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第223回 厚労省ヘルスケアスタートアップPT報告書を読む(後編) あの一般向けがんリスク判定会社もターゲットか?消費者向けの各種検査サービス、医師法に照らし合わせて総点検へ

ヘルスケアスタートアップの振興・支援に向けて25の提言こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この日曜は、凝りもせずに全国高等学校野球選手権大会の埼玉県大会決勝の花咲徳栄対昌平戦の観戦に、県営大宮公園球場まで行って来ました。同行した野球仲間の1人は早稲田実業の出身ですが、同じ日曜に行われた西東京大会決勝、日大三高対早稲田実業の試合観戦を蹴ってまで、わざわざ暑い埼玉までやって来ました。試合は花咲徳栄が勝ったのですが、10回タイブレークでの決着でした。近年力を付けて来た昌平は、10回表の拙いバント処理さえなければ初甲子園だったかもしれません。日々の基礎練習の大切さを再認識した次第です。さて、今回も前回に続き、6月27日に厚生労働省の「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討に関するプロジェクトチーム(PT)」が公表した最終報告書を取り上げます。2024年2月に厚労省が立ち上げた同PTは、海外と比べてヘルスケア分野のスタートアップ企業がなかなか出てこない日本の現状を打破すべく、その振興・支援策などについて多面的に検討してきました。同PTは最終報告書として、(1)総論、(2)バイオ・再生、(3)医療機器・SaMD、(4)医療DX・AI、(5)介護テックの領域別に合計25の提言を盛り込んだ「ヘルスケアスタートアップの振興・支援に関するホワイトペーパー -健康・医療・介護の未来を拓く起業大国へ-」を公表1)しました。前回は2024年診療報酬改定で往診の報酬が大幅に減額されたことで、夜間や休日の往診サービスを手掛ける医療スタートアップの事業の撤退・縮小が相次いでいる現状を伝えるとともに、診療報酬や介護報酬に大きく依存するビジネスモデルを採るスタートアップの経営の難しさを指摘、25の提言の中の「提言3)ヘルスケアスタートアップ関係者からの診療報酬改定等の要望を受け付け、検討を行う新たな一元窓口を設置する」の内容について紹介しました。今回は、25の提言の中で私がとくに気になった「提言10)非臨床の消費者向け検査サービスに関する法規制の明確化を図る」について書いてみたいと思います。「医療機関では基本実施されず、医療には当たらない(非臨床)とされる消費者向け(Direct to Consumer:DTC)の検査サービスについて、法規制の明確化を図る」というのがその内容です。この提言によって、これまでほぼほぼ“野放し”状態だった消費者向け検査サービス対する規制が強まると見られます。いくつかのスタートアップや関連企業は戦々恐々としているのではないでしょうか。管轄する省庁、法律上の位置づけが不明確なため「リスク判定」という名目の曖昧な検査が“野放し”「非臨床の消費者向け検査サービス」とはどんなものでしょうか。具体的には、本連載の「第88回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(前編)」、「第89回 同(後編)」などでも繰り返し書いてきた、民間企業が検体(血液、尿、唾液など)を基に病気のリスクなどを判定する検査サービスを指します。第88回で詳しく書いたように、臨床検査には、「分析学的妥当性」「臨床的妥当性」「臨床的有用性」の3つの評価基準を満たしているというデータを、きちんとしたプロトコールによって行った臨床試験等で出す必要があります。それがクリアしていれば、保険診療での使用が認められますし、海外で導入されることもあります。しかし、こうした「病気(がんなど)のリスクを判定する」と喧伝する一般向け検査(広告などで知名度の高い「N-NOSE」のほか、「アミノインデックス」、「テロメアテスト」などがあります)の多くは、お金と時間が膨大にかかる臨床試験を敢えて避けて商品化し、日本だけで通用する一般向け検査でお茶を濁しているケースが少なくありません。そうした検査がはびこっている最大の理由は、管轄する省庁、法律上の位置付けが不明確なためです。その結果、「リスク判定」(あえて「診断」とは言わない)という名目の曖昧な検査が“野放し”になってきたわけです。今回のPTの最終報告書は「振興・支援策の提言」のはずなのに、この「提言10」は「規制ではないか」と言われそうです。しかし、これまで監督官庁も曖昧で規制する法律もなかったこの分野に明確なルールを設け、スタートアップ企業として健全な育成を図っていくというのがその狙いなので、振興・支援策だと言えなくもありません。検査サービスの品質や信憑性等についてガバナンスの仕組みの構築を求める声「提言10」の「問題の所在」の項では、「遺伝子検査、血液検査、尿検査等非臨床の消費者向け(DTC)の各種検査サービスが国内外で広がっている。2020年以降の国内市場は100億円規模と予想されており、ヘルスケアスタートアップにとっても魅力的な成長市場として期待されている」としつつ、「一般消費者の利用が拡大する中で検査サービスの品質や信憑性等についてガバナンスの仕組みの構築を求める声がある」と、その問題点を指摘しています。その上で、「米国及び欧州では非臨床の消費者向け検査サービスについてすでに具体的な法的規制が設けられているところ、日本ではこれら非臨床の消費者向け検査サービス特有の法規制は設けられておらず、結果として検査の信憑性に問題があったとしても、行政側による関与が難しい状況にあると指摘されている」として、今後、国が取り組む具体的対策を「提言」として記しています。医師法違反に該当する恐れがある事例等につき解釈を明確化その「提言」によれば、「医師法等を所管する立場から、厚生労働省において、医行為と非臨床の消費者向け検査サービスに係る法的な課題の検討を進め、非臨床の消費者向け検査サービスの外縁の明確化に取り組む」として、2024年度中に次の2つのアクションを起こすとしています。1)不適切な検査結果通知を適正化するため、「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」(平成26年厚生労働省・経済産業省連名通知)において示している「検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値を通知することに留めなければならない」という医師法第17条の考え方に関して、関連Q&Aや事務連絡を発出するなどして、解釈の明確化を図る。2)消費者に通知される検査結果等が公知の科学的根拠に欠ける場合など、無資格者が独自の医学的判断を行っているものとして医師法違反に該当する恐れがある事例等につき解釈を明確化する。厚労省などが起こすアクションによっては事業構造の大幅な見直しが必要につまり、消費者向けの各種検査サービスについて、医師法を管轄する厚労省が主導権を取り、医師法違反という観点から法令違反の恐れがある事例をまとめ、事務連絡などで周知徹底する、としたのです。これまで消費者向けの各種検査サービスは、遺伝子検査については経済産業省が「DTC遺伝子検査ビジネス事業者に対するガイダンス」を策定し、業界は基本これに則った事業展開をしています。しかし、遺伝子検査以外の分野は規制する法律やガイドラインもないことから、エビデンスも不確かでいい加減な判定結果を消費者に報告するなど、まさにやりたい放題でした。そうした検査サービス会社はこの提言を踏まえ、厚労省などが起こすアクションによっては、事業構造の大幅な見直しが必要になってくるでしょう。超多忙な「厚労省は担当したくなかった」という声もところで、こうした方向性が打ち出されるまでには、結構な紆余曲折があったと聞いています。一部には「厚労省は担当したくなかった」という声も漏れ聞こえて来ます。マイナ保険証、「かかりつけ機能」の整備化、次期地域医療構想……等々、ただでさえ超多忙な中、またまた厄介な問題は引き受けたくない、というのが本音だったようです。現状では大きな“被害”は報告されておらず、当面は法律で規制することなく“野放し”のままでいい、と考えていた節もあります。そうした状況の中、「医師ではない者が独自の医学的判断をして、不適切な結果通知を行っているとすれば、医師法違反の恐れがある」として規制の必要性を強く訴えたのは国会議員筋だという情報もあります。いずれにせよ、医師法違反という観点から法令違反の恐れがある事例がまとめられ、検査の結果(リスク判定)を消費者にフィードバックする際の表現についてもガイドラインが設けられる可能性があります。また、検査の品質や信頼性についても、より客観的なデータや再現性が求められるようになるかもしれません。「線虫検査」の広告は、相変わらず一般メディアでよく見かけます。お金をかけた派手な広告を見れば見るほど、「最後の悪あがき」のように感じます。参考1)ヘルスケアスタートアップの振興・支援に関するホワイトペーパー/厚生労働省

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認知症予防に有効な“4種の運動”の組み合わせ【外来で役立つ!認知症Topics】第19回

認知症に限らず、運動が心身の健康に良いとすることに反対する者はいないだろうと思っていた。ところが運動は良くないと言った人がいる。それは自動車王と言われるフォード自動車の創立者ヘンリー・フォードだ。彼は「君が健康なら運動する必要はない。君が病気なら運動などをしてはいけない」という有名な台詞を残している。さて1999年に、アーサー・F・クレーマーという学者が、Nature誌に1ページの記事で「早歩きのような有酸素運動が脳の健康に良い」という研究報告をした1)。これを端緒に、最近まで認知症予防の運動といえば有酸素運動という時代になった。ところが近年、米国スポーツ医学会からこれに関するパラダイムシフトがあった。それによれば、高齢者において有酸素運動のみではなく、レジスタンス運動(筋トレ)、また片足立ちのようなバランス運動の3つをやってこそ、運動の効果が生まれるとされる2)。レジスタンス運動といえば筋力をアップ、またバランス運動は認知機能への効果もさることながら高齢者に多い転倒予防にはとても大切だろう。また私自身はデュアルタスク運動も欠かせないと思う。エビデンスが確立した有酸素運動まず有酸素運動による前頭葉が関わる認知機能への効果は、この20年余りになされた多くの臨床研究から確立したものと考えていいだろう。レジスタンス運動は遂行機能に効果的レジスタンス運動とは、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動。たとえばスクワットや腕立て伏せ、ダンベル体操など。10~15回程度の回数を反復し、それを1~3セット無理のない範囲(2~3日に1回程度)で行うことが勧められる。というのは、これは標的筋肉に負荷を集中する運動なので、その筋肉に疲労が残るだけに、十分な回復期間が必要になるわけだ。その効果は筋力・筋の持久力アップから体幹支持筋強化まで及ぶ。また、メタアナリシスから認知機能、とくに遂行機能への効果があると報告されている3)。注意すべきは循環器系への配慮。有酸素運動では動脈硬化度が一時的に低下するのに対し、レジスタンス運動の後では動脈硬化度が60分間にわたって増加する。レジスタンス運動中の一過性の循環器応答として、血圧の著しい上昇が古くから知られている。バランス運動は転倒予防にも静岡社会健康医学大学院大学の田原 康玄氏らの研究によれば、片足で20秒以上体のバランスを保てない人は、それができる人に比べて大脳の小血管の傷害の危険性が高く、認知機能が低下しているという4)。田原氏は、片足立ちのバランスが悪い人は、これが大脳疾患や認知機能の低下を示唆しているものとして注意を払うべきだと言う。この研究参加者は、841人の女性と546人の男性(平均年齢67歳)。参加者は片足立ちの測定と共に大脳のMRIを撮像し、大脳の小血管の状態が調べられた。その結果、20秒以上片足立ちできない人は大脳の小血管傷害(ラクナ梗塞や微小血管からの出血)が多くみられた。この結果から、「加齢に伴い増加する微小血管の傷害は動脈の可塑性を阻害するため、脳血流に悪影響を及ぼす」と考えられている。それはさておき、高齢者の転倒による大腿骨頸部骨折の重要性は深く広まった。その予防法として、ヒッププロテクターは一時世界的に注目され、わが国では柔道の受け身が注目されたこともある。しかし、決め手となる予防法はまだないようだ。その点、バランス運動は決め手にならないまでも、転倒を減らしてくれるものと期待される。デュアルタスク運動で脳を活性化さて近年、臨床研究の蓄積からデュアルタスク運動が、認知機能が健全な人はもちろん、認知症予備軍の軽度認知障害(MCI)の人や認知症の人にも有効とされる。その効果として、認知機能の改善のみならず運動、日常生活動作、QOLの改善まで報告されている。認知への効果からみると、デュアルタスクをやる時に生じる「まごつき」がポイントだろう。「まごつき」とは、思うように指示を実行できない自分への気づきからくる「おかしい、こんなはずでは、…エエィ!」という焦りだろう。そこでトライアルを繰り返し、ようやく「やった!!」に至るまでに繰り返す心の状態が「まごつき」だ。この「まごつき」こそ、これまでは使われていなかった神経細胞や神経回路を新たに活性化させることが期待できる。デュアルタスクに際しては、まず課題に示された運動を真似しようと企画(計画)し、また、自分が動作にした時「これで本当にいいのか?」と管理・制御するはずだ。ここまでのプロセスには「作動記憶」が関与する。ここまでの過程で要となるのは注意の分割だ。さらにこうした課題を正しくやり続けるには、集中・注意の持続が欠かせない。以上の働きでは、前頭葉付近の構造、とくに背側前運動野や頭頂間溝などが重要とされる。前頭葉は脳の司令部ともいわれるが、これは側頭葉や頭頂葉など他の重要な働きをする脳部位に指令を出してくれる場所という意味だ。米国スポーツ学会の高齢者向けの運動ガイドライン2)では、有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動の3つに、デュアルタスクあるいは太極拳まで加えた多種類の運動をバランス良くやることで、体力・知力の維持・増強のみならず、転倒事故の予防にもつながる可能性を強調している。参考1)Kramer AF, et al. Ageing, fitness and neurocognitive function. Nature. 1999 Jul 29;400(6743):418-419.2)2018 Physical Activity Guidelines Advisory Committee. 2018 Physical Activity Guidelines Advisory Committee Scientific Report. Washington, DC: U.S. Department of Health and Human Services, 2018.3)Landrigan JF, et al. Lifting cognition: a meta-analysis of effects of resistance exercise on cognition. Psychol Res. 2020 Jul;84(5):1167-1183.4)Tabara Y, et al. Association of postural instability with asymptomatic cerebrovascular damage and cognitive decline: the Japan Shimanami health promoting program study. Stroke. 2015 Jan;46(1):16-22.

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双極性障害、I型とII型の自殺リスク比較

 双極性障害(BD)は、疾病負担が大きく、自殺による死亡リスクの高い疾患である。これまで、双極性障害II型(BD-II)は、BDの軽症型とされてきたが、近年の文献では、双極性障害I型(BD-I)と同様の疾病負担と自殺傾向を有するとも報告されている。カナダ・Brain and Cognition Discovery FoundationのDonovan A. Dev氏らは、BD-IIのリスクを定量化し、BD-IとBD-IIにおける自殺リスクを評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2024年6月18日号の報告。 PRISMAガイドラインに従い、2023年6月30日までに公表された文献を、PubMed、OVID(Embase、Medline)、PsychINFOデータベースより検索した。対象文献は、事前に定義した適格基準に基づき選定した。BD-IおよびBD-IIと診断された患者の自殺リスクを比較するため、メタ解析を実施した。主な結果は以下のとおり。・8件の研究のうち、BD-IIの自殺率がBD-Iよりも高いと報告した研究が4件、有意な差がないと報告した研究が2件であった。・BD-Iの自殺率は、BD-IIよりも有意に高いと報告した研究は、2件であった。・BD-Iの自殺率に対するBD-IIのプールされたオッズ比は、1.00(95%信頼区間:0.75〜1.34)であった。 著者らは「BD-IとBD-IIの自殺リスクを報告した研究は少なく、異質性がある」としながらも「BD-IIの重症度は明らかであり、自殺リスクはBD-Iとそれほど違いはなく、BD-IIで報告される抑うつ傾向、併存疾患、ラピッドサイクルは、重大な死亡リスク因子の可能性がある」としている。

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第221回 「青カビは取ればいい」が招いた人災ー紅麹サプリ事件

3月以来、紅麹問題で揺れた小林製薬。同社は7月23日に一連の事案に関して外部の弁護士3人に依頼した事実検証委員会の調査報告書を公表するとともに、引責の形で代表取締役会長の小林 一雅氏と代表取締役社長の小林 章浩氏が代表取締役を辞任することを発表した。新たな代表取締役社長には専務取締役の山根 聡氏が昇格する。報道では創業家以外から初の社長という文字が目立つが、章浩氏は代表権こそないものの取締役補償担当として役員には残留し、一雅氏については役員から外れるものの特別顧問という形となる。私自身はこれまでの企業取材の経験から、必ずしも同族経営をネガティブなものとは見ていないが、それでもなお今回の人事には「いかにも同族経営らしい決着」と思ってしまう。一方で公表された調査報告書を読んだ率直な感想は「過度な悪意はない危機感の欠如」の一言に尽きる。紅麹は機能性表示食品?それとも特定保健用食品?まず、今回の件で同社が行政への報告までに約2ヵ月を要した理由について、「因果関係が明確な場合に限ると解釈していた」と報道されている。この点については、とりわけ医療従事者の多くは疑問を感じただろうと思う。生鮮食品による食中毒ならいざ知らず、何らかの物質や食品の摂取を通じて起こる有害事象の因果関係の特定には一定の時間を要することが少なくないからである。それゆえに医薬品には「有害事象」と「副作用・副反応」の2つの用語がある。さて、厚生労働大臣の武見 敬三氏までが「自分勝手な解釈で極めて遺憾」と評したこの解釈はなぜ生まれたのか? それが今回公表された調査報告書に記載されている。まず、機能性表示食品では、消費者庁の届出等ガイドライン1)において「届出者は、評価の結果、届出食品による健康被害の発生及び拡大のおそれがある場合は、消費者庁食品表示企画課へ速やかに報告する」と定めている。小林製薬側はこの規定を「健康被害の発生」と「健康被害の拡大のおそれ」の両方が満たされた場合に報告が必要になると解釈。ただし、どのような場合が「健康被害の発生」に該当するかが明確ではないと考えていたという。その結果、同社安全管理部が「特定保健用食品の審査等取扱い及び指導要領」2)で健康被害が生じ、行政報告が必要な場合として「当該食品に起因する危害のうち、死亡、重大な疾病等が発生するおそれがあることを示す知見を入手した場合」と規定されていることを援用し、さらに同規定の「起因する」の文言を「因果関係が明確である」と解釈。最終的に「因果関係が明確な場合に行政に報告する」との解釈を採用したという。何とも言い訳じみた…と思う人もいるかもしれないが、行政文書のわかりにくさを考えれば、このようなさまざまな文書の援用自体はありえなくはない。ただ、ここでは根本的な“ミス”が含まれている。そもそも援用した規定は特定保健用食品、いわゆるトクホのものであり、これにはヒトでの臨床試験が必要である。もっともその臨床試験の多くは数十例程度で行われ、臨床研究法の対象にもならず、この規模で起こり得る健康被害すべてが検出できるとは思わないが、臨床試験をやってもやらなくともよい機能性表示食品と比べればハードルは高く、審査も厳格である。報告書で気になったことこれ以外に報告書を読んでいて気になったことは、個人的に2点ある。1点目は医師から紅麹製品による健康被害が疑われる事例の報告を受けての初動である。1月15日に医師から紅麹製品を摂取していた患者が急性腎不全で入院し、透析治療中である旨の連絡を受けたのが第1例目。半月後の2月1日には別の病院の医師から同時に3例の報告を受けている。この間の半月については1例目を孤発症例と考えれば、無理もないかもしれない。しかし、同時3例の報告後、同社がこれら医師に面談連絡を取ったのは、第1例目の医師が2月8日、2番目の同時3例報告の医師には2月15日。結局面談が実現したのは、前者が2月29日、後者が2月22日だ。ちなみに両医師との面談日程候補期間は小林製薬側から月末を提示している。そして、これら医師に面談要請の連絡をするまでの間、同社では(1)シトリニン原因説、(2)モナコリンK原因説、(3)コンタミネーション原因説、の 3つの仮説が立てられ、分析を行う方針を決定していた。もちろん早急に原因を究明すべく仮説を立てたことには異論はないが、この仮説の絞り込みなども考えれば、より1日でも早く面談を実現すべきではなかったか? 繰り返しになるが、面談候補日を提示したのは小林製薬側である。青カビ発生は当たり前?そして最後に、これが報告書を読んで一番驚いたことだったが、検証委員会のヒアリングに対する大阪工場の現場担当者の証言だ。それによると、問題となった紅麹製品に用いられた原料ロットの製造時、乾燥工程で乾燥機が壊れて原料ロットの紅麹菌が一定時間乾燥されないまま放置されていたそう。加えて、紅麹培養タンクの蓋の内側に青カビが付着していたことを確認し、品質管理担当者に伝えたところ「青カビはある程度は混じることがある」旨を告げられたというのだ。ちなみに報告書ではこの証言について「本件問題の原因であるか否かは不明であるものの」と慎重な言い回しで記述している。この証言を読んで思い出したのが、個人的な話で恐縮だが、産婦人科医でもあった私の亡き父方の祖父とのエピソードだ。幼少期、正月に祖父宅を訪ねると、祖父はたいそう喜び、傍らの缶から切り餅を取り出し、祖母に私と祖父のために焼くように指示した。この時、5mmほどの青かびが3つほどついているのが目に入った。私が「おじいちゃん、それ…」と指さすと、祖父は座椅子のひじ掛けの下の物入れから小刀を取り出し、目の前でそれを削り取って、そのまま祖母に渡したのだ。明治生まれの極めてパターナリスティック(父権主義)な祖父に歯向かうことができず、結局、私はその餅を食べることになった。こうしたことは個人の範疇ならば、自己責任で済む。死者にムチ打つようで悪いが、この品質管理担当者は亡き祖父と同程度の認識で不特定多数の人が口にする紅麹製品を製造していたのか、とやや呆れてしまった。この問題はまだ原因究明中ではあるが、いずれにせよこの調査報告書は悪意のない危機意識が積み重なると、人の命までも奪いかねないという重大な教訓を伝えてくれていると言える。参考1)消費者庁:機能性表示食品の届出等に関するガイドライン2)消費者庁:特定保健用食品の審査等取扱い及び指導要領

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大ヒット書籍の著者に聞く、医師ならではのAIツールの「使いこなし」

2024年6月に発売された、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚 篤司氏による『医師による医師のためのChatGPT入門:臨床がはかどる魔法のプロンプト』(医学書院)が評判になっている。CareNet.comが同時期に行った会員向け生成AI使用状況のアンケートでは、使用経験のある医師は約2割という結果だった。「AIで医師の仕事が大きく変わることは必至」という大塚氏に、執筆の動機や生成AIの上手な使い方について聞いた。使っている医師は約2割、一般よりも慎重か――CareNet.comのアンケートでは、生成AIを「現在使用している」と回答した医師は約20%でした。本の出版後、多くの医療者から感想を頂きましたが、そこで得た私の体感とも大きく外れてはいません。一般ビジネスパーソンを対象にした同様のアンケートでは4割超が使っている、といった結果もあるので、医師はまだ使用に慎重な面もあるのでしょう。使わない理由として「使いこなすのが難しそう」という意見が多かったようですが、生成AIはそこまで難しいものではありません。「AI」という言葉の響きから、プログラミングのような専門知識が必要だと思って敬遠する人が多いのかもしれませんが、そんなことはまったくない。「情報が正しいかどうか信頼できない」という意見もありますが、確かに生成AIが登場した当初のChatGPT 3.5ではハルシネーション(もっともらしいうそ)が問題視されていましたが、最近はそれを抑える使い方も出ており、間違った情報自体も減ってきている。初期のころの印象に引っ張られて使わないでいるのは、本当にもったいないと思います。まずは論文の翻訳・要約から――医師という職業特性を踏まえ、AIツールを使うべき場面は?最初はインプット部分、具体的には論文を読む場面でしょう。私自身、今では論文を最初から読むことはほとんどありません。まずChatGPTに論文の内容を翻訳・要約してもらい、それを読んでから気になる箇所を原文で確認したり、ChatGPTに詳しく聞いたりして、内容を深く理解しています。原文に目を通すのは、最終的に内容が間違っていないかを確認する程度。ガイドラインもPDFで読み込ませておけば、ChatGPTに質問するだけで該当箇所を示してくれるので調べる時間が節約できます。「どんな場面で使えばいいのかわからない」という方は、まずはGoogle検索をする場面で代わりにChatGPTに聞いてみるとよいでしょう。私は昨年からPythonのプログラミングを学びはじめたのですが、この学習にもChatGPTが大いに役立っています。自分で画像診断システムをつくろうとしているのですが、これも生成AI登場前では考えられなかったことです。アウトプット部分では、生成AIは文書の下書きが上手なので、定型的な文書、紹介状や症例報告などの下書きを任せています。文書の校正なども得意です。もちろん患者情報などは入力しませんが、入力することでできることも多いはず。医療においてAIをどこまでどう使うのか。できることが急速に増えているのに比してグレーゾーンが広いので、ルールづくりの議論を進める必要があるでしょう。まずはChatGPT、ツールによって得意分野はさまざま――ChatGPT以外にもさまざまなツールがありますが、どう使い分けているのでしょうか?私は、ほぼすべての生成AIツールを一度は課金して使っています。少し込み入ったことをするには無料版だと限界がありますし、フル機能で使ってみないとツールの良し悪しを判断できないからです。「とりあえず使ってみたい」という方は、マルチに使えるChatGPTの有料版から始めるとよいのではないでしょうか。一方、日本語の精度はClaudeが優れているので、より自然できれいな日本語の文章を作成したい場合はこちらがお勧めです。GeminiはGoogleが提供するツールの裏で動いているため、Google AI StudioのようなGoogleのサービスと相性が良い、という特徴があります。最近注目しているのが、テキストから動画を生成できるGen-3 Alphaです。動画はプロンプト(AIへの指示や質問)が同じでも毎回異なる結果が出力され、思いどおりのアウトプットを得るのが難しい面もありますが、そこが面白さでもあります。医療の仕事は「正確性」が求められるので、正確さを求められない生成AIの動画の用途を模索していたのですが、最近「使えるかも」と感じたのが「教育」分野です。たとえば、以前「ヘリオトロープ疹」の動画を作成してみました。ヘリオトロープ疹は、上まぶたに紫色の皮疹が出る疾患で、ヘリオトロープの花の色に似ていることから名付けられました。これを学生の記憶に残りやすいよう、ヘリオトロープ疹とヘリオトロープの花を組み合わせた動画にしました。バラの花と組み合わせた「バラ疹」にもトライしました。正確性よりも印象に残るイメージを生成するという点で、AIは有効なツールになりうる印象です。大塚氏が生成AIで作成した「バラ疹」のイメージ動画AIで激変する医師の仕事、自ら変化を生み出すために――医療者向けに生成AI使いこなしの書籍を執筆した動機は?学内やSNSでAIの使い方について聞かれることが増え、まとめる価値があるのではと考えました。日々変わるAIツールを本というメディアで伝える難しさはありましたが、基本的なことは網羅できたと思います。また、医師としての危機感も出版の動機です。AI技術を使えば、電子カルテに入力された情報から自動的に診断を行うシステムを簡単につくることができます。そうなると、どの科でも、医師免許と処方箋を書く権限がある医師が1人いれば、病院を運営できる未来が来るかもしれません。もちろん、AIがすべての医師の仕事を代替することは難しいでしょうが、AI技術の進化によって、医師の働き方が大きく変わることは間違いありません。大事なのは、その変化を“医療者自身”が生み出すこと。医療者以外が医療のAI開発に取り組めば、「AIを使って、いかに医療費や医師を削減するか」という視点ばかりになる危険性があります。だからこそ、医療者自らがAIツールを使い、その可能性と限界を知ることが重要です。AIツールを使いこなすことで、医師はより創造的な仕事に集中できるようになるはず。AIとより良く共存し、人間にしかできない医療を創造するために、医療者自らがAI技術に対する理解を深める必要がある。この本にはそうしたメッセージも込めました。大好評の書籍はこちら(ケアネット 杉崎 真名)

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日本の精神科ガイドライン著者におけるCOI分析

 臨床診療ガイドライン(CPG)は、エビデンスに基づく標準的な患者ケアを提供するために、必要不可欠である。しかし、CPGの著者に対する金銭的な利益相反(COI)により、著者への信頼性が損なわれる可能性がある。東北大学の村山 安寿氏らは、日本の精神科CPGの著者におけるCOIの範囲および規模を調査するため、本研究を実施した。BMJ Open誌2024年6月21日号の報告。 製薬会社より開示された支払い金額を横断的に分析し、日本の双極性障害/うつ病のCPGの著者に対し2016〜20年に支払われた講演謝礼、コンサルティング料、執筆謝礼などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・5年間に著者の93.3%に対し支払いが行われており、その総額は400万米ドル超であることが判明した。・著者1人当たりの支払額中央値は5万1,403米ドル(IQR:9,982〜11万1,567)であり、CPG委員長を含む少数の著者に集中していることが顕著であった。・CPGでCOIを開示した著者は、ごく一部に過ぎなかった。・多額の支払いは、CPGに掲載されている新規抗うつ薬や睡眠薬を製造販売している製薬会社でなされた。 著者らは「日本の双極性障害/うつ病CPGの著者のうち、93%以上が製薬会社からの支払いを受けていることが明らかとなった。国際的なCOIマネジメント基準から逸脱していると考えられ、日本の精神科CPGに対する厳格なCOIポリシーの必要性が示唆された」としている。

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口腔がんが日本人で増加傾向、その最大要因とはー診療ガイドライン改訂

 『口腔癌診療ガイドライン2023年版 第4版』が昨年11月に4年ぶりに改訂された。口腔がんは歯科医も治療を担う希少がんだが、口腔がんを口内炎などと見間違われるケースは稀ではないという。そこで今回、日本口腔腫瘍学会学術委員会『口腔癌診療ガイドライン』改定委員会の委員長を務めた栗田 浩氏(信州大学医学部歯科口腔外科学 教授)に口腔がんの疫学や鑑別診断などについて話を聞いた。 口腔癌診療ガイドライン2023年版では、日常的に出くわす臨床疑問に対してClinical Question(CQ)を設定、可能な限りのエビデンスを集め、GRADEアプローチに準じ推奨を提案している。希少がんであるがゆえ、少ないエビデンスから検証を行っていることもあり、FRQ(future research question)やBQ(background question)はなく、すべてがCQだ。同氏は「アナログな手法ではあるが、システマティック・レビューで明らかになっているCQの “隙間を埋める”ように、明らかにされていない部分のCQを作成し、全部で60個を掲載した」と作成経緯を説明した。口腔がんの好発年齢は50歳以降、インドや欧州で罹患率が高い 口腔がんとは、顎口腔領域に発生する悪性腫瘍の総称である。病理組織学的に口腔がんの90%以上は扁平上皮がんであり、そのほかには小唾液腺に由来する腺系がんや肉腫、悪性リンパ腫、転移性がんなどがあるが、口腔癌診療ガイドライン2023年版では最も頻度が高い口腔粘膜原発の扁平上皮がんを「口腔がん」として記している。 口腔がんの好発年齢は50歳以降で加齢とともに増加し、男女比3:2と男性に多いのが特徴である。これまで国内罹患数は年間5,000~8,000人で推移していたが、近年の罹患数は年間1万人と増加傾向にあるという。これについて栗田氏は「もともと世界的にはインドや欧州での罹患率が高いが、日本人で増えてきているのは高齢化が進んでいることが要因」とコメントした。部位別発生率については、2020年の口腔がん登録*の結果によると、舌(47.1%)、下顎歯肉(18.4%)、上顎歯肉(11.9%)、頬粘膜(8.6%)、口底(6.6%)、硬口蓋(2.6%)、下顎骨中心性(1.7%)、下唇(0.8%)で、初診時の頸部リンパ節の転移頻度は25%、遠隔転移は1%ほどである。*日本口腔外科学会および日本口腔腫瘍学会研修施設における調査。扁平上皮がん以外も含む。 また、口腔がんの場合、口腔以外の部位にがんが発生(重複がん)することがあり、重複がんの好発部位と発生頻度は上部消化管がんや肺がんが多く、11.0~16.2%に認められる。これはfield cancerizationの概念1,2)で口腔と咽頭、食道は同一の発がん環境にあると考えられているためである(口腔癌診療ガイドライン2023年版CQ1、p.80)。 これまで、全国がん登録を含め口腔がんの統計は口腔・咽頭を合算した罹患数の集計になっていたため、口腔がん単独としては信頼性の高いデータは得られていなかった。同氏は「咽頭がんと口腔がんでは性質が異なるので別個の疾患として捉えることが重要」と、口腔がんと咽頭がんは別物であることを強調し、「口腔癌診療ガイドライン2023年版に記されている罹患率は口腔がん登録のものを記しているため、全国がん登録の罹患状況とは異なる。その点に注意して口腔癌診療ガイドライン2023年版を手に取ってもらいたい。今後、口腔がんに特化したデータの収集を行うためにも口腔がん登録が厳正に進むことを期待する」と説明した。口腔癌診療ガイドライン、ハイリスク患者には放射線療法を提案 口腔がんが生じやすい部位や状態は、舌がん、歯肉がん、頬粘膜がんの順に発生しやすく、鑑別に挙げられる疾患として口内炎、歯肉炎、入れ歯による傷などがある。「もし、口内炎であれば通常は3~4日、長くても2週間で治る。この期間に治らない場合や入れ歯が合わないなどの原因をなくしても改善しない場合、そして、白板症、紅板症のような前がん病変が疑われる場合は歯科や口腔外科へ紹介してほしい。またステロイド含有製剤の長期投与はカンジダなど別疾患の原因となる可能性もあり避けてほしい」と話した。 口腔がんの治療は主に外科療法で、口腔を含む頭頸部がんにも多くの薬剤が承認されているが、薬物療法のみで根治が得られることは稀である。再発リスク因子(頸部リンパ節節外進展やその他リスク因子)がある場合には、術後化学放射線療法や術後放射線療法を行うことが提案されている(口腔癌診療ガイドライン2023年版CQ33、p.146)。外科手術や放射線療法の適応がない切除不能な進行がんや再発がんにおいては、第1選択薬としてペムブロリズマブ/白金製剤/5-FUなどが投与されるため、がん専門医と連携し有害事象への対応が求められる。口腔がんの予防・早期発見、まずは口腔内チェックから 口腔がんの主な危険因子(口腔癌診療ガイドライン2023年版CQ2~4、p.81~85)として喫煙や飲酒、合わない入れ歯による慢性的な刺激、そしてウイルス感染(ヒトパピローマウイルス[HPV]やヒト免疫不全ウイルス[HIV]など)が挙げられるが、「いずれも科学的根拠が乏しい。早期発見が最も重要であり、50歳を過ぎたら定期的な口腔内チェックが重要になる」と強調した。 現在、口腔以外の疾患で入院している患者では周術期などの口腔機能管理(口腔ケア、栄養アセスメントの観点からの口腔内チェックなど)が行われており、その際に口腔がんが発見されるケースもある。健康で病院受診をしていない人の場合には、近年では各歯科医師会主導の集団検診や人間ドックのオプションとして選択することがリスク回避の場として推奨される。同氏は「歯周病検診は口腔機能をチェックするために、口腔がん検診は生活習慣病の一貫として受けてほしい。口腔がん検診は目に見えるため容易に行えるほか、前がん病変、口腔扁平苔癬、鉄欠乏性貧血、梅毒による前がん状態などの発見にもつながる」と説明した。 最後に同氏は「口腔がんは簡単に見つけられるのに、発見機会が少ないがゆえに発見された時点で進行がんになっていることが多い。進行がんでは顔貌が変化する、食事は取りづらい、しゃべることが困難になるなど、人間の尊厳が奪われ、末期は悲惨な状況の患者が多い。そのような患者を一人でも減らすためにも早期発見が非常に重要」とし、「診察時に患者の話し方に違和感を覚えたり、食事量の低下がみられたりする場合には、患者の口腔変化を疑ってほしい」と締めくくった。

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ベンゾジアゼピン系薬剤は認知症リスクを上げるか

 ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が認知症リスクを増加させる可能性は低いが、脳の構造に長期にわたってかすかな影響を及ぼす可能性のあることが、新たな研究で報告された。認知機能の正常なオランダの成人5,400人以上を対象にしたこの研究では、同薬剤の使用と認知症リスクの増加との間に関連性は認められなかったという。研究グループは、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用による認知症リスクの増加を報告した過去の2件のメタアナリシスとは逆の結果であると述べている。エラスムス大学医療センター(オランダ)のFrank Wolters氏らによるこの研究の詳細は、「BMC Medicine」に7月2日掲載された。 ベンゾジアゼピン系薬剤は、脳の活動を抑制する神経伝達物質GABAの放出を促進して神経系の活動を低下させる薬剤で、催眠作用、抗不安作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用を有する。今回の研究では、オランダの成人5,443人(平均年齢70.6歳、女性57.4%)を対象に、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が認知機能にもたらす長期的な影響について検討した。Wolters氏らは、1991年からベースライン(2005〜2008年)までの調剤薬に関する記録を調べ、また、処方されたベンゾジアゼピン系薬剤が抗不安薬であるか鎮静催眠薬であるのかも確認した。さらに、脳MRI検査を繰り返し受けていた4,836人を対象に、神経変性マーカーとベンゾジアゼピン系薬剤の使用との関連も検討した。 5,443人のうち2,697人(49.5%)が、ベースライン以前の15年間のいずれかの時点でベンゾジアゼピン系薬剤を使用していた(1,263人〔46.8%〕は抗不安薬、530人〔19.7%〕は鎮静催眠薬、904人〔33.5%〕はその両方を使用)。平均11.2年に及ぶ追跡期間中に726人(13.3%)が認知症を発症していた。 解析の結果、累積用量にかかわりなく、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用により、使用しない場合と比べて認知症の発症リスクは有意に増加しないことが示された(ハザード比1.06、95%信頼区間0.90〜1.25)。種類別に見ると、同リスクは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用の方がベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬の使用よりも幾分か高かったが、いずれも統計学的に有意ではなかった(抗不安薬:同1.17、0.96〜1.41、鎮静催眠薬:同0.92、0.70〜1.21)。 一方、脳MRI画像の検討からは、ベンゾジアゼピン系薬剤の現在の使用は、横断的には海馬、扁桃体、視床の体積の減少(萎縮)、縦断的には海馬の加速度的な萎縮、および海馬ほどではないが扁桃体の萎縮と有意に関連することが示された。 こうした結果を受けてWolters氏らは、「これらの結果は、ベンゾジアゼピン系薬剤の長期処方に注意を促す現在のガイドラインを支持するものだ」と結論付けている。 研究グループは、「ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が脳の健康に及ぼす潜在的影響について調査するためには、さらなる研究が必要だ」と話している。

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線維筋痛症、治療用スマホアプリで症状改善/Lancet

 線維筋痛症の成人患者の管理において、スマートフォンアプリを用いて毎日の症状を追跡するアクティブコントロール群と比較して、アプリを用いたアクセプタンス・コミットメント療法(ACT)によるセルフガイド型のデジタル行動療法は、患者評価による症状の改善度が優れ、デバイス関連の安全性に関するイベントは発生しないことが、米国・Gendreau ConsultingのR. Michael Gendreau氏らが実施した「PROSPER-FM試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年7月8日号で報告された。 PROSPER-FM試験は、米国の25の地域施設が参加した第III相無作為化対照比較試験であり、2022年2月~2023年2月に患者のスクリーニングを行った(Swing Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢22~75歳、初発の線維筋痛症と診断された患者275例(女性257例[93%]、白人229例[83%])を登録した。スマートフォン用の治療アプリ(Stanza)を用いたデジタルACT群に140例(年齢中央値49.0歳[四分位範囲[IQR]:40.5~59.0])、症状追跡アプリと、健康関連および線維筋痛症関連の教育資料へのアクセスを提供するアクティブコントロール群に135例(同49.0歳[41.0~57.0])を割り付けた。治療割り付け情報は、統計解析の担当者を除き、マスクされなかった。 主要エンドポイントは、12週の時点における症状の変化に対する患者の全般的印象度(patient global impression of change:PGIC)の改善とし、ITT解析を行った。PGICは、患者の自己評価に基づく治療の全般的な有益性の尺度であり、7つのカテゴリ(著しく改善、かなり改善、最小限の改善、変化なし、最小限の悪化、かなり悪化、著しく悪化)から患者が選択した。「最小限の改善」以上:70.6% vs.22.2%、「かなり改善」以上:25.9% vs.4.5% 12週の時点で、PGICの「最小限の改善」以上を達成した患者の割合(主解析)は、アクティブコントロール群が22.2%(30/135例)であったのに対し、デジタルACT群は70.6%(99/140例)と有意に良好であった(群間差:48.4%、95%信頼区間[CI]:37.9~58.9、p<0.0001)。 また、同時点におけるPGICの「かなり改善」以上の患者の割合は、アクティブコントロール群の4.5%(6/135例)と比較して、デジタルACT群は25.9%(36/140例)であり、有意に優れた(群間差:21.4%、95%CI:13.0~29.8、p<0.0001)。 改訂版Fibromyalgia Impact Questionnaire(FIQ)のベースラインから12週までの総スコアの変化(最小二乗平均)は、アクティブコントロール群が-2.2点であったのに対し、デジタルACT群は-10.3点と改善度が有意に高かった(群間差:-8.0点、95%CI:-10.98~-5.10、p<0.0001)。デバイス関連の有害事象の報告はない デバイス関連の有害事象は、両群とも報告がなかった。最も頻度の高い有害事象は、感染症および寄生虫症(デジタルACT群28%、アクティブコントロール群25%)であり、次いで精神障害関連イベント(14% vs.14%)だった。 全体的な患者満足度は、デジタルACT群が80%、アクティブコントロール群は85%であり、それぞれ80%および79%が当該アプリを再度使用すると回答した。 著者は、「線維筋痛症に対するデジタルACTによる介入は、安全かつ有効な治療選択肢であり、ガイドラインで推奨される行動療法を受ける際の実質的な障壁に対処可能と考えられる」としている。

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重症敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性(BLING III)(解説:寺田教彦氏)

 β-ラクタム系抗菌薬は「時間依存性」の抗菌薬であり、薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論からは投与時間を延ばして血中濃度が細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超える時間(time above MIC)が長くなると、効果が高まることが期待される。β-ラクタム系抗菌薬の持続投与(投与時間延長)は、薬剤耐性菌の出現率低下や、抗菌薬総投与量を減らすことで経済的な利益をもたらす可能性があるが、抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)の欠点も指摘されている。たとえば、抗菌薬の持続投与では、経静脈的抗菌薬投与のために血管内デバイスやラインを維持する必要があり、血管内デバイス留置に伴うカテーテル関連血流感染症(CRBSI)のリスク増加や、同一ラインから投与する薬剤での配合変化に注意しなければならない可能性がある。また、薬剤の持続投与では患者行動に制限が生じたり、看護師の負担増加や、抗菌薬の安定性に注意したりする必要もある。また、理論上の話ではあるが、カルバペネム系抗菌薬などではPAE(postantibiotic effect)効果も期待される(Hurst M, et al. Drugs. 2000;59:653-680.)ため、持続投与は必須ではないのではないかとの意見もある。 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)は、これまで多くの臨床試験が行われてきたが、決定的なエビデンス確立には至ってはいない。代表的なガイドラインの記述「Surviving sepsis campaign guidelines(SSCG)2021」では、敗血症または敗血症性ショックの成人に対して維持(最初のボーラス投与後)のために、従来のボーラス注入よりもβ-ラクタムの長期注入を用いることを提案する(弱い、中等度の質のエビデンス)としており(Evans L, et al. Intensive Care Med. 2021;47:1181-1247.)、米国感染症学会(IDSA)を含めた国際的コンセンサス勧告では、重症成人患者、とくにグラム陰性桿菌患者における死亡率の低減や臨床治癒率向上のために、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入を推奨する(条件付き推奨、非常に弱いエビデンス)(Hong LT, et al. Pharmacotherapy. 2023;43:740-777.)、「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」では、敗血症に対するβ-ラクタム系抗菌薬は、持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B)としている「The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2024」。 直近では、2024年6月号のJAMA誌に本研究も含まれたシステマティックレビューとメタ解析結果が掲載されており、ICUに入室した成人重症感染症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入と間欠投与の比較で、長期投与の有効性を示す報告がされていた(ジャーナル四天王「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬、持続投与vs.間欠投与~メタ解析/JAMA 」)(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室で実施した非盲検無作為化第III相試験で、敗血症患者7,031例(持続投与群:3,498例、間欠投与群:3,533例)と、敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与に関する研究としては患者登録数が最大の試験であり、β-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性の有無に結論が出ることが期待されていた(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本研究結果は「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA」に示されたとおりで、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与により死亡率の有意な低下は示すことができなかったが、持続投与群で90日死亡率は2%低く、臨床的治癒率が6%高かった。潜在的に有効性のある患者がいる可能性はあり、筆者の主張するとおり、今回の患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性のある可能性が共に含まれるという解釈に同意したい。 本研究結果からは、重症敗血症患者に対してβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与が有益な可能性が残るが有意差は示せず、残念ながらβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与の是非を結論付けられなかった。β-ラクタムの種類や患者・微生物因子等によっては持続投与も含めた長期注入のほうが予後良好となる可能性はあり、今後も患者や医療従事者の状況を勘案して、持続投与も含めた長期注入は検討してもよいのかもしれない。 本研究結果では明確に示されなかったものの、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入が予後改善につながる可能性は残ると考えられ、引き続きβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入による臨床的影響の調査結果を期待したい。また、今回は重症敗血症患者に対する、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与の有効性と調査するため、患者背景を重症敗血症、抗菌薬はピペラシリン・タゾバクタムとメロペネムが対象とされたが、原因微生物や抗菌薬の種類によっては長期注入のメリットが明らかになるかもしれない。抗菌薬の適切な投与方法について、引き続き新規の研究結果を待ちたいと考える。

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第202回 新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府

<先週の動き>1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府林 芳正官房長官は7月19日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者数が増加していることについて、「今後、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」と述べ、感染対策を徹底するよう呼び掛けた。厚生労働省によると、全国約5,000の定点医療機関から7月8~14日に報告された感染者数は5万5,072人で、1医療機関当たり11.18人と、前週比1.39倍に増加。感染者数は10週連続で増加し、とくに九州地方での増加が目立った。鹿児島県の定点医療機関の感染者数は31.75人、佐賀県は29.46人、宮崎県は29.34人と高い水準を記録。東京(7.56人)、愛知(15.62人)、大阪(9.65人)、福岡(14.92人)でも増加が確認され、全国45都府県で感染者数が増加していた。入院者数も増加傾向にあり、14日までの1週間で新規入院患者は3,081人、前週の2,357人から724人増加。集中治療室(ICU)に入院した患者数も113人と、前週から11人増加していた。専門家は、今回の感染拡大の背景には、新たな変異株「KP.3」の存在があると指摘する。東京大学の研究チームによると、KP.3はオミクロン株から派生した変異株で、感染力が強く、免疫を回避しやすい特徴があるという。とくに高齢者は重症化するリスクがあるため、十分な対策を講じる必要がある。感染症に詳しい東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、「今後、夏休みやお盆期間中に人の移動が増えることで、感染がさらに拡大する可能性がある」と警告。室内の換気や手洗い、マスクの着用など基本的な感染対策の徹底を呼び掛けている。また、高齢者は人混みを避け、感染が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診することが重要だとしている。参考1)新型コロナ流行、なぜ毎年夏に 「第11波」ピークは8月か(朝日新聞)2)新型コロナの感染者数増加 林官房長官が注意喚起(毎日新聞)3)コロナ「第11波」、夏の流行期前に変異株KP・3が主流 梅雨明けで影響か(産経新聞)2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省2024年7月18日に厚生労働省は、新型コロナウイルスと帯状疱疹のワクチンを定期接種化する方針を発表した。新型コロナワクチンの定期接種は10月1日から開始予定で、65歳以上の高齢者と60~64歳の重症化リスクが高い人を対象とする。帯状疱疹ワクチンについては、対象年齢を65歳とし、費用を公費で支援する定期接種とする案が示された。新型コロナワクチンの定期接種は、2023年度まで全額公費負担で無料接種が行われていたが、今秋からは季節性インフルエンザと同様に接種費用の一部自己負担が求められる。接種費用の自己負担額は自治体によって異なるが、最大で7,000円と設定される。国は接種1回当たり8,300円を各自治体に助成し、費用負担を軽減する。接種期間は、2024年10月1日~2025年3月31日までで、各自治体が設定する。対象外の人は「任意接種」となり、全額自己負担で費用は約1万5,000円程度となる見込み。また、帯状疱疹ワクチンの定期接種についても同日、厚労省の予防接種基本方針部会で議論が行われた。帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)と同じウイルスが引き起こし、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。日常生活に支障を来すほどの痛みが生じることがある。現在、国内で承認されている帯状疱疹ワクチンは、阪大微生物病研究会の生ワクチンと、英グラクソ・スミスクラインの不活化ワクチンの2種類である。部会では、65歳を対象とする定期接種化を検討し、帯状疱疹や合併症による重症化予防を目的とすることが提案された。厚労省は今後、専門家による会議での議論を経て正式に決定する予定。参考1)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン65歳に定期接種化、厚労省案 引き続き検討(CB news)3)新型コロナワクチン 高齢者など対象の定期接種 10月めど開始へ(NHK)4)新型コロナワクチンの定期接種、10月から開始…全額自己負担の任意接種費は1万5,000円程度(読売新聞)3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省厚生労働省は、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を7月19日に開き、2025年4月に施行される新たな報告制度を巡る議論を大筋で取りまとめた。新しい報告制度によって、各都道府県が病院や診療所に対して、かかりつけ医の機能や診療できる疾患を毎年報告させる。報告された情報はウェブサイトで公開され、患者がかかりつけ医を選びやすくすることを目指す。この報告制度は、大学病院や歯科医療機関を除くすべての病院や診療所を対象とし、かかりつけ医の研修を修了した医師や総合診療専門医の有無も報告対象に含まれる。診療できる疾患は、患者にわかりやすいように高血圧や腰痛症、かぜ・感冒などの40疾患から選ぶ形となる。報告された情報は、厚労省の医療機関検索サイト「ナビイ」で公開される予定。地域の医療提供体制を把握し、足りない機能があれば対策を講じるよう各自治体に求める。初回の報告は2026年初めごろを見込んでおり、制度開始に向けてルールの改正やガイドライン作成が進められる。また、この報告制度では、病院や診療所は「日常的な診療」(1号機能)と「時間外診療」(2号機能)の2段階で報告する。1号機能は17の診療領域ごとに一時診療に対応できるかどうかを報告し、かかりつけ医機能に関する研修修了者や総合診療医の有無も報告する。2号機能には時間外診療や在宅医療、介護サービスとの連携が含まれる。時間外診療の体制については、在宅当番医制や休日夜間急患センターへの参加状況などを報告する。かかりつけ医機能の報告制度は、5年後を目途に報告内容の見直しが検討される。初回の報告時には「高血圧」「脳梗塞」「乳房の疾患」などの40疾患についての報告を求めるが、施行から5年後に改めて検討する予定である。また、かかりつけ医機能に関する研修の要件を設定し、それに該当する研修を示す予定。今回の制度導入により、患者が適切なかかりつけ医を選びやすくなると同時に、医療提供体制の強化が期待されることで、地域医療の質の向上が期待される。参考1)第8回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会(厚労省)2)「かかりつけ医機能報告」枠組み固まる 一次診療への対応は「17領域ごと」に(CB news)3)かかりつけ医、選びやすく 来年度、診療疾患をウェブ掲載(日経新聞)4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協7月17日に厚生労働省は、中央社会保険医療協議会を開催し、2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の見直しを決定した。見直しでは、マイナカードの利用率の実績に応じて、医療DX推進体制整備加算を3区分に再編することが含まれている。具体的には、医科における加算1が現在の8点から11点に引き上げられる。医療情報取得加算についても変更があり、患者がマイナ保険証を利用するかどうかで区分されていた初診時と再診時の点数が、12月以降はそれぞれ1点に一本化されることが決定した。医療DX推進体制整備加算の医科における点数は、10月以降、加算1が11点、加算2が10点に引き上げられるのと同時に、マイナポータルの医療情報に基づき患者からの健康管理の相談に応じることが新たに求められる。加算3は現在の8点を維持し、相談対応の基準は設定されない。マイナ保険証の利用率は、原則として適用3ヵ月前のレセプト件数ベースでの実績を使い、10月から2025年1月までは2ヵ月前のオンライン資格確認件数ベースでの利用率の使用も認められる。具体的な基準値は、10~12月には加算1が15%、加算2が10%、加算3が5%となり、2025年1~3月にはそれぞれ30%、20%、10%に引き上げられる予定。2025年4月以降の基準は年末をめどに検討される予定となっている。医療情報取得加算については、医科の初診時と再診時の点数が12月以降に1点に一本化される。これは、現行の保険証が12月に廃止され、マイナ保険証に一本化されることに対応するための措置。厚労省は、この改定を8月中に告示する予定。一方、厚労省は、低迷するマイナ保険証の利用を推進するため、医療従事者のマイナ保険証に関する疑問を解消するためのセミナーを7月19日にYouTubeでライブ配信した。セミナー資料は下記のリンクを参照されたい。厚労省は、医療DX推進体制整備加算の見直しにより、マイナ保険証の利用率向上を図り、医療現場でのデジタルトランスフォーメーションを推進する考え。2025年度以降も、電子処方箋の普及のため、さらなる引き上げが検討される予定。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)徹底解決!マイナ保険証への医療現場の疑問 解消セミナー(同)3)医療DX推進体制加算1は11点、10月以降 加算3は8点、中医協が即日答申(CB news)4)マイナ保険証、来年度以降の基準は年末めどに 医療DX推進体制加算 中医協で検討・設定(CB news)5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省7月17日に厚生労働省は、厚生科学審議会感染症部会を開催し、新型インフルエンザ等対策政府行動計画に基づく新ガイドライン案を示した。このガイドラインでは、緊急時に備えて医療用マスク3億1,200万枚を国と都道府県で備蓄することを盛り込んでいる。ガイドライン案には、高機能なN95マスク2,420万枚や非滅菌手袋12億2,200万枚の備蓄など、物資確保の項目が新たに追加された。都道府県は、初動1ヵ月分の物資を備蓄し、国は2ヵ月目以降の供給が回復するまでの分を備蓄する。また、事実誤認の指摘など国民への情報発信の強化も求められている。2024年度からの新しい医療計画(第8次医療計画)では、「新興感染症対策」が追加され、各都道府県で感染患者受け入れ病床や発熱患者対応外来医療機関の確保が進展している。6月1日時点で病床確保は目標の81.8%、発熱外来は54.0%の達成率となっている。とくに流行初期に確保すべき病床の進捗率は109.5%、初期に対応すべき発熱外来は124.1%と目標を上回る進展をみせている。新医療計画では、新興感染症の流行初期や蔓延時に備えて、都道府県と医療機関が「医療措置協定」を締結することが義務付けられている。現在、各都道府県で協議が進行中であり、9月末までに協定の締結完了を目指している。協定締結が進む一方で、病床数や発熱外来の整備が依然として必要とされている。部会では、病床の確保だけでなく医療従事者の確保も課題として挙げられた。出席した委員からは、「病床数は多いが医療従事者が不足することで運用が難しい」との指摘があり、医療現場の状況の把握も検討が求められた。また、初動期には各都道府県が相談センターを整備し、受診調整を実施することが提案された。厚労省は同日、新型インフルエンザ等対策ガイドラインの案も示し、感染症発生前の「準備期」から発生後の「初動期」、「対応期」ごとに対応策を整理し、感染者の受け入れや流行段階に応じた対応を求めている。政府は、今後もガイドラインの内容を議論し、夏ごろに取りまとめを目指す予定。参考1)新型インフルエンザ等対策政府行動計画 ガイドライン案 概要(厚労省)2)第87回厚生科学審議会感染症部会(同)3)新興感染症対策、各都道府県の「感染患者受け入れ病床」「発熱患者に対応する外来医療機関」確保が着実に進展-社保審・医療部会(Gem Med)4)感染症のまん延防止策、ガイドライン案を公表 リスク評価に基づき、機動的に実施 厚労省(CB news)5)感染症有事の対応、「病床確保」だけでは不十分 厚科審でガイドライン案めぐり議論(同)6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省日本専門医機構は、7月19日に開催された厚生労働省の医道審議会の医師専門研修部会で、医師少数区域の施設で1年以上の研修を設ける「特別地域連携プログラム」の要件緩和案を示した。この案では、新たに医師を1年以上派遣する研修施設を連携先に加えることを提案。しかし、「ミニ一極集中」を招く恐れがあるとして反対意見が相次いだ。特別地域連携プログラムは、医師が不足している都道府県の医師少数区域の施設などを連携先とし、1年以上の研修を行うもの。しかし、研修施設としての要件を満たす施設が少ないことから、連携枠を設けるのが困難だという指摘が複数の学会から出ていた。そのため、同機構は2025年度に向けて、医師多数区域であっても、医師少数区域の医療機関に新たに医師を派遣する研修施設であれば、連携先に加えることを提案した。しかし、立谷 秀清委員(全国市長会相馬市長)は「ミニ一極集中を助長する」と反対を表明。2024年度のプログラムで採用された専攻医42人の連携先のうち、約4割が茨城県、約3割が埼玉県と、東京に近い地域に偏っていることが問題視され、他の委員からも反対意見が多く出された。花角 英世委員(全国知事会新潟県知事)は、要件緩和を行うにしても「シーリングの効果が十分に発揮されていない東北や東海、甲信越地域の医師少数区域に医師が派遣されるような制限を設けるべき」と主張し、医師の偏在解消に効果が期待できる制度設計を求めた。参考1)令和6年度第1回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省)2)特別地域連携プログラム、「要件緩和」に反対相次ぐ 25年度シーリング案 専門医機構(CB news)

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便通異常症 慢性下痢(8)生薬と下痢【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q119

便通異常症 慢性下痢(8)生薬と下痢Q119『便通異常症診療ガイドライン2023 慢性下痢症』でも下痢と関連のある薬剤として取り上げられる漢方薬の生薬「山梔子(サンシシ)」。腸管膜静脈硬化症により、慢性下痢になる機序が説明されているが、発症までの期間、累積投与量の報告がある。最低何年間で発症しうるか?発症までの累積量は?

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局所進行食道がんに対する術前補助療法として3剤併用化学療法が標準治療となるか?(解説:上村直実氏)

 日本の臨床現場における食道扁平上皮がんは、発見される時期により予後が大きく異なる疾患である。内視鏡検査によりStage0やIの早期段階で発見されると、外科的手術や化学放射線治療ではなく侵襲の少ない内視鏡的切除により完治する可能性が高い疾患であるが、一方、StageII以上の進行がんになると、化学療法や放射線療法および外科的手術を含む集学的治療を行っても予後が悪い疾患となる。したがって、進行がんの予後に関しては外科的手術に先立つ術前治療の有効性が重要となっている。 今回、術前治療としてわが国の標準治療である2剤併用化学療法(A群、CF療法:フルオロウラシル+シスプラチン)と欧米における標準治療である2剤併用化学療法+放射線療法(B群、CF+RT療法)およびC群として3剤併用化学療法(DCF療法:フルオロウラシル+シスプラチン+ドセタキセル)を加えた3群の有用性と安全性を比較検証するオープンラベルの多施設共同臨床試験(RCT)が施行された結果、C群の3年生存率がA群やB群と比較して統計学的に有意に延長することが2024年6月のLancet誌に掲載された。なお、3年後に生存している患者の割合は、A群が62.6%、B群が68.3%に対して、C群が72.1%であった。 本研究の対象患者はStageIII、すなわち、がんが食道外に進展してリンパ節に転移を認める場合や周囲臓器に進展しているが転移を認めない症例であり、最近の疫学調査によると現在の5年生存率35%程度の改善が期待できる。この結果、進行食道扁平上皮がんに対する術前補助治療に関するガイドラインにおいて、標準治療とされている2剤併用化学療法+放射線治療に代わって3剤併用療法が新たな標準治療となるものと思われる。 今回の臨床研究は国立がん研究センター(NCC)のJCOGが主導して行われたものであるが、世界の食道がん診療ガイドラインに影響を与える大きなインパクトを有するものであり、がん治療に関して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)療法や臓器温存療法の分野においても、わが国からのさらなるエビデンスの創出が期待できる。 さいごに、本研究をはじめとしてがんに対する臨床試験の対象症例は20歳から75歳の患者に限定されているが、高齢化が著しい実臨床からみると75歳以上の高齢者を含めた検討が必要と思われる。

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小児・青年に対する抗精神病薬の生理学的影響の比較〜ネットワークメタ解析

 小児および青年における各抗精神病薬に対する生理学的反応の程度は、よくわかっていない。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMaria Rogdaki氏らは、神経精神疾患および神経発達障害を伴う小児および青年における各種抗精神病薬の生理学的変数への影響を評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。The Lancet. Child & Adolescent Health誌2024年7月号の報告。 2023年12月22日までに公表された神経精神疾患および神経発達障害を伴う18歳未満の小児または青年を対象に抗精神病薬とプラセボを比較したランダム化比較試験(RCT)をMedline、EMBASE、PsycINFO、Web of Science、Scopusより検索し、ネットワークメタ解析を実施した。主要アウトカムは、体重、BMI、空腹時血糖、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド、プロラクチン、心拍数、収縮期血圧(SBP)、補正QT時間(QTc)のベースラインから急性期治療終了までの平均変化とした。複数の用量で検討されたマルチグループ試験では、すべての用量について各生理学的変数のサマリ値を算出した。Kilimプロットを用いて、すべての治療とアウトカムの結果を要約し、p値を用いて、治療効果と統計学的エビデンスの強さに関する情報を評価した。異質性はτ、バイアスリスクはCochrane Collaborationバイアスリスク評価ツール、ネットワークメタ解析の信頼性はConfidence in Network Meta-Analysis(CINEMA)appで評価した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした6,676件の研究より、47件のRCTをメタ解析に含めた。・分析対象は、プラセボ群2,134例、抗精神病薬群4,366例、治療中央値は7週間(IQR:6〜8)、平均年齢は13.29±2.14歳であった。・抗精神病薬には、アリピプラゾール、アセナピン、ブロナンセリン、クロザピン、ハロペリドール、ルラシドン、molindone、オランザピン、パリペリドン、ピモジド、クエチアピン、リスペリドン、ziprasidoneが含まれた。・各主要アウトカムに対するプラセボと比較した抗精神病薬の平均変化差(95%信頼区間)は次のとおり。【体重】−2.00kg(−3.61〜−0.39:molindone)〜5.60kg(0.27〜10.94:ハロペリドール)【BMI】−0.70kg/m2(−1.21〜−0.19:molindone)〜2.03kg/m2(0.51〜3.55:クエチアピン)【総コレステロール】−0.04mmol/L(−0.39〜0.31:ブロナンセリン)〜0.35mmol/L(0.17〜0.53:クエチアピン)【LDLコレステロール】−0.12mmol/L(−0.31〜0.07:リスペリドン、パリペリドン)〜0.17mmol/L(−0.06〜0.40:オランザピン)【HDLコレステロール】0.05mmol/L(−0.19〜0.30:クエチアピン)〜0.48mmol/L(0.18〜0.78:リスペリドン、パリペリドン)【トリグリセライド】−0.03mmol/L(−0.12〜0.06:ルラシドン)〜0.29mmol/L(0.14〜0.44:オランザピン)【空腹時血糖】−0.09mmol/L(−1.45〜1.28:ブロナンセリン)〜0.74mmol/L(0.04〜1.43:クエチアピン)【プロラクチン】−2.83ng/mL(−8.42〜2.75:アリピプラゾール)〜26.40ng/mL(21.13〜31.67:リスペリドン、パリペリドン)【心拍数】−0.20bpm(−8.11〜7.71:ziprasidone)〜12.42bpm(3.83〜21.01:クエチアピン)【SBP】−3.40mmHg(−6.25〜−0.55:ziprasidone)〜10.04mmHg(5.56〜14.51:クエチアピン)【QTc】−0.61ms(−1.47〜0.26:ピモジド)〜0.30ms(−0.05〜0.65:ziprasidone) 著者らは、「抗精神病薬に対し、小児および青年は、多様で臨床的に重要な生理学的反応を示す。さまざまな神経精神疾患および神経発達障害を伴う小児および青年の治療ガイドラインは、関連する代謝変化、プロラクチン変化、血行動態変化に関する各抗精神病薬の明確なプロファイルを反映するよう更新する必要がある」としている。

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日本のリアルワールドデータから考える高リスクmHNPCの治療選択(J-ROCK)

 転移を有するホルモン療法未治療前立腺がん(mHNPC)に対しては、アンドロゲン除去療法(ADT)+アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)やADT+ドセタキセル併用療法が登場し標準治療となっているが、日本の実臨床では従来のホルモン療法が依然として使われるケースも多い。高リスクmHNPCに対する日本での治療実態と臨床転帰を明らかにすることを目的に、多施設共同の前向き観察研究(J-ROCK試験)が実施され、3年時の第2回中間解析結果がEuropean Urology Oncology誌2024年6月号に報告された。本論文の筆頭著者である三宅 秀明氏(神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野)に、今回の結果を踏まえたmHNPCの治療選択の考え方について話を聞いた。ADT単独またはCABが38%、ADT+ARSIまたはドセタキセルが62% J-ROCK試験は、日本国内の77施設で2019年5月1日以降に診断された、20歳以上の高リスク(Gleasonスコア≧8/≧3個の骨病変/内臓転移の3つのうち2つ以上を有する)mHNPC患者が対象。ADT単独またはCAB療法を受けた患者をコホート1、ADT+ARSI(アビラテロン+プレドニゾロン[AAP]/エンザルタミド/アパルタミド)またはADT+ドセタキセルによる治療を受けた患者をコホート2として、前立腺特異抗原(PSA)反応性、無増悪生存期間(PFS)、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが評価された。 974例が登録され、コホート1が38.1%、コホート2が61.9%を占めた。この実臨床での使用状況について三宅氏は、「日本の状況として想定していたよりはコホート2が多い印象を受けた。ただし本試験の参加施設は大学病院や地域の基幹施設が中心で、日本全体を反映しているものとは必ずしも言えないことに注意が必要」と話す。コホート1ではCAB療法(250/371例、67.4%)が多く、コホート2ではADT+AAP(358/603例、59.4%)が最も多い結果となったが、コホート2の薬剤選択には承認時期が影響している可能性が考えられる。 コホート1とコホート2のベースラインの患者特性はそれぞれ、年齢中央値:75.0歳vs.72.0歳、PSA中央値:284.5ng/mL vs.358.1ng/mL、骨転移数:8.0 vs.10.0、Gleasonスコア8:39.4% vs.35.7%、9:52.3% vs.49.9%、10:7.3% vs.12.4%であり、年齢とGleasonスコアを除いて差はみられなかった。背景として、年齢が高い場合は副作用などを考慮して従来のホルモン剤、リスクが高い場合は新規ホルモン剤や抗がん剤との併用という選択がなされていることが想定される。三宅氏はリスクによる薬剤選択について、「昨年改訂された前立腺癌診療ガイドラインでは、リスクによらず原則としてARSIを初回から用いることが推奨された。超高齢、PS不良、経済的な事情で新規薬剤を希望しないというケースは考慮すべきだが、エビデンスからも初回からのARSIが推奨されている」とした。PFS、CRPCまでの期間、OS、PSA低下率はいずれもコホート2で良好 追跡期間中央値22.7ヵ月時点におけるPFS中央値は19.3ヵ月vs.34.3ヵ月(調整ハザード比[HR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.31~0.55)、CRPCまでの期間は15.7ヵ月vs.NE(調整HR:0.28、95%CI:0.23~0.36)、OSはNE vs.NE(調整HR:0.54、95%CI:0.35~0.82)といずれもコホート2で良好であった。 コホート治療開始後3ヵ月の時点で、PSA低下率90%以上の患者の割合は69.3% vs.87.6%、50%以上の患者の割合は83.6% vs.91.4%、PSA0.2ng/mL以下の達成者の割合は8.6% vs.28.5%、0.1ng/mL以下の達成者の割合は4.3% vs.20.4%とコホート2で良好であった。 三宅氏はこれらの結果について、少なくとも高リスク症例においては、従来のホルモン剤と比較して新規薬剤を使用することで予後を改善できることが日本のリアルワールドデータでも示されたとし、OSについても良好な傾向がみられており、今後の長期解析結果に注目していきたいとした。 なお、レジメン別にPSA低下率をみると、ADT+アパルタミドが他のARSIやドセタキセルと比較して良好な傾向を示している。三宅氏は、この結果が予後の延長につながっていくのかどうかについても、注視していきたいと話した。 安全性については、特筆すべき副作用(ADRSI)はコホート1で1.3%、コホート2で15.1%に認められ、最も多いADRSIは皮疹であり、ALT上昇、AST上昇が続いた。Grade3以上のADRSIはコホート1では認められなかったのに対し、コホート2では2.2%で発生した。有害事象による治療中止は、コホート1が4.3%、コホート2が13.9%、死亡例はそれぞれ1.9%と1.7%であった。 三宅氏は「有害事象が多いからという理由で新規薬剤の選択を躊躇する必要はまったくない」とし、有害事象による休薬や中止を含め予後が改善されたというデータが出ており、有害事象対策をより適切に・緻密に講じることで予後がより改善する可能性があることをポジティブに捉えていく必要があるのではないかと話した。どのARSIを使う? コホート2の中でどの薬剤を使うかについては、「抗がん剤を初回から使うことには患者さんに抵抗感がある場合も多いので、基本的にはまずARSIから選択していくことが原則となるだろう」と三宅氏。ARSIの各薬剤については、「それぞれの特徴を頭に入れながら選択していく形となる」と話した。アビラテロンはステロイドの併用が必要であり、アパルタミドでは皮疹、エンザルタミドでは疲労の頻度が高いことに注意が必要となる。 臨床試験結果および高リスク症例対象ではあるが日本のリアルワールドデータのいずれにおいても、従来のホルモン剤による治療と比較してARSIは予後を改善することが示された。三宅氏は、「積極的に新規薬剤を導入しつつ、有害事象には十分に注意をするということが、患者さんの予後改善につながっていく」として、原則として初回からARSIの使用を検討していく重要性を述べた。

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産後VTE予防のエノキサパリン、より高リスク例へ限定可能?/JAMA

 妊娠に関連した静脈血栓塞栓症(VTE)予防のためのヘパリン(エノキサパリン)ベースのプロトコルに、より選択的なリスク層別化アプローチを追加することで、産後VTEが増加することなく血腫が減少したことを、米国・アラバマ大学のMacie L. Champion氏らが報告した。著者らのアラバマ大学では、2016年に米国産科婦人科学会のガイドラインに基づく妊娠関連VTE予防プロトコルを導入したが、血腫の発生確率が2倍以上となり(補正後オッズ比[aOR]:2.34)、VTEは減少しなかったため、2021年に、より選択的なリスク層別化アプローチを取り入れたという。JAMA誌オンライン版2024年6月27日号掲載の報告。標準的リスク層別化と、より選択的な産後VTE化学的予防で比較 研究グループは、ヘパリンベースの産科学的血栓予防プロトコル(エノキサパリンプロトコル)に対する、より選択的なリスク層別化アプローチのアウトカムを後ろ向き観察研究で評価した。 対象は米国南東部の3次医療センター1施設で、2016年1月1日~2018年12月31日に出産した患者(オリジナルプロトコル群)および2021年12月1日~2023年5月31日に出産した患者(選択的プロトコル群)計1万7,489例。妊娠期間中にVTEまたはVTE高リスクのために外来で抗凝固療法を受けていた患者は除外した。対象患者は、標準的リスク層別化と、より選択的な産後VTE化学的予防のプロトコルによる治療を受けた。 主要アウトカムは、出産後6週までの血腫の臨床的診断。副次アウトカムは、出産後6週までのVTEの新規診断とした。群間のベースライン特性とアウトカムを比較し、オリジナルプロトコル群を参照群として主要および副次アウトカムのaORを95%信頼区間(CI)とともに推算した。エノキサパリン投与は減少したが、VTEは増加せず血腫が減少 試験対象1万7,489例のうち、オリジナルプロトコル群は1万2,430例(71%)、選択的プロトコル群は5,029例(29%)であった。選択的プロトコル群のほうが、年齢が高く(28.5歳vs.27.7歳)、政府管掌保険の加入者が少なく(59% vs.65%)、BMIが高値で(31 vs.30)、アスピリン使用者が多く(23% vs.18%)、妊娠高血圧腎症の診断率が高かった(21% vs.16%)(すべてのp<0.001)。 エノキサパリンを投与された患者は、選択的プロトコル群(410例、8%)がオリジナルプロトコル群(1,968例、16%)と比較して少なく、選択的プロトコル群のほうが、あらゆる血腫が減少した(0.3% vs.0.7%、aOR:0.38[95%CI:0.21~0.67])。これは、主に表在性血腫の大幅な減少(0.3% vs.0.6%、aOR:0.43[95%CI:0.24~0.75])がみられたことによるものであった。 選択的プロトコル群はオリジナルプロトコル群と比較して、VTE(0.0008%[4例]vs.0.0014%[17例]、aOR:0.40[95%CI:0.12~1.36])あるいは種類別にみたVTE(深部VTE、肺血栓塞栓症、その他のVTE)について、有意な増加はみられなかった。

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運動が化学療法による末梢神経障害の回避に有効か

 化学療法を受ける患者の多くが発症する化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の回避に運動が有効である可能性が、新たな研究で示唆された。この研究では、運動をしなかった患者でCIPNを発症した者は、運動をした患者の約2倍に上ることが示されたという。バーゼル大学(スイス)のFiona Streckmann氏らによるこの研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に7月1日掲載された。 研究グループによると、化学療法を受ける患者の70〜90%は、痛みやバランス感覚の問題、しびれ、熱感、ピリピリ感やチクチク感などのCIPNの症状を訴え、半数の患者は、がんの治療後もこのような症状が持続するという。 今回の研究では、オキサリプラチン、またはビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍薬による化学療法を受ける158人のがん患者(平均年齢49.1歳、男性58.9%)を対象にランダム化比較試験を実施し、感覚運動トレーニング(sensorimotor training;SMT)と全身振動刺激(whole-body vibration;WBV)トレーニングがCIPNの発症や症状の低減に有効であるかどうかが検討された。対象者は、SMTを受ける群(55人)、WBVトレーニングを受ける群(53人)、および、運動は行わずに通常のケアのみを受ける群(対照群、50人)にランダムに割り付けられた。介入群(SMT群とWBV群)は、1回当たり15〜30分間のトレーニングセッションを週に2回、化学療法が終了するまで受けた。 ITT解析の結果、CIPNの発症率は、対照群で70.6%であったのに対し、SMT群では30.0%、WBVトレーニング群では41.2%であり、対照群に比べて介入群では有意に低いことが明らかになった。この結果は、介入に75%を超えて参加した者のみを対象にしたPPS解析ではさらに顕著であった(対照群73.3%、SMT群28.6%、WBVトレーニング群37.5%)。また、2種類の介入のうち、より効果が高かったのはSMTで、SMT群では対照群よりも、開眼/閉眼で両足立ちでのバランスコントロール、片足立ち、振動感覚、触覚、下肢の筋力の改善、および痛みと熱感の軽減の程度が大きく、化学療法の投与量削減を受けた患者が少なく、死亡率も低かった。 Streckmann氏は、「CIPNは、患者に必要な化学療法サイクルの計画通りの実施不可や、化学療法に含まれる神経毒性薬剤の投与量の削減、治療の中止など、臨床治療に直接的な影響を与える」と話す。同氏によると、現時点でCIPNの予防や回復に有効な薬剤は見つかっていない。それにもかかわらず、米国の医師は毎年、CIPNの治療に患者1人当たり推定1万7,000ドル(1ドル160円換算で272万円)を費やしているという。同氏は、「これに対し、運動は効果的である上に安価だ」と述べる。 Streckmann氏らは、支持療法としてがん治療に運動を取り入れるためのガイドラインを病院向けに作成中であるとしている。また、ドイツとスイスの6つの小児病院で、化学療法を受けている小児の末梢神経障害に対する運動の予防効果を確かめる研究が進行中であるという。

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新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき

 今や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの迅速抗原検査はすっかり普及した感があるが、検査は、症状が現れてからすぐに行うべきなのだろうか。この疑問の答えとなる研究成果を、米コロラド大学ボルダー校(UCB)コンピューターサイエンス学部のCasey Middleton氏とDaniel Larremore氏が「Science Advances」に6月14日報告した。それは、検査を実施すべき時期はウイルスの種類により異なるというものだ。つまり、インフルエンザやRSウイルスの場合には発症後すぐに検査を実施すべきだが、新型コロナウイルスの場合には、発症後すぐではウイルスが検出されにくく、2日以上経過してから検査を実施するのが最適であることが明らかになったという。 Middleton氏らは、呼吸器感染症の迅速抗原検査がコミュニティー内での感染拡大に与える影響を検討するために、患者の行動(検査を受けるかどうかや隔離期間など)やオミクロン株も含めたウイルスの特性、その他の因子を統合した確率モデルを開発した。このモデルを用いて検討した結果、新型コロナウイルスの場合、発症後すぐに迅速抗原検査でテストした際の偽陰性率は最大で92%に達するが、発症から2日後の検査だと70%にまで低下すると予測された。発症から3日後だとさらに低下し、感染者の3分の1を検出できる可能性が示唆された。 この結果について研究グループは、「すでにほとんどの人が新型コロナウイルスへの曝露歴を有しているため、免疫系はウイルスに曝露するとすぐに反応できる準備ができている。そのため、最初に現れる症状は、ウイルスではなく免疫反応によるものだと考えられる。また、新型コロナウイルスの変異株は、ある程度の免疫力を持つ人に感染した場合には、オリジナル株よりも増殖スピードが遅い」と説明している。 一方、RSウイルスとインフルエンザウイルスに関しては、ウイルスの増殖スピードが非常に速いため、症状の出現後すぐに検査を実施するのがベストであることが示唆された。 Larremore氏は、最近では新型コロナウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス、およびRSウイルスへの感染の有無を1つの検査で同時に調べることができる「オールインワンテスト」が売り出されるようになり、また、薬局や診察室でも複数のウイルスを一度に調べるコンボテストが行われていることを踏まえ、「これは悩ましい問題だ。発症後すぐの検査だと、インフルエンザウイルスとRSウイルスについてはある程度のことが明らかになるが、新型コロナウイルスについては時期尚早だろう。だが、発症から数日後では、新型コロナウイルスの検査には最適のタイミングだが、インフルエンザウイルスとRSウイルスの検査には遅過ぎる」と話す。 また、Larremore氏は、「新型コロナウイルスの抗原検査の場合、疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたものだ」と指摘。その上で、「感染者の3分の1しか検出できなくても、最も感染力の強い3分の1を診断できれば、感染を大幅に減らすことができる」と説明している。 一方、Middleton氏は、最近、米疾病対策センター(CDC)が検査と予防のガイドラインを、「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」という内容に改訂したことについて、「より理にかなった内容になった」との見方を示す。同氏は、「以前の方針の『発症後5日間の隔離』は、ほとんどのケースで必要以上に長かったと思う」と話している。

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知ってますか? HeLa細胞、感動の1冊を通じて研究倫理を考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第74回

「誠に申し訳ございませんでした」一列に並んだ皆が頭を下げます。フラッシュが一斉にたかれ、シャッター音が鳴り続けます。5秒ほどたったでしょうか。一斉に頭をゆっくりと上げます。謝罪会見の冒頭です。社会の注目が集まります。謝罪側は、企業のこともあれば、行政組織のこともあれば、大学である場合もあります。大学では、しばしば研究不正が指摘され、そのたびに謝罪会見が行われます。研究活動の不正行為文部科学省のガイドラインで定義は、捏造(Fabrication)・改ざん(Falsification)・盗用(Plagiarism)の3つを特定不正行為としています1)。これらの研究内容の不正だけでなく、研究費の不正使用が問題となる場合もあります。倫理指針を逸脱した研究活動が問題となる場合もあります。倫理が重要視されるのは、「臨床研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければならない」という臨床研究の根本的規範があるからです。医の倫理の起源は、紀元前4世紀から伝わる「ヒポクラテスの誓い」であるそうですが、これは医師が医療行為を行う際の倫理であって、研究の倫理について議論されだしたのは、ずいぶんと時間を経た後のようです。研究者の倫理が論じられる契機としては、ジェンナーによる種痘や、パスツールによる狂犬病ワクチンなどの、開発の過程での人体実験的な側面が有名で、ご存じの方も多いと思います。研究倫理に関する原則は、過去の不適切な人体実験に対応するために作られてきたともいえます。HeLa細胞の医学研究への貢献HeLa(ヒーラ)細胞という名前の細胞をご存じでしょうか。世界中の研究者に用いられ、さまざまな医学研究に寄与し続けてきた細胞です。HeLa細胞はヒト子宮頸がん由来です。不死化しており無制限に細胞分裂を繰り返す能力を持っています。細胞ががん化するのは、遺伝子に突然変異が積み重なり、細胞が不死化することが原因です。正常の細胞は自己が生まれた組織の中で、必要な役割を担って何回か分裂したあと自然に死んでいきます。この不死化したHeLa細胞は、世界中の研究者の元に届けられました。ポリオワクチンの開発に大きく寄与しました。大量培養されたHeLa細胞に、ポリオウイルスを感染させてワクチンの安全性や効果を確認したのです。がんの研究はもちろんのこと、ウイルス感染や、原爆の被爆者への影響などの研究にも貢献しました。体外受精、クローン作成、遺伝子マッピングなどの生命科学の進歩を導きました。HeLa細胞を用いた学術論文は6万本以上といわれます。その過程で生物学的な研究材料を販売するビッグビジネスを創出し、数百万ドル規模の利益をもたらしました。HeLa細胞が問いかける研究倫理ヘンリエッタ・ラックスさんを称える像(バージニア州ロアノーク)HeLa細胞の名前の由来は、その細胞を採取されたヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)さんの名前の頭文字に由来します。貧しいアフリカ系アメリカ人女性が、子宮頸がんで米国・メリーランド州のジョンズ・ホプキンス病院の人種隔離病棟に入院し、1951年に亡くなりました。問題は、その細胞の採取が本人や家族の同意を得ることなく無断で行われたことです。その家族は採取された細胞がもたらした利益とは無縁でした。彼女の夫や子供は、研究者たちが同意なしに調査しようとしたことを契機に、ヘンリエッタ・ラックスさんの身体に由来する細胞が生き続けていることを知ります。研究倫理という問題について、HeLa細胞とその科学への貢献、その家族の経験を通じて見事に描いた作品があります。レベッカ・スクルート著の『The Immortal Life of Henrietta Lacks』です。邦訳は『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』(中里 京子訳、講談社)です。文庫本として『ヒーラ細胞の数奇な運命 医学の革命と忘れ去られた黒人女性』(中里 京子訳、河出文庫)もあります。難しい学術書ではなく、感動的な人間関係を見事に描いた文学作品というべきでしょう。ストーリーの背景に、インフォームドコンセント・人種差別・科学の進歩・研究倫理という問題を織り込んでいます。タイトルに「不死:immortal」とありますが、細胞が不死化するだけでなく、永遠の家族愛が不死化していることを感じます。幼少期に母を亡くした子供たちが、知らない場所で、命を紡ぎ続けた母であるHeLa細胞と出会うシーンは涙を誘います。今年の夏も暑い毎日が続くようです。「暑い」を超えて「熱い」という気温です。寝苦しい夜となります。そんな時には、エアコンを一晩中駆動させて、読書に耽ってみてはいかがでしょうか。中高生のご子息のいる皆さまには、夏休みの宿題になっている読書感想文の素材の1冊としてもお薦めします。読書が苦手という皆さまには、映画化されていることもお伝えしましょう。書籍と同タイトルの作品を日本語字幕でPrime Videoでも視聴できます。これもお薦めです。参考文献・参考サイト1)文部科学省:研究活動の不正行為等の定義

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併診依頼後のフォローは必要?【医療訴訟の争点】第2回

症例総合病院においては、他診療科に併診(コンサルテーション)依頼を出すことがあるが、その進捗状況や結果を確認し、精査が滞らないようにする義務が争われた横浜地裁令和3年12月15日判決(併診依頼時は平成18年)を紹介する。争点は多岐にわたるが、併診依頼の進捗確認・精査の点に絞ることとする。<登場人物>患者66歳(併診依頼時)・男性平成13年右鼠径部脂肪摘出術(複数の腫瘤摘出)原告患者の妻・子被告総合病院の泌尿器科医(併診依頼元医師)同病院の消化器内科医(併診依頼先医師)事案の概要は以下の通りである。平成18年7月排尿困難を主訴に被告病院の泌尿器科を受診。右腹部に腫瘤を触知。8月3日腹部CT検査。骨盤腔内の後腹膜部と腸間膜部に脂肪肉腫と考えられる腫瘤を確認。8月11日CT結果を踏まえ、泌尿器科医は、消化器内科に併診依頼。9月4日消化器内科にて大腸内視鏡検査を実施。9月19日消化器内科医が、消化器内科では一度終診とする旨の返書。平成20年3月5日右陰嚢部の腫瘤を自覚し、被告病院泌尿器科受診。腹部エコー検査にて、右精索部にゴルフボール大の腫瘤を2個確認。3月11日右高位精巣摘除術実施。病理検査の結果、摘出された腫瘤病変は脱分化型脂肪肉腫と診断。4月22日他院にて、大網、腸間膜、後腹膜腫瘍摘出術実施。病理検査の結果、脱分化型脂肪肉腫と診断。平成21年7月14日他院にて、脂肪肉腫の切除を目的とする開腹手術を受けるも、開腹時に脂肪肉腫の腹膜播種が確認されたため根治不能と判断され、バイパス術を受けて手術終了。平成22年6月15日脂肪肉腫に起因した腎不全が直接死因となり、死亡。実際の裁判結果裁判所は、「併診対象となった事象の性質や、併診結果が併診元の方針に与える影響の程度等によっては、併診元において、報告返書の到着を待つのみでは足りない場合があるというべき」とした上で、(1)腸間膜部の腫瘤が比較的稀少な疾患で、その精査を行うべき診療科が消化器内科であることが確立していたとは言えず、その後の検査、治療の方針の検討を併診先の医師に委ねる状況にあったとは言い難いこと(2)泌尿器科医自身が、消化器内科の併診結果を泌尿器科での治療方針にも影響し得る重要事項と位置付け、腸間膜部腫瘤の良悪性の鑑別を優先させる趣旨で併診依頼を作成していたこと(3)脂肪肉腫は、早期の発見・治療が求められる疾患であり、泌尿器科医もその認識があったことの事情を指摘し、併診依頼をした泌尿器科医は「本件腸間膜部腫瘤の精査が滞らないように配慮すべき注意義務を負っていた」として、腸間膜部腫瘤の関係で何らの措置が講じられていなかったことに対し、注意義務違反を認めた。なお、併診依頼先の消化器内科医師の責任については、裁判所は、「本件併診願が作成された当時、MRI検査や生検によって、腸間膜部腫瘤の精査を速やかに行う必要があった」としつつも、「注意義務があると言えるためには、腸間膜部の腫瘤の精査を行うべき診療科が消化器内科であることが臨床医学の実践として確立しているか、または被告病院における診療体制として確立していることが必要」とし、当時、腸間膜部の腫瘤の精査を行うべき診療科が消化器内科であることが確立していたとは認められないとし、消化器内科医師に腸間膜部腫瘤の精査を実施すべき注意義務を否定した。注意ポイント解説本件は、泌尿器科医が、消化器内科の併診結果を泌尿器科での治療方針にも影響し得る重要事項と位置付け、腸間膜部腫瘤の良悪性の鑑別を優先させる趣旨で「下腹部触診にて腫瘤触れCTを撮ったところ、直径5cm程度の腸間膜の腫瘍があるようでした。お忙しいところ恐縮ですが、御高診よろしくお願い申し上げます」「内科の予定がついたら当科の予定を組みたいと存じます」として併診を依頼した事案であった。また、泌尿器科医は腸間膜部腫瘤が早期の発見・治療が求められる疾患である可能性を認識していた。そのような事情があるにもかかわらず、消化器内科では、本件腸間膜部腫瘤そのものの精査は消化器内科の診療領域には属さないと考え、併診依頼をした腸間膜部腫瘤の精査とは直接関連する検査とは言えない大腸内視鏡検査が行われたのみであった。そして、その後、約1年半の期間、患者の腹部を精査する検査が行われなかった。本件は、具体的に腸間膜の腫瘍を指摘した上での併診依頼がなされたものの、併診依頼先の消化器内科が診療領域外と判断し、依頼の趣旨に沿う検査がなされなかった。そして、当時の「臨床医学の実践」として、腸間膜部腫瘤の精査は消化器内科に委ねることが確立していたとも言えなかったため、併診依頼先の消化器内科医の注意義務が否定された一方で、併診依頼元の泌尿器科医に、併診依頼をした腸間膜部腫瘤の精査が滞らないように配慮すべき注意義務が認められた。どの診療科が精査・治療を行うかについて確立していない症状・所見・疾患については、併診依頼元の医師としては、依頼先がきちんと精査をすることを期待して併診依頼している。しかし、併診依頼先の医師としては、自らの診療対象外と認識している場合や、ピンポイントの検査のみで十分と考えている場合もある。その場合、併診依頼先で行われた検査が、併診依頼元の医師が鑑別等を期待した疾患の精査として不十分な場合もありうる。このような場合、併診依頼元の医師に、然るべき精査・治療が行われるようフォロー対応する義務があることを認めた判決であった。他方、精査・治療対象の疾患について、併診依頼先の診療科において精査・治療することが「臨床医学の実践」として確立している場合は、併診依頼先において然るべき精査・治療を行う義務があることとなる。なお、精査・鑑別対象の疾患について、併診依頼先の診療科に関する文献に記載があるということだけでは、併診依頼先において精査・治療を行うべきとは言えない点に注意を要する。医療者の視点昨今では、専門分野が細分化されているため、自身の専門分野以外の疾患については、他科コンサルト/併診依頼する場合が多いです。そのような場合、つい併診依頼元の医師は「こちらの患者さんはコンサルトしたからもう大丈夫」と思いがちです。また、併診依頼先の医師においては、「主科は併診依頼元の医師だから、自分の科の領域の検査のみ行えれば十分」と考えがちです。お互いに診療を相手任せにしてしまうことで、患者さんに不利益が生じるリスクがあります。本件は腸間膜部腫瘤という稀な疾患ですが、自身が担当した患者さんについては、コンサルトした後も経過をフォローする必要があります。また、コンサルトを受けた場合においても、自身の診療によって患者さんが抱えていた問題が解決したかどうか等、確認することが重要です。Take home message対象の症状・所見・疾患の精査・治療を自らの診療科で行えない場合において、他の診療科に併診を依頼するとき、併診依頼先の診療科において然るべき精査・治療が行われるようフォローする必要がある。キーワード臨床医学の実践とは医師の責任の根拠となる注意義務違反(過失)は、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」を基準に判断される。この「臨床医学の実践における医療水準」は、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等によって違いがありうるものであるが、大まかに言えば「診療当時、類似の規模・特性の医療機関において行われていること」が医療水準となる。このため、文献に記載があるからと言ってもそれが当然に「臨床医学の実践における医療水準」となるものではない。また、診療ガイドラインも、各ガイドラインの目的・性格、成立過程や普及の程度、記載されている具体的な診療方法のエビデンスレベルや推奨度等にそれぞれ違いがあるため、あくまで策定当時の「臨床医学の実践における医療水準」を判断する際のひとつの資料と位置付けられるものである(ガイドラインの記載内容が、当然に「臨床医学の実践における医療水準」となるものではない)。

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