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第20回 血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

「○○歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1)により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5,000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。「推定臓器年齢」が予測する未来の病気研究チームは、血液中に含まれる約3,000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。たとえば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。とくに、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右するでは、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。臓器を「老化」させる習慣喫煙:多くの臓器の老化と関連していました。過度な飲酒:こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。加工肉の摂取:日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。不眠:睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。臓器を「若々しく」保つ習慣活発な運動:とくに、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。油の多い魚の摂取:いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。鶏肉の摂取:赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。高学歴:教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミン、ビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、とくに腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。たとえば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Oh HSH, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. 2025 Jul 9. [Epub ahead of print]

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『認知症になる人・ならない人』著者が語る「最も驚かれた予防策」とは?

 CareNet.comの人気連載「NYから木曜日」「使い分け★英単語」をはじめ、多くのメディアで活躍する米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏。山田氏が6月に出版した書籍『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)は、エビデンスが確立されている認知症予防法や避けるべき生活習慣を、一般向けにわかりやすく紹介した1冊だ。エビデンスで示す“認知症の本当のリスク因子” 本書は、1. 認知症になる人の生活習慣2. 実は認知症予防に効果がないこと3. 認知症にならない人の暮らし方4. 認知症になったときの対応という章立てになっている。 1章の「認知症になる人の生活習慣」としては、・1日中座りっぱなし・タバコを吸う・塩分を摂り過ぎる・目や耳の老化による不調を放置するといった項目が並ぶ。 著者の山田氏は「本書で紹介した内容は、Lancet誌の認知症委員会が4年ごとにアップデートしている、認知症予防に関する情報を基にしています。長期にわたるエビデンスが確立している内容が中心なので、医療者の方にとって目新しいものは少ないかもしれません」と語る。 一方で、「部屋の換気をしない(と認知症リスクが上がる)」という項目は、読者からの反響が最も大きく、新鮮に受け止められたようです」と語る。ガスコンロを使ったときに発生するPM2.5や二酸化窒素などの微粒子、消臭スプレーや漂白剤などの使用によって屋内の空気に不純物が増える。多くの人は1日の4分の3程度を屋内で過ごすと言われており、通気性の悪い室内環境が脳血管疾患や生活習慣病を介して認知症と関係する可能性が示唆されている。そのため、こまめに換気をして屋内の空気を新鮮に保つことが重要になるという。 また、「1日に缶ビールを2本以上飲む」という項目も反響があったという。「お酒を飲み過ぎると、健康状態や認知症リスクに影響しそうだ、という意識はあっても、具体的な数値に落とし込んだことでインパクトがあったようです」(山田氏)。過去の研究によると、週に168g以上のアルコールを摂取する人はそうでない人に比べて認知症のリスクが約18%高くなるという。このアルコール量を換算すると、1日当たり350mLの缶ビール2本以上となる。「意識していなければすぐ超えてしまう量なので、お酒好きの方には知っておいてほしい。患者さんへの節酒のアドバイスの際にも取り入れてみては」(山田氏)。 ほかにも、「超加工食品」を食べ過ぎないことも、簡便かつ効果的な予防策として紹介されている。米国在住の山田氏は「米国では超加工食品が社会のすみずみまで浸透しており、すべてを避けるのは難しい。私自身もまずは目に付くソーセージやハム、ベーコンをなるべく避けるようにしている」と語る。「認知症予防にエビデンスがないこと」も紹介 本書では、認知症リスクを高める習慣と同時に、認知症予防にとって意味のないことも紹介している。ここでは、「プロバイオティクス」「オメガ3脂肪酸」「イチョウの葉エキス」などの具体例を挙げつつ、現時点では有意差を示す報告がないことを紹介している。また、健康食品などの宣伝文句に「エビデンスをすり替えた」ものがある点についても解説する。ほかにも「脳トレ」や「高価な自由診療の認知症検査」などについて、現時点での研究報告に沿ってエビデンスが低いことを紹介している。 「結局、認知症予防のために特定のサプリを大量に摂ったり、◯◯食だけを守ったりするよりは、野菜や果物、魚、全粒穀物などをバランス良く取り入れ、超加工食品や過剰な糖分・脂肪分を控える習慣をできる範囲で継続していくことの大切さが、エビデンスベースでも裏付けられているのです」(山田氏)。 本書の終盤では、「認知症になったあとの対応」にも触れている。家族のために認知症の段階を把握する指標、本当に入院が必要になるケース、介護のために必要となる費用の目安などが紹介される。ここでは、米国の「Hospital at Home」(HAH)の取り組みにも触れている。これは入院診療チームを自宅に派遣し、患者を自宅で“入院相当”の管理下で診るという仕組みだという。「日本ではまだ医療保険や介護保険制度上の制約が多く、実現は難しい点も多いものの、せん妄や生活機能低下を避けるためには自宅が望ましいケースも多い。今後の在宅医療を設計する上で参考になる点があると思う」(山田氏)。一般向けの内容だが、医療者にとっても自身のため、親のため、患者説明用の資料としてなど、さまざまな面で参考となる1冊となりそうだ。書籍紹介『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』

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サルコペニア・フレイル、十分なエビデンスのある栄養療法とは?初の栄養管理ガイドライン刊行

 サルコペニア・フレイルに対し有効性が示された薬物療法はいまだなく、さまざまな栄養療法の有効性についての報告があるが、十分なエビデンスがあるかどうかは明確になっていない。現時点でのエビデンスを整理することを目的に包括的なシステマティックレビューを実施し、栄養管理に特化したガイドラインとしては初の「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」が2025年4月に刊行された。ガイドライン作成組織代表を務めた葛谷 雅文氏(名鉄病院)に、ガイドラインで推奨された栄養療法と、実臨床での活用について話を聞いた。「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A」とされた栄養素は 本ガイドラインでは、4つのエネルギー産生栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、アミノ酸)、2つの微量栄養素(ビタミン、ミネラル)、およびプロ・プレバイオティクスについて、サルコペニア・フレイルの治療に対する介入の有効性が検討された。その中で、エビデンスが十分にあり強い推奨(推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A)とされたのは、以下の2つのステートメントである:サルコペニアならびにフレイルへのたんぱく質の栄養介入は、特に運動療法との併用において筋肉量と筋力を改善することが示されており、行うことを推奨する(CQ4a) 葛谷氏は、「今までの観察研究で十分なたんぱく質の摂取がサルコペニアやフレイルの予防に重要であるという報告は蓄積されている。一方、すでにサルコぺニアやフレイルに陥っている対象者へのたんぱく質の栄養介入のみによる確実性の高いエビデンスは十分ではなく、運動との併用による明確な効果が、システマティックレビューの結果示された」と説明。実臨床でのたんぱく質摂取の指導に関しては、1食当たり25g(=75g/日)または1.2 g/kg体重/日を目安として「肉や魚100g当たりたんぱく質は1~2割程度」と説明することが多いとし、1日トータルで必要量をとることも大切だが、朝昼晩の各食事でまんべんなく摂取することが重要とした。また、とにかく肉を食べなければいけないというイメージが根強いが、魚や大豆製品・チーズなどの乳製品からも摂取は可能であり、日本人の食生活として取り入れることが難しいものではないと話した。サルコペニアへのロイシンおよびその代謝産物であるHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)を主としたアミノ酸を含む栄養介入は、筋肉量、筋力、身体機能を改善するため、行うことを推奨する(CQ5a) ロイシンはたんぱく質を構成する必須アミノ酸の1つで、とくにサプリメントからの摂取について多くのエビデンスが蓄積されている。ただし実臨床では、サプリメントの活用も1つの選択肢ではあるものの、まずは食品からの摂取が推奨されると葛谷氏は話し、その際の目安として「アミノ酸スコア」が参考になるとした。「アミノ酸スコア」は各食品に含まれる必須アミノ酸の含有バランスを評価した指標。スコアの最大値は100で、100に近いほど質の高いたんぱく質源とされる。スコア100の食品の例としては、牛肉・豚肉・鶏肉、魚類、牛乳、卵、豆腐などがある。 その他の栄養素については、「サルコペニアへのビタミンDの単独介入の効果は明らかでないが、ビタミンD不足状態にあるときの運動やたんぱく質との複合介入は筋力や身体機能の改善への効果が期待できるため、行うことを推奨する(CQ6a)」が、「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B」とした。葛谷氏は、疫学的にはビタミンD欠乏がサルコペニアと関連するという報告はあるが、ビタミンDを強化することによる筋力に対する効果についてのエビデンスはまだ十分ではないとし、ステートメントにあるように、不足状態にあるときに運動やたんぱく質と組み合わせた複合介入をすることが望ましいと話した。CKD、肝硬変、心不全など併存疾患がある場合の栄養療法 本ガイドラインでは、慢性腎臓病(CKD)、肝硬変、慢性心不全、慢性呼吸不全(COPDなど)、糖尿病の5つの疾患を取り上げ、これらを伴うサルコペニアとフレイルの予防・治療に対する栄養療法についてもCQを設定してシステマティックレビューを実施している。この中で「推奨の強さ:強」とされたのは、肝硬変患者および糖尿病患者に対する以下の4つのステートメントであった。[肝硬変]・合併するサルコペニア・フレイルに対する就寝前補食や分岐鎖アミノ酸の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A]・合併するサルコペニア・フレイルに対するHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B]・サルコペニア・フレイルを合併した肝硬変患者の転帰(入院期間や感染症、およびADL)改善を目的としたHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14c、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B][糖尿病]・サルコペニア・フレイルを合併した2型糖尿病患者に対し、身体機能の改善を目的とした栄養指導とレジスタンス運動の併用[CQ17b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B] 葛谷氏は、「領域によってエビデンスが十分ではない部分があることが明らかになった」と話し、今後のエビデンス蓄積に期待を寄せた。サルコペニア・フレイルの診断時点ではまだ引き返せる、早めの介入を 高齢患者の中にはまだメタボを過度に気にする人がいると葛谷氏は話し、「メタボの概念は非常に重要なものではあるが、75歳以上の高齢者では頭を切り替える必要がある」とした。高齢になって体重が減少し始めた時点およびフレイル・サルコペニアの診断がついた時点ではまだ可逆的な状況である可能性が高いので、食事・運動療法および社会性を保つための介入が重要となると指摘した。 また同領域の研究の進捗に関して、今回のシステマティックレビューの結果、各栄養素単体の摂取の有効性についてのエビデンスはまだまだ不足していることが明らかになったと話し、前向き研究・介入研究が不足しているとした。さらに栄養療法の実施による、身体機能障害や入院・死亡といった転帰不良に対する効果を検証する介入研究が、今後必要となるだろうと展望を述べた。

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2型糖尿病合併慢性腎臓病におけるフィネレノン+エンパグリフロジン併用療法:アルブミン尿の著明な改善―CONFIDENCE研究は腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? CONFIDENCE研究では、2型糖尿病(T2DM)に合併する慢性腎臓病(CKD)の初期治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)であるフィネレノンと、SGLT2阻害薬(SGLT2i)であるエンパグリフロジンの併用療法が、それぞれの単独療法と比較して尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を有意に低下させることが示された。これまで、フィネレノンとSGLT2iの併用療法をT2DMに伴うCKDの初期段階で評価したエビデンスは限られており、この点において本研究は新規性を有する。CONFIDENCE研究の背景 T2DMに伴うCKD患者に対する腎保護療法の第1選択は、ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬である。これは、2000年代に実施されたRENAAL、IDNT、MARVAL、IRMA2といった大規模臨床試験によって裏付けられている。2015年以降、SGLT2iにおいて、EMPA-REG OUTCOME、CANVASなどの試験で心血管イベントや複合腎エンドポイント(EP)の改善が相次いで報告された。SGLT2iではさらに、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYなどの試験により、非糖尿病性CKDに対しても心腎保護効果を有するエビデンスが蓄積されている。 一方、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)については、2000年ごろにRALES(スピロノラクトン)やEPHESUS(エプレレノン)により、重症心不全や心血管死に対する有用性が示されたが、これらは腎関連のハードEPについては検討されていない。その後、新世代のnsMRAであるエサキセレノンおよびフィネレノンが開発された。このうち、エサキセレノンはT2DMに伴う早期CKD患者においてUACRの低下効果が認められているが、現在の適応は高血圧症のみであり、尿蛋白陽性例やeGFRが低下した症例では原則として使用できない。これに対しフィネレノンは、FIGARO-DKD、FIDELIO-DKD、そして両試験を統合解析したFIDELITYにおいて、心血管イベントおよび複合腎EPに対する有用性が示されている。なお、nsMRAとSGLT2i併用の同様の研究は、フィネレノンとダパグリフロジン併用でも行われ、UACRの相加的減少効果として報告されている(Marup FH, et al. Clin Kidney J. 2023;17:sfad249.)。 これらのエビデンスを踏まえ、2024年のKDIGOガイドラインでは、フィネレノンはRAS阻害薬およびSGLT2iに上乗せ可能な薬剤として、T2DMに伴うCKDの早期における心・腎保護の「新たな選択肢」として推奨されている(推奨の強さ:弱い、エビデンスレベル:高い、リスクとのバランスを考慮したうえでの判断)(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。病態生理学的見地から、T2DMに合併するCKDにはミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化が心・腎障害を惹起することから、MR抑制効果の優れたnsMRAに対する理論的期待は大きい。 CONFIDENCE研究は、以上の背景を踏まえ、フィネレノンとSGLT2iの併用療法の有効性および安全性を評価することを目的として実施された。登録症例数は約800例、観察期間は180日間である。腎疾患領域の臨床研究の課題 腎疾患領域における臨床研究の報告数は、循環器系や神経系など、他の医学分野と比較してきわめて少ない(Palmer SC, et al. Am J Kidney Dis. 2011;58:335-337.)。その主な要因としては、CKDにおいて治療目標となるバイオマーカーが乏しいこと、CKDステージ早期と末期で適切な腎予後のサロゲートEPを設定する必要があること、などが挙げられている。CKDにおける「真のEP」としては、透析導入、腎関連死、腎不全などがある。一方で、サロゲートマーカーとしては、血清クレアチニン(Cr)の倍加速度、推算糸球体濾過量(eGFR)、eGFRの40%以上の低下などが用いられ、これらは複合腎EPとして適宜設定される。UACRは、容易に短期間でも観察可能なサロゲートマーカーであり、研究費の削減や実施期間の短縮に資する利便性も高い。しかしながら、サロゲートEPは本来、真のEPと強く関連していなければ優れた予後予測因子とはいえない。この点において、UACRは早期のマーカーとしては、UACR>300mg/g・Crを超える腎疾患以外は適切な腎アウトカムの予測因子とまではいえない(濱野高行. 日本腎臓学会誌. 2018;60:577-580.)。 本論文の著者の1人であるHeerspink氏は、本試験で仮に複合腎EPを評価項目とする場合は4万例以上のサンプルサイズと長期観察が必要となること、またUACRは優れたサロゲートではないものの一定の予測的価値があること、などを踏まえ、UACRを主要評価項目として採用したと述べている。CONFIDENCE研究からのメッセージと今後の方向性 CONFIDENCE研究は、「腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?」―この問いには議論が必要である。Agarwal氏はイベントリスクに対する媒介解析の結果から、フィネレノンを用いた早期介入による複合腎イベント低下の多くの部分がUACR抑制作用により媒介されていることから、アルブミン尿抑制の重要性を強調している(Agarwal R, et al. Ann Intern Med. 2023;176:1606-1616.)。また、2025年6月に開催された欧州腎臓学会においても、短期的なUACRの変化が長期的な腎保護効果と関連することに言及し、「併用療法の新時代が到来した」との論調の講演もあった(Liam Davenport. Medscape. June 5, 2025.)。 しかしながら、「フィネレノン+SGLT2iの早期導入によるUACR低下」を「長期的な腎アウトカムを改善すること」に全面的に外挿するのは無理がある。ちなみに、本研究でeGFRの初期低下(Initial drop or dip)に注目すると、14日目において併用群では−6.1mL/分/1.73m2の低下がみられた(SGLT2i単独群では−4.0mL/分/1.73m2)。この併用群におけるInitial drop後のeGFRスロープには、観察期間である180日目においては緩徐化がみられず、この点からは腎保護効果は支持されない。一方で、有害事象の観点からは、一定のメリットが示唆される。高カリウム血症の発現率は、併用群で25例(9.3%)、フィネレノン単独群で30例(11.4%)と、併用群で15~20%程度相対的に低下していた。これは、SGLT2iが高カリウム血症のリスクを抑制する可能性を示した先行研究の知見と一致しており、一定のベネフィットとして評価できる可能性がある。 今後、フィネレノンとSGLT2iの早期併用による腎保護効果の有無を明らかにするためには、長期間かつ大規模に複合腎EPを設定した追試検証が必要と思われる。

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フィネレノン、HFpEFの心血管死・心不全入院リスク減~プール解析(FINE-HEART)

 米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJohn W Ostrominski氏らが、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノン(商品名:ケレンディア)の3件の大規模試験(FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD、FINEARTS-HF)をプール解析した「FINE-HEART」から、フィネレノンは左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全(HFpEF)の心血管死または心不全による入院を13%減少させることを示唆した。JACC:Heart Failure誌2025年8月号掲載の報告。 本研究は3試験をプール解析し、LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)あるいはHFpEF患者におけるフィネレノンの安全性・有効性を評価した。主要評価項目は、フィネレノンとプラセボの心血管死または心不全による入院に対する治療効果で、試験別に層別化したCox比例ハザード回帰モデルを用いた。副次評価項目は、心血管死、心不全による入院、新規発症心房細動、および全死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象1万8,991例のうち、7,008例(36.9%)がHFmrEF/HFpEF(平均年齢71±10歳、女性44%)であった。・追跡期間中央値2.5年において、フィネレノン群はプラセボ群と比較し、心血管死または心不全による入院を減少させた(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.78~0.96、p=0.008、試験全体の交互作用のp=0.24)。・主要なサブグループおよびベースラインの推定糸球体濾過量(交互作用のp=0.47)、尿アルブミン/クレアチニン比(交互作用のp=0.62)、HbA1c(交互作用のp=0.93)において、フィネレノン群で一貫した効果が認められた。・フィネレノン群は、心不全による入院(HR:0.84、95%CI:0.74~0.94、p=0.003)および新規発症の心房細動(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97、p=0.030)を減少させたが、心血管死および全死亡率の統計学的に有意な減少は認められなかった。・フィネレノン群ではプラセボ群と比較して高カリウム血症の発生率が高く、低カリウム血症は低かった。・重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であった。 研究者らは、「HFmrEFまたはHFpEFの参加者データをプール解析したことで、高リスクで不明瞭な点が多いHFpEF患者に対するフィネレノンの安全性と有効性に対する理解が深まる可能性がある。心血管・腎臓・代謝リスクと広範囲にわたり、HFmrEF/HFpEF患者へのフィネレノンの使用が支持される」としている。

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ビタミンD3は生物学的な老化を抑制する?

 ビタミンD3サプリメント(以下、サプリ)は、本当に「若返りの泉」となって人間の生物学的な老化を遅らせることができる可能性のあることが、新たな臨床試験で示された。ビタミンD3を毎日摂取している人は、染色体の末端にありDNAを保護する役割を果たしているテロメアの摩耗が抑えられていたことが確認されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院予防医学部門長のJoAnn Manson氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Clinical Nutrition」に5月21日掲載された。 靴ひもの先端をカバーするプラスチック製の覆いに例えられるテロメアは、加齢とともに劣化する。そのため研究者は、出生から経過した年数に基づく暦年齢ではなく、実際に体がどれだけ老化したかを表す生物学的年齢の指標としてテロメアを用いている。 この臨床試験では、ビタミンD3サプリおよびオメガ3脂肪酸サプリの効果の検証を目的とした大規模臨床試験であるVITAL試験(試験参加者2万5,871人)のデータが用いられた。VITAL試験では、試験参加者がビタミンD3(1日2,000IU)またはオメガ3脂肪酸(1日1g)のサプリを毎日摂取する群にランダムに割り付けられていた。今回は、VITAL試験参加者のうち、試験開始時とサプリの摂取開始から2年後および4年後にテロメアの長さが評価された1,054人を解析対象とした。研究グループによると、テロメアが短くなると遺伝子の安定性が低下し、がんや心疾患、死亡、慢性疾患のリスクが高まると考えられている。 臨床試験からは、ビタミンD3サプリの摂取群で、プラセボ摂取群と比べて4年間のテロメア短縮が有意に抑制されていたことが明らかになった。一方、オメガ3脂肪酸摂取群では、テロメアの長さに対する明確な効果は見られなかった。 研究論文の筆頭著者である米オーガスタ大学ジョージア医科大学のHaidong Zhu氏は、「今後さらなる研究が必要ではあるが、この結果は、特定の対象に絞ったビタミンDの補給が生物学的な老化のプロセスに対抗する有望な戦略となり得ることを示唆している」とマス・ジェネラル・ヘルスのニュースリリースの中で述べている。 ただし、まだビタミンD3の錠剤を買いだめするのは時期尚早だとManson氏らは警告するとともに、今回の試験で示されたポジティブな効果を、他の研究で検証する必要があるとの見解を示している。Manson氏は、「われわれは、今回の結果は有望であり、さらなる研究の実施に値するものだと考えている。ただし、ビタミンD摂取に関するガイドラインを変更する前に、再現性を確認することが重要だ」とWashington Post紙に語っている。また同氏は、ビタミンD3のサプリ摂取がテロメアに有益な影響をもたらす可能性はあるものの、健康的な食事や日常的な運動の代わりとして位置付けられるべきではないと強調している。 Manson氏は、「繰り返し指摘してきたが、重点を置くべきはサプリではなく、食事と生活習慣である」とWashington Post紙に語っている。その上で、「炎症レベルが高い人や、明らかに炎症に関連した慢性疾患のリスクが高い人などのハイリスク層では、特定のビタミンD3の補給が有益である可能性がある」と付け加えている。

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ドナー心の冷却保存時間の延長に新たな可能性

 ドナーから摘出された心臓を移送中のダメージから守ることにつながる新たな発見によって、今後、移植に使用できる心臓(以下、ドナー心)の数が増えるかもしれない。米メイヨー・クリニックの心臓血管外科医であるPaul Tang氏らが、冷却保存している間にドナー心が損傷を受ける生物学的なプロセスを特定したとする研究結果を、「Nature Cardiovascular Research」に5月19日発表した。 さらに喜ばしいことに、Tang氏らはすでに心疾患の治療に使用されているある薬が、ドナー心の損傷の予防にも活用できることを突き止めた。Canrenoneと呼ばれるこの薬を使用して保存されたドナー心では、同薬を使用しなかったドナー心と比べてポンプ機能が約3倍に強化されたことが示されたという。 Tang氏は、「私は心臓血管外科医として、手術室でドナー心の保存時間の1時間の延長が移植後のドナー心の回復にどれほど影響するかを目の当たりにしてきた。今回の発見によって、心臓の保存中にその機能を維持し、移植のアウトカムを向上させ、患者の命を救う移植へのアクセスを改善するための新たなツールを手に入れることができるかもしれない」とメイヨークリニックのニュースリリースの中で述べている。 Tang氏らは研究の背景情報の中で、ドナー心のうち最終的に移植に使われる心臓は半数に満たないと説明している。その主な理由の一つは、ドナーから摘出した心臓を移植可能な状態に保てる時間が比較的短いことにある。これは、冷却保存の時間が長過ぎるとドナー心の機能が低下する恐れがあるためだ。そのような心機能低下の結果として生じる合併症の一つが、移植された心臓が効率的に血液を送り出せない状態に陥る原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction)で、移植患者の最大20%に生じる。 このようなドナー心の損傷がなぜ起こるのかを明らかにするために、Tang氏らは、冷却保存プロセスに対する分子レベルの反応を個々の細胞レベルで調査した。その結果、心筋細胞内にあるミネラルコルチコイド受容体(MR)と呼ばれるタンパク質がドナー心の損傷に関与している可能性が示された。具体的には、冷却保存中にはMRの産生が大幅に増加し、それらが細胞核内で集まって液滴状の構造物を形成する。タンパク質が細胞の他の部分から凝集するこのようなプロセスは、相分離と呼ばれる。研究グループは、この相分離によってMRが自己活性化され、その結果、心筋細胞へのストレスと損傷を大幅に増大させることを突き止めたのだ。 次に、このプロセスを防げるかどうかを調べるため、Tang氏らはMRの働きを阻害する薬剤であるcanrenoneをドナー心に投与した。その結果、移植された心臓のポンプ機能が大幅に向上したほか、血流の改善や細胞傷害を示す兆候の大きな減少が見られたという。 この結果を踏まえ、canrenoneはドナー心を安全に保存できる期間を延長させるのに役立つ可能性があるとTang氏らは結論付けている。なお、Tang氏らによると、これと似たようなタンパク質の凝集は、腎臓や肺、肝臓などの他のドナー臓器でも冷却保存中に起こるという。そのため、同様の戦略が他の臓器の保存時間を延ばすのにも役立つ可能性が期待されている。

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血小板減少【日常診療アップグレード】第32回

血小板減少問題32歳男性。健康診断で血小板減少を指摘され、二次検査のため来院した。症状はない。既往歴に特記すべきことはない。内服薬やサプリメントの服用もない。バイタルサインを含む身体診察では異常を認めない。白血球数は正常で、貧血はない。血小板数は4万8,000/μLである。経過観察とした。

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認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実

認知症予防&治療の易しくて信頼できるバイブル「部屋の換気をしない」「晩酌は缶ビール2本以上」「家から出ないで座っている」「一人暮らしをしている」「塩分大好き」……これ全部、認知症になる確率が高い生活習慣だと知っていますか?軽度の症状の人も入れたら、日本では65歳以上の4人に1人が認知症になる現代。しかし、認知症になってしまう人がいる一方、80代、90代でも認知症にならず元気な人はたくさんいます。こうした生活習慣が、前者と後者を分けている可能性が高いのです。全米病院ランキング「老年医学部門」5年連続1位(U.S.News)の病院で診療にあたる山田悠史医師は、その差ははっきりと白黒分かれるものではなく、「認知症になりやすい⇔なりにくい」のグラデーションであると説きます。脳にいい生活習慣を日々取り入れ、よくない習慣は手放し、そのグラデーションを「認知症になりにくい」のほうに寄せていく方法を、科学的根拠を元にわかりやすく伝えていきます。またこの本では、認知症の予防や治療で本当に必要なことは、実は「安くてシンプル」ということもわかります。エビデンスをすり替えた宣伝で引きつけるサプリや、自由診療の高い検査などはだいたい必要がないのです。「長生きしても、認知症にだけはなりたくない」「このままだと親が認知症になるんじゃないか」「認知症だと診断されたけれど、どうしたらいいのか……」そんな不安を抱えるあなたにぜひ読んでほしい、認知症予防&治療の易しくて信頼できるバイブルです。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する認知症になる人 ならない人定価1,870円(税込)判型B5判頁数312頁発行2025年6月著者山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学・緩和医療科)ご購入はこちらご購入はこちら

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第266回 一般消費者向けDTC検査サービスに新ガイドライン、医師資格を持たない事業者が検査結果に基づき個人の疾患の罹患可能性を通知するのは医師法違反

厚生労働省と経済産業省が「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」を改正こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、八ヶ岳山麓にリタイア後住んでいる大学時代のクラブの先輩宅で開かれた麻雀大会に参加するため、長野県原村まで車を飛ばして行って来ました。大学卒業後、40年以上たって老年となった人間たちが11人集まり、麻雀卓2卓で2日間、メンバーを適当に変えながら各人半荘5~6回戦ってトータル点数を競うというものです。集まったメンツは学年にして4学年の幅があり、皆、それなりの年齢ということで健康状態もさまざまでした。がんについて言えば、参加した11人中4人が罹患していました。2人がこの3年ほどの間に食道がんの手術を受けて、1人は大腸がんの放射線治療と化学療法を昨年経験済みでした。さらにもう1人は、胃がんを5年前に内視鏡手術で取っていました。この人数、多いのか少ないのかはよくわかりませんが、最近、高校時代の同級生など同世代と飲むと大体3人中1人はがんの経験者ですから、ほぼ平均的と言えるでしょう。ただ、私のクラブ、食道がんがやや多過ぎますね。ちなみに、この4学年の幅の中のクラブの在籍者総数は大体40人ほどで、自殺者1人、ALSによる死亡1人、山での遭難死(落石が頭部直撃)1人です。コホート研究ではないですが、ある大学クラブの卒業生の“その後”としては、それなりに平均的な結果と言えるのではないでしょうか。ま、いずれにせよ、これから、今回のメンバーの中からもがん患者は出てくるでしょう。がんはエイジングの結果ですから仕方ありません。なお、麻雀大会の私の成績は2位でした。優勝は逃しましたが、親で「リーチ、ツモ、ドラ8」の倍満を上がったのはいい思い出になりました。ということで今回は、公表から少々時間が経ってしまいましたが、3月末に厚生労働省と経済産業省が改正した「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」について書いてみたいと思います。今回の改正では、非臨床の一般消費者向け(Direct to Consumer:DTC)検査サービスについての記載が大幅に追加、医師法に違反しないようにとの注意喚起が行われました。いい加減なエビデンスしかないのに「がんが見つかる」などと喧伝し、多くの問題点が指摘されてきたDTC検査サービスはこれで駆逐されるのでしょうか?厚労省のヘルスケアスタートアップPT報告書を機にガイドライン改正へ非臨床のDTC検査サービスとは民間事業者が検体(血液、尿、唾液など)をもとに病気のリスクなどを判定する検査サービスを指します。本連載でも「第88回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(前編)」「第89回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(後編)」などでその問題点を繰り返し指摘してきました。昨年7月の「第223回 厚労省ヘルスケアスタートアップPT報告書を読む(後編) あの一般向けがんリスク判定会社もターゲットか?消費者向けの各種検査サービス、医師法に照らし合わせて総点検へ」では、厚生労働省の「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討に関するプロジェクトチーム」が公表した最終報告書の内容を紹介、「医師法違反という観点から法令違反の恐れがある事例がまとめられ、検査の結果(リスク判定)を消費者にフィードバックする際の表現についてもガイドラインが設けられる可能性があります」と書きました。それが実行に移されたのが、今回の「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」の改正というわけです。「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めた医師法第17条との関係について法解釈同ガイドラインにはさまざまな関連法令と照らし合わせて、DTC検査サービスはどこまで行っていいのかについての法解釈が記されています。最重要と考えられる「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めた医師法第17条との関係については次のように記されています。「医師法第 17 条により、民間事業者は、医業に該当しない範囲で検体採取や検査(測定)後のサービス提供を実施する必要があり、採血等の医行為に該当する行為や、検査(測定)結果に基づく疾患の罹患可能性の提示や診断等の医学的判断を行うことはできない。このため、採血等の検体採取については、民間事業者ではなく、利用者自らによって行われる必要がある。また、民間事業者は、検査(測定)結果に基づく疾患の罹患可能性の提示や診断等の医学的判断を行うことはできないため、検査(測定)後のサービス提供については、検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値、検査(測定)項目に係る一般的な情報を通知することに留めなければならず、利用者から見て事実や一般的な基準値・情報が示されているということが客観的に認識可能な程度に医学的・科学的根拠が示された通知内容としなければならない」つまり、「医師資格を持たない事業者が検査結果に基づいて個人の疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反」と明確に位置付けたわけです。さらに、医師などではない民間事業者が行う検査後のサービス提供は、「検査結果の事実や検査項目の一般的な基準値、検査項目に係る一般的な情報を通知することに留め、客観的に認識可能な程度に医学的・科学的根拠が示された通知内容としなければならない」点についても明文化しました。「一般的な情報の通知に留めよ」というルールは非常に重いと考えられます。ガイドラインではさらに突っ込んで、「検査結果の事実と検査項目の基準値やリスク分類との相対的な位置付けのように、一見すると客観的な事実を提示しているかのような内容であったとしても、当該基準値や当該リスク分類の設定について、なんらの医学的・科学的根拠が通知内容に示されていない場合や、一般的な基準値と言えない値に基づいている場合には、客観的な事実を提示しているとは評価できない」「検査項目が基準値内にあることをもって、利用者が健康な状態であることを断定するといった利用者個人の健康状態の医学的評価は行ってはならない」「検査項目が基準値外にあることをもって、利用者個人の疾患の罹患可能性を提示してはならない」とも記述しています。それだけDTC検査サービス事業者の検査結果の通知に関する不適切事例が多かったということなのでしょう。医師法17条に違反する4例示す、「一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても個人の疾患の罹患可能性を通知することは違法なお、同ガイドラインには医師法17条に違反する例として、次の4つを例示しています。1.検体を採取する際に、無資格者である民間事業者が利用者から検体を採取する場合。2.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、個別の検査(測定)結果を用いて、利用者の健康状態を評価する等の医学的判断を行った上で、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行う場合。3.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患の罹患可能性を通知する場合。なお、形式的に「これは一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患の罹患可能性を通知することは違法となる。4.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果が、疾患の罹患や健康状態の医学的評価に係るリスク分類のいずれに属するかを通知する場合で、当該リスク分類の根拠となる基準値について、実質的になんらの医学的・科学的根拠が示されていない場合や、民間事業者等が恣意的に設定している場合。冷静さを装うDTC検査サービス事業者同ガイドラインの改正は今後、DTC検査サービス事業者にどんな影響を及ぼすでしょうか。4月18日付けの日経バイオテクは「厚労省と経産省、DTC検査ガイドラインでは 『医学的診断と誤解させない情報提示を』」と題する記事を発信、「同ガイドラインは大幅に改正されたものの、DTC検査ビジネスへの影響は大きくはなさそうだ」と書いています。同記事は、同ガイドライン に対するDTC検査サービスを提供する複数の事業者のコメントを紹介しています。「明確に論拠が示され、誤認を防ぐ対策が加えられたと理解している」(ジーンサイエンス、東京都千代田区)、「ジーネックスでは一般的な情報提供としての疾患の罹患リスクに言及することはあるが、事業者側の目線だけではなく、社会的・法的・論理的な観点を重視して、利用者の健康維持に関して望まれているサービスを提供していきたい」(ジーネックス、東京都港区)、「今回の改正でサービスの内容に大きな変更は予定していない」(Craif、東京都文京区)と一見冷静な対応に見えます。また、一般社団法人の遺伝情報取扱協会も、同協会のウェブサイトで同ガイドラインの改正に対する見解を公表、同協会が策定する「個人遺伝情報を取扱う企業が遵守すべき自主基準」と合致する内容であるとコメントしています。どの事業者も、「われわれはきちんとやってきているので、動揺していない」と冷静さを装っているようです。「事実上の『野放し』状態から一歩進んだ」ものの「課題はまだ残されている」「23種類のがんを判定できる」などと宣伝して全国展開しているHIROTSUバイオサイエンス(東京都千代田区)の線虫がん検査キット「N-NOSE」に対し、厳しい批判報道を行ってきたNewsPicksは、4月18日付で「厚労省ガイドライン改定で検査ビジネス『野放し』終えんか」と題する記事を発信しています。同記事は、ガイドライン改正に対する識者の評価やDTC検査サービス事業者へのアンケートを紹介、「結果報告書の通知に関するルールが明確化されたことで、検査ビジネスは、事実上の『野放し』状態から一歩進んだ。利用者の保護やサービスの健全な発展に向けた土台が整い始めたと言える。 だが、ガイドラインの解釈が事業者により分かれる可能性があるうえ、検査自体の有効性という『本丸』には踏み込んでいないという点でも、課題はまだ残されている」と記事を結んでいます。医師法違反の実際の事例が出てくれば、「野放し」状態は一掃に向かうのではおそらく、法律での規定ではなく、強制力が弱いガイドライン(指針)である点が、まだ事業者にある種の余裕を生んでいるのかもしれません。今後、ガイドラインに基づいて、医師法違反の実際の事例が摘発されれば、「野放し」状態は一掃に向かうのではないでしょうか。そう言えば、一時、テレビや東京の地下鉄の車内掲示などでよく目にした線虫がん検査のCMや広告を最近目にしません。やはり少なからぬ影響が出ているのかもしれません。ちなみに、冒頭に書いた麻雀大会に参加したクラブの仲間たちの中に、DTC検査サービスを利用した人間は誰もいませんでした。おそらく、今彼らにがん関連のDTC検査サービスを受けさせ、仮に“陽性”が出て精密検査を受けさせれば、何人かでがんが見つかることでしょう。また、“陰性”だった人間にも精密検査を受けさせれば、やはり何人かでがんが見つかるでしょう。なにせ、みんなもう老人なのですから。

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全医師が遭遇しうる薬剤性肺障害、診断・治療の手引き改訂/日本呼吸器学会

 がん薬物療法の領域は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場し、目覚ましい進歩を遂げている。しかし、これらのなかには薬剤性肺障害を惹起することが知られる薬剤もあり、薬剤性肺障害が注目を集めている。そのような背景から、2025年4月に『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版2025』が発刊された。本手引きは、2018年以来の改訂となる。本手引きの改訂のポイントについて、花岡 正幸氏(信州大学病院長/信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室 教授)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。いま薬剤性肺障害が注目される理由 花岡氏は、「いまほど薬剤性肺障害が注目を集めているときはない」と述べ、注目される理由として以下の5点を挙げた。(1)症例数の増加ICIなどの新規薬剤の登場に伴って薬剤性肺障害の報告が増加している。(2)人種差国際比較により、日本人で薬剤性肺障害の発症率が高い薬剤が存在する。(3)予後不良な病理組織パターン重症化するびまん性肺胞傷害(DAD)を呈する場合がある。(4)多様な病型非常に多くの臨床病型が存在し、肺胞・間質領域病変だけでなく気道病変、血管病変、胸膜病変も存在する。(5)新たな病態ICIによる免疫関連有害事象(irAE)など、新規薬剤の登場に伴う新たな病態が出現している。改訂のポイント8点 本手引きでは、改訂のポイントとして8点が挙げられている(p.viii)。これらについて、花岡氏が解説した。(1)診断・検査の詳説 今回の改訂において「図II-1 薬剤性肺障害の診断手順」が追加された(p.13)。薬剤性肺障害の疑いがあった場合には、(1)しっかりと問診を行って、原因となる薬剤の使用歴を調査し、(2)諸検査を行って他の原因疾患(呼吸器感染症、心不全、原病の悪化など)を否定し、(3)原因となる薬剤での既報を調べ、(4)原因となる薬剤の中止で改善するかを確認し、(5)再投与試験によって再発するか確認するといった流れで診断を実施することが記載されている。 肺障害の発症予測や重症化予測に応用可能なバイオマーカーの確立は喫緊の課題であり、さまざまな検討が行われている。そのなかから国内で報告されている3つのバイオマーカー候補分子(stratifin、lysophosphatidylcholine[LPC]、HMGB1)について、概説している。(2)最新の画像所見の紹介 薬剤性肺障害の画像所見が「表II-3 薬剤性肺障害の一般的なCT所見」にまとめられた(p.21)。薬剤性肺障害の代表的な画像パターンは、以下の5つに分類される。・DADパターン・OP(器質化肺炎)パターン・HP(過敏性肺炎)パターン・NSIP(非特異性間質性肺炎)パターン・AEP(急性好酸球性肺炎)パターン なお、今回の改訂において、特定の薬剤の肺障害としてALK阻害薬、ADCに関する画像所見が追加された。(3)薬物療法の例の追加 薬物療法のフローについて「図III-2 薬剤性肺障害の薬物療法の例」が追加された(p.50)。重症度別にフローを分けており、すべての症例でまず被疑薬を中止するが、無症状・軽症の場合は中止により改善がみられれば経過観察とする。被疑薬の中止による改善がみられない場合や中等症の場合は、経口プレドニゾロン(0.5~1.0mg/kg/日)を投与する。これで改善がみられる場合はプレドニゾロンを漸減し、2~3ヵ月以内に中止する。経口プレドニゾロンで改善がみられない場合や重症・DADパターンでは、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日×3日)を行い、経口プレドニゾロンに切り替える。改善がみられる場合は漸減し、改善がみられない場合はステロイドパルスを繰り返すか、免疫抑制薬の追加を行う(ただし、免疫抑制薬に薬剤性肺障害に対する保険適用はないことに注意)。(4)予後不良因子の追加 薬剤性肺障害の予後を規定する要因として報告されているものを以下のとおり列挙し、解説している。・背景因子(高齢、喫煙歴、喫煙指数高値、既存の間質性肺炎、喘息の既往[ICIの場合]など)・発症様式(低酸症血症、PS2~4など)・胸部画像所見(DADパターンなど)・血清マーカー(KL-6、SP-D、stratifinなど)・気管支肺胞洗浄液(BALF)所見(剥離性の反応性II型肺上皮細胞)・ICIによる肺障害と抗腫瘍効果 ICIについては、irAEがみられた集団で抗腫瘍効果が高いこと、ニボルマブによる肺障害が生じた症例のうち、腫瘍周囲の浸潤影を呈した症例は抗腫瘍効果が高かったという報告があることなどが記されている。(5)患者指導の項目の追加 薬剤の投与中に新たな症状が出現した場合は速やかに医療機関や主治医に報告するよう指導すること、とくに抗悪性腫瘍薬や関節リウマチ治療薬を使用する場合には、既存の間質性肺疾患の合併の有無を十分に検討することなどが記載された。また、抗悪性腫瘍薬の多くは医薬品副作用被害救済制度の対象外である点も周知すべきことが示された。(6)抗悪性腫瘍薬による肺障害を詳説 とくに薬剤性肺障害の頻度が高いチロシンキナーゼ阻害薬、ICI、抗体製剤(とくにADC)について詳説している。(7)irAEについて解説 ICIによって生じた間質性肺炎では、BALF中のリンパ球の増加や制御性Tリンパ球の減少、抗炎症性単球の減少、炎症性サイトカインを産生するリンパ球・単球の増加など、正常分画とは異なる所見がみられることが報告されている。このようにirAEに特異的な所見がみられる場合もあることから、irAEの発症機序について解説している。(8)医療連携の章の追加 本手引きについて、花岡氏は「非専門の先生や診療所の先生にも使いやすい手引きとなることを目指して作成した」と述べる。そこで今回の改訂で「第VI章 医療連携」を新設し、非呼吸器専門医が薬剤性肺障害を疑った際に実施すべき検査について、「図VI-1 薬剤性肺障害を疑うときの検査」にまとめている(p.123)。また、専門医への紹介タイミングや、かかりつけ医・非呼吸器専門医と呼吸器専門医のそれぞれの役割について「図VI-2 かかりつけ医と専門医の診療連携」で簡潔に示している(p.124)。すべての薬剤が肺障害を引き起こす可能性 花岡氏は、薬剤性肺障害の定義(薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの)を紹介し、そのなかで「薬剤性肺障害の『薬剤』には、医師が処方したものだけでなく、一般用医薬品、生薬、健康食品、サプリメント、非合法薬などすべてが含まれることが、きわめて重要である」と述べた。それを踏まえて、薬剤性肺障害の診療の要点として「多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、薬剤性肺障害は必ず鑑別しなければならない。すべての薬剤は肺障害を引き起こす可能性があることを念頭において、まず疑うことが重要であると考えている」とまとめた。

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妊娠初期の貧血は子の先天性心疾患リスクを高める

 妊娠100日目までの妊娠初期に母親が貧血状態にあると、生まれてくる子どもが先天性心疾患を持つリスクが大幅に高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学分野のDuncan Sparrow氏らによるこの研究結果は、「BJOG: An International Journal of Obstetrics & Gynaecology」に4月23日掲載された。Sparrow氏は、「妊娠初期の貧血がこれほど有害であることを示した本研究結果は、世界中で医療のあり方を一変させる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 Sparrow氏らは今回、英国で出生後5年以内に先天性心疾患の診断を受けた児を出産した女性2,776人(症例群)と健常児を出産した女性1万3,880人(対照群)の医療記録を比較した。母親の貧血の有無は、妊娠100日目までに測定されたヘモグロビン濃度を確認し、110g/L未満を貧血と見なした。 その結果、妊娠100日目までに貧血状態にあった母親の割合は、症例群で123人(4.4%)、対照群で390人(2.8%)であることが明らかになった。影響を与える可能性のある因子を調整して解析した結果、貧血状態にあった母親が先天性心疾患と診断される児を出産するオッズは、貧血のなかった母親に比べて47%有意に高いことが示された(オッズ比1.47、95%信頼区間1.18〜1.83、P=0.0006)。 研究グループによると、これらの結果は、過去にイスラエル、カナダ、台湾で実施された3件の研究結果と一致しているという。これらの研究では、母親の妊娠中の貧血が児の先天性心疾患リスクのそれぞれ24%、26%、31%の上昇と関連することが示されているという。 Sparrow氏は、「先天性心疾患のリスクがさまざまな要因により高まることはすでに知られているが、今回の研究により貧血に関する理解が深まった。この知見は今後、実験室での研究から臨床現場で活用されるようになるだろう」と述べている。 研究グループは、妊娠中の貧血症例の約3分の2は鉄の欠乏が原因だと指摘する。Sparrow氏は、「鉄欠乏症は多くの貧血の根本原因である。そのため、妊娠を計画している女性や妊娠中の女性に対して鉄分補給を行えば、多くの新生児の先天性心疾患を予防できる可能性がある」と述べている。 Sparrow氏らはマウスを用いた過去の研究で、鉄欠乏症を原因とする妊娠中の貧血と先天性心疾患との関連を確認している。そのため同氏らは、ヒトを対象にした研究でも同じ関連が認められるかを確認したいと考えているという。もしこの関連が確認されれば、将来的には、鉄サプリメントが先天性心疾患の発症リスクを下げる手段として有効か否かの臨床試験の実施が期待される。

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中等度早産児へのカフェイン投与継続、入院期間を短縮するか/JAMA

 中等度早産児(在胎期間29週0日~33週6日で出生)に対するカフェイン投与の継続は、プラセボ投与と比較して入院期間の短縮には至らなかったことが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のWaldemar A. Carlo氏らEunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development Neonatal Research Networkによる無作為化試験「MoCHA試験」の結果で示された。中等度早産児に最も多くみられる疾患の1つに未熟児無呼吸発作がある。カフェインなどのメチルキサンチン製剤が非常に有効だが副作用が生じる可能性があり、必要以上に投与を継続すべきではないとされる。2024年に発表されたメタ解析では、早産児へのカフェイン中止戦略の有益性と有害性に関するデータは限定的であることが示され、カフェイン投与の短期的および長期的な影響のさらなる評価が求められていた。JAMA誌オンライン版2025年4月28日号掲載の報告。無作為化後の退院までの期間を評価 研究グループは、2019年2月~2022年12月に米国の29病院で、カフェイン療法の延長が入院期間を短縮するかを評価する無作為化試験を行った。対象は、在胎期間29週0日~33週6日で出生し、(1)無作為時の月経後年齢が33週0日~35週6日、(2)カフェイン投与を受けており投与中止の計画があり、(3)120mL/kg/日以上の経口栄養および/または経管栄養を受けている新生児とした。 対象児は退院後28日まで、経口カフェインクエン酸塩(10mg/kg/日)投与を受ける群またはプラセボ投与を受ける群に無作為に割り付けられ、追跡評価を受けた(フォローアップ完了は2023年3月20日)。 主要アウトカムは、無作為化後の退院までの期間。副次アウトカムは、生理的発達(無呼吸発作が連続5日間なく、完全経口栄養を受けており、少なくとも48時間保育器から出ている)までの日数、退院時の月経後年齢、あらゆる要因による再入院およびあらゆる疾患による受診、安全性アウトカム、死亡などであった。補正後群間差中央値0日、生理的発達までの日数も短縮せず 事前に規定された無益性閾値の検出に必要とされた被験者登録は878例であったが、計827例(在胎期間中央値31週、女児414例[51%])が無作為化(カフェイン群416例、プラセボ群411例)された時点で登録は早期に中止された。 無作為化から退院までの入院日数は、カフェイン群18.0日(四分位範囲[IQR]:10~30)、プラセボ群16.5日(10~27)で群間差はなく(補正後群間差中央値:0日[95%信頼区間[CI]:-1.7~1.7])、また生理的発達までの日数も差は認められなかった(14.0日vs.15.0日、補正後群間差中央値:-1日[95%CI:-2.4~0.4])。 カフェイン群の新生児は無呼吸発作消失までの期間が短縮したが(6.0日vs.10.0日、補正後群間差中央値:-2.7日[95%CI:-3.4~-2.0])、完全経口栄養を受けるようになるまでの期間は同程度であった(7.5日vs.6.0日、0日[-0.1~0.1])。再入院および疾患による受診は両群で差はなかった。 有害事象については、両群間で統計学的有意差は認められなかった。

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複数の食品添加物の相互作用が2型糖尿病リスクを高める

 ダイエット飲料や超加工食品に使われている添加物が、2型糖尿病のリスクを高めることを示唆するデータが報告された。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のMarie Payen de la Garanderie氏らの研究の結果であり、詳細は「PLOS Medicine」に4月8日掲載された。複数の添加物による相互作用が、リスク上昇に関与している可能性があるという。 約11万人を対象に行われたこの研究によると、人工甘味料入り飲料によく含まれている添加物の混合物(添加物の組み合わせ)は2型糖尿病のリスクを13%増加させ、同様にスナックなどの超加工食品に含まれている添加物の混合物は、リスクを8%増加させることが明らかになった。de la Garanderie氏は、「多くの製品に含まれているいくつかの添加物はしばしば同時に摂取されるが、そのような同時摂取が2型糖尿病のより高いリスクと関連していることが示唆される」と解説。「これらの添加物は修正可能なリスク因子といえ、2型糖尿病予防の新たな戦略への道を開く可能性がある」と付け加えている。 この研究では、フランスで行われている長期縦断疫学研究の参加者10万8,643人(平均年齢42.5±14.6歳、女性79.2%)を、平均7.7±4.6年間追跡したデータが解析に用いられた。参加者は、追跡開始時とその後は半年ごとに、3日間(連続していない平日2日と休日1日)、24時間の食事記録をつけ、追跡開始後最初の2年間のその記録を基に、食品添加物などの摂取量が評価された。 追跡期間中に1,131人が、新たに2型糖尿病と診断されていた。解析の結果、5種類の食品添加物混合物のうち2種類が、2型糖尿病発症リスクの有意な上昇と関連していた。その混合物の一つはダイエット飲料に使用されることのある添加物で、酸味料・酸度調整剤(クエン酸、リン酸、リンゴ酸など)、着色料(カラメル、アントシアニンなど)、甘味料(アスパルテーム、スクラロースなど)、乳化剤(ペクチン、グアーガムなど)、コーティング剤(カルナバワックス)で構成されていた。もう一つの混合物は、さまざまな超加工食品に使用されることのある添加物で、乳化剤(加工デンプンなど)、保存料(ソルビン酸カリウム)、着色料(クルクミン)で構成されていた。 研究者らは、「われわれの知る限り、この研究結果は、同時に摂取されることが多い食品添加物と2型糖尿病リスクに関する、初めての知見である」と述べている。ただし、「なぜこれらの添加物の混合物が2型糖尿病リスクを高めるのかを理解するには、さらなる研究が必要」とコメントしている。 de la Garanderie氏は、「因果関係を証明するには、この観察研究の結果だけでは不十分だ。とはいえ、実験室内で行われた最近の研究では、さまざまな添加物が相互に影響を及ぼし合う『カクテル効果』が発生する可能性が示唆されており、われわれの研究結果はそれと一致するものだ」と述べている。

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エサキセレノンは、高齢のコントロール不良高血圧患者にも有効(EXCITE-HTサブ解析)/日本循環器学会

 高血圧治療において、高齢者は食塩感受性の高さや低レニン活性などの特性から、一般的な降圧薬では血圧コントロールが難しいケースもある。『高血圧治療ガイドライン2019』では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬が第一選択薬として推奨されているが、個々の患者に適した薬剤選択が重要である。このような背景のもと、自治医科大学の苅尾 七臣氏らの研究グループは、ARBまたはCa拮抗薬を投与されているコントロール不良の本態性高血圧患者を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のエサキセレノンと、サイアザイド系利尿薬であるトリクロルメチアジドとの降圧効果および安全性を比較する「EXCITE-HT試験」を実施した1~3)。その結果、エサキセレノンの降圧非劣性が示された。さらに、「EXCITE-HT試験」の対象者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分け、エサキセレノンの有効性と安全性を年齢別サブ解析として検証した4)。サブ解析の結果について、2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて苅尾氏より発表された。 「EXCITE-HT試験」は、2022年12月~2023年9月に実施された多施設(54施設)無作為化非盲検並行群間比較試験である。対象者は、試験登録前に4週間以上、同一用量のARBあるいはCa拮抗薬の投与を受け、コントロール不良の20歳以上の本態性高血圧患者(早朝家庭血圧が収縮期血圧[SBP]125mmHg以上/拡張期血圧[DBP]75mmHg以上)。並存疾患として、脳血管疾患、タンパク尿陰性の慢性腎臓病(CKD)または75歳以上の患者は、SBP 135mmHg以上/DBP 85mmHg以上の患者を試験対象とした。 本サブグループ解析は、対象患者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分類した。エサキセレノン群は、電子添文に従って2.5mg/日(並存疾患を有する場合は1.25mg/日)で開始し、12週間投与した。投与量は、治療4週後または8週後に5mg/日まで患者の状態に合わせて徐々に増量可能とした。トリクロルメチアジド群は、電子添文または高血圧治療ガイドライン(推奨用量は1mg/日以下)を参考に投与を開始し、治療4週後または8週後に患者の状態に合わせて増量した。ARBあるいはCa拮抗薬は全期間を通じて一定用量で投与され、他の降圧薬の使用は禁止された。主要評価項目は、ベースラインから試験終了時までの早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量。副次的評価項目は、就寝前の家庭血圧、診察室血圧の変化量、ならびにベースラインから12週目までの尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化率、およびNT-proBNP値の変化量。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性【65歳未満の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(137例):137.9/90.2mmHg トリクロルメチアジド群(133例):136.9/90.1mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(158例):142.0/84.0mmHg トリクロルメチアジド群(157例):141.6/83.6mmHg・早朝家庭血圧は、すべてのサブグループにおいてベースラインから試験終了時までに有意に減少した。エサキセレノンはトリクロルメチアジドに対して、65歳未満では、SBPおよびDBP共に非劣性を示し、65歳以上では、SBPで優越性が認められ、DBPで非劣性を示した(非劣性マージン:SBP 3.9mmHg/DBP 2.1mmHg)。就寝前家庭血圧および診察室血圧でも同様の結果が示された。【65歳未満の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:-9.5/-5.7mmHg トリクロルメチアジド群:−8.2/−4.9mmHg 群間差:−1.3(95%信頼区間[CI]:−3.3~0.8)/−0.8(95%CI:−2.1~0.5)mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:−14.6/−7.2mmHg トリクロルメチアジド群:−11.5/−6.7mmHg 群間差:−3.0(95%CI:−4.9~−1.2)/−0.5(95%CI:−1.5~0.5)mmHg・両群でUACRおよびNT-proBNP値の有意な低下が認められた。【UACRの幾何平均による変化率】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-28.3%vs.−38.1% 65歳以上:-46.8%vs.-45.0%【NT-proBNP値の変化量】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-14.25±78.21 vs.-4.29±102.45pg/mL 65歳以上:-47.68±317.18 vs.-13.73±81.49pg/mL・有害事象の発現率および試験薬投与中止率は両群で同程度であった。 エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 有害事象:35.1%vs.37.6% 試験薬投与中止:1例(0.3%)vs.5例(1.7%)・血清カリウム値は、65歳未満および65歳以上共に、トリクロルメチアジド群と比較して、エサキセレノン群でやや高い傾向が示された。低カリウム血症の頻度は、エサキセレノン群のほうが低かった。【低カリウム血症(<3.5mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:4.4%vs.14.0% 65歳以上:1.9%vs.9.5%【高カリウム血症(≧5.0mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:2.2%vs.0.8% 65歳以上:1.9%vs.0.6% 苅尾氏は本結果について、「エサキセレノンはトリクロルメチアジドと比較して、患者の年齢に関わらず、血圧降下作用において非劣性を示し、血清カリウム値に与える影響も、年齢による違いは認められず、有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。とくに高齢患者において、早朝家庭血圧を低下させる優れた効果が示された」と結論付けた。(ケアネット 古賀 公子)■参考文献はこちら1)Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2023;25:861-867.2)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;47:2435-2446.3)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;48:506-518.4)Kario K, et al. Hypertens Res. 2025;48:1586-1598.そのほかのJCS2025記事はこちら

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第9回 血液検査が切り拓く!新時代のアルツハイマー病早期発見法

現在、コレステロールに問題のある人は、コレステロールへの治療薬開始後、定期的にコレステロール値を測定され、その値をもとに治療が調整されているでしょう。あるいは、糖尿病でも同様、血糖値を見ながら、良くなった、悪くなったと議論されています。血液マーカーが拓く新時代こんなことが、アルツハイマー病の世界でもできるようになるかもしれない。今回は、そんなニュースをお届けします。アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβが蓄積して神経のシナプスを障害したり、タウ蛋白の過剰リン酸化によって神経に変化を引き起こしたりすることが、病気の成り立ちに大きく関わっていると考えられています。そうした背景から、現在アルツハイマー病の診断に当たっては、脳脊髄液の採取やPET検査によるアミロイドβの検出が主流になりつつあります。しかし、「アミロイドβがあっても認知症を発症しない」患者も一定数いることから、その立ち位置について議論があることもまた事実です。もしアミロイドβの存在証明が認知症を上手に予測できないのであれば、臨床的な意義は十分高いとはいえません。しかし、最近注目の“p-tau217“検査は、なんと発症の20年以上前から異常を検出できる優れた感度を持つというのです1)。さらに、驚くことにPET検査と同等かそれ以上の精度を示し2)、現状でも約200ドルで受けられるようになってきているということです。加えて、認知機能や認知症の重症度ともよく相関することが報告されています。つまり、ただの数値遊びではなく、臨床的な意義の高い値ではないかと期待されているのです。ペニーさんの劇的ビフォー&アフターCNNのニュースによれば3)、フロリダ州で行われた研究「BioRAND」に参加した61歳のペニーさんは、血圧管理、植物ベースの地中海式ダイエット、週数回の有酸素運動とレジスタンストレーニング、ヨガによるストレス緩和、睡眠管理、体重管理に加え、ビタミンやサプリメントの個別最適化を含む包括的な介入プログラムを実践しました。その結果、体重は約14kg減少し、筋肉量が増加。1年後の血液検査で、p-tau217が43%減少し、実際に言葉の取り出し能力や日々の体調も大きく向上しました。研究チームは「30代以降は定期的に検査を行い、異常があれば生活指導や薬物介入を行う──まさに脳のコレステロール検査のようなモデルだ」と提案しています。実用化への期待と慎重な視点ただし、現状では確固としてこのようなモデルを推奨できるものではなく、限界も数多く残されています。プラットフォーム間の検査精度のばらつき、80歳以上での有用性低下、病気が進んで自然経過でp-tau217が低下するケースも見られるなど、汎用する前に解決すべき課題も多く、「過度な期待は禁物」との慎重な見解も示されています。また、発症後に認知機能を著しく改善するような治療は知られていないことから、より早期に検出された患者さんの心理的サポートや倫理的側面など、検査ばかりが先走りしない仕組みづくりも重要です。とはいえ、血液検査でアルツハイマー病の発症予測や進行度合いを行うことができたり、一般の生活改善が血液マーカーに反映されることで、コレステロール値のような管理が可能になったりする未来を予見させる、アルツハイマー病予防の新たな可能性を提示するニュースであったともいえるでしょう。さらに、臨床的意義が確立されれば、新薬開発にも大きく貢献するものとなるはずです。今後、大規模な臨床研究・導入を経て、アルツハイマー病の世界を劇的に変えるような進歩につながることを期待したいですね。 1) Teunissen CE, et al. Alzheimers Dement. 2025;21:e14397. 2) Therriault J, et al. JAMA Neurol. 2023;80:188-199. 3) LaMotte S. ‘Amazing’ reduction in Alzheimer’s risk verified by blood markers, study says. CNN. 2025 April 7.

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フェリチン値から必要のない鉄剤を見極めて中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第66回

 鉄欠乏性貧血の治療において、「いつまで鉄剤を続けるべきか」「どのような投与方法が最適か」というのは薬剤師による処方提案の重要なポイントです。今回の症例では、高齢患者さんの鉄剤服用の必要性を血液検査データから見極め、さらに適切な投与スケジュールについて最新の英国ガイドラインを参考に提案しました。とくに注目すべきは、鉄剤投与後のヘプシジン上昇が次の鉄吸収を阻害するメカニズムに基づいた「1日1回投与」や「隔日投与」の有効性です。新しい知見では、従来の「分2投与」から「隔日投与」へ変更することで、患者さんの服薬負担を減らしながらも同等かそれ以上の治療効果が期待できることが示されています。貧血が改善し、フェリチン値が十分な状態であれば、鉄剤の中止も視野に入れることができます。患者情報95歳、女性(外来患者)ADL自立、要介護1、デイサービスなど利用なし身長:145cm、体重:40kg基礎疾患高血圧、鉄欠乏性貧血、低カリウム血症服薬管理通院時は娘と来局、自己管理可能処方内容1.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.エチゾラム0.5mg 1錠 分1 就寝前3.クエン酸第一鉄錠50mg 2錠 分2 朝夕食後4.アスパラカリウム錠 1錠 分1 朝食後処方提案までの経過この患者さんは、鉄欠乏性貧血に対してクエン酸第一鉄を服用中でしたが、「薬の粒が大きく服薬が困難」との相談があり、評価を実施しました。お薬手帳から少なくとも半年以上の鉄剤服用が確認できましたが、客観的な血液検査値による貧血状態は不明でした。検査データを確認したところ、以下の結果が得られました。<介入当初の採血結果>ヘモグロビン:12.8mg/dL(正常範囲内)平均赤血球容積:97.5(正常範囲内)フェリチン:203.5ng/mL(十分量の鉄貯蔵を示す)血清鉄:71μg/mL(正常範囲内)総鉄結合能:277(正常範囲内)これらの検査結果から、患者さんの鉄欠乏性貧血は改善し、貯蔵鉄も十分蓄積されていることが明らかになりました。なお、消化器症状(嘔気や便秘悪化)などの鉄剤による副作用はありませんでした。鉄剤の服用方法について調査したところ、英国消化器学会のガイドラインでは、分2投与より分1投与が推奨され、隔日投与も許容されていることも確認しました1)。鉄投与後にヘプシジンが上昇し、約24時間鉄吸収が低下するため、1日1回投与や隔日投与のほうが吸収効率が高いという新たな知見に基づく推奨です。処方提案とその後の経過服薬情報提供書を用いて、医師に以下の内容を提案しました。1.検査結果に基づく客観的評価フェリチン値が203.5ng/mLと鉄貯蔵が十分であるヘモグロビン値も12.8mg/dLと正常範囲内である2.服薬アドヒアランスの問題粒子径が大きく服用困難である患者の服薬負担軽減の必要性がある3.提案内容鉄欠乏性貧血の改善が認められるため、鉄剤の服用を中止または隔日投与に変更することで、服薬回数を減らして負担を軽減医師の診察で、提案内容と検査結果を踏まえ、フェリチン値も充足していることから鉄剤の服用継続の必要性がないと判断され、処方中止となりました。その後、患者さんからは動悸や息切れ、倦怠感などの貧血症状は報告されず、経過は良好です。服薬回数減少とともに服薬負担が軽減され、QOL向上に繋がりました。1)Snook J, et al. Gut. 2021;70:2030-2051.

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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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フィネレノン、CKD有するHFmrEF/HFpEFに有効~3RCT統合解析(FINE-HEART)/日本循環器学会

 心不全患者のほぼ半数が慢性腎臓病(CKD)を合併している。心不全とCKDは、高血圧、肥満、糖尿病といった共通のリスク因子を持ち、とくに左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者ではその関連がより顕著である。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系の活性化、炎症、内皮機能障害、線維化、酸化ストレスといった共通の病態生理学的経路を有する。したがって、心不全患者、とくにHFpEF患者において、腎保護が治療成功の鍵となっている。 心不全とCKDを合併した約1万9,000例の患者におけるフィネレノンの効果を評価するため、3件の大規模無作為化比較試験(RCT)の統合解析「FINE-HEART試験」が実施され、2024年の欧州心臓病学会で発表された。その結果、心不全とCKDを合併した患者において、原因不明死を含めると、フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させることが示され、腎疾患の進行、全死因死亡、心不全による入院などが有意に減少したことが示された。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 1にて、富山大学の絹川 弘一郎氏によりアンコール発表された。 本試験では、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノンの効果を検証した以下の3件のRCTのデータが統合された。・FINEARTS-HF試験:2型糖尿病を含む左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)/HFpEF患者6,001例を対象とした試験。・FIDELIO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者5,662例を対象とした腎アウトカム試験(左室駆出率が低下した心不全[HFrEF]患者は除外)。・FIGARO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者7,328例を対象とした心血管アウトカム試験(HFrEF患者は除外)。 FINE-HEART試験の対象者の90%以上が、心不全、CKD、2型糖尿病の1つ以上を有する高リスクCKM(心血管・腎・代謝)背景を持っていた。本試験の主要評価項目は心血管死であり、副次評価項目は複合心血管イベント、心不全による初回入院、全死因死亡などが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・FINE-HEART試験は、1万8,991例(平均年齢67±10歳、女性35%)で構成された。参加者の約90%が、推定糸球体濾過量(eGFR)の低下および/またはアルブミン尿のいずれかを伴うCKD進行リスクが高かった。・心血管死について、プラセボ群と比較して、フィネレノン群は、原因不明死を除くと、心血管死の有意ではない減少と関連していた(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.01、p=0.076)。ただし、原因不明死を含めると、フィネレノン群は心血管死を12%有意に減少させた(HR:0.88、95%CI:0.79~0.98、p=0.025)。・原因不明死を含めた場合の心血管死に対するフィネレノンの効果は、患者のCKM負担の程度かかわらず一貫していた。また、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といったベースラインの併用薬の有無にかかわらず、フィネレノンの効果は一貫していた。・フィネレノンは、複合腎アウトカム、心不全による初回入院、心血管死または全死因死亡、心房細動の新規発症を有意に減少させた。・HFmrEF/HFpEF患者7,008例(36.9%)を解析した結果、フィネレノン群ではプラセボ群と比較して、心血管死または心不全による入院が有意に減少した(HR:0.87、95%CI:0.78~0.98、p=0.008)。また、心不全による入院(HR:0.84、95%CI:0.74~0.94、p=0.003)、心房細動の新規発症(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97、p=0.030)を有意に減少させた。・フィネレノンは忍容性が良好であり、プラセボ群より重篤な有害事象の発現率が低かった。MRAの性質上、フィネレノン群で高カリウム血症が多くみられたが、高カリウム血症に関連する死亡は認められなかった。低カリウム血症は少なかった。収縮期血圧低下がよくみられ、血圧への影響は今後さらに検討が必要とされている。急性腎障害の増加は認められなかった。 フィネレノンは、CKMリスクを有する患者に対して、心血管・腎アウトカムを改善し、安全性も高い有望な治療選択肢であることが本試験により示された。絹川氏は「フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させた。FIDELIO試験とFIGARO試験では、心血管死は有意に減少しなかったため、これはFINE-HEART試験で新たに得られた知見だ。また、FIDELIO試験とFIGARO試験では、フィネレノンによるeGFRの初期低下が観察されたが、これも今後の検討課題となる」と述べた。(ケアネット 古賀 公子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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