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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第52回

第52回:アファチニブのEGFR変異適応追加の意義キーワード肺がんメラノーマ動画書き起こしはこちら遅くなりましたが、2018年、明けましておめでとうございます*。ダートマス大学 腫瘍内科の白井 敬祐です。(*このビデオは1月下旬に収録されたものです)去年の秋にESMOヨーロッパで、durvalumabの(非小細胞がんの)アジュバント陽性ということ(結果)が報告されたり、オシメルチニブの1stラインでの大きなPFSの改善あるいはニボルマブがメラノーマのアジュバントで陽性となった臨床試験の話をしましたが、1月の初っぱな、アファチニブのパッケージインサートに新しい効能が加わりました。これは、EGFRの変異(の効能追加)です。僕たちが薬を保険会社に認可してもらうときには…いろんな保険会社があるのはアメリカの良くないところなんですけど…保険会社に簡易認可フォームみたいなものがあって、そこにEGFR mutationがあるかないかだけではなくて、FDAの認可基準であるEGFR Exon19delがあるか、Exon21 mutationがあるかというチェックボックスがあるんです。けれども、実際に臨床をしていると、L861QだとかG719Xだとか、S768Iというまれなmutationがあるんです。そういうmutationでも、“実はエルロチニブが効く”だとか、“アファチニブはエルロチニブよりもよく効く”とか…pre clinicalだったり、ケースレポートだったり、臨床試験のサブセットアナリシスだったりするのですが…そこに申請するときに論文を添付したり、ASCOの発表の抄録を添付して認めてもらうことはあるんですけれども、そういうことをしなくても(済むようになりました)。アファチニブに関しては1stラインで、L861Q、とかG719Xとか、S768Iというmutationに対しての認可が、1月に入ってすぐにおりました。アファチニブは確かに効果はあるんですけれども、必ずしも副作用が少ないわけではないので、使いにくいところもあるんですが、「1stラインで最もブロードな適応を受けたEGFR-TKIですよ」ということを製薬会社はアピールしだしました。この辺は面白くて、製薬会社が何をクレームしていいのかというのは、かなり厳密に決まっているようで。オシメルチニブは1stラインでプラセボよりも良かったというPhase IIIの結果がNew England Journalに出たんですけど、Drug Rep(MR)さんは、そういうことは一切触れることがまだできません。それはなぜかというと、FDAで認可されてないからですね。もちろん実際のところは、NCCNガイドラインの肺がんのところを見てもらうとわかるんですけど。(NCCNガイドラインは)2017年11月に更新があったと思ったら、12月17日にまた新たなバージョンが発表されています。もし、最近NCCNのガイドラインをのぞいておられなかったら、見てください。FDA、EGFR陽性NSCLCに対するアファチニブの適応拡大を承認(CareNet.com)FDAアナウンスメント

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ASCO-GI2018レポート

レポーター紹介2018年1月18日から1月20日まで米国サンフランシスコにて米国臨床腫瘍学会消化器がん会議(ASCO-GI)が開かれた。初日こそ雨であったものの、2日目、3日目は快晴であり過ごしやすい日程であった。学会ではOral Presentation、Poster Presentation、Rapid-Fire Abstract Session、Trials in Progress Sessionなどに分けられ、大規模臨床試験の結果だけでなく、小規模なデータや現在試行中の臨床試験の紹介も行われた。本稿では、そのなかのいくつかを紹介する。RAINFALL試験 抗VEGFR-2抗体であるラムシルマブ(RAM)は、RAINBOW試験、REGARD試験により胃がんに対する有効性が証明され、現在では本邦、NCCN、ESMOの胃がん治療ガイドラインにおいて、標準的な2次化学療法として位置付けられている。RAINFALL試験はRAMを1次治療として使用したときの効果、安全性を検証する第III相無作為化比較試験である。対象は、前治療歴のないHER2陰性胃がん・胃食道接合部がん症例であり、RAM+カペシタビン+CDDP(RAM群)、Placebo+カペシタビン+CDDP(Placebo群)に1:1に無作為割り付けされた。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目はOS、RR、Safety、QOL、PK profileであった。全体で645例が登録され、326例がRAM群、319例がPlacebo群に割り付けられた。主要評価項目であるPFSは、RAM群5.72ヵ月、Placebo群5.39ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.61~0.94、p=0.011)であり、統計学的に有意な結果であった。副次評価項目であるOSは、RAM群11.17ヵ月、Placebo群10.74ヵ月(HR 0.98、95%CI:0.80~1.16、p=0.68)であり両群に有意差を認めなかった。有害事象の解析では、高血圧、血小板減少、食思不振、消化管穿孔、出血、蛋白尿の比率がRAM群で高く認められた。後治療の導入率はRAM群46%、Placebo群51%であり、いずれの群でも2次治療以後にRAMを使用した症例が認められた。PFSはpositiveであったものの、その差はMedianでわずか0.3ヵ月であり、また、OSの延長効果は認められず、全体としてnegativeという趣旨の発表であった。興味深かったのが2次治療導入からのOSの解析であり、2次治療以後でRAMを使用した場合のOSは、RAM群7.7ヵ月、Placebo群8.8ヵ月、また2次治療以後でRAMを使用しなかった場合のOSは、RAM群6.5ヵ月、Placebo群6.7ヵ月であり、2次治療以後でRAMを使用したほうがOSは良好な傾向であった。Discussantはコストについても言及し、今回得られたPFSの延長0.3ヵ月(=9日)のためにかかるコストは、体重70kgの場合、1サイクルで7,457ドル、9サイクルで6万7,112ドルであり、その意義について疑問を呈していた。胃がんに対する1次治療としてのRAMはnegativeであったわけだが、今後の胃がん1次治療の新たな展開としては現在、免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験が進められており、本学会においても、ニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブ+化学療法(XELOX or FOLFOX)、化学療法の3群の比較試験 (CheckMate-649, TPS 192)や 、FOLFOX、XELOXでInduction治療を行った後に維持療法として同じ治療を継続するか、抗PD-L1抗体であるアベルマブに変更するかを比較するJAVELIN試験(TPS 195)などが、Trials in Progress Sessionにおいて紹介されていた。RAINFALL: A randomized, double-blind, placebo-controlled phase III study of cisplatin (Cis) plus capecitabine (Cape) or 5FU with or without ramucirumab (RAM) as first-line therapy in patients with metastatic gastric or gastroesophageal junction (G-GEJ) adenocarcinoma. (Abstract No.:5)Charles SREVERCE試験 本邦で行われたREVERCE試験がRapid-Fire Sessionで報告された。現在、進行再発大腸がんにおけるガイドラインにおいては、セツキシマブ(C)などの抗EGFR抗体の後にレゴラフェニブ(R)を使用することが勧められている。一方、治療早期にRを使用することにより良好な効果が得られることも報告されており、CとRのより適正な投与順序を探索する本試験が行われた。対象は、フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンなどの標準治療に不耐、不応となった、KRASもしくはRAS野生型の進行再発大腸がんであり、R→Cの順番で治療を行うR-C群と、C→Rの順番で治療を行うC-R群に無作為化割り付けされた。主要評価項目はOS、副次評価項目はTTF、PFS、RR、DCR、AE、QOLであった。当初180例の登録と132のイベントが必要とされたが、101例で登録終了となり、今回その結果が報告された。主要評価項目のOSは、R-C群17.4ヵ月、C-R群11.6ヵ月であり、R-C群において有意に良好であった(HR:0.61、95%CI:0.39~0.96、p=0.029)。先に行う治療のPFS(PFS1)は、R-C群(R)2.4ヵ月、C-R群(C)4.2ヵ月であり、後に行う治療のPFS(PFS2)はR-C群(C)5.2ヵ月、C-R(R)群1.8ヵ月であった。奏効率はRでは4.0%(R-C群)、0.0%(C-R群)、Cは20.4%(R-C群)、27.9%(C-R群)と、それぞれほぼ既報の通りであった。RをCの前に投与することでOSの延長がみられた、ということが今回の結果である。その機序であるが、PFSの比較をみるとR後のCのPFSが良好な印象である。Rの投与により、AKT系などさまざまな分子生物学的な変化が腫瘍細胞に起こることが基礎研究で明らかになっており、これらの変化がCの効果を増強した可能性は考えられるかもしれない。試験としては予定された症例数に満たず、Under Powerであることは念頭に置く必要があるが、これまで広く行われてきた治療方針と違う結果が示されたということは、その機序も含め、非常に興味深いところである。Reverce: Randomized phase II study of regorafenib followed by cetuximab versus the reverse sequence for metastatic colorectal cancer patients previously treated with fluoropyrimidine, oxaliplatin, and irinotecan.)(Abstract No.:557)Kohei ShitaraSAPPHIRE試験 RAS野生型進行再発大腸がんにおいてパニツムマブ(pani)+mFOLFOX6は標準治療の1つであるが、オキサリプラチン継続に伴う末梢神経障害は、患者のQOLを低下させるだけでなく、治療意欲の減退、治療継続性にも影響しうる重要な有害事象である。本試験は6コースのpani+mFOLFOX6を行った後に、そのまま同じ治療を継続するA群と、7コース目からはオキサリプラチンを休薬し、pani+5-FU+LVとして治療を継続するB群との2つの群を設定した無作為化第II相試験である。主要評価項目は無作為化後9ヵ月時点での無増悪生存率(PFS rate)であり、副次評価項目はPFS、OS、TTF、Safetyが設定された。本試験は2つの治療群のそれぞれの成績を検証するParallel-group studyという形がとられ、閾値30%、期待値50%、片側 α 値 0.10として各群50例、全体で100例の無作為化が必要な統計学的計算であった。164例が登録され、6コースのpani+FOLFOX後に腫瘍進行や手術移行などによる脱落を除いた113例がA群(56例)とB群(57例)に無作為化割り付けされた。主要評価項目である無作為化後9ヵ月(治療開始から約12ヵ月)時点でのPFS rateは、A群46.4%(95%CI:38.1~54.9、p=0.0037)、B群47.4%(95%CI: 39.1~55.8、p=0.0021)であり、両群ともに主要評価項目を満たした。副次評価項目であるPFSはA群9.1ヵ月、B群9.3ヵ月、RRはA群80.4%、B群87.7%であり、両群で近似した治療成績であった。Grade2末梢神経障害は、A群10.7%に対してB群1.9%であり、オキサリプラチンを早期で終了したB群において少なかった。昨年publishされたPan-Asian adapted ESMO consensus guidelinesにおいて、RAS野生型進行再発大腸がんにおいて原発巣が左側であれば1次治療からの抗EGFR抗体+doubletの使用が推奨され、本邦の各施設において同治療を行う機会は増えてくると予想される。そのときに、効果、有害事象をみながらであるが、早期にオキサリプラチンを中止し、pani+5-FU+LVという形で治療を継続しても、効果は大きくは落ちないことを示唆した結果であり、臨床での応用性は高いと考えられる。SAPPHIRE: A randomized phase II study of mFOLFOX6 + panitumumab versus 5-FU/LV + panitumumab after 6 cycles of frontline mFOLFOX6 + panitumumab in patients with colorectal cancer.(Abstract No.:729)Masato Nakamuraまとめ本稿では殺細胞薬、分子標的治療薬の演題につき報告したが、免疫チェックポイント阻害剤の話題も多くあり消化管、肝胆膵領域の化学療法も新たな時代に移ろうとしているのを実感した学会であった。

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敗血症性ショックへの低用量ステロイド、死亡率は低下せず/NEJM

 人工呼吸器を装着した敗血症性ショック患者において、低用量ステロイド(ヒドロコルチゾン持続静脈内投与)は、プラセボと比較し90日死亡率を低下させるという結果は得られなかった。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBalasubramanian Venkatesh氏らが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「ADRENAL(Adjunctive Corticosteroid Treatment in Critically Ill Patients with Septic Shock)試験」の結果を報告した。現在、敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は、敗血症ガイドラインにおいてショックの離脱を目的とした投与は推奨されているが、エビデンスの質が低く推奨度は低い。死亡率低下については賛否両論が報告されていた。NEJM誌オンライン版2018年1月19日号掲載の報告。敗血症性ショック3,800例で、低用量ステロイドとプラセボの90日死亡率を比較 研究グループは、18歳以上で敗血症性ショックにより人工呼吸器を装着している患者を、ステロイド群(ヒドロコルチゾン200mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付け、7日間または死亡/ICU退室までそれぞれ投与した。主要評価項目は90日全死因死亡率で、ロジスティック回帰分析により解析した。 2013年3月~2017年4月に、3,800例が無作為化され、うち3,658例(ステロイド群1,832例、プラセボ群1,826例)が主要評価項目の解析対象となった。90日全死因死亡率は両群で有意差なし 90日時点で、ステロイド群27.9%(511例)、プラセボ群28.8%(526例)で死亡が認められた(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.82~1.10、p=0.50)。事前に定義された6つのサブグループ(入院の種類、カテコールアミン投与量、敗血症の主要部位、性別、APACHE IIスコア、ショックの期間)において、有効性は類似していた。 ショックからの離脱については、ステロイド群がプラセボ群より早かった(中央値[四分位範囲]で3日[2~5]vs.4日[2~9]、ハザード比[HR]:1.32、95%CI:1.23~1.41、p<0.001)。また、ステロイド群はプラセボ群と比較し、初回の人工呼吸器の使用期間が短かったが(6日[3~18]vs.7日[3~24]、HR:1.13、95%CI:1.05~1.22、p<0.001)、人工呼吸器の再装着を考慮すると、人工呼吸器から離脱した状態での生存日数に有意差は認められなかった。 ステロイド群ではプラセボ群と比較し、輸血を受けた患者が少なかったが(37.0% vs.41.7%、OR:0.82、95%CI:0.72~0.94、p=0.004)、28日死亡率、ショック再発率、ICU退室後の生存日数、退院後の生存日数、人工呼吸器の再装着、腎代替療法率、菌血症/真菌血症の新規発生率は、両群間に差はなかった。

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肥満合併2型糖尿病における体重コントロールの効果(解説:小川 大輔 氏)-801

 欧米人では2型糖尿病に肥満を合併することが多く、糖尿病を発症すると年余にわたり血糖および体重のコントロールが必要となる。肥満症に対する治療として、欧米では外科治療が行われているが、すべての肥満症が適応となるわけではなく、減量手術を施行される割合は決して多くない。今回Lancet誌に掲載されたDiRECT試験は、英国のプライマリケアでの集中的な食事療法による減量の効果を検証した、非盲検クラスター無作為化試験である。 肥満合併2型糖尿病患者を体重管理プログラム実施群(介入群)とガイドラインに沿った治療を行う群(対照群)に1対1の割合で割り付けし、主要評価項目はベースラインから12ヵ月までの減量(15kg以上の体重減少)と糖尿病の寛解(HbA1c 6.5%未満)の2項目であった。その結果、介入群では平均約10kgの体重減少を認め、約4分の1の症例は15kg以上の減量を達成した。また約半数の症例でHbA1c 6.5%以下の寛解を達成した。興味深いことに、12ヵ月時点の体重減少が多いほど糖尿病の寛解率が高く、10~15kgの減量では約57%、15kg以上の減量では約86%が寛解を達成した。 糖尿病の罹病期間が長くなるほど治療が困難となることは日常よく経験する。DiRECT試験の結果から、発症後6年未満の肥満合併2型糖尿病患者に約850kcal/日の集中的な食事療法を実施したら、15kg以上減量した症例においては糖尿病治療薬を中止しても高率に糖尿病が寛解することが示された。ただ、この試験の対象はおおよそ体重100kg、BMI35の欧米人であり、日本人のように高度の肥満を伴わない糖尿病症例で同じ結果になるかどうかはわからない。また、プライマリケアでこのような食事療法を12ヵ月間継続できたことは驚きであり、減量に対するモチベーションが非常に高い症例が多く参加したと考えられる(実際、介入群と対照群を1対1に割り付けるため、対照群には50ポンドのアマゾンのバウチャーが提供されている)。この試験は、肥満糖尿病患者および医療従事者の両者が、診断早期から積極的に食事療法に取り組むことの重要性を示唆している。

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脳梗塞急性期患者に抗血小板薬の3剤併用療法は、有効性と安全性の両面から推奨できない(解説:内山真一郎氏)-803

 TARDIS試験は、発症後48時間以内の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)において、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモールの3剤併用療法の有効性と安全性を、英国のガイドラインに基づくクロピドグレル単独療法かアスピリンとジピリダモールの2剤併用療法と比較する、国際共同研究による非盲検の無作為化比較試験であった。結果として、3剤併用療法は脳卒中やTIAの頻度や重症度を減少させず、重大な出血を増加させてしまった。 発症後24時間以内のTIAと軽症脳梗塞を対象にしたCHANCE試験では、アスピリンとクロピドグレルの併用療法はアスピリン単独療法に比べて、出血を増加させることなく脳卒中の再発を抑制した。TARDISでは中等症や重症の脳梗塞患者も含まれており、このような患者に対して3剤併用療法は出血を助長して危険なのかもしれない。また、TARDISでは24~48時間後の患者も含まれたため、血栓溶解療法施行患者が多く含まれた。CHANCEやSOCRATES試験では、血栓溶解療法施行例は除外された。実際、TARDISでは、血栓溶解療法が終了してから24時間以後に抗血小板療法が開始されたにもかかわらず、血栓溶解療法との相互作用は存在した。 今回用いられた3剤のうち、日本ではジピリダモールではなくシロスタゾールが用いられているが、発症後48時間以内のすべての脳梗塞・TIA患者に対する3剤併用療法は、有効性と安全性の両面から推奨できないという結論になる。脳梗塞の重症度、発症からの時間、血栓溶解療法施行例以外に脳梗塞の病型も重要であり、急性期の強力な抗血小板療法はラクナ梗塞には危険であり、アテローム血栓性脳梗塞に限定すべきかもしれない。

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骨折治療用インプラント除去後感染に術前抗菌薬は有用か/JAMA

 膝下の骨折の治療に用いた整形外科用インプラント除去後の手術部位感染の予防において、手術前に抗菌薬投与を行っても感染リスクは低減しないことが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのManouk Backes氏らが実施したWound Infections Following Implant Removal(WIFI)試験で示された。整形外科用インプラント除去術の手技は“clean(皮膚の菌汚染や局所感染がない)”とされ、手術部位感染率は2~3.3%と予測されるため、米国疾病管理予防センター(CDC)の最新のガイドラインでは抗菌薬の予防投与の適応はない。その一方で、予測を超える高い感染率が複数の研究で報告されている。JAMA誌2017年12月26日号掲載の報告。予防投与の効果を無作為化試験で評価 WIFI試験は、感染率が最も高い領域とされる膝下の骨折治療に用いられた整形外科用インプラント除去後の、抗菌薬予防投与の効果を評価する多施設共同二重盲検無作為化試験である(Netherlands Organization for Health Research and Development[ZonMw]の助成による)。 対象は、年齢18~75歳で、膝下(足、くるぶし、下腿)の骨折治療後に整形外科用インプラントの除去術を受けた患者であった。除外基準は、活動性の手術部位感染症や瘻孔、インプラント除去時の抗菌薬治療、術中の骨接合材の再設置、セファロスポリンのアレルギー、腎疾患、免疫抑制薬の使用、妊娠であった。 被験者は、術前にセファゾリン1,000mg+生理食塩液(0.9%)または生理食塩液(0.9%)をそれぞれ静脈内ボーラス投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、米国CDCの判定基準に基づく術後30日以内の手術部位感染であり、副次アウトカムは身体機能、健康関連QOL、患者満足度とした。 2014年11月~2016年9月にオランダの19施設に500例が登録され、477例が割り付けの対象となった。6ヵ月間のフォローアップが行われ(最終フォローアップ日:2017年3月28日)、470例(セファゾリン群:228例、生食群:242例)が解析の対象となった。30日以内の手術部位感染:13.2% vs.14.9% 割り付け対象例(477例)の平均年齢は44歳(SD 15)、女性が274例(57%)であった。インプラント設置からの経過期間中央値は11ヵ月(IQR:7~16)だった。 30日以内の手術部位感染は66例(14.0%)で発症した(表層感染:58例、深層感染:8例)。このうちセファゾリン群が30例(13.2%)、生食群は36例(14.9%)と、両群間に有意な差を認めなかった(絶対リスク差:-1.7、95%信頼区間[CI]:-8.0~4.6、p=0.60)。 表層感染はセファゾリン群が29例(12.7%)、生食群は29例(12.0%)で、深層感染はそれぞれ1例(0.4%)、7例(2.9%)であり、いずれも両群間に有意差はみられなかった。 健康関連QOL(EuroQol 5-Dimension 3-Level[EQ-5D-3L])、身体機能(Lower Extremity Functional Scale[LEFS])、患者満足度(視覚アナログスケール[VAS])についても、両群間に有意な差はなかった。 著者は、「本試験の手術部位感染率は、既報の一連の後ろ向き試験に比べて高かった。前向き試験では退院後の手術部位感染の適切な把握は困難で、一般に過少報告となるため感染率は高くなることが多いとはいえ、14.0%は予想を超えて高く、観血的整復固定術後の感染率を上回る値である」としている。

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初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

 本邦初となる「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」が2017年12月25日に発刊されたことを受け、2018年1月10日、都内でプレスセミナー(日本サルコペニア・フレイル学会主催)が開催された。セミナーでは本ガイドラインの作成委員長を務めた荒井 秀典氏(国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター長)が登壇し、サルコペニア診療ガイドライン作成の背景と、その概要について解説した。サルコペニア診療ガイドラインはCQ形式で定義・診断から治療まで サルコペニアは、2016年10月に国際疾病分類第10版(ICD-10)のコード(M62.84)を取得し、独立した疾患として国際的に認められた。転倒・骨折につながるなど高齢者の日常生活動作(ADL)低下のリスク因子となるほか、併存疾患の予後にも影響を及ぼすが、早期介入により維持・改善が可能な場合もあることが明らかになっている。しかし、現在のところ本邦の傷病分類には含まれておらず、国際的にも診断・治療の標準となるガイドラインは存在しない。これらを背景に、“現時点での標準的な診療情報を提供すること”を目的として日本サルコペニア・フレイル学会、日本老年医学会、国立長寿医療研究センターが主体となり、ガイドライン作成が進められた。 サルコペニア診療ガイドラインは全編Clinical Question(CQ)形式で構成され、「サルコペニアの定義・診断」「サルコペニアの疫学」「サルコペニアの予防」「サルコペニアの治療」という4つの章ごとに全体で19のCQを設定。予防・治療に関しては、システマティックレビューによるエビデンスの評価に基づき、「エビデンスレベル」「推奨レベル」が提示されている。サルコペニア診療ガイドラインでは診断基準にAWGSのものを推奨 サルコペニアの診断に関しては、複数の基準が提唱されており、今回のガイドライン作成にあたってのレビューでは7種の診断基準が確認された。サルコペニア診療ガイドラインでは、アジア人を対象として設定されたAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の診断基準を推奨している。「ただし、診断に使われる骨格筋量の測定/分析装置(DXAあるいはBIA)のある医療機関は限られているため、日本人を対象として開発された“指輪っかテスト”等、誰にでもできるスクリーニング法が有用だ。握力テストと組み合わせることで、診療所などでもリスクの高い患者をスクリーニングすることが可能だろう」と荒井氏は述べた。 サルコペニア診療ガイドラインは今後5年ごとの改訂を目指している。荒井氏は最後に、「長期的なアウトカム等、診断から治療まで全体としてまだまだエビデンスが不足している。より簡便・正確な診断法、薬物療法を含む新たな治療法も今後開発されていくと思われ、5年後を目途にエビデンスを蓄積していきたい」とまとめた。

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日本の心疾患スクリーニングは適切か? それとも過剰か?(解説:香坂俊氏)-795

 この研究(DOI: 10.1056/NEJMoa1615710)が我が国の医療政策にもたらす影響は大きい(と少なくとも自分には思われる)。 カナダのオンタリオ州のデータベースを用い、若年者(12~45歳)の突然死がどの程度スポーツに直接由来するかが推計された。医学的に興味深い点も多く、競技中の突然死がサッカーや陸上競技に多く、その原因のほとんどが肥大型閉塞性心筋症であったことなどは首肯できる。そんな中、今回の解析で自分が注目したのは突然死の頻度そのものである。このデータベース上では6年間で16件のスポーツに直接関連した突然死が観察されており、これを競技年数で換算すると0.76 件/100,000人年ということになるとの記載がある。若年者の突然死全体の頻度は4.84件/100,000人年であり(スポーツに関連しない突然死を含む)、このことから存外スポーツに由来する突然死の頻度は決して高くないということがわかる(むしろなにもしていないときにイベントを起こすことのほうがはるかに多い)。 このほか、16例の詳細な内容をみていくと、2例のHOCMのうち1例が事前に診察を受けていたものの、心電図や心エコーで異常が認められず「正常」とされていた。さらに、このほかに2例が「致死性不整脈」が原因とされており、この3~4名くらいがスクリーニングがもしも適切に行われていれば、その恩恵を得られたものと推定される。 これは極めて低い、というレベルの数値である。我が国の診療ガイドライン上で心疾患スクリーニングの妥当性を吟味するときに引用される突然死の頻度は4~5件/100,000人年というところであるが、今回の報告により、実質的に心疾患スクリーニングで防げる突然死の件数はこれよりもはるかに低くなる可能性が提示された。 日本の心電図やエコーの点数はそれぞれ130点と880点であり(2014年診療点数)、諸外国の1/2から1/3に抑えられている。しかし、それでも学校健診を含めた現在のスクリーニング制度の費用対効果がマッチするのかどうか、今後慎重に吟味していく必要があるだろう。

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抗血小板薬3剤併用、脳梗塞急性期への有効性は/Lancet

 虚血性脳卒中(脳梗塞)や一過性脳虚血発作(TIA)の急性期患者における抗血小板薬3剤併用療法は、再発とその重症度を減少させることはなく、大出血リスクは有意に増大することを、英国・ノッティンガム大学のPhilip M Bath氏らが、無作為化非盲検第III相優越性試験「TARDIS試験」の結果、報告した。これまでの検討で、脳梗塞急性期の2次予防として抗血小板薬2剤併用療法は単剤療法より優れていることが示唆されている。3剤併用療法はそれらガイドラインで推奨されている抗血小板療法より有効である可能性があったが、結果を踏まえて著者は、「抗血小板薬3剤併用療法は、日常診療で使用されるべきではない」とまとめている。Lancetオンライン版2017年12月20日号掲載の報告。アスピリン+クロピドグレル+ジピリダモール vs.標準療法で検討 TARDIS(Triple Antiplatelets for Reducing Dependency after Ischaemic Stroke)試験は、4ヵ国(デンマーク、ニュージーランド、ジョージア、イギリス)の106施設にて実施された。 対象は、発症後48時間以内の脳梗塞またはTIAの成人患者で、抗血小板薬3剤併用療法群(アスピリン[初日300mg、以降50~150mg/日、通常75mg/日]+クロピドグレル[初日300mg、以降75mg/日]+ジピリダモール[徐放製剤200mgを1日2回、または通常製剤100mgを1日3~4回]と、標準療法群(ガイドラインに基づいた治療:クロピドグレル単剤またはアスピリン+ジピリダモール2剤併用療法、各薬剤の用法用量は3剤併用療法群と同じ)に、コンピュータを用い1対1の割合で無作為に割り付けた。 割り付けは、国およびイベント(脳梗塞、TIA)で層別化するとともに、ベースラインの予後因子(年齢、性別、発症前の機能、収縮期血圧、病型)、薬剤使用歴、無作為化までの時間、脳卒中関連因子、血栓溶解で最小化した。 主要有効性アウトカムは、90日以内の脳卒中(虚血性または出血性、修正Rankin Scale[mRS]で評価)またはTIAの再発とその重症度で、電話による追跡調査によって評価された(評価者盲検化)。解析はintention–to-treatにて行われた。3剤併用療法で再発は減少せず、出血リスクは増加 2009年4月7日~2016年3月18日の期間に、3,096例が無作為化された(3剤併用療法群1,556例、標準療法群1,540例)。 本試験は、データ監視委員会の勧告により早期中止となった。脳卒中/TIAの再発は、3剤併用療法群93例(6%)、標準療法群で105例(7%)に発生し、両群で有意差は認められなかった(補正後共通オッズ比[cOR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.67~1.20、p=0.47)。一方で、3剤併用療法は、より重度の出血と関連していた(補正後cOR:2.54、95%CI:2.05~3.16、p<0.0001)。 なお、著者は研究の限界として、幅広い患者層で検証していること、非盲検下で抗血小板薬が投与されていること、早期中止となり検出力が低いことなどを挙げている。

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第51回

第51回:予後を正確に知るとQOLが下がる? …コミュニケーションの話キーワード肺がんメラノーマ動画書き起こしはこちらこんにちは。ダートマス大学腫瘍内科の白井敬祐です。最近うちの科の抄読会で話題になったのはJournal of Clinical Oncology…JCOですね。あのTemelさん、2010年に、New England Journal of Medicineに、Massachusetts General Hospitalで行われたRandomized Trialで、早期から緩和ケアが介入したほうが、QOLが上がるだけではなく予後も2~3ヵ月、StageIVの肺がん患者で伸びたといって、ずいぶん話題になったんですけど…その筆頭著者のJennifer Temel先生が書いた「予後を正確に知った患者さんのほうが、QOLが下がる」という、少し衝撃的な論文がJCOに出ていました。たとえばStageIVの患者さんに僕らはよく、「残念ながら、がんの状況はNon Curable…治癒をゴールした状況ではありません。ただ、がんはコントロールできるかもしれないし、抗がん剤を使うことで症状を防いだり(症状が)出てくるのを遅らせ、QOLを維持することができる可能性が高いので治療しましょう」という説明をするんですけども。そのNon Curable Cancer、「自分のがんが治るわけではない」ということがわかった患者さんのほうが、QOLのスコアは下がると(いうことです)。今まで多くの緩和医療のStudyでは、予後を告知したり、そういう話題に対してしっかりと向き合うことは必ずしもQOLには影響しない、むしろ準備ができて悪いことはない、という感じの論調が多かったんですけども。今回のStudyでは、QOLのスコアが少し低く出たと報告されていました。正確に自分のがんの状態を理解するというのは…「正確に」とは何を意味するのか…本当に難しいですよね。肺がんについて、統計学的な数値をわかることが正確に理解したことになるのか? そうではないですよね。1人の患者さんはそれぞれ違うので、統計学的なことを知っても、ご本人がそれに当てはまるかどうかというのは、まったく別の話なので。そういう意味では問題提起というか、議論のネタになる良い論文だったと思います。興味があれば、読んでいただくと非常に参考になると思います。あと、フェローに「これは絶対必読だからベッドタイムリーディングで読みなさい」ってみんなに勝手に送りつけたんですけれども、ASCOのコミュニケーションガイドラインが出ました。「こういう家族がいたらどのように説明するか」「こういう患者さんがいたら、家族がいたら、どうサポートするのが良いのか」、本当によく書かれています。細かいところまで配慮してrecommendationを入れているのだなと、編集委員の方の苦労が伝わってくるような、非常に良いガイドラインだと個人的には思います。これもチャンスがあれば読んでいただけると非常に良いと思います。僕はフェローに「絶対読め」と言いましたけど。コミュニケーション能力については僕も興味があり、今度ワークショップに参加することになりました。Atul Gawandeというハーバード大学の外科医がいるのですが…皆さんも本を読まれたことあるかもしれないですが、『Being Mortal』という本を出されていて日本語訳にもなっているんですけども…彼は医療の質を上げるようなシンクタンク(?)そういう組織のトップになっていて、コミュニケーションだけではなく、チェックリストを作ることで、いかにComplicationを減らす…『Complications』という題の本を出しているんですね…手術のエラーとか、あるいは医療のミスをどうやったらコントロールできるのか、ということに興味を持たれている外科医です。非常に暖かい人で、何年か前の緩和ケアの学会で、『Being Mortal』が出たときに、本にサインしてもらうために並んだ記憶があります。彼が今やっているプロジェクトの1つ、SICG(Serious Illness Conversation Guide)では、重篤な病状の患者さんあるいは家族と、どのようにコミュニケーションを取るのが良いのかということについて、いろいろと模索をしています。そのSerious Illness Conversation Guideのワークショップに、科を代表して数人の同僚と一緒に参加します。そこでは、どういうシナリオを使って、フェローにあるいはレジデントにコミュニケーションの大切さを伝えるか、ということについて研修を積んでくる予定です。この話もぜひ(次回以降お話し)できたらと思うので、がんばって吸収してきます。Jennifer S. Temel JS, et al.Early Palliative Care for Patients with Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer.N Engl J Med. 2010;363:733-742.Nipp RD, et al. Coping and Prognostic Awareness in Patients With Advanced Cancer.J Clin Oncol.2017 ;35:2551-2557. Gilligan T, et al.Patient-Clinician Communication: American Society of Clinical Oncology Consensus Guideline.J Clin Oncol.2017;35:3618-3632. Atul Gawande著 Being MortalAtul Gawande著 ComplicationAtul Gawande著 The Checklist Manifesto: How To Get Things RightThe Conversation Project

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アルツハイマー病に対する新規ベンゾジアゼピン使用に関連する死亡リスクのコホート研究

 フィンランド・東フィンランド大学のLaura Saarelainen氏らは、アルツハイマー病の全国コホートにおいて、新たなベンゾジアゼピンおよび関連薬剤(BZDR)の使用に伴う死亡リスクを調査した。International journal of geriatric psychiatry誌オンライン版2017年11月15日号の報告。 2005~11年にアルツハイマー病と診断されたすべてのフィンランド住民7万718例を含むレジスタベースのMEDALZコホートを用いた。アルツハイマーの臨床的診断は、特別償還記録(Special Reimbursement Register)より得た。薬剤使用期間は、処方記録(Prescription Register)より由来したBZDR購入からモデル化された。新規BZDR使用者を調査するため、アルツハイマー病診断の前年にBZDRを使用した患者は除外した。BZDR使用を開始した使用患者群(1万380例)について、年齢、性別、アルツハイマー病診断までの期間をマッチさせた各人2人の未使用患者群(2万760例)を選出した。多変量解析では、チャールソン併存疾患指数、社会的地位、股関節骨折、精神障害、薬物乱用、脳卒中、他の向精神薬使用で調整した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に、未使用患者群と比較し、使用患者群は100人年当たり5人の超過死亡がみられた。死亡率は、使用患者群13.4%(95%CI:12.2~14.5)、未使用患者群8.5%(95%CI:7.9~9.1)であった。・BZDRの使用は、死亡リスク増加と関連しており(調整ハザード比:1.4、95%CI:1.2~1.6)、その関連は使用開始から有意であった。・ベンゾジアゼピン使用は死亡リスクの増加と関連が認められたが、ベンゾジアゼピン関連薬剤の使用はそうではなかった。 著者らは「ベンゾジアゼピンおよび関連薬剤の使用は、アルツハイマー病患者の死亡リスク増加と関連が認められた。本結果より、アルツハイマー病の対症療法の第1選択治療は、治療ガイドラインで推奨される非薬理学的アプローチであることを支持する」としている。■関連記事なぜ、フィンランドの認知症死亡率は世界一高いのか認知症予防にベンゾジアゼピン使用制限は必要かベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第50回

第50回:免疫チェックポイント阻害薬はアジュバントに使えるか?キーワード非小細胞肺がんdurvalumabメラノーマニボルマブイピリムマブ動画書き起こしはこちら こんにちは。ダートマス大学腫瘍内科の白井 敬祐です。僕が担当している肺がんとメラノーマの領域で最近話題になったのはスペインのマドリードで行われた欧州臨床腫瘍学会ESMOですね。肺がんでは2つ、メラノーマでも同じように大きな話題がありました。PACIFIC trial。StageIIIの肺がん…縦郭リンパ節が陽性になると自動的にStageIIIになるのですが…は、現在5年生存率が15~25%。良くても25%程度で、根治は望めるけれど頻度が非常に低いという病期なのですが、そこでchemo-radiationが終わったあとに、効果があった患者さん、あるいはSDの患者さんに対し、アストラゼネカの抗PD-L1抗体durvalumabを2週間おきに12ヵ月使った群とプラセボ群を使った結果が発表されました。そこではPFSが16ヵ月以上と6ヵ月程度とほぼ3倍に延びたという結果でした。StageIIIの肺がんというのは、いろいろな抗がん剤を使ったり、chemo-radiationが終わった後にドセタキセルなどをconsolidationとして使ったり、エルロチニブを使ったり、あるいは放射線の照射の量や仕方を変えるなど工夫されたものの、ぱっとした結果が出ていなかったなか、ここ20年で初めてStageIIIの肺がん治療が大きく変わる可能性があるという結果が発表されました。なかには「コントロールアームのPFSが5.6ヵ月と非常に悪い」と、言う人もいますが、これはランダマイズドの、しかもプラセボコントロールの試験なので、やはり陽性なのでしょうね。早いことに、NCCNのガイドラインには既にdurvalumabのことが載っています。FDAにはまだ認可されていないのですが、僕も2人ほどchemo-radiationが終わった患者さんがいて、その患者さんに、こういう治療があるので、保険会社がオーケーしてくれるかどうか申請してみましょうかと、申請を始めたばかりです。ちょっと下世話な話になるのですが、MYSTIC試験…StageIVの肺がんで同じアストラゼネカの抗CTLA-4抗体tremelimumabとdurvalumabを組み合わせてどうなるかというPhaseIII試験…が残念ながらネガテイブな結果だったんですね。アメリカの医者の中に、ブログでその時に株価が一気に下がったと言うことを書いている人がいました。株価が下がってから、ESMOでポジティブな結果の2つの臨床試験が発表されて、株価がどうなったか書いているんです。本当にいろいろなことを、いろいろな観点から発信する人がいるんだな、と思いながら面白く読んでいました。彼によると、「アストラゼネカの株価自体はMYSTICで下がる前のレベルには戻っていないが、回復しています」ということです。臨床試験が株価に反映される。Conflict of Interest、COIとはもう離れられない世界であることは確実ですね。それ以外には、僕が担当しているメラノーマの領域でイピリムマブとニボルマブをStageIIIB、StageIIIC、resected StageIVのアジュバントの患者さんに使った試験の結果が発表されました。それもNew England of Journalに載りましたが、ニボルマブを使ったほうがイピリムマブを使うよりもRelapse Free Survivalが有意に改善しました。StageIIIのchemo-radiation後の肺がん患者さんと同じように、アジュバントで使うというのは、この患者さんのがんが残っているか残ってないかわからない状況で、がん抗原の発現がはっきりしない時にimmune checkpointを使うということで、意味があるのが非常に議論の対象になっていました。面白いことに今回、2つのstudyのどちらもアジュバントで再発生存期間を伸ばしたということが報告されたのは、臨床的にあるいはscienceとしても面白いことだと思います。実際そういう治療後の患者さんで、circulating tumor cellあるいはがん抗原がどのように、どういう場所で発現しているか、というのは非常に興味のあるところです。Antonia SJ, et al.Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non–Small-Cell Lung Cancer.N Engl J Med.2017;377:1919-1929.durvalumab維持療法、Stage III肺がんのPFSを有意に改善(PACIFIC)/ESMO2017J Weber, et al. Adjuvant Nivolumab versus Ipilimumab in Resected Stage III or IV MelanomaN Engl J Med.2017; 377:1824-1835.

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シェイクスピア答えてくれ!「IIb or not IIb, that is a question!」(中川義久 氏)-784

 シェイクスピアの名文句と言えば「To be or not to be, that is a question !」です。この解釈をめぐっては議論があるようですが、一般的には「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ!」と訳されています。循環器領域でシェイクスピアの言葉通りの危機に直面しているのが、心原性ショックを伴う多枝病変AMI患者です。この最重症カテゴリーの患者706名に対して、責任病変のみにPCIを施行する責任病変単独PCI群(段階的に非責任病変の血行再建術も許容)と、責任病変と同時に非責任病変に対してもPCIを施行する多枝PCI群にランダマイズしたCULPLIT-SHOCK試験の結果が、米国のデンバーで開催されたTCT2017で報告され、同時にNEJM誌に掲載されました。 30日以内の死亡・腎不全(腎代替療法)と定義された主要エンドポイントは、責任病変単独PCI群344例中158例(45.9%)に対して多枝PCI群341例中189例(55.4%)に認められました(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.71~0.96、p=0.01)。要約すれば、責任病変単独PCI群で死亡・腎不全リスクが有意に17%減少していました。つまりは、「AMI急性期のPCIは責任病変だけにしろ!」という教えが正しいとされたわけです。 ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者において、梗塞の責任血管のみへのPCI施行に比べて、引き続いて責任血管以外の狭窄への予防的PCIを施行することによって、心血管イベントを有意に低下させるとPRAMI研究は報告しています。本論文に対して小生は、『「AMI急性期のPCIは責任病変だけにしろ!」と私は教えられました』とのタイトルでコメントさせていただきました。コメントの趣旨はPRAMI研究の結論が循環器内科医に受け継がれてきた常識とは異なる方向性を持っていることを表現したものです。 PRAMI試験に加えてDANAMI3-PRIMULTI試験、そしてCvLPRIT試験と多枝同時介入の有効性を示唆した試験結果が報告されました。米国では、これらの一連の報告を受けて2015年の ACC/AHA/SCAI のSTEMI治療のガイドラインでは、多枝同時介入について推奨の度合いをClass IIIからClass IIbにアップデートしています。Class IIIは「Harm: 有害」であり、Class IIbは「may be considered: 考慮可」です。今回のCULPLIT-SHOCK試験の結論は、この変更を揺り戻す内容といえます。このCULPLIT-SHOCK試験は常識的な治療方針を強調しているものでガイドラインの方向性としては、よりふさわしいのではないかと筆者は考えます。次回のACC/AHA/SCAI のSTEMI治療のガイドラインでは、どのような扱いになるのか興味深いところです。おそらくガイドライン執筆担当者はこのようにつぶやくことでしょう。 「IIb or not IIb, that is a question!」

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「わかりにくさ」が招く誤解と混乱(解説:今中和人氏)-783

 古今東西の常識として、わかりにくい情報提示では物事を正しく伝えることは難しいが、このわかりにくい論文は以下の4つを検討している。(1)2009~2015年のnon-randomizedな大動脈弁置換(約1/4で冠動脈バイパス[CABG]を併施)症例を、午前手術した群と午後手術した群に分け、短期・中期成績を検討(2)2016年の単独大動脈弁置換 88例を午前群と午後群の各44例にrandomizeし、短期成績を検討(3)上記(2)の88例中30例程度で術中に心房組織を採取し、虚血・再灌流後の収縮力の実験的検討と、多数の遺伝子の発現程度の検討(4)マウスのLangendorffモデルにおける、虚血・再灌流と遺伝子Rev-Erbαの検討 preliminary な検討のはずの(1)が大々的に、また(1)~(3)は渾然と記載されており、(1)の結果なのか(2)・(3)の結果なのか、相当わかりにくい。 本論文を一層わかりにくくしているのは、(1)、(2)とも短期のイベントの大多数が周術期心筋梗塞(PMI)なのだが、ガイドラインにあっても大多数の読者に馴染みがないtype 5 AMIという、本来はCABG後のPMIを若干modifyして定義している。この定義は曲者で、バイオマーカーとして用いた高感度トロポニンTは、CABGでは術前から上昇している症例があるので、閾値が「変動係数の10倍以上の上昇」と数値が明示されず、並列要件である「退院時の心エコー図での壁運動異常」の内容も定義されていないので、PMIと言われても実情が把握し難いことがひとつ。もうひとつは(2)でトロポニンを72時間後まで6回測定し、数値としてはそのarea under the curve(AUC)しか提示されておらず、普通はそんなデータの取り方はしないので、PMIを自分の経験と対照して把握できない。いずれの手法も先例があったり、ガイドラインに記されていたり、論文内でPMIの定義を使い分けるのもヘンだ、などと理由付けはしうるが、ともかく結果的に実にわかりにくい。 そもそもタイトルが、手術症例でRev-Erbαなる遺伝子を操作したかのような錯覚を招く、わかりにくいものである。 ちなみに最重要な(2)の結果は、死亡は両群ゼロで在院日数も同じ12日で臨床的には同等だが、72時間のトロポニンのAUCは午後群が有意に低く、PMIは午後群が有意に少なく(16% vs. 4%)、退院時駆出率45%未満症例も午後群が有意に少なかった(11% vs. 4%)--なお、術前はこの比較はなく、術前後の変化でもない。 ただ、トロポニンのAUC値は午後群が午前群の80%で、統計学的に有意でも臨床的意義は大いに疑問である。極端な高値でなければ(例えばCKMBの50と40)臨床的には枝葉末節だが、著者の主張どおりこの差は概日リズムの影響なのかもしれない。 ところが、この「わかりにくさ」と有名誌のゆえか、困った展開になっているのである。 手術患者は誰しも予後に大いに関心があるので、この論文はLancetの本国イギリスはもとより日本でも一般向けのメディアにも多数とり上げられ、論旨を忠実に反映した記事もあるが、多くはパッとしないrandomized study の(2)を黙殺し、(3)と実は直接の関係がないnon-randomizedの(1)とを密に関係付け、著者らがPMIとする症例の実態が把握し難いことも無視して、概日リズムのおかげで午後の手術はイベントが半分に減ると報じている。ひどいのになると「午後は生存率が2倍になる」とか「手術するなら午後にしてくれと担当医に頼みなさい」などと、意図的な曲解や扇動のようなことが書かれているのだ。こんな記事を読んだ患者さんや御家族に説明するなんて、想像するだけでうんざりするのは私だけではあるまい。 なお、この論文には他にも気になる点はいくつかあるが、何よりもまず、多くの心臓外科医に尋ねてみると、案の定、結論が大多数の現場の臨床医の感覚に合致せず、多数の追試は必須である。個人的には、患者の概日リズムより医療者の概日リズムの方がはるかに影響が大きいように思う(本論文では所要時間だけを根拠に否定している)が、いかがであろうか?

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EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん治療にオシメルチニブをどう用いるのか?(解説:小林 英夫 氏)-781

 切除不能な非小細胞肺がんの治療は近年大きく進歩し、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異を示す肺がんの治療にEGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の有効性が確立された。本邦では、4薬のEGFR-TKIが肺がんに使用可能である。その中でオシメルチニブ(商品名:タグリッソ)は第3世代に位置付けられ、以前のEGFR-TKIに耐性であるEGFR T790変異を呈す肺がんにも効果があることを特徴とする。日本での保険適用はこのEGFR T790変異を確認した症例だけであり、2017年12月時点では1次(初回)治療の適応は取得していない。 今回のFLAURA試験は、未治療EGFR変異肺がんに対する、第1世代EGFR-TKIでありすでに標準治療と位置付けられているゲフィチニブまたはエルロチニブ投与群と、オシメルチニブ投与群との、第III相無作為化二重盲検試験である。主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)で、オシメルチニブ群18.9ヵ月、標準EGFR-TKI群10.2ヵ月と有意差が示された。またGrade3以上の有害事象は、標準EGFR-TKI群(45%)よりオシメルチニブ群(34%)が低かった。EGFR-TKIの効果には人種差があることが知られ、今回の症例の約6割は日本人を含むアジア人であった。 さて、本試験に示されたPFS延長と有害事象減少はある程度予想された結果で、今後も同様の成績が確認されると思われる。そしてこの試験に基づき、2017年11月末にアストラゼネカ社は日本での1次治療適応承認を目指したいとプレス発表している。次の課題は、もしオシメルチニブが切除不能肺がんの1次治療に適応を取得したら、1次治療としてただちに投与するのか、それとも第2世代までのEGFR-TKIを先行し無効になった時点で切り替えるのか、いずれの選択が適切なのかをこれから検討しなければならない。本試験発表前ではあるが、日本肺癌学会肺癌診療ガイドライン2017年案(暫定版)では、保険適用を遵守しオシメルチニブを2次治療に位置付けている。現在の保険適用をクリアするには肺がんを再生検しT790陽性を証明しなければならないが、その証明はなかなか難しい。生検以外にリキッドバイオプシーと称される血液検査も普及しつつあるが、まだ精度不十分な状況にとどまっている。医療経済的にはタグリッソは1日約2万4千円、イレッサの4倍弱、タルセバの約2倍である。EGFR-TKIは肺がん診療に不可欠であるが、各薬剤をどう使い分けるのかについてはまだ十分な結論が得られていないように思われる。

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魔法のパッチで子供の注射の怖さを軽減

 2017年12月5日、佐藤製薬株式会社は、外用局所麻酔剤のリドカイン・プロピトカイン配合貼付剤(商品名:エムラパッチ)の発売を前に、「注射の痛みに我慢は必要ですか?」をテーマとしたメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、「痛み」の概要と小児の痛みのケアについてディスカッションが行われた。なお、同貼付剤は12月13日に発売された(薬価251.60円/1枚)。子供のころの痛みは記憶として大きくなる はじめに同社代表取締役社長の佐藤 誠一氏があいさつし、医薬マーケティング部による製品説明の後、基調講演が行われた。 基調講演では、加藤 実氏(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授)が、「その『医療の痛み』は本当に必要ですか?~痛みが無くなっても痛みの影響は終わらない~」をテーマに、主に小児における「痛み」の診療について現状や課題を語った。 痛みとは、組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験と定義される。それは主観的な体験であり、患者本人にしかわからない。しかし痛みは、たとえば手術前の麻酔のように、予防することもできる。それにもかかわらず、1980年代までは新生児や小児への痛みの対応はなおざりだったという。 それは、新生児は痛みを感じにくいと思われていたからであり、1980年代後半に報告された論文以降、大きく変化した。すなわち新生児は、痛みの抑制系が未発達ゆえに痛みを感じやすく、新生児の外科的処置時には、成人同様、局所麻酔薬や全身麻酔薬を使用し、減量および中止も成人と同じ基準で行うべきという考えに変化した1)。 さらに小児期での痛みの体験は、一時的なものではなく成長後にも影響を与え、中枢性感作、不安・恐怖など記憶を介した認知を獲得する。たとえば、小児期の機能的な腹痛は、成人後の慢性痛リスクを増加させるという報告もあるという2)。局所麻酔を行い、痛みを中枢神経に伝えないようにすることは、痛みや恐怖から脳を守ることにつながると同氏は説明する。小児の痛みをマネジメントする時代へ 小児の痛みの予防について、まず小児が怖がる痛みの代表に、予防接種、採血、点滴などの注射が挙げられる。現在わが国では、こうした痛みを医療者も患者も「仕方がない」「一時的」「我慢できる」などの理由で、まだ看過しているのが現状だと、加藤氏は問題を指摘する。一方、欧米では、先述の理由から積極的に痛みのマネジメントについて取り組みが行われ、たとえばカナダでは「小児のためのワクチン摂取の痛みのマネジメント(Pain Management During Immunizations for Children)」が作成され、ガイドラインによって痛みの軽減が図られている3)。また、世界保健機関(WHO)も「ワクチン接種時の痛みの軽減についての提言」を2015年に発表するなど、世界的な動きが示されている。 加藤氏は講演のまとめとして、「小児の医療における痛みへの対応が向上するには時間がかかるかもしれないが、防げる痛みを防ぎ、子供を痛みから守る医療を一緒に目指そう」と、小児医療に関わる人々へ向け抱負を述べた。痛みの軽減だけではない患児へのメリット 引き続き、「子どもたちが怖がらずに済む医療へ」をテーマに、先の演者の加藤氏に加え、富澤 大輔氏(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科 医長)、平田 美佳氏(聖路加国際病院 小児総合医療センター 小児看護専門看護師)によるディスカッションが行われた。 「小児期の疼痛対策の必要性」について、医療者だけでなく患児の親も持つ「痛みは仕方がない」という思い込みから、ケアがされていない現状であるという。わが国は我慢の文化であり、薬も使わない、痛みの弊害に目が向けられない状態が続いている。海外(英国)を例に平田氏は、「10年以上前から子供の痛みのケアが行われ、エムラクリームのような局所麻酔クリームを日常的に使用し、子供たちの間では『マジック・クリーム』の愛称で親しまれ、注射などの処置の前に塗布する習慣ができていた」と説明した。また、「病院での工夫」としては、「患児の疑問に答え、希望に沿うようにしているほか、事前におもちゃの注射器を見せて、準備をさせることも不安軽減に大事だと考えている。注射などの際は、患児の集中力を分散させる環境作りや処置後のフォローを行い、ケースによっては、エムラクリームなどの情報提供をしている」と同氏は付け加えた。 次に、「小児がんの治療の現場」を富澤氏が語った。「診療の中で、患児に痛みを伴う検査や治療が多いのが現状。痛みへのケアがないと、患児は診療に消極的になってしまうので、親を良いサポーターにする努力が医療者側には必要であり、同時に痛みに対する親の意識を変える必要性もある。注射への配慮としては、不必要な検査は避け、患児に痛みを除く方法もあることを説明しておく必要がある。急性リンパ性白血病(ALL)でのエムラクリームを使用したコントロール研究では、局所麻酔下だと患児の動きがなく、心拍数も変わらないという報告もある4)。これは大事な点で、ALL治療の予後にも影響することなので、治療時の患児の動きを抑えることは重要だと考える」と、同氏は実臨床をもとに説明した。患児の痛みのケアには医療者と社会の認知が必要 最後に、各演者が医療者へのメッセージを述べた。平田氏は「血友病の患児がエムラクリームのおかげで、治療を在宅で行えるようになり、表情が明るくなった。患児の感じる痛みを今後もマネジメントしていきたい」と事例を挙げて語り、富澤氏は「小児科は比較的患児の痛みケアが進んでいる分野だが、一般的に多くの医療者は患児の痛みのケアやこうした製剤を知らない。患児の親が医療者に適用を依頼するケースもあり、わが国も欧米並みに知識の普及と診療使用を考え、実践する必要がある」と見解を述べた。 最後に加藤氏は、「痛みをなくすには、体と心の両方の治療が必要で、エムラクリームのように痛みを軽減するツールがあるのに使われていないのが問題。医師への啓発だけではなく、いかに一般社会に広く浸透させるかが今後の課題」と問題を提起し、ディスカッションを終えた。■参考佐藤製薬株式会社 ニュースリリース「エムラパッチ」新発売のご案内(PDF)

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2型糖尿病、集中的食事療法による減量で46%が寛解/Lancet

 減量により12ヵ月で、試験に参加した2型糖尿病患者の約半数が糖尿病治療薬から離脱し、非糖尿病状態すなわち寛解(remission)に達したことが、英国・グラスゴー大学のMichael EJ Lean氏らが行ったプライマリケアでの集中的な体重管理の効果を検証した非盲検クラスター無作為化試験「DiRECT試験」の1年目の結果で示された。2型糖尿病は生涯にわたり治療を要する慢性疾患とされる。これまでの研究で、罹患期間が短い2型糖尿病患者は10~15kgの減量により血糖値が正常化することが示されていたが、食事療法による糖尿病の持続的な寛解を評価したものはなかった。結果を踏まえて著者は、「2型糖尿病の寛解は、プラリマリケアのプラクティカルな目標である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年12月5日号掲載の報告。1日約850kcalの調整食を3~5ヵ月摂取する体重管理プログラムと標準ケアを比較 DiRECT(Diabetes Remission Clinical Trial)試験は、スコットランドとタインサイド地域(北東イングランド)のプライマリケア49施設で実施された。対象は、過去6年以内に2型糖尿病と診断され、BMIが27~45で、インスリン治療歴のない20~65歳の患者であった。 施設を、地域と施設規模で層別化し、体重管理プログラム実施群(介入群)とガイドラインに沿った最善のケアを行う群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。体重管理プログラムは、糖尿病治療薬および降圧薬の中止、食事全置換(825~853kcal/日の調整食を3~5ヵ月)、段階的な食物再導入(2~8週)、長期減量維持の構造化された支援により構成された。 主要アウトカムは2つで、ベースラインから12ヵ月までにおける15kg以上の減量と、糖尿病の寛解(すべての糖尿病治療薬を中止して2ヵ月以降のHbA1cが6.5%未満と定義)であった。 2014年7月25日~2016年8月5日に、49施設(介入群23施設、対照群26施設)にて306例(それぞれ157例および149例)が登録され、このうち同意撤回や脱落を除く各群149例をintention-to-treat集団とした。介入群の15kg以上減量達成率は24%、そのうち86%が寛解 12ヵ月時点で、15kg以上の減量を達成したのは、介入群で36例(24%)、対照群はなし(p<0.0001)、糖尿病の寛解達成は介入群68例(46%)、対照群6例(4%)であった(オッズ比:19.7、95%信頼区間[CI]:7.8~49.8、p<0.0001)。寛解達成は減量の程度によって異なり、体重が増加した76例では寛解達成者はおらず、0~5kg減量を維持している89例では6例(7%)、5~10kg減量した56例中19例(34%)、10~15kg減量した28例中16例(57%)、15kg以上減量を達成した36例中31例(86%)が寛解を達成した。 平均(±SD)体重は、介入群で10±8.0kg、対照群で1.0±3.7kg減少した(補正後差:-8.8kg、95%CI:-10.3~-7.3、p<0.0001)。EQ-5Dで測定したQOLスコアは、介入群で7.2±21.3点改善したのに対し、対照群では2.9±15.5点悪化した(補正後差:6.4点、95%CI:2.5~10.3、p=0.0012)。 重篤な有害事象は、介入群で157例中7例(4%)に9件、対照群で149例中2例(1%)に2件が報告された。介入群のうち2件(胆石疝痛と腹痛)は同一患者で生じており、介入に関連したものと考えられた。試験の中止に至る重篤な有害事象は認められなかった。 なお、著者は研究の限界として、人種や民族の特徴として白人が多い地域であったこと、プライマリケアに限定しており、体組成の詳細は評価されていないことなどを挙げている。

1878.

DOACエドキサバン、がんの血栓症で低分子ヘパリンに非劣性

 第一三共株式会社(本社:東京都中央区)は2017年12月13日同社のニュースリリースで、抗凝固薬エドキサバン(商品名:リクシアナ)による、がん合併静脈血栓塞栓症(VTE)患者を対象としたHokusai-VTE CANCER試験の結果において、エドキサバンが標準治療薬である低分子量ヘパリンのダルテパリン(国内未承認)に対して有効性および安全性に係わる主要評価項目において非劣性を達成したと発表。 本試験の結果は、米国ジョージア州アトランタで開催した第59回米国血液学会(ASH)年次総会のlate breaking sessionで発表されると共に、New England Journal of Medicineにオンライン掲載された。  Hokusai-VTE CANCER試験は、欧米を中心とする海外13ヵ国において、がんを合併したVTE患者1,050名を対象に、1日1回経口投与のエドキサバンまたは1日1回皮下注射のダルテパリンを12ヵ月間投与し、両剤の有効性(VTEの再発)および安全性(重大な出血)を比較したもの。  本試験の主要評価項目(VTEの再発および重大な出血の複合発現率)において、エドキサバン群は12.8%(522名中67名)、ダルテパリン群は13.5%(524名中71名)、リスク差(エドキサバン群の発現率-ダルテパリン群の発現率)は-0.7%となり、エドキサバンのダルテパリンに対する非劣性が検証された。リスク差(-0.7%)の内訳は、VTEの再発のリスク差は-3.4%、重大な出血のリスク差は2.9%であった。特に重篤度の高い重大な出血(重篤度カテゴリー3~4)の発現数はエドキサバン群で12名、ダルテパリン群で12名であった。 VTEは、がん患者において2番目に多い死亡原因となっている。現在、がんを合併したVTE患者の欧米における治療ガイドラインは、標準治療として低分子量ヘパリン(皮下注射)の6ヵ月以上の投与を推奨しているが、服薬アドヒアランス上の未充足ニーズがある。■関連記事リクシアナ効能追加、静脈血栓症、心房細動に広がる治療選択肢DOAC時代のVTE診療の国内大規模研究、再発リスクの層別化評価と出血リスク評価の重要性が明らかに/日本循環器学会

1879.

シェーグレン症候群〔SS:Sjogren's syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義眼・口腔乾燥を主症状とし、多彩な全身臓器症状を呈し、慢性に経過する全身性自己免疫疾患である。疾患名は1933年に報告したスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレン(Henrik Sjogren *oはウムラウト)に由来する。■ 疫学中年以降の女性に好発(女性 vs.男性 14 vs.1)し、国内に少なくとも数万人(厚生労働省研究班推定)の罹患数とされ、潜在例はさらに多いと推定されている。■ 病因病理学的には、涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球浸潤とそれに伴う腺構造破壊、線維化が認められる。免疫学的には、リンパ球・サイトカイン・ケモカイン異常、高IgG血症、多彩な自己抗体産生が認められる。■ 症状1)腺症状ドライアイ(眼乾燥)、ドライマウス(口腔乾燥)が二大症状である。気道粘膜、胃腸、膣、汗腺などの分泌腺障害に起因する乾燥症状を認める例もある。2)全身症状・腺外臓器病変(1)全身:微熱、倦怠感(2)甲状腺:慢性甲状腺炎(3)心血管:肺高血圧症(4)肺:間質性肺疾患(5)消化器:慢性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変(6)腎臓:間質性腎炎、腎尿細管性アシドーシス(7)神経:末梢神経障害(三叉神経障害)、中枢神経障害(無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎)(8)関節:多関節炎(9)皮膚:環状紅斑(疾患特異性が高い)、高ガンマグロブリン性紫斑(下腿点状出血斑)、薬疹(10)リンパ:単クローン性病変、悪性リンパ腫(11)精神:うつ病■ 分類本疾患のみを認める一次性(原発性)とほかの膠原病を合併する二次性(続発性)に分類される。■ 予後腺症状のみであれば生命予後は一般に良好である。腺外症状、とくに悪性リンパ腫を認める例では予後が不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見1)血液検査異常(1)腺障害:血清唾液腺アミラーゼ上昇(2)免疫異常:疾患標識自己抗体(抗SSA抗体、抗SSB抗体)・リウマトイド因子・抗核抗体陽性、高ガンマグロブリン血症、末梢リンパ球数減少を認める。2)腺機能検査異常涙液分泌低下は、シルマーテスト、涙液層破壊時間(BUT)により評価する。乾燥性角結膜炎は、ローズベンガル染色、フルオレセイン染色、リサミングリーン染色を用いて評価する。唾液分泌低下は、ガムテスト、サクソンテストにより評価、より客観的には唾液腺シンチグラフィーが用いられる。涙腺、唾液腺の形態は、超音波あるいはMRI検査により評価される。3)腺外臓器病変に応じた各種検査肺野およびリンパ節の評価についてはCT検査が有用である。また、間質性腎炎の評価には尿検査が行われる。● 診断で考慮すべき点潜在例も多く、その可能性を疑うことが診断への第一歩である。ドライアイ、ドライマウスの有無を問診し、典型例では問診のみで診断がつくこともある。本疾患が疑われた際は、診断基準に沿って確定診断を行うことが望ましい。しばしば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)などの他の自己免疫疾患を合併する。診断のための検査が困難である場合には、専門施設への紹介を考慮する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 腺症状1)眼点眼薬(人工涙液、ムチン/水分分泌促進薬、自己血清)、涙点プラグ挿入術、ドライアイ保護眼鏡装用2)口腔催唾薬(M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体刺激薬)、唾液噴霧薬がそれぞれ用いられる。■ 腺外症状 全身症状に対しては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられる。免疫学的な活動性が高く、臓器障害を呈する症例では、ステロイドおよび免疫抑制薬が用いられる。● 治療で考慮すべき点眼症状に対しては治療が比較的奏功する一方で、口腔乾燥症状は改善が乏しい例も多い。腺症状に対するステロイドの有用性は否定的である。リンパ増殖性疾患、悪性リンパ腫を含む腺外症状もまれではないため、注意深く経過観察する。腺外臓器病変、ほかの膠原病を有する例は、リウマチ内科専門医へのコンサルトを考慮する。不定愁訴が多い例もあるが、本疾患を正しく理解をしてもらえるようによく患者に説明する。4 今後の展望欧米では、抗CD20モノクローナル抗体の臨床試験が報告されているが、その有用性については十分確立されていない。リンパ球などの免疫担当細胞を標的とした新規治療薬の臨床試験が国際的に進められている。5 主たる診療科リウマチ科(全身倦怠感、関節痛、リンパ節腫脹)、眼科(眼乾燥症状)耳鼻咽喉科(リンパ節腫脹、唾液腺症状)、歯科・口腔外科(口腔・乾燥症状)、小児科(小児例)6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難病情報センター シェーグレン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本シェーグレン症候群学会(医療従事者向けのまとまった情報)シェーグレン症候群財団ホームページ(米国)(医療従事者向けのまとまった情報)Up to date(医療従事者向けのまとまった情報)1)Firestein GS, et al. Kelley and Firestein’s Textbook of Rheumatology 10th edition.Philadelphia;Elsevier Saunders:2016.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 編集. シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年版.診断と治療社;2017.3)日本シェーグレン症候群学会 編集.シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2014.公開履歴初回2017年12月12日

1880.

1型糖尿病の臓器障害に、RA系阻害薬は有効か?(解説:石上友章氏)-776

 糖尿病は、特異的な微小血管障害をもたらすことで、腎不全、網膜症、神経障害の原因になる。糖尿病治療のゴールは、こうした合併症を抑制し、健康長寿を全うすることにある。RA系阻害薬に、降圧を超えた臓器保護効果があるとされた結果、本邦のガイドラインでは、糖尿病合併高血圧の第1選択にRA系阻害薬が推奨されている。しかし、臨床研究の結果は、必ずしもRA系阻害薬の降圧を超えた腎保護効果を支持しているわけではない。ONTARGET試験・TRANSCEND試験1,2)を皮切りに、最近ではBMJ誌に掲載された報告3)(腎保護効果は、見せかけだった~RA系阻害薬は『万能の妙薬』ではない~)も、観察研究ではあるが、否定的な結果に終わっている。 1型糖尿病の腎保護については、ミネソタ大学のMauerらのRASS試験4)が、決定的な結果を報告している。本研究では、ARB(ロサルタン)、ACEI(エナラプリル)とplaceboの3群に分けた対象で、腎保護作用を検討している。本研究の特筆すべき点は、腎保護効果について、腎生検標本を用いて、厳密に評価していることにある。その結果は、メサンギウム分画容積をはじめとした、すべての病理学的評価指標に、3群間で差が認められなかった。 この結果を受けて、NKF(米国腎臓財団)によるKDOQI Clinical Practice Guideline For Diabetes And CKD/2012 Updateには、6章の6.1として、“We recommend not using an ACE-I or an ARB for the primary prevention of DKD in normotensive normoalbuminuric patients with diabetes.(1A)”とされた5)。この一文には、RA系阻害薬の糖尿病性腎障害抑制作用は、病理学的な変化をもたらすほどの効果はなく、微量アルブミン尿のような不正確な指標で評価された、見かけ上の効果でしかないとの意味が込められている。 英国・ケンブリッジ大学のM Loredana Marcovecchioらが行い、NEJM誌2017年11月2日号に掲載されたAdDIT試験は、スタチンとACE阻害薬を試験薬とし、2×2要因デザインで行われたRCTである。結果は、両試験薬ともに、primary endpointを達成することはできなかった。副次評価項目である、微量アルブミン尿の累積発症率には有意差が認められたが、EBMの原則に従って、著者らはこの結果を採用しなかった。しかしながら、“Many secondary outcomes in the published protocol were exploratory but considered to be clinically relevant in this population of adolescents.”とは、「夢の続きを見ていたい」という著者らの率直な心情の吐露なのかもしれない。

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