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今後の喘息治療では何が求められるのか

 2014年1月27日(月)、東京都千代田区でグラクソ・スミスクライン株式会社により、気管支喘息治療剤「レルベア エリプタ」(一般名:ビランテロールトリフェニル酢酸塩/フルチカゾンフランカルボン酸エステル)のメディアセミナーが開催された。本剤は昨年12月9日に発売された新規のICS/LABA製剤である。当日は3つの講演が行われた。 【なぜレルベアが患者にとって重要か】 はじめに、同社呼吸器事業本部長であるエリック・デュベイ氏より、レルベアの患者さんへのベネフィットを中心とした講演が行われた。  デュベイ氏は、レルベアは1日1回1吸入で喘息症状に対する有効性(FEV1改善、QOLの向上など)が期待できるICS/LABAであること、また吸入デバイス(エリプタ)についても、より使いやすいよう開発されているため服薬アドヒアランス向上が期待できることを述べた。さらに、安全性のプロファイルについても、同社よりすでに発売されている1日2回吸入のICS/LABA製剤であるアドエアと同等であるという。【喘息患者の現状とガイドライン治療目標との間に大きな開き】 続いて、国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授/山王病院アレルギー内科教授である足立 満氏により「喘息治療 最新の実態と課題」と題する講演が行われた。 足立氏は、喘息の治療薬は、1990年代初頭を境に気道の狭窄に対する気管支拡張薬主体の治療薬から気道の慢性炎症に対する抗炎症薬主体の治療薬にシフトした、と述べた。これらを背景に喘息死は年々減少しているが、喘息治療の目標である「健常人と変わらない日常生活が送れるようにする」という点については十分といえないのが現状だという。事実、AIRJ(全国喘息患者電話実態調査)2011の結果から、喘息患者の実際のコントロール状態と治療目標との間には大きな開きがあることがわかっている1)。 さらに足立氏は、喘息治療における課題として治療継続率の低さを挙げた。この主な原因として「自己判断による中止」、「服薬を忘れる」、「服薬の手間」などがある。服薬については、喘息患者の多くが1日1回の吸入が治療を望んでいる現状がある。また、高齢化の進む今、より簡便なデバイスが求められるようになっているため、「レルベア」は1日1回1吸入、より使いやすい吸入デバイスであるという点で、治療継続率の向上が期待できるという。【レルベアの登場で今後の喘息治療はどう変わるのか】 最後に、広島アレルギー呼吸器クリニックの保澤 総一郎氏により「治験・患者アンケートからみる今後の喘息治療への期待」として講演が行われた。 保澤氏によると、喘息悪化の原因はさまざまだが、喘息症状により気道収縮を繰り返すと気道のリモデリングが起こり、難治化するという。その点、ICS/LABAは気道リモデリング抑制効果が期待できると述べた。レルベアのICSであるフルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)は吸入ステロイド薬のなかで、最もグルココルチコイド受容体親和性を示し、強い抗炎症効果がある。加えて、グルココルチコイド受容体の核内移行作用も長時間持続することから、持続的な抗炎症効果が期待できるという。 保澤氏は足立氏同様、服薬アドヒアランスを喘息治療における課題としている。実際、保澤氏のクリニックで行われた調査では、1日1回1吸入を支持する患者は8割以上に上っている。    保澤氏は、レルベアが1日1回1吸入であることに加え、朝・夜いずれの服用においても呼吸機能改善効果が24時間維持され、安全性にも影響が認められなかったことから、喘息の服薬アドヒアランス向上への期待感を示した。そのうえで、より良い喘息治療の実現を目指すにあたってレルベアは有用な選択肢となりうると締めくくっている。1)足立満ほか. アレルギー・免疫. 2012; 19: 1562-1570.

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ブプレノルフィン経皮吸収型製剤、慢性腰痛患者の日常生活動作も改善

 ブプレノルフィン経皮吸収型製剤(BTDS、商品名:ノルスパンテープ)は、日常生活動作(ADL)に支障を来す中等度~重度の慢性腰痛に対して鎮痛効果を示すことが知られている。米国・Optum社のKate Miller氏らは、臨床試験成績の事後解析により、同製剤が鎮痛のみならず睡眠や腰痛に関連したADLの実行能力をも改善することを明らかにした。Clinical Journal of Pain誌オンライン版2014年1月3日の掲載報告。 研究グループは、腰痛と関連があるADLの実行能力に対するBTDS治療の影響を検討する目的で、中等度~重度の慢性腰痛を有するオピオイド未使用患者を対象とした12週間の多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験のデータを用い、ADLについて解析した。 ADLの評価項目は、国際生活機能分類(ICF)の腰痛コアセットに含まれ、臨床試験で用いられた患者報告に基づくアウトカム尺度の項目に関連した23項目とし、ロジスティック回帰モデルにより各ADL実行能力のベースラインに対する投与12週後のオッズ比(OR)を求めた。 主な結果は以下のとおり。・BTDS群では睡眠、持ち上げること、腰を曲げること、仕事をすることに関する10項目のORに統計学的有意性が認められ、プラセボ群に比べBTDS群でADL実行能力が大きいことが示された。・これら10項目の実行能力は、ベースラインに比べBTDS投与12週後に1.9~2.4倍となった(1.9:仕事遂行に身体的健康に関連した制限がない、2.4:疼痛に妨げられずに眠ることができる)。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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うつ病患者とかかりつけ医、認識のギャップが浮き彫りに

 米国・コロラド大学のRobert D Keeley氏らは、うつ病診療におけるプライマリ・ケア医と患者の認識について質的研究を行った。その結果、患者がうつ病であることを受け入れ、治療を求めることについて感じているスティグマを、医師は過小評価する傾向にあること、また患者は十分に時間をかけて医師とディスカッションすることを望んでいるのに対して、医師は長時間のディスカッションが患者にとって不利益をもたらすと考えているなど、医師と患者の認識の相違が浮き彫りになったことを報告した。BMC Family Practice誌オンライン版2014年1月15日号の掲載報告。 米国では、プライマリ・ケアにおける診療を“Patient-Centered Medical Homes(PCMH)”、すなわち患者中心型医療に変えるための努力が、プライマリ・ケアでの診療改善の焦点となっている。しかし、PCMHをめぐる技術革新や通信インフラの発展にもかかわらず、患者の認識を踏まえた前向きな診療に対する理解と促進が十分に進んでいないのが現状である。そこでKeeley氏らは、プライマリ・ケアでのうつ病診療に際し、患者の体験、期待、嗜好などについて、医師と患者の認識の差を検討した。地方および都会の小~中規模のプライマリ・ケア4施設が参加し、うつ病性障害患者30例を抱えるプライマリ・ケア医6名にインタビューを行った。 主な結果は以下のとおり。・満足のいくうつ病ケアには、以下の3つの過程があることが示唆された。(1)砕けてしまったものをつなぐ。(2)個々の患者のうつ病に対する理解を探る。(3)現在のうつ状態と将来のエピソードを防止するための、独自の治療空間をつくる。・患者がうつ病を受容し、治療を求めることをスティグマであるとみていることについて、医師は過小評価する傾向にあった。・患者は、自分の思いに共感を示し、耳を傾けてくれる医師を好むが、一方で医師は、長々と患者と話すことで“パンドラの箱”を開けてしまうことや、診察時間が長くなってしまうことを懸念していた。・うつ病により身体に現れた症状が、患者自身のうつ病の苦悩の理解を妨げるという点に関しては、医師も患者も同意見であった。・医師らは、ガイドラインに基づくうつ病のためのアプローチ以外のいくつかの治療手段を支持するとした。また、患者らが述べている多面的なサポートについても表面的には理解を示した。・プライマリ・ケアのプロセスとアウトカムの改善にあたっては、患者の体験、期待および嗜好を理解し、評価する能力の向上が要求されることが示唆された。・今後の研究で、うつ病ケアにおけるスティグマ、ならびに受診時にうつ病に関するディスカッションに費やす時間について、医師と患者の認識の相違にまつわる検討が進められる必要がある。・うつ病などの慢性疾患のケアとアウトカムの改善にあたっては、プライマリ・ケア医が患者独自の“治療空間”を理解し、サポートすることが求められる。関連医療ニュース うつ病や不安症の患者は慢性疾患リスクが高い 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 うつ病の寛解、5つの症状で予測可能:慶應義塾大学

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睡眠障害に関するアンケート

対象ケアネット会員の内科、精神科・心療内科医師方法インターネット調査実施期間2013年12月19日回収200名(内科医師100名、精神科・心療内科医師100名)Q.「睡眠薬の適切な使用と休薬のための診療ガイドライン」(厚生労働省・日本睡眠学会)をご存じですか?また、どのように扱われていますか?Q.レストレスレッグス症候群をご存じですか?また、どのように対応していますか?2013年12月ケアネット調べ

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イブプロフェン塩速効性製剤vs.標準製剤

 Cochraneレビューにおいて、速やかに吸収されるイブプロフェン塩(速効性製剤)は遊離酸形態のイブプロフェン(標準製剤)より優れた鎮痛効果を発揮することが示唆されている。英国・オックスフォード大学のR. Andrew Moore氏らは,イブプロフェンの各種経口製剤の薬物動態および臨床効果についてシステマティックレビューを行い、速効性製剤は有害事象の発現を増加させることなく速やかに吸収され、優れた鎮痛効果を発揮することをあらためて示した。鎮痛薬にとって製剤学は重要と考えられるとまとめている。PAIN誌2014年1月号(オンライン版2013年8月21日号)の掲載報告。 本レビューでは、イブプロフェン速効性製剤の利点を調べることを目的に、PubMedにて「イブプロフェン」「リジン」「アルギニン」「ナトリウム」「液剤」「可溶性」「発泡性」「薬物動態」などをキーワードにして論文検索が行われた。 薬物動態に関するレビューには30試験、被験者1,015例、臨床効果に関するレビューには被験者1万例以上のデータが組み込まれた。 主な結果は以下のとおり。・最大血漿中濃度中央値の到達時間は、標準製剤より速効性製剤は約50分も早かった(標準製剤:90分、アルギニン塩、リジン塩およびナトリウム塩製剤:29~35分)・間接比較および直接比較のいずれにおいても、速効性製剤は標準製剤より鎮痛効果が有意に優れ再投与も少なかった。・歯痛に関する研究では、鎮痛作用の発現は速効性製剤200mg(治療必要数[NNT]:2.1、95%信頼区間[CI]:1.9~2.4)と標準製剤400 mg(NNT:2.4、95%CI:2.2~2.5)が同程度で、投与後60分以内の疼痛強度の低下と投与後6時間の有効性に強い相関がみられた。・投与後初期の疼痛強度の速やかな低下は、再投与の減少と関連していた。 ・速効性製剤で有害事象を報告した患者の割合は、標準製剤より高くなかった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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第22回 添付文書を味方につけた裁判例。医師vs.審査委員会

■今回のテーマのポイント1.腎疾患で一番訴訟が多い疾患は腎不全であり、争点としては、感染症および透析導入の遅れが多い2.添付文書に従った薬剤の使用は、保険診療上適正な診療といえる3.添付文書の内容に解釈の余地がある場合には、ガイドラインなどを参照し判断する事件の概要原告は、慢性腎不全患者に対する人工透析を専門に行っている医療法人社団AクリニックおよびAクリニックの開設者であるX医師です。X医師は、人工透析施行中の腎性貧血患者に対し、ヘモグロビン濃度12.0g/dLを超えた場合には、休薬または減薬をするという方針で、エリスロポエチン製剤を投与していました。エリスロポエチン製剤の添付文書には、【使用上の注意】として、「a 本剤の投与は貧血症に伴う日常生活活動の支障が認められる腎性貧血患者に限定すること。なお、投与対象はヘモグロビン濃度で10g/dl(ヘマトクリット値で30パーセント)未満を目安とする。b 本剤投与中はヘモグロビン濃度あるいはヘマトクリット値を定期的(投与初期には週1回、維持投与期には2週に1回程度)に観察し、必要以上の造血(ヘモグロビン濃度で12g/dl以上、あるいはヘマトクリット値で36パーセント以上を目安とする)にならないように十分注意すること。必要以上の造血を認めた場合は、休薬するなど適切な処置をとること」と記載されていました。X医師は、被告である神奈川県国民健康保険診療報酬審査委員会(以下「審査委員会」と略します)に対し、診療報酬の支払請求をしたところ、審査委員会は、ヘモグロビン濃度10.0g/dLを超えた投与について、「過剰と認められるもの」または「その他不適当または不必要と認められるもの」を減額事由として減額査定をしました。これに対し、原告は、再審査部会に再審査を申し立てたところ、一部の投与単位数および投与回数については増額査定がなされたものの、約237万円分につき、査定が維持されました。そこで、XおよびAクリニックは、神奈川県国民健康保険診療報酬審査委員会に対し、慰謝料を含め287万円の支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決原告の勝訴国民健康保険法40条1項は、保険医療機関等が国民健康保険の療養の給付を担当する場合の準則については厚生労働省令である療養担当規則の例によるものと定めていることから、委任の本旨に従った適正な療養の給付がなされたか否かについては、第1次的には保険医療機関等の行った医療行為が療養担当規則に適合しているか否かが判断基準となる。しかし、療養担当規則は、投薬については、その20条で、「投薬は、必要があると認められる場合に行う」とか、「同一の投薬は、みだりに反覆せず、症状の経過に応じて投薬の内容を変更する等の考慮をしなければならない」等のごく概括的な基準を定めるのみであるから、エリスロポエチン製剤のような個々の薬剤の投与が適正な療養の給付にあたるか否かの判断の具体的な基準とはなり得ない。他方、医薬品は、薬事法に定める製造承認を受けて薬価基準に収載されることによって保険診療上の医薬品としての取扱いを受けるものであるが、このような医薬品については、当該医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために、薬事法52条により、その医薬品の添付文書に「用法、用量その他使用及び取扱い上の必要な注意」を記載すべきものとされており、この添付文書の記載が個別具体的な薬剤毎の投与の際の基準となるものであるから、保険医療機関等がこの添付文書の記載に従った投与をしたのであれば適正な療養の給付を行ったものといえる。もっとも、さまざまに異なる症状や身体条件の患者を扱う医療行為の性質上、このような添付文書の記載も、薬剤の用法、用量等を一義的・固定的な基準で定めるのではなく、使用する医師に一定の裁量的判断の余地を残した記載となっている場合も多く、また、ときには添付文書の記載自体が必ずしも明確でないために異なった解釈が生じうることもあるが、このような場合には、実際の臨床の場における標準的な取扱いや医学的知見も参酌しながら、当該薬剤の投与が添付文書の記載する用法、用量等の基準に従った適正な療養の給付といえるか否かを判断することとならざるを得ない。本件においては、原告らがエリスロポエチン製剤を添付文書の記載する用法、用量その他の基準に従って透析施行中の腎性貧血患者に投与したのであれば、適正な療養の給付を行ったものと認められ、原告らは、被告に対し、診療報酬の支払を請求することができるものというべきである。・・・・・(中略)・・・・・添付文書は、「使用上の注意」として、「本剤投与中はヘモグロビン濃度あるいはヘマトクリット値を定期的に観察し、必要以上の造血(ヘモグロビン濃度で12g/dl以上、あるいはヘマトクリット値で36パーセント以上を目安とする)にならないように十分注意すること。必要以上の造血を認めた場合は、休薬するなど適切な処置をとること」と記載しており、投薬開始後の患者についてはヘモグロビン濃度が10g/dlを超えた検査値となることを当然の前提とする記載内容となっている上、必要以上の造血とはヘモグロビン濃度で12g/dl以上(ヘマトクリット値で36パーセント以上)が目安となることを明示している。・・・・・(中略)・・・・・また、全国の透析治療に携わる医師らで構成される日本透析医会の作成した保険診療マニュアル(平成10年改訂版)(甲第55)でも、「腎性貧血の治療は透析患者の全身倦怠等の症状を著しく改善するだけでなく死亡のリスクを低下させるためにも大切であり、ヘマトクリット値30ないし35パーセント程度を目標にエリスロポエチン製剤等を用いて治療する」旨が記載されており、保険診療においても改善目標値がヘマトクリット値で35パーセント程度まで及びうることが前提とされている。・・・・・(中略)・・・・・以上のとおりであるから、添付文書はエリスロポエチン製剤の投与による腎性貧血の治療の結果ヘモグロビン濃度が12g/dl(ヘマトクリット値で36パーセント)程度に至ることを想定しており、被告主張のように、ヘモグロビン濃度が10g/dl(ヘマトクリット値で30パーセント)を超えたからといって、直ちに原則として投与対象から除外されたり、維持投与量に限定されたりするものとはいえない。保険医療機関等としては、必要以上の造血であるヘモグロビン濃度12g/dl(ヘマトクリット値で36パーセント)以上にならないように注意しつつ、上記のような患者の症状や生活状況等を考慮して添付文書所定の投与量の範囲内で投与し、定期的に行った検査の値がヘモグロビン濃度12g/dl(ヘマトクリット値で36パーセント)以上となった場合には休薬その他の適切な処置をとっていれば、エリスロポエチン製剤を添付文書の記載する用法、用量その他の基準に従って投与したものということができ、適正な療養の給付を行ったものと認められる。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(横浜地判平成15年2月26日判時1828号81頁)ポイント解説■腎疾患の訴訟の現状今回は、腎疾患です。腎疾患で最も訴訟となっているのは腎不全です(表1)。腎不全に関する訴訟で最も多く争点となっているのは、感染症治療に関してであり、2番目に多い争点が透析導入の遅れとなっています(表2)。■診療報酬の審査と添付文書今回紹介した判例は、腎不全に関する訴訟ではありますが、医療過誤訴訟ではなく、診療報酬の審査に関する事案となっています。医療機関が、保険診療を行った場合、診療報酬の一部(現役世代は3割)を患者本人より受け取り、残余については、保険者である健康保険組合などに対し、診療報酬明細書(レセプト)を提出し、診療報酬の支払いを請求することとなります。保険医療機関より提出されたレセプトは、健康保険組合から審査および支払に関する事務を委託された国民健康保険団体連合会において、支払を行うか否か審査されます。支払いの可否は、保険医療機関および保険医療養担当規則(以下「療担規則」と略します)に基づいて判断されるのですが、本判決にも示されているように、療担規則は、「投薬は、必要があると認められる場合に行う」とか、「同一の投薬は、みだりに反覆せず、症状の経過に応じて投薬の内容を変更する等の考慮をしなければならない」など、抽象的な文言で書かれていますので、個別具体的な判断基準とはなり難いといえます。本判決の1つ目のポイントは、添付文書に従った薬剤の使用は、療担規則上、適正といえるとしたことです。第12回で解説したように、添付文書に違反した場合には、過失が推定される(最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁)こととなりますが、その反面、添付文書に従った薬剤の使用をしている限りにおいては、療担規則上適正と判断されるのですから、当然、医療行為としても適法であるということになります。本判決の2つ目のポイントは、添付文書の解釈に幅がある(グレーゾーン)場合には、実臨床の場での標準的な取扱いや医学的知見を参酌して、添付文書の解釈を行うと示したことです。そして、実臨床の場での標準的な取扱いを判断するにあたっては、学会が作成したガイドラインが大きな役割を担うこととなります。上記2つのポイントをまとめると(表3)のようになります。添付文書も、ガイドラインもそれぞれ一長一短の面があることは事実ですが、少なくとも標準的な治療については、しっかりとしたガイドラインを作成していくことは、医師自身の適法行為の予見可能性を高めるすなわち、実際に診療している際に、自身がこれから行おうとする医療行為が適法か否かを予想できるようになることに加え、本判決で示されたように、診療報酬請求においても有用といえますので積極的に推進されるべきと考えます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)横浜地判平成15年2月26日 判時1828号81頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判平成8年1月23日 民集50号1巻1頁

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痩身クリームの効果は-0.46cm

 イタリア・ミラノ大学のF. Turati氏らは、塗るだけでセルライトを減らす(cellulite reduction)効果をうたうコスメ製品について、システマティックレビューとメタ解析を行った。同製品の有効性を調べたオリジナル研究論文は、過去10年間で急速に増加したが、これまでシステマティックレビューとメタ解析は行われていなかった。検討の結果、有効性は大腿囲減少についてわずかに認められるとする知見が得られたことを報告した。Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology誌2014年1月号の掲載報告。 研究グループは、PRISMAガイドラインを適用しているヒトに対するin vivo のシステマティックレビューを行った。また、メタ解析的アプローチを用いて、1アーム10例以上の被験者を組み込み、転帰尺度として大腿囲減少を用いていた対照試験から痩身クリームの全体的な有効性を推算した。 主な結果は以下のとおり。・Medline、Embaseにより2012年8月までに発表された論文から適格試験を検索した。・結果、オリジナル試験は21件であった。全試験が臨床試験であり、大半は女性だけを対象としており、67%は患者内試験として設計されたものであった。・検証されていた痩身クリーム製品の約半数は、キサンテン、ハーブあるいはレチノイドのうち1種類の活性成分を含むだけのものであった。・その他の試験では、痩身クリームをより複雑な手法で検証していたが、試験対象の大部分がキサンテンを含むものであった。・メタ解析の適格基準を満たした対照試験は計7件であった。・治療群と対照群間の大腿囲減少のプール平均差は、-0.46cm(95%信頼区間[CI]:-0.85~-0.08)であった。試験間の不均一性は有意であった(p<0.001)。・以上を踏まえて著者は、「本稿は、セルライトを減らすというコスメ製品の有効性について、科学的エビデンスの系統的な評価を示すとともに、大腿囲減少の効果がわずかにあることを支持するものである」とまとめている。

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良質な有害事象報告は、システマティックレビューといえども半分程度/BMJ

 システマティックレビューの有害事象報告の質は不十分であると、カナダ・アルバータ大学のLiliane Zorzela氏らが報告した。309本の有害事象を評価していたシステマティックレビューまたはメタ解析論文をシステマティックレビューした結果、その多くで有害事象の定義が不明瞭であったり、介入の有害事象を評価する際にリスク因子や追跡期間を考慮していないものがみられ、良好と呼べるレビュー論文は約半数であったという。BMJ誌オンライン版2014年1月8日号掲載の報告より。主要アウトカムに有害事象を含むシステマティックレビュー論文を評価 研究グループは本検討において、システマティックレビューにおける有害事象報告の質を調べ、有害性レビュー報告に関するガイドラインの必要性を確定することを目的とした。 Cochrane Database of Systematic Reviews(CDSR)、Database of Abstracts of Reviews of Effects (DARE)をソースに、2008年1月~2011年4月に発表された、主要アウトカムに有害事象を含むシステマティックレビュー論文を検索した。 有害事象の定義は、あらゆる医療介入と関連した有害反応、危害、または合併症などとした。なお、介入の安全性プロファイルの調査を主要目的に含んでいた論文も検討対象とした。 各レビュー論文の有害事象報告の質を測定するために、37項目のリストを開発して評価を行った。良質なレビュー論文の割合は0.56 4,644本のレビュー論文が検索され、そのうち309本のシステマティックレビューまたはメタ解析論文が有害事象を主要評価に含んでいた。CDSRから選定された論文が13本、DAREからの論文が296本だった。 2008年から2010-11年の間の報告の質の差は、短期間の評価であるが有意な差はみられなかった(p=0.079)。 タイトルで有害事象に言及しているレビュー論文は半数に満たなかった(言及レビュー論文が占める割合:0.46、95%信頼区間[CI]:0.40~0.52)。 DAREからの選定レビュー論文のうち、約3分の1(0.26、95%CI:0.22~0.31)は有害事象の定義が明確でなく、方法論を含む試験デザイン選択の指定がなされていなかった。 約半数のレビュー論文(170本)が、介入の有害事象を評価する際に、患者のリスク因子や追跡期間を考慮していなかった。手術・手技などに関連した合併症のレビュー論文は67本あったが、介入者の有資格を報告していたのは4本のみであった。 全体として、良質なレビュー論文の割合は0.56(95%CI:0.55~0.57)であった。各年でみると、2008年0.55(同:0.53~0.57)、2009年0.55(0.54~0.57)、2010-11年0.57(0.55~0.58)だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「システマティックレビューの有害事象報告を改善することは、介入をバランスよく評価するためのステップとして重要である」と述べている。

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変性椎間板の有病率、50歳以上で90%超:Wakayama Spine Study

 これまで、一般地域住民を対象に全脊柱レベルでMRIを撮像し変性椎間板の分布や有病率などについて調べた報告はなかった。和歌山県立医科大学の寺口 真年氏、同講師・橋爪 洋氏、同主任教授・吉田 宗人氏らは、初めてこの課題に取り組み、その結果、変性椎間板の有病率は非常に高く、頚椎、胸椎および腰椎の各部位で椎間板変性はそれぞれC5/6、T6/7およびL4/5に最も多く分布していることを明らかにした。今回の知見は、椎間板変性の原因やメカニズムを解明するうえで有益な情報になると考えられる。Osteoarthritis and Cartilage誌2014年1月号(オンライン版2013年12月5日号)の掲載報告。 研究グループは、MRIを用い全脊柱における変性椎間板の分布と有病率、ならびにその関連因子などについて調べた。 対象は、Wakayama Spine Studyに参加した21~97歳の一般住民975例(男性:324例、平均67.2歳/女性:651例、平均66.6歳)である。 MRIのT2強調矢状断面像をPfirrmann分類に従って評価し、グレード4および5を「椎間板変性あり」として、頚椎、胸椎、腰椎および全脊柱における変性椎間板の有病率を算出するとともに、症状ならびに関連因子について解析した。 主な結果は以下のとおり。・全脊柱における変性椎間板有病率は、50歳未満で男性71%、女性77%、50歳以上では男女ともに90%超であった。・各部位における変性椎間板の有病率は 、頚椎ではC5/6(男性:51.5%、女性:46%)、胸椎ではT6/7(男性:32.4%、女性:37.7%)、腰椎ではL4/5(男性:69.1% 、女性:75.8%)が最も高かった。・すべての部位で、年齢および肥満が変性椎間板の存在と関連していた。・腰痛は、腰椎において変性椎間板の存在と関連していた。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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手首骨折直後の激しい痛みは複合性局所疼痛症候群発症のレッドフラッグか?

 複合性局所疼痛症候群(CRPS)は手首骨折後にみられることがあるが、その発生頻度等は報告によって大きく異なっている。南オーストラリア大学のG. Lorimer Moseley氏らは大規模な前向きコホート研究を行い、手首を骨折し非手術療法で管理された患者の26例に1例がCRPSを発症し、骨折後早期の疼痛が強いとCRPSの発症リスクが増大することを明らかにした。同氏は、骨折後2日間の疼痛が平均してどのくらいかを患者に質問し、0~10の数値化スケールで5以上の場合はCRPSの警告ととらえるべき、とまとめている。Journal of Pain誌2014年1月号(オンライン版2013年11月21日号)の掲載報告。 研究グループは、骨折クリニック3施設を受診した手首骨折受傷患者計1,549例を1施設にて非手術療法により管理し、骨折後1週間以内と、4ヵ月後に評価した。 疼痛強度には0~10の数値的評価スケール(NRS)を、CRPSの診断には既存の基準を用いた。 主な結果は以下のとおり。・手首骨折4ヵ月後におけるCRPSの発生率は3.8%(95%信頼区間:2.9~4.8%)であった。・4つの臨床評価(pain、reaction time、dysynchiria、swelling)に基づいた予測モデルは、骨折後にCRPSを発症するであろう患者(C index:0.99)と、発症しないであろう患者を明確に識別した。・疼痛強度のみの評価でも、ほぼ同程度に識別可能であった(C index:0.98)。・非手術療法で管理された手首骨折患者26例に1例が、CRPSを呈した。・骨折後2日間の疼痛スケールが5/10以上の場合は、CRPSのレッドフラッグと考えるべきである。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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シリコンによる補強が椎体圧迫骨折の二次骨折リスクを軽減

 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対し、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)というアクリル樹脂を用いた椎骨補強による治療が広く行われているが、合併症として処置部に隣接する椎骨の二次骨折が知られている。この二次骨折は、椎骨と比較してPMMAの剛性が高いことによると考えられることから、骨に近い生体力学的特性を有しているシリコンがPMMAの代替として期待されている。ドイツ・ミュンスター大学病院のTobias L. Schulte氏らは、初めてシリコンとPMMAを用いた椎体補強時の剛性を比較し、シリコンにより二次骨折のリスクが軽減される可能性があることを示唆した。シリコンによる椎骨補強は骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対する治療の選択肢となりうるとまとめている。European Spine Journal誌2013年12月号(オンライン版2013年7月24日号)の掲載報告。 研究グループは、本検討でPMMAあるいはシリコンで補強した椎骨の生体力学的な違い、とくに剛性を調べることを目的とした。 検討には、骨粗鬆症であるが圧迫骨折がないことを確認した40体のヒトの脊椎(T10-L5)を用い、標準的な方法で楔状骨折を作成し、4群に分けてPMMAまたはシリコンを各々2つの充填率(16%および35%)で椎体に注入した。 次いで、無処置椎体、充填椎体および周期的負荷を与えた充填椎体について、低負荷時(100~500 N)の剛性を測定した。また、充填椎体に破断強度の20~65パーセントの高負荷(5,000サイクル=0.5Hz)を与えた場合の剛性を測定した。 主な結果は以下のとおり。・低負荷時剛性は、無処置椎体に比べ周期的負荷処置後にPMMA充填椎体で増加(充填率35%群で115%、16%群で110%)、シリコン充填椎体で低下した(それぞれ87%および82%)。・高負荷時剛性は、無処置椎体に比べPMMA充填率35%群で361%、16%群で304%、シリコン充填率35%群で243%、16%群で222%であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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腰椎固定術の手術時間の長さは術後合併症のリスク増加と関連

 腰椎固定術は慢性腰痛などの治療に広く用いられている。これまでさまざまな外科分野で手術時間の長さが、術後合併症発生率および死亡率の増加と相関することが示されているが、腰椎手術において検討した大規模研究はなかった。米国・ロザリンド・フランクリン医科大学のBobby D Kim氏らは、データベースを用いた後ろ向き研究により、腰椎手術においても手術時間の増加が多彩な合併症と関連していることを明らかにした。「手術時間は腰椎固定術の質の重要な評価尺度であり、患者の予後改善には手術時間を短縮する戦略と手術時間の長さと関連する危険因子を同定するさらなる研究が必要だ」とまとめている。Spine誌オンライン版2013年12月20日の掲載報告。 研究チームは、単一レベルの腰椎固定術の予後に対する手術時間の影響を調べることを目的に、米国外科学会の手術の質改善プログラム(ACS-NSQIP)データベースを用い、2006~2011年に腰椎固定術を受けた全患者の手術時間、術後30日の合併症発生率および死亡率を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は4,588例で、平均手術時間は197±105分であった。 ・多変量ロジスティック回帰分析の結果、手術時間の増加は全合併症(オッズ比[OR]:2.09~5.73)、内科的合併症(OR:2.18~6.21)、外科的合併症(OR:1.65~2.90)、表層の手術部位感染(SSI)(OR:2.65~3.97)および術後輸血(OR:3.25~12.19)のリスク増加と関連した。・5時間を超える手術時間は再手術(OR:2.17)、臓器/腔SSI(OR:9.72)、敗血症/敗血症性ショック(OR:4.41)、創傷離開(OR:10.98)、および深部静脈血栓症(OR:17.22)のリスク増加と関連した。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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よいメタ解析、悪いメタ解析?(コメンテーター:後藤 信哉 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(171)より-

心房細動の脳卒中予防の適応取得を目指した、いわゆる新規経口抗凝固薬の開発試験の結果が出揃った。最後に残っていたのはTIMI groupの主導するENGAGE-TIMI 48試験であった。試験対象となったエドキサバンは、日本の第一三共の薬剤であったが、試験は実績のあるTIMI groupに持って行かれてしまった。ENGAGE TIMI 48試験は2013年11月のAHAにおいて発表された。それまでTIMI group以外のものは試験結果にアクセスすることはできない。最後に残った心房細動の脳卒中予防試験の結果を抱えているTIMI groupは、新規経口抗凝固薬の臨床試験の情報について昨年の11月まで圧倒的に有利な状況にあった。 その有利な地位を利用して「心房細動の脳卒中予防の第三相開発」の結果をメタ解析したのが本論文である。2013年11月には世界の全ての人がENGAGE TIMI 48試験の結果にアクセスできるようになったとはいえ、その前から結果をみて準備をしていたTIMI groupの優位性は明らかである。この論文は「メタ解析」ではあるが、筆者の目にはよいメタ解析には見えない。 イベント発症リスクの低減した現在、数万例の症例を薬剤Aと薬剤Bに割り振って「薬剤Aと薬剤Bには差異がない」という臨床的仮説を検証するランダム化比較試験の困難性は増している。この困難なランダム化比較試験を10年後に行なっても、第三相試験の治験として行なっても、医師主導研究で行なっても、高齢の症例に行なっても、腎障害の症例に行なっても、日本で行なっても、金持ちに行なっても、一貫性があるか否かを検証する「メタ解析」は筆者の目にはよいメタ解析である。 1996年にAntiplatelet Trialistsにより、2002年、2007年にAntithrombotic Trialistsにより施行されたアスピリンの試験のメタ解析は「よいメタ解析」の代表である。Ruffらのメタ解析は、新薬の認可承認を得るために開発企業が必死の修飾を行なった薬剤開発の「第三相」試験のメタ解析である。過去の標準治療(ワルファリン)と新薬の有効性、安全性を比較した各試験は、当局の審査に耐えることを主目的に、各国毎に治験慣れした特殊な施設から登録された症例により構成されている。 「メタ解析」しても対象症例の一般性は広まらない。むしろ、各試験と真実の世界の差異を増幅してしまう。Ruffらは本メタ解析の限界を十分に理解しているので、論文の結論を「Our findings offer clinicians a more comprehensive picture of the new oral anticoagulants as a therapeutic option to reduce the risk of stroke in this patient population」としている。決して、本メタ解析により個別の第三相試験以上のインパクトが生まれたとは主張していない。読者も限界を理解して本メタ解析を読むべきである。Ruffらは、同時期に心房細動を合併したアテローム血栓症のサブ解析を発表しており、臨床家にはこちらの方が参考になる(Ruff CT, et al. Int J Cardiol. 2014; 170 : 413-418)。 Evidence Based Medicineの世界は人工的な世界である。筆者のように20年以上医者をやっている専門家の見解よりも、ランダム化比較試験の結果に科学性があるとする。1つのランダム化比較試験の結果よりも、複数のランダム化比較試験の結果のエビデンスレベルが高いと規定してある。この人工的な世界のルールに基づいて「診療ガイドライン」が作成され、初学者は「診療ガイドライン」に基づいた医療を質の高い医療と判断する。専門家の見解よりも「ランダム化比較試験の結果に基づいた医療」が「質が高い」のは、最初に定義したEvidence Based Medicineの世界に限局される。 実診療の世界では、ランダム化比較試験の集積に基づいて行なう医療と、経験を積んだ臨床医の判断に基づいた医療のアウトカムに差があるか否かは誰も知らない。Evidence Based Medicineの世界は、民主主義の議会で多数派が作る法律により支配される世界に類似している。人間の営む社会であれば、人工的な法律を仮に正しいとしても大きな矛盾はないかも知れないが、医学、医療は詳細、微細な自然現象の観察から真実を見いだす自然科学の領域である。Evidence Based Medicineの世界はそれなりに完結した論理体系ではあるが、その世界の常識は、必ずしも真実の世界の常識ではないことに注意しよう。 本メタ解析はメタ解析ではあるが、Evidence Based Medicineの骨子を決めたときに想定した、独立した多くの研究のメタ解析ではない。同一クラスの薬剤が同時期に開発、認可承認されるケースが増えている。開発品の、開発試験の「メタ解析」をエビデンスレベルの高い「メタ解析」と混同しないようにしよう。

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アリピプラゾールは急性躁病治療のファーストラインになりうるか

 急性躁病のファーストライン治療は薬物療法であり、まず初めに興奮、攻撃性、危険な行動を迅速にコントロールすることが目的とされている。非定型抗精神病薬アリピプラゾールは、躁病治療において、単独また他剤との併用いずれもが行われている。また、英国精神薬理学会(British Association of Psychopharmacology)のガイドラインでは、単独療法プラセボ対照試験において、アリピプラゾールを含む非定型抗精神病薬は急性躁病また混合性エピソードに有効であることが示唆されたとしている。そこで、英国・Oxford Health NHS Foundation TrustのRachel Brown氏らは、急性躁病症状または混合性エピソードの軽減について、アリピプラゾールの単独または他の抗躁薬との併用治療の有効性と忍容性を評価するとともに、プラセボまたは他剤との比較を行った。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2013年12月17日号の掲載報告。 研究グループは、急性躁病症状または混合性エピソードの軽減について、アリピプラゾールの単独または他の抗躁薬との併用治療の有効性と忍容性を評価するとともに、プラセボまたは他剤との比較を行った。また、アリピプラゾール治療に対する受容性、有害反応、またアリピプラゾール治療患者における全死亡率なども調べた。 評価は、Cochrane Depression, Anxiety and Neurosis Group's Specialised Registerにて2013年7月末以前に発表された文献を検索して行った。また、Bristol-Myers Squibb臨床試験レジスタ、WHO試験ポータル、ClinicalTrials.gov(2013年8月まで)の検索も行った。文献の適格基準は、急性躁病もしくは混合性エピソードの治療において、アリピプラゾールをプラセボあるいは他剤と比較した無作為化試験とした。2人のレビュワーがそれぞれ、有害事象など試験報告データを抽出し、バイアスを評価した。欠落データについては、医薬品製造会社または文献執筆者に問い合わせを行った。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、10試験(被験者3,340例)のデータが組み込まれた。・7試験(2,239例)が、アリピプラゾール単独療法とプラセボを比較したものであった。そのうち2試験が3比較アームを含んだ試験で、1試験はリチウムを(485例)、もう1つはハロペリドール(480例)を用いていた。・2試験は、アリピプラゾールを、バルプロ酸またはリチウムもしくはプラセボに追加した場合を比較したものであった(754例)。1試験は、アリピプラゾールとハロペリドールを比較したものであった(347例)。・全体のバイアスリスクは不明であった。また、大半の試験で被験者の脱落率が高く(8試験の各介入において20%超)、相対的な有効性の推定に影響がある可能性があった。・以上を前提とした解析の結果、アリピプラゾールは、プラセボと比べて、成人と小児・若者の躁症状の軽減に有効であることを示すエビデンス(格差はわずか)が認められた。軽減効果は、3週、4週時点でみられ6週時点ではみられなかった(Young Mania Rating Scale[YMRS]の3週時点のランダム効果による平均差[MD]:-3.66、95%信頼区間[CI]:-5.82~-2.05、6試験・1,819例、エビデンスの質:中程度)。・アリピプラゾールと他剤療法との比較は3試験(1試験は、成人対象のリチウム投与、2試験はハロペリドール)であった。躁症状の軽減について、アリピプラゾールと他剤療法との統計的な有意差は、3週時点(3週時点のランダム効果のYMRS MD:0.07、95%CI:-1.24~1.37、3試験・972例、エビデンスの質:中程度)、および12週までのいかなる時点においても示されなかった。・プラセボと比較して、アリピプラゾールは、運動障害をより多く引き起こしていた(Simpson Angus Scale[SAS]、Barnes Akathisia Scale[BAS]の測定と、参加者が報告したアカシジアによる、エビデンスの質:高度)。抗コリン作用性の薬物による治療を必要としていた患者で、より多く認められた(ランダム効果によるリスク比:3.28、95%CI:1.82~5.91、2試験:730例、エビデンスの質:高度)。・また、アリピプラゾール服用群は、胃腸障害(悪心[エビデンスの質:高度]、便秘)が多く、小児・若者でプロラクチン値の正常下限値以下への低下がみられた。・アリピプラゾールとその他治療とを比較した運動障害との関連に関するメタ解析には有意な不均一性があり、多くはリチウムとハロペリドールのさまざまな副作用プロファイルによるものであった。・3週間時点のメタ解析は、データ不足のためできなかった。しかし12週時点の解析において、ハロペリドールはアリピプラゾールよりも、有意に運動障害の発生が多かったことが、SAS、BASとAbnormal Involuntary Movement Scale(AIMS)、被験者報告のアカシジアの測定によって認められた。・一方12週時点までに、アリピプラゾールとリチウムとの差について、被験者報告のアカンジア(RR:2.97、95%CI:1.37~6.43、1試験・313例)を除き、SAS、BAS、AIMSに関しては研究者による報告はなかった。関連医療ニュース バイポーラの躁症状に対するアリピプラゾールの位置付けは? アリピプラゾールが有用な双極性障害の患者像とは? うつ病の5人に1人が双極性障害、躁症状どう見つける?

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小児の原発性多汗症におけるイオントフォレーシス療法は有用?

 小児の原発性多汗症における水道水イオントフォレーシス(イオン導入)療法の有効性と安全性が、トルコのSeval Dogruk Kacar氏らにより調査・報告された。その結果、イオントフォレーシス療法は、有効性および信頼性において小児の原発性掌蹠多汗症、原発性腋窩多汗症に有用な治療であることが示された。これまで、小児におけるイオントフォレーシス療法の有効性について調査した研究は限られていた。 なお、日本においても水道水イオントフォレーシス療法は、原発性局所多汗症診療ガイドラインにより推奨されている。Cutaneous and Ocular Toxicology誌オンライン版2014年1月9日掲載の報告。 調査は、イオントフォレーシス療法を施行する18歳未満の原発性掌蹠多汗症患者21例を対象に、レトロスペクティブに実施された。多汗の程度は、VAS(視覚的評価スケール:visual analogue scale)を用いて評価され、0が症状の継続、10が症状の消失とされた。評価には、カルテより収集した臨床データと患者が回答したアンケートを用いた。 主な結果は以下のとおり。・水道水イオントフォレーシス療法を週5回の施行から開始し、5週目に週1回の施行に減少させた。さらに、維持療法として週1回の施行を6週間実施することが推奨された。・19例の被験者が所定の21回の施行を完遂した。・施行15回目のVAS中央値は5.89±1.49、治療終了時点では6.36±2.06であった。・7例では、治療終了後3ヵ月が経過しても多汗症が抑制された。・VASによる治療満足度の中央値は4.95±2.38であった(0が不満足、10が大いに満足)。・副作用の忍容性は良好であった。・イオントフォレーシス療法は、小児の原発性掌蹠多汗症、原発性腋窩多汗症に有用な治療法である。しかし、最大限の効果を得るためのセッション間隔やプロトコルについての解は得られていない。

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エキスパートに聞く!「うつ病診療」Q&A Part1

CareNet.comではうつ病特集を配信するにあたって、事前に会員の先生方からうつ病診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、産業医科大学 杉田篤子先生にご回答いただきました。2回に分けて掲載します。今回は、精神科に行きたがらない患者さんへの対応、最初の抗うつ薬が効果不十分な場合の対応、抗うつ薬の減量・中止のタイミング、抗うつ薬と睡眠薬との併用、認知行動療法の効果についての質問です。精神科に紹介しても行きたがらない患者さんに対して、どのように対応したらよいでしょうか?うつ病では、睡眠欲、食欲、性欲などといった人間が生きていくうえで基本となる本能が損なわれていることが多く、その結果、さまざまな身体症状が出現するため、うつ病患者が最も多く受診するのは、内科といわれています。さらに、身体疾患のある患者さんはうつ病を高率に合併しています。希死念慮や自殺企図のリスクが高いとき、精神病像を伴うとき、双極性障害が疑われるとき、慢性化しているとき、抗うつ薬の反応が通常と異なるとき、産後うつ病などの際は、精神科へ紹介するタイミングです1)。しかし、専門医を受診させようと、「身体的問題がないから精神科を受診しなさい」という説明をすると、患者さんが「かかりつけ医から見捨てられるのではないか」と不安になり、拒否することがあります。さらに、精神的な問題が生じているという病識がないこともしばしばありますし、精神科への偏見を持っている方もいます。したがって、紹介する際は、主治医と精神科が協力して心身両面を支えていくという姿勢を示し、「専門家の意見を聞いてみましょう」、「主治医として今後も関わっていきます」ということを丁寧に説明するとよいでしょう。また、うつ病患者では不眠が生じる頻度が高いため、「睡眠障害について詳しい先生に診てもらいましょう」というのも方策です。自殺の危険性があるなど緊急時は、家族にも状況を説明して、協力を得る必要があります。1)堀 輝ほか. Medical Practice. 2011;28:1720-1729.最初の抗うつ薬の効果が不十分な場合、増量、薬剤変更、併用のうち、いずれがよいのでしょうか? また、併用療法について具体的に(相性のよい薬剤の組み合わせなど)お教えください。抗うつ薬を使用する際は、合理性のない抗うつ薬の多剤併用は行わず、第一選択薬を十分量・十分期間使用し、用量不足や観察期間不足による見かけの難治例をつくらないようにしなければなりません。抗うつ薬を低用量で使用して反応がない場合は、1)有害作用が臨床上問題にならない範囲で添付文書に従って十分量まで増量、2)十分量まで増やしてから4週間程度を目安に、ほとんど反応がない場合は薬物変更、3)一部の抑うつ症状に反応がみられるがそれ以上の改善がない場合(部分反応)は増強療法を行います。増強療法には、リチウムや甲状腺ホルモン、ラモトリギン、バルプロ酸、カルバマゼピン、非定型抗精神病薬が挙げられます(アリピプラゾールを除き、適応外)。原則は単剤ですが、場合によっては、例外的に、4)抗うつ薬の併用を考慮します。その場合は、ミルタザピンとSSRI/ SNRI1)、ミアンセリンとSSRI/ SNRI2)の併用がよいでしょう。1)Carpenter LL, et al. Biol Psychiatry. 2002;51:183-188.2)Maes M, et al. J Clin Psychopharmacol. 1999;19:177-182.抗うつ薬の減量・中止のタイミングを教えてください。早期に抗うつ薬を減量・中止することは再燃の危険性を高めます。薬物療法に反応後4~5ヵ月以内に抗うつ薬を中止した場合の再燃率は50~70%で、同時期に抗うつ薬を継続した群では0~20%であったと報告されています1)。とくに、寛解後4ヵ月までは再燃の危険性が高く、副作用が管理できれば、寛解後6ヵ月以上は急性期と同用量でコンプライアンスを保つことが重要です2,3)。寛解後26週は抗うつ薬の再燃予防効果が立証されており4)、欧米のガイドラインでは、副作用の問題がなければ初発の寛解後4~9ヵ月、またはそれ以上の期間、急性期と同用量で維持すべきとしています5~7)。うつ病相を繰り返す患者さんは再発危険率が高いですが、これらの再発性うつ病の患者に対して抗うつ薬を1~3年、急性期と同用量で継続使用した場合の再発予防効果が立証されています8)。したがって、再発例では2年以上にわたる抗うつ薬の維持療法が強く勧められています7)。なお、漸減中に抑うつ症状が悪化した場合は、減薬前の量にいったん戻すとよいでしょう。1)Zajecka J, et al. J Clin Psychiatry. 1999;60:389-394.2)Peretti S, et al. Acta Psychiatr Scand Suppl. 2000;403:17-25.3)Paykel ES, et al. J Affect Disord. 1988;14:83-95.4)Reimherr FW, et al. Am J Psychiatry. 1998;155:1247-1253.5)American Psychiatric Association. Am J Psychiatry. 2000;157:1-45.6)American Psychiatric Association. Practice guideline for the treatment of patients with major depressive disorder. 3rd ed. 2010. 7)Lam RW, et al. J Affect Disord. 2009;117(Suppl1):S26-43.8)Geddes JR, et al. Lancet. 2003;361:653-661.抗うつ薬と睡眠薬との併用について教えてください。不眠を有するうつ病患者の治療において、抗うつ薬の中で、アミトリプチリン、トラゾドン、ミアンセリン、ミルタザピンなどのような鎮静的な作用があり睡眠を改善させる薬剤は、抗うつ薬単剤で治療可能です。しかし、SSRIやSNRIなどのように鎮静作用が弱く、睡眠状態の悪化を招く可能性を有する抗うつ薬を使用する際は、睡眠薬を併用することになります。うつ病の不眠への効果がランダム化比較試験によって示されているのは、ゾルピデム1)とエスゾピクロン2)です。睡眠薬の使用時は、依存性、認知機能障害、閉塞性睡眠時無呼吸症状の悪化、奇異反応などの可能性がある点に留意し、漫然と長期間処方することは慎み、睡眠衛生的なアドバイスを積極的に行うべきです。とくに、不眠の改善のためには、朝は一定の時間に起床して外の光にあたることや飲酒を控えることなどは、睡眠薬を投与する前に指導したほうがよい事柄です。1)Asnis GM. J Clin Psychiatry. 1999;60:668-676.2)Fava M, et al. Biol Psychiatry. 2006;59:1052-1060.認知行動療法の効果について教えてください。認知行動療法は、人の感情や行動が、状況をどうとらえるか(認知の仕方)によって規定されるという理解のもとに、患者のうつ状態の発生や維持に関連している認知や行動を同定し、必要に応じた修正を行うことで気分を改善させる治療法です。認知行動療法は、うつ病に対して薬物療法と同等の効果を有し、とくに再発予防効果は、薬物療法に優るというエビデンスがあります1~6)。英国の診療ガイドラインでは、軽症~中等症のうつ病治療では薬物療法より優先して認知行動療法を実施することが推奨されています7)。また、薬物療法を行う場合に患者さんが精神科治療薬の服用を拒絶することがあり、薬物に対する認知に注意を払わなくてはなりませんが、認知行動療法を用いて薬物療法に対する非機能的認知を修正することにより、患者さんの服薬アドヒアランスを高める可能性もあり、薬物療法との併用の意義も大きいと考えられます8)。1)DeRubeis RJ, et al. Arch Gen Psychiatry. 2005;62:409-416.2)Miller IW, et al. Behav Ther. 1989;20:25-47.3)Stuart S, et al. Gen Hosp Psychiatry. 1997;19:42-50.4)Dobson KS, et al. J Consult Clin Psychol. 2008;76:468-477.5)Wampold BE, et al. J Affect Disord. 2002;68:159-165.6)Persons JB, et al. Arch Gen Psychiatry. 1996;53:283-290.7)National Institute for Health and Clinical Excellence. Depression (amended): management of depression in primary and secondary care: NICE guidance. London: National Institute for Health and Clinical Excellence; 2007.8)井上和臣. Pharma Med. 2002;20:41-45.※エキスパートに聞く!「うつ病診療」Q&A Part2はこちら

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足関節捻挫、脛腓靱帯部でも保存的治療で競技に復帰可能

 脛腓靱帯結合捻挫は足関節外側捻挫と比較して、長期的な故障の原因となり得る。米国・MedStar Union Memorial HospitalのDaryl C. Osbahr氏らは、ナショナルフットボールリーグ(NFL)に所属するあるチームについて調査し、(1)脛腓靱帯結合捻挫は足関節外側捻挫と比較し重大な障害の原因となる、しかし(2)損傷の重症度にもよるがどちらも保存的治療で競技に復帰できることが多い、ことなどを明らかにした。そのうえで、脛腓靱帯結合損傷に対して、「最新の治療アルゴリズムを用いて、より積極的な保存的治療が支持される」とまとめている。Orthopedics誌2013年11月号の掲載報告。 研究チームは、足関節捻挫を識別し、より良い管理ができるよう、NFLのあるチームのデータベースを用いて、15年間にわたる脛腓靱帯結合捻挫と足関節外側捻挫について調査した。 対象は脛腓靱帯結合捻挫36例、足関節外側捻挫53例であった。 また、NFLのチームドクター32名に、脛腓靱帯結合損傷および足関節外側捻挫の治療に関してアンケート調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・原因は、脛腓靱帯結合捻挫が直接的な衝突、足関節外側捻挫がねじれであった(p=0.034)。・全例、保存的治療が行われていた。 ・プレーできなかった平均期間は、脛腓靱帯結合捻挫群が15.4日、足関節外側捻挫群が6.5日であった(p≦0.001)。・NFLのチームドクターは、脛腓靱帯結合損傷に対しては離開の程度によって治療法を変えるが、足関節外側捻挫に対しては保存的治療を勧めた。 ・脛腓靱帯結合損傷は、足関節外側捻挫に比べると長いリハビリ期間を要するものの、以前の報告のように復帰まで長期間を要することはなさそうであった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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【寄稿】トピックス いわゆる「新型(現代型)うつ病」

いわゆる「新型(現代型)うつ病」の特徴いわゆる「新型(現代型)うつ病」は、マスメディアを通じて、社会的に広く浸透しているが、精神医学的に厳密な定義はなされていない。うつ病学会もこれを医学用語として認めていない。“新型”や“現代型”と呼ばれる「うつ病」は、伝統的な中高年に多くみられる執着気質やメランコリー親和型性格を基盤にしている、重症になりやすい内因性うつ病とは異なり、(1)若年者に多く、全体に軽症で、訴える症状は軽症のうつ病と判断しにくい(2)仕事では抑うつ的になる、あるいは仕事を回避する傾向があるが、余暇は楽しく過ごせる(3)仕事や学業上の困難をきっかけに発症する(4)病前性格として、“成熟度が低く、規範や秩序あるいは他者への配慮に乏しい”などといった特徴がある。「非定型うつ病」は、歴史的にはさまざまな定義が与えられており、最近の米国精神医学会診断基準(DSM-IV)では、大うつ病のうち、過食、過眠、鉛のような体の重さ、対人関係を拒絶されることへの過敏性など、特定の症状を有するうつ病と定義されている。この場合、正確には「非定型の特徴を伴う大うつ病」と呼ぶが、マスメディアで使われる「非定型うつ病」は、教科書的なうつ病のプロトタイプに合致しないうつ病・抑うつ状態を広く指して用いられ、「新型(現代型)うつ病」とほぼ同義に扱われることもある。若年者のうつ病・抑うつ状態は、古くは、ステューデントアパシー(Walters)、退却神経症(笠原嘉)、逃避型抑うつ(広瀬徹也)、近年では、さらに未熟型うつ病(阿部隆明)、現代型うつ病(松浪克文)、ディスチミア親和型(樽味伸)などと提唱されており、いずれも上記(1)~(4)の特徴を持っているが、それぞれに切り口が異なり、異なる病理を描き出している。また、いずれもメランコリー親和型性格を基盤としたうつ病に比べて抗うつ薬の効果が弱く、軽症ながら難治な病態である。安易な決めつけは“誤診”につながるいわゆる「新型(現代型)うつ病」の特徴は、「そもそもうつ病に特徴的なものか」という議論もある。近年の日本では経済の低迷が長く続き、職場に余裕がなくなっており、労働者の心身の負担も増えている。とくに、勤務経験が少なく技能の習熟度が低い若年者にとって、うつ病・抑うつ状態が増えやすい労働環境に変化した可能性がある。しかも若年者では、精神的な成熟度が低く、規範や秩序あるいは他者への配慮に乏しいことは、精神発達の段階からみても、ただちに病的であると決めつけられない。近年の社会の風潮が、規範や役割意識を以前ほど強調しなくなってきているため、若年者でその傾向が強まり、精神的成熟に年数がかかるようになった可能性もある。若年は、双極性障害のうつ病相や統合失調症の好発年齢であり、学生から社会人となり適応障害を起こしやすい時期でもある。とくに発達障害の方は適応困難になりやすい。これらの鑑別診断がきわめて難しく、精神科医が診断面接を数多く重ねて、初めて見えてくるものであり、安易にいわゆる「新型(現代型)うつ病」と決めつけることは“誤診”につながる。時に、自殺のリスクを有することもあり、内因性疾患であるか否かを慎重に吟味したうえで、環境的要因や性格を把握する必要がある。最初から、患者さんの性格の問題を取り上げるのではなく、治療者が、うつ病を十把ひとからげにせず、一人ひとりの抱える問題をきめ細かく分析し、適切に対応することが重要である。以下に、いわゆる「新型(現代型)うつ病」を疑われ、精神科を受診した症例を示す。【症例】30代の男性大学卒業後、すぐに電気系の会社へ入社した。妻と子供1人の3人暮らし。本人は本社勤務を希望していたが、X-2年、地方の事業所勤務で、機械部品開発の担当となった。X-1年、頭痛、下痢が出現した。X年、抑うつ気分、不安、イライラが顕在化し、ある日、仕事を投げ出すような形で早退し、以降欠勤した。精神科を受診し、抑うつ状態と診断され、休業して自宅療養となった。3ヵ月間の療養後、症状が改善したため一旦は復職したが、2週間で症状が再燃し、再び休業した。休職後すぐに復職を希望し、「休職期間中は傷病手当で受け取り額が目減りするため、生活が苦しい」と言い、復職すると3ヵ月で休職に至った。その後、2ヵ月休職し、休職・復職を計3回繰り返した。休職中は、趣味のゴルフに出かけたり、家族と海外旅行に出かけたりしていた。一方で、「上司の声を聞くだけでも気分が沈む、今の職場では続けられない」と上司への不満が強く、復職しても人間関係のストレスから、抑うつ状態が再発していた。出勤してもしばしば遅刻し、ボーっとしていた。本症例は、本社勤務を希望していたにもかかわらず、思い通りにならず、地方勤務となったことに不満を持ち、職場環境への適応ができず、抑うつ、不安、頭痛、下痢などの身体症状を来した適応障害の1例である。職場を離れての自宅療養により症状は改善するが、元の職場に戻ると症状は悪化していた。精神療法、薬物療法だけでなく、環境調整が治療上、重要となった。いわゆる「新型(現代型)うつ病」への対応いわゆる「新型(現代型)うつ病」の治療は、患者さん一人ひとりが持つ心理的、生物的、社会的要因を分析したうえで、状態に合わせて、精神療法、薬物療法、心理教育、環境調整、リハビリテーションを組み合わせて行う必要がある。薬物療法の効果は限定的であるため、精神療法や心理教育、環境調整、リハビリテーションのウエイトが増す。精神療法では、個人精神療法よりも集団体験で安心感を得て、依存欲求を満たせる「中集団療法」の有効性が報告されている。作業療法士をはじめとした治療スタッフが、患者の攻撃性を受容しつつ、内心の変化を観察し続けることが重要であり、治療にも発達や育成の視点を取り入れることが大切である。心理教育やリハビリテーションにおいては、生活習慣の指導として、規則正しい生活リズムや、禁酒などの指導も有用である。生活の記録表の作成を指導したり、定期的な運動を意識づけることも必要である。英国NICEのうつ病治療ガイドラインでは、軽症うつ病に対してはルーチンで抗うつ薬を処方しないように記載されている一方、運動療法を推奨している。運動療法は、専門家の指導のもと、プログラムされた運動を1週間に最大3回まで、1回当たり45分から1時間、10週間から12週間行うのがよいとされている。有酸素運動はうつ病や不安な気分の改善に有効であるとの多くの報告があり、運動強度が高いほうが抑うつ症状はより軽減する傾向があるが、低強度でも効果はあり、身体活動量は生活習慣病予防と同程度で十分である。筆者も、産業医として勤務した企業において、勤労者を対象に5人1組のチームを作り、チーム対抗で歩数を競うというウォーキングプログラムを実施したところ、もともと運動習慣がなかった者の睡眠状態の改善や抑うつ度の低下、不安度の低下、社会適応度の向上などがみられ、新たなメンタルヘルスの不調者が出現するのを予防し、うつ病による休業者を減少させることができた経験がある。環境調整を行うためには、主治医と職場の管理者や産業医との連携を密にして、本人の適性評価と理解に努めることや、主に上司との関係を軸に、「弱さの是正」ではなく、「適性を活かす」対応が必要である。いわゆる「新型(現代型)うつ病」の者に対しての陰性感情は慎み、気長な「認知療法的」な対応や、適度に励まし背中を押すような関わりを行い、人間的な成長を促すことも大切である。いわゆる「新型(現代型)うつ病」を「うつ病」から排除してネガティブに捉えるのではなく、適切に診断を行うことや、「うつ病」といわゆる「新型(現代型)うつ病」は異なる対応が必要になるということを認識しておくことが必要である。

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小児呼吸器感染症、各症状の持続期間は?/BMJ

 小児呼吸器感染症の症状持続期間について、保護者に提示されているガイダンス内容と比べて、耳痛(7~8日)、感冒(15日)は長期であったことが、米国・ワシントン大学のMatthew Thompson氏らによるシステマティックレビューの結果、判明した。咽頭痛、急性咳嗽、細気管支炎、クループはガイダンス内容と一致していた。著者は、「今回の結果は、保護者および臨床医が呼吸器感染症を適切に見分けるのに有用である」として、新たなエビデンスに基づき現行ガイドラインを更新する必要があると提言している。BMJ誌オンライン版2013年12月24日号掲載の報告より。システマティックレビューで各症状の持続期間を評価 研究グループは、プライマリ・ケアおよび緊急治療部門を受診する、ありふれた小児呼吸器感染症の予想される症状持続期間を確定することを目的に、システマティックレビューを行った。検討したのは、耳痛、咽頭痛、咳(急性咳嗽、細気管支炎、クループなど)、感冒の症状についてであった。 PubMed、DARE、CINAHLを用いて2012年7月までの文献を検索した。プライマリ・ケアか緊急治療部門を受診した急性呼吸器感染症小児を対象とした無作為化対照試験もしくは観察試験で、高所得国で実施され、比較群に対照治療かプラセボあるいはOTC薬治療を設定していたものとした。試験の質の評価は、無作為化対照試験はCochraneバイアスリスクを用いて、観察試験はcritical appraisal skills programmeを用いて行った。 主要評価項目は、症状期間についての各試験データと、可能であればプールした1日平均頻度と95%信頼区間とし、また、各症状が小児の50%および90%で消失した時点までの日数を持続期間とした。耳痛、感冒についてガイダンスと大きな開き 検索した文献は2万2,182本で、そのうち適格基準を満たしたのは、無作為化対照試験23本、観察試験25本であった。解析に組み込んだ試験集団は、試験登録前の年齢、症状期間がさまざまであった。 各症状について解析した結果、小児の90%で症状が消失するまでの期間は、耳痛7~8日、咽頭痛2~7日、クループ2日、細気管支炎21日、急性咳嗽25日、感冒15日、非特異的呼吸器感染症状16日であった。 これらのうち、耳痛と感冒は、英国(NICE)および米国(CDC)で保護者に提示されているガイダンス内容と比べてかなり長期であった。たとえば、耳痛(90%で消失)は、NICEでは平均4日、CDCでは平均2~3日とされており、感冒(90%で消失)については、NICEは10~11日、CDCは14日未満とアドバイスしているという。一方で、一部にはガイダンス内容が過大であるものもあった(例:咽頭痛/扁桃炎をNICEは7日、CDCは14日)。 著者は、「症状持続期間の正確な推定が、適切な保護者の行動や抗菌薬使用に結びつけるうえで有用である」と述べ、新たなエビデンスに基づくガイドラインの更新の必要性を提言している。

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aHUS診断基準公表による、早期診断・早期治療に期待

 非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、志賀毒素産生性大腸菌由来尿毒症症候群(Shiga toxin-producing E. coli hemolytic uremic syndrome:STEC-HUS)とADAMTS13 (a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs:member13)活性著減による血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP) 以外の血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy:TMA)と定義される。 aHUSの主徴は、「微小血管症性溶血性貧血」、「血小板減少」、「急性腎障害(acute kidney injury:AKI)」の3つである。 近年、このaHUSの病因として補体制御機構の異常が注目されている。50-60%の症例でH因子をはじめとするさまざまな補体制御因子の遺伝子異常が報告され、目下aHUSにおける病態解析は急速に進んでいる。 aHUSは、発症早期にはSTEC-HUSやTTPとの鑑別が必ずしも容易ではなく、積極的な治療が遅れると腎不全に進行するリスクが高い症候群であることから、早期に診断し、機を逃すことなく適切な治療を実施することが重要である。 これらを背景に、日本腎臓学会・日本小児科学会は非典型溶血性尿毒症症候群診断基準作成委員会を発足し、徳島大学大学院 発生発達医学講座(小児医学)香美 祥二 委員長、東京女子医科大学 腎臓小児科 服部 元史 氏、東京大学大学院 腎臓内科学、内分泌病態学 南学 正臣 氏らによってわが国で初めてとなる「非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診断基準」を公表した。 この診断基準の公表により、今後、日本におけるaHUS患者の早期診断・早期治療への道が開かれ、ひとりでも多くの患者さんの予後改善につながることが期待される。さらに、aHUS に対する治療のエビデンスを構築することにより、将来的に新しい治療ガイドラインの作成にも結び付くことが望まれる。「非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診断基準」の詳細は下記のいずれかのURLより閲覧いただけます。日本腎臓学会日本小児科学会

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