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〔CLEAR! ジャーナル四天王(79)〕 非緊急PCI:心臓外科がなくてもアウトカムは劣らない(マサチューセッツ州の場合)

1977年Gruentzigが世界で初めて臨床応用して以来、経カテーテル冠動脈インターベンション(PCI)の進歩は留まるところを知らないように見える。しかしながら、いわゆる「質の保証(Quality assurance)」の観点から、本治療法の急速な普及と適応拡大には、懸念を示す論議も少なくない。PCIには一定の技術的修練が必要なこと、その合併症が直ちに生命を危うくしうること、そして緊急に外科的処置を行う必要がありうることが、術者や施設のあり方についての議論の根底にある。 本論文は「心臓外科部門の有無」と「非緊急PCIの予後」の関係について検証しようとする前向き無作為化非劣性試験である。主たる結果は「心臓外科部門のない施設における非緊急PCIの1年までの予後は、同部門を有する施設に対して劣らない」とするものである。こうしたメッセージはさらなるPCI施設の広がりに繋がるようにも見えるが、本邦への外挿については困難が多い。つまり、こうした「医療手順」の比較試験では、1) 極端な患者組み入れバイアスが生じやすいこと、2) 実施地域の「医療システム」から大きく影響を受けること、に注意すべきである。この要素の理解のためには、Supplementary Appendix(本論文の電子版では28ページにおよぶ)をも通読する必要があるかも知れない。 本試験の期間中、心臓外科部門のない施設で6,694例がスクリーニングされ、5,392例が組み入れ基準を満たしていたが、実際にランダム化されたのは3,691例である。組み入れ可能症例の31.5%にあたる1,701例がランダム化されなかったわけだが、彼らがどのように扱われ、どういった転帰であったか、本論文は語っていない。「行間に除外基準がある」ことは、本試験結果の解釈を曖昧にし、現場適用を難しくするだろう。 本論文は「施設」の差異とPCIのアウトカムの関係にフォーカスしているわけだが、「術者」の状況は本邦とかなり異なっている。この試験には経験に富んだ68人の「術者」が参加しているが、そのうち34人は外科のある施設のみでPCIを行ない、残りの34名は両方のタイプの施設でPCIすると記載されている。つまり外科のない施設のみでPCIをしている「術者」は1人もいないことになる。通常、「施設」と「術者」が一体である本邦では、本論文の結果を「外科のない施設でもPCIは大丈夫」などと単純に解釈出来ないことは自明であろう。 上述のごとく、いくつかの試験デザイン上の限界があり、またマサチューセッツ州以外のエリアへの外挿の困難さはあるにしても、こうした「医療手順」の適切性を検討するという、いわば「高い視点」の論文が出版される意義は大きい。本論文では施設間の治療成績のばらつきを指摘し、モニタリングやベンチマークの重要性にも言及している。残念ながら本邦では、医療の質を担保するための、医師個人や施設の資格について記載した診療ガイドラインは殆どない。

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Vol. 1 No. 1 ACSの実態-PACIFIC Registry からわかったこと

宮内 克己 氏順天堂大学医学部循環器内科はじめに本邦における急性冠症候群(ACS)を含めた虚血性心疾患は、生活習慣の欧米化に伴い増加している。その予防や、発症した場合の急性期治療、および2次予防治療は日々実践されている。しかし、この領域における技術革新や薬剤開発は目覚ましく、診断法や治療法は日々変化し、薬剤あるいは治療法の有効性を検証する大規模臨床試験も世界中で施行されている。このような試験をまとめるかたちでevidence based medicine(EBM)は形成され、やがてガイドラインが作成される。したがって、進歩する医療から形成されたガイドラインを、そのときどきの治療実態や結果である予後を調査することで検証し、現状の問題点や今後の課題を見いだすことがわれわれには求められている。一方、ACSは冠動脈の不安定プラークの破綻とそれに続く血栓形成が主因となるが、こうした病態は全身の血管で発症しうることであり、脳血管で発現すれば脳梗塞、末梢動脈であれば急性動脈閉塞と診断される。すなわち、これらの疾患はそれぞれ独立の疾患ではなく、全身の血管に広がり、生涯進行するアテローム血栓症という臨床的症候(アテローム血栓性イベント)としての概念が確立してきた。従来、ACSに限定した調査は行われているが、他臓器のアテローム血栓性イベント再発の実態まで捉える報告は少ない。そこでアテローム血栓性イベントとその危険因子に焦点を当てた国際観察研究REACH Registryが施行され、わが国からも約5,000症例が登録され、世界との比較において新たな知見が得られた。また、日本の実臨床におけるACSの治療実態と、アテローム血栓性イベントの再発の実情を把握する目的で施行された観察研究がPACIFIC Registryである。本稿では、わが国におけるアテローム血栓性イベントの発症に関する前向き観察研究であるPACIFIC(Prevention of AtherothrombotiC Incidents Following Ischemic Coronary attack)について概説する。日本における急性冠症候群(ACS)を対象に、2年間の観察期間での治療実績や予後を観察するものである。日本人の予後-REACH Registry国際大規模観察研究1)で、対象疾患は45歳以上の確定した冠疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患(2次予防患者と文中では定義する)、または1次予防ハイリスク患者で、登録時の背景、治療内容、予後を追跡した。対象患者は6万人を超える大規模なもので、登録期間は7か月、44の国、参加医師は5,587名に及んだ。2003年12月から2004年6月までの間に67,888名(うち55,499名が2次予防、12,389名が1次ハイリスク患者)が登録され、5年追跡まで学会報告されている。登録時の患者背景をみると、冠硬化症単独が59.3%と大半を占めるが、冠・脳・末梢動脈疾患単独例は全体の80.8%であり、3者の合併は1.6%であった2)。1年後の予後を心血管死、心筋梗塞、脳卒中、またはこのイベントに入院を加えたものをエンドポイントにすると、2次予防患者は1次予防患者に比べ、1年、2年ともに有意に発症率が高率であった(4.7% vs 2.3%, p

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Follow-up tests to detect recurrent disease: Patient’s reassurance or medical need? (Ian Smith, UK)

経過観察中に再発を発見するための検査:患者の安心のため?それとも医学的必要性?現在“多くの新しい治療が再発乳がんに対して利用可能となり、早く見つけることが治療において重要である“という定説がある。経過観察の理由として考えられるものは、早期発見により予後を改善する、QOLを改善する、治療の長期的な効果をみる、長期経過観察データを集める、BRCAのようなハイリスクにおける新規病変を検出する、である。集中的な経過観察は利益があるかということに関して3つの無作為化比較試験があり、3,055名の女性が登録されたが、生存率、無再発生存率に差はなく、年齢や腫瘍径、リンパ節転移状況によっても5年の死亡率に差がなく、QOLにも違いがなかった。Pelliら(1999年)は1,243名の患者からなる比較試験で、10年生存率にまったく差がないことを示した。Kokkoら(2005年)はフィンランドにおいて472名の患者を4群(i.3ヵ月毎受診+定期検査、ii.3ヵ月毎受診、iii.6ヵ月毎受診+定期検査、iv.6ヵ月毎受診)、に分けて経過観察したところ(定期検査の内容は、来院毎に血算/生化学/CA15-3、6ヵ毎月に胸部レントゲン、肝USと骨シンチを2年毎)、無再発生存率、全生存率ともに差はなく、コストは3ヵ月と6ヵ月で1,050から2,269ユーロへ、定期検査なしとありとで、1つの再発を見つけるのに4,166から9,149ユーロへ上昇した。それでは患者の安心のために定期検査を行うのか。QOLには差はなく、定期検査で10~15%の偽陽性があり、患者は検査による不安を増していて、むしろ余計な資金を用いることなく必要に応じて受けることを希望している。それにもかかわらず、なぜ患者は定期的な経過観察と検査を行いたがるのか。それは、医師、慈善活動、あるいはメディアがそうするのがよいと言っているからである。しかし、適切に説明したらそうはならないだろう。Pennantら(2010年)は、早期乳がんにおいてPET-CTのステージングについて28の研究をレビューしているが、診断精度は改善したものの、患者の予後が改善したというエビデンスはなかった。Augusteら(2010年)は2つの経済研究から1QALYあたり50,000ユーロ上昇するとした。現在ASCO、ESMO、St Gallenのいずれのガイドラインも、注意深い病歴の聴取、身体検査、定期的なマンモグラフィが、乳がん再発の適切な発見のために推奨されるとしている。身体検査は最初の3年は3~6ヵ月、4~5年は6~12ヵ月毎であり、マンモグラフィは1年毎である。血算、生化学、骨シンチ、胸部レントゲン、肝臓超音波、CT、18FDG-PET、MRI、腫瘍マーカー(CEA、CA15-3、CA27.29)は、無症状の患者に対して定期的に行うことは推奨されていない。それでは誰が経過観察をすることが大切であろうか。Grunfeldら(2006年)は、968名の患者を腫瘍専門医と家庭内科医による経過観察に無作為に割り付け、中央値で3.5年追跡したところ、再発、死亡、QOLともに有意な差はみられなかった。Koinbergら(2004年)は、264名の患者を腫瘍専門医と看護師による経過観察に割り付け5年追跡したが、やはり再発、死亡、QOLともに差がなかった。Meyerら(2012年)は、Dana Farberにおいて547名中218名の早期乳がん患者で、少なくとも診断から2年以上経過している方に質問票に答えてもらったところ、腫瘍内科医による経過観察を好む傾向にはあったものの、家庭内科医やナースプラクティショナーともに問題はなかった。ほとんどの方は電話相談を好んでおらず、ナースプラクティショナーによる経過観察はQOLとサバイバーケアを改善させる1つの方法であることを示した。Royal Marsden病院の経験では、ほとんどの再発は患者自身が自覚し、通常定期的な予約の間であった。より多くの女性は以前よりも乳がんから生存するようになり、経過観察のクリニックも大きくなっており、患者はこれらのクリニックで若い医師が診るようになっている。定期的な経過観察は、しばしば心配を引き起こし、予約がそれほど先でなければ患者からの症状の報告は遅れるかもしれない。最初の2年に2,232名の患者から問い合わせがあり、月平均で55回の電話があり、乳房の症状が40%、更年期症状が20%、再建のことが15%、精神社会的サポートが15%であった。そのうち10~15%がクリニックへの来訪を必要とし、多くが乳房の腫瘤であった。現在、より感度の高い検査法として末梢血中の腫瘍細胞や血清中の腫瘍由来DNAの検出があり、また標的治療が臨床応用されている。Dielら(2008年)らは、大腸がん18名で術後に血中変異DNAを測定し、検出されたものはされなかったものより、有意に無再発生存率が不良であることを示した。分子標的治療の時代に高い技術による経過観察ははたして利益があるだろうか。それを証明するためには次世代の無作為化試験が必要である。レポート一覧

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(72)〕 腹部大動脈瘤の瘤径に応じた適切なサーベイランス間隔は?

この論文は腹部大動脈瘤のサーベイランス18論文を、1万5,471例の患者データを、瘤径はランダム効果モデル、破裂率は比例ハザード回帰を用いて統合解析したものである。 結果は、男性で瘤径3.0㎝では平均1.28㎜/年、5.0cmでは平均3.61mm /年拡大する。女性は4倍破裂率が高く、喫煙者と非糖尿病患者の拡大速度が大きいという文献より、解剖学的構造、性ホルモン、喫煙歴が関与した結果と推察される。男性4.5㎝の破裂率は女性5.5㎝と同等であり、女性の4.5~5.5㎝の自然経過を調べる必要がある。男性で破裂率を1%以下にするには3.0~3.9㎝で36ヵ月毎、4.0~4.4㎝では24ヵ月毎、4.5~5.4㎝では12ヵ月毎の超音波検査で十分であるという結論である。 各国のサーベイランス間隔は、英国が最短で3.0~3.4㎝は12ヵ月毎、4.5~5.4㎝で3ヵ月毎、米国が最長で3.0~3.4㎝は36ヵ月毎、3.5~4.4㎝は12ヵ月毎、4.5~5.4㎝は6ヵ月毎であり、米国より間隔が長くても良いということになる。日本では、最大横径>5cm、拡張速度5mm/6ヵ月、腹痛背部痛の症状、感染性動脈瘤に対して手術を行うことが多い(2011年大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインではエビデンスレベルC)。体格を考慮して欧米より0.5cm径が小さい5cmで手術としているがエビデンスはなく、サーベイランス間隔も前出の英国に類似して頻回であるのが現状である。 この研究の強みは、大規模データを1つの解析にまとめた点であるが、解釈上の問題点は破裂がすべて捉えられているか不明な点、また費用と心配によるQOL低下の評価が抜けている点である。今後、性別やリスクに応じた個別サーベイランス間隔の解明が待たれる。

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第1位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内海外国内1位 多学会、多科、多職種にまたがる連携がますます必要にこれまで見てきたように、とくに抗凝固療法においては、循環器系の学会だけでなく、神経内科、血液内科、消化器内科、歯科など多科にわたる連携の動きが見られるようになっています。前述の消化器内視鏡診療ガイドラインの策定メンバーもそうですが、たとえば日本循環器学会、日本脳卒中学会、日本血栓止血学会などでは、それぞれの分野のエキスパートが出席してのシンポジウムが増えています。心房細動患者の増加とともに、プライマリ・ケア医の抗凝固療法に占める役割はますます大きくなり、プライマリ・ケア医と専門医との連携もさらに重要さを増していくでしょう。血栓と出血というリスクのバランスをどう考え、どう対処するか。この問題は単に医師間で調整する問題ではなく、もちろん患者さんと医師、医療者との間でどう合意形成をするかの問題です。そこに看護師、薬剤師も含めた多職種で関わって行くことが、今後ますます必要になってくると思われます。海外1位 ESCガイドラインの改定~抗凝固薬の敷居を明確に規定1位は何といっても、昨年(2012年)8月に欧州心臓病学会(ESC)の心房細動マネジメントガイドライン1)がアップデートされたことです。このガイドラインの最大の特徴は、抗凝固療法の敷居が低く設定されたということです。従来頻用されていたCHADS2スコアは姿を消し、CHA2DS2-VAScスコア1点以上の患者のほとんどに抗凝固薬が推され、しかもより新規抗凝固薬に推奨度の重みが付けられたものとなっています。一方で同スコア0点(女性のみが該当する例も含む)には抗凝固療法は推奨されないことも明確に述べられています。もうひとつ同ガイドラインの特徴は、今回も「65歳以上の患者における時々の脈拍触診と、脈不整の場合それに続く心電図記録は、初回脳卒中に先立って心房細動を同定するので重要」と改めて強調するなど、プライマリ・ケア医の視点に立ったものであるということです。新規抗凝固薬を推し過ぎの感もありますが、今後の抗凝固療法の方向性を明確に示した、必読のガイドラインと思われます。 また米国胸部専門医学会(American College of Chest Physicians ;ACCP)の抗血栓療法ガイドラインやカナダの心血管協会(CCS)のガイドラインも改訂されていますが、いずれも抗凝固薬の適応を拡大する内容になっています。 来年度はいよいよ日本のガイドライン改訂が待たれるところです。1)Camm AJ, et al. Europace. 2012; 14: 1385-1413.

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募集した質問にエキスパートが答える!心房細動診療 Q&A (Part.2)

今回も、4つの質問に回答します。「抗凝固薬服薬者が出血した時の対処法」「抗血小板薬と抗凝固薬の併用」「レートコントロールの具体的方法」「アブレーションの適応患者と予後」ワルファリンまたは新規抗凝固薬を服薬中に出血した場合、どのように対処すべきでしょうか?中和方法等を含めて教えてください。緊急の止血を要する場合の処置法は図5のとおりです。まずは、投与中止し、バイタルサインを見ながら止血と補液を行います。脳出血やくも膜下出血の場合には十分な降圧を行います。最近、Xa阻害剤の中和剤(PRT4445)が開発され、健常人を対象に臨床研究が始まることが報告されました。今後の結果が待たれます。ダビガトランは透析可能とされておりますが、臨床データは十分ではなく、また出血の起きているときに太い透析用のカテーテルを留置するのはあまり現実的ではないでしょう。図5.中等度~重度の出血(緊急の止血を要する場合)画像を拡大する虚血性心疾患既往例など抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合、どのような点に注意すべきでしょうか?抗血小板薬2剤+抗凝固薬1剤という処方パターンなどは許されますでしょうか?大変悩ましい質問です。抗血小板薬と抗凝固療法の併用は、出血事故を増加させます。このため併用者が受診した時には、出血がなかったかどうかを毎回問診します。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2010年ガイドラインには、虚血性心疾患で抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合の治療方針が掲載されております(表2)。その指針には、(1)HAS-BLED出血スコアを考慮し、次に(2)待機的に加療する狭心症か、あるいは緊急で治療を要する急性冠症候群か、そして(3)ステント性状がベアメタルか薬剤溶出性か、の3つのステップを踏んで薬剤の種類と投与期間を決定すると示されています。確かに合理的と思いますが、これには十分なエビデンスがないことより、今後の検証を待つべきでしょう。しかしながら、個人差があると思いますが、原則としてステント留置後1年が経過したらワルファリン単剤で様子を見たいと思います。ただし、新規抗凝固薬についての言及はありません。表2.心房細動+ステント症例の抗血栓療法画像を拡大するレートコントロールを具体的にどのように行えばよろしいでしょうか?(薬剤の選択、β遮断薬の使い方、目指すべき脈拍数等)レートコントロールは洞調律の維持を切望しない、すなわち心房細動症状があまり強くない人に行うことが主です。しかしながら、リズムコントロール薬と併用することもありますし、反対にリズムコントロール薬よりもレートコントロール薬の方が有効である症例も経験します。まず、心機能別の薬剤使い分けを表示します(表3)。高齢者は薬物の代謝能力が落ちていることがありますので、投与前には肝・腎機能を調べるとともに、併用薬がないかどうかも確認します。まず表3に記載された薬剤は少量から使用すべきでしょう。たとえばジギタリスは常用量の半量から使用し、β遮断薬は(分割や粉砕などの手間がかかりますが)常用量の1/4 ~1/2量から開始します(最近は低用量製剤も使用可能です)。ベラパミルは朝と日中の2回のみ使用します。投与後は過度な徐脈になっていないかどうかを、自覚症状とホルター心電図で検討します。私は、夜間の最低脈拍数は40台まで、また、3秒までのポーズは良しとしております。動いたときに息切れがひどくなったと言われれば中止することもあります。喘息のある場合はジギタリスかCa拮抗薬がお勧めですが、ベータ1選択性の強いビソプロロールは投与可能とされます。目標心拍数についてはRACE II試験が参考になります(NEJM 2010)。この試験では、レートコントロールは厳密に行うべきか(安静時心拍数が80/分未満で、かつ日常活動時に110/分未満)、あるいは緩徐でよいか(安静時心拍数が110/分未満であれば良しとする)の2群に分けて3年間の予後を比べました。その結果、2群間に死亡や入院、およびペースメーカ植込みなどの複合エンドポイントに有意差はなかったことより、レートコントロールは緩めで良いと結論付けられました。その後のサブ解析(JACC 2011)、左房径や左室径のりモデリング(拡大)は、レートコントロールの程度で差はないことが報告されました。白衣高血圧と同様の現象で、診察時や心電図をとるときに緊張すると、心拍数はすぐに増加します。しかしながら、いつも頻脈が続く場合や、頻脈による症状が強い時には、何か疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。たとえば、COPD、貧血、甲状腺機能亢進症、および、頻度は低いのですがWPW症候群に合併した心房細動(頻脈時にQRS幅が広い)のこともありますのでレートコントロールがうまくいかない場合には専門医を受診させるとよいでしょう。薬剤によるレートコントロールがうまくいかない場合には、房室結節をカテーテルアブレーションによって離断し、同時にペースメーカを植込むこともあります。表3.心機能別にみた薬剤の使い分け画像を拡大するアブレーションはどのような患者に適応されますか?また、長期予後はどうでしょうか?教えてください。機器の改良と経験の積み重ねによってアブレーションの成功率は高くなってきました。この結果、適応範囲は拡大し、治療のエビデンスレベルは向上しております。日本循環器学会のガイドラインでは年間50例以上の心房細動アブレーションを行っている施設に限ってはClass Iになりました。すなわち内服治療の段階を経ることなく、アブレーションを第一選択治療法として良いとしました。しかながら、心房細動そのものは緊急治療を要する致死性不整脈ではありません。このため、アブレーションの良い適応は心房細動が出ると動悸症状が強くてQOLが低下する患者さんでしょう。心房細動がでると心不全に進展する場合も適応です。最近は、マラソンブームをうけて一般ランナーやジムでトレーニングを続けるアスリートなどが心房細動を自覚して紹介来院される人が増えてきたように思います。心房細動がでるとパフォーマンスが落ちて気分が落ちるためにアブレーションを希望されるようです。現時点では、心房細動アブレーションに生命予後の改善や脳梗塞の予防効果があるかどうかのエビデンスがそろったわけではありません。図6のようにアブレーションを一回のみ施行した場合は5年間の追跡で約半数が再発します(左)。再発に気付いて追加アブレーションを行うことにより洞調律維持効果が上がります(右)。発生から1年以上持続した持続性心房細動や左房径が5cmを超えている場合は再発率が高いため、最初から複数回のアブレーションを行うことも説明します。また、合併症は0ではありません。危険性を十分説明し、患者さんが納得したところで施行すべきです。アブレーションが成功したと思ってもその後に無症候性の心房細動が発生していることも報告されておりますので、CHADS2スコアにしたがって抗凝固療法を継続することも必要でしょう。また、最近は図7のようにCHADS2スコアが心房細動アブレーションの効果を予測するとする報告がなされました。CHADS2スコアが1を超えると再発率が高く、追加アブレーションが必要とされるようです。図6.洞調律維持効果(中期)画像を拡大する図7.CHADS2スコアと洞調律維持効果(長期)画像を拡大する

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新品の靴が原因の接触皮膚炎、アレルゲンは?

 スロバキア・コメニウス大学のDanka Svecova氏らは、重症のアレルギー性接触皮膚炎(ACD)を呈した9例の患者の原因調査を行った結果、全員に共通することとして新品の靴を履いていたことが浮かび上がり、アレルゲンについて調べた結果、防カビ剤の小袋に含まれていたフマル酸ジメチル(DMF)が特定されたことを報告した。欧州では、フマル酸ジメチルを防カビ剤として使用することを禁じる予防対策がすでに講じられており、著者は「症例数を増やさないためにも、同対策を徹底する必要がある」と警告を発した。International Journal of Dermatology誌オンライン版2013年2月22日の掲載報告。 DMFは防カビ剤として有用である一方、強力な感作性物質であり、低濃度でも重症ACDを引き起こす可能性があることが知られる。欧州では、家具等の接触皮膚炎の原因物質として特定されており、防カビ剤としてDMFを使用する禁止措置が勧告されているという。 本研究では、靴の接触皮膚炎がみられた患者について、DMFとの関連を調べることを目的とした。 パッチテストとアレルゲンの特定調査を行い(試料は履いていた靴、DMF製品、欧州ベースライン、靴のスクリーニング、織物・皮革の染色材スクリーニング、工業用殺虫剤シリーズ)、得られた結果は国際ガイドラインに即して記録した。靴および防カビ剤の小袋中のDMF含有量の分析については、ガスクロマトグラフィと質量分析によって行った。 主な結果は以下のとおり。・被験者は、重症ACDを呈し靴の接触皮膚炎が疑われた9例のスロバキア人(コーカサソイド)であり、全員が女性であった。・陽性パッチテストにおいて、靴の内張りに使われていた布について検証した際に、全患者が遅延型のアレルギー反応を呈した。・7例の患者が0.1%DMFのパッチテストを受け、全員が陽性反応を示した。・入手した被験者の靴を化学分析した結果、DMFが非常に高濃度に含有されていること(25~80mg/kg)が明らかになった。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(69)〕 慢性心不全と貧血を考える際のlandmark studyとなるか?!

慢性心不全の定義は研究者により異なるが、「慢性心疾患のため心臓のポンプ機能が低下し、結果として容易にうっ血性心不全状態に陥ったり重症不整脈の発生がみられる予後不良の状態」というコアな部分においては異論がないと思われる。 心血管系の第一の役割は諸臓器に酸素を送り届けることである。したがって、その運搬媒体であるヘモグロビンの不足(=貧血)の存在は、脆弱化した循環系に対して慢性的に過運動を強いるものであり、予後不良因子になると推測されたのは一見自然なことであったように思われるであろう。 ところが、実際にはこの問題については専門家の間でも意見が長く分かれ、Groenveldらがメタアナリシスにより貧血が慢性心不全患者の予後不良を予測する因子であることを示すには2008年を待たねばならなかった(Groenveld HF et al. J Am Coll Cardiol. 2008; 52: 818-827.)。彼らは1966~2007年に発表された34試験、15万3,180例を分析することにより、収縮不全型、拡張不全型いずれの慢性心不全においても、貧血が予後不良の予測因子であることを明らかにした。 しかし彼らは、貧血の治療が慢性心不全の予後改善に結びつくか否かについては慎重に発言を控えた。その時RED-HF試験、つまり本試験が進行中であり、その結果が発表されることで、結論が出されるだろうと考えたからだった。一般的に、ある因子を予後規定因子と断定するには、その因子を持っていると予後が悪いということを示すだけでは不十分で、その因子を改善もしくは除去することにより予後の改善が得られることを証明する必要があるからである。 本試験は、収縮不全型の慢性心不全を対象として、第2世代の持続型赤血球造血刺激因子製剤であるダルベポエチンアルファを用いてHbレベルを上げることにより、その予後を改善できるかどうかを検討したものである。以下に整理しておくと、1) 対象 NYHAII~IVの症状を有し、LVEF≦40%であり、血中Hbレベルが9.0~12.0g/dLの収縮障害型の慢性心不全患者でガイドラインに準じた適正な治療を受けている2,278例。2) 除外基準 ・鉄欠乏性貧血 ・クレアチニン3mg/dL以上の中等症・重症腎不全患者 ・160/100 mmHg以上の高血圧を有する患者3) 方法 患者を無作為二重盲検的に2グループに分け、1,136例に対してはダルベポエチンアルファを投与し、Hbレベルを13.0g/dLまで上げる。残り1,142例に対しては偽薬を投与する。4) 観察期間 2006年6月~2012年5月5) エンドポイント 一次エンドポイント:全死亡(原因を問わない)・心不全悪化による入院の複合 二次エンドポイント:心血管系による死亡・心不全悪化による初回入院の複合6) 結果 ・一次エンドポイント、二次エンドポイントともに差がみられなかった ・ダルベポエチンアルファ投与群で血栓性のイベントが有意に多かった 以上より著者らは、(1) 慢性心不全患者に頻繁にみられる軽症~中等症の貧血の改善は慢性心不全の予後を改善しない(2) 持続型赤血球造血刺激因子製剤により貧血の改善をはかることは、かえって血栓性イベントを増加させる危険がある(3) 慢性心不全患者に見られる軽症~中等症の貧血は慢性心不全の予後を予測できるという意味からはsurrogate markerではあるが、true risk factorではないと結論した。 本研究は統計的に周到にデザインされ、かつ現段階における倫理問題の制約もないため、偽薬との完全二重盲検試験が実施されたもので、そのデータは大変説得力のあるものになっている。読者の皆さんは日常の臨床の感覚と照らし合わせて、どのように感じられただろうか。 筆者は本研究を、慢性心不全と貧血を考える際の重要な研究として位置づけられるものであると考え、将来landmark studyとして振り返られる試験となるのではないかと予想する。

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第2位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内海外国内2位 第2、第3の新規経口抗凝固薬の発売~プライマリ・ケアへのさらなる普及はなるか2011年のダビガトラン(商品名:プラザキサ)に続き、新規抗凝固薬として2012年5月にリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)が上市されました。同薬は初のXa因子阻害薬であり、1日1回投与である点、日本独自の臨床試験を経て他国にはない用量設定がなされている点、代謝や半減期の点などで先行のダビガトランとの間に性格の違いがあります。また12月には第3の新規抗凝固薬アピキサバン(商品名:エリキュース)が製造承認されました。同薬もXa因子阻害薬であり、腎排泄率が低い点やARISTOTLE試験での優れた成績などが特徴です。このように抗凝固薬は、さらに選択肢が広がってきたわけですが、反面、使い分けをどうするか、それぞれの薬剤でのモニタリングや使用上の注意点、出血リスクへの対処法など習熟すべき知識は増える一方です。プライマリ・ケアの現場では、いまだに腎機能等の評価なく漫然と新規抗凝固薬が投与されているケースがあるように思われます。選択肢が増えるにつれ、ますます使うべきケース、使ってはならないケースなどに関する知識の共有が不可欠になると思われます。海外2位 心房細動の早期診断ツールの開発が進む~unmet needsに答えられるか?抗凝固薬の重要性はうるさいほど喧伝されていますが、一方、心房細動には無症候性のものが10~25%も存在すると言われており、その中にはCHADS2スコアの高い人も含まれているはずです。また、脳卒中の4分の1は原因のわからない、いわゆる“cryptogenic”strokeであり、その多くは事前に診断されていない心房細動からの心原性脳塞栓と推測されます。よって、抗凝固療法早期開始、そして心原性脳塞栓の発症抑制につなげるための無症候性心房細動の早期診断の必要性から、いくつかの診断ツールに関するエビデンスが、今年度次々に出されました。ひとつめは、30日程度装着し、イベント発生時にのみ記録されるイベントトリガー型のホルター心電計です。今年の国際脳卒中学会でEMBRACE試験の結果が公表され、通常のホルター心電図に比べて検出率が高いことが報告されました。2つ目は、日本の現場でも頻用されている携帯型心電計です。症状のないときでも1日2回、30日程度記録し続けることの有用性が示されました。3つ目はカテーテルアブレーション後の再発同定などに使われる植込み型のループレコーダーです。皮下植込み型で侵襲を伴いますが、検出率は非常に高いです。これらのツールを使わずとも、プライマリ・ケア医として強力な武器があります。そう、「脈を取る」ことです。前述したようにESCガイドラインでもその重要性が改めて強調されています。さて、そうして苦労して無症候性心房細動を見つけたとき、最後に残った問題は、まったく症状のない患者さんと抗凝固療法の合意をどう形成するかという難題です。今後このようなツールが開発されればされるほど、コミュニケーションの重要性が増していきます。1)Prevalence of unknown atrial fibrillation in patients with risk factors. Europace (2012)doi: 10.1093/europace/eus366

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腰痛患者の椎体骨折スクリーニングで“レッドフラッグ”の診断精度は低い

 各国の腰痛診療ガイドラインでは、椎体骨折など追加検査や特別な治療を要する病変を有している可能性が高い患者を特定するため“レッドフラッグ”の使用を勧告している。しかし、オーストラリア・シドニー大学のChristopher M Williams氏らによるシステマティックレビューの結果、ほとんどのレッドフラッグが椎体骨折のスクリーニングには役に立たないことが明らかとなった。レッドフラッグを複数組み合わせた場合は有用性が改善する可能性はあるものの、多くは偽陽性率が高く、レッドフラッグに基づいた腰痛の診療は医療費と治療成績に影響するだろうとまとめている。Cochrane database of systematic reviews 2013年1月31日掲載の報告。 腰痛患者における椎体骨折のスクリーニングに関する“レッドフラッグ”の診断精度を評価することを目的とした。 電子データベースから主要な研究論文ならびに被引用・引用論文を検索し(最も初期から2012年3月7日まで)、腰痛患者の既往歴や検査結果を参照基準(画像診断)の結果と比較した研究を2名のレビュアーが別々に選択した。 3名のレビュアーがそれぞれ、11項目からなる診断精度研究の質評価(QUADAS)ツールを用いてバイアスリスクを評価するとともに、研究デザインの特性、患者、指標検査および参照基準に関するデータを抽出して各検査に関する尤度比を算出し、臨床的有用性の指標とした。 主な結果は以下のとおり。・8件の研究(プライマリ・ケア4件、二次医療1件、三次医療[救命救急]3件)がレビューに組み込まれた。・バイアスリスクは中等度で、指標検査と参照基準の報告は不良であった。・椎体骨折の有病率は、プライマリ・ケアで0.7~4.5%、3次医療で6.5~11%であった。・指標検査は29種あったが、2件以上の研究で採用されたのは2種だけであった。・陽性尤度比が得られた“レッドフラッグ”は、プライマリ・ケアでは3項目あったものの大部分は不正確であった(著しい外傷、年齢[高齢]、ステロイド使用:尤度比推定値範囲はそれぞれ3.42~12.85、3.69~9.39、3.97~48.50)。一方、3次医療では1項目であった(挫傷/擦過傷:尤度比推定値31.09、95%CI:18.25~52.96)。・複数の“レッドフラッグ”の組み合わせは、陽性尤度比が大きく単独より有用と思われた。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第3位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内3位 ダビガトランの使用法に関する知の集積が進む〜このまま安住してよいのか?ダビガトラン(商品名:プラザキサ)は発売から2年近くが経過し、現場での使用経験がある程度蓄積されてきたように思われます。とくに日本では、心臓血管研究所からaPTTがモニタリング(チェック)に有効であるとの論文1)が発表され、施設基準上限の2倍を超えない範囲での使用が浸透されつつあります。またRE-LY試験のサブ解析が数多く発表されるようになり、とくにアジア人を対象としたRE-LY ASIA試験2)では、アジア人のダビガトランによる消化管出血は少ないことが報告されています。このように比較的安全に使用できるようになってきたダビガトランですが、aPTTよりもより施設間のばらつきが少なく、血中濃度との相関がよい指標の登場が望まれます。またダビガトランが使用できない腎機能低下例、高齢者などにおいて、むしろワルファリンのありがたみを実感する場面も多くなりました。抗凝固薬の世界は、ワルファリンの使い方を知って初めて新規抗凝固薬も使いこなすことができる、いわゆる温故知新であると同時に「温新知故」というべき状況でもあると思われます。1)Suzuki S,et al.. Circ J. 2012;76:755-757.2)Hori M, et al. Efficacy and safety of dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation: Analysis in Asian population in RE-LY trial. Presented at the 2nd Asia Pacific Stroke Conference, 11 September 2012.海外3位 WOEST試験~トリプルテラピーは避けられるか?抗凝固薬服用中の心房細動患者さんにPCIを施行することになった。あるいは薬剤溶出ステント後、抗血小板薬2剤服用中の方が心房細動になった。このようなケースが年々増えていますが、抗凝固薬+抗血小板薬2剤併用のいわゆるトリプルテラピーは出血合併症が多く、現場での悩みの種でした。「抗血小板薬1剤だけのダブルテラピーでもよいのでは?」といった臨床上の疑問に答えるべくデザインされたWOEST試験1)の結果が最近発表されました。トリプルテラピーの方がクロピドグレルとの併用であるダブルテラピーより出血合併症は有意に多く、塞栓症は同等という結果でした。薬剤溶出ステントに特化したものではなく、オープンラベル試験であるなどの制約はありますが、今後ガイドラインなどに影響を与える試験として注目したいと思います。1)Dewilde WJ, et al. Lancet. 2013 Feb 12. [Epub ahead of print]

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第12回 添付文書 その1:「添付文書」の解釈、司法と臨床現場の大きな乖離!

■今回のテーマのポイント1.医薬品の使用において、添付文書の記載に反した場合には、特段の合理的理由がない限り、過失が推定される2.「特段の合理的理由」の該当性判断は、判例により幅があることから、一定のエビデンスを確保したうえで行うことが安全といえる3.その場合においては、インフォームド・コンセントの観点から、患者に対し適切な説明がなされるべきである事件の概要7歳男性(X)。昭和49年9月25日午前0時30分頃、腹痛と発熱を訴え、救急車にてA病院を受診し、経過観察及び加療目的にて入院となりました。その後、同日午後3時40分まで保存的治療を行っていたものの、化膿性ないし壊阻性の虫垂炎と診断されたため、虫垂切除手術を行うこととなりました。Y医師は、自身と看護師3名、看護補助者1名とで、Xに対する虫垂切除術を行うこととしました(麻酔科医不在)。Y医師は、同日午後4時32分頃、Xに対し腰椎麻酔として0.3%のジブカイン(商品名: ペルカミンS)1.2mLを投与しました。Y医師は、A看護師に対しては、Xの脈拍を常時とるとともに、5分ごとに血圧を測定して自身に報告するよう指示し、B看護師に対しては、Xの顔面等の監視にあたるよう指示し、午後4時40分より執刀を開始しました。午後4時45分頃、Xの虫垂の先端が後腹膜に癒着していたため、Y医師が、ペアン鉗子で虫垂根部を挟み、腹膜のあたりまで牽引したところ、Xが「気持ちが悪い」と訴えました。同時に、A看護師が「脈拍が遅く弱くなった」と報告しました。Y医師が、Xに対し、「どうしたぼく、ぼくどうした」と声をかけましたが、返答はなく、Xの顔面は蒼白で唇にはチアノーゼ様のものが認められ、呼吸はやや浅い状態で意識はありませんでした。A看護師から、血圧は触診で最高50mmHgであると報告されました。午後4時47分には、Xは心肺停止となり、Y医師および応援に駆け付けた医師らによる蘇生処置が行われた結果、午後4時55分には、Xの心拍は再開し、自発呼吸も徐々に回復しましたが、残念ながらXの意識が回復することはありませんでした。Xは、その後、長期療養を行いましたが、脳機能低下症のため意思疎通は取れず、寝たきりのため全介助が必要な状態となりました。これに対し、Xおよび両親は、A病院およびY医師らに、9,400万円の損害賠償の請求を行いました。第1審では、検査、腰麻の選択、手術方法、術中の管理、救急措置のいずれにおいても、過失を認めることはできないとして請求を棄却しました。第2審においては、Xの血圧低下は、Y医師が虫垂をペアン鉗子で挟んだことによる迷走神経反射が起因しているとして、その場合、仮にペルカミンS®の添付文書記載通り2分ごとに血圧を測定していたとしても、午後4時45分以前にはXの血圧に異状は認められないことから、添付文書の記載に従わなかったこととXの血圧低下との間には因果関係がないとして原告らの請求を棄却しました。この原審に対し、原告らが上告したところ、最高裁は、午後4時45分に脈拍が低下した時点で、Xの唇にチアノーゼ様のものが認められたことから、Xの血圧低下の原因は、迷走神経反射だけでなく、ペルカミンS®による腰麻ショックも存在していたとし、下記の通り判示し、原判決を破棄し、原審に差し戻しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過7歳男性(X)。昭和49年9月25日午前0時30分頃、腹痛と発熱を訴え、救急車にてA病院を受診し、経過観察および加療目的にて入院となりました。その後、同日午後3時40分まで保存的治療を行っていたものの、化膿性ないし壊阻性の虫垂炎と診断されたため、虫垂切除手術を行うこととなりました。Y医師は、自身と看護師3名、看護補助者1名とで、Xに対する虫垂切除術を行うこととしました(麻酔科医不在)。Y医師は、同日午後4時32分頃、Xに対し腰椎麻酔として0.3%ペルカミンS® 1.2mLを投与しました。 なお、麻酔実施前のXの血圧は112/68mmHg、脈拍は78/分であり、麻酔後3分(午後4時35分)の血圧は124/70mmHg、脈拍は84/分でした。Y医師は、A看護師に対しては、Xの脈拍を常時とるとともに、5分ごとに血圧を測定して自身に報告するよう指示し、B看護師に対しては、Xの顔面等の監視にあたるよう指示し、午後4時40分(40分時点での血圧122/72mmHg)より執刀を開始しました。午後4時45分頃、Xの虫垂の先端が後腹膜に癒着していたため、Y医師が、ペアン鉗子で虫垂根部を挟み、腹膜のあたりまで牽引したところ、Xが「気持ちが悪い」と訴えました。同時に、A看護師が「脈拍が遅く弱くなった」と報告しました。Y医師が、Xに対し、「どうしたぼく、ぼくどうした」と声をかけましたが、返答はなく、Xの顔面は蒼白で唇にはチアノーゼ様のものが認められ、呼吸はやや浅い状態で意識はありませんでした。この時点で、A看護師から、血圧は触診で最高50mmHgであると報告されました。午後4時47分には、Xは心肺停止となり、Y医師および応援に駆け付けた医師らによる蘇生処置が行われた結果、午後4時55分には、Xの心拍は再開し、自発呼吸も徐々に回復しましたが、残念ながらXの意識が回復することはありませんでした。Xは、その後、長期療養を行いましたが、脳機能低下症のため意思疎通は取れず、寝たきりのため全介助が必要な状態となりました。事件の判決「本件麻酔剤の能書には、「副作用とその対策」の項に血圧対策として、麻酔剤注入前に1回、注入後は10ないし15分まで2分間隔に血圧を測定すべきであると記載されているところ、原判決は、能書の右記載にもかかわらず、昭和49年ころは、血圧については少なくとも5分間隔で測るというのが一般開業医の常識であったとして、当時の医療水準を基準にする限り、被上告人に過失があったということはできない、という。しかしながら、医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。そして、前示の事実に照らせば、本件麻酔剤を投与された患者は、ときにその副作用により急激な血圧低下を来し、心停止にまで至る腰麻ショックを起こすことがあり、このようなショックを防ぐために、麻酔剤注入後の頻回の血圧測定が必要となり、その趣旨で本件麻酔剤の能書には、昭和47年から前記の記載がされていたということができ(鑑定人によると、本件麻酔剤を投与し、体位変換後の午後4時35分の血庄が124/70、開腹時の同40分の血圧が122/72であったものが、同45分に最高血圧が50にまで低下することはあり得ることであり、ことに腰麻ショックというのはそのようにして起こることが多く、このような急激な血圧低下は、通常頻繁に、すなわち1ないし2分間隔で血圧を測定することにより発見し得るもので、このようなショックの発現は、「どの教科書にも頻回に血圧を測定し、心電図を観察し、脈拍数の変化に注意して発見すべしと書かれている」というのである)、他面、2分間隔での血圧測定の実施は、何ら高度の知識や技術が要求されるものではなく、血圧測定を行い得る通常の看護婦を配置してさえおけば足りるものであって、本件でもこれを行うことに格別の支障があったわけではないのであるから、Y医師が能書に記載された注意事項に従わなかったことにつき合理的な理由があったとはいえない。すなわち、昭和49年当時であっても、本件麻酔剤を使用する医師は、一般にその能書に記載された5分間隔での血圧測定を実施する注意義務があったというべきであり、仮に当時の一般開業医がこれに記載された注意事項を守らず、血圧の測定は五分間隔で行うのを常識とし、そのように実践していたとしても、それは平均的医師が現に行っていた当時の医療慣行であるというにすぎず、これに従った医療行為を行ったというだけでは、医療機関に要求される医療水準に基づいた注意義務を尽くしたものということはできない」(最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁)ポイント解説今回と次回は添付文書の法的意義について解説いたします。第1回のポイント解説で示したように、民事医療訴訟における過失とは、一般的には「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」に満たない診療のことをいいます。しかし、この文言をいくら眺めたところで、具体的な事例についての線引きの基準を導き出すことはできません。したがって、例えば、本件における腰椎麻酔下での虫垂切除術において血圧測定を何分間隔で行うことが「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」なのかは、個別具体的に判断せざるを得ません。しかし、裁判官は、医学知識を有しているわけではありませんし、当然、医療現場を経験したこともありません(ロースクール制度により、最近、医師として医療現場を経験した裁判官が生まれるようになりましたがわずか数名です)。したがって、民事医療訴訟において、そういった個別具体的な事例における医療水準を決定する際に用いられるのが、今回のテーマとなる添付文書や次々回のテーマであるガイドラインであったり、医学文献、教科書、意見書、鑑定等です。添付文書は、薬事法52条(医療機器については63条の2)によって下記のように定められています。 (添附文書等の記載事項)第52条  医薬品は、これに添附する文書又はその容器若しくは被包に、次の各号に掲げる事項が記載されていなければならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。一用法、用量その他使用及び取扱い上の必要な注意二日本薬局方に収められている医薬品にあつては、日本薬局方においてこれに添附する文書又はその容器若しくは被包に記載するように定められた事項三第四十二条第一項の規定によりその基準が定められた医薬品にあつては、その基準においてこれに添附する文書又はその容器若しくは被包に記載するように定められた事項四前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項 そして、添付文書の記載については、「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(薬発第606号平成9年4月25日厚生省薬務局長通知、薬安第59号厚生省薬務安全課長通知)「医療機器の添付文書の記載要領について」(薬食発第0310003号平成17年3月10日厚生労働省医薬食品局長通知)があり、記載内容、方法について詳細に定められています。同通知別添に記載されている添付文書作成の目的は、「医療用医薬品の添付文書は、薬事法第52条第一号の規定に基づき医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために、医師、歯科医師及び薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で当該医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものであること」となっています。このようなことから、古くから裁判所は、医薬品の使用に関する医療水準の判断について、添付文書の記載を他の証拠と比べ重視していました。そのような背景の中で出された、本判決の特徴は、「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」と示されるとおり、医薬品の使用に関しては、特段の合理的理由がない限り、添付文書の記載がすなわち医療水準となるとしたことです。確かに、高度の専門性を有する医療訴訟の判断をすることは、裁判所にとって非常に困難でありストレスであることは理解できますし、医師がいつでも手に取って読むことができる添付文書の記載さえ遵守していれば、医薬品の使用に関しては違法と問われることがないという意味においては、適法行為の予見可能性を高めるものであり、医師にとって有利なのかもしれません。しかし、皆さんご存知の通り添付文書の記載には、臨床の実情を反映しているとはいえない記載がしばしば見受けられます。そのような場合、医師が、患者に最善の治療を提供しようと添付文書記載に反する治療を行うことに躊躇してしまう(萎縮効果)こととなり問題といえます。特にわが国では、ドラッグラグが問題となっており、世界標準の治療薬の半数程度しか保険適用されていない現状において、未承認薬や適用外処方が原則違法であるとすることは、医学的に不当な結論といえます。このような医療界からの指摘を受け、現在では、例外となる「特段の合理的理由」を広く解することにより適切な判断をするように対応している判例が複数認められます。「添付文書の内容に違反した場合に,医師に過失が推定されるのは,製造業者や輸入販売業者は,当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有しており,それが添付文書に反映されているという事情に基づくものであるところ,本件においては,ベサコリン散の添付文書に,パーキンソン病の患者に対して禁忌であると記載がされたことについては,販売元の株式会社○○に対する調査嘱託の結果,厚生労働省からの指導によるものであって,株式会社○○自身が裏付けとなる研究結果等に基づいて記載したものではないことが判明しており,禁忌とされた根拠は必ずしも明確ではない。その上,ベサコリン散の成分は血液脳関門を通過しないからパーキンソニズムを悪化させることはないものとの考えが一部の出版物にも掲載されており,また,ベサコリン散のインタビューフォームにも,ベサコリン散の成分は血液脳関門を通過しない旨の記載がある。以上によれば,本件におけるベサコリン散の投与については,添付文書の記載内容には違反しているものの,原告に対してベサコリン散を投与すべき必要性が認められる反面,添付文書上の禁忌の根拠が明確でなく,むしろY医師自身は禁忌の根拠はないものと考えてあえて投与を行っていたものといえる。したがって,添付文書に反していても,本件においてはそこに合理的理由があるものといえ,直ちにY医師に過失があるものということはできない。パーキンソニズムの患者に対し、添付文書においてパーキンソン病の患者には禁忌であると記載されているベサコリン散を投与したとしても、当該患者に対してベサコリン散を投与すべき必要性が認められる反面、添付文書上の禁忌の根拠が明確でなく、当該医師が禁忌の根拠はないものとあえて投与を行っていたときには、当該投与が添付文書に反していても、そこには合理的な理由があるものといえるから、直ちに当該医師に過失があるものということはできない」(横浜地判平成21年3月26日判タ1302号231頁)とした判決や、ステロイド抵抗性の喘息患者に対し、適用外となる免疫抑制剤の投与を行った事案において、「ガイドラインに『難治性喘息に対する治療法として,免疫抑制剤の併用を考慮する場合がある』とされていることや有効性を示す症例報告が複数存在することを理由にただちに違法とはならない」とした判決(京都地判平成19年10月23日)などがあります。とはいえ、本件最高裁判決はまだいきていますので、適用外処方を行う場合には、事前にガイドラインや複数の医学文献等エビデンスを確保したうえで行うことが望ましいといえます。また、適用外処方をする場合には、インフォームド・コンセントの観点から、患者に対し、「(1) 当該治療方法の具体的内容、(2) 当該治療方法がその時点でどの程度の有効性を有するとされているか、(3) 想定される副作用の内容・程度及びその可能性、(4) 当該治療方法を選択した場合と選択しなかった場合とにおける予後の見込み等について、説明を受ける者の理解力に応じ、具体的に説明し、その同意を得た上で実施」(前掲京都地判平成19年10月23日より引用)すべきといえます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁横浜地判平成21年3月26日判タ1302号231頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。 京都地判平成19年10月23日

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第4位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内海外国内4位 日本消化器内視鏡学会による「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」〜リスク認知の共有はなるか?2012年7月に抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインが発表になりました。これはある意味、今年度1番のトピックかも知れません。筆者のつたないブログ「心房細動な日々」でも常にアクセス数の1、2を誇る話題です。多学会共同の作成であること、各ステートメントのエビデンスレベルは低くコンセンサス重視であること、手技別の出血リスクと休薬による血栓塞栓リスクをそれぞれ層別化したことなど特徴は多々ありますが、何と言っても最大の注目は、「抗凝固薬1剤服用中であれば休薬しなくても生検可能」とした点です。これを遵守すれば、患者さんが2回内視鏡を施行されることもなく、また無根拠な休薬も避けることができます。しかしながら、実際には術者に依存する因子も大きいと予想され、一律な運用は問題があると思われます。むしろ、それまで一見「ツンデレ関係」とも思われた循環器内科医と消化器内科医との間でリスクの捉え方に関し、視野を共有する良い機会と捉えるべきです。1)藤本一眞ほか.日本消化器内視鏡学会雑誌. 2012;54:2075-2102.海外4位 カテーテルアブレーションに関する知の集積~注目すべきエビデンスが続々発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションは、日本も含めたどの国のガイドラインも「薬剤抵抗性」「抗不整脈薬投与下」といったように、薬が効かない場合の二番手の治療という制約のもとで推奨度Iがついています。これに対して「薬剤抵抗性ではない、抗不整脈薬を使っていない心房細動患者にいきなりカテーテルアブレーションを施行して良いか?」という問いに答えるべく設定されたのがMANTRA-AF試験1)です。発作性心房細動294例を、第一選択でカテーテルアブレーションを施行する群と抗不整脈薬群とに振り分け2年間追跡したところ、累積心房細動時間に差はありませんでした。この試験の対象は「70歳未満の基礎心疾患のない人」ですので結論を急ぐのは早急ですが、ある方向性が打ち出された感があります。一方、持続性心房細動が多く含まれる施設での長期成績2)や、1年以上持続する長期持続心房細動に対する成績3)も明らかとなり、予想された以上の成功率が報告されています。さらに、欧州では大規模な登録研究が行われ、発作性心房細動の第1セッション成功率が72%であるなどの成績が報告4)されました。日本でも日本不整脈学会のJ-CARAF登録研究の成績が公表されるなど、各国で知の集積が進んでいます。1)Cosedis Nielsen J, et al. N Engl J Med. 2012;367:1587-1595.2)Sorgente A, et al. Am J Cardiol. 2012;109:1179-1186.3)Tilz RR, et al. J Am Coll Cardiol. 2012;60:1921-1929.4)Scharf C, et al. Europace 2012;14:1700-1707.

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アピキサバン、VTEの抗凝固療法の延長治療として有用/NEJM

 経口第Xa因子阻害薬アピキサバン(商品名:エリキュース)による抗凝固療法の延長治療は、大出血の発生率を上昇することなく静脈血栓塞栓症(VTE)の再発リスクを低減することが、イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らによるAMPLIFY-EXT試験で示された。深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)などのVTEは、心疾患や脳卒中後の血管関連死の原因として3番目に頻度が高いという。欧米のガイドラインは3ヵ月以上の抗凝固療法を推奨しているが、標準治療であるワルファリンは、出血リスクのほかモニタリングや食事制限などの問題で治療の継続が難しくなることが多く、延長治療の決定には困難が伴う。アピキサバンは固定用量レジメンでの投与が可能で、モニタリングも不要なため、VTEの延長治療の選択肢となる可能性があった。NEJM誌2013年2月21日号(オンライン版2012年12月8日号)掲載の報告。2つの用量の有効性と安全性をプラセボ対照試験で評価 AMPLIFY-EXT試験は、VTEに対する抗凝固療法の延長治療としてのアピキサバンの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。 対象は、年齢18歳以上、症候性のDVTまたはPEの診断で標準的な6~12ヵ月の抗凝固療法を完遂したが、抗凝固療法の継続・中止の判断が臨床的に困難な症例とした。 これらの患者が、アピキサバンの治療用量(5mg、1日2回)、血栓予防用量(2.5mg、1日2回)またはプラセボを与する群のいずれかに無作為に割り付けられ、12ヵ月の治療が行われた。VTE再発/全死因死亡:プラセボ群11.6%、2.5mg群3.8%、5mg群4.2% 2008年5月~2011年7月までに28ヵ国328施設から2,482例(ITT集団)が登録され、アピキサバン2.5mg群に840例(平均年齢56.6歳、男性58.0%、DVT 64.8%)、5mg群に813例(同:56.4歳、57.7%、64.8%)、プラセボ群には829例(同:57.1歳、56.5%、66.5%)が割り付けられた。 有効性に関する主要評価項目である症候性VTEの再発または全死因死亡の発生率は、プラセボ群の11.6%(96例)に比べ2.5mg群は3.8%[32例、相対リスク(RR):0.33、95%信頼区間(CI):0.22~0.48、差:7.8ポイント、95%CI:5.5~10.3、p<0.001]、5mg群は4.2%(34例、0.36、0.25~0.53、7.4、4.8~10.0、p<0.001)であり、いずれも有意な差が認められた。 有効性の副次的評価項目である症候性VTEの再発またはVTE関連死の発生率は、プラセボ群の8.8%(73例)に対し2.5mg群が1.7%(14例、RR:0.19、95%CI:0.11~0.33、差:7.2ポイント、95%CI:5.0~9.3、p<0.001)、5mg群も1.7%(14例、0.20、0.11~0.34、7.0、4.9~9.1、p<0.001)と、両群とも有意に優れた。 安全性の主要評価項目である大出血の発生率は、プラセボ群の0.5%(4例)、2.5mg群の0.2%(2例)、5mg群の0.1%(1例)に認められ、大量ではないものの臨床的に重要な出血は、それぞれ2.3%(19例)、3.0%(25例)、4.2%(34例)にみられた。全死因死亡は、プラセボ群の1.7%に比べ2.5mg群は0.8%、5mg群は0.5%だった。 著者は、「アピキサバンの治療用量または血栓予防用量を用いた抗凝固療法の延長治療により、VTEの再発リスクが抑制され、大出血の発生率は上昇しなかった」と結論し、「今後、より長期の治療のリスクとベネフィットを評価する臨床試験を行う必要がある。アピキサバン群で動脈血栓イベントの低下が観察されたことから、VTEの持続的な血栓リスクには動脈血栓も関与している可能性がある」と指摘している。

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SYNTAXスコアII開発でCABGかPCIかの予測能がより高く/Lancet

 複雑な冠動脈疾患の血行再建術の選択について、解剖学的な複雑さを考慮しただけのSYNTAXスコアよりも、同スコアに左室駆出率などの臨床因子を加えたSYNTAXスコアIIが有効であることが報告された。オランダ・エラスムス大学メディカルセンターのVasim Farooq氏らが行った試験で明らかにしたもので、Lancet誌オンライン版2013年2月23日号で発表した。SYNTAXスコアは、欧米のガイドラインで至適な血行再建術選択ツールとして提唱されているが、予測能に限界があることが指摘されていた。そこで同研究グループは、8つの予測因子から成るSYNTAXスコアIIを開発し検証試験を行った。SYNTAXスコアにベースライン時の臨床因子などを追加 研究グループは、1,800人を対象に行った無作為化試験「SYNTAX試験」の結果を基に、4年死亡率との関連が強かったベースライン時の臨床因子などをSYNTAXスコアに加えたSYNTAXスコアIIを開発した。 SYNTAXスコアIIについて、冠動脈バイパス術(CABG)と経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行った場合の4年死亡率の差の予測能を調べ、従来のSYNTAXスコアと比較した。 外的妥当性の検証は、CABGまたはPCIを行った多国籍の被験者2,891人を対象としたDELTAレジストリにて行った。SYNTAXスコアIIのC統計量、内的・外的妥当性いずれも0.7強 SYNTAXスコアIIに盛り込まれた予測因子は、解剖学的SYNTAXスコア、年齢、クレアチニンクリアランス、左室駆出率(LVEF)、非保護左冠動脈主幹部病変(ULMCA)、末梢血管疾患、女性、慢性閉塞性肺疾患(COPD)だった。 試験の結果、SYNTAXスコアIIは、CABGとPCIを行った患者の4年死亡率の差を有意に予測した(p=0.0037)。CABGまたはPCIを受けた人が同等の4年死亡率を達成するには、年齢が若く、女性であり、LVEFが低い人ではより解剖学的SYNTAXスコアが低いことが必要だった。一方で、高年齢でULMCAとCOPDがある人は、解剖学的SYNTAXスコアは高い必要があった。 糖尿病の有無は、CABGとPCIの選択においては重要ではなかった(p=0.67)。 SYNTAXスコアIIのSYNTAX試験による内的妥当性の結果は、C統計量0.725であり、DELTAレジストリによる外的妥当性では、C統計量0.716であった。これらは従来のSYNTAXスコアの各値0.567、0.612に比べ、いずれも有意に高値だった。 著者は、「複雑な冠動脈疾患患者の4年死亡率は、SYNTAXスコアIIによる予測のほうが良好であり、CABGかPCIかの意思決定に優れている可能性がある」と結論している。

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第5位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内海外国内5位 J-RHYTHM Registryの結果が明らかに~70歳未満でもINRは低めで良いのか?わが国における抗凝固療法の最大の観察研究であるJ-RHYTHM Registryの結果が、第29回日本心電学会学術集会で口頭発表されました1)。同研究の対象は外来通院中の心房細動連続症例で、2009年1月~7月に全国の基幹病院などから7,937例が登録されました。ワルファリン投与が行われたのは6,932例(87%)で、INR 1.6~2.59でコントロールされていた症例が66%を占めています。イベント発生直近のINRレベル別に2年間のイベント発生率を検討すると、INR 1.6未満では血栓性イベントが、INR 2.6以上では出血性イベントが有意に高率に認められ、両イベントを合わせた発生率は、INR 1.6~2.59で有意に低率であり、この結果は、70歳未満例、70歳以上例いずれにおいても同様に認められたとのことです。このことは、70歳未満であってもINRの管理目標値を1.6〜2.6に設定することの妥当性をある程度示唆する所見です。本格的な検証には前向き試験が必要ですが、これは専門医ならずともほとんど医師が納得の結果ではないでしょうか?なぜならリアルワールドではかなりの医師が、若年者においてもこのように低めのINR管理をしていることは、周知の事実だからです。ガイドラインを守らなかったという点では公然の秘密とも言えたのかもしれません。この発表で、その秘密が秘密でなくなった感があります。1)小谷英太郎ほか.心電図 2012;32:S5-72.海外5位 左心耳閉鎖デバイスに関する無作為化試験~日本で普及するのか?左心耳というのは内胸動脈とともに「神様が心臓に残した2つのいたずら」の一つで、目立った役割がなく、そればかりか血栓形成の場であり、人類にとって迷惑な構造物と思われています。これをカテーテルを用いて閉鎖してしまうデバイスが過去10年間でいくつか開発されてきてはいたものの、エビデンスとしては不十分でした。本年(2013年)1月のCirculation誌に非弁膜症性心房細動に対するワルファリン単独投与との無作為割付試験(PROTECT AF)1)が報告され、やや方向性が見えて来ました。CHADS2スコア1点以上の707人を対象に2.3年追跡したところ、脳卒中、全身性塞栓症、心血管死に差はなく、安全性においても有意差はありませんでした。ただし重篤な合併症も報告されており、実用化にあたってはデバイスの改良、植え込み技術の習得など課題は少なくない段階と思われます。何より、侵襲的治療の普及しにくい日本で今後どのような展開があるのか、注目すべき段階に来ていることは間違いありません。1)Reddy VY, et al. Circulation.2013;127:720-729. Epub 2013 Jan 16.

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神経刺激療法、早期パーキンソン病のQOLを改善:EARLYSTIM試験/NEJM

 視床下核刺激術による神経刺激療法は、重度の運動合併症が発現する前の、比較的早期のパーキンソン病患者の治療として、内科的治療のみを行う場合に比べQOLを有意に改善することが、フランス・パリ第6大学のWM Michael Schuepbach氏らの検討で示された。視床下核刺激療法は、レボドパ治療によって誘発された重度の運動合併症がみられる進行期パーキンソン病患者の運動障害を軽減し、QOLを改善することが知られている。同氏らは、早期パーキンソン病患者を対象としたパイロット試験で、神経刺激療法のQOL改善効果を確認しているという。NEJM誌2013年2月14日号掲載の報告。早期患者に対する有用性を無作為化試験で検証 EARLYSTIM試験は、神経刺激療法は早期のパーキンソン病にも有用との仮説を検証する多施設共同無作為化試験。 対象は、年齢18~60歳、罹病期間4年以上、Hoehn-Yahr重症度分類Stage 1~3で薬物療法を受けており、早期の運動障害がみられる症例とした。これらの患者が、神経刺激療法(視床下核刺激術)と内科的治療を施行する群または内科的治療のみを行う群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、パーキンソン病質問票(PDQ-39)のサマリー指標(0~100でスコア化、スコアが高いほど機能障害が重度)で評価したQOLとした。主な副次的評価項目は、パーキンソン病運動障害[統合パーキンソン病評価尺度(UPDRS)-IIIスコア]、日常生活動作(ADL、UPDRS-IIスコア)、レボドパ誘発性運動合併症(UPDRS-IVスコア)、移動能が良好でジスキネジアがみられない期間などであった。2年後のQOL平均スコアが8.0ポイント改善 2006年7月~2009年11月までにフランスの8施設とドイツの9施設から251例が登録され、神経刺激療法群に124例(平均年齢52.9歳、男性75.8%、平均罹病期間7.3年)が、内科的治療単独群には127例(52.2歳、66.9%、7.7年)が割り付けられた。 ITT集団におけるQOLの平均スコアは、神経刺激療法群が7.8ポイント改善され、内科的治療単独群は0.2ポイント増悪した(ベースラインから2年後までの変化の平均値の差は8.0ポイント、p=0.002)。 神経刺激療法群は内科的治療単独群に比べ、運動障害(p<0.001)、ADL(p<0.001)、レボドパ誘発性運動合併症(p<0.001)、移動能が良好でジスキネジアがみられない期間(p=0.01)が有意に優れていた。 重篤な有害事象は、神経刺激療法群の54.8%、内科的治療単独群の44.1%に発現した。電極の埋め込み術や神経刺激デバイス関連の重篤な有害事象の発現率は17.7%だった。専門家委員会により、内科的治療の診療ガイドライン遵守率は神経刺激療法群が96.8%、内科的治療単独群は94.5%と判定された。 著者は、「視床下核刺激術による神経刺激療法は、重度の運動合併症が発現する前の、比較的早期のパーキンソン病患者の治療として、内科的治療単独よりも優れていた」と結論し、「神経刺激療法は現行の勧告よりも早期の患者の治療選択肢となる可能性がある」と指摘している。

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大腸3D-CT検査(CTC)vs. 内視鏡検査、CTCは内視鏡検査に代わりうる:SIGGAR/Lancet

 大腸がんの診断法として注目される大腸3D-CT検査(CT Colonography:CTC)について、大腸内視鏡検査との比較が、英国・Imperial College LondonのWendy Atkin氏らによる多施設共同無作為化試験SIGGARにて行われた。大腸内視鏡検査は大腸がんが疑われる症例を検討する診断法としてはゴールドスタンダードとなっている。一方で、CTCは、代替となりうる、より侵襲性の低い検査法であるが、検査後の診断確定のための追加の検査が必須となっている。しかしこのことが、CTCが内視鏡検査に代わりうる可能性を証明する重要な要素であるとして、実践されているCTC+追加検査と内視鏡単独検査の大腸がんまたは≧10mmポリープの診断精度について比較を行った。Lancet誌オンライン版2013年2月14日号掲載より。診断確定のための追加検査の割合を主要アウトカムに比較 SIGGARでは、臨床での症候性大腸がんの診断を想定し、2つの実践的な多施設共同無作為化試験(CTC vs. バリウム注腸、CTC vs. 内視鏡検査)が行われた。 Atkin氏らの試験では、大腸がんと大きめのポリープの検出能についてCTC+追加検査と内視鏡検査を比較することを目的とした。 試験は、英国内21病院から症候性の大腸がんが疑われる患者を集めて行われた。医師から大腸内視鏡検査が指示・紹介された55歳以上の患者1,610例を適格患者とし、コンピュータで無作為に2対1の割合(内視鏡群1,072例、CTC群538例)に割り付け検査結果を解析した。 主要アウトカムは、追加検査の割合とし、intention to treatにより評価した。CTC後の紹介率を低く抑えるためのガイドラインが必要か 解析には、了解が得られなかった30例を除外した、内視鏡群1,047例、CTC群533例が組み込まれた。 追加検査を受けたのは、CTC群160例(30.0%)に対し、内視鏡群は86例(8.2%)であった(相対リスク:3.65、95%信頼区間:2.87~4.65、p<0.0001)。 追加検査を受けたCTC群のうち半数以上は、<10mmポリープ(49例)や検査が不十分などの理由(28例)での実施であった。また、がんや≧10mmポリープの適中率は、CTC群(61%)は低かった(内視鏡群92%)。 試験コホート内での両群のがんや≧10mmポリープの検出能は、いずれも11%であった。 3年間のフォローアップ中の見逃し率は、CTC群は3.4%(29例のうち1例)であったが、内視鏡群はなかった(55例のうち)。 これらの結果からAtkin氏は、「CTC後の紹介率を低く抑えるためのガイドラインが必要である」と述べるとともに、「しかしながら、CTCはより多くの患者に対して内視鏡検査と同程度の感度を有する、より侵襲性の低い検査として内視鏡検査に代わりうる選択肢である」と結論した。

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統合失調症、双極性障害の急性期興奮状態に対する治療:アリピプラゾール筋注に関するコンセンサス・ステートメント(英国)

 統合失調症患者や双極性障害患者の急性期興奮状態に対する薬物治療では、急速な鎮静作用だけでなく、長期的な治療を見据えた薬剤選択が重要である。英国・Northcroft HospitalのDomingo Gonzalez氏らは、双極性躁病と統合失調症の興奮に対する急速鎮静法としてのアリピプラゾール筋注について、コンセンサス・ステートメントを発表した。Current Medical Research and Opinion誌2013年3月号(オンライン版2013年2月4日号)の掲載報告。 本論文は、双極1型障害と統合失調症における興奮や異常行動に対する迅速コントロールを目的とした治療オプションとして、アリピプラゾール筋注に関する入手可能な臨床データを評価し、英国の急性期治療に携わる医師の経験に基づくコンセンサス・ステートメントを提供することを目的とした。 主な論旨は以下のとおり。・双極性障害や統合失調症のような重度の精神疾患について、理想とする治療目標は、急性エピソードの反復や再発を予防もしくは遅延させることである。同時に、患者が急性エピソードを呈した時には、行動症状を制御し、症状のコントロールを従前レベルへと引き戻すことが目標となる。・重度の精神疾患において、暴力的行動や異常行動をコントロールするために、他のあらゆる鎮静の方法が奏功しない時には、急性期の制御として急速鎮静法(RT)を必要とする可能性がある。・現在の臨床ガイドラインでは、急性期の異常行動への緊急介入として、睡眠時を除き、穏やかな鎮静により興奮を鎮めることで患者を落ち着かせることが支持されている。それは、患者との相互コミュニケーションを可能とし、正確な診断を確実にするためであり、治療について患者が能動的に関わることを可能とするためである。・RTでは薬物療法は必須である。利用可能な薬剤は、特色があるもので、患者の通常の治療コースとは別のものである可能性がある。なぜなら、RTに用いられる主な薬物は、長期的治療に適しておらず、有効性、安全性の面で好ましくない可能性があるからである。・その一方で薬物療法の選択は、効果的なRTを達成し、通常ケアへの移行および患者の日常生活をスムーズに取り戻すのに重要である。・アリピプラゾールは、筋注製剤を含めると双極1型障害と統合失調症の短期および長期治療のいずれにおいても良好な有効性と安全性プロファイルを有する薬物である。関連医療ニュース第一世代 vs 第二世代抗精神病薬、初回エピソード統合失調症患者に対するメタ解析統合失調症患者の再発を予測することは可能か?統合失調症に対するベンゾジアゼピン、最新レビュー知見

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話せばわかる?通報する?“モンスターペイシェント”

“困った患者さん”を通り越して“モンスターペイシェント”なんて言葉さえ見られる昨今。法外な要求、目を剥くような行動、ついには暴力の果てに負傷、うつ状態に追い込まれる医師・スタッフも…。皆さんどうやって対処していますか?モンスター化させないコツは?医師1,000人から聞いた“モンスターペイシェント事情“、必見です!コメントはこちら今すぐできる対策はこちら結果概要7割近くの医師が“モンスターペイシェント”の対応経験あり、うち1割は『月に1度以上』全体で7割近くの医師がそうした患者・家族に対応した経験があり、勤務施設別では診療所の57.4%に比較して一般病院では70.7%という結果となった。頻度を尋ねたところ、うち7割強が『半年に1度』以下であったが、一方で『月に1度』以上との回答が1割、中には『週に2~3度以上』という医師も。治療費不払い、脅迫、暴力…「犯罪では?」「病院内では不当に軽く扱われることがある」内容として『スタッフの対応へのクレーム』が60.5%、『自分を優先した診察ほか待ち時間に関する要求・暴言』が47.1%、次いで『不要/過剰な投薬の要求』が37.6%と続く。『治療費の不払い』も3割に上り、「無銭飲食と同様に罪に問うべきだ」といったコメントも寄せられた。暴力を受けた経験があるとの回答は16.2%、脅迫に関しては27.6%に上った。また「個室での診察中に監禁された」といった声も。全体の16.2%が『警察OBを雇用』、担当者を定めない施設では医師個人に負担がそうした患者への最終的な対応として、3人に1人が『以後の診察を拒否した』と回答。次いで『転院させた』『担当医を交代した』と続く。警察への連絡に関しては『出動を要請した』16.4%、『相談した』11.5%となった。一方『特に対応をとったことがない』との回答は22.5%。「キャリアの浅い頃は、怖さのあまりに従ってしまったことがあった」といった声も。その他、施設内で通常取られている対策としては『担当者を決めている』が最も多く約3割に上った。次いで『対応マニュアル』『事例の共有』と続く。『警察OBを雇用している』の回答は16.2%であり、その存在は非常に有効との声が多かった。担当者を定めず医師・スタッフ個人の対応に任せている施設においては「対応に疲れ果てうつ病になった」「退職した」といった経験談が寄せられ、個人ではなく施設としての対応が必要だとのコメントも複数見られた。設問詳細医療従事者や医療機関に対して、自己中心的で理不尽な要求、果ては暴言・暴力を繰り返す患者や、その保護者・家族等を指し、「モンスターペイシェント」といった言葉が使われることがあります。そこで先生にお尋ねします。Q1.患者・家族から暴言・暴力、その他“通常の域を超えている、診察に著しく影響を及ぼすレベル”の行動・要求・クレームを受けたことがありますか。あるない(Q1で「ある」と回答した方のみ)Q2.その内容について当てはまるものを全てお答え下さい。(複数回答可)診察をしないで投薬のみ要求する不要な投薬・過剰な投薬を要求する自分を優先した診察ほか、待ち時間に関する要求・暴言を吐く「空いている」などの理由で、時間外・夜間診療を繰り返すスタッフの対応が気に食わない、とクレームをつける治療法・薬剤を指定するなど、自分の見立てを強硬に主張する事実と異なることを吹聴して回る検査・診察・食事・内服等を拒否する治療費・入院費を払わない入院を強要する退院を拒否する土下座ほか度を越した謝罪を要求する「訴える」「刺す」「暴力団関係者を連れてくる」「マスコミに流す」などと脅迫するご自身・スタッフに暴力を振るうその他(Q1で「ある」と回答した方のみ)Q3.上記のような患者・家族への対応に関しご経験があるものをお答え下さい。(複数回答可)他の医師と担当を交代した転院させた以後の診察を拒否した弁護士・司法書士等に相談した警察に相談した警察に通報した、出動を要請した患者の対応に参って体調を崩した退職したその他特に対応をとったことがない(Q1で「ある」と回答した方のみ)Q4.上記のような患者・家族に遭遇する頻度について最も近いものをお答え下さい。週に2~3度以上週に1度半月に1度月に1度2~3ヶ月に1度半年に1度1年に1度それ以下Q5.院内で設けられている対応策について当てはまるものをお答え下さい。(複数回答可)対応マニュアルがある対策システムがある防犯・対策セミナーを実施している院内で事例を共有している対応担当者を決めている担当部署を設置している警察OBを雇用している弁護士・司法書士に相談する体制をとっている「警察官立寄所」のステッカー・看板を掲げているICレコーダー・カメラ等を設置しているその他    (               )特に対応策をとっていないQ6.コメントをお願いします(具体的なエピソードや解決方法、対策ノウハウ、院内の体制などなんでも結構です)2013年2月12日(火)~13日(水)実施有効回答数1,000件調査対象CareNet.com会員コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「混雑時に自分だけ早く診ろ、と要求して来るケースが多い。」(40代,呼吸器科,一般病院)「女性医師というだけで高飛車な態度をとる患者さんがおられます。自分で対応しようとしても困難な場合もあり、その時は患者さんが興奮して手がつかなくなる前に他の職員に助けを求めます。」(40代,その他,大学病院)「一般なら暴行罪や脅迫罪なのに、病院内だと不当に軽く扱われることがある。」(40代,内科,一般病院)「警察OB,弁護士の関与は有効だと思います。患者の度を超えたクレームは警察OBの立ち合いで、殆ど問題化しません(患者の言いがかりの場合)。」(50代,外科,大学病院)「モンスターペイシェントの対応に心身ともに疲れはて、うつ病になってしまい半年間入院しました。」(40代,内科,一般病院)「今後医師は、モンスターペイシェントに対する対応を必須講座として受講すべきだと思う。」(70代以上,内科,一般病院)「セクハラの要素もあるが、循環器内科であるにもかかわらず局所を出して『腫れているので触ってくれ』となんども強要する。毎週土曜日に遠方からやってくる。事務長に泌尿器科に行くよう指示してもらったが、今度は看護師に座薬、浣腸を強要するので、こわもての男性薬局長にきてもらい浣腸してもらったら、二度と来なくなった。」(40代,循環器科,診療所・クリニック)「厄介なのは身内が次々と来て同じ説明を求める家族です。 最後は長男を代表者と決めて1回だけにしました。」(50代,循環器科,診療所・クリニック)「医療安全対策室で対応してもらうようになっています。」(70代以上,外科,一般病院)「本当にモンスターだらけで、善意が消えていくのが分かります」(30代,内科,一般病院)「特に自分が被害をこうむったことはないが、対象事例が起こった場合は全館放送で起こったことを知らせ、対処することとなっている。」(40代,整形外科,一般病院)「まず十分に言いたい事を相手がもう疲れたというまで黙って傾聴する。時々『そうですか…』と言いつつメモしたりし、『今までのことは一応録音してますが一緒に聞き直して間違いないか確認していきましょうか』と伝えると大体お帰りになられる。」(40代,内科,診療所・クリニック)「とにかくすぐ医師会の顧問弁護士に相談して、初期対応のアドバイスをもらう。」(50代,内科,診療所・クリニック)「モンスターペイシェントに対してほとんどの病院は弱腰である。もっと毅然とした対応をすべきである。治療費不払いなどは無銭飲食と変わらないので即警察に通報すべきだ。」(40代,整形外科,一般病院)「30年医師をしているが、自分にはモンスターペイシェントの経験はない。丁寧に対応すれば問題となるような事態は起きないと思う。」(50代,内科,診療所・クリニック)「モンスターなどという曖昧な表現ではなく、 暴行、脅迫、業務妨害、食い逃げならぬ不払い、 詐欺等々、積極的に警察と連携し、刑事及び民事で罪に問うべきであり、 医療機関間で情報共有し、診療不可として出入り禁止にすべき」(40代,内科,一般病院)「精神科の病院とクリニックなので,モンスターなのか精神障害かの区別は難しい」(60代,精神・神経科,一般病院)「危険が予測される場合には、眼鏡やポケットの中身などを外すようにしています。」(30代,精神・神経科,一般病院)「小児科なのでモンスターペアレントが多いです」(40代,小児科,一般病院)「俺の言うとおりの薬だけを出せと強要する。血圧を測ろうとすると断固拒否する。」(60代,内科,診療所・クリニック)「公立病院に勤務しておりますが、モンスターペイシェントを警察に届けた例を見たことがありません。どの程度で届出をしたほうがいいのか。その際の罪の重さはどの程度なのか。」(50代,内科,一般病院)「変な権利意識が強くなってきて、増えているような印象 病院をホテルとかのサービス業と勘違いしている人も増えている」(40代,循環器科,一般病院)「逃げ場のない個室で診察しているときに、監禁されたことあり。 逃げられるドアのある部屋で診察するようにしている」(40代,内科,診療所・クリニック)「脅迫を受けましたが謝ることはしませんでした」(50代,内科,診療所・クリニック)「マニュアルは最低必要.300床以上では専門部署の設置が望ましい」(60代,外科,大学病院)「対策ガイドラインが策定されると、判断基準が定まり、対応がしやすくなる。 厚生労働省など公式な機関からの公示を期待したい。」(30代,内科,診療所・クリニック)「ターゲットにされている医師・看護師などをできるだけ担当から外し、事務系のもので対処するようにしている。場合により、警察OBの方に前面に出ていただくようにしている。記録を取らしていただくように宣告する・・・などです。」(60代,外科,一般病院)「クレームを言わせないような暖かな雰囲気のクリニックにしています。幸い今のところありません。」(50代,代謝・内分泌科,診療所・クリニック)「いくら患者さん御本人と良好にコミュニケーションを取れていても、事態を把握していない第三者のクレームが入ることもあり、閉口しました。」(50代,内科,一般病院)「患者の自分本位な要求に応じなかったら、激昂して殴られたことがある。精神科の診療であるし(情動障害を主とする適応障害)軽いかすり傷を負った程度なので不問にした。度量が大きいと映ったのか、以後関係改善し特別扱いを求めなくなったが、後日他科の医師にも暴力を振るってしまい診療科間の問題にまで発展した。初回から暴行事件として刑事告訴すべきだったと反省している。」(40代,精神・神経科,診療所・クリニック)「正直、モンスターペイシェントに対する院内での明確な対応マニュアルはない。他院では警察OBを雇用するなど、毅然とした対応を行っているところも多いと聞くが、当院ではひたすら事務の人が謝るなど、こちらが下手に出て患者と対話をしている。個人的には、明らかなモンスターに対しては謝る必要はなく病院を出て行ってもらうなど、強い態度を示してほしいと考えている。」(30代,代謝・内分泌科,一般病院)「受付の対応時の言葉の前後を組み合わせて、勝手に自分の中で解釈し、こちらが言ってもいないようなことを言ったとのクレーム。夜間に自宅側のインターホンを執拗に鳴らし、出ないとなるとポストに苦情の手紙を投函。何日までに自宅まで謝罪に来いとの期限付きで一方的に求めてきた。」(40代,内科,診療所・クリニック)「中絶手術に付き添ってきた男性が『なんでこんなに高い料金なんだ』と怒鳴りつけてきて火災報知器を鳴らし、消防署への対応、火災報知器の修繕は自前で対応した。男性は右翼関係者だったらしく、破門されていて荒れていた状態だと分かり、まもなく自殺した連絡が入り、それで事案が終了した。」(50代,産婦人科,診療所・クリニック)「義務を果たさず、権利ばかりを主張する世の中になってしまった為と、諦めています。個人の対応には限度がありますので、とにかく、病院全体で対応することに尽きます。 」(60代,内科,一般病院)「『診療でなく話だけだ」と言って保険証提示を拒否し、順番も無視して割り込んで、症状を言って、診断名の可能性だけ聞くと無料で帰っていくことを繰り返す人がいました。保険証の提示をしつこく求めると『俺は話だけで来たので診察を受けにきたのではない!』と言い張りました。『それも診察です!』と強く言ってからは来院していません。」(40代,内科,診療所・クリニック)「これまではラッキーなことにモンスターと言うほどの患者には当たっていませんが、それでも対応に苦慮する様な方はいらっしゃいますね。」(50代,外科,一般病院)「医師になって25年間で初めてのものすごいモンスター患者さんに遭遇したが、土下座して謝れなどの脅しに屈しなかったら、矛先が保健所など違う相手に向いた。有名なクレーマー患者だったと後で知ったが、前医への悪口が尋常ではなかったので、前医に問い合わせをしてから診療に応じればよかったかなと思う。」(50代,内科,診療所・クリニック)「理不尽な要求をする患者の診察は、ICレコーダーで録音している」(30代,内科,診療所・クリニック)「患者や家族の理不尽な要求に腹立たしい思いを何度もしているが、よりよい病院にしていくための改善や対策のヒントが隠れている場合もある。大変ではあるが、理不尽な要求をするようになったその背景を探ることで勉強になることもあった。」(60代,精神・神経科,一般病院)「生活保護の患者が、『薬が足りない』『無くした』と再三取りにくる。自費でというと『殺す気か』と怒鳴り散らす。 」(30代,内科,一般病院)「会計踏み倒しなど、日常にある。」(40代,内科,診療所・クリニック)「地域医師会と所轄署とで定期的に講習会を開いている」(50代,泌尿器科,診療所・クリニック)「自己負担分の踏み倒しが多々ある。更に市町村の福祉医療制度を悪用し、病院に掛かって自己負担分を稼ごうとする輩もいる。自己負担分を払わないので福祉医療の請求書を出さなかったら、後日『自己負担金の還付が無い』と文句の電話が来て唖然とした。 大学生の踏み倒しも増えている。この場合は実家に連絡すると大体片付く。どうしても払わず、実家の祖母に振り込ませたこともある。」(50代,内科,診療所・クリニック)「特に医療関係者の家族が、クレームをつけて『保健所や医師会に訴える』などと脅してくる。」(40代,整形外科,一般病院)「けいれん重積を治療後、てんかんの診断名が気に入らない。点滴を入れたせいで、指の動きに問題が出たとクレーム。頭痛を治せと暴れる。ソセゴンを打てと脅す。ぜんそく発作が夜出た場合、点滴後、(タクシーではなく)バスで帰れるように、真夜中すぎまで待って救急車を呼ぶ。順番が遅い、とスタッフを怒鳴る。MRIで異常がないとわかった後、支払いをせず逃走。救急で入院した患者の具合を早く良くしろと家族に詰め寄られるなどなど、書ききれないほどのエピソードがあり、疲れて退職しました。もう、二度と救急対応はやりたくありません。」(50代,神経内科,診療所・クリニック)「酔っ払いが最悪です。処置をしようとすると『痛い』だのと騒ぎ暴れたり物を投げる。帰りのタクシー代がないから救急車を呼べと騒ぐ。『今は金がない』と帰って医療費を払わない。酔っ払いを診ない病院が増えてこっちに回ってくることが多くなったが、断れるものなら断りたい。」(40代,脳神経外科,一般病院)「ブラックリストがあり、時間外受診の問い合わせがあった際には、必ずそれに目を通すようにしています。」(30代,精神・神経科,一般病院)「投薬強要には毅然と拒否するように心がけていますが、キャリアの浅いときは、怖くて従ってしまったこともありました。薬物中毒疑いの暴力団風の患者が夜間の救急外来に現れ殴られそうになったことがありますが、警察に連絡したら逃げていき事なきを得ました。診察費、入院費を払わない患者家族にも何回か遭遇しましたが、事務方と相談し対処、退院させたり、大変な思いをしたこともあります。」(50代,内科,一般病院)「クレームが発生する主な原因は、医療機関側にもあると思われます。 当院では自己防衛のため、定期的に接遇の院内勉強会を実施しています。これだけでクレームは防げる訳ではありませんが、最小限に止める事は出来ると思います。事実、当院は開業7年目ですが、殆ど大きなトラブルは経験しておりません。 上記のことから、患者応対のスキルアップが一番のクレーム対策になると考えます。」(40代,内科,診療所・クリニック)「窓口金を一切払わない。順番待ちが長い、自分の方が先に来ていたなど大声で騒ぐ。 受診後、看護師の態度が悪いと電話でクレームをうける。」(50代,循環器科,診療所・クリニック)「見つければすぐにつまみだし、暴れれば警察を呼び、顧問弁護士を通して法的に厳正に対処する。また院内の男性スタッフに柔道や極真空手の有段者がいるので、暴れる者への対応を躊躇しないことにしています。」(40代,皮膚科,診療所・クリニック)「最近暴力マニュアルを作成し、院内にて異常が起った場合コードブルーにて院内スタッフを直ちに招集するシステムを構築した。」(40代,循環器科,一般病院)「受付デスクにセコムの非常ボタンを設置している。」(50代,外科,診療所・クリニック)「問題のある患者が発生した場合には、担当部署(医療安全室)に連絡し、警察OBの方にお越し頂いて対応しています。その他問題発生時には医療安全室に相談する体制となっています。」(50代,内科,大学病院)「精神科専門で30年も臨床をやっていれば、この手のエピソードに遭遇しない訳がありません。重篤な精神疾患に罹患している患者自身よりも、むしろ家族がモンスターであることの方が対応に苦慮します。」(50代,精神・神経科,一般病院)「警察OB雇用の話はありますが、大病院以外は費用が高すぎるとの理由で、非採用。」(60代,整形外科,一般病院)「入院費を踏み倒した患者家族には、何度も説明を求められ職員の疲弊とトータルの時間喪失は非常に大きかった。この患者はブラックリストに載せておいたので夜間救急要請時は受けることなく更なるトラブルを回避できた。」(50代,外科,一般病院)「年に一度程度なので、運が悪かったとあきらめが半分。違法なことに関しては毅然とした対応を心がけている。」(40代,眼科,診療所・クリニック)今すぐできる対策をCheck!一般医療機関における暴言・暴力の予防と対策医療従事者に向けられる理不尽な暴言・暴力。その場しのぎの場当たり的な対応、していませんか?一貫した取り組みをしていかないと、スタッフの心身を損ねてしまうだけでなく一般の患者さんも逃げてしまいます。土下座など過度な謝罪を要求する母親、暴言がエスカレートする男性患者…暴言・暴力の実例を通して、予防・対策のあり方や進め方についてわかりやすく解説。

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