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2023年、読んでよかった!「この医学書」/会員医師アンケート

2023年も多くの医学書が刊行されました。CareNet.comでは、会員医師1,000人(内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、精神科/心療内科・各200人)に、「今年読んでよかった医学書」についてアンケートを実施しました(今年刊行された本に限らず、今年読んだ本であればOK)。アンケートでは「ご自身の専門分野でよかった本」「専門分野以外でよかった本」を1冊ずつ、理由も添えて挙げてもらいました。本記事では、複数の医師から名前の挙がった書籍を、お薦めコメントと共に紹介します(アンケート実施日:12月5日)。ぜひ、年末年始の読書の参考にしてください。内科幅広いテーマの書籍が「専門分野」として挙げられた内科。『今日の治療薬』(南江堂)、『ハリソン内科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、『当直医マニュアル』(医歯薬出版)といった「ド定番」のほか、糖尿病治療に関する書籍と「日本内科学会雑誌」を挙げる人が目立ちました。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(金城 光代ほか[編]、医学書院、2023年)内科外来のトップマニュアルが6年ぶりの改訂。内科医以外からも多くの推薦がありました。●推薦コメント「外来診療に役立った」「疾患別に緊急性や重症度などを考えさせるように導く内容となっていて面白い」『胃炎の京都分類 改訂第3版』(春間 賢[監修]、日本メディカルセンター、2023年)多くの画像で胃炎を解説する定番書の改訂第3版。●推薦コメント「慢性胃炎に対する内視鏡的・肉眼的考察により、これまでの慢性胃炎の概念を体系化した書物」「臨床に生かせる」『内科学 第12版』(矢崎 義雄・小室 一成[編]、朝倉書店、2022年)初版は1977年、病態生理を中心に内科的疾患の最新の知見を集大成した改訂12版。●推薦コメント「鉄板です」「ザ・定番と思われるため」循環器科内科医からも多くの推薦があった『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』のほか、個別テーマでは心電図、PCIを扱った書籍が多く挙げられました。『循環とは何か? 虜になる循環の生理学』(中村 謙介[著]、三輪書店、2020年)難解な循環の生理学を、深くかつわかりやすく解説。●推薦コメント「面白い」「知識の整理になった」『PCIで使い倒す IVUS徹底活用術 改訂第2版』(本江 純子[編]、メジカルビュー社、2020年)「もっとこうしたらIVUSをより有効に活用できる」という手順・方法などを、実例と共に解説。●推薦コメント「IVUSの基本的な読影やトラブルシューティングなど、理論的にわかりやすかった」「説明がわかりやすく、実践的」『心不全治療薬の考え方,使い方 改訂2版』(齋藤 秀輝ほか[編]、中外医学社、2023年)心不全治療薬の整理のほか、使い分けや未知の事柄も追記した実践的な書の改訂版。●推薦コメント「いつも参考にしています」「心不全治療薬の“革命”を経て…、U40新世代が作り上げるバイブル」呼吸器科「間質性肺炎」「肺がん」「喘息」「気管支鏡」「人工呼吸」「咳」など、「専門」とする書籍テーマのバリエーションが多様だった呼吸器科。回答者によってさまざまな疾患に対応していることが垣間見える結果となりました。『ポケット呼吸器診療2023』(倉原 優[著]、シーニュ、2023年)CareNet.comの連載でもおなじみの倉原氏による定番の一冊の最新版。●推薦コメント「毎年非常に詳しく書かれているから」「ガイドラインや最新の治療薬のアップデートを記憶するのに役立つ」「呼吸器診療のtipsがコンパクトにまとめられている」『誤嚥性肺炎の主治医力』(飛野 和則[監修]、吉松 由貴[著]、南山堂、2021年)飯塚病院 呼吸器内科の著者らによる誤嚥性肺炎診療の実践書。●推薦コメント「気を付けるポイントを再認識した」「読みやすく、わかりやすかった」『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』(岩田 健太郎[著]、中外医学社、2022年)未曽有のコロナ禍を経て、新たに刊行された改訂版。●推薦コメント「大学の授業で習うべき重要な内容」「基本的な抗菌薬の知識を臨床の面から解説してある」「普段何気なく使用している抗菌薬の使用方法を見直すきっかけになった」消化器科内科医からも多く挙げられた『胃炎の京都分類 改訂第3版』のほか、医学誌「胃と腸」や『胃と腸アトラス』を「基本知識、専門知識がよくわかる」「読影の参考になる」「症例問題集が面白く勉強になる」と推薦する声が目立ちました。『専門医のための消化器病学 第3版』(下瀬川 徹ほか[監修]、医学書院、2021年)消化器専門医が知っておきたい最新知見を各領域のエキスパートが解説。●推薦コメント「内容が新しくてよい」「専門医として知っておくべき内容がまとめてあり、わかりやすい」「網羅的に消化器病の知識が記されており、教科書兼辞書として重宝している」『カール先生の大腸内視鏡挿入術 第2版』(軽部 友明[著]、日本医事新報社、2020年)内視鏡手技をテーマとした書籍が多いなか、内視鏡挿入のテクニックを動画付きで解説した本書を挙げる人が目立ちました。●推薦コメント「図が豊富」「基本的な内容が理解できた」「わかりやすく、新しい発見があった」『患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解』(杉本 健[著]、南江堂、2023年)炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について、著者独自の観点から患者ごとの最適解の考え方を提供。●推薦コメント「目から鱗でした」「わかりやすく、的確な具体例もある」精神科/心療内科他科と比較して同じ本を選択した回答者が多く、刊行から時間が経過した本も多く選ばれる傾向がありました。『精神診療プラチナマニュアル 第2版』(松崎 朝樹[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2020年)精神診療に必要かつ不可欠な内容をハンディサイズに収載。●推薦コメント「ノイヘレン(新人)時代にこういった入門書があればよかった。今でも復習に役立つ」「内容がわかりやすくまとまっている」「最新の話題が記載されている」『[新版]精神科治療の覚書』(中井 久夫[著]、日本評論社、2014年)「医者ができる最大の処方は希望である」。精神科医のみならず、すべての臨床医に向けられた基本の書。●推薦コメント「読みやすい」「改めて読み直してみて、初心を思い出せた」『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』(井上 令一[著・監修]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2016年)DSM-5準拠、高評と信頼を得た最高峰のテキストの改訂版。●推薦コメント「精神科医が学ぶことがおおむね網羅されている」「DSM-5に準じ体系化されていて、たくさんの疾患が網羅されている」「精神科専門医試験もここから多く出ていた」専門も専門外も!「信頼のシリーズ」アンケートの設問では「事典やガイドライン、医学雑誌以外の本を推薦ください」と条件を付けたものの、医師にとって最も身近であるこれらの書籍や、医学生・研修医、非専門医、コメディカルを対象とした定番シリーズを挙げる方も多くいました。「極論で語る」シリーズ(丸善出版)●推薦コメント「循環器疾患についてメカニズムと対応方法をわかりやすく解説してくれる」(『極論で語る循環器内科』/循環器科)、「体液コントロールにおける腎臓の視点を取り入れることができる」(『極論で語る腎臓内科』/循環器科)「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)●推薦コメント「看護学校の講師をしていますが、初心に返ることができた」(循環器科)、「基礎の確認になった」(循環器科)「レジデントのための」シリーズ(日本医事新報社)●推薦コメント「内科診療の疑問をEBMの側面でまとめてくれている」(『レジデントのための 内科診断の道標』/精神科)、「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(『レジデントのための これだけ輸液』/呼吸器科)どの科も必須「このテーマ」新型コロナウイルス感染症が収まり切らないなか、「専門外」の良書としてどの科の医師からも名前が挙がった本には、感染症をテーマとするものが多数ありました。『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(青木 眞[著]、医学書院、2020年)初版から20年。読み継がれてきた「感染症診療のバイブル」の最新版。●推薦コメント「抗菌薬の選択に参考となる」(呼吸器科)『感染症プラチナマニュアル Ver.8 2023-2024』(岡 秀昭[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2023年)2015年初版、ベストセラー「感染症診療マニュアル」の改訂第8版。●推薦コメント「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(呼吸器科)キラリと光る「新定番」絶対数としてはさほど多くないものの、最近刊行された注目の書籍が、複数の科の医師から「専門外の好著」として名前が挙がりました。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(松田 光弘[著]、医学書院、2022年)皮膚科疾患のロジックが身に付く、フローチャートを用いた解説が好評の一冊。●推薦コメント「皮膚科が苦手だったが、まさに目からウロコ」(内科)、「皮疹を診る際の皮膚科医の思考過程がよくわかる」(内科)、「他科の医師でも皮疹診療についての基本がわかる」(呼吸器科)『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(きまた りょう[著]、KADOKAWA、2023年)100点以上のオールカラーイラストで筋肉のつながり・仕組みを平易に解説した一般書のベストセラー。●推薦コメント「筋肉の解剖学的特徴がわかりやすい」(内科)、「イラストがよい、わかりやすい」(消化器科)『心電図ハンター 心電図×非循環器医』(増井 伸高[著]、中外医学社、2016年)非循環器医をターゲットに、即座に判断できない微妙な症例を集め、心電図判読のコツを紹介。●推薦コメント「実際の臨床の場面を想定した形での判断基準などがわかりやすい」(内科)、「知りたいことがコンパクトにまとめてある」(呼吸器科)こんな本も! 医師ならではの一冊医学書以外でも、医師ならではの視点から、熱のこもったコメントと共に寄せられた本がありました。『蘭学事始』(杉田 玄白[著]、緒方 富雄[校註]、岩波文庫、1959年)江戸後期、杉田 玄白が著した蘭学創始期の回想録。●推薦コメント「印象に残った」(呼吸器科)『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹 文雄・平井 啓[編著]、東洋経済新報社、2018年)●推薦コメント「インフォームドコンセントからSDMになり、なんとなく感じていた違和感が、行動経済学的な考え方によりすっきりした」(消化器科)『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健[著]、ダイヤモンド社、2013年)アドラー心理学を解説する、100万部突破のベストセラー。●推薦コメント「承認欲求に気付くことができた」(循環器科)『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』(中村 佑子[著]、医学書院、2023年)●推薦コメント「一体ヤングケアラーとは誰なのか。世界をどのように感受していて、具体的に何に困っているのか。取材はドキメンタリーを読むようだ」(消化器科)

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病院機能評価「医療安全」への対策強化で「カルテレビュー」導入へ

 最近では紙カルテ(診療録)から電子カルテへの普及が進み、病院のみならずクリニックでの導入も多くみられるようになった。また、国が推進するマイナンバーカードによる健康保険証には、個人のカルテ情報の搭載も予定され、いつでも、どこでも自分のカルテが読める時代が期待されている。そんなカルテは、医療事故などが発生した場合、真っ先に調査が行われる患者や患者遺族、医療機関などにとって事故と結果の因果関係を証明する大切な資料となるが、カルテの中身の記載については個々の医師の判断に任されている。 今般、日本医療機能評価機構は、「医療安全」の対策強化を目的に、病院機能評価の「カルテレビュー」の強化を行った。従来よりも多数の症例のカルテについてチェックをされることになる。本稿では特別寄稿として病院機能評価の受審を2022年に受けたばかりの井上 雅博氏(稲沢市民病院 内科)が、「カルテレビュー」への対応について述べる。医療事故で顕在化したカルテの不備 先日、兵庫県の神戸徳洲会病院で心臓カテーテル検査や治療後に複数の患者の死亡が発生し、第三者を交えた医療事故調査が決まりました。さらに神戸市が8月28日に、病院に対して行政指導を行いました。●参考記事カテーテル処置後死亡 神戸市“安全管理体制に複数の問題点”(NHK/7月28日)カテーテル治療後に死亡相次ぐ神戸徳洲会病院 市が行政指導へ カルテに記載なし、実質一人で業務か(神戸新聞/7月28日)神戸徳洲会病院への医療安全管理体制に関する行政指導の実施(神戸市/8月28日) 事故の報道で当初から問題とされていたのは、患者の急変などがあったにも関わらず、診療にあたっていた医師によるカルテ記載が十分ではないことでした。 事故露見のきっかけは、今年の1月から赴任した医師の施行したカテーテル手術後に、死亡事例や容体悪化した症例が多発していたにもかかわらず、病院側が再発防止や医療安全のために検証に取り組んでこなかったため、匿名による内部告発で発覚となりました。 カルテの記載は医師法24条1項には「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と定められているように義務となっています。残念ながら、この医師は毎日のカルテ記載を怠っていただけでなく、病状が急変して死亡された患者についても記載がなく、今回のような指導へとつながってしまいました。 患者安全の確立のためにも、診療にあたる医師による患者や家族への同意説明の内容や臨床経過についてはカルテへの記載が必須事項とされています。 医療事故が発生したときに問題となるのは、医療事故に遭われた患者の治療経過や処置など、具体的に行った医療の内容、さらには事故発生後の経過について記載が不十分であると、カルテ開示を求められた場合、患者側に医療不信を引き起こし医療訴訟につながるということです。 医療事故の解析や再発防止策の立案にカルテ記載は必要であることは言うまでもないですが、「説明と同意」が必須の時代に、十分な同意取得がないまま侵襲性の高い医療行為や手術が実施された場合、今回の事例のように、地方厚生局や自治体などの行政側からも指導が下されることになります。また、最近では、説明同意文書以外にも、インフォームドコンセントの取得時に医師や看護師からの説明を受けた患者や家族の理解度についてもカルテ記載に必要とされてきています。病院機能評価でもカルテ記載の内容を問う時代に 今年の4月から新たに日本病院機能評価機構による病院機能評価も新しいバージョン3.0が導入されました。従来はサーベイヤーが審査するのは当日に選ばれた病棟の退院患者の症例のカルテの中から、実際に1症例を外来から入院、手術や検査、そして退院など一連の流れを審査側に説明してチェックを受けていたものが、カルテの記載内容について「定常状態」を確認するため、ランダムに選ばれたカルテを5症例ほど連続して確認することになりました。 日本医療機能評価機構は、医療機関が質の高い医療を提供するのを支援するために1997年から全国の病院に対し医療機能評価を行っています。2023年7月時点で2,000病院が認定病院となっていますが、これは全国の病床の約4割を認定病院の病床が占めており、ほぼ急性期病院の大半が網羅されています。 この25年で、幾度ものバージョンアップを通して評価項目・評価方法の見直しを行ってきました。今回の新しいバージョンでは、全国の受審病院に対して、これまでのサーベイヤーの審査に際しては、カルテの記載が充実している先生のいわゆる「チャンピオンカルテ」を用意しておけば間に合っていたものが、すべての入院患者について「カルテ記載の充実」を求めていることです。 すでに大学病院や高度急性期病院では医師、看護師、薬剤師、栄養士、セラピストなど、多職種からなるチームで医療が行われています。新しいバージョンの病院機能評価では、これを一般病院に対して実践を求めることになりました。詳しくは病院機能評価機構の説明資料(新しい病院機能評価[3rdG:Ver.3.0]の運用開始について)を参照ください。 この中で、従来は大学病院など「一般病院3」だけで実施されてきた「カルテレビュー」が、機能評価を受審するすべての病院で実施されることになりました。 患者・家族への説明や同意文書の不備の有無のチェックだけではなく、複数のカルテ記載から診療・ケアの適切性、説明と同意の適切性、カルテ記載の定常状態などを確認するために、病院における日々の診療内容、患者・家族への説明についての理解度の評価など記載が求められます。 今までのように特定のカルテだけではなく、入院患者の全員について入院から退院までのカルテが審査対象とされるため、退院後2週間以内のサマリーの作成だけではなく、従来は、個別の医師のカルテ記載についてまではあまり立ち入っていなかったのを、病院側が診療録管理委員会などを通して監督・指導しなければならなくなっています。 さらにカルテレビューの導入に合わせて、バージョン3.0では、400床以上の【区分4】、200~399床【区分3】の病院では、医療安全・感染対策ラウンドが実施され、情報伝達エラーの防止策や医薬品の安全管理や誤認対策、ハイリスクな医療行為の実施にあたっての院内ルールの規定など、細かくチェックをするものとなっています。 これまでのような小手先での対策ではなく、医師が病院の全職員と共に医療安全のためにしっかりとした対策を講じていく必要が出てきたと思います。 病院機能評価は、救急体制充実加算や回復期リハビリテーション病棟入院料1の加算を受けるためには病院機能評価や第三者評価が条件となっているものが複数あり、避けて通れなくなっています(病院機能評価が影響する診療報酬や施設基準等について)。 医療機能評価を受審するにあたっては、病院側はカルテ記載をしっかりと医師に積極的に働きかける必要があり、新入職員の研修医や中途入職の医師に対してもカルテ記載について導入教育を行う必要が出てきていると思われます。 今年の4月から新バージョンの運用開始に伴い、大学病院以外でもカルテレビューが行われており、対策が急がれます。●参考資料機能種別版評価項目(3rdG:Ver.3.0)の機能種別と評価項目について3rdG:Ver.3.0の訪問審査当日の進行について病院機能評価が関連する診療報酬や制度等について

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COPD患者は手術後1年間の死亡リスクが高い

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者が手術を受けた場合、術後1年間は死亡リスクが高い状態で推移するとのデータが報告された。トロント大学(カナダ)のAshwin Sankar氏らの研究によるもので、詳細は「Canadian Medical Association Journal(CMAJ)」に1月17日掲載された。死亡リスクだけでなく、医療コストもCOPDでない患者より高額になるという。 COPDは呼吸機能が低下する疾患群で、以前は肺気腫、慢性気管支炎と呼ばれていた病気の総称。米疾病対策センター(CDC)によると、米国のCOPD患者数は約1600万人に上る。COPD患者はCOPD以外の疾患を併発していることが多く、フレイル(ストレス耐性が低下した状態)に該当することも多い。実際、COPD患者は手術後30日以内の合併症や死亡のリスクが高いことが知られている。ただし、より長期間経過した後にも、そのようなハイリスク状態が続いているのかどうかは、これまであまり検討されていなかった。Sankar氏らはこの点に着目して新たな研究を実施。その結果、大手術を受けたCOPD患者は、呼吸器系に問題のない患者と比べて、1年以内の死亡率が61%高く、医療費も13%多くかかっていることが明らかになった。 この結果を基にSankar氏は、「手術のリスクを患者に伝えることは、手術前インフォームドコンセントのプロセスの重要な要素だ。COPD患者が手術を受けるか否かを判断する際に、臨床医は本研究で示されたような情報を伝えるべきだろう」と話している。ただ、COPD患者の多くが何らかの慢性疾患を併発しているため、手術後の死亡リスク上昇の原因がCOPDだと断定することは難しい。とはいえ同氏は、「COPDの有無をハイリスク状態のフラグとして利用することができる。フラグが立っている場合は、ほかの変更可能なリスク因子が最適な状態に管理されているかを入念に確認すべきだろう」と述べている。 Sankar氏らの研究は、カナダのオンタリオ州の医療情報データベースを後方視的に解析する手法で実施された。2005~2019年に待機手術を受けた93万2,616人〔年齢中央値65歳(四分位範囲55~75)、女性59.9%〕のうち、17万482人(18%)がCOPDを有していた。 術後30日間の追跡でCOPD患者の全死亡リスクは非COPD患者より72%高く、1年間の追跡でも61%ハイリスクだった。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、併存疾患(高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、冠動脈疾患、末梢血管疾患、心房細動、脳卒中、肝疾患ほか)、収入、手術前1年以内の入院歴など〕を調整後も、COPD群は有意にハイリスクだった〔術後30日間はハザード比(HR)1.32(95%信頼区間1.28~1.37)、1年間ではHR1.26(同1.24~1.29)〕。また、COPD患者は術後の医療コストも高額であり、その差は30日以内よりも1年以内で比較した場合により大きかった〔前記の交絡因子調整後の相対差が術後30日間は2.1%(1.8~2.3)、1年間では9.8%(9.3~10.3)〕。 この研究報告に関連して米ノースウェル・ヘルスのMangala Narasimhan氏は、まず臨床医に向けて、「手術の必要性をよく考慮し、かつ、合併症のリスクが高いことを含む十分な情報に基づいて、患者が意思を決定できるように努める必要がある」と語っている。そしてCOPD患者に向けては、「第一に喫煙しないことだ。喫煙は将来のさまざまなリスクを高める。現在喫煙している場合は、できるだけ早く禁煙してほしい。人生の後半になってから禁煙したとしても、間違いなく何らかの利益を得ることができる」とアドバイスを送っている。 また同氏は、「リスクのない手術はない。もちろんハイリスクであっても避けられない手術もあるが、その必要性を自分自身で理解するべきだ。さらに、大手術が必要となった場合には、手術前に健康上の問題を管理し、病状を最適化しておくことが重要」とも付け加えている。

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手書きメモを用いた直腸がんのインフォームドコンセント【誰も教えてくれない手術記録 】第12回

第12回 手書きメモを用いた直腸がんのインフォームドコンセントこんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。今回はちょっとした番外編として、手書きイラスト(メモ)を活用したインフォームドコンセントの一例をご紹介します。(主に外科医の)皆さんは、患者さんへの「術前説明」を普段どのようにしているでしょうか? 人によってさまざまなスタイルがあると思いますが、僕は時間が許せば「患者さんの目の前で白紙にイラストを描きながら説明する」というスタイルを取っています。最近では、患者説明用スライドや動画コンテンツを活用している病院もありますよね。もちろん、このように既成の資料を用いた説明でも過不足ないと思いますが、医師が患者さんと向き合って、直接語りかけながら手描きのイラストで補足していく説明が、より温かみがあり患者さんからの信頼も得られやすいのではないでしょうか(あくまでも私見です)。それでは、直腸がんに対する術前説明のイラストの一例をご紹介します。※話しながら描いた場面を想定した字とイラストなので、多少の読みづらさはご容赦ください。1枚目:解剖や機能、現在の病状、望ましい治療法、その治療を行わない場合に予想される経過・症状の説明2枚目:手術内容(アプローチ方法・切除範囲・再建方法)の説明3枚目:周術期合併症、術後経過の説明実際にはこれら手描きイラストを描きながら、口頭で説明していきます。術前説明のスタイルは人それぞれ、説明にかけられる時間も状況次第でさまざまですが、どんな場合でも大切なのは患者さんの理解と安心を得ることです。そのための一手段として、手描きイラストでの説明は有効だと思います。ただし、患者さんはその場ではわかった気になっても、時間が経てば忘れてしまうこともあります。どんな資料や方法を用いて説明するにしても、後から振り返りやすいような工夫ができるとなお良いですよね。術前説明にも、皆さんの日頃のオペレコ作成で培ったイラスト作成能力が大いに役立つことでしょう。説明後に「すごくわかりやすかったです。ありがとうございます」と患者さんから感謝の言葉がもらえたら大成功ですね!今回のようなテーマはいかがでしたか? 手術イラストに限らず、医療とイラストレーションの関わりについても今後取り上げていきたいと思います。お楽しみに!

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単回投与の中国製コロナワクチン、予防効果は57.5%~第III相試験/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルス5型ベクターワクチン「Ad5-nCoV」(中国・カンシノ・バイオロジクス[康希諾生物]製)の単回投与について、健康な18歳以上成人における有効性および安全性が示された。接種後28日以降のPCR検査確定・症候性COVID-19の予防効果は57.5%であり、また、重篤有害事象の発生率は0.1%でプラセボと同等であったという。カナダ・ダルハウジー大学のScott A. Halperin氏らが、第III相の国際二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2021年12月23日号掲載の報告。ワクチン接種後28日以降の症候性COVID-19予防効果を検証 試験は、アルゼンチン、チリ、メキシコ、パキスタン、ロシアの試験センターで18歳以上を登録して行われた。被験者は、不安定または重度の内科的・精神的基礎疾患がなく、検査確定の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染歴が認められず、妊娠または授乳中でない、アデノウイルス・ベクター、コロナウイルス、またはSARS-CoV-2ワクチンの未接種者だった。 研究グループは、インフォームドコンセントによる了承を得たのち、全参加者から全血を採取(25mL)、参加者を無作為に1対1の割合で2群に分け、一方にはAd5-nCoVワクチンを(5×1010vp/mLを0.5mL)、もう一方にはプラセボを、それぞれ投与した。試験担当者および参加者は割り付けを知らされなかった。 被験者とは毎週連絡を取り(eメール、電話またはテキストメッセージ)、あらゆるCOVID-19の症状を申告してもらい、申告があった場合は症状の種類を問わず、SARS-CoV-2検査を行った。 主要な有効性評価目的は、2021年1月15日時点でワクチン接種後28日以上であった全参加者について、ワクチン接種後28日以降の、PCR検査で確定された症候性COVID-19に対する予防効果。主要な安全性評価目的は、試験ワクチンを接種された全参加者における、ワクチン接種後の重篤有害事象または診療を要した非特定有害事象(MAAE)の発生とした。症候性COVID-19予防のワクチン有効性は57.5% 試験登録は、パキスタンで2020年9月22日に、メキシコは11月6日、ロシアとチリは12月2日、アルゼンチンは12月17日に、それぞれ開始された。2021年1月15日にエンドポイント例が150例に達した時点で、最終的な主要有効性解析が行われた。 Ad5-nCoVワクチンの1回投与の、接種後28日以降のPCR検査確定・症候性COVID-19に対する有効性は57.5%(95%信頼区間[CI]:39.7~70.0、p=0.0026)だった(参加者2万1,250例、追跡期間中央値45日[IQR:36~58])。 有効性解析時点で行われた安全性の主要解析(参加者3万6,717例)では、重篤有害事象の発生率は、プラセボ群0.1%(1万8,354例中10例)、Ad5-nCoV群0.1%(1万8 ,363例中14例)で有意差はなく、MAAEの発生率もそれぞれ2.2%(同411例)、2.4%(同442例)で有意差は認められなかった。なお、重篤有害事象で試験ワクチンに関連すると考えられるものは両群ともに報告されなかった。 安全性に関し、より詳しく追跡した拡張コホートでは、非自発的な全身性有害事象の報告について有意差が認められた(Ad5-nCoV群1,004/1,582例[63.5%]、プラセボ群729/1,572例[46.4%]、p<0.0001)。うち頭痛の頻度が最も高かった(Ad5-nCoV群699例[44%]、プラセボ群481例[30.6%]、p<0.0001)。 また、注射部位の有害事象に有意差がみられ(Ad5-nCoV群971/1,584例[61.3%]、プラセボ群314/1,573例[20.0%]、p<0.0001)、そのうち頻度が最も高かったのは注射部位疼痛だった(Ad5-nCoV群939例[59%]、プラセボ群303例[19%])。

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良かれと思うことも確かめてみる価値あり(解説:折笠秀樹氏)

 表題の「Bah humbug!」は何だろうかと思った。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』の中で、主人公が放った有名な言葉らしい。「当てにならない、ばかばかしい」といった意味のようだ。何が当てにならないかというと、「クリスマスカードを臨床試験の被験者へ送ると脱落が減る」だ。クリスマスカードが届くと意識が高まると思いがちだが、実はそんなことはなかったのだ。当然といえば当然。 うちにも保険会社から季節のあいさつ状が届くが、開封するも、中身はほとんど読まないままにごみ箱行き。ダイレクトメールもしかり。1%でも反応してくれたら御の字なのだろう。ということは、クリスマスカードを送付しても、せいぜい1%しか来院率が上がる効果はないのかもしれない。 この研究では、インフォームドコンセントを取っていたみたいだ。ということは、この研究について説明しているはず。半分の家にはクリスマスカードが届くと知っていたら、さらにそのありがたみを感じることはないだろう。 この試験デザインはちょっとユニークだ。8つの進行中の臨床試験の中で、RCTが組まれていた。全部で3,223例が割り付けられたが、1,754例もが解析除外されていた。大丈夫なのかと一瞬思ったが、よく読むと合点した。その原因はCOVIDに伴う来院停止にあった。来院拒否したのか、やむなく来院しなかったのか、判明しない分を除外したようだった。しかし、同数ずつ解析除外されていたので、とくに誤った結論になっていないだろう。 オンライン授業のほうが対面授業よりも成績が良くなるという方がいるが、これも単なる印象ではなく、RCTをして確かめてもらいたい。脱落率を減らすために、何らかのリマインドをするのが効果的だといわれている。忘れるのを防ぐ効果のあることは確かだろうが、勉強熱心になる効果についてはわからない。

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tezepelumab、コントロール不良の重症喘息患者に有効/NEJM

 コントロール不良の重症喘息成人/思春期患者の治療において、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)のヒト型モノクローナル抗体であるtezepelumabはプラセボと比較して、喘息の増悪が少なく、肺機能や喘息コントロール、健康関連QOLの改善効果が良好であることが、英国・Royal Brompton HospitalのAndrew Menzies-Gow氏らが実施した「NAVIGATOR試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年5月13日号で報告された。18ヵ国297施設の無作為化プラセボ対照第III相試験 本研究は、18ヵ国297施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2017年11月~2020年9月の期間に行われた(AstraZenecaとAmgenの助成による)。 対象は、年齢12~80歳で喘息と診断され、スクリーニングの12ヵ月以上前の期間に、中~高用量の吸入グルココルチコイドの投与を受け、インフォームドコンセントの3ヵ月以上前の期間に、経口グルココルチコイドの有無を問わず、少なくとも1剤の長期管理薬の投与を受けていた患者であった。 被験者は、tezepelumab(210mg)の4週ごとの皮下投与を52週間行う群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。主要エンドポイントは、52週時の喘息増悪の年間発生率とした。 1,061例が無作為化の対象となった。tezepelumab群に529例、プラセボ群に532例が割り付けられ、それぞれ528例(平均年齢±SD 49.9±16.3歳、男性36.6%)および531例(49.0±15.9歳、36.5%)が有効性と安全性の評価に含まれた。好酸球数低値例でも年間発生率を抑制 喘息増悪の年間発生率は、tezepelumab群が0.93(95%信頼区間[CI]:0.80~1.07)で、プラセボ群の2.10(1.84~2.39)に比べ良好であった(率比:0.44、95%CI:0.37~0.53、p<0.001)。また、ベースラインの血中好酸球数が300/μL未満の患者における喘息増悪の年間発生率は、tezepelumab群が1.02(95%CI:0.84~1.23)、プラセボ群は1.73(1.46~2.05)であり、有意な差が認められた(率比:0.59、95%CI:0.46~0.75、p<0.001)。 tezepelumab群はプラセボ群に比べ、ベースラインから52週までの気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)の変化(臨床的に意義のある最小変化量[MCID]:0.1L)が大きく改善された(0.23L vs.0.09L、群間差:0.13L、95%CI:0.08~0.18、p<0.001)。 さらに、tezepelumab群では、6項目喘息コントロール質問票(ACQ-6、0[障害なし]~6[最大限の障害]点、MCID:0.5点)のスコアのベースラインからの変化(最小二乗平均値:-1.55点vs.-1.22点、最小二乗平均値の差:-0.33点、95%CI:-0.46~-0.20、p<0.001)が良好で、喘息QOL質問票(AQLQ、1[最大限の障害]~7[障害なし]点、MCID:0.5点)のスコアの変化(1.49点vs.1.15点、0.34点、0.20~0.47、p<0.001)、および喘息症状日誌(ASD、0[症状なし]~4[起こりうる最悪の症状]点、MCID:0.5点)の週平均スコアの変化(-0.71点vs.-0.59点、-0.12点、-0.19~-0.04、p=0.002)についても、大幅に改善された。 有害事象は、tezepelumab群が77.1%、プラセボ群は80.8%で発現し、重篤な有害事象はそれぞれ9.8%および13.7%に認められた。有害事象で試験薬の投与を中止した患者は、tezepelumab群が2.1%、プラセボ群は3.6%だった。頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎、上気道感染症、頭痛、喘息などであった。重症感染症(8.7% vs.8.7%)や注射部位反応(3.6% vs.2.6%)の頻度は両群で同程度であり、治療関連のアナフィラキシー反応やギランバレー症候群はみられなかった。 著者は、「血中好酸球数と呼気中一酸化窒素(FENO)、IgEの値が同時に低下したことから、本薬は複数の炎症経路を抑制することが示唆される。TSLPの阻害は、2型サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)を標的とするよりも、広範な生理学的効果をもたらす可能性がある」としている。

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第34回 まさかの激高!?ノーベル賞候補者のプライドを刺激した1通の文書

研究目的で生体試料を保管する「バイオバンク」を巡り、医療人の間でバトルが展開されている。一方の当事者は、中村 祐輔氏(がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長)。ノーベル賞の有力候補として名前が挙がった人物だ。そしてもう一方は、木下 賢吾氏(東北大学大学院教授)である。事の発端は、木下氏が東京大学医科学研究所バイオバンク・ジャパンに宛てて送った1通の文書だった。(略)コホートの種類の数だけ同意書が存在するように、DAC(データ利活用委員会)もコホートの数だけ存在すると考えて良い状態であり、例えばToMMo(東北大学東北メディカル・メガバンク機構)では試料情報分譲審査委員会がDACであり、J-MICC(日本多施設共同コホート研究)では運営委員会、BBJ(東京大学医科学研究所バイオバンク・ジャパン)では試料等利用審査会などがある。そのため、利用者がデータを利用する際には、各コホート・バイオバンクの定める手続きに従ってそれぞれのDACで可否判断を受ける必要があり、大きな利活用推進の一つの足かせになっているつまり木下氏は、自らが所属する東北大学をはじめ、さまざまな大学に設置されているバイオバンクへのデータアクセスには、個々のDACに諮る必要があり、多施設共同の横断的な研究や解析の妨げになっていることを問題提起したようだ。これに対し中村氏は、10月31日付のブログで猛反論を展開した。東京大学医科学研究所にバイオバンク・ジャパンのデータアクセスを批判する文章が私の手元に届いた。2020年の基準で、2002年に計画したバイオバンクのデータアクセス権を批判するなど、アホ以外の何物でもない。2002年、バイオバンク・ジャパン計画を作成したのは私だ。(略)木下君、ユーチューブの前で対談をセットするのではっきりと何が問題なのか、公開で議論をしようではないか!その時に私は合わせて約100報のNature、Nature Genetics、Nature Communication論文を含めた約300論文を持参していく。その実績も含めジックリと東北メディカル・メガバンク機構の実績と展望、東大のバイオバンク・ジャパンの実績と展望を話ししたい。発表した300の論文を利用すれば、その気になれば、産業応用はいくらでもできる。東北メディカル・メガバンク機構には、相関解析ができるほどの症例数が揃っているのかどうかも明確にしてほしい。また、東北大学バンクに参加している人たちから何の審査もなく、自由に利用してもらっていいというインフォームドコンセントを取っているのかどうかも確認したいものだ。事実に基づかない陰口ではなく、事実を示したうえで、バイオバンク・ジャパンのどこに問題があるのか、どこが東北で優れているのか、公開で議論しよう書きぶりからも相当な怒り具合が伝わってくるが、よくよく読んでみると、バイオバンクの利活用のあり方から、なぜか東北大対東大の構図に論点がすり替わっている。中村氏は大阪大学医学部卒だが、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長・教授を務め、東大名誉教授でもあるためか、BBJに思い入れがあるのだろう。ブログの見出しも「受けて立とうバイオバンク・ジャパンへの批判;出てこい東北大学」である。第三者からすると、感情的過ぎて違和感がある。中村氏を知る人は、彼について「批判に対して感情的に反応しやすい性格」と評す。このやりとりを心配した関係者が、両者の仲介を買って出る動きもあり、週刊誌もゴシップ的な関心を寄せているようだ。しかし、こんなことでノーベル賞候補者としての品位が傷ついたら、それこそ「アホ以外の何物でもない」のではないだろうか。

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双極性障害の早期発症や治療開始遅延がその後の治療効果に及ぼす影響

 双極性障害の治療アウトカム不良のリスク因子として、早期発症と初回治療開始の遅延の両方がエビデンスで報告されている。米国および欧州の双極性障害患者における、これら2つのリスク因子の発生率とその影響について、米国・ジョージ・ワシントン大学のRobert M. Post氏らが調査を行った。Psychiatry Research誌オンライン版2020年7月3日号の報告。 本研究の参加についてインフォームドコンセントを行い、詳細なアンケートに回答した双極性障害の外来患者967例を対象に、うつ症状または躁症状の発症年齢および初回治療時の年齢を評価した。発症年齢および初回治療開始の遅延について、米国の675例と、オランダおよびドイツ(欧州)の292例を比較し分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害の発症年齢は、欧州よりも米国で平均6~7年早く、うつ症状または躁症状の発症年齢についても同様な結果であった。・初回治療開始の遅延は、発症年齢と強い逆相関が認められ、米国は欧州の2倍遅延しており、とくに青年期の躁症状での違いが認められた。・米国での初回治療開始の遅延は、発症年齢の早さによるものだけではないと考えられる。 著者らは「治療開始の遅延は治療上のリスク因子であり、米国における双極性障害の早期発症率の高さを認識することにより、遅延期間の短縮は可能である。また、米国における早期発症率の高さは、欧州と比較し、遺伝的および環境的な脆弱性の要因に関連していると考えられる。小児双極性障害患者に対し、より良い長期的なアウトカムを提供するためにも、新たな治療や研究への取り組みが求められる」としている。

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デュルバルマブ承認後の実臨床における、局所進行非小細胞肺がんCCRTの肺臓炎(HOPE-005/CRIMSON)/ASCO2020

 デュルバルマブが局所進行非小細胞肺がん(NSCLC)の化学放射線同時療法(CCRT)後の地固め療法の標準治療として確立された。しかし、デュルバルマブ承認後の実臨床におけるCCRTの実態は明らかになっていない。この実臨床の状況を調べるため、Hanshin Oncology critical Problem Evaluate group(HOPE)では、プラチナ化学療法と放射線の同時療法(CCRT)を受けた局所進行NSCLC患者を対象にした後ろ向きコホート研究を実施。肺臓炎/放射線肺臓炎(以下、肺臓炎)の実態に関する結果を千葉大学の齋藤 合氏が米国臨床腫瘍学会(ASCO20 Virtual Scoentific Program)で発表した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、2018年5月〜2019年5月に、HOPEの15施設でCCRTを開始したわが国各地の切除不能局所進行NSCLC患者で、解析対象は275例であった。・患者の年齢中央値は69.9歳、V20(20Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合)中央値は19.5%、線量中央値は60Gy、CCRT開始からの観察期間中央値8.4ヵ月であった。・275例中、肺臓炎の発症は全Gradeで81.8%(225例)、内訳はGrade 1が134例, Grade 2以上が91例, Grade 3以上が18例, Grade 5が4例であった。・CCRT開始から肺臓炎の発現までの期間(中央値)は14週、デュルバルマブ開始からの期間(四分位範囲)は7〜10週であった。・ 多変量ロジスティック回帰解析による症候性(≧Grade 2)肺臓炎の独立した危険因子はV20 25%以上であった(OR:2.74、95%信頼区間[CI]:1.35〜5.53、p=0.0045)。・デュルバルマブの維持療法を受けた患者の割合は204例(全体の74.2%)であった。そのうち84%(171例)で肺臓炎が発現し、24.7%(51例)はデュルバルマブの中止とステロイド治療が行われた。・肺臓炎によりデュルバルマブを中止し、ステロイドが投与された51例中41%(21例)で同剤の再投与が行われた。再投与21例中72%(15例)は再燃なく同剤を継続できた。28%(6例)で肺臓炎が再燃したが、6例中3例はデュルバルマブを継続され、3例は中止となった。 発表者の千葉大学 齋藤 合氏との1問1答この研究実施の目的について教えていただけますか。 2018年、デュルバルマブが承認され、切除不能局所進行NSCLCにおけるCCRTの維持療法の標準治療となりました。デュルバルマブの承認後、治療成績向上に対する期待だけでなく、日本人に多いとされる肺臓炎に対する懸念もあり、CCRTにおける放射線治療の部分に関しても内科系の医師の関心が高まっています。しかし、合併症である肺臓炎の詳細など、実臨床で知りたい情報は、同剤による地固め療法の効果を検討した第III相PACIFIC試験で不明な点が多く存在します。デュルバルマブ登場以降の実臨床におけるCCRTの全体像を明らかにするためにこの研究を行いました。デュルバルマブの再投与についての分析も行われていますね。 局所進行NSCLCのCCRTでは、薬剤だけでなく放射線による肺臓炎の懸念もあります。薬剤性の肺障害は残念なことに致死的なケースも多く経験されます。ところが、前述のPACIFIC試験では、条件を満たせば肺臓炎発症患者へのデュルバルマブ再投与がプロトコルで認められていました。従来の臨床医の感覚としては、再投与はややためらいをおぼえるものでした。実臨床においてもある程度の割合で再投与が行われ、かつ、継続できていたことは、実地臨床で悩まれる先生方の参考にもなるのではないかと思います。ただし、本検討は介入研究でないことは強調したいと思います。この研究結果はどのように実臨床に活かせるのでしょうか。 今回の検討結果のポイントは、3点あると思います。 1つ目は、デュルバルマブ登場以降のわが国のCCRTにおいて、どのくらいの重症度の肺臓炎がどのくらいの頻度で起きているかを示したという点です。実際に本検討の観察期間中に約5分の4が肺臓炎を発症しましたが、過半数はGrade 1であったという結果でした。 2つ目は、CCRTにおいて放射線治療医との連携が重要であると確認できたことです。従来から、V20が高いことはCCRTにおける肺臓炎発現のリスク因子として報告されていましたが、今回の検討でも同様の結果が示されました。これにより放射線科医と連携してリスクを把握し、患者さんのインフォームドコンセントに活かすことの重要さを再確認できました。 3つ目は、前述のデュルバルマブの再投与の可能性についてです。従来わが国の肺がん診療において、肺障害出現後の再投与には抵抗を覚える先生も多かったかと思います。しかし、デュルバルマブ地固め療法による全生存期間の延長効果が示され、かつ治験の段階で再投与が許容されたことで、再投与が可能なのであれば検討したいと考えていた先生方もいたのではないかと思います。今回、再投与が行われた患者さんは比率として多いわけではありませんが、4割にデュルバルマブの再投与が行われたこと、さらに多くの患者さんで投与が継続できていたという結果は、あくまでも参考ですが、デュルバルマブの再投与という選択肢を検討するきっかけになるかもしれません。

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降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連―システマティックレビュー、メタ解析(解説:石川讓治氏)-1245

 中年期の高血圧が晩年期の認知症の発症と関連していることがいくつかの観察研究において報告されてきた。しかし、降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連を評価した過去の研究においては、降圧治療が認知症の発症を減少させる傾向は認められたものの、有意差には至っていなかった。本論文では14の無作為介入試験の結果を用いてメタ解析を行い、平均年齢69歳、女性42.2%、ベースラインの血圧154/83.3mmHgの対象者において、降圧治療によって、平均49.2ヵ月間の追跡期間で7%の認知症もしくは認知機能障害の相対的リスク減少、および平均4.1年の追跡期間の間で7%の認知機能低下の相対的リスク減少があり、これらが有意差をもって認められたことを報告した。以前の無作為介入試験の結果は副次エンドポイントであったため有意差には至っていなかったが、メタ解析によって統計学的なパワーを増加させることで有意差を獲得したものと思われる。 SPRINT-MIND試験においても、積極的な降圧治療が通常治療よりも深部白質病変を減少させることが報告されており、降圧治療が脳血管性の認知機能障害を抑制することは予想できる。しかし、認知機能障害を生じる病態はさまざまであり、脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症などの病態が複雑に重なり合って臨床像をなしているため、完全に分けて考えることは困難である。降圧治療が、アルツハイマー型のアミロイドβやレビー小体型認知症におけるαシヌクレインといった代謝性物質にどのような影響を与えているのかは不明な点が多い。 本研究における無作為介入試験の参加者はインフォームドコンセントのための難解な同意文書を理解しサインできる、登録時には比較的認知機能が良好に保たれていた患者である。このような認知機能が良好に保たれた高血圧患者においては、降圧治療が将来の認知症や認知機能障害の発症を抑制するものと思われる。しかし、高齢者の日常臨床においては認知機能障害が進行するにつれて、栄養障害、サルコペニア、カヘキシア、併存疾患の存在などとともに体重減少や生活の質の低下が認められ、自然経過で血圧が低下してくる患者が認められる。そして、このような患者は介入試験からは除外されている。その一方で、観察研究における超高齢者においては、血圧が低く治療されていた対象者においてより死亡率が高く認知機能障害の進行が認められたことも報告されている。 これらの結果から、認知機能障害が起こる前には積極的に降圧治療を行って認知機能障害を予防し、残念ながら認知機能が低下してしまった段階では徐々に降圧治療を緩和していく必要があるものと思われる。しかし、この降圧治療のターニングポイントに関する明らかな指針は少ない。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』においては自力で外来通院困難としか記載されておらず、降圧治療のターニングポイントとなる認知機能のレベルも明らかにはなっていない。今後の課題であると思われる。

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ディズニー映画、がん患者のQOLに寄与

 腫瘍学において、治療効果に加え、有害事象および生活の質(QOL)の評価が重要になってきている。オーストリア・ウィーン医科大学のSophie Pils氏らは、がん化学療法中のディズニー映画観賞は婦人科がん患者の感情的機能、社会的機能、および疲労症状の改善に関連している可能性があることを明らかにした。JAMA Network Open 5月1日号掲載の報告。 研究者らは、2017年12月~2018年12月、がん化学療法中にディズニー映画の鑑賞と、感情的・社会的機能および疲労症状との関連の評価を目的とし、オーストリア・ウィーンのcancer referral centerにて無作為化試験を実施。対象者は2018年7月までに募集した婦人科がん患者で、適格基準は18歳以上、インフォームドコンセントへの同意、カルボプラチン・パクリタキセル療法またはカルボプラチン・ペグ化リポソームドキソルビシン(PLD)のいずれかを6サイクル実施予定であった。 参加者はディズニー映画観賞群と観賞しない群に割り付けられ、各サイクル実施前後に、欧州癌研究治療機関(EORTC)の調査票に回答した。主要評価項目は、がん化学療法6サイクル中のQOLの変化(EORTC Core-30[version 3]で定義)と、疲労症状(EORTC Quality of Life Questionnaire Fatigueで定義)だった。 主な結果は以下のとおり。・女性56人が研究に参加、50例が調査を完了した。・調査完了者の内訳は、ディズニー映画観賞群:25人(平均年齢±SD:59±12歳)と観賞しない群(対照群):25人(平均年齢±SD:62±8歳)だった。・感情機能に関する質問では、がん化学療法6サイクルの過程で観賞群は対照群よりも緊張感が低く、不安も少なくなった(平均スコア±SD:86.9±14.3 vs.66.3±27.2、maximum test p=0.02)。・社会的機能の質問では、ディズニー映画を観賞することで患者の家庭生活や社会活動への影響が少なくなった(平均スコア±SD:86.1±23.0 vs.63.6±33.6、maximum test p=0.01) 。・この介入により疲労症状が軽減した(平均スコア±SD:85.5±13.6 vs.66.4±22.5、maximum test p=0.01)。・Global health statusについては、ディズニー映画の観賞と関連がなかった(平均スコア±SD:75.9 ±17.6 vs.61.0±25.1、maximum testp=0.16)。

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知っておくべきガイドラインの読み方/日本医療機能評価機構

 日本で初となるGRADE Centerが設立された。これにより、世界とガイドライン(GL)のレベル統一が図れるほか、日本のGLを世界に発信することも可能となる。この設立を記念して、2019年11月29日、公益財団法人日本医療機能評価機構がMinds Tokyo GRADE Center設立記念講演会を実施。福岡 敏雄氏(日本医療機能評価機構 執行理事/倉敷中央病院救命センター センター長)が「Minds Tokyo GRADE Center設立趣旨とMindsの活動」を、森實 敏夫氏(日本医療機能評価機構 客員研究主幹)が「Mindsの診療ガイドライン作成支援」について講演し、GL活用における今後の行方について語った。そもそもGRADEとは何か 近年のGLでよく見かけるGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチとは、エビデンスの質と益と害のバランスなどを系統的に評価する方法で、診療ガイドライン(CPG)作成において世界的に広く受け入れられているものである。また、GRADE CenterはGRADEアプローチを普及させる国際的な活動組織であり、2019年現在、米国、カナダ、ドイツなどで設立されている。患者・市民を巻き込むガイドラインが主流に 今回の主催者であるEBM普及推進事業Minds(Medical Information Network Distribution Service)は、厚生労働省の委託を受け、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である。単なる情報提供にとどまらず、CPGの普及などにも広く貢献するほか、4つの取り組み(1.CPG作成支援、2.CPG評価選定・公開、3.CPG活用促進、4.患者・市民支援[CPG作成・活用に関わる])を行っている。 1では、CPG作成のためのマニュアル作成(Minds診療ガイドライン作成マニュアルは2020年改訂版の発刊を予定)に力を入れている。2では、AGREE IIを利用した評価を複数人で実施、公開に際しては各ガイドラインの出版社などにも許可を得ている。3、4は現在の課題であり、福岡氏は「医師・医療者と患者・家族とのインフォームドコンセントをより効率的で安全に行えるように支援し、患者の願い、家族の思いやそれぞれの負担など患者視点を導入しなければガイドラインのレベルが向上しないと言われている」と現行GLの問題点について指摘。さらに「どうやってガイドラインに患者を取り入れていくか、現場で使用するなかで患者と協調していくのかが、国際会議でも重要なトピックとして語られている」と述べた。日本がGRADEで認められた意味とメリット 今回、世界13番目のGRADEセンターに認定された経緯について、同氏はCPG作成支援が評価された点を挙げ、「われわれはセミナー・ワークショップや意見交換会、そして、オンデマンド相談会などを行っている。この活動によって、GLの作成段階で患者視点を取り入れる例が増加している。これによりGLが現場で活用しやすく、患者・家族に受け入れてもらいやすくなる」と、説明した。 さらに、GRADE認定されたメリットについて、「GRADEで認められると海外GL作成チームとディスカッションが可能になるばかりか、日本のGL作成ノウハウを海外に輸出することもできる」と、日本がGRADEから情報を受けるだけではなく、日本人の努力が世界に発信できる状況になったことを喜び、「GRADE内では、未来のGL作成者のための世界共通プラットフォームやトレーニングコース開設の動きもある」とも付け加えた。 GRADEアプローチでは、推奨を“向き”(実施することを or 実施しないことを)と“強さ”(強く推奨する or 弱く[条件付きで]推奨する)で表す。これについて、CPG作成支援活動を行う森實氏は、「弱い推奨の場合、条件付きという語を“裁量的”や“限定的”と表現することも可能である。それゆえ“個別の患者さんに合わせた決断が必要”で、患者さんの価値観・好みに合わせた結論に到達することを手助けする必要がある。そのためには何らかの決断支援ツールが有用」と述べ、「その方法として、患者にシステマティックレビューの結果をわかりやすく提示することも重要」とコメントした。 最後に、福岡氏は「ガイドライン作成の目的は、より良い社会作りと市民の幸せを前提とするべきである。専門家のためのみの作成ではない」と強調しつつ、「GRADEの進化はすさまじく、少しでも見失うと議論はあっという間に進んでいる。世界のGRADEミーティングに参加することで最新情報をキャッチアップしたい」と、締めくくった。

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ループス腎炎〔LN : lupus nephritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)患者でみられる腎炎であり、多くは糸球体腎炎の形をとる。蛋白尿や血尿を呈し、ステロイド療法、免疫抑制薬に反応することが多いが、一部の症例では慢性腎不全に進行する。SLEの中では、中枢神経病変と並んで生命予後に影響を及ぼす合併症である。■ 疫学SLEは人口の0.01~0.1%に発症するといわれ、男女比は約1:9で、好発年齢は20~40歳である。そのうち明らかな腎症を来すのは50%程度といわれている。通常の慢性糸球体腎炎では、尿所見や腎機能異常が発見の契機となるが、SLEでは発熱、関節痛や顔面紅斑、検査所見から診断されることが多い。しかし、尿所見や腎機能異常がない段階でも、腎生検を行うと腎炎が発見されることが多く(silent lupus nephritis)、程度の差はあるが、じつはほとんどの症例で腎病変が存在するという報告もある。■ 病因SLEにおける臓器病変は、DNAと抗DNA抗体が結合した免疫複合体が組織沈着するために起こる。しかし、その病因は不明である。LNでは、補体の活性化を介して免疫複合体が腎糸球体に沈着する。■ 症状SLE患者では、発熱、関節痛、皮疹、口腔内潰瘍、脱毛、胸水や心嚢水貯留による呼吸困難などを来すが、LNを合併すると蛋白尿や血尿が認められ、ネフローゼ症候群に進展した場合は、浮腫、高コレステロール血症が認められる。しかし前述のように、まったく尿所見、腎機能異常を示さない症例も存在する。LNが進行すると腎不全に陥ることもある。■ 分類長らくWHO分類が使用されていたが、2004年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が採用された1)(表1)。IV型の予後が悪いこと、V型では大量の蛋白尿が認められることなど、基本的にはWHO分類を踏襲している。画像を拡大する■ 予後早期に診断し治療を開始することで、SLEの予後は飛躍的に改善しており、5年生存率は95%を超えている。しかし、LNに焦点を絞ると、2013年の日本透析医学会の統計報告では、新規透析導入患者では、年間258人がLNを原疾患として新規に透析導入となっている。しかも、導入年齢がそれ以前よりも3~4歳ほど高齢化している2)。生命予後のみならず、腎予後の改善が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SLEの診断は、1997年に改訂された米国リウマチ学会の分類基準に基づいて行われていた3)。しかし、SLEの治療を行った患者で、この分類ではSLEとならず、米国では保険会社が支払いを行わないという問題が生じ、SLICC(Systemic Lupus lnternational Collaborating Clinics)というグループが、National Institute of Health (NIH)の支援を受けて、より感度の高い分類基準を提案したが4)、特異度は低下しており、慎重に使用すべきと考えられる。この度、米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同で、SLE分類基準が改訂されたため、今後はこの分類基準が主に使用されることが予想される(表2)5,6)。日常診療で行われる検査のほかに、抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)を検査する。さらにLNの診断には、尿沈渣、蓄尿をしての蛋白尿の測定や、クレアチニンクリアランス、腎クリアランスなどの腎機能検査を行うが、可能な限り腎生検によって組織的な診断を行う。図に、ISN/RPS分類class IV-G(A)の症例を示す7)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステロイド1)経口ステロイド0.8~1.0mg/kg/日 程度のプレドニゾロン(PSL)〔商品名:プレドニゾロン、プレドニン〕が使用されることが多いが、とくに抗DNA抗体高値や低補体血症の存在など、疾患活動性が高い場合、ISN/RPS分類のIV型の場合、あるいはネフローゼ症候群を合併した場合などは、1.0mg/kg/日 の十分量を使用する。初期量を4~6週使用し、その後漸減し、維持量に持っていく。維持量については各施設で見解が異なるが、比較的安全な免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名:ブレディニン)やタクロリムス(同:プログラフ)の普及により、以前よりも低用量のステロイドでの維持が可能になっているものと考えられる。2)メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法血清学的な活動性が高く、びまん性の増殖性糸球体腎炎が認められる場合に行われる。長期的な有効性のエビデンスは少なく、またシクロホスファミドパルス療法(IVCY)の方が有効性に優るという報告もあるが、ステロイドの速効性に期待して、急激に腎機能が悪化している症例などに行われる。感染症や大腿骨頭壊死などの副作用も多く、十分な注意が必要である。mPSLパルス療法は各種腎・免疫疾患で行われるが、LNでは1日1gを使用するパルス療法と、500mgを使用するセミパルス療法は同等の効果を示すという報告もある。■ 免疫抑制薬1)シクロホスファミド静注療法(IVCY)1986年に、National Institute of Health(NIH)グループが、LNにおけるIVCYの報告を行ってから、難治性LNの治療として、IVCYは現在まで世界各国で幅広く行われている。NIHレジメンは、シクロホスファミド0.5~1.0g/m2を、月に1回、3~6ヵ月間投与するものであるが、Euro Lupus Nephritis Trial(ELNT)のレジメンは、500mg/日を2週に1回、6回まで投与するものである。シクロホスファミドの経口投与では、不可逆性の無月経が重大な問題であったが、IVCYとすることでかなり減少したとされる。しかし、20代の女性で10人に1人程度の不可逆性無月経が出現するとされており、年齢が上がるとさらにそのリスクは増大する。挙児希望のある場合は、十分なインフォームドコンセントが必要である。長らく保険承認がない状態で使用されていたが、2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。2)アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)LNの治療に海外、国内ともに幅広く使用されているが、シクロホスファミド同様長らく保険承認がない状態で使用されていた。やはり2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。シクロホスファミドに比べ骨髄障害の副作用が少なく、また、妊娠は禁忌となっていたが、腎移植などでの経験から大きな問題はないと考えられ、2018年に禁忌が解除された。3)シクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)“頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合のネフローゼ症候群”の病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、6ヵ月以上使用する場合は、トラフ値を100ng/mL程度に設定する。投与の上限量が定められていないので、有効血中濃度が得られやすいことが利点である。トラフ値を測定するには、入院時は内服前の早朝に採血し、外来では受診日だけは内服しないように指導することが必要である。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。4)ミゾリビン(同:ブレディニン)1990年にLNの病名で保険適用が追加された。最近は血中濃度を上昇させることの重要性が提唱され、150mgの朝1回投与や、さらに多い量を週に数回使用するパルス療法などが行われているが、「保険で認められている使用法とは異なる」というインフォームドコンセントが必要である。比較的安全な免疫抑制薬であるが、妊娠時の使用は禁忌であることに注意する必要がある。5)タクロリムス(同:プログラフ)LNの病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、投与12時間後の濃度(C12)をモニタリングし、10ng/mLを超えないように留意する。しかし、LNでの承認最大用量3mg/日を使用しても、血中濃度が上昇しないことの方が多い。臨床試験において、平均4~5ng/mL(C12)で良好な成績を示したが、5~10ng/mLが至適濃度との報告もある。内服が夕方なので、午前の採血で血中濃度を測定するとC12値が得られる。併用禁忌薬、慎重投与の薬剤、糖尿病の発症や増悪に注意をする。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。6)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)〔同:セルセプト〕MMFは生体内で速かに加水分解され活性代謝物ミコフェノール酸(MPA)となる、MPAはプリン生合成のde novo 経路の律速酵素であるイノシンモノホスフェイト脱水素酵素を特異的に阻害し、リンパ球の増殖を選択的に抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。海外では、ACR(American College of Rheumatology)、EULAR(European League Against Rheumatism)、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)LN治療ガイドラインにおいて、活動性LNの寛解導入と寛解維持療法にMMFを第1選択薬の一つとして推奨され、標準薬として使用されている8,9)。わが国では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討された「ループス腎炎」の公知申請について、2015年7月31日の薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会で事前評価が行われ、「公知申請を行っても差し支えない」とされ、保険適用となった。用法・用量は、成人通常、MMFとして1回250~1,000mgを1日2回12時間毎に食後経口投与する。なお年齢、症状により適宜増減するが、1日3,000mgを上限とする。副作用には、感染症、消化器症状、骨髄抑制などがある。また、妊娠時は禁忌であることに注意が必要である。2019年に日本リウマチ学会から発行された、SLEの診療ガイドラインでは、MMFがLNの治療薬として推奨された10)。7)multi-target therapyミゾリビンとタクロリムスの併用療法の有効性が報告されている11,12)。両剤とも十分な血中濃度を確保することが重要な薬剤であるが、単剤での有効血中濃度確保ができないような症例に有効である可能性がある。また、海外を中心にMMFとタクロリムスの併用療法の有効性も報告されている13-15)。■ ACE阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)LNでの難治性の蛋白尿にACEIやARBが有効であるとの報告がある。筆者らは両者の併用を行い、さらなる有効性を確認している。特に、ループス膜性腎症で免疫抑制療法を行っても、難治性の尿蛋白を呈する症例では試みてもよいのではないかと考えている。4 今後の展望世界的に広く使用されていたシクロホスファミドとアザチオプリンが保険適用となり、使用しやすくなったため、わが国でのエビデンスの構築が望まれる。公知申請で承認されたMMFの効果にも、期待がもたれる。SLEに対する新規治療薬としては、BLysに対するモノクローナル抗体のbelimumabが非腎症SLEに対する有効性が認められFDAの承認を受け、さらにわが国でも使用可能になった。しかし、LNでの有効性についてはいまだ明らかではない。さらに、海外ではSLEの標準的治療薬であるハイドロキシクロロキンもわが国で使用可能になった。LNに対する適応はないが、再燃予防効果やステロイド減量効果が報告されており、期待がもたれる。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報全身性エリテマトーデス(難病情報センター)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ACRガイドライン(WILEYのオンラインライブラリー)EULAR/ERA-EDTAリコメンデーション(BMJのライブラリー)KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(International Society of Nephrologyのライブラリー)公的助成情報全身性エリテマトーデス(難病ドットコム)(患者向けの医療情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者と家族の会)参考文献1)Weening JJ, et al. Kidney Int. 2004;65:521-530.2)日本透析医学会統計調査委員会. 図説 わが国の慢性維持透析療法の現況(2013年12月31日現在);日本透析医学会.2014.3)Hochberg MC. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.4)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686. 5)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.6)Aringer M, et al. Arthritis Rheumatol. 2019;71:1400-1412.7)住田孝之. COLOR ATLAS 膠原病・リウマチ 改訂第3版. 診断と治療社;2016.p.30-53.8)Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20:1103-1112.9)Dooley MA, et al. N Engl J Med. 2011;365:1886-1895.10)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等 政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班.日本リウマチ学会編. 全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン. 南山堂;2019.11)Kagawa H, et al. Clin Exp Nephrol. 2012;16:760-766.12)Nomura A, et al. Lupus. 2012;21:1444-1449.13)Bao H, et al. J Am Soc Nephrol. 2008;19:2001–2010.14)Ikeuchi H, et al. Mod Rheumatol. 2014;24:618-625.15)Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162:18-26.公開履歴初回2013年05月02日更新2019年12月10日

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第2回 心臓リハビリ、誰に、何する、どうやって【今さら聞けない心リハ】

第2回 心臓リハビリ、誰に、何する、どうやって今回のポイント心臓リハビリテーション(心リハ)の保険診療上の適用疾患は7疾患心リハは患者の心血管疾患の治療状況に応じた運動療法を中心に生活全般の患者指導を行うプログラムであるQOLの改善・心血管疾患の再発悪化を予防することを目的とする医師・看護師のほか、理学療法士・栄養士などの多職種で患者の生活機能評価を行い、プログラム内容を決定第1回では、心リハの知識が心血管患者の診療だけではなく、ケアネット読者の皆様の健康のためにも大切であることを書きました。今回は、心リハの保険診療について説明します。~心リハ対象疾患は?~日本で心リハが初めて保険適用となったのは1988年のこと。当時、保険適用の疾患は急性心筋梗塞のみでした。その後、心リハの有用性についてのエビデンスが蓄積するに伴い対象疾患が追加され、2019年7月現在、以下の7つが心リハの対象疾患となっています。(表1)心大血管リハビリテーションの対象疾患画像を拡大するよくある質問として、『心リハには年齢制限はありますか?』というものがありますが、年齢制限はありません。100歳でも心リハを受けていただけます。ただし、心リハは、あくまで運動療法を中心に生活全般の患者指導を行うプログラムですので、たとえば、“認知機能の低下などによりベッド上で可動域訓練を行う介入”しかできないような患者では、通常は心リハではなく、廃用症候群リハビリテーションとして行われます。(図1)病期と心臓リハビリプログラム画像を拡大する心血管疾患の急性発症により入院となった患者に対し、初期治療を受けて血行動態が安定した後、心リハのオーダーが出されます。そして、心リハ担当医や看護師のほか、理学療法士、栄養士などの多職種で患者の生活機能評価、心リハ計画の立案などを分担し、インフォームドコンセントを通じてプログラム内容を決定します(急性期心リハ)。心リハの目的はQOL(生活の質)の改善と心血管疾患の再発悪化を予防することですので、心血管疾患の重症度や治療状況、ADL(日常生活動作)や運動耐容能のほか、栄養状態、嗜好品、鬱・認知症、仕事や家庭環境など、疾患の管理に影響するような項目を評価し、患者の希望を確認した上で具体的な運動指導・生活指導を行います。退院後も外来心リハを継続し、運動負荷試験や基礎代謝量の測定、体成分分析検査などの検査も定期的に行い、指導の効果についても1~3ヵ月ごとに経時的に評価していきます(回復期心リハ)。このような評価を行う中で、何らかの専門的介入が必要と考えられる状態が認められれば、専門医にコンサルトすることもしばしばあります。まれではありますが、心リハの評価としての体成分分析検査の結果、四肢の筋萎縮が著明・中心性肥満を認め、内分泌内科にコンサルトしたところ、クッシング症候群と診断された症例もあります。このような症例では、どんなに運動・栄養療法を理想的に実施しても、クッシング症候群の病態を改善しなければ筋量・運動耐容能の改善はなかなか得られないでしょう。~心リハは継続が力なり~心リハは、1単位=20分間、1回3単位を基本とし、発症日あるいはリハ開始日から150日間の算定が認められています。また、すべての疾患について、月13単位までであれば150日を超えて継続可能です(維持期心リハ)。このように、維持期にも算定が認められているのは心リハの特徴の一つです。心リハは手術治療のように1回の治療で大きな改善が得られるような治療ではありませんが、継続的に行うことで、その効果が現れてきます。こうした心リハの特性を踏まえ算定期間が定められているようです。ただし、多くの医療機関では維持期の患者を受け入れるだけの枠がないことが多いため、維持期の患者の多くは、心リハを続けることができていないのが現状です。維持期の心リハについて、若い患者ではスポーツクラブと積極的に連携をとっていく、高齢者では介護保険制度のリハへ繋げていくことが必要と考えられます。急性期・回復期・維持期の心リハ普及と発展を目指して、1995年に日本心臓リハビリテーション学会が、2005年にはジャパンハートクラブが設立されました。ご興味のある方はぜひ、ホームページをのぞいてみてください。<Dr.小笹の心リハこぼれ話>8番目の保険適用も間近?さて、保険診療上の対象疾患7つを見て、“あれ、なんで『経カテーテル大動脈弁置換術後?』”と違和感をおぼえた方はいらっしゃいませんか? そうです、7番目の“経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)後”だけが、特定の治療法後に限定した心リハの適応を示しています。こちらが2018年に新たな心リハの対象疾患として認可されたのには理由(わけ)があります。2013年にわが国でTAVIが認可されたことで、これまで、重度の大動脈弁狭窄症があっても大動脈弁置換術などの根本治療が適用されず、予後不良であった超高齢患者や重複障害をもつ患者が、治療を受けられるようになりました。その後2018年までの5年間に本邦でTAVIを施行された患者は6,000例を上回り、TAVIの実施施設は年々増加しています。TAVIを施行された患者は循環障害や症状により術前からあまり動けていないことが多く、筋量が減少し、筋力・持久力ともに低下しています。TAVIにより心臓の問題が解決しても、残念ながら筋量・筋力・持久力は直ちに改善するわけではなく、これらの患者が退院後自立していくために、あるいは介護負担を減らすために、術後のリハビリが非常に重要となります。現在、85歳、90歳、95歳でも、TAVIを受ける患者が多くいます。術後の心リハがなければ、これらの患者は“手術をして心臓は良くなっても、歩けない”という悲しい結果に陥ってしまいます。このため、TAVI後はほぼ全例に対し心リハがオーダーされます。この新しい治療法は、急速に心リハの適用患者を増加させることになったのです。循環器領域では最近、TAVI以外にも構造的心疾患(SHD:Structural Heart Disease)に対するさまざまな新しい治療法が次々と開発、臨床応用されており、SHDインターベンションと呼ばれています。SHDインターベンションを受ける患者が最終的に目標としているのは、健康寿命の延伸にほかなりません。治療に成功したら、その後の心リハはセットです。今後、SHDインターベンションは、新たな心リハの適用患者をどれほど生み出すことになるのでしょうか。

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認知機能低下と入院の関連、外科と内科で違いは/BMJ

 手術による2泊以上の入院は、平均的な認知機能の経過(the cognitive trajectory)にわずかながら影響を及ぼしたが、非外科的入院ほどではなかった。重大な認知機能低下のオッズは、外科手術後で約2倍であり、非外科的入院の約6倍よりも低かったという。米国・ウィスコンシン大学のBryan M. Krause氏らが、加齢に伴う認知機能の経過と大手術との関連を定量化する目的で行った前向き縦断的コホート研究の結果を報告した。手術は長期的な認知障害と関連する可能性があるが、これらの関連性を検討した先行研究では、認知機能低下が加齢に伴い加速するという認知機能の経過を考慮しておらず、方法論的な問題のため一貫した結果が得られていなかった。著者は、「本研究の情報は、インフォームドコンセントの際に、手術による健康上の有益性の可能性と比較検討されるべきである」とまとめている。BMJ誌2019年8月7日号掲載の報告。Whitehall IIコホート研究の参加者を対象に19年間追跡 研究グループは、Whitehall II研究において1997~2016年の間に認知機能の評価を5回行った成人7,532例を対象に、Hospital Episode Statistics(HES)データベースを用いて、手術と加齢に伴う認知機能の経過との関連を解析した。 注目した曝露は入院で、追跡期間中の2泊以上の入院を“大きな入院”と定義し、主要評価項目は論理的思考、記憶、音素流暢性(phonemic fluency)、意味流暢性(semantic fluency)を含む認知機能検査一式から得られた全般的認知機能スコア(global cognitive score)とした。 ベイズ線形混合効果モデルを用いて入院後の加齢に伴う認知機能の経過における変化を算出するとともに、手術によって引き起こされた重大な認知機能低下(最初の3回の認知機能評価データに基づく予測経過から標準偏差1.96を超えると定義)のオッズも同様に算出した。重大な認知機能低下のオッズは、外科的入院で約2倍、内科的入院で約6倍 加齢に伴う認知機能の経過を考慮した後でも、大手術(“大きな入院”を要した手術)はわずかな認知機能低下と関連があり、平均して5ヵ月未満の加齢に相当した(95%信用区間[CrI]:0.01~0.73)。一方、内科疾患および脳卒中による入院は、それぞれ1.4年(95%CrI:1.0~1.8)と13年(95%CrI:9.6~16)の加齢と関連していた。 重大な認知機能低下は、非入院患者の2.5%、外科入院患者の5.5%、内科入院患者の12.7%で確認された。“大きな入院”をしていない患者と比較すると、外科的または内科的イベントを伴う"大きな入院"をした患者は、認知機能の予測経過からかなり低下する傾向にあった(外科的入院オッズ比:2.3[95%CrI:1.4~3.9]、内科的入院オッズ比:6.2[95%CrI:3.4~11.0])。 なお、著者は研究の限界として、因果関係は不明で、麻酔投与のデータは限られており、長期的な認知機能の変化における麻酔の影響は評価していないことなどを挙げている。

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統合失調症患者の同意能力と認知機能との関係

 同意の意思決定能力は、倫理的および法的な新しい概念であり、重要な医学的決定や臨床研究への参加に直面している患者において、自己決定と密接に関連するものである。国立精神・神経医療研究センターの菅原 典夫氏らは、統合失調症患者における同意の意思決定能力と認知機能との関係について、Frontiers in Psychiatry誌2019年4月12日号で報告した。 主な内容は以下のとおり。・近年、意思決定能力を評価するため、4つの側面(理解、感謝、推論、選択の表現)からなる半構造化インタビューのMacArthur能力評価ツール(MacCAT)が開発された。・MacCATで測定された統合失調症患者群の意思決定能力は、健常対照群と比較し、損なわれていることが示唆されている。・このことは、統合失調症患者の意思決定能力が、必ずしも低下していることを意味するものではない。・リアルワールドでは、統合失調症患者からインフォームドコンセントを得ることが求められるが、そのためには、精神病理学的特徴と疾患における意思決定能力との関係を評価することが重要である。・統合失調症患者では、陰性症状が、意思決定に関連する情報を理解する能力、合理的な理由、状況の理解、その結果と関連していることが証明されている。・一方で、幻覚や妄想などの陽性症状は、低い能力との一貫した相関はみられていない。・いくつかの研究では、統合失調症の中核症状の1つである認知機能障害が、陽性症状や陰性症状よりも、意思決定能力に対し、より大きく関与している可能性が示唆されている。 著者らは「統合失調症患者の認知機能を強化し、同意や自主性を促進する能力を向上させることは、医学的治療や臨床研究への参加において合理的であると考えられる。このことや関連する問題を解明するためには、さらなる研究が求められる」としている。

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成長ホルモン治療を継続させる切り札

 2018年5月18日ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、ノルディトロピン(一般名:ソマトロピン)承認30周年を記念し、プレスセミナーを開催した。 セミナーでは、成長ホルモン治療の現状、問題点とともに医療者と患者・患者家族が協働して治療の意思決定を行う最新のコミュニケーションの説明が行われた。成長ホルモン治療でアドヒアランスを維持することは難しい セミナーは、「成長ホルモン治療の Shared Decision Making ~注射デバイスの Patient Choiceと Adherence」をテーマに、高澤 啓氏(東京医科歯科大学 小児科 助教)を講師に迎え行われた。 現在、成長ホルモン(以下「GH」と略す)治療は、保険適用の対象疾患としてGH分泌不全性低身長、ターナー症候群、ヌーナン症候群、プラダー・ウィリー症候群、慢性腎不全、軟骨異栄養症(ここまでが小児慢性特定疾患)、SGA性低身長がある。これらは未診断群も含め、全国で約3万人の患児・患者が存在するという。診断では、通常の血液、尿検査のスクリーニングを経て、負荷試験、MRI、染色体検査などの精密検査により確定診断が行われる。そして、治療ではソマトロピンなどのGH治療薬を1日1回(週6~7回)、睡眠前に本人または家族が皮下注射している。 GH治療の課題として、治療が数年以上の長期間にわたることで患者のアドヒアランスが低下し、維持することが難しいとされるほか、治療用の注射デバイスが現状では医師主導で選択されていることが多く、患者に身体的・精神的負担をかけることが懸念されているという。患者の怠薬を防ぐ切り札 これらの課題を解決する手段として提案されるのが「Shared Decision Making(協働意思決定)」(以下「SDM」と略す)だという。 SDMとは、「意思決定の課題に直面した際に医師と患者が、evidenceに基づいた情報を共有し、選択肢の検討を支援するシステムにのっとり、情報告知に基づいた選択を達成する過程」と定義され、従来のインフォームドコンセントと異なり、患者の視点が医療者に伝わることで医療の限界や不確実性、費用対効果の共有が図られ、治療という共通問題に向き合う関係が構築できるという。 実際この手法は、欧米ですでに多数導入され、専任のスタッフを設置している医療機関もあり、SDMがアドヒアランスに与える影響として、患者の治療意欲の向上、怠薬スコアの改善といった効果も報告されているという1)。日本型SDMの構築の必要性 実際に同氏が、川口市立医療センターで行ったSDM導入研究(n=46)を紹介。その結果として、「患者が自己決定することで(1)患者家族の理解および治療参加が促進された、(2)アドヒアランスの維持に寄与した、(3)治療効果を促進する可能性が示唆された」と報告した。また、「SDMによる患者の自己決定は、意思疎通の過程で有用であり、治療への家族参加や自己効力感を高めうるだけでなく、簡便な手法ゆえ施設毎での応用ができる」と意義を強調した。 最後に同氏は、今後のわが国での取り組みについて「SDMの有効性から必要性への啓発、サポートする体制作り、日本式のSDMの在り方の構築が求められる」と展望を語り、セミナーを終了した。

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スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬使用に関する比較研究

 妊娠中の抗てんかん薬処方パターンは、変化してきているが、スペインでどの程度の変化が起こっているかは、よくわかっていない。妊娠中の発作をコントロールするための新薬の有効性は重要であり、長年にもわたり医師がこれらの新薬を使ってきたことによって、その処方パターンは変化している可能性がある。スペイン・Hospital Mutua de TerrassaのM. Martinez Ferri氏らは、これらの疑問を評価するため、12年にわたって収集したスペインEURAPレジストリの結果を報告した。Neurologia誌2018年3月号の報告。 インフォームドコンセントに署名した後、患者はレジストリに登録され、妊娠初期、妊娠第2期、第3期の終わり、出産後、出産1年後に評価が行われた。抗てんかん薬、てんかんの種類、妊娠1期当たりおよび妊娠期間中全体での発作頻度、妊娠中の発作のない頻度、先天性奇形の頻度について分析を行った。2001年6月~2007年10月(前期)と2008年1月~2015年5月(後期)のデータの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・前期より304報、後期より127報の単剤療法の文献について比較を行った。・カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールの使用が減少し、レベチラセタムの使用が明らかに増加した。また、バルプロ酸の使用がわずかに減少し、ラモトリギンおよびoxcarbazepineの使用がわずかに増加した。・カルバマゼピンおよびバルプロ酸で治療したてんかんの種類に変化は認められなかったが、後期においてラモトリギンで治療した全般てんかん症例は少なかった。・この傾向は、発作頻度の有意な変化とは関連が認められず、妊娠第3期における新規発作に対するより良いコントロールと関連が認められた。・発作コントロールに関して、レベチラセタムは、カルバマゼピンやバルプロ酸と同等であり、ラモトリギンよりも有効であった。・全般てんかんは、レベチラセタムで治療された症例の64%を占めていた。 著者らは「スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬処方パターンは変化しており、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールの使用が減少していた。全般てんかんに対するラモトリギン使用が少ないため、この変化はてんかんの種類の影響を受けている。レベチラセタムは、古典的な抗てんかん薬と同様の発作コントロールを示し、ラモトリギンよりも効果的かつ良好であった」としている。■関連記事妊娠可能年齢のてんかん女性にはレベチラセタム単独療法がより安全「妊娠、抗てんかん薬」検索結果は患者に役立つか?新規抗てんかん薬の催奇形性リスクは

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認知症のBPSD、かかりつけ医は抗精神病薬を控えて

 2017年5月17日、日本老年精神医学会は、名古屋市で6月14~15日に開催される第32回日本老年精神医学会を前に、都内においてプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、新井平伊氏(順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学 教授/同学会 理事長)が、同学会の主な活動として、2016年に発表した「かかりつけ医のためのBPSDに対する向精神薬使用ガイドライン第2版」について、患者家族が最も苦慮する症状の1つである興奮性BPSDに対する薬物療法に焦点を絞り、その要点を紹介した。興奮性BPSDに、かかりつけ医が用いるべき薬剤は 抗精神病薬は、数多くの臨床試験によって有効性が実証されており、主に専門医を対象とした「認知症疾患治療ガイドライン2010」では、エビデンスレベルの高い選択肢として推奨されている。一方、実臨床で用いられるメマンチンやバルプロ酸や抑肝散などは、臨床試験数が少ないためエビデンスレベルが低く、場合によっては削除されることもある。加えて、認知症に対する抗精神病薬の使用は、死亡リスクを高めるとして、FDAおよび厚労省から警告が発出されている。このように研究と臨床の間にはギャップがあり、認知症を専門としないかかりつけ医においては、医療安全を最優先に考えた薬剤選択が必要であるとし、下記の選択基準を挙げた。(1)抗精神病薬を第1選択としない(警告が発出されている薬剤を第1選択としない)(2)初めに認知症に適応を有するメマンチンあるいはコリンエステラーゼ阻害薬が、次いでバルプロ酸、抑肝散が推奨される(3)上記の薬剤でコントロールが難しい場合は、専門医との連携を推奨する バルプロ酸や抑肝散については、臨床試験の数が少ないが、実臨床では有効であったとの報告を踏まえ、抗精神病薬を用いる前の選択肢として挙げている。また、メマンチンとコリンエステラーゼ阻害薬は、両剤ともに興奮性BPSDを発症・増悪させる可能性に留意する必要があると付け加えた。薬剤によるBPSDではないか、まず確認を メマンチンやコリンエステラーゼ阻害薬のほかにも、興奮性BPSDの症状を引き起こす薬剤が複数あるため、今回の改訂では治療アルゴリズムにおける“薬剤性の除外”を強調した。BPSD治療アルゴリズムでは、非薬物的介入を最優先で行うこととし、薬物療法を開始する際の確認要件に以下の4項目を挙げている。(1)ほかに身体的原因はない(とくに感染症、脱水、各種の痛み、視覚・聴覚障害など)(2)ほかの薬物の作用と関係ない(3)服薬順守に問題ない(4)家族との間で適応外使用に関するインフォームドコンセントが得られている BPSD様の症状を引き起こす可能性のある薬剤には、上記の認知症治療薬以外にもH2ブロッカーや第1世代抗ヒスタミン薬などが挙げられている。該当する薬剤の詳細は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(日本老年医学会)の参照を勧めている。抗精神病薬を使用する場合は、10週間程度に BPSDに対する抗精神病薬の使用に慎重になるべき理由として、死亡リスクの増加がある。新井氏らが2016年に発表した1万症例のアルツハイマー病患者を対象とした前向きコホート研究において、新規に抗精神病薬を服用した患者では10週以降に死亡率が上昇したと報告している1)。この点から、やむを得ず新規に抗精神病薬を投与する場合は、10週間ほどに留め、常に減量・中止を考慮するのが望ましいとした。また、6ヵ月以上服用中の症例は比較的安全であるが、リスクベネフィットの観点からの判断が求められる。 最後に新井氏は、「認知症患者に対する抗精神病薬の使用による死亡リスクについては、FDAおよび厚労省の警告発出以来ほぼ11年が経過しているが、現在も十分な配慮が必要であり、非薬物療法および抗精神病薬以外の選択肢を優先すべきだ」と改めて強調した。関連サイト日本老年精神医学会厚生労働省 かかりつけ医のためのBPSDに対する向精神薬使用ガイドライン第2版参考文献1)Heii Arai, et al. Alzheimers Dement. 2016;12:823-830.

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