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第110回 高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、「デジタル薬」が効く人効かない人の微妙な線引き(後編)

日医・中川会長不出馬、政権と日医との対立構造も変化かこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週末、大きなニュースが飛び込んで来ました。日本医師会の中川 俊男会長が6月に予定される会長選に立候補しない意向を周囲に伝えたことがわかったのです。中川会長と日医については、本連載で幾度も取り上げて来ました。今年に入ってからも、「第107回 会長選前に日医で内紛勃発、リフィル処方箋導入で松原副会長が中川会長を批判」「第108回 『かかりつけ医』の制度化めぐり、日本医師会と財務省の攻防本格化」などで、2022年診療報酬改定を機に勃発した日医執行部内部での内紛や、財務省の力が増す中での日医の立ち位置の難しさなどについて書きました。中川会長は、中央社会保険医療協議会委員の頃から強面で、政策通を自認していました。もっとも医師の利益だけを重視する発言は昔から有名で、そのスタンスはコロナ禍となっても変わりませんでした。しかし、「第92回 改定率で面目保つも『リフィル処方』導入で財務省に“負け”た日医・中川会長」でも書いたように、リフィル処方を執行部の了解も得ずに飲んでしまったことが致命傷となりました。医師の利益よりも、権力にしがみつきたいという私欲が、日医執行部の面々をも呆れさせたのかもしれません。いったん飲んでしまってから、リフィル処方に反対する姿勢を見せてはいましたが、悪あがきのようにも映りました。結局、国民と政権からそっぽを向かれ、日医内部からもそっぽを向かれた格好です。“お山の大将”のまま日医会長になったものの、その“大将”ぶりを変えずリーダーシップを取り続けた結果、失脚してしまったというわけです。5月23日に開いた記者会見で不出馬を正式表明した中川会長は、「出馬しないことで日本医師会の分断を回避し、一致団結して夏の参院選に向かうことができるのであれば本望」と語ったとのことです。また、「強権的だったとの一部批判があった。反省している」とも述べたそうです。5月25日時点で会長選に出馬を表明しているのは日本医師会副会長の松原 謙二氏と日本医師会常任理事の松本 吉郎氏です。このうち優勢と言われる松本氏は前回会長選で敗れた横倉 義武氏(前日本医師会会長)の陣営の一員でした。仮に松本氏が新会長となり、政界ともパイプが太かった横倉氏の“路線”、“政策”を引き継ぐとしたら、政権と日医との対立構造にも少しは変化が出てくるかもしれません。DTxに対する素朴な疑問をさらに深掘りさて、先週の続きです。前回は、高血圧治療用の「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の製造販売承認(薬事承認)取得を機に盛り上がりを見せる「デジタル薬=DTx(Digital Therapeutics)」に対する素朴な疑問について書きました。今週はその疑問をもう少し深掘りしてみます。前回詳しく書いたように、「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の臨床試験では、主要評価項目であるABPM (24時間自由行動下血圧測定)による24時間のSBP(収縮期血圧)が、高血圧治療ガイドラインに準拠した生活習慣の修正に同アプリを併用した「介入群」と、同ガイドラインに準拠した生活習慣の修正を指導するのみの「対照群」を比較評価した結果、「介入群」の方が有意な改善を示した、とのことでした。もっとも、「有意な改善」とは言うものの、血圧の変化量の群間差は-2.4[-4.5〜-0.3]で、素人目には劇的というほどではありませんでした。「スマホアプリにうまく順応して素直に行動を変えられる人ならいいが、頑固でアプリのアドバイスにもなかなか従わない人に果たして効果があるのだろうか」という私の素朴な疑問に対し、DTxの開発に詳しい知人の記者は「行動変容を促すDTxは、アプリを使用するだけでなく、アプリの提案を基に患者自身が行動を起こす必要がある。通常の薬剤の“服用”よりもアドヒアランスのハードルがとても高く、臨床試験で目に見える効果を出すのが難しいと言われている」と教えてくれました。「なるほど」と思い、少し調べてみたのですが、DTxの臨床試験は、国内外でなかなか難しい状況にあることがわかってきました。大日本住友製薬は2型糖尿病管理指導用のアプリの開発を中止DTxの開発は国内外で活発化しています。対象となっている疾患領域も糖尿病、うつ病、不眠症、アルコール依存症とさまざまです。そんな中、開発に頓挫したケースもみられます。たとえば、大日本住友製薬は、日本で2型糖尿病患者を対象に第III相臨床試験を実施していたDTxの開発を2022年1月に中止しています。同DTxは、スタートアップのSave Medicalと共同開発していた2型糖尿病管理指導用のアプリです。食事や運動、体重といった生活習慣や服薬や血圧、血糖値の指標などをアプリで管理することで、患者の行動変容を促し、2型糖尿病患者の臨床的指標を改善することを目指していました。しかし、第III相臨床試験の結果、主要評価項目であるHbA1cのベースラインからの変化量が未達となり、開発は中止されました。デジタル流行りの昨今、デジタル治療の現状については、一般メディアも専門メディアも甘口の記事が多いですが、日経バイオテクは今年3月22日付の「あの『BlueStar』に学ぶ、デジタル治療の臨床開発の難しさ」というタイトルで、辛口の分析記事を掲載しています。その記事は大日本住友製薬のDTx開発断念について、「第3相のデータの詳細は明らかではないが、大日本住友製薬の幹部は、『被験者の組み入れ基準などが厳密にコントロールされていなかったことなどが課題かもしれない』と明かしており、被験者によって効果が認められた患者とそうでない患者がいた可能性がありそうだ」と書いています。臨床試験とは、良いデータを出すことが目的ではなく、その“薬”が効くかどうかを証明することが目的のはずです。しかし、ともすれば開発者は、良いデータを出すために恣意的に臨床試験をデザインすることがあります。DTxの場合であれば、対照群も含めて「アプリ治療に反応しやすい人」だけを選んでおけば、良好な結果を出しやすくなるはずです。ただ、そうした臨床試験の結果をもって「効く」と言ってしまっていいのか、難しい問題です。治験の被検者を厳格に選んでいたBlueStar先程の日経バイオテクの記事は、DTxの成功例として知られる米Welldoc社の糖尿病治療用アプリ「BlueStar」にも切り込んでいます。BlueStarとは、DTxの成功例として知られるWelldoc社の糖尿病治療用アプリのことです。米食品医薬品局(FDA)の認可を2010年8月に受けており、同社と提携したアステラス製薬が日本と一部アジア地域での共同開発と製品化を進めています。同記事によれば、2008年から行われたBlueStarの2型糖尿病患者に対する臨床試験では、標準治療群と、標準治療にアプリを上乗せした群で有意差が出た(HbA1c値は対照群では0.7%の低下に留まったが、標準治療にアプリと医師による意思決定支援を上乗せした群では1.9%低下)ものの、被検者登録の段階で2度にわたって患者の同意を取るよう医師に求めるという、極めて厳格なセレクションが行われていたとのことです。最初2,602例をスクリーニングの対象としたものの、最終的に2度の同意手続きに反応のあった163例が被験者として登録されたとのことです。同記事は「被験者登録の過程で、結果的にアプリの効果が得られやすい患者が登録されていた、という可能性も否定できない」と書いています。また、同記事は、カナダにおける多施設でのランダム化対照試験では有意差が示されなかった、とも書いています。なお、アステラス製薬はBlueStarの臨床試験を日本でまだ開始していません。CureAppは「降圧効果を十分に期待できると判断された患者を対象」にDTxのパイオニアであるBlueStarですら、相当厳格な対象患者絞り込みによって、有意差のある結果を出していたらしいという事実は、万人に効くようなDTxの開発は相当困難であることを示唆しています。逆に言えば、「こういう性格や行動パターンの人には効く」という明確な線引きが行われて、臨床試験にもそれが反映されていれば、「効能又は効果」にその旨が記載されることで、本当に効く人だけに処方されることになります。私の素朴な疑問もこれで解消です。ただ、現状、DTxの臨床試験の対象患者選びはある意味、ブラックボックス化しているようです。たとえば、PMDAが先日公開した「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の審議結果報告書1)によれば、このアプリの臨床試験の対象患者は「20歳以上65歳未満の降圧薬による内服治療を受けていないI度又はII度の本態性高血圧患者のうち、 食事・運動療法等の生活習慣の修正を行うことで降圧効果を十分に期待できると判断された患者を対象」と書かれていますが、「降圧効果を十分に期待できる」をどう判断したかについては書かれていません。なお、臨床試験の同意取得症例は946例で、うち登録例399例(治験治療実施例390例)、未登録例547例となっています。市場に出る前に効く人と効かない人の線引きを国はDTxをはじめとするプログラム医療機器(SaMD)の普及・定着に相当前のめりになっている印象です。2022年度診療報酬改定では、プログラム医療機器を使用した医学管理を行った場合に算定する「プログラム医療機器等医学管理加算」の項目が新設されました。また、3月30日のデジタル臨時行政調査会で、岸田 文雄総理大臣は医療や介護のデジタル化の推進策を取りまとめるよう規制改革推進会議に指示、同会議ではプログラム医療機器の承認審査の在り方も検討される予定です。先週、5月18日には、自民党の「医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会」(ヘルステック推進議員連盟、 田村憲久会長)がデジタルヘルス推進に向けた提言を取りまとめており、この中でもプログラム医療機器の重要性が強調され、 利活用に向けた環境整備を求めています。しかし、デジタルは万能ではありません。効果が微妙なDTxがどんどん市場に出ていっても、迷惑を被るのは患者です。「市販後調査できちんと評価」という声もあるようですが、むしろ市場に出る前に効く人と効かない人の線引きをきちんとすることの方が重要ではないでしょうか。鳴り物入りのDTxですが、医療費の無駄遣いにならないことを願うばかりです。参考1)CureApp HT 高血圧治療補助アプリ 審議結果報告書/PMDA

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コロナ治療薬の効果、観察研究とRCTで一致するか/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬(ヒドロキシクロロキン、ロピナビル-リトナビル、デキサメタゾン)を評価した観察研究のメタ解析と無作為化臨床試験(RCT)のメタ解析を比較すると、4分の3以上で治療効果の要約が一致していることが、米国・イェール大学のOsman Moneer氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年5月10日号で報告された。観察研究とRCTの一致を評価するメタ疫学研究 研究グループは、COVID-19の同じ治療薬や対照薬、アウトカムを評価した個別の観察研究とRCTまたはこれらの研究のメタ解析から、治療効果と人口統計学的データを系統的に同定し、これらをマッチさせて比較することで、観察研究とRCTの治療効果が一致するかを評価する目的で、メタ疫学研究を行った(著者の1人であるJoshua D. Wallach氏は、米国国立アルコール摂取障害・依存症研究所[NIAAA]の助成を受けた)。 解析データの入手には、米国国立衛生研究所(NIH)のCOVID-19治療ガイドライン、BMJ誌に掲載されたリビングレビューとネットワークメタ解析、PLOS Medicine誌に掲載されたリビングシステマティックレビューとメタ解析および逐次解析(trial sequential analysis)、さらにEpistemonikosの“Living OVerview of Evidence”(L・OVE)のエビデンスデータベースが用いられた。 試験選択の適格基準は、(1)BMJ誌掲載のリビングレビューにおいて、すべてのデータソースについてCOVID-19への治療的介入として最も多く研究されている3つの方法(ヒドロキシクロロキン、ロピナビル-リトナビル、デキサメタゾン)を直接比較したRCT、(2)BMJ誌掲載のリビングレビューで報告されたものと同じ介入法、対照薬、アウトカムを評価した観察研究とされた。 観察研究から安全性と有効性のアウトカムが同定され、二値変数(オッズ比)または連続変数(平均差または平均比)のアウトカムに関して治療効果が算出され、可能な場合は、BMJ誌掲載のリビングレビューで報告された個別のRCTまたはRCTのメタ解析の治療効果と、同じ介入、対照薬、アウトカムをマッチさせて(観察研究とRCTのマッチさせた組み合わせ)、メタ解析が実施された。 解析では、研究の人口統計学的データの分布と、マッチさせた組み合わせで治療効果が一致するかが比較された。マッチさせた組み合わせでは、観察研究とRCTの治療効果がいずれも有意に増加または低下している場合(p<0.05)、または双方の治療効果にいずれも有意差がない場合(p≧0.05)に、一致すると判定された。観察研究はRCTに取って代わるものではない COVID-19治療における安全性または有効性のアウトカムについて、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル-リトナビル、デキサメタゾンと、対照薬(実薬またはプラセボ)を比較した観察研究に関して、独立のメタ解析が新たに17件実施された。これらの研究を、BMJ誌掲載のリビングレビューで報告されたRCTのメタ解析17件とマッチさせ、比較が行われた。さらに、1件の観察研究と1件のRCTの組み合わせが、10組同定された。 27件のマッチさせた研究の組み合わせのうち、22組では個々の研究のすべてで、人口統計学的データと臨床データが適切に報告されていた。また、この22組のすべてが、性別、年齢、疾患の重症度の分布が重なり合う研究であった。 全体として、27件のマッチさせた研究の組み合わせのうち21組(78%)で、一致した治療効果が示された。また、観察研究のメタ解析とRCTのメタ解析から成る17件のマッチさせた組み合わせでは、14組(82%)で治療効果が一致し、少なくとも1件の観察研究または1件のRCTから成る10組では、7組(70%)で一致した。 一方、二値変数のアウトカムに関する治療効果のデータを有する18組のうち治療効果が一致したのは16組(89%)で、連続変数のアウトカムの治療効果データを有する9組における治療効果の一致割合(5組、56%)よりも高かった。 著者は、「COVID-19の世界的流行により、治療薬候補の臨床的価値の評価における観察研究の潜在的な役割が強調されているが、質の低いエビデンスの急速な流布の可能性に対する懸念も提起されている。本研究は3つの治療法に限定されてはいるが、これらの知見は、観察研究のメタ解析のエビデンスはRCTから収集されたエビデンスを補完することはできるが、取って代わるものではないことを示唆する」としている。

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有害事象の系統的レビュー、データ抽出時に注意すべき5つのエラー/BMJ

 中国・安徽医科大学のChang Xu氏らは、有害事象の系統的レビューでのデータ抽出の妥当性と、メタ解析結果へのデータ抽出エラーの影響を調べ、データ抽出エラーの分類フレームワークを開発した。検討の結果、起きうるエラーは、数的エラー、あいまいさによるエラーなど5つのタイプに分類でき、そのうち2つ以上のエラーがあると結果に影響を及ぼす可能性が高まることが示されたという。著者は、「有害事象の系統的レビューでは、データ抽出の再現性に関して深刻な問題が起きる可能性があり、抽出エラーは結論を誤らせる可能性がある。系統的レビューの著者が妥当なデータ抽出ができるよう、早急に実施ガイドラインを整備することが必要だ」と述べている。BMJ誌2022年5月10日号掲載の報告。データ抽出エラーを明らかにし、解析への潜在的な影響を調査 研究グループによる再現性の研究は、PubMedを検索し、2015年1月1日~2020年1月1日に発行された系統的レビューを特定して行われた。4人の著者が系統的レビューから、無作為化試験のメタデータを抽出。その後、同じ著者がオリジナルデータソース(全文およびClinicalTrials.govなど)に照会し、メタ解析で使用されたデータの再現を行った。 適格とされた系統的レビューは、医療的介入について無作為化試験をベースとしたもので、独立したアウトカムとして安全性が報告されていたもの、少なくとも5つ以上の無作為化試験を包含して1つ以上のペアメタ解析が行われているもの、メタ解析の各試験で2×2のイベントデータテーブルが用いられ介入群と対照群のサンプルサイズが入手可能であるものとした。 主要アウトカムは、研究レベル、メタ解析レベル、系統的レビューレベルの3段階で要約されたデータ抽出エラーである。さらに、それらエラーが結果へ及ぼす潜在的な影響を調べた。データ抽出エラー5つのうち2つ以上があると結果に大きく影響 201の系統的レビューと829のペアワイズメタ解析に組み入れられていた1万386の無作為化試験が包含された。 1万386試験のうち1,762試験(17.0%)について、データ抽出を再現できなかった。829のメタ解析のうち554(66.8%)では、組み入れられていた無作為化試験のうち少なくとも1つ以上でデータ抽出にエラーがあった。また、201の系統的レビューのうち171(85.1%)で、少なくとも1つ以上のメタ解析にデータ抽出エラーがあった。 最も頻度の高いデータ抽出エラーのタイプは、数的エラー(49.2%、867/1,762)とあいまいさによるエラー(29.9%、526/1,762)で、これらは主にアウトカムの定義のあいまいさによって引き起こされていた。このほか、ゼロ仮定エラー、誤認エラー、不一致エラーの3つのデータ抽出エラーのタイプが認められた。これらのデータ抽出エラーは、288のメタ解析のうち、10(3.5%)で効果の方向性の変化に、19(6.6%)でP値の有意性の変化に結び付いていた。 メタ解析は、上記5つのデータ抽出エラータイプのうち2つ以上があると、エラータイプが1つのみであったときと比べて、変化の影響を受けやすいことが示された。中程度の変化の影響を受けたのは、エラータイプが2つ以上のメタ解析39のうち11(28.2%)、1つのみ249のうち26(10.4%)であり(p=0.002)、大きな変化の影響を受けたのは、それぞれ5(12.8%)、8(3.2%)であった(p=0.01)。

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産後うつ病と母乳育児との関連~メタ解析

 産後うつ病に対する母乳育児の影響については、あまり知られていない。また、産後うつ病のマネジメントにおいて、母乳育児の役割に関連するガイドラインは作成されていない。中国・Taizhou UniversityのMengjie Xia氏らは、産後うつ病と母乳育児との関連を明らかにするため、メタ解析を実施した。その結果、母乳育児が産後うつ病リスクの低下に寄与することが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2022年4月20日号の報告。 産後うつ病と母乳育児との関連について報告した研究をPubMed、Cochrane Library、EMBASE(~2021年12月)より検索した。プールされたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・8研究より、1万8,570例が抽出された。・母乳育児により、産後うつ病リスクが14%低下していた(OR:0.86、95%CI:0.77~0.94、I2=51.78%)。・母乳育児の期間が1ヵ月超では産後うつ病リスクが37%低下し(OR:0.63、95%CI:0.47~0.79、I2=34.98%、p=0.19)、1ヵ月未満では6%低下していた(OR:0.94、95%CI:0.89~0.99、I2=0.00%、p=0.61)。・母乳育児を行わなかった場合と比較し、母乳のみで育児を行った場合では、産後うつ病リスクが53%低下した(OR:0.47、95%CI:0.27~0.66、I2=0.00%、p=0.98)。・部分的に母乳育児を行った場合と比較し、母乳のみで育児を行った場合では、産後うつ病リスクが8%低下した(OR:0.92、95%CI:0.86~0.98、I2=13.86%、p=0.31)。・本研究のサブグループは、異質性の原因である可能性が示唆された。

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第109回 高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、「デジタル薬」が効く人・効かない人の微妙な線引き(前編)

官民こぞってデジタル、デジタルこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。世の中、デジタル流行りです。デジタル庁発足の前後くらいから、官民こぞってデジタル、デジタル(あるいはDX)と言い始めた印象があります。デジタル化はまるで世の中の不便や非効率をすべて解決できる“魔法の薬”のように(とくにデジタルに弱い人々=政治家などから)捉えられているようです。スマートフォンやインターネットの世界の相当な部分をGAFAにやられてしまってから、デジタル化推進に力を入れ出す国もどうかと思いますが、さすがにこの流れに乗っておかないとまずい、と国も企業も考えているのでしょう。医療の世界も例外ではありません。国だけではなくコンサルタントやICT関連メーカーなどが、さかんに「医療DX推進」を喧伝しています。自民党の社会保障制度調査会・デジタル社会椎進本部「健康・医療情報システム推進合同プロジェクトチーム」は5月13日、 全国医療情報プラットフォームの創設、 電子カルデ情報の標準化、 診療報酬改定DXを柱とする提言を取りまとめました。これらを椎進する方針を「医療DX令和ビジョン2030」と名付け、首相を本部長とする「医療DX椎進本部(仮称)」を設置するよう求めたとのことです。「電子的保健医療情報活用加算」を新設で患者負担増えるしかし、これまでの状況を見ても、その前途は多難としか言いようがありません。デジタル化の一環として、国は「マイナ保険証」を推進しようとしていますが、普及を目的として今年4月の診療報酬改定で「電子的保健医療情報活用加算」を新設したところ、この保険証をわざわざつくった患者の自己負担が増える事態となり反発を招いています。医療機関の設備投資や手間を考えての報酬設定でしたが、肝心の患者は二の次にされた格好です。マイナンバーカードを取得し、保険証利用の登録もした、という奇特な人の医療費の自己負担を逆に増やすとは……。気が遠くなるようなマイナンバーカード取得の手続きの面倒さを思うと、考えられない“仕打ち”です。4月13日に成立した改正薬機等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によって、電子処方箋システムの整備も始まりますが、こちらも今から相当な混乱が予想されます。おそらく政治家のほとんどは自分でマイナーバーカードの取得や、マイナポイントの登録申請などやったことないのでしょう。現場の煩雑さ、大変さも知らないで、安易なポンチ絵で説明される政策の普及・定着が覚束ないのは当然です。デジタル化以前の問題と言えます。さて今回は、デジタルつながりということで、最近流行りのスマホアプリなどで病気の治療を行う「デジタル薬」について書いてみたいと思います。「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」薬事承認を取得連休直前の4月27日、株式会社CureAppはメディア向けのオンラインセミナーで、高血圧治療用の「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の製造販売承認(薬事承認)を4月26日に取得したことを明らかにしました。高血圧治療の領域で医師が処方する「デジタル薬」の薬事承認取得は世界初とのことです。同社は2022年中の保険適用と上市を目指すとしています。「デジタル薬」とは、スマホアプリやゲーム、デジタル機器など、ソフトウェアを活用して治療を行うデジタル療法のことです。日本では2014年の薬機法改正で、医療用ソフトウェアが薬事承認規制の対象となったことを契機として開発が本格化しました。日本においては販売に当たって薬事承認が必要となるものは「プログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD(サムディ)」、それ以外は「Non-Software as a Medical Device:Non-SaMD (ノンサムディ)」に分類されます。薬事承認が必要なSaMDのうち、治療用アプリなど、疾患の治療を目的としたものは「デジタル治療(Digital Therapeutics:DTx)」と呼ばれており、このDTxがいわゆるデジタル薬です(SaMDにはこの他に診断機器もあります)。ということで、CureAppの治療用アプリ「高血圧症治療補助プログラム」は、正式には「SaMDの中のDTx」という分類になります。ニコチン依存症の治療用アプリに次ぐ国内2番目のDTx国内で初めて実用化されたDTxは皆さんご存知のCureAppのニコチン依存症の治療用アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」です。2020年12月に保険適用されて販売が開始されました。ただ、同アプリに併用することになっている禁煙補助薬のバレニクリン(国内商品名:チャンピックス)の一部製品から、発がん性のリスクを高める可能性があるとされるN-ニトロソバレニクリンが社内基準を超えて検出されたため、2021年6月から出荷停止となり、同アプリの使用は難しくなっているようです(ファイザーは2021年11月に「出荷再開は早くても2022年後半以降」と発表)。これに続く国内2番目のDTxが、今回薬事承認を取得した高血圧治療用の「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」というわけです。生活習慣の行動変容を促し、正しい生活習慣の獲得をサポート同アプリは、スマートフォンを介して患者に生活習慣の行動変容を促し、正しい生活習慣の獲得をサポートすることで、継続的な生活習慣の修正を実現、減塩や減量などを通じて血圧の低下という治療効果を得る、とされています。具体的には、医師が患者に同アプリにログインするための「処方コード」を提供。患者がアプリにログインすると、血圧計と連動させて血圧を記録したり、生活習慣を質問形式やアプリ内のキャラクターとの会話などでモニタリングしたりなど、さまざまなサービスを利用できるようになります。そして、個別化された治療ガイダンス(患者が入力した情報に応じた食事、運動、睡眠、飲酒などに関する知識や行動改善を働きかける情報)をスマートフォンを介して直接患者に提供することで、行動変容を促す仕組みです。処方した医師の側も、医師用アプリを使うことで患者の日々の生活習慣の修正状況が確認できるため、診療の効率化にもつながるとされています。主要評価項目はABPMによる24時間の収縮期血圧今回の薬事承認は、360人程度の患者を対象とした臨床第III相試験の結果に某づくとしています。欧州心臓病学会で発表されたデータや、PMDAで公開された添付文書1)等によれば、治験の対象者は20歳以上65歳未満の男女で本態性高血圧症の患者。ABPM(24時間自由行動下血圧測定)による24時間収縮期血圧が130mmHg以上で、直近3ヵ月以上降圧薬治療を受けていないことが条件となっています。主要評価項目はABPMによる24時間のSBP(収縮期血圧)で、高血圧治療ガイドラインに準拠した生活習慣の修正に同アプリを併用した「介入群」と、同ガイドラインに準拠した生活習慣の修正を指導するだけの「対照群」を比較評価。介入群の方が有意な改善を示したとのことです。添付文書によれば、介入群の血圧はベースライン時と12週または中止時点の比較で144.3 ± 10.43mmHgが137.4 ± 11.58mmHgに下がり、変化量は-6.9 ± 10.70(n=178)。一方、対照群の血圧は144.9 ± 10.44mmHgが139.5 ± 12.31mmHgに下がり変化量は-4.7 ± 10.32(n=170)。群間差は-2.4[-4.5〜-0.3]となっています。なお、今回の薬事承認の了承に当たっては、「承認後1年経過するごとに、市販後の有効性に関する情報を収集し、有効性が維持されていることを医薬品医療機器総合機構(PMDA)宛てに報告すること」という条件が付けられています。DTxに対する素朴な疑問さて、「有意な改善」とは言うものの、血圧の変化量を見ると、劇的というほどではなく微妙な感じもします。この数字を見て、素朴な疑問が頭をもたげました。それは、こうしたスマホアプリに順応して素直に行動を変えられる人ならよいが、頑固でアプリのアドバイスになかなか従わない人に果たして効果があるのだろうか、ということです。おそらく臨床試験では、対照群も含めてアプリに順応し、アドバイスも受け入れ易い人を選んでいると思われます。それでこの成績だとしたら、本態性高血圧全体の患者で考えると、治療効果は相当低くなってしまうのではないでしょうか。こうした疑問をデジタル薬の開発に詳しい知人の記者にぶつけてみたところ、「そのとおり。行動変容を促すDTxは、アプリを使用するだけでなく、アプリの提案を基に患者自身が行動を起こす必要がある。通常の薬剤の“服用”よりもアドヒアランスのハードルがとても高く、臨床試験で目に見える効果を出すのが難しいと言われている」との答えでした。実際、調べてみると、DTxの臨床試験は、国内外でなかなか難しい状況にあるようです。「これからはDTxの時代だ!」「治療用アプリは普及期に入る」といった声も聞こえてきますが、国が進めようとしている医療DX同様、こちらの前途も洋々とは言えないようです。(この項続く)参考1)CureApp HT 高血圧治療補助アプリ/PMDA

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心不全患者における減塩は効果があるのか?(解説:石川讓治氏)

 食塩の摂取過剰が体液貯留を招き、心不全の症状悪化や再入院の原因となると広く信じられている。われわれは、心不全治療ガイドラインに準じて、食塩摂取量を1日6g以下にするように患者指導することを日常的に行ってきたが、減塩は患者にとっては非常につらいことで、食べ物がおいしくないと不平を漏らす患者も多い。食塩の過剰摂取が心血管イベントの発症リスク増加と関連し、代用塩の使用がリスクを低下させたことが近年の地域一般住民における疫学調査で示されているものの、心不全患者に対する減塩の効果を評価した既存のエビデンスは症例数も少なく生活の質に対する効果を評価したものが多かった。本研究は大きな症例数で、総死亡、心不全再入院、心不全増悪による外来受診も評価項目に含まれており有意義な研究であると思われた。しかし、残念ながら結果として1日ナトリウム摂取量1,500mg未満(食塩3.81g)を目指した食事指導で、わずかに生活の質が改善したものの、1年間の総死亡、心不全再入院、心不全増悪による外来受診回数も有意には減少しなかった。 本研究は、オーストラリア、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、ニュージーランドの6ヵ国(26施設)で施行され、食事内容の地域性にも配慮し、減塩介入群において1日ナトリウム摂取量は2,286mg(食塩5.8g)から1,658mg(食塩4.2g)へと減少(3日間の食事内容から計算)している。わが国の一般住民における平均食塩摂取量は12~13g/日であり、心不全患者は食塩6g未満の食事指導を日常臨床では行っているが、本研究はさらに厳しいナトリウム制限(食塩摂取制限)を目指した研究になると思われる。患者にとって減塩はつらいものである。心不全患者に対する減塩指導に関して、医師が患者に明確なエビデンスを提供できる日が来るのであろうか? 今後の研究の発展が期待される。

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米国における双極性障害の治療パターン

 双極性障害は慢性的かつ複雑な疾患であるため、治療が困難なケースも少なくない。米国・テキサス工科大学のRakesh Jain氏らは、双極性障害患者に対する治療パターンを明らかにするため、レトロスペクティブ研究を実施した。その結果、抗うつ薬やベンゾジアゼピンは、フロントライン治療としての使用はガイドラインで推奨されていないにもかかわらず、双極性障害に対し高頻度で処方されていることが明らかとなった。本結果は、双極性障害のケアにおける異質性を強調しており、多くの臨床医がエビデンスに基づく双極性障害治療を実践していないことを示唆している。Advances in Therapy誌オンライン版2022年4月6日号の報告。 2016~18年に新たに双極性障害と診断された成人患者を、IBM MarketScan Commercial claims databaseより特定した。患者の登録は、初回診断の12ヵ月以上前と6ヵ月後に行った。Lines of therapy(LOT)は、抗うつ薬、気分安定薬、非定型抗精神病薬、ベンゾジアゼピン、精神刺激薬のほか、適応外の薬物による継続的な治療期間とした。すべてのデータを記述的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・基準を満たした患者は、4万345例であった。・最も一般的な初期エピソードタイプは、双極II型障害(38.1%)であり、次いで双極I型障害(29.8%)、躁病(12.8%)、混合型(12.0%)であった。・すべてのエピソードタイプのうち、約90%が治療を受けており(LOT1)、これらの患者の約80%は1つ以上のLOT追加治療を受けていた。・LOT1(3万6,587例)で使用された薬剤は、気分安定薬(43.8%)、抗うつ薬(42.3%、単剤療法では12.9%)、非定型抗精神病薬(31.7%)、ベンゾジアゼピン(20.7%)であり、LOT追加治療では抗うつ薬(51.4~53.8%)、ベンゾジアゼピン(26.9~27.4%)の使用量の増加が認められた。・LOT1のレジメンは、2,067パターンであった。・治療パターンは、エピソードタイプ全体で類似していた。

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第100回 手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査

<先週の動き>1.手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査2.4回目コロナワクチン、今月末からの開始に向けて/厚労省3.3回目用に確保したコロナワクチン、期限切れで廃棄相次ぐ4.医師偏在解消に向け「医師確保計画ガイドライン」改正/厚労省5.ヤングケアラー支援のための手引きを作成/厚労省6.有事の医薬品開発を見据えた緊急承認制度が新設1.手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査全国の総合病院などに勤務する眼科医5人が、病院や患者に無断で白内障の手術動画を医療機器メーカーに提供し、去年までの3年間に現金40~105万円を受け取っていたことが明らかとなりました。画像の提供を受けていたのは白内障治療用眼内レンズを販売するスター・ジャパン社。同社が白内障手術の動画を作成するために提供を受けたとされているが、販売促進の目的の可能性があるため、業界団体がメーカーの調査に着手した。今回の動画は手術動画であり、厳密には個人情報に含まれない可能性があるが、各医療機関側は患者の同意なく外部に提供したことを把握できておらず、再発防止のためには職員に対して個人情報保護法の教育が必要となる。個人情報保護法は今年4月から改正法が施行されており、個人データの授受については研究目的であっても第三者提供記録が本人による開示請求の対象となるなど規制が強化されている。医療機関側は情報漏洩時の報告義務を負っており、医師個人も個人情報保護法のルール順守が必須となる。(参考)“手術動画”無断で外部提供か 病院側「再発防止に努めたい」(NHK)“手術動画”で医師に現金提供 業界団体がメーカーを調査(同)医療・ 介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会)【2022年4月施行】個人情報保護法改正とは?改正点を解説!(契約Watch)2.4回目コロナワクチン、今月末からの開始に向けて/厚労省今月末に開始見込みの新型コロナウイルスワクチン4回目接種の準備に向け、厚生労働省は全国の自治体に対して10日に通知を発出した。接種の対象者は、3回目の接種完了から5ヵ月以上が経過した60歳以上の者および18歳以上60歳未満の者のうち基礎疾患を有する者やその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認める者で、自治体に対してファイザー製および武田/モデルナ製ワクチンを配布する。基礎疾患のある人については、自己申告した者のほか、申告がない一部の人にも接種券を配布できるとし、自治体側の煩雑な事務作業を減らすために、18歳以上の対象者以外への一律送付も可能となっている。(参考)4回目コロナ接種券、対象以外も 厚労省が自治体に通知(産経新聞)4回目接種券、18歳以上一律も可能に…煩雑作業避けたい自治体の要望受け厚労省容認(読売新聞)新型コロナウイルスワクチンの追加接種(4回目接種)体制整備に係る医療用物資の配布について(厚労省)新型コロナワクチン追加接種(4回目接種)の体制確保について(その2)(同)3.3回目用に確保したコロナワクチン、期限切れで廃棄相次ぐ新型コロナウイルスワクチン3回目接種のために配布されたモデルナ製ワクチンが使用されないまま有効期限を迎え、これまでに10万本以上が破棄されていることが報道された。感染状況を踏まえた複合的な理由により、配送されたワクチン数が希望者を上回っていると考えられる。一方、ファイザー製ワクチンは4月に有効期限が9ヵ月から1年に延長されて破棄を免れたが、今後進められる4回目接種は対象者が制限されるため、引き続き期限切れを迎えるワクチンの増加は避けられないだろう。確保したワクチンの有効活用のために、国民に対してワクチン接種の働きかけを強化するなど、自治体で期限切れにならないような工夫を凝らす必要がある。(参考)なぜ?新型コロナワクチン 期限切れ廃棄 次々と明らかに(NHK)余るモデルナ、止まらぬ廃棄 融通できず悩む自治体(産経新聞)京都市、モデルナワクチン期限切れで廃棄へ 8万回分(日経新聞)4.医師偏在解消に向け「医師確保計画ガイドライン」改正/厚労省厚労省は、第8次医療計画等に関する検討会の下部組織「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を11日に開催した。2018年の医療法改正により、医療資源の地域的偏在の是正のため「医師確保計画」を策定することとなっており、各都道府県は2次医療圏ごとに医師確保計画を通じた医師偏在対策を進めている。今後、医師の働き方改革や地域医療構想の実現も視野に入れつつ、キャリア形成プログラムなどを含めた検討を進め、2022年中に報告書をまとめ、年度内に「医師確保計画策定ガイドライン」の改定を行う。2024年から始まる第8次医療計画の開始とともに医師確保計画の策定を開始する予定。(参考)2024年度から「医師確保計画」も新ステージに、医師偏在解消に向け2022年内に見直し案まとめ―地域医療構想・医師確保計画WG(Gem Med)地域枠医師などサポートするキャリア形成プログラム、現場ニーズを意識した作成・運用進む―地域医療構想・医師確保計画WG(2)(同)医師確保計画を通じた医師偏在対策について(厚労省)5.ヤングケアラー支援のための手引きを作成/厚労省全国の自治体に向け、大人に代わって日常的に家事や家族の世話をするヤングケアラーについて、早期の発見や支援を行う体制などの事例をマニュアルにまとめ、ヤングケアラー支援の体制作りを働きかける通知が発出された。厚労省が2021年度に子供・子育て支援推進調査研究事業で行った全国の中高校生を対象とした調査によると、世話をしている家族が「いる」と回答したのは、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生は4.1%だった。そのうち、世話の頻度を「ほぼ毎日」と回答した者が3~6割程度、平日1日当たりで世話に費やす時間は「3時間未満」が多いものの、「7時間以上」と回答した者も約10%程度いることから、誰にも相談できずに1人で抱え込んでいるのかもしれない。今度、ヤングケアラーをいかに社会で支えるかが大きな課題となっている。(参考)ヤングケアラー支援で手引 学校や自治体連携、厚労省(日経新聞)厚労省、ヤングケアラー支援マニュアルを通知 「福祉、介護、教育など多分野の連携が重要」(JOINT)「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル」(厚労省)6.有事の医薬品開発を見据えた緊急承認制度が新設感染症流行時などの有事にワクチンや治療薬を緊急承認する制度の創設を盛り込んだ医薬品医療機器法の改正案が、13日の参議院にて全会一致で可決され、成立した。現行制度では、海外承認された医薬品を早期承認する特例承認制度があるが、日本人への有効性が確認できる臨床データが十分集まっていない場合は国内で追加治験を行わなければならず、承認が遅れてしまう問題があった。今回新設された緊急承認制度は、国民の生命や健康に重大な影響を与える恐れがある病気の蔓延を防ぐために必要な医薬品や医療機器が対象で、ほかに代替手段がないことが条件となる。緊急時として原発事故やテロなども想定しているが、2年以内に有効性を確認できなければ承認を取り消す。(参考)薬の緊急承認制度創設へ 改正薬機法が成立 遅れたワクチン開発、反省踏まえ(産経新聞)「緊急承認制度」新設、早いワクチン実用化の実現は 改正薬機法成立(朝日新聞)改正医薬品医療機器法が成立 薬の緊急承認、新設 コロナ対応反省/信頼性課題(毎日新聞)

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PCSK9阻害薬、エゼチミブは心血管リスクを低減/BMJ

 エゼチミブまたはPCSK9阻害薬は、忍容最大用量のスタチン投与中あるいはスタチン不忍容の、心血管リスクがきわめて高い/高い成人において、非致死的な心筋梗塞(MI)および脳卒中を抑制可能なことが示された。同リスクが中程度および低い患者では認められないという。米国・Houston Methodist DeBakey Heart & Vascular CenterのSafi U. Khan氏らがシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果を報告した。BMJ誌2022年5月4日号掲載の報告。スタチンの有無を含めて心血管リスクへの影響をネットワークメタ解析 研究グループは、エゼチミブおよびPCSK9阻害薬が心血管アウトカムに及ぼす影響を、忍容可能な最大用量のスタチン治療を受けている成人またはスタチン不忍容の成人において比較する検討を行った。 Medline、EMBASE、Cochrane Libraryを2020年12月31日時点で検索し、被験者500例以上、追跡期間6ヵ月以上のエゼチミブとPCSK9阻害薬の無作為化対照試験を特定。頻度論的な固定効果ネットワークメタ解析とGRADE(grading of recommendations, assessment, development, and evaluation)によるエビデンスの確実性の評価を行った。 結果には、5年間治療を受けた患者1,000人当たりの非致死的MI、非致死的脳卒中、あらゆる原因の死亡、および心血管死の相対リスク(RR)と絶対リスクが含まれた。ベースラインで受けていた治療および心血管リスクの閾値別に、一定のRR(ネットワークメタ解析から推定)を想定の下で絶対リスク差を推算。1次および2次予防における心血管リスクはPREDICTリスク計算法で算出した。 患者を、心血管リスクが「低い」~「きわめて高い」に分類。ガイドラインパネルとシステマティックレビューの著者により、最小重大差(MID)はMIが1,000例当たり12例、脳卒中が1,000例当たり10例と定められた。心筋梗塞、脳卒中の発生を抑制 検索により、スタチン治療を受けている成人8万3,660例が参加する、エゼチミブとPCSK9阻害薬を評価した14試験が特定された。 スタチンへのエゼチミブ追加は、MI(RR:0.87[95%信頼区間[CI]:0.80~0.94])および脳卒中(0.82[0.71~0.96])を抑制したが、あらゆる原因による死亡(0.99[0.92~1.06])、心血管死(0.97[0.87~1.09])は抑制しなかった。 同様に、スタチンへのPCSK9阻害薬追加は、MI(RR:0.81[95%CI:0.76~0.87])および脳卒中(0.74[0.64~0.85])を抑制したが、あらゆる原因による死亡(0.95[0.87〜1.03])または心血管死(0.95[0.87~1.03])は抑制しなかった。 また、被験者のリスク分類別に見ると、きわめて高い心血管リスク成人において、PCSK9阻害薬の追加投与がMI(16/1,000例)、脳卒中(21/1,000例)を抑制すると思われた(中程度~高い確実性)。これに対してエゼチミブの追加投与は、脳卒中(14/1,000例)は抑制するようであったが、MI(11/1,000例)は抑制するもののMIDに到達しなかった(中程度の確実性)。 PCSK9阻害薬とスタチンへのエゼチミブ追加は、脳卒中(11/1,000例)を抑制するようであったが、MI(9/1,000例)は抑制するもののMIDに到達しなかった(低い確実性)。スタチンとエゼチミブへのPCSK9阻害薬の追加は、MI(14/1,000例)、脳卒中(17/1,000例)ともに減じるようであった(低い確実性)。 心血管リスクが高い成人においては、PCSK9阻害薬の追加投与は、おそらくMI(12/1,000例)、脳卒中(16/1,000例)は抑制しうることが示唆された(中程度の確実性)。エゼチミブの追加投与は、おそらく脳卒中(11/1,000例)は抑制しうるようであったが、MI(8/1,000例)はMIDに到達しなかった(中程度の確実性)。 PCSK9阻害薬とスタチンにエゼチミブを追加しても、MIDを達成するアウトカムの減少は得られなかったが、エゼチミブとスタチンにPCSK9阻害薬を追加すると、脳卒中(13/1,000例)は抑制しうることが示唆された。 これらの結果は、スタチン不忍容の患者でも一致していた。中程度および低い心血管リスクの集団では、スタチンにPCSK9阻害薬またはエゼチミブを追加しても、MIおよび脳卒中へのベネフィットは、ほとんど/まったく得られなかった。

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α1-アンチトリプシン欠乏症〔AATD:α1-antitrypsin deficiency〕

※なお、タイトル「α1-アンチトリプシン欠乏症」の「α1」は「α1」が正しい表記となる。(web上では、一部の異体字などは正確に示すことができないためご理解ください)1 疾患概要■ 定義α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)は、血液中のα1-アンチトリプシン(AAT)の欠乏により肺疾患や肝疾患を生じる常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患である1)。肺では若年性に肺気腫を生じ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症する。気管支拡張症を合併する例もある。肝臓では、新生児期に黄疸や肝機能障害を認める場合があり、成人期には肝硬変・肝不全に移行し、肝細胞がんを発症することがある。欧米では、COPDの1~2%はAATDによるとされる。頻度は少ないが、皮下脂肪織炎や肉芽腫性血管炎を合併することがある。AATDは難病法に基づいて疾病番号231番の指定難病となり、重症度に応じて医療費助成対象疾患となった。■ 疫学ほぼ世界中で報告されているが、ヨーロッパや北米では比較的多い疾患で、約1,600~5,000人出生あたり1人とされている1)。わが国では極めてまれであり、呼吸不全に関する調査研究班と日本呼吸器学会による全国疫学調査では14名(重症9人、軽症5人)の発端者が集積され、有病率は24家系(95%信頼区間:22-27)と推計された2)。■ 病因AATDは、第14染色体長腕(14q32.1)にあるSERPINA1遺伝子の異常により生じる単一遺伝子疾患である。AATは394個のアミノ酸からなる分子量約52kDaの糖タンパク質で、血清蛋白分画のα1-グロブリン分画の約9割を占める(図1)。セリンプロテアーゼインヒビタ-として機能し、生体内で最も重要な標的は好中球エラスターゼである。主に肝臓で産生されて流血中に放出されるが、他に好中球、単球、マクロファージ、肺や腸管の上皮細胞からも産生される。図1 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)患者の血清蛋白電気泳動画像を拡大する健常者(A)と比べ、AATD(B)ではα1-グロブリン分画が欠損している(矢印)。SERPINA1遺伝子は共優性co-dominantに発現して遺伝様式に寄与する。150種類以上の変異型(バリアント)が報告されており、(a)質的・量的に正常なAATを産生する正常型バリアント、(b)流血中にAATがまったく検出されないnull型バリアント、(c)減少するdeficient型バリアント、あるいは (d)機能が変化してしまうdysfunctional型バリアントなどに分類される。正常型バリアント以外の病的バリアントを両方の対立遺伝子として受け継いでいる個体はAATDを発症するが、片方が正常型バリアントである場合には血清AAT濃度の低下は軽度で、通常は肺疾患や肝疾患の発症リスクとはならず保因者と呼ばれる。AATは、遺伝子変異によるアミノ酸置換により蛋白全体の荷電状態が変化し、等電点電気泳動における泳動位置、すなわち、AATの“表現型”が変化する。泳動位置の違いから、陽極pH4に近い位置からアルファベットの若い“B”、陰極pH5に近いものを“Z”と命名される。中央部は90%以上の遺伝子頻度を占める“M”となる。新規に同定されたSERPINA1バリアントの表現型には、表現型アルファベットに下付の小文字で同定された地名が付される。AATDの原因となるバリアントの多くはdeficient型バリアントであり、欧米ではZ型(Glu342Lys)とS型(Glu264Val)が最も多いのに対し、わが国ではSiiyama型(Ser53Phe)が85%と高頻度に検出される。わが国では遺伝学的に明らかにされたZ型の報告はない。deficient型バリアントでは変異AAT分子の折りたたみ構造が変化し、肝細胞の小胞体内で重合体polymerを形成して蓄積し流血中へ分泌できなくなるため、血清中濃度が低下する。さらに、好中球エラスターゼ阻害活性自体も低下している。 dysfunctional型バリアントは血液中のAAT蛋白量は正常であるが好中球エラスターゼ阻害活性が低下したタイプで、F型(Arg223Cys)が知られている。■ 病態生理1)好中球エラスターゼ阻害活性の低下~喪失によりもたらされる影響血清AAT濃度は通常20~50μMであり、気道被覆液中に拡散し好中球エラスターゼに代表されるセリンプロテアーゼによる組織破壊に対し防御的に働いている。しかし、11μM以下(<50mg/dL)になるとプロテアーゼによる組織破壊を十分防げず肺気腫が進行する(プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡)。Z型では、血清AAT濃度は約2~10μMと著明に低下している。喫煙は、AAT正常者でもCOPD発症の最大の危険因子であるが、AATDでは喫煙感受性が非常に高く、より若年で肺気腫が進行しCOPDを発症する。一方、MZなど正常型とdeficient型のヘテロ接合型は、その中間の血清AAT濃度(>11μM)を呈するため、COPDを発症するリスクはないとされてきたが、最近の研究ではCOPD発症リスクがあるとする成果も報告されている。2)小胞体内や細胞外での変異AAT重合体の蓄積変異AATは小胞体内で重合体を形成して貯留し、小胞体ストレスとなり細胞を障害する。これが肝障害の主たる要因である。変異AAT重合体は、流血中、肺の気道被覆液中、肺組織などの組織間液中などの細胞外でも検出される。細胞外の変異AAT重合体は炎症を誘起する作用があり、好中球や単球に対する走化性因子や活性化因子として作用し、肺での炎症のみならず、脂肪織炎や血管炎の発症に関与すると考えられている。■ 臨床症状労作時息切れ、咳や痰などの呼吸器症状はもっともよくみられる初発症状であるが、本症に特異的な症状はない。肺疾患の有病率は主に患者の喫煙歴に依存し、喫煙歴のあるAATD患者では70%以上がスパイロメトリーでCOPDの基準を満たすが、非喫煙者では約20~30%程度である。AATDの肺気腫は汎細葉性肺気腫であり、細葉中心性肺気腫の病理像を示すAAT正常者とは異なる。胸部単純X線所見では、AAT正常者のCOPDと異なり下肺野優位に肺気腫を示唆する透過性亢進を認める(図2)。胸部CTでは汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認め、気管支拡張を伴う例もある(図3)。図2 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部X線所見画像を拡大する肺野全体の透過性亢進、血管影の減少を認めるが、両側下肺野に著しい。図3 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部高分解能CT画像画像を拡大する(A)AAT正常のCOPD症例。細葉中心性肺気腫を示唆する低吸収領域を認める。(B)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認める。(C)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域とともに気管支拡張像を認める。■ 経過と予後非喫煙AATD患者ではCOPDの発症は少なく、喫煙AATD患者より生存期間も長い。例えば、非喫煙AATDでCOPDを発症した症例の死亡年齢の中央値は65歳であるのに対し、喫煙AATDでCOPDを発症した症例は40歳と報告されている。さらに、PI*ZZ(Z型バリアントのホモ接合)のAATDの非喫者で無症状の場合は、ほぼ正常の寿命が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ どのような状況でAATDを疑い、血清AAT濃度を測定するか?AATDを疑って血清AAT濃度(ネフェロメトリー法)を測定する事が何よりも重要である 3,4)。従来から、一般的COPDとはやや異なる臨床像(若年者、非喫煙者、喫煙歴があったとしても軽度、COPDの家族歴など)を示すCOPD患者などでは血清AAT濃度を測定するべき3)とされてきた(表 ATR/ERSステートメント)。しかし、有病率の高いヨーロッパや北米でさえ、今だにAATDのunderdiagnosis状況が持続しており、2016年の成人AATD患者の管理・治療ガイドライン4)やGOLD 2022レポートでは、「すべてのCOPD患者には、年齢、人種を問わず、AATDの診断テストを行うべきである」と述べている(表)。表 どのようなときにAATDを疑い、診断のための検査を考慮するべきか?画像を拡大する■ 診断基準AATDは、血清AAT濃度<90mg/dL(ネフェロメトリー法)と定義され、AAT欠乏の程度は、軽症(血清AAT濃度50~90mg/dL)あるいは重症(<50mg/dL)の2つに分類される5)。AATは急性相反応蛋白質であるため感染症などの炎症性疾患では増加すること、一方、肝硬変、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性胃腸症などの他の原因でも減少しうるので、診断に際してはこれらの病態を除外する必要がある。指定難病では、重症度2以上が医療費助成の対象となる。重症度の評価方法については難病情報センターを参照されたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 予防を含めた全般的考え方肺疾患の予防には、喫煙しない、受動喫煙も含めて有害粒子の吸入曝露を避けること、が大切である。AATD患者では、定期的にスパイロメトリーあるいは胸部CTを行い、肺疾患の発症あるいは進行をモニタリングする。COPDを発症している場合には、COPDの治療と管理のガイドラインに準じて治療を行う。呼吸不全に至った症例では肺移植の適応となる。肝疾患発症の危険因子についてはよくわかっていないが、肥満は肝疾患のリスクを高め、男性は女性よりリスクが高い。AATD患者では肝炎ウイルス(HAV、HBV)のワクチン接種、アルコールを摂取しすぎない、健康的な食事を心がけることが推奨されている。AATD患者では、年1回程度の採血による肝機能のモニタリング、腹部超音波検査による肝がんのスクリーニングを適宜行う。■ AAT補充療法(augmentation therapy)病因・病態に則した治療としてAAT補充療法がある。ヒトのプール血漿から精製されたAAT製剤を週1回点滴静注(60mg/kg)する治療であり、CT画像における気腫病変の進行を遅らせる効果、死亡率を低下させる効果が報告されている。わが国では4名の重症AAT患者が参加した治験が実施され6)。欧米人で示されている安全性と薬物動態、すなわち、AAT(60mg/kg)を週1回点滴静注することにより、肺胞破壊に対し防御的な血清AAT濃度>11μM(>50mg/dL)を維持できることが示された。その結果、ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター(商品名:リンスパッド)点滴静注用1,000mg(凍結乾燥製剤)(海外商品名:Prolastin-C)として2021年7月に上市された。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビターは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気流閉塞を伴う肺気腫などの肺疾患を呈し、かつ、重症AATDと診断された患者[血清AAT濃度<50mg/dL(ネフェロメトリー法で測定)]に投与する。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター1,000mgを添付溶解液20mLで溶解し、ヒトAATとして60mg/kgを週1回、患者の様子を観察しながら約0.08mL/kg/分を超えない速度で点滴静注する。最後に、ルート内のAATすべてが患者に投与されるよう生理食塩液25mLに換えて同じ速度で点滴して終了する。体重60kgの成人では、全体で約20分以上を要する。AAT補充療法を開始するタイミングについて明確な基準はない。週1回の点滴静注を非常に長期にわたって継続する必要があるが、数十年以上にわたって投与し続けると想定した場合、長期投与における有害事象のリスクに関する情報は乏しい。成人AATDの治療と管理のガイドラインでは、FEV1<65%predの症例では、患者の意向を確認した上でAAT補充療法を検討するとされている3,4)。肝障害に対する特異的治療はなく、栄養指導、門脈圧亢進症の管理などの支持療法が主体である。門脈圧亢進症がある場合には、出血のリスクがあるためNSAIDsの投与は避ける。重症の肝不全では肝移植が適応となる。4 今後の展望患者細胞からiPS細胞を樹立し、肝細胞に分化させた後にゲノム編集で病的バリアントを正常バリアントに換えて患者に移植する研究、siRNAによる肝細胞でのSERPINA1発現のサイレンシング、異常AATのポリマー形成を阻害する薬剤などの試みがある。近年、AATDの正確な実態把握と治療効果の追跡を継続的に行い、長期的な管理戦略を構築することを目的に、欧州では多国間にわたる臨床研究協力の取り組みが始まっている。わが国においては、呼吸器財団、日本呼吸器学会、厚生労働省難治性疾患政策研究事業、難病プラットホームの4者の支援を受け、本症を含めた希少肺疾患を対象としたレジストリ(登録制度)が開設されている。希少肺疾患登録制度5 主たる診療科主たる診療科は呼吸器内科となる。肝疾患については消化器内科、脂肪織炎や肉芽腫性血管炎では皮膚科および関連する診療科と連携する必要がある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター α1-アンチトリプシン欠乏症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alpha-1 Foundation 米国の患者団体ホームぺージ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)希少肺疾患登録制度(医療従事者向けのレジストリ情報サイト)1)Greene CM, et al. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16051. 2)Seyama K, et al. Respir Investig. 2016;54:201-206. 3)American Thoracic Society;European Respiratory Society. Am J Respir Crit Care Med. 2003;168:818-900. 4)Sandhaus RA, et al. Chronic Obstr Pulm Dis. 2016;3:668-682.5)佐藤晋ほか、難治性呼吸器疾患・肺高血圧に関する調査研究班.α1-アンチトリプシン欠乏症診療の手引き2021 第2版. 2021.6)Seyama K, et al. Respir Investig. 2019;57:89-96. 公開履歴初回2022年5月12日

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食道扁平上皮がんに対する1次治療における新たな抗PD-L1阻害薬sintilimabの有用性(解説:上村直実氏)

 切除不能進行・再発食道扁平上皮がんに対するファーストライン治療は、シスプラチンを中心とした白金製剤と5-FUないしはパクリタキセルの2剤併用化学療法であったが、最近、1次治療から化学療法に免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-L1阻害薬)を加えたレジメンの有用性が次々と報告され、日常診療における治療方針が急激に変化している。すなわち、最近のランダム化比較試験の結果、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、camrelizumab、toripalimabと化学療法の併用群が化学療法単独群と比較して安全性に差を認めない一方、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が有意に延長することが示されている。今回は、すでに報告されている4剤と同様の試験デザインによって、5番目の抗PD-L1阻害薬であるsintilimabの切除不能食道扁平上皮がんに対する同様の有効性がBMJ誌に報告されている。 わが国の臨床現場でも食道学会ガイドラインに記載されるとともに、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)が保険収載され、切除不能食道がんに対する1次治療における有用性が実際の診療において役に立つ体制が整備されつつあると思われる。ただ一方では、これら高価な抗PD-L1阻害薬によるOSの延長期間は3ないしは4ヵ月間であるが、コストパフォーマンスの観点からこの延命期間がコストに適合したものかどうか議論されていることも事実である。 最後に、筆者のコメントでは必ず述べているが、日本における食道がん診療は欧米と異なる保険診療体制の下「がんの早期発見」による死亡率低下に注力しており、内視鏡検査により小さな早期がんを発見し、内視鏡的切除により根治することが可能となっていることを強調したい。

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甘くみてはいけない便秘症と便秘のみえる化/EAファーマ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)よる「巣ごもり生活」は3年目に入った。新型コロナで依然として不自由な日常生活が続く中で、運動不足や偏った食生活により「お通じに問題あり」という人が増えているという。 EAファーマ株式会社は、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)を講師に迎え、便秘症がもたらすリスクとその治療の重要性について、講演を行った。コロナ禍で排便状況など半数以上が「変わった」と回答 中島氏は、「巣ごもり生活で注意すべき国民病、便秘症が招く思わぬリスクと治療の重要性」をテーマに、便秘症に関する最新の知見、排便の仕組み、便秘の原因、治療などについてレクチャーを行った。 新型コロナウイルスによる外出自粛と便秘について、あるアンケート調査によれば「排便やうんちの状態が変わった」と回答した人は半数以上にのぼった。また、近年の厚生労働省の調査では、若年層では女性に多く、70歳以上では男女ともに便秘の有訴者率が増加しており、高齢者になるほど便秘の比率が増えている1)。 そして、最近の研究では便秘症と生存率に関連があることも指摘され、とくにトイレの中で非外傷性心停止なども約10%報告され2)、高齢者では「いきむ」ことで血圧が上昇しやすいこと、排便回数が少ないと脳卒中の死亡リスクが高いこと、電解質異常が慢性腎臓病とも関連するなど生命予後に影響することが指摘されている。その一方で、「患者側にはこうした情報はあまり伝わっておらず、便秘症が軽くみられていることに問題がある」と中島氏は指摘する。排便回数だけでなく、便の形状も大事 次に排便について触れ、満足度の高い排便とは「迅速」かつ「完全」であることが大切であり、理想的な排便姿勢は前かがみに斜め35度、背筋を伸ばし腹筋にだけ力をいれ、両肘は太ももの上に置くのがよいとされている。また、足元に台など置くとより効果がある。同様に排出した便の形状も重要で、ブリストル便形状スケールで3または4の正常便(バナナ状)が望まれ、短時間(30秒程度)にすっきりとこうした便が排出されることが健康な状態となる。便秘などに「お通じホルモン」の胆汁酸が関係 現在診療で使用されている「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」によれば、便秘症とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義している。その診断基準としては、「(排便の1/4超の頻度で)強くいきむ必要/兎糞状便または硬便である/残便感を感じる/直腸肛門の閉そく感や排便困難感/摘便などの排便介助が必要、自発的な排便回数が週に3回未満」のうち2項目以上を満たした場合を便秘症と診断する。また、慢性便秘症では、「6ヵ月以上前から症状があり、最近3ヵ月間は便秘症の基準を満たしていること」を診断基準としている。 とくに高齢者では、腸管運動に関与する神経変化や生活環境の変化などにより便秘症になりやすく、便意も鈍感になる傾向にある。そして、便滞留により便が硬化、排便困難となることで便意が低下し、さらに滞便をまねくという負のスパイラルになることが危惧されている。そのため、便秘症の治療では、大腸運動の状態、便意を確認することも重要になる。 そのほか最近の研究で便秘などに胆汁酸が関係していることが明からとなり、大腸運動や大腸の水分分泌の促進などを促す、「お通じホルモン」であることがわかってきている。実際、便秘症患者は健康な人と比較し、便中胆汁酸量が少ないことが報告されている3)。便秘症治療、刺激性下剤は頓用で使う 便秘の治療では、まず「運動、食事、排便習慣」の生活習慣改善が求められる。しかし、それでも便秘状態が改善しない場合には、緩下剤(マンナなど)、強下剤(センナなど)、強強下剤(酸化マグネシウムなど)が症状に応じて使用される。 治療の際の注意点として、酸化マグネシウムの使用につき先述のガイドラインでは、「慢性便秘症に有効としながらも、定期的なマグネシウム測定を推奨する」とし、推奨の強さは「1(強い実施推奨)」、エビデンスレベルも「A(質の高いエビデンス)」となっており、高齢者では高マグネシウム血症を来す可能性が高いとされる。 ほかにも刺激性下剤の使用について同ガイドラインでは、「慢性便秘症に有効としながらも、頓用または短期間の投与を提案する」とし、推奨の強さは「2(弱い実施推奨)」、エビデンスレベルも「B(中程度の質のエビデンス)」となっており、連用での耐性、習慣性、依存性への問題回避が記され、適正使用が求められている。便秘症の診断、最近ではエコーで直腸の実施も 最後に便秘症の診断法について触れ、通常、便秘症では直腸指診が必要とされるが、最近では腹部エコーによる直腸へのエコーで慢性便秘症の診断も実施されている(なお直腸へのエコーは保険適用外)。これにより便秘診断のみえる化や患者への最適な医療が行われつつあるという。 最後に中島氏は、「現在ではスマホサイズのポケットエコーを使用すれば、在宅や往診で診療もでき、最適な便秘治療ができる時代が到来している」と語りレクチャーを終えた。

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進行食道扁平上皮がん1次治療、化療にsintilimab併用でOS延長/BMJ

 進行または転移のある食道扁平上皮がんの1次治療において、シスプラチン+パクリタキセル併用療法へのsintilimab上乗せは、プラセボと比較し全生存(OS)期間および無増悪生存(PFS)期間を有意に延長することが示された。中国・Peking University Cancer Hospital and InstituteのZhihao Lu氏らが多施設共同無作為化二重盲検第III相試験「ORIENT-15試験」の結果を報告した。進行または転移のある食道扁平上皮がんの1次治療は、これまで標準ガイドラインに従いプラチナ製剤を含む2剤併用化学療法に限られてきたが、一部の無作為化試験では、1次化学療法後に進行した食道扁平上皮がんに対して抗PD-1抗体単剤療法が有効であることが示されていた。BMJ誌2022年4月19日号掲載の報告。進行食道扁平上皮がん患者659例においてOSを評価 研究グループは、2018年12月14日~2021年4月9日の期間に、中国の66施設および中国外(フランス、スペイン、米国、オーストラリア)の13施設において、18歳以上の未治療進行または転移のある食道扁平上皮がん成人患者659例を、化学療法に加えてsintilimab(体重60kg未満は3mg/kg、体重60kg以上は200mg)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた(sintilimab群327例、プラセボ群332例)。化学療法は、当初、シスプラチン75mg/m2+パクリタキセル175mg/m2の3週間ごと併用投与であったが、後に治験担当医師がシスプラチン+パクリタキセルまたはシスプラチン+5-FU(800mg/m2、1~5日目)のいずれかを選択できるよう修正された。 主要評価項目は、全患者およびPD-L1陽性(CPS≧10)患者におけるOSであった。 無作為化された659例中、616例(93%)がシスプラチン+パクリタキセル、43例(7%)がシスプラチン+5-FUの投与を受けた。sintilimab+化学療法群のOS期間、4ヵ月以上有意に延長 中間解析(データカットオフ日2021年4月9日)において、OS期間中央値は全患者でsintilimab群16.7ヵ月、プラセボ群12.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.51~0.78、p<0.001)、PD-L1陽性患者でそれぞれ17.2ヵ月、13.6ヵ月(0.64、0.48~0.85、p=0.002)であり、いずれもsintilimab群で有意に延長した。 また、PFS期間中央値も、全患者でsintilimab群7.2ヵ月、プラセボ群5.7ヵ月(HR:0.56、95%CI:0.46~0.68、p<0.001)、PD-L1陽性患者でそれぞれ8.3ヵ月、6.4ヵ月(0.58、0.45~0.75、p<0.001)であり、いずれもsintilimab群で有意に延長した。 治療関連有害事象の発現率は、sintilimab群98%(321/327例)、プラセボ群98%(326/332例)、Grade3以上の治療関連有害事象の発現率はそれぞれ60%(196/327例)、55%(181/332例)であった。

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日本人精神疾患患者における第2世代抗精神病薬治療後のHbA1cの閾値下変化

 第2世代抗精神病薬(SGA)の種類により糖尿病発症リスクが異なることは、いくつかの研究で報告されている。しかし、HbA1cの閾値下の変化に焦点を当てた研究は、ほとんどない。北海道大学の澤頭 亮氏らは、6種類のSGAのうち、いずれかを使用している日本人患者を対象に、HbA1cの閾値下およびBMIの変化について調査を行った。その結果、糖尿病リスクの高い患者に対しては、ブロナンセリン治療が最も有用な治療法である可能性が示唆された。The Journal of Clinical Psychiatry誌2022年3月30日号の報告。 本研究は、統合失調症患者に対し、日本の血糖モニタリングガイドラインに基づいてフォローアップ調査を実施したプロスペクティブコホート研究である。2013年4月~2015年3月の期間に、ベースライン時およびSGA治療開始3ヵ月後の時点で、患者の人口統計学的データ、薬歴、血液検査値、体重測定値を収集した。対象は、ICD-10に基づく統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害の患者378例。抗精神病薬による治療開始から3ヵ月後のHbA1cの閾値下およびBMIの変化を比較するため、多変量回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ブロナンセリン開始3ヵ月後のHbA1cの閾値下の変化は、オランザピンと比較し、有意に低かった(B=-0.17、95%CI:-0.31~-0.04)。・ブロナンセリン(B=-0.93、95%CI:-1.74~-0.12)およびアリピプラゾール(B=-0.71、95%CI:-1.30~-0.12)開始3ヵ月後のBMIの変化は、オランザピンと比較し、それぞれ有意に低かった。

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第106回 新しい公立病院の経営ガイドライン、「リストラ色」薄まるも総務省の本音は再編・統合推進か

市立大津市民病院、京大医局派遣の医師27人全員が年度内に退職へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、「第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚」「第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、「パワハラなし」、理事長引責辞任でひとまず幕引き」「第104回 パワハラ事件に大甘の医療界、旭川医大、大津市民の幕引きの背後に感じた“バーター”の存在」で伝えてきた市立大津市民病院(30診療科、401床)の大量退職事件に再び動きがありました。4月18日、済生会滋賀県病院(栗東市)の院長補佐だった日野 明彦氏(京都府立医大 脳神経外科学教室出身)が新院長に就任したのですが、その翌日、新たに脳神経内科4人、麻酔科2人、放射線科の非常勤医師1人の計7人が年度内に退職する意向を持っていることが明らかになったのです。これで同病院在籍の京大医局派遣の医師27人全員が年度内に退職見込みとなりました(6人はすでに退職)。病院の診療体制としてはボロボロと言えます。4月25日のびわこ放送等の報道によれば、同日、大津市の佐藤 健司市長は定例会見で病院の設置者として改めて謝罪し、「今後も医師確保を含めた法人運営の後押しを全力で進めていく」と説明したとのことです。また、佐藤市長は、4月15日に滋賀医科大学を訪れて市立大津市民病院の運営立て直しへの協力を求めたことも明らかにしています。大津市には市立大津市民病院のほかに、日本赤十字社・大津赤十字病院(37診療科、684床)という京都大学系の巨大公的病院があり、患者獲得競争を繰り広げてきました。仮に今回の事件をきっかけに、市立大津市民病院の人気が落ち、ジリ貧になっていくとしたら、2病院の再編・統合話が出てくる可能性もゼロではないと思います。総務省が「公立病院経営強化ガイドライン」公表ということで、今回は総務省が3月29日に公表した「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(令和4年3月29日 総財準第72号 総務省自治財政局長通知)について書いてみたいと思います。公立病院、公的病院を巡っては、新型コロナ感染症流行拡大前に、厚生労働省から436病院の“リストラ”リストが公表され、全国の公立・公的病院関係者を青ざめさせました(「第23回 実は病院経営に詳しい菅氏。総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(前編)」参照)。コロナの感染拡大もあって、このリストラ計画は中断したままでした。しかし、今回の新ガイドライン公表と合わせる形で、厚労省も第8次医療計画(2024年度から実施)の策定作業と並行して、公立・公的病院だけでなく民間病院も含めた機能の再検証を行うことを都道府県に求めています。再び各地で再編・統合の議論が活発化するのは必至でしょう。3回目のガイドライン、「改革」の文言がなくなり「経営強化」に公立病院を管轄する総務省が、その経営改革に関するガイドラインを公表するのは2007年12月、2015年3月に続いて3回目です。ガイドライン作成の背景には、全国の公立病院の多くは経営状況が非常に悪く、医療提供体制の維持が極めて厳しい状況にあったことがありました。これまでの2回は「公立病院改革ガイドライン」でしたが、今回は「改革」の文言がなくなり、「公立病院経営強化」とタイトルが微妙に変わっています。新型コロナ感染症対応で、地域の公立病院の必要性が再認識されたことも影響したと考えられます。旧ガイドラインで強調されていた「再編(リストラ)」色は薄まる旧ガイドライン(2015年版)は「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」と「再編・ネットワーク化」に力点が置かれていました。それに対し、新ガイドラインは個々の病院の「経営力強化」「機能強化」に力点が置かれています。新ガイドラインは「公立病院経営強化の基本的な考え方」として、「公立病院が直面する様々な課題のほとんどは、医師・看護師等の不足・偏在や人口減少・少子高齢化に伴う医療需要の変化に起因するものである。これらの課題に対応し、持続可能な地域医療提供体制を確保するためには、医師確保等を進めつつ、限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最大限効率的に活用するという視点を最も重視し、新興感染症の感染拡大時等の対応という視点も持って、公立病院の経営を強化していくことが重要」と述べています。そして、その経営強化のためには、「地域の中で各公立病院が担うべき役割・機能を改めて見直し、明確化・最適化した上で、病院間の連携を強化する『機能分化・連携強化』を進めていくことが必要である。特に、機能分化・連携強化を通じて、中核的医療を行う基幹病院に急性期機能を集約し医師・看護師等を確保するとともに、基幹病院から不採算地区病院をはじめとする基幹病院以外の病院への医師・看護師等の派遣等の連携を強化していくことが重要である。その際、公立病院間の連携のみならず、公的病院、民間病院との連携のほか、かかりつけ医機能を担っている診療所等との連携強化も重要である」と、公民の区別なく地域において「機能分化・連携強化」を進める必要性を説いています。内容的にも新型コロナウイルス感染症対策において地域の公立病院が果たした役割などを勘案し、旧ガイドラインで強調されていた「再編(リストラ)」色が薄まった印象です。「都道府県の役割・責任強化」もより強調こうした前提のもと、新ガイドラインは2022~23年度中に「経営強化プラン」を策定することを求めています。すでに「自主的に改革プランを策定している病院」などでも、新ガイドラインで要請されている部分と比べて「不足」があれば、その分を追加策定する必要があるとし、また、すでに「従前の改革プランに基づいて再編やネットワーク化、経営形態見直しに取り組んでいる病院」でも、現在の取り組み状況や成果を検証し、さらなる経営力強化のために新ガイドラインに沿った経営強化プランを策定するよう求めています。旧ガイドラインで初めて盛り込まれた、病院の再編・統合に当たっての「都道府県の役割・責任強化」についても、より強調される内容となりました。「都道府県が、市町村のプラン策定や公立病院の施設の新設・建替等にあたり、地域医療構想との整合性等について積極的に助言すること」や「医療資源が比較的充実した都道府県立病院等が、中小規模の公立病院等との連携・支援を強化していくことが重要」としています。ドラスティックな再編・ネットワーク化の事例も紹介総務省は4月20日、この新ガイドラインの説明会をオンラインで開催、その中で最新の「公立病院の経営状況」を明らかにしています。それによると、853病院全体での2020年度の経常収支は1,251億円の黒字でした。コロナ関連補助金により980億円の赤字だった前年度(857病院)から大きく改善したものの、本業に当たる医業収支ベースでは6,010億円と大幅な赤字でした。また、病床規模別の経常収支は「500床以上」(95病院)が584億円の黒字だったのに対し、「100床未満」(255病院)では1億円の黒字に留まったそうです。コロナ対応をしていた病院でも1億円程度の黒字でしかないということは、コロナ後は再び大きな赤字転落になることを意味します。新ガイドラインの最後には、資料として「平成27年度から令和2年度までの間に実施済み又は実施中の再編・ネットワーク化の事例」が多数掲載されています。公立、公的、民間併せたさまざまな再編(統合、病床削減、病院の診療所化等)のケースは、どれもドラスティックです。地方の病院で働く方は、この資料だけも目を通しておくといいと思います。こうした事例を最後に掲載していることからも、「再編(リストラ)」色が薄まった新ガイドラインですが、「地域の病院の再編・統合に向けて、都道府県は今まで以上に積極介入をして欲しい」というのが総務省の本音と言えるでしょう。参考1)公立病院経営強化ガイドライン/総務省

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不眠症治療に対するプライマリケア患者の好み

 睡眠障害は、プライマリケアにおいて一般的に認められる。主な治療オプションには、不眠症に対する薬物療法および認知行動療法が挙げられる。そして、ベストプラクティス・ガイドラインでは、治療に対する協調的意思決定アプローチが推奨されている。米国・バージニア・コモンウェルス大学のElliottnell Perez氏らは、プライマリケア患者の人口統計学的および臨床的特徴に基づいた不眠症治療に対する好みの違いについて、検討を行った。Clinical Therapeutics誌オンライン版2022年3月28日号の報告。重度の不眠症患者では認知行動療法を好んだ割合が有意に高かった 大学医療センターおよび地域のクリニックより抽出された200例(平均年齢:54.92±12.48歳)を対象に、不眠症、うつ病、不安症、不眠症治療に対する好みについて、簡易アンケートを実施した。不眠症は不眠症重症度質問票、うつ病はPHQ-2、不安症はGAD-2を用いて評価した。群間の不眠症治療に対する好みの有意差を検出するためχ2分析を用いた。 不眠症治療に対する好みについて簡易アンケートを実施した主な結果は以下のとおり。・薬物療法を好んだ患者は46.5%、認知行動療法を好んだ患者は56.0%であった(評価は排他的ではない)。・重度の不眠症患者では、認知行動療法を好んだ割合が有意に高かった(好ましい:15.2%、好ましくない:4.5%、p=0.002)。・不安症状が強い患者では、薬物療法を好んだ割合が高かった(57.3% vs.42.7%、p=0.017)。・うつ病患者の中で、うつ症状の強い患者では、認知行動療法(66.7% vs.33.3%、p=0.012)および薬物療法(56.8% vs.43.2%、p=0.016)を好んだ割合が最も高かった。・治療に対する好みの違いは、認知行動療法において年齢のみで認められた(p=0.008)。・治療を好む割合は、51歳以下の患者で最も高かった(67.2% vs.32.8%)。 著者らは「プライマリケア患者は、不眠症治療に対する認知行動療法および薬物療法を好むことがわかった。また、メンタルヘルスや睡眠の状態が悪化するほど、患者は認知行動療法を好む傾向が示唆された。患者の治療に対する好みを理解することは、意思決定の共有の促進につながり、治療満足度や治療への関与の向上に寄与すると考えられる」としている。

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2ヵ月1回の注射が女性をHIV感染から守る(解説:岡慎一氏)

 性交渉によるHIV感染に対するリスクグループは、不特定多数を相手にする男性同性愛者(men who have sex with men:MSM)およびcommercial sex worker(CSW)を中心とした女性である。性交渉によるHIV感染予防には、コンドームの使用などsafer sexの実施が推奨されてきたが、それだけでは不十分であることが、多くの疫学データから示されていた。 一方、MSMにおいては、10年以上前よりHIVウイルスに曝露する前に予防的にTDF-FTC(今回のコントロール薬)を服用する曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis:PrEP)の有効性が証明されており、すでに90ヵ国以上の国でPrEPが実施されている。WHOも2015年にPrEPを強く推奨するガイドラインを出しているが、残念ながら日本では2022年5月現在まだ承認されていない。 ところが、女性の場合、PrEPの有効性はあまり芳しくなかった。これは、女性がPrEP薬を服用することにより、CSWではないかという差別・偏見を受けたり、コンドームを使用してもらえなくなるなどのマイナス面があり、服薬の遵守(Adherence)が低くなりがちであることが影響していた。 治療においても一番重要な点はAdherenceである。現在、HIV感染症に対する治療法は進歩し、1日1回1錠で治療できるようになっているが、実臨床の場ではそれでも飲み忘れは起こり、治療の失敗が起こる。このAdherenceの問題を解決してくれたのが、半減期延長型の注射剤である。治療においては、今回のcabotegravirとリルピビリンの2剤を4週もしくは8週に1回注射することにより、治療の成功率が飛躍的に改善した。 今回は、その注射剤であるcabotegravirを8週間おきに注射し、PrEPの効果を検討したものである。今まで予防効果が安定していなかった女性においても、現在認可されている経口のTDF-FTCと比較し、注射剤での予防効果が有意に勝っていた。MSMにおいても同様の結果は示されており、薬価の問題が克服されれば、今後のPrEPは、長期作用型の注射剤が主流になってくるであろう。

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