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青年期心血管疾患発症リスク評価における米国新規血圧分類の有用性の検証(CARDIA研究から)(解説:冨山博史氏)-953

 従来、140/90mmHg以上が、高血圧として定義されてきた。しかし、2017年に発表された米国高血圧ガイドラインでは収縮期血圧120~129mmHgを血圧上昇(elevated blood pressure)、130~139/80~89mmHgをI度高血圧(StageI高血圧)とし、血圧異常の範疇を拡大することを提唱した。一方、2018年に発表された欧州高血圧ガイドラインでは血圧分類は従来のままで140/90mmHg以上を高血圧と定義している。こうした血圧異常の定義の乖離は、さまざまな議論を呼んでいる。 CARDIA研究は、40歳未満の米国住人における心血管疾患発症危険因子と冠動脈疾患発症の関連を調査する前向き観察研究である。本研究は、同研究コホートにて血圧上昇(収縮期血圧120~129mmHg/拡張期血圧80mmHg未満)およびI度高血圧(130~139/80~89mmHg)が、正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)に比べて心血管疾患発症リスクが高いかを検証した。観察開始時40歳未満の4,851例が18.8年経過観察された。心血管疾患発症は、正常血圧群に比してハザード比は血圧上昇群で1.67、I度高血圧群で1.75と有意な上昇を確認している(総死亡には有意な差を認めなかった)。 CARDIA研究の結果は、青年期の軽度の血圧異常も心血管疾患発症のリスク指標であることを示した。そして、血圧上昇群、I度高血圧群では正常血圧群に比してBMIが大きく、糖・脂質代謝異常合併も多いことが確認できる(とくにI度高血圧で、正常血圧群と有意差を認めた)。このように血圧上昇自体がリスクであるか、こうした軽度血圧異常に合併する心血管疾患発症に関連する病態異常が複合的にリスクとして作用するかは明確でない。いずれにしても本研究の結果は、軽度血圧異常の症例では、肥満、糖・脂質代謝異常などにも注意を払う重要性が確認された研究である。 本研究では、各血圧重症度群のその後の血圧異常の進展や降圧薬使用頻度に関しては言及していない。今後、血圧上昇群、I度高血圧群に対するイベント発症抑制のための有用な介入プログラム(経過観察方法、生活習慣改善指導あるいは積極的降圧薬治療など)を確立する必要がある。

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高齢者が筋肉をつける毎日の食事とは

 現在わが国では、高齢者の寝たきり防止と健康寿命をいかに延伸させるかが、喫緊の課題となっている。いわゆるフレイルやサルコペニアの予防と筋力の維持は重要事項であるが、それには毎日の食事が大切な要素となる。 2018年10月31日、味の素株式会社は、都内で「シニアの筋肉づくり最前線 ~栄養バランスの良い食事とロイシン高配合必須アミノ酸による新提案~」をテーマにメディアセミナーを開催した。セミナーでは、栄養学、運動生理学のエキスパートのほか、料理家の浜内 千波氏も登壇し、考案した料理とそのレシピを説明した。高齢者の筋肉の維持と増加に必要なたんぱく質の量 はじめに「筋肉づくりの観点から見た日本人のたんぱく質摂取の現状と課題」をテーマに、高田 和子氏(国立健康・栄養研究所 栄養ガイドライン研究室長)が、サルコペニアを予防する1日のたんぱく質必要摂取量を解説した。 「国民健康・栄養調査(2012年版)」を資料に説明。筋肉の維持と増加のためには成人1日あたり体重1kgにつき1.0~1.2gのたんぱく質が必要であり、健康な高齢者でも同じ量が、慢性疾患のある高齢者では1.2~1.5gが必要であるとされる。また、「サルコぺニア診療ガイドライン 2017」(日本サルコペニア・フレイル学会 編)では、1日1kgあたり1.0g以上のたんぱく質摂取が強く推奨され、同様に「フレイル診療ガイドライン 2018年版」(日本老年医学会、長寿医療研究センター 発行)では、栄養状態はフレイルと関係し、微量栄養や血清ビタミンD低値はリスクとなると記載されている。実際摂取量を計測した研究では、高齢になればなるほどたんぱく質必要量の1.2gに満たない割合が男女ともに増え、また、いずれの年代でも女性では朝・昼食では基準値以下であることが判明したという。 サルコペニアに着目したアミノ酸の摂取推奨量では、たんぱく質25~30g摂取時にロイシンが2.5~2.8g含まれると、たんぱく質同化の閾値が高くなるという報告があり、「必須アミノ酸混合物を食事に追加するとよい」と提案を行った。その一方で、日本人のロイシン摂取量の研究では、男女ともに全年代の半数近くが1日必要量が摂取できていなかったという1)。 以上から同氏は、高齢者は筋肉をつける「たんぱく質の摂取量をもう少し増やす必要があり、各食事での摂取量や質も考慮する必要がある。日本人の適量については、今後さらなる研究が必要」と課題を呈示し、説明を終えた。高齢者はレジスタンス運動後の必須アミノ酸で筋肉を増やす 次に藤田 聡氏(立命館大学スポーツ健康科学部 教授)を講師に迎え、「必須アミノ酸ロイシンと運動による筋肉づくり」をテーマにレクチャーが行われた。 加齢に伴い骨格筋量は減少し、60代からその減少は加速する。減少を抑えるためには、筋肉量の維持・増大が必要であり、食事で良質なたんぱく質を摂取する必要がある。その際、たんぱく質を筋肉に合成するスイッチとして、アミノ酸が不可欠となる。このアミノ酸の中でもロイシンは重要であり、空腹時でも筋肉合成をオンにする作用があることが報告されている。また、ロイシン濃度は筋肉の合成量に比例して影響するとされているが、高齢者になるとロイシンに抵抗性が発生するため、筋肉の合成がうまくいかず徐々に筋肉が減少するという2)。そのため高齢者では、ロイシンをはじめとするアミノ酸摂取を強化し、食事から摂る必要があると指摘した。 筋肉の合成につき、たとえば筋トレなどのレジスタンス運動後は、筋たんぱく質の合成が急激に刺激されることがわかっており、とくに単回のレジスタンス運動でも、運動後その合成効果は2日間持続することが報告されている。 同氏は、最後にアドバイスとして「高齢者は、スクワットなどの手軽なレジスタンス運動後に必須アミノ酸を摂取することで、筋肉の合成を促進させ、フレイルやサルコペニアの予防に役立てることができる」と述べ、レクチャーを終えた。高齢者はたんぱく質が少ない傾向にあり栄養が偏りがち つづいて高田氏、藤田氏に加え、料理研究家の浜内 千波氏、同社取締役の木村 毅氏も加わり、「筋肉づくりに大切なたんぱく質がしっかり摂れる、簡単で美味しい食事とロイシン高配合必須アミノ酸の活用のススメ」をテーマに意見交換が行われた。発言では「高齢者では肉魚が少ない傾向にあり栄養が偏りがち」「朝食が簡単すぎ、少食すぎるのは問題」「できれば毎食5g程度のたんぱく質が必要」「肉や魚だけでなく、乳製品や大豆製品からもたんぱく質は摂れるので、飽きない献立作りが必要」など、日ごろから高齢者が筋肉をつける食事で注意すべきポイントが語られた。 また、よい食生活の合言葉である「さ(魚)あ(油)に(肉)ぎ(牛乳)や(野菜)か(海藻)い(イモ)た(卵)だ(大豆)く(果物)」(東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取多様性スコアを基に作成されたロコモチャレンジ! 推進協議会考案)をテーマに考案されたレシピが、浜内氏より発表された。料理の特徴として、栄養バランスはもちろん、減塩、血糖値の維持、咀嚼のくせ付けなどに注意を払い作成されたという。 最後に一言として、高田氏は「たんぱく質の摂取の研究はこれからの課題。毎食少しの工夫でうまく摂ってほしい」、藤田氏は「筋肉量が多い人ほど病気の予後が良い。良質なたんぱく質の摂取を意識し筋肉を維持してほしい」、浜内氏は「食事が体を作る。今のライフスタイルに合わせて。食事にも気をかけてほしい」、最後に木村氏は「栄養バランスといいメニューをどう提供するか。健康長寿の延伸に資する製品を提供していきたい」とそれぞれ述べ、終了した。

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若年時の血圧高値、中年以降CVイベントを招く?/JAMA

 40歳未満の若年成人で、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)ガイドライン2017の「正常高値」「ステージ1高血圧」「ステージ2高血圧」の該当者は、正常血圧者と比較し、その後の心血管疾患(CVD)イベントのリスクが有意に高いことが示された。米国・デューク大学の矢野 裕一朗氏らが、前向きコホート研究「Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究」の解析結果を報告した。これまで、若年成人の血圧と中年期のCVDイベントとの関連についてはほとんど知られていない。著者は、「ACC/AHA血圧分類は、CVDイベントリスクが高い若年成人を特定するのに役立つと考えられる」とまとめている。JAMA誌2018年11月6日号掲載の報告。18~30歳の約5千人を30年追跡、血圧分類4群のCVDイベント発生を評価 CARDIA研究は、米国4都市(アラバマ州バーミングハム市、イリノイ州シカゴ市、ミネソタ州ミネアポリス市、カリフォルニア州オークランド市)の施設において、18~30歳までのアフリカ系アメリカ人および白人計5,115例を登録し追跡しているコホート研究で、1985年3月に開始された。今回、2015年8月までのアウトカムを入手し解析した。 最初の検査~40歳前の最後の検査における最高血圧を用いて、被験者を「正常血圧」群(120/80mmHg未満、2,574例)、「正常高値」群(120~129/80mmHg未満、445例)、「ステージ1高血圧」群(130~139/80~89mmHg、1,194例)、「ステージ2高血圧」群(140/90mmHg以上または降圧薬服用、638例)に分類した。 主要評価項目は、CVDイベント(致死的および非致死的冠動脈疾患[CHD]、心不全、脳卒中、一過性脳虚血発作、末梢動脈疾患)であった。正常血圧群と比較し正常高値群1.67倍、ステージ1群1.75倍、ステージ2群3.49倍 解析対象4,851例の調査開始時の平均(±SD)年齢は35.7±3.6歳、女性2,657例(55%)、アフリカ系アメリカ人2,441例(50%)、降圧薬服用206例(4%)であった。 追跡期間中央値18.8年において、CVDイベントの発生は228件であった(CHD 109件、脳卒中63件、心不全48件、末梢動脈疾患8件)。1,000人年当たりのCVD発生率は、正常血圧群1.37(95%信頼区間[CI]:1.07~1.75)、正常高値群2.74(95%CI:1.78~4.20)、ステージ1高血圧群3.15(95%CI:2.47~4.02)、ステージ2高血圧群8.04(95%CI:6.45~10.03)であった。 多変量調整後の正常血圧群に対するCVDイベントのハザード比は、正常高値群1.67(95%CI:1.01~2.77)、ステージ1高血圧群1.75(95%CI:1.22~2.53)、ステージ2高血圧群3.49(95%CI:2.42~5.05)であった。 なお、著者は研究の限界として、食塩摂取量や心理的要因などの残余交絡の可能性、他の人種/民族集団に一般化できない可能性などを挙げている。

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40歳未満、130/80mmHg以上の10年CVDリスクは?/JAMA

 韓国の若年成人(20~39歳)において、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)が2017年に発表した高血圧ガイドライン(ACC/AHAガイドライン2017)の定義でステージ1・2の高血圧症者は、男女ともに正常血圧者と比較して、その後の心血管疾患(CVD)イベントリスクの増大と関連することが示された。韓国・ソウル大学校病院のJoung Sik Son氏らが、約249万例を中央値10年追跡して明らかにしたもので、ステージ1群の男性は1.25倍、女性は1.27倍高かったという。これまで、若年成人におけるACC/AHAガイドライン2017とその後のCVDリスクとの関連は検討されていなかった。JAMA誌2018年11月6日号掲載の報告。ACC/AHAガイドライン2017により4群に分類 研究グループは、韓国国民健康保険サービスに加入する20~39歳で、2002~05年に測定した血圧値が得られた248万8,101例を対象に、2006年1月1日~2015年12月31日まで追跡し、40歳未満の時点における血圧値と、その後のCVDリスクについて評価した。 具体的には、ACC/AHAガイドライン2017に基づき、40歳未満の血圧測定値で被験者を、正常血圧(120/80mmHg未満)、正常高値(120~129/80mmHg未満)、ステージ1高血圧(130~139/80~89mmHg)、ステージ2高血圧(140/90mmHg以上)の4つに分類し、追跡評価した。 主要評価項目は、CVDによる2日以上の入院またはCVD死亡で定義した「CVD」。副次評価項目は、冠動脈疾患(CHD)、脳卒中だった。ステージ1高血圧症、CVD、CHD、脳卒中リスクが男女ともに増大 被験者248万8,101例は、年齢中央値31歳(四分位範囲:27~36)、女性は78万9,870例(31.7%)だった。追跡期間中央値10年において、CVDイベントの発生件数は4万4,813件だった。 男女ともに、ベースラインでステージ1高血圧症群は、正常血圧群に比べ、CVDイベント、CHD、脳卒中のリスクがいずれも高かった。 男性では、CVDイベント発生率は、ステージ1群の215/10万人年に対し正常血圧群は164/10万人年(群間差:51/10万人年、補正後ハザード比[HR]:1.25、95%信頼区間[CI]:1.21~1.28)だった。またCHD発生率は、それぞれ134/10万人年、103/10万人年(群間差:31/10万人年、補正後HR:1.23、95%CI:1.19~1.27)、脳卒中発生率は、90/10万人年、67/10万人年(群間差:23/10万人年、補正後HR:1.30、95%CI:1.25~1.36)だった。 女性では、CVDイベント発生率は、ステージ1群の131/10万人年に対し正常血圧群は91/10万人年(群間差:40/10万人年、補正後HR:1.27、95%CI:1.21~1.34)だった。CHD発生率は、それぞれ56/10万人年、42/10万人年(群間差:14/10万人年、補正後HR:1.16、95%CI:1.08~1.25)、脳卒中発生率は、79/10万人年、51/10万人年(群間差:28/10万人年、補正後HR:1.37、95%CI:1.29~1.46)だった。 ステージ2群についても、同様にリスク増大が認められた。

1865.

DCS vs.DES:大腿動脈領域はパクリタキセル戦争(解説:中野明彦氏)-948

【EVTとPCI】 同じインターベンションでも冠動脈領域(PCI)と末梢動脈領域(EVT)には似て非なる点が多い。まずは両者の違いを列挙してみる。・対象血管の太さ:冠動脈と比較すると腸骨動脈は2~3倍、浅大腿~膝窩動脈は1.5~2倍、膝下動脈は同程度。・病変の長さ:末梢動脈のほうが数倍長い。・ステントプラットホーム:冠動脈では菲薄化と強い支持力を可能とするCoCrやPtCrを用いたballoon-expandable(バルーン拡張型)が、末梢動脈では屈曲・伸展・捻れのストレスにさらされるため柔軟性と支持力を兼ね備えたNitinolを用いたself-expandable(自己拡張型)が主体。・再狭窄のピーク:冠動脈では半年程度だが、自己拡張型ステントにより血管へのストレスが遷延するためか末梢動脈では1年以降も緩徐に再狭窄が進行する。・対象症例・マーケットの大きさ:最新の循環器疾患診療実態調査報告書では国内の症例数はPCI:EVT=4:1である。したがってEVT分野では大規模な臨床試験が遂行しにくい。【大腿~膝窩領域は群雄割拠】 さらに、病変部位によって治療戦略や成績が異なるのがEVTの大きな特徴である。腸骨動脈ではbare metal stentとくにbare nitinol stent(BNS)が5年開存率80~90%と安定した結果を残しているのとは対称的に、重症下肢虚血のみが適応となる膝下領域では閉塞性病変も多く、とくにバルーン治療しか適応されない本邦においては、その高い再狭窄率を打開する糸口が見いだせていないのが現状である。 そして大腿~膝窩動脈は最もホットな領域で、デバイスの進化と相まってガイドラインが改定されるたびに適応病変も拡大している。デバイスは従来のバルーン・BNSに加え、薬剤コーティングステント(DCS)・薬剤溶出性ステント(DES)・薬剤コーティングバルーン(DCB)、さらにはステントグラフト・アテレクトミーまで多岐に渡る。進化の過程はPCIのそれに類似するが、再狭窄予防に用いられる薬剤はlimus系が席巻しているPCIと異なり、冠動脈では一線を退いたパクリタキセルが主役を演じている。この分野にも依然として残るデバイスラグにより、本邦ではバルーン・BNS・DCS・ステントグラフトのみが使用可能であったが、新たに2017年12月からDCB:Paclitaxel-coated balloon(IN. PACT Admiral)が保険適用となった。【IMPERIAL studyについて】 本試験は大腿~膝窩動脈領域のEVTにおいて、非吸収ポリマー被覆・パクリタキセル溶出性ステント(Eluvia)の非ポリマー・パクリタキセル被覆ステント(Zilver PTX)に対する非劣性を検証した多施設単盲検無作為試験である。Eluvia stentはPCI領域(Xience stent / Promus stent)と同じポリマーにより薬剤溶出スピードがコントロールされ、再狭窄のピークとされる1年後までパクリタキセルを放出し続ける。対してポリマーのないZilver PTX stentは24時間で95%のパクリタキセルが放出され、約2ヵ月で血管壁からも消失する。すなわち前者はDrug-Eluting Stent(DES)であり、後者はDrug-Coated Stent(DCS)なのである。 試験の詳細は別項に譲るが、病変長8cm台と長くはないものの、完全閉塞が3割、高度石灰化30~40%のリアルワールドに近い病変が対象で、1年後の有効性・安全性のエンドポイントにおいてEluviaの非劣性が示されただけではなく、1次開存率はEluviaが勝り、再治療率・ステント血栓症もZilver PTXのおよそ半分だった。【Eluvia stentへの期待と懸念】 DESの優劣にはステントプラットホーム、ポリマー、薬剤とその溶出期間などが複合的に影響する。PCI領域でのCypher stent(Sirolimus-eluting stent)に少し遅れ、EVT領域で2000年代に相次いで登録されたlimus系DES:Sirolimus-eluting stent(SIROCCO I・II study)やEverolimus-eluting stent(STRIDES study)は、BNSへの優位性が示せず早々に表舞台から姿を消した。その後のZilver PTXの登場はCypher stentの時のような期待感を抱かせたが、今回のEluvia stentはPCI領域での第2世代DESのイメージである。 しかしまだ1年間の結果であり、課題も多い。たとえばパクリタキセルが溶出し終えた1年以降の長期成績が未確定である。現時点ではfirst-in-manのMAJESTIC試験(n=57、病変長:7cm、完全閉塞:46%、高度石灰化:65%)が3年次までを報告、TLR回避率85.3%と悪くない結果だった。一方、薬剤長期溶出の懸念についてはMunster all-comers registry(n=62、病変長:20cm、完全閉塞:79%、中~高度石灰化:42%)が1年後に8%の動脈瘤形成(あるいは高度の陽性リモデリング)を報告している。 いまだこのDESを持たない日本では、ステントを留置しない「leave nothing behind」の概念が注目されDCB市場がにわかに活気付いている。冠動脈とは比較にならないほどの大量の新生内膜への対応策が確立していないためである。臨床試験もIN. PACT AdmiralによるIN. PACT SFA試験(n=220、病変長:8.9cm)の3年間1次開存率は69.5%、TLR回避率84.8%と良好である。しかし完全閉塞:26%、高度石灰化:8%と重症病変は少なく、7%でステントの追加留置が必要だった。当然のことながらステント(DES・DCS)とDCBは競合的ではなく補完的に使い分けるべきなのだろう。 2016年2月にCEマークを取得、本年9月FDAに認可されたEluvia stentは、おそらく来年にはわれわれの手元に届く。今後の長期成績を見据えながら、各デバイスをどう使い分けていくのかが問われることになる。 Eluviaが“帝国”を築けるかどうか、今後も大腿~膝窩動脈領域のパクリタキセル戦争に注目である。

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第14回 内科からのST合剤の処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・11名全員Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・8名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・3名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。大腸菌か腐性ブドウ球菌 清水直明さん(病院)若い女性の再発性の膀胱炎であることから、E.coli、S.saprophyticusなどの可能性が高いと思います。中でも、S.saprophyticusによる膀胱炎は再発を繰り返しやすいようです1)。単純性か複雑性か 奥村雪男さん(薬局)再発性の膀胱炎と思われますが、単純性膀胱炎なのか複雑性膀胱炎※3 なのか考えなくてはいけません。また、性的活動が活発な場合、外尿道から膀胱への逆行で感染を繰り返す場合があります。今回のケースでは、若年女性であり単純性膀胱炎を繰り返しているのではないかと想像します。単純性の場合、原因菌は大腸菌が多いですが、若年では腐性ブドウ球菌の割合も高いとされます。※3 前立腺肥大症、尿路の先天異常などの基礎疾患を有する場合は複雑性膀胱炎といい、再発・再燃を繰り返しやすい。明らかな基礎疾患が認められない場合は単純性膀胱炎といQ2 患者さんに確認することは?妊娠の可能性と経口避妊薬の使用 荒川隆之さん(病院)妊娠の可能性について必ず確認します。もし妊娠の可能性がある場合には、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠(ST合剤)の中止、変更を提案します。妊婦の場合、抗菌薬の使用についても再度検討する必要がありますが、セフェム系薬の5~7 日間投与が推奨されています2)。ST合剤は相互作用の多い薬剤ですので、他に服用している薬剤がないか必ず確認します。特に若い女性の場合、経口避妊薬を服用していないかは確認すると思います。経口避妊薬の効果を減弱させることがあるからです。副作用歴と再受診予定 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬の副作用歴と再受診予定の有無を確認し、医師からの指示がなければ、飲み切り後に再受診を推奨します。また、可能であれば間質性膀胱炎の可能性について医師から言われていないか確認したいところです。中高年女性だと過活動膀胱(OAB)が背景にあることが多いですが、私の経験では、若い女性では間質性膀胱炎の可能性が比較的あります。ストレス性やトイレを我慢してしまうことによる軽度の水腎症※4のようなケースを知っています。※4 尿路に何らかの通過障害が生じ、排泄されずに停滞した尿のために腎盂や腎杯が拡張し、腎実質に委縮を来す。軽症の場合は自然に軽快することが多いが、重症の場合は手術も考慮される。相互作用のチェック 奥村雪男さん(薬局)併用薬を確認します。若年なので、薬の服用は少ないかも知れませんが、ST合剤は蛋白結合率が高く、ワルファリンの作用を増強させるなどの相互作用が報告されています。併用薬のほか、初発日や頻度 ふな3さん(薬局)SU薬やワルファリンなどとの相互作用があるため、併用薬を必ず確認します。また、単純性か複雑性かを確認するため合併症があるか確認します。可能であれば、初発日と頻度、7日分飲みきるように言われているか(「3日で止めて、残りは取っておいて再発したら飲んで」という医師がいました)、次回受診予定日、尿検査結果も聞きたいですね。治療歴と自覚症状 わらび餅さん(病院)可能であれば、これまでの治療歴を確認します。ST合剤は安価ですし、長く使用されていますが、ガイドラインでは第一選択薬ではありません。処方医が20歳代の女性にもきちんと問診をして、これまでの治療歴を確認し、過去にレボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬を使ってそれでも再発し、耐性化や地域のアンチバイオグラムを考慮して、ST合剤を選択したのではないでしょうか。発熱がないとのことですが、自覚症状についても聞きます。メトトレキサートとの併用 児玉暁人さん(病院)ST合剤は妊婦に投与禁忌です。「女性を見たら妊娠を疑え」という格言(?)があるように、妊娠の有無を必ず確認します。あとは併用注意薬についてです。メトトレキサートの作用を増強する可能性があるので、若年性リウマチなどで服用していないか確認します。また、膀胱炎を繰り返しているとのことなので、過去の治療歴がお薬手帳などで確認できればしたいところです。Q3 疑義照会する?する・・・5人複雑性でない場合は適応外使用 中西剛明さん(薬局)疑義照会します。ただ、抗菌薬の使用歴を確認し、前治療があれば薬剤の変更については尋ねません。添付文書上、ST合剤の適応症は「複雑性膀胱炎、腎盂腎炎」で、「他剤耐性菌による上記適応症において、他剤が無効又は使用できない場合に投与すること」とあり、前治療歴を確認の上、セファレキシンなどへの変更を求めます。処方日数について 荒川隆之さん(病院)膀胱炎に対するST合剤の投与期間は、3日程度で良いものと考えます(『サンフォード感染症ガイド2016』においても3日)。再発時服用のために多く処方されている可能性はあるのですが、日数について確認のため疑義照会します。また、妊娠の可能性がある場合には、ガイドラインで推奨されているセフェム系抗菌薬の5~7日間投与2)への変更のため疑義照会します。具体的には、セフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルです。授乳中の場合、ST合剤でよいと思うのですが、個人的にはセフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルなど小児用製剤のある薬品のほうがちょっと安心して投薬できますね。あくまで個人的な意見ですが・・・妊娠している場合の代替薬 清水直明さん(病院)もしも妊娠の可能性が少しでもあれば、抗菌薬の変更を打診します。その場合の代替案は、セフジニル、セフカペンピボキシル、アモキシシリン/クラブラン酸などでしょうか。投与期間は7 日間と長め(ST合剤の場合、通常3 日間)ですが、再発を繰り返しているようですので、しっかり治療しておくという意味であえて疑義照会はしません。そもそも、初期治療ではまず選択しないであろうST合剤が選択されている段階で、これまで治療に難渋してきた背景を垣間見ることができます。ですので、妊娠の可能性がなかった場合、抗菌薬の選択についてはあえて疑義照会はしません。予防投与を考慮? JITHURYOUさん(病院)ST合剤は3日間の投与が基本になると思いますが、7日間処方されている理由を聞きます。予防投与の分を考慮しているかも確認します。しない・・・6人再発しているので疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)ST合剤は緑膿菌に活性のあるニューキノロン系抗菌薬を温存する目的での選択でしょうか。単純性膀胱炎であれば、ガイドラインではST合剤の投与期間は3日間とされていますが、再発を繰り返す場合、除菌を目的に7日間服用することもある3)ので、疑義照会はしません。残りは取っておく!? ふな3さん(薬局)ST合剤の投与期間が標準治療と比較して長めですが、再発でもあり、こんなものかなぁと思って疑義照会はしません。好ましくないことではありますが、先にも述べたように「3日で止めて、残りは取っておいて、再発したら飲み始めて~」などと、患者にだけ言っておくドクターがいます...。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?服用中止するケース 清水直明さん(病院)「この薬は比較的副作用が出やすい薬です。鼻血、皮下出血、歯茎から出血するなどの症状や、貧血、発疹などが見られたら、服用を止めて早めに連絡してください。」薬の保管方法とクランベリージュース 柏木紀久さん(薬局)「お薬は光に当たると変色するので、日の当たらない場所で保管してください」と説明します。余談ができるようなら、クランベリージュースが膀胱炎にはいいらしいですよ、とも伝えます。発疹に注意 キャンプ人さん(病院)発疹などが出現したら、すぐに病院受診するように説明します。処方薬を飲みきること 中堅薬剤師さん(薬局)副作用は比較的少ないこと、処方分は飲み切ることなどを説明します。患者さんが心配性な場合、副作用をマイルドな表現で伝えます。例えば、下痢というと過敏になる方もいますので「お腹が少し緩くなるかも」という感じです。自己中断と生活習慣について JITHURYOUさん(病院)治療を失敗させないために自己判断で薬剤を中止しないよう伝えます。一般的に抗菌薬は副作用よりも有益性が上なので、治療をしっかり続けるよう付け加えます。その他、便秘を解消すること、水分をしっかりとり、トイレ我慢せず排尿する(ウォッシュアウト)こと、睡眠を十分にして免疫を上げること、性行為(できるだけ避ける)後にはなるべく早く排尿することや生理用品をこまめに取り替えることも説明します。水分補給 中西剛明さん(薬局)尿量を確保するために、水分を多く取ってもらうよう1日1.5Lを目標に、と説明します。次に、お薬を飲み始めたときに皮膚の状態を観察するように説明します。皮膚障害、特に蕁麻疹の発生に気をつけてもらいます。Q5 その他、気付いたことは?地域の感受性を把握 荒川隆之さん(病院)ST合剤は『JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015』などにおいて、急性膀胱炎の第一選択薬ではありません。『サンフォード感染症ガイド2016』でも、耐性E.coli の頻度が20%以上なら避ける、との記載があります。当院においてもST合剤の感受性は80%を切っており、あまりお勧めしておりません。ただ、E.coli の感受性は地域によってかなり異なっているので、その地域におけるアンチバイオグラムを把握することも重要であると考えます。治療失敗時には受診を JITHURYOUさん(病院)予防投与については、説明があったのでしょうか。また、間質性膀胱炎の可能性も気になります。治療が失敗した場合は、耐性菌によるものもあるのかもしれませんが、膀胱がんなどの可能性も考え受診を勧めます。短期間のST合剤なので貧血や腎障害などの懸念は不要だと思いますが、繰り返すことを考えて、生理のときは貧血に注意することも必要だと思います。間質性膀胱炎の可能性 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎の種類が気になるところです。間質性膀胱炎ならば、「効果があるかもしれない」程度のエビデンスですが、スプラタストやシメチジンなどを適応外使用していた泌尿器科医師がいました。予防投与について 奥村雪男さん(薬局)性的活動による単純性膀胱炎で、あまり繰り返す場合は予防投与も考えられます。性行為後にST合剤1錠を服用する4)ようです。性行為後に排尿することも推奨ですが、カウンターで男性薬剤師から話せる内容でないので、繰り返すようであれば処方医によく相談するようにと言うに留めると思います。後日談(担当した薬剤師から)次週も「違和感が残っているので」、ということで来局。再度スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠1回2錠 1日2回で7日分が継続処方として出されていた。その後、薬疹が出た、ということで再来局。処方内容は、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩2mg錠1回1錠 1日3回 毎食後5日分。スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠は中止となった。1)Raz R et al. Clin Infect Dis 2005: 40(6): 896-898.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015.一般社団法人日本感染症学会、2016.3)青木眞.レジデントのための感染症診療マニュアル.第2版.東京、医学書院.4)細川直登.再発を繰り返す膀胱炎.ドクターサロン.58巻6月号、 2014.[PharmaTribune 2017年5月号掲載]

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「がんだけ診ていればよい時代」は終わった?日本腫瘍循環器学会開催

 2018年11月3~4日、都内にて第1回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催され、盛んな議論が行われた。「がんだけ診ていればよい時代」は終わった 日本腫瘍循環器学会理事長の小室 一成氏は、理事長講演で以下のように述べた。 がんと心血管疾患の関係は以前からみられる。近年、がん治療の進歩が生存率も向上をもたらした。そこに、がん患者の増加が加わり、がんと心血管疾患の合併は増加している。さらに、抗がん剤など、がん治療の副作用は、心血管系合併症のリスクを高め、生命予後にも影響することから、がん患者・サバイバーに対する心血管系合併症管理の重要性が増している。実際、乳がん患者の死因は、2010年に、がんそのものによる死亡を抜き、心血管疾患が第1位である。 がん治療において重要な心血管系合併症の1つは心機能障害である。心機能障害を起こす抗がん剤は数多い。アドリアマイシンによる心筋症は予後が悪いことで知られている。また、免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎も、発症率は少ないが、いったん発症すると重篤である。もう1つの大きな問題は、がん関連血栓症(cancer associated thrombosis:CAT)として注目されている、血栓塞栓症である。がん患者では血液凝固系が活性化されているが、そこに、抗がん剤による血栓症や内皮細胞傷害のリスクが加わり、がん患者はさらに血栓塞栓症になりやすくなる。また、血栓塞栓症を合併したがん患者の予後は不良である。血栓塞栓症は、がん外来化学療法患者の死亡の10%を占め、死因の第2位となっている。 そのような中、海外では、90年代から、学会の設立、ガイドラインの発行など、さまざまな取り組みが始まっている。わが国では昨年(2017年)10月に日本腫瘍循環器学会が設立された。同学会では、がん患者・サバイバーのために、腫瘍と循環器の専門医が一緒に活動し、疫学・レジストリ研究、基礎研究・臨床研究の推進、診療指針(ガイドライン)の策定、医療体制の整備、教育研修に取り組んでいく。求められる腫瘍および循環器専門医のチームワーク 日本腫瘍循環器学会副理事長で第1回学術集会の会長である畠 清彦氏は、会長講演で以下のように述べた。 がん対策基本法が制定されて、どの地域でも標準治療が受けられるようになり、全体に底上げされて、今までになかったようなサポート体制が出来上がった。一方で、がん患者はどんどん高齢化し、心血管系合併症も増加している。しかし、がん専門施設での循環器内科医不足など、腫瘍循環器の分野は十分とは言えない。多くの薬が登場する中、心臓血管障害の問題があっても、その対策は各施設に任されている状況である。 また、最近の分子標的治療薬をはじめとする抗がん剤は、短期間の観察で承認される。長期的にどのような副作用が出るか報告が必要となる。心血管系の副作用を正確に報告するためにも、循環器と腫瘍の専門家が協調する必要がある。今後、さらに腫瘍専門医と循環器専門医のチームワークが求められるであろう。

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臨床現場に挑む新人医師たちへ

本キャンペーンは終了しましたCareNet.comでは1年にわたって研修医におすすめの医学教育動画を無料でご提供※通常は有料視聴の医学教育動画ですみんコレ!に会員登録するだけでCareNet.comの会員登録は手間なく完了!2月中旬~3月ごろにCareNet.comから無料公開動画のお知らせメールが届きます。志水太郎 診断戦略エッセンス「なぜ今、診断戦略か?」若手Dr.の支持を集める診断学の「ニューバイブル」を映像化! 「診断」というものを独自のアプローチで捉え直した書として注目された「診断戦略」(医学書院)。 医師が無意識的に行っていた診断に至るプロセスを言語化することで、意識的に、効率的にその精度を向上させることができる、まさに診断学イノベーション! 本番組では著者である志水太郎先生がその本質と、診断力をアップする具体的な方法について解説します!Dr.志賀のパーフェクト!基本手技「第4回 胃管挿入」胃管挿入は、単純そうに見えますが、決して簡単な手技ではありません。 覚醒下で行うため、患者さんにとって非常につらく、不快感があるの手技です。手技を行う際には、しっかりとした配慮が必要です。 また、頭蓋内挿入、気管内挿入、そして穿孔など、重大な事故につながる恐れもあります。 それらを避けるためのポイントとコツ、そしてトラブル対処法をしっかりと分かりやすく伝授します。この番組で、ぜひ、胃管挿入をマスターしてください。自治医大presents総合内科アップデート広範な内科領域で日々アップデートされる最新の知見をリレー講義していく新しいスタイル。各専門医が自分の診療科のなかでもとくに得意とするテーマに絞ってコンパクトに講義するから、専門的でありながら、わかりやすくて実用的。 内科全領域における最新の重要臨床トピックをクイックに学べるので、総合内科医専門医試験対策にも役立ちます。 第1回は、腎臓内科の小林高久先生が2017年にガイドラインが改訂された「急速進行性糸球体腎炎」の病態、診断、治療、早期発見のポイントをクリアに解説します。みんコレ!に会員登録するだけでCareNet.comの会員登録は手間なく完了!2月中旬~3月ごろにCareNet.comから無料公開動画のお知らせメールが届きます。

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特発性肺線維症〔IPF : idiopathic pulmonary fibrosis〕

特発性肺線維症特発性肺線維症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義間質性肺炎は、肺の間質と呼ばれる肺胞(隔)壁などに傷害と炎症が生じ、不可逆的な線維化を起こす疾患群である。この間質性肺炎には、薬剤性、膠原病性、大量の粉塵吸入など原因が明らかなものと、原因が不明な特発性間質性肺炎とがある。主な特発性間質性肺炎は7つの病型に分類されているが、そのうち患者数が最も多く、かつ予後不良の中心的疾患が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。IPFは慢性、進行性の疾患であり、高度の線維化が肺底部、肺の末梢領域から肺全体へ広がって、不可逆性の蜂巣肺と呼ばれる病変を形成する、きわめて予後不良の疾患である。IPFの病理組織像はusual interstitial pneumonia (UIP)と呼ばれている所見である。従来、有効な治療法のない疾患であったが、近年、2つの抗線維化薬が治療薬として注目されている。■ 疫学近年まで特発性間質性肺炎、IPFの患者数についての正確な調査は行われておらず、まったく不明であったが、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」により2008年以来、北海道において詳細な疫学研究が行われ、実態が明らかにされてきた。これによると、特発性間質性肺炎の有病率は10万人あたり10.0人であり、日本全体では少なくとも約1万3千人の患者数となり、その多くがIPFであることから、少なくみても1万数千人以上のIPF患者が日本には存在すると考えられる。■ 病因定義で述べたように、IPFの原因は不明であるが、リスク・ファクターとして喫煙、職場の粉塵(とくに金属粉塵)、ウィルスなどが考えられている。家族性で遺伝的素因が強くうかがわれる例もある。■ 症状IPFはゆっくりと進行する疾患であるが、個々の患者によって比較的急速に進行する例もある。主な症状は労作時の呼吸困難とさまざまな程度の乾性咳嗽である。労作時の息切れは、来院する6ヵ月~数年前から存在しており、聴診ではほとんどの例で、背部下肺野に捻髪音(fine crackle)を聴取する。半分~1/3の例で「ばち指」を認める。進行し末期に至ると、肺性心、末梢性浮腫、チアノーゼなどがみられてくる。■ 分類背景因子として、粉塵吸入の目立つ例、C型肝炎例、糖尿病合併例、膠原病が疑われる症状のある例、過敏性肺炎との鑑別が難しい例、家族性の例などさまざまなサブタイプの存在するheterogeneousな疾患といえる。近年、欧米からの指摘により日本でも再注目されているのが、上肺に気腫が存在し、下肺に線維化がある「気腫合併肺線維症」(CPFE:combined pulmonary fibrosis and emphysema)である。本病態は喫煙と強い関係があり、呼吸機能上、気腫と線維化が相殺されて、1秒率 (FEV1/FVC)は一見正常に近いが、肺拡散能が低下しているという特徴を有する。本病態では、肺がんの高率合併や症例によっては強い肺高血圧症を合併することからも注意が必要である。分類ではないが、IPFの病態としてきわめて重要なものに「急性増悪」と肺がん合併がある。急性増悪を一旦起こすと、死亡率約80%ともいわれ、きわめて予後不良である。■ 予後IPFはきわめて予後不良の疾患で、わが国のある調査では、初診時を起点とした平均生存期間は約5年であった。また、欧米での診断確定後の平均生存期間は28~52ヵ月とされる。しかしながら、IPFの予後にはきわめて多様性があり、数ヵ月で急性増悪などにより死亡する例から10数年以上生存する例までさまざまである。ただ、全体的にはきわめて予後不良の疾患であることは間違いのないところである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)IPFの診断については基本的には図1の「IPF診断のフローチャート」に沿って行われる。まず、原因の明らかな他の間質性肺疾患を除外し、つぎにHRCT所見で典型的なUIPパターン(表1)を示す場合には、臨床的にIPFと確定診断される。外科的肺生検が実施された例では、HRCT所見と病理所見の組み合わせで判断していく(表2)。HRCTで典型的なUIPパターンを示さない場合でもpossible UIPパターンで、臨床経過がIPFに合致するような肺機能低下を示す(disease behavior)例ではIPFと臨床診断されることも可能である。こういった診断の際には間質性肺疾患の診断経験を十分に積んだ呼吸器専門医、画像診断医、病理診断医がMDD(multi-disciplinary discussion:多職種による合議)を行い、総合的に判断していくことがIPFの正確な診断に重要とされている。血液検査所見としては、従来LDHのみであったが、近年、新しい間質性肺炎マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが導入された。これらは、診断と共に活動度の判定にも有用である。呼吸機能としては、通常肺活量(VC)や全肺気量(TLC)の低下がみられ、拘束性換気障害のパターンを示し、また同時に肺拡散能の低下も認められる。ただし、気腫合併肺線維症ではこの限りではないことは前述した。IPFとの鑑別が必要な主な疾患として、表3のようなものがあげられる。画像を拡大する■MDD(multidisciplinary discussion)の取り扱いMDD:下記のとおり、呼吸器内科医、画像診断医、病理診断医が総合的に診断するMDD-A:画像上他疾患が考えられる場合、気管支鏡検査あるいは外科的肺生検で他疾患が見込まれる場合MDD-B:外科的肺生検は積極的UIP診断の根拠になる場合が多いため、患者のリスクを勘案の上、可能な限り施行するMDD-C:IPF症例で非典型的な画像(蜂巣肺が不鮮明など)を約半数で認めるため、呼吸機能の低下など、進行経過(behavior)を総合して臨床的IPFと判断する症例があるMDD-D:病理検査のない場合の適格性を検討する各MDDにおいて最終診断が変わりうる可能性がある画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療今まで、IPFの生存率や健康関連QOLに対して明らかな有効性が証明された薬物治療法はなかったが、2008年に新しく上市された抗線維化薬ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、さらに2015年に上市されたニンテダニブ(同:オフェブ)が大きく注目されている。IPFは治癒が期待できない難治性疾患であるため、その治療目標は改善ではなく、むしろ悪化防止(現状維持)が現実的である。予後不良因子である急性増悪の予防(感冒・心不全などの予防、無理をしないなど)、合併症の肺がん、肺高血圧症の早期発見と対応が求められる。後述する薬剤治療に関しても、治療効果と副作用を考えて選択することが重要である。次に、薬剤治療について述べる。1)N-アセチルシステイン(NAC:N-acetylcysteine)は、グルタチオンの前駆物質であり、抗酸化作用を有すると共に、活性酸素のスカベンジャー作用、炎症性サイトカイン産生の抑制作用などがある。IPFの病変部ではグルタチオンが減少し、レドックスバランスの不均衡が生じていることからも、NACの有用性が考えられる。NACの経口薬については欧州を中心とした臨床試験において効果が示されていたが、近年PANTHER試験で経口薬は無効とされた。しかし、日本ではNACはすでに吸入薬の形で去痰薬として長い歴史がある。吸入薬の形によるNACのIPFに対する検証がわが国でも厚生労働省の研究班を中心に行われ、一定の効果が示されている。NACの利点は副作用が少ない点であるが、吸入療法のため、アドヒアランスに欠点がある。吸入薬のNACについては、抗線維化薬との併用を含めさらに検討が必要である。2)抗線維化薬ピルフェニドンピルフェニドンは米国で創薬された薬剤であり、TNF-αなどの炎症性サイトカイン抑制、線維芽細胞のコラーゲン産生抑制といった抗炎症、抗線維化作用を有する薬剤である。わが国において軽症および中等症のIPFを対象とした第II相試験が行われ、歩行時低酸素血症の改善、呼吸機能の悪化抑制が認められた。さらに第III相試験が行われ、%VC悪化の有意な抑制、無増悪生存期間の改善が認められ、2008年12月に世界初の抗線維化薬として市販された。副作用として当初は光線過敏症が注目されていたが、実際に使用してみるとむしろ問題になるのは胃腸障害である。その後の研究でピルフェニドンはIPF患者のVC/FVCの低下を抑制し、無増悪生存期間の延長、6分間歩行距離の低下抑制を示した。とくに軽症例においてVC低下抑制、無増悪生存期間の延長が際立っていた。いくつかのトライアルの統合解析において、ピルフェニドンはIPF患者の全死亡率、疾患関連死亡率の低下を示したという。3)抗線維化薬ニンテダニブニンテダニブは、ベーリンガーインゲルハイム社によって開発された経口薬である。肺の線維化に関係する3つの分子、VEGF受容体、PDGF受容体、FGF受容体を阻害する低分子トリプリチロキンシナーゼ阻害薬である。わが国では2015年に第2の抗線維化薬として承認され市販された。ニンテダニブは全世界的規模のトライアルにおいてIPF患者の呼吸機能の年間低下率を約50%抑制した。主な副作用は下痢であり、その他肝機能障害などがみられる。4)ステロイド、免疫抑制剤これらの抗炎症薬のIPFに対する効果は基本的に否定されているが、IPFの終末期など症例によっては一定の効果をみる場合もある。また、急性増悪の際の治療としては、頻用されている。その他、進行例では在宅酸素療法が行われ、呼吸リハビリテーションも重要である。進行例で基準を満たせば肺移植の適応でもある。4 今後の展望前述の2つの抗線維化薬に対して、今後どのような重症度から投与するのか、長期の安全性、2つの薬の使い分けまたは併用の可能性などの多くの明らかにすべき課題がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性間質性肺炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き.改訂第3版:南江堂;2016.2)「びまん性肺疾患に関する調査研究」班特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2017. 南江堂;2017.3)杉山幸比古編.特発性肺線維症(IPF) 改訂版.医薬ジャーナル社;2013.4)杉山幸比古編、特発性間質性肺炎の治療と管理.克誠堂出版;2013.公開履歴初回2013年02月28日更新2018年11月13日

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第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応はQ1 糖尿病における認知機能障害のスクリーニング法、どう使い分けたらいいですか?糖尿病は認知症や軽度認知機能障害(MCI)をきたしやすい疾患です。アルツハイマー病は約1.5倍、血管性認知症は約2.5倍起こりやすいとされています1)。糖尿病患者における認知症の発症には、高血糖によるMCI、微小血管障害、脳梗塞の合併、アルツハイマー病の素因などの複数の因子が関連しているとされています。また、MCIを呈することで、記憶力、実行機能、注意・集中力、情報処理能力などの領域が軽度から中等度に障害されます。この中で、記憶力障害や実行機能障害は糖尿病におけるセルフケア(服薬やインスリン注射など)の障害につながります。実行機能は物事の目標を設定し、順序立てて誤りなく遂行する能力です。実行機能の障害によって、買い物、食事の準備、金銭管理など手段的ADLが低下します。手段的ADLが低下し、セルフケアが障害されると、血糖コントロールが悪化して、さらに実行機能障害が起こるという悪循環に陥りやすくなるのです。この実行機能障害は前頭前野の障害が原因とされており、種々の検査がありますが、時計描画試験、言語流暢性試験が簡単に行える検査です。糖尿病における認知機能障害のスクリーニング検査を表に示します(詳細は、日本老年医学会の高齢者診療におけるお役立ちツールを参照)。画像を拡大するまず、一般的にはMMSEや改訂長谷川式知能検査のいずれかを行います。それらが高得点でも認知機能障害が疑われる場合には、時計描画などが含まれているMini-Cog試験、MoCAなどを行うことをお勧めします。Mini-Cog試験は3つの単語を覚えた後に、丸の中に時計の文字盤と10時10分の秒針を書いて、最初に覚えた3つの単語を思い出すという簡単な試験です。時計が書けて2点、思い出すことができた単語の個数を点数として合計点を出します。5点満点中2点以下は認知症疑いとされます。MoCAはMCIかどうかをスクリーニングするのに有用な検査であり、時計描画試験などの種々の検査が含まれていますが、複雑な検査なので臨床心理士などが行う場合が多いと思います。MoCAはMMSEよりも糖尿病における認知機能障害を見出すことに有用であると報告されています2)。上記のMMSEなどの神経心理検査は非日常的なタスクを患者さんに行ってもらうので、メディカルスタッフや介護職が行うには抵抗が大きいように思います。そこで、メディカルスタッフなどが簡単な質問票によって認知機能を評価できるものに、DASC-21とDASC-8があります。DASC-21は地域包括ケアシステムのための認知症アセスメントシートであり、記憶、見当識、判断力(季節に合った服を着る)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理、服薬管理など)、基本的ADL(トイレ、食事、移動、入浴など)をみる21項目の質問からなります(「DASC」ホームページを参照)。各質問を4段階の1~4点で評価し、合計点を出して31点以上が認知症疑いとなります。31点以上でかつ場所の見当識、判断力、基本的ADLの質問のいずれかが3点以上の場合は中等度以上の認知症疑いになります。DASC-8は日本老年医学会が11月に公開したDASC-21の短縮版であり、記憶、時間見当識、手段的ADL3問(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL3問(トイレ、食事、移動)の8問を同様に4段階に評価し、合計点を出します。DASC-8は認知機能だけでなく、手段的ADL、基本的ADLといった生活機能が評価できるので認知・生活機能評価票とも呼ばれます。Q2 糖尿病患者の認知症予防または進行防止のための対策にはどのようなものがありますか?糖尿病における認知症発症の危険因子は高血糖、重症低血糖、CKD、脳血管障害、PAD、身体活動量低下などです。とくに重症低血糖と認知症は双方向の関係があり、悪循環をきたすことがあります3)。したがって、認知機能障害の患者では適切な血糖コントロールと、高血圧などの動脈硬化性疾患の危険因子の治療を行うことが大切です。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により、認知機能とADLの評価に基づいた高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されています(図)。SU薬やインスリンなど低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用する場合で、中等度以上の認知症合併患者はカテゴリーIIIとなり、HbA1c値の目標は8.5%未満で下限値7.5%となります。また、MCIから軽度認知症の場合はカテゴリーIIとなり、HbA1c値の目標は8.0%未満で下限値7.0%となり、柔軟な目標値を設定します。画像を拡大する治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。 注1)認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、日本老年医学会のホームページを参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。注2)高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。注3)糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。【重要な注意事項】糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。(日本老年医学会・日本糖尿病学会編・著.高齢者糖尿病診療ガイドライン2017,p.46,図1 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値),南江堂;2017)高齢者をカテゴリーI~IIIに分類するためにはDASC-8またはDASC-21を行うことが有用です。DASC-8では8~10点がカテゴリーI、11~16点がカテゴリーII、17~32点がカテゴリーIIIとなります。DASC-21では21~26点がカテゴリーI、27~38点がカテゴリーII、39点以上がカテゴリーIIIに相当します4)。DASC-8の質問票と使用マニュアルについては、こちらを参照してください。認知症と診断されないMCIの段階、すなわちカテゴリーIIの段階からレジスタンス運動、食事療法、心理サポート、薬物治療の単純化、介護保険など社会資源の確保を行うことが大切です。運動療法を行い、身体活動量を増やすことは認知機能の悪化防止のために重要です。身体機能の低下した高齢糖尿病患者にレジスタンス運動、有酸素運動などを組み合わせて行うと、記憶力や認知機能全般が改善するという報告もあります5)。可能ならば、週2回の介護保険によるデイケアを利用し、運動療法を行うことを勧めます。市町村の運動教室、太極拳、ヨガなど筋力を使う運動もいいでしょう。低栄養は認知症発症のリスクになるので、食事療法においては十分なエネルギー量を確保します。認知機能に影響するビタミンA、ビタミンB群などの緑黄色野菜の摂取不足にならないように注意することが大切です。薬物療法でもMCIの段階から、低血糖の教育を介護者にも行うことが必要です。低血糖のリスクはMCIの段階から高くなるからです(第2回、図3参照)。また、この段階から服薬アドヒアランスが低下することから、服薬の種類や回数の減少、服薬タイミングの統一、一包化などの治療の単純化を行います。薬カレンダーや服薬ボックスの利用も指導するのがいいと思います。カテゴリーIIIで目標下限値を下回った場合は、減量、減薬の可能性を考慮します。介護保険を利用し、デイケアまたはデイサービスを利用することで、孤立を防ぎ、社会とのつながりを広げ、介護者の負担を減らすことが大切です。家族や介護相談専門員と相談し、ヘルパーによる食事介助、訪問看護による服薬やインスリンの管理、または週1回のGLP-1受容体作動薬の注射などの支援の活用を検討していきます。徘徊、興奮などの行動・心理症状(BPSD)があると、糖尿病治療が困難になることが多くなります。BPSDの対策は環境を調整し、その原因となる疼痛、発熱、高血糖、低血糖などを除くことです。またBPSDは患者の何らかの感情に基づいており、叱責などによってBPSDが悪化することも多いので、介護者の理解を促すことも必要となります。抗認知症薬も早期に投与することでBPSDが軽減し、感情の安定や、意欲の向上、会話の増加がみられることがあるので専門医と相談し、使用を考慮しています。メディカルスタッフと協力して、認知症だけでなく、MCIの早期発見を行い、適切な血糖コントロールとともに、運動・食事・薬物療法の対策を立て、社会サポートを確保することが大切です。1)Cheng G, et al. Intern Med J. 2012;42:484-491.2)Alagiakrishnan K, et al. Biomed Res Int. 2013:186-106.3)Mattishent K, Loke YK. Diabetes Obes Metab.2016;18:135-141.4)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.5)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2017;72:861-866.

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益と害を見極めてポリファーマシーを解消させる

 超高齢化社会に伴い多剤併用が問題視されているが、果たして何が原因なのだろうか。2018年11月6日にMSD株式会社が主催する「高齢者の多剤併用(ポリファーマシー)に関する実態と不眠症治療の課題」について、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)と池上 あずさ氏(くわみず病院院長)が登壇し、ポリファーマシーの原因と不眠症治療のあり方について語った。ポリファーマシーはなぜ起こり、何が問題なのか 多剤服用でも、とくに害をなすものをポリファーマシーと呼ぶ。そして、薬物有害事象、アドヒアランス不良など多剤に伴う諸問題だけを指すのではなく、不要な処方、過量・重複投与などあらゆる不適正処方を含む概念に発展している。 ポリファーマシーが高齢者で起こる理由は、年齢とともに疾患リスクが上昇するからであり、脳心血管疾患、生活習慣病、消化器や運動器などの併存疾患、そして老年症候群に対する処方薬剤の積み上がりが原因とされている。 秋下氏は、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が不眠症治療薬としても利用されている点を問題視しており、「患者は両者が同じ系統の薬剤であることを理解せずに、さまざまな医師に相談をもちかける。結果、重複して服用することになる」と、問題が起こる状況の例を示した。高齢者の多剤併用、どうやって何を減らすと良いのか 患者からの『なぜこれまで飲んでいた薬を減らすのか』という問いに対し、「きちんと説明できない医師が多い」と同氏は語る。こういう場合は、急性期から慢性期、外来から在宅へ移行するタイミングがチャンスだという。東大病院では、薬剤師が主導となり、入院時に“持参薬評価テンプレート”を用いて薬剤調整を実施している。6剤以上服用かつ7つの評価項目のいずれかに該当する場合は、調整対象となり、対象者の21%で薬剤の必要性が見直され、減薬に成功している。 また、さまざまな疾患で使用される抗コリン系薬剤は、認知症リスクを高める報告があるため、高齢者や認知機能が低下している患者において、同氏は「この種の薬剤の重複投与をなるべく避けるよう検討することが重要」と、注意を促した。“中止を前提”として不眠症治療薬を処方する 漫然と処方されがちな不眠症治療薬であるが、高齢者の場合は、服用時の転倒・骨折だけではなく、長期間の服用継続によるせん妄誘発や認知症リスクの増大、さらにはそれらが引き金となり、誤嚥性肺炎から死につながることもある。 不眠症には3つのタイプがあり、入眠困難が年齢と関係ないのに対し、中途覚醒や早朝覚醒は60歳以上になると増える傾向にある。これを踏まえ池上氏は、「夜間頻尿など患者の不眠原因を追求したうえで、“5時間以上眠れたらOK”、“無駄に布団にいない”よう指導する」など、服用中断への導き方を指南した。 また、糖尿病をはじめ生活習慣病に罹患している患者は、不眠症治療薬の服用率が高い。これに対し同氏は、「生活習慣病で病院に受診していると先生に不眠であることを訴えやすく、不眠症治療薬に手が届きやすい」と疾患以外の原因についても言及した。減薬には時間をかけることが大切 「ポリファーマシーに関する診療所医師と保険薬局薬剤師の意識調査」1)における、ポリファーマシーに対する減薬アプローチについて、医師は41.3%が関与していた。一方、服薬指導を行う立場である薬剤師の関与は7.2%であった。これについて秋下氏は、「ポリファーマシーの問い合わせを疑義照会と同じタイミングで行おうとしているのではないか。その場で減薬ができなくても、次やその次に減薬ができれば良いという感覚で問い合わせを行えば、もっとアプローチができるのではないか」と、医師への問い合わせにためらいをみせる薬剤師に対してアドバイスした。 池上氏は、「患者は不眠症治療薬を飲むうえで、“依存性があり止められなくなる”、“効果がなくなる(量が増える)”などの不安を抱え、本当は飲みたくない方が多い。患者一人ひとりの生活環境を把握し、コーヒーやお茶などカフェインを含む飲料は睡眠の4時間前にとるように指導するなど、患者に寄り添うことで減薬は可能である。しかし、減薬する際は、反跳性不眠などのリスクを考慮しながら、しっかり時間をかけて行ってほしい」と、減薬におけるリスクとベネフィットを説明した。 最後に、秋下氏は「レセプトデータ等の処方解析やエビデンス蓄積に努めていく」とし、池上氏は「不眠症も生活習慣病の一つと考え、睡眠衛生指導を行い、出口を見据えた不眠症薬物療法を実践する」と今後の方針や意気込みを示した。■参考日本老年学会:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015日本睡眠学会:睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン1)AMED長寿科学研究開発事業 平成28年度~29年度「高齢者の多剤処方見直しのための医師・薬剤師連携ガイド作成に関する研究」■関連記事身体能力低下の悪循環を断つ診療高齢者の処方見直しで諸リスク低減へ待望の刊行 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」

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CV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA

 先ごろ改訂された米国糖尿病学会・欧州糖尿病学会ガイドラインにおいてSGLT2阻害薬は、心血管系(CV)疾患既往を有する2型糖尿病(DM)例への第1選択薬の1つとされている。これはEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programという2つのランダム化試験に基づく推奨だが、今回、新たなエビデンスが加わった。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて発表された、DECLARE-TIMI 58試験である。SGLT2阻害薬は、CV高リスク2型DM例のCVイベント抑制に関しプラセボに非劣性であり(優越性は認めず)、CV死亡・心不全(HF)入院は有意に抑制した。Stephen D. Wiviott氏(Brigham and Women’s Hospital、米国)が報告した。3分の2近くが1次予防例 DECLARE-TIMI 58試験の対象は、1)虚血性血管疾患を有する(6,974例)、または2)複数のCVリスク因子を有する(1万186例)2型DM例である。クレアチニン・クリアランス「60mL/分/1.73m2未満」例は除外されている。本試験における1次予防例の割合(59%)は、CANVAS Program(34%)に比べ、かなり高い。 平均年齢は64歳、DM罹患期間中央値は11年、平均BMIは32kg/m2だった。併用薬は、82%がメトホルミン、43%がSU剤を服用し、41%でインスリンが用いられていた。CVイベント抑制薬は、レニン・アンジオテンシン系抑制薬が81%、スタチン/エゼチミブが75%、抗血小板薬も61%、β遮断薬が53%で用いられていた。 これら1万7,160例は、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン群(8,582例)とプラセボ群(8,578例)にランダム化され、二重盲検法で4.2年間(中央値)追跡された。MACE抑制はプラセボに非劣性が示された その結果、CV安全性1次評価項目であるMACE(CV死亡・心筋梗塞[MI]・脳梗塞)の発生率は、SGLT2阻害薬群:8.8%、プラセボ群:9.4%(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.84~1.03)となり、SGLT2阻害薬による抑制作用は、プラセボに非劣性だった(p<0.001)。このように、プラセボに比べMACEの有意減少は認められなかったものの、もう1つのCV有効性1次評価項目である「CV死亡・心不全入院」*リスクは、SGLT2阻害薬群で有意に減少していた(HR:0.83、95%CI:0.73~0.95)。*試験開始後、MACEリスク中間解析前に追加 有害事象は、服用中止を必要とするものがSGLT2阻害薬群で有意に多かった(8.1% vs.6.9%、p=0.01)。なおメタ解析でリスク増加が懸念されていた膀胱がんは(Ptaszynska A, et al. Diabetes Ther. 2015;6:357-75.)、プラセボ群のほうが発症率は有意に高かった(0.5% vs.0.3%、p=0.02)。CANVAS programとの併合解析で、1次予防例におけるMACE有意抑制は示されず SGLT2阻害薬による2型DMのCVイベント抑制作用を検討した大規模ランダム化試験は、このDECLARE-TIMI 58で3報目となる。そこでWiviott氏らは、既報のEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programと合わせたメタ解析により、SGLT2阻害薬のMACE抑制作用を検討した。 その結果、CV疾患既往例では、SGLT2阻害薬によりMACEのHRは0.86(95%CI:0.80~0.93)と有意に低下していたものの、リスク因子のみの1次予防例(1万3,672例)では、SGLT2阻害薬によるリスク低下は認められなかった(HR:1.00、95%CI:0.87~1.16)。なお、CV疾患既往の有無による交互作用のp値は「0.05」である。一方、CV死亡・HF入院のHRは、CV疾患既往例で0.76(95%CI:0.69~0.84)、リスク因子のみ例で0.84(95%CI:0.69~1.01)だった(交互作用p値:0.41)。 本試験はAstraZenecaの資金提供を受け行われた(当初はBristol-Myers Squibbも資金提供)。また学会発表と同時にNEJM誌にオンライン掲載された。「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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突然死予防のためのライフジャケットは有効か?(解説:香坂俊氏)-947

心臓突然死は恐ろしい。その恐ろしさはどう表現すればわかってもらえるかわからないが、たとえば自分の患者さんが突然外来に来なくなり、後日ご家族の方から「突然亡くなりました」と聞かされたときの衝撃は相当なものである。この突然死を防ぐためさまざまな試みがなされている。ここ10年の最大の進歩といえばAEDが人の集まるところに設置されるようになった、ということではないか。かつて2010年のNEJM誌に、AEDの普及に伴い日本での院外の心肺停止例の予後が改善傾向にあることが示された(Kitamura T, et al. N Engl J Med. 2010;362:994-1004.)。残る課題はいろいろあるが、「集団」ではなくハイリスクの「個人」に対してどう介入していくかというところが大きい。一回でも心肺停止を経験した個人に対してはその2次予防として除細動器(ICD)が植え込まれるが、心肺停止を起こしたことがなく、単にそのリスクが高いと判断される個人(心不全症状があり、かつEFが極端に低い等)に対しては、米国などではまず40日程度(PCI症例は90日)ガイドラインベースの薬物療法を試みることとなっている。おおよそ1/3くらいの方の状況はそれで改善する。しかし、その40日間で実際にイベントが起きたらどうするのか? 日本では、たとえば東京都が主導して自宅用のAEDを貸し出したりすることが行われてきたが、本当にそれだけで医療者側として「ベストを尽くした」といえるのだろうか?こうした疑問に回答するためにデザインされたのがVEST試験である(このVESTは着用ベストを想定したものであり、BESTとは違う)。この試験で用いられたのは、イベントを検出すると自動的に伝導用のゲルを排出して除細動をかけるという高機能の着用ベストで、これがランダムにハイリスクと考えられる患者に貸与された。その結果であるが、不思議なことに循環器関連のイベントは低下せず、非循環器関連の死亡のみが低下するという結果であった(プライマリエンドポイントは心臓突然死のイベントであり、ここにはランダム化された群間で差がつかなかった)。これをどう解釈するかということはいろいろと議論を呼んでいる。とくにベストを直接地肌に着用しなければならないため、長期的なコンプライアンスの低さは問題だろう。ランダム化当初は8割くらいがベストを常時身に着けていたが、これが90日で4割まで低下している。実際にベスト着用群の突然死の半分以上はベストを着用していないときに起こっており、この試験では着用ベストの効果を過小評価している可能性が高い(一方でリアルにこのベストを使ってもコンプライアンスはさらに下がるだろう、ともいえる)。いずれにせよ悩ましい結果である。コンプライアンスが高いと見込まれる患者さんにはよい選択肢となるのかもしれないが、現段階でこのベストをすべての患者さんに提供しても得られるメリットは少なそうである。

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「血圧の薬は一生飲み続ける」と思い込む患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第23回

■外来NGワード「飲まないとあとあと大変なことになりますよ!」「治療のガイドラインでは薬が推奨されています」「倒れたら、誰があなたの面倒を見るんですか?」■解説 血圧が高いのに医療機関を受診せず、薬を飲むのを嫌う患者さんがいます。その理由の1つとして「血圧の薬を飲み始めると、一生飲み続けなければいけない」と思い込んでいることが挙げられます。しかし、血圧コントロールが良好な患者さんでは、降圧薬を中止しても血圧が正常範囲に保たれる割合が40%程度存在したとの報告があります1)。こういった患者さんには、もともと軽症の高血圧(I度高血圧)だった、減塩・減量などで生活習慣を改善できた、1種類の降圧薬で良好な血圧コントロールができた若年者などのパターンがあると考えられます。また、血圧には季節変動があることが知られており、夏季に血圧が低下する患者さんでは、一時的に降圧薬の減量あるいは休薬を考慮してもよいです。一方、冬季には血圧が上昇して増量や追加が必要になることも少なくありません。患者さん一人ひとりの血圧変動に合わせた服薬調整が大切です。血圧を良好に保つことが将来的な動脈硬化を防ぎ、脳血管疾患、心血管疾患、認知症などの予防につながることを強調して説明してみてはいかがでしょうか。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師今まで、血圧の薬を飲んだことはありますか?(服薬歴の確認)患者ありません。血圧の薬を飲み始めると、一生やめることができないんでしょう?医師そんなことはありませんよ。薬を飲み始めても、食事や運動などに気を付けて、血圧が落ち着いたら薬の量を減らすことや、お休みすることもできます。患者えっ、そうなんですか?医師それに、血圧の薬を飲むことは血圧を下げるためだけでなく、動脈硬化を予防するためでもあるんです。患者動脈硬化を予防するということは…?医師動脈硬化の予防は、脳卒中や心筋梗塞、そして認知症の予防にもつながりますよ。患者なるほど…。医師ただし、薬ですから、副作用が起こることもあります。血圧の薬はたくさんありますから、自分に合った薬を見つけることが大切です。患者そうなんですよね。副作用が心配で、なかなか気が進まなくて…。医師それでは、血圧の薬について、どういう種類があるか説明させてもらいますね。患者はい。よろしくお願いします。■医師へのお勧めの言葉「血圧の薬を飲み始めても、食事や運動などに気を付ければ、薬の量を減らせたり、お休みできたりする人もいます」「血圧を正常範囲に保つことは、動脈硬化の予防になります。脳卒中や心筋梗塞、さらには認知症の予防にもつながりますよ」1)Nelson M, et al. Am J Hypertens. 2001;14:98-105.

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在宅医療で使う漢方薬の役割と活用法

 2018年10月24日、漢方医学フォーラムは、都内で第138回目のプレスセミナーを開催した。当日は、在宅医療における漢方薬の役割について講演が行われた。在宅医療は患者のレジリアンスを高める 講演では、北田 志郎氏(大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 准教授/あおぞら診療所 副院長)を講師に迎え、「地域包括ケアシステムと漢方~“暮らしのなかでいのちを支える” 在宅医療で発揮される漢方薬の役割~」をテーマに講演が行われた。 同氏は、内科ローテートを修めた病院で東洋医学を専攻。以降、精神医学の診療に従事するとともに、中国に短期留学をし、漢方専門外来に従事するなど、漢方薬には深い造詣を持つ。 講演では、少子高齢化、多死化、高齢者の独居化が増加する日本社会で、地域包括ケアの重要性を強調。最新の治療機器、治療薬などで医療を提供し、健康長寿国であるにも関わらず、受益者である患者の医療制度への満足度は低く、提供している医療者は疲弊しきっていることに言及し、その原因を医療需要(患者の思い)と供給(医療者の思い)のミスマッチにあると指摘する。たとえば、終末期の患者を病院で看取ることは、本当に患者が望んでいることなのか、医療者の思いだけで医療の提供をしているのではないかと疑問を呈した。 具体的例として、80代の認知症患者を挙げ、自宅での終末期の過ごし方が患者の病状緩和やQOLの向上に役立ったと自験例を説明した。これを同氏は「レジリアンス(復元力・打たれ強さ)」と呼び、古い記憶をたどる傾向のある認知症では自宅だからこそ医療・介護に役立つ利点があると語る(ただし、在宅医療に拘泥することなく、病の軌跡の局面に応じて使い分けるべきだとも指摘する)。 また、在宅医療では、先端医療の導入が困難であり、治療手段も限定される中で、患者の暮らしと乖離しない技術として伝統医学との親和性を提案する。とくに高齢者の在宅診療では、「虚弱に対する補法」として、代替医療が真価を発揮する場になるという。高齢者への5つの漢方薬の使い方 『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015』(日本老年医学会 編集)では、「漢方薬・東アジア伝統医薬品」と別章を作り、クリニカルクエスチョンとして5剤について有効と記載している。 ガイドラインでは、「半夏厚朴湯」につき、「誤嚥性肺炎の既往をもつ患者における嚥下反射を改善させ、肺炎発症の抑制に有効である」とされている。また、エビデンスについても「有意に肺炎発症を減少させただけでなく、自力経口摂取維持にも有効」とされる。その他の方剤として、「抑肝散」が(アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性)に伴う行動・心理症状のうち易怒、幻覚、昼夜逆転、興奮、暴力など、いわゆる「陽性症状」に、「大建中湯」は脳卒中後遺症における機能性便秘ならびに腹部術後早期の腸管蠕動運動促進に、「麻子仁丸」は高齢者の便秘に、「補中益気湯」は慢性閉塞性肺疾患における自他覚症状、炎症指標および栄養状態の改善にそれぞれ有効とされている。 在宅医療で漢方を用いる意義について同氏は「老いること、死ぬことは生活に属し、現代医学による管理を緩めつつ、医療者に見放されることなく、在宅の生をまっとうする契機を得ることができる」と説明し、最後に「在宅医療における漢方の導入は『医療の根幹部とは何か』を模索する思考につながる」と思いを語り、レクチャーを終えた。

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第11回 レジパスビル/ソホスブビルの8週、12週、24週投与による有効性の違いは?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 C型肝炎の治療薬は近年急速に充実してきました。そのはしりがアスナプレビルとダクラタスビルの併用療法ですが、すぐにソホスブビル(商品名:ソバルディ錠)がインターフェロン無効例でも高い奏効率を示したことから、画期性加算が100%上乗せされて同薬剤には高額な薬価が設定されました。次いでレジパスビル/ソホスブビル(商品名:ハーボニー配合錠)が発売され、「ジェノタイプ(遺伝子型)1型のC型慢性肝炎において、リバビリン併用なしでSVR12を100%達成」と大きな話題になりました1)。レジパスビル/ソホスブビルも高額な薬価が設定され、IQVIAジャパンの調査によれば、レジパスビル/ソホスブビルは2016年の売上金額第1位でした。その後も、2017年にグレカプレビル/ピブレンタスビル(商品名:マヴィレット配合錠)が発売され、こちらも2018年の第1・第2四半期で売上金額第1位となっています2)。何かと話題に事欠かないC型肝炎治療薬の中から、今回はレジパスビル/ソホスブビルに関する研究を紹介します。レジパスビル/ソホスブビルの第III相試験には、多施設オープンラベルのランダム化比較試験のION-1、ION-2、ION-33-5)の3つがあります。いずれも18歳以上のジェノタイプ1のC型肝炎患者を対象としており、未治療例、他剤無効例、肝硬変例などの属性の患者ごとにレジパスビル/ソホスブビルあるいはレジパスビル/ソホスブビル+リバビリン併用の効果を、SVR12をプライマリエンドポイントとして検討しています。なお、SVRとはsustained virological response(持続陰性化)の略で、服用終了から12週後にC型肝炎ウイルス陰性(検出限界未満)が確認された場合にはSVR12となり、24週後も陰性が確認された場合にはSVR24となります。それぞれの試験の結果は下表のとおりです。結果から、インターフェロンが無効であった例でも高い奏効率であること、肝硬変例においても有効であることが読み取れます。また、ION-3において肝硬変なしの未治療例の研究では、8週服用と12週服用で大きな差はみられませんでした。本邦では12週服用が原則ですが、英国のNICEガイダンスにおいては、肝硬変を伴わないジェノタイプ1のC型肝炎については8週服用が推奨されています6)。国民保健サービス(NHS)により原則公費負担で提供される英国の医療制度においては、診療ガイドライン作成時に費用対効果も厳しく査定され、期待できる効果に大差がなければ8週で終了というのは経済的にも副作用予防の側面でも合理的なのかもしれません。なお、比較的多くみられた有害事象は、倦怠感や頭痛に不眠、吐き気、無力症、下痢、発疹などでした。これらの試験は肝がんへの進展や総死亡をプライマリエンドポイントとしているわけではないため、厳密には総死亡や肝がん発生率を語ることはできないのですが、SVR12の達成率が高いということはウイルス陰性が長く続くということなので、肝障害の進展抑制が期待できるものと推察されます。ただし、事例として多いわけではないものの、インターフェロンと異なり免疫活性作用が期待できない直接作用型の抗ウイルス薬治療で肝細胞がんの再発が増えた事例も報告されていますから、一定の認識はあってもよいかと思います7)。飲み忘れ時は「気づいた時点で服用」が原則経験上、レジパスビル/ソホスブビルは自己負担の上限はあれど薬価がきわめて高いことや、肝硬変や肝がんに進行させたくないという治療目的から、患者さんが普段以上に相互作用や飲み忘れ時の対応などで慎重になるように思います。レジパスビルは胃内pHの上昇により溶解性が低下するため、添付文書にはH2ブロッカー併用時は同時投与または12時間の間隔を空け、PPI併用時は空腹時に同時服用となっています。酸化マグネシウムは本邦の添付文書には具体的な服用間隔の指示はありませんが、米国の添付文書では4時間の間隔を空けるとあります。飲み忘れて慌てて連絡してくる患者さんもお見かけしますが、メーカーに問い合わせてみると「一般的に飲み忘れに気付いた時点で服用し、その日の服用はそれのみとして、その翌日から従来通りの服用時点で服用する。同じ日に2回分を飲まないという原則を守る。薬を体内から切らさないようにすることが大切」という回答を得たことがありますので参考にしていただければと思います。1)ギリアド ・サイエンシズ株式会社プレスリリース(2015年8月31日付)2)IQVIAジャパン トップライン市場データ3)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1889-1898.4)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1483-1493.5)Kowdley KV, et al. N Engl J Med. 2014;370:1879-1888.6)NICE guidance Ledipasvir-sofosbuvir for treating chronic hepatitis C7)Reig M, et al. J Hepatol. 2016;65:719-726.8)ハーボニー配合錠 添付文書(2018年2月改訂 第7版)、インタビューフォーム(2018年7月改訂 第8版)9)HARVONI package insert

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第13回 産婦人科からのクラリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)・・・全員Neisseria gonorrhoeae(淋菌)・・・9名クラミジアの可能性 奥村雪男さん(薬局)骨盤炎症性疾患(pelvic inflammatory disease;PID)の原因菌としては、クラミジア、淋菌、大腸菌などの好気性グラム陰性桿菌、Bacteroides 属やPeptostreptococcus 属といった嫌気性菌が想定されますが、今回マクロライド系のクラリスロマイシン(CAM)が選択されているので、診断された原因菌はクラミジアであると予想されます。「性感染症診断・治療ガイドライン2016」では、クラミジア感染症のPIDの治療薬として、CAM 200mg× 2 7 日間が、非妊婦では推奨レベルAとされています。Q2 患者さんに確認することは?アレルギー、併用薬と妊娠の有無 ふな3さん(薬局)CAMのアレルギー、併用薬を確認します。また、チェックすべき危険な疾患として子宮外妊娠が考えられるため、医師から妊娠の有無とその可能性を確認されたかも聞きたいです。産婦人科医からの処方であるため、子宮外妊娠の見落としはさすがにないかと思いますが、リスク管理上、医師がその可能性を確認したかだけは聞いておきたいと思います。パートナーの感染について 清水直明さん(病院)クラミジア感染は性感染症の中でも最も多く、男性・女性ともに無症状または無症候の保菌者が多数存在しています。万が一、患者さんの周囲(パートナー)に症状を呈する人がいれば一緒に治療することが必要ですが、たとえパートナーに症状がなくても治療が必要な場合もあるため、できるだけ受診を勧めてほしい、と伝えるべきだと思います。パートナーを含めて治療しないと、自分は治癒してもまた再感染を起こしてしまうからです。このことは既に医師から説明を受けているかもしれませんが、大事なことなので薬剤師からも伝えるべきだと思います。一方で、妊娠している可能性があるかどうかも服薬指導する上で必要な情報ではありますが、CAMは妊婦でも比較的安全とされていますので、今回はあえて確認しないかもしれません。免疫抑制薬にも注意 児玉暁人さん(病院)あまり遭遇しないかもしれませんが、シクロスポリンやタクロリムスなどの血中濃度のコントロールを必要とする薬剤を服用しているかどうかも聞きます。シクロスポリンやタクロリムスは、CAMとの併用で血中濃度が変化する可能性があるからです。薬剤以外の質問はデリケートなことなので聞きにくいですね。患者さんが話しにくそうなら女性薬剤師に対応してもらう 荒川隆之さん(病院)パートナーの治療についても確認したいところですが、言いにくそうとのことなので、職場に女性薬剤師がいれば、その人に尋ねてもらうかもしれません。再受診について 中西剛明さん(薬局)まず、男性薬剤師が説明をしてもよいかを事前に聞いた上で、再受診するよう指導されているか、専門医に受診するよう指導されているかを確認します。Q3 疑義照会する?しない・・・10人ガイドラインとは異なるが ふな3さん(薬局)「性感染症診断・治療ガイドライン2016」では、CAMは7日間投与となっており、10日間の処方はやや長めかと思いますが、次回受診タイミングなども考慮して、特に疑義照会はしません。する・・・1人CAMの投与期間 JITHURYOUさん(病院)特にしなくてよいかもしれませんが、あえて言うなら、通常ガイドラインで7日間とされているCAMの投与期間を確認します。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?自己中断せずしっかり飲み切ること 中堅薬剤師さん(薬局)処方分は飲み切ることを説明します。副作用がひどく継続困難なときは、自己中断せずに医師に相談するよう助言します。症状がひどくなったら再受診を キャンプ人さん(病院)しっかり服用することの大切さと、下腹部痛がひどくなった場合はすぐに受診する点を説明します。治りきらない場合のリスクも説明 清水直明さん(病院)「指示された通りしっかり服用しないと、治り切らない場合があります。もしも、治り切らないまま放置すると、卵管通過障害を起こしたり、異常妊娠や不妊症の原因になりうるため、指示通りきちんと服用するようにしてください。また、次回の受診が指示されているなら、(治療効果判定のため)必ず受診するようにしてください。」他の医療機関の受診時の注意点 わらび餅さん(病院)相互作用についてチェックが必要なので、服用中に他の医療機関にかかる場合は、CAMを服用していることを必ず申し出るように伝えます。結膜炎への注意喚起 柏木紀久さん(薬局)「クラミジアの場合、手指を介して結膜炎を起こすこともあるので分泌物に触れた手で目などをこすったりしないようにしてください。」まだ25 歳で将来の妊娠のことを考えると、クラミジアによる卵管狭窄など、不妊の恐れもあり「服用後にちゃんと治癒しているかどうかを再診して確認してもらうようにしてください」とも伝えます。飲み忘れた場合の対処法 中西剛明さん(薬局)飲み忘れに気が付いたら、すぐに服用するように指導します。次回の服薬時間が迫っていても、服用するように指導します。市販薬を勝手に服用しないように JITHURYOUさん(病院)CAMはガイドラインでは投与期間が7日間なので、その時点で再診の予定があるのかを確認します。パートナーが受診・治療をしていなければ、受診するように話します。痛み止めの市販薬などを勝手に服用しないように説明します。既に医師から説明を受けているかもしれませんが、自己判断で服薬をやめたりしてきちんと治療を完遂しないと、クラミジアが残存し将来の不妊や流産、早産の危険性が高くなることや、仮に妊娠していた場合には産道感染のリスクが高まることも伝えます。Q5 その他、気付いたことは?アドヒアランスを考慮 児玉暁人さん(病院)アドヒアランスという点ではアジスロマイシン1,000mgの単回もありかなと思いました。踏み込んだ質問は難しい 柏木紀久さん(薬局)性的パートナーの有無、特定パートナー以外との性交渉、コンドーム使用の有無などの聴取は女性でも男性でも難しいと思いますが、女性薬剤師に交代することも考慮します。薬剤師の患者さん対応について わらび餅さん(病院)抗菌薬とは論点が違いますが、対応するのが女性薬剤師であっても、こういった処方や患者さんの対応に神経を使うのは男性と変わらないと思います。私が何歳であっても、相手が何歳でも。初対面の患者と考えると、誰であってもコミュニケーション取るのは難しいかと。私は病院勤務のため、産婦人科や性感染症科のクリニックの処方箋を多く応需している薬剤師の意見を聞いてみたいです。患者さんにどんなことを聞くのか、どのように聞き出すのか、どこまで指導するのか。このような処方のときには女性薬剤師が対応する、性感染症の男性患者だったら男性薬剤師が対応するなど、ルール決めをしている薬局はあるのでしょうか。個人的には、そのようなルール決めをしてしまったら業務が回らないし、薬剤師のレベルアップにはならないのですべきではないと思いますが、そういう配慮が必要なのでしょうか?女性薬剤師でも普通に前立線がんや精巣がんを扱う泌尿器科担当になりますし、男性薬剤師が卵巣がんや子宮がん、子宮脱など扱う婦人科も担当するのですが、以前、授乳しているところに出くわすとバツが悪いという理由で、産科病棟の担当を拒否する男性薬剤師がいたことに違和感を感じたことを思い出しました。「医師から十分な説明は受けていますか?」「何か聞いておきたいことはありますか?」 中堅薬剤師さん(薬局)私は泌尿器の処方箋を応需する薬局で数年、1人薬剤師として勤務したことがあり、若い女性の性感染症にも関わったことがあります。 女性患者さんだと確かに対応には困るのですが、「医師から十分な説明は受けていますか?」「何か聞いておきたいことはありますか?」の2点はどの患者さんにも聞いていました。聞きたい、知りたいということであれば、「男性の私が対応しても大丈夫ですか?」と確認し、必要な説明、助言をしていました。男性患者さんの場合は、ストレートに(配慮しながら)説明していました。ただ、女性事務員には距離をあえて置いてもらい、プライバシーには配慮していましたね。わらび餅さんが言う通り、薬剤師は患者さんの性別を問わず、全ての投薬ができるように努力することは大切だと思います。後日談(担当した薬剤師から)ちょうど2週後に再来局。薬の飲み忘れがあり、今日まで薬が残っていたとのこと。医師には怒られはしなかったが、治療が成功しないかもしれないと言われ心配になりました、と聞き取りました。念のためなのか、今度はミノサイクリン錠100mg 1 回1 錠 1 日1 回 朝食後 10 日分の処方が出ていました。これで治療は完結したのでしょうか、以降の来局はありませんでした。[PharmaTribune 2017年4月号掲載]

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がん悪液質とグレリン様作用薬

 近年、グレリン様作用薬が、がん患者の悪液質症状の改善・軽減効果を示すことが大規模臨床試験で報告され注目を浴びている。そのような中、がん悪液質とグレリンの関係について、日本臨床栄養学会総会・日本臨床栄養協会総会の第16回大連合大会において、国立がん研究センター東病院の光永 修一氏が発表した。がん悪液質とは? がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することが困難で、進行性の機能障害をもたらし、著しい筋組織の減少を特徴とする複合的な代謝機能障害」(EPCRCガイドライン)と定義される。診断については、「(がん患者における)過去6ヵ月間で5%を超える体重減少がある」「BMI 20未満の患者で2%を超える体重減少がある」または「2%を超える体重減少とサルコペニアを認める」という基準が国際的コンセンサスを得ている。 がん悪液質の頻度は高く、緩和ケアがん患者では46%、進行肺がん初回化学療法前で14%、膵がん診断時では63%との研究結果がある。 がん悪液質患者の予後は悪く、緩和ケア外来、膵がん診断時ともに悪液質があると全生存期間が有意に低下している。また、がん悪液質の増悪と体重減少は相関することが明らかになっており、初回化学療法前のNSCLCの試験では、体重減少が大きいほど悪液質症状が強くなり、治療前および治療中の体重減少が大きいと生命予後が悪くなることが明らかとなっている。がん悪液質の4つの症状と3つの病期 がん悪液質の症状は多様である。そのさまざまな症状が相まって、患者のQOLを悪化させ、予後を悪化させる。がん悪液質の特徴的な症状としては、体重減少(Storage)、食欲不振(Intake)、CRP上昇などの病勢の悪化(Potential)、身体機能の低下(Performance)という4つ(SIPP)がある。 これら症状の程度によって、がん悪液質は「前悪液質」「悪液質」「不応性悪液質」の3段階の病期に分類される。「前悪液質」は、代謝異常は伴うが、体重減少5%以下で比較的症状の軽度な段階。「悪液質」は、過去6ヵ月間で5%超の体重減少、といった前述の定義を満たし、食欲不振や全身炎症を伴う段階。「不応性悪液質」は、異化状態が進み、全身状態が低下し、治療抵抗性に陥っている段階とされる。グレリン様作用薬が悪液質患者の食欲を速やかに改善 がん悪液質は、「前悪液質」段階で治療を開始することで、高い介入効果が期待されている。そのため、悪液質誘導分子、炎症性サイトカイン、食欲に関わる神経内分泌調節不全といった、悪液質の初期段階に関与する標的に焦点を当てた、治療方法の開発が進んでいる。 その中で、グレリンは、食欲とともに、タンパク同化、消化器症状の緩和を促すことから、神経内分泌不全に対する効果が期待されている。また、がん悪液質患者では、内因性グレリンの作用が発揮されにくい可能性が示唆されている。 そのような中、外因性グレリンとしてグレリン様作用薬anamorelinの介入が研究されている。anamorelinは、第II相試験において良好な成績を示し、その後、NSCLCの悪液質患者を対象とした、第III相ROMANA1、ROMANA2試験が行われた。ROMANA1、2ともに500例近い患者が登録され、anamorelin群とプラセボ群で比較検討された。主要評価項目は、除脂肪体重および握力の変化量である。結果、主要評価項目の1つである除脂肪体重は、ROMANA1、2ともにanamorelin群で有意に優れていた。また、その改善は速やかであった。さらに、食欲についてもROMANA1、2ともに速やかに改善し、その後も改善は有意に持続していた。しかし、握力の改善は認められなかった。有害事象については、軽度の消化器症状が若干増加するものの、それ以外はプラセボと大きな違いはなかった。わが国でも、消化器がんと肺がんで第II相試験が行われ、国際的な第III相試験と同様の結果が報告されており、グレリン様作用薬anamorelinはがん悪液質治療の選択肢の1つとして期待されている。〔11月9日 記事の一部を修正しました〕■関連記事日本人肺がんの悪液質に対するanamorelin二重盲検試験の結果(ONO-7643-04)サルコペニア、カヘキシア…心不全リスク因子の最新知識※医師限定肺がん最新情報ピックアップ Doctors’Picksはこちら

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てんかんを正しく診断するために

 てんかんはあらゆる年代で100人に1人程度発症する身近な病気だ。ただし約7割は治療により発作なく日常生活が送れる。つまり、てんかんは決して珍しい病気でも、治療が難しい病気でもない。しかし、てんかん発作に対する誤ったイメージが要因で、適切に診断されないことは多い。適切な診断には、まずさまざまな発作があることを知り、てんかんに対する正しい知識を持つことが重要である。 今回、こうした見落としやすい発作の理解を促す目的で、「てんかんの正しい診断をサポートするために~知っておきたい、てんかん発作のいろいろ~」と題するセミナーが都内にて開かれ、さまざまなてんかん発作の特徴などが語られた(主催:大塚製薬株式会社、ユーシービージャパン株式会社)。 演者の神 一敬氏(東北大学大学院医学系研究科 てんかん学分野 准教授)は、「てんかんの診療において最も重要なのは、てんかん発作を知ることである」と強調した。 以下、セミナーの内容を記載する。その症状、実はてんかん発作かも? てんかん発作というと、全身痙攣を起こす強直間代発作を思い浮かべることが多いが、実はその種類は多様である。発作は、脳全体が興奮する全般発作と、脳の一部が興奮する部分発作に分けられる。とくに見落とされやすいのが、全般発作の中ではミオクロニー発作、部分発作の中では複雑部分発作だ。 ミオクロニー発作は思春期に多く発現し、全身や手足が一瞬ぴくっとなる発作である。具体的には、「食事中に食器をたびたび落とす」といった形で現れる。このとき患者に意識はあるものの、てんかんの発作であるとは気付きにくいため、診断の際に医師が「時々物を落としませんか?」などと問いかけることが重要である。 複雑部分発作では、ぼーっとした状態で一点を凝視し、「手をもぞもぞさせる」などの自動症を伴うことがある。患者に意識はなく、発作後も意識がもうろうとすることが多い。 どちらの発作も気付かれにくく、見落とされやすい。だからこそ、正しい診断が重要となる。まずは病歴聴取、究極は長時間ビデオ脳波モニタリング検査 てんかんの診断に重要な4本柱は、病歴聴取、MRI、外来脳波、長時間ビデオ脳波モニタリング検査(VEEG)である。まずは、てんかんを見落とさないために、病歴聴取で患者さんからしっかりと発作の様子を聞き出すことに努めてほしい。患者さんが発作中のことを覚えていない場合には、家族にスマートフォンなどで発作の様子を撮影してもらうことも有効だ。 さらに、発作を最も確実に診断、記録できる検査としてVEEGが注目されている。これは、昼夜持続でビデオと脳波を記録する検査であり、てんかん発作を詳細に読み解くことができる。2018年に改訂された「てんかん診療ガイドライン」においても、新しくVEEGの項目が取り上げられ、てんかんの確定診断、病型診断および局在診断において有用であることが明記された。臨床現場に追い風 このVEEGを実施する際の保険点数は、2010年には1日900点だったが2016年に施設限定で3500点に引き上げられた。さらに、2018年に施設基準が緩和され、適応施設が拡大していることから、今後こうした専門施設への紹介が増えることが期待される。また、日本における抗てんかん薬の選択肢も増えており、患者さんにとって良い治療環境が整いつつある。しかし、治療に至るまでには、まずはてんかん発作を正しく診断する必要がある。見落としがちな発作を知り、確実に診断することで、適切な治療につなげてほしい。 なお、大塚製薬株式会社、ユーシービージャパン株式会社が運営するてんかん情報サイト「てんかんinfo」には、医療従事者にとっても参考となる発作の具体的症状が動画で掲載されている。 本講演は、「てんかん診療における追い風を活かし、患者さんにより良い治療を提供していきたい」という神 一敬氏の言葉で締めくくられた。

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第12回 内科からのホスホマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Salmonella enterica(サルモネラ)・・・10名Campylobacter(カンピロバクター)・・・9名Escherichia coli(大腸菌)・・・8名ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルスなどのウイルス・・・4名大腸菌へのホスホマイシン投与 奥村雪男さん(薬局)ひどい下痢・腹痛、食事内容から、細菌性腸炎の可能性があります。起因菌は疫学的にはカンピロバクター、サルモネラ、下痢原性大腸菌の場合が多いですが、ユッケは通常生の牛肉を使用していること、ホスホマイシンが選択されていることから、大腸菌が最も疑われている、もしくは警戒しているかも知れません。「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015─腸管感染症─」では、成人の細菌性腸炎のエンピリックセラピーとして、第一選択にはレボフロキサシン、シプロフロキサシンといったキノロン系抗菌薬、アレルギーがある場合の第二選択としてアジスロマイシンやセフトリアキソンが挙げられています。O157 などの腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)の場合、溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome ;HUS)※発症が問題となりますが、「発症から2日以内のホスホマイシンの使用はHUSの発症リスク低下と関連していた(補正後オッズ比0.15, 95%CI 0.03~0.78)」という報告1)があり、処方の際、それを意識されたのかも知れません。※ベロ(志賀)毒素を産生するO157などのEHEC感染をきっかけに、下痢症状を伴った溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全を主な症状とする可能性は低いがノロウイルスかも JITHURYOUさん(病院)O111、O157などのEHEC、カンピロバクター、サルモネラ、貝類等を食している可能性を否定できないので、可能性は低いですがノロウイルス、ロタウイルスも考えられます。大腸菌がもっとも疑わしい 荒川隆之さん(病院)生肉による食中毒と思われるので、大腸菌やカンピロバクター、サルモネラなどが原因菌として考えられます。ただ、サルモネラの場合はニューキノロン系抗菌薬、カンピロバクターの場合はマクロライド系抗菌薬が第一選択となります。今回の症例はホスホマイシンを使用していることから、大腸菌が最も疑わしいかと思います。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴、併用薬、採便をしたか 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬関連の副作用歴、併用薬と、採便をしたかどうかを確認します。基礎疾患の有無 奥村雪男さん(薬局)薬(特にキノロン系抗菌薬)のアレルギーがあるか確認します。重症化のリスク因子となる免疫不全などの基礎疾患の有無も確認します。経過をもう一度確認 キャンプ人さん(病院)単なる胃腸炎の可能性もあるかもしれないので症状発現までの時間を確認します。便の培養結果はどうだったか。ノロウイルスの迅速結果はどうだったか(自費なので行わない施設もあるかもしれません)。便の色 柏木紀久さん(薬局)併用薬、便の色や状態(血が混じっているかどうか)、尿は出ているか、また尿の色などの状態はどうか、嘔吐や発熱はあるか、水分は摂取できているか。食事は摂れるか 中西剛明さん(薬局)食事の摂取が可能かどうか聞きます。用法に関連するからです。家族の情報も聞き出す わらび餅さん(病院)妻と子供の症状を尋ねます。患者と同じか、いつからか、血便や腹痛の場所、発熱の有無など患者や家族の症状詳細を聞き、家族としての原因菌や重症度の評価をします。また、妻や子供は現在、何の点滴をしているか、家族に処方箋は出たのかも確認したいです。脱水状態 JITHURYOUさん(病院)利尿薬やSGLT2阻害薬の併用確認をすることは重要だと思います。感染性胃腸炎では脱水により急性腎障害リスクが高くなり、これらの薬剤はもともとの薬理作用からそのリスクを助長する可能性があります。もしこれらの薬剤を使用していたら、一時休薬する必要性があると思います。他にも休薬すべき糖尿病治療薬はありますが、とりわけ脱水という視点で言うとこれらの薬剤になります。本症例では、現在意識清明で、脱水としても重症感はないのですが、ツルゴール反応※や尿量など確認したいと思います。※ ツルゴールとは皮膚の緊張のことで、前腕あるいは胸骨上の皮膚をつまみ上げて放し、2秒以内に皮膚が元の状態に戻れば正常と判断し、2秒以上かかるようであれば脱水症の可能性がある。Q3 疑義照会する?する・・・6人ホスホマイシンの使用量 荒川隆之さん(病院)ホスホマイシンの使用量が少ないので疑義照会します。ただEHECの場合、抗菌薬使用により菌の毒素放出が亢進されHUS発症の危険性が増すとの報告もあるので、使用量を加減しているのかもしれません。海外においては、EHECの場合に抗菌薬の使用を推奨しないことが多いのですが、国内ではホスホマイシンが有効であったとの報告1)もあり、議論の残るところです。腎障害を考慮しての減量の場合もあるかもしれませんが、もともと経口では血中濃度が上がりにくい抗菌薬ですので、ある程度ならば通常用量でよいと考えています。医師の処方意図、真意を探ることも意識して疑義照会を行います。用法の提案も 中西剛明さん(薬局)抗菌薬が必要か確認します。うっかり投与すると菌の破壊で毒素放出量が増加し、HUSを発症するかもしれないからです。個人的には、ホスホマイシンは使用しない方が安心できます。ホスホマイシンを投与するなら、食事を取れない可能性を考慮して、用法は食後ではなく、8時間ごとを提案します。抗菌薬は必要? JITHURYOUさんホスホマイシン投与量1.5g/日と投与期間について疑義照会します。仮にEHECとしても、抗菌薬治療に対しては要・不要双方の見解があります。本症例は、救急外来で点滴後に朝一番の来局ということもあり、重症感があまり感じられないこと、ホスホマイシン投与量が絶対的に少ないことなどを勘案すると、抗菌薬自体不要ではないのでしょうか。仮に必要だとして、このままホスホマイシンを続けるのか、JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015では1日2gとなっていること、第一選択薬であるニューキノロン系抗菌薬にしないのかを確認したいです。抗菌作用以外の効果(HUS予防や炎症性サイトカイン抑制)を狙っているのかも併せて確認したいです。しない・・・4人EHECの可能性の場合もあるので現状で様子見 清水直明さん(病院)疑義照会はしません。入院はしていないようなので、症状は軽症~中等症だと想定すると、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌やノロウイルス・サポウイルスなどのウイルス性の場合、抗菌薬投与は不要であると思います。しかしながら、万が一、O157を代表とするEHECの可能性がある場合には、HUSや脳炎などを併発して重篤化することが多いので、ホスホマイシンの投与で様子を見てもいいと思います。ただし、EHECに対する抗菌薬投与の是非については、専門家の間でも意見が分かれているようです。投与量はやや少なめですが、腸管内での作用を期待しており、ホスホマイシンのバイオアベイラビリティは比較的低く(吸収率は12%)、腸管内に高濃度でとどまるのでそのままとします。用量で迷うが・・・ ふな3さん(薬局)ホスホマイシンの量が少ない(2~3g/日が適当)と思います。微妙な量なので、疑義照会をするか非常に悩ましいところです。ホスホマイシンの有効性については議論があるところなので、疑義照会はしないと思います。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬の服用タイミング、抗菌薬を飲みきる 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬は食後である必要はなく、食事できない場合でも、普段の食事の時間に合わせて服用してよいことを伝えます。採便をしたことが分かれば、ホスホマイシンはつなぎの治療であることを説明します。もし採便しておらず、再受診指示もないのであれば、自ら再受診した方がよいと助言します。再受診の目安 柏木紀久さん(薬局)注意してもらうのは脱水と二次感染、EHECだった場合はHUSへの移行が心配です。また、「血尿、浮腫、貧血、痙攣などが出たら再度受診してください」とも伝えます。下痢止めは使用しないこと 清水直明さん(病院)「指示された通りに正しく最後まで服用してください。ただし、服用の途中であっても、便に血が混じってきたり、意識障害など普段と違った様子が見られた場合は、すぐに救急外来を受診してください。市販の下痢止めは症状を悪化させることがあるので、使用しないでください。」水分補給と二次感染予防 ふな3さん(薬局)「食欲がなく食事が取れなくても、1日3回5日分、しっかり飲みきってください。下痢によって脱水症状が心配されますので、経口補水液などで、しっかり水分補給をしてください。(外出先での排便により感染を広げる可能性があるので)下痢が治まるまでは、自宅で過ごすようにしてください。自宅に他の同居家族がいる場合には、ドアノブ・便器の消毒やタオルの共用を避けるなど注意してください。」Q5 その他、気付いたことは?検査結果までのつなぎ 中堅薬剤師さん(薬局)経験上ですが、開業医は便検査結果が出るまでの「つなぎ」として、ホスホマイシンを数日分処方することがあります。本症例でも、夜間救急で対応した医師も専門ではなく、便検査もできないため、同じような意図で対応したのではないか、と推測します。重篤化のリスクと再受診について 荒川隆之さん(病院)小児ではないので可能性は低いと思うのですが、EHECでは、5~10%の患者さんでHUSを起こし重篤化することが知られているため、元気がない、尿量が少ない、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠傾向などの症状が見られた場合にはすぐに受診するように伝えます。時間経過の重要性 キャンプ人さん(病院)菌やウイルスにより潜伏期間が異なるため、丁寧に時間経過を聞くことが大切だと思います。原因菌や経過は分からないことが多い わらび餅さん(病院)実際、このような腸管感染の原因菌は培養提出しないとはっきりせず、ほとんどの場合分からないままです。すぐに元気になってほしいと願うばかりで、正しい選択だったのか経過の確認も難しいです。とりあえず抗菌薬? JITHURYOUさん(病院)本症例は軽症である可能性があり、前述したように抗菌薬投与が必須ではないと考えることもできます。水分を取っても吐くような状況であれば、点滴が必要となります。対症的に五苓散(柴苓湯)などの併用の提案も考慮したいです。ひどい下痢ということから、整腸剤も最大投与量を提案したいです。また考えたくないのですが、夜間診療ということで「とりあえず抗菌薬を処方しておけばなんとかなる」という考えもあったかもしれません。後日談(担当した薬剤師から)用量について疑義照会をしましたが、処方医が外部の非常勤の医師で、既に当直を終えて帰宅しており、回答が得られませんでした。本来は、疑義が解決していないのでこのまま調剤してはいけないのですが、カルテを確認してもらい、特に不自然な点もないことから、急性疾患の患者を待たせることはできないという状況もあり、やむなくそのまま調剤しました。1回きりの来局で、その後の経過は不明です。1)Clin Nephrol 1999; 52(6): 357-362. PMID:10604643

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