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実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」【非専門医のための緩和ケアTips】第33回

第33回 実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」今日は緩和ケアにおけるメジャートピックである、がん疼痛に対する鎮痛アプローチのお話です。皆さんはWHOの「がん疼痛ガイドライン」って、聞いたことがある方が多いのではないでしょうか?この中の「WHOラダー」は、実際の臨床に活用している方も多いと思います。実は最近このアプローチが大きく変わってきているので、一緒に学んでいきましょう。今日の質問がん疼痛における基本指針といえば、WHOラダーですよね。私も長年、ラダーに従って実践してきたのですが、最近、変更があったと聞きました。どういった点が変更されたんでしょうか?ご質問者のおっしゃる通り、WHOのがん疼痛治療が変更になりました。そして私たち、長年緩和ケアに関わってきた医療者にとって非常になじみ深かった、「WHOラダーの推奨」が削除されることになりました。え! と思われた方も多いかもしれませんので、その背景をお話ししていきましょう。1990年代から2000年代に緩和ケアを学んだ方は「がん疼痛といえばWHOラダー!」と教わったと思います。「がん疼痛を見たら、まずはNSAIDsを使用し、弱オピオイドを導入、その後は強オピオイドを用いる」というアプローチです。この「ステップを踏んでいく」のが、ラダー(梯子)の名称たるゆえんです。ただ、最初から強い痛みを訴えるがん患者さんに対し、ラダー通りに「手順を踏む」よりも、最初から強いオピオイドを使用したほうがよいのでは? というのは長く議論されていた点でした。そして、2019年にがん疼痛のWHOガイドラインが改定され、従来の「がん疼痛の5原則」から「ラダーに基づいて」の項目が削除され、4原則となりました。この変更はわれわれにとってどういった意味を持つのでしょうか? ここからは私見になりますが、「今まで以上に、個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められる」のだと感じます。「ラダーに従えば、次は弱オピオイドなので、とりあえずそれで処方しよう」といった実践ではなく、痛みの程度や経過の予測を踏まえて、適切な介入が求められているのだと思います。緩和ケアに関わるほとんどの方が耳にしてきた「WHOのガイドライン」もこうして時代に合わせて改定されます。目の前の患者さんにベストの治療を提供するためにわれわれもアップデートしていく必要性を感じます。今回のTips今回のTipsWHOのがん疼痛への鎮痛アプローチが変更されています。これまで以上に個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められるでしょう。

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統合失調症患者の肥満治療~システマティックレビュー

 統合失調症の病態および抗精神病薬の使用は、臨床的に有意な体重増加や、それに伴う死亡リスクの増加と関連している。FDA、EMA、MHRAなどから承認されている減量薬が利用可能であるにもかかわらず、現在の精神医学ガイドラインでは適応外の代替が推奨されており、これは肥満に関する精神医学以外のガイドラインの内容とも異なっている。英国・Royal Oldham HospitalのKenn Lee氏らは、統合失調症および精神病における抗精神病薬誘発性の体重増加および肥満の治療に対する、承認済み減量薬の有効性の評価を行った。その結果、いくつかの承認済み減量薬のうち、リラグルチドのエビデンスが最も強力であることが示唆された。General Hospital Psychiatry誌オンライン版2022年7月14日号の報告。 ヒトを対象に、抗精神病薬誘発性の体重増加および肥満の治療に対する承認済み減量薬の有効性を評価した研究を、Medline、EMBASE、PsycINFO、Cochrane Libraryのデータベースより検索した。 主な結果は以下のとおり。・3件のRCT(リラグルチド:2件、naltrexone-bupropion配合剤:1件)、未公表の非盲検試験1件(naltrexone-bupropion配合剤)、観察研究7件(リラグルチド:5件、セマグルチド:1件、複数の減量薬:1件)が特定された。・リラグルチドはメタ解析において、体重、BMI、胴囲、HbA1c、コレステロール、LDLの有意な改善が認められた。・naltrexone-bupropion配合剤のエビデンスに一貫性は認められず、setmelanotideおよび神経刺激薬の詳細な研究は行われていなかった。

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がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 2 がん医療における患者-医療者間のコミュニケーション ガイドライン 2022年版

がん医療の現場で役立つ、適切なコミュニケーションを行うための指針を刊行がん医療では、がんの診断や再発・進行、抗がん治療の中止など、患者にとって衝撃的な情報を伝えたうえで最善の意思決定を行うという、難しいコミュニケーションが必要となる。本書では、そのような「悪い知らせ」を伴う治療選択などの場面における、医療者と成人がん患者のコミュニケーションを対象とし、7件の臨床疑問を設けてエビデンスに基づく解説と推奨を提示した。コミュニケーションに関する基礎知識の解説や、各臨床疑問の補足資料なども多く盛り込まれた、がん医療に携わる医療者必携の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 2がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン 2022年版定価2,420円(税込)判型B5判頁数160頁・図数:19枚発行2022年7月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会電子版でご購入の場合はこちら

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がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 3 遺族ケアガイドライン 2022年版

大切な人を失った遺族の診療とケアに関する、本邦初のガイドラインがんを含めた身体疾患によって、家族や恋人・パートナーなどの重要他者を亡くした遺族の診療とケアに関するガイドライン。死別に伴う悲嘆反応の多くは時間の経過とともに軽減するが、精神心理的苦痛の強い一部の遺族に対しては適切な介入や支援が必要となる。本書では、前半で悲嘆や家族・遺族ケアの基礎知識を総論として解説し、後半では治療的介入が必要な遺族の診断と治療法を解説するとともに、非薬物療法と薬物療法に関する2件の臨床疑問を設けて推奨を提示した。遺族ケアの幅広い知識を得られる、充実した1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 3遺族ケアガイドライン 2022年版定価2,420円(税込)判型B5判頁数144頁・図数:11枚発行2022年7月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会電子版でご購入の場合はこちら

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がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1 がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版

がん診療の現場で役立つ、せん妄に関する指針を3年ぶりに改訂!せん妄はがん医療の現場において高頻度で認められる病態であり、超高齢社会を迎えた日本では今後さらに、せん妄の予防や対策が重要となる。今改訂では、終末期せん妄への対応や、せん妄に対する病院組織としての取り組み方についての解説を総論に加えたほか、「予防」などに関する臨床疑問が新たに追加された。また、薬物療法における薬剤選択や投与量などを解説した「臨床の手引き」の章も新設され、より臨床現場で役立つ1冊となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版定価2,640円(税込)判型B5判頁数200頁・図数:3枚・カラー図数:6枚発行2022年6月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会電子版でご購入の場合はこちら

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乳癌診療ガイドライン 2022年版 (1:治療編/2:疫学・診断編)

4年ぶりの全面改訂! 医療者と患者のShared Decision Makingを実現乳癌の治療(薬物療法、外科療法、放射線療法)および疫学・診断(疫学・予防、検診・画像診断、病理診断)に関する臨床議題をバックグラウンドクエスチョン(BQ)・クリニカルクエスチョン(CQ)・フューチャーリサーチクエスチョン(FRQ)に分類し、それぞれの科学的根拠、益と害のバランス、患者の希望の一貫性、経済的視点などを踏まえて作成された最新の診療指針。治療編には新たに全体の総説を掲載。医療者と患者のShared Decision Making実現に必携の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。1:治療編2:疫学・診断編画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。1:治療編2:疫学・診断編 乳癌診療ガイドライン1 治療編 2022年版定価6,050円(税込)判型B5判頁数512頁発行2022年7月編集日本乳癌学会電子版でご購入の場合はこちら乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編 2022年版定価4,950円(税込)判型B5判頁数408頁発行2022年7月編集日本乳癌学会電子版でご購入の場合はこちら

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コロナによる嗅覚・味覚障害が長期持続する人の割合~メタ解析/BMJ

 成人の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による嗅覚・味覚障害の長期持続者は、それぞれ5.6%と4.4%に認められ、女性は男性に比べ、両障害ともに回復しにくい傾向がみられるという。180日回復率は、嗅覚障害が95.7%、味覚障害は98.0%だった。シンガポール国立大学のBenjamin Kye Jyn Tan氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析の結果で、「COVID-19患者のかなりの割合で、長期にわたり嗅覚や味覚に変化を生じる可能性があり、このことがlong COVID(罹患後症状、いわゆる後遺症)の負荷を増す可能性も示唆された」と述べている。BMJ誌2022年7月27日号掲載の報告。嗅覚と味覚障害を有するCOVID-19患者の観察研究を抽出 検討では、PubMed、Embase、Scopus、Cochrane Library、medRxivを創刊から2021年10月3日まで検索し、18歳以上で嗅覚または味覚障害を有するCOVID-19患者を対象にした観察研究を抽出した。time-to-event曲線を含む記述的予後研究と、予後因子に関する試験を分析対象とした。 データの抽出は2人のレビュアーがそれぞれ行い、試験のバイアスについてはQUIPS(Quality In Prognosis Studies)を、エビデンスの質(確実性)についてはGRADEを用いて評価し、さらにPRISMAとMOOSEの報告ガイドラインに従って解析した。 反復数値アルゴリズムを用いて、個別被験者データ(IPD)のtime-to-eventを再構築・統合し、distribution-free要約生存曲線(生存を維持した被験者の30日間隔で報告された回復率)を取得した。嗅覚・味覚障害持続者の割合を推算するために、プラトー生存曲線のWeibull non-mixture cureモデルからの治癒数をロジット変換し、2段階メタ解析でプールした。また従来の集計データのメタ解析により、予後因子と回復の補正前の関連性を調べた。 主要アウトカムは嗅覚または味覚障害が残る患者の割合、副次アウトカムは嗅覚・味覚の回復に関連する予後変数のオッズ比(OR)だった。嗅覚・味覚障害持続者の割合は5.6%と4.4% 4,180のレコードから18試験(被験者総数3,699例)を抽出し、IPDメタ解析を行った。バイアスリスクは、低~中等度で、エビデンスの質は中等~高度だった。 パラメトリック治癒モデルでは、全患者のうち自己申告による障害持続者の割合は、嗅覚が5.6%(95%信頼区間[CI]:2.7~11.0、I2=70%、τ2=0.756、95%予測区間[PI]:0.7~33.5)、味覚が4.4%(95%CI:1.2~14.6、I2=67%、τ2=0.684、95%PI:0.0~49.0)と推定された。感度分析では、この結果は過小評価である可能性が示唆された。 30日、60日、90日、180日時点の嗅覚回復率は、それぞれ74.1%(95%CI:64.0~81.3)、85.8%(77.6~90.9)、90.0%(83.3~94.0)、95.7%(89.5~98.3)だった(I2=0.0~77.2%、τ2=0.006~0.050)。同様に味覚回復率は、それぞれ78.8%(70.5~84.7)、87.7%(82.0~91.6)、90.3%(83.5~94.3)、98.0%(92.2~95.5)だった(I2=0.0~72.1%、τ2=0.000~0.015)。 女性は男性に比べ、嗅覚・味覚障害が回復しにくい傾向がみられた。嗅覚回復に関するORは0.52(95%CI:0.37~0.72、7試験、I2=20%、τ2=0.0224)、味覚回復に関するORは0.31(95%CI:0.13~0.72、7試験、I2=78%、τ2=0.5121)だった。嗅覚回復を困難にした要因としては、初期障害が重度であったこと(OR:0.48、95%CI:0.31~0.73、5試験、I2=10%、τ2<0.001)、鼻詰まり(0.42、0.18~0.97、3試験、I2=0%、τ2<0.001)が認められた。

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国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」【下平博士のDIノート】第103回

国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」今回は、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害剤「バルベナジントシル酸塩カプセル(商品名:ジスバルカプセル40mg、製造販売元:田辺三菱製薬)」を紹介します。本剤は、わが国で初めて遅発性ジスキネジア治療薬として承認されました。これまで治療法がなかった遅発性ジスキネジアによる不随意運動の改善効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、遅発性ジスキネジアの適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月1日に発売されました。なお、「遅発性ジスキネジア」の診断は、米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』および『統合失調症治療ガイドライン第3版』が参考とされます。<用法・用量>通常、成人にはバルベナジンとして1日1回40mgを経口投与します。なお、症状により1日1回80mgを超えない範囲で適宜増減できます。増量については、1日1回40mgを1週間以上投与し、忍容性が確認され、効果不十分な場合にのみ検討します。<安全性>遅発性ジスキネジア患者を対象とした国内第II/III相試験で認められた主な副作用は、傾眠、流涎過多、アカシジア、倦怠感などでした。重大な副作用として、傾眠(16.9%)、流涎過多(11.2%)、振戦(7.2%)、アカシジア(6.8%)、パーキンソニズム(2.4%)、錐体外路障害(2.0%)、鎮静、運動緩慢(いずれも1.2%)、落ち着きのなさ、姿勢異常(いずれも0.8%)、重篤な発疹、ジストニア、表情減少、筋固縮、筋骨格硬直、歩行障害、突進性歩行、運動障害(いずれも0.4%)、悪性症候群、蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫(いずれも頻度不明)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過剰になった脳内の神経刺激伝達を抑えることで、自分の意志とは無関係に体が動いてしまう、または無意識に口や舌を動かしてしまうなどの症状が出る遅発性ジスキネジアを改善します。2.眠くなったり、ふらついたりすることがあるので、自動車の運転などの危険を伴う機械の操作は行わないでください。3.抑うつや不安などの精神症状が現れることがあるので、体調の変化に気が付いた場合には連絡してください。4.飲み合わせに注意が必要な薬があるため、ほかの薬を使用している場合や新しい薬を使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。5.不整脈が起きていないか確認するために、心電図検査が行われることがあります。<Shimo's eyes>画像:重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚労省)より本剤は、わが国初の遅発性ジスキネジア治療薬であり、1日1回服用の経口剤です。遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬などを長期間服用することで起こる不随意運動を特徴とした神経障害であり、ドパミン受容体の感受性増加などが原因と考えられています。症状は、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせるなど、顔面に主に現れますが、手や足が動いてしまうなど四肢や体幹部でも認められます。また、重症になれば嚥下障害や呼吸困難を引き起こす可能性もあります。本剤は、神経終末に存在する小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)を阻害することにより、ドパミンなど神経伝達物質のシナプス前小胞への取り込みを減らし、不随意運動の発生に関わるドパミン神経系の機能を正常化させます。遅発性ジスキネジアを有する統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害または抑うつ障害の患者を対象とした国内第II/III相プラセボ対照二重盲検比較試験(MT-5199-J02)において、本剤40mg/日または80mg/日を投与した結果、両群で用量依存的な異常不随意運動の改善効果が認められました。本剤は重症度を問わず処方が可能です。ただし、遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬の長期使用に関連して発現するとされているため、原因薬剤の減量または中止を検討する必要があります。したがって、本剤の投与対象となるのは抗精神病薬など原因薬剤の減量や中止ができない、あるいは減量や中止を行っても遅発性ジスキネジアが改善しない患者さんとなります。投与に関しては相互作用が多いため併用薬の厳格なチェックが欠かせません。本剤はプロドラッグであり、未変化体はP糖タンパク質(P-gp)を阻害します。また、体内では主にCYP3Aによって代謝された後、活性代謝物は主にCYP2D6およびCYP3Aで代謝されます。本剤とパロキセチンを併用したとき、未変化体の変化は認められませんでしたが、活性代謝産物のCmaxおよびAUCはそれぞれ1.4倍、1.9倍に上昇したことが報告されています。本剤は、強いCYP2D6阻害剤(パロキセチン、キニジン、ダコミチニブ等)や、強いCYP3A阻害剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、エリスロマイシン等)を使用中、または遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さんなどでは、投与量を1日40mgから増量しないこととされています。なお、これらの条件が2つ以上重なる場合は、活性代謝物の血中濃度が上昇し、過度なQT延長などの副作用を発現する恐れがあるため、本剤との併用は避けることとされています。一方、中程度以上のCYP3A誘導剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等)を使用中の場合には、作用が弱まることを考慮して投与量を検討します。また、P-gpの基質薬剤(ジゴキシン、アリスキレン、ダビガトラン等)と併用するとこれらの血中濃度が上昇する恐れがあるので注意しましょう。中等度、あるいは高度の肝機能障害患者についても投与量に制限がかけられています。活性代謝産物の血中濃度が上昇した場合にはQT延長を引き起こす恐れがあるので、遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さん、QT延長を起こしやすい患者さん、相互作用に注意すべき薬剤を併用している患者さんでは定期的に心電図検査を行う必要があります。これまで、遅発性ジスキネジアについては原因薬の中止や他薬剤への変更に代わる対処法がありませんでした。よって、本剤の臨床的意義は高いと考えられます。なお、本剤は食事の影響を受けやすく、空腹時に服用すると食後投与と比較して血中濃度が上昇する恐れがあるため、副作用モニタリングと共に服用タイミングについても順守できているか確認しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ジスバルカプセル40mg

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急性期脳梗塞、血栓回収前の血栓溶解療法は必要か/Lancet

 発症から4.5時間以内の脳主幹動脈閉塞に起因する急性期虚血性脳卒中の治療において、直接的な機械的血栓回収術は経静脈的血栓溶解療法を施行後に機械的血栓回収術を行う標準治療(ブリッジング療法)と比較して、有効性(機能的自立)に関して非劣性は達成されず、症候性脳出血や死亡のリスクには差がないことが、オーストラリア・メルボルン大学のPeter J. Mitchell氏らが実施した「DIRECT-SAFE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2022年7月9日号で報告された。4ヵ国の無作為化非劣性試験 DIRECT-SAFEは、エンドポイント盲検下に行われた非盲検無作為化非劣性試験であり、2018年6月~2021年7月の期間に、4ヵ国(オーストラリア、ニュージーランド、中国、ベトナム)の25ヵ所の急性期病院で参加者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]と米国Strykerの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、発症から4.5時間以内で、非造影CTで小~中程度の大きさの早期の虚血性変化が認められ、CTまたはMR血管造影で頭蓋内内頸動脈、中大脳動脈(M1またはM2)、脳底動脈の閉塞が確認された患者であった。 被験者は、病院到着から90分以内に、機械的血栓回収術単独または標準的なブリッジング療法(経静脈的血栓溶解療法+機械的血栓回収術)を受ける群に無作為に割り付けられた。ブリッジング療法群では、各施設の標準的な経静脈的血栓溶解療法(アルテプラーゼまたはテネクテプラーゼ)を受けたのち、Trevoデバイス(米国Stryker Neurovascular製)を用いた標準的な機械的血栓回収術が行われた。 アウトカムの評価者は治療割り付け情報を知らされず、治療医と患者には知らされた。 有効性の主要エンドポイントは機能的自立とされ、治療後90日の時点での修正Rankin尺度(mRS)スコア0~2点の達成またはベースライン時の機能への回復と定義された。非劣性マージンは-0.1とされ、主要エンドポイント達成率の群間差の両側95%信頼区間(CI)下限値が-0.1より大きい場合に非劣性と判定された。アジア人ではブリッジング療法が有意に優れる 293例が登録され、機械的血栓回収術群に146例、ブリッジング療法群に147例が割り付けられた。全体の年齢中央値は68歳(IQR:61~78)で、166例(57%)が男性であった。NIHSSスコア中央値は両群とも15点で、ブリッジング療法群の入院から血栓溶解療法開始までの時間中央値は64分(IQR:47~87)だった。 また、無作為化から動脈穿刺までの時間中央値は、機械的血栓回収術群が29分(IQR:19~47)、ブリッジング療法群は42分(29~59)であり、動脈穿刺から再灌流達成までの時間中央値は両群とも60分以内(機械的血栓回収術群55.5分[IQR:26.0~88.5]、ブリッジング療法群44.5分[27.0~70.0])だった。 90日時の機能的自立は、intention-to-treat集団では機械的血栓回収術群が146例中80例(55%)、ブリッジング療法群は147例中89例(61%)で達成され(群間リスク差:-0.051、両側95%CI:-0.160~0.059)、per-protocol集団ではそれぞれ145例中79例(54%)および143例中88例(62%)で達成された(群間リスク差:-0.062、両側95%CI:-0.173~0.049)。したがって、機能的自立に関して、機械的血栓回収術群のブリッジング療法群に対する非劣性は確認されなかった。 安全性のアウトカムの発現は両群で同程度であり、症候性脳出血は機械的血栓回収術群が146例中2例(1%)、ブリッジング療法群は147例中1例(1%)でみられ(補正後オッズ比[OR]:1.70、95%CI:0.22~13.04)、死亡はそれぞれ146例中22例(15%)および147例中24例(16%)で認められた(補正後OR:0.92、95%CI:0.46~1.84)。また、再灌流成功率(mTICI分類2b~3)およびmRS 0~1点の達成率にも、両群間に差はなかった。 事前に規定されたサブグループ解析では、アジア地域(中国、ベトナム)の患者で、主要エンドポイントの達成率がブリッジング療法群で有意に優れた(機械的血栓回収術群34%[67例中23例]vs.ブリッジング療法群57%[69例中39例]、補正後OR:0.42、95%CI:0.21~0.86、p=0.017)。このような効果は、非アジア地域では認められず(1.35、0.65~2.8)、交互作用が確認された(pinteraction=0.024)。 著者は、「この試験で得られた付加的エビデンスは、血栓回収術前の血栓溶解療法を除外することによる利益を示すエビデンスはない(とくにアジア地域の患者で)との結論を支持するものである」とし、「これらの知見は、標準治療としてのブリッジング療法の推奨に関して、ガイドライン策定の際に有益な情報をもたらすと考えられる」と指摘している。

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双極II型障害の急性うつ病エピソードに対する第2世代抗うつ薬療法~メタ解析

 双極II型障害(BD-II)に関するエビデンスに基づく治療ガイドラインは、限られている。メイヨークリニック医科大学のJin Hong Park氏らは、急性BD-IIうつ病における第2世代抗うつ薬単剤療法の有効性および安全性を推定するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、急性BD-IIうつ病に対する第2世代抗うつ薬単剤療法は、良好な副作用プロファイルを有し、切り替え率の有意な増加を来すことなく、短期的に有効であることが示唆された。Psychopharmacology Bulletin誌2022年5月31日号の報告。 2021年3月までに公表された研究を、データベースより検索した。対象研究には、ランダム化比較試験(RCT)のみを含めた。アウトカムは、治療反応率、治療期発現感情交代(treatment-emergent affective switch:TEAS)の割合、副作用による治療中止、すべての原因による治療中止とした。リスク比(RR)の算出には、Mantel-Haenszelランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・3,301件の研究をスクリーニングし、全文レビューのため15件を特定した。・選択基準を満たした研究は5件であり、その内訳は、二重盲検RCTが4件(533例)、非盲検RCTが1件(83例)であった。・2件の二重盲検RCT(第2世代抗うつ薬単剤療法223例[ベンラファキシン群:65例、セルトラリン群:45例]、リチウム単剤療法113例[対照群])をメタ解析に含めた。・第2世代抗うつ薬単剤療法は、リチウム単剤療法と比較し、治療反応率が類似していた(RR:1.44、95%CI:0.78~2.66)。・第2世代抗うつ薬単剤療法は、リチウム単剤療法と比較し、TEASの割合に有意な差が認められなかった(p=0.76)。・第2世代抗うつ薬単剤療法は、リチウム単剤療法と比較し、副作用による治療中止率が有意に低かったが(RR:0.32、95%CI:0.11~0.96、p=0.04)、すべての原因による中止率に有意な差は認められなかった。・BD-IIうつ病に対する第2世代抗うつ薬単剤療法の短期的および長期的な役割を調査するRCTを、早期に実施する必要がある。

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第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ

オールスターゲーム後に気がかりなことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルス感染症の第7波が到来、各地で感染者が急増しています。政府は現時点ではまん延防止措置等重点措置のような行動制限は必要ないとの方針ですが、このまま学校が夏休みに入り、帰省や観光等で人々の動きが活発になると、さらなる患者数の増加が予想されます。実際、街に出てみると、コロナ禍以前のような賑わいで、人々は普通に飲んで騒いでいます。昨年夏のように、医療提供体制が逼迫する恐れも出てきました。米国では、MLBでポストシーズンへの進出が絶望的となったロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手のトレード交渉が、今週開かれるオールスターゲーム後に本格化するのではと、マスコミが騒いでいます(8月2日の米東部時間午後6時、日本時間3日午前7時が今季のトレード期限)。仮にエンジェルスから放出されるとしたら、大谷選手はどのチームに行くのか。ワールドシリーズ進出を狙う強豪チームに行くのか…。その行き先がとても気がかりです。一方、日本においては、プロ野球のオールスターゲームが終わる7月末頃には、コロナ患者激増でまん延防止措置等重点措置が再び出されるのではないか、あるいは感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に引き下げる議論が本格化するのではないか……。こちらもとても気がかりです。さて今回は、新型コロナウイルス“ではない”ウイルス、相変わらず各地の病院で被害が頻発している、コンピュータウイルスについて書いてみたいと思います。増える病院のサイバー攻撃報道6月20日、徳島県鳴門市の医療法人久仁会・鳴門山上病院にサイバー攻撃があり、 電子カルテや院内のLANシステムが使えなくなったことが判明し、各紙が報じました。各紙の報道によれば、感染したのは身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」で、 19日午後にパソコンが勝手に再起動し、 プリンターから紙が大量に印刷されたのに職員が気付き、 被害が判明したとのことです。なお、同病院は患者のデータをバックアップしており、22日から通常診療を再開しています。また、7月4日には岐阜市の医療法人幸紀会・安江病院が外部から不正アクセスを受け、病院のコンピュータシステムに保管していた患者や職員、計約11万人分の個人情報が流出した可能性がある、と発表しました。各紙報道によると、流出した可能性があるのは、患者や新型コロナウイルスのワクチン接種者延べ11万1,991人と、職員715人分の名前や住所、電話番号や病歴などで、職員が5月27日朝、電子カルテのシステムが使えないことに気付き、不正アクセスが判明したそうです。翌28日には復旧したものの、29日まで救急患者の受け入れを停止しました。同病院は岐阜県警や厚生労働省に報告し、専門機関に調査を依頼したとのことです。全面復旧まで2カ月かかった徳島県つるぎ町の町立半田病院コンピュータウイルスによる病院の被害については、本連載でも「第86回 世界で猛威を振るうランサムウェア、徳島の町立病院を襲う」、「第91回 年末年始急展開の3事件、『アデュカヌマブ』『三重大汚職』『町立半田病院サイバー攻撃』のその後を読み解く」でも取り上げ、ランサムウェアが病院経営に与えるダメージについて書きました。第86回で詳しく書いた、徳島県つるぎ町の町立半田病院の被害はとくに深刻でした。2021年10月31日、病院システムのメインサーバーとバックアップサーバーが、「LockBit2.0」と名乗る国際的なハッカー集団が仕掛けるランサムウェアに感染。同病院ではこの攻撃で患者約8万5,000人分の電子カルテが閲覧不能となり、急患や新患の受け付けがができなくなるなど、大きな被害が出ました。最終的にサーバーが復旧し、通常診療に戻ったのはなんと2ヵ月後の2022年1月でした。セキュリティ対策ソフトをわざと稼働させずつるぎ町と同病院は、今年6月7日に「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」を公表しています。調査報告書によれば、電子カルテシステムにアクセスするパソコンの端末が古く、新しいセキュリティ対策ソフトを入れると、システムの動作が遅くなる恐れがあったため、電子カルテの販売事業者の指示で、このソフトの稼働が止められていたとのことです。具体的には、院内にあるパソコン(約200台)のうち、電子カルテシステムに接続する端末について、ウイルス対策ソフト(トレンドマイクロ社のウイルスバスター、マイクロソフト社のウィンドウズ・ディフェンダー)の動作のほか、ウィンドウズの定期更新、電子カルテシステムの動作に必要なマイクロソフト製プログラム(シルバーライト)の最新版への更新などが意図的に無効化されていました。報告書は「電子カルテの動作を優先しセキュリティ対策をないがしろにした」と厳しく指摘しています。さらに、電子カルテのメンテナンス目的で販売業者側が設置したVPN(仮想プラベートネットワーク)装置についても、2019年の設置後、修正プログラムが一度も適用されていませんでした。VPNの提供元であるフォーティネット社は2019年に脆弱性について注意喚起していますが、販売事業者はこれについても病院に説明していませんでした。「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた」調査報告書は、同病院にランサムウェアを仕掛けたサイバー犯罪集団により、「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた事案と判断するのが適当」と結論付けています。閉域網とは、外部のインターネットと完全に切り離された閉じられたネットワークのことです。かつては医療機関のネットワークはインターネットと切り離された閉域網を前提として構築されていました。しかし近年は、医療機関同士が患者情報をネットで共有したり、今回のケースのようにVPN装置を用いて、外部から操作したりと、閉域網ではなくなっているのが実情です。閉域網でないとしたら、それ相応の厳重なセキュリティ対策が必要になるわけですが、そこまでの対応をしている医療機関はまだ多くはありません。なお、事故発生当時は、同病院にはシステム担当者が1人しかおらず、セキュリティ対策に取り掛かる状況ではなかったとのことです。調査報告書は「起きるべくして起きてしまったインシデント」と総括、販売事業者側に対してもセキュリティソフトの停止を伝えず、VPNの修正ソフトも適用しないなど「事業者として責任を果たしていない」と、その問題点を強く非難しています。半田病院の「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」は、同病院のホームページにアップされており、誰でも閲覧し、ダウンロードすることができます1)。調査報告書の本編に加え、「調査報告書-技術編-」と「情報システムにおけるセキュリティ・コントロール・ガイドライン」も掲載されており、ホームページには、病院事業管理者である須藤 泰史氏の次のような言葉もあります。「この報告書には、我々の対応不足な点もたくさん指摘されていますが、広く日本の電子カルテシステムにおける問題も提起されています。本来なら、今後当院が電子カルテシステムをどのようにするのかの具体的な対策も提示して、皆様にご報告するべきだったと思いますが、まずはこれらを世に出して、全国の病院や事業所のセキュリティ強化に貢献できればと考え公開するものです」。同病院の事案で得られた教訓やノウハウを、全国の医療機関でも参考にしてほしいという強い気持ちが伝わってきます。全国の病院や診療所の院長は、この調査報告書の本編だけでも目を通されることをお勧めします。「一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃する」と「LockBit3.0」ところで、半田病院を襲ったランサムウェア「LockBit2.0」ですが、7月8日付の読売新聞の報道によれば「LockBit」は6月下旬、ダークウェブと呼ばれる闇サイトに開設しているホームページを一新。グループ名を「LockBit2.0」から「LockBit3.0」と改めたとのことです。このホームページでは一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃すると宣言。医療機関については、「死者が出る可能性がある」ところは避け、それ以外は、民間で収益を上げていれば攻撃対象にすると明記されているとのことです。ランサムウェアの被害多発を背景に、厚生労働省は今年3月に改定したばかりの「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版」を今年度内に再改定する予定です。また、厚生労働省の協力の下、日本医師会など医療・製薬分野の関係団体が、サイバー情報を平時から独自に収集・分析する新組織を年内にも発足させる方向で作業が進んでいるとのことです。リアルの世界だけではなく、サイバー空間においても、“ウイルス”は収まるどころかその威力をさらに増しているようです。参考1)徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書について

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アレルギー予防のため、ピーナッツは1歳までに摂取すべき?/JAMA

 オーストラリアでは、2016年、幼児の食事ガイドラインが改訂され、ピーナッツアレルギーの予防のために生後12ヵ月までのピーナッツ導入が推奨されるようになった。同国マードック子ども研究所のVictoria X. Soriano氏らは、今回、この改訂の前後におけるピーナッツアレルギーの発生状況を調査し、ピーナッツの早期導入の推奨により有病率が0.5%低下したが、これは統計学的に有意な差ではないことを確認した。研究の詳細は、JAMA誌2022年7月5日号で報告された。10年間隔の2つの調査結果を比較 研究グループは、オーストラリアにおける生後12ヵ月までのピーナッツ導入の推奨が、幼児のピーナッツアレルギー発生の抑制に寄与するかの検証を目的に、一般住民を対象とした2つの横断的調査の結果を比較した。 解析には、経時的な変化を評価するために、10年の間隔をあけて同じ枠組と方法を用いて参加者の登録が行われた2つの調査(2007~11年と2018~19年に参加者を登録)のデータが用いられた。オーストラリア・メルボルン市とその近郊の施設で、ピーナッツ曝露やアレルギーの既往歴を問わずに、生後11~15ヵ月の幼児が募集された。 質問票を用いて、人口統計学的因子や食物アレルギーのリスク因子、ピーナッツ導入、アレルギー反応に関するデータが収集された。 すべての幼児でピーナッツの皮膚プリックテストが行われ、陽性者は食物経口負荷試験を受けた。有病率の推定値は、経時的な人口統計学的因子の変化を考慮して標準化された。リスク因子は増加したが、アレルギーは増加せず 解析には7,209例の幼児が含まれた。このうち2018~19年の調査に参加した幼児が1,933例(年齢中央値12.5ヵ月[IQR:12.2~13.0]、男児51.8%)、2007~11年は5,276例(12.4ヵ月[12.2~12.9]、50.8%)であった。オーストラリアで食物アレルギーのリスク因子とされる東アジア系の幼児(両親が東アジア生まれ)は、経時的に増加していた(2007~11年の10.5%から、2018~19年に16.5%に増加、p<0.001)。 幼児の家系や他の人口統計学的因子の変化を標準化すると、ピーナッツアレルギーの有病率は、2018~19年の調査では2.6%(95%信頼区間[CI]:1.9~3.4)であり、2007~11年の3.1%(2.7~3.6)と比較して有意な差はみられなかった(群間差:-0.5%、95%CI:-1.4~0.4、p=0.26)。 2018~19年の調査では、オーストラリア系の幼児は、より早い年齢でピーナッツを導入したほうがピーナッツアレルギーのリスクが低く、生後12ヵ月以降の導入と比較した生後6ヵ月以下での導入の補正後オッズ比(OR)は0.08(95%CI:0.02~0.36)、同様に7~<10ヵ月での導入の補正後ORは0.09(0.02~0.53)であった。一方、東アジア系の幼児では、より早期のピーナッツ導入とピーナッツアレルギーの発生には有意な関連はなかった。 著者は、「ガイドラインによる早期ピーナッツ導入の推奨により、1歳時におけるピーナッツアレルギーの発生は減少も増加もしなかった」とまとめ、「2018~19年の調査で食物アレルギーのリスク因子である東アジア系の幼児が増加したにもかかわらず、ピーナッツアレルギーは増加しておらず、幼児期にピーナッツ製品を早期に広く導入することで、これを実施しない場合に起こりえたピーナッツアレルギーの発生が抑制された可能性がある」と指摘している。

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医療略語が言葉の壁!?正しい病名はどれ?【知って得する!?医療略語】第15回

第15回 医療略語が言葉の壁!?正しい病名はどれ?ガイドラインや論文を調べていたら、似通った名前の疾患がこんなにありました!それぞれに異なる略語がついています。どれが正しいのでしょうか? 違いや定義が分かりません…。高浸透圧性高血糖症候群(HHS:hyperosmolar hyperglycemic syndrome)高浸透圧高血糖状態(HHS:hyperosmolar hyperglycemic state)高血糖高浸透圧昏睡(HHNK:hyperosmolar hyperglycemic non-ketotic coma)高浸透圧性非ケトン性糖尿病性昏睡(HONC:hyperosmolar non-ketotic diabetic coma/HNDC:hyperosmolar non-ketotic diabetic coma)非ケトン性高浸透圧性昏睡(NKHC:non-ketotic hyperosmolar coma)非ケトン性高浸透圧性症候群(NKHS:non-ketotic hyperosmolar state[syndrome])高浸透圧高血糖非ケトン性昏睡(HHNC:hyperosmolar hyperglycemic non-ketotic coma)意図している病態は同じ気がしますが、似通った表記が多いですね。今回は日本の医療言語について考えてみましょう。皆さんは「けいぶ」を漢字表現するとき、「頸」と「頚」のどちらで記載していますか? どちらで表記するのが正しいか教育を受けたことはありますか? 筆者は「くび」の表現をさほど気にしたことがなく、各電子カルテ端末の漢字変換任せだったので、どちらかを意識して使用してきたことはありませんでした。ちなみに日本工業規格のJISでは「頸」が採用されているようです。しかし、このように1つを表現するのにも複数の表記方法があることは、情報処理の観点では不都合が起こります。たとえば、ある論文データベースで検索すると、「頸部」と「頚部」で検索結果が異なるのです。筆者は論文を貴重な医療情報と捉えていますが、このような表記の揺れ、あいまいさはデジタル処理をする際にも支障を来します。上述のように漢字の字体レベルの問題であれば、臨床実務の上でさほど大きな支障はないでしょう。しかし、これが病名になると話は違います。1つの病態や疾患に複数の病名が付いていることは、皆さんもご存じだと思いますが、筆者は非常に混乱の元だと思っています。ガイドラインを頼りにしたくても、ガイドライン同士で表現や用語が異なることが少なくありません。医学的知見の蓄積で病名が変化すること自体は、やむを得ないでしょう。しかし、病名の新しい呼称と旧病名の使用管理をしないと、冒頭に挙げたように新旧入り乱れてさまざまな類似表記が多数存在し、どれが一体正しい表記なのか混乱を招きます。筆者はこのような用語の不統一を解消するため、各医学領域の垣根を越えた、医療言語を整備、管理、統一する組織が日本に必要だと考えています。海外を見れば、医療用語の整備組織として、SNOMED internationalが存在します。しかし、国ごとに参加費用が異なり、日本が参加するにはそれなりの額の費用負担が必要となります。この費用を誰が負担するのかも課題ですが、英語ベースの医療用語をそのまま日本に輸入できるかと言えば、そうではないと考えます。近年の各学会のガイドラインを見ていると、国際学会の直訳と思われる用言や表記が少なく、日本語に和訳する際にきちんと日本人が理解できるように和訳および表記される必要があります。一方で、適切な日本語訳がなく、アルファベットのまま独り歩きしている医療用語も存在します。現場の医療情報を利活用しようとする機運が高まる中で、大切なのは共通の医療言語を使用していくことではないでしょうか。欧米にはアルファベットしかありませんが、日本にはひらがな、カタカナ、漢字、そして英字と言語学的にも文字の種類が豊富です。このような言語背景を持つ日本だからこそ、医療言語の整備と統一は、日本の医療界が本気で取り組むべき大きな課題だと考えます。

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家族性乳がんリスクの高い女性、BMI・身体活動・飲酒のガイドライン推奨順守でリスク低下

 米国がん協会(ACS)のがん予防ガイドライン2020年版における体重(BMI)、身体活動、飲酒に関する推奨事項を順守することで、閉経後女性および家族性乳がんリスクの高い女性の乳がんリスクが減少する可能性が、米国・コロンビア大学のAshley M. Geczik氏らの研究で示唆された。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2022年7月2日号に掲載。 これまでに、ACSガイドライン2012年版の推奨の順守で乳がんリスクが低下する可能性を示唆した研究はあるが、家族性および遺伝性乳がんリスクが高い女性におけるエビデンスは少ない。本研究では、Breast Cancer Family Registry(BCFR)を用いて、9,615人の女性を対象にACSガイドライン2020年版におけるBMI、身体活動、飲酒に関する推奨の順守と乳がんリスクについて検討した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、全体におけるハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)、さらにBRCA1およびBRCA2の病的バリアントの有無、乳がんの家族歴、閉経状態、エストロゲン受容体(ER)で層別したHRと95%CIを、算出した。 主な結果は以下のとおり。・12.9年(中央値)の間に浸潤性乳がんまたはin situ乳がんが618例に発生した。・ACSガイドラインの推奨を順守していない女性(55人)と比較して、順守している女性(563人)は、乳がんリスクが27%低かった(HR:0.73、95%CI:0.55~0.97)。・このリスク低下は、第一度近親者に乳がん罹患歴のある女性(HR:0.68、95% CI:0.50~0.93)、BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有しない女性(HR:0.71、95%CI:0.53~0.95)、閉経後女性(HR:0.63、95%CI:0.44~0.89)、およびER陽性乳がん(HR:0.63、95%CI:0.40~0.98) において有意であった。

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動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会

 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版が5年ぶりに改訂、7月4日に発刊された。本ガイドライン委員長の岡村 智教氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 教授)が5日に開催されたプレスセミナーにおいて動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の変更点を紹介した(主催:日本動脈硬化学会)。 今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の改訂でキーワードとなるのが、「トリグリセライド」「アテローム血栓性脳梗塞」「糖尿病」である。これを踏まえて2017年版からの変更点がまとめられている動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の序章(p.11)に目を通すと、改訂点が一目瞭然である。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版のPDFは動脈硬化学会のホームページより誰でもダウンロードできる。<動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の主な改訂点>1)随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。2)脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用された。3)糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。4)二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDL-Cの目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDL-Cの管理目標値は70mg/dL未満とした。5)近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。 (1)脂質異常症の検査 (2)潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、CAVI:Cardio Ankle Vascular Indexなどの現状での意義付) (3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH) (4)生活習慣の改善に飲酒の項を追加 (5)健康行動倫理に基づく保健指導 (6)慢性腎臓病(CKD)のリスク管理 (7)続発性脂質異常症動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂に至った主な理由 1)について、「TGは食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが国内の疫学調査で示されている。国内の疫学研究の結果およびESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断する」とコメントした(参照:BQ5)。 2)については、吹田スコアに代わり今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では久山町研究のスコアを採用している。その理由として、同氏は「吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていなかった。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDL-Cとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされていた点が大きい」と説明(参照:BQ16)。 3)については、ESC/EASガイドラインでの目標値、国内のEMPATHY試験やJ-DOIT3試験の報告を踏まえ、心血管イベントリスクを有する糖尿病患者の一次予防において、十分な根拠が整っている(参照:FQ24)。 4)については、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためである。また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから「これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象だったが、今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となった」と解説した。 5)の(7)続発性脂質異常症は新たに追加され(第6章)、他疾患などが原因で起こる続発性なものへの注意喚起として「続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原疾患の治療を十分に行う」とし、甲状腺機能低下症など、続発性脂質異常症の鑑別を行わずに、安易にスタチンなどによる脂質異常症の治療を開始すると横紋筋融解症などの重大な有害事象につながることもあるので注意が必要、と記載されている。<続発性脂質異常症の原因>1.甲状腺機能低下症 2.ネフローゼ症候群 3慢性腎臓病(CKD)4.原発性胆汁性胆嚢炎(PBC) 5.閉塞性黄疸 6.糖尿病 7.肥満8.クッシング症候群 9.褐色細胞腫 10.薬剤 11.アルコール多飲 12.喫煙――― このほか同氏は、「LDL-Cのコントロールにおいて飽和脂肪酸の割合を減らすことが重要(参照:FQ3)」「薬物開始後のフォローアップのエビデンスレベルはコンセンサスレベルだが、患者さんの状態を丁寧に見ていくことは重要(参照:BQ21)」などの点を補足した。 2007年版よりタイトルを“診療”から“予防”に変更したように、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版は動脈硬化性疾患の予防に焦点を当てて作成されている。同氏は「すぐに薬物治療を実行するのではなく、高リスク病態や他疾患の有無を見極めることが重要。治療開始基準と診断基準は異なるので、あくまでスクリーニング基準であることは忘れないでほしい」と締めくくった。

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急性期虚血性脳卒中へのtenecteplase、標準治療となる可能性/Lancet

 カナダの標準的な血栓溶解療法の基準を満たす急性期虚血性脳卒中の患者において、tenecteplase静注療法は、修正Rankinスケール(mRS)で評価した身体機能に関してアルテプラーゼ静注療法に対し非劣性で、安全性にも差はなく、アルテプラーゼに代わる妥当な選択肢であることが、カナダ・カルガリー大学のBijoy K. Menon氏らが実施した「AcT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年6月29日号に掲載された。カナダのレジストリ連動型無作為化対照比較試験 AcT試験は、急性期虚血性脳卒中における、血栓溶解療法による再灌流の達成に関して、tenecteplaseの標準治療に対する非劣性の検証を目的とする、医師主導の実践的なレジストリ連動型非盲検無作為化対照比較試験であり、2019年12月~2022年1月の期間に、カナダの22ヵ所の脳卒中施設で参加者の登録が行われた(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、後遺障害の原因となる神経障害を引き起こす虚血性脳卒中と診断され、症状発現から4.5時間以内に来院し、カナダのガイドラインで血栓溶解療法の適応となる患者であった。 被験者は、tenecteplase静注療法(0.25mg/kg、最大25mg)またはアルテプラーゼ静注療法(0.9mg/kg[0.09mgをボーラス投与後、残りの0.81mg/kgを60分で注入]、最大90mg)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における治療後90~120日のmRSスコア0または1の患者の割合とされた。この達成割合の群間差の95%信頼区間(CI)下限値が-5%を超える場合に、非劣性と判定された。主要アウトカム:36.9% vs.34.8%、口舌血管性浮腫はまれ 1,577例(年齢中央値74歳[IQR:63~83]、女性755例[47.9%])がITT集団に含まれ、tenecteplase群が806例、アルテプラーゼ群は771例であった。全体の症状発現から無作為化までの期間中央値は2時間(IQR:1.5~3.0)だった。主要アウトカムの追跡期間中央値は97日(IQR:91~111)であった。 データカットオフ日(2022年1月21日)の時点で、治療後90~120日にmRS 0または1を達成した患者の割合は、tenecteplase群が36.9%(296/802例)、アルテプラーゼ群は34.8%(266/765例)で、両群間の補正前リスク差は2.1%(95%CI:-2.6~6.9)であり、事前に規定された非劣性の閾値を満たした。 効果の方向性はtenecteplase群で良好であったが、tenecteplase群の優越性はみられなかった(p=0.19)。副次アウトカムにも両群に差はなかった。また、事前に規定されたサブグループのすべてで、主要アウトカムに関して治療効果の異質性は観察されなかった。 安全性解析では、24時間以内の症候性頭蓋内出血の発現割合(tenecteplase群3.4%[27/800例]vs.アルテプラーゼ群3.2%[24/763例]、群間リスク差:0.2、95%CI:-1.5~2.0)や、治療開始から90日以内の死亡の割合(15.3%[122/796例]vs.15.4%[117/758例]、-0.1、-3.7~3.5)には、意義のある差は認められなかった。 口舌血管性浮腫(tenecteplase群1.1% vs.アルテプラーゼ群1.2%)や、輸血を要する頭蓋外出血(0.8% vs.0.8%)はまれであった。また、追跡期間中の画像検査で、頭蓋内出血はそれぞれ19.3%(154/800例)および20.6%(157/763例)でみられた。 著者は、「tenecteplaseは、アルテプラーゼに比べ投与法が容易で使い勝手がよく、安価となる可能性がある。この研究の結果は、これまでのエビデンスと合わせて、症状発現から4.5時間以内の急性期虚血性脳卒中における血栓溶解療法の世界標準をtenecteplase 0.25mg/kgに切り換える、説得力のある根拠となるものである」としている。

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「乳癌診療ガイドライン」4年ぶり全面改訂、ポイントは?/日本乳癌学会

 4年ぶりに乳癌診療ガイドラインが全面改訂され、第30回日本乳癌学会学術総会で「乳癌診療ガイドライン2022年版 改定のポイント」と題したプログラムが開催された。本稿では、乳癌診療ガイドライン2022年版の治療編(薬物療法、外科療法、放射線療法)の主な改訂点について紹介する。治療編全体における改訂点として、乳癌診療ガイドライン2022年版では冒頭に「総説」を追加。病気/サブタイプ別の治療方針のシェーマや各CQ/BQ/FRQの治療における位置付けを解説し、治療全体の流れを理解できる構成となっている。乳癌診療ガイドライン2022「薬物療法」の変更点 乳癌診療ガイドライン2022年版の「薬物療法」については遠山 竜也氏(名古屋市立大学)が登壇し、6つの新設CQを中心に解説。まず、早期乳がんに対するエスカレーション治療として、術後のアベマシクリブとS-1について、乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設された。アベマシクリブはmonarchE試験の結果から、ホルモン受容体陽性/HER2陰性で再発高リスクの患者に対する術後療法として「内分泌療法にアベマシクリブを2年間併用することを強く推奨」(CQ6)。S-1は現在承認申請中であるものの、POTENT試験の結果に基づき「内分泌療法にS-1を1年間併用することを強く推奨」した(CQ5)。両療法における“再発高リスク”の考え方についてはそれぞれ適格基準の表を乳癌診療ガイドライン2022年版では挿入したほか、総説でその位置づけを解説。遠山氏は「POTENT試験のほうが対象が広いので、そちらにしか該当しない症例にはS-1を、両基準に合致する症例は副作用のプロファイルや投与期間を考慮して使っていくことになるのではないか」と述べた。 周術期の免疫療法として、現在承認申請中ではあるが、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するペムブロリズマブについても乳癌診療ガイドライン2022年版ではCQが新設された。KEYNOTE-522試験の結果に基づき、周術期TNBCに対して「ペムブロリズマブの投与を弱く推奨」している(CQ16)。“弱く”という表現になった理由について同氏は、有害事象があること、どのような患者に対して投与すべきかに充分なコンセンサスがないことを指摘。「今回は先取りして取り上げ、このような表現となっているが、承認されたときには改めてディスカッションが必要」とした。 閉経前のホルモン受容体陽性/HER2陰性転移・再発乳がんに対する1次治療としてのCDK4/6阻害薬について、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版で初めてCQが設けられた。日本で承認済のパルボシクリブ・アベマシクリブについては閉経後患者対象の試験でPFS改善が報告されているが、リボシクリブについてのMONALEESA-7試験では閉経前の患者でPFSおよびOSが改善している。併用薬については、タモキシフェンとの併用群でQT延長がみられたことでFDA承認が見送られていることから、乳癌診療ガイドライン2022年版においても非ステロイド性アロマターゼ阻害薬との併用が推奨された(CQ18)。 その他、「残存病変に基づく治療選択」として、術後のカペシタビン(HER2陰性)とT-DM1(HER2陽性)について乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設されている(CQ10、CQ13)。乳癌診療ガイドライン2022年版「外科療法」の変更点 九冨 五郎氏(札幌医科大学)は外科療法における今回の乳癌診療ガイドライン2022年版改訂の目玉としてCQ2を挙げた。まずCQ2aでは、術前化学療法(NAC)前後の臨床的リンパ節転移陰性(cN0)乳がんに対する腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検について、2018年版では“弱く”推奨していたものを、乳癌診療ガイドライン2022年版では“強く”推奨に変更している。理由について同氏は、「新しい強力なデータが出たわけではないが、日常診療で9割近い先生が実施しているのなら、それはもう“強い”推奨ではないか、というボードでの議論を経て、変更している」と解説した。 臨床的リンパ節転移陽性(cN+)でNAC 後cN0の症例に対しては、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版では新たにtailored axillary surgery (TAS)を行う場合について推奨を追加。「TASによる腋窩リンパ節郭清省略を行うことを弱く推奨」とされた(CQ2b)。九冨氏は、現在targeted axillary dissection (TAD)の妥当性を検討する前向き試験が国内で進行中であることに触れ、「こういったデータが出てくれば、またガイドラインの記述も変わってくる可能性がある」とした。 Stage IV乳がんに対する原発巣切除については、乳癌診療ガイドライン2022年版ではメタ解析の結果を考慮して「予後の改善を目的とした原発巣切除は行わないことを強く推奨(CQ4a)」としたほか、「局所制御を目的とした原発巣切除は行うことを弱く推奨(CQ4b)」とされた。 また、今後保険収載される可能性を考慮し、乳房再建法としての脂肪注入について乳癌診療ガイドライン2022年版では新規のFRQが追加された。「細心の注意のもとに行ってもよい」という記述となっている(FRQ6)。 2018年版で8つあったCQは乳癌診療ガイドライン2022年版では4つとなり、それぞれFRQやBQに変更して取り上げられている。例えば低リスクDCISに対する非切除の意義については、日本も含め現在複数の無作為化試験や観察研究が進行中であることから、乳癌診療ガイドライン2022年版ではFRQとして記述された(FRQ1)。九冨氏は外科領域では大規模な無作為化試験が組みづらくエビデンスレベルが低いのが現状としたうえで、日本での試験もいくつか進行中で、日本からの発信が増えていくことに期待したいと締めくくった。乳癌診療ガイドライン2022年版「放射線療法」の変更点 放射線療法における乳癌診療ガイドライン2022年版での改訂・新設事項は以下の通り。吉村 通央氏(京都大学)がそれぞれの根拠となったデータとともに解説した。改訂:CQ1 寡分割全乳房照射/CQ3 APBI/ CQ5 腋窩LN転移1~3個のPMRT新設:BQ7 腫瘍径大および断端陽性のPMRT/FRQ2 RNI or PMRTの寡分割照射/ FRQ6オリゴ転移に対するSBRT 寡分割全乳房照射については、メタアナリシスの結果、局所再発率や全生存率、整容性に有意差はなく、急性皮膚障害についてはむしろ寡分割で低下しており、乳癌診療ガイドライン2022年版では「50歳以上、T1-2、化学療法を行っていない」という3条件以外の患者、これまで記載のなかったDCIS症例に対しても、寡分割照射を強く推奨している(CQ1)。 APBIの治療成績については4年間で長期の報告が複数出ており、それらのメタアナリシス結果から、乳癌診療ガイドライン2022年版では若年ではない低リスク症例に十分な精度管理のもとで行うなどの条件付きで、非推奨から弱い推奨へ変更された(CQ3)。なお術中照射については、「全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明した上で希望する患者に行うこと」とされた。 腋窩LN転移1~3個の患者に対するPMRTについては、EBCTCGや観察研究のメタアナリシスが行われている。それらを基に、ASCO/ASTRO/SSO PMRTガイドライン2016では、局所・領域再発率や乳がん死亡率を低下させるが、再発リスクの低い患者では害が益を上回る症例もあり、患者ごとに適応を決めるべきとされている。2018年版では、推奨の強さが合意に至らなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版では合意率は71%ではあったが「弱い推奨」に変更された。 リンパ節転移陰性で腫瘍径が大きい場合もしくは術後断端陽性の場合について、2018年版までは明記がなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版で初めて明記され、「PMRTを行うことが望ましい」とされた(BQ7)。 その他、2つのFRQが新設されている。1つ目は領域リンパ節照射あるいはPMRTにおける寡分割照射についてで、無作為化試験では治療効果・有害事象に有意差はなく、急性期皮膚炎は軽いことが報告されており、「エビデンスは十分ではないが総合的に検討して、行うことを考慮してもよい」とされた(FRQ2)。吉村氏は、新型コロナ流行の影響で、実際多くの施設でこの2年間は16回照射としていた状況があるとし、とくに有害事象は報告されていないと話した。 もう1つはオリゴ転移に対するSBRTについてで、無作為化第II相試験(SABR-COMET)の結果SBRTの追加で治療成績が良好との報告がある。同試験における乳がん症例は18%であることに注意が必要ではあるが、St Gallen2021でも80%以上のパネル医師がT2N1M1で根治を目指して局所治療を加えると回答している。そこで乳癌診療ガイドライン2022年版では、「症例を選択した上で考慮してもよい」とされている。ただし、今年のASCOで発表されたBR002試験の結果がネガティブだったことから、吉村氏は「今後の方向性に注意が必要」と指摘した。■関連記事POTENT試験の探索的解析結果、monarchEの適格基準でも検討

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抗菌縫合糸の使用でSSI発生率低減~日本人大腸がん患者での大規模研究

 外科手術後の閉鎖創におけるトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸と非コーティング糸とを比較した手術部位感染症(SSI)予防効果について、ランダム化比較試験やメタ解析などでその有用性について検討されてはいるが、各種ガイドラインでも条件付き推奨でとどまるものが多い。大阪大学の三吉 範克氏ら大阪大学消化器外科共同研究会大腸疾患分科会は、開腹/腹腔鏡下大腸がん手術における予防効果を評価するため、多施設共同前向き研究を実施。Journal of the American College of Surgeons誌2022年6月号に報告した。抗菌縫合糸の使用はSSIの発生を2.53%減少し有意な効果・対象:大腸がん(CRC)に対する待機的手術を受けた20 歳以上の患者・治療:切開後の腹部筋膜閉鎖にトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸もしくは非コーティング縫合糸を使用・主要評価項目:SSI発生率・副次評価項目:入院期間、外科的合併症の発生率 トリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸の手術部位感染症予防効果を評価した主な結果は以下のとおり。・2016年7月22日~2019年7月16日に国内24施設から2,207例の患者が組み入れられ、適格基準を満たした患者に対し、傾向スコアマッチングの手法を用いて2:1の割合で抗菌縫合糸群に926例、非抗菌縫合糸群に653例が割り付けられた。・ベースライン時点での年齢中央値は両群で68歳、術式は抗菌糸縫合群で腹腔鏡93%/ロボット支援4%/開腹3%、非抗菌縫合糸群で腹腔鏡96%/ロボット支援2%/開腹2%だった。・主要評価項目のSSI発生率は、抗菌縫合糸群で4.21%、非抗菌縫合糸群6.74%だった(p=0.028)。・重篤な有害事象の発生は報告されなかった。・ロジスティック回帰分析により、いくつかの因子がSSI発生に影響することが示された:抗菌縫合糸(オッズ比[OR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.40~0.99、p=0.046)、糖尿病(OR:1.81、95%CI:1.07~3.07、p=0.026)、白血球数(OR:1.14、95%CI:1.01~1.28、p=0.046)、手術時間(OR:1.64、95%CI:1.01~2.67、p=0.046)、術中合併症(OR:6.06、95%CI:1.03~35.75、p=0.047)。・副次評価項目である入院期間と外科的合併症の発生率は、両群間で統計学的な差はみられなかった。・6つの第III相試験を含む4,797例に今回の研究を含めたメタ解析の結果、非抗菌縫合糸と比較したトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸はSSI予防において有意な優越性を示した(OR:0.71、95%CI:0.53~0.95、p=0.0195)。 著者らは、全体のSSI発生率は5.55%であり、SSIが依然として一般的で未解決な課題であることが示唆されたとしたうえで、トリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸の使用はSSIの発生を2.53%減少し、有意な効果を示したと結論付けている。

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ガイドライン無料化を医師の3割が希望/1,000人アンケート

 診療の標準・均てん化とエビデンスに根ざした診療を普及させるために、さまざまな診療ガイドラインや診療の手引き、取り扱い規約などが作成され、日々の診療に活用されている。今春の学術集会でも新しいガイドラインの発表や改訂などが行なわれた。 実際、日常診療でガイドラインはどの程度活用され、医療者が望むガイドラインとはどのようなものなのか、今回医師会員1,000人にアンケートを行なった。 アンケートは、5月26日にCareNet.comはWEBアンケートで会員医師1,000人にその現況を調査。アンケートでは、0~19床と20床以上に分け、6つの質問に対して回答を募集した。【回答者内訳】・年代:20代(7%)、30代(17%)、40代(23%)、50代(26%)、60代(22%)、70代以上(5%)・病床数:0床(46%)、1~19床(4%)、20~99床(9%)、100~199床(3%)、200床以上(38%)・診療科[回答数の多い10診療科]:内科(247人)、外科・乳腺外科(76人)、研修医・その他(71人)、循環器内科・心臓血管外科(63人)、精神科(56人)、消化器内科(55人)、整形外科(40人)、皮膚科(39人)、小児科(37人)、糖尿病・代謝・内分泌科(32人)ガイドライン「無料化」「ダイジェスト版の作成」の声が多かった 質問1で「専門領域における日常診療でガイドラインなどを活用しているか」(単数回答)を尋ねたところ、回答者全体の集計では「部分的に活用」が51%、「大いに活用している」が40%、「あまり活用していない」が8%、「まったく活用していない」が1%の順だった。とくに19床未満と20床以上の比較では、20床以上所属の回答者の46%が「大いに活用している」に対し、19床未満では35%と医療機関の規模でガイドラインなどの活用の度合いが分かれた。 質問2で「ガイドラインなどの新規発行や改訂などの情報はどのように入手しているか」(複数回答)を尋ねたところ、全体で「所属学会の案内」が64%、「CareNet.comなどのWEB媒体」が52%、「学術集会の場」が18%の順だった。とくに規模別で「CareNet.comなどのWEB媒体」について、19床未満所属では59%であるのに対し、20床以上は45%といわゆるクリニックなどの医師会員ほどWEBなどをガイドラインの情報源にしていることがうかがわれた。 質問3で「ガイドラインなどはどの程度の領域を用意/集めているか」(単数回答)を尋ねたところ、回答者全体の集計では「自分の専門領域とその周辺領域すべて」が31%、「必要なときに入手」が27%、「自分の専門領域の一部」が20%の順だった。規模別に大きな違いはなかったが、診療で必要な都度にガイドラインを用意していることがうかがえた。 質問4で「ガイドラインなどで参考する項目について」(回答3つまで)を尋ねたところ、「治療(治療薬などの図表なども含む)」が75%、「診断(診断チャート含む)」が66%、「疾患概要(病態・疫学など)」が31%の順だった。とくに規模別でガイドラインの「クリニカルクエッション(CQ)」について全体では23%だったが、20床以上所属では27%であるのに対し、19床未満では19%と大きく差がひらいた。 質問5では「ガイドラインなどで今後改善すべきと思う点について」(複数回答)を尋ねたところ、「非学会員への配布無料化」が32%、「PDF・アプリなどへの電子化」が31%、「図表や臨床画像の多用」と「非専門医、一般向けのダイジェスト版の作成」がともに30%の順だった。とくに規模別では、「PDF・アプリなどへの電子化」について20床以上が36%と回答していたのに対し、19床未満は27%とガイドラインのデジタル化への要望につき差がでていた。 質問6では自由記載として「ガイドラインなどに関するエピソード」について尋ねたところ、ガイドラインの活用では、「診療で迷った際の指針」だけでなく、「患者への説明」や「後輩への指導の教材」などでの使用も多かった。また、ガイドラインなどの改善点として「無料化」「ダイジェスト版の作成」の声が多かった。参考診療ガイドラインを活用していますか?/会員医師1,000人アンケート

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「エアコン28℃設定」にこだわらないで!医師が患者に伝えたい熱中症対策

 日本救急医学会は熱中症予防の注意喚起を行うべく6月28日に緊急記者会見を実施した。今回、熱中症および低体温症に関する委員会の委員長を務める横堀 將司氏(日本医科大学大学院医学研究科 救急医学分野教授)らが2020年に発刊された「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」に記された5つの提言を踏まえ、適切なエアコンの温度設定の考え方などについて情報提供した。クールビズと節電が苦しめる“エアコンの温度調節” 人間の身体が暑さに慣れるのには数日から約2週間を要する。これを暑熱順化と言うが、身体が暑さに慣れる前に猛暑日が到来すると暑熱順化できていない人々の熱中症リスクが高まる。今年は6月27日に関東甲信・東海・九州南部で梅雨明けが宣言され、しばらく猛暑日が続くと言われ、横堀氏は「身体が暑さに慣れていない今が一番危険」だと話した。 そんな日本にさらなる追い打ちをかけるのが電力不足であり、“エアコンの温度設定は〇〇℃にしないといけない”“エアコンではなく扇風機を使う”といった話題がワイドショーでもちきりだ。これに同氏は「『エアコンを28℃に設定しましょう』と言うけれど、それはクールビズの視点であり、室温を28℃設定にしても快適に過ごせるような軽装や取り組みを促すためのもの。エアコンを28℃に設定することを推奨するものではない」と指摘。また、全国の熱中症の48%が屋内で発症していること、発症者の半数以上が体温調節機能の低下している高齢者であることから、「エアコンの節電は後回しに」するよう訴えた。 また、近年では、環境省が発表している暑さ指数(WBGT)*や熱中症警戒アラート**が熱中症対策にも有用で、テレビの情報番組でも紹介されるようになっているので、「それに基づいて外出の判断をしたり、暑熱順化の期間は無理をしないように体調管理をしたりして欲しい」と話した。*暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標。日常生活に関する指針の場合、31以上は危険、28~31未満は厳重警戒で「すべての生活活動でおこる危険性」に該当。**熱中症の危険性が極めて高くなると予測された際に、危険な暑さへの注意を呼びかけ、熱中症予防行動をとるよう促すための情報で、環境省と気象庁が発信。 さらに、コロナ禍ではこれまでの熱中症対策以外の問題も生じるため、2020年に「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」を日本救急医学会ほか3学会合同で発表している。これには予防のための5つの提言(1:換気と室内温度、2:マスクと水分摂取、3:暑熱順化、4:熱中症弱者への対応、5:日頃の体調管理)が記載されており、同氏はこれを踏まえ「家庭用エアコンには換気機能がないものが多いため、部屋の窓を風の流れができるようにし、毎時2回以上は開放(数分程度/回)して換気を確保1)すること。ただし、頻回に窓を開けることで室温が上昇するため、すだれやレースカーテンなどで直射日光の照射を避け、部屋の温度をこまめに確認して欲しい」とコメントした。マスク着用習慣、熱中症への影響は? 厚生労働省でもマスク着脱のタイミングを公表しているが、日本では屋外でのマスク不要論がなかなか浸透しないのが現状である。しかし、マスクをしていると熱中症リスクも上がるのではという問題もある。これについてガイドライン編集委員長の神田 潤氏(帝京大学医学部附属病院 高度救命救急センター)は、「多数の論文をレビューして検討しているが、マスク着用により熱中症の発症が増えたという報告は現時点ではない。しかし、マスク着用が熱中症リスクになる可能性はあるため、人混みの中ではマスクを着用し、屋外で運動を行う際はマスクを外すなどのメリハリのある行動が良い」と説明した。熱中症という災害の再来か 今年5月時点ですでに全国の熱中症による救急搬送患者は前年を約1,000人も上回る2,668人に上り、東京・大阪・福岡などの都心部では前年の約2倍もの人が発症している。コロナ流行前の2018年にも同様の気候条件で、日本救急医学会が緊急宣言を発令するほどの災害レベルの酷暑が続き全国の熱中症による死者数が1,288人に上った。今夏はそれに匹敵もしくは上回る可能性も指摘されており、「医療者から患者への啓発も重要」と横堀氏らは訴える。熱中症リスクの高い熱中症弱者には高齢者はもちろんのこと、「既往歴や経済状況なども視野に入れて注意すべきなので見逃さないで欲しい」と同氏は強調した。<熱中症弱者>・既往歴:高血圧症(利尿薬を服用者[脱水を招く]、降圧薬[心機能抑制]、糖尿病[尿糖による多尿])、脳卒中後遺症を有する者、認知症患者[対応しない/できない]・日常生活にハンディキャップを有する者(活動性が低く暑熱順化が不十分)、独居・経済的弱者(エアコン設置なし、電気代の支払い、悪い住居環境、低栄養状態) 日本救急医学会では医療者向けに、判定が難しかった熱中症の重症度を正確化する重症度予測スコアを救急搬送トリアージアプリ『Join Triage』に組み込んだ熱中症応急処置・診断支援アプリを開発しHP上に公開しているほか、前述で紹介した「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き」の作成や熱中症の実態調査を2005年より報告しているので、それらが診療時の一助になるのではないだろうか。

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