1004.
脳主幹動脈閉塞に起因する急性期脳梗塞に対する血栓回収術単独療法の有効性については、静脈内アルテプラーゼ+血栓回収術(併用療法)と比較して、その非劣性は確認されず、単独療法による再灌流の成功率が有意に低いことが、Urs Fischerらのthe SWIFT DIRECT Collaboratorsによる無作為化非劣性試験によって示された。研究の詳細は、Fischer U, et al. Lancet. 2022;400:104-115.で報告された。多施設無作為化非盲検評価者盲検試験で検証 欧州とカナダで行われたこの多施設無作為化非盲検評価者盲検試験では、血栓回収術のデバイスとして、ソリティア ステント レトリーバーが用いられ、有効性の主要エンドポイントは、治療後90日の時点での修正Rankin scale(mRS)スコア0~2点の達成とされ、血栓回収術単独治療の併用療法に対する非劣性が評価された(Mantel-Haenszel リスク差の片側95%信頼区間[CI]の下限12%を非劣性マージンとした)。主な安全性評価項目は、すべての症候性頭蓋内出血とされた。血栓回収術単独療法の非劣性は確認されず 2017年11月29日から2021年5月7日までの間に、5,215例の患者がスクリーニングされ、423例がランダムに割り当てられた。そのうち408例(201例は血栓回収術単独療法、207例は併用療法)が、主要な有効性の分析に含まれた。血栓回収術単独療法に割り当てられた201例のうち114例(57%)が、併用療法に割り当てられた207例のうち135例(65%)が、治療後90日の時点でのmRSスコア0~2に達した (調整リスク差-7.3%、95%CI:-16.6~2.1、片側95%CIの下限-15.1%、-12%の非劣性マージンを超える)。症候性頭蓋内出血は、血栓回収術単独療法201例のうち5例(2%)、併用療法202例のうち7例 (3%)に発生した(リスク差-1.0%、95%CI:-4.8~2.7)。再灌流の成功率は、血栓回収術単独療法で少なかった(単独療法201例のうち182例(91%)vs.併用療法207例のうち199例(96%)、リスク差-5.1%、95%CI:-10.2~0.0、p=0.047)。血栓回収術前の血栓溶解療法の除外に利益なし 著者らの無作為化非劣性試験によって、脳主幹動脈閉塞に起因する急性期脳梗塞に対する血栓回収術単独療法の有効性については、静脈内アルテプラーゼ+血栓回収術(併用療法)と比較して、その非劣性は確認されず、単独療法による再灌流の成功率が有意に低いことが明確となった。以上より、適格患者に対して血栓回収術前の血栓溶解療法を除外することは、再灌流の成功率の低下につながることから、推奨されないと結論付けられた。 本試験と同時に報告されたTrevoデバイスを用いた「DIRECT-SAFE試験」(Mitchell PJ, et al. Lancet. 2022;400:116-125.)のサブグルーブ解析(アジア地域の患者)においても、同様の結果が認められ、著者であるPeter J. Mitchell氏は、「この試験で得られた付加的エビデンスは、血栓回収術前の血栓溶解療法を除外することによる利益を示すエビデンスはない(とくにアジア地域の患者で)との結論を支持するものである」としている。 これらの新たな知見は、今後の脳梗塞治療ガイドラインの改訂に際して、併用療法を標準治療として推奨するための有益な根拠になると考えられる。