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2021.

1次予防のスタチン対象、ガイドラインによる差を比較/JAMA

 スタチンによる動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の1次予防が推奨される患者は、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)ガイドライン2013年版よりも、米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)の2016年版勧告を順守するほうが少なくなることが、米国・デューク大学のNeha J. Pagidipati氏らの検討で示された。ACC/AHAガイドラインで対象だが、USPSTF勧告では対象外となる集団の約半数は、比較的若年で高度の心血管疾患(CVD)リスクが長期に及ぶ者であることもわかった。研究の成果は、JAMA誌2017年4月18日号に掲載された。1次予防におけるスタチンの使用は、ガイドラインによって大きな差があることが知られている。USPSTFによる2016年の新勧告は、1つ以上のCVDリスク因子を有し、10年間CVDリスク≧10%の患者へのスタチンの使用を重視している。年齢40~75歳の3,416例で2つの適格基準を比較 研究グループは、米国の成人におけるASCVDの1次予防でのスタチン治療の適格基準に関して、USPSTFの2016年勧告とACC/AHAの2013年ガイドラインの比較を行った(デューク臨床研究所の助成による)。 2009~14年の米国国民健康栄養調査(NHANES)から、年齢40~75歳、総コレステロール(TC)値、LDL-C値、HDL-C値、収縮期血圧値のデータが入手可能で、トリグリセライド値≦400mg/dL、CVD(症候性の冠動脈疾患または虚血性脳卒中)の既往歴のない3,416例のデータを収集し、解析を行った。USPSTF勧告で15.8%、ACC/AHAガイドラインで24.3%増加 対象の年齢中央値は53歳(IQR:46~61)、53%が女性であった。21.5%(747例)が脂質低下薬の投与を受けていた。 USPSTF勧告を完全に当てはめると、スタチン治療を受ける集団が15.8%(95%信頼区間[CI]:14.0~17.5)増加した。これに対し、ACC/AHAガイドラインを完全に適用すると、スタチン治療の対象者は24.3%(22.3~26.3)増加した。 8.9%(95%CI:7.7~10.2)が、ACC/AHAガイドラインではスタチン治療が推奨されるが、USPSTF勧告では推奨されなかった。このうち55%が年齢40~59歳であった。この集団は、CVDの10年リスクの平均値は7.0%(6.5~7.5)と相対的に低かったが、30年リスクの平均値は34.6%(32.7~36.5)と高く、28%が糖尿病であった。

2022.

カテーテルによる三尖弁形成術の初期段階の実用性は?

 機能的な三尖弁逆流(TR)は有病率が高いうえ進行することが多く、予後にも影響を与える。AHA/ACC(American Heart Association/American College of Cardiology guidelines)のガイドラインによると、三尖弁の修復術は、左室の開心術と同時に行う場合のみ、NYHA分類Iの適応となっている。三尖弁の修復術は患者にとって有益であるが、患者の多くは左心の開心術の際に、三尖弁の修復術を受けていない。一方で、経カテーテルによる治療は増えており、重症TRはこれらの患者の予後にも影響を与えている。このような背景から、経カテーテルによるTR治療が注目されている。 こうした中、Percutaneous Tricuspid Valve Annuloplasty System for Symptomatic Chronic Functional Tricuspid Regurgitation(症候性の慢性機能性三尖弁逆流症に対する経皮的三尖弁輪形成術システム)における初期の実用性を評価するSCOUT試験の結果を、米国コロンビア大学のRebecca T. Hahn氏らが報告した。Journal of American College of Cardiology誌4月号に掲載。NYHA分類 II以上の機能性TR15例を前向きに評価 本研究は、多施設共同で行われた前向きのシングルアーム試験である。 2015年11月~16年6月、NYHA分類II以上で、中等度以上の機能性TRを有する患者15例が登録され、手技が成功し、30日目までの段階で再手術が行われないことをプライマリエンドポイントとして評価した。心エコーによる三尖弁径、有効逆流口面積(EROA)、左室の拍出量(LVSV)の計測と、QOLの評価(NYHA分類、ミネソタ心不全QOL質問票、6分間歩行テスト)が、ベースライン時と30日後に行われた。 85歳以上、ペースメーカー患者、肺動脈圧>60mmHg、LVEF<35%、心エコーでTAPSE(tricuspid annular plane systolic excursion)<3mm、三尖弁のEROA>1.2 cm2の患者は除外された。1ヵ月後におけるデバイス植込み成功率は80% すべての患者(平均年齢73.2±6.9歳、87%が女性)において、デバイスの植込みが成功し、死亡、脳卒中、心タンポナーデおよび弁に対する再手術は認められなかった。30日後における手技の成功率は80%で、3例でプレジェットが弁輪から外れていた。残りの12例では、三尖弁輪とEROAは共に有意に縮小し(三尖弁輪:12.3±3.1cm2から11.3±2.7cm2、p=0.019、EROA:0.51±0.18cm2 vs.0.32±0.18cm2、p=0.020)、左室の拍出量は有意に増加していた(63.6±17.9mL vs.71.5±25.7mL、p=0.021)。Intention-to-treatコホートの解析でも、NYHA分類(NYHA≧I、p=0.001)、MLHFQ(47.4±17.6から20.9±14.8、p<0.001)、6分間歩行(245.2±110.1mから298.0±107.6m、p=0.008)で有意な改善がみられた。 30日後におけるSCOUT試験の結果により、新しい経カテーテルデバイスの安全性を確認した。経カテーテル三尖弁形成デバイスは、三尖弁輪およびEROAを縮小させるとともに左室拍出量を増加させ、QOLを改善することが示された。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

2023.

腎保護効果は見せかけだった~RA系阻害薬は『万能の妙薬』ではない~(解説:石上 友章 氏)-669

 CKD診療のゴールは、腎保護と心血管保護の両立にある。CKD合併高血圧は、降圧による心血管イベントの抑制と、腎機能の低下の抑制を、同時に満たすことで、最善・最良の医療を提供したことになる。RA系阻害薬は、CKD合併高血圧の治療においても、ファーストラインの選択肢として位置付けられている。RA系阻害薬には、特異的な腎保護作用があると信じられていたことから、糖尿病性腎症の発症や進展にはより好ましい選択肢であるとされてきた。一方で、CKD合併高血圧症にRA系阻害薬を使用すると、血清クレアチニンが一過性に上昇することが知られており、本邦のガイドラインでは、以下のような一文が付け足してある。 『RA系阻害薬は全身血圧を降下させるとともに、輸出細動脈を拡張させて糸球体高血圧/糸球体過剰ろ過を是正するため、GFRが低下する場合がある。しかし、この低下は腎組織障害の進展を示すものではなく、投与を中止すればGFRが元の値に戻ることからも機能的変化である。』(JSH2014, p71) 図は、この考えの根拠となるアンジオテンシンIIと、尿細管・平滑筋細胞・輸入輸出細動脈との間の、量-反応関係を示している。アンジオテンシンIIは、選択的に輸出細動脈を収縮させる。いわば、糸球体の蛇口の栓の開け閉めを制御しており、クレアチニンが上昇しGFRが低下する現象は、薬剤効果であり、軽度であれば無害であるとされてきた。糖尿病合併高血圧では、Hyperfiltration説(Brenner, 1996)に基づいた解釈により、RA系阻害薬は糸球体高血圧を解消することから、腎保護効果を期待され、第一選択薬として排他的な地位を築いている。 しかしながら、こうした考えはエキスパート(専門家)の"期待"にとどまっているのが実情で、十分なエビデンスによる支持があるわけではなかった。 RA系阻害薬の腎保護効果について、その限界を示唆した臨床試験として、ONTARGET試験・TRANSCEND試験があげられる[1, 2]。本試験は、ARB臨床試験史上、最大規模のランダム化比較試験であり、エビデンスレベルはきわめて高い。その結果は、或る意味衝撃的であった。ONTARGET試験では、ACE阻害薬とARBとの併用で、有意に33%の腎機能障害を増加させていた。TRANSCEND試験に至っては、腎機能正常群を対象にしたサブ解析で、実薬使用群での、腎機能障害の相対リスクが2.70~3.06であったことが判明した。他にも、RA系阻害薬の腎保護効果に疑問を投げかける臨床試験は、複数認められる。  eGFRの変化は、アルブミン尿・タンパク尿の変化よりも、心血管イベント予測が鋭敏である[3]。Schmidtらの解析による報告[4]は、RA系阻害薬による”軽微”とされていた腎障害が、腎保護効果はおろか、心血管イベントの抑制にも効果がなかったことを証明した。ガイドラインは、過去の研究成果を積み上げた仮説にすぎない。クリニカル・クェスチョンは有限とはいえ、無数にある。あらゆる選択肢の結果を保証するものではない。専門家の推論や、学術的COIに抵触するような期待に溢れた、あいまいな推奨を断言するような記述は、どこまで許容されるのか。この10年あまりの間、糖尿病合併高血圧や、CKD合併高血圧にRA系阻害薬がどれだけ使用されたのか。そのアウトカムの現実を明らかにした本論文の意義は、学術的な価値だけにとどまらず、診療ガイドラインの限界を示しているともいえる。 1)ONTARGET Investigators, et al. N Engl J Med. 2008;358:1547-1559.2)Mann JF, et al. Ann Intern Med. 2009; 151: 1-10.3)Coresh J, et al. JAMA. 2014; 311: 2518-2531.4)Schmidt M. BMJ. 2017;356:j791.

2024.

研修と組み合わせた2つの強化インスリン療法を比較/BMJ

 1型糖尿病患者の治療において、インスリンポンプ療法に、フレキシブル強化インスリン治療に関する体系的な研修を加えても、頻回注射法(MDI)と比較して血糖コントロール、低血糖、心理社会的転帰に、教育によるベネフィットの増強は得られないことが、英国・シェフィールド大学のSimon Heller氏らが行ったREPOSE試験で示された。研究の成果は、BMJ誌オンライン版2017年3月30日号に掲載された。英国では、1型糖尿病のインスリンポンプ療法は、これ以外の方法では日常生活に支障を来す低血糖を起こさずに良好な血糖コントロールが達成できない患者には価値があるとされる。より広範なインスリンポンプ療法の使用については不確実な点が多く、これまでに行われたMDIとの比較試験は症例数が少なく、試験期間が短いものしかなかったという。研修と組み合わせた2つの強化インスリン療法を比較 REPOSEは、フレキシブルなインスリン治療の研修を受けた1型糖尿病患者において、インスリンポンプ療法とMDIの有効性を比較するプラグマティックな非盲検クラスター無作為化試験(英国医療技術評価プログラムなどの助成による)。 対象は、強化インスリン療法を受ける意思があり、インスリンポンプ療法およびMDIへの好みがない成人1型糖尿病患者であった。イングランドの5施設とスコットランドの3施設で、各施設最大40例の登録を行い、5~8例を1組とする研修コースに患者を割り当てた。 被験者には、フレキシブルな強化インスリン療法(正常な摂食に対する用量調整[dose adjustment for normal eating:DAFNE])に関する体系的な研修が行われた。研修コース(クラスター)が、ポンプ群またはMDI群にランダムに割り付けられ、2年間の治療が行われた。 主要評価項目は、ベースラインのHbA1c値≧7.5%の患者における2年後のHbA1c値の変化およびHbA1c値≦7.5%(2004 NICE推奨値)の達成率とした。副次評価項目には、体重、インスリン用量、中等度~重度低血糖のエピソードが含まれ、QOL、治療満足度の評価も行った。 317例(46コース)がランダム化の対象となった(ポンプ群156例、MDI群161例)。267例が研修コースに参加し、ITT解析には260例(それぞれ132例、128例)が含まれた。2年間の追跡データが得られたのは248例(128例、120例)だった。両群とも全般に転帰が改善、推奨値の達成は少ない ベースラインの全体の平均年齢は40.7歳、男性が60%であった。HbA1c値はポンプ群がわずかに高かった(9.3 vs.9.0%)。9%がHbA1c値<7.5%だった。 ベースラインのHbA1c値≧7.5%の235例(ポンプ群119例、MDI群116例)は、2年後のHbA1c値がそれぞれ0.85%、0.42%低下した。補正後のベースラインからの変化の平均差は-0.24%(95%信頼区間[CI]:-0.53~0.05)であり、ポンプ群で良好な傾向がみられたものの有意な差はなかった(p=0.10)。 ベースラインのHbA1c値にかかわらず、2年後のHbA1c値≦7.5%達成率は、ポンプ群が25.0%、MDI群は23.3%であり、両群に有意な差を認めなかった(オッズ比:1.22、95%CI:0.62~2.39、p=0.57)。 重度低血糖の発現は少なく、全体で25例に49件みられた。2年後の補正発生率は、両群に差はなかった(罹患率比:1.13、95%CI:0.51~2.51、p=0.77)。全体の年間発生件数は、ベースライン前の0.17から追跡期間中に0.10へと低下した。ベースライン前と比較した2年後の罹患率比は0.46(0.24~0.89、p=0.02)と有意な差が認められた。 体重は試験期間を通じてほぼ一定で、両群に有意な差はなかった。総インスリン投与量は両群とも減少し、12ヵ月時にはポンプ群の減少量が有意に多かった(補正差:-0.07、95%CI:-0.13~-0.01、p=0.02)が、2年後にはこの差は消失した(-0.05、-0.11~0.02、p=0.15)。 ほとんどの心理社会的指標は両群に差はなかったが、ポンプ群は治療満足度が大幅に改善され(p<0.001)、糖尿病特異的QOLのうち身体機能に関する日常のいら立ち事(daily hassle of functions)および食事制限が12ヵ月時(それぞれ、p=0.02、p=0.01)、2年時(p=0.01、p=0.004)にポンプ群で有意に優れた。 著者は、「両群とも、HbA1c値、低血糖の発現が低下し、社会心理的指標が改善したが、血糖値がガイドラインの推奨値を達成した患者はほとんどいなかった」とまとめ、「これらの結果は、血糖コントロールが不良な患者では、強力な自己管理に向けた研修の効果が確立されるまでは、インスリンポンプ療法の使用は支持されないことを意味する」と指摘している。

2025.

ワルファリンはなぜ負け続けるのか?(解説:香坂 俊 氏)-668

心房細動に対するカテーテルアブレーションはわが国でも広く行われているが、まれに脳梗塞などの合併症を起こすことがある(1%以下だが、主治医としては絶対に避けたい合併症の1つ)。そうした塞栓系のリスクを減らすためにはアブレーション前後の抗凝固薬管理が重要となるわけだが、、、、<これまでの大前提>これまでの研究から、ワルファリンを中止してヘパリンブリッジを行うよりも、ワルファリンをずっとそのまま中止せずに継続したほうが合併症のリスクを減らせることがわかっている(ただ、ヘパリンブリッジも現場ではまだ広く行われている)。<この試験の仮説>このRE-CIRCUIT試験では、継続的に周術期に投与する抗凝固薬をワルファリンからダビガトラン(NOACと呼ばれる新規抗凝固薬の1つ)にしたら、もっと結果が良くなるのではないか? ということを検証している。そのため104の施設(日本の施設も12施設含まれている)から704人のAFアブレーション患者を登録し、術前投薬をワルファリンかダビガトランでランダム化した(ブラインドはしていない)。手技の4~8週前から抗凝固を開始し、両薬剤とも手技の日の朝まで服用することが決められていた。この結果、アブレーション後に大量出血を起こした患者はダビガトランで5人 (1.6%)、 ワルファリンでは22 人(6.9%)であった。統計的に補正しハザード比を計算すると、80%近くのリスク減ということになる(ハザード比:0.22、95%信頼区間:0.08~0.59)。さて、この稿のテーマは、なぜワルファリンはNOACに負け続けるのか、ということである。当初(2008年~13年くらいまで)心房細動や深部静脈血栓のRCTでワルファリンとNOACはまったくの互角であった。さらに、人工弁など抗凝固が「決定的に必要」な症例ではNOAC(ダビガトラン)のほうで成績が悪く、この分野での適応はまだNOACでは通っていない。しかし、冠動脈疾患を合併した心房細動の症例を対象とした試験(PIONNEER AF-PCI試験:昨秋発表)や今回のRE-CIRCUIT試験などでワルファリンはNOACに負け続けている(大出血などsafety endpointにおいて)。これは自分が思うに、ワルファリンはPIONNEER AF-PCI やRE-CIRCUITなど「抗凝固の適応そのものを問う」ような分野では、強く力を発揮し過ぎるのではないか? 臨床試験では●NOACは安全性に重点をおいた用量設定を行っている(しかも変動しない)●これに対し、ワルファリンは INR 2~3 をターゲットにTTR(percent time in therapeutic INR range)70%以上を要求されるこれが人工弁のようなスーパーハイリスク患者群であれば適切な威力を(塞栓などefficacy endpointに)発揮するものの、PIONEER の冠動脈疾患(抗血小板薬をすでに使用)+心房細動 や 今回 RE-CIRCUITの塞栓リスクはあるものの1%以下であるというアブレーション症例では強く効き過ぎるのではないかと考えられる(リアルな臨床の場であれば、INRを1.5に落としたりする症例が出るのであろうが、臨床試験ではそれが許されない)。このようにちょっとsafety endpointで考えるといつもワルファリンにかわいそうな結果になってしまうのだが、これもリアルといえばリアルなので(ガイドラインどおり厳密にやるとすればこういう結果になる)、NOACはコストの問題さえクリアできれば、引き続きこうした抗凝固に迷うような分野で力を発揮していくのではないだろうか。

2026.

IgG4関連疾患〔IgG4-related disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義IgG4関連疾患とは、リンパ球とIgG4 陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化により、同時性あるいは異時性に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患である。罹患臓器としては膵臓、胆管、涙腺・唾液腺、中枢神経系、甲状腺、肺、肝臓、消化管、腎臓、前立腺、後腹膜、動脈、リンパ節、皮膚、乳腺などが知られている。病変が複数臓器に及び、全身疾患としての特徴を有することが多いが、単一臓器病変の場合もある。臨床的には各臓器病変により異なった症状を呈し、臓器腫大、肥厚による閉塞、圧迫症状や細胞浸潤、線維化に伴う臓器機能不全など、時に重篤な合併症を伴うことがある。治療にはステロイドが有効なことが多い。ステロイド抵抗性・依存性や臓器障害を生じたIgG4関連疾患症例は、2015年7月から難病に指定された。■ 疫学IgG4関連疾患の診療は、種々の診療科にまたがるので、その患者数の推定は困難である。石川県で行われた調査では、年間336~1,300人のIgG4関連疾患の新規発症があり、わが国では2万6,000人の患者がいると推定される。わが国で2016年に行われた自己免疫性膵炎の全国調査では、自己免疫性膵炎の年間推計受療者数は1万3,436人、年間罹患患者数は3,984人、有病率10.1人/10万人と推定され、2011年の調査時の罹患患者数より倍増した。臓器によって異なるが、高齢の男性に多く発症する傾向がある。■ 病因IgG4関連疾患の病因は解明されていないが、免疫遺伝学的背景に自然免疫系、Th2にシフトした獲得免疫系、制御性T細胞などの異常が病態形成に関与する可能性が報告されている。■ 症状臨床症状・徴候は、罹患した臓器によって異なるが、臓器腫大や肥厚による閉塞・圧迫症状が主体となる。自己免疫性膵炎やIgG4関連硬化性胆管炎では膵腫大や胆管閉塞による閉塞性黄疸、IgG4関連涙腺・唾液腺炎では涙腺・唾液腺腫大、後腹膜線維症では尿管圧迫による水腎症や腎機能障害などがみられる。また、病態が持続進行すると、涙腺・唾液腺機能障害による乾燥症状や、膵内外分泌機能低下などが生じうる。■ 分類自己免疫性膵炎以外は、罹患した臓器の前に「IgG4関連」をつけて呼ぶ。IgG4関連疾患はほぼ全身の諸臓器に認められるが、現在IgG4関連疾患として明らかに認知されている疾患・病態を表1に示す。表1 IgG4関連疾患に包括される疾患・病態■ 予後IgG4関連疾患はステロイドが奏効するので、短期的予後は良好であるが、再燃する例が少なからず存在し、長期的予後は不明である。自己免疫性膵炎では、再燃を繰り返す例で、膵石が形成されることがある。また、IgG4関連疾患では、悪性腫瘍を合併しやすいとの報告もあり、注意を要する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ IgG4関連疾患包括診断基準いくつかのIgG4関連疾患には、その診断基準があるが、IgG4関連疾患を包括する診断基準が2011年に作られ、2020年に改訂された。この基準は、各臓器病変の専門医以外の臨床医の使用、各臓器の診断基準との併用、簡潔化、病理組織診断の重要視、ステロイドの診断的治療は推奨しないなどを基本的なコンセプトとして作成された。臨床的所見、血液所見、病理所見の組み合わせにより診断する(表2)。表2 2020改訂IgG4関連疾患包括診断基準できる限り組織診断を加えて、各臓器の悪性腫瘍(がんや悪性リンパ腫など)や類似疾患(原発性硬化性胆管炎、シェーグレン症候群、キャッスルマン病、2次性後腹膜線維症、ウェゲナー肉芽腫、サルコイドーシス、チャーグ・ストラウス症候群など)と鑑別することが大事である。また、この基準で確定診断ができなくても、各臓器の診断基準により診断が可能である。■ 自己免疫性膵炎1型自己免疫性膵炎は、IgG4が関連する1型と、IgG4とは無関係で好中球の膵管上皮内浸潤を特徴とする2型に分かれる。自己免疫性膵炎1型は、自己免疫性膵炎臨床診断基準2018(表3)を用いて診断する。表3-1 自己免疫性膵炎臨床診断基準2018表3-2 自己免疫性膵炎臨床診断基準2018本症の診断においては、膵がんや胆管がんなどの腫瘍性の病変を否定することがきわめて重要である。診断基準では、膵腫大、主膵管の不整狭細像、高IgG4血症、病理所見、膵外病変とオプションとしてのステロイド治療の効果の組み合わせにより診断する。びまん性の膵腫大を呈する典型例では、高IgG4血症、病理所見か膵外病変のどれか1つを満たせば自己免疫性膵炎と診断できる。限局性膵腫大例では、膵がんとの鑑別がしばしば困難であり、ERP(内視鏡的逆行性膵管造影)による主膵管の膵管狭細像が必要であったが、改訂基準ではMRCP、EUS-FNAとステロイド治療の効果で確定診断できるようになった。膵のびまん性腫大は、本症に特異性の高い所見である。腹部ダイナミックCTでは遅延性増強パターンと被膜様構造(capsule-like rim)が特徴的である(図1)。画像を拡大するERPによる主膵管のびまん性不整狭細像も本症に特異的である。狭細像とは閉塞像や狭窄像と異なり、ある程度広い範囲に及んで、膵管径が通常より細くかつ不整を伴っている像を意味する(図2)。画像を拡大する限局性の病変では膵がんとの鑑別がとくに困難であるが、狭細部より上流側の主膵管には著しい拡張を認めない、狭細部からの分枝の派生や非連続性の複数の主膵管狭細像(skip lesions)は、膵がんとの鑑別に有用である。血中IgG4値の上昇は高率に認められるので、その診断的価値は高い。しかし、IgG4値の上昇は他疾患(アトピー性皮膚炎、天疱瘡、喘息など)や一部の膵臓がんや胆管がんでも認められるので注意を要する。病理組織像は、lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)と呼ばれる特徴的な所見で、高度のリンパ球とIgG4陽性の形質細胞の浸潤と、紡錘形細胞が錯綜配列を示す花筵状線維化(storiform fibrosis)と閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)を呈する(図3、4)。画像を拡大する画像を拡大する合併する他のIgG4関連疾患として、膵外胆管の硬化性胆管炎、涙腺・唾液腺炎と後腹膜線維症が取り上げられている。ステロイド治療の効果判定は、画像で評価可能な病変が対象であり、臨床症状や血液所見は対象としない。ステロイド開始2週間後に効果不十分の場合には、再精査が必要である。できる限り病理組織を採取する努力をすべきであり、ステロイドによる安易な診断的治療は厳に慎むべきである。■ IgG4関連硬化性胆管炎IgG4関連硬化性胆管炎の診断は、IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2020(表4)に基づいて、胆道画像検査、高IgG4血症、他のIgG4関連疾患(自己免疫性膵炎、IgG4関連涙腺・唾液腺炎、IgG4関連後腹膜線維症)の合併、胆管壁の病理組織所見、オプションとしてのステロイド治療の効果の組み合わせによって診断する。表4-1 IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2020表4-2 IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2020IgG4関連硬化性胆管炎の胆管像では、下部胆管狭窄を呈することが多いが、上部~肝門部胆管狭窄や肝内胆管狭窄を呈する例では、肝門部胆管がんや原発性硬化性胆管炎(PSC)との鑑別が問題となる。自己免疫性膵炎を合併しないIgG4関連硬化性胆管炎では、診断がとくに困難である。PSCでよくみられる全周性の輪状狭窄(annular stricture)、数珠状変化(beaded appearance)や肝内胆管の減少(pruned-tree appearance)などはIgG4関連硬化性胆管炎ではほとんど認められない(図5)。画像を拡大するIgG4関連硬化性胆管炎では、CTやUSなどにおいて、胆管狭窄部だけでなく狭窄のない部位の胆管にも壁肥厚が高頻度に認められ、この所見は胆管がんとの鑑別に有用である。経乳頭的胆管生検では採取検体が小さいため、IgG4関連硬化性胆管炎と診断できるだけの材料を採取できる例が少ない。肝内胆管に病変が及ぶIgG4関連硬化性胆管炎では、肝生検がPSCとの鑑別に有効なこともある。ステロイドへの良好な反応性は、IgG4関連硬化性胆管炎の診断をより確実なものとするので、ステロイドトライアルも診断の一手段となる。しかし、診断目的の安易なステロイド投与は慎むべきである。■ IgG4関連涙腺・唾液腺炎従来ミクリッツ病やキュットナー腫瘍と呼ばれていた疾患で、診断にはIgG4関連ミクリッツ病の診断基準が用いられる。涙腺、耳下腺、顎下腺の持続性(3ヵ月)、対称性の2対以上の腫脹を基本として、高IgG4血症か、涙腺・唾液腺組織に著明なIgG4陽性形質細胞浸潤(強拡大5視野でIgG4陽性/IgG4陽性細胞が50%以上)のいずれかを満たした場合に診断される。多くは対称性に涙腺、耳下腺、顎下腺、舌下腺、小唾液腺のいずれかが腫脹する。シェーグレン症候群との鑑別が問題となるが、シェーグレン症候群に比べて、抗SS-A/SS-B抗体が陰性であり、乾燥性角結膜炎や唾液腺分泌障害が軽度である。■ IgG4関連腎臓病IgG4関連腎臓病診断基準(表5)により診断される。表5 IgG4関連腎臓病診断基準IgG4関連腎臓病では、びまん性腎腫大、腎実質の多発性造影不良域、腎腫瘤、腎盂壁肥厚などの特徴的な画像所見を呈することが多い。腎組織は間質性腎炎が主体であるが、膜性腎症などの糸球体病変を伴う場合もある。■ IgG4関連後腹膜線維症腹部大動脈周囲や尿管周囲の軟部組織の肥厚が特徴で、腫瘤を形成したり水腎症を起こしたりする。生検困難例も多く、悪性疾患や感染症などによる2次性後腹膜線維症との鑑別が問題となる。■ IgG4関連呼吸器病変画像上、肺門縦隔リンパ節腫大、気管支壁/気管支血管束の肥厚、小葉間隔壁の肥厚、結節影、浸潤影、胸膜病変などの胸郭内病変を呈する。また、病理組織学的には、気管支血管束周囲、小葉間隔壁、胸膜などの間質に、著明なリンパ球とIgG4陽性細胞の浸潤と線維化を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)経口ステロイド治療が、IgG4関連疾患の標準治療法である。経口プレドニゾロン0.6mg/kg/日の初期投与量を2~4週間投与し、その後画像検査や血液検査所見などを参考に約2週間の間隔で5mgずつ漸減し、3~6ヵ月ぐらいで維持量まで減らす。治療への反応が悪い例では悪性腫瘍などを疑診して、再検査を行う必要がある。IgG4関連疾患では、ステロイド中止後にしばしば再燃が起こるので、再燃予防に少量のプレドニゾロン(5mg/日程度)の維持療法を1年前後行うことが多い。ただし、IgG4関連疾患は基本的に予後良好な疾患であることに加え、高齢者発症が多いので、ステロイド長期投与の副作用(腰椎圧迫骨折、大腿骨頭壊死、耐糖能異常など)を考慮して、画像診断および血液検査で十分な改善が得られた症例では、ステロイド投与の早期中止が望まれる。ステロイドを中止する際には、個々の症例における活動性を見極め、できるだけ少量投与に切り替えて中止するほうが安全である。また、ステロイド治療中止後も慎重な経過観察が必要である。ステロイド治療後に再燃を来しやすい因子として、治療後の画像上の改善が不十分、治療後も血中IgG4高値が続く、治療前の血中IgG4値が著しく高値である、などが挙げられる。再燃例では、ステロイドの再投与や増量により寛解が得られることが多い。欧米では、再燃例に対して、免疫抑制薬やリツキシマブを投与して、良好な成績が報告されている。2017年に作成された自己免疫性膵炎の治療に関する国際コンセンサスでは、ステロイドに抵抗性または副作用でステロイドが投与できない症例では、リツキシマブを第1選択とすると記載された。4 今後の展望IgG4の病因の解明と確実性のより高い血清学的マーカーの開発が望まれる。治療に関しては、Bリンパ球の表面免疫グロブリンのCD20抗原に対する抗体であるリツキシマブ(キメラ型抗CD20抗体、商品名:リツキサン)が、ステロイドや免疫抑制薬使用後に再燃したIgG4関連疾患に有効であったと海外で報告されている。しかし、リツキシマブは高価な薬剤であり、また、わが国ではIgG4関連疾患に対する投与は保険適用になっていない。5 主たる診療科消化器内科、リウマチ科、内分泌科、耳鼻咽喉科、腎臓内科、呼吸器内科、泌尿器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報がん・感染症センター 都立駒込病院 IgG4関連疾患センター(世界で初めての専門外来センター)日本膵臓学会ホームページ さまざまなガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター IgG4関連疾患(一般利用者向け、医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省難治性疾患等政策研究事業 IgG4関連疾患の診断基準ならびに診療指針の確立を目指す研究班. 日内誌. 2021;110:962-969.2)日本膵臓学会 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業) IgG4関連疾患の診断基準ならびに診療指針の確立を目指す研究班. 膵臓. 2018;33:902-913.3)中沢貴宏ほか. 胆道. 2021;35:593-601.4)IgG4関連腎臓病ワーキンググループ.日腎会誌.2011;53:1062-1073.公開履歴初回2015年10月20日更新2017年04月18日更新2022年07月28日

2027.

急性脳梗塞の血管内治療、2年後も効果が持続/NEJM

 血管内治療は、急性虚血性脳卒中患者の施行後90日時の機能的転帰を改善することが、MR CLEAN試験で確認されているが、この良好な効果は2年時も保持されていることが、本試験の延長追跡評価で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2017年4月6日号に掲載された。報告を行ったオランダ・Academic Medical CenterのLucie A van den Berg氏らは、「90日時の良好な効果はいくつかの試験やメタ解析で示されているが、長期的な転帰の情報はなく、これらの結果は実地臨床に有益と考えられる」としている。391例で血管内治療追加の2年時の効果を評価 MR CLEAN試験は、オランダの16施設が参加する無作為化試験であり、2010年12月~2014年3月に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構などの助成による)。今回は、延長追跡試験の2年時の結果が報告された。 対象は、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS、0~42点、点が高いほど神経学的重症度が高度)が2点以上、脳前方循環の頭蓋内動脈近位部閉塞による急性虚血性脳卒中で、発症後6時間以内の患者であった。 被験者は、従来治療+血管内治療(介入群)と従来治療単独(対照群)に無作為に割り付けられた。従来治療は、ガイドラインに準拠した最適な治療法とし、アルテプラーゼの静脈内投与などが含まれた。血管内治療は、主にステント型血栓回収デバイスを用いた機械的血栓除去術が行われた。 主要評価項目は、2年時の修正Rankinスケール(mRS)のスコアとし、機能的転帰を0(症状なし)~6(死亡)で評価した。副次評価項目は、2年時の全死因死亡、QOLなどであった。QOLは、EQ-5D-L3質問票(-0.329~1点、点数が高いほど健康状態が良好)に基づく健康効用指標を用いて評価した。 元の試験に含まれた500例のうち、391例(78.2%)から2年間の追跡データが得られた(介入群:194例、対照群:197例)。死亡に関する情報は459例(91.8%)で得られた。2年時も、mRS、QOLが有意に良好 ベースラインの全体の年齢中央値は66歳、58.6%が男性であり、NIHSS中央値は18点(IQR:14~22)であった。約9割がアルテプラーゼ静脈内投与を受け、発症から投与までの期間中央値は85分であった。介入群の発症から鼠径部穿刺までの期間中央値は263分だった。 2年時のmRSスコア中央値は、介入群が3点(IQR:2~6)と、対照群の4点(同:3~6)よりも良好であった(補正共通オッズ比[OR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.15~2.45、p=0.007)。 極めて良好な転帰(mRSスコア:0または1点)の患者の割合は、介入群が7.2%、対照群は6.1%であり、両群に有意な差は認めなかった(補正OR:1.22、95%CI:0.53~2.84、p=0.64)。一方、良好な転帰(mRSスコア:0~2点)の患者の割合は、それぞれ37.1%、23.9%(2.21、1.30~3.73、p=0.003)、好ましい転帰(mRSスコア:0~3点)は55.2%、40.6%(2.13、1.30~3.43、p=0.003)と、いずれも介入群が有意に優れた。 2年累積死亡率は、介入群が26.0%、対照群は31.0%であり、両群に差はみられなかった(補正ハザード比:0.9、95%CI:0.6~1.2、p=0.46)。QOLスコアの平均値は、介入群が0.48と、対照群の0.38に比べ有意に良好だった(平均差:0.10、95%CI:0.03~0.16、p=0.006)。 90日~2年の間に、主要血管イベントが8例に発現した。介入群は239人年に5例(0.02/年)、対照群は235人年に3例(0.01/年)の割合であり、両群に有意な差はなかった。 著者は、「90日と2年時の結果は類似していたが、異なる点として、(1)延長追跡期間中に、介入群の死亡率が対照群よりも低くなった(有意差はない)のに対し、90日時の死亡リスクは2群でほぼ同様だった、(2)2年時のmRSスコア0~1の患者の割合が、両群とも90日時よりも低下したことが挙げられる」とし、後者の説明として「脳卒中が日常の活動性に及ぼす影響が十分に明らかでない時点で早期にリハビリを開始し、その後、支援の少ない自宅での生活を続けたため、機能的能力のわずかな変化だけで、mRSスコア0の患者が1~2に進行した可能性がある」と推察している。

2028.

半数は目標値に達していなかったACS患者のLDL-C:EXPLORE-J試験

 2017年4月4日、サノフィ株式会社主催のメディアラウンドテーブルにて東邦大学 医療センター大橋病院 中村正人氏が、急性冠症候群(ACS)患者における脂質リスクとコントロールに関する前向き観察研究「EXPLORE-J試験」のベースラインデータについて紹介した。ACS患者の3割がスタチンを使用 EXPLORE-J試験は、2015年4月~2016年8月まで59施設から2,016例の登録が終了した。患者の平均年齢は66.0歳、男性が80.4%、BMIは24.2であった。ACSの病型はST上昇型心筋梗塞(STEMI)が61.8%、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)が16.1%、不安定狭心症が22.0%であった。危険因子は脂質異常症77.6%、高血圧72.9%、糖尿病34.7%、虚血性心疾患18.0%、現喫煙者37.8%、過去喫煙27.8%であった。26.9%がスタチンを服用(高力価スタチン服用は2.3%)していた。2次予防例の半数がLDL-C目標値100未満を達成できず ACS患者の入院時のLDL-C値(n=1,859)の分布をみると、対象者の平均値は121.7mg/dLであった。そのうち100未満は29.6%、FH診断の基準である180以上は7.9%であった。一方、虚血性心疾患の既往患者(n=333)のLDL-Cは103mg/dLであった。動脈硬化予防疾患ガイドラインの2次予防の管理目標値100未満の患者は52.0%であり、半数は目標値に達していなかった。 アキレス腱肥厚の測定結果(n=1,787)をみると、中央検定の中央値は6.7mm、基準値の9mm以上は6.4%であった。 家族歴を収集できた患者(n=1,412)から早発性冠動脈疾患の家族歴を調べた結果、家族歴はありは10%という結果だった。家族性高コレステロール血症(FH)の基準を満たす患者は3%、実臨床ではそれ以上か 本邦では、ヘテロ型FH が200~500人に1人、ホモ型FHは100万人に1人といわれているが、ASCを対象としたEXPLORE-Jでの結果はどうか、アキレス腱肥厚を利用した1,391例からの中間解析を行った。結果、成人FHの診断基準(1.未治療のLDL-C180以上、2.腱黄色腫、アキレス腱肥厚あるいは皮膚結節性黄色腫、3.FHまたは若年性冠動脈疾患の二親等以内の家族歴、のうち2項目以上該当)を満たす患者は全体で3.0%、55歳未満では5.9%であった。実際には、スタチンの服用で調査時すでにLDL-Cが低下している患者もあり、実臨床ではこれ以上のFH患者がいると推定される。ASC患者のLDL-C管理状況、病態は10年前と変わらず EXPLORE-Jでは、2008~09年に本邦で行ったPACIFIC試験と比較し、ASC患者のLDL-C管理状況、病態の変化を評価した。結果、LDL-C平均値120、6割というSTEMIの割合は、共にPACIFIC試験とほぼ同等で、10年前からほぼ変化していなかった。今後は絶対リスクの高い患者を明確にし、個別のLDL-C管理に LDL-C70でもイベントを起こす人がいる一方、110でもイベントを起こさない人がいる。年齢、喫煙、糖尿病など複合的な要因が関連してリスクは変わる。一律のLDL-C基準値を決めるにとどまらず、今後は絶対リスクが高い患者を明確にしていき、患者に個別化されていくべきだと、中村氏は述べた。

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ポケット呼吸器診療2017

臨床で使える小さなマニュアル―これをポケットに入れておけば大丈夫!定番の『ポケット呼吸器診療』最新版の登場です。今回は、「2017年版になってどこが変わったの?」がわかります→改訂部分を色付け各種ガイドラインの改訂に対応など、最新情報にアップデート内容量もさらに充実。前年版の30%増! (150→200ページ)の3つを主に改訂しました。また、本書の特徴としては、臨床で使える小さなマニュアル(新書版)である呼吸器疾患の診療手順/処方例/診療指針・ガイドラインを掲載患者さんへの病状説明のポイント、よくある質問の解答例も掲載 の3点が挙げられます。小さいながらも、診療現場で役に立つ1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    ポケット呼吸器診療2017定価1,800円 + 税判型17.2 × 10.5 × 0.9 cm頁数212頁発行2017年3月監修林 清二著者倉原 優Amazonでご購入の場合はこちら

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第36回

第36回:急性副鼻腔炎に対する抗菌薬投与は、発症7~10日以内で症状改善しない場合に考慮する監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 急性副鼻腔炎とは「急性に発症し、罹病期間が1カ月以内と短く、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、咳嗽を認め、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う疾患」と定義されている1)。原因としてはウイルス性、細菌性が挙げられるが、最近はアレルギー性鼻副鼻腔炎も増加している2)。このため抗菌薬投与が効果を示す細菌性副鼻腔炎か否かを鑑別する必要があるが、実臨床で正確に判断することは難しい。日本鼻科学会からは、重症度スコアと、小児および成人の重症度別治療アルゴリズムが提唱されている3)。 これによると、軽症の場合は小児、成人いずれの場合においても抗菌薬は使用せず、5日間の経過観察を行い、症状が改善しない場合にはAMPCなどの抗菌薬を考慮することになっている。したがって、急性副鼻腔炎に対しては、ルーチンで抗菌薬を処方せず、適正な使用が求められる。 以下、American Family Physician 2016年7月15日号より4)急性副鼻腔炎は、外来診療におけるcommon diseaseの一つである。多くの場合は、ウイルス性上気道炎が原因である。臨床所見だけでは、抗菌薬が効く細菌性副鼻腔炎かどうかの判断は難しい。次の4項目の所見がある場合は、細菌性副鼻腔炎の可能性が高まる。症状の再燃膿性鼻汁血沈1時間値>10mm鼻腔内の膿汁貯留ガイドラインによって違いはあるものの、7~10日間以内に副鼻腔炎症状が改善しない場合や、症状が増悪する場合は抗菌薬療法を考慮する。抗菌薬療法の第1選択は、AMPC(商品名:サワシリン)500mg 8時間毎、またはAMPC/CVA(同:オーグメンチン)500mg/125mg 8時間毎の5~10日間投与である。レスピラトリーキノロン(LVFX、MFLX)は、βラクタム系抗菌薬と比較して有益性は示されておらず、さまざまな副作用リスクを伴っているため、第1選択として推奨されていない。マクロライド系、ST合剤、第2世代および第3世代セファロスポリン系は、S.pneumoniaeやH. influenzaeに効かないことが多いため、初期治療として推奨されていない。最近のガイドラインでは、上気道症状を認めてから7~10日間の経過観察を推奨している。鎮痛薬、鼻腔内ステロイド投与、生食による鼻腔内洗浄による治療効果のエビデンスは乏しい。また、合併症のない急性副鼻腔炎の診断に対する放射線画像検査は推奨されない。治療反応性が乏しい症例では、合併症や解剖学的異常の有無について単純CTが有用である。十分に内科的治療を行っているにもかかわらず、症状が遷延する場合や、まれな合併症が疑われる場合は、耳鼻科への紹介が必要。専門医にコンサルトすべき一覧閉塞を引き起こすような解剖学的異常眼窩蜂窩織炎や骨膜下膿瘍、眼窩膿瘍、意識障害、髄膜炎、静脈洞血栓症、頭蓋内膿瘍、Pottʼs puffy tumorなどの合併症状を呈している(Pottʼs puffy tumorは1768年にSir Percival Pottが提唱した疾患概念で、前頭骨骨髄炎が原因で骨外に1つ以上の膿瘍を形成した状態をいう)アレルギー性鼻炎に対する免疫療法の評価頻回再発例(年3~4回の再発)真菌性副鼻腔炎、肉芽腫性疾患、悪性新生物の疑い免疫不全患者院内感染39度以上の発熱が続く重症感染症抗菌薬療法を延長投与したにもかかわらず治療効果がみられない場合非典型的な起炎菌、抗菌薬抵抗性起炎菌が検出された場合※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本鼻科学会編:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版 2) Suzuki K, Baba S: Local use of antibiotics for paranasal sinusitis. In: Proceedings of the XII international symposium of infection and allergy of the nose. Am J Rhinol 1994; 8: 306-307 3) 日本鼻科学会編:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版(追補版). 4) Aring AM,et al. Am Fam Physician. 2016;94:97-105

2031.

“モンスターペイシェント”の実態

 “モンスターペイシェント”が増加しているといわれる中、医療従事者や医療機関に対して自己中心的で理不尽な要求や暴言、暴力、クレームを経験したことはありませんか? ケアネットは3月、CareNet.comの医師会員を対象に上記についてアンケート調査を実施し、医師会員1,000人の回答を得た。同調査は2013年2月以来4年ぶりとなり、前回の調査結果との比較も行った。 今回の調査の詳細と、具体的なエピソードやコメントはCareNet.comに掲載中。 調査は、2017年3月16~17日、医師会員を対象にインターネット上で実施した。 このうち、患者・家族から暴言や暴力、その他“通常の域を超えている、診察に著しく影響を及ぼすレベル”の行動や要求、クレームを受けた経験について、「経験がある」と答えた人は55.1%で、4年前(67.1%)よりもやや減少した。ただし、経験者の6割近くが1年に1回以上のペースで遭遇しており、モンスターペイシェントが少なからず診療に支障を来している状況がうかがえる。 モンスターペイシェントの事例としては、「スタッフの対応が気に食わないなどのクレーム」が最も多く(47.2%)、「自分を優先した診察ほか、待ち時間に関する要求・暴言を吐く」(33.4%)、「治療法・薬剤を指定するなど、自分の見立てを強硬に主張」(30.3%)、「不要な投薬・過剰な投薬を要求」(18.3%)などが続いた。 また、勤務・経営する院内におけるモンスターペイシェント対応策として、「対応マニュアルやガイドラインがある」と答えた人は32.2%で、前回調査時より3.4ポイント増加しており、以下「対応担当者を決めている」(23.8%)、「院内で事例を共有している」(21.6%)、「対策システムがある」(18.6%)などが続いた。その一方で、「とくに対応策をとっていない」と答えた人が、選択肢の中で2番目に多い29.7%にのぼった。 この内訳を病床数でみると、200床以上では4割以上でモンスターペイシェントのマニュアルやガイドラインが整備されているが、小規模ほど対策が遅れている傾向にあるようだ。中には、「不当な目にあっても対応した医師が悪いという風潮が院内にあり、被害医師は孤立」「上司が守ってくれるかどうかが、その後のメンタルに大きく影響する」「守ってくれない職場は最低」(いずれも調査内の自由記述コメントから抜粋)など、対応以前に周囲が無理解であることをうかがわせるコメントもみられた。 患者およびその家族の“モンスター化”にとどまらず、事件となるケースも少なくない。近年では2013年に北海道三笠市の総合病院で、精神科医が外来患者に刺殺された事件や、14年に札幌市の病院で、消化器内科医が担当患者に切り付けられ重傷を負った事件、15年には岐阜市で歯科医院長が患者に刺殺された事件など、患者とのトラブルを発端とする凶悪事件は後を絶たない。 今回の調査で、暴力や身に迫る危険を経験した人は、回答全体に占める割合としては少なかったが、「看護師の首を跡が残るくらい絞めた」「病室で拳銃を発砲」などのモンスターペイシェントの事例が寄せられた。 このほか、「ネットで口コミに辛辣に書き込みされ困っている」「インターネットの掲示板で誹謗中傷された」「外来窓口で突然面識のない患者にホームページで見たことを理由に殴られた同業者がいたため、ホームページに顔写真を載せるのを止めた」といったエピソードは、2013年時の調査では見られなかった新たな傾向である。 今春、新たに入職したり、勤務先の医院を変えて心機一転、臨床に励みたいと考えたりする人も多いことだろう。そんな医療従事者の思いや希望を打ち砕くようなことがあってはならず、日々不安を抱えながら診療に当たるような不健全な状況は、一刻も早く改善されなければならない。今回の調査では「毅然と対応すべき」というコメントが多数寄せられた。しかし、個々人が「自分の身は自分で守る」以前に、理不尽な患者や家族を増長させないためのモンスター化の事前策を打つことはできないだろうか。 ケアネットではモンスターペイシェントの有効な対応策や解決事例などをさらに取材し、お伝えしていきたい。

2032.

エボロクマブ追加で心血管イベントリスクを有意に低減/NEJM

 前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬エボロクマブ(商品名:レパーサ)は、スタチン治療でLDLコレステロール(LDL-C)値のコントロールが不良なアテローム動脈硬化性心血管疾患患者のLDL-C値を30mg/dLまで低下させ、心血管イベントのリスクを有意に低減することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMarc S Sabatine氏らが行ったFOURIER試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2017年3月17日号に掲載された。本薬は単剤でLDL-C値を約60%低下させることが報告されているが、心血管イベントを予防するかは不明であった。2万7,564例を対象とするプラセボ対照無作為化試験 FOURIER試験は、エボロクマブのスタチンへの上乗せによる心血管イベントの予防の改善効果を検証する国際的な二重盲検プラセボ対照無作為化試験(Amgen社の助成による)。 対象は、年齢40~85歳、アテローム動脈硬化性心血管疾患でスタチンの投与を受けているが、LDL-C値が≧70mg/dLの患者であった。被験者は、エボロクマブ(患者の好みで、2週ごとに140mgまたは1ヵ月ごとに420mgから選択)またはプラセボを皮下投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院、冠動脈血行再建術の複合エンドポイントであった。主な副次評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントとした。 2013年2月~2015年6月に、49ヵ国1,242施設で2万7,564例が登録され、エボロクマブ群に1万3,784例、プラセボ群には1万3,780例が割り付けられた。追跡期間中央値は2.2年だった。LDL-C値が59%低下、主要評価項目が15%改善 ベースラインの全体の平均年齢は63歳、女性が24.6%含まれた。心筋梗塞の既往が81.1%、非出血性脳卒中の既往が19.4%、症候性末梢動脈疾患が13.2%に認められた。スタチン治療は、ACC/AHAガイドラインのhigh-intensityが69.3%、moderate-intensityが30.4%に行われ、5.2%にはエゼチミブも投与されていた。 ベースラインのLDL-C値中央値は92mg/dL(IQR:80~109)であった。48週時に、エボロクマブ群のLDL-C値中央値は30mg/dL(IQR:19~46)に低下し、プラセボ群との絶対差は56mg/dL(95%信頼区間[CI]:55~57)であった。LDL-C値の減少率の最小二乗平均値は59%(95%CI:58~60、p<0.001)であり、エボロクマブ群が有意に良好であった。 主要評価項目の発生は、エボロクマブ群が9.8%(1,344例)と、プラセボ群の11.3%(1,563例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.85、95%CI:0.79~0.92、p<0.001)。主な副次評価項目の発生も、エボロクマブ群が有意に良好だった(5.9%[816例] vs.7.4%[1,013例]、HR:0.80、95%CI:0.73~0.88、p<0.001)。 また、エボロクマブ群はプラセボ群に比し、心筋梗塞(3.4 vs.4.6%、HR:0.73、95%CI:0.65~0.82、p<0.001)、脳卒中(1.5 vs.1.9%、0.79、0.66~0.95、p=0.01)、冠動脈血行再建術(5.5 vs.7.0%、0.78、0.71~0.86、p<0.001)、虚血性脳卒中/一過性脳虚血発作(1.7 vs.2.1%、0.77、0.65~0.92、p=0.003)を有意に改善した。一方、心血管死、全死因死亡、不安定狭心症による入院、心血管死/心不全の増悪による入院には差がなかった。 主要評価項目と主な副次評価項目に関するエボロクマブ群のベネフィットは、年齢、性、アテローム動脈硬化性血管疾患のタイプなどの主要なサブグループのほとんどに一貫して認められた。さらに、ベネフィットは、ベースラインのLDL-C値の最高四分位群(中央値:126mg/dL、IQR:116~143)から最低四分位群(74mg/dL、69~77)まで、一貫してみられた。 有害事象(77.4 vs.77.4%)、重篤な有害事象(24.8 vs.24.7%)、治験薬関連と考えられる有害事象の発現および治験レジメンの中止(1.6 vs.1.5%)は、両群に有意な差はなかった。また、筋関連イベント(5.0 vs.4.8%)、白内障(1.7 vs.1.8%)、新規糖尿病(8.1 vs.7.7%)、神経認知有害事象(1.6 vs.1.5%)にも、両群に差はなかったが、注射部位反応(2.1 vs.1.6%、p<0.001)はエボロクマブ群で有意に多くみられた。 著者は、「これらの知見は、アテローム動脈硬化性心血管疾患患者は、LDL-C値を現在の目標値よりも、さらに下げることでベネフィットが得られることを示すもの」と指摘している。

2033.

患者・家族とのトラブル、どう解決すべき!? 2017年“モンスターペイシェント”事情

“モンスターペイシェント”という言葉が使われるようになって久しいですが、診療で対応した患者やその家族とのトラブルや事件は後を絶ちません。「モンスター化させないことが大切」とは言うものの、実際皆さんどのように対応していますか? 医師1,000人から聞いたその実態と、対応策とは…。結果概要2人に1人以上が暴言や暴力、“通常の域を超え、診察に著しい影響を及ぼすレベル”の要求やクレーム経験あり全体では55.1%の医師が「経験がある」と回答した。2013年にケアネットが行った同調査では67.1%であったのと比較してやや減少したものの、依然として2人に1人以上が何らかの経験があることがわかった。経験の頻度は、1年に1度以下が最も多かったが、「月に1度」以上の人があわせて11.5%にのぼり、わずかではあるが「週に2~3度以上」(1.3%)と答えた人も。暴言、ネットへの誹謗中傷の書き込み、なかには立件レベルの事案も内容としては、「スタッフの対応が気に食わないなどのクレーム」が最も多く(47.2%)、「自分を優先した診療ほか、待ち時間に関する要求・暴言を吐く」(33.4%)、「治療法・薬剤を指定するなど、自分の見立てを強硬に主張」(30.3%)、「不要な投薬・過剰な投薬を要求」(23.6%)などが続いた。とくに悪質なケースとしては、「『訴える』『殺す』『暴力団関係者を連れてくる』『マスコミに流す』などと脅迫」(18.3%)や、「自身やスタッフに暴力を振るう」(15.1%)などがあり、「看護師の首を跡が残るくらい絞めた」「病室で拳銃を発砲」といったエピソードも寄せられた。3割超で対応マニュアル・ガイドライン整備。現場では警察OBが活躍、悪質なケースでは110番通報も患者やその家族とトラブルになった場合の最終的な対応として、およそ3人に1人が「以後の診察を拒否した」と回答。以下、「他の医師と担当を交代」(18.7%)「転院させた」(17.8%)などが続いた。一方、「とくに対応はしなかった」人は33.4%にのぼり、全選択肢の中で最も多い回答だった。「なるべく話を妨げずに聞き、嵐が去るのを待つ」など、ひたすら傾聴するというコメントも少なくなかったが、「カルテに詳細を記録する」「ICレコーダーは必須」などの証拠保全策、「すぐに対応部署に介入してもらう」「警察への通報を躊躇してはいけない」などの回避策も挙がった。また、「警察OBを雇用している」との回答は14.0%で、対応を一任できる安心感があるとのコメントが多かった。このほか、ネットの掲示板への誹謗中傷の書き込みや、患者のストーカー化など、精神的負担を強いられるエピソードも複数見られた。設問詳細診療で関わった患者・家族とのトラブルが発端となった事件が後を絶ちません。医療現場では今、何が起こっているのでしょうか。そこで、患者・家族からの暴言や暴力、通常の域を超えた要求やクレームにまつわる経験や対応について、皆さんが日常診療の中で遭遇した実例や対応策を、ぜひお聞かせください。Q1.患者・家族から暴言・暴力、その他“通常の域を超えている、診察に著しく影響を及ぼすレベル”の行動や要求、クレームを受けたことがありますかあるないQ2.(Q1で「ある」と回答した方のみ)その頻度について最も近いものをお答え下さい週に2~3度以上週に1度半月に1度月に1度2~3ヵ月に1度半年に1度1年に1度それ以下Q3.(Q1で「ある」と回答した方のみ)その内容について当てはまるものをすべてお答え下さい(複数回答可)自分を優先した診察ほか、待ち時間に関する要求・暴言を吐く「空いている」などの理由で、時間外・夜間診療を繰り返す診察を受けずに投薬のみ要求不要な投薬・過剰な投薬を要求治療法・薬剤を指定するなど、自分の見立てを強硬に主張検査・診察・食事・内服等を拒否入院を強要退院を拒否治療費・入院費を払わない「スタッフの対応が気に食わない」などのクレーム事実と異なることを吹聴(SNSへの書き込みなども含む)土下座など度を越した謝罪を要求「訴える」「殺す」「暴力団関係者を連れてくる」「マスコミに流す」などと脅迫自身やスタッフに暴力を振るうQ4.(Q1で「ある」と回答した方のみ)上記の患者・家族への対応で、ご経験があるものをお答え下さい(複数回答可)他の医師と担当を交代転院させた以後の診察を拒否弁護士・司法書士等に相談警察に相談警察に通報、出動を要請した患者の対応に参って体調を崩した退職したとくに対応はしなかったQ5.院内で設けられている対応策について当てはまるものをお答え下さい(複数回答可)対応マニュアルやガイドラインがある対策システムがある防犯・対策セミナーや訓練を実施している院内で事例を共有している対応担当者を決めている担当部署を設置している警察OBを雇用している弁護士・司法書士に相談する体制をとっている「警察官立寄所」のステッカー・看板等を掲示しているICレコーダー・カメラ等を設置しているとくに対応策をとっていないQ6.コメントをお願いします(具体的なエピソードや解決方法、対策ノウハウ、院内体制など何でも結構です)コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)エピソード夫が暴力団関係者であると脅され、患者に有利になるよう診断書を書くことを強要された(50代、整形外科)。ほか、診断書の内容についてのクレーム・過度の要求2件。入院中に無断外出しアルコールを飲んだうえ、暴言をはかれた。スタッフの協力によって解決したが、そのために使った時間と体力、精神力は大きなものだった(30代、神経内科)。ほか、無断外出によるトラブル2件。酔っ払い相手で困った経験がある。殴られ、刑事事件とした(40代、消化器内科)。ほか、直接暴力を受けたというコメント2件。救急外来での対応に不満を持ち、いったん帰宅して包丁を持って来院した患者がおり、以来救急外来に監視カメラが設置された(50代、麻酔科)。ほか、救急・夜間診療でのトラブル5件。ミュンヒハウゼン症候群の患者への対応に苦慮。精神神経科医や臨床心理士のサポートが不足している病院が少なくないように感じる(50代、内科)。ほか、精神疾患や認知症患者への対応についてのコメント7件。生活保護受給者が、売買目的で不必要な薬を大量に要求してくることが毎日のようにある(50代、泌尿器科)。ほか、生活保護受給者に関するトラブル4件。治療が家族の見立て通りに進まないことへの苦言から、威嚇行為に発展したことがある(30代、膠原病・リウマチ科)。ほか、家族への対応でのトラブル7件。患者にストーカー状態でつきまとわれ、病棟まで追いかけてこられた(30代、皮膚科)。ほか、ストーカーまがいのトラブル1件。ネット上の口コミで辛辣な書き込みをされて困っている(50代、内科)。ほか、ネット上での誹謗中傷1件。対策<複数での対応>問題がありそうな患者に対応するときは医師以外に看護師、事務スタッフを横に置き、必ずメモを取り、カルテにも記載する(60代、産婦人科)。基本的には別のスタッフが対応したり、複数で対応することで鎮静化することが多い(50代、循環器内科)。ほか、複数での対応が有効というコメント46件。<情報共有・専任部署の設置>上位の責任者を決めておくことは必須(50代、神経内科)。ほか、上司・院長などへの報告システムが重要とのコメント12件。日ごろから問題に発展しそうな事例についての情報共有と対策検討が不可欠(40代、精神科)。ほか、情報共有が重要というコメント34件。専任の医療安全部看護師が対応する(40代、内科)。ほか、クレーム対応部署等専任者・部署の設置39件。医療安全カンファレンスを定期的に開催している(20代、臨床研修医)。ほか、研修会等の開催5件。院内放送で、職員が集まるシステムになっている(50代、糖尿病・代謝・内分泌内科)、ほか、院内放送の活用5件。<接遇・態度>理不尽な要求は対応できないとはっきり伝え、以後は警察等を通すように言う(50代、内科)。ほか、毅然とした態度が重要というコメント23件。できるだけ入院や手術治療前に対応する(40代、消化器外科)。ほか、早め早めの対応が重要というコメント7件。患者が興奮している時は、なるべく刺激するようなことを言わない(60代、リハビリテーション科)、なるべく話しを妨げずに聞いて落ち着くのを待つ(50代、皮膚科)。ほか、まずは傾聴・丁寧な姿勢で臨むというコメント30件。<記録・録音>目の前でICレコーダーで記録を取っていることを見せている(40代、腎臓内科)。ほか、ICレコーダーが有効とのコメント3件。言葉を選んで話し、カルテに詳細に記録を残す。カルテ開示を念頭に置き、冷静に記載する(50代、皮膚科)。ほか、カルテへの詳細記録が有効とのコメント6件。<マニュアル・ガイドライン>マニュアルを各部署に配布し、理不尽な要求には応じないよう徹底している(50代、消化器内科)。ほか、マニュアルについてのコメント21件。<弁護士・警察・警備会社>トラブルが起こりそうな場合は、弁護士に連絡する体制をとっている(40代、消化器内科)。ほか、弁護士への相談体制が重要とのコメント5件。病院が警察OBと契約し、暴力事例への不安が軽減された(50代、循環器内科)。ほか、警察OBの雇用・常駐が有効とのコメント15件。違法な行為があればすぐに通報する(40代、小児科)。ほか、躊躇せず、すばやい通報が重要とのコメント6件。警備会社の自動通報システムが有効(60代、精神科)。ほか、民間警備会社の活用4件。

2034.

もはや「秘め事」ではない!? 患者1,000万人超の慢性便秘の考え方

 排便頻度が著しく少なく、それが原因のQOL低下を自覚するものの、便秘が医師の治療や処方を必要な疾患であると認識している人はどれほどいるのだろうか。その証拠に、セルフメディケア商品の市場規模が300億円超といわれているのが慢性便秘である。3月23日、都内でこの慢性便秘をめぐる医療の現状をテーマにしたプレスセミナーが開かれた(主催:漢方医学フォーラム)。セミナーに登壇した中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授・診療部長)は、「医師と患者の双方が、まずは便秘を『病気』として認識するとともに、適切な初療により慢性化させないことが重要だ」と述べた。 現在、国内における全人口の約14%(2~27%)が慢性便秘であるとみられている。若年~中年層では圧倒的に女性に多いが、65歳以上の高齢層になると男女共にその割合は急激に増える。ただし、排便回数が月2回以下という重症便秘は女性に多い。また近年では、小児期のトイレトレーニングが不十分などの理由で、子どもの便秘が増える傾向があるという。 旅行などの短期的な環境変化だけでなく、進学や就職、結婚などによる生活変化で排便習慣が乱れ、一過性の便秘となる人は少なくないが、この段階で適切な治療を行えば問題ない。適切な治療とは何か。食事指導や治療薬の処方もさることながら、医師の問診による原因究明が肝要である。 中島氏によると、患者が排便に関する悩みを打ち明けても、「わずかでも出ているなら問題ない」「排便回数が多いのは便秘ではないので問題ない」など、多くの医師の判断基準が「回数」にあるため、訴えの本質を見逃しがちになっているという。「たとえ毎日排便があっても、過度の怒責や排便後の残便感や不快感、頻回便なども、患者にとってはQOL低下につながる切実な悩みである。これを症状として聞く姿勢がなければ、治療へとつながっていかない」と中島氏は述べる。 先述した300億円超という膨大な便秘関連薬市場は、セルフメディケアで解消しようとする患者の多さを物語っているが、この中には医療機関で症状を打ち明けるも適切な治療を受けられず、市販薬をのみ続けた結果、慢性便秘を重症化させてしまう患者も少なくないという。 これまで、わが国における慢性便秘治療に使われてきたのは、もっぱら酸化マグネシウムと刺激性下剤の2種であったが、新規便秘薬としてルビプロストンやリナクロチド(いずれも保険適応)が発売され、治療をめぐる潮流にも変化がみられる。 中島氏は、さらなる選択肢として漢方薬の使用を挙げた。具体的には、(1)大黄甘草湯(2)麻子仁丸(3)潤腸湯(4)桂枝加芍薬大黄湯(5)防風通聖散(6)大建中湯の6種(作用の強い順に記載)を、患者の症状やニーズに合わせて使い分けることを勧めている。 中島氏は現在、慢性便秘に特化したガイドライン作成委員会メンバーとして策定に当たっており、今夏を目途に発刊を目指しているという。中島氏は、「専門医のみならず、かかりつけ医においても、初療で適切な治療を行うことの重要性をガイドランに盛り込む方針。便秘の苦しみを訴える患者の声に耳を傾け、医療機関での失望経験が慢性便秘患者を増やしている現状は改めるべき」と述べた。

2035.

日本人の心房細動患者に適した脳梗塞リスク評価~日本循環器学会

 日本人の非弁膜症性心房細動(AF)患者の心原性脳塞栓症リスク評価において、脳卒中の既往、高齢、高血圧、持続性心房細動、低BMIの5つの因子による層別化が、従来のCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアによる層別化よりリスク予測能が高いことが報告された。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援による、層別化指標の確立を目的とした共同研究であり、第81回日本循環器学会学術集会(3月17~19日、金沢市)のLate Breaking Cohort Studiesセッションで弘前大学の奥村 謙氏が発表した。 非弁膜症性AF患者における心原性脳塞栓症リスクの層別化は 従来、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアが用いられており、わが国のガイドラインでも推奨されている。一方、伏見AFレジストリでは、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアの危険因子がすべてリスクとはならないということや、体重50kg以下がリスクとなることが示されている。したがって、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアを日本人にそのまま当てはめることは、必ずしも適切ではないということが示唆される。 本研究では、5つの大規模心房細動レジストリ(J-RHYTHM Registry、伏見AFレジストリ、心研データベース、慶應KiCS-AFレジストリ、北陸plus心房細動登録研究)のデータを統合した。非弁膜症性AF患者1万2,127例について、登録時の観察項目・リスク項目を単変量解析後、ステップワイズ法、Cox比例ハザード法を用いて多変量解析し、心原性脳塞栓症における独立した危険因子を検討した。また、各因子についてハザード比に基づいてスコアを付与し、その合計によるリスク評価が実際にCHADS2スコアより優れているかを検討した。 患者の平均年齢は70.1±11歳、平均CHADS2スコアは1.7±1.3であり、74%の患者に抗凝固療法が施行されていた。脳梗塞発症は2万267人年で226例(1.1%)に認められた。 各因子の脳梗塞発症について単変量解析を行ったところ、うっ血性心不全、高血圧、高齢、脳卒中の既往、持続性AF、高クレアチニン、低BMI、低ヘモグロビン、低ALTで有意であった。さらに多変量解析で、脳卒中の既往(ハザード比2.79、95%CI 2.05~3.80、p<0.001)、年齢(75~84歳:1.65、1.23~2.22、p=0.001、85歳以上:2.26、1.44~3.55、p<0.001)、高血圧(1.74、1.20~2.52、p=0.003)、持続性AF(1.65、1.23~2.23、p=0.001)、BMI 18.5未満(1.53、1.02~2.30、p=0.04)が脳梗塞の独立した危険因子ということがわかった。 各因子のスコアはハザード比に基づいて、脳卒中の既往を10点、75~84歳を5点、85歳以上を8点、高血圧を6点、持続性心房細動を5点、BMI 18.5未満を4点とした。スコアの合計を0~4点、5~12点、13~16点、17~33点で層別化し、カプランマイヤーによる脳梗塞累積発症率をみたところ、0~4点の群を対照として有意にリスクが上昇することが示され、C-statisticは0.669であった。抗凝固療法なしの群ではこの結果がより明らかで、C-statisticが0.691と、CHADS2スコアでの0.631、CHA2DS2-VAScスコアでの0.581より高く、リスク評価法として予測能が高まったと言える。 今回の結果から、日本人の非弁膜症性AF患者の心原性脳塞栓症リスク評価として、今回の5つの因子による評価法が従来のリスク評価法より有用と考えられる。しかし、今回のC-statisticの値はリスク評価法としてはまだそれほど高いわけではなく、客観的指標(BNPレベル、心エコーの値など)を追加することでさらに予測能が高まるのではないかと奥村氏らは推察している。

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脳卒中発症AF患者の8割強、適切な抗凝固療法を受けず/JAMA

 抗血栓療法は心房細動患者の脳卒中を予防するが、地域診療では十分に活用されていないことも多いという。米国・デューク大学医療センターのYing Xian氏らPROSPER試験の研究グループは、急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者約9万5,000例を調査し、脳卒中発症前に適切な経口抗凝固療法を受けていたのは16%に過ぎず、30%は抗血栓療法をまったく受けていない実態を明らかにした。JAMA誌2017年3月14日号掲載の報告。抗血栓療法の有無別の脳卒中重症度を後ろ向きに評価 PROSPER試験は、心房細動の既往歴のある急性虚血性脳卒中患者において、脳卒中の発症前にガイドラインが推奨する抗血栓療法を受けていない患者と、各種抗血栓療法を受けた患者の脳卒中の重症度および院内アウトカムの評価を行うレトロスペクティブな観察研究である(米国患者中心アウトカム研究所[PCORI]の助成による)。 対象は、2012年10月~2015年3月に、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)によるGet With the Guidelines–Stroke(GWTG-Stroke)プログラムに参加した心房細動の既往歴のある急性虚血性脳卒中患者9万4,474例(平均年齢:79.9[SD 11.0]歳、女性:57.0%)であった。 主要評価項目は、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS、0~42点、点が高いほど重症度が重く、≧16点は中等度~重度を表す)による脳卒中の重症度および院内死亡率とした。高リスク例でさえ84%が適切な治療を受けていない 7万9,008例(83.6%)が脳卒中発症前に適切な抗凝固療法を受けておらず、脳卒中発症時に治療量(国際標準化比[INR]≧2)のワルファリンが投与されていたのは7,176例(7.6%)、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の投与を受けていたのは8,290例(8.8%)に過ぎなかった。 また、脳卒中発症時に1万2,751例(13.5%)が治療量に満たない(INR<2)ワルファリンの投与を受け、3万7,674例(39.9%)は抗血小板薬のみが投与されており、2万8,583例(30.3%)は抗血栓療法をまったく受けていなかった。 高リスク(脳卒中発症前のCHA2DS2-VASc≧2)の患者9万1,155例(96.5%)のうち、7万6,071例(83.5%)が脳卒中発症前に適切な抗凝固療法(治療量ワルファリンまたはNOAC)を受けていなかった。 中等度~重度脳卒中の未補正の発症率は、治療量ワルファリン(INR≧2)群が15.8%(95%信頼区間[CI]:14.8~16.7%)、NOAC群は17.5%(16.6~18.4%)であり、非投与群の27.1%(26.6~27.7%)、抗血小板薬単独群の24.8%(24.3~25.3%)、非治療量ワルファリン(INR<2)群の25.8%(25.0~26.6%)に比べて低かった(p<0.001)。 院内死亡の未補正発症率も、治療量ワルファリン群が6.4%(95%CI:5.8~7.0%)、NOAC群は6.3%(5.7~6.8%)と、非投与群の9.3%(8.9~9.6%)、抗血小板薬単独群の8.1%(7.8~8.3%)、非治療量ワルファリン群の8.8%(8.3~9.3%)に比し低かった(p<0.001)。 交絡因子で補正すると、非投与群に比べ、治療量ワルファリン群、NOAC群、抗血小板薬単独群は中等度~重度脳卒中のオッズが有意に低く(補正オッズ比:0.56[95%CI:0.51~0.60]、0.65[0.61~0.71]、0.88[0.84~0.92])、院内死亡率も有意に良好であった(同:0.75[0.67~0.85]、0.79[0.72~0.88]、0.83[0.78~0.88])。 著者は、「脳卒中発症前に何らかの経口抗凝固薬の投与を受けていたのは30%で、ワルファリン投与患者の64%は治療量に満たない用量(INR<2)であり、脳卒中発症前の血栓塞栓症リスクが高い患者でさえ、84%がガイドラインで推奨された抗凝固療法を受けていなかった」とまとめている。

2037.

PCI後のDAPT期間決定に有用な新規出血リスクスコア/Lancet

 スイス・ベルン大学のFrancesco Costa氏らは、簡易な5項目(年齢、クレアチニンクリアランス、ヘモグロビン、白血球数、特発性出血の既往)を用いる新しい出血リスクスコア「PRECISE-DAPTスコア」を開発し、検証の結果、このスコアが抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)中の院外での出血を予測する標準化ツールとなりうることを報告した。著者は、「包括的に臨床評価を行う状況において、このツールはDAPT期間を臨床的に決める支援をすることができるだろう」とまとめている。アスピリン+P2Y12阻害薬によるDAPTは、PCI後の虚血イベントを予防する一方で、出血リスクを高める。ガイドラインでは、治療期間を選択する前に出血リスクの高さを評価することを推奨しているが、そのための標準化ツールはこれまでなかった。Lancet誌2017年3月11日号掲載の報告。約1万5,000例のデータで新たな出血リスクスコアを開発し、検証 研究グループは、それぞれ独立したイベント評価が行われている多施設無作為化試験8件から、PCI後にDAPT(主にアスピリン+クロピドグレル、経口抗凝固薬の適応なし)を受けた患者合計1万4,963例の個人レベルのデータを用い、プール解析を行った。解析にはCox比例ハザードモデルを使用し、院外出血(TIMI出血基準の大出血/小出血)の予測因子を試験で層別化して特定し、数値的出血リスクスコアを開発した。 新しいスコアの予測性能は、予測因子を導き出した抽出コホートで評価し、PLATelet inhibition and patient Outcomes(PLATO)試験(8,595例)およびBernPCI registry(6,172例)におけるPCI施行患者群(検証コホート)で評価した。また、異なるDAPT期間に無作為化された患者(10,081例)において、新しいスコアの四分位数でベースラインの出血リスクを4つに分類し(高、中、低、最低リスク)、長期治療(12~24ヵ月)または短期治療(3~6ヵ月)の出血/虚血への影響を評価した。5項目から成るPRECISE-DAPTスコア、院外出血の予測性能あり 開発したPRECISE-DAPTスコア(年齢、クレアチニンクリアランス、ヘモグロビン、白血球数、特発性出血の既往)は、院外でのTIMI大/小出血に関する予測性能を示すC統計値が、抽出コホートで0.73(95%信頼区間[CI]:0.61~0.85)、検証コホートのPLATO試験で0.70(95%CI:0.65~0.74)、BernPCI registryで0.66(95%CI:0.61~0.71)であった。 長期DAPTは、高リスク患者(スコア≧25)では出血を有意に増加させたが、低リスク患者では増加させなかった(相互作用のp=0.007)。一方、虚血イベントの予防に関して有意な有用性が認められたのは、低リスク患者群のみであった。 著者は、今回のモデルにはフレイル(高齢者の虚弱)など新しい出血予測因子が欠けている可能性を挙げ、スコアの予測性能を改善するためさらなる研究が必要だと述べている。

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RAS阻害薬によるクレアチニン値増加、30%未満でもリスク/BMJ

 RAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)服用開始後のクレアチニン値の上昇は、ガイドラインで閾値とされる増大幅が30%未満であっても、末期腎不全や心筋梗塞などの心・腎臓有害イベントや死亡リスクが漸増する関連があることが明らかにされた。クレアチニン値10%未満との比較で、10~19%の増加で死亡リスクは約1.2倍に、20~29%の増加で約1.4倍に増大することが示されたという。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学校のMorten Schmidt氏らが、RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)の服用を開始した12万例超について行ったコホート試験の結果、明らかにした。BMJ誌2017年3月9日号掲載の報告。RAS阻害薬と末期腎不全、心筋梗塞、心不全、死亡との関連を検証 研究グループは1997~2014年の、英国プライマリケア医の電子診療録を含むデータベース「Clinical Practice Research Datalink」(CPRD)と病院エピソード統計「Hospital Episode Statistics」(HES)を基に、RAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の服用を開始した12万2,363例を対象に、ACE・ARB開始後のクレアチニン値上昇と、心・腎臓アウトカムとの関連を調べた。 ポアソン回帰分析法を用いて、クレアチニン値30%以上の増加や10%増加ごとと、末期腎不全、心筋梗塞、心不全、死亡との関連についてそれぞれ検証した。解析では、年齢、性別、歴期間、社会経済状況、生活習慣、CKD、糖尿病、心血管の併存疾患、その他の降圧薬、NSAIDsの使用で補正を行った。RAS阻害薬服用後のクレアチニン値増加に伴い心・腎イベントリスクも段階的に増加 RAS阻害薬服用後にクレアチニン値が30%以上増加したのは、被験者の1.7%にあたる2,078例だった。クレアチニン値の30%以上の増加は、評価項目としたすべての心・腎イベントの発症と関連が認められた。 クレアチニン値の増加30%未満での発生と比較した補正後罹患率比は、末期腎不全については3.43(95%信頼区間[CI]:2.40~4.91)、心筋梗塞は1.46(同:1.16~1.84)、心不全は1.37(1.14~1.65)、死亡は1.84(1.65~2.05)だった。 クレアチニン値の増加幅に応じた心・腎アウトカムについて調べたところ、10%未満、10~19%、20~29%、30~39%、40%以上と段階的にすべての評価アウトカムについてリスクが増加する傾向が認められた(いずれも傾向のp<0.001)。 死亡に関する補正後罹患率比は、クレアチニン値10%未満の増加との比較で、10~19%の増加で1.15(1.09~1.22)、20~29%の増加で1.35(1.23~1.49)だった。 これらの結果は、歴期間、サブグループ、服用継続の有無などで検討した場合も一貫して認められた。

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妊娠中の潜在性甲状腺疾患治療は児のIQを改善するか/NEJM

 妊娠8~20週の妊婦の潜在性甲状腺機能低下症または低サイロキシン血症に、甲状腺ホルモン補充療法を行っても、児の5歳までの認知アウトカムは改善しないことが、米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのBrian M Casey氏らの検討で示された。妊娠中の潜在性甲状腺疾患は、児のIQが正常値より低いなどの有害なアウトカムに関連する可能性が指摘されている。レボチロキシンは、3歳児の認知機能を改善しないとのエビデンス(CATS試験)があるにもかかわらず、欧米のいくつかのガイドラインではいまだに推奨されているという。NEJM誌2017年3月2日号掲載の報告。約1,200例の妊婦を疾患別の2つの試験で評価 研究グループは、児のIQに及ぼす妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症と低サイロキシン血症のスクリーニング、およびサイロキシン補充療法の有効性を評価するために、2つの多施設共同プラセボ対照無作為化試験を実施した(Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Developmentなどの助成による)。 妊娠8~20週の単胎妊娠女性において、潜在性甲状腺機能低下症および低サイロキシン血症のスクリーニングを行った。潜在性甲状腺機能低下症は、甲状腺刺激ホルモンが≧4.00mU/L、遊離サイロキシン(T4)が正常値(0.86~1.90ng/dL[11~24pmol/L])と定義し、低サイロキシン血症は、甲状腺刺激ホルモンが正常値(0.08~3.99mU/L)、遊離T4が低値(<0.86ng/dL)と定義した。 試験は2つの疾患別に行い、被験者はレボチロキシンを投与する群またはプラセボ群にランダムに割り付けられた。甲状腺機能は毎月評価し、甲状腺刺激ホルモン(サイロトロピン)または遊離T4の正常値を達成するためにレボチロキシンの用量を調整し、プラセボは偽調整を行った。児には、発達および行動の評価が年1回、5年間行われた。 主要評価項目は、5歳時のIQスコア(検査データがない場合は3歳時)または3歳未満での死亡とした。IQの評価には、幼児版ウェクスラー知能検査(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence III[WPPSI-III])を用いた。 2006年10月~2009年10月に、潜在性甲状腺機能低下症677例(レボチロキシン群:339例、プラセボ群:338例)と、低サイロキシン血症526例(265例、261例)が登録された。割り付け時の平均妊娠週数は、それぞれ16.7週、17.8週であった。児のIQ、母子のアウトカムに差はない ベースラインの平均年齢は、潜在性甲状腺機能低下症のレボチロキシン群が27.7±5.7歳、プラセボ群は27.3±5.7歳、低サイロキシン血症はそれぞれ27.8±5.7歳、28.0±5.8歳であった。また、平均妊娠期間は、潜在性甲状腺機能低下症のレボチロキシン群が39.1±2.5週、プラセボ群は38.9±3.1週(p=0.57)、低サイロキシン血症はそれぞれ39.0±2.4週、38.8±3.1週(p=0.46)であった。 児の4%(47例、潜在性甲状腺機能低下症:28例、低サイロキシン血症:19例)で、IQのデータが得られなかった。妊婦および新生児の有害なアウトカムの頻度は低く、2つの試験とも2つの群に差はみられなかった。 潜在性甲状腺機能低下症の試験では、児のIQスコア中央値はレボチロキシン群が97(95%信頼区間[CI]:94~99)、プラセボ群は94(92~96)であり(差:0、95%CI:-3~2、p=0.71)、有意な差は認めなかった。また、低サイロキシン血症の試験では、レボチロキシン群が94(91~95)、プラセボ群は91(89~93)であり(-1、-4~1、p=0.30)、やはり有意差はなかった。 12、24ヵ月時のBayley乳幼児発達検査第3版(Bayley-III)の認知、運動、言語の各項目などを含む副次評価項目は、いずれも2つの試験の2つの群に差はみられなかった。 著者は、「本研究の結果は、英国とイタリアで2万1,846例の妊婦を対象に実施されたCATS試験と一致する」としている。

2040.

脳卒中後の慢性期失語、集中的言語療法が有効/Lancet

 70歳以下の脳卒中患者の慢性期失語症の治療において、3週間の集中的言語療法は、言語コミュニケーション能力を改善することが、ドイツ・ミュンスター大学のCaterina Breitenstein氏らが行ったFCET2EC試験で示された。失語症の治療ガイドラインでは、脳卒中発症後6ヵ月以降も症状が持続する場合は集中的言語療法が推奨されているが、治療効果を検証した無作為化対照比較試験は少ないという。Lancet誌オンライン版2017年2月27日号掲載の報告。従来の言語療法と比較する無作為化試験 FCET2EC試験は、年齢18~70歳、虚血性または出血性脳卒中の発症後6ヵ月以上持続する慢性期失語症(アーヘン失語症検査[AAT]で判定)がみられる患者を対象に、集中的言語療法の日常的な言語コミュニケーション能力の改善効果を評価する多施設共同無作為化対照比較試験(ドイツ連邦教育研究省などの助成による)。 被験者は、通常治療下に、3週間以上の集中的言語療法(≧10時間/週)を行う群(介入群)または同様の治療を3週間遅れて開始する群(対照群)に無作為に割り付けられた。言語療法は、研究グループが作成したマニュアルに従って、専門のセラピストが個別の患者およびグループで行った。対照群は、待機中の3週間、従来の言語療法を受けた。 主要評価項目は、日常的な言語コミュニケーション能力(Amsterdam-Nijmegen Everyday Language Test[ANELT]A-scaleで判定)のベースラインから治療終了時までの変化とした。解析には、1日以上の治療を受けた全患者が含まれた。 2012年4月1日~2014年5月31日に、ドイツの19の入院/外来リハビリテーション施設で156例が登録され、両群に78例ずつが割り付けられた。言語能力、患者知覚QOLも改善 ベースラインの平均年齢は、介入群が53.5(SD 9.0)歳、対照群は52.9(SD 10.2)歳、女性がそれぞれ59%、69%を占めた。脳卒中の重症度(修正Rankinスケール[mRS])は、両群とも2(2~3)、脳卒中発症後の経過期間中央値は介入群が43.0ヵ月(IQR:16.0~68.3)、対照群は27.0ヵ月(13.0~48.8)であり、虚血性脳卒中がそれぞれ58%、72%だった。 言語療法は、全体で3~10週間行われ(期間中央値:介入群4.8週[IQR:3.0~5.6]、対照群4.0週[3.0~5.0])、このうち3週間の集中的言語療法は22.5~49.0時間実施された(期間中央値:介入群31.0時間[30.0~34.5]、対照群32.0時間[30.0~34.6])。対照群は、待機中の3週間、従来の言語療法を0~22.5時間受けた。それぞれ92%、94%の患者が、6ヵ月時に言語療法を継続していた(1.0時間[IQR:0.6~1.7]/週)。 言語コミュニケーション能力は、介入群ではベースラインに比べ3週間の集中的言語療法により有意に改善した(ANELT Aスコアの平均差:2.61[SD 4.94]点、95%信頼区間[CI]:1.49~3.72、p<0.0001)のに対し、対照群(従来言語療法期間)では3週後に有意な効果はみられず(-0.03[SD 4.04]点、-0.94~0.88、p=0.95)、両群間に有意な差が認められた(p=0.0004、効果量[Cohen’s d]:0.58)。また、対照群も、3週間の集中的言語療法後に、介入群と同様の言語コミュニケーション能力の改善効果が得られた。 全体で、ベースラインから3週間の集中的言語療法終了時までにANELT Aスコアが3点以上改善した患者は44%(69/156例)であり、同様の期間に3点以上低下(増悪)した患者は10%(16/156例)だけだった。 また、3週間の集中的言語療法により、言語能力(Sprachsystematisches APhasieScreening[SAPS]:音韻、語彙、統語法、言語理解、言語産出)の総合スコア(p<0.0001、Cohen’s d:0.73)および患者知覚QOL(Stroke and Aphasia Quality of Life Scale-39[SAQOL-39]:身体機能、コミュニケーション、心理社会、活力)の総合スコア(p=0.0365、Cohen’s d:0.27)が有意に改善された。 有害事象は、集中治療中の介入群が6%(5例:風邪1例、消化管または心臓の症状3例、治療開始前の脳卒中の再発1例)、待機中および集中治療中の対照群は3%(2例:自動車事故1例、風邪1例)に認められ、割り付け前に脳卒中の再発が1例にみられたが、いずれも試験への参加とは関連がなかった。 著者は、「有益な治療効果を得るための最小限の治療強度を調査し、反復介入期間以降も治療効果が持続するかを検証するために、さらなる研究を要する」としている。

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