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統合失調症とうつ病の治療ガイドライン普及に対するEGUIDEプロジェクトの効果

 国立精神・神経医療研究センターの長谷川 尚美氏らは、「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」を活用することによる、精神疾患の診療ガイドラインに関する教育のリアルワールドにおける効果を検証するため、本研究を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年9月8日号の報告。 EGUIDEプロジェクトは、「統合失調症薬物治療ガイドライン」と「うつ病治療ガイドライン」を日本国内で実践するための全国的なプロスペクティブ研究である。2016~19年、精神科病棟を有する176施設に所属する精神科医782人がプロジェクトに参加し、診療ガイドラインに関する講義を受講した。プロジェクト参加病院の統合失調症患者7,405例およびうつ病患者3,794例を対象に、ガイドラインが推奨する治療の実施割合を、プロジェクト参加者と非参加者から治療を受けている患者間で比較した。プロジェクト参加病院より毎年4~9月に退院する患者の臨床データおよび処方データも分析した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症に対する3つの質的指標(他の向精神薬の使用とは無関係の抗精神病薬単剤療法、他の向精神薬を使用しない抗精神病薬単剤療法、抗不安薬や睡眠薬の使用なし)の割合は、プロジェクト参加者のほうが非参加者よりも高かった。・うつ病治療ガイドラインでも同様な結果が得られた。・ガイドラインの推奨治療の普及におけるEGUIDEプロジェクトの有用性が確認された。 著者らは結果を踏まえて「精神疾患の診療ガイドラインに関する教育を実施することで、精神科医の治療に関連した行動を改善可能であることが示唆された。メンタルヘルス治療のギャップを解消するためには、EGUIDEプロジェクトのような教育ベースの戦略が重要であろう」としている。

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蘇生後呼吸管理でのPaCO2のターゲットはどこに置くか?(解説:香坂俊氏)

 「心肺蘇生の現場はドラマに溢れている…」などと思われがちだが、実は1から10までかなりプロトコールがはっきりと決められており、現代医療であまりそこに情緒が介在する余地はない。カギは低酸素性脳損傷(hypoxic brain injury)をいかに防ぐかというところであり、その思想にのっとりABCのうちのCが優先され、ACLSの手順も細かく決められ、低体温療法など蘇生後のケアも規定される。 しかし、蘇生後の「呼吸管理」についてはどうだろうか?この領域はいまだに解明されていない側面が多い。たとえば、蘇生後のPaCO2の目標値についてもはっきりとした規定はなされておらず、現時点でのガイドラインで推奨されているのは70~100mmHgあるいは酸素飽和度94~98%を目指す、というかなり広いターゲットが設定されている。 今回のTAME試験では、PaCO2の目標値の設定に関してランダム化が行われた。院外の蘇生後の患者1,700例を対象に、軽度のHypercapniaをターゲットとする群(50~55 mmHg)と正常PaCO2(35~45mmHg)にランダム化が行われ、6ヵ月後の神経学的転帰が比較されたが、軽度Hypercapnia群と正常PaCO2群で、ほとんど差は認められなかった(P値は0.76)。この試験の結果からどういった意味を見出すか? 先に述べたとおり、心肺蘇生後の患者管理においては、すでに高度に洗練されたプロトコールが存在し、ガイドラインも提供されている。今回のTAME試験の結果は、これらに大幅な変更をもたらすものではない。しかし、蘇生後管理はあまりミスが許容されない分野であり、呼吸管理で無理にHypercapniaの方向に持っていく必要がない、ということが示されたことは、かなり現場の助けとなるのではないだろうか(注意を向けなくてはならないことが1つ減れば、別のことに注意を向けられるようになる)。ただ、このTAME試験は、並行して低体温療法のランダム化も実施されており、もしかすると、そこに隠れた交互作用があったかもしれず、また、かなり自由度の高い試験プロトコールであったため、かなり現場判断が介在する余地があった(頭蓋内圧のモニターも全例で実施されていなかった)。この辺りは、試験の解釈に注意を要する点となるだろう。

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第179回 レカネマブで治療可能な患者数、独自試算してみると…

ついに9月25日、アルツハイマー病(以下、AD)を適応症とする抗アミロイドβ抗体薬のレカネマブ(商品名:レケンビ)が承認された。ADを適応症とする薬剤が承認されたのは2011年以来、12年ぶりのことだ。ただ、何度かこちらで書いているように、この薬をどのように使っていくかは大きな課題である。すでに9月27日に開催された中央社会保険医療協議会では、この薬剤を巡る薬価算定の方針に関する議論が始まり、やや緊迫感が漂う情勢だ。一足先に承認されたアメリカでの年間薬剤費は約390万円(9月28日時点の為替レートによる)。ADは患者数だけで見れば、生活習慣病並みの非常に巨大な規模。一体、どれだけの患者が投与対象になるのだろう? ここで極めてざっくりとした数字を考えてみたいと思う。まず、ご存じのように、レカネマブは軽度認知障害(以下、MCI)、軽度ADといった早期のADが対象である。現・九州大学医学研究院 衛生・公衆衛生学分野教授の二宮 利治氏らが2014年に行った「厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」によれば、各年齢層の認知症有病率が 2012 年以降も一定であると仮定した場合、ADの患者数は、2025年に466 万人と推計されている。もちろんこれには軽度から高度までのすべての重症度を含む。同研究の推計によると、2025年時点で軽度認知症が占める割合は全体の41%。これを機械的にADにも当てはめると、その患者数は191万人となる。認知症患者の受診率は約7割と言われているので、これまた機械的に当てはめると、軽度AD患者のうち134万人が受診していることになる。もっとも軽度の場合は「歳のせい」で片付けて受診していないケースもまだあると考えられ、実際の受診者はこれよりも少なくなるだろう。とりわけ独居の場合はこの傾向が強いと考えられる。ここでさらに軽度ADの独居高齢者は、症状に気付きにくく、ほぼ受診はしないという仮定を置く。2019年の国民生活基礎調査によると、高齢者世帯の独居率が49.5%であり、これを加味すると、軽度ADの受診者は67万人になる。では、このうちの一体どれだけの人がレカネマブの処方を望むだろうか? 日本での薬価決定はこれからだが、アメリカの薬価をベースに考えるならば、3割負担ならば月間約10万円、70~75歳の2割負担ならば約7万円、75歳以上の1割負担ならば約3万円。もっとも隔週で通院し、高額な薬剤費を払うという前提では、患者自身や家族も相当程度コストパフォーマンスを意識するだろう。まず、実際に処方を検討するのは70歳前後が中心と考えるのが妥当な線ではないだろうか。そこで、レカネマブの処方を検討する層の月当たりの自己負担額を2割7万円と仮定する。総務省統計局によると、高齢者の家計に占める平均の保健・医療支出割合は約6%。裏を返せば、医療などにかけるお金が6%程度に収まるならば、高齢者では家計がなんとか回せるとも言える。そうなると単純に月収100万円程度、すなわち年収1,200万円以上はないと、レカネマブには手が届かない。もっとも軽度AD患者で年収1,200万円も稼げる人はそうそういないはずだ。おそらくは最後に預貯金を崩す、子供が費用を肩代わりするとするのが現実ではないだろうか? 厚生労働省の国民生活基礎調査では、年収1,200万円以上の世帯は約7%であり、これを前述の67万人に適用すると4万7,000人にまで絞り込まれる。もっともこの数字は経済性の観点のみで、患者と家族にとって、思っている以上に負担が大きい「隔週通院」というファクターは織り込んでいない。さらにこの薬剤の場合、厚生労働省による「最適使用推進ガイドライン」が作成されることはほぼ必定。同ガイドラインでは、定性的な表現ながらも必ず施設基準が設定される。今回のレカネマブの場合、陽電子放出断層撮影(PET)とアミロイド関連画像異常(ARIA)をチェックするMRIの撮影と読影に熟達した施設であることが求められると予想する。そこで日本核医学会のPET 撮像施設認証を受けている施設を参照すると、28都道府県の70施設弱しかない。これらを総合した私なりのきわめて粗い試算をすれば、軽度AD患者(MCIは除く)のうち、直近でレカネマブの処方を受けられる候補対象は1~2万人程度。現実はどうなるか、2~3年後に答え合わせをしてみようと思う。

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9月29日 世界心臓デー【今日は何の日?】

【9月29日 世界心臓デー】〔由来〕全世界で毎年1,750万人が心臓血管病を原因に亡くなっていることに鑑み、世界心臓連合が2000年より「世界ハートの日」を9月最終日曜日と定め、地球規模の心臓血管病予防キャンペーンを展開。その後、2011年から9月29日を「世界ハートの日」と制定し、この日を中心にフォーラムやイベントを各地で開催している。関連コンテンツ心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】知っておきたい循環器科で使うSGLT2阻害薬【診療よろず相談TV】心不全の入院後30日死亡率、国の経済レベルで3~5倍/JAMA冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会死亡・CVリスクを低下させる食事法は?40試験のメタ解析/BMJ

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がんに関する質問へのAIの回答は信頼できるのか

 人工知能(AI)は、特にがん治療に関しては、必ずしも正確な健康情報を提供するわけではない可能性が、2件の研究で示唆された。これらの研究は、がん治療に関するさまざまな質問に対してAIチャットボットが提供する回答の質を検討したもので、両研究とも「JAMA Oncology」に8月24日掲載された。 1件目の研究は、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院および米ハーバード大学ダナファーバーがん研究所のDanielle Bitterman氏らが実施したもので、2022年11月に発表されたChatGPTに焦点を当てたもの。研究グループは、ゼロショットプロンプティング(あらかじめ情報を伝えずに直接質問を提示すること)のテンプレートを4種類作成し、これを用いて、がん(乳がん、前立腺がん、肺がん)の診断に関する26種類の記述(がん種、がんの進展度などの情報を伴う場合と伴わない場合あり)に対して、計104個の質問を作成した。ChatGPTは2021年9月までの情報に基づくものであるため、ChatGPTの出した回答は、2021年の全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)ガイドラインと照合して、「治療法はいくつ提示されたか」などの5つの基準で評価し、4人のがん専門医のうちの3人の評価が一致した場合を、ガイドラインとChatGPTによる評価が一致したと見なした。 その結果、104個の質問に対するスコア(520点満点)のうちの61.9%(322点)で、3人のがん専門医の評価が一致していたが、残りは一致していないことが示された。Bitterman氏は、「いくつかの推奨内容は、明らかに間違っていた。例えば、不治の病であるにもかかわらず、根治的治療を勧めているようなケースが認められた」と述べている。また、標準治療の中には放射線療法や化学療法も含まれるのに、ChatGPTは手術だけを勧めているなど、より微妙な回答例も確認された。Bitterman氏は、「正しい情報の中に誤った情報が混じっている確率が高いため、特に専門家でも誤りを見つけるのは非常に難しかった」と述べている。 2件目の研究は、米ニューヨーク州立ダウンステートヘルスサイエンス大学のAbdo Kabarriti氏らが実施したもので、ChatGPT、Perplexity、Chatsonic、Bing(Microsoft Bing)の精度について評価が行われた。これらのAIチャットボットに、皮膚がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、大腸がんに関して最も頻繁に検索エンジンにかけられている質問を尋ねた。回答内容は、検証された評価ツールであるDISCERNを用い、消費者向けの健康情報の質を1(低い)〜5(高い)で評価した。また、Patient Education Materials Assessment Tool(PEMAT)を使用して、情報の理解可能性と実行可能性(0〜100%、高いほど理解のしやすさと実施できる可能性が高い)の評価を行った。 その結果、4つのチャットボットが生成した100個の回答の質は「良い」と評価され〔DISCERNスコア中央値5(範囲2〜5)点〕、誤情報は含まれていないことが確認された。理解可能性は66.7%と中程度であったが、実行可能性は20.0%と低かった。また、どの回答も、「患者は、医師に相談することなく、提供されたデータに基づいて医療上の決定を下すべきではない」という包括的な警告を伴っていた。 Kabarriti氏は、「われわれが最も心配していた誤情報がほぼ含まれていなかった点は心強い。しかし、AIチャットボットが提供した情報は、正確ではあったが、一般の人が読んで理解できる内容ではなかった」と話している。同氏は、AIチャットボットは大学生の読解レベルの情報を提供するのに対して、平均的な消費者の読解レベルは小学6年生程度だと説明する。 Kabarriti氏はさらに、AIチャットボットが多くのがん患者をいら立たせ得る別の要因は、がんの症状に対して何をすべきかを教えてくれない点だと指摘する。「AIはただ、『医師に相談するように』と言うだけだ。おそらく責任問題があるのだろうが、AIが医師に代わって患者と対話する役目を担うことはできないという点は重要だ」と話す。 この研究論文の付随論評を執筆した米カリフォルニア大学ヘルスシステムのAtul Butte氏は、両研究が提起した懸念にもかかわらず、AIが患者や医療界全体にとって「大きなプラスになる」と見ている。同氏は、「AIチャットボットが提供する情報は、時間の経過とともに、より正確で利用しやすいものになることは間違いない」との見方を示し、今後、AIチャットボットは、医療情報やケアの提供において、これまで以上に重要な役割を果たすようになり、多くの患者にとって、その恩恵は目に見えるものになると予測している。

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機械的血栓回収療法後の脳卒中急性期の血圧管理目標レベル(解説:冨山博史氏)

背景: 現在、脳卒中急性期の治療法として血栓溶解療法に加え機械的血栓回収療法が施行されている。そして、日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021(2023改訂版)』では、脳卒中急性期の血圧治療に関して以下を記載している。“機械的血栓回収療法を施行する場合は、血栓回収前の降圧は必ずしも必要ないが、血栓回収後には速やかな降圧を行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)。一方、血栓回収中および回収後の過度な血圧低下は、避けるように勧める(推奨度E エビデンスレベル低)” 前半の“血栓回収後には速やかな降圧を行うことは妥当”とする根拠はWaltimo T.らの報告で血栓溶解療法後での血圧高値は脳出血のリスクが高まるとの報告などを参考にしている1)。一方、脳は脳血流自動調節能を有するが、脳血管障害急性期は、この調節能が消失し、わずかな血圧の下降によって脳血流も低下することが知られている。すなわち、過度の降圧は脳障害を増悪させる可能性がある。 そして、ENCHANTED2/MT試験は、頭蓋内大血管閉塞による急性虚血性脳卒中に対して機械的血栓回収療法で再灌流に成功した症例が対象であり、非積極的降圧治療群(収縮期血圧140~180mmHg:404例)と比較して、積極的降圧治療群(収縮期血圧120mmHg:406例)では早期の神経学的悪化および90日後の主要機能障害が多かったことを報告した2)。すなわち、過度の降圧の有害性を示唆する結果であった。故に、“血栓回収中および回収後の過度な血圧低下は、避けるように勧める”と記載した。しかし、この試験以外、機械的血栓回収療法施行後の過度の降圧の有害性の検証はなく(故にエビデンスレベル低と記載された)、さらなる根拠が必要であった。知見: 今回コメントするOPTIMAL-BP試験は、こうした必要性に合致する研究である。同試験は、多施設共同無作為化非盲検評価者盲検比較試験で、韓国の19の脳卒中センターで実施された。機械的血栓回収治療を受けた大血管閉塞急性虚血性脳卒中患者306例を対象とした。介入は登録後24時間、積極的血圧管理(収縮期血圧目標140mmHg未満、n=155)または従来の血圧管理(収縮期血圧目標140~180mmHg、n=150)を受ける群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは3ヵ月後の機能的自立(modified Rankin Scaleスコア0~2)であった。そして、血栓回収療法で再灌流に成功した患者において、24時間の積極的な血圧管理は、従来の血圧管理と比較して3ヵ月後の機能的自立を低下させた。なお、本試験は、安全性に関する懸念を指摘したデータ・安全性モニタリング委員会の勧告に基づき早期に中止された。まとめ: 今回の結果は、脳卒中急性期の適切な血圧コントロールの重要性を確認する結果である。さらに、脳卒中急性期の脳血流自動能破綻の有害性を支持し、積極的な再灌流療法でも急性期には自動能が改善しないことを示唆している。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第36回

今回はO(アウトカム)を設定する際の要点を解説します。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのResearch Question(RQ)のOは下記のとおりです(連載第34回参照)。O:1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度O(アウトカム)は測定可能で臨床的に意義があるかまず、ここで設定したOが測定可能で臨床的に意義があるものなのか、再考してみましょう。末期腎不全(透析導入)は明確なイベントであり、カルテ調査でその発症日も容易に確認できます。GFRは血清クレアチニン値(Cr)と年齢、および性別で算出される腎機能評価の指標で、日本人の集団でも確立された計算式が論文で公開されています1)。GFR低下速度は、複数回のCrの経時的評価が行われていれば計算できますので、客観的な測定が可能です。末期腎不全(透析導入)は患者さんにとって、生活が大きく変わるハードエンドポイントであり、臨床的にも大きな意義があるOと考えられます。一方、GFR低下速度はサロゲートエンドポイントです(連載第3回参照)。しかし、GFR低下速度の持続的な加速は、慢性腎臓病(CKD)患者さんの末期腎不全発症を含めたハードエンドポイントの予測因子であることが多くの臨床研究の結果から示されています。したがって、これも臨床的に重要なアウトカムと言えるでしょう。さて、われわれのRQの曝露要因(E)は、低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日の遵守という厳格な食事療法です。すでに設定した腎予後に関するOの臨床的重要性は前述したとおりですが、厳格な食事療法に伴う負担など、負の側面も気になりませんか。たとえば、厳格な低たんぱく食事療法によるQOL悪化の懸念は、診療ガイドラインなどでも指摘されていますが、明らかなエビデンスはこれまでに認められていないとされています。今回、われわれが実施を予定しているのは、カルテ調査をベースにした、いわゆる「後ろ向き」の観察研究です(連載第1回、第6回参照)。QOL尺度(連載第3回参照)の経時的な測定は、日常診療では一般的に行われていないと思いますし、われわれのカルテ調査データでも収集はできませんでした。このように、通常の臨床現場で測定されないOについては「後ろ向き」ではなく「前向き」研究でなければ検討できない、ということです。ちなみに、前回紹介したDOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)は、血液透析患者さんを対象とした「前向き」観察研究です。DOPPSでは多大なコストをかけて、経時的な健康関連QOL尺度(連載第3回参照)の測定と収集も行っています。また、前回説明したとおり、研究の効率や実施可能性の観点から、できればP(対象)はOを起こしやすい集団である方が望ましいです。つまり、発生頻度が多いOを設定した方が研究の効率が良いということです。そこで、今回の「後ろ向き」観察研究の解析で使用するデータをざっと確認してみたとしましょう。保存期CKD患者さん600例余り、最長5年間の観察期間のカルテ調査データを収集・調べてみたところ、全体の約30%の症例でプライマリのOである末期腎不全(透析導入)の発生が確認できました。実施可能性の高い解析データが収集できたものとホッとした次第です。1)Matsuo S, et al. Am J Kidney Dis. 2009;53;6:982-992.

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第164回 新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスに関する複数の新たな方針を発表した。10月から専用病床の「病床確保料」が2割減少し、2024年3月までの適用が予定されている。また、新型コロナ治療薬の患者の自己負担割合について、9,000円を上限とすることが決定された。これまで全額公費であった治療薬について、一部自己負担が求められるようになる。入院医療費の補助は、最大2万円から最大1万円に減少する。医療機関の支援に関しても見直しが行われ、新型コロナの患者の受け入れのための「病床確保料」の支給が感染状況が一定の基準を超えるまで行われない方針となった。専門家は、医療機関の労力の大きさと、適切な支援策の必要性を指摘している。参考1)コロナ病床確保料、10月から2割減に 重点医療機関の補助区分を廃止、厚労省(CB news)2)新型コロナの患者支援 10月から見直し 治療薬の一部自己負担に(NHK)3)10月以降のコロナ感染症対応、「重点的・集中的な入院医療体制」確保目指し診療報酬特例や病床確保料などを縮減して継続(Gem Med)2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省東京都内の大学病院に勤務していた50代の男性医師が、過労によるくも膜下出血で寝たきりの状態となり、労働基準監督署に労災申請を行ったが、宿日直許可を理由に宿直業務を労働時間から除外する扱いとされ、労災認定されなかったことが明らかとなった。男性は緩和医療科の唯一の臨床医として働いており、発症前の時間外労働は「過労死ライン」とされる月80時間を大きく超えていた。代理人弁護士の川人 博氏は、「宿直中に仕事をしていたことが事実であり、一切の労働時間を否定する事案は初めて。関係法令にも反している」と厳しく批判した。労基署は、宿直業務のうち、仮眠6時間を除く9時間15分を労働時間として認めたが、厚生労働省東京労働局の審査官は、宿直時間のすべてを労働時間から除外した。男性の妻は、「宿日直業務のすべてが『労働時間ではない』と否定されることは理解に苦しむ」と述べている。一方、兵庫県立の4病院が、労使協定に基づく上限を超える違法な時間外労働を医師にさせていたとして、労基署から是正勧告を受けたことも報じられた。勧告対象となった期間中に、月190時間の残業をしていた医師もいた。2024年度からは医師に時間外労働の規制が適用されるが、このような過労死の問題が続く中、改革の方向性やその取り組みが十分であるのかという疑問が浮上してきており、来年の4月以降も、過労死防止についてさらに議論が求められる。参考1)医療機関の宿日直許可申請に関する FAQ(全日本病院協会)2)医師の宿直を労働時間から除外、労災認められず 「ここまでやるか」(毎日新聞)3)病院で宿直中に死亡対応しても「労働時間ゼロ」 労災申請で国が判断(朝日新聞)4)医者の宿直、労働時間「ゼロ」扱いで労災認定されず 月100h超の残業でくも膜下出血発症…妻「理解に苦しむ」(弁護士ドットコムニュース)5)医師らに最大月190時間の違法残業させる 兵庫県立4病院 労基署が是正勧告(神戸新聞)3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で異例の早さで進行中であることが明らかとなった。厚生労働省のデータによれば、全国約5,000の医療機関からの報告で、1医療機関当たりの感染者数が前週の4.48人から7.03人へと急増した。とくに沖縄県では20.85人と最も多く、千葉、愛媛、佐賀と続く。首都圏でも東京都が11.37人と増加し、7都道府県で「注意報」の基準値10人を超えた。この背景には、14歳未満の若い世代での感染が目立ち、学級閉鎖や休校が増えている事情がある。一方、新型コロナウイルスの感染は前週比0.87倍と減少傾向にあるが、ピークを越えたかどうかは注視が必要との見解が出されている。厚労省は、インフルエンザについて「流行のピークが早まる可能性がある」とし、ワクチン接種の早期予約を呼びかけている。参考1)インフルエンザ、異例の早さで流行拡大…感染者数が前週比1・57倍(読売新聞)2)インフルエンザ、東京都内でも「流行注意報」 9月の発令は異例(朝日新聞)3)新型コロナとインフルエンザ 最新の感染状況(NHK)4.電子カルテ情報共有、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省厚生労働省は、健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループを9月11日に開催し、電子カルテ情報の共有と活用に関して、新たな方針を明らかにした。2024年から稼働を開始する電子カルテ情報共有サービスでは、患者に「傷病名、検査、処方」の情報と「医師からの療養上の指導・計画」の情報をセット提供する予定となっており、患者自身がその情報を常時確認できるようにする見込み。また、厚労省側は電子カルテ情報共有サービスに新たに「健康診断結果報告書」を組み込み、特定の健診や高齢者健診、人間ドックの結果などの閲覧が可能になるよう提案を行なっており、今後のワーキンググループでの議論を通じて詳細が詰められる予定。今回新たに提案された「患者サマリー」には、外来受診の記録も含まれ、患者が自分の病態を理解しやすくなるよう整理される予定。このほか、救急医療現場で必要となる「医療情報」を全国で確認できる仕組みも検討されており、患者の緊急時の診療情報のアクセスに関するガイダンスやガイドラインの作成も提案されており、カルテ情報の共有化に向け、詳細を検討していく見込み。参考1)第18回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスに健診結果の実装目指す サービス稼働時に 「患者サマリー」も、厚労省(CB news)3)患者に「傷病名、検査、処方」等情報と「医師からの療養上の指導・計画」情報をセット提供する新サービス―医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病の新しい呼称として「ダイアベティス」とする提案を発表した。この提案は、糖尿病に関する誤解や偏見を解消するためのアドボカシー活動として去年より取り組みとして行ってきた一環。国内には現在約1,000万人の糖尿病患者が存在し、現行の病名には不正確な表現や不潔なイメージを持たれる問題があると指摘されてきた。この新しい呼称は、英語の病名に基づいており、学術的にも国際的にも受け入れられると期待されている。日本糖尿病協会が行ったアンケートによると、回答者の約9割が現行の病名に抵抗感や不快感を持っており、約8割が病名の変更を望んでいた。この新しい呼称「ダイアベティス」は、まず啓発活動などで使用され、将来的には正式な病名としての変更も検討されている。参考1)日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動(日本糖尿病協会)2)糖尿病の負のイメージ、払拭へ 新呼称案は「ダイアベティス」(朝日新聞)3)糖尿病の新たな呼称「ダイアベティス」とする案発表(NHK)6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の肝胆膵内科の元医長(47歳)が、医療機器の選定・使用に関連して賄賂を受け取ったとして警視庁に逮捕された。逮捕された医師は、同院で医長になって以降、手術で使用する「ステント」について、医療機器メーカー「ゼオンメディカル」社の製品を優先的に使用した見返りとして、2021年におよそ170万円の賄賂を受け取った疑い。また、ゼオン社の元社長、柳田 昇容疑者(67歳)も贈賄の疑いで逮捕された。国立がん研究センターは、この事件を受け、公式サイトを通じて謝罪。「誠に遺憾」とし、「厳正に対処する」との声明を発表した。警視庁は、メーカーが製品の安全性などを確認する市販後調査に協力する契約をこの医師と結び、ほかの医師の使用分も加算していた可能性があるとして、さらに詳しい実態を調べている。事件の背後に、医療機器メーカーと医師との不透明な取引が浮かび上っており、業界の信頼性が再び問われることとなる。参考1)当センターの元職員の逮捕について(国立がん研究センター)2)医療機器「1本使えば対価1万円」…選定や使用巡り170万円贈収賄容疑 がん研元医長と販売会社前社長逮捕(東京新聞)3)国立がん研究センター東病院元医長 収賄容疑で逮捕 警視庁(NHK)4)贈賄容疑のゼオンメディカル、ほかのがんセンター医師の機器使用分も元医長に「謝礼」(読売新聞)5)業者と癒着、後絶たず 高齢化で相次ぐ参入 競争激化が背景に(日経新聞)

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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕

新たなエビデンスを加え、66項目の大改訂!最新のエビデンスを反映させるなどの目的で、例年、全面改訂の約2年後に追補版を発売してきた『脳卒中治療ガイドライン』ですが、近年の本領域の進歩は長足であり、今回は全140項目中66項目を改訂しました。エビデンスレベルの高い新しいエビデンスを加えたほか、新しいエビデンスはないものの推奨度が現実と乖離しているものなども見直したため、今回は「追補」ではなく「改訂」として発売しました。主な改訂点●抗血栓薬や血栓溶解薬などの記載変更について抗血栓薬については、その1種であるDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の高齢者適応のほか、DOACの中和剤に関する記載も増やしました。また、血栓溶解薬は使用開始時期によって効果が左右されますが、起床時発見もしくは発症時刻不明の虚血性脳血管障害患者に対するエビデンスなどを加えました。さらに、くも膜下出血の治療後に生じる可能性がある遅発性脳血管攣縮については、新たに登場した治療選択肢にも触れるなどの変更を行いました。●危険因子としての糖尿病・心疾患・慢性腎臓病(CKD)の管理について主に糖尿病治療で使われるGLP-1やSGLT-2などの薬剤には、近年、新たなエビデンスが得られていることから、推奨度を含めて記載を見直しました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数332頁発行2023年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会

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適切な運動でがん患者の死亡リスク25%減、がん種別にみると?/JCO

 がんと運動の関係について、さまざまな研究がなされているが、大規模な集団において、がん種横断的に長期間観察した研究結果は報告されていない。そこで、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのJessica A. Lavery氏らの研究グループは、がん種横断的に1万1,480例のがん患者を対象として、がんと診断された後の運動習慣と死亡リスクの関係を調べた。その結果、適切な運動を行っていた患者は非運動患者と比べて、全生存期間中央値が5年延長し、全死亡リスクが25%低下した。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年8月31日号に掲載された。 前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんのスクリーニング研究(Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian [PLCO] Cancer Screening Trial)に参加したがん患者1万1,480例(11がん種)を対象とした。対象患者のがんと診断された後の運動の頻度と死亡の関係を検討した。運動について、米国のガイドラインの基準(中強度以上の運動を週4日以上×平均30分以上および/または高強度の運動を週2回以上×平均20分以上)を満たす患者(適切な運動群)と基準未満の患者(非運動群)の2群に分類し、比較した。主要評価項目は全死亡、副次評価項目はがん死亡、非がん死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値16年時点において、死亡が認められたのは4,665例であった。内訳は、がん死亡が1,940例、非がん死亡が2,725例であった。・全生存期間中央値は、適切な運動群が19年であったのに対し、非運動群は14年であった。・多変量解析の結果、適切な運動群は非運動群と比べて、全死亡リスクが有意に25%低下した(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.70~0.80)。・また、適切な運動群は非運動群と比べて、がん死亡リスク(HR:0.79、95%CI:0.72~0.88)と非がん死亡リスク(HR:0.72、95%CI:0.66~0.78)が有意に低下した。・がん種別のサブグループ解析において、全死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、以下のとおりであった。 -子宮体がん(HR:0.41、95%CI:0.24~0.72) -腎がん(同:0.50、0.31~0.81) -頭頸部がん(同:0.62、0.40~0.96) -血液がん(同:0.72、0.59~0.89) -乳がん(同:0.76、0.63~0.91) -前立腺がん(同:0.78、0.70~0.86)・一方、適切な運動群でがん死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、腎がん(HR:0.34、95%CI:0.15~0.75)、頭頸部がん(HR:0.49、95%CI:0.25~0.96)のみであった。

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認知症患者の意思決定支援【非専門医のための緩和ケアTips】第60回

第60回 認知症患者の意思決定支援「意思決定能力」という言葉がありますが、認知症などを持つ高齢患者さんの場合、どれだけ話を理解して治療方針を決められる状態なのか、それを評価することが最初のポイントになります。そういいつつ、これがなかなか難しいのも事実です。今回は認知症を持つ高齢患者さんの意思決定支援について考えてみます。今日の質問緩和ケアにおいて、ご本人や家族と話し合いながら、望ましいケアを考えることは大変ですが、やりがいを感じます。一方、高齢の方が多く、本人の意向を伺うことが難しく感じることがあります。本当にコミュニケーションが難しいときはご家族と話し合いますが、「話はできるけれど、複雑なことは理解できない」といった状況の場合、どの程度対応をすればよいのか迷います。皆さんは意思決定能力をどのように評価するか、説明できるでしょうか? おそらく、部分的に取り組んでいることもあるでしょうが、網羅的に言語化して説明するのは難しいと思います。意思決定能力とは、以下の4つの機能が統合されたものとされ、2022年に発表された『がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン』(金原出版)でも示されています。1)理解力提供された情報を理解・保持し、自分の言葉で説明できる。診断や治療を理解できる2)認識する能力自分自身の診断や治療、治療の選択により将来起こり得る結果を自分のこととして認識し考える能力3)論理的な思考能力診断や治療に関する情報を参考に、論理的に比較考察する能力4)選択を表明する能力意思決定の内容を明瞭に表明する能力意思決定では、1)自分がどのような医学的状況にあるかを理解し、2)3)自分にとって何が良いかを論理的に考え、4)医療者や周囲の関係者に伝える、ということをしているわけです。そう考えると、これら4つのどれが障害されても医療分野における意思決定は難しくなることがわかります。そして、目の前の患者さんはどのポイントが障害されているのかを判断し、支援する方法を考えます。ここで重要なのが、意思決定能力は「“ある”もしくは“ない”」「“0”もしくは“100”」で判断できるものではない、という点です。多くのケースでは、「言葉で詳細に自身の考えを述べることは難しいものの、感情と共に嫌な様子は見てとれる」といったように、できることとできないことが複雑に混じり合っています。今回の質問の患者さんも、こうした意思決定能力を構成する能力のどこかが障害されているものの、保たれている部分もある、という状況かと思います。まずは「患者さんの意思決定能力を評価する」ことから始めましょう。その後、「説明において医学的・専門的な内容を減らす」、「話すだけでなく文字でも伝える」など、相手が残された機能で対応できるための工夫をしましょう。今回のTips今回のTips認知症の方の意思決定支援、まずは「意思決定能力を評価」し、「話し合いの工夫」をしてみましょう。

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がん遺伝子パネル検査、もっと多く、もっと早く/イルミナ

 イルミナは2023年8月31日に、都内でプレスセミナー「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の現状と課題」を開催した。演者からは、がん遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリング[CGP]検査)のさらなる活用と、早期適用についての要望が発せられた。一般大衆のがんゲノム医療への認知度は低い 同社メディカルアフェアーズ本部長である猪又 兵衛氏は、2023年5月に同社が一般成人1,000人を対象に行った「がんゲノム医療に対する意識調査」の結果を紹介した。 がんの根本的な原因について問う質問に対し、「喫煙」「遺伝」「飲酒、偏食」という回答が上位を占め、「遺伝子異常」と認識していた人の割合はそれ以下で5割強にとどまった。また、がんゲノム医療を知っているか、との質問に対し、知っていたと回答した割合は7%であった。 猪又氏は、「がん患者やその家族など、がんに関わっている方でさえ、がんゲノム検査の認知度とがんへの正しい理解度はまだ低く、さらなる向上の余地がある」と総括した。今以上に増やせる日本の遺伝子パネル検査の活用機会は 同社ゼネラルマネジャーのArjuna Kumarasuriyar氏は、世界と日本のCGP活用に関する統計データを示した。 日本ではCGP検査が保険承認されているものの、希少がんを除き、標準治療終了後という制限がある。制限の中でCGP検査を受けているがん患者は約1万7,000例で、日本における年間の新規がん罹患数の約100万人から換算すると、58対1の比率である。この比率は韓国では10対1、ドイツでは13対1で、CGP検査を受けているがん患者の比率は日本の4〜5倍多い。Kumarasuriyar氏は、「日本では今以上にCGPの活用機会がある」と述べた。CGPをさらに治療に結び付けるために必要な、基礎・臨床研究の増加 国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)センター長の河野 隆志氏は、C-CATの実績について紹介した。 2019年6月以降のC-CATの登録累計は6万人に達する。登録者は増加傾向で、現在は月2,000件程度が新たに登録されている。CGP検査により治療薬が提示された患者は44.5%(1万3,713例)、CGP検査で提示された標的治療薬が投与された患者は9.4%(2,888例)であるという。 河野氏は、「多くの患者で遺伝子変異が見つかっているが、必ずしも薬剤に紐付いているわけではない。今後は遺伝子と薬剤の関係を導き出す基礎研究と、治療につなげる治験の増加が必要だ」と訴えた。CGP活用拡大に欠かせない、医師からの提案と診断初期からの適用 NPO法人パンキャンジャパン理事長の眞島 喜幸氏からは、希少がんと膵臓がん患者のアンケート結果が紹介された。 希少がんでは治療初期からCGP検査が認められている。しかし、医師からがんゲノム医療の説明を受けた希少がん患者は22.5%しかいない。結果、CGP検査を受けた希少がん患者は12%だった。CGP検査を受けなかった理由の第1位は「医師からの説明がなかった」である。眞島氏は、「患者から検査の要望を切り出せる状況には至っていない。医師からの提案が重要」と述べた。 また、同氏はCGPの活用時期についても言及した。膵がんではKRASやBRCAなど代表的な遺伝子変異が多い。米国のNCCNガイドラインでは、進行膵がんに対し治療初期からCGP検査が推奨されているが、日本では、膵がんでのCGP検査適用は標準治療後である。眞島氏は、「膵がんの治療は待ったなし。現在の制限を解除し、米国のように診断時からCGP検査を活用してゲノム医療につなげたい」と訴えた。

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機械学習モデルで心筋梗塞の診断能が向上

 心筋トロポニン値と臨床的特徴を組み込んだ機械学習モデルによって、心筋梗塞の診断能が改善されたという研究結果が、「Nature Medicine」に5月11日掲載された論文で明らかにされた。 心筋梗塞の診断の目安として心筋トロポニンの閾値を設定するようにガイドラインで推奨しているが、心筋トロポニン値は、年齢、性別、併存疾患、発症時からの経過時間などの影響を受けやすい。そこで、英エジンバラ大学のDimitrios Doudesis氏らは、心筋梗塞の診断能の改善を目的として、初診時または定期的な検査時の心筋トロポニンI値と臨床的特徴を統合し、心筋梗塞発症の確率を予測するCoDE-ACSスコア(Collaboration for the Diagnosis and Evaluation of Acute Coronary Syndrome score、0~100点)を算出する機械学習モデルとしてCoDE-ACSモデルを開発した。 CoDE-ACSモデルの訓練は、心筋梗塞の疑いで英スコットランドの2~3次病院を受診したコホート1万38例(年齢中央値70歳、女性48%)のデータを用いて実施した。このモデルの外部検証は、別のコホート研究の参加者で心筋梗塞の疑いがあるコホート1万286例(年齢中央値60歳、女性35%)のデータを用いて実施した。CoDE-ACSモデルによる心筋梗塞の診断能を、心筋トロポニンI閾値による診断能と比較した。 外部検証の結果、CoDE-ACSモデルによる心筋梗塞の診断能は高く、初診時の曲線下面積は0.953〔95%信頼区間(CI)0.947~0.958〕、定期検査時の曲線下面積は0.966(同0.961~0.970)であり、年齢、性別、虚血性心疾患の有無などのサブグループ間で診断能に大きな差はなく、どのサブグループでも良好な診断能を示した。 初診時において、心筋梗塞発症の確率が低いと判定された患者の割合は、CoDE-ACSモデル(CoDE-ACSスコア3点未満)の方が心筋トロポニンI閾値(5ng/L未満)と比べて高く(61%対27%)、陰性的中率はいずれも99.6%と高かった。同様に、初診時において心筋梗塞発症の確率が高いと判定された患者の割合は、CoDE-ACSモデル(同スコア61点以上)の方が心筋トロポニンI閾値(女性16ng/L、男性34ng/L)と比べて低く(10%対16%)、陽性的中率はCoDE-ACSモデルの方が高かった(75.5%対49.4%)。 CoDE-ACSモデルで初診時に心筋梗塞発症の確率が低い(CoDE-ACSスコア3点未満)と判定された患者における心臓死の発生率は、中程度(同スコア3~60点)または高い(同スコア61点以上)と判定された患者と比べて有意に低かった〔30日後(0.1%対0.5%対1.8%)および1年後(0.3%対2.8%対4.2%)のいずれもP<0.001〕。 著者らは、「CoDE-ACSモデルが医療現場で採用されれば、救急科での滞在時間の短縮、不必要な入院の防止、および心筋梗塞の早期治療の改善につながり、患者と医療提供者の双方にとって有益であると考えられる」と述べている。 なお、数名の著者が、あるバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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慢性便秘症ガイドライン改訂、非専門医向けに診療フローチャート

 慢性便秘症は、2010年代にルビプロストン(商品名:アミティーザ)、リナクロチド(同:リンゼス)、エロビキシバット(同:グーフィス)、ポリエチレングリコール(PEG)製剤(同:モビコール)、ラクツロース(同:ラグノス)といった新たな治療薬が開発されている。このように、治療の進歩とエビデンスの蓄積が進む慢性便秘症について、約6年ぶりにガイドラインが改訂され、『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が2023年7月に発刊された。そこで、便通異常症診療ガイドラインの作成委員長を務める伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学)に改訂のポイントを聞いた。新たな慢性便秘症のガイドライン作成が求められていた 慢性便秘症は、QOLが低下するだけでなく、長期生命予後に影響するコモンディジーズである1)。慢性便秘症には、結腸運動機能(便の運搬機能)障害(排便回数減少型)と直腸肛門機能(便の排泄機能)障害(排便困難型)の2つの病態が存在するため、病態に基づいた治療が必要となる。また、2010年代には新たな慢性便秘症治療薬が複数開発されており、これらのエビデンスをまとめ、非専門医向けに診療フローチャートを作成する必要があった。さらに、オピオイド誘発性便秘症の治療法も明らかにする必要もあった。これらの背景から、新たな慢性便秘症のガイドラインの作成が求められており、今回『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が作成された。また、便秘は下痢と表裏一体であることから、慢性下痢症のガイドラインも新しく作成することになり、『便通異常症診療ガイドライン』という形で、「慢性便秘症」と「慢性下痢症」に分けて作成された。便通異常症診療ガイドライン2023にフローチャート 慢性便秘症には、上述のとおり「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が存在する。伊原氏は「前版の慢性便秘症診療ガイドライン20172)では、排便困難型に重点が置かれていたため、バランスを取った便秘の定義を作成する必要があった」と述べた。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン改訂では、これら2つの病態が考慮され、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態(下線部が排便回数減少型に該当)」と新たに定義された。また、慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも種々の支障をきたしうる病態」と定義された。なお、便秘は状態名であり、(慢性)便秘症は疾患名である。つまり、「便秘のために日常生活に支障をきたしているものが便秘症(疾患)である」と伊原氏は述べた。 今回の便通異常症診療ガイドラインの診断基準は、前版の『慢性便秘症診療ガイドライン2017』に準じており、内容には変更がない。しかし、ここでも「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が考慮され、従来の6項目が排便中核症状(排便回数減少型に相当)と排便周辺症状(排便困難型に相当)に分けて記載された。 慢性便秘症の診療について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023ではフローチャートが作成されている。そこにも記載されているが、腫瘍性疾患や炎症性疾患が隠れている可能性もあるため、警告症状や徴候の有無を調べることの重要性を伊原氏は強調した。「警告症状にあてはまるものがあれば、大腸内視鏡検査などを実施してほしい。そこで、機能性便秘症であることがわかってから、慢性便秘症の治療に進んでいただきたい」と述べた。警告症状・徴候の詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ4-1:慢性便秘症における警告症状・徴候は何か?(p.55)」を参考にされたい。フローチャートで診療の流れが明確に、刺激性下剤はオンデマンド治療 伊原氏によると、機能性便秘症の多くが排便回数減少型であるという。そこで、排便回数減少型の治療について解説いただいた。 便秘症の治療薬について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023で強い推奨(エビデンスレベルA)となったのは、「浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、高分子化合物[PEG])」「上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)」「胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)」であった。そこで、これらの薬剤を中心に機能性便秘症治療のフローチャートが作成された。ここでの基本的な治療の流れは「生活習慣の改善→浸透圧性下剤→上皮機能変容薬または胆汁酸トランスポーター阻害薬」である。エビデンスが十分でないと判断された「プロバイオティクス」「膨張性下剤」「消化管運動機能改善薬」「漢方薬」は代替・補助治療薬として記載され、「刺激性下剤」「外用薬(坐剤、浣腸)、摘便」はオンデマンド治療であることが明記された。また、このフローチャートは、2023年5月にAmerican Gastroenterological Association(AGA)およびAmerican College of Gastroenterology(ACG)によって発表された『AGA/ACG Clinical Practice Guideline3)』と細かな違いはあるものの、おおむね同様の内容となっている。 新規作用機序の治療薬の使い分けについても、関心が高いのではないだろうか。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン2023では「FRQ 5-1:ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は何か?(p103、104)」が設定された。回答は「ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は明らかになっておらず、今後のさらなる検討が必要と考えられる」となっており、ガイドライン上では便秘症治療薬の使い分けについて明確には示されなかった。しかし、「少しずつわかってきたこともある」と伊原氏は述べた。「ルビプロストンは若い女性で嘔気が起こりやすいため、若い女性にはエロビキシバットやPEG製剤を選択する」「痛みを伴う便秘症にはリナクロチドを選択する」「PPIを用いている患者は酸化マグネシウムの効果が落ちること、ルビプロストンには粘膜バリアを修復する機能があることから、NSAIDsやPPIを服用している患者にはルビプロストンを選択する」「糖尿病患者など、腸の運動が落ちている可能性がある患者には、腸の運動を亢進させるエロビキシバットを選択する」といった便秘症治療薬の使い分けも考えられるとのことである。ただし、「実際に使用して、効果を判定しながら治療を行ってほしい」とも述べた。 今回、オピオイド誘発性便秘症に対する治療のフローチャートも作成された。ガイドラインには「オピオイド誘発性便秘症が疑われる患者には、浸透圧性下剤、刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効である」と記載されているが、伊原氏は「ナルデメジンについては、オピオイドの副作用としての便秘に対する効果はあるが、それ以外の機能性便秘症には効果がないので、どちらが主体の便秘症であるか考えて選択する必要がある」と付け加えた。詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ5-4:オピオイド誘発性便秘症に対する治療法は何か?(p.101)」と「フローチャート5」を参考にされたい。便通異常症診療ガイドライン2023に慢性便秘症の病態評価 慢性便秘症の病態評価において、放射線不透過マーカー法やMRI/CTの有用性が報告されており、今回の便通異常症診療ガイドライン2023にも取り上げられている(CQ4-3、4-4)。しかし、日常診療での実施は難しいのが現状である。そこで、注目されるのが直腸エコー検査(CQ4-2)であると伊原氏は述べた。「直腸エコーで直腸内に便の貯留がみられない場合は直腸感覚閾値の異常、柔らかい便がみられた場合は便排出障害、三日月状の固い便がみられた場合は坐剤や摘便により改善する可能性が考えられる」と解説した。また、「浣腸を行う前に直腸エコーを行うことで、浣腸の必要性がわかるのではないか」とも述べた。 また、病態評価について「病態評価が難しい現状にあるため、症状分類で構わないので『排便回数減少型』『排便困難型』の分類を行い、排便困難型で症状が重い場合は直腸視診や直腸エコーを実施してほしい。そこで明らかな便排出障害が認められる場合は、専門医への紹介を検討していただきたい」とまとめた。便通異常症診療ガイドライン2023改訂ポイントのまとめ 伊原氏は、今回の便通異常症診療ガイドライン2023改訂のポイントを以下のようにまとめた。(1)便秘と慢性便秘症の定義を改訂した(状態名を便秘、病態[疾患名]を[慢性]便秘症とした)(2)「病態(疾患名)」は、「症」を語尾につけることで、病気ではない「状態名」と区別した(3)定義、分類、診断、治療とすべてにわたり、便が直腸へ運搬できない結腸運動機能障害型(排便回数減少型)、直腸に貯留した便が排泄できない直腸肛門機能障害型(排便困難型)の2つの病態を念頭にいれて作成した(4)慢性便秘症の病態評価において直腸エコー(便秘エコー)の有用性を初めて記載した(5)オピオイド誘発性便秘症の治療法を初めて記載した(6)診療のフローチャートを初めて作成した

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急性脳梗塞、血管内治療後の積極降圧は有益か?(BEST-II)/JAMA

 急性虚血性脳卒中の患者において、血管内治療成功後の収縮期血圧(SBP)目標値について、140mmHg未満や160mmHg未満の設定は、180mmHg以下の設定と比較して、事前規定の無益性は示されなかった。一方で、将来的に大規模試験で比較した場合に、低SBP目標値が高SBP目標値より優越性を示す確率は低い可能性も示唆されたという。米国・シンシナティ大学のEva A. Mistry氏らが、無作為化試験「BEST-II試験」の結果を報告した。急性虚血性脳卒中への血管内治療成功後の中程度のSBP降圧の影響は、明らかになっていなかった。JAMA誌2023年9月5日号掲載の報告。米国の3ヵ所の総合脳卒中センターで120例を対象に検討 研究グループは、2020年1月~2022年3月に米国の3ヵ所の総合脳卒中センターで、血管内療法を受け成功した急性虚血性脳卒中患者120例を登録し、降圧目標の低SBP値(140mmHg/160mmHg未満)が高SBP値(180mmHg以下)と比較して無益であるかを検証する第II相無作為化非盲検エンドポイント盲検化試験を行った。最終フォローアップは2022年6月。 被験者を血管内治療後に無作為に3群に分け、SBP目標値を、40~140mmHg未満、40~160mmHg未満、40~180mmHg以下(臨床ガイドライン推奨値)にそれぞれ設定し、再灌流後60分以内に血圧管理を開始し24時間継続した。 主要解析の無益性検証のために事前に規定した主要アウトカムは、フォローアップ36(±12)時間後の梗塞体積と、90(±14)日時点の実用性加重・修正Rankin Scale(mRS)スコア(範囲:0[最悪]~1[最良])の複合だった。 線形回帰モデルを用いて、血管内治療後のSBP目標値の20mmHg低下ごとの、フォローアップ梗塞体積は10mL増加(傾き:0.5)、または実用性加重mRSスコアが0.10減少(傾き:-0.005)を有害性-無益性の境界として検証した(片側α=0.05)。そのほか無益性に関する事前規定は、将来的にSBP目標を低~中値とする群と高値とする群を比較した優越性試験(実用性加重mRSスコアのアウトカムを最大サンプルサイズ1,500例で検証)で、低~中値群が優越性を示す確率が25%未満であることとした。目標値140mmHg/160mmHg未満、180mmHg以下に対し優越性示す確率は25%・14% 被験者120例は、平均年齢69.6(SD 14.5)歳、女性は69例(58%)で、試験を完了したのは113例(94.2%)だった。 フォローアップ梗塞体積の平均値は、140mmHg未満群が32.4mL(95%信頼区間[CI]:18.0~46.7)、160mmHg未満群が50.7mL(33.7~67.7mL)、180mmHg以下群は46.4mL(24.5~68.2)だった。実用性加重mRSスコア平均値は、それぞれ0.51(0.38~0.63)、0.47(0.35~0.60)、0.58(0.46~0.71)だった。 ベースラインでAlberta Stroke Program Early CT(ASPECT)スコアにより補正後、SBP目標値低下ごとのフォローアップ梗塞体積増加の傾きは、-0.29(95%CI:-0.81~∞、無益性のp=0.99)だった。同じく実用性加重mRSスコアの傾きは、-0.0019(-∞~0.0017、無益性のp=0.93)といずれも無益であることは示されなかった。 一方で、SBP目標の高値群と低~中値群を比較した将来的な優越性試験の予測される成功確率は、140mmHg未満群が25%で、160mmHg未満群は14%だった。

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乾癬の治療法を徹底解説!:日野皮フ科医院 院長 日野 亮介氏

このコンテンツでは、乾癬の治療法について解説していきます。日常診療のアップデートに、ぜひご活用ください。講師紹介多くの乾癬患者さんたちからは、「ずっと同じ薬ばっかりで良くならない」というお声を多く頂きます。乾癬の治療は塗り薬しかない、と思っておられる方も多いかもしれません。しかし、そうではありません。乾癬は治療に苦労する皮膚疾患でありますが、ここ10年ほどで大変多くの治療薬が出てきました。皮膚の症状は大半の方でコントロール可能になりました。今、患者さんの乾癬はどんな状態でしょうか?患者さんのライフスタイルに応じて、適切な治療方針を選ぶための参考にしていただけると幸いです。治療がうまくいかないとき、マンネリ化したときに、次の一手を考えるヒントになってくれると思っております。このページでは、乾癬について保険適用のある治療について解説しています。乾癬には尋常性乾癬、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)、乾癬性紅皮症、汎発性膿疱性乾癬、滴状乾癬の5種類があります。薬によって適用が異なりますので、ご注意ください。1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬1-1.ステロイド外用薬ステロイド外用薬は皮膚疾患に幅広く使われていますが、もちろん乾癬にも有効です。今のところ、乾癬に一番多く使われているお薬です。多くの乾癬患者さんは、一度は塗ったことがあると思います。ステロイドは昔からある薬ですが、ここにも進歩があります。ステロイド外用薬の弱点は長期に使うと副作用が出てくる点なのですが、それを和らげるための手だてとしてシャンプーになっている薬が出ました。コムクロシャンプー(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)というもので、15分だけつける、という方法を用いて副作用を減らす工夫がなされています。また、シャンプーは薬を塗りにくい頭という場所の特性を生かした大変興味深い方法です。なお、ステロイドの飲み薬は乾癬には通常使用しません。長期的なステロイド外用薬の副作用を避けるためにも、ステロイド外用薬単体での長期的な治療は避ける必要があります。治療が長引いてきた場合は方法を見直しましょう。1-2.ビタミンD3外用薬乾癬患者さんの塗り薬で、一番大切なのはビタミンD3です。効果が出てくるまで時間がかかりますが、一度改善すると再発しにくいこと、長期間塗っても副作用が出にくいことが大切なポイントです。ただし、大量に塗ると血液中のカルシウムが増え過ぎて二日酔いのような症状(高カルシウム血症)が出る可能性がありますので、注意が必要です。皮膚の増殖を抑えるのが主な効き目ですが、IL-17という乾癬の皮膚症状に重要な役割を果たすタンパクを作りにくくすることにも役立ちます。1日2回塗ることが推奨されています。カルシポトリオール(商品名:ドボネックス):軟膏マキサカルシトール(商品名:オキサロール):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファハイ):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファ):軟膏、ローション、クリーム1-3.配合外用薬配合外用薬も、ここ10年の進歩の1つです。ステロイドとビタミンD3の2つを配合させた薬がデビューし、乾癬の治療に幅広く使われるようになりました。昔は、ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬を薬局で混ぜてもらって処方されることが多かったと思います。お薬の性質上、単純に混ぜるだけでは効果が落ちてしまいます。そのため、ステロイドとビタミンD3の両方を使いたい場合は、重ねて塗るか、両方とも特殊な製法で配合した塗り薬を使う必要があります。乾癬の塗り薬が効かない人は、まず混ぜた薬を使っていないか確認する必要があります。国内では、現在2種類の配合外用薬が使用可能です。カルシポトリオール水和物/ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(商品名:ドボベット):軟膏、ゲル、フォームゲル剤があるので頭皮の中に塗るのにも向いています。頭皮の中に塗る際は、意外にベタつくことに注意が必要です。また、フォーム剤もデビューしました。フォーム剤は塗りやすさから海外で多く使われているようです。上手に使わないと飛び散るので注意が必要です。マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(商品名:マーデュオックス):軟膏ページTOPへ2.経口薬2-1.アプレミラスト(商品名:オテズラ)PDE4(ホスホジエステラーゼ4)という酵素をブロックする薬です。頭痛、吐き気、下痢などの副作用が最初に出ることが多いので、お薬に体を慣らしていくためのスターターパックがあります。副作用は使っていくうちに慣れてくることが多いです。長期的に内服すると体重減少の副作用もあります。効果はゆっくり出てくるので、焦らず使用することが大切です。痒みや関節の痛みにも効果があります。注射薬のような劇的な効果ではないですが、症状が軽くなるので塗り薬を塗るのが面倒な方や小さなぶつぶつがたくさん出ている方には向いています。当院では小さなぶつぶつがたくさん出て塗りにくい方、頭のぶつぶつやかさぶたが治りにくい方、少し関節が痛い方、手足に分厚いかさぶたができて治りにくい方などに使っています。また、生物学的製剤の治療が終了した、もしくは何らかの理由で中断せざるを得なかった方にも使用できます。腎機能が低下している方は、半分の量で内服する必要があります。2-2.シクロスポリン(商品名:ネオーラル)乾癬が出てくるのに重要な働きをするT細胞の働きを抑える薬です。効果は比較的速やかで、量を多くすると生物学的製剤に近いくらいの効果を得ることもできます。ただし、血圧上昇などの副作用があることは注意が必要です。長期間内服すると、腎臓にダメージが起こります。海外のガイドラインでは1年程度の服用にとどめるように勧められています。これらの理由もあり、定期的な血液検査を必要としています。2-3.メトトレキサート(商品名:リウマトレックス)リウマチではよく使われている薬ではありますが、乾癬でも最近保険適用になりました。リウマトレックスだけがジェネリックも含め乾癬に保険適用となっています。日本皮膚科学会の生物学的製剤使用承認施設でのみ乾癬に使用できます。妊娠計画の少なくとも3ヵ月前から男性、女性とも内服を中断しなければなりません。腎機能障害のある方には使用できません。副作用対策として葉酸製剤を内服することがあります。2-4.エトレチナート(商品名:チガソン)エトレチナートはビタミンA誘導体であり、免疫を落とさないことにより光線療法との併用が可能です。表皮細胞の異常増殖を抑えてくれることで効果を発揮します。唇が荒れる、手足の皮がむける、皮膚が薄くなるなどの副作用があります。催奇形性といって、お腹の赤ちゃんに奇形を起こす副作用が報告されています。そのため女性は服用中止後2年間、男性は半年間避妊することが必要になります。2-5.ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)乾癬性関節炎(関節症性乾癬)に適応があります。JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬という新しいメカニズムの治療薬です。もともと関節リウマチの治療薬として使用されていました。皮膚にも効果があります。15mg錠を1日1回内服します。帯状疱疹のリスクが高まることが知られていますので、この治療薬を検討されている方には事前に帯状疱疹ワクチンの接種を強くお勧めしています。深部静脈血栓症、肺塞栓症といった血栓のリスクが高まります。そのための注意が必要になります。また、生物学的製剤と同様に事前に結核の検査をする必要があります。2-6.デュークラバシチニブ(商品名:ソーティクツ)2022年11月デビューの内服薬です。既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。比較的副作用の少ない薬ですが、TYK2という分子をブロックするJAK阻害薬というジャンルに入っているため、日本皮膚科学会の分子標的薬使用承認施設のみで投与可能となっています。成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。ページTOPへ3.光線療法治療の位置付けとしては、寛解導入、すなわち週2~3回程度の細かい間隔で照射し、ぶつぶつをできるだけ消失させるのを最初の目的としています。効果が出て皮膚症状が寛解したら間隔をのばしていく、ないしは中止します。ナローバンドUVBは発がん性が上昇するリスクは今のところ報告されていません。しかし、紫外線であるため、ダラダラと継続して無駄な照射をしないように気を付けることも大切です。ページTOPへ4.顆粒球吸着除去療法アダカラムという特殊な体外循環装置を使い、白血球の一部である、活性化した顆粒球を取り除く方法です。膿疱性乾癬に保険適用があります。薬剤の投与をしないため、妊娠中でも実施できます。ページTOPへ5.生物学的製剤乾癬の治療は、2010年に生物学的製剤が使えるようになってから劇的に変化しました。今までの治療で効果がなかった患者さんも、この薬の投与を開始してから皮膚や関節の症状と無縁の生活を送れるようになってきました。このように非常によく効く薬なのですが、大変高額です。そのため、高額療養費制度の理解や活用も大切になってきます。どんどん薬剤の開発が進み、10年で10種類以上のお薬が乾癬に対して使えるようになってきました。生物学的製剤が使えない方、注意が必要な方活動性の結核を含む重い感染症がある方は使用できませんので、事前にしっかりと検査を行い、必要な対処を行ってから投与する必要があります。また、悪性腫瘍のある方は投与禁忌ではありませんが、投与に当たっては(がん治療の)主治医としっかり相談・確認して慎重に進めなければなりません。現在、乾癬に使える生物学的製剤だけで、こんなにたくさんの種類があります(2023年9月現在)。画像を拡大する(各薬剤の電子添付文書を基にケアネット作成)5-1.TNF-α阻害薬TNF-αというタンパクをブロックする薬です。TNF-αは体のあちこちで作られ、乾癬を悪化させていきます。内臓脂肪からも作られます。メタボ気味の人は内臓脂肪からのTNF-αが増えてきます。すると、インスリン抵抗性といって血糖が上がりやすい状態になってしまうこともあります。これをブロックすることで、全身のさまざまな炎症を抑えてくれることも期待されています。また、関節炎にも効果が高いです。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)の症状が進行すると骨びらんという骨へのダメージが来るのですが、TNF-α阻害薬は骨破壊を抑え、回復させてくれる効果が期待できます。インフリキシマブ(商品名:レミケード)唯一、これだけが点滴で投与する薬です。効果不十分時に増量ないし投与期間を短縮することが可能です。アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)2週間に1回皮下注射する薬です。効果不十分時に増量することが可能です。シリンジだけでなく、ペン型の注射器具があるため自己注射が簡単に行えます。セルトリズマブ ペゴル(商品名:シムジア)この薬剤は製法が特殊であり、胎盤をお薬が通過しにくいことがわかっています。そのため唯一、妊娠中でも使える生物学的製剤です。TNF-α阻害薬が使えない人うっ血性心不全のある方多発性硬化症などの脱髄性疾患をお持ちの方TNF-α阻害薬はどんな人に向いている?乾癬性関節炎(関節症性乾癬)で、とくに関節の症状が強い人メタボ気味の人炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の既往がある人体重が重い人インフリキシマブは体重1kg当たり5mgの量を投与します。体重がかなり重い方は十分な薬剤量を行きわたらせるためにインフリキシマブを選択することがあります。5-2.IL-23阻害薬IL-12/23 p40阻害薬のウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)が最初に出ました。IL-23はp40とp19というタンパクが合体しているものです。p40はIL-12という別のタンパクにも含まれている構造のため、IL-12/23 p40阻害薬は乾癬に関係のない細胞の働きも弱めてしまいます。そこで、ウステキヌマブ以降に出た次世代型のIL-23阻害薬は、p19をブロックすることでよりピンポイントな効き目を実現させています。すべての薬剤にある特長は、効果が持続しやすい、投与間隔が長いという点、副作用が少ないことです。ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)2011年から使用されている薬剤です。効果不十分な場合に増量できるのが特徴です。グセルクマブ(商品名:トレムフィア)掌蹠膿疱症にも適応があります。維持投与期は8週間に1回の投与を行います。リサンキズマブ(商品名:スキリージ)維持投与期は12週間に1回という長さが魅力です。チルドラキズマブ(商品名:イルミア)尋常性乾癬のみに適応があります。この薬剤も維持投与期は12週間に1回です。IL-23阻害薬はどんな人に向いている?治りにくい尋常性乾癬の方仕事が忙しくて通院が大変な方自分で注射を打つのが怖い方5-3.IL-17阻害薬IL-17とは乾癬を発症させるのに大変重要な役割を果たすタンパクです。IL-17にはIL-17AからFまでの6つのサブファミリーがあります。とくにIL-17ファミリーの中で乾癬の成り立ちに重要な役割を果たすタンパクが、IL-17AとIL-17Fです。治療効果が早く出ること、そして4種類の薬剤それぞれ非常に高い効果が得られることが特長です。セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブは維持投与期に自己注射をすることが可能です。セクキヌマブ(商品名:コセンティクス)最初の1ヵ月に毎週注射をすることで効果を早く出せることが特長です。完全ヒト型抗体であり、中和抗体が出にくいのが特徴です。成人には300mgを投与しますが、状況により減量が可能です。生物学的製剤の中で唯一小児にも適応があります。通常、6歳以上の小児にはセクキヌマブ(遺伝子組換え)として、体重50kg未満の患者には1回75mgを、体重50kg以上の患者には1回150mgを皮下投与します。なお、体重50kg以上の患者では、状態に応じて1回300mgを投与することができます。イキセキズマブ(商品名:トルツ)IL-17Aを阻害します。薬剤の特長として高い治療効果が早期から出てくることが多いです。効果がいまひとつだったり、安定しなかったりするとき、つまり使用開始後12週時点で効果不十分な場合には、投与期間を短縮することが可能です。乾癬の皮膚や関節症状が強い方、安定しない方に向いています。ブロダルマブ(商品名:ルミセフ)この薬剤は、乾癬の治療薬ではIL-17の受容体であるIL-17RAをブロックする薬です。そのため、IL-17A、IL-17A/F、IL-17C、IL-17E、IL-17Fが受容体に結合するのをブロックすることができます。皮膚症状に対しては、かなり有効性が期待できる薬剤です。ビメキズマブ(商品名:ビンゼレックス)IL-17A、IL-17Fをブロックできる薬剤です。尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)には適応がありません。今までの治療でうまくいかなかった人でも鋭い効果を出すことが期待されています。IL-17阻害薬が使えない方炎症性腸疾患のある方IL-17は腸管のバリア機能を保つために重要な役割を果たします。炎症性腸疾患のある方は、IL-17をブロックすることで悪化する可能性があります。真菌感染症のある方IL-17は真菌(カビ)の防御に大切な働きをします。そのため、これらの感染症がある方は、IL-17をブロックすることで悪化させてしまう可能性があります。IL-17阻害薬はどんな人に向いている?皮膚の症状がかなり重度な方自分で注射を打てる方素早い効果を期待している方5-4.IL-36受容体阻害薬スペソリマブ(商品名:スペビゴ)抗IL-36受容体抗体であるスペソリマブが主成分です。膿疱性乾癬における急性症状の改善、という適応で保険収載されました。投与開始1週後に有意な膿疱の減少、12週後には84.4%の患者で膿疱が消失という劇的な効果を呈することが知られています。ページTOPへまとめ乾癬の治療薬、治療法はたくさんあることがおわかりいただけたと思います。乾癬の治療に絶対の正解はありませんが、いろいろな治し方を知り、治療方針を決めていく参考になればと思っております。乾癬の治療薬は、まだたくさん開発されています。内服薬(RORγtインバースアゴニスト)、外用薬(アリル炭化水素受容体モジュレーター)などが治験中です。今後も多くの治療選択肢ができることで、乾癬患者さんたちの未来は明るくなっていくのではと期待しています。1)森田明理ほか. 乾癬の光線療法ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:1239-1262.2)佐伯秀久ほか. 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版). 日皮会誌. 2022;132:2271-2296.3)各薬剤の電子添付文書

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脳トレゲームで認知症を防げるか?【外来で役立つ!認知症Topics】第9回

デジタル化で急成長を遂げた「脳トレ」市場「脳トレ」は、今では日本におけるいわば現代用語として定着した観がある。大型書店に行けば、幅が数メートルになるような「脳トレ」コーナーの展示棚もある。そうした本をめくってみると、四字熟語、算数、間違い探し、点つなぎなどが主流である。これらは、どうも懐かしさや、勉強したという満足感をその読者に与えるようだ。実際、学習塾系や受験参考書を扱う出版社から発行されたものが少なくない。蛇足ながら、山川出版の日本史の教科書、研究社の『新々英文解釈研究』なども同じような意味からか、高齢者がよく購入すると聞く。いずれにしても、こうした脳トレ関連現象は日本独自なものかとも思われる。ところで認知症予防や軽度認知障害(MCI)・認知症の治療としての脳トレはさておき、記憶の鍛錬法には歴史がある。たとえば、記憶術として指や場所を用いるもの、記憶を高める儀式や香などは紀元前からあったようだ。筆者が1980年代以降の欧米や日本で経験したものでは、見当識障害を改善し現実認識を深めることを目的とするリアリティ・オリエンテーションや、場所法と呼ばれる記憶術などがあった。もっともどれもその実行は容易ではなかった。多くは紙を媒体としたドリル、またメモ書きとその習慣的見返しなどの指導が行われてきた。個人的には、どれもそう簡単に身に付くものではなかったという印象がある。現在、欧米における脳トレの主体はBrain TrainingとかCognitive Trainingと呼ばれ、その多くはインターネットを媒体とする。これらはComputer Based Cognitive Training (CBCTとか CCTと略)と総称される。そして高齢者のみならず働く現役世代も広く対象としている。加えて、うつ病や統合失調症のような精神疾患にみられる認知機能障害への効果も数多く報告されている。ゲームを製造する欧米の主立った会社は2000年以降に創立されたが、産業としての脳トレは短期間に急成長している。2005年当時にはわずかに200万ドルであった市場規模が、2013年には13億ドル、2022年には78億ドルの巨大産業にのし上がっている。脳トレによる認知症予防の検証が活発にとくに高齢者の認知症予防はこの市場の中でも大きな部分を占めるだろう。その大きな契機となったのが、2016年7月の国際アルツハイマー病学会(AAIC)で米国国立衛生研究所(NIH)と民間会社であるPosit Science社が行ったアメリカ国内での臨床試験の報告だろう。そこでは脳エクササイズである「スピードトレーニング」により、認知症のリスクが半減したと報告された。その後にも、退役軍人協会の会員を対象に運転技術についての効果が検証されている。ここでもこうしたトレーニングをやることで自損事故が半減したと報告されたのである。さて過去20年ほどの間に、高齢者を対象に多くのCCTによる介入研究がなされてきた。一言で高齢者と言っても、対象は認知症やMCIの人、あるいは知的健康人である。最近ではこうした研究のレビューやメタアナリシスも報告されている1,2,3)。その結果、概して「小さいながらも統計学的に有意な効果」が報告されている。そしていくつかに分類される認知機能のうち、非言語性の記憶、言語性記憶、作動記憶、視空間技術、処理速度に効果があるとされる。しかし遂行機能や注意については、有意な効果はほぼ得られていない。一方で、CCTの運営・実施方法についても検討されている。やっぱり、と思うのは、グループでやるトレーニングに比べ、個別トレーニングでは効果がないということである。一体感とか競争心などが大切だということだろう。また一見逆説的ながら、週に3回以上のトレーニングは3回以下に比べて効果が劣るとのことである。筋トレなどでも類似の注意をする指導者がいる。これは毎日のようにやると、飽きて新鮮味がなくなり、注意力や集中力が欠けてくるということなのだろうか?長期的な介入、認知機能分野の複合的な効果に期待一方で多くの問題点や課題も指摘されている。まず介入期間の問題である。多くはせいぜい3ヵ月程度であり、例外的に長いものでも1年程度である。これでは短期的な効果はともかく、年単位の長期効果、まして認知症予防効果などにはとても言及できない。次にタスク、つまり介入の内容や問題は、伝統的に、注意、記憶、地誌的機能など神経心理学的な観点に基づいて作成されてきた。そこでわかっているのは、たとえば注意のタスクをやれば注意の機能で改善があるというように、やった分野は確かに伸びることである。しかし注意をやれば記憶というほかの認知機能分野も伸びるのかといったトランスファー(転移)効果の問題が注目されてきた。これまでのところ、この効果は難しそうだと考えられている。そうしたことから、タスクは伝統的な個々の神経心理学的分野から発展させた複合的なものが、より効果的だと考えられつつある。終わりに、2018年にアメリカの神経学会によりなされたMCIについてのガイドライン4)では、具体的な対応法として2つだけが述べられている。まず、週2回、6ヵ月以上の運動である。そして「数は少ないが、認知トレーニングの有効性も報告されている」と記されている。このようなことから「脳トレ」には、臨床医学としてさらなる成長が期待される。参考1)Lampi A, et al. Computerized cognitive training in cognitively healthy older adults: A systematic review and meta-analysis of effect modifiers. Pros Med 2014;11: e1001756.2)Bonnechere B, et al. The use of commercial computerised cognitive games in older adults: a meta-analysis. Sci Rep. 2020;10:15276.3)Lampit A, et al. Computerized Cognitive Training in Cognitively Healthy Older Adults: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. medRxiv. 2020 Oct 11.4)Petersen RC, et al. Practice guideline update summary: Mild cognitive impairment: Report of the guideline development, dissemination, and implementation subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology. 2018;90:126-135.

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血尿診断で内科医も知っておきたい4つのこと―血尿診断ガイドライン改訂

 『血尿診断ガイドライン』が10年ぶりに改訂された。改訂第3版となる本ガイドラインは、各専門医はもちろんのこと、一般内科医や研修医にもわかりやすいように原因疾患診断のための手順を詳細な「血尿診断アルゴリズム」として提示した。また、コロナ禍での作成ということもあり、最終章では「新型コロナワクチンと血尿」について触れている。今回、本ガイドライン改訂委員会の事務局を務めた小路 直氏(東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学)に、内科医が血尿時の問診や専門医への紹介を行ううえで注意すべきポイントなどを聞いた。成人の血尿診断アルゴリズム、尿沈渣検査がカギ 小路氏はまず、非糸球体性血尿の鑑別が進行速度の早い尿路上皮がんの早期発見につながることから、「一般内科医でも血尿を相談された場合などには尿沈渣検査をぜひ実施してほしい」と強調した。また、「非糸球体性血尿が検出されればその後は泌尿器科が対応し、糸球体性血尿が検出された場合には腎臓内科医が対応することになる。かかりつけ医受診の段階で、非糸球体性か糸球体性かを判断することで、患者が次の受診施設の選択で迷わずに済む」とも説明した。尿沈渣検査には遠心分離機が必要だが、それを所有するクリニックは多くはないため、外注に頼らざるを得ないのが現状だろう。もちろん、診療報酬点数(尿沈渣[鏡検法]27点)が算定できるため、尿路上皮がんの早期発見ならびに、紹介先の目星をつけるためにも「尿試験紙で血尿と判断された場合には、尿沈渣検査までは実施し、可能であれば尿細胞診や腹部超音波の実施もお願いしたい。ただし、尿細胞診は悪性度が強いがんでないと検出できないことには留意いただきたい」と話した。<内科医がおさえておきたい検査>・血液検査(血清クレアチニン異常高値)・尿沈渣検査   均一赤血球(非糸球体性血尿)   血尿に加え尿蛋白や細胞円柱/変形赤血球(糸球体性血尿)・尿細胞診 (悪性度の高い尿路上皮がんでないと検出ができないことに留意)・腹部超音波検査   尿路上皮がんや腎がんの検出感度は十分でないことに留意したうえで、適応を検討 なお、肉眼的血尿を呈する(または既往のある)患者で以下の場合には、腎臓内科への早期紹介が勧められるため、特筆すべき点としてフローチャートには赤字で示されている。・cola-like urine(コーラ色の褐色尿)・高度尿蛋白および/または進行性の腎機能低下・尿路感染症を疑う所見を欠く発熱・呼吸器症状や皮膚症状など他の全身症状・腎後性因子が否定される腎機能障害抗血小板薬や抗凝固薬服用が血尿を引き起こす可能性は低い 次に同氏は、よくある患者紹介の事例として“抗血小板薬や抗凝固薬服用患者が紹介されるケース”について言及した。本ガイドラインの「BQ12:抗血小板薬、抗凝固薬を服用している顕微鏡的血尿患者に対して通常の精査は必要か?」では、これらの薬剤を服用している患者において顕微鏡的血尿が認められた場合には、服用が原因であると判断することは困難であるため、これらの薬物を服用していない患者と同様に評価を行う必要があり、リスク分類に基づく精査を考慮する、と要約されている。これについて同氏は「抗血小板薬や抗凝固薬の“出血”という副作用が血尿を連想させやすいものの、種々の研究から鑑みても抗血栓薬に起因する血尿だと判断することは難しい。なお、この件は米国・泌尿器学会のガイドラインやリスク分類も参照している。ただし、専門医にとっては、膀胱鏡検査を実施する際のリスク因子になることはポイントで、念頭に置いておく必要がある」とコメントした。ご存じですか?ビタミンCによる偽陰性 「BQ3:血尿を診断するための採尿方法はどのようにすべきか?」において、採尿前の注意事項として(1)健診など尿試験紙でのスクリーニングではアスコルビン酸(ビタミンC)が存在すると偽陰性となることがあるため、アスコルビン酸を多く含む物の摂取を控える、と記載されている。これは健診時の常識のようだが、医療者によって注意事項として触れているか否かのバラつきがあるようだ。これについて、「結果が出た後に服用状況を確認する必要はないが、医療者としては尿試験紙に影響を及ぼす点は理解しておき、検査前の患者に対し、事前にビタミンCの服用で偽陰性になる点をインフォメーションしておく必要はあるだろう」とコメントした。コロナワクチン接種後の肉眼的血尿はIgA腎症のサインか このほか、専門医がおさえておくべきCQは以下のとおり。―――CQ1:蛋白尿を合併しない成人の顕微鏡的血尿患者において腎生検で同定される病態は何か?CQ2:顕微鏡的血尿の初回精査で異常を指摘されなかった患者に対して定期的経過観察は必要か?CQ3:成人の尿路上皮がん高リスク患者の診断においてCT urographyは推奨されるか?――― 最後に新型コロナワクチンと血尿との関係について、ワクチン接種後に腎炎が再発・再燃する症例が世界的に明らかになり、とくにIgA腎症の既往者では接種後の尿でコーラ色や紅茶色を認めるとの報告がある。これらの症例には1)全例がmRNAワクチン接種後、2)女性に多い、3)遷延する腎機能障害を認める症例はごく一部で大部分は一過性の尿所見増悪に留まる、という特徴があることが国内の調査1)や前向き観察研究からも明らかになってきている。しかし、ワクチン接種が腎症の発症を助長しているわけではなく、むしろ未診断の症例が顕在化した可能性が高いことから、同氏は泌尿器科医や一般内科医に向けて「ワクチン接種後に血尿を訴えた患者が来院した場合には、既往の確認のみならず、IgA腎症の存在を疑い、腎臓内科医への相談も視野に入れて診察に当たってほしい」と述べた。

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AF伴う末期心不全、カテーテルアブレーションは?/NEJM

 心房細動を伴う末期心不全患者において、カテーテルアブレーション+薬物療法は薬物療法単独に比べ、あらゆる原因による死亡、左心補助人工心臓(LVAD)の植え込み、緊急心臓移植の複合イベント発生の可能性を低下することが、ドイツ・ルール大学ボーフムのChristian Sohns氏らによる無作為化比較試験の結果で示された。これまで同患者においてカテーテルアブレーションが果たす役割は不明であった。NEJM誌オンライン版2023年8月27日号掲載の報告。カテーテルアブレーション+薬物療法vs.薬物療法単独の非盲検無作為化比較試験 研究グループは、ドイツの医療センター1施設で、症候性心房細動を伴う末期心不全で、心移植評価のために紹介された患者を対象に、非盲検研究者主導、優越性無作為化比較試験を行った。 被験者を無作為に2群に割り付け、心房細動の治療として、一方にはカテーテルアブレーションとガイドラインに沿った薬物療法を(アブレーション群)、もう一方には薬物療法のみを行った(薬物療法群)。 主要エンドポイントは、あらゆる原因による死亡、LVADの植え込み、緊急心臓移植の複合とした。主要エンドポイント発生リスクはアブレーション群で0.24倍 アブレーション群、薬物療法群ともに97例ずつ割り付けられた。試験は、データ・安全性モニタリング委員会により、有効性を理由に、無作為化後1年で中止となった。 カテーテルアブレーションは、アブレーション群97例中81例(84%)、薬物療法群97例中16例(16%)に行われた。 追跡期間中央値18.0ヵ月(四分位範囲[IQR]:14.6~22.6)において、主要エンドポイントのイベントは、アブレーション群8例(8%)、薬物療法群29例(30%)で発生した(ハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.11~0.52、p<0.001)。あらゆる原因による死亡は、アブレーション群で6例(6%)、薬物療法群で19例(20%)だった(HR:0.29、95%CI:0.12~0.72)。 処置関連の合併症の発生は、アブレーション群で3件、薬物療法群で1件だった。

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カテコラミン誘発多形性心室頻拍〔CPVT:Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia〕

1 疾患概要カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia:CPVT)は比較的まれな疾患で、その頻度は10,000人に1人程度と言われているが正確な数は不明である1-3)。通常10歳前後で運動や興奮時、カテコラミン投与などにより心室頻拍(VT)や心室細動(VF)を発症し、若年者の失神発作や突然死の原因として重要である4)。無治療では10年生存率が60%程度と推定され2)、きわめて予後不良な疾患である。CPVT患者の安静時心電図は明らかな異常所見はなく、心臓超音波検査、CT、MRIなども正常であり、無症状のCPVT患者を通常の臨床検査から診断することは非常に難しい。一方、器質的心疾患を認めず安静時心電図では異常所見のない40歳未満で、運動もしくはカテコラミン投与により他に原因が考えられない2方向性VT(図1)、多形性VT・期外収縮(PVC)が誘発される場合には、CPVTと比較的容易に診断可能である。また、CPVT患者の60~70%に遺伝子異常がみつかり、CPVTは遺伝学的検査によっても診断可能である。図1 CPVTに特徴的な2方向性心室頻拍(矢印)と心室細動の発生2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断CPVT患者の初発症状は失神発作であり、運動あるいは感情ストレスが誘因となる1、2)。学童期の運動やストレス時の意識消失発作の場合、CPVTを疑う必要がある。最初の失神は主に7~12歳ごろで少なくとも20歳までに発生することが多い5)。初発が心停止の場合もあり、乳幼児突然死症候群や特発性心室細動の原因がCPVTであることもある。トレッドミルなどの運動負荷心電図は、CPVTを診断するうえで最も有力な検査法である(図2)3)。運動により多形性VT、2方向性VT(1拍ごとにQRSの極性が180度変わり、VT波形間の連結期がほぼ一定の頻拍)が出現し、きわめて速いVT/VFが誘発されると失神や突然死を惹起する2)。図2 CPVT1患者のトレッドミル運動負荷検査画像を拡大するA:治療前、B:β遮断薬とフレカイニド治療後、C:検査中の心拍数の変化、D:検査中のPVC数の変化。CPVTの特徴として運動負荷のピーク(心拍数>120bpm)で多形性PVCや二方向性PVC(VT)が出現する。VPB: ventricular premature beat.(島本恵子ほか. 循環器病研究の進歩. 2022;Vol.XLIII No.1:67-75.)一方、未発症(無症状)CPVTに対する臨床診断は容易ではない。2方向性VTはCPVTに特徴的で特異度は高いが、その出現率は必ずしも高くなく感度は50%程度とも言われる。さらに軽症例ではPVCの単発あるいは2段脈しか認められないことがある3)。アドレナリン(エピネフリン)負荷試験は、運動負荷試験を実施できない症例の診断のために有用と考えられるが、やはり特徴的な2方向性PVCやVTが誘発されれば診断的な特異度は高いものの、感度(誘発率)は運動負荷よりさらに低い(28%)。ホルター心電図も日常生活や学校生活上での不整脈検出に有用であるが、実際の不整脈検出率は運動負荷検査よりも低い。なお、心臓電気生理学的検査(EPS)は、CPVTの診断的価値は低く、心臓突然死のリスク評価としてEPSによるVT/VF誘発は禁忌である。鑑別診断としては、失神発作の原因である「てんかん」、パニック発作なども臨床的に鑑別が必要である。とくに「てんかん」と診断されていたが、実際には失神の原因はCPVTによる不整脈が原因であった例は多い。また、同じ遺伝性不整脈の中で先天性QT延長症候群(とくにLQT1型)、Andersen-Tawil症候群(ATS)などは、運動中の失神発作や多形性PVC、2方向性VT/PVCなどCPVTと共通点が多く遺伝子検査による鑑別が重要である。■ 遺伝学的検査CPVTの60~70%に原因遺伝子が同定され、そのほとんどが心筋リアノジン受容体(RyR)の遺伝子RYR2であり常染色体顕性遺伝形式である(表)6)。患者の病歴、家族歴、心電図所見などから臨床的にCPVTと診断あるいは疑われた患者に対して、診断確定のため遺伝学的検査が推奨(クラスI)される(ただし保険適用外)。また、家族に対しては、当該患者(発端者)においてみつかった遺伝子異常の有無を検査することが推奨される。しかし、RYR2遺伝子はエクソンが105個の巨大な遺伝子であり、健常者にも多くのバリアントが報告されている。そのほとんどはCPVTとは無関係または関係性が不明なVUS(Variant of unknown significance)である。したがってRYR2にVUSのバリアントがみつかった場合、表現型あるいは家族整合性が不明瞭な場合には安易にCPVTと診断すべきではない。RYR2の他にはCASQ2を始めCALM1、TECRL、TRDNなど複数の遺伝子が報告されているが、いずれもきわめてまれで、通常CPVTの遺伝子検査としてはRYR2(CPVT1)とCASQ2(CPVT2)が推奨される。なお、若年者の運動・ストレス時の失神発作の場合、LQT1やATSとの鑑別も重要である。臨床的にLQTSと診断または疑われたが遺伝子検査ではLQT関連遺伝子には疾患原因遺伝子を同定できない場合は、RYR2遺伝子も検査を考慮する。以上からCPVTは運動誘発性の失神発作や2方向性VTなど典型的な臨床像を呈する場合は比較的容易に診断可能であるが、逆にそうでない患者・家族などの場合には積極的に疑って負荷心電図検査などを行わないと診断は容易とは言えない。さらに遺伝学的検査も診断確定や鑑別診断に非常に有用である。表 CPVTとその類縁疾患の遺伝子画像を拡大する(日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン. 2022;62.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 生活指導CPVTと診断された場合、原則として運動(とくに競技スポーツ)は禁止すべきである。また、日常生活でも、可能な範囲で精神的・肉体的ストレスは避けることが望ましい。ただし、CPVTは運動のピーク時(心拍数≧110bpm)で心室不整脈が出現する場合が多く(図2)、逆に言えば薬物治療により心拍数が110~120まで増加しない程度にコントロールされていれば、通常の日常生活程度で不整脈による失神発作や突然死を来す可能性は低い。■ 薬物治療CPVTと診断された場合、薬物治療としてはβ遮断薬(クラスI適応)、フレカイニド(クラスIIa)の2つが有用である。一般的にはβ遮断薬が第1選択とされ、β遮断薬の中でもナドロール(商品名:ナディック)が推奨される。β遮断薬内服下でも不整脈抑制の効果不十分な場合にフレカイニド(同:タンボコール)を追加投与する。しかし、実際には多くの患者で両方の薬が必要となり、また、β遮断薬は徐脈や血圧低下、倦怠感など副作用のため十分な量を内服できない例も多く、フレカイニドの役割が重要となっている。■ 植込み型除細動器(ICD)ICDは不整脈疾患における心臓突然死を予防するもっとも優れた機器であるが、ICDによる電気的除細動によって交感神経がさらに緊張状態となり、CPVTを惹起しVFストーム化が懸念され、CPVT患者におけるICDの予後改善の効果は疑問視されている。では、薬物治療のみで絶対に安全か? との不安も完全には解消されない。現実的にはVF蘇生後患者では突然死の2次予防目的としてICD植込みが絶対適応(クラスI)とされる。問題は薬物治療下で失神発作を繰り返す場合であるが、最近発表された国際研究の結果からも、薬剤抵抗性のCPVTに対するICD植込みに肯定的な結果7)と否定的な結果8)が報告され結論は出ていない。若年者の場合、突然死予防効果とICD長期留置が及ぼすさまざまなデメリット(感染、リード断線、静脈閉塞、精神的問題など)を検討し、総合的に判断すべきと考える。4 今後の展望CPVTの家系内でRYR2遺伝子変異をもつ同胞(兄弟姉妹)の心イベント発生率は高く、両親、同胞への遺伝学的検査は患者本人のみならず、家族の心臓突然死を防ぐ早期診断、予防的治療介入に非常に有用である。遺伝学的検査の保険診療化が期待される。薬物治療として近年フレカイニドの有効性が報告されたが、β遮断薬とどちらを第1選択とすべきかについては結論が出ていない。また、今後はCPVTに対する新たな薬剤の開発が期待されている。非薬物治療としては、わが国ではあまり実施されていないが、星状神経節ブロックも有効である。今後は薬剤抵抗性患者でICD作動を回避したい患者への効果が期待される。5 主たる診療科循環器内科(できれば遺伝性不整脈専門外来)小児循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立循環器病研究センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Leenhardt A, et al. Circulation. 1995;91:1512-1519.2)Sumitomo N, et al. Heart. 2003;89:66-70.3)Lieve KV, et al. Circ J. 2016;80:1285-1291.4)Roston TM, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2015;8:633-6425)Shimamoto K, et al. Heart. 2022;108:840-847.6)Priori SG, et al. Circulation. 2001;103:196-200.7)Mazzanti A, et al. JAMA Cardiol. 2022;7:504-512.8)van der Werf C, et al. Eur Heart J. 2019;40:2953-2961.公開履歴初回2023年9月12日

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