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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕

近年の知見を反映し52項目を改訂!2022年1月から2023年12月までの2年間に発表された論文のうち「レベル1のエビデンス」「レベル3以下だったエビデンスがレベル2となっていて、かつ、とくに重要と考えられるもの」を採用する方針で、該当する項目(140項目中52項目)を改訂しました。主な改訂点「改訂のポイント」を新設担当班長・副班長がまとめた「改訂のポイント」を各章の冒頭に新設しました。前版から改訂した箇所や改訂の経緯などについて把握する際に、ぜひご活用ください。近年の知見をタイムリーに・広範囲に反映各疾患の治療選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬や抗アミロイド抗体治療薬に対する知見、諸々の背景を持つ患者さんへのDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)や抗血小板薬による治療の知見、日進月歩ともいえるMT(経動脈的血行再建療法)の臨床研究成果など、近年の知見を反映した改訂を行いました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数352頁発行2025年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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蕁麻疹に外用薬は非推奨、再確認したい治療の3ステップ

 かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみ(膨疹)が一時的に現れて、しばらくすると跡形もなく消える蕁麻疹は、診察時には消えていることも多く、医師は症状を直接みて対応することが難しい。そのため、医師と患者の間には認識ギャップが生まれやすく、適切な診断・治療が選択されない要因となっている。サノフィは9月25日、慢性特発性蕁麻疹についてメディアセミナーを開催し、福永 淳氏(大阪医科薬科大学皮膚科学/アレルギーセンター)がその診療課題と治療進展について講演した。 なお、蕁麻疹の診療ガイドラインは現在改訂作業が進められており、次改訂版では病型分類における慢性(あるいは急性)蕁麻疹について、原因が特定できないという意味を表す“特発性”という言葉を加え、“慢性(急性)特発性蕁麻疹”に名称変更が予定されている。蕁麻疹の第1選択は経口の抗ヒスタミン薬、外用薬は非推奨 慢性特発性蕁麻疹は「原因が特定されず、症状(かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみが現れて消える状態)が6週間以上続く蕁麻疹」と定義され、蕁麻疹患者全体の約6割を占める1)。幅広い世代でみられ40代に患者数のピークがあり1)、女性が約6割と報告されている2)。医療情報データベースを用いた最新の研究では、慢性特発性蕁麻疹の推定有病割合は1.6%、推定患者数は約200万人、1年間の新規発症者数は約100万人と推計されている3)。 蕁麻疹診療ガイドライン4)で推奨されている治療ステップは以下のとおりで、内服の抗ヒスタミン薬が治療の基本だが、臨床現場では蕁麻疹に対してステロイド外用薬が使われている事例も多くみられる。福永氏は「蕁麻疹に対するステロイド外用薬はガイドラインでは推奨されておらず、エビデンスもない」と指摘した。[治療の3ステップ]Step 1 抗ヒスタミン薬Step 2 状態に応じてH2拮抗薬*1、抗ロイコトリエン薬*1を追加Step 3 分子標的薬、免疫抑制薬*1、経口ステロイド薬*2を追加または変更*1:蕁麻疹、*2:慢性例に対しては保険適用外だが、炎症やかゆみを抑えることを目的に、慢性特発性蕁麻疹の治療にも使われることがある分子標的薬の登場で、Step 3の治療選択肢も広がる 一方で、Step 1の標準用量の第2世代抗ヒスタミン薬による治療では、コントロール不十分な患者が60%以上いると推定されている5,6)。Step 2の治療薬はエビデンスレベルとしては低く、国際的なガイドラインでは推奨度が低い。エビデンスレベルとしてはStep 3に位置付けられている分子標的薬のほうが高く、今後の日本のガイドラインでの位置付けについては検討されていくと福永氏は説明した。 原因が特定されない疾患ではあるが、薬剤の開発により病態の解明が進んでいる。福永氏は、「かゆみの原因となるヒスタミンを抑えるという出口戦略としての治療に頼る状況から、アレルギー反応を引き起こす物質をターゲットとした分子標的薬が使えるようになったことは大きい」とした。約4割が10年以上症状継続と回答、医師と患者の間に生じている認識ギャップ 症状コントロールが不十分(蕁麻疹コントロールテスト[UCT]スコア12点未満)な慢性特発性蕁麻疹患者277人を対象に、サノフィが実施した「慢性特発性じんましんの治療実態調査(2025年)」によると、39.0%が最初に症状が出てから現在までの期間が「10年以上」と回答し、うち27.8%は現在も「ほぼ毎日症状が出続けている」と回答した。福永氏は、「蕁麻疹は誰にでも起こりうるありふれた病気として、時間が経てば治ると思っている患者さんは多い。しかしなかには慢性化して、長期間症状に悩まされる患者さんもいる」とし、診療のなかでその可能性についても説明できるとよいが、現状なかなかできていないケースも多いのではないかと指摘した。 また、慢性特発性蕁麻疹をどのような疾患だと思うかという問いに対しては、「治療で完治を目指せる病気」との回答は5.1%にとどまり、コントロール不十分な慢性特発性蕁麻疹患者の多くが完治を目指せるとは思っていないことが明らかになった。福永氏は、「治療をしてもすぐには完治しないが、症状が出ていないときも治療を継続することが重要」とした。 原因を知りたいから検査をしてほしいという患者側のニーズと、蕁麻疹との関連が疑われる病歴や身体的所見がある場合に検査が推奨される医療者側にもギャップが生じることがある。福永氏は、「必ず原因がわかる病気ではなく、原因究明よりも治療が重要ということを説明する必要がある」と話し、丁寧な対話に加え、患部の写真撮影をお願いする、UCTスコアを活用するといった、ギャップを埋めるため・見えないものを見える化するための診療上の工夫の重要性を強調して講演を締めくくった。■参考文献1)Saito R, et al. J Dermatol. 2022;49:1255-1262.2)Fukunaga A, et al. J Clin Med. 2024;13:2967.3)Fukunaga A, et al. J Dermatol. 2025 Sep 8. [Epub ahead of print]4)秀 道広ほか. 蕁麻疹診療ガイドライン 2018. 日皮会誌. 128:2503-2624;2018.5)Guillen-Aguinaga S, et al. Br J Dermatol. 2016;175:1153-1165.6)Min TK, et al. Allergy Asthma Immunol Res. 2019;11:470-481.

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どう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方

小児感染症の抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方に自信がつく! 臨床現場に必携の1冊「小児診療 Knowledge & Skill」第2巻小児科診療において、感染症治療は抗菌薬や抗ウイルス薬の基礎的知識が不可欠である。一方で、感染症には多様なバリエーションがある。エビデンスやガイドラインに忠実に従うだけでは対応が困難な場面に遭遇したときに、どう対応するか?本書は病院で診療する医師がよく遭遇する感染症、とりわけ抗微生物薬による治療が考慮されるものを中心にとりあげた総論にて感染症の診断と治療の基本的なアプローチ、細菌感染症に対する抗菌薬の使い方、新しい診断法や治療をふまえた抗ウイルス薬の使い方を解説各論にて個別の感染症の診断と治療を解説という特色で、各疾患に造詣の深い医師が執筆。トピックスや臨床的な疑問を含め通常の成書よりも一歩踏み込んだ内容とした。単なる知識の羅列ではなく、読者が明日の診療で「どう考え、どう動くか」の手がかりとなるような情報となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するどう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方定価8,800円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年10月総編集加藤 元博(東京大学)専門編集宮入 烈(浜松医科大学)ご購入はこちらご購入はこちら

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アブレーション後の再発予防、スタチンが最適か~ネットワークメタ解析

 心房細動(AF)はアブレーションや薬物療法を実施しても再発率が高く、大きな臨床課題となっている。AFの再発リスクには炎症が影響しているともされ、抗炎症作用を有する薬剤が再発抑制の補助療法として注目されている。今回、米国・ユタ大学のSurachat Jaroonpipatkul氏らは、コルヒチンとスタチンが炎症と心房リモデリングの軽減における潜在的な役割を担い、アブレーション後早期での最も有望な治療法であることを示唆した。Journal of Cardiovascular Electrophysiology誌オンライン版2025年7月9日号掲載の報告。 本研究では、アブレーション後のAF再発予防における抗炎症作用の有効性を評価するため、アブレーション後のAF再発を検討したランダム化比較試験に対し、PRISMA-NMAガイドラインに基づくシステマティックレビューとネットワークメタ解析を実施した。対象試験で投与されていたのは、コルヒチン、スタチン(アトルバスタチン)、コルチコステロイド(メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン)、ACE阻害薬(ペリンドプリル)、アスコルビン酸であった。今回、直接比較と間接比較を統合させ、治療成績の順位付けは累積順位曲線下面積(Surface Under the Cumulative Ranking、SUCRA)を、エビデンスの質はCINeMA(Confidence in Network Meta-analysis)を用いて評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・21試験群を対象とした13研究の2,283例が解析対象となった。・プラセボと比較し、コルヒチンとスタチンはAF再発率を有意に減少させ(コルヒチンのリスク比[RR]:0.59[95%信頼区間:0.46~0.77、p<0.001]、スタチンのRR:0.57、[同:0.38~0.86、p=0.008])、スタチンはSUCRAランキングで最高の評価を得た。・コルヒチンは、CRPやIL-6などの炎症マーカーを抑制させることで、早期再発率を顕著に減少させる有効性を示した。・コルチコステロイドとACE阻害薬は再発率に有意な影響を与えず、アスコルビン酸には効果が認められなかった。・対象研究間の異質性は最小限であり、感度分析により堅牢性が確認された。 なお、本研究の限界として、研究間でのAF再発定義のばらつきや治療エビデンスが少ない試験を対象とした点などがあった。

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第265回 呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省

<先週の動き> 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省全国でインフルエンザ、百日咳、マイコプラズマ肺炎といった複数の呼吸器感染症が同時期に急増し、医療現場と地域社会で警戒が強まっている。厚生労働省は10月17日、2025年10月6~12日の1週間におけるインフルエンザの感染者報告数が、全国の定点医療機関当たり2.36人に達したと発表した。これは前週の約1.5倍で、8週連続の増加。総患者報告数は9,074人を超え、昨年の同時期と比較して2倍以上、流行のペースも昨年より約1ヵ月早い状況となっている。都道府県別では、沖縄県(14.38人)が突出して多いほか、東京(4.76人)、神奈川(4.21人)、千葉(4.20人)といった首都圏でも感染が拡大している。この影響で、全国の小学校や中学校など合わせて328ヵ所の学校・学級閉鎖の措置が取られ、厚労省では手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策の徹底を呼びかけている。また、激しい咳が続く百日咳の流行も深刻である。国立健康危機管理研究機構によると、今年に入ってからの累計患者数(10月5日時点の速報値)は8万719人に達し、現在の集計法となった2018年以降で初めて8万人を突破した。これは、過去最多だった2019年の約4.8倍という異例の多さとなっている。コロナ対策中に病原体への曝露機会が減り、免疫が弱まったことが一因と指摘されている。感染は10代以下の子供を中心に広がっており、乳児は肺炎や脳症を併発する重症化リスクがあるため、とくに警戒が必要とされる。さらに、マイコプラズマ肺炎も5週連続で増加しており、9月29日~10月5日の定点当たり報告数は1.36人となっている。秋田、群馬、栃木、北海道などで報告が多く、この秋は複数の感染症が同時に拡大する「トリプル流行」の様相を呈している。 参考 1) 2025年 10月17日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ感染者数 前週の1.5倍に 8週連続で増加 1医療機関あたり「2.36人」 厚生労働省(TBS) 3) インフル定点報告2.36人、前週の1.5倍に 感染者数は9,074人に(CB news) 4) マイコプラズマ肺炎の定点報告数、5週連続増 前週比6.3%増 JIHS(同) 5) インフルエンザ患者 昨年同期の2倍超 日ごとの寒暖差が大きいため体調管理に注意を(日本気象協会) 6) 百日ぜきが初の8万人超 2025年患者数、18年以降の最多更新続く(日経新聞) 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省厚生労働省は10月10日、「がん検診のあり方に関する検討会」を開き、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正する方針を固めた。最新の医学的エビデンスに基づき、肺がん検診の方法を抜本的に見直すほか、乳がん検診のガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼する。最も大きな変更は、重喫煙者を対象とした「胸部X線検査と喀痰細胞診の併用法」の公費検診からの削除。これは、喫煙率の低下に伴い、喀痰細胞診で見つかる肺門部扁平上皮がんが減少し、現在ではこの検査による追加的な効果が極めて小さい(ガイドラインで「推奨しない:グレードD」)と評価されたためである。厚労省は2026年4月1日の指針改正で同検査を削除する方針。ただし、喀痰などの有症状者に対しては、検診ではなく医療機関での早期受診を促す指導を指針に追記する方向とされる。一方、「重喫煙者に対する低線量CT検査」については、死亡率を16%程度低下させるという高い有効性(グレードA)が認められたため、新たに住民検診への導入を目指す。この導入に向け、2026年度から希望する自治体でモデル事業を実施し、実施マニュアルの作成と課題整理を行う予定。その結果を踏まえ、早ければ2027年以降に指針に追加し、全国で導入される見通しである。また、乳がん検診についても、現在のガイドラインが2013年度版で古いことから、最新の医学研究成果を反映させるため、ガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼した。高濃度乳房で有用性が期待される「3Dマンモグラフィ」や「マンモグラフィ+超音波検査の併用」などの知見を整理し、今後の対策型検診への導入可能性が検討される。厚労省は、これらの検診方法の見直しを通じて、死亡率減少効果が高い検査に重点を置く「エビデンスに基づいたがん検診」への転換を加速させる。今後は、低線量CT導入に必要な実施体制の整備や、受診率の向上、住民への適切な情報提供などが課題となる。 参考 1) 第45回がん検診のあり方に関する検討会(厚労省) 2) 肺がん検診について(同) 3) 胸部X線と喀痰細胞診の併用法、肺がん検診から削除 指針改正へ(MEDIFAX) 4) たん検査、肺がん検診除外 喫煙率低下で効果小さく(共同通信) 5) 最新医学知見踏まえて乳がん検診ガイドライン更新へ、肺がん検診に「重喫煙者への低線量CT」導入し、喀痰細胞診を廃止-がん検診検討会(Gem Med) 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会総会(中医協)を10月17日に開き、2026年度改定に向けて、2025年度から始まる「かかりつけ医機能報告制度」に関して、制度の背景や今後のスケジュールを説明するとともに、地域医療体制および診療報酬制度との関係を整理するための論点提示を行った。「かかりつけ医機能」の報告は、ほぼすべての医療機関(特定機能病院、歯科診療所を除く)に対して、2026年1~3月に(1)かかりつけ医機能を有するかどうか、(2)対応可能な診療領域・疾患、(3)在宅医療・介護連携・時間外対応の可否について、報告を求める。1号側(支払い側)の委員からは、「かかりつけ医機能報告制度」の項目(1次診療で対応可能な領域・疾患のカバー状況、研修医受け入れなど)と、機能強化加算などの施設基準・算定要件を整合させ、わかりやすい仕組みに再設計すべきと主張する意見が挙げられた。2号側(診療側)の委員からは、2040年像を見据えた制度を1年後の改定に直結させるのは「論外」と反発する意見が出た。改定の論点には、「大病院→地域医療機関」への逆紹介の実効性向上(2人主治医制の推進、情報連携の評価である「連携強化診療情報提供料」の要件緩和)や、外来機能分化の徹底も含まれている。厚労省の提案には、かかりつけ医側に(1)一次診療対応領域の明確化と提示、(2)地域の病院との双方向連携(紹介・逆紹介、共同管理)の定着、(3)データ提出の拡大・標準化が求められている。とくに機能強化加算は、報告制度の実績(対応疾患カバー、ポリファーマシー対策、研修体制など)とリンクした見直しが俎上に上がっており、基準の再整理や算定要件の具体化が想定される。開業医に対しては「対応可能領域・疾患の可視化」「紹介・逆紹介の運用記録」「連携書式・電子共有の整備」などの対応と提出するデータに根拠が求められる。一方で、情報連携加算の要件が緩和されれば、地域のかかりつけ医は大学病院などとの共同管理で報酬評価を得やすくなる可能性がある。全体として「報告制度による見える化」と「診療報酬での評価」をどの程度リンクさせるかで、支払側と診療側の主張が対立し、年末まで引き続き協議が続く見通し。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 議事次第(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」報告、診療報酬と「整合を」支払側が主張 日医委員は「あり得ない」(CB news) 3) 大病院→地域医療機関の逆紹介をどう進めるか、生活習慣病管理料、かかりつけ医機能評価する診療報酬はどうあるべきか-中医協総会(Gem Med) 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省厚生労働省は10月10日、2023年度の国民医療費が48兆915億円に達し、前年度比3.0%増で3年連続の過去最高を更新したと発表した。1人当たりの医療費も38万6,700円と過去最高を記録している。医療費増加の主な要因は、高齢化の進展と医療の高度化に加え、コロナ禍後の反動やインフルエンザなどの呼吸器系疾患が増加したことが背景にあるとされる。とくに、医療費の負担は高齢者層に集中し、65歳以上が国民医療費全体の60.1%を占め、75歳以上の後期高齢者の医療費は全体の39.8%にあたる19兆円超となった。人口の大きなボリュームゾーンである団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に到達し始めている影響が顕著となり、2025年度に向けてこの傾向は続くとみられる。財源は、保険料が24.1兆円、公費が18.3兆円、患者負担が5.6兆円で構成されているが、患者負担額が前年度から4.5%増と最も高い伸びを示した。また、1人当たりの国民医療費には依然として大きな地域格差が残っており、最高額の高知県(49.63万円)と最低額の埼玉県(34.25万円)との間で1.44倍の開きがある。医療費の高い地域ではベッド数が多い傾向が指摘され、地域医療構想に基づく病床の適正化が課題として改めて浮き彫りとなった。厚労省は、国民皆保険制度の維持・継承のため、社会経済環境の変化に応じた医療費の適正化と改革を積み重ねる重要性を訴えている。 参考 1) 令和5(2023)年度 国民医療費の概況(厚労省) 2) 国民医療費、3年連続最高 23年度3%増(日経新聞) 3) 2023年度の国民医療費、3.0%増の48兆915億円…3年連続の増加で過去最高を更新(読売新聞) 4) 2023年度の国民医療費は48兆915億円、1人当たり医療費に大きな地域格差あり最高の高知と最低の埼玉とで1.44倍の開き―厚労省(Gem Med) 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道全国の医療機関の経営環境が急速に悪化し、地域医療に直接影響を及ぼす段階に入っている。東京商工リサーチによると、2025年1~9月の病院・クリニックの倒産は27件と高水準で推移し、とくに病床20床以上の中堅病院の倒産が前年同期比1.5倍の9件に急増した。負債10億円以上の大型倒産も増加し、地域の基幹医療を担う施設が深刻な苦境に立たされている。この経営危機は、物価高、人件費上昇、設備投資負担といったコストアップ要因に加え、理事長・院長の高齢化、医師・看護師不足という構造的な課題が重なり発生している。また、自治体が運営する公立病院も約8割が赤字であり、医療業務のコストと診療報酬のバランスの崩壊が、医療機関全体を採算悪化に追い込んでいる。再編の動きは加速し、とくに北海道では江別谷藤病院(負債25億円)が、給与未払いの事態を経て、札幌の介護大手「ライフグループ」への経営譲渡が決定し、未払い給与が肩代わりされた。また、室蘭市では、日鋼記念病院を運営する法人が、経営難の市立病院との統合協議を棚上げし、国内最大級の徳洲会グループ入りを選択した。これは、公立病院の巨額赤字(年間約20億円)と人口減がネックとなり、民間主導での集約が進んでいるとみられる。こうした倒産・統合の波は、診療科の再配置、当直体制・人事制度の統一、電子カルテや検査体制の共有など、医師や医療者の勤務環境やキャリア設計に直接的な変化をもたらす。地域の医療提供体制を維持するため、再編の移行期における診療体制の維持と、地域住民・自治体との合意形成が、医療従事者にとって重要な課題となる。診療報酬の見直しやM&Aといった手段による医療機関の存続に向けた取り組みが急務となる。また、病院再編にあたっては、移行期の診療体制の維持や、患者の混乱を避けるため、地域住民への情報提供と、自治体との合意形成が鍵となる。 参考 1) 1-9月「病院・クリニック」倒産 20年間で2番目の27件 中堅の病院が1.5倍増、深刻な投資負担とコストアップ(東京商工リサーチ) 2) 負債額約25億円の江別谷藤病院 札幌の「ライフグループ」に経営譲渡(北海道テレビ) 3) 室蘭3病院、再編協議難航 市立病院の赤字ネックに…「日鋼」、徳洲会の傘下模索(読売新聞) 4) 赤字続きの兵庫県立3病院、入院病床130床休止へ…収支改善が不十分ならさらに減床も(同) 5) 突然の来訪、室蘭市に衝撃 日鋼記念病院の徳洲会入り検討、市立総合病院との統合に黄信号(北海道新聞) 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁全国で100以上のクリニックを展開する「麻生美容クリニック(ABC)グループ」が、大阪国税局など複数の国税局による大規模な税務調査を受け、2023年までの5年間で計約62億円の巨額な申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。追徴税額は、重加算税などを含め約12億円に上るとみられている。申告漏れの主な原因は、グループ内の基幹法人「IDEA」と傘下の6医療法人の間で、医療機器などの仕入れ価格を約47億円分過大に計上していたと判断されたためである。これにより、各医療法人の課税所得が不当に圧縮されていた。また、患者から受け取った前受金(手付金)約10億円の計上漏れも指摘された。さらに、基幹法人IDEAが得た収入のうち約3億円が、売上記録の偽装など悪質な仮装・隠蔽を伴う所得隠しと認定され、重加算税の対象となった。法人の資金を個人的な用途に流用したとして、グループ関係者にも約2億円の申告漏れが指摘されている。グループ側は報道機関の取材に対し、税務調査の事実を認め、「見解の相違もあったが、当局の指導により修正申告と納税は完了している」とコメントしている。背景には、SNSの普及などで美容医療の市場が急拡大する一方、新規開設費や広告費がかさみ、収益性の低い法人の倒産・休廃業が増えるなど、美容医療業界の過当競争が激化している現状がある。また、グループを率いる医師やその息子が、自家用ジェットや高級車などの豪華な私生活をSNSで積極的に公開していたことが、税務当局による異例の大規模調査のきっかけの1つになった可能性も指摘されている。 参考 1) 美容医療グループが62億円申告漏れ(朝日新聞) 2) 麻生美容クリニックグループ、60億円申告漏れ 大阪国税局など指摘(日経新聞) 3) 「19歳で3,000万円のフェラーリを乗り回し…」 62億円申告漏れの美容外科医と息子が自慢していた豪遊生活(週刊新潮)

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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2025年度医療安全管理者養成研修のご案内/医療安全学会

 日本医療安全学会(理事長:大磯 義一郎氏)は、2025年度の医療安全管理者養成研修アドバンスドコースを開催する。 この研修は、現場で「使える」医療安全の知識を体系的に修得することを目的とし、実践的な事例や演習を通じ、知識を「行動」へとつなげる応用力とリーダーシップを培い、現場の医療安全をリードできる人材としての成長を目指す。講師は、医療や法学、医療安全のエキスパートが担当する。 主催学会の大磯氏は、「医療安全管理者としての基本的な理解に加え、より高いレベルでの医療安全管理への理解と実践の機会を提供することを目的に、本アドバンスドコースを企画した。本コースが、日本医療安全学会の医療安全管理者養成研修修了者に限らず、医療安全や質改善に関心を持つ多くの方にとって、有意義な学びと交流の場となることを願っている。現場の課題解決に直結する「次の一歩」を共に考える場として、ぜひご参加していただきたい」とコメントしている。 コースの概要は以下のとおり。●対象者:医師・看護師・薬剤師・医療安全管理者・医療従事者全般 ーこんな方におすすめ! ・医療事故の再発防止策を学びたい方 ・インシデント・アクシデントのリスク管理を強化したい方 ・医療安全の最新ガイドラインを学びたい方 ・職場の安全文化を向上させたい方 ・医療安全に関わるすべての医療従事者 ※本コースは、医療安全や質の改善に興味がある医療者であれば、どなたでも受講できます。  本コースの受講のみでは厚生労働省が定める医療安全管理者の資格要件を満たしません。●開講日程: Day1 11月23日(日) 10:00~17:00 医療安全のDX最前線とそのリスクマネジメント Day2 12月14日(日) 10:00~17:00 実践編-現場力を高める技術と手法 Day3 12月21日(日) 10:00~17:00 組織文化とチームワークで支える医療安全●開催形式:Live配信(Zoom)●募集期間:各日程1週間前まで●募集定員:100名●参加費:1回のみ受講7,000円/2回受講14,000円/全3回セット受講18,000円 2024年度医療安全管理者養成研修参加者割引 1回のみ受講5,000円/2回受講10,000円/全3回セット受講12,000円 *本会はインボイス未登録となります。 *免税事業者となりますので消費税請求はありません。 *受講料は、お支払いの後、いかなる理由があっても返金できないのでご注意ください。●医療安全管理者養成研修アドバンスドコースの概要はこちら

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DANFLU-2試験:高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果(解説:小金丸博氏)

 DANFLU-2試験は、高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果を検証した大規模臨床試験である。デンマークの全国行政健康登録を用いた実践的・非盲検・無作為化比較試験で、2022~23年から3シーズンにかけて実施された。試験には65歳以上の高齢者33万2,438人(平均年齢73.7±5.8歳)が登録され、高用量ワクチン(1株当たり抗原60μg)接種群と標準用量ワクチン(1株当たり抗原15μg)接種群に割り付けられた。その結果、高用量群では主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を経験した人がより少なく、相対リスクは5.9%減少したが、統計的に有意ではなかった(p=0.14)。副次評価項目として、高用量群においてインフルエンザによる入院の減少(相対リスク減少率:43.6%)、心肺疾患による入院の減少(同:5.7%)、あらゆる原因による入院の減少(同:2.1%)を示した。 近年、高齢者に対するインフルエンザ予防として「高用量ワクチン」が注目されてきた。これまでの標準用量との比較試験で、抗体応答の向上のみならず、検査確定インフルエンザの発症および入院を一定程度抑える効果が報告されてきた。DANFLU-2試験では、標準用量と比較して主要評価項目に設定した「インフルエンザあるいは肺炎による入院」を有意に低下させなかった。これは従来の試験で示されてきた高用量ワクチンの有利性と一見矛盾する結果であったが、その理由として、主要評価項目の選択が影響した可能性が考えられる。本試験ではアウトカムに「肺炎入院」を含めた複合エンドポイントを採用したため、非インフルエンザ性の肺炎(誤嚥性や細菌性肺炎)が多数を占めれば、インフルエンザワクチンの効果が相対的に希釈され得る。加えて実地条件下では、季節間のウイルス活動変動、被験者の背景免疫(過去のワクチン接種歴など)が影響した可能性がある。 同時にスペインから報告されたGALFLU試験との統合解析では、インフルエンザまたは肺炎による入院、心肺疾患による入院、検査で確認されたインフルエンザによる入院、およびあらゆる原因による入院において有意な減少が示された。これらのデータはこれまでの報告と一致して、重篤な転帰に対する高用量ワクチンの臨床的有益性を標準用量ワクチンよりも支持している。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される人では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。

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がん治療の有害事象が減る!?高齢がん患者への機能評価【高齢者がん治療 虎の巻】第3回

<今回のPoint>高齢者総合機能評価(CGA)は、身体面・精神面・社会的要素などいくつかの構成要素から成り立つ高齢がん患者に対する機能評価は、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的CGA(GA)の実施には、多職種協働や診療科連携によるチーム医療が重要だが、最終評価者は医師または歯科医師が担う<症例>85歳・男性X年9月前医でS状結腸がんcStageIIaと診断し、腹腔鏡下S状結腸切除術施行X+1年4月前医で増大傾向にある肝腫瘤の指摘あり、大学病院消化器内科紹介受診X+1年5月生検の結果、肝内胆管がんstageIV(多発肝転移・多発リンパ節転移)の診断X+1年6月治療方針決定前の評価目的で同院老年科に紹介 評価で問題がなければ、治療開始(GCD療法[GEM+CDDP+デュルバルマブ])の予定。治療説明などの応答がしっかりせず、不安症状がみられる。CGA実施、診療報酬は50点日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えたことで、高齢のがん患者も増加し、高齢者診療や高齢者がん診療の重要性はより一層高まっています。その中でもとくに重要なことは、「高齢者の医療や生活を多面的に評価し、問題点を抽出し、適切な介入を行う」というプロセスです。このことを、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)と呼び、老年医学の根幹となっています。入院中の患者(65歳以上の全員と特定疾患を有する40歳以上の一部)に関しては、CGAを行うことで、診療報酬点数「総合機能評価加算」50点(入退院支援加算として退院時1回)の算定ができます。算定にあたっては、日常生活力などを評価する必要があり、各医療職種が評価できますが、最終評価者は医師または歯科医師が行わなければなりません。CGAの構成成分には主に、身体機能・精神心理状態・社会的背景などが挙げられ(表1)、それらを元に生活機能や医療の評価を行います。日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)は、人が生活を送るために必要な動作のことであり、身体的な要素を主とした評価として、CGAの代表的な評価ツールとなっています。(表1)高齢者総合機能評価の構成要素画像を拡大する移動・食事・排泄・更衣・整容など、生きていく上で最低限必要な基本的な日常動作のことを基本的ADLと呼びます。一方で、買い物・調理・洗濯・金銭管理など、社会で自立した生活を送るために必要な動作のことを手段的ADLと呼びます。当院での総合機能評価加算の書式では、いくつかの項目を多職種でチェックし、日常生活動作、認知機能、気分・心理状態それぞれに対して、最終判定を担当医が行います。がん診療では“治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的”ここまで、一般高齢者を対象としたCGAに関して述べましたが、がん患者に対する機能評価は、目的やアプローチがやや異なります。がん患者に対しては、「治療を実施するか否か」「どの治療法を選択するか」「治療に伴う有害事象がどの程度起こりうるか」といった診療方針決定に重要な情報が求められます。高齢者がん診療の領域においても、多面的な評価の重要性は広く示されてきました。しかし実際には、必要なケアを同定して介入につなげるというよりも、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測などに使われることが多く、CGAではなく、GA(Geriatric Assessment)と称されます1)。なお、日本老年腫瘍学会のホームページ内では、CGAとGAの違いについて表2のようにまとめられております2)。(表2)CGAとGAの違い画像を拡大するがん診療のガイドラインでは、ECOG-PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)という、日常生活の活動レベルを5段階で表した指標によって治療方針が定められることも多いですが、ECOG-PSが良好でも、併存症の存在、手段的ADLの低下、栄養状態や認知機能の低下などにより、がん治療に対しての脆弱性を有しているケースはとても多いです。実際にGAが治療方針に与える影響も大きく、あるシステマティックレビューによると、GAの実施により、がん治療方針が変更された割合は28%(中央値)で、その変更の多くは、より強度の弱い治療へ変更されていました3)。また、根治不能な70歳以上の固形がん患者に対して、GAを行って結果と推奨マネジメントを治療担当医に提供することで、重篤な有害事象を有意に減らせられたといった報告もあります(1年後の生存率は変わらず)4)。GAに含めるべき必須の重要ドメインとして、身体機能、認知機能、心理状態、併存疾患、栄養状態、多剤併用、社会的サポートなどが挙げられます5)。特徴として、がん治療を念頭に置いているため、「治療に耐えられるか」という観点から、とくに重要な要素として、栄養状態や併存疾患が入ります。また、近年、GAにおいて評価を行うだけではなく、CGAのように、結果に基づいたマネジメントを行うこと(GA-guided management:GAM)(第2回参照)が強く推奨されてきています。さらに、個別化した治療計画の立案、有害事象の予測、介入すべき問題を特定することに加え、意思決定支援のために、GAの結果を患者と家族に提供することも推奨されます。冒頭に示した症例では、GAを施行したところ、元々バイタリティにあふれた性格でしたが、家族の病気や家族との関係性、また自身への立て続けのがんの告知などにより、診察時には心身共にエネルギー切れの、うつ傾向の心理状態であることがわかりました。さらには、独居であり、スムーズに家族のサポートを得ることも難しい状態でもありました。これらの情報を元に腫瘍専門医と協働し、多職種との連携も通して意思決定のサポートを行い、化学療法に伴う副作用の説明も含めて、治療の準備を行いました。その結果、予定通りGCD療法が通常量で投与されました。1)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.2)日本老年腫瘍学会:CGAとGA3) Hamaker ME, et al. J Geriatric Oncol. 2018;9:430-440. 4)Mohile SG, et al. Lancet. 2021;398:1894-1904.5)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.講師紹介

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ADHDに対する神経刺激薬治療後の精神疾患発症リスク〜メタ解析

 注意欠如・多動症(ADHD)患者は、神経刺激薬による治療後に精神疾患や双極症を呈することがある。しかし、その発現の程度は不明であった。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのGonzalo Salazar de Pablo氏らは、ADHD患者における神経刺激薬治療後の精神疾患または双極症の発現を定量化し、その影響を調節する可能性のある因子を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年9月3日号の報告。 DSMまたはICDで定義されたADHD患者を対象に精神疾患または双極症のアウトカムを評価した、あらゆるデザインの研究を対象とした。2024年10月1日までに公表された対象研究を、PubMed、Web of Science、Ovid/PsycINFO、Cochrane Central Register of Reviewsより言語制限なしで検索した。PRISMAおよびMOOSEガイドラインに従い、プロトコールを登録し、ニューカッスル・オタワ尺度およびCochraneバイアスリスクツール2を用いて質評価を行った。ランダム効果メタ解析、サブグループ解析、メタ回帰分析を実施した。主要アウトカムは、精神症状、精神病性障害、双極症を発症した患者の割合とし、エフェクトサイズおよび95%信頼区間(CI)を算出した。アンフェタミンとメチルフェニデートの比較についても評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象は16研究(39万1,043例)で、平均年齢12.6歳(範囲:8.5〜31.1歳)、男性28万8,199例(73.7%)であった。・神経刺激薬を処方されたADHD患者のうち、精神症状、精神病性障害、双極症を発症した患者は、次のとおりであった。【精神症状】2.76%、95%CI:0.73〜9.88、10研究、23万7,035例【精神病性障害】2.29%、95%CI:1.52〜3.40、4研究、9万1,437例【双極症】3.72%、95%CI:0.77〜16.05、4研究、9万2,945例・研究間で有意な異質性が認められた(I2>95%)。・アンフェタミン治療患者では、メチルフェニデート治療患者よりも、精神疾患発症リスクが有意に高かった(オッズ比:1.57、95%CI:1.15〜2.16、3研究、23万1,325例)。・サブグループ解析では、北米の研究およびフォローアップ期間の長い研究において、精神症状の有病率が有意に高かったことが示唆された。・精神疾患発症率の上昇と関連していた因子は、女性の割合の高さ、サンプルサイズが小さいこと、高用量の神経刺激薬であった。 著者らは「本解析の結果、神経刺激薬治療を行ったADHD患者において、精神症状、精神病性障害、双極症の発症率は無視できないレベルであることが明らかとなった。アンフェタミン治療は、メチルフェニデート治療と比較して、精神疾患発症率が高いことが示された」とし、「対象とした研究では因果関係を立証できず、ランダム化臨床試験や神経刺激薬使用の有無により比較するミラーイメージ研究など、さらなる調査の必要性が浮き彫りになった。とはいえ、臨床医は神経刺激薬治療について患者と話し合う際に、精神疾患や双極症の発現率上昇について説明し、治療全体を通してこれらの症状をシステマティックにモニタリングする必要がある」とまとめている。

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定義変更や心肺合併症患者の分類に注意、肺高血圧症診療ガイドライン改訂/日本心臓病学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が2025年3月に改訂された。本ガイドラインが扱う静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の診断・治療は、肺循環障害という点だけではなく、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点で共通の課題をもつ。そのため、今回より「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合され、VTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起も、狙いの1つとなっている。 本稿では本ガイドライン第5~13章に記されているPHの改訂点について、本ガイドライン作成委員長を務めた田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)で講演した内容をお届けする(VTEの改訂点はこちらの記事を参照)。PHの定義が変わった 本ガイドラインは、PHにおける改訂目的の1つを「どの施設でも適切な診断・初期治療が行えること」とし、診断基準の変更と第7回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提案された概念を世界で初めてガイドラインに取り入れた点を改訂の目玉として作成された。田村氏は「これまで議論されてきた診断基準は、WSPHならびに日本の研究を踏まえ、PHの定義をRHC検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg(推奨クラスI、p.68)とした」と説明。しかし、治療の側面からはこの定義の解釈に注意が必要で、「肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とした臨床試験はmPAP≧25を対象に行われていることから、21~24mmHgではPH治療薬のエビデンスが乏しい状況にある。そして、PHの第4群に該当する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、慢性血栓塞栓性疾患(CTED)の概念でこの21~24mmHgというボーダーラインも治療されるケースがあるため、CTEPHとPAHでの解釈の違いにも注意してほしい」とコメントした。 次に「肺血管抵抗(PVR)を2.0以上」としたことも世界と足並みを揃えた点だが、この解釈についても「体格の小さい日本人は心拍出量が欧米人よりも少ないため、PVR 2.0をたまたま超えてしまうケースもある。ボーダーライン患者の場合、背景に病気の有無を確認することが重要」と、同氏は本指標の判断に対して注意喚起した。また、WSPHでも議論された「肺動脈楔入圧(PAWP)の引き下げについては、現状は変更せず15mmHgの基準を維持、13~15mmHgに該当する患者については心疾患合併を考慮してほしい」と説明した。臨床的分類、第3群に変化 臨床的分類はバルセロナ分類2024を引き継ぐかたちになっている。とくに注目すべきは、第3群において機能別(閉塞性、拘束性など)で表記されていたものが、ほかの群と同様に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴うPH」「間質性肺疾患(ILD)に伴うPH」のように疾患と紐付けることでそれぞれのエビデンスが変わる点を明確化した。このほか、第1群にCa拮抗薬長期反応例、第2群に特定心筋症(肥大型心筋症または心アミロイドーシス)が追加されたことにも留意したい。初期対応/鑑別アルゴリズムを明確に 日本において、PHの症状発現から診断までに費やされる平均期間は18.0ヵ月と報告されている(PAHは20.2ヵ月、CTEPHは12.2ヵ月)。加えて、就学・就業率は罹病期間が長期化するにつれて経時的に減少することが明らかになっている1)。このような現状において、プライマリ・ケアや地域中核病院、専門医が共に患者をフォローアップしていくためには、PHの初期対応アルゴリズム(図14、p.80)と鑑別アルゴリズム(図15、p.81)の活用が大きなポイントとなる。同氏は「初期対応アルゴリズムでは医療機関や専門医の役割を明確化した。心疾患や肺疾患の評価を行うなかで医師らが相互にコンサルトすることで、CTEPHを見逃さないだけではなく、第2群や第3群の要素の評価を目指す。PHセンターへ早期に紹介すべき患者像も明確化できるようにしている」とし、「鑑別アルゴリズムについては、急性血管反応試験を実施する対象を規定したほか、PAWP 13~15mmHgやHFpEFリスクを有する患者は純粋な1群と判断しかねるため、心肺疾患をもつPAHの特徴を明記し、2群などとの鑑別を念頭に置いてもらえるようなフローを作成した」と改訂の狙いを説明した。新規PH患者も高齢化、治療前の合併症評価を 典型的なPAH患者というと若年者女性を想像するが、近年では新規診断患者の高齢化がみられ、心肺疾患合併例が増加傾向にあるという。この心肺疾患合併の有無は治療選択時の重要なポイントとなることから、まずは心肺疾患合併PAHを示唆する特徴を捉え、単なるPHではなく第3群の要素も併せ持っているか否かを判断し(図17、p.90)、その後、治療アルゴリズム(図18、p.92)に基づいた治療介入を行う。 この流れについて、「心肺疾患合併がある場合に併用療法を行ってしまうと肺水腫のような合併症リスクを伴うため、それらを回避するための手立てとして、まずは単剤での開始を考慮してほしい。決して併用療法を否定するものではない」と説明した。またPAWPが高めのPAHの分類や治療時の注意点として、「PAWPが12~18mmHgの患者は境界域として解釈に注意すべきゾーンであるため、PAWPだけで分類評価をするのではなく、病歴や画像所見、負荷試験結果などを複合的に評価してほしい」ともコメントした。 さらに、診断時/フォローアップ時のリスク層別化については、国内レジストリデータに基づいたJCSリスク層別化指標(表30、p.83)が作成されており、これにのっとり薬物治療を進めていく。低リスク・中リスクの場合にはエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタンあるいはマシテンタン)+PDE5阻害薬タダラフィルの2剤併用療法を行い(推奨クラスI)、高リスクの場合は静注/皮下注投与によるプロスタグランジン製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)+エンドセリン受容体拮抗薬+PDE5阻害薬の3剤併用療法を行う(推奨クラスI、エビデンスレベルB)。薬物療法開始後の注意点としては「初回治療開始後は3~4ヵ月以内に評価」「薬剤変更・追加後は6ヵ月以内に再評価」「中リスク以上の場合はカテーテル検査実施」が明記された。 なお、ガイドライン発刊後の2025年8月にアクチビンシグナル阻害薬ソタテルセプトが日本でも発売され、第1群の治療強化という位置付けで本ガイドラインにおいても推奨されている(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。 このほか、CTEPHの治療について、心臓外科医らとの丁寧な協議を進めた結果、従来は手術適応の有無が最初に評価されていたが、本ガイドラインでは完全血行再建を目指すなかで肺動脈内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、あるいはハイブリッドという選択肢のなかで最適な方法を多職種チーム(MDT)で選択して治療を進めていくことが重視される。 最後に同氏は「ガイドラインの終盤には専門施設が満たすべき要素や患者指導に役立つ内容も記載しているので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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気管支拡張症への高張食塩水とカルボシステイン、肺増悪を改善せず/NEJM

 気管支拡張症の患者に対する高張食塩水およびカルボシステインはいずれも、52週間にわたる肺増悪の平均発生率を有意に低下させなかった。英国・Queen's University BelfastのJudy M. Bradley氏らCLEAR Investigator Teamが、同国20病院で行った非盲検無作為化2×2要因試験の結果で示された。粘液活性薬は作用機序によってさまざまであり、去痰薬(例:高張食塩水)、粘液調整薬(例:カルボシステイン)、粘液溶解薬(例:N-アセチルシステイン)、粘膜潤滑薬(例:サーファクタント)などがある。気管支拡張症ガイドラインでは、粘液活性薬の有効性に関して一貫性がなく、その使用は地域によって異なり、安全性と有効性を評価するための大規模な試験が必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年9月28日号掲載の報告。高張食塩水群vs.非高張食塩水群、カルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で比較 試験には、非嚢胞性線維症気管支拡張症で頻回の肺疾患増悪(過去1年間に2回以上[COVID-19パンデミック以降は1回以上])と日常的な喀痰産生を有する18歳以上の成人患者を登録した。無作為化時点で喫煙者および無作為化前30日間に粘液活性薬による治療を受けた患者は除外した。 すべての被験者は標準治療を受け、さらに(1)高張食塩水群、(2)併用群(高張食塩水とカルボシステイン)、(3)カルボシステイン群の3つの粘液活性薬群のいずれか、もしくは標準治療のみを受ける群へ均等に無作為化された。 比較は、高張食塩水群vs.非高張食塩水群、およびカルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で行った。 主要アウトカムは、52週間における肺増悪回数。重要な副次アウトカムは、疾患特異的な健康関連QOL評価スコア(QoL-Bなど)、次の増悪までの期間および安全性であった。肺増悪の平均回数、使用群に有意な効果は認められず 2018年6月27日~2023年9月28日に、合計288例が無作為化された。ベースラインの各群の被験者特性は類似していた。高張食塩水とカルボシステインの交互作用のエビデンスは認められなかった(p=0.60)。 52週間における確定肺増悪の平均回数は、高張食塩水群0.76回(95%信頼区間[CI]:0.58~0.95)vs.非高張食塩水群0.98回(0.78~1.19)であり(補正後平均群間差:-0.25、95%CI:-0.57~0.07、p=0.12)、カルボシステイン群0.86回(95%CI:0.66~1.06)vs.非カルボシステイン群0.90回(0.70~1.09)であった(補正後平均群間差:-0.04、95%CI:-0.36~0.28、p=0.81)。 副次アウトカムおよび有害事象(重篤な有害事象を含む)は、比較グループ間で類似していた。

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小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)【すぐに使える小児診療のヒント】第7回

小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)は、2000年ごろから急速に認知が広がった比較的新しい疾患概念であり、新生児・乳幼児を中心に増加しています。嘔吐や下痢を主訴に受診する乳児では、感染症や外科的疾患に加えて、食物蛋白誘発胃腸症を鑑別に挙げることが重要です。今回は、代表的な新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の一型である食物蛋白誘発胃腸炎(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome:FPIES[エフパイス])を中心に解説します。症例2ヵ月、男児。授乳2時間後に大量に嘔吐を繰り返したため救急外来を受診。普段は完全母乳栄養だが、本日は祖母に預けるため普段は使わない人工乳を使用したとのこと。受診時には活気良好で、腹部所見なし。食物蛋白誘発胃腸症の特徴と分類一般的に食物アレルギーというと、蕁麻疹や呼吸症状を伴う即時型(IgE依存型)アレルギーを想起するでしょう。しかし、食物蛋白誘発胃腸症はIgEが関与せず、主に消化管粘膜で炎症反応が起こる非即時型(非IgE依存型)アレルギーです。食物摂取後、数時間~数日かけて症状が出現し、皮膚症状や呼吸器症状を伴わないことが大きな特徴です。新生児・乳児の消化管アレルギーはわが国独自の疾患概念として扱われていましたが、小児の消化器分野や国際的な概念を鑑みて「食物蛋白誘発胃腸症」として再定義されました。食物蛋白誘発胃腸症は経過や症状から下記のようにいくつかのサブグループに分けられます。画像を拡大する最も代表的なものはFPIESです。日本での有病率は約1.4%と報告されており、決してまれな疾患ではありません。FPIESは経過により急性型と慢性型に分けられます。急性型は原因食物摂取後1~6時間に反復する強い嘔吐が出現し、顔色不良やぐったりするなど全身状態の悪化を伴うこともあります。重症例では、輸液やステロイド投与による全身管理が必要になることがあります。なお、急性期の対応として即時型アレルギーのようにエピネフリン筋注を行っても効果は期待できません。一般的には摂取を中止すると数時間で速やかに改善し、経過は短いのが特徴です。一方、慢性型は原因食物の摂取を続けることで数日~数週かけて嘔吐や下痢、体重増加不良が現れ、除去後も改善までに時間を要します。画像を拡大する実際には症状が重なり合っているためサブグループに分けられないことがしばしばあり、そのために診断や治療に支障を来す場合も見受けられます。日本ではNomuraらによる「嘔吐と血便の有無」で4群に分けるクラスター分類が提唱され、臨床的な整理に有用です。原因となる食物原因となる食物は国や地域によって異なりますが、国際的には乳、魚、鶏卵、穀物、大豆の順になっています。日本の13施設による多施設共同研究(成育医療センター・筑波大学ほか)では、食後1~4時間以内に遅延性の嘔吐を呈した小児225例を対象に解析を行った結果、FPIESの原因食物は鶏卵が最も多く(58.0%)、続いて大豆・小麦(各11.1%)、魚(6.6%)、牛乳(6.2%)でした。鶏卵では94%が卵黄によるものでした。牛乳が原因で発症した児の月例の中央値は1ヵ月と最も早い結果でした。原因食物の違いは各国の離乳食事情によるようで、初期に摂取するものが原因になりやすいと考えられています。診断と治療の基本FPIESには、下記のような診断基準が設けられています。臨床的には、(1)被疑食物を除去して症状が改善すること(食物除去試験)、(2)再度摂取することで症状の再現性があること(食物負荷試験)、(3)他の疾患に当てはまらないこと、を確認します。とくに、小児領域では腹部症状や体重増加不良を来す疾患が多数あるため、他疾患がないか十分に確認することが重要です。FPIESを含む食物蛋白誘発胃腸症は非IgE依存性であるため、一般的なIgE依存性の食物アレルギーで行うような血液検査やプリックテストでは診断できません。末梢血好酸球数、アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(ALST)、便粘液好酸球検査、消化管内視鏡検査などを補助的に行うこともありますが、いずれも条件が限定されており、その所見のみで確定診断できるほど有用な検査ではありません。画像を拡大する治療の基本は原因物質の除去です。人工乳(乳)が原因の場合には、代わりに加水分解乳やアミノ酸乳といった栄養剤を使用します。食物除去によって栄養素が不足しないよう、病院の管理栄養士と相談しながら、適宜栄養素の内服や補助食品などを併用します。一般的にFPIESの予後は良好と考えられています。寛解率や時期は原因食物によって異なりますが、幼児期のうちに治ることが多いと報告されており、除去している原因食物が食べられるようになったかどうか、定期的な食物負荷試験で確認します。冒頭の症例では、追加の問診で「半月ほど前にも一度祖母に預けた際に人工乳を使用して2~3時間後に大量に嘔吐した」との情報があり、症状の再現性が確認されました。人工乳の使用を一旦中止し、これまで母乳では症状が出ていなかったため母乳での対応を継続しました。母が不在で母乳の供給が困難な場合には、アレルギー用ミルクである加水分解乳(ニューMA1など)を選択しました。その後、症状の反復がないこと、体重増加が良好であることなどを確認し、症状寛解後数ヵ月を経て経口負荷試験を行いました。離乳食の進み具合に合わせて、他の食材に関しても相談しながら通院中です。保護者への対応の工夫発症予防として、妊娠中の食物制限や離乳食の開始時期を遅らせることは、医学的根拠に乏しく推奨されません。また、「なんとなく怖いから卵はまだ与えていない」といった安易な食物摂取制限も避けるべきです。過度な制限は成長や発達に影響を及ぼすこともあるため、そのリスクを共有し、バランスのとれた摂取を勧めましょう。食物蛋白誘発胃腸症に限らず、食物アレルギーは子供の成長・発達や将来にも関わるため、保護者の心理的負担は非常に大きいものです。長期的な予後や今後の方針を丁寧に共有することで、不安の軽減につながります。FPIESは多くの場合、1~3歳ごろまでに自然寛解することが知られています。日本の報告では、卵黄、乳、小麦、大豆などの原因食品を対象とした場合、発症から12ヵ月後には約半数の児が寛解し、24ヵ月後にはおよそ8~9割が耐性を獲得していました。とくに乳製品が原因の場合、耐性を獲得する月齢の中央値は約17ヵ月と報告されています。冒頭の症例のように乳が原因の場合、乳児の栄養源の中心であるため成長に直結する大きな課題となります。保護者の不安に寄り添いながら、現実的な栄養管理の方法を一緒に模索していくことが重要です。次回は、絶対に見逃してはならない疾患の1つ、「精巣捻転」について取り上げます。夜風が涼しくなり、ようやく過ごしやすい季節になってきました。季節の変わり目、どうぞお身体にお気をつけてお過ごしください。ひとことメモ:よくあるQ&A妊娠中に特定の食物を控えれば、子供のアレルギー発症を抑えられるって本当?発症予防を目的とした母の妊娠・授乳中の抗原食物の制限、除去は推奨されない。完全母乳栄養であれば、赤ちゃんのアレルギー発症を予防できるって本当?母乳中には食物由来ペプチド、サイトカインが含まれており、児が食物に対して寛容を誘導するのに適している。ただし、母乳が原因で食物蛋白誘発胃腸症を発症することもある。他のアレルギーの可能性は?他の即時型アレルギーとは別の疾患概念であるため、必ずしも他の食物アレルギーを発症する可能性が高いとは限らない。離乳食の開始を遅らせると、アレルギー発症を防げるって本当?離乳食を遅らせることは予防・治療には繋がらず、むしろ成長を妨げることもあるため、安易に遅らせるべきではない。参考資料1)食物アレルギー診療ガイドライン20212)Nomura I, et al. J Allergy Clin Immunol. 2011;127:685-688.3)国立成育医療研究センターホームページ4)好酸球性消化管疾患(新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎)(指定難病98)/難病情報センター5)早野 聡ほか. 浜松医科大学小児科学雑誌. 2025;5:12-18.

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第285回 訪問看護と有料老人ホームに規制強化の動き、現場からは「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられるのか」との厳しい声も

ホスピス型住宅の「実態ない診療報酬請求」事件に関連して厚生労働省などで規制の動きこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、百名山ハンターをしている山仲間に付き合って、紀伊半島の大峰山(八経ヶ岳)と大台ケ原(日出ヶ岳)を登ってきました。東京から京都経由で橿原神宮に入り、レンタカーでぐるりと回って3日間で2峰を落とす(しかも雨の中)という強行軍です。というわけで高市 早苗・自民党新総裁の故郷、奈良県の山間の細い国道、県道を250キロ近く走って実感したのですが、奈良を含め紀伊半島はとても山深くかつ神秘的ですね。中でも大峰山(熊野古道の一部も走っています)は修験道の山としても知られており、山上ヶ岳は今でも宗教的理由から女人禁制が守られており、女人結界門から先は女性の入山が認められていません。日本ではもうほとんどないと言われる女人規制の山が存在する県から、日本初の女性総理が誕生するかもしれないとは……。昨今の政治状況を鑑みるになかなかに意味深なことであるなあと思いながら奈良を後にしました。さて今回は、「第280回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、『医心館』で発覚した『実態ない診療報酬請求』、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(前編)」、「第281回 同(後編)」で書いた、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件に関連して、厚生労働省などで興味深い動きがありましたので、それについて書いてみたいと思います。報告書は“グレー”と言っているのに“我々はシロだった”と強引に解釈アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。この報告書を受けてアンビスホールディングスは「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」などと、意図的な不正請求はなかった点を強調するコメントを出しました。報告書は”グレー”と言っているのに”我々はシロだった”と強引に解釈しているようで違和感を覚えたのですが、厚労省もやはり同様の違和感を抱いたようです。2026年改定では、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り頻繁な提供を認める方針厚労省は10月1日、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で、有料老人ホームなどで訪問看護を過剰に提供する事業者への規制を強化する方針を明らかにしました。ホスピス型有料老人ホームの入居者らを対象に、一部の事業者による不正な診療報酬請求の横行が疑われることを踏まえたものです。「不正」とは具体的には、必要ないのに「1日3回」の頻繁な訪問や、複数人での訪問、報酬加算が得られる早朝・夜間や深夜の実施などです。2026年度の診療報酬改定で、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認めることになりそうです。報酬自体も引き下げられるかもしれません。ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることなどを禁止に続く10月3日、厚労省は「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、これまでの議論の課題と論点を整理した取りまとめの素案を提示しました。同検討会は住宅型有料老人ホームなどでの過剰な介護サービスの提供、いわゆる「囲い込み」や、高齢者住まいの入居者紹介事業者への高額な紹介手数料の問題などを議論してきました。素案では、入居契約とケアマネジメント契約が独立していること、契約締結やケアプラン作成の順番といったプロセスにかかる手順書やガイドラインをまとめておき入居希望者に対して明示すること、契約締結が手順書やガイドライン通りに行われているかどうかなどを行政が事後チェックできる仕組みを作ることなどが挙げられています。また入居契約において、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることや、そうした外付けサービスを利用する場合に家賃優遇といった条件付けを行うことや、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を利用者に強要することを禁止する措置を設ける方針も挙げられました。さらに、中重度の要介護者や医療ケアを要する要介護者などを⼊居対象とする有料⽼⼈ホームについては、現⾏の届け出制から登録制に切り替える案も提示されました。アンビスが運営しているホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。この素案が仮にそのまま制度化されるとなると、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を強制できなくなるわけで、現実にそんなことが可能かどうかは別として、経営的には少なからぬダメージとなるでしょう。医療法人理事長と訪問看護会社の社長がホスピス型住宅の適正化を要望このように、悪質な有料老人ホームへの締め付けは一見強まっているように見えますが、まだまだ「甘い」と指摘する人もいます。10月3日付のメディファクスは、ホスピス型住宅で不正・過剰請求や居者の不利益が生じていることに関連して、医療法人社団悠翔会の佐々木 淳理事長と、訪問看護の会社Graceの西村 直之代表取締役が厚労省を訪問、鰐淵 洋子厚労副大臣らに要望書を提出、適正化を訴えたと報じています。同記事によれば、「要望書では、ホスピス型住宅を運営する企業で、不正請求が明らかになった事例を指摘。不正が発覚した企業への監査が必要だとした。さらに、他の企業でも不正・過剰請求が起きているのではないか、と懸念を示している」としています。対応した鰐淵副大臣も問題意識を示したとのことです。悠翔会の佐々木氏は首都圏を中心に多数の在宅医療のクリニックを経営するとともに、内閣府の規制改革推進会議専門委員(健康・医療・介護)も務める論客です。その佐々木氏は自身のXにこの厚労省訪問についてポスト、中医協が検討する「主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認める」案では甘く「このままだと例によって本丸は無傷、まじめな事業所のとばっちりで終わるパターンだと思います」と書いています。さらに佐々木氏は「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられると思っているのでしょうか。すでに私たちは一部のホスピス型住宅運営者から『1日3回の訪問看護が必要と指示書に記載せよ』と具体的なリクエストを受けています。もちろん週に数回の訪問で十分な安定した患者にそんな指示を書けるわけがありません。しかし、この要求を拒絶すれば、主治医としての関わりが終わるだけ。結局、言われるがままに指示書を書いてくれる医者を囲い込み、ますますブラックボックス化するのでしょう」と中医協案への懸念を示しています。「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいい」そして佐々木氏は「事実上の施設看護を在宅・訪問看護として取り扱うことの弊害」を指摘、「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいいのではないでしょうか。無駄な看護を押し売りする必要はなくなるし、無駄な社会保障費の支出も大幅に圧縮できるはずです」と大胆な改革案を提案しています。まったくの正論と言えるでしょう。住宅型とは名ばかりで、併設するステーションから自前のスタッフに頻回に訪問させているのでは、介護付き有料老人ホーム、すなわち特定施設と何ら変わりはありません。介護付き有料老人ホームとは異なる特定施設の新類型をつくり、報酬もマルメて(包括化して)しまえば、そうそうアコギなことはできなくなるのではないでしょうか。しかしながら、残念なことに来年は介護報酬改定がありません。再来年の改定に向けて、有料老人ホームの類型や特定施設の制度の抜本的見直しが進むことを期待したいと思います。

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国内WATCHMANの左心耳閉鎖術の現状(J-LAAO)/日本心臓病学会

 2019年9月より経皮的左心耳閉鎖デバイスWATCHMANが保険適用となり、それと同時に本邦の患者を対象としたJ-LAAOレジストリがスタートした。それから6年が経ち、これまでに7,690例が登録されてきた。その間にデバイスも進化を遂げ、今では3代目となるWATCHMAN FLX Proが主流となり、初期と比べより安全に左心耳閉鎖が実施できるようになってきている。第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)のシンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」では、草野 研吾氏(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部長)が「我が国の左心耳閉鎖術の現状-J-LAAOレジストリからの報告-」と題し、2025年3月までに登録された日本人におけるWATCHMAN最新モデルを含めた安全性・有効性を報告した。 J-LAAOレジストリは、全7学会(日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脳卒中学会、日本不整脈心電学会)共同の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした経皮的左心耳閉鎖システムによる塞栓予防の有効性・安全性を調査した多施設レジストリ研究である。今回、脳梗塞スコア(CHADS2またはCHA2DS2-VASc)に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高い患者、抗凝固療法が推奨される患者で、とくに出血リスクスコア(HAS-BLED)が3点以上の出血リスクが高い患者を選択基準とし、本レジストリ登録者のうち7,036例の急性期の手技情報、有害事象、術後の抗凝固療法などが解析された。留置後の薬物療法としては、海外試験のレジメンにならい、留置~45日はワルファリン+アスピリン、45日~6ヵ月は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、その後はアスピリン単剤療法を推奨している。 主な結果は以下のとおり。 ※いずれの結果も各デバイスでフォローアップ期間が異なる点には注意・平均年齢は78.0歳(FLX Pro群:79.0歳)であった。・各スコアの中央値は、CHADS2が3点、CHA2DS2-VAScが5点、HAS-BLEDが3点であった。・アブレーション治療歴は約1/3にみられ、心房細動の種類としては発作性が2,780例(39.5%)、持続性が4,252例(60.4%)であった。・モヤモヤエコー(smoke like echo)は1,971例(28.0%)にみられた。・最終留置デバイスモデルは約11.3%で40mm、全体の2/3で31mmを超えるデバイスが選択されていた。・手術情報について、手術成功例は97.9%、手術時間は平均52.0分(G2.5:60.0分、FLX:51.0分、FLX Pro:47.0分)で、透視時間も短縮傾向、造影剤投与量も減少傾向であった。・心嚢液リスクはデバイスの形状変化に伴い減少し、G2.5は23例(3.1%)、FLXは40例(0.9%)、FLX Proは9例(0.6%)で認められた。・術45日後の左心耳有効閉鎖率(complete sealもしくは残留血流の最大幅が5mm以下の症例)はG2.5で99.7%、FLXで98.3%、FLX Proで98.3%に認められた。・術45日後の残留血液はG2.5で27%、FLXで13%、FLX Proで9.4%に認められた。・有害事象について、術直後のデバイスごとの心タンポナーデと心嚢液貯留の発生率(G2.5、FLX、FLX Proの順)は、心タンポナーデで0.7%vs.0.2vs.0.1%、心嚢液貯留で1.7%vs.1.0%vs.1.1%であった。・このほかの有害事象は、以下のような結果であった。◯デバイス血栓3.2%(G2.5:36例[4.8%]、FLX:170例[3.7%]、FLX Pro:19例[1.3%])◯うっ血性心不全4.5%(73例[9.7%]、226例[4.9%]、21例[1.4%])◯脳卒中2.5%(36例[4.8%]、131例[2.8%]、11例[0.7%])・死亡者数は全体で415例(5.8%)、G2.5では92例(12.2%)、FLXでは298例(6.5%)、FLX Proでは25例(1.7%)であった。・デバイス移動は全11例(0.16%)、機器の外科的摘出は全9例(0.13%)、経皮的デバイス抜去は全3例(0.04%)であった。 本結果について草野氏は「患者背景をみると、日本人は米国人と比べて発作性心房細動症例の割合が少なく、左心耳入口部が比較的大きい。その点が選択デバイスの大きさに反映されていた。残留血液量も減少傾向にあり、心タンポナーデの発生率の少なさからも安全に手技が行われていたことがうかがえる」とコメントした。外科的摘出の原因として、デバイス血栓・脱落、左房血栓などがみられた点については、「1年以上経過後に発生していることに留意が必要」とし、加えて「FLXでは手術当日にデバイス血栓を生じている症例が複数例あった。一方で、留置後2年後にも生じているケースも散見される。デバイス血栓を発症した患者はシリアスな病態には至っていないものの、これらの結果を踏まえて継続的なフォローアップを行ってほしい」と強調した。なお、いずれの結果を見るうえで、FLX Proは発売からフォローアップまでの期間が短いことには注意が必要である。国内ガイドラインでの推奨は… 日本での左心耳閉鎖術に関する推奨は、『2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈非薬物治療』1)において、「NVAFに対する血栓塞栓症の予防が必要とされ、かつ長期的な抗凝固療法の代替が検討される症例に左心耳閉鎖術を考慮してもよい(推奨クラスIIB、エビデンスレベルB)」となっていた。しかし、2024年にフォーカスアップデート版として公開された『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療』では、症例数の乏しさから左心耳閉鎖術に関する項目に変更は示されず“長期的な抗凝固療法が必要ではあるが、出血リスクが高く抗凝固療法が適切ではない患者においては、左心耳閉鎖デバイスを用いた経皮的左心耳閉鎖術や胸腔鏡下左心耳閉鎖術を症例に応じて考慮してもよい”(p.59)にとどまっている。これについて草野氏は「J-LAAOを経年的に見ても、植込み対象での出血2次予防の割合が減少し、塞栓予防目的の植込みが増加している。今後は海外ガイドラインに準じて、脳梗塞高リスク例への広がりが期待される」と述べた。 最後に国内の状況について、同氏は「米国と日本では左心耳閉鎖術の実施件数に10倍もの差があり、欧米に比べると国内での実施件数は少ない。またレジストリでは、少数ながら脱落が外科手術に至った例があり、安全を心がけた植込み術も重要である」と締めくくった。

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第264回 「2040年を見据えた地域医療構想」医師はどう乗り越えるか?

地域医療構想が実現した日本の医療の姿厚生労働省が地域医療構想に着手して10年が経過しました。当時、厚労省は2025年の医療需要を踏まえた全国の二次医療圏ごとに必要病床数を定め、各都道府県に対して、病床機能報告をもとに4つの病床機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)で必要病床数119.1万床が、2023年度で119.2万床となったため、行政サイドはほぼ目標を達成したとしています(日本医師会雑誌2025年7月号)が、コロナ禍が収束した現在、多くの急性期病院の課題は、稼働率が以前のレベルまで回復せず、大学病院や公立病院を含めて大幅に赤字となっており経営危機が叫ばれています。すでに地域によっては医師や看護師不足のフェーズから、外来患者数の減少や入院患者の減少が予想より早く訪れており、大都市を除くと医師や看護師不足のフェーズから人口減少のため「患者不足時代」に突入したことが明らかになっています。これから迎える高齢患者増加の未来に、地域の医療機関は対応していく必要性があることは間違いありません。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2040年に向けた新たな地域医療構想とは厚労省の令和7年版厚生労働白書によれば、2040年の日本の人口は、生産年齢人口(15~64歳)を中心に1,000万人減少する一方、85歳以上を中心に高齢者数は2040年まで増加し続け、高齢化率が35%を超えると見込まれています。少子化の加速で、労働人口が減少するため、医療・介護ニーズは増えてもそれを支える人材が不足する社会に変化することが明らかになっています。とくに85歳以上の高齢者は医療・介護の複合ニーズを有するため、85歳以上人口の増加によって85歳以上の高齢者の救急搬送は、2020年と比較して、75%増加し、85歳以上の在宅医療の需要は62%も増加することが見込まれています。(注:新たな地域医療構想に関するとりまとめ)このため高齢化によって手術などの急性期医療のニーズが減少すると、慢性期や在宅医療へ医療需要が変化するため、現状の医療提供体制のままでは持続不可能となってしまいます。画像を拡大する平成4(1992)年の段階(第8次医療計画及び地域医療構想に関する状況)で、すでに全国の外来患者数は2025年にピークを迎えることが予想され、今後は外来患者のうち65歳以上が占める割合はさらに上昇し、2040年には約6割となることが見込まれています。そして、すでに2020年までに214の医療圏では外来患者数のピークを迎えていると見込まれている一方、在宅医療の需要のピークは2040年以降と推測されています。このため厚労省では、今年の7月24日から「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を立ち上げています。その第1回の資料(地域医療構想及び医療計画等に関する検討会)によれば、救急医療、小児科、周産期など提供体制について討議。次の第9次医療計画に反映されるよう、地域医療構想の策定状況や医療計画などの課題を国と県で共有することを目的として、検討を開始しています。厚労省は2029年度までの「第8次医療計画」や、「新たな地域医療構想ガイドライン」で、「治す医療」から「治し支える医療」への構造転換を明確に打ち出しています。また、厚労省は各都道府県に命じて、二次医療圏ごとに医療計画の立案を行うと同時に、地域医療構想で、急性期・回復期・慢性期・在宅の病床機能を明確化し、将来、必要とされる病床数を推計して、地域で完結できる体制を整えることを求めています。つまり地域社会の人口構成が変化することに応じて、病院もクリニックも、変わるべきタイミングが訪れてきていることがわかります。今後の人口減少によって、人口30万人を下回る二次医療圏では急性期拠点の集約化を進め、少なくとも1ヵ所の「急性期拠点病院」を確保することが指針とされています。これによって、2040年までに中小病院の統廃合・機能転換が加速し、勤務医の配置・専門医研修にも直接的な影響が及んできます。具体的にどういった動きが医師のキャリアや働き方に影響が出るかみていきましょう。地域医療構想の進捗における課題1)急性期医療の集約化と地域偏在中央社会保険医療協議会(中医協)の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」によれば、急性期病棟で最上位の急性期一般入院料1を届け出る病院は近年減少傾向にあり、とくに人口20万人未満の二次医療圏では、急性期充実体制加算を持つ病院が存在しない地域が約8割に上っています。このため、救急医療・手術・産科・小児などの医療人材が不足している地域では、1~2の中核病院への集約が不可避となってきます。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するすなわち地域の拠点病院に重症患者や医師を集めて、高度医療の中核的な病院を作って、周辺の病院には、(従来は回復期リハビリテーション病棟や地域包括医療・ケア病棟が新たに呼称変換されます)「包括期病棟」を備え、回復期の患者や軽症の救急患者の対応や、医療・介護連携の強化に動くことが求められます(新地域医療構想、「急性期拠点病院の集約化」「回復期病棟からsub acuteにも対応する包括期病棟への改組」など行う-新地域医療構想検討会[Gem Med])。このような病院の再編は、医療資源の効率化を狙う一方で、勤務医にとっては地域医療を守るために、マルチモビディティ(多疾患併存)の高齢患者のために総合的・全人的にアプローチしていく「総合的な診療能力」を持つ医師の働き方が求められるようになります。2)小児・周産期医療の地域完結は困難集約化で問題になるのは「小児・周産期医療」です。少子化により出生数は2024年時点で68万人台にまで落ち込み、分娩を扱う医療機関数も20年間で半減しています。すでに地域によっては分娩取扱施設が10ヵ所未満となり、二次医療圏外への妊産婦の救急搬送が発生している自治体も出てきているはずです。このため、産婦人科・小児科医の偏在と負担集中が顕著化し、都市部の周産期センターでは24時間体制維持が困難となっています。地域の医療提供体制の再編の過程で、産科・小児科の閉鎖や統合が進む地域では、勤務医の確保策と合わせて、医師の労働環境だけでなく、キャリア支援・女性医師復帰支援が課題となってくると思われ、その対応が急がれると思います。本年10月から厚労省は「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」を立ち上げており、今後の議論の推移を見守る必要があると感じています。3)都道府県での医師の偏在対策厚労省は2020年度以降、全国の二次医療圏・三次医療圏ごとに、医師の偏在の状況を全国ベースで客観的に示すために、「医師偏在指標」を算出し、上位3分の1を医師多数区域、下位3分の1を医師少数区域として区分しています。このデータをもとに、都道府県に対して医師の確保の方針を踏まえ、目標医師数を達成するための具体的な施策「医師確保計画」を策定し、3年ごとにPDCAを回す仕組みが導入されています。この「医師確保計画」では、短期的には大学医局からの医師派遣調整、中長期的には地域枠・地元出身枠の増加により地域定着を図る方針が明記されています。しかし、「医師少数区域への医師派遣」は大学医局に依存しており、大学側の派遣余力の限界もあり、地域の高度急性期病院にも医師派遣機能を求めるなど対策が強化される見込みです。画像を拡大する4)養成段階での地域偏在是正大学側も医師の偏在対策のため、医学部の「地域枠」や「地元枠」の拡大や奨学金貸与により医師育成数の増加も相まって、若手医師の地方病院での研修医が増えるなど、改善の傾向がみられるものの、若手医師にとっては勤務地域・診療科の拘束が強まり、キャリア選択の自由度が減少しています。また、専門研修として、日本専門医機構によって、専攻医シーリング(診療科・都道府県別上限)が設けられたことで、女性に人気のマイナー診療科では入局待機など都市部での定員が厳格化されたことで、選択肢が少なくなってしまう可能性があります。しかし、これらの方策によって、地域での若手医師の定着率は一定の改善がみられますが、診療科での医師偏在(産科・小児・救急・外科医不足)は依然として深刻なため、若手医師のキャリア志向やQOL重視のライフスタイルとの乖離が広がっているという見方もあり、これについてはさらに見直されると思います。地域医療再編と医師への影響1)医療再編の「担い手リスク」地域医療構想に基づく病床再編は、病院間連携や統廃合を前提としていますが、その過程で医師の異動や配置転換が行われる見込みです。とくに人口20万未満の医療圏では、救急・外科系医師の不足が慢性化し、医師によっては複数施設を兼務する勤務形態が制度的に定着する可能性もあり、医師の働き方改革(時間外960時間上限)との両立が困難となり、結果的に地域医療を支える医師の離職リスクを伴っていますが、地方で医師が充実するには時間がかかるため、大学など派遣側からの協力で耐えるしかないと考えます。画像を拡大する2)医療機関の機能転換とキャリア再構築回復期リハビリテーションや在宅医療への転換が進む中で、急性期医療中心で育成された医師が、慢性期病棟や「包括期病棟」を備えた病院に配置転換されるケースが増加していくとみられます。こうした医師に対し、自治体や医学部が「キャリア形成プログラム」を策定し、医師不足地域勤務と能力開発の両立を支援する仕組みを整えていますが、まだ実際の運用は都道府県による地域差が大きく、実質的には「大学医局による医師派遣の延長線」に留まることも多いなど、さらに再考の余地はあると思われます。今後の重点課題と展望大学と自治体の連携による医師供給調整の実効性では、大学の医局依存から脱却し、地域医療支援センターを中心とした医師配置調整を強化する必要があります。とくに女性医師や家庭のある医師の地域勤務継続支援が鍵となるとみられます。1)医師のキャリアパスの一体化「医師養成-専門研修-配置」の全段階を通じ、地域医療経験を評価するキャリアモデルを確立しなければ、地域勤務は恒常的な人材流出に陥ります。2)医療機関再編と診療科維持の両立急性期集約化の中で、産科・小児・外科を維持できる体制を構築するには、複数の圏域連携型の周産期・小児医療ネットワーク化が必要になると思いますが、まだ地域によっては再編が進まず自治体ごとに周産期医療を開設しようとする動きもあり、地方への働きかけも必要と考えます。3)医師労働環境改革との整合医療再編と同時に、長時間労働の是正と夜間救急体制維持という難題をどう解決するかが最大の焦点となります。結論-将来の地域医療構想は広く医療環境を再編すべき2040年に向けた地域医療構想は、単なる病床数調整ではなく、医師の再配置・育成・労働環境改革を包括する「医療人材の再編」の一環と考えるべきです。人口が減少した地域では医療機関の統廃合は避けられず、医師の勤務場所・診療領域・働き方に直接的な影響を与えると思います。したがって、今後の医療提供体制改革の成否は、医師偏在対策の実効性と、再編後も医師が持続的に働ける場所やキャリア設計にも重要な転換点に差しかかっていると考えます。地域医療構想の最終的な目的は「均質な医療提供」ではなく、限られた医師資源を最適に循環させ、地域の生活インフラである地域医療を絶やさない仕組みの再構築にあると考え、われわれ医師もその流れに乗っていく必要があると感じています。参考 1) 地域医療構想と地域包括ケア-2025と2040(日医雑誌) 2) 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会【第1回】(厚生労働省) 3) 新たな地域医療構想に関するとりまとめ(同) 4) 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(同) 5) 医師確保計画を通じた医師偏在対策について(同) 6) 医師偏在対策について(同) 7) 第1回小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(同) 8) 新地域医療構想、「急性期拠点病院の集約化」「回復期病棟からsub acuteにも対応する包括期病棟への改組」など行う-新地域医療構想検討会(Gem Med)

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リンパ浮腫のコメントへのお返事と知識のアップデート【非専門医のための緩和ケアTips】第109回

リンパ浮腫のコメントへのお返事と知識のアップデート第103回でリンパ浮腫について取り上げたのですが、読者の方からコメントをいただきました。私もアップデートできていない部分だったので勉強になりました。今回の質問第103回のリンパ浮腫についてですが、「採血は健側で行う」とあります。最近のリンパ浮腫のガイドラインでは「生活関連因子(採血・点滴、血圧測定、空旅、感染、温度差、日焼け)は続発性リンパ浮腫の発症、増悪の原因となるか?」というCQがあります。これに対する回答は「採血、血圧測定、空旅がリンパ浮腫の発症や増悪の原因となる可能性は少ない」となっています。これを踏まえ、患者さんには「採血は健側で行えば無難ですが、困れば反対でもよい」と伝えています。こちらは乳腺外科の先生からいただいたものです。コメント、ありがとうございます。該当するのは『リンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版』ですね。存在は知っていたのですが、恥ずかしながら内容まで確認していなかったので、今回のご指摘で勉強になりました。患側の採血・点滴、血圧測定は原則禁忌と思っていたのですが、必ずしもそうではないのですね。患者さんの生活や受ける医療の内容にも関わることであり、重要な臨床疑問に対してガイドラインでしっかりと指針を示していることが素晴らしいと感じました。さて、今回のコメントを通じて、私があらためて感じたことです。「緩和ケア」のように臓器横断的な分野を専門にしていると、各領域の最新知識や専門知識をどこまで学ぶか、という問題が常に付きまといます。緩和ケアの実践ではさまざまな疾患や分野に関わる必要があり、その多くが自分の専門領域ではありません。大前提として、膨大な医学情報のすべてを把握することは不可能です。一方で、「専門領域以外は一切わからない」となると、対応可能な患者さんが限られ、緩和ケアを多くの方に届けることが難しくなります。このジレンマに対し、何ができるのでしょうか?私自身が心掛けていることは、まずは「自分がアップデートできていない領域がある」ときちんと認識することです。そしてもう1つは、今回のように専門の先生に教えてもらえる関係を維持することと、教えてもらった時は感謝とともに自分でもできる範囲で学ぶことです。今回は緩和ケアの実践の際に、重要な生涯学習に近い内容を扱いました。おそらく緩和ケアに限らず、医師としてキャリアを積むうえで、ある程度の年齢になれば誰でも直面する問題だと思います。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips自分なりの知識をアップデートしていく工夫と、専門家から学ぶ姿勢を持ち続けることが大切。

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がん治療関連心機能障害のリスク予測モデル、性能や外部検証が不十分/BMJ

 オランダ・アムステルダム大学のClara Gomes氏らは、がん治療関連心機能障害(CTRCD)のリスクを予測するために開発または検証されたすべての予測モデルのシステマティックレビューと、性能の定量的解析を目的としたメタ解析を行った。その結果、現存するCTRCD予測モデルは臨床応用に先立ち、さらなるエビデンスの蓄積が必要であることを報告した。現存するモデルについては、重要な性能指標に関する報告が不足し外部検証も限られていたことが正確な評価を妨げており、Heart Failure Association-International Cardio-Oncology Society(HFA-ICOS)ツールは、とくに軽度CTRCDに関する性能が不十分であった。著者は、「今後は、さまざまながん種を対象とする大規模なクラスター化データセットを用い、既存モデルの検証と更新を進め、その性能、汎用性および臨床的有用性を高めるべきである」とまとめている。BMJ誌2025年9月23日号掲載の報告。CTRCDのリスク予測モデルを開発または検証した56件の研究について解析 研究グループは、Medline(Ovid)、Embase(Ovid)、およびCochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、データベース開始から2024年8月23日までに発表された文献を検索した。 適格基準は、がん患者またはがん生存者におけるCTRCDリスクを推定するための予測モデルの開発・検証・更新を報告している論文で、欧州心臓病学会(ESC)のcardio-oncologyガイドラインに記載されているCTRCDのいずれかを含み、CTRCDが主要アウトカムもしくは複合心血管アウトカムの一部であり、対象集団が化学療法または分子標的治療(チロシンキナーゼ阻害薬、モノクローナル抗体、免疫療法など)を受けた患者で、予測モデルは少なくとも2つ以上の予測因子を含み、予測モデルの使用予定時期が全身性抗がん治療の開始前または治療後のサバイバー期であることであった。適格基準を満たせば、非がん患者向けに開発された心血管リスク予測モデルの外部検証研究も対象とした。放射線誘発性心毒性に関する研究は除外した。 2人の評価者がそれぞれ研究のスクリーニングとデータ抽出を行い、Prediction model Risk Of Bias ASsessment Tool(PROBAST)を用いてバイアスリスクを評価した。予測モデルの性能はランダム効果メタ解析で統合した。 1万935件の論文がスクリーニングされ、適格基準を満たした56件の研究が解析対象となった。このうち29件が1つ以上の予測モデルを開発し、20件が外部検証を実施し、7件が開発と外部検証の両方を実施していた。ほぼすべてのモデルでバイアスリスク高、HFA-ICOSツールは軽度CTRCDを過小評価 最終的にがん患者またはがん生存者におけるCTRCDリスク予測モデルとして51件が特定された。67%(34/51件)は成人データから開発され、その多くは乳がん(20/34件、59%)または血液悪性腫瘍(6/34件、18%)を対象とし、治療前リスクの予測を目的としていた(33/34件、97%)。一方、小児・青年・若年成人(39歳以下)を対象としたモデルでは、大半(16/17件、94%)ががん生存者を研究対象とし、血液悪性腫瘍や胚細胞腫瘍を含む多様ながん種(14/17件、82%)が含まれた。 開発モデル51件のうち25%(13件)、外部検証44件のうち14%(6件)でのみ性能指標や較正指標が報告されていた。ほぼすべてのモデルで、バイアスリスクが高かった。 開発モデル51件中12件(24%)(若年群4/17件[24%]、成人群8/34件[24%])が開発モデルに対して外部検証を受けていた。最も多く検証されたのはHFA-ICOSツール(11回)であり、主にHER2標的療法を受ける乳がん患者(5/11件、45%)で使用されていた。このツールは、すべての外部検証でリスクを過小評価する傾向を示し、とくに軽度CTRCDが多く報告された研究では、観察されたイベント発生率が予測リスクを上回っていた。抗HER2治療を受けた乳がん患者における統合C統計量は0.60(95%信頼区間:0.52~0.68)であった。同集団にて観察されたイベント発生率は、低リスク群で12%(予測値<2%)、中リスク群で15%(2~9%)、高リスク群で25%(10~19%)、超高リスク群で41%(≧20%)であった。

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第284回 自由診療クリニックで相次ぐ再生医療等安全性確保法がらみの事件(後編)  個人輸入のウイルスベクターがカルタヘナ法に抵触し治療中止、怪しげな遺伝子治療はこれで駆逐に向かうか?

高市新総裁誕生で社会保障政策はどうなる?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党に初の女性総裁が誕生しました。高市 早苗総裁はこのまま行けば、日本初の女性総理大臣に就任します。社会保障分野での目立った実績はありませんが、第3次安倍内閣で総務大臣をしていた2015年には、「新公立病院改革ガイドライン」の策定に関与し、地域医療構想に沿った公立病院の病床機能分化・連携強化を推し進めました。菅 義偉元首相と同様、病院経営や病院リストラに関しては一定の素養がある(石破 茂現首相はそうした素養ゼロ)とみられます。総裁選のマニフェストに「地域医療・福祉の持続・安定に向け、コスト高に応じた診療・介護報酬の見直しや人材育成支援を行います」と書いていることを踏まえると、苦境に立つ医療機関(とくに病院)経営を考慮して、来年の診療報酬改定にはそれなりの追い風となる気もしますが、一方で、病院再編に向けては大ナタを振るうかもしれません。とは言え、社会保障財源不足の状況は変わりません。また、連立政権の枠組みも不安定で、法案成立にも相当苦労するでしょう(「新たな地域医療構想」を定めた医療法改正案はまだ成立していません)。総理大臣就任後の社会保障政策を注視したいと思います。さて、今回も前回に引き続き、都内のクリニックで発覚した、再生医療等安全性確保法がらみの事件について書いてみたいと思います。こちらは、同法に加えて遺伝子改変した動植物が拡散することを防ぐ「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」にも抵触したケースでした。中国から個人輸入した未承認の医薬品を進行・末期がんの患者に対し自由診療で使用8月22日付の朝日新聞等の報道によると、厚生労働省と環境省は同日、医療法人社団DAP・北青山D.CLINIC(東京都渋谷区)の阿保 義久院長に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を下し、手続きを経ていない製剤の適切な廃棄などを命じました。カルタヘナ法に基づく自由診療への措置命令は初めてとのことです。同クリニックは「CDC6shRNA治療」と称して、中国から個人輸入した未承認の医薬品を進行・末期がんの患者に対し自由診療で使用していました。「CDC6shRNA治療」はがん細胞の無限増殖を促すタンパク質であるCDC6を標的とした遺伝子治療で、CDC6に対応するshRNAをレンチウイルスベクターを使ってがん細胞に送達し、CDC6の発現をノックダウンするというもの。ウイルスベクターを用いる治療法のため、カルタヘナ法に基づく届け出が必要にもかかわらず、届け出が行われていませんでした。 遺伝子治療は、昨年改正された再生医療等安全性確保法で新たに規制対象に含まれることになりました(施行は2025年5月31日)。改正前は「細胞加工物」を用いる治療が規制対象であり、体内で直接遺伝子の導入・改変を行う治療法(核酸やウイルスベクター等を用いたもの)は対象外でした。しかし、多種多様、有象無象の遺伝子治療が自由診療の医療機関などで広がりを見せていることを背景に、安全性・信頼性を担保するために、新たに規制対象となりました。同クリニックは改正再生医療等安全性確保法に則った届け出の準備を進める過程で、「CDC6shRNA治療」がカルタヘナ法に基づいた承認も必要だと認識し、厚労省に相談したことでカルタヘナ法に違反した状態だったことが判明、今回の措置命令となりました。遺伝子組換え生物等を取り扱う際に、生物多様性への悪影響を未然に防止するために規制措置を講じることを目的としたカルタヘナ法カルタヘナ法は、遺伝子組換え生物等を取り扱う際に、生物多様性への悪影響を未然に防止するために規制措置を講じることを目的とした法律です。バイオセーフティに関する国際合意「カルタヘナ議定書」に基づいて2004年に施行されました。医療分野に限らず、農業分野、食品分野など遺伝子組換え生物を扱うあらゆる分野が対象となります。遺伝子治療を実施する際は、遺伝子組換え生物ごとに第一種使用(環境中への拡散を防止しないで行う使用等)、第二種使用(環境中への拡散を防止しつつ行う使用等)の認定を受け、厚生労働省への申請および承認が必要となります。今回のレンチウイルスを用いたin vivo(患者体内)の遺伝子治療は第一種使用に該当し、同法の規制対象だったわけですが、用いたウイルスは「複製能力を持たず自然条件下で組み換えを起こすことは極めて低いこと」等の理由で、同クリニックは規制対象外だと判断していたとのことです。患者への同意文書には「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去するための遺伝子を投与する」と記載 各紙報道によれば、同クリニックでは、この「CDC6shRNA治療」を2009年以降、末期がん患者等3,000人以上に提供していました。患者への同意文書には「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去するための遺伝子を投与する」と記載、治療は1週間に1〜2回の頻度で、9月3日付の日経バイオテクの報道によれば、「料金は1回当たり約30万円〜80万円」だったそうです。ちなみに、現在、「CDC6shRNA治療」が保険適用されている国はどこにもなく、臨床試験にも至っていません。国内では、がん患者などを対象に、科学的根拠が十分ではない遺伝子治療が、全額患者の自費負担になる自由診療として多く実施されています。実際、この「CDC6shRNA治療」も、インターネットで検索すると北青山D.CLINIC以外にも実施していそうなところがいくつか出てきます。こうした医療機関においても、仮にウイルスベクターを用いているとすれば、すぐにでも再生医療等安全性確保法とカルタヘナ法に則った対応が必要になります。北青山D.CLINICのホームページに掲載された「遺伝子治療の現況と経緯」と題する報告には、「遺伝子治療の一時停止」を詫びるとともに、「本治療の早期再開が必要な患者さん方の期待に応えられるよう速やかに治療の再開を果たすべく再生医療等安全性確保法及びカルタヘナ法の手続きに急ぎ着手しております。同法の申請手続きにおいて、行政府の承認、許可を得るのに相応の時間を要すると聞いておりますが、可及的速やかに治療の再開が果たせるように尽力いたします」と書かれています。しかし、現実問題としてその再開は難しそうです。遺伝子治療がダメでもエクソソーム療法が、規制当局と医療機関のイタチごっこはまだまだ続く改正された再生医療等安全性確保法では、核酸等を用いる医療技術は最も高いリスクが想定される「第一種再生医療等技術」に分類されました。これによって、適用対象の治療を提供するには、医療機関が第一種再生医療等提供計画を作成し、特定認定再生医療等委員会を経た上で、厚生労働大臣へ計画を提出。厚生科学審議会(再生医療等評価部会)への諮問を経て、承認されることが必要です。さらに、医療機関が国内外の施設に製剤の製造を委託するには、特定細胞加工物等製造施設を届け出た上で、医薬品医療機器総合機構の調査を経て、許可や認定を受けなければなりません。今回のケースでは、製造元の中国企業の製造施設を届け出て調査を受ける必要が出てきます。9月8日付の日経バイオテクはこうした手続きと承認に至るまでのハードルの高さを指摘、「『事実上、きちんとしたエビデンスが蓄積された提供計画でないと厚生科学審議会は通らないと見られる。また、PMDAの調査もハードルは高い』と厚労省の関係者は指摘します」と書いています。というわけで、エビデンスが希薄にもかかわらず患者から暴利を貪る怪しげな遺伝子治療は、日本においては実質的に駆逐に向かいそうです。しかし、再生医療に詳しい知人の記者は、「まだまだ抜け道がある。その一つがエクソソーム療法だ」と話します。「第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中」でも書いたように、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり、細胞には当たらないと整理されており、再生医療等安全性確保法の対象外となっています。インターネットで検索するとエクソソームを用いたがん治療を提供している自由診療の医療機関がたくさんヒットします。怪しげながん治療法を提供している医療機関の中には、法律のハードルが高くなった遺伝子治療からエクソソーム療法に鞍替えするところも多数出てくるでしょう。前回書いた「一般社団法人」の問題とあわせて、自由診療の医療機関で提供される怪しげな治療法を巡っては、規制当局と医療機関のイタチごっこはまだまだ続きそうです。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール〜RCTメタ解析

 アジテーションは、苦痛を伴う神経精神症状であり、アルツハイマー病の約半数にみられる。また、アルツハイマー病に伴うアジテーションは、認知機能の低下を促進し、介護者の負担を増大させる一因となっている。セロトニンおよびドーパミンを調節するブレクスピプラゾールは、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対する有効性が示されている薬剤であるが、高齢者における有効性、安全性、適切な使用については、依然として不確実な点が残っている。ブラジル・Federal University of PernambucoのAnderson Matheus Pereira da Silva氏らは、アルツハイマー病高齢者のアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。CNS Drugs誌オンライン版2025年8月31日号の報告。 本研究は、PRISMA 2020ガイドラインおよびコクランハンドブックに従い、実施した。分析対象には、臨床的にアルツハイマー病と診断された高齢者を対象に、ブレクスピプラゾール(0.5〜3mg/日)とプラセボを比較したRCTを組み入れた。主要アウトカムは、アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状、有害事象とした。アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状の評価には、それぞれCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI)を用いた。リスク比(RR)、平均差(MD)、95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて統合した。ランダム効果メタ解析は、頻度主義モデルおよびベイズモデルver.4.3.0を用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・5件のRCT、1,770例を分析に含めた。・ブレクスピプラゾール治療は、CMAIのアジテーション(MD:-5.79、95%CI:-9.55〜-2.04、予測区間:-14.07〜-2.49)の減少、CGI-Sスコア(MD:-0.23、95%CI:-0.32〜-0.13、予測区間:-0.39〜-0.06)の改善との関連が認められた。・NPIスコアに有意な差は認められなかった。・錐体外路症状や日中の眠気などの有害事象は、ブレクスピプラゾール群でより多く発現したが、その範囲は広く、有意ではなかった。・メタ回帰分析では、用量または投与期間は、効果修飾因子として同定されなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾールは、認知機能の悪化を伴わずに、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対し、短期的に中程度の効果をもたらす可能性があるが、安全性に関するシグナルは依然として不明確な部分が残っている。しかし、予測区間には相当の不確実性があり、ブレクスピプラゾール使用は個別化され、綿密にモニタリングすべきであることが示唆された。今後の試験では、長期的なアウトカムや患者中心の指標を優先的に評価すべきである」と結論付けている。

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