サイト内検索|page:4

検索結果 合計:116件 表示位置:61 - 80

62.

重度アルコール離脱症候群に対する早期集中ベンゾジアゼピン療法

 アルコール離脱症候群(AWS)治療の現在のエビデンスでは、symptom-triggered therapyが支持されている。早期段階での集中的なベンゾジアゼピン(BZD)治療は、ICU在室期間を短縮させるといわれているが、在院日数への影響については、よくわかっていない。米国・カリフォルニア大学のJin A. Lee氏らは、最初の24時間での集中的なBZD治療がAWS患者の在院日数を短縮させるかどうかについて、介入前後コホート研究により検討を行った。Clinical Toxicology誌オンライン版2019年2月7日号の報告。 対象は、重度AWS患者。介入前コホート(PRE)は、2015年1~11月に入院した患者とし、鎮痛尺度(Richmond Agitation-Sedation Scale:RASS)に基づき、ジアゼパムおよびフェノバルビタールの漸増によるsymptom-triggered therapyを行った。介入後コホート(POST)は、2016年4月~2017年3月に入院した患者とし、最初の24時間(導入相)でジアゼパムおよびフェノバルビタールの漸増療法を行い、その後72時間(終了相)ですべての治療を終了させた。重度AWSの定義は、ジアゼパム30mg超を必要とする患者とした。集中治療の定義は、AWS診断後24時間以内の総ジアゼパム投与量の50%超とした。AWSの非興奮症状、ジアゼパム追加用量を評価するためRASSの補助としてSHOT尺度を用いた。主要アウトカムは、在院日数とし、副次的アウトカムは、ICU在室日数、BZD使用、人工呼吸器未使用日数とした。 主な結果は以下のとおり。・AWSプロトコルを用いて治療した患者532例中、113例が重度AWSであった。・PRE群75例、POST群38例の年齢、性別、AWS歴、疾患重症度は均一であった。・集中治療を受けたPOST群では、かなりの差が認められた(51.3%vs.73.7 %、p=0.03)。・POST群では、在院日数(14.0日vs.9.8日、p=0.03)およびICU在室日数(7.4日vs.4.4日、p=0.03)において、有意な短縮が認められた。 著者らは「重度AWS患者の対する早期集中マネジメントは、ICU在室期間や在院日数の減少させることが示唆された」としている。■関連記事アルコール依存症に対するナルメフェンの有効性・安全性~非盲検試験ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法アルコール関連での緊急入院後の自殺リスクに関するコホート研究

63.

国内初のアルコール依存症に対する飲酒量低減薬「セリンクロ錠10mg」【下平博士のDIノート】第20回

国内初のアルコール依存症に対する飲酒量低減薬「セリンクロ錠10mg」今回は、「ナルメフェン塩酸塩水和物錠(商品名:セリンクロ錠10mg)」を紹介します。本剤は、中枢神経に作用して飲酒欲求を抑えることで、多量飲酒を繰り返すアルコール依存症患者の飲酒量を低減させることが期待されています。<効能・効果>本剤は、アルコール依存症患者における飲酒量の低減の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月5日より販売されています。本剤は、選択的オピオイド受容体調節薬であり、鎮痛または麻酔目的で使用されるオピオイド系薬剤との併用は、緊急手術などのやむを得ない場合を除いて禁忌となっています。<用法・用量>通常、成人にはナルメフェン塩酸塩として1回10mgを飲酒の1~2時間前に経口投与します。服用は1日1回までです。症状により適宜増量できますが、最大量は20mgです。本剤を服用せずに飲酒を始めた場合は、気付いた時点で服用しますが、飲酒終了後には服用できません。本剤による治療の際には、服薬遵守および飲酒量の低減を目的とした心理社会的治療と併用する必要があります。<副作用>第III相二重盲検比較試験において、安全性解析の対象となった432例中307例(71.1%)に臨床検査値の異常を含む副作用が認められました。主な副作用は悪心(31.0%)、浮動性めまい(16.0%)、傾眠(12.7%)、頭痛(9.0%)、嘔吐(8.8%)、不眠症(6.9%)、倦怠感(6.7%)でした。<患者さんへの指導例>1.この薬は、中枢神経に作用して飲酒欲求を抑えることで、飲酒量を減らします。2.麻酔薬や強い痛み止め薬が効きづらくなってしまうことがあるので、手術などの予定がある場合には、事前にこの薬を使用していることを医師に伝えてください。3.注意力の低下、浮動性のめまい、強い眠気などが起こることがあるので、自動車の運転など、危険を伴う機械の操作はしないでください。4.悪心、吐き気、胸やけ、胃のむかつきなどの症状が現れることがあります。強い症状が現れたら、医師または薬剤師にお知らせください。<Shimo's eyes>「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン(2018)1)」では、アルコール依存症の最終的な治療目標は「断酒の達成とその継続」と設定されています。治療の主体は心理社会的治療(認知行動療法、動機付け面接法など)ですが、補助的役割として薬物療法が行われます。既存薬としては、飲酒すると動悸や嘔気・嘔吐などの不快な症状を引き起こす抗酒薬であるジスルフィラム(商品名:ノックビン)とシアナミド(同:シアナマイド)、飲酒欲求を抑える断酒補助薬としてアカンプロサート(同:レグテクト)が承認されています。これらはいずれも断酒を目標とした治療薬ですが、軽症の依存症で臓器障害などの合併症がない場合や、本来は断酒すべきであってもゴールの高さから断酒の同意が得られない場合などでは、飲酒量低減を治療目標とすることがあります。本剤は、オピオイド受容体に拮抗して飲酒欲求を抑制し、飲酒量を減らす「飲酒量低減薬」であり、多量な飲酒を繰り返すアルコール依存症患者さんの飲酒量低減や断酒に至るための第一歩を補助する薬剤として期待されています。飲酒量低減の達成の目安は、男性では純アルコール量として1日平均40g以下、女性では20g以下、または飲酒に関連した健康問題や社会問題が顕著に改善された状態を3ヵ月間維持できることです。純アルコール量40gの例は、ビール(Alc.5%)500mL 2缶、チューハイ(7%)350mL 2缶、日本酒(15%)2合、ワイン(12%)グラス3杯などです。絶対的な飲酒量だけでなく、治療開始前後の飲酒量の差や、社会・家族に与える影響の軽減など、患者さんの状況を総合的に見て治療効果が判断されます。これまで、必ずしも断酒が必要ではなかった患者さんや、断酒に踏み切れなかった患者さんのアルコール依存症治療に、飲酒量低減という新たな選択肢が加わりました。適切な治療を受ける患者さんが増えることで、患者さんを取り巻く社会・家族の負担軽減にもつながるでしょう。なお、本剤を交付する際は「ナルメフェン塩酸塩水和物の使用に当たっての留意事項について2)」の通知が発出されているので、投薬前に確認するようにしましょう。参考1)一般社団法人 日本アルコール・アディクション医学会/日本アルコール関連問題学会 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン2)厚生労働省 ナルメフェン塩酸塩水和物の使用に当たっての留意事項について

64.

アルコール依存症に対するナルメフェンの有効性・安全性~非盲検試験

 アルコール依存症と診断された高飲酒リスクレベル(DRL:drinking risk level)の成人患者(男性:DRL60g/日超、女性:DRL40g/日超)における減酒に対するナルメフェンの有効性および安全性を評価するため、フランス・ボルドー大学のPhilippe Castera氏らが、12週間のオープンラベルプライマリケア研究を実施した。European Addiction Research誌2019年1月号の報告。 患者は、スクリーニング来院後、毎日の飲酒量を2週間記録した。その後、患者の自己申告飲酒レベルをもとに分類を行った。2週間のうち、高DRLのままであった患者はコホートA、高DRLを下回る減酒が認められた患者はコホートBに含まれた。コホートAでは、シンプルな心理社会的介入を行い、飲酒リスクを感じた日にナルメフェン18mgを服用した。コホートBでは、シンプルな心理社会的介入を行い、通常診療に従って治療を実施した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者378例中、コホートAに330例、コホートBに48例が含まれた。・コホートAの患者における1ヵ月当たりの大量飲酒日数の変化は、スクリーニングから第12週までで、平均-13.1日/月(95%CI:-14.4~-11.9)であった(p<0.0001)。・全体として、DRLが2リスクレベル以上低下した患者の割合は55%、低DRLまで低下した患者の割合は、44%であった。・最も一般的な有害事象は、悪心(18.3%)およびめまい(17.7%)であった。・コホートBの患者は、12週間のフォローアップ期間中、低レベルの飲酒量を維持していた。 著者らは「プライマリケアで治療されたアルコール依存症患者は、シンプルな心理社会的介入とともに、必要に応じてナメルフェンによる治療を実施することで、飲酒量の有意な減少が認められた。治療による忍容性も良好であった」としている。■関連記事アルコール摂取量削減のためのサービングサイズ変更効果不眠症とアルコール依存との関連アルコール依存症に対するバクロフェン治療に関するメタ解析

65.

スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

今回のキーワード解離性同一性障害トラウマ体験PTSD境界性パーソナリティ障害憑依寝た子は起こさないみなさんは、ふと思い出して「あいつ~!」と急に腹が立ったり、自分の恥ずかしい失敗を思い出して「自分のバカ!」と一人で叫んでしまったりしたことはありませんか? または、あまりの怖さや怒り、興奮で、その時のことを思い出せなかったことはありませんか? さらには、記憶がない間に、実はもう1人の自分がいて、何かしていたらどうでしょう?このように、われを忘れたり、記憶がなくなったり、別人格が出てくるなど、程度の違いはありますが、自分が自分ではなくなることを精神医学では解離と言います。解離とはどんなものでしょうか? なぜ解離するのでしょう? そもそもなぜ解離は「ある」のでしょうか? そして、どうすれば良いのでしょうか?これらの疑問を解き明かすために、今回は、2017年の映画「スプリット」を取り上げます。ファンタジーを含んだエンターテイメントの要素もありますが、解離が出てくるメカニズムを分かりやすく描いています。この映画を通して、解離を進化精神医学的に掘り下げ、解離性障害の理解を深め、私たちにも身近な解離への対策を一緒に考えていきましょう。解離とは?ストーリーは、3人の女子高生が、見知らぬ男に拉致監禁されるところから始まります。その男性の元々の名前はケビン。密室に入ってくるたびに、人相や振る舞いがまったく変わっていきます。彼には、23の人格が1つの体に宿り、それぞれが別々の名前を名乗っているのでした。このように、意識から人格が分離してしまうのは、解離性同一性障害と言います。もともと「多重人格」と呼ばれていました。分離した別人格は、人格部分と言います。もともと「交代人格」と呼ばれていました。これは、人格のつながり(統合)がうまくいっていない状態です。人格部分が存在せず、単純に記憶がない場合もあります。これは、意識から記憶が分離してしまう解離性健忘です。特定の記憶だけを思い出せない場合(選択的健忘)と、いわゆる「記憶喪失」のように自分が何者で今までどんな生活をしていたのか、自分の生活史の全てを思い出せない場合(全般性健忘)があります。これは、記憶のつながり(連想)がうまくいっていない状態です。記憶がないわけではなく、何となくぼんやりして体の感覚や実感に違和感がある場合もあります。これは、意識から身体感覚が分離してしまう離人症です。例えば、いわゆる「幽体離脱」のように、自分が上から自分自身を見ている感覚です(離人感)。また、周りがぼんやりとして、スローモーションのように動いている感覚です(現実感喪失)。これは、身体感覚のつながり(連動)がうまくいっていない状態です。以上の解離性障害、解離性健忘、離人症の3つをまとめて、解離性障害と言います。人格、記憶、身体感覚などの精神機能が意識から解き離れてしまった状態です。意識の分離、意識の統合の機能不全、簡単に言えば、自分で自分をコントロールできなくなるとも言えます。なぜ解離するの?ケビンの主治医のフレッチャー先生は、今まで落ち着いていた人格部分が次々と出てきている事態に仮説を立てます。「この前、職場で事件があったわよね。校外学習に来た女子高生2人が、あなたに近付いて、手を取って、服の下から自分たちの胸に当てて、笑いながらいなくなった。一種の度胸試しだと思うけど」「それが、あなたの子どもの時の虐待を思い出させてしまった」と。実際に、別のシーンで彼は「3歳児のしつけに、母は厳しすぎる罰を与えていた」「怒られないためには何でも完璧にこなすしかない」と語っています。彼の回想シーンでは、ベッドの下に隠れている幼い彼に、母親が「散らかしたわね。出てきなさい!」とムチを持って怒鳴りながら迫ってきていました。このように、解離が起きる原因として、虐待など身の危険を感じる極度のストレス(トラウマ体験)が考えられています。とくに、幼少期の子どもの脳は発達途中でとても不安定です。複数の記憶を結び付けたり、関連付けたりすることが難しいです。この点で、子どもはその瞬間を反射的に生きており、意識はその瞬間でころころ変わっているとも言えます。そのため、虐待が繰り返されると、そのたびにその時の記憶が思い出せなくなります。その体験が封印・密閉された人格部分として、次々と心の奥底で眠ってしまい、何事もなかった人格として、けろっとしてしまうのです。その後に、その人格部分が、似たような体験やストレスで次々とまた目を覚ましてしまうというわけです。実際に、解離性同一性障害の90%に小児期の虐待があるとの報告があります。大人になって極度のストレスを受けた場合は、記憶がなくなることはあっても、もはや別人格ができることは少なくなります。なぜなら、大人の脳は十分に発達していて、子どもと比べて人格は分離しにくくなるからです。ただし、記憶がない中、名無しのまま、本人のゆかりがない場所で保護されたりする場合はあります(解離性遁走)。これは、トラウマの現場から無意識に離れようとする心理が働いているからです。また、ストレスのレベルが比較的軽かった場合は、記憶がなくならず、ぼんやりとして体の感覚に違和感があるだけにとどまっていると言えるでしょう。なぜ解離しないの?拉致された女子高生の1人のケイシーは、ほかの2人とは振る舞いが明らかに違っていました。彼女は、観察力が鋭く、最初から冷静です。ケビンの幼い人格部分と交渉したり、欺こうとしています。しかし、単に賢いわけではなく、彼女には陰があります。そのわけが彼女の回想シーンが進むにつれて明らかになります。彼女は、幼い時に親を失ったあと、育ての親となった叔父から性的虐待を受けていたのでした。これは、回想というよりは、フラッシュバックとも言えるでしょう。そんなケイシーの体中にリストカット痕があることを知ったケビンの人格部分は、「おまえはほかの連中とは違う」と言うのでした。トラウマ体験により、極限状況を生き抜いてきたという点では、2人は似た者同士だったのです。それでは、なぜケイシーは解離しなかったのでしょうか? 彼女の生い立ちから解き明かしてみましょう。幼い時のケイシーが、近付いてくる叔父に銃を向けて、取り上げられるシーンがあります。親代わりとなった叔父は、決して安全を守ってくれる安心感のある存在ではないことが分かります。むしろ真逆で、自分を脅かす存在です。彼女には味方がいませんでした。やがて思春期になり、家出を繰り返し、学校では反抗的で、問題児扱いされています。彼女は「学校でわざとトラブルを起こす。そうすると、居残りさせられて、みんなと離れられるから。独りになれるから」と打ち明けています。心のよりどころがないことから、空虚感や周りへの過剰な警戒心を抱き、人間関係を避けています。そして、そのやるせない思いを自傷行為によってかき消そうとしていたのです。彼女は、トラウマ症状(PTSD)から、傷つきやすい性格になってしまったのでした(境界性パーソナリティ障害)。同時に、極限状況を生き延びるサバイバルスキルとして、観察力と演技力が研ぎ澄まされてしまったのです。そして、ラストシーンで迎えに来た叔父を拒絶することで、叔父に支配されない自分の人生を歩むことを決意したことが見てとれます。ケイシーは、苦悩に堪えて、傷付きながらも自分の人生に向き合っています。一方、ケビンは、苦悩に堪えられなくなり、楽になるために自分の人生から逃げ隠れています。これが解離しなかったケイシーと解離してしまったケビンの違いです。解離は、良かれ悪しかれ、傷ついた自分の心を守り、その極限状況に順応するための無意識の心理戦略であるとも言えるでしょう。なぜ解離は「ある」の?それでは、そもそもなぜ解離は「ある」のでしょうか? そのメカニズムを大きく3つに分けて、進化精神医学的に考えてみましょう。(1)ぼんやりして生き延びる約5億年前に誕生した魚類は、天敵などの危険に警戒する扁桃体を進化させました。この反応は、「戦うか逃げるか(fight or flight)」という興奮性に働くだけでなく、天敵に気付かれないために身を潜める、息を凝らすという抑制的にも働くように進化しました(警戒性徐脈)。つまり、「戦うか逃げるか、固まるか(”fight, flight, or freeze”)」という反応です。これが、ぼんやりして体の感覚に違和感が出てくる離人症の起源です。つまり、解離の一症状である離人症は、生存に必要なメカニズムだから、「ある」と言えるでしょう。(2)記憶をなくして生き延びる約2億年前に誕生した哺乳類は、あまりにも驚いたら気絶するという反応を進化させました(迷走神経反射)。例えば、タヌキは天敵に捕らえられた時に気絶して死んだふりをします。そして、目覚めて、スキを見て逃げます。いわゆるタヌキ寝入りです。捨て身の生存戦略とも言えます。気絶して精神状態が一旦リセットされたほうが、慌てずに対応できるでしょう。また、イルカや渡り鳥は、ずっと泳いだり飛び続けるために、大脳半球を交互に眠らせることができます(半球睡眠)。最近の研究では、人間の睡眠も、脳全体で一様ではなく局所で多様に行われている、そして起きている時にストレスのかかった脳の領域ほど深い睡眠になることが分かってきました(ローカルスリープ)。つまり、極度のストレスで、記憶中枢が部分的にも全般的にも睡眠状態になると説明できます。約700万年前、ついに人類が誕生して、300-400万年前にアフリカの森からサバンナに出て、集団になって社会をつくりました(社会脳)。災害や争いで、自分の家族が死んだり殺された時、その記憶やそれまでの人生の記憶をいっそ思い出せないほうが、その後の新しい家族や敵の部族の中で馴染めて、新しい生活ができて、子孫を残す確率を高めます。そもそも、原始の時代、その瞬間を生きていて、過去とのつながりは現代ほど重要ではなかったとも言えます。これが、記憶がなくなるという解離性健忘の起源です。つまり、解離の一症状である解離性健忘は、生存に必要なメカニズムだから、「ある」と言えるでしょう。ちなみに、解離性健忘は記憶を消去するメカニズムであるのに対して、PTSD(心的外傷後ストレス障害)によるフラッシュバックや悪夢は記憶を強化するメカニズムです。記憶について、症状としてはあたかも真逆ですが、生存戦略としては同じと言えるでしょう。そして、フラッシュバックも自分が自分ではなくなる点では、解離とつながっているとも言えるでしょう。実際に、PTSDや、ケイシーがなった境界性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5)には、解離症状も含まれています。(3)別人格になって生き延びる20万年前に、喉の構造が進化して、言葉を話すようになりました。10万年前に、抽象的思考ができるようになりました(概念化)。この時、ようやく神の存在や死後の世界を想像できるようになりました。宗教の誕生です。記憶をなくして別の人生を生き延びるのと同じように、宗教という文化の中で、別人格を全うすることが受け入れられるようになりました。それが、神の預言者、死者と交流する霊媒師、エクソシストなどです(憑依)。これが、別人格が出てくる解離性同一性障害の起源です。つまり、解離の一症状である解離性同一性障害は、生存に必要なメカニズムだから、「ある」と言えるでしょう。ちなみに、社会脳の進化によって、人類は相手の視点に立つ想像力を手に入れました(メタ認知)。さらに、自分自身を離れて自分自身を見る視点も持つようになり、自分と周りの世界を区別できるようになりました。これが極度のストレスによって過剰になると、周りから自分自身を見る視点が自分から周りを見る視点を圧倒して、あたかも幽体離脱している感覚になります。これが、先ほどの離人症の症状の1つの離人感です。解離に対してどうすれば良いの?それでは、解離に対して、どうすれば良いでしょうか? 治療のポイントを大きく3つに分けてみましょう。(1)寝た子は起こさない -心のゆとりケビンは、23の人格が1つの体に、うまく「同居」することで、動物園の飼育係として10年間真面目に働いてきました。治療のポイントの1つ目は、寝た子は起こさないことです。「寝た子」である健忘や人格部分は、日常生活や社会生活で大きな問題が起きなければ、そっとしておくことです。また、「寝た子」が起きないような落ち着いた暮らしをすることです(環境調整)。ケビンの人格部分の出現には、女子高生のいたずらが引き金になっていました。いたずらは避けられなかったかもしれませんが、このようなストレスをなるべく避けた生き方を本人に見いだしてもらうことです。これは、ちょうど恐怖症の治療と同じです。例えば、高所恐怖があるからと言って、無理に高い所を克服する訓練は必要ないです。高い所を避ければ良いだけの話です。私たちも同じように、自分に解離が起きたとしても、そのこと自体はあまり気にせず、代わりに解離が起こらない生活を心がける、つまり心のゆとりが治療的であると言えるでしょう。(2)寝た子が起きたら、ほどほどにあやして寝かす -心の風通しケビンの主治医のフレッチャー先生は、診療の中で、「今のあなたは誰?」「今、話してるのはバリーじゃなくて、デニスだと思う」「デニス、あなたはいつ誕生したの?」と尋ねています。1990年代までは、この治療アプローチが脚光を浴びていました。しかし、現在の欧米の治療ガイドラインには「名前のない人格部分に名前を付けたり、現在の人格部分が今以上に精緻化されることには慎重になるべき」との記載があります。つまり、現在では、この治療アプローチは望ましくないとされています。治療のポイントの2つ目は、寝た子が起きたら、ほどほどにあやして寝かすことです。周りの家族や医療者が安心感のある態度でほどほどに接して受け止めることです(支持療法)。これは、過保護や過干渉をしない「ほどほど」の母親が望ましいとされる子育てにも通じます。逆に言えば、フレッチャー先生のように寝た子が起きても、よりはっきりと起こさないことです。人格部分の名付けをしないだけでなく、たとえ人格部分が自ら名乗っていたとしても、その名前については触れないことです。名前とは、本来付けられるものであり、勝手に名乗るものではないです。名前で呼ぶと言う行為は、その人格部分を一個の人格として分けて扱うことになり、解離をより促進してしまうおそれがあります。ましてや人格部分の正体や原因を追求しないことです。ただし、だからと言って、主人格を呼んだり、人格部分に消えるよう拒絶したり、無視したりもしないことです。これは、統合失調症の関わり方に似ています。例えば、幻聴や被害妄想について根掘り葉掘り聞いてしまうと、その症状を悪化させてしまいます。逆に、その症状は実在しないと否定してしまうと、信頼関係は築けないです。その症状の細かい内容については置いておいて、まずは症状のつらさに共感して、受け止めることです。私たちも同じように、自分に解離が起きたとしても、掘り下げず、代わりに解離とは関係のない日々の生活の話を自分の理解者にする、つまり心の風通しが治療的であると言えるでしょう。(3)寝た子の親である自覚をさせる -心の割り切り主人格であるケビンに戻った時、ケビンはケイシーに「何が起きたの?」「何かしてしまった?」と問います。彼は、ケイシーたちを拉致したことの記憶がまったくなかったのでした。治療のポイントの3つ目は、寝た子の親である自覚をさせることです。寝た子である人格部分が問題行動を起こしたとしても、それは自分の体が起こしたことには変わりがなく、社会のルールとして責任をとる必要があることを伝えることです(行動療法)。これは、親がいないところで、未成年の子どもが何かやらかしても、親が謝り償うという社会通念にも通じます。逆に言えば、自覚をさせないで、責任がないと特別扱いしてしまうと、都合が悪いことには責任逃れをするという心理戦略(疾病利得)が無意識に発動されてしまい、解離を促進してしまうおそれがあります。これは、依存症の治療に通じます。例えば、アルコール依存症の発症には本人の責任はないのですが、その治療、つまり断酒を続けることには本人の責任があるのと同じです。私たちも同じように、自分に解離が起きたとしても、受け身にならず、自分の人生に向き合って責任をとる、つまり心の割り切りが治療的であると言えるでしょう。解離はどうなっていくの?フレッチャー先生は、学会で、「それぞれの人格部分によって、コレステロール値が上がったり、蜂アレルギーになったり、糖尿病になったりする」「体力も違う」「苦悩を通じて脳の潜在能力を開放したのかも」「超能力は彼らに由来するかも」と大げさに語ります。実際にケビンは、人知を超えたモンスターになってしまいます。動物園での勤務中に動物たちの野生を取り込んでしまったというストーリー設定です。さすがに、これら全ては実際とは違います。解離によって、精神機能が変わり、身体機能が落ちることはあっても、身体機能が高まったり別の機能に変化することはないです。それでは、実際に解離はどうなっていくのでしょうか?解離の予後は、年齢を経て自然に落ち着いていきます。20代をピークに、40代以降は消えてしまいます。これは、運動能力などの身体機能や、記憶力などの精神機能が加齢によって衰えていくプロセスにも重なります。そうなるまでの間を、なるべく「寝た子を起こさない」サポートするのが、医療としての役割でしょう。フレッチャー先生のように、治療者の個人的な好奇心や野心で人格部分を掘り起こすべきでないです。ケビンがモンスターになってしまったのは、治療が不適切であったことを暗喩しているようにも思えます。解離を身近に感じる解離は、もともと原始の時代までに、環境に不適応を起こすどころか、むしろ適応的だったことが分かりました。しかし、18世紀の産業革命以降に、解離は、社会に不適応を起こし、病として問題視されるようになってしまったのでした。なぜでしょうか?その答えは社会構造の変化です。進化の歴史からすれば、私たちの脳、つまり精神は、ほとんど原始の時代のままです。それなのに、産業革命以降に個人主義や合理主義から「人格は1つで理性的である」という考え方が広がってしまいました。しかし、それは、私たちがただそう思い込んでいるだけにすぎないかもしれません。そう思い込んでいる人が多いから、あたかもそれが真実のように世の中に受け入れられてしまっているのかもしれません。実は、私たちの心は、思っている以上に、バラバラで一貫しておらず、曖昧な感情や記憶の断片からなる複合体であると言えるかもしれません。この映画を通して、私たちの心の不透明さや不確かさをよく理解した時、解離とは、得体の知れない訳の分からない心の病気ではなく、私たちの心の揺らぎが際立った先にある1つの形でもあると思えるのではないでしょうか? そして、その時、解離をより身近に感じることができるのではないでしょうか?1)解離新時代:岡野憲一郎、岩崎学術出版社、20152)こころの科学「解離」:田中究、日本評論社、2007

67.

うつ病による自殺のリスク因子

 うつ病における自殺のリスク因子および自殺方法の性差について、フィンランド・ヘルシンキ大学のKari I. Aaltonn氏らが縦断的な検討を行った。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2018年11月27日号の報告。 フィンランドの病院退院レジストリ、フィンランド国勢調査レジストリ、死亡原因に関するフィンランドの統計レジストリのデータを結びつけ、1991~2011年にフィンランドで初回入院したうつ病性障害の主要診断を有する患者5万6,826例(男性:2万5,188例、女性:3万1,638例)を抽出した。フォローアップ調査は、患者の死亡(自殺者:2,587例)または2014年末まで行われた(最大24ヵ月)。 主な結果は以下のとおり。・初回入院時の自殺による死亡の長期予測因子は、重症うつ病(調整ハザード比[aHR]:1.19、95%信頼区間[CI]:1.08~1.30)、精神病性うつ病(aHR:1.45、95%CI:1.30~1.62)、アルコール依存症併発(aHR:1.26、95%CI:1.13~1.41)、男性(aHR:2.07、95%CI:1.91~2.24)、社会経済的地位の高さ、独居であった。・最も高リスクな因子は、自殺企図歴であった(男性累積率:15.4%[13.7~17.3%]、女性累積率:8.5%[7.3~9.7%])。・リスク因子の性差は軽微であったが、自殺方法では顕著な差が認められた。 著者らは「初回入院時の社会人口学的および臨床的特徴は、長期的な自殺の予測因子であり、自殺企図歴を有する入院患者のリスクは高かった。男女のリスクの違いは、自殺方法の性差により説明可能かもしれない」としている。■関連記事うつ病成人の自殺傾向に対するSSRIの影響治療抵抗性うつ病と自殺率自殺予防の介入効果はどの程度あるのか

69.

飲酒運転の再発と交通事故、アルコール関連問題、衝動性のバイオマーカーとの関連

 危険な運転行為において、個々の生物学的な傾向が役割を担うはずである。衝動性、アルコール使用、過度なリスクのマーカーとして、血清モノアミンオキシダーゼ(MAO)、ドパミントランスポーター遺伝子(DAT1)、神経ペプチドS1受容体(NPSR1)遺伝子多型が同定されている。エストニア・タルトゥ大学のTonis Tokko氏らは、衝動性の神経生物学的因子が、飲酒運転や一般的な交通行動に及ぼす影響について検討を行った。Acta Neuropsychiatrica誌オンライン版2018年11月26日号の報告。 飲酒ドライバー群203人および対照群211人の交通行動とアルコール関連の問題、パーソナリティ尺度、3つのバイオマーカーとの関連を縦断的に調査した。募集後10年以内に飲酒運転違反(DWI)をしたかどうかに基づいて対象者の差異を分析し、個々のバイオマーカーがDWIや他の交通違反・事故に対してどのように予測するかを調査した。 主な結果は以下のとおり。・飲酒ドライバー群では血小板MAO活性が低かったが、将来のDWI群ではこの測定値と有意な関連が認められなかった。・DWIを繰り返すリスクに、NPSR1 T-アレルキャリアが関連していた。・全サンプルにおいて、DAT1 9Rキャリアは10Rホモ接合体と比較し、自らの過失による交通事故(能動的な事故)に、より多く関連していた。・DWI群は非DWI対照群と比較し、アルコール関連の問題が有意に多く、衝動性スコアがより高かった。 著者らは「アルコール使用および衝動性の生物学的マーカーは、日々の交通行動と関連付けられ、より個別化された予防活動の必要性を理解するために役立つであろう」としている。■関連記事精神疾患ドライバー、疾患による特徴の違い車両運転事故、とくに注意すべき薬剤は男性の飲酒とうつ病との関係

70.

Dr.須藤のやり直し酸塩基平衡

第1回 基本的な生理学的知識 第2回 酸塩基平衡異常の基本第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02第4回 ケーススタディ03&04 第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 第6回 ケーススタディ06 第7回 ケーススタディ07 第8回 ケーススタディ08 第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 第10回 尿中電解質の使い方 酸塩基平衡に苦手意識を持っていませんか?酸塩基平衡は、最低限の生理学的な基本を理解したうえで、個々の患者さんに応用できるようになると、これほど面白い分野はないといっても過言ではありません。このシリーズでは、達人Dr.須藤が酸塩基平衡の基本ルールをしっかりとレクチャー。シリーズ後半には、症例を基に、実用的な応用について、解説します。これで、あなたも酸塩基平衡が好きになる!第1回 基本的な生理学的知識 まずは、酸塩基平衡の生理学的な基本知識から解説します。酸の生成や負荷に対する生体の反応そして、基本用語の整理など、これまでぼんやりと知っていたことが、すっきりと整理され、理解できます。また、覚えづらいHenderson-Hasserbalch 式など、Dr.須藤ならではの覚えるコツもお教えします。第2回 酸塩基平衡異常の基本 酸塩基平衡異常は何らかの病的プロセス(代謝性・呼吸性)、(アシドーシス・アルカローシス)が複数参加した綱引きです。正常な状態であれば、綱は地面に置かれており、中央はpH7.40であるが、何らかの異常があると綱引き開始!綱引き勝負の行方は?Dr.須藤ならではの綱引きの図を使って、詳しく解説します。まずは、代謝性アシドーシスと代謝性アルカロ―シスの機序についてしっかりと理解してください。第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02 今回は基本的な血液ガスの読み方をレクチャー。血ガスは基本的な6つのステップをきちんと踏んでいくことで、患者さんの状態を読み解いていくことができます。また、今回から症例の解析に入ります。Dr.須藤が厳選した症例で、基本ルールのマスターと臨床の応用について学んでいきましょう。第4回 ケーススタディ03&04 今回は、2症例を基に混合性の酸塩基平衡異常を解説します。“Medical Mystery”と名付けられた症例03。pHは一見正常、でも患者の状態は非常にsick。さあ、患者にいったい何が起こっているのでしょう。そして、酸塩基平衡や電解質の異常をたくさん持っているアルコール依存症の患者の症例を取り上げるのは症例04。それらをどう解読していくのか、Dr.須藤の裏ワザも交えて解説します。第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 カリウム代謝異常(とくに低Kを血症)合併することが多い酸塩基平衡異常。今回は、カリウム代謝に関する基本的な腎生理学から学んでいきましょう。まずは、重要な尿細管細胞について。NHE3?NKCC2?ROMK?ENAC?・・・が何だか!!!心配いりません。Dr.須藤がこのような難しいことを一切省いて、臨床に必要なところに絞って、シンプルに解説します。第6回 ケーススタディ06 ケース06は「原因不明の腎機能障害を認めたの48歳の小柄な男性」。多彩な電解質異常、酸塩基平衡異常を来した今回の症例。Dr.須藤が“浅はか”だったと当時の苦い経験を基に解説します。ピットフォールはなんだったのか?また、AG正常代謝性アシドーシスの鑑別診断に、重要な意味を持つ尿のAnion GAPについても確認しておきましょう。第7回 ケーススタディ07 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。第8回 ケーススタディ08 今回の症例は「腎機能障害と原因不明の低K血症で紹介された48歳女性」検査所見は、低K血症とAG正常代謝性アシドーシス、そして、尿のAGはマイナス!そう、この組み合わせで一番に考えられるのは「下剤濫用」。しかしながら、導き出される鑑別と、患者から得られる病歴が一致しない。時間稼ぎにクエン酸NaとスローKで外来で経過をみながら考えることを選択。だが、完全に補正されない・・・。思考停止に陥ったDr.須藤。その原因と診断は?第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 「著明な低カリウム血症の35歳女性」を取り上げます。Dr.須藤の初診から1週間後、診察室に訪れた患者。なんと30分間も罵倒され続けることに!!一体患者に、、Dr.須藤に何が起こったのか!そして、いくつかのケーススタディでみてきた低カリウム血症の鑑別診断を、手順に沿って、シンプルにわかりやすく解説します。これまで何度も出てきた“KISS”と“尿血血”というキーワード。ついにその全貌が明らかに!第10回 尿中電解質の使い方 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。

71.

男性の飲酒とうつ病との関係

 一般集団における男性のうつ病と飲酒の縦断的な相互関係について、韓国・中央大学校のSoo Bi Lee氏らが、調査を行った。Alcohol and alcoholism誌2018年9月1日号の報告。 対象は、2011~14年のKorean Welfare Panelより抽出した20~65歳の成人男性2,511例。アルコール使用障害特定テスト韓国版(AUDIT-K)スコアに基づき、対照群2,191例(AUDIT-K:12点未満)、飲酒問題群320例(AUDIT-K:12点以上)に分類した。時間経過とともに連続測定された飲酒問題とうつ病との相互関係を調査するため、自己回帰的なcross-laggedモデル分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・飲酒とうつ病との関係は、時間経過とともに安定していた。・対照群では、飲酒問題とうつ病との間に有意な因果関係は認められなかったが、飲酒問題群では、前年の飲酒が2、3、4年後のうつ病に有意な影響を及ぼしていた。 著者らは「飲酒問題群では、対照群と比較し、うつ病と飲酒の4年間に及ぶ相互の因果関係が認められた。通常の飲酒では、縦断的なうつ病と飲酒との相互関係は認められなかったが、飲酒問題群では、飲酒は時間経過とともにうつ病を増強させた。飲酒問題はうつ病発症のリスク因子であり、一般集団におけるアルコール使用の問題や抑うつ症状を有する患者のアルコール使用歴には、より注意すべきである」としている。■関連記事うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査よりアルコール以外の飲料摂取とうつ病リスクアルコール摂取量削減のためのサービングサイズ変更効果

72.

“酒は百薬の長されど万病の元”という故事は飲酒の健康への利害を端的に語っており、認知症も例外にあらず!(解説:島田俊夫氏)-908

 高齢者の認知症が大きな社会問題としてクローズアップされている。2018年8月1日にBMJ誌に掲載されたフランス・パリ・サクレー大学のSeverine Sabia氏らの「Whitehall IIコホート研究」の結果は、飲酒と認知症の関連を取り上げた時宜にかなう論文で興味深く、この小稿で取り上げた。これまで過度な飲酒が身体に悪影響を及ぼすことは広く周知されている。一般的に適量の飲酒は認知症に関して低リスク1)と考えられてきたが、詳細については不明な点も多い。研究要約 本研究は英国ロンドン市の公務員を対象とした前向きコホート研究で、1985~88年の期間に35~55歳の1万308人(男/女:6,895/3,413人)を登録し、4~5年ごとに追跡調査が行われた。飲酒と認知症の関連性を評価し、心血管代謝疾患(脳卒中、冠動脈疾患、心房細動、心不全、糖尿病)を考慮の下で検討が行われた。 飲酒量は、1985~88年、1989~90年、1991~93年(中年期)の3回の調査平均値を用い、非飲酒、1~14単位/週(適度飲酒)、14単位超/週(過度飲酒)に分類した。中年期の飲酒量を調査した時点でのコホートの平均年齢は50.3歳であった。 さらに、1985~88年から2002~04年にわたる17年の期間中の調査結果を5パターン([1]長期非飲酒、[2]飲酒量減少、[3]長期飲酒量が1~14単位/週、[4]飲酒量増加、[5]長期飲酒量14単位超/週)に分けて検討した。 1991~93年の調査では、CAGE質問表(4項目2点以上でアルコール依存性あり)を用いてアルコール依存症の有無を評価、1991~2017年の期間におけるアルコール関連疾患による入院状況も併せ調査した。結果 中年期の非飲酒群は基準群(適度飲酒群)と比べ認知症のリスクが高かった(ハザード比[HR]:1.47、95%信頼区間[CI]:1.15~1.89、p<0.05)。14単位超/週群の認知症リスクは、基準群と比べ有意差を認めなかった(1.08、0.82~1.43)が、そのうち飲酒量が7単位増加/週群では認知症リスクが17%有意に増加した(1.17、1.04~1.32、p<0.05)。 非飲酒群でフォローアップ期間に認知症の高リスクを認めたことは心血管代謝疾患の関与で部分的に説明可能であり、非飲酒群全体の認知症のハザード比が1.47(1.15~1.89)であったのに対して疾患のない非飲酒群ではハザード比1.33(0.88~2.02)と基準群と比べ有意差を認めなかった。 中年期~初老期の飲酒量推移による検討では、長期飲酒では基準群と比べ長期非飲酒群の認知症リスクは74%と高く(HR:1.74、95%CI:1.31~2.30、p<0.05)、飲酒量減少群で55%増加(1.55、1.08~2.22、p<0.05)、長期14単位超/週群では40%増加(1.40、1.02~1.93、p<0.05)した。コメント 飲酒と総死亡率の関係はUまたはJ-カーブを示すと考えられている2)。昔から“酒は百薬の長されど万病の元”という故事は飲酒の影響を端的に表現している。わかりやすく言い換えると適度な飲酒は健康にとりプラスになり、過度な飲酒は命を縮め、適量飲酒に比べて非飲酒は思いのほか利益なく、かえってマイナスに作用すると言い換えできる。本論文の著者は、これまでの飲酒による知見が認知症に対して当てはまるか否かを、経時的要素を加味し、交絡因子、データエラーを最小にする工夫の下で統計解析を行い、U-カーブの存在を確認し認知症への飲酒によるこれまでの知見の適用の妥当性を確認した。しかしながら、適量飲酒の効用を過大に期待することは飲み過ぎにつながる恐れがあり慎むべきと考える。“酒は百薬の長されど万病(認知症)の元”を肝に銘じ忘れないことが大事です。

73.

30~50代で非飲酒でも認知症リスク上昇/BMJ

 中年期に飲酒しなかった集団および中年期以降に過度な飲酒を続けた集団は、飲酒量が適度な場合に比べ認知症のリスクが高まることが、フランス・パリ・サクレー大学のSeverine Sabia氏らが行った「Whitehall II試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2018年8月1日号に掲載された。非飲酒と過度な飲酒は、いずれも認知機能に有害な影響を及ぼすとされるが、認知症の発症予防や遅延に関する現行のガイドラインには、エビデンスが頑健ではないため、過度の飲酒は含まれていないという。また、研究の多くは、老年期のアルコール摂取を検討しているため生涯の飲酒量を反映しない可能性があり、面接評価で認知機能を検討した研究では選択バイアスが働いている可能性があるため、結果の不一致が生じている。英国公務員のデータを用いたコホート研究 Whitehall II試験は、ロンドン市に事務所のある英国の公務員を対象とした前向きコホート研究であり、1985~88年に35~55歳の1万308例(男性:6,895例、女性:3,413例)が登録され、4~5年ごとに臨床的な調査が行われている(米国国立老化研究所[NIA]などの助成による)。 研究グループは、今回、認知症とアルコール摂取の関連を評価し、この関連への心血管代謝疾患(脳卒中、冠動脈心疾患、心房細動、心不全、糖尿病)の影響を検討した。 アルコール摂取量は、1985~88年、1989~90年、1991~93年(中年期)の3回の調査の平均値とし、非飲酒、1~14単位/週(適度な飲酒)、14単位超/週(過度な飲酒)に分類した。中年期のアルコール摂取を評価した集団の平均年齢は50.3歳だった。 また、1985~88年から2002~04年の5回の調査に基づき、17年間のアルコール摂取の推移を5つのパターン(長期に非飲酒、飲酒量減少、長期に飲酒量が1~14単位/週、飲酒量増加、長期に飲酒量が14単位超/週)に分けて検討した。 1991~93年の調査では、CAGE質問票(4項目、2点以上で依存性あり)を用いてアルコール依存症の評価を行った。さらに、1991~2017年の期間におけるアルコール関連慢性疾患による入院の状況を調べた。飲酒量が減少した集団もリスク上昇 平均フォローアップ期間は23年であり、この間に397例が認知症を発症した。認知症診断時の年齢は、非飲酒群が76.1歳、1~14単位/週の群が75.7歳、14単位超/週の群は74.4歳であった(p=0.13)。 中年期に飲酒していない群は、飲酒量が1~14単位/週の群に比べ認知症のリスクが高かった(ハザード比[HR]:1.47、95%信頼区間[CI]:1.15~1.89、p<0.05)。14単位超/週の群の認知症リスクは、1~14単位/週の群と有意な差はなかった(1.08、0.82~1.43)が、このうち飲酒量が7単位/週増加した集団では認知症リスクが17%有意に高かった(1.17、1.04~1.32、p<0.05)。 CAGEスコア3~4点(HR:2.19、95%CI:1.29~3.71、p<0.05)およびアルコール関連入院(4.28、2.72~6.73、p<0.05)にも、認知症リスクの増加と関連が認められた。 中年期~初老期のアルコール摂取量の推移の検討では、飲酒量が長期に1~14単位/週の集団と比較して、長期に飲酒をしていない集団の認知症リスクは74%高く(HR:1.74、95%CI:1.31~2.30、p<0.05)、摂取量が減少した集団でも55%増加し(1.55、1.08~2.22、p<0.05)、長期に14単位超/週の集団では40%増加した(1.40、1.02~1.93、p<0.05)が、飲酒量が増加した集団(0.88、0.59~1.31)では有意な差はなかった。 中年期の非飲酒に関連する認知症の過剰なリスクは、フォローアップ期間中にみられた心血管代謝疾患によってある程度説明が可能であり、非飲酒群全体の認知症のHRが1.47(1.15~1.89)であったのに対し、心血管代謝疾患を発症しなかった非飲酒の集団では1.33(0.88~2.02)であった。 著者は、「ガイドラインで、14単位超/週のアルコール摂取を有害の閾値と定義する国があるが、今回の知見は、高齢になってからの認知機能の健康を増進するために、閾値を下方修正するよう促すもの」としている。

74.

ギャンブルがアルコール消費に及ぼす影響

 アルコールとギャンブルとの関連を調査した実験的研究では、主にアルコールのギャンブル行動への影響に焦点が当てられている。逆に、ギャンブルがその後のアルコール消費に及ぼす影響については、ほとんど論じられていなかった。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のJuliette Tobias-Webb氏らは、ギャンブルとその成果が、後のアルコール消費に及ぼす影響について、2つの実験を行い評価した。Journal of Gambling Studies誌オンライン版2018年7月11日号の報告。 実験1では、参加者53例には、アルコールを含む飲料を30分間要求することができる自由摂取試験(ad libitum consumption test)を実施した。実験2では、参加者29例には、ビールのテイスティング検査手順(beer taste test procedure)に従い、ビールの種類の評価を課した。両実験において、日常的にギャンブルを行う男性は、アルコールが提供される前に、30分間テレビを見る群かスロットマシーンを行う群に割り付けられた。 主な結果は以下のとおり。・実験1において、ギャンブルは、アルコール飲料の注文数、消費量、飲酒ペース、飲酒意向を有意に増加させた。・実験2では、これらの影響は確認されなかった。・両実験において、ギャンブルの成果とアルコール消費との関連は認められなかった。 著者らは「これまでの研究と関連し、特定の条件下でのギャンブルがアルコール消費を促進する点は、ギャンブルとアルコールが互いに増強する可能性のあるフィードバックループを形成していることを意味する。しかし、両実験における結果の相違は、影響の境界条件を示唆しており、今後の研究を行ううえで、ギャンブルとアルコール消費との関連を測定するためには、方法論的考察の検討が必要である」としている。■関連記事ギャンブル依存とADHD症状との関連アルコール依存症に対するバクロフェン治療に関するメタ解析アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬

75.

アルコール依存症に対するバクロフェン治療に関するメタ解析

 アルコール依存症(AD:alcohol dependence)治療に対するバクロフェンの有効性(とくに用量の効果)に関して、現在のエビデンスのシステマティックレビューは不十分である。オランダ・アムステルダム大学のMimi Pierce氏らは、現在利用可能なランダム化プラセボ対照試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。European neuropsychopharmacology誌オンライン版2018年6月19日号の報告。 AD患者に対するバクロフェンとプラセボを比較した、2017年9月までのRCT文献をシステマティックに検索した。バクロフェン治療効果、バクロフェン用量緩和効果(低用量[30~60mg]vs.高用量[60mg超])、治療前のアルコール消費量について検討を行った。経過時間(TTL)、禁断日数の割合(PDA)、エンドポイントで禁断となった患者の割合(PAE)の3つを治療アウトカムとした。 主な結果は以下のとおり。・39レコードから13件のRCTが抽出された。・バクロフェン群は、プラセボ群と比較し、TTLの有意な増加(8 RCT、852例、SMD:0.42、95%CI:0.19~0.64)、PAEの有意な増加(8 RCT、1,244例、OR:1.93、95%CI:1.17~3.17)、PDAの有意でない増加(7 RCT、457例、SMD:0.21、95%CI:-0.24~0.66)が認められた。・全体として、低用量で実施された研究は、高用量で実施された研究よりも、より良い有効性を示した。・また、高用量での忍容性は低かったが、重篤な有害事象はまれであった。・メタ回帰分析では、治療前の日々のアルコール消費量がより多い場合、バクロフェンの効果がより強いことが示唆された。 著者らは「バクロフェンは、AD治療、とくに大量飲酒者の治療に有効であると考えられる。高用量治療は、低用量治療よりも忍容性が低く、必ずしも優れているとは言えない」としている。■関連記事アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬アルコール使用障害患者の認知症発症予防のためのチアミン療法不眠症とアルコール依存との関連

76.

第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

77.

アルコール使用障害患者の認知症発症予防のためのチアミン療法

 アルコール使用障害は、認知症に寄与する最も重要な因子の1つである。台湾・高雄医学大学のWei-Po Chou氏らは、台湾の全国データベースを用いて、アルコール使用障害患者に対するチアミン療法の認知症発症予防効果について調査を行った。Clinical nutrition誌オンライン版2018年5月21日号の報告。 1995~2000年の縦断的健康保険データベースを検索し、レトロスペクティブコホート研究を実施した。アルコール使用障害の診断後にチアミン投与を受けた患者をチアミン療法(TT)群とし、年齢、性別、インデックスイヤーにマッチしたTTを行わないアルコール使用障害患者を対照(NTT)群として無作為に割り付けた。患者背景、併存疾患、向精神薬使用について評価を行った。累積の規定1日用量(DDD)を分析し、用量効果を検証した。 主な結果は以下のとおり。・各群の患者数は、5,059例であった。・TT群は、NTT群よりも、認知症のハザード比が低かった(0.76、95%CI:0.60~0.96)。・患者背景、併存疾患、向精神薬使用で調整した後、調整ハザード比は0.54(95%CI:0.43~0.69)であった。・23超の累積DDDを有するTT群において、有意な差が認められた。・カプランマイヤー分析では、NTT群よりもTT群において、認知症の累積発症率が低いことが示された。 著者らは「チアミン療法は、アルコール使用障害患者における認知症発症の予防因子であることが示唆された。アルコール使用障害患者の認知症の発症および進行を予防するための治療計画、保健政策において、チアミン療法は重要である」としている。■関連記事認知症発症に対するアルコール使用障害の影響に関するコホート研究ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

78.

ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法

 ベンゾジアゼピン(BZD)治療抵抗性アルコール離脱は、利用可能な薬剤に関するエビデンスが限定的であるため、多くの施設において課題となっている。現在、アルコール離脱に対して、NMDA受容体アンタゴニストであるケタミンを用いた研究が報告されている。米国・Advocate Christ Medical CenterのPoorvi Shah氏らは、ICU(集中治療室)におけるBZD治療抵抗性アルコール離脱患者への、症状コントロールに対する補助的なケタミン持続点滴療法の効果およびロラゼパム静注の必要性について評価を行った。Journal of medical toxicology誌オンライン版2018年5月10日号の報告。 2012年8月~2014年8月に、ロラゼパム静注に補助的なケタミン療法を追加した重度のアルコール離脱患者を対象とし、レトロスペクティブレビューを行った。アウトカムは、症状コントロールまでの時間、ロラゼパム静注の必要性、ケタミンの初日および最大日の注入速度、ケタミンの副作用とした。 主な結果は以下のとおり。・分析に含まれた対象患者は、30例であった。・ロラゼパム静注開始後のケタミンの平均開始時間は、41.4時間であった。・すべての患者において、ケタミン開始後1時間以内に初期の症状コントロールが認められた。・ケタミンの注入速度中央値は、初日で0.75mg/kg/時、最大日で1.6mg/kg/時であった。・ケタミン開始後24時間で、ロラゼパムの注入速度の有意な低下が認められた(-4mg/時、p=0.01)。・中枢神経系の副作用が報告された患者はいなかった。・高血圧が2例で報告され、ケタミン関連の頻脈の報告はなかった。 著者らは「BZD治療抵抗性アルコール離脱患者に対するケタミン併用は、症状コントロールを可能とし、ロラゼパム静注の必要性を潜在的に減少させる可能性がある。BZD治療抵抗性アルコール離脱患者のための最適な投与量、開始時期、治療場所を決定するためには、さらなる研究が必要である。NMDA受容体を介するケタミンの作用機序は、BZD治療抵抗性アルコール離脱に対し有益である可能性がある」としている。■関連記事アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬不眠症とアルコール依存との関連アルコール摂取量削減のためのサービングサイズ変更効果

79.

不眠症とアルコール依存との関連

 アルコールを“睡眠補助”として使用した際のリスクを評価するため、米国・ウェイン州立大学のTimothy Roehrs氏らは、睡眠前のエタノールの鎮静・催眠効果での耐性の発現、その後のエタノール用量漸増、気分の変化、エタノール“愛好”について評価を行った。Sleep誌オンライン版2018年5月12日号の報告。 対象は、不眠症以外に関しては医学的および精神医学的に健康であり、アルコール依存および薬物乱用歴のない21~55歳の不眠症患者。試験1において、24例に対し睡眠前にエタノールを0.0、0.3、0.6g/kg(各々8例)投与し、夜間睡眠ポリグラフ(NPSG)を8時間収集した。試験2において、エタノール0.45g/kgまたはプラセボによる6日間の前処置を行った後、睡眠前のエタノールまたはプラセボのどちらを選ぶか、7日以上の選択の夜にわたり評価した。 主な結果は以下のとおり。・エタノール0.6g/kg投与は、総睡眠時間および第2夜の第3~4段階の睡眠を増加させたが、これらの効果は第6夜には失われた(p<0.05)。・6日間のエタノールでの前処置は、プラセボでの前処置と比較し、選択の夜におけるエタノール自己投与が多かった(p<0.03)。 著者らは「本研究は、不眠症患者の“睡眠補助”としてのアルコール使用に伴うリスクを明示する最初の研究である。エタノール投与開始の初期には、NPSGの睡眠および鎮静作用の自己報告が改善したが、第6夜には消失した。耐性については、睡眠前のエタノール自己投与の増加と関連が認められた」としている。■関連記事アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査よりアルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬

80.

アルコール関連での緊急入院後の自殺リスクに関するコホート研究

 アルコール乱用は、自殺のリスク因子として知られているが、アルコール関連の入院とその後の自殺による死亡リスクとの関連は、よくわかっていない。英国・Public Health Wales NHS TrustのBethan Bowden氏らは、アルコール関連での緊急入院後の自殺による死亡リスクを特定するため、検討を行った。PLOS ONE誌2018年4月27日号の報告。 2006年1月、10~100歳の英国・ウェールズの住民280万3,457人を対象とした電子的コホート研究を6年間フォローアップした。アウトカムイベントは、故意の自傷および自殺(ICD-10:X60-84)または不慮か故意か決定されない事件(ICD-10:Y10-34)として定義された自殺による死亡とした。主要曝露は、入院カルテにおけるアルコール関連の入院(ICD-10アルコールコードで定義)とした。入院は、精神医学的疾患の有無によりコード化された。解析では、データセット内の交絡変数の調整を伴うCox回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に、1,554万6,355人年のうち、2万8,425件のアルコール関連の緊急入院および1,562件の自殺が認められた。・125件の自殺は入院後に起こっており(人口10万人年当たり144.6例)、そのうち11例(9%)が退院4週間以内に発生していた。・入院後の自殺率の調整されたハザード比(HR)は、全体で26.8(95%CI:18.8~38.3)、男性で9.83(95%CI:7.91~12.2)、女性で28.5(95%CI:19.9~41.0)であった。・精神医学的疾患を合併していない患者においても、自殺リスクは高いままであり、男性のHRは8.11(95%CI:6.30~10.4)、女性のHRは24.0(95%CI:15.5~37.3)であった。・なお、本分析は、潜在的に重要な交絡変数のデータセットの欠如および非入院者のアルコール関連問題、精神医学的疾患に関する情報の欠如により、制限を受けた。 著者らは「アルコール関連の緊急入院は、自殺リスクの増加と関連が認められた。退院前に高リスク患者を特定することは、心理社会学的評価および自殺予防を行う機会の提供につながる」としている。■関連記事入院から地域へ、精神疾患患者の自殺は増加するのか思春期の少年少女における自殺念慮の予測アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

検索結果 合計:116件 表示位置:61 - 80