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悪性黒色腫におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用の心血管リスク

 悪性黒色腫患者の治療におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法による心血管有害事象の特徴が明らかになった。ドイツ・エッセン大学病院のRaluca I. Mincu氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、BRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法はBRAF阻害薬単独療法と比較し心血管有害事象のリスクが高いことが示された。著者は「今回の結果は、悪性黒色腫治療の有益性と、心血管疾患の発症および死亡とのバランスをとるのに役立つと思われる」とまとめている。JAMA Network Open誌2019年8月2日号掲載の報告。 研究グループは、悪性黒色腫患者におけるBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法と心血管有害事象との関連について、BRAF阻害薬単独療法と比較する目的で、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。PubMed、Cochrane、およびWeb of Scienceを用い、2018年11月30日までに発表された論文について、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、トラメチニブ、ビニメチニブ、cobimetinibをキーワードとして検索した後、悪性黒色腫患者を対象にBRAF阻害薬単独療法とBRAF阻害薬・MEK阻害薬併用療法を比較し心血管有害事象について報告している無作為化臨床試験を解析に組み込んだ。データの評価はPRISMAガイドラインに従い、ランダム効果および固定効果分析を用いて相対リスク(pooled relative risk:RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。また、心血管有害事象に関連する患者特性を評価する目的でサブグループ解析を行った。 主要評価項目は、肺塞栓症、左室駆出率低下、高血圧、心筋梗塞、心房細動およびQTc間隔延長であった。 主な結果は以下のとおり。・無作為化臨床試験5件、悪性黒色腫患者計2,317例が解析に組み込まれた。・BRAF阻害薬+MEK阻害薬併用療法はBRAF阻害薬単独療法と比較して、肺塞栓症のリスク増加(RR:4.36、95%CI:1.23~15.44、p=0.02)、左室駆出率低下(RR:3.72、95%CI:1.74~7.94、p<0.001)および高血圧(RR:1.49、95%CI:1.12~1.97、p=0.005)と関連することが認められた。・心筋梗塞、心房細動およびQTc間隔延長に関してはRRに有意差は認められなかった。・Grade3以上の心血管有害事象についても同様の結果であった。Grade3以上の左室駆出率のRR:2.79、95%CI:1.36~5.73、p=0.005、I2=29%、Grade3以上の高血圧のRR:1.54、95%CI:1.14~2.08、p=0.005、I2=0%。・Grade3以上の肺塞栓症に関しては、RRに有意差はなかった。・左室駆出率低下のリスクは平均年齢が55歳未満のサブグループで高く(RR:26.50、95%CI:3.58~196.10、p=0.001)、肺塞栓症のリスクは平均追跡期間が15ヵ月超のサブグループで高かった(RR:7.70、95%CI:1.40~42.12、p=0.02)。

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アナフィラキシーには周囲の理解が必要

 2019年8月21日、マイランEPD合同会社は、9月1日の「防災の日」を前に「災害時の食物アレルギー対策とは」をテーマにしたアナフィラキシー啓発のメディアセミナーを開催した。セミナーでは、アナフィラキシー症状についての講演のほか、患児の親の声も紹介された。アナフィラキシーの原因、小児は食物、成人は昆虫 セミナーでは、佐藤さくら氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター 病態総合研究部)を講師に迎え、「アナフィラキシーの基礎知識とガイドラインに基づく正しい治療法について」をテーマに講演を行った。 アナフィラキシーとは「短時間に全身に現れる激しい急性のアレルギー反応」とされ、その原因として抗菌薬やNSAIDsなどの医薬品、手術関連、ラテックス、昆虫、食物などがある。とくに小児では食物が本症の一番大きな誘因となる(65%)のに対し、成人では昆虫刺傷が一番大きな誘因となる(48%)というデータが欧州では報告されている1)。 日本アレルギー学会が行った「全国アナフィラキシー症例集積研究」(n=767、平均年齢6歳[3~21歳])によれば、本症の誘因は食物(68.1%)、医薬品(11.6%)、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:5.2%)の順で多く、誘因が食物の場合、牛乳(21.5%)、鶏卵(19.7%)、小麦(12.5%)の順で発生があったと報告されている。また、アナフィラキシーショックによる死亡は毎年60例前後(多い年は70例超)が報告されている。必要ならば早くアドレナリン筋注を 診断として次の3項目のいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断する。1)皮膚症状(全身の発疹、瘙痒または紅斑)または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)のいずれかが存在し、急速(数分~数時間以内)発現する症状で、かつ呼吸症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)の少なくとも1つを伴う2)一般的にアレルゲンとなりうるものへの曝露後、急速に(数分~数時間以内)発現する皮膚・粘膜症状(全身の発疹、瘙痒、紅潮、浮腫)、呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)、持続する消化器症状(腹部疝痛、嘔吐)のうち、2つ以上を伴う3)当該患者におけるアレルゲンへの曝露後の急速な(数分~数時間以内)な血圧低下。具体的には、収縮期血圧の場合、平常時血圧の70%未満、または生後1~11ヵ月まで(<70mmHg)、1~10歳(<70mmHg+2×年齢)、11歳~成人(<90mmHg) 以上の診断のあとグレード1(軽症)、2(中等症)、3(重症)の重症度を評価2)し、それぞれのグレードに応じた治療が行われる。 グレード1(軽症)であれば抗ヒスタミン薬やβ2アドレナリン受容体刺激薬、ステロイド薬が選択されるが、即効性はない。グレード3(重症)ならアドレナリン筋肉注射(商品名:エピペンなど)の適応となる(ただしグレード2[中等症]でも過去に重篤な本症の既往がある、病状進行が激烈な場合、気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸症状では適応となる)。 佐藤氏は、本症の診療では「初期対応が大切で、軽いうちから治療していくことが重要。エピペンの使用率が低く、使用に対する教育・啓発も必要」と説明を行った。災害時の食物アレルギーのリスクを最低限に抑えるために つぎに大規模災害とアナフィラキシーについて触れ、とくに食物アレルギー患者への対応が重要と指摘した。 災害時には、患者の誤食リスクの上昇、アレルギー対応食品の入手困難、症状発症時の治療薬不足、周囲の病気への理解不足などリスクが生じるため、さまざまな対応が必要となる。現在は、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月内閣府作成)などが決められ、避難所にはアルファ米や特別ミルクなどの備蓄と配給上の配慮などが決められている。その一方で、熊本地震でのアレルギー対応食への取り組みについて自治体に聞いたアンケートでは、「十分取り組まれていた」がわずか3.1%など現場への浸透に課題があることも紹介された。 災害時の食物によるアナフィラキシーへの備えとして、地域公的機関での備蓄、ネットワーク作り、病気への理解、アレルギー情報の携帯、発症時の対応、炊き出し原材料の確認、アレルギー表示の確認、自宅での備蓄が必要であり、こうした情報は「アレルギーポータル」などのwebサイト、自治体の各種配布物に記されている。おわりに「こうした媒体で医療者も患者もよく学び、病気への理解を深めることが大切」と語り、佐藤氏は講演を終えた。 続いて、患者会代表の田野 成美氏が、実子の闘病経験を語り、親の目の届かない学校生活での不安や周囲の理解不足による発症の危険性、氾濫する診療情報などの問題点を指摘した。■参考「アレルギーポータル」(日本アレルギー学会)「アナフィラキシーってなあに.jp」(マイランEPD合同会社)

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ラムシルマブ適応拡大、肝細胞がんは薬を使い切る戦略が鍵に

 ラムシルマブの登場で、肝細胞がんの薬物治療は4剤が使用可能となったが、治療アルゴリズムはどう変化するのか。2019年6月、化学療法後に増悪した血清AFP値400ng/mL以上の切除不能な肝細胞がんに対して、ラムシルマブが適応拡大された。これを受けて8月1日、都内でメディアセミナー(主催:日本イーライリリー)が開催され、工藤 正俊氏(近畿大学医学部消化器内科 教授)が講演した。肝細胞がん薬物治療は、2次治療の選択肢が課題 本邦における肝がんの年間罹患数は約4万人、年間死亡数は約2万7,000人となっている。性別ごとの年間死亡数では、男性では肺、胃、大腸に次ぐ4番目、女性では大腸、肺、膵臓、胃、乳房に次ぐ6番目と、今もって死亡の多いがんといえる1)。肝がんの主要な背景疾患であるC型肝炎の新たな感染が減ったことで、死亡数は漸減の傾向にあるが、食事の欧米化などの影響から、B型/C型ウイルス由来ではない肝細胞がんが増加傾向にある。 肝細胞がんの治療アルゴリズムは、肝予備能(Child-Pugh分類)、肝外転移や脈管侵襲の有無、腫瘍数や腫瘍径から判断される。早期~中間期肝がんでは切除やラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が検討され、進行期(肝外転移もしくは脈管侵襲あり)あるいは腫瘍数4個以上でTACE不応の場合は、分子標的薬による治療が行われる2)。 2009年、肝細胞がんで初めて生存延長を示した分子標的薬として、マルチチロシンキナーゼ阻害薬(mTKI)ソラフェニブが承認された。以降、2017年にソラフェニブ後の2次治療薬としてレゴラフェニブ、2018年にソラフェニブに対する非劣性を証明したレンバチニブが1次治療薬として承認されている。 しかし、ソラフェニブによる治療を受けた患者のうち、レゴラフェニブに適格となる症例は約3割に限られる。そのため、臨床試験は存在しないが、実臨床ではソラフェニブ後のレンバチニブもよく用いられている。また、1次治療でレンバチニブを投与した場合の2次治療薬についても、臨床試験が行われておらず、忍容性の高い2次治療の選択肢が求められている。ラムシルマブの臨床成績(REACH試験/ REACH-2試験) 抗VEGFR-2抗体ラムシルマブは、これまでに胃がん、結腸・直腸がん、非小細胞肺がんで承認されている血管新生阻害薬。投与方法は2週間に1回、60分の点滴静注となっている。肝細胞がんに対するラムシルマブの有効性を検討した最初の第III相試験であるREACH試験は、1次治療でソラフェニブ投与を受けた、BCLC Stage B/C、Child-Pugh分類A、PS 0~1の進行肝細胞がん患者を対象としている。主要評価項目の1つ、全体集団でのOS中央値は、ラムシルマブ群9.2ヵ月 vs.プラセボ群7.6ヵ月と有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.72~1.05、p=0.14)。しかし、事前規定されたサブグループであるAFP(α-フェトプロテイン)≧400ng/mL以上の患者では、7.8ヵ月 vs.4.2ヵ月とラムシルマブ群でOS中央値を有意に延長した(HR:0.674、95%CI:0.508~0.895、p=0.0059)3)。 AFPは肝細胞がんの早期発見に有用とされる腫瘍マーカーの1つで、基準値は10.0ng/mL以下。AFP高値は強力な予後不良因子とされており、肝細胞がんの肝切除例についてみたデータでは、AFP値が高くなればなるほど、生存期間が短くなっている4)。これらのことから、REACH-2試験ではAFP≧400ng/mLの患者に対象を絞って、ラムシルマブの有効性が検討された。その結果、ベースライン時のAFP値が3,920ng/mL vs.2,741ng/mLとラムシルマブ群で高かったにもかかわらず、OS中央値は8.5ヵ月 vs.7.3ヵ月とラムシルマブ群で有意に延長した(HR:0.710、95%CI:0.531~0.949、p=0.0199)。 ラムシルマブ群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、高血圧(12.2% vs.5.3%)、腹水(4.1% vs.2.1%)、肝性脳症(3.0% vs.0%)など5)。工藤氏は、高血圧については薬でコントロール可能とし、腹水や肝性脳症に注意が必要と話した。また、同氏はラムシルマブによる治療の大きな特徴として、dose-intensityの高さを挙げた。REACH-2試験では、ラムシルマブの投与期間中央値は12.0週間、投与サイクル数中央値は6.0サイクルで、相対dose-intensity中央値は97.9%と非常に高かった。他のTKI3剤で8~9割弱なことと比較して高いほか、日本人サブセットでも同等の高い数値が得られている。ラムシルマブ含めた分子標的薬をTACEを行うことなく選択 レンバチニブ後のラムシルマブ投与については、臨床試験で確認されたものではない。しかし、レンバチニブと比較してVEGFR-2に対する同薬の50%阻害濃度(IC50)が数倍高いこと、抗体薬であることなどから期待できるとし、工藤氏はAFP≧400ng/mL以上の患者に対して実臨床でその有用性を確認していく必要があると話した。 ラムシルマブを含め、肝細胞がん治療に使える4剤は、すべて適応がChild-Pugh分類Aの患者に限られる。つまり、肝予備能を維持しながら次の治療につなげて、薬剤を使い切ることが予後延長の鍵になる、と同氏は説明。これまでは、TACE不応となるのを待って分子標的薬を導入してきたが、今後はより早い段階から、場合によってはTACEを行うことなく薬物療法を選択していくようなケースも出てくるのではないかと話し、薬物療法開始の機会を逃さない戦略が必要になると指摘して締めくくった。 なお、肝癌治療ガイドラインは2021年改訂予定で作業が進められており、ラムシルマブの適応拡大については、日本肝臓学会のホームページ上での追加が予定されている。

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第26回 Stage IのNSCLC、術後補助療法実施の規準は?【肺がんインタビュー】

第26回 Stage IのNSCLC、術後補助療法実施の規準は?Stage Iの非小細胞肺がん(NSCLC)における術後補助療法は、議論の余地があるテーマである。そのような中、ASCO2019で術後補助療法の恩恵をリスク別に分析した研究が報告された。発表者である広島大学呼吸器外科の津谷 康大氏に、研究の背景と結果について聞いた。実臨床で迷うStage I NSCLCの術後補助療法導入この研究を行った背景について教えていただけますか。Stage IのNSCLCに術後補助療法をするか否かは、世界的にみても意見の分かれるところです。日本のデータでは2 cmを超えるStage Iの腺がんに対するUFTによる術後補助療法の有効性が示されており、ガイドラインでも推奨されています。しかし、この研究の2cmは腫瘍全体径での定義です。現在のTNM-8では、腫瘍サイズを浸潤径(浸潤がんだけの大きさ)で定義しており、新しい基準で考えると、違った結果になる可能性もあります。また、海外ではTNM-8によるStage Iの術後補助療法のエビデンスはありません。つまり、やらないという方向です。日本と海外のスタンダードはまったく異なっています。たとえば、実臨床で腫瘍径3 cmでも浸潤部分が1cmの腺がんに遭遇した場合、術後補助療法はどうすべきか。これほど浸潤がんの成分が小さければ、やらなくてよいという感覚の先生方が多いと思いますが、データはまったくありません。Stage Iの術後補助療法をやるべき患者とやらなくてよい患者をどう分けるべきか、後ろ向きに解析しました。どのようなデータを活用されたのですか?肺がんの手術症例についてさまざまな研究をするために、広島大学、神奈川県立がんセンター、東京医大の3施設で2010年から前向きに全例登録しているデータベースがあります。このデータベースには腺がんの浸潤がんと非浸潤がんの成分が別々に記録されているので、今回の研究では、それを用い、新しいデータに差し替えて研究しました。高リスク患者のStage I患者は術後補助療法の恩恵を受ける今回の試験の結果について紹介いただけますか。当該データベースにおけるStage IのNSCLC症例に対し、病理学的な再発因子を多変量解析したところ、浸潤径2 cm超、リンパ管侵襲、血管侵襲、臓側胸膜浸潤という4つの因子が再発に関わっていることがわかりました。そのうち1つでも該当した症例を高リスク、4項目どれも該当しない症例を低リスクと分類し解析を行いました。その結果、低リスク患者は再発をほとんど起こさず(5年無再発生存率[RFS]96%)、きわめて予後良好で、高リスク患者は低リスク患者に比べ予後不良(5年RFS 77%)でした。術後補助療法の有無と予後をみたところ、低リスク患者では、術後補助療法実施のいかんにかかわらず、きわめて予後良好でした(5年RFS:実施群98%対観察群96%)。一方、高リスク患者は術後補助療法実施により予後が改善しました(5年RFS:実施群81%対観察群74%)。同じStage Iでも、高リスクと低リスクに分けることによって、術後補助療法実施によるメリットが異なることがわかりました。高リスクの術後補助療法の内容をみると、併用化学療法よりも単剤化学療法のほうが、予後が良いという結果でしたが?この試験の結果だけでは何とも言えませんが、少なくともプラチナ併用のほうが良かったという結果ではありません。ただし、治療期間(UFTは2年間内服、プラチナ化学療法は長くて4サイクル[3~4ヵ月])なども影響している可能性があると思います。病理レポートがStage I術後補助療法導入の判断材料にこの試験での知見は、臨床でどう活かすことができるでしょうか。日本では腫瘍全体径2 cmを超えるStage Iの腺がんにはUFTの術後補助療法が推奨されますが、その中でも浸潤径2 cm以下の低リスクの患者に対しては、術後補助療法の導入は慎重に考えてよいかもしれません。逆に、腫瘍全体は小さくても、リンパ管侵襲や血管侵襲があるなど悪性度が高そうな患者では、術後補助療法導入の余地があるかもしれません。今回の研究で用いた再発リスク因子は、通常各施設の病理レポートに記載されています。それを参考にすることで、Stage I腺がんに術後補助療法をするか否かの判断基準になると思います。海外の医学メディアでも紹介されていましたが、海外からの反響はありましたか。ASCO発表の後、海外の病理医から連絡があり、今までリンパ侵襲や血管侵襲を測っていないが、どう測るのかという問い合わせがありました。Stage Iの術後補助療法は海外でも議論を呼ぶテーマなのだと、あらためて感じました。

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「医薬品の販売情報提供活動に関するGL」薬剤師への影響は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第31回

厚生労働省が適切な診療、医薬品の処方を確保するために策定した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」の運用が、一部を除いて2019年4月から開始されています。残りの一部であった、製薬会社内の情報提供活動を監視する部門の設立に関しては10月までの猶予期間がありましたので、本ガイドラインはいよいよすべての項目がスタートします。薬剤師として気になるのは、「情報提供の何が変わるの?」ということだと思いますので、今回は薬局に関係するポイントをピックアップして紹介します。なぜガイドラインが作られたのか?端的に言うと、医療用医薬品のプロモーション活動は自主ルールが定められているにもかかわらず、不適切な広告、プロモーション活動が横行していたためです。厚生労働省は2016年より、全国の医療機関の中からモニター医療機関を選定し、医療用医薬品の広告などの適切性に関する調査を実施していますが、製品説明会などのいわゆるクローズドな場において、不適切な情報提供(事実誤認の恐れのある表現やデータ加工、未承認の効能効果の情報提供など)の事例が多く報告されています。そのため、広告を適正化することで医療用医薬品の適正使用を確保し、保健衛生の向上を図るためにガイドラインが策定されました。何が変わったのか?今までは、MRが製品説明を行う際に、MR個人が作成したプレゼン資料を用いることがありました。しかし、それでは情報提供の内容や質を製薬会社として担保できず、不適切な情報提供が発生する可能性があるため、現在では原則として、しかるべき部門が作成した資材のみ使用可能です。また、記載できる内容は、科学的および客観的な根拠に基づく情報のみで、試験の設計や結果を正確に明示し、医薬品の品質、有効性、安全性に関してネガティブな情報であっても積極的に記載することが求められるようになりました。今後は、これらの内容を確認して情報提供活動の適切性を監督する部門(販売情報提供活動監督部門)による審査をクリアした資材でのみ情報提供活動を行うことになります。プレゼン資料だけでなく、パンフレット、ホームページ、MRのプレゼン自体まで監視の対象です。なお、製薬会社の情報提供活動について苦情があった場合のために、窓口を設置して事実関係の調査や必要な措置を講じることも求められています。この監督部門の設立や窓口の設置には準備が必要であるため、2019年10月1日からスタートすればよいとされています。今までどおり、医薬品に関する情報はもらえるのか?上記のように、製薬会社の社内チェックは厳しくなりますが、基本的には今までと同様に情報提供をする製薬会社がほとんどだと思います。ただし、未承認薬、適応外の用法用量や明確に添付文書に記載されていない内容などについてはかなり厳格化されます。医療者から情報を求められた場合は提供が可能ですが、販売部門であるMR以外からの回答が望ましいとされているため、タイムラグが生じると予想できます。また、製薬会社のホームページから資材を直接ダウンロードするという簡易的な提供方法ではなくなる企業が増えるかもしれません。必要になることがわかっている資料や情報は、時間に余裕を持って入手するとよいでしょう。患者さんに影響はあるのか?製薬会社から一般の方向けの情報提供に若干影響がありそうです。当然のことですが、疾患啓発では、医療用医薬品による治療のみを推奨することや特定の製薬会社の薬剤へ誘引するような内容は禁止されています。また、ガイドラインやQ&Aでもかなりあいまいな文言なので解釈次第ではありますが、製薬会社が今回のガイドライン策定の背景を鑑み、誤解されないよう新聞や雑誌などの一般紙の取材を受けない、などとなれば、一般の方が入手できる情報が減る可能性はあります。ざっくりとではありますが、「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」のポイントをまとめました。製薬会社が医薬品の情報を一番多く持っていることは確かですが、待っていても添付文書やインタビューフォーム以上の情報は提供されませんので、これまで以上に必要な情報は自発的に収集する必要がありそうです。

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short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の適正DAPT期間の議論が、まだ、続いている。 ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety marginをとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey messageは、・安定型狭心症は1~6ヵ月、ACSでは12ヵ月間のDAPTを基本とするが、その延長は虚血/出血リスクにより個別的に検討されるべきである(DAPT score・PRECISE DAPT score)。・ステントの種類(BMS/DES)は考慮しない。・DAPTのアスピリンの相方として、安定型狭心症ではクロピドグレル、ACSではチカグレロル>プラスグレルが推奨される。 一方本邦のガイドラインは、安定型狭心症で6ヵ月、ACSでは6~12ヵ月間を標準治療とし、long DAPTには否定的である。 言うまでもないが、DAPTの直接の目的はステント血栓症予防である。ステント血栓症の原因は複合的で、病態(ACS vs.安定型狭心症)のほかにも、患者因子(抗血小板薬への反応性・糖尿病・慢性腎臓病・左室収縮能など)、病変因子(血管径・病変長・分岐部病変など)、ステントの種類(BMS、第1世代DES、第2世代以降のDES)、さらには手技的因子(stent underexpansion、malappositionなど)が関連すると報告されている。そしてステント血栓症は留置からの期間によって主たるメカニズムが異なり、頻度も変わる2)。1年以降(VLST:Very Late Stent Thrombosis)の発生頻度は1%をはるかに下回り、in-stent neoatherosclerosisが主役となる。またVLSTの数倍も他病変からのspontaneous MIが発症するといわれている。こうした点がDAPTの個別的対応の背景であろう。【本メタ解析について】 ステント留置後のadverse eventは時代とともに減少し、したがって数千例規模のRCT でもsmall sample sizeがlimitationになってしまう。これを補完すべく2014年頃からRCTのメタ解析が年2~3本のペースで誌上に登場してきた。本文はその最新版で、これまでで最多の17-RCT(n=46,864)を解析した。DAPTはアスピリン+クロピドグレルに限定し、単剤抗血小板療法(SAPT)はアスピリンである。従来の「short DAPT=12ヵ月以内」を細分化して「short(3~6ヵ月)」と「standard(12ヵ月)」に分離、これを「long(>12ヵ月)」と比較する3アーム方式で議論を進めている。 その結論・主張は、(1)総死亡・心臓死・脳卒中・net adverse clinical eventsはDAPT期間で差がない(2)long DAPTはshort DAPTに比して非心臓死や大出血を増やす(だからlong DAPTは極力避けたほうがいい)(3)short DAPTとstandard DAPTではACSであってもステント血栓症や心筋梗塞に差がない(だからshort DAPTでいい) などである。しかし一方、long DAPTの超遅発性ステント血栓症・心筋梗塞抑制効果についてはほとんど触れられておらず、short DAPTに肩入れしている印象を受ける。筆者が、おそらく虚血患者に接する機会が少ないであろう臨床薬理学センター所属のためだろうか? 本メタ解析の構図は「DAPTに関するACC/AHA systematic review report(2017)」3)に似ていて、これに2016年以降発表されたRCTを中心に6報加えて議論を展開している。long DAPTほど血栓性イベント抑制に勝り出血性合併症が増える結論は同じだが、ACC/AHA reportはテーラーメードを意識してかリスクによる選択の余地を強調している。 さらにいくつか気になる点がある。評者もご多分に漏れず統計音痴なので、その指摘は的を射ていないかもしれないけれど、できれば本文をダウンロードしてご意見をいただきたい。 たとえば、MIやステント血栓症はlong DAPTで有意に抑制しているのに心臓死はshort DAPTで少ない傾向にあったこと。あるいは非心臓死(有意差あり)・心臓死のOdd Ratioが共に総死亡より大きかったこと。これらは各エンドポイントが試験により含まれたり含まれなかったりしていたためらしい。 また、たとえば各試験でのevent ratioが大きく異なること。同じshort vs.standard DAPTの試験でも12ヵ月MI発症率が0%(IVUS-XPL)~3.9%(I-LOVE-IT2)と幅がある。調べてみるとperiprocedural MIを含めるかどうかなど、そもそも定義が異なるようである。 そして、例えばランダム化の時期である。short vs.standardのほとんどがPCI前後に振り分けているのに対し、standard vs.longはすべてで急性期イベントが終了した12ヵ月後に振り分けランドマーク解析している。これでもshort vs.longの図式が成り立つのだろうか?【まとめ】 DAPT有用性の議論はあのゴツイPalmaz-Schatz stentから始まった。第1世代DESも確かに分厚かった。しかし技術の粋を集め1年以内のステント血栓症が大幅に減少した現時点において、short DAPTにシフトするのは異論がないところであろう。とりわけcoronary imagingを駆使してoptimal stentingを目指すことができる本邦においては、なおさらである。しかし一方、心筋梗塞二次予防に特化したメタ解析4)では、long DAPTが致死性出血や非心臓死を増やすことなく心臓死やMI・脳卒中を有意に抑制した、との結果だった。 ステント血栓症が減ったからこそ、二次予防に抗血小板薬(DAPT)をどう活かすかという視点も必要であろう。解析の精度はさておき「short term DAPT could be considered for most patients after PCI with DES」と結論付けたSAPT(アスピリン)vs.DAPT(アスピリン+クロピドグレル)の議論はそろそろ終わりにしても良いのではないだろうか。 現在はアスピリンの代わりにクロピドグレルやP2Y12 receptor inhibitor(チカグレロル)によるSAPT、少量DOACの有効性も検討されて、PCI後の抗血栓療法は新しい時代に入ろうとしている。 木ばかりでなく森を見るようにしたいと思う。

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日本におけるベンゾジアゼピン長期使用に関連する要因

 ベンゾジアゼピンやZ薬(BZD)の長期使用は、現在の臨床ガイドラインで推奨されていないものの、実臨床において引き続き行われている。東京医科歯科大学の高野 歩氏らは、日本における長期BZD使用率とそのリスク因子について調査を行った。BMJ Open誌2019年7月26日号掲載の報告。 本研究は、健康保険データベースを用いたレトロスペクティブコホート研究である。対象は、2012年10月1日~2015年4月1日の期間にBZD使用を開始した18~65歳の外来患者8万6,909例。そのうち、初回BZD使用日に手術を行った患者762例および8ヵ月間フォローアップを行っていない患者1万2,103例を除く7万4,044例を分析した。新規BZD使用患者の8ヵ月以上の長期使用率を調査した。患者の人口統計、診断、新規BZD使用の特徴、長期BZD使用の潜在的な予測因子について評価を行った。長期使用と潜在的な予測因子との関連を評価するため、多変量ロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・新規BZD使用患者のうち、8ヵ月以上連続してBZDを使用していた患者は、6,687例(9.0%)であった。・長期処方は、気分障害、神経障害、がん、精神科医による処方、複数の処方箋、初回処方時の睡眠薬および中間型BZD使用と有意な関連が認められた。 著者らは「新規BZD使用患者の9%は、8ヵ月以上BZDが使用されていた。処方医は、初回BZD処方時に長期使用のリスク因子に注意する必要がある」としている。

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健康長寿の秘訣は「不飽和脂肪酸」―2型糖尿病患者でも明らかに(解説:小川大輔氏)-1104

 多くの疫学研究により、赤身肉、ラード、バターなどに含まれる飽和脂肪酸は動脈硬化症や死亡のリスクを上昇させ、反対にオリーブ油、キャノーラ油、大豆油などの植物油や魚油に含まれる不飽和脂肪酸はこれらのリスクを低下させることが知られている。しかしこれまでの報告では一般人を対象としており、糖尿病患者を対象とした研究はなかった。 今回米国の2つのコホートの解析により、2型糖尿病患者における食事中の脂肪酸と死亡率を調査した結果がBMJ誌に掲載された1)。2型糖尿病患者1万1,264例の解析により、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取は全炭水化物と比較し全死亡および心血管死のリスク低下と関連することが明らかになった。また、飽和脂肪酸からのエネルギーの2%を総PUFAに置き換えると、全死亡のリスクが12%低下すると報告された。 糖尿病のガイドラインでは飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えることが推奨されているが2)、これは一般集団のデータを基にしており、糖尿病患者における食事中の脂肪と心血管死および総死亡との関連は不明であった。今回の研究の著者の一部は、以前に今回と同じ2つのコホートを解析し、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えると死亡リスクを下げられること、また不飽和脂肪酸を摂ることで、心血管疾患、がん、神経変性疾患、呼吸器疾患による死亡リスクも低下することを報告している3)。今回の研究では対象を2型糖尿病患者に絞ることにより、これまで不明であった点を明らかにした。 血糖コントロール状況や糖尿病の重症度が評価されていないことや、食事やライフスタイルが自己申告であることには注意が必要である。また米国での研究であり、わが国の糖尿病患者を対象とした大規模なコホート研究が望まれる。

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第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法前回に引き続き、GLP-1受容体作動薬とインスリンそれぞれについて、高齢者での使い方のポイントをご紹介します。低血糖や、GLP-1受容体作動薬での消化器症状、そしてきちんと打てているかが心配な注射剤のアドヒアランスについて、状態を確認する方法と対処法をまとめます。Q1 低血糖や消化器症状、シックデイが心配。どのようにコントロールしますか?1)低血糖について高齢者では発汗・動悸といった典型的な低血糖症状が出づらく、めまいや脱力感が前面に出る場合が多く、低血糖症状が見逃されることがあります。また、低血糖症状がせん妄として現れることもあり、注意が必要です。インスリン使用者あるいはGLP-1製剤にSU薬やグリニド薬を併用している例では、低血糖のリスクがあるため、定期受診時に非典型的な症状も含めて症状の有無を確認します。また、HbA1cの下限も意識し、過度のコントロールにならないようにインスリンやSU薬、グリニド薬を減量します。2)消化器症状について肥満の非高齢者では好ましいGLP-1受容体作動薬の食欲低下作用ですが、高齢者では脱水やサルコペニアを惹起する可能性があり、食思不振や過度の体重減少に注意が必要です。そのため、筋肉量が少ないと予想される「やせ型」の高齢者にはあまりいい適応ではありません。週1回のGLP-1受容体作動薬は消化器症状が比較的出づらいといわれていますが、リスクはあるため、定期外来受診時は食欲と体重の推移に注意する必要があります。3)シックデイについて水分や炭水化物の摂取などの一般的なシックデイ対応が前提ですが、ここでは注射製剤の取扱いについて記述します。GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進するため、基本的には食事量が少なくても中止する必要はありませんが、嘔気などの消化器症状が強い場合は増悪させる危険性があるため中止します。持効型や中間型などの作用時間の長いインスリンは中止しないことが原則です。とくに、1型糖尿病などインスリン依存状態の場合は、たとえ食事摂取ができなくとも持効型製剤は絶対に中止しないように指導します。2型糖尿病でインスリン分泌能が保たれている場合には投与量を減量する場合もあります。超即効型製剤は、食事(炭水化物)量に応じ調整(例:食事摂取量が半量ならインスリン半量など)するように指導し、紙に書いて渡していますが、高齢者では対応困難な場合が多く、強い症状が半日以上続く、24時間以上経口摂取ができないなどといった場合1)は医療機関を受診するように指導しています。Q2 手技指導のポイントがあれば、教えてください。1)自己注射の可否の判断認知機能の低下した高齢者にとって新たに注射手技を獲得することは非常に困難です。DASC-8や時計描画試験を含むMini-Cogなどを用いて認知機能をスクリーニングし(第4回参照)、本人への指導を行うかを検討します。本人が難しい場合には介護者への指導を行うことになりますが、老々介護の世帯も多く、介護者への指導も難しいこともあり、インスリン分泌能が保たれている場合には、訪問看護やデイケアの看護師が行う週1回のGLP-1製剤が有用な選択肢として考えられます。また、注射自体は患者本人が可能なものの、インスリンの準備やその単位設定が困難な場合があるので、注射手技の一部を介護者に依頼することもよくあります。2)自己血糖測定本人や介護者が注射手技は獲得できても、自己血糖測定が困難な場合もあるため、指導状況をみながら自己血糖測定の指導を行うかどうか検討します。GLP-1製剤のみを使用している場合で、低血糖リスクが少ないと判断した場合は、血糖測定は必須ではありません。インスリン注射の場合で血糖測定が困難なときには、低血糖回避のため、やむを得ず血糖コントロール目標を緩和することがあります。自己血糖測定が可能な場合には、低血糖を回避するために、食前または眠前の血糖値100mg/dL未満が継続する場合にその前の責任インスリンの減量(1~2単位)を考慮します。また、血糖値の変動が大きい場合には、インスリンボールができていないかどうかを確認し、固くない場所に注射するように指導します。3)注射のアドヒアランス自己注射を行えていた例でも、加齢に伴って打ち忘れがあったり、注射の実施が困難になったりする場合もあります。明らかな誘因がなくコントロールが悪化したときは、注射の打ち忘れと注射手技を確認します。とくに眠前の持効型インスリンは、つい早く寝てしまって、打ち忘れが起こりやすいので、朝食前や夕食後に変更することがあります。外出や旅行の際のインスリンの打ち忘れも起こりやすいので、あらかじめバッグに予備の注射薬を入れておくように指導します。インスリン注射は実施できていても単位を間違えることが懸念される場合は、多少の血糖上昇には目をつぶり、毎回のインスリン量を同じにする、10単位など覚えやすい単位数に設定するなどの工夫をすることもあります。インスリン単位数は処方箋の記載だけでなく、必ず紙に書いて(多くは自己血糖記録用紙に)渡すようにし、外来受診時に何単位打っているかを患者さんに答えてもらって、単位数の間違えがないかを確認しています。独居で介護者がいない場合は低血糖リスクを極力下げるため、血糖管理目標を緩和します。訪問看護を導入すると、インスリンの残量を確認することで実際に打てているかどうかをわかることがあります。インスリン注射が必要であるが、自己管理が困難で、かつ介護者が不在の場合は外来での対応は困難であり、入院あるいは短期入所のうえ環境調整が必要です。入院・入所を拒否された場合でも、説得を続けながら地域包括支援センターなどに相談します。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂;2017.

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喘息患者の3 人に1 人は救急経験あり

 アストラゼネカ株式会社は、気管支喘息患者を取り巻く現状や喘息治療の実態を明らかにすることを目的とした患者調査を全国3,000名の患者に実施し、その結果が公表された。 調査結果は今回発表の「喘息患者さんの予定外受診・救急受診・救急搬送の現状」編のほか、「喘息患者さんの通院・服薬の現状」編、「重症喘息患者さんの現状」編という3つのテーマで公開される。監修は東田 有智氏(近畿大学病院 病院長)が担当した。●調査概要調査実施日:2019年4月15~26日実施方法:インターネット調査対象:全国の気管支喘息患者 3,000名(気管支喘息と診断されて直近1年以内に通院または入院の経験あり)性別:男性1,539名、女性1,461名発作で救急搬送されたことを主治医に伝える患者は半数 「気管支喘息の症状のコントロールについて」という問いでは、「症状がコントロールされた状態」と回答した患者が73.6%、「少し不十分」が24.1%、「まったくコントロールされていない」が2.2%と、おおむねコントロールできている患者が多数を占めた。 「現在の喘息治療で、喘息のない人と同じ日常生活を送れているか」という問いでは、「非常にそう思う」と回答した患者が20.8%、「どちらかというとそう思う」が48.8%、「どちらともいえない」が16.3%、「どちらかというとそうは思わない」が10.9%、「まったくそう思わない」が3.2%と、約7割の患者が健康な人と同じ日常生活を送っていると回答した。 「気管支喘息のために予定外受診、救急受診、入院などを経験した頻度はどれくらいか」という問いでは、「月1回以上」と回答した患者が12.3%、「月1回未満~年1回以上」が26.2%、「ここ1年はない」が61.5%だった。約6割の患者が急変した状況の診療がないと回答した。地域別でみると九州・沖縄地方(19.7%)、中部地方(12.1%)、四国地方(12.0%)で「月1回以上」と回答した患者が多かった。 「これまでに、気管支喘息の発作で救急搬送されたり、救急受診をしたことがあるか」という問いでは、「ある」と回答した患者が34.6%、「ない」が65.4%だった。地方別では、九州・沖縄地方(40.3%)、近畿地方(37.2%)、四国地方(36.1%)の順で多かった。 救急受診・救急搬送経験者(n=1,038)に「主治医に救急受診したことを伝えたか」という問いでは、「はい」と回答した患者が53.7%、「いいえ」が27.4%、「わからない」が18.9%だった。 「医師から説明を受けて、気管支喘息の悪化に関連しているものは何か」という問いでは、「好酸球の増加」(76.5%)、「ダニなどのアレルゲン」(62.5%)、「喫煙」(59.8%)、「妊娠」(58.3%)、「過去の重篤な発作」および「鼻炎・副鼻腔炎」(52.1%)の順で多かった。さらなる医師と患者のコミュニケーションの進展が治療のカギ これらの調査を踏まえ監修の東田 有智氏は「今回の調査結果から、6割に上る患者が、自分の症状はコントロールされている、あるいは、喘息の無い人と同じ日常生活を送れている、と感じていながら、ガイドラインで『コントロール不十分』『コントロール不良』と定義される状態にあると考えられることが示された。さらに、患者の3人に1人が喘息発作で救急搬送や救急受診などを経験している実態も明らかとなったほか、救急搬送を経験した患者の半数は主治医にその旨を伝えていた。そのほか、自分の症状悪化の要因が『好酸球の増加』であると、医師から説明を受けて認識している人が7割に上るなど、患者と主治医との間のコミュニケーションの現状もわかった。引き続き患者と主治医とがコミュニケーションを取り、患者がそれぞれの症状にあった治療に出会い、健康な人と変わらない日常生活を送ることを願う」とコメントを寄せている。

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高血圧治療戦略、心血管疾患予防にはQRISK2準拠が望ましい/Lancet

 心血管疾患リスクスコアに基づいた治療戦略「QRISK2≧10%」は、NICEガイドライン2011年版の約1.4倍、同2019年版の約1.2倍多く心血管疾患を予防可能であるという。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のEmily Herrett氏らが、英国で用いられている高血圧治療戦略の意義を検証した後ろ向きコホート研究の結果を報告した。血圧スペクトル全体での血圧低下が有益であるという強力なエビデンスにもかかわらず、世界中で広く推奨されている降圧療法は主に血圧閾値を目標としており、リスクに基づいて治療を決定することの効果とその後の心血管疾患の発生については明らかになっていなかった。Lancet誌オンライン版2019年7月25日号掲載の報告。4つの異なる治療戦略を比較検証 研究グループは、Hospital Episode Statistics(HES)および国家統計局(Office for National Statistics:ONS)の死亡データとリンクしているプライマリケアのデータベースClinical Practice Research Datalink(CPRD)を用い、30~79歳の心血管疾患を伴わないプライマリケア患者について後ろ向きに解析し、NICEガイドラインの2011年版および2019年版、血圧値(閾値≧140/90mmHg)のみ、または心血管疾患10年リスク予測スコア(QRISK2スコア≧10%)のみの4つの異なる治療戦略について比較検証した。 患者は、心血管疾患の診断、死亡、追跡調査の終了(2016年3月31日)のいずれかまで追跡調査を受けた。各戦略について、治療対象となる患者の割合と、当該治療で予防可能な心血管イベント数を推定した後、英国の全人口における10年間の適格性と発生イベント数を推定した。QRISK2に基づいた治療戦略でより多くの心血管イベントを回避 2011年1月1日~2016年3月31日の期間で、122万2,670例を中央値4.3年(IQR:2.5~5.2)追跡した。治療対象は、NICEガイドライン2011年版で27万1,963例(22.2%)、2019年版で32万7,429例(26.8%)、血圧値(≧140/90mmHg)のみで48万1,859例(39.4%)、QRISK2スコア(10%以上)のみで35万7,840例(29.3%)であった。 追跡期間中に、3万2,183例が心血管疾患と診断された(7.1/1,000人年、95%信頼区間[CI]:7.0~7.2)。各戦略の治療対象と判断された患者における心血管イベント発生率(/1,000人年)は、NICEガイドライン2011年版で15.2(95%CI:15.0~15.5)、2019年版で14.9(95%CI:14.7~15.1)、血圧値のみで11.4(95%CI:11.3~11.6)、QRISK2スコアのみで16.9(95%CI:16.7~17.1)であった。 英国の全人口に当てはめると、推定された回避可能なイベント数は、NICEガイドライン2011年版で23万3,152件(10年間に1件のイベント発生を回避するための治療必要数28例)、2019年版で27万233件(29例)、血圧値のみで30万1,523件(38例)、QRISK2スコアのみで32万2,921件(27例)であった。

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労力に比して得るものが少なかった研究(解説:野間重孝氏)-1094

 本論文は年齢・性別・狭心症のタイプ・pretest probability・CTの列数の観点から冠動脈造影CT(CTA)の有用性を、65本の既出論文のメタアナリシス(一部著者らが集めた未出版データも含む)によって検討したものである。 ご存じのように現在、世界のCTの10台に1台はわが国にある。高性能なものに限ればこの数はもっと多くなると推察される。これは他国とはかなり異なった医療状況を生み出しているのではないかと思う。SCCTが発表しているデータによれば、CTAの診断能は感度86%~99%、特異度95%~97%であるものの、陽性適中率は66%~87%にとどまる。本論文中では前者で97.2%~100%、後者で87.4%~89%との数字を別のメタアナリシスデータから引用している。しかし陰性適中率が98%~100%と、とてつもなく高い数字になることには言及していない。考えていただきたいのだが、ここに比較的安全でかつ陰性適中率がきわめて高い検査が比較的容易に行えるとしたら、疾病の確率が何パーセントかと論ずる前に、さっさとその検査を行ってしまうのではないだろうか。それが現在のわが国の実情なのだと思う。もっともこの論文も警告しているように、安易な検査のやり過ぎは国家医療財政に大きな負担となる。これも現在のわが国の現状そのものといえる。 本論文ではpretest probabilityが重要な要素として論じられている。しかし、その算出方法についてはdiscussionの中でDiamond and Forester modelを利用したこと、ESCのガイドラインも参照していること、また運動負荷の成績から見積もったものもあると述べるにとどまっており、methodsの中で詳細に論じられてはいない。評者も評者の周囲も日常診療においてあまりこのような数字の議論をしないので、これが一部の医師たちの間では常識になっているものかどうか言及できない。著者の中に日本人も含まれていることを考えると、欧米とわが国の違いだけとはいえないとも考えられるが、評者には論評できない。ただし、重要な構成要素について説明不足であることは指摘しておきたい。 また、年齢や性別がなぜ診断成績に影響を与えるかについても考察されていない。これについては近年、雑誌が推測による記述を抑制するようになったからだという見方もできるが、結論部分に書かれている内容について十分なdiscussionをしないというのはいかがなものなのだろうか。これに関連して考えるのは、本論文では石灰化指数(カルシウムスコア)が検討されていないことである。性別については何ともいえないが、年齢と石灰化指数には強い相関が認められることはよく知られており、年齢による診断能の低下の有力な説明になったのではないだろうか。この問題から離れても、CTの診断能を議論する場合、石灰化指数は重要な要素であり、本論文でこの議論が抜けていることには非常に不満を感じる。 CTの列数の議論には違和感を感じた。これは原理的な問題であり、実際の開発においては実験・実証によって議論されるべき問題であって、臨床データのメタアナリシスが利用される余地はない問題だと考えるからである。ちなみに、旧式のCTでも意外に診断に有効利用できるといったデータなら、統計を利用する意味がある。この辺は統計をとるという行為をどう考えるかにかかっている。 結論を言えば、多くの国の多くの学者たちが交流を持ったことに意義を感じるものの、大変な労力をかけた論文としては得るものが少なかったと言わざるをえない。

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第26回 化学療法時に用いられる各制吐薬の有用性をエビデンスから読み解く【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 がん化学療法では、疼痛管理や副作用の予防などさまざまな支持療法を行うため、それぞれのレジメンに特徴的な処方があります。代表的な副作用である悪心・嘔吐に関しては、日本癌治療学会による制吐薬適正使用ガイドラインや、ASCO、NCCN、MASCC/ESMOなどの各学会ガイドライン1)に制吐療法がまとめられていますので、概要を把握しておくと患者さんへの説明やレジメンの理解に有用です。悪心・嘔吐は大きく、化学療法から24時間以内に出現する急性悪心・嘔吐、25~120時間に出現する遅発性悪心・嘔吐、予防薬を使用しても出現する突出性悪心・嘔吐、化学療法を意識しただけでも出現する予期性悪心・嘔吐に分けられ、化学療法の催吐リスクに応じて制吐薬が決められます。今回は主な制吐薬である5-HT3受容体拮抗薬のパロノセトロン、NK1受容体拮抗薬のアプレピタント、MARTAのオランザピンのエビデンスを紹介します。パロノセトロンまずは、2010年に承認された第2世代5-HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンを紹介します。本剤は従来のグラニセトロンやオンダンセトロンとは異なる構造であり、5-HT3受容体への結合占有率、親和性、選択性が高く、半減期も約40時間と長いことから遅発性の悪心・嘔吐にも有効性が高いとされています。2018年版のNCCNガイドラインでは、パロノセトロンを指定しているレジメンもあります1)。パロノセトロンとグラニセトロンの比較試験では、CR(Coplete Response)率、すなわち悪心・嘔吐がなくレスキュー薬が不要な状態が、急性に関しては75.3% vs.73.3%と非劣性ですが、遅発性に関しては56.8% vs.44.5%(p<0.0001、NNT 9)とパロノセトロンの有効性が示されています2)。また、同薬剤によりデキサメタゾンの使用頻度を減らすことができる可能性も示唆されています3)。添付文書によると、便秘(16.5%)、頭痛(3.9%)のほか、QT延長や肝機能値上昇が比較的高頻度で報告されているため注意が必要ですが、悪心の頻度が多いと予期性の悪心・嘔吐を招きやすくなるため、体力維持や治療継続の点でも重要な薬剤です。院内の化学療法時に静注される薬剤ですので院外では見落とされることもありますが、アプレピタント+デキサメタゾンの処方があれば、5-HT3受容体拮抗薬の内容を確認するとよいでしょう。アプレピタント2009年に承認されたアプレピタントは、中枢性(脳内)の悪心・嘔吐の発現に関与するNK1受容体に選択的に結合することで、悪心・嘔吐を抑制します。一例として、NK1受容体拮抗薬を投与された計8,740例を含む17試験のメタアナリシスを紹介します4)。高度または中等度の催吐性化学療法に対して、それまで標準的だった制吐療法(5-HT3拮抗薬、副腎皮質ステロイド併用)に加えてNK1受容体拮抗薬を追加することで、CR率が全発現期において54%から72%(OR=0.51、95%信頼区間[CI]=0.46~0.57、p<0.001)に増加しています。急性/遅発性の両方で改善効果があり、なおかつ、この高い奏効率ですので、本剤が標準的に用いられるようになったのも納得です。一方で、因果関係は定かではありませんが、重度感染症が2%から6%に増えています(1,480例を含む3つのRCT:OR=3.10、95%CI=1.69~5.67、p<0.001)。また、CYP3A4の基質薬剤なので相互作用には注意です。オランザピンMARTAのオランザピンは、D2受容体拮抗作用および5-HT3受容体拮抗作用によって有意な制吐作用を示すと考えられており、2017年に制吐薬としての適応が追加されました。直近のASCOやNCCNのガイドラインの制吐レジメンにも記載があります1)。従来の5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用と、同レジメンにオランザピンまたはプラセボを上乗せして比較した第3相試験5)では、シスプラチンまたはシクロホスファミド、およびドキソルビシンで治療を受けている乳がんや肺がんなどの患者を中心に約400例が組み入れられました。併用の5-HT3受容体拮抗薬はパロノセトロンが約75%で、次いでオンダンセトロンが24%でした。ベースの制吐薬3剤は、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬に加えて、デキサメタゾンが1日目に12mg、2~4日目は8mg経口投与でガイドラインのとおりです。エンドポイントである悪心なしの状態は0~10のビジュアルアナログスケールで0のスコアとして定義され、化学療法後0~24時間、25~120時間、0~120時間(全体)で分けて解析されました。いずれの時点においてもオランザピン併用群で悪心の発生率が低く、化学療法後24時間以内で悪心がなかった割合はオランザピン群74% vs.プラセボ群45%、25~120時間では42% vs.25%、0~120時間の5日間全体では37% vs.22%でした。嘔吐やレスキューの制吐薬を追加する頻度もオランザピン群で少なく、CR率もすべての時点で有意に改善しています。なお、忍容性は良好でした。論文内にあるグラフからは、2日目に過度の疲労感や鎮静傾向が現れていますが、服用を継続していても後日回復しています。うち5%は重度の鎮静作用でしたが、鎮静を理由として中止に至った患者はいませんでした。服用最終日およびその前日には眠気は軽快しています。以上、それぞれの試験から読み取れる制吐薬の効果や有害事象を紹介しました。特徴を把握して、患者さんへの説明にお役立ていただければ幸いです。1)Razvi Y, et al. Support Care Cancer. 2019;27:87-95.2)Saito M, et al. Lancet Oncol. 2009;10:115-124.3)Aapro M, et al. Ann Oncol. 2010;21:1083-1088.4)dos Santos LV, et al. J Natl Cancer Inst. 2012;104:1280-1292.5)Navari RM, et al. N Engl J Med. 2016;375:134-142.

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抗凝固療法終了後のVTE、10年で3分の1以上が再発/BMJ

 非誘発性の静脈血栓塞栓症(VTE)の初回エピソードを発症し、3ヵ月を超える抗凝固療法を終了した患者における累積VTE再発率は、2年で16%、5年で25%、10年では36%に達することが、カナダ・オタワ大学のFaizan Khan氏らMARVELOUS共同研究グループの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年7月24日号に掲載された。抗凝固療法は、非誘発性VTEの初回エピソード後のVTE再発リスクの抑制において高い効果を発揮するが、この臨床的な有益性は抗凝固療法を中止すると維持されなくなる。抗凝固療法を無期限に中止または継続すべきかの判断には、中止した場合のVTE再発と、継続した場合の大出血という長期的なリスクとのバランスの考慮が求められるが、中止後のVTE再発の長期的なリスクは明確でないという。中止後の長期のVTE再発率をメタ解析で評価 研究グループは、非誘発性VTEの初回エピソード例において、抗凝固療法中止後のVTE再発を評価し、最長10年の累積VTE再発率を検討する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成による)。 2019年3月15日までに、医学データベースに登録された文献を検索した。対象は、非誘発性VTEの初回イベントを発症し、3ヵ月以上の抗凝固療法を終了した患者において、治療中止後の症候性VTEの再発について報告した、無作為化対照比較試験または前向きコホート研究とした。 2人の研究者が独立的に試験選出・データ抽出を行い、バイアスリスクを評価。適格と判定された試験のデータについて、各論文執筆者に確認を求めた。個々の研究の抗凝固療法中止後のVTE再発イベントの発生率および追跡期間の人年を算出し、変量効果メタ解析でデータを統合した。男性で再発率が高い傾向、再発による死亡は4% 18件の研究(7,515例)が解析に含まれた。4件が前向き観察コホート研究、14件は無作為化対照比較試験であった。すべての研究が、Newcastle-Ottawaスケールで「質が高い」と判定された。 抗凝固療法中止後100人年当たりのVTE再発率は、1年時が10.3件(95%信頼区間[CI]:8.6~12.1)、2年時が6.3件(5.1~7.7)、3~5年が3.8件/年(3.2~4.5)、6~10年は3.1件/年(1.7~4.9)であった。また、累積VTE再発率は、2年時が16%(13~19)、5年時が25%(21~29)、10年時は36%(28~45)であった。 男女別の抗凝固療法中止後1年の100人年当たりのVTE再発率は、男性が11.9件(95%CI:9.6~14.4)、女性は8.9件(6.8~11.3)であり、10年時の累積再発率はそれぞれ41%(28~56)および29%(20~38)であった。 VTE再発率は、孤立性肺塞栓症患者と比較して、近位深部静脈血栓症患者(率比:1.4、95%CI:1.1~1.7)および肺塞栓症+深部静脈血栓症患者(1.5、1.1~1.9)で高かった。また、遠位深部静脈血栓症患者における中止後1年時の100人年当たりのVTE再発率は1.9件(95%CI:0.5~4.3)であった。VTE再発による死亡率は4%(2~6)だった。 著者は、「これらのデータは、非誘発性VTEの診療ガイドラインの策定に役立ち、患者に予後を説明する際の信頼度を高め、長期のマネジメントに関する意思決定の支援に有用と考えられる」としている。

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Evidence Based Medicine追求への神髄を見た(解説:岡慎一氏)-1092

 ホルモン薬を使った避妊方法はいくつかある。その中で、黄体ホルモン製剤であるメドロキシプロゲステロン酢酸エステル剤の筋注薬(DMPA-IM)は、避妊には有効であるが、30年来の観察研究からHIV感染のリスクを高める可能性があるとされていた。とくに、2つのメタアナリシスの結果では、この避妊法は他の方法に比べ40~50%もHIV感染リスクを高めるとされていた。しかし、WHOの見解では、対象となった多くの論文は、重大なlimitationを抱えており、有効で安全な避妊法の質の高いエビデンスを出すためには、追加の研究が必要であると結論付けた。 問題はここからである。この研究では、Evidenceを追究するために、どの避妊法がHIV感染率を高めるのかを比較するRCTを行ったのである。対象者は、避妊を希望するsexually activeな若い女性である。倫理的な問題はかなり議論されたようである。3つの方法を比較しているが、各群2,600人以上を組み入れている。もちろん、HIVに感染しないためのsafer sex promotion packageも十分行っている。DMPA-IM群には、4.19/100PYのHIV感染が起こり、他の2群3.94/100PY、3.31/100PYよりやや高めに見えるが、3群間に有意な差はなかった。この結果から、EBMとしてガイドラインには、3つの避妊法はいずれも有効で、HIV感染予防を一緒に行うことが推奨されるであろう。アフリカの女性にとって避妊も大事である。あっぱれな研究である。

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ミネブロ錠:3剤目のミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬

2019年5月13日、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、ミネブロ錠(一般名:エサキセレノン)が高血圧治療薬として新たに販売開始となった。高血圧治療に残された課題日本の高血圧患者は4,300万人と推計され、そのうち治療によって適切に血圧がコントロールされているのはわずか1,200万人。残りの3,100万人は治療をしていてもコントロール不良、もしくは治療を行っていないという。このような状況の中、日本高血圧学会は2019年に、5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を発表し、高血圧対策を進めていく必要性を訴えた。今回の改訂では合併症のない75歳未満の成人、脳血管障害患者、冠動脈疾患患者は130/80mmHg未満に、75歳以上の高齢者は140/90mmHg未満に、それぞれ降圧目標値が10mmHgずつ引き下げられている。降圧目標達成のためには個人レベルでの取り組みだけでなく、社会全体での積極的な取り組みが必要であることが強調されており、降圧目標達成率や疾患啓発など、高血圧治療に課題が残されていることがうかがえる。新しく登場したミネブロ錠は高血圧治療の新しい選択肢となり、課題解決に寄与する可能性がある。MR拮抗薬の作用機序について尿細管に存在するMRへ、アルドステロンが過剰に結合し続けると、尿中のナトリウム再吸収とカリウム排泄を促進させ、循環血量の増加により、血圧が上昇する。ミネブロ錠はMRをブロックし、ナトリウム排泄を促進することで血圧低下効果を発揮する。このMRをブロックするという作用機序から、食塩感受性高血圧の患者さんや原発性アルドステロン症の患者さんで有効性を示すことが期待されている。国内臨床試験成績:中等度腎機能障害に使えるMR拮抗薬国内第III相試験において、I度またはII 度の本態性高血圧症患者を対象に、単剤および他の降圧薬との併用の両方で試験が行われた。単剤投与では2.5mgを1日1回、12週間投与した結果、収縮期血圧は13.7mmHg低下し、エプレレノン(投与量:50mg)に対する非劣性が検証された。また、長期投与試験では52週を通して安定した降圧効果の持続が確認されただけでなく、ARBやCa拮抗薬との併用でも観察期に比べて有意な降圧効果を示している。さらに、中等度腎機能障害を合併した患者やアルブミン尿を有する2型糖尿病を合併した患者を対象とした試験では1.25mgを1日1回投与し、どちらの患者でも収縮期血圧は10mmHg以上低下している。ARBやCa拮抗薬を用いても降圧目標を達成できず、あと10mmHg程度を下げたいケースに追加する薬剤として良いだろう。そして、最大の特徴の1つは、これまでのMR拮抗薬では禁忌であった中等度腎障害の患者にも使用できるようになっている点である。ただし、副作用である高カリウム血症には注意が必要であり、とくに腎機能が低下している患者では、注意を払いながら使用していくことが求められる。カリウム値のモニタリングを行うなどして、患者に合わせて投与量を調整しながら使用していくことが重要となってくる。今後の可能性ミネブロ錠は単独投与、併用投与どちらでも10mmHg以上の血圧低下効果を示している。今後は、あともう少し血圧を下げたい場合や、これまでMR拮抗薬を使いたいが使えなかった症例において、新しい選択肢の1つとなるのではないか。さらに、MR拮抗薬はアルドステロンの作用を阻害するため、腎臓や心臓などの臓器保護効果を示す可能性があり、ミネブロ錠は高血圧症以外の適応拡大を目指して、糖尿病性腎症患者を対象とした第III相臨床試験が進められている。

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人工呼吸器からのウィーニング方法についての検討(解説:小林英夫氏)-1091

 病態が改善してきた人工呼吸器装着症例において、どのような手順でウィーニングを成功させるかというテーマは、数十年前から議論されてきたが今もって完全な結論は得られていない。本論文を簡潔化すると、圧制御換気(pressure support換気)がTピース換気よりも人工呼吸から離脱しやすいようである、と結論している。この結論は、近年の多くの論文、総説と同様の結果であり、解説者も特段の異論は有していない。 さて、集中治療領域は別にして、大半の本サイト閲覧氏にとって人工呼吸は日々関わることのない特殊分野であろう。圧制御換気は吸気時に一定圧を機械で補助する方式、Tピース換気はT字型に組み合わせたチューブを取り付ける昔ながらの方式である。これまで種々の見解が報告されてきたが、今世紀の論文では圧制御換気優位とする見解が主流で、2017年の米国胸部・呼吸器学会合同作成ガイドラインも圧制御換気優位としていた(Ouellette DR, et al. Chest. 2017;151:166-180. 、Girard TD, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2017;195:120-133. )。しかしその後もウィーニング関連研究は続き、本論文はJAMA当該号のEditorialで取り上げられた。一般論では、人工呼吸は非生理的であり可及的早期に解放すべき手技であるが、拙速な離脱は病態再悪化に結び付いてしまう。適切なタイミングとウィーニング法の選択が求められるが、多数の検討でも最終結論に至っていない。その理由には、多様な原疾患が混在する対象群、他臓器障害の程度、ウィーニング後治療が標準化されていない、制御圧の値が種々、対象群をランダマイズしても治療法は盲検ではない、自発呼吸トライアル時間も未定、など未解決要素が多々存在する。現実的には難しいものの、これらのバイアスを解消できる研究がなされなければ、本論文のような繰り返しが続くのであろう。同時に、人工呼吸管理の適応病態自体もこれまで以上に検討すべき重要課題である。 なお、人工呼吸器から離脱することはweaning、ウィーニング、ウイニングなどとの記載が一般的であったが、上記2017年のガイドラインではliberation(解放)との表現を用いている。

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本邦初、高齢者のがん薬物療法ガイドライン発行/日本臨床腫瘍学会

 約3年をかけ、高齢者に特化して臓器横断的な視点から作成された「高齢者のがん薬物療法ガイドライン」が発行された。第17回日本臨床腫瘍学会学術集会(7月18~20日、京都)で概要が発表され、作成委員長を務めた名古屋大学医学部附属病院の安藤 雄一氏らが作成の経緯や要点について解説した。なお、本ガイドラインは日本臨床腫瘍学会と日本癌治療学会が共同で作成している。高齢者を一律の年齢で区切ることはせず、年齢幅を持たせて評価 本ガイドラインは「Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014」に準拠し、臨床試験のエビデンスとともに、益と害のバランス、高齢者特有の価値観など多面的な要因に基づいて推奨の強さが検討された。作成委員会からは独立のメンバーによるシステマティックレビュー、専門医のほか非専門医・看護師・薬剤師・患者からの委員を加えた推奨パネルでの投票により、エビデンスの強さ(4段階)と推奨の強さ(2段階+推奨なし)が決定されている。 対象となる高齢者については、一部のCQを除き具体的な年齢で示すことはしていない。各薬物療法の適応になる基本的な条件を満たしており、PS 0または1、明らかな認知障害を認めず、主な臓器に機能異常を認めない患者が対象として想定されている。“実臨床で迷うことが多い”という観点で12のCQを設定 12のクリニカルクエスチョン(CQ)は、CQ1が総論、CQ2~3が造血器、CQ4~6が消化管、CQ7~9が呼吸器、CQ10~12が乳腺という構成となっている(下記参照)。各CQは実臨床で遭遇し判断に迷うもの、そして臨床アウトカムの改善が見込まれるものという観点で選定。例えば呼吸器のCQ7は、予防的全脳照射(PCI)を扱っており、薬物療法ではないが、実臨床で迷うことが多く重要、との判断から取り上げられた。 推奨パネルでの投票で意見が割れ、最終的な決定にあたって再投票を実施したCQも複数あった。呼吸器のCQ8では、高齢者の早期肺がんに対する術後補助化学療法としてのシスプラチン併用について検討している。報告されている効果は5年生存率で+10%と小さく、1%の治療関連死が報告されている。判断について意見が分かれたが、最終的に、「実施することを明確に推奨することはできない(推奨なし)」とされている。 本ガイドラインでは、関連のエビデンス解説や推奨決定までの経緯についての記述を充実させており、巻末には各CQについて一般向けサマリーを掲載している。患者ごとに適した判断をするために、また患者にリスクとベネフィットを正確に伝えるために、これらの情報を活用することが期待される。独自のメタアナリシスを実施したCQも そもそも高齢者は臨床試験の選択基準から除外されることが多く、エビデンスは全体的に乏しい。評価できるエビデンスがサブグループ解析に限られ、直接高齢者を対象としたRCTは存在しないものが多かった。消化器のCQ5では、70歳以上の結腸がん患者に対する術後補助化学療法について検討しているが、70歳以上へのオキサリプラチン併用療法は、現状の報告から明確な上乗せ効果は確認できず、一方で末梢神経障害の増加が認められることから、「オキサリプラチン併用療法を行わないことを提案(弱く推奨)」している。 独自のメタアナリシスを行ったCQもある。乳がん領域のCQ11では、高齢者トリプルネガティブ乳がんの術後化学療法で、アントラサイクリン系抗がん剤の省略が可能かどうかを検討している。2つの前向き試験(CALGB49907とICE II-GBG52)のメタアナリシスを行い、アントラサイクリン系抗がん剤を省略することで生存期間と無再発生存期間が短縮する可能性が示唆された。その他心毒性についての観察研究結果などのエビデンスも併せて検討された結果、「アントラサイクリン系抗がん薬を省略しないことを提案(弱く推奨)」している。各領域で取り上げられているCQ[総論] CQ1 高齢がん患者において,高齢者機能評価の実施は,がん薬物療法の適応を判断する方法として推奨されるか?[造血器] CQ2 高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療方針の判断に高齢者機能評価は有用か? CQ3 80才以上の高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してアントラサイクリン系薬剤を含む薬物療法は推奨されるか?[消化器] CQ4 高齢者では切除不能進行再発胃がんに対して,経口フッ化ピリミジン製剤とシスプラチンまたはオキサリプラチンの併用は推奨されるか? CQ5 結腸がん術後(R0切除,ステージIII)の70才以上の高齢者に対して,術後補助化学療法を行うことは推奨されるか?行うことが推奨されるとすれば,どのような治療が推奨されるか? CQ6 切除不能進行再発大腸がんの高齢者の初回化学療法においてベバシズマブの使用は推奨されるか?[呼吸器] CQ7 一次治療で完全奏効(CR)が得られた高齢者小細胞肺がんに対して,予防的全脳照射(PCI)は推奨されるか? CQ8 高齢者では完全切除後の早期肺がんに対してどのような術後補助薬物療法が推奨されるか? CQ9 高齢者非小細胞肺がんに対して,免疫チェックポイント阻害薬の治療は推奨されるか?[乳腺] CQ10 高齢者ホルモン受容体陽性,HER2陰性乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬を投与すべきか? CQ11 高齢者トリプルネガティブ乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬の省略は可能か? CQ12 高齢者HER2陽性乳がん術後に対して,術後薬物療法にはどのような治療が推奨されるか?

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この耳鳴りは治療が必要な耳鳴りか

 2019年7月18日、『耳鳴診療ガイドライン 2019年版』の発刊に寄せ、金原出版はメディアセミナーを都内で開催した。 一般外来でも耳鳴の主訴は多いが、自然に改善することもあるために放置されるケースもあり、見過ごされている。しかし、高齢社会となり、耳鳴にともなう難聴や生活・認知機能への影響なども指摘され、これらへの対応として今回、耳鳴診療ガイドラインが日本聴覚医学会耳鳴研究会により編集された。ガイドラインが「強く推奨する」耳鳴りの治療法 講演では、「耳鳴りに悩む患者さんたちへ~標準的な診断と治療~」をテーマに神崎 晶氏(慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科学教室 専任講師)を講師に迎え、耳鳴の診療とともにガイドラインの概要が説明された。 耳鳴患者の有病者数は全人口の15~20%(うち65歳以上が約30%)とされ、わが国では2~3%(約300万人)いると推定されている。診断では一般的な問診のほか耳鳴苦痛度質問表での評価、耳内の所見観察、純音聴力検査、耳鳴検査などが行われる。また、臨床では非拍動性の耳鳴が多く、その多くは加齢に伴う難聴と診断される場合が多いという。専門医への紹介のメルクマールとしては、難聴の有無がその1つとされ、患者が生活への支障を訴えた場合も治療介入の対象になる。 現在の標準的治療としては、教育的カウンセリングが行われ、次に音響療法や認知行動療法、そして条件付きながら薬物療法として抗うつ薬、抗不安薬などの処方、サウンドジェネレーターの装着、人工内耳の手術などが行われる。また、教育的カウンセリングと認知行動療法は、耳鳴診療ガイドラインの中で「実施を強く推奨する」に位置付けられている(ただし認知行動療法は現時点で保険未適応)。耳鳴診療ガイドラインに記載されたCQ つぎに耳鳴診療ガイドラインの内容について、「クリニカルクエスチョン(CQ)は10項目が記載され、システマティックレビューは1,214の文献を抽出。MINDS診療ガイドラインに準拠した作成がされている」と説明を行った。 たとえばCQ3「それぞれの治療の長所と短所は何か」では、「薬物療法は、エビデンスが低く、副作用を伴うものもあり」とされ、「耳鳴り順応療法、補聴器、音響療法は、デバイスによる効果と補聴器による難聴への有効性がある」とされる。 CQ6では「薬物療法(漢方を含む)は耳鳴に効果があるか」では、「エビデンスがなく不適当としながらも、併存するうつ病、不眠、不安障害を軽減する」としているほか、「間接的に治療効果を高める可能性がある」などが記載されている。耳鳴診療ガイドラインの効果の検証が課題 最後に同氏は今後の課題として、耳鼻科領域で大規模臨床研究が遅れているわが国の現状から「新しい治療に関するエビデンス収集のための他施設大規模調査の必要性」、「本ガイドラインの効果の検証」、「治療選択アルゴリズムの作成」、「わが国における認知行動療法の開発とエビデンスの集積」、「複合補聴器の効果の検証」、「治療における費用対効果の検証」と6項目を挙げ、「今後、知見の集積ができれば、ガイドラインの改訂を行うこともある」と展望を示し、講演を終えた。

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