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知っておくべきガイドラインの読み方/日本医療機能評価機構

 日本で初となるGRADE Centerが設立された。これにより、世界とガイドライン(GL)のレベル統一が図れるほか、日本のGLを世界に発信することも可能となる。この設立を記念して、2019年11月29日、公益財団法人日本医療機能評価機構がMinds Tokyo GRADE Center設立記念講演会を実施。福岡 敏雄氏(日本医療機能評価機構 執行理事/倉敷中央病院救命センター センター長)が「Minds Tokyo GRADE Center設立趣旨とMindsの活動」を、森實 敏夫氏(日本医療機能評価機構 客員研究主幹)が「Mindsの診療ガイドライン作成支援」について講演し、GL活用における今後の行方について語った。そもそもGRADEとは何か 近年のGLでよく見かけるGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチとは、エビデンスの質と益と害のバランスなどを系統的に評価する方法で、診療ガイドライン(CPG)作成において世界的に広く受け入れられているものである。また、GRADE CenterはGRADEアプローチを普及させる国際的な活動組織であり、2019年現在、米国、カナダ、ドイツなどで設立されている。患者・市民を巻き込むガイドラインが主流に 今回の主催者であるEBM普及推進事業Minds(Medical Information Network Distribution Service)は、厚生労働省の委託を受け、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である。単なる情報提供にとどまらず、CPGの普及などにも広く貢献するほか、4つの取り組み(1.CPG作成支援、2.CPG評価選定・公開、3.CPG活用促進、4.患者・市民支援[CPG作成・活用に関わる])を行っている。 1では、CPG作成のためのマニュアル作成(Minds診療ガイドライン作成マニュアルは2020年改訂版の発刊を予定)に力を入れている。2では、AGREE IIを利用した評価を複数人で実施、公開に際しては各ガイドラインの出版社などにも許可を得ている。3、4は現在の課題であり、福岡氏は「医師・医療者と患者・家族とのインフォームドコンセントをより効率的で安全に行えるように支援し、患者の願い、家族の思いやそれぞれの負担など患者視点を導入しなければガイドラインのレベルが向上しないと言われている」と現行GLの問題点について指摘。さらに「どうやってガイドラインに患者を取り入れていくか、現場で使用するなかで患者と協調していくのかが、国際会議でも重要なトピックとして語られている」と述べた。日本がGRADEで認められた意味とメリット 今回、世界13番目のGRADEセンターに認定された経緯について、同氏はCPG作成支援が評価された点を挙げ、「われわれはセミナー・ワークショップや意見交換会、そして、オンデマンド相談会などを行っている。この活動によって、GLの作成段階で患者視点を取り入れる例が増加している。これによりGLが現場で活用しやすく、患者・家族に受け入れてもらいやすくなる」と、説明した。 さらに、GRADE認定されたメリットについて、「GRADEで認められると海外GL作成チームとディスカッションが可能になるばかりか、日本のGL作成ノウハウを海外に輸出することもできる」と、日本がGRADEから情報を受けるだけではなく、日本人の努力が世界に発信できる状況になったことを喜び、「GRADE内では、未来のGL作成者のための世界共通プラットフォームやトレーニングコース開設の動きもある」とも付け加えた。 GRADEアプローチでは、推奨を“向き”(実施することを or 実施しないことを)と“強さ”(強く推奨する or 弱く[条件付きで]推奨する)で表す。これについて、CPG作成支援活動を行う森實氏は、「弱い推奨の場合、条件付きという語を“裁量的”や“限定的”と表現することも可能である。それゆえ“個別の患者さんに合わせた決断が必要”で、患者さんの価値観・好みに合わせた結論に到達することを手助けする必要がある。そのためには何らかの決断支援ツールが有用」と述べ、「その方法として、患者にシステマティックレビューの結果をわかりやすく提示することも重要」とコメントした。 最後に、福岡氏は「ガイドライン作成の目的は、より良い社会作りと市民の幸せを前提とするべきである。専門家のためのみの作成ではない」と強調しつつ、「GRADEの進化はすさまじく、少しでも見失うと議論はあっという間に進んでいる。世界のGRADEミーティングに参加することで最新情報をキャッチアップしたい」と、締めくくった。

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non-HDL-C高値はCVD長期リスク上昇と関連/Lancet

 血中non-HDLコレステロール(non-HDL-C)値は、アテローム硬化性心血管疾患の長期リスクと強い関連があることが明らかにされた。ドイツ・University Heart & Vascular Center HamburgのFabian J. Brunner氏らが、欧州、オーストラリア、北米の19ヵ国、計44の住民ベースコホート(総被験者数52万4,444例)を含む「Multinational Cardiovascular Risk Consortium」データを基に行ったリスク評価・モデリング試験で明らかにした。これまで血中脂質値と心血管疾患の長期発生の関連、および脂質低下治療と心血管疾患アウトカムの関連については明らかとはなっておらず、研究グループは、心血管リスクとnon-HDL-C値(全範囲)の関連について調べ、長期的な心血管イベントに関連するnon-HDL-C値を推定するのに役立つツールを作成し、さらに脂質低下治療によるリスクの低下をモデル化する検討を行った。Lancet誌オンライン版2019年12月3日号掲載の報告。52万例超のデータを基に、non-HDL-C値とCVDの関連を評価 研究グループは「Multinational Cardiovascular Risk Consortium」データの中から、ベースラインで心血管疾患がなく、心血管疾患のデータを確実に入手可能な被験者を対象に試験を行い、non-HDL-C値と心血管イベントとの関連を検証した。 主要複合エンドポイントはアテローム硬化性心血管疾患で、冠動脈性心疾患イベントまたは虚血性脳卒中の発生と定義した。欧州の臨床ガイドラインに基づくnon-HDL-C分類を用いて、年齢、性別、コホート、従来の修正可能な心血管リスク因子で補正後に、性特異的多変量解析を行った。さらに、開発・検証デザイン法により、75歳までの心血管イベントの可能性を、年齢別、性別、リスク因子別に推定し、さらにはnon-HDL-C値を50%低下した場合のリスク低下を推定するツールを作成した。2.6mmol/L未満から5.7mmol/L以上への上昇でCVDイベント有意に増加 52万例超のうち、38コホートに属する39万8,846例を包含し検討した。被験者のうち女性は48.7%、年齢中央値は51.0歳(IQR:40.7~59.7)だった。開発コホート群には19万9,415例を、検証コホート群には19万9,431例を包含した。 中央値13.5年(IQR:7.0~20.1)、最長43.6年の追跡期間中に、5万4,542件の心血管エンドポイントが発生した。発生曲線解析において、30年心血管イベント発生率は、non-HDL-C値の増加に伴い上昇することが示された。non-HDL-C値が2.6mmol/L未満から5.7mmol/L以上に増加することで、同イベント発生率は女性では7.7%から33.7%へ、男性では12.8%から43.6%へと有意に増加した(p<0.0001)。 Coxモデルを用いた多変量解析の結果、non-HDL-C値が2.6mmol/L未満を基準とした場合、2.6~3.7mmol/L未満の女性の心血管イベントリスクは1.1倍(ハザード比[HR]:1.1、95%信頼区間[CI]:1.0~1.3)に、5.7mmol/L以上では1.9倍(1.9、1.6~2.2)に増加することが示された。男性についても、それぞれ1.1倍(1.1、1.0~1.3)、2.3倍(2.3、2.0~2.5)に増加することが示された。 開発したツールは、smooth calibration curves分析を反映した発生コホートと検証コホートの高度な比較で、特異的non-HDL-C値で心血管イベントが起きる可能性を二乗平均平方根誤差1%未満の確率で推定可能であることが示された。 non-HDL-C値が50%低下した場合、75歳までの心血管イベントリスクは低下することが認められ、そのリスク低下は、早期にコレステロール値が低下するほど大きかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「われわれが開発した単純なツールは、個々人の長期的なリスク評価と、早期の脂質低下治療による潜在的ベネフィットに資するものである。また今回示されたデータは、1次予防戦略に関する医師-患者のコミュニケーションに役立つだろう」とまとめている。

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咽頭・扁桃炎に対するペニシリンV減量の試み(解説:小金丸博氏)-1153

 咽頭・扁桃炎は、プライマリケアの現場において抗菌薬の処方が多い感染症の1つである。今回、A群溶連菌による咽頭・扁桃炎に対して、適切な臨床効果を維持しながら抗菌薬投与量を減らすことができるかどうかを検討した臨床試験の結果が発表された。 本研究は、A群溶連菌による咽頭・扁桃炎に対して、ペニシリンV 800mgを1日4回5日間投与する群(計16g)とペニシリンV 1,000mgを1日3回10日間投与する群(計30g)の有効性と安全性を比較検討したランダム化非盲検非劣性試験である。6歳以上で、Centor criteria(38.5℃以上の発熱、圧痛を伴うリンパ節腫脹、扁桃に白苔の付着、咳の欠如)を3または4項目満たし、かつA群溶連菌迅速検査陽性の患者を対象とした。プライマリアウトカムである臨床的治癒率は、5日間投与群で89.6%、10日間投与群で93.3%であり(両群差:-3.7ポイント、95%信頼区間:-9.7~2.2)、非劣性が確認された。除菌率は5日間投与群で80.4%、10日間投与群で90.7%だった。患者の症状緩和までの時間は、5日間投与群のほうが有意に短かった(log rank検定でp<0.001)。1ヵ月以内の再発例はほぼ同数だった。有害事象は主に下痢、嘔気、膣の分泌物や掻痒であり、これらの症状は10日間投与群でより高率に長期間認めた。 スウェーデンでは成人のA群溶連菌による咽頭炎に対してペニシリンV 1,000mgを1日3回10日間(計30g)投与することが推奨されている。この治療期間はほかの国の推奨と同じであるが、総投与量はほかと比較して多い。ちなみに米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、ペニシリンV 250mgを1日4回、あるいは1回500mgを1日2回、どちらも治療期間は10日間(計10g)投与することが推奨されている。A群溶連菌による咽頭炎に対して抗菌薬を投与する主な理由は、急性リウマチ熱や糸球体腎炎などの合併症を防止することであるが、高所得国ではこれらはまれな合併症となっている。そのため、今日の主な治療目的は速やかな症状改善を得ることであり、同時に扁桃周囲炎、中耳炎、副鼻腔炎などの合併症を予防することである。 本研究では、A群溶連菌による咽頭・扁桃炎に対するペニシリンV 1日4回5日間の治療は1日3回10日間の治療に対して、臨床効果は非劣性であることが示された。投与期間を短縮することで抗菌薬の副作用の減少、服薬遵守率の向上、ヒト細菌叢への影響低下、社会全体の抗菌薬コスト削減などが期待できる。除菌率が10日間投与群のほうが優れていた点や急性リウマチ熱の発症率が評価されていない点が気になるが、高所得国においては5日間治療が代替となりうることを示した研究として評価できる。症状緩和までに要する時間は5日間投与群のほうが有意に短かったというのは興味深い結果であった。その理由として、1日4回投与というtime above MICを考慮した投与方法が有効性を高めた要因として考えられる。 残念ながら世界では標準治療薬であるペニシリンVは日本国内で発売されておらず、本研究の結果をそのまま日本の医療に当てはめることはできない。本邦ではA群溶連菌による咽頭炎に対してアモキシシリンを10日間経口投与することが推奨されている(JAID/JSC感染症治療ガイド2019)。当然ながら、本研究の結果をもってアモキシシリンの投与期間を5日間に短縮可能とは評価できない。

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ループス腎炎〔LN : lupus nephritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)患者でみられる腎炎であり、多くは糸球体腎炎の形をとる。蛋白尿や血尿を呈し、ステロイド療法、免疫抑制薬に反応することが多いが、一部の症例では慢性腎不全に進行する。SLEの中では、中枢神経病変と並んで生命予後に影響を及ぼす合併症である。■ 疫学SLEは人口の0.01~0.1%に発症するといわれ、男女比は約1:9で、好発年齢は20~40歳である。そのうち明らかな腎症を来すのは50%程度といわれている。通常の慢性糸球体腎炎では、尿所見や腎機能異常が発見の契機となるが、SLEでは発熱、関節痛や顔面紅斑、検査所見から診断されることが多い。しかし、尿所見や腎機能異常がない段階でも、腎生検を行うと腎炎が発見されることが多く(silent lupus nephritis)、程度の差はあるが、じつはほとんどの症例で腎病変が存在するという報告もある。■ 病因SLEにおける臓器病変は、DNAと抗DNA抗体が結合した免疫複合体が組織沈着するために起こる。しかし、その病因は不明である。LNでは、補体の活性化を介して免疫複合体が腎糸球体に沈着する。■ 症状SLE患者では、発熱、関節痛、皮疹、口腔内潰瘍、脱毛、胸水や心嚢水貯留による呼吸困難などを来すが、LNを合併すると蛋白尿や血尿が認められ、ネフローゼ症候群に進展した場合は、浮腫、高コレステロール血症が認められる。しかし前述のように、まったく尿所見、腎機能異常を示さない症例も存在する。LNが進行すると腎不全に陥ることもある。■ 分類長らくWHO分類が使用されていたが、2004年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が採用された1)(表1)。IV型の予後が悪いこと、V型では大量の蛋白尿が認められることなど、基本的にはWHO分類を踏襲している。画像を拡大する■ 予後早期に診断し治療を開始することで、SLEの予後は飛躍的に改善しており、5年生存率は95%を超えている。しかし、LNに焦点を絞ると、2013年の日本透析医学会の統計報告では、新規透析導入患者では、年間258人がLNを原疾患として新規に透析導入となっている。しかも、導入年齢がそれ以前よりも3~4歳ほど高齢化している2)。生命予後のみならず、腎予後の改善が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SLEの診断は、1997年に改訂された米国リウマチ学会の分類基準に基づいて行われていた3)。しかし、SLEの治療を行った患者で、この分類ではSLEとならず、米国では保険会社が支払いを行わないという問題が生じ、SLICC(Systemic Lupus lnternational Collaborating Clinics)というグループが、National Institute of Health (NIH)の支援を受けて、より感度の高い分類基準を提案したが4)、特異度は低下しており、慎重に使用すべきと考えられる。この度、米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同で、SLE分類基準が改訂されたため、今後はこの分類基準が主に使用されることが予想される(表2)5,6)。日常診療で行われる検査のほかに、抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)を検査する。さらにLNの診断には、尿沈渣、蓄尿をしての蛋白尿の測定や、クレアチニンクリアランス、腎クリアランスなどの腎機能検査を行うが、可能な限り腎生検によって組織的な診断を行う。図に、ISN/RPS分類class IV-G(A)の症例を示す7)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステロイド1)経口ステロイド0.8~1.0mg/kg/日 程度のプレドニゾロン(PSL)〔商品名:プレドニゾロン、プレドニン〕が使用されることが多いが、とくに抗DNA抗体高値や低補体血症の存在など、疾患活動性が高い場合、ISN/RPS分類のIV型の場合、あるいはネフローゼ症候群を合併した場合などは、1.0mg/kg/日 の十分量を使用する。初期量を4~6週使用し、その後漸減し、維持量に持っていく。維持量については各施設で見解が異なるが、比較的安全な免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名:ブレディニン)やタクロリムス(同:プログラフ)の普及により、以前よりも低用量のステロイドでの維持が可能になっているものと考えられる。2)メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法血清学的な活動性が高く、びまん性の増殖性糸球体腎炎が認められる場合に行われる。長期的な有効性のエビデンスは少なく、またシクロホスファミドパルス療法(IVCY)の方が有効性に優るという報告もあるが、ステロイドの速効性に期待して、急激に腎機能が悪化している症例などに行われる。感染症や大腿骨頭壊死などの副作用も多く、十分な注意が必要である。mPSLパルス療法は各種腎・免疫疾患で行われるが、LNでは1日1gを使用するパルス療法と、500mgを使用するセミパルス療法は同等の効果を示すという報告もある。■ 免疫抑制薬1)シクロホスファミド静注療法(IVCY)1986年に、National Institute of Health(NIH)グループが、LNにおけるIVCYの報告を行ってから、難治性LNの治療として、IVCYは現在まで世界各国で幅広く行われている。NIHレジメンは、シクロホスファミド0.5~1.0g/m2を、月に1回、3~6ヵ月間投与するものであるが、Euro Lupus Nephritis Trial(ELNT)のレジメンは、500mg/日を2週に1回、6回まで投与するものである。シクロホスファミドの経口投与では、不可逆性の無月経が重大な問題であったが、IVCYとすることでかなり減少したとされる。しかし、20代の女性で10人に1人程度の不可逆性無月経が出現するとされており、年齢が上がるとさらにそのリスクは増大する。挙児希望のある場合は、十分なインフォームドコンセントが必要である。長らく保険承認がない状態で使用されていたが、2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。2)アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)LNの治療に海外、国内ともに幅広く使用されているが、シクロホスファミド同様長らく保険承認がない状態で使用されていた。やはり2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。シクロホスファミドに比べ骨髄障害の副作用が少なく、また、妊娠は禁忌となっていたが、腎移植などでの経験から大きな問題はないと考えられ、2018年に禁忌が解除された。3)シクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)“頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合のネフローゼ症候群”の病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、6ヵ月以上使用する場合は、トラフ値を100ng/mL程度に設定する。投与の上限量が定められていないので、有効血中濃度が得られやすいことが利点である。トラフ値を測定するには、入院時は内服前の早朝に採血し、外来では受診日だけは内服しないように指導することが必要である。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。4)ミゾリビン(同:ブレディニン)1990年にLNの病名で保険適用が追加された。最近は血中濃度を上昇させることの重要性が提唱され、150mgの朝1回投与や、さらに多い量を週に数回使用するパルス療法などが行われているが、「保険で認められている使用法とは異なる」というインフォームドコンセントが必要である。比較的安全な免疫抑制薬であるが、妊娠時の使用は禁忌であることに注意する必要がある。5)タクロリムス(同:プログラフ)LNの病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、投与12時間後の濃度(C12)をモニタリングし、10ng/mLを超えないように留意する。しかし、LNでの承認最大用量3mg/日を使用しても、血中濃度が上昇しないことの方が多い。臨床試験において、平均4~5ng/mL(C12)で良好な成績を示したが、5~10ng/mLが至適濃度との報告もある。内服が夕方なので、午前の採血で血中濃度を測定するとC12値が得られる。併用禁忌薬、慎重投与の薬剤、糖尿病の発症や増悪に注意をする。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。6)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)〔同:セルセプト〕MMFは生体内で速かに加水分解され活性代謝物ミコフェノール酸(MPA)となる、MPAはプリン生合成のde novo 経路の律速酵素であるイノシンモノホスフェイト脱水素酵素を特異的に阻害し、リンパ球の増殖を選択的に抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。海外では、ACR(American College of Rheumatology)、EULAR(European League Against Rheumatism)、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)LN治療ガイドラインにおいて、活動性LNの寛解導入と寛解維持療法にMMFを第1選択薬の一つとして推奨され、標準薬として使用されている8,9)。わが国では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討された「ループス腎炎」の公知申請について、2015年7月31日の薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会で事前評価が行われ、「公知申請を行っても差し支えない」とされ、保険適用となった。用法・用量は、成人通常、MMFとして1回250~1,000mgを1日2回12時間毎に食後経口投与する。なお年齢、症状により適宜増減するが、1日3,000mgを上限とする。副作用には、感染症、消化器症状、骨髄抑制などがある。また、妊娠時は禁忌であることに注意が必要である。2019年に日本リウマチ学会から発行された、SLEの診療ガイドラインでは、MMFがLNの治療薬として推奨された10)。7)multi-target therapyミゾリビンとタクロリムスの併用療法の有効性が報告されている11,12)。両剤とも十分な血中濃度を確保することが重要な薬剤であるが、単剤での有効血中濃度確保ができないような症例に有効である可能性がある。また、海外を中心にMMFとタクロリムスの併用療法の有効性も報告されている13-15)。■ ACE阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)LNでの難治性の蛋白尿にACEIやARBが有効であるとの報告がある。筆者らは両者の併用を行い、さらなる有効性を確認している。特に、ループス膜性腎症で免疫抑制療法を行っても、難治性の尿蛋白を呈する症例では試みてもよいのではないかと考えている。4 今後の展望世界的に広く使用されていたシクロホスファミドとアザチオプリンが保険適用となり、使用しやすくなったため、わが国でのエビデンスの構築が望まれる。公知申請で承認されたMMFの効果にも、期待がもたれる。SLEに対する新規治療薬としては、BLysに対するモノクローナル抗体のbelimumabが非腎症SLEに対する有効性が認められFDAの承認を受け、さらにわが国でも使用可能になった。しかし、LNでの有効性についてはいまだ明らかではない。さらに、海外ではSLEの標準的治療薬であるハイドロキシクロロキンもわが国で使用可能になった。LNに対する適応はないが、再燃予防効果やステロイド減量効果が報告されており、期待がもたれる。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報全身性エリテマトーデス(難病情報センター)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ACRガイドライン(WILEYのオンラインライブラリー)EULAR/ERA-EDTAリコメンデーション(BMJのライブラリー)KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(International Society of Nephrologyのライブラリー)公的助成情報全身性エリテマトーデス(難病ドットコム)(患者向けの医療情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者と家族の会)参考文献1)Weening JJ, et al. Kidney Int. 2004;65:521-530.2)日本透析医学会統計調査委員会. 図説 わが国の慢性維持透析療法の現況(2013年12月31日現在);日本透析医学会.2014.3)Hochberg MC. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.4)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686. 5)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.6)Aringer M, et al. Arthritis Rheumatol. 2019;71:1400-1412.7)住田孝之. COLOR ATLAS 膠原病・リウマチ 改訂第3版. 診断と治療社;2016.p.30-53.8)Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20:1103-1112.9)Dooley MA, et al. N Engl J Med. 2011;365:1886-1895.10)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等 政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班.日本リウマチ学会編. 全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン. 南山堂;2019.11)Kagawa H, et al. Clin Exp Nephrol. 2012;16:760-766.12)Nomura A, et al. Lupus. 2012;21:1444-1449.13)Bao H, et al. J Am Soc Nephrol. 2008;19:2001–2010.14)Ikeuchi H, et al. Mod Rheumatol. 2014;24:618-625.15)Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162:18-26.公開履歴初回2013年05月02日更新2019年12月10日

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慢性疼痛の“記憶された痛み”をうまく取り除くには?

 国が主導となって研究チームを発足するくらい、日本人は慢性的な痛みに日々悩まされている。おまけに、なかなか症状改善しない患者がドクターショッピングに陥ることで、国の医療費はますます圧迫されてしまう。そんな負の連鎖を断ち切り、臨床現場での正確な病態把握を求めるべく、昨年、厚生労働省「慢性の痛み対策」研究班と痛み関連の7学会が連携して『慢性疼痛治療ガイドライン』を発刊した。 このガイドライン作成にも携わり、上記研究班で中心的な役割を担っている牛田 享宏氏(愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 教授)と伊達 久氏(仙台ペインクリニック院長)が、2019年10月31日に開催されたボストン・サイエンティフィック・ジャパン株式会社主催のメディアセミナー「『難治性慢性疼痛』による経済的・社会的影響と日本の『難治性慢性疼痛』治療の最新動向~病診連携モデルと臨床データの構築~」に登壇し、慢性疼痛対策の現状を語った。運動器慢性疼痛における日本の現状 日本での慢性疼痛疫学調査1,2)によると、痛みの訴え部位は腰痛が大半(58.6%)を占め、次いで肩:38.7%、下肢部:37.9%と続き、筋骨格系=運動器に引き起こされることが多い。驚いたことに、その年齢分布を見ると高齢者よりも30~50代の訴えが多い。自己負担の治療費は年間4,000億円以上、患者の15%以上が仕事への影響を抱えていた。牛田氏は「調査結果を見ると、患者の治療満足度は非常に低く、慢性疼痛を訴えた患者の1/3しか満足していない。結果、患者の半数が治療機関を変更している」と、実態を説明した。 また、このような慢性疼痛に悩む患者を精神科医が見た場合、線維筋痛症の有無を問わず約半数に身体表現性障害があり、患者の約95%には何かしらの精神疾患名(気分変調障害、大うつ病など)が付くことが明らかになった3)。慢性疼痛では“痛みは記憶される”ことを理解する このように慢性疼痛患者が精神疾患を抱える理由について、同氏は「痛みは頭で経験しているため」とコメントした。頭では痛み自体を感じる感覚体験と、辛さや苦しさを感じる情動体験が同時に生じているため、国際疼痛学会では痛みを“不快な情動体験”と定義している。これを踏まえて同氏は「なかなか治らない痛みの原因は情動の要素が大きい」と、話した。 治りにくい痛みの代表例として神経性障害疼痛がある。これは体性感覚神経系の損傷や疾患により引き起こされる痛みであり、罹患者数は日本人人口の1~3%に上る。脳梗塞患者の痛みもこれに該当し、患者にはうつや睡眠障害の併発、医療機関受診件数が3件以上になるケースが多くなるなどの特徴がある4)。 このほかにも、通常では痛みを伴わないような微小刺激が疼痛として認識される感覚異常をきたすアロデニアという病態の研究報告5)から、同氏は痛みが記憶されていることを説明。痛みが感覚だけではなく情動によっても悪化することに対し理解を求めた。さらに、「慢性疼痛患者は整形外科と精神科のどちらに行くべきか、診療における境界線によって悩まされている」とし、患者をチームで診るために厚生労働省による集学的痛みセンターが構築されたことを説明した。 集学的痛みセンターとは、医科だけではなく歯科も含めたシステム構築、地域医・在宅医療の連携モデル構築、を目指した厚生労働省政策研究班による事業である。系統的に改善しない患者を分析することで、治療方針やゴールの方向性を検討し、自宅でのコントロールを目的としているが、「慢性疼痛の診断法の確立のために主観的な痛みを客観的に見える化して評価する方法の構築が必要」と、同氏は今後の課題を語った。慢性疼痛患者が患者が痛みを強く感じているのは30分だけ 続いてペインクリニックの視点から、伊達氏が慢性疼痛治療ガイドラインでの推奨内容について解説した。本ガイドラインでは、推奨度を「1:する(しない)ことを強く推奨する」「2:する(しない)ことを弱く推奨する(提案する)」の2通りで提示し、エビデンスレベルを「A(強):効果の推定値に強く確信がある」「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」と規定している。 たとえば、運動療法の有効性はエビデンスレベル・推奨度が慢性腰痛:1A、変形性膝関節炎:1A、慢性頸部痛:1Bであり、身体を直接動かすことは慢性疼痛に効果的と示されている。同氏はこれらの根拠となる海外文献6,7)を紹介し、「運動療法は筋トレではなく血流改善を促すストレッチが中心なので、痛みがある時こそ有用。ストレッチはドパミン遊離にも影響を及ぼすため、痛みの蔓延化につながる心理社会的要因(不安、抑うつ、破局化思考)も解消される。また、慢性疼痛患者の突発痛は30分すると軽減することが多いため、痛い時にストレッチを行えば薬の依存から脱却できるかもしれない」とコメント。「心理社会的要因からくる痛みには認知行動療法が有効とされ、マインドフルネスなどの導入もガイドラインでは推奨(1A)している。しかし、現時点で保険適用外のため、診療報酬に対する要望を複数の学会が行っている」と、補足した。 最後に、痛みを直接除去する視点からインターベンショナル治療について説明。ガイドラインではパルス高周波神経根ブロック、末梢神経パルス高周波などが推奨度1A、脊髄刺激療法や肩甲上神経パルス高周波などが推奨度1Bに設定されている。なかでも脊髄刺激療法システムはほかの治療法と比較して、中枢感作、痛みのいずれにおいても効果が得られたことから、同氏は「運動療法や認知行動療法に加え、脊髄刺激療法も慢性疼痛治療の1つになり得る」と締めくくった。■参考1)服部政治.ペインクリニック. 2004;25:1541-1551.2)Nakamura M, et al. J Orthop Sci. 2011;16:424-32.3)Miki K, et al. Neuropsychopharmacol Rep. 2018;38:167-174.4)Inoue S, et al. Eur J Pain. 2017;21:727-737.5)Ushida T, et al. Brain Topogr. 2005;18:27-35.6)Goh SL et al, Ann Phys Rehabil Med. 2019 May 21.[Epub ahead of print]7)Gavi MB et al, PLoS One. 2014 mar 20. [Epub ahead of print]

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早発閉経、心血管疾患リスク増大の可能性/JAMA

 閉経後女性のうち、40歳になる前に早期の自然閉経/外科的閉経を経験した女性は、40歳以降に閉経した女性に比べ心血管疾患のリスクが、小さいとはいえ統計学的に有意に増加することが、米国・ハーバード大学医学大学院のMichael C. Honigberg氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。最近のガイドラインでは、中年女性におけるアテローム性動脈硬化に基づく心血管疾患リスク評価の改善策として、40歳以前での閉経歴を考慮することが推奨されているが、確固としたデータはないという。3群を比較するコホート研究 本研究は、2006~10年の期間に、英国のUK Biobankに登録された成人の英国居住者のうち、登録時に40~69歳で、閉経後の女性を対象とするコホート研究である(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 14万4,260例の閉経後女性が登録され、2016年8月まで追跡が行われた。早発自然閉経(卵巣摘出術を受けず、40歳以前に閉経)の女性、および早発外科的閉経(両側卵巣摘出術を受け、40歳以前に閉経)の女性を、早発閉経のない閉経後女性(対照)と比較した。 主要アウトカムは、初発冠動脈疾患、心不全、大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流症、心房細動、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患、静脈血栓塞栓症の複合とした。副次アウトカムは、主要アウトカムの個々の疾患および心血管リスク因子(初発高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病)であった。主要アウトカム:自然閉経6.0% vs.外科的閉経7.6% vs.非早発閉経3.9% 14万4,260例(登録時平均年齢59.9[SD 5.4]歳)のうち、4,904例(3.4%)が自然早発閉経を、644例(0.4%)が外科的早発閉経を経験した女性で、非早発閉経女性は13万8,712例であった。追跡期間中央値は7年(IQR:6.3~7.7)。 主要アウトカムの発生は、非早発閉経群が5,415例(3.9%、発生率5.70/1,000人年)であったのに対し、自然早発閉経群は292例(6.0%、8.78/1,000人年)と有意な差が認められた(非早発閉経群との差:+3.08/1,000人年、95%信頼区間[CI]:2.06~4.10、p<0.001)。また、外科的早発閉経群は49例(7.6%、11.27/1,000人年)で、同様に有意な差がみられた(同差:+5.57/1,000人年、2.41~8.73、p<0.001)。 多変量で補正後に、非早発閉経群と比較して、自然早発閉経群では、大動脈弁狭窄症(ハザード比[HR]:2.37、95%CI:1.47~3.82、p<0.001)、静脈血栓塞栓症(1.70、1.27~2.29、p<0.001)、虚血性脳卒中(1.50、1.01~2.25、p=0.04)、冠動脈疾患(1.39、1.06~1.82、p=0.02)、心房細動(1.25、1.00~1.58、p=0.05)の頻度が有意に高く、心不全(1.21、0.81~1.82、p=0.35)、僧帽弁逆流症(0.73、0.34~1.55、p=0.41)、末梢動脈疾患(1.34、0.79~2.26、p=0.27)には差が認められなかった。 同様に、外科的早発閉経群では、僧帽弁逆流症(HR:4.13、95%CI:1.69~10.11、p=0.002)、静脈血栓塞栓症(2.73、1.46~5.14、p=0.002)、心不全(2.57、1.21~5.47、p=0.01)、冠動脈疾患(2.52、1.48~4.29、p<0.001)の頻度が有意に高く、大動脈弁狭窄症(2.91、0.92~9.15、p=0.06)、心房細動(1.60、0.91~2.83、p=0.11)、虚血性脳卒中(0.43、0.06~3.12、p=0.41)、末梢動脈疾患(1.34、0.33~5.41、p=0.68)には差がみられなかった。 高血圧(早発自然閉経群:HR:1.43[95%CI:1.24~1.65、p<0.001]、外科的早発閉経群:1.93[1.37~2.74、p<0.001])、脂質異常症(1.36[1.16~1.61、p<0.001]、2.13[1.50~3.04、p<0.001])、2型糖尿病(全年齢層のHRの範囲:早発自然閉経群0.9~1.6、外科的早発閉経群1.3~4.7)のリスクも、早発閉経群で高かった。 主要アウトカムに関して、従来の心血管リスク因子および閉経後ホルモン療法の使用で補正後のHRは、自然早発閉経群が1.36(95%CI:1.19~1.56、p<0.001)、外科的早発閉経群は1.87(1.36~2.58、p<0.001)であった。 著者は、「これらの関連の基盤となるメカニズムを解明するには、さらなる検討を要する」としている。

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ビレーズトリ:待望のICS/LAMA/LABA 3剤合剤が登場

吸入ステロイド薬(ICS)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)、長時間作用型β2刺激薬(LABA)の3剤合剤である慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬ビレーズトリが、世界に先駆けて日本で承認された。COPDによる死亡が増加する中で、ビレーズトリは救世主となるのか。注目の薬剤にスポットを当てる。COPDの病態に合わせたデバイス、エアロスフィアLAMA/LABAの合剤の登場、ICS/LABA製剤のCOPDへの適応拡大など、ここ数年で選択肢が広がったCOPD治療だが、増悪を繰り返す患者は依然として多い。その中でも治療が継続できない患者が目立つのは大きな課題だ。とくに、服薬アドヒアランスの低さが目立っており、「タバコは継続できるのに治療を継続できない」という患者もいる。そのような状況で、LAMA、LABAの2剤の気管支拡張薬と、抗炎症作用のあるICSとの合剤であるビレーズトリが登場した。これまで2つのデバイスを持ち運び、扱う必要があった患者において、ビレーズトリを用いることで1つのデバイスでコントロールが可能になり、持ち運びや吸入手技の習得といった側面からアドヒアランスの改善につながる可能性ある。また、ビレーズトリは「エアロスフィア」と呼ばれる、加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)を使用している、いわゆるエアゾール製剤である。この「エアロスフィア」はCOPD患者が吸入しやすい、病態に合わせたデバイスとなっている。COPDは高齢の患者が多数を占め、呼吸機能が低下している場合も多い。そのためビレーズトリには、吸入時に吸気量をあまり必要とせず、吸入の容易なpMDIが採用されている。また、薬剤を運ぶ担体は、肺全体に薬剤を届けるのに至適な大きさである粒子径(約3μm)となっている。このように3剤合剤である点とデバイスが特徴的なビレーズトリだが、薬理学的にも大きな特長がある。服薬アドヒアランス向上も可能か。患者が実感できる効果の高さと効果発現の速さビレーズトリの有効性と安全性が、第III相国際共同試験であるKRONOS試験において検討された。この試験では、中等症から最重症のCOPD患者1,899例を対象に、ビレーズトリと、LAMA/LABAの2剤配合剤であるビベスピ、シムビコートおよびPT009(ブデソニド・ホルモテロールフマル酸塩の配合剤)において、有効性、安全性が比較されている。ビレーズトリは、呼吸機能改善に関する主要評価項目9項目中の8項目を達成したうえ、ビベスピとの比較で、増悪の発現率を52%有意に低下させた。ガイドラインでもCOPD治療における増悪抑制の重要性が強調されているため、ビレーズトリの増悪抑制効果は非常に重要な特長といえるだろう。また投与1日目における効果発現までの時間は、吸入後5分と非常に速い効果発現が示された。効果発現が速いという特長は、薬剤を吸入する患者も実感しやすいものであるので、アドヒアランス向上につながると考えられる。ビレーズトリによるCOPD治療の将来展望ビレーズトリは、簡便な服薬と、高い効果と速い効果発現によって、これまで治療が進まなかったCOPD患者の服薬アドヒアランスを向上させ、治療を継続させられる可能性を持った薬剤である。COPDは診断・治療においても、他の呼吸器疾患との鑑別が難しいなどの課題があるが、ビレーズトリを用いた簡便で、かつ効果の高い治療法が登場した今、呼吸器非専門のかかりつけ医でCOPDの診断・治療が可能になれば、COPDの死亡者数増加に歯止めをかけられるのではないだろうか。

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イミフィンジ:独自のコンセプトでがんの完治を目指す

2019年8月、抗悪性腫瘍剤イミフィンジは本邦での発売1周年を迎えた。化学放射線療法(CRT)後にイミフィンジを投与し、がん根治の可能性を高めることを目指す」というコンセプトは、他に類を見ない画期的なものであり、現在ではガイドラインにも記載され、CRT後の患者の約半数がイミフィンジを使用しているとも言われている。根治の可能性を高める、独自のコンセプトステージIIIの非小細胞肺がん(NSCLC)に対しては、化学放射線療法(CRT)が標準治療であり、イミフィンジ発売までの約20年間、画期的に治療が変わるような新たな治療薬が登場しなかった。ステージIIIのNSCLCに対するCRTの5年生存率は15~20%であり、根治を達成できる患者の数は決して多くなかった。そのような状況を打開すべく登場したのが、イミフィンジだ。抗PD-L1抗体製剤としては3番目に発売されたイミフィンジは、CRT後に使用し、がんに対して「根治の可能性を高めていく」薬剤であり、同じクラスの他剤とはコンセプトが異なる。がんに罹患したマウスへの放射線照射により、がん微小環境が変化し、免疫チェックポイント分子のリガンドであるPD-L1の発現が誘導されるという報告があった。ヒトにおいてもCRTの前後で、PD-L1の発現状況が異なると発表されている。イミフィンジは、この放射線治療時に発現するPD-L1を治療ターゲットとしたのである。免疫治療薬として唯一、切除不能なステージIII NSCLCの3年生存率を示すでは、イミフィンジの有用性について、見ていこう。イミフィンジの第III相臨床試験であるPacific試験は、白金製剤を用いたCRTの後に、進行が認められなかった切除不能なステージIIIのNSCLC患者713例を対象に、イミフィンジを逐次投与したプラセボ対照試験である。主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)および、全生存期間(OS)となっている。イミフィンジ投与群では、プラセボ群と比較してPFSとOSが有意に延長し、死亡リスクが32%低減した(対プラセボ群)。そして2019年の米国腫瘍学会(ASCO)では、追加解析である3年生存率の解析結果が発表され、死亡リスクが31%低減し(対プラセボ群)、一貫した有効性が示されたのである。切除不能なステージIIINSCLCの3年生存率は、フェーズ3においては他の免疫治療薬ではまだ示されておらず、イミフィンジのみで示されているデータである。イミフィンジは有効性を示したものの、一方で、CRT後という患者の身体への負担が大きい状況で導入することに対して、安全性を懸念する声もあった。特に放射線科の医師からは、放射線治療で肺が炎症を起こしているところに生物学的製剤を使えば肺臓炎が必発すると、懸念されていた。しかし、肺臓炎の発症率について比較すると、全グレードで見た場合はイミフィンジ群33.8%、プラセボ群24.8%と差があるが、グレード3、4といった重症例の発症率は、イミフィンジ群3.4%、プラセボ群2.6%とほぼ差がない。つまり、イミフィンジの投与によって、軽度の肺臓炎は増えたが、重篤なものについてはあまり差がないのである。イミフィンジ登場から1年で変わったNSCLCに対するCRT後の治療と、今後の展望イミフィンジの登場から1年が経ち、いまやCRT後の患者の約半数にイミフィンジが導入されており、肺癌診療ガイドライン2018でもイミフィンジによる治療が提案されている。それに伴い、CRT後の治療も変わってきている。特に「治療スケジュール」と「医師どうしの連携」に顕著な変化が表れているのである。まず、治療スケジュールであるが、従来CRT後は経過を観察するのみ、というのが一般的だった。そのため数カ月にわたって、放射線照射や化学療法による副作用からの回復を待つというケースも少なくなかった。しかし、イミフィンジをCRT後に投与するには、CRT終了直前から副作用の状況をより精査に確認する必要がある。そのためCRT終了直後にⅩ線、CTなどの画像を確認することが多くなり、放射線肺臓炎などが早期に発見されるケースも見られている。また、肺臓炎の診断のために呼吸器専門医と放射線専門医との間で、ディスカッションなどの連携の機会も増えているという。現在、イミフィンジはさまざまな固形がんに対して、化学療法との併用療法が検討されている。NSCLCよりも悪性度の高い、小細胞肺がん(SCLC)に対して、イミフィンジと化学療法を併用し、有効性を検討したCASPIAN試験の結果が発表公開された他、ステージI、IIといった早期のNSCLC術前補助療法にイミフィンジを用い、がんの治癒率を検討する試験も進行中である。今後もイミフィンジを用いたがん治療の進歩から目が離せない。

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PM2.5短期曝露の入院リスク・コスト増、敗血症や腎不全でも/BMJ

 微小粒子状物質(PM2.5)への短期曝露は、これまでほとんど知られていなかった敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全による入院リスクや入院日数、入院・急性期後治療費の大幅な増加と関連していることが判明した。すでに知られている、同曝露と心血管・呼吸器疾患、糖尿病、パーキンソン病などとの関連もあらためて確認され、それらの関連はPM2.5濃度が、世界保健機関(WHO)がガイドラインで規定する24時間平均曝露濃度未満の場合であっても一貫して認められたという。米国・ハーバード大学医学大学院のYaguang Wei氏らが、米国のメディケアに加入する高齢者約9,500万例のデータを解析した結果で、著者は「PM2.5への短期曝露が、経済的負担を少なからず増加していた」と述べ、WHOのガイドライン更新について言及した。BMJ誌2019年11月27日号掲載の報告。相互排他的214疾患群の入院リスク・コストとの関連を検証 研究グループは、2000~12年のメディケアにおける入院患者の支払請求データを基に、相互排他的214疾患群について、入院リスク・コストとPM2.5短期曝露との関連を調べる時間層別化ケースクロスオーバー解析を行った。対象は、出来高払い(fee-for-service)プランで入院医療を受けた65歳以上の9,527万7,169例。気象変数の非線形交絡作用を補正した条件付きロジスティック回帰分析で評価した。 主要アウトカムは、214疾患群の入院リスク、入院数、入院日数、入院・急性期後治療費、入院中の死亡により失われた統計的生命価値(=死亡を回避するためのコストを評価するために用いられる経済的価値)だった。敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全とも関連 PM2.5への短期曝露と入院リスクとの正の関連が、敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全といった、これまでに一般的だがほとんど検討がされていなかった疾患でも見つかった。 そのような正の関連は、心血管・呼吸器疾患、パーキンソン病、糖尿病、静脈炎、血栓性静脈炎、血栓塞栓症でも認められ、これまでの研究結果が再確認された。さらにこれらの関連は、WHOがガイドラインで規定するPM2.5の24時間平均曝露濃度を下回っている場合でも一貫して認められた。 これまでほとんど検討されていなかった疾患については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数2,050件(95%信頼区間[CI]:1,914~2,187)増、入院日数1万2,216日(1万1,358~1万3,075)増、入院・急性期後治療費3,100万ドル(2,400万ユーロ、2,800万ポンド)(ドルの95%CI:2,900万~3,400万)増、失われた統計的生命価値25億ドル(20億~29億)増とそれぞれ関連していた。 すでに知られていた疾患との関連については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数3,642件(95%CI:3,434~3,851)増、入院日数2万98日(1万8,950~2万1,247)増、入院・急性期後治療費6,900万ドル(6,500万~7,300万)増、失われた統計的生命価値41億ドル(35億~47億)増とそれぞれ関連していた。■「敗血症」関連記事敗血症、新規の臨床病型4つを導出/JAMA

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中止されたPPIを胃潰瘍リスクで評価して復活【うまくいく!処方提案プラクティス】第10回

 今回は、既往歴や患者情報からプロトンポンプ阻害薬(PPI)が「処方されていない」ことに疑問を持ったところから始まった処方提案です。ポリファーマシーの問題や副作用などから中止対象となることが多いPPIですが、服用継続すべき場合もあります。今回は、PPIが必要な状態について整理し、追加提案に至るまでのポイントの整理と実際の提案方法について紹介します。患者情報84歳、男性(施設入居中)、元住職基礎疾患:慢性心不全、陳旧性心筋梗塞既 往 歴:出血性胃潰瘍(81歳時)、心筋梗塞のため薬剤溶出性ステント(DES)留置(82歳時)、完全房室ブロックのためペースメーカー挿入(年齢不明)往  診:月2回処方内容1.トルバプタン錠7.5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠40mg 2錠 分1 朝食後3.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後4.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 分1 夕食後5.ピコスルファートナトリウム内用液0.75% 便秘時頓用 適宜調節本症例のポイントこの患者さんは陳旧性心筋梗塞の基礎疾患があり、動脈硬化性疾患の2次予防のために低用量アスピリンが処方されています。アスピリンを長期的に服用すると、消化性出血や潰瘍のリスクがあるため、PPIやH2受容体遮断薬が予防投与されることがあります。とくに、この患者さんのように出血性胃潰瘍の既往がある場合では、PPIの予防投与が国内外のガイドラインで推奨されています。しかし、上記の処方内容のとおり、胃潰瘍の既往があり、アスピリンが処方されているにもかかわらず、PPIの投与がありませんでした。お薬手帳などを確認したところ、以前はPPIが処方されていましたが、施設入居前の処方整理でPPIが中止されたようです。<陳旧性心筋梗塞とアスピリンと潰瘍>陳旧性心筋梗塞(DES留置後)では、禁忌がない場合は低用量アスピリンを2次予防として永続投与することが推奨されている。しかし、アスピリンは低用量であっても長期服用することで、粘膜への影響により胃などに潰瘍を起こすリスクが懸念されている。とくに、出血既往歴がある患者では消化管合併症の発症率が高まることが報告されているため、PPIの併用が推奨されている。PPIが併用されておらず、出血性胃潰瘍を再発し出血性ショックをきたした一例報告もある1)。PPIを服用することのリスクとして、骨折、慢性腎臓病、クロストリジウムディフィシル感染症(CDI)、肺炎など多くの深刻な副作用がありますが、その絶対リスクは患者1人当たり年間約0.1〜0.5%増加させる程度と報告されています2)。以上の点から、出血性胃潰瘍の既往があるこの患者さんにおいてはアスピリンによる胃潰瘍再燃のリスクのほうが重要であり、今後も安全にアスピリンを服用継続するためにPPIの復活を提案することにしました。処方提案とその後の経過回診前のカンファレンスと往診同行時に、出血性胃潰瘍の既往があるのにPPIが併用されておらず、アスピリン服用に伴う出血性胃潰瘍再燃のリスクがあることを医師に相談しました。また、今回の提案の際に参考とした文献も提示し、PPI追加の妥当性について医師と検討しました。施設入居前に薬剤整理が行われたため、医師もPPIが中止になった経緯を把握していませんでしたが、既往歴と現疾患を整理すると、潰瘍リスクを捨て置くわけにはいかないという結論に至りました。そこで、往診翌日からアスピリンと併用してランソプラゾール口腔内崩壊錠30mgを朝食後に追加することになりました。患者さんは、今もアスピリンおよびランソプラゾールを併用していますが、胃部不快感や食道逆流症状、上腹部痛、嘔気などの徴候はなく経過してます。1)Platt KD, et al. JAMA intern Med.2019;179:1276-1227. 2)Vaezi MF, et al. Gastroenterology.2017;153:35-48.

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出産歴による乳がん検診開始年齢を検討/Eur J Cancer

 乳がんリスクに出産歴が影響することは認識されているが、現在の乳がん検診ガイドラインはこの因子によるリスクの違いが考慮されていない。乳がんリスクが高い女性は早期の検診が必要であることから、ドイツ・German Cancer Research CenterのTrasias Mukama氏らは、生殖プロファイルに基づくリスクに合った検診開始年齢を検討した。European Journal of Cancer誌オンライン版2019年11月21日号に掲載。 本研究は、1931年以降に生まれた509万9,172人のスウェーデン人女性の全国コホート研究。参加者におけるSwedish Cancer Registry、Multi-generation Register、Cause of Death Register、および国勢調査(1958~2015)の記録をリンクさせた。 著者らは、一般集団における40、45、50歳(現在のガイドラインで推奨されている検診開始年齢)での10年累積乳がんリスクを算出し、生殖因子(出産歴および初産年齢)が異なる群ごとにそのリスクレベルに達成する年齢を調べた。 その結果、リスクレベルに達成する年齢は、現在のガイドラインの推奨年齢と-3~+9歳の差が認められた。これらの結果は、検診開始年齢について新たな情報を提供し、個別化検診に向けて重要なステップとなる。

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第4回 動脈硬化で死なないためには?【今さら聞けない心リハ】

第4回 動脈硬化で死なないためには?今回のポイント心血管疾患患者にとって、食習慣の改善は運動と同様に大切画一的な指導ではなく、病状に応じた栄養指導が重要動脈硬化疾患の予防には〇〇を断つべし!?動脈硬化予防に良い食事とは?本連載の第1~3回では、主に運動療法について書きましたが、今回は心疾患患者に対する栄養指導についてお話します。心臓リハビリテーション(以下、心リハ)において、心疾患患者は何を食べるべきか(あるいは何を食べないべきか)ということは、実は運動と同じくらい、あるいはそれ以上に大切と考えられています。わが国の心血管疾患の治療ガイドラインには、食事についての記載はほとんど認められません。わずかに、減塩や適正なカロリーの摂取についての記載があるのみです。一方、米国のガイドラインではかなり多くのページが食事・栄養に割かれており、総説や論文も多数、毎年のように出されています。日本がフィットネス後進国と言われていることは第1回でも話しましたが、実は運動だけではなく食事についても関心のある医師が少ない状況です。高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病の発症は、運動不足も関係しますが、食事が最も重要であるのは自明のことです。運動不足でも、食べなければ太れません。それでも、食事の根本的改善のないままに、各管理目標値を目指して薬物治療が開始されることが多いのではないでしょうか。では、動脈硬化の予防には実際どのような食事をとれば良いのでしょう。避けるべき食品はなんでしょうか。動脈硬化は、食事と運動だけでも改善できるのでしょうか?徹底的な食事療法と運動療法により冠動脈のプラーク(動脈硬化病変)が退縮することを実際に示した有名な臨床研究があります。カリフォルニア大学のOrnish氏らが1998年のJAMA誌に発表したもので、Ornish氏とその関係者は、現在もカリフォルニアを拠点にこの研究で示された有効性をもとに食事・運動療法の啓発活動を続けています。この研究では、中~高度の冠動脈疾患患者を「徹底的な食事療法・運動療法を行う介入群:28例」と、「ガイドラインで推奨されるレベルの食事療法・運動療法を行う対照群:20例」にランダムに割り付けし、冠動脈造影検査による冠動脈狭窄率の変化を5年間追跡しました。徹底的な食事療法とは、ホールフード・ベジタリアンダイエット、つまり未加工の野菜中心に油脂を使わず少ない調味料で調理するもので、脂質が占めるエネルギー量は全体の10%未満と非常に少ないものでした。また、介入群では食事療法とともに週5時間の有酸素運動を実施しました。一方、対照群でも食事中の脂質は30%未満に抑えられ、週3時間程度の有酸素運動を実施しました。1年後、介入群では37%の血清LDLコレステロール低下を認めるとともに評価部位の冠動脈の平均狭窄率が40%から37.8%に改善したのに対して、対照群ではLDLコレステロールは6%低下したものの、冠動脈の平均狭窄率は42.7%から46.1%に悪化しました。その後、対照群では過半数の患者において脂質異常症治療薬の内服が開始されましたが、5年後の両群の冠動脈狭窄率差はより顕著でした(介入群:37.3%、対照群:51.9%)。後に、同氏らはこのプログラムを冠動脈疾患の進行抑制だけではなく改善させるものとして、Intensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)と名付けています(図1)。(図1)画像を拡大するこの研究データには説得力があり、すでに1,854もの論文で引用されています(2019/11/21時点)。私の知る限り、ほかにはこのように明確に食事・運動療法の動脈硬化改善効果を示した研究はありません。Ornish食を続けるコツと適した人ホールフード・ベジタリアンダイエットは、いわゆる高血圧研究で有名なDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食とは異なり、乳製品や魚すらとりません。DASH食でさえ毎日続けるのは難しそうと感じた方には、よりハードルが高そうですが、研究に参加した患者の7割以上が、5年間この食事療法を継続できたようです。同氏によると、継続率が高いのは、これを実践した患者が速やかに自覚症状の改善を感じたからだそうです。ホールフード・ベジタリアンダイエットを本気で実践しようとすると、あれもこれも食べられませんし、それを理想と考えるなら、通常の入院食も不適切な食事です。それに、野菜は高いし調理も面倒…さまざまな事情により、実践を諦める人が多いでしょう。多くの患者にとって、同氏らの研究の中で対照群が実施したような、脂質30%未満という通常の診療で推奨されている一般的な食事療法が、許容できるぎりぎりのレベルかもしれません(一般的な食事療法でも、きっちりと指導を受け、さらに実践できている患者は多くないと思われます)。ただし、同氏の研究はあくまで中年の肥満型冠動脈疾患患者を対象にしたものであり、日本で診療する患者の多数派である高齢者を対象としていないことに注意が必要です。高齢の心疾患患者では低栄養のことも多く、そもそも野菜をかむ力すら衰えてしまっているようなオーラル・フレイルの患者も多いので、多量の野菜を摂取する必要のあるOrnish食は適応にならないでしょう。画一的な指導ではなく、患者の病状や生活環境に応じた指導が必要です。高齢の心疾患患者の場合には、少量でもしっかりとカロリーやタンパク質を補うことができるような食事のメニューを組む必要があります。これについては、第5回で詳しく説明しましょう。動脈硬化予防に食べてはいけない物最後に、“何を食べてはいけないか”―最近JACCで発表された心血管疾患予防のための栄養に関する臨床ガイドの記事を紹介します。ここでは、避けるべき食品、積極的に摂取すべき食品についてのリストとともに、詳細に記述されています。この臨床ガイドの中で、避けるべき食品としてまず挙げられているのが、「砂糖」。とくに果糖ブドウ糖液糖をはじめとする合成糖類です。砂糖の1日摂取量上限は25gまで、合成糖類は基本とらない、甘い飲料は飲んではいけないことが、エビデンスとともに記されています。詳しくリストを確認したい方は、原著をお読みください。塩のとり過ぎは高血圧を発症させるので減塩が大切ということは広く知られていますが、砂糖のとり過ぎに気を付けることも大事なのですね。ちなみに、私は甘いお菓子が大好きです。こうした情報を知ってからは、なるべく気を付けるようにしています…が、さっき頂き物のクッキーの小袋を食べてしまいました(汗)。徹底的な食事療法の実践は、なかなか難しいですね。「moderation kills」という言葉がありますが、よほどの決心がつかないと、「なるべく気を付ける」くらいの食事療法で満足してしまいそうです。読者の皆さまは、いかがでしょうか?<Dr.小笹の心リハこぼれ話>医師による栄養指導と真の対価心リハのメインは運動、食事は重要だけれど補助的役割。運動処方は医師がチェックするけれど、栄養指導は管理栄養士任せ…。心リハに携わり始めた頃は、正直、栄養については知識不足でした。そのため、患者さんに聞かれても、「塩分に気を付けてバランスの良い食事をとりましょう、具体的には栄養指導で聞いてくださいね」という、間違ってはいないものの何にも具体性がないことしか言えませんでした。現在、医学部には栄養学の講義はほとんどありません。栄養指導は管理栄養士任せという医師は多いと思われます。しかし、長年心リハで患者指導をするうちに、運動だけではだめなんだ、と気付かされるようになりました。毎日2時間も速歩でウォーキングしていてもHbA1cが8%を下回らない糖尿病患者さん、外来心リハに週3回通い、かつ自宅でも指導通り運動しているのに体重がまったく変わらないどころか逆に増えるような肥満患者さん。これらの患者さんたちは、明らかに食事に問題があるのです。今では、心リハの患者さんの栄養指導も管理栄養士にすべてお任せではなく、管理栄養士と一緒に個々の症例について介入ポイントを話合っています。それにしても、運動だけではなく、栄養指導や心リハで重要な心理ケア(ストレスマネジメントプログラム:SMP)について、1回1時間の心リハで行うことは時間的にかなり厳しいものがあります。今回紹介したOrnish氏の心リハプログラムは、米国で保険適応とされています。通常の心リハプログラムが1回1時間、週3回、12週間(合計36時間)の運動を中心としたものであるのに対して、包括型心リハでは1回4時間で運動、栄養指導、SMPを各1時間、そして残りの1時間がグループでの対話セッションで構成され、週2回、9週間(合計72時間)というもののようです(図1)。このような心リハを日本で実践するには、診療報酬制度の見直し、そして心リハを支えるマンパワーが必要です。日本でIntensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)を実現するには、今以上にコストがかかるということですね。でも、その投資は、冠動脈疾患の再発や悪化によりPCIやCABGなどの血行再建術を実施するコストに比べたら、十分価値があるのではないでしょうか。何より、患者さんにとっては疾患の再発や悪化がないことこそがHappyですよね!

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降圧薬と認知症リスク~メタ解析

 認知症は、予防や治療戦略が難しい健康問題である。認知症を予防するうえで、特定の降圧薬使用が、認知症リスクを低下させるともいわれている。米国・国立衛生研究所のJie Ding氏らは、特定の降圧薬による血圧低下が認知症リスクに及ぼす影響について検討を行った。The Lancet. Neurology誌オンライン版2019年11月6日号の報告。高血圧患者に対する降圧薬使用は認知症リスクを低下させる 1980年1月1日~2019年1月1日までに公表された適格な観察研究より参加者データを収集し、メタ解析を実施した。適格基準は、コミュニティーの成人を対象としたプロスペクティブコホート研究、参加者2,000人超、5年以上の認知症イベントデータの収集、血圧測定および降圧薬の使用、認知症イベントに関する追加データを収集するための対面試験、死亡率のフォローアップを含む研究とした。ベースライン時の高血圧(SBP140mmHg以上またはDBP90mmHg以上)および正常血圧において、5つの降圧薬クラスを用いて、認知症やアルツハイマー病との関連を評価した。降圧薬服用確率に関連する交絡因子を制御するため、傾向スコアを用いた。研究固有の効果推定値は、変量効果のメタ解析を用いてプールした。 降圧薬と認知症との関連を評価した主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間7~22年間(中央値)のコミュニティーベースプロスペクティブコホート研究6件より得られた、55歳超の非認知症成人3万1,090人を解析対象とした。・認知症診断は3,728件、アルツハイマー病診断は1,741件であった。・高血圧群(1万5,537人)では、降圧薬を使用している患者は、使用していない患者と比較し、認知症発症リスク(ハザード比[HR]:0.88、95%CI:0.79~0.98、p=0.019)およびアルツハイマー病発症リスク(HR:0.84、95%CI:0.73~0.97、p=0.021)の低下が認められた。・認知症リスクに対して、降圧薬のクラス間で有意な差は認められなかった。・正常血圧群(1万5,553人)では、降圧薬使用と認知症またはアルツハイマー病との間に関連は認められなかった。 著者らは「高血圧患者に対する降圧薬使用は、認知症リスクを低下させる。しかし長期の観察では、特定の降圧薬が、他の降圧薬と比較し、認知症リスク低下に効果的であることは示唆されなかった。このことから、今後の高血圧臨床ガイドラインでは、認知症リスクに対する降圧薬の有益な効果を考慮すべきである」としている。

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低用量コルヒチン、心筋梗塞後の虚血性心血管イベントを抑制/NEJM

 低用量コルヒチンは、心筋梗塞患者における虚血性心血管イベントのリスクをプラセボに比べ有意に低減することが、カナダ・モントリオール心臓研究所のJean-Claude Tardif氏らが行ったCOLCOT試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月16日号に掲載された。炎症は、アテローム性動脈硬化およびその合併症において重要な役割を担うことを示す実験的および臨床的なエビデンスがある。コルヒチンは、イヌサフランから抽出された抗炎症作用を有する経口薬で、痛風や家族性地中海熱、心膜炎の治療に使用されている。発症後30日以内の心筋梗塞の無作為化試験 本研究は、12ヵ国167施設が参加した医師主導の二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2015年12月~2018年8月の期間に患者登録が行われた(カナダ・ケベック州政府などの助成による)。 対象は、登録前の30日以内に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受け、強化スタチン治療を含む国のガイドラインに準拠した治療を受けている成人患者であった。 被験者は、低用量コルヒチン(0.5mg、1日1回)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、心血管死、心停止からの蘇生、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の複合とした。主要複合エンドポイント:5.5% vs.7.1% 4,745例が登録され、コルヒチン群に2,366例、プラセボ群には2,379例が割り付けられた。追跡期間中央値は22.6ヵ月だった。 ベースラインの全体の心筋梗塞発症後平均期間は13.5日、平均年齢は60.6歳、女性が19.2%であった。また、20.2%が糖尿病を有し、93.0%が心筋梗塞に対し経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けており、98.8%がアスピリン、97.9%が他の抗血小板薬、99.0%がスタチンの投与を受けていた。 主要複合エンドポイントの発生率は、コルヒチン群が5.5%と、プラセボ群の7.1%に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.61~0.96、p=0.02、log-rank検定)。 主要複合エンドポイントの構成要素のうち、心血管死(コルヒチン群0.8% vs.プラセボ群1.0%、HR:0.84、95%CI:0.46~1.52)、心停止後の蘇生(0.2% vs.0.3%、0.83、0.25~2.73)、心筋梗塞(3.8% vs.4.1%、0.91、0.68~1.21)の発生率には両群間に有意な差は認められなかったが、脳卒中(0.2% vs.0.8%、0.26、0.10~0.70)と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院(1.1% vs.2.1%、0.50、0.31~0.81)の発生率はコルヒチン群で有意に低かった。 副次複合エンドポイント(心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞、脳卒中)(コルヒチン群4.7% vs.プラセボ群5.5%、HR:0.85、95%CI:0.66~1.10)および有効性の探索的エンドポイントである死亡(1.8% vs.1.8%、0.98、0.64~1.49)、深部静脈血栓症/肺塞栓症(0.4% vs.0.3%、1.43、0.54~3.75)、心房細動(1.5% vs.1.7%、0.93、0.59~1.46)の発生率には、両群間に有意な差はみられなかった。 治療薬関連の有害事象は、コルヒチン群が16.0%、プラセボ群は15.8%で認められた。重篤な有害事象はそれぞれ16.4%、17.2%でみられた。消化器イベントの頻度が高く(コルヒチン群17.5%、プラセボ群17.6%)、そのうち下痢がコルヒチン群で9.7%、プラセボ群で8.9%(p=0.35)、悪心がそれぞれ1.8%、1.0%(p=0.02)で発現した。 著者は、「主要複合エンドポイントの改善は、主に脳卒中と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の発生率の低下によってもたらされた」としている。

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無症候性の大動脈弁狭窄症、保存的治療 vs.早期手術/NEJM

 無症候性の重症大動脈弁狭窄症患者において、追跡期間中の手術死亡または心血管死(複合エンドポイント)の発生率は、早期に弁置換術を施行した患者のほうが保存的治療を行った患者よりも有意に低いことが示された。韓国・蔚山大学校のDuk-Hyun Kang氏らが、多施設共同試験「RECOVERY試験」の結果を報告した。重症大動脈弁狭窄症患者の3分の1から2分の1は診断時に無症状であるが、こうした患者における手術の時期と適応については依然として議論の余地があった。NEJM誌オンライン版2019年11月16日号掲載の報告。手術死亡と心血管死の複合エンドポイントを比較 RECOVERY試験(Randomized Comparison of Early Surgery versus Conventional Treatment in Very Severe Aortic Stenosis trial)は、2010年7月~2015年4月の期間に、無症候性の超重症大動脈弁狭窄症(大動脈弁口面積≦0.75cm2で、大動脈弁血流速度≧4.5m/秒または平均圧較差≧50mmHgのいずれか)患者145例を、早期手術群(73例)または現行ガイドラインの推奨に基づく保存的治療群(72例)のいずれかに無作為に割り付けて行われた。 主要評価項目は、術中または術後30日以内の死亡(手術死亡)、または追跡期間全体の心血管死の複合エンドポイント、主な副次評価項目は追跡期間中の全死因死亡とした。解析はintention-to-treat集団を対象とし、イベント累積発生率はKaplan-Meier法で推定し、log-rank検定を用いて比較した。また、層別Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。手術死亡の発生なし、早期手術群のイベント発生HRは0.09と有意に低下 早期手術群では、無作為化後2ヵ月以内に73例中69例(95%)で手術が実施され、手術死亡はなかった。 Intention-to-treat解析において、主要評価項目のイベントは早期手術群で1例(1%)、保存的治療群で11例(15%)発生した(HR:0.09、95%CI:0.01~0.67、p=0.003)。全死因死亡は、早期手術群5例(7%)、保存的治療群15例(21%)に発生した(HR:0.33、95%CI:0.12~0.90)。 保存的治療群では、突然死の累積発生率が4年時で4%、8年時で14%であった。 なお著者は、症例数および主要評価項目のイベント発生数が少ないこと、相対的に若い患者が組み込まれたことなどを研究の限界として挙げている。

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全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019、本邦で初めて発刊

 2019年10月、日本初の『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』が発刊された。全身性エリテマトーデス(SLE)はさまざまな全身性疾患を伴うため、治療の標準化が困難であったことからガイドラインの作成着手までに時間を要してきた。全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019は専門医を対象とし、SLEの臨床的多様性に対応する総合的なガイドラインとして作成されている。 サノフィ株式会社は2019年10月30日、メディアラウンドテーブル「本邦初の全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン発行~SLE診療の現在 医師と患者の立場から~」を開催。全身性エリテマトーデス診療ガイドライン統括委員会の委員長を務めた渥美 達也氏(北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室 教授)が「SLE診療の標準化~全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン~」について講演した。会の後半では患者代表の後藤 眞理子氏(全国膠原病友の会神奈川県支部 支部長)を交えてトークセッションが行われた。臨床的多様性が強い疾患、全身性エリテマトーデスの治療目標 高血圧症は血圧を下げる、糖尿病は血糖値を下げるなど治療目的が非常に明確である。一方、全身性エリテマトーデスは多様な臓器病変を呈する症候群であることから、症状の出方や治療ゴールが個々によって異なり、ガイドラインの作成自体が困難を極めていた。また、これまでの治療では全身性エリテマトーデスの非可逆的な臓器病変やグルココルチコイドの長期大量投与に伴う合併症によって患者の生活の質の低下が問題になっていた。このことから渥美氏はガイドライン作成の前提条件について「“SLEの社会的寛解の維持”を治療目標に設定」とコメント。加えて、「患者さんにとって、生活活動を維持してもらうことが重要。とくに若年女性の労働生産性を落とさず家庭への生活ウェイトも置けるよう、患者の多様性を考慮したモニタリング項目が記載されている」とも説明した。 この“社会的寛解の維持“という定義については、「子供の運動会に参加するなど、自分の生活目標が達成されること。総合指標やそれぞれの臓器についての寛解を評価することが目的」と渥美氏は語った。全身性エリテマトーデス診療ガイドラインの日本と海外の違いは? 米国や欧州では2012年頃から全身性エリテマトーデスの臓器病変からループス腎炎を切り出したガイドラインなどが発刊され、日常臨床に用いられてきた。2018年には英国リウマチ学会がガイドラインを発刊、症状の時期や重症度が表で示されており利便性がある。その反面で「NHS(National Health Service:国営医療サービス)のためのガイドラインであるため、作成目的が医療費の償還である」と、海外ガイドラインの怖い側面について指摘した。 日本の全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019はこれとは異なり、さまざまな医療に対応でき、世界で1つの全身性エリテマトーデス診療アルゴリズムが盛り込まれている点が特徴的である。このアルゴリズムには二次療法の記載がなく、初回療法で寛解に入らない場合は三次治療に進む。これについて同氏は「初回療法はエビデンスがあるのに対し、二次治療としてのエビデンスが少ないため」とコメントした。このほか、推奨の強さは3段階に設定、重症度分類は英国GLに準じ、 軽症・中等症・重症に区分される。さらに、システマティックレビュー(腎炎、神経精神病変、皮膚病変、血液病変)またはナラティブレビューに基づく推奨文とその合意度も参照可能である。 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019の制作は厚生労働省の自己免疫研究班SLE分科会と日本リウマチ学会による共同作業で、日本臨床免疫学会、日本腎臓学会、日本小児リウマチ学会、日本皮膚科学会の協力を得ている。全身性エリテマトーデス診療ガイドラインでは治療ゴールを明確にした 続いて、渥美氏と後藤氏によるトークセッションが行われた。後藤氏は「全身性エリテマトーデスの症状なのか薬の副作用なのか言葉にしがたい症状が生じた時、それらを医師にうまく伝えられないのは辛い。たとえば、倦怠感という概念の受け捉え方は患者も医師も人それぞれ。なので医師に具体的な表現を求める」と、症状の言語化できない問題について訴えた。これに対し、渥美氏は「寛解後の特有症状である倦怠感には医学的改善方法がないため、医師は“そうですか”と受け流すような返答になってしまう。医師は活動性指標の1つとして患者の訴えをきちんと評価すべき」と回答した。また、「薬剤の追加がネックで症状変化を医師に伝えないこともある」との後藤氏のコメントに対して、渥美氏は「どんな治療を行い、どんな治療目標とするのか。これを話せる医師が現時点では少ないため、今回のガイドラインではそのゴールを明確にした」と答えた。 最後に後藤氏は「GLが作成されたことによって全国どこでも標準的な治療が受けられるのは嬉しい。これによって患者会のメンバーの人生が広がればと感じた」と喜びを漏らした。渥美氏は「SLEの病態は例外が多いため、改善しなかった場合の対応策の盛り込み、まれな症状に対するエビデンス構築などが必要」と、今後の課題を語った。

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第15回 高齢糖尿病患者の高血圧、どこまで厳格に管理する?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第15回 高齢糖尿病患者の高血圧、どこまで厳格に管理する?Q1 やや高め?厳密?高齢糖尿病患者での降圧目標の目安日本高血圧学会は、5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を2019年4月に発表しました1)。その中で後期高齢者(75歳以上)の降圧目標は、従来の150/90mmHg未満から140/90mmHg未満に引き下げられています。また、忍容性があれば個人の症状や検査所見の変化に注意しながら、最終的には130/80mmHg未満を目標に治療することを求めています。さまざまな介入試験のメタ解析の評価・検討が行われた結果、高齢者においても高血圧治療によって心血管イベントや脳卒中イベントリスクが有意に低くなり、予後の改善が見込めると示唆されたためです。一方、糖尿病合併患者や蛋白尿陽性の慢性腎臓病(CKD)患者の降圧目標は、従来の130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)に据え置かれました。血圧が140/90mmHg以上を示した場合には、ただちに降圧薬を開始するとなっています(図)。欧米のガイドラインでは、糖尿病を合併した患者の場合、降圧目標は「140/80mmHg未満」や「140/85mmHg未満」と、比較的緩やかに設定されています2,3)。しかし日本では厳格な管理目標を維持することになりました。その理由の1つは、ACCORD-BP試験において厳格降圧群(目標収縮期血圧120mmHg未満)では通常降圧群(140mmHg未満)に比べて脳卒中が41%有意に減少したと報告されたためです4)。日本では欧米と比較して脳卒中の発症率が高いことから、脳卒中の発症予防に重きを置いた降圧目標を設定すべきと考えられ、「130/80mmHg未満」とされたのです。なお、JSH2019で設定された降圧目標は年齢と合併症に基づいて決められているため、降圧目標の設定基準を複数持つ状態が生じます。たとえば、75歳以上の高齢糖尿病患者の場合、糖尿病患者としてみると130/80mmHg未満ですが、後期高齢者としてみると140/90mmHg未満となり、2つの降圧目標が出来てしまいます。このように年齢と合併症の存在によって降圧目標が異なる場合、忍容性があれば130/80mmHg未満を目指すとされました。ただし高齢者では極端な降圧により臓器への血流障害を来す可能性も危惧されます。そのため、まずは140/90mmHgを目指し、達成できればその後緩徐に130/80mmHg未満を目指していけば良いと思われます。Q2 目標値にいかないことが多い・・・強化のタイミングや注意点は?糖尿病に合併した高血圧の降圧療法での第一選択は、微量アルブミン尿またはタンパク尿がある場合にはARBやACE阻害薬を考慮し、それ以外ではARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、少量のサイアザイド系利尿薬が推奨されています5)。高齢糖尿病患者さんでは腎機能障害を呈していることが多く、ARBやACE阻害薬のみでは十分な降圧効果が得られないこともあります。Ca拮抗薬や利尿薬等を併用したり用量を増加したりして血圧をコントロールします。この場合、多剤併用に至り、服薬管理が困難になることもありますので、薬物療法の単純化を行う必要があります。薬物療法の単純化には、1)1日1回の薬剤に変更して服薬回数を減らす2)薬剤を一包化して服薬を単純化する3)服薬管理の比較的簡単な合剤を使用して調整するなどの対策も有効です。高血圧症の多くは自覚症状がないため、治療に積極的になれないことが服薬管理困難の一因と思われます。ただし、高血圧を有する糖尿病患者では動脈硬化が進行しやすくなります。UKPDSの結果では、糖尿病患者において通常の血圧コントロール(154/87mmHg以下を目標)を行った群と、厳格な血圧コントロール(144/82mmHg以下を目標)を行った群で比較すると、厳格な血圧コントロールを行った群の方が糖尿病合併症発症リスクの有意な減少を認めました6)。患者さんは「透析はしたくない」等、腎障害に対して危機感を抱く方が多いため、腎機能を保持するには血圧コントロールが重要であることを説明すると、服薬に理解を示される場合が多いです。高齢糖尿病患者さんでは、神経障害の進行に伴い起立性低血圧を来すことも珍しくありません。そのため、家庭での収縮期血圧は少なくとも100mmHg以上を維持している方が安全でしょう。さらに、めまいやふらつきの訴えが増える場合には、降圧薬の減量や中止にて対応した方がADLやQOLを維持できると考えられます。起立性低血圧について、患者さんや家族、介護スタッフには、「悪性の病態ではないこと」「注意によって予防可能であること」「転倒打撲のリスクの方が問題であること」を説明し、急激な体位変換や頭位変換を避けるよう指導します。排便後は深呼吸後に立ち上がること、めまいが強い場合には一度仰臥位に戻り、状態が安定してから緩徐に起き上がることなどを実行すると、起立性低血圧に伴う転倒予防に役立ちます。また、状態の改善には血糖コントロールが重要であることも理解していただくと良いでしょう。病態の原因について説明を行い、具体的な対策を指導することで、恐怖感が軽減され、適切に対応できるようになります。高血圧を合併する高齢糖尿病患者さんに食事療法を行う際は、厳格な塩分制限による食欲低下や低栄養に注意が必要です。そのため、まずは「現在の摂取量の8割程度の摂取にとどめる」といった実行可能な塩分制限から開始することが重要です。Q3 80代や90代の超高齢者でも同じように管理しますか?SPRINTのサブ解析では、75歳以上の高齢者において、収縮期血圧の目標を120mmHg未満とした方が、心血管疾患の発症率が低いことが示されました。また、フレイルの程度に関わらず積極的降圧治療が予後を改善させるとも報告しています7)。この研究では非糖尿病患者を対象としていますが、80代や90代の超高齢糖尿病患者においても、降圧が予後改善につながる可能性があります。ただし、寝たきりなど身体能力の極めて低下した高血圧患者に対しては、降圧療法による予後改善効果は示されておらず、逆に予後が悪化することも懸念されています。高度の認知症や身体機能低下を来している場合には、従来通り個別判断での対応が望ましいと考えられます。とくに新規に降圧薬を開始する場合には、通常の半量程度から開始し、数ヵ月かけて徐々に降圧を図るなど、柔軟性のある対応で臨むことが良いと思われます。高齢糖尿病患者では、降圧薬増量による他臓器への影響や経済的負担増も考慮する必要があります。家族や介護スタッフの協力が得られればより良い調整が期待できますが、難しい場合には服薬アドヒアランスを考慮し、一包化や合剤の使用も検討が必要です。認知症が強い場合には、薬剤師と連携を取り、服薬カレンダーの設置や服薬支援のロボットを導入することなども効果的です。しかし、90歳以上の超高齢糖尿病患者さんでもADLが自立しており、元気な方も増えています。加齢と共に個人差は大きくなるため、あまり年齢にこだわる必要はないと考えられます。JSH 2019でも、提示した降圧目標はすべての患者における降圧目標ということではないと強調されていました。ガイドラインや最近の大規模試験の結果などを参考にしながら、個別に降圧目標を設定し対応することが重要です。1)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;2019.2)American Diabetes Association. Standards of medical care in diabetes—2013. Diabetes Care. 2013;36: S11-66.3)Mancia G, et al.The Task Force for the management of arterial hypertension of the European Society of Hypertension(ESH) and of the European. 2013 ESH/ESC Guidelines for the management of arterial hypertension Society of Cardiology (ESC). J Hypertens. 2013;31:1281-1357.4)Cushman WC, et al. N Eng J Med. 2010;362:1575-1585.5)日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,245-260, 2019.6)Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes: UKPDS 38. UK prospective diabetes study group.BMJ.1998;317: 703-713.7)Williamson JD, et al. JAMA.315: 2673-2682, 2016.

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第3回 論文を読むのは目の前の患者のため

第3回 論文を読むのは目の前の患者のため―どのような方法で知識を得ようとしていますか?山﨑:書籍を読んだり人に聞いたりいろいろなウェブサイトを見たりはしますが、基本は泥縄式です。患者応対してうまく説明できなかった事例をファイリングしては調べていたので、必要に迫られて論文にあたることも増えました。そこから関連情報をひも付けて知識を広げました。たとえば、診療ガイドラインの推奨で判断がつかないことは多いですし、そういうときにどう説明すればいいか考えて調べて自分なりにわかりやすい言葉に落とし込むことは心掛けていました。患者さんの疑問を解決する情報を提供できるはずなのに、知識不足でできず後悔した経験も勉強を後押ししました。鈴木:疑問があったときは、最初は書籍とかガイドラインで調べると思いますが、その患者さんが何にも当てはまらないときに文献をあたれると、最終的な裏付けが自分でできるようになれるのかな、って思います。山﨑:そうですね。文献を読んでいてよかったと思うのは、ふとした患者の疑問に回答できることが増えたことや薬のリスクやベネフィットの感覚値がついたこと、情報の限界を感じられたことですね。たとえば、患者さんからつらい副作用発現の連絡を受けたときに、その薬剤を中止したらその程度症状発現のリスクが高まるのか推論できれば提案が変わりますし、抗菌薬を1日2回服用と3回服用の効果の違いの根拠を知っているだけでも別の提案ができます。時にはわからないことをこういう理由でわからないと言えることも大切かと思います。たくさん調べて役に立たなかったことも多いですが、役立った瞬間は少なくはなかったと感じています。笹川:人の得意分野は、書く、読む、聞く、話すなどいろいろなものがあると思いますが、得意なところを重点的に伸ばしていけばいいと思っています。私は自分で論文にあたるのは苦手だったので、得意な人が調べてまとめてくれたコラムや記事などを読んで勉強しています。知識は深いほうがいいのでしょうが、やはり得意不得意があって全部の分野が得意になるのは難しいんですよね。実際の業務では広く全体的にカバーするのも重要だと思っています。鈴木:全分野は無理なので、まずは自分が関わる頻度の高い診療科や患者さんの分野を頑張って深くしていけばいいのではないでしょうか。いろいろなことに手を付けるのではなく、目の前にいる患者さんにどういう人が多いのかを考えるほうが効率がいいですし。山﨑:確かに、疑問について調べるきっかけはいつも患者さんからもらっていました。目の前に課題があるわけですから、そこから深堀りしていましたね。鈴木:論文を使うのはかなり応用編だと思いますが、週刊誌のような雑誌にたまに載る「飲んではいけない薬」リストについて聞かれたときは論文が役に立ちますよね。山﨑:別の根拠を示して、こういう理由であなたは飲んだほうがいいと説明できると患者さんに安心してもらえます。実名で発信して輝け!―薬剤師の情報発信についてどう思いますか?笹川:薬剤師のブログなどはとても参考になりますが、ペンネームで執筆されていることが多いです。私は実名で発信することが大切だと思っていて、名前を伏せているのはもったいないと思っています。実名を出すのってリスクありますか?山﨑:私は匿名でホームページを運営していましたが、実名のほうが信頼は得やすいのでベターだとは思います。実名で運営していた時期もあって、結果的に日に2,000~3,000のアクセスが来るようになり、頻繁に詳細な病態や検査値など個人情報を添付して病気の相談をしてくる方が出てきました。無視するのも気の毒で回答していたのですが、身が持たなくて実名で運営するのを休止しました。患者さんの本当の悩みに触れた瞬間でもあり、信頼をおいてくれたからこそ相談してくれたのだと思いますが、目の前の医療従事者ではなく見ず知らずの私にネット上で判断を仰ぐことの危険性を問題視していたというのもあります。鈴木:私は実名を出したらいいと思っています。コラムを掲載していると、知り合いの薬剤師とかから反応があったりして、刺激を与えられている気がします。自分でもできるんじゃないか、わからないことがあれば鈴木に聞けばいいんじゃないかって。みんなで情報共有していくという意味でも実名の意味はあると思います。所属している薬局で取り組んでいることもアピールしたいですし。そうすると、そこの薬局の薬剤師はみんなできているんだな、って思うじゃないですか。笹川:輪が広がっていくと先生自身にもほかの薬局にもいい影響がありそうですね。私は勉強会をよく行っていますが、始めたきっかけは薬剤師が全然勉強していないことにモヤモヤを感じていたからなんです。本を読まない、情報を得ようとしない薬剤師もいて、差が顕著でしたので。それなら、これだけ知っていれば服薬指導できるということを教えたかったんです。もともと教えるのが好きで教師になりたかったので、エンターテインメント性を持たせて面白くやるということを心掛けました。鈴木:自分も講習会で積極的に講義していますが、根底には教えていきたい、伝えていきたいという思いがあります。みんなで頑張っていこうよ、っていうメッセージを出すためにそういう機会を積極的にもらっています。笹川:自分が接することのできる患者さんは限られていますから、自分だけが知っていても仕方ないんですよ。もっと発信して広げていけば、薬剤師全体の底上げになると思っています。―次回は、医師との関わり方について伺います。

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乳がん家族歴による検診開始年齢を検討/JAMA Oncol

 乳がん検診ガイドラインでは、リスクの高い女性は早期検診が必要としているが、乳がんの家族歴のある女性に対する指針は限られている。今回、ドイツ・German Cancer Research Center(DKFZ)のTrasias Mukama氏らが、500万人以上の女性が含まれるスウェーデンの全国的コホート研究で、家族歴ごとのリスクに相当する乳がん検診の開始年齢を検討した。JAMA Oncology誌オンライン版2019年11月14日号に掲載。 本研究はSwedish family-cancer data setを用いて、少なくとも1人の第1度近親者がいる、1932年以降に生まれたすべての女性(509万9,172人)を対象とした。1958年1月1日~2015年12月31日のデータを収集し、2017年10月1日~2019年3月31日に分析した。第1度および第2度近親者における乳がんの家族歴、浸潤性乳がん罹患について調査し、全対象における40歳・45歳・50歳での10年累積罹患率に達する年齢を家族歴ごとに評価した。 主な結果は以下のとおり。・本研究に参加した509万9,172人の女性のうち、11万8,953人(2.3%)が浸潤性乳がんと診断された。10万2,751人(86.4%、診断時の平均[SD]年齢:55.9 [11.1]歳)は、乳がん診断時に第1度および第2度近親者に家族歴がなかった。・リスクに基づき特定された乳がん検診の推奨開始年齢は、乳がんと診断された第1度および第2度近親者の人数と第1度近親者の診断年齢によって変化した。たとえば、一般集団の推奨開始年齢が50歳のとき、全対象における50歳での10年累積罹患率(2.2%)に達する年齢をみると、乳がんの第1度近親者が2人以上でいずれかが50歳前に診断されている場合は27歳であり、いずれも50歳以降に診断されている場合は36歳であった。 著者は、「本研究は、集団ベースの登録に基づく乳がん検診において、リスクに基づいた推奨開始年齢を特定している。これらの結果は、乳がん患者の近親者に対する現在の検診ガイドラインを補完する質の高いエビデンスとして役立つかもしれない」と述べている。

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