サイト内検索|page:38

検索結果 合計:3099件 表示位置:741 - 760

741.

第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中

生成AIを活用して作った 「ブラック・ジャック」の新作が発表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週(11月23日)発売の週刊少年チャンピオンに、「ブラック・ジャック」の新作が発表されました。手塚治虫の漫画、「ブラック・ジャック」については、1ヵ月前、本連載の「第185回 六本木で開催中の『ブラック・ジャック展』で考えた、“黒い医者”たちと医療・医師の普遍性」でも取り上げました。この時、OpenAIの「GPT-4」やStability AIの「Stable Diffusion」などの生成AIを活用して「ブラック・ジャック」の新作を制作する試みが進行中だと書いたのですが、その新作がいよいよ発表されたのです。ということで、週刊少年チャンピオンを買おうと近所の書店に出掛けたのですが、どこにもありません。近所のコンビニも数軒覗いたのですが、やはり在庫がありません。書店もコンビニも、少年誌で置いてあったのは少年ジャンプと少年マガジンばかり。発行部数・流通量が少ない雑誌はこうまで手に入りにくいものかと驚いた次第です。ちなみに漫画雑誌の新刊はアマゾンでは冊子版は流通しておらず、電子版(Kindle)でしか読めないようです。半ば諦めていたところ、たまたま出先のコンビニに飲み物を買いに入ったところ、1冊だけ週刊少年チャンピオンが残っており、なんとか現物を入手することができました。「ブラック・ジャック」掲載を見越して発行部数や流通量にもAIを活用してほしかった…、と思いました。手塚 治虫氏の長男、手塚 眞氏が中心となった「TEZUKA2023プロジェクト」による「ブラック・ジャック」の新作、「機械の心臓-Heartbeat Mark II」(33ページの読み切り)ですが、大学のAI研究者や有名映画監督も入った大プロジェクトの割に、作品はこの程度かと少々肩透かしをくらった、というのが正直な感想です。AIといえども、やはり“神様”には勝てないのだな、と思った次第です。エクソソーム療法、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と日本再生医療学会が提言さて、今回は、一部で話題となっている「エクソソーム療法」について書いてみたいと思います。11月10日の厚生労働省の再生医療等評価部会で、日本再生医療学会はエクソソーム療法が美容クリニックなどの自由診療で広がっている現状を踏まえ、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と提言しました。「エクソソーム療法で死亡例が出ている」といった情報も一部に流れているようです。この情報はデマの可能性もあり、業界は混乱に陥っています。美容やアンチエイジングを目的に他家細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームを自由診療で投与エクソソームは、直径100nm程度の細胞外小胞(EVs:Extracellular Vesicles)と呼ばれるものの1種です。EVsは細胞が分泌する物質で、組織の再生を促す成長因子や細胞間の情報伝達物質を含んだエクソソームなどからなっており、医療分野での活用が期待されています。国内でも、美容やアンチエイジングを目的に、他家細胞由来の細胞培養上清液や、上清液から抽出したとされるエクソソームを自由診療で投与する医療機関が増えています。これらを通称「エクソソーム療法」と呼んでいます。もっとも、有効性や安全性が確認され、治療法として承認されているものはまだありません。インターネットで「エクソソーム療法」を検索すると、数多くの自由診療クリニックがヒットします。それらのクリニックでは、エクソソームを含んだ幹細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームについて、皮膚の再生、創傷治癒の促進、老化防止、疲労回復、ED(勃起不全)改善などに効果ありと、まるで万能の不老薬のように宣伝しています。再生医療等安全性確保法の対象外のため提供計画の提出、副作用などの報告の義務なし11月10日の厚生労働省の再生医療評価部会で、日本再生医療学会の岡野 栄之理事長(慶應義塾大学医学部 生理学教室 教授)は、「再生医療という名目で、多くのクリニック等で自由診療として行われている現状や、感染症のリスク等を鑑み、製造過程等を含めて、将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と主張しました。同学会は、2023年10月27日、「再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに関する提言」を行い、エクソソームを含むEVsを再生医療新法の対象とするよう提言していますが、それを改めて再生医療評価部会の場ででも訴えたわけです。背景には、老化防止をうたう美容クリニックなどにおいて自由診療によるエクソソーム療法が急拡大していることがあります。現状、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり、細胞には当たらないと整理されており、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)の対象外となっています。同法が施行されたのは2014年、主に自由診療でがん免疫療法(自家の免疫細胞を培養し投与)を行っていた医療機関における安全性確保のためでした。この時はEVsによる治療自体がまだ認知されておらず、規制対象にはなりませんでした。そのため、現在、細胞培養上清液やエクソソームを医療機関で投与する際、同法で定められた認定再生医療等委員会の審査や再生医療等提供計画の提出、副作用の報告といった煩雑な手続きは課せられません。これがエクソソーム療法の急拡大につながっているわけです。「交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」しかし、EVsは、「主に細胞から調製されるという点において細胞加工物と類似のリスクを有しており、交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」(再生医療等評価部会・岡野氏資料より)ことから、日本再生医療学会は「科学的根拠に基づき、グローバルスタンダードに則ったEVs治療の開発を進めるために、産学官の協力が必要である。EVsの定義、効能、品質管理に基づいた安心、安全なEVsの治療応用のガイドライン作成は急務であり、その為に、何らかの班研究あるいはワーキング・グループ等を構築し、問題点の精査が必要」と提言したわけです。再生医療抗加齢学会が「幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表ところで、日本再生医療学会がエクソソーム療法の規制の必要性を求める2週間ほど前、「エクソソーム投与後に死亡」との情報が一部に流れ、関係者が色めき立ちました。情報の出どころは再生医療抗加齢学会。10月11日、同学会の森下 竜一理事長(大阪大学大学院 医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、同学会のウェブサイトで「幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について」というタイトルで声明を出したのです。声明は、「当学会では、幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」として、「幹細胞培養上清液及びエクソソームの静脈投与につきましては、医療水準として未確立の療法であり、その有効性・安全性について、エビデンスに基づく十分な検討をお願いいたします」と注意喚起をしました。前述したように、エクソソーム療法は再生医療等安全性確保法の対象外のため、仮に死亡事例が発生しても医療機関は同法に則って報告する義務はありません。ということは、そうした事例を国が把握することもできません。ということで、関連学会が注意喚起することはそれなりに意味のあることです。11月9日付のリスファクスも再生医療抗加齢学会の死亡事案の声明を受け、「エクソソーム創薬、死亡事案で規制急務」というニュースを掲載しています。ただ、その記事では、「学会は本紙に『事案』は会員外の施設と回答し、詳細や施設名は開示していない」としています。「死亡例」は本当にあったのか?噂になった医療機関、学会、厚労省も否定学会が「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表したにもかかわらず、どこの施設での事象かわからないという状況は、再生医療やエクソソーム療法に携わる関係者に少なからぬ混乱を巻き起こしているようです。「死亡はデマではないか?」という声も聞こえてきます。11月15日付の日経バイオテクは「『エクソソームの投与後に死亡』の噂を追う」と記事を掲載しています。同記事は、「同学会(再生医療抗加齢学会)によれば、学会の会員や会員企業は死亡事例に関係しておらず、外部から寄せられた情報だと言います。噂で名前が挙がっている自由診療の医療機関や、自由診療でエクソソームの投与を手掛ける医師などにも当たってみましたが、『そうした事例は無い』『全く知らない』と否定されました。(中略)。さらに、日本再生医療学会も、本誌に対して『死亡事故があったとは考えていない』とコメント。厚生労働省の関係者も『正直、分からないというのが本音だ。情報の出所が把握できていない』と話していました」と書き、取材時点で死亡事例の情報は確認できなかったとしています。学会同士の対立説、関連企業に対する牽制説も仮に「死亡」がガセ情報だとしたら、一体背後で何が起こっているのでしょうか。真偽のほどはわかりませんが、日本再生医療学会の関係者と再生医療抗加齢学会の関係者の対立説や、幹細胞培養上清液やエクソソームを製造する企業(学会幹部が株を保有している企業もあると聞きます)への牽制説も流れているようです。エクソソーム療法の規制や注意喚起が必要だ、という点は理解できます。しかし、仮にも学会という組織が情報の裏も取らないで「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表することは、無責任過ぎるのではないでしょうか。無用な混乱は、再生医療に携わる医療機関や企業の信頼性にも影響します。再生医療抗加齢学会は早急に「死亡情報」の“エビデンス”を開示するべきです。もし虚偽情報だったなら、早急に訂正を出すべきではないでしょうか。

742.

女性統合失調症に対する治療~エビデンスに基づく推奨事項

 性差は、抗精神病薬の有効性や忍容性に大きな影響を及ぼすことが示唆されているにもかかわらず、現在の統合失調症スペクトラム障害(SDD)の治療ガイドラインでは、男女間の区別は行われていない。オランダ・フローニンゲン大学のBodyl A. Brand氏らは、女性に対する薬物療法の改善に寄与する可能性のある戦略について、入手可能なエビデンスを要約し、女性統合失調症患者の治療を最適化するためのエビデンスに基づいた推奨事項を報告した。Current Psychiatry Reports誌オンライン版2023年10月21日号の報告。 次の3つのトピックスに関する査読済みの研究をPubMed、Embaseよりシステマティックに検索した。トピックスは、(1)用量調節した抗精神病薬の血中濃度に関する性差、(2)症状の重症度を改善するためのエストロゲンおよびエストロゲン様化合物によるホルモン増強療法、(3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための戦略とした。 主な結果は以下のとおり。・データベース研究3件、ランダム化比較試験(RCT)1件に基づくと、ほとんどの抗精神病薬は、男性と比較し、女性において用量調節濃度が高かった。・クエチアピンは、とくに高齢女性で高濃度であった。・最近の2つのメタ解析に基づくと、エストロゲンおよびラロキシフェンにおいて全体的な症状改善が認められた。・閉経後女性におけるラロキシフェン増強療法に関する最も一貫した所見が確認された。・症状に対するエストロゲン性避妊薬の効果を評価した研究は見当たらなかった。・メタ解析2件、RCT1件に基づくと、抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための研究として、アリピプラゾール補助療法が最も研究されており、最も安全な戦略であることが示唆された。 女性SSDに対する薬物療法について、エビデンスに基づく推奨事項は次のとおりであった。 (1)治療薬のモニタリングに基づく女性特有の抗精神病薬の投与量 (2)閉経後の女性におけるラロキシフェンによるホルモン増強療法 (3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に際するアリピプラゾール補助療法 著者らは「これらの戦略を組み合わせることで、女性SSD患者の副作用を軽減し、アウトカムを改善できる可能性がある」とし、「これらの効果を今後の縦断的RCTで明らかにしていく必要がある」とまとめている。

743.

第172回 働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会

<先週の動き>1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会日本救急医学会は、医師の働き方改革に伴う救急医療の人材不足とその対策に関する要望書を厚生労働大臣に提出した。来年度から始まる「働き方改革」では、勤務医に対して労働基準法に基づく休日や時間外労働の上限規定が適用されることになっており、救急医療に従事する医師が不足し、医療体制の維持が困難になる恐れがあると指摘している。同学会は、日本の救急医療が医療者の自己犠牲により支えられてきたと述べ、働き方改革による医師不足を解消するためには、診療報酬の改定などの支援が必要だと訴えている。また、地元の医師会との連携を強化し、救急の専門医を地域の拠点病院に集約することで、効率的な救急医療体制の構築を求めている。一方、NPO法人「EMアライアンス」による調査では、救急医の約1割が深刻な燃え尽き症候群に陥っていることが明らかになった。この調査結果では、救急医療の心理的ストレスの高さと、医師の健康問題に注目が集まった。とくに若手医師や睡眠不足を抱える医師にとって、救命救急センターでの勤務が、燃え尽き症候群と高い関連性を持つことが指摘されている。救急医療の質と持続可能性を確保するためには、医師の働き方改革を通して医師の健康にも配慮する必要がある。提言では、救急医療の現場で働く医師の声を反映した、包括的な対策が必要であると指摘している。参考1)地域救急医療への影響を鑑みた医師の働き方改革に関する提言(日本救急医学会)2)医師の働き方改革 日本救急医学会が支援求める要望書提出(NHK)3)救急医の1割、深刻な燃え尽き症候群か 睡眠不足も関連?NPO調査(朝日新聞)4)1割が深刻な燃え尽き症候群とのデータも 救急医の激務、解決策は?(同)2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協厚生労働省は、11月24日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会において、昨年度の医療経済実態調査の結果を明らかにした。その結果、病床数が20床以上の一般病院は、物価高騰の影響で経営が悪化していたが、新型コロナ患者の受け入れに対する国の補助金を含めると、収支は黒字に転じていた。具体的には、一般病院の収支は平均で2億2,424万円の赤字であったが、補助金を含めると4,760万円の黒字となっていた。国公立病院は、平均で7億8,135万円の赤字で、補助金を含めても赤字だが、医療法人が経営する民間病院は補助金を含めると6,399万円の黒字に転じていた。一方、病床が19床以下の一般診療所は、補助金を除いても医療法人が経営する診療所で1,578万円、個人経営の診療所では3,070万円と、いずれも黒字。厚労省は、とくに一般病院の収益が厳しい結果となったことを指摘し、今年度はさらに利益率が悪化している可能性を述べている。日本医師会などは、医療職や介護職員の賃上げが必要だとして「本体」部分の引き上げを求めているが、財務省は保険料負担の軽減を目指し、逆に引き下げを主張している。武見 敬三厚生労働大臣は、新型コロナが「5類」に分類され、補助金や診療報酬の加算措置が大きく見直されていることに言及し、年末に向けて医療機関の経営状況を踏まえ、賃上げや物価高騰、感染症対策などの新たな課題に対応できる診療報酬改定に努力する意向を示している。参考1)第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(厚労省)2)来年度の診療報酬改定 年内決定に向け 議論活発化へ(NHK)3)「一般病院」昨年度収支 黒字 コロナ患者受け入れ補助金含めて(同)4)一般病院・診療所、コロナ補助で黒字 22年度厚労省調査(日経新聞)3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省厚生労働省は、患者が適切な医療機関を選択できるよう支援する「医療機能情報提供制度」を見直すため、11月20日に「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」を開催した。現在、各都道府県ごとに情報提供されている医療情報ネットが刷新され、2024年4月からは全国統一システムの運用を開始されることが明らかとなった。また、かかりつけ医機能を含め、国民・患者の医療機関の適切な選択を支援するよう、スマートフォン対応も予定されている。新しいシステムでは、医療機関の基本情報や医療サービス内容、治療結果のほか、高齢者や障害者向けの情報も提供される。さらに、英語・中国語・韓国語での情報提供も行われ、用語解説も整備される予定。医療機関は、毎年1~3月に定期報告を行い、基本情報に変更があった場合は都道府県に報告することが求められる。また、「かかりつけ医機能」の情報も提供され、患者は自宅近くの医療機関を選択しやすくなる。全国統一システムへの移行により、情報提供の内容も新しくなり、利用者がより使いやすい仕組みが提供されることが期待されているほか、2025(令和7)年度から発足するかかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けて、今後も情報提供項目改修が行われていく見込み。参考1)医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について(厚労省)2)国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討について(同)3)医療情報ネット、来年1月から新たな報告に 全国統一の情報提供4月開始、スマホ対応(CB News)4)医療情報ネットを「より使いやすい仕組み」に2024年度リニューアル、今後「かかりつけ医機能」情報も充実-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省11月22日に厚生労働省は、アルコール健康障害対策基本法に基づいて、検討を重ねてきた「飲酒ガイドライン案」を発表し、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及と健康障害の防止を目指すことを明らかにした。指針は、年齢や体質に応じた飲酒量の留意点を提案し、純アルコール量での飲酒管理を重視している。とくに高齢者や若年層、アルコール分解能力が低い人々には、飲酒による健康リスクが高いと警告している。ガイドライン案では、純アルコール量の計算方法が示され、疾患ごとのリスクに応じて、少量の飲酒でも注意が必要としている。政府の「健康日本21(第3次)」計画では、1日の純アルコール摂取量を男性40g、女性20g以上と定め、60g以上の過度な飲酒や、不安・不眠解消のための飲酒、他人への強要を避けるよう勧めている。また、健康への配慮として、飲酒量の事前設定、飲酒時の食事摂取、水分補給、週に無酒日を設けることなどが推奨されている。そのほか、最近では、アルコール摂取量の自己管理を促進するため、スマートフォンアプリを利用した記録方法も普及している。ガイドラインに対する反応はさまざまで、個々の許容量に基づく飲酒量の調整を提案する声や、健康意識の高い人々にとって有益だとする意見があり、専門家は、多量飲酒時の水分摂取の重要性を強調し、飲み方の工夫を勧めている。参考1)健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)(厚労省)2)国内初の飲酒ガイドライン案「男性40g、女性20g以上はリスク」(毎日新聞)3)国として初の飲酒ガイドライン案 ビール1杯で高まる大腸がんリスク(朝日新聞)4)飲酒リスク、初指針で周知 年齢や体質に応じ留意点(日経新聞)5)お酒の望ましい量は?「飲酒ガイドライン」厚労省が案まとめる(NHK)5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省厚生労働省は、薬のネット販売に関する規制を大幅に緩和する方針を固めた。これにより、ほぼすべての薬がインターネットで購入可能になる見込み。とくに「要指導医薬品」について、これまでは対面販売が義務付けられていたが、ビデオ通話による服薬指導を条件に非対面での購入が認められるようになる。この変更は2025年以降に実施される予定。市販薬のネット販売は、2014年から一部が販売可能になり、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、さらに拡大されていた。今回の規制緩和により、市販薬のほぼすべてがネットでの購入が可能となり、患者の利便性が大幅に向上すると期待されている。ただし、緊急避妊薬など対面での情報提供が必要な薬や乱用のリスクがある薬については、20歳未満の大量購入を禁止するなどの規制が維持される。厚労省は、この方針について専門家の会議で議論し、医薬品医療機器法の改正を目指している。現在、オンライン服薬指導による安全性の確保と利便性の向上を両立させるための仕組み作りが進められている。参考1)対面販売必要な薬 薬剤師のビデオ通話でネット販売検討 厚労省(NHK)2)市販薬ネット販売、全面解禁へ ビデオ通話での指導条件(日経新聞)3)薬のネット販売全面解禁へ、利点や注意点は?(同)6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県東京のNPO法人「消費者機構日本」は、山梨県が医師不足対策として2019年に開始した医師確保プログラムについて消費者契約法に違反するとして山梨県を11月21日に提訴した。このプログラムは、医学部学生が県内の医療機関で9年間勤務することを条件に、学費の返済を免除する内容。しかし、2021年に導入された新条項では、勤務期間を満たさない場合に最大842万円の違約金を課すことになり、この違約金条項が消費者契約法に違反するとして山梨県を提訴した。NPO法人側は、学費返済だけで十分であり、違約金は不当に高額だと主張している。一方、山梨県は、違約金が必要な措置であると反論し、プログラムの早期離脱が県に追加コストをもたらすとして長崎 幸太郎山梨県知事は争う姿勢を示した。この訴訟は、地域医療の充実を目指す県側の政策と、その実施方法の法的・倫理的妥当性を巡って議論を提起しており、違約金条項導入後、山梨大学や北里大学などから約115人の学生がプログラムに参加しており、今後の訴訟の動向が注目されている。参考1)山梨県の医学部学費貸与、「違約金840万円は違法」 NPOが提訴(朝日新聞)2)医師不足解消を図る山梨県の制度 “違約金は違法”と提訴(NHK)3)山梨県の医師確保プログラム、9年間勤務できなければ最大842万円の違約金…適格消費者団体が差し止め求め提訴(読売新聞)4)医師確保事業巡り 都内の消費者団体が県を提訴 長崎知事は争う姿勢示す 山梨県(山梨放送)

744.

生体吸収型ステントの再挑戦やいかに(解説:野間重孝氏)

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン』が、昨年(2022年)改訂された。この記事はCareNet .comでも紹介されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。 冠動脈疾患以外のすべての体中の血管の疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、さらに下肢閉塞性動脈疾患をLEAD、上肢閉塞性動脈疾患をUEADに分ける。脳血管疾患はこの分類からいけばUEADということになるが、こちらは通常別途議論される。そうするとPADの中で最も多く、かつ重要な疾患がLEADということになる。その危険因子としては4大危険因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が挙げられるが、腎透析が独立した危険因子であることは付け加えておく必要があるだろう。 そのLEADの中でとくに下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染など肢切断リスクを持ち、早急な治療介入が必要な下肢動脈硬疾患がとくに「chronic limb-threatening ischemia :CLTI」と呼称され、「包括的高度慢性下肢虚血」と訳される。ガイドラインにもあるように速やかに血行再建術が施行される場合がほとんどであるため、その自然歴の報告は大変少ないものの、血行再建術が非適応ないし不成功だったCLTI患者の6ヵ月死亡率は、20%に上ることが報告されている。 今回の他施設共同研究では主要エンドポイントがスキャフォールド群で173例中135例、血管形成群で88例中48例となっているが、これは研究の対象患者が膝窩動脈疾患とはいってもCLTI例ばかりではなく、有症状ながらもそれほどの重症例ではないものも組み入れられていたためと考えられる。この結果は生体吸収型のステントにかなり有利なものになっているが、一方で批判的な見方も忘れてはならないと思う。 血管内治療に携わったことのある医師ならば、以前生体吸収型の冠動脈ステントがやはり今回のスポンサーであるアボットから発売されて一時話題になったが、血栓症のリスクが高いことが問題となり、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態になっていることをご存じだと思う。 一方足の血管において、とくに膝窩動脈の治療においてはステントが血管内に残留していることによる足の可動制限が大きな問題となる。膝窩動脈の治療は、下肢動脈の他の部位の治療とは違った見方がされる必要があるのである。さらに足の血管は冠動脈に比して血流が遅く、血管内の炎症が進行しやすいため、血栓症のリスクが高まると考えられている。その点生体吸収型ステントは、一定期間で分解・吸収されるため、血管内に留まる時間が短く血栓症のリスクを下げるばかりでなく、可動制限が一定期間で解消されるのではないかと期待が持たれている。 しかしその一方、生体吸収性ステントは、金属製ステントよりも血栓の発症そのものは起こりやすく、また金属ステントに比して厚みのある構造になっていることから、留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「遅発性不完全圧着」が生じ、これがさらに血栓症の危険を高めるのではないかとも危惧されている。 評者は今回の試みを評価するものではあるが、もうしばらくフォローアップ期間を置いて判断する必要があるのではないかと思う。また、重症例に絞った結果も知りたいところである。そして何といっても、外科的な治療との比較が行われることが重要なのではないかと考えるものである。評者は内科医であるから外科領域について軽々に言及することは控えなければならないが、あえていえば、最近末梢血管治療を手掛ける外科医(下肢の血管は血管外科医だけでなく形成外科でも一部手掛けられている)が、どんどん減少していること、それもあってか新しい術式の開発が積極的になされていないことが気になるところである。 なお、今回の研究は動脈硬化性狭窄を対象としているが、はっきり動脈瘤を形成している場合は、現在でも外科手術が第一選択であることは付け加えておかなければならないだろう。

745.

第187回 医師の処方モラル崩壊、肥満症治療薬の発売でさらに加速か?

新たな医薬品不足騒動が勃発するのか? 11月16日、持続性GLP-1受容体作動薬で肥満症を適応とするセマグルチド製剤ウゴービ皮下注の薬価収載が中央社会保険医療協議会で了承されたことに関して私が思ったことだ。ご存じのようにセマグルチドはもともと2型糖尿病を適応とし、用量も異なる注射剤(商品名:オゼンピック)と経口薬(同:リベルサス)がすでに発売されているが、体重減少効果の高さから「GLP-1ダイエット」を謳う不適正使用の自由診療が跳梁跋扈し、その結果、在庫不足による限定出荷が続いている。実はまったくの偶然だが、数年前、セマグルチドの肥満症の治験に参加登録した友人から、冗談交じりで「参加してみる?」と誘われたことがあった。その治験参加条件は、BMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する、あるいはBMIが35以上で今のウゴービ皮下注の適応と同じである。当時の私はBMIが26.8、血圧値は150/100mmHg、検査値上は高トリグリセライド血症だったので、“もうちょっと頑張れば”基準を満たす状態だった。だが、この誘いは断った。適応上のボーダーラインにいる自分が薬の力を使って痩せようとするのはあまりにも邪道だと思ったからだ(もちろん適応を満たす人が使うことを批判はしない)。そして数ヵ月後、この友人の姿を目にし、誘いを断って良かったと思った。確かに彼は私の目から見ても驚くほど痩せた。しかし、その様をあえて言葉を選ばずに表現すると、魚の干物のようにしわがれた痩せ方だったのだ。本人はそこそこに満足気だったが、一方で周囲に「最近はビールの匂いを嗅ぐと気持ち悪くなる」と、何とも微妙な物言いをしていたらしい。結局、私は彼の姿を見たことをきっかけに運動量を増やすという地味な取り組みを行い、約2年でBMIは22、収縮期血圧が120mmHg弱、脂質検査もすべて正常値まで改善し、今もほぼ維持できている。もっともここまでに至る努力は、かなり大変だったとの実感もあるため、誰かに勧めようとも、何もしない人を怠慢とも思わない。むしろダイエット目的でGLP-1受容体作動薬を入手するために自由診療を利用する人のほうがよっぽど問題だとすら思う。今回のウゴービ皮下注に関して言えば、「最適使用推進ガイドライン」も策定され、処方できる施設要件や患者要件も定められた。製造販売元のノボ ノルディスクファーマも厚生労働省に対し、保険診療、自由診療に関係なく、同ガイドラインの施設要件を満たした施設のみでの流通を前提にすると伝えているらしい。しかし、本当にこれで今の問題が解決するのだろうか? 正直、疑問である。そもそも「オゼンピック」や「リベルサス」のほうは何も縛りがなく、しかも世の人の潜在的なダイエット願望はかなりすそ野が広いからだ。今やインターネットで「オゼンピック」「リベルサス」のキーワード検索をすれば、SNS上では一部のインフルエンサーも含む使用体験者の話がごまんと登場し、吐いて捨てるほど自由診療クリニックが引っ掛かる。希望する人もどうかと思うが、それ以上に安易に処方する医師のモラルとはいかがなものか?ちなみに以前、この件について私自身が一時期に周辺調査した情報に基づくと、GLP-1受容体作動薬を使ったダイエット目的の自由診療を受診すると、最も使用を勧められるのはオゼンピックだという。リベルサスのほうがダイエット希望者には簡便だと思ってしまいがちだが、私が話を聞いた両手指を超える受診経験者(というかこの状況、なんとかならんものか)の中でリベルサスを第一選択として勧められた人は1人しかいない。しかもそうした人に話を聞くと、オゼンピックを第一選択にする医師はほぼ一様に「経口薬は服用方法が複雑(やや少なめの水で服用し、服用後30分は飲食できない)で、これを厳守しないと効果ありませんよ。注射のほうが確実です」と言うらしい(この証言には複数の経営母体の違うクリニックの受診者が含まれている)。妙なところだけエビデンスっぽいというか、患者に寄り添うかのような言い方をするところが、正直言って不快である。さらにこの件ではあちこちから出所不明で裏取りしようのない情報が大量に発信されてくるのも特徴である。私がこれまで直接、あるいは信頼性の高い間接情報として聞いた話をざっと列挙してみよう。「正直、明らかに自由診療に使うんだろうなという発注はありますよ。ただ、保険診療も行っている医療機関だと、必要以上に詮索することはできない」(関東地方の卸関係者)「限定出荷のオゼンピックは直近の納入実績で配分され、自由診療クリニック同士で奪い合い状態。そこに糖尿病患者の多い医療機関の門前薬局が絡んで、自由診療クリニックに在庫の一部を横流ししているらしい」(東北地方の保険薬局薬剤師)「先日、知人の紹介で注射の痩せ薬を保険診療で手に入れたと喜んでいた人がいましたよ。確かにその人はオゼンピックを持っていたのですが、それ以外に医師から『飲まなくていいけど、これも出しておくね』と言われた薬があり、よく調べるとほかの経口糖尿病治療薬でした。本人は健康診断でも血糖値が高いと指摘されたことはないと言っていました」(都内の運輸系会社勤務)「自分で使ってますよ」(40代の女性医師)これは私がこの件に関連して耳にした話のほんの一部に過ぎない。こうした話を書き出したらきりがないほどだ。同時に日本の医療も「モラル・ハザードの総合商社」化がかなり進行しているのか、と残念な思いで一杯である。

746.

11月24日 いい尿の日【今日は何の日?】

【11月24日 いい尿の日】〔由来〕寒さが本格化してくる時期である11月の「いい(11)にょう(24)」(いい尿)と読む語呂合わせからクラシエ製薬株式会社が制定。寒さが増すと頻尿・夜間尿などの排尿トラブルが増えることから、その啓発や症状に合った治療を広く呼び掛けることが目的。関連コンテンツ女性の頻尿、どう尋ねるべき?【Dr.山中の攻める!問診3step】骨盤底筋トレーニングは排尿トラブルの快適生活術【使える!服薬指導箋】β3アドレナリン受容体に作用して膀胱容量を増大させる過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠50mg」【下平博士のDIノート】新・夜間頻尿診療ガイドラインで何が変わるか/日本排尿機能学会尿失禁が生命予後に影響?OABに早期介入の必要性

747.

口腔癌診療ガイドライン 2023年版 第4版

4年ぶりの改訂で総説とCQを徹底的にブラッシュアップ!口腔癌診療に関わる医療者必携の診療ガイドライン、4年ぶりの改訂版出来。2019年版およびNCCNガイドラインを骨格とした診療アルゴリズムに添う内容に総説をブラッシュアップし、すべての診療指針を詳細に解説します。また、新たなクリニカルクエスチョン(CQ)も、GRADEアプローチをはじめ各種の方法でエビデンスを精密に解析しました。保険診療を基本とした口腔癌診療全体をカバーする、臨床でさらに使いやすくなった決定的最新版です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    口腔癌診療ガイドライン 2023年版 第4版定価4,620円(税込)判型B5判頁数252頁(図数:17枚)発行2023年11月編集口腔癌診療ガイドライン改訂合同委員会

748.

DOAC・ワルファリン、重大な副作用に「急性腎障害」追加/厚労省

 経口抗凝固薬の添付文書について、2023年11月21日に厚生労働省が改訂を指示。国内で販売されている直接経口抗凝固薬(DOAC)4剤(アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン)とワルファリンカリウムの添付文書の「副作用」に重大な副作用として急性腎障害が追記された。DOAC4剤とワルファリンに急性腎障害との因果関係が否定できない症例 DOAC4剤とワルファリンカリウムの副作用についての添付文書の改訂は以下のとおり。<重大な副作用>急性腎障害 経口抗凝固薬の投与後に急性腎障害が現れることがある。本剤投与後の急性腎障害の中には、血尿や治療域を超えるINRを認めるもの、腎生検により尿細管内に赤血球円柱を多数認めるものが報告されている。 改訂理由については、抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害症例を評価した結果、経口抗凝固薬のうち、ワルファリンカリウムおよびDOAC4剤について、抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害との因果関係が否定できない症例が集積したことから、経口抗凝固薬の使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、アピキサバンについては抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害との因果関係が否定できない症例はなかったものの、文献において1)、抗凝固薬関連腎症との因果関係が否定できない海外症例が報告されている。症例※の国内症例の集積状況 【転帰死亡症例】(1)アピキサバン:7例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例)【死亡3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例0例)】(2)エドキサバン: 6例(同4例)【死亡1例(同0例)】 (3)ダビガトラン:26例(同7例)【死亡3例(同0例)】 (4)リバーロキサバン:6例(同3例)【死亡1例(同0例)】(5)ワルファリンカリウム:7例(同4例)【死亡0例】※:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例から副作用(PT)「抗凝固薬関連腎症」または「急性腎障害」で抽出されたもののうち、以下のすべての条件に該当する症例を評価対象とした。1:「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」(AKI(急性腎障害)診療ガイドライン作成委員会編:日本腎臓学会、日本集中治療医学会、日本透析医学会、日本急性血液浄化学会、日本小児腎臓病学会)においてAKI診断に必要とされている腎機能値(ベースラインおよび発現時の血清クレアチニンなど)の情報があり、かつ、AKI診断基準を満たす。2:因果関係評価に必要な副作用発現後の転帰情報(経過欄、検査値欄の情報含む)がある。

749.

セマグルチド製剤の最適使用推進ガイドラインを公表/厚労省

 社会的に痩身目的での糖尿病治療薬の使用が散見され、本来必要な患者に治療薬が届かないといった事態が起こっている。そのような中でセマグルチド製剤のウゴービ皮下注が肥満症治療薬として承認され、2023年11月22日に薬価収載された。これらの事態を懸念し、厚生労働省は医療機関および薬局に対する周知を目的として、本剤に関する「最適使用推進ガイドライン」を11月21日に公表した。 本ガイドラインには、ウゴービ皮下注を肥満症に対して使用する際の留意事項が記載されており、その使用に際し、ガイドライン内容に留意するよう促している。その中で投与対象となる患者については以下のように記載されている。【患者選択について】投与の要否の判断にあたっては、以下のすべてを満たす肥満症患者であることを確認する。 1)最新の診療ガイドラインの診断基準に基づき、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれか1つ以上の診断がなされ、かつ以下を満たす患者であること。 ・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する ・BMIが35kg/m2以上2)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病ならびに肥満症に関する最新の診療ガイドラインを参考に、適切な食事療法・運動療法に係る治療計画を作成し、本剤を投与する施設において当該計画に基づく治療を6ヵ月以上実施しても、十分な効果が得られない患者であること。また、食事療法について、この間に2ヵ月に1回以上の頻度で管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。なお、食事療法・運動療法に関しては、患者自身による記録を確認する等により必要な対応が実施できていることを確認し、必要な内容を管理記録等に記録すること。3)本剤を投与する施設において合併している高血圧、脂質異常症または2型糖尿病に対して薬物療法を含む適切な治療が行われている患者であること。本剤で治療を始める前に高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれか1つ以上に対して適切に薬物療法が行われている患者であること。 このほか、使用する施設や医師の要件、投与に際して留意すべき事項などが記載されている。

750.

増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー【見落とさない!がんの心毒性】第26回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・女性(BMI:26.2)既往歴高血圧症、2型糖尿病(HbA1c:8.0%)、脂質異常症服用歴アジルサルタン、メトホルミン塩酸塩、ロスバスタチンカルシウム臨床経過進行食道がん(cT3r,N2,M0:StageIIIA)にて術前補助化学療法を1コース受けた。化学療法のレジメンはドセタキセル・シスプラチン・5-fluorouracil(DCF)である。なお、初診時のDダイマーは2.6μg/mLで、下肢静脈エコー検査と胸腹部骨盤部の造影CTでは静脈血栓症は認めていない。CTにて(誤嚥性)肺炎や食道がんの穿孔による縦隔炎の所見はなかった。2コース目のDCF療法の開始予定日の朝に37.8℃の微熱を認めた。以下が上部消化管内視鏡画像である。胸部進行食道がんを認める。画像を拡大する以下が当日朝の採血結果である(表)。(表)画像を拡大する【問題】この患者への抗がん剤投与の是非に関し、専攻医がオーダーしていたために病態を把握できた項目が存在した。それは何か?a.プロカルシトニンb.SARS-CoV-2のPCR検査c.Dダイマーd.βD-グルカンe.NT-proBNP筆者コメント本邦のガイドラインには1)、「がん薬物療法は、静脈血栓塞栓症の発症再発リスクを高めると考えられ、Wellsスコアなどの検査前臨床的確率の評価システムを起点とするVTE診断のアルゴリズムに除外診断としてDダイマーが組み込まれているものの、がん薬物療法に伴う凝固線溶系に関連するバイオマーカーに特化したものではない。がん薬物療法に伴う静脈血栓症の診療において、凝固線溶系バイオマーカーの有用性に関してはいくつかの報告があるものの、十分なエビデンスの集積はなく今後の検討課題である」と記されている。一方で、「がん患者は、初診時と入院もしくは化学療法開始・変更のたびにリスク因子、バイオマーカー(Dダイマーなど)などでVTEの評価を推奨する」というASCO Clinical Practice Giudeline Updateの推奨も存在する2)。静脈血栓症の症状として「発熱」は報告されており3)、欧米のデータでは、実際に肺塞栓症(PE)発症患者の14~68%で発熱を認め、発熱を伴う深部静脈血栓症(DVT)患者の30日死亡率は、発熱を伴わない患者の2倍になることも報告されている4)。このほか、可溶性フィブリンモノマー複合体定量検査値は、食道がん周術期においても中央値は正常値内を推移することが報告されており、その異常高値はmassiveな血栓症の指標になる可能性もある5)。がん関連血栓症の成因として、(1)患者関連因子、(2)がん関連因子、(3)治療関連因子が2022年のESC Guidelines on cardio-oncologyに記載された6)。今後一層のがん患者の生存率向上とともに、本症例のようなケースが増加すると思われる。1)日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会編. Onco-cardiologyガイドライン. 南江堂;2023. p.56-58.2)Key NS, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3063-30713)Endo M, et al. Int J Surg Case Rep. 2022;92:106836. 4)Barba R, et al. J Thromb Thrombolysis. 2011;32:288–292.5)Tanaka Y, et al. Anticancer Res. 2019;39:2615-2625.6)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;43:4229-4361.講師紹介

751.

ステロイド処方医は知っておきたい、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症のガイドライン改訂

 『グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023』が8月に発刊。本書は、ステロイド薬処方医が服用患者の骨折前/骨密度低下前の管理を担う際に役立ててもらう目的で作成された。また、ステロイド性骨粗鬆症の表現にはエストロゲン由来の病態も含まれ、海外ではステロイド性骨粗鬆症と表現しなくなったこともあり、“合成グルココルチコイド(GC)服用による骨粗鬆症”を明確にするため、本改訂からグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP)と表記が変更されたのも重要なポイントだ。9年の時を経て治療薬に関する膨大なエビデンスが蓄積された今回、ガイドライン作成委員会の委員長を務めた田中 良哉氏(産業医科大学第一内科学講座 教授)に、GIOPにおける治療薬の処方タイミングや薬剤選択の方法などについて話を聞いた。ステロイド薬処方時にグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の予防策 自己免疫疾患や移植拒絶反応をはじめ、多くの疾患治療に用いられるステロイド薬。この薬効成分は合成GCであるため、ホメオスタシスを維持する内在性ホルモンと共通の核内受容体に結合し、糖、脂質、骨などの代謝に異常を来すことは有名な話である。他方で、ステロイド薬の処方医は、GCを処方することで代謝異常を必然的に引き起こしていることも忘れてはいけない話である。 つまり、ステロイド薬を処方する際には、必ずこれらの代謝異常が出現することを念頭に置き、必要に応じた予防対策を講じることが求められる。その1つが“骨粗鬆症治療薬を処方すること”なのだが、実際には「骨粗鬆症の予防的処方に対する理解は進んでいない」と田中氏は話した。この理由について、「GIOPには明確な診断基準がなく、本ガイドラインに記載されていることも、あくまで“治療介入のための基準”である。診断基準がないということは診断されている患者数もわからない。骨粗鬆症患者1,600万人のうち、GCが3ヵ月継続処方されている患者をDPCから推算すると約100~150万人が該当すると言われているが、あくまで推定値に過ぎない。そのような背景から、GIOPに対する管理・治療が世界中で問題になっている」と同氏は警鐘を鳴らした。グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症のガイドラインで治療や予防のための基準このような問題が生じてしまうには、5つの誤解もあると同氏は以下のように示し、それらの解決の糸口になるよう、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023ではGIOPの予防的管理や治療に該当する患者を見極めるための基準を設けている(p.xiii 図2:診療アルゴリズムを参照)。1)GC骨粗鬆症の管理にはDXA法などの骨密度検査が必要?→スコアリングシステムで計算すれば、薬物療法の必要性が判断できる。2)ステロイド5mg/dayなら安全と考えがち→人体から2.0~2.5mg/dayが分泌されており、GC投与は1mgでも過剰。安全域がないことも周知されていない。3)骨を臓器の一種とみなしていない→「骨粗鬆症は骨代謝異常症であり代謝疾患の一種」という認識が乏しい。4)命に直結しない!?→「骨が脆弱になっても死なない」と思われる傾向にある。実際には、大腿骨や腰椎などの骨折が原因で姿勢が悪くなり、その結果、内臓・血管を圧迫して循環障害を起こし、死亡リスク上昇につながった報告もある1)。5)GIOP治療が難しいと思われている→スコアリングに基づき薬物介入すれば問題ない。GCを3ヵ月以上使用中あるいは使用予定患者で、危険因子(既存骨折あり/なし、年齢[50歳未満、50~65歳未満、65歳以上]、GC投与量[PLS換算 mg/日:5未満、5~7.5未満、7.5以上]、骨密度[%YAM:80以上、70~80未満、70未満])をスコアリングし、3点以上であれば薬物療法が推奨される。ステロイド性骨粗鬆症のガイドラインから第一選択薬の明記をなくす スコアリングシステムは、ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療 ガイドライン2014年改訂版からの変更はないものの、治療薬の選択肢が増えたことからシステマティックレビューなどを行った結果、5つの薬剤(ビスホスホネート[内服、注射剤]、抗RANKL抗体、テリパラチド、エルデカルシトール、またはSERM)が推奨され、抗スクレロスチン抗体はFuture Questionになった。なお、前回まではアレンドロネートとビスホスホネートを第一選択薬として明記していたが、本改訂では第一選択薬の明記がなくなった。これについて同氏は「厳密に各薬剤を直接比較している試験がなかった」と補足した 。 また、新たな薬剤の推奨の位置付けやエビデンスについても「抗RANKL抗体は大腿骨頸部や橈骨の構成要素である皮質骨、椎体の構成要素の半分を占める海綿骨、いずれの骨密度にも好影響を及ぼすが、海外では悪性腫瘍の適応と同一薬価で販売されていることも推奨度に影響した。一方、抗スクレロスチン抗体は現状ではエビデンス不足のため本書での推奨が付かなかった。推奨するにはエビデンスに加えて、医療経済やアドヒアランスの観点も踏まえて決定した」と説明した。グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症のガイドライン準拠は10%未満 最後に同氏は、「GIOPは腰椎と同時に“胸椎”にも高頻度に影響しやすいため、原疾患の治療にてレントゲン撮影をする際にはGIOPの治療効果・経過観察のためにも、ぜひ骨にも目を向けてほしい。そして、本ガイドラインを準拠している内科医は10%にも満たないと言われているので、すべての医師がこれを理解してくれることを期待する。骨代謝異常症に対するビスホスホネートの作用点は、脂質代謝異常薬の作用点であるメバロン酸経由の下流であることからも、骨と脂質異常症の相同性が示唆される。ハートアタックならぬボーンアタックを予防するためにも、3ヵ月以上にわたってステロイドを処方する場合には骨粗鬆症予防の介入を考慮し、GIOPの予防・管理につなげてもらえるように学会としても啓発していきたい」と語った。

752.

プライマリケアでの女性の尿路感染症への抗菌薬処方、介入で有意に減少/BMJ

 プライマリケアにおけるマルチモーダル(複数の方法による)介入が、女性の単純性尿路感染症(UTI)に対する第二選択の抗菌薬処方率および全抗菌薬処方率を有意に減少したことが、ドイツ・ブレーメン大学のGuido Schmiemann氏らが、同国5地域の一般診療所を対象に行った並行群間クラスター無作為化試験の結果で報告した。ドイツの総合診療医(GP)向け等のガイドラインでは、受診機会の多い女性のUTI治療について、抗菌薬投与の回避が望ましい軽症~中等症UTIでは対症療法を優先し、第一選択の抗菌薬も推奨薬が明確に示されている。この明確な推奨にもかかわらず、フルオロキノロンなどの第二選択の抗菌薬が依然としてよく用いられ(地域の一般処方率38~54%)、抗菌薬以外の治療をGPが選択することはまれだという。教育プログラムや処方のフィードバックなどの介入が不適切処方を減少することは示されているが、ガイドラインを推奨する介入プログラムについては、これまで検討されていなかった。BMJ誌2023年11月2日号掲載の報告。ドイツの128の一般診療所を、介入群vs.対照群に無作為化し評価 研究グループは、プライマリケアでのマルチモーダル介入によって、女性における単純性UTIへの第二選択の抗菌薬処方率および全抗菌薬処方率が減少するかどうかを調べた。 データは、2021年4月1日~2022年3月31日に、ドイツの5地域の、128の一般診療所で収集された。 一般診療所は介入群と対照群に、地域で層別化をして、ブロック法により1対1の割合で無作為化された(ブロックサイズは4つ、SAS ver9.4を使用)。 マルチモーダル介入は、(1)各診療所から参加したGPおよび患者に対するガイドラインの推奨、(2)抗菌薬耐性に関する地域データの提供および年4回のフィードバック(個々の第一選択と第二選択の抗菌薬処方率、地域内または地域を越えたベンチマークについての情報、および電話カウンセリングを含む)から構成された。対照群には介入に関する情報は提供されなかった。 主要アウトカムは、1年後の単純性UTIに処方された、全抗菌薬に対する第二選択の抗菌薬の割合とし、介入群と対照群の平均処方率の絶対差を算出して評価した。副次アウトカムは、1年後のUTI治療に対する全抗菌薬の処方率で、介入群と対照群の全抗菌薬処方率の平均値の絶対差を算出して評価した。 有害事象は、探索的アウトカムとして評価した。第二選択の抗菌薬処方率、全抗菌薬処方率とも有意に減少 無作為化された一般診療所128施設のうち、ベースライン(Qb:研究開始1年前の2020年の第1四半期のデータ)および各四半期(Q1~Q4)のデータが完全に入手できた110施設(介入群57施設[GP103人]、対照群53施設[100人])を最終解析の対象とした。一般診療所やGPの特性は両群で類似しており、地域差は若干みられたが、患者数(四半期当たり平均数)やGPの性別(両群とも男性48%、女性52%)、平均年齢(介入群50歳、対照群53歳)、職歴、雇用形態などに差はなかった。 全四半期(Qb~Q4の15ヵ月)において1万323症例が特定された。 12ヵ月後の第二選択の抗菌薬の平均処方率は、介入群0.19(SD 0.20)、対照群0.35(0.25)であり、介入前の処方率を調整後の平均処方率の群間差は-0.13(95%信頼区間[CI]:-0.21~-0.06、p<0.001)であった。 12ヵ月間のUTIに対する全抗菌薬処方率は、介入群0.74(SD 0.22)、対照群0.80(0.15)であり、平均処方率の群間差は-0.08(95%CI:-0.15~-0.02、p<0.029)であった。 両群間で合併症(腎盂腎炎、入院、発熱など)の症例数に差はみられなかった。

753.

ESMO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年、スペインのマドリードで欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)が、現地時間10月20日~24日にハイブリッド開催で行われた。日本の先生からの演題も多数報告されていたが、今回は消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬#LBA74Pembrolizumab plus chemotherapy vs chemotherapy as neoadjuvant and adjuvant therapy in locally-advanced gastric and gastroesophageal junction cancer:The Phase III KEYNOTE-585 study本試験は、T3以上の深達度もしくはリンパ節転移陽性と診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、術前・術後に化学療法+プラセボを3コースずつ行った後にプラセボを3週ごと11コース行う標準治療群と、術前・術後に化学療法+ペムブロリズマブ併用を3コースずつ行った後にペムブロリズマブを3週ごと11コース行う試験治療群を比較するランダム化二重盲検第III相試験である。国立がん研究センター東病院の設楽 紘平先生により結果が報告された。化学療法は、カペシタビン+シスプラチンまたは5-FU+シスプラチンを用いたメインコホートとFLOT療法を用いるFLOTコホートがあり、主要評価項目は全体の病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)、メインコホートの全生存期間(OS)、FLOTコホートの安全性であった。全体で1,254例が登録され、メインコホートのペムブロリズマブ群402例とプラセボ群402例、FLOTコホートのペムブロリズマブ群100例とプラセボ群103例が登録された。メインコホートではアジアから約50%が登録され、PD-L1のCPS1以上は約75%、MSI-Hが約10%、StageIIIが約75%およびカペシタビン+シスプラチンが約75%であった。メインコホートのpCR率は、ペムブロリズマブ群の12.9%に対しプラセボ群では2.0%と、有意にペムブロリズマブ群で良好であった(p<0.0001)。pCR率のサブグループ解析では、PD-L1のCPS1未満でペムブロリズマブ群のpCR改善率が悪い傾向があり(4.2%の上乗せ)、MSI-H群ではペムブロリズマブ群のpCR率が有意に高かった(37.1%の上乗せ)。EFS中央値はペムブロリズマブ群で44.4ヵ月、プラセボ群で25.3ヵ月であり、事前に設定された統計設定を達成できなかった(HR:0.81、p=0.0198)。OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.90)。メインコホート+FLOTコホートにおける解析では、EFS中央値がペムブロリズマブ群で45.8ヵ月、プラセボ群で25.7ヵ月(HR:0.81)、OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.93)。重篤な毒性は全体では両群に有意差はなく、Grade3~4の免疫関連有害事象とインフュージョン・リアクションはペムブロリズマブ群で多い傾向があった。#LBA73Pathological complete response (pCR) to durvalumab plus 5-fluorouracil, leucovorin, oxaliplatin and docetaxel (FLOT) in resectable gastric and gastroesophageal junction cancer (GC/GEJC): interim results of the global, phase III MATTERHORN study本試験は、StageII、IIIおよびIVAの診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、FLOT+プラセボ療法4コース後に手術を行い、術後FLOT+プラセボ4コース施行後プラセボを4週ごと10サイクル追加する標準治療群に対し、術前および術後のFLOT療法に対するデュルバルマブを上乗せし、終了後デュルバルマブを4週ごと行う試験治療群の優越性を検証したランダム化二重盲検第III相試験である。主要評価項目はEFS、副次評価項目は中央判定のpCR率、OSであり、今回は副次評価項目であるpCR率が報告された。日本を含む20ヵ国から948例が登録され、474例がFLOT+デュルバルマブ群に、474例がFLOT+プラセボ群に登録された。デュルバルマブ群では91%で手術が行われ、87%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行、プラセボ群では91%で手術が行われ、85%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行された。患者背景は両群で偏りがなく、胃がんが約70%で食道胃接合部がんは約30%、T1~2/T3/T4が約10%/約65%/約25%、臨床的リンパ節転移陽性が約70%、病理はdiffuse typeが約20%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は≦1%が約90%であった。副次評価項目である中央判定pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%と12%の上乗せとなり、統計学的有意差を認めた(オッズ比[OR]:3.08、95%信頼区間[CI]:2.03~4.67、p<0.00001)。pCRとnear pCRを合わせた改善率はデュルバルマブ群で27%、プラセボ群で14%と、13%の上乗せがあり、統計学的に有意な改善を認めた(OR:2.19、95%CI:1.58~3.04、p<0.00001)。サブグループ解析では全体にデュルバルマブ群で良好であったが、PD-L1発現1%未満の群ではpCR率の差が少ない傾向にあった。手術の完遂率・R0切除率・術式・リンパ節郭清の割合は両群で差がなかった。安全性に関しては両群とも新規の有害事象(AE)は認められなかった。周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験がASCO2022で、中国で行われた周術期capeOX/SOXにtoripalimabの上乗せを検証する試験がASCO2023で報告され、tumor regression grade rate(TRG rate)という病理学的効果を見る指標が改善する可能性が示唆されている。今回、2つの周術期の大規模第III相試験が報告され、術前治療における免疫チェックポイント阻害薬の併用はpCR率を改善することが報告された。しかし、KEYNOTE-585試験では、ほかの主要評価項目であるEFSは統計学的に改善せず、OSもほぼ同等であった。今まで大規模第III相試験で、免疫チェックポイント阻害薬の追加でEFSやOSを改善した報告はなく、胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬が予後を改善するかはまだ明らかではない。MATTERHORN試験の今後の解析や他研究を含め、PD-L1やMSIを含む、さらなるバイオマーカー研究が待たれる。HER2陽性進行胃がん1次治療へのペムブロリズマブ#1511OPembrolizumab plus trastuzumab and chemotherapy for HER2+ metastatic gastric or gastroesophageal junction (mG/GEJ) adenocarcinoma: Survival results from the phase III, randomized, double-blind, placebo-controlled KEYNOTE-811 studyKEYNOTE-811試験はHER2陽性の切除不能進行胃がんを対象に、標準治療である化学療法+トラスツズマブに対するペムブロリズマブの上乗せを検証する、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験である。2021年9月に副次評価項目の1つである奏効率(ORR)に関する報告がNature誌に掲載され、標準治療群の51.9%に対してペムブロリズマブの併用で74.4%と、22.5%の上乗せと統計学的有意差を認めていた。今回、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)とOSについて第3回中間解析(追跡期間中央値:38.5ヵ月)の報告がなされた。698例が、ペムブロリズマブ群350例、ブラセボ群348例に割り付けられた。第2回中間解析における全体集団においてペムブロリズマブ群はプラセボ群に対してPFS(10.0ヵ月vs.8.1ヵ月)に有意な改善を認めた(HR:0.73、p=0.0002)。PD-L1が≦1の症例においては、さらなる改善傾向を認めた(10.9ヵ月vs.7.3ヵ月、HR:0.71)。第3回中間解析の結果が示され、全体集団におけるOSは20.0ヵ月vs.16.8ヵ月(HR:0.84)であったが、統計学的なp値は示されなかった。PD-L1≦1の症例においては、PFSと同様にOSも改善傾向を認めた(20.0ヵ月vs.15.7ヵ月、HR:0.81)。まだイベントが少なく、OSは追加解析中である。ORRは73% vs.60%でありペムブロリズマブ群で13%の上乗せを認めた。今回の検討で、OSは全体集団で統計学的有意な改善を示さなかった。しかし、ORRの改善や、PFSは全体集団で有意な改善を認め、OSもPD-L1≦1症例では良好な結果が報告された。しかし、Lancet誌で論文化された結果を見ると、第2回中間解析でOSの延長は統計学的有意差を示せなかった。またディスカッションで述べられていたが、PD-L1がCPS1未満では、逆にペムブロリズマブ群でOSが不良であったことが示されている。以上よりEUではPD-L1 CPS1以上においてのみペムブロリズマブ併用が承認され、米国FDAも同様の基準に承認が変更されている。本邦ではまだ保険適用外であるが、治療効果が高いレジメンであり、承認されればHER2陽性胃がんの1次治療が大きく変化する。今後、本邦での承認の可否や承認された場合の適応条件を含め注目される。MSI-H胃がん1次治療のイピリブマブ+ニボルマブ#1513MOA Phase II study of Nivolumab plus low dose Ipilimumab as 1st line therapy in patients with advanced gastric or esophago-gastric junction MSI-H tumor:First results of the NO LIMIT study (WJOG13320G/CA209-7W7)本研究は本邦で行われた、MSI-High切除不能進行再発胃がんに対する1次治療としてのイピリムマブ+ニボルマブ(Ipi/Nivo)の有効性と安全性を探索した単群第II相試験である。主要評価項目はORR、副次評価項目は病勢コントロール率(DCR)、PFS、OS、奏効期間(DOR)、安全性であり、今回、主要評価項目であるORRの結果が愛知県がんセンター薬物療法部の室 圭先生より報告された。スクリーニング試験であるWJOG13320GPS試験が並行して行われており、2020年11月~2022年8月の期間に国内75施設から進行胃がん935例がスクリーニングされた。そのうちMSI-Highと診断された症例のうち29例が本試験に登録された。3例が完全奏効、15例が部分奏効を達成し、ORRは62.1%(95%CI:42.3~79.3)で事前の統計学的設定に達し、主要評価項目を達成した。DCRは79.3%、追跡期間中央値9.0ヵ月時点のPFS中央値は13.8ヵ月(95%CI:13.7~未達)、DORとOSは未到達、12ヵ月PFS率は73%、OS率は80%であった。Grade3のAEが11例、Grade4が1例発現したが、治療関連死は認めず、既存の研究と異なるAEは認めなかった。21例で治療が中止され、治療中止の最も多い理由はAE(13例)であった。進行胃がんの中でおよそ5%といわれるMSI-Highを対象にしており、スクリーニング研究を含め、本邦の多くの先生が協力して完遂されたことにまずは拍手を送りたい試験である。既報のCheckMate 649試験でもMSI-High群では免疫チェックポイント阻害薬の併用効果がきわめて高いことが知られており、MSI-Highは胃がん1次治療前の治療選択に重要なバイオマーカーであると考えられる。また、Ipi/Nivoは食道がんにおけるCheckMate 648試験でも長期生存につながる症例が他治療より多い可能性が示唆されており、胃がんにおいてもそのような対象があるかもしれない。もちろんIpi/Nivoは胃がんにおいて本邦では保険適用外であるが、本研究の長期フォローアップの結果やバイオマーカーの解析結果が期待される。RAS/BRAF野生型+左側原発大腸がんのm-FOLFOXIRI+セツキシマブ#555MOModified (m)-FOLFOXIRI plus cetuximab treatment and predictive clinical factors for RAS/BRAF wild-type and left-sided metastatic colorectal cancer (mCRC):The DEEPER trial (JACCRO CC-13)本試験は本邦で行われた大規模なランダム化第II相試験である。主要評価項目であるDpR(最大腫瘍縮小率)はASCO2021で有意な改善が報告されている。今回、聖マリアンナ医科大学腫瘍内科講座の砂川 優先生よりRAS/BRAF野生型かつ左側のサブグループ解析結果が報告された。RAS/BRAF野生型、左側の大腸がんにおいてDpRとPFSはいずれもm-FOLFOXIRI+セツキシマブ群においてm-FOLFOXIRI+ベバシズマブ群より良好であった(DpR中央値: 59.2% vs.47.5%、p=0.0017、PFS:14.5ヵ月vs.11.9ヵ月、HR:0.71、p=0.032)。またPFSにおけるサブグループ解析では男性、R0/1切除ができなかった症例、および肝限局以外の症例においてセツキシマブ群で良好な傾向があった。とくに肝限局転移例ではPFSは両群で有意差を認めなかった(14.5ヵ月vs.15.5ヵ月、HR:0.86、p=0.62)ものの、それ以外ではセツキシマブ群でPFSの改善を認めた(15.1ヵ月vs.11.4ヵ月、HR:0.63、p=0.015)。今回のサブグループ解析は、本邦の実臨床における実際と合致した対象で、期待できる効果が示された。深い奏効が期待できるため、個人的には詳細なゲノム検査が困難な、若いRAS/BRAF野生型大腸がん症例に期待したい治療である。次回のガイドラインの記載が注目される。KRAS G12C変異大腸がんへのソトラシブ+パニツムマブ#LBA10 Sotorasib plus panitumumab versus standard-of-care for chemorefractory KRAS G12C-mutated metastatic colorectal cancer (mCRC):CodeBreak 300 phase III study肺がんなどを中心に、新たに注目されているバイオマーカーであるKRAS G12Cに対する治療開発が進んでいる。大腸がんでは約3%の症例でKRAS G12C変異を認めるといわれており、ソトラシブ+パニツムマブは先行する第I相試験でORRが30%と期待できる結果を示していた。今回、1レジメン以上の治療を受けたKRAS G12C変異陽性切除不能進行再発大腸がんに対して、ソトラシブ+パニツムマブと標準治療(トリフルリジン・チピラシルもしくはレゴラフェニブ)を比較する第III相試験の結果が報告された。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はORRとOSで、160例がソトラシブ960mg/日+パニツムマブ(53例)と、ソトラシブ240mg/日+パニツムマブ(53例)、そして標準治療(54例)に1対1対1で割り付けられた。約90%が2レジメン以上、オキサリプラチン、フッ化ピリミジン、イリノテカン、血管新生阻害薬による治療を受けていた。主要評価項目であるPFSはソトラシブ960mg群、ソトラシブ240mg群、標準治療群でそれぞれ5.6ヵ月(HR:0.49、p=0.006)vs.3.9ヵ月(HR:0.58、p=0.03)vs.2.2ヵ月であり、ソトラシブ群で有意に改善を認めた。ORRはそれぞれ26% vs.6% vs.0%であり、ベースラインよりも腫瘍が縮小した症例の割合は81% vs.57% vs.20%であった。OSはイベント発生数がまだ約40%と未達で、8.1ヵ月vs.7.7ヵ月vs.7.8ヵ月であった。主なGrade3以上の毒性はソトラシブ群でざ瘡様皮疹(960mg群11% vs.240mg群4%)、皮疹(6% vs.2%)、下痢(4% vs.6%)、低マグネシウム血症(6% vs.8%)であり、標準治療群では好中球減少(24%)、貧血(6%)、嘔気(2%)であった。研究者らは、KRAS G12C変異を有する大腸がんに対してソトラシブ960mg/日+パニツムマブが新しい標準治療になる可能性があると結論付け、本結果はNEJM誌にも掲載された。PFSやORRは期待できる結果を示しているが、肺がんではソトラシブ単剤で28.1~37.1%のORRが報告されており、大腸がんではパニツムマブ併用ながら、やや劣る奏効である。またOSはそれほど差がなく、標準治療群でソトラシブをクロスオーバーして使用しているのかなど、後治療の影響があるのかも含めた長期フォローの結果が待たれる。いずれにせよ、希少な対象の薬剤であり、本邦でも早期にKRAS G12C変異陽性大腸がん患者に届けられるようになることが期待される。転移膵がん1次療法、ゲムシタビン+nab-パクリタキセル#1616ONab-paclitaxel plus gemcitabine versus modified FOLFIRINOX or S-IROX in metastatic or recurrent pancreatic cancer (JCOG1611, GENERATE):A multicentred, randomized, open-label, three-arm, phase II/III trial切除不能進行膵がんにおける1次化学療法の標準治療は(modified)FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+nab-パクリタキセル(GnP)療法であるが、直接比較した大規模第III相試験はいまだなかった。今回、本邦でmFOLFIRINOX療法とGnP療法およびS-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)を比較する第II/III相試験であるGENERATE試験(JCOG1611)が行われ、国立がん研究センター中央病院の大場 彬博先生より結果が報告された。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、ORRおよび安全性であった。PS0~1の症例を対象に、2019年4月~2023年3月に国内45施設から527例が登録され、GnP群(176例)、mFOLFIRINOX群(175例)、S-IROX群(176例)に1対1対1で割り付けられた。主要評価項目のOSはGnP群17.1ヵ月、mFOLFIRINOX群14.0ヵ月(HR:1.31、95%CI:0.97~1.77)、S-IROX群13.6ヵ月(HR:1.35、95%CI:1.00~1.82)であった。中間解析にて最終解析における優越性達成予測確率はmFOLFIRINOX群0.73%、S-IROX群0.48%とGnP群を上回る可能性がほとんどないため、本試験は中止となった。PFSはGnP群6.7ヵ月、mFOLFIRINOX群5.8ヵ月(HR:1.15、95%CI:0.91~1.45)、S-IROX群6.7ヵ月(HR:1.07、95%CI:0.84~1.35)、ORRはGnP群35.4%、mFOLFIRINOX群32.4%、S-IROX群42.4%であった。Grade3以上のAEで多かったものは好中球減少症で、GnP群60%、mFOLFIRINOX群52%、S-IROX群39%で認められた。食欲不振(5% vs.23% vs.28%)、下痢(1% vs.9% vs.23%)は、GnP群よりもmFOLFIRINOX群、S-IROX群で多く認められた。本研究は膵がんの実臨床に対する非常に重要な試験であり、今回の結果を鑑みると本邦における切除不能膵がんに対する1次治療の標準治療はGnP療法であると考えられる。本邦の現状では1次治療でGnP療法を行い、2次治療でナノリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナートを行うことが推奨されているが、2023年のASCOでナノリポソームイリノテカンを使ったNALIRIFOX療法のGnP療法に対する優越性が報告されている。本邦ではNALIRIFOX療法は保険適用外であるが、今後本邦での承認を含めた状況が注目される。

754.

脂質低下療法の効果にストロングスタチン間の違いはあるのか?(解説:平山篤志氏)

 動脈硬化性疾患の2次予防にLDL-コレステロール(LCL-C)低下の重要性が明らかにされているが、ガイドラインにより、LDL-Cの管理目標値を達成するアプローチ(Treat to Target)と目標値を設定せず病態に応じたスタチンを投与するアプローチ(Fire and Forget)がある。韓国で行われたLODESTAR試験は、この2種のアプローチでOutcomeが異なるかを検討した試験で、すでに報告されたように管理目標値を達成できれば両者に優劣はなかった。本試験ではさらに、エントリーされた患者はTreat to Target群とFire and Forget群に分けられると同時に、2種のストロングスタチン、すなわちロスバスタチン群とアトルバスタチン群に割り付けられ、今回はスタチンの相違についての検討が報告された。 結果は、ロスバスタチン群でアトルバスタチン群に比し、0.1mmol(3.85mg/dL)の有意なLDL-Cの低下は認められたが、心血管イベントには両者で差がない結果であった。また、数多くの2次エンドポイントが設けられていたが、ロスバスタチン群で新規糖尿病と白内障の発症がアトルバスタチン群に比して有意に多いと報告されていた。スタチン使用と新規糖尿病の発症については2012年にFDAが警告を発して以来、投与に関しては注意が必要とされている。スタチンがグルコーストランスポーターのGULT4のダウンレギュレーションを来すことが一因とされており、これまでスタチンの強度、脂溶性・水溶性などの解析が行われてきたが、相違については結論が出されていない。今回の検討でも、全参加者の解析では新規糖尿病の発症や糖尿病治療薬の使用開始では確かにロスバスタチン群で有意に高いが、糖尿病の既往のない患者群では新規発症には有意差が示されなかった。したがって、この結果だけをもってロスバスタチンのほうが糖尿病を来すリスクが高いとはいえない。 これまでに報告されているように、スタチンによる糖尿病発症や悪化のリスクはあっても、心血管イベント抑制効果が上回ることから、スタチン使用に躊躇すべきではない。この論文のメッセージとしては、いずれのスタチンを用いても有効性と安全性には差がないというものである。論文のメッセージとしてのインパクトは大きくないが、韓国でこれほどの大規模試験が行われ結果を報告しているのに、なぜか日本ではRegistry研究は盛んだがRCT研究が少なくなっているように思われる。今後、わが国でRCTを行いやすくできる環境整備が必要なのであろう。

755.

十人十色の症状・経過を示す多発性硬化症、改訂GLで疾患修飾薬の使い方を示す/バイオジェン

 多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の診療環境は、近年大きく変化している。「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017」の公開後、MSにおいては国際的な診断基準が改訂され(McDonald 2017診断基準)、フマル酸ジメチル(商品名:テクフィデラ)、シポニモド(同:メーゼント)、オファツムマブ(同:ケシンプタ)が発売された。それを受けて約6年ぶりの改訂となる「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」が2023年9月に発刊された。 そこで、バイオジェンは2023年10月26日に「ガイドライン改訂からみるこれからの多発性硬化症診療」と題し、メディアセミナーを実施した。ガイドライン作成委員会の委員長を務める新野 正明氏(北海道医療センター臨床研究部 部長)が、MS患者が抱える悩みを含めたMS診療の現状と課題、ガイドライン改訂のポイントについて解説した。多様な症状・経過を示し、人生に大きく影響する MSは20~30代での発症が多く、仕事や結婚、出産など人生に大きな影響を及ぼす。同じ症状を呈するMS患者は2人としていないと言われるほど多様な症状を示し、その中には、ウートフ現象(温浴効果)、易疲労感、記憶力や集中力、判断力の低下などの見た目にはわからない症状もある。そのような背景から、MS患者は「学業や仕事に影響しないのだろうか?」「何に気を付ければ良いのだろうか?」「結婚・出産・子育てに影響しないのだろうか?」「いつまで薬を続ければ良いのだろうか?」「まわりにはなかなか理解してもらえない」といった悩みを抱えていると新野氏は指摘した。 このように多様な症状・経過を示し、患者の悩みの多いMSの診療課題として、新野氏は以下を挙げた。1)患者数が少なく、脳神経内科医でも経験することがそれほど多くない。そのため、専門とする医療機関が少なく、都市部に限られることが多い。2)長期にわたる診療・観察が必要であるが、担当医が異動により毎年交替することがあり、そのたびに方針が変更になることがある。3)2000年以降、疾患修飾薬(DMD)が8種類発売されたが、どのような使い分けが良いのか示されていない。4)どのような点に注意してフォローアップすれば良いか、情報が十分に共有されていない。DMDについてアルゴリズムを作成、使用方法を示す これらの課題に対応すべく、ガイドラインが改訂された。今回のガイドラインは3つの章からなり、中核箇所はMindsに準拠して作成された。第1章では、MSの診断では他の疾患との鑑別が重要となることから、NMOSDやMOG抗体関連疾患(MOGAD)などとの鑑別の手助けになるように、中枢神経系炎症性脱髄疾患診断のアルゴリズムが作成された。また、第1章の後半には各治療薬の概説や使用方法が具体的に掲載されたほか、診療において重要な「医療経済学的側面及び社会資源の活用」の項が追加された。 第2章では、MSやNMOSDを専門とする医師でも対応が分かれると考えられる重要臨床課題が5つ選定され、CQとして取り上げられた(MS:3つ、NMOSD:1つ、MOGAD:1つ)。今回設定されたMSに関するCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。CQ1:再発寛解型MS(RRMS)の診断早期にナタリズマブないしオファツムマブで治療を開始するのは推奨されるか?(p114)CQ2:高齢MS患者において、DMDを中止することは推奨されるか?(p116)CQ3:二次性進行型MS(SPMS)患者に、オファツムマブとシポニモドのいずれが推奨されるか?(p118) 第3章では、診療上重要であり、エキスパートの間では一定のコンセンサスが得られると考えられる事項などがQ&Aとして取り上げられている。また、第2章と第3章の内容からRRMSの治療アルゴリズムも作成された。具体的には、「再発頻度・MRI活動性・EDSSが高くない、脳萎縮が強くない場合」には、アボネックス、ベタフェロン、コパキソン、フマル酸ジメチルのいずれかで治療を開始し、治療効果が不十分である場合は、ナタリズマブ、オファツムマブへの切り替えを速やかに検討することが記載されている。一方、「再発頻度やMRI活動性が高い、さらにはEDSSが高い、脳萎縮が強い場合」には、ナタリズマブ、オファツムマブによる治療開始を検討し、「再発頻度・MRI活動性・EDSSが高くない、脳萎縮が強くない場合」でも患者の意向等によってはナタリズマブやオファツムマブから開始することも検討することが記載されている。DMDの切り替え、効果不十分の判断は? それでは、DMDの切り替えの判断はどうすべきであろうか。これについても「Q2-6-1:どのような場合に、DMDの切り替えを検討すべきか?」という問いが設定されている。回答の内容としては「DMDの治療効果が不十分な場合や副作用により治療を継続できない場合、治療継続による副作用が懸念される場合には、切り替えを検討する」ことが記載され、治療効果不十分の判定については「DMDを開始した後も再発や障害度の進行が認められる場合や、MRIで新規病変や拡大病変が認められる場合」に治療効果不十分と判定することが記載されたと新野氏は解説した。 MRIの撮像頻度や障害度の進行の評価方法について、新野氏に質問したところ、「MRIについては、未治療の場合やDMD開始の判断をする場合には半年に1回、進行性多巣性白質脳症のリスクがある場合は3~4ヵ月に1回、安定している患者では1年に1回など、患者の状態によって判断する。身体障害については、EDSSの評価を年に1回程度もしくは再発時に実施するほか、歩行が重要な指標になるため、Timed 25-Foot Walk(25フィート歩行に要する時間)の評価、同じ距離を歩くのにかかる時間が延びていないか質問することも有用である。また、認知機能も非常に重要であるため、情報処理能力などを年に1回は評価する必要がある」との回答が得られた。 講演の最後に、新野氏は「患者さんはさまざまな悩みを抱えているため、医療者側の考えやエビデンスを押し付けるのではなく、患者さんの希望も聞きながら患者さんと一緒に治療方針を考えていく必要がある」とまとめた。

756.

第170回 外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協

<先週の動き>1.外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協2.地域医療構想で進む病床再編、急性期病床が減少、回復期は増加/厚労省3.日本の公的医療支出が高水準、病床数と在院日数で2位/OECD4.GLP-1受容体作動薬の供給不足、卸に対して美容目的の出荷抑制を指示/厚労省5.美容目的のエクソソーム使用に規制を、死亡事例の報告も/再生医療学会6.介護職員の待遇改善へ、来年2月から月6,000円の賃上げ決定/政府1.外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を11月10日に開催。2024年度の診療報酬改定に向けて議論が行われた。とくに外来医療に関する「外来管理加算(52点)」については、支払い側が廃止を求め、激しい議論となった。外来管理加算は、2008年の診療報酬改定で再診患者に対する計画的な医学管理を評価するため導入された。当初は「おおむね5分を超える診察」の要件(いわゆる「5分ルール」)が含まれていたが、医療現場の強い反発で、このルールは2年後に廃止された代わりに、「簡単な症状の確認」だけで処方を行った場合は加算を算定できないことが明確化されていた。支払側委員の松本 真人氏(健康保険組合連合会理事)は、外来管理加算の算定要件があいまいで、その評価の妥当性に疑問を提起した。さらに、外来管理加算と「特定疾患療養管理料」、「生活習慣病管理料」、「地域包括診療加算」の併せて算定が許される現状についても、患者や保険者にとって理解しづらいと指摘し、廃止を主張した。これに対して、診療側の委員たちは強く反発。長島 公之委員(日本医師会常任理事)は、松本委員の意見を「暴論」と断じ、まったく容認できないと強調した。池端 幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)も、廃止の主張に全面的に反対する意向を示した。参考1)中医協資料 外来(その3)について(厚労省)2)外来管理加算の廃止を主張、支払側の松本委員 長島委員は「暴論、容認できない」(CB news)3)「外来管理加算の廃止」の支払側提案に、診療側委員は猛反発、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価をどう考えるか-中医協総会(1)(Gem Med)2.地域医療構想で進む病床再編、急性期病床が減少、回復期は増加/厚労省厚生労働省は、11月9日に「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、地域医療構想の進捗について報告した。厚労省が最新の病床機能報告を基に行った集計によれば、2025年までに急性期病床が約7.1万床減少する一方、回復期病床は約7.9万床増加する見込み。政府は、高齢化や人口減少に対応するため、2025年までに各地域の医療体制を効率化することを目的として地域医療構想の実現を目指し、病床再編を行っている。病床再編により、一部の地域では医療機関の存続が危ぶまれ、とくにコロナ禍での病床削減への疑問符が生じている。たとえば、岐阜県東濃地方では、公営病院の病床数削減や民間への譲渡が進められているが、地域全体での病床利用率は高くなく、病床削減による共倒れの懸念が指摘されている。新型コロナウイルスのパンデミックは、病床削減の方針に再考を迫っており、急性期病床の役割の重要性が再認識されているが、今後は、コロナ禍の経験や在宅医療の需要も考慮に入れた新たな医療再編の議論が求められている。参考1)地域医療構想の進捗等について(厚生労働省)2)急性期7.1万床減少見込み、15-25年に 回復期は7.9万床増、全国ベースで(CB News)3)目標の2025年迫る「地域医療構想」 病床再編 議論が“再燃” 地域医療の崩壊に危機感(東京新聞)3.日本の公的医療支出が高水準、病床数と在院日数で2位/OECD経済協力開発機構(OECD)の最新報告によれば、わが国の公的医療支出はGDPの11.5%であり、政府支出の22%を占めることが判明した。これは、加盟38ヵ国中最高の割合であることが明らかになった。わが国の人口当たり病床数(12.6)は韓国に次いで2位で、平均在院日数も16.0日と、OECDの平均の約2倍である。人口1,000人当たりの医師数は2.6人で、OECDの平均3.7人に及ばない。また、わが国は、65歳以上の高齢者割合が29%と最も高く、1人当たりの受診回数も11回で2番目に多い。OECDは、これらの現状をもとにわが国の医療資源の効率的な活用を促している。人口10万人当たりの薬剤師数は199人でトップに立つ一方で、ノルウェーやスウェーデンの65歳以上の人口100人当たり介護従事者の数は約12人に対して、わが国は6.8人である。そのほか、開業医の電子カルテ利用率は平均93%に対し、日本は42%と低くOECDの武内 良樹事務次長は、わが国の医療提供の効率化と介護の費用対効果の向上を求めている。さらにわが国の病院依存型の医療制度が非効率であると指摘し、遠隔医療の利用拡大やかかりつけ医の医療質向上のほか、スキルの高い介護人材の確保と労働条件の改善も必要とも述べている。参考1)図表でみる医療 2023:日本(OECD)2)公的医療支出の割合、日本がトップ OECD、病床数・在院日数は2位(MEDIFAX)4.GLP-1受容体作動薬の供給不足、卸に対して美容目的の出荷抑制を指示/厚労省厚生労働省は、2型糖尿病治療に使用されるGLP-1受容体作動薬の在庫が逼迫していることを受け、7月下旬に医療機関と薬局に対して、GLP-1受容体作動薬の買い込みを控え、必要量のみの購入を行うよう求め、薬剤の適正使用を依頼した。GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病患者以外への使用(主に美容・痩身目的)については有害事象の報告もあり、懸念が広がる一方、海外承認のニュースにより急速に処方が増えている。厚労省は、2型糖尿病患者に対して適切に供給されるように、医薬品卸売販売業者に対して、注文を受けた際に治療目的を確認し、糖尿病治療以外の目的での使用が明らかな注文に対しては、納入を控えるよう11月9日付けで通知を発出した。参考1)GLP-1受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(その2)(厚労省)2)GLP-1、糖尿病治療以外は納入しないよう卸に要請 厚労省(日刊薬業)5.美容目的のエクソソーム使用に規制を、死亡事例の報告も/再生医療学会厚生労働省が、11月10日に開催した厚生科学審議会の再生医療等評価部会で、日本再生医療学会は、細胞から分泌される微粒子「エクソソーム」が含まれる幹細胞培養上清液が、美容目的やアンチエイジング目的で自由診療の医療機関で使用されているとして、「何らかの規制下に置かれることが望ましい」とする提言書を国に提出した。エクソソームは組織再生を促す物質を含んでいるが、現行の再生医療の安全に関する法律の対象外のため、管理が不十分な場合には重大な事故を引き起こす可能性があると指摘されている。すでに、幹細胞培養上清液を使用した治療による患者の死亡事例も報告されており、研究者らはエクソソームの体内での効果や安全性に関する科学的根拠が不足しており、一部のクリニックが効果を誇張して宣伝されていることを問題視しており、大阪大学の曽宮 正晴助教は、このような未確立の治療法には倫理的、科学的な問題があると指摘している。これに対して、実施しているクリニックが所属している日本再生医療抗加齢学会側は、現在の状況を改善するためのガイドライン作成や問題点の精査を急務としている。参考1)エクソソーム等に対する日本再生医療学会からの提言(日本再生医療学会)2)幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について(再生医療抗加齢学会)3)エクソソーム 美容目的などに利用 “将来的に規制を”学会提言(NHK)4)エクソソーム治療「規制下が望ましい」学会が提言 死亡例の報告も(朝日新聞)5)幹細胞培養上清液で死亡例 研究者「エクソソームの投与で何かを治したと人で実証された例はない」「身体にリスクも」“若返りや美容効果”うたうクリニックに警鐘(ABEMA TIMES)6.介護職員の待遇改善へ、来年2月から月6,000円の賃上げ決定/政府政府は、介護職員と看護補助者の賃金を2023年2月から月額6,000円引き上げることを含む補正予算を閣議決定した。この措置は、介護分野と他の産業との間で開いた待遇格差を埋め、介護職員の離職を防ぐための措置で、賃上げには関連経費が2023年度補正予算案に盛り込まれ、都道府県を通じて事業所や医療機関に補助される。今回の賃上げは、介護報酬の3年ごと、診療報酬の2年ごとの見直しに先立つ「つなぎ」としての措置であり、来年度の報酬改定で恒久的な賃上げを目指している。厚生労働省によれば、2022年の介護職員の給与平均は29.3万円、看護補助者は25.5万円で、全産業平均(36.1万円)と比べて低く、介護分野では低賃金のために他産業への人材流出が続いており、離職者数が増加している。全国老人保健施設協会の調査では、介護職員の2023年度の賃上げ率は1.42%で、春闘の平均賃上げ率3.58%を大きく下回っている。岸田 文雄首相は、医療介護における賃上げや人材確保を重要な課題として挙げ、「必要な処遇改善の検討を行わなければならない」と述べている。参考1)介護職、月6000円賃上げ 人材流出抑制で-厚労省・補正予算(時事通信)2)介護職員の賃金、来年2月から月6000円引き上げ…離職の歯止め措置で補正予算案に盛り込む(読売新聞)3)コロナ交付金に6,143億円、補正予算案決定 月6千円相当の看護職賃上げへ(CB news

757.

抗精神病薬の推奨用量のコンセンサス、最も高い製剤は~ICSAD-2

 専門家のコンセンサスに基づいた臨床的に同等の推定用量や推奨用量は、臨床診療および研究において、精神疾患に対する薬物治療をサポートする貴重な情報となりうる。カナダ・ダルハウジー大学のMatthew Kt McAdam氏らは、精神疾患に対する新規薬剤と過去に報告されているコンセンサスの低い薬剤について、用量の同等性と推奨用量の確立および更新を目的に、第2回となる抗精神病薬投与に関する国際的なコンセンサス確立のための研究「Second International Consensus Study of Antipsychotic Dosing:ICSAD-2」を行った。Journal of Psychopharmacology誌2023年10月号の報告。 2段階のデルファイ調査プロセスを用いて、26製剤に関する臨床専門家および研究専門家の幅広い国際サンプルにおけるコンセンサスの確立および更新を行い、統合失調症治療の推奨用量および臨床的に同等の推定用量を検討した。等価用量推定の参照薬剤は、経口剤15種類および長時間作用型注射剤(LAI)7種類に対してはオランザピン経口剤20mg/日、短時間作用型注射剤(SAI)4種類に対してはハロペリドール筋注5mgとした。精神疾患に対する経口剤44種類、LAI 16種類、SAI 14種類についても、同等の推定用量および推奨用量の最新リストへの更新を行った。 主な結果は以下のとおり。・24ヵ国の調査参加者72人が、経口剤、LAI、SAIの同等の推定用量および推奨用量を提供した。調査の1段階から2段階にかけて、コンセンサスは向上した。・最終的なコンセンサスは、LAIで最も高く、経口剤は中程度、SAIは最も低かった。 著者らは「精神疾患に対する抗精神病薬の投与量を最適化するためのランダム化対照試験(フィックスドーズ、マルチプルドーズ)は依然としてまれであり、専門家によるコンセンサスは、臨床的投与量の同等性を推定するための有効な代替手段である」とし、「本結果は、精神疾患治療薬に関する臨床実践、ガイドラインの開発、研究デザインおよび解釈をサポートする可能性がある」とまとめている。

758.

第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安

新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で事故調査委員会が報告書公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのワールドシリーズ、NPBの日本シリーズが終わり、今年の野球シーズンも終幕を迎えました。ワールドシリーズは、テキサス・レンジャーズがアリゾナ・ダイヤモンドバックスを4勝1敗で破り、初優勝を飾りました。総じて地味で大味な戦いでしたが、かつてヤクルト・スワローズに在籍したことがあるという、ダイヤモンドバックスのトーリ・ロブロ監督の、バントや盗塁を駆使した日本の高校野球のような戦い方(「スモール・ベースボール」と呼んでいました)はなかなか興味深かったです(レンジャーズに1勝しかできませんでしたが…)。一方、第7戦までもつれた日本シリーズは、第6戦の山本 由伸投手の目が覚めるような完投劇があったものの、勢い勝った阪神タイガースの38年振りの日本一で幕を閉じました。オリックス第7戦登板の宮城 大弥投手は、立ち上がりはとてもいい出来に見えました。しかし、阪神のシェルドン・ノイジー外野手に投げたチェンジアップが少しだけ甘く入り、先制3ラン。あの失投さえなければ投手戦がそのまま続き、勝敗はどうなっていたかわかりません。いずれにせよ、山本投手はいいお土産を持って米国に渡ることになります。これから1、2ヵ月は大谷 翔平選手、山本投手のFA移籍先報道が熱くなるでしょう。さて今回は、昨年、愛知県愛西市で新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で、1ヵ月ほど前に愛西市医療事故調査委員会が公表した調査報告書について書いてみたいと思います。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論付けた報告書ですが、なぜ、アドレナリンが適切に投与されなかったのか、アナフィラキシーを起こしている患者を前にしてその判断ができなかった医師は、どんなキャリアでどれくらいの診療レベルだったのかについて、報告書には詳細に書かれていません。「かかりつけ医機能」が発揮されるための制度整備が議論されている中、地域の医師会の医師たちの医学知識、診療レベルを疑うような事例だけに、せっかく報告書を公表するならば、そのあたりまで突っ込んでもらいたいと思いました。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論この事故は、昨年11月、愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡した、というものです。専門家らで構成された愛西市医療事故調査委員会は9月26日、調査報告書1)を公表、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」さらに、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」と、医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」と結論付けました。病態はアナフィラキシーの可能性が低いと医師が判断、アドレナリン筋肉内注射をせず報告書によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と勝手に解釈していたとのことです。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外し」てしまいました。そんな中、看護師の1人は「アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン投与を想定し、注射器に22ゲージの針をつけ、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をし」ていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態さらに対応を依頼された医師は、「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)の存在は認識していましたが、アナフィラキシーに比較的よくみられる所見や情報が乏しかったことに影響され、ガイドライン等に沿った対応、すなわち「0.1%アドレナリン(ボスミン1/2A)の筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤(エピペン0.3mg製剤)の投与」を行いませんでした。なお、新型コロナウイルスワクチンの接種事業に協力する医師に対して海部医師会(医師たちが所属する医師会)は、医師たちに事前に準備された「アナフィラキシー対応マニュアル」を読んでおくよう指示していたとのことです。結局、この女性にアドレナリンが投与されることはなく、接種14分後に心停止、その後救急隊が呼ばれ、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されています。ハチ毒はアレルギーを獲得した後2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いエピペン(アドレナリン自己注射用製剤)については、私も少々苦い思い出があります。20年ほど前の秋、奥秩父の登山中にハチに刺されたことがあります。ハチ毒は、アレルギーを獲得した後の2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いと言われています。そこで私は近所の内科診療所を訪れ、エピペンの処方を頼みました。実は私の友人がその数年前、ハチに刺された数ヵ月後に蜂の子を食べ、アナフィラキシーで生死をさまよいました。その話を聞いていたので、「今後、山に登る時はエピペン所持が必要だ」と考えたのです。開業医にエピペン処方を断られるエピペンの日本での歴史はそう古くはありません。1995年、国有林で働く林業従事者のハチ毒対策のために米国で製造販売されていた製品を「治験扱い」で使用されたのが始まりです。その後、民有林での使用要望も出され、2003年に厚生労働省の製造販売承認が下りています。つまり、林業従事者のハチ毒対策が日本でのエピペン普及のきっかけだったのです。この時の適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)」で、該当者は処方を受けて所持・使用することができるようになりました。その後、2005年には食物や薬物等によるアナフィラキシー反応および小児への適応も取得しています(ただし2011年までは保険が効かず自費)。私がハチに刺されたのは2003年の製造販売承認後だったので、内科診療所の医師は処方できたはずだったのですが、医師(60歳代)は「処方したことがない」「自分で打つのは危険だ」「全額自費だよ」などとさまざまな理由を挙げて、結局処方してもらえませんでした。「次、山で刺されたらアナフィラキシーで死ぬかもしれない」という私の切実な訴えも、まったく無視されました(その後、別の医療機関で入手し、数年間は登山時に所持)。ちなみに現在、エピペンの処方には講習受講と登録が必要となっています。アナフィラキシーを除外した医師は「内科医、医師歴5年以上10年未満」そんな経験があったため、愛西市の新型コロナワクチン接種後に女性がアナフィラキシーで死亡した事故を知った時、対応した医師は、私にエピペンを処方しなかった医師同様、比較的年配で、アドレナリン自己注射用製剤を患者に使用させた経験がなかったのではないか、さらにはアナフィラキシーというものを教科書では読んだことがあるが、自身では経験したことがなかったのではないかと思いました。しかし、私の予想は外れました。報告書によれば、最初にこの女性の対応を任され、アナフィラキシーを除外した医師は、海部医師会愛西市班に所属する医師で「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっています。むしろ、こちらのほうが驚きです。医師になって10年未満、エピペンの使い方も一般化し、アナフィラキシー時の対応についても十分に学んでいるはずの世代が大きな判断ミスを犯したということになるからです。医学や診療技術は、日々進歩していますが、学ぼうとしない医師も一定数います。この「医師歴5年以上10年未満」の医師は、どういう経歴で、日々の診療はどういうもので、どのように最新の医学情報をアップデートしていたのでしょうか。「かかりつけ医」機能が議論される中、報告書には判断ミスを犯した医師の資質についても言及されるべきだったのではないでしょうか。「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判もところで、今回、この事故に関して、愛西市医療事故調査委員会の委員長らが記者会見し、報告書を公表、医学的評価の判断をマスコミ等に説明したことについて、「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判が一部にあるようです。公表が医師や看護師個々人への責任追及を促す危険性をはらんでいるからです。それはそれで一理あります。しかし、仮にことの原因が、個々の医療機関の安全管理体制等ではなく、医師の教育体制(卒後教育含む)にもあるとしたらどうでしょう。個々の医療機関に報告するだけで問題は解決するのでしょうか。愛西市のワクチン事故は、今の医療事故調査制度にも一石を投じたようです。参考1)新型コロナウイルスワクチン集団接種会場で発生した死亡事案について/愛西市

759.

STEMI、中医薬tongxinluoの上乗せで臨床転帰改善/JAMA

 中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのYuejin Yang氏らは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)におけるガイドライン準拠治療への上乗せ補助療法として、中国伝統医薬(中医薬)のTongxinluo(複数の植物・昆虫の粉末・抽出物からなる)は30日時点および1年時点の両方の臨床アウトカムを有意に改善したことを、大規模無作為化二重盲検プラセボ対照試験「China Tongxinluo Study for Myocardial Protection in Patients With Acute Myocardial Infarction(CTS-AMI)試験」の結果で報告した。Tongxinluoは有効成分と正確な作用機序は不明なままだが、潜在的に心臓を保護する作用があることが示唆されている。中国では1996年に最初に狭心症と虚血性脳卒中について承認されており、心筋梗塞についてはin vitro試験、動物実験および小規模のヒト試験で有望であることが示されていた。しかし、これまで大規模無作為化試験では厳密には評価されていなかった。JAMA誌2023年10月24・31日合併号掲載の報告。対プラセボの大規模無作為化試験でMACCE発生を評価 CTS-AMI試験は2019年5月~2020年12月に、中国の124病院から発症後24時間以内のSTEMI患者を登録して行われた。最終フォローアップは、2021年12月15日。 患者は1対1の割合で無作為化され、STEMIのガイドライン準拠治療に加えて、Tongxinluoまたはプラセボの経口投与を12ヵ月間受けた(無作為化後の負荷用量2.08g、その後の維持用量1.04g、1日3回)。 主要エンドポイントは、30日主要有害心脳血管イベント(MACCE)で、心臓死、心筋梗塞の再発、緊急冠動脈血行再建術、脳卒中の複合であった。MACCEのフォローアップは3ヵ月ごとに1年時点まで行われた。 3,797例が無作為化を受け、3,777例(Tongxinluo群1,889例、プラセボ群1,888例、平均年齢61歳、男性76.9%)が主要解析に含まれた。30日時点、1年時点ともMACCEに関するTongxinluo群の相対リスク0.64 30日MACCEは、Tongxinluo群64例(3.4%)vs.プラセボ群99例(5.2%)で発生した(相対リスク[RR]:0.64[95%信頼区間[CI]:0.47~0.88]、群間リスク差[RD]:-1.8%[95%CI:-3.2~-0.6])。 30日MACCEの個々のエンドポイントの発生も、心臓死(56例[3.0%]vs.80例[4.2%]、RR:0.70[95%CI:0.50~0.99]、RD:-1.2%[95%CI:-2.5~-0.1])を含めて、プラセボ群よりもTongxinluo群で有意に低かった。 1年時点でも、MACCE(100例[5.3%]vs.157例[8.3%]、ハザード比[HR]:0.64[95%CI:0.49~0.82]、RD:-3.0%[95%CI:-4.6~-1.4])および心臓死(85例[4.5%]vs.116例[6.1%]、HR:0.73[0.55~0.97]、RD:-1.6%[-3.1~-0.2])の発生は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも依然として低かった。 30日脳卒中、30日および1年時点の大出血、1年全死因死亡、ステント内塞栓症(<24時間、1~30日間、1~12ヵ月間)など、その他の副次エンドポイントでは有意差はみられなかった。 薬物有害反応(ADR)は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも有意に多く(40例[2.1%]vs.21例[1.1%]、p=0.02)、主に消化管症状であった。 今回の結果を踏まえて著者は、「STEMIにおけるTongxinluoの作用機序を確認するため、さらなる研究が必要である」とまとめている。

760.

制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版

8年ぶりの改訂、Mindsに準拠した最新指針がん薬物療法により発現する悪心・嘔吐を適切に評価し抑制することは、がん患者のQOL改善と治療完遂のための重要な課題です。8年ぶりの全面改訂となる今版は、Minds2017に準拠し作成しました。各章の総論・Questionを充実させ、非薬物療法による制吐療法、患者サポート、医療経済などについても新たにQuestionや解説を追加し、制吐療法における、患者と医療従事者の意思決定支援に必要な情報提供を目指しました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版定価3,080円(税込)判型B5判頁数208頁(図数:44枚)発行2023年10月編集日本癌治療学会電子版でご購入の場合はこちら

検索結果 合計:3099件 表示位置:741 - 760