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不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

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第17回 米国10代で肥満症治療薬「セマグルチド」使用が50%急増、期待と懸念が交錯

アメリカの若者の間で深刻化する肥満。この問題に対し、新しい治療の選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬の肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウゴービ[Wegovy])の使用が、10代の若者たちの間で急増しています。ロイター通信が報じた最新のデータによると、その使用率は昨年1年間で50%増加しました1)。これは、長年有効な対策が限られていた若年層の肥満治療における大きな転換点であると同時に、専門家の間では期待と懸念の意見が交錯しています。深刻化する肥満と「最後の手段」としての新薬このニュースの背景には、米国の若者をめぐる深刻な健康問題があります。現在、米国の12~19歳の約23%、約800万人が肥満であるとされ、この割合は1980年の5%から大幅に増加しています。肥満は将来の糖尿病や心臓病のリスクを高めるため、長年、食事療法や運動といったライフスタイルの改善が推奨されてきましたが、それだけでは効果が不十分なケースが少なくありませんでした。こうした状況の中、製薬大手ノボ ノルディスク ファーマの開発したセマグルチドが、2022年後半に12歳以上の青少年への使用を承認されました。この薬には強力に食欲を抑える効果があり、臨床試験で高い有効性が示されています。米国小児科学会(AAP)も2023年1月に、12歳以上の肥満の子供に対し、生活習慣の改善と並行して減量薬を使用することを推奨するガイドラインを発表しています2)。こうした流れが、医師や患者家族の間でセマグルチドに対する信頼感を高め、使用の拡大につながったとみられています。50%増でも「氷山の一角」、使用率が示す現実ロイターが報じた分析によれば、セマグルチドの処方率は2023年の青少年10万人当たり9.9件だったのが、昨年(2024年)には14.8件と50%増加し、今年(2025年)の最初の3ヵ月では17.3件にまで伸びています。このデータは、全米130万人の12~17歳の電子カルテを分析したものです。しかし、この数字はまだ「氷山の一角」にすぎないという指摘もあります。実際、肥満の青少年は10万人当たり推定2万人いるとされており3)、現在の処方率はそのごくわずかにすぎません。残る長期的な安全性への懸念使用が拡大する一方で、懸念の声も上がっているのは事実です。とくに、体の発達において重要な時期にある青少年への長期的な影響については、まだデータが十分ではないという懸念です。また、これらの薬は使用を中止すると体重が元に戻る可能性があり、長期にわたって使い続ける必要があるかもしれないという課題も指摘されています。製造元のノボ ノルディスク ファーマは、臨床試験においてセマグルチドが「成長や思春期の発達に影響を与えるようにはみえなかった」として、その安全性と有効性に自信を示していますが、十分なエビデンスがあるとはいえません。確かにセマグルチドの登場は、これまで有効な手段が乏しかった青少年の肥満治療に大きな希望をもたらしています。しかし一方で、長期的な安全性や費用、そして「痩せ薬」として安易に使用されている現状への懸念など、社会が向き合うべき課題は少なくありません。この新しい治療法が、今後どのように若者たちの健康に影響を与えるのか、慎重に見守っていく必要があるでしょう。 参考文献・参考サイト 1) Terhune C, et al. Wegovy use among US teens up 50% as obesity crisis worsens. Reuters. 2025 Jun 4. 2) Hampl SE, et al. Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Treatment of Children and Adolescents With Obesity. Pediatrics. 2023;151:e2022060640. 3) CDC. Childhood Obesity Facts. 2024 Apr 2.

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がん診断後の運動習慣が生存率と関連

 がんと診断された後の運動習慣が、生存率と関連しているとする研究結果が報告された。年齢やがんのステージなどの影響を考慮しても、運動量が多いほど生存率が高いという。米国がん協会(ACS)のErika Rees-Punia氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the National Cancer Institute」に5月21日掲載された。 運動が健康に良いことは古くから知られている。しかしがん診断後には、がん自体や治療の影響で体力が低下しやすく、運動が困難になることも少なくない。たとえそうであっても習慣的な運動が予後にとって重要なようだ。Rees-Punia氏は、「われわれの研究結果は、がん診断後に活動的に過ごすことが生存の確率を有意に高める可能性を示唆する、重要なエビデンスだ」と述べている。 この研究は、米国を拠点として行われた6件のコホート研究のデータを統合し、がんサバイバー9万844人(診断時の平均年齢67±10歳、女性55%)を対象として実施された。習慣的な運動量は、がん診断後1年以上経過した時点で評価されていた。10.9±7.0年の追跡期間中に4万5,477人が死亡。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、喫煙・飲酒状況、がんのステージ・治療内容)は、統計学的に調整した。 解析の結果、運動を全くしていない人に比べ、ある程度の運動を行っている人の死亡リスクは平均約29%低いことが明らかになった。また、ガイドラインで推奨されている運動量(週に中強度運動を150分、または高強度運動を75分)を満たしている人ではリスクが平均約42%低く、さらに推奨量の2~3倍の運動をしている人は約57%低リスクだった。なお、米疾病対策センター(CDC)は、中強度の運動の例として、早歩き、社交ダンス、軽い庭仕事、ヨガなど、高強度運動の例として、ランニング、水泳、高速でのサイクリング、土の掘り起こしといった庭仕事などを挙げている。 運動により死亡リスクが抑制される可能性のあるがんは10種類あり、ガイドラインが推奨する運動を行っていた場合のリスク低下の程度(ハザード比〔95%信頼区間〕)は以下のとおり。口腔がん(0.44〔0.27~0.73〕)、子宮内膜がん(0.50〔0.34~0.76〕)、肺がん(0.51〔0.38~0.68〕)、直腸がん(0.51〔0.36~0.71〕)、呼吸器がん(0.51〔0.29~0.72〕)、膀胱がん(0.53〔0.40~0.72〕)、腎臓がん(0.53〔0.37~0.77〕)、前立腺がん(0.60〔0.49~0.74〕)、結腸がん(0.61〔0.50~0.76〕)、乳がん(0.67〔0.55~0.81〕)。なお、これら10種類のがんのうち8種類については、追跡開始後の最初の2年以内に死亡した参加者を除外した解析でも有意なリスク低下が認められた。 Rees-Punia氏はこの結果に基づき、「がん治療によって肉体的・精神的な消耗を来しやすいため、運動は大変だと感じられるかもしれない。しかし、全く運動をしないよりは少しでもした方が良い。自分が楽しめる運動を見つけたり、友人と一緒に運動してみたりすると良いのではないか」とアドバイスしている。

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統合失調症に対する簡易心理的介入の有効性~メタ解析

 統合失調症患者に対する認知行動療法(CBT)は、国際的な臨床ガイドラインで推奨されているにもかかわらず実施率が低い。そのため、CBTで推奨される最低16セッションより短い、簡易な短期の個別心理的介入の開発が進められてきた。英国・Hampshire and Isle of Wight Healthcare NHS Foundation TrustのBlue Pike氏らは、統合失調症患者に対する既存の簡易介入(brief intervention)をシステマティックに特定し、その有効性を評価する初めてのメタ解析を実施した。Psychological Medicine誌2025年5月13日号の報告。 5つの電子データベース(PsycINFO、MEDLINE、CINAHL、EMBASE、Web of Science)より、コミュニティ環境で実施された簡易な個別心理的介入に関する査読済みのランダム化比較試験(RCT)または実験的研究をシステマティックに検索した。対象研究の異質性を考慮し、エフェクトサイズを統合するためランダム効果メタ解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・30項目の臨床アウトカムを測定し、6種類の介入タイプ(簡易CBT、記憶トレーニング、デジタル動機付けサポート、推論トレーニング、心理教育、仮想現実)を含む14件の研究が特定された。・全体として、簡易心理的介入は、精神症状(標準化平均差[SMD]:-0.285、p<0.01)、妄想(SMD:-0.277、p<0.05)、データ収集(SMD:0.380、p<0.01)、うつ病(SMD:-0.906、p<0.05)、ウェルビーイング(SMD:0.405、p<0.01)に有効であることが示唆された。・介入タイプ別では、簡易CBTは精神症状に有効であり(SMD:-0.320、p<0.001)、推論トレーニングはデータ収集に有効であった(SMD:0.380、p<0.01)。 著者らは「簡易心理的介入は、統合失調症に関連するいくつかの主要な障害に有効である。本研究結果が、新規統合失調症患者の治療アクセスおよび治療選択肢を改善するきっかけとなることが望まれる」としている。

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女性の低体重/低栄養症候群(FUS)は社会で治療する疾患/肥満学会

 日本肥満学会は、日本内分泌学会との合同特別企画として、6月6日(金)に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)-背景、現況、その対応-」のシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、なぜ肥満学会が「女性の痩せ」を問題にするのか、その背景やFUSの概念、対応などが講演された。わが国の肥満の統計から見えてきた「女性の痩せ問題」 「なぜ、肥満学会が『痩せ』を問題とするのか」をテーマに同学会理事長の横手 幸太郎氏(千葉大学 学長)が講演を行った。 わが国のBMI25以上の成人肥満人口は男性では31.7%、女性では21%あり、なかでもBMI30以上の高度肥満が増加している。とくにアジア人では、より低いBMIから肥満に関連する健康障害が生じることから「肥満症診療のフローチャート」や「肥満症治療指針」などを定め、『肥満症診療ガイドライン2022』(日本肥満学会 編集)で広めてきた。 これらの作成の過程で、わが国の20~39歳の女性では、BMI18.5以下の人口が多く、女性の痩せすぎが顕著であることが判明した。痩せすぎると健康障害として免疫力の低下、骨粗鬆症、不妊、将来その女性から産まれてくる子供の生活習慣病リスクなどが指摘されている。また、近年では、糖尿病や肥満症治療で使用されるGLP-1受容体作動薬などが痩身などの目的で適応外の人に使用されることで、消化器症状、栄養障害、重症低血糖などの健康障害の報告もされている。こうした状況に鑑み、「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するワーキンググループ」を立ち上げ、適正使用の啓発に努めてきた。こうした関連もあり、同学会が健康障害への介入ということで、「FUSの概念を提唱し、診療すべき疾患と位置付けていく」と経緯の説明を行った。診断基準、治療法の確立で低体重/低栄養の健康被害をなくす 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の概念提唱の背景」をテーマに小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門 特命教授)が、FUS概念提唱の背景を講演した。 肥満と低体重はともに健康障害のリスクであり、メタボリックシンドロームは肥満と関連し、サルコペニアは痩せと関連するという疫学データを示した1)。 また、低体重や低栄養が健康障害リスクであることの認知は高齢者医療を除き、まだ不十分であり、医療制度や公衆衛生対策では肥満対策が現在も重視され、高齢者以外の低体重/低栄養のリスクは学術的・政策的にも軽視されていると指摘した。たとえば具体的な健康障害として、肥満も低体重も月経周期の長さや規則性に悪影響を来すことが知られており、若年女性におけるBMIと骨密度の関係では、いずれの年代でもBMIが20を下回ると急激に骨塩量が低下するという2)。 そして、わが国の若年女性の低体重/低栄養に関わる問題として、20代女性の2割がBMI18.5以下と低体重率が高いこと、月経周期異常、骨量減少、貧血などの低体重で多くみられる健康障害があること、健康障害を伴うような痩身への試みとして「GLP-1ダイエット」に代表される「痩せ志向」などがある。とくに「GLP-1ダイエット」は、法律、倫理、臨床上の問題が絡む複合的な課題であると警鐘を鳴らした。 今後の展開として、小川氏は低体重/低栄養の学術上の課題として、低体重(BMI18.5以下)の定義へのさらなる科学的エビデンスの集積とともに、疾患概念確立のために他の関連する学会とのワーキンググループによる活動を行うという。 疾患概念・定義の確立の意義としては、「一定の疾患概念に基づくエビデンスの収集、低体重/低栄養と健康障害に関する社会的認知の向上から診断基準の作成、介入・治療法の確立、健診などでの予防体制整備、教育現場や社会への啓発活動が行われ、健康障害がなくなるようにしたい」と展望を語った。親の一言が子供の「痩せ志向」を助長させる可能性 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の対応~アカデミアの役割と社会へのアプローチ~」をテーマに田村 好史氏(順天堂大学院スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授)が、FUSの概要説明と痩身願望が起こる仕組み、そして、今後の取り組みについて講演した。 はじめに本年4月17日に発表された「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント」に触れ、FUSは18歳以上で閉経前までの成人女性を対象に、低栄養・体組成の異常、性ホルモンの異常、骨代謝異常など6つの大項目の疾患や状態がある場合の症候と定義されていると述べた。現時点では、基準を定めるエビデンスの不足から枠組みを提示するにとどめ、摂食障害や二次性低体重(たとえば甲状腺機能亢進症など)は除かれ、閉経後の女性や男性は含まないと説明した。 FUSの原因としては、ソーシャルメディア(SNS)やファッション誌などのメディアの影響、体質による痩せ、貧困などの社会経済的要因など3つが指摘され、とくに痩せ願望は小学校1年生ごろから生じているという報告もある。 とくにこうした意識は保護者などから「太っちゃうよ」など体型に関する指摘や友人の「痩せた?」などの会話と相まってSNSなどのメディアの影響で熟成され、痩せ願望へとつながると指摘する。 こうした痩身志向者への対応では、体型の正しい理解を促進するために教育介入が必要であると同時に、体質による痩せには定期的な骨密度測定や血液検査、栄養指導などの健康管理が、社会・経済的要因の痩せでは社会福祉の充実が必要と語る。また、その際にFUSの提唱が新しいスティグマ(差別・偏見)とならないように留意が必要とも述べた。 今後の方向性と提言として、診断基準確立のためにガイドラインの策定、健診制度への組み込みで骨量低下の早期発見、教育・産業界との連携で適切な体型イメージ教育や諸メディアとの連携、内閣府の取り組みとして戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)との連携が必要と4項目を示した。 おわりに田村氏は、現在進行しているSIP事業(2023~27年度)として「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」の一端を披露し、「痩せが美しいという単一価値の変更」のために、FUSに該当する女性の疫学調査、学校での教育事業例を紹介した。啓発活動では「マイウェルボディ協議会」を設立し、「医学的に適正な体型を自分の意志で選択できる世界を目指して社会概念の変化を促していきたい、そのために社会的な機運を上げていきたい」と抱負を語り、講演を終えた。 講演後の総合討論では、会場参加の医師などから「子供の摂食障害の問題」「親の痩せているほうがよいという意識の問題」などが指摘された。また、骨量の最高値が30歳前後であることの啓発と若年からの骨密度測定などの必要性が提案されるなど、活発な話し合いが行われた。

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ガイドラインの導入で肺移植待機患者の死亡率が大きく改善

 米国では、2023年に肺移植の新たな臓器配分ガイドラインが導入されて以降、移植待機中に死亡する移植希望者の数が大幅に減少したことが最新の研究で明らかになった。米コロンビア大学アーヴィング医療センターのMary Raddawi氏らによるこの研究結果は、米国胸部学会国際会議(ATS 2025、5月16〜21日、米サンフランシスコ)で発表された。 米国ではかつて、ドナー肺の配分が地理的な近さに基づいて決定されており、ドナーの近くに住む人が優先的にドナー肺へのアクセス権を与えられていた。しかし2017年に、肺移植を必要としていた女性が、臓器配分のポリシーが医療的な緊急度よりも居住地を優先しているのは不公平だとして訴訟を起こした。 この訴訟を受けて臓器配分の地理的範囲が広域化されるとともに、UNOS(全米臓器配分ネットワーク)と臓器調達・移植ネットワーク(OPTN)は新たなガイドラインの策定に着手した。2023年3月に導入された新たなガイドラインでは、従来の地理的優先順位に基づく配分方法に代わり、患者の医療的な緊急度や予測される生存期間、ドナーとの適合性などの他の要素を総合的に評価する「複合配分スコア(Composite Allocation Score;CAS)」が導入された。 Raddawi氏らは今回の研究で、肺移植待機リスト登録患者の転帰が、2017年以前と地理的範囲が拡大された2017年以降(2017年11月〜2023年3月)、およびCASが導入された2023年以降(2023年3月〜2024年3月)でどのように変化したかを調査した。 その結果、待機リスト登録患者のうち待機中に死亡またはリストから除外された割合(以下、待機中の死亡/除外率)は、2017年以前で11.2%であったのが、2017年以降では8.4%、2023年以降では4.1%にまで低下したことが明らかになった。このような死亡/除外率の改善は、特に医療的な緊急度が最も高い上位5%の患者で顕著であり、待機中の死亡/除外率は2017年以前で34.5%であったのが、2017年以降では22.2%、2023年以降では6.5%にまで低下していた。 Raddawi氏は、「われわれが臓器配分システムに変更を加える際には常に、特に重症患者の転帰が確実に改善されるようにしたいと考える。今回の研究結果は、肺移植が正しい方向に進んでいることを裏付けるものだ」と述べている。同氏はまた、「現行のシステムが、医療的な緊急度などさまざまな要素に重点を置いていることを考えると、待機リストに登録されている重症患者の死亡率が低下するのは当然のことだが、それでも実際に低下した数字を見るのは喜ばしいことだ」と語っている。 研究グループは、臓器提供のスコアリングで考慮される特定の要素が他の要素よりも良い転帰につながるのかどうかを確認するために、今回の結果をより詳細に調べる予定だとしている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ビタミンD3は生物学的な老化を抑制する?

 ビタミンD3サプリメント(以下、サプリ)は、本当に「若返りの泉」となって人間の生物学的な老化を遅らせることができる可能性のあることが、新たな臨床試験で示された。ビタミンD3を毎日摂取している人は、染色体の末端にありDNAを保護する役割を果たしているテロメアの摩耗が抑えられていたことが確認されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院予防医学部門長のJoAnn Manson氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Clinical Nutrition」に5月21日掲載された。 靴ひもの先端をカバーするプラスチック製の覆いに例えられるテロメアは、加齢とともに劣化する。そのため研究者は、出生から経過した年数に基づく暦年齢ではなく、実際に体がどれだけ老化したかを表す生物学的年齢の指標としてテロメアを用いている。 この臨床試験では、ビタミンD3サプリおよびオメガ3脂肪酸サプリの効果の検証を目的とした大規模臨床試験であるVITAL試験(試験参加者2万5,871人)のデータが用いられた。VITAL試験では、試験参加者がビタミンD3(1日2,000IU)またはオメガ3脂肪酸(1日1g)のサプリを毎日摂取する群にランダムに割り付けられていた。今回は、VITAL試験参加者のうち、試験開始時とサプリの摂取開始から2年後および4年後にテロメアの長さが評価された1,054人を解析対象とした。研究グループによると、テロメアが短くなると遺伝子の安定性が低下し、がんや心疾患、死亡、慢性疾患のリスクが高まると考えられている。 臨床試験からは、ビタミンD3サプリの摂取群で、プラセボ摂取群と比べて4年間のテロメア短縮が有意に抑制されていたことが明らかになった。一方、オメガ3脂肪酸摂取群では、テロメアの長さに対する明確な効果は見られなかった。 研究論文の筆頭著者である米オーガスタ大学ジョージア医科大学のHaidong Zhu氏は、「今後さらなる研究が必要ではあるが、この結果は、特定の対象に絞ったビタミンDの補給が生物学的な老化のプロセスに対抗する有望な戦略となり得ることを示唆している」とマス・ジェネラル・ヘルスのニュースリリースの中で述べている。 ただし、まだビタミンD3の錠剤を買いだめするのは時期尚早だとManson氏らは警告するとともに、今回の試験で示されたポジティブな効果を、他の研究で検証する必要があるとの見解を示している。Manson氏は、「われわれは、今回の結果は有望であり、さらなる研究の実施に値するものだと考えている。ただし、ビタミンD摂取に関するガイドラインを変更する前に、再現性を確認することが重要だ」とWashington Post紙に語っている。また同氏は、ビタミンD3のサプリ摂取がテロメアに有益な影響をもたらす可能性はあるものの、健康的な食事や日常的な運動の代わりとして位置付けられるべきではないと強調している。 Manson氏は、「繰り返し指摘してきたが、重点を置くべきはサプリではなく、食事と生活習慣である」とWashington Post紙に語っている。その上で、「炎症レベルが高い人や、明らかに炎症に関連した慢性疾患のリスクが高い人などのハイリスク層では、特定のビタミンD3の補給が有益である可能性がある」と付け加えている。

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GLP-1受容体作動薬使用時にすべき生活習慣介入の優先事項とは

 肥満症の治療にGLP-1受容体作動薬が使用される際に、その効果を維持などするために患者の食事や運動など生活習慣に引き続き介入する必要がある。米国・タフツ大学フリードマン栄養科学政策学部のDariush Mozaffarian氏らの研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際に、食事内容や生活習慣介入での優先事項をアメリカ生活習慣病医学会、アメリカ栄養学会、肥満医学協会、および肥満学会の団体とともに共同指針として策定した。この指針はThe American Journal of Clinical Nutrition誌2025年5月29日号オンライン版に掲載された。GLP-1受容体作動薬の使用でも引き続き生活習慣介入は必要 研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際、食事による栄養摂取とほかの生活習慣介入に関する事項について文献を評価し、関連するトピック、優先事項、および新しい方向性を特定した。  主な結果は以下のとおり。・GLP-1受容体作動薬は臨床試験で体重を5~18%減少させているが、リアルワールドの分析ではやや低い効果を示し、複数の臨床的な課題が示されている。・安全性などの課題では、とくに消化器系の副作用、カロリー制限による栄養不足、筋肉や骨の減少、長期的なアドヒアランスの低さとその後の体重増加、高コストによる効果の低さがある。・多くの実践ガイドラインでは、肥満成人に対しさまざまな根拠に基づく食事療法と行動療法を推奨しているが、GLP-1受容体作動薬との併用は広く普及していない。・先述の課題に対応するための優先事項には以下の項目がある。(a)体重減少と健康に関する目標を含む患者中心のGLP-1受容体作動薬の導入(b)通常の食習慣、感情要因、摂食障害、関連する医療状態を含んだベースラインスクリーニング(c)筋力、運動機能、体組成評価を含む総合的な検査(d)社会的健康決定要因のスクリーニング(e)有酸素運動、筋力トレーニング、睡眠、精神的ストレス、薬物使用、社会的つながりを含む生活習慣の評価・GLP-1受容体作動薬使用中は、消化器系副作用への栄養的・医療的管理が重要であり、変化した食事の好みや摂取量への対応、栄養不足の予防、有酸素運動と適切な食事による筋骨格量の維持、補完的な生活習慣介入も不可欠である。・サポート戦略として、グループベースでの患者訪問、管理栄養士によるカウンセリング、遠隔医療およびデジタルプラットフォーム、「食事は薬」への啓発などの介入が挙げられる。・肥満の程度にかかわらず薬剤へのアクセス、食事と栄養への不安、栄養と調理に関する知識は、GLP-1受容体作動薬を用いた者に影響を及ぼす。・今後の研究の重点領域には、内因性GLP-1の食事による調節、アドヒアランス向上の戦略、使用中止後の体重維持のための栄養上の優先事項、組み合わせまたは段階的による集中的な生活習慣管理、臨床的肥満の診断基準が挙げられる。 以上から研究グループは、「エビデンスに基づく栄養と生活習慣の介入戦略は、GLP-1受容体作動薬による肥満治療における主要課題に対処する上で重要な役割を果たし、臨床医が患者の健康向上を促進する上でより効果的になることを可能にする」と結んでいる。

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わが国における単剤療法を考えるにはもう一段の考察も必要か?(解説:野間重孝氏)

 本論文は、PCI後の抗血小板療法において、DAPT終了後の維持戦略としてP2Y12阻害薬単剤療法がアスピリン単剤と比較して虚血イベント抑制において優れ、出血リスクも同等に保たれる可能性を、個別患者データ(IPD)を用いたメタ解析によって明らかにしたものである。対象データはいずれも信頼できるRCTに基づいており、解析の設計と手法も洗練されている。近年積み重ねられてきたP2Y12阻害薬単剤療法の有効性に関する知見を、統合的かつ精緻に再検討した意義は十分に評価できると考える。 ただ、評者のような臨床の現場に長く関わってきた者の立場から見ると、今回示された結果は、すでに多くの医師たちが経験的に感じ取っていた傾向とおおむね一致しており、新たな方向性を提示するというよりは、既存の流れを整理・追認した印象を受けた。もちろん、エビデンスを体系的に裏付ける作業は臨床指針の基盤として欠かせないが、現場感覚としては「やはりそうだったか」と静かにうなずくような感覚に近いのではないだろうか。 一点、気になったのは、本研究においてP2Y12阻害薬が薬剤クラスとして一括りに扱われており、クロピドグレルとチカグレロルの違いが十分に掘り下げられていない点である。とりわけわが国においては、チカグレロルを巡ってPHILO試験などで有効性や忍容性に関する慎重な議論がなされてきた経緯があり、現在もその使用には一定の留意が払われている。P2Y12阻害薬の使用傾向にも、欧米と日本では明確な差があり、欧米ではACSを中心にチカグレロルの使用が広く浸透しているのに対し、わが国ではクロピドグレルとプラスグレルが主流であり、チカグレロルは限定的に用いられるにとどまっている。このような背景を踏まえると、クロピドグレルを中心とした国内のエビデンスを、そのままチカグレロルに拡張してよいかについては、やや議論の余地があるように感じた。 また、本研究が今後の治療方針やガイドラインの改訂に影響を与える可能性があることは容易に想像される。大規模なメタ解析が、科学的意義のみならず制度的な検討材料としても参照されるのは自然なことであり、それ自体は否定されるべきではない。しかし、抗血小板療法の選択は、患者の病態、出血リスク、服薬アドヒアランス、社会的背景など多くの要素を踏まえたうえでの個別最適化が求められる分野であり、1つの方向性のみが過度に強調されることで、現場の柔軟性が損なわれるようなことがあってはならないと思う。 本論文は、DAPT終了後の戦略としてP2Y12阻害薬単剤療法を考慮する妥当性をあらためて丁寧に確認した点で、診療上の安心感を与える結果であると同時に、制度設計を視野に入れたエビデンス整理の1つとしても受け止められるべきものだろう。大切なのは、このような研究成果を、現場の実感と折り合いをつけながら活用していく姿勢であり、形式的な統一に回収されることのない実践的知性こそが、今後の抗血小板療法の在り方を形作っていくことを評者は願うものである。

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治療法が大きく変化、アミロイドーシス診療ガイドライン8年ぶりに改訂

 『アミロイドーシス診療ガイドライン2025』が2024年12月に発刊された。2017年版から8年ぶりの改訂となるが、この間にアミロイドーシスの各病型の病態解明が進み、診断基準をはじめ、トランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシスに対する核酸医薬、ALアミロイドーシスに対する抗CD38抗体薬、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害および軽度の認知症に対する抗アミロイドβ抗体薬の発売など、治療法も大きな変化を遂げている。そこで今回、本ガイドライン作成委員長であり、アミロイドーシスに関する調査研究班1)を率いる関島 良樹氏(信州大学医学部 脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 教授)にアミロイドーシスの現状や診断方法、本書の改訂点などについて話を聞いた。次々と上市された薬剤、最新の診断フローチャートが疾患に光を灯す アミロイドーシスとは、アミロイドの沈着により臓器障害を引き起こす疾患群であり、その原因となる前駆蛋白質についてはヒトでは42種類が同定されている。また、前駆蛋白質の産生部位とアミロイドの沈着部位との関係により、全身性と限局性に分類される。このほかにも病型によって有病率や診断方法、患者・家族へのアドバイスなどが異なることから、本書を「第I章 アミロイドーシスの診断の基礎知識」「第II章 病型別アミロイドーシス最新診療ガイドラインとCQ」の2本柱で章立て、各々が必要なページにたどり着けるような構成になっている。第I章では各冒頭に要約を示しながらアミロイドーシスの基礎知識を解説。第II章では代表的なアミロイドーシスをピックアップし、各病型(診療科別)のClinical Question、それぞれの患者数・有病率、どんな症例で疑うべきか、診断や治療について言及している。 本書の大きな改訂点の1つとして、関島氏は「2017年版は学会承認を得たものではなかったが、今回は5学会(日本アミロイドーシス学会、日本神経学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本血液学会)の承認を得て作成した」と説明。これまでは各学会で個別のガイドラインを作成していたが、アミロイドーシスはアミロイドがさまざまな臓器に沈着し、特異的な所見に乏しい症例も少なくない。「全診療科の先生方に、本症を疑って鑑別診断にあたることが求められるため、全臓器横断的なガイドラインを目指した」ともコメントした。本書のp.17~18には、研究班で作成した最新版の診断基準を反映したアミロイドーシス診断のためのフローチャートが示されているので、患者のどこか(心臓、腎臓、消化管、手根管、関節・靭帯、眼、皮膚、各臓器の腫瘤性病変など)にアミロイドーシスの疑いを持ったら、このフローチャートをぜひ思い出してほしい。 また、診断や治療におけるこの8年の発展は目まぐるしく、各疾患の治療項目も充実した。治療において最も大きな変貌を遂げたのはATTRアミロイドーシスである。ATTRアミロイドーシスは遺伝性(ATTRv)と野生型(ATTRwt)に分類され、主な障害は末梢神経障害(ATTR-PN)と心筋症(ATTR-CM)である。たとえば、タファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)は、ATTRvアミロイドーシスによる末梢神経障害(ATTRv-PN)の進行抑制に加え、2019年にATTR型心アミロイドーシス(ATTR-CM、野生型および変異型)に適応が拡大。核酸医薬(siRNA)であるパチシラン(同:オンパットロ)やブトリシラン(同:アムヴトラ)はATTRv-PN(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)治療薬として承認されている。さらに、ADによる軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制に対する抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ[同:レケンビ]、ドナネマブ[同:ケサンラ])も2023年以降に相次いで承認された。患者を“見て診る”、全医師が特徴をつかみ潜在患者発掘へ しかし、これらの治療薬をうまく使いこなしていくには、診断に至るまでの問診や身体診察が鍵となる。アミロイドーシス自体はさまざまな臓器や血管に沈着することから、すべての診療科に関わる病気であり、とくにADや近年注目を浴びているATTRwtアミロイドーシスは日本国内に数百万人が潜在患者として存在することから、「アミロイドーシスはコモンディジーズである」と話す。「10年前の全国調査1)では、ATTRwtアミロイドーシスの患者数は50人程度だったのが、今は約3,000人に上る。疾患別にみると、心不全患者の中には5万人以上の潜在患者がいると言われ、手根管症候群300万人のうち100万人以上がATTRwtが原因ではないかとわれわれは推測している。ATTRwtは50歳以上の男性、60歳以上の女性で多いため、整形外科領域では該当患者の手根管症候群の手術の際にアミロイド沈着の有無を検査することが浸透し始めている」と説明した。 このような状況を踏まえ、同氏は専門性に応じた理解が必要であるとし、「一般内科医の皆さまには、心不全、脊柱管狭窄症、手根管症候群といったよくある疾患にアミロイドーシスが潜んでいること、息切れや動悸などの心不全症状を生じる前から手足のしびれや痛み、物がつまみにくいなどの運動障害が先行していることがある点に注意してほしい。そして、認知症の約7割がAD2)であることを踏まえ、抗アミロイドβ抗体薬の適応となる軽度認知機能障害(MCI)から軽度の認知症の時期に脳神経内科などの専門科への紹介をしていただくことが重要」とコメントした。 一方、専門医に向けては診療科ごとに以下のような特徴を示した。――――――――――――――――――〇循環器:心アミロイドーシス(ATTRv、ATTRwt、AL)のうち、ATTRwtはとくに頻度が高く男性に多い。〇血液内科:ALアミロイドーシスでは、眼の周囲の出血によるラクーンアイサインがみられる。〇腎臓内科:蛋白尿の原因疾患としてALアミロイドーシスを鑑別に挙げる。長期透析患者で、手根管症候群,ばね指、破壊性脊椎関節症などの骨関節症状を呈する場合、Aβ2Mアミロイドーシスを考慮する。〇神経内科:成人発症の多発ニューロパチーの鑑別にアミロイドーシス(ATTRvおよびAL)を挙げる。高齢者の手根管症候群の主要な原因疾患としてアミロイドーシス(とくにATTRw)を考慮する。〇膠原病:関節リウマチなどで慢性炎症が持続する患者において、下痢や蛋白尿が認められた場合、血清アミロイドA(SAA)を前駆蛋白とするAAアミロイドーシスを鑑別に挙げる。―――――――――――――――――― このほかの特徴的な臨床所見として、「巨舌、上腕二頭筋の断裂(ポパイサイン)などがある。ポパイサインは、腱・靭帯アミロイドーシスによって上腕二頭筋の腱断裂が起こり、これにより上腕二頭筋が短縮して力こぶのように見える。ATTRwtアミロイドーシスで高頻度に見られるので注意してもらいたい」と説明した。 最後に同氏は「現在、アミロイドーシスは治療薬開発も世界的に盛んで、国内では今夏にSiRNA製剤ブトリシランにATTR-CMの適応追加が予定されているなど、目が話せない領域だ。ゲノム編集薬を用いた治療においてもアミロイドーシスが先駆けとなっていることから、3年後に予定している次回改訂ではこれらの知見を盛り込みたい」と締めくくった。

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重症患者の経腸栄養、タンパク質を増量しても予後は改善せず/JAMA

 集中治療室(ICU)入室中の重症患者にタンパク質含有量の高い経腸栄養剤(100g/L)を用いても、通常(63g/L)と比較して90日時点の生存期間などは改善されなかった。オーストラリア・アデレード大学のMatthew J. Summers氏らが、同国およびニュージーランドの8施設のICUにて実施したクラスター無作為化非盲検クロスオーバー試験の結果を報告した。ガイドラインでは、重症患者におけるタンパク質含有量の高い経腸栄養が推奨されているが、患者のアウトカムに及ぼす影響は不明であった。JAMA誌オンライン版2025年6月11日号掲載の報告。タンパク質含有量100g/L vs.63g/Lを比較 研究グループは、経腸栄養におけるタンパク質強化が、生存日数と入院回避期間の延長に結び付くかを検証する目的で、4施設が2022年5月23日より、4施設が2023年8月23日よりそれぞれ12ヵ月間患者を募集し、2023年11月21日に最終追跡調査を行った。 対象患者は16歳以上で、ICUに入室し経腸栄養剤を処方された患者、または入院中にICUに入室し初めて経腸栄養剤を処方された患者とした。 各ICUは、12ヵ月間にわたり3ヵ月ごとに、タンパク質含有量の高い経腸栄養剤(タンパク質100g/L)(タンパク質強化群)→通常の経腸栄養剤(タンパク質63g/L)(通常群)を交互に、またはその逆の順で交互に治療を提供するよう、無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、90日時点の対象病院への非入院生存期間、副次アウトカムは90日時点の生存者における対象病院への非入院日数、90日時点での生存率、侵襲的人工呼吸を受けた患者における侵襲的人工呼吸期間、ICU入室期間および入院期間(生存退院までの期間)、気管切開・挿管および新規腎代替療法の実施率、ならびに退院先であった。主要評価項目に差はなし 計3,397例が登録された。年齢中央値は61歳(四分位範囲[IQR]:48~71)、男性が2,157例(64%)であった。 90日時点の対象病院への非入院生存期間中央値(IQR)は、タンパク質強化群で62日(0~77)、通常群で64日(0~77)であり、補正後の群間差の中央値は-1.97日(95%信頼区間[CI]:-7.24~3.30)であった(p=0.46)。 90日時点で、タンパク質強化群では1,681例中1,221例(72.6%)が生存し、通常群では1,716例中1,269例(74.0%)が生存していた(リスク比:0.99、95%CI:0.95~1.03)。 副次アウトカムに関する群間差は、生存者における非入院日数中央値の差が0.01日(95%CI:-1.94~1.96)、平均侵襲的人工呼吸期間の差が6.8時間(95%CI:-3.0~16.5)であった。また、ICU生存退室までの期間のハザード比は0.93(95%CI:0.88~1.00)、生存退院までの期間については0.96(0.90~1.02)、気管切開術のリスク比は1.15(0.66~2.01)、新規腎代替療法のリスク比は0.97(95%CI:0.81~1.16)であり、退院先は両群で類似していた。

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心臓発作から回復後にしてはいけないこと

 心臓発作から回復した後に、座位行動の時間が長いほど発作再発や死亡リスクが高く、座位行動を運動または睡眠に置き換えることでそのリスクが抑制される可能性のあることが明らかになった。米コロンビア大学医療センターのKeith Diaz氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に5月19日掲載された。 この研究は、2016~2020年に急性冠症候群(心筋梗塞や不安定狭心症)の症状のために同センター救急外来で治療を受けた成人患者を対象に実施された。退院後30日間にわたり、手首装着型の加速度計を用いて、座位行動や身体活動、および睡眠の時間を測定。また退院1年後に、電話調査や医療記録、死亡記録によって転帰が確認された。解析対象者数は609人(平均年齢62歳〔範囲21~96〕、男性52%)で、1日の座位時間は平均13.6±1.8時間だった。 1年間の追跡で8.2%の患者に何らかのイベント(急性冠症候群の再発または新たな心血管疾患の発症および死亡)の発生が確認された。対象者全体を座位行動時間の三分位に基づき3群に分け、第1三分位群(座位行動時間が短い下位3分の1)を基準にイベント発生リスクを比較すると、第3三分位群(座位行動時間が長い上位3分の1)の人は約2.6倍リスクが高かった。詳しくは、第2三分位群がハザード比(HR)0.95(95%信頼区間0.37~2.40)、第3三分位群がHR2.58(同1.11~6.03)であって、座位行動時間が長いほどハイリスクとなる傾向が示された(傾向性P値=0.011)。 統計学的手法を駆使した検討により、30分間の座位行動をやめて中~高強度の身体活動をしたとすると、イベントリスクが61%低下することが分かった(HR0.39〔0.16~0.96〕)。また、軽度の身体活動に置き換えた場合にも、リスクが51%低下(HR0.49〔0.32~0.75〕)すると計算された。さらに、睡眠に置き換えた場合にも、14%のリスク低下(HR0.86〔0.78~0.95〕)が予測された。 Diaz氏はこの研究の背景として、「現在の治療ガイドラインは、心臓発作後の患者に対して、運動を奨励することに重点を置いている。それに対してわれわれは、座位時間の長さそのものが、心血管リスクを押し上げる可能性があるのではないかと考えた」と語っている。そして得られた結果を基に、「心臓発作を経験した後になにもマラソンを始めることはなく、座る時間を減らし体を動かしたり睡眠を少し増やしたりするだけで大きな違いが生まれるようだ」と総括。「この結果を基に、医療専門家が、より柔軟で個別化されたアプローチを採用するように変化していくのではないか」と付け加えている。 同氏はまた、座位行動を睡眠に置き換えることでもリスクが低下する可能性が示されたことについて、「この結果には驚いた。睡眠は心身の回復に欠かせず、心臓発作のような深刻な健康問題の後には特に重要となるのではないか」と推察している。

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静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」【最新!DI情報】第41回

静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」今回は、経口避妊薬「ドロスピレノン(商品名:スリンダ錠28、製造販売元:あすか製薬)」を紹介します。本剤は単剤型プロゲスチン製剤であり、従来の混合型経口避妊薬よりも静脈血栓塞栓症のリスクが少なく、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬です。<効能・効果>避妊の適応で、2025年5月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1錠を毎日一定の時刻に白色錠から開始し、指定された順番に従い28日間連続経口投与します。以上28日間を投与1周期とし、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返します。なお、服用開始日は、経口避妊剤を初めて服用する場合、月経第1日目から開始します。<安全性>副作用として、不正性器出血(月経中間期出血、異常子宮出血)(89.9%)、下腹部痛(13.4%)、月経異常(過少月経、過長過多不規則月経、重度月経出血)(14.9%)、頭痛(16.3%)、腹痛(12.3%)、乳房不快感、悪心、下痢、ざ瘡(いずれも5%以上)、無月経、卵巣嚢胞、子宮頸部上皮異形成、子宮筋腫、カンジダ症、外陰部炎、性器分泌物、乳頭痛、乳腺良性腫瘍、乳腺嚢胞症、傾眠、いらいら感、不安感、めまい、片頭痛、上腹部痛、嘔吐、胃腸障害、発疹、そう痒症、背部痛、倦怠感、浮腫、発熱、体重増加(いずれも1~5%未満)、陰部そう痒症、子宮ポリープ、外陰腟痛、卵巣腫大、乳房痛、抑うつ、便秘、消化不良、腹部膨満、口内炎、紅斑、皮膚乾燥、関節痛、肋軟骨炎、貧血、肝機能検査値異常(いずれも1%未満)、リビドー減退、高カリウム血症、ほてり(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1. この薬は、妊娠を防ぐための経口避妊薬です。2. 毎日1錠、決まった時間に服用することで、排卵を抑えたり、子宮内膜や子宮頸管の状態を変化させたりして、妊娠を防ぎます。3. この薬は、喫煙者や高血圧の人など、従来の避妊薬が使えなかった人にも適しています。4. 毎日一定の時刻に白色錠から服用を開始し、指定された順番に従い28日間服用してください。5. 1日(24時間以内)の飲み忘れがあった場合、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。6. 2日連続して飲み忘れた場合は、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を1錠服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。7. 2日以上連続して飲み忘れた場合は妊娠する可能性が高くなるので、その周期は他の避妊法を使用し、必要に応じて医師に相談してください。<ここがポイント!>現在、日本で使用されている経口避妊薬の主流は、低用量エストロゲンとプロゲスチンを配合した混合型経口避妊薬(Combined Oral Contraceptives:COC)です。しかし、COCに含まれるエストロゲンには、静脈血栓塞栓症をはじめとする血栓症のリスクがあることが知られています。世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、プロゲスチン単剤の経口避妊薬(Progestin-Only Pill:POP)は、COCと比較して静脈血栓塞栓症のリスクが低く、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬とされています。本剤は、ドロスピレノン(DRSP)4mgを含有する国内初のPOPであり、排卵の抑制、子宮内膜の菲薄化、子宮頸管粘液の高粘稠による精子の侵入障害などにより避妊効果を発揮します。避妊を希望する日本人女性を対象とした国内第III相臨床試験(LF111/3-A試験)において、13周期投与期終了時の暴露周期(3,319周期)の間に1例が妊娠し、主要評価項目とされた全般パール指数※は0.3917(95%信頼区間[CI]:0.0099~2.1823)でした。95%CIの上限が閾値である4下回ったことから、本剤の有効性が検証されました。なお、妊娠例に関して、受胎推定日は未服薬期間内と判断されています。※パール指数(Pearl index):100人の女性がその避妊法を1年間(13周期)用いたときの妊娠数(対100女性年)日本で発売されているCOCは、血栓症に関連する既往歴や現病歴を有する患者は禁忌でしたが、本剤では禁忌に該当しません。本剤では禁忌に該当しない血栓症関連の疾患などは以下のとおりです。血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患またはその既往歴のある患者35歳以上で1日15本以上の喫煙者血栓症素因のある女性抗リン脂質抗体症候群の患者大手術の術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内および長期間安静状態の患者脂質代謝異常のある患者高血圧のある患者(軽度の高血圧の患者を除く)

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第247回 骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣

<先週の動き> 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、医療者の感染リスクも顕在化/三重県 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定し、来年度以降の予算編成や制度改革の方向性を示した。今回の方針では、医療・介護・福祉分野における構造改革と現場の処遇改善が柱となり、「成長と分配の好循環」に向けた具体策が明示された。政府は初めて、2029年度までに実質賃金を年1%引き上げる数値目標を掲げ、医療・介護・保育・福祉分野の処遇改善を「成長戦略の要」と位置付けた。これに伴い、公的価格である診療報酬や介護報酬の引き上げを示唆し、2026年度の報酬改定に大きな影響を与える可能性がある。また、これまで「高齢化による自然増」に限定していた社会保障費の算定に、今後は物価・賃金動向を加味する方針を打ち出した。これにより、物価高や人材確保に悩む医療・介護機関にとっては、経営基盤の安定化につながるとみられる。その一方で、保険料負担とのバランスが課題となる。地域医療体制の再編も加速され、地域実情を踏まえつつ、2027年度施行の新地域医療構想に合わせて、一般・療養・精神病床の削減が明記された。とくに中小病院や療養型施設に対し、再編や役割分担が求められる。負担の公平性を重視し、医療・介護の応能負担の強化も盛り込まれた。金融所得を含めた新たな負担制度の検討が進められており、今後の制度設計に注目が集まっている。また、2026年度以降、市販薬と類似する医師処方薬(OTC類似薬)を保険給付から除外する見直しが進められ、診療所経営にも影響が及ぶ可能性がある。さらに、医療の効率化を図るため、医療DXやデータ活用が推進され、電子カルテの標準化やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が進展される見込みとなった。地域単位で薬剤選定を標準化する「地域フォーミュラリ」の全国展開も盛り込まれた。今回の方針は、賃上げによる持続可能な成長と、医療・福祉分野の構造改革を同時に進めるものであり、制度改革の実行力が問われる局面となる。 参考 1)経済財政運営と改革の基本方針 2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~[全文](内閣府) 2)ことしの「骨太の方針」決定 経済リスク対応やコメ政策見直し(NHK) 3)不要な病床の削減を明記、骨太方針決定 社会保障費「経済・物価動向等」反映へ(CB news) 4)骨太の方針、社保に物価・賃上げ反映 家計負担増す可能性(日経新聞) 5)実質賃金年1%上昇、初の数値目標 骨太の方針を閣議決定(毎日新聞) 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、人獣共通感染症への警戒強まる/三重県マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染拡大が続いており、医療従事者にも重大な影響を及ぼしている。6月、三重県内でSFTS感染の猫を治療していた高齢の獣医師が感染・死亡する事例が確認された。ダニ刺咬痕は確認されておらず、唾液や血液を介したペット由来の感染が疑われている。これは、2024年の医師への感染に続く人獣間感染の深刻な事例であり、日本獣医師会は防護対策の徹底を求めている。SFTSは6~14日程度の潜伏期を経て発熱、嘔吐、下痢、意識障害、皮下出血など多彩な症状を呈し、致死率は最大30%に達する。とくに高齢者では重症化リスクが高い。現在、有効な抗ウイルス薬としてファビピラビル(商品名:アビガン)が使用できるが、ワクチンは存在しない。マダニ感染症はSFTSのほかにも日本紅斑熱やツツガ虫病があり、いずれも西日本を中心に発生が集中している。2025年も岡山・鳥取・香川・静岡・愛媛など複数県で感染例が報告されており、死亡例も出ている。春から秋にかけてマダニの活動が活発化し、農作業やアウトドア活動での感染リスクが高まる。また、SFTSは犬・猫などのペットがウイルス保有宿主になり得ることが明らかになっており、医療者・獣医師・飼い主ともに十分な感染予防対策が求められる。ペットの室内飼育、防虫剤使用、皮膚・粘膜の保護に加え、咬傷・体液接触時の手指衛生とPPE(個人防護具)の着用が推奨される。今後、診療現場でもマダニ媒介疾患への警戒を強化し、野外活動歴や動物との接触歴を含めた問診と初期対応の徹底が重要である。 参考 1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚労省) 2)ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重(NHK) 3)マダニ感染症で死亡の獣医師「胸が苦しい、息苦しい」訴え緊急搬送 発症前に感染ネコ治療(産経新聞) 4)マダニにかまれ「日本紅斑熱」60代男性感染 2025年8人目 屋外でのマダニ対策呼びかけ(静岡放送) 5)マダニにかまれ、感染症悪化で死亡事例も 今が活動期 アウトドアレジャーでの警戒を(産経新聞) 6)ダニ媒介による感染症「日本紅斑熱」「SFTS」の患者が多発 県が注意喚起(山陽放送) 7)西日本中心に“マダニ”に注意 住宅街の茂みでパンパンに膨らんだマダニも…マダニが媒介する致死率10%超えの感染症SFTSとは?50歳以上は特に重症化しやすいか(あいテレビ) 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省厚生労働省は、緩和ケアの対象を腎不全患者にまで拡大する方針で検討を開始した。これまで緩和ケアは、がん・エイズ・末期心不全の患者を対象としてきたが、透析継続が困難になった腎不全患者においても激しい身体的・精神的苦痛が生じるケースが多く、医療現場から対応拡充を求める声が高まっていた。背景には、慢性透析患者が年々増加し、2023年には全国で約34.4万人に達し、年間3.8万人が死亡している現状がある。透析中止に際しては「人生で最も激しい痛み」と表現されるほどの苦痛を伴うこともありながら、現在の診療報酬制度では緩和ケアの加算対象から除外されており、患者は十分な医療的支援を受けられていない。こうした事態を受け、自民党の有志議員らは5月に提言を厚労省に提出。患者の尊厳を守る終末期医療の実現に向け、在宅医療体制の整備、医療用麻薬の使用拡大、関連学会によるガイドラインの整備、モデル地域の創設などを提案した。これを受け厚労省は、2025年の「骨太の方針」に腎臓病対策として盛り込み、次期診療報酬改定を視野に対応を進める見通しだ。日本透析医学会も2020年以降、緩和ケアの必要性を強調しており、透析の見合わせ段階だけでなく、意思決定前の段階でも継続的なケアの必要性を提唱。今後は腎不全患者への緩和ケア提供を制度的に後押しする議論が本格化する。 参考 1)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減(東京新聞) 2)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減 厚労省検討、骨太反映へ(産経新聞) 3)がん以外にも緩和ケアを 透析医療へ拡大訴え 学会や国で議論始まる(共同通信) 4)わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会) 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ2025年に入って、わが国の医療機関が前例のないペースで倒産または廃業している。帝国データバンクの調査によれば、1~5月だけですでに倒産が30件、廃業・解散などが373件に達し、年間では合計1,000件に迫る勢いだ。これは2024年の過去最多記録(723件)を大幅に上回る見通しであり、医療提供体制の根幹が揺らぎ始めている。背景には、医療機器や光熱費などの物価上昇に対して、2024年度の診療報酬改定(+0.88%)が極めて抑制的だったことがある。また、医師の働き方改革により、大規模病院を中心に残業代負担が急増し、経営を圧迫している。さらに、病院の老朽化も深刻で、法定耐用年数(39年)を迎える施設が全国の約8割に及ぶ中、建設費の高騰により建て替えを断念せざるを得ない事例が増えている。中小診療所や歯科医院では、経営者の高齢化や後継者不在が廃業の主因となっている。とくに同族経営が多い歯科では、承継が進まず「法人の限界」が露呈している。M&Aのニーズは高まっているが、財務状態の良い法人に買い手が集中し、赤字法人は買い手がつかず「廃業すらできない」という二極化が進行中だ。このような事業者の「自然消滅」は、厚生労働省が推進する地域医療構想の想定を超える速さで進行しており、病床再編の制度設計と現場の実態が乖離している。現状では、老朽施設への再生支援策も不十分で、制度疲労が顕在化している。今後の政策には、(1)診療報酬や補助金の実態に即した見直し、(2)施設再建支援、(3)M&Aによる出口戦略の明確化、(4)中山間地や離島での公的医療体制の再構築が求められる。医療機関の消滅は、単なる経営問題に止まらず、地域住民の医療アクセス権や医療安全保障そのものに関わる緊急課題である。 参考 1)病院と診療所の倒産件数、5カ月で前年上半期に並ぶ 計18件 東京商工リサーチ(CB news) 2)入金基本料「大幅引き上げを」公私病連が決議 病院経営の厳しさ訴える(同) 3)医療機関で倒産急増の深刻事態!今年は約1,000事業者が“消滅”か(ダイヤモンドオンライン) 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協厚生労働省は、6月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)・調査評価分科会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、地域包括医療病棟および回復期リハビリ病棟に関する実態調査結果の報告をもとに討議を行なった。2024年度診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届け出病院の約4割が急性期一般入院料1からの転換で、制度設計通りの導入が進んだとされた。一方、届け出検討病院は全体の5%程度に止まり、とくに「毎日リハビリ提供体制の整備」が障壁との回答が多数を占めた。また、入院患者の診療実態にはばらつきがあり、輸血や手術を多数算定する病院と、誤嚥性肺炎など内科系疾患中心の病院とで医療内容に差がみられた。急性期病棟を手放した病院も多く、地域医療構造の再編に影響が及ぶ可能性もある。一方、回復期リハビリ病棟では、FIM(機能的自立度評価)利得がゼロまたはマイナスの患者が突出して多い施設が散見され、委員からは「異常」「詳細な分析を行うべき」との指摘が相次いだ。新設されたリハ・栄養・口腔連携体制加算の基準(ADL低下3%未満)に満たない施設が多いことも判明した。今後、診療報酬制度の実効性や適正な施設基準運用のあり方が問われる。 参考 1)令和7年度第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省) 2)地域包括医療病棟、急性期一般1から移行が最多 全体の4割占める(CB news) 3)回復期リハ、FIM利得マイナスの患者が多くの病院に 「詳細な分析を」中医協・分科会(同) 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府政府は6月13日、「デジタル行財政改革取りまとめ2025」を決定し、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を中核に据えた改革方針を示した。背景には、急速な少子高齢化による医療資源の逼迫と、地域医療の持続可能性確保という喫緊の課題がある。今回の取りまとめでは、電子処方箋の導入促進とあわせて、医療データの二次利用(研究、医療資源の最適化など)に向けた制度整備が明記された。電子処方箋は2025年夏に新たな導入目標を設定し、病院・診療所での導入拡大を急ぐ。8月にはダミーコード問題への対応としてシステム改修が完了する予定であり、今後は診療報酬・補助金による導入促進も強化される。また、救急搬送時の医療情報共有を可能とする広島県発の連携PF(プラットフォーム)を全国展開する構想も示された。これにより、搬送の調整が迅速となり、災害時のEMIS連携やマイナンバーカードの活用による「マイナ救急」との統合も視野に入る。さらに、医療データの二次利用の円滑化に向けた法整備を進めるほか、AI活用のための透明性ある学習データの収集・連携環境の整備も進行中である。電子処方箋やリフィル処方の活用拡大も引き続き重要課題とされ、KPIの早期設定と次期診療報酬改定での反映が示唆された。これら一連の取り組みは、医療現場の業務効率化と質の高い医療の提供、さらには地域医療構想との接続にも大きな影響を及ぼす。医師にとっては、現場実装の速度と制度設計の動向に注視することが求められる。 参考 1)デジタル行財政改革 取りまとめ2025(デジタル行財政改革会議) 2)AIの学習データ、収集や連携促進 デジタル改革取りまとめ(日経新聞) 3)社会課題解決に医療データ活用 方針決定 法整備検討へ 政府(NHK) 4)電子処方箋、今夏に新たな目標設定 デジタル行革 取りまとめ、8月にシステム改修終了へ(PNB) 5)デジタル行財政改革会議(首相官邸)

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コンサルテーション―その1【脂肪肝のミカタ】第4回

コンサルテーション―その1Q. プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション基準は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は本邦で2,000万人以上と対象が多い疾患のため、医療経済面からも全症例に詳細な検査を行うことは困難である。消化器専門家の立場からは、肝がんの高危険群である肝臓の線維化進行が疑われる症例の拾い上げをすることが重要である1-3)。プライマリ・ケアにおいては、肝臓の線維化進展の簡便な指標としてFibrosis-4(FIB-4) indexや血小板数による消化器科へのコンサルテーションが勧められている1-3)。FIB-4 index1.3未満はかかりつけ医、1.3以上で消化器科へのコンサルテーションとしているが、高齢者では線維化進行度に寄らず全体的にFIB-4 index高値を示す傾向がある。欧州、米国共にガイドラインで65歳以上は2.0以上をコンサルテーションとしており1,2)。高齢者の多い本邦においても、消化器科コンサルテーション基準を変えていく必要がある(図)。(図)プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション画像を拡大する1)Rinella ME, et al. Hepatology 2023;77:1797-1835.2)European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542.3)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.

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軽症の免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎へのステロイド、3週vs.6週(PROTECT)/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになり、免疫関連有害事象(irAE)マネジメントの重要性が高まっている。irAEのなかで比較的多いものの1つに、薬剤性肺障害(免疫関連肺臓炎)がある。免疫関連肺臓炎の治療としては、一般的にステロイドが用いられるが、適切な治療期間は明らかになっていない。そこで、免疫関連肺臓炎に対するステロイド治療の期間を検討する無作為化比較試験「PROTECT試験」が本邦で実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、藤本 大智氏(兵庫医科大学)が本試験の結果を報告した。本試験において、ステロイド治療期間を3週間とする治療レジメンは、6週間の治療レジメンに対する非劣性が示されなかった。 軽症の免疫関連肺臓炎に対する治療について、各種ガイドラインに記載されているステロイド治療期間は無作為化比較試験によって評価されたものではなく、専門家の意見により4~6週間と設定されている。また、軽症の免疫関連肺臓炎は死亡率が低く、長期のステロイド治療はICIの効果を損なう可能性が考えられ、有害事象を増加させる懸念がある。そこで、PROTECT試験では、ステロイド治療期間を3週間に短縮することが可能であるか検討した。・試験デザイン:国内無作為化比較試験・対象:ICIを投与中または投与後に、Grade1/2の免疫関連肺臓炎(CTCAE第5版)が認められた患者・試験群(3週群):プレドニゾロンを3週間かけて漸減・中止 51例・対照群(6週群):プレドニゾロンを6週間かけて漸減・中止 55例(1例は解析から除外)・評価項目:[主要評価項目]治療成功割合(ステロイド治療開始から8週後までSpO2≧90%[room air]、かつステロイドの増量・延長が必要な免疫関連肺臓炎の悪化・再燃なし)[副次評価項目]ステロイド中止までの期間、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、3週群76%、6週群85%であった。喫煙歴のある患者も多く、過去喫煙または現喫煙の割合は、それぞれ88%、83%であった。PS0/1/2の割合は、それぞれ27%/65%/8%、20%/72%/7%であった。肺がんの割合は、それぞれ59%、56%であった。・主要評価項目の治療成功割合は、3週群66.7%、6週群85.2%であり、3週群の6週群に対する非劣性は検証されなかった(群間差:-18.5%、80%信頼区間[CI]:-29.0~-7.9、非劣性のp=0.629[非劣性マージン:-16%])。・試験全体期間中における肺臓炎の再燃または悪化割合は、3週群41.1%、6週群24.1%であり、3週群が多かった(p=0.046)。・ステロイド治療中止までの期間中央値は、3週群25日(95%CI:21~30)、6週群41日(同:41~42)であり、有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%CI:0.63~1.52)。3週群では肺臓炎の再燃や悪化により、ステロイドの再開や増量に至った患者が多く、両群の生存曲線は交差した。・OS中央値は両群共に未到達で、有意差はみられなかった(HR:1.03、95%CI:0.46~2.29)。・Grade3以上の有害事象の発現割合は、3週群12%、6週群24%であり、3週群のほうが少ない傾向にあった。ステロイドの中止や減量に至った有害事象、死亡に至った有害事象はいずれの群にも認められなかった。高血糖(35%vs.50%)、皮膚障害(2%vs.13%)は6週群に多い傾向にあった。・間質性肺疾患に関する簡易健康状態質問票「K-BILD(King’s Brief Intestinal Lung Disease)質問票」に基づくQOLは、3週群と比べて6週群のほうが良好な傾向にあった。 本結果について、藤本氏は「ガイドラインに採用されている6週間のステロイド治療レジメンは、エビデンスに基づく免疫関連肺臓炎に対する標準治療であることを支持するものである」とまとめた。

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副作用編:悪心(抗がん剤治療中の食欲不振対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第1回

抗がん剤治療中に悪心を生じた患者さんが、食欲不振などを主訴に紹介元であるかかりつけ医を受診する、というのはときに経験されるかと思います。今回は、診察の際に有用な抗がん剤治療中の悪心の鑑別のポイントや患者さんへの対応について紹介します。症例78歳、女性主訴食欲不振病歴1ヵ月前より進行胃がん(StageIV)に対して大学病院で緩和的化学療法が開始された。数日前から悪心が強く、1日の食事摂取量が半分程度となり、食欲不振を主訴にかかりつけ医(クリニック)を受診。ステップ1 悪心・嘔吐の原因は?がん患者の悪心の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、「抗がん剤のせいかも?」とすぐに考えてしまいがちですが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)CINV:Chemotherapy Induced Nausea and Vomiting薬物療法に起因する悪心は患者が最も苦痛と感じる代表的な副作用の1つです。軽度の悪心でも食欲不振につながり、QOLは著しく低下します。悪心・嘔吐の発現時期や状態により以下の定義があり、機序や背景を考慮した制吐療法が行われます。最近はガイドライン1)に沿ってリスクに応じた予防薬や頓服の制吐薬を処方されていることが多くなっています。画像を拡大する(2)腫瘍に起因する悪心腫瘍の局所進展による消化管閉塞(腹膜播種など)、幽門狭窄、胆汁逆流なども悪心・嘔吐の原因となります。これらは機械的刺激により胃内容物の排出障害を来し、食後悪心や胆汁性嘔吐を呈することがあります。とくに胃がんでは胃壁内伸展などによる胃の拡張不良を引き起こすことで、悪心・嘔吐を呈することがあります。鑑別にあたり、嘔吐の有無や吐物の性状、排便排ガスの有無が重要な所見となります。(3)電解質異常による悪心がん患者では、腫瘍随伴症候群、化学療法、脱水、腎機能障害などにより電解質異常を来しやすく、中枢性あるいは消化器機能の異常を介して悪心・嘔吐を引き起こすこともあります。とくに高Ca血症はがん患者の最大15~20%に認められる重要な腫瘍随伴症候群であり、しばしば「原因不明の悪心」の背景に潜んでいます2-4)。血清Ca値が11.0mg/dLを超えると症状が出やすくなり、13~14mg/dL以上では悪心、意識障害、脱水などの症候が顕著となります。画像を拡大する(4)中枢性要因(脳転移・頭蓋内圧亢進)による悪心がん患者における悪心の中で、中枢神経系の病変によるものは見逃されやすいものの、迅速な対応が必要な病態です。とくに、脳転移や髄膜播種は頭蓋内圧亢進や嘔吐中枢の直接刺激を介して、持続性の悪心や突発的な嘔吐を引き起こします。悪心以外にも頭痛やめまい、痺れや麻痺などの神経症状が伴うことがあり問診や身体診察が重要となります。ステップ2 評価ポイントは?前述のように、さまざまな要因が悪心・嘔吐の原因となります。クリニックなどの限られた検査環境では精緻な診断を行うことは難しいと思います。「これ!」といった正解はありませんが、私は以下のポイントで診察しています。画像を拡大するステップ3 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「つらいけど内服の抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談がある場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも「食事が半分以上食べられない場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関(大学病院や高次医療機関)へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただければ助かります。悪心に伴う食欲不振に対して輸液や制吐薬を投与してもよいか?軽度の悪心・食欲不振であれば輸液やメトクロプラミドの投与での支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の悪心のみでも十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため治療機関へご紹介ください。また、輸液を実施する場合、翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。最後に患者さんの心理として、軽い症状で治療機関を受診することはハードルが高いと感じる方が多くいらっしゃいます。要因としては自宅から治療施設への移動距離や長い待ち時間があると思います(主治医に相談しにくいなどもあるかもしれませんが…)。今後、高齢化が進むことで交通手段が限られる患者さんが増え、抗がん剤治療も地域との連携が不可欠になってきます。当院においても地域のクリニックと医療連携を実施して軽症の副作用対応を実施いただくことで、うまく治療を継続できた症例やスムーズな緩和ケア移行に繋がるケースも少しずつ増えてきました。そのため、がん治療医である私達も詳細な診療情報の提供や綿密な医療連携を心がけています。かかりつけ医の先生にサポートしていただける「安心感」は闘病中のがん患者さんにとって大きな支えになります。抗がん剤の副作用症状を訴える患者さんの受診時にこのコラムが少しでも参考になれば幸いです。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版. 2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.

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「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」新薬5剤を含む治療アルゴリズムの考え方は

 近年新規薬剤の発売が相次ぐアトピー性皮膚炎について、2024年10月に3年ぶりの改訂版となる「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」が発表された。外用薬のホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬ジファミラスト、注射薬の抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブおよび抗IL-13受容体抗体トラロキヌマブ、経口JAK阻害薬ウパダシチニブおよびアブロシチニブの5剤が、今版で新たに掲載されている。ガイドライン策定委員会メンバーである常深 祐一郎氏(埼玉医科大学皮膚科)に、新薬5剤を含めた治療アルゴリズムの考え方について話を聞いた。いかに寛解導入に持っていくか、アトピー治療のPDCAサイクルの回し方 前版である2021年版のガイドラインで、治療アルゴリズムの骨格が大きく変更された。全身療法(注射薬と経口薬)の位置付けについて、寛解維持療法の選択肢に一部が加えられたほか、使用対象がその前の2018年版アルゴリズムの「重症・最重症・難治性状態」から「中等症以上の難治状態」に変更されている。そして各段階で「寛解導入できたか」という問いが加えられ、そのyes/noに応じて治療のPDCAサイクルを回していく構成となっている。この背景には、使用できる薬剤が増えたことが何よりも大きいと常深氏は話し、PDCAサイクルを回してこれらの薬剤を活用し、必ず寛解導入すること(Treat to Target)が重要とした。 アルゴリズムでは診断と重症度評価に続いて、「疾患と治療の目標(ゴール)の説明・共有」を行うことが推奨されており、末尾の“共有”という言葉が2024年版で追記された。常深氏は「説明は医療者から患者さんへの一方的なものだが共有は違う。この言葉が入ったことにはとても大きな意味があり、“とりあえず治療を始めてみましょう”ではなく“どんな状態をゴールとして目指すか”を共有したうえで治療をスタートしてほしい」とこの言葉の意図を説明した。寛解導入のメインはまず“ステロイドの適切な使用”で変わりない ジファミラストを含む非ステロイド系外用薬の選択肢が増えている。寛解導入での位置付けについて常深氏は「軽い皮疹の場合に非ステロイド系で寛解導入もありうるが、メインはやはりステロイド系外用薬」と話し、ランクの選択を含めてステロイドをどう適切に使えるかが非常に重要とした。「顔だから、年齢が低いからという理由で皮疹の重症度に見合わない弱いランクを選んでしまうケースがみられるが、重症度評価に応じたランクのステロイドを自信をもって選択してほしい」とし、落ち着いたらランクを下げるもしくは非ステロイド系に切り替えるといった使い方が望ましいと話した。  一方、ステロイド系外用薬は局所的な副作用が出るなど長期使用には向かないため、寛解維持の外用療法のメインとしては非ステロイド系外用薬が適しているが、常深氏は「非ステロイド系外用薬のなかでどの薬剤をどのタイミングで行うとよいかは明確になっていない」とし、「患者さんごとに使ってみて使いやすいものを選ぶといった考え方もよいのではないか」と柔軟な対応を提案した。全身療法の使いどころ、使い分けは? 全身療法は中等症以上の多くのアトピー性皮膚炎患者に対して推奨されており、「決してしきいの高いもの・最後の切り札ではない」と常深氏。「必ずしもとことん外用療法をやりきってから全身療法という考え方ではなく、患者さんが外用療法に疲れてしまったり時間をかけてQOLが下がってしまったりという状況になる前に、使用ガイダンスで示された条件を満たしたうえで1,2)早めに全身療法に切り替えるのも1つの選択肢」と私見を交えて解説した。 注射薬である抗体製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ、ガイドライン改訂後に登場したレブリキズマブ)の特徴として、常深氏は、投与前後の検査不要で安全性が高いこと、幅広い患者に有効性があることを挙げた。それに対して経口JAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)は、使用ガイダンス2)に示されるように投与後も画像を含めた検査が必要であり、効き始めは早いがレスポンダーとノンレスポンダーが分かれる傾向があるという。「経口がやはり楽という患者さんもいるし、数週間おきの注射のほうがむしろ楽という患者さんもいる」とし、上記の特徴も踏まえた選択が重要と話した。 抗体製剤やJAK阻害薬には治療費の問題がある。同氏は治療費がハードルになるケースでは、従来からの全身療法薬であるシクロスポリンをしっかりと使っていくことも大事と指摘。「悪くなりかけた際にシクロスポリンを使うという使い方で、短期の使用であれば副作用の可能性も低い」とした。アトピーはいまや“すごくよくなる”疾患、患者も医療者もイメージを変えていく必要 アトピー性皮膚炎には以前から“なかなか治らない疾患”というイメージが根強くあり、そもそも医療機関にかかっていない患者も多い。しかし有効な薬剤が複数登場し、適切な治療により、アルゴリズムで治療のゴールとして示された「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」状況を実現することができるようになっている。  常深氏は、医師を含む医療者が“アトピーは外用薬しかない”、あるいは“改善の難しい疾患だからあまりよくならなくても仕方がない”と思っていたらそこで治療は止まってしまうとし、「抗体製剤使用のハードルは決して高くなく、要件を満たせば1)クリニックでも使用できる。また自院で使用しなくても、必要性を感じた場合は専門医に積極的につないでほしい」と話した。

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統合失調症に対するコリン作動薬の有用性~RCTメタ解析

 統合失調症患者の3人に1人は、副作用や限られた有効性のため、従来の抗精神病薬による治療反応が不十分である。ムスカリン受容体とニコチン受容体を標的とし、統合失調症の病態生理に関連するコリン作動薬の機能不全を活用した、新たな治療法が注目されている。インド・All India Institute of Medical SciencesのAmiya Shaju氏らは、統合失調症に対するコリン作動薬の有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を実施した。The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2025年5月2日号の報告。 MEDLINE/PubMed、Embase、Scopus、Cochraneのデータベースおよびレジストリから得られた臨床試験データをレビュー担当者が抽出した。研究の質は、バイアスリスクツールとランダム効果モデルによるエフェクトサイズの推定により評価した。PRISMAガイドラインに従い、必要に応じてサブグループ解析、メタ回帰分析、感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・30件のRCT(3,128例)において、コリン作動薬の単剤療法または併用療法の検討が行われていた。・コリン作動薬は、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の総スコアに有意な改善は認められなかったが(標準化平均差[SMD]:-0.38、95%信頼区間[CI]:-0.93~0.18、エビデンスの確実性:中)、陰性症状スコアの改善が認められた(SMD:-0.42、95%CI:-0.59~-0.25、エビデンスの確実性:中)。・ムスカリン作動薬は、PANSSの総スコア(SMD:-0.57、95%CI:-0.72~-0.42)、陽性症状スコア(SMD:-0.58、95%CI:-0.73~-0.43)、陰性症状スコア(SMD:-0.40、95%CI:-0.59~-0.21)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコア(SMD:-0.48、95%CI:-0.65~-0.31)の改善を示した。・ニコチン作動薬は、PANSSの陰性症状スコア(SMD:-0.28、95%CI:-0.47~-0.09)およびCGI-Sスコア(SMD:-1.31、95%CI:-2.38~-0.24)の改善に寄与した。・有害事象の発生は、実薬群でより高かった(オッズ比:1.21、95%CI:0.94~1.56)。・多くの研究はバイアスリスクが低く、エビデンスの質は非常に低~中の範囲であった。 著者らは「コリン作動薬は陰性症状を改善し、ムスカリン作動薬は症状全体および重症度の改善に有効であり、安全性においてもプラセボと比較し、有害事象の大きな差は認められなかった」と結論付けている。

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食道がんへの術後ニボルマブ、長期追跡でもベネフィット示す(CheckMate 577)/ASCO2025

 日本も参加するCheckMate 577試験は、術前化学放射線療法(CRT)+手術後に残存病理学的病変を有する食道がん/胃食道接合部がん(EC/GEJC)患者における、術後ニボルマブ投与の有用性をみた試験である。すでにプラセボと比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長したことが報告されている(22.4ヵ月対11.0ヵ月、ハザード比[HR]:0.69)1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、ベイラー大学医療センター(米国・ダラス)のRonan J. Kelly氏が、本試験の副次評価項目である全生存期間(OS)の最終解析結果およびDFSの長期追跡結果を報告した。・試験:多施設共同無作為化二重盲検第III相試験・対象:CRT後にR0切除、病理学的完全奏効とならなかったStageII/IIIのEC/GEJC患者・試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ240mg(2週ごと16週間)→ニボルマブ480mg(4週ごと最長1年)532例・対照群(プラセボ群):プラセボ(2週ごと16週間、その後4週ごと最長1年)262例・評価項目:[主要評価項目]DFS[副次評価項目]OS、無遠隔転移生存期間(DMFS)、安全性など・データカットオフ:2024年11月7日 主な結果は以下のとおり。・794例がランダム化され、ニボルマブ群とプラセボ群に2対1で割り付けられた。・追跡期間中央値78.3ヵ月におけるDFS中央値は、ニボルマブ群21.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.6~29.7)に対しプラセボ群10.8ヵ月(95%CI:8.3~14.3)であり、有意差のある改善を長期にわたって維持していた(HR:0.76)。・OS中央値はニボルマブ群51.7ヵ月(95%CI:41.0~61.6)に対しプラセボ群35.3ヵ月(95%CI:30.7~48.8)であり、ニボルマブ群で良好な傾向だったものの、統計学的有意差はなかった(HR:0.85、p=0.1064)。サブグループ解析ではPD-L1 CPSが1以上の群のHRは0.79だった一方、1未満の群ではニボルマブの優越性は示されなかった。・ニボルマブ群とプラセボ群の3年OS率は57%対50%、5年OS率は46%対41%だった。・DMFS中央値はニボルマブ群27.3ヵ月、プラセボ群14.6ヵ月だった(HR:0.75)。・有害事象は既報どおりであり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Kelly氏は「術後ニボルマブは、プラセボと比較して持続的な長期DFSのベネフィットとOSの改善を示した。安全性も長期にわたって耐容されるものだった。これらの結果は、この患者集団における術後ニボルマブの使用をさらに支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「すでにDFSの結果が発表されており、日本食道学会ガイドライン委員会からコメントも出されている2)。今回の発表でも、有意差はないものの著明なOSの延長がみられた。一方、本邦ではJCOG1109試験の結果から術前化学療法が標準治療とされており、術前CRT後のエビデンスである本試験をどのように外挿するかは議論のあるところだ。JCOG2206試験(術前化学療法後に根治手術が行われ、病理学的完全奏効とならなかった食道扁平上皮がんにおける術後無治療/ニボルマブ療法/S-1療法を比較する第III相試験)の結果に注目したい」とコメントした。

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