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複雑CAD併存の重症AS、FFRガイド下PCI+TAVI vs.SAVR+CABG/Lancet

 重症大動脈弁狭窄症(AS)に複雑冠動脈疾患(CAD)を併存する患者において、血流予備量比(FFR)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)+経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は、外科的大動脈弁置換術(SAVR)+冠動脈バイパス術(CABG)に対して非劣性であることが示された。カナダ・マギル大学ヘルスセンターのElvin Kedhi氏らTCW study groupが、初となる経皮的治療と外科治療を比較した国際多施設共同前向き非盲検無作為化非劣性検証試験「TCW試験」の結果を報告した。重症AS患者では、閉塞性CADを併存していることが多い(~50%)。ESC/EACTSガイドラインでは、SAVR+CABGが推奨されている。一方、FFRガイド下PCIおよびTAVIが有効な治療選択肢となりうることも示されていた。Lancet誌オンライン版2024年12月4日号掲載の報告。治療後1年時点の複合エンドポイントを評価 TCW試験は、欧州の18施設(オランダ6、スペイン2、フランス2、ポーランド2、オーストリア1、チェコ1、ドイツ1、ギリシャ1、ポルトガル1、スロバキア1)で行われた。被験者は、70歳以上の重症ASかつ複雑CADで、on-site Heart Teamにより経皮的または外科的手術が施行可能と判断された患者。施設層別無作為化置換ブロックサイズ法を用いたコンピュータ生成シーケンス法により、1対1の割合で無作為にFFRガイド下PCI+TAVI群またはSAVR+CABG群に割り付けられた。 主要エンドポイントは、治療後1年時点の全死因死亡、心筋梗塞、障害を伴う脳卒中、臨床的に推奨される標的血管の血行再建、弁の再置換、生命を脅かすまたは障害を伴う出血の複合であった。 試験は、非劣性(マージン15%)を検定し、非劣性が検証された場合は優越性を検定した。主要解析および安全性解析は、ITT集団を対象として行った。群間リスク差-18.5、FFRガイド下PCI+TAVIの非劣性が検証 2018年5月31日~2023年6月30日に、172例が登録された(91例がFFRガイド下PCI+TAVI群、81例がSAVR+CABG群)。平均年齢は76.5歳(SD 3.9)、男性が118例(69%)、女性が54例(31%)であった。心リスク因子は両群間でバランスが取れており、SYNTAXスコアの中央値は12.0(四分位範囲:9.0~17.0)で、44/157例(28%)のみが中~高スコアを有し、128/169例(76%)が多枝CAD(2枝以上)を呈していた。 主要複合エンドポイントのアウトカムについて、FFRガイド下PCI+TAVI群(4/91例[4%])はSAVR+CABG群(17/77例[23%])に比べて良好な結果を示し(群間リスク差:-18.5[90%信頼区間[CI]:-27.8~-9.7])、非劣性が検証された(非劣性のp<0.001)。 FFRガイド下PCI+TAVI群のSAVR+CABG群に対する優越性も検証された(ハザード比:0.17[95%CI:0.06~0.51]、優越性のp<0.001)。主に全死因死亡(0/91例[0%]vs.7/77例[10%]、p=0.0025)、生命を脅かす出血(2/91例[2%]vs.9/77例[12%]、p=0.010)によるところが大きかった。

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対象患者選択の重要性を再認識させられた研究(解説:野間重孝氏)

 本研究はコルヒチンの虚血性心疾患に対する2次効果を検討した3つ目の研究に当たる。今回の研究に先行する2つの研究については次に示すので、ぜひご一読されたい。これは、評者自身が過去2回にわたり論文評を担当しており、内容が重複してしまう可能性があるためである。この点について、すでにご存じの方にはご容赦いただきたい。大抵の方々にとっては虚血性心疾患とコルヒチンの関係そのものに首をかしげる向きがあると考えるが、そのあたりについても評では簡単にではあるが解説した。1. COLCOT試験Tardif JC, et al. N Engl J Med. 2019;381:2497-2505.ジャーナル四天王「低用量コルヒチン、心筋梗塞後の虚血性心血管イベントを抑制/NEJM」論文評(CLEAR!ジャーナル四天王)「今、心血管系疾患2次予防に一石が投じられた」2. LoDoCo試験Nidorf SM, et al. N Engl J Med. 2020;383:1838-1847.ジャーナル四天王「コルヒチンで慢性冠疾患の心血管リスクが低下/NEJM」論文評(CLEAR!ジャーナル四天王)「コルヒチンの冠動脈疾患2次予防効果に結論を出した論文」 この2つの研究では、いずれにおいてもコルヒチンが虚血性心疾患の予後改善に寄与すると結論されている。ところが、今回のCLEAR試験では効果なしと判定された。この背景には患者選択とプロトコールが関係しているのではないかと考えたので、以下に整理しておきたい。1. COLCOT試験登録前30日以内(平均18.5日)に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受け、強化スタチン療法を含むガイドラインに準拠した治療を受けている成人患者。2. LoDoCo2試験2014年8月4日~2018年12月3日の間に血管造影で肝疾患が確認され、6ヵ月以上安定している35~82歳の慢性冠動脈疾患患者。3. CLEAR試験ST上昇型急性心筋梗塞に対して経皮的冠動脈再建術を受けた患者で、EF<45%、糖尿病、多枝病変、心筋梗塞の既往、または60歳以上のいずれかの危険因子を有する患者。 主要エンドポイントの違いについても言及すべきだろうが、各試験とも表現は違うもののほぼ同じ事柄を挙げているので、ここではあえて問題にしないこととする。 正直なところ、評者はLoDoCo2試験の結果をみて、コルヒチンの冠動脈治療薬としての有用性が証明されたと書いたが、それは早計だったと反省している。臨床試験ではその対象が非常に大きな役割を果たす点に、もっと注目すべきであると改めて思い知らされた教訓を得たと感じている。 3試験の結果を振り返ってみると、LoDoCo2試験ではハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.83(p<0.001)と大きな差が出たのに対し、COLCOT試験では確かに差は出たもののHR:0.77、95%CI:0.61〜0.96と、確かに差はついたもののそれほど大きな差はみられなかった。そして、今回ST上昇型心筋梗塞後の患者を対象とした場合、とうとう差がみられないという結果に終わった。LoDoCo2試験が心筋梗塞患者を対象としていない点を考慮すると、急性心筋虚血を引き起こす血管損傷の有無が、試験結果の差異を生じさせた要因である可能性が示唆される。 言うまでもなく、コルヒチンは現在使用できる最も強力な消炎剤の1つである。冠動脈疾患は複合的な疾患であるが、動脈硬化と炎症の関係は盛んに論じられてはいるものの、コルヒチンが従来問題視されている危険因子と直接関係するというデータは存在しない。すると心筋梗塞と動脈の炎症との関係を考えなければならないだろう。心筋梗塞の急性期においては梗塞部位の修復と壊死組織の排除が最も重要であり、そこでは炎症が大変効果的に働いているのである。この現象は心筋梗塞に限らず、切創など身体の一部が損傷した場合にもみられる修復過程の第1段階で炎症が重要な役割を果たすことから、容易に理解できる。心筋梗塞急性期にコルヒチンを投与することはこの一連の修復過程を邪魔する、もしくは不完全なものにする可能性があるのではないか。だから、一応の鎮静を得た後とはいえ心筋梗塞後の患者にコルヒチンを投与開始したCOLCOT試験では、それほど良い成績が出ず、梗塞の関係しない患者を対象としたLoDoCo2試験では、好結果が得られたのではないだろうか。 動脈硬化炎症説はごく当たり前のように語られるようになったが、実際には動脈硬化の実際のメカニズムは解明されたわけではない。また急性心筋梗塞からの血管修復過程と動脈硬化の関係については、ほとんど何もわかっていない状態であることも知っておきたい。今回の試験のように心筋梗塞の既往、経皮的冠動脈再建術の既往、糖尿病などの他の多くの危険因子を有する患者に対する効果を論ずるのは大変難しいと言わざるを得ない。ただし、こうした患者群においても、マイナスの効果が確認されなかった点は重要である。 ただ、コルヒチンに動脈硬化の進展予防効果が期待できるということが喧伝されても実際にコルヒチンを使用した医師は、読者の皆さんも含めてほとんどいなかったのではないかと思う。コルヒチンという薬剤はリウマチ専門医でも扱い慣れた医師は少なく、治療安全域が非常に狭い薬剤である。コルヒチンが冠動脈疾患治療のメジャーな薬剤となることは、よほど大きな転換点がなければ難しいのではないかと思う。

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高リスクHR+/HER2-乳がんの1次治療、パルボシクリブ+内分泌療法vs.化学療法単独(PADMA)/SABCS2024

 高リスクHR+/HER2-転移乳がんの1次治療として、CDK4/6阻害薬と内分泌療法の併用が国際的ガイドラインで推奨されているが、化学療法単独との比較を前向きに実施した試験は報告されていない。今回、ドイツ・German Breast Groupが実施したPADMA試験で、パルボシクリブ+内分泌療法の併用が化学療法単独に比べて、治療成功期間(TTF)と無増悪生存期間(PFS)の統計学的有意かつ臨床的に意義のある改善を示したことを、Sibylle Loibl氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で発表した。 PADMA試験は、化学療法の適応のある高リスク転移乳がんの1次治療として、CDK4/6阻害薬+内分泌療法を化学療法単独(±維持療法としての内分泌療法)と比較した、初の前向き多施設無作為化非盲検第IV相試験である。・対象:化学療法の適応のある未治療のHR+/HER2-転移乳がん・試験群:パルボシクリブ+内分泌療法(アロマターゼ阻害薬/フルベストラント±GnRHアゴニスト)・対照群:医師選択の化学療法(パクリタキセル/カペシタビン/エピルビシン/ビノレルビン)±維持療法として内分泌療法(タモキシフェン/アロマターゼ阻害薬/フルベストラント±GnRHアゴニスト)・評価項目:[主要評価項目]TTF(無作為化から病勢進行/治療毒性/患者希望/死亡による治療中止までの期間と定義)[副次評価項目]PFS、全生存期間(OS)、安全性、忍容性、コンプライアンスなど 主な結果は以下のとおり。・2018年4月~2023年12月にドイツの28施設で130例が登録され、うち120例(パルボシクリブ+内分泌療法群 61例、化学療法群59例)が治療を開始し解析に組み入れられた。年齢中央値は62歳(範囲:31~85歳)であった。化学療法群における医師選択の化学療法はカペシタビンが69.0%、パクリタキセルが29.3%、ビノレルビンが1.7%で、22.4%が維持療法としての内分泌療法を受けた。・TTF中央値は、追跡期間中央値36.8(範囲:0~74.4)ヵ月において、パルボシクリブ+内分泌療法群が17.2ヵ月と、化学療法群の6.1ヵ月より有意に長く(ハザード比[HR]:0.46、95%信頼区間[CI]: 0.31~0.69、p<0.001)、どのサブグループにおいても一貫していた。・PFS中央値も、パルボシクリブ+内分泌療法群が18.7ヵ月と、化学療法群の7.8ヵ月より有意に長かった(HR:0.45、95%CI:0.29~0.70、p<0.001)。・OS中央値は、パルボシクリブ+内分泌療法群が46.1ヵ月、化学療法群が36.8ヵ月と、パルボシクリブ+内分泌療法群で数値的に改善傾向がみられた。・血液毒性の発現割合はパルボシクリブ+内分泌療法群で有意に高く(全Grade:96.8% vs.56.8%、 Grade3/4:54.8% vs.6.9%)、非血液毒性は両群で同程度であった。・治療関連死亡はパルボシクリブ+内分泌療法群で1例(敗血症性ショック)みられた。 Loibl氏は、「この結果は、HR+/HER2-転移乳がんの1次治療として、CDK4/6阻害薬+内分泌療法を標準治療と提唱する既存の国際的ガイドラインを支持する」と述べた。

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限局性強皮症〔Localized scleroderma/morphea〕

1 疾患概要限局した領域の皮膚およびその下床の組織(皮下脂肪、筋、腱、骨など)の免疫学的異常を基盤とした損傷とそれに続発する線維化を特徴とする疾患である。血管障害と内臓病変を欠く点で全身性強皮症とは明確に区別される。■ 疫学わが国における有病率、性差、好発年齢などは現時点では不明だが、2020~2022年にかけて厚生労働省強皮症研究班により小児期発症例を対象とした全国調査が行われた。今後疫学データが明らかとなることが期待される。■ 病因体細胞モザイクによる変異遺伝子を有する細胞が、何らかの誘因で非自己として認識されるようになり、自己免疫による組織傷害が生じると考えられている。事実、外傷やワクチン接種など、免疫の賦活化が誘因となる場合があり、自己抗体は高頻度に陽性となる。病変の分布はブラシュコ線(図1)に沿うなど、体細胞モザイクで生じる皮疹の分布(図2)に合致する。頭頸部の限局性強皮症(剣創状強皮症[後述]を含む)は皮膚、皮下組織、末梢神経(視覚、聴覚を含む)、骨格筋、骨、軟骨、脳実質を系統的に侵す疾患だが、頭頸部ではさまざまな組織形成に神経堤細胞が深く関与しているためと考えられている(図3)。図1 ブラシュコ線1つのブラシュコ線は、外胚葉原基の隆起である原始線条に沿って分布する1つの前駆細胞に由来する。前駆細胞にDNAの軽微な体細胞突然変異が生じた場合、その前駆細胞に由来するブラシュコ線は、他のブラシュコ線と遺伝子レベルで異なることになり、モザイクが生じる。我々の体はブラシュコ線によって区分される体細胞モザイクの状態となっているが、通常はその発現型の差異は非常に軽微であり、免疫担当細胞によって異物とは認識されない。一方、外傷などを契機にその軽微な差異が異物として認識されると、ブラシュコ線を単位として組織傷害が生じ、萎縮や線維化に至る。(Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.より引用)図2 体細胞モザイクによる皮疹の分布のパターンType 1alines of Blaschko, narrow bandsType 1blines of Blaschko, broad bandsType 2checkerboard patternType 3leaf-like patternType 4patchy pattern without midline separationType 5lateralization pattern.(Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.より引用)図3 神経堤細胞と剣創状強皮症の病態メカニズム画像を拡大する神経堤は、脊椎動物の発生初期に表皮外胚葉と神経板の間に一時的に形成される構造であり、さまざまな組織に移動して、その形成に重要な役割を果たす。体幹部神経堤は、主に神経細胞と色素細胞に分化するが、頭部神経堤は顔面域や鰓弓に集まり、頭頸部の骨、軟骨、末梢神経、骨格筋、結合組織などに分化する。頭部神経堤が多様な組織の形成に関与している点に鑑みると、神経堤前駆細胞に遺伝子変異が生じた場合、その異常は脳神経細胞やブラシュコ線に沿った多様な組織に分布することになる。この仮説に基づけば、剣創状強皮症は皮膚、皮下組織、末梢神経、骨格筋、骨、軟骨、脳実質に系統的に影響を及ぼし、症例によって多様な症状の組み合わせが出現すると考えられる。たとえば、皮膚病変のみの症例、骨格筋の萎縮や骨の変形を伴う症例、脳実質病変を伴う症例などが存在する。なお、これらの組織に共通する遺伝子変異の存在は現時点では確認されていない。■ 症状個々の皮疹の形状は類円形や線状など多様性があり、広がりや深達度もさまざまである。典型例では「境界明瞭な皮膚硬化」を特徴とするが、色素沈着や色素脱失あるいは萎縮のみで硬化がはっきりしない病変、皮膚の変化はないが脂肪の萎縮のみを認める病変や下床の筋・骨の炎症や破壊のみを認める病変など、極めて多彩な臨床像を呈する。病変が深部に及ぶ場合、患肢の萎縮・拘縮、骨髄炎、顔面の変形、筋痙攣、小児では患肢の発育障害、頭部では永久脱毛斑・脳波異常・てんかん・眼合併症(ぶどう膜炎など)・聴覚障害・歯牙異常などが生じうる。しばしば他の自己免疫疾患を合併し、リウマチ因子陽性の場合や“generalized morphea”[後述]では関節炎・関節痛を伴う頻度が高い。抗リン脂質抗体が約30%で陽性となり、血栓症を合併しうる。■ 分類現在、欧州小児リウマチ学会が提案した“Padua consensus classification”が世界的に最も汎用されている。“circumscribed morphea” (斑状強皮症)、“linear scleroderma” (線状強皮症)、“generalized morphea”(汎発型限局性強皮症)、“pansclerotic morphea”、“mixed morphea”の5病型に分類される。Circumscribed morpheaでは、通常は1~数個の境界明瞭な局面が躯幹・四肢に散在性に生じる。Linear sclerodermaでは、ブラシュコ線に沿った線状あるいは帯状の硬化局面を呈し、しばしば下床の筋肉や骨にも病変が及ぶ。剣傷状強皮症は、前額部から頭部のブラシュコ線に沿って生じた亜型で、瘢痕性脱毛を伴う。Generalized morpheaでは、これらのすべてのタイプの皮疹が全身に多発する。一般に「直径3cm以上の皮疹が4つ以上あり(皮疹のタイプは斑状型でも線状型のどちらでもよい)、かつ体を7つの領域(頭頸部・右上肢・左上肢・右下肢・左下肢・体幹前面・体幹後面)に分類したとき、皮疹が2つ以上の領域に分布している」と定義される。Pansclerotic morpheaでは、躯幹・四肢に皮膚硬化が出現し、進行性に頭頸部も含めた全身の皮膚が侵され、関節の拘縮、変形、潰瘍、石灰化を来す。既述の4病型のうち2つ以上の病型が共存するものがmixed morpheaである。■ 予後内臓病変を伴わないため生命予後は良好である。一方、整容面の問題や機能障害を伴う場合は、QOLやADLが障害される。一般に3~5年で約50%の症例では、疾患活動性がなくなるが、長期間寛解を維持した後に再燃する場合もあり、とくに小児期発症のlinear sclerodermaでは再燃率が高く、長期間にわたり注意深く経過をフォローする必要がある。数十年間にわたり改善・再燃を繰り返しながら、断続的に組織傷害が蓄積し、全経過を俯瞰すると階段状に症状が悪化していく症例もある。疾患活動性がなくなると皮疹の拡大は止まり、皮膚硬化は自然に改善するが、皮膚およびその下床の組織の萎縮や機能障害(関節変形や拘縮)は残存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診療ガイドライン1)に記載されている診断基準は以下の通りである。(1)境界明瞭な皮膚硬化局面がある(2)病理組織学的に真皮の膠原線維の膨化・増生がある(3)全身性強皮症、好酸球性筋膜炎、硬化性萎縮性苔癬、ケロイド、(肥厚性)瘢痕、硬化性脂肪織炎を除外できる(ただし、合併している場合を除く)の3項目をすべて満たす場合に本症と診断する。なお、この診断基準は典型例を抽出する目的で作成されており、非典型例や早期例の診断では無力である。診断のために皮膚生検を行うが、典型的な病理組織像が得られないからといって本症を否定してはならない。診断の際に最も重要な点は、「体細胞モザイクを標的とした自己免疫」という本症の本質的な病態を臨床像から想定できるかどうか、という点である。抗核抗体は陽性例が多く、抗一本鎖DNA抗体が陽性の場合は、多くの症例で抗体価が疾患活動性および関節拘縮と筋病変の重症度と相関し、治療効果を反映して抗体価が下がる。病変の深達度を評価するため、頭部ではCT、MRI、脳波検査、四肢や関節周囲では造影MRIなどの画像検査を行う。頭頸部に病変がある場合は、眼科的・顎歯科的診察が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の一般方針は以下の通りである1)。(1)活動性の高い皮疹に対しては、局所療法として副腎皮質ステロイド外用薬・タクロリムス外用薬・光線療法などを行う。(2)皮疹の活動性が関節周囲・小児の四肢・顔面にある場合で、関節拘縮・成長障害・顔面の変形がすでにあるか将来生じる可能性がある場合は、副腎皮質ステロイド薬の内服(成人でプレドニゾロン換算20mg/日、必要に応じてパルス療法や免疫抑制薬を併用)を行う。(3)顔面の変形・四肢の拘縮や変形に対して、皮疹の活動性が消失している場合には形成外科的・整形外科的手術を考慮する。なお、2019年にSHARE(Single Hub and Access point for paediatric Rheumatology in Europe)から小児期発症例のマネージメントに関する16の提言と治療に関する6の提言が発表されている2)。全身療法に関連した重要な4つの提言は以下の通りである。(1)活動性がある炎症期には、ステロイド全身療法が有用である可能性があり、ステロイド開始時にメトトレキサート(MTX)あるいは他の抗リウマチ薬(DMARD)を開始すべきである。(2)活動性があり、変形や機能障害を来す可能性のあるすべての患者はMTX15mg/m2/週(経口あるいは皮下注射)による治療を受けるべきである。(3)許容できる臨床的改善が得られたら、MTXは少なくとも12ヵ月間は減量せずに継続すべきである。(4)重症例、MTX抵抗性、MTXに忍容性のない患者に対して、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)の投与は許容される。わが国の診療ガイドラインにおいても基本的な治療の考え方は同様であり、疾患活動性を抑えるための治療はステロイドおよび免疫抑制薬(外用と内服)が軸となり、活動性のない完成した病変による機能障害や整容的問題に対しては理学療法や美容外科的治療が軸となる。4 今後の展望トシリズマブとアバタセプトについてはpansclerotic morpheaやlinear scleroderma、脳病変やぶどう膜炎を伴う剣創状強皮症など、重症例を中心に症例報告や症例集積研究が蓄積されてきており、有力な新規治療として注目されている3)。ヒドロキシクロロキンについては、メイヨークリニックから1996~2013年に6ヵ月以上投与を受けたLSc患者84例を対象とした後方視的研究の結果が報告されているが、完全寛解が36例(42.9%)、50%以上の部分寛解が32例(38.1%)と良好な結果が得られたとされている(治療効果発現までに要した時間:中央値4.0ヵ月(範囲:1~14ヵ月)、治療効果最大までに要した時間:中央値12.0ヵ月(範囲:3~36ヵ月)、HCQ中止後あるいは減量後の再発率:30.6%)。JAK阻害薬については、トファチニブとバリシチニブが有効であった症例が数例報告されている。いずれも現時点では高いエビデンスはなく、今後質の高いエビデンスが蓄積されることが期待されている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 限局性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)浅野 善英、ほか. 限局性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会. 限局性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:2039-2067.2)Zulian F, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1019-1024.3)Ulc E, et al. J Clin Med. 2021;10:4517.4)Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.公開履歴初回2024年12月12日

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EGFRエクソン20挿入変異陽性肺がんのアンメットニーズと新たな治療/J&J

 ジョンソン・エンド・ジョンソン(法人名:ヤンセンファーマ)は、「EGFR遺伝子エクソン20挿入変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で2024年9月に本邦での製造販売承認を取得したアミバンタマブ(商品名:ライブリバント)を、同年11月20日に発売した。これを受け、11月29日にライブリバント発売記者発表会が開催され、後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院 副院長・呼吸器内科長)が講演を行った。EGFRエクソン20挿入変異の特徴 アミバンタマブの対象となる「EGFRエクソン20挿入変異」はEGFR遺伝子変異の中で3番目に多いことが知られており1)、LC-SCRUM-Asiaの報告では、登録者のおよそ1.7%(189/11,397例)に検出されていた2)。また、同報告においては、エクソン19欠失変異やL858R変異と比較して、男性や喫煙者にも検出される割合がやや高かった。 EGFR遺伝子の変異は、リガンド非依存的なATP結合と細胞増殖シグナル伝達を引き起こすが、エクソン20挿入変異があると、ATP結合部位が狭くなり、ATPと競合拮抗するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の結合が妨げられることが報告されている3,4)。従来のTKIへの感受性は乏しく、アンメット・メディカル・ニーズの高い領域とされている。そこに新たに登場したのが、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体のアミバンタマブである。2024年版ガイドラインにおけるアミバンタマブの位置付け アミバンタマブは、未治療のEGFRエクソン20挿入変異陽性のNSCLC患者を対象とした国際共同非盲検無作為化比較第III相試験「PAPILLON試験」の結果に基づいて承認された。本試験では、アミバンタマブと化学療法の併用群が、化学療法群と比較し、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある無増悪生存期間の改善を示したことが報告されている5)。 これを受けて、2024年10月に公開された『肺癌診療ガイドライン2024年版』6)では、EGFRエクソン20挿入変異の一次治療に関するCQが新設され、アミバンタマブと化学療法の併用療法の推奨が明記された。【肺癌診療ガイドライン2024年版 CQ50】CQ50. エクソン20の挿入変異に対して、一次治療で標的療法が勧められるか?a. エクソン20の挿入変異にはカルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ併用療法を行うよう強く推奨する。(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:B)b. エクソン20の挿入変異にはEGFR-TKI単剤療法を行わないよう強く推奨する。(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)【製品概要】商品名:ライブリバント点滴静注350mg一般名:アミバンタマブ(遺伝子組換え)製造販売承認日:2024年9月24日薬価基準収載日:2024年11月20日発売日:2024年11月20日薬価:350mg 7mL 1瓶 160,014円製造販売元(輸入):ヤンセンファーマ株式会社■参考文献・参考サイト1)Arcila ME, et al. Mol Cancer Ther. 2013;12:220-229.2)Okahisa M, et al. Lung Cancer. 2024;191:107798.3)Yasuda H, et al. Sci Transl Med. 2013;5:216ra177.4)Robichaux JP, et al. Nat Med. 2018;24:638-646.5)Zhou C, et al. N Engl J Med. 2023;389:2039-2051.6)日本肺癌学会 編. 肺癌診療ガイドライン―悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む―2024年版【Web版】

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急性期脳梗塞の血栓除去術、バルーンガイドカテーテルは有用か/Lancet

 前方循環の大血管閉塞による急性期虚血性脳卒中患者に対する血管内血栓除去術において、従来のガイドカテーテルを使用した場合と比較してバルーンガイドカテーテルは、むしろ機能回復が不良であり、死亡率も高い傾向にあることが、中国・海軍軍医大学長海病院のJianmin Liu氏らが実施した「PROTECT-MT試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2024年11月30日号に掲載された。中国の無作為化対照比較試験 PROTECT-MT試験は、急性期虚血性脳卒中の血管内血栓除去術におけるバルーンガイドカテーテルの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検(エンドポイント評価は盲検下)無作為化対照比較試験であり、2023年2~11月に中国の28の病院で患者を登録した(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。 年齢18歳以上の急性期虚血性脳卒中で、修正Rankin尺度(mRS)のスコア(0[症状なし]~6[死亡]点)が0または1点であり、現地のガイドラインで症状発現から24時間以内に血管内血栓除去術を受けることが可能な患者を対象とした。 これらの患者を、バルーンガイドカテーテルまたは従来のガイドカテーテルを使用する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。臨床アウトカムのデータを収集する医師は、割り付け情報を知らされなかった。 主要アウトカムは機能回復とし、ITT集団における90日後のmRSスコアの変化で評価した。死亡率も高い傾向に 329例を登録し、バルーンガイドカテーテル群に164例、従来型ガイドカテーテル群に165例を割り付けた。全体の年齢中央値は69歳(四分位範囲[IQR]:59~76)、128例(39%)が女性であった。ベースラインのNIHSSスコア中央値は15点(IQR:11~20)、ASPECTS中央値は8点(6~9)だった。 90日の時点におけるmRSスコア中央値は、従来型ガイドカテーテル群が3点(IQR:2~5)であったのに対し、バルーンガイドカテーテル群は4点(2~5)と有意に悪化していた(補正後共通オッズ比:0.66、95%信頼区間[CI]:0.45~0.98、p=0.037)。 また、安全性のアウトカムである90日時の全死因死亡率(mRS 6点)は、数値上はバルーンガイドカテーテル群のほうが高かったが有意差はなかった(39例[24%]vs.26例[16%]、リスク比[RR]:1.51、95%CI:0.97~2.36、p=0.068)。 頭蓋内出血(バルーンガイドカテーテル群36% vs.従来型ガイドカテーテル群32%、RR:1.12、95%CI:0.83~1.51、p=0.46)および症候性頭蓋内出血(15% vs.11%、1.34、0.76~2.38、p=0.31)の発生率には両群間に差を認めなかった。内頸動脈の重度血管攣縮の頻度が高い とくに注目すべき手技関連合併症では、内頸動脈の重度の血管攣縮の頻度がバルーンガイドカテーテル群で高かった(4% vs.1%、RR:7.04、95%CI:1.15~43.75、p=0.037)。ガイドカテーテル関連の血管解離、血栓除去術関連の血管解離、造影剤の血管外漏出、大腿動脈アクセス関連の合併症の発生率には両群間に差はなかった。 著者は、「本試験は早期中止となっており、治療器具の異質性(さまざまな種類のバルーンやカテーテルの使用を許容)や頭蓋内血管の動脈硬化の割合が高かったことなどの限界があるため、今後、これらの結果を確認し、他の集団への一般化可能性を評価する研究が求められる」としている。

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抜歯時の抗凝固療法に介入してDOACの休薬期間を適正化【うまくいく!処方提案プラクティス】第64回

 今回は、歯科治療に伴う直接経口抗凝固薬(DOAC)の休薬期間について、最新のガイドラインに基づいて介入した事例を紹介します。適切な周術期管理によって、経過は良好なままDOACの服用継続が実現しました。患者情報80歳、女性(施設入所中)基礎疾患認知症、統合失調症、心房細動(CHA2DS2-VAScスコア※:4点[年齢2点、女性1点、高血圧1点])※CHA2DS2-VAScスコア:範囲0~9点、点数が高いほど梗塞リスクが大きい処方内容1.アピキサバン錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後2.リスペリドン錠1mg 1錠 分1 夕食後3.トラゾドン錠25mg 1錠 分1 就寝前4.酪酸菌製剤錠 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは歯科治療(単純抜歯1本)の予定があり、施設看護師より「訪問診療医から1週間のDOACの休薬指示が出たので抜薬の対応をしてほしい」と連絡がありました。しかし、抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン1)では、出血時の対応が可能な医療機関で行うことを前提に、DOAC単剤による抗凝固薬投与患者に対して、休薬下の抜歯よりもDOAC継続下で抜歯をすることが推奨されています。また、Steffelらの報告2)によると、DOACの周術期管理において、低出血リスク手術では24時間の休薬で十分とされています。アピキサバンの薬物動態データ3)では消失半減期が約12時間であることからも、7日間の休薬は過剰と考えられます。医師への提案と経過そこで、医療機関に電話で疑義照会し、看護師を介して医師に情報提供を行いました。まず、CHA2DS2-VAScスコアは4点で塞栓リスクが高く、認知症による活動性低下および向精神薬併用による鎮静作用もあるため、休薬により血栓リスクがさらに高まることが懸念されます。一方で出血リスクはあるものの、単純抜歯1本(低リスク処置)であり、抗血小板薬は非併用であることから、局所止血処置は可能と考えられることを伝えました。そのうえで、抜歯は病院ではなく診療所で行うことや、アピキサバンの血中濃度ピーク時(服用後3~3.5時間)3)に抜歯が行われて出血リスクがあることも懸念事項として伝えしました。医師からは、アピキサバンの半減期が約12時間である程度効果が残ることから、処置当日のみの休薬が妥当と判断されました。施設看護師にも変更内容について情報共有し、抜歯後の止血状況や口腔ケア時の出血状況で問題があれば相談するように伝えました。その後の経過を看護師と連携をとりながら確認したところ、抜歯時の出血は問題なく、血栓症状の発現もなく、術後の経過は良好なままDOACを服用継続できていました。本事例を通じて、(1)周術期管理における過剰な休薬の危険性、(2)エビデンスに基づく介入の重要性、(3)薬剤師による能動的な情報提供の意義を感じました。まとめ1.エビデンスに基づく評価:ガイドラインの適切な活用、患者個別のリスク評価、薬物動態データの考慮2.多職種連携の実践:医師との情報共有、歯科医師との連携、施設スタッフへの情報提供1)日本有病者歯科医療学会ほか編. 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版.学術社;2020.2)Steffel J, et al. Eur Heart J. 2018;39:1330-1393.3)エリキュース錠 医薬品インタビューフォーム(第13版)

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統合失調症患者における21の併存疾患を分析

 統合失調症とさまざまな健康アウトカムとの関連性を評価した包括的なアンブレラレビューは、これまでになかった。韓国・慶熙大学校のHyeri Lee氏らは、統合失調症に関連する併存疾患の健康アウトカムに関する既存のメタ解析をシステマティックにレビューし、エビデンスレベルの検証を行った。Molecular Psychiatry誌オンライン版2024年10月18日号の報告。 統合失調症患者における併存疾患の健康アウトカムを調査した観察研究のメタ解析のアンブレラレビューを実施した。2023年9月5日までに公表された対象研究を、PubMed/MEDLINE、EMBASE、ClinicalKey、Google Scholarより検索した。PRISMAガイドラインに従い、AMSTAR2を用いて、データ抽出および品質評価を行った。エビデンスの信頼性は、エビデンスの質により評価および分類した。リスク因子と保護因子の分析には、等価オッズ比(eRR)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・本アンブレラレビューには、19ヵ国、6,600万人超の参加者を対象とし、21の併存疾患の健康アウトカムを評価した88件の原著論文を含む9件のメタ解析を分析に含めた。・統合失調症患者は、以下の健康アウトカムとの有意な関連が認められた。【喘息】eRR:1.71、95%信頼区間[CI]:1.05〜2.78、エビデンスのクラスおよび質(CE):有意でない【慢性閉塞性肺疾患】eRR:1.73、95%CI:1.25〜2.37、CE:弱い【肺炎】eRR:2.63、95%CI:1.11〜6.23、CE:弱い【女性患者の乳がん】eRR:1.31、95%CI:1.04〜1.65、CE:弱い【心血管疾患】eRR:1.53、95%CI:1.12〜2.11、CE:弱い【脳卒中】eRR:1.71、95%CI:1.30〜2.25、CE:弱い【うっ血性心不全】eRR:1.81、95%CI:1.21〜2.69、CE:弱い【性機能障害】eRR:2.30、95%CI:1.75〜3.04、CE:弱い【骨折】eRR:1.63、95%CI:1.10〜2.40、CE:弱い【認知症】eRR:2.29、95%CI:1.19〜4.39、CE:弱い【乾癬】eRR:1.83、95%CI:1.18〜2.83、CE:弱い 著者らは「統合失調症患者は、呼吸器、心血管、性機能、神経、皮膚に関する健康アウトカムに対する広範な影響が認められており、統合的な治療アプローチの必要性が明らかとなった。主に、有意ではなく、エビデンスレベルが弱いことを考えると、本知見を強化するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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第220回 インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省2.2040年を見据えた新たな地域医療構想、在宅医療強化が必要/厚労省3.移植希望、複数医療機関に登録可能に、体制改革案を公表/厚労省4.医師の働き方改革でガイドラインを改正、時短計画見直しを強化/厚労省5.地方は分娩数減、都市部はコスト増で産科診療所の経営が悪化/日医総研6.担当医が画像診断報告書を見逃し、肺がん診断が1年遅れる医療過誤/神戸大1.インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省インフルエンザの流行が拡大している。厚生労働省によると、11月25日~12月1日の1週間における定点1医療機関当たりの患者報告数は4.86人と、前週の2倍以上に増加した。全国的な流行期に入ってから6週連続の増加で、患者数は2万4,027人に達した。都道府県別では、福岡県が11.43人と最も多く、ついで長野県(9.07人)、千葉県(8.18人)と続いている。専門家は、このペースで患者数が増加すると、年内にも感染のピークを迎える可能性があると指摘している。インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる感染症で、発熱、咳、のどの痛み、頭痛、関節痛、筋肉痛などの症状を引き起こす。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることによる接触感染。厚労省では、手洗い、マスクの着用、咳エチケットなどの感染対策を呼びかけている。また、ワクチンの接種も有効な予防策となる。ワクチンは、接種してから効果が出るまでに約2週間かかるため、流行期前に接種することが推奨されている。参考1)インフルエンザの定点報告数が倍増 感染者数2万人超える(CB news)2)インフルエンザ 感染ピークはいつ?流行期入り後 患者増続く(NHK)2.2040年を見据えた新たな地域医療構想、在宅医療強化が必要/厚労省厚生労働省は、12月6日に「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開き、2040年の高齢社会を見据えた新たな地域医療構想案について検討を行った。2040年頃に迎える高齢者人口のピークと医療ニーズの変化に対応するため、入院医療だけでなく在宅医療の強化や医療機関の機能分担を明確化し、地域完結型の医療体制構築を目指す内容となった。2040年には、85歳以上の高齢者が2020年比で42%増加すると予測され、都市部を中心として在宅医療の需要も62%増加する見込みとなっている。新たな構想では、各地域で将来の在宅医療需要を推計し、医療関係者と連携して必要な体制について検討を行っていく。具体的には、医療機関の機能を「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類し、地域での役割分担の明確化を行う。大学病院などには、医師の派遣や医療従事者育成といった広域的な機能を担うことも期待されており、行政は、地域ごとの医療ニーズを踏まえ、医療機関の機能強化を支援する。この構想は、2024年度補正予算案にも反映されており、医療機関の経営支援、医師不足地域への支援、医療DX推進などに1,311億円が計上されている。一方、財政制度等審議会は、医療費総額の伸びを抑制するため、診療報酬の適正化や医師偏在対策などを提言している。医療現場からは、介護ヘルパーなど在宅医療の担い手不足や、診療報酬改定による経営悪化を懸念する声も上がっており、新たな地域医療構想の実現には、医療費抑制と医療提供体制の充実を両立させることが課題となる。今回、討議されなかった医師偏在対策については来週、開催する会議で検討を行い、年末までに関係者の合意を得て、対策パッケージとして取りまとめたい考えだ。参考1)第14回 新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)新たな地域医療構想、取りまとめ案を大筋了承 連携・再編・集約化を28年度までに協議(CB news)3)新「地域医療構想」案を公表 「在宅医療」対応強化など 厚労省(NHK)3.移植希望、複数医療機関に登録可能に、体制改革案を公表/厚労省厚生労働省は12月5日、脳死からの臓器移植の体制を抜本的に見直す改革案をまとめ、有識者委員会に提示した。改革案では、提供者(ドナー)家族への対応や移植希望者の選定、臓器搬送の調整など、これまで日本臓器移植ネットワーク(JOT)に集中していた業務を分割し、あっせん機関を複数化する。具体的には、ドナー家族への対応は地域ごとに新設する法人に移管し、JOTは移植希望者の選定や臓器搬送の調整などに専念する。また、移植希望者が登録できる医療機関を、現在の原則1ヵ所から複数ヵ所に拡大する。これにより、第1希望の医療機関が受け入れを断念した場合でも、他の医療機関で移植を受けられる可能性が高まる。さらに、知的障害などで意思表示が困難な人からの臓器提供についても、本人の意思を丁寧に推定した上で判断できるようにガイドラインを見直す予定。この改革案は、JOTの業務多忙化や人員不足による対応の遅れ、移植実施病院の受け入れ体制不足など、現在の臓器移植体制が抱える課題を解決することを目指している。厚労省は、今後、パブリックコメントなどを経てガイドラインを改正し、新たな体制を構築していく方針。参考1)第70回 厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会(厚労省)2)厚生労働省 脳死からの臓器移植 実施体制の大幅な見直し案示す(NHK)3)臓器あっせん、複数機関で 厚労省改革案 移植増狙い負担軽減(日経新聞)4)移植医療体制の抜本見直し案、厚労省臓器移植委が了承…移植希望者の複数施設登録を可能に(読売新聞)4.医師の働き方改革でガイドライン改正、時短計画見直しを強化/厚労省厚生労働省は、医師の労働時間短縮計画作成ガイドラインを一部改正し、11月28日に都道府県などに通知した。改正のポイントは、計画の年度途中における「年度暫定評価」と次年度開始後に行う「年度最終評価」の2段階評価を導入し、よりきめ細かく計画を見直すことができるようにした。今回の改正は、「医師の働き方改革を推進するための医療法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第49号)に基づくもの。同法では、時間外や休日の労働時間が年960時間を超え、特例水準を適用する医師が勤務する医療機関などに、医師の労働時間短縮計画の作成を義務付けている。ガイドラインでは、計画期間について5年を超えない範囲で設定することとし、4月を計画の開始月とした場合を例に、毎年の見直し方法を解説している。初年度は、第3四半期頃に「年度暫定評価」を実施し、計画の対象となる医師の時間外・休日労働時間数や、タスク・シフト/シェアによる労働時間の短縮に向けた取り組みについて実績を確認する。確認期間は4月からおおむね6~8ヵ月間とした。その結果に基づき、第4四半期頃に計画見直しを検討し、年度末までに2年目の計画の変更を行う。2年目以降は、前年度全体の「年度最終評価」を第1四半期頃に実施し、「年度暫定評価」と同様に実績を確認する。その結果に基づき、2年目の計画の見直しが必要かどうかを検討し、計画を見直す場合は6月末日までに計画の変更を行う。一連の見直しは毎年行い、特定労務管理対象機関は時間外・休日労働時間の実績などを記入する参考資料とともに計画を都道府県に提出する。それ以外の医療機関は医療機関等情報支援システム「G-MIS」に登録する。厚労省は、今回のガイドライン改正により、医療機関における医師の労働時間短縮に向けた取り組みが、より効果的に推進されることを期待している。参考1)医師労働時間短縮計画作成ガイドラインの一部改正について(厚労省2)医師の時短計画、2段階評価で毎年見直し タスクシフト・シェアの状況も確認 厚労省(CB news)5.地方は分娩数減、都市部はコスト増で産科診療所の経営が悪化/日医総研日本医師会総合政策研究機構は、全国の産科診療所の経営状況などを把握するため、9月にアンケート調査を実施した。その結果をワーキングペーパーとしてまとめ公表した。これによると、2023年度の産科診療所の経常利益率は3.0%で、前年度から0.4ポイント悪化し、赤字診療所の割合は42.4%と、前年度から0.5ポイント拡大したことが明らかとなった。調査は、日本産婦人科医会の会員の産婦人科と産科の診療所1,000ヵ所を対象に、ウェブ形式と紙の調査票で実施された。有効回答は449ヵ所(有効回答率44.9%)で、このうち医療法人の産科診療所は191ヵ所だった。2023年度の経常利益率を地域別にみると、大都市は2.9%、中都市は3.0%、小都市・町村は3.0%だった。前年度に比べ、中都市では1.1ポイント上昇したが、小都市・町村で2.8ポイント、大都市では1.5ポイント悪化した。都市部では物価高騰と賃上げなどによるコストの増加が経営悪化につながり、地方では分娩数の減少が経営を圧迫している現状が浮き彫りになった。回答施設の病床利用率は、平均5割を切っており、入院患者数が減少していることがわかる。しかし、24時間対応の医療スタッフを維持する必要があるため、人件費の削減が難しく、経営悪化に拍車をかけている。日医総研は、こうした状況が続けば、医療スタッフを維持するのが困難になり、分娩の取り扱いを止めざるを得ない診療所が増えるとして、国による支援を呼びかけている。参考1)産科診療所の特別調査(日医総研)2)産科診療所の4割超が経常赤字 日医総研 医業利益率は悪化(CB news)6.担当医が画像診断報告書を見逃し、肺がん診断が1年遅れる医療過誤/神戸大神戸大学医学部附属病院は12月6日、医師2人が患者のCT画像診断報告書に記載された肺がんの疑いを見落とし、診断が約1年遅れる医療過誤があったと発表した。患者は70代の女性で、2016年から心臓血管疾患の経過観察のため、同病院で定期的にCT検査を受けていた。2022年10月のCT検査で放射線科医が肺がんの疑いを指摘したが、当時の担当医は報告書の内容を確認しなかった。翌2023年10月にも同様の指摘がされたが、別の担当医もまた見落としていた。同年10月中旬、患者のかかりつけ医が診断報告書を確認し、肺がんの疑いに気付き、同病院の呼吸器内科に紹介したことで、肺がんの診断が確定した。しかし、発見時にはすでに進行がんの状態であり、完治が難しい状態になっていた。同病院は、早期に発見できていれば手術などの治療が可能だった可能性が高いことを認め、「患者とご家族に多大な苦痛をおかけしたことを反省し、謝罪申し上げる」と発表した。再発防止策として、同病院では、報告書の見落としを防ぐシステムの活用や、診療科ごとに診断リポートの重大な指摘を見逃さないよう確認する責任者を置くなどの対策を講じるとしている。参考1)画像診断レポートの確認不足による肺癌の確定診断及び治療の遅延について(神戸大)2)神戸大付属病院で医療ミス、肺がん疑いの患者CT検査結果の確認怠る…発見遅れ完治困難に(読売新聞)3)神戸大病院 肺がん疑いのCT画像報告書を主治医が見落とし 1年放置し「重大な影響」(神戸新聞)4)神戸大病院で肺がんの診断遅れるミス 疑い指摘を担当医2人が見逃す(朝日新聞)

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事例013 不整脈に処方したカルベジロールで査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、不整脈の患者に処方をしたカルベジロール錠に対して、A事由(医学的に適応と認められないもの)が適用されて査定になりました。従来、「不整脈」の病名にて保険請求が可能であったと記憶していたために、添付文書などを参照してみました。効能・効果には、「不整脈」の直接の記載はないものの、「頻脈性心房細動」には適応があると記載されていました。『不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン』(日本循環器学会/日本不整脈心電学会)を参照すると、「不整脈」の主な症状には「徐脈」「頻脈」「調律異常」があり、それぞれ治療内容が異なると記載されていました。したがって、「不整脈」のみでは「効果・効能」を満たしていることの説明に不十分と判断されA事由が適用されたものと推測ができました。コンピュータ審査が厳しくなるにつれ、添付文書に沿った傷病名の記載が査定防止の重要な鍵となります。査定対策として、処方時に注意喚起を表示させるように処方チェックシステムを改修し、医師には添付文書に沿った傷病名を記載いただくか、医学的必要性のコメントを入力していただくようにお願いしました。なお、カルベジロールは、投与する錠剤の力価によって適応病名が異なりますのでご留意ください。

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第240回 消費者向け「遺伝子検査」を受けて思わず動揺!その分析結果とは

消費者向け(Direct-to-Consumer:DTC)遺伝子検査について目にしたことがある医療者も少なくないだろうと思う。私もこれまでネット上で目にはしていたが、眉唾モノとの印象が強く、完全無視を決め込んでいた。しかし、ある取材でこれを受けなければならなくなった。編集者が「早い・安い」で申し込んだ検査キットが届いたのは、今から約1ヵ月前。検査キットと言っても唾液採取のための容器とその補助装備、さらにID・パスワードが書かれた紙が入っていただけだ。まず、そのID・パスワードで検査会社のウェブサイトにアクセスし、個人情報や生活習慣、飲酒・喫煙歴、両親の出身地、自分と親の既往歴などについての簡単なアンケートに回答する。そのうえで同封されていた容器に自分の唾液を充填し、ポストに投函。翌日には検体が無事届いたとのメールが入り、それから1週間で自分のメールアドレスに検査結果終了の案内メールが届いた。体質分析の結果早速アクセスしてみた。200項目超の体質の項目を見る。大まかな項目は以下のとおり。基礎代謝量…高  肥満リスク…低  筋肉の発達能力…高短距離疾走能力…低  有酸素運動適合性…低  運動による減量効果…高アルコール代謝…普通  酒豪遺伝子(意味不明だが)…普通  二日酔い…低アルコール消費量…多  アルコール依存症リスク…中  ワインの好み…赤肌の光沢…低  肌のしわ…多  AGA発症リスク…低まあ、基礎代謝に関しては高いのかどうかわからないが、かつて幼少期の娘からは「お父さんと一緒に寝ていると、お布団の中がコタツを最強にした感じで、冬でも汗をかく」と言われたことがある。体質では「登山家遺伝子」なる項目もあり、そこは“高所登山家タイプ”となっていた。体質の食習慣に関する評価項目では、なぜか芽キャベツと甘いものは好まないとの評価だった(私は仕事場近くの焼き鳥・焼きとん屋に行き、野菜串焼きに芽キャベツがあると喜んで注文し、ムシャムシャ食べてしまうのだが…)。飲酒については、実生活と明確に異なるのは、私の好みのワインは「白」という点だ。肌については自覚がある。男性型脱毛症(AGA)の発症は確かに今のところその兆しはない。しかし、ここまで来ると、大きなお世話と言いたくもなる。いずれにせよ当たらずとも遠からずというか、当たっていると言えるものもあれば、明らかに違うと言えるものもある。ただ、自分の体のことはわかっているようで、わかっていない部分もあるので何とも言えない。性格分析の結果そして性格についても分析があり、同じ項目について事前アンケートの結果と検査結果が並列で記載がある。こちらもアンケート結果と検査結果がほぼ同一のものもあれば違うものもある。どちらかといえばほぼ同一のものがほとんどである。そして「総合性格タイプ」は、持ち前のタフな精神力で、自分の好奇心に従って未知の世界へどんどん飛び込んでいける“サバイバルYouTuber”タイプとの評価である。まあ、当たっていると言えなくもないが、同時にYouTuberと一緒にされるのもなんだかなという感じである。165疾患のリスク、その結果は…さてこの検査の本丸、というか受ける人の多くが気にするであろうと考えられるのが疾患リスクである。私の受けた検査では、「予防」なる大項目があり、さらに一般疾患と各種がんの合計165疾患についてリスクが表示されている。このリスク表示、疾患ごとにオッズ比のような数値と大、中、小の3段階の定性的表現で発症リスクが示してあった。がんの項目を見ていくと、ほとんど問題はなさそうである。が、後半にスクロールしている手が止まった。多発性骨髄腫の発症リスクが「大」とある。思わず「はあ?」と声が漏れてしまった。一瞬動揺してしまうと同時に、検査結果を見る当事者をそういう心理状況に置く結果通知をラーメン店の券売機にある「小」「並」「大」にも似たざっくりした表現で示された腹立たしさも入り混じった何とも言えない不快感である。さて当然のことながら多発性骨髄腫を知らぬわけはない。化学療法が奏功しやすい血液がんの中でも難治で知られるがんである。少なくとも数年前の5年相対生存率は50%未満だ。ちなみにこれ以外でも一般疾患では、痛風、狭心症、そしてなぜか慢性C型肝炎もリスク大と判定された(というか、C型肝炎に未感染であることはたまたま最近行ったある検査で判明している)。だが、やはり多発性骨髄腫のリスク大のインパクトが一番大きい。発症するとかなりの痛みを伴うことや激烈な化学療法が必要になること、そして治癒もコントロールも難しいことがわかっているからだ。もっともDTC遺伝子検査は、正確に言えば遺伝子そのものを調べているわけではなく、「一塩基多型(SNP、スニップ)」と疾患に関する相関を調べた研究を基にリスク判定しているため、各種固形がんや遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)のような発症や増悪に関与する遺伝子変異の検査に比べれば、当たるも八卦当たらぬも八卦の域であることは私自身も百も承知である。ただ、実はちょっとだけ安堵感もあった。血液内科専門医の皆さんならご存じのように、昨今、この疾患では新薬開発が活発で治療選択肢も増えているからだ。治療法によっては5年相対生存率も60%近くまで伸びている。そんなこんなで日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン2023」に記載された多発性骨髄腫のパートを改めて通読してみた。私にとってこれはこれで改めて知識の整理ができる利点もあった。ただ、ガイドラインで示されている治療の実際は、やはり文字で読んでいるだけでもきつそうである。とはいえ、今後本当に多発性骨髄腫を発症したとしても「あの時、ああいう結果が出てたしな」という感じで受け止められると考えれば、この検査が自分にとって無意味だったとまでは言えない。神社でおみくじを引いて、「凶」と出た直後にケガをしたら、「おみくじは凶だったし」と自分を納得させようとすることとどこか似ている。一部の専門家がDTC遺伝子検査の持つ不確実性を踏まえ、「占い」と評してしまうのはそうしたところにも起因しているのかもしれない。ただし、私のように割り切れる人はどれだけいるだろうか? 気弱な人、生真面目な人ならばそうは簡単に割り切れない危険性は十分にある。そのように考えると、まったく科学的根拠がないわけではないとはいえ、ただ唾液を投函してこのような結果が示されるという今の在り方は、もう少し改善することも必要なのではないかとも考え始めている。

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便失禁を起こしやすい患者とは?便失禁診療ガイドライン改訂

 日本大腸肛門病学会が編集を手掛けた『便失禁診療ガイドライン2024年版改訂第2版』が2024年10月31日に発刊された。2017年に発刊された初版から7年ぶりの改訂となる。今回、便失禁の定義や病態、診断・評価法、初期治療から専門的治療に至るまでの基本的知識がアップデートされ、新たに失禁関連皮膚炎や出産後患者に関する記載が拡充された。また、治療法選択や専門施設との連携のタイミングなど、判断に迷うテーマについてはClinical Question(CQ)で推奨を示し、すべての医療職にとっての指針となるように作成されている。 便失禁の定義とは「無意識または自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状」である。このほかに「無意識または自分の意思に反して肛門からガスが漏れる症状」をガス失禁、便失禁とガス失禁を合わせて肛門失禁と定義される。国内での有病率について、65歳以上での便失禁は男性8.7%、女性6.6%である。一方、ガス失禁を含む肛門失禁は34.4%であるが、男性15.5%に対して女性42.7%と性差が見られる。主な便失禁の発症リスク因子として、年齢・性別などの身体的条件や産科的条件に加え、BMIが30を超える肥満、全身状態不良、身体制約などが報告されている。また、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患、糖尿病、過活動膀胱、骨盤臓器脱、認知症や脊髄損傷といった疾患もリスク因子となる。直腸がんも便失禁の原因になりうるが、とくに直腸がんに対する肛門温存手術後の排便障害である低位前方切除後症候群の発生率は高率で、主訴の直腸がんが根治した後に排便障害を抱えて生活している患者は増加傾向であるという。 このような病態背景があるなか、本診療ガイドラインは「便失禁診療・ケアを普及することで、便失禁症状を改善し、便失禁を有する患者の生活の質の改善」を目的として、便失禁の診断・治療とともに便失禁の程度とその状態の評価、便失禁に伴う皮膚症状や生活の質への評価と対応、寝たきりとなっている患者への介護などの側面からも捉え、8つの重要臨床課題と5つのClinical Question(CQ)が設定されている。<重要臨床課題>(1)便失禁の臨床評価(2)特殊病態の臨床評価(3)治療方針決定に必要な検査(4)食事・生活・排便習慣指導の有用性(5)薬物療法の適応と有用性(6)骨盤底筋訓練・バイオフィードバック療法の適応と有用性(7)洗腸療法の適応と有用性(8)手術療法の適応と有用性<Clinical Question>CQ1:便失禁の薬物療法において、ポリカルボフィルカルシウムとロペラミド塩酸塩はどのように使い分けるか?CQ2:出産後に便失禁が発症した場合、専門施設への最適な紹介時期はいつか?CQ3:分娩時肛門括約筋損傷の既往を有する妊婦の出産方法として、経腟分娩と帝王切開のどちらが推奨されるか?CQ4:肛門括約筋断裂による便失禁に対して、肛門括約筋形成術と仙骨神経刺激療法のどちらを先行すべきか?CQ5:脊髄障害を原因とする便失禁の治療法として、仙骨神経刺激療法は有用か? なお、日本大腸肛門病学会は本ガイドラインの使用について、便失禁を診療する医師だけではなくケアを行う介護者や一般市民も想定しており、便失禁診療の一助となることを願っているという。

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便秘【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第21回

便秘は古今東西いろいろな場面で遭遇します。しかし、「便秘でしょ」と軽く考えていると痛い目を見ることがあります。今回は救急外来での症例を通じて、便秘診療の注意点を確認してみましょう。<症例>80歳、女性主訴便秘病歴3日くらい前から排便がなく、1時間前から腹痛を訴えている。本人が「便秘かも」と言っており、浣腸を希望して受診した。思わず「浣腸しておいて」と言いたくなるかと思いますがそこはぐっと我慢して、ステップを追って診察していきましょう。ステップ1 本当に便秘?と疑う腹痛の鑑別は多岐にわたります。鑑別を記載すると膨大になるため割愛しますが、患者さんが「便秘のようだ」というときに、「本当に便秘?」と常に疑う必要があります。まれに尿閉を便秘と訴える患者さんもいます。「便秘で浣腸」という行為は、医療者以外でも一般的に行っている対処方法ですが、浣腸でも重篤な合併症を生じる可能性があります。浣腸は下行結腸・S状結腸あたりから直腸膨大部までの腸管内容物を排除することを目的としています。腸管壁の脆弱性を生じる疾患(憩室炎など)があった場合、圧をかけることにより消化管穿孔のリスクになるという報告があるため1)、安易に便秘と診断して浣腸することは控えるべきです。この患者さんの腹部の所見は、左下腹部に圧痛を認めるものの腹膜刺激症状はなく、直腸診では便塊を触れるのみで腫瘤の触知は認めませんでした。本人曰く、排尿は来院前に済ましているとのことで尿閉は否定的でした。他に腹痛を生じる疾患は認めなかったため、便秘と診断しました。ステップ2 治療便秘は16%の人が経験し、60歳以上となると33.5%の人が罹患するという報告があります。便秘の種類としては器質性と機能性に分けられます。器質性は腫瘍や炎症などによる腸管の狭窄、蠕動低下を来した状態であり、適切に治療しないと重篤化するため早期の発見が必要です2,3)。機能性は器質性以外の便秘で、腸管蠕動の低下や脱水により便が固くなり、排便が困難となり発症します。この患者さんは直腸診で硬便を触れるため機能性の便秘の可能性が高いと判断したところで、看護師より「摘便しましょうか?」と提案がありました。便秘の治療はさまざまです。この患者さんのように、すでに便が直腸下部にある場合、坐剤、浣腸、摘便がよい適応になります4)。私は肛門近くに便塊がある場合(糞便塞栓)、可能な限り摘便した後に浣腸をしています。固い便が肛門をふさいでいると浣腸や坐剤がうまく使用できないと考えるからです。患者さんに摘便、浣腸を行ったところ大量の排便があり、患者の腹痛はきれいに消失しました。なお、80歳という年齢を考えると、器質性の便秘の可能性も最後まで否定できないため、必ず大腸内視鏡検査を進めましょう。ステップ3 便秘を繰り返さないための指導便秘になるたびに浣腸をする人がいますが、浣腸は頻度が高くはないとはいえ消化管穿孔などの重大な合併症や習慣性を招くという報告があります5)。機能性の便秘を生じる原因は多岐にわたり、原因を1つに絞るのは難しいと言われています2)が、最も頻度が高い原因は生活習慣(食物繊維の不足、脱水、運動不足など)とされ、適度な飲水、運動が便秘の頻度を下げるという報告があり重要です6)。そして忘れてはいけないのが薬剤性です。便秘を生じる薬剤は、Ca拮抗薬、抗うつ薬、利尿薬など多岐にわたります。必要な薬は内服しなければいけませんが、昨今では高齢者のポリファーマシーが問題になっており、処方薬の調整のきっかけにしてもらいたいと考えます7)。この患者さんの内服薬は降圧薬くらいで、運動不足が便秘の原因と言われたことがあるため可能な限り体を動かしているとのことでした。生活習慣でこれ以上改善するのは難しいと判断し、薬剤投与を行うこととしました。わが国の慢性便秘症診療ガイドラインでは、「浸透圧下剤(酸化マグネシウム)」、「上皮機能変容薬(ルビプロストンなど)」が最も強く推奨されています4)。私は中でも安価で調節がしやすい酸化マグネシウムを好んで処方しています。投与後の反応は患者によって異なるため、330mgを毎食後で開始して、処方箋に「自己調節可」と記載し、患者さんに説明したうえで調節してもらっています。酸化マグネシウムを増量しても効果が乏しい場合は刺激性下剤を追加しています。酸化マグネシウムを投与する際に注意してほしい合併症が高マグネシウム血症です。投与量(≧1,650mg/日)や投与期間(36日以上)、腎機能障害(糸球体濾過量<55.4mL/min)、血中尿素窒素の上昇(≧22.4mg/dL)によってリスクが増加すると報告があり、長期投与を行う場合は漫然と処方するのではなく、定期的な血中マグネシウム濃度の測定が必要です8)。腎機能障害があるなどリスクが高い場合は、上皮機能変容薬を選択しています。この患者さんには酸化マグネシウムを処方し、近医に通院して加療を継続してもらうこととなりました。便秘という疾患は多くの人が経験する疾患であり、便秘が主訴の患者さんに対して「便秘だろう」という先入観で診察を怠ると痛い目にあうことがあります。積極的に介入していきましょう。1)大城 望史ほか. 日本大腸肛門病学会雑誌. 2008;61:127-131.2)Forootan M, et al. Medicine(Baltimore). 2018;97:e10631.3)Black CJ, et al. Med J Aust. 2018;209:86-91.4)日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会. 慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂;2017.5)Niv G, et al. Int J Gen Med. 2013;6:323-328.6)Leung L, et al. J Am Board Fam Med. 2011;24:436-451.7)大井 一弥. YAKUGAKU ZASSHI. 2019;139:571-574.8)Wakai E, et al. J Pharm Health Care Sci. 2019;5:4.

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制か

 高尿酸血症は慢性腎臓病(CKD)患者で高頻度にみられる。高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法については、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』では、腎機能を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることが条件付きで推奨されている1)。また、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、保存期CKD患者に対する尿酸低下療法について、「腎機能悪化を抑制する可能性があり、行うことを考慮してもよい」とされている2)。しかし、CKD患者における血清尿酸値の管理目標に関する無作為化比較試験は存在しない。中国・中南大学のYilun Wan氏らの研究グループは、英国のデータベース(IQVIA Medical Research Data[IMRD])を用いて、痛風を有するCKDステージ3の患者への尿酸低下療法について、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成の有無別に腎機能への影響を検討した。その結果、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成群は、非達成群と比較して腎機能障害の進展が増加せず、むしろ抑制される可能性が示された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年11月25日号で報告された。 本研究の対象は、IMRDに登録された40~89歳の痛風を有するCKDステージ3(eGFR 30~60mL/min/1.73m2が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ3の診断記録を有する)で、尿酸降下薬による治療を受けた患者1万4,792例であった。対象患者を尿酸降下薬開始から1年以内の血清尿酸値6.0mg/dL未満の達成の有無で分類し(達成群/非達成群)、腎機能への影響を検討した。両群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。target trial emulationの手法として、cloning-censoring-weighting法を用いて、達成群と非達成群を比較した。評価項目は腎機能高度低下または末期腎不全(eGFR 30mL/min/1.73m2未満が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ4/5、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかの診断記録を有する)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢(平均値±標準偏差[SD])は73.1±9.5歳で、男性は62.3%(9,215例)であった。ベースライン時の血清尿酸値、eGFR(いずれも平均値±SD)は、それぞれ8.9±1.6mg/dL、49.9±12.3mL/min/1.73m2であった。・尿酸降下薬の内訳は、アロプリノールが98.8%(1万4,615例)、フェブキソスタットが1.2%(177例)であった。・尿酸降下薬開始から1年以内に血清尿酸値6.0mg/dL未満を達成した割合は31.8%(4,706例)であった。・追跡開始から5年間の腎機能高度低下または末期腎不全の発生率は、達成群が10.32%、非達成群が12.73%であり、調整リスク差は-2.41%(95%信頼区間[CI]:-4.61~-0.21)、ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.80~0.98)であった。・末期腎不全の発生率は、達成群が0.6%、非達成群が1.2%であり、調整リスク差は-0.63%(95%CI:-0.94~-0.32)、HRは0.67(95%CI:0.46~0.97)であった。 本研究結果について、著者らは「痛風を有するCKD患者において、血清尿酸値6.0mg/dL未満を目標とする尿酸低下療法は、忍容性が良好であり、CKDの進展を抑制する可能性も示された」と考察し、「痛風を有するCKD患者の治療において、血清尿酸値の目標値を達成するために、尿酸降下薬による治療を最適化することを支持するものである」とまとめた。

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自覚症状に乏しい糖尿病性腎症に早く気付いて/バイエル

 バイエルは、11月14日の「糖尿病の日」に合わせ、糖尿病と合併症に関する啓発イベントを開催した。イベントでは、糖尿病専門医による糖尿病に関するプレスセミナーとお笑いコンビ「ガンバレルーヤ」をゲストに迎えての市民向けの疾患啓発が行われた。糖尿病の合併症の腎臓病では透析導入になりやすい 「糖尿病と合併症ってどんな病気? 患者さん中心の医療について考える」をテーマに坊内 良太郎氏(国立国際医療研究センター 糖尿病研究センター/糖尿病内分泌代謝科)が、糖尿病の病態、診療、合併症を抑えるポイントを解説した。 わが国の糖尿病と疑われる人の数は約2,000万人にのぼり、国民の5~6人に1人は糖尿病の危険があるとされる国民病となっている。 糖尿病は「インスリンの作用不足により起こる血糖値が高い状態が続く疾患」であり、診断では空腹時血糖値が126mg/dL以上、食後血糖値、ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上あれば糖尿病が強く疑われ、再度の検査で確定診断となる。また、健康診断などでよく話題になるHbA1cも6.5%以上は糖尿病が強く疑われる指標となる。 糖尿病にはI型、II型、妊娠、そのほか(薬剤性、肝臓疾患など)の4種類があり、その症状として「のどの渇き、水分の多飲」「日中・夜間の頻尿」「疲れやすい」「体重減少」などがある。そして、これらの症状は自覚症状に乏しく放置しがちであり、医療機関を受診しないことで合併症のリスクが高まる。 糖尿病合併症では、脳卒中、心筋梗塞、壊疽(神経障害)などの大血管障害と網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害がある。また、併存症として肺炎などの感染症、肝臓・膵臓などの悪性腫瘍、歯周病なども糖尿病患者では起こりやすく、重症化しやすい。 とくに糖尿病性腎症は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な疾患であり、病期がかなり進行するまで自覚症状に乏しいために、診断がされたときには腎不全で透析導入になるケースが多い。実際、日本透析医学会の調査では、糖尿病性腎症は透析導入の約4割を占めていると報告されている。糖尿病合併症の抑制には血糖、血圧、脂質の厳格な管理が求められる 現在、日本糖尿病学会では、診療ガイドラインなどで糖尿病治療の目標として、「健康な人と変わらない寿命と生活の質(QOL)の達成」を示している。糖尿病の根治が難しい以上、合併症を抑えることが重要となる。 糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法だが、これでも効果が不十分な場合に薬物療法が追加される。いずれも患者の自主的な取り組みなしには成功しない治療である。また、HbA1cを7%未満に抑えれば網膜症や腎症の悪化リスクを抑えことができるという研究報告1)のほか、血圧を130/80mmHg未満に抑えたり、LDLコレステロールを適切に管理したりすれば合併症のリスク低減が期待できるため、ガイドラインなどで推奨されている。そのほか、わが国のJ-DOIT3の研究結果から血糖、血圧、脂質の厳格な管理が糖尿病の合併症予防につながり、とくに脳血管合併症や腎症に効果があるとされている2)。 最後に坊内氏は、糖尿病やCKDの治療において大切なこととして、「医師やメディカルスタッフとのコミュニケーションが重要である。共同意思決定(SDM)として治療のゴールを決めるために、患者さんが価値観や好みをきちんと医師などに伝えることで、患者さん個々に合った治療法の提案をすることができる」と語り、講演を終えた。 この後開催された疾患啓発イベント「体験型ボードゲームで学ぶ糖尿病と合併症 ~腎臓の声に耳を傾けよう~ in 丸の内」のオープニングイベントでは、先の講演者の坊内氏が糖尿病の3大合併症として、網膜症、腎症、神経障害を挙げたうえで、糖尿病性腎症はかなり進行するまで自覚症状に乏しいことに言及。「定期的な検査、とくに尿検査を行い、このイベントのタイトルにもなっている『腎臓の声』にしっかり耳を傾けよう」と呼びかけ、ゲストのガンバレルーヤの2人は「自覚症状が出にくいからときちんと病院に行って定期的に検査を受けることが大事なんですね」と早期発見の大切さに納得していた。また、会場では、特大サイズのボードゲームが人気で、多くの参加者が糖尿病とその合併症について学んでいた。

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虚血性心筋症の心室頻拍、カテーテルアブレーションは有効か/NEJM

 虚血性心筋症で心室頻拍を有する患者において、抗不整脈薬治療と比較してカテーテルアブレーションによる初期治療は、複合エンドポイント(全死因死亡、心室頻拍発作、適切な植込み型除細動器[ICD]ショック、内科的治療を受けた持続性心室頻拍)のイベントリスクを有意に低下したことが、カナダ・ダルハウジー大学のJohn L. Sapp氏らVANISH2 Study Teamが実施した「VANISH2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年11月16日号で報告された。欧米3ヵ国の医師主導型無作為化試験 VANISH2試験は、3ヵ国(カナダ、米国、フランス)の22施設で実施した医師主導の非盲検(エンドポイントのイベント判定は盲検下)無作為化試験であり、2016年11月~2022年6月に患者を登録した(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成を受けた)。 心筋梗塞の既往があり、臨床的に重要な心室頻拍(心室頻拍発作、適切なICDショックまたは抗頻拍ペーシングの実施、緊急治療により停止した持続性心室頻拍と定義)を有する患者416例を登録した。これらの患者を、カテーテルアブレーションを受ける群に203例(平均[±SD]年齢67.7±8.6歳、男性95.1%)、抗不整脈薬治療を受ける群に213例(68.4±8.0歳、92.5%)を無作為に割り付けた。 全例がICDを装着していた。カテーテルアブレーションは無作為化から14日以内に施行し、抗不整脈薬治療は事前の規定に従ってソタロールまたはアミオダロンを投与した。 主要エンドポイントは、追跡期間中の全死因死亡と、無作為化から14日以降の心室頻拍発作・適切なICDショック・内科的治療を受けた持続性心室頻拍の複合とした。死亡、心室頻拍発作、ICDショックには差がない 追跡期間中央値4.3年の時点で、主要エンドポイントのイベント発生率は、抗不整脈薬群が60.6%(129/213例)であったのに対し、カテーテルアブレーション群は50.7%(103/203例)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.58~0.97、p=0.03)。 追跡期間中の全死因死亡(カテーテルアブレーション22.2% vs.抗不整脈薬群25.4%、HR:0.84[95%CI:0.56~1.24])、無作為化から14日以降の心室頻拍発作(21.7% vs.23.5%、0.95[0.63~1.42])、無作為化から14日以降の適切なICDショック(29.6% vs.38.0%、0.75[0.53~1.04])には両群間に差を認めず、無作為化から14日以降の内科的治療を受けた持続性心室頻拍(4.4% vs.16.4%、0.26[0.13~0.55])はカテーテルアブレーション群で少なかった。重篤な非致死的有害事象の頻度は同程度 重篤な非致死的有害事象は、カテーテルアブレーション群28.1%(57例)、抗不整脈薬群30.5%(65例)で発現した。また、カテーテルアブレーション群では、術後30日以内の有害事象として死亡が2例(1.0%)で発生し、非致死的有害事象は23例(11.3%)に認めた。抗不整脈薬群では、抗不整脈薬に起因する有害事象として肺毒性による死亡が1例(0.5%)で発生し、非致死的有害事象は46例(21.6%)に発現した。 著者は、「これまでの研究で、カテーテルアブレーションと抗不整脈薬治療は心室頻拍の再発とICDショックのリスクを減少させることが知られているが、両方とも有害事象を伴い、有効性は完全ではないため、これらの治療法をいつ使用するかが重要な臨床的判断となる」「初期治療として薬物を使用し、薬物療法が無効であればアブレーションを行うというのが一般的な方法であり、現行のガイドラインにも合致する」としている。

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第219回 外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省

<先週の動き>1.外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省2.医療機関の経営危機に緊急支援、1,311億円の対策パッケージ/政府3.ED治療薬のスイッチOTC化を検討、意見募集を開始/厚労省4.美容医療の規制強化の対策案公表、情報公開と行政指導を強化/厚労省5.マイナ保険証対応の義務化は「適法」医師らの訴え棄却/東京地裁6.建設費高騰で新病院建設を断念、埼玉県の医師不足解消に暗雲/順天堂大1.外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省厚生労働省は11月29日、「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足が深刻化する中、外科医の業務負担軽減と処遇改善に取り組む方針を固めた。外科医は長時間労働や休日出勤が多く、私生活との両立が難しいことから、若手の医師などに敬遠されがちな診療科となっている。厚労省は、外科医のなり手を増やすため、業務負担の軽減、報酬の引き上げ、研修制度の見直しなどを検討する。具体的な対策としては、手術支援ロボットの導入や医師事務作業補助者の配置による業務効率化、外科医の給与増額などが考えられている。また、若手医師の外科離れを防ぐため、研修制度の見直しも検討される。医師の偏在対策を議論する有識者検討会では、外科医の処遇改善に向けた「手厚い評価」について議論が行われた。この中で、病院経営の観点から外科医の給与増額を提案する意見や、大学病院の医局制度の見直しを求める意見などが出された。厚労省は、これらの意見を踏まえ、年末に取りまとめる医師偏在対策の総合的な対策パッケージに反映させる方針。参考1)第8回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科医確保へ処遇改善 厚労省方針、負担軽減や報酬増(日経新聞)3)医師偏在是正に向け「外科医の給与増」・「総合診療能力を持つ医師」養成・「広域連携型の医師臨床研修」制度化等が重要-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4)広域連携型プログラムの検証制度、早期検討を 医師偏在対策で複数意見 厚労省検討会(CB news)2.医療機関の経営危機に緊急支援、1,311億円の対策パッケージ/政府高齢化やコロナ禍による受診行動の変化で経営状況が悪化している医療機関に対し、政府は2024年度補正予算案で1,311億円規模の緊急支援パッケージを盛り込んだ。この支援策は、医療機関の賃上げ支援、病床削減を実施する医療機関への支援、医師不足地域への支援、医療DX推進などが柱となっている。賃上げ支援では、病院や有床診療所には1床当たり4万円、無床診療所と訪問看護ステーションには1施設に付き18万円の給付金を支給するほか、病床削減を進める医療機関には、1床当たり410万4,000円の給付金を交付し、診療体制の変更を支援する。また、医師不足地域に対しては、診療所の承継や開業、医師の派遣、専門医に対するリカレント教育などを支援する。医療DX関連では、全国医療情報プラットフォームの構築や電子処方箋の普及促進、マイナ保険証の利用促進などに予算が計上された。一方、財務省は11月29日に財政制度等審議会を開き、2025年度予算編成に向けた建議をまとめ、医療費総額の伸びを抑制するため、不断の制度改革を求めた。福祉医療機構の調査によると、今年春の診療報酬改定による施設基準の厳格化の影響が大きく、急性期病院の約45%が2024年度診療報酬改定後に減益となっていることが明らかになっており、財務省側は補助金による財政措置に歯止めを求めている。政府の緊急支援パッケージは、医療機関の経営安定化に一定の役割を果たすと期待される一方、財政状況の悪化や高齢化に伴う医療ニーズの変化に対応した抜本的な改革も求められている。参考1)医療・介護の賃上げに1,800億円 24年度補正予算案(日経新聞)2)賃上げ支援1床当たり4万円、病院と有床診 無床診と訪看は1施設18万円 補正予算案(CB news)3)急性期163病院の45%が減益 24年度報酬改定後 増収分を費用が上回る 福祉医療機構(同)4)令和7年度予算の編成等に関する建議(財務省)3.ED治療薬のスイッチOTC化を検討、意見募集を開始/厚労省厚生労働省は11月25日、勃起不全(ED)治療薬のタダラフィル(商品名:シアリス)について、医師の処方箋なしで購入できる一般用医薬品(OTC)への転用(スイッチOTC化)を検討するため、意見募集を開始した。ED治療薬がOTC化されれば、国内では初めてのケースとなる。現在、ED治療薬は医療用医薬品として医師の処方箋が必要となっている。しかし、医師への受診をためらい、インターネットなどを利用して個人輸入で海外から薬を購入するケースが増加し、偽造薬のリスクなどが懸念されている。タダラフィルがOTC化されれば、薬局やドラッグストアで購入できるようになり、正規品の入手機会の拡大と、偽造薬による健康被害の防止が期待される。厚労省は、意見募集の結果を踏まえ、専門家による検討会で課題や対応策を議論し、最終的には薬事審議会の部会で承認を判断する。参考1)候補成分のスイッチOTC化に関する御意見の募集について(厚労省)2)スイッチOTC医薬品の候補となる成分の検討結果について(同)3)タダラフィルなど3成分、スイッチで意見募集 厚労省、「時短スキーム」第1弾(日刊薬業)4)ED治療薬、処方箋不要に 厚労省検討、正規品入手しやすく(日経新聞)5)医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進(日本OTC医薬品協会)4.美容医療の規制強化の対策案公表、情報公開と行政指導を強化/厚労省厚生労働省は、11月28日に社会保障審議会医療部会を開き、美容医療のトラブル増加を受け、規制強化に向けた対策案を公表した。この対策案は、6月から開催されてきた「美容医療の適切な実施に関する検討会」で議論されてきた内容をまとめたもの。背景には、美容医療に関するトラブル相談が急増している現状があり、国民生活センターの報告によると、美容医療に関する相談件数は2023年度に5,507件となり、5年間で3倍以上に増加した。厚労省は、美容医療を提供する医療機関に対し、安全管理体制や医師の専門医資格の有無、相談窓口の設置状況などを都道府県へ報告することを義務付けるほか、保健所による指導の明確化のほか、診療録の記載の徹底、オンライン診療のルール整備、関係学会によるガイドライン策定、医療広告規制の強化のほか、国民へ美容医療についてのリスクの情報提供の強化を行うこととした。さらに、一般社団法人が開設する医療機関に対し、安全管理体制や医師の専門医資格の有無、相談窓口の設置状況などを都道府県に事業報告書などの書類提出を義務付ける方針を固めた。一般社団法人は、医師が代表となる医療法人と異なり、管理者となる医師がいれば異業種でも医療に参入できる。近年、美容クリニックを中心に、一般社団法人が開設する医療機関が増加しており、2023年には780ヵ所に達している。しかし、一般社団法人は医療法人と比べて規制が緩く、営利目的での運営や医療の質の低下などが懸念されてきているため対応が急がれていた。厚労省は、一般社団法人に対しても医療法人と同等の報告を義務付けることで、経営実態の把握を強化し、非営利性の徹底を図る考え。参考1)美容医療の適切な実施に関する検討会報告書(厚労省)2)「一般社団法人」クリニック 経営や事業の内容確認 厳格化へ(NHK)3)一般社団法人の医療機関、報告対象に 美容医療が念頭(日経新聞)5.マイナ保険証対応の義務化は「適法」医師らの訴え棄却/東京地裁医師らがマイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」への対応を義務付ける厚生労働省の省令は違法だとして、国に義務がないことの確認を求めた訴訟で、東京地裁は11月28日、医師側の請求を棄却した。判決は、マイナ保険証への対応義務化について「制度運営の効率化や、正確なデータに基づいたより良い医療のためと認められる」と指摘。医療機関への経済的負担が生じても「事業継続を困難にするとは言えず、医療活動の自由に重大な制限を課すものではない」として、国側の主張を認めた。原告の医師らは、機器導入費用や維持費、情報漏えいのリスクなどを訴えたが、判決では、システム導入には財政的な補助があり、廃業を余儀なくされるほどの負担ではないと判断した。この判決を受け、原告団は控訴する意向を示している。一方、政府は12月2日に現行の健康保険証の新規発行を停止し、マイナ保険証への移行を進める方針。平 将明デジタル相は、マイナ保険証は医療費適正化や新たな価値創出に不可欠であり、移行を予定通り進める必要があると強調した。マイナ保険証の導入を巡っては、医療現場の混乱や患者情報の取り扱いなど、さまざまな課題が指摘されている。政府は、これらの課題に対応しながら、マイナ保険証の普及促進を目指していく考え。参考1)マイナ保険証対応の義務化は適法、医師らの訴えを退ける 東京地裁(朝日新聞)2)マイナ保険証導入義務化 違法と言えず 医師ら訴え退ける判決(NHK)3)マイナ保険証システム義務化は適法 医師の違法確認を棄却 東京地裁(毎日新聞)6.建設費高騰で新病院建設を断念、埼玉県の医師不足解消に暗雲/順天堂大埼玉県さいたま市への新病院建設を計画していた順天堂大学は、11月29日、計画を中止すると埼玉県に伝えた。2015年に埼玉県が公募した病院誘致計画で、順天堂大学は800床規模の新病院建設を提案し、採択されていた。しかし、建設費や資材費の高騰により、総事業費が当初の834億円から2,186億円に膨れ上がったこと、コロナ禍以降の病院経営の悪化、医師の働き方改革への対応などを理由に、計画を断念するにいたった。埼玉県の公募に応える形で、新病院の建設が決まったのは2015年3月。当初は2020年度に開院としていたが、その後、何度もその時期が先送りされてきた。大学側は、事業費を抑えるために看護系学部の開設や宿舎の整備・大学院棟の建設を先送りにし、病院の規模も当初予定していた800床から500床程度に縮小する計画案を検討した。しかし、建築費の高騰や医療を取り巻く厳しい環境を鑑みると、計画の見直しなどによっても、埼玉県民に貢献できる最先端医療機能を備え、かつ、DXを活用した未来型基幹病院の開設は困難と判断した。埼玉県の大野 元裕知事は、「大変遺憾」と述べ、「県民の期待が大きかっただけに残念だ」と語っている。順天堂大学は、計画中止をさいたま市にも報告し、清水 勇人市長は「大変残念」とコメントした。新病院の建設予定地は、県有地とさいたま市有地で、約7万7,000平方メートル。県は土地取得に55億5,000万円を投じていた。今後の土地活用については、埼玉県は「病院誘致の可能性も含め、総合的に判断する」としている。順天堂大学の新病院は、埼玉県が抱える医師不足の課題解決に向けても期待が寄せられていた。埼玉県は、人口10万人当たりの医師数が全国で最も少なく、医師不足が課題となっていた。このため、埼玉県は新病院の公募の条件に、医師不足の地域に大学が医師を派遣することを挙げており、現在、順天堂大学からは県北部と西部の病院に2人の医師が派遣されている。新病院の開院後は段階的に人数を増やし、年間20人の医師が派遣される予定だった。今回の計画中止は、埼玉県の医師不足解消に大きな影響を与える可能性がある。参考1)埼玉県浦和美園地区病院の整備計画中止について(順天堂大学)2)順天堂大学 800床の病院整備計画を中止 埼玉県に伝える(NHK)3)順天堂大、さいたま市への新病院建設を断念 資材高騰で資金不足(毎日新聞)4)順天堂大の新病院、建設決定から9年半で計画中止に…「青天の霹靂」「裏切られた気持ちだ」(読売新聞)

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修理代、たったの300円!【Dr. 中島の 新・徒然草】(557)

五百五十七の段 修理代、たったの300円!寒くなりましたね。ついにコートの必要な季節になってしまいました。外に出かけるときにはマフラーと手袋も欠かせません。さて先日のこと。親戚の叔父から、長年乗り続けている古い車についての話を聞かされました。最近になって「カタカタ」という異音がするようになったとのこと。叔父はすぐにディーラーに持ち込み、「音の感じから、どこかのネジが緩んでいるのではないか」と自分の考えを伝えました。しかし、ディーラーからは「どこも悪くない」と言われただけで、さらに「古い車なので買い替えを検討したほうがいい」と勧められたそうです。納得できなかった叔父は、ネットで調べてみました。すると、自宅から5キロほど離れた修理屋の評判が良いことを知り、そこに車を持ち込んだのです。修理屋のおやじさんに事情を説明した際も「音の感じからネジが緩んでいるのではないか」と自身の考えを伝えたのだとか。おやじさんは「なるほど」と頷くと、さっそく車の下に潜り込んで点検開始。そして、3ヵ所のネジが劣化して緩んでいることを突き止め、それらを新品に交換してくれました。その結果、異音は完全になくなり、叔父はようやく安心できたそうです。修理代として請求されたのはネジ代だけの300円。叔父はそれでは申し訳ないと、無理に3,000円を渡して帰ってきました。修理の合間、おやじさんが漏らした言葉が印象的だったそうです。「最近は何でもマニュアル頼りだよ。ディーラーですら、チェックリストしか見ていないんじゃないかな」とのこと。この話を聞いて、私は医療にも通じるものを感じました。たとえば脳卒中の患者さんを診るときに用いるNIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)は非常に有用な評価スケールです。この評価スケールは頭部外傷やめまいの診療にも活用されています。しかし、それだけでは見逃されることも多々あるのではないでしょうか。たとえば、後頭部を打った場合には、嗅覚障害の有無を確認することが重要だと私は思っています。解剖学的に、嗅神経が断裂しやすい方向に力が加わるためですね。私の体感では、20人に1人くらいは嗅覚障害が出るような印象があります。以前、ある頭部外傷の患者さんに「先生、いつになったら鼻のほうは治るの?」と言われて驚いたことがありました。この人は車の荷台から落ちて頭を打ったのですが、この質問をされたときには、もう事故から1ヵ月ほど経っていたからです。嗅覚障害について、自分がまったく注意を払っていなかったことに肝を冷やしました。また、BPPV(良性発作性頭位めまい症)を疑う患者さんの診療では、NIHSSで中枢性のめまいを否定するだけでは不十分です。やはり末梢性のめまいであることを裏付けるために、ディックス・ホールパイク法を用いて眼振やめまい感の有無を確認するべきではないでしょうか。確かに医療において、マニュアルやガイドラインが重要なのは言うまでもありません。でも、それだけで良しとせず、個々の患者さんの状態に合わせた丁寧な診察を心掛けたいものですね。最後に1句300円 冷えた硬貨が 冬告げる

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mavacamtenの長期使用で中隔縮小療法を回避/AHA2024

 症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)患者を対象としたVALOR-HCM試験において、mavacamtenにより中隔縮小療法(septal reduction therapy:SRT)の短期的な必要性を低下させ、左室流出路(LVOT)圧較差などの改善をもたらすことが報告されていた。今回、米国・クリーブランドクリニックのMilind Y Desai氏らが治療終了時128週までのmavacamtenの長期的な効果を検討し、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表、Circulation誌オンライン版2024年11月18日号に同時掲載された。 今回の結果によると、症候性閉塞性HCM患者の約90%において、128週時点でSRTを実施せずにmavacamtenを長期継続していた。 本研究は米国の19施設で行われた多施設共同プラセボ対照ランダム化二重盲検試験で、SRTを紹介された症候性閉塞性HCM患者を対象とした。最初にmavacamtenにランダム化されたグループは128週間にわたってmavacamtenを継続、プラセボを投与されたグループは16週目から128週目までmavacamtenを継続した(112週間の曝露)。用量漸増は、心エコー図によるLVOT勾配と左室駆出率(LVEF)の測定結果を基に行った。主要評価項目は、128週目にSRTに進む患者またはガイドラインの適格性を維持している患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・128週目に、全対象者108例中17例(15.7%)が複合エンドポイントを達成した(7例がSRTを受け、1例がSRT適格、9例がSRT状態評価不能)。・128週までに87例(80.5%)がNYHAクラスI以上の改善を示し、52例(48.1%)がクラスII以上の改善を示した。また、安静時およびバルサルバ手技によるLVOT圧較差がそれぞれ38.2mmHgおよび59.4mmHgと持続的に低下した。・95例(88%)が上市されているmavacamtenに切り替えられた。・15例(13.8%、100患者年あたり5.41例)はLVEFが50%未満(LVEF≦30%が2例、死亡が1例)で、このうち12例(80%)が治療を継続した。・新たに心房細動を発症した患者は11例(10.2%、100患者年あたり4.55例)であった。

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