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LDL-C低下に関与する遺伝子変異は2型糖尿病のリスク増加と関連(解説:小川 大輔 氏)-606

 脂質異常症の治療としてスタチン薬が動脈硬化性疾患の予防のために用いられることが多いが、これまでにスタチン薬の使用は体重増加や2型糖尿病の新規発症と関連することが報告されている1)。一方、LDLコレステロールトランスポーターNiemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)の阻害薬であるエゼチミブの糖代謝に対する影響については不明である。今回、LDLコレステロールの低下に関与するNPC1L1遺伝子の変異と2型糖尿病の発症リスク増加との関連が報告された。 この研究は、1991年から2016年にかけて欧州および米国で実施された3つの遺伝子関連研究からデータを収集し、2型糖尿病患者5万775例とその対照群27万269例、冠動脈疾患患者6万801例とその対照群12万3,504例が組み込まれた。そして、LDLコレステロール低下に関連する遺伝子変異と2型糖尿病、冠動脈疾患との関連をメタ解析で検討が行われた。 その結果、NPC1L1遺伝子変異は2型糖尿病と正の相関を示し、冠動脈疾患とは逆相関を示した(LDLコレステロール 1mmol/L[38.7mg/dL]低下当たりのオッズ比はそれぞれ2.42[p<0.001]、0.61[p=0.008])。 また、NPC1L1以外のLDLコレステロール低下と関連するHMGCR、PCSK9、ABCG5/G8、LDLR近傍の対立遺伝子と2型糖尿病や冠動脈疾患についても検討が行われたが、HMGCRおよびPCSK9遺伝子変異は2型糖尿病と正の相関を示した(LDLコレステロール 1mmol/L[38.7mg/dL]低下当たりのオッズ比はそれぞれ1.39[p=0.003])、1.19[p=0.03])。 NPC1L1遺伝子の変異を有する症例は、心血管疾患のリスクが低いことが知られていたが2)、これまで糖尿病の発症リスクとの関連については報告がなかった。今回の研究で初めて、NPC1L1遺伝子変異が2型糖尿病のリスク増加と関連していることが明らかとなった。さらに、LDLコレステロールの低下に関与するHMGCR、PCSK9の遺伝子変異よりもオッズ比が高いことも示された。 エゼチミブは脂質異常症の治療薬として実臨床で使われており、スタチン薬とエゼチミブの併用療法は糖尿病を合併した脂質異常症の心血管イベントを抑制することが報告されている3)。 糖尿病のない脂質異常症の症例に投与してどの程度2型糖尿病の発症が増加するのか、また、すでに糖尿病のある脂質異常症の症例にエゼチミブを投与して血糖コントロールに悪影響を及ぼすかどうかについてはまだ明らかにされておらず、今後の研究が待たれる。

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先端巨大症〔acromegaly〕

1 疾患概要■ 概念・定義手足の末端や顔貌の変化など特有な容姿から名付けられた疾患名であるが、成長ホルモン(GH)の過剰分泌により生じる。骨端線閉鎖以前では巨人症(gigantism)を、骨端線閉鎖以降では骨の末端の肥大を示す先端巨大症(acromegaly)を呈する。また、GH過剰状態が長期に持続すると、QOLは低下し、心・脳血管障害、悪性腫瘍、呼吸器疾患などを合併し、生命予後は不良となる。■ 疫学欧米の最近の報告によると、発生頻度(罹患率)は、年間3.5~6.5人/100万人、有病率は125~137人と報告されている。わが国の報告では、片上氏らの宮崎県での調査の結果、罹患率は5.3人/100万人、有病率85人と報告されている。本症に性差はみられず、40~60歳を好発年齢とし各年齢層に広く分布している。■ 病因先端巨大症の99%以上は、下垂体のGH産生腫瘍が原因であるが、ごくまれに気管支や膵、十二指腸などに発生する内分泌腫瘍から、異所性にGH放出ホルモンが過剰に産生される異所性GHRH産生腫瘍や、膵臓がんや悪性リンパ腫での異所性GH産生などが原因となる先端巨大症の報告例がある。■ 病態生理GH産生腫瘍もほかの下垂体腫瘍同様、モノクローナルな腫瘍で、体細胞レベルでの突然変異(somatic mutation)が腫瘍化の原因と考えられてきた。約半数の症例ではGHRH受容体と共役しているGタンパク質のαsubunitであるGsαの活性化変異(gsp変異)が認められる。その結果アデニル酸シクラーゼの活性化が持続し、細胞内のcAMPの増加が維持され、細胞増殖が促進する。一方、家族性にGH産生腺腫を合併する疾患にCarney complex、家族性GH腺腫(isolated familial somatotropinoma:IFS)、多発性内分泌腺腫症(MEN1および4)があるが、弧発性GH腺腫でもこれらの遺伝性疾患の原因遺伝子が検討されたが、不活化を伴う体細胞変異は認められていない。■ 臨床症状症状はGH過剰分泌に基づく症候が主体で、時に下垂体腫瘍が大きな場合には下垂体機能低下、視機能障害、頭痛など占拠性症候が同時に認められる。GHの過剰分泌により、肝臓でインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor 1: IGF-1)が過剰に産生され、これらGH、IGF-1の過剰分泌が長期に続くと、骨、軟部組織、内臓の肥大や変形が生じる。臨床症状としては顔貌の変化、手足の肥大はほぼ全例で認められ、耐糖能の低下、巨大舌、発汗過多も70%以上でみられる。また、先端巨大症では約25%(自験例で13%)の症例でプロラクチン(PRL)の同時産生を認めるため、月経異常(無月経、乳汁漏出)が主訴となることがある(図1、図2、表)。画像を拡大するA:先端巨大症の主な症状B:先端巨大症男性例の顔貌。骨の変形に伴う眉弓部・頬骨部の隆起、下顎の突出がみられ、鼻、口唇の肥大も認める特徴的な先端巨大症顔貌C:左は手指の腫大、皮膚の肥厚、多毛など典型的な先端巨大症の手(右は成人男性健常者)画像を拡大する画像を拡大する1)顔貌の変化眉弓部や頬骨部の隆起、下顎の突出、咬合不全、歯間の開大などが認められ、軟骨、軟部組織、皮膚も影響され、鼻、口唇も肥大し、いわゆる先端巨大症様顔貌を呈する(図1B)。2)骨、関節、結合組織手足の骨は伸び、手足の末端は肥大し、指は厚ぼったく太く丸みをおび、時に手指で小さな物をつまみ上げることが困難となる(図1C)。多角的にはX線検査における手指末節骨先端の花キャベツ様変化また結合組織も肥大によるheel pad(踵骨と足底の間の軟部組織)の肥厚が認められる。時に骨、結合組織の肥厚に伴い、手根管症候群や座骨神経痛、股関節、顎関節、膝関節の変形に伴う痛みも認められる。体型も椎骨の肥大変形により、胸部は後彎、腰部は前彎という独特な体型を呈する。これら骨に生じた変形は通常進行性で不可逆的である。3)皮膚肥厚し、色素沈着や発汗過多により、手掌、足底は常にべたつき、しばしば異臭を伴う。4)臓器肥大肝臓、腎臓、甲状腺などが肥大する。舌の肥大は巨大舌と呼ばれ、声帯の肥大などとともに特徴的な低い声となる(deepening of the voice)。5)循環器高率に高血圧を合併する。これは進行する動脈硬化と細胞外液量の増加が関与すると考えられている。心肥大も多く、最終的には拡張性の心不全を生じ、生命予後を左右する大きな一因となっている。6)呼吸器胸郭、肺の弾性が低下し、換気低下が進行すると慢性気管支炎、肺気腫など器質性変化が生じ、時に呼吸不全となる。また、近年本症は閉塞性の睡眠時無呼吸症候群の一因としても注目されている。7)代謝GHのインスリン拮抗作用が原因で耐糖能の低下、糖尿病が高頻度にみられる。8)占拠性症候下垂体腫瘍の70%以上は、腫瘍径1cm以上のmacroadenomaであるが、視野異常など視機能低下を合併する頻度はそれほど多くはない(自験例で5%)。同様に腫瘍の圧迫による続発性下垂体機能低下症もまれである。■ 予後放置した場合の生命予後は、一般人口と比較すると不良で、標準化死亡率は1.72倍高いと報告される一方、治療によりGH、IGF-1値が正常化すると、その後の生命予後は一般人と変わらなくなると報告されている。また、合併する高血圧、糖尿病、心疾患などの合併症のコントロールも生命予後の改善に寄与する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床所見とGH、IGF-1基礎値診断の基本はまず臨床的所見から先端巨大症を疑うことが重要である。しかし、通常患者が直接専門医を受診することは少なく、早期発見のためにも、合併疾患の治療科である整形外科、呼吸器科、一般内科医などへの本疾患の啓発が重要である。近年、新聞・雑誌や下垂体患者会などからの啓発活動の結果、患者自らがこの疾患を疑い、専門機関を受診するケースも増加している。本疾患が疑われる患者では、まずGH、IGF-1値を含めた下垂体ホルモン基礎値を測定し、GH過剰分泌の有無、他のホルモンの過剰あるいは低下の有無を検討する。重要なことは、GH基礎値は変動が大きく、単回の血中GH基礎値のみでのGH過剰状態の判定は不可能で、同時に必ずGHの総分泌量を反映するIGF-1値を測定することが重要である。臨床所見を認め、IGF-1値が年齢、性別の基準値より明らかに高値を示す場合には、通常先端巨大症と考えてよい(図2)。■ 経口ブドウ糖負荷試験など先端巨大症患者では、GHの抑制がないか、逆説的な増加を示し、0.4ng/mL未満には抑制されない。感度の高い検査で、本疾患が疑われる場合には必須の検査である。この検査は、先端巨大症の診断のみならず耐糖能の評価、治療後の耐糖能低下改善の予測などにも重要な検査である。以上で診断が確実となれば、他の前葉ホルモンの機能評価を兼ねたTRH、CRH、GnRH 3者負荷試験、薬物の効果を予測するドパミン作動薬(ブロモクリプチン)やオクトレオチド負荷試験を施行する。■ 画像検査次に重要なことは腫瘍の状況の把握で、このためには下垂体の精検MRIが最も重要である。通常1cm以下の微小腺腫が2~3割程度を占める。また、下垂体腫瘍が認められない場合には、異所性GHRH産生腫瘍なども考慮する必要がある(図2)。■ その他の検査合併症の評価のため、心機能、呼吸機能、動脈硬化の程度の評価、大腸がんの有無の評価なども重要な検査である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)先端巨大症を呈する下垂体腫瘍の治療の目的は、過剰に産生されているGHの早期の正常化と、腫瘍が大きく圧迫症候を伴っているときには、それらの改善にある。本疾患の治療の原則は、外科的切除が第1選択であるが、手術不能例や患者の同意が得られない特殊な場合、手術で治癒が不可能と考えられる一部の症例、外科的治療でも治癒が得られない場合には薬物療法、放射線療法などの補助療法を追加する。同時に合併症のコントロールも予後の改善からも重要である。先端巨大症の治療の流れを示すフローチャートを図3に示した。画像を拡大する■ 手術療法手術は通常経鼻的アプローチで行われ、これを「経蝶形骨洞手術」と呼び、手術用顕微鏡や内視鏡下に施行されるが、大きな腫瘍や浸潤性腫瘍では、患者の全身状態の改善による周術期のリスクの減少と腫瘍の縮小を目的として、術前短期(1~3回程度)のオクトレオチドLAR(商品名: サンドスタチンLAR)、ランレオチド(同:ソマチュリン)を使用する場合がある。現在のところ下垂体外科を専門とする施設での治癒率は、60~70%と報告されている(図4)。手術での治療成績不良な因子としては、腫瘍の大きさ、海綿静脈洞浸潤の有無などが挙げられる。画像を拡大する■ 薬物療法腫瘍からのGH分泌を抑制し、抗腫瘍効果のあるドパミン作動薬(ブロモクリプチン[商品名: パーロデル]やカベルゴリン[同:カバサール])、ソマトスタチンアナログ製剤が主に使用されている。それでも効果が不十分な場合には、GHの作用をブロックするペグビソマント(同:ソマバート)が使用される。ただし、ソマトスタチンアナログ製剤やペグビソマントは、有効率は高いものの、きわめて高価であること、ペグビソマントは毎日自己注射が必要なこと、カベルゴリンは保険適用ではないことが欠点である。また、これらの薬剤の効果をより高めるために、多剤薬物療法(combined therapy)も適時試みられている。■ 放射線照射海綿静脈洞内など外科切除困難な部位に腫瘍が残存し、薬物効果が不十分な場合などが適応となる。現在ではγナイフやサイバーナイフなどの定位放射線療法が主体で、従来の放射線療法に比較し、いずれも短時間でより選択的な照射が腫瘍へ可能であり、かつ治療効果発現までの時間も短く(通常1~2年)、正常下垂体、神経組織への障害も少ない。■ フォローアップ通常治療後、治癒基準を満たす症例が再発を呈することはきわめてまれであるが、半年~1年に1度GH、IGF-1検査のフォローが必要である。また、術前の症状の有無により、適時に大腸内視鏡、心エコーなどの定期的フォローも必要となるし、薬物療法施行例では、それぞれの副作用のチェック、さらに放射線療法が行われた症例ではGH、IGF-1はもちろん、下垂体機能低下症の長期にわたるフォローも重要となる。4 今後の展望本疾患の早期発見、早期治療のためには、関連診療科医師へのさらなる啓発活動が重要である。薬物治療法については、オクトレオチドLAR、ランレオチドなどの標準的なソマトスタチンアナログ製剤と比較して、より優れたGHおよびIGF-1の治療目標値への達成が期待されるSOM230(一般名: パシレオチド)が、2016年末にわが国で発売される予定である。また、ソマトスタチンアナログ製剤は、現在1ヵ月に1度の割合で病院での注射が必要となるが、アドヒアランスのより高い経口薬(oral octreotide)がすでに開発されており、近い将来広く臨床応用されることが期待される。5 主たる診療科下垂体疾患・腫瘍を取り扱う内分泌内科、脳神経外科、小児科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先端巨大症、下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)平成27年施行の指定難病。先端巨大症は、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(告示番号77)に分類されている。本サイトは「厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究 先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き」にリンクされている。アクロメガリー広報センター(ノバルティスファーマ株式会社)先端巨大症ねっと(帝人ファーマ株式会社)いずれも製薬メーカーが運営するサイトであるが、患者向け、医療者向けの両サイトがあり、先端巨大症についての知識や治療法がわかりやすく解説されている。患者会情報下垂体患者の会(下垂会)2005年に下垂体疾患の患者有志が集まり、自分達の病気の難病指定を目標に結成され、現在全国規模で医療講演会や患者会を定期的に開催・活動している。1)Katznelson L, et al. J Clin Endocrinol Metab.2014;99:3933-3951.2)特集 先端巨大症の診療最前線. ホルモンと臨床.2009.3)平田結喜緒 編. 下垂体疾患診療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2016.4)千原和夫 監修. 改訂版 Acromegaly Handbook.メディカルレビュー社;2013.公開履歴初回2016年10月18日

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LDL-C低下に関与する遺伝子変異、糖尿病リスクと関連/JAMA

 NPC1L1など低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の低下に関与する遺伝子変異が、2型糖尿病のリスク増加と関連していることが確認された。英国・ケンブリッジ大学のLuca A. Lotta氏らが、脂質低下薬の標的分子であるNPC1L1などの遺伝子変異と、2型糖尿病や冠動脈疾患との関連性を評価するメタ解析を行い報告した。著者は、「所見は、LDL-C低下療法による有害な影響の可能性について洞察を促すものである」と結論している。エゼチミブおよびスタチンの標的分子であるNPC1L1やHMGCR近傍の対立遺伝子はLDL-C低下と関連しており、これら脂質低下薬の有効性の検討で代理指標として用いられている。一方で、臨床試験においてスタチン治療による糖尿病新規発症の頻度増加が示されており、HMGCR近傍の対立遺伝子は2型糖尿病のリスク増加とも関連していることが知られていた。しかし、NPC1L1近傍の対立遺伝子と2型糖尿病との関連は不明であった。JAMA誌2016年10月4日号掲載の報告。LDL-C低下に関与する5つの遺伝子変異についてメタ解析で検討 研究グループは、1991~2016年に欧州および米国で実施された3つの遺伝子関連研究、European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC-InterAct試験)、UK Biobank試験、DIAbetes Genetics Replication And Meta-analysis(DIAGRAM)からデータを収集し、LDL-C低下に関連する遺伝子変異と、2型糖尿病および冠動脈疾患との関連をメタ解析で調査した。解析には、2型糖尿病患者5万775例とその対照群27万269例、冠動脈疾患患者6万801例とその対照群12万3,504例が組み込まれた。 主要評価項目は、LDL-C低下と関連するNPC1L1、HMGCR、PCSK9、ABCG5/G8、LDLR近傍の対立遺伝子による2型糖尿病および冠動脈疾患に関するオッズ比(OR)であった。NPC1L1遺伝子変異は2型糖尿病と関連あり LDL-C低下に関連するNPC1L1遺伝子変異は、冠動脈疾患と逆相関を示した(遺伝子学的に予測されるLDL-C 1-mmol/L[38.7mg/dL]低下当たりのOR:0.61、95%信頼区間[CI]:0.42~0.88、p=0.008)。一方、2型糖尿病とは正の相関を示した(同OR:2.42、1.70~3.43、p<0.001)。 全体として、LDL-C低下に関連する遺伝子変異は、冠動脈疾患リスクについては、いずれも同程度の減少がみられた(遺伝的関連の異質性I2=0%、p=0.93)。しかしながら、2型糖尿病との関連はばらつきがみられ(I2=77.2%、p=0.002)、LDL-C低下の代謝リスクに関連する特異的な対立遺伝子の存在が示唆された。 PCSK9遺伝子変異の場合、2型糖尿病に関する同ORは1.19であった(95%CI:1.02~1.38、p=0.03)。

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LDL-コレステロール低下による心血管イベント抑制はスタチンだけではない!(解説:平山 篤志 氏)-600

 動脈硬化の原因として、LDL-コレステロールの関与は実験的、疫学的にも20世紀初頭から明らかにされ、コレステロール低下によるイベント抑制試験も行われてきた。しかし、1994年に4S試験で全死亡をはじめとした心血管死、心筋梗塞の発症の抑制が示されたことを契機として、数多くのスタチンによる大規模臨床試験が発表されるようになった。 スタチンの時代の到来を予見して、Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaboratorsが4S以降あらかじめ発表されたプロトコルを基に前向きに登録した試験を集め解析をするようになった。2005年には、スタチンによるLDL-コレステロール低下の程度がイベント抑制と直線関係にあることが示され、コレステロール低下療法の意義が示された。 ところが、2010年のメタ解析で、より強力なスタチンの使用によりイベントが低下すること、さらにはその効果が治療前のLCL-コレステロール値にかかわらないことが示された。 その結果を受け、2013年にAHA/ACCガイドラインでは、LDL-コレステロールの目標値が設定されず、強力なスタチンの使用を推奨する“Fire and Forget”の考えが記載された。しかし、2015年にIMPROVE-ITが発表され、非スタチン製剤のエゼチミブのLDL-コレステロール低下による心血管イベント抑制効果が示された。さらに、LDL-コレステロール受容体の分解を促進するPCSK9を阻害する薬剤での前向き観察研究によるイベント低下効果も示され、非スタチン製剤によるデータも蓄積されつつある。そこで、本論文ではこれまでの非スタチンによる薬物、非薬物療法を合わせた8つの試験とスタチンによる臨床試験さらにPCSK9阻害薬による心血管イベント効果抑制を加えたメタ解析を行い、LDL-コレステロール低下と心血管イベント抑制効果に直線関係が認められることを示した。 “The Lower, The Better”が示されたことになり、スタチンでなくともLDL-コレステロール低下療法によりイベント低下を証明する論文ではある。ただ、あくまでもPCSK9阻害薬の効果は観察研究であり、今後発表されるRCTの結果を待って判断されるべきである。

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スタチン療法 vs.非スタチン療法、心血管リスク低減は同等/JAMA

 LDL受容体の発現増加を介して低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値を低下させるスタチン療法と非スタチン療法の比較において、LDL-C値低下当たりの主要血管イベントの相対リスクは同等であることが明らかとなった。LDL-C値の低下が、主要冠動脈イベント発生率の低下と関連することも確認された。これまで、非スタチン療法によるLDL-C低下の臨床的な有益性はよくわかっていなかったが、米国・ハーバード大学医学大学院のMichael G. Silverman氏らが、LDL-C低下と相対的心血管リスク減少との関連を、スタチン療法 vs.非スタチン療法で検討するシステマティックレビューとメタ解析を行い報告した。JAMA誌2016年9月27日号掲載の報告。異なる9種のLDL-C降下療法についてメタ解析 研究グループは、MEDLINEおよびEMBASEデータベースを用い、1966年~2016年7月に発表された異なる9種類のLDL-C降下療法(スタチン療法および非スタチン療法)に関する無作為化臨床試験で、心筋梗塞を含む臨床転帰が報告された試験を検索した。調査期間が6ヵ月未満または臨床的なイベントが50症例未満の研究は除外。2人の研究者が独立してデータを抽出し、メタ回帰解析を行った。 主要評価項目は、LDL-C値の絶対的減少による主要血管イベント(心血管死、急性心筋梗塞または他の急性冠症候群、冠動脈再建術、脳卒中)の相対リスク、およびLDL-C達成値と主要冠動脈イベント(冠動脈死または心筋梗塞)5年発症率との関連であった。主要血管イベントリスクがスタチン療法で23%、非スタチン療法で25%低下 計49試験の31万2,175例(平均年齢62歳、女性24%)、主要血管イベント3万9,645例がレビューに組み込まれた。ベースラインの平均LDL-C値は3.16mmol/L(122.3mg/dL)であった。 LDL-C値1-mmol/L(38.7mg/dL)低下当たりの主要血管イベント減少の相対リスクは、スタチン療法で0.77(95%信頼区間[CI]:0.71~0.84、p<0.001)、非スタチン療法4種(食事療法、胆汁酸排泄促進剤、空腸バイパス術、エゼチミブ)で0.75(95%CI:0.66~0.86、p=0.002)であった(両群間差p=0.72)。これら5種類の治療を併せると、LDL-C値1-mmol/L低下当たりの主要血管イベント減少の相対リスクは0.77(95%CI:0.75~0.79、p<0.001)であった。 他の介入については、臨床試験でのLDL-C値低下の程度を基にした相対リスクの観測値 vs.予測値は、ナイアシンでは0.94(95%CI:0.89~0.99) vs.0.91(同:0.90~0.92)で有意差はみられなかったが(p=0.24)、フィブラート系薬では0.88(0.83~0.92) vs.0.94(0.93~0.94)と予測値より観測値が有意に低かった(p=0.02、すなわちリスク低下が大きかった)。一方、CETP阻害薬は1.01(0.94~1.09)vs.0.90(0.89~0.91)で、予測よりもリスク低下が少なかった(p=0.02)。PCSK9阻害薬は0.49(0.34~0.71) vs.0.61(0.58~0.65)で有意差は認められなかった(p=0.25)。 LDL-C達成値(絶対値)は、主要冠動脈イベント発生率と有意に相関しており、1次予防試験ではLDL-C値1mmol/L低下当たりイベント発生率は1.5%低下(95%CI:0.5~2.6、p=0.008)、2次予防試験では4.6%低下した(同:2.9~6.4、p<0.001)。【お知らせ】本文内に誤解を招く表記があったため、一部変更いたしました(2016年10月12日)。

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FRISC-II試験:死ぬまで大規模臨床試験!(解説:中野 明彦 氏)-597

【はじめに:非ST上昇ACSに対する治療法の変遷】 現在日本の循環器専門施設において、非ST上昇といえどACS患者に冠動脈造影(必要ならPCIやCABG)を行わないところはまずないであろう。しかし、FRISC-II試験が登録された1990年代後半には、その是非は賛否両論だった。 血行再建術が成熟していなかった影響も大きいが、不安定狭心症を対象としたVA studyや非Q波心筋梗塞・不安定狭心症で比較したVANQWISH・TIMI-IIIB試験では、早期侵襲的治療群(侵襲群)の非侵襲的治療群(非侵襲群)に対する優位性は示せなかった。 FRISC-II試験は、侵襲群の優位性を示した最初のランダム化試験で、TACTICS-TIMI18・RITA-3・ISAR-COOLなどがこれに続き、最新のガイドラインにも反映されている。その優位性はACS再発による再入院にとどまらず、死亡・心筋梗塞といった重大イベント抑制に及び、patient riskが高いサブグループほど絶対リスクの差が大きい。また、原則的にそうしたhigh risk群ほど早い介入が望まれる。【FRISC-II試験と本論文について】 FRISC-II試験は、1996~98年に登録された。当然ベアメタルステントの時代である。侵襲群において、その後の一連の試験に比して、冠動脈造影まで要した時間は最も長く(中央値96時間)、ステントやスタチン併用が最も少ない。一方、非侵襲群からのクロスオーバーは最も少なく(14%)、これが侵襲群の優位性を際立たせ、血行再建の遅れによるマイナス面を相殺したと考えられる。総死亡+非致死性心筋梗塞を1次エンドポイントとして、6ヵ月・1年・2年・5年の結果が報告されている。 そして、本論文は15 年の集大成である。 15年間に血行再建術が施行された患者は82% vs.58%だったが、最終的な心臓死の割合は14.5% vs.16.3%(p=0.292)で有意差がなかった。 総じて、侵襲群では当初の3~4年間、心臓死や心筋梗塞発症が抑制されたものの、5年後には予後に関するアドバンテージは消失4)、新たな心筋梗塞発症も以降平行線を辿っている。つまり、急性期積極的血行再建の賞味期限は3~4年ということらしい。【15年経つ、15年観る、ということ】 誰が決めたか知らないが、循環器系の(も?)大規模臨床試験の観察期間は長くて5年である。企業主導であろうが医師主導であろうが、多くの症例を厳密にfollow-upする努力・モチベーション・予算は5年が限界なのかもしれない。また、その頃には別なテーマやデバイスが浮上し、人々の興味も次へとシフトする。 つまり、本論文で特筆すべきはその観察期間の長さである。さらにデータ回収率が高く、生死および死因に関する情報は99%、イベントに関する情報も89%の症例で確認されている。それを裏支えしているのは、スカンジナビア諸国で行われている公衆衛生の登録制度である。個人識別番号と疾病・負傷、入退院、死亡(死因)、処方薬などのさまざまな医療情報をリンクさせ、それを関係者で共有することにより、人・金・施設などの限られた資源を有効活用し、包括的で質の高い医療を目指そうという国家的プロジェクトである。 FRISC-II試験の登録症例の年齢(中央値)は66歳、スカンジナビア諸国の平均寿命は78~81歳。つまり、15年というのは半数の患者が平均寿命に達する期間である。割り付けられた介入の影響がどんどん薄まっていき、原疾患たる冠動脈疾患や心疾患、さらには高齢者故の心臓以外の疾患により予後やQOLが損なわれていくのは当然である。逆にいえば、平均寿命まで追跡することによって、その介入が患者の一生にどう関わるかを判定しようという壮大な視点が垣間みえる。 ノルディックモデルと称される社会民主主義的福祉レジームによる制度的再配分福祉を整備するスカンジナビア諸国では、高い租税率を代償として国営に近い形で医療が遂行されている。だからこそ可能になった登録制度を、医療制度・文化の異なる他国に当てはめるのは現実的ではないが、一方日本の現状を顧みると、個人情報保護の高い壁と相次ぐ医療不信により大規模臨床試験の未来はあまり明るくはない。 対象疾患のリスクで異なるであろうが、大規模臨床試験の適切な観察期間はどのくらいなのか? ガイドラインで示される治療介入が長期的にみて本当に有効なのか? またその賞味期限はどの程度なのか? ―今後さらに発信されるであろうスカンジナビアからの情報を、遠くからしっかり見守りたいと思う。

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心筋梗塞へのβ遮断薬、早期投与で死亡リスク半減/BMJ

 心不全や左心室機能不全を認めない急性心筋梗塞の患者に対し、入院後48時間以内にβ遮断薬の投与を始めることで、30日死亡リスクは半分以下に減少することが示された。一方で、退院時のβ遮断薬服用は1年死亡リスクの低減にはつながらず、1年後のβ遮断薬服用も5年死亡リスクの低減効果はないことも明らかになった。フランス・Georges Pompidou European HospitalのEtienne Puymirat氏らが、患者2,679例について行った前向きコホート試験の結果明らかにしたもので、BMJ誌2016年9月20日号で発表した。フランス国内223ヵ所の医療センターで2,679例を追跡 研究グループは、2005年末時点の急性ST上昇・非ST上昇型心筋梗塞の全仏レジストリを基に、フランス国内223ヵ所の医療センターで治療を受け、心不全や左心室機能不全の認められない2,679例の急性心筋梗塞患者について、前向きコホート試験を行った。 早期(入院48時間以内)のβ遮断薬投与開始と30日死亡率、退院時β遮断薬投与の有無と1年死亡率、1年時点のβ遮断薬投与の有無と5年死亡率の関連について、それぞれ検証を行った。1年時点スタチン継続投与は5年死亡リスクを半減 早期にβ遮断薬の投与を開始した人の割合は、77%(2,679例中2,050例)、退院時に処方されていた人の割合は80%(2,217例中1,783例)、1年時点で服用していた人の割合は89%(1,383例中1,230例)だった。 30日死亡率についてみると、β遮断薬の早期投与は、同発症率を半分以下に低減した(補正後ハザード比:0.46、95%信頼区間[CI]:0.26~0.82)。 一方、退院時にβ遮断薬を処方された人の、そうでない人に対する1年死亡率の補正後ハザード比は、0.77(95%CI:0.46~1.30)で有意な低下は認められなかった。また、1年時点のβ遮断薬服用についても、5年死亡率の低下にはつながっていなかった(補正後ハザード比:1.19、95%CI:0.65~2.18)。傾向スコア分析および感度解析でも、同様の結果が示された。 なお、1年時点でスタチンを継続投与していた人は、そうでない人に比べ、5年死亡率が半分以下に減少した(補正後ハザード比:0.42、95%CI:0.25~0.72)。

428.

CABG既往ACSへのスタチン治療 エゼチミブの上乗せ効果

 IMPROVE-IT試験では、急性冠動脈症候群(ACS)に対するシンバスタチン+エゼチミブ併用療法の有用性を評価し、両剤併用によりシンバスタチン単剤と比較してLDL-C値が約24%改善することが示された。今回、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAlon Eisen氏らは、IMPROVE-IT試験のサブ解析により、高リスクと考えられる冠動脈バイパス術(CABG)の既往がある患者に対するエゼチミブの上乗せ効果を検討した。European Heart Journal誌オンライン版2016年8月28日号に掲載の報告。IMPROVE-IT試験のサブ解析、CABG既往の有無で比較 CABG既往歴がある患者の急性冠動脈症候群を発症した際のリスクは、CABG既往歴がない患者と比較して高い。研究者らは、CABG既往歴のある患者がACSで入院した後、スタチン製剤にエゼチミブを加えることの有効性と安全性を評価した。 IMPROVE-IT試験では、ACSを発症し、初診時の平均LDL-C値が93.8mg/dLの患者を無作為化によりシンバスタチン+エゼチミブ群またはシンバスタチン+プラセボ群に割り付けた。主要評価項目は心血管関連死、主要な冠動脈イベント、脳卒中とし、平均追跡期間は6年であった。有効性と安全性の評価項目を以前のバイパスの状態によって評価した。 1万8,134人の患者のうち1,684例(9.3%)がCABGを受けていた(平均年齢69歳、82%が男性)。試験期間中、時間加重平均値は、CABG既往歴がある場合、シンバスタチン+エゼチミブ群で55.0mg/dL、シンバスタチン+プラセボ群で69.9mg/dL(p

429.

脂質異常症に対するPCSK9阻害薬の費用対効果/JAMA

 ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(FH)またはアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の患者に対し、スタチンに追加しPCSK9阻害薬を投与することで、ヘテロ接合性FHは約32万例、ASCVDは約430万例の主要有害心血管イベント(MACE)をそれぞれ予防可能であることが示された。一方で、それに伴う薬剤コストの上昇のため、2015年の薬価では、QALY当たりコストは年間40万ドル超を要することも示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のDhruv S. Kazi氏らが、冠動脈疾患政策モデルを用いて行ったシミュレーションの結果、示したもので、JAMA誌2016年8月16日号で発表した。35~94歳の米国人を対象にシミュレーション 研究グループは、35~94歳の米国人を対象に、ヘテロ接合性FHとASCVDに対するスタチン+PCSK9阻害薬投与について、冠動脈疾患政策モデルを用い、スタチン+エゼチミブ投与の場合と比較した費用対効果のシミュレーションを行った。 シミュレーション・モデルでは、2015年のPCSK9阻害薬の年間コスト1万4,350ドルを適用し、生存期間中治療を継続すると仮定。また確率的感度分析により、不確実性(UI)を探求した。 主要評価項目は、生涯MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、脳卒中)、QALY当たりの増加コスト、5年間の全米総医療費への影響だった。PCSK9阻害薬年間コストが4,536ドル以下なら、QALY当たりコスト増は10万ドル その結果、ヘテロ接合性FHに対して、スタチン+PCSK9阻害薬は、スタチン+エゼチミブと比べて、推定で31万6,300例のMACEを回避可能であったが、QALY当たりコスト増は50万3,000ドル(80%UI:49万3,000~173万7,000)だった。 ASCVDについても、PCSK9阻害薬追加群は、エゼチミブ追加群に比べ、推定430万例のMACEを予防可能で、QALY当たりコスト増は41万4,000ドル(80%UI:27万7,000~153万9,000)だった。 患者1人当たりのPCSK9阻害薬年間コストが4,536ドル以下に抑えられれば、QALY当たりコスト増は10万ドル未満に抑えられると推算された。 2015年時点のPCSK9阻害薬価格では、適応患者すべてに投与された場合、5年間で290億ドルの心血管疾患治療費の削減になるものの、薬剤費については推定5,920億ドル、対2015年で38%の処方薬コストの増大が見込まれた。 一方、ハイリスクグループでスタチン忍容性がある現在スタチン非投与患者に対し、スタチン投与を始めることで、120億ドルの治療費削減が見込まれた。

430.

新薬と医療経済―PCSK9は安いか?高いか?(解説:平山 篤志 氏)-582

 スタチンに併用することで、LDLコレステロールをさらに低下させるPCSK9阻害薬が発売され、次の点から注目されている。 1つは、スタチン使用下で70%以上LDL-コレステロールを低下させるという驚異的な効果、次に、PCSK9阻害薬(レパーサ皮下注140mgシリンジ)の薬価が 2万2,948円(1ヵ月4万5,896円、年間約55万円)と高価なことである。 コレステロール低下薬であるが、効果としては心血管事故の予防目的であることから、直接的な治療薬でなく、かつ長期間使用される薬剤であるため、これまでの抗がん剤や抗リウマチ薬とは違う意味を持つ生物製剤である。そのため、薬価としては高いのか?安いのか?が医療経済の面から評価される必要があった。 本論文では、米国で発売されている抗PCSK9抗体薬の価格が年間1万4,350ドルで、35歳から74歳までの家族性高コレステロール血症(FH:familial hypercholesterolemia)のヘテロ接合体患者(hFH)と、ハイリスクの心血管疾患患者(ASCVD:atherosclerotic cardiovascular disease)すべてに投与した場合、心血管イベントを予防する効果とそれに伴って節約できる価格を比較している。 hFHでは、1クエリ50万3,000ドル、ASCVDでは41万4,000ドルで、通常米国で受け入れられる1クエリ10万ドルをはるかに超えることになる。さらに、hFHでLDLコレステロール値の高値の患者、あるいは急性冠症候群発症患者のみに限定してもコストには見合わないとし、少なくとも3分の2以上の価格の低減が必要であると結論している。 わが国で発売された本剤は、ちょうど本論文の提示する価格ではある。ただ、わが国のイベント発生頻度を考慮すると、やはり現状では経済効果があるとは考えにくい。この薬剤を活かすには、よりハイリスクの患者を見出す工夫が必要であろう。ただ、この論文で記載されているように、抗PCSK9抗体の効果については、まだ十分なデータが出ているわけではない。今後発表されるFOURIER試験やODESSAY outcomes試験の結果での有効性、さらに長期的な安全性が示されることが必須である。今後明らかにされるCRTの結果で、真にこの薬剤のベネフィットのある患者さんを選別することができるかどうかで、薬価の結論を導き出せるかもしれない。

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糖尿病治療薬が心不全治療薬となりうるのか? 瓢箪から駒が出続けるのか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-579

 チアゾリジン薬の衝撃は、FDAをしてその後の糖尿病治療薬すべての認可の際に、心血管イベントをエンドポイントとしたプラセボ対照臨床試験を義務付けた。このことにより、図らずも循環器内科医にとっては糖尿病薬に関する勉強をする機会となり、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などの糖尿病薬と心血管イベントの関連について知識が増えてきた。 DPP-4阻害薬の1つサキサグリプチンは、SAVOR-TIMI 53試験で心不全の発症増加ありとされたものの、その後のEXAMINE試験とTECOS試験で、ほかのDPP-4阻害薬は心不全発症に差がなかったことで、SAVOR-TIMI 53試験の結果は偶然であったという結論になっているようである。一方で、インクレチン関連という意味で体内動態には共通項が多いGLP-1受容体作動薬リラグルチドは、LEADER試験において心血管イベントを有意に減らした。 最近、世を騒がせているEMPA-REG OUTCOME試験は、LEADER試験と同じような心血管疾患の背景を有する患者を対象としており、糖尿病薬が血糖降下作用以外で心血管イベントを抑制する可能性が示唆されてきている点で興味深いが、しかしながら、その機序はまったく明らかでなく、そもそもFDAの勧告に従って、非劣性ならよしとした試験であるから、瓢箪から駒といわれても仕方がない。ネガティブに出たSAVOR-TIMI 53試験を偶然であったというなら、ポジティブに出たこれらの結果もまた慎重に受け止める姿勢があってもよいと思われる。この点、ESCの心不全ガイドラインの2016年アップデートにおいて、エンパグリフロジンを心不全の予防という観点でクラスIIa、レベルBで推奨しているのは勇み足ではないか。 ところで、本題である。このFIGHT試験は、収縮不全(LVEF<40%)の症例の中で、とくに最近2週間以内に(ガイドライン遵守の薬物治療中にもかかわらず)再入院した症例またはフロセミドの用量が1日40mg以上という症例をピックアップして、比較的重症度の高い症例に対してリラグルチドの効果があるかどうかを検討したものである。試験デザインはプラセボ対照、無作為化二重盲検であり、エンドポイントは死亡や心不全入院までの時間と180日間のNT-proBNPレベルの時間平均の複合スコアである。全部で300例がエントリーされ、実薬群154例、プラセボ群146例でそれぞれITT解析された。 結論からいうと、統計学的にはイベント発症など両者に差はなかった。ただし、シスタチンCはリラグルチド群で増加しており、腎機能障害をもたらす可能性がある。また、有意ではないものの(p=0.05)、死亡や心不全再入院はむしろリラグルチド群で多い傾向にあり、カプランマイヤー曲線をみても、リラグルチドが死亡や心不全入院を増加させる傾向は(とくに糖尿病合併例で)明らかであり、患者数を増やして検討すれば有意に出てしまいそうである。先のLEADER試験やEMPA-REG OUTCOME試験は、心不全のある症例は10%程度しか含まれておらず、このFIGHT試験にエントリーされた重症な心不全とは背景が異なるものの、この試験結果によればリラグルチドは心不全増悪に傾いている感じである。 このように糖尿病薬と心血管イベントの関係は最近入り乱れてまったく混乱の極みにある。そもそも、メカニズムの理解が先行しないところで、効いた効かないということを統計的に解析するのみで解釈は後回しという体勢は、再考すべき時に来ているのではないか。

432.

わが国のLDL-C目標値達成とスタチン処方の実態は?

 わが国のリアルワールドでの心血管高リスク患者の集団における調査から、日本動脈硬化学会(JAS)ガイドラインが推奨しているLDLコレステロール(LDL-C)目標値の達成率は低く、スタチンや他の脂質修飾薬の処方率も低いことが、帝京大学臨床研究センターの寺本 民生氏らの研究で明らかになった。Atherosclerosis誌オンライン版2016年7月4日号に掲載。 LDL-Cは、心血管疾患発症においてキーとなる修正可能な危険因子である。JASが2012年に発行したガイドラインでは、心血管イベントリスクが高い患者ではLDL-Cを低下させるための薬物治療の第1選択薬として、スタチンを推奨している。本研究では、国内の心血管高リスク集団において、推奨されたLDL-C管理目標値の達成と脂質修飾薬(LMT)の使用について調査した。 本研究の対象は、わが国の病院ベースの請求データベースであるメディカル・データ・ビジョン(MDV)データベースから、以下の選択基準を満たした患者とした。[2013年にLDL-Cを測定、20歳以上、データベースに2年以上表出、心血管高リスクの状態(最近発症した急性冠症候群(ACS)、他の冠動脈疾患(CHD)、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患(PAD)、糖尿病)] LDL-C目標の達成は、JASガイドラインにおけるLDL-C目標値に基づいて評価した。 主な結果は以下のとおり。・3万3,325例の心血管高リスク患者が選択基準を満たした。・全体として、コホートの68%がガイドライン推奨のLDL-C目標を達成し、スタチン治療を受けていたのは42%にとどまった。・LDL-C目標の達成率は、ACS患者で68%、CHD患者で55%、虚血性脳卒中、PAD、糖尿病の患者でそれぞれ80%であった。・非スタチン系の脂質修飾薬の併用率は低かった。

433.

大衆はメディアに左右されがちだが、ほとぼりが冷めると元に戻るもの(解説:折笠 秀樹 氏)-565

 2013年10月から2014年5月にかけて、脂質改善薬であるスタチンの副作用が懸念された時期があった。非盲検の観察研究の結果に過ぎなかったのだが、BMJ誌にネガティブデータが2報発表された。それを受けて、2014年3月13日に、イギリス大衆誌であるDaily Mail(日本でいうと夕刊フジに類する)に記事が掲載された。さらに、同年5月18日には大手一般新聞であるThe Guardianにも記事が掲載された。こうしたメディア情報に影響され、その後6ヵ月間にスタチン投与をやめた人の割合が、1.12倍に増加したそうだ。元々は不十分な根拠だったにもかかわらず、大衆はメディアの発する健康情報に対して敏感に影響されがちである。しかし、安心したことには、そのまた6ヵ月後にはほぼ1倍と、元の状態に戻っていた。つまり、一時的には大衆はメディアに洗脳されたものの、ほとぼりが冷めるとちゃんと元に戻っていた。 この研究は、イギリスのGP(かかりつけ医)データベースから、スタチンの薬歴情報を時系列的に調べるという地道な研究であった。常識的な結論ではあったが尊敬に値するだろう。なお、高齢者ほど、そして長く服用しているほど、メディアの発する副作用情報に対して敏感に反応していた。高齢者になると無頓着になるかと思いきや、イギリスのお年寄りはたいしたものである。

434.

リラグルチドはインクレチン関連薬のLEADERとなりうるか?(解説:住谷 哲 氏)-564

 インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)は、血糖依存性インスリン分泌作用を有することから低血糖の少ない血糖降下薬と位置付けられ、とくにDPP-4阻害薬は経口薬であることから、わが国で多用されている。心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する安全性を確認する目的でこれまでに報告されたCVOTs(CardioVascular Outcomes Trials)は、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME試験を除くと、SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)、EXAMINE(アログリプチン)、TECOS(シタグリプチン)、ELIXA(リキシセナチド)とも、すべてインクレチン関連薬を用いた試験であった。しかし、これら4試験においてはプラセボに対する有益性を示すことができず、インクレチン関連薬は2型糖尿病患者の心血管イベントを減らすことはできないだろうと考えられていた時に、今回のLEADER試験が発表された。  その結果は、リラグルチド投与量の中央値1.78mg/日(わが国の投与量の上限は0.9mg/日)、観察期間3年において、主要評価項目である心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる3-point MACEが、リラグルチド投与により13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.78~0.97、p=0.01)、さらに全死亡も15%減少する(同:0.85、0.74~0.97、p=0.02)との結果であった。 主要評価項目を個別にみると、有意な減少を示したのは心血管死(HR:0.78、95%CI:0.66~0.93、p=0.007)のみであり、非致死性心筋梗塞(0.88、0.75~1.03、p=0.11)、非致死性脳卒中(0.89、0.72~1.11、p=0.30)には有意な減少が認められなかった。3-point MACEの中で心血管死のみが有意な減少を示した点は、SGLT2阻害薬を用いたEMPA-REG OUTCOME試験と同様である。 この結果は、心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する包括的心血管リスクの減少を目指した現時点での標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)により、非致死性心筋梗塞・脳卒中の発症がほぼ限界まで抑制されている可能性を示唆している。したがって、本試験の結果もEMPA-REG OUTCOME試験と同じく、リラグルチドの標準的治療への上乗せの効果であることを再認識しておく必要がある。 ADA/EASD2015年高血糖管理ガイドライン1)では、メトホルミンへの追加薬剤としてSU薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、基礎インスリンの6種類を横並びに提示してある。どの薬剤を選択するかの判断基準として提示されているのは、有効性(HbA1c低下作用)、低血糖リスク、体重への影響、副作用、費用であり、アウトカムに基づいた判断基準は含まれていない。今後も多くのCVOTsの結果が発表される予定であるが2)、将来的にはガイドラインにもアウトカムに基づいた判断基準が含まれることになるのだろうか? ここで、CVOTsから得られるエビデンスについて、あらためて考えてみよう。本来CVOTsは、新規血糖降下薬が心血管イベントのリスクを、既存の標準的治療に比べて増加しないことを確認するための試験である。そこで、新規血糖降下薬が有する可能性のある血糖降下作用以外のリスクを検出するために、新規血糖降下薬群とプラセボ群とがほぼ同等の血糖コントロール状態になるよう最初からデザインされている。つまり、血糖降下薬に関する試験でありながら、得られた結果は血糖降下作用とは無関係であるという、ある意味矛盾した試験デザインとなっている。さらに、対象には心血管イベントをすでに発症した、または発症のリスクがきわめて高い患者、かつ糖尿病罹病歴の長い患者が含まれることになる。したがってCVOTsで得られたエビデンスは、厳密には糖尿病罹病歴の長い2次予防患者にのみ適用されるエビデンスといってよい。 一方、ADA/EASDをはじめとした各種ガイドラインは、初回治療initial therapyを示したものであり、その対象患者はCVOTsが対象とする患者とは大きく異なっている。したがって、ここではEBMに内包されている外的妥当性 external validity(一般化可能性 generalizability)の問題を避けて通れないことになる。換言すれば、糖尿病罹病歴の長い2次予防患者で得られたCVOTsのエビデンスを、ガイドラインが対象とする初回治療患者に適用できるのだろうか?教科書的には2次予防のエビデンスと1次予防のエビデンスははっきり区別しなければならない。つまり、CVOTsで得られたエビデンスは、厳密には1次予防には適用できないことになる。しかし、2次予防のエビデンスのない薬剤と2次予防のエビデンスのある薬剤との、二者のいずれかを選択しなくてはならない場合には、眼前の患者におけるリスクとベネフィットを十分に考慮したうえで、2次予防のエビデンスのある薬剤を選択するのは妥当と思われる。この点でリラグルチドは、インクレチン関連薬のLEADERとしての資格はあるだろう。ただし、部下の標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)に支えられてのLEADERであるのを忘れてはならない。 ADA/EASDのガイドラインには、治療にかかる費用も薬剤選択判断基準の1つに含まれている。本試験における全死亡のNNTは3年間で98であり、0.9mg/日の投与で同様の結果が得られると仮定すると(大きな仮定かもしれない)、薬剤費のみで約5,500万円の医療費を3年間に使用することで、1人の死亡が防げる計算になる。これが、高いか安いかの判断は筆者にはつきかねるが、この点も患者とのshared decision makingには必要な情報であろう。

435.

スタチンを中断する患者、7割以上が再開/BMJ

 スタチン治療患者の中断率および再開率を調べた結果、1次予防目的での服用開始患者の中断率は47%、うち再開率は72%であり、2次予防患者ではそれぞれ41%、75%であったという。英国・パーク大学のYana Vinogradova氏らが、同国プライマリケア・データベースを用いた前向きオープンコホート試験の結果、報告した。スタチン治療については先行試験で、中断率が高く、アドヒアランスが低いことが示されている。また傾向として、若年層または高年齢層、女性、マイノリティ、喫煙者、BMI低値、非高血圧または非糖尿病の患者でアドヒアランスが低いことが示されていた。しかし、大半の試験が一般市民の代表を対象としたものではなく、試験デザイン、曝露やアウトカムの定義がまちまちであった。BMJ誌オンライン版2016年6月28日号掲載の報告。英国プライマリケア・データベースで、中断率、再開率および患者特性を調査 研究グループが活用したのは、英国のClinical Practice Research Datalinkで、664人の一般医(GP)が関与していた。2014年10月時点でデータを抽出し、スタチン治療の中断率および再開率を調べ、それぞれの患者の特性を調べた。 対象被験者は、2002年1月~2013年9月の間にスタチン治療を開始した25~84歳。研究グループは、被験者を1次予防群と、2次予防群(心血管疾患の診断歴のある患者)の2群に分類した。試験登録前の12ヵ月間にスタチン処方を受けていた患者は除外した。 主要アウトカムは、スタチン治療中断率(最終処方日と推定される日から90日の間がある)、および中断者における再開率(再開の定義は、中断以降の試験終了までのあらゆる処方)とした。中断-再開の詳細な患者傾向が判明 1次予防群は43万1,023例。追跡期間中央値137週において、中断率は47%(20万4,622例)であり、うち再開率は72%(14万7,305例)であった。2次予防群は13万9,314例。追跡期間中央値182週において、中断率は41%(5万7,791例)であり、うち再開率は75%(4万3,211例)であった。 患者特性を調べた結果、若年層(50歳以下)、高年齢層(75歳以上)、女性、慢性肝疾患の患者は、中断率が高く、再開率が低い傾向が認められた。一方で、マイノリティ、現在喫煙、1型糖尿病の患者は、中断率は高いが再開率も高い傾向がみられた。一方で、高血圧、2型糖尿病の患者は、中断率が低く、たとえ中断しても再開する割合が高い傾向が認められた。 これらの結果は、1次予防群と2次予防群でほとんど変わらなかった。 著者は、「スタチン使用者のうち中断する人は多いが、そのほとんどで再開がみられた。“中断”が想定される大多数の患者にとって、スタチン治療の中断は、幅広く存在する低率アドヒアランス問題の一部にすぎないのだろう」と述べ、「どの患者が中断群または中断-再開群となるかを識別することは、患者および医師にとってポジティブな意味があり、さらなる検討領域であることが示唆される」とまとめている。

436.

マスコミ報道がスタチン服用中止率に影響/BMJ

 マスコミがスタチンのリスクとベネフィットについて広く報道し世間で激しい議論が繰り広げられた後、患者のスタチン服用中止率は一時的に上昇した。英国・London School of Hygiene and Tropical MedicineのAnthony Matthews氏らが、同国のプライマリケアのデータを用いて分割時系列分析を行い、報告した。著者は、「これは、一般のマスコミで広く扱われる健康に関する記事が、ヘルスケア関連行動に影響する可能性があることを強調している」と述べている。これまでにも、デンマーク、オーストラリア、トルコ、フランスの研究で、マスコミの否定的な報道がスタチンの中止率や処方率に影響を及ぼすことが示唆されている。英国では2013年10月、スタチンに関して物議を醸す論文2報が発表され、その後、スタチンのリスクとベネフィットについてマスコミで議論が繰り広げられていた。BMJ誌オンライン版2016年6月28日号掲載の報告。マスコミ報道後のスタチンの開始・中止についてプライマリケアのデータを分析 研究グループは、英国のプライマリケアの診療記録が登録されたClinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用い、2011年1月~2015年3月の各月に、心血管疾患(CVD)の1次予防または2次予防でスタチンを新規または継続で服用している40歳超の患者を対象に、前向きに収集された電子データの分割時系列分析を行った。 主要評価項目は、マスコミ報道の過熱(2013年10月~2014年3月)後のスタチン服用の開始および中止に関する補正オッズ比であった。なお、この期間は、スタチンに関する論文がBMJで発表された日を開始日とし、終了日はGoogleにおける「スタチン副作用」の検索回数を分析し設定した。スタチン開始は変化なし、中止は1次予防で11%、2次予防で12%それぞれ増加 スタチンの開始については、マスコミ報道の過熱が関連したというエビデンスは、CVDリスクが高い患者(1次予防)またはCVDイベントの最近の既往のある患者(2次予防)のいずれにおいても確認されなかった(それぞれのオッズ比[OR]は、0.99[95%信頼区間[CI]:0.87~1.13、p=0.92]、1.04[95%CI:0.92~1.18、p=0.54])。 一方、スタチンをすでに服用している患者については、マスコミ報道の過熱後、1次予防または2次予防のいずれも服用を中止する傾向が有意にみられた(それぞれORは1.11[95%CI:1.05~1.18、p<0.001]、1.12[95%CI:1.04~1.21、p=0.003])。 層別解析では、高齢者および長期服用者がマスコミ報道過熱後にスタチンの服用を中止する傾向が認められた。また、事後解析の結果、服用中止率の増加は最初の6ヵ月間に限定されていたことも示された。 なお、結果について著者は、スタチンの開始・中止は処方記録に基づいており、実際に処方されたかあるいは患者が服用したかどうかは不明であることや、低用量スタチン(OTC)の使用は含まれていないなどの点で研究には限界があるとしている。

438.

盲目的で残念な研究~出血リスクスコアの意義を考える~(解説:西垣 和彦 氏)-530

抗凝固薬の宿命 抗凝固薬は、心房細動により惹起される重篤な心原性脳血栓塞栓症を予防し、臨床的に有用である。しかし反面、出血という副作用の発生率は確実に助長させる。それは、いわば抗凝固薬の持つ相反性であり、宿命でもある。このことは、ワルファリンからNOAC(DOAC)にパラダイムシフトしても、出血イベントを来さない抗凝固薬はない。たとえ、ワルファリンより出血頻度がきわめて低下したアピキサバンやダビガトランであっても、やはり出血イベントを払拭できない。血栓塞栓症と出血という、まさに表裏一体の関係は、もはや抗凝固薬の性質として素直に認めざるを得ない。 そこで多くの研究者が、抗凝固薬投与前に事前に出血イベントを予測できないものかと、出血リスクスコアを開発してきた。これは一見自然な成り行きとも思えるが、はたして出血リスクスコアの開発自体は本質的に重要なことであろうか。 本論文は、バイオマーカーを取り入れたABC出血リスクスコアを提唱しているが、これを検証することで改めて出血リスクスコアの持つ意義について考えてみる。本論文のポイントは? 本論文のポイントをまとめる。心房細動患者の重大出血予測を改善するために、新たにバイオマーカーを取り入れた出血リスクスコアを、アピキサバン vs.ワルファリンの比較試験であるARISTOTLE試験患者1万4,537例(抽出コホート)を用いて開発、併せて内的妥当性検証も行った。さらに、ダビガトラン vs.ワルファリンのRE-LY試験患者8,468例(検証コホート)を用いて、外的妥当性も検証した。 新たな出血リスクスコアは、最も予測が強力であった5つの変数(cTnT-hs、GDF-15、ヘモグロビン、出血歴、年齢)を含んだABC出血リスクモデルとして構築された。また、代替バイオマーカー(cTnT-hsをcTnI-hs、ヘモグロビンをヘマトクリット、GDF-15をシスタチンCまたはeGFRにそれぞれ置換)を用いた修正ABC出血リスクスコアも構築し検証した。 その結果、抽出コホートにおいて、ABC出血リスクスコアのC統計量は0.68(95%信頼区間[CI]:0.66~0.70)であり、HAS-BLEDスコアの0.61(0.59~0.63)、ORBITスコアの0.65(0.62~0.67)と比較し、ABC出血リスクスコアの予測が有意に優れていた。検証コホートでも、ABC出血リスクスコアのC統計値は0.71(0.68~0.73)で、HAS-BLEDスコア0.62(0.59~0.64)、ORBITスコア0.68(0.65~0.70)より相互に有意差が認められた。さらに、代替バイオマーカーを用いた修正ABC出血リスクスコアも同様な結果であった。 出血リスクスコアが実臨床で使用されるのに必要な要件 出血リスクスコアを実臨床に使用するために必要な要件は、以下の3つである。 第1に、簡便なスコアで、計算しやすいものであることである。ただし、それぞれの項目に対する加重が一概に1点だの2点だのといえないところに、そもそもの問題がある。現在、よく使われているHAS-BLEDスコアは、この点を度外視し簡便性だけを追求して簡単に総得点を導き出すものである。一方、本論文にあるABC出血リスクスコアはまったくこの対極で、簡便性よりも予測能を上げることに専念している(が、後述するようにこれも十分ではない)。ABC出血リスクスコアは、スコアをノモグラムで算出する“らしい”が、どう算出すればよいのか丁寧な説明もされておらず、とても普及を目的にしているとは思えない。 第2に、予測能に優れているとの根拠であるC統計量が決して高くないことである。C統計量は、連続変数である独立変数と二分変数であるアウトカムとの関係の強さを評価するROC曲線から求められる、ROC曲線面積(AUC)に相当する。このAUC値は0.5~1.0までの値をとるが、1.0に近いほど予測能が高いといえる。現実的には、せめて0.8はほしい値である。AUC 0.5 ~0.7ではLow accuracyと呼ばれ、この値から予測することは問題外である。本論文のC統計量は、抽出コホートでABC出血リスクスコア0.68であり、HAS-BLEDスコア0.61、ORBITスコア0.65よりは少しは高いが、いずれも決して予測能が高いとはいえない値である。蛇足だが、最近はこの手の無理矢理な解析やら解釈が横行しており憂慮している。たとえば、PRASFIT-ACSで発表された心血管イベントを予測するPRUのカットオフ値262のAUCは0.58しかなく、PRUはまったく有用ではない指標であると考えられるのに、今や企業の販売促進戦略の原動力となっている。 最後に、たとえ良いスコアであっても、臨床に還元される臨床研究でなければその意義はない。われわれにこのスコアをどう利用しろというのであろうか。出血リスクスコアを利用して明確にリスクの層別化ができ、それが抗凝固薬ごとに減量する基準となり、投与後の出血イベントを抑制できた後に、晴れてその有用性を語れるものである。結論として 論文著者は、「ABC出血リスクスコアを抗凝固薬治療の意思決定支援に活用すべき」といっているが、盲目的で残念な研究である。そもそも、塞栓症リスクと出血リスクの項目が重複している以上、塞栓症リスクが高い症例は出血リスクも当然高くなり、出血リスクスコアを算出する意義すら希薄であるのが現実といわざるを得ない。

439.

冠動脈バイパス術が長期生命予後改善効果を有することが22年ぶりに報告された(解説:大野 貴之 氏)-524

 虚血性心筋症(EF35%以下の低心機能を伴った安定冠動脈疾患)に対する治療として、薬物治療群(602例)とCABG群(610例)を比較したランダム化試験がSTICH試験である。2011年に追跡期間5年の結果が報告されたが、心臓血管死に関してはぎりぎり有意差を検出したが、全死亡に関して有意差は検出されなかった。今回、追跡10年間の結果が報告された。その結果、全死亡は薬物群66.1%に対してCABG群58.9%(p=0.02)、心臓血管死は49.3%対して40.5%(p=0.006)であった。 CABGの真の治療効果とその大きさを評価することは、薬物治療と比較したランダム化試験により可能であると考えている。現時点では、STICH試験以外で該当するのはYusuf氏らのメタ解析(1994年報告)、MASS II試験(2010年報告)、BARI II試験試験(2010年報告)の3つしかない。全死亡は、最もハードなエンドポイントであり、CABGの治療効果をかなり正確かつ客観的に評価することが可能である。Yusuf氏らは、安定冠動脈疾患患者2,649例を対象として、追跡5年から10年間において薬物治療よりもCABGが優れていることを報告した。このレベルAのエビデンスが、その後長い期間にわたり心臓外科医が自信を持ってCABGを執刀する支えとなってきた。しかし、最近は薬物治療が古い、とくにスタチンがない時代の試験結果であるとの批判が出てきた。また、心臓外科医の立場からみれば90%は内胸動脈を使用しておらず、10年以上にわたる長期の治療効果は期待できない。また、MASS II試験はおそらく対象患者は少ないこと、BARI II試験も対象患者は少なく追跡期間も5年と短期間であることから、全死亡に関しては有意差を認めていない。 今回のSTICH試験の結果は、Yusuf氏ら以来、22年ぶりに「冠動脈バイパス術が長期生命予後改善効果を有する」ことを報告したものである。EF35%以下の低心機能を伴った安定冠動脈疾患を対象としているが、対象患者数は1,212例と比較的多く、追跡期間も内胸動脈を使用したCABGの生命予後改善効果が十分に発揮される10年に達している。また、その治療効果の大きさを治療効果発現必要症例数number needed to treat(NNT)で表すと10年間でNNT=14となる。「この10年間で、NNT=14という数字をどのように解釈するのか?」に関するコメントは難しい。参考になるエビデンスを2つ挙げる。SYNTAX試験結果、3枝病変に対するPCIと比較したCABGの生命予後改善効果の大きさは、5年間でNNT=19、FREEDOM試験では糖尿病・多枝病変に対するPCIと比較したCABGの生命予後改善効果の大きさも5年間でNNT=19となる。この2つの試験結果により、米国・ヨーロッパの新しいガイドラインは、共に3枝病変あるいは多枝病変・糖尿病患者ではCABGが第1選択であるという考え方に基づいて作成されている。

440.

GAUSS-3試験:PCSK9抗体による新たなコレステロール低下療法の可能性―心血管イベント抑制につながるのか?(解説:平山 篤志 氏)-523

 冠危険因子としてのLDL-コレステロール(LDL-C)をスタチンにより低下させることによって、冠動脈疾患の1次予防、2次予防が有効になされることは、多くの大規模臨床試験で示されてきた。しかし、スタチンの服用により、筋肉痛あるいは無痛性の筋肉障害があることが知られている。その頻度は、1~5%、時には20%くらいあるといわれている。このようにスタチンで筋肉症状を訴える患者のコレステロール治療としては、吸収阻害薬であるエゼチミブが用いられていた。一方、LDL-Cと結合したLDL-C受容体は、血中のPCSK9が結合すると細胞内で壊され再利用ができなくなる。PCSK9を阻害する抗体であるエボロクマブにより、スタチン服用患者でもLDL-Cが60%以上減少することが示されている。 このGAUSS-3試験では、まずアトルバスタチンで筋肉痛により服薬できない患者を選択して、エゼチミブを投与する群とエボロクマブを月に1回投与する群で無作為化盲検試験を行った。その結果、22~24週後のLCL-Cの平均変化率がエゼチミブ群で-16.7%であったのに比べて、エボロクマブ群で-54.5%と有意な低下を認め、エボロクマブ単独でのLDL-C低下作用の有効性が確認された。 ただ、イベントの減少を検討した大規模臨床試験がスタチンを用いたものであったことから、2013年のACC/AHAガイドラインでは、スタチン投与の重要性が強調され、それ以外の薬剤や目標のLDL-C値が記載されていない。スタチン以外でLDL-C低下を可能としたIMPROVE-IT試験でも、エゼチミブの効果はLDL-C低下ではなく、吸収抑制による可能性が指摘されている。 エボロクマブは、LDL-レセプターパスウェーでスタチン以外にLDL-C低下作用が示された初めての薬剤である。この薬剤の効果を検証するFOURIER試験で心血管イベントの抑制がなされれば、LDL-Cの“The Lower the betterが示されることになる。 エボロクマブが、スタチンを服用できなかった患者に大きな福音となるかどうか、大規模臨床試験の結果を見守りたい。

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