験でも”The lower the better”を証明してきた。 本試験SPS3(Secondary Prevention of Small Subcortical Stroke)trialは、NIHの公的支援によっておこなわれた臨床試験である。約3,000人のラクナ梗塞患者を収縮期血圧130~149mmHg目標群と130mmHg未満を目標とする群にランダマイズして、平均3.7年間追跡された。全脳卒中、致死的脳卒中、心筋梗塞複合などにおいていずれも有意は差はみられなかったものの、厳格目標群の方が発症率が低い傾向が認められた。頭蓋内出血は厳格降圧群の方が有意に発症率が低いという結果だった。この結果は、従来の「脳卒中再発抑制のためには収縮期血圧130mmHg未満のより厳格な降圧が望ましい」というコンセンサスを支持する結果といえる。 本試験では、試験開始直後から両群間の血圧値に大きな差がみられ、その差が継続していることが大きな特徴である。3,000人規模の参加者にもかかわらず有意差がつかなかった最大の理由はやはり、イベント発症数が少なかったことによる。 医療現場では、再発予防のために抗血小板薬は必須となっており、また高脂血症があればスタチン薬を処方する時代になったため、脳卒中再発が発生しにくい状況にあることを反映しているともいえよう。

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スタチン薬による糖尿病発症リスクの検討/BMJ

 スタチン薬について示唆されていた糖尿病の新規発症リスクについて、格差があることが明らかにされた。カナダ・トロント総合病院のAleesa A Carter氏らが、オンタリオ住民150万人以上の医療記録をベースとした研究の結果、プラバスタチン(商品名:メバロチンほか)と比較して、より効力の高いスタチン薬、とくにアトルバスタチン(同:リピトールほか)とシンバスタチン(同:リポバスほか)でリスクが高い可能性があることを報告した。BMJ誌オンライン版2013年5月23日号掲載の報告より。解析対象47万1,250例、スタチン薬6種類の糖尿病発症リスクを調査 研究グループは、特定のスタチン使用と糖尿病発症との関連について調べるtime to event解析による住民ベースコホート研究を行った。糖尿病発症リスクに与えるスタチンの投与量および種類の影響について、ハザード比を算出して評価した。 対象は、オンタリオ住民で、1997年8月1日~2010年3月31日の間にスタチン治療を開始した糖尿病歴のない66歳以上の全患者とした。具体的には、解析には前年にスタチン処方がなかった新規処方患者が組み込まれ、治療開始前に糖尿病の診断が付いていた人は除外した。 被験者は47万1,250例で、そのうち心血管疾患の一次予防としてスタチン治療を受けていたのは48.3%、二次予防としては51.7%であった。治療開始時の年齢中央値は73歳、女性は54.1%であった。 全体の半数以上がアトルバスタチンを処方されており(26万8,254例)、次いでロスバスタチン(商品名:クレストール、7万6,774例)、シンバスタチン(7万5,829例)、プラバスタチン(3万8,470例)、フルバスタチン(同:ローコールほか)/ロバスタチン(国内未承認)(1万1,923例)であった。 解析では、プラバスタチンを参照薬とした。プラバスタチンを参照薬に、リスクを増大するものとしないものに分かれる 解析の結果、プラバスタチンと比べてアトルバスタチン(補正後ハザード比:1.22、95%信頼区間[CI]:1.15~1.29)、ロスバスタチン(同:1.18、1.10~1.26)、シンバスタチン(同:1.10、1.04~1.17)で糖尿病発症リスクの増大がみられた。フルバスタチン(同:0.95、0.81~1.11)、ロバスタチン(同:0.99、0.86~1.14)では有意なリスクの増大はみられなかった。 糖尿病発症の絶対リスクは、1,000人・年当たりアトルバスタチンでは31件、ロスバスタチンは34件であった。シンバスタチンのリスクはわずかに低く同26件であった。参照薬のプラバスタチンは同23件であった。 解析の所見は、スタチン処方が心血管疾患の一次予防か二次予防かで異ならなかった。 また、スタチン薬を効力で分類した場合も同様の結果が示された。しかし、ロスバスタチン使用者の糖尿病発症リスクについて、有意ではないが用量依存の可能性が示唆された(同:1.01、0.94~1.09)。

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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-2次予防を考えた長期治療

大倉 宏之 氏川崎医科大学循環器内科はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の慢性期治療には、責任病変での再発防止と非責任病変の新規発症防止、すなわち2次予防が含まれる。責任病変の再発予防には、薬剤溶出ステント(DES)による再狭窄抑制と、適切な抗血小板療法によるステント血栓症の予防が重要である。一方、非責任病変の新規発症を防ぐには、抗血小板薬を含むさまざまな薬物による長期にわたる2次予防が必要である。ACSの予後:欧米と日本の違いACS患者の予後は不良である。欧米のデータでは、その20%は1年以内に再入院し、男性の18%、40歳以上の女性の23%が死亡するとの報告がある1)。また、心筋梗塞(AMI)後の患者は退院後1年以内にその8~10%がAMIを再発するとも報告されている2)。ただ、その再発率は保有するリスクによって異なる。Finnish studyでは、糖尿病例(年率7.8%)は非糖尿病例(年率3%)と比較して心筋梗塞再発が高率であることが示されている3)。ランダム化試験のデータでは、AMIの再発率は1~5%程度とおおむねレジストリーよりも低めである。AMIに対するDESと金属ステント(BMS)を比較したランダム化試験のメタ解析によると、AMI再発はDES留置例で3.1%、BMS留置例で3.3%であった4)。日本のデータでも非ACS症例と比較すると、ACS例の予後は不良であるが(図:本誌p21参照)5, 6)、ACS発症後のAMI再発率は、日本や韓国では1%以下と欧米と比較すると低率である7, 8)。もともとAMIの発症自体が少ないことに加えて、急性期に速やかに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)による治療がなされていることと、その後も主治医によるきめ細やかな2次予防が行われていることがその理由かもしれない。至適薬物療法によるACSの2次予防欧米では、ACSの予後は経年的に改善していることが示されている。The Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)レジストリーに登録されたACS患者約4万例のデータ(図:本誌p21参照)において、入院中の死亡や心不全、6か月後のAMI新規発症が2000年から2005年にかけて有意に減少していることが示された9)。これは、エビデンスに基づいた薬物治療の浸透と、急性期のPCI施行率が高くなってきた結果である(図:本誌p22参照)。ACS後の2次予防を目指した薬物療法についてはガイドラインに詳細に述べられており10-15)、β遮断薬、ACE阻害薬(またはARB)、アルドステロン阻害薬、スタチン等の有用性が示されている。これらの薬物療法が、日本の臨床の現場にどの程度浸透しており、その結果、日本人のACS患者の予後が実際に改善しているのかどうかについては今後検証すべき課題である。ACS患者では、非責任病変の血管内超音波所見によって、ハイリスク病変を予測可能との報告がなされている16)。もともとイベント発生率の低い日本人でも、同様の予測が可能であるのかについても明らかにすべきである。抗血小板薬によるACSの2次予防薬物による2次予防のうちでも、特に重要な役割を果たしているのが抗血小板療法である。表に日本、米国、欧州の各ガイドライン10-15)に記載されている抗血栓療法の推奨をまとめた(Class I、Class IIaのみ記載)(表:本誌p23参照)。アスピリンが第1選択である点はすべてのガイドラインに共通である。欧州、米国のガイドラインでは、アスピリンに加えてクロピドグレル(または他のP2Y12阻害薬)を12か月間投与することが推奨されている。日本のガイドラインにはその期間は特定されていない11)。抗血小板薬2剤併用療法の至適期間抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)の至適投与期間は、ステントの種類(BMSかDESか)と病型(安定狭心症かACSか)により異なる。一般に、DESの場合は12か月間以上のDAPTが推奨されているが20)、至適期間についてのエビデンスは十分ではない。j-Cypherレジストリーでは、ACS例において6か月以上DAPTを継続していた例と、DAPTを6か月時点で中止していた例との間には、その後2年間のイベント発生率に差を認めなかったことが示されている5)。日本では、患者背景や病変背景を考慮した至適な抗血小板薬療法が行われていることが反映されているのかもしれない。ACSの研究ではないが、韓国からはステント留置後12か月以上イベントのなかった2,701例を、DAPT群とアスピリン単剤群にランダム化した試験が報告されている18)。2年間の観察期間中、両群間に心筋梗塞+心臓死の頻度に差はなく、ステント血栓症にも差はなかった(図:本誌p24参照)。EXCELLENT試験は、CypherもしくはXience/Promusステント留置例1,443例のDAPT期間を、6か月間と12か月間にランダム化したものである19)。12か月後のTVF(target vessel failure)や死亡もしくは心筋梗塞の発生には両群間に差を認めなかったが、ステント血栓症はDAPT6か月間群で多い傾向にあった。ただし、6か月間群のステント血栓症発症例6例中5例は6か月以内の発生であり、DAPTの期間が影響した可能性は低い。Prolonging Dual Antiplatelet Treatment after Grading Stent-induced Intimal Hyperplasia study(PRODIGY)では、ステント留置例約2,000例を対象にランダム化し、DAPTの期間を6か月間と24か月間で比較したものである。2年間の追跡期間中に全死亡+心筋梗塞+脳血管障害+ステント血栓症の頻度は6か月間群と24か月間群は同等であったが(10.0% vs. 10.1%, p=0.91)、出血は6か月間群で少なかったとの結果であった(ESC2011で報告)。The Dual Antiplatelet Therapy(DAPT)study20)は、15,000例のDES留置例と5,400例のBMS留置例を登録し、DAPTの投与期間を12か月間と30か月間にランダム化して両者を比較する大規模臨床試験である。すでに患者登録は終了し、現在フォローアップが進行中である。本邦においても、Optimal Duration of DAPT Following Treatment with Endeavor in Real-world Japanese Patients: A Prospective Multicenter Registry (OPERA) studyやNobori Dual antiplatelet therapy as appropriate duration (NIPPON) studyが現在進行中である。これらの研究にはACSも含まれており、日本人独自のエビデンスが得られるものと期待される。抗血小板薬投与と出血性合併症抗血小板薬投与に関連した問題点には出血性合併症がある。ACSに出血性合併症を発生した場合には、その長期予後は不良である21)。DAPT継続にあたっては、そのベネフィットのみならず出血のリスクも考慮せねばならない。ACSにおいて、出血のリスクが特に問題となるのが心房細動合併例である。欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン22)では、心房細動合併例に対するステント留置術後の抗血栓療法は表のごとく推奨されている(Class IIa)(表:本誌p25参照)。注目すべき点は、塞栓症のリスクを有する心房細動例では最後的には抗血小板薬は中止し、ワルファリンのみを一生継続することが推奨されている点である。日本でも、心房細動合併ACS例に対する至適抗血栓療法をいかにすべきかは重要な検討課題である。おわりにACSの予後改善には、急性期治療に加えて、抗血小板薬を中心とした長期にわたる2次予防が重要な役割を演じている。ただし、これら多くは欧米のデータに基づいたものであるため、今後、日本人における検証はぜひとも行われるべきである。文献1)Menzin J et al. 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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-急性期のPCI/薬物療法

石井 秀樹 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に対する急性期の治療として血栓溶解療法と経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の出現、それらの技術向上は、患者の予後改善に大きく寄与している。東京都CCUネットワーク(http://www.ccunet-tokyo.jp/)の統計では、急性心筋梗塞の死亡率は1982年には20.4%であったものが、2010年にはわずか6.0%にまで低下している(図:本誌p15参照)。安静が治療の主体であった冠動脈の再疎通療法以前の院内死亡率が3割強であったことを考えると、治療法の変遷と治療成績には極めて密接な関連があることがわかる。わが国では、医療保険制度をはじめとし、交通網や救急搬送システムなどの点で欧米とは異なることから、ACS、特に急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の治療法としてPCIを第1選択とする施設が多い。10年ほど前のデータではあるが、欧米のデータベースのよる統計ではAMIに対するprimary PCI施行率は5.5~49.6%であったが、わが国では日本の施行率は75~94%と高率であり、さらに年間施行件数の少ない施設においてもPCIを選択することが多いという特徴がある1)。これは欧米では広大な医療圏内の中にPCIを行える施設が限られているため、AMI患者には血栓溶解療法が行われることが多いが、わが国ではかなりの地域でPCIを行うことができる施設に収容可能であることにも起因する。そして、このことはわが国のACS患者の予後改善に対して大きな貢献をしている要因と考えられている。これまでの知見で、ST上昇型のAMI(STEMI)に対するPCIの有効性は確立している。しかしながら、現在でも非ST上昇型AMIや不安定狭心症では、早期のPCIを含む侵略的戦術がよいのか、保存的加療を経てから症例を選んで冠動脈造影などの処置を行うのがよいのか、一定の見解は得られていない。わが国ではそのような症例に対してもSTEMI症例同様に侵略的戦術にシフトしていると考えられている。PCIなどによる再灌流は非常に有用な手段であるが、再灌流自体が再灌流障害という新たな心筋障害を生じさせることも知られており、薬物の併用などが検討されるべきである。急性心筋梗塞に対する再灌流療法ACS、特にAMIの治療において、冠血流の途絶を早期に開通、すなわち再灌流を得ることが重要なことである。このことにより、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。再灌流の手段としては、PCIが確実な方法であるが、PCIを行う施設まで搬送時間がかかる場合またはPCIまでに時間がかかると判断される場合には、血栓溶解療法単独あるいは血栓溶解療法とPCIのハイブリッド治療法であるfacilitated PCIを選択肢とするべきであるとされる2)。現在ACSに対して行うPCIは、血栓吸引のみあるいはバルーン単独での治療で終了することは少なく、ステントによる治療がほとんどの場合に行われており、PCI後の急性閉塞の低減や、再狭窄率の減少など心血管イベントの低減に貢献している。その際に考慮すべき問題として、ACSに対してbare metal stent(BMS)を使用するか、drug eluting stent(DES)を使用するのかという問題がある。ACSに対しても、安定狭心症症例同様に、本邦ならず世界的に見てもDESの使用が増加している。一時、ACSに対するDES使用は、血栓閉塞のリスクが高まるのではないかと論議されたものの、近年はDES留置も安全であるとする報告が相次いでいる3)。確かにDESは再血行再建術などに対してはBMSよりも有用であることは間違いない。しかしながら、DESが内皮障害やspasm発生に関与していることを示唆する報告があり4, 5)、spasmが多いと考えられる日本人の使用に対しては、今後も有効性と副作用の十分な検討を行うべきである。また筆者は、DES留置後の長期の予後改善が未だ不明であり、2剤併用抗血小板療法(dual anti-platelet therapy:DAPT)をいつまで行うかがまだ確立されていないことや、ACSという緊急の対応が必要ななかで出血の素因があるのかどうかを判断したり、近いうちに手術が必要なのかどうかなど確認することが困難な状況のなかで、DESを安易に使用すべきではないと考えている。加えて、近い将来に吸収性ステントや薬剤溶出性バルーンなどが日常診療において使用可能になりそうな状況において、特に年齢が若い症例に対しては、急性閉塞などには十分な注意を払いながら、バルーン単独でのPCIも考慮するべきとも考えている。再灌流療法と再灌流障害再灌流療法により、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。しかしその一方で、再灌流自体が新たな心筋障害を生じさせる。これを再灌流障害といい、PCIなどによる再灌流療法のメリットを減弱させてしまうものである。最近の知見では、1.no-reflow phenomenon:no-reflow現象(血管内皮などの障害による血管性障害)→TIMI flow grade、TIMI frame countなどによる造影所見からの判断、myocardial blush grade(造影剤による心筋染影度)、心電図によるS Tresolution(ST上昇の改善の程度)などで判断可能2.reperfusion arrhythmia:再灌流性不整脈→心電図によるモニターで判断可能3.lethal reperfusion injury:致死的心筋障害(不可逆的な細胞障害)→核医学検査法などによりにより評価可能4.Myocardial stunning:心筋スタンニング(虚血解除後に生存心筋で認められる機能低下で気絶心筋ともいわれる)→核医学検査法などにより評価可能6)に分類される。再灌流障害の発生を抑えるため、PCIの際に工夫することや、薬物を追加で使用することが重要と考えられる。特に虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニングのメカニズムを応用することが近年注目されている(図)。虚血プレコンディショニングとは、本格的な虚血に先行して起きる短時間の虚血が心筋ダメージを軽減することであり、臨床の場でも、梗塞前に狭心症がある患者ではそれがなかった患者と比較して予後が良いことが知られている7)。また、ポストコンディショニングとは、心筋梗塞症例に対して、冠動脈再灌流直後に虚血と再灌流を短時間・複数回繰り返すことで、梗塞範囲の縮小効果など再灌流障害による心筋ダメージが軽減する現象のことをいう8)。図 プレコンディショニングとポストコンディショニングの概念画像を拡大する再灌流障害に対する戦略1.段階的再灌流 一気に再灌流するのではなく、虚血と再灌流を複数回繰り返すことで細胞内Ca2+ overloadを予防し、再灌流障害が低減する。臨床試験で良好な結果が認められているが、数十秒から数分間での冠動脈内におけるバルーンのinflation、deflationが必要で、血栓吸引療法が行われた場合にはこの機序による心筋保護は難しい可能性がある。2.血栓吸引カテーテル、末梢保護デバイス ACSの発症のほとんどに血栓が関与している。血栓のある冠動脈病変をバルーンで拡張した場合、破砕された血栓が微小循環において塞栓を生じ、再灌流障害の原因になることがある。そのため、バルーン拡張の前にあらかじめ血栓を吸引する方法や、末梢で血栓やデブリスをtrapする方法が開発された。 早い時期に発表されたEMERALD研究では、末梢保護デバイスの有用性が示されなかったが、2008年発表のわが国から報告されたVAMPIRE trialでは、TVAC™による血栓吸引をSTEMI患者に対して行うことにより、行わない群と比較して、brush gradeの有意な改善と8か月後のMACEの有意な低下を示した9)。また、TAPAS研究でも血栓吸引カテーテルがmyocardial blush gradeの有意な改善が示された。 わが国では血栓吸引療法は他国と比較しても汎用されている手技と考えられ、以下に示すような薬物の追加療法を行うことで、より質の高い再灌流が得られるものと考えられる。3.再灌流障害に対する薬物による追加的保護療法 再灌流障害に対して、さまざまな薬剤がこれまで試みられてきた10)。アデノシンはプレコンディショニング作用を持つ薬物として海外から多くの報告がなされている。また、ポストコンディショニング作用を持つ薬物もさまざまある(表)。 近年、わが国からも再灌流障害の予防、慢性期の左室リモデリング抑制と予後改善を目的とし、さまざまな検討がなされている。そのなかでもニコランジルとカルペリチドは本邦で開発、臨床の場で幅広く使用され、それらを使用した研究成果報告はわが国からの報告が極めて多い。以下一部を紹介する。表 RISK pathwayの活性化とmPTP開口阻害(文献6, 10より)画像を拡大するa.ニコランジル ニコランジルは、低血糖治療薬であるジアゾキサイドなどのK-ATPチャネル開口薬とは異なる、NOドナーである点が大きな特徴である。K-ATPチャネルは先に述べた虚血プレコンディショニングに関与しており、K-ATPチャネル開口薬であるニコランジルが薬理学的プレコンディショニングを生じるということがIONA試験などで証明されてきた。 AMIにおける再灌流障害に関する研究として、コントラストエコーによるno reflow現象の抑制効果や、左室梗塞部位における壁運動改善効果が1999年に発表され11)、その後もACSをはじめとした虚血性心疾患に対するニコランジルの有用性が数多く発表された。我われは、STEMI患者に対してPCIによる再灌流を行う直前にニコランジルを静注で約30分かけて12mg投与することにより、PCI後の微小循環障害予防、慢性期の左室リモデリング抑制と心不全発症予防などの効果があることを報告した12)。その後、J-WIND-KATP研究(ニコランジル0.067mg/kgボーラス投与後、24時間1.67μg/kg/min静注)13)では、ニコランジルの有効性は示されなかったものの、用量や投与法などのさらなる検討が必要であると考えられる。また、現在は、ニコランジルは急性心不全の適応が認められ、用量もより高用量の使用が可能となっている。 また、冠動脈内注(冠動脈注は緩やかな投与が重要!)による冠微小血管抵抗指数改善作用も報告されており14)、slow flow等の改善などに対しても臨床的に幅広く使用されている。筆者の見解であるが、ACSまた待機的な症例に対してもニコランジルはPCI前から投与しておくことがコツであり、再灌流障害やslow flowを発症しないためには、予防的な投与が極めて重要であると考えている。 最近のニコランジルのトピックとして、2011年のAHAで、岐阜大学より造影剤腎症の予防効果が発表され、世界的にも注目を集めた15)。b.カルペリチド(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド:hANP) カルペリチドは血管拡張作用、利尿作用があり、急性心不全に対する治療薬として広く使用されているが、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の抑制効果、交感神経系の拮抗作用、そして虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニング効果と同様の作用をすると考えられているreperfusion injury salvage kinase(RISK)を活性化させる作用もあることが報告されている。この効果により、再灌流障害や左室リモデリングが抑制され、急性心筋梗塞に対して有効であるとする報告が数多く報告されている。J-WIND-ANP(AMI患者にカルペリチド0.025μg/kg/minで3日間投与)13)では、AMI患者の梗塞サイズがプラセボ投与群に比べ、14.7%の有意な減少と、慢性期の左室駆出率で、プラセボ群と比較して5.1%の有意な増加が見られ、長期にわたって心臓死・心不全による再入院も、有意に減少させることが報告されている。また、カルペリチドにも造影剤腎症予防効果の報告もある16)。c.その他 スタチンの中には、ポストコンディショニング様の作用があることがわかっている。海外のARMYDA-ACS研究では、PCI前のアトルバスタチンの投与により心筋障害が予防できることがわかっていた。本邦からは弘前大学より、AMI患者に対するdirect PCIの直前にプラバスタチンを投与することで再灌流障害が予防されたとする大変興味深い結果が報告されている17)。 また、本邦で開発され、脳梗塞治療薬として使用されているフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンが、direct PCIに伴う再灌流障害を抑制したとする報告がある18)。4.ACS患者に対する抗血小板療法の重要性 ACSの急性期では、血小板活性・凝固能の亢進と線溶能低下が起こっているため、血栓が非常に形成されやすい状況である。血小板が活性化すると膜表面の糖蛋白が発現し、血小板からADP、トロンボキサンA2などの生理活性化物質が放出され、血栓形成がさらに強まる。本邦では使用できないが、GP IIb/III阻害薬はその流れのなかで効果を示す薬剤である。 急性期ではアスピリン162-200mgの咀嚼投与が行われているが、PCIでステント治療となる場合には治療直前からチエノピリジンの投与が推奨される。特にクロピドグレルの場合には初期にローディングとして300mgの投与、以降75mgの投与が必要である2)。韓国からのデータではあるが、DESを用いたPCIを施行したSTEMI患者の検討では、抗血小板薬3剤(アスピリン+クロピドグレル+シロスタゾール)の投与が、2剤群(アスピリン+クロピドグレル)と比較して、8か月における主要心血管イベントを有意に低下させた(図:本誌p19参照)19)。ACSによる入院30日以内の消化管出血があると予後が悪化することも知られているが20)、わが国においても、出血に注意をしながら抗血小板剤の3剤投与も検討されてもよいかもしれない。おわりに日本ではSTEMIをはじめとするACS症例に広くPCIが行われている。特にSTEMI症例に対しては、ガイドラインでdoor-to-balloon timeは90分以内にすることが求められているが、わが国全体でもかなりの割合でそれがクリアされているものと考えられる。ACS治療が海外と比較して、日本で良好な成績を上げているのもそれが大きく起因していることは間違いない。また、多くの施設が24時間体制で緊急カテーテル・PCIに対応し、夜間や休日でも質の高いPCIを常に心がけており、循環器医療に携わるわが国の医師・パラメディカル・関係者の意識が高いことも寄与しているものと考えられる。さらに、薬物の使用においても、急性期には症例ごとにきめ細かな対応がなされ、慢性期にはエビデンスが構築された薬剤が高い比率で投与されているものと考えられる。これらのことはACSに限ったことでなく、わが国の医療レベルが非常に高い要因とも考えられる(図:本誌p19参照)21)。最近ACS症例に対しては、PCIや薬剤のみでなくremote ischemic conditioningや、再生医療に関する話題も豊富である。わが国からACS患者の予後改善に関する新たなエビデンスが構築されることが期待される。文献1)Ui S, Chino M, Isshiki T. Rates of primary percutaneous coronary intervention worldwide; Circ J 2005; 698(1): 95-1002)日本循環器学会ほか. 急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告). Circ J 2008; 72(supplIV): 1347-14643)Mauri L, Silbaugh TS, Garg P, et al. Drug-eluting or bare-metal stents for acute myocardial infarction. N Engl J Med 2008; 359 (13): 1330-13424)Yoshida T, Kobayashi Y, Nakayama T, et al. Stent deformity caused by coronary artery spasm. Circ J 2006; 70(6): 800-8015)Lerman A, Eeckhout E. Coronary endothelial dysfunction following sirolimus-eluting stent placement: should we worry about it? Eur Heart J 2006; 27(2): 125-1266)Yellon DM, Hausenloy DJ. Myocardial reperfusion injury. N Engl J Med 2007; 357 (11): 1121-11357)Ishihara M, Sato H, Tateishi H, et al. Implications of prodromal angina pectoris in anterior wall acute myocardial infarction. Acute angiographic findings and long-term prognosis. J Am Coll Cardiol 1997; 30(4): 970-9758)Yang XM, Proctor JB, Cui L, et al. Multiple, brief coronary occlusions during early reperfusion protect rabbit hearts by targeting cell signaling pathways. J Am Coll Cardiol 2004; 44(5): 1103-11109)Ikari Y, Sakurada M, Kozuma K, et al. VAMPIRE Investigators. Upfront thrombus aspiration in primary coronary intervention for patients with ST-segment elevation acute myocardial infarction: report of the VAMPIRE (VAcuuM asPIration thrombus Removal) trial. JACC Cardiovasc Interv 2008; 1(4): 424-43110)Ishii H, Amano T, Matsubara et al. Pharmacological intervention for prevention of left ventricular remodeling and improving prognosis in myocardial infarction. Circulation 2008: 118(25): 2710-271811)Ito H, Taniyama Y, Iwakura K, et al. Hori M, Higashino Y, Fujii K, Minamino T. Intravenous nicorandil can preserve microvascular integrity and myocardial viability in patients with reperfused anterior wall myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 1999; 33(3): 654-66012)Ishii H, Ichimiya S, Kanashiro M, et al. 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Early statin treatment before coronary intervention protects against reperfusion injury and reduces infarct size in patients with acute myocardial infarction. Circulation 2005; 112: II-569 Abstract.18)Tsujita K, Shimomura H, Kaikita K, et al. Long-term efficacy of edaravone in patients with acute myocardial infarction. Circ J 2006; 70(7): 832-83719)Chen KY, Rha SW, Li YJ, et al. Korea Acute Myocardial Infarction Registry Investigators. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119(25): 3207-321420)Nikolsky E, Stone GW, Kirtane AJ, et al. Gastrointestinal bleeding in patients with acute coronary syndromes: incidence, predictors, and clinical implications: analysis from the ACUITY(Acute Catheterization and Urgent Intervention Triage Strategy)trial. J Am Coll Cardiol 2010; 54(14): 1293-130221)Bhatt DL, Eagle KA, Ohman EM, et al. REACH Registry Investigators. Comparative determinants of 4-year cardiovascular event rates in stable outpatients at risk of or with atherothrombosis. JAMA 2010; 304(12): 1350-1357

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Vol. 1 No. 1 緒言

森野 禎浩 氏岩手医科大学内科学講座循環器内科分野本邦における急性冠症候群(acute coronarysyndrome: ACS)の治療実態を客観視する機会が訪れた。冠動脈インターベンション(percutaneous coronaryintervention:PCI)は国内で急速に普及したが、大都市にとどまらず、比較的中小の都市に点在する基幹病院でもprimary PCI(ACSの再潅流療法)を行うことができるのが日本の最大の特徴だ。欧米と異なり、年間PCI症例数300例に満たない小規模施設が散在するため、人的リソースが分散しがちで、スタッフ1人にかかる負担が増すばかりか、教育効率低下の恐れもある。一方、各地域に治療可能施設が分散することは、時間との闘いであるACS治療には潜在的なメリットも多い。ACS患者が来院すれば、主に若い専門医が昼夜を問わず集まり、心臓カテーテルで診断・血行再建を行うことが日本型診療の通例となっている。その代償として、現場スタッフはオンコール体制に縛られ街から外に出ることすら制約を受け、朝まで緊急カテをしてもそのまま午前の定時仕事に就くというのが通常で、それに見合う十分な報酬体制も整っていない。要するに、PCI 施行医やコメディカルの自己犠牲のもとに日本の急性期循環器医療は成り立ってきた。 日本のACSの治療実態を把握するため、約100施設で、連続症例登録を基本とした前向きレジストリー(PACIFIC試験)が行われ、その結果が最近公表された。同様の大規模国際レジストリー(GRACE試験:施行時期が異なるが大勢に大きな差はないはずである)と比較し、諸外国に比べて日本のACS治療体制がいかに特殊なのか、いかに好成績を収めているのか容易に理解できる。日本の代表的施設では94%ものACS患者が緊急PCIを受けているのに対し、欧米を含む諸外国においてはカテーテル検査ですら56%、PCIとなると全体の33%にしか行われていない。この著しい治療スタイルの違いが、ACS患者の院内死亡率に大差をつけた最大の誘因と考察されている。こうした事実を実感していないであろう日本の多くの現場スタッフに、日本型ACS医療の素晴らしさをできるだけ速く伝達しなければならないと考えていた。幸いなことに、新しく発刊されるCardioVascular Contemporary誌にこの分野の特集をしていただけることになり、さらに同試験を企画・指導した宮内先生ご自身に、PACIFIC試験に見る日本のACS治療の実態について詳説いただけることとなった。 ACSの急性期治療の大原則は、一刻も早い再潅流療法である。それに付随して、アスピリンとクロピドグレルのローディング投与のように、万国共通の確立された薬物療法が基礎を占める。しかしながら、ACS治療の具体的工夫となると、日本が牽引する分野が少なくない。primary PCIは大量の血栓を末梢に飛ばさないよう処理する必要があるが、血栓吸引や末梢塞栓防止の保護フィルターの臨床応用は、日本で盛んに進められてきた。また、ニコランジルやhANPといった薬剤の心筋保護作用を証明するために臨床試験も精力的に仕掛けられてきた。恐らく、生命予後のみならず、「心筋壊死量を少しでも少なくする」ことを目的に、これだけ精緻に、かつ二重・三重の追加療法を具体的に実践してきた国もないだろう。日本の良好なACS治療成績は、PCIの施行体制のみならず、このようなさまざまな集学的アプローチの複合結果だと思われる。こうしたACS治療の最新コンセンサスについては石井先生に明快にまとめていただいた。 救命し得たACS発症患者の外来管理のゴールは、血管イベントの2次予防であり、本質的にはそこまでACS治療と呼ぶべきである。彼らは安定狭心症の血行再建後の患者に比べても、血管イベントの再発率が高いことが知られ、より積極的な薬物治療介入が求められる。日本の動脈硬化性疾患の特徴として、脳血管障害の比率が高いことがREACHレジストリーで指摘されたが、薬物溶出性ステントによるPCI後の患者においても、脳血管障害の発生頻度が冠動脈イベントより高いことがj-Cypherレジストリーで明らかとなった。アテローム血栓症(ATIS)という疾患概念が提唱され随分経つが、脳血管合併症をかなり意識した薬物療法が日本の循環器内科医には必要である。ACS発症後の2次予防治療として、抗血小板薬やスタチンを中心とした積極的薬物介入の必要性やその他動脈硬化因子の改善が必要であることは周知の事実だが、この分野を画像診断に造詣の深い大倉先生にまとめていただけることとなった。 ACS、特にST上昇型心筋梗塞(STEMI)の場合、発症から閉塞血管の疎通にかかる時間が予後を左右する。そのため、「door-to-balloon時間(来院からバルーンなどによって血行の再疎通を果たせるまでの時間)を90分以内にしよう」ということが国際的スローガンとなってきた。筆者は最近岩手県に転勤したが、STEMI患者のpeak CPK値が、今まで経験した患者群より明らかに高いと実感している。これは広い医療圏ゆえの搬送問題、我慢強い患者さんの気質など、種々の時間的ハンディキャップに基づいていると考察できる。管轄地域のACSの医療体制構築が自身の最大のテーマであり、実現のためには1人でも多くのPCI施行医を育成するとともに、primary PCI施設の効率的再配置、患者啓蒙活動、初診医との連携強化など、時間短縮を目指したトータルな医療設計が不可欠である。地方の内科医数の減少に歯止めがかからないなか、過酷な診療実態から特に循環器内科医になることが敬遠される傾向にある昨今だ。今回の特集で、日本型ACS治療体制がどうやら世界に誇れる素晴らしいものであることがわかってきたが、現場スタッフの献身的努力に極度に依存する体質など、課題も山積みである。本来、循環器医療は非常にやり甲斐があり、おもしろく、若い医師の人気が集まる分野のはずである。今こそ、急性期循環器診療体制のグランドデザインを、行政も交えて皆で熟考していく必要があるのではないか?そんなことばかり考えて、初めての北国の冬を過ごしている。

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高力価スタチン服用者、急性腎障害による入院リスクが高い/BMJ

 慢性腎障害がみられない患者の場合、高力価スタチン服用者は低力価スタチン服用者に比べ急性腎障害による入院率が有意に高いことが、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学のColin R Dormuth氏らの検討で示された。スタチンの腎臓に対する有害作用の可能性を示唆する研究がいくつかあるが、スタチンによる急性腎障害に関する検討はこれまで行われていなかったという。BMJ誌オンライン版2013年3月20日号掲載の報告。高・低力価スタチンの急性腎障害リスクをコホート内症例対照研究で評価 研究グループは、急性腎障害の発現と、高力価および低力価スタチンとの関連についてレトロスペクティブに検討した。9つの地域住民ベースのコホート試験とメタ解析のデータベースを用い、コホート内症例対照デザインに基づいて解析を行った。 対象は、1997年1月1日~2008年4月30日の間に新規にスタチン治療を開始した40歳以上の患者206万7,639例。急性腎障害で入院した個々の患者と背景因子をマッチさせた対照を無作為に選択した。 ≧10mgのロスバスタチン(商品名:クレストール)、≧20mgのアトルバスタチン(同:リピトールほか)、≧40mgのシンバスタチン(同:リポバスほか)を高力価スタチンとし、これら以外を低力価スタチンと定義した。主要評価項目は急性腎障害による入院率であった。120日以内の入院率の差:34%、121~365日:11%、366~730日:15% 206万7,639例のうち慢性腎障害患者は5万9,636例で、残りの200万8,003例には慢性腎障害を認めなかった。スタチン治療開始から120日以内に急性腎障害で入院したのは、慢性腎障害のみられない患者が4,691例、慢性腎障害患者は1,896例であった。 慢性腎障害がみられない患者では、治療開始から120日以内の急性腎障害による入院率が、高力価スタチン服用者のほうが低力価スタチン服用者に比べ34%高かった[率比:1.34、95%信頼区間(CI):1.25~1.43)]。治療開始から121~365日(同:1.11、1.04~1.19)および366~730日(同:1.15、1.09~1.22)の急性腎障害による入院率も、高力価スタチン服用者で有意に高かったが、120日以内に比べるとその差は小さかった。 慢性腎障害患者では、このような差は認められなかった(治療開始から120日以内の率比:1.10、95%CI:0.99~1.23、121~365日:1.08、0.96~1.22、366~730日:1.04、0.92~1.18)。 著者は、「慢性腎障害がみられない場合、高力価スタチン服用者は低力価スタチン服用者に比べ急性腎障害の診断による入院率が高く、この差は特に治療開始初期(120日以内)に大きかった」と結論し、「日常診療で高力価スタチンの使用を考えており、特に低力価スタチンも選択肢となる場合は、このような腎障害のリスクを考慮すべきである」と指摘している。

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消化管神経内分泌腫瘍〔GI-NET : gastrointestinal neuroendocrine tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義消化管神経内分泌腫瘍は原腸系組織に存在する神経内分泌細胞由来の腫瘍群(neuroendocrine tumor: NET)である。消化管NETは、悪性度が低いものから高いものまで多彩であるにもかかわらず、これまで消化管カルチノイドの呼称でひとまとめに扱われてきたが、2010年以降、生物学的悪性度を指標としたWHO分類に従って扱われるようになってきている。本稿では、WHO分類に従ったデータは乏しいため、以下、消化管カルチノイド腫瘍として報告されてきた知見を示す。■ 疫学わが国における消化管カルチノイド腫瘍の発生頻度は、直腸(39%)、胃(27%)、十二指腸(15%)の順である。欧米では、小腸、虫垂での発生頻度が高い。■ 病因消化管粘膜の腺底部に存在する内分泌細胞が腫瘍化し、粘膜下層を主座としながら腫瘤を形成するため、粘膜下腫瘍様の形態を呈する。■ 症状(1)無症状で発見されることが多い。(2)腫瘍増大による腹痛、腸閉塞、下血で発見されることもある。(3)生理活性物質(セロトニン、ヒスタミンなど)を産生する腫瘍の肝転移例では、カルチノイド症候群と呼ばれる皮膚紅潮、喘息様発作、下痢、右弁膜傷害の症状がみられることがある。■ 分類1)WHO分類腫瘍細胞の核分裂像や細胞増殖マーカー(Ki-67)の発現指数に基づいて表1のようにNET grade 1、NET grade 2、Neuroendocrine carcinoma(NEC)に分類される。2)TNM分類腫瘍の深達度(T因子)、リンパ節転移の有無(N因子)、遠隔転移の有無(M因子)を評価し、腫瘍の進行度(病期)をI~IVの4段階に分類するもの。3)Rindi分類胃NETは他の消化管NETと比べ悪性度の低いものが多く、疾患背景や高ガストリン血症の有無でType I~IIIと低分化型内分泌細胞がんの4グループに分けるRindi分類が有用である(表2)。画像を拡大する画像を拡大する■ 予後1)胃NETType I、Type IIの胃NETは、高ガストリン血症を伴わないType III胃NETに比べ転移率が低く(I:4.9%、II:30%、III:62.5%)、5年生存率(I:正常生命期待値、II:87%、III:79%)は、明らかに良好である。Type IVの胃NETは、WHO分類のNECに相当し、予後が悪い。2)その他の消化管NET胃以外の消化管NETでは、予後予測因子が明らかでない。腫瘍径が1cmを超えた場合、転移率が20%以上とする報告が多い。米国の報告では、5年生存率が局所限局で79.7%、近傍進展で50.6%、遠隔転移を有する症例で21.8%である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)血液検査カルチノイド症候群を疑う場合は、血中セロトニン、尿中5-ヒドロキシインドール酢酸の測定を行う。機能性NETの場合は、疑うホルモンの血清値の測定を行う。2)画像診断内視鏡検査では、黄白色調の表面平滑な粘膜下腫瘍として観察されることが多い。確定診断は生検による組織診断で行う。転移の有無は、腹部超音波、CT、MRIなどの検査で行う。内視鏡的切除を行う場合には、超音波内視鏡検査による腫瘍の深達度が有用である。3)病理特徴的な細胞像(好酸性微細顆粒状の細胞質、円形~卵円形の均一な小型核、細胞分裂はまれ)と胞巣形態を呈する。銀染色やクロモグラニン免疫染色が有用である。NETのグレード分類には細胞増殖マーカーKi67の免疫染色が行われる。4)その他欧米では血中クロモグラニンA値を腫瘍マーカーとして用い、ソマトスタチン受容体シンチグラフィーを病変の検出に用いられているが、日本では未承認である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)外科的または内視鏡的切除(1)胃NET高ガストリン血症を伴うtype I、IIの腫瘍は2cm未満の場合、まず内視鏡治療を試み、病理組織学的に細胞異型が強い腫瘍の残存や脈管浸潤を認める場合には、外科的切除を追加する。腫瘍が2cm以上あるいは個数が6個以上、あるいは腫瘍が固有筋層に浸潤している場合は、リンパ節郭清を含む外科的切除を行う。Type III、IVの腫瘍は胃がんに準じた外科切除を行う。(2)その他の消化管NET筋層浸潤を伴わない1cm以下の腫瘍では、内視鏡的切除か筋層を含む局所切除を行う。筋層浸潤を伴わない1~2cmの腫瘍では、広範な局所切除または所属リンパ節郭清を含む腸管の部分切除を行う。筋層浸潤を伴う腫瘍または2cm以上の腫瘍では、広範なリンパ節転移を含む根治的切除術を行う。2)化学療法5-FU、ドキソルビシン、ストレプトゾトシン、インターフェロン、シクロホスファミドが投与されるが有効性は低い。肝転移巣に対して肝動脈塞栓術が有効な場合がある。NECは、小細胞がんに準じてシスプラチン+エトポシド、シスプラチン+イリノテカンが投与される(わが国ではすべて未承認)。3)カルチノイド症候群に対する治療ソマトスタチン誘導体であるオクトレオチド(商品名:サンドスタチン)は、NETからのセロトニンやヒスタミンの放出を抑制し、カルチノイド症候群でみられる症状(前述)を改善する。4 今後の展望消化管NETの解釈は、さまざまな分類によって取り扱われ混乱していたが、2010年に新しい WHO分類が提唱され、今後徐々にその分類に沿った治療成績や予後が明らかになり、データが整理されていくと思われる。治療の原則は、腫瘍の根治的切除と再発予防であるが、欧米で検討されているソマトスタチンアナログなど抗腫瘍効果が期待される新薬もNETの集約的治療に加わってくるかもしれない。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療に関する情報サイトNET Links(一般向け、医療従事者むけのサイト)患者会情報しまうま倶楽部(患者・患者の家族の会)

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(40)〕 RA系抑制薬同士の併用はメリットなく、むしろ有害

レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬としては、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)および直接的レニン阻害薬(アリスキレン)があるが、これまでONTARGET試験などで、ACE阻害薬とARBの併用は、ACE阻害薬単独に比べて心血管合併症予防効果が認められず、むしろ有害事象が増加するのみという結果が示されている。今回の結果も、RA系抑制薬同士の併用はメリットがなく、有害であることを明瞭に示した点で意義のある試験である。 このトライアルを企画した意図としては、本試験のプロトコールどおり、すでにACE阻害薬あるいはARBを服用している高血圧または高リスク症例に対して、アリスキレンを上乗せすることで、さらなるメリットが得られる可能性を期待していたと思われる。しかし、本試験の結果は直接的レニン阻害薬の存在意義そのものが危うくなる結果であり、期待は大きく崩れた。 対象例のうち、より高リスクの症例では、より多くの降圧薬に加えて抗血小板薬やスタチン薬が処方されている。しかも、対象症例の試験開始時点の収縮期血圧140mmHg以上は40.8%、拡張期血圧85mmHg以上は12.2%にすぎないということは、血圧管理もかなりなされていることになる。さらに、アリスキレン追加群の血圧下降度について、プラセボ群と比べて群間差が収縮期血圧1.3mmHg/拡張期血圧0.6mmHgということから、追加によってもさらなる降圧が見込めるわけではないことも示した。 むしろRA系同士の併用は、高カリウム血症という危険な有害事象を招く可能性があることを教えてくれた貴重なトライアルである。 やはり降圧薬併用の基本は、降圧機序の異なる薬剤同士を少量ずつ組み合わせことである。 今後、この試験の結果はガイドラインでもきちんと活かされ、かつ保険上でも併用禁忌として記載され広く臨床医に周知されるべきである。

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新規PCSK9阻害薬、LDL-C値を用量依存性に抑制:LAPLACE-TIMI 57試験/Lancet

 新規のコレステロール低下薬であるAMG 145は、高コレステロール血症患者のLDLコレステロール(LDL-C)値を用量依存性に低下させることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のRobert P Giugliano氏らが実施したLAPLACE-TIMI 57試験で示された。心血管疾患の1次および2次予防のいずれにおいても、LDL-Cはリスク因子として確立されている。前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)は、LDL受容体に結合してその分解を促進し、LDL-C値を上昇させる。AMG 145はPCSK9に対し高親和性に結合するヒトモノクローナル抗体で、第I相試験ではプラセボに比し1回投与後1週間で最大64%、週1回反復投与で最大81%のLDL-C値低下効果が示されている。Lancet誌2012年12月8日号(オンライン版2012年11月6日号)掲載の報告。スタチン服用患者における有用性をプラセボ対照無作為化第II相試験で評価 LAPLACE-TIMI 57試験は、スタチン服用中の高コレステロール血症患者に対するAMG 145の有用性を評価するプラセボ対照無作為化第II相用量決定試験。 対象は、年齢18~80歳、LDL-C値>2.2mmol/L(≒85.1mg/dL)でスタチンを継続的に服用している患者とした(エゼチミブ服用中の患者も含む)。これらの患者が、AMG 145 を2週ごとに70mg、105mg、140mgまたはプラセボを皮下注射する群、および4週ごとに280mg、350mg、420mgまたはプラセボを皮下注射する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、ベースラインから治療12週までのLDL-C値の変化率とした。鼻咽頭炎、咳嗽、悪心の頻度が高かったが、Grade 3以上は認めず 2011年7月18日~12月22日までに、5ヵ国(米国、カナダ、デンマーク、ハンガリー、チェコ)78施設から631例(年齢中央値62.0歳、女性51%、BMI中央値29.0kg/m2、エゼチミブ服用率9%)が登録され、AMG 145を2週ごとに70mg投与する群に79例、105mg投与群に79例、140mg投与群に78例、プラセボ群には78例が、4週ごとに280mg投与する群に79例、350mg投与群に79例、420mg投与群に80例、プラセボ群には79例が割り付けられた。 治療12週の時点で、2週投与法、4週投与法ともにLDL-C値が用量依存性に有意に低下した。すなわち、2週投与法では70mg投与群で41.8%[95%信頼区間(CI):-47.2~-36.5、p<0.0001]、105mg投与群で60.2%(同:-65.6~-54.9、p<0.0001)、140mg投与群で66.1%(同:-71.5 ~-60.7、p<0.0001)低下した。また、4週投与法では280mg投与群で41.8%(同:-47.6~-36.1、p<0.0001)、350mg投与群で50.0%(同:-55.7~-44.3、p<0.0001)、420mg投与群で50.3%(同:-56.0~-44.6、p<0.0001)低下した。 有害事象の発現頻度はAMG 145群が58%(277/474例)、プラセボ群は46%(71/155例)で、AMG 145群で頻度が高かったのは鼻咽頭炎(10%、プラセボ群は7%)、咳嗽(3%、同:2%)、悪心(3%、同:0.6%)であったが、両群間に有意な差はなかった。治療関連有害事象の頻度はAMG 145群が8%(39/474例)、プラセボ群は7%(11/155例)で、重篤なもの(Grade 3)や生命を脅かすもの(Grade 4)は両群ともに認めなかった。 著者は、「PCSK9の阻害は脂質管理の新たなモデルとなる可能性がある」と結論づけ、「今回の結果は、心血管疾患リスクの高い患者における長期的な臨床効果と安全性を評価する第III相試験の実施を正当化するもの」と指摘する。

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認知症ケアでプライマリケア・リエゾンに求められる3つのポイント

 英国・ウスター大学のKay de Vries氏らは、認知症ケアでプライマリ・ケア・リエゾン(primary care liaison)に求められるコンピテンシー(高い成果を生む行動特性)について文献等レビューと協議などを行い、主として「カウンセリング」「スクリーニング」「健康教育・促進」の3領域が同定されたと報告した。プライマリ・ケアにおいて長い間、診断未確定の認知症に対する対応の改善が求められている。プライマリ・ケア・リエゾンには、その解決を果たす役割が期待されており、そのために必要とされる専門的コンピテンシーについて検討した。Primary Health Care Research & Development誌オンライン版2010年11月6日号の掲載報告。 著者らは、コンピテンシーの草案、コンピテンシーの各オプション/組み合わせ、およびコンピテンシーレベルを確立することを目的に、総合的な文献および政策レビューを行った。多様なステークホルダーによる協議と、70人以上の利用者および介護者が、フォーカスグループや電子メールのやりとり、電話インタビューを介して議論を交わした。協議と同時にEquality Impact Assessmentを行った。 主な内容は以下のとおり。・文献レビューによって、認知症の人の診断率を改善すること、および診断に至る道筋を改善することの両方のニーズが明らかになった。・ステークホルダーの協議は、あらためて、認知症だが未診断である人とその介護者が適切なサービスにアクセスできていないことに言及し、早期かつ「適時」に診断が行われるシステムを改善できる役割を担う者が必要であることを確認した。・協議プロセスを介して、文献および政策文書に基づくコンピテンシーが開発・討議され、3つの主要領域「カウンセリング」「スクリーニング」「健康教育・促進」が同定された。・その役割を果たすにはスキルと経験豊かな専門的アプローチが求められ、家庭医(GP)の診療録にアクセス可能な「GP cluster」に位置付けられることで、有用なチームモデルが確立可能であり、GPとの協働作業がその役割の基本となる。・個人の継続的な専門性開発への取り組みが、これらのコンピテンシーを高く維持することにつながる。関連医療ニュース ・アルツハイマーの予防にスタチン!? ・「炭水化物」中心の食生活は認知症リスクを高める可能性あり ・アルツハイマー病の興奮、抗精神病薬をどう使う?

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スタチンを服用していた人は、がん発症後もがん関連死が低い/NEJM

 がん患者におけるスタチン服用が、がん関連死低下と関連していることが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のSune F. Nielsen氏らがデンマーク国民について検討した結果、報告したもので、NEJM誌2012年11月8日号で発表した。これまで、体内に取り込むコレステロール量の減少は、がん細胞の増殖や転移を減じる可能性が示されており、研究グループは、スタチンをがんと診断される前から服用していた人ではがん関連死亡率が低くなるとの仮説を立て、検証を行った。がん診断前のスタチン服用・非服用で、その後の死亡について追跡評価 デンマーク全住民の出生、出入国、移住、死亡を記録したDanish Civil Registration Systemを用いて検証した。 1995~2007年にがんと診断された患者を2009年12月1日まで追跡し、死亡について評価した。 40歳以上のがん患者のうち、がんの診断前からスタチンを定期服用していたのは1万8,721例だった。一方、スタチン服用歴がなかったがん患者は27万7,204例だった。スタチン服用がん患者の全死因死亡ハザード0.85、がん死亡0.85 全死因死亡について、スタチン服用者の非服用者に対する多変量補正ハザード比は、0.85だった(95%信頼区間:0.83~0.87)。がん死亡については、同0.85だった(同:0.82~0.87)。 スタチンの1日服用量(1日当たりの推定平均維持量)別にみた全死因死亡の補正ハザード比(非服用者1日量0.00群を参照群)は、1日量0.01~0.75群の患者は0.82(95%信頼区間:0.81~0.85)、0.76~1.50群の患者は0.87(同:0.83~0.89)、>1.50群は0.87(同:0.81~0.91)だった。がん死亡ハザード比はそれぞれ、0.83(同:0.81~0.86)、0.87(同:0.83~0.91)、0.87(同:0.81~0.92)だった。 がんの種類別(13種類)にみてもスタチン服用者のがん関連死亡率は、非服用者と比較して低かった。

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CETP阻害薬の臨床的有用性は…

 ケアネットでは、11月3~7日に開催されたAHA(米国心臓協会)学術集会での注目演題を速報した。その一つとして、CETP阻害薬によるHDL-C増加が心血管イベント抑制に及ぼす効果について報じたが、この発表に対する吉岡 成人氏(NTT東日本札幌病院 内科診療部長)のコメントを得たため合わせて掲載する。吉岡 成人氏(NTT東日本札幌病院 内科診療部長)のコメント コレステロール・エステル転送蛋白(CETP)は、末梢組織から受け取ったHDL-コレステロール(HDL-C)のコレステロール・エステルをVLDL、LDLに転送し、コレステロールをリサイクル(再利用)するという重要な役割を担っている蛋白である。そのため、CETPを阻害することでHDL-Cへのトリグリセリド転送やLDLへのコレステロール転送を抑制し、HDL-Cの増加やLDL-Cの減少をもたらすことが考えられ、CETP阻害薬がポストスタチンの一翼を担う脂質治療薬として期待されている。 CETP阻害薬としては、ファイザー、JT(ロッシュとの共同開発)、メルク、リリーの各社がトルセトラピブ(torcetrapib)、ダルセトラピブ(dalcetrapib)、アナセトラピブ(anacetrapib)、エヴァセトラピブ(evacetrapib)をそれぞれ開発している。しかし、トルセプトラピブは5mmHg程度の血圧上昇と心血管イベントと総死亡の増加のため臨床第III相試験が中止され、ダルセトラピブについても45歳以上の安定した急性冠症候群(ACS)患者を対象とした第III相試験(dal-OUTCOMES試験)では効果が不十分として2012年6月に中止されている。 今回の報告はdal-OUTCOMESの最終報告であるが、スタチンやアスピリン、抗血小板薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬によって十分に治療されている患者では、CETP阻害によってHDL-Cを増加させ、脂質プロフィールが改善しても、そのことによる相加的な効果はないことが確認されたといえる。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(33)〕 末梢動脈疾患(PAD)も、喫煙とリスク因子の重複が大きく関与

米国男性では、冠動脈疾患と同様に末梢動脈疾患(PAD)の発現率が喫煙、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病といった4大リスク因子の重複(clustering)によって増加することを約4万5千人での25年間の前向き追跡調査での結果で示した報告である。 中でも喫煙は、喫煙本数と喫煙歴が多くなるほど指数関数的にPADのリスクが上昇することを示している。 ただし、本研究は、フラミンガム研究などのように血圧値や血糖値を実際に測定しているわけではなく、担当医の診断や自己申告に基づいた追跡調査であり、またエンドポイントであるPADも症状が発現した、顕性の症例のみに限られている。したがって、どのレベルの血圧値あるいは血糖値がリスクなのかは明らかにされていない。 また、今日のようにスタチン薬や抗血小板薬が広く処方されており、かつ血圧コントロールも良好になっている状況でも同様な結果は出るかどうかは不明である。とはいえ、本研究は本来のPADのリスク因子を知るうえで貴重なデータといえる。

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【速報!AHA2012】 期待の『抗PCSK9抗体』の最大規模第II相試験、報告される -LAPLACE-TIMI57試験-

 今回のAHAで最も注目されている薬剤は、抗PCSK9抗体だろう。強力な新規LDLコレステロール低下薬としての可能性が、多くの臨床試験で報告されている。6日のClinical Science:Special Reportでは、抗PCSK9抗体AMG145を用いた最大規模の第二相試験"LAPLACE"の、最終結果が、ハーバード大学(米国)のRobert P. Giugliano氏により報告された。 LAPLACEの対象は、至適用量のスタチンを4週間以上服用したにもかかわらず、LDLコレステロール(LDL-C)濃度が85mg/dL未満に到達していない631例。エゼチミブ併用の有無は問わない。また、スタチン、エゼチミブ以外の脂質低下薬服用例とトリグリセライド濃度が400mg/dLを超える場合については除外されている。 ベースラインにおける、LDL-C濃度平均値は124mg/dL、そのうちLDL-C濃度が130mg/dL未満の割合は65%だった。エゼチミブ併用率は約1割である。  これら631例は以下の8群に無作為化割付けされた。まず「2週間に一度皮下注(Q2週)」群には「70mg」、「105mg」、「140mg」群と「プラセボ」群を置き、「4週間に一度皮下注(Q4週)」群には「280mg」、「350mg」、「420mg」群と「プラセボ」群を置いた。  12週間追跡後、一次評価項目である「LDL-C低下率」は、Q2週群の70mg群で41.8%、105mg群 60.2%、140mg群で66.1%と、いずれもプラセボ群に比べ有意に高くなっていた。Q4週群でも同様で、280mg群は41.8%、350mg群 50.0%、420mg群で50.3%と、プラセボ群に比べ低下率はいずれも有意に高かった。 経時的に見ると、AMG145群ではいずれも、投与2週間後には著明なLDL-C低下が認められた。 またQ2週群、Q4週群ともAMG145によるLDL-C低下作用は、性別、年齢、肥満度、試験開始時LDL-C値の高低、試験開始時血中free PCSK9濃度の高低に影響を受けていなかった。 次にQ2週群とQ4週群を比較すると、開始8週間後以降は、Q4週群でより安定したLDL-C低下が認められた。  安全性に関しGiugliano氏は、用量依存性に増加した有害事象はなかったとした。また、筋障害、肝障害は各群で1例以内にとどまり、発現率は低かった。 この成績を受けGiugliano氏は、心血管系イベントへの影響を検討する第III相試験が必要だと指摘した。 取材協力:宇津貴史(医学レポーター)「他の演題はこちら」

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【速報!AHA2012】CETP阻害薬によるHDL-C増加、今度は有用性を示せたか?:dal-OUTCOMES

 4日のLate Breaking Clinical Trialsセッションでは、本年6月に中止が公表された大規模試験 "dal-OUTCOMES" の結果が報告された。急性冠症候群(ACS)既往例において、ダルセトラピブは、HDLコレステロール(HDL-C)を著明に増加させながら、心血管系イベント抑制作用はプラセボと同等だった。VAメディカルセンター(米国)のGregory G Schwartz氏が報告した。先行していたCETP阻害薬トルセトラピブがILLUMINATE試験にて、プラセボに比べ総死亡と心血管系イベントを有意に増加させていたのとは、若干異なるようだ。  dal-OUTCOMESの対象は、ACS既往のある15,871例である。「LDLコレステロール(LDL-C)≧100mg/dL」と「トリグリセライド≧400mg/dL」は除外されたが、HDL-Cに基準は設けられていない。その結果、試験開始時のLDL-C値は76mg/dL、HDL-Cは42mg/dLだった。ACS後に対する標準治療は充分に行われており、スタチン(97%)、アスピリン(97%)、抗血小板薬(89%)、レニン・アンジオテンシン系抑制薬(79%)を多くの患者が服用していた。 これら15,871例は、ダルセトラピブ群とプラセボ群に無作為化され、二重盲検法で追跡された。  試験開始後の血清脂質の変化を見ると、ダルセトラピブ群ではHDL-Cがプラセボ群に比べおよそ15mg/dL、高値となっていた。LDL-C値は両群間に差を認めなかった。 このようにHDL-Cが著明に増加したにもかかわらず。ダルセトラピブ群の心血管系イベント(冠動脈死、非致死性心筋梗塞、虚血性脳卒中、不安定狭心症による入院、心停止)発生リスクはプラセボ群と同等だった(ハザード比:1.04、95%信頼区間:0.93~1.16, P=0.52)。  ダルセトラピブ群でイベントが減少しなかった理由の一つとしてSchwartz氏は、すくなくとも本試験の対象患者(充分に治療されている)では、低HDL-Cがもはやリスクではない可能性を指摘した。プラセボ群において、試験開始時のHDL-Cの高低にかかわらず、その後のイベント発生リスクがほぼ同等だったためだ。 また同氏は、ダルセトラピブ群で若干の収縮期血圧高値(0.6mmHg)と高感度C反応タンパク(hs-CRP)の軽度上昇(0.2mg/L)があった点にも触れ、これらによりHDL-C増加による有用性が相殺された可能性も指摘した。 しかし指定討論者のAlan Tall氏(コロンビア大学:米国)は、この程度の変動は臨床的に大きな意味を持たないと述べ、本試験がネガティブに終わった理由として、「CETP阻害薬で増えるHDLはコレステロール逆転送機能が障害されている」可能性と「ダルセトラピブのHLD-C増加が充分でなかった可能性」を指摘した。後者は、CETP阻害作用がより強力な薬剤ならば、別の結果になり得る可能性を示唆する。 CETP阻害薬の心血管系イベント抑制作用は現在、大規模試験REVEAL(アナセトラピブ)とACCELERATE(エヴァセトラピブ)が患者登録中である。前者は'17年、後者は'15年の終了を予定しており、結果が待たれる。取材協力:宇津貴史(医学レポーター)「他の演題はこちら」

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冠動脈疾患発症予防薬が、心房細動患者の死亡に与えるインパクトは?

 心房細動が脳卒中のリスクであることは有名であるが、冠動脈疾患予防薬が心房細動患者に及ぼす影響については情報が限られていた。このたび、Wandell氏らは、冠動脈疾患予防薬が心房細動患者の全死亡に与える影響について解析した結果を発表した。Eur J Clin Pharmacol誌オンライン版2012年9月19日号掲載の報告。 解析の対象は、スウェーデンのプライマリケアセンター75施設よりデータの提供を受けた45歳以上の心房細動患者12,302例(男性6,660例)であった。Cox回帰分析を用いて、冠動脈疾患予防薬の全死亡に与える影響が、性別(男・女)、年齢別(80歳以上・80歳未満)に解析された。共変量は、年齢、心血管疾患の診断、教育レベルとされた。 主な結果は以下のとおり。・下記カテゴリーにおいて、抗凝固薬使用で低い死亡率が認められた 男性/80歳未満(補正HR 0.43、95 %信頼区間:0.31~0.61) 男性/80歳以上(補正HR 0.47、95 %信頼区間:0.32~0.69) 女性/80歳未満(補正HR 0.46、 95 %信頼区間:0.29~0.74)・下記カテゴリーにおいて、抗血小板薬使用で低い死亡率が認められた。 男性/80歳以上(補正HR 0.51、 95 %信頼区間:0.35~0.74)・下記カテゴリーにおいて、チアジド薬使用で低い死亡率が認められた。 男性/80歳未満(補正HR 0.68、 95 %信頼区間:0.48~0.96) 男性/80歳以上(補正HR 0.67、 95 %信頼区間:0.46~0.98)  女性/80歳以上(補正HR 0.70、 95 %信頼区間:0.52~0.94)・下記カテゴリーにおいて、スタチン使用で低い死亡率が認められた。 男性/80歳未満(補正HR 0.47、 95 %信頼区間:0.32~0.68)  女性/80歳未満(補正HR 0.54、 95 %信頼区間:0.35~0.82)

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(29)〕 抗血栓薬やスタチン薬時代においてβ遮断薬の有用性は証明されず

心筋梗塞後の症例に対するβ遮断薬処方は、すでに標準治療として定着している。これは多数のエビデンスに基づいているが、その多くはすでに10年以上以前のものである。はたして、今日のようにPCIが一般的になり、かつスタチン薬や抗血小板薬治療などが普及した今日においてもなお、β遮断薬の有用性はあるのであろうか。またβ遮断薬は、冠動脈疾患症例や高リスク症例に対しても有用と思われがちだが、その有用性は必ずしも証明されている訳ではない。それが本論文におけるメタ解析のアンチテーゼである。 たしかに上記の問題点は臨床上非常に重要であり、興味のあるところである。 本研究は、国際的な観察研究REACH登録での後ろ向き解析である。その結果は予想に反して、心筋梗塞後症例、心筋梗塞を有しない冠動脈疾患および高リスク症例のいずれにおいても、β遮断薬治療群の心血管系予後は非使用群と差がないことを示した。 この結果は、以下のような見方ができる。つまり、現代では一般的になった抗血栓薬や高脂血症治療の普及が大きくイベント発症を抑制し、また、降圧薬も広く普及したためにβ遮断薬の相対的有用性は減少したということである。 ただし、本試験には大きなリミテーションがあることも事実である。後ろ向き解析において、さまざまな交絡因子の影響を調整する、近年頻用されるPropensity scoreという手法が用いられているが、β遮断薬の種類や用量、そしてその既往など、調整しきれない部分も存在していることも考慮する必要があるだろう。また、対象となった症例の年齢層が70歳という高齢者であることも、β遮断薬の効果を発揮させにくくしている要因であるかもしれない。 よって、本試験の結果をもって実臨床に応用するには時期尚早であり、冠動脈疾患に対するβ遮断薬の適応は、個々の病態をみながら判断するべきである。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(25)〕 糖尿病患者の降圧目標値:エビデンスの質を見極める

糖尿病患者における降圧目標値に関しての議論が盛んになっている。 わが国のガイドラインでは、糖尿病患者の降圧目標は130/80mmHgと厳格な降圧を推奨している。その根拠となったトライアルはUKPDS試験とHOT試験であるが、前者では厳格治療群とはいっても144/82mmHgであり、後者のHOT試験ではサブ解析で拡張期血圧が80mmHgまでの降圧達成群が85mmHg群や90mmHg群よりも心血管イベントが少なかったというものである。ガイドラインで示すような130/80mmHgという低いレベルがイベントを抑制するというエビデンスはなく、上記の2つのトライアル結果を演繹したにすぎない。 一方、2年前に発表されたACCORD試験は、収縮期血圧<140mmHgの緩和降圧群と<120mmHgの厳格降圧群との間で心血管イベント発症に有意差は認めず、糖尿病患者に対する積極的降圧に疑義をなげかけた最初のトライアルとなった。 しかし、本試験では致死的および非致死的脳卒中に関しては、積極的降圧群の方が予防効果は有意に優れるという結果も示しており、むしろ脳卒中の多い日本人では、積極的降圧を推奨したガイドラインを支持する解釈も可能であった。 今回のretrospective cohort研究は2型糖尿病患者では、厳格な降圧、収縮期血圧<130/80mmHg群は収縮期血圧が130~139mmHgの群に比べて死亡率の減少を示さなかったというものである。さらに110mmHg以下の降圧群では死亡率は有意に上昇するという結果を示した。 本試験の問題点は多い。まずretrospective研究の常として試験開始時の症例の臨床的背景が一律ではない可能性があること。心血管死ではなく総死亡をアウトカムとしており、死因の分析までできていないこと。そして、これもcohort研究の常として因果の逆転の可能性があること。すなわち血圧が低いから死亡したのではなく、心機能が低下したような症例が早期に死亡した可能性があること。そして何よりも、収縮期血圧が160mmHg以上の群ですら死亡率の上昇が認められていないことである。つまり、糖尿病患者の死亡率は血圧がかなり高くても増加しないという読み方ができるのである。 このような結果が出た背景には、糖尿病患者の大部分がスタチン薬や抗血小板薬など心血管予防薬を服用しているために、本当の意味での心血管合併症発症あるいは心血管死と血圧レベルとの関連が評価しにくくなっていると考えられる。多くのlimitationを含有する本試験の結果は、わが国のガイドラインを変更する根拠とはならない。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(24)〕 安定狭心症に対する最適治療法の決定に冠血流予備量比(FFR)は有用な検査法である

経皮的冠動脈インターベンション治療(PCI)が、急性冠症候群の予後改善に有効な治療法であることについては異論のないところである。しかしながら、安定狭心症に対するPCIの適用に関しては未解決な問題が多い。歴史的には選択的冠動脈造影手技が確立されたことにより、冠動脈疾患の診断・治療が長足の進歩を遂げたことは周知の事実である。しかし、冠動脈造影では、X線シネ血管撮影装置と造影剤を使用してイメージインテンシファイアー上に冠動脈イメージを映し出し、狭窄の程度を判読している。それゆえ、狭窄の程度を正確に評価するうえで、冠動脈造影だけでは必ずしも十分でない症例も存在する。 FFR測定は、冠動脈狭窄病変が心筋虚血を引き起こすか否かを機能的に評価することを可能にした有用な検査である。心筋虚血を生じない程度の狭窄病変に対して、むやみやたらにPCIを実施することの有害性を十分に認識することは、治療方針を正しく決定するために必要である。本研究では、安定狭心症で冠動脈造影所見からPCI治療が適用であると判断された患者について、FFR値が少なくとも1つの狭窄病変において0.80以下であれば無作為に対象症例を2群[薬物治療群(最適薬物療法のみ)、PCI群(PCI+最適薬物療法)]に振り分けた。すべての狭窄を有する冠動脈病変のFFR値が0.80を超えている症例については、PCIを実施せず最適薬物療法のみを行い、試験に登録のうえ、その50%が無作為に抽出された2群と同様にフォローアップされた。 倫理的理由により追跡期間が短いのが気になるが、この期間での一次複合エンドポイント発生率(死亡率、非致死性心筋梗塞発症、2年以内に起こる予期せぬ緊急血行再建のための入院)は薬物治療群で12.7%、PCI群で4.3%であり、PCI群で有意に低かった。とりわけ、緊急血行再建術実施率がPCI群で有意に低率であった(薬物治療群 11.1% vs PCI群 1.6%)。FFR値が0.80を超えていた群での複合イベント発生率は3.0%と最も低値であったが、PCI群との間には有意差はなかった。 短期のフォローアップのみの成績であるために、長期的PCI治療の成績を保証するデータでないことを考慮することも重要である。また、FFR値が0.80超の狭窄病変に対して、最適薬物療法のみで治療した群で複合イベント発生率が低かった事実は大きな意味を持つ。つまり、心筋虚血を引き起こさない程度の狭窄病変に対して、むやみやたらにPCIを実施すべきではないことを肝に銘じるべきである。本研究は、少なくとも1ヵ所以上の主冠動脈狭窄病変でFFR値が0.80以下である場合について、PCI施行後とりわけ8日以降から追跡終了までの期間で一次複合エンドポイント(とくに緊急血行再建)に関して、PCI+最適薬物療法の併用が最適薬物療法単独よりも優れているとの結果であった。安定狭心症では無用なPCIを行わないよう心がけることを頭に叩き込んでおいてほしい。メモ1.PCIには第2世代の薬物溶出ステントが使用された。2.最適薬物療法は、アスピリン、β遮断薬(メトプロロールほか)、Ca拮抗薬/長時間作用型亜硝酸製剤、RA系阻害薬(リシノプリルほかACE阻害薬、副作用があればARB)、スタチン(アトルバスタチン)、エゼチミブの多剤併用投与を意味していると理解できる。3.クロピドグレルはステントを植え込み群でのみ使用された。4.本研究では最適薬物療法の中に看護ケア、生活習慣の改善は含まれていなかった。5.すべての群で喫煙者は至適禁煙指導を受け、糖尿病を有する患者は専門的至適治療が行われた。

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STEMI患者の死亡率低下、背景にプライマリPCI実施の増大

 フランス・パリ大学のEtienne Puymirat氏らは、フランスにおける1995~2010年のST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の死亡について調査した結果、STEMI患者の全心血管死は減少しており、その要因として、60歳未満の女性STEMI患者の増加、その他人口動態的特徴の変化および再灌流療法および推奨薬物療法の増加が挙げられたと報告した。本調査は、近年のSTEMI患者の死亡低下と、その主な改善要因として再灌流療法の実施が報告されていることを受けて行われた。JAMA誌2012年9月12日号掲載報告より。15年間のSTEMI患者生存改善の要因を調査調査は、15年間のSTEMI患者生存改善の背景要因としての、再灌流療法関連の可能性について評価を目的とした。各1ヵ月間、4期(1995年、2000年、2005年、2010年)にわたって・フランス国内から登録したSTEMI患者(集中治療室または冠動脈疾患集中治療病棟に入院)6,707例を対象とした。主要評価項目は、粗30日死亡率の経年変化。2010年の人口特性で標準化した死亡率についても評価した。15年間でプライマリPCIは11.9%→60.8%に結果、患者の平均年齢は66.2(SD 14.0)歳から63.3(14.5)歳まで低下していた。併せて、心血管イベント歴と共存症歴も低下していた。患者は若年化が認められ、とくに60歳未満の女性(11.8%→25.5%)、現喫煙者(37.3%→73.1%)、肥満(17.6%→27.1%)が増加していた。発症から入院までの時間は、発症から初回救急コールまでの時間が短縮したことで早まっており、集中治療室の利用も増えていた。再灌流療法はプライマリPCIの大幅な増加(11.9%→60.8%)によって、49.4%から74.7%に増加していた。推奨薬物療法(とくに低用量ヘパリンとスタチン)の早期適用も増加していた。粗30日死亡率は、13.7%(95%信頼区間:12.0~15.4)から4.4%(同:3.5~5.4)まで減少していた。一方、標準化死亡率は11.3%(同:9.5~13.2)から4.4%(同:3.5~5.4)まで減少した。多変量解析の結果、1995年から2010年の死亡率低下は、臨床特性に加えて初期の集団リスクスコアおよび再灌流療法利用について補正後も一貫して認められた。1995年に対する2010年の死亡オッズ比は0.39(95%信頼区間:0.29~0.53、p<0.001)であった。

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