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           この研究(DOI: 10.1056/NEJMoa1615710)が我が国の医療政策にもたらす影響は大きい(と少なくとも自分には思われる)。 カナダのオンタリオ州のデータベースを用い、若年者(12~45歳)の突然死がどの程度スポーツに直接由来するかが推計された。医学的に興味深い点も多く、競技中の突然死がサッカーや陸上競技に多く、その原因のほとんどが肥大型閉塞性心筋症であったことなどは首肯できる。そんな中、今回の解析で自分が注目したのは突然死の頻度そのものである。このデータベース上では6年間で16件のスポーツに直接関連した突然死が観察されており、これを競技年数で換算すると0.76 件/100,000人年ということになるとの記載がある。若年者の突然死全体の頻度は4.84件/100,000人年であり(スポーツに関連しない突然死を含む)、このことから存外スポーツに由来する突然死の頻度は決して高くないということがわかる(むしろなにもしていないときにイベントを起こすことのほうがはるかに多い)。 このほか、16例の詳細な内容をみていくと、2例のHOCMのうち1例が事前に診察を受けていたものの、心電図や心エコーで異常が認められず「正常」とされていた。さらに、このほかに2例が「致死性不整脈」が原因とされており、この3~4名くらいがスクリーニングがもしも適切に行われていれば、その恩恵を得られたものと推定される。 これは極めて低い、というレベルの数値である。我が国の診療ガイドライン上で心疾患スクリーニングの妥当性を吟味するときに引用される突然死の頻度は4~5件/100,000人年というところであるが、今回の報告により、実質的に心疾患スクリーニングで防げる突然死の件数はこれよりもはるかに低くなる可能性が提示された。 日本の心電図やエコーの点数はそれぞれ130点と880点であり(2014年診療点数)、諸外国の1/2から1/3に抑えられている。しかし、それでも学校健診を含めた現在のスクリーニング制度の費用対効果がマッチするのかどうか、今後慎重に吟味していく必要があるだろう。