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ラッサ熱に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。いやー、しかしまったりとし過ぎましたね…。もう前回から4ヵ月も経っちゃってるし。隔週連載とか言ってたのに年3回ペースですね。でも、ほら、なんつーか、スランプなんですよ。もう納得できる原稿が書けないっつーか。イチローだってさすがに打率が1割切ったら引退するでしょ? もうオレもケアネット引退しようかなって思ってたんですよ。引退する前に解雇されそうなんですけどね。そもそも連載は新興再興感染症の連載なんですけどね、皆さん、ぶっちゃけ新興再興感染症に興味ありますか? ないでしょ。どうせビットコインとか加計学園とかのほうが興味あるでしょ。そんなこんなでスランプにあえいでいたらさ…嫁が励ましてくれるんですよ。いいから書けって。面白くなくてもいいから書けって。いい嫁でしょ? とにかく書きなさいって言うんですよ。んで金を稼げって。住宅ローン組んだばっかりだろうがって、言うわけですよ。途中から「あ、これ励ましじゃないな」って気付いたんですけどね。まぁとにかく原稿を書いてローンを返済しろ、と。世知辛いですな。私が「スランプで原稿書けないんで、その代わり当直バイトするんで勘弁してください」って言ったら、「じゃあ当直中に原稿書け」って。天才かよって思いましたね。その手があったか!って、一挙両得じゃんって。そういうわけで、今まさに言われるまま、当直中に原稿を書いている私であります。エボラ出血熱とシンクロする流行地域そんなことで、今日は「ラッサ熱」の話でいいですか。前回、次はバベシアって言ったんですが、どうせ誰もバベシアとか興味ないし。だって今、ラッサ熱がナイジェリアでアウトブレイクしてるんですよ。2013~14年のエボラのような危機が訪れるのか、今まさにその瀬戸際にいるのですッ! そんな感じでムリヤリ自分のテンションを高めながらラッサ熱を紹介していきますッ!と思ったら、看護師さんに呼ばれたんでちょっといってきます。そのまま待っててください。…すいません、おまたせしました。すっかりテンション下がっちゃいましたね。まぁいいか。ラッサ熱について紹介していきますね。ラッサ熱って病気を聞かれたことはありますでしょうか。ラッサ熱はアレナウイルス科ラッサウイルスによる感染症で、エボラ出血熱などと同じ、いわゆるウイルス性出血熱の1つです。日本では一類感染症に指定されています。つまり、ラッサ熱が疑われる患者がいた場合、ただちに保健所に連絡して、日本に約50施設ある特定または第一種感染症指定医療機関に搬送する必要があります。皆さま自身の身を守るためには、不要な曝露は避け、保健所の指示を仰いでください。自然宿主はマストミス(Mastomys natalensis)という野ネズミです。マストミスのフリー素材がありませんでしたので、代わりに図1に「かわいいフリー素材集 いらすとや」の野ネズミのイラストを貼っておきますね(いらねーっつーの)。「マストミス」でググってみると写真がいっぱい出てきますので、参考にしてください。図1 野ネズミ(マストミスもだいたいこんな感じ)画像を拡大するヒトはこのラッサウイルスに感染したマストミスに咬まれたり、尿や便などに接触したり、エアロゾル化した排泄物を吸引したり、あるいは食べたりすることによってラッサ熱に感染します。ラッサ熱の発生地域は、このマストミス分布と一致しているといわれています。また、ラッサ熱はウイルス性出血熱ですので、エボラ出血熱と同様にヒト-ヒト感染が起こりえます。ラッサ熱患者の血液、吐しゃ物、便などに曝露することによって感染することがあります。したがって、われわれ医療従事者は、とくにハイリスクということになります。診療に当たっては適切な標準防護具を装着するようにしなければなりませんし、日本では特定または第一種感染症指定医療機関で診療することとなっております。図2はラッサ熱の流行地域ですが、いわゆる西アフリカと呼ばれる地域の中でも、とくに赤道に近い国々ということになります。注意すべきポイントとしては、2013~14年にエボラ出血熱が流行したギニア、リベリア、シエラレオネもこのラッサ熱の流行地域になっていることです。すなわちッ! これらの国から帰国後にウイルス性出血熱が疑われる場合には、ラッサ熱だけでなくエボラ出血熱も考慮すべしッ! ということです。実際にはマラリアが多い地域ですので、まずはマラリアの除外が重要です。図2 ラッサ熱の流行地域画像を拡大する青色:ラッサ熱の症例やアウトブレイクが報告されている地域緑色:ラッサ熱の症例報告や抗体陽性者が見つかっている地域灰色:ラッサ熱の流行状況が不明な地域(文献2より引用)8割の患者は自然軽快するけれど…さて、臨床症状についてですが、ラッサ熱というと超ヤバい感染症のように思われますが、まぁ実際超ヤバい感染症なんですけど、エボラ出血熱と比較するともう少しマイルドな感染症だと考えられています。潜伏期は1~3週くらいで発症しますが、およそ8割の感染者は微熱、頭痛、倦怠感くらいで自然に軽快すると考えられています。そして、残りの2割は下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状、咽頭痛や咳嗽などの呼吸器症状、鼻出血や吐血・下血などの出血症状を呈します。重症例では多臓器不全で死に至ります。ラッサ熱患者全体の死亡率は1%程度ですが、入院するような重症例では死亡率は15~30%にもなります。エボラ出血熱は発症者がほぼ全員重症化し、30~40%が死亡していますので対照的ですね。血液検査上は他のウイルス性出血熱と同様に、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、凝固系異常、腎機能障害などがみられます。お~っと、危ない! もうそろそろドクターストップがかかりそうなんで、次回でいいですか。原稿は3,000字を超えるな、超える場合はコピペを多用しろって主治医に言われてますから。まぁ、主治医って私自身なんですけどね。まだスランプ中ですから、ゆっくりいきましょうよ。おかげさまでリハビリができましたので、次はさすがに4ヵ月は空けないと思います。次回は、日本国内での診断、治療として唯一報告されたウイルス性出血熱であるラッサ熱の輸入例について、また、ナイジェリアでの流行状況についてもご紹介したいと思います!1)Fisher-Hoch SP, et al. BMJ. 1995;311:857-859.2)Centers for Disease Control and Prevention . Lassa Fever Outbreak Distribution Map.

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循環器内科 米国臨床留学記 第19回

第19回 点滴に1日数百万円!? 拝金主義にまつわるアメリカのダークサイド先日、1本の電話が薬剤部からかかってきました。「この薬は一晩で数百万以上かかるのですぐにやめてほしい」。日本でもよく使用している薬だったので、まさに寝耳に水でした。その薬とは、イソプロテレノールという点滴です。日本ではプロタノールとして販売されています。事の成り行きはこうです。心拍数30前後の洞不全症候群の患者が入院してきました。心拍数が継続的に30以下になり、めまいを訴えたため、日本でもよく使用していたイソプロテレノールの点滴静脈注射を開始しました。患者の心拍は上昇し、朝まで問題なく経過したのですが、翌日の昼になり薬剤部から上記の苦情が入り、ドパミンに切り替えました。なぜ、そんな値段になるのか半信半疑で計算してみました。イソプロテレノールを、体重50Kgの患者に対し0.2μg/kg/min(最大投与速度)で1日使用したとすると、1時間当たり0.6mg必要となり、0.2mg入りのバイアルが3A必要となります。日本では、1バイアル226円ですから、時間当たり678円となります。これを一晩12時間使用しても8,136円です。ところがアメリカでは、0.2mg/mLの1mLの価格が1,766ドル(20万円!!)で、日本の約1,000倍近い値段です(「UpToDate」記載の価格による)。したがって、12時間使用すると確かに6万3,576ドル (724万円)となります。薬剤部と製薬会社との交渉で多少ディスカウントがあるようですが、それでも数百万はかかります。数年前までは1A当たり 44.5ドルで、現在の日本の価格の4倍程度でした。ところが、Marathon Pharmaceuticals社が権利を買収し、218.3ドルまで値段を釣り上げます。さらに、この会社はValeant Pharmaceuticals社に買収されます。この会社はなんと1A当たりの値段を1,200ドルまで値上げします。つまり、たった数年の間に30倍にまで値段が上昇したわけです。実は、このことは米国不整脈学会(HRS)でも問題視されています。HRSはロビー活動を行い、製薬会社に対し、必要な薬を常識的な価格で供給するよう働きかけています。ご存じかも知れませんが、このようなことは、他の薬でも起きています。少し前の話になりますが、コルヒチンもその一つです。古代ギリシャ時代から3,000年以上も使用されているコルヒチンですが、1ドル10セント程度だったのが、突然5ドルに値段が引き上げられました(詳細は、Aaron Kesselheim医師によるNew England Journal of Medicineの論文をご参照ください)。日本でもニュースになっていましたが、マラリアやトキソプラズマ症などの寄生虫感染症治療薬であるダラプリム(商品名:ピリメタミン)もその一つです。Turing Pharmaceuticalsという2015年に新しく作られた製薬会社は、ダラプリムの権利を買い占めます。その後、1錠当たり13.5ドルだったダラプリムは、一晩で750ドル、50倍以上に釣り上げられました。Martin ShkreliというCEOは批判を浴びますが、「Aston Martinを自転車の値段で売っている会社があれば、その会社を買収し、Toyotaの値段をつける。これが罪になるとは思えない」と主張しています。彼は投資家であり、最初からこのスキームで売り上げを上げるために会社を買収しているわけですから、悪いとも思っていないでしょう。消費者から反感を買ったMartin Shkreliは、結局、証券取引にまつわる詐欺容疑で逮捕され、CEOを辞めることになりました。Turing社も一度は値下げをすると発表しましたが、いまだに1錠750ドルのままです。日本と違い、米国では製薬会社が薬剤の値段を自由に決められます。複数の製薬会社が同じ薬剤を製造しているのなら、競争原理が働くため問題はありませんが、これらの会社はそういった複数の会社を買収することで、その薬の販売権利を独占します。そのようなCEOや会社は、いかにお金を稼ぐかしか考えていませんから、患者や国にどのような負担が増えるかは気にしていません。悲しいことですが、これが米国の拝金主義の現実です。医師としては、使用する前に薬の値段をチェックすればよかったと反省しています。拝金主義者の常識はずれな値段決定と比べると、厚生労働省が価格を決定する日本のような価格統制のほうが好ましいように感じます。【訂正のお知らせ】本文内に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2017年5月23日)。

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ノバルティスが新たな抗マラリア薬を発売

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:ダーク・コッシャ)は2017年3月7日、マラリア治療薬としてアルテメテル/ルメファントリン(商品名:リアメット配合錠)を発売した。 アルテメテル/ルメファントリンは、ヨモギ属植物(artemisia annua)の抽出化合であるアルテミシニン誘導体と作用機序の異なる薬剤を組み合わせた併用療法(artemisinin-based combination therapy、以下、ACT)の配合剤。WHOのマラリア治療ガイドラインでは、マラリアの治療薬としてACTが推奨されており、とくに重症化しやすい「合併症のない急性熱帯熱マラリア」の治療には第1選択薬に位置付けられている。 アルテメテル/ルメファントリンは代表的なACT薬剤として、米国や英国を含む60以上の国または地域で承認されている。これまで日本においては、熱帯病治療薬研究班が輸入し、本研究班に所属する医療機関で使用されてきた。このような状況において、熱帯病治療薬研究班より「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」として開発要望があっため、厚生労働省から開発要請を受け、2016年12月19日付でマラリアの治療薬として製造販売承認を取得した。マラリアについて 感染の予防や制御などの対策が進み、感染者数および死亡者数は減少しているものの、マラリアは現在でも世界最大の感染症の1つである。アフリカ、アジア、オセアニア、および中南米など、熱帯、亜熱帯地域を中心に約100の国または地域で流行し、年間2億人以上が新たに感染し、43万8,000人が死亡している。現在、日本で報告されるマラリア患者は、すべて外国に渡航した際の感染者。最近の国内の年間患者数は50~70人で推移している。ノバルティス ファーマ株式会社のプレスリリースはこちら

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q37

Q37 ただの「風邪(ウイルスによる上気道感染症)」と言い切れるポイントはありますか? 言い切ることはできませんが、そもそも言い切る必要がありません。その時点で抗菌薬を処方するのとしないのでは、どちらのほうが利益が多そうかを判断します。 鼻症状(鼻汁、鼻閉)、咽頭症状(咽頭痛)、下気道症状(咳、痰)の3系統の症状が「同時」に、「同程度」存在する場合は、非特異的上気道炎、いわゆる普通感冒の可能性が高く、一般的に抗菌薬投与のメリットは極めて小さいです1)。 結果的に診断が間違っていることもあるかもしれません。しかし、間違っていたとしても、再診についての具体的な指示を行い、その後の経過をフォローすることによってリスクヘッジをするようにしています。近年、急性気道感染症における抗菌薬使用削減のための戦略として、Delayed Antibiotics Prescription (DAP:抗菌薬の延期処方)に関する報告が増えてきています。初診時に抗菌薬投与の明らかな適応がない急性気道感染症患者に対して、すぐに抗菌薬を処方した場合と、経過が思わしくない場合に抗菌薬を投与した場合を比べると、合併症や副作用、予期しない受診などの好ましくない転帰を増やすことなく抗菌薬処方を減らすことができるというものです2)3)4)。「抗菌薬を出さずに何かあったらどうするのか?」という疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれません。そんなときは「何か」って何なのか?を具体的に言語化することが大切です。言語化することにより対策を立てることができます。漠然と不安を感じているだけで、なんとなく抗菌薬を処方してもリスクをヘッジできているとは限りません。たとえば、風邪だと思ったら実は心筋炎だったとか、実は感染性心内膜炎だったとか、実はマラリアだったとか。診断を推定せずに闇雲に抗菌薬を処方することは、リスクをヘッジするどころかときに有害ですらあります。また、どんな抗菌薬にも副作用はあります。明らかな適応がないにもかかわらず処方した抗菌薬によって重大な副作用が出てしまう可能性もあります。「抗菌薬を出さずに何かあったらどうするのか?」の裏側には「抗菌薬を出して何かあったらどうするのか?」がつきまといます。私の場合は、上気道症状のある患者さんで抗菌薬の適応がなさそうだと思った場合は、「今のところ、抗菌薬が効かないタイプの風邪のようです」と伝え、経過が思わしくないようであればその時点での再評価が必要になることをお話しし、再診についての指示を行うようにしています。説明が面倒だからとりあえず抗菌薬を処方しておけばよいという考え方は、何のリスクヘッジにもなっておらず、ときに患者さんを危険にさらしている可能性すらあるので、お勧めできません。 1)Harris AM, et al. Ann Intern Med. 2016;164:425-434.2)Spurling GKP, et al.Cochrane Database Syst Rev. 2013;4:CD004417.3)Little P, et al. BMJ. 2014;348:g1606.4)de la Poza Abad M, et al. JAMA Intern Med. 2016;176:21-9.

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世界の平均寿命、35年で約10年延長:GBD2015/Lancet

 1980年から35年間に、世界の年齢別死亡率は着実に改善し、この進展パターンは過去10年間持続しており、多くの国では当初の予測よりも迅速であったが、期待余命が短縮し、いくつかの死因の年齢標準化死亡率が上昇した国もあることが、米国・ワシントン大学のChristopher J L Murray氏らが実施したGlobal Burden of Disease Study 2015(GBD 2015)で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌2016年10月8日号に掲載された。生存期間を改善し、寿命を延長するには、その時々の地域の死亡率や傾向に関する頑健なエビデンスが求められる。GBD 2015は、195の国と領地における1980~2015年の全死因死亡および249項目の原因別死亡を包括的に評価する世界的な調査である。新たな解析法による検討、GATHERに準拠 研究グループは、GBD 2013およびGBD 2010のために開発された解析法の改良版を用いて、年齢、性、地理、年代別の全死因死亡率を推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成による)。 GBD 2015では、エボラウイルス病を含む8つの死因が新たに加えられた。ほとんどの死因の予測値を生成するCause of Death Ensemble Model(CODEm)のほか、6つのモデリング法を用いて、原因別死亡率の評価を行った。 「保健推計報告の正確性、透明性のためのガイドライン(Guidelines for Accurate and Transparent Health Estimates Reporting; GATHER)」に準拠し、データ源とともに、解析過程の各段階を記述した。出生時期待余命が61.7歳から71.8歳へ、死亡数が増加し年齢標準化死亡率は低下 世界的な出生時の期待余命(寿命)は、1980年の61.7歳から、2015年には71.8歳に延長した。サハラ以南のアフリカ諸国では、2005年から2015年に期待余命が大幅に延長した国があり、HIV/AIDSによる大規模な生命の喪失の時代からの回復が認められた。 同時に、とくに戦争や対人暴力により死亡率が上昇した国など、期待余命が停滞または短縮した地域も多かった。シリアでは、2005年から2015年に期待余命が11.3年短縮し、62.6歳にまで低下した。 2005年から2015年に、全死亡数は4%増加したが、年齢標準化死亡率は17.0%低下しており、この間の人口増加と年齢構成の転換が示された。この結果は、全死亡数が14.1%増加したのに対し年齢標準化死亡率が13.1%低下した非感染性疾患(NCD)と類似していた。このパターンは、いくつかのがん種、虚血性心疾患、肝硬変、アルツハイマー病、その他の認知症にみられた。 これに対し、感染性疾患、妊産婦、新生児、栄養障害による全死亡数および年齢標準化死亡率は、いずれも2005年から2015年に有意に低下しており、その主な要因はHIV/AIDS(年齢標準化死亡率の低下率:42.1%)、マラリア(同:43.1%)、早産による新生児合併症(同:29.8%)、妊産婦の疾患(同:29.1%)による死亡率の低下であった。また、外傷による年齢標準化死亡率は、この間に有意に低下したが、例外として、とくに中東地域では対人暴力や戦争による外傷で多くの人命が失われた。 2015年における5歳以下の下痢による死亡の主な原因はロタウイルス性腸炎であり、下気道感染症による死亡の主原因は肺炎球菌性肺炎であったが、病原体別死亡率は地域によってばらつきがみられた。 全体として、人口増加、高齢化、年齢標準化死亡率の変化の影響は、死因ごとに実質的に異なっていた。SDIによるYLLの予測値と実測値 原因別死亡率と社会人口学的指標(SDI:学歴、出生率、1人当たりの所得に基づくサマリー指標)の関連の解析では、SDIの上昇にともなって、死因や年齢の構成が規則的に変化することが示された。 若年死亡率(損失生存年数[YLL]の指標)の国別のパターンには、SDIのみに基づくYLLの予測値との間にずれがあり、国や地域によって高度に不均一なパターンが明確に認められた。ほとんどの地域では、YLL増加の主要な原因は虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病であったが、多くの場合、地域内のSDIに基づくYLLの実測値と予測値の比には、顕著な不一致が認められた。 サハラ以南のアフリカのすべての国では、感染性疾患、妊産婦、新生児、栄養障害がほとんどのYLLの原因であり、依然としてマラリアやHIV/AIDSが早期死亡の主要原因の国では、YLLの実測値が予測値をはるかに超えていた。 著者は、「年齢標準化死亡率は改善したが、人口増加や高齢化が進んだため、多くの国でNCDによる死亡数が増加しており、これが保健システムへの需要の増加を招いている」とまとめ、「これらの知見は、SDIに基づく死亡のパターンを、より深く研究するための参考になるだろう」としている。

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亜急性硬化性全脳炎〔SSPE : subacute sclerosing panencephalitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)は、1934年Dawsonにより急速進行する脳炎として初めて報告された。この疾患は、麻疹に感染してから数年の潜伏期間を経て発症する。発病後は数ヵ月から数年の経過(亜急性)で神経症状が進行し、病巣の性状はグリオーシス(硬化)であり、全脳を侵すことにより、亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる。このように潜伏期間が長く、緩徐に進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼び、ほかにはJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)が知られている。根本的治療法は確立されておらず、現在でも予後不良の疾患である。■ 疫学わが国での発症者は、麻疹ワクチンが普及する以前は年間10~15人程度であったが、麻疹ワクチン普及後は減少し、現在は年間5~10人程度となっている。男女比は2 : 1でやや男性に多く、潜伏期間、症状の発症とも女性と比較すると長く、遅くなっている。SSPEの発症年齢は平均12歳で、20代をピークに10~30歳代で96%を占める。麻疹ワクチンによるSSPEの発症は認められておらず、SSPE発症には直接的な麻疹ウイルス(MV)感染が必要であるため、発症予防には麻疹への感染予防が重要であるが、わが国では他の先進国に比べて麻疹ワクチンの接種率が低く、接種率向上が必要である。■ 病因SSPEの発症のメカニズムは現在まで十分には判明していないが、発症に関与する要因として、ウイルス側のものと宿主側のものが考えられている。1)ウイルス側の要因MVの変異株(SSPEウイルスと呼ぶ)が、中枢神経に持続感染することで起こる。SSPEウイルスは野生のMVと比較すると、M遺伝子やF遺伝子の変異が生じている。M遺伝子は、ウイルス粒子形成とカプシドからの粒子の遊離に重要なMタンパク質をコードし、Mタンパク質機能不全のため、SSPEウイルスは、感染性ウイルス粒子を産生できない。そのため隣接する細胞同士を融合させながら、感染を拡大していく。F遺伝子は、エンベロープ融合に関与するFタンパク質をコードし、一般にはSSPEウイルスはFタンパク質の膜融合が亢進しており、神経親和性が高くなっている。2)宿主側の要因幼少期にMV初感染を受けると免疫系や中枢神経系が十分に発達していないため、MVの脳内での持続感染が起こりやすく、SSPE発症リスクが上がる。ほかにSSPE発症に関わる遺伝的要因として、これまでにIL-4遺伝子多型とMxA遺伝子多型が報告されている。IL-4は、ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスをTh2(抗体産生)側に傾けるサイトカインで、SSPE患者ではIL-4産生が多いタイプの遺伝子多型を持つことが多いために、IL-4産生が亢進してTh2側に傾き、細胞傷害性T細胞の活性が抑えられて、MVの持続感染が起こりやすくなっていると考えられている。また、SSPE患者はインターフェロンによって誘導され、細胞内でのウイルス増殖を抑える機能を持つ、MxAの産生が多くなる遺伝子多型を持つことも知られている。MxA産生が多いと、中枢神経系のMV増殖が抑制され、MVに感染した神経細胞が免疫系から認識されにくくなり、中枢神経系での持続感染が起こりやすくなると考えられている。■ 症状と特徴初発症状として、学校の成績低下、記憶力低下、行動の異常、性格の変化があり、その後、歩行障害、ミオクローヌス、痙攣、自律神経症状、筋固縮を来し、最終的には無言・無動となり、死に至ることが多い。これらの症状の分類には、Jabbourが提唱した臨床病期分類が一般的に用いられる。■ Jabbourの分類第1期精神神経症状性格変化(無関心、反抗的)、学力低下、行動異常など第2期痙攣および運動徴候痙攣のタイプは全身強直発作、失神発作、複雑部分発作など運動徴候として運動機能低下、不随意運動(SSPEに特徴的な四肢の屈曲や進展を反復するミオクローヌス)第3期昏睡に至る意識障害の進行、筋緊張の亢進、球症状の出現による経口摂取困難、自律神経症状など第4期無言無動、ミオクローヌス消失全経過は通常数年だが、数ヵ月以内に死に至る急性型(約10%)、数年以上の経過を示す慢性型(約10%)がある。■ 予後SSPE症例は、無治療の場合は約80%が亜急性の経過をたどり、約1~3年の経過で第1期から第4期の順に進行し死亡する。約10%は発症後急速に進行し、3ヵ月以内に死亡する。また、残り約10%の進行は緩徐で、約4年以上生存する。無治療で寛解する症例や、寛解と増悪を繰り返す症例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、臨床症状を軸に血液、髄液、脳波、画像検査を統合して行う。■ 特徴的な検査所見1)麻疹抗体価血清および髄液の麻疹抗体価が上昇する。髄液麻疹抗体価の上昇はSSPEに特異的であり、検出されれば診断的意義が高い。SSPE患者の抗体価は異常高値が特徴とされたが、最近では、軽度上昇にとどまる症例も多く、注意が必要である。また、抗体価の推移と臨床経過は必ずしも一致しない。2)髄液検査多くの場合は細胞数・糖・蛋白とも正常だが、細胞数・蛋白が軽度上昇することもある。また、髄液IgGおよびIgG indexの上昇も認める。3)脳波検査Jabbour2期から3期にかけて、左右同期性または非同期性で3~20秒間隔で出現する周期性同期性高振幅徐波をほとんどの症例で認めるが、Jabbour4期になると消失する(図)。画像を拡大する4)画像検査MRIは、疾患の推移を評価するのに有用である。画像変化は臨床病期とは一致せず、主に罹患期間に依存する。病初期のMRI所見では、正常または後頭葉の皮質・皮質下に非対称なT2強調画像での高信号の病変を認める。病期の進行とともに脳萎縮が進行し、側脳室周囲に対称性の白質病変が出現・拡大する。5)病理病理所見の特徴は、灰白質と白質の両方が障害される全脳炎であることと、線維性グリオーシスにより硬化性変化を示すことである。組織学的には、軟膜と血管周囲の炎症細胞浸潤、グリア細胞の増生、ニューロンの脱落および神経原線維変化の形成、脱髄などの所見がみられる。炎症所見は、発症からの経過が長いほど乏しくなる。麻疹ウイルス感染に関連した所見として、核内および細胞質の封入体を認める。■ 鑑別診断SSPEは急速に進行する認知症、ミオクローヌス、痙攣などを来す疾患の一部であり、ADEM(acute disseminated encephalomyelitis)、亜急性および慢性脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、代謝性白質脳症、進行性ミオクローヌスてんかんなどが鑑別に挙がる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ イノシンプラノベクスイノシンプラノベクス(商品名: イソプリノシン)は、抗ウイルス作用と免疫賦活作用を併せ持つ薬剤で、保険適用薬として認可されている。通常50~100mg/kg/日を3~4回に分割し、経口的に投与する。これにより生存期間の延長が得られるとされている。副作用として、血中および尿中の尿酸値の上昇(18.8%)があり、注意を要する。■ インターフェロン(IFN)インターフェロンは、ウイルス増殖阻害作用を持つ薬剤であり、IFNα、IFNγともに保険適用薬として認可されている。イノシンプラノベクスとの併用により有効であったとの報告例を多数認める。通常100~300万単位を週1~3回、脳室内に直接投与する。副作用として一過性の発熱をほぼ全例で認める。頻度は低いが、アレルギー反応を来す症例も認める。イノシンプラノベクス経口投与とIFN髄腔内または脳室内投与を併用するのが一般的で、有効性は言われているものの進行を阻止した例はまれであり、治療効果として不十分と考えられている。■ リバビリン近年、研究的治療(保険適用外)として、リバビリンの髄腔内または脳室内投与療法が試みられている。リバビリンは、広い抗ウイルススペクトラムを有する薬剤であり、麻疹(SSPE)ウイルスに対しても優れた抗ウイルス効果を示す。直接脳室内に投与することで、髄液中のリバビリン濃度はウイルス増殖を完全に抑制する濃度に維持され、重篤な副作用を認めず、少数例ではあるが臨床的有効性が報告されている。しかし、病初期(Jabbour2期)に投与した症例においては、臨床症状に明らかな改善を認めたとする報告が多く、病期の進行した症例(Jabbour3期)では改善効果に乏しかったとする報告が多い。以上のことから、リバビリン療法は、リバビリンがウイルスの増殖を抑制して病期の進行を抑制する治療法であり、進行した神経障害を改善させるものではないと考えられている。■ 対症療法上記の治療のほかには対症療法として、ミオクローヌスのコントロールや呼吸管理、血圧コントロールなどの対症療法を行っていく必要がある。4 今後の展望SSPEの重症度の評価として、新たにトリプトファン代謝の主要経路であるキヌレニン経路の代謝産物の髄液中濃度について検討されている。SSPE群では対象例と比較し、髄液中のキノリン酸濃度が有意に高値であり、病期の進行とともに増加が認められている。代謝産物であるキノリン酸の増加はキヌレニン経路の活性化が示唆され、その活性化はSSPEにおける変異型麻疹ウイルスの持続感染に関与している可能性がある。さらにキノリン酸は NMDA型グルタミン酸受容体アゴニストとして興奮性神経毒性を持つため、SSPEにおける神経症状との関係が示唆されている。また、前述したが、研究的治療としてリバビリン髄腔内または脳室内投与が有望である可能性が考えられている。具体的な投与方法として、リバビリン1mg/kg/回、1日2回、5日間投与から開始し、1回量、投与回数を調整し、髄液リバビリン濃度を目標濃度(50~200μg/mL)にする。投与量が決定したら、5日間投与・9日間休薬を12クール(6ヵ月)継続するものとなっている。効果としては、国内で詳細に調査された9例において、治療前後の臨床スコアの平均は前が52.9、後が51.0であり、治療前後で有意差は認めなかった。しかし、イノシンプラノベクスとIFNの併用療法を施行された48症例では治療前後の臨床スコアは前が54.3、後が61.1と悪化を認めており、リバビリン脳室内投与群のほうが優る結果となっている。しかしSSPEは、症例により異なる経過をたどり、その経過も長いため、多数例の調査を行ったうえでの慎重な判断が必要である。5 主たる診療科神経内科および小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 亜急性硬化性全脳炎(一般利用者向けと医療従事者むけのまとまった情報)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班(医療従事者向けの情報)患者会情報SSPE青空の会(SSPE患者とその家族の会)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)診療ガイドライン(案)2)平成27年度(2015年度)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班 総括研究報告書3)Gutierrez J, et al. Dev Med Child Neurol.2010;52:901-907.公開履歴初回2014年05月19日更新2016年09月20日

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疑わしきは、まず渡航歴の聴取

 7月14日、国立国際医療研究センター病院/国際感染症センターは、蚊媒介感染症の1つである「黄熱」についてのメディアセミナーを同院で開催した、セミナーでは、流行状況、予防、診療の観点から解説が行われた。ゼロではない、黄熱持ち込みの可能性 はじめに、石金 正裕氏(同院国際感染症センター)が、「現在の流行状況:リスク評価」をテーマに説明を行った。 黄熱は、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスを原因とし、ネッタイシマカによって媒介・伝播される感染症である。そのため体液などを介したヒトヒト直接感染はないとされる。 主にアフリカ、南アメリカ地域で流行し、世界保健機関(WHO)の推計では、全世界の年間患者数は8万4,000人~17万人(うち死亡者は最大6万人)と推定されている。 感染後の潜伏期は3~6日、多くの場合は無症状であるが、頭痛、発熱、筋肉痛、嘔吐などの症状を呈し、重症化すると複数臓器からの出血、黄疸などを来すという(重症化した場合の致命率は20~50%)。多くの場合、症状発現後3~4日程度で回復するが、一部は重症化する。診断は、ウイルスの遺伝子または抗体のPCR法での検査による。現在、有効な治療薬はなく、輸液や頭痛、発熱などの対症療法が行われるが、黄熱ワクチンによる予防はできる。 アフリカ南西部のアンゴラでは、30年ぶりの黄熱のアウトブレイクが報告され、周辺地域への感染拡大が懸念されるとともに、流行地域である中南米のリオデジャネイロ(ブラジル)でのオリンピック開催に伴う、感染拡大も懸念されている。 媒介する蚊の性質の違いや他国の輸入例での感染不拡大をみると、輸入例を端緒として国内感染が起こる可能性は低いとしながらも、「わが国に持ち込まれる可能性はゼロではないため、引き続き流行地域渡航時のワクチン接種と防蚊対策は重要であり、医療者は患者さんへの渡航歴の聴取など漏らさず行ってほしい」と注意を促した。 なお、わが国では、第2次世界大戦以降、輸入例も含め報告例は1例もなく、現在4類感染症に指定されている。健康な旅行はワクチン接種から 次に竹下 望氏(同院国際感染症センター)が、「日本に黄熱を持ち込ませないために」と題して、黄熱ワクチンと防蚊対策に重点をおいて解説を行った。 黄熱の予防ワクチンは、1回接種で、0.5mLを皮下注射で接種し、生涯免疫が獲得できるとされている。国際保健規則(IHR)では、生後9ヵ月以上の渡航者が黄熱流行地域に渡航する際、その国や地域ごとに予防接種の推奨または義務付けがされている(接種後28日間は他のワクチン接種ができなくなるので注意)。 ワクチンの接種では、生後9ヵ月未満の子供、アレルギーを既往に持つ人(とくに卵)、免疫低下と診断され持病のある人、免疫抑制の治療中の人、胸腺不全/胸腺切除術を受けた人は、禁忌とされている(渡航時は禁忌証明書の発行が必要)。また、妊婦、授乳婦、免疫低下の疾患(たとえばHIVなど)を持病に持つ人、60歳以上の高齢者は、慎重な判断が必要とされている。 予想される副反応は、軽微なもので発熱、倦怠、接種部位の発赤、痒みなどがあり、約5~10日ほど続く。重度な副反応としては、重いアレルギー反応(5万人に約1人)、神経障害(12万人に約1人)、内臓障害(25万人に1人)が確認されている。ワクチンの接種は、全国20ヵ所の検疫所関連機関、2ヵ所の日本検疫衛生協会診療所、国立国際医療センター、東京医科大学病院などで受けることができる。 リオデジャネイロへの渡航については、沿岸部に1週間程度の滞在ならワクチンの接種は必要ないものの、アマゾン川上流域やイグアスなどに行く場合は接種を考慮したほうがよい。滞在中は防蚊対策(露出の少ない服装、虫よけ薬の塗布など)をしっかり行うこと、A型肝炎、破傷風などにも注意することが必要だという。 最後に「健康な旅行のための10か条」として、予防接種のほかに、渡航前に旅行医学の専門医に相談する、常備薬や服用薬の準備、旅行者保険への加入、現地での事故に注意する、性交渉ではコンドームを装着、安全な水・食糧の確認、日光曝露への対応、不必要に動物に近づかないなどの注意を喚起した。「旅行先で感染し、国内に持ち込ませないためにも、適切な時期にワクチンなどを接種することで予防計画を立てて旅をしてほしい」とレクチャーを終えた。黄熱との鑑別はどうするか 最後に大曲 貴夫氏(同院国際感染症センター長)が、「黄熱をうたがった場合の対応」として医師などが診断で気を付けるべきポイントを解説した。 黄熱の臨床所見は、先述のもの以外に仙腰痛、下肢関節痛、食欲不振など非特異的な症状がみられ、とくに病初期にはマラリアと酷似しており鑑別は難しいという。また、マラリアだけでなく、デング熱、チクングニア熱、ワイル病、回帰熱、ウイルス性肝炎、リフトバレー熱、Q熱、腸チフスなどの疾患とも症状が似ている。何よりも、外来ではまず「渡航歴」を聴くことが重要で、これで診断疾患を絞ることもできるので、疑わしい場合は問診で患者さんに確認することが大切だという。また、診断に迷ったら、専門医に相談することも重要で、日本感染症学会サイトの専門医を活用することもできる。 最後に、「患者が入院したときの対応として、『患者さんの体液、とくに血液に直接触れない』、『針刺し事故を起こさない』を順守し、感染防止を徹底してほしい」とレクチャーを終えた1)。厚生労働省検疫所-FORTH 黄熱について

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脱ワクチン後進国を目指して

 「ワクチンの日(7月6日)」を記念し、在日米国商工会議所(ACCJ)は、7月11日に「日本の予防接種率向上に向けた課題と取組み」をテーマに、都内で講演会を開催した。講演会では、ワクチン接種に関するわが国の課題や、世界的なワクチン開発の動向などが広く語られた。なぜ、ワクチンのベネフィットは報道されない!? はじめに、森内 浩幸氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻 感染分子病態学講座 感染病態制御学分野 教授)が、わが国のワクチン接種の現状と、とくにHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンをめぐる諸課題について解説した。 日本では、1990年代頃よりワクチンの副反応への懸念などから接種率が向上せず、ワクチン後進国として位置してきた。しかし、2008年から小児領域でHib(インフルエンザ)ワクチンが任意接種となり、以降、米国とのギャップを埋めるべくHPV1ワクチン、PCV7(肺炎球菌)ワクチンなど接種できる種類が増やされ、定期・任意接種と幅広く接種できるようになった。しかし、ここに来て、HPVワクチンについて副反応、副作用が広く報道され、その接種が定期接種から任意接種となったことを受けて、現在では接種がほとんど行われていない状況だという。 ワクチンのリスクについて米国では、子供に重症アレルギー反応を起こす確率は100万分の1とされている。これは落雷に遭う(1万2,000分の1)、億万長者になる(76万6,000分の1)確率よりも低いとされているが、マスコミは、このまれなケースを取り上げて報道していることが多いと指摘する。また、HPVワクチンに関しては、世界保健機関(WHO)からの勧告や関連学会からの声明、全国の地域での独自調査報告など、さまざまな科学的な検証が行われ、ワクチンの有用性が示されているにもかかわらず、依然としてベネフィットに関する報道は少ないという。 今後も検証が必要だが、HPVワクチンの不定愁訴では、接種と因果関係のないものが散見され、明確に接種を中止すべきエビデンスがない以上、接種しないことで起こる将来の子宮頸がん(毎年約3,000人の患者が死亡)や性感染症でQOLを損なう患者が増えることに憂慮すべきという。 最後に、森内氏は「WHOなどの基準からすれば、わが国は今でもワクチン後進国であり、定期接種に向けてさらに働きかけを行う必要がある。また、疾病予防が評価対象とされていないことも問題ではないか」と課題を提起し、講演を終えた。医療費を抑えるならワクチンは武器になる 続いて、マイケル・マレット氏(サノフィ株式会社サノフィパスツールワクチンビジネスユニット執行役員/ジェネラルマネジャー)が、ワクチンメーカーの視点から開発の現状と今後の展開について講演を行った。 ジェンナーの天然痘ワクチンから始まる開発の歴史を振り返り、ワクチンの効果について、ポリオを根絶しつつあることを一例に挙げて説明した。 次に、ワクチン接種の経済的ベネフィットとして、コスト効果が高いことを挙げた。ワクチン接種により、重症化による医療費増大、疾病による経済損失リスクなどを避けることができるという。また、日本のような超高齢社会では、医療コストが増大する中、予防接種により少しでもその上昇を抑えることが重要であると指摘した。さらに、日本では小児・成人ワクチン接種が増加しているが、まだ未導入のワクチンもあり、早急な導入を望むとも述べた。 世界的なワクチン開発の現状をみると、前臨床試験でジカウイルス感染症が、I/II相試験でノロウイルス、C型肝炎、III相試験でマラリア、エボラ出血熱、承認段階ではデング熱などの開発が進められている。そのうえで、大切なことは、完成したワクチンが確実に患者さんの元に届くことであり、新しいワクチンの供給には約3年が必要となることから、ワクチンがスムーズに安定供給されるために、今後も政府・産業・医療のパートナーシップが不可欠となる、と見解を述べた。 最後に「現在、ワクチンは20疾患で供給され、毎年600万人の命を救っている。これは公衆衛生上の大成果であり、今後も社会貢献のために産業、学術が手を取り合って開発・供給を行っていく」と講演を終えた。

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ウイルス性肝炎の世界疾病負担、約20年間で上昇/Lancet

 ウイルス性肝炎は、世界的に死亡と障害の主な原因となっており、結核、AIDS、マラリア等の感染症と異なり、ウイルス性肝炎による絶対的負担と相対的順位は、1990年に比べ2013年は上昇していた。米国・ワシントン大学のJefferey D Stanaway氏らが、世界疾病負担(Global Burden of Disease:GBD)研究のデータを用い、1990~2013年のウイルス性肝炎の疾病負担を推定した結果、報告した。検討は、ウイルス性肝炎に対するワクチンや治療が進歩してきていることを背景に、介入戦略を世界的に周知するためには、疾病負担に対する理解の改善が必要として行われた。結果を踏まえて著者は、「ウイルス性肝炎による健康損失は大きく、有効なワクチンや治療の入手が、公衆衛生を改善する重要な機会となることを示唆している」と述べている。Lancet誌オンライン版2016年7月6日号掲載の報告。急性ウイルス性肝炎、肝硬変と肝がんの罹患率と死亡率を評価 研究グループは、GBDのデータを用い1990~2013年における、重要な4つの肝炎ウイルス(HAV、HBV、HCV、HEV)による急性ウイルス性肝炎の罹患率と死亡率、ならびにHBVとHCVによるウイルス性肝炎に起因した肝硬変および肝がんの罹患率と死亡率を、年齢・性別・国別に算出した。 方法としては、急性肝炎については自然経過モデルを、肝硬変・肝がんについてはGBD 2013の死因集合モデルを用いて死亡率を推定するとともに、メタ回帰モデルを用いて全肝硬変有病率および全肝がん有病率、ならびに各原因別の肝硬変および肝がんの割合を推定した。その後、原因別有病率(全有病率と特定の原因別の割合の積)を算出した。障害調整生存年(DALY)は、損失生存年数(YLL)と障害生存年数(YLD)の合計とした。ウイルス性肝炎に起因する死亡数は世界で63%増加 世界のウイルス性肝炎による死亡数は、1990年の89万人(95%不確定性区間[UI]: 86~94万)から2013年は145万人(134~154万)に増加した。同様にYLLは、3,100万年(2,960~3,260万)から4,160万年(3,910~4,470万)へ、YLDは65万年(45~89万)から87万年(61~118万)へ、DALYは3,170万年(3,020~3,330万)から4,250万年(3,990万~4,560万)に上昇した。 ウイルス性肝炎は、1990年では主要死因の第10位(95%UI:10~12位)であったのに対して、2013年では第7位(95%UI:7~8位)であった。 2013年にウイルス性肝炎に起因する死亡が最も多かったのは、アジア東部および南部で、ウイルス性肝炎関連死亡の96%(95%UI:94~97)をHBVとHCVが占めていた。この2つのウイルスの割合はほぼ同等で(HBV 47%[95%UI:45~49] vs.HCV 48%[46~50])であった。 ウイルス性肝炎による死亡数は、結核、AIDS、マラリアの年間死亡数と同等以上であった。

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黄熱に気を付けろッ!その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第20回となる今回は、蚊媒介感染症の古参、黄熱ですッ! 黄熱といえば誰もが一度はその病名を聞いたことがあるでしょう。英語で言うと“イエロー・フィーバー”という、まるでルー大柴のようなノリですが、実際そうなんだから仕方ありません。その黄熱が、今世界を騒がせているのですッ!そもそも黄熱ってどういう病気?黄熱という感染症は超有名ですが、おそらく黄熱の患者さんを実際に診られたことのある臨床医は、日本にはほとんどいないのではないでしょうか。自称・希少感染症ハンターの忽那も、黄熱の患者さんは診たことはありません。黄熱は、今世間を騒がせているデングウイルスやジカウイルスと同じ、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスによる感染症です。黄熱もデング熱やジカ熱と同じくシマカ(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)によって媒介されます。黄熱という名前は、感染すると黄色くなる、すなわち黄疸を呈することが由来です。しかし、黄熱に感染しても必ずしも黄疸を呈するわけではなく、黄熱患者の約85%は非特異的な発熱(頭痛、関節痛、嘔気、下痢など)を呈し、1週間以内に改善します。この辺は同じフラビウイルスであるデング熱に似ていますね。しかし、残りの約15%の患者が黄疸、腎不全、出血症状などを呈する重症型に移行するとされています。重症型に移行した患者の20~50%が死亡するとされています。黄熱、恐るべしッ!黄熱の流行地域は限られている黄熱がアウトブレイクしている地域は、アフリカと南米の一部に限られています。図1が黄熱の流行地域です。アフリカはサハラ以南と呼ばれる地域(マラリアと流行地域が重複しています)、図2の南米では内陸側のアマゾン川流域の地域です1)。南米よりもアフリカのほうが、感染者数が圧倒的に多く、アフリカでは年間13万人が感染し7万8千人が亡くなっていると推計されています2)。今回アウトブレイクが起こっているのは、アフリカのアンゴラという国です。3月30日までの時点で1,794人が黄熱と診断され、そのうち198人が亡くなっています3)。感染者が最も多く出ているのは首都のルアンダです。これまで黄熱の輸入例というのは10例程度しか報告されていなかったのですが、今回のアウトブレイクではすでに中国で6例、ケニアで2例、モーリタニアで1例の輸入例が報告されているのですッ! かつてない規模ッ! そしてさらには、コンゴ民主共和国でも疑い例を含めて151人の感染者と21人の死亡者が出ています。画像を拡大する画像を拡大する日本に黄熱患者が発生する可能性は!?さて、中国で輸入例が出ているので、日本にも輸入例が発生する可能性はあるのでしょうか? 可能性があるかないかということになると「ある」ということになりますが、決してその確率は高くはないと思われます。通常、アンゴラやコンゴ民主共和国に入国する際には、黄熱ワクチンの接種証明書の提示が求められますので、日本人が渡航する前には黄熱ワクチンを接種しているはずです(ごく一部の人は、免疫不全を理由に黄熱ワクチンを接種せずに、禁忌証明書を持って入国しているかもしれません)。ですので、日本人が現地で黄熱に感染して、黄熱ウイルスを持ち帰る可能性はきわめて低いと思われます(アンゴラで黄熱に感染した中国人は、なぜか黄熱ワクチンの接種歴がない人が大半とのことで…どうやってアンゴラに入国したんでしょうね…)。しかし、アンゴラやコンゴ民主共和国の人が日本に来て黄熱を発症する、という可能性はあるかもしれません。アンゴラ、コンゴ民主共和国渡航後に発熱を呈する患者さんに遭遇したら、とくに外国人では黄熱を想起するようにしましょう。ちなみに黄熱ウイルスはヒトスジシマカでも媒介されるので、ひとたび黄熱ウイルスが夏季に日本に持ち込まれれば、日本国内で流行する可能性はなくはありません。しかし、これまで黄熱の流行地域はこの数十年ほとんど変化がなく、その他の地域で流行したことがありません。同じフラビウイルスであるデングウイルスやジカウイルスが、これだけ流行地域を広げまくっているのに対して、なぜ黄熱は流行地域が広がらないのか不思議ではありますが、渡航者のワクチン接種などが関係しているのかもしれません。というわけで、アンゴラやコンゴ民主共和国に渡航する際は、普段にも増して黄熱ワクチン接種を推奨し(というか接種しないと入国できないんですけどね)、免疫不全のためにどうしても接種できないという方には、防蚊対策(チクングニア熱に気を付けろッ! その2参照)を徹底してもらうよう懇切丁寧に説明をしましょう。1)Yellow Book. Chapter 3 Infectious Diseases Related to Travel. Yellow Fever. Centers for Disease Control and Prevention. (accessed 2016-04-14).2)Garske T, et al. PLoS Med.2014;11:e1001638.3)Epidemiological update: outbreak of yellow fever in Angola 01 Apr 2016. European Centre for Disease Prevention and Control. (accessed 2016-04-14).4)Yellow Fever-Democratic Republic of the Congo. Disease Outbreak News 11 April 2016. World Health Organization. (accessed 2016-04-14).

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サルマラリアに気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第19回となる今回は、前回のジカウイルス感染症との蚊つながりで、マラリアについてご紹介いたします。マラリアは古典?「おいおい、マラリアなんて超古典的な感染症じゃねえかよ、どこが新興再興感染症なんだよ」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、今回取り上げるのはそのマラリア原虫の中でも、最近注目を集めているサルマラリアの1つPlasmodium knowlesiというものです(このP.knowlesi以外にもサルに感染するマラリアはたくさんあり、それらをひっくるめていわゆる「サルマラリア」と呼びます)。マラリアは、結核とHIVに並ぶ世界3大感染症の1つであり、今もアフリカを中心に2億人を越える感染者を出しています1)。その大半が熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum)または三日熱マラリア(Plasmodium vivax)によるものであり、残りの数%が四日熱マラリア(Plasmodium malariae)と卵形マラリア(Plasmodium ovale)によるものです。しかし、これまで4種類とされてきたヒトに感染するマラリア原虫に第5の刺客が登場したのですッ! それがP.knowlesiなのですッ! ちなみに“knowlesi”の発音ですが、「ノウレジ」と言う人もいますが、通は「ノウザイ」と発音するようです。“Dengue”を「デング」と呼ぶか、「デンギー」と呼ぶかと同じで、まあどっちでもいいかと思いますが。知っておきたいP.knowlesiの発生地域P.knowlesiは、アカゲザルやカニクイザルなどのサルを固有の宿主とするマラリア原虫の1種で、1965年にマレーシアでヒトへの自然感染例が初めて報告されましたが、ヒトに感染するのはきわめてまれな感染症であると考えられていました。しかし、マレーシアでこれまで四日熱マラリアと診断されていた症例の大部分が、実はどうやらP.knowlesi感染症であったことが近年明らかとなり、現在ではP.knowlesiはマレーシアの他、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、シンガポールなど東南アジアの森林地帯に分布していることがわかっています(図1)2)。すでに日本でも1例の輸入例が報告されています。これは国立国際医療研究センターで診断された症例で、私も診療に加わらせていただいた症例です3)。画像を拡大するP.knowlesiの症状と診断P.knowlesiの臨床症状は、他のマラリアと同じく非特異的な発熱であり、発熱以外には頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢などの症状を呈することがあります。卵形マラリアや三日熱マラリアは48時間、四日熱マラリアは72時間周期の発熱を呈することがありますが、P.knowlesiは24時間周期といわれています。これはマラリア原虫の体内での分裂周期が、この時間だから周期的な発熱になるわけですが、発症してしばらくは原虫の周期がそろわず、かならずしも周期的な発熱にならないこともしばしばです。周期性が出てくるのはだいたい発症から5~7日くらいとされています4)。マラリア原虫種の鑑別には、ギムザ染色による顕微鏡検査がゴールドスタンダードです。たとえば図2がP.knowlesiのギムザ染色での所見です。画像を拡大する感染赤血球の大きさが変化していないので熱帯熱マラリアか四日熱マラリアかP.knowlesiかということがわかりますし、環状体が少し変形しているので後期栄養体かな? とかまではわかりますが、P.knowlesiは後期栄養体の帯状体が四日熱マラリア原虫と類似していたり、早期栄養体の環状体が熱帯熱マラリア原虫との鑑別を要することもあるため、なかなかギムザ染色だけでは原虫種まではわかりません。確定診断のためにはPCR検査を依頼することが、望ましいとされます(マラリア原虫のPCR検査は、国立国際医療研究センター研究所 マラリア研究部で行うことができます)。P.knowlesiの治療と発熱渡航者に気を付けろP.knowlesi感染症はほとんどが軽症~中等症ですが、まれに重症化する症例が報告されており、注意が必要です。P.knowlesi感染症の治療としては、海外ではクロロキンが第1選択薬として使用されていますが、わが国ではクロロキンは使用できないため、本症例ではメフロキン(商品名:メファキン)またはアトバコン・プログアニル(同:マラロン)を使用することになります。ただし、重症例では他のマラリア原虫種同様、アーテミシニン併用療法による治療が推奨されます。幸いなことにアーテメーター・ルメファントリン合剤(同:リアメット)が国内でも承認されましたので、もうすぐ使用できるようになります。また、P.knowlesiは休眠体をつくらないため、プリマキンによる根治療法を行う必要はありません。P.knowlesi常在地から帰国後の発熱患者に血液塗抹標本で、四日熱マラリア原虫に似た原虫を認めたら、P.knowlesi感染症を疑うようにしましょう!次回は最近あまり注目されていないけれど、地味に感染者を出している「H7N9インフルエンザ」についてご紹介いたしますッ!1)World Health Organization. World Malaria Report 2015.(参照 2016.3.23).2)Singh B, et al. Clin Microbiol Rev. 2013;26:165-184.3)Tanizaki R, et al. Malar J. 2013;12:128.4)Taylor T, et al. Hunter's Tropical Medicine and Emerging Infectious Diseases. 9th ed. Philadelphia:Saunders Elsevier;2012. p.696-717.

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ジカウイルス感染症に気を付けろッ! その3【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第18回となる今回は、前回、前々回に引き続きジカウイルス感染症を取り上げたいと思います。「おいおい、どんだけジカウイルス感染症で引っ張るんだよ」と思われる読者の方もいらっしゃるでしょう。私もちょっと引っ張り過ぎかな~なんて思っています。でも…担当I氏が「ジカウイルス感染症、閲覧数伸びてます…伸びすぎてますよ~!!」と殊のほか喜んでおり、「まさかこの連載がこんなに注目されるとは…この勢いでもう1回、ジカウイルス感染症いっちゃいましょう! まだ絞れば何か出てくるでしょう!」と無茶を言うので、今までどんだけ人気なかったんだこの連載とちょっと心配になりつつも、せっかくですのでもう一度ジカウイルス感染症について語りたいと思います。われわれ医療従事者にとって大事なことは、海外でジカウイルス感染症に感染して日本で発症した患者さんを早期に診断して、その患者さんがそれ以上蚊に咬まれないようにすることです。ジカウイルス感染症を正しく診断することが、国内流行の防止につながるのです!というわけで、今回は輸入感染症の診断の原則も振り返りつつ、実際の症例アプローチについて考えてみましょう。南太平洋の楽園には危険もいっぱい【症例 とくに既往のない20代男性】●現病歴受診4日前昼過ぎから発熱と頭痛が出現。熱は微熱程度であった。夜からは全身の関節痛も出現した。受診3日前朝起きた際に、顔・体幹に皮疹が出ていることに気付いた。受診当日皮疹の原因が気になり、当院を受診した。ジカウイルス感染症患者さんは、このような経過で病院を受診されます。私が診た3名の方は、皆さん「皮疹が出てビックリしたので」というのが受診理由でした(図1)。デング熱の患者さんは「熱がつらくて」「頭が痛くて」といった主訴で受診するので、この「重症感のなさ」はジカウイルス感染症の特徴かと思います。●身体所見体温 37.2℃、脈拍数 75/分、血圧 119/69mmHg、呼吸数 12/分、SpO2 97%(RA)両後頸部リンパ節の腫脹・圧痛あり顔面・体幹に一部癒合し浸潤を触れない紅斑を認めるその他、特記すべき異常所見なし画像を拡大する皮疹の性状だけでジカウイルス感染症と診断するのは困難でしょう。デング熱、麻疹・風疹、梅毒、急性レトロウイルス症候群などさまざまな疾患との鑑別になります。試しに『ヒフミル君』(医師のための簡単・無料の診断支援サービス)に皮疹の写真を送ってみましたが、ジカウイルス感染症という診断は返ってきませんでしたッ!(麻疹・風疹というご回答でした)注目すべきはバイタルサインです。体温37.2℃。微熱です。以前の名称「ジカ熱」と言いつつ、発熱と呼べるほどの高熱ではありません。ジカウイルス感染症患者では発熱がみられないことすらあります。そういう意味では「ジカ熱」という名称よりも、「ジカウイルス感染症」のほうが正しいと言えるでしょう。輸入感染症診療のロジック名著『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』(中外医学社)に書かれているように、輸入感染症の診断の第一歩は「海外渡航歴の有無を確認すること」から始まります。発熱、下痢、皮疹のいずれかの症状のある患者さんを診たら、海外渡航歴を聴取する習慣を付けましょう!●海外渡航歴:受診の12日前から5日前までタヒチのボラボラ島などで観光していたなんと! これは驚きですッ! 海外渡航歴がありましたッ!まあこの患者さんはジカウイルス感染症なので、海外渡航歴があるのは当たり前ですね。さて、しつこいようですが、名著『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』(中外医学社)には「輸入感染症診療のロジック」として「『(1)渡航地 (2)潜伏期 (3)曝露歴』の3つから鑑別を絞り込むべし」と書かれています。最初の渡航地とは渡航していた国、地域ですね。アフリカでかかる病気と東南アジアでかかる病気とでは大きく違います。各地域の疫学を知っておくことが重要です。本症例の渡航地であるタヒチ島があるオセアニア地域ではデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症の新興蚊媒介性感染症の三兄弟(私が勝手に呼んでるだけです)が、三つ巴状態で流行しています。本症例でもこれら3疾患は鑑別に加える必要があるでしょう。また、オセアニアではマラリア、A型肝炎、腸チフスなども鑑別に挙げる必要があります。次に潜伏期です。輸入感染症の診断において潜伏期の考え方は非常に重要です。この患者さんは受診の12日前から5日前までタヒチ島にいて、4日前から発熱が出現しています(図2)。そうしますと、この患者さんがタヒチ島で感染したと仮定すれば、この感染症の潜伏期は1~8日ということになります。この潜伏期がわかることによって、大幅に鑑別診断を絞ることができます。表は主な輸入感染症の潜伏期を3つに区切ってまとめたものです。本症例はこの表中の「短い潜伏期」グループに属します。つまり、この時点でマラリア、腸チフス、A型肝炎などは除外することができます。画像を拡大する画像を拡大する3つ目は曝露歴です。ジカウイルス感染症を考えた場合は、蚊に刺されたかどうかが重要になるわけですが、実際に自分が旅行中に蚊に咬まれたかなんて覚えてない人のほうが多いので、「具体的にどのような防蚊対策をしていたのか」を聞くことによって、蚊の曝露量を推定します。これまでわが国の輸入ジカウイルス感染症患者さんは、皆さん防蚊対策がされていませんでした。渡航者への防蚊対策の指導も、われわれ医療従事者の大事な仕事です。いよいよ確定診断へ渡航地、潜伏期、曝露歴などからデング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症が鑑別に挙がりました。もちろん発熱と皮疹を呈する疾患として、これら輸入感染症とは別に、国内で感染した梅毒や急性レトロウイルス症候群なども鑑別に挙がるかと思います。さて、血液検査を見てみましょう。●血液検査WBC 4310/μL、RBC 488×104/μL、Hb 14.0 g/dL、Hct 41.5%、Plt 16.9×104/μL、CRP 0.48mg/dL、TP 7.6g/dL、Alb 4.2g/dL、AST 21IU/L、ALT 15IU/L、LDH 207IU/L、γ-GTP 20IU/L、ALP 189IU/L、T-bil 0.6mg/dLこの血液検査から何が言えるでしょうか? ここから言えることは「何も言えねえ by 北島康介」ってことです。ジカウイルス感染症の血液検査所見は、これといった特徴がなく、血液検査所見で診断を詰めるのは困難です。ここまでの病歴・身体所見・渡航歴から、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、梅毒、急性レトロウイルス症候群などが鑑別疾患として挙がりました。さあ…ここからジカウイルス感染症までどう絞り込むのかが、今回の最大のポイント…ではなく、もうここまで絞り込めたら十分なのです。デング熱を鑑別に挙げたときには、ジカウイルス感染症も一緒に鑑別疾患として挙げる。これがボトムラインです。これさえ忘れなければ、ジカウイルス感染症を見逃すことはかなり少ないと言えるでしょう。というわけで、ここからはジカウイルス感染症の検査を保健所に依頼しましょう。血清のRT-PCRを行ってジカウイルスを検出することで診断となりますが、ジカウイルスは発症から数日で血中から消失すると考えられています。一方で、尿中からはもう少し長く検出されることがわかっています。ですので、発症から時間が経っている場合には、血液だけでなく尿も検体として採取しましょう。抗体検査による診断も可能です。デング熱と同様に、急性期と回復期のペア血清による診断を行います。この症例では、尿からジカウイルスが検出され、ジカウイルス感染症と診断されました。2016年2月15日よりジカウイルス感染症は「4類感染症」に指定されましたので、ジカウイルス感染症と診断した医師は、ただちに保健所に届け出なければなりません。そして、しつこいようですが、大事なことは患者さんが日本国内で蚊に咬まれないことです(とくに蚊が多い夏場は要注意)。さて、いかがでしたでしょうか。輸入感染症としてのジカウイルス感染症のイメージが湧きましたでしょうか? 次に輸入ジカウイルス感染症を診断するのは、あなたかもしれません。輸入ジカウイルス感染症症例に備え、日ごろからイメトレをしておきましょう!1)忽那賢志. 症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z.中外医学社;2015.2)Centers for Disease Control and Prevention. Emergency Preparedness and Response: Recognizing, Managing, and Reporting Zika Virus Infections in Travelers Returning from Central America, South America, the Caribbean, and Mexico.

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ジカウイルス感染症に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第17回となる今回は、前回に引き続きジカウイルス感染症についてです。さて、前回はジカウイルス感染症が世界的に拡大していること、そして妊婦の感染と胎児の小頭症発症との関係が示唆されていることについてお話いたしました。今回はジカウイルス感染症の臨床像、鑑別診断、治療や予防についてお話したいと思います。ざっくり言うと「ジカウイルス感染症=劣化版デング熱」ジカウイルス感染症の臨床像ですが、簡単に言うと「劣化版デング熱」です。デング熱といえばフラビウイルス科デングウイルスによる、発熱、頭痛、関節痛・筋肉痛、皮疹を呈する蚊媒介性感染症ですが、ジカウイルスもフラビウイルス科に属することもあり、デング熱に臨床像が似ています。しかし、デング熱ほど症状は激しくありません。発熱はみられますが、デング熱ほど高熱にはならず37℃程度の微熱にとどまり、頭痛や関節痛・筋肉痛もデング熱のように、のたうちまわるほど強いことはまれとされます。つまり、劣化版デング熱なのであります。皮疹もデング熱によく似た紅斑がみられます(図1)が、デング熱が発症から5~7日くらい経って解熱する頃に皮疹が出ることが多いのに対して、ジカウイルス感染症ではもう少し早く、発症から数日くらいで出現することが多いとされます。また、ジカウイルス感染症では眼球結膜充血(図2)が現れる頻度が高いといわれています1)。ジカウイルス感染症の感染者の大半は予後良好であり、これまでのところジカウイルス感染症による死亡者は報告されていません。しかし、合併症としてジカウイルス感染症罹患後にギラン・バレー症候群を発症した患者が報告されています。頻度については不明ですが、2013年に大流行したフランス領ポリネシアでは42人、現在流行中のブラジルでは121人がジカウイルス感染症罹患後にギラン・バレー症候群を発症しています。画像を拡大する画像を拡大する疑ったら即、鑑別診断ジカウイルス感染症の鑑別診断ですが、ジカウイルス感染症が劣化版デング熱であるということを考えると、自ずと鑑別診断はデング熱や、これまたデング熱に似た蚊媒介性感染症であるチクングニア熱が挙がります。この3疾患は非常によく似た臨床像を呈しますが、微妙に違う点もあります(表)。しかし、このような細かい違いに臨床医はこだわる必要はありませんッ!(私はこだわりますけど)。要するに、前回も言いましたが、デング熱を疑ったときにはチクングニア熱とジカウイルス感染症も必ず鑑別診断に挙げるということが大事なのですッ! その他、代表的な輸入感染症であるマラリア、腸チフス、レプトスピラ症、リケッチア症なども鑑別診断となります。画像を拡大する治療は対症療法、予防は防蚊対策ジカウイルス感染症に特異的な治療は今のところありません。発熱や頭痛などに対して対症療法を行うことになります。予防についても、ジカウイルス感染症のワクチンはまだありません。防蚊対策が最大の予防、ということになります。防蚊対策については、デング熱の回をご参考ください。ヒトスジシマカが媒介するということから、ジカウイルス感染症もデング熱やチクングニア熱と同様に、日本国内で流行する可能性のある疾患です。海外で感染したジカウイルス感染症患者が日本国内でヒトスジシマカに吸血されると国内の蚊がジカウイルスを持つようになり、流行が広がる可能性があります。これを防ぐためには、(1)渡航者への防蚊対策の啓発、(2)ジカウイルス感染症患者の早期診断と速やかな防蚊対策の指導、(3)ベクターコントロール、の3つが重要です。われわれ臨床医にできることはとくに(1)と(2)ですね。日本でジカウイルス感染症が流行して、小頭症が増加…という悪夢を現実にしないために、ジカウイルス感染症の国内侵入を防ぎましょう!※本文中の「ジカ熱」の表記を「ジカウイルス感染症」に変更いたしました。1)Duffy MR, et al. N Engl J Med.2009;360:2536-2543.2)Shinohara K, et al. J Travel Med.2016;23.pii:tav011.3)Kutsuna S, et al. Euro Surveill.2014;19.pii:20683.4)Ioos S, et al.Med Mal Infect.2014;44:302-307.

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ADHD発症にトリプトファンが関連か

 ノルウェー・ベルゲン大学のTore Ivar Malmei Aarsland氏らは、成人の注意欠如・多動症(ADHD)とトリプトファンおよびその代謝物の血清中濃度との関連を検討した。その結果、トリプトファン、キヌレン酸、キサンツレン酸、3-ヒドロキシアントラニル酸などの血清中濃度低値、およびコチニンの血清中濃度高値がADHDと有意に関連していたことを報告した。必須アミノ酸のトリプトファンは、主にキヌレニン経路によって異化される。一方で、慢性炎症状態およびうつ病や統合失調症などいくつかの神経精神障害において、循環血中キヌレニン濃度に変化が認められるとの報告があり、また候補遺伝子研究により、キヌレニン異化に関連する遺伝子とADHDとの関連が示唆されていた。さらに、ADHD患者はうつ病や不安をしばしば併存していることが報告されており、研究グループは、ノルウェーの成人ADHD患者および成人対照における血清キヌレニン濃度を検討した。Behavioral and Brain Functions誌2015年11月号の掲載報告。 成人ADHD患者133例と成人対照131例(18~40歳)において、トリプトファンおよび7種類のトリプトファン代謝物であるキヌレニン、キヌレン酸、アントラニル酸、3-ヒドロキシキヌレニン、キサンツレン酸、3-ヒドロキシアントラニル酸、キノリン酸の血清中濃度を比較した。リボフラビン(ビタミンB2)、総ビタミンB6およびニコチン代謝物コチニンについても測定した。質量分析法により血清サンプルを分析。患者および対照は、併存疾患と過去(幼少期)および現在のADHD症状について、Wender Utah Rating Scale(WURS)およびAdult ADHD Self-report Scale(ASRS)を用いて報告した。各代謝物の血清濃度別に、ADHD診断に対するオッズ比をロジスティック回帰により算出。さらに、スピアマン相関分析を用いて、トリプトファンおよびキヌレニンの血清中濃度とADHD症状スコアとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・トリプトファン(オッズ比:0.61、95%信頼区間:0.45~0.83)、キヌレン酸(0.73、0.53~0.99)、キサンツレン酸(0.65、0.48~0.89)、3-ヒドロキシアントラニル酸(0.63、0.46~0.85)の血清中低濃度、およびコチニン(7.17、4.37~12.58)の血清中高濃度は、いずれもADHDと有意に関連していた。・トリプトファン濃度で補正後、3-ヒドロキシアントラニル酸とコチニンのみ有意な関連がみられた。・喫煙と年齢で補正すると、トリプトファンおよびキヌレニンの低濃度は、総ASRSスコア高値および総WURSスコア高値と関連していた。・以上より、成人ADHD患者と成人対照とでは、トリプトファンおよびキヌレニンの血清中濃度に違いがある可能性が示唆された。・本知見においてADHDにおける慢性免疫活性は示されていないが、ADHDの発症機序および血清中濃度の相違による臨床的意義について、さらに探索を進めるべきと思われた。関連医療ニュース 9割の成人ADHD、小児期の病歴とは無関係 成人ADHDをどう見極める 2つのADHD治療薬、安全性の違いは

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デング熱に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。 本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回は「国内デング熱は、またいつ発生してもおかしくない」というお話をいたしましたが、今回はどのようなときにデング熱を疑えば良いのか、また診断・治療や予防について考えたいと思います。血液検査で疑うデング熱前回お話ししたように、デング熱はネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることで感染します。おおむね蚊に刺された3~7日後に発熱、頭痛、関節痛といった症状で発症します。嘔気や下痢がみられることもあります。こうした症状は、デング熱に特徴的というよりも、さまざまな感染症でみられる非特異的な症状ですので、臨床症状だけでデング熱を疑うことはかなり難しいと言わざるを得ません。身体所見でも通常これといった特徴的な所見はありません。ちなみにデング熱というと皮疹を想起されるかもしれませんが、デング熱の皮疹は典型的には、解熱する前後の時期に出現しますので、発熱しているときには皮疹はないことのほうが多い点は、注意が必要です。デング熱の皮疹はいわゆる「斑状丘疹」であり、次第に癒合しますが正常の皮膚が「島」のように残るのが特徴で、「White islands in the sea of red」と呼ばれます(図1)。画像を拡大する身体所見ではなかなか診断が難しいため、血液検査で「デング熱らしさ」を疑っていくことになります。デング熱の特徴は「白血球減少」「血小板減少」「CRPがあまり高くない」の3点です1)。ただし、白血球と血小板は、発症して数日は正常値であることもありますので、発症間もない時期では白血球と血小板が正常だからといって、デング熱を除外することはできません。血漿漏出、出血症状には要注意!診断は主に(1)PCR法によるデングウイルスの検出、(2)非構造蛋白(NS1)抗原の検出、(3)IgM抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または有意な上昇)の3つのいずれかによって行います。これらの項目は、デング熱発症からの日数によって陽性となる時期が異なる点で注意が必要です(図2)2)。今年の6月からNS1抗原検査が保険収載されましたが、検査要件や検査機器の問題のため、自施設で検査できる医療機関は限られているのが実情です。このような場合は、保健所に相談して(1)~(3)のいずれかで診断をする必要があります。画像を拡大するデング熱の鑑別診断は多岐にわたりますが、輸入感染症としてのデング熱の鑑別診断で問題となるのは、同じく輸入感染症として頻度の高いマラリア、腸チフス、レプトスピラ症、リケッチア症などです。また、チクングニア熱(第5・7回でも扱いましたね)・ジカ熱という2つの蚊媒介性感染症は、臨床像が非常に似ており、また流行地域も重複しているため輸入感染症としてデング熱を考える際には、これらの感染症も候補に入れる必要があります。国内デング熱としての鑑別診断では、白血球減少・血小板減少を来す発熱疾患、皮疹を呈する感染症というところから、パルボウイルスB19感染症、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、急性HIV症候群などが挙げられます。デング熱に特異的な治療は、まだありません。したがって輸液を中心とした支持療法が治療の柱となります。デング熱は大半が後遺症を残さず自然治癒する疾患ですが、まれに重症デング、デングショック症候群といった重篤な病態に移行することがあります。この病態に移行する重症化の徴候である、腹痛または圧痛、繰り返す嘔吐、体液貯留所見、粘膜出血、昏睡・不穏、2cm以上の肝腫大、血液検査上のHCTの上昇、急激な血小板の減少といった、いわゆる警告徴候に注意しつつ、経過観察を行う必要があります。とくに解熱する発症5~7日目に血漿漏出、出血症状という症状が出現しやすいため(図3)3)、とくにこの時期は注意しましょう。画像を拡大するやはり大事な防蚊対策デング熱の予防は、チクングニア熱の場合と同様、防蚊対策の徹底です。詳細は第7回「チクングニア熱に気を付けろッ その2」をご参照ください。デングウイルスには4種類あり、一度デング熱に感染しても、違うタイプのデングウイルスに感染することもあります。疫学的に2回目以降は、1回目よりも重症化することが知られていますので、とくに1度感染したことがある患者さんには、防蚊対策の指導を徹底しましょう!というわけで、2回にわたりデング熱の気を付け方についてお送りいたしました。この原稿を執筆中の9月1日時点では、2015年度の国内デング熱症例は報告されていませんが、昨年も8月下旬から症例が報告されていますので、まだまだ油断はできない状況ですッ! 流行を広げないためには早期診断が重要ですので、今年の夏~秋シーズンもデング熱を警戒しておきましょう!さて、次回は「エボラ出血熱の今」について取り上げたいと思います。エボラ出血熱の流行はまだ終わっていませんッ!! 再度エボラ出血熱の情報をアップデートして、万が一の事態に備えておきましょう!1)Kutsuna S, et al. Am J Trop Med Hyg. 2014;90:444-448.2)Simmons CP, et al. N Engl J Med. 2012;366:1423-1432.3)World Health Organization. Dengue: guidelines for diagnosis, treatment, prevention and control - new edition, Geneva 2009.

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症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z

対話形式だからサクサク読める!輸入感染症診療の今を学習海外渡航者が増加の一途をたどる現代社会において、いかなる医療機関においても輸入感染症に遭遇する可能性は少なくありません。マラリアや腸チフスなどのメジャーな疾患から近年話題のデング熱やエボラ出血熱、さらには見落としてはいけないマイナーな感染症まで、「日本で」診る可能性のある輸入感染症の適切な診療について忽那、上村の師弟コンビが対話形式でゆる~く解説します。感染症と戦う最前線からのレポート、ぜひご覧ください!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。   症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z定価 4,000円 + 税判型 A5判頁数 302頁発行 2015年4月著者 忽那賢志Amazonでご購入の場合はこちら

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q10

Q10 重症肺炎で抗菌薬を何種類も変更しても改善しない場合には、ステロイドパルス等を施行する場合がありますか? ステロイドバルスを施行するかどうかを考える前に「なぜよくならないのか?」を考えたほうがよいと思います。 もし、器質化肺炎(OP)や非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性好酸球性肺炎のように、ステロイド反応性のある病態を考えた場合は、もちろんステロイド治療を行うべきです。しかし、改善しない理由がステロイドとは無関係の場合には、ステロイドは意味がないばかりか有害ですらあります。実際、敗血症性ショックにおいては、ステロイドの投与量が増えれば増えるほど死亡率が上昇すると報告されています1)。 また、急性呼吸促迫症候群(ARDS)と診断してステロイドを投与する人がいまだに散見されますが、やはりこれも死亡率を上げる可能性があり、現在では遷延するARDSに対するルーチンのステロイド投与は推奨されていません2)。さらに、ARDS以外にも肺が白くなる病気はたくさんあるため(表1)3)、やはり「なぜ改善しないのか?」を突き詰めるのが大切だと思います。具体的には表2のように整理するとよいと思いますので、詳しくは参考文献4)をご参照ください。 表1:ARDSと紛らわしい10の疾患群3)うっ血性心不全、肺水腫特発性肺線維症(UIP: usual interstitial pneumonia)特発性器質化肺炎(COP)非特異性間質性肺炎(NSIP)多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)びまん性肺胞出血グッドパスチャー症候群急性過敏性肺臓炎急性好酸球性肺炎薬剤性肺疾患表2:治らない肺炎の分類4)(1)治っているようだけど今ひとつ改善に乏しい→自然経過(2)胸水が増える一方/陰影が消えない→肺炎随伴性胸水/膿胸/肺化膿症(3)肺炎の影自体がどんどん増悪する→結核/真菌/耐性菌など一般的ではない起因菌(4)自然経過や肺炎単独だけでは説明できない→非感染性肺病変: 特発性器質化肺炎/特発性間質性肺炎/血管炎/心不全/心筋梗塞/腎不全/肺塞栓症/ARDSなど)(5)呼吸状態はよくなったが発熱だけが続く→肺外の問題: 薬剤熱/Clostridium difficile感染症/偽痛風など)(6)また肺炎になりました→再発性肺炎また、最近、市中肺炎でステロイドを使用すると入院期間が短縮するという、一見魅力的なランダム化比較試験(RCT)が発表されています5)6)。ですが、死亡率改善のようなハードアウトカムの改善は示されておらず、ステロイド投与群はプラセボ群と比べて有意に高血糖の発生が高いと報告されています5)6)。感染症の治療において、適切な治療薬を投与したうえで低用量のステロイドを併用すること自体は、それほど感染症の予後を悪化させないことは以前から言われていますので(明らかな害が示されているのはウイルス性肝炎と脳マラリア)、この結果自体はそれほど驚きません7)。しかし、免疫不全のある患者や重症患者は試験の対象からあらかじめ除外されていること、副作用についても、臨床試験では日常診療よりきちんと管理されているであろうことについて留意しておく必要があります。これらのRCTでは高血糖自体による有害事象はそれほど大きくなかったようですが、これが広く普及して日常診療に入り込んできた場合にはどうなるでしょうか? 高血糖による非ケトン性高浸透圧性昏睡や糖尿病性ケトアシドーシスが増えたり、逆に高血糖に対して使用したインスリンによる低血糖の事故が増えたりしてしまうのではないかと筆者は予想します。死亡率を改善するのならまだしも、入院期間短縮がアウトカムならば、少なくとも日本の医療事情ではもっと改善すべき点があるでしょう。心不全にスピロノラクトンがよいということを示したRALES試験後に、高カリウム血症に伴う入院やそれに伴う不整脈死が増えてしまった8)のと、同じ轍を踏まないようにしないといけないと思います。肺炎が改善しない理由を整理しないまま、とりあえずステロイドというのは、パルスというより“バルス”(アニメ『天空の城ラピュタ』に出てくる滅びの呪文)といったほうが適切だと筆者は思います。本稿執筆中に、成人重症肺炎(ATSの修正基準9)またはPneumonia Severity Index 10)でクラスV)で入院時血清CRPが15mg/dL以上の患者を対象にしたRCTが発表されました11)。初期(0~72時間)治療失敗(ショック発症、ベースラインで不要だった侵襲性人工換気、死亡)と後期(72~120時間)治療失敗(画像悪化、重度呼吸不全の持続、ショック発症、ベースラインで不要だった侵襲性人工換気、死亡)を組み合わせた複合エンドポイントをプライマリーアウトカムとして、ステロイド投与群(メチルプレドニゾロン0.5mg/kgを12時間ごと、5日間)のほうが治療失敗は少なかったという結果でした。ただし、複合エンドポイントで有意差がついた、とされる場合には解釈が必要です。アウトカムの発生が少ない場合は、統計学的な差を検出しにくいので、より大きなサンプルサイズが必要になります。しかし、実行可能性の問題でそこまでたくさんの対象患者をリクルートできないことが予想される場合は、エンドポイントになる状態を組み合わせて、複合エンドポイントで評価することがあります。本試験をよくみると、2群間で最も差がついているのは、後期(72~120時間)の「画像所見の悪化」でした。ステロイドを投与して炎症を抑えれば、一時的に画像はよくなることが多いかもしれませんが、もう少し長いスパンで考えるとどうでしょうか。セカンダリーエンドポイントである入院期間や入院中の死亡割合ではほとんど差がありません。一時的に「画像だけ」がよくなってもなぁ、というのが筆者の正直な感想です。 参考文献 1) Minneci PC, et al. Ann Intern Med. 2004; 141: 47-56. 2) 田中竜馬. ARDSにステロイドは有効か?. In: 田中竜馬編. 集中治療999の謎. メディカル・サイエンス・インターナショナル; 2015. p. 151-152. 3) Guerin C, et al. Intensive Care Med. 2014 Dec 20. [Epub ahead of print] 4) 八板謙一郎、山口征啓. 「よくならない場合」に何を考えるか?. In: 山本舜悟編. jmed28あなたも名医!侮れない肺炎に立ち向かう31の方法. 日本医事新報社; 2013. p. 105-113. 5) Meijvis SC, et al. Lancet. 2011; 377: 2023-2030. 6) Blum CA, et al. Lancet. 2015 Jan 16 [Epub ahead of print] 7) McGee S, et al. Arch Intern Med. 2008; 168: 1034-1046. 8) Juurlink DN, et al. N Engl J Med. 2004; 351: 543-551. 9) Ewig S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 158:1102-1108. 10) Fine MJ, et al. N Engl J Med. 1997; 336: 243-250. 11) Torres A, et al. JAMA. 2015; 313: 677-686.

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世界188ヵ国の平均寿命、13年で65歳から72歳へ/Lancet

 世界の平均寿命は、1990年の65.3歳から2013年は71.5歳に延びたことが判明した。一方で死亡数は、1990年の4,750万人から2013年は5,490万人に増加した。高所得地域では、心血管疾患とがんの死亡率が、低所得地域では下痢や下気道感染による小児の死亡率がいずれも減少したという。世界の研究者による共同研究「疾病による国際的負担に関する調査(Global Burden of Disease Study:GBD)2013」の結果、明らかになったもので、Lancet誌オンライン版2014年12月18日号で報告された。1990~2013年の世界の年齢別・性別全死亡率や疾病別死亡率を集計 GBD2013では188ヵ国を対象に、1990~2013年の毎年の年齢別・性別総死亡率や疾病別死亡率などのデータを集計した。 GBD研究は2010年版も公表されているが、2013年版ではさらに72ヵ国の最新登録データを追加し、中国やメキシコ、英国、トルコ、ロシアについては詳細データを採用しアップデートを行った。 それらの集計データを基に、240の死因について、6つの異なるモデルを用いて分析を行った。外傷死は10.7%増加、年齢調整死亡率は21%減少 その結果、世界の平均寿命(life expectancy)は1990年の65.3歳(95%UI:65.0~65.6)から、2013年には71.5歳(同:71.0~71.9)に延長した。一方で死亡数は、1990年の4,750万人(同:4,680~4,820万人)から、2013年は5,490万人(同:5,360~5,630万人)への増加だった。 高所得地域では、心血管疾患とがんによる年齢調整死亡率が減少し、低所得地域では下痢や下気道感染による小児の死亡、新生児死亡の減少が認められた。なおサハラ砂漠以南のアフリカの地域では、HIV感染症/AIDSが原因で平均寿命が短縮。多くの感染性疾患について、死亡数や年齢調整死亡率はともに減少していた一方で、非感染性疾患については、死亡数は増加、年齢調整死亡率は減少という傾向がみられた。 外傷による死亡についてみると、1990年の430万人から2013年には480万人へと10.7%増加した。一方で、年齢調整死亡率は21%減少していた。 2013年に死亡10万人以上の原因となった疾患のうち、年齢調整死亡率が1990年から増加したのはHIV感染症・エイズ、膵臓がん、心房細動・心房粗動、薬物依存症、糖尿病、慢性腎臓病、鎌状赤血球症だった。 5歳未満児の死因上位は、下痢性疾患、下気道感染、新生児死亡、マラリアだった。

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