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70歳以上の1次予防、スタチンは有益か?/NEJM

 地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象としたプラセボ対照無作為化試験で、アトルバスタチンは主要心血管イベントリスクを抑制したが(追跡期間中央値5.9年時点)、障害のない生存期間の延長には寄与しなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のSophia Zoungas氏らSTAREE Investigatorsが、同国の一般診療所(general medical practice)で行った「STAREE試験」の結果を報告した。高リスク成人において、スタチンが心筋梗塞や虚血性脳卒中のリスクを低減させることは十分に確立されているが、臨床ガイドラインにおいて、70歳以上の高齢者へのスタチン処方を強く推奨する記述はなく、とくに75歳以上の高齢者への処方を推奨するエビデンスは乏しい。また、認知症や障害への影響に対するエビデンスも不足していることから、研究グループは、主要心血管イベントおよび障害のない生存へのアトルバスタチンの影響を評価した。NEJM誌オンライン版2026年8月29日号掲載の報告。なお、本研究は2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表された。アトルバスタチン40mgを1日1回vs.プラセボ STAREE試験では、心血管疾患、糖尿病、認知症の既往がない、地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象とした。 研究グループは被験者を、アトルバスタチン40mgを1日1回またはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要評価項目は2つで、心血管死、非致死的心筋梗塞または脳卒中、冠動脈血行再建術の複合(主要心血管イベントへの影響を評価)と、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合(障害のない生存への影響を評価)で、階層的に評価された。主要心血管イベントは有意に減少、障害のない生存期間は延長せず 2015年7月~2023年3月に9,971例が無作為化された(アトルバスタチン群4,984例、プラセボ群4,987例)。被験者の平均年齢(SD)は74.7±4.5歳で、女性は51.9%であった。 ベースラインで、被験者の大半は現在飲酒の習慣があり、喫煙歴なしと申告した。服用薬数中央値は2(四分位範囲:1~4)で、最も多かった薬剤は降圧薬(46.3%)、胃酸関連疾患の治療薬(27.1%)などであった。過去にスタチン服用歴ありと報告した被験者は5.2%。既往歴として多かったのはがん、うつ病であった。また、認知機能スコアは良好であることが示され、88.7%の被験者が日常生活動作(ADL)の自立度を評価する修正Katz Indexの6項目について、いずれも困難はないと報告した。 追跡期間中央値5.9年後において、主要心血管イベントの発生はアトルバスタチン群297例(1,000人年当たり10.9イベント)、プラセボ群412例(1,000人年当たり15.5イベント)であった(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.61~0.82、p<0.001)。 障害のない生存への影響を評価した、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合の発生は、アトルバスタチン群637例(1,000人年当たり21.6イベント)、プラセボ群676例(1,000人年当たり23.0イベント)であった(HR:0.94、95%CI:0.84~1.05、p=0.25)。 重篤な有害事象の発現は、アトルバスタチン群で131例(2.7%)、プラセボ群で129例(2.7%)に認められた。筋骨格系、肝胆道系、および糖尿病関連の有害事象はアトルバスタチン群でより多く認められた。

2.

「消化性潰瘍診療GL2026」、ボノプラザンの位置付けを強化/J Gastroenterol

消化性潰瘍では、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)使用が主要因である一方、除菌治療の普及や強力な酸分泌抑制薬の登場により、有病率や死亡率は低下している。しかし、特発性潰瘍や非H. pylori性ヘリコバクター(NHPH)感染による潰瘍の増加傾向が注目されている。日本消化器病学会(JSGE)は2026年4月に「消化性潰瘍診療ガイドライン2026(第4版)」を公表し、治療アルゴリズムの骨格は大きく変えず、H. pylori除菌治療について状況に応じた選択肢を整理するとともに、薬物療法ではボノプラザンの位置付けを強化した。本改訂内容は、ガイドライン作成・評価委員会の杉本 光繁氏らによって論文化され、Journal of Gastroenterology誌オンライン版2026年8月24日号に掲載された。本ガイドラインは、JSGEによるエビデンスに基づく「消化性潰瘍診療ガイドライン」の第4版として改訂された。対象領域は、疫学、出血性消化性潰瘍、H. pylori除菌治療、非除菌治療、薬剤性潰瘍、非H. pylori・非NSAIDs潰瘍、残胃潰瘍、外科治療、穿孔および狭窄に対する保存的治療などである。改訂版では、H. pylori感染、NSAIDsまたは低用量アスピリン(LDA)使用、潰瘍既往、出血などの潰瘍合併症に基づく治療アルゴリズム、除菌治療の選択肢、薬物療法における酸分泌抑制薬の位置付けが示された。主な改訂ポイントは以下のとおり。・H. pylori感染とNSAIDs使用は、消化性潰瘍の2大原因として引き続き位置付けられた。・近年、除菌治療の普及と強力な酸分泌抑制薬の開発により、消化性潰瘍の有病率および死亡率は低下しているとされた。・一方で、特発性潰瘍やNHPH感染に起因する潰瘍の増加傾向が注目点として示された。・消化性潰瘍治療のアルゴリズムは、H. pylori感染の有無、LDAまたはNSAIDs使用、潰瘍既往、出血などの潰瘍合併症に基づく構成が、前版からおおむね維持された。・H. pylori除菌治療については、前版と比較して、状況に応じたさまざまな選択肢が提示された。また、国内保険適用の有無にかかわらず、最も有効なレジメンが推奨された。・本改訂版では、除菌治療の流れを示す新たなフローチャートが提示された。・薬物治療に関する主な変更点として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と比較した酸分泌抑制作用、有効性および安全性に関するエビデンスの蓄積を踏まえ、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)ボノプラザンについて、消化性潰瘍およびNSAIDs・LDA起因性潰瘍における位置付けが強化された。

3.

PCI施行STEMI患者、アスピリン投与は省略できるか/NEJM

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において、プライマリPCI施行前に開始した低用量プラスグレル単剤療法は、アスピリン+プラスグレルの抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)に対して、12ヵ月時点の全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合に関して非劣性を示さなかった。近畿大学の高橋 邦彰氏らPREMIUM Trial Investigatorsが、国内69病院で実施した多施設共同非盲検無作為化試験「PREMIUM試験」の結果を報告した。欧米のガイドラインでは、出血リスクが高くない急性冠症候群患者には、虚血性イベントの2次予防としてPCI後少なくとも12ヵ月のDAPTが標準治療として推奨されている。一方で、ステント技術が進展し、強力なP2Y12阻害薬が開発され、イベント予防と出血リスクのバランスを取ることがますます困難になっており、こうした流れの中で、DAPT期間の短縮や、P2Y12阻害薬単剤療法による戦略が検討されている。STEMI患者は通常、虚血性イベントおよび出血イベントがいずれもプライマリPCI後早期に発生する。しかしながら、12ヵ月のDAPT標準治療とアスピリンを用いないアップフロント治療を直接比較した無作為化試験のデータは不足していた。NEJM誌オンライン版2026年8月29日号掲載の報告。なお、本研究は2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表された。12ヵ月時点の全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合を評価 PREMIUM試験は、18歳以上、発症から12時間以内のSTEMIで、エベロリムス溶出プラチナクロムステントを用いたプライマリPCIが予定された、12ヵ月のDAPTに適応があった患者を適格とした。 研究グループは書面にて同意を得た後、患者を低用量プラスグレル単剤療法またはDAPT群に1対1の割合で無作為に割り付け、12ヵ月治療を行った。 プラスグレル単剤療法群では、PCI前にアスピリン投与なしでプラスグレル(20mg)の負荷投与を行い、術後は1日1回のプラスグレル(3.75mg)を12ヵ月間継続投与した。DAPT群では、PCI前にアスピリン(162~200mg)+プラスグレル(20mg)の負荷投与を行い、術後は1日1回のアスピリン(81~100mg)+プラスグレル(3.75mg)を12ヵ月間継続投与した。 主要評価項目は、12ヵ月時点の全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合で、プラスグレル単剤療法群の非劣性について評価した。事前に規定した非劣性マージンはハザード比(HR)の片側95%信頼区間(CI)上限が1.50と定義された。 重要な副次評価項目は、12ヵ月時点の大出血(BARC出血基準のタイプ3[非致死的大出血]またはタイプ5[致死的出血])であり、主要評価項目の非劣性が示された場合に優越性を評価した。Kaplan-Meier推定発生率、プラスグレル単剤11.0%vs.DAPT 8.5% 2023年4月~2024年12月に2,268例が無作為化され、解析集団には2,216例が含まれた(プラスグレル単剤療法群1,109例、DAPT群1,107例)。両群の患者背景はバランスが取れており、平均年齢は69.4±12.5歳、男性は76.6%で、糖尿病併存者は38.5%、出血リスクが高い患者は35.9%であった。無作為化前に5.6%がアスピリン、3.1%がP2Y12阻害薬の投与を受けていた。病院到着から無作為化までの時間中央値は43.3分であった。 12ヵ月時点で全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞の発生は、プラスグレル単剤療法群124例(Kaplan-Meier推定11.0%)、DAPT群94例(Kaplan-Meier推定8.5%)であった(HR:1.34、95%CI:1.02~1.75、非劣性のp=0.40)。 大出血は、プラスグレル単剤療法群61例(Kaplan-Meier推定5.6%)、DAPT群92例(Kaplan-Meier推定8.4%)で認められた(HR:0.66、95%CI:0.47~0.91)。definiteもしくはprobableのステント血栓症(プラスグレル単剤療法群1.4%、DAPT群1.5%)および重篤な有害事象(それぞれ17.2%、16.5%)が報告された患者の割合は、両群で同程度であった。

4.

IBD患者の大腸がん発生、家族歴でどこまで増える?

炎症性腸疾患(IBD)では大腸がん(CRC)リスクが高いことが知られており、CRC家族歴も重要なリスク因子とされる。一方、IBD患者においてCRC家族歴がCRC発生に及ぼす影響を検討した研究は少ない。そこで、スウェーデン・カロリンスカ研究所のAsa H. Everhov氏らは、IBD患者とマッチさせた一般人口対照を対象に、CRC家族歴別のCRC発生率と発生率差、およびIBDとCRC家族歴の相互作用を検討した。その結果、CRC家族歴はIBD患者と一般人口対照のいずれにおいても絶対尺度では同程度にCRC発生を増加させ、増加幅はCRC罹患者が複数いる場合に最も大きかった。本研究結果は、Gastroenterology誌オンライン版2026年9月3日号に掲載された。本研究は、1996~2023年の全国レジストリを用いたコホート研究であった。対象はIBD患者12万4,387例(IBD群)と、年齢、性別、居住地域、暦年でマッチさせた一般人口対照121万3,641例(対照群)とした。曝露因子はCRC家族歴とし、第1度近親者(親、兄弟姉妹、子)のCRC罹患者数、およびその診断年齢(50歳未満または50歳以上)で定義した。推定した項目は、CRC家族歴別のCRC発生率、発生率差、およびIBDとCRC家族歴の相互作用であった。主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は11年で、CRCイベントはIBD群で1,882件、対照群で1万4,177件発生した。・CRC発生率は、IBD群で1,000人年当たり1.17件(95%信頼区間[CI]:1.12~1.23)、対照群で1,000人年当たり0.88件(95%CI:0.86~0.89)であった。・IBD群において、CRC発生の増加が最も大きかったのはCRCに罹患した第1度近親者が2人以上いる集団で、CRC家族歴がない集団と比較した追加発生は1,000人年当たり2.69件(95%CI:0.60~4.78)であった。・IBD群における早発CRC家族歴によるリスク増加は限定的で、CRC家族歴がない集団と比較した追加発生は1,000人年当たり0.42件(95%CI:-0.47~1.31)であった。・CRC家族歴が同じIBD群と対照群を比較すると、CRC発生率はおおむね同程度であった。・例外として、CRC家族歴がない集団では、対照群と比較してIBD群のCRC発生率が高かった。・CRC家族歴の相対的な影響は、ベースラインのCRCリスクがすでに高いIBD群では、対照群より弱かった。・絶対尺度では、CRC家族歴によるCRC発生の増加はIBD群と対照群で同程度であり、罹患した第1度近親者が複数いる場合に増加幅が最大であった。著者らは、CRC家族歴はIBD患者と対照群のいずれにおいても同程度にCRC発生を増加させ、増加幅はCRCに罹患した近親者が複数いる場合に最大であったとまとめた。また、ガイドラインでは早発CRC家族歴を有する患者に特別な注意を払うよう助言しているが、複数の罹患親族がいる患者をサーベイランス戦略で優先すべきかという問いを提起している。

5.

インフルエンザで入院の小児、オセルタミビルはICU入室減と関連

 インフルエンザで入院した小児では、オセルタミビル(商品名:タミフル)の投与が集中治療室(ICU)入室リスクの低下と関連することが、新たな研究で明らかになった。米コロラド大学医学部およびコロラド小児病院のSuchitra Rao氏らによるこの研究結果は、8月10日付で「JAMA Pediatrics」に掲載された。 Rao氏は、「過去20年間で最も厳しいインフルエンザシーズンの1つを経験した後だけに、今回の結果は、インフルエンザで入院した小児を治療することの重要性を改めて強調している。われわれの研究結果から、オセルタミビルによる治療は、発症から2日を過ぎて開始してもクリティカルケアが必要となるリスクを低下させる可能性があることが分かった」と述べている。 米国のガイドラインでは、インフルエンザで入院した小児に対して抗ウイルス薬による治療を行うことが推奨されている。しかし、こうした小児への抗ウイルス薬の投与率は近年低下している。米疾病対策センター(CDC)のInfluenza Hospitalization Surveillance Network(FluSurv-NET)によると、2024~2025年のインフルエンザシーズンにインフルエンザで入院した小児のうち、抗ウイルス薬の投与を受けたのは63%で、2017~2018年シーズンの86%から低下していた。 今回の後ろ向きコホート研究では、FluSurv-NETのデータを用いて、米国13州で、検査によりインフルエンザが確認され、入院した18歳未満の小児6,044人を対象に、オセルタミビル投与とICU入室との関連を解析した。対象期間は2014~2015年シーズンから2022~2023年シーズンまでの8シーズンで、2020~2021年シーズンは除外された。 対象患者のうち4,240人(70.2%)がオセルタミビルの投与を受けていた。解析の結果、オセルタミビル投与群では、非投与群に比べてICU入室リスクが31%低かった(調整ハザード比〔aHR〕0.69、95%信頼区間〔CI〕0.60~0.80)。発症から2日以内に治療を開始した場合と3日以降に開始した場合のいずれでも、治療を受けなかった場合に比べてICU入室リスクはそれぞれ26%(aHR 0.74、95%CI 0.63~0.86)と45%(aHR 0.55、95%CI 0.41~0.73)低かった。 副次評価項目である入院期間の解析には7,103人が含まれ、このうち5,746人(80.9%)がオセルタミビルの投与を受けていた。解析の結果、オセルタミビルの投与は入院期間の短縮と関連していた(aHR 1.13、95%CI 1.06~1.21)。推定入院期間は非投与群で3.72日、投与群で3.33日であり、9.4時間の短縮に相当した。 Rao氏は、「これまでの研究では、小児がいつ発症したのか、あるいは入院前に抗ウイルス薬による治療を開始していたのかといった重要な情報が欠けていることが多く、薬の有効性を評価することが難しかった」と指摘する。その上で、「今回の研究では、そうした詳細な情報を把握し、高度な統計手法を用いることで、インフルエンザで入院した小児の治療に役立つ、より強固なリアルワールドエビデンスを示すことができた」と述べている。 研究グループは、「今回の結果は、オセルタミビル投与の有益性を示すとともに、インフルエンザが疑われる、または検査で確定した小児の入院患者には、発症からの経過時間や重症化リスク因子の有無にかかわらず、できるだけ早くオセルタミビルによる治療を行うという現在の米国の推奨を支持するものである」と結論付けている。

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ESC心不全GL改訂、HFmrEF廃止・「急性心不全」は「非代償性心不全」へ/ESC2026

 欧州心臓病学会(ESC)による新たな心不全診療ガイドライン「2026 ESC Guidelines for the management of heart failure」がEuropean Heart Journal誌オンライン版2026年8月28日号でオンライン公開され1)、8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)において改訂の要点が解説された2)。今回の改訂では、疾患の予防と早期治療の徹底、左室駆出率(LVEF)に基づく分類の簡素化、「急性心不全」から「非代償性心不全」へ名称変更、新たな治療分類(FMT・AMT・GDIT)の導入など、時代に即した大幅な再定義が行われている。 本ガイドラインにおける主な改訂のポイントは以下のとおり。【心不全の分類・定義の刷新】LVEFに基づく分類の簡素化(HFmrEFの廃止) 従来、LVEF 41~49%の病態は「軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されていたが、今回の改訂でこの分類が廃止された。HFmrEF患者は、LVEF低下例(HFrEF)と同様の病態生理を共有し、同様の治療から恩恵を受けることが明らかになったためである。これにより、心不全のフェノタイプは以下の2つにシンプル化された。新LVEF分類・LVEFが低下した心不全(HFrEF):LVEF 50%未満で、心不全の症状・徴候を有する病態。・LVEFが保たれた心不全(HFpEF):LVEF 50%以上で、心不全の症状・徴候に加え、構造的・機能的異常やナトリウム利尿ペプチドの上昇を認める病態。予防・早期介入のためのステージ分類導入 発症予防と早期治療の徹底を目的として、心不全リスク段階(ステージA)から、前心不全(ステージB)、症候性心不全(ステージC)、重症/進行性心不全(ステージD)に至る段階的なステージ分類が採用された。また、高血圧またはステージBの心不全患者において、心不全発症リスクを低減するため、収縮期血圧130mmHg未満を目指す厳格な血圧管理がクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。「急性心不全」から「非代償性心不全」への名称変更 従来「急性心不全(Acute HF)」と呼ばれていた病態は、心機能の徐々の低下に伴い代償機構が破綻した状態を正確に表現するため、「非代償性心不全(Decompensated HF:DHF)」へ名称が変更された。DHFの初期管理においては、尿中ナトリウムモニタリングに基づく利尿薬調整(クラスIIb)や、初期安定化後のSGLT2阻害薬の院内早期導入(クラスI)が盛り込まれている。【治療分類の刷新と薬物治療のアップデート】「GDMT」から動的な3分類(FMT・AMT・GDIT)への移行 長年使用されてきた「ガイドラインに基づく薬物治療(GDMT)」という用語が見直された。新規薬剤や医療デバイスの承認に合わせて動的(dynamic)に対応し、常に最新の管理を行えるよう、治療法が以下の3クラスに再定義された。治療クラスの新たな3分類・基礎的薬物治療(FMT:Foundational medical therapy):対象を限定しない心不全患者全体に対して、罹患率や死亡率の低減に関する最も強いエビデンスを持つクラスI推奨の薬物治療。 ―HFrEFのFMT:β遮断薬、ACE阻害薬/ARNI/ARB、MRA、SGLT2阻害薬の4薬剤。  ―HFpEFのFMT:MRA、SGLT2阻害薬の2薬剤。・追加的薬物治療(AMT:Additional medical therapy):特定サブ集団における転帰改善、または症状・QOL改善に特化したエビデンスを持つ薬物治療(クラスIIa/IIb推奨、または特定の症状改善目的のクラスI推奨)。・ガイドラインに基づく介入治療(GDIT:Guideline-directed interventional therapy):推奨されるすべての心臓植え込み型電子デバイス(CIED)や経カテーテル治療などのインターベンション治療。FMTの主な推奨事項・全LVEF領域におけるSGLT2阻害薬とMRAの推奨 SGLT2阻害薬およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、LVEFを問わずすべての有症候性心不全患者に対し、心不全入院または心血管死のリスク低減を目的としてクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。具体的な対象薬剤は以下のとおり。・SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン・MRA ―HFrEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン、エプレレノン) ―HFpEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン)、非ステロイド性MRA(フィネレノン) なお、慢性心不全の管理において、FMTは症状やバイタルサイン、血液検査を参考に少なくとも1~2週間ごとに漸増し、目標用量に達することがクラスIで推奨された。また、無症状化やLVEF改善が得られた場合であっても、原則として最高耐容用量でのFMT継続がクラスIで推奨されている。AMTの主な推奨事項・肥満を伴うLVEF 45%以上の心不全に対するGLP-1受容体作動薬 BMI 30kg/m2以上かつLVEF 45%以上の肥満を伴う有症候性心不全患者(糖尿病の有無を問わない)に対し、体重減少、運動耐容能・QOLの改善を目的としてセマグルチドまたはチルゼパチドの投与がクラスIIa(エビデンスレベルB1)で推奨された。・慢性心不全へのAMT 最適なFMTを実施しても有症候性のHFrEF(LVEF 40%以下)患者に対し、心不全入院リスク低減目的で強心配糖体(ジゴキシンまたはジギトキシン)の追加がクラスIIaで推奨された。また同様に、FMT 治療後のHFrEF(LVEF 45%未満)患者に対してはベリシグアトの追加もクラスIIbで考慮される。GDITの主な推奨事項・経カテーテル的Edge-to-Edge修復術(TEER) 最適なFMTや適応のある心臓再同期療法(CRT)を実施しても持続する、血行動態が安定した重症二次性僧帽弁閉鎖不全症を伴う有症候性HFrEF患者に対し、心不全入院リスク低減およびQOL改善を目的としたTEERがクラスI(エビデンスレベルB1)で推奨された。【早期介入の重要性と患者参加型医療への展望】 ガイドライン作成タスクフォースの共同委員長を務めたLars Kober氏(デンマーク・コペンハーゲン大学病院)は、「高齢化や肥満などのリスク因子の増加に伴い、心不全の全体的な疾病負担は高まると予想される。今回のガイドラインで特に強調したかったのは、予防と可能な限り早期からの治療開始の重要性である」とプレスリリースで述べている。さらに新たな治療用語の導入について、「10年以上前に導入された『GDMT』という用語は治療の進歩に伴い、今日において何を指すのか曖昧になっていた。新用語(FMT・AMT・GDIT)は、今後新たな薬剤やデバイスが承認された際にも柔軟に対応し、常に時代に即した概念であり続けられるよう設計されている」と解説している。 同じく共同委員長を務めたMarianna Adamo氏(イタリア・ブレシア大学)は、LVEF分類の簡素化について「軽度低下(HFmrEF)という分類は、従来臨床試験に含まれにくかった患者に光を当てるため導入されたが、これらの患者がHFrEFと同様の病態生理を共有し、同様の治療恩恵を受けることが判明したためシンプル化した」と説明している。また、「急性」から「非代償性」への変更点については「突然悪化するのではなく、心臓が欠陥を補いきれなくなるまで徐々に機能低下していく病態を明確にするための改訂である」と付言した。 本ガイドラインには患者教育とセルフケアに関するセクションが含まれている。Adamo氏は「患者教育とライフスタイルのアドバイスは、患者自身が心不全を管理し、医療者と意思決定を共有する力を与える。患者が自身のケアのパートナーとなることを目指し、患者向けバージョンのガイドラインも公開されている3)」と結んでおり、医療者と患者が一体となった包括的な心不全管理の重要性がさらに高まると期待される。

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ステロイド外用薬を「短期使用薬」とするのは誤認、OTC薬給付見直しで声明/日本皮膚科学会ほか

 日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会、日本アレルギー友の会は2026年9月3日、3団体共同で「OTC類似薬の保険給付見直し案に関する共同声明」を発表した。声明はステロイド外用薬を「急性増悪時の短期使用薬」とするのは誤認と指摘するなど、全9項目からなる。 「OTC類似薬の保険給付見直し案に関する共同声明」は以下のとおり。1. 声明の趣旨 政府が検討を進める「OTC類似薬の保険給付見直し案」について、皮膚科医療の専門性および患者の生活実態の観点から重大な懸念があるため、3団体は共同して本声明を公表する。 本見直し案は、単なる薬剤費負担の問題ではなく、我が国の皮膚科診療のあり方そのものに影響する制度であり、国民の健康に直結する重大な課題である。2. 制度趣旨との齟齬 見直し案には、アトピー性皮膚炎をはじめとする重症・慢性疾患が多数含まれている。これは「軽症疾患の自己治療を促す」という制度趣旨と整合せず、なし崩し的な対象拡大である。3 .医学的誤認に基づく制度設計 皮膚科治療の根幹であるステロイド外用薬が「急性増悪時の短期使用薬」と誤認されている。 診療ガイドラインは、寛解維持のための計画的外用を推奨しており、外用薬は「塗り薬」ではなく皮膚バリア治療という医療行為である。 医学的誤認に基づく負担増は、制度として成立しない。4. 皮膚科医療の基盤への影響 負担増により標準治療の継続が困難となれば、再燃・重症化が増加し、受診抑制・自己判断・誤用・経皮感作という連鎖が生じる。 皮膚科医療の基盤が揺らぎ、国民の安全性に直結する。5. 歴史的教訓と現在の誤情報 1990年代の「悪魔の薬」報道は科学的根拠のない恐怖を全国に拡散し、受診中断・重症化が続出した。 その後、臨床皮膚科医会と患者団体が協働し、誤情報を是正し標準治療を回復してきた。 しかし現在も「脱ステ」「民間療法」「高額サプリ」等の誤情報がSNSで拡散し、若年層の受診遅延・重症化が続いている。 外用薬の負担増は、誤情報に流される患者をさらに増やす。6. 公衆衛生上の重大な懸念 茶しずく石けん事件では、加水分解コムギ末による経皮感作により全国1,800人以上が食物アレルギーを新規発症した。 皮膚バリア破綻が公衆衛生事案を引き起こすことは明確である。 皮膚は免疫の入口であり、皮膚科医療は国民医療の基盤である。7. 患者・家族の生活実態 アトピー性皮膚炎は痛み、痒み、睡眠障害、皮膚裂傷、浸出液などにより生活を深刻に損なう疾患である。 外用薬は「生きるための薬」であり、寛解維持のための計画的外用が不可欠である。 負担増は治療中断・再燃・重症化を招き、誤情報に惑わされる危険性は今も続く。8. 3団体共同の要望 1. 軽症疾患と中等症・重症・慢性疾患を区別し、なし崩し的な対象拡大を行わないこと。 2. ステロイド外用薬を「短期使用薬」と誤認した負担増を撤回すること。 3. 皮膚科診療の根幹を損なわない制度設計を行うこと。 4. 検討過程に当事者の声を適切に反映すること。9. 総括 本見直し案は、皮膚科医療の基盤と国民の健康に直結する制度である。 3団体は、国民の安全を守る観点から、慎重な再検討を強く求める。

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PREVENT時代にCACスコアは何を加えるのか―予測能と臨床的有用性を巡って(解説:野間重孝氏)

 2026年ACC/AHA/Multisociety脂質異常症ガイドラインでは、動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)の1次予防における10年リスク評価に、Predicting Risk of Cardiovascular Disease EVENTS(PREVENT)によるASCVD予測式が採用され、境界域リスク(3%以上5%未満)または中間リスク(5%以上10%未満)でスタチン開始の判断が定まらない場合には、冠動脈石灰化(coronary artery calcium:CAC)スコアを考慮することが推奨された1)。 本研究は、多民族動脈硬化研究(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis:MESA)に登録されたASCVD既往のない45~79歳の6,098例を対象として、PREVENTにCACを加えた場合の予測能を検討したものである。10年間に366例(6.0%)が心筋梗塞または脳卒中を発症し、Harrell C統計量はPREVENT単独の0.73からCAC追加後には0.75となった。改善幅は0.02、カテゴリー別net reclassification improvement(NRI)は0.095であり、著者らは、全リスク層にCACを加えた場合の改善は限定的である一方、境界域および中間リスク群に対する選択的使用は支持されると結論している2)。 一見すると、これはCACの選択的使用を支持する素直な結果にみえる。しかし、本研究を評価するうえで重要なのは、NRI 0.095という数値そのものではなく、どのような患者群がいずれの方向に再分類されたことによって、NRIが正の値となったのかという点である。 ASCVDを発症した366例では、CAC追加による上方再分類18例に対して下方再分類は39例で、event-NRIは-0.057であった。一方、非発症者5,732例では、下方再分類1,097例に対して上方再分類は224例で、nonevent-NRIは+0.152となった2)。全体NRIが0.095という正の値を示したのは、主として非発症者の下方再分類によるものであり、これが集団全体のリスク順位を改善し、C統計量を0.02上昇させた背景にあると考えられる。 event-NRIが負となったのは主として、PREVENTリスク5%以上で、すでにスタチンを含む脂質低下療法を検討すべき群に属していた発症者が、境界域へ下方再分類されたためである。下方再分類された発症者39例のうち、この群が29例(74%)を占めた。これに対し、境界域の発症者では上方再分類14例、下方再分類10例であり、10年発症率もCACスコア0の1.9%から300以上の14.3%まで明瞭に分かれた2)。したがって、event-NRIが負であったことを、境界域におけるCACの有用性の否定と見なすべきではない。むしろこの結果は、CACの役割が全リスク層の再分類ではなく、治療判断の定まらない境界域における追加的な層別化にあることを示唆している。 ただし、わずかなCACが認められるだけで、直ちに高リスクと考えることも適切ではない。CACスコア0超100未満の発症率は3.9%であり、依然として境界域にとどまっていた。明瞭な上方再分類をもたらしたのは主としてCACスコア100以上である2)。したがって、CACスコア0は低リスク側への再分類を支持し、CACスコア100以上は積極的な脂質低下療法を支持する一方、CACスコア0超100未満では、なお他の危険因子と患者の意向を含めた判断が必要となる。 なお、PREVENTによって、年齢、血圧、脂質、糖尿病、喫煙、腎機能などに基づく基礎的リスクはすでに捉えられており、CAC追加によるC統計量の改善幅が0.02にとどまったことは必ずしも意外ではない。予測リスクと実際の発症率との整合性を示す較正勾配は、1が理想とされ、PREVENT単独で1.09、CAC追加後で0.92であった。いずれも信頼区間は1を含んでおり、少なくとも較正勾配からは、CAC追加による明瞭な改善は示されなかった2)。 今回の改善幅を評価するうえで、著者らはKhanらが2023年にJAMAへ報告した冠動脈疾患予測研究を比較対象として挙げている。同研究では、統合コホート方程式(pooled cohort equations:PCE)にCACを加えることにより、冠動脈疾患を評価項目としたC統計量が0.09上昇し、カテゴリー別NRIも0.19改善した3)。これに対して、本研究の主要評価項目は心筋梗塞と脳卒中の複合であり、両者を分けた成績は示されていない。PREVENT-ASCVDを評価するうえでは整合的な設定であるが、冠動脈の解剖学的指標であるCACの付加価値を検討する際には慎重な解釈を要する。今回の改善幅が小さかった背景には、予測モデルの違いだけでなく、アウトカムの定義の違いが関係した可能性もあり、両研究の結果を単純に比較することはできない。 本研究は予測モデルの性能を検討した観察研究であり、CACに基づく治療方針の変更がASCVDイベントを減少させることを示したものではない。検査費用、放射線被曝、偶発所見などを含めた臨床的なnet benefitも検討されていない。また、MESAはPREVENTの開発にも用いられ、CAC追加モデルも同じ集団内で評価されているため、独立した外部集団における検証が必要である2)。欧米より冠動脈疾患が少なく、脳卒中の比重が大きい日本では、冠動脈の指標であるCACのASCVD予測への付加価値は、本研究で示された以上に限定的となる可能性がある4)。 本研究が示したのは、CACの価値が失われたということではない。むしろ、その役割が「すべての人のリスク予測を改善する検査」ではなく、「治療判断の難しい患者を選択的に再層別化する検査」であることを明確にした点に、本研究の意義がある。集団全体の予測能と、個々の患者における意思決定上の有用性とは同じものではない。CACについて問うべきなのは、集団全体の予測能をどれほど高めるかだけではなく、治療判断の定まらない患者に対して、実際に判断を変えうる情報を提供できるかということであろう。

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第311回 生活保護の頻回受診対策、指定の医療機関以外は原則紹介へ/厚労省

<先週の動き> 1.生活保護の頻回受診対策、指定の医療機関以外は原則紹介へ/厚労省 2.インフルエンザ全国で拡大、8月に流行入り ワクチン前倒しも可能に/厚労省 3.病床数適正化、1床当たり410万円補助 第2回申請は9月30日まで/厚労省 4.精神医療も地域医療構想へ、2028年度末までに策定/厚労省 5.病院建て替え・高額設備投資に支援要望 2027年度税制改正へ提言/日医 6.大学病院による地域病院承継へ 藤田学園と聖霊会が基本合意/愛知県 1.生活保護の頻回受診対策、指定の医療機関以外は原則紹介へ/厚労省厚生労働省は、生活保護受給者が指定された医療機関以外を受診する際、原則として紹介状を必要とする仕組みを検討することが明らかになった。生活保護受給者の過剰な受診を抑え、適正受診につなげる狙いで、2026年内に議論を取りまとめる方針。日本経済新聞の報道によると、現在も生活保護受給者の受診先は福祉事務所が指定しているが、受給者が別の医療機関を希望した場合、その受診が医学的に妥当かどうかを行政が判断することは難しかった。検討案では、日常的に受診する医療機関をあらかじめ定め、別の医療機関を受診する場合には、原則として日常的に受診する医療機関からの紹介を求める。受診先の選択に医師の判断を取り入れることで、頻回受診や重複受診の抑制と、継続的な健康管理の両立を図る。生活保護の医療扶助を巡っては、国会でも適正化を求める議論が続いている。6月の参院厚生労働委員会では、日本維新の会の猪瀬 直樹氏が、自己負担がないことが頻回受診や多剤・重複投薬につながっていると指摘し、制度の見直しを要求。生活保護受給者にも定額または定率の自己負担を求める案を示した。厚労省は自己負担導入には慎重な一方で、受診ルールや医療機関との連携を通じた適正化を進める方向だ。生活保護受給者は約200万人で、その半数以上が65歳以上。2024年度の医療扶助費は1兆8,600億円に上り、生活保護費全体の約半分を占めている。また、同じ病気で同一月に同一診療科を15日以上受診し、医師らが必要以上と判断した頻回受診者は9,371人だった。今後は、必要な医療へのアクセスを確保しつつ、紹介機能やかかりつけ医機能を活用して受診行動をどこまで適正化できるかが焦点となる。 参考 1) 生活保護の受給者、指定の受診先以外なら原則紹介必須に厚労省検討(日経新聞) 2) 医療費「生活保護受給者に自己負担を」維新・猪瀬氏上野厚労相「必要な受診抑制」と慎重(産経新聞) 3) 厚生労働省が「生活保護」最新調査結果を発表、2世帯に1世帯が高齢者世帯に。生活保護の「受給条件・保護費の決まり方・医療費の仕組み」を解説(LIMO) 2.インフルエンザ全国で拡大、8月に流行入り ワクチン前倒しも可能に/厚労省厚生労働省は、インフルエンザが例年より大幅に早く全国的な流行期に入ったとして警戒を呼びかけている。8月17~23日の定点医療機関当たり報告数は1.11人となり、流行開始の目安である1.00人を超えた。全国約3,000の定点医療機関からの報告患者数は4,094人で、前年同期の1,183人を大きく上回った。前シーズンからの流行が継続していた2023年を除外すると、1999年の現行統計開始以降で2009年に次ぐ2番目の早さとなっている。さらに8月24~30日は1.76人、患者数6,543人と前週の約1.6倍に増え、39都道府県で前週を上回った。地域別では沖縄県8.50人、岩手県4.33人、新潟県3.58人、神奈川県2.99人、青森県2.88人などで高く、局地的な夏季流行ではなく全国的な広がりがみられる。愛知県も1.10人で流行入りを発表し、前年より約1ヵ月半早い。京都府は2.26人、宮城県は2.44人で、学校では学級・学年閉鎖も相次いでいる。宮城県では0~14歳が患者の半数超を占め、夏休み明けの学校再開後の感染拡大が懸念されている。早期流行の原因は現時点で明らかではない。南半球など海外からのウイルス流入、冷房下の密閉空間、夏季にはインフルエンザを疑いにくく感染が見逃されやすいことなどが可能性として指摘されている。流行株についても現時点では確定しておらず、今後の全国的な病原体解析が必要となる。厚労省は、一時的に定点当たり1.00人を下回る可能性はあるものの、過去には一度流行入りすると冬のピークへ向かう例が多いとして推移を注視している。異例の流行を受け、厚労省は65歳以上と一定の基礎疾患がある60~64歳を対象とする定期接種について、自治体の判断で例年より繰り上げて実施するのは法令上可能である旨を周知した。9月中には今季供給見込みの6割超にあたる約3,147万回分が出荷される見通し。今季ワクチンはA型2種類、B型1種類の3価で、ワクチンの主目的は重症化予防。高齢者や基礎疾患患者などハイリスク層への接種が重要となる。医療機関では、発熱患者の増加を前提とした診療体制の確認に加え、手洗い、マスク、換気など基本的な感染対策の徹底が求められる。今季は冬の本格流行前から患者増加が始まっており、ワクチン接種時期や院内感染対策を例年の感覚で判断せず、早めに備える必要がある。 参考 1) インフルエンザ患者数 前週比1.6倍に増加“基本的な対策を”(NHK) 2) インフル、夏に異例の早さで全国流行入り 厚労省が警戒呼びかけ(Science Portal) 3) インフルエンザ予防接種「前倒し可能」 厚労省が自治体に周知(日経新聞) 3.病床数適正化、1床当たり410万円補助 第2回申請は9月30日まで/厚労省厚生労働省は9月1日、「病床数適正化緊急支援事業」の今後のスケジュールを示し、第2回の医療機関から都道府県への申請期限を9月30日とした。第3回は11月30日を予定しているが、申請状況や予算の状況によっては実施しない可能性があるとしており、活用を検討している医療機関は早めの対応が求められる。都道府県から厚労省への提出期限は、第2回が10月30日、第3回が12月28日。同事業は、2025年度補正予算で3,490億円を確保し、人口減少や医療需要の変化を踏まえて病床数の適正化を進める医療機関を支援するもの。病院の一般病床、療養病床、精神病床や有床診療所を対象に、削減する病床1床当たり410万4,000円を補助し、休床病床を削減する場合は半額の205万2,000円とする。第2回までの申請が多く、予算が枯渇すれば第3回目は行われない可能性もある。その一方で、厚労省は病床削減については参院の附帯決議などを踏まえ、「医療費削減ありき、数字ありき」で進めるものではないことを改めて強調している。各地域の医療の質の確保を前提に、人口減少に応じた合理的な病床数削減という考え方の下、地域の実情や医療提供体制への影響を十分に精査するよう求めている。さらに、医療機関の連携・再編・集約化を進める際にも、地域の医療ニーズを踏まえた対応が必要としている。また、制度に基づいて病床を削減した場合、厚生労働省令で定める場合を除き、都道府県は医療計画上の基準病床数を削減することになる。病床削減は個々の医療機関の経営改善だけでなく、地域全体の病床機能や将来の医療提供体制にも影響するため、地域医療構想との整合性を含めた慎重な判断が必要だ。病床再編を予定する医療機関は、第3回を待たず、第2回期限の9月30日を念頭に都道府県との調整を進める必要がある。 参考 1) 病床数適正化緊急支援事業の今後のスケジュールについて(厚労省) 2) 「削減病床1床あたり410万4000円」補助する病床適正化支援、2回目受付は「2026年9月30日まで」、3回目は実施しない可能性も(Gem Med) 4.精神医療も地域医療構想へ、2028年度末までに策定/厚労省厚生労働省は9月2日、2040年ごろを見据えた新たな地域医療構想に精神医療を位置付けるため、「精神医療に関する地域医療構想検討ワーキンググループ」の初会合を開いた。精神医療を含む地域医療構想の策定ガイドラインは2026年度末をめどに作成し、都道府県はこれを踏まえて2028年度末までに新たな構想を策定する。なお、一般医科の医療機関機能報告は2026年10月であるが、精神科医療機関を対象とした医療機関機能・病床機能の報告は2027年10月に始まる予定となっている。新たな地域医療構想に精神医療が位置付けられたのは、2025年12月の改正医療法成立を受けたもの。同ワーキンググループでは、精神医療の構想区域の設定、精神科病院の医療機関機能報告、必要病床数の推計方法などを議論し、2026年度内に結論を得る方針。背景には、高齢化に伴う身体合併症を持つ精神疾患患者の増加や、入院患者の年齢構成・疾病構造の変化がある。厚労省は精神科医療機関の対応力向上に加え、一般医療との連携強化を進め、精神症状を早期に安定させる体制や身体疾患を含めた診療体制の構築を目指す。また、病床や医療機関の役割を明確にし、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築も加速させる。初会合では「精神・身体合併症診療機能」の設定を求める意見が出たほか、一般医療の構想区域との整合性を重視すべきとの指摘もあった。その一方で、精神科病院や精神病床のない二次医療圏もあるため、複数の医療圏を一体として扱うなど柔軟な区域設定を求める声も出た。精神医療でも今後、単なる病床数の調整にとどまらず、急性期対応、身体合併症診療、外来・在宅支援、一般医療との連携を含めた地域での役割分担がより明確に求められることになる。人口減少に伴う患者数や病床利用率の変化も見据え、各精神科医療機関には、自院が地域で担う機能を早い段階から整理しておくことが重要となる 参考 1) 第1回精神医療に関する地域医療構想検討ワーキンググループ(厚労省) 2) 精神医療含む地域医療構想、28年度末までに策定へ ガイドラインは26年度末 厚労省(CB news) 3) 精神医療を含めた地域医療構想策定ガイドラインは今年度末に。精神医療を含めた医療機関機能報告は令和9年10月から(route “hckn”) 5.病院建て替え・高額設備投資に支援要望 2027年度税制改正へ提言/日医日本医師会は9月3日、2027年度の「医療に関する税制要望」を公表した。今回の要望では、病院の建て替えや高額設備投資に伴う消費税負担への「特段の対応」を新たに盛り込み、税制措置だけでなく補助金や融資など予算措置と一体で支援するよう求めている。要望は8月24日に厚生労働省へ提出された。現在、社会保険診療は消費税非課税のため、病院が建物や医療機器を購入した際の消費税は仕入税額控除の対象とならず、医療機関が負担する仕組みとなっている。日医は、とくに大規模な建て替えや設備投資では一時的な消費税負担がキャッシュフローを悪化させ、病院経営を圧迫すると指摘。診療所においては非課税のまま診療報酬上の補てんを継続しつつ、病院においては軽減税率による課税取引に改めることを求め、それまでの間、高額投資に別途支援措置を講じるよう要望している。設備投資関連では、地域医療構想に適合する病院建物の特別償却制度について、税額控除の導入や特別償却率の引き上げに加え、新たに病院・診療所用建物(鉄骨鉄筋コンクリート造など)の法定耐用年数について、現行の39年から31年へ短縮するよう求めた。高額医療機器についても、対象となる取得価額を160万円まで引き下げ、即時償却または10%の税額控除を選択できる制度への拡充を要望している。さらに、医療DXに伴う電子カルテや医療情報システムなどへの投資について、即時償却または10%の税額控除、固定資産税の軽減措置の創設を要求。働き方改革では勤務時間短縮用設備の税制優遇拡充、医師不足地域では医療従事者の所得税軽減なども盛り込んだ。日医は、物価や人件費、建築費が上昇する中、税制だけでは医療機関の投資余力を確保できないとしており、年末の与党税制改正大綱に向け政府・与党への働きかけを強める方針。 参考 1) 令和9年度医療に関する税制要望(日本医師会) 2) 令和9年度医療に関する税制要望について-今村英仁常任理事(同公式チャンネル)【動画】 3) 病院の高額投資に伴う消費税対応を要望 税制と予算セットで日医(CB news) 6.大学病院による地域病院承継へ 藤田学園と聖霊会が基本合意/愛知県愛知県の学校法人藤田学園と社会福祉法人聖霊会は、名古屋市昭和区の聖霊病院(194床、22診療科)の事業を藤田学園が承継することで8月31日に基本合意した。名古屋市の許認可など必要な手続きを経て、2027年4月1日の運営移行を目指す。病床数や診療科は原則維持し、訪問看護ステーションも引き継ぐ。残留を希望する職員は継続雇用する方針で、患者への診療提供を途切れさせずに経営基盤を強化する狙い。聖霊病院は1945年開院。内科、整形外科、精神科、緩和ケア科などを備え、初期医療から終末期医療まで担ってきた。約20年前の建て替えなどに伴う負債が2026年8月時点で約16億円残り、物価高や医療機器などへの投資負担、人材確保の難しさも重なって、自力での経営改善が困難となっていた。数年前から承継先を探し、緩和ケアやリハビリなど両法人の重点分野が重なることから協議が進んだ。藤田学園は藤田医科大学病院など複数の病院を運営し、グループ全体で計2,364床を有する。今回の承継は、地域医療再編の波が都市部にも及んでいることを示しており、厚生労働省の調査では、2024年度の一般病院の損益率はマイナス7.3%で、赤字施設は約7割。帝国データバンクによると、2026年上半期の医療機関倒産は39件と前年同期を上回った。物価・人件費の上昇、設備投資負担、医師・看護師不足が重なる中、中小病院単独での経営維持は難しさを増している。国も地域医療連携推進法人や病床削減支援などを通じ、病院間の連携・再編や経営効率化を後押ししている。藤田学園は愛知県内で地域医療連携推進法人の運営にも関わっており、今回の承継では大学病院グループの経営基盤と人材供給力を生かし、地域の診療機能を維持する考えだ。今後、都市部でも地域病院が大学病院や大規模医療法人の傘下・連携下に入る事例が増える可能性がある。 参考 1) 社会福祉法人聖霊会聖霊病院並びに聖霊病院訪問看護ステーションの事業承継について(聖霊病院) 2) 藤田学園 名古屋の聖霊病院を承継へ…基本合意 来年4月の移行目指す(読売新聞) 3) 名古屋 聖霊病院 藤田学園が運営引き継ぐ 経営基盤の改善へ(NHK) 4) 名古屋市昭和区の聖霊病院の事業、藤田学園が承継へ診療体制は維持(中日新聞)

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第329回 医師にバトンは渡された、OTC類似薬の保険給付の見直し

INDEX負担の対象となる医療用医薬品「別途の負担を求めない者」と「求めない療養」の範囲医師にも判断が委ねられる負担の対象となる医療用医薬品6月5日に公布された改正健康保険法などにより、これまで懸案だった一部の医療用OTC類似薬の処方に関し、2027年3月より一部保険外療養として別途の負担が求められることが決まっている。新たな制度で対象となるのはOTC医薬品と成分・投与経路が同一で、1日最大用量が同じ医療用医薬品77成分。主な対応症状は、「鼻炎、胃痛・胸やけ、便秘、解熱・痛み止め、風邪症状全般、腰痛・肩こり、みずむし、口内炎、皮膚のかゆみ・乾燥肌」などとされる。これらを使用する患者は、薬剤費の4分の1を保険外の別途負担として追加で支払うことになる1)。もっともこれを機械的に適用すると、一部の患者に不利益が生じる可能性がある。具体的には、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えているような医学的観点からOTC類似薬の長期使用が必要となる患者である。このため厚生労働省は「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」を設置し、6月から4回にわたって会合を開き、別途の負担を求めない患者や求めない療養の範囲について検討を行い、中間とりまとめを8月に公表した2)。まず前述のOTC類似薬77成分は、多くの場合、各成分とも医療用医薬品としての適応は複数ある。これと1日最大用量が同じ同一成分のOTC医薬品の適応を比較し、原則双方で適応が共通する場合は別途の負担の対象、医療用医薬品のみにある適応を別途の負担の対象外としている。この結果、77成分267適応のうち、184適応が対象、83適応が対象外となった。比較的わかりやすい事例を挙げると、抗アレルギー薬はOTC医薬品では花粉症に伴うアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎の適応で販売されているものが多く、この適応でのOTC類似薬側の処方は別途の負担の対象になるが、OTC医薬品が適応としていない気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などは対象外となっている。また、酸化マグネシウムではOTCの適応である便秘症は支払い対象、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、尿路シュウ酸カルシウム結石の発生予防では対象外である。「別途の負担を求めない者」と「求めない療養」の範囲一方、別途の負担を求めない患者やその療養範囲に関しては、患者分類などに応じて分かれている。まず、がん患者では「がんの治療中に、がんやその治療に関連して生じた状態」に対するOTC類似薬の使用は対象外。がん治療中の定義については「がんおよびその治療に関連して生じた状態に対し、現に治療行為を伴う診療を継続的に受けている場合または治療開始に向けて具体的な治療計画の下で継続的な診療管理を受けている場合」としている。これらの表現はややわかりにくいため、理解を深めるために『がん治療中(別途の負担の対象外)』には該当しない(=別途の負担が課される)事例を列挙する。がんの診断歴はあるものの、現在は再発なく、定期受診のみ継続しているがん術後で定期的な画像検査などによる経過観察を受けているものの、がんに対する薬物療法などの治療行為は終了がんの疑い・再発疑いで精査中前がん病変の状態がんやその治療に関連して生じた症状以外また、指定難病やそれに付随して発生する症状、国の公費負担医療の対象者が対象症状に対して用いる場合、医師の管理下で集中的かつ継続的な治療を受けている入院患者、検査・処置・手術の管理目的での14日以内の処方も、別途の負担の対象外となる。医師にも判断が委ねられる以上は比較的わかりやすいが、かなり判断がグレーになるのが「医師が対象医薬品の長期使用などが医療上必要と考える患者」である。ここでは、症状が季節や環境要因によらず持続し、医師の管理下で継続的な治療が行われている状態を指し、必ずしもその時点までのOTC類似薬の処方期間の長短を問わない。ただし、内服薬に関しては比較的使用期間が把握しやすいことから、年間処方日数がおおむね50週を目安としている。ただし、負担対象を判断する時点で50週の継続処方に該当しなくとも、初診から6ヵ月間にわたり、症状の持続・反復と対象OTC類似薬の継続的・反復的な使用が確認され、通年使用することが医療上必要であると医師が認めている場合は対象外である。さらに長期使用で問題になるのが、内服薬と異なり、使用量や使用頻度に個人差が大きく、処方量のみで長期使用が判断しにくい外用薬である。これについては、以下を踏まえて総合的に判断するとした。明確なようでかなり曖昧である。(1)慢性または反復性の疾患として明確に診断されている(2)該当成分の継続的または反復的な使用が症状緩和にとどまらない有用性・必要性があることが診療ガイドラインなどで示されている(3)継続の必要性が患者の自覚症状や使用感に過度に依存せず客観的に判断できる(4)同一または類似薬効群との均衡やOTC医薬品で対応している患者との公平性を確保できるちなみにこれ以外でも薬の類型による目安も設けられ、抗真菌外用薬、消毒薬、ステロイド外用薬、消炎鎮痛外用薬は、一時的な治療や急性増悪時に用いられることが多いとして、別途の負担の対象とし、皮膚保湿剤・保護剤はアトピー性皮膚炎に対するヘパリン類似物質と尿素、通年性アレルギーに対する点眼薬は対象外となった。この内容は8月26日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会でも事務方から報告され、この日の総会の議論の中心となった1)。とくに診療側委員から出た意見の中心は医療機関側の業務負担の増大である。以下は各診療側委員からの主な意見だ。<日本医師会常任理事 江澤 和彦氏>「これらの複雑な仕組みについて医師が患者さんの診察の都度判断し、医療機関として対応しなければならないこととなり、日常診療へ支障をおよぼすことにもなる。一般診療所の45%、一般病院の35%は紙カルテを用いて診療を行っており、この場合はこれらの管理は極めて困難をきたし、日々の診療に多大なる支障をきたすことが想定される」「今後の導入に向け、医師や医療機関の事務負担が最小限となる簡略なチェックリストの活用、あるいは電子カルテ・レセコンのベンダーに対する必要な情報の迅速な提供をお願いしたい」「制度が実施されると、医療機関の窓口で患者さんへの説明業務など混乱が生じることは明白。会計計算の複雑化など事務負担も非常に大きくなる。国が国民に対してこの制度についてわかりやすく説明いただくことが必須」<日本医療法人協会副会長 太田 圭洋氏>「対象薬を処方する際に、効能・効果、がんや難病との関連、長期使用の医学的必要性などを確認して、対象外の場合にはその理由をレセプトに記載するとともに、処方箋にも必要な情報を記載する形。これらを個々の医師が処方の度に確認して判断・入力することになれば、外来診療で相当な負担が生じることは明らか。年齢、公費、対象薬剤、過去の処方歴など機械的に判定できる項目は、可能な限りシステムで自動判定して、医師による入力は医学的判断が必要な最小限の項目に限定することが必要」「今後も当然、スイッチOTC化が進めば新たな成分が対象に加わることが想定される。その都度、医療機関や薬局にシステム改修やマスター更新を求めることになれば、恒常的な負担となる。対象薬の見直しを年1回など一定の時期に集約するとともに、対象薬の決定から実施まで十分な準備期間を設ける必要がある」<日本歯科医師会常務理事 大杉 和司氏>「歯科の特徴は院内処方で対応する小規模な歯科診療所が多いこと。窓口での患者説明や会計事務が新たに発生することが確実」<日本薬剤師会副会長 渡邊 大記氏>「長期収載品の選定療養と違い、対象患者(自身)が選択できない状況で負担が発生する。薬局は説明するというより、納得してもらう必要が生じてくる。その分、大変な業務負担がかかると思っている」<全国自治体病院協議会副会長 小阪 真二氏>「対象外の理由をレセプトに記載し査定があった場合は、最終的に患者自己負担として払うことになる。2~3ヵ月後に査定があったら、患者にもう一回請求するのか? 請求するならば当然事前に伝えねばならない。処方箋を渡す時に査定があったら2~3ヵ月後に再徴収がありますと説明しなければならないのか」中医協の診療側委員の意見は、一般論として「医療機関側の都合ばかり」と厳しい指摘もあるが、今回は「医療機関の混乱」≒「患者の混乱」の部分が多い。正直、私個人もこの制度には個別細部ではかなりモノ申したいことはそれなりにある。そもそもOTC類似薬の保険給付のあり方については、過去から同様の議論が行われながら、医学的・制度的な困難さと当事者からの反発で具体的な進展はなかったものだ。それが今回は政治主導、より踏み込んで言うならば自民党が連立を組む日本維新の会の主張に寄り添う形で性急に決められたものである。いわば結論ありきで帳尻合わせが行われている。少なくとも制度スタートまで半年を切った今、順調にスタートできそうだとはとても思えないのだが…。参考1)厚生労働省:OTC類似薬の保険給付の見直しの実施について(令和8年8月26日)2)OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会:OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ

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PREVENT-ASCVD式に石灰化スコア追加、予測能への影響/JAMA

 45~79歳の米国成人において、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスク推定式であるPredicting Risk of cardiovascular disease EVENTs(PREVENT)-ASCVDに、冠動脈石灰化(CAC)スコアを追加しても、すべてのリスク群全体でモデルの識別能および再分類能の改善はわずかであり、一部の群では変化がみられなかった。米国・ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のXiaoning Huang氏らが、同国6施設で実施された縦断的コホート研究「Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis:MESA試験」の解析結果を報告した。 米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)による2026年版の脂質異常症ガイドラインでは、PREVENT-ASCVD式を用いて推定されたASCVDの10年リスクが3%以上10%未満の場合はCACスコアの選択的使用が新たに推奨されているが、ASCVDリスク予測においてPREVENT式とCACスコアを併用することの有用性は明らかではなかった。著者は、「再分類の結果では、PREVENT-ASCVD式でボーダーライン~中等度リスクの患者に対し、CACスコアを選択的に活用することが支持される」とまとめている。JAMA誌オンライン版2026年8月26日号掲載の報告。MESA試験登録45~79歳の6,098例について解析 MESA試験は、心血管疾患(CVD)およびそのリスク因子を調査するために設計され、2000~02年のベースライン検査で臨床的なCVDを有していない45~84歳の成人6,814例が登録された。 研究グループは、ベースラインで79歳を超えていた参加者、PREVENT式で検証範囲外のリスク因子値を示した参加者などを除外した6,098例を解析対象集団として、CACスコアの追加前後におけるPREVENT-ASCVD式を用いたASCVDの10年リスクを分類した。 主要評価項目は、致死的および非致死的ASCVDリスク推定に関する性能指標で、Harrell C統計量、キャリブレーション、および純再分類改善度(NRI)を用いて評価した。PREVENT-ASCVD式にCACスコア追加で識別能はわずかに改善 解析対象6,098例のベースラインの患者背景は、平均年齢61.4歳(SD 9.6)、女性52%で、PREVENT-ASCVD式によるASCVDの10年リスクの平均値は6.4%(SD 4.8)、CACスコア>0が49%であった。 10年間の追跡期間中に、366例(6%)がASCVDイベントを発症した。 PREVENT-ASCVD式のHarrell C統計量は0.73(95%信頼区間[CI]:0.70~0.75)であった。PREVENT-ASCVD式にCACスコアを追加した場合、Harrell C統計量の変化は0.02(95%CI:0.01~0.03)、分類のNRIは0.095(95%CI:0.053~0.137)であった。 キャリブレーションの勾配は、PREVENT-ASCVD式のみで1.09(95%CI:0.93~1.25)、CACスコアを追加すると0.92(95%CI:0.81~1.03)であった。 ボーダーラインリスク集団においては、ASCVD発症率は、CACスコアが0の群で1.9%、>0~100未満の群で3.9%、100以上300未満の群で7.4%、300以上の群で14.3%であった。

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睡眠薬の切り替えまたは減量に関する推奨事項

 世界人口の10~30%が不眠症に罹患しているといわれている。また、睡眠薬を服用する人の4人に1人が、その薬剤に依存するようになるともいわれている。不眠症では、利用可能な薬剤の種類が多岐にわたるため、薬剤の切り替えは複雑である。しかし、これまでの推奨事項は、すべての薬剤クラスを網羅しているわけではなかった。そのため、欧州全体および各地域の診療の特性を考慮した、実践的かつエビデンスに基づいた推奨事項が求められていた。ドイツ・ケルン大学のGoran Hajak氏らは、睡眠薬の切り替えまたは減量に関する推奨事項について、ドイツ睡眠学会およびオーストリア睡眠学会の不眠症ワーキンググループによるナラティブレビューを実施した。Deutsches Arzteblatt International誌オンライン版2026年9月18日号の報告。 本ナラティブレビューは、英語およびドイツ語の6つのデータベース検索により抽出された、1953年5月~2026年2月までの文献(ガイドライン、メタ解析、システマティックレビュー、ランダム化比較試験、観察研究など)に基づいて行われた。文献レビューを行い、既存の不眠症ガイドラインを補完するための新たな推奨事項を、コンセンサス形成プロセス(コンセンサス会議およびそれに続くデルファイ法)により策定した。 主な結果は以下のとおり。・睡眠薬の短期使用(1~2週間)後、またはオレキシン受容体拮抗薬であるダリドレキサント、メラトニン、抗ヒスタミン薬、植物療法薬など、離脱症状を引き起こさない薬剤の場合は、漸減せずに治療を中止することが可能である。・ベンゾジアゼピン受容体作動薬、抗うつ薬、抗精神病薬、ガバペンチノイドについては、中長期使用(2週間超)後、週に10~25%の漸減を行い、段階的に減量すべきである。・薬剤、用量、使用期間、治療レジメン、その後の治療計画に応じて、さまざまな漸減方法を用いることが可能である。・高用量での使用(最大用量の3分の2以上)または長期使用(1年以上)後には、より時間をかけた減量が推奨される。・ベンゾジアゼピン受容体作動薬による離脱症状は、ダリドレキサントまたはエスゾピクロンによりオーバーラップ投与することで軽減できる。・非薬物療法として、行動療法の併用が推奨される(相対リスク:1.68、95%信頼区間:1.19~2.39)。 著者らは「睡眠薬の切り替えや中止を行う際には、エビデンスに基づき、かつ実践に即したプロトコールを用いた、薬剤ごとのアプローチを採用すべきである」と結論付けている。

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IPFの慢性咳嗽にガバペンチンは有効か

 特発性肺線維症(IPF)では咳嗽が高頻度にみられ、QOLを大きく損なう一方、有効な治療選択肢は限られている。ガバペンチンは難治性慢性咳嗽に対する咳嗽軽減効果が報告されているが、IPF関連咳嗽における有効性と安全性は明らかではない。今回、中国・Tongji UniversityのYaxing Zhou氏らが、IPF患者の咳嗽に対するガバペンチンの有用性を検討したところ、ガバペンチンはプラセボと比較して治療終了時の咳嗽軽減率を有意に改善し、安全性プロファイルは許容可能であった。Chest誌オンライン版2026年8月29日号に掲載。 本研究は、ATS/ERS/JRS/ALATガイドラインに基づきIPFと診断され、8週を超えて持続する慢性咳嗽を有し、咳visual analog scale(VAS)スコアが40mm以上の患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。患者をガバペンチン群またはプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付けた。ガバペンチンは12週間の治療期間中に最大900mg/日まで漸増し、治療後4週間のフォローアップを行った。主要評価項目は、治療終了(T4)時点において総Cough Symptom Score(CSS)がベースラインから50%以上低下した患者の割合(咳嗽軽減率)とした。安全性は、1回以上試験薬剤を投与されたすべての患者で評価した。 主な結果は以下のとおり。・2021年5月1日~2024年12月31日に72例がスクリーニングされ、このうち68例がガバペンチン群(34例)またはプラセボ群(34例)に無作為化された。・試験完了前に中止した患者は5例であった。・T4時点の咳嗽軽減率は、ガバペンチン群(73.5%)がプラセボ群(26.5%)より高かった。・咳嗽軽減率のプラセボ調整後の絶対差は、47.1パーセントポイント(95%信頼区間:26.1~68.0、p<0.001)であった。・治療期間中の有害事象は、ガバペンチン群32.4%、プラセボ群8.8%に認められた。・ガバペンチン群で多くみられた有害事象は、眠気、疲労、めまいであった。 本試験において、ガバペンチンはIPF関連咳嗽の治療において有意な有効性を示し、安全性プロファイルは許容可能であった。著者らは「これらの結果は、ガバペンチンがIPF関連咳嗽に対する治療選択肢となる可能性を示唆する」と結論している。

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フィネレノンは非糖尿病CKDのeGFR低下を抑制する(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(non-steroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)の非糖尿病慢性腎臓病(CKD)の腎機能低下抑制効果について、最近、二重盲検無作為化比較試験(RCT)のFIND-CKD研究の2報が報告された。1報は非糖尿病CKD患者全体を対象とした解析(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026;395:533-545.)であり、もう1報は、そのうち糸球体疾患を有する患者に限定した探索的サブ解析(CLEAR!ジャーナル四天王「フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある」)である。これらの解析から、フィネレノンには、非糖尿病CKD患者全体でeGFRスロープの低下を遅延化させる腎保護効果があることが示された。CKD腎保護薬としてのフィネレノンの位置付け 糖尿病を合併するCKDに対する腎保護療法としては、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)の4剤が推奨されている。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている。一方、nsMRAおよびGLP-1 RAは、これらの薬剤に上乗せして使用する薬剤として推奨されている(KDIGOガイドライン:Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。これらの推奨の根拠となったエビデンスは、糖尿病CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験、ならびに両試験の統合解析であるFIDELITYの成績である。一方、非糖尿病CKDではフィネレノンに関するRCTは実施されていなかった。今回のFIND-CKD研究で得られた非糖尿病CKDにおける肯定的な結果と、これまでに蓄積されてきた糖尿病CKDにおけるエビデンスを合わせて考えると、フィネレノンの腎保護作用は糖尿病の有無にかかわらずCKD全般で期待される可能性が示唆された。本研究の主要結果 FIND-CKD研究は、世界24ヵ国で実施された国際共同第III相二重盲検RCTである。糖尿病を合併しないCKD患者1,584例を対象とし、フィネレノン群793例とプラセボ群791例を比較した。対象患者の腎機能はCKD G3bが中心で、UACRは大部分がA3に相当する中等度~高度アルブミン尿を呈していた。また、57.0%は糸球体疾患を原疾患とするCKDであり、99.8%が最大耐用量のRAS阻害薬による治療を受けていた。 主要評価項目は、ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率である総eGFRスロープ。その結果、eGFRの平均年間変化率は、フィネレノン群で-3.3mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-3.6~-3.1)、プラセボ群で-4.0mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.3~-3.8)であり、群間差は0.7mL/分/1.73m2/年(95%CI:0.3~1.1、p<0.001)であった。 副次評価項目には、腎・心血管複合イベント、腎複合イベント、心血管複合イベントなど。腎・心血管複合イベントの発生リスクは、フィネレノン群でプラセボ群と比較して有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.60~0.99、p=0.04)。腎複合イベントのHRは0.78(95%CI:0.60~1.01)、心血管複合イベントのHRは0.60(95%CI:0.27~1.33)であった。 高カリウム血症の発現率は、フィネレノン群で17.0%(135例)、プラセボ群で13.3%(105例)であった。今後のCKD治療にどう影響する? CKDにおける腎保護の基本は、蛋白尿を減少させ、適切に降圧することである。加えて、糖尿病では血糖管理が重要であり、慢性糸球体腎炎・IgA腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などでは、ステロイド、扁桃摘出術、免疫抑制薬などが病態に応じて選択される。フィネレノンによるCKDの腎保護作用は、「MRの過剰活性化→炎症・線維化」という共通の経路を抑制することによる。FIND-CKDは、非糖尿病CKDにおいても同剤が腎保護作用を有するという仮説を検証したRCTである。本研究の意義と展望については、Dr. Robert TotoのEditorial(Toto R. N Engl J Med. 2026;395:600-601.)のコメントは参考になる。Totoは、「フィネレノンは、CKDや高血圧の病態の根底にあるMRの過剰活性化を抑制する可能性がある。FIND-CKD研究の成果は、フィネレノンを『糖尿病CKDの腎保護薬』から、非糖尿病CKDにおいても『MRの過剰活性化による残余リスクを抑制する薬剤』へと位置付ける可能性がある」と展望している。言い換えると、FIND-CKDはフィネレノンを、「糖尿病CKDの薬」から「CKD全般の腎保護薬」へと適応を拡大する根拠を提供した初めての研究ともいえる。もっとも、eGFR低下の遅延抑制に加えて、腎ハードエンドポイント(腎不全や透析開始など)への効果、CKD疾患別の効果、SGLT2阻害薬との併用効果など、今後検討すべき課題は残されている。 現在、国内外のガイドラインにおいて、非糖尿病CKDに対するフィネレノンの使用についての言及はない。しかし、本研究により、今後のガイドライン改訂において、同剤がCKD全般で新たな腎保護の治療選択肢として位置付けられる可能性が高い。実臨床で非糖尿病CKD患者において、フィネレノン投与を考慮すべき患者として、(1)UACRが中等度から高度、(2)eGFRが25mL/分/1.73m2以上、(3)ARBやSGLT2阻害薬による先行治療を行ってもなお残余リスクがある患者、が想定される。また、フィネレノン投与時には、高カリウム血症のリスクを念頭に入れ、血清カリウム濃度を適切にモニターすべきである。

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高血圧管理・治療ガイドライン2025(13):脳出血の降圧(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q174

高血圧管理・治療ガイドライン2025:脳出血の降圧(1)Q174『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では降圧目標値が設定・統一されたが、臓器障害合併時の降圧目標も一部追記や変更がされている。脳出血の急性期は、降圧目標をどれぐらいに設定するとよいだろうか?(〇〇〜〇〇mmHgの形で)

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制吐目的のオランザピン、糖尿病患者にも厳格管理下で投与可能へ/日本癌治療学会

 2026年8月25日、日本癌治療学会制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ(以下、WG)は、「制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理」について、ガイドライン速報版として公開した。同日に厚生労働省から添付文書の改訂指示が発出され、経口薬のオランザピンについては、警告が新設されると同時に禁忌の項が改訂された。 同ワーキンググループの安部 正和氏(浜松医科大学医学部産婦人科)は、本公表に至る経緯や臨床現場への期待について、以下のように本稿へコメントを寄せている。  「私と国立がん研究センター中央病院薬剤部の橋本 浩伸先生、矢内 貴子先生が中心となってシスプラチンレジメンを対象に行ったJ-FORCE試験、乳がんのAC療法を対象に日本で行われたJTOP-B試験、米国で行われたALLIANCE試験の3試験によって、オランザピンを含む4剤併用療法は、日本・米国・欧州のガイドラインにて、高度催吐性化学療法に対する標準制吐療法になりました。これまで日本でのみ糖尿病患者への投与が禁忌であったことから、国内の糖尿病患者さんだけがオランザピンを含む制吐療法を受けることができませんでした。  この臨床課題について、私と橋本先生は2年前に、日本がんサポーティブケア学会のCINV部会のミッションとしてオランザピンの糖尿病患者への投与禁忌解除を掲げ、活動を開始しました。CINV部会および制吐薬適正使用ガイドラインの関係者からの協力もいただき、オランザピンの治験データ、国内で行われたオランザピン5mgを含む制吐療法を検証した第III相試験の血糖値データ、オランザピンを使用した国内外のランダム化比較試験の文献、海外のオランザピンの添付文書、教科書的記載などを調査し、厚生労働省医薬局医薬安全対策課と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の方と安全な使用条件について検討を重ね、ようやく今回の添付文書に至りました。  抗がん剤に伴う悪心・嘔吐は患者さんがつらいだけではなく、コントロールが悪いと生命予後が短くなることが示されています。日本の糖尿病患者さんの制吐療法においてオランザピンが使用できることになったことは非常に喜ばしいことである一方で、安全に使用できることが非常に重要です。がん治療に関わる医療者の皆さまにおかれましては、WGが発出したガイドライン速報版の内容を十分確認の上、安全かつ適正な使用をお願いいたします」添付文書の改訂点【警告】<抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)>糖尿病又はその既往のある患者へ本剤を投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと。また、本剤投与前及び投与期間中は、毎日頻回に血糖値のモニタリングの管理を行い、本剤投与後も血糖値が安定するまではモニタリングを継続するなど患者の状態を継続的に観察するとともに、投与期間を通じて、緊急時に十分に対応できる体制を整えた上で投与すること。【禁忌】糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者↓<統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善>糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者厳格な血糖管理と入院管理の徹底 今回示された臨床管理の主なポイントは以下のとおり。・入院治療の適応:糖尿病またはその既往のある患者に制吐目的でオランザピンを投与する場合、血糖コントロールが安定していることを確認のうえ、入院管理で化学療法を行う。外来治療が可能な化学療法(AC療法や中等度催吐性化学療法など)であっても、高度催吐性リスクであるシスプラチンを含む化学療法と同様に入院管理で実施する。・事前コンサルト:化学療法前の検査で糖尿病が判明した場合や血糖コントロール不良例では、あらかじめ内分泌内科・糖尿病内科へコンサルトを行い、十分なコントロールを得た上で治療を開始する。・血糖管理:日常臨床で行われているスライディングスケール(毎食前±眠前の1日3〜4回の血糖測定)を用いた厳格な血糖管理を行う。・入院(投与)期間と退院基準:標準制吐療法のオランザピン投与日数(1〜4日目の4日間)を遵守し、追加投与が必要な場合も入院管理を継続して必要最低限にとどめる。オランザピンおよび併用するデキサメタゾンの投与期間・投与量に留意し、食前血糖値200mg/dL未満など血糖値が安定した状態を確認して退院を計画する。・退院後の外来管理・緊急対応:自己血糖測定(SMBG)患者での食前血糖値200mg/dL以上の継続・300mg/dL以上の高血糖時、SMBGが保険診療上できない患者での口渇・多尿・倦怠感などの発現時には、夜間・休日を問わず受診している医療機関に連絡・受診するよう指導を徹底する。カルテへの明確な記載や院内マニュアルを整備し、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の安全管理体制と同様に、多科・多職種による安全管理体制の構築を推奨する。禁忌解除の要望が実現 多元受容体拮抗薬(MARTA)で非定型抗精神病薬のオランザピンは、発売開始後の公知申請によって、2017年に抗悪性腫瘍剤(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)に対する効果的な制吐薬として承認されている。また、2023年10月に改訂された『制吐薬適正使用ガイドライン第3版』では急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった点などが反映されたことで、現在では臨床で広く浸透している。その一方で、重大な副作用として著しい血糖値の上昇や糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等が報告されていたことから、「糖尿病またはその既往のある患者には投与禁忌」とされ、糖尿病歴のある患者が化学療法を行う際に、制吐対策が限定される状況であった。しかし、これまで報告されている本薬の有効性を検証した臨床試験において、「重篤な高血糖関連事象は報告されていない」「本薬を含む4剤併用の制吐療法は、国内外のガイドラインにおいて高度催吐性リスクの化学療法に対する標準制吐療法になっているが、本邦のみ本薬が糖尿病患者に対して禁忌」であることを踏まえ、WGにより禁忌解除の要望書を2026年4月9日付けで厚生労働省に提出。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価でも支持を受け、今回、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」の効能に対しては、禁忌を解除し、慎重投与可能と判断されるに至った。 今回の速報版は、ガイドライン上の既存の推奨内容を変更するものではないが、糖尿病またはその既往のある患者であっても、適切な厳格管理体制を整えることでオランザピンを制吐目的で安全に投与・活用できるようにするための具体的な管理手順および留意点を取りまとめたものである。薬物動態と臨床試験データ さらに速報版では、制吐目的での短期投与に関する薬理学的データや臨床試験成績も提示されている。オランザピンの半減期は約33時間であり、定常状態に達するには約1週間(約163時間)を要するため、標準的な4〜6日間の連続投与時点では血中濃度が上がり切っていない状態にある。また、日本国内で実施された各種ランダム化比較試験(J-FORCE試験、JTOP-B試験、肺がんカルボプラチン試験など)のデータにおいて、制吐薬としてオランザピンを短期間併用した群と対照群との間で、Grade3〜4の重篤な高血糖発現率に大きな差は認められていない。 制吐目的での短期投与における高血糖関連有害事象のエビデンスがまだ十分に集積されていない現状を踏まえ、本速報版では臨床現場でより安全にオランザピンを使用するための慎重なリスク管理体制が提示された形だ。

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急性期うつ病に対する21種類の抗うつ薬の比較~ネットワークメタ解析

 うつ病は、成人の精神疾患において世界的に頻度が高く、負担が大きく、かつ多大なコストを要する疾患の1つである。うつ病の治療では薬物療法と非薬物療法の両方が利用可能である。しかし、リソースが不十分であるため、心理的介入よりも抗うつ薬が頻繁に使用されている。これらの抗うつ薬の処方は、利用可能な最良の科学的根拠に基づいて行われるべきである。英国・オックスフォード大学のAndrea Cipriani氏らは、成人単極性うつ病患者に対する急性期治療薬としての抗うつ薬を比較、順位付けしたこれまでの研究を更新、拡張することを目的とし、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Focus(American Psychiatric Publishing)誌2026年4月号の報告。 Cochrane Central Register of Controlled Trials、CINAHL、Embase、LILACSデータベース、MEDLINE、MEDLINE In-Process、PsycINFO、規制当局のウェブサイト、国際的な臨床試験登録データベースを検索した。各データベースの開始時から2016年1月8日までの期間における、公表済みおよび未公表の二重盲検ランダム化比較試験(RCT)を対象とした。標準的な操作的診断基準に基づきうつ病と診断された18歳以上の成人うつ病患者の急性期治療に用いられる抗うつ薬21種類について、プラセボ対照試験および薬剤間直接比較試験を解析対象に含めた。準ランダム化試験、不完全な試験、あるいは双極症、精神病性うつ病、治療抵抗性うつ病の参加者が20%以上含まれる試験および重篤な身体合併症を有する患者を含む試験は解析対象から除外した。事前に定めた優先順位に従い、データを抽出した。ネットワークメタ解析においては、群レベルのデータを使用した。介入に関するシステマティックレビューのコクランハンドブックに基づき各研究のバイアスリスクを評価した。また、エビデンスの確実性は、GRADEを用いて評価した。主要アウトカムは、有効性(治療反応率)および受容性(すべての原因による治療中止)とした。ランダム効果モデルを用いたペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析により、統合オッズ比(OR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2万8,552件の文献を特定した。そのうち522件(11万6,477例)の試験を解析対象とした。・有効性に関しては、すべての抗うつ薬がプラセボよりも高い効果を示した。ORの範囲は、アミトリプチリンの2.13(95%信用区間[CrI]:1.89~2.41)からreboxetineの1.37(95%CrI:1.16~1.63)であった。・受容性に関しては、プラセボと比較して脱落が少なかったのはagomelatine(OR:0.84、95%CrI:0.72~0.97)とfluoxetine(OR:0.88、95%CrI:0.80~0.96)のみであり、クロミプラミンはプラセボよりも不良であった(OR:1.30、95%CrI:1.01~1.68)。・すべての試験を考慮した場合、抗うつ薬間のORの差は、有効性については1.15~1.55、受容性については0.64~0.83の範囲であったが、多くの比較分析においてCrIは広範囲に及んでいた。・直接比較試験において、agomelatine、アミトリプチリン、エスシタロプラム、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンは、他の抗うつ薬よりも高い有効性を示した(ORの範囲:1.19~1.96)。一方、fluoxetine、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドンは有効性が低かった(ORの範囲:0.51~0.84)。・受容性に関しては、agomelatine、citalopram、エスシタロプラム、fluoxetine、セルトラリン、ボルチオキセチンが、他の抗うつ薬よりも良好であった(ORの範囲:0.43~0.77)。一方、アミトリプチリン、クロミプラミン、デュロキセチン、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドン、ベンラファキシンは、脱落率が高かった(ORの範囲:1.30~2.32)。・バイアスリスクは、522件の試験のうち46件(9%)が「高」、380件(73%)が「中」、96件(18%)が「低」であった。・エビデンスの確実性は「中」から「きわめて低い」の範囲であった。 著者らは「成人うつ病において、すべての抗うつ薬はプラセボよりも高い有効性を示した。プラセボ対照試験を解析に含めた場合、実薬同士の比較では薬剤間の差は小さくなったが、直接比較試験では、有効性や受容性に大きなばらつきが認められた。これらの結果は、エビデンスに基づく診療に役立つとともに、患者、医師、ガイドライン策定者、政策立案者に対し、各抗うつ薬の相対的な利点に関する情報を提供するものである」としている。

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同種iPS細胞由来の心筋細胞と間質細胞から成るパッチ型心筋移植片BioVATは心不全治療に有望かも(解説:原田和昌氏)

 BioVATは同種iPS細胞由来の心筋細胞と間質細胞から成るパッチ型心筋移植片で、LVEFが低下した心不全患者における心筋再筋肉化を目的とする。ドイツ・ゲッチンゲン大学のZimmermann氏らはBioVAT-HF研究において、ドイツの2施設で非盲検第I/II相研究を実施し、外科的なBioVAT移植が3ヵ月の時点で有意な標的壁厚の増加とLVEFの上昇、健康状態の改善をもたらしたと報告した。 対象はLVEF 35%以下の症候性の重症心不全で、少なくとも1つの左室セグメントに壁運動の低下または異常を認め、ガイドラインに基づく薬物療法に抵抗性である年齢18~80歳の患者であった。被験者は、5、10、20単位の人工心筋から成るBioVAT移植片による治療を受け、全例に免疫抑制療法を行った。26例(平均年齢59歳、男性23例、平均罹患期間4.6年)を登録し、20例がBioVAT移植による治療を受けた。 全患者で有害事象が発現し、196件の有害事象のうち57件が重篤な有害事象であった。3例(5件)で心室性頻拍を認めたが、BioVAT移植と関連がない可能性が高かった。また、心室細動が発生した患者はいなかった。研究期間中に3例が死亡し(血管麻痺を伴うSIRS、新型コロナウイルス感染症、大動脈解離)、BioVAT移植と関連がないと判定された。また、1例が心臓移植を受けた。4例で免疫抑制療法が中止された。中止理由は、植込み型左室補助人工心臓(LVAD)の装着が2例、腎不全が1例、尿路上皮がんが1例であった。BioVATの安全な最大用量による治療を受けた16例のうち、12例が事前に規定された中間解析のための3ヵ月間の追跡調査を完了した。3つの有効性の主要エンドポイントは3ヵ月の時点でいずれも有意に改善した。標的壁厚の最小二乗平均の値は4.5mm(90%信頼区間:3.7~5.4、p<0.001)増加し、LVEFは3.9%ポイント(0.9~6.8、p=0.04)上昇した。また、KCCQ-OSSは6.7点(1.0~12.5、p=0.06)上昇した。 心筋再生医療において、自己の骨格筋芽細胞シートを用いた「ハートシート」は10年を経て有効性の基準を満たさず販売中止となった。しかし、同種iPS細胞由来の心筋細胞をシート状に加工した心筋細胞シート「リハート」が最近、条件および期限付き製造販売承認を取得した。これには短期間の免疫抑制療法を併用する。一方、同種iPS細胞由来の心筋細胞を球状の微小組織にした心筋球を移植する「ハートシード」(免疫抑制療法の併用が必要)を用いた第I/II相試験であるLAPiS試験の結果がESC2026で発表された。BioVATは同種iPS細胞由来の心筋細胞と間質細胞から成るパッチ型心筋移植片(オルガノイド)を用いたという新味はあるものの、小規模な単群試験であり有効性もサロゲートエンドポイントであることから、本試験にて効果の持続性や長期的安全性を判断することは難しい。

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乳がん治療の変遷と今後【温故知新30年】

講師紹介30年間における乳がん患者数の急増と社会現象30年前(1996年)、私は名古屋市立大学外科医局で乳腺内分泌外科の助手をしていた。その当時、大学の乳がん症例は年間30例ほどであり、着任したばかりの胸部外科の教授との面談で、「将来は乳腺診療一本でやっていきたい」と話をしたら、「乳腺を専門にするだけではやっていけないよ」と諭された。その後、乳がん患者数の急増により、生涯で女性の8人に1人が乳がんになり、年間の新規乳がん患者数は10万人を超える時代になった。乳がんに対する学会活動も、30年前は日本乳癌学会の黎明期であり(1993年が第1回学術総会)、日本臨床腫瘍学会はまだ産声を上げていなかった。対策型乳がん検診にマンモグラフィ(MMG)が導入されたのは2000年であり、30年前は視触診のみ行われていた。しかし、患者数の増加とともにさまざまな市民活動が始まった。MMG検診普及事業と連携して海外で行われていたピンクリボン運動が2002年に朝日新聞主催で開始された。MD Andersonなど米国のCancer Centerから導入されたチーム医療の考え方は瞬く間に日本中に広がり、今では常識的な体制になっている。2013年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)でリスク低減乳房切除(RRM)を受けたことをきっかけに、HBOCの認知度が高まり、それとともに学会活動(2016年 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構[JOHBOC]設立)も始まった。HBOC診断のためのBRCA遺伝学的検査、RRM、リスク低減卵巣卵管切除(RRSO)の保険適用などは日本独自の画期的な取り組みである。がん医療の進歩は治療だけでなく、取り巻く社会環境、医療環境も大きく変化したと感じる。30年前の標準治療(架空症例)【症例】60歳女性、しこりを自覚して外科を受診【診断】視触診、MMG、超音波検査でしこりを認識し、摘出生検で乳がんと診断【治療(手術)】腋窩リンパ節腫大はないが、乳房全摘術+腋窩郭清術を施行【病理結果】浸潤径:2cm、腋窩リンパ節転移:1/25、ER陽性・PgR陽性(HER2測定は標準的に行われていなかった)【治療(薬物療法)】術後は再発予防のために、AC療法(アドリアマイシン+エンドキサン)4回点滴投与し、その後TAMを2年間内服。術後は1年ごとにCT、骨シンチなどで再発チェックを行う30年間の局所治療の進歩1)手術療法の進歩30年前は、乳がんであれば全例腋窩郭清術が行われ、多くの患者さんが術後上腕浮腫の合併によりQOLが低下した。革新的な進歩はセンチネルリンパ節生検(SLNB)の導入である。米国で開始されたSLNBの概念は1998年に日本へ紹介され、2003年に先進医療として開始、2010年に保険承認された。その後SLNBの適応が少しずつ広がり、一部の症例ではSLNB陽性でも郭清しないことが標準治療となっている。乳房に対する手術療法の変化は、1990年代後半から2000年代前半にかけて乳房温存療法が急速に広がったことだ。背景には乳房部分切除+放射線治療の有効性が国際的に確立したこと、ガイドラインの普及、検診MMGの導入で小さながんが発見されるようになったことが挙げられる。同時に、マスコミは温存率の高い病院を『いい病院』とするようなキャンペーンを打ち上げた。これにより各病院は温存率を上げるために、無理をして乳房を残し(温存率90%の病院もあった)、結果として断端陽性症例が増加し、乳房内再発例が増えたことは負の歴史である。その後は全摘+再建術の普及により、乳房温存率は適切な数字に落ち着いている。再建手術の普及により、治す時代から整容性も追求する時代になった。2013年に日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会(JOPBS)が設立され、同年乳房再建用シリコンインプラントが保険適用となった。2006年に保険適用になった自家組織(腹直筋皮弁、広背筋皮弁など)による乳房再建とともに、乳房再建術が標準治療として認知される時代である。2)放射線治療の進歩乳がん患者への放射線治療は、温存術が広まると同時に全国に普及した。乳房を残す手術をした場合には、残存乳房に放射線照射をすることが標準治療である。またリンパ節転移が4個以上の再発ハイリスク患者では、胸壁+鎖骨上照射(PMRT)で生存率の改善が認められ、放射線照射を受ける患者数は増加した。30年間、放射線治療方法自体に大きなパラダイムチェンジはないが、術後照射回数が25回から16回への過分割照射のエビデンスが出て、回数を減らす方向に向かっている。転移・再発治療における放射線治療については、脳転移に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)や、重要臓器を避けて照射する強度変調放射線治療(IMRT)など技術の進歩によって、痛みの緩和をベースにさまざまな場面で放射線治療が導入されることが多い。3)全身薬物療法の進歩この30年で薬物療法の革新的な進歩には目を見張るものがある。30年前に使えた薬は抗がん剤が数種類、ホルモン剤はタモキシフェン、分子標的薬という概念はなく、乳がんをサブタイプで考えることもなかった。この30年で使用可能になった薬剤を示す画像を拡大する周術期に全身薬物療法を行うタイミングも、2000年代前半から術前化学療法の臨床試験が国内外で活発に行われた。得られた多くの知見によって、より個別化した適応が現在の標準治療と位置付けられる。サブタイプに分けて考え、ER陽性HER2陰性のLuminal typeは原則手術先行であり、手術の結果で得られた臨床病理学的所見とともに、多遺伝子アッセイ(Oncotype DX)によって化学療法の必要性を判断する時代である。ER陰性HER2陽性のHER2 typeやtriple negative(TN)typeでは、術前化学療法が積極的に行われる。術前化学療法後の病理診断でpCRであった症例の予後はきわめて良好であり、non-pCR症例では予後の改善を目的に、術後追加治療(HER2 typeではT-DM1、TN typeではカペシタビン)を加えるのが標準治療である。転移再発乳がん治療では、新規薬剤開発と並行して生存期間の延長が顕著である。30年前、HER2 typeの再発後生存期間は2年に満たなかったのが、多くの抗HER2薬の導入により今では6年を超える生命予後が期待できる。なかには完治したのではないかと思われるケースも存在する。Luminal typeは長くホルモン治療単独の時代が続いたが、CDK4/6阻害薬が承認され、バイオマーカーによる薬剤選択が標準化したことで今後の生存期間延長が期待できる。TN typeでは免疫チェックポイント阻害薬、ADC(抗TROP-2 ADC、T-DXd)の開発で抗がん剤しか手段がない状態が改善した。私にとってのパラダイムシフト・イノベーション2002年に始まったHERA study(術後トラスツズマブの有効性を評価する国際共同治験)へ参加したこと、患者登録とASCOでの発表(2005年)でスタンディングオベーションを現場で体験したこと、そしてNEJM誌への共著者として掲載されたことで人生が変わった。臨床研究(試験)による標準治療構築、新薬開発の道は今も続き、JCOG乳がんグループ代表を2010年から14年間務めた。その間、並行して多くの企業とともに日本に導入された数々の新薬開発にも携わり、たくさんの仲間とともに標準治療を変える臨床試験を立案、実行してきたことはかけがえのない財産である。次の5年で乳がん診療はどう変わっていくか最も注目しているのはMRD(minimal residual disease)研究である。周術期薬物療法は、臨床病理学的因子やOncotype DXに基づき、再発リスクを鑑みて薬剤選択をしてきた。しかし、無治療でも再発しない方が多数存在することも事実である。残念ながら今まではそれを予測できないために、多くの患者さんに治療が行われてきた。今、高感度MRD assayにより、術後MRD陰性の方の予後はきわめて良好なことが判明しつつある。術前治療の効果判定、術後の予後予測、再発予防治療の選択などにMRD assayが導入される時代が、すぐそこまで来ている。もう一つの注目は人工知能(AI)の導入である。画像診断、病理診断ではAI導入による臨床試験の結果(positive)も報告され、一般診療に導入される夜明け前の状態だ。さまざまな場面での薬剤選択も、gene signatureで予測していた時代から、膨大な遺伝子情報から導き出されたアルゴリズムによるAI pathologyで、薬剤の必要性を判断する時代が来ると予想する。安価で簡便な方法であり、技術進歩による歩みは止まらないだろう。最後に、世界の中での日本を俯瞰した時、東アジア各国の台頭により日本のプレゼンスが弱くなっている。新薬開発分野、標準治療構築のための国際協働の枠組みに日本がはじかれることのないように、医療体制・医学教育全体の見直しが急務だと考えている。

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Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス~Lp(a)の今をインタビュー(後編)

前編では、Lp(a)の第一人者であるDr. Florian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学遺伝疫学研究所 教授/所長)が治療薬のない状況であっても「Lp(a)測定が重視される」のか、Lp(a)が心血管疾患(CVD)イベントの生涯リスクに及ぼす影響を中心に解説した。後編では、Lp(a)測定が失速した30年前の出来事の振り返り、1次予防への測定意義や日本の医療への期待などについて語った。※前編はこちら(8月18日公開:5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために)INDEX30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用専門家が伝えたい4つの重要プロセス測らない理由なんてあるのか?スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること―30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史なぜ、Lp(a)測定が失速してしまったのか。それは1990年代にアメリカで行われた大規模な研究において、「Lp(a)と心血管アウトカムには関連性がない」という結果が報告されたことが要因でした。しかし後になって、当時の測定法には技術的な問題があり、それがこのような否定的な結果につながったのではないかと考えられるようになりました。この研究結果により、Lp(a)研究は一度完全に死にかけました。私がこの分野に関わり始めた頃も、周囲から「その分野はやめなさい、もう死んだ分野だから」と言われたものです。しかし、私は遺伝子データから「Lp(a)高値の人は遺伝的に心血管リスクが高いはずだ」という確信を持っていたため、研究を続けました。その後、大きな転機が訪れました。デンマークの研究グループが10万人規模の膨大なビッグデータを持って(われわれの研究に)参入してきたのです。彼らのデータを解析した結果、Lp(a)が高い人は将来明らかに心血管イベントを起こしていることが判明しました1)。さらに、彼らが私たちの遺伝子解析手法をその10万人に適用したところ、遺伝子変異とLp(a)高値、そして心血管疾患の間に強固な因果関係があることが完全に証明されたのです。その後、『2022年EAS Lp(a)コンセンサスステートメント』の作成にあたって、イギリスの「UKバイオバンク」が持つ50万人規模のデータを解析したところ、その結果も同様の方向性を示していました。現在では欧米だけではなく、日本を含めた世界中の研究グループが同様の関連性を確認しており、世界基準の事実となっています。―CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用2025年にブリュッセルで開催され、『Brussels International Declaration on Lp(a) Testing and Management』2)の策定につながった「Lp(a) Global Summit」において、Lp(a)測定を心血管疾患(CVD)の1次予防として行う費用対効果に関する世界初の解析結果が発表され3)、Lp(a)を広くスクリーニングすることで、多くの心筋梗塞や虚血性脳梗塞を回避し、結果として医療費の大幅な削減につながることが証明されたのです。たとえば、20~30代の若者が自身のLp(a)が高値だと知ったとしたら、「血圧をしっかり下げよう」「禁煙しよう」「糖尿病を予防しよう」という強力なモチベーションにもなります。当然ながら、心筋梗塞や脳梗塞を経験した2次予防の患者さんがLp(a)を知ることもきわめて重要です。現実として、心筋梗塞後の患者の一部で、1年後にコレステロール低下薬の服用を止めてしまっているというデータがあります。しかし、自分が「Lp(a)高値という高リスクを抱えている」と知っていれば、将来の再発を防ぐために“従来のリスク因子に対する治療を継続する”強い動機となり、結果としてアドヒアランスの向上にもつながります。つまり、Lp(a)測定はCVDリスクの1次予防と2次予防の双方に重要と言えるのです。Lp(a) Global Summitでの一枚後方左から2番目がKronenberg氏、前方左から3番目には斯波 真理子氏が写る画像を拡大する繰り返しになりますが(前編参照)、心血管イベントの絶対的な生涯リスクは、Lp(a)が高かったとしてもほかの従来の一般的なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)を減らすことで低減させることができるため、Lp(a)自体は生活習慣で下げることができなくても、「ほかの従来の一般的なリスク因子を徹底的に管理しようという意識を高める」というアプローチを取ることができます。「Lp(a)は現在の薬で下げられないのに、なぜ測るのか?」という疑問を持つ人が医療者の中にも存在しますが、「Lp(a)が高くて下げられないからこそ、ほかの従来の危険因子を徹底的に管理しようという意識を高めるために、今すぐ測定すべきだ」というのが私の答えです。Lp(a)値を把握せず、従来のリスク因子に対する治療も十分に行わないというのは、まったく意味がありません。―専門家が伝えたい4つの重要プロセスそこで、多くの国際的なガイドラインとも一致する、私が皆さんにお伝えしたい重要なアドバイス4点を紹介しましょう。1.全員、人生で少なくとも一度はLp(a)を測定すべきである2.リスク評価の際は、Lp(a)の値だけでなく、全体のバランス、患者の全体像、そのほかのリスク因子も含めて総合的に判断する3.Lp(a)が高値である場合は、ほかのコントロール可能なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、喫煙など)を徹底的に治療・管理する4.Lp(a)高値がみつかった場合は、その「家族(親、子、兄弟姉妹)」も機会があれば早めに検査を行う測定タイミングは、初めて脂質プロファイル(健康診断などの血液検査)を取るときが理想的で、早ければ早いほどいいでしょう。Lp(a)は遺伝的要因が非常に強いため、家族歴こそが最大のヒントになります。もしご家族や親戚に若くして心筋梗塞や脳卒中を起こされた方がいる場合は、Lp(a)高値が関連している可能性が疑われます。ぜひ、そのような患者さんにLp(a)測定を強くお勧めします。次にLp(a)の基準値(カットオフ値)の考え方について解説しましょう。Lp(a)のリスクは、ある数値を境に白黒はっきり分かれるようなカットオフ値(閾値)ではなく、数値が高くなるにつれてリスクが上昇していく“連続的なもの”として捉える必要があります4)。たとえば、122nmol/Lだから安全で、127nmol/Lだから危険、という単純な生物学的区切りはありません。測定法や標準化の違いによって105や125という数字のブレは生じますが、本質的なリスクに大差はありません。絶対的な一律の区切りが必要なのではなく、患者個人の全体的なリスク(糖尿病などの有無や既往歴)に応じて、個別に数値を評価し対応する必要があるものです。LDL-Cの基準値も、まったくリスクのない人であれば欧州では「116mg/dL未満」が目安ですが、心筋梗塞の既往があれば「55mg/dL未満」、さらに、同時に末梢動脈疾患(PAD)などを合併していれば「40mg/dL未満」と患者背景やリスク因子の重なりによって目標値が変わるように、Lp(a)も同様に、ほかのリスク因子と合わせて総合的に判断すべきです。―測らない理由なんてあるのか?実際に心イベントを繰り返した患者さんが、「ガイドラインで推奨されていたのに、なぜ何年も前にLp(a)を検査してくれなかったのか」と医師に不満を訴えるような事例は世界で起きています。同様のことを繰り返さないためにも医師への啓発を進め、Lp(a)測定を通常の診療プロセスに組み込む必要があります。さらにポジティブなニュースとして、現在、Lp(a)自体を劇的(80~90%)に低下させる新薬の臨床試験が進んでいます。最終的な試験結果を待つ必要がありますが、これが承認されれば、2次予防の患者さんに対してさらなるイベント再発を防ぐ強力な選択肢を提供できるようになります。―スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること日本のスクリーニングは間違いなく他国の一歩先を行っています。日本には成人健康診査のみならず、小児期という非常に早い時期から検診が行われているケースもあると聞きました。これは国として大変重要な取り組みであり、今後Lp(a)のスクリーニングを導入していく上でも、素晴らしい土台です。これは私にとっても大きな学びとなり、欧州に戻ったらぜひ共有したいと思っています。しかし、「スクリーニングが行われていること」は一側面に過ぎず、「スクリーニング結果を踏まえ、どのように対応(治療・管理)するか」という点においては、まだギャップ(課題)があると感じています。これは日本に限った問題ではなく、世界中で直面している課題でもあります。政策立案者にとっては、常に自国のデータが重要となるため、一般住民を対象とした大規模コホートを構築し、「Lp(a)高値の有病率」「 Lp(a)が日本でもリスク因子である」ことを示す予後データを構築することが望まれます。後者についてはLEAP研究5)をはじめ、質の高い研究によるデータが多ければ多いほど、医療コミュニティでLp(a)が受け入れられる可能性は高くなります。日本には企業健診など、素晴らしいスクリーニングシステムがありますよね。肉体労働者から事務職まで(幅広い職域を)含む代表的な集団を雇用している大企業に研究協力してもらえれば、多数の対象者を迅速かつ低コストで集めることができます。このときに必要なのはLp(a)測定にかかる追加費用のみです。もちろん将来的には、医師がLp(a)測定を行うようになることが重要です。現在、日本動脈硬化学会が主導するLp(a)に関するコンセンサスステートメントが間もなく発刊される予定だと聞いています。これは欧米のガイドラインの「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべき」と完全に整合性の取れた内容になるでしょう。また、順天堂大学の三井田 孝氏らが日本国内での測定法の標準化を先導されていますが、国際的にもIFCC(国際臨床化学臨床検査医学連合)が中心となって、Lp(a)測定の標準化を進める取り組みが動いています。これらが整えば、次は実装段階に入っていきます。今後、日本からLEAP研究5)やLp(a)JAPAN study6)のサブ解析結果や心血管リスクに関する大規模な試験などが発信されれば、政策提言や医療者を説得する上でも非常に強力な材料になるでしょう。スクリーニングのさらなる普及を含め、日本における今後の発展に大いに期待しています。 参考 1) Kamstrup PR, et al. Circulation. 2008;117:176-184. 2) Kronenberg F, et al. Atherosclerosis. 2025;406:119218. 3) Morton JI, et al. Atherosclerosis. 2025:409:120447. 4) Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. 5) Yamada T, et al. J Atheroscler Thromb. 2026;33:1049-1059. 6) Kataoka Y, et al. Eur Heart J. 2026 May 24. [Epub ahead of print]

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