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<先週の動き>1.外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省2.医療機関の経営危機に緊急支援、1,311億円の対策パッケージ/政府3.ED治療薬のスイッチOTC化を検討、意見募集を開始/厚労省4.美容医療の規制強化の対策案公表、情報公開と行政指導を強化/厚労省5.マイナ保険証対応の義務化は「適法」医師らの訴え棄却/東京地裁6.建設費高騰で新病院建設を断念、埼玉県の医師不足解消に暗雲/順天堂大1.外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省厚生労働省は11月29日、「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足が深刻化する中、外科医の業務負担軽減と処遇改善に取り組む方針を固めた。外科医は長時間労働や休日出勤が多く、私生活との両立が難しいことから、若手の医師などに敬遠されがちな診療科となっている。厚労省は、外科医のなり手を増やすため、業務負担の軽減、報酬の引き上げ、研修制度の見直しなどを検討する。具体的な対策としては、手術支援ロボットの導入や医師事務作業補助者の配置による業務効率化、外科医の給与増額などが考えられている。また、若手医師の外科離れを防ぐため、研修制度の見直しも検討される。医師の偏在対策を議論する有識者検討会では、外科医の処遇改善に向けた「手厚い評価」について議論が行われた。この中で、病院経営の観点から外科医の給与増額を提案する意見や、大学病院の医局制度の見直しを求める意見などが出された。厚労省は、これらの意見を踏まえ、年末に取りまとめる医師偏在対策の総合的な対策パッケージに反映させる方針。参考1)第8回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科医確保へ処遇改善 厚労省方針、負担軽減や報酬増(日経新聞)3)医師偏在是正に向け「外科医の給与増」・「総合診療能力を持つ医師」養成・「広域連携型の医師臨床研修」制度化等が重要-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4)広域連携型プログラムの検証制度、早期検討を 医師偏在対策で複数意見 厚労省検討会(CB news)2.医療機関の経営危機に緊急支援、1,311億円の対策パッケージ/政府高齢化やコロナ禍による受診行動の変化で経営状況が悪化している医療機関に対し、政府は2024年度補正予算案で1,311億円規模の緊急支援パッケージを盛り込んだ。この支援策は、医療機関の賃上げ支援、病床削減を実施する医療機関への支援、医師不足地域への支援、医療DX推進などが柱となっている。賃上げ支援では、病院や有床診療所には1床当たり4万円、無床診療所と訪問看護ステーションには1施設に付き18万円の給付金を支給するほか、病床削減を進める医療機関には、1床当たり410万4,000円の給付金を交付し、診療体制の変更を支援する。また、医師不足地域に対しては、診療所の承継や開業、医師の派遣、専門医に対するリカレント教育などを支援する。医療DX関連では、全国医療情報プラットフォームの構築や電子処方箋の普及促進、マイナ保険証の利用促進などに予算が計上された。一方、財務省は11月29日に財政制度等審議会を開き、2025年度予算編成に向けた建議をまとめ、医療費総額の伸びを抑制するため、不断の制度改革を求めた。福祉医療機構の調査によると、今年春の診療報酬改定による施設基準の厳格化の影響が大きく、急性期病院の約45%が2024年度診療報酬改定後に減益となっていることが明らかになっており、財務省側は補助金による財政措置に歯止めを求めている。政府の緊急支援パッケージは、医療機関の経営安定化に一定の役割を果たすと期待される一方、財政状況の悪化や高齢化に伴う医療ニーズの変化に対応した抜本的な改革も求められている。参考1)医療・介護の賃上げに1,800億円 24年度補正予算案(日経新聞)2)賃上げ支援1床当たり4万円、病院と有床診 無床診と訪看は1施設18万円 補正予算案(CB news)3)急性期163病院の45%が減益 24年度報酬改定後 増収分を費用が上回る 福祉医療機構(同)4)令和7年度予算の編成等に関する建議(財務省)3.ED治療薬のスイッチOTC化を検討、意見募集を開始/厚労省厚生労働省は11月25日、勃起不全(ED)治療薬のタダラフィル(商品名:シアリス)について、医師の処方箋なしで購入できる一般用医薬品(OTC)への転用(スイッチOTC化)を検討するため、意見募集を開始した。ED治療薬がOTC化されれば、国内では初めてのケースとなる。現在、ED治療薬は医療用医薬品として医師の処方箋が必要となっている。しかし、医師への受診をためらい、インターネットなどを利用して個人輸入で海外から薬を購入するケースが増加し、偽造薬のリスクなどが懸念されている。タダラフィルがOTC化されれば、薬局やドラッグストアで購入できるようになり、正規品の入手機会の拡大と、偽造薬による健康被害の防止が期待される。厚労省は、意見募集の結果を踏まえ、専門家による検討会で課題や対応策を議論し、最終的には薬事審議会の部会で承認を判断する。参考1)候補成分のスイッチOTC化に関する御意見の募集について(厚労省)2)スイッチOTC医薬品の候補となる成分の検討結果について(同)3)タダラフィルなど3成分、スイッチで意見募集 厚労省、「時短スキーム」第1弾(日刊薬業)4)ED治療薬、処方箋不要に 厚労省検討、正規品入手しやすく(日経新聞)5)医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進(日本OTC医薬品協会)4.美容医療の規制強化の対策案公表、情報公開と行政指導を強化/厚労省厚生労働省は、11月28日に社会保障審議会医療部会を開き、美容医療のトラブル増加を受け、規制強化に向けた対策案を公表した。この対策案は、6月から開催されてきた「美容医療の適切な実施に関する検討会」で議論されてきた内容をまとめたもの。背景には、美容医療に関するトラブル相談が急増している現状があり、国民生活センターの報告によると、美容医療に関する相談件数は2023年度に5,507件となり、5年間で3倍以上に増加した。厚労省は、美容医療を提供する医療機関に対し、安全管理体制や医師の専門医資格の有無、相談窓口の設置状況などを都道府県へ報告することを義務付けるほか、保健所による指導の明確化のほか、診療録の記載の徹底、オンライン診療のルール整備、関係学会によるガイドライン策定、医療広告規制の強化のほか、国民へ美容医療についてのリスクの情報提供の強化を行うこととした。さらに、一般社団法人が開設する医療機関に対し、安全管理体制や医師の専門医資格の有無、相談窓口の設置状況などを都道府県に事業報告書などの書類提出を義務付ける方針を固めた。一般社団法人は、医師が代表となる医療法人と異なり、管理者となる医師がいれば異業種でも医療に参入できる。近年、美容クリニックを中心に、一般社団法人が開設する医療機関が増加しており、2023年には780ヵ所に達している。しかし、一般社団法人は医療法人と比べて規制が緩く、営利目的での運営や医療の質の低下などが懸念されてきているため対応が急がれていた。厚労省は、一般社団法人に対しても医療法人と同等の報告を義務付けることで、経営実態の把握を強化し、非営利性の徹底を図る考え。参考1)美容医療の適切な実施に関する検討会報告書(厚労省)2)「一般社団法人」クリニック 経営や事業の内容確認 厳格化へ(NHK)3)一般社団法人の医療機関、報告対象に 美容医療が念頭(日経新聞)5.マイナ保険証対応の義務化は「適法」医師らの訴え棄却/東京地裁医師らがマイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」への対応を義務付ける厚生労働省の省令は違法だとして、国に義務がないことの確認を求めた訴訟で、東京地裁は11月28日、医師側の請求を棄却した。判決は、マイナ保険証への対応義務化について「制度運営の効率化や、正確なデータに基づいたより良い医療のためと認められる」と指摘。医療機関への経済的負担が生じても「事業継続を困難にするとは言えず、医療活動の自由に重大な制限を課すものではない」として、国側の主張を認めた。原告の医師らは、機器導入費用や維持費、情報漏えいのリスクなどを訴えたが、判決では、システム導入には財政的な補助があり、廃業を余儀なくされるほどの負担ではないと判断した。この判決を受け、原告団は控訴する意向を示している。一方、政府は12月2日に現行の健康保険証の新規発行を停止し、マイナ保険証への移行を進める方針。平 将明デジタル相は、マイナ保険証は医療費適正化や新たな価値創出に不可欠であり、移行を予定通り進める必要があると強調した。マイナ保険証の導入を巡っては、医療現場の混乱や患者情報の取り扱いなど、さまざまな課題が指摘されている。政府は、これらの課題に対応しながら、マイナ保険証の普及促進を目指していく考え。参考1)マイナ保険証対応の義務化は適法、医師らの訴えを退ける 東京地裁(朝日新聞)2)マイナ保険証導入義務化 違法と言えず 医師ら訴え退ける判決(NHK)3)マイナ保険証システム義務化は適法 医師の違法確認を棄却 東京地裁(毎日新聞)6.建設費高騰で新病院建設を断念、埼玉県の医師不足解消に暗雲/順天堂大埼玉県さいたま市への新病院建設を計画していた順天堂大学は、11月29日、計画を中止すると埼玉県に伝えた。2015年に埼玉県が公募した病院誘致計画で、順天堂大学は800床規模の新病院建設を提案し、採択されていた。しかし、建設費や資材費の高騰により、総事業費が当初の834億円から2,186億円に膨れ上がったこと、コロナ禍以降の病院経営の悪化、医師の働き方改革への対応などを理由に、計画を断念するにいたった。埼玉県の公募に応える形で、新病院の建設が決まったのは2015年3月。当初は2020年度に開院としていたが、その後、何度もその時期が先送りされてきた。大学側は、事業費を抑えるために看護系学部の開設や宿舎の整備・大学院棟の建設を先送りにし、病院の規模も当初予定していた800床から500床程度に縮小する計画案を検討した。しかし、建築費の高騰や医療を取り巻く厳しい環境を鑑みると、計画の見直しなどによっても、埼玉県民に貢献できる最先端医療機能を備え、かつ、DXを活用した未来型基幹病院の開設は困難と判断した。埼玉県の大野 元裕知事は、「大変遺憾」と述べ、「県民の期待が大きかっただけに残念だ」と語っている。順天堂大学は、計画中止をさいたま市にも報告し、清水 勇人市長は「大変残念」とコメントした。新病院の建設予定地は、県有地とさいたま市有地で、約7万7,000平方メートル。県は土地取得に55億5,000万円を投じていた。今後の土地活用については、埼玉県は「病院誘致の可能性も含め、総合的に判断する」としている。順天堂大学の新病院は、埼玉県が抱える医師不足の課題解決に向けても期待が寄せられていた。埼玉県は、人口10万人当たりの医師数が全国で最も少なく、医師不足が課題となっていた。このため、埼玉県は新病院の公募の条件に、医師不足の地域に大学が医師を派遣することを挙げており、現在、順天堂大学からは県北部と西部の病院に2人の医師が派遣されている。新病院の開院後は段階的に人数を増やし、年間20人の医師が派遣される予定だった。今回の計画中止は、埼玉県の医師不足解消に大きな影響を与える可能性がある。参考1)埼玉県浦和美園地区病院の整備計画中止について(順天堂大学)2)順天堂大学 800床の病院整備計画を中止 埼玉県に伝える(NHK)3)順天堂大、さいたま市への新病院建設を断念 資材高騰で資金不足(毎日新聞)4)順天堂大の新病院、建設決定から9年半で計画中止に…「青天の霹靂」「裏切られた気持ちだ」(読売新聞)