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健康長寿実現には早期死亡回避努力(早期死亡率改善)の忍耐強い継続的実践が優れた手段となる可能性に期待(解説:島田 俊夫 氏)-270

世界の先進国においては平均寿命が長くなり、平均寿命は70歳を超える時代に突入し、わが国を含む先進国の一部では女性は言うまでもなく90歳を超える勢いで、男性においても80歳を超える状況となっている。 本論文では、これ以上寿命を延ばすことにのみ目を向けるのではなく、健康寿命重視の立場から70歳未満のいわゆる早期死亡に視点を向け、早期死亡をいかにして減少させるかを国連(1970年~2010年)およびWHOのデータソース(2000年~2010年)を用いて検証し、具体的なデータに基づいて著者の考えをアピールしている。 Norheim氏らは、実施可能な目標こそが各国の政府に影響を与えるとして「2030年までに早期死亡の40%削減」を提案している。全死亡とヘルスケア改善には、修正可能な死亡原因や死亡の脅威となっている障害をすべて考慮することが必要であり、早期死亡の40%削減は、すべての国にとって不可避な課題であり、次の4つの目標達成を「2030年に向け継続可能な改善目標」として強化することを推奨している。(1)小児および妊産婦死亡の2/3削減、(2)結核、HIV、マラリアによる死亡の2/3削減、(3)非感染性疾患(NCDs)による早期死亡の1/3削減、(4)その他の要因(感染性疾患、低栄養、外傷)による死亡の1/3削減、である。 これらの目標達成が50歳未満死を半減し、50~69歳の死亡を1/3削減して、結果的には70歳未満死の40%削減が達成できるとしている。 この可能性を評価するために、人口上位25ヵ国、4つの所得国群および全世界の死亡動向をレビューしている。全死亡については1970~2010年の国連データを使用し、2000~2010年のWHOデータに基づき特異的原因死の動向調査を実施のうえ、2030年の各国人口を標準化した。 これらの情報を踏まえて著者は、「2000~2010年」にみられた死亡率減少の継続・維持・推進で、2030年の目標である疾患特異的死亡の2/3または1/3削減の目標達成は可能」としている。 この数値目標が達成されれば2030年の0~49歳の死亡は2,000万例のうち約1,000万例を、0~69歳の死亡は4,100万例のうち約1,700万例を減らすことが可能だと試算している。 この結果は、早期死亡を減らすことが発展途上国に限定されたものでなく先進国においてさえ、多少の差はあるとしてもあまねく健康改善の実現(健康長寿)に寄与することを強調している。また、NCDsのリスク因子であるタバコ、アルコールなどの使用を減らすことは早期死亡を減らすことに有効な手段となることは自明の理である。 単に長寿を追求する時代ではなくQuality of Lifeを考慮した健康長寿を目指す時代に私たちは生きている。

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どの向精神病薬で有害事象報告が多いのか

 精神科治療における薬物有害反応(ADR)は患者にとって苦痛であり、公衆衛生に重大な影響を及ぼす。英国・ブリストル大学のThomas KH氏らは、1998~2011年に英国Yellow Card Schemeに自己報告された、抑うつ症状および致死的・非致死的自殺行動の頻度が多かった薬剤を特定した。その結果、バレニクリン、ブプロピオン、パロキセチン、イソトレチノイン、リモナバンにおいて抑うつ症状の報告が多いこと、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、バレニクリンおよびクロザピンでは、致死的および非致死的自殺行動の報告が多いことが判明した。BMC Pharmacology and Toxicology誌オンライン版2014年9月30日号の掲載報告。 本検討では、1964年以降に抑うつ症状および自殺行動の自発報告が最も多かった薬剤を明らかにするため英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)よりYellow Cardのデータ提供を受け、NHS情報センターおよび保健省より入手した処方データに基づき薬剤によるADRの報告頻度を調べた。処方データは1998年以前分を入手できなかったため、1998~2011年に処方されたデータを分母としてADRの頻度を推算した。 主な結果は以下のとおり。・検討期間中、20件以上の抑うつ症状が報告された薬剤は110種類、10件以上の非致死的自殺行動が報告された薬剤は58種類、5件以上の致死的自殺行動が報告された薬剤は33種類であった。・抑うつ症状の報告が多かった薬剤のトップ5は、禁煙治療薬のバレニクリンおよびブプロピオン、次いでパロキセチン(SSRI)、イソトレチノイン(にきび治療に使用)およびリモナバン(体重減少薬)であった。・致死的および非致死的自殺行動の報告が多かった薬剤のトップ5の中に、SSRI、バレニクリンおよび抗精神病薬のクロザピンが含まれていた。・地域で抗精神病薬100万件処方当たりのADR頻度が高かった薬剤はリモナバン、イソトレチノイン、メフロキン(抗マラリア薬)、バレニクリンおよびブプロピオンであった。・5件以上の自殺の報告があったエファビレンツ(抗レトロウイルス薬)とクロザピンの2剤については、地域における処方数は多くなかった。・以上のように、多くの神経系および非神経系薬について、抑うつ症状と自殺に関連するADRが報告されていた。 結果を踏まえて、著者らは「薬剤とADRの因果関係を明らかにする際に、自己報告データは使用できない。それゆえ、重大な警鐘が鳴らされる可能性がある精神的ADRについては、すべての無作為化対照試験において特別に評価、報告がなされるべきである」と述べている。関連医療ニュース 入院から地域へ、精神疾患患者の自殺は増加するのか SSRI依存による悪影響を検証 ビタミンB併用で抗うつ効果は増強するか  担当者へのご意見箱はこちら

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2030年までに70歳未満死40%削減を/Lancet

 国連が掲げる「2030年に向けた持続可能な健康開発目標」に対して、ノルウェー・ベルゲン大学のOle F Norheim氏らは「各国の70歳未満の早期死亡40%削減と、すべての年代のヘルスケア改善」を提案した。40%削減という数値の根拠として各国の死亡率の傾向を国連およびWHOのデータでレビューし、「2010年現在の死亡率を維持推進すれば、戦争や紛争、新たな疫病がない地域では達成可能である」としている。また、高所得で低死亡率の国でも重大かつ達成すべき目標であると述べている。Lancet誌オンライン版2014年9月19日号掲載の報告より。非感染性疾患(NCD)による死亡削減目標は3分の1 Norheim氏らは、明確で実現可能な目標こそが各国の政府に対して影響力があるとして、「2030年までに早期死亡40%削減」を提案したとしている。そのうえで、全死亡とヘルスケア改善には、修正可能な死亡原因や、多くの死亡の脅威ともなっているあらゆる障害を考慮することが必要であり、早期死亡40%削減は、すべての国にとって重要であり、次の4つの目標達成が、「2030年に向けた持続可能な開発目標」を強化すると指摘している。すなわち(1)小児および妊産婦死亡の3分の2削減、(2)結核、HIV、マラリア死の3分の2削減、(3)非感染性疾患(NCD)による早期死亡3分の1削減、(4)その他要因(感染性疾患、低栄養、外傷)の死亡3分の1削減である。これらの目標達成が、50歳未満死を半減し、50~69歳の死亡(主にNCD)を3分の1削減して、結果として70歳未満死の40%削減に結びつくとしている。 その可能性を評価するため、人口上位25ヵ国、4つの所得国群および全世界の死亡率と動向をレビューした。全死亡については1970~2010年の国連のデータを用い、またWHOのデータで、2000~2010年の原因特異的死亡の動向を調べ、2030年の各国人口を標準化(20年間の伸び率は過去10年の42%または18%に低下とみて算出)した。過去10年のNCD 14%低下などの維持推進で達成可能 結果、1970~2010年の死亡率は、HIVまたは紛争の影響が大きかった国を除き世界中で、とくに小児において低下していた。 2000~2010年については、70歳未満の標準化死亡比は、19%低下していた(低・低中所得国の絶対増が大きかった)。 直近10年(2000~2010年)の低下率について、年代ごとにみると0~4歳34%、5~49歳17%、50~69歳15%だった。また、感染性疾患、周産期、母体または栄養に関する死亡率は30%低下、NCDによる死亡は14%低下、外傷(事故、自殺、殺人)死亡は13%低下していた。 これらを踏まえて著者は、「2000~2010年にみられた死亡率減少の維持推進で、2030年の目標である疾患特異的減少3分の2または3分の1削減の達成は可能と思われる」とまとめている。もしその数値が達成されれば、2030年の0~49歳の死亡は、2000万例のうち約1000万例を、0~69歳の死亡は4100万例のうち約1700万例を減らすことが可能だとしている。

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蚊に刺されないことが最大の予防

 9月11日(木)、都内にて「蚊でうつる感染症~都心のデングを考える」と題し、国立国際医療研究センターメディアセミナーが開催された。今回のセミナーでは、「蚊」にフォーカスを当て、昨今問題となっているデング熱の診療や、蚊が媒介する感染症であるマラリアや日本脳炎などについてミニレクチャーが行われた。■例年100例は報告されるデング熱 はじめに「デング熱について」と題し、怱那 賢志氏(国立国際医療研究センター/国際感染症センター)が、その概要と診療・予防について説明した。 デング熱ウイルスは血清型で4つに分類され、ヤブカであるネッタイシマカとヒトスジシマカの媒介により感染する。前者はわが国に生息していないが、後者は東北地方北部まで生息域を広げており、今後も感染拡大が懸念される。毎年わが国では100例程度の感染が報告されているが、今回の流行はそれが例年になく拡大したものであり、これまでハワイや台湾でも類似の事例が観察されているとのことである。■診断は「時・場所・人」に着目 デング熱の症状としては、高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐などが挙げられる。重篤な合併症はないものの、高熱のため倦怠感が強く入院するケースが多いのが特徴である。 本症では皮疹なども見られるが、これは熱が下がる頃に見られ、病初期には観察されないことが多いとのこと。検査所見では、白血球、血小板減少が特異的に観察されるが、初診時には目立たないことが多く、CRPはあまり上昇しない。 確定診断については、時系列に3段階の検査があり、発症初期(1~5日目)では遺伝子検査、解熱前後期(4日目~)ではIgM抗体検査、回復期(7日目~)ではIgG抗体検査により診断がなされる。診断のポイントとしては、病状の精査のほか、とくに蚊に刺された「時・場所・人」に注目して診断することが大切だという。■虫よけで感染防止 治療は、有効な薬剤がないために支持療法が中心となる。とくに血圧、脈圧の低下時は輸液をしっかりと行い、出血症状や重症化のサインを見逃さないようにすることが重要。また、解熱前後の期間(発症から4~7日)は、とくに重症化する危険があるために、慎重な経過観察を行う必要がある。 デング熱予防対策としては、「防蚊対策」をしっかりすることが大切で、蚊に刺されないために、「肌の露出の少ない服装での外出」、「2時間おきに虫よけスプレーを使用する」、「窓を開けて寝ない」など日常生活で簡単にできるアドバイスを伝え、レクチャーを終えた。■ワクチンで予防できる熱帯の感染症 引き続き、怱那氏より「蚊が媒介する感染症」として「マラリア」「日本脳炎」「黄熱」の各疾患の概要が述べられた。 とくにマラリアは、アフリカなどへの渡航の際に注意を要する疾患であり、潜伏期間が長いのが特徴。渡航者には事前に予防内服薬を服用するよう勧めたほか、医療者に対しては診療に際して「マラリア診断・治療アルゴリズム 第3.1版」などを参考にしてほしいと述べた。 また、「日本脳炎」はわが国で予防接種の空白期があることから、この期間のキャッチアップを含めた対策を、「黄熱」は感染の可能性のある地域・国へ渡航する予定があればワクチン接種が入国の条件となっている場合もあるため、事前の接種を念頭に置いてほしいとレクチャーを終了した。デング熱、患者さんに聞かれたら・・・MDQA特別編 デング熱の疑いでどこまで検査するか【緊急Q&A】〔9/19まで募集〕

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エボラ出血熱の最新報告-国立国際医療研究センターメディアセミナー

 9月3日(水)、都内にて「西アフリカのエボラ出血熱ウイルス流行と国際社会の課題」と題し、国立国際医療研究センターメディアセミナーが開催された。今回のセミナーでは、実際に現地リベリアで患者の診療や医療従事者への指導を担当した医師も講演し、最新の情報が伝えられた。※画像は、出国時の体温検査(画像提供:国立国際医療研究センター 加藤 康幸氏)対応は1類感染症の疾患 「日本の医療機関における備え、感染対策の基礎」と題し、堀 成美氏(国立国際医療研究センター)が、わが国の感染症対策の概要について説明を行った。 エボラ出血熱は、感染症法上1類感染症として取り扱われており、特定の医療機関で診療を行うこと、また、現在、患者発生に備えて、厚生労働省検疫所や自治体と共同して感染症患者の移送などの訓練を行っていると述べた。ワクチン開発の現状 次に、「ワクチン、治療の現状と課題」をテーマに西條 政幸氏(国立感染症研究所)が、現在のワクチン開発の状況を説明した。 本格的なワクチン開発は、1995年のエボラ出血熱アウトブレイクより行われた。当初は、同疾患に罹患し回復した患者の血液輸血という、中和抗体投与療法から開始された。現在、ウイルス増殖を抑制する抗ウイルス薬T-705と中和活性を有する抗体製剤であるZMappが開発され、サルやマウスによる治験が行われている。 T-705は早い段階の投与で効果を発揮し、マウスについて感染6日後の投与では死亡例がなかったのに対し、8日後の投与では約半数が死亡する結果であったという。また、ZMappは、サルについて感染5日後に投与した群はすべて回復が認められたのに対し、コントロール群では8日以内にすべて死亡したことが報告された。 西條氏はワクチンの特徴として、感染を予防するものではなく、あくまで体内でのウイルス増殖を抑え、重症化を防ぐために使用されるものであることを強調した。 今後のワクチン使用の問題点としては、ヒトへの有効性のほか、安全性、情報開示などさまざまなことが挙げられると提起した。 また最後に、西アフリカの感染拡大について触れ、「ウイルスそのものに変化は見られないものの、感染拡大の阻止には苦慮している。拡大の阻止には、さらなる住民への教育、広報、医療機関への資材の提供などが期待される」と説明した。疾患への知識不足がさらなる感染を招く 続いて、「リベリアにおけるエボラ対策支援活動から」をテーマに、実際にリベリアで活動した加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター)が最新情報を紹介した。 リベリアは、乾季のある熱帯雨林気候に属し、人口約420万人。今回の感染拡大は内戦後、国連による平和維持状態が続いている中で起こったものである。 エボラ出血熱は、現在5種類が特定されており、今回の流行はその中でも最強のザイール型と呼ばれているもの。首都を含む広範囲の感染拡大は、新興感染症では世界が初めて経験する事態で、WHO予測では2万人の感染者が予想されているという。 WHOによればエボラ出血熱は、人-人感染でうつり、2~21日で症状を発現、生存率は47%という特徴をもつ。そして、加藤氏によれば、現地では看護をする患者家族や医療スタッフへの感染例が多いとのことである。 典型症状は、出血よりも発熱、下痢と嘔吐であり、現地では、マラリアが通年で流行していることもあり、初期診断時に発熱症状の患者の鑑別診断に苦慮しているとのこと。確定診断は、PCR法による診断が行われ、現地では疑い例の段階で治療・隔離ユニットに収容される。 流行を抑えるためには、隔離と検疫が重要で、現地でも対策が取られているが、医療システムが崩壊していることもあり、順調には進んでいない。そんな中で、さまざまな国、機関の支援により医療の再構築がなされており、今回の支援活動では、感染防止の教育、発熱外来の設置、治療ユニットの設置などが行われた。 現地では、患者の1割が医療従事者であることから、医療従事者の感染防護としては、ガウンなどを重層する国境なき医師団の対策を採用している。また、始業時の体温チェック、バディ体制での病室入室時の防護服チェックなど、万全の態勢を期して臨んでいることなどが紹介された。 治療に関しては、エンピリック治療として抗マラリア薬や抗菌薬の投与が、支持療法として点滴、輸血などが行われている。さらに、疾患啓発や感染防止教育のために、回復患者が医療機関を巡回する取り組みが行われているそうである。 今後の課題として、エボラ出血熱について現地住民への理解の促進、現地の医療システムの復旧、政府などへの信頼性の回復、孤立化による物資不足の解消などが待たれる、と講演を終えた。詳しくは次のサイトをご参照ください。 国立感染症研究所 エボラ出血熱  厚生労働省 感染症法に基づく医師の届け出のお願い

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40年ぶりの新規抗結核薬の有効性/NEJM

 多剤耐性結核に対して、推奨基本レジメンに抗結核薬ベダキリン(国内未承認)を追加し24週間治療を行った結果、プラセボ追加と比較して120週時点の評価で、培養陰性化がより速やかかつ有意に高率に認められたことが報告された。死亡例はプラセボ群よりもベダキリン追加群が多かったが、因果パターンは示されなかったという。南アフリカ共和国・ステレンボス大学のAndreas H. Diacon氏らによる第2b相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験ステージ2の結果、報告された。ベダキリン(Sirturo、TMC207)は40年ぶりとなる新規の抗結核薬で、結核菌のATP合成酵素を阻害するジアリルキノリン系薬である。第2b相試験ステージ1の8週投与の検討において、ベダキリンの追加投与群では、喀痰培養陰性化までの期間が短縮したことが報告されていた。NEJM誌2014年8月21日号掲載の報告より。推奨基本レジメン+ベダキリンの24週投与について検討 試験は、新たに多剤耐性結核と診断された18~65歳の喀痰スミア陽性患者160例を対象に行われた。被験者は、推奨されている基本レジメンに追加してベダキリン(79例)またはプラセボ(81例)を受ける群に無作為化され24週間投与を受けた(ベダキリンの投与は1日1回400mgを2週間、週3回200mgを22週間)。その後96週間は両群とも基本レジメンのみを投与され、計120週間フォローアップを受けた。 主要有効性エンドポイントは、液体培地での喀痰培養陰性化までの期間であった。24週時点、120週時点ともに、培養陰性率は有意に上昇 喀痰培養陰性化までの期間中央値は、プラセボ群125日に対しベダキリン群83日で、有意に短縮したことが認められた(ベダキリン群のハザード比:2.44、95%信頼区間[CI]:1.57~3.80、Cox回帰分析によるp<0.001)。培養陰性率も24週時点(79% vs. 58%、p=0.008)、120週時点(62% vs. 44%、p=0.04)ともに、ベダキリン群が有意に高かった。 120週時点におけるWHOのアウトカム定義に基づいた多剤耐性結核の治癒率は、ベダキリン群58%、プラセボ群32%であった(p=0.003)。 全体の有害事象の発現率は両群で同程度だった。死亡はベダキリン群10例、プラセボ群2例が報告されたが、投与薬との明らかな因果関係は認められなかった。

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新たなアルツハイマー病薬へ、天然アルカロイドに脚光

 現在、アルツハイマー病(AD)に適用される主な薬理学的ストラテジーは、アセチルコリンの主要な分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の阻害である。このような観点から、フィゾスチグミンのような天然アルカロイドが多数分離され、AChEおよびブチリルコリンエステラーゼ(BChE)阻害薬として従来から知られてきた。そして、AD患者の治療薬としてガランタミンが認可されて以降、抗コリンエステラーゼ作用をもつ新たなアルカロイドの探索が進み、huperzine Aなどの有望な候補物質の発見につながっている。ブラジルのリオ・グランデ・ド・スール連邦大学のEduardo Luis Konrath氏らは、ADの治療薬として抗コリンエステラーゼ作用を有する新たなアルカロイドの探索状況を報告した。構造活性相関ならびに物理化学的特性の面から、天然アルカロイドが良い候補物質へつながる可能性があることを示唆している。Journal of Pharmacy and Pharmacology誌2013年12月号の掲載報告。  本レビューは、AChE阻害薬およびBChE阻害薬としてのアルカロイドについて、構造活性相関(SAR)とコンピュータ上で仮想的に行われるドッキングスタディに着目した最近の進歩を概観している。 主な知見は以下のとおり。・ステロイド/トリテルペノイド、キノリジジン、イソキノリンおよびインドール類に属する天然アルカロイドは、主にツゲ科、ヒガンバナ科、ヒカゲノカズラ科に分布しており、酵素阻害作用を有する重要なアルカロイド源だと考えられた。・分子モデルを用いて数種の活性化合物について構造活性相関の可能性を検討したところ、酵素の活性化部位におけるアミノ酸残基と分子との相互作用を予測できた。・新しいコリンエステラーゼ阻害薬の開発において、アルカロイドに化学的に優れた性質を与え、強力で効果的な誘導体を得ることに関心が高まっている。・アルカロイドの抗コリンエステラーゼ活性は、その構造の多様性ならびに物理化学的特性とともに、AD治療薬の良い候補物質へとつながる可能性が示唆された。関連医療ニュース これからのアルツハイマー病治療薬はこう変わる アルツハイマー病、アミロイドβ蛋白による“炎症反応”が関与 統合失調症、双極性障害で新たに注目される「アデノシン作用」  担当者へのご意見箱はこちら

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わが国のHIVの現状 ~抗HIV療法関連の骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患が問題に~

約30年前は死に至る病と言われていたHIV感染症。現在は、定期的な受診と適切な服薬継続により長期にわたり日常生活を続けることが可能になり、慢性疾患と考えられるようになりつつある。しかしながら、日本では感染者が増加傾向にあり、新たに抗HIV療法に関連した代謝性疾患などが問題となっている。このたび、途上国のエイズ対策を支援する『世界エイズ・結核・マラリア対策基金』の支持を決定する技術審査委員の1人である、しらかば診療所 院長の井戸田 一朗氏が、ヤンセンファーマHIV/AIDSメディアセミナー(2013年10月29日開催)でHIVの現状や課題を紹介した。性感染症にかかるとHIVにかかりやすい井戸田氏のクリニックは、セクシャル・マイノリティ(同性愛者、バイセクシャル、トランスジェンダーなど)を主な対象として2007年に東京都新宿区に開院した。現在、同クリニックには約400人のHIV陽性者が定期的に通院しているという。井戸田氏が性感染症にかかった男性にHIV検査を勧めて検査した結果(自分で希望した人は除外)、淋菌感染症患者では20%、梅毒患者では13%、尖圭コンジローマ患者では26%がHIV陽性であった。井戸田氏は、「性感染症、とくに淋菌感染症、梅毒、尖圭コンジローマにかかった人は、HIV感染症も検査することが大切」と強調した。男性間の性的接触による感染が増加わが国の性感染症の報告数は全体的に減少傾向にあるが、新規HIV感染者とAIDS患者数は年々増加している。その内訳をみると、異性間性的接触による感染はほとんど変化がないのに比べて、男性間性的接触による感染の増加は著しく、2011年では全体の64%を占めていた。人口当たりのHIV陽性累積数は、都道府県別では、東京、大阪、茨城、長野、山梨の順で多く、HIV感染者とAIDS患者の6割が関東に集中している。男性間性的接触をする男性(MSM:men who have sex with men)の割合については、2005年度国勢調査における対象地域(関東、東海、近畿、九州)の男性では、性交渉の相手が同性のみ、もしくは両性である割合が2.0%(95%CI:1.32~2.66%)と報告されている。井戸田氏は、MSMにおけるHIVや性感染症の流行の背景として、解剖学的差異、性交渉の様式、ハッテン場・インターネットでの出会い、薬物(アルコール含む)、心理的要因を挙げた。HIV陽性者の予後と今後の課題HIV陽性者の予後は、抗HIV療法の登場により、20歳時の平均余命が36.1歳(1996~1999年)から49.4歳(2003~2005年)に延長した。また、抗HIV療法の登場により、カポジ肉腫や非ホジキンリンパ腫などのエイズ関連悪性腫瘍が減少する一方で、非エイズ関連悪性腫瘍(肛門がん、ホジキンリンパ腫、肝がん、皮膚がん、肺がん、頭頸部がん)が増加してきている。HIV陽性者においては脳心血管イベントの発生率が上昇する。禁煙によりそのリスクを下げることができるが、井戸田氏によると、同院を訪れるHIV陽性MSMでは喫煙者が多く52%に喫煙歴があったという。また、最近、抗HIV療法に関連した骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患(脂質異常症、糖尿病)が問題となっている。井戸田氏は、HIVに直接関係のないこれらの疾患について、「それぞれの分野の先生に診てもらえるとHIV陽性者や拠点病院にとって大きな支えになる」と各領域の医師からの協力を期待した。(ケアネット 金沢 浩子)

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国内の献血から初めてシャーガス病抗体陽性例が報告される

平成25年8月14日 第2回薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会より  献血者は中南米出身の40代男性で、「シャーガス病の疫学研究」*の対象であったため、平成25年6月の献血時に抗体検査を受け、抗体陽性が判明した。日本赤十字社は、安全対策として、この血液に対し出荷を差し止める等の対応を行った。  一方、今回の献血者はシャーガス病の安全対策が実施される(平成24年10月)以前にも献血を複数回行っており、その血液を原料として製造された赤血球製剤及び新鮮凍結血漿製剤が併せて11製剤、医療機関に納入されていたことも判明。日赤の調査によると、これらの製剤の保管検体はいずれもシャーガス病の抗体が陽性であり、納入された血液製剤の使用状況及び投与された患者の転帰等につき、遡及調査を実施しているとのこと。厚生労働省では、今回の献血者に関連する遡及調査の結果等を踏まえ、近く、血液の安全性対策について薬事・食品衛生審議会血液事業部会安全技術調査会で検討する予定。シャーガス病 トリパノゾーマ・クルージ(原虫)による感染症。中南米に多く、サシガメの一種が媒介する他、母子感染、輸血による感染が知られている。発熱などの非特異的な急性期症状の後、10~30年間の潜伏し(無症状であることが多い)、感染者の10~30%ほどに心筋肥大、心室瘤、不整脈などの心症状や、巨大結腸等の消化器症状をきたす。献血におけるシャーガス病の安全対策 平成24年10月から中南米出身者等に対し、問診によって対象を特定した上で、その献血は血漿分画製剤のための原料血漿としてのみ使用する等の安全対策をとっている。*シャーガス病の疫学調査:国内におけるシャーガス病の感染状況を把握するため、日本赤十字社の事業として、シャーガス病の安全対策(上記)対象者のうち、同意を得られた方の血液を用い、シャーガス病抗体を測定する調査。平成25年1月より東海4県(静岡、愛知、岐阜、三重)で先行実施、平成25年4月より全国で実施している。《関連リンク》平成25年度第2回血液事業部会運営委員会日本赤十字社ホームページ シャーガス病に係る安全対策について

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関節リウマチの医療費の抑制は可能か?(コメンテーター:杉原 毅彦 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(116)より-

生物学的製剤(TNF阻害薬 IL-6阻害薬 T細胞選択的阻害薬)の登場により、関節リウマチの疾患活動性のコントロールが可能となったが、関節リウマチの医療費が高騰している。もっともスタンダードな治療法であるメトトレキサート(MTX)で疾患活動性のコントロールが不十分であると判断した場合、リウマチ専門医はTNF阻害薬をMTXに追加することが増えてきた。 今回の無作為比較試験(RCT)では、TNF阻害薬をMTXに追加する代わりに、生物学的製剤より薬価の低い古典的な抗リウマチ薬2剤を追加しても、両群で同じように疾患活動性が抑制されることが示された。このことは、医療経済的な観点から考えると、今後MTX無効例に対してTNF阻害薬を使用する前に古典的抗リウマチ薬の多剤併用を試すことが主流となる可能性を秘めているが、いくつかの問題点がある。 現在の治療目標は、関節炎の程度を、低疾患活動性あるいは寛解にコントロールすることであることが、世界中のリウマチ医のコンセンサスとなっているが、今回のRCTではエントリーできた症例数が予定より少なく、当初のプライマリーエンドポイント、低疾患活動性の達成率の比較を評価できなくなり、途中でプライマリーエンドポイントが変更となっている。変更したプライマリーエンドポイントにおいては、MTXと古典的抗リウマチ薬の多剤併用と、MTXとTNF阻害薬の併用に差を認めなかったが、低疾患活動性や寛解の達成率はMTXとTNF阻害薬併用のほうが優れていた。また、有意差はないが、MTXとTNF阻害薬の併用で関節破壊進行が抑制される傾向にあった。 また今回RCTで試された古典的抗リウマチ薬は抗マラリア薬で、日本では発売中止となっている薬剤であった。本邦でも、MTXで効果不十分なRA患者に、MTXに追加することで有効性が認められている古典的抗リウマチ薬がいくつかある。生物学的製剤の開始の遅れが関節破壊を進行させてしまうことが示されている現状においても、古典的抗リウマチ薬とMTXの多剤併用療法が、MTXと生物学的製剤の併用療法の代わりとなりうるのか検討することは、医療経済的側面から重要であろう。

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世界中で起きている障害を有する人の高齢化/Lancet

 1990~2010年の20年間の世界の障害生存年(years lived with disability:YLD)について、オーストラリア・School of Population HealthのTheo Vos氏らがGlobal Burden of Diseases Study 2010(GBD2010)の系統的解析を行い報告した。その結果、10万人当たりのYLD有病率は20年間でほぼ一定であったが、年齢に伴う着実な上昇が認められたという。背景には人口増加と平均年齢の上昇があった。またYLDの最も頻度の高い原因(メンタル問題、行動障害、筋骨格系障害など)の有病率は減少しておらず、著者は「各国のヘルスシステムは死亡率ではなく障害を有する人の増加について対処する必要があり、その上昇する負荷に対する効果的かつ可能な戦略が、世界中のヘルスシステムにとって優先すべきことだ」と提言した。Lancet誌2012年12月15/22/29日合併号掲載の報告。世界の289の疾患・外傷の1,160の後遺症について系統的な解析を実施 研究グループは、GBD2010のデータを基に、その291の疾患・外傷リストのうち、障害をもたらす289の疾患・外傷の1,160の後遺症について、有病率、発生率、軽快した割合、障害持続期間、超過死亡率について系統的解析を行った。データは、公表されている研究、報告症例、住民ベースがんレジストリ、その他疾患レジストリ、マタニティクリニック血清サーベイランス、退院データ、外来ケアデータ、世帯調査、その他サーベイおよびコホート研究から構成された。 YLDを、シミュレーション手法により共存症について補正し、年齢、性、国、年度レベルで算出した。主因は、メンタル問題、行動障害、筋骨格系障害、糖尿病や内分泌系疾患 解析の結果、2010年の全年齢統合の1,160の後遺症の世界的な有病率は、100万人当たり1例未満から35万例まで広範囲にわたった。有病率と健康損失をもたらす重症度との関連はわずかであった(相関係数:-0.37)。 2010年のあらゆるYLDの有病者は7億7,700万人で、1990年の5億8,300万人から増加していた。 YLDをもたらした主要な要因は、メンタル問題と行動障害、筋骨格系障害と糖尿病や内分泌系疾患であった。 YLDの主要な特異的要因は、1990年と2010年でほぼ同様であり、腰痛、大うつ病、鉄欠乏性貧血、頸痛、COPD、不安障害、偏頭痛、糖尿病、転倒であった。 年齢別YLD有病率は、全地域で年齢に伴う上昇がみられたが、1990年から2010年にかけてわずかだが減少していた。 10万人当たりのYLD有病率は20年間でほぼ一定であった。 YLDの主要な要因の地域別パターンは、早期死亡による生命損失年(YLL)とよく似ていた。サハラ以南のアフリカでは、熱帯病、HIV/AIDS、結核、マラリア、貧血がYLDの重大な要因であった。

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世界の死因は過去20年で大きく変化、心疾患やCOPD、肺がんなどが主因に/Lancet

 1990~2010年の20年間の世界の死因別死亡率の動向について、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのRafael Lozano氏らがGlobal Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study 2010(GBD2010)の系統的解析を行い報告した。Lancet誌2012年12月15/22/29日合併号掲載の報告。世界の死因で感染症などは大幅に減少 GBD2010において研究グループは、世界187ヵ国から入手可能な死因に関わるあらゆるデータ(人口動態、言語剖検、死亡率サーベイランス、国勢調査、各種サーベイ、病院統計、事件・事故統計、遺体安置・埋葬記録)を集め、1980~2010年の年間死亡率を235の死因に基づき、年齢・性別に不確定区間(UI)値とともに算出し、世界の死因別死亡率の推移を評価した。 その結果、2010年に世界で死亡した人は5,280万人であった。そのうち最大の統合死因別死亡率(感染症・母体性・新生児期・栄養的)は24.9%であったが、同値は1990年の34.1%(1,590万/4,650万人)と比べると大幅に減少していた。その減少に大きく寄与したのが、下痢性疾患(250万人→140万人)、下気道感染症(340万人→280万人)、新生児障害(310万人→220万人)、麻疹(63万人→13万人)、破傷風(27万人→6万人)の死亡率の低下であった。 HIV/AIDSによる死亡は、1990年の30万人から2010年は150万人に増加していた。ピークは2006年の170万人であった。 マラリアの死亡率も1990年から推定19.9%上昇し、2010年は117万人であった。 結核による2010年の死亡は120万人であった。2010年の世界の主要死因は、虚血性心疾患、脳卒中、COPD、下気道感染症、肺がん、HIV/AIDS 非感染症による死亡は、1990年と比べて2010年は800万人弱増加した。2010年の非感染症死者は3,450万人で、死亡3例のうち2例を占めるまでになっていた。 また2010年のがん死亡者は、20年前と比べて38%増加し、800万人であった。このうち150万人(19%)は気管、気管支および肺のがんであった。 虚血性心疾患と脳卒中の2010年の死亡は1,290万人で、1990年は世界の死亡5例に1例の割合であったが、4例に1例を占めるようになっていた。なお、糖尿病による死亡は130万人で、1990年のほぼ2倍になっていた。 外傷による世界の死亡率は、2010年は9.6%(510万人)で、20年前の8.8%と比べてわずかだが増加していた。その要因は、交通事故による死亡(2010年世界で130万人)が46%増加したことと、転倒からの死亡が増加したことが大きかった。 2010年の世界の主要な死因は、虚血性心疾患、脳卒中、COPD、下気道感染症、肺がん、HIV/AIDSであった。そして2010年の世界の早期死亡による生命損失年(years of life lost:YLL)に影響した主要な死因は、虚血性心疾患、下気道感染症、脳卒中、下痢性疾患、マラリア、HIV/AIDSであった。これは、HIV/AIDSと早期分娩合併症を除き1990年とほぼ同様であった。下気道感染症と下痢性疾患のYLLは1990年から45~54%減少していた一方で、虚血性心疾患、脳卒中は17~28%増加していた。 また、主要な死因の地域における格差がかなり大きかった。サハラ以南のアフリカでは2010年においても統合死因別死亡(感染症・母体性・新生児期・栄養的)が早期死亡要因の76%を占めていた。 標準年齢の死亡率は一部の鍵となる疾患(とくにHIV/AIDS、アルツハイマー病、糖尿病、CKD)で上昇したが、大半の疾患(重大血管系疾患、COPD、大半のがん、肝硬変、母体の障害など)は20年前より減少していた。その他の疾患、とくにマラリア、前立腺がん、外傷はほとんど変化がなかった。 著者は、「世界人口の増加、世界的な平均年齢の上昇、そして年齢特異的・性特異的・死因特異的死亡率の減少が組み合わさって、世界の死因が非感染症のものへとシフトしたことが認められた。一方で、サハラ以南のアフリカでは依然として従来死亡主因(感染症・母体性・新生児期・栄養的)が優位を占めている。このような疫学的な変化の陰で、多くの局地的な変化(たとえば、個人間の暴力事件、自殺、肝がん、糖尿病、肝硬変、シャーガス病、アフリカトリパノソーマ、メラノーマなど)が起きており、定期的な世界の疫学的な死因調査の重要性が強調される」とまとめている。

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2010年の世界的な平均余命、男性67.5年、女性73.3年:GBD2010/Lancet

 世界的な出生時平均余命の延長は1990年代にいったん停滞したが、1970~2010年の40年間で持続的かつ実質的に延長し、2010年には男性が67.5年、女性は73.3年に達したことが、米国・ワシントン大学のHaidong Wang氏らの調査で明らかとなった。集団における原因別死亡率を抑制し、早期死亡率を適切に評価するには疾病負担の算定を要するが、その初期段階として年齢階層別、男女別の死亡数や死亡率の予測が重要とされる。ミレニアム開発目標4(乳幼児死亡率の削減)の期限(2015年末)が迫る中、乳幼児死亡率の正確な評価への関心が世界的に高まっているという。Lancet誌2012年12月15・22・29日合併号掲載の報告。世界的な死亡率の年齢階層別のパターンを検討 研究グループは、Global Burden of Disease Study 2010 (GBD2010)のデータを用いて、187ヵ国における1970~2010年の年齢階層別の年間死亡率を評価し、世界的な死亡率の年齢階層別のパターンを明らかにすることを目的に系統的な解析を行った。 各国の5歳未満(0~4歳)死亡率および成人(15~59歳)死亡率を推算した。100ヵ国以上の死亡登録データを用い、自然災害や戦争による死亡とは分けて解析した。 5歳未満死亡率と成人死亡率の最終的な推定値はガウス過程回帰で解析したデータから算定し、これをモデル生命表の入力パラメータとして用いた。全死亡率や死亡数の算定には95%不確定区間(95%UI)を用いた。ミレニアム開発目標4の達成予測は過小評価されている可能性も 世界的な男性の出生時平均余命は1970年の56.4年から2010年には67.5年に、女性では61.2年から73.3年にまで延長した。1990年代を除き、1970年から10年ごとに出生時平均余命が3~4年ずつ延長した(90年代の延長は男性1.4年、女性1.6年)。  2004年以降、東アフリカおよびサハラ砂漠以南のアフリカで死亡率が実質的に低下しており、これは抗レトロウイルス療法やマラリア予防対策の普及と時期が一致する。1970~2010年までに、男女の平均余命はそれぞれ23~29年の延長(モルディブ、ブータン)から、1~7年の短縮(ベラルーシ、レソト、ウクライナ、ジンバブエ)までの幅が認められた。 2010年に世界全体で5,280万人が死亡したが、これは1990年の4,650万人に比し13.5%、1970年の4,330万人に比べ21.9%の増加であった。2010年の死亡者に占める70歳以上の割合は42.8%(1990年は33.1%)、80歳以上の割合は22.9%だった。 5歳未満児の死亡数は1970年が1,640万人、2010年が680万人で、死亡率は約60%低下しており、特に生後1~59ヵ月児の死亡数は1,080万人から400万人へと著明に低下していた。HIV/AIDSの影響が最も大きい地域を含むすべての地域で、平均死亡時年齢の上昇が確認された。 著者は、「世界的、地域的な健康危機がみられるにもかかわらず、過去40年間で平均余命は持続的かつ実質的に延長していた。平均余命の延長は1990年代にいったん停滞したが、その後187国中179国で良好な伸展が認められた」とまとめ、「低~中所得国における死亡率の抑制に力を注ぐ必要がある。ミレニアム開発目標4の達成予測は過小評価されている可能性が示唆されるが、これは直近の小児死亡率に関するデータが不十分なためと考えられる」と指摘している。

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ニジェールの子どもの死亡率、MDG4達成を上回る勢いで低下

 西アフリカのニジェールでは、1998~2009年の5歳未満の子どもの死亡の年間低下率が5.1%に達し、ミレニアム開発目標4(MDG4)の達成に必要とされる4.3%を上回ったことが、米国・ジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院のAgbessi Amouzou氏らが行った調査で明らかとなった。MDG4は、2015年までに5歳未満児の死亡率を1990年の水準の3分の1に削減することを目標とする。近年、ニジェールでは、近隣の他の西アフリカ諸国に比べ子どもの死亡率の大幅な低減が達成され、生存のための介入が積極的に進められているが、その実情はよくわかっていなかった。Lancet誌2012年9月29日号(オンライン版2012年9月20日号)掲載の報告。LiSTを用いて2009年の救済された子どもの生命を推算研究グループは、1998~2009年までにニジェールで実施された子どもの生存プログラムについて詳細な解析を行った。2010年の世帯調査に基づいて、1998~2009年の子どもおよび新生児の死亡率の新たな推算法を開発した。この期間に行われた8つの全国調査のデータを用いてカバレッジ指標を再計算し、1995年以降の妊婦、新生児、子どもの健康に関するプログラムおよび施策を記録した。生命救済ツール(Lives Saved Tool:LiST)を用いて2009年の救済された子どもの生命を推算した。5歳未満の子ども5万9,000人の生命を救済生児出生1,000人当たりの5歳未満の子どもの死亡率は、1998年の226人から2009年には128人へと43%低下した。年間低下率は5.1%で、MDG4の達成に必要とされる4.3%を上回った。これは近隣の低~中所得国であるベニンの2.2%、ブルキナファソの0.8%、チャドの0.9%、マリの1.8%、ナイジェリアの2.0%に比べはるかに高い値であった。発育不良は24~35ヵ月児でわずかに低下し、痩せは2歳未満の子どもで最も大きく改善し、約50%低下した。調査期間中に、子どもへのほとんどの生存介入のカバレッジが大幅に増加した。LiSTにより、2009年に5歳未満の子ども5万9,000人の生命が救済されたことが示された。そのうち25%が殺虫剤処理した蚊帳の導入、19%が栄養状態の改善、9%がビタミンAの補給、22%が経口補水塩と亜鉛の補給による下痢の治療および発熱、マラリア、小児肺炎の治療探索、11%はワクチン接種によるものであった。著者は、「ニジェールでは、誰でも利用できる環境づくり(ユニバーサル・アクセス)、母子保健の無料提供、栄養プログラムの地方への普及を支援する政府施策が、MDG4の達成に必要とされる以上の迅速さで子どもの死亡率を低下させたと考えられる」と結論している。

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多剤耐性結核、PA-824を含む3剤併用レジメンが有望

 薬剤感受性の多剤耐性結核の新規治療法として、PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド併用療法は適切なレジメンであり、今後、開発を進める価値があることが、南アフリカ共和国Stellenbosch大学のAndreas H Diacon氏らの検討で示された。薬剤抵抗性の結核による世界的な疾病負担を軽減するには、投与期間が短く耐性になりにくい新規薬剤の開発が求められる。近年、種々の新規抗結核薬の臨床評価が進められ、なかでもbedaquiline(ジアリルキノリン、TMC207)とPA-824(nitroimidazo-oxazine)は用量依存性の早期殺菌活性(early bactericidal activity; EBA)が確認され有望視されている。Lancet誌2012年9月15日号(オンライン版2012年7月23日号)掲載の報告。6つのレジメンのEBAを無作為化試験で評価研究グループは、肺結核に対する新規多剤併用レジメン14日間投与法の将来的な開発の適合性を評価するために、EBAに関するプロスペクティブな無作為化試験を行った。2010年10月7日~2011年8月19日までに、南アフリカ・ケープタウン市の病院に入院した薬剤感受性の単純性肺結核患者(18~65歳)を対象とした。これらの患者が、bedaquiline単独、bedaquiline+ピラジナミド、PA-824+ピラジナミド、bedaquiline+PA-824、PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミドあるいは陽性対照としての標準的抗結核治療(イソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド+エタンブトール)を施行する群に無作為に割り付けられた。治療開始前の2日間、夜間の喀痰を採取し、開始後は毎日、薬剤投与までに喀痰を採取した。喀痰の液体培養中のM tuberculosisのコロニー形成単位(CFU)および陽性化までの時間(TTP)を測定した。主要評価項目は14日EBAとし、喀痰1mL中のlog10CFUの毎日の変化率を評価した。3剤併用レジメンのEBAが最良、標準治療に匹敵85例が登録され、標準治療群に10例、各治療レジメン群には15例ずつが割り付けられた。平均14日EBAは、PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド群(13例、0.233[SD 0.128])が最も優れ、bedaquiline単独群(14例、0.061[SD 0.068])やbedaquiline+ピラジナミド群(15例、0.131[0.102])、bedaquiline+PA-824群(14例、0.114[0.050])との間に有意差を認めたが、PA-824+ピラジナミド群(14例、0.154[0.040])とは有意な差はなく、標準治療(10例、0.140[SD 0.094])との同等性が確認された。いずれのレジメンも忍容性は良好で、安全性が確かめられた。PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド群の1例が、プロトコールで事前に規定された判定基準に基づき、補正QT間隔の過度の延長で治療中止となった。著者は、「PA-824+モキシフロキサシン+ピラジナミド併用療法は少なくとも標準治療と同等の有効性を示し、薬剤感受性の多剤耐性結核菌の治療として適切なレジメンである可能性が示唆される」と結論し、「多剤併用療法のEBA試験は、新たな抗結核治療レジメンの開発に要する時間の短縮化に寄与する可能性がある」と指摘している。

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君も医師として「国際協力師」にならないか?

「医師のキャリアパスを考える医学生の会」主催(代表:秋葉春菜氏〔東京女子医科大学医学部4年〕)の第17回勉強会が、2012年8月19日(日)、東京医科歯科大学・湯島キャンパスにおいて開催された。当日は夏休みの期間中にも関わらず医学生、社会人を中心に約40名超が参加した。今回は医師でNPO法人宇宙船地球号代表の山本敏晴氏を講師に迎え、「海外で、国境を越えて活躍している医療関係者達~宇宙船地球号にご搭乗中の皆様へ~」と題し、講演を行った。国際協力を俯瞰するはじめに山本氏の自己紹介のあと、「国際協力とは何か」と題して、現在の国際協力の種類や体制、これからの展開についてレクチャーが行われた。最も強調されていた内容は、『国際協力』は、無給のボランティアとして行うだけではなく、有給の仕事として行う方法もある、ということだった。その就職場所となる組織は、大きく分けて4つある。〔1〕国際機関(国連(WHO、ユニセフ等)など)、〔2〕政府機関(外務省の国際協力機構(JICA)など)、〔3〕民間のNGO(非政府組織)、〔4〕民間の企業(開発コンサルタント会社など)。以上の、いずれの組織でも、医師などが雇用され、有給の仕事として国際協力を行っている人が多数いるという。〔1〕の国連職員等の場合、アメリカの国家公務員に準じた給与が支払われ、勤務年数と昇進に伴い増額されていく。〔2〕の日本のJICA専門家などの場合、日本の一般的な勤務医と同等か、それ以上の給与が支払われる。〔3〕のNGOの場合、薄給または無給である。例えば、山本氏がかつて所属した「国境なき医師団」の場合は、2012年現在、毎月約13万円程度が支払われる。〔4〕は日本政府の外務省から国際協力事業を受注する「会社」で、医療・公衆衛生分野の事業を実施する場合もある。その場合、医師なども雇用される。〔1〕国連職員等と〔2〕JICA専門家等の場合、国家公務員と同等以上の待遇で途上国等へ派遣されるので、待遇(給与、年金、保険など)は国内並みに安定する。また、国際協力と聞くと、途上国の田舎で、電気も水道もない生活を送ると思っている人が多いが、そのようなことはなく、(〔1〕と〔2〕の場合は)派遣国の首都にいくことが多く、そこにある高級ホテル等に泊まることが多い。業務は派遣先の国の(医療・公衆衛生に関わる)政策立案(及びその政策の実施補助)などが主体であるなどと述べた。一方で、〔3〕のNGOでのボランティアの場合、収入は低いため、仮にそれに参加したとしても、自分や家族の生活費を捻出できないため、持続的な活動を行うことはできず、半年から2年程度で止めてしまう人が多い。このため、継続的に国際協力を行っている人の8割以上は、〔1〕、〔2〕、〔4〕のいずれかの方法で、有給のプロとして国際協力を行っているという。ただし、〔1〕、〔2〕、〔4〕では途上国の保健省(日本の厚生労働省に相当)への政策提言・アドバイスが、主な仕事となるため、医師が自分で患者の診察や治療をすることは、ほぼない。このため、「自分で直接、患者さんを診療するタイプの国際協力」を行いたい場合、お金にはならないが、〔3〕のNGOのボランティアとして行うしかない。中庸案としては、日本赤十字社が日本各地で運営する病院で、普段は勤務をしておき、自然災害が途上国で起きた際に、それに対する(日赤からの)緊急援助として(短期間の間だけ)出動する、という方法もある。いずれにしても、「『なんらかの形で持続的に国際協力に従事している人々』のことを、山本氏は『国際協力師』と呼び、数年前から、その概念を普及しているのだ」と語った。シエラレオネの現実次に「世界で一番いのちが短い国 シエラレオネ」の説明が行われた。銀座・新宿等で多数の写真展を開催している山本氏が、自ら撮影した写真を示しつつ、現地の内戦の様子や「なぜ平均寿命が短いのか?」が語られた。だがまず、山本氏は、同国の「素晴らしさ」について、触れだした。意外なことに、「持続可能な社会」という意味では、日本の方が「途上国」で、シエラレオネの方が「先進国」だと言う。同国の田舎では、日本の江戸時代のような生活をしており、電気などはない。このため、高度な医療はできない。よって、悪く言えば、近代文明から遅れていると言えるが、よく言えば、「(将来枯渇してしまう石油などのエネルギーに依存しないため)持続可能な生活を、ずっと営んでいるのだ」と言う。このためむしろ、「同国に国際協力をしてあげる」というよりも、「日本人が(江戸時代までは行っていたのに)忘れてしまった「持続可能な社会」(未来まで、ずっと続けていける(医療も含めた)生活のスタイル)を思い出させてくれる国であった」と山本氏は言う。次に、山本氏は、シエラレオネが、ボロボロになっていった経緯を説明した。シエラレオネでは、ダイヤモンドが採れる。これを狙って、欧米の営利企業が、その採掘を巡り同国で紛争を起こした。内戦だけでなく、隣国リベリアからの軍事侵攻も発生し、人々の生活は崩壊していった。多くの医療施設が破壊され、多くの医師や看護師が、国外に逃亡してしまった。その結果、乳児死亡率も、5歳までに子どもが死んでしまう割合(5歳未満子ども死亡率)も、ともに「世界最悪」という国になってしまった(2000年頃)。また、5歳まで生き残った子どもたちも、争う軍事組織らのいずれかに「子ども兵」として雇われ、麻薬漬けにされたまま、「戦争の道具」(生きた兵器)として戦場に連れていかれる。こうして、平均寿命34歳(2002年ユニセフの統計で世界最低)という国ができあがってしまった。こうした現状に対し、山本氏は、自らが現地で医療活動を行うだけでなく、自分が日本に帰ってしまった後も、未来永劫、シエラレオネで続けていけるような「医療システム」の構築を目指した。現地で医療機関(病院と診療所、さらにその連携制度など)を創設し、そこで働く医療従事者の人材育成を行った。そして、これからこうした国々へ支援にいこうという聴講者へ「現地の言葉を覚えること」、「現地の文化と伝統医療を尊重すること」、「西洋医学や日本の医療の手法を、一方的に押し付けないこと」など、体験者ならではのアドバイスを送った。アフガニスタンの現実続いてアフガニスタンに赴任した時の話題となり、同地では、(患者を診る医師としてではなく)プロジェクト・リーダー(コーディネーター)として、同国北部領域における母子保健のシステム構築に従事していたことを語った。同国では現在も(政府とタリバーン等の軍閥間での)紛争が続いており、「世界で一番、妊産婦死亡率が高い」ことと、その理由などが述べられた。国際協力師として世界に関わらないか最後に再び、国際協力を行っていく形として、民間NGOの無給のボランティアとして途上国に派遣されるだけでなく、有給のプロとして、例えば、JICAなどの専門家として赴任する選択肢もあることを強調した。また、今後国際協力を行っていこうという聴講生に向けて、(最も医療が遅れているとされる)アフリカ諸国で国際協力をやりたいのであれば、フランス語を習得した方がいいという助言をした。アフリカ諸国は、昔、フランスの植民地だった国が多いためである。さらに、(途上国の病院等の見学ツアーである)「スタディーツアー」や「ワークキャンプ」を一度は体験してみるのもよいと勧めた。その他、公衆衛生分野(予防、水と衛生など)であれば、医師でなくとも参加できるので医師以外の方でも大学院で「公衆衛生学修士」をとって、参加して欲しいと述べた。それに関連して、「世界を見て思ったことは、予防医学こそが究極の医療ではないかと思う」と述べ講演を終えた。質疑応答次のような質問が、山本氏に寄せられ、一つ一つに丁寧に回答されていた。――援助や支援の在り方について国際協力には、(1)地震などの自然災害の直後や、紛争地帯の中に入っていく「緊急援助」と、(2)それらが落ち着き、途上国の政府や地方自治体が、ある程度、正常に機能している時に行う、「開発援助」がある。(1)と(2)では、まったく違うことをする。(1)は、直接的な(狭義の)医療を行うことが多いが、(2)では、途上国政府への政策提言など、医療システムや公衆衛生の構築(広義の医療)をすることが多い。貧しい途上国への開発援助は、昔は、(マラリアや肺炎などに対する)感染症対策と母子保健(乳児死亡率の改善、妊産婦死亡率の改善など)の改善を目的としていた。ところが、(国連が定めたミレニアム開発目標の終わる)2015年以降、WHOは、大きく方針を変える予定だ。今後は、途上国でも、糖尿病、高血圧などの生活習慣病(いわゆる成人病)が増える傾向にあるため、それらに対する対策(治療と予防)が、主流になる可能性が高い。ちなみに、国際協力の世界では、そうした疾患のことを、「非感染性疾患(NCD)」と言う。――現在の山本氏の活動について現在は、直接的な国際協力(狭い意味での国際協力)からは離れ、『国際協力師』を増やすことを主な活動としている。運営しているNPOの活動は3つある。(1)『国際協力師』を直接的に増やすために、本を執筆したり、啓発するためのさまざまなサイト(ホームページ、ブログ、ツイッター等)を制作している。(2)『お絵描きイベント』という、ちょっと変わった活動もしている。世界中の人々に「あなたの大切なものは何ですか?」と質問をし、その絵を描いてもらい、そこから導き出される、その国の『社会背景に眠っている問題点』を洗い出し、各国の問題をわかりやすく説明し、さらにそれに対し各組織が行っている国際協力活動を紹介する事業を行っている。世界の約70ヵ国・地域で実施した。書籍版が4冊(小学館等から)出版されており、またウェブサイトとしても公開している。(3)一般の企業に対して、「企業の社会的責任(CSR)」のランキングを付けている。利益を追求するだけでなく、環境への配慮を行い、社会貢献も実施するような企業を増やしていくためだ。2年に一度、ウェブサイト上で公開している。同様に、「病院の社会的責任(HSR)」に関するランキングも、現在、検討中である。要するに、すべての組織に、「持続可能性」への配慮を行うように啓発をしている。――国連のミレニアム開発目標(MDGs)2015の評価と意義についてMDGsは大体達成できていると思うが、数字的には、妊産婦死亡率の低下と乳児死亡率の低下が達成できていない。これはこれからの課題だと思う。ただ、この目標を定めたことで先進国が巨額のお金を出資し、資金ができ、一定の効果はあったので評価できると思う。――海外の地域医療で役立ったこと、また逆に日本に持ち込んで役立ったことは?アフリカの田舎では、医師がいないか、足りない。このため、看護師(または、普通の村人で、ある程度の研修を受けた人)が、病気を診断したり治療したりしている。看護師や村人では判断できない、難しい症例の場合は、携帯電話のSMS(ショート・メッセージ・サービス)を使って、首都などにいる医師に連絡をする。こうしたことは、途上国で当たり前のように行われている。日本では、医師法があるため、「医師でなければ診断や治療をしてはいけない」ことになっているが、日本の無医村や離島も、アフリカの田舎に近い場合がある。よって、アフリカの真似をして、日本でも、IT機器(携帯電話やパソコン等)を使って、遠隔地医療を「医師でない人が行って、どうしても医師が必要な場合は、医師がIT技術でアドバイスを送る」ということも考えられる。日本では、毎年、医療費が増加しており、国の借金も膨らんでいる。今後、さらに高齢化社会になるため、毎年1兆円ずつ、国の社会保障費(医療・公衆衛生・年金など)が増えていくことがわかっている。その理由の一つが、医者の人件費が高いことである。一般の日本人の平均年収は430万円だが、医師のそれは1,500万円をはるかに超える。このような「高い」人件費を使わずに、今後の日本の医療を実施していく必要がある。「お金をかけないで行う」、あるいは「費用対効果」を考えるということも、これからの医師には必要だ。2000年から導入された介護保険制度は、まさにこれである。高齢化社会を迎え、また国の財政が破綻しかかっている中、医療従事者であっても、「患者さんにその時点で最高の医療を(予算などまったく気にせず)提供する」ことだけを考えるのではなく、なるべく、お金をかけず、環境にも優しく(電気をあまり消費せず、ゴミをあまり出さないように配慮して)医療システムが未来まで続けていけるように配慮することが必要である。最後にスタッフの伊藤大樹氏(東京医科歯科大学医学部4年)が「国際協力の貴重なお話を有難うございました。これからも充実した勉強会を開催していきますのでよろしくお願いします。また、会では協力いただけるスタッフを募集しています。気軽に参加ください」と閉会挨拶をのべ、3時間にわたる勉強会を終了した。■講演者略歴■関連リンクNPO法人「宇宙船地球号」山本敏晴ブログ* * * * * *医師のキャリアパスを考える医学生の会

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HIV母子感染、抗レトロウイルス薬28週治療が有効:BAN試験

授乳に代わる安全な育児法がない環境においては、HIVに感染した母親あるいは未感染乳児に対する28週の抗レトロウイルス薬予防治療により、乳児へのHIV感染が減少することが、米国疾病対策予防センター(CDC)のDenise J Jamieson氏らの検討で示された。HIVの母子感染は世界的に減少傾向にあるが、医療資源が乏しい地域では解決すべき課題とされる。WHOは、医療資源が限られ、授乳に代わる安全な育児法がない環境では、授乳期間中は母親あるいは乳児のいずれかに対する抗レトロウイルス薬の予防投与を推奨している。Lancet誌2012年6月30日号(オンライン版2012年4月26日号)掲載の報告。母親あるいは乳児に対する予防治療の有効性を無作為化試験で評価BAN(Breastfeeding、 Antiretrovirals、 and Nutrition)試験は、HIV感染母親から子どもへの感染予防における母親あるいは乳児に対する抗レトロウイルス薬の28週投与の有効性を検討する無作為化対照比較試験。2004年4月21日~2010年6月28日まで、アフリカ南東部の国マラウイの首都リロングウェ市で実施された。HIVに感染し、CD4陽性リンパ球細胞数≧250個/1μLの授乳期の母親2,369人とその乳児を対象とし、3つのレジメンのいずれかに無作為に割り付けた。すべての母親と乳児に、ネビラピン(商品名:ビラミューン)(母親:200mg/kg、乳児:2mg/kg)を1回経口投与し、ジドブジン(商品名:レトロビル)(母親:300mg/kg、乳児:2mg/kg)+ラミブジン(商品名:エピビル)(母親:150mg/kg、乳児:4mg/kg)の合剤(母親は錠剤、乳児はシロップ)を1日2回、7日間投与した。対照群(668人)にはこれ以上の治療は行わなかった。母親に対する抗レトロウイルス薬3剤併用療法群(849人)には、ジドブジン+ラミブジン合剤(商品名:コンビビル)を28週投与し、ネビラピンは出産後最初の2週は1日1回、15日~28週は1日2回投与した。乳児に対するネビラピン療法群(852人)は、出生後最初の2週は10mg/kgを、3~18週は20mg/kgを、19~28週は30mg/kgをそれぞれ1日1回投与した。なお、ネビラピンは、その肝毒性に関するFDA勧告に基づき、2005年2月以降はネルフィナビル(商品名:ビラセプト)に、2006年2月以降はロピナビル+リトナビル合剤(商品名:カレトラ)に変更した。母親には産後24~28週の離乳が推奨された。治療割り付け情報は、現地の医療従事者と患者には知らされたが、それ以外の研究者にはマスクされた。主要評価項目は48週時の乳児のHIV感染とした。48週乳児HIV感染率:対照群7%、母親3剤併用群4%、乳児ネビラピン群4%母親3剤併用群の676組、乳児ネビラピン群の680組、対照群の542組が、48週のフォローアップを完遂した。産後28週以降は授乳を中止した母親は2つの介入群を合わせ96%、対照群は88%だった。生後2~48週の間にHIVに感染した乳児は、母親3剤併用群が30人、乳児ネビラピン群が25人、対照群は38人で、そのうち28人(30%)は28週の治療終了以降に感染していた(それぞれ9人、13人、6人)。48週までの乳児HIV感染リスクは、対照群の7%に比し、母親3剤併用群が4%(p=0.0273)、乳児ネビラピン群も4%(p=0.0027)と、いずれも有意に良好だった。乳児における重篤な有害事象の頻度は、治療期間中よりも治療終了後(29~48週)のほうが有意に高く(1.1件/100人・週 vs 0.7件/100人・週、p<0.0001)、下痢、マラリア、発育不良、結核、死亡のリスクが高かった。産後2~48週の間に9人の母親が死亡した(母親3剤併用群:1人、乳児ネビラピン群:2人、対照群:6人)。著者は、「医療資源が限られ、授乳に代わる安全な育児法がない環境では、母親あるいは乳児に対する抗レトロウイルス薬の28週予防投与により乳児のHIV感染が減少するが、6ヵ月での離乳は乳児の罹病率を増加させる可能性がある」と結論している。なお、WHOは現在、本試験を含む知見に基づき、授乳期12ヵ月間の抗レトロウイルス薬予防治療を推奨しているという。(菅野守:医学ライター)

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世界の5歳未満児死亡の最新動向:2000~2010年

 2000~2010年の最新の世界の5歳未満児死亡率の動向調査の結果、全体に減少はしていたものの、医学的に死因が特定され割合が約3%であったこと、減少には感染症による死亡減少が大きく寄与していたことなどが報告された。米国・ジョンズ・ホプキンス大学(米国)のLi Liu氏らによる調査の結果で、「小児生存戦略はもっと、感染症や新生児期の主因など死亡原因へ目を向けなくてはならない。2010~2015年以降の減少をより迅速なものとするには、最も頻度の高い共通した死因、特に肺炎と早産の合併症の減少を促進することが必要だ」と報告。「質の高いデータを集めて推定方法を強化する継続的努力が、将来の改善にとって必須である」と結論している。「Lancet誌2012年6月9日号(オンライン版2012年5月11日号)掲載報告より。5歳未満児死亡の約4割が新生児、死因別では64%が感染症で死亡 Liu氏らは、2000~2010年の最新の世界の5歳未満児死亡率の動向を調査するため、生後0~27週間の新生児、1~59ヵ月の5歳未満児の死亡総数のアップデートデータを集めて解析した。データは各国固有の死因区分が適用されているため、各国間のデータ適合を図ったり、死亡率が高い国に対して同様の多変量ロジスティック回帰モデルなどを作成適用するなどして調整を図り、インドと中国に関しては、国別モデルを作成し検討した。 集計結果から地域と世界の推定値を導き出した。 結果、2010年の5歳未満児死亡760万人のうち、64.0%(487万9,000人)は感染症が原因であった。また死亡の40.3%(307万2,000人)は新生児だった。医学的に立証できた5歳未満児の死亡原因はわずか2.7% 新生児死亡の主な原因は、早産の合併症[14.1%、107万8,000人、誤差範囲(UR):0.916~1.325]、分娩関連合併症(9.4%、71万7,000人、UR:0.610~0.876)、敗血症または髄膜炎(5.2%、39万3,000人、UR:0.252~0.552)だった。 幼児では、肺炎(14.1%、107万1,000人、UR:0.977~1.176)、下痢(9.9%、75万1,000人、UR:0.538~1.031)、マラリア(7.4%、56万4,000人、UR:0.432~0.709)が最も多かった。 一方で、関連データ同定の努力にもかかわらず、2010年に医学的に立証できた5歳未満児の死亡原因はわずか2.7%(20万5,000人)にとどまった。 2000~2010年の間の世界の5歳未満児死亡の減少は200万人で、肺炎(45万1,000人減)、はしか(36万3,000人減)、下痢(35万9,000人減)が全体的な減少に寄与していた。 国連のミレニアム開発目標4(2015年までに5歳未満乳幼児死亡率を1990年の3分の1に低減)達成に十分な年率で減少していたのは、破傷風、はしか、AIDS、マラリア(アフリカ)のみであった。

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乳幼児へのマラリアワクチンRTS,S/AS01、疾患発症および重症化とも予防に効果

世界のマラリア罹患者は年間約2億2,500万人、うち死亡は78万1,000人に上り、ほとんどがアフリカの小児だという。そのような公衆衛生上の脅威であるマラリアに対して開発されたワクチンRTS,S/AS01が、5~17ヵ月児の臨床症状発症を約半分に抑え、重症化を予防し得ることが、RTS,S Clinical Trials Partnershipらにより行われている第3相試験の結果、報告された。試験は、アフリカ7ヵ国・11施設共同で行われており、本報告は同試験初の報告で、NEJM誌2011年11月17日号(オンライン版2011年10月18日号)で発表された。アフリカ7ヵ国・11施設で1万5,460例を登録し検討研究グループは、2009年3月~2011年1月に、アフリカ7ヵ国・11施設で、生後6~12週児(6,573例)と生後5~17ヵ月児(8,923例)の2つの年齢カテゴリーの乳児合わせて1万5,460例を登録し、RTS,S/AS01または比較のための非マラリアワクチンを接種した。主要エンドポイントは、プロトコルに従って3回のワクチン接種をすべて受けた5~17ヵ月児6,000例について解析した、ワクチン接種後12ヵ月間の有効性(マラリアの臨床症状発症に対するワクチン効果)とした。また、2つの年齢カテゴリーの重症マラリアへのワクチン有効性の評価は、250例の小児が重症マラリアを発症した時点で行われた。初回接種後14ヵ月時点、ワクチン有効性は3回接種児で55.8%ワクチンの初回接種後14ヵ月時点で、5~17ヵ月児6,000例の臨床的マラリアエピソードの発生率は、RTS,S/AS01群は0.32件/人・年、対照群は0.55件/人・年で、ワクチン有効性は、intention-to-treat集団(ワクチン接種を最低1回接種児)では50.4%(95%信頼区間:45.8~54.6)、パープロトコル集団(同3回接種児)では55.8%(97.5%信頼区間:50.6~60.4)であった。重症マラリアに対するワクチンの有効性は、intention-to-treat集団45.1%(95%信頼区間:23.8~60.5)、パープロトコル集団47.3%(同:22.4~64.2)であった。両年齢カテゴリー群合わせての重症マラリアに対するワクチンの有効性は、平均追跡期間11ヵ月のパープロトコル集団で34.8%(同:16.2~49.2)であった。重篤な有害事象の発生頻度は、2つの試験群で同程度だった。なお5~17ヵ月児群において、RTS,S/AS01ワクチン接種後の全身性痙攣発作の割合は、1.04件/1,000回接種(95%信頼区間:0.62~1.64)だった。(武藤まき:医療ライター)

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重症感染症児への輸液ボーラス投与、48時間死亡率を上昇

 ショック患者への急速早期の輸液蘇生術は、救急治療ガイドラインに示されており、小児科における生命維持訓練プログラムでも支持されている。しかし、処置法、用量、輸液の種類に留意したエビデンスはなく、集中ケア施設がまず利用できないアフリカのような、医療資源が限られた環境下でのショック患児や生命に関わるような重症感染症児への治療に対する輸液蘇生の役割は確立されていない。そこでケニア中央医学研究所(KEMRI)のKathryn Maitland氏らは、アフリカ東部3ヵ国で輸液蘇生の効果を調べる無作為化試験を行った。NEJM誌2011年6月30日号(オンライン版2011年5月26日号)掲載より。アルブミンボーラス、生食ボーラスと対照群の3群に無作為化し48時間後の転帰を比較 研究グループは、ウガンダ、ケニア、タンザニアで、重症熱性疾患と循環不全で入院した小児を、5%アルブミン溶液20~40mL/kg体重ボーラス投与(アルブミンボーラス群)もしくは0.9%生食液20~40mL/kg体重ボーラス投与(生食ボーラス群)する群か、ボーラス投与しない群(対照群)の3群に無作為に割り付け検討した(A層試験)。このA層試験では、重症低血圧の小児は除外されB層試験にて、いずれかのボーラス投与群に無作為に割り付けられ検討された。 >被験児は全員、ガイドラインに基づく、適切な抗菌薬治療や静脈内維持輸液ならびに生命維持のためのトリアージや救急療法を受けた。なお、栄養失調または胃腸炎の患児は除外された。 主要エンドポイントは、48時間時点の死亡率とし、副次エンドポイントには、肺水腫、頭蓋内圧亢進、4週時点の死亡または神経学的後遺症の発生率などが含まれた。 A層試験は3,600例の登録を計画していたが、3,141例(アルブミンボーラス群1,050例、生食ボーラス群1,047例、対照群1,044例)が登録された時点でデータ安全モニタリング委員会の勧告により補充が停止された。 マラリアの保有率(全体で57%)、臨床的重症度は全群で同程度だった。ボーラス後48時間死亡率が有意に上昇 A層における48時間死亡率は、アルブミンボーラス群10.6%(1,050例中111例)、生食ボーラス群10.5%(1,047例中110例)、対照群7.3%(1,044例中76例)だった。生食ボーラス群 vs. 対照群の相対リスクは1.44(95%信頼区間:1.09~1.90、P=0.01)、アルブミンボーラス群vs.生食ボーラス群の相対リスクは1.01(同:0.78~1.29、P=0.96)、両ボーラス群vs.対照群の相対リスクは1.45(同:1.13~1.86、P=0.003)だった。 4週時点の死亡率は、それぞれ12.2%、12.0%、8.7%だった(両ボーラス群vs.対照群の相対リスクは1.39、P=0.004)。神経学的後遺症発生率は、2.2%、1.9%、2.0%だった(同1.03、P=0.92)だった。肺水腫または頭蓋内圧亢進の発生率は、2.6%、2.2%、1.7%だった(同1.46、P=0.17)。 B層では、死亡率がアルブミンボーラス群69%(13例中9例)、生食ボーラス群56%(16例中9例)だった(アルブミンボーラスの相対リスク:1.23、95%信頼区間:0.70~2.16、P=0.45)。 これらの結果は、施設間、サブグループ間(ショック重症度や、マラリア、昏睡、敗血症、アシドーシス、重症貧血の状態に基づく)で一貫して認められた。 研究グループは「医療資源が限られたアフリカでの重症循環不全児に対する輸液ボーラスは、48時間死亡率を有意に高める」と報告をまとめている。

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