サイト内検索|page:20

検索結果 合計:840件 表示位置:381 - 400

381.

非肥満で冠動脈疾患を有する2型糖尿病の血糖管理

 非肥満者の糖尿病はインスリン抵抗性よりインスリン分泌低下による可能性が高い。それゆえ、内因性もしくは外因性のインスリン供給(IP)治療が、インスリン抵抗性改善(IS)治療よりも有効かもしれないが、最適な戦略は不明のままである。今回、国立国際医療研究センターの辻本 哲郎氏らは、非肥満で冠動脈疾患(CAD)を有する糖尿病患者の血糖コントロールについて検討したところ、IS治療のほうがIP治療より有益である可能性が示唆された。International Journal of Cardiology誌オンライン版2019年2月7日号に掲載。 著者らは、Bypass Angioplasty Revascularization Investigation in type 2 Diabetes(BARI 2D)試験データを用いて、CADを有する2型糖尿病患者におけるアウトカムイベントについて、Cox比例ハザードモデルによりハザード比(HR)と95%信頼区間(95%CI)を計算した。また、BARI 2D試験の無作為化デザインを用いて、非肥満(1,021例)および肥満(1,319例)の患者それぞれにおいてIP群とIS群を比較した。主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中を含む複合評価項目であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中、非肥満患者231例と肥満患者295例で少なくとも1件の主要アウトカムイベントが確認された。・主要アウトカムイベントのリスクは、非肥満患者ではIS群よりIP群で有意に高かった(HR:1.30、95%CI:1.00~1.68、p=0.04)が、肥満患者では2群間に有意な差はなかった。・非肥満患者において、腹部肥満のない患者に限定しても主要アウトカムイベントのリスクはIS群よりIP群で有意に高かった(HR:1.51、95%CI:1.05~2.19、p=0.02)。・血糖コントロール戦略と非肥満患者のさまざまなサブグループとの間に有意な交互作用はみられなかった。

382.

第8回 呼吸の異常-1 頻呼吸の原因は?【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回は呼吸の異常について取り上げたいと思います。前回お話しした救急のABCを覚えていますか?「気道(Airway)」「呼吸(Breathing)」「循環(Circulation)」でしたね。呼吸の異常に関係するAとBは、バイタルサインでいうと呼吸数です。患者さんを観察し、バイタルサインを評価することによって、気道・呼吸・循環の状態を考え、急を要するか否かを考えてみましょう。患者さんAの場合◎経過──186歳、男性。脳梗塞の既往があります。意思疎通をとることはできますが、左半身の不完全麻痺があり、ベッド上で過ごすことがほとんどです。全介助によって車いすに移乗できます。食事は、お粥と細かくきざんだ軟らかいおかずを何とか自分で食べることができますが、1か月ほど前から介助を必要とすることが多くなってきました。本日、定期の訪問日だったため、薬剤師であるあなたが患者さん宅を訪れると、「ハァハァ」と呼吸が速く、息苦しそうにしていることに気が付きました。家族(妻)から、「調子が悪そうなんですけど、お医者さんに行った方がよいでしょうか...」と相談されました。呼吸の調節さて、呼吸が速いことに気がついたあなたは、呼吸数が増加する原因を考えました。頻呼吸となる原因はいくつかあります。原因1●血液中の酸素濃度が低下、または二酸化炭素濃度が上昇したとき空気の通る気道に異常(気道異物や急性喉頭蓋炎※1など)を来したり、肺に異常(肺炎や心不全など)があると、酸素が取り込めなくなったり二酸化炭素を排出できなくなったりします。血液中の酸素濃度が低下すると、頸動脈や大動脈にある末梢化学受容器(頸動脈小体、大動脈小体)〈図1〉が刺激されます。一方、二酸化炭素濃度が上昇した時は、脳幹(延髄)にある中枢化学受容器が刺激されます。どちらも、頻呼吸となったり1回の呼吸が大きくなったりします。また、呼吸をしようとしても神経や筋の疾患(ギランバレー症候群※2や重症筋無力症、頸髄損傷など)のために、十分に胸が動かない状態でも同様です。原因2●代謝性アシドーシス腎不全などにより血液が酸性に傾いた状態を代謝性アシドーシスと言います。呼吸をすることによって、酸性の状態から正常のpHに戻そうとします。糖尿病性ケトアシドーシス※3が有名です。原因3●過換気症候群※4、ヒステリーなど精神的な問題でも呼吸が速くなります。※1 急性喉頭蓋炎細菌感染により喉頭蓋に炎症を起こす疾患。初発症状は発熱や喉の痛みだが、喉頭蓋が腫れるため気道狭窄を起こし、喘鳴や呼吸困難が現れることがある。※2 ギランバレー症候群筋肉を動かす運動神経の障害のため、手足に力が入らなくなる疾患。重症の場合には中枢神経障害性の呼吸不全が現れる。※3 糖尿病性ケトアシドーシス1型糖尿病患者ではインスリンが欠乏し、細胞は血液中からブドウ糖を取り込むことができない。そのため、脂肪酸からエネルギーを産生する。特にインスリンが絶対的に欠乏した場合(1型糖尿病発症時、インスリンの自己注射を中断した時など)は、脂肪酸代謝が亢進するためケトン体が生合成される。このケトン体により血液が酸性に傾く状態を糖尿病性ケトアシドーシスと呼ぶ。口渇、多尿、悪心・嘔吐、腹痛を引き起こし、脳浮腫、昏睡、死亡に至る場合もある。※4 過換気症候群心理的な原因により過呼吸(深く速い呼吸)となり、血液がアルカリ性に傾く。このため、眩暈、手足のしびれ、時には痙攣や意識障害が現れる。

383.

インスリン治療、認知症リスクに関連か

 糖尿病は認知症の危険因子と報告されているが、糖尿病治療薬と認知症との関連についての研究は少なく結果も一貫していない。今回、インスリン、メトホルミン、スルホニル尿素(SU)類の使用と認知機能および認知症リスクとの関連について、イスラエル・ハイファ大学のGalit Weinstein氏らが5つのコホートの統合解析により検討した。その結果、インスリン使用と認知症発症リスクの増加および全般的認知機能の大きな低下との関連が示唆された。著者らは、「インスリン治療は、おそらく低血糖リスクがより高いことにより、有害な認知アウトカムの増加と関連する可能性がある」としている。PLOS ONE誌2019年2月15日号に掲載。 本研究では、フラミンガム心臓研究、ロッテルダム研究、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究、Aging Gene-Environment Susceptibility-Reykjavik Study(AGES)およびSacramento Area Latino Study on Aging (SALSA)の5つの集団ベースのコホートの結果を統合した。各コホートにおけるインスリン、メトホルミン、SU類の使用者と非使用者との差について、認知および脳MRIを線形回帰モデルで、また認知低下および認知症/アルツハイマー病リスクを混合効果モデルおよびCox回帰分析を用いて、それぞれ評価した。結果はメタ解析手法を用いて統合され、前向き解析には糖尿病患者3,590例が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・血糖コントロール指標を含む潜在的な交絡因子を調整後、インスリン使用が、認知症発症リスクの増加(pooled HR(95%CI):1.58(1.18~2.12)、p=0.002)および全般的認知機能の大きな低下(β=−0.014±0.007、p=0.045)と関連していた。さらに腎機能を調整し、生活習慣の改善のみで治療された糖尿病患者を除いても、認知症発症との関連は変わらなかった。・インスリン使用とアルツハイマー病リスクとの間に有意な関連はみられなかった。・インスリン使用は認知機能および脳MRIに関連していなかった。・メトホルミンやSU類の使用と、脳機能および構造のアウトカムとの間に、有意な関連はみられなかった。・コホート間に有意な異質性は示されなかった。

384.

第13回 アナタはどうしてる? 術前心電図(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第13回:アナタはどうしてる? 術前心電図(後編)前回は非心臓手術として、整形外科の膝手術予定の患者さんを例示し、術前スクリーニング心電図のよし悪しを述べました。今回も同じ症例を用いて、Dr.ヒロなりの術前心電図に対する見解を示します。症例提示67歳、男性。変形性膝関節症に対して待機的手術が予定されている。整形外科から心電図異常に対するコンサルテーションがあった。既往歴:糖尿病、高血圧(ともに内服治療中)、喫煙:30本×約30年(10年前に禁煙)。コンサル時所見:血圧120/73mmHg、脈拍81/分・整。HbA1c:6.7%、ADLは自立。膝痛による多少の行動制限はあるが、階段昇降は可能で自転車にて通勤。仕事(事務職)も普通にこなせている。息切れや胸痛の自覚もなし。以下に術前の心電図を示す(図1)。(図1)術前心電図画像を拡大する【問題】依頼医に対し、心電図所見、耐術性・リスクをどのように返答するか。解答はこちら心電図所見:経過観察(術前心精査不要)。耐術性あり(年齢相応)、心合併症リスクも低い。解説はこちらまず、心電図所見。果たしてどのように所見に“重みづけ”をしたら良いのでしょう。どの所見ならヤバくて、どれなら安心なのか。外科医が(循環器)内科医に尋ねたいのは、主に耐術性とリスク(心臓や血管における合併症)の2点ではないでしょうか。耐術性は、合併疾患の状況はもちろん、“動ける度”(運動耐容能)で判定するのがポイント。決して心エコーの“EF”ではありませんよ(フレイル・寝たきりで手術がためらわれる方でも、左心機能が正常な方が多い)。今回のケースのように、高齢ではなく、心疾患の既往や思わせぶりな症状・徴候もなく 、そして何より心臓も血管もいじらない手術で「心血管系合併症が起きるのでは…」とリスクを考えるのは“杞憂”でしょう。誰も彼も術前“ルーチン”心電図を行うのは、ほとんど無意味で臨床判断に影響を与えないことは前回述べました。「どんな患者に術前心電図は必要なのでしょう?」「どんな所見なら問題視すべきでしょう?」このような問いかけに、アナタならどうしますか? Dr.ヒロならこうします。“心電図検査の妥当性はこれでチェック”ボクが術前コンサルトで心電図の相談を受けた時、参考にしているフローチャート(図2)を示します。(図2)術前心電図の要否をみるフローチャート画像を拡大するこれはもともと、術前心電図の要否を判断するものです。海外ではそもそも「検査すべきか・そうでないか」が重視されているんですね。ただ、日本では、“スクリーニング”的に術前心電図がなされるので、ボクはこれを利用して、コンサルトされた心電図に“意義がある”ものか“そうでない”ものかをまず考えます。ここでも、心電図を“解釈する”ための周辺情報として、心電図“以外”の情報とつけ合わせることが大切です。術前外来で言えば、患者さんの問診と診察ですね。一人の患者さんにかけられる時間は限られているので、術前外来で、ボクは以下の4つをチェックしています。“妥当性”からの判断◆心疾患の既往◆症状(symptom)・徴候(sign)◆手術自体のリスク(規模・侵襲性)◆Revised Cardiac Risk Index(RCRI)まず既往歴。これは心疾患を中心に聞きとります。続く2つ目は症状と症候です。症状は、ボクが考える心疾患の“5大症状”、1)動悸、2)息切れ、3)胸痛、4)めまい・ふらつき、5)失神を確認します。もちろん異論もあるでしょうし、100%の特異性はありません。1)や2)は年齢や運動不足、そのほかの理由で「ある」という人が多いですが、それが心臓病っぽいかそうでないかの判断には経験や総合力も必要です。あとは、聴診と下腿浮腫の症候を確認するだけにしています。聴診は心雑音と肺ラ音ね。この段階で心臓病の既往、症状や徴候のいずれかが「あり」なら、術前心電図をするのは妥当で、所見にも一定の“意義”が見込めます。でも、もし全て「なし」なら非特異的な所見である確率がグッと高くなるでしょう。次に手術リスクを考慮します。これは手術予定の部位(臓器)や所要時間、麻酔法、出血量などで決まるでしょう。リスト化してくれている文献*1もあります。これによると、心合併症の発生が1%未満と見込まれる低リスク手術(いわゆる“日帰り手術”や白内障、皮膚表層や内視鏡による手術など)の場合、心電図は「不要」なんです。一方、心合併症が5%以上の高リスク手術(大動脈、主要・末梢血管などの血管手術)なら、心電図は「必要」とされます。もともと、ベースに心臓病を合併しているケースも多いですし、その病態把握に加えて、術後に何か起きた時、術前検査が比較対象としても使えますからね。残るは、心合併症が1~5%の中リスク手術。全身麻酔で行われる非心臓手術の多くがここに該当します。今回の膝手術もまぁここかな。ここで、「RCRI:Revised Cardiac Risk Index」という指標*2を登場させましょう。非心臓手術における心合併症リスク評価の“草分け”として海外で汎用されているもの(図3)で、中リスク手術における術前心電図の妥当性が「あり」か「なし」を判定する重要なスコアなんです!(図3)Revised Cardiac Risk Index(RCRI)画像を拡大するRevised Cardiac Risk Index(RCRI)1)高リスク手術(腹腔内、胸腔内、血管手術[鼠径部上])*2)虚血性心疾患(陳旧性心筋梗塞、狭心痛、硝酸薬治療、異常Q波など)3)うっ血性心不全(肺水腫、両側ラ音・III音、発作性夜間呼吸困難など)4)脳血管疾患(TIAまたは脳卒中の既往)5)糖尿病(インスリン使用)6)腎機能障害(血清クレアチニン値>2mg/dL)*:RCRIでは血管手術以外に、胸腔・腹腔内の手術も含まれる点に注意1)のみ手術側、残り5つが患者側因子の計6項目からなり、ボクもこのページをブックマークしています(笑)。たとえば、全て「No」を選択すると、主要心血管イベントの発生率が「3.9%」と算出されます(注:2019年1月から数値改訂:旧版では「0.4%」と表示)。中リスク手術ならRCRIが1項目でも該当するかどうかがが大事ですが、今回の男性は全て「No」。つまり、チャートで「No ECG(術前心電図をする“意義はない”)」に該当しますから、たとえいくつか心電図所見があっても基本は重要視せず、これ以上の検査を追加する必要もないと判断してOKではないでしょうか。“active cardiac conditionの心電図か?”術前心電図としての妥当性の観点から、今回の症例は精査が不要そうです。では、仮にチャートで「ECG」(“意義あり”)となった時、2つ目のクエスチョン「問題視すべき所見は?」はどうでしょうか。患者さんは“非心臓”手術を受けるのが真の目的ですから、その前にボクらが“手出し”(精査や加療)するのは、よほどの緊急事態ととらえるのがクレバーです。そこでボクが重要視しているのは、“active cardiac condition”です。実はこれ、アメリカ(ACC/AHA)の旧版ガイドライン(2007)*3で明記されたものの、最新版(2014)*4では削除された概念なんです(わが国のガイドライン*5には残ってます)。active cardiac condition=緊急処置を要するような心病態、のような意味でしょうか。これを利用します。“緊急性”からの判断~active cardiac condition~(A)急性冠症候群(ACS)(B)非代償性心不全(いわゆる“デコった”状況)(C)“重大な”不整脈(房室ブロック、心室不整脈、コントロールされてない上室不整脈ほか)(D)弁膜症(重症AS[大動脈弁狭窄症]ほか)もちろん、ここでも心電図以外の検査所見も見て下さい。心電図の観点では、(A)や(C)の病態が疑われたら“激ヤバ”で、早急な対処、場合によっては手術を延期・中止する必要があります。既述のチャートで“全て「No」だった心電図”でも無視できず、むしろ、至急「循環器コール」です(まれですが術前にそう判明する患者さんがいます)。ただ、「左室肥大(疑い)」や「不完全右脚ブロック」などの波形異常の多くはactive cardiac conditionに該当せず、術前にあれこれ検索すべき所見ではありません。つまり、患者さんに対し、「手術を受けるのに、この心電図なら大丈夫」と“太鼓判”を押し、追加検査を「やらない」ほうがデキる医師だと示せるチャンスです!もちろん、コンサルティ(外科医)の意向もくんだ上で最終判断してくださいね。れっきとしたエビデンスがない分野ですが、このように自分なりの一定の見解を持っておくことは悪くないでしょう(気に入ってくれたら、今回の“Dr.ヒロ流ジャッジ”をどうぞ!)。今回のように必要ないとわかっていても、万が一で責任追及されては困ると“慣習”に従う形で、技師さんへ詫びながら心エコーを依頼する、そんな世の中が早く変わればいいなぁ。いつにも増して“熱く”なり過ぎましたかね(笑)。Take-home Message1)心電図所見に対して精査を追加すべきかどうかは、術前検査としての「妥当性」を考慮する2)Active Cardiac Conditionでなければ、非心臓手術より優先すべき検査・処置は不要なことが多い*1:Kristensen SD, et al.Eur Heart J.2014;35:2383-431.*2:Lee TH, Circulation.1999;100:1043-9.*3:Fleisher LA, et al.Circulation.2007;116:e418-99.*4:Fleisher LA, et al.Circulation.2014;130:e278-333.*5:日本循環器学会ほか:非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン2014年改訂版【古都のこと~天橋立~】「日本三景ってどこ?」松島、宮島、そして京都にある「天橋立」です。前回の京丹後の旅の帰りに寄りました。「オイオイ、っていうか写真、逆では?」とお思いでしょ? 実は、2016年のイグノーベル賞で有名になった“股のぞき効果”(股のぞきで眺めると、風景の距離感が不明瞭になり、ものが実際より小さく見える効果)を体験しながら撮影したんです。絶景に背を向け、股下から天橋立をのぞき込むと、そこは“天上世界”。海と空とが逆転し、天に舞い上がる龍のように見えるそうです(飛龍観)。ボクの想像力が豊かで、しかも、もっと雲が少なかったら…見えなくもないかな? ボクは天橋立ビューランドからでしたが、傘松公園バージョンもあるそうで。また今度行ってみようかなぁ。

385.

血友病〔Hemophilia〕

血友病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■概要血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)あるいは第IX因子(FIX)の先天的な遺伝子異常により、それぞれのタンパクが量的あるいは質的な欠損・異常を来すことで出血傾向(症状)を示す疾患である1)。血友病は、古代バビロニア時代から割礼で出血死した子供が知られており、19世紀英国のヴィクトリア女王に端を発し、欧州王室へ広がった遺伝性疾患としても有名である1)。女王のひ孫にあたるロシア帝国皇帝ニコライ二世の第1皇子であり、最後の皇太子であるアレクセイ皇子は、世界で一番有名な血友病患者と言われ、その後の調査で血友病Bであったことが確認されている2)。しかし、血友病にAとBが存在することなど疾患概念が確立し、治療法も普及・進歩してきたのは20世紀になってからである。■疫学と病因血友病は、X連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)による遺伝形式を示す先天性の凝固異常症の代表的疾患である。基本的には男子にのみ発症し、血友病Aは出生男児約5,000人に1人、血友病Bは約2万5,000人に1人の発症率とされる1)。一方、約30%の患者は、家族歴が認められない突然変異による孤発例とされている1)。■分類血友病には、FVIII活性(FVIII:C)が欠乏する血友病Aと、FIX活性(FIX:C)が欠乏する血友病Bがある1)。血友病は、欠乏する凝固因子活性の程度によって重症度が分類される1)。因子活性が正常の1%未満を重症型(血友病A全体の約60%、血友病Bの約40%)、1~5%を中等症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)、5%以上40%未満を軽症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)と分類する1)。■症状血友病患者は、凝固因子が欠乏するために血液が固まりにくい。そのため、ひとたび出血すると止まりにくい。出産時に脳出血が多いのは、健常児では軽度の脳出血で済んでも、血友病児では止血が十分でないため重症化してしまうからである。乳児期は、ハイハイなどで皮下出血が生じる場合が多々あり、皮膚科や小児科を経由して診断されることもある。皮下出血程度ならば治療を必要としないことも多い。しかし、1歳以降、体重が増加し、運動量も活発になってくると下肢の関節を中心に関節内出血を来すようになる。擦り傷でかさぶたになった箇所をかきむしって再び出血を来すように、ひとたび関節出血が生じると同じ関節での出血を繰り返しやすくなる。国際血栓止血学会(ISTH)の新しい定義では、1年間に同じ関節の出血を3回以上繰り返すと「標的関節」と呼ばれるが、3回未満であれば標的関節でなくなるともされる3)。従来、重症型の血友病患者ではこの標的関節が多くなり、足首、膝、肘、股、肩などの関節障害が多く、歩行障害もかなりみられた。しかし、現在では1回目あるいは2回~数回目の出血後から血液製剤を定期的に投与し、平素から出血をさせないようにする定期補充療法が一般化されており、一昔前にみられた関節症を有する患者は少なくなってきている。中等症型~軽症型では出血回数は激減し、出血の程度も比較的軽く、成人になってからの手術の際や大けがをして初めて診断されることもある1)。■治療の歴史1960年代まで血友病の治療は輸血療法しかなく、十分な凝固因子の補充は不可能であった。1970年代になり、血漿から凝固因子成分を取り出したクリオ分画製剤が開発されたものの、溶解操作や液量も多く十分な因子の補充ができなかった1)。1970年代後半には血漿中の当該凝固因子を濃縮した製剤が開発され、使い勝手は一気に高まった。その陰で原料血漿中に含まれていたウイルスにより、C型肝炎(HCV)やHIV感染症などのいわゆる薬害を生む結果となった。当時、国内の血友病患者の約40%がHIVに感染し、約90%がHCVに感染した。クリオ製剤などの国内製剤は、HIV感染を免れたが、HCVは免れなかった1)。1983年にHIVが発見・同定された結果、1985年には製剤に加熱処理が施されるようになり、以後、製剤を経由してのHIV感染は皆無となった1)。HCVは1989年になってから同定され、1992年に信頼できる抗体検査が献血に導入されるようになり、以後、製剤由来のHCVの発生もなくなった1)。このように血友病治療の歴史は、輸血感染症との戦いの歴史でもあった。遺伝子組換え型製剤が主流となった現在でも、想定される感染症への対応がなされている1)。■予後血友病が発見された当時は治療法がなく、10歳までの死亡率も高かった。1970年代まで、重症型血友病患者の平均死亡年齢は18歳前後であった1,4)。その後、出血時の輸血療法、血漿投与などが行われるようになったが、十分な治療からは程遠い状態であった。続いて当該凝固因子成分を濃縮した製剤が開発されたが、非加熱ゆえに薬害を招くきっかけとなってしまった。このことは血友病患者の予後をさらに悪化させた。わが国におけるHIV感染血友病患者の死亡率は49%(平成28年時点のデータ)だが、欧米ではさらに多くの感染者が存在し、死亡率も60%を超えるところもある5)。罹患血友病患者においては、感染から30年を経過した現在、肝硬変の増加とともに肝臓がんが死亡原因の第1位となっている5)。1987年以後は、輸血感染症への対策が進んだほか、遺伝子組換え製剤の普及も進み、若い世代の血友病患者の予後は飛躍的に改善した。現在では、安全で有効な凝固因子製剤の供給が高まり、出血を予防する定期補充療法も普及し、血友病患者の予後は健常者と変わらなくなりつつある1)。2 診断乳児期に皮下出血が多いことで親が気付く場合も多いが、1~2歳前後に関節出血や筋肉出血を生じることから診断される場合が多い1)。皮膚科や小児科、時に整形外科が窓口となり出血傾向のスクリーニングが行われることが多い。臨床検査でAPTTの延長をみた場合には、男児であれば血友病の可能性も考え、確定診断については専門医に紹介して差し支えない。乳児期の紫斑は、母親が小児科で虐待を疑われるなど、いやな思いをすることも時にあるようだ。■検査と鑑別診断血友病の診断には、血液凝固時間のPTとAPTTがスクリーニングとして行われる。PT値が正常でAPTT値が延長している場合は、クロスミキシングテストとともにFVIII:CまたはFIX:Cを含む内因系凝固因子活性の測定を行う1)。FVIII:Cが単独で著明に低い場合は、血友病Aを強く疑うが、やはりFVIII:Cが低くなるフォン・ヴィレブランド病(VWD)を除外すべく、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性を測定しておく必要がある1)。軽症型の場合には、血友病AかVWDか鑑別が難しい場合がある。FIX:Cが単独で著明に低ければ、血友病Bと診断してよい1)。新生児期では、ビタミンK欠乏症(VKD)に注意が必要である。VKDでは第II、第VII、第IX、第X因子活性が低下しており、PTとAPTTの両者がともに延長するが、ビタミンKシロップの投与により正常化することで鑑別可能である。それでも血友病が疑われる場合にはFVIII:CやFIX:Cを測定する6)。まれではあるが、とくに家族歴や基礎疾患もなく、それまで健康に生活していた高齢者や分娩後の女性などで、突然の出血症状とともにAPTTの著明な延長と著明なFVIII:Cの低下を認める「後天性血友病A」という疾患が存在する7)。後天的にFVIIIに対する自己抗体が産生されることにより活性が阻害され、出血症状を招く。100万人に1~4人のまれな疾患であるがゆえに、しばしば診断や治療に難渋することがある7)。ベセスダ法によるFVIII:Cに対するインヒビターの存在の確認が確定診断となる。■保因者への注意事項保因者には、血友病の父親をもつ「確定保因者」と、家系内に患者がいて可能性を否定できない「推定保因者」がいる。確定保因者の場合、その女性が妊娠・出産を希望する場合には、前もって十分な対応が可能であろう。推定保因者の場合にもしかるべき時期がきたら検査をすべきであろう。保因者であっても因子活性がかなり低いことがあり、幼小児期から出血傾向を示す場合もあり、製剤の投与が必要になることもあるので注意を要する。血友病児が生まれるときに、頭蓋内出血などを来す場合がある。保因者の可能性のある女性を前もって把握しておくためにも、あらためて家族歴を患者に確認しておくことが肝要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)従来は、出血したら治療するというオンデマンド、出血時補充療法が主体であった1)。欧米では1990年代後半から、安全な凝固因子製剤の使用が可能となり、出血症状を少なくすることができる定期的な製剤の投与、定期補充療法が普及してきた1)。また、先立って1980年代には自己注射による家庭内治療が一般化されてきたこともあり、わが国でも1990年代後半から定期補充療法が幅広く普及し、その実施率は年々増加してきており、現在では約70%の患者がこれを実践している5)。定期補充療法の普及によって、出血回数は減少し、健康な関節の維持が可能となって、それまでは消極的にならざるを得なかったスポーツなども行えるようになり、血友病の疾患・治療概念は大きく変わってきた。定期補充療法の進歩によって、年間出血回数を2回程度に抑制できるようになってきたが、それぞれの因子活性の半減期(FVIIIは10~12時間、FIXは20~24時間)から血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回の投与が推奨され、かつ必要であった1)。凝固因子製剤は、静脈注射で供給されるため、実施が困難な場合もあり、患者は常に大きな負担を強いられてきたともいえる。そこで、少しでも患者の負担を減らすべく、半減期を延長させた製剤(半減期延長型製剤:EHL製剤)の開発がなされ、FVIII製剤、FIX製剤ともにそれぞれ数社から製品化された6,8)。従来の凝固因子に免疫グロブリンのFc領域ではエフラロクトコグ アルファ(商品名:イロクテイト)、エフトレノナコグ アルファ(同:オルプロリクス)、ポリエチレングリコール(PEG)ではルリオクトコグ アルファ ペゴル(同:アディノベイト)、ダモクトコグ アルファ ペゴル(同:ジビイ)、ノナコグ ベータペゴル(同:レフィキシア)、アルブミン(Alb)ではアルブトレペノナコグ アルファ(同:イデルビオン)などを修飾・融合させることで半減期の延長を可能にした6,8)。PEGについては、凝固因子タンパクに部位特異的に付加したものやランダムに付加したものがある。付加したPEGの分子そのもののサイズも20~60kDaと各社さまざまである。また、通常はヘテロダイマーとして存在するFVIIIタンパクを1本鎖として安定化をさせたロノクトコグ アルファ(同:エイフスチラ)も使用可能となった。これらにより血友病AではFVIIIの半減期が約1.5倍に延長され、週3回が週2回へ、血友病BではFIXの半減期が4~5倍延長できたことから従来の週2回から週1回あるいは2週に1回にまで注射回数を減らすことが可能となり、かつ出血なく過ごせるようになってきた6,8)。上手に製剤を使うことで標的関節の出血回避、進展予防が可能になってきたとともに年間出血回数ゼロを目指すことも可能となってきた。■個別化治療以前は<1%の重症型からそれ以上(1~2%以上の中等症型)に維持すれば、それだけでも出血回数を減らすことが可能ということで、定期補充療法のメニューが組まれてきた。しかし、製剤の利便性も向上し、EHL製剤の登場により最低レベル(トラフ値)もより高く維持することが可能となってきた6,8)。必要なトラフ値を日常生活において維持するのみならず、必要なとき、必要な時間に、患者の活動に合わせて因子活性のピークを作ることも可能になった。個々の患者のさまざまなライフスタイルや活動性に合わせて、いわゆるテーラーメイドの個別化治療が可能になりつつある。また、合併症としてのHIV感染症やHCVのみならず、高齢化に伴う高血圧、腎疾患や糖尿病などの生活習慣病など、個々の合併症によって出血リスクだけではなく血栓リスクも考えなければならない時代になってきている。ひとえに定期補充療法が浸透してきたためである。ただし、凝固因子製剤の半減期やクリアランスは、小児と成人では大きく異なり、個人差が大きいことも判明している1)。しっかりと見極めるためには個々の薬物動態(PK)試験が必要である。現在ではPopulation PKを用いて投与後2ポイントの採血と体重、年齢などをコンピュータに入力するだけで、個々の患者・患児のPKがシミュレートできる9)。これにより、個々の患者・患児の生活や出血状況に応じた、より適切な投与量や投与回数に負担をかけずに検討できるようになった。もちろん医療費という面でも費用対効果を高めた治療を個別に検討することも可能となってきている。■製剤の選択基本的には現在、市場に出ているすべての凝固因子製剤は、その効性や安全性において優劣はない。現在、製剤は従来型、EHL含めてFVIIIが9種類、FIXは7種類が使用可能である。遺伝子組換え製剤のシェアが大きくなってきているが、国内献血由来の血漿由来製剤もFVIII、FIXそれぞれにある。血漿由来製剤は、未知の感染症に対する危険性が理論的にゼロではないため、先進国では若い世代には遺伝子組換え製剤を推奨している国が多い。血漿由来製剤の中にあって、VWF含有FVIII製剤は、遺伝子組換え製剤よりインヒビター発生リスクが低かったとの報告もなされている10)。米国の専門家で構成される科学諮問委員会(MASAC)は、最初の50EDs(実投与日数)はVWF含有FVIII製剤を使用してインヒビターの発生を抑制し、その後、遺伝子組換え製剤にすることも1つの方法とした11)。ただ、初めて凝固因子製剤を使用する患児に対しては、従来の、あるいは新しい遺伝子組換え製剤を使用してもよいとした11)。どれを選択して治療を開始するかはリスクとベネフィットを比較して、患者と医療者が十分に相談したうえで選択すべきであろう。4 今後の展望■個々の治療薬の開発状況1)凝固因子製剤現在、凝固因子にFc、PEG、Albなどを修飾・融合させたEHL製剤の開発が進んでいることは既述した。同様に、さまざまな方法で半減期を延長すべく新規薬剤が開発途上である。シアル酸などを結合させて半減期を延長させる製剤、FVIIIがVWFの半減期に影響されることを利用し、Fc融合FVIIIタンパクにVWFのDドメインとXTENを融合させた製剤などの開発が行われている12)。rFVIIIFc-VWF(D’D3)-XTENのフェーズ1における臨床試験では、その半減期は37時間と報告され、血友病Aも1回/週の定期補充療法による出血抑制の可能性がみえてきている13)。2)抗体医薬これまでの血液製剤はいずれも静脈注射であることには変わりない。インスリンのように簡単に注射ができないかという期待に応えられそうな製剤も開発中である。ヒト化抗第IXa・第X因子バイスペシフィック抗体は、活性型第IX因子(FIXa)と第X因子(FX)を結合させることによりFX以下を活性化させ、FVIIIあるいはFVIIIに対するインヒビターが存在しても、それによらない出血抑制効果が期待できるヒト型モノクローナル抗体製剤(エミシズマブ)として開発されてきた。週1回の皮下注射で血友病Aのみならず血友病Aインヒビター患者においても、安全性と良好な出血抑制効果が報告された14,15)。臨床試験においても年間出血回数ゼロを示した患者の割合も数多く、皮下注射でありながら従来の静脈注射による製剤の定期補充療法と同等の出血抑制効果が示された。エミシズマブはへムライブラという商品名で、2018年5月にインヒビター保有血友病A患者に対して認可・承認され、続いて12月にはインヒビターを保有しない血友病A患者においてもその適応が拡大された。皮下注射で供給される本剤は1回/週、1回/2週さらには1回/4週の投与方法が選択可能であり、利便性は高いものと考えられる。いずれにおいても血中濃度を高めていくための導入期となる最初の4回は1回/週での投与が必要となる。この期間はまだ十分に出血抑制効果が得られる濃度まで達していない状況であるため、出血に注意が必要である。導入時には定期補充を併用しておくことも推奨されている。しかし、けっして年間出血回数がすべての患者においてゼロになるわけではないため、出血時にはFVIIIの補充は免れない。インヒビター保有血友病A患者におけるバイパス製剤の使用においても同様であるが、出血時の対応については、主治医や専門医とあらかじめ十分に相談しておくことが肝要であろう。血友病Bではその長い半減期を有するEHLの登場により1回/2週の定期補充により出血抑制が可能となってきた。製剤によっては、通常の使用量で週の半分以上をFIXが40%以上(もはや血友病でない状態「非血友病状態」)を維持可能になってきた。血友病Bにおいても皮下注射によるアプローチが期待され、開発されてきている。やはりヒト型モノクローナル抗体製剤である抗TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)抗体はTFPIを阻害し、TF(組織因子)によるトロンビン生成を誘導することで出血抑制効果が得られると考えられ、現在数社により日本を含む国際共同試験が行われている12)。抗TFPI抗体の対象は血友病AあるいはB、さらにはインヒビターあるなしを問わないのが特徴であり、皮下注射で供給される12)。また、同様に出血抑制効果が期待できるものに、肝細胞におけるAT(antithrombin:アンチトロンビン)の合成を、RNA干渉で阻害することで出血抑制を図るFitusiran(ALN-AT3)なども研究開発中である12)。3)遺伝子治療1999年に米国で、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療のヒトへの臨床試験が初めて行われた15)。以来、ex vivo、in vivoを問わずさまざまなベクターを用いての研究が行われてきた15)。近年、AAVベクターによる遺伝子治療による長期にわたっての安全性と有効性が改めて確認されてきている。FVIII遺伝子(F8)はFIX遺伝子(F9)に比較して大きいため、ベクターの選択もその難しさと扱いにくさから血友病Bに比べ、遅れていた感があった。血友病BではPadua変異を挿入したF9を用いることで、より少ないベクターの量でより副作用少なく安全かつ高効率にFIXタンパクを発現するベクターを開発し、10例ほどの患者において1年経た後も30%前後のFIX:Cを維持している16-18)。1回の静脈注射で1年にわたり、出血予防に十分以上のレベルを維持していることになる。血友病AでもAAVベクターを用いてヒトにおいて良好な結果が得られており、血友病Bの臨床開発に追い着いてきている16-18)。両者ともに海外においてフェーズ 1が終了し、フェーズ 3として国際臨床試験が準備されつつあり、2019年に国内でも導入される可能性がある。5 主たる診療科血友病の診療経験が豊富な診療施設(診療科)が近くにあれば、それに越したことはない。しかし、専門施設は大都市を除くと各県に1つあるかないかである。ネットで検索をすると血友病製剤を扱う多くのメーカーが、それぞれのホームページで全国の血友病診療を行っている医療機関を紹介している。たとえ施設が遠方であっても病診連携、病病連携により専門医の意見を聞きながら診療を進めていくことも十分可能である。日本血栓止血学会では現在、血友病診療連携委員会を立ち上げ、ネットワーク化に向けて準備中である。国内においてその拠点となる施設ならびに地域の中核となる施設が決定され、これらの施設と血友病患者を診ている小規模施設とが交流を持ち、スムーズな診療と情報共有ができるようにするのが目的である。また、血友病には患者が主体となって各地域や病院単位で患者会が設けられている。入会することで大きな安心を得ることが可能であろう。困ったときに、先輩会員に相談でき、患児の場合は同世代の親に気軽に相談することができるメリットも大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(National Hemophilia Network of Japan)(血友病患者と家族の会)1)Lee CA, et al. Textbook of Hemophilia.2nd ed.USA: Wiley-Blackwell; 2010.2)Rogaev EI, et al. Science. 2009;326:817.3)Blanchette VS, et al. J Thromb Haemost. 2014;12:1935-1939.4)Franchini M, et al. J Haematol. 2010;148:522-533.5)瀧正志(監修). 血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書.公益財団法人エイズ予防財団;2017. 6)Nazeef M, et al. J Blood Med. 2016;7:27-38.7)Kessler CM, et al. Eur J Haematol. 2015;95:36-44.8)Collins P, et al. Haemophilia. 2016;22:487-498.9)Iorio A, et al. JMIR Res Protoc. 2016;5:e239.10)Cannavo A, et al. Blood. 2017;129:1245-1250.11)MASAC Recommendation on SIPPET. Results and Recommendations for Treatment Products for Previously Untreated Patients with Hemophilia A. MASAC Document #243. 2016.12)Lane DA. Blood. 2017;129:10-11.13)Konkle BA, et al. Blood 2018,San Diego. 2018;132(suppl 1):636(abstract).14)Shima M, et al. N Engl J Med. 2016;374:2044-2053.15)Oldenburg J, et al. N Engl J Med. 2017;377:809-818.16)Swystun LL, et al. Circ Res. 2016;118:1443-1452.17)Doshi BS, et al. Ther Adv Hematol. 2018;9:273-293.18)Monahan PE. J Thromb Haemost. 2015;1:S151-160.公開履歴初回2017年9月12日更新2019年2月12日

386.

安価なインスリンへの変更、血糖値への影響は/JAMA

 米国のメディケアに加入する2型糖尿病患者において、インスリンアナログ製剤からヒトインスリンへの変更を含む医療保険制度改革の実行は、集団レベルでHbA1c値のわずかな上昇と関連していたことが、米国・ハーバード大学医学大学院のJing Luo氏らによる後ろ向きコホート研究の結果、明らかにされた。新規のインスリンアナログ製剤の価格は上昇しており、ヒトインスリンよりも高額である。しかし、臨床アウトカムを大きく改善しない可能性が示唆されており、低価格のヒトインスリンが多くの2型糖尿病患者にとって、現実的な初回治療の選択肢ではないかと考えられていた。JAMA誌2019年1月29日号掲載の報告。メディケア処方プランに基づくインスリン変更前後のHbA1c値を評価 研究グループは、米国4州で実施されているメディケア・アドバンテージ処方プランの加入者を対象に、分割時系列分析による後ろ向きコホート研究を実施した。被験者には、2014年1月1日~2016年12月31日の期間にインスリンが処方された(追跡期間中央値729日)。医療保険制度改革に伴い、アナログ製剤からヒトインスリンへ変更する介入は、2015年2月にアリゾナ州で試験的に開始され、同年6月までに制度全体での施行が完了した。 主要評価項目は、12ヵ月間の平均HbA1c値の変化量とし、2014年の介入前(ベースライン)、2015年の介入時、2016年の介入後の3期間で評価した。副次評価項目は、重症低血糖または高血糖の頻度とし、ICD-9-CMおよびICD-10-CMの診断コードを用いて評価した。アナログからヒトインスリンへの切り替えでHbA1cがわずかに上昇 1万4,635例(平均[±SD]年齢72.5±9.8歳、女性51%、2型糖尿病93%)に、3年以上にわたりインスリンが22万1,866件処方された。 ベースラインの平均HbA1c値は8.46%(95%信頼区間[CI]:8.40~8.52%)で、介入前は-0.02%/月(95%CI:-0.03~-0.01、p<0.001)の割合で減少していた。介入開始と、HbA1c値0.14%増加(95%CI:0.05~0.23、p=0.003)との関連、および傾斜変化0.02%(95%CI:0.01~0.03、p<0.001)との関連が確認された。介入完了後は、平均HbA1c変化量は0.08%(95%CI:-0.01~0.17)、傾斜変化は<0.001%(95%CI:-0.008~0.010%)で、介入時と比較して有意差は確認されなかった(それぞれp=0.09、p=0.81)。 重症低血糖の発現については、介入開始との間に有意な関連は確認されず、変化量は2.66/1,000人年(95%CI:-3.82~9.13、p=0.41)、傾斜変化は-0.66/1,000人年(95%CI:-1.59~0.27、p=0.16)であった。介入後は、1.64/1,000人年(95%CI:-4.83~8.11、p=0.61)、傾斜変化-0.23/1,000人年(95%CI:-1.17~0.70、p=0.61)で、介入時と比較し有意差は確認されなかった。ベースラインの重症高血糖の頻度は、22.33/1,000人年(95%CI:12.70~31.97)であった。重症高血糖の頻度に関しても、変化量4.23/1,000人年(95%CI:-8.62~17.08、p=0.51)、傾斜変化-0.51/1,000人年(95%CI:-2.37~1.34、p=0.58)であり、介入開始との間に有意な関連はみられなかった。

387.

1型糖尿病患者に経口治療薬登場

 2019年1月17日、アステラス製薬株式会社は、寿製薬株式会社と共同開発したイプラグリフロジン(商品名:スーグラ)が、2018年12月に1型糖尿病への効能・効果および用法・用量追加の承認を受けたことを機に、都内でプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、SGLT2阻害薬の1型糖尿病への期待と課題、適正使用のポイントなどが解説された。1型糖尿病患者への経口薬の適応が検討されてきた経緯 セミナーでは、加来 浩平氏(川崎医科大学・川崎医療福祉大学 特任教授)を講師に迎え「1型糖尿病治療の新しい選択肢 ~SGLT2阻害薬スーグラ錠への期待と注意すべきポイント~」をテーマに講演が行われた。 1型糖尿病は、全糖尿病患者の約6%(11万人超)の患者がいるとされ、治療では、インスリンの絶対的適応となる。また、1型糖尿病では、いままで経口治療薬としてαグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)の1種類しか保険適用ではなく、治療では低血糖やケトアシドーシスの発現で非常に苦労をしていたという。そのため、血糖管理を2型糖尿病患者と比較しても、2型糖尿病の平均HbA1c値が2002年7.42%から2017年7.03%へと低下しているのに対し、1型糖尿病では2002年8.16%からの推移を見ても、2009年から7.8%前後で下げ止まりとなるなど、インスリンだけの治療の困難さについて触れた。 こうした背景も踏まえ1型糖尿病患者への経口薬の適応が検討され、イプラグリフロジンの臨床試験が行われたと臨床試験の経緯を説明した。1型糖尿病患者175例を対象にインスリン製剤と併用投与 24時間インスリン製剤を使用した際のイプラグリフロジン50mgの有効性および安全性を検討した、第III相二重盲検比較試験/長期継続投与試験が行われた。対象者は、20歳以上のインスリン療法で血糖管理が不十分な1型糖尿病患者175例(HbA1c7.5%以上11.0%以下)で、4週間のスクリーニング期と2週間のプラセボrun-in期を経て、イプラグリフロジン50mgまたはプラセボに2:1に無作為に割り付けられ、二重盲検下で24週間、インスリン製剤と併用投与された。また、安全性に問題がないと判断された場合は、28週間の非盲検期に移行された。主要評価項目はHbA1c値の改善で、副次評価項目は空腹時血糖値の改善、併用総インスリン1日投与単位数であった。 24週後の二重盲検投与終了時のHbA1c値は、イプラグリフロジン群で-0.47%だったのに対し、プラセボ群は-0.11%とイプラグリフロジン群の方が-0.36%低下し、優越性が検証された。また、併用総インスリン1日投与単位数では、イプラグリフロジン群とプラセボ群では-7.35IUと有意差を認める結果だった。体重の変化では、プラセボ群に比べ、イプラグリフロジン群で平均-2.87kgと有意な体重減少も認められた。 安全性に関しては、死亡や重篤な副作用は確認されなかったが、「インスリンを減量しないと低血糖の発現リスクが、一方で減量しすぎるとケトアシドーシスのリスクが高まる可能性がある。ケトン体の出現など服用3ヵ月くらいが注意する期間」と加来氏は指摘し、これら相反する問題に対して、どうマネジメントしていくかがSGLT2阻害薬処方時のこれからの課題と語った。1型糖尿病治療へイプラグリフロジンを用いる長所 加来氏は、イプラグリフロジン使用のポイントとして、日本糖尿病学会提唱の「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を参考にするとともに、とくに1型糖尿病の患者への注意点として、「必ずインスリン製剤を併用すること、インスリンの注射量の減量は医師の指示に従うこと」を挙げた。また、処方で注意すべき症例として「女性、痩せている人、インスリンポンプ使用者」を具体的に挙げ、女性はケトアシドーシスの報告が多く、インスリンポンプは故障により低血糖リスクが増加するケースがあると注意を促した。 最後にまとめとして、イプラグリフロジンを1型糖尿病治療へ用いる長所として「血糖改善、インスリン使用量の削減、体重抑制」などがあるとともに、課題として「ケトアシドーシスのリスク増加、インスリンの中断や過剰な減量などでのリスクがある。この点を見極めて使用してもらいたい」と述べ、講演を終えた。

388.

リンゴ型の脂肪分布、腹部と臀部で異なる遺伝的機序が関与か/JAMA

 ウエスト/ヒップ比(WHR)の算出の基礎となる腹部(ウエスト)および殿大腿部(ヒップ)の脂肪分布には、それぞれ異なる遺伝メカニズムが関連している可能性があることが、英国・ケンブリッジ大学のLuca A. Lotta氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月25日号に掲載された。一般にWHRで評価される体脂肪分布は、BMIとは独立の重要な心血管代謝疾患の寄与因子とされるが、腹部の高脂肪分布または殿大腿部の低脂肪分布によるWHR増加が心血管代謝疾患リスクに影響を及ぼすかは不明だという。遺伝的バリアントとリスクの関連を評価 研究グループは、WHR高値と関連する遺伝的バリアント(genetic variant)を同定し、その心血管代謝疾患リスクとの関連を推定する目的で、多段階的なアプローチによる検討を行った(英国医学研究会議[MRC]の助成による)。 3つの住民ベースの前向きコホート研究(UK Biobank、Fenland、EPIC-Norfolk)、1つのケース・コホート研究(EPIC-InterAct)および既報の6つの全ゲノム関連解析(GWAS)の要約統計量を用い、4つの段階(GWAS、フォローアップ解析)に分けて解析を行った。 第1段階では、脂肪分布関連の遺伝的バリアントを同定するために、BMIによる補正の有無別にGWASを行った。第2段階では、第1段階とは別個に、WHR関連の遺伝的バリアントを用いて、腹部(ウエスト周囲長)の高脂肪分布または殿大腿部(ヒップ周囲長)の低脂肪分布によるWHR高値の多遺伝子スコアを算出した。 第3段階では、二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)を用いて部位別の脂肪塊を測定し、多遺伝子スコアとの関連を検討することで、このスコアの妥当性の評価を行った。第4段階では、6つの心血管代謝疾患リスク因子(収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖、空腹時インスリン、トリグリセライド、LDLコレステロール)および2つの疾患アウトカム(2型糖尿病、冠動脈疾患)と多遺伝子スコアとの関連を評価した。糖尿病、冠動脈疾患のリスク評価に有用な可能性 UK Biobankの欧州人家系の参加者45万2,302例の平均年齢は57(SD 8)歳、女性が54%で、平均WHRは0.87(SD 0.09)であった。GWASでは、202の遺伝的バリアントが、BMIで補正したWHR(66万648例)および非補正WHR(66万3,598例)と関連が認められた。 DEXA解析(1万8,330例)では、WHR高値のウエストおよびヒップの多遺伝子スコアは、それぞれ腹部脂肪の高値および殿大腿部脂肪の低値と特異的な関連がみられた。 フォローアップ解析(63万6,607例)では、ウエストおよびヒップの特異的な多遺伝子スコアはいずれも、BMI補正WHRの1SD上昇ごとに、高収縮期血圧、高拡張期血圧、高トリグリセライド値と関連を示した。 また、2型糖尿病(ウエスト特異的多遺伝子スコア=オッズ比[OR]:1.57、95%信頼区間[CI]:1.34~1.83、1,000人年当たりの絶対リスク増[ARI]:4.4、95%CI:2.7~6.5、p<0.001、ヒップ特異的多遺伝子スコア=OR:2.54、95%CI:2.17~2.96、ARI:12.0、95%CI:9.1~15.3、p<0.001)および冠動脈疾患(ウエスト特異的多遺伝子スコア=OR:1.60、95%CI:1.39~1.84、ARI:2.3、95%CI:1.5~3.3、p<0.001、ヒップ特異的多遺伝子スコア=OR:1.76、95%CI:1.53~2.02、ARI:3.0、95%CI:2.1~4.0、p<0.001)についても、ウエストおよびヒップの特異的な多遺伝子スコアはいずれも、BMI補正WHRの1SD上昇ごとに有意な関連が認められた。 著者は、「腹部脂肪高値または殿大腿部脂肪低値と特異的に関連する遺伝メカニズムは、それぞれ独立に体形と心血管代謝疾患リスクの関連に寄与している可能性がある」とまとめ、「これらの知見は、2型糖尿病および冠動脈疾患のリスク評価や治療の改善に資する可能性がある」としている。

389.

リナグリプチンのCARMELINA試験を通して血糖降下薬の非劣性試験を再考する(解説:住谷哲氏)-991

 eGFRの低下を伴う腎機能異常を合併した2型糖尿病患者における血糖降下薬の選択は、日常臨床で頭を悩ます問題の1つである。血糖降下薬の多くは腎排泄型であるため腎機能に応じて投与量の調節が必要となる。DPP-4阻害薬の1つであるリナグリプチンは数少ない胆汁排泄型の薬剤であり、腎機能に応じた投与量の調節が不要であるため腎機能異常を合併した患者に投与されることが多い。 これまでにDPP-4阻害薬の安全性を評価した心血管アウトカム試験CVOTでは、サキサグリプチンのSAVOR-TIMI 53、アログリプチンのEXAMINE、シタグリプチンのTECOSが発表されている。リナグリプチンの安全性を評価した本試験の報告により、DPP-4阻害薬の安全性を評価したすべてのCVOTが出そろったことになる。本試験の最大の特徴は、リナグリプチンが胆汁排泄型であることに基づいて、これまで報告されたCVOTの中で最多の腎機能異常合併2型糖尿病患者を組み入れた点にある。 6,979例がエントリーされたが、その半数以上がeGFR<60mL/min/1.73m2であり、eGFR<30mL/min/1.73m2の患者も約15%含まれていた。主要評価項目は心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中からなる3-point MACEであったが、副次評価項目にはESRDへの移行、腎関連死、ベースラインから40%以上のeGFRの低下の持続からなる腎複合エンドポイントが含まれている。中央値2.2年の観察期間において、プラセボ群の3-point MACE発症率は5.63/100人年であり、これまで実施されたCVOTの中で最も高リスクであった。このことは腎機能異常合併2型糖尿病患者の心血管リスクがきわめて高いことを示している。既報のDPP-4阻害薬のCVOTと同様に、主要評価項目ではプラセボ群に対する非劣性が証明されたが優越性は証明されなかった。期待された腎複合エンドポイントでも優越性は証明されなかった。多くの探索的アウトカムexploratory outcomeの中でプラセボ群と有意差を認めたのはアルブミン尿の進展HR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)、複合細小血管エンドポイントHR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)のみであった。重症低血糖の頻度もプラセボ群との間に有意差を認めなかった。また観察期間中のHbA1cはリナグリプチン群で0.36%有意に低下した。 本試験も含めて既報のCVOTはすべて非劣性試験non-inferiority trialであり、その結果をどのように解釈して日常臨床に適用すればよいのだろうか? 確かにすべての非劣性試験は製薬企業が新たな薬剤を販売するための臨床試験であり、われわれ臨床家にとっても患者にとってもメリットはないとの指摘にも一理ある1)。非劣性試験で証明されるのは、対象である新たな血糖降下薬(試験薬)が既存の血糖降下薬と比較して3-point MACEなどの心血管イベントを非劣性マージン(多くはハザード比の95%信頼区間の上限が1.3に設定される)を超えて増加させないことのみである。これをクリアすればその試験薬は「安全な血糖降下薬」としてのお墨付きを当局から得られる。つまり心血管イベントを29%増加させる可能性があっても血糖降下薬としては許容されることになる(この点については議論があるが本稿では割愛する)。そうであれば何も高価な新薬(試験薬)を使う必要はなく、プラセボ群で使用された従来の安価な血糖降下薬を使えばよいではないか、との反論も当然あるだろう。 血糖降下薬を投与する目的は心血管イベントなどの真のアウトカムを改善することにあり、HbA1cなどはあくまで代用のアウトカムsurrogate outcomeである。HbA1cを低下させれば腎症を含めた細小血管障害リスクが低下することはこれまでに証明されている。つまり将来の細小血管障害リスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは正当化される。本試験においてリナグリプチンは代用のアウトカムであるHbA1cと、同じく代用のアウトカムである尿アルブミンを有意に減少させたが、これはHbA1cの低下による可能性が高い。一方、心血管イベントについては、RCTのメタ解析によると厳格な血糖管理により非致死性心筋梗塞を含めた冠動脈疾患は減少するが、脳卒中、全死亡は減少しないと報告されている2)。つまり将来の心血管イベントリスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは、細小血管障害の場合と同じ程度に正当化されるとは言い難い。 CVOTでは、血糖降下作用とは独立した心血管イベントリスクの上昇の有無を検証するために、試験デザインとしてプラセボ群と試験薬群とのglycemic equipoise(血糖コントロールつまりHbA1cが両群で試験期間中に同等であること)が要求されている。しかし本試験も含めた既報のすべてのCVOTにおいては試験薬群のHbA1cが有意に低下している。この点について、プラセボ群で血糖管理が強化されなかったのは倫理的に問題であるとの意見もあるが、筆者の見解は少しく異なる。実際にはCVOTに組み入れられたようなきわめて心血管イベント高リスクの患者で、かつ、すでに複数の血糖降下薬を併用してHbA1cが8.0%程度の患者において、インスリンを増量、SU薬を増量、他の血糖降下薬を追加することはACCORDの結果が報告されて以降、容易ではないのが現実ではないだろうか。血糖降下薬を増量、追加して血糖管理を強化するbenefitとharmを天秤に掛けると、clinical inertiaとの批判もあるが、現状維持を選択する判断になることが多い。さらに本試験に組み入れられたような腎機能異常を合併した患者においては、より一層その傾向が顕著である。つまりプラセボ群では血糖管理を強化しなかったのではなく、従来の血糖降下薬では強化できなかったのが事実に近いだろう。言い方を変えれば、試験薬により血糖管理を少しではあるが強化できたと言ってよい。そのような条件下においても、リナグリプチンが心血管イベントリスクを増加させずに血糖降下作用を発揮できることは本試験において証明されたと考えてよい。 非劣性試験は前述したように、患者にとって真のアウトカムの改善をもたらす薬剤を生み出す試験ではない。CVOTにおいて優越性を示した血糖降下薬はこれまでに複数存在するが、特殊な対象患者群、短い観察期間を考えるとすべての2型糖尿病患者にbenefitをもたらすかは不明である。今後はCVOTで優越性を示した薬剤を用いて、幅広い患者群に対する長期間の優越性試験superiority trialが実施されることを期待したい3)。

390.

GIP/GLP-1受容体デュアルアゴニストLY3298176は第3のインクレチン関連薬となりうるか?(解説:住谷哲氏)-986

 インクレチンは食事摂取に伴って消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンの総称であり、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(glucagon-like peptide-1)の2つがある。GIPおよびGLP-1は腸管に存在するK細胞、およびL細胞からそれぞれ分泌され、インスリン分泌促進以外の多様な生理活性を有している。しかしGIPは高血糖状態においてはインスリン分泌作用が弱いこと、脂肪細胞に作用して脂肪蓄積につながることから、現在はGLP-1のみがGLP-1受容体作動薬として臨床応用されている。しかし生理状態では両者は同時に分泌される、いわば双子の腸管ホルモンであり、この両ホルモンの受容体を同時に刺激する目的で開発されたのがGIP/GLP-1受容体デュアルアゴニストLY3298176である。 LY3298176はGIPに類似した39個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、20番目のリジンに脂肪酸側鎖を結合することで週1回投与を可能とした。GIP受容体とGLP-1受容体の両者に高い親和性で結合して細胞内シグナル伝達を惹起することが基礎実験で確認されている1)。基礎実験から臨床への橋渡しとなるproof of concept試験をクリアした後に実施されたphase 2 trialが本試験である。プラセボ群に加えて、実薬群としてはすでに発売されているデュラグルチド1.5mgが用いられて、1mg、5mg、10mg、15mgの4用量が検討された。 26週にわたり血糖降下作用、体重減少作用に対する有効性、および有害事象を検討したが、その結果は非常にimpressiveであった。試験開始時の平均HbA1cは8.1%、BMIは32.6kg/m2であったが、15mg投与群におけるHbA1cの低下はプラセボ群と比較して-1.94%、デュラグルチド群と比較しても-0.73%であった。さらにデュラグルチド群の2%に対して、10mg投与群の18%、15mg投与群の30%は正常血糖値とされるHbA1c<5.7%を達成した。体重減少についてもデュラグルチド群の-2.7kgに対して、-11.3kgであった。予想されたように消化器系の有害事象は用量依存性に増加したが多くは一過性であった。また重症低血糖は1例もなかった。 LY3298176による血糖降下作用および体重減少作用が、GLP-1受容体またはGIP受容体のいずれを介した作用なのかは、本試験の結果からは明らかではない。デュラグルチド群と比較してLY3298176の作用はより強力であることからGIP受容体を介した作用がdominantであると考えるのが妥当と思われるが、これまでの報告ではGIPの単独投与による血糖降下作用および体重減少作用はこれほど著明ではない。いずれにせよ本薬剤の投与により30%の患者の血糖値がほぼ正常化し、著明な体重減少が得られた結果から、非常にpromisingな薬剤であり第3のインクレチン関連薬となりうる可能性は高い。やはり双子のインクレチンはtwincretinとして作用するのが本来の姿であるのかもしれない。

391.

心代謝特性はBMIと関連するか

 BMIは脂肪を非脂肪と区別せず、脂肪分布を無視し、健康への影響を検出する能力が不明とのことで批判されている。今回、英国・ブリストル大学のJoshua A. Bell氏らは、心代謝特性との関連においてBMIと二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による全身および局所の脂肪指数(fat index)を比較した。その結果から、腹部の肥満が心代謝障害の主因であり、その影響の検出にBMIが有用なツールであることが支持された。Journal of the American College of Cardiology誌2018年12月18日号に掲載。 著者らは、英国での親と子供の縦断研究Avon Longitudinal Study of Parents and Childrenの子供2,840人において、10歳時と18歳時にBMIおよびDXAによる全身・体幹・腕・脚の脂肪指数(kg/m2)を測定し、18歳時の230種類のメタボロミクスの項目との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・10歳時に全身脂肪指数およびBMIが高値であることが、18歳時に収縮期および拡張期血圧高値、高VLDLおよび高LDLコレステロール、低HDLコレステロール、高トリグリセライド、高インスリンおよび高アセチル糖タンパク質といった心代謝特性と関連することが示された。・18歳時の全身脂肪指数とBMIの関連は強く、10歳から18歳までの各指標の増加も強く関連した(例 アセチル糖タンパク質の増加は、全身の脂肪指数のSD単位増加当たり0.45SD[95%信頼区間:0.38~0.53]vs. BMIのSD単位増加当たり0.38SD[同:0.27~0.48])。・心代謝特性との関連は、BMI・全身の脂肪指数・体幹の脂肪指数で類似していた。・非脂肪指数(lean mass index)高値は心代謝特性との関連は弱く、脂肪指数高値に防御的ではなかった。

392.

リナグリプチン、高リスク2型DMでのCV・腎アウトカムは/JAMA

 心血管および腎リスクが高い2型糖尿病の成人患者では、通常治療と選択的DPP-4阻害薬リナグリプチンの併用療法は、主要な心血管イベントのリスクがプラセボに対し非劣性であることが、米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らが行ったCARMELINA試験で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2018年11月9日号に掲載された。2型糖尿病は心血管リスクの増加と関連する。これまでに実施された3つのDPP-4阻害薬の臨床試験では、心血管への安全性が示されているが、これらの試験に含まれる高い心血管リスクおよび慢性腎臓病を有する患者の数は限定的だという。心血管・腎アウトカムへの影響を評価するプラセボ対照非劣性試験 研究グループは、心血管および腎イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において、心血管および腎アウトカムに及ぼすリナグリプチンの影響の評価を目的に、プラセボ対照無作為化非劣性試験を行った(Boehringer IngelheimとEli Lillyの助成による)。 対象は、HbA1cが6.5~10.0%で、高い心血管リスク(冠動脈疾患、脳卒中、末梢血管疾患の既往、微量・顕性アルブミン尿[尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>30mg/g])および腎リスク(推定糸球体濾過量[eGFR]が45~75mL/分/1.73m2かつUACR>200mg/g、またはUACRにかかわらずeGFRが15~45mL/分/1.73m2)を有する2型糖尿病患者であった。末期腎不全(ESRD)患者は除外された。 被験者は、通常治療に加え、リナグリプチン(5mg、1日1回)を投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。臨床的必要性および参加施設のガイドラインに基づき、他の血糖降下薬およびインスリンの使用は可能とされた。 主要心血管アウトカムは、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合の初回発生までの期間とした。非劣性の判定基準は、リナグリプチンのプラセボに対するハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)の上限値が1.3未満の場合とした。副次腎アウトカムは、腎不全による死亡、ESRD、eGFRのベースラインから40%以上の低下の持続とした。 2013年8月~2016年8月の期間に、27ヵ国605施設に6,991例が登録され、6,979例(リナグリプチン群3,494例、プラセボ群3,485例)が1回以上の試験薬の投与を受けた。このうち98.7%が試験を完遂した。主要心血管アウトカム:12.4% vs.12.1%、副次腎アウトカム:9.4% vs.8.8% ベースラインの全体の平均年齢は65.9歳、eGFRは54.6mL/分/1.73m2、UACR>30mg/gの患者の割合は80.1%であった。57%が心血管疾患を有し、74%が腎臓病(eGFR<60mL/分/1.73m2あるいはUACR>300mg/gCr)であり、33%が心血管疾患と腎臓病の双方に罹患しており、15.2%はeGFR<30mL/分/1.73m2であった。 フォローアップ期間中央値2.2年における主要心血管アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が12.4%(434/3,494例)、プラセボ群は12.1%(420/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.13(95%CI:-0.63~0.90)であり、リナグリプチン群はプラセボ群に対し非劣性であった(HR:1.02、95%CI:0.89~1.17、非劣性のp<0.001)。優越性には、統計学的に有意な差はなかった(p=0.74)。 副次腎アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が9.4%(327/3,494例)、プラセボ群は8.8%(306/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.22(95%CI:-0.52~0.97)であり、優越性に関して統計学的に有意な差は認めなかった(HR:1.04、95%CI:0.89~1.22、p=0.62)。 有害事象の発生率は、リナグリプチン群が77.2%(2,697/3,494例)、プラセボ群は78.1%(2,723/3,485例)であった。低血糖エピソードが1回以上発現した患者の割合は、それぞれ29.7%(1,036例)、29.4%(1,024例)であり、急性膵炎は0.3%(9例)、0.1%(5例)に認められた。 著者は、「本試験全体の高い主要心血管イベントの発生率(5.63/100人年)は、これまでの血糖降下薬の心血管アウトカムに関する検討の中でも最もリスクの高いコホートの1つを登録したこの試験が、2型糖尿病治療薬の心血管安全性の評価に関するFDAの必要条件に従って実施され、腎障害への臨床的影響を明らかにしたことを示すものである」としている。

393.

減量後の低炭水化物食、代謝量を増大/BMJ

 低炭水化物ダイエットは、体重減少維持中のエネルギー消費量を増大することが明らかにされた。米国・ボストン小児病院のCara B. Ebbeling氏らが行った無作為化試験の結果で、BMJ誌2018年11月14日号で報告された。エネルギー消費量は、体重の減少とともに低下し、体重再増加を促す要因となるが、この代謝反応に、長期間にわたる食品構成がどのような影響を与えるのかは明らかになっていなかった。今回の検討で示された関連性は、炭水化物-インスリンモデルで一貫性を持ってみられ、著者は「示された代謝効果は、肥満治療の成功を改善する可能性があり、とくにインスリン分泌能が高い人で効果があると思われる」と述べている。体重減少後の、高・中・低量炭水化物ダイエットのエネルギー消費を評価 さまざまな炭水化物/脂質比ダイエットの総エネルギー消費量への影響を検討する試験は、米国2施設で2014年8月~2017年5月に行われた。被験者は、18~65歳でBMI値25以上の164例。 被験者はrun-inダイエット期間(9~10週間)に体重を12%(2%の範囲内で)減少した後、炭水化物含有量が違う3つの試験ダイエット(60%の高量群、40%の中量群、20%の低量群)のうち1つを、いずれも20週間受けるよう無作為に割り付けられた。試験ダイエットはプロテインでコントロールし、2kg以内の範囲で体重減を維持するためにエネルギーを調整した。 炭水化物-インスリンモデルで予測された効果の修正について検証するため、サンプルは体重減前のインスリン分泌能(経口ブドウ糖摂取30分後のインスリン濃度)で3つに分類した。 主要評価項目は、DLW法で測定した総エネルギー消費量(intention-to-treat解析)。per protocol解析では、潜在的により正確な推定効果を提示し、目標体重減を維持した対象を含んだ評価も行った。副次評価項目は、身体活動度で評価した安静時エネルギー消費量、代謝ホルモンのレプチン値とグレリン値であった。体重減前のインスリン分泌能が高いほど低量ダイエットの効果が大きい 被験者164例は、高量ダイエット群に54例、中量ダイエット群に53例、低量ダイエット群に57例それぞれ割り付けられた。 intention-to-treat解析(162例)において、総エネルギー消費量はダイエットによって異なり(p=0.002)、炭水化物含有量10%減少につき、総エネルギー消費量は52kcal/日(95%信頼区間[CI]:23~82)増大する線形の傾向が認められた(1kcal=4.18、kJ=0.00418MJ)。 総エネルギー消費量の変化は、高量ダイエット群との比較において、中量ダイエット群で91kcal/日(95%CI:-29~210)大きく、低量ダイエット群で209kcal/日(91~326)大きかった。per protocol解析(120例)では、それぞれの差は、131kcal/日(-6~267)、278kcal/日(144~411)であった(p<0.001)。 体重減前のインスリン分泌能が最も高かった被験者において、低量ダイエット群と高量ダイエット群の差は、308kcal/日(intention-to-treat解析)、478kcal/日(per protocol解析)であった(p<0.004)。 グレリン値は、低量ダイエット群が高量ダイエット群よりも有意に低値であった(intention-to-treat解析、per protocol解析において)。レプチン値も、低量ダイエット群が高量ダイエット群よりも有意に低値であった(per protocol解析において)。〔12月6日 記事タイトルを修正いたしました〕

394.

デュラグルチドのREWIND試験は1次予防の壁を越えるか

 米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、2型糖尿病治療薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ)の国際共同試験「REWIND試験」において、主要心血管イベント(MACE※)の発現率を有意に減少させたことを発表した。 対象患者の7割は1次予防例で、GLP-1受容体作動薬では初めて、1次予防例を含む幅広い2型糖尿病患者における心血管(CV)イベントへの影響を評価した試験といえる。※心血管死、非致死性心筋梗塞(心臓発作)、非致死性脳卒中から成る複合評価項目 REWIND(Researching cardiovascular Events with a Weekly INcretin in Diabetes)試験はCVイベント発現率について、デュラグルチド1.5mg※週1回投与とプラセボとを比較した多施設共同無作為化二重盲検比較試験である。主要評価項目はMACEの初発で、詳細データは、2019年6月に開催予定の米国糖尿病学会(ADA)にて報告予定である。※国内におけるデュラグルチドの用法・用量は0.75mg/週CVアウトカム試験における1次予防という壁 糖尿病患者でCVイベント発症リスクが高いことはよく知られている。そのため、EMPA-REG OUTCOMEやLEADER等で示された、薬剤によるCVイベント抑制作用には大きな注目が集まっている。一方、こうした試験の対象者はCV高リスクの2次予防例が多く、1次予防例が少ないことが指摘されていた。また1次予防例が多く含まれる試験でCVリスクを有意に減少させることは難しいとされてきた。 しかし、今回発表のREWIND試験の対象には、ベースライン時に心血管疾患の既往がない患者が69%含まれる。 これまでのGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験では患者の7割以上が心血管疾患の既往があり、その点、従来試験と正反対の背景を有する。「HbA1c 9.5%以下」を対象とした点が鍵 デュラグルチドの国際共同試験であるREWIND試験は、他のCVアウトカム試験同様、心血管疾患の既往またはリスク因子を有する2型糖尿病患者9,901例が対象。 患者の選択基準は、以下であった。(1)経口血糖降下薬(1~2剤)±基礎インスリン、もしくは基礎インスリン単独での治療を受けている患者 (2)HbA1c 9.5%以下(3)50~54歳で、心血管疾患既往を有する患者(4)55~59歳で、心血管疾患既往、もしくは心血管疾患または腎疾患の徴候を1つ以上有する患者(5)60歳以上で、心血管疾患既往、もしくは心血管疾患のリスク因子を2つ以上有する患者 このうち特徴的なのは「(2)HbA1c 9.5%以下」という基準だ。他のGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験ではHbA1c値の上限を設定しておらず、REWIND試験で初めてHbA1c値の上限が設定された。1次予防例7割、前例がないデュラグルチドのCVアウトカム試験 HbA1c値の規定の違いにより、従来のGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験と異なる対象患者が組み入れられ、結果的に対象者の7割が1次予防例という、かつてないCVアウトカム試験が設定された。ベースラインの平均HbA1c値も7.3%と、比較的低い値になっている。 さらに1次予防例が多いことでイベント発症までの期間が延長され、追跡期間中央値は5.3年と、GLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験としては最長となっている。 1次予防例を7割含む、2型糖尿病患者におけるCVイベント抑制を報告したGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験は前例がない。今回、米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、REWIND試験においてMACEの発現率を有意に減少させたことをいち早く発表した。現段階で明らかなのは試験概要と患者背景のみで、詳細結果は不明だが、デュラグルチドによってCVイベント抑制が示されたことは注目に値する。 REWIND試験の詳しいデータおよび結果は、2019年6月のADAで発表される予定である。

395.

第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応はQ1 糖尿病における認知機能障害のスクリーニング法、どう使い分けたらいいですか?糖尿病は認知症や軽度認知機能障害(MCI)をきたしやすい疾患です。アルツハイマー病は約1.5倍、血管性認知症は約2.5倍起こりやすいとされています1)。糖尿病患者における認知症の発症には、高血糖によるMCI、微小血管障害、脳梗塞の合併、アルツハイマー病の素因などの複数の因子が関連しているとされています。また、MCIを呈することで、記憶力、実行機能、注意・集中力、情報処理能力などの領域が軽度から中等度に障害されます。この中で、記憶力障害や実行機能障害は糖尿病におけるセルフケア(服薬やインスリン注射など)の障害につながります。実行機能は物事の目標を設定し、順序立てて誤りなく遂行する能力です。実行機能の障害によって、買い物、食事の準備、金銭管理など手段的ADLが低下します。手段的ADLが低下し、セルフケアが障害されると、血糖コントロールが悪化して、さらに実行機能障害が起こるという悪循環に陥りやすくなるのです。この実行機能障害は前頭前野の障害が原因とされており、種々の検査がありますが、時計描画試験、言語流暢性試験が簡単に行える検査です。糖尿病における認知機能障害のスクリーニング検査を表に示します(詳細は、日本老年医学会の高齢者診療におけるお役立ちツールを参照)。画像を拡大するまず、一般的にはMMSEや改訂長谷川式知能検査のいずれかを行います。それらが高得点でも認知機能障害が疑われる場合には、時計描画などが含まれているMini-Cog試験、MoCAなどを行うことをお勧めします。Mini-Cog試験は3つの単語を覚えた後に、丸の中に時計の文字盤と10時10分の秒針を書いて、最初に覚えた3つの単語を思い出すという簡単な試験です。時計が書けて2点、思い出すことができた単語の個数を点数として合計点を出します。5点満点中2点以下は認知症疑いとされます。MoCAはMCIかどうかをスクリーニングするのに有用な検査であり、時計描画試験などの種々の検査が含まれていますが、複雑な検査なので臨床心理士などが行う場合が多いと思います。MoCAはMMSEよりも糖尿病における認知機能障害を見出すことに有用であると報告されています2)。上記のMMSEなどの神経心理検査は非日常的なタスクを患者さんに行ってもらうので、メディカルスタッフや介護職が行うには抵抗が大きいように思います。そこで、メディカルスタッフなどが簡単な質問票によって認知機能を評価できるものに、DASC-21とDASC-8があります。DASC-21は地域包括ケアシステムのための認知症アセスメントシートであり、記憶、見当識、判断力(季節に合った服を着る)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理、服薬管理など)、基本的ADL(トイレ、食事、移動、入浴など)をみる21項目の質問からなります(「DASC」ホームページを参照)。各質問を4段階の1~4点で評価し、合計点を出して31点以上が認知症疑いとなります。31点以上でかつ場所の見当識、判断力、基本的ADLの質問のいずれかが3点以上の場合は中等度以上の認知症疑いになります。DASC-8は日本老年医学会が11月に公開したDASC-21の短縮版であり、記憶、時間見当識、手段的ADL3問(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL3問(トイレ、食事、移動)の8問を同様に4段階に評価し、合計点を出します。DASC-8は認知機能だけでなく、手段的ADL、基本的ADLといった生活機能が評価できるので認知・生活機能評価票とも呼ばれます。Q2 糖尿病患者の認知症予防または進行防止のための対策にはどのようなものがありますか?糖尿病における認知症発症の危険因子は高血糖、重症低血糖、CKD、脳血管障害、PAD、身体活動量低下などです。とくに重症低血糖と認知症は双方向の関係があり、悪循環をきたすことがあります3)。したがって、認知機能障害の患者では適切な血糖コントロールと、高血圧などの動脈硬化性疾患の危険因子の治療を行うことが大切です。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により、認知機能とADLの評価に基づいた高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されています(図)。SU薬やインスリンなど低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用する場合で、中等度以上の認知症合併患者はカテゴリーIIIとなり、HbA1c値の目標は8.5%未満で下限値7.5%となります。また、MCIから軽度認知症の場合はカテゴリーIIとなり、HbA1c値の目標は8.0%未満で下限値7.0%となり、柔軟な目標値を設定します。画像を拡大する治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。 注1)認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、日本老年医学会のホームページを参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。注2)高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。注3)糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。【重要な注意事項】糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。(日本老年医学会・日本糖尿病学会編・著.高齢者糖尿病診療ガイドライン2017,p.46,図1 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値),南江堂;2017)高齢者をカテゴリーI~IIIに分類するためにはDASC-8またはDASC-21を行うことが有用です。DASC-8では8~10点がカテゴリーI、11~16点がカテゴリーII、17~32点がカテゴリーIIIとなります。DASC-21では21~26点がカテゴリーI、27~38点がカテゴリーII、39点以上がカテゴリーIIIに相当します4)。DASC-8の質問票と使用マニュアルについては、こちらを参照してください。認知症と診断されないMCIの段階、すなわちカテゴリーIIの段階からレジスタンス運動、食事療法、心理サポート、薬物治療の単純化、介護保険など社会資源の確保を行うことが大切です。運動療法を行い、身体活動量を増やすことは認知機能の悪化防止のために重要です。身体機能の低下した高齢糖尿病患者にレジスタンス運動、有酸素運動などを組み合わせて行うと、記憶力や認知機能全般が改善するという報告もあります5)。可能ならば、週2回の介護保険によるデイケアを利用し、運動療法を行うことを勧めます。市町村の運動教室、太極拳、ヨガなど筋力を使う運動もいいでしょう。低栄養は認知症発症のリスクになるので、食事療法においては十分なエネルギー量を確保します。認知機能に影響するビタミンA、ビタミンB群などの緑黄色野菜の摂取不足にならないように注意することが大切です。薬物療法でもMCIの段階から、低血糖の教育を介護者にも行うことが必要です。低血糖のリスクはMCIの段階から高くなるからです(第2回、図3参照)。また、この段階から服薬アドヒアランスが低下することから、服薬の種類や回数の減少、服薬タイミングの統一、一包化などの治療の単純化を行います。薬カレンダーや服薬ボックスの利用も指導するのがいいと思います。カテゴリーIIIで目標下限値を下回った場合は、減量、減薬の可能性を考慮します。介護保険を利用し、デイケアまたはデイサービスを利用することで、孤立を防ぎ、社会とのつながりを広げ、介護者の負担を減らすことが大切です。家族や介護相談専門員と相談し、ヘルパーによる食事介助、訪問看護による服薬やインスリンの管理、または週1回のGLP-1受容体作動薬の注射などの支援の活用を検討していきます。徘徊、興奮などの行動・心理症状(BPSD)があると、糖尿病治療が困難になることが多くなります。BPSDの対策は環境を調整し、その原因となる疼痛、発熱、高血糖、低血糖などを除くことです。またBPSDは患者の何らかの感情に基づいており、叱責などによってBPSDが悪化することも多いので、介護者の理解を促すことも必要となります。抗認知症薬も早期に投与することでBPSDが軽減し、感情の安定や、意欲の向上、会話の増加がみられることがあるので専門医と相談し、使用を考慮しています。メディカルスタッフと協力して、認知症だけでなく、MCIの早期発見を行い、適切な血糖コントロールとともに、運動・食事・薬物療法の対策を立て、社会サポートを確保することが大切です。1)Cheng G, et al. Intern Med J. 2012;42:484-491.2)Alagiakrishnan K, et al. Biomed Res Int. 2013:186-106.3)Mattishent K, Loke YK. Diabetes Obes Metab.2016;18:135-141.4)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.5)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2017;72:861-866.

396.

CV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA

 先ごろ改訂された米国糖尿病学会・欧州糖尿病学会ガイドラインにおいてSGLT2阻害薬は、心血管系(CV)疾患既往を有する2型糖尿病(DM)例への第1選択薬の1つとされている。これはEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programという2つのランダム化試験に基づく推奨だが、今回、新たなエビデンスが加わった。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて発表された、DECLARE-TIMI 58試験である。SGLT2阻害薬は、CV高リスク2型DM例のCVイベント抑制に関しプラセボに非劣性であり(優越性は認めず)、CV死亡・心不全(HF)入院は有意に抑制した。Stephen D. Wiviott氏(Brigham and Women’s Hospital、米国)が報告した。3分の2近くが1次予防例 DECLARE-TIMI 58試験の対象は、1)虚血性血管疾患を有する(6,974例)、または2)複数のCVリスク因子を有する(1万186例)2型DM例である。クレアチニン・クリアランス「60mL/分/1.73m2未満」例は除外されている。本試験における1次予防例の割合(59%)は、CANVAS Program(34%)に比べ、かなり高い。 平均年齢は64歳、DM罹患期間中央値は11年、平均BMIは32kg/m2だった。併用薬は、82%がメトホルミン、43%がSU剤を服用し、41%でインスリンが用いられていた。CVイベント抑制薬は、レニン・アンジオテンシン系抑制薬が81%、スタチン/エゼチミブが75%、抗血小板薬も61%、β遮断薬が53%で用いられていた。 これら1万7,160例は、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン群(8,582例)とプラセボ群(8,578例)にランダム化され、二重盲検法で4.2年間(中央値)追跡された。MACE抑制はプラセボに非劣性が示された その結果、CV安全性1次評価項目であるMACE(CV死亡・心筋梗塞[MI]・脳梗塞)の発生率は、SGLT2阻害薬群:8.8%、プラセボ群:9.4%(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.84~1.03)となり、SGLT2阻害薬による抑制作用は、プラセボに非劣性だった(p<0.001)。このように、プラセボに比べMACEの有意減少は認められなかったものの、もう1つのCV有効性1次評価項目である「CV死亡・心不全入院」*リスクは、SGLT2阻害薬群で有意に減少していた(HR:0.83、95%CI:0.73~0.95)。*試験開始後、MACEリスク中間解析前に追加 有害事象は、服用中止を必要とするものがSGLT2阻害薬群で有意に多かった(8.1% vs.6.9%、p=0.01)。なおメタ解析でリスク増加が懸念されていた膀胱がんは(Ptaszynska A, et al. Diabetes Ther. 2015;6:357-75.)、プラセボ群のほうが発症率は有意に高かった(0.5% vs.0.3%、p=0.02)。CANVAS programとの併合解析で、1次予防例におけるMACE有意抑制は示されず SGLT2阻害薬による2型DMのCVイベント抑制作用を検討した大規模ランダム化試験は、このDECLARE-TIMI 58で3報目となる。そこでWiviott氏らは、既報のEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programと合わせたメタ解析により、SGLT2阻害薬のMACE抑制作用を検討した。 その結果、CV疾患既往例では、SGLT2阻害薬によりMACEのHRは0.86(95%CI:0.80~0.93)と有意に低下していたものの、リスク因子のみの1次予防例(1万3,672例)では、SGLT2阻害薬によるリスク低下は認められなかった(HR:1.00、95%CI:0.87~1.16)。なお、CV疾患既往の有無による交互作用のp値は「0.05」である。一方、CV死亡・HF入院のHRは、CV疾患既往例で0.76(95%CI:0.69~0.84)、リスク因子のみ例で0.84(95%CI:0.69~1.01)だった(交互作用p値:0.41)。 本試験はAstraZenecaの資金提供を受け行われた(当初はBristol-Myers Squibbも資金提供)。また学会発表と同時にNEJM誌にオンライン掲載された。「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

397.

知らずに食べている超悪玉脂肪酸、動脈硬化学会が警鐘

 農林水産省がトランス脂肪酸(TFA)に関する情報を掲載してから早10年。残念なことに、トランス脂肪酸に対する日本の姿勢には進展が見られない。2018年10月31日、動脈硬化学会が主催するプレスセミナー「トランス脂肪酸について」が開催され、丸山 千寿子氏(日本女子大学家政学部食物学科教授)、石田 達郎氏(神戸大学大学院医学研究科特命教授)がTFA摂取によるリスクに警鐘を鳴らした。トランス脂肪酸はどうやって体内に取り込まれるのか TFAと飽和脂肪酸を同量摂取して比較した場合、TFAは飽和脂肪酸と比べ動脈硬化の発症を10倍も増やし、糖尿病の原因となるインスリン抵抗性の悪化などを引き起こす。そのため、TFAは超悪玉脂肪酸とも呼ばれている。にもかかわらず、なぜ、TFAがいまだに食品に使用されているのだろうか。石田、丸山の両氏は「現時点では日本人において、直接その有害性を証明した根拠が少ないため」とコメント。 さらに、勘違いされやすいが、TFAは食品などに直接注入される添加物ではない。シス型で天然の液体植物油であるオレイン酸やリノール酸が工場などの食品加工の過程において、トランス型で固形油のエライジン酸やリノエライジン酸に変換・生成されるのである。ただし石田氏は、「家庭での一般の調理過程ではほとんど生じない」と家庭内調理の安全性を伝えた。TFAの新たな測定法と臨床研究の今後の展望 これまで日本でのTFA摂取量の検討は、摂取量に関するアンケート調査を実施し、それに基づいて推測することが多かった。石田氏らは、TFAの血中濃度について、ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて直接測定することに成功。その結果、TFA摂取量がLDL-C値やTG値と正相関、HDL-C値と逆相関することを明らかにした。これは海外の疫学研究と結果が類似しており、石田氏は、「この研究において、TFA血中濃度とBMIや年齢の関係を見ると、高齢者(75歳以上)ではメタボ有無による差はないものの、若年層(60歳未満)のメタボ群では有意にTFA血中濃度が高値を示した。また、冠動脈疾患を有する患者でも同様の傾向を示した。ただし、この研究は入院患者、病院食摂取後、早朝空腹時で測定しているため、これでもTFAのリスクは過小評価されている可能性がある」と述べ、「今回われわれが行った約1,000例を対象とした試験の結果は、海外で証明されたTFAの有害性と酷似している。つまり、海外で証明された知見は日本人においても当てはまると考えることが妥当」とし、「日本の大規模臨床試験がなくても、TFAがリスクだと認識するべきだ」とコメントした。異なる見解を示す消費者庁と農林水産省、2023年までにトランスフリーなるか 摂取過多が認められた国々では、TFAの摂取削減や表示義務が課されている。実際、アメリカでは加工食品に含まれる脂質の含有量のみならず、その内容を重視し、total fatに加えてtrans fatが記載されている。残念ながら日本ではこのような表示義務がないため、食品を製造する各企業の努力に頼らざるを得ない。 そんな中、WHOは『Make the world trans fat free by 2023』という目標を掲げ、TFAによる冠動脈疾患の削減に取り組む具体策を講じている。丸山氏は、「一般の人だけでなく、各企業がTFAについての理解があるかどうかも問題」と、啓蒙活動の重要性を語った。 また、日本でのTFA削減が足踏みしている理由として、丸山氏は各省庁の対応を指摘。「消費者庁は“脂質の含有量だけではなく内容にも留意すること”を丁寧に提示している。一方の農林水産省は、ホームページに“食品中のTFAを減らす努力をしています”と記載していながらも、“TFAだけを必要以上に心配せず、脂質全体の摂取量に十分配慮”と記している」と、TFA摂取による健康被害に根拠がないとも読み取れる説明文に、同氏は悲憤した。 アメリカでは表示が義務化されたことでTFAの摂取が78%も減少したそうである。日本では、いくら“TFAをとらないで!”と言っても、何にどれくらい含まれているのかがわからないため、避けることができない。これを踏まえ両氏は、「日本人は表示されればそれを避ける傾向があるので、表示義務化が実現すればTFAの摂取量は減少するかもしれない。われわれは各省庁にお願いを続けていく」と、摂取規制実現へ向き合っていく姿勢を示した。■参考日本動脈硬化学会:栄養成分表示に関する声明農林水産省:トランス脂肪酸に関する情報消費者庁:トランス脂肪酸に関する情報■関連記事不眠症になりやすい食事の傾向トランス脂肪酸の禁止で冠動脈疾患死2.6%回避/BMJ

398.

重度肥満2型DM、肥満手術で大血管イベントリスク低下/JAMA

 肥満外科手術を受けた重度肥満の2型糖尿病患者は、肥満外科手術を受けなかった場合と比較し、大血管イベント(冠動脈疾患、脳血管疾患)のリスクが低下したことが、米国・カイザーパーマネンテ北カリフォルニアのDavid P. Fisher氏らによる後ろ向きマッチングコホート研究の結果、明らかとなった。大血管イベントは、2型糖尿病患者の障害および死亡の主たる原因であり、生活習慣の改善を含む内科的治療ではリスクを低下させることができない場合がある。いくつかの観察研究では、肥満外科手術が2型糖尿病患者の合併症を低下させる可能性が示唆されていたが、症例数が少なくBMI値が試験に利用できないこと(非手術群では入手不可のため)が課題であった。JAMA誌2018年10月16日号掲載の報告。重度肥満の2型糖尿病患者、手術vs.通常ケアの大血管イベント発生を比較 研究グループは、米国の4つの統合医療ネットワークにおいて2005~11年の期間に肥満外科手術を受けた19~79歳の重度肥満(BMI≧35)の2型糖尿病患者5,301例(手術群)について、施設・年齢・性別・BMI・HbA1c・インスリン使用歴・糖尿病罹病期間・以前の医療利用をマッチングした対照1万4,934例を非手術群とし、肥満外科手術(ルーワイ胃バイパス術76%、スリーブ状胃切除術17%、調節性胃バンディング術7%)と通常の糖尿病治療を比較した(追跡は2015年9月まで)。 主要評価項目は、大血管疾患(冠動脈疾患[急性心筋梗塞、不安定狭心症、経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術]あるいは脳血管疾患[脳梗塞、脳出血、頸動脈ステント留置術または頸動脈内膜剥離術]の初発)発生までの期間とし、統計解析には多変量調整Cox回帰モデルを使用した。手術で複合大血管イベントと冠動脈疾患の発生が低下、脳血管疾患は有意差なし 手術群と非手術群を合わせた2万235例は、平均年齢(±SD)50±10歳で、女性が手術群76%、非手術群75%、ベースラインの平均BMI(±SD)はそれぞれ44.7±6.9、43.8±6.7であった。 追跡期間終了時において、手術群で106件(脳血管疾患37件、冠動脈疾患78件、追跡期間中央値:4.7年[四分位範囲:3.2~6.2])、非手術群で596件(脳血管疾患227件、冠動脈疾患398件、追跡期間中央値:4.6年[四分位範囲:3.1~6.1])の大血管イベントが認められた。 肥満外科手術は、5年時の複合大血管イベント発生率低下と関連しており(手術群2.1% vs.非手術群4.3%、ハザード比:0.60[95%信頼区間:0.42~0.86])、冠動脈疾患発生率の低下も同様であった(1.6% vs.2.8%、0.64[0.42~0.99])。脳血管疾患発生率は、5年時で両群に有意差はなかった(0.7% vs.1.7%、0.69[0.38~1.25])。 結果を踏まえて著者は、「本研究の結果について無作為化臨床試験で検証する必要がある」と提言するとともに、「医療従事者は、重度肥満で2型糖尿病を有する患者の肥満外科手術の意思決定に関与する際は、大血管イベント予防における肥満外科手術の潜在的役割を共有する必要がある」とまとめている。

399.

1型DM、ハイブリッド人工膵臓vs.SAP療法/Lancet

 食事時のインスリンボーラス注入の必要性を除けば昼夜にわたり自動でインスリンを注入するハイブリッド・クローズドループ型インスリン注入システム(以下、ハイブリッド人工膵臓)は、既存のセンサー増強型インスリンポンプ(SAP)療法と比較して、6歳以上の幅広い年齢層にわたる1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善し、低血糖リスクを低減することが明らかにされた。英国・ケンブリッジ大学代謝科学研究所のMartin Tauschmann氏らによる、国際多施設共同の非盲検無作為化試験の結果で、Lancet誌オンライン版2018年10月1日号で発表された。自由生活下で12週間介入、標的血糖範囲内の時間割合を評価 試験は、英国4病院と米国2施設の糖尿病外来クリニックで、インスリンポンプ療法を受けたが血糖コントロール不良(糖化ヘモグロビン[HbA1c]:7.5~10.0%)の6歳以上の1型糖尿病患者を集めて行われた。 被験者は無作為に2群に分けられ、1群はハイブリッド人工膵臓療法を、もう1群はSAP療法を、いずれも12週間にわたり自由生活下で受けた。なお、介入期間前に4週間の導入期間が設けられ、試験インスリンポンプと連続血糖モニタリングのトレーニングが行われた。 適格患者の無作為化は、中央の無作為化ソフトウェアを用いて実行されたが、両群とも割り付け治療の盲検化はされなかった。無作為化では、HbA1c低値(<8.5%)と高値(≧8.5%)の層別化も行われた。 主要評価項目は、無作為化後12週時点の標的血糖範囲内(3.9~10.0mmol/L)だった時間割合。主要評価項目と安全性評価項目の解析は、全無作為化患者を対象に行われた。ハイブリッド人工膵臓群65%、SAP療法群54%で有意差 2016年5月12日~2017年11月17日に114例がスクリーニングを受け、適格患者86例が、ハイブリッド人工膵臓療法(46例)またはSAP療法(40例、対照群)を受けるよう無作為に割り付けられた。被験者のうち22歳以上が44例、13~21歳が19例、6~12歳が23例であった。 標的血糖範囲内時間割合は、ハイブリッド人工膵臓群(65%、SD8)が、対照群(54%、SD9)と比べて有意に高率であった(ベースラインから12週時点までの変化の平均差:10.8ポイント、95%信頼区間[CI]:8.2~13.5、p<0.0001)。 HbA1cは、ハイブリッド人工膵臓群がスクリーニング時8.3%(SD 0.6)から、4週間の導入期間後は8.0%(0.6)、12週間の介入期間後は7.4%(0.6)に低下した。対照群は、8.2%(0.5)から7.8%(0.6)、7.7%(0.5)への低下で、HbA1cの低下は、ハイブリッド人工膵臓群が対照群と比べて有意に大きかった(変化の平均差:0.36%、95%CI:0.19~0.53、p<0.0001)。 血糖値が3.9mmol/L以下で推移した時間(変化の平均差:-0.83ポイント、95%CI:-1.40~-0.16、p=0.0013)、10.0mmol/L以上で推移した時間(同:-10.3ポイント、-13.2~-7.5、p<0.0001)は、いずれもハイブリッド人工膵臓群が対照群よりも有意に短時間であった。 センサー測定血糖値の変異係数については、介入間で有意差は認められなかった(変化の平均差:-0.4%、95%CI:-1.4~0.7、p=0.50)。同様に、投与されたインスリン1日総量(変化の平均差:0.031U/kg/日、95%CI:-0.005~0.067、p=0.09)と、体重(同:0.68kg、-0.34~1.69、p=0.19)についても両群間で有意な差はなかった。 重症低血糖症の発生はなかった。ハイブリッド人工膵臓群1例で、注入セットの不具合による糖尿病ケトアシドーシスが報告。また、重症高血糖症が両群2例ずつで、そのほかハイブリッド人工膵臓群13件、対照群3件の有害事象が報告された。

400.

発症時年齢は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクに関連する(解説:住谷哲氏)-917

 1型糖尿病患者の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが2型糖尿病と同様に増加することは、本論文の著者らによってスウェーデンの1型糖尿病レジストリを用いて詳細に検討されて報告された1)。今回、著者らは1型糖尿病の発症時年齢とASCVDとの関連を同じレジストリを用いて解析した。その結果、発症時の年齢は糖尿病罹病期間を調整した後も、ASCVDリスクと有意に関連することが明らかにされた。 1型糖尿病の主病態はインスリン分泌不全であり、インスリン抵抗性の寄与は2型糖尿病とは異なりほとんどない。したがって1型糖尿病患者では、高血糖そのものによりASCVDのリスクが増大していると考えられる。本論文では、とくに急性心筋梗塞のリスクが1型糖尿病患者において約30倍に増加しているのが注目される。これは2型糖尿病患者における厳格な血糖管理の影響を検討したメタ分析において、非致死性心筋梗塞が強化治療により有意に減少したことと一致しており、冠動脈疾患の発症には高血糖が強く関連することを示唆している2)。一方、脳卒中の増加は約6倍であり、加齢の影響を差し引いて考えることが当然必要であるが、同じASCVDである冠動脈疾患と脳卒中に対する高血糖の影響は大きく異なっていることが示唆される。 若年1型糖尿病患者のASCVDの発症を主要評価項目として、スタチンおよびRAS系阻害薬の有効性を検討したランダム化比較試験は存在しない。ASCVDの代用エンドポイントである内頚動脈内膜中膜複合体厚を副次評価項目として、若年1型糖尿病患者に対するACE阻害薬およびスタチンの効果を検討したランダム化比較試験としてAdDIT(Adolescent Type 1 Diabetes Cardio-Renal Intervention Trial)が昨年報告されたが3)、両薬剤ともにプラセボ群と差はなかった。しかしASCVDの発症メカニズムは1型糖尿病と2型糖尿病とに共通すると考えられることから、2型糖尿病治療における包括的心血管リスク管理のストラテジーはそのまま1型糖尿病にも適用できると思われる。1型糖尿病患者の治療は2型糖尿病患者以上に血糖管理にのみ注目してしまうことが多い。とくに若年発症の1型糖尿病患者の治療の際にはASCVDの抑制に留意した治療を心掛けることが必要である。

検索結果 合計:840件 表示位置:381 - 400