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6分間歩行で統合失調症患者の身体評価

 フランス・モンペリエ第1大学のP. Bernard氏らは、統合失調症患者を対象とした研究での6分間歩行試験(6MWT)の意義について、システマティックレビューにて評価を行った。その結果、統合失調症患者が6分間に早歩きできる距離(6MWD)は健常成人と比べ概して短いこと、BMIが高値、喫煙量が多い、高用量の抗精神病薬服用、身体的な自己認識が低いことと負の関係にあることなどを報告した。そのうえで著者は、統合失調症患者の身体的健康モニタリングに6MWTが使用可能であるとし、「今後の研究において、その予測因子としての役割を検討するとともに、その測定特性の評価を継続すべきである」と述べている。Disability and Rehabilitation誌オンライン版2014年8月7日号の掲載報告。 6MWTは、6MWDを測定する亜最大運動負荷試験である。研究グループは、介入効果を測定する際の6MWTの適合性を評価し、統合失調症患者の6MWDを一般集団およびマッチさせたコホートと比較、また6MWD決定要因の特定、6MWTの測定特性や品質手順などを調査した。5つのデータベースを用いて、2013年8月に公表されたフルテキスト文献をシステマティックレビューした。 主な結果は以下のとおり。・16件の研究が選択された。・6MWDの有意な増加を報告した介入研究がなかったため、介入の影響を測定する際の6MWTの適合性については評価を行わなかった。・成人統合失調症患者の歩行距離は、健常成人と比較して全般的に短いようであった。・レビュー対象となった研究の平均6MWDは、421~648mの範囲にあった。・統合失調症患者において、通常、6MWDはBMI高値、喫煙量が多い、高用量の抗精神病薬、低い身体的自己認識と負の関係にあった。・6MWTの信頼性は高かったが、これまで、その基準の妥当性について検討されていなかった。・ガイドラインが存在するにもかかわらず、レビュー対象の研究で用いられていた6MWTの方法には大きなばらつきがあった。・将来、統合失調症患者に対して推奨される身体的健康モニタリングに6MWT を含めるべきであることが示唆された。・6MWTはリハビリテーションに影響を及ぼし、統合失調症患者における機能的運動能力を評価するものであった。・治療介入の影響を6MWTで測定した患者は確認できなかった。・以上の結果を踏まえて著者は、「臨床医は、統合失調症における機能的運動能力を考える際、過体重、抗精神病薬の使用、身体に関する自己認識などを考慮に入れるべきである。また、重篤な精神疾患患者に6MWTを施行する際には、米国胸部学会などによる国際標準に従うべきである」とまとめている。関連医療ニュース 統合失調症に対し抗精神病薬を中止することは可能か 統合失調症患者は、なぜ過度に喫煙するのか 統合失調症患者の突然死、その主な原因は  担当者へのご意見箱はこちら

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塩分摂取と死亡リスクの関係はJカーブ/NEJM

 心血管の健康に最適なナトリウム摂取量は3~6g/日(食塩換算量:7.5~15.0g/日)であり、これより多くても少なくても、死亡や心血管イベントのリスクが高くなることが、カナダ・マックマスター大学のMartin O’Donnell氏らが行ったPURE試験で示された。世界の心血管疾患予防ガイドラインが推奨するナトリウム摂取量は1.5~2.4g/日だが、これを達成するには、ほとんどの人が食生活の根本的な変更を迫られると考えられる。ナトリウム摂取量の減少が心血管疾患リスクの低下をもたらすことを証明した大規模無作為化試験はなく、前向きコホート試験の結果からは一致した見解は得られていないという。NEJM誌2014年8月14日号掲載の報告。推定排泄量を摂取量の代替指標とし、約10万人で検討 PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)試験は、尿中ナトリウムおよびカリウム排泄量と、死亡、心血管疾患イベントの関連を調査する前向きコホート試験。対象は、17ヵ国628地域に居住する35~70歳の一般住民であった。 朝の空腹時尿検体を採取して24時間ナトリウムおよびカリウム排泄量を推定し、摂取量の代替指標とした。尿中ナトリウムおよびカリウムの推定排泄量と、死亡および主要心血管イベントの複合アウトカムの関連を評価した。 2003年1月に登録が開始された。今回の解析には、10万1,945例(全体の48.4%がアジア人で、全体の42%は中国人)のデータを用いた。平均推定24時間ナトリウム排泄量は4.93g/日、カリウム排泄量は2.12g/日であった。平均血圧はナトリウム摂取量が多いほど高かった(p<0.001)。カリウム排泄量は多いほどリスクが低下 平均フォローアップ期間3.7年で、3,317例(3.3%)に複合アウトカムが発生した。死亡は1,976例で、そのうち650例が心血管死であった。857例が心筋梗塞、872例が脳卒中、261例が心不全を来した。 推定ナトリウム排泄量4.00~5.99g/日を基準とすると、排泄量≧7.00g/日では複合アウトカムのリスクが有意に上昇し(オッズ比[OR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.02~1.30)、死亡(1.25、同:1.07~1.48)および主要心血管イベント(1.16、同:1.01~1.34)のリスクもそれぞれ有意に上昇していた。 推定ナトリウム排泄量高値と複合アウトカムの関連は、高血圧を有する参加者で最も強く(交互作用検定p=0.02)、排泄量が6.00g/日を超えるとリスクが上昇した(6.00~6.99g/日;OR:1.14、95%CI:1.00~1.30/≧7.0g/日;同:1.21、1.05~1.40)。 推定ナトリウム排泄量が<3.00g/日の場合も、基準値(4.00~5.99g/日)に比べ複合アウトカムのリスクが有意に上昇した(OR:1.27、95%CI:1.12~1.44)。 推定カリウム排泄量が<1.50g/日の場合と比較して、≧1.50g/日の場合に複合転帰のリスクが有意に低下した(1.50~1.99g/日;OR:0.86、95%CI:0.77~0.97/2.00~2.49g/日;同:0.81、0.73~0.91/2.50~3.00g;同:0.86、0.75~0.98/>3.00g/日;同:0.78、0.67~0.91)。複合アウトカムの発生に関して、ナトリウム排泄量とカリウム排泄量に交互作用は認めなかった(p=0.55)。 著者は、「推定ナトリウム摂取量が3~6g/日より多い場合も少ない場合も、死亡および心血管イベントのリスクが増大した」とまとめ、「本試験はナトリウム摂取量の異なる群を疫学的に比較した調査であって、摂取量の減少が臨床アウトカムに及ぼす効果に関する情報を提供するものではない。それゆえ、意図的に摂取量を減らせばリスクが軽減するとのエビデンスとは解釈すべきでない」と指摘している。

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良質な睡眠を得るために

良質な睡眠を得るためには、生活を改善することが重要です定期的な運動規則正しい食生活寝酒は眠りが浅くなる快適な寝室環境を整える厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業、日本睡眠学会編. 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン2013年改訂より作成Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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睡眠障害対処 12の指針

睡眠障害対処12の指針睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分1刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない同じ時刻に毎日起床光の利用でよい睡眠5規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣昼寝をするなら、15時前の20~30分7眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに8睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全41021136912厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費 睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班. 平成13年度研究報告書Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.睡眠障害対処12の指針(説明編)1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分睡眠の長い人短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない。歳をとると必要な睡眠時間は短くなる。2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法就寝前4時間のカフェイン摂取、就寝前1時間の喫煙は避ける。軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング。3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする。4. 同じ時刻に毎日起床早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる。日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる。5. 光の利用でよい睡眠目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン。夜は明るすぎない照明を。6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く。運動習慣は熟睡を促進7. 昼寝をするなら、15時前の20~30分長い昼寝はかえってぼんやりのもと。夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意背景に睡眠の病気、専門治療が必要10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談。車の運転に注意。11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全一定時刻に服用し就床。アルコールとの併用をしない。厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費 睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班. 平成13年度研究報告書Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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過度な減塩は死亡率を増やすか? ガイドライン推奨1日6g未満に一石を投じる研究(解説:桑島 巌 氏)-232

PURE研究は、世界17ヵ国からの30~70歳までの成人約10万人を対象としてナトリウム、カリウム排泄量と血圧の関係、および心血管死の関係について詳細に調査した貴重な研究である。今回同一号に2報発表しているがその1つがO’Donnellらの論文である。 彼らの調査では平均3.7年の追跡期間中における全死亡率および心血管死亡率が、ナトリウム排泄量3~6g/日(塩分換算7.5~15g)より多くても少なくても上昇した。つまり塩分摂取と死亡との間にJ曲線関係がみられたという結果である。過度な塩分制限も死亡リスクを増やす可能性を示唆している点で、厳しい減塩食を推奨している国の内外のガイドラインに一石を投じる論文である。また本研究では高カリウム摂取者でイベント発症が少ないことも明らかにした。 高血圧ガイドラインでは食塩摂取量を1日6g未満としているが、確かなエビデンスがあるわけではなかったのも事実である。Intersalt研究などの疫学研究では、確かに塩分摂取量と血圧は相関することは報告されてはいたが、6gまでの減塩が心血管イベントを減らすという確かな報告はほとんどなかった。その意味では本研究は貴重である。 本研究の特徴は以下のように列挙できる。1)経済状況の異なる世界17ヵ国からの地球規模の研究である点。2)日本は含まれていないが、中国からの参加が比較的多く米を主食とするアジア人の特性も評価できる点。3)70歳までの比較的高齢者も含まれている点(Intersalt研究は59歳まで)。4)対象から悪性腫瘍や心血管合併症症例を除外し、かつ追跡2年目までのこれらの合併症発症例も除外することで、疫学追跡研究の解釈につきものの因果の逆転を回避しようとしている点、の4点である。 ただ、最大のlimitationとして、塩分排泄量はスポット尿採取によるKawasaki法からの24時間排泄量の推定値である点において24時間蓄尿法に比べると信頼性は大きく後退する。 結果において注目すべきは、7g以上の高ナトリウム排泄量(塩分17.5g以上)では、ナトリウム排泄量と心血管死/脳卒中との関係は血圧値で補正すると有意でなくなるが、1日ナトリウム排泄量3g未満(塩分換算7.5g未満)の低減塩摂取例では、血圧値で補正してもなおかつ全死亡、心血管死、脳卒中発症とのオッズ比が有意なことである。これらの結果は、高塩分摂取によるイベント発症は高血圧の関与が大きいが、過度な減塩による死亡率上昇には血圧以外の要因が関与している可能性が示されている点である。 本研究はあくまでもリスクのない一般住民での追跡研究の結果であることから、多数の交絡因子の存在は避けられず、この結果からただちに高血圧の患者に対する厳格な減塩は危険であるという解釈は早計かもしれない。 NEJMの同一号には、同じくPURE研究から、ナトリウム排泄量と血圧は直線的に相関するが、高塩分摂取者、高血圧患者、高齢者で勾配が急峻であるというMenteらの断面調査結果や、107のランダム化試験からの塩分と死亡の関係をメタ解析したNUTRICODE研究による、ナトリウム摂取1日2.0g(塩分5g)以上が年間165万人の心血管死に関係するという報告も掲載されており、併せて参考にすることが望ましい。

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抗てんかん薬の使い分け:独での使用調査

 抗てんかん薬の選択に影響を及ぼす要因は何なのか。ドイツ・エアランゲン大学のHajo M. Hamer氏らは、同国における抗てんかん薬(AED)の使用実態を、大規模データベースを用いて後ろ向きに分析し調査した。その結果、AEDによる治療は個人の置かれている状況によりさまざまで、性別、保険の種類および住んでいる場所により異なることを報告した。CNS Drugs誌2014年8月号の掲載報告。 調査は、ドイツの大規模データベースDisease Analyzerを用いて行った。同データベースには、一般開業医および専門医の診療コンピュータシステムから得られた匿名の医療行為(診断、処方)のデータが収集されている。その中から、2010~2012年の間に神経科医346名がてんかんと診断(ICD10コード: G40.X)した成人患者4万3,712例について、社会人口学的特性、併存症、およびAED治療に関して調べた。多変量ロジスティック回帰を用いて調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・男性は女性に比べ、ラモトリギンの使用が少なく(OR:0.68、95%CI:0.65~0.72、p<0.001)、むしろカルバマゼピンが多く処方されていた(OR:1.29、95%CI:1.23~1.35、p<0.001)。・民間保険(PHI)でカバーされていた患者と比べ、公的健康保険(SHI)でカバーされていた患者はバルプロ酸が多く使用されており(OR:1.19、95%CI:1.07~1.31、p<0.001)、肥満の割合が高かった。(SHI:3.1%、PHI:1.6%、p<0.001)。・一方、PHIはレベチラセタムの投与と関連していた(OR:1.27、95%CI:1.16~1.4、p<0.001)。・カルバマゼピン(OR:1.25、95%CI:1.17~1.31、p<0.001)およびプリミドン(OR:1.23、95%CI:1.08~1.38、p<0.001)は、都会に比べ田舎でより多く使用されていた。・ラモトリギン(OR:1.31、95%CI:1.23~1.39、p<0.001)は、東ドイツに比べ西ドイツでより多く使用されていた。・都会での生活は、レベチラセタムによる治療機会の増加と関連していた(OR:1.23、95%CI:1.17~1.28、p<0.001)。・診療ガイドラインは存在するものの、ドイツのてんかん患者に対するAED治療は個人の置かれている状況によりさまざまであり、性別に加え、加入している保険の種類および住んでいる場所がAED治療に強く影響していた。関連医療ニュース 新規の抗てんかん薬16種の相互作用を検証 難治性の部分発作を有する日本人てんかん患者へのLEV追加の有用性は 新規抗てんかん薬の催奇形性リスクは  担当者へのご意見箱はこちら

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸と心血管イベント 臨床的側面からその意義を考える

木島 康文 氏岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学はじめに動脈硬化プラークに蓄積しているのはコレステロールである。コレステロールの中でも特に低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)と心血管疾患との関連性については広く認知されており、それに対して、スタチンの投与は、心血管イベントの1次予防、2次予防、ハイリスク群に対する投与のいずれにおいても20~30%の相対リスク減少をもたらす1)。では、これで十分かといえば、残りの70%を超える症例がスタチンを投与されているにもかかわらず、心血管イベントを起こしていることになる。すなわち、スタチン単独療法には限界があることを示しており、近年“残余リスク”として注目されている。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』では心血管リスク因子がない患者群に対して、リスクの高い患者群ではより低いLDL-Cの目標値が設定されている。これはLDL-Cの“質”がリスク因子の影響を受けることを意味している。つまり、これからは心血管リスク因子としての脂質においてはLDL-Cの量とともにリポ蛋白の“質”により注目すべきといえる。リポ蛋白の“質”に影響を及ぼす残余リスクに、多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)のバランス異常がある。具体的には、アラキドン酸(arachidonic acid:AA)に対するエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)の相対的低下に代表される、オメガ6系PUFAとオメガ3系PUFAのバランス異常である。オメガ3系PUFAの代表的なものとして魚介由来のEPAやドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)と植物由来のα-リノレン酸(alpha-linolenic acid:ALA)がある。これらオメガ3系PUFAには中性脂肪低下作用だけでなく、血小板凝集抑制作用、抗炎症作用、プラーク安定化作用、抗不整脈作用、自律神経調節作用などの多面的効果を有し、これらの効果を介し心血管系に保護的に働くと考えられる。本稿ではオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関係について臨床的側面を中心に述べる。オメガ3系PUFAと心血管イベントの関係:その根拠は?オメガ3系脂肪酸の最初のエビデンスは疫学調査によるものである。1970年代に、デンマーク領グリーンランドのイヌイットでは、デンマークの白人に比し、心筋梗塞・狭心症による死亡率が有意に低いことが報告された(白人34.7% vs. イヌイット5.3%)2)。食事内容を比較すると、総摂取エネルギーに対する脂肪の割合はいずれも約40%であったが、白人は主に牛や豚から、イヌイットは主に魚や(魚を大量に摂取する)アザラシから脂肪を摂取していた3)。また、血清コレステロールエステル中にイヌイットではEPAが15.4%存在し、AAが0%であったのに対し、白人ではそれぞれ0%、4.4%と著しい差を認めた。これにより、虚血性心疾患による死亡には脂肪の“質”が関与していることが示唆され、オメガ3系PUFAの心血管イベント抑制効果が注目されることとなった。1985年に、オランダの50~69歳男性852人を20年間追跡し、30g/日以上の魚介を食べる人はまったく食べない人と比べて虚血性心疾患による死亡が約半分であったことが報告された4)。その後、アメリカの40~55歳の健常男性を追跡調査した結果では、35g/日以上の魚介類摂取を行っている場合には心筋梗塞による死亡の相対危険率は0.56で、冠動脈疾患全体では0.62と、魚介類摂取による死亡抑制効果が認められた5)。また、アメリカのPhysicians' Health Studyにおいて、40~80歳までの医師20,551人を対象として最長17年間追跡調査した報告では、週1回以上の魚介類摂取習慣と心臓突然死との関連性が認められた。そして、実際の血清サンプル脂肪酸解析から突然死群のオメガ3系PUFAが対照群と比べて有意に低値であることも報告された6)。そのほかにも、イギリスにおける心筋梗塞後患者の追跡比較試験では、魚介類摂取指導がある群ではない群と比較して総死亡、虚血性心疾患死が有意に少なくなっていたことも報告されている7)。一方、日本人の冠動脈疾患の発症率は欧米に比し低いものの、近年その増加が指摘されている。国民1人当たりの魚介類消費量と男性における冠動脈疾患による死亡率を国別に比較すると、魚介類消費量と冠動脈疾患死の間には明らかな負の相関が認められる。欧米に比べて日本人の魚介類の摂取量は多く、冠動脈疾患の死亡率は低い。このことより、魚介類の摂取量が多いから日本人は冠動脈疾患が少ないものと考えられてきた。近年、日本人が摂取する脂肪の割合は増加しており、増加した脂肪の多くがオメガ6系PUFAに属する動物性油や植物性油である。それに対し、魚介由来のオメガ3系PUFAの摂取量は低下してきている。つまり、本邦における脂肪酸摂取の“質”は近年変わりつつあるといえる。本邦における総脂肪に対するEPAの推定比と脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡率の経年的変化をみると、1950年代から総脂肪に対するEPAの推定比が低下するとともに、脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡が増加している8)。これは、オメガ3系PUFAの摂取の減少が動脈硬化性疾患の増加に関与していることを示唆する所見と考えられる。実際に本邦のJapan Public Health Center-Based(JPHC)Study CohortⅠでは、40~59歳までの一般人41,578人を対象として約11年間の追跡調査を行っているが、魚介摂取量に準じて分割された5つの集団において、最も摂取量の多い群では最も少ない群に比べて冠動脈疾患のリスクが37%、心筋梗塞のリスクが56%低値であったと報告された(本誌p.10図を参照)9)。オメガ3系PUFAによる心血管イベントの抑制効果:その効果は?オメガ3系PUFAによる大規模な介入研究としては、これまで2つの報告がなされている。イタリアのGISSI-Prevenzione Trialでは、3か月以内に心筋梗塞に罹患した男性11,324人を対象とし、1g/日のオメガ3系PUFA(EPA+DHA)摂取群、ビタミンE摂取群、両者の摂取群、対照群の4群に分けて約3.5年間追跡調査したところ、オメガ3系PUFA摂取群では対照群に比べ、心血管死亡が30%、総死亡が20%の相対的低下を認め、併用群でも同様であったことが報告された10)。その後の再解析で、オメガ3系PUFAの総死亡や突然死、心血管死の抑制効果が比較的早期から認められる可能性が報告された(本誌p.11図aを参照)11)。一方本邦では、1996年から日本人の高脂血症患者における高純度EPA製剤による冠動脈イベントの発生抑制効果を検討するため、世界初の大規模無作為比較試験JELIS (Japan EPA Lipid Intervention Study)が実施された。JELISでは、高コレステロール患者18,654例(総コレステロール≧250mg/dL、男性:40~75歳、女性:閉経後~75歳)を対象に、スタチン単独投与群(対照群)とスタチンに高純度EPA製剤1.8g/日を追加投与した群(EPA群)で、約5年間、主要冠動脈イベントの発症を比較検討した。その結果、EPA群では対照群と比較して、主要冠動脈イベントが19%抑制され、特に2次予防における抑制効果が認められた(本誌p.11図bを参照)12)。次に、JELISの1次予防サブ解析の結果によると、中性脂肪(triglyceride:TG)≧150mg/dLかつ高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)<40mg/dLの高リスク群では、正常群に比し主要冠動脈イベント発症は有意に高く、この患者群では、EPAの追加投与により主要冠動脈イベント発症が53%抑制された(本誌p.12図aを参照)13)。2次予防のサブ解析では、心筋梗塞の既往かつ冠動脈インターベンション施行例では、EPA群において主要冠動脈イベント発症が41%抑制されることが報告され14)、この患者群における高純度EPA製剤の積極的投与を支持する結果であった。ほかにも、サブ解析の結果、脳梗塞再発予防や末梢動脈疾患の冠動脈イベント予防に有効であることが示されている15, 16)。オメガ3系PUFAを臨床に生かす:その対象は?オメガ3系PUFAが心血管イベントに対する抑制効果を有することはわかってきたといえるが、それではどのような患者群で強い抑制効果が見込めるのだろうか?EPA/AA比を指標として、オメガ3系PUFAが不足している患者に投与しようと考えるのは妥当なことといえる。JELIS脂肪酸サブ解析で、EPA/AA比をもとに冠動脈イベント発生リスクを検討した結果では、EPA/AA比が0.5以上の高値群では低値群に比べて冠動脈イベントリスクに有意差を認めなかった。これに対して、0.75以上の高値群では低値群に比べ冠動脈イベントリスクに有意差が認められた17)。このことから、EPA/AA比0.75以上の維持が心血管イベント抑制につながる可能性が示唆されたといえる。また、JELISの1次予防サブ解析では、高TGおよび低HDL-C群でその他の群に比べイベント発生率が高いことが明らかとなった。そして、この群においてEPAの冠動脈イベントの抑制効果が強く現れていた(本誌p.12図aを参照)。また、このJELISの糖代謝異常に注目したサブ解析でも、糖代謝異常を有する患者群では血糖の正常患者群に比べて冠動脈イベント発生率が高かった。また、この糖代謝異常群においては、HbA1c値やLDL-C値によらず、EPA群のイベント発生リスクが対照群に比べて22%抑制されたことも報告された(本誌p.12図bを参照)18)。つまり、これらはdiabetic dyslipidemiaとも称されるインスリン抵抗性を基盤とした脂質異常をきたしている患者群が、EPA投与のよい適応となる可能性を示しているともいえる。オメガ3系PUFAは各ガイドラインに記載もあるが、高リスク症例の心血管イベントの抑制に有用であるとされている。つまりは、LDL-Cの量を十分に低下させてもイベントを抑制できないような残余リスクが問題となる高リスク症例に対して、リポ蛋白の“質”を改善することでイベント抑制効果がより顕著に発揮されるといえるのではないだろうか。おわりに魚介類摂取およびオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関連性についてはほぼ確立されているものの、日本人が伝統的に欧米人と比べ魚介摂取量が多いことを考慮すると、欧米の研究結果をそのまま日本人にあてはめることには抵抗を感じる方も少なくないだろう。JELISは、欧米人よりも一般的にEPA/AA比が高い日本人においてもオメガ3系PUFAが心血管イベントをさらに抑制する可能性を示したといえる。メタボリックシンドロームの増加などが進む本邦において、diabetic dyslipidemiaの増加は今後も予想されている。若者の魚離れが重なることで、脂肪酸の“質”の根幹をなす魚介由来のオメガ3系PUFAの重要性は日本人においてもさらに増し、循環器領域の臨床に携わる医師にとってこの領域の知識は必須となるものと考えられる。不整脈や心不全などオメガ3系PUFAとの関連性が議論されている循環器領域も含めて、今後さらなるエビデンスの確立が期待される。文献1)Alagona P. Beyond LDL cholesterol: the role of elevated triglycerides and low HDL cholesterol in residual CVD risk remaining after statin therapy. Am J Manag Care 2009; 15: S65-73.2)Dyerberg J et al. A hypothesis on the development of acute myocardial infarction in Greenlanders. Scand J Clin Lab Invest Suppl 1982; 161: 7–13.3)Bang HO et al. The composition of the Eskimo food in north western Greenland. Am J Clin Nutr 1980; 33: 785-807.4)Kromhout D et al. The inverse relation between fish consumption and 20-year mortality from coronary heart disease. N Engl J Med 1985; 312:1205-1209.5)Daviglus ML et al. Fish consumption and the 30 year risk of fatal myocardial infarction. N Engl J Med 1997; 336: 1046-1053.6)Albert CM et al. Blood levels of long-chain n-3 fatty acids and the risk of sudden death. N Engl J Med 2002; 346: 1113-1118.7)Burr ML et al. Effects of changes in fat, fish, and fibre intakes on death and myocardial reinfarction: diet and reinfarction trial (DART). 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【寄稿】難治性GERDの治療

はじめに胃食道逆流症(GERD)は、食道裂孔ヘルニアや食道胃運動機能障害により、胃酸を含んだ胃内容物が食道内に逆流停滞するために発症する疾患であり、定型症状は胸やけ、呑酸である。食道にびらん・粘膜障害があれば、びらん性GERD(逆流性食道炎)、食道にびらんが認められない場合は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)と定義される。GERDに対する治療の中心は薬物療法であり、強力な酸分泌抑制力を持つプロトンポンプ阻害薬(PPI)が、GERDの第一選択薬としてGERD診療ガイドラインで推奨されている。PPIの治療効果は非常に高く、PPI投与後8週間の時点での逆流性食道炎の治癒率は、80~90%と報告されている。しかし8週間のPPI投与でも治癒が得られない逆流性食道炎も存在し、このような難治性の逆流性食道炎が臨床上問題となっている。また、NERD患者においても、PPI投与にてGERD症状のコントロールが困難なケースが多く存在する。本稿では、難治性GERDの要因について考察を加え、治療法を含めて概説する。CYP2C19遺伝子多型GERDの難治化の要因の1つとしてまず考慮しなければならないのは、CYP2C19遺伝子多型の問題である。PPIは主に肝の代謝酵素CYP2C19で代謝を受ける。このCYP2C19には遺伝子多型が存在することが報告されており、その酵素活性が遺伝子型により異なり、代謝活性の高い順にhomo extensive metabolizer(EM)、hetero EM、poor metabolizer(PM)の3群に分類されている。すなわち、PPIの酸分泌抑制効果は、代謝の遅いPMでは強く、代謝の早いhomo EMでは弱くなることが推察され、実際に24時間胃内pHモニタリングの結果から、このことが証明されている。このCYP2C19遺伝子多型のばらつきは、欧米白人に比較して日本人で大きいことが明らかになっており、実際の逆流性食道炎患者の検討で、homo EMではPMに比較して初期治療における治癒率が有意に低く(図1)、維持療法においてもhomo EMのほうが有意に再発しやすいこと(図2)が報告されている。すなわち、逆流性食道炎の難治化の要因の1つとしてPPI投与時のCYP2C19遺伝子多型の影響が挙げられる。しかしながら、CYP2C19遺伝子多型の判定が保険診療で認められているわけではないので、日常臨床においては逆流性食道炎が難治の場合に、CYP2C19遺伝子多型の影響を受けにくいPPI(ラベプラゾールやエソメプラゾール)への変更を考慮するといった対応を行うのが現実的である。図を拡大する図を拡大するPPI製剤の特徴GERDの難治化のもう1つの要因としてPPI製剤の特徴が挙げられる。PPIは酸と接触すると失活してしまう特性があり、PPIはすべて腸溶製剤となっている。よって、PPIの作用発現には、薬剤が速やかに胃を通過して小腸に達する必要がある。逆に言うと、潰瘍瘢痕などによる胃の変形や幽門部狭窄などのために胃排出遅延がある症例では、PPIが胃内に長時間停滞するために失活してしまい、その酸分泌抑制効果が減弱する可能性が容易に想像される。このような症例の場合、逆流性食道炎が難治となることをしばしば経験する。この場合は、PPI注射剤の投与のほか、PPIをH2受容体拮抗薬(H2RA)に変更、もしくはPPIの剤形を錠剤から顆粒や細粒製剤に変更してみるのも1つの方法である。GERD診療ガイドラインでは、常用量のPPIの1日1回投与にもかかわらず食道炎が治癒しない、もしくは強い症状を訴える場合には、PPIの倍量投与など、投与量・投与方法の変更により、食道炎治癒および症状消失が得られる場合があると記載されている。すなわち、標準量のPPI治療に反応しない患者でも、PPI倍量投与により食道炎治癒および症状消失が得られるとする報告がみられ、常用量のPPIの1日1回投与でGERDに対する十分なコントロールが得られない場合の対応として推奨されている。また、倍量投与の際に、朝・夕と分割投与したほうが、酸分泌抑制効果が高いとの報告があり、分割投与を考慮するのも1つの方法である。さらに、PPIは、食事により活性化するプロトンポンプを阻害するという作用機序、酸性環境のほうが酸分泌抑制効果が強いこと、錠剤の場合は空腹時強収縮により胃より小腸に速やかに薬剤が移行し効果が出現することから、PPIは食前投与のほうが、その酸分泌抑制効果が速やかに発現する。わが国の場合、ほかの薬剤と一緒にPPIを内服することを考慮し、食後にPPIを投与することも多いが、難治性GERDの場合は、食前投与にて症状が良好にコントロールされることをしばしば経験する。nocturnal gastric acid breakthroughさらに、GERDの難治化の要因の1つとして、PPI投与中にもかかわらず夜間の酸分泌が抑制されない例の存在が指摘されている。これはnocturnal gastric acid breakthrough(NAB)と呼ばれるもので、PPI投与中にもかかわらず夜間の胃内pHが4.0以下になる時間が1時間以上連続して認められる現象である。このNABに対して就寝前にH2RAを追加投与することにより、夜間の酸分泌が抑制されることが報告されており、PPIで効果不十分な難治性GERD患者の治療として選択されることがある。NERD、機能性胸やけびらん性GERDよりNERDにおいて、PPIの症状改善率が低い傾向にあることが報告されている。このことは、NERD患者では酸以外の逆流要因がある症例が多く含まれている可能性を示唆している。このような場合、消化管運動賦活薬投与が有効な場合がある。また、逆流と関連のない胸やけ症状は、機能性胸やけ(functional heartburn:FH)とされ、精神的な要因と判断されれば、抗うつ薬の投与などを検討することもある。機能性消化管粘膜障害(functional gastrointestinal disorders:FGID)の研究グループであるRome委員会が提唱するRome IIIによる定義では、FHは、食道内酸逆流が証明できず、病理組織学的に確認しうる食道粘膜障害がないこと、そしていわゆる「胸やけ」症状のあること、なおかつ、この症状が6ヵ月以上前から慢性的に出現していること、とされている。FHの診断にあたっては、除外診断を行う必要がある。すなわち、(1)食道内pHモニタリング検査で食道内への明らかな酸逆流のあるもの、(2)pHモニタリング検査で酸逆流と自覚症状の発現との間に関連がみられるもの、(3)PPI投与で症状改善があるもの―は、NERDと診断されるので、それ以外をFHと診断することができる。日常臨床では、PPI投与で症状が改善するものをNERD、PPI投与による症状改善がないものをFHと診断することも多いが、PPI投与により症状が改善しないNERDはPPI抵抗性NERDとしても扱われており、PPI抵抗性NERDのなかにFHと診断するべき病態が含まれていることを認識する必要がある。近年、pH測定に加えて多チャンネルの食道内インピーダンスを測定することにより、胃酸以外の逆流を評価することが可能となってきた。とくにPPI抵抗性NERDの診断には、pHモニタリング検査による胃酸逆流の評価のみでは不十分である。すなわち、現在は保険適用にはなっていないものの、多チャンネルインピーダンス・pHモニタリング検査を施行し、逆流と胸やけ症状の関連性を検討することにより、PPI抵抗性NERDとFHを鑑別することが可能となる。難治性NERDの場合は、病態をきちんと診断し、適切な治療法を選択する必要がある。外科的治療難治性GERDの場合、外科手術の選択も積極的に考慮してよいと思われる。外科的治療が有効だった症例を提示する(図3)。PPI投与にて逆流性食道炎は治癒するも、著明な食道裂孔ヘルニアのために、前かがみになると食物が口まで逆流してきてしまうという症例であるが、腹腔鏡下噴門形成術を施行し、食道裂孔ヘルニアが改善しGERD症状が消失した。図を拡大する内視鏡的バルーン拡張重度の逆流性食道炎の場合、食道狭窄を来すことがあるが、内視鏡的バルーン拡張術が有効なこともある。図4に症例を提示する。図を拡大する難治性GERDと鑑別すべき疾患難治性GERDと診断されている症例のなかで、実際はGERDではないにもかかわらず、漫然とPPI投与が継続されている症例にしばしば遭遇する。難治性GERDと鑑別すべき疾患をきちんと認識しておくことは、臨床上きわめて重要である。1)食道運動異常食道には、食道アカラシア、びまん性食道痙攣(diffuse esophageal spasm:DES)、ナッツクラッカー食道(nutcracker esophagus)などの機能性疾患が存在し、GERDとの鑑別が必要となる。これらの疾患のいずれも、その治療に亜硝酸薬やカルシウム拮抗薬が有効とされているが、GERD患者では下部食道括約筋圧を低下させ、逆流を増悪させることがあるため注意が必要である。2)好酸球性食道炎好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)は、嚥下困難、food impaction(食物塊の食道嵌頓)などを主訴とし、食道上皮の好酸球浸潤を特徴とする原因不明の疾患である。EoEの診断で最も重要なものは、内視鏡検査および生検による病理診断である。縦走溝、輪状溝、カンジダ様の白斑、白濁肥厚した粗造粘膜が、特徴的な内視鏡所見である(図5)。病理診断では、一般に400倍の強拡大で15ないし20個以上の好酸球浸潤を少なくとも1視野に認める場合、EoEと診断される。EoEの治療に関しては、プレドニゾロンの内服や、吸入用ステロイド薬であるプロピオン酸フルチカゾン(商品名:フルタイド)の咽頭噴霧後の嚥下による食道内局所投与の有効性などが報告されている(いずれも保険適用外)。なお、PPIが有効な症例が存在し、PPIを投与しても症状が持続する場合に難治性GERDとの鑑別が必要となることがある。EoEに対する認識がないと診断に苦慮することとなる。図を拡大する機能性ディスぺプシア上腹部痛や胃もたれなどの症状が、主に胃や十二指腸に由来していると考えられる患者のうち、各種検査を行っても症状を説明しうる器質的疾患がない場合は、機能性ディスぺプシア(functional dyspepsia:FD)と診断される。Rome III基準ではFDは「つらいと感じる食後のもたれ感、早期飽満感、心窩部痛、心窩部灼熱感の4項目のうち1つ以上の症状が、6ヵ月以上前からあり、最近の3ヵ月間は症状が続いている」と定義されているが、GERD症状とFD症状はオーバーラップすることが多いとされている。すなわちGERD患者では、胸やけや呑酸症状以外に、胃もたれ、胃の痛み、胃の張りなどの症状がみられ、げっぷ、吐き気、食欲不振といった症状も高い頻度で認められる。なお、PPI投与でGERD症状は軽快したものの上腹部のさまざまなFD症状が軽快しない場合、PPI抵抗性NERDとして診療されていることもあるが、症状をきちんと聴取しFDと診断したほうがよいと思われる。しかし、実際にはGERDの定型的症状である「胸やけ」と「心窩部痛」、「心窩部灼熱感」を厳密に区別することは難しい。一般的には、GERD症状は剣状突起より頭側の胸骨下部で、FDでは剣状突起より肛門側の心窩部領域で認めることで鑑別を行っている。おわりに難治性GERDの原因およびその治療法、難治性GERDの鑑別疾患について概説した。難治性GERDの治療には、適切な診断と薬剤の特性を認識した薬物療法および適切なタイミングでの薬物以外の治療法の選択が必要である。参考文献1)日本消化器病学会編.胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン. 南江堂;2009.2)Kawamura M, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2003;17:965-973. 3)Kawamura M, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2007;22:222-226.4)Ariizumi K, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2006;21:1428-1434.5)小池智幸ほか.医学と薬学. 2014;71:519-525.6)Galmiche JP, et al. Gastroenterology. 2006;130:1459-1465.7)Abe Y, et al. J Gastroenterol. 2011;46:25-30.

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模擬証人尋問でわかる医事裁判 被告人になり尋問されることは何?

医師資格を持つ3人の弁護士、大磯義一郎氏(浜松医科大学)、富永愛氏(富永愛法律事務所)および小島崇宏氏(大阪A&M法律事務所)が、「模擬証人尋問」を通じて実際の医事裁判の模様を伝える催しが、6月2日横浜市立大学附属病院にて開催された。この催しは、約3ヵ月に1回の割合で全国の大学医学部などで医師、医療従事者、医学生を対象に開催されているものであり、今回は同院の安全管理者会議の一環として開催された。ケアネットでは、同院医療安全管理室のご厚意により、当日の模様を収録。医師が医事裁判で被告の立場に置かれた場合、原告・被告双方からどのような尋問がなされるのか、なかなか垣間見ることのできない模擬尋問の内容を動画ダイジェストでお届けする。事例概要●患者概要患者42歳 男性職業自営業(製靴業)既往歴虫垂炎(18歳・手術)、胆石(36歳)、右肩関節痛(現在被告病院にて加療中)家族歴特記事項なし家族構成妻、子(14歳中学生)嗜好タバコ 15本/日(15歳から)飲酒 5合位/日現病歴右肩関節痛にて被告病院整形外科受診中の患者。整形外科にて肝機能障害指摘。飲酒量も多いことから精査・加療目的で紹介受診となる。●初診時現症(2010年5月21日)主訴肝機能障害指摘身体所見 体温36.6℃、血圧144/88、脈拍60/分、眼瞼結膜 貧血なし、眼球結膜 黄染なし、胸部聴診上異常なし、腹部平坦、軽度膨隆あり、圧痛なし、肝2横指触知、脾臓触知せず、下腿浮腫なし検査所見WBC 7800/μL、RBC 490/μL、Plt 15万/μL、AST 55IU/L、ALT 79IU/L、LDH 592IU/L、γ-GTP 432IU/L、T-Bil 1.6mg/dL、D-Bil 0.9mg/dL、TP 5.8g/dL、Alb 3.4g/dL、BUN 12mg/dL、Cre 0.68mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、UA 8.3mg/dL、BS 132mg/dL●診療の時間経過●裁判の経過患者の死亡を受けて、患者家族が主治医の診断の見落としを疑い、弁護士へ相談。その後に裁判へと発展した。本コンテンツは、その裁判の流れの中での被告医師への尋問を模したものである。●参考資料 民事紛争の流れと医事裁判の流れ模擬証人尋問(ダイジェスト)(監修:大磯義一郎氏、富永愛氏、小島崇宏氏)●裁判用語ミニ解説宣誓証人は宣誓した上で証言を求められる。これは、宣誓という手続きの下で証言内容の真実性を担保するものであり、自分の記憶や意思と異なることを証言すると裁判で敗訴する可能性が高まるだけでなく、刑法169条[偽証罪]により処罰の対象となる。証拠裁判中で「甲1号証」という言葉がでてくる。これは原告(患者側)が提出する証拠が甲○号証、被告(病院側)が提出する証拠が乙○号証となる。丸には提出した順番に数字が入っていくもので、本件では、患者の診療録や肝癌診療ガイドラインなどが証拠として提出された。まとめ(クリックすると下へ開きます) ●証人尋問を終えて 参加者の判断参加者が裁判官の立場で双方の弁論を判断して投票した結果、原告勝訴(23票)、被告勝訴(32票)となり「原告の請求棄却(病院側勝訴)」という結果になった。また、日常診療の際に医療側が注意すべきポイントとして、なるべくカルテへの記載は、丁寧に行う。病状説明の内容、診療の見通しの説明などカルテに記載があれば、裁判になっても事実認定で争われても重要な証拠となる診療時間が限られる中で、パンフレットなどを準備し、渡している姿勢を示す、パンフレットに書き込みなどをして、説明しているという跡を残すなども重要患者に連絡がつかない場合、できる限りの連絡をした旨の内容を示せば訴訟になった場合に考慮されるなどの現場で役立つ内容がアドバイスされた。●実際の医事裁判から学べるコンテンツはこちら。MediLegalリスクマネジメント

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抗グルタミン酸受容体抗体が神経疾患に重大関与か

 グルタミン酸は中枢神経系(CNS)の主な興奮性神経伝達物質であり、多くの主要な神経機能に必要な物質である。しかし、過剰なグルタミン酸はグルタミン酸受容体活性化を介した有害な興奮毒性により、重度の神経細胞死と脳害を引き起こす。イスラエル・School of Behavioral Sciences, Academic College of Tel-Aviv-YafoのMia Levite氏は、抗グルタミン酸受容体抗体に関して、これまでに得られている知見をレビューした。抗AMPA-GluR3B抗体、抗NMDA-NR1 抗体、抗NMDA-NR2A/B抗体、抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体、以上5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について言及し、いずれもさまざまな神経疾患に高頻度に認められ、神経系にきわめて有害な影響を及ぼしていることを示唆した。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2014年8月号の掲載報告。 グルタミン酸による興奮毒性は、多くのタイプの急性および慢性CNS疾患および傷害に生じる主要な病理学的プロセスである。近年、過剰なグルタミン酸だけでなく、いくつかのタイプの抗グルタミン酸受容体抗体もまた、重度の脳傷害を引き起こしうることが明らかになってきた。抗グルタミン酸受容体抗体は神経疾患患者の血清および脳脊髄液(CSF)中に存在し、CNSにおいて何らかの強い病理学的影響を誘導することにより、脳に傷害を引き起こす。抗グルタミン酸受容体自己免疫抗体ファミリーは、これまでに開発されたなかで最も広範かつ強力、危険で興味深い抗脳自己免疫抗体だと思われる。ヒトの神経疾患および自己免疫疾患において種々のタイプの抗グルタミン酸受容体抗体が認められ、髄腔内産物に由来しCNS内に高濃度存在し、脳にさまざまな病理学的影響を及ぼし、またユニークかつ多様なメカニズムでグルタミン酸受容体とシグナル伝達に作用し、神経伝達を障害して脳に傷害を誘導する。2つの主な自己免疫抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーが神経および/または自己免疫疾患患者においてすでに発見されており、抗AMPA-GluR3抗体、抗NMDA-NR1抗体、抗NMDA-NR2抗体などイオンチャンネル型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体、そして抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体など代謝型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体などがCNSに有害な影響を及ぼすことが示されている。 この包括的レビューでは、それぞれの抗グルタミン酸受容体抗体について、発現が認められたヒト疾患、神経系における発現と産物、さまざまな精神/行動/認知/運動障害との関連、特定の感染臓器との関連の可能性、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルにおけるin vivoでの有害な作用そしてin vitroにおける有害な作用、多様でユニークなメカニズム、以上についてそれぞれの抗グルタミン酸受容体抗体別に言及する。また、これら抗グルタミン酸受容体抗体を有し、さまざまな神経疾患および神経系の問題を抱える患者における免疫療法に対する反応性についても言及する。5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について、それぞれ項目を立て有用な図を用いて解説し、最後にすべての主要な知見をまとめ、診断、治療、ドラッグデザインおよび今後の検討に関する推奨ガイドラインを提示する。 ヒトを対象とした試験、in vitro試験、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルを用いたin vivo試験から、5種類の抗グルタミン酸受容体抗体に関して得られた知見は以下のとおり。(1)抗AMPA-GluR3B抗体・さまざまなタイプのてんかん患者で~25~30%に認められる。・てんかん患者にこれら抗グルタミン酸受容体抗体(またはその他のタイプの自己免疫抗体)を認める場合、およびこれら自己免疫抗体がしばしば発作や認知/精神/行動障害を誘発または促進していると思われる場合、てんかんは“自己免疫性てんかん”と呼ばれる。・“自己免疫性てんかん”患者の中には、抗AMPA-GluR3B抗体が有意に精神/認知/行動異常に関連している者がいる。・in vitroおよび/または動物モデルにおいて、抗AMPA-GluR3B抗体自身が多くの病理学的影響を誘発する。すなわち、グルタミン酸/AMPA受容体の活性化、“興奮毒性”による神経細胞死、および/または補体調節タンパク質による補体活性化により脳への複数のダメージ、痙攣誘発化学物質による発作、行動/運動障害の誘発などである。・抗AMPA-GluR3B抗体を有する“自己免疫性てんかん”患者の中には、免疫療法に対する反応性が良好で(時々一過性ではあるが)、発作の軽減および神経機能全体の改善につながる者がいる。(2)抗NMDA-NR1 抗体・自己免疫性“抗NMDA受容体脳炎”に認められる。・ヒト、動物モデルおよびin vitroにおいて、抗NMDA-NR1抗体は海馬神経に発現している表面NMDA受容体を著しく減少させうること、そしてNMDA受容体のクラスター密度ならびにシナプス性局在もまた減少させることから重要な病因となりうる。・抗NMDA-NR1抗体は、NMDA受容体と架橋結合およびインターナリゼーションを介してこれらの作用を誘発する。・このような変化はNMDA受容体を介するグルタミン酸シグナル伝達を障害し、さまざまな神経/行動/認知/精神の異常を来す。・抗NMDA-NR1抗体は、その髄腔内産物により抗NMDA受容体脳炎患者のCSF中にしばしば高濃度に認められる。・抗NMDA受容体脳炎患者の多くは、いくつかの免疫療法に良好に反応する。(3)抗NMDA-NR2A/B抗体・神経精神的問題の有無にかかわらず、全身性エリテマトーデス(SLE)患者の多くに認められる。・抗NMDA-NR2A/B抗体を有するSLE患者の割合は報告により14~35%とさまざまである。・ある1件の試験では、びまん性神経精神的SLE患者の81%、焦点性“神経精神的SLE”患者の44%で抗NMDA-NR2A/B抗体が認められることが報告されている。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、いくつかのタイプのてんかん、いくつかのタイプの脳炎 (慢性進行性辺縁系脳炎、傍腫瘍性脳炎または単純ヘルペス性脳炎など)、統合失調症、躁病、脳卒中またはシェーグレン症候群患者にも認められる。・患者の中には、抗NMDA-NR2A/B抗体が血清とCSFの両方に認められる者がいる。・dsDNAと交差反応する抗NMDA-NR2A/B抗体もある。・いくつかの抗NMDA-NR2A/B抗体は、SLE患者の神経精神/認知/行動/気分障害と関連している。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、NMDA受容体の活性化により神経死をもたらすこと、“興奮毒性”を誘発して脳を傷害する、膜NMDA受容体発現の海馬神経における著明な減少、そして動物モデルにおいて認知行動障害を誘発することなどから、病因となりうることは明らかである。・しかし、抗NMDA-NR2A/B抗体の濃度は、グルタミン酸受容体に対するポジティブまたはネガティブな影響、神経の生存を決定付けていると思われる。・このため、低濃度において抗NMDA-NR2A/B抗体は受容体機能のポジティブモジュレーターであり、NMDA受容体を介した興奮性シナプス後電位を増加させる一方、高濃度ではミトコンドリア膜透過性遷移現象を介した“興奮毒性”を促進して病因となる。 (4)抗mGluR1抗体・これまでに、少数の傍腫瘍性小脳運動失調患者に認められており、これら患者では髄腔内で産生されるため血清中よりもCSF中濃度のほうが高い。・抗mGluR1抗体は、基本的な神経活性の減弱、プルキンエ細胞の長期抑圧の誘導阻害、プルキンエ細胞の急性および可塑反応の両方に対する速やかな作用による脳運動調節欠乏、慢性的な変性などにより脳疾患のきわめて大きな原因になりうる。・抗mGluR1抗体をマウス脳に注射後30分以内に、マウスは著しい運動失調に陥る。・運動失調患者に由来する抗mGluR1抗体は、動物モデルにおいて眼球運動もまた障害する。・抗mGluR1抗体を有する小脳性運動失調患者の中には、免疫療法が非常に効果的な者がいる。(5)抗mGluR5抗体・これまでに、ホジキンリンパ腫および辺縁系脳炎(オフェリア症候群)患者の血清およびCSF中にわずかに認められている。・抗GluR5抗体を含むこれら患者の血清は、海馬の神経線維網およびラット海馬ニューロン細胞表面と反応し、培養ニューロンを用いた免疫沈降法および質量分析法により抗原がmGluR5であることが示された。 以上のエビデンスから、著者は「抗グルタミン酸受容体抗体は、これまでに認識されていた以上にさまざまな神経疾患に高頻度に存在し、神経系に対してきわめて有害であることがわかった。したがって、診断、治療による抗グルタミン酸受容体抗体の除去あるいは鎮静化、および将来の研究が求められる。広範な抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーに関しては、興味深く、新規でユニークかつ重要であり、将来に向けた努力はいずれも価値があり必須であることがわかった」とまとめている。関連医療ニュース 精神疾患におけるグルタミン酸受容体の役割が明らかに:理化学研究所 精神疾患のグルタミン酸仮説は支持されるか グルタミン酸作動薬は難治性の強迫性障害の切り札になるか

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敗血症のアルブミン、死亡抑制に差なし/BMJ

 成人敗血症に対する体液補充や蘇生輸液におけるアルブミン製剤の使用は、クリスタロイド溶液やコロイド溶液に比べて全死因死亡を改善しないことが、英国インペリアル・カレッジ・ヘルスケアNHSトラスト、ハマースミス病院のAmit Patel氏らの検討で示された。イギリス国立医療技術評価機構(NICE)やSurviving Sepsis Campaignのガイドラインは、主に2011年のメタ解析や2004年のSAFE試験の結果に基づき、成人敗血症の体液補充や蘇生輸液へのアルブミン製剤の使用を推奨している。一方、これらの試験の質は十分に高いとは言えず、その後に行われた試験の結果も相反するものだという。BMJ誌オンライン版2014年7月22日号掲載の報告。アルブミン製剤の有用性をメタ解析と逐次解析で評価 研究グループは、敗血症患者に対する体液補充や蘇生輸液におけるアルブミン製剤の有効性と安全性を評価するために、関連する無作為化臨床試験の論文を系統的にレビューし、メタ解析と逐次解析(trial sequential analysis)を行った。 データの収集には、医学関連データベースや学会プロシーディングスのほか、参考文献リストを検索し、必要に応じて著者に連絡を取った。対象は、成人敗血症患者に対する救急治療や集中治療において体液補充や蘇生輸液にアルブミン製剤が使用され、対照(クリスタロイド溶液、コロイド溶液)との比較を行った前向き無作為化試験であり、敗血症の重症度は問わず(ベースライン時の低アルブミン血症の有無を確認)、全死因死亡のデータが提示されているものとした。 2名の研究者が別個に論文を精査し、バイアスのリスク、試験方法、患者、介入法、比較の方法、アウトカムのデータを抽出した。ランダム効果モデルを用いて全死因死亡の相対リスクを算出した。主要評価項目はフォローアップ終了時の全死因死亡であった。「中等度」のエビデンスレベルで「相対リスクに差なし」 16の臨床試験(18論文)に登録された敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックで救急治療または集中治療を受けた4,190例が解析の対象となった。年齢中央値60.8歳の患者に対し、70.0g/日(中央値)のアルブミン製剤が3日間(中央値)投与されていた。アルブミン製剤の総投与量中央値は175gであった。クリスタロイド溶液は0.9%生理食塩水や乳酸リンゲルが、コロイド溶液は主にヒドロキシエチルスターチ(HES)が使用された。 アルブミン製剤群と対照群の間には、死亡の相対リスクの差を認めず(相対リスク[RR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.87~1.01、p=0.11、I2=0%)、「アルブミン製剤に相対的なベネフィットはない」との見解が支持された(エビデンスの質は、GRADE[Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation]基準で「中等度(moderate)」の判定)。 アルブミン製剤の死亡の相対リスクは、クリスタロイド溶液(RR:0.93、95%CI:0.86~1.01、p=0.07、I2=0%)およびコロイド溶液(同:1.04、0.79~1.38、p=0.76、I2=0%)と比べても有意な差はなかった。エビデンスの質は、クリスタロイド溶液との比較は「高い(high)」、コロイド溶液との比較は「たいへん低い(very low)」と判定された。 バイアスのリスクが高い試験を除外したうえで、事前に規定されたサブグループ解析を行ったが、「死亡に関するベネフィットはない」との知見に変化はなかった。 著者は、「成人敗血症に対するアルブミン製剤による体液補充や蘇生輸液は全死因死亡の抑制に有効ではない」とまとめ、「アルブミン製剤は安全に使用でき、有害性の徴候は検出されなかったが、本試験で得られた知見は現行のガイドラインの推奨を支持しない」としている。

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腰痛へのアセトアミノフェンの効果に疑問/Lancet

 常用量および頓用量のアセトアミノフェン(オーストラリアでの一般名は「パラセタモール」、日本とは投与量が異なる)は腰痛の回復までの期間の短縮には効果がないことが、オーストラリア・シドニー大学のChristopher M Williams氏らが行ったPACE試験で示された。急性腰痛のガイドラインでは、第一選択の鎮痛薬としてアセトアミノフェンが広く推奨されているが、他の薬剤との比較では効果に差はないとされており、この推奨を直接的に支持する質の高いエビデンスはないという。Lancet誌オンライン版2014年7月24日号掲載の報告。疼痛改善効果をプラセボ対照無作為化試験で評価 PACE試験は、腰痛患者における常用量および頓用量のアセトアミノフェンの疼痛発現から回復までの期間の改善効果を検討する多施設共同二重盲検ダブルダミー・プラセボ対照無作為化試験。対象は、発症から6週間以内、疼痛が中等度~高度の初発の急性腰痛患者であった。 参加者は、アセトアミノフェン常用量群(3,990mg 分3/日)、頓用量群(疼痛緩和の必要に応じて最大4,000mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、最長で4週間の治療が行われた。患者は最良のエビデンスに基づく助言を受け、3ヵ月間のフォローアップが実施された。 主要評価項目は、腰痛発症から回復までの期間とした。回復は、疼痛スコア(0~10)が0~1の期間が7日継続した場合と定義した。回復までの期間は16~17日、適切な助言が重要 2009年11月11日~2013年3月5日までに、シドニー市の235人のプライマリ・ケア医療従事者(医師181人、薬剤師50人、理学療法士4人)から1,652例が登録された。平均年齢は45歳で男性が53%であった。このうち適格基準を満たさなかった9例を除く1,643例(常用量群:550例、頓用量群:546例、プラセボ群:547例)が解析の対象となった。 12週時の持続的な回復の達成率は、常用量群が85%、頓用量群は83%、プラセボ群は84%であり、全体の有意差検定では群間に差を認めなかった(補正後p=0.79)。 回復までの期間中央値は、常用量群が17日、頓用量群も17日、プラセボ群は16日であった。常用量群とプラセボ群間のハザード比(HR)は0.99(95%信頼区間[CI]:0.87~1.14)、頓用量群とプラセボ群間のHRは1.05(同:0.92~1.19)、常用量群と頓用量群間のHRは1.05(同:0.92~1.20)であり、いずれも有意な差を認めなかった。 アドヒアランスに関する質問票で、推奨用量の70%以上を服薬したと答えた患者は、常用量群が51%、頓用量群も51%、プラセボ群は47%であった。治療2週までにレスキュー治療として非ステロイド性抗炎症薬ナプロキセンを服用した患者は、それぞれ<1%、1%、1%で、フォローアップ期間を通じて他の薬剤を使用した患者は20%、23%、23%であった。 有害事象の発現率は常用量群が18.5%、頓服量群は18.7%、プラセボ群は18.5%であった。治療に満足と答えた患者は、それぞれ76%、72%、73%であった。 疼痛の重症度、身体機能障害、全般的な症状、睡眠の質の低下、QOL(SF-12)などの副次評価項目も3群間に大きな差はみられなかった。 著者は、「常用量および頓用量のアセトアミノフェンは腰痛の回復期間を改善しなかった」とまとめ、「ガイドラインの本薬の推奨は再考を要する。他のコホートに比べると、本試験のすべての評価項目が改善していることから、腰痛の急性発作では薬物療法よりも、むしろ患者への適切な助言や不安を取り除いて安心感を与えることが重要と考えられる」と指摘している。

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分子標的治療薬登場で甲状腺がん治療はどう変わる?

 今年6月、甲状腺がんで初めての分子標的治療薬として、ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)が「根治切除不能な分化型甲状腺がん」に対して承認された。これまでは外科医でほぼ完結していた甲状腺がん治療が、分子標的治療薬の登場によってどのように変わっていくのだろうか。7月29日(火)、都内で開催されたプレスセミナー(主催:バイエル薬品株式会社)で、甲状腺がん治療の現状と今後のあり方、ソラフェニブの臨床成績と副作用のマネージメントについて、日本医科大学内分泌外科学分野 教授 杉谷 巌氏と国立がん研究センター東病院頭頸部内科 科長 田原 信氏がそれぞれ講演した。甲状腺がん治療の現状 甲状腺がんは、予後良好な乳頭がんが9割以上を占める。近年、2cm以下の乳頭がんが増加しているが、これは発見されるがんが増えたためと考えられている。一方、死亡率は変化していないことから、背景には少数ではあるが予後不良の高リスクがんがあると考えられることから、杉谷氏は「治療開始時点における適切な予後予測、および治療方針決定のための適切なリスク分類が必要」と言う。 治療については、欧米と日本では考え方が異なる。欧米では、ほぼすべての患者で甲状腺を全摘し放射性ヨウ素内用治療を行っているが、日本では、予後のよいがんであることからQOLを考慮し、部分切除により甲状腺機能を残すようにすることも多い。こうした現状を踏まえ「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版」(日本内分泌外科学会/日本甲状腺外科学会)でも、TNM分類にて、T>5cm、N1、Ex2、M1のいずれかを満たせば高リスク群とみなし、甲状腺全摘(+郭清)を推奨しているが、低リスク群との間に“グレーゾーン”を設け、患者さんの要望を踏まえて治療を決定する選択余地を残している。高リスク患者の治療に分子標的治療薬が登場 高リスクの場合、甲状腺全摘、隣接臓器合併切除、拡大リンパ節郭清といった局所治療を実施する。その後の全身治療として、放射性ヨウ素内用療法、甲状腺ホルモン療法(TSH抑制療法)があるが、杉谷氏はこれらの治療効果は見込めないと言う。というのは、これらの治療は、ヨウ素を取り込んだりTSHの影響を受けたりする甲状腺の性質を利用しているが、高リスクの甲状腺がんではこの甲状腺本来の性質が失われているためである。 このようななか、甲状腺がんの発生・進行の分子メカニズムが少しずつ判明してきており、分子標的治療薬として現在までにソラフェニブ、lenvatinib、vandetanibなどのチロシンキナーゼ阻害薬の国際的な臨床試験が実施され、今回ソラフェニブが承認された。杉谷氏は、今後の甲状腺治療において腫瘍内科とタッグを組んでいくことに期待している。 一方で、杉谷氏は分子標的治療薬の課題として、1)完全寛解例がほとんどない、2)個別の効果予測がまだできない、3)併用療法や2次治療についての検討はこれからである、4)治療が高額、5)特有の副作用の管理が難しい、といった点を挙げている。 さらに、今後の甲状腺がん治療については、外科医、腫瘍内科医、内分泌内科医、放射線科医、緩和ケア医による新たなチーム医療システムを築き上げることが必要な時期に来ているとし、そこで新たなエビデンスを構築することが必要と強調した。分子標的治療薬ソラフェニブの有効性 腫瘍内科の田原氏は、日本から国際共同第III相臨床試験(DECISION試験)に参加した経験をもとに、試験成績や副作用マネージメントについて紹介した。 DECISION試験は、予後不良で有効な標準治療がない、放射性ヨウ素治療抵抗性の局所進行または転移性分化型甲状腺がん患者を対象に実施したプラセボ対照比較試験である。 本試験で、分子標的治療薬であるソラフェニブは、主要評価項目である無増悪生存期間を有意に改善し、中央値を5ヵ月間延長した(ソラフェニブ群10.8ヵ月vsプラセボ群5.8ヵ月、ハザード比:0.59、95%CI:0.45~0.76)。 なお、副次的評価項目である全生存期間は、両群とも中央値に達しておらず、差は認められなかった(ハザード比:0.80、95%CI:0.54~1.19、p=0.14)。その考えられる理由として、田原氏は、本試験では病勢進行時の盲検解除およびソラフェニブへのクロスオーバーが可能であり、プラセボ群の71.4%がクロスオーバーされたことを挙げた。ソラフェニブの安全性と副作用マネージメント 安全性については、血清TSH増加、低カルシウム血症、二次性悪性腫瘍(皮膚扁平上皮がんなど)といった他のがんとは異なる副作用が認められたものの、主な副作用は手足の皮膚反応、下痢、脱毛、皮疹/落屑、疲労、高血圧などで、おおむね既知の安全性プロファイルとほぼ同様という。田原氏は「高血圧、手足症候群、下痢などの副作用に対する適切なマネージメントが治療継続に必要であり、腫瘍内科医が治療に携わることが重要である」と強調した。 また、日本人では5割の患者でグレード3以上の手足の皮膚反応が認められたという。これについて、田原氏は「甲状腺がんでは、腎細胞がんや肝細胞がんで同薬を投与されている患者さんよりも全身状態(PS)がよい人が多く、仕事やゴルフなどに出かけるなど、よく動くため皮膚障害が多かったのではないか」と考察し、使用開始1ヵ月間は活動を控えてもらうなど、患者指導の重要性について語った。

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閉塞性睡眠時無呼吸への夜間酸素療法 ―CPAPよりアドヒアランスはよいが効果は劣る―(解説:高田 佳史 氏)-230

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者への持続陽圧呼吸(CPAP)療法は、高血圧の発症予防や降圧に有効であるが、その効果はアドヒアランスに依存することも知られている1,2)。本論文は、アドヒアランスに優れた夜間酸素療法との無作為割り付け試験の報告である。 高血圧、糖尿病、冠動脈疾患を高率に合併した高リスク患者を対象に、OSA患者へのCPAP療法、酸素療法、睡眠衛生指導のみの3群に無作為に割り付けがなされ、介入前、12週後に24時間自由行動下血圧測定(ABPM)による24時間平均動脈圧が比較された。CPAPの使用時間は3.5±2.7時間であり、酸素療法の4.8±2.4時間より有意に短かったが、CPAP群の24時間平均動脈圧は酸素療法群、睡眠衛生指導群よりも有意に低下しており、後の2群には有意差がなかった。 夜間酸素療法は、中枢性睡眠時無呼吸(CSA)を合併した慢性心不全患者への治療選択の1つであることはわが国の循環器学会のガイドラインに示されているが、海外においては、CSAに対する夜間酸素療法に否定的な見解を示す医師が多い。そのような中で、上気道の狭窄・閉塞に起因するOSAに対して、無作為割り付け試験がなされたことは驚きであった。心血管疾患高リスク患者は、概して日中の眠気が少なく、CPAPアドヒアランスの低さが問題視されているのであろう。 酸素療法により低酸素血症の改善が得られたが、降圧効果を認めなかった理由として、CPAPと比較して胸腔内陰圧、高炭酸ガス血症、覚醒などに関連する交感神経活性亢進の抑制効果に劣ることが挙げられるが、簡易睡眠検査での評価であり、睡眠中の脳波記録やCO2モニターがなされていないので詳細は不明である。 近年注目されている血圧変動性に対する影響も、両治療で差がなかったかは知りたいところである。しかしながら、個人的には、CPAP治療拒否や継続不能なOSA患者に対しては、夜間酸素療法に期待するよりは、OSA患者(比較的重症例も含む)に対する無作為割り付け試験によって3)、アドヒアランスが良好な故にCPAPと同程度の降圧効果が示された口腔内装具による治療に期待したい。

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脳卒中既往者の非心臓手術のタイミング/JAMA

 脳卒中既往患者への非心臓手術の実施リスクについて、とくに発作後9ヵ月未満で行った場合は有害転帰と関連することが明らかにされた。また9ヵ月超でも、脳卒中を起こしていない患者と比べるとリスクは高く一定のままであることも示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のMads E. Jorgensen氏らが、同国住民コホートで待機的非心臓手術を受けた約48万件の手術データを後ろ向きに解析し報告したもので、著者は「今回の結果は、今後のガイドラインにおいて時間依存的リスクに注意を払う必要があることの根拠になると思われる」とまとめている。JAMA誌2014年7月16日号掲載の報告より。脳卒中既往患者7,137例と非既往患者47万4,046例の手術リスクを検討 脳卒中後に行う手術の時間的安全性および重要性を評価する検討は、2005~2011年のデンマーク全国コホート研究のデータを用いて行われた。コホートには、20歳以上で待機的非心臓手術を受けた48万1,183件の手術患者のデータが含まれていた。 脳卒中から手術までの時間で層別化し、術後30日間の主要有害心血管イベント(MACE;虚血性脳卒中、急性心筋梗塞、心血管死など)と全死因死亡を、多変量ロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比(OR)を算出して評価した。 対象のうち、脳卒中既往患者は7,137例(1.5%)、非既往患者は47万4,046例であった。既往群は非既往群と比べて、平均年齢で16歳上回り(69.7歳vs. 53.7歳)、男性が多く(56.4%vs. 43.3%)、心血管系の治療歴と併存疾患を有する割合が高かった。 また被験者が受けた手術回数の中央値は1回で、調査対象期間中に1回以上の手術を受けた人は、脳卒中既往群24.3%、非既往群21.4%であった。脳卒中から手術までの期間が3ヵ月未満の患者の死亡ORは3.07 MACEの粗発生率は、1,000患者当たり脳卒中既往群54.4件(95%信頼区間[CI]:49.1~59.9)に対し、非既往群は4.1件(同:3.9~4.2)だった。 非既往群との比較による既往群のMACEのORは、脳卒中から手術までの期間が3ヵ月未満の患者では14.23(95%CI:11.61~17.45)、3~6ヵ月未満では4.85(同:3.32~7.08)、6~12ヵ月未満では3.04(同:2.13~4.34)、12ヵ月以上では2.47(同:2.07~2.95)であった。 MACEリスク(脳卒中から手術までの期間が3ヵ月未満)は、手術が低リスク(OR:9.96、95%CI:5.49~18.07)、中程度リスク(同:17.12、13.68~21.42)でも、高リスク(同:2.97、0.98~9.01)と比べて同程度か高いことが認められた(相互作用のp=0.003)。 同様の傾向は、30日死亡率でもみられた。脳卒中から手術までの期間が3ヵ月未満の患者の死亡ORは3.07(95%CI:2.30~4.09)、3~6ヵ月未満では1.97(同:1.22~3.19)、6~12ヵ月未満では1.45(同:0.95~2.20)、12ヵ月以上では1.46(同:1.21~1.77)であった。 脳卒中のサブグループにおける3次回帰スプライン分析により、リスクは9ヵ月後で横ばいになることが裏付けられた。

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DES1年後のDAPT:継続か?中断か?/Lancet

 薬剤溶出ステント(DES)留置後の2剤併用抗血小板療法(DAPT)の継続について、留置後1年間でイベントが起きなかった場合、その後も継続して行うことに明白な有益性はなく、むしろ出血イベントのリスクが増し有害であることが示された。フランス・INSERMのJean-Philippe Collet氏らが、無作為化試験ARCTIC-Interruptionの結果を分析し報告した。冠動脈ステント留置後のDAPTの至適な継続期間はいまだ明らかになっていない。著者は今回の結果について、「高リスク患者が除外された試験であり、同患者については結論を出すことはできない」としつつ、「同様に中断した試験すべての所見が、冠動脈ステント留置後のDAPTの治療期間について短縮する方向でガイドラインを再検討する必要があることを示唆している」とまとめている。Lancet誌オンライン版2014年7月16日号掲載の報告より。DES留置1年後、DAPT中断群と継続群に割り付け検討 ARCTIC-Interruptionは、既報の無作為化試験ARCTIC-Monitoring(ARCTIC第I相試験、2,440例が参加)で予定されていた延長試験(ARCTIC第II相試験)であった。フランスの38施設でDES埋め込み手術が予定されていた18歳以上の患者が参加して行われた。 ARCTIC-Interruptionは、第I相試験の被験者で追跡1年後、DAPT中断への禁忌(糖尿病、末梢動脈疾患、ADPに対する血小板反応が高いなど)を有さなかった患者を適格とし、コンピュータ無作為化シーケンスにより施設単位で1対1の割合で、中断群と継続群に割り付けて6~18ヵ月治療が行われた。中断群はチエノピリジン系薬(クロピドグレル[商品名:プラビックス])が中断されアスピリンの投与は継続した。 主要エンドポイントは、死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・脳卒中・緊急血行再建術の複合で、intention to treat分析にて評価した。主要複合エンドポイント発生は両群で有意差なし、大出血イベントは継続群で多い 2011年1月4日~2012年3月3日の間に、1,259例がARCTIC-Interruption試験の適格基準を満たし、各治療群に無作為に割り付けられた(中断群624例、継続群635例)。 追跡期間中央値は17ヵ月であった(IQR:15~18ヵ月)。その間の主要エンドポイント発生は、中断群27例(4%)、継続群24例(4%)だった(ハザード比[HR]:1.17、95%信頼区間[CI]:0.68~2.03、p=0.58)。 一方、安全性のエンドポイントでは、STEEPLE大出血イベントが、中断群(1例、0.5%未満)と比べて継続群(7例、1%)のほうが発生する頻度が高かった(HR:0.15、95%CI:0.02~1.20、p=0.073)。また、大出血または小出血イベントも、中断群(3例、1%)と比べて継続群(12例、2%)のほうがより頻度が高かった(同:0.26、0.07~0.91、p=0.04)。

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慢性呼吸器疾患増悪の入院症例に対する、入院中早期リハビリテーション導入についてのランダム化比較試験(解説:小林 英夫 氏)-228

本論文は、慢性呼吸器疾患による入院症例において、入院早期の呼吸リハビリテーション開始が1年間の観察期間にどのような影響を及ぼすかを検討したランダム化比較試験である。結果を概括すると、早期リハビリテーション導入は再入院リスクを低下させず(主アウトカム)、機能回復増進にも結び付かず、1年間の死亡率が高いという結果であり、早期リハビリテーション導入は推奨されない、としている。 プロトコールは良質な臨床試験で、本邦でこの臨床試験を実施することの困難さを思うと羨望せざるを得ない面がある。軽微な数字の取り間違えが4ページに数ヵ所あるが、ネガティブな結果にもかかわらず試験そのものは適切に解析されている。ただ、試験の出発点自体が妥当であろうかという疑問もあり、本論文を単純に受け入れることは難しい。種々の前提条件を踏まえたうえで読むべきであろう。冠動脈や脳血管といった急性動脈閉塞、手術後など急性疾患における早期リハビリテーション介入が機能回復に寄与することが明らかになってきているが、慢性(呼吸器)疾患において急性疾患と同様の結果が得られるかどうか、設定そのものの困難性が潜在するのではないだろうか。 また、対象群は慢性呼吸器疾患群389例で、その82%、320例がCOPDである。COPDに限定したsubgroup解析でも全例解析と差異がなかったとしているが、であるならば他疾患を混在させずCOPDのみを対象とした設定にすることで、よりすっきりした試験となったであろうことが惜しまれる。さらに、対象症例の3割は入院治療として酸素吸入が実施されていない点、平均BMI (body mass index) 26という点、副腎皮質ホルモン薬が入院前から87%の症例に全身投与されている点、現喫煙者が20%以上存在する点、これらの点は本邦での入院症例との差異が大きく、患者像が把握しにくい。次に、平均入院期間5日間(英国では平均的な日数とされる)の対象群を、入院後2日以内に早期リハビリテーションを導入する群と退院後に導入する群に分け比較しているが、数日間の導入差が慢性呼吸器疾患にどの程度の差異をもたらすものだろうか。リハビリテーションの効果は継続性によって発揮されるものであり、数日間の差異が仮に統計学的有意性を示したとしても、その理由付けが難しいように思われる。 さらに、著者らが予想していなかった結果(早期リハビリテーショが有害である)となった理由を論理的に説明できない。著者らもby chanceの可能性も記載しているが、数日程度の導入差が1年後の生存に有害な影響をもたらす解釈が困難である。1年間の追跡において、リハビリテーションによる機能改善効果が徐々に減少していくというデータも残念な成績であった。リハビリテーションの継続性、アドヒアランスの難しさが結果に影響していることが推測される。 本論ではないが、死亡原因の内訳に他臓器がんや消化器疾患が含まれている。臨床試験の取り扱いとして正しいとはいえ、リハビリテーション効果と他臓器がん死が結び付くとは評価できないので、付加的に非呼吸器疾患死亡を除外した検討も知りたいところである。また薬物治療内容も一切の記述がなかった。 筆者が初めて呼吸リハビリテーションの概念に接した1980年代初頭には、経験を積んだ理学療法士も存在せず保険点数も算定できない状況だった。2006年、独立した診療報酬項目として呼吸リハビリテーションが収載され、日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版でもエビデンスA、Bの位置に呼吸リハビリテーションが記載されている。いまだ本邦での呼吸リハビリテーションは十分に普及しているとはいえないが、その意義が本論文によって否定されたわけではないことは、十分に留意されなければならない。呼吸リハビリテーションそのものを否定している報告ではなく、あくまで、入院後2日以内の早期開始の有効性がなかったということで、退院後の外来リハビリテーション効果は否定されていない。また本試験で用いられたリハビリテーションは2013年のBTS/ATSガイドライン以前の内容であることも、今後の検討において変更すべき点と思われる。

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高力価vs低力価、有効性の違いは

 統合失調症に対する治療の中心である抗精神病薬について、治療ガイドラインでは、有効性に差はないとしている。しかし、臨床的には低力価抗精神病薬は高力価抗精神病薬に比べて有効性が低いと認識されることが多く、また副作用の面でも異なるると言われていた。ドイツ・ミュンヘン工科大学のMagdolna Tardy氏らは、低力価と高力価の抗精神病薬について臨床的有効性の差を明らかにするため、無作為化比較試験のレビューを行った。その結果、臨床的有効性の優劣は明らかでなく、有害事象についてはハロペリドール群で運動障害が、低力価抗精神病薬群で起立性症状、鎮静および体重増加がより高頻度であったことを報告した。Cochrane Database Systematic Review誌オンライン版2014年7月9日号の掲載報告。 そこで研究グループは、統合失調症患者に対するハロペリドールおよび低力価抗精神病薬の臨床的有効性についてレビューした。2010年7月までのCochrane Schizophrenia Group Trials Registerを用い、統合失調症または統合失調様精神異常を呈する患者に対し、ハロペリドールと第一世代の低力価抗精神病薬の比較を行っている無作為化試験すべてを検索した。任意にデータを抽出し、intention-to-treatにおけるランダム効果モデルに基づき、二分変数についてはリスク比(RR)とその95%信頼区間(CI)を算出。連続変数についてもランダム効果モデルに基づき、平均差(MD)を算出した。  主な結果は以下のとおり。・無作為化試験17件の877例についてレビューを行った。試験の対象例数は16~109例の範囲であった。また、いずれの試験も調査期間は2~12週と短期間であった。なお、割付の順番、割付方法および盲検化に関する記載のある報告は少なかった。・ハロペリドールが、低力価抗精神病薬に比べて臨床的有効性が優れるという明らかなエビデンスは見出せなかった(ハロペリドール40%、低力価抗精神病36%、14試験、574例、RR:1.11、95%CI:0.86~1.44、エビデンスの質:低)。・何らかの理由で試験から早期脱落した被験者数の差は不明確で、いずれかの群で治療の忍容性にベネフィットがあるという明らかなエビデンスも見出せなかった(同:13%、17%、11試験、408例、0.82、0.38~1.77、エビデンスの質:低)。・1件以上の有害事象発現という点でも、明確な差はみられなかった(同:70%、35%、5試験、158例、1.97、0.69~5.66、エビデンスの質:きわめて低)。・低力価抗精神病薬群では、鎮静(同:14%、41%、2試験、44例、0.30、0.11~0.82、エビデンスの質:中等度)、起立性症状(同:25%、71%、1試験、41例、0.35、0.16~0.78)および体重増加(同:5%、29%、3試験、88例、0.22、0.06~0.81)を認めた患者の頻度がより高かった。・一方、「1つ以上の運動障害」というアウトカムに関しては、ハロペリドール群のほうが高頻度であった(同72%、41%、5試験、170例、1.64、1.22~2.21、エビデンスの質:低)。・死亡またはQOLに関するデータはなかった。・いくつかのサブグループおよび感度解析において、主要アウトカムは確固たるものであった。・全体に試験の質が低く、主要なアウトカムのエビデンスの質は中等度から非常に低度までとばらつきがあった。ハロペリドールと低力価抗精神病薬の優劣について明確な結論を得るためには、新規の試験が必要である。関連医療ニュース 急性期統合失調症、ハロペリドールの最適用量は 統合失調症への抗精神病薬、第一世代vs. 第二世代の注射製剤の効果は 第一世代 vs 第二世代抗精神病薬、初回エピソード統合失調症に対するメタ解析  担当者へのご意見箱はこちら

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COPD急性増悪への早期リハに疑問/BMJ

 COPDや喘息の慢性呼吸器疾患の急性増悪入院患者への早期リハビリテーション開始は、再入院リスクを低下せず、身体機能の回復増進にも結びつかなかったことが、英国・レスター大学病院のNeil J Greening氏らが行った前向き無作為化試験の結果、報告された。検討では介入群のほうが、12ヵ月時点の死亡率が高かったことも示されている。慢性呼吸器疾患の急性増悪で入院した患者の再入院率は高く、ガイドラインでは、増悪後の呼吸リハビリテーションが推奨されている。著者は、「今回の結果は、現行の標準的な理学療法以上の積極的な運動リハビリテーションを、急性症状の初期に始めてはならないことを示すものであった」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年7月8日号掲載の報告より。389例対象に、急性増悪入院後48時間以内リハ開始vs. 通常ケア 本検討は、慢性呼吸器疾患の急性増悪入院患者への早期リハビリテーション開始が、その後の12ヵ月の再入院率を減らし、身体パフォーマンスおよび健康状態を改善するかどうかを調べることが目的であった。 試験は、2010年1月~2011年9月に英国2施設に入院した389例を対象に行われた。被験者は45~93歳、急性増悪入院後48時間以内の患者で、早期リハビリテーション介入(入院後48時間以内に開始)群(196例)または通常ケア(対照)群(193例)に割り付けられた。 主要アウトカムは、12ヵ月時点の再入院率。副次アウトカムには、入院期間、死亡率、身体パフォーマンス、健康状態などが含まれた。 早期リハビリ群に割り付けられた患者は、入院後48時間以内に開始し介入を6週間受けた。介入内容は、通常ケア(気道クリアランス、運動能の評価と管理、禁煙指導など)に加えて、有酸素運動、神経筋電気刺激療法などが複合的に実施された。再入院率62%vs. 58%、死亡率25%vs. 16% 389例のうち、主病名がCOPDであった患者は320例(82%、うち介入群169例[86%]、対照群151例[78%])であった。 その後の1年間で1回以上再入院したのは、233例(60%)であった。再入院は、介入群62%、対照群58%で、両群で有意差はみられなかった(オッズ比:1.1、95%信頼区間[CI]:0.86~1.43、p=0.4)。 一方、12ヵ月時点の死亡は、介入群49例(25%)、対照群31例(16%)で、介入群の死亡率の有意な増加がみられた(同:1.74、1.05~2.88、p=0.03)。 身体パフォーマンス、健康状態については、退院後に両群で有意な改善が認められ、1年時点で両群に有意差は認められなかった。

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統合失調症の再発予防、ω-3脂肪酸+α-LAは有用か

 統合失調症の抗精神病薬中止後の再発予防に、オメガ-3系多価不飽和脂肪酸(ω-3 PUFAs)と代謝抗酸化物質であるα-リポ酸(α-LA)の組み合わせが有効であるというエビデンスは、示されなかったことが報告された。南アフリカ共和国・ステレンボス大学のRobin Emsley氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告した。検討では、服薬中止後の再発率が75~90%と高かったことから、著者は「統合失調症の単回エピソード後の抗精神病薬の中止は再発のリスクが非常に高く、同プラクティスを支持するガイドラインを改訂すべきであろう」と述べている。Schizophrenia Research誌オンライン版2014年7月1日号の掲載報告。 統合失調症の維持治療として抗精神病薬は有効である一方、安全性および忍容性のリスクがある。本検討では、統合失調症または統合失調症様障害の初回エピソード後2~3年間、良好にコントロールされている患者における抗精神病薬中止後の再発防止に対し、ω-3 PUFAs+α-LAが有効であるか否かを検討した。抗精神病薬を漸減および中止後、被験者をω-3 PUFAs(エイコサペンタエン酸2g/日およびドコサヘキサエン酸1g/日)+α-LA(300mg/日)群またはプラセボ群に無作為化し、2年間あるいは再発が起こるまで追跡した。 主な結果は以下のとおり。・両群とも、再発率ならびに再発エピソードの重症度が高かったため、登録は時期を早めて終了となった。被験者は33例であった。・ω-3 PUFAs+α-LA 群に無作為化された21例中19例(90%)で再発が認められ、再発せずに2年間の試験を完了できたのは1例(5%)であった(p=0.6)。・プラセボ群に無作為化された12例中9例(75%)で再発が認められ、再発せずに2年間の試験を完了できた例はなかった。・再発までの期間中央値は、ω-3 PUFAs+α-LA群が39.8±25.4週、プラセボ群が38.3±26.6週であった(p=0.9)。・再発症状の重症度に、2群間に有意差は認められなかった。・小規模試験であったが、再発予防における抗精神病薬維持治療の代替として、ω-3 PUFAs+α-LAが適切な選択肢になりうるというエビデンスは得られなかった。関連医療ニュース 統合失調症“再発”の危険因子は 統合失調症の再発、どう定義とすべきか 統合失調症患者の再発を予測することは可能か  担当者へのご意見箱はこちら

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