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デング熱での解熱剤に注意~厚労省がガイドライン配布

 9月16日、厚生労働省より全国の地方公共団体の衛生主管部局宛てに「デング熱診療ガイドライン(第1版)」が配布された。本ガイドラインは、全国で131名(9月17日現在)の患者が確認されている中で、一般医療機関への問い合わせも多いことから、9月3日に公開された診療マニュアルの内容を刷新し、あらためて作成されたものである。■妊婦、乳幼児、高齢者は重症化のリスク因子 ガイドラインは、デング熱の概要、症状・所見、診断、治療、予防、参考文献、図表の順で記載されている。 すでに多くのメディアで報道されているように、デング熱の臨床経過について通常は1週間前後の経過で回復すること、典型症状は急激な発熱、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などであることなどの説明が記されている。 注意すべきは、一部の患者が経過中に重症型デングを呈することである。とくにリスク因子としては、妊婦、乳幼児、高齢者、糖尿病、腎不全などがあり、これらの患者では、経過観察でショック、呼吸不全、出血症状、臓器障害がないかどうかの注意が必要となる(なお1999年以降、日本国内で発症した同疾患での死亡者は記録されていない)。■解熱剤はアセトアミノフェンを推奨 デング熱では上記の症状のほか、血液検査で血小板減少、白血球減少が認められる。確定診断では、ウイルス分離やPCR法によるウイルス遺伝子の検出などが用いられるのは、既知のとおりである。症状を認めた時点で、必要に応じ、適切な治療が可能な医療機関への紹介が必要となる。 また、治療では、有効なウイルス薬はなく、輸液などによる対症療法が行われる。その際に投与する解熱剤について、アスピリンは出血傾向やアシドーシスを助長するため使用するべきでなく、同じくイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も胃炎、出血を助長するために使用すべきではないとされている。投与する解熱剤としては、アセトアミノフェンなどが推奨されている。■医療者は診療時にも注意 デング熱には現時点で有効なワクチンがないため、有効な予防対策は蚊に刺されないことである。外出の際は、露出の少ない服装で虫よけスプレーなどによる対策を講じることになる。 1つ注意が必要なことは、患者診療時の医療者への感染である。疑わしい患者の診療時に針刺し事故などの血液曝露で感染する危険があるため、十分に注意するよう促している。 また、患者が出血を伴う場合には、医療従事者は不透過性のガウンおよび手袋を着用し、体液や血液による眼の汚染のリスクがある場合にはアイゴーグルなどで眼を保護する、としている。詳しくは厚生労働省 報道発表資料デング熱、患者さんに聞かれたら・・・

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スルホニル尿素(SU)薬は過去の薬か?(解説:住谷 哲 氏)-243

2型糖尿病(T2DM)患者の全死因死亡を減らすことが明らかにされているのは現時点においてはメトホルミンのみである1)。したがってほとんどのガイドラインではメトホルミンが第一選択薬とされている。しかしT2DMは進行性の疾患であるため、多くの患者は治療の継続とともに他の薬剤の追加投与を必要とする。本論文はメトホルミンの次の一手としてのインスリンとスルホニル尿素(SU)薬が予後に及ぼす影響を比較検討したものであり、興味深い。 試験デザインは最近よく用いられる、薬剤処方データベース研究であり、交絡因子の影響は傾向スコアマッチング法を用いて補正されている。 著者らはインスリン投与群がSU薬投与群に比較して良好な予後をもたらすと仮定したが、結果はそれに反してインスリン投与群で全死因死亡が増加していた。この結果からメトホルミンに追加する薬剤としてはインスリンに比較してSU薬が優れている、と単純に考えてよいだろうか? 日常臨床では注射薬であるインスリンを導入するのは容易ではない。ではインスリン投与群となった2,436人の患者はなぜインスリンが選択されたのだろうか。これはこの種の試験デザインで常に問題となる「処方理由による交絡 confounding by indication」であるが、少し考えてみよう。 SU薬ではなくインスリンが選択される場合として、SU薬が適切でない病態、たとえば肝硬変や腎不全の合併がある。しかしこれらの病態はメトホルミンの禁忌に該当するので、すでにメトホルミンが投与されている患者群においては考えにくい。次に考えられるのは血糖コントロールが極めて不良な場合である。これはSU薬投与群またはインスリン投与群のHbA1cの中央値がそれぞれ7.6%、8.5%であることから、可能性は十分ありそうである。傾向スコアマッチング法による補正では当然HbA1cも補正されているので解釈としては問題なさそうであるが、論文著者らもDiscussionで述べているように、HbA1cのみでは表されない糖尿病としての重症度(disease severity)が適切に補正されていない可能性が十分ある。つまりインスリンが選択された患者群は、はじめからイベントを起こしやすい予後不良群であったことになる。 やはり治療法の優劣を判断するには、ランダム化比較試験の結果を参考にする必要がある。SU薬とインスリンとの優劣を比較した試験としてはUKPDS332) があり、早期インスリン導入の従来療法に対する優越性を検討した試験としてはORIGIN3) がある。UKPDS33では、食事療法群、SU薬投与群、インスリン投与群(すでにBasal-bolus療法が用いられている)が比較されたが、その結果は1)SU薬とインスリンはイベント発症予防効果において同等である、2)膵β細胞機能の低下速度は、食事療法群、SU群、インスリン投与群において差はない、というものであった。つまり「早期インスリン導入による膵β細胞機能の温存」は幻想にすぎないことが明らかにされている。ORIGINでは、prediabetesを含む糖尿病患者においてグラルギンを用いた厳格血糖管理のイベント抑制効果を検討したが、グラルギン投与によるイベント抑制効果は認められなかった。 それではメトホルミンの次にはどの薬剤を選択すればよいのだろうか?インスリンおよびSU薬は糖尿病関連合併症を減らすことがUKPDS33で明らかにされているので、メトホルミンへの追加薬剤としていずれかを選択することは十分に合理的である。これまでのすべての報告はインスリン投与により、SU薬に比較して低血糖が増加することを示している。低血糖を回避して血糖を管理することの重要性が次第に明らかになりつつあることから、SU薬が使用できる状況であえてインスリン投与を選択する必要はないと考えられる。早期インスリン導入による膵β細胞保護作用を主張する一部の議論もあるが、その根拠はUKPDS33で明確に否定されている。膵β細胞機能を維持するために重要なのは良好な血糖コントロールを持続することであり、インスリンを投与することではない。インスリンは必要なときに、必要最少量を投与することがコツである。この点で英国のNICEのガイドライン4) では、インスリン投与はメトホルミンおよびSU薬の併用にてコントロール不良であるときに開始すべし、と明確に記載されている。

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結核性心膜炎でのステロイドや免疫療法を検証/NEJM

 結核性心膜炎患者に対し、補助的プレドニゾロン治療またはM. indicus pranii免疫療法のいずれも、有意な効果は認められなかったことが示された。南アフリカ共和国のケープタウン大学のBongani M Mayosi氏らが報告した。結核性心膜炎は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症を有している患者の頻度が高く、抗結核治療にもかかわらず有病率や死亡率が高いことが報告されている。また、補助的グルココルチコイド療法の効果については、死亡率の減少などが報告されていたが、HIV感染症患者についてはがんリスクを増大するといった報告が寄せられ、その使用について国際ガイドラインでは相反する勧告が示されている。研究グループは、補助的プレドニゾロンについてHIV感染症患者を含む結核性心膜炎に対し効果があるのではないかと仮定し検討を行った。NEJM誌オンライン版2014年9月1日号掲載の報告より。1,400例対象に、プレドニゾロンvs. M. indicus pranii免疫療法vs. プラセボ 検討は無作為化2×2要因試験にて、結核性心膜炎と診断または疑われた患者1,400例を対象に行われた。6週間のプレドニゾロンまたはプラセボを投与する群と、3ヵ月間で5回注射投与するM. indicus pranii免疫療法またはプラセボを投与する群に、無作為に割り付けた。 被験者のうち3分の2がHIV感染症を有していた。 主要有効性アウトカムは、死亡・心タンポナーデ・収縮性心膜炎の複合とした。主要複合アウトカムに有意差なし、がんリスク増大 結果、主要アウトカムの発生について、プレドニゾロン投与群(23.8%)とプラセボ投与群(24.5%)との間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.77~1.18、p=0.66)。また、M. indicus pranii免疫療法群(25.0%)とプラセボ投与群(24.3%)との間にも有意差はみられなかった(同:1.03、0.82~1.29、p=0.81)。 一方で、プレドニゾロン治療はプラセボと比較して、収縮性心膜炎の発生(4.4%対7.8%、HR:0.56、95%CI:0.36~0.87、p=0.009)、入院(20.7%vs. 25.2%、HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.04)を有意に減少したことが示された。 しかし、プレドニゾロン治療およびM. indicus pranii免疫療法とも、それぞれプラセボと比較して、がん発生の有意な増大と関連しており(1.8%vs. 0.6%、HR:3.27、95%CI:1.07~10.03、p=0.03/1.8%vs. 0.5%、同:3.69、1.03~13.24、p=0.03)、主としてHIV関連のがん増大によるものであった。

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DES後のDAPT継続期間は短期間をベースに、高リスクの患者では症例ごとのオーダーメイド医療か(解説:中川 義久 氏)-241

 薬剤溶出ステント(DES)留置後の2剤併用抗血小板療法(DAPT)を継続する期間については、いまだ明確な基準はない。今回、この問題に1つエビデンスが加えられた。 フランスのJean-Philippe Colletらが、ARCTIC-Interruptionという無作為化比較試験の結果をLancet誌に報告した。2010年1月から2012年3月の間に、中断群624例と継続群635例に割り付けた。DES留置後1年間にイベントが起きなかった場合に割り付けが行われ、中断群はチエノピリジン系薬剤(クロピドグレル)が中断されアスピリンを継続している。継続群は、アスピリン+チエノピリジン系薬剤の2剤投与である。割り付け後の追跡期間の中央値は17ヵ月である。 その結果では、全死亡、心筋梗塞、脳梗塞や一過性脳虚血性発作、再血行再建術、ステント血栓症で定義される主要エンドポイント発生は、ITTで評価すると中断群4%、継続群4%と差は無かった。 一方、STEEPLE大出血イベントで定義される安全性エンドポイントは、中断群<0.5%、継続群1%と有意差はないものの継続群で頻度が高かった。大出血または小出血イベントでは、中断群1%、継続群2%と継続群で有意に頻度が高かった(p=0.04)。 要約すれば、留置後1年間でイベントが起きなかった場合、その後も継続して行うことに明白な有益性はなく、むしろ出血イベントのリスクが増し有害であることが示された。 この試験だけでなく、PRODIGY、REAL-LATE/ZEST-LATE、DES LATE、EXCELLENT、RESET、OPTIMIZEなどの試験でも、長期間のDAPTは心血管イベントを減らすことはなく、出血性合併症を増加させるという結果が一貫性を持って示されている。 このようなエビデンスがあるものの、日本における日常臨床の現場においては、1年を超えてDAPTが継続されている症例も少なくないのが現状であろう。これらの無作為化試験においては、試験除外基準によりステント血栓症の高リスク症例は解析に加えられていないことに注意が必要である。 また、DESの進化、新規の抗血小板薬剤の登場など現場の変化もある。日常臨床において各担当医が悩むのは、複雑な病変背景や植込み手技の症例、PSSやステント・フラクチャを持つことが既知の症例などである。標準的な症例については、DAPT期間についてガイドラインが今後改訂される可能性はあるが、高リスク症例については明確な基準を提示することは困難であろう。 ステント血栓症の危険因子を解析した報告は多い。これらの因子の集積度について症例毎に配慮して各個人に最適な医療を提供するオーダーメイド医療が求められる分野なのであろう。

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤の臨床応用 そのエビデンスと各種ガイドラインにおける位置づけ

田中 知明 氏千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 千葉大学医学部附属病院糖尿病・内分泌代謝内科はじめにグリーンランドや千葉県下でのエイコサペンタエン酸(EPA)の有効性を明らかにした疫学調査をきっかけに、わが国では魚油をエチルエステル化した高純度EPA製剤が開発され、1990年には「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感の改善」、1994年には「高脂血症」に対する医療用医薬品として臨床の現場に登場した。さらに、欧州、米国などで「高トリグリセライド血症」の効能・効果を有する医薬品として承認されていた高濃度オメガ3製剤(主成分としてEPA・DHAを含有)も2013年に国内で承認され、日常臨床に広く普及しつつある。これらオメガ3製剤の臨床応用におけるエビデンスとしては、高純度EPA製剤の冠動脈疾患に対する発症予防効果を検証した日本人対象の大規模臨床試験JELIS1)に加えて、Circulation、Lancetに報告されたイタリアのGISSI-Prevenzione Trial、GISSI-HF Trialなど、多くのエビデンスが蓄積されている。そこで、本稿ではオメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤の臨床応用の骨格となる重要な大規模臨床試験とそのメタ解析におけるエビデンスを解説し、EPA製剤の各種ガイドラインにおける位置づけについて概説する。EPA製剤が推奨される各種ガイドライン本邦においてEPAに関してその臨床的有用性が明記されている各ガイドラインについて、表にまとめる。これまでの大規模臨床試験のエビデンス基づき、現在では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』、『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』、『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)』、『脳卒中治療ガイドライン2009』の4種類のガイドラインに医療医薬品としての有用性が推奨グレードとともに記載されている。以下に具体的内容とエビデンスグレードを記す。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』の第7章「治療法 B 薬物療法におけるステートメント」として、「高リスクの高LDL-C(low density lipoprotein cholesterol)血症においては、スタチン投与に加えてEPAの投与を考慮する」とされている。推奨レベルIIa、エビデンスレベルAである。『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』の「Ⅲ. 各疾患における抗凝固・抗血小板療法 11 心血管疾患高リスク症例の一次予防」においては、「高リスクの脂質異常症におけるエイコサペント酸エチル投与の考慮」が記載され、クラス1のエビデンスレベルとして推奨されている。『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)』における「II. 薬物療法 3 脂質異常症改善薬」の項目では、「2. 高LDLコレステロール血症にはスタチンに加え高純度EPA製剤も考慮する」と記載され、エビデンスグレードはBである。『脳卒中治療ガイドライン2009』における「Ⅱ. 脳梗塞・TIA 4-1. 脳梗塞再発予防 (3)脂質異常症」の項目の中で、「3. 低用量スタチン系薬剤で脂質異常症を治療中の患者において、EPA製剤の併用が脳卒中再発予防に有用である」と記載されている。エビデンスグレードはBである。高濃度オメガ3製剤(EPA+DHA)に関しては、欧州(ノルウェー)では1994年に、アメリカでは2004年に使用されるようになっていたが、日本では2013年から使われるようになった。したがって、国内では高純度EPA製剤が主流であった過去の経緯から、各ガイドラインにおける記載は高純度EPA製剤のみなのが現状である。海外ガイドラインにおけるオメガ3系脂肪酸の臨床的位置づけとして、欧州・米国ではEPA・DHA製剤が中心であり、脂質異常症の管理および心不全の治療ガイドラインにおいて推奨されている(推奨レベルIIb、エビデンスレベルB)。今後、本邦においてもエビデンスのさらなる蓄積とガイドラインにおける位置づけが新たに追加されることが期待される。表 各種ガイドラインにおける脂質異常症治療薬の記載画像を拡大するJELISの概要と1次予防・2次予防サブ解析JELISは、日本人を対象に実臨床に近い条件の下で実施された前向き大規模臨床試験であり、各ガイドライン記載の根拠となる重要なエビデンスである1)。JELISは、日本人の脂質異常症患者(総コレステロール250mg/dl以上)において40~75歳の男性と、閉経後~75歳の女性18,645人(冠動脈疾患の1次予防14,981例、2次予防3,664例)を対象としている。プラバスタチン10mg/日またはシンバスタチン5mg/日を基本として、1.8gの高純度EPA製剤の投与群と非投与群を無作為に割り付けて、5年間の追跡調査し、主要冠動脈イベント(致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、心臓突然死、心血管再建術、新規狭心症の発症、不安定狭心症)について検討を行った試験である。その結果、主要冠動脈イベントを19%低下させ、EPA投与群では対象群に比べ虚血性心疾患の発症リスク比(95% CI)が0.81(0.68-0.96)であり、非致死性では0.81(0.68-0.96)と有意であった(本誌p.23図を参照)。興味深いことに、血清脂質変化を検討すると、EPA群と対象群においてLDLコレステロールの変化率に有意差を認めなかった。このことから、高純度EPA製剤の心血管イベント抑制効果は、LDLコレステロール値以外による機序が大きいと考えられている。<JELIS 1次予防サブ解析>冠動脈疾患の既往がない1次予防サブ解析(14,981例)では、主要冠動脈イベントの発生はEPA投与群で18%減少するものの、有意差を認めなかった。肥満・高TG (triglyceride)血症・低HDL(high density lipoprotein)血症・糖尿病・高血圧を、冠動脈イベントリスク因子としてそれらの重積と冠動脈イベント発生を検討した結果、対照群/EPA群の両者において発症率の上昇を認め、EPA群で抑制している傾向が見られた2)。また、登録時のTG値とHDL値の組み合わせで4群に分けて、冠動脈イベント発症リスクを比較検討した結果、高TG/低HDL-C血症群ではTG/HDL-C正常群に比較して、冠動脈イベント発生リスクはEPA投与群で53%もの低下を示し、高リスク群での抗動脈硬化作用による心血管イベントの発症抑制が期待されている1, 2)。<JELIS 2次予防サブ解析>冠動脈疾患の既往がある患者(3,664例)の2次予防サブ解析では、EPA投与群で23%のイベント発症抑制効果を認めた3)。インターベンション施行症例や心筋梗塞既往症例においても、EPA投与群でそれぞれ35%、27%のイベント発症の抑制を認めた3)。これらの結果は、高純度EPA製剤の投与はインターベンション施行例や心筋梗塞既往例の2次予防薬としての有用性を示している。血漿EPAとアラキドン酸(AA)の比の変化を観察すると、試験開始時に両群共にEPA/AA比は0.6であったのに対して、EPA投与群では1年後に1.3まで上昇していた3)。試験終了時のEPA/AA比と冠動脈イベント再発の関連性を解析した結果、EPA/AA比が高いほど、イベント発生の相対リスクが低下していることが明らかとなった。<JELIS脳卒中サブ解析>JELIS試験においては、2次評価項目として脳卒中(脳血栓、脳塞栓、判別不能の脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血、くも膜下出血)の発症が検討された。患者背景として、脳卒中の既往はEPA群で485例(5%)であり、対照群で457例(5%)に認められ、その内訳は閉塞性脳血管障害がそれぞれ74%、75%で、両群間に有意差を認めなかった4)。脳卒中の1次予防に関しては、対照群およびEPA投与群ともに、脳卒中発症頻度が低かったため、両群間に明らかな差を認めなかった。実際、対照群における脳卒中累積発症率が5年間で1.3%ととても低値であったことが大きな要因と考えられている。また、JELIS以外に国内で施行された冠動脈疾患や脳卒中の既往のない高コレステロール患者を対象としたMEGA試験では、プラバスタチンの投与で有意に発症を抑制したことが報告されている。つまり、JELISにおけるスタチン投与の背景がすでに脳卒中発症をかなり予防していたことが推察され、EPAの有用性を否定するものではない結果といえよう。脳卒中既往歴のある2次予防については、EPA投与群において20%の有意な脳卒中発症抑制効果(発症リスク比0.80、95% CI:0.64-0.997)が認められた4)。この脳卒中発症抑制に関しては、number to treat(NNT=疫学の指標の1つで、エンドポイントに到達する患者を1人減らすために何人の患者の治療を必要とするかを表したもの)は27であった。興味深いことに、同時期に欧米で施行されたSPARCL試験5)では、アトルバスタチンの5年間の投与による脳卒中2次予防効果のNNTは46であり、高用量スタチンより優れた結果を示唆するものであった。単純比較はできないが、EPA製剤(スタチン併用)の脳卒中2次予防効果における臨床的有用性を示すと考えられている。登録時のHDL-C値と脳卒中発症の関係を解析した結果、対照群ではHDL-C値が低いことに相関して脳卒中再発率が有意に増加するが、EPA投与群ではHDL-C値と独立して脳卒中再発予防効果を認めた。また臨床的なポイントとして、JELISにおける脳卒中の疾患別検討では、EPA効果がより高い群として脳梗塞、特に脳血栓症の抑制が明らかであった。またEPA服薬良好群では、36%の顕著な再発低下(5年間のNNTは16)を示した6)。EPAの特徴の1つである血小板凝集抑制作用を介したアテローム血栓予防効果が大きな役割を果たしている可能性が高い。GISSI-Prevenzione Trial7)と海外のエビデンスイタリアで行われたGISSI-Prevenzione Trialは、急性心筋梗塞発症後3か月以内の高リスク患者11,324症例を対象とした2次予防試験であり、オメガ3系多価不飽和脂肪酸1g/日のカプセルと抗酸化作用を持つビタミンE 300mg/日を内服する群を、オメガ3系多価不飽和脂肪酸のみ内服する群、ビタミンEのみ内服する群、両方内服する群、両方内服しない群に分けて3.5年間介入し検討を行った試験である7)。その結果、オメガ3系多価不飽和脂肪酸を内服している群は対象群に比べ、全死亡の相対リスク(95% CI)が0.80(0.67-0.94)と低下を認め、特に突然死においては0.55(0.40-0.76)と大きく抑制され、突然死においては治療開始後早期の120日ですでに有意な相対リスクの低下(0.47(0.22-0.99)、p=0.048)が認められた(本誌p.24図を参照)7)。また、心不全患者を対象に行ったGISSI-HF Trialでも、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の投与は、有意に心血管イベントの発症を抑制した8)。コホート試験である13試験を用いて、魚摂取・魚食頻度と冠動脈疾患による死亡率との関連について検討した結果(222,364症例のメタ解析)、魚摂取は冠動脈疾患による死亡率を有意に低下させることが明らかとなった9)。さらに、脂質低下療法に関する97ランダム化大規模臨床試験のメタ解析の結果から、スタチンとオメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤は、心臓死および総死亡のイベントリスクを低下させることが示された10)。これらのエビデンスから、ハイリスクの脂質異常患者に対してスタチンにEPA製剤を加えることで、さらなる心血管イベント抑制効果が期待できると考えられる。おわりに高純度EPA製剤は、心血管イベントおよび脳血管イベントの1次予防・2次予防戦略を考えるうえで重要な薬剤であることはいうまでもない。大規模臨床試験のエビデンスをベースとした各ガイドラインを見てわかるように、脂質異常症のゴールデンスタンダードであるスタチンに加えて、EPA製剤の併用効果が証明され、臨床的意義づけが確立している。JELISによる日本人のエビデンスに裏づけされた内科的戦略の1つとして、心血管・脳血管イベントのハイリスク症例やスタチン投与による脂質管理下でもイベント発生を抑制できない症例に対して、積極的な使用が推奨される。またEPA・DHA製剤についても、ようやく国内で使用することができるようになった。日本人のエビデンスはまだ十分ではなく、ガイドラインにおける位置づけは現時点では明確ではないが、欧米におけるエビデンスと使用経験から本邦でも十分に期待できるものと思われる。EPA製剤との違いや臨床的使い分けなど、今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要であろう。文献1)Yokoyama M et al. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 2007; 369: 1090-1098.2)Saito Y et al. Effect of EPA on coronary artery disease in hypercholesterolemic patients with multiple risk factors: sub-analysis of primary prevention cases from the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2008; 200: 135-140.3)Matsuzaki M et al. Incremental effect of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease. Circ J 2009; 73: 1283-1290.4)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients : subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.5)Amarenco P et al. High-dose atrovastatin after stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med 2006; 355: 549-559.6)田中耕太郎ほか. 高コレステロール血症患者の脳卒中発症に対するEPAの効果-JELISサブ解析結果. 脳卒中2007; 29: 762-766.7)Marchioli R et al. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction: time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell'Infarto Miocardico (GISSI)-Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-1903.8)Gissi HFI et al. Effect of n-3 polyunsaturated fatty acids in patients with chronic heart failure (the GISSI-HF trial): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2008; 372: 1223-1230.9)He K et al. Accumulated evidence on fish oil consumption and coronary heart disease mortality : a meta-analysis of cohort studies. Circulation 2004; 109: 2705-2711.10)Studer M et al. Effect of different antilipidemic agents and diets on mortality : a systematic review. Arch Intern Med 2005; 165: 725-730.

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高血圧治療は個々のリスク因子合併を考慮した“トータルバスキュラーマネージメント”が重要(解説:桑島 巌 氏)-237

日本動脈硬化学会によるガイドラインでは、高脂血症の薬物治療開始基準を一律に決定するのではなく、性、年齢、血圧、糖尿病の有無など血管系リスク層別化を考慮した治療目標を設定すべきことが示されている。これは、これまでのメタ解析で、血管合併症のリスクの高い症例ほど薬物治療による絶対的リスク減少が大きいことが明らかになっているからである。 同じような考えが高血圧治療においてもいえることを実証したのが、このメタ解析である。 BPLTTCは、高血圧・高脂血症治療に関して、世界で最も信頼性の高いメタ解析を発表しているグループである。メタ解析で採用された臨床試験は、いずれも試験開始前に一次エンドポイント、二次エンドポイント、試験方法、症例数、解析方法など詳細に登録を行ったもののみを対象としており、そのエビデンスレベルは非常に高いことで知られている。 今回の報告は、高血圧治療効果についても、心血管合併症予防効果を絶対的リスク減少でみた場合、リスク因子を多く有している症例ほど有効性が大きいことを示している。 治療による有用性は相対的リスク減少で表される場合があるが、これはしばしば効果を誇大に表現することになる。たとえば、リスクの少ない症例100を対象とした場合、治療群の発症は1例、プラセボ群では2例とすると相対的リスク減少は50%(なんと半減!)になるが、絶対的リスク減少は100人中1例に過ぎない。NNT100、つまり100人治療してやっと1例の発症を予防できることになる。治療効果は絶対的リスク減少、あるいはNNT(Number Needed to Treat)で表すのが本当である。 本研究は11の臨床研究に参加した約5万2千例の対象症例を、プラセボ群のデータから予測された数式を用いて、11%未満の低リスク群、11~15%の軽度リスク群、15~21%の中等度リスク群、21%以上の高リスク群の4群に層別した。高リスク群は当然、喫煙率、心血管疾患既往、糖尿病、収縮期血圧のいずれもが他の群より高い。 その結果、5年間の心血管合併症発症は、相対的リスク減少でみた場合には4群間で差はなく、治療の有効性はどの群でも同じようにみえる。しかし、絶対的リスク減少でみると、高リスク群が最も高血圧治療薬による効果が大きく、ついで中等度、軽度、低リスクの順になっている。 この結果は、高血圧治療の開始基準あるいは降圧目標値の設定においても、血圧以外のリスク因子にも配慮した“トータルバスキュラーマネージメント”の考え方が重要であることを示している。当然ながら、高齢者はさまざまなリスク因子を併せもつ症例が多いことから、高リスク症例が多い。したがって、高齢者ほど厳格な高血圧治療が必要であることを意味しているのである。

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大腸がん死亡率、切除腺腫のリスクで差/NEJM

 大腸腺腫切除後の大腸がん長期死亡率について、一般集団と比較して、切除した腺腫が低リスクであった患者では低下がみられた一方、高リスクであった患者は高かったことが明らかにされた。ノルウェー・オスロ大学のMagnus Lphiberg氏らが1,273例を中央値7.7年間追跡し報告した。腺腫切除後には大腸内視鏡によるサーベイランスが広く推奨されているが、同患者における大腸がん死亡についてはこれまでほとんど報告されていなかった。NEJM誌2014年8月28日号掲載の報告より。ノルウェー1993~2007年に腺腫切除を受けた患者を追跡評価 研究グループは、ノルウェーのがんレジストリと死亡発生レジストリのデータを集約し、1993~2007年に大腸腺腫切除を受けた患者の大腸がん死亡率を、2011年まで追跡し推算した。また一般集団との比較で発生率ベースの標準化死亡比(SMR)も算出し検討した。 ノルウェーのガイドラインでは、腺腫が高リスク(高悪性度異形成腺腫、絨毛腺腫、10mm以上の腺腫)の患者は10年後に、また腺腫が3個以上あった患者は5年後に大腸内視鏡検査を受けることが推奨されている。低リスク腺腫の患者についてはサーベイランスは推奨されていない。 本研究では、レジストリデータから正確なポリープサイズと数は入手できなかった。高リスク腺腫は、多発性腺腫、絨毛腺腫、高悪性度異形成腺腫と定義して検討が行われた。一般集団と比較し、高リスク腺腫切除患者は上昇、低リスク腺腫切除患者は低下 研究グループが特定した、大腸腺腫切除患者は4万826例であった。 これら患者のうち、追跡期間中央値7.7年(最長19.0年)の間に、1,273例の患者が大腸がんと診断されていた。 大腸がん死亡は、一般集団398例に対し、検討群では383例が観察され、SMRは0.96(95%信頼区間[CI]:0.87~1.06)だった。 大腸がん死亡率は、高リスク腺腫切除患者群では上昇が(209例vs. 242例、SMR:1.16、95%CI:1.02~1.31)、一方、低リスク腺腫切除患者群では低下がみられた(189例vs. 141例、SMR:0.75、95%CI:0.63~0.88)。

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GET!ザ・トレンド~臨床の近未来を探る~

医学の世界は日進月歩。さまざまな疾患領域で診断や治療が進歩するなか、ご自身の専門領域はもちろん、非専門の領域においても、最新の診療やガイドラインなどの情報を押さえておきたいところです。このコーナーでは、最近注目されている医療情報や診療、近い将来に登場が期待される医療技術などをピックアップしてお届けします。

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【寄稿】GERDとの鑑別が必要な好酸球性食道炎

概説好酸球性食道炎は、食道上皮に好酸球を中心とした炎症が持続することによって、嚥下困難や食事のつかえ感などの症状を生じ、食道の運動・知覚異常、狭窄などを合併する慢性アレルギー疾患である。原因として食物や気道抗原に対する過剰な免疫応答が想定されているが、まだ原因や病態については十分に解明されていない。欧米では1990年代以降、急激な増加傾向を示しており、最近の報告では、年間の発症率が人口10万人あたり10人に達し、有病率も人口10万人あたり50人程度となっている。一方、本邦では欧米に比して非常にまれな疾患と考えられていたが、ここ数年、成人例での報告例が増加している。本疾患は胸焼けを主訴とすることもあり、胃食道逆流症(GERD)との鑑別が重要となる。内視鏡的には縦走溝・リング・白色滲出物といった特徴的な所見を呈し、逆流性食道炎に見られる粘膜傷害(mucosal break)とは異なる。確定診断には食道上皮からの生検を行い、高倍率視野で15~20個以上の好酸球浸潤を証明することが必要である。プロトンポンプ阻害薬(PPI)治療によってもGERD症状が改善しない症例の1割弱には、好酸球性食道炎が含まれていると報告されており、治療抵抗性GERDの鑑別疾患として念頭に置く必要がある。疫学本疾患は1970年代に初めて報告され、1990年代前半までは、まれな疾患と考えられていたが、その後、欧米において急激な有病率・罹患率の増加が認められるようになった。また、当初は小児に多い疾患と考えられていたが、最近では成人例の報告が目立つようになっている。最近の米国の報告では有病率は人口10万人あたり50人を超している1)。一方、本邦では、2006年に初めて成人例において本疾患が報告された2)。当時は非常にまれな疾患と考えられていたが、ここ数年、とくに成人例での報告例が増えてきている。2011年に内視鏡約5,000例あたり1例の頻度で好酸球性食道炎が認められることが報告された3)が、最近では、さらにその頻度は増加していると考えられる。われわれの最近の検討では、食事のつかえ感や胸焼けなどの症状を主訴として内視鏡検査を施行した319例について、食道からの生検を行い、8例(2.5%)に15個以上/高倍率視野の食道好酸球浸潤が認められた4)。疫学的な特徴として、30~50代に多く、70~80%が男性であることが示されている5)。また、患者の半数以上に喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患の合併が見られる。PPI治療に抵抗を示すGERD症例に含まれる好酸球性食道炎の頻度に関する調査では、0.9~8.8%が好酸球性食道炎であったと報告されている6)。大規模な検討はなく、頻度にばらつきはあるが、PPI抵抗性GERDの1割弱に好酸球性食道炎が含まれていることが示されている。病態食物や空気中の抗原をアレルゲンとして食道上皮局所において過剰な免疫応答(アレルギー)が生じ、好酸球を中心とした慢性的な炎症が惹起されると想定されている。本疾患では、IgEを介する即時型アレルギー反応よりも、Tリンパ球を中心とした細胞性免疫の作用による非即時型のアレルギー反応が重要であることが示されている。最近の研究から、アレルギー機序に関与するいくつかの遺伝子の多型が発症に関連することが明らかにされつつある7)。症状本疾患は小児および成人で特徴的な症状が異なる。乳幼児期では、哺乳障害や発育の遅れが見られる。学童期から青年期においては、腹痛、嘔気、嘔吐などの非特異的な症状を伴うことが多い。成人例では嚥下障害や食事のつかえ感を生じることが多く、food impactionと呼ばれる食物塊の食道への嵌頓を生じる例も見られる。しかし、胸焼けや呑酸などGERDに典型的な症状を主訴とすることもあり、症状のみから、GERDと鑑別することは困難である。最近、人間ドックなどの無症状者の検診例において、典型的な好酸球性食道炎の内視鏡像を呈し、生検で食道好酸球浸潤を認めるケースも見られるようになっている。診断本疾患の診断は、食道に起因するさまざまな症状を有する例に上部消化管内視鏡検査を行い、食道に特徴的な内視鏡所見を確認し、生検で食道上皮への好酸球浸潤(高倍率視野で15~20個以上)を認めることによってなされる。本邦で作成された診断基準(案)を表1に示す6)。胸部CTで食道壁の肥厚を指摘されることが診断の契機となることもある。末梢血の好酸球増多を示すことは少ない。末梢血IgEは約70%の症例で増加を認めるが、併存するアレルギー疾患の関与によるものが大きいと考えられ、本疾患に特異的なものではない8)。内視鏡で特徴的に認められる所見は縦走溝、リング、白色滲出物である。このうち、縦走溝は本疾患において最も典型的な画像所見であり、逆流性食道炎の際に認められる粘膜傷害(mucosal break)と鑑別可能である(図1)。以前の報告では約30%の症例では内視鏡的な異常を示さないと報告されていたが、最近の報告では90%以上の症例で上記のいずれかの内視鏡所見を示すことが報告されている9)。生検時の注意点として、食道粘膜における好酸球の分布は不均一であり、生検1個での診断感度は50%程度とされ、ガイドラインでは2~4個の生検が必要と示されている。表1を拡大する図1を拡大する米国のガイドラインによる好酸球性食道炎の診断プロセスを図2に示す10)。生検で食道好酸球浸潤を認めた場合、まず、薬剤性や感染性など二次性の原因を除外する。好酸球性食道炎は、消化管のうちで食道のみに好酸球浸潤を来すことが特徴であり、好酸球浸潤が食道のみでなく、胃や小腸へも認められた場合は、好酸球性胃腸炎と診断される。したがって、診断には胃・十二指腸からの生検も必要となる。次のステップとして、PPIの有効性の評価が行われる。高用量PPIの2ヵ月間投与後に再度、内視鏡検査・病理検査を行い、改善の認められた症例はPPI反応性食道好酸球浸潤と診断され、好酸球性食道炎とは区別されて扱われる。したがって、好酸球性食道炎の診断には、PPIが無効であることが含まれている。一方、本邦では、好酸球性食道炎がまれな疾患であり、多くの場合、PPIが有効であることから、PPIの有効性によって診断の区別をしていない。今後、疾患のより詳細な解析を踏まえて、新たな診断基準の作成が必要である。図2を拡大する治療食事療法と薬物療法が中心となる。食事療法としては、原因となる食物アレルゲンを除去することが有効であるとされており、欧米では成分栄養食やアレルゲンとなる頻度の高い6種類(牛乳、小麦、卵、大豆、ナッツ類、魚介類)の食品を除いた6種抗原除去食(six food elimination diet: SFED)が治療に用いられている。最近の食事療法に関するシステマティックレビューによると、成分栄養食で90.8%、SFEDで72.1%の症例で有効であったことが報告されている11)。一方、血清中の抗原特異的IgEや皮膚のプリックテストやパッチテストによって同定されたアレルゲンに対する食事療法は有効でないことが示されており、SFEDが有効であった場合は、1種類ずつ再開し、時間をかけて原因となる食物を同定する必要がある。また、入院中は食事療法が奏効しても、退院後の継続性に問題があることが指摘されている。日本人を対象とした有効性に関する報告はまだなされていない。上述のように、欧米のガイドラインでは好酸球性食道炎はPPIが無効であることが診断基準に含まれている。しかしながら、最近の検討ではPPIが酸分泌抑制効果以外に、免疫調節作用を有しており、食道への好酸球浸潤の誘導を抑制する効果を持つことが報告されている。また、酸性条件下では、病態に関与するサイトカイン(IL-13)の作用が増強することが示されており、PPIが好酸球性食道炎の病態改善に寄与することが推測されている。したがって、食道好酸球浸潤症例の治療にはPPIを第一選択として使用すべきと考えられる(保険適用外)。PPIが無効の場合は、ステロイド投与を行う。投与方法として、気管支喘息の治療に用いられる局所作用ステロイドであるフルチカゾンやブデソニドを吸入ではなく、口腔内に投薬し、唾液と共に嚥下させる方法による治療が行われている(保険適用外)。この方法は、内服による全身投与に比して、副作用の面からも有効であると考えられるが、その効果は必ずしも十分でないとする報告もある。局所作用ステロイドで十分な効果が得られない場合は、プレドニゾロンなどの全身作用ステロイドの投与が行われる(保険適用外)が、投与開始量や減量方法などについて、十分なコンセンサスは得られていない。投与の際は、副作用についての十分な注意が必要である。その他、抗アレルギー薬やロイコトリエン受容体拮抗薬などの治療成績が報告されているが、効果は限定的と考えられている。予後一般に、軽快と増悪を繰り返し、完全に治癒することは少ないとされる。これまでに悪性化の報告はなく、比較的予後は良好であると考えられているが、長期経過に関する報告はまだ少ないため、自然史については不明な点も多い。GERDとの鑑別のポイントGERDと好酸球性食道炎の臨床像の特徴を表2に示す。好酸球性食道炎は中年男性に好発し、アレルギー疾患の合併を半数以上に認め、食事のつかえ感が主訴となることが最も多いが、胸焼けや呑酸を訴えることもある。好酸球性食道炎では90%以上に内視鏡的に特徴的な所見を認めることが最近の報告で示されており、本疾患を念頭に置いて食道を詳細に観察することが重要である。また、GERD症状に対してPPIが有効でない症例においては、食道からの生検を行い、好酸球浸潤の有無を評価すべきである。GERDと好酸球性食道炎はオーバーラップすることもある(図3)。PPIはどちらの病態に対しても有効に作用することが示されており、PPI治療は第一選択となる。現在の欧米のガイドラインではPPI無効例のみを好酸球性食道炎と定義しているが、好酸球性食道炎とPPI反応性食道好酸球浸潤を症状、内視鏡像、病理像から鑑別することは困難であることが報告されており、疾患概念の見直しの必要性が指摘されている。表2を拡大する図3を拡大する引用文献1)Dellon ES, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2014;12:589-596.2)Furuta K, et al. J Gastroenterol. 2006;41:706-710.3)Fujishiro H, et al. J Gastroenterol. 2011;46:1142-1144.4)Shimura S, et al. Digestion. 2014(in press).5)Kinoshita Y, et al. J Gastroenterol. 2013;48:333-339.6)木下芳一ほか. 日本消化器病学会雑誌. 2013;110:953-964.7)石村典久ほか. 分子消化器病. 2013;10:157-165.8)Ishimura N, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2013;28:1306-1313.9)Ishimura N, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2014(in press).10)Dellon ES, et al. Am J Gastroenterol. 2013;108:679-692.11)Arias A, et al. Gastroenterology. 2014;146:1639-1648.

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脳卒中発症後の手術では、心血管有害事象のリスクが高く、時間依存的に関連(解説:中川原 譲二 氏)-234

虚血性脳卒中新規発症例に対する手術タイミングは重要な問題であるが、これまで不十分に扱われてきた。デンマーク・コペンハーゲン大学のMads E. Jorgensen氏らは、同国住民コホートで待機的非心臓手術を受けた約48万件の手術データを後ろ向きに解析し、とくに発作後9ヵ月未満で手術を行った場合は、脳卒中既往は術後の心血管系の有害転帰と関連することを明らかにした。また9ヵ月超でも、脳卒中を発症していない患者と比べるとそのリスクは高く一定に推移することが示された。著者らは「今回の結果は、今後のガイドラインにおいてリスクの時間依存性に注意を払う必要があることの根拠になると思われる」とまとめている。(JAMA誌2014年7月16日号掲載の報告より) 48万1,183件のデータを脳卒中発症から手術までの時間で層別化し評価 脳卒中発症から手術までの時間に関する安全性および重要性を評価する検討は、2005~2011年のデンマーク全国コホート研究のデータを用いて行われた。コホートには、20歳以上で待機的非心臓手術を受けた48万1,183件の手術患者のデータが含まれていた。脳卒中発症から手術までの時間で層別化し、術後30日間の主要心血管有害事象(MACE;虚血性脳卒中、急性心筋梗塞、心血管死を含む)と全死因死亡を、多変量ロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比(OR)を算出して評価した。対象のうち、脳卒中既往患者は7,137例(1.5%)、非既往患者は47万4,046例であった。既往群は非既往群と比べて、平均年齢で16歳上回り(69.7歳vs. 53.7歳)、男性が多く(56.4%vs. 43.3%)、心血管系の治療歴と併存疾患を有する割合が高かった。また被験者が受けた手術回数の中央値は1回で、調査対象期間中に1回以上の手術を受けた人は、脳卒中既往群24.3%、非既往群21.4%であった。 主要心血管有害事象(MACE)、全死亡ともリスクは時間依存的傾向を示す MACEの粗発生率は、1,000患者当たり脳卒中既往群54.4件(95%信頼区間[CI]:49.1~59.9)に対し、非既往群は4.1件(同:3.9~4.2)だった。非既往群との比較による既往群のMACEのORは、脳卒中から手術までの期間が3ヵ月未満の患者では14.23(95%CI:11.61~17.45)、3~6ヵ月未満では4.85(同:3.32~7.08)、6~12ヵ月未満では3.04(同:2.13~4.34)、12ヵ月以上では2.47(同:2.07~2.95)であった。MACEリスク(脳卒中から手術までの期間が3ヵ月未満)は、手術が低リスク(OR:9.96、95%CI:5.49~18.07)、中程度リスク(同:17.12、13.68~21.42)でも、高リスク(同:2.97、0.98~9.01)と比べて同程度か高いことが認められた(相互作用のp=0.003)。同様の傾向は、30日死亡率でもみられた。脳卒中から手術までの期間が3ヵ月未満の患者の死亡ORは3.07(95%CI:2.30~4.09)、3~6ヵ月未満では1.97(同:1.22~3.19)、6~12ヵ月未満では1.45(同:0.95~2.20)、12ヵ月以上では1.46(同:1.21~1.77)であった。脳卒中のサブグループにおける3次回帰スプライン分析により、リスクは9ヵ月後で横ばいになることが裏付けられた。

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アリスミアのツボ 第1回

Q1不整脈に対する治療が必要か否かの線引きは何をもって判断するのでしょうか?治療の要否は心電図所見ではないことを肝に銘じましょう。治療の要否は患者の全体像によって決まるのです。「木を見て森を見ず」不整脈の診断は心電図でなされます。だからこそ、次のような誤解が生じやすくなります…心電図が読めないから不整脈は嫌い、心電図が正常でなければすべて病気、心電図が読めれば治療の要否がわかる、などです。しかし、今の時代、治療の要否をたった一つの(しかもたった一瞬の)検査結果だけで決定できる病気があるでしょうか。私は不整脈のコンサルトを受けることはよくありますが、心電図1枚だけで治療の要否や治療法がわかることはまずありません。そう、まず必要なことは、この不整脈に対する(あるいは心電図に対する)誤解を解くことだと思います。不整脈治療を心電図だけで行おうとすると、そのほとんどが「木を見て森を見ず」になりがちです。患者のイメージでは、なにをもって治療の要否を判断するのでしょう。私が不整脈の心電図に関するコンサルトを受けた時には、「何歳?性別は?今、症状あるの?心不全はなさそう?その他に合併症はない?」と心電図以外の質問攻めをします。これらの質問に対する答えがなければ、患者のイメージがつかめないからです。不整脈の治療の要否を判断するには、心電図より患者全体のイメージが何よりも重要です。で、具体的にはどうするの?…と言われそうですが、「線引き」ができる場合とできない場合があることを知っておきましょう。不整脈に限らず、治療の要否を簡単に線引きできる疾患はそう多くはないのです。90歳の悪性腫瘍はどのように治療しますか?そんな簡単には線引きはできないかもしれませんが、患者の全体像を知っていれば医師としての判断はしやすくなるでしょう。不整脈もこれと似ています。治療の要否決定は、デジタルではなくアナログで考えましょう。言葉にすれば、「現在の血行動態がやばい場合あるいは症状で困っている場合、ほうっておくと将来何か不幸が訪れると考えた場合」、これが不整脈治療の必要な場合です。さらに詳しい話はおいおいしていきたいと思います。Q2期外収縮の最新の薬物治療について知りたいのですが…期外収縮の治療は1990年代以降大きく進歩していません。この課題、卒業してもよさそうです。そもそも治療する?私が研修医をしていた1980年代、期外収縮は治療するものと習ってきました。心電図異常=病気という考え方に基づくものです。まったく理論的根拠がなかったのかというと、そうでもなくて、陳旧性心筋梗塞患者に限れば心室期外収縮が多ければ多いほどその後の予後が悪いということが知られていました。しかし、この事実をすべての患者に当てはめてしまうのは困りものですね。実際、虚血性心疾患や心不全がない患者では、心室期外収縮の有無によって、その後の予後に違いがないことが判明しています。ほうっておいても将来何も不幸が訪れないとわかっていて、何を目的に治療するのでしょう。たぶん、心電図所見から心室期外収縮が消えて、医者も患者も気分がよいという美容形成的な意味はあるかもしれませんが…。常識的に考えてみましょう。ここに心電図がないものとして、健康なイメージを有する人の脈をとったらたまたま1拍抜けていた…これだけですぐに治療しなきゃと考える人は少ないはずです。治療したらその効果はどう判断する?現在、期外収縮は相手にしないというのが基本的な考え方です。それでも、治療せざるを得ない場合があります。そう、現在の血行動態に問題なくても、将来不幸な出来事がなくても、患者の訴えが強くて困っているのに、「何もしない」というのは医学的には正しくても、人間としてつらいですね。そんな時、私はまず「教育」という治療をしています。患者さんは、「不整脈がありますね」と言われるだけで大きな不安を感じるものです。この精神的ストレスが期外収縮を増加させてしまいそうです。だから、まず「安心」をもたらすことが一番の治療だと思っています。それでもダメな場合はあります。その時は、β遮断薬、Ca拮抗薬、いわゆるI群抗不整脈薬の何でもいいと思っています。とりあえず、効きそうな薬を…です。しかし、私が選んでも、他の先生が選んでも、きっと患者さんにとっては変わりがないでしょう。それというのも、効果判定の手段がないからです。ホルター心電図の期外収縮数ほど再現性のない検査はありません。患者も医師も気楽に考えよう期外収縮は治療しない、どうしてもしなければならない時は患者の不快感がある場合に限られるとなると、効果判定は患者の不快感しかありません。だったら、もっと治療自体は気楽に考えればよいと思います。私は、始めた治療薬で患者の不快感がなくなればすぐに中止するようにしています。逆も真なりで、つらいなら飲み続けてもよいとも言っています。治療した時もう一つの重要なことは、抗不整脈薬をだらだら漫然と服用させないことです。目的を達したかどうかで、自由にオン・オフしてよいのです。Q3心房細動で抗凝固薬が絶対必要な症例とそうでない症例の見極めはどのようにするのでしょうか?CHADS2スコアで判断しますが、自分の感性も加味しています。CHADS2スコアとCHA2DS2-VAScスコア抗凝固療法の適応判断に用いるツールとして、CHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコアがあまりにも有名ですね。心房細動患者の脳梗塞リスクである、心不全、高血圧、高齢、糖尿病、脳梗塞の既往をリスクとして考えるCHADS2スコア、さらに動脈硬化性疾患、65-75歳、女性をリスクとして加味するCHA2DS2-VAScスコア、両者ともに便利なスコアですが、用いる人が使いやすいものを使えばよいと思います。どちらを使おうが、全くこれらを使わないで医師の感性だけで対処するよりずっとましだからです。ちなみに国内外のガイドラインを見ると、「65歳未満で何のリスクも持たない例」は抗血栓薬自体が不要、「CHADS2スコア2点以上」は絶対必要という点で一致しています。抗凝固薬の適応判断は単純なのだろうか?では、日常臨床ではそんなに簡単に見極めができるのでしょうか。文章で書くとわかってしまった気になるのですが、リスクとされる心不全、高血圧、糖尿病の有無はどのようにして決めるのでしょう。きちんと線引きができますか?年齢はそもそも連続的なのに、65とか75とか勝手に区切っていいものなのでしょうか?あるいはCHADS2スコア6点満点は絶対的に抗凝固薬の適応なのですが、患者に会ってみればあまりにもfragileでこれでも抗凝固療法が必要なのかと頭をかしげたくなる…これも日常臨床では必発です。アナログ判断は死なず結局、Q1と同じようなところに行きついてしまうのが医療なのでしょう。というか、それがあるからこそ、医師が必要なのです。基本は守りつつ、医師の感性、患者の感性も同じように重要だ…という感覚で心房細動の脳梗塞予防をしているのが私の実情です。私の基本は、「65歳未満で何のリスクも持たない例」以外はすべて抗凝固療法の適応ですが、年齢、高血圧については患者によってかなり斟酌の度合いが異なります。糖尿病の有無判断も、糖尿病の薬物治療をしているかどうかで決めています。fragileであれば、医学判断より家族判断を優先させます。こんなことはどの教科書にも書いてなくて根拠もないのですが、逆にそれはいけないと否定する根拠もなく、だからこそ自分が患者の全体像から感じる感性でアナログ的に加味して斟酌してもいいものと思っているのです。

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6分間歩行で統合失調症患者の身体評価

 フランス・モンペリエ第1大学のP. Bernard氏らは、統合失調症患者を対象とした研究での6分間歩行試験(6MWT)の意義について、システマティックレビューにて評価を行った。その結果、統合失調症患者が6分間に早歩きできる距離(6MWD)は健常成人と比べ概して短いこと、BMIが高値、喫煙量が多い、高用量の抗精神病薬服用、身体的な自己認識が低いことと負の関係にあることなどを報告した。そのうえで著者は、統合失調症患者の身体的健康モニタリングに6MWTが使用可能であるとし、「今後の研究において、その予測因子としての役割を検討するとともに、その測定特性の評価を継続すべきである」と述べている。Disability and Rehabilitation誌オンライン版2014年8月7日号の掲載報告。 6MWTは、6MWDを測定する亜最大運動負荷試験である。研究グループは、介入効果を測定する際の6MWTの適合性を評価し、統合失調症患者の6MWDを一般集団およびマッチさせたコホートと比較、また6MWD決定要因の特定、6MWTの測定特性や品質手順などを調査した。5つのデータベースを用いて、2013年8月に公表されたフルテキスト文献をシステマティックレビューした。 主な結果は以下のとおり。・16件の研究が選択された。・6MWDの有意な増加を報告した介入研究がなかったため、介入の影響を測定する際の6MWTの適合性については評価を行わなかった。・成人統合失調症患者の歩行距離は、健常成人と比較して全般的に短いようであった。・レビュー対象となった研究の平均6MWDは、421~648mの範囲にあった。・統合失調症患者において、通常、6MWDはBMI高値、喫煙量が多い、高用量の抗精神病薬、低い身体的自己認識と負の関係にあった。・6MWTの信頼性は高かったが、これまで、その基準の妥当性について検討されていなかった。・ガイドラインが存在するにもかかわらず、レビュー対象の研究で用いられていた6MWTの方法には大きなばらつきがあった。・将来、統合失調症患者に対して推奨される身体的健康モニタリングに6MWT を含めるべきであることが示唆された。・6MWTはリハビリテーションに影響を及ぼし、統合失調症患者における機能的運動能力を評価するものであった。・治療介入の影響を6MWTで測定した患者は確認できなかった。・以上の結果を踏まえて著者は、「臨床医は、統合失調症における機能的運動能力を考える際、過体重、抗精神病薬の使用、身体に関する自己認識などを考慮に入れるべきである。また、重篤な精神疾患患者に6MWTを施行する際には、米国胸部学会などによる国際標準に従うべきである」とまとめている。関連医療ニュース 統合失調症に対し抗精神病薬を中止することは可能か 統合失調症患者は、なぜ過度に喫煙するのか 統合失調症患者の突然死、その主な原因は  担当者へのご意見箱はこちら

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塩分摂取と死亡リスクの関係はJカーブ/NEJM

 心血管の健康に最適なナトリウム摂取量は3~6g/日(食塩換算量:7.5~15.0g/日)であり、これより多くても少なくても、死亡や心血管イベントのリスクが高くなることが、カナダ・マックマスター大学のMartin O’Donnell氏らが行ったPURE試験で示された。世界の心血管疾患予防ガイドラインが推奨するナトリウム摂取量は1.5~2.4g/日だが、これを達成するには、ほとんどの人が食生活の根本的な変更を迫られると考えられる。ナトリウム摂取量の減少が心血管疾患リスクの低下をもたらすことを証明した大規模無作為化試験はなく、前向きコホート試験の結果からは一致した見解は得られていないという。NEJM誌2014年8月14日号掲載の報告。推定排泄量を摂取量の代替指標とし、約10万人で検討 PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)試験は、尿中ナトリウムおよびカリウム排泄量と、死亡、心血管疾患イベントの関連を調査する前向きコホート試験。対象は、17ヵ国628地域に居住する35~70歳の一般住民であった。 朝の空腹時尿検体を採取して24時間ナトリウムおよびカリウム排泄量を推定し、摂取量の代替指標とした。尿中ナトリウムおよびカリウムの推定排泄量と、死亡および主要心血管イベントの複合アウトカムの関連を評価した。 2003年1月に登録が開始された。今回の解析には、10万1,945例(全体の48.4%がアジア人で、全体の42%は中国人)のデータを用いた。平均推定24時間ナトリウム排泄量は4.93g/日、カリウム排泄量は2.12g/日であった。平均血圧はナトリウム摂取量が多いほど高かった(p<0.001)。カリウム排泄量は多いほどリスクが低下 平均フォローアップ期間3.7年で、3,317例(3.3%)に複合アウトカムが発生した。死亡は1,976例で、そのうち650例が心血管死であった。857例が心筋梗塞、872例が脳卒中、261例が心不全を来した。 推定ナトリウム排泄量4.00~5.99g/日を基準とすると、排泄量≧7.00g/日では複合アウトカムのリスクが有意に上昇し(オッズ比[OR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.02~1.30)、死亡(1.25、同:1.07~1.48)および主要心血管イベント(1.16、同:1.01~1.34)のリスクもそれぞれ有意に上昇していた。 推定ナトリウム排泄量高値と複合アウトカムの関連は、高血圧を有する参加者で最も強く(交互作用検定p=0.02)、排泄量が6.00g/日を超えるとリスクが上昇した(6.00~6.99g/日;OR:1.14、95%CI:1.00~1.30/≧7.0g/日;同:1.21、1.05~1.40)。 推定ナトリウム排泄量が<3.00g/日の場合も、基準値(4.00~5.99g/日)に比べ複合アウトカムのリスクが有意に上昇した(OR:1.27、95%CI:1.12~1.44)。 推定カリウム排泄量が<1.50g/日の場合と比較して、≧1.50g/日の場合に複合転帰のリスクが有意に低下した(1.50~1.99g/日;OR:0.86、95%CI:0.77~0.97/2.00~2.49g/日;同:0.81、0.73~0.91/2.50~3.00g;同:0.86、0.75~0.98/>3.00g/日;同:0.78、0.67~0.91)。複合アウトカムの発生に関して、ナトリウム排泄量とカリウム排泄量に交互作用は認めなかった(p=0.55)。 著者は、「推定ナトリウム摂取量が3~6g/日より多い場合も少ない場合も、死亡および心血管イベントのリスクが増大した」とまとめ、「本試験はナトリウム摂取量の異なる群を疫学的に比較した調査であって、摂取量の減少が臨床アウトカムに及ぼす効果に関する情報を提供するものではない。それゆえ、意図的に摂取量を減らせばリスクが軽減するとのエビデンスとは解釈すべきでない」と指摘している。

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良質な睡眠を得るために

良質な睡眠を得るためには、生活を改善することが重要です定期的な運動規則正しい食生活寝酒は眠りが浅くなる快適な寝室環境を整える厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業、日本睡眠学会編. 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン2013年改訂より作成Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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睡眠障害対処 12の指針

睡眠障害対処12の指針睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分1刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない同じ時刻に毎日起床光の利用でよい睡眠5規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣昼寝をするなら、15時前の20~30分7眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに8睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全41021136912厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費 睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班. 平成13年度研究報告書Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.睡眠障害対処12の指針(説明編)1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分睡眠の長い人短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない。歳をとると必要な睡眠時間は短くなる。2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法就寝前4時間のカフェイン摂取、就寝前1時間の喫煙は避ける。軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング。3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする。4. 同じ時刻に毎日起床早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる。日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる。5. 光の利用でよい睡眠目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン。夜は明るすぎない照明を。6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く。運動習慣は熟睡を促進7. 昼寝をするなら、15時前の20~30分長い昼寝はかえってぼんやりのもと。夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意背景に睡眠の病気、専門治療が必要10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談。車の運転に注意。11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全一定時刻に服用し就床。アルコールとの併用をしない。厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費 睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班. 平成13年度研究報告書Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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過度な減塩は死亡率を増やすか? ガイドライン推奨1日6g未満に一石を投じる研究(解説:桑島 巌 氏)-232

PURE研究は、世界17ヵ国からの30~70歳までの成人約10万人を対象としてナトリウム、カリウム排泄量と血圧の関係、および心血管死の関係について詳細に調査した貴重な研究である。今回同一号に2報発表しているがその1つがO’Donnellらの論文である。 彼らの調査では平均3.7年の追跡期間中における全死亡率および心血管死亡率が、ナトリウム排泄量3~6g/日(塩分換算7.5~15g)より多くても少なくても上昇した。つまり塩分摂取と死亡との間にJ曲線関係がみられたという結果である。過度な塩分制限も死亡リスクを増やす可能性を示唆している点で、厳しい減塩食を推奨している国の内外のガイドラインに一石を投じる論文である。また本研究では高カリウム摂取者でイベント発症が少ないことも明らかにした。 高血圧ガイドラインでは食塩摂取量を1日6g未満としているが、確かなエビデンスがあるわけではなかったのも事実である。Intersalt研究などの疫学研究では、確かに塩分摂取量と血圧は相関することは報告されてはいたが、6gまでの減塩が心血管イベントを減らすという確かな報告はほとんどなかった。その意味では本研究は貴重である。 本研究の特徴は以下のように列挙できる。1)経済状況の異なる世界17ヵ国からの地球規模の研究である点。2)日本は含まれていないが、中国からの参加が比較的多く米を主食とするアジア人の特性も評価できる点。3)70歳までの比較的高齢者も含まれている点(Intersalt研究は59歳まで)。4)対象から悪性腫瘍や心血管合併症症例を除外し、かつ追跡2年目までのこれらの合併症発症例も除外することで、疫学追跡研究の解釈につきものの因果の逆転を回避しようとしている点、の4点である。 ただ、最大のlimitationとして、塩分排泄量はスポット尿採取によるKawasaki法からの24時間排泄量の推定値である点において24時間蓄尿法に比べると信頼性は大きく後退する。 結果において注目すべきは、7g以上の高ナトリウム排泄量(塩分17.5g以上)では、ナトリウム排泄量と心血管死/脳卒中との関係は血圧値で補正すると有意でなくなるが、1日ナトリウム排泄量3g未満(塩分換算7.5g未満)の低減塩摂取例では、血圧値で補正してもなおかつ全死亡、心血管死、脳卒中発症とのオッズ比が有意なことである。これらの結果は、高塩分摂取によるイベント発症は高血圧の関与が大きいが、過度な減塩による死亡率上昇には血圧以外の要因が関与している可能性が示されている点である。 本研究はあくまでもリスクのない一般住民での追跡研究の結果であることから、多数の交絡因子の存在は避けられず、この結果からただちに高血圧の患者に対する厳格な減塩は危険であるという解釈は早計かもしれない。 NEJMの同一号には、同じくPURE研究から、ナトリウム排泄量と血圧は直線的に相関するが、高塩分摂取者、高血圧患者、高齢者で勾配が急峻であるというMenteらの断面調査結果や、107のランダム化試験からの塩分と死亡の関係をメタ解析したNUTRICODE研究による、ナトリウム摂取1日2.0g(塩分5g)以上が年間165万人の心血管死に関係するという報告も掲載されており、併せて参考にすることが望ましい。

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抗てんかん薬の使い分け:独での使用調査

 抗てんかん薬の選択に影響を及ぼす要因は何なのか。ドイツ・エアランゲン大学のHajo M. Hamer氏らは、同国における抗てんかん薬(AED)の使用実態を、大規模データベースを用いて後ろ向きに分析し調査した。その結果、AEDによる治療は個人の置かれている状況によりさまざまで、性別、保険の種類および住んでいる場所により異なることを報告した。CNS Drugs誌2014年8月号の掲載報告。 調査は、ドイツの大規模データベースDisease Analyzerを用いて行った。同データベースには、一般開業医および専門医の診療コンピュータシステムから得られた匿名の医療行為(診断、処方)のデータが収集されている。その中から、2010~2012年の間に神経科医346名がてんかんと診断(ICD10コード: G40.X)した成人患者4万3,712例について、社会人口学的特性、併存症、およびAED治療に関して調べた。多変量ロジスティック回帰を用いて調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・男性は女性に比べ、ラモトリギンの使用が少なく(OR:0.68、95%CI:0.65~0.72、p<0.001)、むしろカルバマゼピンが多く処方されていた(OR:1.29、95%CI:1.23~1.35、p<0.001)。・民間保険(PHI)でカバーされていた患者と比べ、公的健康保険(SHI)でカバーされていた患者はバルプロ酸が多く使用されており(OR:1.19、95%CI:1.07~1.31、p<0.001)、肥満の割合が高かった。(SHI:3.1%、PHI:1.6%、p<0.001)。・一方、PHIはレベチラセタムの投与と関連していた(OR:1.27、95%CI:1.16~1.4、p<0.001)。・カルバマゼピン(OR:1.25、95%CI:1.17~1.31、p<0.001)およびプリミドン(OR:1.23、95%CI:1.08~1.38、p<0.001)は、都会に比べ田舎でより多く使用されていた。・ラモトリギン(OR:1.31、95%CI:1.23~1.39、p<0.001)は、東ドイツに比べ西ドイツでより多く使用されていた。・都会での生活は、レベチラセタムによる治療機会の増加と関連していた(OR:1.23、95%CI:1.17~1.28、p<0.001)。・診療ガイドラインは存在するものの、ドイツのてんかん患者に対するAED治療は個人の置かれている状況によりさまざまであり、性別に加え、加入している保険の種類および住んでいる場所がAED治療に強く影響していた。関連医療ニュース 新規の抗てんかん薬16種の相互作用を検証 難治性の部分発作を有する日本人てんかん患者へのLEV追加の有用性は 新規抗てんかん薬の催奇形性リスクは  担当者へのご意見箱はこちら

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸と心血管イベント 臨床的側面からその意義を考える

木島 康文 氏岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学はじめに動脈硬化プラークに蓄積しているのはコレステロールである。コレステロールの中でも特に低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)と心血管疾患との関連性については広く認知されており、それに対して、スタチンの投与は、心血管イベントの1次予防、2次予防、ハイリスク群に対する投与のいずれにおいても20~30%の相対リスク減少をもたらす1)。では、これで十分かといえば、残りの70%を超える症例がスタチンを投与されているにもかかわらず、心血管イベントを起こしていることになる。すなわち、スタチン単独療法には限界があることを示しており、近年“残余リスク”として注目されている。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』では心血管リスク因子がない患者群に対して、リスクの高い患者群ではより低いLDL-Cの目標値が設定されている。これはLDL-Cの“質”がリスク因子の影響を受けることを意味している。つまり、これからは心血管リスク因子としての脂質においてはLDL-Cの量とともにリポ蛋白の“質”により注目すべきといえる。リポ蛋白の“質”に影響を及ぼす残余リスクに、多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)のバランス異常がある。具体的には、アラキドン酸(arachidonic acid:AA)に対するエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)の相対的低下に代表される、オメガ6系PUFAとオメガ3系PUFAのバランス異常である。オメガ3系PUFAの代表的なものとして魚介由来のEPAやドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)と植物由来のα-リノレン酸(alpha-linolenic acid:ALA)がある。これらオメガ3系PUFAには中性脂肪低下作用だけでなく、血小板凝集抑制作用、抗炎症作用、プラーク安定化作用、抗不整脈作用、自律神経調節作用などの多面的効果を有し、これらの効果を介し心血管系に保護的に働くと考えられる。本稿ではオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関係について臨床的側面を中心に述べる。オメガ3系PUFAと心血管イベントの関係:その根拠は?オメガ3系脂肪酸の最初のエビデンスは疫学調査によるものである。1970年代に、デンマーク領グリーンランドのイヌイットでは、デンマークの白人に比し、心筋梗塞・狭心症による死亡率が有意に低いことが報告された(白人34.7% vs. イヌイット5.3%)2)。食事内容を比較すると、総摂取エネルギーに対する脂肪の割合はいずれも約40%であったが、白人は主に牛や豚から、イヌイットは主に魚や(魚を大量に摂取する)アザラシから脂肪を摂取していた3)。また、血清コレステロールエステル中にイヌイットではEPAが15.4%存在し、AAが0%であったのに対し、白人ではそれぞれ0%、4.4%と著しい差を認めた。これにより、虚血性心疾患による死亡には脂肪の“質”が関与していることが示唆され、オメガ3系PUFAの心血管イベント抑制効果が注目されることとなった。1985年に、オランダの50~69歳男性852人を20年間追跡し、30g/日以上の魚介を食べる人はまったく食べない人と比べて虚血性心疾患による死亡が約半分であったことが報告された4)。その後、アメリカの40~55歳の健常男性を追跡調査した結果では、35g/日以上の魚介類摂取を行っている場合には心筋梗塞による死亡の相対危険率は0.56で、冠動脈疾患全体では0.62と、魚介類摂取による死亡抑制効果が認められた5)。また、アメリカのPhysicians' Health Studyにおいて、40~80歳までの医師20,551人を対象として最長17年間追跡調査した報告では、週1回以上の魚介類摂取習慣と心臓突然死との関連性が認められた。そして、実際の血清サンプル脂肪酸解析から突然死群のオメガ3系PUFAが対照群と比べて有意に低値であることも報告された6)。そのほかにも、イギリスにおける心筋梗塞後患者の追跡比較試験では、魚介類摂取指導がある群ではない群と比較して総死亡、虚血性心疾患死が有意に少なくなっていたことも報告されている7)。一方、日本人の冠動脈疾患の発症率は欧米に比し低いものの、近年その増加が指摘されている。国民1人当たりの魚介類消費量と男性における冠動脈疾患による死亡率を国別に比較すると、魚介類消費量と冠動脈疾患死の間には明らかな負の相関が認められる。欧米に比べて日本人の魚介類の摂取量は多く、冠動脈疾患の死亡率は低い。このことより、魚介類の摂取量が多いから日本人は冠動脈疾患が少ないものと考えられてきた。近年、日本人が摂取する脂肪の割合は増加しており、増加した脂肪の多くがオメガ6系PUFAに属する動物性油や植物性油である。それに対し、魚介由来のオメガ3系PUFAの摂取量は低下してきている。つまり、本邦における脂肪酸摂取の“質”は近年変わりつつあるといえる。本邦における総脂肪に対するEPAの推定比と脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡率の経年的変化をみると、1950年代から総脂肪に対するEPAの推定比が低下するとともに、脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡が増加している8)。これは、オメガ3系PUFAの摂取の減少が動脈硬化性疾患の増加に関与していることを示唆する所見と考えられる。実際に本邦のJapan Public Health Center-Based(JPHC)Study CohortⅠでは、40~59歳までの一般人41,578人を対象として約11年間の追跡調査を行っているが、魚介摂取量に準じて分割された5つの集団において、最も摂取量の多い群では最も少ない群に比べて冠動脈疾患のリスクが37%、心筋梗塞のリスクが56%低値であったと報告された(本誌p.10図を参照)9)。オメガ3系PUFAによる心血管イベントの抑制効果:その効果は?オメガ3系PUFAによる大規模な介入研究としては、これまで2つの報告がなされている。イタリアのGISSI-Prevenzione Trialでは、3か月以内に心筋梗塞に罹患した男性11,324人を対象とし、1g/日のオメガ3系PUFA(EPA+DHA)摂取群、ビタミンE摂取群、両者の摂取群、対照群の4群に分けて約3.5年間追跡調査したところ、オメガ3系PUFA摂取群では対照群に比べ、心血管死亡が30%、総死亡が20%の相対的低下を認め、併用群でも同様であったことが報告された10)。その後の再解析で、オメガ3系PUFAの総死亡や突然死、心血管死の抑制効果が比較的早期から認められる可能性が報告された(本誌p.11図aを参照)11)。一方本邦では、1996年から日本人の高脂血症患者における高純度EPA製剤による冠動脈イベントの発生抑制効果を検討するため、世界初の大規模無作為比較試験JELIS (Japan EPA Lipid Intervention Study)が実施された。JELISでは、高コレステロール患者18,654例(総コレステロール≧250mg/dL、男性:40~75歳、女性:閉経後~75歳)を対象に、スタチン単独投与群(対照群)とスタチンに高純度EPA製剤1.8g/日を追加投与した群(EPA群)で、約5年間、主要冠動脈イベントの発症を比較検討した。その結果、EPA群では対照群と比較して、主要冠動脈イベントが19%抑制され、特に2次予防における抑制効果が認められた(本誌p.11図bを参照)12)。次に、JELISの1次予防サブ解析の結果によると、中性脂肪(triglyceride:TG)≧150mg/dLかつ高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)<40mg/dLの高リスク群では、正常群に比し主要冠動脈イベント発症は有意に高く、この患者群では、EPAの追加投与により主要冠動脈イベント発症が53%抑制された(本誌p.12図aを参照)13)。2次予防のサブ解析では、心筋梗塞の既往かつ冠動脈インターベンション施行例では、EPA群において主要冠動脈イベント発症が41%抑制されることが報告され14)、この患者群における高純度EPA製剤の積極的投与を支持する結果であった。ほかにも、サブ解析の結果、脳梗塞再発予防や末梢動脈疾患の冠動脈イベント予防に有効であることが示されている15, 16)。オメガ3系PUFAを臨床に生かす:その対象は?オメガ3系PUFAが心血管イベントに対する抑制効果を有することはわかってきたといえるが、それではどのような患者群で強い抑制効果が見込めるのだろうか?EPA/AA比を指標として、オメガ3系PUFAが不足している患者に投与しようと考えるのは妥当なことといえる。JELIS脂肪酸サブ解析で、EPA/AA比をもとに冠動脈イベント発生リスクを検討した結果では、EPA/AA比が0.5以上の高値群では低値群に比べて冠動脈イベントリスクに有意差を認めなかった。これに対して、0.75以上の高値群では低値群に比べ冠動脈イベントリスクに有意差が認められた17)。このことから、EPA/AA比0.75以上の維持が心血管イベント抑制につながる可能性が示唆されたといえる。また、JELISの1次予防サブ解析では、高TGおよび低HDL-C群でその他の群に比べイベント発生率が高いことが明らかとなった。そして、この群においてEPAの冠動脈イベントの抑制効果が強く現れていた(本誌p.12図aを参照)。また、このJELISの糖代謝異常に注目したサブ解析でも、糖代謝異常を有する患者群では血糖の正常患者群に比べて冠動脈イベント発生率が高かった。また、この糖代謝異常群においては、HbA1c値やLDL-C値によらず、EPA群のイベント発生リスクが対照群に比べて22%抑制されたことも報告された(本誌p.12図bを参照)18)。つまり、これらはdiabetic dyslipidemiaとも称されるインスリン抵抗性を基盤とした脂質異常をきたしている患者群が、EPA投与のよい適応となる可能性を示しているともいえる。オメガ3系PUFAは各ガイドラインに記載もあるが、高リスク症例の心血管イベントの抑制に有用であるとされている。つまりは、LDL-Cの量を十分に低下させてもイベントを抑制できないような残余リスクが問題となる高リスク症例に対して、リポ蛋白の“質”を改善することでイベント抑制効果がより顕著に発揮されるといえるのではないだろうか。おわりに魚介類摂取およびオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関連性についてはほぼ確立されているものの、日本人が伝統的に欧米人と比べ魚介摂取量が多いことを考慮すると、欧米の研究結果をそのまま日本人にあてはめることには抵抗を感じる方も少なくないだろう。JELISは、欧米人よりも一般的にEPA/AA比が高い日本人においてもオメガ3系PUFAが心血管イベントをさらに抑制する可能性を示したといえる。メタボリックシンドロームの増加などが進む本邦において、diabetic dyslipidemiaの増加は今後も予想されている。若者の魚離れが重なることで、脂肪酸の“質”の根幹をなす魚介由来のオメガ3系PUFAの重要性は日本人においてもさらに増し、循環器領域の臨床に携わる医師にとってこの領域の知識は必須となるものと考えられる。不整脈や心不全などオメガ3系PUFAとの関連性が議論されている循環器領域も含めて、今後さらなるエビデンスの確立が期待される。文献1)Alagona P. Beyond LDL cholesterol: the role of elevated triglycerides and low HDL cholesterol in residual CVD risk remaining after statin therapy. Am J Manag Care 2009; 15: S65-73.2)Dyerberg J et al. A hypothesis on the development of acute myocardial infarction in Greenlanders. Scand J Clin Lab Invest Suppl 1982; 161: 7–13.3)Bang HO et al. The composition of the Eskimo food in north western Greenland. Am J Clin Nutr 1980; 33: 785-807.4)Kromhout D et al. The inverse relation between fish consumption and 20-year mortality from coronary heart disease. N Engl J Med 1985; 312:1205-1209.5)Daviglus ML et al. Fish consumption and the 30 year risk of fatal myocardial infarction. N Engl J Med 1997; 336: 1046-1053.6)Albert CM et al. Blood levels of long-chain n-3 fatty acids and the risk of sudden death. N Engl J Med 2002; 346: 1113-1118.7)Burr ML et al. Effects of changes in fat, fish, and fibre intakes on death and myocardial reinfarction: diet and reinfarction trial (DART). Lancet 1989; 2: 757-761.8)厚生統計協会: 国民衛生の動向, 厚生の指標. 1989; 36: 48.9)Iso H et al. Intake of fish and n3 fatty acids and risk of coronary heart disease among Japanese:the Japan Public Health Center-Based (JPHC)Study CohortⅠ. Circulation 2006; 113: 195-202.10)GISSI-Prevenzione Investigators. Dietary supplementation with n-3 polyunsaturated fatty acids and vitamin E after myocardial infarction:results of the GISSI-Prevenzione trial. Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto miocardico. Lancet 1999; 354: 447-455.11)Marchioli R et al. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction: time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per Io Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico (GISSI) -Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-1903.12)Yokoyama M et al. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomized open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 2007; 369: 1090-1098.13)Saito Y et al. Effects of EPA on coronary artery disease in hypercholesterolemic patients with multiple risk factors: sub-analysis of primary prevention cases from the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2008;200: 135-140.14)Matsuzaki M et al. Incremental effects of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease. Circ J 2009; 73: 1283-1290.15)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients: subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.16)Ishikawa Y et al. Preventive ef fects of eicosapentaenoic acid on coronary artery disease in patients with peripheral artery disease. Circ J 2010; 74: 1451-1457.17)Itakura H et al. Relationships between plasma fatty acid composition and coronary artery disease. J Atheroscler Thromb 2011; 18: 99-107.18)Oikawa S et al. Suppressive effect of EPA on the incidence of coronary events in hypercholesterolemia with impaired glucose metabolism: Sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2009; 206: 535-539.

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【寄稿】難治性GERDの治療

はじめに胃食道逆流症(GERD)は、食道裂孔ヘルニアや食道胃運動機能障害により、胃酸を含んだ胃内容物が食道内に逆流停滞するために発症する疾患であり、定型症状は胸やけ、呑酸である。食道にびらん・粘膜障害があれば、びらん性GERD(逆流性食道炎)、食道にびらんが認められない場合は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)と定義される。GERDに対する治療の中心は薬物療法であり、強力な酸分泌抑制力を持つプロトンポンプ阻害薬(PPI)が、GERDの第一選択薬としてGERD診療ガイドラインで推奨されている。PPIの治療効果は非常に高く、PPI投与後8週間の時点での逆流性食道炎の治癒率は、80~90%と報告されている。しかし8週間のPPI投与でも治癒が得られない逆流性食道炎も存在し、このような難治性の逆流性食道炎が臨床上問題となっている。また、NERD患者においても、PPI投与にてGERD症状のコントロールが困難なケースが多く存在する。本稿では、難治性GERDの要因について考察を加え、治療法を含めて概説する。CYP2C19遺伝子多型GERDの難治化の要因の1つとしてまず考慮しなければならないのは、CYP2C19遺伝子多型の問題である。PPIは主に肝の代謝酵素CYP2C19で代謝を受ける。このCYP2C19には遺伝子多型が存在することが報告されており、その酵素活性が遺伝子型により異なり、代謝活性の高い順にhomo extensive metabolizer(EM)、hetero EM、poor metabolizer(PM)の3群に分類されている。すなわち、PPIの酸分泌抑制効果は、代謝の遅いPMでは強く、代謝の早いhomo EMでは弱くなることが推察され、実際に24時間胃内pHモニタリングの結果から、このことが証明されている。このCYP2C19遺伝子多型のばらつきは、欧米白人に比較して日本人で大きいことが明らかになっており、実際の逆流性食道炎患者の検討で、homo EMではPMに比較して初期治療における治癒率が有意に低く(図1)、維持療法においてもhomo EMのほうが有意に再発しやすいこと(図2)が報告されている。すなわち、逆流性食道炎の難治化の要因の1つとしてPPI投与時のCYP2C19遺伝子多型の影響が挙げられる。しかしながら、CYP2C19遺伝子多型の判定が保険診療で認められているわけではないので、日常臨床においては逆流性食道炎が難治の場合に、CYP2C19遺伝子多型の影響を受けにくいPPI(ラベプラゾールやエソメプラゾール)への変更を考慮するといった対応を行うのが現実的である。図を拡大する図を拡大するPPI製剤の特徴GERDの難治化のもう1つの要因としてPPI製剤の特徴が挙げられる。PPIは酸と接触すると失活してしまう特性があり、PPIはすべて腸溶製剤となっている。よって、PPIの作用発現には、薬剤が速やかに胃を通過して小腸に達する必要がある。逆に言うと、潰瘍瘢痕などによる胃の変形や幽門部狭窄などのために胃排出遅延がある症例では、PPIが胃内に長時間停滞するために失活してしまい、その酸分泌抑制効果が減弱する可能性が容易に想像される。このような症例の場合、逆流性食道炎が難治となることをしばしば経験する。この場合は、PPI注射剤の投与のほか、PPIをH2受容体拮抗薬(H2RA)に変更、もしくはPPIの剤形を錠剤から顆粒や細粒製剤に変更してみるのも1つの方法である。GERD診療ガイドラインでは、常用量のPPIの1日1回投与にもかかわらず食道炎が治癒しない、もしくは強い症状を訴える場合には、PPIの倍量投与など、投与量・投与方法の変更により、食道炎治癒および症状消失が得られる場合があると記載されている。すなわち、標準量のPPI治療に反応しない患者でも、PPI倍量投与により食道炎治癒および症状消失が得られるとする報告がみられ、常用量のPPIの1日1回投与でGERDに対する十分なコントロールが得られない場合の対応として推奨されている。また、倍量投与の際に、朝・夕と分割投与したほうが、酸分泌抑制効果が高いとの報告があり、分割投与を考慮するのも1つの方法である。さらに、PPIは、食事により活性化するプロトンポンプを阻害するという作用機序、酸性環境のほうが酸分泌抑制効果が強いこと、錠剤の場合は空腹時強収縮により胃より小腸に速やかに薬剤が移行し効果が出現することから、PPIは食前投与のほうが、その酸分泌抑制効果が速やかに発現する。わが国の場合、ほかの薬剤と一緒にPPIを内服することを考慮し、食後にPPIを投与することも多いが、難治性GERDの場合は、食前投与にて症状が良好にコントロールされることをしばしば経験する。nocturnal gastric acid breakthroughさらに、GERDの難治化の要因の1つとして、PPI投与中にもかかわらず夜間の酸分泌が抑制されない例の存在が指摘されている。これはnocturnal gastric acid breakthrough(NAB)と呼ばれるもので、PPI投与中にもかかわらず夜間の胃内pHが4.0以下になる時間が1時間以上連続して認められる現象である。このNABに対して就寝前にH2RAを追加投与することにより、夜間の酸分泌が抑制されることが報告されており、PPIで効果不十分な難治性GERD患者の治療として選択されることがある。NERD、機能性胸やけびらん性GERDよりNERDにおいて、PPIの症状改善率が低い傾向にあることが報告されている。このことは、NERD患者では酸以外の逆流要因がある症例が多く含まれている可能性を示唆している。このような場合、消化管運動賦活薬投与が有効な場合がある。また、逆流と関連のない胸やけ症状は、機能性胸やけ(functional heartburn:FH)とされ、精神的な要因と判断されれば、抗うつ薬の投与などを検討することもある。機能性消化管粘膜障害(functional gastrointestinal disorders:FGID)の研究グループであるRome委員会が提唱するRome IIIによる定義では、FHは、食道内酸逆流が証明できず、病理組織学的に確認しうる食道粘膜障害がないこと、そしていわゆる「胸やけ」症状のあること、なおかつ、この症状が6ヵ月以上前から慢性的に出現していること、とされている。FHの診断にあたっては、除外診断を行う必要がある。すなわち、(1)食道内pHモニタリング検査で食道内への明らかな酸逆流のあるもの、(2)pHモニタリング検査で酸逆流と自覚症状の発現との間に関連がみられるもの、(3)PPI投与で症状改善があるもの―は、NERDと診断されるので、それ以外をFHと診断することができる。日常臨床では、PPI投与で症状が改善するものをNERD、PPI投与による症状改善がないものをFHと診断することも多いが、PPI投与により症状が改善しないNERDはPPI抵抗性NERDとしても扱われており、PPI抵抗性NERDのなかにFHと診断するべき病態が含まれていることを認識する必要がある。近年、pH測定に加えて多チャンネルの食道内インピーダンスを測定することにより、胃酸以外の逆流を評価することが可能となってきた。とくにPPI抵抗性NERDの診断には、pHモニタリング検査による胃酸逆流の評価のみでは不十分である。すなわち、現在は保険適用にはなっていないものの、多チャンネルインピーダンス・pHモニタリング検査を施行し、逆流と胸やけ症状の関連性を検討することにより、PPI抵抗性NERDとFHを鑑別することが可能となる。難治性NERDの場合は、病態をきちんと診断し、適切な治療法を選択する必要がある。外科的治療難治性GERDの場合、外科手術の選択も積極的に考慮してよいと思われる。外科的治療が有効だった症例を提示する(図3)。PPI投与にて逆流性食道炎は治癒するも、著明な食道裂孔ヘルニアのために、前かがみになると食物が口まで逆流してきてしまうという症例であるが、腹腔鏡下噴門形成術を施行し、食道裂孔ヘルニアが改善しGERD症状が消失した。図を拡大する内視鏡的バルーン拡張重度の逆流性食道炎の場合、食道狭窄を来すことがあるが、内視鏡的バルーン拡張術が有効なこともある。図4に症例を提示する。図を拡大する難治性GERDと鑑別すべき疾患難治性GERDと診断されている症例のなかで、実際はGERDではないにもかかわらず、漫然とPPI投与が継続されている症例にしばしば遭遇する。難治性GERDと鑑別すべき疾患をきちんと認識しておくことは、臨床上きわめて重要である。1)食道運動異常食道には、食道アカラシア、びまん性食道痙攣(diffuse esophageal spasm:DES)、ナッツクラッカー食道(nutcracker esophagus)などの機能性疾患が存在し、GERDとの鑑別が必要となる。これらの疾患のいずれも、その治療に亜硝酸薬やカルシウム拮抗薬が有効とされているが、GERD患者では下部食道括約筋圧を低下させ、逆流を増悪させることがあるため注意が必要である。2)好酸球性食道炎好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)は、嚥下困難、food impaction(食物塊の食道嵌頓)などを主訴とし、食道上皮の好酸球浸潤を特徴とする原因不明の疾患である。EoEの診断で最も重要なものは、内視鏡検査および生検による病理診断である。縦走溝、輪状溝、カンジダ様の白斑、白濁肥厚した粗造粘膜が、特徴的な内視鏡所見である(図5)。病理診断では、一般に400倍の強拡大で15ないし20個以上の好酸球浸潤を少なくとも1視野に認める場合、EoEと診断される。EoEの治療に関しては、プレドニゾロンの内服や、吸入用ステロイド薬であるプロピオン酸フルチカゾン(商品名:フルタイド)の咽頭噴霧後の嚥下による食道内局所投与の有効性などが報告されている(いずれも保険適用外)。なお、PPIが有効な症例が存在し、PPIを投与しても症状が持続する場合に難治性GERDとの鑑別が必要となることがある。EoEに対する認識がないと診断に苦慮することとなる。図を拡大する機能性ディスぺプシア上腹部痛や胃もたれなどの症状が、主に胃や十二指腸に由来していると考えられる患者のうち、各種検査を行っても症状を説明しうる器質的疾患がない場合は、機能性ディスぺプシア(functional dyspepsia:FD)と診断される。Rome III基準ではFDは「つらいと感じる食後のもたれ感、早期飽満感、心窩部痛、心窩部灼熱感の4項目のうち1つ以上の症状が、6ヵ月以上前からあり、最近の3ヵ月間は症状が続いている」と定義されているが、GERD症状とFD症状はオーバーラップすることが多いとされている。すなわちGERD患者では、胸やけや呑酸症状以外に、胃もたれ、胃の痛み、胃の張りなどの症状がみられ、げっぷ、吐き気、食欲不振といった症状も高い頻度で認められる。なお、PPI投与でGERD症状は軽快したものの上腹部のさまざまなFD症状が軽快しない場合、PPI抵抗性NERDとして診療されていることもあるが、症状をきちんと聴取しFDと診断したほうがよいと思われる。しかし、実際にはGERDの定型的症状である「胸やけ」と「心窩部痛」、「心窩部灼熱感」を厳密に区別することは難しい。一般的には、GERD症状は剣状突起より頭側の胸骨下部で、FDでは剣状突起より肛門側の心窩部領域で認めることで鑑別を行っている。おわりに難治性GERDの原因およびその治療法、難治性GERDの鑑別疾患について概説した。難治性GERDの治療には、適切な診断と薬剤の特性を認識した薬物療法および適切なタイミングでの薬物以外の治療法の選択が必要である。参考文献1)日本消化器病学会編.胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン. 南江堂;2009.2)Kawamura M, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2003;17:965-973. 3)Kawamura M, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2007;22:222-226.4)Ariizumi K, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2006;21:1428-1434.5)小池智幸ほか.医学と薬学. 2014;71:519-525.6)Galmiche JP, et al. Gastroenterology. 2006;130:1459-1465.7)Abe Y, et al. J Gastroenterol. 2011;46:25-30.

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模擬証人尋問でわかる医事裁判 被告人になり尋問されることは何?

医師資格を持つ3人の弁護士、大磯義一郎氏(浜松医科大学)、富永愛氏(富永愛法律事務所)および小島崇宏氏(大阪A&M法律事務所)が、「模擬証人尋問」を通じて実際の医事裁判の模様を伝える催しが、6月2日横浜市立大学附属病院にて開催された。この催しは、約3ヵ月に1回の割合で全国の大学医学部などで医師、医療従事者、医学生を対象に開催されているものであり、今回は同院の安全管理者会議の一環として開催された。ケアネットでは、同院医療安全管理室のご厚意により、当日の模様を収録。医師が医事裁判で被告の立場に置かれた場合、原告・被告双方からどのような尋問がなされるのか、なかなか垣間見ることのできない模擬尋問の内容を動画ダイジェストでお届けする。事例概要●患者概要患者42歳 男性職業自営業(製靴業)既往歴虫垂炎(18歳・手術)、胆石(36歳)、右肩関節痛(現在被告病院にて加療中)家族歴特記事項なし家族構成妻、子(14歳中学生)嗜好タバコ 15本/日(15歳から)飲酒 5合位/日現病歴右肩関節痛にて被告病院整形外科受診中の患者。整形外科にて肝機能障害指摘。飲酒量も多いことから精査・加療目的で紹介受診となる。●初診時現症(2010年5月21日)主訴肝機能障害指摘身体所見 体温36.6℃、血圧144/88、脈拍60/分、眼瞼結膜 貧血なし、眼球結膜 黄染なし、胸部聴診上異常なし、腹部平坦、軽度膨隆あり、圧痛なし、肝2横指触知、脾臓触知せず、下腿浮腫なし検査所見WBC 7800/μL、RBC 490/μL、Plt 15万/μL、AST 55IU/L、ALT 79IU/L、LDH 592IU/L、γ-GTP 432IU/L、T-Bil 1.6mg/dL、D-Bil 0.9mg/dL、TP 5.8g/dL、Alb 3.4g/dL、BUN 12mg/dL、Cre 0.68mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、UA 8.3mg/dL、BS 132mg/dL●診療の時間経過●裁判の経過患者の死亡を受けて、患者家族が主治医の診断の見落としを疑い、弁護士へ相談。その後に裁判へと発展した。本コンテンツは、その裁判の流れの中での被告医師への尋問を模したものである。●参考資料 民事紛争の流れと医事裁判の流れ模擬証人尋問(ダイジェスト)(監修:大磯義一郎氏、富永愛氏、小島崇宏氏)●裁判用語ミニ解説宣誓証人は宣誓した上で証言を求められる。これは、宣誓という手続きの下で証言内容の真実性を担保するものであり、自分の記憶や意思と異なることを証言すると裁判で敗訴する可能性が高まるだけでなく、刑法169条[偽証罪]により処罰の対象となる。証拠裁判中で「甲1号証」という言葉がでてくる。これは原告(患者側)が提出する証拠が甲○号証、被告(病院側)が提出する証拠が乙○号証となる。丸には提出した順番に数字が入っていくもので、本件では、患者の診療録や肝癌診療ガイドラインなどが証拠として提出された。まとめ(クリックすると下へ開きます) ●証人尋問を終えて 参加者の判断参加者が裁判官の立場で双方の弁論を判断して投票した結果、原告勝訴(23票)、被告勝訴(32票)となり「原告の請求棄却(病院側勝訴)」という結果になった。また、日常診療の際に医療側が注意すべきポイントとして、なるべくカルテへの記載は、丁寧に行う。病状説明の内容、診療の見通しの説明などカルテに記載があれば、裁判になっても事実認定で争われても重要な証拠となる診療時間が限られる中で、パンフレットなどを準備し、渡している姿勢を示す、パンフレットに書き込みなどをして、説明しているという跡を残すなども重要患者に連絡がつかない場合、できる限りの連絡をした旨の内容を示せば訴訟になった場合に考慮されるなどの現場で役立つ内容がアドバイスされた。●実際の医事裁判から学べるコンテンツはこちら。MediLegalリスクマネジメント

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