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コーヒーは多くの方にとって、朝の目覚めから仕事の合間の息抜きまで、幅広い場面で登場する身近な存在でしょう。健康への影響についてはさまざまな研究があり、「適量であれば体に良い」という話を耳にされたことがあるかもしれません。実際、コーヒーの摂取と2型糖尿病1)やパーキンソン病2)のリスク低下との関連を示した研究がこれまで報告されています。しかし、最近スウェーデンの大学の研究者が公表した研究3)によれば、ただコーヒーを飲むかどうかだけではなく、コーヒーの「淹れ方」にも注目する必要があるかもしれないということです。今回は、この研究の内容と結果をお伝えしたいと思います。フィルターの有無が生む意外な差今回ご紹介する研究では、いわゆる「悪玉」コレステロールであるLDLコレステロールの値を上昇させる可能性があるジテルペンがコーヒーに含まれる量を、職場や公共施設などに設置されているコーヒーマシンで抽出したコーヒーやドリップコーヒーなどを対象に測定しています。すると、紙フィルターを通すドリップ式と比べて、構造上フィルターの機能が弱いコーヒーマシンでは、ジテルペンが高い濃度で残る傾向がみられたのです。図. 各種コーヒー抽出液のジテルペン(カフェストール)含有量Orrje E, et al. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2025 Feb 20. CC BY 4.0画像を拡大する以前から、トルコ式コーヒーやフレンチプレスなど「湯で煮出す」タイプ、あるいはフィルターを通さない抽出法ではジテルペンが多く含まれることが知られていました。これを踏まえ、一部の北欧諸国では「紙フィルターを用いてコーヒーを淹れる習慣」を推奨するガイドラインが示されています。実際、研究チームも「1日に何杯もコーヒーを飲む人が、紙フィルターを通さない淹れ方ばかりを選択すると、LDLを押し上げるリスクが高まるかもしれない」と指摘しています。日本人の日常にどう影響するのか日本ではコンビニやカフェ、自動販売機などから手軽にコーヒーを購入する機会が多いですが、これらがどのような抽出法かを常に意識する人は少ないかもしれません。とりわけ、職場にあるコーヒーメーカーで何杯も飲む方は、マシンが紙フィルターを使うドリップ方式なのか、それとも濃縮液をお湯で割るリキッド方式なのかなどを一度確認してみるのもよいかもしれません。研究では、リキッド方式のマシンではジテルペンが抑えられる傾向がある一方、抽出型のマシンではジテルペン濃度が高めになる可能性が示唆されています。また、エスプレッソのように短時間で高圧抽出する場合、特に高いジテルペン量が検出されたと報告されているため、日常的に何杯もエスプレッソまたはカフェラテなどを飲まれる方は注意が必要かもしれません。ただし、断定的に「エスプレッソは危険だ」とするものでもありません。実際の健康への影響がこの研究で測定されているわけではないため、一概に「どの淹れ方でどれほど健康リスクが高い」という話はできないからです。また、仮に健康リスクとの関連があったとしても、量も物をいうでしょう。しかし「フィルターをしっかり通したコーヒーの方が、余計なコレステロール上昇リスクを抑えやすい」という認識は持っていてもいいのかもしれません。コーヒーは香りや風味、リラックス効果など、多くの人を魅了する存在です。その一方で、こうした研究をきっかけに、淹れ方や飲み方にも少し目を向けてもいいのかもしれません。コーヒーに関する研究は無数にありますが、その淹れ方で分けると、研究結果が変わってくるのかもしれません。そうした視点は著者の私にもなかったので新しい発見で、体に良いイメージのあるコーヒーだからこそ、抽出法のようなディテールにも今後の研究で目を向けていく必要があるのでしょう。総じて、今回の研究結果だけをもとに「絶対に紙フィルターを使うべき」などと極端に捉える必要はないでしょう。あくまで自分の生活に合ったスタイルを保ちつつ、もしコーヒーをよく飲まれる方は適切なフィルターを選んだり、飲む頻度を一度見直してみたりしてもいいのかもしれません。今後さらに健康への直接的な影響を評価した研究が行われれば、この「淹れ方」による違いが実際問題どの程度の影響をもたらすのかが明確になるでしょう。いずれにせよ、同じコーヒーでも 「抽出方法の違い」が健康上の意味を持つかもしれないという鋭い視点は、コーヒーのみならずさまざまな食事、飲料にも応用が効きそうな話だったのではないでしょうか。 1) Huxley R, et al. Coffee, decaffeinated coffee, and tea consumption in relation to incident type 2 diabetes mellitus: a systematic review with meta-analysis. Arch Intern Med. 2009;169:2053-2063. 2) Zhang T, et al. Associations between different coffee types, neurodegenerative diseases, and related mortality: findings from a large prospective cohort study. Am J Clin Nutr. 2024;120:918-926. 3) Orrje E, et al. Cafestol and kahweol concentrations in workplace machine coffee compared with conventional brewing methods. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2025 Feb 20. [Epub ahead of print] ■新着【大画像】/files/kiji/20250304132940-sns.png【サムネイル】/files/kiji/20250304133008.png