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災害関連不眠症の長期経過~福島原発所員のフォローアップ調査

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所事故の災害関連体験と原子力発電所員の不眠症との関連、および各不眠症状への長期的な影響について、順天堂大学の野田(池田) 愛氏らが調査を行った。Sleep誌オンライン版2019年3月11日号の報告。 対象は、2011~14年までの3年間にアテネ不眠尺度を用いたアンケートおよび2011年の災害関連体験に関するアンケート調査に回答した発電所員1,403例。災害関連体験と不眠症との縦断的な関連を調査するため、混合効果ロジスティック回帰モデルを用いた。また、不眠症のサブタイプ(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒)に対する災害関連体験の潜在的な影響について、パス分析を用いて調査した。 主な結果は以下のとおり。・家族や同僚の死亡を除くすべての災害関連体験は、不眠症と有意な関連が認められた。・これらの外傷性曝露の大半は、時間に依存せず、不眠症リスクと関連していることが示唆された。・しかし、生命を脅かす危険を経験した影響は、時間とともに減少した。・パス分析では、生命を脅かす危険または爆発の目撃といった経験をした発電所員は、入眠の妨げとなる不安な場面を思い起こすと示唆された。・一方、早朝覚醒は、人生の不安定さと関連している可能性が示唆された。・社会的な差別や中傷が、3つの不眠症サブタイプと関連しており、生命を脅かす危険、財産の喪失、同僚の死亡といった他の経験にも影響されることが認められた。 著者らは「本調査結果より、災害関連体験を有する労働者に対して包括的な心理社会的支援が必要である」としている。■関連記事東日本大震災、深刻な精神状態の現状:福島医大震災と精神症状、求められる「レジリエンス」の改善震災による被害で認知症リスク増加

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たった一晩の絶食が筋力低下のリスクに

 入院時の夜間絶食は、患者の筋力にどの程度影響を及ぼすのか。今回、ブラジル・Universidade Federal de Mato GrossoのWesley Santana Correa-Arruda氏らにより、成人患者を対象とした前向き臨床試験が行われた。その結果、入院中の夜間絶食により、とくに低栄養、栄養失調および高齢の患者における筋肉機能が損なわれる可能性が示された。Einstein誌2019年1月14日号に掲載。 本試験は、2015年5月~2017年6月にHospital Universitario Julio Muller(ブラジル、Mato Grosso)へ入院した221例の患者を対象に行われた。平均年齢は56±16歳で、60歳以上の高齢者は93例(42.1%)、非高齢者は128例(57.9%)。参加者のうち119例(53.8%)は男性で、28例(12.7%)はがん治療を受け、193例(87.3%)は臨床治療を受けていた。 栄養状態は、良好(SGA-A)が38例(17.2%)、中等度の栄養不良(SGA-B)が69例(31.2%)、そして高度の栄養不良(SGA-C)が114例(51.6%)だった。 主な結果は以下のとおり。・夜間絶食後に評価された空腹時の平均握力(31.1±8.7kg)は、朝食後の平均握力(31.6±8.8kg、p=0.01)、および累積平均握力(31.7±8.8kg、p<0.001)と比較して小さかった。・夕食摂取時と夜間絶食時におけるそれぞれの空腹時の平均握力を比較すると、夕食摂取量100%の患者(33.2±9.1kg vs.30.4±8.4kg;p=0.03)および50%超の患者(32.1±8.4kg vs.28.6±8.8kg;p=0.006)では、夕食摂取時のほうが大きかった。一方、夕食摂取量50%以下および摂取量0の患者では、空腹時の平均握力の変化は見られなかった。・多変量解析の結果、一晩の夜間絶食後において、夕食摂取量50%以下ではオッズ比[OR]=2.17(95%信頼区間[CI]:1.16〜4.06;p=0.018)、高度な栄養不良ではOR=1.86(95%CI:1.06〜3.26;p=0.028)、高齢(60歳以上)ではOR=1.98(95%CI:1.12〜3.50;p=0.019)であり、それぞれの因子は、夜間絶食後における空腹時の有意な握力低下に対する独立した要因であることが示された。 以上の結果より、たとえ一晩でも、夜間絶食は空腹時の筋力を低下させ、栄養が不足している患者、とくに高齢者ではリスクが高いことが示された。しかし、筋力は食事摂取後に回復する可能性がある。これに対し、筆頭著者は「本研究では、夜間絶食が患者の筋力を低下させるリスクを示したが、夜間のエネルギー消費が日中よりも低いことはよく知られている。日中の絶食は、夜間絶食と比較して、より有害であることを意味する」とコメントしている。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は、運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムを呈し、緩徐に進行する神経変性疾患である。■ 疫学アルツハイマー病の次に頻度の高い神経変性疾患であり、平成26年に行われた厚生労働省の調査では、男性6万2千人、女性10万1千人の合計16万3千人と報告されている。65歳以上の患者数が13万8千人と全体の約85%を占め(有病率は1.5%以上)、加齢に伴い発症率が上昇する(ただし、若年性PDも存在しており、決して高齢者だけの疾患ではない)。症状は進行性で、歩行障害などの運動機能低下に伴い医療・介護を要し、社会的・経済的損失は著しい。超高齢社会から人生100年時代を迎えるにあたり、PD患者数は増え続けることが予想されており、本疾患の克服は一億総活躍社会を目指すわが国にとって喫緊の課題と言える。■ 病因これまでの研究により遺伝的因子と環境因子の関与、あるいはその相互作用で発症することが示唆されている。全体の約90%が孤発性であるが、10%程度に家族性PDを認める。1997年に初めてα-synucleinが家族性PDの原因遺伝子として同定され、その後当科から報告されたparkin、CHCHD2遺伝子を含め、これまでPARK23まで遺伝子座が、遺伝子については17原因遺伝子が同定されている。詳細はガイドラインなどを参照にしていただきたい。家族性PDの原因遺伝子が、同時に孤発性PDの感受性遺伝子となることが報告され、孤発性PDの発症に遺伝子が関与していることが明らかとなった。これら遺伝子の研究から、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、タンパク分解障害、リソソーム障害、α-synucleinの沈着などがPDの発症に関与することがわかっている。環境因子では、性差、タバコ、カフェインの消費量などが重要な環境因子として検討されている。他にも農薬、職業、血清尿酸値、抗炎症薬の使用、頭部外傷の既往、運動など多くの因子がリスクとして報告されている。■ 病理PDの病理学的特徴は、中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体(Lewy body)の出現である。PDでは黒質緻密層のメラニン色素を持った黒質ドパミン神経細胞が脱落するため、肉眼でも黒質の黒い色調が失われる(図1-A、B)。レビー小体は、HE染色でエオジン好性に染まる封入体で、神経細胞内にみられる(図1-C、D)。レビー小体は脳幹の中脳黒質(ドパミン神経細胞)だけではなく、橋上部背側の青斑核(ノルアドレナリン神経細胞)、迷走神経背側運動核、脳幹に分布する縫線核(セロトニン神経細胞)、前脳基底部無名質にあるマイネルト基底核(コリン作動性神経)、大脳皮質だけではなく、嗅球、交感神経心臓枝の節後線維、消化管のアウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢にも認められる。脳幹の中脳黒質の障害はPDの運動障害を説明し、その他の脳幹の核、大脳皮質、嗅覚路、末梢の自律神経障害は非運動症状(うつ症状、不眠、認知症、嗅覚障害、起立性低血圧、便秘など)の責任病変である。PDのhallmarkであるレビー小体が全身の神経系から同定されることはPDが、多系統変性疾患でありかつ全身疾患であることを示しており、アルツハイマー病とはこの点で大きく異なる。家族性PDの原因遺伝子としてα-synuclein遺伝子(SNCA遺伝子)が同定された後に、レビー小体の主要構成成分が、α-synuclein蛋白であることがわかり、この遺伝子とその遺伝子産物がPDの病態に深く関わっていることが明らかとなった。図1 パーキンソン病における中脳黒質の神経脱落とレビー小体画像を拡大する■ 症状1)運動症状運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムは、左右差が認められることが多く、優位側は初期から進行期まで不変であることが多い。初期から仮面様顔貌、小字症、箸の使いづらさなどの巧緻運動障害、腕振りの減少、小声などを認める。進行すると、姿勢保持障害・加速歩行・後方突進・すくみ足(最初の一歩が出ない、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなる)などを観察し、歩行時の易転倒性の原因となる。多くの症例で、進行期にはL-ドパの効果持続時間が短くなるウェアリングオフ現象を認める。そのためL-ドパを増量したり、頻回に内服する必要があるが、その一方でL-ドパ誘発性の不随意運動であるジスキネジア(体をくねらせるような動き。オフ時に認める振戦とは異なる)を認めるようになる。嚥下障害が進行すると、誤嚥性肺炎を来すことがある。2)非運動症状ほとんどの患者で非運動症状が認められ、前述の病理学的な神経変性、レビー小体の広がりが多彩な非運動症状の出現に関与している。非運動症状は、運動症状とは独立してQOLの低下を来す。非運動症状は、以下のように多彩であるが、睡眠障害、精神症状、自立神経症状、感覚障害の4つが柱となっている。(1)睡眠障害不眠、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorders:RBD)、日中過眠、突発性睡眠、下肢静止不能症候群(むずむず足症候群:restless legs syndrome)など(2)精神・認知・行動障害気分障害(うつ、不安、アパシー=無感情・意欲の低下、アンヘドニア=快感の消失・喜びが得られるような事柄への興味の喪失)、幻覚・妄想、認知機能障害、行動障害(衝動制御障害=病的賭博、性欲亢進、買い物依存、過食)など(3)自律神経症状消化管運動障害(便秘など)、排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、性機能障害(勃起障害など)、流涎など(4)感覚障害嗅覚障害、痛み、視覚異常など(5)その他の非運動症状体重減少、疲労など嗅覚障害、RBD、便秘、気分障害は、PDの前駆症状(prodromal symptom)として重要な非運動症状であり、とくに嗅覚障害とRBDは後述するInternational Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の診断基準にもsupportive criteria(支持的基準)として記載されている。■ 分類病期についてはHoehn-Yahrの重症度分類が用いられる(表1)。表1 Hoehn-Yahr分類画像を拡大する■ 予後現在、PDの平均寿命は、全体の平均とほとんど変わらないレベルまで良くなっている一方で、健康寿命については十分満足のいくものとは言い難い。転倒による骨折をしないことがPDの経過に重要であり、誤嚥性肺炎などの感染症は生命予後にとって重要である。2 診断■ 診断基準2015年MDSよりPDの新たな診断基準が提唱され、さらにわが国の『パーキンソン病診療ガイドライン2018』により和訳・抜粋されたものを示す。これによるとまずパーキンソニズムとして運動緩慢(無動)がみられることが必須であり、加えて静止時振戦か筋強剛のどちらか1つ以上がみられるものと定義された。姿勢保持障害は、診断基準からは削除された。パーキンソン病の診断基準(MDS)■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。

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不眠症に対する就寝時の音楽聴取に関するランダム化比較試験

 音楽は、不眠症を軽減するための自助ツールとして、よく用いられる。デンマーク・オーフス大学のKira Vibe Jespersen氏らは、不眠症改善のための就寝前の音楽聴取の効果を評価するため、評価者盲検ランダム化対照研究を行った。Journal of Sleep Research誌オンライン版2019年1月24日号の報告。 不眠症患者57例を、音楽介入群19例、オーディオブック群19例、待機コントロール群19例にランダムに割り付けた。主要アウトカムは、不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index)とした。さらに、睡眠ポリグラフィーおよびアクチグラフィーを用いて睡眠の客観的尺度を評価し、睡眠の質やQOLについても評価した。 主な結果は以下のとおり。・主要アウトカムについては、音楽介入群において、不眠症の重症度に有意な改善が認められたが、群×時間の相互作用は有意性に近づくものの、不眠症状に対する明らかな影響は認められなかった(エフェクトサイズ:0.71、p=0.06)。・副次的アウトカムについては、音楽介入群において、認知された睡眠の改善やQOLに対する有意な効果は認められたものの、睡眠の客観的尺度に変化は認められなかった。 著者らは「就寝時の音楽聴取は、睡眠の実感やQOLに好影響をもたらすものの、不眠症の重症度に対する明らかな効果は認められなかった。さまざまな不眠症サブタイプに対する音楽聴取の補助的または予防的な効果を評価するためには、さらなる研究が必要である」としている。■関連記事音楽療法が不眠症に有用成人不眠症に対する音楽療法に関するメタ解析不眠の薬物療法を減らすには

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全般性不安障害の治療、22剤を比較/Lancet

 英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのApril Slee氏らは、全般性不安障害(GAD)の成人患者を対象とした、各種薬剤とプラセボを比較した無作為化試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行い、すべての薬物クラスでGADに有効な治療法があり、最初の治療薬での失敗が薬物療法を断念する理由にはならない可能性があることを報告した。GADは、日常の身体的・心理的・社会的機能に影響を与える疾患で、精神療法は費用やリソースが限られていることから薬物療法が第1選択となることが多いが、これまでの研究では利用可能なさまざまな治療薬の比較に関する情報が不足していた。Lancet誌オンライン版2019年1月31日号掲載の報告。大規模なシステマティックレビューとネットワークメタ解析を実施 研究グループは、MEDLINE、Web of Science、Cochrane Library、ClinicalTrials.gov、Chinese National Knowledge Infrastructure(CNKI)、Wanfang data、Drugs@FDA、製薬会社の市販後登録などを用い、GAD成人外来患者を対象としたプラセボまたは実薬との無作為化比較試験を特定し、システマティックレビューとネットワークメタ解析を実施した。データは、すべての原稿および報告書から抽出された。 主要評価項目は、有効性(ハミルトン不安評価尺度[HAM-A]スコアの変化の平均差[MD])と、受容性(あらゆる原因による試験中止)とし、ランダム効果モデルによるネットワークメタ解析を用い、治療群の差とオッズ比を推定した。デュロキセチン、プレガバリン、ベンラファキシン、エスシタロプラムは有効で受容性あり 1994年1月1日~2017年8月1日に発表された試験のうち、1,992報がスクリーニングされ、89件の試験が解析対象となった。実薬22種類またはプラセボに無作為に割り付けられた2万5,441例のデータが組み込まれた。 プラセボと比較し、デュロキセチン(MD:-3.13、95%確信区間[CrI]:-4.13~-2.13)、プレガバリン(-2.79、-3.69~-1.91)、ベンラファキシン(-2.69、-3.50~-1.89)、エスシタロプラム(-2.45、-3.27~-1.63)は、比較的受容性が良好で有効であった。 ミルタザピン、セルトラリン、fluoxetine、buspirone、agomelatineも同様に、有効で受容性も良好であったが、これらは症例数が少なく結果は限定的であった。 HAM-Aの評価では、クエチアピン(MD:-3.60、95%CrI:-4.83~-2.39)が最も有効であったが、プラセボと比較した場合に受容性(オッズ比:1.44、95%CrI:1.16~1.80)に乏しかった。同様にパロキセチン、ベンゾジアゼピン系薬も有効であったが、プラセボと比較し受容性に乏しかった。 なお、報告バイアスのリスクは低いと考えられ、極力出版バイアスを避けるため、完了したすべての試験が組み込まれた。

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志水太郎の診断戦略ケーススタディ

第1回 隠された病変(The Hidden Lesion)第2回 一周回って確診に(Circling Back for the Diagnosis)第3回 Aから始まりZで終る(Going from A to Z)第4回 眠れる巨人(A Sleeping Giant) 診断のメカニズムを解き明かした名著「診断戦略」。そこで示された戦術や技法を、臨床でどのように使えば効率的かつ正確な診断が行えるのか、ケーススタディ形式で解説します。扱う症例はNEJM(The New England Journal of Medicine)の名物コーナー「Clinical Problem-Solving」に掲載されたもの。難症例を前に、直観的思考はどうひらめくのか、どのタイミングでどんな鑑別のクラスターを開くのか、そして正解の疾患はそこにあるのか。普段は決して覗くことのできない“名医の診断過程”は必見です。「診断戦略」を使いこなすことができれば、あなたの診断も劇的に変わります!第1回 隠された病変(The Hidden Lesion)NEJMに掲載された「The Hidden Lesion」を題材に、診断戦略の扱い方をケーススタディ形式で解説。番組では症例の第1段落にあたる病歴と身体診察のみの情報から診断へ迫ります。第2回 一周回って確診に(Circling Back for the Diagnosis)NEJMのClinical Problem-Solvingから、28歳男性の右上・下腹部痛の症例を扱います。病歴と身体所見の限られた情報から、直観的思考と分析的思考を使って診断に迫っていく過程は必見!「前医の情報を鵜呑みにしてはいけない」、新たな診断戦略「EHTL」も登場します。第3回 Aから始まりZで終る(Going from A to Z)今回はNEJMのClinical Problem-Solvingから、3ヵ月間続く下痢を訴える70歳男性の症例を扱います。突如判明する南アジアへの渡航歴に戸惑いながらも、わずかな病歴から直観的思考と分析的思考を使って診断に迫っていく過程は必見です!A(abdominal pain)で始まるこの症例が行き着くZとは?第4回 眠れる巨人(A Sleeping Giant)最終回はNEJMのClinical Problem-Solvingから、腹痛と寝汗が主訴の71歳女性の症例を扱います。副鼻腔炎の既往、寝汗、体重減少などそれぞれの情報から「分析的思考」を展開して鑑別診断を列挙。最終診断にたどり着くと、すべての謎が解けるはずです。

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厳格な降圧でも認知症の増加はない(解説:桑島巖氏)-1004

 厳格な降圧は認知症と関連するという懸念が一部にあったが、本試験の結果はそれを否定する科学的根拠を示した大規模臨床試験として貴重である。 降圧目標値の120mmHgが従来目標の140mmHgに比して心血管イベント抑制効果が高いことを示した有名な米国SPRINT試験のサブ試験である。当初から認知症疑い(probable dementia)をエンドポイントに設定して施行したprospective studyであり、信頼性は高い。 認知症の評価はモントリオール認知評価(MoCA)、Wechslerメモリースケールを用いての学習と記憶評価、Digit Symbolコーディングテストによる処理スピードの評価の3段階の評価が訓練を受けた専門スタッフによって試験開始時と追跡期間中に行われている。 認知障害のレベルは、認知症なし、軽度認知症、認知症疑いの3つに分類されており、このうち認知症疑いの発現が本試験の主要エンドポイントとなっており、軽度認知症発現は副次エンドポイントに設定されている。当然ながら、主試験の主旨によって明らかな認知症症例や認知症治療中の症例は最初から除外されている。 結果は、主要エンドポイントである認知症疑いには厳格降圧群と緩和降圧群の間にわずかなところで有意差がつかなかった(ハザード比:0.83、95%Cl:0.67~10.4)。これは主試験の心血管イベントで有意差がついたために3.34年で中止されて統計パワーが不足したためと考えられる。 それでも副次エンドポイントである軽度認知症発現に関しては有意に抑制したとの結果である。 しかしながら本試験はあくまでもサブ試験であるだけにlimitationがいくつかある。前述の心血管イベントに有意差がついてしまったために認知症における結果が出る前に試験が中止されたこと以外に、頭部の画像診断に関する情報がないため、認知症のタイプとしてのアルツハイマー型なのか血管型なのかのタイプ別解析ができていないことなどは知りたいところではある。

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血友病〔Hemophilia〕

血友病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■概要血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)あるいは第IX因子(FIX)の先天的な遺伝子異常により、それぞれのタンパクが量的あるいは質的な欠損・異常を来すことで出血傾向(症状)を示す疾患である1)。血友病は、古代バビロニア時代から割礼で出血死した子供が知られており、19世紀英国のヴィクトリア女王に端を発し、欧州王室へ広がった遺伝性疾患としても有名である1)。女王のひ孫にあたるロシア帝国皇帝ニコライ二世の第1皇子であり、最後の皇太子であるアレクセイ皇子は、世界で一番有名な血友病患者と言われ、その後の調査で血友病Bであったことが確認されている2)。しかし、血友病にAとBが存在することなど疾患概念が確立し、治療法も普及・進歩してきたのは20世紀になってからである。■疫学と病因血友病は、X連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)による遺伝形式を示す先天性の凝固異常症の代表的疾患である。基本的には男子にのみ発症し、血友病Aは出生男児約5,000人に1人、血友病Bは約2万5,000人に1人の発症率とされる1)。一方、約30%の患者は、家族歴が認められない突然変異による孤発例とされている1)。■分類血友病には、FVIII活性(FVIII:C)が欠乏する血友病Aと、FIX活性(FIX:C)が欠乏する血友病Bがある1)。血友病は、欠乏する凝固因子活性の程度によって重症度が分類される1)。因子活性が正常の1%未満を重症型(血友病A全体の約60%、血友病Bの約40%)、1~5%を中等症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)、5%以上40%未満を軽症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)と分類する1)。■症状血友病患者は、凝固因子が欠乏するために血液が固まりにくい。そのため、ひとたび出血すると止まりにくい。出産時に脳出血が多いのは、健常児では軽度の脳出血で済んでも、血友病児では止血が十分でないため重症化してしまうからである。乳児期は、ハイハイなどで皮下出血が生じる場合が多々あり、皮膚科や小児科を経由して診断されることもある。皮下出血程度ならば治療を必要としないことも多い。しかし、1歳以降、体重が増加し、運動量も活発になってくると下肢の関節を中心に関節内出血を来すようになる。擦り傷でかさぶたになった箇所をかきむしって再び出血を来すように、ひとたび関節出血が生じると同じ関節での出血を繰り返しやすくなる。国際血栓止血学会(ISTH)の新しい定義では、1年間に同じ関節の出血を3回以上繰り返すと「標的関節」と呼ばれるが、3回未満であれば標的関節でなくなるともされる3)。従来、重症型の血友病患者ではこの標的関節が多くなり、足首、膝、肘、股、肩などの関節障害が多く、歩行障害もかなりみられた。しかし、現在では1回目あるいは2回~数回目の出血後から血液製剤を定期的に投与し、平素から出血をさせないようにする定期補充療法が一般化されており、一昔前にみられた関節症を有する患者は少なくなってきている。中等症型~軽症型では出血回数は激減し、出血の程度も比較的軽く、成人になってからの手術の際や大けがをして初めて診断されることもある1)。■治療の歴史1960年代まで血友病の治療は輸血療法しかなく、十分な凝固因子の補充は不可能であった。1970年代になり、血漿から凝固因子成分を取り出したクリオ分画製剤が開発されたものの、溶解操作や液量も多く十分な因子の補充ができなかった1)。1970年代後半には血漿中の当該凝固因子を濃縮した製剤が開発され、使い勝手は一気に高まった。その陰で原料血漿中に含まれていたウイルスにより、C型肝炎(HCV)やHIV感染症などのいわゆる薬害を生む結果となった。当時、国内の血友病患者の約40%がHIVに感染し、約90%がHCVに感染した。クリオ製剤などの国内製剤は、HIV感染を免れたが、HCVは免れなかった1)。1983年にHIVが発見・同定された結果、1985年には製剤に加熱処理が施されるようになり、以後、製剤を経由してのHIV感染は皆無となった1)。HCVは1989年になってから同定され、1992年に信頼できる抗体検査が献血に導入されるようになり、以後、製剤由来のHCVの発生もなくなった1)。このように血友病治療の歴史は、輸血感染症との戦いの歴史でもあった。遺伝子組換え型製剤が主流となった現在でも、想定される感染症への対応がなされている1)。■予後血友病が発見された当時は治療法がなく、10歳までの死亡率も高かった。1970年代まで、重症型血友病患者の平均死亡年齢は18歳前後であった1,4)。その後、出血時の輸血療法、血漿投与などが行われるようになったが、十分な治療からは程遠い状態であった。続いて当該凝固因子成分を濃縮した製剤が開発されたが、非加熱ゆえに薬害を招くきっかけとなってしまった。このことは血友病患者の予後をさらに悪化させた。わが国におけるHIV感染血友病患者の死亡率は49%(平成28年時点のデータ)だが、欧米ではさらに多くの感染者が存在し、死亡率も60%を超えるところもある5)。罹患血友病患者においては、感染から30年を経過した現在、肝硬変の増加とともに肝臓がんが死亡原因の第1位となっている5)。1987年以後は、輸血感染症への対策が進んだほか、遺伝子組換え製剤の普及も進み、若い世代の血友病患者の予後は飛躍的に改善した。現在では、安全で有効な凝固因子製剤の供給が高まり、出血を予防する定期補充療法も普及し、血友病患者の予後は健常者と変わらなくなりつつある1)。2 診断乳児期に皮下出血が多いことで親が気付く場合も多いが、1~2歳前後に関節出血や筋肉出血を生じることから診断される場合が多い1)。皮膚科や小児科、時に整形外科が窓口となり出血傾向のスクリーニングが行われることが多い。臨床検査でAPTTの延長をみた場合には、男児であれば血友病の可能性も考え、確定診断については専門医に紹介して差し支えない。乳児期の紫斑は、母親が小児科で虐待を疑われるなど、いやな思いをすることも時にあるようだ。■検査と鑑別診断血友病の診断には、血液凝固時間のPTとAPTTがスクリーニングとして行われる。PT値が正常でAPTT値が延長している場合は、クロスミキシングテストとともにFVIII:CまたはFIX:Cを含む内因系凝固因子活性の測定を行う1)。FVIII:Cが単独で著明に低い場合は、血友病Aを強く疑うが、やはりFVIII:Cが低くなるフォン・ヴィレブランド病(VWD)を除外すべく、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性を測定しておく必要がある1)。軽症型の場合には、血友病AかVWDか鑑別が難しい場合がある。FIX:Cが単独で著明に低ければ、血友病Bと診断してよい1)。新生児期では、ビタミンK欠乏症(VKD)に注意が必要である。VKDでは第II、第VII、第IX、第X因子活性が低下しており、PTとAPTTの両者がともに延長するが、ビタミンKシロップの投与により正常化することで鑑別可能である。それでも血友病が疑われる場合にはFVIII:CやFIX:Cを測定する6)。まれではあるが、とくに家族歴や基礎疾患もなく、それまで健康に生活していた高齢者や分娩後の女性などで、突然の出血症状とともにAPTTの著明な延長と著明なFVIII:Cの低下を認める「後天性血友病A」という疾患が存在する7)。後天的にFVIIIに対する自己抗体が産生されることにより活性が阻害され、出血症状を招く。100万人に1~4人のまれな疾患であるがゆえに、しばしば診断や治療に難渋することがある7)。ベセスダ法によるFVIII:Cに対するインヒビターの存在の確認が確定診断となる。■保因者への注意事項保因者には、血友病の父親をもつ「確定保因者」と、家系内に患者がいて可能性を否定できない「推定保因者」がいる。確定保因者の場合、その女性が妊娠・出産を希望する場合には、前もって十分な対応が可能であろう。推定保因者の場合にもしかるべき時期がきたら検査をすべきであろう。保因者であっても因子活性がかなり低いことがあり、幼小児期から出血傾向を示す場合もあり、製剤の投与が必要になることもあるので注意を要する。血友病児が生まれるときに、頭蓋内出血などを来す場合がある。保因者の可能性のある女性を前もって把握しておくためにも、あらためて家族歴を患者に確認しておくことが肝要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)従来は、出血したら治療するというオンデマンド、出血時補充療法が主体であった1)。欧米では1990年代後半から、安全な凝固因子製剤の使用が可能となり、出血症状を少なくすることができる定期的な製剤の投与、定期補充療法が普及してきた1)。また、先立って1980年代には自己注射による家庭内治療が一般化されてきたこともあり、わが国でも1990年代後半から定期補充療法が幅広く普及し、その実施率は年々増加してきており、現在では約70%の患者がこれを実践している5)。定期補充療法の普及によって、出血回数は減少し、健康な関節の維持が可能となって、それまでは消極的にならざるを得なかったスポーツなども行えるようになり、血友病の疾患・治療概念は大きく変わってきた。定期補充療法の進歩によって、年間出血回数を2回程度に抑制できるようになってきたが、それぞれの因子活性の半減期(FVIIIは10~12時間、FIXは20~24時間)から血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回の投与が推奨され、かつ必要であった1)。凝固因子製剤は、静脈注射で供給されるため、実施が困難な場合もあり、患者は常に大きな負担を強いられてきたともいえる。そこで、少しでも患者の負担を減らすべく、半減期を延長させた製剤(半減期延長型製剤:EHL製剤)の開発がなされ、FVIII製剤、FIX製剤ともにそれぞれ数社から製品化された6,8)。従来の凝固因子に免疫グロブリンのFc領域ではエフラロクトコグ アルファ(商品名:イロクテイト)、エフトレノナコグ アルファ(同:オルプロリクス)、ポリエチレングリコール(PEG)ではルリオクトコグ アルファ ペゴル(同:アディノベイト)、ダモクトコグ アルファ ペゴル(同:ジビイ)、ノナコグ ベータペゴル(同:レフィキシア)、アルブミン(Alb)ではアルブトレペノナコグ アルファ(同:イデルビオン)などを修飾・融合させることで半減期の延長を可能にした6,8)。PEGについては、凝固因子タンパクに部位特異的に付加したものやランダムに付加したものがある。付加したPEGの分子そのもののサイズも20~60kDaと各社さまざまである。また、通常はヘテロダイマーとして存在するFVIIIタンパクを1本鎖として安定化をさせたロノクトコグ アルファ(同:エイフスチラ)も使用可能となった。これらにより血友病AではFVIIIの半減期が約1.5倍に延長され、週3回が週2回へ、血友病BではFIXの半減期が4~5倍延長できたことから従来の週2回から週1回あるいは2週に1回にまで注射回数を減らすことが可能となり、かつ出血なく過ごせるようになってきた6,8)。上手に製剤を使うことで標的関節の出血回避、進展予防が可能になってきたとともに年間出血回数ゼロを目指すことも可能となってきた。■個別化治療以前は<1%の重症型からそれ以上(1~2%以上の中等症型)に維持すれば、それだけでも出血回数を減らすことが可能ということで、定期補充療法のメニューが組まれてきた。しかし、製剤の利便性も向上し、EHL製剤の登場により最低レベル(トラフ値)もより高く維持することが可能となってきた6,8)。必要なトラフ値を日常生活において維持するのみならず、必要なとき、必要な時間に、患者の活動に合わせて因子活性のピークを作ることも可能になった。個々の患者のさまざまなライフスタイルや活動性に合わせて、いわゆるテーラーメイドの個別化治療が可能になりつつある。また、合併症としてのHIV感染症やHCVのみならず、高齢化に伴う高血圧、腎疾患や糖尿病などの生活習慣病など、個々の合併症によって出血リスクだけではなく血栓リスクも考えなければならない時代になってきている。ひとえに定期補充療法が浸透してきたためである。ただし、凝固因子製剤の半減期やクリアランスは、小児と成人では大きく異なり、個人差が大きいことも判明している1)。しっかりと見極めるためには個々の薬物動態(PK)試験が必要である。現在ではPopulation PKを用いて投与後2ポイントの採血と体重、年齢などをコンピュータに入力するだけで、個々の患者・患児のPKがシミュレートできる9)。これにより、個々の患者・患児の生活や出血状況に応じた、より適切な投与量や投与回数に負担をかけずに検討できるようになった。もちろん医療費という面でも費用対効果を高めた治療を個別に検討することも可能となってきている。■製剤の選択基本的には現在、市場に出ているすべての凝固因子製剤は、その効性や安全性において優劣はない。現在、製剤は従来型、EHL含めてFVIIIが9種類、FIXは7種類が使用可能である。遺伝子組換え製剤のシェアが大きくなってきているが、国内献血由来の血漿由来製剤もFVIII、FIXそれぞれにある。血漿由来製剤は、未知の感染症に対する危険性が理論的にゼロではないため、先進国では若い世代には遺伝子組換え製剤を推奨している国が多い。血漿由来製剤の中にあって、VWF含有FVIII製剤は、遺伝子組換え製剤よりインヒビター発生リスクが低かったとの報告もなされている10)。米国の専門家で構成される科学諮問委員会(MASAC)は、最初の50EDs(実投与日数)はVWF含有FVIII製剤を使用してインヒビターの発生を抑制し、その後、遺伝子組換え製剤にすることも1つの方法とした11)。ただ、初めて凝固因子製剤を使用する患児に対しては、従来の、あるいは新しい遺伝子組換え製剤を使用してもよいとした11)。どれを選択して治療を開始するかはリスクとベネフィットを比較して、患者と医療者が十分に相談したうえで選択すべきであろう。4 今後の展望■個々の治療薬の開発状況1)凝固因子製剤現在、凝固因子にFc、PEG、Albなどを修飾・融合させたEHL製剤の開発が進んでいることは既述した。同様に、さまざまな方法で半減期を延長すべく新規薬剤が開発途上である。シアル酸などを結合させて半減期を延長させる製剤、FVIIIがVWFの半減期に影響されることを利用し、Fc融合FVIIIタンパクにVWFのDドメインとXTENを融合させた製剤などの開発が行われている12)。rFVIIIFc-VWF(D’D3)-XTENのフェーズ1における臨床試験では、その半減期は37時間と報告され、血友病Aも1回/週の定期補充療法による出血抑制の可能性がみえてきている13)。2)抗体医薬これまでの血液製剤はいずれも静脈注射であることには変わりない。インスリンのように簡単に注射ができないかという期待に応えられそうな製剤も開発中である。ヒト化抗第IXa・第X因子バイスペシフィック抗体は、活性型第IX因子(FIXa)と第X因子(FX)を結合させることによりFX以下を活性化させ、FVIIIあるいはFVIIIに対するインヒビターが存在しても、それによらない出血抑制効果が期待できるヒト型モノクローナル抗体製剤(エミシズマブ)として開発されてきた。週1回の皮下注射で血友病Aのみならず血友病Aインヒビター患者においても、安全性と良好な出血抑制効果が報告された14,15)。臨床試験においても年間出血回数ゼロを示した患者の割合も数多く、皮下注射でありながら従来の静脈注射による製剤の定期補充療法と同等の出血抑制効果が示された。エミシズマブはへムライブラという商品名で、2018年5月にインヒビター保有血友病A患者に対して認可・承認され、続いて12月にはインヒビターを保有しない血友病A患者においてもその適応が拡大された。皮下注射で供給される本剤は1回/週、1回/2週さらには1回/4週の投与方法が選択可能であり、利便性は高いものと考えられる。いずれにおいても血中濃度を高めていくための導入期となる最初の4回は1回/週での投与が必要となる。この期間はまだ十分に出血抑制効果が得られる濃度まで達していない状況であるため、出血に注意が必要である。導入時には定期補充を併用しておくことも推奨されている。しかし、けっして年間出血回数がすべての患者においてゼロになるわけではないため、出血時にはFVIIIの補充は免れない。インヒビター保有血友病A患者におけるバイパス製剤の使用においても同様であるが、出血時の対応については、主治医や専門医とあらかじめ十分に相談しておくことが肝要であろう。血友病Bではその長い半減期を有するEHLの登場により1回/2週の定期補充により出血抑制が可能となってきた。製剤によっては、通常の使用量で週の半分以上をFIXが40%以上(もはや血友病でない状態「非血友病状態」)を維持可能になってきた。血友病Bにおいても皮下注射によるアプローチが期待され、開発されてきている。やはりヒト型モノクローナル抗体製剤である抗TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)抗体はTFPIを阻害し、TF(組織因子)によるトロンビン生成を誘導することで出血抑制効果が得られると考えられ、現在数社により日本を含む国際共同試験が行われている12)。抗TFPI抗体の対象は血友病AあるいはB、さらにはインヒビターあるなしを問わないのが特徴であり、皮下注射で供給される12)。また、同様に出血抑制効果が期待できるものに、肝細胞におけるAT(antithrombin:アンチトロンビン)の合成を、RNA干渉で阻害することで出血抑制を図るFitusiran(ALN-AT3)なども研究開発中である12)。3)遺伝子治療1999年に米国で、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療のヒトへの臨床試験が初めて行われた15)。以来、ex vivo、in vivoを問わずさまざまなベクターを用いての研究が行われてきた15)。近年、AAVベクターによる遺伝子治療による長期にわたっての安全性と有効性が改めて確認されてきている。FVIII遺伝子(F8)はFIX遺伝子(F9)に比較して大きいため、ベクターの選択もその難しさと扱いにくさから血友病Bに比べ、遅れていた感があった。血友病BではPadua変異を挿入したF9を用いることで、より少ないベクターの量でより副作用少なく安全かつ高効率にFIXタンパクを発現するベクターを開発し、10例ほどの患者において1年経た後も30%前後のFIX:Cを維持している16-18)。1回の静脈注射で1年にわたり、出血予防に十分以上のレベルを維持していることになる。血友病AでもAAVベクターを用いてヒトにおいて良好な結果が得られており、血友病Bの臨床開発に追い着いてきている16-18)。両者ともに海外においてフェーズ 1が終了し、フェーズ 3として国際臨床試験が準備されつつあり、2019年に国内でも導入される可能性がある。5 主たる診療科血友病の診療経験が豊富な診療施設(診療科)が近くにあれば、それに越したことはない。しかし、専門施設は大都市を除くと各県に1つあるかないかである。ネットで検索をすると血友病製剤を扱う多くのメーカーが、それぞれのホームページで全国の血友病診療を行っている医療機関を紹介している。たとえ施設が遠方であっても病診連携、病病連携により専門医の意見を聞きながら診療を進めていくことも十分可能である。日本血栓止血学会では現在、血友病診療連携委員会を立ち上げ、ネットワーク化に向けて準備中である。国内においてその拠点となる施設ならびに地域の中核となる施設が決定され、これらの施設と血友病患者を診ている小規模施設とが交流を持ち、スムーズな診療と情報共有ができるようにするのが目的である。また、血友病には患者が主体となって各地域や病院単位で患者会が設けられている。入会することで大きな安心を得ることが可能であろう。困ったときに、先輩会員に相談でき、患児の場合は同世代の親に気軽に相談することができるメリットも大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(National Hemophilia Network of Japan)(血友病患者と家族の会)1)Lee CA, et al. Textbook of Hemophilia.2nd ed.USA: Wiley-Blackwell; 2010.2)Rogaev EI, et al. Science. 2009;326:817.3)Blanchette VS, et al. J Thromb Haemost. 2014;12:1935-1939.4)Franchini M, et al. J Haematol. 2010;148:522-533.5)瀧正志(監修). 血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書.公益財団法人エイズ予防財団;2017. 6)Nazeef M, et al. J Blood Med. 2016;7:27-38.7)Kessler CM, et al. Eur J Haematol. 2015;95:36-44.8)Collins P, et al. Haemophilia. 2016;22:487-498.9)Iorio A, et al. JMIR Res Protoc. 2016;5:e239.10)Cannavo A, et al. Blood. 2017;129:1245-1250.11)MASAC Recommendation on SIPPET. Results and Recommendations for Treatment Products for Previously Untreated Patients with Hemophilia A. MASAC Document #243. 2016.12)Lane DA. Blood. 2017;129:10-11.13)Konkle BA, et al. Blood 2018,San Diego. 2018;132(suppl 1):636(abstract).14)Shima M, et al. N Engl J Med. 2016;374:2044-2053.15)Oldenburg J, et al. N Engl J Med. 2017;377:809-818.16)Swystun LL, et al. Circ Res. 2016;118:1443-1452.17)Doshi BS, et al. Ther Adv Hematol. 2018;9:273-293.18)Monahan PE. J Thromb Haemost. 2015;1:S151-160.公開履歴初回2017年9月12日更新2019年2月12日

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【GET!ザ・トレンド】大動脈から全身を探る(前編)

100年前、William Osler博士は「人は血管と共に老いる」という言葉を残した。血管は生命予後に大きな影響を与える。従来の知見と共に、目の前の患者の血管が今どういう状態なのか。それが把握できれば、より具体的かつ個別な治療戦略の立案が可能である。血管内視鏡の臨床活用の現状と今後の可能性について、NPO法人 日本血管映像化研究機構 名誉理事長 児玉 和久氏に聞いた。全血管に適用可能になった血流維持型血管内視鏡1952年にわが国で開発された消化器内視鏡は、いまや世界の臨床医学の中で不可欠な技術である。この技術を同じ管腔臓器である血管にも活かせないか。1980年代、血管内視鏡の開発はそこから始まった。消化管とは異なり、血管では血液をよけなければ内腔を観察できない。血液をよけるには、阻血と疎血という2つの方法がある。最初の血管内視鏡は、米国で開発された。冠動脈をターゲットとし、バルーンで血液を“阻”む血流遮断型内視鏡で、1990年にFDAから承認された。しかし、人工的に作られる虚血リスクのため、承認後に数多くの事故を起こし、使用禁止措置になっている。児玉氏らは、虚血リスクを回避して“疎”血するため、内視鏡と外筒(誘導カテーテル)の隙間から疎血液(主体はデキストラン溶液)を注入して先端を疎血化する方法を開発した。1988年にAHA(米国心臓協会)国際会議でプロトタイプを発表し、1990年に、冠動脈をはじめとするすべての軟性血管を対象にした臨床使用に保険収載された。使用開始後、その利点からきわめて安全性が高いことが実証されている。とはいえ、血流の多い血管では十分に疎血できない。そのため、2014年に2ヵ所から疎血液を注入するDual Infusion法を開発し成功した。このDual Infusion法は、血流が多く、圧力も高い大動脈の内腔の観察も可能にした。このような改良を加え、児玉氏らの血流維持型血管内視鏡は、現在まで4万2,000例、そのうち冠動脈3万9,000例、大動脈2,000例超の実績を残している。さらに、内視鏡長を1.5mに延長し、1本で冠動脈から大動脈、末梢血管まですべて観察できるよう開発している。原因不明の突然死と急性大動脈症候群(AAS)の関係わが国の原因不明の突然死、その多くの疾病名は心臓疾患である。しかし、久山町研究で原因不明の突然死を解剖したところ、20%が大動脈の突然破裂である急性大動脈症候群(Acute aortic syndrome:AAS)であった。大動脈破裂の発生率は、欧州の疫学調査では0.015%で、大きな問題とはされていない。しかし、「日本人の人口1.2億人に換算すると、1.5万人と決して無視できない数字。たとえば50歳以上の高血圧など特定のコホートを選べばもっと高くなると考えられる」と児玉氏は言う。AASの致死率は高く、英国の病院における2万例の研究での院内死亡率は66%であった。イベントを起こす前の先制診断が必要だ。しかし、AASについての知見は少なく、無症状が多いため、発作前診断はきわめて難しい。血流維持型血管内視鏡によるAASの先制診断の可能性「大動脈解離も大動脈瘤も、その発端は血管内膜の微細な損傷」である。早期に大動脈の内膜を詳細に観察することが早期発見につながる。しかし、現在の血管造影、CT、超音波などの画像診断方法では、空間分解能が不足し、この微細な損傷は検出不可能である。児玉氏らのDual Infusion血流維持型血管内視鏡は、空間分解能、時間分解能にすぐれ、大動脈内腔の詳細な観察が可能である。実際に無症状の患者を含む多くの症例で、内膜の亀裂、血流の潜り込み、粥腫破綻といった大動脈内腔の異常が確認できており、AASの先制診断の可能性が示唆される。>>後編に続く

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【GET!ザ・トレンド】大動脈から全身を探る(後編)

日本血管映像化研究機構の研究が、Journal of the American College of Cardiology誌2018年6月26日号(筆頭執筆者、小松 誠:大阪暁明館病院)」に掲載された1)。300例以上の心血管疾患の診断または疑い患者の80%で、大動脈に動脈硬化性粥腫がびまん性に高密度に散在し、常に無症状の自発的破綻を起こしていることが血流維持型血管内視鏡で観察された。さらに、そのサイズは、従来考えられていたものよりもはるかに小さいものであった。大動脈の粥状硬化とコレステロール・クリスタル実臨床における多数例の大動脈内腔観察の実績から「大動脈にはおびただしい数の粥状硬化病変が認められる。粥状硬化は若年から進行し、自発的破綻を繰り返している」と児玉氏は述べる。また、多くの大動脈粥腫の破綻時に、粥腫のdebrisと共にコレステロールの結晶である「コレステロール・クリスタル」が大量に遊離されていることが、児玉氏らのDual Infusion血流維持型血管内視鏡で確認されている。これらは大動脈を通して、すべての臓器に流れていく。とくに、コレステロール・クリスタルは、末梢動脈にトラッピングを起こし、その結果、虚血性細胞死を引き起こすと考えられる。毛細血管は平均8μm、一方コレステロール・クリスタルは平均50~60μmである。毛細血管でトラッピングされる可能性はきわめて高い。実際に、コレステロール・クリスタルは「動脈血中のみに存在し、静脈血ではほとんど観察されないことから、末梢組織で濾過され、全身臓器中の毛細血管の塞栓子となっている可能性がある。大動脈がこういったごみを流し続ければ、すべての臓器に大きなダメージを引き起こす可能性がある」と児玉氏は言う。この現象は、脳、眼、耳、消化器、腎臓、筋肉、四肢などあらゆる臓器に、時間を経るに従い顕著となり、種々の悪影響を引き起こす。実際に、無症候性脳虚血、脳梗塞を併発した認知症、網膜動脈閉塞による失明、腸間膜閉塞、CKD(慢性腎臓病)、PAD(末梢動脈疾患)といった症例で、大動脈内の粥腫破綻とコレステロール・クリスタルの内視鏡所見が一致することが、児玉氏らの血流維持型血管内視鏡で確認されている。臨床研究によるエビデンス形成多くの所見が確認されているとはいえ、エビデンスを作っていく必要がある。現在、同法人の理事長 平山 篤志氏を中心に、内視鏡所見と臨床経過を突き合わせていくレジストリ研究が始まっている。また、国立循環器病研究センターに保存されている脳梗塞の標本についても再検討が始められ、コレステロール・クリスタルの存在を確認する作業が進められているという。前述のWilliam Osler博士による「人は血管と共に老いる」という言葉に対し、児玉氏は、「いまや“人は大動脈と共に老いる”ではないか」と提言する。今年で13回目となる日本血管映像化研究機構主催のTCIF(Trans Catheter Imaging Forum)が4月26日・27日に大阪で開催される。テーマは上記の「人は大動脈と共に老いる」である。近年、循環器科にとどまらず、脳神経外科、放射線科、眼科などに参加者は拡大しているという。さまざまな未知の病態が、この日本発の技術の進歩と共に解明されていくことを期待する。1)Komatsu S, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:2893-2902.参考第13回 TCIF 2019関連記事世界初、大動脈プラーク破綻の撮影に成功<<前編に戻る

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変形性膝関節症の痛み、薬物療法の長期効果は/JAMA

 変形性膝関節症患者における薬物療法による長期的な疼痛緩和効果には、プラセボと比較して考慮すべき不確実性が存在することが、イタリア・パドバ大学のDario Gregori氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2018年12月25日号に掲載された。変形性関節症は、慢性で進行性の疾患だが、薬物療法は主に短期の検討が行われており、そのため長期の疾患管理における推奨治療が不明確になっているという。追跡期間1年以上の試験のネットワークメタ解析 研究グループは、変形性膝関節症患者を12ヵ月以上追跡した薬物療法の無作為化臨床試験を系統的にレビューし、ネットワークメタ解析を行った(パドバ大学などの助成による)。 医学関連データベースを用いて、治療を受け、1年以上の追跡が行われた変形性膝関節症患者の無作為化臨床試験を検索した。選出された試験につき、ベイズ法の変量効果を用いてネットワークメタ解析を行った。 主要評価項目は、膝疼痛のベースラインからの変化とした。副次評価項目は、身体機能および関節構造であった。関節構造については、X線画像で評価した関節裂隙狭小化とした。標準化平均差(SMD)および95%信用区間(CrI)を算出した。7クラス、33種の薬剤、有効性は少数のみ 日本の1試験を含む47件の無作為化臨床試験(2万2,037例、ほとんどが55~70歳、約70%が女性)が解析に含まれた。これらの試験では、以下の7つの薬剤クラスの33種の薬剤による介入の検討が行われた。 鎮痛薬(アセトアミノフェン)、抗酸化薬(ビタミンE)、骨活性薬(ビスホスホネート、ラネル酸ストロンチウムなど)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、関節内注射薬(ヒアルロン酸、コルチコステロイドなど)、変形性関節症治療用遅効性薬(SYSADOA)(グルコサミン硫酸、コンドロイチン硫酸など)、推定疾患修飾薬(cindunistat、spriferminなど)。 疼痛は31件、身体機能は13件、関節構造は16件の介入で評価が行われていた。試験期間には1~4年の幅があった。 疼痛の抑制に関しては、NSAIDのセレコキシブ(SMD:-0.18、95%CrI:-0.35~-0.01)およびSYSADOAのグルコサミン硫酸(-0.29、-0.49~-0.09)で有意な効果がみられたものの、プラセボとの比較ではすべての薬剤で多大な不確実性が認められた。 疼痛の有意な改善効果は、標準化された0~100の尺度の平均差を用いた場合、およびバイアスのリスクが高い試験を除外した場合には、セレコキシブでは消失し、グルコサミン硫酸のみで保持されていた。 副次アウトカムについても、プラセボと比較した長期的な治療効果に関し、考慮すべき不確実性が認められた。身体機能の有意な改善効果を認めたのはグルコサミン硫酸(SMD:-0.32、95%CrI:-0.52~-0.12)のみであった。 関節裂隙狭小化の有意な改善効果は、グルコサミン硫酸(SMD:-0.42、95%CrI:-0.65~-0.19)、コンドロイチン硫酸(-0.20、-0.31~-0.07)、ラネル酸ストロンチウム(-0.20、-0.36~-0.05)で得られた。 著者は、「薬物療法の長期的な効果の不確実性を解決するには、より大規模な臨床試験を行う必要がある」としている。

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顕微鏡的多発血管炎〔MPA:microscopic polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)は、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性となる中小型血管炎である。欧米と比べ、わが国ではプロテイナーゼ3(proteinase3:PR3)ANCA陽性患者が少なく、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)陽性患者が多く、欧米よりも高齢患者が多いのが特徴である1,2)。多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA、旧ウェゲナー肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA、旧チャーグ・ストラウス症候群)とともに、ANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)に分類される。■ 疫学平成28年度の指定難病受給者は9,610人であった。Fujimotoらは、AAV発症の地理的な相違を明らかにするために、日本と英国でのAAV罹患率の比較を行った。AAVとしては、100万人当たりの年間罹患率は、日本22.6、英国21.8で同等であったが、日本ではAAVの約80%をMPAが占める一方で、英国では6.5%のみであり、GPAが最も多く約65%であった3)。男女比は1:1~1:1.2とされている。■ 病因1)遺伝的背景日本人のMPAでは、HLA-DRB1*09:01陽性例が50%にみられ、健康対照群に比べて有意に多いことが報告されている1,4)。このHLA-DRB1*09:01は日本人の29%に認められるなどアジア系集団で高頻度に認められるが、欧州系集団やアフリカ系集団にはほとんど存在しない1,4,5)。このことが、日本でMPAやMPO-ANCA陽性例が多い遺伝的背景の1つと考えられる。さらにその後、DRB1*09:01とDQB1*03:03の間に強い連鎖不平衡が認められ、この両者がMPAと関連すること、逆に、DRB1*13:02はMPAとMPO-ANCA陽性血管炎の発症に対し抵抗性に関与している(MPO-ANCA陽性血管炎群に有意に減少している)ことが明らかとなった5,6)。2)血管炎発症のメカニズムBrinkmannらは、phorbol myristate acetate(PMA)で刺激された好中球が細胞死に至る際に、DNAを網状の構造にし、MPOやPR3などの抗菌タンパクやヒストンとともに放出する現象を見出し、その構造物を好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)と呼んだ7,8)。NETsは細菌などを殺し、自然免疫に関与しているが、その後ANCA関連血管炎患者の糸球体の半月体の部分に存在することが確認された8,9)。Nakazawaらは、プロピルチオウラシル(抗甲状腺剤)添加により生成されたNETsが、NETsの分解酵素であるDNase Iで分解されにくいこと、さらにこれを投与したラットがMPO-ANCA陽性の細胞増殖性糸球体腎炎を発症することを報告した8,10)。さらに、MPO-ANCAを有するMPA患者のIgGは、全身性エリテマトーデス患者や健常者よりも強くNETsを誘導すること、NETs誘導の強さは疾患活動性やMPO-ANCAのMPOへの結合性と相関していること、MPA患者血清のDNase I活性が低下していることが報告された8,11)。これらをまとめ、岩崎らは、MPA患者はDNase I活性低下などNETsを分解しにくい素因があり、感染や薬剤(プロピルチオウラシル、ミノサイクリン、ヒドラジンなど)1)が加わり、NETsの分解障害が起こり、NETsの構成成分であるMPOに対する抗体(MPO-ANCA)が産生されること、さらにANCAがサイトカインや補体第2経路によりプライミングされた好中球表面のMPOに強固に結合し、Fcγ受容体を介してさらに好中球を活性化させてNETsを放出し、血管壁を壊死させるメカニズムを提唱している8)。■ 分類腎型、肺腎型、全身型に分類されるが、わが国では、肺病変のみの症例も多数認められる。■ 症状発熱、食思不振などの全身症状、紫斑などの皮膚症状、関節痛、間質性肺炎、急速進行性糸球体腎炎などを来す。わが国では、欧米に比べ間質性肺炎の合併頻度が高い12)。EGPAほど頻度は高くないが、神経障害も認められる。■ 予後初回治療時の寛解率は90%以上で、24ヵ月時点での生存率も80%以上である。わが国では高齢患者が多いため、感染症死が多く、治療では免疫抑制をどこまで強くかけるかというのが常に問題になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見としては、炎症所見、血尿、蛋白尿、円柱尿、血清クレアチニン上昇、MPO-ANCA陽性などを認める。診断には、厚生労働省の診断基準(1998年)が使用される(表)。表 MPAの診断基準〈診断基準〉確実、疑い例を対象とする【主要項目】1) 主要症候(1)急速進行性糸球体腎炎(2)肺出血、もしくは間質性肺炎(3)腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など2) 主要組織所見細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤3) 主要検査所見(1)MPO-ANCA陽性(2)CRP陽性(3)蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇(4)胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎4) 判定(1)確実(definite)(a)主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性の例(b)主要症候の(1)および(2)を含め2 項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例(2)疑い(probable)(a)主要症候の3項目以上を満たす例(b)主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例5) 鑑別診断(1)結節性多発動脈炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)(4)川崎動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)【参考事項】1)主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。2)主要症候(1)、(2)は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。3)多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。4)治療を早期に中止すると、再発する例がある。5)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。(吉田雅治ほか. 中・小型血管炎の臨床に関する小委員会報告.厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班難治性血管炎分科会.平成10年度研究報告書.1999:239-246.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)わが国では厚生労働省の血管炎に関わる3研究班合同のAAV診療ガイドラインと13,14)、腎障害を伴うAAVについての厚生労働省難治性腎疾患研究班によるエビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドがあり15)、欧米では、英国リウマチ学会(BSR)によるAAV診療ガイドラインがある16,17)。その後、3研究班合同のAAV診療ガイドライン18)が改訂された。■ 寛解導入療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでのMPAの治療アルゴリズムを図に示す。基本的には、ステロイド(GC)とシクロホスファミド(CY、[商品名:エンドキサン])の併用療法であるが、経口CYよりも静注CY(IVCY)が推奨されている。CYは年齢、腎機能などで減量を考慮する。欧米では、リツキシマブ(RTX、[同:リツキサン])がIVCYと同じポジションであるが、わが国では高齢患者が多いためにIVCYが推奨された。また、患者の状態によりメトトレキサート(MTX、[同:リウマトレックス])、ミコフェノール酸モフェチル(MMF、[同:セルセプト])、血漿交換なども推奨されている。GCの減量速度はAAVの再発に大きく関わっており、あまりに急速な減量は避けるべきである19)。図 MPA治療アルゴリズム(厚生労働省3班AAV診療ガイドライン)画像を拡大する*1GC+IVCYがGC+POCYよりも優先される。*2ANCA関連血管炎の治療に対して十分な知識・経験をもつ医師のもとで、RTXの使用が適切と判断される症例においては、GC+CYの代替として、GC+RTXを用いてもよい。*3GC+IVCY/POCYがGC+RTXよりも優先される。*4POCYではなくIVCYが用いられる場合がある。*5AZA以外の薬剤として、RTX、MTX*、MMF*が選択肢となりうる。*保険適用外■ 寛解維持療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでは、GC+アザチオプリン(AZA、[同:イムラン、アザニン])を推奨しており、そのほかの免疫抑制薬としてRTX、MTX、MMFが推奨されている。一方、難治性腎疾患研究班のRPGNガイドラインではRTXのかわりにミゾリビン(MZR、[同:ブレディニン])が推奨されている。やはりわが国のAAVは高齢者が多いこと、腎機能が低下するとMZRの血中濃度が上昇し、よい効果が得られることなどがその理由として考えられる。4 今後の展望2023年5月に改訂されたAAV診療ガイドラインによる治療の変化(とくにアバコパンについて)補体活性化の最終段階で産生される C5aRを選択的に阻害する経口薬アバコパン(商品名:タブネオス)は、ADVOCATE試験20)によりAAVに対する有効性および安全性を確認し、「顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症」を適応症として2022年6月に発売された。その後、2023年5月に改訂されたAAV診療ガイドラインにおいて、MPA/GPAの寛解導入治療でCYまたはRTXを用いる場合、高用量GCよりもアバコパンの併用を提案することが明記された。その他の薬剤ではMPA/GPAの寛解導入治療として、GC単独よりもGC+IVCYまたは経口CYを、GC+経口CYよりもGC+IVCYを、GC+CYと同列にGC+RTXを、GC+CYまたはRTXを用いる場合はGCの通常レジメンよりも減量レジメンを提案することが明記された18)。なお、アバコパンの添付文書には重大な副作用として肝機能障害が記載されている。その多くは投与開始から3ヵ月以内の発現であるが、それ以降に発現しているケースも報告されていることから、定期的なモニタリングが必要である。5 主たる診療科膠原病内科、リウマチ科、腎臓内科、呼吸器内科、皮膚科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 顕微鏡的多発血管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本循環器学会. 血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版). 2018;54-60.2)佐田憲映.ANCA関連血管炎 顕微鏡的多発血管炎.日本リウマチ財団 教育研修委員会編. リウマチ病学テキスト 改訂第2版. 診断と治療社;2016.p.265-267.3)Fujimoto S, et al. Rheumatology. 2011;50:1916-1920.4)Tsuchiya N, et al. J Rheumatol. 2003;30:1534-1540.5)川崎 綾.顕微鏡的多発血管炎(1)疫学・遺伝疫学.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.215-219.6)Kawasaki A, et al. PLoS ONE. 2016;11:e0154393.7)Brinkmann V, et al. Science. 2004;303:1532-1535.8)岩崎沙理ほか.小型血管炎(2)顕微鏡的多発血管炎の病理・病態.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.220-225.9)Kessenbrock k, et al. Nat Med. 2009;15:623-625.10)Nakazawa D, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:3779-3787.11)Nakazawa D, et al. J Am Soc Nephrol. 2014;25:990-997.12)Sada KE, et al. Arthritis Res Ther. 2014;16:R101.13)有村義宏ほか 編. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.14)Nagasaka K, et al. Mod Rheumatol. 2018 Sep 25.[Epub ahead of print]15)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 難治性腎疾患に関する調査研究班 編. エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2017. 東京医学社;2017.16)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.17)駒形嘉紀.顕微鏡的多発血管炎(4)治療.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―.日本臨牀社;2018.p.232-237.18)針谷正祥、ほか. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023.診断と治療社:2023.19)Hara A, et al. J Rheumatol. 2018;45:521-528.20)Jayne DRW, et al. N Eng J Med. 2021;384:599-609.公開履歴初回2018年12月25日更新2024年7月11日

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チョコレートクッキーをあげると医学生からの講義の評価が上がる【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第128回

チョコレートクッキーをあげると医学生からの講義の評価が上がる いらすとやより使用 医学部の講義というのは、試験で医学生のことを評価するだけでなく、講師が医学生にどのように評価されているかも重要です。私は大学病院の医局に入っていないので、近くの看護学校の講義に時々赴くくらいですが、「わかりやすく伝わっているかな?」とちょっと気になります。 Hessler M, et al.Availability of cookies during an academic course session affects evaluation of teaching.Med Educ. 2018;52:1064-1072.この論文は、医学部の救急の講義に対して行われたランダム化比較試験です。どのような介入を行ったかというと、118人の医学生(医学部3年生)を20グループに分けて、そのうち10グループには500gのチョコレートクッキーを提供するという、前代未聞の研究です。10グループずつ、2人の講師が講義を担当し、全員同じ内容の講義を受けました。プライマリアウトカムは38の質問から構成された講義・講師に対する評価です。すなわち、チョコレートクッキーを与えられることによって、講師に対する医学生の評価が変化するかどうかを調べたのです。チョコレートクッキーは、ドロップクッキータイプのものを選びました。カントリーマ●ムみたいなヤツですね。アレを食べながら講義を受けられるなんてうらやましい。評価が可能だったのは112人の医学生でした。解析の結果、驚くべきことに、チョコレートクッキー群は、コントロール群と比較すると有意に講師や教材に対する評価が高かったのです(いずれもp=0.001)。総合的な評価でもチョコレートクッキー群のほうが上回っていました。この論文の考察では、チョコレートクッキー群のほうで評価が高かった理由について、「チョコレートの成分が影響を与えた」という可能性が真面目に論じられています。ジョークなのか本気なのか。クリスマスの時にBMJ誌から発表されるトンデモ論文と似たような印象を受けました。この研究はいろいろリミテーションがありそうです。医学生なら、さすがにチョコレートクッキーが出てきたら「怪しいな」と思うので、恣意的にスコアを高くつけそうな気もします。また、講師も目の前でチョコレートクッキーを食べている医学生を見ているわけですから、これも影響を及ぼしそうです。まぁ、クソ真面目に論じる内容ではないのは事実です。だからこそ、このコーナーで紹介しているわけですが(笑)。

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治療抵抗性うつ病、SSRI/SNRIにミルタザピン追加は有用か/BMJ

 プライマリケアにおける治療抵抗性うつ病患者において、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)にミルタザピンを追加しても、臨床的に有意な臨床効果は確認されなかった。英国・ブリストル医科大学のDavid S. Kessler氏らが、第III相の多施設共同無作為化プラセボ対照試験「MIR試験」の結果を報告した。いくつかの小規模な臨床試験で、SSRI/SNRI+ミルタザピン併用療法の有効性が示唆され、使用頻度が増加していたが、結果を踏まえて著者は、「本試験の結果は、プライマリケアの治療抵抗性うつ病患者において、SSRI/SNRIにミルタザピンを追加する併用療法の拡大に異議を唱えるものである」とまとめている。BMJ誌2018年10月31日号掲載の報告。プライマリケアの治療抵抗性うつ病患者480例でプラセボ対照試験 試験は2013年8月~2015年10月に、英国4地域(ブリストル、エクセター、ハル、キール/ノーススタッフォードシャー)の106の一般診療所で行われた。被験者は、ベックうつ病調査票(BDI-II)で14点以上、ICD-10のうつ病基準を満たし、SSRI/SNRIによる治療を6週以上受けてもうつ状態が持続している18歳以上の成人患者480例。研究グループは、対象患者をミルタザピン群(241例)とプラセボ群(239例)に無作為に割り付け、通常のSSRI/SNRI治療に追加投与し、12週、24週および52週時に評価した。なお、割り付けでは地域による層別化とともに、ベースライン時のBDI-II得点・性別・現在の精神療法によって最小化された。 主要評価項目は、無作為化後12週時のうつ症状(BDI-IIによる評価)、副次評価項目は12週・24週・52週時の不安障害、QOLおよび有害事象などであった。ミルタザピン併用群で12週時のうつ症状は改善せず、有害事象は高頻度 431例(89.8%)が12週間の解析に組み込まれた(ミルタザピン群214例、プラセボ群217例)。 12週時のBDI-II得点(平均±SD)は、ベースライン時の得点および層別化/最小化因子で補正後、ミルタザピン群で18.0±12.3、プラセボ群で19.7±12.4であり、有意ではないもののミルタザピン群で低下した(群間差:-1.83、95%信頼区間[CI]:-3.92~0.27、p=0.09)。 24週時(フォローアップ403例[84%])、52週時(390例[81%])の評価では、両群間の差はさらに小さくなり無効を示す結果が含まれた(24週時の群間差:-0.85[95%CI:-3.12~1.43]、52週時の群間差:0.17[-2.13~2.46])。 有害事象は、ミルタザピン群で頻度が高く、試験薬の投与中止との関連も多かった(12週時で投与中止となった有害事象46例vs.9例)。

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第10回 膝痛にコンドロイチンやグルコサミンはどのくらい効くのか?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 コンドロイチンとグルコサミンは関節痛などで服用される、とてもポピュラーな成分です。コンドロイチンは、軟骨、結合組織、粘液に分布するムコ多糖の一種で、骨の形成を助けるといわれており、グルコサミンは動物の皮膚や軟骨、甲骨類の殻に含まれるアミノ糖で、関節の動きを滑らかにしたり、関節の痛みを改善したりするといわれています1)。両成分を含有する市販薬やサプリメントは多く、説明を求められる機会も多いのではないでしょうか。今回は、これらの効果を検討した文献をいくつか紹介しましょう。まずは、痛みを伴う変形性膝関節症患者へのグルコサミンとコンドロイチンの効果を検証した有名な論文のGlucosamine/chondroitin Arthritis Intervention Trial (GAIT)です2)。平均年齢59歳の症候性変形性膝関節症患者1,583例(うち女性64%)を、(1)グルコサミン1,500mg/日(500mg/回を1日3回)、(2)コンドロイチン1,200mg/日(400mg/回を1日3回)、(3)グルコサミン+コンドロイチン併用、(4)セレコキシブ200mg/日、(5)プラセボの5群にランダムに割り付け、24週間観察しました。各群、有害事象や効果の実感がなかったなどの理由により20%前後の患者が脱落していますが、intention-to-treat解析はされています。プライマリアウトカムは24週時点で膝痛が20%減少したかどうかで、結果は下表のとおりです。画像を拡大するプラセボ群と比較すると、いずれの群も痛みがやや減少する傾向にありますが、有意差が出ているのはセレコキシブ群のみでした。プラセボ群においてもかなり痛みが減少していることが特徴的で、成分を問わず何らかの製品を服用している方はある程度の効果を実感しているのではと推察されます。続いて、2007年にBMJ Clinical Evidence誌で発表された論文を紹介します3)。BMJ Clinical Evidence誌は臨床研究の結果を統合して種々の治療法を評価し掲載している媒体で、該当トピックの出版から2年経つとMEDLINEに無料で公開されるので有用な情報源となりえます。この論文における変形性膝関節症の各種治療法(非手術)の効果を整理したのが下表です。画像を拡大するコンドロイチンとグルコサミンは、変形性膝関節症に対する効果は不明ないしわずかで、とくにグルコサミンは疼痛軽減にプラセボ以上の効果が期待できない可能性が示唆されています。なお、Beneficialに分類される運動療法としては「脚上げ体操」や「横上げ体操」などの太ももの筋肉を鍛える体操が知られているので、覚えておくと患者指導で役立つと思います。可もなく不可もないので継続もアリだが、相互作用には注意が必要ここまであまり芳しい結果ではありませんでしたが、最近はコンドロイチンが有用であったという報告もあり、2015年にコクランよりコンドロイチンとプラセボまたは他の治療法を比較検討したランダム化比較試験43件を評価したシステマティックレビューが発表されています4)。含まれた研究の大部分は変形性膝関節症患者を対象としたもので、先に紹介したGAIT試験も含まれています。コンドロイチン800mg/日以上を6ヵ月服用した時点における痛みの程度で有意差が出ていて、0~100ポイントの痛みスケールで、コンドロイチン群が18ポイント、プラセボ群は28ポイントでしたので10ポイント低下しています。膝の痛みが20%以上改善した人はコンドロイチン群では100人当たり53人、プラセボ群では100人当たり47人で、その差は6名(6%)です。また、画像診断により、2年後の最小関節裂隙幅の減少は、コンドロイチン群(0.12mm)がプラセボ群(0.30mm)に比べて0.18mm少なく良好でした。Forest plotを見てもコンドロイチンまたはコンドロイチン+グルコサミンのほうがやや良しとする研究が多く、目立った有害事象はありませんでした。2017年に出た試験では、コンドロイチン800mg/日の継続がセレコキシブと同等の有用性であったという結果も出ています5)。経済面との兼ね合いもありますが、痛みが改善している方はそのまま続けてもよい場合もあるのではないでしょうか。ただし、薬物相互作用に注意が必要で、コンドロイチンは抗凝固薬のヘパリンと化学構造が似ているため、抗凝固作用を増強するのではないかといわれています。ワルファリンとグルコサミンの併用によりINRが上昇した(つまり出血傾向が強く出た)という20例の報告もあります6)。メリットがそれほど大きくないことを考えれば、ワルファリン服用中はコンドロイチンやグルコサミンの服用を避けるほうが無難だと思われます。1)国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所ホームページ 「健康食品」の安全性・有効性情報 「グルコサミン」「コンドロイチン硫酸」2)Clegg, et al. N Engl J Med. 2006;354:795-808.3)Scott D, et al. BMJ Clin Evid. 2007 Sep 1. pii:1121.4)Singh JA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;1:CD005614.5)Reginster JY, et al. Ann Rheum Dis. 2017;76:1537-1543. 6)Knudsen JF, et al. Pharmacotherapy. 2008;28:540-548.

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薬物治療抵抗性慢性不眠症に対する認知行動療法の有効性~日本における多施設ランダム化比較試験

 不眠症は、夜間の症状と日中の障害によって特徴付けられるのが一般的である。治療では、GABA-A受容体アゴニスト(GABAA-RA)がよく用いられているが、長期使用に関しては、薬物依存や潜在的な認知障害リスクの観点から、リスク-ベネフィット比が低い。精神保健研究所の綾部 直子氏らは、薬物治療抵抗性原発性不眠症患者における認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)を併用したGABAA-RA漸減療法の有効性を評価した。Sleep Medicine誌2018年10月号の報告。 GABAA-RA治療に奏効しない原発性不眠症が持続している患者を対象に、CBT-I療法と通常療法(TAU)を比較したランダム化多施設2アーム並行群研究を実施した。睡眠日誌に基づき、31分以上の睡眠潜時または睡眠開始後の覚醒、3回/週の発生、不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index:ISI)総スコア8以上についてスクリーニングを行った。主要アウトカム指標は、不眠症の重症度およびGABAA-RA漸減率とした。 主な結果は以下のとおり。・51例がランダム化され、49例(CBT-I群:23例、TAU群:26例)の分析を行った。・混合効果反復測定モデルでは、CBT-I群のISIスコアは、TAU群と比較し、介入後(10.91 vs.14.33、p<0.05)およびフォローアップ期間中(10.17 vs.14.34、p<0.01)のどちらにおいても、有意な改善が認められた。・CBT-I群におけるGABAA-RA漸減率は、フォローアップ期間中に約30%に達したが、両群間で有意な差は認められなかった。 著者らは「CBT-I併用療法は、GABAA-RA治療抵抗性不眠症患者の症状を改善した。本研究では、CBT-I併用療法によるGABAA-RA漸減率への影響は認められなかったが、プロトコールおよび治療期間を最適化することで、GABAA-RAの減量が可能であろう」としている。■関連記事睡眠薬の長期使用に関する10年間のフォローアップ調査不眠症治療における睡眠衛生教育のメタ解析不眠症におけるデュアルオレキシン受容体拮抗薬とその潜在的な役割に関するアップデート

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不眠症におけるデュアルオレキシン受容体拮抗薬とその潜在的な役割に関するアップデート

 現在の不眠症に対する薬物治療は、すべての不眠症患者のニーズを十分に満たしているわけではない。承認されている治療は、入眠および睡眠維持の改善において一貫して効果的とはいえず、安全性プロファイルも複雑である。これらのことからも、追加の薬物療法や治療戦略が求められている。初期研究において、一部の不眠症患者に対して、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)が追加の薬物治療選択肢として有用であると示されている。米国・セント・トーマス大学のKayla Janto氏らは、DORAとその潜在的な役割について、既存の文献を調査しアップデートを行った。Journal of Clinical Sleep Medicine誌2018年8月15日号の報告。 DORAに関する既存の文献は、PubMedデータベースより、「オレキシン受容体拮抗薬」「almorexant」「filorexant」「lemborexant」「スボレキサント」の検索キーワードを用いて検索を行った。検索対象は、英語の主要な研究論文、臨床試験、レビューに限定した。 主な結果は以下のとおり。・不眠症治療においてオレキシン受容体系を標的とすることは、より一般的に用いられるGABA作動性催眠鎮静薬治療に対する追加および代替的な薬物治療である。・現在の文献において、その有効性が示唆されているものの、まだ十分に確立されていない。・前臨床報告では、アルツハイマー病と不眠症を合併した患者に対する治療の可能性が示唆されている。 著者らは「DORAは、不眠症に対する追加の治療選択肢として使用可能である。いくつかの不眠症サブタイプにおいて、その安全性および有効性をきちんと評価するために、より多くの臨床試験が必要とされる。不眠症に対する既存治療とのhead-to-head比較研究が求められている」としている。■関連記事日本人高齢不眠症患者に対するスボレキサントの費用対効果分析不眠症へのスボレキサント切り替えと追加併用を比較したレトロスペクティブ研究不眠症患者におけるスボレキサントの覚醒状態軽減効果に関する分析

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睡眠時間の変化と認知症発症リスクとの関連~大崎コホート2006

 東北大学の陸 兪凱氏らは、高齢者における睡眠時間の変化と認知症発症リスクとの関連について調査を行った。Sleep誌オンライン版2018年7月25日号の報告。 2006年に宮城県大崎市在住の65歳以上で障害のない日本人高齢者7,422例を対象に、コホート研究を実施した。対象者の睡眠時間は、自己報告アンケートを用いて、1994年と2006年に評価を行った。1994年と2006年のアンケートより得られた睡眠時間から、対象者を睡眠時間の変化に応じて5群に分類した。認知症発症に関するデータは、公的介護保険データベースより抽出し、対象者を5.7年間(2007年4月~2012年11月)フォローアップした。認知症発症の多変量調整ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox比例ハザードモデルを用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・3万6,338人年のフォローアップ期間中に、688例が認知症を発症した。・睡眠時間の変化がなかった対象者と比較し、睡眠時間が1時間増加した対象者の多変量HRは1.31(95%CI:1.07~1.60)、2時間以上増加した対象者の多変量HRは2.01(1.51~2.69)であった。 著者らは「高齢者における睡眠時間の増加は、認知症発症リスクの上昇と有意な関連が認められた。睡眠と認知症との関連性を確認するためには、有効性が確認された測定法を用いた今後の研究が必要である」としている。■関連記事日本食は認知症予防によい:東北大「最近、睡眠時間が増えた」は認知症のサインかも睡眠不足だと認知症になりやすいのか

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細胞治療が慢性脳卒中の機能再生を可能にする…ピッツバーグ大Wechsler氏単独インタビュー

 自力で歩けなかった慢性期脳卒中患者が、一人で歩けるようになる。細胞治療により、このような再生が現実に起ころうとしている。 慢性脳卒中患者の機能を再生する細胞治療の臨床試験が行われている。これらの試験の中心的役割を担い、Stroke誌に総説「Cell Therapy for Chronic Stroke」を発表したピッツバーグ大学 神経科 Lawrence R. Wechsler氏に、世界における慢性脳卒中の細胞治療について単独インタビューを行った。以下は1問1答。米国における脳卒中の状況は? 米国では毎年約80万人の脳卒中が発症し、後遺症による障害をかかえる患者は、4〜500万人と推定されている。急性期については、新たな治療法がいくつか出てきたが、慢性期になると、障害改善のためにできることはほとんどなく、脳卒中の問題は、イベント発症後、数ヵ月および数年後にあるといえる。細胞医療でなぜ効果が出るのか。 まだ不明な部分は多いが、細胞治療で移植した細胞が、サイトカイン、成長因子などを分泌して、生き残った細胞の機能回復を促進し、不可逆的に傷害された脳の領域を補うことが主な作用であると考えている。細胞治療の臨床試験はどこまで進んでいるのか。 すでに数種類の細胞による早期臨床試験が行われて、効果の可能性が示唆されている。現在2種の細胞において、第IIB相試験が開始あるいは開始予定である。これらは従来の試験より大規模で、かつ二重盲検である。試験の結果を心待ちにしている。効果があった患者についての印象は? スケールに表れた変化のみならず、評価指標には表れない小さな変化も報告されている。手がうまく使えた、バランスをとって歩けた、というものだが、細胞治療でこういったことが実現できれば、必ずしも発症前の状態に戻すことができなくとも、患者さんの世界は大きく変わると考えている。インタビューの全文はこちらhttps://www.carenet.com/series/trend/cg001195_018.html ■参考Wechsler氏の総説「Cell Therapy for Chronic Stroke」https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.117.018290

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応答的子育て介入が、小児のBMIを改善/JAMA

 小児期早期の急速な成長や体重増加は、その後の肥満リスクを増加させるが、子供の成長軌跡(growth trajectory)を改善する介入は確立されていないという。米国・Penn State College of MedicineのIan M. Paul氏らは、両親への教育的介入により、3歳時の子供のBMIが改善することを示し、JAMA誌2018年8月7日号で報告した。幼児期の急速な体重増加や若年期の過体重の予防に関する研究の成果は少ないが、応答的養育(responsive parenting)の枠組みを用いた教育的戦略は、後年の肥満に寄与する幼児期の行動の是正に有望と考えられている。応答的養育は、「小児のニードに対する、発育上適切で迅速、かつ条件に応じた養育的な反応」と定義される。体重増加の抑制効果を評価する単施設の無作為化試験 本研究(INSIGHT試験)は、小児の体重増加の抑制における応答的養育の有効性を評価する、単施設(Penn State Milton S. Hershey Medical Center)で実施された無作為化試験(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成による)。 初産の母親と子供を1組とし、小児期の肥満の予防を目的とした応答的養育に関する介入を行う群(介入群)、または家庭での安全性介入を行う群(対照群)に無作為に割り付けた。応答的養育の介入では、食事(feeding)、睡眠(sleep)、ふれあい遊び(interactive play)、情動調節(emotion regulation)に関する反応の仕方について、両親に専門的な助言が行われた。 2012年1月~2014年3月の期間に登録され、初回の各家庭の訪問が行われた279組(介入群:140組、対照群:139組)を、子供が3歳になるまで追跡した(2017年4月に完了)。初回訪問以降、看護師が各家庭を4回訪問し、各家庭は年1回、計3回受診した(最後の3歳の受診時は介入を行わなかった)。 主要アウトカムは、3年時のBMIのzスコア(0:母平均、1:平均+1SD、-1:平均-1SD)であった。BMIパーセンタイル値には有意差なし ベースラインにおいて子供は男児が介入群54%、対照群50%で、出生時のBMIはそれぞれ13.1(SD 1.2)、13.3(1.3)であった。また、母親の平均年齢は、介入群が28.7歳(4.6)、対照群は28.7歳(4.9)で、白人がそれぞれ87.1%、91.4%を占め、妊娠前のBMIは25.5(5.0)、25.3(5.6)だった。232組(83.2%)が3年間の試験を完了した。 3歳時の平均BMIのzスコアは、介入群が-0.13と、対照群の0.15に比べ有意に低かった(絶対差:-0.28、95%信頼区間[CI]:-0.53~-0.01、p=0.04)。一方、平均BMIパーセンタイル値は、介入群が47、対照群は54であり、有意差を認めなかった(介入群で6.9ポイント低下、95%CI:-14.5~0.6、p=0.07)。 3歳時の過体重の割合は、介入群が11.2%(13/116例)、対照群は19.8%(23/116例)と、両群間に有意な差はなく(絶対差:-8.6%、95%CI:-17.9~0.0、オッズ比[OR]:0.51、95%CI:0.25~1.06、p=0.07)、肥満もそれぞれ2.6%(3例)、7.8%(9例)であり、有意差を認めなかった(-5.2%、-10.8~0.0、0.32、0.08~1.20、p=0.09)。 7回の評価時点でのBMIの平均差(介入群-対照群)は、-0.43(95%CI:-0.67~-0.19)であり、介入群で有意に低かった。 著者は、「介入の長期的な有効性を評価するために、さらなる検討を要する」としている。

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