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慢性腎臓病(CKD)患者におけるSGLT2阻害薬の効果については不確実性が存在し、欧米のガイドラインでは糖尿病の状態や尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)に基づき推奨の強さが異なる。英国・オックスフォード大学のNatalie Staplin氏らSGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists’ Consortium(SMART-C)は、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無やUACRの値にかかわらず、腎機能や入院、死亡のアウトカムに関して明確な絶対的便益(absolute benefit)を有するとメタ解析の結果を報告した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年11月7日号で発表された。8件の無作為化臨床試験のメタ解析 研究グループは、糖尿病の有無およびUACR(200mg/g以上、200mg/g未満)で層別化した臨床試験の参加者において、SGLT2阻害薬の使用が有効性や安全性のアウトカムに及ぼす相対的および絶対的な影響の評価を目的にメタ解析を行った。 対象は、腎疾患での使用の適応を有するSGLT2阻害薬について検討し、腎アウトカムの経過やベースラインのアルブミン尿のデータを記録した8件の無作為化臨床試験であった。 主要アウトカムとして、SGLT2阻害薬の使用が臨床的な有効性と安全性に及ぼす影響を評価した。糖尿病の有無にかかわらず、有効性のアウトカムが改善 SGLT2阻害薬とプラセボを比較した試験の参加者5万8,816例(平均年齢64[SD 10]歳、女性35%、糖尿病4万8,946例、非糖尿病9,870例)を解析の対象とした。 プラセボ群と比較してSGLT2阻害薬群では、次の4つの有効性のアウトカムが糖尿病の有無を問わず改善した(非糖尿病患者の総死亡を除く)。(1)腎疾患進行率が低下(糖尿病患者:SGLT2阻害薬群33件/1,000人年vs.プラセボ群48件/1,000人年、ハザード比[HR]:0.65[95%信頼区間[CI]:0.60~0.70]、非糖尿病患者:32件vs.46件、0.74[0.63~0.85])(2)急性腎障害(AKI)の発生率が低下(糖尿病患者:14件vs.18件、0.77[0.69~0.87]、非糖尿病患者:13件vs.18件、0.72[0.56~0.92])(3)総入院の発生率が低下(糖尿病患者:202件vs.231件、0.90[0.87~0.92]、非糖尿病患者:203件vs.237件、0.89[0.83~0.95])(4)総死亡の発生率が低下(糖尿病患者:42件vs.47件、0.86[0.80~0.91]、非糖尿病患者:42件vs.48件、0.91[0.78~1.05])アルブミン尿による層別化は不要 このようなSGLT2阻害薬の糖尿病の有無別のHRは、さらにUACR 200mg/g以上とUACR 200mg/g未満に分けて検討した場合も同様に良好であった。 たとえば、UACR 200mg/g以上で絶対リスクが高い場合でも、このサブグループでは腎疾患進行(糖尿病患者のHR:0.65[95%CI:0.59~0.71]、非糖尿病患者のHR:0.71[95%CI:0.60~0.84])に対するSGLT2阻害薬の絶対的便益が明らかに大きいと推定された。また、UACR 200mg/g未満の患者では、他の有効性のアウトカム、とくに入院(0.91[0.88~0.94]、0.89[0.82~0.98])に関して明らかな絶対的便益を認めた。 さらに、非心不全の患者集団や、推定糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2未満の患者の解析でも、このSGLT2阻害薬の絶対的便益が保持されていた。 著者は、「これらのデータは、CKD患者におけるSGLT2阻害薬の使用に関するガイドラインの推奨から、アルブミン尿の値による患者の層別化を削除することを支持し、より広範な使用の根拠となるものである」としている。