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βブロッカーは心房細動合併心不全の予後を改善しない(解説:小田倉 弘典 氏)-345

 収縮能が低下した慢性心不全患者に対するβ遮断薬の有効性は、多数の無作為化比較試験(RCT)により証明されている。代表的なものとして、カルベジロールではUS-Carvedilol試験1)、ビソプロロールではCIBIS II試験2)、メトプロロールではMERIT-HF試験3)において、生命予後の改善が示され、これらを基に国内外のガイドラインでも収縮性心不全に対するβ遮断薬投与は強く推奨されている。 しかし、これらの試験の対象は洞調律患者が主であり、心房細動患者を対象としたCIBIS II試験のサブ解析では、心房細動患者にはβ遮断薬の効果は認められないことが報告されていた4)。 そこで、心房細動を合併した収縮性心不全例と合併しない例に対するβ遮断薬の効果を、心房細動を合併しない心不全例と比較したメタ解析が本論文である。 方法は、心不全患者に対するβ遮断薬とプラセボを比較したRCTの個人レベルのデータを抽出。心房細動か洞調律かの確認は、ベースラインの心電図で確認した。主要アウトカムは全死亡。 結果は、1万8,254例の患者が対象となり、ベースラインでは1万3,946例(76%)が洞調律、3,066例(17%)が心房細動だった。平均follow up1.5年の粗死亡率は、洞調律群で16%(2,237/1万3,945例)、心房細動群で21%(633/3,064例)だった。β遮断薬内服は、洞調律群では全死亡を有意に減らした(HR 0.73、95%CI:0.67~0.80、p<0.001)が、心房細動群では、全死亡を減らさなかった(HR 0.97、95%CI:0.83~1.14)。 心房細動群のサブグループ解析では、年齢、性別、左室機能、NYHA分類、心拍数、ベースラインの治療を調整してもすべての群で有意差を認めなかった。「β遮断薬は心不全と心房細動を合併している患者の予後を改善するために、ほかの心拍コントロール薬剤より優先して用いるべきではない」と結論付けている。 まず批判的吟味だが、心房細動群は平均年齢65歳、左室駆出分画平均は25%、平均心拍数80/分であった。メタ解析としては個人レベルのデータを取り出していて、研究異質性はI2=0%ときわめて低い。心電図診断はベースライン時のもののみである点や、心不全の定義が試験間で異なることが指摘されるが、総合的にみると比較的良質なメタ解析と思われる。 では、この結果をどう解釈したらよいだろう? 心房細動は、心房患者の14~50%に合併するといわれている5)。心不全に心房細動が合併した場合、予後が悪化するか否かに関しては相反するデータもあるが、2009年のメタ解析では心房細動がある心不全例は、心房細動がない例に比べ死亡率が1.4倍であった6)。心房細動が血行動態悪化に影響する要因は、(1)頻脈または徐脈、(2)脈の不整、(3)心房収縮の欠如、(4)神経体液性因子の活性化などが挙げられる。このうち、脈の不整および心房収縮の欠如については、β遮断薬の効果は得られない。また頻脈を改善し血行動態の改善が期待できるが、本解析で取り上げられた試験のベースラインの心拍数は80/分とすでに低いものであり、β遮断薬の恩恵は少ないのかもしれない。また、β遮断薬のadverse effectとして、急性期での心機能低下や過度の徐脈なども危惧される。 洞調律のときのように、第1選択薬として無条件に考えるのではなく、あくまで個々の症例の心機能や心拍数を十分検討したうえでβ遮断薬の使用を決めようというのが、本解析から得られる教訓と思われる。【参考文献はこちら】1)Colucci WS, et al. Circulation. 1996;94:2800-2806.2)CIBIS-II Investigators and Committees. Circulation. Lancet. 1999;353:9-13.3)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.4)Lechat P, et al. Circulation. 2001;103:1428-1433.5)Maisel WH, et al. Am J Cardiol. 2003;91:2D-8D.6)Mamas MA, et al. Eur J Heart Fail. 2009;11:676-683.

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小児への抗精神病薬使用で推奨される血糖検査、その実施率は

 米国糖尿病協会(ADA)は2004年に、小児および青少年について、第2世代抗精神病薬の治療開始前後に代謝スクリーニングを実施することを推奨する治療ガイドラインを発表した。これに関連し、ブリガム&ウィメンズ病院のJohn G. Connolly氏らは、ガイドライン発表時期とその後8年間のスクリーニング実施率の変化を調べ、ガイドライン発表後はわずかに実施率が上昇したが、その後は低下していたことを明らかにした。先行研究で、ガイドライン公表時期に小児および成人の血糖検査がわずかだが増大していることが報告されていたが、その後についての報告は限定的であった。Psychiatr Services誌オンライン版2015年3月1日号の掲載報告。 研究グループは、全米をカバーする大規模民間保険の支払データベースで、2003年1月1日~2011年12月31日の期間中に5万2,407例の試験患者を特定した。試験集団は、第2世代抗精神病薬を使用する5~18歳の非糖尿病集団であった。アメリカ医師会(AMA)独自の診療コーディングCPT(Current Procedural Terminology)-4により、同薬服用開始前後に血糖値検査およびHbA1c検査完了の有無を特定した。また、処方されていた第2世代抗精神病薬、および精神科の診断ごとの代謝スクリーニング実施率についても調べた。 主な結果は以下のとおり。・第2世代抗精神病薬の治療開始前に血糖値検査を受けていた患者の割合は、2003年17.9%から2004年18.9%に増大していた。同時期に、治療開始後の検査は14.7%から16.6%に増大していた。・これら血糖値検査のわずかな増大は、その後は継続していなかった。2008年に再上昇がみられたが、それまでの期間は低下していた。・血糖スクリーニングの頻度は、アリピプラゾール服用患者で最も高かった。一方、多動障害を診断された患者の検査頻度が、最も低いと思われた。・HbA1c検査の実施頻度は、より低かったが、実施パターンについては類似していた。・以上のように、2004年のADAガイドライン発表後、代謝スクリーニング実施率はわずかに改善していたが、継続していなかったことが明らかになった。・全体として、代謝スクリーニング率は調査対象期間中、最適には及ばない基準で推移していた。関連医療ニュース 非定型抗精神病薬、小児への適応外使用の現状 抗精神病薬治療中の若者、3割がADHD 本当にアリピプラゾールは代謝関連有害事象が少ないのか

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~プライマリ・ケアの疑問~  Dr.前野のスペシャリストにQ!【呼吸器編】

第1回 気管支喘息治療のスタンダードは? 第2回 吸入ステロイドを使い分けるポイントは? 第3回 気管支喘息で経口ステロイドはどう使う? 第4回 風邪症状から肺炎を疑うポイントは?第5回 呼吸器感染症の迅速診断は臨床で使える?第6回 肺炎のempiric therapyの考え方とは?第7回 COPDの薬物療法は何から始める?第8回 呼吸リハビリテーション、プライマリ・ケアでできることは?第9回 在宅酸素療法の基本的な考え方は?第10回 慢性咳嗽の原因疾患を鑑別する方法は?第11回 アトピー咳嗽と咳喘息、どう見分ける?第12回 成人の百日咳、鑑別と検査のポイントは?第13回 結核の発見と対応のポイントは?第14回 肺塞栓を疑うポイントは?第15回 肺の聴診のコツは? 日常診療におけるジェネラリストの素朴な疑問に一問一答で回答するQ&A番組!気管支喘息や肺炎、COPDなどの実臨床でよく見る呼吸器疾患の診察、検査、治療に関する15の質問を、番組MCの前野哲博先生が経験豊富なスペシャリスト・長尾大志先生にぶつけます!第1回 気管支喘息治療のスタンダードは? プライマリ・ケアで扱うことも多い気管支喘息。寛解への近道は継続した投薬です。そのため、患者のアドヒアランスを高めることも治療のキーポイント。治療の原則と併せて、最も効果がある処方例をズバリお教えいたします!第2回 吸入ステロイドを使い分けるポイントは? 吸入ステロイドは気管支喘息治療薬のスタンダードですが、その剤形やデバイスは年を追うごとに進歩しています。かつて主流だったMDIと、近年数多く発売されているDPI。それぞれの特徴と使い分けをズバリお教えいたします。また、気管支喘息治療でよく使用されるDPI合剤の使い分けについても伝授。吸入ステロイドの選択はこの番組でばっちりです!第3回 気管支喘息で経口ステロイドはどう使う?気管支喘息治療では発作時の対処も重要なポイント。発作止めとしてよく使用する経口ステロイドですが、怖いものと思って、おそるおそる使っては効果も半減してしまいます。今回は、効果的に使用するために重要な投与量と中止のタイミングをズバリ解説。救急での受診後に処方する場合など発作時以外の使い方も併せてレクチャーします。第4回 風邪症状から肺炎を疑うポイントは?風邪はプライマリ・ケアで最もよく見る症状のひとつ。風邪症状から肺炎を見逃さないために、風邪の定義、そして風邪をこじらせた場合、初めから肺炎だった場合など、様々なシュチエーションに応じた見分け方のコツをズバリお教えします。第5回 呼吸器感染症の迅速診断は臨床で使える?インフルエンザに迅速診断は必要?肺炎を疑う場合に使うのはどの検査?信頼性は?迅速診断に関する疑問にズバリお答えします。マイコプラズマ、尿中肺炎球菌、レジオネラ菌。それぞれの原因微生物ごとの迅速診断の特徴やキットの使い勝手など実臨床に役立つ情報をお届けします。第6回 肺炎のempiric therapyの考え方とは?肺炎だけど起炎菌が同定できない!そんなときに行うのがempiric therapyです。今回はプライマリ・ケアで多い市中肺炎に焦点をあてて、empiric thearpyの進め方を解説します。その際、最も重要なのは肺炎球菌なのかマイコプラズマなのか予想すること。この2つを見分けるポイントと、またそれぞれに適した薬剤をズバリお教えします。第7回 COPDの薬物療法は何から始める?急激に患者数が増加するCOPD。2013年にガイドラインが改訂され、第1選択薬に抗コリン薬とβ2刺激薬が併記されました。でも実際に専門医はファーストチョイスにどちらを使っているのか?抗コリン薬が使えない場合はどうする?喀痰調整薬ってどんな患者に有用?COPDの薬物療法についてズバリお答えします。第8回 呼吸リハビリテーション、プライマリ・ケアでできることは?COPD治療に必要な呼吸リハビリテーション。専門の機械や人員のいないプライマリ・ケアでもできることはあるの?答えはYES!と長尾先生は断言します。専門病院のような細かいプログラムは不要。しかもプライマリ・ケア医の強みを活かせる指導なのです。第9回 在宅酸素療法の基本的な考え方は?専門病院で導入された在宅酸素療法。どういうときならプライマリ・ケア医の判断で酸素量を増やしてもいいの?SpO2の管理目標値はどのくらい?嫌がる患者さんに在宅酸素を継続してもらうコツはある?などの疑問にズバリ答えます!第10回 慢性咳嗽の原因疾患を鑑別する方法は?長引く咳を主訴に来院する患者さん、最も多い感染後咳嗽を除外したあとに残るのは慢性咳嗽です。慢性咳嗽の原因疾患は、副鼻腔炎、後鼻漏、胃食道逆流、咳喘息と多彩。これらをどのように鑑別するのか?ズバリそのキーポイントは喀痰のありなしなのです!今回の講義ではすぐに使える鑑別のノウハウをレクチャーします。第11回 アトピー咳嗽と咳喘息、どう見分ける?慢性咳嗽の代表的な鑑別疾患である、咳喘息とアトピー咳嗽。この2つはどう違うの?アトピー咳嗽という言葉はよく耳にするけれど、実は慢性咳嗽の半数は咳喘息なのだそう。今回は両者の違いを端的に解説。咳喘息の特徴的な症状や診断と治療を兼ねた処方例まで網羅します。第12回 成人の百日咳、鑑別と検査のポイントは?百日咳は近年、成人の罹患率が高まり、受診する患者も増えてきました。成人では特徴的な症状が見られにくく、診断ができるころには治療のタイミングを逸しているのも診療の難しいところ。今回はそんな百日咳の鑑別のコツや検査をすべき対象について、ズバリお教えいたします!第13回 結核の発見と対応のポイントは?再興感染症とも言われる結核。早期の発見治療にはプライマリケアでの対応が重要です。今回は特徴的な感染徴候やリスク因子をレクチャー。検査はクオンティフェロンと喀痰検査どちらがいい?周囲に感染者が出たと心配する患者さんにどう対応したらいい?などの質問にもズバリお答えいたします!第14回 肺塞栓を疑うポイントは?いち早く発見したい肺塞栓症。確定診断までの流れなどのベーシックな知識はもちろん、造影CTやDダイマーなどの検査ができないときでも肺塞栓を除外できる条件をズバリお教えします!第15回 肺の聴診のコツは?肺の聴診は基本的な手技。どうやってカルテに書いたら伝わりやすい?今回は代表的な4つの肺雑音の特徴とカルテの記載方法をレクチャーします。連続性か断続性か、高音か低音かなど、聞き分けるコツと、その機序も併せて解説。仕組みの講義で病態生理の理解も深まること間違いありません!

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高血圧治療を再考する ~L/N型Ca拮抗薬/ARB配合錠の選択~

高血圧治療ガイドライン2014でも示すとおり、各種降圧薬には各々の積極的適応が存在し、高血圧治療においては、それに対応した単剤/併用療法を考慮します。また、配合剤の登場により、患者の負担もより少なくなっています。本コンテンツでは、 N型Caチャネル阻害により交感神経亢進を抑制するシルニジピンと、ARBとの合剤であるシルニジピン/バルサルタン配合錠にスポットをあて、有用性とそのメカニズムを動画で詳しく解説します。

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PROMISE試験:冠動脈疾患に対する解剖的評価と機能評価検査の予後比較(解説:近森 大志郎 氏)-328

 安定した胸部症状を主訴とする患者に対する診断アプローチとして、まず非侵襲的検査によって冠動脈疾患を鑑別することが重要である。従来は運動負荷心電図が日常診療で用いられてきたが、その後、負荷心筋シンチグラフィ(SPECT)検査、負荷心エコー図検査が臨床に応用され、近年では冠動脈CT(CTCA)も広く実施されるようになっている。しかしながら、これらの検査の中でいずれを用いればよいか、という検査アプローチを実証する大規模臨床試験は実施されてはいなかった。 今回、San Diegoで開催された米国心臓病学会(ACC.15)のLate-Breaking Clinical Trialsの先頭を切って、上記に関するPROMISE試験が報告され、同時にNew England Journal of Medicine誌の電子版に掲載された。なお、ACCで発表される大規模臨床試験の質の高さには定評があり、NEJM誌に掲載される比率では同じ循環器分野のAHA、ESCを凌いでいる。 Duke大学のPamela Douglas氏らは、従来の生理機能を評価する運動負荷心電図・負荷心筋SPECT・負荷心エコー図に対して、冠動脈の解剖学的評価法であるCTCAの有効性を比較するために、有症状で冠動脈疾患が疑われる10,003例を無作為に2群(CTCA群対機能評価群)に割り付けた。試験のエンドポイントは従来のほとんどの研究で用いられた冠動脈疾患の診断精度ではなく、全死亡・心筋梗塞・不安定狭心症による入院・検査による重大合併症からなる、複合エンドポイントとしての心血管事故が設定されている。対象症例の平均年齢は61歳で、女性が52~53%と多く、高血圧65%、糖尿病21%、脂質異常症67%という冠危険因子の頻度であった。なお、症状として胸痛を訴えてはいるが、狭心症としては非典型的胸痛が78%と高率であることは銘記すべきであろう。 実際に機能評価群で実施された非侵襲的検査については、負荷心筋SPECT検査67.5%、負荷心エコー図22.4%、運動負荷心電図10.2%、と核医学検査の比率が高かった。また、負荷心電図以外での負荷方法については、薬剤負荷が29.4%と低率であった。そして、これらの検査法に基づいて冠動脈疾患が陽性と診断されたのは、CTCA群で10.7%、生理機能評価群では11.7%であった。3ヵ月以内に侵襲的心臓カテーテル検査が実施されたのはCTCA群で12.2%、生理機能検査群では8.1%であった。この中で、有意狭窄病変を認めなかったのはCTCA群で27.9%、生理機能検査群で52.5%であったため、全体からの比率では3.4%対4.3%となりCTCA群で偽陽性率が低いといえる(p=0.02)。なお、3ヵ月以内に冠血行再建術が実施されたのはCTCA群で6.2%と、生理機能検査群の3.2%よりも有意に高率であった(p<0.001)。 1次エンドポイントである予後に影響する内科的治療ついては、β遮断薬が25%の症例で使用されており、RAS系阻害薬・スタチン・アスピリンについても各々約45%の症例で投与されていた。そして、中央値25ヵ月の経過観察中の心血管事故発生率についてはCTCA群で3.3%、生理機能評価群では3.0%と有意差を認めなかった。 本研究は循環器疾患の治療法ではなく、冠動脈疾患に対する検査アプローチが予後に及ぼす影響から検査法の妥当性を評価するという、従来の臨床試験ではあまり用いられていない斬新な研究デザインを用いている。そして、1万例に及ぶ大規模な臨床試験データを収集することによって、日常臨床に直結する重要な結果を示したという意味で特筆に値する。 しかしながら、基本的にはnegative dataである研究結果の受け止め方については、同じDuke大学の研究チームでも異なっていた。ACCの発表に際してDouglas氏は、PROMISE試験の結果に基づき、狭心症が疑われる患者に対して、CTCAはクラスIの適応となるようにガイドラインが修正されるエビデンスであることを主張していた。これに対して、PROMISE試験の経済的評価を発表したDaniel Mark氏は、イギリスの伝説である「アーサー王物語」を引き合いに出して、CTCAは長年探し求めていたHoly Grail(聖杯)ではなかった、と落胆を隠さなかった。 循環器の臨床において、対象とする患者の冠動脈病変の情報があれば、最適な医療が実施できるという考え方は根強い。しかし、PROMISE試験が準備された時期には、狭心症の生理機能として重要な心筋虚血が、予後改善の指標として重要であることを実証したFAME試験が報告されている。その後、FAME 2試験においても同様の結果が報告されている。さらに、重症心筋虚血患者に対する介入治療の有無により予後の改善が実証されるか否かについて、ISCHEMIA試験という大規模試験が進行中である。今後はこれらの大規模試験の結果を評価することによって、冠動脈疾患の治療目標は「解剖か、虚血か」という議論に決着がつくかもしれない。それまでは、日常臨床において狭心症が疑われる患者に対しては、まず本試験の対象群の特徴を十分に把握したうえで、CTCAあるいは生理機能検査を実施する必要があると思われる。

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生データによるメタアナリシスの診療ガイドラインへの引用割合(解説:折笠 秀樹 氏)-325

 診療ガイドライン策定に当たり、系統的レビューやメタアナリシスがよく引用されるのは周知のとおりである。メタアナリシスとは複数の研究結果を統合する解析法のことであるが、通常は研究論文中に掲載されている数値を基にして結果を併合する。一方、生データを取り寄せ、それらに基づき統合するメタアナリシスも存在する。この方法をIPDメタアナリシス(今後、IPD-MAと略す)と呼んでいる。ちなみに、IPDはIndividual Participant Dataの頭文字を取った。本論文では、診療ガイドラインにIPD-MAがどれくらい引用されているかを調査した。 精選された医療情報を収集し、それらをメタアナリシスで統合し、世の中へ提供しているグループがある。それはコクラン共同計画(Cochrane Collaboration)という団体である。このコクラン共同計画の中に、IPD-MA Methods Groupという専門部会がある。そこが所有するIPD-MAデータベースから33件のIPD-MAが調査された。ちなみに、本論文の著者はこの専門部会のメンバーである。これら33件のIPD-MAの内容に合致した診療ガイドラインとして177件が選ばれた。そして、診療ガイドラインでの引用率をIPD-MAごとに算出した。まったく引用されていないIPD-MAが8件(8/33=24%)もあった。その一方で、88%(14/16)も引用されたIPD-MAがあった。それはATT(Antithrombotic Trialists’ Collaboration)である。コクラン共同計画が主導したIPD-MAであり、アスピリンなどの抗血栓薬の有効性を示した。また、スタチンなどの脂質改善薬に関するIPD-MAであるCTT (Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration)でも43%(6/14)引用されていた。平均的には37%の引用率のようであった。 IPD-MAにもピンキリがあり、コクラン共同計画や主要学会が主導する立派なものから、一部の研究者が主導する低質のものまで存在する。前者は診療ガイドラインにかなり引用されているので、一概にIPD-MAが診療ガイドラインへ引用されないともいい切れないだろう。それよりも、質の高いIPD-MAをもっと行うべきではないかと思う。IPD-MAでは生データが必要となるが、昨今の研究データの公開化が進めばやりやすくなることだろう。

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ガイドライン改善には個人データに基づくメタ解析の活用を/BMJ

 臨床ガイドラインの作成に当たり、被験者個人データ(IPD)に基づくメタ解析の引用の割合は4割未満であることが明らかにされた。英国・ロンドン大学のClaire L Vale氏らが、177の診療ガイドラインについて調べた結果、報告した。IPDに基づくメタ解析は、エビデンスのゴールド・スタンダードと考えられており、臨床ガイドライン作成の鍵となるエビデンスを示している可能性も大きいとされる。結果について著者は、「IPDに基づくシステマティック・レビューとメタ解析が、活用されていないことが示された」と述べ、「ガイドライン開発者はルーティンに質のよい最新のIPDメタ解析を探索すべきである。IPDメタ解析の活用増大が、ガイドラインの改善につながり、最新の最も信頼性のあるエビデンスに基づくケアを患者にルーティンに提供することが可能となる」と指摘している。BMJ誌オンライン版2015年3月6日号掲載の報告より。33のIPDに基づくメタ解析と177の臨床ガイドラインを検証 Vale氏らは、コクランIPDメタ解析メソッド・グループが管理するデータベースと、その他公表されたIPDに基づくメタ解析データベースから、33のIPDに基づくメタ解析と、それに対応する177の診療ガイドラインについて調査を行った。 ガイドラインへのIPDの活用について、評価を行った。IPDメタ解析を引用したガイドラインは37%のみ 結果、177のガイドラインのうち、マッチングするIPDメタ解析を引用していたのは、66件・37%に留まった。さらにそれら引用したメタ解析について、妥当性や信頼性などについて批判的視点で評価を行っていたのは、そのうちの22件・34%のみだった。 臨床ガイドラインのうち、マッチングするIPDメタ解析を直接根拠にして作成されたものは、66件中18件(27%)だった。 IPDメタ解析を引用していないガイドラインのうち、マッチングするIPDメタ解析の発表以降に作成しているものは、111件中23件(21%)にも上った。一方で、IPDメタ解析を引用しなかった明確な理由については、不明だった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第18回

第18回:高齢者における意図しない体重減少へのアプローチ方法監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 高齢者の体重減少は、外来でよく出会う愁訴の1つです。まず真っ先に思い浮かぶのは悪性腫瘍ですが、それ以外にも考えるべき鑑別診断がいくつかあります。外来ではまず、食事摂取がどの程度できているかを、その方の社会的背景を踏まえて評価するかと思います。また、疾患を見つけた場合に治療が可能かどうかを想像しながら、検査の適応を判断しなければいけませんが、非常に個別性が高く、毎回悩ましい問題だと感じています。 以下、American Family Physician 2014年5月1日号1)より意図しない体重減少は高齢者の15~20%に起こり、ADLの低下、病院内での疾病罹患率の上昇、女性の大腿骨頚部骨折、全死亡率の上昇の原因となる。有意な体重減少とは、6~12ヵ月以内に5%以上の体重減少があった場合、などと定義されるが、このような意図しない体重減少に関する適切な評価や管理のためのガイドラインは、現在、存在していない。しかし、もし存在したとしても、このような非特異的な病態に対する適切な検査を決定するのは難しいだろう。体重は通常60歳代をピークとして、70歳代以降は毎年0.1~0.2kgずつ減少する。それ以上の減少であれば、年齢相応の体重減少とは言えない。最もよくある理由としては、悪性腫瘍、非悪性の胃腸疾患、うつや認知症といった精神疾患であるが、全体の割合としては、非悪性の疾患が悪性腫瘍を上回っている。また、6~28%は原因不明である。(表1) 【表1:意図しない高齢者の体重減少】 悪性腫瘍(19~36%) 原因不明(6~28%) 精神疾患(9~24%) 非悪性の胃腸疾患(9~19%) 内分泌(4~11%) 心肺疾患(9~10%) アルコール関連(8%) 感染症(4~8%) 神経疾患(7%) リウマチ関連(7%) 腎疾患(4%) 全身性炎症疾患(4%) 鑑別の記憶法としては、MEALS‐ON‐WHEELS[「食事宅配サービス」の意味、(注1)]あるいは高齢者の9D's(注2)として覚える。薬剤の副作用もよくある原因だが、しばしば見逃される。多剤服薬は味覚に干渉するとみられ、食思不振を生じ、体重減少の原因となりうる。さらには貧困、アルコール問題、孤立、財政的制約などといった、社会的な要素とも体重減少は関連している。Nutritional Health Checklist(表2)は栄養状態を簡単に評価するツールである。各項目に当てはまれば、質問の後ろにある得点を加算し、合計得点を算出する。0~2点は良好、3~5点は中等度のリスク、6点以上はハイリスクである。 【表2:Nutritional Health Checklist】 食事量が変わるような病状がある 2点 食事の回数が1日2回より少ない 3点 果物、野菜、乳製品の摂取が少ない 2点 ほとんど毎日3杯以上のビール、蒸留酒、ワインを飲んでいる 2点 食べるのが困難になるほどの歯や口腔の問題がある 2点 いつも必要なだけの食料を購入するお金がない 4点 ひとりで食事をする事が多い 1点 1日3種類以上の処方か市販薬を服用している 1点 過去6ヵ月で4.5kg以上の予期しない体重減少がある 2点 いつも買い物や料理、自力での食事摂取を身体的に行えない 2点 推奨される一般的な検査としては、CBC、肝・腎機能、電解質、甲状腺機能、CRP、血沈、血糖、LDH、脂質、蛋白・アルブミン、尿酸、尿検査がある。また、胸部レントゲン、便潜血検査は行うべきであり、腹部超音波も考慮されても良いかもしれない。これらの結果が正常だとしても、3~6ヵ月間の注意深い経過観察が必要である。治療には食事、栄養補助、薬物療法などがあるが、研究結果がさまざまであったり、副作用の問題があったりして、体重減少がある高齢者の死亡率を改善するような明確なエビデンスのある治療法は存在しない。(注1:MEALS‐ON‐WHEELS)M:Medication effects(薬剤性)E:Emotional problems, especially depression(気分障害、とくにうつ)A:Anorexia nervosa; Alcoholism(神経性食思不振症、アルコール依存症)L:Late-life paranoia(遅発性パラノイア)S:Swallowing disorders(嚥下の問題)O:Oral factors, such as poorly fitting dentures and caries(口腔内の要因、たとえば合っていない義歯、う歯など)N:No money(金銭的問題)W:Wandering and other dementia-related behaviors(徘徊、その他認知症関連行動)H:Hyperthyroidism, Hypothyroidism, Hyperparathyroidism, andHypoadrenalism(甲状腺機能亢進および低下、副甲状腺機能亢進、副腎機能低下)E:Enteric problems; Eating problems, such as inability to feed oneself(腸管の問題;摂食の問題、たとえば手助けなしに一人では食べられないなど)L:Low-salt and Low-cholesterol diet(低塩分、低コレステロール食)S:Stones; Social problems, Such as isolation and inability to obtain preferred foods(結石;社会的問題、たとえば孤独、好きな食べ物を手に入れられないなど)(注2:高齢者の9D's)Dementia(認知機能障害)Dentition(歯科領域の問題)Depression(抑うつ)Diarrhea(下痢)Disease [acute and chronic](急性・慢性疾患)Drugs(薬剤)Dysfunction [functional disability](機能障害)Dysgeusia(味覚異常)Dysphagia(嚥下困難)※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Gaddey HL, et al. Am Fam Physician. 2014; 89: 718-722.

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ガイドラインでは薬物相互作用を強調すべき(解説:桑島 巌 氏)-322

 わが国と同様、世界の先進国は超高齢化社会を迎えている。一方において、各国は主要な疾患に対してガイドラインを制定して、標準的治療の推進を呼びかけているという事実がある。実は、この2つは大きな矛盾も抱えているのである。すなわち超高齢化社会の最大の特徴は多様性であり、画一的な集団での研究から得られた臨床研究の結果であるガイドライン、あるいは標準的治療とは必ずしもそぐわないのである。 NICEガイドラインは、イギリスの国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence)によって策定された治療指針であり、治療法や臨床運用のみでなく、それぞれの医療技術の費用対効果も盛り込むなど、世界的に最も洗練された評価の高いガイドラインである。 超高齢者では腎機能障害を有する例が多いことと、多疾患であることも特徴であり、この点は高齢者で薬物治療を行うに当たって最大の注意を払うべきポイントである。 本論文は、NICEが策定した12のガイドラインのうち、高齢者に多い2型糖尿病、心不全、うつ病の3疾患と、11の一般的症状または併存疾患との関連について、薬剤誘発性疾患あるいは薬物間相互作用を詳細に分析した報告である。 その結果によると、重篤な薬物-疾患相互作用や薬物間作用についての記述は数多く認められてはいるものの、強調されているとはいえないとして、ガイドライン作成者は他疾患を併存する場合を想定した、薬物相互作用あるいは薬物誘発性疾患について系統的アプローチを考慮すべきと結論付けている。 翻ってわが国の、たとえば「高血圧治療ガイドライン2014」をみてみると、薬物相互作用についての記載はごくわずかであり、きわめて一般的なことに限定されており、腎機能障害などとの関連についての記載は非常に乏しい。 とくに最近登場した新規抗凝固薬(NOAC)や、新規糖尿病治療薬による有害事象が頻発しているが、ガイドラインでは、これらの新薬に関して腎機能との関連や薬物相互作用にはもっとページを割くべきであった。

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臨床ガイドラインは複数疾患併存患者への考慮を/BMJ

 英国・ダンディー大学のSiobhan Dumbreck氏らは、英国立医療技術評価機構(NICE)の12の臨床ガイドラインにおける複数疾患を有する患者に関する潜在的に重篤な薬物-疾患(drug-disease)および薬物間(drug-drug)相互作用の記述について、システマティックレビューを行った。その結果、患者が慢性腎臓病(CKD)を併存している場合を除き薬物-疾患相互作用の記述はまれにしかみられない一方、薬物間相互作用については多くの記述がみられたこと、ただしいずれもガイドラインでは強調されていないことを明らかにした。臨床ガイドラインを、複数疾患を併存する患者についてより考慮したものにすべきとの認識が増している。しかし、研究グループは「多くのガイドラインで薬物療法を推奨しているが、そのような患者を設定した薬物-疾患および薬物間相互作用に関する勧告はあまりみられないと思われる」として本レビューを行った。BMJ誌オンライン版2015年3月11日号掲載の報告より。12のNICEガイドラインにおける薬物-疾患および薬物間相互作用をレビュー 研究グループは、臨床ガイドラインのうち、3つの典型的な疾患・症状に関するガイドライン(2型糖尿病、心不全、うつ病)と、複数の症状を対象としたと思われる9つのガイドラインを選択してレビューした。 これらのガイドラインで推奨される薬物について、2型糖尿病、心不全、うつ病(以上3つを評価指標と設定)と、11の併存疾患または症状(2型糖尿病、うつ病、心不全、心筋梗塞、CKD、心房細動、COPD、疼痛障害、リウマチ、認知症、高血圧症)について、重篤な可能性のある薬物-疾患および薬物間相互作用の記述をシステマティックに特定し、定量化と層別化を行った。薬物-疾患相互作用については、CKD併存以外はほとんどない レビューの結果、12のガイドラインで推奨される処方について、潜在的に重篤な薬物作用に至ると思われる記述があった。 具体的に、2型糖尿病に関連したガイドラインでは32件の潜在的に重篤な薬物-疾患相互作用の記述が認められた一方で、うつ病に関連したガイドラインでは6件、心不全に関連したガイドラインでは10件であった。このうち2型糖尿病ガイドラインにおける27件(84%)とうつ病・心不全ガイドラインのすべてが、推奨薬物とCKDとの間の相互作用に関するものであった。 重篤な薬物間作用についての記述は、2型糖尿病ガイドラインでは133件、うつ病ガイドラインでは89件、心不全ガイドラインでは111件が特定された。 しかし、2型糖尿病、心不全、うつ病の3つの評価指標に関するガイドラインで、薬物-疾患または薬物間相互作用に関する強調はほとんどみられなかった。 以上を踏まえて著者は薬物-疾患相互作用について、「患者がCKDを併存していた場合の相互作用の記述以外はほとんどみられなかった。ガイドライン開発者は、そのガイドラインが注視する疾患を有する人々の併存疾患の疫学知見に基づき、より系統的アプローチを考慮すべきである」と述べている。また、薬物間作用について「対照的に、推奨薬とさまざまな疾患・症状との相互作用の記述はよくみられた。臨床医や複数疾患を有する患者が、十分な情報に基づく薬物選択ができるように、ガイドラインの策定と普及が求められ、そのための革新的な双方向性のアプローチが必要である」と述べている。

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「寛解」から「治療の最適化」へ リウマチ治療最前線

 2015年3月9日、都内にて、東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 所長の山中 寿氏が、関節リウマチ(RA)治療の最新動向に関して講演を行った(主催:ファイザー株式会社)。リウマチ治療の変遷 山中氏はまず、東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センターで2000年から行っているRA患者に対する前向き観察研究(IORRA)の結果を基に、RA治療の進歩について解説した。 本調査は年2回実施しており、毎回約6,000例のRA患者の情報を集積している。 その調査からわかったことは、「NSAIDs・ステロイドの服用率は年々低下し、逆にMTX・生物学的製剤の服用率が上昇していること」である。結果的に、疾患活動性を表すDAS28が改善し、寛解率の向上につながっている傾向がみられた。 寛解率向上の理由としては、2000年代前半は「MTXの普及」、2000年代後半は「生物学的製剤の普及」と考えられている。 手術に関しては、全体的に減少傾向にある。ただし、関節形成術は上昇傾向にあり、QOLの向上に重きが置かれている傾向がみられる。リウマチ診療ガイドライン2014のポイント 生物学的製剤の登場や、ガイドライン改訂などのインフラ整備により治療方針が明確になり、RA治療は大きな進歩を遂げた。 昨年改訂された『関節リウマチ診療ガイドライン2014』では、「有識者の意見」や「エビデンス」に加え、「リスクとベネフィットのバランス」や「患者の価値観や好み」「経済評価」に関しても考慮されていることが特徴として挙げられる。 本ガイドラインでは、「臨床症状の改善だけでなく、長期予後の改善を目指す」ことを治療目標として挙げており、また、治療方針に関しても「炎症をできるだけ速やかに鎮静化させて寛解導入し、寛解を長期間維持する」ことが明示されている。寛解の先にあるもの これまでのRA治療は寛解を目指して行われてきたが、治療環境が整備された今、これからのRA治療は寛解から「治療の最適化」を模索すべき時期にきている。 「治療の最適化」の1つとして挙げられる生物学的製剤の減量・休薬に関して、エタネルセプトをはじめとして実際の臨床試験でもその可能性が示唆されている。・ステロイド、MTX、生物学的製剤の減量・休薬・合併病態のマネジメント・薬剤経済学的観点・生命予後の改善・患者の視点といったさまざまな視点から、最適な治療を患者ごとに検討していく必要がある。リウマチ治療の今後 最後に、山中氏は「Hit and away strategy」をスローガンとして、・生物学的製剤の早期投与、早期寛解導入・6ヵ月以上寛解維持できれば休薬を考慮・再燃例では、同じ生物学的製剤を再投与のような指針に従い、治療を行っていくことが望ましいと強調した。

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自殺リスク評価の無作為化試験は実施可能なのか

 自殺は公衆衛生上の大きな問題であるが、自殺のリスクを有する患者について、自殺念虜の減少を目的として実施された無作為臨床試験はほとんどない。そうした中で現在行われている「Reducing Suicidal Ideation Through Insomnia Treatment:REST-IT」試験について、米国ジョージア・リージェンツ大学のWilliam Vaughn McCall氏らは2年目の状況をまとめ報告した。その結果を受けて著者は、「選択基準および除外基準、ならびに他の安全策を慎重に考えることによって自殺のリスクを有する成人患者を対象とした無作為化試験を安全に行うことができる」との見解を示している。Clinical Trials誌オンライン版2015年3月1日号の掲載報告。 REST-ITは、不眠や自殺念虜を有するうつ病の成人外来患者を対象に、SSRI薬への睡眠導入剤追加併用の臨床効果をプラセボと比較するようデザインされた、多施設ランダム化臨床試験であった。また、2001年に米国国立衛生研究所(NIH)が発表した、自殺ハイリスク患者が参加する介入試験に関するガイドラインに即した安全策が講じられている。試験は4年間の予定で行われており、本稿では登録開始後2年目の成績が報告された。 概要は以下のとおり。・584例が電話によるスクリーニングを受け、67%はスクリーニング段階で失敗した(失敗例の26%は自殺念虜が認められなかったことによる)。・試験開始時の対面評価(ベースライン評価)を受けたのは115例であった。このうち40例が、評価前に、効果のない向精神薬を徐々に減量し完全に中止していた。・115例中74例(64%)は無作為化ができなかった(その大半は臨床的に重要な自殺念虜が認められなかったことによる)。・1例は、試験に参加する代わりに精神科への入院を提案され受け入れた。・これまでのところ40例が無作為化され、このうち88.7%が予定どおり通院している。SSRIのアドヒアランスは93.8%、睡眠導入剤またはプラセボの併用アドヒアランスは91.6%である。・無作為化された40例において、入院を要した患者や自殺企図例は認められていない。関連医療ニュース 自殺念慮と自殺の関連が高い精神疾患は何か 日本人統合失調症患者における自殺企図の特徴は?:岩手医科大学 日本人統合失調症患者の自殺、そのリスク因子は:札幌医大  担当者へのご意見箱はこちら

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Vol. 3 No. 2 脳卒中を巡るコントロバーシー 脳卒中の再発予防にスタチンは有効か?

北川 一夫 氏東京女子医科大学医学部神経内科学はじめにスタチンは、脂質低下作用以外に多面的作用を有し、脂質低下と抗炎症作用をはじめとしたさまざまな機序により心血管疾患発症予防に寄与していると考えられている。本稿では、最初に脳卒中と血清脂質の疫学的な関連について解説したうえで、スタチンの脳卒中予防効果に関する臨床研究を概説し、最後に本件に関する著者の意見を述べてみたい。脳卒中発症と脂質との関係 ―臨床疫学的検討―脳卒中と脂質の関連は“cholesterol paradox”といわれるほど複雑である1)。疫学的に明確なのは、低コレステロール血症が脳出血のリスクとなる点である2)。臨床疫学研究のメタ解析でもコレステロールが低下すると脳出血リスクが高まることが報告されている。ちょうど30年以上前の日本人の食生活では、蛋白質、脂質の摂取量が少なく低栄養状態であり、かつ塩分摂取が多いため、高血圧とともに低コレステロール血症が脳出血リスクを増大していたと考えられる。近年の茨城県の一般住民を対象としたコホート研究でも、LDLコレステロールが80mg/dL未満の群では脳出血リスクが高いことが報告されている(本誌p.45図1を参照)3)。一方、脳梗塞と血清脂質との関連は明確でない。脳梗塞には、アテローム硬化を基盤として発症するアテローム血栓性脳梗塞、脳細動脈の閉塞が原因のラクナ梗塞以外に、脂質との関連が少ないと考えられる心原性脳塞栓症が含まれ、久山町研究では血清脂質とアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞との関連が示されている(本誌p.45図1を参照)4)。しかし脳梗塞の各病型を含めた解析では、LDLコレステロールで160mg/dL、総コレステロールで260mg/dLまでの軽度から中等度の脂質異常が脳梗塞のリスクとなるかどうかについては明確となっていない。心筋梗塞と血清脂質の関連が各年代でこれら脂質レベルでも明確なのと対照的である5)。また近年、脳梗塞を発症した患者ではむしろ血清脂質レベルが軽度上昇しているほうが、機能予後がよいことが報告されている6)。血清脂質レベルが低下している症例では、全身栄養状態が低下していることが多く、血清脂質レベル低値そのものあるいは、そのことに反映される栄養状態不良のどちらが、脳出血リスクや脳卒中発症後の予後不良に寄与しているのかは明らかとなっていない。スタチンの脳卒中予防効果脳卒中と血清脂質レベルの関連が疫学的に不明瞭であるのと対照的に、スタチンが脳卒中発症予防効果を示すことは多くの臨床試験から示されている。もともと冠動脈疾患の発症、再発予防を目的としたスタチンの介入試験で、副次エンドポイントとして評価されていた脳卒中が20%程度発症抑制されていた7)。特に冠動脈疾患既往を有する患者での臨床試験では一貫して脳卒中発症が抑制されていた。一方、血管疾患の既往を有さない患者を対象としたプラバスタチンの冠動脈疾患の初発予防効果を検証したMEGA研究では、プラバスタチン投与群で脳梗塞発症が低下する傾向がみられたが有意な差に至らなかった8)。海外では血管疾患の既往を有さないが血液高感度CRP濃度が軽度上昇した患者を対象としたJUPITER試験が実施され、ロスバスタチン投与により血清LDLコレステロール値とともに高感度CRP濃度も低下し、心筋梗塞および脳卒中発症が50%近く抑制されていた9)。このように多くの試験でスタチンの脳卒中予防効果が示されているが、発症抑制された脳卒中病型は脳梗塞であった。またスタチンの脂質低下レベルと脳卒中抑制効果には直線的な関係があり、治療開始時の脂質レベルによらず、スタチンを投与してLDLコレステロールが低下するほど脳卒中発症抑制効果が高いことが報告されている7)。一方、脳卒中既往患者を対象とした臨床試験としてSPARCL研究が発表されている。脳卒中または一過性脳虚血発作症例を対象としてアトルバスタチン80mg/日またはプラセボを投与して脳卒中再発を主要エンドポイントとした試験であるが、アトルバスタチン投与群で脳卒中再発が16%抑制され、特に脳梗塞再発が20%抑制されることが明らかとなった(本誌p.46図2を参照)10)。アトルバスタチン投与によりLDLコレステロールが十分に低下した場合に脳卒中、心筋梗塞発症が有意に抑制されていた。脳梗塞病型別の検討ではアテローム血栓性脳梗塞、内頸動脈狭窄を有する症例では、スタチン投与により脳卒中再発とともに心筋梗塞発症が抑制されることが明らかとされた11)。日本では常用量のスタチンであるプラバスタチンを用いた非心原性脳梗塞患者の再発予防効果を検証するJ-STARS試験が終了しており、その結果発表が待たれている12)。SPARCL研究では、脳卒中および脳梗塞再発は有意に抑制したが、アトルバスタチン投与群で脳出血が1.68倍増加したため、スタチンの脳出血リスクが危惧された。SPARCL試験のサブ解析では、脳出血のリスクとなる因子として、脳出血の既往、男性、高血圧が抽出されたが、LDLコレステロール値と脳出血との間には関連がみられず、LDLコレステロール値が50mg/dL未満の群でも脳出血リスクが高まる傾向はみられなかった13)。またスタチンを用いた臨床試験の大規模なメタ解析も行われ、スタチン投与と脳出血リスクとの間には関連がないことが報告されている14)。ただSPARCL研究のサブ解析では、脳梗塞のなかでも脳内小血管の疾患であるラクナ梗塞ではスタチン投与群で脳出血リスクが有意に高まっており、基盤に脳小血管病(脳出血、ラクナ梗塞)を有する患者では、スタチン投与に際して脳出血リスクを念頭におく必要があると考えられる。脳卒中再発予防にスタチンを使用すべきか?前述の内容をもとに、脳卒中再発予防におけるスタチンの意義について考察する。まず脳卒中のなかでも出血性脳卒中―脳出血、くも膜下出血―では脂質異常の関与は少ないため、脂質管理は動脈硬化疾患ガイドラインに沿ってLDLコレステロールが140mg/dL未満であれば、スタチンの投与は必要ないと考えられる。脳梗塞では、病型ごとにスタチンの投与を考えるべきであり、アテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞では、スタチンは脳卒中、特に脳梗塞再発抑制効果が期待できるため積極的に投与すべきと考えられる。一方動脈硬化疾患ガイドラインでは、これら脳梗塞病型ではLDLコレステロールを120mg/dL未満に管理することが推奨されているが、スタチンには血管炎症抑制効果15)があるため、LDLコレステロールの値にかかわらず投与したほうがよいという考えもあり、筆者も同意見に賛成である。内頸動脈狭窄や脳主幹動脈病変を有する場合は積極的なスタチン投与の適応と考えられ、脳卒中再発のみならず冠動脈疾患発症抑制効果も期待できる。一方、SPARCL研究で危惧されたスタチンの脳出血リスクについては、脳血管事故の既往のない症例ではメタ解析の結果から心配する必要はないと思われる。しかし脳卒中既往症例については、SPARCL試験の成績を念頭におく必要があろう。すなわち脳出血、ラクナ梗塞など脳小血管病の既往のある症例では、スタチン投与により脳出血リスクが高まる可能性が示唆されており、ラクナ梗塞でのスタチン投与に際しては、血圧管理を厳格に行うべきと考えられる。MRI検査の発達により、無症候性脳小血管病として脳微小出血(図)が検出されるようになり16)、脳微小出血が観察される症例についてもスタチンを投与する際には血圧管理を特に厳格にすべきであろう。脳梗塞既往患者ではほとんどの症例が抗血栓薬を内服しており、抗血栓薬、スタチンを併用しているラクナ梗塞患者では、収縮期血圧130mmHg未満をめざした管理が望ましいと考えられる。図 脳微小出血(脳MRI T2*画像)a. 健常者に観察される皮質下微小出血  (→で示す)画像を拡大するb. 遺伝性脳小血管病患者で観察される  多数の微小出血(→で示す)画像を拡大する脳卒中再発予防にスタチン以外の脂質低下手段は有効か?スタチン以外の脂質低下薬については、フィブラート、ナイアシンでは脳卒中発症予防に有効とのエビデンスは示されていない17)。近年、次々と新規薬剤が開発されているが、これらの薬剤について脳卒中予防効果は検討されていない。日本で脂質異常を有する患者にエイコサペンタエン酸(EPA)を常用量のスタチンに追加投与したJELIS試験が実施された。脳卒中発症に関しては全症例ではEPA投与の有用性は示されなかったが、卒中既往症例に限った解析ではEPAにより脳卒中再発が抑制されることが示されている18)。しかしpost hoc解析であり、脳卒中発症から登録までの期間も明らかでないため、強いエビデンスを示すには至っていない。おわりに表題の脳卒中再発予防にスタチンは有効か、という問いかけに対しては、出血性脳卒中、心原性脳塞栓症では有効性は低く、非心原性脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞では有効であるというのが現時点のコンセンサスであろう。なかでも内頸動脈狭窄、頭蓋内動脈閉塞・狭窄を伴いアテローム硬化の強い症例では、脂質レベルに関わりなくスタチンは積極的に投与すべきであろう。一方、ラクナ梗塞既往があり脳MRIで微小出血を有する症例ではスタチン投与の有効性は十分期待できるが、脳出血リスク低減のため血圧管理を厳格にした上でスタチンを使用すべきであるというのが著者の考えである。文献1)Amarenco P Steg PG. The paradox of cholesterol and stroke. Lancet 2007; 370: 1803-1804.2)Wang X et al. Cholesterol levels and risk of hemorragic stroke: a systematic review and meta-analysis. Stroke 2013; 44: 1833-1839.3)Noda H et al. Low-density lipoprotein cholesterol concentrations and death due to intraparenchymal hemorrhage: the Ibaraki Prefectural Health Study. Circulation 2009; 119: 2136-2145.4)Imamura T et al. LDL cholesterol and the development of stroke subtypes and coronary heart disease in a general Japanese population: the Hisayama study. Stroke 2009; 40: 382-388.5)Prospective Studies Collaboration, Lewington S et al. Blood cholesterol and vascular mortality by age, sex, and blood pressure: a meta-analysis of individual data from 61 prospective studies with 55,000 vascular deaths. Lancet 2007; 370: 1829-1839.6)Olsen TS et al. Higher total serum cholesterol levels are associated with less severe strokes and lower all-cause mortality: ten-year follow-up of ischemic strokes in the Copenhagen Stroke Study. Stroke 2007; 38: 2646-2651.7)Amarenco P, Labreuche J. Lipid management in the prevention of stroke. Review and updated meta-analysis of statins for stroke prevention. Lancet Neurol 2009; 8: 453-463.8)Nakamura H et al. Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet 2006; 368: 1155-1163.9)Ridker PM et al. Rosuvastatin to prevent vascular events in men and women with elevated C-reactive protein. N Engl J Med 2008; 359: 2195-2207.10)The Stroke Prevention by Aggressive reduction in Cholesterol Levels (SPARCL) Investigators. High-dose atorvastatin after stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med 2006; 355: 549-559.11)Amarenco P et al. Results of the stroke prevention by aggressive reduction in cholesterol levels (SPARCL) trial by stroke subtypes. Stroke 2009; 40: 1405-1409.12)Nagai Y et al. Rationale, design, and baseline features of a randomized controlled trial to assess the effects of statin for the secondary prevention of stroke: the Japan Statin Treatment Against Recurrent Stroke (J-STARS). Int J Stroke 2014; 9: 232-239.13)Goldstein LB et al. Hemorrhagic stroke in the stroke prevention by aggressive reduction in cholesterol levels study. Neurology 2008; 70: 2364-2370.14)Hackam DG et al. Statins and intracerebral hemorrhage: collaborative systematic review and meta-analysis. Circulation 2011; 124: 2233-2242.15)Blum A, Shamburek R. The pleiotropic effects of statins on endothelial function, vascular inflammation, immunomodulation and thrombogenesis. Atherosclerosis 2009; 203: 325-330.16)Greenberg SM et al. Cerebral microbleeds: a guide to detection and interpretation. Lancet Neurol 2009; 8: 165-174.17)Goldstein LB et al. Guidelines for the primary prevention of stroke: a guideline for healthcare professionals from the American Hear t Association/American Stroke Association. Stroke. 2011; 42: 517-584.18)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients. Subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.

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拒食に抗精神病薬、その是非は

 神経性やせ症患者の体重増加のために第2世代抗精神病薬(SGA)を処方するケースが増えている。オーストリア・ウィーン医科大学のMarkus Dold氏らは、この治療選択肢が適切か否かを判断するために、無作為化試験のメタ解析を行った。Psychotherapy and psychosomatics誌オンライン版2015年2月21日号の報告。 神経性やせ症患者に対するSGAの有効性、受容性、忍容性をプラセボまたは未治療群と比較した、すべての無作為化比較試験を対象とした。これを同定するための系統的なアップデート文献検索は、摂食障害の薬理学的治療のための世界生物学的精神医学会(WFSBP)ガイドラインに基づき実施された。主要評価項目は、BMIの平均変化量で評価した体重増加とした。副次的評価項目は、Yale-Brown-Cornell 摂食障害尺度(YBC-EDS)総スコアと摂食障害調査票(EDI)総スコアの平均変化量と早期治療中止である。Hedges's gとMantel-Haenszelのリスク比をベースに、ランダム効果モデルを用いて標準化平均差を算出した。 主な結果は以下のとおり。・7つの無作為化試験(オランザピン4件、クエチアピン2件、リスペリドン1件)から201例が抽出された。・SGA全体におけるBMIの平均変化量に統計学的に有意な差は認められなかった(7件、161例、Hedges's g:0.13、95% CI:-0.17~0.43、p=0.4)。また各薬剤間でも有意な差は認められなかった。・さらに、すべての副次的評価項目においても、プラセボまたは未治療群との間に有意な差は認められなかった。 以上の結果より著者らは「SGAは神経性やせ症の一部の患者において有効な可能性はあるものの、現時点では一般的に推奨されるものではない。さらなる研究により、SGAの恩恵を受ける患者をどのように識別するか、検討が必要である」とまとめている。関連医療ニュース 過食性障害薬物治療の新たな可能性とは 境界性パーソナリティ障害+過食症女性の自殺リスクは 摂食障害、成人期と思春期でセロトニン作動系の特徴が異なる  担当者へのご意見箱はこちら

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日本発エビデンスを! 胃がん治療の未来とは

 科学技術の進歩と、その高度な技術を駆使する優れた外科医の存在により、日本の胃がん切除術は大きく変化しつつある。今後、胃がんの外科的治療はどのように展開していくのだろうか。2015年3月11日、都内にて「胃がんの切除術」をテーマにメディアセミナー(主催:日本イーライリリー株式会社)が開催された。演者の吉田 和弘氏(岐阜大学大学院 腫瘍制御学講座腫瘍外科学分野 教授)は、日本が世界を牽引し、胃がん切除術のエビデンスをつくっていくと力説した。胃がんの疫学 日本において、胃がんはがん全体の第1位(男女計)で、2010年の時点で最も頻度の高いがんである。男性に多くみられるがんで、年齢調整罹患率は減少傾向にあるものの、患者数は増加傾向にある。検診や医療技術の進歩により、死亡率は年々減少しており、現在は肺がんに次いで第2位である。 世界においては、胃がんは5番目に多いがんで、地域別の罹患率をみると、中国・日本・韓国など東アジアや南米で高く、欧米では低い傾向にある。胃がん治療の現状 遠隔転移のある場合を除き、胃がん治療の大部分は外科的手術が第1選択となる。従来は開腹手術が中心であったが、昨今はEMR(内視鏡的粘膜切除術)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)など内視鏡的切除の普及により、低侵襲治療が可能となっている。内視鏡治療適応外には、腹腔鏡胃切除も選択することができる。 さらに先進的な医療として、ロボット支援手術があり、きわめて少ない組織裂傷で、より緻密で正確な手術が可能になった。しかし、非常に高額な機器であるため、現在は限られた医療機関にしか導入されていない。このように、医療の進歩により、新しい治療法が次々と認可され、患者の治療の選択肢が増加しつつある。2014年『胃癌治療ガイドライン』の変更点 2014年に改訂された『胃癌治療ガイドライン』において、腫瘍の状態、進行度(病期)の表現は、TNM分類の第7版が採択され、治療法の国際的な整合性が生まれた。今回の改定によって、本邦の胃がん治療の効果を他国のものと比較することが可能になり、胃がん治療において高い治療成績を誇るわが国が、世界のオピニオンリーダーになる可能性が出てきた。切除不能進行胃がんに対する新たな治療戦略 前述のように、手術可能な早期がんの治療の選択肢は増加傾向にある。さらに治療成績を上げていくには、手術不能な進行がんに対するアプローチが重要になってくる。 がんの種類や進行度に応じてさまざまな治療を組み合わせて行う集学的治療では、stageIVの切除不能進行胃がんにおける術前化学療法や切除不能がんに対するConversion Therapyも検討されている。Conversion Therapyにおける治療概念とは、現存する切除不能ながんを、化学療法によって縮小させ、切除することで治療成績を上げていくというものである。このような新たな治療戦略においては、外科分野における抗がん剤治療・分子標的治療の重要性を示唆している。また、より多くのエビデンスの蓄積が望まれる。胃がん治療の未来とは 外科的切除とD2リンパ節郭清はわが国から世界へ広まった治療法である。胃がんの罹患率が高い日本では、世界に先立ち、さらなる標準治療法を確立できる可能性がある。吉田氏は「日本など東アジアが中心となってさらなる胃がん治療のエビデンスをつくっていく必要があり、そのためには外科治療の充実が欠かせない。外科医の増員と育成が胃がん全体の治療成績の向上につながる可能性があるため、今後の課題となるであろう」と結んだ。

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週1回の投与で血友病患者のQOL向上へ イロクテイトがもたらす定期補充療法

 3月10日、都内においてバイオジェン・アイデック・ジャパン株式会社による血友病のプレスセミナーが、花房 秀次氏(荻窪病院 理事長/血液科 部長)を講師に迎え、開催された。これは同社の血友病A治療薬エフラロクトコグアルファ(商品名:イロクテイト)の発売に関連し行われたものである。血友病の診療の今 はじめに花房氏は、疾患概要について次のように説明を行った。 血友病とは、止血に関与する数種類の凝固因子の1つが不足または欠乏している遺伝性の疾患(家族歴がなく突然変異で出現する場合もある)であり、血液凝固第VIII因子が不足・欠乏しているものを「血友病A」、血液凝固第IX因子が不足・欠乏しているものを「血友病B」と呼んでいる。 患者は、全世界で約14万人。わが国では総患者数5,769人(うち血友病Aの患者は4,761人)、圧倒的に男性に多いのが特徴で、潜在的な患者も2,000人前後存在すると推定される。 症状としては、出血時に血が止まりにくくなることはもちろん、重症化すると肘、膝などで関節内出血を繰り返し、これに伴う痛みや出血により日常行動に支障を来し、歩行困難を起こすなどQOLを著しく下げる。現在、根治治療法はなく、注射による凝固因子の出血時、予備的または定期補充療法が行われている。 患者のライフサイクルでは、出産時、幼児期・青年期、高齢期でそれぞれリスクがあるが、ただ予後は良好で、定期補充療法を受けている患者は、健常人の平均寿命まで生存できるとされている。患者QOLを改善する次のステージへ 日常的に定期補充療法は、現在ガイドラインでも推奨されており、成人で週3回ほど行われ、出血頻度の減少、関節障害の予防に役立っている。しかし、年間150回超の静脈注射のアドヒアランスや注射時間の問題など、患者にとってはまだまだ煩わしいという声が聞かれ、長時間作用製剤への期待が高まっていた。 今回発売されたエフラロクトコグアルファは、こうした期待に応えたもので、血友病Aに対し、生体内のヒト免疫グロブリンG1の自然な再循環経路を利用した機序により、血漿中に長く留まることができる性質を有する(血漿中消失半減期は約19時間)。定期的な投与により、週3~5日間隔、また患者状態によっては週1回の投与により出血を抑制する、長時間作用の血液凝固第VIII因子製剤である。 臨床試験(n=165/多施設共同非盲検一部無作為化試験)における年間出血回数について、定期的投与では、出血時群(n=23)との比較によると週1回群(n=24)で76%減少、個別化群(週3~5回/n=118)では92%減少していた。同じく関節内出血での年間出血回数についても、出血時群では年間18.6回だったのに対し、週1回群、個別化群ともに0回だったと報告された。 また、「本薬は予防的に病状進行を中等症、軽症に抑える効果がありそうだ」と花房氏は述べるともに、心配される副作用(n=164中の9例)については、「倦怠感、関節痛などの風邪症状程度の例しか報告されておらず、死亡例もない」とエフラロクトコグアルファに寄せる期待を語った。血友病診療の発展と期待について 最後に花房氏は、これからの展望として「今後は血液科の医師だけでなく整形外科や歯科、看護師、遺伝カウンセラーなどが連携する包括的ケアチームが必要であり、診断では短時間で精度の高い遺伝子検査ができること、治療薬ではさらなる長時間作用型製剤の開発、根治へ向け遺伝子治療薬の研究が期待される」と語った。 また、課題として「患者への医療費助成継続の問題や、新治療薬発売後すぐに長期処方ができない現行制度下で、専門医偏在が診療に地域間格差を生じさせていることへの解決が必要」と語り、レクチャーを終了した。参考資料新薬情報:発売(イロクテイト静注用250・500・750・1000・1500・2000・3000)

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SSRI中止は離脱症状に注意を

 選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は臨床現場で広く用いられている。SSRIは幅広い症状と関連しており、その臨床的意義は十分に理解されているわけではない。イタリア・ボローニャ大学のGiovanni A Fava氏らは、SSRI中止による影響について検討するシステマティックレビューを行った。Psychotherapy and psychosomatics誌オンライン版2015年2月21日号の報告。 文献のシステマティックレビューは、PRISMAガイドラインに準じて実施された。2014年7月に各種データベース(CINAHL、コクランライブラリー、PubMed、Web of Science)から、タイトル、要約、トピックスにおける以下のワードを検索した。検索ワードは、「離脱症状、離脱症候群、中止症候群、中止後症状」および「SSRI、セロトニン、抗うつ薬、パロキセチン、フルオキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、シタロプラム、エスシタロプラム」であった。 主な結果は以下のとおり。・ランダム化比較試験15件、オープン試験4件、レトロスペクティブ調査研究4件、症例報告38件が抽出された。・SSRI中止後症候群の有病率は変動が大きく、多くの研究でケースの同定が不足していたため推定できなかった。・一般的な症候群は、薬剤中止後数日以内に発生し、数週間継続し、緩やかに漸減した。・しかし、症状発現は多様で、遅発例や症状持続期間の長いものも含まれていた。・症候群は、再発の徴候と誤認されやすい傾向があった。・薬剤中止後の離脱症状を誘発しうる薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬やバルビツール酸系薬および他の向精神薬に加え、SSRIを追加するべきである。関連医療ニュース SSRI依存による悪影響を検証 なぜSSRIの投与量は増えてしまうのか 双極性障害ラピッドサイクラーの特徴は  担当者へのご意見箱はこちら

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アリスミアのツボ Q23

Q23心房細動に対するアブレーションの適応は?発作性心房細動、とくに若年者では積極的に……もちろんインフォームドコンセントが重要ですが。発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションは、もうすでに円熟期に入っていると感じています。2回行うという前提で考えれば、80~90%が心房細動フリーになるといってよい時代です。症状のある発作性心房細動が紹介されると、一度は抗不整脈薬を試すのですが、それでもカテーテルアブレーションという方法があることを伝え、とくに若年者ではむしろ積極的に勧めています。日本における多施設での経験も、J-CARAF研究として報告されています(3,373例)1)。合併症は、穿刺部の出血などもすべて含めて4.5%で、ドレナージを要する心嚢液貯留が1.3%、TIA、症候性・無症候性脳梗塞を合算して0.3%、死亡例は0%という数字です。しかし、慢性心房細動になれば、この成功率は確保できず、まだ発展途上の治療方法という位置付けです。だから、心房細動に対するカテーテルアブレーションは、心房細動が発作性のうちに行う……若年者では、(1)抗不整脈薬ではやがていつの日か慢性化してしまう2)、(2)合併症発現率も許容範囲であること、を考えれば、積極的に勧めていいと思っています。ちなみに日本循環器学会のガイドラインでは次のような推奨がなされています。クラス I高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず、かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性で有症候性の発作性心房細動に、年間 50 例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合。クラス IIa 薬物治療抵抗性で有症候性の発作性および持続性心房細動。パイロットや公共交通機関の運転手など、職業上制限となる場合。薬物治療が有効であるが、心房細動アブレーション治療を希望する場合。1)Inoue K, et al. Circ J. 2014; 78: 1112-1120. Epub 2014 Mar 17.2)Kato T, et al. Circ J. 2004; 68: 568–572.

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バレニクリンによる禁煙治療は“優柔不断な喫煙者”の禁煙治療に向いている!(解説:島田 俊夫 氏)-320

 最近JAMA誌 2015年2月17日号に報告された、Jon O. Ebbert氏らのバレニクリン(varenicline)禁煙治療に関する無作為臨床試験についてコメントする。 間接喫煙を含む紙巻きタバコの有害性が大きな健康被害を生じており、喫煙者は人前で喫煙することが疎まれる。タバコによる健康被害をなくすためにも、地球上から喫煙習慣を一掃することが望ましい。ニコチンの習慣性のために多くの人々が禁煙に苦慮している。現行の禁煙ガイドラインにより実施されてきた禁煙治療は、短期間で禁煙達成を目指すため不成功に終わることもしばしば経験する。ニコチン代替療法は、禁煙のためにニコチン中毒の禁断症状をニコチン代替治療で、だましだましニコチンを漸減することにより、中毒からの離脱を目指す治療法として定着している。 今回用いられたバレニクリンは、ニコチン・アセチルコリン受容体の部分アゴニスト作用によりニコチン作用を減弱させ禁煙を誘導するタイプの薬で、ニコチン代替治療とは一線を画している。1ヵ月以内に禁煙を実現することが困難で、もう少し時間をかければ禁煙を達成できると考えている喫煙者(約30%強はこのタイプ)にとって、バレニクリンは作用機序からも期待が持てるため本研究が実施された。 参加者は広告により募集され、厳格な組み込み基準、除外基準に基づき選択された。本研究は多国籍、無作為、二重盲検、比較対照研究デザインにより行われた(日本を含む10ヵ国、61ヵ所の医療センターが参加)。プラセボ投与群(n=750)に対して、バレニクリン投与群(n=760)では、15~24週、21~24週、21~52週のそれぞれの期間で有意に高い連続喫煙抑制率を達成した(バレニクリン投与群:32.1%、プラセボ投与群:6.9%、リスク差[RD]:25.2%[95%CI:21.4~29.0]、相対リスク[RR]:4.6[95%CI:3.5~6.1];バレニクリン投与群:37.8%、プラセボ投与群:12.5%、RD:25.2%[21.1~29.4]、RR:3.0[2.4~3.7];バレニクリン投与群:27.0%、プラセボ投与群:9.9%、RD:17.1%[13.3~20.9]、RR:2.7[2.1~3.5])。 重篤な有害作用はバレニクリン投与群3.7%、プラセボ投与群2.2%に生じたが有意差はない(p=0.07)。 短期間での禁煙達成を望まず、即時の禁煙達成を考えず減煙を望み、3ヵ月以内の禁煙達成を希望する喫煙者での24週にわたるバレニクリンの使用が、プラセボ投与群と比較して、バレニクリン投与群において治療終了時および1年後に高い禁煙率を達成した。バレニクリンは、ただちに禁煙することを推奨しているこれまでの臨床ガイドラインでは考慮されていないタイプの、禁煙治療オプションになる可能性がある。 バレニクリンは少し時間をかけて、急がずに禁煙したいと考えている“優柔不断な喫煙者”の禁煙にとって、従来とは違った手段を提供することにより禁煙達成率を高め、禁煙の幅を広げることに役立つ可能性がある。

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薬剤性アナフィラキシー

概説 アナフィラキシーのtrigger(誘因)は蜂毒、食物、薬剤、運動など多彩であり、頻度が最も高いものは食物である。それに対し、アナフィラキシーによる死亡例に限ると、最も多い誘因は薬剤である。薬剤がアナフィラキシーを起こす場合には、投与直後から症状を生じ重症化しやすい(誘因に曝露されてから速やかにアナフィラキシーを発症するほど、重症化しやすいという一般的傾向がある)ということに加えて、過去に既往がなく不意打ちの形で生じるため、アドレナリン自己注射薬を携帯していないことがほとんどであるという特徴がある。 欧米の疫学調査においても、薬剤性アナフィラキシーによる死亡例は漸増傾向にあり、これは、世界的に薬剤が多様化し、薬剤総数が増加の一途をたどっていることが背景に挙げられている。薬剤によりアナフィラキシーを起こさないのは水と塩分くらいのものであり、われわれが処方する薬剤や日常の処置で曝露される物質(薬剤としては認識されない、皮膚消毒液、ラテックス、器具の消毒薬の残留にも配慮する)は無数に存在する。常識的なことであるが、必要性が曖昧な処置は行わない・薬剤は投与しないことが基本姿勢として重要である。 発症機序と分類 IgEが関与するI型反応が典型的であるが、X線造影剤やNSAIDsなどはIgEが通常関与することなくアナフィラキシーを起こす。従来は、前者(IgEが関与するもの)をアナフィラキシー、後者(IgEが関与しないもの)をアナフィラキシー様反応(anaphylactoid reaction)と呼んだが、世界的な趨勢で両者ともアナフィラキシーと呼ばれるようになってきており、日本アレルギー学会の「アナフィラキシーガイドライン1)」でもこの立場をとっている。今でもアナフィラキシーとアナフィラキシー様反応に区別する方法が用いられることはあるが、将来的にはアナフィラキシーの診断名の下でアレルギー性(IgEが関与するもの・IgE以外の免疫機構が関与するものに分けられる)、非アレルギー性に大別される方向に向かうと考えられる。 たとえば、ペニシリンとNSAIDを内服してアナフィラキシーを発症した場合、従来はアナフィラキシー(様)反応とまず診断し、後日の精査で原因がペニシリンであればアナフィラキシー、NSAIDであればアナフィラキシー様反応と診断名を書き換えていたが、「様反応」を用いないことにしておけば、救急診療で付けられたアナフィラキシーの診断名は、後日原因薬が特定されても書き換えられることなく、踏襲されていくことになる。 診療上の注意点アナフィラキシー発症時は、原因の可能性がある薬剤の中止(たとえば、点滴投与中の抗菌薬を中止し、薬剤を含まない輸液に変更する)とアドレナリン筋注を行い、循環と呼吸の状態を把握する。アナフィラキシーから回復後、あるいは既往を有する患者に対しては、再発を回避するよう、適切な指導を行う。「アナフィラキシーガイドライン」では誘因となる医薬品として、抗菌薬、解熱鎮痛薬(NSAIDs等)、抗腫瘍薬、局所麻酔薬、筋弛緩薬、造影剤、輸血等、生物学的製剤、アレルゲン免疫療法を挙げ、これらによるアナフィラキシーの特徴を簡潔に述べるとともに、手術中に生ずるアナフィラキシーの主な誘因(とくに筋弛緩薬、抗菌薬、ラテックス)にも触れているので、それらに関してはガイドラインを参照されたい。実地診療に当たっておられる先生方に留意していただきたいこととしては、以下のものが挙げられる。 内服薬を誘因とするアナフィラキシーについては、複数薬剤が誘因に挙げられ、病歴だけでは特定に至らないことが多い。また、食後に内服した場合、食事内容が誘因である可能性も念頭に置く必要がある。 医療処置に伴ってアナフィラキシーを発症した場合には、ラテックスが原因候補の1つに挙げられることが多い。ラテックスおよび交差反応性のあるシラカンバ、ハンノキ花粉の特異的IgEは、どの医師においても測定が可能であり参考になる(診断が確定するわけではないが)。 アナフィラキシーの発症前に投与された薬剤、摂取した食品と摂取時刻、症状の経過を、詳細に患者に記録しておいていただくことが重要。この情報は誘因の特定に大変に役立つ。 誘因の特定や安全に使用可能な薬剤の選定、あえて誘因となった薬剤を使わざるを得ない(脱感作が必要)といった場面では、ぜひアレルギー専門医に紹介いただきたい。アレルギー専門医にとって薬剤アレルギーへの対応は時間と労力を要するのだが、薬剤性アナフィラキシーは患者のQOLのためにも、生命予後のためにも重要な疾患であることは昔から一貫している。なお、薬剤を用いた即時型皮膚反応検査(プリックテストや皮内テスト)は、IgEが関与する反応において有用性が高いが、アナフィラキシーを起こした患者に不用意に行うとアナフィラキシーを誘発する可能性があるため、外来ですぐに施行できるわけではないことをご承知おきいただきたい。1)日本アレルギー学会監修.Anaphylaxis対策特別委員会編.アナフィラキシーガイドライン.日本アレルギー学会;2014.

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