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2081.

リラグルチドはインクレチン関連薬のLEADERとなりうるか?(解説:住谷 哲 氏)-564

 インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)は、血糖依存性インスリン分泌作用を有することから低血糖の少ない血糖降下薬と位置付けられ、とくにDPP-4阻害薬は経口薬であることから、わが国で多用されている。心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する安全性を確認する目的でこれまでに報告されたCVOTs(CardioVascular Outcomes Trials)は、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME試験を除くと、SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)、EXAMINE(アログリプチン)、TECOS(シタグリプチン)、ELIXA(リキシセナチド)とも、すべてインクレチン関連薬を用いた試験であった。しかし、これら4試験においてはプラセボに対する有益性を示すことができず、インクレチン関連薬は2型糖尿病患者の心血管イベントを減らすことはできないだろうと考えられていた時に、今回のLEADER試験が発表された。  その結果は、リラグルチド投与量の中央値1.78mg/日(わが国の投与量の上限は0.9mg/日)、観察期間3年において、主要評価項目である心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる3-point MACEが、リラグルチド投与により13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.78~0.97、p=0.01)、さらに全死亡も15%減少する(同:0.85、0.74~0.97、p=0.02)との結果であった。 主要評価項目を個別にみると、有意な減少を示したのは心血管死(HR:0.78、95%CI:0.66~0.93、p=0.007)のみであり、非致死性心筋梗塞(0.88、0.75~1.03、p=0.11)、非致死性脳卒中(0.89、0.72~1.11、p=0.30)には有意な減少が認められなかった。3-point MACEの中で心血管死のみが有意な減少を示した点は、SGLT2阻害薬を用いたEMPA-REG OUTCOME試験と同様である。 この結果は、心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する包括的心血管リスクの減少を目指した現時点での標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)により、非致死性心筋梗塞・脳卒中の発症がほぼ限界まで抑制されている可能性を示唆している。したがって、本試験の結果もEMPA-REG OUTCOME試験と同じく、リラグルチドの標準的治療への上乗せの効果であることを再認識しておく必要がある。 ADA/EASD2015年高血糖管理ガイドライン1)では、メトホルミンへの追加薬剤としてSU薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、基礎インスリンの6種類を横並びに提示してある。どの薬剤を選択するかの判断基準として提示されているのは、有効性(HbA1c低下作用)、低血糖リスク、体重への影響、副作用、費用であり、アウトカムに基づいた判断基準は含まれていない。今後も多くのCVOTsの結果が発表される予定であるが2)、将来的にはガイドラインにもアウトカムに基づいた判断基準が含まれることになるのだろうか? ここで、CVOTsから得られるエビデンスについて、あらためて考えてみよう。本来CVOTsは、新規血糖降下薬が心血管イベントのリスクを、既存の標準的治療に比べて増加しないことを確認するための試験である。そこで、新規血糖降下薬が有する可能性のある血糖降下作用以外のリスクを検出するために、新規血糖降下薬群とプラセボ群とがほぼ同等の血糖コントロール状態になるよう最初からデザインされている。つまり、血糖降下薬に関する試験でありながら、得られた結果は血糖降下作用とは無関係であるという、ある意味矛盾した試験デザインとなっている。さらに、対象には心血管イベントをすでに発症した、または発症のリスクがきわめて高い患者、かつ糖尿病罹病歴の長い患者が含まれることになる。したがってCVOTsで得られたエビデンスは、厳密には糖尿病罹病歴の長い2次予防患者にのみ適用されるエビデンスといってよい。 一方、ADA/EASDをはじめとした各種ガイドラインは、初回治療initial therapyを示したものであり、その対象患者はCVOTsが対象とする患者とは大きく異なっている。したがって、ここではEBMに内包されている外的妥当性 external validity(一般化可能性 generalizability)の問題を避けて通れないことになる。換言すれば、糖尿病罹病歴の長い2次予防患者で得られたCVOTsのエビデンスを、ガイドラインが対象とする初回治療患者に適用できるのだろうか?教科書的には2次予防のエビデンスと1次予防のエビデンスははっきり区別しなければならない。つまり、CVOTsで得られたエビデンスは、厳密には1次予防には適用できないことになる。しかし、2次予防のエビデンスのない薬剤と2次予防のエビデンスのある薬剤との、二者のいずれかを選択しなくてはならない場合には、眼前の患者におけるリスクとベネフィットを十分に考慮したうえで、2次予防のエビデンスのある薬剤を選択するのは妥当と思われる。この点でリラグルチドは、インクレチン関連薬のLEADERとしての資格はあるだろう。ただし、部下の標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)に支えられてのLEADERであるのを忘れてはならない。 ADA/EASDのガイドラインには、治療にかかる費用も薬剤選択判断基準の1つに含まれている。本試験における全死亡のNNTは3年間で98であり、0.9mg/日の投与で同様の結果が得られると仮定すると(大きな仮定かもしれない)、薬剤費のみで約5,500万円の医療費を3年間に使用することで、1人の死亡が防げる計算になる。これが、高いか安いかの判断は筆者にはつきかねるが、この点も患者とのshared decision makingには必要な情報であろう。

2082.

入院中の心房細動発症、脳卒中と死亡リスクが増大

 入院中に心房細動を新規発症した患者の転帰は明らかにされておらず、同患者集団のマネジメントについて現行ガイドラインは特記していない。米国・アルベルト・アインシュタイン医学校のDaniele Massera氏らは、入院中に心房細動を新規発症した患者の大規模コホートを対象に、死亡および院内発症脳卒中の発症率を検討した。その結果、入院患者における心房細動の新規発症が、脳卒中の院内発症率と死亡率の増加に独立して関連していることを示した。Europace誌オンライン版2016年5月20日号掲載の報告。 対象は、2005年4月20日~2011年12月31日に3次大学医療センターに入院した50歳以上の患者8万4,919例。患者を「心房細動を新規発症」「心房細動の既往あり」「心房細動なし」にカテゴリ化し、人口統計学的変数を比較した。一般化推定方程式(GEE)によるアウトカム比較には、傾向スコアマッチ解析を用いた。主要エンドポイントは30日および1年の全死亡、ならびに院内発症脳卒中だった。入院患者のうち1,749例(2.1%)が新規に心房細動を発症した。 主な結果は以下のとおり。・入院中に新規発症した心房細動患者の30日および1年の全死亡率は、心房細動のない患者よりも高かった(30日時点:OR 2.28、95%CI:1.72~3.02、p<0.0001;1年時点:RR 1.53、95%CI:1.36~1.73、p<0.0001)。また、心房細動の既往のある患者と比較したところ、30日死亡率は高かったが(OR 1.52、95%CI:1.06~2.17、p=0.02)、1年時点ではこの傾向は有意ではなくなった(RR 1.14、95%CI:0.98~1.34、p=0.09)。・新規発症の心房細動患者における院内発症脳卒中リスクは、心房細動のない患者よりも高かった(OR 4.53、95%CI:1.36~15.11、p=0.02)。・新規発症の心房細動患者において、CHA2DS2-VAScスコアは脳卒中の院内発症率と相関していた。

2083.

wide QRS頻拍への対応、プロカインアミド vs. アミオダロン

 血行動態が保たれた心室頻拍の患者に対してはプロカインアミドとアミオダロンの静脈注射が選択肢となるが、どちらを使用するかについてはガイドラインでさえも明示していない。Mercedes Ortiz氏らは、血行動態の保たれたQRS幅が広い頻拍(心室頻拍の可能性が高い)に対するプロカインアミドおよびアミオダロンの有効性と安全性を評価するために、多施設共同無作為化非盲検試験を実施した。スペインからの報告で、European Heart Journal誌オンライン版2016年6月28日号に掲載された。74例のregular wide QRS頻拍の患者を無作為化 以下の基準を満たす74例が試験の対象となった: QRS幅が120ms以上、120拍/分以上の規則正しい頻拍、血行動態が保たれている、収縮期血圧が90mmHg以上、安静時の息切れや胸痛がない、末梢の循環不全の症状を伴わない。 試験期間は40分間で、プロカインアミド(10mg/kg)もしくはアミオダロン(5mg/kg)を20分間かけて静注し、さらに20分間で効果と安全性を検討した。試験終了後24時間、患者を観察した。 主要評価項目は重大な心臓に関する副作用の発生。副次評価項目は両薬剤の頻拍の急性停止に対する有効性と全観察期間の副作用の発生。プロカインアミド群、心関連副作用が少なく急性停止にもより有効 分析の対象となった62例のうち(12例は除外)、15例(24%)に重大な心臓に関する副作用が発生し、プロカインアミド群(33例中3例、9%)がアミオダロン群(29例中12例、41%)と比べて有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.1、95%CI:0.03~0.6、p=0.006)。深刻な血圧の低下のために電気的除細動を必要としたというのが、最も多い心臓に関する副作用であった。40分以内の頻拍の停止はプロカインアミド群(67%)がアミオダロン群(38%)より有意に多かった(OR:3.3、95%CI:1.2~9.3、p=0.026)。構造的心疾患を有する49例でも、プロカインアミド群で心臓に関する副作用は少なかった(11% vs.43%、95%CI:0.04~0.73、p=0.017)。 報告者らは、プロカインアミドの静注は40分以内の急性停止でアミオダロン群より重大な心関連副作用が少なく、有効性も高かったと結論付けている。患者の登録がうまく進まず、26施設で6年かけて実施したが、最終的には登録が遅れ試験を中止し、解析を行ったとしている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

2084.

混合性結合組織病〔MCTD : mixed connective tissue disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義混合性結合組織病(mixed connective tissue disease: MCTD)は、1972年にGC Sharpが提唱した疾患概念である。膠原病の中で2つ以上の疾患の特徴を併せ持ち(混合性)、しかも抗U1-RNP抗体と呼ばれる自己抗体が陽性となるものである。これは治療反応性がよく、予後も良好であったことから独立疾患として提唱された。その後、この疾患の独立性に疑問がもたれ、とくに欧米では全身性エリテマトーデスの亜型、あるいは強皮症の亜型と考えられ、英語文献でもあまりみられなくなった。しかし後述するように、高率に肺高血圧症を合併することや膠原病の単なる重複あるいは混合のみからは把握できないような特異症状の存在が明らかとなってきたことから、その疾患独立性が欧米でも再認識されている。■ 疫学本症は厚生労働省の指定難病に認定されており、その個人調査票を基にした調査では平成22年だけでおよそ9,000名の登録が確認されている。性別では女/男比で15/1と圧倒的に女性に多く、年齢分布では40代にもっとも多く、平均年齢は45歳である。また、推定発症年齢は30代が多く、平均年齢は36歳である。■ 病因本症の病因は他の膠原病と同様、不明である。全身性自己免疫疾患の1つであり、疾患に特徴的な免疫異常は抗U1-RNP抗体である。本抗体を産生するモデル動物も作成されており、関与する免疫細胞や環境因子について研究が進められている。■ 症状1)共通症状レイノー現象が必発である。また手指や手背部の浮腫傾向がみられ、「ソーセージ様手指」「指または手背の腫脹」が持続的にみられる。これらの症状は、多くの例で初発症状となっている。なお手指や手背部の浮腫傾向は強皮症でも初期にみられるが、強皮症ではすぐに硬化期に入り持続しない。2)混合所見全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎の3疾患にみられる臨床症状あるいは検査所見が混在してみられる。しかもそれぞれの膠原病の完全な重複ではなく、むしろ不完全な重複所見がみられることが多い。混合所見の中で頻度の高いものは、多発関節痛、白血球減少、手指に限局した皮膚硬化、筋力低下、筋電図における筋原性異常所見、肺機能障害などである。3)肺高血圧症肺高血圧症は一般人口では100万人中5~10人程度と非常にまれな疾患であり、しかも予後不良の疾患である。このまれな疾患がMCTDでは5~10%と一般人口の1万倍も高率にみられ、さらに本症の主要な死因となっていることから重要な特異症状として位置付けられている。大部分の症例では肺動脈そのものに病変がある肺動脈性の肺高血圧症である。心エコー検査などのスクリーニング検査やその他の画像・生理検査などが重要であるが、確定診断には右心カテーテル検査が必要である。4)その他の特徴的症状肺高血圧症以外にもMCTDに比較的特徴的な症状がある。三叉神経II枝、III枝の障害による顔面のしびれ感を主体とした症状は、MCTDの約10%にみられる。レイノー現象と同じく、神経の血流障害と推測されている。また、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬による無菌性髄膜炎が、本症の約10%にみられる。MCTDあるいは抗U1-RNP抗体陽性患者では、この薬剤性髄膜炎に留意が必要である。5)免疫学的所見抗U1-RNP抗体が陽性である。間接蛍光抗体法による抗核抗体では斑紋型を示す。抗Sm抗体や抗Jo-1抗体、抗トポイソメラーゼ1抗体など他の膠原病の疾患特異的自己抗体が出現しているときには、本症の診断は慎重にすべきである。6)合併症上記以外にシェーグレン症候群(25%)、橋本甲状腺炎(10%)などがある。■ 予後当初は、治療反応性や予後のよい疾患群として提唱されてきた。確かに発病からの5年生存率は96.9%、初診時からの5年生存率は94.2%と高い。しかし、死亡者の死因を検討すると、肺高血圧症、呼吸不全、心不全など心肺系の死因が全体の60%を占めている。とくに肺高血圧症は、一般人口にみられる特発性肺高血圧症よりもさらに予後不良であり、その治療の進歩が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)わが国では1982年に厚生省の特定疾患に指定され調査研究班が結成されて以来、研究が続けられ、1993年には特定疾患治療研究対象疾患に指定された。1988年に「疫学調査のための診断の手引き」が作成され、何度か改訂されてきた。わが国の診断基準は国際的にも評価されていて、最も普遍的なものである。2004年の改訂では、共通所見に肺高血圧症が加えられ、中核所見と名称が変更された。この3所見のうち1所見以上の陽性と抗U1-RNP抗体陽性が必須であり、さらに混合所見の中で3疾患のうち2疾患以上の項目を併せ持てばMCTDと診断する(表1)。たとえば混合所見で多発関節炎とCK高値があれば、前者が全身性エリテマトーデス様所見、後者が多発性筋炎様所見として満たすこととなる。表1 MCTD診断の手引き(2004年度改訂版)■MCTDの概念全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などにみられる症状や所見が混在し、血清中に抗U1-RNP抗体がみられる疾患である。I.中核所見1.レイノー現象2.指ないし手背の腫脹3.肺高血圧症II.免疫学的所見抗U1-RNP抗体陽性III.混合所見A.全身性エリテマトーデス様所見1.多発関節炎2.リンパ節腫脹3.顔面紅斑4.心膜炎または胸膜炎5.白血球減少(4,000/μL以下)または血小板減少(10万/μL以下)B.強皮症様所見1.手指に限局した皮膚硬化2.肺線維症、肺拘束性換気障害(%VC:80%以下)または肺拡散能低下(%DLCO:70%以下)3.食道蠕動低下または拡張C.多発性筋炎様所見1.筋力低下2.筋原性酵素(CK)上昇3.筋電図における筋原性異常所見■診断1.Iの1所見以上が陽性2.IIの所見が陽性3.IIIのA、B、C項のうち、2項目以上につき、それぞれ1所見以上が陽性以上の3項目を満たす場合をMCTDと診断する。■付記抗U1-RNP抗体の検出は二重免疫拡散法あるいは酵素免疫測定法(ELISA)のいずれでもよい。ただし二重免疫拡散法が陽性でELISAの結果と一致しない場合には、二重免疫拡散法を優先する。(近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.)また、肺高血圧症については、予後不良であり早期発見、早期治療が必要なこともあり、その診断にはとくに継続的な注意が必要である。確定診断には、右心カテーテル検査が必要であるが、侵襲的検査であり、専門医の存在が必要なため、スクリーニング検査として心臓超音波検査が重要である。これを基にした「MCTD肺高血圧症診断の手引き」(図1)が作成されており、肺高血圧症を疑う臨床所見や検査所見がある場合には、早急に心臓超音波検査をすべきである。画像を拡大する<脚注>1)MCTD患者では肺高血圧症を示唆する臨床所見、検査所見がなくても、心臓超音波検査を行うことが望ましい。2)右房圧は5mmHgと仮定。3)推定肺動脈収縮期圧以外の肺高血圧症を示唆するパラメーターである肺動脈弁逆流速度の上昇、肺動脈への右室駆出時間の短縮、右心系の径の増大、心室中隔の形状および機能の異常、右室肥厚の増加、主肺動脈の拡張を認める場合には、推定肺動脈収縮期圧が36mmHg以下であっても少なくとも1年以内に再評価することが望ましい。4)右心カテーテル検査が施行できない場合には慎重に経過観察し、治療を行わない場合でも3ヵ月後に心臓超音波検査を行い再評価する。3)肺高血圧症の臨床分類、重症度評価のため、治療開始前に右心カテーテル検査を施行することが望ましい。(吉田 俊治ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成22年度研究報告書:2011.7-13.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 総論本症は自己免疫疾患であり、抗炎症薬と免疫抑制療法が治療の中心となる。非ステロイド性抗炎症薬もしばしば用いられるが、前述のごとく、時に無菌性髄膜炎が誘発されるので、その使用には慎重な配慮が必要である。急性期には、多くの場合で副腎皮質ステロイド薬が治療の中心となる。他の膠原病と同様、臓器障害の種類と程度により必要なステロイド量が決定される(表2)。表2 臓器障害別の重症度分類a)軽症レイノー現象、指ないし手の腫脹、紅斑、手指に限局する皮膚硬化、非破壊性関節炎b)中等症発熱、リンパ節腫脹、筋炎、食道運動機能障害、漿膜炎、腎障害、皮膚血管炎、皮膚潰瘍、手指末端部壊死、肺線維症、末梢神経障害、骨破壊性関節炎c)重症中枢神経症状、無菌性髄膜炎、肺高血圧症、急速進行性間質性肺炎、進行した肺線維症、重度の血小板減少、溶血性貧血、腸管機能不全(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)前表のように、中枢神経障害、急速に進行する肺症状・腎症状、血小板減少症を除いて大量のステロイドを必要とすることは比較的少ない。ただ、ステロイドを長期に使用することが多いため、骨粗鬆症や糖尿病、感染症の誘発などの副作用には留意が必要である。■ 肺高血圧症MCTDの生命予後を規定する肺高血圧症(PH)については、病態からみて肺動脈性のもの以外に間質性肺炎によるもの、慢性肺血栓塞栓症によるもの、心筋炎など心筋疾患によるものなどがあり、これらは治療方法も異なるため、右心カテーテル検査などで厳密に識別する必要がある。もっとも頻度の高い肺動脈性肺高血圧症については、しばしば大量ステロイド薬や免疫抑制薬が奏効するため、これらの薬剤の適応を検討すべきである。また、通常の特発性肺動脈性肺高血圧症に用いられる血管拡張薬も有用性が確認されているため、プロスタサイクリン系薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬を併用して用いる(図2)。画像を拡大する<脚注>*ETR拮抗薬エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン、ボセンタン)**PDE5阻害薬ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)その後、マシテンタン(ETR拮抗薬)、リオシグアート(可溶性グアニルシクラーゼ刺激薬)なども使用できるようになっており、治療の幅が広がっている。これらは肺血管拡張作用に加えて肺動脈内皮細胞の増殖抑制作用も期待されている。ただ、肺血管のリモデリングが進行した場合や強皮症的要素の強い場合、これらの薬剤はしばしば無効であり、心不全のコントロールなども重要になるため、循環器内科などと共同して治療に当たることが必要になる。4 今後の展望遺伝子多型の検討やゲノムワイド関連解析によって、MCTDやMCTD合併肺高血圧症になりやすい危険因子が解明されつつある。これにより、さらに精度が高くこれらの診断を早期に行えることが期待される。また、予後に大きな影響を与える肺高血圧症に関する薬剤が少なからず開発されつつある。これらの出現により一段とMCTD合併肺高血圧症の治療成績が上昇する可能性がある。5 主たる診療科リウマチ膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 混合性結合組織病(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病全般について、その患者と家族向け)1)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.2)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2011.7-13.3)三森 経世編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.7-13.公開履歴初回2014年10月07日更新2016年07月05日

2085.

安定冠動脈疾患への長期DAPTの有益性・有害性/BMJ

 安定冠動脈疾患への2剤併用抗血小板療法(DAPT)の長期治療について、有益性と有害性を明らかにするCALIBER抽出患者(任意抽出集団;リアルワールド) vs.PEGASUS-TIMI-54試験の被験者(急性心筋梗塞後1~3年の患者が登録;試験集団)の検討が、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのA Timmis氏らにより行われた。結果、リアルワールドで試験集団の包含・除外基準を満たした患者は4分の1で、同集団の発症後1~3年の再発リスクは約19%であったこと、リスクは試験集団よりも倍増してみられたこと、脳卒中既往歴なしや直近の抗凝固療法歴のないハイリスク患者で、1年超のDAPTの有益性は大きくなる可能性が示唆されたという。急性心筋梗塞後の2次予防として、生涯にわたる複数併用の薬物療法が推奨されるが、最近の検討を踏まえDAPTは1年までとする勧告が直近のガイドラインで示されていた。BMJ誌オンライン版2016年6月22日号掲載の報告。CALIBER抽出患者 vs. PEGASUS-TIMI-54試験の被験者 研究グループは、試験集団のハイリスク集団でみられる急性心筋梗塞(AMI)後のDAPTの長期有益性と有害性について、リアルワールドでの大きさを推算する住民ベースの観察コホート試験を行った。CALIBER(ClinicAl research using LInked Bespoke studies and Electronic health Records)は英国プライマリケアの電子医療記録を結ぶデータベース。PEGASUS-TIMI-54試験にはAMI後1~3年の患者が登録され、ticagrelor60mg+アスピリンはアスピリン単独と比べて、心血管死、心筋梗塞、脳卒中のリスクを16%抑制する一方、大出血リスクを2.4倍増大することが示されていた。 CALIBER(2005年4月~10年3月)からAMI後生存患者を抽出(リアルワールド集団、7,238例)、そのうちPEGASUS-TIMI-54試験を満たす患者を特定し(ハイリスク集団、5,279例)、さらに試験除外基準を適用して患者を抽出し(ターゲット集団、1,676例)、PEGASUS-TIMI-54試験プラセボ群(アスピリン単独群、7,067例)と比較検討した。主要評価項目は、AMIの再発・脳卒中・致死的心血管疾患の発生(有益性エンドポイント)、致死的・重度または頭蓋内の出血(有害性エンドポイント)とした。 発症後1年を起点とした追跡期間は、中央値1.5年(範囲:0.7~2.5)であった。リアルワールドでは有益性、有害性ともに試験集団よりも大きいことが判明 リアルワールドにおける試験の包含・除外基準を満たしたターゲット集団の割合は、23.1%(1,676/7,238例)であった。同集団は試験プラセボ集団と比較して、集団年齢中央値が12歳高く、女性の比率が高かった(48.6 vs.24.3%)。 解析の結果、3年累積発生率は有益性エンドポイント(18.8%[95%信頼区間[CI]:16.3~21.8] vs.9.04%)、有害性エンドポイント(3.0%[同:2.0~4.4%] vs.1.26%[プラセボ群についてはTIMI重大出血の発生率])ともに、ターゲット集団が試験プラセボ集団と比べて大幅に高かった。致死的または頭蓋内出血についてみた場合も、プラセボ集団の約2倍であった。試算の結果、これらターゲット集団の治療にticagrelorを加えることで、年間患者1万治療当たり、虚血性イベントを101例(95%CI:87~117)予防できること、また致死的・重度または頭蓋内出血の発生過剰は75例(同:50~110)であることが示された。 リアルワールドで試算した場合も、類似の結果が得られた。有益性エンドポイント(虚血性イベント)の3年リスクは17.2%(95%CI:16.0~18.5)で、予防可能なイベント数は92例(同:86~99)であり、出血イベントは2.3%(同:1.8~2.9)、発生過剰は58例(同:45~73)であった。 著者は、「CALIBERを用いることで、“ヘルシー試験参加者”の影響を明らかにでき、AMI後1年超の代表的な患者でのDAPTの絶対的な有益性と有害性を確認することが可能であった」と述べている。

2086.

OCTAVIA試験:深部静脈血栓症後のストッキング圧迫療法は1年か、2年か?(解説:中澤 達 氏)-559

 オランダの多施設単盲検非劣性無作為化試験OCTAVIAで、近位深部静脈血栓症(DVT)患者に対する弾性ストッキングによる圧迫療法(ECS)の継続期間を、1年と2年で比較検討した。 主要アウトカムは、DVT診断後24ヵ月間の血栓後症候群(PTS)の発生率で、標準化されたVillaltaスケールで評価(intention-to-treat解析)した。 両群の発生率の絶対差は6.9%(95%CI上限値12.3%)であり、1年治療群の2年治療群に対する非劣性は認められなかった。副次アウトカムのQOLについては、両群間で有意差は認められなかった。 現行ガイドラインでは、ECS を24ヵ月間施行することになっているが、最近はより短期間とする提案がなされていた。この試験結果は、ガイドラインが追認されたことになる。しかし、この試験では、ECS治療に応じ1年後にPTSを呈していなかった適格患者518例を、DVT診断後継続群(262例)と中止群(256例)に無作為に割り付けている。 つまり、ストッキング着用ができる症例で、かつ1年間PTSを生じなかった軽症例のみエントリーされた可能性が高い。DVT診断3,603例中518例である14%の予後しか反映されていないのである。実臨床に適応する場合には、その点に注意が必要だ。 ちなみに、本邦のガイドラインでも欧米の論文を根拠に2年のECSを推奨している。

2087.

米国成人の食習慣、13年間で改善/JAMA

 1999~2012年の米国国民健康栄養調査(NHANES)を分析した米国・モンテフィオーレメディカルセンターのColin D. Rehm氏らは、自己申告による食習慣が改善していることを報告した。ただし、人種・教育・収入による差が持続または悪化していることも示唆されたという。これまで食事に関する研究の多くが、主な多量栄養素またはわずかな食事因子のみを評価したもので、個々の食品・栄養素に関する食事の質や、さまざまな集団での違いなどについては評価していなかった。著者は、「今回の結果は、米国に住んでいる人々の食習慣を改善するための機会、新たな達成、配慮が必要な地域などについて考察を与えるものである」とまとめている。JAMA誌2016年6月21日号掲載の報告。食事パターンの変化を13年間にわたり調査 研究グループは、NHANESに登録された入院歴のない20歳以上の米国成人3万3,932例を対象に、24時間思い出し法を用い1999~2012年の間に7回調査を実施した。各調査における回答数は4,237例から5,762例の範囲であった。 評価項目は、調査で重み付けした補正平均エネルギー消費量、AHA 2020 Strategic Impact Goalsの食事ガイドラインに基づく食事スコアの目標達成割合、食事スコアの構成要素(主要構成要素:果物と野菜類、全粒穀物類、魚貝類、糖添加飲料、食塩/副次構成要素:ナッツ類、種子類、豆類、加工肉類、飽和脂肪酸)、およびその他の個々の食品と栄養素とした。全粒穀物やナッツ類の摂取増加など食事が改善、ただし、人種・教育・収入で差 AHA主要食事スコア(最高50点)は19.0から21.2点へ、副次食事スコア(最高80点)も35.1から38.5点へ、いずれも増加し、食習慣が改善していることが明らかとなった(それぞれ改善率11.6%および9.7%、どちらも傾向p<0.01)。これらの変化は、1999~2000年と2011~2012年の間で全粒穀物が0.43食/日(95%信頼区間[CI]:0.34~0.53食/日)、ナッツ・種子・豆類が0.25食/日(95%CI:0.18~0.34食/日)増加していたことと、糖添加飲料が0.49食/日(95%CI:0.28~0.70食/日)低下していたことに起因していた。魚貝類の摂取量もわずかに増加したが、果物と野菜類・加工肉類・飽和脂肪酸・食塩を含む他の構成要素では有意な傾向は確認されなかった。 栄養の乏しい食事(AHA食事スコアのアドヒアランスが40%未満)をしている米国成人の割合は55.9%から45.6%へ減少し、栄養が中程度の食事(アドヒアランス40~79.9%)の割合は43.5%から52.9%へ増加した。その他の食事の傾向として、果物の摂取増加(0.15食/日、95%CI:0.05~0.26食/日)や、100%フルーツジュースの摂取減少(0.11食/日、95%CI:0.04~0.18食/日)がみられた。 食事の質は、人種・教育・収入レベルによって差異があることが観察された。たとえば、栄養の乏しい食事をしている非ヒスパニック系白人の割合は有意に減少したが(53.9%から42.8%)、非ヒスパニック系黒人またはメキシコ系アメリカ人では改善が確認されなかった。また、調査期間中、これらの差が縮減するとのエビデンスは見当たらず、収入レベルによる悪化が確認された。

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循環器内科 米国臨床留学記 第10回

第10回 日本では使用されていない抗不整脈薬抗不整脈薬に関しては、日本と比べてアミオダロンを使用する機会が多いように感じます。おそらく、冠動脈疾患を伴う症例が多いため、フレカイニドなどのVaughan Williams分類Class Iの抗不整脈薬が使えない患者が多いことが一因だと思われます。米国では、日本では使用されていない心房細動に対する薬剤が幾つかありますので、紹介したいと思います。AHA/ACC/HRSのガイドラインに示されているように、器質的心疾患、とくに虚血性心疾患や心不全がある患者に使用できる抗不整脈薬は限られており、虚血性心疾患がある場合の選択肢はアミオダロン以外にdronedarone、dofetilide、ソタロールとなります。今回は、日本で使用されていないdofetilideおよびdronedaroneを取り上げたいと思います。dofetilide(商品名:Tikosyn)dofetilideはアミオダロンやソタロールと同じくClass IIIに分類される抗不整脈薬で、遅延整流外向きカリウムチャネルIKrに作用し心房および心室の不応期を延長します。dofetilideはQT延長作用が強いため、いろいろと制限があります。まず、開始前のQTcが440msより長い患者には使用することができません。また、腎機能によって投与量が異なり、クレアチニンクリアランスが20mL/min未満の患者では投薬できません。投薬後2時間の心電図によるQT間隔のチェックが必要で、かつ投与開始後最低3日間は入院のうえ、心電図モニターを継続することが推奨されています(いずれも添付文書より)。つまり、torsades de pointesなどが起きる可能性があるため、外来で始めることができないのです。実際、QTが著明に延長するため、標準投与量(500μg、1日2回)を投与できないこともよくあります。dofetilideの効果は用量と強く相関します。今年Heart Rhythm誌に発表された論文1)では、500μgを1日2回投与できたのは65.9%ですから、3分の1の症例で目標投与量に至らなかったようです。持続性心房細動に対してdofetilide導入入院中の薬物的除細動の成功率は41.9%で、1年後の洞調律維持は39.6%でした。同じClass IIIの抗不整脈薬のソタロールもQT延長作用が強く、米国ではdofetilideと同様、入院のうえ3日間モニタリングすることが勧められており、外来で開始することができません。dronedarone(商品名:Multaq)アミオダロンは抗不整脈薬の中でも最も有効性が高い薬剤ですが、ヨウ素剤による甲状腺や肺などに対する副作用のため、使用が難しい患者もいます。このアミオダロンからヨウ素を排除したのがdronedaroneです。半減期も13~19時間と、アミオダロンの2ヵ月前後と比べて短く、体内への蓄積が少なくて済みます。dronedaroneは薬理学的除細動の効果が低いため、除細動目的で処方することは推奨されていませんので、洞調律の維持のための処方となります。アミオダロンとの直接比較では、12ヵ月での洞調律維持がアミオダロンの75.1%に対して、dronedaroneは58.8%と有意に劣っていました2)が、最近のペースメーカーを用いた無作為化試験3)は、12週間の観察で心房細動の発生が54.4%減少することを示しています。dronedaroneは心不全を増悪させることがあり、心不全患者では注意が必要です。前述のガイドラインでは、NYHA Class IIIおよびIVの心不全患者で4週間以内に心不全のエピソードがある場合は禁忌となっています。上記のような制約のため、結果的に米国ではアミオダロンが頻繁に使われているのではないかと思われます。参考文献1) Huang HD, et al. Heart Rhythm. 2016 Feb 24. [Epub ahead of print]2) Le Heuzey JY, et al. J Cardiovasc Electrophysiol. 2010;21:597-605. 3) Ezekowitz MD, et al. J Interv Card Electrophysiol. 2015;42:69-76.

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全粒穀物の摂取は、あらゆる死亡リスクを下げる/BMJ

 全粒穀物の摂取は、心血管疾患、がん、全死亡、呼吸器疾患・感染症・糖尿病・非心血管疾患または非がんによる死亡のリスク低下と関連していることを、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのDagfinn Aune氏らが、前向き研究のシステマティックレビューとメタ解析の結果、報告した。全粒穀物の摂取量の多さと、2型糖尿病、心血管疾患および体重増加のリスク低下が関連することが示唆されていたが、慢性疾患や死亡リスクを低下させるための全粒穀物の摂取量や種類はよくわかっていなかった。著者は、「慢性疾患や早期死亡のリスクを減らすために全粒穀物を多く摂取する食事ガイドラインが推奨される」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年6月14日号掲載の報告。穀物摂取と各種疾患の発症・死亡リスクとの関連を調査した45件の研究をメタ解析 研究グループは、PubMedおよびEmbaseを用い、2016年4月3日までに発表された論文を検索し、全粒穀物または他の穀物の摂取量と心血管・がん・全死因または死因別死亡リスクとの関連(補正相対リスク)を報告した前向き研究45件(64論文)を特定しデータを分析した。統計解析にはランダム効果モデルを用い、相対リスクと95%信頼区間(CI)を算出した。 全粒穀物の摂取量は、90gを3食分(1食分は全粒パン1枚、または全粒シリアル1ボウル、または全粒ピタパン1.5枚など)とした。全粒穀物90g/日摂取で、心血管疾患の発症リスクが22%、全死亡リスクが17%低下 全粒穀物の摂取量が1日90g増えた場合の発症の相対リスクは、冠動脈疾患が0.81(95%CI:0.75~0.87、I2=9%、7件)、脳卒中が0.88(0.75~1.03、56%、6件)、心血管疾患が0.78(0.73~0.85、40%、10件)であった。また、死亡の相対リスクは、全てのがん0.85(0.80~0.91、37%、6件)、全死亡0.83(0.77~0.90、83%、11件)、呼吸器疾患0.78(0.70~0.87、0%、4件)、糖尿病0.49(0.23~1.05、85%、4件)、感染症0.74(0.56~0.96、0%、3件)、神経系疾患1.15(0.66~2.02、79%、2件)、非心血管疾患または非がんによる死亡0.78(0.75~0.82、0%、5件)であった。 全粒穀物の摂取量が210~225g/日(7~7.5食/日)までは、ほとんどの評価項目でリスクの低下が観察された。また、全粒パン、全粒シリアル、ブラン添加など特定の種類の全粒穀物、およびパン全体ならびに朝食用シリアル全体で、心血管疾患や全死亡のリスク低下との関連が認められたが、精製穀物、白米、米全体あるいは穀物全体では関連がほとんどみられなかった。

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カテーテル関連尿路感染症の予防プログラム(解説:小金丸 博 氏)-555

 カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)は、デバイスに関連して起こる代表的な医療関連感染症の1つである。医療関連感染症を減少させることは非常に重要な課題であり、国を挙げて取り組みが行われている。本論文では、米国において国家的プロジェクトとして行われているCAUTIの予防プログラムが、非ICU患者における尿道カテーテルの使用率およびCAUTIの発生率を有意に低下させることが示された。 本研究には、全米規模で数多くの病院、ユニット(ICU、非ICU)が参加している。ランダム化比較試験ではないこと、プログラムへの参加は自由意思でありすべての病院に一般化できないこと、データ収集が不完全であることなどのlimitationはあるものの、信頼できるデータといえる。 本研究では、CAUTIの予防プログラムによって、ICU患者における尿道カテーテルの使用率とCAUTIの発生率を低下させることはできなかった。ICUには重症患者が多く、細やかな尿量測定のために尿道カテーテルの留置が必要な患者が多い。ICUにおける尿道カテーテル留置は適切と判断されることが多いため、予防プログラムによる啓発では減らすことができず、結果として、CAUTIの発生率も低下させることができなかった可能性が考えられる。 ガイドラインでは、CAUTIの予防のために、尿道カテーテルの適正使用、無菌操作での挿入、適切なメンテナンス、不必要となった尿道カテーテルの抜去を推奨している。尿道カテーテルを留置している患者では、毎日カテーテルの必要性を評価し、抜去や代替療法(コンドームカテーテルの使用や間欠的自己導尿など)への変更を検討することが望ましい。臨床の現場では、不要なカテーテルは留置しないこと、不要となったカテーテルは早期に抜去することを常に意識しておきたい。

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Vol. 4 No. 4 心房細動患者におけるDAPTを考える

掃本 誠治 氏熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学はじめに高齢化で増加している心房細動には、抗凝固薬が必須である。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行症例、心筋梗塞、それぞれに合併する心房細動頻度は、海外では約10%、本邦では6~8%程度と報告されている1-3)。心房細動とステントを伴うPCIを合併すれば、DAPT+抗凝固薬の3剤併用と考えるが、出血リスクが上昇する4-6)。心房細動合併PCIあるいは急性冠症候群(ACS)患者に対する抗凝固薬と抗血小板薬の組み合わせは、原疾患による血栓塞栓症リスクと抗血栓薬による出血リスクの有効性と安全性を考慮することが重要である。WOEST試験WOEST試験7)は、心房細動や機械弁留置後に抗凝固薬を服用する患者で、冠動脈ステント挿入後、クロピドグレルと抗凝固薬の2剤併用群[経口抗凝固薬(ワルファリン)+クロピドグレル284例]と、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と抗凝固薬の3剤併用群(ワルファリン+クロピドグレル+アスピリン289例)で、安全性と有効性を比較した試験で、平均年齢70歳、男性80%、抗凝固薬投与の理由として、心房細動が2剤併用群で69.5%、3剤併用群では69.2%、機械弁はそれぞれ10.2%と10.7%だった。結果として、1年間の出血イベントは、3剤併用群が有意に高値だった(3剤44.4% vs. 2剤19.4%)。また心血管イベントは、2剤併用群が有意に低かった(複合エンドポイント;1次エンドポイント+脳卒中+全死亡+心筋梗塞+ステント血栓症+標的血管再血行再建術;3剤併用群17.6% vs. 2剤併用群11.1%)。抗凝固薬を服用している患者でステント留置術を受けたとき、アスピリンを止めてチエノピリジン系抗血小板薬単剤と抗凝固薬の合計2剤にするというこれまでの発想とは異なることが不可能ではないことを示した意義は大きい。また、心房細動合併のステント留置術後の患者において、CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2が日本の実情を表している3)。2005年~2007年、26施設、1,057例、退院時ワルファリン群506例(48%)、非ワルファリン群551例(52%)を5年間フォローし、脳卒中(虚血性、出血性)、全死亡、心筋梗塞、大出血を評価。非ワルファリン群は、高齢、急性心筋梗塞、頭蓋内出血、貧血が多く、男性、薬剤溶出性ステント(DES)、末梢動脈疾患(PAD)が少なかった。そもそも、心房細動があってもDAPTで上記の因子が複数あれば、臨床現場においてはワルファリンを躊躇するのかもしれない。脳卒中は、ワルファリン群と非ワルファリン群で有意差がなく、虚血性、出血性でも有意差はみられず、心筋梗塞は、ワルファリン群で少なかった。プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)治療域内時間(TTR)が65%以上群では、65%未満群に比し脳卒中発症率が低値だった。非弁膜症性心房細動(NVAF)ACSやPCI直後ではない非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象として、本邦からJAST試験においてNVAF患者へのアスピリン150~200mg/日投与は、大出血が多く、無効と報告されている8)。海外では、ACTIVE W試験において、脳卒中リスクの高い心房細動患者に対し(17.4%に心筋梗塞既往)、DAPT(クロピドグレル+アスピリン)は、OAC(経口抗凝固薬)に比し心血管イベント抑制効果を示せなかった9)。さらに、NVAFでワルファリン不適合者に対するアスピリンとクロピドグレルのDAPTはアスピリン単独に比し脳梗塞抑制効果がみられたが、心筋梗塞死、血管死は差がなく、大出血イベントが多かった10)。以上の結果は、心房細動には抗血小板薬より抗凝固薬が必要であることを示している。ワルファリンのエビデンス冠動脈疾患には低用量アスピリンを終生投与するのが現在のガイドラインであるが、ワルファリンは50年以上日常臨床で使用されている薬剤で、急性心筋梗塞後のワルファリン vs. プラセボの大規模臨床研究でワルファリンの有効性が示されている11)。さらに心筋梗塞後、アスピリン vs. ワルファリン vs. アスピリン+ワルファリンの3群での比較研究では、アスピリン+ワルファリン併用群、ワルファリン群、アスピリン群の順に心血管イベント抑制効果が優れていた12)。しかし、この試験でのPT-INRは2.8~4.2と現在の実臨床より高値で設定されており、出血合併症が多かったこともあり推奨されなかった。安定冠動脈疾患を合併した心房細動患者のデンマークでのコホート研究では、ワルファリンに抗血小板薬を追加しても心血管イベントリスクは減少せずに出血リスクが増加した13)。以上は、出血リスクが低ければ、抗凝固薬が冠動脈疾患にも有効であることを示唆するものである。実臨床においては、本来抗凝固療法の適応でありながら、あえてコントロール不要の抗血小板薬を投与して、ワルファリンが躊躇される症例が存在した。そのようななかで、脳出血が少なく、PT-INRのコントロールが不要なNOACの登場は実臨床においては魅力的である。心房細動患者におけるACS合併またはステント留置時のガイドライン欧州心臓病学会からACS合併あるいはPCI施行の心房細動患者での抗血栓薬のjoint consensus documentが2014年に発表された14)。(1)脳卒中リスク CHA2DS2-VAScスコア(2)出血リスク HAS-BLEDスコア(3)病態 安定冠動脈疾患か急性冠症候群(待機的か緊急か)(4)抗血栓療法 どの抗血栓薬をどのくらい使用するか基本的には、出血リスクの高い3剤併用(DAPT+抗凝固薬)の期間を上記の条件にしたがって層別化し、可能なら抗血小板薬単剤+抗凝固薬に減量し、12か月以上では、左冠動脈主幹部病変などを除き可能なら抗凝固薬単剤への切り替えが推奨されている。また、VKAはTTR70%以上が推奨されており、VKAとクロピドグレルand/orアスピリンの症例ではINRは2.0~2.5が推奨されている。また、アクセス部位は橈骨動脈穿刺が推奨されている。AHA/ACC/HRSの心房細動ガイドライン2014でも、PCI後CHA2DS2-VAScスコアが2点以上では、慢性期にはアスピリンを除いて、抗凝固薬+抗血小板薬単剤が合理的であると記載されている15)。現在進行中の試験ACSあるいはPCIを受けた心房細動患者に対するNOACの臨床試験が進行中である(本誌p16の表を参照)16)。 RE-DUAL PCI試験は、ステント留置を伴うPCIを受けた非弁膜性心房細動患者を対象に、ダビガトランの有効性および安全性を評価する試験である。PIONEER AF-PCI試験は、ACS合併心房細動患者において、抗血小板薬に追加するリバーロキサバンの用量を検討する試験で、アピキサバンでも同様の試験が進行している。これらはステント留置術後急性期からの試験だが、本邦ではステント留置術後慢性安定期の心房細動合併患者を対象としたOAC-ALONE試験やAFIRE試験が進行しており、結果が待たれるところである。今後現在進行中の試験から新たなエビデンスが創出されるが、個々の患者において最適な治療法を見つけ出す努力は常に必要とされる(表)。表 ステント留置AF患者における抗血栓療法画像を拡大する文献1)Kirchhof P et al. Management of atrial fibrillation in seven European countries after the publication of the 2010 ESC Guidelines on atrial fibrillation: primary results of the PREvention oF thromboemolic events--European Registry in Atrial Fibrillation (PREFER in AF). Europace 2014; 16: 6-14.2)Akao M et al. Current status of clinical background of patients with atrial fibrillation in a community-based survey: the Fushimi AF Registry. J Cardiol 2013; 61: 260-266.3)Goto K et al. Anticoagulant and antiplatelet therapy in patients with atrial fibrillation undergoing percutaneous coronary intervention. Am J Cardiol 2014; 114: 70-78.4)Toyoda K et al. Dual antithrombotic therapy increases severe bleeding events in patients with stroke and cardiovascular disease: a prospective, multicenter, observational study. Stroke 2008; 39: 1740-1745.5)Uchida Y et al. Impact of anticoagulant therapy with dual antiplatelet therapy on prognosis after treatment with drug-eluting coronary stents. J Cardiol 2010; 55: 362-369.6)Sørensen R et al. Risk of bleeding in patients with acute myocardial infarction treated with different combinations of aspirin, clopidogrel, and vitamin K antagonists in Denmark: a retrospective analysis of nationwide registry data. Lancet 2009; 374: 1967-1974.7)Dewilde WJ et al. Use of clopidogrel with or without aspir in in patients taking oral anticoagulant therapy and under going percutaneous coronary intervention: an openlabel, randomised, controlled trial. Lancet 2013; 381: 1107-1115.8)Sato H et al. Low-dose aspirin for prevention of stroke in low-risk patients with atrial fibrillation: Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial. Stroke 2006; 37: 447-451.9)Connolly S et al. Clopidogrel plus aspirin versus oral anticoagulation for atrial fibrillation in the Atrial fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for prevention of Vascular Events (ACTIVE W): a randomised controlled trial. Lancet 2006; 367: 1903-1912.10)Connolly SJ et al. Effect of clopidogrel added to aspirin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 360: 2066-2078.11)Smith P et al. The effect of warfarin on mortality and reinfarction after myocardial infarction. N Engl J Med 1990; 323: 147-152.12)Hurlen M et al. Warfarin, aspirin, or both after myocardial infarction. N Engl J Med 2002; 347: 969-974.13)Lamberts M et al. Antiplatelet therapy for stable coronary artery disease in atrial fibrillation patients taking an oral anticoagulant: a nationwide cohort study. Circulation 2014; 129: 1577-1585.14)Lip GY et al. Management of antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients presenting with acute coronary syndrome and/or undergoing percutaneous coronary or valve interventions: a joint consensus document of the European Society of Cardiology Working Group on Thrombosis, European Heart Rhythm Association (EHRA), European Association of Percutaneous Cardiovascular Interventions (EAPCI) and European Association of Acute Cardiac Care (ACCA) endorsed by the Heart Rhythm Society (HRS) and Asia-Pacific Heart Rhythm Society (APHRS). Eur Heart J 2014; 35: 3155-3179.15)January CT et al. 2014 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation 2014; 130: 2071-2104.16)Capodanno D et al. Triple antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients with acute coronary syndromes or undergoing percutaneous coronary intervention or transcatheter aortic valve replacement. EuroIntervention 2015; 10: 1015-1021.

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急性期脳出血に対する積極的降圧療法は有効か?/NEJM

 超急性期脳出血患者において、ニカルジピンによる収縮期血圧140mmHg以下への積極的降圧療法は、140~179mmHgを目標とした標準降圧療法と比較し、死亡や高度障害は減少しなかった。米国・ミネソタ大学のAdnan I. Qureshi氏らが、多施設共同無作為化非盲検比較試験ATACH-2(Antihypertensive Treatment of Acute Cerebral HemorrhageII)の結果、報告した。脳出血急性期の収縮期血圧の降圧目標については、INTERACT-2試験にて、発症後1時間以内に140mmHg未満に下げることで3ヵ月後の転帰を改善する傾向が示されたが(急性脳内出血後の降圧治療、積極的降圧vs.ガイドライン推奨/NEJM)、これまで推奨の根拠となるデータには限りがあった。NEJM誌オンライン版2016年6月8日号掲載の報告より。脳出血急性期の降圧、収縮期血圧110~139mmHgと140~179mmHgを比較 ATACH-2試験は2011年5月~2015年9月に、米国・日本・中国・台湾・韓国・ドイツの110施設で実施された。 対象は、発症後4.5時間以内に治療開始可能で、出血量60cm3未満、グラスゴー・コーマ・スケール(GCS:3~15、数値が低いほど状態は不良)5点以上、発症~治療開始までの測定時の収縮期血圧が180mmHg以上の脳出血患者であった。 積極的降圧群(無作為化後24時間以内に収縮期血圧値目標110~139mmHg)と標準降圧群(同140~179mmHg)に無作為化し、速やかに(発症後4.5時間以内)ニカルジピンを静脈投与した(5mg/時から開始し、15分ごとに2.5mg/時増量、最大量15mg/時)。 主要評価項目は、評価者盲検下における無作為化後3ヵ月時の死亡および重度の障害(修正Rankinスケール[0:無症状、6:死亡]で4~6)とした。3ヵ月後の死亡・重度の障害に差はない 1,000例が登録され(積極的降圧群500例、標準降圧群500例)、ベースラインの収縮期血圧(平均±SD)値は200.6±27.0mmHg、平均年齢は61.9歳、56.2%がアジア人であった。 主要評価項目である死亡・重度の障害の割合は、積極的降圧群38.7%(186/481例)、標準降圧群37.7%(181/480例)で、年齢・ベースラインのGCSスコア・脳室内出血の有無で調整後の相対リスクは1.04(95%信頼区間:0.85~1.27)であった。 治療に関連した重篤な有害事象の発現頻度(無作為化後72時間以内)は、積極的降圧群1.6%、標準降圧群1.2%であった。また、無作為化後7日以内の腎臓の有害事象の発現頻度は、それぞれ9.0%および4.0%で、積極的降圧群が有意に高値であった(p=0.002)。 なお、本試験は事前に計画された中間解析において無益性が認められたため、その後の登録は中止となっている。

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アミオダロンは効く?効かない?よくわからない?(解説:香坂 俊 氏)-550

アミオダロンの登場10年以上前にさかのぼるが、アミオダロンが心肺蘇生の現場に登場したときは画期的であった。何しろエビデンスのエの字もなかった心肺蘇生の領域で、自分が知る限りでは初めての本格的ランダム化試験が行われたのだ。その試験の名前はALIVEといった(NEJM誌2002年掲載)。当時、心室細動(VF)や無脈性心室頻拍(pulseless VT)といった致死性不整脈には、種々様々な薬剤が使用されていた。主要なものとしては、昔からあったリドカイン、I群抗不整脈薬の雄ブレチリウム(現在米国では製造中止)、さらに抗狭心症薬からくら替えしてきたアミオダロンなどが選択肢として存在したが、ALIVE試験ではこのうちリドカインとアミオダロンが比較された。その結果はといえば、アミオダロンのほうが、蘇生されて病院に到達する率が抜群によく出たため(22.8% vs.12.0%)、これ以降ACLSのプロトコルにも採用され、アミオ(アミオダロンの米国での通称)は、救急医や循環器内科医にとってなじみ深い抗不整脈薬となった。ただ、ALIVEは300例程度の試験であったため、退院時の生死に関しては明確な結論が得られないままとなっていた(どちらの群でも80%以上の患者さんが最終的には死亡された)。アミオダロンの退場(?)前置きが長くなったが、今回のRCTはその「生存退院」というところにターゲットを合わせ、ALIVEのおおよそ10倍の規模で行われた臨床試験である(n=3,026)。さらに、アミオダロン、リドカインに加えて、ご丁寧に生理食塩水を使うコントロール群まで設定されるという徹底ぶりである。結果についての詳細は他稿(院外心停止に対するアミオダロン vs.リドカイン vs.プラセボ/NEJM)に譲るが、驚くべきことにアミオダロン群とリドカイン群の間に生存退院率の差は認められず(絶対値の差が0.7%、p=0.70)、さらに2つの薬剤投与群とコントロール群との差もわずかなものであった[アミオダロン群との差が3.2%(p=0.08)、リドカイン群との差が2.6%(p=0.16)]。この結果は衝撃的なものであり、今後アミオダロンのガイドライン上での扱いがどうなるか注目される(おそらく、今ほど絶対的な地位にとどまることはなかろうかと思われる)。よくわからないところよくわからないのが、アミオダロンとリドカインの2剤共「目撃されていた(witnessed)」心肺停止例に限れば、優れた効果を発揮できていた、というところだ。目撃者のいなかった心肺停止例は、いくらVFやVTといった波形を呈していたとしても、薬剤を使用するタイミングを逸してしまっていたということなのか? あるいは、きちんとバイスタンダーによる蘇生行為が行われていなければ、こうした薬剤は効果を発揮できないのか?自分はしばらくはアミオダロンを使い続けるつもりでいる。ただ、アミオダロンは有害事象(血圧の低下や徐脈)もある程度想定しなくてはならない薬剤なので(注)、もしもこちらをリドカインに切り替えて支障がないというのであれば、それは助かる。さらに、「目撃された」心肺停止例という群を別枠で考えなくてはならないかということについては、現場視点から考えると難しいのではないかと思う。このあたり、今後議論が深まっていくのではないだろうか?注)今回の試験でも、アミオダロン群では5%程度の症例で一時的なペーシングが必要となっている。

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気管支内コイル治療は重症肺気腫患者の運動耐容能を改善させるのか?(解説:山本 寛 氏)-549

 本研究は、肺気腫に対する気管支内コイル治療の効果と安全性を検討するため、2012年12月から2015年11月まで、北米21施設、欧州5施設が参加して315例を対象に行われた。患者は、ガイドラインに準拠した通常ケア(呼吸器リハビリテーション、気管支拡張薬の投与)のみを行う群(n=157)と、これに加えて両側気管支内にコイル治療を行う群(n=158)とに無作為に割り付けている。コイル治療群では、2回の治療を4ヵ月間隔で行い、1肺葉当たり10から14個のコイルを気管支鏡を用いて埋め込んだ。治療前と治療12ヵ月後の6分間歩行距離の変化を主要評価項目とし、6分間歩行距離の改善割合、SGRQ (St. George’s Respiratory Questionnaire)を用いたQOL(Quality of Life)の変化、そして1秒量の変化率がそれぞれ副次評価項目として設定されている。 その結果、6分間歩行距離の12ヵ月間での変化量はコイル治療群で+10.3m、通常ケア群で-7.6mであった。その群間差は14.6m(97.5%CI:0.4m~∞、片側p値:0.02)であり、有意にコイル治療群で優れていた。1秒量の変化率は中央値で7.0%(97.5%CI:3.4%~∞、片側p値0.01)であり、やはりコイル治療群で大きな改善が示された。SGRQスコアの群間差は-8.9ポイント(97.5%CI:-∞~-6.3ポイント、片側p値<0.001)で、コイル治療群において有意な改善が示された。 一方、コイル治療群において主要な合併症が34.8%も発生している。通常ケア群においては19.1%であり、コイル治療群では有意に合併症の頻度が高かった(p=0.002)。コイル治療群では、肺炎が20%(通常ケア群では4.5%)、気胸が9.7%(通常ケア群では0.6%)とそれぞれ有意に高頻度に認められた。 以上の結果から、肺気腫患者に対する気管支内コイル治療が、6分間歩行距離やQOL、肺機能の改善に有効であると結論することは早計である。主たる評価項目である6分間歩行距離の改善はわずかであり、設定されたMCID(minimal clinical important difference)=29mを超えるものではない。しかも、重大な合併症の頻度も高く、長期的な効果についても不明である。 しかし、本研究には残気量が予測値の225%以上という高度のair trappingを示す肺気腫症例が多く(235例)登録されている。探索的評価項目のうち、残気量と残気率に関しては、コイル治療を行うことによってそれぞれ0.31Lの減少、3.5%の減少が得られている。サブグループ解析の結果、air trappingが225%以上と高度で、heterogeneousな気腫症例においては、6分間歩行距離で+29.1m、1秒量で+12.3%、SGRQで-10.1ポイントと、臨床的にも意味のある効果が示されている。今後は、本治療法の長期効果についての追加報告がなされること、またheterogeneousな気腫分布を示す、air trappingが高度な肺気腫を調査対象としたランダム化比較試験が行われることが期待される。

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深部静脈血栓症後の弾性ストッキング、2年以上が理想的/BMJ

 近位深部静脈血栓症(DVT)患者に対する弾性ストッキングによる圧迫療法(ECS)は、2年以上が理想的であることが示された。オランダ・ユトレヒト大学のG C Mol氏らが多施設単盲検非劣性無作為化試験OCTAVIAの結果、報告した。1年治療群の2年治療群に対する非劣性が認められなかったという。ECSはDVT患者の血栓後症候群予防のために用いられるが、至適期間は明らかではない。現行ガイドラインでは、24ヵ月間の使用としているが、最近の試験で、この現行戦略に疑問符を呈し、より短期間とする提案がなされていた。BMJ誌オンライン版2016年5月31日号掲載の報告。1年治療群を中止群と継続群に割り付け、血栓後症候群の発生を評価 OCTAVIA試験は2009年2月~2013年9月に、オランダの1大学病院を含む8教育病院の外来クリニックで行われた。超音波で確認された症候性の脚部近位DVTを呈し12ヵ月間ECSを受けた患者を対象とし、研究グループは被験者を、ECSを継続する群と中止する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、DVT診断後24ヵ月間の血栓後症候群の発生率で、標準化されたVillaltaスケールで評価(intention-to-treat解析)した。本検討は、ECSの1年群は同2年群に対して非劣性であるとの仮定に基づき行われ、事前規定の非劣性マージンは10%であった。また、主な副次アウトカムとしてQOL(VEINES-QOL/Sym)を評価した。1年治療群の2年治療群に対する非劣性認められず、QOLは両群間で有意差なし 3,603例がスクリーニングを受け、ECS治療に応じ血栓後症候群を呈していなかった適格患者518例が、DVT診断後1年後に継続群(262例)と中止群(256例)に無作為に割り付けられた。 結果、中止群では、51/256例の血栓後症候群の発生がみられ、発生率は19.9%(95%信頼区間[CI]:16~24%)であった。一方、継続群の同発生は34/262例で、発生率は13.0%(同:9.9~17%)であった。継続群では、85%が週6~7日間ECSを使用していた。 両群の発生率の絶対差は6.9%(95%CI上限値12.3%)であり、1年治療群の2年治療群に対する非劣性は認められなかった。 ECS継続群で、血栓後症候群の発生1例を予防するのに必要な治療数(NNT)は14(95%CI下限値8)であった。 副次アウトカムのQOLについては、両群間で有意差は認められなかった。■「深部静脈血栓症」関連記事下肢静脈瘤で深部静脈血栓症のリスク約5倍/JAMA

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食習慣の改善項目として減塩は必要ないのか?(解説:浦 信行 氏)-546

 Lancet誌の5月20日号のEpubに掲載された4つのRCTのプール解析の結果は、食塩摂取過剰は高血圧例のみ心血管イベント・死亡リスクを増大させたが、食塩低量摂取では高血圧の有無にかかわらず、リスクを増大させたとするものであった。この結果から、摂取食塩量による心血管疾患リスクの血圧階層による差異と、過度の減塩のリスクを示した点で、興味ある研究といえる。しかし、データとして示されているのは簡易式を用いた尿中Na排泄量であり、24時間Na排泄量との相関性は保たれてはいるものの、食塩(NaCl)量に換算すると7.5g未満で高血圧の有無にかかわらずリスクが増大し、17.5g以上で高血圧例のみリスクが増大するという結果である。U字型のボトム、すなわち食塩の至適摂取量は10.0~12.5gという結果なのである。また、この数字はあくまでも尿中排泄量であり、食塩摂取量に関しては、Naの汗や糞便中の排泄も考慮に入れると、この尿中排泄量の1.15~1.20倍の摂取量ということになる。極論をいえば食塩摂取制限はほぼ必要ないともいえる結果である。 米国食品医薬品局(FDA)は6月1日に、食品業界に対し自主的に塩分の含有量を減らすことを求める指針の草案を発表している。現状での米国人の食塩摂取は8.6gであり、ガイドラインの推奨の5.8gのほぼ1.5倍である。わが国でもまだ10gを切っていない。私自身は、やはりガイドラインに示される程度の減塩は大変重要と考えている。この結果から直ちに至適食塩摂取量を10.0~12.5gにするのはどうあっても早計だが、大変解釈に困難なデータである。

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血友病A患者の活動域をさらに広げる

 5月31日、バクスアルタ株式会社(現シャイアー・ジャパン株式会社)は、血友病A治療薬「アディノベイト(静注用)」の発売を前に都内でプレス説明会を開催した。説明会では、「『出血ゼロ』を目指す血友病治療の最新動向」をテーマに講演が行われた。出血ゼロの追求 はじめに辛 栄成氏(同社医薬開発本部本部長・医師)が、「血友病A患者さんの新たな選択肢~半減期延長製剤 アディノベイト~」と題し、血友病の概要と新薬の特性について説明を行った。 血友病は、止血に関与する凝固因子が不足または欠乏している遺伝性疾患であり、とくに第VIII因子が欠乏する血友病Aの患者さんは、全国に約5,000人いると推定されている。 治療目標は「出血しない」ことであるが、定期補充療法でも、その達成率は低いという。その原因として、そもそも補充量が不足している、患者さんのアドヒアランスの問題などさまざまな要因がある。そんななか、患者さんの治療での負担を少しでも軽くするために開発されたのが、アディノベイトである。これは先行治療薬のアドベイトを基に創薬され、PEG化技術により作用時間を延長することで、従来の週3~4回の投与を週2回の投与に変更できる特性を持つ。 「現在さらに半減期を延ばす薬剤の研究中で、今後も『出血ゼロ』実現に向け、遺伝子治療をはじめ新製剤の開発に注力していきたい」と今後の展望を述べた。出血がない人生へ向けて 次に花房 秀次氏(荻窪病院 理事長/血液科 部長)が、「『出血ゼロ』時代の到来 ~血友病治療の新たなステージ~」と題し、現在の診療と新薬、そして診療の課題について解説を行った。 レクチャーでは血友病を決壊した堤防にたとえ、「決壊箇所の補修のため使われる石材が血小板であり、その隙間を埋め、補修し、強固にするセメントが凝固因子である。血友病は、このセメントを固める成分の1つが不足する疾患であり、治療薬で補充することで修復することができる」とわかりやすく説明を行った。血友病治療が普及する前の患者さんは、スポーツはおろか、関節症による後遺症に悩まされ、普通の生活にも困難を来していた。しかし、現在では、安全性の向上、定期補充療法の確立、安定供給ができるようになり、スポーツはもちろん、健常人と同じ生活を患者さんは送ることができるようになったという。 血友病で問題なのは、出血が止まりにくいことのほか、肘、膝、足首などの関節での内出血が挙げられ、年2、3回の出血でも関節に構造的な変化をもたらすことが知られている。また、頭蓋内出血は、1回の出血でも重篤なダメージを与えることが知られ、すべての年代の患者さんで「出血させないこと」が、重要な意味を持つ。そのためには、2013年にわが国の治療ガイドラインで初めて記載された定期補充療法が必要であり、現在では患者さんに広く普及しつつある。 しかし、定期補充療法が行われても患者さんのアドヒアランスの問題(例: 途中中断や投与回数、量のバラツキ)や患者さんに必要な個別化ができていない、地域・施設間格差の問題、専門医の絶対的な不足もあり、出血ゼロには至っていない状況である。 週2回の投与が患者負担を軽減 定期補充療法の治療薬として登場したのが、アディノベイトである。これはヒト・動物由来タンパクを添加していない遺伝子組換え製剤のため安全性が担保され、何よりも週2回の投与かつ固定用量のシンプルな投与レジメンで治療ができるという特徴がある。 効果について年間出血回数(中央値)でみた場合、出血時補充療法(n=17)が41.5回/年だったのに対し、定期補充療法(n=101)では1.9回/年と95%低値を示すとともに、定期補充療法(n=101)で出血回数がゼロだった被験者(実投与日50日以上または6ヵ月の試験期間)は39.6%と約4割で出血ゼロが実現できていた。また、効果の持続では、アドベイトとの半減期比較(n=26、凝固一段法)で、アドベイトの72時間に対し、アディノベイトは96時間と1.4倍の長さが報告されている(いずれもII/III相試験による)。 安全性については、156例中10例で副作用が報告され、頭痛、(注射部位の)疼痛、下痢、悪心などいずれも軽微なものであった。なお、第VIII因子インヒビター、抗PEG抗体の発現は報告されていない(いずれもI~III相試験)。 最後にまとめとして「現在は出血ゼロを目指せる時代であり、患者さんにも製剤の進歩を理解してもらう必要がある。患者さんに個別化治療ができていけば、治療の大きな変化になる。それにより、出血に伴う後遺症を予防することで、良好なQOLを保ったまま長寿を過ごすことができるようになる。今後は、個別化療法をいかに実現させていくかが課題となる」と語り、レクチャーを終えた。関連コンテンツ新薬情報:新発売(アディノベイト静注用500・1000・2000)

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パブコメ募集「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン

 日本老年精神医学会(理事長:新井 平伊氏、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学 教授)は6月8日、都内で開いたプレスセミナーにおいて、「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」の改訂に当たり、2回目のパブリックコメントの募集を行うと発表した。コメントは学会ホームページ上で受け付けており、募集期間は6月13日午後~27日(最終日は17時まで)となっている。 今回、第2版として改訂される本ガイドラインは、2015(平成27)年度厚生労働科学特別研究事業として、日本老年精神医学会のほか、日本認知症学会、日本神経精神薬理学会、日本神経治療学会、日本認知症ケア学会、日本神経学会の会員で構成する研究班が作成したもの。2012年に初版が作成されたが、先の研究事業において、かかりつけ医500人に対して行った調査によると、本ガイドラインを参考にしている医師は約10%にとどまっていた。さらに、薬剤の使用に当たって、患者家族に同意を得ている医師は28%と低い数字であることも明らかになった。これを受けて今回は、実臨床でBPSDに対して使用される向精神薬について、その有効性と副作用について明確に記載するなどの改訂が中心となった。 第2版の作成に当たっては、改訂事項を盛り込んだドラフトに対して今年4~5月に関係6学会のホームページでパブリックコメントを募集。2回目となる今回のパブリックコメントでは、その際に寄せられた約90件の質問やコメント、それに対する研究班の見解を掲示版方式で公開し、さらなるコメントを募集する。 このたびのガイドライン改訂について、研究班の班長を務めた新井氏は、「興奮性BPSDに対しては、抗精神病薬を使わざるを得ない場合もあるが、これまでに日本人の研究データはなく、EBMだけでは片付けられない問題もある。こうした中、実臨床でかかりつけ医が抗精神病薬を処方する際の医療安全面におけるよりどころとなるような、安全性の高いガイドラインを作成したい」と述べた。パブリックコメントの募集告知はこちら

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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左心室収縮能低下を伴う多枝病変、PCIかCABGか

 左心室の収縮機能低下を伴う多枝冠動脈病変について、ガイドラインは経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも冠動脈バイパス術(CABG)を推奨しているが、両者を比較した無作為化試験はこれまで行われていない。今回、レジストリに登録された患者から傾向スコアを用いて一致させた患者を抽出し、両者を比較した結果がCirculation誌2016年5月31日号(オンライン版2016年5月5日号)に発表された。傾向スコアを用いてPCI群とCABG群を比較 American College of Cardiology Foundation(ACCF)/American Heart Association(AHA)の安定虚血性疾患に対するガイドラインでは、左室駆出率(LVEF)35%以下の患者の生存率の改善に対してCABGがクラスII bの推奨度で推奨されている一方で、PCIは推奨されておらず、再灌流療法の選択に関しては付随する臨床情報を基に判断することになっている。 本試験のデータは、ニューヨーク州の非連邦病院で登録が義務付けられているレジストリ[New York State Percutaneous Coronary Intervention Reporting System(PCIRS)とthe Cardiac Surgery Reporting System(CSRS)]から抽出した。2008~11年にLVEF≦35%で多枝冠動脈病変を有し、エベロリムス溶出ステント(EES)を使用したPCIもしくはCABGを受けた患者が対象となった。なお、以下に当てはまる患者は除外された:1)50%以上の左主冠動脈病変を有する患者(CABGを優先的に施行するため)、2)CABGもしくは心臓弁の手術を受けた患者(再度開心術を受ける可能性が低いため)、3)PCIもしくはCABG前、24時間以内に心筋梗塞を起こした患者(PCIを優先的に施行するため)、4)PCI施行時にEES以外のステントを使用した患者、5)過去1年以内に再灌流療法の既往がある患者、6)血行動態が不安定もしくは心原性ショックの患者。 傾向スコアを用いてマッチングさせたPCIを受けた患者(PCI群)とCABGを受けた患者(CABG群)、各1,063例を比較した。1次評価項目は長期フォローアップ中の全死亡。2次評価項目は心筋梗塞、脳卒中、および冠動脈に対する再灌流療法の施行。フォローアップ期間の中央値は2.9年であった。死亡率は同等、2次評価項目に有意差あり 短期間(30日以内)のフォローアップでは、両群の死亡率に差は認められなかった(HR:0.62、95% CI:0.31~1.24、p=0.17)が、PCI群はCABG群に比べて脳卒中のリスクが95%も低かった(0.1% vs. 1.8%、HR:0.05、95% CI:0.01~0.39、p=0.004)。長期間のフォローアップでも両群の死亡率は同等であった(HR:1.01、95% CI:0.81~1.28、p=0.91)。PCI群は、脳卒中の発生率が有意に低かったが(HR:0.57、95% CI:0.33~0.97、p=0.04)、心筋梗塞(HR:2.16、95% CI:1.42~3.28、p=0.0003)および冠動脈再灌流の発生率(HR:2.54、95% CI:1.88~3.44、p<0.0001)は有意に高かった。 著者らは、日本でも使用が始まったエベロリムス溶出ステントなどの新世代のステントを使用したPCIがCABGの代替オプションになりうると結論付けている。しかし、傾向スコアを用いても測定されない交絡因子の可能性が否定できないこと、冠動脈病変の複雑性を評価するSYNTAXスコアやCABGリスクを評価するSTS、EuroSCOREなどを用いていないことを本試験の欠点に挙げている。

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