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うつ病治療ガイドラインの実践状況を把握する客観的指標IFS

 日本うつ病学会の治療ガイドラインでは、うつ病の重症度別に推奨される治療法が定められている。治療ガイドラインは、実臨床で治療決定を促すためのツールとして用いられ、患者や医療従事者を支援するよう設計されている。精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)のメンバーである岩手医科大学の福本 健太郎氏らは、各患者がうつ病ガイドラインの推奨に従って治療を実践しているかを評価するための客観的指標として、個別フィットネススコア(IFS)を開発した。IFSは、個々の患者におけるガイドラインに基づく治療の実践状況を客観的に評価できることから、ガイドラインに準じた治療行動に影響を及ぼし、薬物療法を含めた日本におけるうつ病治療の標準化につながる可能性が期待できるとしている。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2022年11月16日号の報告。 EGUIDEプロジェクトメンバーは、修正Delphi法を用いて、IFSを決定した。本IFSは、EGUIDEプロジェクトメンバーが所属する施設において2016~20年に治療を受け、退院したうつ病患者の治療に基づき開発された。また、入院時と退院時のIFSスコアの比較も行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、うつ病患者428例(57施設)。・その内訳は、軽度うつ病患者22例、中等度/重度うつ病患者331例、精神病性うつ病患者75例であった。・重症度別の平均IFSスコアは、中等度/重度うつ病患者において入院時よりも退院時のほうが統計学的に有意に高かった。 【軽度うつ病】入院時:36.1±34.2 vs.退院時:41.6±36.9(p=0.49) 【中等度/重度うつ病】入院時:50.2±33.6 vs.退院時:55.7±32.6(p=0.0021) 【精神病性うつ病】入院時:47.4±32.9 vs.退院時:52.9±36.0(p=0.23)

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非専門医向け喘息ガイドライン改訂-喘息死ゼロへ

 日本全体で約1,000万人の潜在患者がいるとされる喘息。その約70%が何らかの症状を有し、喘息をコントロールできていないという。吸入ステロイド薬(ICS)の普及により、喘息による死亡(喘息死)は年々減少しているものの、2020年においても年間1,158人報告されているのが現状である。そこで、2020年に日本喘息学会が設立され、2021年には非専門医向けの喘息診療実践ガイドラインが発刊、2022年に改訂された。喘息診療実践ガイドライン発刊の経緯やポイントについて、日本喘息学会理事長の東田 有智氏(近畿大学病院 病院長)に話を聞いた。喘息診療実践ガイドラインで2028年までに喘息死を0に 東田氏は、「均質な医療を提供することで、2028年までに喘息死を半減させる。できれば0にしたい」と語った。そのために「喘息の科学的知見に基づく情報提供をしたい」「非専門医の日常診療に役に立つガイドラインを作りたい」との思いから、喘息診療実践ガイドラインを作成したという。喘息診療実践ガイドラインは、新薬の登場などに合わせて、可能な限り毎年改訂を行う予定とのことである。喘息診療実践ガイドライン2022の問診チェックリスト活用を 従来のガイドラインでは、「喘息診断の目安」が記載されているものの、「診断基準」は明記されていない。また、喘息の診断には呼吸機能検査が必要とされているが、日常診療の場では難しい。そこで、喘息診療実践ガイドライン2022では、臨床現場で実際に活用できる診断アルゴリズムを作成している。ここで、重要となるのが「問診」である。東田氏らは、4千人超の喘息患者のデータをレトロスペクティブに解析した結果を基に、喘息患者の特徴を抽出した「問診チェックリスト」を作成し、喘息診療実践ガイドライン2022上に掲載している(p4、表2-1)。チェックリストは、大項目(喘鳴、咳嗽、喀痰などの喘息を疑う症状)と小項目(症状8項目、背景7項目の計15項目)からなり、「大項目+小項目(いずれか1つ)があれば喘息を疑う」とされている。 問診の結果、喘息を疑った場合には、「まず中用量のICSと長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤(中用量ICS/LABA)を最低3日以上使ってほしい」という。「中用量ICS/LABAによる治療に反応し、治療開始前から喘鳴がある場合は喘息と診断して良い」とのことである。反応しない場合は、「他疾患も疑う必要があるため、迷わず専門医に紹介してほしい」と語った。喘息診療実践ガイドライン2022には喘息治療のフローを掲載 喘息診療実践ガイドライン2022の喘息治療のフローに基づくと、日常診療では診断もかねて基本的には中用量ICS/LABAで治療を開始し、それでも症状が残ってしまう場合には、症状に応じて次のステップを考える。咳・痰が続く、呼吸困難が残る、喫煙歴がある場合などは、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を、鼻汁・鼻閉(鼻づまり)がある場合は、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を追加する。LAMAを追加する場合は、「1デバイスで3成分を吸入できるICS/LABA/LAMAの3成分配合剤が登場しているため、こちらを使用してほしい」とのことだ。 また、治療効果が不十分の場合には、吸入薬をきちんと吸えていない可能性があるという。そのため、「まず、うまく吸えているかを確認してほしい。吸入指導の動画も用意しているので活用してほしい」と述べた。各種吸入デバイスの吸入指導用動画や「ホー吸入」という薬の通り道を広く保つ吸入法が、日本喘息学会HPに掲載されているので活用されたい。喘息診療実践ガイドライン2022に医療連携の可能な病院リスト 喘息治療においては、専門医との病診連携を積極的に活用してほしいという。たとえば、「中用量ICS/LABAにLAMAまたはLTRAを追加しても効果が得られない場合」「重症喘息に該当する喘息患者に遭遇した場合」「治療のステップダウンを検討しているが、呼吸機能検査ができない場合」などは検査を行う必要があるため、「専門医で治療導入や呼吸機能検査を実施し、その後はかかりつけ医の先生に診療いただくという病診連携も可能だ」と専門医との病診連携の重要性を強調した。専門医への紹介を考慮すべきタイミングについての詳細や専門医紹介時のひな型、医療連携の可能な病院のリストが喘息診療実践ガイドライン2022上に記載されているので活用されたい(p68~p71)。COVID-19流行期こそ喘息コントロールが重要 注目を集める喘息と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係については、「喘息をきちんとコントロールできていれば、COVID-19感染リスクが高いわけではないので、必要以上に怖がることはない。ただし、喘息のコントロールが悪いと、気道に炎症が起こり感染しやすくなってしまうので、喘息をコントロールすることが最も重要である」と喘息コントロールの重要性を強調した。『喘息診療実践ガイドライン2022』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:本文72頁発行:2022年7月作成:一般社団法人日本喘息学会発行:協和企画

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交代勤務や夜勤と将来の認知症リスク~メタ解析

 交代勤務や夜勤が認知症リスクと関連しているかについては、相反するエビデンスが報告されている。中国・First Clinical Medical College of Shaanxi University of Traditional Chinese MedicineのZhen-Zhi Wang氏らは、交代勤務や夜勤と認知症との潜在的な関連性を明らかにするため、関連文献をシステマティックに検索し、メタ解析を実施した。その結果、夜勤は認知症のリスク因子である可能性が示唆された。Frontiers in Neurology誌2022年11月7日号の報告。 交代勤務や夜勤と認知症との関連を調査するため、2022年1月1日までに公表された文献をPubMed、Embase、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。独立した2人の研究者により、検索した文献、抽出データの適格性がレビューされた。PRISMAガイドラインに従ってシステマティック評価およびメタ解析を実施した。メタ解析には、Stata 16.0を用いた。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、4つの研究(10万3,104例)を含めた。・プールされた結果では、夜勤者は夜勤がない者と比較し、認知症リスクが12%高かった(ハザード比[HR]:1.12、95%信頼区間[CI]:1.03~1.23、p=0.094)。・一方、交代勤務は認知症リスクとの有意な関連は認められなかった(HR:1.09、95%CI:0.83~1.43、p=0.546)。しかし、交代勤務と認知症リスクの関連は加齢とともに増加する可能性があり、50歳以上の交代勤務者では認知症リスクとの相関が認められた(HR:1.31、95%CI:1.03~1.68、p=0.030)。・これらの結果をさらに確認するためには、客観的な指標を用いたプロスペクティブ研究が必要とされる。

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lecanemab、FDAがアルツハイマー病治療薬として迅速承認/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは2023年1月7日付のプレスリリースで、可溶性(プロトフィブリル)および不溶性アミロイドβ(Aβ)凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体lecanemabについて、米国食品医薬品局(FDA)がアルツハイマー病の治療薬として、迅速承認したことを発表した。 本承認は、lecanemabがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第II相試験(201試験)の結果に基づくもので、エーザイでは最近発表した大規模なグローバル臨床第III相検証試験であるClarity AD試験のデータを用い、フル承認に向けた生物製剤承認一部変更申請(sBLA)をFDAに対して速やかに行うとしている。lecanemabの米国における適応症<適応症> lecanemabの適応症はアルツハイマー病(AD)の治療であり、lecanemabによる治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の患者において開始すること。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性に関するデータはない。本適応症は、lecanemabの治療により観察されたAβプラークの減少に基づき、迅速承認の下で承認されており、臨床的有用性を確認するための検証試験データが本迅速承認の要件となっている。<用法・用量(対象者・投与方法・ARIAのモニタリング)> 治療開始前にAβ病理が確認された患者に対して、10mg/kgを推奨用量として2週間に1回点滴静注。lecanemabによる治療の最初の14週間は、アミロイド関連画像異常(ARIA)についてとくに注意深く患者の様子を観察することが推奨される。投与開始前に、ベースライン時(直近1年以内)の脳MRI、および投与後のMRIによる定期的なモニタリング(5回目、7回目、14回目の投与前)が行われる。<副作用> lecanemabの安全性は、201試験においてlecanemabを少なくとも1回投与された763例で評価されている。lecanemab(10mg/kg)を隔週投与された被験者(161例)の少なくとも5%に報告され、プラセボ投与被験者(245例)より少なくとも2%高い発生率であった。主な副作用は、infusion reaction(lecanemab群:20%、プラセボ群:3%)、頭痛(14%、10%)、ARIA浮腫/滲出液貯留(ARIA-E;10%、1%)、咳(9%、5%)および下痢(8%、5%)だった。lecanemabの投与中止に至った最も多い副作用はinfusion reactionであり、lecanemab群は2%(161例中4例)に対して、プラセボ群は1%(245例中2例)だった。lecanemabの重要な安全情報<重要な安全情報(警告・注意事項)>アミロイド関連画像異常(ARIA) lecanemabはARIAとして、MRIで観察されるARIA-E、あるいはARIA脳表ヘモジデリン沈着(ARIA-H)として微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症を引き起こす可能性がある。ARIAは通常無症候であるが、まれに痙攣、てんかん重積状態など、生命を脅かす重篤な事象が発生することがある。ARIAに関連する症状として、頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害などが報告されている。また、局所的な神経障害が起こることもある。ARIAに関連する症状は、通常、時間の経過とともに消失する。[ARIAのモニタリングと投与管理のガイドライン]・lecanemabによる治療を開始する前に、直近1年以内のMRIを入手すること。5回目、7回目、14回目の投与前にMRIを撮影すること。・ARIA-EおよびARIA-Hを発現した患者における投与の推奨は、臨床症状および画像判定による重症度によって異なる。ARIAの重症度に応じて、lecanemabの投与を継続するか、一時的に中断するか、あるいは中止するかは、臨床的に判断すること。・ARIAの大半はlecanemabによる治療開始後14週間以内にみられることから、この期間はとくに注意深く患者の状態を観察することが推奨される。ARIAを示唆する症状がみられた場合は臨床評価を行い、必要に応じてMRIを実施すること。MRIでARIAが観察された場合、投与を継続する前に慎重な臨床評価を行うこと。・症候性ARIA-E、もしくは無症候でも画像判定によって重度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した経験はない。無症候でも画像判定によって軽度から中等度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した症例に関する経験は限られている。ARIA-Eの再発症例への投与データは限られている。[ARIAの発現率]・201試験において、lecanemab群の3%(5/161例)に症候性ARIAが発現した。ARIAに伴う臨床症状は、観察期間中に80%の患者で消失した。・無症候性ARIAを含めると、ARIAの発現率はlecanemab群の12%(20/161例)、プラセボ群の5%(13/245例)であった。ARIA-Eは、lecanemab群の10%(16/161例)、プラセボ群の1%(2/245)で観察された。ARIA-Hは、lecanemab群の6%(10/161例)、プラセボ群の5%(12/245例)で観察された。プラセボと比較して、lecanemab投与によるARIA-Hのみの発現率の増加は認められなかった。・直径1cmを超える脳内出血は、lecanemab群の1例で報告されたが、プラセボ群では報告されなかった。他の試験では、lecanemabの投与を受けた患者において、致死的事象を含む脳内出血の発生が報告された。[アポリポタンパク質Eε4(ApoEε4)保有ステータスとARIAのリスク]・201試験において、lecanemab群の6%(10/161例)がApoEε4ホモ接合体保有者、24%(39/161例)がヘテロ接合体保有者、70%(112/161例)が非保有者であった。・lecanemab群において、ApoEε4ホモ接合体保有者はヘテロ接合体保有者および非保有者よりも高いARIAの発現率を示した。lecanemabを投与された患者で症候性ARIAを発症した5例のうち4例はApoEε4ホモ接合体保有者であり、うち2例は重度の症状が認められた。lecanemab投与を受けた被験者で、ApoEε4ホモ接合体保有者ではApoEε4ヘテロ接合体保有者や非保有者と比較して症候性ARIAおよびARIAの発現率が高いことが、他の試験でも報告されている。・ARIAの管理に関する推奨事項は、ApoEε4保有者と非保有者で異ならない。・lecanemabによる治療開始を決定する際に、ARIA発症リスクを知らせるためにApoEε4ステータスの検査が考慮される。[画像による所見]・画像による判定では、ARIA-Eの多くは治療初期(最初の7回投与以内)に発現したが、ARIAはいつでも発現し、複数回発現する可能性がある。lecanemab投与によるARIA-Eの画像判定による重症度は、軽度4%(7/161例)、中等度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Eは画像による検出後、12週までに62%、21週までに81%、全体で94%の患者で消失した。lecanemab投与によるARIA-H微小出血の画像判定の重症度は、軽度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Hの患者10例のうち1例は軽度の脳表ヘモジデリン沈着症を有していた。[抗血栓薬との併用と脳内出血の他の危険因子について]・201試験では、ベースラインで抗凝固薬を使用していた被験者を除外した。アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬の使用は許可された。また、臨床試験中に併発事象の処置のため4週間以内の抗凝固薬を使用する場合は、lecanemabの投与を一時的に中断した。・抗血栓薬を使用した被験者はほとんどがアスピリンであり、他の抗血小板薬や抗凝固薬の使用経験は限られており、これらの薬剤の併用時におけるARIAや脳内出血のリスクに関しては結論づけられていない。lecanemab投与中に直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告されており、lecanemab投与中の抗血栓薬または血栓溶解薬(組織プラスミノーゲンアクチベーターなど)の投与には注意が必要である。・さらに、脳内出血の危険因子として、201試験においては以下の基準により被験者登録を除外している。直径1cmを超える脳出血の既往、4個を超える微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症、血管性浮腫、脳挫傷、動脈瘤、血管奇形、感染病変、多発性ラクナ梗塞または大血管支配領域の脳卒中、重度の小血管疾患または白質疾患。これらの危険因子を持つ患者へのlecanemabの使用を検討する際には注意が必要である。infusion reaction・lecanemabのinfusion reactionは、lecanemab群で20%(32/161例)、プラセボ群で3%(8/245例)に認められ、lecanemab群の多く(88%、28/32例)は最初の投与で発生した。重症度は軽度(56%)または中等度(44%)だった。lecanemab投与患者の2%(4/161例)において、infusion reactionにより投与が中止された。infusion reactionの症状には、発熱、インフルエンザ様症状(悪寒、全身の痛み、ふるえ、関節痛)、吐き気、嘔吐、低血圧、高血圧、酸素欠乏症がある。・初回投与後、一過性のリンパ球数の減少(0.9×109/L未満)がプラセボ群の2%に対して、lecanemab群の38%に認められ、一過性の好中球数の増加(7.9×109/Lを超える)はプラセボ群の1%に対して、lecanemab群の22%で認められた。・infusion reactionが発現した場合には、注入速度を下げ、あるいは注入を中止し、適切な処置を開始する。また次回以降の投与前に、抗ヒスタミン薬、アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイドによる予防的投与が検討される場合がある。

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脂質異常症(高脂血症)とは?

脂質異常症(高脂血症)とは?血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を、脂質異常症といいます。脂質の異常には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常があります。これらはいずれも、動脈硬化の促進と関連します1)。脂質異常症の診断基準2)LDLコレステロールHDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症120~139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症40mg/dL未満低HDLコレステロール血症悪玉が多いタイプ善玉が少ないタイプ150mg/dL以上トリグリセライド (空腹時採血)(中性脂肪)175mg/dL以上高トリグリセライド血症中性脂肪が多いタイプ(随時採血)non HDLコレステロール170mg/dL以上高non HDLコレステロール血症(総コレステロール-HDLコレステロール)150~169mg/dL境界域高non HDLコレステロール血症1)厚生労働省 e-ヘルスネット善玉以外が多いタイプ脂質異常症(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004.html)2)日本動脈硬化学会編. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. p22 表2-1より一部改変Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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定量化が困難な冠動脈疾患、機械学習で可能に/Lancet

 冠動脈疾患のバイナリ診断では、疾患の複雑性が保持されず、重症度や死亡リスクを定量化できないため、冠動脈疾患の定量的マーカーの確立が求められている。米国・マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のIain S. Forrest氏らは、電子健康記録(EHR)に基づく機械学習を用いて、動脈硬化と死亡リスクを連続スペクトルで非侵襲的に定量化し、過小診断された患者の特定が可能な冠動脈疾患のin-silicoマーカー「ISCAD」を開発した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年12月20日号で報告された。定量的マーカーとしてのISCADを評価するコホート研究 研究グループは、機械学習モデルに基づく確率から導出される冠動脈疾患の定量的マーカーの評価を目的にコホート研究を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 2つの大規模なバイオバンク(BioMe Biobank、UK Biobank)の参加者9万5,935人のEHRを用いて冠動脈疾患を検出する機械学習モデルを開発・検証し、ISCADスコア(0[確率が最も低い]~1[確率が最も高い])としてその蓋然性を評価した。 さらに、ISCADと臨床アウトカム(冠動脈狭窄、閉塞性冠動脈疾患、多枝冠動脈疾患、全死因死亡、冠動脈疾患の後遺症)の関連について検討した。高ISCAD/未診断者の46%が、ACC/AHAガイドラインを満たした 9万5,935人のうち、3万5,749人がBioMe Biobank(年齢中央値61歳、男性41%、冠動脈疾患診断率14%)、6万186人はUK Biobank(62歳、42%、14%)の参加者であった。 このモデルは、BioMe Biobankの検証セットとホールドアウトセットで、受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)がそれぞれ0.95(95%信頼区間[CI]:0.94~0.95、感度:0.94[95%CI:0.94~0.95]、特異度:0.82[95%CI:0.81~0.83])および0.93(95%CI:0.92~0.93、感度:0.90[0.89~0.90]、特異度:0.88[0.87~0.88])であった。また、UK Biobankの外部テストセットでは、ROC AUCは0.91(95%CI:0.91~0.91、感度:0.84[0.83~0.84]、特異度:0.83[0.82~0.83])だった。 ISCADは、既知のリスク因子、リスク予測式(pooled cohort equations)、多遺伝子リスクスコアから、冠動脈疾患のリスクを把握することができた。閉塞性冠動脈疾患、多枝冠動脈疾患、主要な冠動脈(左冠動脈主幹部、左前下行枝近位部など)の狭窄のリスクを含め、冠動脈狭窄はISCADの四分位数が上昇するに従って定量的に増加した(四分位ごとに12ポイントの増加)。 全死因死亡のハザード比(HR)と有病率は、ISCADの十分位数の上昇に従って段階的に増加した(第1十分位数のHR:1.0[95%CI:1.0~1.0]、有病率:0.2%、第6十分位数のHR:11[3.9~31]、有病率:3.1%、第10十分位数のHR:56[20~158]、有病率:11%)。冠動脈疾患の後遺症としての心筋梗塞の再発にも、同様の傾向が観察された。 高ISCAD(≧0.9)で冠動脈疾患の診断を受けていない26人と、傾向スコアでマッチさせた低ISCAD(≦0.1)で冠動脈疾患の診断を受けていない26人(全体の年齢中央値73歳、男性40%)で検討したところ、高ISCADの未診断者のうち12人(46%)が、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)作業部会による2014年版ガイドラインの冠動脈疾患の臨床的エビデンスを満たした。 著者は、「機械学習に基づく冠動脈疾患の定量的マーカーの導入は、患者の病態と臨床アウトカムの定義に有益で、疾患の検出を最適化し、過小診断を抑制する可能性がある」としている。

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褐色細胞腫・パラガングリオーマ〔PPGL:pheochro mocytoma/paraganglioma〕

1 疾患概要褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫、後者をパラガングリオーマ、総称して「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」と呼ぶ。カテコールアミン過剰分泌による症状と腫瘍性病変による症状がある。カテコラミン過剰により、動悸、頭痛などの症状、高血圧、糖代謝異常などの種々の代謝異常、心血管系合併症、さらには各種の緊急症(高血圧クリーゼ、たこつぼ型心筋症による心不全、腫瘍破裂によるショックなど)を呈することがある。すべてのPPGLは潜在的に悪性腫瘍の性格を有し、実際、約10〜15%は悪性・転移性を示す。それ故、早期の適切な診断と治療が極めて重要である。原則として日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」1)(図)に基づき、診断と治療を行う。図 褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療アルゴリズム画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ PPGLを疑う所見カテコラミン過剰による頭痛、動悸、発汗、顔面蒼白、体重減少、悪心・嘔吐、心筋梗塞類似の胸痛、不整脈などの多彩な症状を示す。肥満はまれである。高血圧を約85%に認め、持続型、発作型、混合型があるが、特に発作性高血圧が特徴的である。持続型では治療抵抗性高血圧の原因となる。発作型では各種刺激(運動、ストレス、過食、排便、飲酒、腹部触診、メトクロプラミド[商品名:プリンペラン]静注など)で高血圧発作が誘発される(高血圧クリーゼ)。さらに、急性心不全、肺水腫、ショックなどを合併することもある。発作型の非発作時には、まったくの「無症候性」であることも少なくない。また、高血圧をまったく呈さない無症候性や、逆に起立性低血圧を示すこともある。副腎や後腹膜の偶発腫瘍として発見される例も多い。■ スクリーニングの対象PPGLは二次性高血圧の中でも頻度が少なく、希少疾患に位置付けられるため、全高血圧でのスクリーニングは、費用対効果の観点から現実的ではない。PPGLガイドラインでは、特に疑いの強いPPGL高リスク群(表)での積極的なスクリーニングを推奨している。表 PPGL高リスク群1)PPGLの家族歴ないし既往歴(MEN、Von Hippel-Lindau病など)のある例2)特定の条件下の高血圧(発作性、治療抵抗性、糖尿病合併、高血圧クリーゼなど)3)多彩な臨床症状(動悸、発汗、頭痛、胸痛など)4)副腎偶発腫特に近年、副腎偶発腫瘍、無症候例の頻度が増加しているため、慎重な鑑別診断が必須である。スクリーニング方法カテコールアミン過剰の評価に際しては、運動、ストレス、体位、食品、薬剤などの測定値に影響する要因を考慮する必要がある。まず、外来でも実施可能な血中カテコールアミン(CA)分画(正常上限の3倍以上)、随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)(正常上限の3倍以上または500ng/mg・Cr以上)の増加を確認する。メタネフリン、ノルメタネフリンはカテコールアミンの代謝産物であり、随時尿でも安定であるため、スクリーニングや発作型の診断に有用である。近年、海外で第1選択である血中遊離メタネフリン分画も実施可能となったが、海外とは測定法が異なるため注意を要する。機能診断法上記のスクリーニングが陽性の場合、24時間尿中カテコールアミン分画(≧正常上限の2倍以上)、24時間尿中総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)の増加を確認する。従来実施された誘発試験は著明な高血圧を来すため推奨されない。アドレナリン優位の腫瘍は褐色細胞腫、ノルアドレナリン優位の腫瘍はパラガングリオーマが多い。画像診断臨床的にPPGLが疑われる場合は腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像診断(CT、MRI)を行う。約90%は副腎原発で局在診断が容易であり、副腎偶発腫瘍としての発見も多い。約10%はPGLで時に局在診断が困難なため、CT、 MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどの複数のモダリティーを組み合わせる。(1)CT副腎腫瘍確認の第1選択。造影剤使用はクリーゼ誘発の可能性があるため、わが国では原則禁忌であり、実施時には患者への説明・同意とフェントラミンの準備が必須となる。(2)MRI副腎皮質腫瘍との鑑別診断、頭頸部病変、転移性病変の診断に有用である。(3)123I-MIBGシンチグラフィ疾患特異性が高いが偽陰性、偽陽性がある。PGLや転移巣の診断にも有用である。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行う。(4)18F-FDG PET多発性病変や転移巣検索に有用である。病理学的診断(1)良・悪性を鑑別する病理組織マーカーは未確立である。組織所見とカテコールアミン分泌パターンを組み合わせたスコアリング(GAPP)が悪性度と予後判定に有用とされる。(2)コハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)の免疫染色の欠如はSDHx遺伝子変異の存在を示唆する。遺伝子解析(1)PPGLの30~40%が遺伝性で、19種類の原因遺伝子が報告されている2)。(2)若年発症(35歳未満)、PGL、多発性、両側性、悪性では生殖細胞系列の遺伝子変異が示唆される2)。(3)SDHB遺伝子変異は遠隔転移が多いため悪性度評価の指標となる。(4)全患者において遺伝子変異の頻度と臨床的意義、遺伝子解析の利益と不利益の説明を行うことが推奨されるが、必須ではなく、[1]遺伝カウンセリング、[2]患者の自由意思による判断、[3]質の担保された解析施設での実施が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)過剰カテコールアミンを阻害する薬物治療と手術による腫瘍摘除が治療原則である。1)薬物治療α1遮断薬が第1選択で、効果不十分な場合、Ca拮抗薬を併用する。頻脈・頻脈性不整脈ではβ遮断薬を併用するが、α1遮断薬に先行しての単独投与は禁忌である。循環血漿量減少に対して、術前に高食塩食あるいは生理食塩水点滴を行う。α1遮断薬でのコントロール不十分な場合はカテコールアミン合成阻害薬メチロシン(商品名:デムサー)を使用する。2)外科的治療小さな褐色細胞腫では腹腔鏡下副腎摘除術、悪性度が高い例では開腹手術を施行する。潜在的に悪性であることを考慮して、腫瘍被膜の損傷に注意が必要である。家族性PPGLや対側副腎摘除後の症例では副腎部分切除術を検討する。悪性の可能性があるため、全例で少なくとも術後10年間、悪性度が高いと判断される高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される。3)悪性PPGL131I-MIBG内照射、CVD化学療法、骨転移に対する外照射などの集学的治療を行う。治癒切除が困難でも、原発巣切除術による予後改善が期待される。■ 診断と治療のアルゴリズム上述の日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズム(図)を参照されたい。PPGL高リスク群で積極的にスクリーニングを行う。外来にて血中カテコラミン、随時尿中メタネフリン分画などを測定、疑いが強ければ、蓄尿でのCA分画と画像診断を行う。内分泌異常と画像所見が合理的に一致していれば、典型例での診断は容易である。無症候性、カテコールアミン産生能が低い例、腫瘍の局在を確認できない場合の診断は困難で、内分泌検査の反復、異なるモダリティーの画像診断の組み合わせが必要である。単発性病変であれば、α1ブロッカーによる適切な事前治療後、腫瘍摘出術を行う。術後、長期にわたり定期的に経過観察を要する。悪性・転移性の場合は、ガイドラインに準拠して集学的な治療を行う。診断と治療は専門医療施設での実施が推奨される。4 今後の展望今後解決すべき課題は以下の通りである。PPGL疾患概念の変遷:分類、神経内分泌腫瘍との関連診療アルゴリズムの改変診断基準の精緻化機能検査:遊離メタネフリン分画の位置付け画像検査:オクトレオチドスキャンの位置付け、68Ga-DOTATEシンチの応用遺伝子検査の臨床的適応頸部パラガングリオーマの診断と治療内科的治療:デムサの適応と治療効果核医学治療:123I-MIBG、ルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ)の適応と実態5 主たる診療科初回受診診療科は一般的に代謝・内分泌科、循環器内科、泌尿器科、腎臓内科など多岐にわたるが、以下の場合には専門医療施設への紹介が望ましい。(1)PPGLの家族歴・既往歴のある患者(2)高血圧クリーゼ、治療抵抗性高血圧、発作性高血圧などの患者(3)副腎偶発腫瘍で基礎疾患が不明な場合(4)PPGLの局所再発や遠隔転移のある悪性PPGL(5)遺伝子解析の実施を考慮する場合6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)1)成瀬光栄、他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 平成22年度報告書.2010.2)Lenders JW、 et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:1915-1942.3)日本内分泌学会「悪性褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編).褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.診断と治療社;2018.公開履歴初回2023年1月5日

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ARNi【心不全診療Up to Date】第4回

第4回 ARNiKey PointsARNi誕生までの長い歴史をプレイバック!ARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめ!ARNiの認知機能への影響は?はじめに第4回となる今回は、第1回で説明した“Fantastic Four”の1人に当たる、ARNiを取り上げる。第3回でSGLT2阻害薬の歴史を振り返ったが、実はこのARNiも彗星のごとく現れたのではなく、レニンの発見(1898年)から110年以上にわたる輝かしい一連の研究があってこその興味深い歴史がある。その歴史を簡単に振り返りつつ、この薬剤の作用機序、エビデンス、使用上の懸念点をまとめていきたい。ARNi開発の歴史:なぜ2つの薬剤の複合体である必要があるのか?ARNiとは、Angiotensin Receptor-Neprilysin inhibitorの略であり、アンジオテンシンII受容体とネプリライシンを阻害する新しいクラスの薬剤である。この薬剤を理解するには、心不全の病態において重要なシステムであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)とナトリウム利尿ペプチド系(NPS)を理解することが重要である(図1)。アンジオテンシンII受容体は説明するまでもないと思われるが、ネプリライシン(NEP)はあまり馴染みのない先生もおられるのではないだろうか。画像を拡大するネプリライシンとは、さまざまな心保護作用のあるナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、 CNP)をはじめ、ブラジキニン、アドレノメデュリン、サブスタンスP、アンジオテンシンIおよびII、エンドセリンなどのさまざまな血管作動性ペプチドを分解するエンドペプチダーゼ(酵素)のことである。その血管作動性ペプチドにはそれぞれに多様な作用があり、ネプリライシンを阻害することによるリスクとベネフィットがある(図2)。つまり、このNEP阻害によるリスクの部分(アンジオテンシンIIの上昇など)を補うために、アンジオテンシン受容体も合わせて阻害する必要があるというわけである。画像を拡大するそこでまずはACEとNEPの両方を阻害する薬剤が開発され1)、このクラスの薬剤の中で最も大規模な臨床試験が行われた薬剤がomapatrilatである。この薬剤の心不全への効果を比較検証した第III相試験OVERTURE(Omapatrilat Versus Enalapril Randomized Trial of Utility in Reducing Events)、高血圧への効果を比較検証したOCTAVE(Omapatrilat Cardiovascular Treatment Versus Enalapril)にて、それぞれ心血管死または入院(副次評価項目)、血圧をエナラプリルと比較して有意に減少させたが、血管性浮腫の発生率が有意に多いことが報告され、市場に出回ることはなかった。これはomapatrilatが複数のブラジキニンの分解に関与する酵素(ACE、アミノペプチダーゼP、NEP)を同時に阻害し、ブラジキニン濃度が上昇することが原因と考えられた。このような背景を受けて誕生したのが、血管性浮腫のリスクが低いARB(バルサルタン)とNEP阻害薬(サクビトリル)との複合体であるARNi(サクビトリルバルサルタン)である。この薬剤の慢性心不全(HFrEF)への効果をエナラプリル(慢性心不全治療薬のGold Standard)と比較検証した第III相試験がPARADIGM-HF (Prospective Comparison of ARNi With ACE Inhibitors to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in HF)2)である(図3、表1)。この試験は、明確な有効性と主要評価項目が達成されたことに基づき、早期終了となった。つまり、ARNiは、長らく新薬の登場がなかったHFrEF治療に大きな”PARADIGM SHIFT”を起こすきっかけとなった薬剤なのである。画像を拡大する画像を拡大するARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめARNiの心不全患者を対象とした主な臨床試験は表1のとおりで、実に多くの無作為化比較試験(RCT)が実施されてきた。2010年、まずARNiの心血管系疾患に対する有効性と安全性を検証する試験(proof-of-concept trial)が1,328例の高血圧患者を対象に行われた3)。その結果、バルサルタンと比較してARNiが有意に血圧を低下させ、咳や血管浮腫増加もなく、ARNiは安全かつ良好な忍容性を示した。その後301人のHFpEF患者を対象にARNiとバルサルタンを比較するRCTであるPARAMOUNT試験が実施された(表1)4)。主要評価項目である投与開始12週後のNT-proBNP低下量は、ARNi群で有意に大きかった。36週後の左室充満圧を反映する左房容積もARNiでより低下し、NYHA機能分類もARNiでより改善された。そして満を持してHFrEF患者を対象に実施された大規模RCTが、上記で述べたPARADIGM-HF試験である2)。この試験は、8,442例の症候性HFrEF患者が参加し、エナラプリルと比較して利尿薬やβ遮断薬、MR拮抗薬などの従来治療に追加したARNi群で主要評価項目である心血管死または心不全による入院だけでなく、全死亡、突然死(とくに非虚血性心筋症)も有意に減少させた(ハザード比:主要評価項目 0.80、全死亡 0.84、突然死 0.80)。本試験の結果を受け、2015年にARNiは米国および欧州で慢性心不全患者の死亡と入院リスクを低下させる薬剤として承認された。このPARADIGM-HF試験のサブ解析は50本以上論文化されており、ARNiのHFrEFへの有効性がさまざまな角度から証明されているが、1つ注意すべき点がある。それは、サブグループ解析にてNYHA機能分類 III~IV症状の患者で主要評価項目に対する有効性が認められなかった点である(交互作用に対するp値=0.03)。その後、NYHA機能分類IVの症状を有する進行性HFrEF患者を対象としたLIFE(LCZ696 in Advanced Heart Failure)試験において、統計的有意性は認められなかったものの、ARNi群では心不全イベント率が数値的に高く、進行性HF患者ではARNiが有効でない可能性をさらに高めることになった5)。この結果を受けて、米国心不全診療ガイドラインではARNiの使用がNYHA機能分類II~IIIの心不全患者にのみClass Iで推奨されている(文献6の [7.3.1. Renin-Angiotensin System Inhibition With ACEi or ARB or ARNi])。つまり、早期診断、早期治療がきわめて重要であり、too lateとなる前にARNiを心不全患者へ投与すべきということを示唆しているように思う。ではHFpEFに対するARNiの予後改善効果はどうか。そのことを検証した第III相試験が、PARAGON-HF(Prospective Comparison of ARNi With ARB Global Outcomes in HF With Preserved Ejection Fraction)である7)。本試験では、日本人を含む4,822例の症候性HFpEF患者を対象に、ARNiとバルサルタンとのHFpEFに対する有効性が比較検討された。その結果、ARNiはバルサルタンと比較して主要評価項目(心血管死または心不全による入院)を有意に減少させなかった(ハザード比:0.87、p値=0.06)。ただ、サブグループ解析において、女性とEF57%(中央値)以下の患者群については、ARNiの有効性が期待できる結果(交互作用に有意差あり)が報告され、大変話題となった。性差については、循環器領域でも大変重要なテーマとして現在もさまざまな研究が進行中である8,9)。EFについては、その後PARADIGM-HF試験と統合したプール解析によりさらに検証され、LVEFが正常値(約55%)以下の心不全症例でARNiが有用であることが報告された10)。これらの知見に基づき、FDA(米国食品医薬品局)は、ARNiのHFpEF(とくにEFが正常値以下の症例)を含めた慢性心不全患者への適応拡大を承認した(わが国でも承認済)。このPARAGON-HF試験のサブ解析も多数論文化されており、それらから自分自身の診療での経験も交えてHFpEFにおけるARNiの”Sweet Spot”をまとめてみた(図4)。とくに自分自身がHFpEF患者にARNiを処方していて一番喜ばれることの1つが息切れ改善効果である11)。最近労作時息切れの原因として、HFpEFを鑑別疾患にあげる重要性が叫ばれているが、BNP(NT-proBNP)がまだ上昇していない段階であっても、労作時には左室充満圧が上がり、息切れを発症することもあり、運動負荷検査をしないと診断が難しい症例も多く経験する。そのような症例は、だいたい高血圧を合併しており、もちろんすぐに運動負荷検査が施行できる施設が近くにある環境であればよいが、そうでなければ、ARNiは高血圧症にも使用できることもあり、今まで使用している降圧薬をARNiに変更もしくは追加するという選択肢もぜひご活用いただきたい。なお、ACE阻害薬から変更する場合は、上記で述べた血管浮腫のリスクがあることから、36時間以上間隔を空けるということには注意が必要である。それ以外にも興味深いRCTは多数あり、表1を参照されたい。画像を拡大するARNi使用上の懸念点ARNiは血管拡張作用が強く、それが心保護作用をもたらす理由の1つであるわけだが、その分血圧が下がりすぎることがあり、その点には注意が必要である。実際、PARADIGM-HF試験でも、スクリーニング時点で収縮期血圧が100未満の症例は除外されており、なおかつ試験開始後も血圧低下でARNiの減量が必要と判断された患者の割合が22%であったと報告されている12)。ただ、そのうち、36%は再度増量に成功したとのことであった。実臨床でも、少量(ARNi 50mg 2錠分2)から投与を開始し、その結果リバースリモデリングが得られ、心拍出量が増加し、血圧が上昇、そのおかげでさらにARNiが増量でき、さらにリバースリモデリングを得ることができたということも経験されるので、いったん減量しても、さらに増量できるタイミングを常に探るという姿勢はきわめて重要である。その他、腎機能障害、高カリウム血症もACE阻害薬より起こりにくいとはいえ13,14)、注意は必要であり、リスクのある症例では初回投与開始2~3週間後には腎機能や電解質、血圧等を確認した方が安全と考える。最後に、時々話題にあがるARNiの認知機能への懸念に関する最新の話題を提供して終わりたい。改めて図2を見ていただくと、アミロイドβの記載があるが、NEPは、アルツハイマー病の初期病因因子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の責任分解酵素でもある。そのため、NEPを持続的に阻害する間にそれらが脳に蓄積し、認知障害を引き起こす、あるいは悪化させることが懸念されていた。その懸念を詳細に検証したPERSPECTIVE試験15)の初期結果が、昨年のヨーロッパ心臓病学会(ESC2022)にて発表された16)。本試験は、592例のEF40%以上の心不全患者を対象に、バルサルタン単独投与と比較してARNi長期投与の認知機能への影響を検証した最初のRCTである(平均年齢72歳)。主要評価項目であるベースラインから36ヵ月後までの認知機能(global cognitive composite score)の変化は両群間に差はなく(Diff. -0.0180、95%信頼区間[CI]:-0.1230~0.0870、p=0.74)、3年間のフォローアップ期間中、各時点で両群は互いに類似していた。主要な副次評価項目は、PETおよびMRIを用いて測定した脳内アミロイドβの沈着量の18ヵ月時および36ヵ月時のベースラインからの変化で、有意差はないものの、ARNi群の方がアミロイドβの沈着が少ない傾向があった(Diff. -0.0292、95%CI:0.0593~0.0010、p=0.058)。これは単なる偶然の産物かもしれない。ただ、全体としてNEP阻害がHFpEF患者の脳内のβアミロイド蓄積による認知障害リスクを高めるという証拠はなかったというのは間違いない。よって、認知機能障害を理由に心不全患者へのARNi投与を躊躇する必要はないと言えるであろう。1)Fournie-Zaluski MC, et.al. J Med Chem. 1994;37:1070-83.2)McMurray JJ, et.al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.3)Ruilope LM, et.al. Lancet. 2010;375:1255-66.4)Solomon SD, et.al. Lancet. 2012;380:1387-95.5)Mann DL, et.al. JAMA Cardiol. 2022;7:17-25.6)Heidenreich PA, et.al. Circulation. 2022;145:e895-e1032.7)Solomon SD, et.al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.8)McMurray JJ, et.al. Circulation. 2020;141:338-351.9)Beale AL, et.al. Circulation. 2018;138:198-205.10)Solomon SD, et.al. Circulation. 2020;141:352-361.11)Jering K, et.al. JACC Heart Fail. 2021;9:386-397.12)Vardeny O, et.al. Eur J Heart Fail. 2016;18:1228-1234.13)Damman K, et.al. JACC Heart Fail. 2018;6:489-498.14)Desai AS, et.al. JAMA Cardiol. 2017 Jan 1;2:79-85.15)PERSPECTIVE試験(ClinicalTrials.gov)16)McMurray JJV, et al. PERSPECTIVE - Sacubitril/valsartan and cognitive function in HFmrEF and HFpEF. Hot Line Session 1, ESC Congress 2022, Barcelona, Spain, 26–29 August.

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患者に伝えたいアナフィラキシー症状

患者さん、その症状はアナフィラキシー ですよ!アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性アレルギー症状が引き起こされ、生命に危険を与え得る過敏反応」のこと。以下のような症状を伴います。□紅潮□そう痒感□蕁麻疹□立毛□結膜の充血□流涙□口腔内腫脹□気道狭窄感□息切れ□嗄声(声がれ)□激しい咳・喘鳴□鼻閉・鼻汁・くしゃみ□腹痛□下痢□血圧低下□拍動性頭痛□浮動性めまい□嘔気・嘔吐□意識障害 □動悸・頻脈□嚥下障害◆こんな場合も要注意!• 蕁麻疹が出なくても、急に息切れや腹痛、血圧低下が起こればアナフィラキシーと診断されます。• 薬剤や食べ物で起こりますが、約半数の患者さんでは原因が特定できないことも。• 薬物投与などの数時間後に症状が起こる場合もあるので、治療によっては院内でしばらく待機する必要があります。出典:日本アレルギー学会. アナフィラキシーガイドライン監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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コロナウイルスの生存率が高い食品は…野菜or肉or魚?

 2019年冬、中国・武漢で新型コロナウイルス感染症が初めて発生し、その起源も生きた哺乳類が売られていた「海鮮市場」と研究報告もまとめられている1)。以来、新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2)と食品との関連性については懸念が続いているが、SARS-CoV-2の食品での生存率と除去に関する研究はほとんど存在していない。そこで、韓国・中央大学校のSoontag Jung氏らがSARS-CoV-2の生存に最適な保管温度や素材を調査するために、レタス、チキン、サーモンにSARS-CoV-2を付着させ、温度や湿度を変化させて検証した。その結果、SARS-CoV-2の生存率は、保管温度と食品に依存しており、室温ではレタスとチキン上での生存率が低いことが明らかになった。Food Microbiology誌オンライン版2022年10月27日号掲載の報告。 本研究では、SARS-CoV-2 (L型/S型)をレタス、チキン、サーモンに付着させ、保管温度(20℃、4℃、-40℃)での生存率を食品マトリックスで評価した。さらに、食品マトリックスを不活性化させる消毒薬(エタノール、二酸化塩素[ClO2]、過酢酸[PAA])の有効性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・SARS-CoV-2は温度が20℃の場合では食品マトリックス上で3日以上は生存せず、SARS-CoV-2 L型と SARS-CoV-2 S型それぞれの半減期の推定中央値は、レタスでは3.47時間と2.60時間、チキンでは4.80時間と3.08時間で、レタスよりチキンでわずかに長かった。一方、ウイルスが最大2日間検出されたサーモン表面での半減期の推定中央値は、7.46時間と4.65時間で最も長かった。・続いて、4℃での半減期の推定中央値を見ると、10日間にまで延長し、チキンでは生存率の差がL型とS型で違いが見られた。サーモンではSARS-CoV-2両型共に汚染後14日間、感染が維持された。・-40℃ではL型/S型共に3つの素材上で4週間も生存し、とくにSARS-CoV-2 L型ではウイルス感染価(50% Tissue culture infectious dose [TCID50]/mL)2 log TCID50 /mLを超える感染を維持し、レタスが4.80×102、チキンが3.16×102、サーモンが5.54×102だった。・次に消毒薬の有効性について、OECDガイドライン基準によると、保因者検査の標準効果は3 log以上の減少と定義されているが、本研究では検出限界のため、70%エタノールによってチキンとサーモンで3 logを超える減少は観察されなかった。・ClO2では、SARS-CoV-2で汚染された食品に対してすべての暴露時間条件下でどの食品マトリックスに対しても標準的な効果を達成しなかった。・PAAは、すべての食品においてSARS-CoV-2を不活化させることができたが、SARS-CoV-2汚染レタスに対し、40ppmと80ppmのPAAでそれぞれ2.04 logと2.46 logとの殺ウイルス効果を得ることができた(p<0.05)ものの、標準的な効果には達しなかった。 研究者らは「SARS-CoV-2に汚染された食品サンプルは相対湿度40%で保管されていたが、食品は時間の経過とともに徐々に乾燥していった。SARS-CoV-2の生存率は、乾燥が食品マトリックスに影響している可能性もある」と記している。

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トリグリセライドの新基準と適切なコントロール法/日本動脈硬化学会

 今年7月に発刊された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』。今回の改訂点の1つとして「随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値」が設定された。これらの基準をもとに動脈硬化性疾患のリスクとしての高TG血症を確認するが、トリグリセライド値の低下だけではイベントを減らせないため、高トリグリセライド血症の原因となる生活習慣を改善させ適切な治療介入により動脈硬化を抑制するという観点から複合的に行う必要がある。今回、日本動脈硬化学会プレスセミナーにおいて、増田 大作氏(りんくう総合医療センター循環器内科部長)が「高トリグリセライド血症とその治療」と題し、日本人疫学に基づいたトリグリセライドの適切なコントロール法について解説した。動脈硬化抑制のためには、脂質異常値だけをコントロールするのは不十分 「動脈硬化」は虚血性心疾患や脳血管障害などの血管疾患の引き金になる。だからこそ、生活習慣病の改善を行う際には動脈硬化の予防も視野に入れておかねばならならない。本ガイドライン(GL)では脂質異常症の診断基準値の異常をきっかけに「動脈硬化が増えるリスク状態」であることをほかの項目も含めて“包括的リスク評価”を行い動脈硬化がどの程度起こるかを知ることが重要とされる。それに有用なツールとして、増田氏はまず、『動脈硬化性疾患発症予測・脂質管理目標設定アプリ』を紹介。「これまではLDLコレステロール(LDL-C)など単独の検査値のみで患者への注意喚起を行うことが多く、漠然とした指導に留まっていた。だが、本アプリを用いると、予測される10年間の動脈硬化性疾患発症リスクが“同年齢、同性で最もリスクが低い人と比べて〇倍高くなる”ことが示されるため、説得力も増す」と説明した。また、「単に“〇〇値”が高い、ではなくアプリへ入力する際に患者個人が持っているリスク(冠動脈疾患、糖尿病などの既往があるか)を医師・患者とも見直すことができ、治療介入レベルや管理目標などの目指すゴールが明確になる」とも話した。トリグリセライドの基準値に随時採血の基準も採用 今回のガイドライン改訂でトリグリセライドの基準値に随時採血(175mg/dL以上)の基準も採用された。これは、「トリグリセライドは食事によって20~30mg/dL上昇する。食後においてこれを超えてトリグリセライドが高いことが心血管疾患のリスクになっていることが本邦の疫学研究1)でも明らかになっている。コレステロール値が正常であっても、随時トリグリセライド値が166mg/dL以上の参加者は84mg/dL未満の者と比較すると、その相対リスクは冠動脈疾患が2.86倍、心筋梗塞は3.14倍、狭心症は2.67倍、突然死は3.37倍に上昇することが報告された。海外のガイドラインでの基準値も踏まえてこれが改訂GLにおける非空腹時トリグリセライドの基準値が設けられた」と日本人に適した改訂であることを説明。また、今の日本人の現状として「肥満に伴い耐糖能異常・糖尿病を罹患し、トリグリセライドが上昇傾向になる。単にコレステロールの管理だけではなく複合的に対応していくことが求められている」と述べ、「糖尿病患者ではLDL-C上昇だけでなくトリグリセライドの上昇もリスクが上昇する(1mmol/L上昇で1.54倍)。糖尿病患者における脂質異常症を放置することは非常に危険」とも強調した。高トリグリセライドは安易に下げれば良い訳ではない そこで、同氏は本GLにも掲載されている動脈硬化性疾患の予防のための投薬として、LDL-Cの管理目標値を目指したコントロール後のトリグリセライド(non-HDL-C)の適切なコントロールを以下のように挙げた。●高リスク(二次予防や糖尿病患者)+高トリグリセライドの人:スタチンでLDL-Cが適切にコントロールされた場合にイコサペント酸エチルの併用●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチン投与有無に関わらずトリグリセライド低下療法(イコサペント酸エチル・フィブラート系/選択的PPARα)●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチンにさらにフィブラート系/選択的PPARαでのトリグリセライド低下療法 なお、以前は横紋筋融解症を助長させる可能性からスタチンとフィブラート系の併用は禁忌とされていたが、多くのエビデンスの蓄積の結果平成30年より解除されている。また、選択的PPARαモジュレータにおける腎障害の禁忌も同様に本年8月に解除されているので、処方選択肢が広くなっている。 最後に同氏は「高トリグリセライドの人はさまざまな因子が絡んでいるので、安易に下げれば良い訳ではない。漫然処方するのではなく、血糖や血圧などの管理状態を見て、適切な治療薬を用いてコントロールして欲しい」と改めて強調した。

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急性心不全へのGDMTの早期増量と頻回なフォローアップで再入院リスクは減少する?(解説:原田和昌氏)

 診療ガイドライン推奨の心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)は、通常慢性期に推奨用量を目標に漸増するものであり、急性心不全による入院後に、いつごろからどのくらいの時間で、どの用量まで増量するかのエビデンスはほとんどない。心不全入院後の頻回なフォローアップだけでは、これまで有効性は示されなかった。急性心不全(HFrEFが68%、HFpEFが15%)による入院後に、GDMTの早期漸増に加えて頻回なフォローアップ(90日で5回)を行うという強化治療戦略は、通常治療と比較して症状軽減、QOL改善、180日以内の全死因死亡+心不全再入院リスクの減少をもたらすことが、Mebazaa氏らの多施設共同無作為化非盲検並行群間試験であるSTRONG-HF試験により示された。 14ヵ国の87病院において、急性心不全で入院し退院予定日前2日以内に経口心不全治療薬の最大用量を投与されていない18~85歳の患者を対象に、2週間でGDMTを目標用量まで漸増する強化治療と通常治療とを比較した。左室駆出率(≦40% vs.>40%)で層別化して、通常治療群または高強度治療群(β遮断薬、RAS阻害薬またはARNI、MR拮抗薬)に1対1の割合で無作為に割り付けた。高強度治療群では無作為化後2週間以内に推奨用量の100%まで治療薬を漸増し、無作為化後1・2・3・6週時に臨床状態、臨床検査値、NT-proBNP値を評価した。主要評価項目は、180日以内の心不全による再入院または全死亡で、ITT集団を対象に有効性と安全性を評価した。なお、主要評価項目の群間差が予測より大きかったため、本試験は2022年9月23日に早期中止となった。 1,078例が高強度治療群(542例)または通常治療群(536例)に無作為化された。平均(±SD)年齢63.0±13.6歳、男性61%であった。180日以内の心不全による再入院または全死亡は、高強度治療群で506例中74例、通常治療群で502例中109例発生した(補正後リスク差:8.1%[95%信頼区間[CI]:2.9~13.2]、p=0.0021、リスク比:0.66[95%CI:0.50~0.86])。高強度治療群は通常治療群と比較して、90日目までに経口心不全治療薬を最大用量まで漸増された患者の割合が高かった(RAS阻害薬:55% vs.2%、β遮断薬:49% vs.4%、MR拮抗薬:84% vs.46%)。また、高強度治療群は通常治療群より、90日目までに血圧、心拍数、NYHA分類、体重およびNT-proBNP値が改善した。90日以内の有害事象は、高強度治療群(223/542例、41%)が通常治療群(158/536例、29%)より多く認められたが、重篤な有害事象の発現率、致死的有害事象の発現率は同等であった。 GDMTの優位性を示すことは診療ガイドラインの有効性を検証することであり、論文になりやすい。しかし、二重盲検化されたRCTのエンドポイントは全死亡+心不全入院でよいが、本試験は非盲検試験であるため、QOLの改善にはバイアスが入りやすいこと、また、エンドポイントとしては問題がある180日の全死亡+心不全再入院で有意差がついているが、全死亡や心血管死のハードエンドポイントで差がつかなかったことは、統計的パワー不足と言い訳しているのが、気に掛かるところである。また、HFpEFが15%含まれているのは実臨床に即しているというが、LVEFによって各GDMT薬の有効性も異なる可能性があるため、年齢やHFpEFの割合が違う別の集団で同じ結果が出るかは疑問である。また、通常治療群においてGDMT(β遮断薬、RAS阻害薬またはARNI)の推奨量に達した、または推奨量の半分以上の患者の割合が、180日たってもほとんど増加していないのは、本試験での通常治療とは何なのか意味不明である。

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乳がん領域、Practice changeにつながる重要な発表【Oncology主要トピックス2022 乳がん編】【Oncologyインタビュー】第43回

今年も乳がん領域では今後の標準治療を変え得る重要な研究結果が報告された。大きく分類すると1)HER2低発現と新規薬物療法、2)CDK4/6阻害薬のOS結果、3)CDK4/6阻害薬耐性後の治療戦略となる。その他の話題も少し加えてまとめてみたい。1)HER2低発現に対する新規薬物療法:DESTINY-Breast04試験・TROPiCS-02試験DESTINY-Breast04試験トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はHER2 抗体薬物複合体(ADC)製剤であり、DESTINY-Breast01、02、03試験の結果から、HER2陽性で転移を有する乳がんの2次治療以降の標準治療である。ASCO2022のプレナリーセッションでHER2低発現に対するDESTINY-Breast04試験の結果が報告された。HER2低発現は今回新たに注目された新たな分類であり、IHC2+/ISH-またはIHC1+と定義され、全乳がんの約50%程度を占めると考えられる。T-DXdはBystander effectの結果、HER2低発現の腫瘍に対しても効果を示す。DESTINY-Breast04試験は1~2ラインの化学療法を受けたHER2低発現の転移を有する乳がん患者(N=557)を対象に、T-DXd群と治験医師選択治療(TPC)群(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセルから選択)が比較された。主要評価項目は、ホルモン受容体陽性(HR)陽性患者における盲検下独立中央判定による無増悪生存期間(PFS)で、副次評価項目は全体集団におけるPFS、HR陽性患者および全体集団における全生存期間(OS)などだった。T-DXd群(N=373、HR陽性89%)、TPC群(N=184、HR陽性90%)で、脳転移は約5%であった。転移乳がんとして前治療化学療法レジメン中央値は1で、HR陽性乳がんでは内分泌療法は前治療で中央値2レジメン、CDK4/6阻害薬は約65%で使用されていた。主要評価項目であるHR陽性患者におけるPFS中央値は、T-DXd群10.1ヵ月、TPC群5.4ヵ月でT-DXd投与群で有意に延長していた。全体集団でもPFS中央値はT-DXd群、TPC群それぞれ9.9ヵ月vs. 5.1ヵ月でありT-DXd群で有意に延長していた。OSも同様にHR陽性(23.9ヵ月vs. 17.5ヵ月)、全体集団(23.4ヵ月vs. 16.8ヵ月)であり、T-DXd群で有意に延長していた。全体の約1割程度の患者であるがHR陰性集団(N=58:トリプルネガティブ乳がん)の解析も探索的解析として行われたがPFS(8.5ヵ月vs. 2.9ヵ月)、OS(18.2ヵ月vs. 8.3ヵ月)ともにT-DXd群で良好であった。奏効率に関してはHR陽性で52.6%vs. 16.3%、HR陰性で50.0%vs. 16.7%であった。またHER2発現(IHC1+vs IHC2+/ISH-)で奏効率に差はなかった。薬剤性肺障害(ILD)はT-DXd群の12.1%に認められたが、ほとんどがGrade2以下で10.0%、Grade5は0.8%(3/371)だった。これらの結果より新たな乳がんカテゴリーであるHER2低発現に対してT-DXdは標準治療となり、プレナリーセッション発表後は盛大なスタンディングオベーションが起こった。このようにADC製剤の登場により新たなサブタイプとしてHER2低発現が脚光を浴びることとなった。HER2低発現(とくにHER2 0と1+の境界について)の定義についても今後の検討課題である。TROPiCS-02試験Trop-2は腫瘍増殖に関連している分子で、乳がんではサブタイプによらず約80%に発現している。Sacituzumab Govitecan(SG)は抗Trop-2抗体にトポイソメラーゼI阻害剤をペイロードとしたTrop-2 ADCである。転移を有するトリプルネガティブ乳がんではASCENT試験の結果を受け米国ではすでに承認されている。転移を有するHR陽性乳がんを対象としてはTROPiCS-02試験が行われ、ASCO2022でPFS最終解析とESMO2022でOS第2回中間解析の結果が報告された。転移を有するHR陽性乳がん患者で内分泌療法、CDK4/6阻害薬、タキサン既治療、転移乳がんとして2~4ラインの化学療法を受けた543例を対象に、SG群(272人)とTPC群(271人:カペシタビン、ビノレルビン、ゲムシタビン、エリブリンから選択)が比較された。主要評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSでSG群が5.5ヵ月、TPC群が4.0ヵ月でありSG群で有意に延長した。OS第2回中間解析の結果、中央値はSG群14.4ヵ月vs. TPC群11.2ヵ月で統計学的に有意な延長がみられた。奏効率はSG群21%、TPC群が14%であった。SG群で多くみられた有害事象は好中球減少、貧血、白血球減少、下痢、嘔気、脱毛などであった。これらの結果からSGは前治療としてCDK4/6阻害薬を含む内分泌療法、少なくとも2レジメン以上の化学療法などを濃厚に受けたHR乳がんに対して臨床的に意味のある治療選択肢となり得ると思われる。対象としては上記のDESTINY Breast 04試験と重なる部分もあるが、TROPiCS-02試験の方がやや前治療が多く入っており、またHER2 0も含み一致はしていない。今後この標的分子の異なる両ADC製剤をどのように使い分け、どの順に使っていくのか、またその耐性機序についても解明が必要となる。画像を拡大する2)CDK4/6阻害薬のOS結果:PALOMA-2試験・MONARCH 3試験PALOMA-2試験PALOMA-2は、閉経後転移を有するHR陽性乳がんに対する1次治療としてCDK4/6阻害薬であるパルボシクリブとアロマターゼ阻害薬であるレトロゾール併用群(併用群:N=444)と、プラセボとレトロゾールの群(単独群N=222)にランダム化されたフェーズ第III相試験である。これまでにパルボシクリブ併用でPFSが有意に延長することが示されている。ASCO2022でPALOMA-2試験のOS結果が報告された。OS中央値は併用群53.9ヵ月 vs単独群51.2ヵ月、HR 0.956(95% CI:0.777~1.177)p=0.3378で有意差を認めなかった。OSサブグループ解析では、PS 1/2、無病生存期間(DFI)12ヵ月超、内分泌療法既治療、骨転移のみの患者で併用群が良好な傾向を示した。本邦未承認薬ribociclibのMONALEESA-2では、併用群のOSの有意な延長が既に示されており、PALOMA-2の結果とは大きく異なった。その違いについては1)CDK4/6阻害薬としての薬効の違い、2)後治療の影響、3)対象とする集団の違いなどが考えられる。1)についてはPFSに関してどのCDK4/6阻害薬もほぼ同様の結果が示されているが、生物学的活性、阻害作用を示す分子が異なるとの報告もある。2)の後治療が影響した可能性については増悪後のCDK4/6阻害薬の使用はMONALEESA-2では併用群で21.7%、単独群で34.4%とPALOMA-2より高かった。HR陽性乳がんでは増悪後の生存期間が長く、後治療がOS結果に影響を及ぼした可能性はあるが、今回のPALOMA-2の報告では詳細は不明で今後の報告を待つ必要がある。3)に関して、2つの試験は同じ1次治療の試験であるが、大きく異なっている。PALOMA-2では術後内分泌療法中または終了後1年以下での再発症例が22%含まれていたのに対し、MONALEESA-2では全員術後内分泌療法終了後1年超経過した症例が対象であった。この術後内分泌療法中または終了後1年以下の集団は内分泌療法感受性が低い集団であり、パルボシクリブは内分泌療法抵抗性に対しては効果が弱い可能性が示唆されているため、PALOMA-2でこの内分泌療法抵抗性の集団を一部含んだことにより、効果の差が薄まった可能性がある。今回の発表では、ほぼ同様の患者を対象とした第II相試験のPALOMA-1試験とPALOMA-2試験の統合解析でDFI 12ヵ月超でのOSサブグループ結果も示されたが、併用群64.0ヵ月、単独群44.6ヵ月であり、HR:0.736、 95%CI:0.780~1.120であり、MONALEESA-2のOSハザード比0.76に近似する値であった。しかしこれは統合解析のサブグループ解析であり、あくまで参考値の評価である。MONARCH 3試験本邦では別のCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブも承認されているが、この薬剤の1次治療試験であるMONARCH 3の第2回OS中間解析結果がESMO2022で報告された。まだ中間解析であり、残念ながら統計学的有意差は示されなかったが、OS中央値は併用群で67.1ヵ月、単独郡で54.4ヵ月(HR:0.754、95%CI:0.584~0.974)であった。この結果は前述のMONALEESA-2とほぼ同様であり、来年解析予定のOS最終解析が非常に楽しみな結果であった。MONARCH 3はMONALEESA-2と同じく、術後内分泌療法終了後1年超経過した患者が対象であった。以上より、これまでPFSでは差を認めなかったCDK4/6阻害薬であるが、異なるOSの結果が得られたことは今後の処方に少なからず影響することが予想される。薬剤選択の際には効果のみならず、有害事象(骨髄抑制、下痢など)、患者の価値観などの情報を共有し、ともに薬剤選択をする(Shared decision making: SDM)が重要となる。画像を拡大する3)CDK4/6阻害薬耐性後の治療戦略:AKT阻害薬、経口SERD、CDK4/6阻害薬継続CDK4/6阻害薬増悪後の治療に関してこれまでエビデンスはなく、「乳癌診療ガイドライン2022年版」のFRQ10aでは、「一次内分泌療法として、アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用療法を行った場合、閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳がんの二次内分泌療法として何が推奨されるか?」に対して、二次内分泌療法として、・最適な治療法は確立しておらず、耐性機序を考慮した臨床試験が進行中である、との記載がある。主なものとしては1)CDK4/6阻害薬既治療例に対するPTEN/PI3K/AKT/mTOR経路、2)AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のESR1変異、3)AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のその他の機序、4)AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のCDK4/6阻害薬の継続の治療開発が行われている。3)-1)CDK4/6阻害薬既治療例に対するPTEN/PI3K/AKT/mTOR経路阻害:AKT阻害薬capivasertib(CAPItello-291試験)今年のSABCSではこのうちAKT阻害薬capivasertibの第III相試験であるCAPItello-291試験の報告があった。閉経前/後のホルモン受容体陽性進行・再発乳がん患者を対象(AI投与中/後に再発・進行、転移再発に対する治療歴として2ライン以下の内分泌療法、1ライン以下の化学療法、CDK4/6阻害薬治療歴ありも許容)として、試験治療群capivasertib+フルベストラント、対照群プラセボ+フルベストラントが比較された。主要評価項目は全体集団およびAKT経路に変異(≧1のPIK3CA、AKT1、PTEN遺伝子変異)を有する患者におけるPFSであった。約69%でCDK4/6阻害薬が前治療として使用されていた。AKT経路に変異を有する患者は44%vs. 38%だった。全体集団におけるPFS中央値は、プラセボ群3.6ヵ月に対しcapivasertib群7.2ヵ月で有意に改善した。またAKT経路に変異を有する患者でもPFS中央値は、プラセボ群3.1ヵ月に対しcapivasertib群は7.3ヵ月で有意に改善した。capivasertibで多く報告されたGrade3以上以上の有害事象は、下痢(9.3% vs. 0.3%)、斑状丘疹(6.2%vs. 0%)、発疹(5.4%vs. 0.3%)、高血糖(2.3%vs. 0.3%)だった。治療中止につながる有害事象の発生は、13.0% vs. 2.3%であり、効果と有害事象のバランスは考慮しなければならないものの、CDK4/6阻害薬治療後の新たな治療選択肢として期待できる結果であった。3)-2) AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のESR1変異:経口SERD (SERENA-2試験・EMERALD試験)これまで選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)は臀部筋肉注射のフルベストラントが標準治療として使用されているが、ESR変異に対して抗腫瘍効果を発揮することが期待される経口SERDが複数開発されている。このうちcamizestrantとelacestrantの報告があった。経口SERDであるcamizestrantの第II相SERENA-2試験の結果がSABCS2022で報告された。HR陽性の閉経後進行乳がん患者(1ライン以上の内分泌療法後の再発または進行で内分泌療法・化学療法は1ライン以下)を対象に試験群:camizestrant75mg(C75)群74例、camizestrant150mg(C150)群73例と対照群:フルベストラント(F)群73例が比較された。術後内分泌療法歴ありが66.7%、転移再発乳がんに対して化学療法ありが19.2%、内分泌療法ありが68.8%、CDK4/6阻害薬による治療歴ありは49.6%だった。ESR1変異ありが36.7%だった。主要評価項目のPFS中央値は、F群3.7ヵ月に対しC75群7.2ヵ月、C150群7.7ヵ月で、camizestrantの両用量群で有意に改善した。camizestrantのGrade3以上の有害事象は、血圧上昇、倦怠感・貧血・関節痛・ALT上昇・四肢痛・低ナトリウム血症であった。現在、SERENA-4およびSERENA-6の2つの第III相試験が進行中となっている。上記治験はいずれも日本からも参加している。もう1つ、経口SERDとしてelacestrantの第III相EMERALD試験のUpdate結果もSABCS2022で報告された。EMERALD試験は、HR陽性でCDK4/6阻害薬治療後に進行した男性および女性の閉経後乳がん患者(1~2ラインの内分泌療法歴[うち1ラインはCDK4/6阻害薬との併用]と1ライン以下の化学療法歴有)を対象としてelacestrantとフルベストラントが比較された初めての第III相試験であり、これまで主要評価項目であるPFSはelacestrant群で有意な延長が報告されていた。今回のSABCS2022では前治療におけるCDK4/6阻害薬の治療期間別の治療成績が報告された。CDK4/6阻害薬の投与期間を6ヵ月未満、6~12ヵ月、12~18ヵ月、18ヵ月以上と細かく分けてもelacestrant群でPFSは延長することが示された。elacestrantの主な有害事象は悪心、倦怠感、嘔吐、食欲不振、関節痛である。ESR1変異は転移再発治療としてCDK4/6阻害薬+AIを治療中に起こってくる耐性機序の1つであるが、新たに開発された経口SERDはその解決策として非常に有望である。長期の治療成績については今後の続報を待つ必要がある。3)-3) AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のCDK4/6阻害薬の継続(MAINTAIN試験)今回初めて前向き試験であるMAINTAIN試験の結果が報告された。MAINTAIN試験はHR陽性転移乳がんに対してCDK4/6阻害薬と内分泌療法後に増悪した症例に対してフルベストラントまたはエキセメスタンとribociclibを併用投与する群(併用群)と、フルベストラントまたはエキセメスタンとプラセボを投与する群(プラセボ群)が比較された。初回CDK4/6阻害薬としてパルボシクリブが86%で使われておりribociclibは10%強であった。主要評価項目のPFS中央値は併用群5.29ヵ月、プラセボ群2.76ヵ月で、HR:0.57(95%CI:0.39~0.95)、p=0.006と有意に併用群のPFSが延長した。奏効率は併用群20%、プラセボ群11%、臨床的有用率は併用群43%、プラセボ群25%でどちらも併用群で良好な結果であった。ESR1変異有無別では非常に症例数の少ないサブグループ解析ではあるがESR1変異なしでは併用群が優れている傾向を示したが、ESR1変異ありでは両群間に差を認めなかった。本試験は小規模な第II相試験であり、標準治療をすぐに変えるものではないが、CDK4/6阻害薬増悪後の後治療として、併用するホルモン治療を変更することでCDK4/6阻害薬の効果を維持できる可能性が示唆された。妊娠希望のあるHR陽性乳がん患者の新たなエビデンスPOSITIVE試験若年乳がん患者にとって妊孕性温存は重要な問題であり、特にHR陽性においては長期に術後補助内分泌療法が必要なため、内分泌療法を一時中断した場合のアウトカムが待望されていた。今回、SABCSにて内分泌療法を2年間中断した場合の乳がん再発の観点から見た安全性について、前向き単群試験のPOSITIVE試験の結果が報告された。対象は術後補助内分泌療法を18~30ヵ月間受けたStage I~IIIのHR陽性乳がん患者で、妊娠を希望し内分泌療法を中断する42歳以下の閉経前女性。内分泌療法を、wash out期間(3ヵ月)を含み、妊娠企図、妊娠、出産、授乳で2年間中断し、再開後5~10年追跡された。主要評価項目は乳がん無発症期間(BCFI)、副次評価項目は妊娠および出生児のアウトカムなどであった。2014年12月~2019年12月に518例が登録され、登録時の年齢中央値は37歳、75%が出産歴がなく、94%がStage I/IIであった。内分泌療法はタモキシフェン単独が最も多く(42%)、次いでタモキシフェン+卵巣機能抑制(36%)で、62%が術前もしくは術後化学療法を受けていた。追跡期間中央値41ヵ月においてBCFIイベントが44例に発生し、3年間累積発生率は8.9%だった。これはSOFT/TEXT試験(Breast. 2020)の対照コホートで算出した9.2%と同様だった。妊娠アウトカムを評価した497例中368例(74%)が1回以上妊娠し、317例(64%)が1回以上出産し、365児が誕生した。その後の内分泌療法は、競合リスク分析によると76%が再開し、8%は再開前に再発/死亡し、15%は再開していなかった。この結果はHR陽性乳がんとしてはフォローアップがまだ短いものの、妊娠を希望する若い乳がん患者が安全に内分泌療法を中断し、出産可能であることを示した重要な結果である。

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脂質管理目標値(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q47

脂質管理目標値(2)Q47Q45で取り上げたように、「一次予防」においては、既往やスコアリングによりリスクの層別化を行い、管理目標値を設定する。糖尿病があると高リスクとなるが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版から、糖尿病に合併症があると高リスク群でもさらに目標値が変わる。合併症としてあげられる病態、病歴と目標値は?

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12~20歳のmRNAコロナワクチン接種後の心筋炎をメタ解析、男性が9割

 12~20歳の若年者へのCOVID-19mRNAワクチン接種後の心筋炎に関連する臨床的特徴および早期転帰を評価するため、米国The Abigail Wexner Research and Heart Center、Nationwide Children’s Hospitalの安原 潤氏ら日米研究グループにより、系統的レビューとメタ解析が行われた。本研究の結果、ワクチン接種後の心筋炎発生率は男性のほうが女性よりも高く、15.6%の患者に左室収縮障害があったが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)は1.3%にとどまり、若年者のワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であることが明らかとなった。JAMA Pediatrics誌オンライン版2022年12月5日号に掲載の報告。 本研究では、2022年8月25日までに報告された、12~20歳のCOVID-19ワクチン関連心筋炎の臨床的特徴と早期転帰の観察研究および症例集積研究を、PubMedとEMBASEのデータベースより23件抽出し、ランダム効果モデルメタ解析を行った。抽出されたのは、前向きまたは後ろ向きコホート研究12件(米国、イスラエル、香港、韓国、デンマーク、欧州)、および症例集積研究11件(米国、ポーランド、イタリア、ドイツ、イラク)の計23件の研究で、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎患者の合計は854例であった。被験者のベースラインは、平均年齢15.9歳(95%信頼区間[CI]:15.5~16.2)、SARS-CoV-2感染既往者3.8%(1.1~6.4)。心筋炎の既往や心筋症を含む心血管疾患を有する者はいなかった。 本系統レビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドライン、およびMOOSEガイドラインに従った。バイアスリスクについて、観察研究はAssessing Risk of Bias in Prevalence Studies、症例集積研究はJoanna Briggs Instituteチェックリスト、各研究の全体的品質はGRADEを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・接種したワクチンは、ファイザー製(BNT162b2)97.5%、モデルナ製(mRNA-1273)2.2%であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、男性が90.3%(87.3~93.2)であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、1回目接種後(20.7%、95%CI:58.2~90.5)よりも2回目接種後(74.4%、58.2~90.5)のほうが多く、心筋炎の発生率は、1回目接種後が100万人あたり0.6~10.0例、2回目接種後が100万人あたり12.7~118.7例であった。・ワクチン接種から心筋炎発症までの平均間隔のプールされた推定値は2.6日(95%CI:1.9~3.3)であった。・左室収縮障害(LVEF<55%)は患者の15.6%(95%CI:11.7~19.5)に認められたが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)を有する患者は1.3%(0~2.6)にすぎなかった。・心臓MRI検査(CMR)では、87.2%の患者にガドリニウム遅延造影(LGE)所見が認められた。・92.6%(95%CI:87.8~97.3)の患者が入院し、23.2%(11.7~34.7)の患者がICUに収容されたが、昇圧薬投与は1.3%(0~2.7)にとどまり、入院期間は2.8日(2.1~3.5)で、入院中の死亡や医療機器の支援を必要とした患者はいなかった。・最もよく見られた心筋炎の臨床的特徴は、胸痛83.7%(95%CI:72.7~94.6)、発熱44.5%(16.9~72.0)、頭痛33.3%(8.6~58.0)、呼吸困難/呼吸窮迫25.2%(17.2~33.1)だった。・心筋炎の治療に使用された薬剤は、NSAIDsが81.8%(95%CI:75.3~88.3)、グルココルチコイド13.8%(6.7~20.9)、免疫グロブリン静注12.0%(3.8~20.2)、コルヒチン7.3%(4.1~10.4)であった。 著者によると、SARS-CoV-2感染後の心筋炎発症リスクは、mRNAワクチン接種後の心筋炎発症リスクよりも有意に高いという。本結果は、複数の国や地域の多様な若年者の集団において、ワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であり、ワクチン接種による利益は潜在的リスクを上回ることを裏付けるとしている。

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膿疱性乾癬の現状と、新しい治療薬スぺビゴへの期待

 2022年12月8日、日本ベーリンガーインゲルハイムは「膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)のアンメットメディカルニーズと新しい治療への期待」をテーマにメディアセミナーを開催した。同セミナーで帝京大学医学部皮膚科学講座の多田 弥生氏は、GPPの現状と同年9月に承認された抗IL-36Rモノクローナル抗体「スペビゴ点滴静注450mg」(一般名:スペソリマブ[遺伝子組換え])の国際共同第II相二重盲検比較試験(Effisayil 1試験)について講演を行った。膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)とは GPPは発熱や倦怠感と共に無菌性の膿疱が現れる皮膚病である。GPPは乾癬の一種で、最も一般的な乾癬である尋常性乾癬とは症状や発症までのプロセスが異なる。全身に膿疱が現れるGPPは厚生労働省が定める指定難病の1つに指定されている1)。 GPPは乾癬全体の約1%といわれており2)、難病医療費の助成を受けている患者は全国で2,058例である(2020年現在)3)。発症年齢は男性で30~39歳と50~69歳、女性では25~34歳と50~64歳にピークがあり、女性にやや多くみられる4)。 GPPの主な治療方法には全身療法、外用療法、光線療法などがあるが、急性症状の改善を目的とした治療薬はなかった。GPPの急性症状に対する日本初の治療薬スぺビゴ そのような中、スぺビゴは急性症状の改善を目的とした、日本初の治療薬として登場した。 スぺビゴはIL-36Rに結合することにより5)、内因性リガンドによるIL-36Rの活性化と下流の炎症シグナル伝達経路を阻害し6、7)、治療効果を発揮すると考えられている。 スペビゴは点滴投与の薬剤で、過去の治療歴にかかわらずGPPの急性症状に対して使用できる。ただし、感染症や結核の既往歴、妊娠・授乳中などの場合は治療上の注意が必要となる。スぺビゴの治療は日本皮膚科学会が定める乾癬分子標的薬使用承認施設(全国で778施設[2022年10月時点])で受けることができる。中等度から重度のGPP急性症状が認められる患者を対象としたEffisayil 1試験 スペビゴの国際共同第II相二重盲検比較試験(Effisayil 1試験)の対象はERASPEN※1診断基準によりGPPと診断された18~75歳の患者53例。スぺビゴ群およびプラセボ群に2:1で無作為に割り付け、それぞれ単回投与を行った。主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である1週時におけるGPPGA※2膿疱サブスコア0達成率について、スぺビゴ群(35例)では54.3%が達成し、プラセボ群(18例)の5.6%に対する優越性が認められた(リスク差:48.7%、95%信頼区間[CI]:21.5~67.2)。・重要な副次評価項目である1週時におけるGPPGA※2合計スコア0/1達成率は、スぺビゴ群では42.9%が達成し、プラセボ群の11.1%に対する優越性が認められた(リスク差:31.7%、95%CI:2.2~52.7)。・1週時の重篤な有害事象発現率は、スぺビゴ群で5例14.3%、プラセボ群で3例16.7%、投与中止に至った有害事象および死亡に至った有害事象は両群共に報告はなかった。※1:European Rare and Severe Psoriasis Expert Network※2:膿疱性乾癬に対する医師による全般的評価GPP治療薬スぺビゴへの期待 スぺビゴはGPPにおける急性症状の改善の効能・効果で国内初の製造販売承認を取得した。GPPは症状による身体的ストレスや不安、周囲から理解を得にくいことによる孤独感などから、精神的ストレスを抱える患者も少なくなく、アンメットメディカルニーズ解消への貢献、ひいてはQOLの向上が期待されている。多田氏は「5割以上の方が投与後1週間で膿疱が見えなくなったことは、非常に早いし効果も高い」と述べ、講演を終えた。<参考文献・参考サイトはこちら>1)難病情報センター.膿疱性乾癬(汎発型)(指定難病37).2)山本俊幸編. 乾癬・掌蹠膿疱症病態の理解と治療最前線. 中山書店;2020.3)厚生労働省. 令和2年度衛生行政報告例(令和2年度末現在).4)日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2015;125:2211-57.5)社内資料:非臨床薬効薬理試験(in vitro、結合親和性)(CTD 2.6.2.2)[承認時評価資料]6)社内資料:非臨床薬効薬理試験(in vitro、ヒト初代培養細胞に対する作用)(CTD 2.6.2.2)[承認時評価資料]7)社内資料:非臨床薬効薬理試験(in vitro、ヒト末梢血単核球に対する作用)(CTD 2.6.2.2)[承認時評価資料]

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2種利尿薬、大規模試験で心血管転帰を直接比較/NEJM

 実臨床での一般的用量でサイアザイド系利尿薬のクロルタリドン(国内販売中止)とヒドロクロロチアジドを比較した大規模プラグマティック試験において、クロルタリドン投与を受けた患者はヒドロクロロチアジド投与を受けた患者と比べて、主要心血管アウトカムのイベントまたは非がん関連死の発生は低減しなかった。米国・ミネソタ大学のAreef Ishani氏らが、1万3,523例を対象に行った無作為化試験の結果を報告した。ガイドラインではクロルタリドンが1次治療の降圧薬として推奨されているが、実際の処方率はヒドロクロロチアジドが圧倒的に高い(米国メディケアの報告では150万例vs.1,150万例)。研究グループは、こうした乖離は、初期の試験ではクロルタリドンがヒドロクロロチアジドよりも優れることが示されていたが、最近の試験で、両者の効果は同程度であること、クロルタリドンの有害事象リスク増大との関連が示唆されたことと関係しているのではとして、リアルワールドにおける有効性の評価を行った。NEJM誌オンライン版2022年12月14日号掲載の報告。 非致死的心筋梗塞と非がん関連死の複合アウトカムの初回発生を比較 研究グループは、米国の退役軍人医療システムに加入する65歳以上で、ヒドロクロロチアジド(1日25mgまたは50mg)を服用する患者を無作為に2群に分け、一方にはヒドロクロロチアジドを継続投与、もう一方にはクロルタリドン(1日12.5mgまたは25mg)に処方変更し投与した。 主要アウトカムは、非致死的心血管イベント(非致死的心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院、不安定狭心症による緊急冠動脈血行再建術)、および非がん関連死の複合アウトカムの初回発生とした。安全性(電解質異常、入院、急性腎障害など)についても評価した。低カリウム血症の発生がクロルタリドンで有意に高率 計1万3,523例が無作為化を受けた。被験者の平均年齢は72歳、男性97%、黒人15%、脳卒中または心筋梗塞既往10.8%、45%が地方在住だった。また、1万2,781例(94.5%)がベースラインで、ヒドロクロロチアジド25mg/日を服用していた。各群のベースラインの平均収縮期血圧値は、いずれも139mmHgだった。 追跡期間中央値2.4年で、主要アウトカムイベントの発生率はクロルタリドン群10.4%(702例)、ヒドロクロロチアジド群10.0%(675例)で、ほとんど違いはみられなかった(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.94~1.16、p=0.45)。主要アウトカムの個別イベントの発生率も、いずれも両群で差はなかった。 一方で、低カリウム血症の発生は、クロルタリドン群(6.0%)が、ヒドロクロロチアジド群(4.4%)よりも有意に高率だった(HR:1.38、95%CI:1.19~1.60、p<0.001)。

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2022年のプラクティスチェンジ【Oncology主要トピックス2022 泌尿器がん編】【Oncologyインタビュー】第42回

2022年に発表、論文化された泌尿器がんの重要トピックを国立がん研究センター東病院 腫瘍内科 近藤千紘氏が一挙に解説。今年の泌尿器がんにおけるプラクティスチェンジの要点がわかる。2022年のプラクティスチェンジ進行腎がんにおける標準治療は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の併用療法およびICIと血管新生阻害チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の併用療法が主流になっている。2022年2月に、4種類目のICI+TKI療法である、ペムブロリズマブ+レンバチニブが適応承認となり、日常診療で用いられるようになった。この試験結果で、これまでの標準治療であったスニチニブと比較を行ったICI+TKI療法はすべて主要評価項目を達成したことになり、プラクティスチェンジとなったと結論付けられる。【CLEAR試験:307/KEYNOTE-581試験】また、腎がん領域では初となる術後薬物療法のペムブロリズマブが8月24日に保険適応を取得した。腎がんの術後薬物療法の開発は、TKIやmTOR阻害薬でこれまで評価されてきた。これらの薬剤は長期投与に伴う有害事象が問題となり、減量、中止をやむなくされることもあり、主要評価項目の無再発生存割合 (DFS)の延長は達成できても全生存割合 (OS)の改善までは示されず、各国で適応を取得するまでには至らなかった。ペムブロリズマブは、ICIで術後薬物療法の意義を検証した初の第III相試験であったが、DFSの延長という主要評価項目の達成のみで、保険適応を取得した。TKI単独療法と異なり、有害事象が比較的軽度であったことや、対象となる患者選択に成功した試験の結果を反映していると考えられる。【KEYNOTE-564試験】尿路上皮がんにおいて、ICIによる術後薬物療法として初となるニボルマブの保険適応が3月28日に承認された。尿路上皮がんのICIは、進行再発の2次治療としてペムブロリズマブが、1次治療のプラチナ併用化学療法後の維持療法としてアベルマブがすでに標準治療となっており、今回の保険承認は、さらに前の段階である術後における再発抑制効果を示したという薬物療法の歴史的な進歩の結果といえる。【CheckMate 274試験】非筋層浸潤性膀胱がんの術前化学療法では、長らくMVAC療法が無治療に比べてOSを改善する治療のエビデンスがあるとされてきた。しかしながら、毒性の強さには問題があることから、進行再発症例にて用いられるゲムシタビン+シスプラチン (GC)療法を用いることもガイドライン上では勧められてきた。進行再発症例におけるエビデンスとして、dose-dense MVAC療法は、MVAC療法に比べて安全性が高まり、病理学的奏効(pCR)割合が増加する治療法として注目され、術前化学療法での役割を期待された。2022年3月にJournal of Clinical Oncologyに出版された、筋層非浸潤性膀胱がんにおける術前療法としてのdose-dense MVAC(dd-MVAC)療法とGC療法のランダム化比較第III相試験の結果は、術前化学療法を考えさせられる重要なエビデンスであった。【VESPER試験:GETUG/AFU V05試験】【CLEAR試験; 307/KEYNOTE-581試験】1)2)CLEAR試験は、進行淡明細胞腎細胞がん患者を対象にレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法(Len+Pem)および、レンバチニブ+エベロリムス併用療法(Len+Eve)をスニチニブ単剤(Sun)と比較するランダム化比較第III相試験であり、1069例の対象症例が各群に1:1:1でランダム化割付された。主要評価項目は独立中央画像判定による無増悪生存期間(PFS)であり、2つの試験治療群のSunに対するハザード比(HR)は0.714と設定されていた。Len+Pemには90%の検出力および両側α=0.045を、Len+Eveには70%の検出力および両側α=0.0049で統計設定された。3群に割り付けられた患者背景に偏りはなく、Len+Pem群のIMDC予後因子分類ではFavorable/Intermediate/Poor riskに27.0/63.9/9.0%が含まれていた。PFS中央値は、Len+Pem群は23.9ヵ月、Len+Eve群は14.7ヵ月、Sun群は9.2ヵ月であり、Len+Pem群のSun群に対するHRは0.39(95%信頼区間[CI]:0.32~0.49、p<0.001)、Len+Eve群のSun群に対するHRは0.65(95%CI:0.53~0.80、p<0.001)であり、いずれも優越性が示された。Key Secondary endpointのOSにもαが配分されており、中間解析時点においてLen+Pem群でα=0.0227、Len+Eve群でα=0.0320が優越性の基準とされていた。観察期間中央値26.6ヵ月の時点のOS中央値は、Len+Pem群 到達せず、Len+Eve群 到達せず、Sun群 30.7ヵ月であり、Len+Pem群のSun群に対するHRは0.66 (95%CI:0.49~0.88、p<0.001)、Len+Eve群のSun群に対するHRは1.15(95% CI:0.88~1.50、p<0.30)であり、Len+Pem群のみ優越性が示された。客観的奏効割合(ORR)は、Len+Pem群で71.0%、Sun群で36.1%であり、奏効期間中央値はそれぞれ25.8ヵ月および14.6ヵ月であった。安全性において、Grade3以上の重篤な有害事象がLen+Pem群は82.4%、Sun群は71.8%であったが、プレドニゾロン換算で40mg以上のステロイド使用は15%と比較的少ない印象の結果となっている。【KEYNOTE-564試験】3)4)この試験は、腎がん術後で再発ハイリスクの定義にあてはまる症例を、ペムブロリズマブあるいはプラセボで1年間治療を行い、主要評価項目はDFS、HR:0.67を片側α=0.025、検出力95%で検証する統計設定であった。また1回目の中間解析において、α=0.0114を消費することとしていた。報告は、1回目の中間解析、観察期間中央値24.1ヵ月時点のものである。994人の患者が2群にランダムに割り付けられた。再発ハイリスクの定義は、T2で核異型度4あるいは肉腫様分化あり、T3以上、N1、転移巣切除後(M1 NED)であったが、実際のペムブロリズマブ群の患者背景はintermediate-to-highリスクのT2-3N0M0が86.1%、high riskのT4あるいはN1が8.1%、M1 NEDが5.8%であり、プラセボ群もほぼ同等の割合であった。DFSは両群ともに中央値に到達しなかったが、HR:0.68(95%CI:0.53~0.87、p=0.002)であり、ペムブロリズマブはプラセボと比較し再発のリスクを32%減少した。OSの結果はイベント数が少なく比較は困難であった。安全性に関し、重篤な有害事象はペムブロリズマブ群で32.4%、プラセボ群で17.7%とペムブロリズマブ群で多く認めたが、死亡はそれぞれ0.4%と0.2%と大きな差はなかった。なお、観察期間中央値30.1ヵ月時点のアップデートの結果が報告されたが、intermediate-to-highリスクのHRは0.68(95%CI:0.52~0.89)、highリスクのHRは0.60(95%CI:0.33~1.10)、M1 NEDのHRは0.28(95%CI:0.12~0.66)であり、いずれのリスクでも効果は十分ありそうだが、とくにM1 NEDにおいては治療の意義が大きいことが示唆される結果であった。【CheckMate 274試験】5)この試験は、筋層浸潤性尿路上皮がんの術後薬物療法として、ニボルマブとプラセボを比較したランダム化第III相試験であり、主要評価項目をDFSとし全体集団とPD-L1陽性(腫瘍のPD-L1発現;TPSで1%以上と定義)集団の両者に設定した。全体集団において、87%の検出力で両側α=0.025としHR:0.72、PD-L1陽性集団において、80%の検出力で両側α=0.025としHR:0.61を検証する統計設定となっていた。1回目の中間解析で全体集団ではα=0.01784、PD-L1陽性集団ではα=0.01282を消費することがあらかじめ決められていた。1回目の中間解析において、709例の患者がランダムに2群に割り付けられ、PD-L1陽性は282例であった。観察期間中央値は20.9ヵ月の時点であったが、全体集団のDFS中央値はニボルマブ群で20.8ヵ月、プラセボ群で10.8ヵ月であり、HR:0.70(95%CI:0.55~0.90)、p<0.001であった。またPD-L1陽性集団においては、HR:0.55(98.72%CI:0.35~0.85)、p<0.001と良好な結果を示した。なおOSの結果は現時点で報告はない。安全性においては、重篤な有害事象はニボルマブ群で42.7%、プラセボ群で36.8%であったが、新たなシグナルは認められなかった。本試験は、術後のニボルマブを検証した試験であったが、これまでの術後治療の試験にはない広い対象症例を含んでいた。シスプラチンに適格となる筋層浸潤膀胱がんでは術前化学療法(NAC)を行うことが標準であるため、このような集団では術後にypT2以上の残存病変がある場合に本試験に適格となった。一方シスプラチンに不適格となる筋層浸潤膀胱がんでは、NACのエビデンスはないため手術をまず行い、術後にカルボプラチンを含む化学療法を行うことを検討する。また上部尿路がんは術前の組織診断や病期診断が困難であるため、まず手術を選択することが多い。これらの手術先行症例においては、pT3以上であった場合にこの試験の対象となった。日常診療において、ニボルマブを必要な患者に届けるためには、術前からの治療計画を医療者だけでなく患者にも共有し、適切に治療を進めることが大切と思われる。【VESPER試験; GETUG/AFU V05試験】6)7)フランスで行われた周術期化学療法のランダム化比較第III相試験である。転移のない筋層浸潤性膀胱がんの患者をDose-dense MVAC療法(メトトレキサート30mg/m2 day1、ビンブラスチン3mg/m2 day2、ドキソルビシン30mg/m2 day2、シスプラチン70mg/m2 day2、G-CSF day3~9、2週ごと)6サイクルと、GC療法(ゲムシタビン1250mg/m2 day1、8、シスプラチン70mg/m2 day1、3週ごと)4サイクルの2群にランダムに割り付け、術前の症例は化学療法後に膀胱全摘術を行い、術後の症例は膀胱全摘後に化学療法を行った。主要評価項目は3年PFSであった。493例がランダム化され、PFS中央値はddMVAC群で64%、GC群で56%、HRは0.77(95%CI:0.57~1.02)、p=0.066であり、ネガティブな結果であった。副次評価項目であるpCR割合は、ddMVAC群で42%、GC群で36%(p=0.20)、OSはimmatureな段階ではあるが、ddMVAC群に良好な傾向(HR:0.74、95%CI:0.47~0.92)を認めていた。安全性では、重篤なものは両群同等であったが、ddMVAC群で多かったのは、貧血と無力症、消化器毒性であった。手術関連の合併症はGC群で20例、ddMVAC群で14例であった。NACかAdjuvantかを層別化因子に設定していたが、患者背景はAdjuvant症例においてリンパ節転移陽性がGC群73%、ddMVAC群60%、NAC症例ではcT4がGC群1.8%、ddMVAC群4.1%などと偏りがみられた。3年PFSにおける予後因子の多変量解析において、術前後の選択と化学療法の違いにinteractionがあったことから、Adjuvant症例とNAC症例は区別して検討することが望ましいと判明した。NAC症例においては、3年PFSはddMVAC群で66%、GC群で56%、HR:0.70(95%CI:0.51~0.96)、p=0.025であった。この結果を受けて米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは、ddMVAC療法をPreferred regimenに指定した。このレジメンを実際に適用する場合には、本試験に登録された患者背景から、63歳前後(最高でも68歳まで)であることも考慮して十分な副作用対策を講じる必要があると考える。参考1)Motzer R, Alekseev B, Rha SY, et al. Lenvatinib plus Pembrolizumab or Everolimus for Advanced Renal Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:1289.2)Motzer R, Alekseev B, Rha SY, et al. Lenvatinib plus Pembrolizumab or Everolimus for Advanced Renal Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:1289.3)Choueiri TK, Tomczak P, Park SH, et al. Adjuvant Pembrolizumab after Nephrectomy in Renal-Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 385:683.4)Powles T, Tomczak P, Park SH, et al. Pembrolizumab versus placebo as post-nephrectomy adjuvant therapy for clear cell renal cell carcinoma (KEYNOTE-564): 30-month follow-up analysis of a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol 2022,23:1133.5)Bajorin DF, Witjes JA, Gschwend JE, et al. Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:2102.6)Pfister C, Gravis G, Fléchon A, et al. Dose-Dense Methotrexate, Vinblastine, Doxorubicin, and Cisplatin or Gemcitabine and Cisplatin as Perioperative Chemotherapy for Patients With Nonmetastatic Muscle-Invasive Bladder Cancer: Results of the GETUG-AFU V05 VESPER Trial. J Clin Oncol 2022, 40:2013.7)NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Bladder Cancer. Version 2.2022

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進行期CKDにRA系阻害薬は有益か?―STOP ACEi試験が教えてくれた―(解説:石上友章氏)

 CKD診療は、心血管イベント抑制と腎保護を両立させることを目標としている。RA系阻害薬は、CKD診療の標準治療の1つである。一方で、内因性のレニン・アンジオテンシン系には、腎血行動態の恒常性を保つ作用があり、RA系阻害薬の使用により、血清クレアチニンが上昇し、推定GFRが低下することが知られている。こうした変化は、腎血行動態上の変化であって、機能的であり、一過性の変化であることから、必ずしも有害ではないのではないかと許容されてきた。 本邦の高血圧診療ガイドラインであるJSH2014においても、「RA系阻害薬は全身血圧を降下させるとともに、輸出細動脈を拡張させて糸球体高血圧/糸球体過剰濾過を是正するため、GFRが低下する場合がある。しかし、この低下は腎組織障害の進展を示すものではなく、投与を中止すればGFRが元の値に戻ることからも機能的変化である」(JSH2014, p.71.)とある。一方で、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学校のSchmidt M氏らが、RAS阻害薬(ACE阻害薬、ARB)の服用を開始した12万例超について行ったコホート試験の結果は、こうした軽微なCrの上昇・推定GFRの低下が、必ずしも無害ではないことを示している(Schmidt M, et al. BMJ. 2017;356:j791.)。 2022年、New England Journal of Medicine誌に掲載されたBhandari S氏らによるSTOP-ACEi試験は、この疑問に迫った臨床試験である(Bhandari S, et al. N Engl J Med. 2022;387:2021-2032.)。被験薬であるRA系阻害薬を中止するという介入は、RA系阻害薬を継続した対照に対して、3年後の推定GFR値が回復することはなかった。進行期CKDに、RA系阻害薬の継続が有害であるとは結論できない結果であり、腎機能の保持を目的にして、RA系阻害薬を中止する必要があるとまでは言えない結果である。有意差はつかなかったが、追跡期間中の推定GFRは、常に継続群を下回っている(Figure 2)。 本試験における、そもそもの仮説を支持しない結果であるが、進行期CKDであれば、生理的なRA系の作用が必ずしも機能していない可能性がある。心血管イベントに対する効果は、エンドポイントとして採用されていないので、Schmidt氏らの結果を検証するまでには至っていない。心なしか、もやっとする結果になってしまっている。

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