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普段から気を付けたい身体診察のうっかり/日本感染症学会

 第94回日本感染症学会総会・学術講演会(会長:館田 一博氏[東邦大学医学部 教授])が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下、8月19日~21日の期日でインターネット配信との併用で東京にて開催された。 本稿では、特別企画「感染症を究める」より徳田 安春氏(群星沖縄臨床研修センター長)の「診察」の概要をお届けする。時にリスクとなる抗菌薬 「感染症です」と外来に訪れる患者はいない。その多くは「熱っぽい、だるい、寒気がする」などの訴えから医師が知識と経験を通じて総合的に診断をする。徳田氏の講演では、こうした診断の際に忘れがちなポイントや見落としやすい身体部位などについて症例を交え、レクチャーを行った。以下にレクチャーされた症例を抜粋して紹介する。 はじめに2つの表情の画像を並べ顔貌から読み取れる身体の不調を示し、“General appearance”から患者の全身状態を診る重要性を指摘した。 症例(1)では97歳・男性について、高齢者の無熱性肺炎について述べた。患者は平熱が35.4度で、診察時36.9度。主訴は「3日前からせきと痰」で、最終的に肺炎と診断された。高齢者の風邪診断では、患者の平熱のベースラインが異なるので、バイタル表では本人のベースライン体温にプラス1度の赤線を引くことで背後のリスクに気付くことができると説明した。 症例(2)では50歳・女性について、尿路感染症治療後に、バレーボールで左足首を痛め受診した。トンプソン検査は陽性で「アキレス腱断裂」と診断されたが、原因はバレーボールだけではなく、実は感染症治療で処方されたシプロフロキサシンに関連したアキレス腱断裂だったという症例を紹介した。フルオロキノロン系抗菌薬はよく使用される抗菌薬だが、もともと日本人では大動脈解離の発症頻度も多く、高用量、長期間の使用では注意が必要だと促した。 症例(3)では45歳・男性について、草野球で外傷性開放骨折を負い、術後7日後に急激な血圧低下により紹介された症例。患者の身体所見は「腫脹、発赤、発熱、圧痛」があり、びまん性に全身性の発赤があった。当初、手術部位感染(SSI)疑いで診療されたが、全身の発赤などからトキシクショック症候群(TSS)の合併もあると診断された。こうしたショックを伴う感染症について、「『急激に起こるショック』の感染症」(皮疹ないことあり)を示し、外来で想起できるように注意を促した。・「急激に起こるショック」の感染症」 “SMARTTT”S:SepsisM:MeningococcemiaA:Acute endocarditisR:RickettsiaT:Toxic shock syndromeT:Toxic epidermal necrolysis T:Travel-related infection普段診ない部位の身体所見は診断のカギになる 症例(4)では30歳代女性について、発熱、意識障害、肺炎、X線所見を提示し、髄膜刺激徴候、後部硬直があるという症例を説明した。身体診察でのケルニッヒ徴候検査の重要性を示し、普段の診療から診察し、経験を重ねておく大切さを伝えた。なお、この患者は、以前に交通外傷で脾摘後であり、髄液検査により肺炎球菌による髄膜炎の診断となった。 症例(5)では40歳代男性について、主訴として、咽頭痛、発熱、嚥下痛、よだれのほか喘息様の呼吸音があり、上気道の狭窄病変を示唆する所見があった例を提示した。患者の状態から挿管となったが、その際の注意点として上気道閉塞を塞がないために仰臥位にせず、座位で診察と挿管を施行するケースもあること、体位によっては、手技が患者にとって大きなリスクになることを説明した。患者はその後の診断で後咽頭腫瘍に伴う壊死性縦隔炎と診断され、手術対応となった。また、「咽頭痛で見逃してはいけない疾患」として次の5つの疾患を掲げ、生命予後に係わる疾患もあるので覚えておいてほしいと注意を促した。1 急性咽頭蓋炎2 後咽頭腫瘍3 扁桃周囲腫瘍4 レミエール症候群(内頸静脈の血栓性静脈炎)5 Ludwig angina(口腔底蜂窩織炎)6 無顆粒球症 症例(6)では20歳代男性について、主訴に2週間にわたる発熱、咳嗽、労作時の息苦しさなどがあった。口腔内のカンジタ所見から性生活歴を聴取し、男性同性愛者であることが判明した。諸検査によって、AIDSによるニューモスチス肺炎と口腔カンジタ症と診断し、ただちにST合剤とステロイド療法で呼吸状態は改善したという。患者の社会的背景の聴取の重要性も診断の一助となると指摘した。 症例(7)では60歳・男性について、3週間前から寝汗、AR雑音があり、爪下線状出血に加えオスラー結節とJaneway紅斑が足の裏にあり、眼底ではRoth斑が観察された。心エコーで疣贅を確認し、血液培養で腸球菌が検出されて感染性心内膜炎の診断がなされた。診断での目印の1つは「寝汗」であり、また、普段なかなか診ることのない足の裏の所見を診ることも大切だと説明した。

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HIV患者の多剤耐性結核、ART実施で死亡リスク大幅減/Lancet

 抗レトロウイルス治療(ART)とより効果的な抗結核薬の使用が、HIV陽性の多剤耐性結核患者の死亡率の低下と関連していることが、米国・ペンシルベニア大学のGregory P. Bisson氏らによるメタ解析の結果、明らかにされた。HIV感染症が多剤耐性結核治療中の死亡リスクを増大することは知られているが、これまでARTや抗結核薬の使用が同リスクに影響するのかは不明だった。結果を踏まえて著者は、「これらの治療へのアクセスを強く求めるべきだろう」と述べている。Lancet誌2020年8月8日号掲載の報告。1993~2016年に多剤耐性結核で治療受けた患者を解析 研究グループは、1993~2016年にかけて、多剤耐性結核が確定または推定診断され、結核の治療を開始した18歳以上の成人患者個々のデータについてメタ解析を行った。分析したデータには、ART使用データおよびWHOの分類に基づく抗結核薬治療のデータが含まれていた。 主要解析では、多剤耐性結核治療中の死亡についてART実施により層別化し、HIV陽性患者をHIV陰性患者と比較(追跡不能データは除外)。世界銀行による国別の所得分類と薬剤耐性で厳密にマッチングし、年齢や性別、地域、多剤耐性結核治療の開始年、結核治療歴、直接監視下療法、抗酸菌塗抹陽性について傾向スコアマッチング後、ロジスティック回帰法を用いて補正後オッズ比(aOR)と95%信頼区間(CI)を求めて評価した。2次解析はHIV感染症患者を対象に行われた。HIV陽性・ART使用の死亡オッズ比1.8、同非使用は4.2 多剤耐性結核患者1万1,920例を包含して解析が行われた。うちHIV陽性・ART使用は2,997例(25%)、HIV陽性・ART非使用は886例(7%)。また、広範囲薬剤耐性結核患者は1,749例(15%)だった。 HIV陰性患者を基準とした、HIV陽性・多剤耐性結核患者全体の死亡に関するaORは2.4(95%CI:2.0~2.9)、そのうち、ART使用患者の同aORは1.8(1.5~2.2)、ART非使用または不明患者の同aORは4.2(3.0~5.9)だった。 HIV陽性患者において、WHO分類のグループA治療薬、またはモキシフロキサシン、レボフロキサシン、ベダキリン、リネゾリドの使用は、死亡オッズ比の有意な低下と関連していた。

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薬剤耐性結核、ベダキリン+pretomanid+リネゾリドが有効/NEJM

 高度薬剤耐性結核症患者の治療において、ベダキリン+pretomanid+リネゾリド併用療法による26週間の治療は、治療終了から6ヵ月時のアウトカムが良好な患者の割合が90%と高く、有害事象は全般に管理可能であることが、南アフリカ共和国・ウィットウォータースランド大学のFrancesca Conradie氏らの検討(Nix-TB試験)で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年3月5日号に掲載された。高度薬剤耐性結核患者の治療選択肢は限られており、アウトカムは不良である。pretomanidは、最近、超多剤耐性(XDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシン、フルオロキノロン系抗菌薬、および1剤以上の注射薬[アミカシン、カプレオマイシン、カナマイシン]に抵抗性)または複雑型多剤耐性(MDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシンに抵抗性で、治療に反応しない、または副作用で治療が継続できない)の成人患者の治療において、ベダキリンおよびリネゾリドとの併用レジメンが、「限定的集団における抗菌薬および抗真菌薬の開発経路(Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs)」の下で、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。経口3剤の有用性を評価する非盲検単群試験 本研究は、結核菌に対する殺菌活性を有し、既知の耐性がほとんどない3つの経口薬の併用の有用性を評価する非盲検単群試験であり、現在も南アフリカの3施設で追跡調査が継続されている(TB Allianceなどの助成による)。 対象は、XDR結核症、および治療が奏効しなかったか、副作用のために2次治療レジメンが中止されたMDR結核症の患者であった。 ベダキリンは、400mgを1日1回、2週間投与された後、200mgを週に3回、24週間投与された。pretomanidは200mgを1日1回、26週間投与され、リネゾリドは1,200mgを1日1回、最長26週間投与された(有害事象によって用量を調節した)。 主要エンドポイントは、不良なアウトカムの発生とし、細菌学的または臨床的な治療失敗、あるいは治療終了から6ヵ月までの追跡期間中の再発と定義した。6ヵ月時に、臨床症状が消失し、培養陰性で、不良なアウトカムに分類されなかった患者を良好なアウトカムとした。XDR例とMDR例で、有効性に差はない 2015年4月16日~2017年11月15日の期間に109例(XDR例71例、MDR例38例)が登録された。ベースラインの年齢中央値は35歳(範囲:17~60)、男性が52%、黒人が76%であった。HIV陽性例が51%で、胸部X線画像で空洞形成が84%にみられ、BMI中央値は19.7(12.4~41.1)であった。 intention-to-treat(ITT)解析では、治療終了から6ヵ月時に11例(10%)が不良なアウトカムを呈し、98例(90%、95%信頼区間[CI]:83~95)が良好なアウトカムであった。修正ITT解析およびper-protocol解析でも結果はほぼ同様であった。XDR例の良好なアウトカムの患者は63例(89%、79~95)、MDR例では35例(92%、79~98)だった。 不良なアウトカムの11例のうち、死亡が7例(6例は治療期間中に死亡、1例は追跡期間中に不明な原因により死亡)で、治療期間中の同意撤回が1例、追跡期間中の再発が2例、追跡不能が1例であった。 治療期間中に、全例で1つ以上の有害事象の発現または増悪が認められた。重篤な有害事象は19例(17%)にみられ、HIV陽性例と陰性例で頻度は類似していた。リネゾリドの毒性作用として予測された末梢神経障害が81%に、骨髄抑制は48%に発現し、頻度は高かったものの管理可能であったが、リネゾリドの減量または中断が多かった。 著者は、「XDRおよびMDRという治療困難な結核症で90%という高い治療成功率が達成された。これは薬剤感受性結核症における標準治療(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール)の成績とほぼ同等である」としている。

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12年ぶりの新規キノロン系経口抗菌薬「ラスビック錠75mg」【下平博士のDIノート】第43回

12年ぶりの新規キノロン系経口抗菌薬「ラスビック錠75mg」今回は、「ラスクフロキサシン塩酸塩錠」(商品名:ラスビック錠75mg、製造販売元:杏林製薬)を紹介します。本剤は、呼吸器と耳鼻咽喉科領域の感染症治療に特化し、低い血中濃度ながらも、口腔レンサ球菌や嫌気性菌に対して良好な活性を示します。<効能・効果>本剤は、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の2次感染、中耳炎、副鼻腔炎の適応で、2019年9月20日に承認され、2020年1月8日より発売されています。《適応菌種》本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、クレブシエラ属、エンテロバクター属、インフルエンザ菌、レジオネラ・ニューモフィラ、プレボテラ属、肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)<用法・用量>通常、成人にはラスクフロキサシンとして1回75mgを1日1回経口投与します。<副作用>感染症患者を対象とした国内臨床試験における安全性評価対象の531例中62例(11.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、下痢、好酸球数増加各7例(1.3%)、ALT上昇5例(0.9%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、白血球減少症(0.2%)、間質性肺炎(0.2%)、ショック、アナフィラキシー、QT延長、心室頻拍(Torsades de pointesを含む)、低血糖、偽膜性大腸炎、アキレス腱炎・腱断裂などの腱障害、肝機能障害、横紋筋融解症、痙攣、錯乱・せん妄などの精神症状、重症筋無力症の悪化、大動脈瘤、大動脈解離(いずれも頻度不明)が注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、細菌の増殖を抑えることで感染症を治療します。2.腹部、胸部、背部の痛み、空咳、息切れ、息苦しさなどが続く場合は、すぐに受診してください。3.冷汗が出る、寒気、動悸、手足の震え、疲れやすいなど、いつもと異なる症状がみられた場合は、すぐに医師または薬剤師にご連絡ください。<Shimo's eyes>12年ぶりに新しいキノロン系経口抗菌薬が登場しました。本剤は、肺炎球菌への抗菌活性と肺への組織移行を強化したレスピラトリーキノロンであり、適応症は呼吸器と耳鼻咽喉科領域に特化しています。誤嚥性肺炎の原因菌として知られている嫌気性菌のプレボテラ属にも適応を有しています。投与方法は1日1回1錠とシンプルで、腎機能低下患者に対する用量制限もありません。初期のニューキノロン系抗菌薬は、DNAジャイレース阻害作用が主でしたが、本剤はDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVを同程度阻害するデュアルインヒビターであり、これらは殺菌作用の強さと耐性変異の起こしにくさを併せ持つといわれています。既存のニューキノロン系抗菌薬と同様に、重大な副作用であるQT延長、心室頻拍、低血糖、偽膜性大腸炎、アキレス腱炎、痙攣などには注意が必要です。とくに、本剤は世界に先駆けてわが国で承認されていますので、市販後の安全性情報の収集に注力しましょう。参考1)PMDA ラスビック錠75mg

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細菌性の市中肺炎に対する経口lefamulinとモキシフロキサシンの比較試験(解説:吉田敦氏)-1157

 今回、成人の細菌性の市中肺炎を対象とした経口lefamulin 5日間投与とモキシフロキサシン7日間投与の第III相ランダム化比較試験(LEAP 2 study)の結果が発表された。 lefamulinはプレウロムチリン(pleuromutilin)に近縁の抗微生物薬で、リボゾームの50Sサブユニットの23SリボゾーマルRNAに作用することで蛋白合成を阻害する。lefamulinはバイオアベイラビリティに優れ、経口、静注両方で利用可能であり、またin vitroでMSSA、MRSA、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、連鎖球菌に活性を持ち、さらにはS. pneumoniae、H. influenzae、L. pneumophila、C. pneumoniae、M. pneumoniaeといった肺炎の主な原因微生物まで非常に幅広いスペクトラムを有するという。これまで細菌性の市中肺炎を対象とし、静注で開始して経口にスイッチする方法が検討され(LEAP 1 study。モキシフロキサシン±リネゾリドを対照とするランダム化比較試験)1)、加えて、細菌性の皮膚軟部組織感染症においてバンコマイシンを対照として比較試験が行われた2)。LEAP 1 studyではPORTリスク*クラスIII相当の肺炎例が約70%含まれていたが、ITT解析による効果は両群でほぼ同等、また副作用については低カリウム血症、吐き気、不眠、注射部位の疼痛・血管炎がモキシフロキサシンに比してlefamulin群で多かった。一方、後者の皮膚軟部組織感染症の検討では、効果はバンコマイシンと同等であったものの、頭痛、吐き気、下痢といった副反応がみられ、注射部位の血管炎はバンコマイシンよりも多かった。*PORT(Pneumonia Outcomes Research Team)スコア:肺炎重症度指数pneumonia severity index(PSI)の合計点に基づき、I~Vの5段階に分類。入院後の生命予後判定を目的として提唱されたもので、おおよそI・IIは外来加療、IIIは短期入院加療、IV・Vは入院加療に相当する。 今回のLEAP 2 studyは、LEAP 1 studyの結果を受けて、lefamulin、モキシフロキサシンともに内服薬での比較を行っている。PORTリスクはII~Vの症例が含まれ(IIは約50%、IIIは約38%)、原因微生物はS. pneumoniae 64%、H. influenzae 27%、そしてM. pneumoniae、L. pneumophila、C. pneumoniaeが合計で22%であり、71%がmonomicrobialであった。プライマリーエンドポイントは開始から96時間の時点での臨床的改善であり、改善率はおよそ90%で2群に差はなかった。ただし黄色ブドウ球菌とL. pneumophilaの症例は両群合わせてそれぞれ19例、33例にとどまっていた。 今回の対象者はPORT II、IIIが主体で、モキシフロキサシンで治療がおおよそ可能なほどの、いわば重症ではない例である。そのような肺炎への単剤治療として、lefamulinの有効性と安全性を調べた結果としては参考になるであろうが、元々本当にlefamulinは中等度の肺炎や急性皮膚軟部組織感染症への経口単剤治療薬として、期待されねばならないのであろうか。スペクトラム、バイオアベイラビリティともに優れるが、lefamulinが治療薬として考慮されるべき病態と対象微生物は、ほかにもっと適切なものがあるのではないだろうか。臨床試験として組みやすかったのかもしれないが、このような貴重な財産である新薬について、適応と将来性を十分に考えて試験をデザインするのが必須であろう。これまで細菌性の肺炎で使用されてきたセファロースポリンやフルオロキノロンを避けるためという意見も一部にあったが3)、それらとは薬剤の使用と適応に関する概念も異なるうえ、原因微生物に特異的な治療を行う原則から大きく外れてしまっている。十分な議論と慎重な考慮の下に、今後の検討と適応の決定がなされるべきである。

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「抗微生物薬適正使用の手引き」第二版、乳幼児編が追加/厚労省

 2019年12月5日、厚生労働省は「抗微生物薬適正使用の手引き(第二版)」をホームページに公表した。抗微生物薬適正使用の手引きの主な改正点として、生後3ヵ月以上から学童期未満の「乳幼児編」が加わった。小児特有の副作用がある抗菌薬への注意事項として「小児における急性気道感染症の特徴と注意点」が盛り込まれ、「小児の急性気道感染症各論」「小児の急性下痢症」「小児の急性中耳炎」の項目が追加された。抗微生物薬適正使用の手引き第一版発行時からの要望を実現化 抗微生物薬適正使用の手引きの第一版は、学童期以降の急性気道感染症と急性下痢症を対象に、2017年6月に発表・発行。ところが、発行後にはさらなる抗微生物薬の適正使用推進や扱うべき領域拡大のため、学童期未満の小児を含めた改正が求められていた。 なお、抗微生物薬適正使用の手引きは、主に外来診療を行う医療対象者(とくに診察や処方、保健指導を行う医師)を対象としているため、外来診療時に多く処方される経口抗菌薬(第3世代セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系抗菌薬)を中心に、抗微生物薬の必要な状況などの判別支援に念頭をおいて作成されている。

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薬剤耐性菌の菌血症による死亡、国内で年8千例超

 これまで、わが国における薬剤耐性による死亡者数は明らかになっていなかった。今回、国立国際医療研究センター病院の都築 慎也氏らは、薬剤耐性菌の中でも頻度が高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)について、日本におけるそれらの菌血症による死亡数を検討した。その結果、MRSA菌血症の死亡は減少している一方で、FQREC菌血症による死亡が増加していること、2017年には合わせて8,000例以上が死亡していたことがわかった。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2019年12月1日号に掲載。 本研究では、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータから、2011~17年における日本全国の菌血症症例数を算出し、過去の研究に基づいた死亡率と合わせて菌血症による死亡数を推定した。 主な結果は以下のとおり。・黄色ブドウ球菌による菌血症での死亡は、2011年は1万7,412例、2017年は1万7,157例と推定された。このうち、MRSA菌血症による死亡は、2011年は5,924例(34.0%)、2017年は4,224例(24.6%)と減少した。・大腸菌による菌血症での死亡は、2011年は9,044例、2017年は1万4,016例と増加した。このうち、FQREC菌血症は、2011年は2,045例(22.6%)、2017年は3,915例(27.9%)と増加した。

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ありそうでなかった市中肺炎の教科書【Dr.倉原の“俺の本棚”】第24回

【第24回】ありそうでなかった市中肺炎の教科書呼吸器内科医が毎日のように出合う疾患が、市中肺炎。もちろん、かぜ症候群もコモンかつ大事な疾患ですが、両者の大きく違うところは、市中肺炎には適切な抗菌薬が必要であるという点です。病院では抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)活動がさかんになって、不適切な処方をしていると第三者からの指摘が入る時代になりました。外来市中肺炎にとりあえずレスピラトリーキノロンを処方していたら、「ちょww、おまww」と言われます。『亀田流 市中肺炎診療レクチャー 感染症医と呼吸器内科医の視点から』黒田 浩一/著. 中外医学社. 2019市中肺炎については、研修医~若手医師向けに多大なニーズがあるにも関わらず、これに特化した医学書ってほとんどありません。どういう患者さんに市中肺炎を疑い、診断した後どのように重症度を評価し、そしてどの抗菌薬を使うか。全部きれいにまとまっているのがこの本です。私は、自身の著書で結構“チャラさ”を出してしまう性格なのですが、本書筆者の黒田浩一先生はロジカル&インテレクチュアル&トラストワージーです。私よりも3学年若い新進気鋭の感染症科医で、呼吸器内科医もやっておられるというから、親近感爆発尊敬マックス。この本が出版された直後、アメリカ胸部学会(ATS)/アメリカ感染症学会(IDSA)の市中肺炎ガイドライン1)が刊行されたのですが、黒田先生は近年のエビデンスもしっかり拾われているため、最新のガイドラインとほぼ相違ない内容になっていたのには驚かされました。ちなみに、くだんのガイドラインには「外来の市中肺炎でイチイチGram染色なんてやらなくてもいいよ」と書いてあるのですが、ちょっと暴論かなぁと思っています。みなさん、やりますよね?この本の帯には、ちょっと面白いことが書かれています。「呼吸器内科医は『画像』に強いが『微生物』に弱い?感染症医は『微生物』に強いが『画像』に弱い?」。これってまさにその通りで、私たち呼吸器内科医はあまりGram染色の向こう側にある微生物のキャラクターには注目せず、画像所見に重きを置いて重症度を判断してしまいがちです。反面、感染症医は、相手にしている微生物がどういうヤツらなのか、その顔色や見た目を観察することに没入してしまう。もちろん、両者の長所を融合させてこそ、適切な市中肺炎診療と言えるわけですが、2職種を経験している黒田先生だからこそ、バランスのとれた本書が完成したのだと確信しています。エビデンスベースドの市中肺炎診療をてっとり早く学びたい人には、オススメの一冊。『亀田流 市中肺炎診療レクチャー 感染症医と呼吸器内科医の視点から』黒田 浩一/著出版社名中外医学社定価本体3,600円+税サイズA5判刊行年2019年1)Metlay JP, et al. Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America Am J Respir Crit Care Med. 2019 Oct 1;200(7):e45-e67.

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日本で広域抗菌薬が適正使用されていない領域は?

 抗菌薬の使用量は薬剤耐性と相関し、複数の細菌に作用する広域抗菌薬ほど薬剤耐性菌の発生に寄与する。日本の抗菌薬使用量は他国と比べ多くはないが、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドといった経口の広域抗菌薬の使用量が多い。AMR臨床リファレンスセンターは9月24日、11月の「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」を前にメディアセミナーを開催。日馬 由貴氏(AMR臨床リファレンスセンター 薬剤疫学室室長)、具 芳明氏(同 情報・教育支援室室長)らにより、最新の使用量データや市民の意識調査結果が報告された。2020年までに“経口の広域抗菌薬半減”が目標 国主導の「AMR対策アクションプラン」は、2013年比で2020年までに(1)全体で抗菌薬を33%減少、(2)経口の広域抗菌薬を半減、(3)静注薬を20%減少、を目標として掲げている1)。実際の使用量データをみると、人口千人当たりの1日抗菌薬使用量は、2013年と比較して2018年で10.6%減少している。このうち、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドはそれぞれ17~18%ほど減少がみられる。 一方で、内服用抗菌薬と静注用抗菌薬に分けてみると、この減少は内服用抗菌薬によるもので、静注用抗菌薬の使用量は全く減っていない。日馬氏は、「全体として目標達成にはさらなる努力が必要だが、とくに静注用抗菌薬の使用削減については今後の課題」とし、その多くが高齢者で使用されていることを含め、効果的な介入方法を探っていきたいと話した。本来不要なはずの処方にかかる費用の推計値は年10億円超 非細菌性急性上気道炎、いわゆるかぜには本来抗菌薬は不要なはずだが、徐々に減少しているものの、2017年のデータでまだ約3割の患者に処方されている。セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドがその大部分を占め、費用に換算すると年10億円を超えると推定される2)。非細菌性急性上気道炎への抗菌薬処方率を患者の年齢別にみると、19~29歳で43.26%と最も高く、次いで30~39歳が42.47%であった。日馬氏はまだ推測の域を出ないとしたうえで、「就労世代でとくに使われがちということは、仕事を休めないなどの事情から患者側からの求めがあるのかもしれない」と話した。 もう1領域、課題として挙げられたのが急性膀胱炎に対する抗菌薬使用だ。2016年のデータで、急性膀胱炎に対する抗菌薬処方はフルオロキノロンが52.4%と最も多く、第3世代セファロスポリンが38.9%と、広域抗菌薬がほとんどを占める2)。実際、日本のガイドラインではフルオロキノロンが第1選択になっている。しかし、欧米ではST合剤などが第1選択で、フルオロキノロンは耐性への懸念から第1選択薬としては推奨されていない。同氏は、「使用期間は長くないものの患者数が多いため、広域抗菌薬全体の使用量に対する寄与が大きい」とし、「必ずしも欧米との単純比較ができるものではないが、日本でも広域抗菌薬から狭域抗菌薬にスイッチしていく何らかの方策が必要ではないか」と話した。薬剤耐性=体質の変化? 患者との認識ギャップを埋めるために AMR臨床リファレンスセンターでは、毎年市民を対象とした抗菌薬に関する意識調査を行っている。2019年はEU諸国でのデータとの比較などが行われ、具氏が最新の調査結果を解説した。「抗菌薬・抗生物質はかぜに効果がある」という項目に対して「あてはまらない」と正しく回答した人は35.1%、「あてはまる」と誤った認識を持っている人が45.6%に上った。EU28ヵ国で同様の質問をした結果は正しい回答が66.0%となっており、日本では誤った認識を持つ人が多いことが明らかとなった。 「今後かぜで医療機関を受診した場合にどんな薬を処方してほしいですか?」という問いに対しては、31.7%の人が「抗菌薬・抗生物質」と回答。「だるくて鼻水、咳、のどの痛みがあり、熱は37℃、あなたは学校や職場を休みますか?」という問いには、24.4%が「休まない」、38.5%が「休みたいが休めない」と答えており、働き方改革が導入されたとはいえ、休みたくても休めない実情が明らかになっている。 また、薬剤耐性という言葉の認知度について聞いた質問では、50.4%が「薬剤耐性、薬剤耐性菌という言葉を聞いたことがない」と回答している。「薬剤耐性とは病気になる人の体質が変化して抗菌薬・抗生物質が効きにくくなることである」という誤った回答をした人も44.3%存在した。具氏は、AMR臨床リファレンスセンターのホームぺージ上で患者説明用リーフレットの公開がはじまったことを紹介。「抗菌薬は必要ないと判断した急性気道感染症の患者に、医師が診察室で説明に用いることを想定したリーフレットなどを公開しているので活用してほしい」と話して講演を締めくくった。

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スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS : Stevens-Johnson Syndrome〕、中毒性表皮壊死症〔TEN : Toxic Epidermal Necrolysis〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬疹(薬剤性皮膚障害)は軽度の紅斑から重症型までさまざまであるが、とくにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)型薬疹と中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)型薬疹は重篤な経過をたどり、死に至ることもある。両疾患はウイルス感染症や細菌感染症に続発して生じることもあるが、原因の大半は薬剤であるため、本稿では両疾患をもっぱら重症型薬疹の病型として取り扱う。■ 疫学近年、薬剤による副作用がしばしばマスコミを賑わせているが、薬疹は目にみえる副作用であり、とくに重症型薬疹においては訴訟に及ぶこともまれではない。重症型薬疹の発生頻度は、人口100万人当たり、SJSが年間1~6人、TENが0.4~1.2人と推測されている。2009年8月~2012年1月までの2年半の間に製薬会社から厚生労働省に報告されたSJSおよびTENの副作用報告数は1,505例(全副作用報告数の1.8%)で、このうち一般用医薬品が被疑薬として報告されたのは95例であった。原因薬剤は多岐にわたり、上記期間にSJSやTENの被疑薬として報告があった医薬品は265成分にも及んでいる。カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎薬、セフェム系やニューキノロン系抗菌薬、アロプリノールなどの痛風治療薬、総合感冒薬、フェノバルビタールなどの抗不安薬による報告が多いが、それ以外の薬剤によることも多く、最近では一般用医薬品による報告が増加している。■ 病因薬疹は薬剤に対するアレルギー反応によって生じることが多く、I型(即時型)アレルギーとIV型(遅延型)アレルギーとに大別できる。I型アレルギーによる場合は、原因薬剤の投与後数分から2~3時間で蕁麻疹やアナフィラキシーを生じる。一方、大部分を占めるIV型アレルギーによる場合は、薬剤投与後半日から2~3日後に、湿疹様の皮疹が左右対側に生じることが多い。薬剤を初めて使用してから感作されるまでの期間は4日~2週間のことが多いが、場合によっては10年以上安全に使用していた薬剤でも、ある日突然薬疹を生じることがある。患者の多くは薬剤アレルギーの既往がなく突然発症するが、重症型薬疹の場合はウイルスなど感染症などが引き金になって発症することも多い。男女差はなく中高年に多いが、20~30代もまれではない。近年、免疫反応の異常が薬疹の重症化に関与していると考えられるようになった。すなわち、免疫やアレルギー反応は制御性T細胞とヘルパーT細胞とのバランスによって成り立っており、正常な場合は、1型ヘルパーT細胞による免疫反応を制御性T細胞が抑制している。通常の薬疹では(図1)、1型ヘルパーT細胞が薬剤によって感作されて薬剤特異的T細胞になり、同じ薬剤の再投与により活性化されると薬疹が発症する。画像を拡大するしばらく経つと制御性T細胞も増加・活性化するため、過剰な免疫反応が抑制され、薬疹は軽快・治癒する。ところが、重症型薬疹の場合(図2)は、ウイルス感染などにより制御性T細胞が抑制され続けているため、薬疹発症後も免疫活性化状態が続く。薬剤特異的T細胞がさらに増加・活性化しても、制御性T細胞が活性化しないため、薬剤を中止しても重症化し続ける。画像を拡大する細胞やサイトカインレベルからみた発症機序を示す(図3)。画像を拡大する医薬品と感染症によって過剰な免疫・アレルギー反応を生じ、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CD8 陽性T細胞)や単球、マクロファージが表皮細胞を傷害してネクロプトーシス(ネクローシスの形態をとる細胞死)を誘導し、表皮細胞のネクロプトーシスが拡大することによりSJSやTENに至る、と考えられている。■ 症状重症型薬疹に移行しやすい病型として、とくに注意が必要なのは多形滲出性紅斑で、蕁麻疹に似た標的(ターゲット)型の紅斑が全身に生じ、短時間では消退せず、重症例では皮膚粘膜移行部にびらんを生じ、SJSに移行する。SJSは、全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発し、口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部や口腔内の粘膜にびらんを生じる。しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を来すが、一般に体表面積の10%を超えることはない。38℃以上の発熱や全身症状を伴うことが多く、死亡もまれではない。TENは最重症型の薬疹で、全身の皮膚に広範な紅斑と、体表面積の30%を超える水疱、表皮剥離、びらんなど表皮の重篤な壊死性障害を生じる。眼瞼結膜や角膜、口腔内、外陰部に粘膜疹を生じ、38℃以上の高熱や激しい全身症状を伴い、死亡率は30%以上に及ぶ。救命ができても全身の皮膚に色素沈着や視力障害を残し、失明に至ることもある。また、皮膚症状が軽快した後も、肝機能や呼吸器などに障害を残すことがある。なお、表皮剥離が体表面積の10%以上30%未満の場合、SJSからTENへの移行型としている。■ 予後SJS、TENともに、薬剤を中止しても適切な治療が行われなければ非可逆的に増悪し、ステロイド薬の全身投与にも反応し難いことがある。皮疹の経過は多形滲出性紅斑 → SJS → TENと増悪していく場合と、最初からSJSやTENを生じる場合とがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)薬疹は皮疹の分布や性状によってさまざまな病型に分類されるが、重症型薬疹は一般に、(1)急激に発症し、急速に増悪、(2)全身の皮膚に新鮮な発疹や発赤が多発する、(3)結膜、口腔、外陰などの粘膜面や皮膚粘膜移行部に発赤やびらんを生じる、(4)高熱を来す、(5)全身倦怠や食欲不振を訴える、などの徴候がみられることが多い。皮膚のみならず、肝腎機能障害、汎血球・顆粒球減少、呼吸器障害などを併発することも多いため、血算、白血球分画、生化学、非特異的IgE、CRP、血沈、尿検査、胸部X線撮影を行う。また、ステロイド薬の全身投与前に糖尿病の有無を調べる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療の実際長年安全に使用していた薬剤でも、ある日突然重症型薬疹を生じることもあるため、基本的に全薬剤を中止する。どうしても中止できない場合は、治療上不可欠な薬剤以外はすべて中止するか、系統(化学構造式)のまったく異なる、患者が使用した経験のない薬剤に変更する。急速に増悪することが多いため、入院させて全身管理のもとで治療を行う。最強クラスの副腎皮質ステロイド薬(クロベタゾールプロピオン酸など)を外用し、副腎皮質ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン 30~60mg/日)を行う。治療効果が乏しければ、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン 1,000mg/日×3日)およびγグロブリン(献血グロベニン 5g/日×3日)の投与を早急に開始する。反応が得られなければ、さらに血漿交換や免疫抑制薬(シクロスポリン 5mg/kg/日)の投与も検討する。■ 原因薬剤の検索治癒した場合でも再発予防が非常に重要である。原因薬剤の検索は、皮疹の軽快後に再投与試験を行うのが最も確実であるが、非常にリスクが大きい。入院させて通常処方量の1/100程度のごく少量から投与し、漸増しながら経過をみるが、薬疹に対する十分な知識や経験がないと、施行は困難である。再投与試験に対する患者の了解が得られない場合や、安全面で不安が残る場合は、皮疹消退後にパッチテストを行う。パッチテストは非常に安全な検査で、しかも陽性的中率が高いが、感度は低く60%程度しか陽性反応が得られない。また、ステロイド薬の内服中は陽性反応が出にくくなる。In vitroの検査では「薬剤によるリンパ球刺激試験」(drug induced lymphocyte stimulation test:DLST)が有用である。患者血清中のリンパ球と原因薬剤を反応させ、リンパ球の幼若化反応を測定するが、感度・陽性的中率ともにパッチテストよりも低い。DLSTは薬疹の最盛期にも行えるが、発症から1ヵ月以上経つと陽性率が低下する。したがって、再投与試験を行えない場合はパッチテストとDLSTの両方を行い、両者の結果を照合することにより原因薬剤を検討する。現在、健康保険では3薬剤まで算定できる。4 今後の展望近年、重症型薬疹の発症を予測するバイオマーカーとして、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)(主要組織適合遺伝子複合体〔MHC〕)の遺伝子多型が注目されている。すなわち、HLAは全身のほとんどの細胞の表面にあり免疫を制御しているが、特定の薬剤による重症型薬疹(SJS、TEN)の発症にHLAが関与しており、とくに抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノール)による重症型薬疹と関連したHLAが相次いで発見されている。さらに、同じ薬剤でも人種・民族により関与するHLAが異なることが明らかになってきた(表)。画像を拡大するたとえば、日本人のHLA-A*3101保有者がカルバマゼピンを使用すると、8人に1人が薬疹を発症するが、もしこれらのHLA保有者にカルバマゼピン以外の薬剤を使用すると、薬疹の発症頻度が1/3になると推測されている。また、台湾では、カルバマゼピンによる重症型薬疹患者のほぼ全員がHLA-B*1502を保有しており、保有者の発症率は非保有者の2,500倍も高いといわれている。そのため台湾では、カルバマゼピンとアロプリノールの初回投与前には、健康保険によるHLA検査が義務付けられている。このようにあらかじめ遺伝子多型が判明していれば、使用が予定されている薬剤で重症型薬疹を起こしやすいか否かが予測できることになる。5 主たる診療科複数の常勤医のいる基幹病院の皮膚科、救命救急センター※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報医薬品・医療機器等安全性情報 No.290(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.293(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.285(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SJS患者会(SJSの患者とその家族の会)1)藤本和久. 日医大医会誌. 2006; 2:103-107.2)藤本和久. 第5節 粘膜症状を伴う重症型薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症). In:安保公介ほか編.希少疾患/難病の診断・治療と製品開発.技術情報協会;2012:1176-1181.3)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2016;126:1637-1685.公開履歴初回2014年01月23日更新2019年10月21日

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キノロン系薬に末梢神経障害などの使用上の注意改訂指示

 フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬の添付文書について、2019年9月24日、厚生労働省より使用上の注意の改訂指示が発出された。今回の改訂は、フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬のアキレス腱や精神、末梢神経障害に関連した副作用に関するもので、米国や欧州の添付文書が改訂されたことを受け、日本国内症例、公表論文等の情報に基づき添付文書改訂の必要性が検討されたことによるもの。製剤ごとの改訂内容記載の違いに注意改訂の概要は以下のとおり。・「重大な副作用」の項に「末梢神経障害」「精神症状」を追記する。・「重大な副作用」の項に「アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害」を追記する。・「重大な副作用」の項の「アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害」の初期症状などの記載を整備する。または、「腱炎、腱断裂等の腱障害」の項を「アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害」とし、初期症状等の記載を整備する。◆該当薬剤の一覧(商品名:承認取得者)オフロキサシン[経口剤] (タリビット:アルフレッサファーマ、ほか)メシル酸ガレノキサシン水和物 (ジェニナック:富士フィルム富山化学)シタフロキサシン水和物 (グレースビット:第一三共、ほか)シプロフロキサシン (シプロキサン:バイエル薬品、ほか)シプロフロキサシン塩酸塩水和物 (シプロキサン:バイエル薬品、ほか)トスフロキサシントシル酸塩水和物[経口剤] (オゼックス:富士フィルム富山化学、トスキサシン:マイランEPD、ほか)ノルフロキサシン[経口剤] (バクシダール:杏林製薬、ほか)パズフロキサシンメシル酸塩 (パシル:富士フィルム富山化学、パズクロス:田辺三菱製薬)ピペミド酸水和物 (ドルコール:日医工)プルリフロキサシン (スオード:MeijiSeikaファルマ)モキシフロキサシン塩酸塩[経口剤] (アベロックス:バイエル薬品)レボフロキサシン水和物[経口剤、注射剤] (クラビット:第一三共、ほか)塩酸ロメフロキサシン[経口剤] (バレオン:マイランEPD、ほか)薬剤ごとに注意喚起が異なるのはなぜか? 腱障害および精神症状については、すべてのフルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬の添付文書において注意喚起がなされるよう改訂が適切と判断された。これは、フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬の多くの成分の現行添付文書で一定の注意喚起がなされているものの、腱障害についてはコラーゲン組織の障害が、精神症状についてはGABA神経の抑制などが発現機序として考えられ、当該抗菌薬に共通のリスクと判断されたためである。 一方、末梢神経障害については、フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬に共通のリスクであることを示す発現機序や疫学的知見は乏しく、現時点で一律の改訂は不要と考えられている。しかし、トスフロキサシントシル酸塩水和物、レボフロキサシン水和物、メシル酸ガレノキサシン水和物については国内症例が集積していること、オフロキサシンは国内症例の集積はないもののレボフロキサシンのラセミ体であることから、改訂が適切と判断された。■「添付文書記載要領」関連記事4月の添付文書記載要領改正、実物の記載例公表

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第28回 生菌製剤は本当に抗菌薬関連下痢症に効果があるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗菌薬(antibiotics)と生菌製剤(probiotics)の併用は日常的に見掛ける定番処方だと思います。双方の英語の語源からも対になっているイメージがあります。抗菌薬は腸内細菌叢を障害し、Clostridium difficile(以下、CD)感染症を含む抗菌薬関連下痢症を引き起こすことがありますので、生菌製剤によって腸内細菌叢のバランスを改善し、下痢症を予防することを期待した処方です。健康成人ではとくに併用しなくても問題ないことが多いですが、安価ですのでよく用いられています。今回は、抗菌薬とよく併用される生菌製剤の効果について紹介します。まず代表的な生菌製剤として、耐性乳酸菌製剤(商品名:ビオフェルミンR、ラックビーR)があります。「耐性」とあるように、商品名の「R」はresistanceの頭文字で、普通錠にはない抗菌薬への耐性が付加されています。これらはとにかく多用されていますので、適応のないニューキノロン系やペネム系などとの誤併用に対して疑義照会をした経験がある方は多いのではないかと思います。そのような場合、代替薬として何を提案すべきか迷いますよね。「R」の製剤ではなく普通錠を提案しがちですが、普通錠で抗菌薬投与時の下痢を予防できるのでしょうか?この疑問に関するエビデンスとして、PLACIDEという多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験を紹介します。生菌製剤の抗菌薬関連下痢症の予防効果を検証した、それまでになかった大規模な試験です1)。対象は1剤以上の抗菌薬を投与された65歳以上の入院患者2,941例(99.9%が白人)です。対象患者は、乳酸菌2株とビフィズス菌2株を含む生菌製剤(総菌数6×1010)群またはプラセボ群に1:1で無作為に割り付けられ、1日1回21日間服用しました。主要評価項目は、8週以内の抗菌薬関連下痢症または12週以内のCD関連下痢症でした。8週以内の抗菌薬関連下痢症の発現率は、生菌製剤群10.8%(159例)、プラセボ群10.4%(153例)であり、有意差はありませんでした(RR:1.04、95%信頼区間[CI]:0.84~1.28、p=0.71)。また、CD関連下痢症の発現率はそれぞれ0.8%(12例)、1.2%(17例)であり、こちらも有意差はありませんでした(RR:0.71、95%CI:0.34~1.47、p=0.35)。抗菌薬の内訳はペニシリン72%、セファロスポリン24%、カルバペネムまたは他のβラクタム2%、クリンダマイシン1%、キノロン13%でした。ただし、検出力を考慮すると、本当は有意差があるのに有意差なしとなるβエラーが生じている可能性があり、実際には生菌製剤の効果があるのに無効と判断されているケースも除外できないので、乳酸菌とビフィズス菌には抗菌薬関連下痢症の予防効果がないと判断するのは注意が必要かもしれません。酪酸菌には抗菌薬関連下痢症を減少させるエビデンスありでは、他の菌株ではどうなのでしょうか? 酪酸菌(宮入菌)製剤(商品名:ミヤBM)を用いた研究がありますので紹介します。上気道感染症または胃腸炎の小児110例を、(1)抗菌薬のみ服用する群27例、(2)抗菌薬治療の中間時点から酪酸菌製剤を併用する群38例、(3)抗菌薬治療の開始と同時に酪酸菌製剤を併用する群45例の3グループに分けて腸内細菌叢の変化を調査しています2)。抗菌薬のみを服用した群では下痢が59%で観察され、総糞便嫌気性菌とくにビフィズス菌が減少していました。一方で、抗菌薬治療の中間時点または開始時から酪酸菌製剤を併用した群では、酪酸菌製剤が嫌気性菌を増加させるとともにビフィズス菌の減少を防ぎ、下痢の発現率はそれぞれ5%および9%に減少しました。本剤は酪酸菌の芽胞製剤で、胃酸によって死滅せず、腸で発芽して効果を発揮するため効果が期待できるというのは製剤特性からも説明できます。酪酸菌に加えて、糖化菌とラクトミンを配合した酪酸菌配合剤(商品名:ビオスリー配合錠)も同様に有効であるものと推察されます。薬局にいたときは、これらの生菌製剤を併用処方される患者さんもよく見掛けました。もしこれらの生菌製剤が無効の場合は、ラクトミン+ガゼイ菌で抗菌薬関連下痢症およびCD関連下痢症の頻度が減ることを示唆した研究も参考になります3)。抗菌薬関連下痢症は頻度が高く、治療継続への影響も大きいので、より適切な生菌製剤を提案できるようにしておくとよいかと思います。1)Allen SJ, et al. Lancet. 2013;382:1249-1257.2)Seki H, et al. Pediatr Int. 2003;45:86-90.3)Gao XW, et al. Am J Gastroenterol. 2010;105:1636-1641.

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リファンピシン耐性結核の治療期間短縮トライアル(解説:吉田敦氏)-1038

 多剤耐性結核(キードラッグであるイソニアジド[INH]とリファンピシン[RIF]の両者に耐性)の治療は非常に難しい。薬剤数が多く、期間も長くなり、副作用も多く経験する。WHOは2011年のガイドラインにおいて、遺伝子検査を含む早期の耐性検査の実施、フルオロキノロン薬の使い分け、初期に行われるintensive phaseの治療期間の延長と合計18ヵ月以上の治療を推奨しているが、一方でそれよりも短期間の治療レジメンで良好な成績を収めた報告(例:バングラデシュ研究1))も存在する。今回は、RIF耐性結核例(ただし、フルオロキノロンとアミノグリコシドは感性)を対象とし、バングラデシュ研究で多剤耐性結核に対して用いられたレジメンと同様の9~11ヵ月の短期療法と、WHOのガイドラインに従った20ヵ月の長期療法の2法について、第III相ランダム化比較試験が実施された(実施国はエチオピア、モンゴル、南アフリカ共和国、ベトナム)。 有効性の判定で「良好」という基準は、132週の時点で経過が良く、培養陰性である(または陰性のままである)ことと定めた。患者の33%はHIV陽性であり、77%は肺に空洞を有していたが、治療レジメンについて十分なアドヒアランスが確保できたのは、短期療法群で75%、長期療法群で43%であった。そして上記の基準を満足した割合は、両群で差はなかった。Grade3以上の副作用出現率にも差はなかったが、「良好」の基準を満たさない患者での結核菌再検出率、心電図上のQT延長、ALT上昇、120週までの死亡、フルオロキノロン・アミノグリコシドの耐性出現は短期療法群でやや多かった。 使用された抗結核薬の内訳をみると、短期療法では最初の16週はintensive phaseとしてカナマイシン、イソニアジド、プロチオナミド、モキシフロキサシン(高用量)、クロファジミン、エサンブトール、ピラジナミドを投与、その後のcontinuation phaseではカナマイシン、イソニアジド、プロチオナミドを除いた4剤を、開始から40週以上投与していた。一方で長期療法は国によって用いる薬剤が異なっており、intensive phaseは5剤以上で6ヵ月以上、continuation phaseも4剤となっていた。つまり短期療法は、モキシフロキサシンを重視し、薬剤数を多くした(しかし短めの)intensive phaseを採用することで、長期療法との違いを打ち出していることになる。 総じて、短期療法は治療期間の短縮と、アドヒアランスの維持には貢献するが、不整脈を含む心臓への副作用の増加と突然死・死因不明死、肝障害に関連しているようで、実際に主に短期療法群でQT延長を確認後、モキシフロキサシンを減量したり、レボフロキサシンに変更した例が存在した。短期療法でみられたこのような副作用・デメリットが、モキシフロキサシンによるのか、その用量によるのか、あるいは他剤との相互作用によるのか、具体的な情報はない。HIV重複感染率が高かったため、その影響が事象を複雑にもしている。なおバングラデシュ研究ではモキシフロキサシンでなくガチフロキサシンが用いられていたが、ガチフロキサシンは低血糖などの理由で、本邦・米国等では発売が中止となっている。また本邦ではシタフロキサシンが抗酸菌感染症に用いられることがあるが、本検討にはシタフロキサシンは含まれていない。 WHOは2018年末に多剤耐性結核およびRIF耐性結核のガイドラインを改訂した2)。この中で短期療法の章が新たに設けられ、本試験を含む臨床試験の結果を考慮した短期療法と適応についてのスタンスが述べられている。2011年に比べ大きな進歩があったが、必須な薬剤の絞り込み、耐性に関する遺伝子検査のさらなる導入、副作用の早期発見と対処・代替薬剤の変更など、課題はまだまだ多い。条件を設定した短期治療は、標準化、個別化それぞれへの一歩といえるだろうが、最終的に個々の治療をさらに向上させるには、今後も多大な努力が求められるであろう。■参考1)Van Deun A, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2010;182:684-692.2)WHO updates its treatment guidelines for multidrug- and rifampicin-resistant tuberculosis.

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結核のDOTにもスマートフォン導入か(解説:吉田敦氏)-1032

 抗結核療法は長期にわたる。不完全な内服は、治療効果を下げるばかりか、耐性出現と周囲への感染リスクを少なくするためにもできる限り避けるべきであり、アドヒアランスの保持を目的としたDOT(Direct observed therapy)は世界的にも主流となっている。しかし直接会って内服を確認するのは、患者、医療従事者双方にとって負担である。スマートフォンの普及がDOTにプラスに働くかどうか―スマートフォンとアプリを使って内服状況を本人がビデオ撮影し、医療従事者に送信してアドヒアランスを確認するVOT法が英国で試みられ、従来の対面によるDOTとVOT法のランダム化比較試験の結果が発表された。 本検討では、過去にホームレス、懲役刑、薬物乱用、アルコールやメンタルヘルスの問題の既往のある患者が約6割を占め、また多くが英国外出生であった。DOTは週3~5日の確認(約半数は家において)、VOTは毎日の確認であり、VOTでは何らかの症状がある場合それについても報告可能とした。プライマリーエンドポイントは、ランダム化後の2ヵ月でスケジュールどおりの内服率が80%以上に達することとしたが、DOT群ではアドヒアランスはランダム化後すみやかに低下してしまい、プライマリーエンドポイント達成割合はVOT群で70%、DOT群で31%であった。なお有症状報告患者数は両群ともほぼ同数であったが、報告数でみるとVOTのほうが多かった。またVOTに関わる時間は、医療従事者・患者ともにDOTよりも少なかったわけであるが、コストは週5回のDOTに比較して、VOTは3分の1以下となった。 アドヒアランスに支障が生じやすい患者を相当数含んだ今回の検討において、得られた達成率を鑑みるとVOTは評価できるとみてよいであろう。とくに(英国外生まれの)34歳以下の男性で差が大きく、いわばスマートフォンになじみやすい世代に有効であったことがうかがえる。アドヒアランスを高める“動機”はさまざまであることがわかっているが、より個人に合い、簡便で、かつ自発性を促すものが望まれるかもしれない。一方で提供されたVOTにはリマインドや内服確認、症状報告メッセージなど細かなサービスが要求されていた。VOTのサービスの質的改良はこれからも続き、それによるアドヒアランス向上も期待できると考えられるが、VOTが果たしうる役割は、文化的・社会的背景が異なるそれぞれの国によっても差があるであろう。ロンドンではすでに多剤耐性結核患者にもこのVOTが導入されたと聞く。世界各国での今後の展開と応用に期待したい。

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プライマリケアにおける高齢者の尿路感染症には速やかな抗菌薬処方が有効(解説:小金丸博氏)-1023

 尿路感染症は高齢者における最も代表的な細菌感染症である。重症度は自然軽快する軽症のものから、死亡率が20~40%に至る重症敗血症まで幅広い。高齢者では典型的な臨床経過や局所症状を認めないことも多く、診断は困難である。そのうえ、65歳以上の女性の20%以上に無症候性細菌尿を認めることが尿路感染症の診断をさらに困難にする。 現在、薬剤耐性菌を減らすための対策として世界中で抗菌薬の適正使用を推進する動きがある。最近の英国からの報告によると、2004年~2014年の間にプライマリケアにおける高齢者の尿路感染症に対する広域抗菌薬の処方は減少していたが、その一方でグラム陰性菌による血流感染症が増加しており、その関連性が議論されている。 本研究は、高齢者の下部尿路感染症患者に対する抗菌薬治療介入の方法と治療成績の関係を検討した後ろ向きコホート研究である。英国のプライマリケアを受診した65歳以上の患者のうち、下部尿路感染症と確定診断、あるいは疑われた全患者を対象とした。無症候性細菌尿、複雑性尿路感染症、入院例などは除外された。抗菌薬の処方タイミングによって、即時処方群(初回診断日に処方)、待機処方群(初回診断日から7日以内に処方)、処方なし群の3群に分類し、診断から60日以内の血流感染症、全死亡率などを比較した。その結果、60日以内の血流感染症の発生率は即時処方群が0.2%だったのに対し、待機処方群は2.2%、処方なし群は2.9%と有意に高率だった(p=0.001)。共変量で補正すると、即時処方群と比較した待機処方群の血流感染症のオッズ比は7.12(95%信頼区間:6.22~8.14)、処方なし群のオッズ比は8.08(同:7.12~9.16)だった。60日以内の全死亡率は、即時処方群が1.6%、待機処方群が2.8%、処方なし群が5.4%だった。多変量Cox回帰モデルで解析した結果、高齢、男性、Charlson併存疾患指数、喫煙などが60日以内の死亡と関連があった。特に、85歳以上の男性において死亡リスクが高かった。 本研究において、高齢者の下部尿路感染症に対して抗菌薬を即時処方することで、その後の血流感染症発生率や死亡率を減らすことが示された。後ろ向き研究であるものの、英国のデータベースを用いた非常に患者数の大きい研究であり、結果の信頼度は高い。研究のlimitationとして、菌名や耐性菌の割合など原因微生物の情報がないこと、患者の服薬遵守率が不明なこと、続発した血流感染症の侵入門戸が尿路かどうか不明なことなどが挙げられる。耐性菌を蔓延させないために抗菌薬の使用量を減らす努力は重要であるが、高齢者の尿路感染症に対して抗菌薬を投与することは妥当と考える。ただし、無症候性細菌尿に対して抗菌薬を投与することは厳に慎まなければならない。 本研究の結果をみると即時処方群が86.6%を占めていたが、本邦では高齢者の尿路感染症に対してもっと高率に抗菌薬を処方していると思われる。処方された抗菌薬をみてみると、トリメトプリム、ニトロフラントインがセファロスポリンやペニシリン系より多かった。キノロン系抗菌薬の割合が4.4%と少なかったことは、日本のプライマリケアの現場でも大いに見習うべき点であろう。

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リファンピシン耐性結核に短期レジメンが有望/NEJM

 リファンピシン耐性結核の治療において、高用量モキシフロキサシンを含む9~11ヵ月の短期レジメンは、2011年のWHOガイドラインに準拠した長期レジメン(20ヵ月)に対し、有効性が非劣性で安全性はほぼ同等であることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAndrew J. Nunn氏らが実施したSTREAM試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年3月13日号に掲載された。バングラデシュのコホート研究では、多剤耐性結核患者において、2011年のWHOの推奨治療よりも治療期間が短いレジメンを用いた既存薬の投与により、有望な治癒率が得られたと報告されている。アフリカとアジア4ヵ国の非劣性試験 本研究は、多剤耐性結核の治療における、バングラデシュ研究と類似の短期レジメンの、2011年版WHOガイドライン準拠の長期レジメンに対する非劣性を検証する無作為化第III相試験である(米国国際開発庁[USAID]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、フルオロキノロン系およびアミノグリコシド系抗菌薬に感受性で、リファンピシン耐性の肺結核患者であった。被験者は、高用量モキシフロキサシンを含む短期レジメン(9~11ヵ月)または2011年版WHOガイドライン準拠の長期レジメン(20ヵ月)を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは132週時の「良好な状態」とした。その定義は、132週時の培養および試験期間中の培養でMycobacterium tuberculosisが陰性で、不良なアウトカム(割り付けレジメンに含まれない2剤以上による治療の開始、許容期間を超える治療の延長、死亡、直近の2つの検体のうち1つで培養陽性、76週以降の受診がない)を認めないこととした。群間差の95%信頼区間(CI)上限値が10%以下の場合に、非劣性と判定した。 2012年7月~2015年6月の期間に、424例(エチオピア:126例、モンゴル:33例、南アフリカ共和国:165例、ベトナム:100例)が割り付けの対象となり、383例(短期レジメン群:253例、長期レジメン群:130例)が修正intention-to-treat(mITT)解析に含まれた。mITT集団の主要アウトカム:78.8% vs.79.8% ベースライン時に全体の32.6%でHIV感染が、77.2%でcavitationが認められた。治療期間中央値は、短期レジメン群が40.1週(5パーセンタイル値37.0、95パーセンタイル値46.3)、長期レジメン群は82.7週(72.1、102.3)だった。 mITT解析による主要アウトカムは、短期レジメン群が78.8%(193例)、長期レジメン群は79.8%(99例)に認められ、HIV感染で補正した群間差は1.0(95%CI:-7.5~9.5)であり、非劣性が示された(非劣性:p=0.02)。また、per-protocol集団(321例)においても、短期レジメン群の長期レジメン群に対する非劣性が確認された(補正群間差:-0.7%、95%CI:-10.5~9.1、非劣性:p=0.02)。 Grade3~5の有害事象は、短期レジメン群が48.2%、長期レジメン群は45.4%に、重篤な有害事象は、それぞれ32.3%、37.6%にみられた。8.5%、6.4%が死亡した。 短期レジメン群で、QT間隔または補正QT間隔(Fridericia法で補正)の500msecまでの延長が多く認められたため(11.0% vs.6.4%、p=0.14)、厳重なモニタリングとともに、一部の患者では投薬の調整が行われた。フルオロキノロン系またはアミノグリコシド系抗菌薬への獲得耐性が、短期レジメン群の3.3%(8例)、長期レジメン群の2.3%(3例)にみられた(p=0.62)。 著者は、「今回の結果は有望だが、多剤耐性結核の治療では、薬剤感受性結核と同等の有効性と安全性をもたらす短期の簡便なレジメンを見つけ出すことが、依然として重要である」としている。

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結核治療、スマホによる監視が有望/Lancet

 直接監視下治療(DOT)は、1990年代初頭から結核の標準治療とされるが、患者や医療サービス提供者にとっては煩雑である。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAlistair Story氏らは、スマートフォンを利用するビデオ監視下治療(VOT)はDOTよりも有効であり、簡便で安価な結核治療の監視アプローチであることを示した。WHOは、2017年、DOTの代替法としてVOTを条件付きで推奨したが、無作為化対照比較試験がほとんどないためエビデンスのグレードは低いという。Lancet誌オンライン版2019年2月21日号掲載の報告。イングランドの22施設が参加、治療監視の完遂率を比較 本研究は、VOTのDOTに対する優越性の検証を目的とする解析者盲検無作為化対照比較試験であり、2014年9月~2016年10月の期間にイングランドの22施設で患者登録が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 対象は、年齢16歳以上、肺または肺外の活動性結核に罹患し、各施設の規定でDOTが適格と判定された患者であった。スマートフォンの充電設備がない患者は除外された。 被験者は、VOT(毎日、スマートフォンのアプリケーションを用いて遠隔監視を行う治療)またはDOT(週に3~5回、自宅、地域[薬局など]または診療所で直接監視下に行う治療)を受ける群に無作為に割り付けられた。DOTでは、医療従事者などが治療の監視を行い、患者は毎日、自分で薬剤を投与した。VOTは、ロンドンからの集中型の医療サービスにより提供された。 VOTでは、患者が動画を撮影して送信し、研修を受けた治療監視者が、パスワードで保護されたウェブサイトを介してこれらの動画を評価した。また、患者は、動画で薬剤の有害事象を報告するよう奨励された。スマートフォンとデータプランは担当医から無料で提供された。 主要アウトカムは、試験登録から2ヵ月の期間における予定された治療監視の80%以上の完遂とした。intention-to-treat(ITT)解析および限定解析(1週間以上の監視が行われた患者のみを含む)を行った。ITT解析:70% vs.31%、限定解析:77% vs.63% 226例が登録され、VOT群に112例、DOT群には114例が割り付けられた。全体として、英国以外の国で出生した若年成人が多かった。また、ホームレス、禁固刑、薬物使用、アルコールや精神的健康の問題の経歴を持つ患者の割合が高かった。1週間以上の監視を完遂した患者は、VOT群が101例(90%)と、DOT群の56例(49%)に比べ多かった。 ITT解析では、2ヵ月間に予定された治療監視の80%以上を完遂した患者の割合は、VOT群が70%(78/112例)と、DOT群の31%(35/114例)に比べ有意に良好であった(補正後オッズ比[OR]:5.48、95%信頼区間[CI]:3.10~9.68、p<0.0001)。 限定解析でも、80%以上を完遂した患者は、VOT群が77%(78/101例)であり、DOT群の63%(35/56例)と比較して有意に優れた(補正後OR:2.52、95%CI:1.17~5.54、p=0.017)。 VOT群は、試験期間を通じて80%以上の完遂率が高い状態が継続したが、DOT群は急速に低下した。また、最長6ヵ月の全フォローアップ期間における予定監視の完遂率は、VOT群が77%(1万2,422/1万6,230件)であったのに対し、DOT群は39%(3,884/9,882件)と、有意な差が認められた(p<0.0001)。限定解析でも、VOT群が有意に良好だった(83% vs.61%、p<0.0001)。 有害事象は、VOT群の32例から368件、DOT群の15例から184件が報告された。両群とも胃痛・悪心・嘔吐の頻度が高く、VOT群で16例(14%)、DOT群では9例(8%)に認められた。 1回の投与に要する時間は、医療サービス提供者および患者ともVOT群のほうが短く、患者1例当たりの6ヵ月間の費用はVOT群のほうが低額であった。 著者は、「VOTは、さまざまな状況にある多くの患者にとってDOTよりも好ましく、薬剤投与の監視において受け入れやすく有効であり、より安価な選択肢となる可能性がある」としている。

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高齢者の尿路感染症、抗菌薬即時処方で死亡リスク減/BMJ

 プライマリケアにおいて尿路感染症(UTI)と診断された高齢患者では、抗菌薬の非投与および待機的投与は、即時投与に比べ血流感染症および全死因死亡率が有意に増加することが、英国・Imperial College LondonのMyriam Gharbi氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年2月27日号に掲載された。大腸菌(Escherichia coli)による血流感染症の約半数が、原疾患としてのUTIに起因し、高齢患者はリスクが高いとされる。また、自然治癒性の疾患(上気道感染症など)では抗菌薬の「非投与」「待機的または遅延投与」は重度の有害アウトカムとはほとんど関連しないが、若年女性のUTI患者ではわずかだが症状発現期間が延長し、合併症が増加するとの報告がある。しかし、これらの研究は症例数が少なく、その一般化可能性は限定的だという。投与開始時期と血流感染症、入院、死亡との関連を評価 研究グループは、イングランドにおける高齢UTI患者への抗菌薬治療と重度有害アウトカムとの関連の評価を目的に、住民ベースの後ろ向きコホート研究を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成による)。 英国のClinical Practice Research Datalink(2007~15年)のプライマリケアのデータを、イングランドの全入院情報を含むhospital episode statisticsおよび死亡記録と関連付けた。2007年11月1日~2015年5月31日の期間に、プライマリケア医を受診し、下部UTI疑い、または確定診断が1回以上なされた65歳以上の患者15万7,264例が解析の対象となった。 主要アウトカムは、UTIのインデックス診断日から60日以内の血流感染症、入院ならびに平均入院期間、全死因死亡率とした。抗菌薬の即時投与(初回UTI診断時または同日)、待機的投与(初回UTI診断から7日以内)、非投与の患者に分けて比較した。とくに85歳以上の男性患者でリスクが高い 全体の平均年齢は76.7(SD 9.2)歳で、22.1%が85歳以上、78.8%が女性であった。UTIエピソード31万2,896件(15万7,264例)のうち、7.2%(2万2,534件)で抗菌薬処方の記録がなく、6.2%(1万9,292件)では遅延投与の処方が記録されていた。 初診時に処方された抗菌薬(27万1,070件)は、トリメトプリム(54.7%)が最も多く、次いでnitrofurantoin(19.1%)、セファロスポリン系(11.5%)、アモキシシリン/クラブラン酸(9.5%)、キノロン系(4.4%)の順であった。 初回UTI診断から60日以内に、1,539件(0.5%)の血流感染症エピソードが記録されていた。血流感染症の発症率は、初診時に抗菌薬が処方された患者の0.2%に比べ、初診から7日以内の再診時に処方された患者は2.2%、処方されなかった患者は2.9%であり、いずれも有意に高率だった(p=0.001)。 主な共変量で補正すると、抗菌薬の即時投与群と比較して、待機的投与群(補正後オッズ比[OR]:7.12、95%信頼区間[CI]:6.22~8.14)および非投与群(8.08、7.12~9.16)は、いずれも血流感染症を経験する可能性が有意に高かった。 また、抗菌薬即時投与群と比較した血流感染症の有害必要数(number needed to harm:NNH)は、非投与群が37例と、待機的投与群の51例よりも少なく、非投与のリスクがより高いことが示された。これは、抗菌薬即時投与群では発症しないと予測される血流感染症が、非投与群では37例に1例、待機的投与群では51例に1例の割合で発症することを意味する。 入院の割合は、待機的投与群が26.8%、非投与群は27.0%と、いずれも即時投与群の14.8%の約2倍であり、有意な差が認められた(p=0.001)。平均入院日数は、非投与群が12.1日であり、待機的投与群の7.7日、即時投与群の6.3日よりも長かった(p<0.001)。 60日以内の全死因死亡率は、即時投与群が1.6%、待機的投与群が2.8%、非投与群は5.4%であった。死亡リスクは、60日のフォローアップ期間中のどの時期においても、即時投与群に比べ待機的投与群(補正後OR:1.16、95%CI:1.06~1.27)および非投与群(2.18、2.04~2.33)で有意に高かった。 85歳以上の男性は、血流感染症および60日以内の全死因死亡のリスクが、とくに高かった。 著者は、「イングランドでは、大腸菌による血流感染症が増加していることを考慮し、高齢UTI患者に対しては、推奨される1次治療薬の早期の投与開始を提唱する」としている。

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新規のアミノグリコシド系抗菌薬plazomicinの複雑性尿路感染症に対する効果(解説:吉田敦氏)-1013

 腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の薬剤耐性は、現在、われわれが日常最も遭遇する薬剤耐性と言ってよいであろう。たとえば本邦で分離される大腸菌の約4割はフルオロキノロン耐性、約2割はESBL産生菌である。実際に複雑性尿路感染症の治療を開始する際に、主原因である腸内細菌科細菌の抗菌薬耐性をまったく危惧しない場合は、ほぼないと言えるのではないだろうか。そして結果としてβラクタム系およびフルオロキノロン系が使用できないと判明した際、残る貴重な選択肢の1つはアミノグリコシド系であるが、腎障害等の副作用が使用を慎重にさせている点は否めない。 今回の検討では、腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症例をアミノグリコシド系であるplazomicin群(1日1回静脈内投与)とメロペネム群にランダムに割り付け、少なくとも4日間以上続けた後、およそ8割の例で経口抗菌薬に変更し、合計7~10日の治療期間としている。なお投与開始から5日目、および15~19日目の臨床的、微生物学的改善がプライマリーエンドポイントとして設定された。そして結果としてplazomicinはおおよそメロペネムに劣らなかったが、特に15~19日目における臨床的、微生物学的改善率がplazomicin群において高かった。 本検討において最も関心が持たれる点はおそらく、(1)薬剤耐性菌の内訳と、それらへの効果、(2)plazomicinの副作用の有無と程度、(3)経口抗菌薬による影響、そして(4)再発に対する効果ではないだろうか。今回の検討例ではレボフロキサシン耐性は約4割、ESBL産生は約3割、カルバペネム系耐性(CRE)は約4%であるから、本邦の現在よりやや耐性株が多い。そしてESBL産生菌、アミノグリコシド(AMK、GM、TOBのいずれか)耐性株ともにplazomicin群がメロペネム群よりも微生物学的改善率が高かった。検討例はクレアチニンクリアランスが30mL/min以上の者であるが、うち30~60mL/minが35%、60~90mL/minが38%、90mL/min以上が26%を占める。このような集団でのCr 0.5mg/dL以上の上昇例がplazomicin群で7%、メロペネム群で4%認められた。一方、経口抗菌薬の第1選択はレボフロキサシンであるが、実際にはレボフロキサシン耐性株分離例の60%でレボフロキサシンが選択されていた。また治療後の無症候性細菌尿と、それに関連する再発がplazomicin群で低かった。 ほかにも結果解釈上の注意点がある。まず微生物学的改善の基準は、尿路の基礎状態にかかわらず、治療前に尿中菌数が105CFU/mL以上であったものが、治療後104CFU/mL未満になることと定義している点である。尿中菌数とその低下は基礎状態にも左右されるし、実際の低下度合いについては示されていない。さらに微生物学的改善の評価における重要な点として、当初から検討薬に耐性である例は除外されていることである(plazomicin感性は4μg/mL以下としている)。また治療前に感性であったものが、治療後に耐性になった例はplazomicin群の方がやや多かった。 以上のような注意点はあるものの、多剤耐性菌が関わりやすい複雑性尿路感染症の治療手段として有用な選択肢が増えた点は首肯できると言えよう。なおplazomicinはアミノグリコシド修飾酵素によって不活化されにくい点が従来のアミノグリコシドに勝る利点であるが、リボゾームRNAのメチル化酵素を産生するNDM型カルバペネマーゼ産生菌には耐性であり1)、ブドウ糖非発酵菌のPseudomonas、Acinetobacterについては従来のアミノグリコシドを凌駕するものではないと言われている2)。反面、尿路感染症では関与は少ないが、MRSAに対する効果が報告されている3)。本邦への導入検討に際しては、本邦の分離株を対象とした感受性分布ならびに耐性機構に関するサーベイランスが行われるのが望ましいと考える。そのような検討が進むことに期待したい。

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感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療を部分的に経口抗菌薬に変更できるか(解説:吉田敦氏)-1007

オリジナルニュースPartial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis 感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療は長期にわたる。中には臨床的に安定したため、抗菌薬の静注が入院の主な理由になってしまう例もある。安定した時期に退院とし、外来で静注抗菌薬の投与を続けることも考えられるが、この場合、患者本人の負担は大きく、医療機関側の準備にも配慮しなければならない。このような背景から、今回デンマークにおいて左心系の感染性心内膜炎を対象とし、静注抗菌薬による治療を10日以上行って安定した例において、そのまま静注抗菌薬を継続・完遂するコントロール群と(治療期間中央値19日)、経口抗菌薬にスイッチして完遂する群(同17日)について、死亡率、(あらかじめ想定されていない)心臓手術率、塞栓発生率、菌血症の再発率が比較された(プライマリーアウトカム指標)。 結果として、プライマリーアウトカム指標の発生率に差はなかった(コントロール群:12.1%、経口スイッチ群:9%)。このため著者らは、左心系の心内膜炎例でも安定していれば、静注抗菌薬の継続に比べ経口スイッチは劣らないと結論付けている。ただし、ここで検討された患者の内訳・原因微生物・除外基準・治療レジメンについてよく確認したうえで、結果は解釈すべきと考える。 まず原因微生物については、Streptococcus、E. faecalis、S. aureus、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の4種のみであり、半数近くをStreptococcusが占め、S. aureusは2割程度であった。それもMSSAのみでMRSAは含まれていない。さらにHACEKや培養陰性IEも含まれていない。自己弁・人工弁両方の心内膜炎が含まれるが、人工弁は25%程度であり、ペースメーカー感染が明らかであった例は3~4%、大きな疣贅(径>9mm)を有していた者は4~6%であった。心内膜炎に対する手術適応あるいはペースメーカー抜去の判断は主治医チームに委ねられており、詳細や施設間差の有無は不明である。さらには2群の割り付けの際、経食道心臓超音波を施行して膿瘍や手術を要するほどの弁異常がないことを確認し、加えて吸収不良がないといった複数の選択基準・除外基準をクリアすることが要求される。治療レジメンについては、代謝経路の異なる2薬剤を併用するが、この中には本邦で市販されていないdicloxacillinとfusidic acidの内服や、高価であるリネゾリドの内服も含まれている。 一方で、経口抗菌薬の血中濃度の測定も行っており、内服薬の吸収とバイオアベイラビリティに配慮している点は評価できる。今回の報告は、画一的な結論は付けがたいと考えられる。つまり、ある範囲の集団で、条件を満たし、臨床的に安定し、かつ腸管吸収にも問題がない例において、特定の組み合わせの経口抗菌薬が適応になるのではないかということである。この意味においては、ある集団に特化した(たとえば「Streptococcusによる自己弁の感染性心内膜炎」に対する「アモキシシリン+リファンピシン」のような)検討が今後さらに必要になるであろうし、半面、別な集団に対しては内服スイッチが適応でないという提示も行われるべきであろう。さらには、そのような層別化を行うにあたって、個別の症例の評価そのものが、よりいっそう精密さを求められるといえる。今回の検討は、あくまで嚆矢としての位置付けではないだろうか。

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