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特発性肺線維症の死亡率は悪性腫瘍よりも高い

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、特定疾患治療研究事業の対象疾患である「特発性肺線維症」(IPF)の治療薬ニンテダニブ(商品名:オフェブ)の製品記者発表会を、8月20日都内において行った。 ニンテダニブは、本年7月に製造販売を取得、今秋にも発売が予定されている治療薬で、特発性肺線維症では初めての分子標的薬となる。特発性肺線維症は特徴的な所見で気付 はじめに本間 栄氏(東邦大学医学部医学科 内科学講座呼吸器内科学分野 教授)が、「特発性肺線維症 -病態・疫学-」と題してレクチャーを行った。 特発性肺線維症は、肺胞壁などに炎症ができるため抗生物質、ステロイド、免疫抑制薬が効果を発揮しない治療抵抗性の難病である。 画像所見による診断では、X線単純所見で横隔膜の拳上が確認され、HRCT(高分解能胸部断層撮影)で胸膜下に蜂巣肺が確認されるのが特徴となる。また、臨床症状としては、慢性型労作性呼吸困難、乾性咳嗽、捻髪音(ベルクロ・ラ音)、ばち状指、胃食道酸逆流などが認められる。臨床経過で注意するポイントは、本症では急性増悪がみられ、わずか1年で呼吸不全に至る点である。 確定診断では、「特発性間質性肺炎診断のためのフローチャート」が使用され、原因不明のびまん性肺疾患をみたら、特発性肺線維症を疑いHRCT検査の施行、専門施設での診断などが望まれる。特発性肺線維症に喫煙をする高齢の男性は注意 特発性肺線維症の疫学として「北海道スタディ」より有病率は10万人当たり10.0人、わが国での推定患者数は1万3,000人程度と推定されている。男性に多く、中年以降の発症が多いのが特徴で、高齢化社会を背景に患者数は増加している。 予後について5年生存率でみた場合、肺がん(20%未満)に次いで悪く(20~40%未満)、死亡者数も増えている。また、わが国では患者の40%が「急性増悪」で亡くなっているほか、特発性肺線維症は発がん母地ともなり、30%程度の患者が肺がんへと進行する。 特発性肺線維症のリスクファクターは、患者関連因子と環境関連因子に分けられ、前者では、男性、高齢、喫煙、特定のウイルス(例:EBウイルス)、遺伝的素因、胃食道逆流などが挙げられ、後者では動物の粉塵曝露、鳥の飼育、理髪、金属や木材、石などの粉塵が挙げられる。問診などで社会歴も含め、よく聴取することが診断の助けとなる。特発性肺線維症治療の歴史 続いて、杉山 幸比古氏(自治医科大学 呼吸器内科 教授)が、「特発性肺線維症治療の現状と将来展望」と題して、解説を行った。 はじめに特発性肺線維症の病因として慢性的な刺激による肺胞上皮細胞傷害が、傷害の修復異常・線維化を引き起こすという考えに基づき、抗線維化薬の開発が行われた経緯などを説明した。 効果的な治療薬がない中で、吸入薬であるアセチルシステイン(商品名:ムコフィリン)は、導入薬としてながらく、安全かつ有害事象が少ない、安価な治療薬として使用されてきたことを紹介する一方で、経口薬で行われた海外の試験では効果が否定的とされたことと、ネブライザーでの吸入が必要なことで、コンプライアンスに問題があることを指摘した。 次に2008年に初めての抗線維化薬として登場したのが、ピルフェニドン(同:ピレスパ)であり、欧米で広く使用され、無増悪生存期間を延長し、呼吸機能の低下を抑制することが知られていると説明した。本剤の開発がきっかけとなり、世界的に抗線維化薬の開発が進んだ。特発性肺線維症に抗線維化薬で初めての分子標的薬 次に登場したのが、ニンテダニブ(同:オフェブ)である。ニンテダニブは、肺の線維化に関与する分子群受容体チロシンキナーゼを選択的に阻害する分子標的薬で、25ヵ国が参加した第II相試験では、用量依存的に努力性肺活量(FVC)の低下率を68.4%抑制し、急性増悪を有意に低下させたほか、QOLの有意な改善を認めたとする結果が報告された。また、第III相試験では、40歳以上の軽症~中等の特発性肺線維症患者、約1,000例について観察した結果、プラセボとの比較でFVCの年間減少率を約半分に抑える結果となった(-113.6% vs. -225.5%)。また、373日間の期間で初回急性増悪発現までの割合を観察した結果、ニンテダニブが1.9%(n=638)であるのに対し、プラセボでは5.7%(n=423)と急性増悪の発生を抑えることも報告された。 主な有害事象としては、下痢(62.4%)、悪心(24.5%)、鼻咽頭炎(13.6%)などが報告されている(n=638)。とくに下痢に関しては、対症療法として補液や止瀉薬の併用を行うか、さらに下痢が高度な場合は、ニンテダニブの中断または中止が考慮される。 今後は、国際ガイドラインでも推奨されているように広く適用があれば使用すべきと考えられるほか、がんとの併用療法も視野に入れた治療も考える必要がある。 最後に特発性肺線維症治療の展望と課題として、「線維化の機序のさらなる解明、急性増悪因子の解明とその予防、患者ごとに治療薬の使い分けと併用療法の研究、再生医療への取り組みなどが必要と考えられる」とレクチャーを終えた。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第23回

第23回:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 消化器病領域で遭遇する頻度が多い疾患の1つに消化性潰瘍が挙げられますが、その原因のほとんどが、ヘリコバクター・ピロリ菌感染とNSAIDsの使用によるものと言われています。ヘリコバクター・ピロリ菌には日本人の約50%弱が感染していると言われ、がんの発生にも関与しているため、どのような人にどのような検査・治療を行うべきかを理解しておくことが重要です。 除菌治療に関連して、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの新しい治療薬も販売されていますが、日本での除菌適応は「H. pylori 陽性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」で、胃炎の場合には上部消化管内視鏡での確認が必須となっていることに注意が必要です。いま一度、既存の診断と除菌治療戦略について知識の整理をしていただければ幸いです。 タイトル:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について以下、 American Family Physician 2015年2月15日号1)より一部改変H. pyloriはグラム陰性菌でおよそ全世界の50%以上の人の胃粘膜に潜んでいると言われ、年代によって感染率は異なる。十二指腸潰瘍の患者の95%に、胃潰瘍の患者の70%の患者に感染が見られる。典型的には幼少期に糞口感染し、数十年間持続する。菌は胃十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、腺がんの発生のリスクとなる。病歴と身体所見は潰瘍、穿孔、出血や悪性腫瘍のリスクを見出すためには重要であるが、リスクファクターと病歴、症状を用いたモデルのシステマティックレビューでは機能性dyspepsiaと器質的疾患を、明確に区別できないとしている。そのため、H. pyloriの検査と治療を行う戦略が、警告症状のないdyspepsia(胸やけ、上腹部不快感)の患者に推奨される。米国消化器病学会では、活動性の消化性潰瘍や消化性潰瘍の既往のある患者、dyspepsia症状のある患者、胃MALTリンパ腫の患者に検査を行うべきとしている。現在無症状である消化性潰瘍の既往のある患者へ検査を行う根拠は、H. pyloriを検出し、治療を行うことで再発のリスクを減らすことができるからである。H. pyloriを検出するための検査と治療の戦略は、dyspepsiaの患者のほか、胃がんのLow Risk群(55歳以下、説明のつかない体重減少や進行する嚥下障害、嚥下痛、嘔吐を繰り返す、消化管がんの家族歴、明らかな消化管出血、腹部腫瘤、鉄欠乏性貧血、黄疸などの警告症状がない)の患者に適当である。内視鏡検査は55歳以上の患者や警告症状のある患者には推奨される。H. pyloriの検査の精度は以下のとおりである。<尿素呼気試験>感度と特異度は100%に達する。尿素呼気試験は除菌判定で選択される検査の1つであり、除菌治療終了から4~6週間空けて検査を行うべきである。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、検査の少なくとも2週間前からは使用を控えなければならず、幽門側胃切除を行った患者では精度は下がる。<便中抗原検査>モノクローナル抗体を用いた便中抗原検査は、尿素呼気試験と同等の精度を持ち、より安くて簡便にできる検査である。尿素呼気試験のように便中抗原検査は活動性のある感染を検出し、除菌判定に用いることができる。PPIは検査の2週間前より使用を控えるべきだが、尿素呼気試験よりもPPIの使用による影響は少ない。<血清抗原>血清抗原検査は血清中のH. pyloriに特異的なIgGを検出するが、活動性のある感染か、既感染かは区別することができない。そのため除菌判定に用いることはできない。検査の感度は高いが、特異的な検査ではない(筆者注:感度 91~100% 特異度 50~91%)2)。PPIの使用や、抗菌薬の使用歴に影響されないため、PPIを中止できない患者(消化管出血を認める患者、NSAIDsの使用を続けている人)に最も有用である。<内視鏡を用いた生検>内視鏡検査による生検は、55歳以上の患者と1つ以上の警告症状のある患者には、がんやその他の重篤な原因の除外のために推奨される。内視鏡検査を行う前の1~2週間以内のPPIの使用がない患者、または4週間以内のビスマス(止瀉薬)や抗菌薬の使用がない患者において、内視鏡で施行される迅速ウレアーゼテストはH. pylori感染症診断において精度が高く、かつ安価で行える。培養とPCR検査は鋭敏な検査ではあるが、診療所で用いるには容易に利用できる検査ではない。除菌治療すべての消化性潰瘍の患者にH. pyloriの除菌が推奨される。1次除菌療法の除菌率は80%以上である。抗菌薬は地域の耐性菌の状況を踏まえて選択されなければならない。クラリスロマイシン耐性率が低い場所であれば、標準的な3剤併用療法は理にかなった初期治療である。除菌はほとんどの十二指腸潰瘍と、出血の再発リスクをかなり減らしてくれる。消化性潰瘍が原因の出血の再発防止においてはH. pyloriの除菌治療は胃酸分泌抑制薬よりも効果的である。<標準的3剤併用療法>7~10日間の3剤併用療法のレジメン(アモキシシリン1g、PPI、クラリスロマイシン500mgを1日2回)は除菌のFirst Lineとされている。しかし、クラリスロマイシン耐性が増えていることが、除菌率の低下に関連している。そのため、クラリスロマイシン耐性のH. pyloriが15%~20%を超える地域であれば推奨されない。代替療法としては、アモキシシリンの代わりにメトロニダゾール500mg1日2回を代用する。<Sequential Therapy(連続治療)>Sequential TherapyはPPIとアモキシシリン1g1日2回を5日間投与し、次いで5日間PPI、クラリスロマイシン500mg1日2回、メトロニダゾール500mg1日2回を投与する方法である。全体の除菌率は84%、クラリスマイシン耐性株に対して除菌率は74%である。最近の世界規模のメタアナリシスでは、sequential therapyは7日間の3剤併用療法よりも治療効果は優れているが、14日間の3剤併用療法よりも除菌率は劣るという結果が出ている。<ビスマスを含まない4剤併用療法>メトロニダゾール500mg1日2回またはチニダゾール500mg1日2回を標準的な3剤併用療法に加える治療である。Sequential Therapyよりも複雑ではなく、同様の除菌率を示し、クラリスロマイシンとメトロニダゾール耐性株を有する患者でも効果がある。クラリスロマイシンとメトロニダゾールの耐性率が高い地域でも90%にも及ぶ高い除菌率であるが、クラリスロマイシンを10日間服用する分、sequential therapyよりも費用が掛かってしまう。除菌判定H. pyloriの除菌判定のための尿素呼気試験や便中抗原の試験の適応は、潰瘍に関連したH. pylori感染、持続しているdyspepsia症状、MALTリンパ腫に関連したH. pylori感染、胃がんに対しての胃切除が含まれる。判定は除菌治療が終了して4週間後以降に行わなければならない。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Fashner J , et al. Am Fam Physician. 2015;91:236-242. 2) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会.H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 改訂版

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巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)〔GCA : giant cell arteritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA)は、大動脈とその分枝の中~大型動脈に起こる肉芽腫性血管炎である。頸動脈の頭蓋外の動脈(とくに側頭動脈)が好発部位のため、以前は、側頭動脈炎(temporal arteritis:TA)といわれた。発症年齢の多くは50歳より高齢であり、しばしばリウマチ性多発筋痛症(PMR)を合併する。1890年HunchingtonらがTAの症例を報告し、1931年にHortonらがTAの臨床像や病理学的特徴を発表したことからTAとしての古い臨床概念が確立し、また、TAは“Horton’s disease”とも呼ばれてきた。その後1941年Gilmoreが病理学上、巨細胞を認めることから“giant cell chronic arteritis”の名称が提唱された。この報告により「巨細胞性動脈炎(GCA)」の概念が確立された。GCAは側頭動脈にも病変を認めるが、GCAのすべての症例が側頭動脈を傷害するものではない。また、他の血管炎であっても側頭動脈を障害することがある。このためTAよりもGCAの名称を使用することが推奨されている。■ 疫学 1997年の厚生省研究班の疫学調査の報告は、TA(GCA)の患者は人口10万人当たり、690人(95%CI:400~980)しか存在せず、50歳以上では1.48人(95%CI: 0.86~2.10)である。人口10万人当たりの50歳以上の住民のGCA発症率は、米国で200人、スペインで60人であり、わが国ではTA(GCA)は少ない。このときの本邦のTA(GCA)の臨床症状は欧米の症例と比べ、PMRは28.2%(欧米40~80%)、顎跛行は14.8%(8~50%)、失明は6.5%(15~27%)、脳梗塞は12.1%(27.4%)と重篤な症状はやや少ない傾向であった。米国カリフォルニア州での報告では、コーカシアンは31症例に対して、アジア人は1例しか検出されなかった。中国やアラブ民族でもGCAはまれである。スカンジナビアや北欧出身の家系に多いことが知られている。■ 病因病因は不明であるが、環境因子よりも遺伝因子が強く関与するものと考えられる。GCAと関連が深い遺伝子は、HLA-DRB1*0401、HLA-DRB1*0404が報告され、約60%のGCA症例においてどちらかの遺伝子を有する。わが国の一般人口にはこの2つの遺伝子保持者は少ないため、GCAが少ないことが推定される。■ 症状全身の炎症によって起こる症状と、個別の血管が詰まって起こる症状の2つに分けられる。 1)全身炎症症状発熱、倦怠感、易疲労感、体重減少、筋肉痛、関節痛などの非特異的な全身症状を伴うので、高齢者の鑑別診断には注意を要する。2)血管症状(1)頸部動脈:片側の頭痛、これまでに経験したことがないタイプの頭痛、食べ物を噛んでいるうちに、顎が痛くなって噛み続けられなくなる(間歇性下顎痛:jaw claudication)、側頭動脈の圧痛や拍動頸部痛、下顎痛、舌潰瘍など。(2)眼動脈:複視、片側(両側)の視力低下・失明など。(3)脳動脈:めまい、半身の麻痺、脳梗塞など。(4)大動脈:背部痛、解離性大動脈瘤など。(5)鎖骨下動脈:脈が触れにくい、血圧に左右差、腕の痛みなど。(6)冠動脈:狭心症、胸部痛、心筋梗塞など。(7)大腿・下腿動脈:間歇性跛行、下腿潰瘍など。3)合併症約30%にPMRを合併する。高齢者に起こる急性発症型の両側性の頸・肩、腰の硬直感、疼痛を示す。■ 分類側頭動脈や頭蓋内動脈の血管炎を呈する従来の側頭動脈炎を“Cranial GCA”、大型動脈に病変が認められるGCAを“Large-vessel GCA”とする分類法が提唱されている。大動脈を侵襲するGCAは、以前、高安動脈炎の高齢化発症として報告されていた経緯がある。GCA全体では“Cranial GCA”が75%である。“Large-vessel GCA”の中では、大動脈を罹患する型が57%、大腿動脈を罹患する型が43%と報告されている(図)。画像を拡大する■ 予後1998年の厚生省全国疫学調査では、治癒・軽快例は87.9%であり、生命予後は不良ではない。しかし、下記のように患者のQOLを著しく阻害する合併症がある。1)各血管の虚血による後遺症:失明(約10%)、脳梗塞、心筋梗塞など。2)大動脈瘤、その他の動脈瘤:解離・破裂の危険性に注意を要する。3)治療関連合併症:活動性制御に難渋する例では、ステロイドなどの免疫抑制療法を反復せねばならず、治療関連合併症(感染症、病的骨折、骨壊死など)で臓器や関連の合併症にてQOLが不良になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1990年米国リウマチ学会分類基準に準じる。5項目のうち3項目を満足する場合、GCAと分類する(感度93.5、特異度91.2%)。厚生労働省の特定疾患個人調査票(2015年1月)は、この基準にほぼ準拠している。5項目のうち3項目を満足する場合に、GCAと診断される(表1)。画像を拡大する■ 検査1)血液検査炎症データ:白血球増加、赤沈亢進、CRP上昇、症候性貧血など。CRP赤沈は疾患活動性を反映する。2)眼底検査必須である。虚血性視神経症では、視神経乳頭の虚血性混濁浮腫と、網膜の綿花様白斑(軟性白斑)を認める。3)動脈生検適応:大量ステロイドなどのリスクの高い免疫抑制治療の適応を決めるために、病理学的検討を行うべきである。ただし、進行性の視力障害など、臨床経過から治療を急ぐべきと判断される場合は、ステロイド治療開始を優先し、側頭動脈生検が治療開始の後でもかまわない。側頭動脈生検の実際:症状が強いほうの側頭動脈を局所麻酔下で2cm以上切除する。0.5mmの連続切片を観察する。病理組織像:中型・大型動脈における(1)肉芽腫性動脈炎(炎症細胞浸潤+多核巨細胞+壊死像)、(2)中膜と内膜を画する内弾性板の破壊、(3)著明な内膜肥厚、(4)進行期には内腔の血栓性閉塞を認める。病変は分節状に分布する(skip lesion)。動脈生検で巨細胞を認めないこともある。4)画像検査(1)血管エコー:側頭動脈周囲の“dark halo”(浮腫性変化)はGCAに特異的である。(2)MRアンギオグラフィー(MRA):非侵襲的である。頭蓋領域および頭蓋領域外の中型・大型動脈の評価が可能である。(3)造影CT/3D-CT:解像度でMRAに優る。全身の血管の評価が可能である。3次元構築により病変の把握が容易である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(4)血管造影:最も解像度が高いが、侵襲的である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(5)PET-CT(2015年1月現在、保険適用なし):質的検査である。血管壁への18FDGの取り込みは、血管の炎症を反映する。ただし動脈硬化性病変でもhotになることがある。5)心エコー・心電図など:心合併症のスクリーニングを要する。■ 鑑別診断1)高安動脈炎(Takayasu arteritis:TAK)欧米では高安動脈炎とGCAを1つのスペクトラムの中にある疾患で、発症年齢の約50歳という違いだけで分類するという考えが提案されている。しかし、両疾患の臨床的特徴は、高安動脈炎がより若年発症で、女性の比率が高く(約1:9)、肺動脈病変・腎動脈病変・大動脈の狭窄病変が高頻度にみられ、PMRの合併はみられず、潰瘍性大腸炎の合併が多く、HLA-B*52と関連する。また、受診時年齢と真の発症年齢に開きがある症例もあるので注意を要する。現時点では発症年齢のみで分けるのではなく、それぞれGCAとTAKは1990年米国リウマチ学会分類基準を参考にすることになる。2)動脈硬化症動脈硬化症は、各動脈の閉塞・虚血を来しうる。しかし、新規頭痛、顎跛行、血液炎症データなどの臨床的特徴が異なる。GCAと動脈硬化症は共存しうる。3)感染性大動脈瘤(サルモネラ、ブドウ球菌、結核など)、心血管梅毒細菌学的検査などの感染症の検索を十分に行う。4)膠原病に合併する大動脈炎など(表2)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の目標は、(1)全身炎症症状の改善、(2)臓器不全の抑制、(3)血管病変の進展抑制である。ステロイド(PSL)は強い抗炎症作用を有し、GCAにおいて最も確実な治療効果を示す標準治療薬である。■ 急性期ステロイド初期量:PSL 1mg/kg/日が標準とされるが、症状・合併症に応じて適切な投与量を選択すること。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、下記のように推奨されている。とくに、高齢者には圧迫骨折合併に注意する必要がある。1)眼症状・中枢神経症状・脳神経症状がない場合:PSL 30~40 mg/日。2)上記のいずれかがある場合:PSL 1mg/kg/日。■ 慢性期ステロイド漸減:初期量のステロイドにより症状・所見の改善を認めたら、初期量をトータルで2~4週間継続したのちに、症状・赤沈・CRPなどを指標として、ステロイドを漸減する。2006~2007年度の診療ガイドラインにおける漸減速度を示す。1)PSL換算20mg/日以上のとき:2週ごとに10mgずつ漸減する。2)PSL換算10~20mg/日のとき:2週ごとに2.5mgずつ漸減する。3)PSL換算10mg/日以下のとき:4週ごとに1mgずつ、維持量まで漸減する。重症例や活動性マーカーが遷延する例では、もう少しゆっくり漸減する。■ 寛解期ステロイド維持量:維持量とは、疾患の再燃を抑制する必要最小限の用量である。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、GCAへのステロイド維持量はPSL換算10mg/日以下とし、通常、ステロイドは中止できるとされている。しかし、GCAの再燃例がみられる場合もあり、GCAに合併するPMRはステロイド減量により再燃しやすい。■ 増悪期ステロイドの再増量:再燃を認めたら、通常、ステロイドを再増量する。標的となる臓器病変、血管病変の進展度、炎症所見の強度を検討し、(1)初期量でやり直す、(2)50%増量、(3)わずかな増量から選択する。免疫抑制薬併用の適応:免疫抑制薬はステロイドとの併用によって相乗効果を発揮するため、下記の場合に免疫抑制薬をステロイドと併用する。1)ステロイド効果が不十分な場合2)易再燃性によりステロイド減量が困難な場合免疫抑制薬の種類:メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミドなど。■ 経過中に注意すべき合併症予後に関わる虚血性視神経症、脳動脈病変、冠動脈病変、大動脈瘤などに注意する。1)抗血小板薬脳心血管病変を伴うGCA患者の病変進展の予防目的で抗血小板薬が用いられる。少量アスピリンがGCA患者の脳血管イベントおよび失明のリスクを低下させたという報告がある。禁忌事項がない限り併用する。2)血管内治療/血管外科手術(1)各動脈の高度狭窄ないし閉塞により、重度の虚血症状を来す場合、血管内治療によるステント術か、バイパスグラフトなどによる血管外科手術が適応となる。(2)大動脈瘤やその他の動脈瘤に破裂・解離の危険がある場合も、血管外科手術の適応となる。4 今後の展望関節リウマチに保険適用がある生物学的製剤を、GCAに応用する試みがなされている(2015年1月現在、保険適用なし)。米国GiACTA試験(トシリズマブ)、米国AGATA試験(アバタセプト)などの治験が行われている。わが国では、トシリズマブの大型血管炎に対する治験が進行している。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科、循環器内科、眼科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)今日の臨床サポート 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)J-STAGE(日本臨床免疫学会会誌) 巨細胞性動脈炎(医療従事者向けのまとまった情報)2006-2007年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン(GCAについては1285~1288参照)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Grayson PC, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1329-1334.3)Maksimowicz-Mckinnon k,et al. Medicine. 2009;88:221-226.4)Luqmani R. Curr Opin Cardiol. 2012;27:578-584.5)Kermani TA, et al. Curr Opin Rheumatol. 2011;23:38-42.

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周術期の音楽が術後の疼痛・不安を軽減/Lancet

 成人患者の手術後の疼痛や不安感の軽減を支援する手段として、音楽が有効であることが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のJenny Hole氏らの検討で明らかとなった。医療における音楽の使用の歴史は長く、19世紀半ばにはフローレンス・ナイチンゲールが入院患者の回復を目的に導入しており、周術期の患者支援としては1914年にEvan Kane氏が初めて報告した。音楽は、施行が簡便で失敗がほとんどなく、非侵襲的で安全かつ安価な介入法であるが、その有用性についてはこれまでに包括的なレビューがいくつかあるものの、メタ解析は行われていないという。Lancet誌2015年8月12日号掲載の報告。種々の対照と比較した73件の無作為化試験を解析 研究グループは、術後の回復における音楽の有効性を検討した無作為化対照比較試験の論文を系統的にレビューし、メタ解析を行った(研究助成なし)。 対象は、手術を受けた成人患者の術後の回復に関して、周術期の音楽による介入と、標準的なケアまたは薬物以外の介入(マッサージ、安静、リラクゼーションなど)を比較した試験とした。中枢神経系や頭頸部の手術は除外し(聴覚障害の可能性があるため)、英語以外の論文も可とした。 関連文献の検索には4つの医学関連データベースを用いた。2人の研究者が試験の適格性を評価し、別個にデータの抽出を行った。メタ解析にはReview Manager(version 5.2)を用いた。ランダム効果モデルで参加者や介入法の異質性を調整し、アウトカムの測定法の違いを調整するために標準化平均差(SMD)を算出した。 質的な統合解析は日本の試験を含む73試験で行われ、メタ解析はこのうち72試験で実施された。各試験の参加者は20~458例までの幅があり、手術手技は内視鏡による小手術から移植手術までさまざまで、ほとんどが待機的手術の試験であった。全身麻酔下でも有効、患者満足度が向上、施設で工夫も可 選曲は患者または研究者が行っていた。患者だけが聴く場合はヘッドホンや音楽枕(音楽の再生機能がある枕)を使用し、医療者も聴けるようにスピーカーを用いた試験もあった。介入時期は術前、術中、術後のほか、これらを組み合わせた試験もあった。 介入は覚醒下または麻酔下に行われ、音楽の再生時間は数分のものから一定時間を数日間にわたり繰り返す場合もあった。比較対照はさまざまで、通常のケアのほか、無音のヘッドホン装着、ホワイトノイズ、平静な床上安静などが含まれた。 メタ解析の結果、音楽は対照に比べ、術後の疼痛(SMD:-0.77、95%信頼区間[CI]:-0.99~-0.56)、不安感(-0.68、-0.95~-0.41)、鎮痛薬の使用頻度(-0.37、-0.54~-0.20)を有意に改善した。 疼痛と鎮痛薬の使用は、患者自身が選んだ音楽のほうが、患者の選択ではない場合よりも良好で、不安はむしろ患者が選んでいない音楽ほうが良好な傾向がみられたが、これらの差はいずれも小さかった。 また、音楽による介入の時期は、疼痛、不安、鎮痛薬の使用のいずれにおいても、術前が最も効果が高く、次いで術中、術後の順であったが、これらも差は大きくなかった。 一方、術中の音楽が患者の回復に及ぼす効果は、全身麻酔を用いない場合(疼痛:-1.05、-1.45~-0.64、不安感:-0.91、-1.33~-0.48、鎮痛薬の使用:-0.58、-1.05~-0.11)のほうが、全身麻酔を行った場合(-0.49、-0.74~-0.25、-0.48、-0.91~-0.05、-0.26、-0.44~-0.07)よりも優れたが、全身麻酔下の改善効果も対照に比べ有意に良好だった。 さらに、音楽は、対照に比べ患者満足度を有意に向上させた(1.09、0.51~1.68)。入院期間には差を認めなかった(-0.11、-0.35~0.12)が、入院期間の評価を行った試験は少なかった。また、音楽による介入が感染症や創傷治癒、医療費に及ぼす影響を評価した試験はなかった。 著者は、「音楽は術後の疼痛や不安感からの回復に有効であり、介入の時期や方法は個々の施設や医療チームの状況に合わせて変えてよいと考えられる」とまとめ、「実際に臨床の現場に導入するには、著作権や知的財産の問題などの障壁があり調査を要するが、個別の手術では患者向けの情報冊子や施設のガイドラインで患者に音楽を聴くよう薦めてよいと考えられる」と指摘している。

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Vol. 4 No. 1 HFpEF駆出率の保たれた心不全に対する診断と治療を考える

山本 一博 氏鳥取大学医学部病態情報内科HFpEFとは左室駆出率が保持された心不全(HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction)という概念が定着してきたのはこの10年程度と日が浅く、いまだ全容は明らかとなっていない。疫学調査の結果から明らかにされている特徴は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction)と比較して高齢者と女性の占める割合が高いことである。地域住民を対象とした調査のなかで心不全患者のEFの分布をみると二峰性を示し、2つの峰の間にある“谷”に当たる位置のEFの値は、HFrEFとHFpEFを臨床的に分けているEFのカットオフポイントにあたる1)。このような結果をみるとHFrEFとHFpEFは異なる病態として扱うべきと考えられる。HFpEFの診断HFpEF診断の基本は心不全であることの臨床診断左室駆出率が保持されているが、左室拡張機能障害が認められるである。1. 心不全の臨床診断心不全に伴う自覚症状や他覚所見には、心不全に特異的なものがない。現在のところ血中Bタイプナトリウム利尿ペプチド(BNPないしNT-proBNP)の濃度が上昇している場合は、心不全に基づく症状や所見の可能性が高いと判断することになる。この基準値であるが、BNPでは100pg/mL、NT-proBNPであれば400pg/mLが目安になると思われる。2. 左室流入血流速波形を用いた拡張機能評価に関する誤解以前より左室流入血流速波形が拡張機能の指標として用いられてきたが、ここに大きな認識の誤りがある。左室駆出率が低下している症例においてE/Aは左室充満圧と正比例しE波の減衰時間(DT)は左室充満圧と負の相関を示すことから2)、拡張機能障害のために二次的に生じている左室充満圧上昇の検出を通じて間接的に左室拡張機能障害の評価に左室流入血流速波形は用いうる。一方、HFpEFのように左室駆出率が保持されている症例では、E/AやDTは左室充満圧と相関しない2)。つまり、左室流入血流速波形をワンポイントで計測しても、拡張機能障害のために二次的に起きてくる左室充満圧上昇の有無を判断することは不可能である。では、左室流入血流速波形のみを用いて直接的に拡張機能を評価できるか? 答えは「NO」である。E/Aの低下は拡張機能障害を表すかのようにいわれているが、これを裏づけるデータはほとんどない。1980年代にKitabatakeらが心疾患患者においてE/Aの低下やDTの延長が認められることを報告し3)、その後、左室拡張機能障害、特に弛緩障害が起きるとE/Aが低下しDTが短縮するという研究結果が報告されたこともあり、E/Aの低下とDTの延長を認めれば左室弛緩障害を有していると判断できると信じ込まれてきた。確かに左室弛緩障害が起きるとE/Aは低下しDTは延長するとはいえるが、E/Aが低下しDTが延長していれば弛緩障害が存在するとはいえない。これまでに行われてきた多くの臨床研究の結果をみると、E/Aと左室弛緩評価のゴールドスタンダードである時定数Tauとの間には相関を認めないとする報告がほとんどである。最近わが国で集められた臨床データをみても、E/Aが低下している症例であってもTauは異常値ではない症例が少なくないことが示されている4)。3. 左室駆出率が保持された患者における拡張機能評価これについては、確立した指標がない。現段階で受け入れられている、左室充満圧上昇の検出に用いうる指標としてパルスドプラ法で記録する左室流入血流速波形のE波と、組織ドプラ法で記録する急速流入期の僧帽弁輪部運動のピーク速度e’の比(E/e’)の上昇肺静脈血流速波形および左室流入血流速波形の心房収縮期波の幅の差の増加左房径/容積の増加E波とe’波の開始時間の差であるTE-e’、連続波ドプラにおいて左室流入血流速波形と左室流出路波形を同時記録して求める等容性弛緩時間IVRTの比(IVRT/TE-e’)の低下Valsalva法により急速前負荷軽減を行った際のE/Aの過大な低下などが挙げられるが、いずれの指標も単独で用いうるほどの信頼性はない。また、心エコー図検査は安静時にデータ収集を行っているので、これらを用いて診断できるのは病期がある程度進行し安静時から左房圧が上昇している患者のみである。安静時に左房圧は上昇しておらず、労作時に拡張機能障害により急激な左房圧上昇を来すために運動耐容能が低下している患者も少なくなく(図1)、このような患者を診断するには左室拡張機能(主に左室弛緩とスティフネス)を直接的に評価する必要がある。図1 労作時の左室拡張末期容積および拡張末期圧の変化のシェーマ画像を拡大する左室弛緩を直接的に評価しうる指標としてe’が挙げられる。e’は左室弛緩障害により減高し、簡便に記録できるので臨床的にも有用性が高い。また、弛緩障害はe’波の開始を遅らせるため、E波の開始とe’波の開始の時間差であるTE-e’もTauと相関すると報告されている。左房容積は左房圧と相関をするので、純粋に拡張機能だけを反映しているとはいえないが、左室拡張機能障害による慢性的な左房負荷を反映して左房が拡大することから、拡張機能評価における左房容積は糖尿病評価におけるHbA1cのような位置づけにあるとも考えられている5)。American Society of Echocardiographyから出されているガイドラインにおいて、拡張機能障害の有無を検出するfirst lineの指標として用いられているのはe’と左房容積である6)。一方、HFpEF発症には左室弛緩障害以上に左室スティフネス亢進が寄与しており、その評価が重要であると考えているが、確立した非侵襲的評価法がない。われわれは拡張期の左室壁心外膜面の動きに着目した7)。線形弾性理論に基づくと、“やわらかい”物質と“硬い”物質に圧を加えた場合、圧を加えた面の反対面の動きが前者に比べ後者では大となる。この法則を左室自由壁の拡張期の動きに当てはめ(図2)、かつ簡便化した定量的指標がであり、心筋スティフネス係数と有意な負の相関関係にある。DWS低値は糖尿病患者においてHFpEF発症の独立した危険因子であること8)、HFpEF患者においてDWSは、年齢、性、E/e’、左室駆出率、左室重量係数、肺動脈圧、血中BNP濃度とは独立した予後規定因子であることも明らかにした9)。ただし、まだ広く受け入れられている指標ではないので、今後の検討が必要である。間接的に左室拡張機能障害の存在を示唆する形態的な異常所見が左室肥大である。ただし、HFpEF症例の60%では左室肥大は存在しないので、左室肥大が存在しないからといって拡張機能障害を否定することはできない。図2 「やわらかい」左室自由壁と「硬い」左室自由壁のM-モード画像を拡大するHFpEFの治療基礎疾患として高血圧を有する患者では血圧コントロールが必須である。虚血性心疾患患者では、虚血が自覚症状の原因と判断されれば血行再建を行う。心房細動で心室レートが過剰に亢進している場合には、これを抑える薬剤を用いる。このような基礎疾患に対する治療ないし対症療法を除き、HFpEFに特異的な治療として有効性が確立しているものは現段階ではない。1. 利尿薬HFpEFの自覚症状に体液貯留が関与している場合は、自覚症状軽減を目的として、つまり代表的な対症療法として利尿薬を用いる。利尿薬の選択については、わが国で実施したJ-MELODIC試験の結果を考慮すると、短時間作用型のフロセミドよりも長時間作用型のアゾセミドを選択するほうが好ましい10)。利尿薬は、現在認識されているように単に自覚症状を軽減することだけを目的として使用する薬剤なのか否かを検討する余地がある。心不全入院歴がなく、かつ心不全症状を認めない患者において利尿薬を中断すると、1年以内に再開せざるをえなくなる患者が少なくない11)。われわれの検討において、HFpEF患者を多く含むクリニカルシナリオ1の病態を呈する急性心不全は冬季発症が多く(本誌p.17図を参照)、冬季に発症が増える危険因子はループ利尿薬を服用していないことであるという結果が導かれた12)。心不全増悪のほとんどは心拍出量の低下ではなくうっ血によるものであり、その原因となる左室充満圧上昇はある程度進行しなければ臨床所見として捉えることができない13)。したがって、現在のように症状を基準として利尿薬の投与を中止した場合、まだ左室充満圧が上昇している状況、つまり心不全発症リスクが十分に低下していない状況での利尿薬中止に至る。心不全の増悪を繰り返すことが、結果的に病態の悪化を招くことは広く知られているところであり、このような病態の“揺れ”を招かない心不全コントロールを行うには、安易な利尿薬の中止は避けるべきかもしれない。2. レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害これまでの介入試験の結果に基づき、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害はHFpEFには有効性が期待できないと結論づけられているが、果たしてその結論を安易に受け入れてよいものであろうか?アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はHFpEFに対して無効であるという結果を提示したI-PRESERVE試験のサブ解析は、投与開始前のNT-proBNP値が低い患者ではARBは有用であることを示唆している14)。I-PRESERVE試験より軽症の患者を多く含むCHARM-Preserved試験では、ARBは心不全悪化による入院リスクを有意に低下させている15)。PEP-CHF試験では追跡1年経過後に多くの症例が割付治療から逸脱していたため90%の症例が割付治療を行っていた割付後1年目の時点での解析を行うと、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)投与群で1次エンドポイント発生率は低下傾向を認め、心不全入院は有意に減少し、NYHA心不全機能分類および6分間歩行も有意に改善した16)。さらに最近発表された大規模観察研究では、ACEIないしARBの服用はHFpEFの予後改善に結びつくとの結果が示されている17)。アルドステロンの作用を抑制するミネラロコルチコイド受容体拮抗薬のHFpEFにおける有用性を検討したTOPCAT試験は2014年に結果が発表された18)。スピロノラクトンは設定された1次エンドポイント(心血管死、突然死、心不全入院)の低下をもたらさなかったが、心不全入院は有意に減少させている。TOPCAT試験の対象患者もNYHAⅡ度の比較的軽症の患者が多い。以上の介入試験の主論文の結論からは、ARB、ACEI、ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬はHFpEFに無効という意見が導かれるが、日常診療においてHFpEF患者の抱える大きな問題の1つが高い再入院率であることなども念頭においたうえでこのようなサブ解析の結果を眺めると、これらの薬剤に効果を期待できる患者群が存在すると推察すべきではないかと考える。3. β遮断薬HFrEF治療で有用性が確立しているβ遮断薬のHFpEFにおける効果を検討した介入試験はほとんど行われていなかったが、わが国で実施したJ-DHF試験の結果を2013年に発表した。カルベジロール投与群と非投与群の比較ではイベント発生率に差異を認めなかったが、カルベジロール群をカルベジロール投与量中間値の7.5mg/日で分けて検討したところ、7.5mg/日より大の投与群では心血管死ないし心血管系の原因による入院という複合エンドポイント発生率を有意に低下させていた(本誌p.18図を参照)19)。この結論はDobreらの観察研究から導かれた結論とも一致しており20)、現在進行中のβ-PRESERVE試験の結果が待たれる。4. 非心臓因子に着目した薬物治療HFpEFの重症化には非心臓因子も関与しており、その点に焦点をあてる治療法の有用性にも期待がかかる。しかしこれまでのところ、肺血管抵抗低下作用のあるphosphodiesterase-5阻害薬のシルデナフィル、貧血改善目的で使用されるエリスロポエチンには有用性が確認されなかった。おわりに以上、HFpEFの診断と治療について概説した。治療法については、ARBとneprilysin阻害薬の作用を有するLCZ696、イバブラジンなどの効果を検討する臨床試験が進行中であり、それらの結果に期待したい。文献1)Dunlay SM et al. Longitudinal changes in ejection fraction in heart failure patients with preserved and reduced ejection fraction. Circ Heart Fail 2012; 5: 720-726.2)Yamamoto K et al. Determination of left ventricular filling pressure by Doppler echocardiography in patients with coronary artery disease: critical role of left ventricular systolic function. J Am Coll Cardiol 1997; 30: 1819-1826.3)Kitabatake A et al. Transmitral blood flow reflecting diastolic behavior of the left ventricle in health and disease--a study by pulsed Doppler technique. Jpn Circ J 1982; 46: 92-102.4)Yamada S et al. Limitation of echocardiographic indexes for the accurate estimation of left ventricular relaxation and filling pressure: interim results of SMAP, a multicenter study in Japan (in Japanese). Jpn J Med Ultrasonics 2012; 39: 449-456.5)Douglas PS. The left atrium: a biomarker of chronic diastolic dysfunction and cardiovascular disease risk. J Am Coll Cardiol 2003; 42: 1206-1207.6)Nagueh SF et al. Recommendations for the evaluation of left ventricular diastolic function by echocardiography. J Am Soc Echocardiogr 2009; 22: 107-133.7)Takeda Y et al. Noninvasive assessment of wall distensibility with the evaluation of diastolic epicardial movement. J Card Fail 2009; 15: 68-77.8)Takeda Y et al. Competing risks of heart failure with preserved ejection fraction in diabetic patients. Eur J Heart Fail 2011; 13: 664-669.9)Ohtani T et al. Diastolic stiffness as assessed by diastolic wall strain is associated with adverse remodelling and poor outcomes in heart failure with preserved ejection fraction. Eur Heart J 2012; 33: 1742-1749.10)Masuyama T et al. Superiority of long-acting to short-acting loop diuretics in the treatment of congestive heart failure. Circ J 2012; 76: 833-842.11)Walma EP et al. Withdrawal of long-term diuretic medication in elderly patients: a double blind randomised trial. BMJ 1997; 315: 464-468.12)Hirai M et al. Clinical scenario 1 is associated with winter onset of acute heart failure. Circ J 2015; 79: 129-135.13)Gheorghiade M et al. Assessing and grading congestion in acute heart failure: a scientific statement from the acute heart failure committee of the heart failure association of the European Society of Cardiology and endorsed by the European Society of Intensive Care Medicine. Eur J Heart Fail 2010; 12: 423-433.14)Anand IS et al. Prognostic value of baseline plasma amino-terminal pro-brain natriuretic peptide and its interactions with irbesartan treatment effects in patients with heart failure and preserved ejection fraction: findings from the I-PRESERVE trial. Circ Heart Fail 2011; 4:569-577.15)Yusuf S et al. Effects of candesartan in patients with chronic heart failure and preserved left-ventricular ejection fraction: the CHARMPreserved Trial. Lancet 2003; 362: 777-781.16)Cleland JGF et al. The perindopril in elderly people with chronic heart failure (PEP-CHF) study. Eur Heart J 2006; 27: 2338-2345.17)Lund LH et al. Association between use of renin-angiotensin system antagonists and mortality in patients with heart failure and preserved ejection fraction. JAMA 2012; 308: 2108-2117.18)Pitt B et al. Spironolactone for heart failure with preserved ejection fraction. N Engl J Med 2014; 370: 1383-1392.19)Yamamoto K et al. Effects of carvedilol on heart failure with preserved ejection fraction: the Japanese Diastolic Heart Failure Study (J-DHF). Eur J Heart Fail 2013; 15: 110-118.20)Dobre D et al. Prescription of beta-blockers in patients with advanced heart failure and preserved left-ventricular ejection fraction. Clinical implications and survival. Eur J Heart Fail 2007; 9: 280-286.

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多枝病変STEMI、PCI後のFFRガイド下完全血行再建術は有用か/Lancet

 多枝病変のあるST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者においてプライマリPCI後、血流予備量比(FFR)を測定評価して行う完全血行再建術が、さらなる侵襲的介入を行わない群と比較して、将来的なイベントリスクを有意に抑制することが示された。3つのエンドポイント(全死因死亡、非致死的再梗塞、再度の血行再建術)を複合評価して示された結果で、このうち完全血行再建術群の優越性は再度の血行再建術が有意に減少したことによるものであった。全死因死亡、非致死的再梗塞については同等であった。デンマーク・コペンハーゲン大学のThomas Engstrom氏らが、非盲検無作為化対照試験DANAMI-3―PRIMULTIの結果、報告した。Lancet誌オンライン版2015年8月4日号掲載の報告。複合エンドポイントで評価 STEMIを呈した多枝冠動脈疾患患者は、一枝疾患患者と比較して予後が不良である。研究グループは、多枝病変患者のSTEMI治療について、FFRガイド下完全血行再建術 vs.梗塞関連動脈のみ治療の、臨床的アウトカムを比較するDANAMI-3―PRIMULTI試験を行った。 試験はデンマークの大学病院2施設で行われ、梗塞関連動脈病変に加えて1つ以上の臨床的に明らかな冠狭窄があるSTEMIを呈した患者を対象とした。 梗塞関連動脈のPCIに成功した患者を、さらなる侵襲的介入を行わない群または退院前にFFRガイド下完全血行再建術を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化はWebシステムを介して電子的に行われ、プライマリPCIの担当医は以降の治療や評価に関与することはなかった。 被験者への入院および追跡期間中の治療はガイドラインに即して行われ、全員が最適な薬物療法を受けた。 主要エンドポイントは、全死因死亡、非致死的再梗塞、非梗塞関連動脈での虚血による血行再建術の複合であった。評価は、最後の患者が登録後1年間追跡を受けた時点で行われた。全死因死亡と非致死的再梗塞は同程度だが、再度の血行再建術が69%抑制 2011年3月~2014年2月に627例の患者が試験に登録され、313例がプライマリPCI後非侵襲的介入群に、314例がFFRガイド下完全血行再建術群に割り付けられた。完全血行再建術群の314例のうち、非梗塞関連動脈のFFRが0.80超で、さらなる侵襲的介入を受けなかったのは97例(31%)であった。 追跡期間中央値は、27ヵ月(範囲:12~44ヵ月)。主要複合エンドポイントの発生は、梗塞関連動脈PCIのみ群が68例(22%)に対して、完全血行再建術群は40例(13%)であった(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.38~0.83、p=0.004)。 エンドポイントを個別にみると、全死因死亡HRは1.40(95%CI:0.63~3.00、p=0.43)、非致死的再梗塞HRは0.94(同:0.47~1.90、p=0.87)、非梗塞関連部位の再血行再建術HRは0.31(同:0.18~0.53、p<0.0001)で、完全血行再建術群の優越性は、再度の血行再建術の必要性が69%抑制されたことが寄与した結果であった。 著者は、「患者は完全血行再建術により、入院期間中の再度の血行再建術が回避でき、安全に全病変の治療を受けることができた」と述べ、「さらなる試験を行い、完全血行再建術は早期にまたは後期に行うべきか、またハードエンドポイントへの効果はあるのかについて明らかにする必要がある」とまとめている。

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病院での手指衛生を向上させる介入とは? ―システマティックレビューとネットワークメタアナリシスによる解析―(解説:吉田 敦 氏)-400

 医療関連感染を少なくする最も有効な手段は、スタッフの手指衛生を向上させることである。しかしながら、それが遵守されていない病院は多い。WHOは2005年に、病院での手指衛生の向上を目的とした一連のキャンペーン「Clean Care is Safer Care 清潔なケアがより安全なケア」(WHO-5)を開始した1)。これは以下の5点、(1)組織変革、(2)トレーニング/教育、(3)評価とフィードバック、(4)作業場でのリマインダー、(5)組織的な安全風土、を骨子とし、それらを組み合わせたものである。今回、WHO-5が実際の手指衛生行動を変容させたかについて、システマティックレビューとメタアナリシスによる解析が行われ、BMJ誌に発表された。スタディ抽出とレビュー 1980年から2009年の間に、Medline、Embaseなどの文献ソースに蓄積されたスタディの中から、病院医療従事者の手指衛生のコンプライアンス向上に関する介入が行われ、かつ、一定の質的評価がなされたものを解析した。この中にはランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、介入前後の比較試験、時系列解析が含まれる。さらに、介入と医療従事者に関して偏りなく均一であると考えられる報告の中で、手指衛生のコンプライアンスが直接観察できたものについてネットワークメタアナリシスを行った。さらなる介入により、行動変容が大きく 検索した3,639スタディのうち、41が解析対象としての基準を満足した(ランダム化比較試験6、時系列解析32、非ランダム化比較試験1、介入前後の比較試験2)。2つのランダム化比較試験を用いたメタアナリシスでは、WHO-5に「手指衛生に関するゴール設定」を加えると、コンプライアンスが向上することが判明した。同時に時系列解析を一対比較したところ、22個の比較解析のうち18解析で、介入後にコンプライアンスが向上したという結果を得た。 一方、ネットワークメタアナリシスでは、WHO-5の効果そのものには不確実な部分が存在するものの、「手指衛生に関するゴール設定」「報酬・インセンティブ」「アカウンタビリティ(個人・組織レベルでの責任)」を加えると、より向上が認められた。また19スタディでは臨床的な結果が得られていたが、手指衛生の向上後に感染率が減少したものの、それは微生物によって差があった(例:MRSAでは減少率が大きく、C. difficileはそれに比べ小さかった)。なお、介入にかかったコストは1,000ベッド・日当たり225ドルから4,669ドルであった。有効な介入とは?その評価は? 今回の解析では、WHO-5自体は手指衛生の向上に有効であったものの、実際上ゴール設定など、ほかの方策を組み合わせることが望ましい結果であった。この意味では、複合的かつ合目的な、そして個人の前向きな問題意識・責任感・行動変容を引き出すような戦略が求められているといえよう。一方で、介入の効果の評価にあたっては、必要なデータはまだまだ不足している。今後の蓄積と介入によって、新たな方向性が見えてくる可能性は十分ある。参考文献はこちら1)World Health Organization. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care. In WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee. 2009. 新潟県立六日町病院から邦訳刊行あり。「世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン:要約 最初の世界的患者安全の挑戦 清潔なケアがより安全なケア」

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やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉 氏)-399

 BMJ誌は、NEJM誌、JAMA誌とは別の方向の研究を掲載する傾向がある。 本研究は新薬でもなく、仮説検証研究でもない。「Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke program」という、文字通りガイドライン遵守率を上げようとする病院群における観察研究の結果である。 筆者はこのGWTGを直接知らないが、米国の健康維持機構(HMO:health management organization)の1つと理解している。筆者は米国に4年住んでいたので、国民皆保険により患者の医療機関選択が自由な日本と、「医療もビジネス」と考え、保険があっても自由に医療機関を選択できない米国の差異を体感していた。 自由主義経済の米国では、保険会社も医療機関を選択する。診療ガイドラインを遵守する医療機関の治療成績が良いのであれば、多くの保険会社が医療コストがトータルで低くなるガイドラインを遵守する病院と契約を結ぶ国が米国である。ガイドライン遵守を売り文句にした医療機関は「われわれのグループはガイドラインを遵守するので、医療コストが低いです。ぜひ、われわれと契約してください」と、保険会社と折衝することになる。そのときに、保険会社を説得するデータとして、本論文のようなデータベースを蓄積することが病院には得になる。 日本の医療は明らかにpublic sectorであるが、米国の医療は基本競争原理の働くprivate sectorである。private sectorゆえにevidence basedの世界に通用するevidence集積のインセンティブが各医療機関に働く。金持ち優遇と批判を受けながら米国の医療システムが分厚く崩れないのは、fairな競争原理に支えられているゆえであろう。 脳卒中のため入院した心房細動症例の脳卒中リスクは高い。ワルファリンが使用されていない心房細動にて、脳卒中で入院した1万2 ,552例を対象とした研究というデザインも面白い。「ガイドラインを遵守する」ことを売り物にしている病院でも、このリスクの高い症例群の12%には、退院時になんらかの理由によりワルファリンを使えなかった。脳卒中を発症するまでワルファリンを使用していなかった心房細動例でも、初回発症後はワルファリンを使用した群において在宅可能期間が長く、心血管イベントの発症率も低かった。 本研究は米国の保険医療データベースである。基本、自由診療の米国ではメディケアを受け、Get With The Guidelines (GWTG)-Stroke programに参加した病院は、米国すべてではない。日本の保険診療は国民皆保険である。日本で保険病名として、「心房細動」があり、「脳梗塞」の病名にて入院した症例のうち、退院時に「ワルファリン」が処方された症例と処方されていない症例の、その後の2年間の「入院」の有無を調べるのは、レセコンデータをみるだけで簡単にできる。 医療がpublic sectorで、保険システムの宣伝をしなくても皆が保険料を払ってくれる国民皆保険制度は、システムとしては素晴らしいが、米国人から見れば「fairではない」、「科学的根拠がない」などと言われる隙がある。TPPなどにより「非関税障壁」が取り払われる前に、世界の人が理解できる科学の論理により、医療を構築できると良いと筆者は考える。

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PADIS-PE試験:ワルファリンをいつ中止するのが良いのか?~特発性肺血栓塞栓症の初発患者の場合(解説:西垣 和彦 氏)-398

 ワルファリンは、いわば“両刃の剣”である。深部静脈血栓症(DVT)を含めた静脈血栓塞栓症(VTE)による肺血栓塞栓症(PE)予防の有効性は顕著であるが、抗血栓薬自体の宿命でもある出血も、しばしば致命的となる症例も少なくない。したがって、メリットとデメリットを十分に勘案し、最大限の効果が得られる抗凝固療法継続期間を求めることには必然性がある。 PEの抗凝固療法継続期間に関して、昨年出された欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、次のように記載されている。1)PEの患者には少なくとも3ヵ月は抗凝固療法を行うこと。2)抗凝固療法中止後のPE再発の危険性は、抗凝固薬を6ヵ月ないし12ヵ月で中止しても、3ヵ月で中止した場合と同程度である。3)無制限の抗凝固療法は、再発性VTEのリスクを約90%減少させるが、大出血の発症リスクを年1%以上上昇させ、メリットを部分的に相殺する。 一方、リスクのない特発性PEに関しては、抗凝固療法中止後の再発率が高いため、出血のリスクを勘案したうえでより長期間の継続が望ましいと記載されているだけで、具体的にいつまで継続するかに関して記載がなく、担当医の判断とされている。 今回PADIS-PE試験は、この特発性PEに関して、建設的な見解を出した。それは、(1)抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、手術などの一時的なリスクにより起因するVTEよりも再発リスクが高くなる、(2)さらに3~6ヵ月延長すると、治療継続中は再発リスクが抑制される結果から、より長期の抗凝固療法が求められたことである。 そもそも、未知の凝固線溶系異常患者を含み、人種差も大きい凝固線溶系であるからこそ、PADIS-PE試験で組み入れた特発性PEの観察対象者自体がすでに異質であり、この結果をそのまま受諾するのは、いささか早計ではある。しかし、PEの再発防止目的でより長期の抗凝固療法を行うことは、賛同できる結果ではないだろうか。 重要なことは、(1)PT-INRをより適切な治療域に保つ努力を怠らないこと、(2)ワルファリンの特質を、医師と患者の双方が十分に理解し、密な相互の関係を築くことである。そのうえで、再発率が高い下肢静脈近位側にDVTが残存している症例や、抗凝固療法中止1ヵ月後のDダイマーが高値である症例などに関しては、無期限の抗凝固療法も視野に入れた、より長期間の抗凝固療法継続を行うべきと考えられる。

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スタチンガイドラインで、より多くの患者のリスクを回避できる?(解説:平山 篤志 氏)-396

 疾患やリスク因子とLDL-コレステロール値(LDL-C)からLDL-Cの治療目標値を設定し、治療する指針を示したATP IIIのガイドラインが、2013年に発表されたACC/AHAガイドラインによって大きく変えられた。 新しいガイドラインの内容は、すでに知られているようにAtherosclerotic Cardiovascular Disease(ASCVD)の2次予防、およびASCVDハイリスク患者の1次予防には、LDL-Cの値に関係なくスタチンを投与すべきであり、かつ、目標のLDL-C値は定めないという“Fire and Forget”の考えを示したものであった。心血管イベントの抑制効果が、すべてスタチンのエビデンスに基づくものであることから、スタチンがどの患者に適応するかという”スタチンガイドライン”ともいえる。 このガイドラインに沿ってスタチンを投与される患者数は、米国では4,300万例から5,600万例に増加する。では、本当にベネフィットがあるのか? このClinical Questionに答えを出すには時間がかかるが、現時点でフラミンガム研究に当てはめたとき、治療対象者をATP IIIから変更することで、どのようなベネフィットがあるかを推測した結果が発表された。ATP IIIとACC/AHA ガイドライン2013の治療対象群と非対象群を比較した場合、ACC/AHAガイドライン2013のほうで、より高率でイベントが発生していた。新しいガイドラインを用いることで、これまで治療対象でなかった患者群、とくに中程度から軽度のリスクのある患者で効果的にイベントを減少させることにつながる可能性が示された。 今後、これが臨床的に証明されれば、LDL-C低下効果に加え、Pleiotropic効果を持つスタチンの有用性が、さらに認知されることになるであろう。しかし、米国ほどイベントが多くないわが国で、このガイドラインを適応して効果があるか? わが国のガイドラインは、これまでの疫学データを基に絶対リスクの考えで治療を決定している。2次予防においては、スタチンガイドラインは必須であるが、1次予防にまで拡大するかは今後のわが国におけるエビデンスの集積の結果、判断されるべきである。また、ガイドライン後に“The Lower the better”を示すIMPROVE-ITの結果が発表されたこともあり、しばらくはわが国の動脈硬化治療ガイドラインに沿って、治療を確実に実践することが重要であろう。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症のコントロールと治療薬

土橋 卓也 氏製鉄記念八幡病院はじめに高尿酸血症は、痛風関節炎や痛風腎など尿酸塩沈着症としての病態とは別に高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム(MetS)、慢性腎臓病(CKD)などの生活習慣病と密接に関連することが明らかとなってきた。さらに最近の知見より、高尿酸血症が高血圧や糖尿病発症のリスクとなること、尿酸低下療法によって心血管イベントが抑制されることが報告されるようになった。本稿では、心血管疾患リスクとしての尿酸管理の意義と尿酸降下薬を用いた治療方針について概説する。1. 生活習慣病としての高尿酸血症の実態日本人における高尿酸血症の頻度に関して、尿酸値>7mg/dLで定義される高尿酸血症の頻度は、成人男性で21.5%、女性では50歳未満で1.3%、50歳以降で3.7%と報告されている1)。また、高尿酸血症は高血圧者に高頻度に合併することが知られている。われわれが調査した降圧薬服用者667名(平均年齢66.4歳)における高尿酸血症(尿酸値>7mg/dLまたは尿酸低下薬服用者)の頻度は男性で40.6%、女性で8.6%と男性で高頻度に認められ、特に使用降圧薬が3剤以上の者では37.3%と高頻度であった2)。この要因として、3剤以上の降圧薬を必要とする者は肥満やMetS、CKDなど高尿酸血症を合併する病態が多いこと、尿酸値を上昇させる利尿薬の使用頻度が高いことが挙げられる。すなわち、高尿酸血症は他の危険因子とともに心血管疾患リスクが重積した病態を形成することが多いことから、心血管疾患予防のためのtotal risk managementの一環として管理すべき疾患といえる。2. 高尿酸血症の治療(1) 治療方針日本痛風・核酸代謝学会による高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインが提唱する高尿酸血症の治療方針では、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えている場合、肥満の是正、飲酒制限、プリン体制限などの食事療法、運動など生活習慣修正を指導することが記載されている。痛風関節炎や痛風結節を認めず、高血圧、虚血性心疾患、糖尿病、MetS、CKDなどを合併する例においては、尿酸値が8mg/dL以上に上昇した場合、尿酸低下療法を考慮する。(2) 病型分類に基づく薬剤選択高尿酸血症は、その機序から産生過剰型と排泄低下型に病型分類される(本誌p.36図を参照)に示すように、病型分類を行うためには、尿酸産生量(尿中尿酸排泄量)と尿酸クリアランスを評価する必要がある3)。われわれが、高尿酸血症合併高血圧患者を対象として、24時間家庭蓄尿を用いて病型分類を行ったところ、MetS合併例を含め、約9割が排泄低下型であった4)。日常診療において24時間蓄尿や外来60分法による評価を行うのは困難である。われわれは、日常診療で使用可能な病型分類の指標として随時尿中尿酸/クレアチニン比(UA/Cr)を用いており、随時尿中UA/Crが0.5未満を示す場合、排泄低下型と判断してよいと考えている5)。(3) 尿酸降下薬の選択尿酸生成抑制薬のアロプリノールは尿酸産生過剰型に適した薬剤であり、尿路結石の既往など尿酸排泄促進薬が使用できない症例においても使用される。ただ、腎機能の低下に応じて使用量を減じる必要があり、クレアチニンクリアランス(Ccr)50mL/分以下では100mg/日、30mL/分以下では50mg/日とすべきである。最近発売されたフェブキソスタットやトピロキソスタットは、腎機能低下例においても用量調節が必要なく、使用しやすい薬剤といえる。前述のように高血圧合併高尿酸血症患者の病型はほとんど排泄低下型であることから、ベンズブロマロンなどURAT1阻害薬がより有用であることが多い。実際、アロプリノールを投与中の高血圧患者で随時尿中UA/Crが0.5未満を示し、排泄低下が疑われた15症例において薬剤を排泄促進薬のベンズブロマロンに切り替えたわれわれの検討では、随時尿中UA/Crは0.31から0.51へと有意に上昇し、血清尿酸値も7.3mg/dLから4.7mg/dLへと有意に低下した6)。ベンズブロマロン服用者(平均用量39mg/日)はアロプリノール服用者(平均用量106mg/日)に比し、血清尿酸値が低く(5.6±1.1 vs. 6.6±0.8mg/dL、p<0.01)ガイドラインが提唱する管理目標値≦6mg/dLの達成頻度も61.7%とアロプリノール服用者(18.2%)より高かった2)(本誌p.38図を参照)。これらの結果は、高血圧合併高尿酸血症の治療において尿酸排泄促進薬であるベンズブロマロンがより有用であることを示唆している。ただベンズブロマロンは尿酸排泄量が増加し、尿路結石のリスクが高くなるため、尿のアルカリ化が必要であること、腎機能低下例では作用が減弱するため、アロプリノールを使用するか、両者の少量併用を検討する必要があることに留意する。(4) 尿酸コントロールの目標高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインでは、尿酸降下薬による治療の目標値として血清尿酸値6.0mg/dL以下に維持することが望ましいとしている(本誌p.35図を参照)。確かに痛風患者の再発予防の観点からは6.0mg/dL以下にすることの根拠が示されているが7)、心血管疾患リスクとしての管理目標は明確でない。本態性高血圧患者を対象とした治療介入試験であるLIFE試験において、血清尿酸値は全体の平均5.6±1.3mg/dLからアテノロール群で0.8±1.2mg/dL、ロサルタン群で0.3±1.2mg/dL上昇しているが、6.0mg/dL前後であっても血清尿酸値上昇により心血管病発症リスクが増加することが示されており8)、高血圧患者における積極的な尿酸管理の重要性が示唆される。心臓手術を受けた高尿酸血症患者(血清尿酸値≧8mg/dL)141例を対象として、フェブキソスタット群とアロプリノール群に無作為に割り付け、血清尿酸値6.0mg/dL以下を目標として治療を行ったNU-FLASH試験における投与6か月後の血清尿酸値6.0mg/dL以下達成率は、フェブキソスタット群で95.8%と、アロプリノール群の69.6%に比し有意に高率であった9)。さらに、フェブキソスタット群では、投与1か月後からeGFRの有意な増加を認めている。このことは、血清尿酸値6.0mg/dL以下を目指した治療が腎機能保持の観点からも有用であることを示唆している。一方、尿酸は強力な抗酸化作用を有していることから、低値であることも心血管疾患リスクとなる報告が散見されており10)、“the lower, the better”とはいえない可能性がある。現時点では血清尿酸値4~6mg/dLが最もリスクの低い値と推測される。女性は血清尿酸値が男性に比し低値であるが、心血管疾患リスクとしての関与は男性より強いことが報告されていることから11, 12)、女性においてはより厳格なコントロールが望ましい可能性がある。おわりに高尿酸血症の心血管疾患リスクとしての意義を認識し、他のリスク因子とともに管理することが重要である。今後、心血管疾患リスクとしての高尿酸血症の治療開始基準および管理目標について検討する臨床試験が望まれる。文献1)冨田眞佐子ほか. 高尿酸血症は増加しているか?性差を中心に. 痛風と核酸代謝 2006; 30: 1-5.2)榊美奈子ほか. 降圧薬服用者における尿酸管理の現状. Gout and Nucleic Acid Metabolism 2013; 37:103-109.3)日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会. 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版, メディカルレビュー社,東京, 2010.4)宮田恵里ほか. 高血圧患者における高尿酸血症の実態と尿酸動態についての検討. 血圧 2008; 15: 890-891.5)大田祐子ほか. 高尿酸血症合併高血圧患者における高尿酸血症の慣習的病型分類の有用性について. 痛風と核酸代謝 2012; 36: 9-13.6)大田祐子ほか. 高尿酸血症合併高血圧患者におけるアロプリノールからベンズブロマロンへの変更の有用性. 血圧2008; 15: 910-912.7)Shoji A et al. A retrospective study of the relationship between serum urate level and recurrent attacks of gouty arthritis; Evidence for reduction of recurrent gouty arthritis with antihyperuricemic therapy. Arthritis Rheum 2004;51: 321-325.8)Hoieggen A et al. LIFE Study Group: The impact of serum uric acid on cardiovascular outcomes in the LIFE study. Kidney Int 2004; 65: 1041-1049.9)Sezai A et al. Comparison of febuxostat and allopurinol for hyperuricemia in cardiac surgery patients (NU-FLASH Trial). Circ J 2013; 77: 2043-2049.10)Verdecchia P et al. Relation between serum uric acid and risk of cardiovascular disease in essential hypertension ; PIUMA study. Hypertension 2000; 36: 1072-1078.11)Iseki K et al. Significance of hyperuricemia as a risk factor for developing ESRD in a screened cohort. Am J Kidney Dis 2004; 44: 642-650.12)Holme I et al. Uric acid and risk of myocardial infarction, stroke and congestive heart failure in 417,734 men and women in the Apolipoprotein MOrtality RISk study (AMORIS). J Intern Med 2009; 266: 558-570.

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ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

 ベンゾジアゼピン系薬およびZ薬(ゾピクロン、ゾルピデム、ゼレプロン)の長期使用例における投与中止戦略について、カナダ・ダルハウジー大学のAndre S. Pollmann氏らはscoping reviewを行って検討した。その結果、多様な戦略が試みられており、その1つに漸減があったがその方法も多様であり、「現時点では複数の方法を組み合わせて処方中止に持ち込むことが妥当である」と述べている。鎮静薬の長期使用が広く行われているが、これは転倒、認知障害、鎮静状態などの有害事象と有意に関連する。投与中止に伴いしばしば離脱症状が出現するなど、依存症の発現は重大な問題となりうることが指摘されていた。BMC Pharmacology Toxicology誌2015年7月4日号の掲載報告。 研究グループは、地域在住成人のベンゾジアゼピン系薬およびZ薬長期使用に対する投与中止戦略について、scoping reviewにより文献の位置付けと特徴を明らかにして今後の研究の可能性を探った。PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、TRIP、JBI Ovid のデータベースを用いて文献検索を行い、grey literatureについても調査を行った。選択文献は、地域在住成人におけるベンゾジアゼピン系薬あるいはZ薬の投与中止方法について言及しているものとした。 主な結果は以下のとおり。・重複を除外した後の文献2,797件について適格性を検証した。これらのうち367件が全文評価の対象となり、最終的に139件がレビューの対象となった。・74件(53%)がオリジナル研究で、その大半は無作為化対照試験であり( 52件[37%])、58件(42%)がnarrative review、7件(5%)がガイドラインであった。・オリジナル研究の中では、薬理学的戦略が最も多い介入研究であった( 42件[57%])、その他の投与中止戦略として、心理療法、(10件[14%])、混合介入(12件[16%])、その他(10件[14%])が採用されていた。・多くは行動変容介入が併用されており、その中には能力付与による可能化(enablement)(56件[76%])、教育(36件[47%])、訓練(29件[39%])などが含まれていた。・多くの研究、レビュー、ガイドラインに漸減という戦略が含まれていたが、その方法は多様であった。関連医療ニュース 長期ベンゾジアゼピンの使用は認知症発症と関係するか 抗精神病薬の単剤化は望ましいが、難しい メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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クリプトコッカス・ガッティにガチで気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。 本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」(まあ誰も呼んでないんですけどね)は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そしてときにまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。今回はクリプトコッカス・ガッティのガチな気を付け方について考えたいと思います。海外渡航歴がなくても感染する時代へ!そもそもガッティという名前を聞いたことのない方もいらっしゃるかと思います。クリプトコッカスといえばCryptococcus neoformansですよね。現に日本でみられるクリプトコッカス症のほとんどがCryptococcus neoformansによるものです。Cryptococcus gattii(C. gattii)は、1999年にカナダのブリティッシュコロンビア州で最初の感染事例が報告されました1)。この地域では、その後も200例以上の患者が報告されており、現在も流行地域となっております。また、アメリカ合衆国でカナダに接するワシントン州とその隣のオレゴン州でもC. gattii感染症が報告されています。しかし、これらの地域以外にも、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南アフリカ、オーストラリアで報告されています2)。C. gattii感染症は世界中でみられているのですッ!それでは日本ではどうなのかといいますと……けっして他人ごとではありませんッ!!これまで日本では、オーストラリアで感染したと考えられる事例が報告されていました3)。しかし近年、なんと海外渡航歴のないC. gattii感染症の事例が報告されているのですッ4, 5)!! テラヤバス!!今のところ報告数は限られているため、基本的に国内での感染はまれとは考えられますが、海外渡航歴がなくてもC. gattiiに感染しうるということは覚えておいても良いかもしれません。では、いったいどのようにしてC. gattiiに感染するのかが気になるところでありますが、今のところ木々などの環境中に存在するC. gattiiをヒトが肺に吸い込むことで、感染すると考えられています(図)。ですので、ヒト-ヒト感染はありません。クリプトコッカス・ガッティを疑ったらC. gattiiの臨床的特徴についてですが、やはり同じクリプトコッカスであるC. neoformans感染症と似た臨床像をつくります。発熱、悪寒、頭痛などがみられ、感染臓器は肺、脳、あるいはその両方であることが多いです。感染して発症するまでの期間は、まだよくわかっていません。C. gattiiに特徴的といえるのが、肺や脳に腫瘤をつくりやすい点です。これまでの日本での報告例もすべて脳内にクリプトコッカス腫(Cryptococcoma)がみられています。C. gattiiは、C. neoformansと比較して病原性が強いといわれていますが、実際にC. neoformans感染症よりも予後が悪いのかというと、まだ検証が十分ではありません。診断は、C. neoformansによるクリプトコッカス症と同様に、髄液培養や髄液中のクリプトコッカス抗原によりますが、クリプトコッカス抗原での診断ではクリプトコッカスであることはわかっても菌種まではわかりませんので、C. gattii感染症と診断するためには、培養で同定する必要があります。「これはただのクリプトコッカスじゃない……ガチ(C. gattii)なヤツだ!」と思ったら、積極的に培養検査で菌種を同定しにいきましょう! ちなみにC. gattiiの同定は簡単ではなく、L-canavanine glycine bromothymol blue(CGB)培地という特殊な培地や分子生物学的同定法が必要になります。「流行地域への渡航歴がある」「クリプトコッカス腫がある」などC. gattii感染症が疑わしいと思った場合は、まずは細菌検査技師さんに相談してみましょう。なお、治療は基本的には通常のクリプトコッカス症に準じるのが一般的です。これについては米国感染症学会(IDSA)のガイドライン6)などをご参考ください。さて、次回は今年も国内例が出るのか注目が集まる「デング熱」について取り上げたいと思います。締め切りに遅れまくっている私の原稿が先か、2015年度の国内例の初報告が先か、勝負であります!1)MacDougall L, et al. Emerg Infect Dis. 2007;13:42-50.2)Springer DJ,et al. Emerg Infect Dis. 2010;16:14-20.3)Tsunemi T,et al. Intern Med. 2001;40:1241-1244.4)Okamoto K, et al. Emerg Infect Dis. 2010;16:1155-1157.5)堀内一宏, ほか. 臨床神経. 2012;52:166-171.6)Perfect JR, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:291-322.

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抗精神病薬の治療域、若年者と高齢者の差はどの程度か

 高齢統合失調症(LLS)患者は抗精神病薬による有害反応の影響を受けやすく、治療ガイドラインでは抗精神病薬の低用量を推奨している。しかし、LLS患者における最適な投与量、それに関連するD2/3R占有率については研究がほとんど進んでいなかった。カナダ・Centre for Addiction and Mental HealthのGraff-Guerrero A氏らは、LLS患者における抗精神病薬減量後のドパミンD2/3受容体(D2/3R)占有率の変化と臨床効果、血中プロラクチンおよび抗精神病薬濃度などを評価した。その結果、臨床的安定と関連するD2/3R占有率の最低値は50%で、D2/3R占有率が60%を超えると錐体外路症状(EPS)が起こりやすいことを明らかにした。JAMA Psychiatry誌オンライン版2015年7月1日号の掲載報告。 研究グループは、LLS患者において抗精神病薬を減量した際の線条体ドパミンD2/3受容体占有率への影響、臨床的特徴、血中薬物動態の評価を目的に、非盲検単群前向き試験を行った。対象は大学附属の3次医療センターの外来診療患者で、追跡期間は3~6ヵ月(2007年1月10日~2013年10月21日)とした。被験者は臨床的安定が保たれているLLSの外来患者35例(年齢50歳以上で、オランザピンあるいはリスペリドンの単剤療法を6~12ヵ月間同量投与)で、追跡は2013年10月21日に完了し、2014年10月22日~2015年2月2日に解析を行った。 ベースライン時から最大40%漸減し、減量前後(減量後は最低3ヵ月経過)にC11標識ラクロプライドを用いたPET画像診断、臨床効果の測定、血中薬物動態測定を実施した。主要評価項目は、抗精神病薬による線条体ドパミンD2/3Rの占有率、臨床効果(陽性・陰性症状評価尺度、簡易精神症状評価尺度、Targeted Inventory on Problems in Schizophrenia、Simpson-Angus Scale、Barnesの薬原性アカシジア評価尺度、Udvalg for Kliniske Undersogelser Side Effect Rating Scale)、血中薬物動態(プロラクチンおよび抗精神病薬の血中濃度)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・減量後、全サンプルのドパミンD2/3R占有率は、平均6.2(SD 8.2)%減少した(70[12]%から64 [12]%へ、p<0.001)。・臨床的安定と関連するD2/3R占有率の最低値は50%であった。・D2/3R占有率が60%を超えるとEPSが起こりやすかった。・ベースライン時にEPSを認めた例の90.5%(21例中19例)、減量後にEPSを認めた例の76.9%(13例中10例)で、線条D2/3R占有率が60%を超えていた。・臨床的悪化を認める患者(5例)は臨床的安定を維持している患者( 29例)に比べ、ベースライン時のD2/3R占有率が低かった(58[15]% vs.72[10]%、p=0 .03)。・減量後、Targeted Inventory on Problems in Schizophreniaのスコアが上昇し(p=0.046)、陽性・陰性症状評価尺度(p=0.02)、簡易精神症状評価尺度(p=0.03)、Simpson-Angus Scale(p<0.001)、Barnesの薬原性アカシジア評価尺度(p=0.03)、Udvalg for Kliniske Undersogelser Side Effect Rating Scale(p<0.001)のスコア、プロラクチン(p<0.001)、抗精神病薬の血中濃度(オランザピン:p<0 .001、リスペリドン+metabolite 9-hydroxyrisperidone:p=0.02)のすべてにおいて低下を認めた。  結果を踏まえて、著者らは「LLS患者の抗精神病薬の治療域は50~60%であり、これまでに報告されていた若年者の65~80%よりも低いことが示された」と述べている。関連医療ニュース 抗精神病薬の単剤化は望ましいが、難しい 高齢統合失調症、遅発性ジスキネジアのリスク低 統合失調症のD2/3占有率治療域、高齢者は若年者よりも低値:慶應義塾大学  担当者へのご意見箱はこちら

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CVD予防のためのスタチン開始基準、費用対効果を検証/JAMA

 2013年11月、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)は、脂質異常症におけるスタチン治療の新ガイドラインを発表した。米国・ハーバード公衆衛生大学院のAnkur Pandya氏らは、心血管疾患(CVD)の1次予防における本ガイドラインの費用対効果プロフィールの検証を行った。新ガイドラインでは、LDLコレステロールの目標値を設定せず、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスク(≧7.5%)をスタチン治療導入の指標としているが、リスク判定に使用されるPooled Cohort Equationsは過大評価を引き起こす可能性があるため、実臨床で閾値の幅を広げた場合などに、不要な治療による甚大なコスト増大やスタチン誘発性糖尿病のリスク上昇の懸念があるという。JAMA誌2015年7月14日号掲載の報告。マイクロシミュレーション・モデルでQALYの増分コストを評価 研究グループは、米国人における10年ASCVDリスクの至適な閾値を確立するために、ACC/AHAガイドラインの費用対効果分析を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。ガイドラインの他の要素は、一切変更しないこととした。 仮想的な100万人の成人(40~75歳)の生涯健康アウトカムおよびCVD関連コストを予測するマイクロシミュレーション・モデルを開発した。モデルのパラメータのデータソースには、国民健康栄養調査(NHANES)、スタチンのベネフィットや治療に関する臨床試験およびメタ解析などが含まれた。 これらを用いて、ASCVDイベント(致死的/非致死的な心筋梗塞、狭心症、心停止、脳卒中)の予防効果および質調整生存年(QALY)の増分コストを算出した。費用対効果は許容範囲内、リスク閾値を広げても基準満たす ACC/AHAガイドラインの推奨閾値である10年ASCVDリスク≧7.5%では、成人の48%でスタチン治療が適切と判定され、10年ASCVDリスク≧10%と比較した1QALY当たりの増分費用対効果比(ICER)は3万7,000ドルであった。これは、一般に使用される費用対効果の閾値である5~10万ドル/QALYを下回っていた。 リスクの閾値をさらに緩めると、10年ASCVDリスク≧4.0%(成人の61%でスタチン治療が適切と判定)のICERは8万1,000ドル/QALY、≧3.0%(同67%)のICERは14万ドル/QALYであり、それぞれの費用対効果の閾値である10万ドル/QALYおよび15万ドル/QALYを満たしていた。 40~75歳の成人1億1,540万人において、10年ASCVDリスクの閾値を≧7.5%から≧3.0%へ転換すると、さらに16万1,560件のCVDイベントが回避されると推算された。また、これらの費用対効果の結果は、スタチンの毎日の服薬、価格、スタチン誘発性糖尿病のリスクに関連した効用値の損失(disutility)の変化に対し感受性を示した。 確率論的感度分析では、10年ASCVDリスクの至適な閾値が≦7.5%となる確率は、費用対効果の閾値が一般的に使用される10万ドル/QALYの場合は99%以上であり、5万ドル/QALYでは86%以上であった。また、費用対効果の閾値が10万ドル/QALYの場合に、10年ASCVDリスクの至適な閾値が≦5.0%となる確率は93%以上であった。 著者は、「ACC/AHAコレステロール治療ガイドラインで推奨されているスタチン治療導入の閾値である10年ASCVDリスク≧7.5%の費用対効果プロフィール(ICER:3万7,000ドル/QALY)は許容範囲内であったが、これを≧4.0%、≧3.0%に緩めても、費用対効果の閾値はそれぞれの基準値である10万ドル/QALYおよび15万ドル/QALYを満たし、毎日の服薬に関する患者の好みや価格の変動、糖尿病のリスクに感受性を示した」とまとめている。

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ACC/AHA2013のスタチン適格基準は適切か/JAMA

 ACC/AHAガイドライン2013では、脂質管理のスタチン治療対象について新たな適格基準が定められた。同基準について米国・マサチューセッツ総合病院のAmit Pursnani氏らは、コミュニティベースの1次予防コホート(フラミンガム心臓研究被験者)を対象に、既存のATP IIIガイドラインと比較して適切なスタチン使用をもたらしているかを検証した。その結果、新ガイドライン適用で、心血管疾患(CVD)や不顕性冠動脈疾患(CAD)のイベントリスク増大を、とくに中等度リスク者について、より正確かつ効果的に特定するようになったことを報告した。JAMA誌2015年7月14日号掲載の報告より。フラミンガム心臓研究の被験者2,435例を対象にATP IIIと比較検証 検討は、フラミンガム心臓研究の第2および第3世代コホートから被験者を抽出して行われた。スタチン治療未治療で、2002~2005年に冠動脈石灰化(CAC)について多列検出器CT(MDCT)検査を受け、CVD発症について中央値9.4年間追跡を受けた2,435例を対象とした。 スタチン治療の適格性について、フラミンガムリスク因子とATP IIIのLDL値に基づき定義する一方、プールコホート解析においてはACC/AHAガイドライン2013に準拠した。 主要アウトカムは、CVD(心筋梗塞、冠状動脈性心疾患[CHD]による死亡、虚血性脳卒中)の発症とし、副次アウトカムは、CHD、CAC(Agatstonスコアで評価)であった。治療適格者14%から39%に、CVDイベントリスク者3.1倍から6.8倍に 2,435例(平均年齢51.3[SD 8.6]歳、女性56%)において、ATP IIIによるスタチン治療適格者は14%(348/2,435例)であったのに対し、ACC/AHAガイドライン2013規定では39%(941/2,435例)であった(p<0.001)。 これら被験者のCVDイベント発生は74例(非致死的心筋梗塞40例、非致死的虚血性脳卒中31例、致死的CHDイベント3例)であった。 スタチン治療適格者の非適格者と比較したCVDイベント発生に関するハザード比は、ATP IIIを適用した場合(3.1、95%信頼区間[CI]:1.9~5.0、p<0.001)も、ACC/AHAガイドライン2013を適用した場合(6.8、同:3.8~11.9、p<0.001)もそれぞれ有意に高値であったが、ACC/AHAガイドライン2013を適用した場合のほうが有意に高値であった(p<0.001)。 同様の結果は、CHDに関する中等度のフラミンガムリスクスコアを有する被験者を対象とした、CVDイベント発生のハザード比に関する検討においてみられた。 ACC/AHAガイドライン2013ガイドライン適用による新たなスタチン治療適格者(593例[24%])のCVDイベント発生率は5.7%、治療必要数(NTT)は39~58例であった。 なお、CACを有する被験者において、ATP IIIよりもACC/AHAガイドライン2013を適用した場合にスタチン治療適格者となる傾向がみられた。CACスコア0超(1,015例)では63% vs.23%であったのに対し、100超(376例)では80% vs.32%、300超(186例)では85% vs.34%であった(すべてのp<0.001)。ACC/AHAガイドライン2013によるスタチン治療適格者でCACスコア0の低リスク群(306/941例[33%])のCVD発生率は1.6%であった。

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抗精神病薬の単剤化は望ましいが、難しい

 統合失調症治療において、抗精神病薬の多剤併用を支持するエビデンスはほとんどなく、また診療ガイドラインでこれを推奨していないにもかかわらず、広く普及したままである。米国・サウスフロリダ大学のRobert J Constantine氏らは、2種類の抗精神病薬による治療で安定している患者を対象に、1種類の抗精神病薬への切り替え効果を検討するため、無作為化比較試験を行った。Schizophrenia research誌2015年8月号の報告。 7つの地域精神保健センターからエントリーした、2種類の抗精神病薬での併用治療により安定している成人統合失調症外来患者104例を対象に、多剤併用療法を継続する群(多剤継続群)と抗精神病薬の単剤療法に切り替える群(単剤切り替え群)に無作為に割り付けた。60日ごとに症状と副作用の評価を行い、1年間追跡した(合計7回評価)。評価項目は、症状(PANSS、CGI)と副作用(EPS、代謝関連、その他)の時間経過における違いとし、各群への割り当てと時間を関数として、ITT分析を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・単剤切り替え群は、多剤継続群と比較し、症状の増加がより大きかった。・これらの違いは、試験開始6ヵ月目に出現した。・試験期間1年間における全原因中止率は、単剤切り替え群(42%)のほうが、多剤継続群(13%)と比較して高かった(p<0.01)。・副作用に関しては、多剤継続群においてSimpson Angus合計スコアが単剤切り替え群と比べて大幅に減少した以外では、いずれの時点においても単剤切り替え群と比較して差は認められなかった。 結果を踏まえ、著者らは「2種類の抗精神病薬で安定している慢性期統合失調症患者に対する単剤療法への切り替えには、注意が必要である。多剤併用の中止にあたっては、多剤併用療法に移行する前に単剤療法で効果不十分な患者を対象とした、エビデンスに基づく治療(たとえばクロザピンや持効性注射剤など)の適切な試験が行われるべきである」とまとめている。関連医療ニュース 難治例へのクロザピン vs 多剤併用 急性期統合失調症、2剤目は併用か 切り換えか:順天堂大学 抗精神病薬の変更は何週目が適切か  担当者へのご意見箱はこちら

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STAR AF II:持続性心房細動に対する左房内アブレーションは善か?悪か?(解説:矢崎 義直 氏)-388

 STAR AF IIは持続性心房細動に対し、肺静脈隔離のみ施行した群と、肺静脈隔離に加え左房の線状焼灼またはCFAEアブレーションを追加した群との治療効果を比較したtrialである。持続性心房細動のみを対象とし、無作為割り付けでアブレーション方法を比較した大規模臨床試験はまだ少なく注目を集めていたが、予想外の結果となった。 多くのガイドラインでは持続性心房細動は肺静脈隔離だけでは根治は困難であり、左房内の不整脈基質に対する追加アブレーションを推奨しているが、本試験において主要エンドポイントである平均18ヵ月間の洞調律維持効果は、追加焼灼群は肺静脈隔離のみの群に優らなかった。追加焼灼群では手技時間、透視時間ともに長くなり、本試験では1例ではあるが死亡例もあった。 この結果は、すべての持続性心房細動に追加焼灼が不要というメッセージではなく、個々の症例によって肺静脈隔離で十分か、それとも不整脈基質へのアブレーションも必要なのか、ターゲットを見極めてアブレーション方法を選択することが重要ということになる。本試験の対象は限定的であり、左房径5cm以上の症例や、3年以上持続した心房細動症例を除いているため、不整脈基質に対するアブレーションを本当に必要とする症例が除外された可能性はある。なお、肺静脈隔離の精度は洞調律維持に大きく寄与するため、そもそも2群間の再発例のうち、肺静脈の再伝導率に差がなかったかが重要なポイントである。このことは今回明記されておらず、今後、持続性心房細動治療に関するさらなるエビデンスの構築が必要である。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 高血圧とのかかわり

川添 晋 氏鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学はじめに高尿酸血症は、痛風関節炎や痛風腎など尿酸塩沈着症としての病態とは別に、心血管疾患のリスクになることが次々と報告され、メタボリックシンドロームの一翼としての尿酸の重要性が認識されるようになってきた。最近では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることや、尿酸低下療法によって心血管イベントが抑制される可能性を示唆する報告もなされている。本稿では、血圧上昇や高血圧性臓器合併症と尿酸との関連を疫学と機序の両面から概説するとともに、高血圧症を合併した高尿酸血症に対する薬物治療を行う際の注意すべき点について解説する。高尿酸血症と高血圧血圧上昇と血清尿酸値との疫学の歴史は意外に古い。1800年代後半には、痛風の家族歴を持つ高血圧患者が多いことや、低プリン食が高血圧と心血管病を予防することが報告されている。最近の報告では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることが国内外の疫学調査から明らかとなっている。米国における国民健康栄養調査にて、血清尿酸値が上昇するにつれて高血圧の有病率は上昇し、血清尿酸値6.0mg/dL以下では24.5%であるのに対して10.0mg/dLでは84.7%に高血圧が合併していた1)。わが国における調査でも、高血圧患者は男性で34.1%、女性で16.0%に高尿酸血症が合併していたと報告されている2)。高尿酸血症と高血圧発症に関する国内外11研究の成績をまとめたメタアナリシスでは、高尿酸血症患者における高血圧発症の相対リスクは1.41と有意に高く、1mg/dL の尿酸値の上昇により高血圧発症リスクは13%上昇するとの結果であった3)(本誌p.29図を参照)。尿酸値上昇自体が高血圧のリスクとなることが明確に示されたことになる。また小規模の研究ではあるが、アロプリノールによる尿酸降下療法にて24時間血圧が有意に下がるとの介入試験の結果も報告されている4)。尿酸が血圧を上昇させるメカニズムについてもさまざまな知見が得られている(本誌p.30図を参照)5)。尿酸によるNO(一酸化窒素)産生低下とレニン・アンジオテンシン系の産生亢進を伴った血管内皮機能低下に起因した腎血管収縮により血圧が上昇すると報告されている6, 7)。このタイプの高血圧は、食塩抵抗性で尿酸値を下げることにより降圧を認めることが特徴であるが6)、別のタイプもあることが推察されている。高尿酸血症は動脈硬化性変化による腎微小循環障害をきたし、塩分感受性で腎依存性、血清尿酸値非依存性の高血圧が形成される8)。微小循環の損傷に起因する病態においては、直接尿酸が血管平滑筋細胞に対して増殖反応を促し、レニン・アンジオテンシン系を賦活化し、CRPや単球走化性蛋白-1(MCP-1)といった炎症関連物質の産生を刺激することが報告されている9)。高血圧性臓器合併症と尿酸日本高血圧学会やヨーロッパ高血圧学会のガイドラインでは、高血圧性臓器合併症の有無でリスクの層別化を行うことを推奨している。Viazziらは、このような臓器合併症の重症度と血清尿酸値との関連性を横断研究にて検討している。これによると、ヨーロッパ高血圧学会のガイドラインに準拠した高血圧性臓器合併症が重症になるにしたがって、血清尿酸値が高値となっていくことが示されている。さらに古典的心血管危険因子で補正後も、心肥大や頸動脈不整の危険因子となることが示唆されている。またSystolic Hypertension in the Elderly Program(SHEP)10)やThe Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension(LIFE)11) といった大規模臨床試験のサブ解析において、血清尿酸値と心血管イベントの発症との間に関連があることが示されている。われわれは669名の本態性高血圧症を対象に前向きに検討を行い、尿酸値が心血管疾患と脳卒中の発症の予測因子となるかどうかの検討を行った12)。平均7.1年のフォローアップ期間に脳卒中71例、心血管疾患58例が発生し、64例が死亡した。生存曲線では、尿酸値が最も高かった群(8.0mg/dL以上)では有意に脳卒中と心血管疾患の発症が多く(p=0.0120)、死亡率も高かった(p=0.0021)。古典的な心血管疾患のリスク因子で補正した後も、血清尿酸値は心血管疾患(相対リスク1.30, p=0.0073)、脳卒中および心血管疾患(相対リスク1.19, p=0.0083)、死亡(相対リスク1.23, p=0.0353)、脳卒中および心血管疾患による死亡(相対リスク1.19, p=0.0083)の有意な予測因子であった(本誌p.31図を参照)。また、血清尿酸値が心血管疾患リスクに与える影響は、女性においてより強かった。しかしながら、大規模疫学調査のなかには、Framingham Heart研究13)やNIPPON DATA 8014)のように、他の心血管危険因子で補正を行うと血清尿酸値の心血管死に対する影響が減弱するか喪失すると結論づけている報告もいくつか認められる。また血清尿酸値と心血管疾患の間のJカーブ現象の報告もあり15)、この分野に関しては今後のさらなる検討が必要と考えられる。高血圧治療の最終的な目標は臓器合併症、すなわち心血管イベント発症や腎機能悪化に伴う透析などの回避であることはいうまでもない。臓器合併症予防のためには、蓄積されつつある知見を踏まえて、血圧のみならず血清尿酸値も含めた管理を行う必要がある。高血圧症例における高尿酸血症の管理高血圧患者における血清尿酸値上昇が腎障害や心血管事故発症と関連することから、日本痛風・核酸代謝学会による『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』16)に準じて、総合的なリスク回避をめざした6・7・8ルールに基づく尿酸管理が推奨されている(本誌p.32図を参照)。高尿酸血症を合併する高血圧では、血清尿酸値7mg/dL以上でエネルギー摂取制限、運動習慣、節酒等の生活指導を開始する。8mg/dL以上では、生活習慣の修正を行いながら尿酸降下薬の開始を考慮する。降圧療法中の血清尿酸値の目標は6mg/dL以下をめざす。この際、降圧剤が尿酸代謝に及ぼす影響も考慮することが望まれる(本誌p.32図を参照)。サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬は高尿酸血症を増長し、痛風を誘発することがあるため注意が必要である。Ca拮抗薬とロサルタンは高血圧患者の痛風発症リスクを減少させることが知られている17)。大量のβ遮断薬およびαβ遮断薬の投与は血中尿酸値を上昇させる。ACE阻害薬、Ca拮抗薬、α遮断薬は血清尿酸値を低下させるという報告と、影響を与えないとする報告がある。ARBの1つであるロサルタンは、腎尿細管に存在するURAT1の作用を阻害することによって血中尿酸値を平均0.7mg/dL低下させる18, 19)。重症高血圧患者におけるβ遮断薬のアテノロールに対するロサルタンの標的臓器保護作用の有意性を示したLIFEでは、ロサルタンの降圧を超えた臓器保護作用のうち29%は尿酸値の改善によることが示唆されている11)。最近使用頻度が増えているARB/利尿薬合剤には、ヒドロクロロチアジド6.25mgまたは12.5mgが使用されているが、尿酸管理の観点からはより低用量の製剤を使用するか、尿酸排泄増加作用を有するARBであるロサルタンを含む合剤の使用が望ましい。高血圧合併高尿酸血症患者の病型は排泄低下型が多いことから、ベンズブロマロンなどURAT1阻害薬が有用であることが多い。キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールは、これまで唯一の尿酸生成抑制薬として40年間にわたり全世界で用いられてきた。しかしアロプリノールの活性代謝産物であるオキシプリノールは腎排泄性であり、血中半減期が長く体内に蓄積しやすいため、腎機能障害ではオキシプリノールの血中濃度が上昇し20)、汎血球減少症などの重篤な副作用の出現に関係するとされる。高血圧患者には腎機能低下を合併する症例が多いためアロプリノール使用に関してはこの点に注意が必要である。本邦において2011年から臨床使用可能となったフェブキソスタットは、肝腎排泄型であるため腎機能障害者においても用量調節が不要であるとされている。おわりに高尿酸血症が高血圧発症や心血管疾患のリスク因子であるというエビデンスが蓄積されてきている。高血圧診療の場では、糖尿病や脂質異常症などの既知のリスクに加えて、尿酸値も意識して総合的な管理を行うことが求められている。文献1)Choi HK et al. Prevalence of the metabolic syndrome in individuals with hyperuricemia. Am J Med 2007; 120: 442-447.2)宮田恵里ほか. 高血圧患者における高尿酸血症の実態と尿酸動態についての検討. 血圧 2008; 15: 890-891.3)Grayson PC et al. Hyperuricemia and incident hypertension: a systematic review and meta-analysis. Arthritis Care Res 2011; 63: 102-110.4)Feig DI et al. Effect of allopurinol on blood pressure of adolescents with newly diagnosed essential hypertension: a randomized trial. JAMA 2008; 300: 924-932.5)大野岩男. 高血圧のリスクファクターとしての尿酸. 高尿酸血症と痛風 2010; 18: 31-37.6)Mazzali M et al. Elevated uric acid increases blood pressure in the rat by a novel crystal-independent mechanism. Hypertension 2001; 38:1101-1106.7)Sanches-Lozada LG et al. Mild hyperuricemia induces vasoconstriction and maintains glomerular hypertension in normal and remnant kidney rats. Kidney Int 2005; 67: 237-247.8)Watanabe S et al. Uric acid, hominoid evolution,and the pathogenesis of salt-sensitivity. Hypertension 2002; 40: 355-360.9)Johnson RJ et al. A unifying pathway for essential hypertension. Am J Hypertens 2005; 18: 431-440.10)Franse LV et al. Serum uric acid, diuretic treatment and risk of cardiovascular events in the Systolic Hypertension in the Elderly Program (SHEP). J Hypertens 2000; 18: 1149-1154.11)Hoieggen A et al. The impact of serum uric acid on cardiovascular outcomes in the LIFE study. Kidney Int 2004; 65: 1041-1049.12)Kawai T et al. Serum uric acid is an independent risk factor for cardiovascular disease and mortality in hypertensive patients. Hypertens Res 2012: 35: 1087-1092.13)Culleton BF et al. Serum uric acid and risk for cardiovascular disease and death : the Framingham Heart Study. Ann Intern Med 1999;131: 7-13.14)Sakata K et al. Absence of an association between serum uric acid and mortality from cardiovascular disease: NIPPON DATA 80, 1980-1994 . National Integrated Projects for Prospective Observation of Non-communicable Diseases and its Trend in the Aged. Eur J Epidemiol 2001; 17: 461-468.15)Mazza A et al. Serum uric acid shows a J-shaped trend with coronary mortality in non-insulin-dependent diabetic elderly people. The CArdiovascular STudy in the ELderly(CASTEL). Acta Diabetol 2007; 44: 99-105.16)日本痛風・核酸代謝学会. ガイドライン改訂委員会. 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版. メディカルレビュー社, 東京, 2010.17)Choi HK et al. Antihypertensive drugs and risk of incident gout among patients with hypertension:population based case-control study. BMJ 2012;344: d8190.18)Iwanaga T et al. Concentration-dependent mode of interaction of angiotensin II receptor blockers with uric acid transporter. J Pharmacol Exp Ther 2007; 320: 211-217.19)Enomoto A et al. Molecular identification of a renal urate anion exchanger that regulates blood urate levels. Nature 2002; 417: 447-452.20)佐治正勝. アロプリノール服用患者における血中オキシプリノール濃度と腎機能. 日腎会誌 1996; 38: 640-650.

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経口抗精神病薬とLAI併用の実態調査

 統合失調症患者における持効性注射剤(LAI)と経口薬の同時処方の頻度および期間について、米国・ペンシルベニア大学のJalpa A Doshi氏らが調査を行った。診療ガイドライン推奨のLAI治療は、一般的にはアドヒアランス不良の患者に対するモノセラピー選択肢と見なされている。LAI治療を受けている患者の、経口抗精神病薬の同時処方の割合や経過に関するデータは限定的であった。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2015年8月号の掲載報告。 研究グループは、医療費請求データベースに基づく観察的研究により、LAI治療を受けているメディケイド受給患者340例について、経口薬の同時処方の頻度および期間を調べた。具体的には、統合失調症患者で、直近にアドヒアランス不良および入院の既往がある患者について調べた。調査には、第1世代の抗精神病薬デポ製剤(フルフェナジンデカン酸エステル、ハロペリドールデカン酸エステル)と、最新の使用可能な注射剤(LAIリスペリドン、パリペリドンパルミチン酸エステル)の両方を含んだ。 主な結果は以下のとおり。・LAI治療を開始した全患者のうち、75.9%が退院後6ヵ月の間に経口抗精神病薬の同時処方を受けていた。・同時処方を受けていた患者は、LAI薬と同一の経口薬を処方されている頻度が高かった。一方で、第1世代のLAI使用者の多くが、第2世代の経口薬を同時処方されていた。・同時処方率が最も低かったのは、パリペリドンパルミチン酸エステルの処方群であった(58.8%)。一方で最も高かったのは、LAIリスペリドンの処方群であった(88.9%)。・経口薬とLAI処方の重複は、概して期間が長期(30日超など)になると発生しており、またLAIにより重複が生じている日の割合が顕著(50%超)であった。 これらの結果を受けて著者らは、「さらなる研究でそのような処方がなされた理由を調べ、また日常診療におけるさまざまな抗精神病薬治療の至適な役割を、明らかにする必要があることが強調された」とまとめている。関連医療ニュース 初回エピソード統合失調症、LAIは経口薬より優る 統合失調症、デポ剤と抗精神病薬併用による効果はどの程度 アリピプラゾール持続性注射剤の評価は:東京女子医大  担当者へのご意見箱はこちら

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