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ハイパーサーミア診療ガイドラインで各がん種の治療推奨度を明確に

 『ハイパーサーミア診療ガイドライン』の初版が発刊された。今回、ガイドライン作成委員会委員長の高橋 健夫氏(埼玉医科大学総合医療センター放射線腫瘍科)に実臨床におけるハイパーサーミアの使用経験や推奨されるがん種などについて話を聞いた。ハイパーサーミアのガイドラインでエビデンスを示す必要があった ハイパーサーミアとは39~45℃の熱を用いた温熱療法のことで、主に放射線治療や化学療法の治療効果を高める目的で用いられている。その歴史は意外にも古く、1980年代に放射線治療の補助療法として導入、1990年代には電磁波温熱療法として保険収載され、その臨床実績は30年以上に及ぶ。本治療は、生体では腫瘍のほうが正常組織よりも温度上昇しやすい点を応用した“43℃以上での直接的な殺細胞効果”が報告されているほか、抗がん剤の細胞膜の透過性亢進、熱ショックタンパク質を介した免疫賦活などの生物学的なメリットなどが示されている。しかし、どのような患者に優先的に勧めるべきか明確に示した指針は認められない、実施可能施設の少なさ、専門的な知識や経験を有するハイパーサーミア治療医が限れているなどの点から認知度がまだまだ低い治療法である。そこで日本ハイパーサーミア学会では2017年にガイドライン作成委員会が発足し、約7年の時を経てガイドラインの発刊に至った。これに対し高橋氏は「治療内容、適応などに関して認知度が低く、時に民間療法との区別がつきにくいイメージがあり、ハイパーサーミアの定義ならびに各がん種に対するエビデンスをガイドラインで示す必要があった。欧州では標準治療として組み込まれているものの、2000年代をピークに臨床研究の数がなかなか増えず、最新のエビデンスが少ない点は本書でも難点になっている」とコメントした。 ハイパーサーミアは“電子レンジ”のような原理を用いてラジオ波で細胞内部を温めることが重要となるため、温度上昇の得やすい臓器・部位かどうかが判断材料の1つになり、これは直腸・膀胱・子宮などの消化管や生殖器で効果が得られやすい理由の1つである。今回のハイパーサーミア診療ガイドライン作成にあたり、各学会のガイドラインと整合性を取るためにさまざまな学会と調整したと同氏は話す。たとえば、昨年発刊された『膵癌診療ガイドライン2022年版 第6版』のCQでは、現時点では推奨なし(エビデンスの強さ:非常に弱い)の記載ではあるが、導入化学療法を施行した後に行われる化学放射線療法にハイパーサーミアを加えるか否かのランダム化比較試験が施行されており、その報告1)が今注目されている。また、頭頸部がんや放射線治療に抵抗性である肉腫などでもハイパーサーミアの効果が期待できる。一方、「肺は空気を含み他臓器に比べ温まりにくい問題がある」とハイパーサーミア治療が効果的な臓器、効果が得にくい臓器があることを示した。ハイパーサーミア診療ガイドラインに腹膜播種に対する抗腫瘍効果 また、今回の注目すべき点として、同氏は「これまでは再発治療への対応が多く、初回治療から用いることができる選択肢を示した点は大きい」とし、「予後不良の腹膜播種の術中に行う腹腔内化学療法において、ハイパーサーミアは灌流液を41~43℃に加温して抗腫瘍効果を高める。腹膜播種は化学療法の感受性が低かったが、加温により長期予後が改善されている」と話した。 ハイパーサーミア診療ガイドラインのクリニカルクエスチョン(CQ)は以下のとおり。―――CQ1 頭頸部がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ2 乳がん局所・領域リンパ節再発に対する放射線治療にハイパーサーミアの併用は勧められるか?CQ3 食道がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ4 非小細胞がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ5 膵がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ6 直腸がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ7 膀胱がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ8 子宮頸がんに対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ9 悪性黒色腫に対して放射線治療とハイパーサーミアの併用療法は推奨されるか?CQ10 軟部肉腫に対してハイパーサーミアは推奨されるか?CQ11 腹膜播種に対してハイパーサーミアは推奨されるか?――― 患者さんへのメリット・デメリットについては、「全身影響が少ないので副作用も少なく済む。ただし、本治療は温熱抵抗性が生じるために1回/週のペースで実施する。放射線の照射前後などのタイミングは問わず、治療になるべく近い日程で加温することが推奨される。そして、保険適用のしばりがない点などは患者さんへのメリットになる。デメリットには、認定施設数が少ない点」を挙げ、「本書の発刊を好機とし、国内での導入施設数を増やし国内の多施設共同研究を進めていきたい」と述べた。 最後に、「ハイパーサーミアの効果はさまざまな治療に味付けをする、いわば引き立て役である。将来的には本治療の免疫賦活効果が免疫チェックポイント阻害薬などとの併用によって好影響をもたらすのではないか」と将来性を語った。 なお、9月8~9日に神奈川県の伊勢原市民文化会館にて日本ハイパーサーミア学会第40回大会が開催され、シンポジウムでも本書に関する話題を取り上げる予定だ。

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双極性障害に対する薬物療法のパターン~メタ解析

 米国・メイヨークリニックのBalwinder Singh氏らは、双極性障害の治療実態を明らかにするため、Global Bipolar Cohortの共同ネットワークを活用して、北米、欧州、オーストラリアの双極性障害患者を対象とした複数のコホート研究における薬物療法のパターンを調査した。その結果、双極性障害患者に対しては、気分安定薬である抗けいれん薬、第2世代抗精神病薬、抗うつ薬の使用頻度が高く、必ずしもガイドラインと一致する治療パターンではなかった。また、地域ごとに治療パターンの大きな違いがあり、北米ではリチウムの使用頻度が低く、欧州では第1世代抗精神病薬の使用頻度が高かった。著者らは、これらの違いと治療アウトカムとの関係を調査し、双極性障害治療の改善に役立つエビデンスベースのガイドラインを提供し実践するには、今後、縦断的研究を実施する必要があるとしている。Bipolar Disorders誌オンライン版2023年7月18日号の報告。 薬物療法、人口統計、診断サブタイプ、併存疾患に関するデータを、各コホート研究より収集した。治療パターンを特定するため、一般化線形混合法を用いた個別および地域ごとにプールされた比例メタ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、北米3,985例、欧州3,822例、オーストラリア2,544例を含む双極性障害患者1万351例(女性の割合:60%、双極I型障害:60%、双極II型障害:33%)。・気分安定薬としての抗けいれん薬(44%)、第2世代抗精神病薬(42%)、抗うつ薬(38%)の使用頻度が高かった。・リチウムは29%に使用されており、主にオーストラリア(31%)、欧州(36%)で使用頻度が高かった。・第1世代抗精神病薬は、欧州では24%で使用されていたが、北米では1%のみであった。・抗うつ薬の使用頻度は、双極I型障害(35%)よりも双極II型障害(47%)で高かった。・包含/除外基準、データソース、コホート研究への登録時期については、研究間で有意な違いが認められた。

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2型DM患者は超加工食品摂取で食事の質と無関係に死亡リスク増

 2型糖尿病患者では、食事の質とは無関係に、カップ麺やスナック菓子、加工肉などの超加工食品の摂取量の増加は全死因死亡率と心血管疾患(CVD)死亡率の上昇と関連していることが、イタリア・IRCCS NEUROMEDのMarialaura Bonaccio氏らの前向き観察コホート研究の結果、明らかになった。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2023年7月26日号掲載の報告。 研究グループは、ベースライン時に2型糖尿病を発症している1,065例を対象として、11.6年間(中央値)を前向きに追跡した。食物摂取量は、188項目の食事アンケートによって評価された。超加工食品はNova分類に従って定義され、超加工食品と総摂取食物の重量比として計算された。食事の質は、地中海食スコアによって評価された。Cox比例ハザードモデルを用いて、死亡率の多変量調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・超加工食品の摂取量は平均7.4%(±5.0%)であった。・超加工食品摂取量が最も多かった群(女性10.5%以上、男性9%以上)では、摂取量が最も少なかった群(女性4.7%未満、男性3.7%未満)よりも、全死因死亡(aHR:1.70、95%CI:1.25)およびCVD死亡(aHR:2.64、95%CI:1.59)のリスクが高かった。・地中海食スコアによる食事の質を加味しても、これらの関連性は変化しなかった。・超加工食品摂取量と全死因死亡およびCVD死亡リスクの間には線形の用量反応関係が観察された。 これらの結果より、研究グループは「ベースライン時に2型糖尿病を発症していた参加者では、食事の質とは無関係に、超加工食品摂取量の増加は生存率の低下とCVD死亡率の上昇と関連していた。2型糖尿病管理の食事ガイドラインでは、必要栄養量に基づいた食事の導入に加えて、超加工食品を制限することも推奨する必要がある」とまとめた。

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鼻をほじる医療者は、コロナ感染リスク増

 医療従事者はCOVID-19の感染リスクが高く、マスク、ガウン、ゴーグル/フェイスシールド、手袋などの個人防護具(PPE)装着をはじめとした感染対策を取るケースが多い。にもかかわらず医療従事者の感染者が多い理由を探るため、PPE装着や飛沫を受けることに関連する可能性のある、鼻をほじるなどの特定の行動・身体的特徴を調査する研究が行われた。オランダ・アムステルダム大学のA H Ayesha Lavell氏らによる本研究の結果は、PLOS ONE誌オンライン版2023年8月2日号に掲載された。鼻をほじることが病院内のコロナ感染拡大につながる可能性 研究者らは、オランダの2つの大学医療センターに勤務する医療従事者404例を対象としたコホート研究において、特定の行動・身体的特徴が感染リスクと関連しているかどうかを調査した。感染との関連を調査した具体的な行動は以下のものだった。・鼻をほじる・爪をかむ・眼鏡を掛ける・ひげを生やす 医療従事者のコロナ感染者が多い理由を探るため、鼻をほじるなどの特定の行動・身体的特徴を調査する研究の主な結果は以下のとおり。・404例にコロナ感染率に影響を及ぼす可能性のある習慣に関するオンライン調査を行い、計219例(回答率52%)が回答した。・以前の研究から「COVID-19患者のケアに従事している」「COVID-19に感染した同僚または地域住民と接触した」ことが感染リスク増と関連があると示されていたため、これらの因子で分類し、結果を調整した。期間中2つの病院は院内のPPE着用ルールをはじめ、同一の感染制御対策を実施した。・参加者の大多数(185例、85%)が偶発的に鼻をほじると回答し、その頻度は月1回、週1回、毎日とさまざまであった。鼻をほじる群はほじらない群よりも若く(年齢中央値44歳vs.53歳)、男性のほうがより頻繁に鼻をほじる(90% vs.83%)と報告した。鼻をほじる頻度が最も高かったのは医師(研修医:100%、専門家:91%)、次いでサポートスタッフ(86%)、看護師(80%)であった。 ・2020年3~10月の追跡期間中に34例(15.5%)がCOVID-19の陽性判定を受けた。COVID-19発症率は、鼻をほじる群がほじらない群と比較して高かった(32/185例:17.3% vs.2/34例:5.9%、オッズ比:3.80、95%信頼区間:1.05~24.52)。・爪をかむ、眼鏡を掛ける、ひげを生やすこととCOVID-19感染率との有意な関連は認められなかった。 研究者らは「鼻をほじることが病院内の感染拡大につながる可能性があり、そのリスクは過小評価されている。今後の研究結果次第では、教育セッションや感染予防ガイドラインの推奨に加えるなど、より意識を高める必要があるだろう」としている。

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統合失調症薬物治療ガイドラインの順守と治療成績との関係~EGUIDEプロジェクト

 臨床医が統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨事項を順守することは、患者の良好なアウトカムにとって重要である。しかし、ガイドラインの順守が患者の治療アウトカムと関連しているかどうかは明らかではない。東京慈恵会医科大学の小高 文聰氏らは、統合失調症薬物療法ガイドラインへの適合度を可視化するツールindividual fitness score(IFS)計算式を開発し、統合失調症患者におけるIFS値と精神症状との関連を調査した。その結果、IFS計算式で評価した統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨事項を順守する取り組みは、統合失調症患者の臨床アウトカム改善につながる可能性が示唆された。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2023年6月29日号の報告。 治療抵抗性統合失調症(TRS)患者47例と非TRS患者353例を対象に、IFS計算式を用いて、現在の処方がガイドラインの推奨事項に準拠しているかを評価した。IFS値と陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計スコアおよび5つの下位尺度のスコア(陽性症状、陰性症状、思考解体/認知、敵意/興奮、不安/抑うつ)との関連を調査した。さらに、一部の患者(77例)については、2年にわたる長期的なIFS値と精神症状それぞれの変化の関連も調査した。 主な結果は以下のとおり。・全体の統合失調症患者(400例)において、IFS値とPANSS合計スコアとの間に有意な負の相関が認められた(β=-0.18、p=0.000098)。・非TRS患者(Spearman's rho=-0.15、p=0.0044)およびTRS患者(rho=-0.37、p=0.011)のいずれにおいても、IFS値とPANSS合計スコアとの有意な負の相関が確認された。・また、非TRS患者およびTRS患者のいずれにおいても、IFS値と陰性症状、抑うつスコアなどのいくつかの因子との間に、負の相関が確認された(各々、p<0.05)。・IFS値の変化は、PANSS合計スコアおよび陽性症状、抑うつスコアの変化と負の相関が認められた(p<0.05)。

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12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」【下平博士のDIノート】第127回

12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」今回は、JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬「リトレシチニブ(商品名:リットフーロカプセル50mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、12歳以上の小児から使用できる円形脱毛症治療の経口薬であり、広い患者におけるQOL向上が期待されます。<効能・効果>円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。本剤投与開始時に、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、リトレシチニブとして50mgを1日1回経口投与しますなお、本剤による治療反応は、通常投与開始から48週までには得られるため、48週までに治療反応が得られない場合は投与中止を考慮します。<安全性>1%以上に認められた臨床検査値異常を含む副作用として、悪心、下痢、腹痛、疲労、気道感染、咽頭炎、毛包炎、尿路感染、頭痛、ざ瘡、蕁麻疹が報告されています。なお、重大な副作用として、感染症(帯状疱疹[0.9%]、口腔ヘルペス[0.8%]、単純ヘルペス[0.5%]、COVID-19[0.2%]、敗血症[0.1%]など)、リンパ球減少(1.6%)、血小板減少(0.3%)、ヘモグロビン減少(0.2%)、好中球減少(0.2%)、静脈血栓塞栓症(頻度不明)、肝機能障害(ALT上昇[0.9%]、AST上昇[0.5%])、出血(鼻出血[0.5%]、尿中血陽性[0.1%]、挫傷[0.1%]など)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脱毛の原因となる免疫関連の酵素の働きを抑えることで、円形脱毛症の症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体のだるさ、咳の継続などの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性のある人は、この薬を使用している間および使用終了後1ヵ月間は、適切な避妊を行ってください。5.ふくらはぎの色の変化、痛み、腫れ、息苦しさなどの症状が現れた場合は、すぐに医師にご連絡ください。<Shimo's eyes>円形脱毛症は、ストレスや疲労、感染症などをきっかけとして、自己の免疫細胞が毛包を攻撃することで脱毛症状が起こる疾患です。急性期と症状固定期(脱毛症状が約半年超)に分けられ、急性期で脱毛斑が単発または少数の場合には発症後1年以内の回復が期待できます。一方、急性期後に自然再生が認められず、脱毛症状が継続する重症の円形脱毛症では回復率は低いとされ、診療ガイドラインには局所免疫療法や紫外線療法などの治療が記載されていますが、より簡便で効果的な治療法が求められていました。本剤は、JAK3および5種類のTECファミリーキナーゼを不可逆的に阻害する共有結合形成型の経口投与可能な低分子製剤です。円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21などの共通γ鎖受容体のシグナル伝達をJAK3阻害により強力に抑制し、CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞溶解能をTECファミリーキナーゼ阻害により抑制することで治療効果を発揮します。全頭型および汎発型を含む円形脱毛症を有する患者を対象とした国際共同治験(ALLEGRO-2b/3、ALLEGRO-LT)で、本剤投与群は、24週時のSALT≦20(頭部脱毛が20%以下)達成割合はプラセボと比較して統計的に有意な改善を示しました。なお、円形脱毛症に使用する経口JAK阻害薬として、すでにバリシチニブ(商品名:オルミエント)が2022年6月に適応追加になっています。バリシチニブは15歳以上が対象ですが、本剤は12歳以上の小児でも使用可能です。本剤はほかのJAK阻害薬と同様に、活動性結核、妊娠中、血球減少は禁忌となっています。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。円形脱毛症は、多くの場合は頭皮で脱毛しますが、ときには眉毛、まつ毛を含む頭部全体や全身に症状が出ることでQOLが著しく低下する疾患です。ストレスが多い現代社会で、ニーズの高い医薬品と言えます。

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寄せられた疑問に答える、脂質異常症診療ガイド2023発刊/日本動脈硬化学会

 『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』が6月30日に発刊された。動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイドは2018年版から5年ぶりの改訂となり、塚本 和久氏(帝京大学大学院医学研究科長、内科学講座 教授)が改訂点や本書の新たな取り組みについて、日本動脈硬化学会主催のプレスセミナーで解説した。動脈硬化関連の各種ガイドライン・指針に準拠 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイドは脂質異常症に特化し、非専門医が困ったときに参考となる情報をコンパクトに記載したものである。日本動脈硬化学会では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版』をはじめ、『スタチン不耐に関する診療指針2018』『PCSK9阻害薬の継続使用に関する指針』などのさまざまなガイドラインや指針を発刊しており、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』はそれらの内容を網羅するかたちで作成されている。そのため、主な改訂点も『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版』に準じたものになっている。<脂質異常症診療ガイド2023の主な改訂内容>1.随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG、中性脂肪)基準値(175mg/dL以上)を設定。2.脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアを採用。3.糖尿病がある場合のLDLコレステロールの管理目標値について、合併症がある場合の1次予防は100mg/dL未満、2次予防は70mg/dL未満に設定。4.2次予防の対象疾患として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加。5.薬物療法において、スタチン不耐と判断する際の注意点を記載。6.原発性脂質異常症の項を拡充。 上記の『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』改訂内容1について、塚本氏は「脂質異常症の診断基準は“動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療開始のための基準値ではない”ことは、ぜひ理解しておいていただきたい」と述べ、改訂内容5については「スタチンは費用対効果も高く不必要な中止を避けたい。また、スタチン不耐と判断される患者の半数以上がスタチン不耐ではないとの報告1)もある。それゆえ、ノセボ効果には注意し、患者の筋関連症状とスタチンとの関連性をしっかり確認してほしい」と強調した。脂質異常症診療ガイド改訂でQ&Aを拡充 今回の動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド改訂では本文の内容の充実はもちろんのこと、Q&Aを拡充し、項目数を47から61に増やしている。この中には、予防ガイドラインでは詳述されなかったポイントや比較的よく質問される疑問点、そして日本動脈硬化学会広報啓発委員会が会員ページに掲載している症例(日常臨床で診断・治療に難渋する症例)を参考に作成したケースを取り上げている。たとえば、上述の『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』改訂内容2に関連する質問が寄せられ、それに対する回答が記載されている。―――Q25久山町スコアでは40歳未満の方は対象にはなりませんが、多くの危険因子を持つ若年の脂質異常症患者さんにはどのように対応すればよいでしょうか?A久山町スコアのアプリでは、絶対リスクとともに相対リスクも表示される。久山町スコアは40歳以上を対象としたものなので正確とは言えないが、40歳未満の対象者であっても年齢以外の因子を入力後、年齢の項を40歳と入力すれば、同世代の危険因子のない方と比べての相対リスクがわかるので、患者指導に用いると良い。――― このほかにもよく質問される疑問点として「Q21 吹田スコアで高リスクだった患者さんが久山町スコアでは中リスクとなりました。どのように対応すればよいでしょうか?」「Q22 管理目標値設定のフローチャートに記載されている『その他の脳梗塞』はどのような脳梗塞でしょうか? 心原性脳梗塞やラクナ梗塞も含まれるのでしょうか?」などが寄せられている。また、広報啓発委員会作成の会員マイページに掲載されている症例を参考とした症例としては「Q55 LDL-C 260mg/dLでアキレス腱肥厚もあったので、FHと考えスタチンで治療を始めましたが、LDL-C値はほとんど下がりません。どのように対応すればよいでしょうか?」(シトステロール血症の鑑別が必要)のようなQ&Aが作成されている。ぜひ『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』のQ&Aをご一読いただきたい。遺伝子検査項目の増加、指定難病の診断に 2022年4月に原発性脂質異常症の遺伝子検査項目が5つに増えた(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体]、タンジール病)。これを受けて、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』では低HDLコレステロール低値の際のフローチャートを追加し、解説疾患を増やすなど、原発性脂質異常症の項を拡充。遺伝子検査項目が増えるメリットには「指定難病の確定診断がつけば、患者の登録が進み、患者のbenefitにつながる」と述べた。脂質異常症診療ガイド2023にICT導入 今回の発刊に際し情報通信技術(ICT)を積極的に導入しており、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』を購入した方はデジタルブックでも閲覧できる。また、掲載されているQRコードを読み込むことで代表的な臨床比較試験、診療指針、専門医リストなどが確認できるため、web検索する手間が省ける仕組みになっている。 最後に同氏は「以上の改訂点を踏まえ、医師や管理栄養士、臨床検査技師などをはじめとする多くの医療者に活用していただきたい」とコメントした。

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第172回 “治験後進国ニッポン”、医療のお宝情報にたどり着けない仕組みが原因か

先日、国産の新型コロナワクチン登場を取り上げたが、そもそも国産ワクチンが海外産ワクチンに比べて登場しにくいのは、臨床試験(以下、治験)実施の難しさがあるように思う。たとえばファイザー製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンのコミナティの治験は、わずか4ヵ月弱で4万人を超える被験者がエントリーしている。日本でこの期間と規模の被験者を集めることができるかを問われれば、多くの人が“否”と答えるだろう。その理由として挙げられるのが、まず医療制度の違いである。国民皆保険による安価な医療費と医療機関へのフリーアクセスという制度に慣れ切った日本人にとって、敢えて治験に参加するほどのメリットを感じない人がむしろ多数派ではないだろうか。にもかかわらず、場合によっては二重盲検試験で比較対照にプラセボ(偽薬)を使うという前提ならば、「なんで治療されるかどうかわからないものに参加しなければならないの?」となってしまう。さらにいえば治験そのものに対する情報が少なく、イメージも決して良いとは言えない。今でも嫌悪感を含んだ「人体実験」「ヒトをモルモットにしている」との表現は、医療にそれほど知識のない人の間では普通に使われている。この背景にあるのは、かつては製薬企業が治験の実施そのものを広い意味で企業秘密と取り扱っていた時代があり、被験者募集情報が広く公開されないまま水面下で実施されていた。こういった現実もある種、一般市民に対して“怪しいこと”というイメージを醸成してしまった可能性がある。実際、私が医療専門紙記者となった1990年代前半はやはり治験の被験者募集情報が具体的に公表されていることはなく、あくまで治験参加医師とそこに受診する患者との間のみでやり取りされていた。しかも、中には治験であることを患者に説明せずに行われていたケースもあったと聞く。実際、私自身そうした医師の告白を直接聞いたこともある。また、それとは別の医師から「やはり保険診療の中で『治療してもらって当たり前』という前提が患者にはあるため、治験参加を打診するにしてもどうしても口幅ったい物言いになってしまう。今振り返って、厳密な意味でのインフォームド・コンセントになっていたかと言われれば、そう言い切れない」と吐露されたことがある。もっとも当時と比べれば、この状況は大きく改善された。2000年前後からは製薬企業が新聞への全面広告で被験者募集を行うようになった。当時、新聞でとある治験の広告を初めて目にした私は、思わず「うわ!」と声が出たほどだった。そして今ではインターネット上で検索すれば、すべてではないものの治験情報へのアクセスが可能になり、診療ガイドライン上に定められたレジメンが尽きてしまった固形がんの薬物療法中の患者が治験に参加し、公のシンポジウムなどで「患者にとっては治験も治療手段の1つ」と語る時代になった。とはいえ、まだ十分とは言えない。そもそも治験情報自体が一部の患者団体や製薬企業、あるいは医療機関、各種団体などのホームページに分散して存在しているのが現状である。これらの中で一元的にまとまった情報源としては、臨床研究法と再生医療等安全性確保法に基づき試験実施者が厚生労働大臣に対して実施計画の提出などの届出手続を行うシステムで国立保健医療科学院が運営する「臨床研究等提出・公開システム(jRCT)」がある。もっとも前述のようなあくまで試験者の届け出システムで、一般人が検索することは“おまけ”程度の位置付けという側面もあるのか、やたらと使い勝手が悪い。検索ページを見ればそのことは一目瞭然である。たとえば検索時の選択項目の1つである「企業治験」「医師主導治験」「製造販売後試験」「使用成績調査」などについて、一般人で違いを簡潔に説明できる人は稀だろう。今回のコロナ禍の最中は各種治験情報の確認のため、高頻度でこのサイトを利用したが、一般人と比べて医療情報を多く持つ自分でも、検索画面ではしばしば迷う。私自身、「何とかならないものか」と思っていた一人である。そのようなこともあってか現在、jRCTはサイトの改修作業に入り始めている。そうした中でこの6月にややトピック的な動きがあった。厚生労働省で記者会見が開かれた「臨床試験にみんながアクセスしやすい社会を創る会」の設立である。同会は全国がん患者団体連合会(全がん連)や日本難病・疾病団体協議会、やはり希少疾患対策に取り組むNPOのASrid(アスリッド)といった患者組織と順天堂大学、国立がん研究センターなどから共同発起人が参加し、厚生労働省医政局研究開発政策課治験推進室、jRCTを運営する国立保健医療科学院、日本製薬工業協会(製薬協)もオブザーバーに参加。jRCTをユーザー(患者)フレンドリーなサイトに改修し、治験情報がワンストップで得られるようにすることを目標に政策提言などを進めるために設置されたという。会見で共同発起人の桜井 なおみ氏(全がん連理事)は「患者だけでなく、研究者でも隣の医療機関や時には自分の所属医療機関でどのような研究が現在実施されているか探せない問題もある。患者としては適切なタイミングで適切な臨床試験に参加するチャンスを失っている。ここを解決するためには患者会の力だけでは困難で、医療従事者、研究者、創薬関係機関の皆さんとともに多様な目線を取り入れて情報発信することが必要ではないかということで、今回の会設立に至った」と説明した。会としては2025年をデッドラインとして、現状の治験情報発信の課題とその解消法の議論に始まり、患者にわかりやすい具体的な情報公開の方法の提言などを行う。また、共同発起人の1人でASrid理事長の西村 由希子氏は希少疾患の特有の悩みとして「患者会がある疾患では、(製薬)企業も患者が治験情報へアクセスしやすくすることも可能だが、希少疾患は患者数が少ないために患者会そのものを作るのが難しい場合もある。一方で医師も大規模な治験実施が困難で、どうしても各医師の周囲の患者を対象とした治験になりがちで、結果として地域格差、機会格差にも繋がると考えている」と語った。がん、希少疾患の場合は治療選択肢が限られる分、治験情報入手は命綱でもある。その意味で今回の動きは自然なことと言えるし、行政や企業、医療機関なども含めてより大きな枠組みが動き出した意義は大きい。もっともこれまでのjRCTも含め、とかく公的機関の情報発信は良いものを出しても、読まれる、アクセスされるという点でリーチが足りないという側面があるのも現実だ。この点を質疑で尋ねた。桜井氏は「宝物のような情報があるのにたどり着けないということを私達も多く経験している。実はjRCT自体も子供向け啓発の資材などを作っていたが、私達もそれを知らなかった。それが現状なので、まだ病気になっていない人たちも含めた啓発のためのシンポジウム、教育のようなものにもしっかり取り組んでいきたい。一見無駄なように見えても発信し続けることが、とにかく必要だと思う」と回答した。最後の一言はまさに報道でも同じである。何かを報じたから明日から世の中がドラスティックに変わることは、ほとんどあり得ない。この医療専門紙記者の世界に生きてきて約四半世紀、何回も何回も似たようなことを書いて、ようやく1割程度の人に腹落ちしてもらえれば“もうけ”くらいが現実と私は思っている。いや、1割程度だったら大成功かもしれない。“治験後進国ニッポン”で、小さいかもしれないが起きた新たな動きが10年後、20年後に芽を吹いてもらえば、それこそが実は将来起こり得るかもしれない新たなパンデミックの際に他国に遅れを取らない国産ワクチン登場のためのシーズと言えるのではないだろうか。

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日本における統合失調症、うつ病患者に対する向精神薬処方実態

 日本の精神疾患の治療では、メインとなる治療薬(たとえば、統合失調症に対する抗精神病薬、うつ病に対する抗うつ薬)に加えて向精神薬の多剤併用が一般的に行われている。北海道大学の橋本 直樹氏らは、施設間での差異を減少させながら、日本における向精神薬の処方を国際基準と一致させることを目的に、精神疾患患者の入院時および退院時の処方実態の比較を行った。BMC Psychiatry誌2023年6月28日号の報告。 2016~20年の入院時および退院時における処方箋データを収集した。データに基づき患者を次の4群に分類した。A群(入院時および退院時:主薬単剤療法)、B群(入院時:主薬単剤療法、退院時:多剤併用療法)、C群(入院時および退院時:多剤併用療法)、D群(入院時:多剤併用療法、退院時:主薬単剤療法)。向精神薬の投与量および数を4群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症、うつ病のいずれにおいても、入院時に主薬単剤療法を行っていた患者は、退院時に主薬単剤療法を行っている可能性が高く、その逆も同様であった。・統合失調症では、A群よりもB群において、多剤併用が行われることが多かった。・処方がまったく変更されなかった患者は、10%以上であった。 結果を踏まえて著者らは、「ガイドラインに準拠した治療を確実に行うためには、多剤併用療法を減らしていくことが重要となる」とし、日本全国の270以上の精神科医療施設が参加する「EGUIDEプロジェクト(精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究)」の講義後、主薬による単剤療法率が上昇することが期待される、とまとめている。

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心不全患者と漢方薬の意外な親和性【心不全診療Up to Date】第11回

第11回 心不全患者と漢方薬の意外な親和性Key Points西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦い意外とある! 今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンスその1 西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦いわが国における心不全患者数は増加の一途を辿っており、とくに高齢心不全患者の増加が著しいことは言わずもがなであろう。そして、その多くが、高血圧や心房細動、貧血、鉄欠乏といった併存症を複数有することも明らかとなっている。つまり、高齢心不全診療はMultimorbidity(多疾患併存)時代に突入しており、単に心臓だけを診ていてもうまくいかないことが少なくない1)。日本心不全学会ガイドライン委員会による『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』では、「生命予後延長を目的とした薬物治療より生活の質(QOL)の改善を優先するべき場合が少なくない」とされており、高齢心不全ではとくに「QOLをいかに改善できるか」も重要なテーマとなっている。では、その高齢心不全患者において、QOLを低下させている原因は何であろうか。もちろん心不全による息切れなどの症状もあるが、それ以外にも、筋力低下、食思不振、倦怠感、不安、便秘など実に多くの心不全周辺症状もQOLを低下させる大きな原因となっている。しかしながら、これらの症状に対して、いわゆる“西洋薬”のみでは対処に困ることも少なくない。そこで、覚えておいて損がないのが、漢方薬である。漢方薬と聞くと、『the職人技』というようなイメージをお持ちの方もおられると思うが、実は先人の知恵が集結した未来に残すべき気軽に処方できる漢方薬も意外と多く、ここではわかりやすく簡略化した概念を少しだけ説明する。漢方の概念は単純な三大法則から成り立っており、人間の身体活動を行うものを気、血、水(津液)、精とし、これらが体内のさまざまな部分にあり、そしてそれが体内を巡ることで、生理活動を行うと考えられている。それぞれが何を意味するかについては図1をご覧いただきたい。(図1)画像を拡大するでは、どのように病気が起こり、どのようにそれを治療すると先人が考えたか、それを単純にまとめたものが図2である。(図2)画像を拡大するこのように、気・血・水のバランスが崩れると病気になると考えられ、心不全患者に多いとされているのが、気虚、血虚、瘀血、水毒(水滞)であり、その定義を簡単な現代用語で図3にまとめた。(図3)画像を拡大するそう、この図を見ると、心不全患者には、浮腫を起こす水毒だけでなく、倦怠感を引き起こす気虚、便秘を引き起こす瘀血など、心不全周辺症状にいかに対処するかについて、漢方の世界では昔からおのずと考えられていたのではないかと個人的には思うわけである。では、具体的に今日から役立つ漢方処方には何があるか、説明していきたい。その2 意外とある!今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンス今日からの心不全診療に活かせる漢方薬、それをまとめたものが、図4である2)。(図4)画像を拡大するまずは即効性のある処方から説明していこう。漢方といえばすぐには効かないという印象があるかもしれないが、実は即効性のある処方も多くある。たとえば、高齢者の便秘に対してよく用いられる麻子仁丸がそれに当たる。また効果のある患者(レスポンダー)の割合も多く、高齢のATTR心アミロイドーシス患者の難治性便秘に対して有効で即効性があったという報告もある3)。なお、心不全患者でもよく経験するこむら返りに対して芍薬甘草湯が有名であるが、この処方には甘草が多く含まれており、定期内服には向かず、繰り返す場合は、効果の面からも疎経活血湯がお薦めである(眠前1~2包)4)。また、心不全患者のサルコペニア、身体的フレイルに対しては、牛車腎気丸、人参養栄湯が有効な場面があり、たとえば人参養栄湯については、高齢者に対する握力や骨格筋への良い影響があったという報告もある5)。心不全患者の食思不振、倦怠感に対しては、グレリン(食欲亢進ホルモン)の分泌抑制阻害作用が報告されている六君子湯6)、補中益気湯、人参養栄湯が、そして不安、抑うつ、不眠などの精神的フレイルに対しては、帰脾湯、加味帰脾湯がまず選択されることが多い。これらの処方における基礎研究なども実は数多くあり、詳細は参考文献2を参照にされたい。そして、心不全患者で最も多い症状がうっ血であり、それに対しても漢方薬が意外と役立つことがある。うっ血改善のためにはループ利尿薬をまず用いるが、慢性的に使用することで、RAAS系や交感神経系の亢進を来し、腎機能障害、電解質異常、脱水などの副作用もよく経験する。そんな利尿薬のデメリットを補完するものとして漢方薬の可能性が最近注目されている。うっ血改善目的によく使用する漢方は図4の通りであるが、今回は研究面でもデータの多い五苓散を取り上げる。五苓散の歴史は古く、約1,800年前に成立した漢方の古典にも記載されている薬剤で、水の偏りを正す水分バランス調整薬として経験的に使用されてきた。五苓散のユニークな特徴としては、全身が浮腫傾向にあるときは尿量を増加させるが、脱水状態では尿量に影響を与えないとされているため7)、心不全入院だけでなく、高齢心不全患者でときどき経験する脱水による入院、腎機能障害などが軽減できる可能性が示唆され、その結果として医療費の軽減効果も期待される。五苓散は、脳外科領域で慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄術による血腫除去後の血腫再発予防を目的として、経験的に使用されることも多い。そのDPCデータベースを用いた研究において入院医療費を比較した結果、五苓散投与群のほうが非投与群と比較して有意に低かったという報告がある8)。五苓散の心不全患者への実臨床での有用性についても、症例報告、ケースシリーズ、症例対照研究などによる報告がいくつかある2)。これらの結果から、心不全患者において五苓散が有用な症例が存在することは経験的にわかっているが、西洋薬のように大規模RCTで検証されたことはなく、そもそも漢方エキス製剤の有用性を検証した大規模RCTは過去に一度も実施されていない。そこへ一石を投じる試験、GOREISAN-HF trialが現在わが国で進行中であり、最後に紹介したい。この試験は、うっ血性心不全患者を対象とし、従来治療に五苓散を追加する新たなうっ血戦略の効果を検証する大規模RCTである9)。目標症例数は2,000例以上で、現在全国71施設にて進行中であり、この研究から多くの知見が得られるものと期待される。循環器領域は、あらゆる領域の中でとくにエビデンスが豊富で、根拠に基づいた診療を実践している領域である。今後は、最新の人工知能技術なども駆使しながら、さらに研究が進み、西洋医学、東洋医学のいいとこ取りをして、患者さんのQOLがより向上することを切に願う。1)Forman DE, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:2149-2161.2)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.3)Imamura T, et al. J Cardiol Cases. 2022;25:34-36.4)土倉 潤一郎ほか. 再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日本東洋医学雑誌. 2017;68:40-46.5)Sakisaka N, et al. Front Nutr. 2018;5:73.6)Takeda H, et al. Gastroenterology. 2008;134:2004-2013.7)Ohnishi N, et al. Journal of Traditional Medicines. 2000;17:131-136.8)Yasunaga H, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2015;2015:817616.9)Yaku H, et al. Am Heart J. 2023;260:18-25.参考1)Kracie:漢方セラピー2)TSUMURA MEDICAL SITE 「心不全と栄養~体に優しく、バランスを整える~」

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第158回 コロナ新規患者報告数、今後も感染拡大の見通し/厚労省

<先週の動き>1.コロナ新規患者報告数、今後も感染拡大の見通し/厚労省2.膨らみ続ける社会保障給付費、高齢化とコロナ対策で過去最高額に/厚労省3.マイナンバーカード一体化続行、健康保険証の来秋廃止は延期に含み-岸田首相/政府4.診療報酬改定時期が6月に変更、医療機関などの負担軽減を目指す/厚労省5.不正アクセスで患者情報が4万8千件以上流出/福岡6.市民病院が経営難から来年3月に閉院へ/大阪1.コロナ新規患者報告数、今後も感染拡大の見通し/厚労省厚生労働省は、8月4日に新型コロナウイルス感染症の発生状況(7/24~7/30)を公表した。その結果、5類移行後も11週連続で増加が継続し、直近では全国約5,000の定点医療機関1施設当たり15.91人と前週比1.14倍に増加していた。地域別の新規患者数は、42都府県で前週より増加傾向にあり、沖縄県では7月上旬以降、減少傾向がみられていた(沖縄県、前週比0.78)が、全国の年代別新規患者数は、10歳代を除きすべての年代で前週より増加傾向にある。定点医療機関の報告に基づく過去の推計値と比較すると、全国で感染者が約10万人に上っていた2022年11月中旬と同水準であり、感染症法上の分類が5類に移行したことで、感染者数は8.8倍となっており、とくに西日本で感染が急速に拡大、新規入院者数も増加していることが明らかになっている。新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード座長の脇田 隆字氏(国立感染症研究所長)は「今後も感染が拡大する」と見通しを公表し、「冷房中でもなるべく換気するように」と発言した。参考1)第124回 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(厚労省)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第116回~)新型コロナウイルス感染症の直近の感染状況の評価等2)コロナ新規患者報告数、42都府県で増加-厚労省が第30週の発生状況を公表(CB news)3)新型コロナ 感染警戒レベルの基準設定を検討 厚労省(毎日新聞)4)コロナ感染、定点あたり15人超 全国で1日10万人規模か(日経新聞)2.膨らみ続ける社会保障給付費、高齢化とコロナ対策で過去最高額に/厚労省厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、日本の社会保障給付費が2021(令和3)年度に過去最高の138兆7,000億円を記録したことを明らかにした。社会保障給付費の内訳は、年金(55兆8,151億円)、医療(47兆4,205億円)、介護・福祉(35兆5,076億円)。1人当たりの給付費は110万5,500円で、前年度と比べ5万7,400円、5.5%増加していたほか、国内総生産(GDP)比では25.2%と、初めて25%を超えていた。増加の原因として、高齢化による医療費の増加と新型コロナウイルスワクチン接種関連費用などのコロナ対策、子育て世帯への給付金などがあげられている。参考1)令和3(2021)年度 社会保障費用統計の集計結果を公表します(国立社会保障・人口問題研究所)2)社会保障給付費138兆円 コロナ影響で過去最高(産経新聞)3)社会保障給付費138兆円、過去最高 21年度(日経新聞)3.マイナンバーカード一体化続行、健康保険証の来秋廃止は延期に含み-岸田首相/政府岸田文雄総理大臣は、8月4日に記者会見を開き、2024年秋に予定されている健康保険証の廃止は当面は延期せず、マイナンバーカードの問題に対応する施策を続ける考えを示した。しかし、トラブルの総点検の結果によっては廃止を延期する可能性も示した。また、国民の不安を払拭するため、マイナンバーカードと一体化した保険証を持っていない人には「資格確認書」を発行する方針を明らかにした。さらに、デジタル化を進めて国民がメリットを実感できるように広報にも力を入れると述べた。岸田首相は、総点検の中間報告を近く公表する予定。ただ、資格確認書を有資格者全員に交付することについては、多額のコストを要するとして効率化の批判が集まっている。参考1)岸田首相、健康保険証の廃止時期など「適切に対応」-延期に含み(CNET)2)岸田首相会見 “健康保険証廃止は当面維持 不安払拭に努力”(NHK)3)資格確認書、有資格者全員交付は多額のコスト 遠のく効率化(産経新聞)4)保険証、来秋廃止を維持 岸田首相「総点検踏まえ判断」(日経新聞)4.診療報酬改定時期が6月に変更、医療機関などの負担軽減を目指す/厚労省厚生労働省は、8月2日に中央社会保険医療協議会の総会を開き、2024年度以降の診療報酬の改定時期を、従来の4月から6月に変更することを提案し、了承された。診療報酬の改定内容が早く決まることで医療機関などが対応しやすくなるよう準備期間が長くなる。これまで改定の時期は4月で医療機関や薬局、システム改修業者は短期間で準備をしなければならず、負担が大きいとして改善を求める声があったため、厚労省では6月に後ろ倒しすることで負担軽減を図る方針。一方、薬価の改定はこれまで通り4月に実施される予定で、24年度以降も引き続き4月となる見込み。診療側の委員からは、診療報酬と薬価の2回の改定を行うことに対する医療現場への負担や影響についての懸念が示された。参考1)中央社会保険医療協議会 総会[第551回]議事次第(厚労省)2)診療報酬改定、来年度から「6月実施」へ 2カ月後ろ倒し(朝日新聞)3)診療報酬改定6月1日施行、24年度から 薬価改定は4月1日施行を維持(CB news)5.不正アクセスで患者情報が4万8千件以上流出/福岡福岡徳洲会病院は、第三者から不正アクセスを受け、データベースに保存されていた患者の個人情報について、最大で約4万8,983件が流出した可能性を明らかにした。病院の発表によると、流出した情報には、病名や検査値も含まれていたが、悪用は確認されていない。不正アクセスは今年4月4日に、職員が業務用のパソコンで外部のホームページを閲覧していた際に、警告画面に記載された電話番号に連絡して指示に従って操作したところ、パソコンが遠隔操作に切り替わり、金銭を要求されたとしている。同病院はただちにシステムを中止し、より高度なセキュリティー水準のシステムに切り替えている。病院は福岡県警や厚生労働省、個人情報保護委員会へ報告し、専門業者に調査を依頼している。対象の患者には個別に謝罪し、専用の相談窓口を設けて対応しているほか、「再発防止に向けて、管理体制の強化に努める」とコメントしている。参考1)不正アクセスによる個人情報流出の可能性についてお知らせとお詫び(福岡徳洲会病院)2)福岡徳洲会病院、患者情報4万8千件流出か データベースに不正アクセス(産経新聞)3)福岡徳洲会病院 個人情報など5万件余が一時閲覧可能な状態に(NHK)4)福岡徳洲会病院で患者などの個人情報5万件が流出か 不正アクセス受け病名や検査の値も(福岡放送)6.市民病院が経営難から来年3月に閉院へ/藤井寺市民病院大阪府藤井寺市は市立藤井寺市民病院(病床数98床)を、令和6年3月31日で閉院する基本方針案を公表し、市民からの意見を募集している。同病院は厚生労働省から再検証要請対象医療機関に挙げられ、総務省の公立病院改革ガイドラインに基づき、改革(経営)プランを策定してきたが、経常損益も5年度で約8億5千万円、6年度も約9億2千万円の赤字が見込まれている。藤井寺市は平成10年頃から施設の更新を検討してきたが、老朽化も進み、建て替えに多額の費用が必要とされ、さらに医師派遣の減少で診療に制限が出ており、赤字が続くことから、市民病院の経営継続は困難と判断され、閉院が避けられないと結論付けられた。市側は市民説明会を開催し、閉院後の小児科の入院診療機能、災害医療などの機能移転に向けて努めるとしている。なお、「市立藤井寺市民病院のあり方に関する基本方針」に対するパブリックコメントの締め切りは8月16日まで。参考1)「市立藤井寺市民病院のあり方に関する基本方針」(案)についてパブリックコメントを実施します(藤井寺市)2)市民病院を来年3月に閉院案公表 大阪・藤井寺市(産経新聞)3)市民病院、経営難で3月に閉院へ 藤井寺市が方針(朝日新聞)

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軟骨無形成症〔ACH:achondroplasia〕

1 疾患概要■ 定義軟骨無形成症(achondroplasia:ACH、MIM100800)は四肢短縮型低身長症を呈する骨系統疾患の代表である。成人身長は男性で約130cm、女性で約124cmと低く著明な四肢短縮のため、患者は日常生活でさまざまな制約をうける。脊柱管狭窄のため中高年になると両下肢麻痺を呈したり、下肢アライメントの異常による変形性関節症を発症し、歩行障害を生じたりすることが少なくない(指定難病)。■ 疫学ACHの頻度は出生10,000~30,000に1人と報告されている。■ 病因ACHの97%以上に、染色体4p26.3に位置するFGFR3遺伝子のGly380Arg病的バリアント(ほとんどがc.1138G>A、ごく一部がc.1138G>C)を認め、遺伝型としての均質度は高い。遺伝様式は常染色体顕性遺伝であるが、約80%は新規突然変異によるものとされる。変異FGFR3は恒常的に活性化された状態にあり、軟骨細胞の分化、軟骨基質の産生および増殖が抑制される。軟骨組織を介して骨が形成される軟骨内骨化が障害されるため、長管骨の伸長不良、頭蓋底の低形成などが生じると考えられている。■ 症状ACHでは、近位肢節により強い四肢短縮型の著しい低身長、特徴的な顔貌、三尖手などがみられる(表)。成長とともに低身長が目立つようになる。思春期の成長スパートがみられず、この間にも相対的に低身長の程度が悪化する。成人身長は男性130cm程度、女性124cm程度である。顔貌の特徴は出生時からみられる。乳幼児期(3歳頃まで)に問題となるのは、大後頭孔狭窄および頭蓋底の低形成による症状である。大後頭孔狭窄では延髄や上位頚髄の圧迫により、頚部の屈曲制限、後弓反張、四肢麻痺、深部腱反射の亢進、下肢のクローヌスがみられ、中枢性無呼吸、脊髄症、水頭症、突然死の原因となる。ACHの脳室拡大は、2歳までに生じる可能性が最も高く、一般的には交通性であり、真の水頭症(神経症状を伴う脳室拡大)はまれであるが、重篤な合併症の1つである。上気道閉塞はよくみられ、10~85%の患者が睡眠時無呼吸や慢性呼吸障害の治療が必要とされる。胸郭の低形成が高度な場合、拘束性肺疾患や呼吸器感染症の反復、重症化も問題になる。中耳炎の罹患も多く、ACHの約90%で2歳までに発症する。多くは慢性中耳炎に移行し、30~40%で伝音性難聴を伴う。脊柱管狭窄は必発であり、幼児期に症状が発現することはまれであるが、成長とともに狭窄が増強し、しびれ、脱力、間欠性跛行、下肢麻痺、神経因性膀胱による排尿障害などを呈することが多い。40歳までに約7%の患者が手術を受けると報告されている。胸腰椎後弯、内反膝をよく認め、腰痛、下肢痛もしばしばみられる。乳児期に運動発達の遅延はあるが、知能は正常である。このほか、咬合不整、歯列不整がみられる。表 軟骨無形成症の診断基準A.症状1.近位肢節により強い四肢短縮型の著しい低身長(−3SD以下の低身長、指極/身長<0.96の四肢短縮)2.特徴的な顔貌(頭蓋が相対的に大きい、前額部の突出、鼻根部の陥凹、顔面正中部の低形成、下顎が相対的に突出):頭囲>+1SD3.三尖手(手指を広げたときに中指と環指の間が広がる指)B.検査所見単純X線検査1.四肢(正面)管状骨は太く短い、長管骨の骨幹端は幅が広く不整で盃状変形(カッピング)、大腿骨頸部の短縮、大腿骨近位部の帯状透亮像、大腿骨遠位骨端は特徴的な逆V字型、腓骨が脛骨より長い(腓骨長/脛骨長>1.1、骨化が進行していないため乳幼児期には判定困難)。2.脊椎(正面、側面)腰椎椎弓根間距離の狭小化(椎弓根間距離L4/L1<1.0)(乳児期には目立たない)、腰椎椎体後方の陥凹。3.骨盤(正面)坐骨切痕の狭小化、腸骨翼は低形成で方形あるいは円形、臼蓋は水平、小骨盤腔はシャンパングラス様。4.頭部(正面、側面)頭蓋底の短縮、顔面骨低形成。5.手(正面)三尖手、管状骨は太く短い。C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。骨系統疾患(軟骨低形成症、変容性骨異形成症、偽性軟骨無形成症など。臨床症状、X線所見で鑑別し、鑑別困難な場合、遺伝子診断を行う)D.遺伝学的検査線維芽細胞増殖因子受容体3型(FGFR3)遺伝子のG380R変異を認める。<診断のカテゴリー>DefiniteAのうち3項目+Bのうち5項目すべてを満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの。または、Probable、PossibleのうちDを満たしたもの。ProbableAのうち2項目以上+、Bのうち3項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの。PossibleAのうち2項目以上+Bのうち2項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの。(出典:難病情報センター 軟骨無形成症)■ 予後積極的な医学的評価を行わない場合、乳幼児期に約2~5%の突然死が生じる。突然死の原因は主に無呼吸であると考えられている。大半が知能面では正常であり、平均余命も正常であるとされる。脊柱管狭窄に伴う両下肢麻痺や下肢のアライメント異常による下肢変形が経年的に増加する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)上記の症状と下記の骨単純X線所見と合わせて診断する(表)。骨X線所見にて、太く短い管状骨、長管骨の骨幹端は幅が広く不整で盃状変形(カッピング)、脛骨より長い腓骨、腰椎椎弓根間距離の狭小化、腰椎椎体後方の陥凹、坐骨切痕の狭小化などがみられる(表)。新生児期には、扁平椎を認めることがある。鑑別疾患として軟骨低形成症、変容性骨異形成症、偽性軟骨無形成症などが挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 成長ホルモン(GH)治療ACHのヒトGH治療開始時の適応基準として、3歳程度以上、現在の身長が同性、同年齢の標準値-3SD以下、手術的治療を考慮するほどの大後頭孔狭窄、脊柱管狭窄、水頭症、脊髄・馬尾圧迫などの合併症がMRI ・CT所見上認められないこと。また、これらのための圧迫による臨床上問題となる神経症状が認められないことなどがある。GH治療の身長に対する短期的な効果はいくつか報告されている。5年間に身長SDSが低用量で1.3SD、高用量で1.6SD改善したという報告や、治療開始前に比べて成長速度が1年目に2.6cm/年、2年目に0.7cm/年増加したという報告がある。一方、3年間のGH治療で身長SDSの改善が0.3SDにとどまったという報告もある。成人身長の検討では、男性で0.6SD(3.5cm)の増加、女性で0.5SD(2.8cm)の増加がみられたと報告されている。■ C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)アナログ治療ACHに対してCNPアナログであるボソリチド(商品名:ボックスゾゴ)が2022年に製造販売承認された。国際多施設共同治験においてボソリチド群ではプラセボ群に比べて、52週において1.57cm/年の成長促進効果を認めたことが報告された。この成長促進効果は104週でも維持されていた。今後の中長期的な効果の検討が必要である。なお、ボソリチドは3歳未満の患者でも投与可能である。■ 四肢延長術:ACHの低身長、四肢短縮の改善のため実施されることが多い。創外固定器を用いた下肢延長術は長期の治療期間、高頻度の合併症がみられるため、脚延長術開始の意思決定は患者自身で行うことが望ましい。下肢延長術では8.4~9.8cmの平均獲得身長とされている。後遺症として、尖足、腓骨神経麻痺の残存、膝関節・足関節の外反変形、骨折、股関節の拘縮などが報告されている。上腕骨延長術も施行されているがまとまった報告は少ない。4 今後の展望新規治療として以下の第II相臨床試験が行われている。TransCon CNP(CNPアナログ/週1回注射)、Infigratinib(FGFR阻害薬/経口投与)、塩酸メクリジン(抗ヒスタミン薬/経口投与)、RBM-007(FGF2 アプタマー/1~4週間隔注射)。今後、成長障害や他の症状により有効な治療法が実施可能となることが期待される。5 主たる診療科小児科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 軟骨無形成症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 軟骨無形成症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「先天性骨系統疾患の医療水準と患者QOLの向上を目的とした研究」(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つくしんぼ-軟骨無形成症と骨疾患低身長の会(患者とその家族および支援者の会)つくしの会:軟骨無形成症患者・家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)軟骨無形成症診療ガイドライン-日本小児内分泌学会2)GeneReviewsJapan:軟骨無形成症3)Hoover-Fong J, et al. Pediatrics. 2020;145(6):e20201010.4)Savarirayan R, et al. Nat Rev Endocrinol. 2022;18:173.公開履歴初回2023年8月7日

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小児の急性副鼻腔炎、鼻汁の色で判断せず細菌検査を/JAMA

 急性副鼻腔炎の小児において、鼻咽頭から細菌が検出されなかった患児は検出された患児に比べ抗菌薬による治療効果が有意に低く、その有意差を鼻汁の色では認められなかったことが、米国・ピッツバーグ大学のNader Shaikh氏らによる多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験で示された。急性副鼻腔炎とウイルス性上気道感染症の症状の大半は見分けることができない。そのため小児の中には、急性副鼻腔炎と診断されて抗菌薬による治療を受けても有益性がない集団が存在することが示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「診察時に特異的な細菌検査をすることが、急性副鼻腔炎の小児における抗菌薬の不適切使用を減らす戦略となりうる」とまとめている。JAMA誌2023年7月25日号掲載の報告。急性副鼻腔炎の持続・増悪患児約500例を、抗菌薬群とプラセボ群に無作為化 研究グループは2016年2月~2022年4月に、米国の6機関に付属するプライマリケア診療所において、米国小児科学会の臨床診療ガイドラインに基づいて急性副鼻腔炎と診断された2~11歳の小児で、急性副鼻腔炎が持続または増悪している症例515例を、アモキシシリン(90mg/kg/日)+クラブラン酸(6.4mg/kg/日)投与群(抗菌薬群)またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付け、1日2回10日間経口投与した。 割り付けは、鼻汁の色の有無(黄色または緑色と透明)によって層別化した。また、試験開始前および試験終了時の来院時に鼻咽頭スワブを採取し、肺炎球菌、インフルエンザ菌およびモラクセラ・カタラーリスの同定を行った。 主要アウトカムは、適格患者(症状日誌の記入が1日以上あり)における診断後10日間の症状負荷で、小児鼻副鼻腔炎症状スコア(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale:PRSS、範囲:0~40)に基づき判定した。また、鼻咽頭スワブ培養での細菌検出の有無、ならびに鼻汁色でサブグループ解析を行うことを事前に規定した。副次アウトカムは、治療失敗、臨床的に重大な下痢を含む有害事象などとした。診断時の鼻咽頭からの細菌検出の有無で治療効果に有意差あり 無作為化後に不適格であることが判明した5例を除く510例(抗菌薬群254例、プラセボ群256例)が試験対象集団となった。患者背景は、2~5歳が64%、男児54%、白人52%、非ヒスパニック系89%であった。このうち、主要アウトカムの解析対象は、抗菌薬群246例、プラセボ群250例であった。 平均症状スコアは、抗菌薬群9.04(95%信頼区間[CI]:8.71~9.37)、プラセボ群10.60(10.27~10.93)であり、抗菌薬群が有意に低かった(群間差:-1.69、95%CI:-2.07~-1.31)。症状消失までの期間(中央値)は、抗菌薬群(7.0日)がプラセボ群(9.0日)より有意に短縮した(p=0.003)。 サブグループ解析の結果、治療効果は細菌が検出された患児(抗菌薬群173例、プラセボ群182例)と検出されなかった患児(それぞれ73例、65例)で有意差が認められた。平均症状スコアの群間差は、検出群では-1.95(95%CI:-2.40~-1.51)に対し、非検出群では-0.88(95%CI:-1.63~-0.12)であった(交互作用のp=0.02)。 一方、色あり鼻汁の患児(抗菌薬群166例、プラセボ群167例)と透明の鼻汁の患児(それぞれ80例、83例)では、平均症状スコアの群間差はそれぞれ-1.62(95%CI:-2.09~-1.16)、-1.70(95%CI:-2.38~-1.03)であり、治療効果に差はなかった(交互作用のp=0.52)。 なお、著者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により試験登録が中断され症例数が目標に達しなかったこと、重症副鼻腔炎の小児は除外されたことなどを研究の限界として挙げている。

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アフターコロナの今、「MR不要論」を考える

 COVID‐19の拡大後、MR数は減少傾向にあり、製薬企業の営業拠点の見直し等も急速に進んだ。アフターコロナにおいて、製薬企業担当者は本当に必要なのだろうか? この疑問について、医師・製薬企業・メディカルスタッフ、それぞれの立場から率直に語り合う機会が設けられた。2023年7月22日(土)、第10回日本糖尿病協会年次学術集会のEXPERT社員シンポジウムで語られた内容を抜粋して紹介する。MRの情報提供は医師に求められていないのか? 医療用医薬品の情報提供には、厳格な法規制があることはよく知られる。具体的に、競合品との比較データや症例紹介が不可となる場合が存在する。反面、臨床現場からは、同効薬の使い分けや効果を発揮しやすい症例像への情報ニーズは高い。そのため、医薬情報担当者であるMRは、自分たちの提供する情報と医療者が求める情報に「乖離がある」と認識しているようだ。2023年6月実施のMR1,407名を対象としたアンケート調査の結果では、「求めたい情報提供に乖離はありますか?」の回答結果は「乖離がある」(17%)、「やや乖離がある」(67%)と乖離を感じるMRが大半であり、「乖離はない」と回答したMRは17%だった。また「情報提供の障壁となっているものは何ですか?(複数回答)」という質問では「面会できない」(74%)が最多で、次いで「販売情報提供ガイドライン」(54%)が挙げられた。 では、実際に医療者側はどう思っているのだろうか? 実は、まったく同じ調査が医師626名を対象に行われている。結果、「情報提供の乖離」に関しては「乖離はない」(51%)が最多で、「情報提供の障壁」に関しても「障壁はない」(57%)が最も多かった。つまり、MRが思うほど、医師にとってMRとの面会価値は低くはないことになる。医療者側の考えるMRの価値とは シンポジウムに登壇した医師からは、コロナ禍で受動的な医局説明会や文献提供がなくなり、現在は能動的なWeb経由での情報収集やWeb講演会の聴講等にシフトしたが、依然「MRによる情報提供も必要」との意見があがった。 具体的に「企業担当者がいて助かったこと」について、医師およびメディカルスタッフのエピソードが紹介された。 医師が助かった例として、臨床現場で疑問が生じた際の迅速なメール対応や地域医療連携および会合のサポート、患者差別や疾患への偏見を減らすための疾患啓発活動が挙げられた。同様に、メディカルスタッフからは添付文書のニュアンスの確認や薬物相互作用に関する論文紹介、食事・運動療法に関する患者向けの資材提供や研修会の案内が役立ったとの声があがった。その一方で、「不快なMR」として、薬の販売に躍起になって情報提供がおろそかになっている場合やレスポンスが遅いケース、周辺知識の不足等が指摘された。MRはどう振る舞うべきか 製薬企業側の代表者も登壇し、今後目指す形として、アフターコロナは、リアル面会とオンライン面会を併用し、ITツールを活用しての情報提供を行うことや、医療従事者に寄り添った活動を心掛けること、とくに自己研鑽を行い、信頼をしてもらうように務めるべき、と発言した。糖尿病協会で行っているEXPERT社員認定制度やe-ラーニング、積極的な学会参加を通じて、医療従事者のニーズを把握し、デジタルを活用しながら、ありとあらゆる形で医療者との関係構築を目指すという。 アフターコロナもMRは忙しい医療従事者の情報ニーズを埋める役割を担うと期待されているようだ。 質問すると、さっと返事が返ってきて助かるという声がある一方、添付文書改訂を知らせにしか来ないとの声もある。MRが医療者に適切な情報を提供するには、疾患への深い知識が必須となる。「患者さんの声」を企業に伝えるためにMRが必要だという意見もあり、いずれにせよ薬剤の情報を熟知し説明できる能力こそが今後の評価軸となる。 アフターコロナのMRの在り方は、EXPERT社員認定などの形で底上げを図り、医療従事者の一員であると自覚し、何より自信を失わないことが重要であるようだ。

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摂食障害の薬物療法に関するWFSBPガイドライン2023

 摂食障害の薬物療法に関する世界生物学的精神医学会連合(WFSBP)のガイドライン2023では、診断および精神薬理学的進歩、エビデンスレベル、推奨度などの評価に関して、最新の推奨内容に更新されている。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのHubertus Himmerich氏らは、本ガイドラインの更新内容のレビューを行った。The World Journal of Biological Psychiatry誌オンライン版2023年4月24日号の報告。摂食障害の薬物療法に関するガイドラインで神経性過食症にトピラマート推奨 摂食障害のWFSBPタスクフォースは、関連文献をレビューし、エビデンスレベルおよび推奨度のランク付けを行った。 摂食障害の薬物療法に関するガイドラインの更新内容のレビューを行った主な結果は以下のとおり。・神経性やせ症に関しては、利用可能なエビデンスが体重増加に限定されており、精神病理に対するオランザピンの影響もあまり明確ではないことから、オランザピンに対する推奨度は限定的であった。 【神経性やせ症】オランザピン(エビデンスレベル:A、推奨度:2)・神経性過食症に関しては、現在のエビデンスにおいてfluoxetineおよびトピラマートが推奨された。 【神経性過食症】fluoxetine(エビデンスレベル:A、推奨度:1) 【神経性過食症】トピラマート(エビデンスレベル:A、推奨度:1)・過食性障害に関しては、リスデキサンフェタミンおよびトピラマートが推奨された。 【過食性障害】リスデキサンフェタミン(エビデンスレベル:A、推奨度:1) 【過食性障害】トピラマート(エビデンスレベル:A、推奨度:1)・回避・制限性食物摂取症(ARFID)、異食症、反芻症/反芻性障害に対する薬物療法のエビデンスは、非常に限られていた。・オランザピンやトピラマートは、これらのエビデンスがあるにもかかわらず、摂食障害での使用に関していずれの医薬品規制当局からも承認を取得していない。

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トランスジェンダーの自殺に関する疫学研究(解説:岡村毅氏)

 トランスジェンダーはいまや政治の最前線になってしまった。プーチン大統領はウクライナ侵略を西側の悪魔主義(ここにはトランスジェンダーも含まれる)との戦いだと規定しようとしている1)。米国では、民主党・都市部がトランスジェンダーに寛容、共和党・非都市部が非寛容と分断してしまった2)。英国でも、スコットランドが性別変更を容易にする方向に動いたが、イングランドが止めようとしている3)。日本では反共産主義と奇妙に融合した一教団が政界に隠れた影響力を保ち続け、トランスジェンダー等に反対してきたとされている4)。 このコラムでは特定の政治的な立場はとらず、精神科医として、トランスジェンダーの人の自殺と死亡率の論文を解説する。なおトランスジェンダーとは、生下時の生物学的性と、性自認が一致しない(トランス)人を指し、反対語はシスジェンダーである。高校の科学でトランスとかシスとか習ったのを覚えている人もいるだろう。 国民全員の医療データを解析できるデンマークからの報告である。トランスジェンダーの人をどうやって同定したのかというと、国民番号の下1桁の偶数奇数で性別がわかるのだ。これを「変更している人」がトランスジェンダーなのだ。逆に法的に性別を変更していない人は、この解析からは漏れている。加えて、精神科医療の登録データ、国内患者の登録データも国民番号とつながっている。したがってICD-10でF64 性同一性障害等と診断された人もすべて含まれている。 自殺企図は病院のデータベースからもってきている(したがって病院に搬送されていないものは漏れている)。自殺による死亡は死因統計からもってきている。 まずトランスジェンダーの人は時代とともに増加している。そしてトランスジェンダーの人の自殺企図は非トランスジェンダーの人より高い(全体では7.7倍)。しかし80年代、90年代、00年代、10年代でみると11.2、7.2、8.1、6.6倍と低下傾向ではある。死亡率は、自殺による死亡が3.5倍、それ以外は1.9倍である。両者合わせた死亡率は2.0倍だが、これも時代とともに2.2、2.4、2.1、1.7倍と低下傾向である。 以下は、あくまで私の個人的意見だ。 本人の世界を尊重し、希望を持って生きることを支援する、というのが精神科の本質的な仕事であるならば、トランスジェンダーの人の自殺企図や死亡率が高いことは精神科的には看過できない。政治的なことは置いておいて、合理的に守られるべきであろう。 また精神科の臨床においては、究極の内面世界が語られるので、社会的には開示していないがトランスジェンダーであるという人にも巡り合う。この論文では、性別変更、自殺企図での病院受診などに関与した人だけが同定されているが、社会の中でひそかに生きている人を含めると自殺リスクはもっと低いかもしれない(これは印象であり検証はできない)。 最後に精神科医としては「私たちが何者であるかは、私たちにもわからない」「私たちの人生は、私たちが何者であるかを探す旅である」「それは不安と隣り合わせだ」ともいえるので、トランスジェンダー反対が政治的な課題になっていることは、斜に構えた精神科医としては『不安な時代に、不安を減らすことを叫ぶことは政治活動戦略としては効果的だ』とみえる。なお本コラムでは、政府の使用や、ガイドラインも参考にして自死ではなく自殺を用いた。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第34回

今回からは、Research Question(RQ)を構成する、P(対象)、E(曝露要因)、C(比較対照)、O(アウトカム)、それぞれの要素をより具体的かつ明確なカタチに設定するための要点と実際について解説していきます。下記に、これまでにブラッシュアップしてきた、われわれのClinical Question(CQ)とRQ、PECOを再掲します。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかP(対象):非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E(曝露要因):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C(比較対照):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O(アウトカム):1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度「標的母集団」と「研究対象集団」、「解析対象集団」まず、Pを設定するうえでの最初のポイントとして、「標的母集団」と「研究対象集団」、「解析対象集団」の違いについて解説します。われわれのRQのPとなるCKDは、日本腎臓学会の診療ガイドライン1)で以下のように定義(抜粋)されています。(1)尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかで、とくに蛋白尿の存在が重要(2)GFR<60mL/分/1.73m2(1)、(2)のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続する「標的母集団」とは自身のRQが対象とし、その研究結果を一般化しようとする集団全体です。上記の定義を用いることにより、このRQの「標的母集団」の概念を明確にし、Pの具体的な「組み入れ基準」をはっきり示すことができそうです。ただ、実際の「研究対象集団」というのは、「標的母集団」の一部をサンプリングして代用したものにすぎません。たとえば、われわれが行ったCKD患者の腎予後予測モデルの研究2)では、日本全国の腎臓内科のある17ヵ所の大規模病院から患者登録を行いました。その結果、この研究の「研究対象集団」は、腎臓内科に紹介されていないCKD患者を含んでいません。このような偏りを「選択バイアス」と言い、研究の「外的妥当性」を損なう原因になりえます。「外的妥当性」とは、得られた研究結果を行われた「研究対象集団」とは異なるサンプルや「セッティング」(「研究対象集団」のサンプリングが行われた場)にも当てはめることができるか、ということです(「一般化可能性」とも言います)。われわれは、本研究の結果は腎臓内科医がいない小規模病院やクリニックで診療されているCKD患者には適用することが難しい可能性を、研究の限界の1つとしてこの論文1)のディスカッションの項で述べました。「外的妥当性」に対し、「内的妥当性」という用語もありますが、こちらは研究の結論(研究結果からの推論)の「研究対象集団」での当てはまりのよさ、を表します。研究対象には「除外基準」を設定することが多くあります。前述の研究2)では、予後が大きく異なるであろう治療中の悪性腫瘍を併発している患者などは除外しました。本稿のRQでも関連研究レビューの結果から、ネフローゼ症候群はPから除外するとにしました(連載第11回参照)。また、研究参加への同意が撤回されたり、追跡が不能になった患者も除外されます。このように「研究対象集団」から除外基準に合致する患者だけでなく、種々の事由で除かれて、実際の解析に用いられたサンプルを「解析対象集団」と言います。ただ、「除外基準」をあまり多く設けすぎると、「標的母集団」、「研究対象集団」と「解析対象集団」の乖離が大きくなり、「外的妥当性」が低くなってしまいます。論文ではフローチャートなども用いて、これらを明確に区別して記述することが、観察研究の報告ガイドラインであるSTROBE声明3)でも推奨されています。フローチャートの具体例については引用文献2のFigure 1.もご参照ください。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社;2018.2)Hasegawa T, et al. Clin Exp Nephrol. 2019;23:189-198.3)von Elm E, et al. Lancet. 2007;370:1453-1457.

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患者が作成に本格的に参画、『患者・市民のための膵がん診療ガイド』

 膵がんは年間の新規罹患者数4万4,500人(2022年予測)、20年間で約2倍と大きく増加しており、とくにアジア・日本での増加率が高い。がん種別にみた罹患者数は6位ながら死亡者数では4位、罹患者数と死亡者数の差が小さい、いわゆる「難治性がん」の代表とされる。 現在、乳がん、胃がん、大腸がんなどで患者向けガイドラインが刊行・改訂されているが、2023年5月には膵がんの『患者・市民のための膵がん診療ガイド 2023年版』(編集:日本膵臓学会)が刊行された。改訂は2019年以来4年ぶり、本版は第4版となる。7月には作成委員長である奥坂 拓志氏(国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 科長)と、患者代表として作成に参画した眞島 喜幸氏(NPO法人 パンキャンジャパン 理事長)を講師に招いたメディアセミナーが開催された。 奥坂氏は「これまでの患者向けガイドラインは『医療者向けガイドラインを底本として、患者向けにわかりやすく解説し直す』という作成方法だった。2022年刊行の医療者向け『膵癌診療ガイドライン』と患者向けの本書は、双方の作成に患者・市民が参画しており、これまでとはまったく異なる方法で作成されたものだ」と解説。診療ガイドラインの評価・選定、作成支援を行うMinds(日本医療機能評価機構)は、ガイドライン作成への患者・市民参画を推奨しているが、日本では患者会活動が欧米ほど活発でないことなどが理由となって、本格的に患者・市民が作成に関わった診療ガイドラインはまだ数少ないという。 続けて登壇した眞島氏は「今回のガイドライン作成にあたっては、パンキャンジャパンが膵がんの患者会にアンケートを行い、必要とする情報を聞いた。すると、医療者が重視するカテゴリーと、患者が必要だと考える情報に差異があることがわかった」と説明した。たとえば「手術に関連した合併症」のカテゴリーは医療者の評価が高い一方で患者の評価は低く、反対に「ゲノム医療」は医療者の評価が低い一方で患者の評価が高い、といった差が出た。「支持療法」など、両者が一致して重視したカテゴリーもあった。 患者・市民4名で構成するガイドライングループで、アンケートの分析結果を踏まえた重み付けをしたうえで、医療者の評価と照らし合わせ、ガイドラインで取り上げるべきテーマを抽出していった。 結果として、治療の流れや最新治療の解説のほか、精神面の不安や医療者とのコミュニケーションに対するアドバイス、医療費や仕事との両立など、患者目線のトピックスが多く盛り込まれた。さらに患者・市民グループが執筆したコラム、用語集、薬剤名一覧なども付いた、情報を盛り込みながらも読みやすい1冊となっている。 奥坂氏は、医療者向けのメッセージとして「時間の限られた臨床の場では、患者さんへの説明やコミュニケーションが限定的になってしまうこともある。患者さん・ご家族に本書を薦めて理解の一助にしてもらうほか、診療に携わるほかの医療者にもぜひ推薦してほしい」とした。

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医療系YouTuberが認定制に!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第114回

皆さんの周りで医療系のYouTube配信をしている人はいますか? YouTuberとはどのくらいの登録者数がいる人を指すのかは不明ですが、医療者で医療系情報を発信する人は少なくないようです。YouTubeで配信をしてもなかなか収益につながることは難しいらしく、収益を得ながら継続して発信を行っている人は多くないのかもしれませんが、自分が思うことや世の中が求めていることを発信し、広めるには効果的なツールの1つであることには間違いないでしょう。今回、YouTubeを運営するGoogleが、医療情報の発信に関して、一定の規制を設けることを発表しました。グーグルが動画投稿サイト「YouTube」で、医療関連コンテンツの信頼性を高めるため、医師や看護師などの医療系ユーチューバーに「認定制度」を年内に導入する。申請して基準を満たせば、配信者は「信頼できる情報源」であることを表示できるようになる。一方で、信頼性が低い情報源の配信者に関しては、削除や表示されにくくする措置をとる。「GLP-1ダイエット」を宣伝する自由診療クリニックの医師は資格制度の対象外となる見通し。GLP-1ダイエットに関しては、学会や製薬企業が警告しているが、グーグルも不適切情報の氾濫に歯止めをかける方針だ。(2023年7月24日付 RISFAX)現在のところ、上記の認定制度の対象資格は「医師」「看護師」「心理カウンセラー」の3職種とされており、薬剤師は対象外となっています。認定を得るための申請条件は、全米医学アカデミー(NAM)や世界保健機関(WHO)の健康に関する情報共有の原則に従っていることの証明のほか、直近12ヵ月間の総再生数が2,000時間以上あるなどの厳しい基準をクリアする必要があります。認定にはその情報の正確さや信頼だけでなくチャンネルの人気も必要なようです。この取り組みにより、医療者がYouTubeからお墨付きをもらうことで、「信頼できる情報源」として情報を発信できるというメリットは大きいでしょう。健康や医療関連の情報を求めてYouTubeで検索するユーザーに対して、より信頼できる情報を届けやすくなるのではないでしょうか。今回、GLP-1受容体作動薬をダイエット目的で自費診療として用いる、いわゆる「GLP-1ダイエット」についてはGoogleも問題視していると明言していて、おそらくこの発表の要因の1つになったのでしょう。GLP-1受容体作動薬の適応外使用を促す医師については、ガイドラインやポリシーに則り、動画削除や表示を下位にする措置を取るとしています。全体をみると、この対策は医療分野だけというわけではありません。情報の正確性がとくに重要な政治、医療、科学情報などのトピックに関しては、信頼できる情報源から情報を検索しやすく、お勧めの動画として優先的に表示し、誤情報・フェイクニュースなどに対しては取り締まる対策を行うという大きな流れの1つであるようです。医療や健康関連の情報で疑問を持っている人や悩んでいる人が、インターネットで情報を検索するというケースは増加していると言われていますが、その情報は玉石混交です。また、医療情報はどんどん変わっていきます。患者さんがタイムリーかつ正確な情報を得られやすくなり、健康の向上や不安の解消に役立てばいいなと思います。

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脳出血患者の収縮期血圧を1時間以内に130~140mmHgにコントロールすると通常治療と比較して6ヵ月後の神経学的予後(modified Rankin Scale)が良い(解説:石川讓治氏)

 脳出血患者の急性期の血圧をどのようにコントロールすればよいのかという問題は、徐々に変化してきた。『脳卒中治療ガイドライン』の2009年版においては、「脳出血急性期の血圧は、収縮期血圧が180mmHg未満または平均血圧が130mmHg未満を維持することを目標に管理する」ことが推奨されていたが、2015年版では、「できるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満に降下させ、7日間維持することを考慮しても良い」となり、2021年版では、「脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧し、7日間維持することは妥当であり、その下限を110mmHg超に維持することを考慮しても良い」となった。 本研究において、低および中所得国(9ヵ国)で行われた多施設共同研究で、発症6時間以内の脳出血患者を対象に、(1)1時間以内の収縮期血圧(140mmHg未満を目標、130mmHgを下限)、(2)できるだけ早期の血糖(非糖尿病患者では6.1~7.8mmol/L、糖尿病患者では7.8~10.0mmol/L)、(3)1時間以内の体温(37.5度未満)、(4)ワルファリン内服患者においては1時間以内にINR1.5未満を目標に速やかにコントロールを行うことで、6ヵ月後に評価したmodified Rankin Scaleにおける神経学的予後が、通常治療よりも良好であったことが報告された。今回の研究の結果から、脳出血急性期の積極的な降圧を「考慮しても良い」や「妥当である」といった表現から、今後は積極的な推奨にするのかどうかが議論になると思われた。 本研究は低~中所得国で行われており、それぞれの国における通常治療がどうであったのかが不明であった。収縮期血圧を140mmHgにコントロールすることが、通常治療(ガイドライン)においてすでに妥当であるとされているわが国で同様の試験が施行された場合、同じ結果が得られるのかが疑問であった。また、本研究の血圧コントロールは130~140mmHgといった非常に狭い範囲で行われている。実臨床において、とくに高齢者では、収縮期血圧の変動を10mmHgの幅に維持することは容易ではないと思われた。本研究における実際の収縮期血圧は、論文のFigureにおいては、1時間後では150mmHg程度であり、約4時間後に140mmHg未満に達していたようである。

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