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アレルギー総合ガイドライン2019が発行、アレルギーとアナフィラキシーを網羅

 アレルギー疾患罹患率はとくに先進国で増加し、いまや日本人の約50%が何らかのアレルギー症状を有しているといわれる。代表的なアレルギー疾患に関する12の最新ガイドラインの内容を1冊にまとめた「アレルギー総合ガイドライン」の改訂版が、3年ぶりに発行された。アレルギー総合ガイドライン2019は診療科を超えて横断的に出現し、急性増悪のリスクもはらむアレルギー疾患に対して、標準的な臨床的対応を円滑に行うことができるよう、実用性を重視した構成となっている。「喘息予防・管理ガイドライン2018」「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017」「鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)」「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版)」「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018」「重症薬疹の診断基準」「接触皮膚炎診療ガイドライン」「蕁麻疹診療ガイドライン 2018」「食物アレルギー診療ガイドライン2016《2018年改訂版》」「ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2018」「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」「アナフィラキシーガイドライン」 ここでは、とくに2018年に改訂されたばかりの下記5冊のガイドラインについて、主な改訂内容を紹介する。 「喘息予防・管理ガイドライン2018」では、問診・聴診・身体所見の項目が新たに追加されたほか、治療においては長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の使用推奨範囲が拡大され、抗IL-5抗体、抗IL-5Rα抗体、気管支熱形成術が追加されている。さらに、2019年3月には、12歳以上の難治性喘息に抗IL-4Rα抗体製剤デュピルマブが保険適用になっている。これを受けてアレルギー総合ガイドライン2019では、成人喘息の治療ステップの中に追加され、小児喘息における位置づけについても、解説が追加されている。 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018」は、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインと、厚生労働省研究班および日本アレルギー学会の診療ガイドラインの初の統合版。ステロイド外用薬の使い方などに関して、新たな知見(原則として2015年12月末まで)が反映されている。 「蕁麻疹診療ガイドライン 2018」は2011年以来7年ぶりの改訂版。2018年に発表された国際ガイドラインと、病型分類や重症度評価などで整合性をとる形に改訂されている。 「食物アレルギー診療ガイドライン2016《2018年改訂版》」は、「栄養食事指導」「経口免疫療法」について新たに章立てする形で詳細な記述が追加された。また、ヒスタミン遊離試験のキットの発売中止、牛乳アレルゲン除去調製粉乳の微量元素添加の終了、アナフィラキシー治療の際のアドレナリンの併用禁忌の解除などが反映されている。 「ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2018」では、加硫促進剤が主要なアレルゲンで、非ラテックス製手袋でも報告されている「化学物質による遅発型アレルギーである接触皮膚炎」についての記述を追加。最新のラテックスフリーの製品や加硫促進剤フリーゴム手袋の一覧が収載された。 そのほか、「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」については、刊行後に判明した最新エビデンスを加えた内容が、アレルギー総合ガイドライン2019に掲載されている。■「食物アレルギー」関連記事メロンアレルギーの主要アレルゲンを確認非専門医向け喘息ガイドライン改訂-喘息死ゼロへ

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1人でも多くの人に正しい理解を―『がん悪液質ハンドブック』発信。シリーズがん悪液質(3)【Oncologyインタビュー】第7回

昨今、がん悪液質に関しては認知度が徐々に高まっているが、決定打となる治療方針はないのが実情である。そのような状況下で日本がんサポーティブケア学会は、2019年3月より、同学会監修によるガイドブックのダイジェスト電子版を学会HPで公開している。こうした取り組みについて、同学会で作成の実務を担当した、静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科の内藤 立暁氏に聞いた。―まず『がん悪液質ガイドブック』電子版作成の経緯を教えていただけますか。がん悪液質に関するガイドライン、治療指針は、欧州のEuropean Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)によるガイドラインを除くと、世界的にもほとんどないのが現状です。日本では日本緩和医療学会、日本静脈経腸栄養学会などの関連ガイドラインの中で一部言及がある程度で、やはりまとまったマニュアル、ガイドラインはありませんでした。こうした中、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)代表理事である田村 和夫先生(福岡大学医学部 総合医学研究センター 教授)から、最新研究をまとめた英文学術書『Cancer cachexia: mechanisms and progress in treatment(がん悪液質:機序と治療の進歩)』(著者:Egidio Del Fabbroら)の翻訳書を学会から発行しようという提案があり、そこから、学会内に高山 浩一先生(京都府立医科大学 呼吸器内科 教授)を部会長としたJASCC Cachexia部会で翻訳が始まりました。その結果、学会監修で『がん悪液質:機序と治療の進歩』が発刊されましたが、非常に膨大なものなので読み切ることは難しく、コンパクトにまとめたものが欲しいとの要望がありました。その要望にお応えしたのが、2019年3月にJASCCより発刊された全16ページの『がん悪液質ハンドブック』(以下ハンドブック)です。―ハンドブック作成の目的、無料の電子版を公表した意図を教えていただけますか。ハンドブックを作成した目的は大きく3つあります。1つ目は、がん悪液質の正しい理解を広め、社会の認知度を高めることです。臨床現場では「がん悪液質は終末期の緩和病棟などで起こる症状」という誤った固定概念が根付いてしまっています。しかし最近、がんの種類によっては、手術で治癒が見込める症例であっても、術前の体重や骨格筋の減少が術後転帰を悪化させることが報告されています。つまり進行がんだけでなく、治癒可能な早期のがんでも悪液質はすでに共存しているのです。この事実を医療従事者が広く知り、イメージを変えてもらいたいのです。2つ目は、医療従事者に、がん患者さんの体重への関心を高めていただくことです。がん悪液質の診断には体重測定が重要ですが、がん治療を専門とする医療機関であっても、定期的な体重測定の習慣が根付いていないことが少なくありません。がん患者さんの体重減少の重要性が認知されていないのです。体重を定期的に測定することによって、医療従事者にも患者さんにも栄養状態の変化に関心を持っていただきたいのです。3つ目の目的は、医師以外の医療従事者にも気軽に読んでいただき、多職種の連携に役立てていただくことです。ハンドブックでも述べたように、がん悪液質の治療は医師の力だけでは難しいのです。栄養士の栄養管理、理学療法士による運動療法、看護師の生活指導、薬剤師の薬剤管理、心理療法士の心理介入など、がん悪液質の治療には多職種の協力が不可欠です。そのため、内容を絞り込み、図説を多用することで、多くの職種の皆さんに受け入れやすいハンドブックとなるよう心がけました。―ガイドブックの内容について簡単にご説明ください画像を拡大する内容は3章立てで、第1章ではがん悪液質がどのような症状で、臨床転帰にどのような影響を及ぼすかを解説しています。それは、がん悪液質は生命予後に影響するという大枠はもちろんのこと、悪液質があれば、化学療法の効果減弱と副作用増加を引き起こし、結果として治療の継続性に関わる疾患であるという点です。また、筋肉量の減少に伴う体重低下と食欲の低下は、外見の変貌なども相まって外出・外食を控える、その結果、家族との軋轢が生じるなど、心理面の影響も大きいのです。加えて、前述のEPCRCガイドラインで示されている悪液質のステージも紹介しています。このステージ分類では「前悪液質」→「悪液質」→「不応性悪液質」という段階を踏み、すでに「前悪液質」で集学的介入の必要性があることをうたっています。前述した悪液質に対する誤ったイメージは、「不応性悪液質」と呼ばれる最終段階のみを悪液質だと思い込んでいるためではないかと考えられます。画像を拡大する第2章では、悪液質の症状と現在わかっているそのメカニズムを解説しています。骨格筋減少では慢性的炎症とそれに伴うサイトカインの分泌物が特殊な代謝状況を引き起こしていること、また脂肪組織から分泌され食欲を抑えるホルモン「レプチン」と、胃から分泌され食欲を増進するホルモン「グレリン」のバランスが治療の鍵を握ることなど、図解を用いて説明しています。第3章では、現在までにわかっている各種治療の実態を解説しています。早期診断・早期介入の必要性、薬物だけでなく栄養、運動、社会心理面など、集学的介入の必要性を示しています。要は、がん悪液質の治療はどこか1つのスイッチを押せばよいというのではなく、多職種連携のもとで集学的に取り組む必要性があることが、この章でお伝えできればと思います。また、新規に開発されている薬物療法も紹介しています。―臨床現場でどのような活用を期待していますか?まずは病棟や外来で設置や配布し、看護師、薬剤師、理学療法士など多くの医療従事者に目を通していただき、がん悪液質の認知を広めてほしいということに尽きます。患者さんに見ていただいても差し支えないとも思っています。患者さんにとってはやや難しい内容かもしれませんが、「がん悪液質」という病名とその概要を大まかに知っていただき、医療スタッフと体重についてお話するきっかけになるかもしれません。医療現場でこのような対話が増えることが、がん悪液質の早期発見と早期治療の鍵となると考えています

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狭心症の冠動脈血行再建の適応判定、MRIはFFRに非劣性/NEJM

 冠動脈疾患のリスク因子を有する安定狭心症患者における冠動脈血行再建の適応の判定法として、心筋灌流心血管磁気共鳴画像(MRI)は冠血流予備量比(FFR)と比較して血行再建の施行率が低く、1年後の主要有害心イベント(MACE)に関して心血管MRIはFFRに対し非劣性であることが、ドイツ・フランクフルト大学病院のEike Nagel氏らが実施した「MR-INFORM試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2019年6月20日号に掲載された。安定狭心症患者では、血行再建の適応の判定にこれら2つの戦略が用いられることが多いが、MACEとの関連におけるこれらの非劣性は確立されていないという。4ヵ国16施設が参加した非劣性試験で心血管MRI群とFFR群に割り付け MR-INFORM試験は、英国、ポルトガル、ドイツ、オーストラリアの16施設が参加した非盲検多施設共同相対的有効性非劣性試験であり、2010年12月~2015年8月の期間に患者登録が行われた(英国国立衛生研究所Guy's and St. Thomas生物医学研究センターなどの助成による)。 対象は、定型的狭心症を有し、心血管リスク因子を2つ以上有するか、またはトレッドミル運動負荷試験が陽性の患者であった。被験者は、心血管MRIに基づく戦略またはFFRに基づく戦略(侵襲的冠動脈造影とFFR測定)を行う群に無作為に割り付けられた。 血行再建は、心血管MRI群では心筋の6%以上が虚血の場合、FFR群ではFFRが0.8以下の場合に推奨された。 主要複合アウトカムは、1年以内のMACE(死亡、非致死的心筋梗塞、標的血管の血行再建)であった。非劣性マージンは、リスク差6ポイントとした。血行再建を受けた患者の割合:心血管MRI群35.7% vs. FFR群45.0% 918例が登録され、心血管MRI群に454例(平均年齢62±10歳、男性72.5%)、FFR群には464例(62±9歳、72.2%)が割り付けられた。 血行再建を推奨する基準を満たしたのは、心血管MRI群が40.5%(184/454例)、FFR群は45.9%(213/464例)であった(p=0.11)。指標となる血行再建を受けた患者の割合は、心血管MRI群がFFR群よりも低かった(35.7%[162例]vs.45.0%[209例]、p=0.005)。 主要複合アウトカムの発生率は、心血管MRI群が3.6%(15/421例)、FFR群は3.7%(16/430例)であり(リスク差:-0.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-2.7~2.4)、非劣性の閾値を満たした。無MACE生存(HR:0.96、95%CI:0.47~1.94、p=0.91)は両群間に差はなかった。 全死因死亡(HR:2.05、95%CI:0.38~11.21)、心臓死(1.03、0.15~7.29)、非致死的心筋梗塞(0.84、0.35~2.02)、標的血管の血行再建(0.34、0.09~1.26)には、心血管MRI群とFFR群の間に有意な差はみられなかった。 また、12ヵ月時に、狭心症の発作を認めなかった患者の割合にも、両群間で有意な差はなかった(心血管MRI群49.2% vs.FFR群43.8%、p=0.21)。 重篤な有害事象の発現は、心血管MRI群とFFR群でほぼ同等だった。 著者は、「検査前に予測された冠動脈疾患の確率は75%であるが、侵襲的冠動脈造影の施行率はFFR群が96.8%であったのに対し、心血管MRI群は48.2%だった」とし、「冠動脈疾患疑い例のマネジメントに関する現行のNICEガイドラインでは、診断戦略と治療戦略を合わせた方法のエビデンスがないため、これらは別個に扱われているが、本試験の知見はこの知識の乖離を埋めるものである」と指摘している。

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第13回 頭部外傷 その原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式を必ずチェック!突然発症は要注意!2)失神は突然発症だ!心血管性失神を見逃すな!3)外傷の背景に失神あり。必ず前後の痛みの有無をチェック!【症例】65歳女性。来院当日、娘さんとスーパーへ出掛けた。レジで並んでいる最中に倒れ、後頭部を打撲した。目撃した娘さんが声を掛けると数十秒以内に反応があったが、頭をぶつけており、出血も認めたため救急車を要請した。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧152/88mmHg脈拍100回/分(整)呼吸18回/分SpO296%(RA)体温36.5℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(61歳~)、脂質異常症(61歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、アトルバスタチン(スタチン)外傷患者に出会ったら高齢者が外傷を理由に来院することは非常に多く、軽症頭部外傷、胸腰椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折などは、しばしば経験します。「段差につまずき転倒した」「滑って転倒した」など、受傷原因が明確であれば問題ないのですが、受傷前の状況がはっきりしない場合には注意して対応する必要があります。大切なのは「なぜけがを負ったのか」、すなわち受傷機転です。結果として引き起こされた外傷の対応も重要ですが、受傷原因のほうが予後に直結することが少なくありません。失神の定義突然ですが、失神とは何でしょうか?意識消失、一過性全健忘、痙攣、一過性脳虚血発作などと明確に区別する必要があります。失神は一般的に、(1)瞬間的な意識消失発作、(2)姿勢保持筋緊張の消失、(3)数秒~数分以内の症状の改善を特徴とします。(1)~(3)を言い換えれば、それぞれ(1)突然発症、(2)外傷を伴うことが多い、(3)意識障害は認めないということです。失神は表1のように分類され、この中でも心血管性失神は見逃し厳禁です1)。決して忘れてはいけない具体的な疾患の覚え方は“HEARTS”(表2)です2)。これらは必ず頭に入れておきましょう。画像を拡大する画像を拡大する外傷の原因が失神であることは珍しくありません。Bhatらのデータによると、外傷患者の3.3%が失神が契機となったとされています3)。姿勢保持筋緊張が消失するために、立っていられなくなり倒れるわけです。完全に気を失わなければ手が出るかもしれませんが、失神した場合には、そのまま頭部や下顎をぶつけるようにして受傷します。頭部打撲、頬部打撲、下顎骨骨折などに代表される外傷を診たら、なぜ手が出なかったのか、失神したのかもしれない、と考える癖を持つとよいでしょう。痛みの有無を必ず確認外傷患者を診たら、誰もが疼痛部位を確認すると思います。Japan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)にのっとり、身体診察をとりながら、疼痛部位を評価しますが、その際、今現在の痛みの有無だけでなく、受傷時前後の疼痛の有無も確認しましょう。クモ膜下出血、大動脈解離のそれぞれ10%は失神を主訴に来院します。発症時に頭痛や後頸部痛の訴えがあればクモ膜下出血を、胸痛や腹痛、背部痛を認める場合には大動脈解離を一度は鑑別診断に入れ、疑って病歴や身体所見、バイタルサインを解釈しましょう。検査前確率を意識して適切な検査のオーダーを失神患者にとって、最も大切な検査は心電図です。各国のガイドラインでも心電図は必須の検査とされています。しかし、その場で診断がつくことはまれです。症状が現時点ではないのが失神ですから、検査を施行しても捕まらない、当たり前といえば当たり前です。房室ブロックに代表される不整脈が、その場でキャッチできればもうけものといった感じでしょう。また、心電図に異常を認めるからといって、心臓が原因とは限らないことにも注意しましょう。たとえばクモ膜下出血では90%以上に心電図変化(Big U wave、Prolonged QTc、ST depression など)が出るといわれます。ST低下を認めたからといって、心原性のみを考えていては困るわけです。本症例では、来院時の心電図でST低下が認められ、心原性の要素を考えて初療医は対応していました。しかし、受傷時に頭痛を訴えていたことが娘さんから確認できたため、クモ膜下出血を疑い頭部CT検査を施行し、診断に至りました。外傷患者を診たら受傷機転を考えること、はっきりしない場合には失神/前失神を鑑別に入れて病歴を聴取しましょう。“HEARTS”に代表される心血管性失神の可能性を考慮し、所見(収縮期雑音、血圧左右差、深部静脈血栓症の有無など)をとるのです。鑑別に挙げなければ、頭部外傷患者の下腿を診ることさえないでしょう。1)坂本 壮.救急外来 ただいま診断中!.中外医学社;2015.2)Brignole M,et al. Eur Heart J. 2018;39:1883-1948.3)Bhat PK,et al. J Emerg Med. 2014;46:1-8.

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第9回 腰部の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第9回 腰部の痛み腰痛を訴える患者さんの外来受診は、よく見られます。誰もが一度や二度は経験する、なじみの痛みでもあります。「腰痛診療ガイドライン2019」によりますと、腰痛の定義は、痛みが体部後面の第12肋骨と臀部下端の間にあり、少なくとも1日以上継続する痛み、となっております。片側または両側の下肢に放散する痛みを伴う、あるいは伴わない場合も含まれます。中には生命を脅かす症例もあるため、迅速な診断と処置が必要となることもあります。今回は、この腰部の痛みを取り上げたいと思います。腰部の痛みは、大きく分けて急性腰痛・亜急性腰痛と慢性腰痛に分類されます。1)急性腰痛・亜急性腰痛発症から4週間未満の痛みを急性腰痛、4週間以上3ヵ月未満の場合は亜急性腰痛と言います。急性腰痛においては、感染性脊椎炎などの感染症も含まれますので気をつけなければなりません。また、高齢者に多い圧迫骨折には多発性骨髄腫や、悪性腫瘍の骨転移なども原因になることもありますので注意が必要です。通常の腰痛の原因としては、椎間板、椎間関節、腰椎を含むその周囲組織のさまざまな部位や腰背部の筋・筋膜に由来すると考えられ、そのものの局在性は不明確です。そのために、特異的な理学所見や画像所見も乏しいのが現状です。多くの腰痛は、3ヵ月経過する前に自然消失していきます。a)腰椎椎間関節性腰痛腰椎椎間関節性腰痛が全腰痛に占める頻度は、若年者で15%、高齢者で40%を占めております。高齢者に多いということは、椎間板が狭小になって前方部分が破綻し、椎間関節に過剰負担がかかり、変性することによって痛みが生じると考えられます。診断には、罹患関節に一致した傍脊柱部に限局した圧痛が認められます。腰椎を進展、捻転、後屈すると、痛みが増強することが多いと言われております。b)腰椎椎間板性腰痛腰椎椎間板性腰痛は、若年者から50歳までの若い年齢層で多くみられます。椎間板内に神経は存在しませんが、線維輪の断裂や椎間板の変性が生じると、椎間板内部のみならず、線維輪外層にまで神経線維が侵入してきます。線維輪に荷重がかかると、神経線維が刺激され、また、炎症症状などにより生じたサイトカインなどの関与によって痛みを感じると考えられております。この確定診断は、椎間板造影診断時に少量の造影剤を注入すると、疼痛が再現されることで得られます。座位や軽度の前屈によって椎間板内圧が増加すると、痛みが増強します。したがって、長時間の座位が取れないことが特徴です。2)慢性腰痛発症からの期間が3ヵ月以上に渡る場合、慢性腰痛と定義します。慢性腰痛の85%は、原因を明確にできない「非特異的腰痛」と言われるほど所見が乏しいと考えられます。椎間板性腰痛は、スポーツ選手や若年者では慢性腰痛の40%程度に関与しているとも言われております。慢性疼痛においては、筋肉への負荷のバランスが悪くなってきますし、筋肉の攣縮などによって、筋・筋膜性疼痛も生じてきます。長期間の疼痛によって精神的にも参ってきますと、身体を動かせないにことよって余計に痛みが増してきます。急性腰痛時に十分な治療を施し、疼痛が遷延しないようにすることが大切です。疼痛が長く持続すると慢性疼痛に移行し、その治療はますます難しくなって難治性慢性疼痛となります。そうなりますと、患者さんのみならず、医療者側も苦しむことになります。次回は下肢痛について述べます。1)腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版 日本整形外科学会/日本腰痛学会監修 p7 20192)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S144-145

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境界性パーソナリティ障害への精神薬理学的治療におけるガイドラインとの比較

 境界性パーソナリティ障害(BPD)は、生命を脅かす精神障害である。BPD患者に対する薬理学的治療に関するガイドラインの推奨事項は、非常に広範囲に及ぶ。オーストリア・Psychosomatische Zentrum Waldviertel-Klinik EggenburgのFriedrich Riffer氏らは、日常臨床におけるBPD患者の薬物療法について調査を行った。International Journal of Psychiatry in Clinical Practice誌オンライン版2019年5月29日号の報告。 オーストリアの精神科・心療内科クリニックで治療されたBPD(ICD-10:F-60.3)の患者110例(女性の割合:90%)の薬理学的治療に関するデータを評価した。 主な結果は以下のとおり。・臨床医は、BPD患者に向精神薬を処方する頻度が高く、多くの場合で複数の薬剤を処方することが示唆された。・最も一般的に用いられていた薬剤群は、抗精神病薬、気分安定薬、抗うつ薬であった。・最も一般的に用いられていた薬剤は、クエチアピン、ラモトリギン、セルトラリンであった。・併存疾患の有無による薬物療法の種類や数量に、有意な差は認められなかった。・薬物療法と合併症との関連は認められなかった。 著者らは「日常臨床では、BPD患者に対し向精神薬が処方されることが多く、多剤併用になることが多いと示唆された。薬剤数と入院治療プログラムの有効性との間に認められる正の相関、薬剤数と併存疾患との間の関連性の欠如は、多剤併用の医原性効果を示唆していることと矛盾している。これらのことは、ガイドラインのコンセンサスを欠いているにもかかわらず、臨床医はBPD患者に向精神薬を処方しており、処方された薬剤の種類や数量が多いほど、より大きな治療効果が観察されている」としている。

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家族性良性慢性天疱瘡〔familial benign chronic pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病[Hailey-Hailey disease])は、厚生労働省の指定難病(161)に指定されている皮膚の難病である。常染色体優性遺伝を示す先天性の水疱性皮膚疾患で、皮膚病変は生下時には存在せず、主として青壮年期以降に発症する。臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部に小水疱、びらん、痂皮などによる浸軟局面を生じる。通常、予後は良好である。しかし、広範囲に重篤な皮膚病変を形成し、極度のQOL低下を示す症例もある。また、一般的に夏季に増悪、冬季に軽快し、紫外線曝露・機械的刺激・2次感染により急激に増悪することがある。病理組織学的に、皮膚病変は、表皮下層を中心に棘融解性の表皮内水疱を示す。責任遺伝子はヒトsecretory pathway calcium-ATPase 1(hSPCA1)というゴルジ体のカルシウムポンプをコードするATP2C1であり、3番染色体q22.1に存在する。類似の疾患として、小胞体のカルシウムポンプ、sarco/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase type 2 isoformをコードするATP2A2を責任遺伝子とするダリエ病があり、この疾患は皮膚角化症に分類されている。■ 疫学わが国の患者数は300例程度と考えられている。現在、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」(研究代表者:大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学 橋本 隆)において、アンケートを中心とした疫学調査が進められている。その結果から、より正確なわが国における本疾患の疫学的情報が得られることが期待される。■ 病因本症の責任遺伝子であるATP2C1遺伝子がコードするヒトSPCA1はゴルジ体に存在し、カルシウムやマグネシウムをゴルジ体へ輸送することにより、細胞質およびゴルジ体のホメオスタシスを維持している。ダリエ病と同様に、常染色体優性遺伝する機序として、カルシウムポンプタンパクの遺伝子異常によってハプロ不全が起こり、正常遺伝子産物の発現が低下することによって本疾患の臨床症状が生じると考えられる。しかし、細胞内カルシウムの上昇がどのように表皮細胞内に水疱を形成するか、その機序は明らかとなっていない。■ 症状生下時には皮膚病変はなく、青壮年期以降に、腋窩・鼠径部・頸部・肛門周囲などの間擦部を中心に、小水疱、びらん、痂皮よりなる浸軟局面を示す(図1)。皮膚症状は慢性に経過するが、温熱・紫外線・機械的刺激・感染などの因子により増悪する。時に、胸部・腹部・背部などに広範囲に皮膚病変が拡大することがあり、極度に患者のQOLが低下する。とくに夏季は発汗に伴って増悪し、冬季には軽快する傾向がある。皮膚病変上に、しばしば細菌・真菌・ヘルペスウイルスなどの感染症を併発する。皮膚病変のがん化は認められない。高度の湿潤状態の皮膚病変では悪臭を生じる。表皮以外にも、全身の細胞の細胞内カルシウムが上昇すると考えられるが、皮膚病変以外の症状は生じない。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は主として、厚生労働省指定難病の診断基準に従って行う。すなわち、臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部位に、小水疱、びらんを伴う浸軟性紅斑局面を形成し、皮疹部のそう痒や、肥厚した局面に生じた亀裂部の痛みを伴うこともある。青壮年期に発症後、症状を反復し慢性に経過する。20~50歳代の発症がほとんどである。皮疹は数ヵ月~数年の周期で増悪、寛解を繰り返す。常染色体優性遺伝を示すが、わが国の約3割は孤発例である。参考項目としては、増悪因子として高温・多湿・多汗(夏季)・機械的刺激、合併症として細菌・真菌・ウイルスによる2次感染、その他のまれな症状として爪甲の白色縦線条、掌蹠の点状小陥凹や角化性小結節、口腔内および食道病変を考慮する。皮膚病変の生検サンプルの病理所見として、表皮基底層直上を中心に棘融解による表皮内裂隙を形成する(図2)。裂隙中の棘融解した角化細胞は少数のデスモソームで緩やかに結合しており、崩れかけたレンガ壁(dilapidated brick wall)と表現される。画像を拡大するダリエ病でみられる異常角化細胞(顆粒体[grains])がまれに出現する。棘融解はダリエ病に比べて、表皮中上層まで広く認められることが多い。生検組織サンプルを用いた直接蛍光抗体法で自己抗体が検出されない。最終的には、ATP2C1の遺伝子検査により遺伝子変異を同定することによって診断確定する(図3)。変異には多様性があり、遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにされていない。別に定められた重症度分類により、一定の重症度以上を示す場合、医療費補助の対象となる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド軟膏や活性型ビタミンD3軟膏などの外用療法やレチノイド、免疫抑制薬などの全身療法が使用されているが、対症療法が主体であり、根治療法はない。2次的な感染症が生じたときには、抗真菌薬・抗菌薬・抗ウイルス薬を使用する。予後としては、長期にわたり皮膚症状の寛解・再燃を繰り返すことが多い。比較的長期間の寛解状態を示すことや、加齢に伴い軽快傾向がみられることもある。4 今後の展望前述のように、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」において、各種の臨床研究が進んでいる。詳細な疫学調査によりわが国での本疾患の現状が明らかとなること、最終的な診療ガイドラインが作成されることなどが期待される。最近、新しい治療として、遺伝子上の異常部位を消失させるmutation read throughを起こさせる治療として、suppressor tRNAによる遺伝子治療やゲンタマイシンなどの薬剤投与が試みられている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省の難治性疾患克服事業(難治性疾患政策研究事業)皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班(研究代表者:橋本 隆 大阪市立大学・大学院医学研究科 皮膚病態学 特任教授)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 家族性良性慢性天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Hamada T, et al. J Dermatol Sci. 2008;51:31-36.2)Matsuda M, et al. Exp Dermatol. 2014;23:514-516.公開履歴初回2019年6月25日

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終末期14日間の化学療法、5%未満に減少/JCO

 終末期(end of life、以下EOL)がん患者の積極的治療について、わが国でも高齢者においては中止を支持する機運が醸成されつつあるのではないだろうか。米国ではEOL化学療法は、最も広く行われている、不経済で、不必要な診療行為として、ベンチマーキングで医師のEOL14日間の化学療法使用を減らす取り組みが行われている。その結果、同施行は2007年の6.7%から2013年は4.9%に減少したことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのPenny Fang氏らによる調査の結果、明らかになった。著者は、「首尾よく5%未満に減少した。この結果を現行のEOLオンコロジー戦略に反映することで、さらに高レベルのEOLの実践が期待できるだろう」と述べている。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年5月29日号の掲載報告。 研究グループは全米のEOL化学療法と標的療法の最近の傾向を評価するため、SEER-Medicareデータベースを用いて、2007~13年に乳がん(1万9,887例)、肺がん(7万9,613例)、大腸がん(2万9,844例)、前立腺がん(1万7,910例)で死亡した65歳以上の患者について、EOL14日間の化学療法の使用に関するガイドラインベンチマーク指標を評価した。 EOL6ヵ月間の各タイムポイントでの化学・標的療法の非ベンチマーク指標を比較アウトカムとし、Cochran-Armitage検定法で時間的傾向を評価。また、医師レベルによるEOL化学療法の使用のばらつきを、マルチレベル・ロジスティックモデルおよび級内相関係数(ICC)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・EOL14日間の化学療法は、2007年6.7%から2013年は4.9%まで減少した(傾向のp<0.001、Δ=-1.8%)。・同様の減少傾向は、EOL1ヵ月間(傾向のp<0.001、Δ=-1.8%)および同2ヵ月間(傾向のp<0.001、Δ=-1.3%)にも認められた。・対象的に、EOL4~6ヵ月間の化学療法使用は増加していた(傾向のp≦0.04、Δ=0.7→1.7%)。・EOL6ヵ月間で化学療法を受けた患者は、全体の43.0%であった。・EOL6ヵ月間のすべてのタイムポイントの標的療法の頻度は、2007~13年にわずかだが安定的に上昇していた(傾向のp=0.09~0.82、Δ=-0.2→1.8%)・標的療法を受けた患者は、EOL14日間で1.2%、同1ヵ月間で3.6%であった。同6ヵ月間では13.2%であった。・マルチレベルモデルの評価(ICC法による)において、医師レベルに起因すると考えられるEOL14日間の化学療法のばらつきは5.19%であった。

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第21回 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾【患者コミュニケーション塾】

 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾2018年度の診療報酬改定で「オンライン診療料」が新設されました。これに先立ち、厚生労働省では検討会を設置し、2018年3月にオンライン診療に関するガイドライン「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を作成しました。私も構成員の一人としてガイドライン作成の議論に参加しました。ただ、オンライン診療を巡っては、どのような問題が発生するか始めてみないとわからない部分も多かったことと、オンラインにまつわる情報や機器の変遷もめまぐるしいということもあり、ガイドラインは1年後から見直しをすることが決まっていました。早速、ガイドライン見直しの検討会が2019年1月に始まり、再び私も構成員としてさまざまな議論に加わりました。オンライン診療は、「初診は対面で診療を行うこと」が原則とされています。ところが、2月に開催された第2回目の検討会では、早くも「初診対面診療の原則の例外」が議題に挙がってきました。オンライン診療をおこなっている医師や関係者から、例外として検討してほしいと提案・要望があったものとして、「男性型脱毛症(AGA)」「勃起不全症(ED)」「季節性アレルギー性鼻炎」「性感染症」「緊急避妊薬」が紹介されました。私は前の4つの症状については、やはり初診時は直接症状を確認したり、持病がないかの確認をしたりする必要があるので、原則を外してはいけないと考えました。しかし、最後の「緊急避妊薬」に関しては、ほかとは分けて考える必要があると思ったのです。性的被害やデートレイプでも「受診前提」はきつい緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、望まない妊娠を避けるために、性交渉から72時間以内に服用することで妊娠を防ぐことができます。もちろん、100パーセントの効果が望めるわけではありませんが、約80パーセントというかなり高い割合で防ぐことができると言われています。ひと口に「望まない妊娠」と言っても、単に避妊に失敗した、軽い気持ちで性交渉したという人もいるでしょう。また、このような緊急避妊薬が手に入ることで、適切に避妊しなくなるという懸念もあります。しかし中には、性的被害に遭った少女や女性もいれば、デートレイプと呼ばれる、拒否できなかった性交渉によって妊娠の可能性が生じた人もいるわけです。そのような“負”の精神状態に置かれている人が、「まずは婦人科を受診して対面診療を」と言われてしまうと、緊急避妊薬を手に入れるハードルはかなり高くなります。それならば、まずはオンライン診療でアプローチできたほうが救われる女性が増えるのではないかと考えました。というのも、私は小学4年生のときに性的被害を受けています。レイプには至りませんでしたが、路地裏に連れて行かれ、「声を出したら殺す」と胸倉をつかまれて脅されながら、陰部に指を入れられました。それはそれは恐ろしい体験で、心臓から冷や汗が流れるような恐怖を味わいました。そのことが親にバレてしまったあと、私が被害を受けた以上に屈辱だったのは、父親が警察に通報したことで自宅に刑事たちがやって来て、現場検証に連れて行かれたことでした。自分が殺されかけた場所に舞い戻り、何をされたのかを話すということがどれだけ心に傷を負うことか、痛いほど経験しています。それだけに、もし婦人科に連れて行かれて、事情を聞かれ、診察をされるとなると、とくに少女にとっては受け入れられる状況とはとても思えませんでした。専門家の反対でかなり限定的になる気配この検討会の構成員は、女性が私一人だけです。私は本来、女性を武器にすることは好きではなく、「男性にはわからないと思いますが」という発言もまずしません。しかし、この問題だけは多くの女性のために私が頑張って発言する必要性を強く感じ、いつも以上に熱を込めた発言を繰り返してきました。この議題が出た当初は、積極的に賛成する構成員がおらず孤軍奮闘でしたが、次第にほかの構成員の賛同が得られるようになってきました。ところが、参考人として検討会に出てきてた産婦人科医が「非常に専門性の高い診断が必要なので、オンラインで診療するとしても処方できるのは産婦人科専門医に限るべきだ」と発言しました。しかし、全国津々浦々にオンライン診療ができる産婦人科専門医がいるわけではなく、性的被害等は全国どこでも起きているわけです。そこで、緊急避妊薬をオンライン診療で処方するのは、産婦人科専門医あるいは事前に厚労省が指定する研修を受講した医師、という方向で話し合いが進んでいきました。また、緊急避妊薬を服用したあとに性器出血があったとしても、必ずしも生理とは限らず妊娠している可能性があることや異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性もあることを考慮して、オンライン診療から3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う。緊急避妊薬の処方は1錠のみとし、ウェブで見える状態下などで内服の確認をする。処方する医師は、医療機関のウェブサイトなどで、緊急避妊薬に関する効能(成功率)、その後の対応のあり方、オンライン診療から薬が手に入るまでの時間、転売や譲渡は禁止されていることなどを明記する、という方向で議論が進みました。一方、緊急避妊薬のオンライン診療を要望している団体の方々は、緊急避妊薬を処方する医師は、産婦人科専門医に限定する必要はない。処方する対象は性暴力被害者に限定せず、必要とするすべての女性にしてほしい。3週間後の受診は必須ではなく、推奨にしてほしい。緊急避妊薬の処方に際して、必ずしも後日の受診を要するわけではない、と主張されています。その主張は私も同感ですが、正論を前面に押し出すと反対勢力は必ず態度を硬化させるので、まずは一歩を踏み出すためのある程度の妥協は必要と考えています。こうしてまとまったガイドラインの改定案は、6月10日に以下の内容で承認されました。例外として、地理的要因がある場合、女性の健康に関する相談窓口等に所属する又はこうした相談窓口等と連携している医師が女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難であると判断した場合においては、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容され得る。ただし、初診からオンライン診療を行う医師は一錠のみの院外処方を行うこととし、受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服することとする。その際、医師と薬剤師はより確実な避妊法について適切に説明を行うこと。加えて、内服した女性が避妊の成否等を確認できるよう、産婦人科医による直接の対面診療を約三週間後に受診することを確実に担保することにより、初診からオンライン診療を行う医師は確実なフォローアップを行うこととする。厚労省は今回の議論を受けて、緊急避妊薬を処方できる医療機関のリストを作成すると打ち出しています。これにより、産婦人科以外の医療機関もリストにあれば、診察を恐れる少女や女性のハードルを下げることができるとかすかな期待を抱いています。そもそも、緊急避妊薬の存在や効能自体を知っている人は少ないだけに、情報の周知が必要だと私は考えます。というのも、望まない妊娠の可能性がある少女や女性がインターネットやSNSを介して、緊急避妊薬と称する“薬”を手に入れている現状があるからです。そのような手段で手に入れた“薬”が、偽薬である可能性もあります。それだけに、きちんとした医療機関で処方されることがやはり必要なのです。世界に目を向けてみれば、各国の医療事情は異なるとはいえ、76ヵ国で医師の処方せんなしで薬局の薬剤師によって販売され、19ヵ国では直接薬局で入手することが可能なのです。国際産婦人科連合(FIGO)などでは「医師によるスクリーニングや評価は不要」「薬局カウンターでの販売が可能」と声明を出しているそうです。そんな中、先進国であるはずの日本では、世界的な動きに逆行して、必要とする女性が緊急避妊薬を手に入れるハードルを高くしようとしているとの批判もあるようです。実際に検討会を傍聴している現役の産婦人科医からも、同様の意見を数多く聞きました。いずれにせよ、本来、女性の健康やからだを守るべき産婦人科医の間で意見が割れているのは残念なことだと思います。もっと多くの方にこの問題に関心を持っていただき、声を出せずにいる女性を守る機運を高めていくことができればと思っています。

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ASCO2019レポート 消化器がん(Lower GI)

レポーター紹介2019年5月31日~6月4日まで、イリノイ州シカゴにあるMcCormick Placeにて2019 ASCO Annual Meetingが開催された。本稿では、その中から大腸がん関連の演題をいくつか紹介したい。進行再発大腸がんに対する新しい薬剤はここ数年登場しておらず、残念ながら今年のASCOでも、すぐに臨床現場に登場するような新規薬剤の発表はなかった。しかし、臨床家として興味深い演題は多数みられ、そのうちのいくつかを周術期化学療法、進行再発大腸がんに対する化学療法、手術手技のそれぞれに分けて紹介する。周術期化学療法ASCOにおける大腸がんに対する周術期化学療法の発表としては、2017年のIDEA collaborationが記憶に新しい。StageIII結腸がんに対する術後補助化学療法の至適投与期間についての検討である。標準治療であるオキサリプラチン併用レジメ(FOLFOXもしくはCAPOX)の6ヵ月投与に対して、試験治療である3ヵ月投与の非劣性が検証された。試験全体の結果はnegativeであったものの、リスク、治療レジメによる差がみられ、その後の各ガイドラインの記載、日常診療に影響を与えた。#3501:Prospective pooled analysis of four randomized trials investigating duration of adjuvant (adj) oxaliplatin-based therapy (3 vs 6 months {m}) for patients (pts) with high-risk stage II colorectal cancer (CC).IDEA collaborationに参加した6つの臨床試験のうち、4つの試験(SCOT、TOSCA、ACHIEVE-2、HORG)ではStageIIIとともにハイリスクStageII症例も登録されており、その結果が報告された。ハイリスクの因子として挙げられたのは、T4、低分化、不十分なリンパ節郭清、血管・神経浸潤、閉塞、穿孔である。統計学的にはオキサリプラチンの上乗せ効果が60%まで低下することを許容し、非劣性マージンは1.2、80%の検出力で542イベントが必要との仮説であった。ハイリスクStageII症例3,273例が、試験治療である3ヵ月群と標準治療である6ヵ月群に無作為割り付けされ、3ヵ月群では有意に有害事象の低減がみられたものの(p<0.0001)、主要評価項目である5年無病生存率(DFS)は3ヵ月群80.7% vs.6ヵ月群83.9%であり非劣性は証明されず、試験全体としてはnegative studyであった(HR:1.18、80%CI:1.05~1.31、p=0.3851)。レジメと期間ごとの5年DFSはCAPOX 3ヵ月81.7% vs.6ヵ月82.0%、FOLFOX 3ヵ月79.2% vs.6ヵ月86.5%であり、CAPOXにおいてその差は小さい傾向にあった。これらの結果から発表者は、ハイリスクStageII症例の術後補助化学療法を行う場合、CAPOXなら3ヵ月、FOLFOXなら6ヵ月と結論付けていた。#3504:FOxTROT: an international randomised controlled trial in 1052 patients (pts) evaluating neoadjuvant chemotherapy (NAC) for colon cancer.切除可能大腸がんに対しては術後補助化学療法が標準治療であるが、術前化学療法は切除前に化学療法を行うことにより腫瘍縮小による切除率の向上、微小転移の抑制などが期待される。FoxTROT試験は、切除可能大腸がんにおいて術前化学療法が治療成績を改善するか、を検証した第III相試験である。T3-4、N0-2、M0かつFOLFOX療法、手術が可能と考えられる1,052例が、試験治療である術前化学療法群(FOLFOX 3コース→手術→FOLFOX 9コース:NAC群)、もしくは標準治療である術後補助化学療法群(手術→FOLFOX 12コース:術後治療群)に2:1で無作為割り付けされた。NAC群においてRAS野生型であればパニツムマブの併用が許容された。2点において主治医の裁量での変更が可能であり、治療全体の期間が高齢者や再発リスクの低い症例では全体の投与期間が24週ではなく12週でもよい、FOLFOXの代わりにCAPOXでもよい、という設定であった。術前化学療法は安全に施行され全体として大きな合併症の増加はみられなかった。不完全切除率(R1、R2もしくは非切除)はNAC群4.8%、術後治療群11.1%であり、NAC群において有意に低かった(p=0.0001)。病理組織学的検討では、pT0は4.1% vs.0%、pN0は59.4% vs.48.8%で、いずれもNAC群においてdown stagingが得られていた(p<0.0001)。NACによる病理組織学的効果は59%の症例で確認され、pCRの症例を3.5%認めた。主要評価項目である2年後の再発もしくは腫瘍残存はNAC群13.6%、術後治療群17.2%であり、NAC群において予後良好な傾向を認めたものの有意差を認めなかった(HR:0.75、p=0.08)。NAC群におけるパニツムマブの上乗せ効果は認めなかった(p=0.30)。主要評価項目では統計学的有意差を認めなかったものの、大腸がんに対するNACは新たな概念であり、今後の続報を待ちたい発表であった。進行再発大腸がんに対する化学療法ここ数年のASCOでは免疫チェックポイント阻害剤(Immune Checkpoint Inhibitor: ICI)が大きな話題である。大腸がんにおいてはマイクロサテライト不安定性を認める症例(MSI-high)ではICIの効果が期待されるものの、その割合は大腸がん症例全体の数%にすぎず、大腸がんの多くを占めるMSS症例に対する効果は期待できなかった。#2522:Regorafenib plus nivolumab in patients with advanced gastric (GC) or colorectal cancer (CRC): An open-label, dose-finding, and dose-expansion phase 1b trial (REGONIVO, EPOC1603).制御性T細胞(regulatory T cells:Tregs)や腫瘍関連貪食細胞(tumor-associated macrophages:TAMs)は抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体治療に対する抵抗性に関与すると考えられている。レゴラフェニブは大腸がんにおいていわゆるLate lineで使用される薬剤であるが、血管新生阻害作用や腫瘍関連キナーゼ阻害作用を持ち、TAMsを減らすことが腫瘍モデルにて示されている。本試験は、標準治療に不応・不耐となった進行・再発胃がん、大腸がん症例を対象としたレゴラフェニブとニボルマブの併用療法の第Ib相試験である。主要評価項目は用量制限毒性(DLT)、最大耐用量(MTD)と推奨用量(RD)であり、副次評価項目は奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、病勢コントロール率(DCR)であった。レゴラフェニブの1日1回で21日間内服・7日間休薬とニボルマブの3mg/kgを2週ごとに点滴静注を併用する投与スケジュールであった。レゴラフェニブの用量は80mg/day、120mg/day、160mg/dayの3レベルが設定され、低いほうから3例ずつ投与し有害事象がなければ増量していくdose-escalation cohortと、求められたRDで治療を行うexpansion cohortが設定された。胃がん25例、大腸がん25例が登録され、MSI-highは1例(2%)、MSSが49例(98%)であった。レゴラフェニブのdose-escalation cohortにおいて80mg/day、120mg/day、160mg/dayにそれぞれ4例、7例、3例が登録され、160mg/dayのレベルにてGrade3の発疹、蛋白尿、結腸穿孔を認めた。この結果から推奨用量は120mg/dayとなったが、その後Grade3の皮膚症状の頻度が多かったため最終的にレゴラフェニブの用量は80mg/dayとされた。胃がん、大腸がんを合わせた50例全体のORRは40%(95%CI:26~55)、DCRは88%(95%CI:76~96)であった。レゴラフェニブの用量別のORRの検討では、80mgは45%、120mgは36%、160mgは33%であった。大腸がん全体のORRは36%であり、MSSだけに限ると33%であった。胃がんのORRは44%であり全例がMSSであった。全体のPFS中央値は6.3ヵ月であった。消化器がんにおいて今までICIの効果が期待できなかったMSS症例で、レゴラフェニブとの併用においてICIの効果を認めたことは特筆すべきと考える。レゴラフェニブをTregsやTAMsを抑えるために使用するという発想も興味深く、今後の第II相、第III相試験の結果が待たれる。手術手技ASCOは化学療法のみの学会ではなく手術手技、放射線治療、支持療法、緩和ケア、予防、早期発見、医療経済、サバイバーシップなど多岐にわたる発表が行われる。本邦からの大腸がん手術手技に関する演題がPoster Discussion Sessionにおいて発表された。#3515:A randomized controlled trial of the conventional technique versus the no-touch isolation technique for primary tumor resection in patients with colon cancer: Primary analysis of Japan Clinical Oncology Group study JCOG1006.大腸がん手術時に最初に血管の結紮を行うno-touch isolation technique(NTIT)は、手術手技による腫瘍細胞の血行性転移を防ぐことに有効と考えられていたが、大規模な有効性のデータは存在しなかった。JCOG1006はこのNTITの有効性を検証した第III相試験である。主な適格症例は組織学的に確認された大腸がん(回盲部~Rs直腸まで)、T3-4、N0-2、M0などである。症例はconventional technique(CoT:[1]腸管の剥離・授動→[2]辺縁血管の結紮→[3]腸管切離→[4]脈管根部での結紮)もしくはNTIT([1]脈管根部での結紮→[2]辺縁血管の結紮→[3]腸管切離→[4]腸管の剥離・授動)に無作為化された。手術はすべて開腹手術であり、術後病理組織学的にStageIIIと診断された症例はカペシタビンによる術後補助化学療法を受けた。主要評価項目は無病生存期間(DFS)であった。2011年1月~2015年11月に853例が登録され、CoT 427例、NTIT 426例に無作為化された。3年DFSはCoT 77.3%、NTIT 76.2%であり、NTITの優越性は証明されなかった(HR:1.029、95%CI:0.800~1.324、p=0.59)。3年OSはCoT 94.8%、NTIT 93.4%であった(HR:1.006、95%CI:0.674~1.501)。これらの結果からNTITは術後再発率、生存率に寄与しないと結論付けられた。本試験は結果としてnegative studyであったが、臨床現場のClinical Questionに対してきちんとした第III相試験を立案、実施、解析、発表するその姿勢は素晴らしく、そのことが評価されてのPoster Discussionへの採択であったと感じられた。最後に今年のASCO大腸がん領域の演題からいくつかを紹介したが、上記演題のほかにも進行再発がんに対するTripletレジメや、抗PD-1抗体+抗CTL-4抗体、抗PD-1抗体+放射線治療など、さまざまな興味深い演題の発表があった。ASCO2019のテーマは“Caring for Every Patient, Learning from Every Patient”であり、上記のようなさまざまなエビデンスを理解したうえで、患者一人ひとりから学び、患者一人ひとりに最良の治療、ケアを提供していくことが大切であると考えられた。

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冠動脈疾患疑い患者にCTAが有用な臨床的指標は?/BMJ

 安定胸痛があり冠動脈疾患が疑われる患者に対して、冠動脈CT血管造影(冠動脈CTA)による恩恵があるのは、臨床的な検査前確率が7~67%の範囲の患者であることが明らかにされた。また、冠動脈CTAの診断精度は、経験的に64列超の検出器を用いたほうが感度・特異度ともに高いことや、狭心症がある患者でも低下しないこと、男性で高く、高齢者では低いことなども示された。ドイツ・シャリテ大学病院ベルリンのRobert Haase氏らが、65試験についてメタ解析を行い明らかにしたもので、BMJ誌2019年6月12日号で発表した。冠動脈CTAは、正確かつ非侵襲的に閉塞性冠動脈疾患(CAD)をルールアウトすることができる。しかし英国NICEや欧州心臓病学会の現行ガイドラインでは、典型的・非典型的狭心症のすべての患者についてのCTAは推奨されておらず、臨床的情報(性別、年齢、胸痛タイプなど)で推定されたCADの検査前確率が15~50%の患者にのみ実施されているという。CTAの閉塞性CADに関する診断精度を検証 研究グループは、冠動脈CTAと冠動脈造影を比較した診断精度に関する前向き試験について、メタ解析を行った。Medline、Embase、Web of Scienceを用いて公表された試験結果を、また未発表の試験結果については試験を行った研究者に直接連絡を取って確認した。50%以上の内径縮小を閉塞性CADのカットオフ値としており、また全被験者がCADの疑いで冠動脈造影の適応があり、冠動脈CTAと冠動脈造影を両方実施していた試験を解析対象とした。 主要アウトカムは、CTAの閉塞性CADに関する臨床的事前検査としての陽性・陰性適中率で、一般化線形混合モデルで分析した(非CTA診断結果を包含および除外して算出)。 非治療/治療閾値モデルを用いて、CTAの診断精度が高くその実施が適切である検査前確率の範囲を導いた。同モデルでは、CTA陰性の際の検査後確率は15%未満(陰性適中率85%以上)、CTA陽性の際の検査後確率は50%超を閾値とした。64列超検出器のCTA装置で精度が向上 65の前向き診断精度試験(被験者5,332例)のデータを包含して解析した。 臨床的な検査前確率が7~67%の範囲で、非治療/治療閾値モデルの治療閾値50%超、非治療閾値15%未満となった。具体的には検査前確率が7%では、CTAの陽性適中率は50.9%(95%信頼区間[CI]:43.3~57.7)で、陰性適中率は97.8%(同:96.4~98.7)だった。検査前確率が67%では、CTAの陽性適中率は82.7%(同:78.3~86.2)、陰性適中率は85.0%(同:80.2~88.9)だった。 被験者全体ではCTAの感度は95.2%(95%CI:92.6~96.9)、特異度は79.2%(同:74.9~82.9)だった。 また、64列超検出器のCTA装置を用いたほうが、同64列未満の場合に比べ、経験的感度(93.4% vs.86.5%、p=0.002)、特異度(84.4% vs.72.6%、p<0.001)がともに高かった。 CTAのROC曲線下面積(AUC)は0.897[0.889~0.906]であり、CTAの診断能は、男性よりも女性でわずかに低かった(AUC:0.874[0.858~0.890] vs.0.907[0.897~0.916]、p<0.001)。また、75歳超になるとわずかに低くなった(0.864[0.834~0.894]、全年齢群と比較したp=0.018)。狭心症のタイプ(典型的狭心症0.895[0.873~0.917]、非典型的狭心症0.898[0.884~0.913]、非狭心症胸痛0.884[0.870~0.899]、その他の胸部不快感0.915[0.897~0.934])による有意な影響はみられなかった。

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国内初のICS/LAMA/LABAが1剤に配合されたCOPD治療薬「テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用」【下平博士のDIノート】第27回

国内初のICS/LAMA/LABAが1剤に配合されたCOPD治療薬「テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用」今回は、3成分配合の慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬「フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩ドライパウダーインヘラー(商品名:テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用)」を紹介します。本剤は、COPD患者の呼吸困難などの諸症状を1日1回の吸入で改善し、QOLの改善にも寄与することが期待されています。<効能・効果>本剤は、COPD(慢性気管支炎・肺気腫)における諸症状の緩解の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、吸入ステロイド薬(ICS)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)および長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用が必要な場合に限られます。<用法・用量>通常、成人には本剤1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして100μg、ウメクリジニウムとして62.5μgおよびビランテロールとして25μg)を1日1回投与します。<副作用>第III相国際共同試験(投与期間:52週)において、本剤が投与された総症例4,151例中485例(11.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されています。主なものは、口腔カンジダ症101例(2.4%)、肺炎45例(1.1%)、発声障害26例(0.6%)でした(承認時)。重大な副作用としてアナフィラキシー反応(頻度不明)、肺炎(1.1%)、心房細動(0.1%)が認められています。なお、ICSを長期で使用した場合、肺炎のリスクが高まる懸念があるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.本剤は、気管支を拡張させる薬2種類と、炎症を抑える薬の計3種類が配合されているCOPDの治療薬です。2.1日1回の吸入で、持続的に気管支を広げるとともに炎症を抑えることで、呼吸を楽にして身体の活動性を改善します。3.毎日なるべく同じ時間帯に吸入し、1日1回を超えて吸入しないようにしてください。4.声がれや感染症を予防するため、吸入後はうがいをしてください。5.口の渇き、目のピントが合いにくい、尿が出にくい、動悸、手足の震えなどの症状が現れたらご連絡ください。6.COPDの治療では禁煙が大切なので、薬物治療と共に禁煙を徹底し、継続しましょう。7.薬のカバーを開けると吸入の準備が完了し、カウンターが減ります。必要以上に開け閉めすると、必要回数が吸入できなくなるため、吸入時以外はカバーを開けないでください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の3成分(吸入ステロイド薬[ICS]、長時間作用性抗コリン薬[LAMA]、長時間作用性β2刺激薬[LABA])が配合されたCOPD治療薬です。『COPD診断と治療のためのガイドライン2018[第5版]』において、安定期COPDの維持療法としては、気管支拡張薬のLAMA(あるいはLABA)を単剤で用い、効果不十分な場合はLAMA+LABAの併用が推奨されています。しかし、COPD患者の15~20%は喘息が合併していると見込まれており、その場合はICSを併用することとされています。なお、海外で報告されているGOLD2019レポートでは、LAMAもしくはLABAの単剤療法またはLAMA+LABAの併用療法を行っても増悪を繰り返す患者には、ICSの追加が有効な例もあるとされています。本剤は、COPD患者に対するLAMA+LABA+ICSのトリプルセラピーを1剤で行うことができますが、3成分それぞれの薬剤に関する副作用に注意する必要があります。患者さんへ確認するポイントとしては、LAMAによる口渇、視調節障害、排尿困難、LABAによる不整脈、頭痛、手足の震え、ICSによる口腔カンジダ症などが挙げられます。とくに、過量投与時には不整脈、心停止などの重篤な副作用が発現する恐れがあるため、服薬指導では吸入を忘れたときの対応などと併せて、1日に1回を超えて使用しないよう注意を促しましょう。COPD患者は、喫煙や加齢に伴う併存症に対する治療を行っていることが多く、安定期ではアドヒアランスが低下することがあります。COPDに加えて喘息の治療が必要な場合に、本剤のような3成分配合吸入薬を選択することで、症状の改善およびアドヒアランスの向上が期待できます。

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TIMI Studyから学ぶ臨床研究

 NPO法人 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR/理事長 桑島 巖氏)は2019年4月20日、都内においてJ-CLEAR講演会を開催。6名の講演者が特定臨床研究の現状や糖尿病領域の臨床試験の変遷などについて発表した。 本稿では、第1部「特定臨床研究法施行のあとさき」に続き、第2部、第3部の話題をお届けする。SGLT2阻害薬は腎機能を保護するか 第2部では、「相次ぐ糖尿病新規治療薬:助っ人、それとも敵?」をテーマに2題の講演が行われた。 はじめに「SGLT2阻害薬の腎機能保護作用に関する最近の知見」をテーマに栗山 哲氏(東京慈恵会医科大学 客員教授)が講演を行った。患者数が1,330万人と推定される慢性腎臓病(CKD)をコモンディジーズと位置付けた上で、CKDによる心血管イベント発生のリスクと関連性を概括し、腎臓を守ることは生命予後の改善になると述べた。そして、心・腎保護作用としてSGLT2阻害薬によるEMPA-REG、CANVAS、DECLARE TIMI 58、CREDENCEの各試験結果を示し、試験内容を説明した。 腎臓保護のためには「糸球体障害、尿細管障害、血管障害」の3つがターゲットとなり、「KDIGOガイドライン2014」で示されたように血圧、血糖、ACE阻害薬/ARBなどを優先して考慮するとともに、脂質、尿酸、貧血、減塩なども同時に考えるべきと提案する。 これらの保護に作用するのがSGLT2阻害薬であり、その作用は、食塩感受性改善など食塩関連、血糖低下・糖毒性改善など血糖関連に多面的に作用するとともに、尿酸値の低下、LDL-Cの低下などにも作用する。これらの作用が先述の3つのターゲットを改善するとともに、腎機能障害進行抑制に寄与すると考えられると効果の仕組みを説明した。 最後に今後のSGLT2阻害薬の課題として、諸効果の持続可能性、副作用のリスクを挙げ、レクチャーを終えた。臨床研究結果が医師の行動を変えるためには 次に「医療の現実、教えます:脚気論争から糖尿病治療薬論争まで」をテーマに名郷 直樹氏(武蔵国分寺公園クリニック 院長)が、明治期の脚気論争から最近のディオバン事件までを振り返り、臨床研究の問題点を糖尿病治療薬とも絡め説明した。 「脚気論争」は医学史の中でもよく知られた史実で、「臨床試験の正確さよりも、なぜ治療に結びつく医療がなされなかったのか、“負の歴史”として語られている」と同氏は語るとともに、コレラ菌論争や現在の治療薬の偏重傾向にある糖尿病治療薬に関しても触れた。これら過去の反省を医療者は踏まえ、「病態生理から臨床データをひとつながりにする」「日々の実践教育にRCTによるEBM教育を入れる」「研究結果と現場のギャップを明確にする」などを今後の臨床研究に活かすべきだと提言を行った。 最後に、同氏は「臨床研究は医者の行動を変えないが、間違いながらも(軌道)修正可能な医療を進めていきたい。どういう研究をするかだけでなく、どう研究が使われるかも視野に入れる必要がある」と語り、講演を終えた。わが国が見習うべき臨床研究方法“TIMI Study” 第3部では「負けない臨床研究の作り方:TIMI Study*に学ぶ」をテーマに後藤 信哉氏(東海大学循環器内科 教授)が、最近臨床研究で目にする機会の多い“TIMI Study”の概要とわが国が進むべき方向性を解説した。 はじめに臨床研究の利害関係者を「臨床医・臨床研究者」「企業(薬剤、機器)」「規制当局」「患者」の4つに分け、それぞれの立場から臨床研究の目的・目標を説明した。それぞれの利益とは、臨床医・臨床研究者は質の高いジャーナルに論文を多数掲載すること、企業として製品で利益を生むこと、規制当局として許認可のために役立つ科学的根拠を得ること、患者にとって疾患が治癒することである。この4つの利害関係者の思いが合致し、目的を充足させていると思える体制の構築に成功しているのが“TIMI Study Group”だと語る。 具体的には、「ランダム化比較試験が、標準治療の転換を目指す唯一正しい方法とコンセプトを確立させている」「標準プロトコールとして、ランダム化比較試験が有効性と安全性を検証するものと完成させている」「同グループと協調して標準的プロトコールの症例登録をするため、各国のコーディネーターが決まっている」「同グループに臨床研究を委託することで薬剤開発メーカーは投資リスクを低くすることができる」「同グループが検証した臨床試験の結果は、アカデミアにはNEJMなどのhigh impact journalへの論文発表、規制当局には認可承認に必要な科学的データの提供、新薬開発メーカーには認可承認とその後の販売拡大に必要な科学的根拠を提供する」と5つの要素を挙げ説明した。 実際、同氏も参加したSGLT2阻害薬ダパグロフロジンの“DECLARE TIMI 58試験”を例に、試験がどのような目的とプロセスで行われ、結果どのような影響があったかを報告した。DECLARE TIMI 58試験では、企業と規制当局は同薬剤が心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中を増やさないことを示すことで、心不全入院、腎不全悪化予防の可能性を示唆した。臨床医・臨床研究者では本試験の論文がNEJMを含め他のジャーナルにも17本掲載され、患者には同薬剤への懸念を減らすインパクトがあったという。補足で同氏へのメリットとしては、共著の研究者になったことと“Circulation”への掲載のほか、わが国の研究貢献度の比重が増したと考えていると感想を語った。 そして、「こうした四者にメリットとなる研究を創造したTIMI Studyグループに、わが国の臨床研究も見習うべきところがある」と述べ、(1)「何が正しいか」を定義し、検証する方法を確立することが重要(2)検証する理論ができたら、その理論を広報して「世界を一色に染める」ことが重要(3)利害関係のある四者すべてが「Win/Win/Win」であると納得しながら、結果としては一人勝ちになる仕組みを考えることが重要と3つのポイントを提言し、レクチャーを終えた。*TIMI Study Groupとは、循環器領域に特化したアカデミック臨床研究機関。設立から約70以上の臨床研究を手掛け、いずれの結果も一流医学雑誌に発表・掲載されている。(ケアネット 稲川 進)■参考臨床研究適正評価教育機構■関連CLEAR!ジャーナル四天王

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脳心血管病予防策は40歳からと心得るべき/脳心血管病協議会

 日本動脈硬化学会を含む16学会で作成した『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2019』が日本内科学会雑誌第108巻第5号において発表された。2015年に初版が発行されてから4年ぶりの改訂となる今回のリスク管理チャートには、日本動脈硬化学会を含む14学会における最新版のガイドラインが反映されている。この改訂にあたり、2019年5月26日、寺本 民生氏(帝京大学理事・臨床研究センター長)と神崎 恒一氏(杏林大学医学部高齢医学 教授)が主な改訂ポイントを講演した(脳心血管病協議会主催)。脳心血管病予防が今後はますます求められる  2018年12月、「健康寿命の延伸などを図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立した。2015年度国民医療費1)は42兆円を超え、内訳を見ると循環器疾患に対する医療費は全体の19.9%(5兆9,818億円)、次いで、悪性新生物が13.7%(4兆1,257億円)を占めていた。近年では医療の発展に伴い、病態の発症から死亡に至るまでの期間が伸びているものの、平均寿命と健康寿命の差はまだ大きい。死亡までに介護が必要となった主たる原因も、認知症を上回り、脳血管疾患が1位にランクインしている2)。このように、そのほか問題視されている肥満、糖尿病、喫煙などの現状を踏まえると、今後ますます、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの活用が求められるようになる。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象 厚生労働省による“人生100年時代構想”や高齢者のフレイル・介護問題を受け、今回の改訂でも高齢者の留意点が多く盛り込まれた。健康寿命を伸ばして要介護期間を短くする、つまり“不健康な期間”を短縮することがわれわれの使命、と考える両氏。神崎氏は、「65歳以上になってから努力するのではなく、中年期から努力することが健康寿命を延ばすためには必要。高齢者の場合は生活習慣病を管理しながら、多病に基づくポリファーマシーやサルコペニア/フレイルの発生にも注意する必要がある」とし、寺本氏は「高血圧などの危険因子を持たない段階での予防(0次予防)の患者に啓発することが重要」と、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象者について言及。また、寺本氏は「定期的にチェックするために誕生日月に実施するのが有用。その旨を事前に患者に伝えておくと、患者自身も覚えている」と活用時期やその方法についてコメントした。脳心血管病リスクの管理状態の評価ツールとして活用可能 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、臨床現場で使用しやすいようにStep1~6までの順に従って診断・診療できるように設計されている。また、健康診断などで偶発的に脳心血管病リスクを指摘されて来院する患者を主な対象者とし、既に加療中の患者に対しても、管理状態の評価ツールとして活用可能になるようにも作成されている。 以下に脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート各Stepにおける留意点を示す。◆Step1:スクリーニングと専門医等への紹介の必要性の判断基準a~cに分類。aでは家族歴や脈拍について重視、bの場合は空腹時血糖の測定が必要になるため、空腹時での来院を求める必要がある。また、アルドステロン症の見落としが散見されるため、この段階でしっかりチェックする必要がある。cでは、各専門医への紹介の必要性がある対象者を明確にしている。また、慢性腎臓病(CKD)の記載方法が変更している。◆Step2:各リスク因子の診断と追加評価項目脳心血管病の各リスク因子の診断と追加評価項目は各学会のガイドラインに準拠。◆Step3:治療開始前に確認すべきリスク因子喫煙リスクがある患者での禁煙指導が重要で、1回/年の確認が鍵となる。また、個々の病態に応じた管理目標について高齢者について加味している点がポイント。◆Step4:リスクと個々の病態に応じた管理目標の設定改訂前はリスク層別にNIPPON DATA80を使用していたが、今回は「吹田スコア」の使用を推奨。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートには危険因子を用いた簡易版が載っているので、それを基にリスクスコアを算出することが可能。◆Step5:生活習慣の改善食事摂取量は、日本人の食事摂取基準を参考にし、これまでのkcal重視からBMI重視に変更。身体活動を患者と共有できるよう詳細に記述。◆Step6:薬物療法の紹介と留意点実際の薬物療法については各疾患のガイドラインに従い、導入前には生活習慣の改善を基盤に患者とのコンセンサスを得ることが重要。 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、5年に1回のタイミングで更新を目指しており、大きな改訂はできなくとも各学会で改訂事項が発表された際には、それらを脳心血管病協議会で話し合い、対策を講じるという。最後に寺本氏は「このような類いの包括的な管理チャートは海外では作成されておらず、世界に一歩先立った活動である」と締めくくった。■「日本人の食事摂取基準」関連記事日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

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成人の「軽症」気管支喘息における増悪予防治療について(解説:小林英夫氏)-1060

 成人気管支喘息の治療は重症度による差異はあるものの、大まかには、吸入ステロイド薬を維持療法の基本薬とし、発作時には短時間作用型β2刺激薬(SABA)を用いている。本論文は成人軽症喘息の増悪予防療法について3群を比較検討し、ブデソニド+ホルモテロール合剤の頓用が吸入ステロイド維持療法に劣らないとしたものである。 これまで維持療法が導入されていない軽症症例を、発作時のみSABA吸入頓用群、吸入ステロイド維持療法+発作時SABA頓用、発作時にブデソニド+ホルモテロール合剤の頓用、の3群化している。初めの2群は一般的な治療であり、3つ目の群を評価することが本試験の目的となっている。なお、喘息発作時に合剤を追加吸入する治療としてSMART(single maintenance and reliever therapy)療法が報告されているが、この療法は維持療法として合剤を使用したうえにさらに上乗せする治療で、本試験の第3群とは別個の概念である。 本試験の結論として、「軽症」成人喘息においては、喘息発作時の合剤頓用が吸入ステロイド維持療法と同等以上に増悪発生と重症増悪を管理できるとしている。結論に大きな異論はないように感ずる。また、患者は毎日の定期吸入療法よりも必要時のみの合剤頓用に簡便性を感じるかもしれない。それでは、日常の治療選択肢として合剤頓用が望ましいであろうか。今後、合剤頓用が喘息治療のガイドラインに組み込まれる可能性はあろうが、筆者は当面は積極的な導入は見合わせるつもりである。本結論を支持する追加論文の必要性もある。そして患者本人の判断に重きを置く治療法への不安が残る。SABAも合剤も、本人判断による頓用が過剰吸入や喘息の過小評価につながった経験は決して少なくない。頓用療法では自覚症状のみではなくピークフロー測定の導入がより重要になると感じる。30年近く前にSABA頓用の有害性が報告された歴史も踏まえ、もうしばらくはデータの蓄積を待ってもよいのではないだろうか。

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肝性脳症〔Hepatic encephalopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義意識障害には脳機能障害以外に多くの原因があるが、肝機能低下に伴う意識障害が肝性脳症とされている。肝性脳症は多くの場合、肝硬変や劇症肝炎患者などの肝障害が進行した状況において発生する。傾眠傾向といった軽度のものから、重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す合併症で、肝不全の特徴的徴候の1つである。顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態を「ミニマル脳症」と呼ぶ。■ 疫学わが国では数十万人の肝硬変患者が存在するとされており、病状の悪化に伴い、いずれの患者においても肝性脳症を発症しうる。ミニマル脳症については、肝硬変患者の1/3が有しているとの報告もあり、ミニマル脳症患者のうち約20%が半年以内に顕性脳症に移行するとされている。急性型の劇症肝炎の発症数は減少しているものの、肝硬変を基礎疾患として急性増悪を来す“Acute-on chronic liver failure(ACLF)”がアルコールを原因とするものとして近年増加している。■ 病因急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。最近では肝硬変などの慢性肝疾患が急性増悪して、急激に肝不全症状を呈した場合を“Acute on chronic”と呼ぶことが提唱されている。慢性型では肝硬変によるものが臨床的に最も多い。肝硬変では、門脈大循環短絡路を形成していることが多く、その程度により治療反応性と予後が異なることから、短絡路の評価を行ったうえで治療法を決定する。頻度は高くないものの、先天性尿素サイクル異常症も、念頭において診療に当たることが必要である。アンモニア高値のみを示す成人では、オルニチントランスカルバミラーゼ (OTC)欠損症とシトルリン血症などの可能性が考えられる。■ 症状肝性脳症は、傾眠傾向といった軽度のものから重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す。わが国で広く使用されている犬山シンポジウムの分類を表1に示す。先に述べたミニマル脳症は、臨床的には診断できないためナンバーコネクション(数字追跡)試験などの精神神経学的テストで判断する。なお、このテストはiPadなどにダウンロードして使用でき、日本肝臓学会のホームページから無料でダウンロードできるようになっている。表1 肝性脳症の犬山分類画像を拡大する■ 分類顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態をミニマル脳症と呼ぶ(表2)。欧米での肝性脳症の分類を表3に示す。表2 臨床病型分類画像を拡大する表3 欧米における肝性脳症の分類画像を拡大する表3に示したように、肝性脳症は大きく(A)急性型、(B)バイパス型、(C)肝硬変型に分けられる。型別頻度は、急性型28%、慢性型のうち再発型54%、末期昏睡型18%といわれており、初回脳症時の生存率は慢性再発型で76%であるのに対し、末期昏睡型では23%と報告されている。救急外来を受診した意識障害患者において、肝性脳症の頻度は約2%とされており、頻度が高いものではないが常に念頭に置くべき疾患の1つである。急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。■ 予後肝性脳症が出現した患者の予後は悪いことが知られている。海外の報告では脳症出現後の1年生存率は約35%、2年で30%、3年で20%、5年で15%とされている。慢性型では肝硬変によるものが最も多いが、脳症の出現は予後を悪化させる合併症であり、脳症の出現した肝硬変患者の生存率は30~40%と考えられる。また、ACLFに関しても、脳症出現が重症度分類に加えられていることから、脳症の出現は肝疾患全体に関する予後決定因子の1つと考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床症状に加えて検体検査、画像検査、精神神経機能検査などを行って総合的に診断する。身体所見としては肝不全に伴う皮膚黄染(黄疸)、浮腫、腹部膨隆(腹水貯留)を認める場合が多い。羽ばたき振戦や、肝性口臭などは急性型、慢性型のいずれにもみられるが、手掌紅斑、くも状血管腫、腹壁静脈怒張などは慢性型を疑う所見となる。ミニマル脳症は臨床的所見による診断が困難である。わが国では顕性脳症の昏睡度分類として主に表1の犬山分類が用いられる。脳症の昏睡度I度は臨床的には判定困難なことが多く、振り返って初めて診断できることも少なくない。II度になると、羽ばたき振戦など診断は比較的容易であるが、羽ばたき振戦は尿毒症や低血糖症でも出現することがあるので鑑別が必要である。1)検体検査肝不全を判定するため、一般肝機能検査、肝予備能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼなど)とともにアンモニア値を測定する。シトルリン血症などの尿素サイクル異常症では、アンモニア以外の肝機能は正常であることが多い。BCAA/AAAモル比(フィッシャー比)の低下を認めるが、最近では簡便な指標としてBCAA/チロシン比であるBTRが用いられることが多い。また、脱水や消化管出血が誘因となっている場合は、BUN(血液尿素窒素)/Cr(血中クレアチニン)比の上昇がみられ、利尿剤使用による低カリウム血症などの電解質異常を認める場合も多い。2)画像検査腹部超音波、CT検査などで慢性肝疾患や脾腫、短絡路の有無などを検索する。また、頭部MRI検査などで中枢神経系の疾患を除外する。深昏睡では脳浮腫の有無も評価する。慢性再発型ではMRI T1強調検査で淡蒼球の高信号が特徴的とされている。3)精神神経機能検査症状に乏しいミニマル脳症を疑う患者に対しては数字追跡試験、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)式成人知能検査などによる評価を行う。脳波は三相波が出現し、進行とともに低振幅徐波となっていく。意識障害を伴っている患者の場合、頭部CT、MRI検査や髄液検査などの検査を行い、中枢神経系の疾患を除外することが大切である。さらに、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖症など代謝性疾患の除外のため、血糖、尿中ケトン体、血液ガス検査なども行う。肝性脳症初期の症状は、睡眠パターン変化、人格変化、被刺激性、精神反応の鈍化など軽微で非特異的な症状であり、臨床的診断は困難である。必要に応じて、定量的精神神経機能検査(数字追跡試験、WAIS式成人知能検査など)や電気生理学的神経検査(脳波[三相波がみられる]、大脳誘発電位など)を組み合わせて診断を試みる。アンモニア値が低いからといって肝性昏睡を否定できないことに注意が必要である。逆にアンモニア値が高くても意識障害を認めない症例も多数あるため、肝性脳症の診断には家人を含めた詳細な問診が必要となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝性脳症の治療は、誘因の除去および食事療法による一般療法と薬物療法に分けられる。1)誘因の除去タンパク質の過剰摂取、便秘、下痢などの便通異常、脱水、感染症、利尿剤や睡眠剤、安定剤の過剰投与などは、非代償性肝硬変患者において容易に肝性脳症を誘発するため、普段より生活指導を行うことが重要である。2)食事療法肝性脳症時の食事療法は、低タンパク食(0.4~0.6kg/標準体重)が基本であるが、長期間のタンパク制限は栄養不良を助長し、予後に悪影響を及ぼすことが懸念されるため、漫然と継続しないことに注意する。3)薬物療法アンモニアの生成および吸収抑制のため(1)合成二糖類、(2)難吸収性抗生物質を用いる。(2)に関して、これまではカナマイシンや硫酸ポリミキシンBが使われてきたが、いずれも保険適用外であり、長期投与による聴力障害や腎機能障害を生じるなどの問題があった。2016年に、海外では30年以上前から使用されていたリファキシミン(商品名:リフキシマ)が、肝性脳症に対してわが国でも使用が認可された。海外のガイドラインでは難吸収性抗生物質は、合成二糖類に併用投与が推奨されている。リファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類や分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの報告がある。亜鉛補充は、これまで各施設で硫酸亜鉛などを調剤していたが、ウイルソン病治療薬である酢酸亜鉛(同:ノベルジン)が肝疾患の低亜鉛血症に対して適応拡大となった。4 今後の展望最新の認知症ガイドラインにおいて、早期認知症との鑑別すべき疾患の1つとして肝性脳症が挙げられている。最近問題となっている車の運転における逆走などは、ミニマル脳症の患者も同様のハイリスクを有していることから、ミニマル脳症を含めた早期治療介入の重要性が今後注目されると思われる。さらにリファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから、第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類やBCAA製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの複数の報告もなされている。肝性脳症を含めて肝硬変領域においては、この数年間で多くの新薬が上市された。2019年には非代償期のC型肝硬変患者に対する直接的抗ウイルス治療薬(DAA)製剤も認可されており、今後肝硬変診療は新たなパラダイムシフトに向かっていくと思われる。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本消化器病学会ガイドライン閲覧サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肝臓学会肝性脳症診断ツールダウンロード(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2019年6月11日

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大動脈弁狭窄症に対する治療の第1選択はTAVIの時代に(解説:上妻謙氏)-1058

 超高齢時代を迎え冠動脈疾患、弁膜症、末梢動脈疾患、脳血管疾患などによる心血管イベントは、悪性腫瘍と並んで非常に多い死亡原因となっている。またそれらの疾患の終末像である心不全は、パンデミックといわれるほどの国民病となっており、冬期は救急医療機関が満床となる原因となっている。経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は高齢者心不全の原因の1つとなっている大動脈弁狭窄症(AS)に対する根本的介入を行うもので、手術ハイリスク、超高齢者に対する治療としては第1選択となった。海外ではPARTNER 2試験など中等度リスク患者に対するTAVIは死亡、後遺症の残る脳卒中などの重大なイベントにおいて外科手術に対し優れることが示され、ガイドライン上でも中等度リスクまで適応が拡大されていた。 今回発表されたPopmaらによるNew England Journal of Medicine誌(2019年3月16日号)の論文は、手術低リスクの患者に対する自己拡張型生体弁を用いたTAVIと外科手術の無作為化比較試験結果で、同時にバルーン拡張型を用いたPARTNER 3試験とともに発表された。1,486人の重症ASが無作為化され、そのうち1,403人が実際にTAVIまたは外科手術を施行された。選択基準としては一般に重症のASと診断される症候性、あるいは無症候でも超重症と判定されるASの患者が対象で、30日死亡率が3%未満と予測される患者が対象となった。これは近年心臓外科手術のリスク評価で標準的に使用されているSTSスコアに相当するものであるが、今回の判定基準はローカルのハートチームの評価とスクリーニングコミッティーでの評価となっており、若干の曖昧さがあった。 プライマリーエンドポイントは死亡および後遺障害の残る脳卒中で、2年までフォローされた。TAVIの人工弁はメドトロニック社の現在も使用されているEvolut Rを中心に、その逆流防止スカート付きであるEvolut PRO、サイズによってわずかではあるが一世代前のCoreValveが使用されたこともあった。結果、プライマリーエンドポイントである2年の死亡、脳卒中はTAVI群が5.3%、外科手術が6.7%と非劣性を示すことができ、重篤な出血、腎障害、心房細動の発生、残存圧較差、QOLをはじめとして、多くのセカンダリーエンドポイントでTAVIの優越性が示された。TAVIにおいて外科手術よりも頻度が有意に多くなったのがペースメーカー植え込みで、これは外科手術の6.1%に比べ17.4%にもなった。 この低リスク治験は、参加が遅くなったため症例数としては少ないが日本も含まれており、日本での承認治験の役割も担っている。同時に発表されたPARTNER 3試験もSTSスコア4%未満がエントリーということ以外ほぼ同様のデザインで行われ、プライマリーエンドポイントに再入院も含めたため、非劣性のみならず優越性も示すことに成功している。 これら2つのランダマイズトライアルを総合すると、ASに対する手術低リスク患者のTAVIは、外科手術よりも30日の段階で明らかに安全であり、2年の段階でTAVIのほうが死亡、後遺症を残す脳卒中が少ないというメッセージを示している。日本も治験の形で参加した臨床試験であり、TAVIのメリットが明らかになったことで、今後低リスク患者への適応拡大が認められると考えられ、機械弁を選択する若年患者を除けばTAVIが第1選択となる時代が迫っているといえる。今まで課題とされてきたTAVIの生体弁の耐久性についても10年程度までは外科手術の生体弁と変わりがないことも示されてきており、残された課題はペースメーカー植え込み率の高さを含めて高いコストであろう。

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高齢者診療の新たな概念“multi-morbidity”とは

 近年、注目されるようになった“multi-morbidity(マルチモビディティ)”という概念をご存じだろうか。multi-morbidityの明確な定義はまだ存在しないが、「同時に2種類以上の健康状態が併存し、診療の中心となる疾患が設定し難い状態」を示し、数年前から問題視されてきている。 このmulti-morbidityについて、2019年5月23日から3日間、仙台にて開催された第62回 日本糖尿病学会年次学術集会のシンポジウム12「糖尿病合併症 co-morbidityかmulti-morbidityか」で行われた竹屋 泰氏(大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学講師)の発表が参考になるので、以下に紹介する。multi-morbidityは「老年症候群」と共通する部分も多い multi-morbidityは、複雑で持続的なケアを要する状態で、基本的には、高齢者に特有な健康状態を示す「老年症候群」と共通する部分も多い。 multi-morbidityをわかりやすく例えると、めまいを主訴とする患者について考えたとき、患者が若年者や中年者であれば、めまいを起こす原因がいくつか特定できるだろう。しかし、加齢による生理的・病的・社会的な機能低下を伴う高齢者では、複数の小さな原因が複雑に交絡し合った結果、それらが収束され「めまいという一つの不調」を呈していることがある。 こういったケースの場合、原因を特定しづらく、対症療法として薬を処方した結果、いつの間にかポリファーマシーにより新たな不調を生じる恐れまで出てくるのが、主たる問題となるところだ。multi-morbidityの具体的な症例 高血圧、2型糖尿病、慢性心房細動、慢性心不全、COPDの診断を受け、通院中の88歳女性。3ヵ月前に転倒が原因と思われる硬膜下血腫に対し、血腫除去術を行っている。この際、服用していた抗凝固薬を休薬している。そのほかに、整形外科から鎮痛薬と骨粗鬆症薬、かかりつけ医(内科)からインスリンを含む9種、計12種類の薬剤が処方されている。一人暮らしで、要介護1。認知機能の低下も見られ、ケアマネジャーからは大量の残薬があると報告を受けている。 抗凝固薬を再開する益と害を考えると、CHADS2スコア:4点(脳卒中の年間発症リスク:高)、HAS-BLEDスコア:4点(重大な出血の年間発症リスク:高)だった。multi-morbidityの難しさ~休薬中の抗凝固薬を再開するか? この症例について、生命予後、QOL、患者の希望、医療経済なども加味して、患者本人、家族、薬剤師、ケアマネジャーなどと相談し、非常に悩んだ結果、抗凝固薬の再開について決断しなくてはならないとする。竹屋氏は、2つの選択肢を提示した。(1)抗凝固薬は害のほうが大きいと判断し、休薬を続行(2)抗凝固薬は益のほうが大きいと判断し、再開 (1)の休薬を続行した場合、この患者は1年後、心原性脳梗塞により左半身麻痺、寝たきりとなり、さらに1年後死亡した。こうなると、「あのとき、抗凝固薬を再開していればよかった」と思うかもしれない。では、もう一方の結末はどうなのだろうか。 (2)の抗凝固薬を再開した場合、1年後、患者が自宅で転倒し動けずにいるところをヘルパーが発見。脳出血により意識不明となり、そのまま9ヵ月後に死亡した。そうなると、「抗凝固薬を再開するべきではなかった」と思うだろう。とはいえ、選ばなかったほうの結末は誰にもわからない。 「こういった難しさがあるのが、multi-morbidity。現行の疾患別診療ガイドラインですべてに対応することは困難だ」と竹屋氏は指摘した。multi-morbidityに対しては治療方針の決定が容易でない 高齢者の複雑性(=multi-morbidity)に対しては、疾患ごとのガイドラインに従って薬物介入を行えばあっという間にポリファーマシーになってしまう。あるいは、ある疾患に対する有益な治療が、別の疾患に対して有害な治療になってしまうなど、治療方針の決定が容易でない。 このような状況にどう対応すべきか明確な答えはなく、エビデンスがあるものについては従来の疾患別ガイドラインを用い、ない場合は『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン1)』などを参考に適切なプロセスを実践していくしかないのが現状だ。 竹屋氏は、「高齢者の治療では、一つ一つの検査値やスコアなどの単純な足し算だけでなく、体重の変化、握力、歩行速度など患者の全体像(phenotype)を把握し、個別に介入していくことが有用であるかもしれない」と語った。亡くなった患者(症例)の本当の結末は… 今回のケースにおいて、2つの選択肢はいずれも、患者の死という一つの結末に帰結する。この症例は実際にあったことで、通夜には家族や担当した薬剤師、ケアマネジャーなどが集まり、故人の昔話に花を咲かせた。最期まで介護を続けた長女からは「先生のおかげで悔いはないです。精一杯看取りました」と言われたという。多職種で一生懸命考えた努力が報われた結果となった。 竹屋氏は、「真摯に取り組んだつもりでも、多少の悔いは残る。患者さんはどう思っていたのか? 本当のところはわからないが、今でも時々自問自答する。私たちの判断は正しかったのか? まずは、われわれ医療者の1人ひとりが、このような症例にどう向き合うかを考えていくことが大切かもしれない」と締めくくった。

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日本のAYA世代がん患者が終末期ケアに望むこと

 2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省)が改訂され、本人が望むエンドオブライフ・ケア(EOLケア)がいっそう推進されているが、国立がん研究センター 中央病院の平野 秀和氏らは、日本のAYA世代(思春期・若年成人、15~39歳)のがん患者が、どのようなEOLケアを選好するのか、初となる調査を行った。同センターによれば、日本のAYA世代では、年間約2万人ががんの診断を受けているという。Journal of Pain and Symptom Management誌オンライン版2019年5月8日号掲載の報告。AYA世代がん患者349例について評価 研究グループは、多施設共同で行っているAYA世代がん患者に対する総合的ながん対策の在り方に関する研究調査(経験やニードの実態をアンケート等で調査)の一環として、EOLケアの選好について評価した。 AYA世代がん患者のEOLケアの選好についての主な結果は以下のとおり。・AYAがん患者計349例(AYAがん患者213例、AYAがんサバイバー136例)について、評価した。有効回答率は86%(296/344例)であった。・「予後を知りたい」との選好が53%(180/338例)、「治癒不能ながんで、かなりの毒性があり効果は限定的だが対症療法的な化学療法を受けたい」との選好が88%(301/341例)、「EOL期には自宅で積極的な緩和ケアを受けたい」との選好が61%(207/342例)であった。・多変量解析で、「予後を知りたい」という選好は、小児世代以外で正の関連が認められた(OR:3.05、p=0.003)。また、化学療法既往とは負の関連が認められた(OR:0.23、p=0.009)。・「治癒不能ながんで、かなりの毒性があり効果は限定的だが対症療法的な化学療法を受けたい」という選好は、積極的ながん治療を受けている状態と正の関連がみられた(OR:1.74、p=0.03)。・「EOL期には自宅で積極的な緩和ケアを受けたい」という選好は、不安と正の関連がみられた(OR:1.72、p=0.04)。・著者は、「これらの所見は、医療従事者が日本のAYA世代がん集団のEOLケアに関する選好を、よりよく理解するのに役立つだろう」とまとめている。

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「乳腺外科医事件」裁判の争点 【後編】

手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪を問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決が言い渡されたが、検察は控訴し、争いは現在も続いている。この事件に関しては、ネットを中心として被害者とされる女性に対するバッシングと、医療者に対するバッシングがそれぞれ見られる。しかし、本件では「麻酔(注:本件ではプロポフォールやセボフルラン、笑気等が使用されていた)の影響で幻覚を体験した可能性がある」 として無罪判決が下されており、事件の本質からすると、女性も医師もある意味で被害者といえる。担当弁護人の1人である水沼 直樹氏に、実際に法廷で論じられた2つの争点について、前・後編で解説いただく本企画。前編に引き続き、今回は術後せん妄の有無についての裁判の経過と、このような事案を防ぐために考えられる医療安全対策を取り上げる。後編:術後せん妄か否かをめぐり、何が争点となったのか1.麻酔薬による術後せん妄の可能性本件の良性腫瘍摘出術では、麻酔薬としてプロポフォール200mgのほか、笑気ガスとセボフルランを継続的に投与し、鎮痛薬としてペンタゾシン5mg、坐薬等を投与していました(患者:30代前半、体重約50kg)。患者には、せん妄の準備因子の1つである脳の器質的障害は認められませんでしたが、誘発因子の1つとされる疼痛については、患者が術後に痛みを訴えています。また、直接因子とされる手術侵襲や上記の麻酔薬、オピオイド(ペンタゾシン)の使用も本件ではあります。弁護側証人は、乳房手術は全身麻酔後の覚醒時せん妄リスクが高い(オッズ比:5.19)と報告1)されていることを証言し、また、検察側証人がせん妄の可能性が低い理由の1つとして若年者であることを挙げたことに対し、せん妄の発症には必ずしも年齢による有意差があるわけではないと証言しました。実際に、小児麻酔においても術後せん妄が問題となり2)、学会等でも取り上げられていることも言及しています。麻酔薬と性的幻覚の症例報告は世界中にあり3)、プロポフォールについていえば、同薬により生々しい性的幻覚を見たという症例が世界中で報告されています4-7)。2.医師のDNAが患者の乳房に付着する可能性執刀医は、手術前に病室で患者の両胸を触診し、術前マーキングを実施していました。また、手術室内でも再度触診し、上級医と術式確認をしながら切開部を狭めるための再マーキングを行っています。これらの際、医師は通常どおり素手で触診しました。3.裁判所の判断患者が痛みを訴えていたことや術後にバイタルチェックを受けたこと等の記憶が無いこと、専門家の証言等を総合した結果、患者が「せん妄状態に陥っていた可能性は十分にあり、また、せん妄に伴って性的幻覚を体験していた可能性が相応にある」と判断しました。また、現場に臨場した警察官が、左胸以外の他の部分からも付着物を採取していれば、何らかの事実が判明でき真相解明につながった可能性がある、という旨が述べられました。なお、顔と両胸が写されていたこと等から、性的興味があったのではないかと検察官が指摘した医師が撮影した写真も、すべてマーキングされたものです。裁判所は、医師が医学的な目的以外で撮影したとはいえないと判断しました。詳細については、拙稿となりますが『医療判例解説 Vol.079』8)にも経緯をまとめています。4.医療安全対策この事件から得られた対策は、3つ考えられるでのはないでしょうか。1つは、患者の回診(とくに女性患者の回診)には、医療者1人で訪室しないことです。あらぬ疑いをかけられたり、また実際に犯行の機会を作ったりせずに済むからです。家族の立ち会いを求めるのも一案です。2つ目は、せん妄の診断基準としてはDSMやICD等がありますが、簡易版のスクリーニングツールも複数あります。CAMは、(1)急激な発症・症状の変動、(2)注意の障害、(3)解体した思考、(4)意識の障害の4項目から構成されるツールで、(1)(2)があり、かつ(3)または(4)があればせん妄と診断するという簡便なツールとなっています。これらを活用し、患者のせん妄を早期に医療機関が把握し、放置しないことが重要です。最後に、せん妄の可能性を患者や家族に対して、あらかじめ説明しておくことも重要です。英国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインや、厚生労働省制作の、せん妄に関する啓発動画9)を活用することも一案かと思います。参考1)Lepousé C et al. Br J Anaesth. 2006;96:747-53.2)Morgan E et al. Plast Reconstr Surg. 1990;86:475-8; discussion 479-480.3)Schneemilch C et al. Anaesthesist. 2012 ;61:234-41.4)Balasubramaniam B et al. Anaesthesia. 2003;58:549-53.5)Yang Z et al. J Anesth. 2016;30:486-8.6)Martínez Villar ML et al. Rev Esp Anestesiol Reanim. 2000;47:90-2.7)Marchaisseau V et al. Therapie. 2008;63:141-4.8)医療判例解説Vol.079 . 医事法令社;2019.9)厚生労働省委託緩和ケア普及啓発事業企画制作/日本サイコオンコロジー学会企画制作協力.『あれ?いつもと様子が違う=せん妄とは?』講師紹介

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