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フェリチン値から必要のない鉄剤を見極めて中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第66回

 鉄欠乏性貧血の治療において、「いつまで鉄剤を続けるべきか」「どのような投与方法が最適か」というのは薬剤師による処方提案の重要なポイントです。今回の症例では、高齢患者さんの鉄剤服用の必要性を血液検査データから見極め、さらに適切な投与スケジュールについて最新の英国ガイドラインを参考に提案しました。とくに注目すべきは、鉄剤投与後のヘプシジン上昇が次の鉄吸収を阻害するメカニズムに基づいた「1日1回投与」や「隔日投与」の有効性です。新しい知見では、従来の「分2投与」から「隔日投与」へ変更することで、患者さんの服薬負担を減らしながらも同等かそれ以上の治療効果が期待できることが示されています。貧血が改善し、フェリチン値が十分な状態であれば、鉄剤の中止も視野に入れることができます。患者情報95歳、女性(外来患者)ADL自立、要介護1、デイサービスなど利用なし身長:145cm、体重:40kg基礎疾患高血圧、鉄欠乏性貧血、低カリウム血症服薬管理通院時は娘と来局、自己管理可能処方内容1.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.エチゾラム0.5mg 1錠 分1 就寝前3.クエン酸第一鉄錠50mg 2錠 分2 朝夕食後4.アスパラカリウム錠 1錠 分1 朝食後処方提案までの経過この患者さんは、鉄欠乏性貧血に対してクエン酸第一鉄を服用中でしたが、「薬の粒が大きく服薬が困難」との相談があり、評価を実施しました。お薬手帳から少なくとも半年以上の鉄剤服用が確認できましたが、客観的な血液検査値による貧血状態は不明でした。検査データを確認したところ、以下の結果が得られました。<介入当初の採血結果>ヘモグロビン:12.8mg/dL(正常範囲内)平均赤血球容積:97.5(正常範囲内)フェリチン:203.5ng/mL(十分量の鉄貯蔵を示す)血清鉄:71μg/mL(正常範囲内)総鉄結合能:277(正常範囲内)これらの検査結果から、患者さんの鉄欠乏性貧血は改善し、貯蔵鉄も十分蓄積されていることが明らかになりました。なお、消化器症状(嘔気や便秘悪化)などの鉄剤による副作用はありませんでした。鉄剤の服用方法について調査したところ、英国消化器学会のガイドラインでは鉄剤のヘプシジン濃度への影響を考慮し、分2投与より隔日投与が推奨されていることも確認しました。鉄投与後にヘプシジンが上昇し、約24時間鉄吸収が低下するため、1日1回投与や隔日投与のほうが吸収効率が高いという新たな知見1)に基づく推奨です。処方提案とその後の経過服薬情報提供書を用いて、医師に以下の内容を提案しました。1.検査結果に基づく客観的評価フェリチン値が203.5ng/mLと鉄貯蔵が十分であるヘモグロビン値も12.8mg/dLと正常範囲内である2.服薬アドヒアランスの問題粒子径が大きく服用困難である患者の服薬負担軽減の必要性がある3.提案内容鉄欠乏性貧血の改善が認められるため、鉄剤の服用を中止または隔日投与に変更することで、服薬回数を減らして負担を軽減医師の診察で、提案内容と検査結果を踏まえ、フェリチン値も充足していることから鉄剤の服用継続の必要性がないと判断され、処方中止となりました。その後、患者さんからは動悸や息切れ、倦怠感などの貧血症状は報告されず、経過は良好です。服薬回数減少とともに服薬負担が軽減され、QOL向上に繋がりました。1)Snook J, et al. Gut. 2021;70:2030-2051.

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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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フィネレノン、CKD有するHFmrEF/HFpEFに有効~3RCT統合解析(FINE-HEART)/日本循環器学会

 心不全患者のほぼ半数が慢性腎臓病(CKD)を合併している。心不全とCKDは、高血圧、肥満、糖尿病といった共通のリスク因子を持ち、とくに左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者ではその関連がより顕著である。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系の活性化、炎症、内皮機能障害、線維化、酸化ストレスといった共通の病態生理学的経路を有する。したがって、心不全患者、とくにHFpEF患者において、腎保護が治療成功の鍵となっている。 心不全とCKDを合併した約1万9,000例の患者におけるフィネレノンの効果を評価するため、3件の大規模無作為化比較試験(RCT)の統合解析「FINE-HEART試験」が実施され、2024年の欧州心臓病学会で発表された。その結果、心不全とCKDを合併した患者において、原因不明死を含めると、フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させることが示され、腎疾患の進行、全死因死亡、心不全による入院などが有意に減少したことが示された。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 1にて、富山大学の絹川 弘一郎氏によりアンコール発表された。 本試験では、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノンの効果を検証した以下の3件のRCTのデータが統合された。・FINEARTS-HF試験:2型糖尿病を含む左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)/HFpEF患者6,001例を対象とした試験。・FIDELIO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者5,662例を対象とした腎アウトカム試験(左室駆出率が低下した心不全[HFrEF]患者は除外)。・FIGARO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者7,328例を対象とした心血管アウトカム試験(HFrEF患者は除外)。 FINE-HEART試験の対象者の90%以上が、心不全、CKD、2型糖尿病の1つ以上を有する高リスクCKM(心血管・腎・代謝)背景を持っていた。本試験の主要評価項目は心血管死であり、副次評価項目は複合心血管イベント、心不全による初回入院、全死因死亡などが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・FINE-HEART試験は、1万8,991例(平均年齢67±10歳、女性35%)で構成された。参加者の約90%が、推定糸球体濾過量(eGFR)の低下および/またはアルブミン尿のいずれかを伴うCKD進行リスクが高かった。・心血管死について、プラセボ群と比較して、フィネレノン群は、原因不明死を除くと、心血管死の有意ではない減少と関連していた(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.01、p=0.076)。ただし、原因不明死を含めると、フィネレノン群は心血管死を12%有意に減少させた(HR:0.88、95%CI:0.79~0.98、p=0.025)。・原因不明死を含めた場合の心血管死に対するフィネレノンの効果は、患者のCKM負担の程度かかわらず一貫していた。また、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といったベースラインの併用薬の有無にかかわらず、フィネレノンの効果は一貫していた。・フィネレノンは、複合腎アウトカム、心不全による初回入院、心血管死または全死因死亡、心房細動の新規発症を有意に減少させた。・HFmrEF/HFpEF患者7,008例(36.9%)を解析した結果、フィネレノン群ではプラセボ群と比較して、心血管死または心不全による入院が有意に減少した(HR:0.87、95%CI:0.78~0.98、p=0.008)。また、心不全による入院(HR:0.84、95%CI:0.74~0.94、p=0.003)、心房細動の新規発症(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97、p=0.030)を有意に減少させた。・フィネレノンは忍容性が良好であり、プラセボ群より重篤な有害事象の発現率が低かった。MRAの性質上、フィネレノン群で高カリウム血症が多くみられたが、高カリウム血症に関連する死亡は認められなかった。低カリウム血症は少なかった。収縮期血圧低下がよくみられ、血圧への影響は今後さらに検討が必要とされている。急性腎障害の増加は認められなかった。 フィネレノンは、CKMリスクを有する患者に対して、心血管・腎アウトカムを改善し、安全性も高い有望な治療選択肢であることが本試験により示された。絹川氏は「フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させた。FIDELIO試験とFIGARO試験では、心血管死は有意に減少しなかったため、これはFINE-HEART試験で新たに得られた知見だ。また、FIDELIO試験とFIGARO試験では、フィネレノンによるeGFRの初期低下が観察されたが、これも今後の検討課題となる」と述べた。(ケアネット 古賀 公子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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「心不全診療ガイドライン」全面改訂、定義や診断・評価の変更点とは/日本循環器学会

 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドラインである『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』が、2025年3月28日にオンライン上で公開された1)。2018年に『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』が発刊され、2021年にはフォーカスアップデート版が出された。今回は国内外の最新のエビデンスを反映し、7年ぶりの全面改訂となる。2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて、本ガイドライン(GL)の合同研究班員である北井 豪氏(国立循環器病研究センター 心不全・移植部門 心不全部)が、GL改訂の要点を解説した。 本GLの改訂に当たって、高齢化の進行を考慮した高齢者心不全診療の課題や特異性に注目し、最新の知見・エビデンスを盛り込んで、実臨床に即した推奨が行われた。専門医だけでなく、一般医やすべての医療従事者に理解しやすく、実践的な内容とするため、図表を充実することが重視されている。また、エビデンスが十分ではない領域も、臨床上重要な課題や実際の診療に役立つ内容は積極的に取り上げられている。本GLは全16章で構成され、最後に3つのクリニカルクエスチョン(CQ)が記載された。本GLはオンライン版のほか、アプリ版も発表されている。また、本GLの英語版が、Circulation Journal誌とJournal of Cardiac Failure誌に同時掲載された2,3)。 北井氏が解説した重要な改訂点は以下のとおり。心不全の定義 日米欧の心不全学会3学会合同で策定された「Universal definition and classification of heart failure(UD)」4)に基づき、「心不全とは、心臓の構造・機能的な異常により、うっ血や心内圧上昇、およびあるいは心拍出量低下や組織低灌流をきたし、呼吸困難、浮腫、倦怠感などの症状や運動耐容能低下を呈する症候群」と定義が改訂された。心不全症状・徴候は、「ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)の上昇」あるいは「心臓由来の肺うっ血または体うっ血の客観的所見」のいずれかによって裏付けられるとしている。診断と経時的評価:BNP/NT-proBNPカットオフ値 心不全診断のプロセスがフローチャートで表示された。症状、身体所見、一般検査に加えて、「ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)」と「心エコー」が診断の中心となっている。身体所見としてのうっ血や、バイオマーカーが重要視され、診断だけでなく予後評価目的でも、BNP/NT-proBNPを測定することが推奨されている。BNP/NT-proBNPのカットオフ値は、2023年に日本心不全学会から発表されたステートメント5)に準拠し、以下のように設定された。・前心不全―心不全の可能性がある、外来でのカットオフ値BNP≧35pg/mLNT-proBNP≧125pg/mL・心不全の可能性が高い、入院/心不全増悪時のカットオフ値BNP≧100pg/mLNT-proBNP≧300pg/mL左室駆出率(LVEF)による分類 UDを参考に、左室駆出率(LVEF)による心不全の分類が、国際的な基準に合わせて統一された。・HFrEF(LVEFの低下した心不全):LVEF≦40%・HFmrEF(LVEFの軽度低下した心不全):LVEF 41~49%・HFpEF(LVEFの保たれた心不全):LVEF≧50% HFmrEFについて、2021年フォーカスアップデート版では、HF with mid-range EFと記載していたが、本GLではHF with mildly-reduced EFの呼称を採用している。上記のほか、HFrEFだった患者がLVEF40%超へ改善し、LVEFが10%以上向上した場合をHFimpEF(LVEFの回復した心不全)と定義している。心不全ステージと病の軌跡 心不全の進行について、A~Dのステージに分類している。・ステージA(心不全リスクあり):高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、肥満など・ステージB(前心不全):構造的/機能的心疾患はあるが、心不全の症状や徴候がない・ステージC(症候性心不全):ナトリウム利尿ペプチド上昇、うっ血などの症状が出現・ステージD(治療抵抗性心不全):薬物療法に反応せず、補助循環や移植が必要 前GLから踏襲し「心不全ステージの治療目標と病の軌跡」の図が掲載されている。従来は病状経過に伴うQOLの悪化の軌跡のみ示されていたが、今回のGLより、治療介入することでイベントやステージ移行を遅らせる改善した場合の軌跡が加えられた。遺伝学的検査 心不全・心筋症において遺伝学的検査が近年より重視されてきている。特徴的な臨床所見等により遺伝性心疾患が疑われる場合は、診断・治療・予後予測に役立てるために、発端者に対する遺伝学的検査を考慮することが推奨クラスIIa。また、遺伝学的検査を行う際には、遺伝カウンセリングを提供する、または紹介する体制を整えることが推奨クラスI。ADL/QOL評価、リスクスコア ADL(日常生活動作)・QOL(生活の質)の向上は、予後の改善と同様に心不全患者の重要な治療目標であり、臨床試験でもアウトカムとして採用されている。日常診療でも患者報告アウトカムを評価することを考慮することや、患者の予後を示すリスクスコアを使用して予後予測を行うことが推奨に挙げられている。心不全予防(ステージA・B) ステージA(心不全リスク)において、高血圧、糖尿病、肥満、動脈硬化性疾患、冠動脈疾患に加え、本GLにて慢性腎臓病(CKD)が新たなリスク因子に加えられた。ステージAへの介入として、2型糖尿病かつCKD患者に対して、心不全発症あるいは心血管死予防のために、SGLT2阻害薬あるいはフィネレノンの使用が推奨クラスIとされた。 ステージB(前心不全)について、「構造的心疾患および左室内圧上昇のカットオフ値の目安」が表にまとめられている。ステージBへの介入として、患者の状況によりACE阻害薬、ARB、β遮断薬、スタチンといった薬剤が推奨クラスIとなっている。心不全に対する治療(ステージC・D) 2021年のフォーカスアップデート版では、HFrEFに対してQuadruple Therapy(β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬[ARNI]、SGLT2阻害薬)の推奨が記載され、HFmrEF、HFpEFに関してはうっ血に対する利尿薬の使用のみにとどまっていたが、本GLでは、HFmrEF、HFpEFに対する薬物治療の新たなエビデンスが反映された。薬物治療の推奨について、各薬剤、EF、推奨クラスをまとめた図「心不全治療のアルゴリズム」を掲載している。・SGLT2阻害薬:HFmrEF、HFpEFに対して2つの大規模無作為化比較試験により、予後改善効果が相次いで報告されたため、HFrEF、HFmrEF、HFpEFのいずれの患者においても、エンパグリフロジン、ダパグリフロジンを推奨クラスI。・ARNI:HFrEFに対して推奨クラスI、HFmrEFに対して推奨クラスIIa、HFpEFに対して推奨クラスIIb。 ・MRA:HFrEFに対するスピロノラクトン、エプレレノンが推奨クラスI、HFmrEFとHFpEFに対して、新たな薬剤のフィネレノンが推奨クラスIIa、スピロノラクトン、エプレレノンが推奨クラスIIb。急性非代償性心不全 UDで「うっ血」の評価が非常に重視されているため、本GLでも、うっ血、低心拍出、組織低灌流に分けて血行動態の評価・治療していくことを強調している。「急性非代償性心不全患者におけるうっ血の評価と管理のフローチャート」と推奨、「心原性ショック患者の管理に関するフローチャート」と推奨を記載している。急性心不全の治療においては、入院中の治療だけでなく、退院後のケア(移行期ケア)の重要性が増している。本GLでは、新たに移行期間に関する項目が設けられ、推奨が示されている。治療抵抗性心不全(ステージD) 治療抵抗性心不全(ステージD)では、治療開始前に治療目標を設定することが非常に重要であり、それに関連する推奨が示されている。また、2021年に本邦でも保険適用となった移植を目的としない植込型補助人工心臓(LVAD)治療(Destination therapy:DT)が、本GLに初めて収載され、DTも含めたステージDの「重症心不全における補助循環治療アルゴリズム」がフローチャートで示されている。特別な病態・疾患 心不全に関連する9つの病態・疾患が取り上げられ、最新の知見に基づいて内容がアップデートされている。とくに、以下の疾患において、新たな治療薬や診断法に関する重要な情報が追記されている。・肥大型心筋症:閉塞性肥大型心筋症に対する圧較差軽減薬マバカムテンが承認され、推奨クラスIとして記載。・心アミロイドーシス:トランスサイレチン(ATTR)心アミロイドーシスに対するTTR四量体安定化薬としてアコラミジスが新たに承認された。タファミジスまたはアコラミジスの投与は、NYHA心機能分類I/II度の患者に対しては推奨クラスI。III度の患者に対しては推奨クラスIIa。I~III度の患者に対して、低分子干渉RNA製剤ブトリシランが推奨クラスIIa。・心臓サルコイドーシス:突然死予防としての植込み型除細動器(ICD)に関する推奨が、『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈治療』6)に準拠して記載。併存症 心不全診療で特に問題となる併存症として、CKD、肥満、貧血・鉄欠乏、抑うつ・認知機能障害が追加された。3つの項目について、詳しく説明された。・貧血・鉄欠乏:鉄欠乏を有するHFrEF/HFmrEF患者に対する心不全症状や運動耐容能改善を目的とした静注鉄剤の使用を考慮することが推奨クラスIIa。・高カリウム血症:高カリウム血症を合併したRAAS阻害薬(ARNI/ACE阻害薬/ARBおよびMRA)服用中の心不全患者に対して、RAAS阻害薬(特にMRA)による治療最適化のために、カリウム吸着薬の使用を考慮することが推奨クラスIIa。・肥満:肥満を合併する心不全患者に対する心血管死減少・再入院予防を目的としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドあるいはチルゼパチドの投与を考慮することが推奨クラスIIa。心不全診療における質の評価 心不全診療は非常に多岐にわたるため、心不全診療の質の評価の統一化が課題となっている。AHA/ACCのPerformance Measures(PM)やQuality Indicators(QI)を参考に、心不全診療の質の評価に関する章が新設され、質指標が表にまとめられている。クリニカルクエスチョン(CQ) 今回の改訂では、CQが3つに絞られた。システマティックレビューを行い、解説と共に推奨とエビデンスレベルが示されている。・CQ1:eGFR 30mL/分/1.73m2未満の心不全患者へのSGLT2阻害薬の投与開始は推奨されるか?推奨:CKD合併心不全患者での有益性を示唆するエビデンスは認めるが、eGFR 20mL/分/1.73m2未満のRCTでのエビデンスはない。eGFR 20mL/分/1.73m2以上に限って条件付きで推奨する(エビデンスレベル:C[弱])。・CQ2:フレイル合併心不全患者へのSGLT2阻害薬の投与開始は推奨されるか?推奨:弱く推奨する(エビデンスレベル:C[弱])。・CQ3:代償期の心不全患者に対する水分制限を推奨すべきか?推奨:1日水分摂取量1~1.5Lを目標とした水分制限を弱く推奨する(エビデンスレベル:A[弱])。■参考文献1)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.2)Kitai T, et al. Circ J. 2025 Mar 28. [Epub ahead of print]3)Kitai T, et al. J Card Fail. 2025 Mar 27. [Epub ahead of print]4)Bozkurt B, Coats AJS, Tsutsui H, et al. Eur J Heart Fail. 2021;23:352-380.5)日本心不全学会. 血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版.6)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈治療.(ケアネット 古賀 公子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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食物繊維の摂取による肥満リスク低下、男性でより顕著?

 2型糖尿病患者で、食物繊維の摂取量が多いほど肥満リスクが低下することが明らかになった。新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野のEfrem d'Avila Ferreira氏、曽根博仁氏らの研究によるもので、詳細は「Public Health Nutrition」に2月4日掲載された。 肥満の予防と管理においては、食物繊維が重要な役割を果たすことは示されているが、性別で層別化した場合に相反する結果が報告されるなど、一貫したエビデンスは得られていない。このような背景からFerreira氏らは、日本人の2型糖尿病患者集団を性別・年齢別に層別化し、食物繊維摂取量と肥満との関連を検討した。さらに、この関連に寄与する可能性のある生活および食習慣についても検討を行った。 この横断研究では、一般社団法人糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)のデータが用いられた。対象は、2014年12月~2019年12月の期間に、JDDMに参加する日本の糖尿病専門医クリニックで治療を受けた30~89歳までの外来患者とした。解析対象は1,565名(平均年齢62.3±11.6歳、男性63.1%)だった。 参加クリニックでは、希望する外来患者に対して、JDDMの開発した生活習慣に関するアンケートを実施。患者は身長・体重を自己申告し、食習慣については、それぞれ食物摂取頻度調査票(FFQ)に記入してもらった。栄養素および食品の摂取量は標準化された栄養計算ソフトウェアで計算し、1日当たりの摂取量が600kcal以下または4,000kcal以上の場合は外れ値として解析から除外した。身体活動は国際標準化身体活動質問表(IPAQ)の短縮版を用いて計算した。肥満の定義は日本肥満学会に従い、BMIが25kg/m2以上とした。 性別・年齢およびライフスタイル要因、主要栄養素の摂取量を調整した多変量解析を行った結果、全患者において食物繊維の摂取量が多いほど肥満リスクが低下することが明らかになった(オッズ比OR 0.591〔95%信頼区間0.439~0.795〕、P trend=0.002)。層別解析では、男性(P trend=0.002)および59~68歳群(P trend=0.038)で有意な逆相関の傾向が認められ、69~89歳群(P trend=0.057)でも有意傾向がみられた。一方で女性(P trend=0.338)および30~58歳群(P trend=0.366)では逆相関の傾向は認められなかった。また、男性では食物繊維の摂取量が多いほど、ライフスタイルが健康的であることも分かった。その特徴として、身体活動レベルが高いこと(p<0.001)や、喫煙率の低さ(p<0.001)が挙げられる。 食物繊維摂取量と食品群との相関関係をみると、全患者において、野菜、果物、大豆/大豆製品が強い相関を示したが、穀物は弱い相関を示した。ビタミンおよびミネラルの場合は、葉酸、カリウム、ビタミンCなどが食物繊維の摂取量と強い相関を示していた。 研究グループは本研究について、横断研究であり、日本人の2型糖尿病患者集団のみを対象としたことからも一般化できないといった限界点を挙げた上で、「肥満を効果的に管理するには、食物繊維の豊富な様々な食品を推進するような的を絞った取り組みが必要。また、多様な集団における食物繊維と肥満の関係を理解するには、さらなる研究が必要と考える」と総括している。

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フィネレノン、2型DMを有するHFmrEF/HFpEFにも有効(FINEARTS-HFサブ解析)/日本循環器学会

 糖尿病が心血管疾患や腎臓疾患の発症・進展に関与する一方で、心不全が糖尿病リスクを相乗的に高めることも知られている。今回、佐藤 直樹氏(かわぐち心臓呼吸器病院 副院長/循環器内科)が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials1においてフィネレノン(商品名:ケレンディア)による、左室駆出率(LVEF)が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者の入院および外来における有効性と安全性について報告。その有効性・安全性は、糖尿病の有無にかかわらず認められることが明らかとなった。 FINEARTS-HF試験は、日本を含む37ヵ国654施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験で、40歳以上、症状を伴う心不全、LVEF40%以上の患者6,001例が登録された。今回のサブ解析において、ナトリウム利尿ペプチドの上昇、構造的心疾患の証拠、血清カリウム5.0mmol/L以下、およびeGFR25mL/分/1.73m2以上の基準が含まれた。主要評価項目は心血管死と全心不全イベントの複合で、副次評価項目は全心不全イベント、複合腎機能評価項目、全死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は72±10歳、女性は46%、NYHA心機能分類IIは69%、平均LVEFは53±8%(範囲:34~84)、平均eGFRは62mL/分/1.73m2であった。・参加者の糖尿病の既往について、2型糖尿病と報告されていたのが41%、HbA1c値で判断された糖尿病または前糖尿病状態が約80%を占めていた。・糖尿病患者のLVEFについて、約36%は50%未満、約45%は50~60%未満、19%は60%以上であった。・主要評価項目の心血管死および全心不全イベントの複合について、フィネレノン群は16%低下させた。・糖尿病患者は、前糖尿病または正常血糖値の患者と比較して、心血管死および総心不全イベントリスクが有意に高いことが示されたが、フィネレノン群はプラセボ群と比較し、HFmrEF/HFpEF患者における糖尿病の新規発生を25%低下させた。・フィネレノン群はベースラインのHbA1c値にかかわらず、心血管および全心不全イベントのリスクを一貫して減少させた。・参加者のうち、フィネレノン群の併用薬は、β遮断薬(85%)、ACE阻害薬/ARB(71%)、ARNI(約9%)、ループ利尿薬(87%)、SGLT2阻害薬(約14%)などがあり、フィネレノン群ではSGLT2阻害薬の併用にかかわらず、主要評価項目のリスクを低下させた(SGLT2阻害薬併用群のハザード比[HR]:0.83[95%信頼区間[CI]:0.80~1.16]、SGLT2阻害薬非併用群のHR:0.85[95%CI:0.74~0.98]、p=0.76)。・BMI別の解析において、BMI高値においてより効果が強く認められるものの、有意な交互作用は認められず、フィネレノン群は各BMI層(25以上、30以上、35以上、40以上)で全心不全イベントの発症を低下させた。・安全性については、フィネレノン群において血清クレアチニン値およびカリウム値の有意な上昇例が多く、収縮期血圧低下例も多かったが、糖尿病の有無による相違は認めなかった。フィネレノンにより、BMIが高い患者はBMIが低い患者と比較し、血清カリウム値および収縮期血圧の低下の程度が軽微な傾向を示したが、安全性についてBMIの相違は認められなかった。 最後に佐藤氏は、「フィネレノンによる糖尿病の新規発症リスクを減少させるメカニズムは完全には解明されていないが、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の種類による選択性および親和性、それに伴う炎症や線維化の抑制、神経体液性因子の修飾などが関与している可能性が示唆される」とコメントした。 なお、本学会で発表された『心不全診療ガイドライン2025年改訂版』において、症候性HFmrEF/HFpEFにおける心血管死または心不全増悪イベント抑制を目的とした薬物治療に対してフィネレノンの推奨(クラスIIa)が世界で初めて追加されている。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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日本人へのbempedoic acid、LDL-C20%超の低下を認める(CLEAR-J)/日本循環器学会

 スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐の高コレステロール血症の日本人患者に対する12週後のbempedoic acidの安全性と有効性が明らかになった―。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Studies2において山下 静也氏(りんくう総合医療センター 理事長)が発表し、Circulation Journal誌2025年3月28日号に同時掲載された。 本研究は、bempedoic acid 180mgを12週投与した場合のプラセボに対する優位性を確認したプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間第III相試験(NCT05683340)。高コレステロール血症患者のうち、18~85歳、スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクを有し2017年のLDLコレステロール(LDL-C)基準を達成していない、日本人患者を対象(ホモ接合体家族性高コレステロール血症[FH]、妊娠または授乳中、3ヵ月以内にASCVDを発症した患者は除外)とし、国内28施設の96例をbempedoic acid群あるいは対照群に1:1に割り付けた。主要評価項目はベースラインから12週のLDL-Cの変化率。副次評価項目は有効性(非HDLコレステロール[non-HDL]、総コレステロール[TC]、apoB、高感度C反応性蛋白[hsCRP]の12週の変化率、およびLDL-C目標達成率)と安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・両群の患者特性は、平均年齢64歳、約50%が男性、平均BMIは約24kg/m2、約20%はヘテロ接合体FH、約30%がASCVDであった。また、スタチンで効果不十分な患者は75%、スタチン不耐は25%であった。・12週時のLDL-C変化率はbempedoic acid群で-25.25%、対照群で-3.46%となり、その群間差(95%信頼区間[CI])は-21.78%(-26.71~16.85)で統計学的に有意差が認められ(p<0.001)、その変化は投与2週目から有意な低下が認められ、12週まで持続した。・スタチン効果不十分例(-20.17%[95%CI:-25.82~-14.53])とスタチン不耐例(-25.77%[-36.61~-14.92])のいずれにおいてもその効果が認められた。・副次評価項目の1つであるhsCRPの群間差(95%CI)は-26.6%(-47.8~-5.4)で統計学的に有意差が認められた。これは既知の報告と一貫性のある結果となった。・安全性について、治療中に発現した有害事象(TEAE)はbempedoic acid群で3例、対照群で2例が報告されたが、両群で死亡または重篤なTEAEはみられなかった。bempedoic acid(ベムペド酸)とは bempedoic acidは肝臓中のクエン酸分解酵素であるATPクエン酸リアーゼに作用することでコレステロール合成経路を阻害してLDL-Cを低下させる。この薬剤を活性化体へ変化させるACSVL1は、主に肝臓に発現し、筋肉への発現がないことから、スタチンのように筋症状が出現しない点が特徴である。日本国内では、2024年11月26日に大塚製薬が「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」の適応で製造販売承認申請を行っており、国内での承認・発売が待たれるところである。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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ビタミンBが影響を及ぼす神経精神疾患〜メタ解析

 最近、食事や栄養が身体的および精神的な健康にどのような影響を及ぼすかが、注目されている。多くの研究において、ビタミンBが神経精神疾患に潜在的な影響を及ぼすことが示唆されているが、ビタミンBと神経精神疾患との関連における因果関係は不明である。中国・Shaoxing Seventh People's HospitalのMengfei Ye氏らは、ビタミンBと神経精神疾患との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)メタ解析を実施した。Neuroscience and Biobehavioral Reviews誌2025年3月号の報告。 本MRメタ解析は、これまでのMR研究、UK Biobank、FinnGenのデータを用いて行った。ビタミンB(VB6、VB12、葉酸)と神経精神疾患との関連を調査した。 主な内容は以下のとおり。・MR分析では、複雑かつ多面的な関連性が示唆された。・VB6は、アルツハイマー病の予防に有効であったが、うつ病および心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスク上昇の可能性が示唆された。・VB12は、自閉スペクトラム症(ASD)の予防に有効であったが、双極症リスクを上昇させる可能性が示唆された。・葉酸は、アルツハイマー病および知的障害に対する予防効果が示唆された。・メタ解析では、ビタミンBは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの特定の神経精神疾患の予防に有効であるが、不安症や他の精神疾患のリスク因子である可能性が示唆された。・サブグループ解析では、VB6は、てんかんおよび統合失調症の予防に有効であるが、躁病リスク上昇と関連していた。・VB12は、知的障害およびASDの予防に有効であるが、統合失調症および双極症のリスク上昇と関連していた。・葉酸は、統合失調症、アルツハイマー病、知的障害の予防に有効である可能性が示唆された。 著者らは「これらの知見は、ビタミンBのメンタルヘルスに対する影響は複雑であり、さまざまな神経精神疾患に対して異なる影響を及ぼすことが示唆された。このような複雑な関連は、神経精神疾患に対する新たな治療法の開発において、パーソナライズされた治療サプリメントの重要性を示している」と結んでいる。

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第259回 脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定

脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定脳がとりわけ早く老化することと7つの遺伝子がどうやら強く関連し、それらの影響を抑制しうる薬やサプリメントが見出されました。生まれてからどれだけの月日が過ぎたかを示す実年齢とMRI写真を人工知能(AI)技術で解析して推定しうる脳年齢の乖離、すなわち脳年齢のぶれ(brain age gap)は、脳がどれだけ健康かを示す指標として有望視されています。中国の浙江大学のZhengxing Huang氏とそのチームは、脳年齢のぶれを指標にして脳老化の原因となりうる遺伝子を見つけ、それら遺伝子を標的として抗老化作用を発揮しうる薬やサプリメント13種を同定しました1)。Huang氏らはUK Biobankの3万人弱(2万9,097人)のMRI情報を利用してAI技術の一種である深層学習の最新版7つをまず比較し、それらの1つの3D-ViTが脳年齢をより正確に推定しうることを確認しました。3D-ViTが同定しうる脳年齢加速兆候はレンズ核と内包後脚にとくに表れやすく、脳年齢のぶれが大きくなるほど被験者の認知機能検査の点数も低下しました。レンズ核は注意や作業記憶などの認知機能に携わり、内包後脚は大脳皮質の種々の領域と繋がっています。続いて脳年齢のぶれと関連する遺伝子を探したところ、手出しできそうな64の遺伝子が見つかり、それらのうちの7つは脳の老化の原因として最も確からしいと示唆されました。先立つ臨床試験を調べたところ、薬やサプリメントの13種がそれら7つの遺伝子の相手をして抗老化作用を発揮しうることが判明しました。ビタミンD不足へのサプリメントのコレカルシフェロール、ステロイド性抗炎症薬のヒドロコルチゾン、非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナク、オメガ3脂肪酸のドコサヘキサエン酸(doconexent)、ホルモン補充療法として使われるエストラジオールやテストステロン、子宮頸管熟化薬のprasterone、降圧薬のmecamylamine、赤ワインの有益成分として知られるレスベラトロール、免疫抑制に使われるシロリムス、禁煙で使われるニコチンがそれら13種に含まれます2)。特筆すべきことに、サプリメントとして売られているケルセチンと白血病治療に使われる経口薬ダサチニブも含まれます。ダサチニブとケルセチンといえば、その組み合わせで老化細胞を除去しうることが知られており、軽度認知障害があってアルツハイマー病を生じる恐れが大きい高齢者12例が参加したSTAMINAという名称の予備調査(pilot study)では有望な結果が得られています。結果はこの2月にeBioMedicine誌に掲載され、ダサチニブとケルセチンが安全に投与しうることが示されました3)。また、遂行機能や認知機能の改善が示唆されました。結果は有望ですが、あくまでも極少人数の試験結果であって、たまたま良い結果が得られただけかもしれません。その結果の確かさや老化細胞除去治療の可能性のさらなる検討が必要と著者は言っています4)。参考1)Yi F, et al. Sci Adv. 2025 Mar 14;11:eadr3757.2)The 13 drugs and supplements that could slow brain ageing / NewScientist 3)Millar CL, et al. eBioMedicine. 2025;113:105612. 4)Pilot study hints at treatment that may improve cognition in older adults at risk for Alzheimer’s disease / Eurekalert

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カルシウム摂取が多いほど大腸がんリスク低下

 カルシウム摂取が大腸がんのリスク低下と関連するとの報告があるが、この関連がカルシウム源や腫瘍部位によって異なるかは明らかではない。さらに、人種や民族によるカルシウム摂取量の差が大腸がんリスクに与える影響も不明である。米国・Division of Cancer Epidemiology and Genetics, National Cancer InstituteのSemi Zouiouich氏らはカルシウムの摂取源と腫瘍部位を考慮し、人種や民族を超えたカルシウム摂取と大腸がんリスクとの関連を調査した。本研究の結果はJAMA Network Open誌2025年2月17日号に掲載された。 米国国立衛生研究所の「NIH-AARP食事と健康研究」のデータを分析した。参加者はベースライン(1995年10月~1996年5月)時点での年齢が50~71歳、自己申告による健康状態が良好で、カロリーやカルシウム摂取量が極端に多過ぎず少な過ぎない人であり、最初の原発がん診断、死亡、追跡不能、または終了日(2018年12月31日)まで追跡調査された。データは2022年4月~2024年4月に分析された。カルシウム摂取量は、アンケート回答による摂取源(乳製品および非乳製品)、サプリメントの総摂取量から推定し、主要アウトカムは大腸がんの発生率だった。 主な結果は以下のとおり。・参加者はベースライン時点でがんのない47万1,396例で、平均年齢62.0(SD 5.4)歳、59.5%が男性だった。733万9,055人年の追跡調査(中央値18.4年[IQR:9.2~22.5年])中に1万618例の初発大腸がんが確認された。・総カルシウム摂取量について、最低五分位(Q1)の平均は女性401mg/日(SD 104mg/日)、男性407mg/日(95mg/日)であり、最高五分位(Q5)では女性2,056mg/日(412mg/日)、男性1,773mg/日(444mg/日)だった。・総カルシウム摂取源の平均の内訳は、乳製品42.1%、非乳製品34.2%、サプリメント23.7%だった。・総カルシウム摂取量の増加(Q5 vs.Q1)は大腸がんリスクの低下と関連しており(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.65~0.78、p<0.001)、摂取源および腫瘍部位(近位大腸、遠位大腸、直腸)にかかわらず、一貫した結果が得られた。・カルシウム摂取量が1日当たり300mg増えるごとに、大腸がんリスクは総摂取量で8%、食事由来で10%、サプリメント由来で5%減少した。とくに黒人ではそれぞれ32%、36%、19%減少した。 研究者らは「本コホート研究では、カルシウム摂取量の増加は、腫瘍部位および摂取源にかかわらず、大腸がんリスクの低下と一貫して関連していた。とくに摂取量が少ないグループにおいてカルシウム摂取量を増やすことで、回避可能な大腸がんリスクを低減できる可能性がある」としている。

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クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─【とことん極める!腎盂腎炎】第13回

クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─Teaching point(1)クランベリーが尿路感染症を予防するという研究結果はたしかに存在するが、確固たるものではない(2)本人の嗜好と経済的事情が許すならクランベリージュースを飲用してもらってもよい(3)クランベリージュース以外の尿路感染症の予防方法を知っておく《症例》28歳女性、独身、百貨店の販売員。これまでに何度も排尿時痛や頻尿などの症状で近医受診歴があり、「膀胱炎」と診断され、その都度、経口抗菌薬の処方を受け治療されている。昼前から排尿時痛があり、「いつもと同じ」膀胱炎だろうと思って経過をみていたところ、夕方にかけて倦怠感とともに37.5℃の発熱を認めるようになったため当院の時間外外来を受診した。来院時38.0℃の発熱あり。左肋骨脊柱角に圧痛(CVA叩打痛)を認める。血液検査:WBC 12,000/μL(Neu 85%)、CRP 3.5mg/dLと炎症反応上昇あり。尿検査:WBC(+++)、亜硝酸塩(+)。一般的身体所見、血算・生化学検査では、それ以外の特記所見に乏しい。1.クランベリーとは?クランベリーとはツツジ科スノキ属ツルコケモモ亜属(Oxycoccos)に属する常緑低木の総称であり、Vaccinium oxycoccus(ツルコケモモ)、V. macrocarpon(オオミツルコケモモ)、V. microcarpum(ヒメツルコケモモ)、V. erythrocarpum(アクシバ)の4種類がある。北米原産三大フルーツの1つである酸味の強い果実は、菓子やジャム、そしてジュースによく加工され食用される。古くから尿路感染症予防の民間療法として使用されており、1920年代にはその効果は尿路の酸性化による結果と考えられていたが、クランベリーに含まれるA型プロアントシアニジンという物質がどうやら尿路上皮への細菌の付着を阻害しているらしいということが1980年代に明らかにされた1)。またクランベリーに含まれるD-マンノースもまた、細菌と結合することで尿路上皮への菌の付着を抑制することが知られている。2.クランベリーは尿路感染を予防するのか?クランベリーが尿路感染やその再発を予防するのかというテーマについては、これまで数多くの研究がなされてきた。まず、有効成分の1つである先述のD-マンノースを内服することが再発性尿路感染症の発生率が低下させると、ランダム化比較試験で証明されている2)。クランベリーそのものに関しては、プラセボに比して予防に効果的という結果が得られた研究もあれば、影響を与えないとする研究結果もあり、議論が分かれているところである。系統的レビューによるメタアナリシスでも報告によって異なった結論が得られており、たとえば2012年に合計1,616例の研究結果をまとめたメタアナリシスではクランベリー製品は有意に尿路感染の再発を減らすと報告している3)。半年間の飲用によるリスク比0.6、治療必要数(NNT)は11と推算されている。一方で、同じ2012年にアップデートされたコクランレビューでは4,473例が対象になっているが、プラセボや無治療に比してクランベリー製品は尿路感染症を減らすことはしないとし、尿路感染症予防としてのクランベリージュース飲用は推奨しないと結論づけられた4)。しかし2023年にアップデートされたバージョンでは、50件の研究から合計8,857例がレビューの対象となり、メタ解析の結果、クランベリー製品の摂取によって尿路感染リスクが有意に低減する(相対リスク:0.70、95%信頼区間:0.58~0.84)ことが明らかにされた。とくに、再発性尿路感染症の女性、小児、尿路カテーテル留置状態など尿路感染リスクを有する患者において低減するとされ、逆に、施設入所の高齢者、妊婦などでは有意差は得られなかった5)。わが国で行われたクランベリージュースもしくはプラセボ飲料125mLを毎日眠前に24週間内服して比較した多施設共同・ランダム化二重盲検試験の結果では、50歳以上の集団を対象としたサブ解析では有意な再発抑制効果がクランベリージュースに認められた(ただし、若年層の組み入れが少なかったためか全体解析では有意差が出なかった)6)。尿路感染症の再発歴がある患者が比較的多く含まれたことも有意差がついた要因の1つと考えられ、そうしたことを踏まえると、再発リスクが高い集団においてはクランベリージュースの感染予防の効果がある可能性があると思われる。米国・FDAも、尿路感染既往がある女性が摂取した際に感染症の再発リスクが低下する可能性があるとクランベリーサプリの製品ラベルへ掲載することを2020年に許可しており、日本の厚生労働省公式の情報発信サイトにもそのことが掲載されている7)。再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことは、プライマリ・ケア医の重要な役割である。3.クランベリー摂取の副作用大量に摂取した場合、とくに低年齢児では嘔気や下痢を招く可能性がある。また、シュウ酸結石を生じるリスクになるともいわれている。しかし一般的には安全と考えられており7)、日本の研究でもクランベリー飲用の有害事象としては107人中1人のみ、初回飲用後の強いやけど感を自覚しただけであった6)。先に紹介したレビューでも、最頻の副作用は胃もたれなどの消化器症状であったが、対照群に比較して有意に増加はしなかった5)。クランベリー摂取により問題となる副作用はあまりないと思われ、そうすると、クランベリーを尿路感染再発予防目的で飲用するべきかどうかは、本人の嗜好や経済的余裕などによって決まると思われる。4.クランベリー以外での再発予防とくに女性では尿路感染症を繰り返す症例があるが、そうした再発例に対しては、飲水励行の推奨や排便後の清拭方法の指導(肛門部に付着する細菌の尿路への移行を防ぐために尿道口から肛門に向けて拭く)に代表される行動療法が推奨される(第11回参照)。それでも無効な場合は予防的抗菌薬投与の適応になりえ、数ヵ月から年単位で継続する方法と、性交渉後にのみ服薬する方法が一般的である。性交渉後に急性単純性膀胱炎を起こすことはよく知られており、抗菌薬の連日投与でなくても、セファレキシン、ST合剤、フルオロキノロンなどを性交渉後の単回内服するだけでも尿路感染症の予防に有効であることが示されている8)。再発性尿路感染症を呈する高齢者においても、予防的抗菌薬の内服が尿路感染症の発症予防に効果があるとされている9)。また、閉経後の女性では局所エストロゲン療法が尿路感染の再発予防に有効であるといわれている10)。《症例(その後)》腎盂腎炎と診断し、血液・尿培養採取のうえで、点滴抗菌薬加療を開始して入院とした。翌日には解熱、入院5日後に血液検査での炎症反応のpeak outと血液培養からの菌発育がないことを確認でき、尿培養から感受性良好な大腸菌(Escherichia coli)が同定されたため、内服抗菌薬にスイッチして退院とする方針とした。これまでに何度も膀胱炎になっているとのことで、再発性の尿路感染症と考えてリスク因子がないか確認したところ、販売員をしているため日中の尿回数を減らすべく、出勤日は飲水量を減らすように心がけているということであった。尿量・尿回数の減少が尿路感染症のリスクになるため飲水励行が勧められること、度重なる抗菌薬加療が将来的な耐性菌の出現を招くことによる弊害、会陰部を清潔に保つことが重要であることの説明に加え、排便後の清拭方法の一般的な指導を退院時に行った。クランベリージュースは話題には出してみたものの、ベリー系果実はあまりお好きではないとのだったので強くお勧めはしなかった。それでもなお尿路感染を繰り返すようであれば、さらなる予防策を講じる必要があると判断して、3ヵ月後に確認したところ、その後、膀胱炎症状はなく経過しているということであり終診とした。1)Howell AB, et al. Phytochemistry. 2005;66:2281-2291.2)Kranjcec B, et al. World J Urol. 2014;32:79-84.3)Wang CH, et al. Arch Intern Med. 2012;172:988-996.4)Jepson RG, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;10:CD001321.5)Williams G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2023;4:CD001321.6)Takahashi S, et al. J Infect Chemother. 2013;19:112-117.7)厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト):「クランベリー」8)日本排尿機能学会, 日本泌尿器科学会 編. 女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]. リッチヒルメディカル;2019.9)Ahmed H, et al. Age Ageing. 2019;48:228-234.10)Chen YY, et al. Int Urogynecol J. 2021;32:17-25.

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脳の健康維持のために患者と医師が問うべき12の質問とは?

 米国神経学会(AAN)の「脳の健康イニシアチブ(Brain Health Initiative)は、人生のあらゆる段階において脳の健康に影響を与える12の要因についてまとめた論文を、「Neurology」に2024年12月16日発表した。論文には、神経科医が患者の脳の健康を向上させるために活用できる、スクリーニング評価や予防的介入の実践的アプローチに関する内容も含まれている。 脳の健康に関わる12の要因、およびそれを評価するための質問は、以下の通りである。これらについて自分自身に問うとともに、医師とも話し合うとよいだろう。1. 睡眠:「睡眠により十分に体を休めることができていますか?」 日中の眠気、シフトワークの影響、夜間の痛み、不眠症、昼寝の習慣などについて医師と話し合おう。2. 感情、気分、メンタルヘルス:「自分の感情、気分、ストレスについて心配がありますか?」 医師は患者の抑うつや不安を評価するべきだが、患者が自分から相談できるよう準備しておくことも大切だ。3. 食品、食事、サプリメント:「十分な量の食品や健康的な食事の確保に心配がありますか?サプリメントやビタミンの摂取について聞きたいことはありますか?」4. 運動:「生活の中に運動を取り入れられていますか?」 身体活動に加え、動き、バランス、自立性を維持する方法について医師と相談しよう。5. 支えとなる社会的つながり:「親しい友人や家族と定期的に連絡を取り合っていますか?周りの人から十分なサポートを受けていますか?」6. 事故や外傷の回避:「運転時にシートベルトやヘルメットを着用していますか?子どもがいる人はチャイルドシートを使用していますか?」 職業上のリスクがある人は、それについて話し合うことも重要だ。7. 血圧:「自宅で高血圧に気付いたり、病院で高血圧を指摘されたりしたことはありますか?血圧の治療や家庭用血圧計について疑問がありますか?」 高血圧の二次的原因や薬と血圧の関係について医師に相談しよう。8. 遺伝的リスクと代謝的リスク:「血糖値やコレステロール値のコントロールに問題がありますか?神経疾患の家族歴がありますか?」 遺伝的リスクを調べて認識し、必要に応じて脂質や糖尿病の管理、健康的な体重の維持について質問すること。9. 医療のアフォーダビリティ(支払いのしやすさ)とアドヒアランス:「薬代が大きな負担になっていませんか?」 保険の支払いに関わり得る年齢の変化については医師が確認を取るはずだが、保険内容に変更がある場合は必ず医師に伝えること。10. 感染症:「ワクチンは最新のものを接種していますか?また、それらのワクチンについて十分な情報を持っていますか?」11. 悪影響のある曝露:「喫煙、1日に1~2杯以上の飲酒、市販薬の使用、井戸水の摂取、空気や水の汚染が知られている地域に居住、これらの中に該当するものはありますか?」 毎回の診察は、喫煙、飲酒、市販薬の使用に関する問題を評価する機会となる。12. 健康の社会的決定要因:「住居、交通手段、医療や医療保険へのアクセス、身体的または精神的な安全性について心配がありますか?」 この論文の筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のLinda Selwa氏は、「科学的研究への資金提供や医療へのアクセス改善などに向けた神経科医の継続的な取り組みは、国家レベルで脳の健康を改善する。われわれの論文は、脳の健康を個人レベルで改善する方法が数多くあることを示している。新年に脳の健康改善を決意することは、素晴らしい第一歩だ」とAANのニュースリリースで述べている。

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2型糖尿病患者はビタミン、ミネラルが不足している

 2型糖尿病患者の半数近くが、微量栄養素不足の状態にあるとする論文が、「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に1月29日掲載された。国際健康管理研究所(インド)のDaya Krishan Mangal氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、特に、ビタミンD、マグネシウム、鉄、ビタミンB12の不足の有病率が高いという。研究を主導した同氏は、「この結果は2型糖尿病患者における、栄養不良の二重負荷の実態を表している」と述べ、糖尿病治療のための食事療法が栄養不良につながるリスクを指摘している。 この研究では、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、Embase、ProQuest、PubMed、Scopus、コクランライブラリ、およびGoogle Scholarといった文献データベースを用いた検索が行われた。また、灰色文献(学術的ジャーナルに正式に発表されていない報告書や資料など)も、包括基準(2型糖尿病患者〔合併症の有無は問わない〕でのランダム化比較試験、縦断研究、横断研究、コホート研究)に照らし合わせて採用した。なお、1型糖尿病や妊娠糖尿病、18歳未満の2型糖尿病での研究、症例報告、レビュー論文などは除外した。 2人の研究者が独立してスクリーニング等を行い、最終的に132件(研究対象者数は合計5万2,501人)の報告を抽出した。メタ解析の結果、2型糖尿病患者における微量栄養素不足の有病率は45.30%(95%信頼区間40.35~50.30)と計算された。性別にみると、男性の42.53%(同36.34~48.72)に対して女性は48.62%(42.55~54.70)であり、女性の方が高値を示した。 微量栄養素不足の分布を正規分布に近づけるための統計学的処理の後、不足の有病率が最も高い微量栄養素はビタミンD(60.45%〔55.17~65.60〕)で、次いでマグネシウムが(41.95%〔27.68~56.93〕)であり、鉄が27.81%(7.04~55.57)、ビタミンB12が22.01%(16.93~27.57)だった。これらのうちビタミンB12については、メトホルミンが処方されている患者に限ると、26.85%(19.32~35.12)とより高値となった。 以上の結果に基づき著者らは、「2型糖尿病の食事療法では、エネルギー出納や主要栄養素の摂取量を重視する傾向がある。しかし本研究によって、いくつかの微量栄養素不足の有病率が高いことが明らかになった。栄養バランスを総合的に把握した上での最適化が、常に優先されるべきであることを再認識する必要がある」と総括している。 また、代謝にはさまざまな栄養素が関わっているため、微量栄養素の不足が糖尿病を悪化させたり、糖尿病以外の健康問題を引き起こしたりすることもあるという。さらに、「微量栄養素の不足は糖代謝とインスリンシグナル伝達経路に影響を及ぼし、2型糖尿病の発症と進行につながることも考えられる」と述べ、栄養不良自体が2型糖尿病の潜在的なリスク因子である可能性を指摘している。

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適切な感染症管理が認知症のリスクを下げる

 認知症は本人だけでなく介護者にも深刻な苦痛をもたらす疾患であり、世界での認知症による経済的損失は推定1兆ドル(1ドル155円換算で約155兆円)を超えるという。しかし、現在のところ、認知症に対する治療は対症療法のみであり、根本療法の開発が待たれる。そんな中、英ケンブリッジ大学医学部精神科のBenjamin Underwood氏らの最新の研究で、感染症の予防や治療が認知症を予防する重要な手段となり得ることが示唆された。 Underwood氏によると、「過去の認知症患者に関する報告を解析した結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の使用は、いずれも認知症リスクの低下と関連していることが判明した」という。この研究結果は、同氏を筆頭著者として、「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に1月21日掲載された。 認知症の治療薬開発には各製薬企業が注力しているものの、根本的な治療につながる薬剤は誕生していない。このような背景から、認知症以外の疾患に使用されている既存の薬剤を、認知症治療薬に転用する研究が注目を集めている。この方法の場合、薬剤投与時の安全性がすでに確認されているので、臨床試験のプロセスが大幅に短縮される可能性がある。 Underwood氏らは、1億3000万人以上の個人、100万症例以上の症例を含む14の研究を対象としたシステマティックレビューを行い、他の疾患で使用される薬剤の認知症治療薬への転用可能性について検討を行った。 文献検索には、MEDLINE、Embase、PsycINFOのデータベースを用いた。包括条件は、成人における処方薬の使用と標準化された基準に基づいて診断された全原因認知症、およびそのサブタイプの発症との関連を検討した文献とした。また、認知症の発症に関連する薬剤(降圧薬、抗精神病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬など)と認知症リスクとの関連を調べている文献は除外した。 検索の結果、4,194件の文献がヒットし、2人の査読者の独立したスクリーニングにより、最終的に14件の文献が抽出された。対象の文献で薬剤と認知症リスクとの関連を調べた結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬が認知症リスクの低減に関連していることが明らかになった。一方、糖尿病治療薬、ビタミン剤・サプリメント、抗精神病薬は認知症リスクの増加と関連していた。また、降圧薬と抗うつ薬については、結果に一貫性がなく、発症リスクとの関連について明確に結論付けられなかった。 Underwood氏は、「認知症の原因として、ウイルスや細菌による感染症が原因であるという仮説が提唱されており、それは今回得られたデータからも裏付けられている。これらの膨大なデータセットを統合することで、どの薬剤を最初に試すべきかを判断するための重要な証拠が得られる。これにより、認知症の新しい治療法を見つけ出し、患者への提供プロセスを加速できることを期待する」と述べた。 また、ケンブリッジ大学と共同で研究を主導した英エクセター大学のIlianna Lourida氏は、ケンブリッジ大学のプレスリリースの中で、「特定の薬剤が認知症リスクの変化と関連しているからといって、それが必ずしも認知症を引き起こす、あるいは実際に認知症に効くということを意味するわけではない。全ての薬にはベネフィットとリスクがあることを念頭に置くことが重要である」と付け加えている。

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あなたのプロテインは安全? 重金属汚染の可能性

 米国のプロテイン・サプリメント市場規模は、2023年に97億ドル(1ドル155円換算で約1兆5000億円)を突破した。しかし、広く消費される市販のプロテインパウダーは、あなたが思っているほど健康的ではないかもしれない。 米国の非営利組織Clean Label Project(CLP)は最新の調査結果の中で、「ポピュラーなプロテインパウダー(特に植物性の製品、オーガニック製品、チョコレート風味の製品)には、高レベルの鉛とカドミウムが含まれている可能性がある」と報告した。鉛には人体に安全な濃度はなく、カドミウムは発がん性物質であることが知られている。 今回の調査では、市場シェアの83%を占めるトップブランド70社の160製品を検査した(ブランド名は非公開)。これらの製品について、重金属やビスフェノールA(BPA)のような内分泌かく乱物質を含む汚染物質258項目、3万5,862件の検査を行った。 その結果、製品全体の47%がカリフォルニア州の厳格な化学物質規制法であるプロポジション65(CA Prop 65)を含む、連邦または州の安全性規制値のいずれか一つを超えていた。さらに対象製品の21%に、CA Prop 65での規制値の2倍以上の鉛が含まれていた。 製品のカテゴリー別の検査結果を比較すると、次のことが明らかになった。・大豆などを原料とする植物性プロテインパウダーは、チーズ製造の副産物である乳清(ホエイ)を原料とする製品と比べ、鉛が約3倍、カドミウムが約5倍多く含まれていた。・オーガニックのプロテインパウダーには、非オーガニック製品に比べて、鉛が3倍、カドミウムが2倍多く含まれていた。・チョコレート味のプロテインパウダーには、バニラ味の製品に比べて、鉛が4倍、カドミウムが110倍も多く含まれていた。 植物は本来、土壌や水から重金属を吸収するが、産業廃棄物や鉱業、特定の農薬や肥料によって汚染された土壌で栽培された場合、重金属含有量がさらに増加する可能性がある。豊富なフラボノイドと抗酸化物質で知られるダークチョコレートも、鉛やカドミウムを含む重金属の濃度が高くなりやすい。 一方で、今回の調査では良いニュースも報告された。2018年に行われた調査では、調査対象製品の5%からBPAとその類似物質のビスフェノールS(BPS)が検出されたが、今回検査された160製品では、これらの物質が検出されたのは、わずか3製品(約1.9%)のみにとどまった。これは、消費者の要望とこの化学物質をめぐる論争に対する業界の対応が反映された結果といえる。 今回の調査では、内分泌かく乱物質で汚染されている製品は少なかったものの、重金属については、植物由来のプロテインパウダーでの汚染レベルが最も高く、乳清ベースの製品の汚染レベルは植物由来のプロテインパウダーよりも一貫して低いことが明らかになった。CLPのエグゼクティブディレクターJaclyn Bowen氏は、今回の調査結果について、「消費者が有害な汚染物質を避けながらプロテインパウダーを選択する際の参考になるかもしれない」と述べた。 また、Bowen氏は、「消費者は健康とパフォーマンスのためにプロテインやサプリメント製品を購入しており、その製品が安全であることを期待している。食品業界はその原材料の安全性について、透明性のある情報を消費者に示す義務がある」とも述べている。

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高齢者の卵摂取、多くても少なくてもダメ?

 卵の摂取量と70歳以上の高齢者の全死因死亡および死因別死亡との関連性を前向きに調査した結果、卵をまったく/まれにしか摂取しない群に比べて、週に1~6回摂取する群では全死因死亡および心血管疾患(CVD)死亡のリスクが低減したが、毎日摂取する群ではこの潜在的な有益性は認められなかったことを、オーストラリア・モナッシュ大学のHolly Wild氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年1月17日号掲載の報告。 卵摂取と健康との関係は広く研究されているが、その結果はしばしば矛盾しており、さらに65歳以上の高齢者におけるエビデンスは限られている。卵にはタンパク質のほか、ビタミンやミネラルなども豊富に含まれており、高齢者の重要な栄養供給源であることから、研究グループは卵摂取と高齢者の死亡との関連性を評価するために前向きコホート研究を実施した。 本研究では、オーストラリア居住者を対象とした高齢化に関する縦断コホート研究「ALSOP試験」の参加者である70歳以上の8,756例のデータを用いた。過去1年間の卵の摂取量を食物摂取頻度調査(FFQ)で聴取し、「まったく摂取しない/まれに摂取(月に0~2回)」、「毎週摂取(週に1~6回)」、「毎日摂取(毎日~1日に数回)」の3つのカテゴリーで解析した。卵摂取と死亡との関連をCox比例ハザード回帰分析により評価した。 主な結果は以下のとおり。●解析対象8,756例の年齢中央値は76.9±5.5歳、女性が54.0%であった。卵を毎日摂取していたのは2.6%、毎週摂取していたのは73.2%、まったく/まれにしか摂取していなかったのは24.2%であった。●追跡期間中央値5.9年で1,034例の全死因死亡(11.8%)が記録された。がん死亡は453例(5.2%)、CVD死亡は292例(3.3%)であった。●卵を毎週摂取する群では、まったく/まれにしか摂取しない群と比較して、全死因死亡リスクが15%低く、CVD死亡リスクが29%低かった。がん死亡では有意な関連は認められなかった。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -全死因死亡のHR:0.85、95%CI:0.74~0.98 -CVD死亡のHR:0.71、95%CI:0.54~0.91 -がん死亡のHR:0.93、95%CI:0.76~1.16●卵を毎日摂取する群では、まったく/まれにしか摂取しない群よりもいずれのリスクも高い傾向にあったが、有意な関連は認められなかった。 -全死因死亡のHR:1.20、95%CI:0.85~1.71 -CVD死亡のHR:1.43、95%CI:0.79~2.58 -がん死亡のHR:1.36、95%CI:0.82~2.27 研究グループは「これらの知見は、高齢者のためのエビデンスに基づいた食事ガイドラインの作成に有益であると考えられるが、関連性の根底にあるメカニズムをより理解するためにはさらなる縦断的研究が必要である」とまとめた。

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若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?【とことん極める!腎盂腎炎】第11回

若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?Teaching pointリスク因子を評価し適切な再発予防指導(飲水励行や排泄後の清拭など)までできるようになるはじめに女性は解剖学的に尿路感染症を起こしやすく、約3人に1人は24歳までに尿路感染症を少なくとも1回は経験する1)。尿路感染の既往をもつ女性のうち30〜44%が再発し、0.3〜7.6回/年生じるという報告もあり、生活の質(QOL)にかかわる重要な問題である2)。再発防止は本人のQOL維持、繰り返す抗菌薬曝露による耐性菌発生の予防の観点からも重要である。若い女性への尿路感染症の再発予防の生活指導方法について紹介する。1.若い女性の再発性尿路感染症のリスク因子閉経前の女性のリスク因子として、(1)性的活動の活発であること、(2)殺精子剤の使用、(3)新たな(1年以内の)性的パートナー、(4)尿路感染症の既往のある母親、(5)小児尿路感染症の既往がある。しかし、遺伝的な素因よりも性交や殺精子剤のリスクのほうが大きいとされ、行動への介入は予防可能なリスクとなる3)。2.再発予防への日常生活への指導防御機構とリスク因子を踏まえ予防的な介入を考えていく。本項では介入として日常生活への指導をまとめる(薬剤、サプリメントによる予防は第13回で紹介する)。日常生活への指導の有効性を裏づけるエビデンスは限られるが、介入によるリスクの低さから薬物などによる介入前に実践することが推奨されている。飲水量の増加は単施設であるがRCTで有効性が示されている4)。水分摂取量が少ない(1.5L/日未満)、再発性膀胱炎(3回以上繰り返す)を来たした成人女性において通常量の飲水に加えて、1.5L/日の追加飲水の介入を行ったところ非介入群と比較して、膀胱炎の発症が1年あたり1.5回減少した(1.7回[95%信頼区間[CI]:1.5~1.8]vs. 3.2回[95%CI:3.0~3.4])。筆者はさらに飲水行動について詳しく問診するようにしている。飲水量が少なかった場合、「なぜ飲水量が少ないか」を聞くとさらに背景に迫れることがある。気軽に排泄に行きづらい職場環境(例:コンビニ店員でトイレに行くタイミングがないなど)が背景にあり飲水を控えているというケースも経験する。その場合は、職場環境改善への働きかけなどに協力してあげることも大切となる。また、性交や殺精子剤は尿路感染症のリスク因子であり、性交を減らすことや殺精子剤を含む避妊具を避けることを、本人やパートナーとカウンセリングを行うこともリスクを減らすと期待される。その他、明確な関連は示されていない個別での相談や効果を評価する指導内容も含め表にまとめた4,5)。小児期から繰り返している場合や腎結石、尿路閉塞、間質性膀胱炎、尿路上皮がんが疑われるような場合は泌尿器科受診を勧めることも忘れてはならない。表 若年女性の単純性尿路感染症の再発を予防するための日常生活への指導画像を拡大する再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことはプライマリ・ケア医の重要な役割である。1)Foxman B. Dis Mon. 2003;49:53-70.2)Gupta K, Trautner BW. BMJ 2013;346:f3140.3)Hooton TM, et al. N Engl J Med 1996;335:468-474.4)Hooton TM, et al. JAMA Intern Med 2018;178:1509-1515.5)Hooton TM. N Engl J Med 2012;366:1028-1037.

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服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の患者に対して、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージを提供しても、通常のケアと比較して12ヵ月後のアドヒアランスを改善しなかった(解説:名郷直樹氏)

 ナッジ*やチャットボット**という新しい介入手段が出現し、患者の服薬アドヒアランスを改善できるのではないかという視点で行われたランダム化比較試験である。 服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の18歳から90歳までの患者を対象に、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージのそれぞれの提供を通常のケアと比較し、12ヵ月後のリフィルの処方箋の発行のギャップを服薬アドヒアランスのアウトカムとして検討している。 この研究は“pragmatic”と書かれているが、個々の患者に臨床試験に対する情報提供と同意を行う“opt in”のステップを踏まず、手紙の郵送によって参加者を募るという“opt out”の手法を用いているところに特徴がある。より幅広いリアルワールドでの患者を対象にしようとする配慮がなされており、これが“pragmatic”ということなのだろう。 結果は、テキストメッセージ群で62.0%、ナッジ追加群で62.3%、ナッジ+チャットボット群で63.0%、通常ケアで60.6%の順守率で、統計学的な差はない。順守率の差の多変量解析による結果も報告され、統計学的に有意な差が認められているが、順守率2%程度の差であり、統計学的な有意差が認められたとしても、臨床的に意味のある差とは言えないだろう。 服薬アドヒアランスを改善することは治療効果を上げるために重要である。アドヒアランスの低下が患者の予後に関連するという研究もある。しかし、アドヒアランスの評価そのものが困難である。毎回きちんと通院している患者が訪問診療に移行し、自宅を訪ねてみると、大量の残薬が発見されることは決して珍しくない。自己負担の少ない国民皆保険の日本で同様な研究を行うとしたら、さらに大きな困難があると思われる。*ナッジ:元の意味は「軽くつつく」というものであるが、ちょっとした本人の意識しない介入(ナッジ)を行動経済学の領域で経済的な利益を高めるための手法として利用したのが始まりである。それがさらに一般的な行動にも適用されるようになり、行動科学に基づいて、強制することなく、小さな介入により、本人に意識させることなく、人々の行動を改善する手法として利用されるようになった。この論文においてナッジの相殺については記載されていないが、サプリメントに記載されている。**チャットボット:「対話(chat)」と「ロボット(bot)」を組み合わせた造語であるが、AIと人との対話ということである。この論文に準じて言えば、アドヒアランスの改善についてAIと対話し、その結果をテキストメッセージとして提供するということであろう。

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高K血症治療薬patiromerが心不全治療を最適化-DIAMOND試験サブ解析

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を含むレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬は高カリウム血症(以下、高K血症)を引き起こす可能性があるため、処方がためらわれる場合がある。今回、オーストラリア・Heart Research InstituteのAndrew J. S. Coats氏らは、高K血症治療薬patiromerがHFrEF(左室駆出率が低下した心不全)患者におけるRAAS阻害薬の目標用量の達成を容易にすることを明らかにした。さらに、RAAS阻害薬による治療以前に高K血症を認めた患者の場合でも、patiromerが血清K値を維持し、MRAの目標用量を達成するうえでより有益である可能性も示唆した。JACC:Heart Failure誌2024年12月号掲載の報告。 本研究はpatiromerの第III相 DIAMOND試験*のサブ解析で、RAAS阻害薬の投与によって高K血症を認めた、または過去(登録前1年以内)に高K血症(血清K値>5.0mmol/L)を認めた患者において、patiromerの効果を評価した。対象者はRAAS阻害薬の用量最適化のための単盲検試験に参加し、その後にpatiromerの継続あるいはプラセボへ変更するかを二重盲検で無作為に割り付けられた。*RAAS阻害薬を投与されているHFrEF患者の高K血症管理に対するpatiromerの有効性をプラセボと比較した研究1) 主な結果は以下のとおり。・観察期を終了した1,038例のうち、RAAS阻害薬によって高K血症を認めた422例中354例(83.9%)と過去に高K血症を認めた616例中524例(85.1%)がRAAS阻害薬の用量最適化を達成し、治療に無作為に割り当てられた。・二重盲検期間中、patiromerはサブグループ(RAAS阻害薬による高K血症患者および過去に高K血症を認めた患者)の両方で、プラセボと比較して血清K値を低下させた。・ベースラインからの調整平均差は、それぞれ-0.12(95%信頼区間[CI]:-0.17~-0.07)および-0.08(95%CI:-0.12~-0.05)であった(相互作用のp=0.166)。・RAAS阻害薬による高K血症患者と過去に高K血症を認めた患者を比較しても、patiromerはMRAの目標用量を維持するうえでプラセボよりも効果的であった(HR:0.45[95%CI:0.26~0.76]vs.HR:0.85[95%CI:0.54~1.32]、相互作用のp=0.031)。・有害事象はサブグループ間で同様であった。

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