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動脈硬化リスクの早期発見、見過ごしがちな値とは/日本動脈硬化学会

 動脈硬化と悪玉コレステロール増加の結びつきをよく知っている患者でも、TG(トリグリセライド、中性脂肪)値の増加は肥満者だけのものと捉えてはいないだろうかー。2020年2月21日、日本動脈硬化学会はプレスセミナー「食後高脂血症と動脈硬化」を開催。増田 大作氏(りんくうウェルネスケア研究センター センター長)が「食後高脂血症」について、矢作 直也氏(筑波大学医学医療系 准教授)が「糖尿病と動脈硬化」について講演した。TG値の増加をリポ蛋白で知る 動脈硬化に影響を及ぼす脂質の値は、健康診断を受ける人にとって気になる項目だ。増田氏によると「企業健診受診者の3分の1になんらかの脂質異常症が存在している」という。この脂質異常症の有無が動脈硬化リスクの判定材料となるわけだが、近年はコレステロール値だけではなくTG値の上昇が心血管疾患の増加因子として問題視されている。実際、将来の冠動脈疾患や脳梗塞発症の死亡予測に重要なことが、日本動脈硬化学会が発表した2017年版動脈硬化性疾患予防ガイドライン1)にも記されている。 TG値は、通常食後3時間程でピークとなり、徐々に低下して6~8時間で空腹時の値へ戻る。しかし、冠動脈疾患患者や糖尿病患者などでは、食後TG値の上昇が緩やかに続きピークが後ろ倒しとなり、8時間経過してもまだ高いことから、空腹時のTG値上昇につながる。この非空腹時(食後)TGが高値な病態は“食後高脂血症”と呼ばれ、動脈硬化を惹起するリポ蛋白の増加にもつながる。これを踏まえ同氏は「食後TG値が高くなるのは、食後にTGの多いレムナントリポ蛋白(とくに小腸からのカイロミクロンレムナント)が残っている証拠」と、話した。また、空腹時のみならず食後TG値にも心血管疾患イベントリスクとの相関が存在し、「空腹時TG値がほぼ正常でも非空腹時TG値が高い人は、レムナントリポ蛋白が蓄積している」と述べた。 次に同氏は動脈硬化リスク評価に有力なレムナントリポ蛋白の測定方法として、1)non-HDL-C、2)レムナントコレステロール3)アポB-48濃度測定の3つを挙げた。同氏はこれらの測定法について、「Non-HDLコレステロール測定はもっとも簡易的な反面、LDLコレステロールの上昇も反映するのでレムナント単独の変動がわかりにくい。レムナントコレステロール測定(RemL-C法など)は直接的定量的な評価が可能だが3ヵ月に1回しか算定ができないなどのデメリットがあり、対象者や測定タイミングに悩む医師が多い。アポB-48濃度測定は空腹時のカイロミクロンレムナントを測定するので、食生活や食材の影響を評価できる可能性があるが、まだ保険収載されていない」とそれぞれの長短について説明した。 最後に食後高脂血症を防ぐ方法として「薬物治療も重要だが、まずはThe Japan Dietのような動脈硬化を抑える食事の導入や定期的な運動が極めて重要」とコメントした。脂質異常症治療は糖尿病患者の血管に恩恵与える 糖尿病は動脈硬化性疾患の重要な危険因子であり、前述のガイドライン1)で動脈硬化性疾患の高リスクに分類されている。さらに、糖尿病患者では発症早期から血糖値のみならず脂質値、血圧値の厳格な管理を包括的に行う必要がある、とも記載されている。これらを踏まえ、矢作氏は糖尿病と動脈硬化の関係について解説した。 代表的な脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤では投与後早期に糖尿病に伴う心血管イベントの抑制が報告されている。一方で、インスリンを含む血糖降下薬の場合、投薬期間が5~10年程度では大血管障害に対する治療効果は乏しい。これについて同氏は「血糖降下薬の場合は、10年以上の長期経過の中でlegacy effectがみられる」と指摘した。 このような糖尿病治療の現況を前提として、同氏は指先検査を活用した糖尿病疑い症例の早期発見に努めている。東京都足立区と徳島県で、2010年10月~2017年9月に総計4,865名(希望者;ただし糖尿病治療中の人は対象外)に対して薬局での指先HbA1c検査(検体測定室)を導入したところ、糖尿病予備群疑い:701名、糖尿病疑い:515名を発見した。同氏はこの検体測定室での検査実績や既知のエビデンスを通し、「糖尿病患者の動脈硬化リスクは耐糖能異常などの前糖尿病状態から既に上昇していることが示されている。動脈硬化を予防するためには、前糖尿病の段階から早期発見、早期介入が必要である」と、締めくくった。

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持続血糖測定器「FreeStyle リブレ」に新たな保険適用

 アボット ジャパン合同会社は、フラッシュグルコースモニタリングシステム 「FreeStyle リブレ」(以下「リブレ」)に、2020年4月1日より新たな保険が適用されると発表した。 リブレは、組織間質液中のグルコース値を記録するセンサーと、その測定値を読み取って表示するリーダーから構成され、500円玉大のセンサーを上腕後部に装着し、グルコース値を毎分測定する。センサーは防水性で、最長14日間装着でき、リーダーをセンサーにかざしスキャンするだけで、グルコース値を測定することができる持続血糖測定器。わが国では2017年9月1日より保険適用となっている。リブレによる従来までの血糖自己測定器の保険適用も維持 今回の診療報酬改定では、これまでの血糖自己測定の回数に応じた保険項目に加え、リブレを主とした新たな「間歇スキャン式持続血糖測定器によるもの」という項目が設定され、リブレを主とした糖尿病の日常の自己管理を行うことが、この診療報酬の枠組みの下で可能となる。 この「間歇スキャン式持続血糖測定器によるもの」という新規保険項目は、強化インスリン療法施行中の患者または強化インスリン療法施行後に混合型インスリン製剤を1 日2 回以上使用している患者に適用される。ただ、従来までの血糖自己測定器の保険適用も維持されるため、新規項目での保険適用の対象とならないインスリン療法を受けている患者であっても、現在と同じ基準に基づき、リブレで血糖自己測定器加算の下で保険適用となる。 今回、新たな保険項目の設定で、医療従事者は対象患者に対して、血糖自己測定の回数に縛られることなく保険適用でリブレを処方することができるようになる。

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インスリンポンプ療法に特化したQOL尺度を新規開発

 最近の1型糖尿病に対する先進的な糖尿病関連デバイスは、持続血糖モニタリング(CGM)や持続皮下インスリン注入療法(CSII)など、めざましい進歩を遂げている。 とくにインスリンポンプ療法は、毎回煩雑な手順を踏んで注射しなくてよいため、食事の際や高血糖時など、目標の血糖まで速やかに修正できるなどのメリットがある。一方、常に装着しておかなければならず、装着部位のかゆみや服の制約などのデメリットもある。 従来、インスリンポンプ療法の使用に関して、全般的なQOL尺度しかなかった。そこで、坂根 直樹氏(京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)は、村田 敬氏(同、糖尿病センター)、利根 淳仁氏(岡山済生会総合病院)、豊田 雅夫氏(東海大学医学部)らと共に、インスリンポンプ療法に特化したQOL尺度を新規に開発した。 対象となったのは、インスリンポンプ療法を行っている15歳以上の1型糖尿病患者50例(男性28%、平均年齢:47.6±17.0歳、糖尿病歴:14.7±9.7年、CSII歴:6.1±3.3年、平均HbA1c:7.4±0.8%)。 CSIIに関するQOLを評価するために、28項目のCSII-QOLを準備した。各質問は、5点のリッカート尺度(0=まったくそうではない、1=そうではない、2=どちらともいえない、3=そのとおりだ、4=まったくそのとおりだ)を使用し、負の影響項目の逆スコアリングとして回答を得た。 主な結果は以下のとおり。・28項目について因子分析を行ったところ、「インスリンポンプ療法は高血糖の修正に役立つ」など「利便性」について6項目、「インスリンポンプの療法のために余暇の活動(レジャーや趣味)が制限される」など「社会的制約」が9項目、「インスリンポンプの装着は不快である」「自動車やバイク運転時の低血糖が不安である」など「心理的負担」が10項目の計3因子、25項目が抽出された。・サンプルサイズの妥当性は許容範囲内(Kaiser-Meyer-Olkin=0.669)であり、内部一貫性(クロンバックのα信頼性係数=0.870)も妥当であった。・Intra-class correlation coefficients(ICC)=0.65であり、相当な再現性(0.61以上)も得られた。・糖尿病問題領質問表(PAID)とCSII-QOLとの間には、有意な負の相関があった(Kendall's Tau-b=0.468、p<0.001)。・HbA1cとCSII-QOLに、有意な相関関係はみられなかった。 坂根氏は「今までは全般的なQOL尺度しかなかったが、本尺度を用いることでインスリンポンプ療法の比較や介入による効果も測定することができるようになった。ぜひ、活用していただきたい」とこれからの展望を述べた。

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第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?Q1 治療介入の必要な値、介入後の目標値は? 80歳以上でも同じように管理しますか?心血管イベントの発症はADL低下や要介護状態を招き、QOLを低下させうるため、予防が重要です。高齢者においてもスタチンは冠動脈疾患の2次予防効果のエビデンスがありますので、2次予防の患者さんには年齢にかかわらずできるだけ投与、継続しています。患者さんの忍容性があれば、動脈硬化性疾患診療ガイドラインに準拠して通常の成人同様にLDL-C<100mg/dLを目標としています。1次予防については、少なくとも前期高齢者においては、高LDL-C血症に対するスタチン投与による心血管イベント減少が認められていることから、投与を考慮します。レベルとしては、やはりガイドラインに従い、糖尿病患者では冠動脈疾患高リスク群になりますので、LDL-C<120mg/dLを目標としています。75歳以上の高齢者に対する1次予防介入エビデンスはほとんどありません。Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaborationの最新のRCTのメタアナリシスでも、2次予防では有効でしたが、1次予防では有効性が示されませんでした1)。一方で、2019年に本邦75歳以上のハイリスク高LDL-C血症患者に対する、エゼチミブ単独投与の有用性を検討したEWTOPIA75の結果が発表され、エゼチミブ投与群では心臓突然死・心筋梗塞・冠血行再建術、脳卒中の複合イベントが34%減少しました2)。これは糖尿病患者に限った研究ではありませんが、治療を考慮する年齢が引き上げられる可能性があります。ただし、これら介入試験の多くは外来通院可能な比較的健康な患者さんを対象としています。認知症やフレイルがあったり施設入所されている患者さんに対し、スタチンが1次、2次にかかわらず心血管イベントを減少させたという明確なエビデンスはありません。80代や90代の患者さんについても同様です。私は、これらの患者さんには2次予防の場合はできるだけ治療を行うが、1次予防には厳格なコントロールは不要ではないかと考えています。Q2 TG高値への介入は? 定期的なエコーが必要な症例TG高値自体が高齢者の心血管疾患を増やすという明確なエビデンスはありません。ただし、とくに肥満を伴う高TG血症では低HDL-C血症や高nonHDL-C血症を伴うことが多く、本邦の観察研究におけるサブ解析において、前期高齢者で高nonHDL-C血症が致死的冠動脈疾患の発症と関連したという報告があります3)。高齢糖尿病患者への介入研究(J-EDIT, 平均年齢71歳)の2次解析でも、nonHDL-Cが高値の群(≧163mg/dL)で全死亡や糖尿病関連イベントが増加しました(図)4)。肥満症例ではメタボリック症候群(Mets)を伴っていることが多く、Metsはインスリン抵抗性を生じ、前期高齢者では心血管疾患発症と関連するという報告が複数あります。後期高齢者のMetsと心血管疾患発症の関連は明らかではありません。画像を拡大するしたがって、前期高齢者でMets合併例やnonHDL-Cが高い症例では治療を考慮します。この場合、運動、アルコール/糖質の過剰摂取是正指導に加え、必要によりフィブラート等を併用し、nonHDL-C<150mg/dLを目指します。TGの値が下がりすぎて問題となることはほとんどありませんが、もともとTGが著明に低い人の中に低栄養が隠れていることがあるので注意が必要です。一方後期高齢者、および前期高齢者でもMetsや低HDL-C血症・高nonHDL-C血症を伴わないTG単独高値の場合はよほどの高値でない限り経過をみることもあります。なお、著明なTG高値は膵炎発症のリスクとなり、発症時の重症度にも影響するといわれているため、TGが500mg/dLを超えるものには膵炎予防の観点からも介入を考えます。一方、TG高値のものの中に、肝機能障害を伴っているものがあります。アルコール多飲は原因の1つとなりますが、飲酒がなくても肥満、脂肪肝をきたし、インスリン抵抗性を呈して肝炎や線維化が進行する病態(NASH)があります。NASHは肝硬変、肝細胞がんに至ることもあるため、このような症例では定期的に肝臓のエコーを行っておくとよいでしょう。Q3 薬剤選択と投与量の考え方について教えてくださいQ1で述べたように心血管イベント予防に対し最もエビデンスがあるのはスタチンですが、EWTOPIA75の結果により、エゼチミブ投与の有効性も注目されています。PCSK9阻害薬は FHまたは冠動脈2次予防でスタチン最大量にエゼチミブ併用でもLDL-Cが目標値に達しない場合に使用され、かつ2週間あるいは4週間に1回自己注射を行わなければならず、高齢者で適応となる症例は一部に限られます。やはりスタチン投与が中心になるでしょう。米国心臓協会(AHA)が2019年1月に発表した、「スタチンの安全性と有害事象に関する声明」によると、スタチン投与による重篤な横紋筋融解症の発症頻度は0.01%程度ときわめてまれです(AHA)5)。高齢者ではリスクが上昇することが知られているものの、年齢だけでスタチンを回避する理由にはしていません。またCKD患者自体が冠動脈疾患のハイリスクになっているので、腎疾患患者でもスタチンは投与します。腎機能低下例だからといって、使用できないスタチンはありませんが、横紋筋融解症の多くは高用量のスタチン使用と関連するため、高齢者では常用量の最小量からはじめ漸増しています。また脱水を避けるように指導します。スタチンとフィブラートの併用はともに横紋筋融解症のリスクがあるため、腎機能低下リスクの高い高齢者ではとくに注意して投与します。LDL-CとTGの両者が高い場合は、スタチン使用を優先し、フィブラートに変えてEPA含有製剤やエゼチミブを併用する場合もあります。なお、フィブラートは中等度以上の腎不全では単独でも横紋筋融解症のリスクがあるため中止します。スタチンが重篤な肝障害を起こすことはさらにまれであり、0.001%程度と報告されています5)。肝機能障害を懸念して投与を行わない、ということは通常ありません。Q4 逆に減薬できるのはどんなときか前述のとおり、冠動脈疾患の2次予防症例ではできる限りスタチンは継続としています。75歳以上の1次予防で投与されている場合には、老年医学会も主治医判断としているように、ケースバイケースです。最近、スタチンの中断によって、心血管イベントによる入院が増えるという後ろ向きコホート研究の結果が報告されましたが6)、白人のデータで、糖尿病患者でのサブ解析では有意差が認められず、まだまだエビデンスが不足していると考えられます。私たちはまず、コレステロールが明らかに低値の患者さんには減量、中止を試みています。長期間減量することによるリバウンドが懸念される場合は、次回外来の1週間前から減量するなどして変化を確かめています。コレステロールが比較的高値のものでも、たとえば認知機能の低下があるポリファーマシーの患者さんで、服薬間違いがむしろリスクになるという患者さんなどでは中止を考慮しています。また余命が1年以内と見込まれるエンドオブライフの患者さんにおいても、投薬の中止はむしろQOL向上に寄与する可能性があり、中止を考慮します。一方、認知機能やADLが保たれている患者で、LDLがかなり高値だったり(たとえば≧180mg/dL)、頸動脈に不安定プラークがあったりするものでは継続することが多いです。1)Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration. Lancet. 393: 407-415, 2019.2)Ouchi Y, et al.Circulation.140: 992-1003, 2019.3)Ito T, et al. Int J Cardiol.220: 262-267, 2016.4)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int.12.Suppl 1:18-28, 2012.5)Newman CB, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol.39: e38-e81, 2019.6)Giral P, et al. Eur Heart J.40:3516-3525, 2019.

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脂肪萎縮症〔lipodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義脂肪萎縮症は、脂肪細胞機能の異常により、脂肪組織が全身性あるいは部分性に減少・消失し、それに起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)および脂肪肝などを合併する疾患の総称で、エネルギー摂取不良による痩せとは区別される。■ 疫学脂肪萎縮症の有病率についての報告は少ない。わが国においては、1985年の厚生省特定疾患、難病の疫学調査研究による脂肪萎縮性糖尿病の全国調査の結果、2007年の日本内分泌学会内分泌専門医を対象としたアンケート調査の結果から、有病率は約130万人に1人と推定される。米国では、100~500万人に1人と推定されている。■ 病因脂肪萎縮症は、全身の脂肪組織が減少・消失する全身性脂肪萎縮症と、下肢などの特定の身体領域に限局して脂肪組織が減少・消失する部分性脂肪萎縮症に大別される。原因として、遺伝子異常、自己免疫、ウイルス感染、薬剤などが知られている。主に、脂肪細胞の発生・分化や、脂肪組織における脂質蓄積に関わる遺伝子変異が原因であることが知られているが、その詳細は明らかではない。原因遺伝子としては、先天性全身性脂肪萎縮症ではAGPAT2、BSCL2、CAV1、PTRF遺伝子が、家族性部分性脂肪萎縮症ではLMNA、PPARG、AKT2、PLIN1、CIDEC、LIPE遺伝子が報告されている。遺伝性が疑われるが、原因遺伝子が特定されていない症例もある。また、脂肪萎縮を発症しやすい特定の自己免疫疾患やウイルス感染は解明されていない。薬剤性としては、ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬やプロテアーゼ阻害薬などのHIV治療薬による後天性部分性脂肪萎縮症がある。■ 症状先天性全身性脂肪萎縮症では、生下時より全身性の脂肪組織の減少・消失が認められるが、家族性部分性脂肪萎縮症では、乳幼児期の脂肪組織分布は正常で、小児期あるいは思春期に四肢の脂肪組織が減少・消失してくることが多い。また、後天的に脂肪萎縮症を発症する症例の中には、ウイルス感染を契機として、短期間に全身の脂肪萎縮に至る症例もある。脂肪萎縮症では、原因のいかんにかかわらず、糖尿病、高中性脂肪血症などの糖脂質代謝異常および脂肪肝を高頻度に合併する。脂肪萎縮の程度と、代謝異常の重症度は相関するとされている。脂肪萎縮に伴う糖尿病は、とくに「脂肪萎縮性糖尿病」とも呼ばれ、重度のインスリン抵抗性のために従来の経口血糖降下薬は無効であり、インスリンを大量に使用しても十分な血糖コントロールが得られないことがしばしばである。また、黒色表皮腫、女性症例では多嚢胞性卵巣を伴う月経異常が高頻度に認められる。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンは著しく低下し、食欲は亢進する。まれに精神発達遅滞、下顎顔面異形成、早老症を合併することもある。■ 分類脂肪萎縮症は、脂肪萎縮の程度や部位により、全身性脂肪萎縮症あるいは部分性脂肪萎縮症に大別される。さらに脂肪萎縮の原因により、それぞれ先天性あるいは後天性に区別されることから、典型的には先天性全身性脂肪萎縮症、後天性全身性脂肪萎縮症、家族性部分性脂肪萎縮症、後天性部分性脂肪萎縮症の4つに分類される。薬剤の皮下注射や皮下脂肪織炎、圧迫などにより、狭い範囲に限局した脂肪萎縮が起こることがあるが、脂肪萎縮に起因する代謝異常の合併はない。■ 予後脂肪萎縮症は、糖尿病合併症、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肥大型心筋症などにより、平均寿命は30~40歳ともいわれる予後不良な疾患である。レプチン補充治療は、合併する代謝異常の改善に有効で、予後の改善が期待される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)〔診断基準〕■ 脂肪萎縮症の診断脂肪組織の萎縮の確認低栄養や消耗性疾患などによる痩せの除外病歴聴取による先天性、後天性の判断先天性→遺伝子解析により原因遺伝子に異常を認めた場合には確定後天性→発症原因が明らかである場合には確定インスリン抵抗性高中性脂肪血症脂肪肝※中尾一和・編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社; 2013. より引用■ 脂肪萎縮症を強く示唆する臨床的特徴脂肪萎縮症の主要臨床症候全身あるいは部分的な皮下脂肪の減少または欠損家族性部分性脂肪萎縮症の主要臨床症候思春期以降に発症する四肢や臀部の皮下脂肪の減少(頭頸部や腹部の脂肪は残存もしくは過剰に蓄積)脂肪萎縮症を示唆する臨床的症候1)重度のインスリン抵抗性を伴う糖尿病の存在(1)高用量のインスリン治療を必要とする糖尿病(200単位/日以上、2単位/体重kg/日以上、U-500インスリン製剤の使用など)(2)ケトーシスに陥りにくい糖尿病2)重度のインスリン抵抗性を示唆するその他の所見(1)黒色表皮腫(2)PCOSあるいはPCOS様の症候(高アンドロゲン血症、過少月経、多嚢胞性卵巣など)3)高中性脂肪血症の存在(1)重度の高中性脂肪血症(500mg/dL以上)(2)食事療法などの治療への反応が乏しい(250mg/dL以上)(3)高中性脂肪血症に起因する膵炎の既往4)脂肪肝や脂肪性肝炎の存在(1)明らかな原因(例: ウイルス感染)のない、肝腫大や血中トランスアミナーゼ値の上昇などの非アルコール性脂肪肝に合致する所見(2)脂肪肝の画像所見(超音波検査やCT)5)身体的症候や脂肪組織の減少に関する家族歴6)四肢の著明な筋肥大や静脈の怒張7)体格に見合わない過食(食事を止められない、空腹で目が覚める、食欲と葛藤しているなど)8)2次性の性腺機能低下(男性)、原発性あるいは2次性の無月経(女性)※米国臨床内分泌学会[AACE]のコンセンサスステートメントより引用3 治療 (治験中・研究中のものも含む)脂肪萎縮症の治療は、脂肪萎縮に対する治療と脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療に大別される。最近承認されたレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する合併症を改善させる。■ 脂肪萎縮に対する治療現時点では、脂肪萎縮に対する根本的な治療法はない。後天性の脂肪萎縮については、原因疾患の治療、すなわち皮下脂肪織炎の治療、自己免疫異常の治療、HIV関連脂肪萎縮症ではHIV感染によるものと治療薬によるものを区別して治療する必要がある。脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγを活性化させるチアゾリジン誘導体は、全身性脂肪萎縮症では無効、部分性脂肪萎縮症では残存脂肪組織を肥大させたのみで脂肪分布異常を改善しなかったと報告されている。また、後述するレプチン補充治療によっても、脂肪萎縮は改善しない。■ 脂肪萎縮に起因する合併症に対する治療従来は、低脂肪食を中心とした食事療法や運動療法のみであった。わが国ではIGF-I製剤による治療が試みられたが、その治療効果は限定的である。脂肪萎縮症では、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンが欠乏しており、生理量のレプチン(商品名: メトレレプチン)を補充するレプチン補充治療は、脂肪萎縮に起因する糖脂質代謝異常(糖尿病、高中性脂肪血症)、脂肪肝などの合併症を改善させる。さらに、亢進した食欲を抑制し、食事療法を行いやすくする。レプチン補充治療は、2013年に世界で初めてわが国で承認され、2014年には米国でも承認された。4 今後の展望今後、脂肪萎縮に対する根本的な治療法の開発が期待される。とくに原因遺伝子が同定されている脂肪萎縮症については、脂肪萎縮の発症機序を明らかにすることで、脂肪の再生治療を含めた、新規治療法が開発される可能性がある。また、最近、少数例ではあるが、全身性あるいは部分性の脂肪萎縮とともに付随する特徴的な身体徴候(早老症様顔貌、皮膚病変、骨病変など)を呈する疾患群が報告されてきており、典型例とは区別する必要がある。5 主たる診療科内分泌代謝内科、糖尿病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脂肪萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)認定NPO法人日本ホルモンステーション 脂肪萎縮症委員会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Garg A. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:3313-3325.2)海老原健ほか.肥満研究. 日本肥満学会. 2011;17:15-20.3)中尾一和 編. 最新内分泌代謝学. 診断と治療社;2013.4)Handelsman Y, et al. Endocr Pract. 2013;19:107-116.5)Ebihara K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92:532-541.6)Brown RJ, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:4500-4511.7)日本内分泌学会. 脂肪萎縮症診療ガイドライン. 2018;94:1-31.公開履歴初回2015年02月12日更新2020年02月03日

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グレリンとがん悪液質 シリーズがん悪液質(7)【Oncologyインタビュー】第14回

近年注目されている空腹ホルモングレリンと悪液質の関係。食欲亢進にとどまらないグレリンの作用について、当分野のエキスパートである鹿児島大学大学院 乾 明夫氏に聞いた。グレリンと悪液質の関係―グレリンの作用とはどのようなものでしょうか。グレリンは1999年に日本人研究者が発見した胃から分泌される空腹ホルモンで、脳の視床下部にある神経ペプチドY(NPY)に作用して摂食行動を促進します。このグレリン/NPYという空腹系システムは、人類が長い間生き残ってきた根幹の1つといえるでしょう。―グレリンは悪液質とどう関係しているのでしょうか。悪液質における重要な2つのポイントは、食欲不振と骨格筋萎縮です。食欲不振では体重が減少しますが、体重減少には体脂肪量と骨格筋量の両方の減少があります。がん悪液質では骨格筋量の減少が主体です。グレリンは、下流のNPYを活性化して食欲を促進します。それと同時に消化管運動、とくに空腹期運動を促進します。胃内に食物があると食欲が抑制されますが、そういった食後期の消化管運動を空腹期運動に変換させることも明らかになっています。もう1つは、成長ホルモン/インスリン様成長因子-1(GH/IGF-1)分泌を促して成長を促進します。成長ホルモンの減少は骨格筋量の減少を引き起こしますので、グレリンにより骨格筋量が増加することになります。このことは一部の小人症がグレリン受容体の異常によることからも認識されていました。グレリンは、食欲を促進し、消化管運動を促進し、骨格筋量を増加する。いずれも、がん悪液質に関係するものです。がんでは飢餓への応答が破綻している―グレリンはがん悪液質に重要な役割を果たしているのですね。実際にがん悪液質では、グレリンの空腹系システムは、どのように変化しているのでしょうか。通常、飢餓になると、グレリン/NPYシグナルが亢進して食欲を促進すると同時に、基礎代謝を抑制します。食べたものを効率よく取り込む仕組みになっているわけです。この飢えに対する応答機構は非常に強力で、たとえば、ネズミを絶食させ餌を与えると、ネズミは体重が戻るまで食べ続けます。その間、食欲促進とともに基礎代謝が低下するよう視床下部で調整されており、セットポイントといわれる元の体重になるまで、その状態が続きます。このセットポイントは人間の場合も同様です。がん悪液質の定義が5%の体重減少(通常起こりえない)なのもこのためです。一方、がんの場合は食欲が十分促進されない、基礎代謝も上がったまま下がらない。つまり、飢えに対する応答が行われていない状況なのです。これにはいくつかの原因があります。がんでは、がん細胞自体や周辺の免疫担当細胞から炎症性サイトカインが出ており、実際に測定するとTNFα、IL-1β、IL-6といった炎症性サイトカインが患者さんの血中では大きく増えています。原因の1つ目は、この炎症性サイトカインがグレリンの分泌を強力に抑制し、グレリンの量が減少してしまうということです。2つ目はグレリン作用抵抗性です。炎症性サイトカインは、満腹系のコルチコトロピン放出因子(CRF)やレプチンの放出を促進します。満腹系を強化することによって、グレリン/NPYの作用を相殺してしまうことになります。3つ目は、アシル基が取れたグレリン(デスアシルグレリン)の増加です。グレリンはアシル化されることで生物活性を発揮する、つまり食欲を促進します。悪液質では、このアシル化グレリンが減少しています。つまり、グレリンが抑制されたうえに、残っているグレリンは活性型が少ない。また、グレリンの作用が満腹系システムで抑制されているわけです。―飢餓への応答破綻にグレリンが大きく関与しているわけですね。グレリンの障害は、上記以外でも起こるのでしょうか。胃がんを例にとってみます。グレリンの産生細胞は胃に多く存在しますが、がんが浸潤すると、グレリン産生細胞が破壊されます。また、手術でグレリン産生細胞を大量に取ってしまう。こういったことで、胃がんでは体重が落ちる方が多いですし、悪液質が高度に起こることがあります。また、抗がん剤も関係します。多くのがんで用いられる5FUや白金製剤は、消化管細胞からセロトニンを放出させます。セロトニンは満腹中枢を刺激し、グレリン分泌を抑制します。こういったことも悪液質につながることがあります。グレリンによるがん悪液質の改善は、その先につながるか。―グレリンの作用が改善すると悪液質も改善するのでしょうか。グレリン産生腫瘍の一例報告があるのですが、その患者さんは体重減少が起きずに経過し、終末期まで悪液質が起こらなかったそうです。これはヒトにおいてもグレリンの悪液質に対する可能性を示していると思います。また、漢方薬でも人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)、六君子湯(リックンシトウ)は、グレリン/NPYに作用します。これらも、体重減少を防ぐ作用、がん悪液質を改善させる効果が報告されています。グレリンアゴニストについても、臨床治験で、食欲促進と骨格筋量の改善が明らかになっています。―悪液質の改善によるサバイバルの結果はまだ出てませんが、どうお考えですか。ヒトでは時間がかかりますが、基本的には何らかの形でサバイバルの改善を示していくべきだと思います。抗がん剤のサバイバル、その多くは数ヵ月から半年程度と言われてまいりました。また、QOLが悪化する場合も認められます。前述の薬剤を用い、QOLを向上するとともにサバイバルが延びるということは、大きな意味があると思います。

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完全人工膵臓実現へのさらなる一歩(解説:住谷哲氏)-1167

 数年前に米国FDAは、世界初のclosed-loop insulin delivery systemであるMiniMed 670G(Medtronic)を認可した。これは基礎インスリン分泌basal insulin deliveryのみを自動化したものでhybrid closed-loop systemと呼ばれている。本試験で用いられたのは、基礎インスリン分泌に加えて高血糖時の補正インスリンcorrection bolusも自動化した新しいclosed-loop systemである。 人工膵臓artificial pancreasはグルコース濃度を感知するセンサー、投与インスリン量を計算するアルゴリズム、インスリンを注入するポンプの3つから成る。本試験で用いられたのはそれぞれDexcom G6 CGM(Dexcom)、Control-IQ Technology(Tandem Diabetes Care)、t:slim X2インスリンポンプ(Tandem Diabetes Care)を組み合わせたシステムである。Control-IQ Technologyの基礎となったアルゴリズムinControlは米国・バージニア大学で開発され、後にTypeZero Technologiesに引き継がれたが、同社は近年Dexcomと合併した。t:slim X2インスリンポンプは唯一のタッチパネル式のインスリンポンプであり、その使いやすさから市場を伸ばしている。人工膵臓開発の分野は競争が熾烈で、これら複数の企業と米国のバージニア大学が共同で実施したInternational Diabetes Closed Loop(iDCL)trialが本試験である。 コントロール群はDexom G6とインスリンポンプを組み合わせたSAP(sensor-augmented pump、低血糖時に基礎インスリン注入を中断する機能は装備していない)を使用した。したがって本試験はSAPとclosed-loop systemとの比較になる。主要評価項目は目標血糖値(70~180mg/dL)を維持した時間とした。結果は予想どおりclosed-loop群で主要評価項目が改善していた。重篤な低血糖の頻度も両群で差はなかった。 完全人工膵臓が実現すれば、機器を装着するだけで指先を穿刺する血糖測定なし、インスリン注射なしで、ほぼ正常な血糖値を維持することが可能となるだろう。今回用いられたシステムでは、自己血糖測定による補正が不要なDexcom G6を用いることで患者は指先の穿刺から開放された。さらに基礎インスリン注入に加えて高血糖時の補正インスリン注入が自動化されたが、食事前のprandial bolusは現在でも患者自身が制御する必要がある。しかし昨今の人工知能の急速な進歩を考えると、遠くない将来にこの点も解決されるだろう。

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第22回 コンビニ食材でミートファースト実践【実践型!食事指導スライド】

第22回 コンビニ食材でミートファースト実践医療者向けワンポイント解説食事の最初に野菜を食べることを「ベジファースト」と言います。この方法は血糖値の上昇を緩やかにし、余分な脂質の吸収を阻害する働きが期待できるとして、多くの方が実践している方法です。また、「最初に野菜を食べる」という意識を持つことで、不足しがちな野菜の摂取量を増やし、満腹感を高めることで食べ過ぎの予防、また栄養バランスを整える働きがあります。この血糖値の上昇を緩やかにする目的の「●●ファースト」という方法には、ほかにも「ミートファースト」「ソイファースト」などがあります。実際、ミート(肉類)を最初に食べることで、肉類に含まれるタンパク質や脂質によりインクレチンと総称される消化管ホルモンの分泌応答が増強され、食後の血糖値上昇が抑制されることが明らかになっています。インクレチンはインスリン分泌を促進するホルモンで、GIPやGLP-1があります。GLP-1は、グルカゴンの分泌抑制、胃内容物の排出遅延の働きがあり、食後の血糖値上昇を抑制します。つまり、インクレチンを分泌させることは、食後の血糖値を抑えるのに大きな効果があると言えます。関西電力医学研究所糖尿病研究センターの桑田 仁司氏らによる研究1)では、2型糖尿病患者および健常者に対してクロスオーバー試験を行い、サバの水煮や牛肉の網焼き(エネルギーと栄養素比率は、サバの水煮と同等)を米飯に先んじて摂取することが、食後の血糖値上昇を等しく抑制することを明確にしました。ベジファーストは、食物繊維が消化管からの糖の吸収を緩やかにして、食後血糖値の上昇を抑制しますが、ミートファーストはインクレチンの分泌を促すことでの効果も期待できるため、両食事法を合わせて実行することがお薦めです。コンビニで手軽に食べられるミート(ここではくくりを大きくし、タンパク質も含めました)を探してみました。冷蔵品として挙げられるのは、ゆで卵、豆腐、納豆、サラダチキンなどがあります。中でも、ゆで卵、豆腐、納豆は比較的価格も安価で、常備・実践しやすい食材です。コンビニのレジ周りにある食品は、ローストチキンや焼き鳥など種類が増えており、ミートファーストが手軽に実践できる食品が多くあります。唐揚げなどの揚げ物では、脂質過多が気になりますが、脂質の少ないささみなどを使った焼き鳥などの商品は、低脂肪、高タンパク質の摂取が期待できます。お菓子やつまみでもミートファースト(正確には魚や乳製品、卵などタンパク質が多く含まれる食品)が実践できます。おつまみコーナーにあるイカの燻製や食べる小魚、うずらの卵、ヨーグルト、牛乳や豆乳、チーズを選択することも良いでしょう。ミートファーストだからと、肉や魚を余分に摂取するのではなく、食事の一部として考えることが大切です。また、ミート(肉類など)を最初に食べた後は、ベジタブル(野菜)を食べることで、さらに血糖値上昇の抑制効果が期待できます。年明けの体重が増加しやすい時期、まずは実践しやすい食事療法として、ミートファースト、セカンドベジを試してもらうのはいかがでしょうか?1)Kuwata H, et al, Diabetologia. 2015 Dec 24.[Epub ahead of print]

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ウルソの特性を生かしたアドヒアランス改善提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第12回

 今回は、患者さんの服薬管理方法に着目し、用法をまとめたことでアドヒアランスが改善した事例を紹介します。分3内服の典型薬剤であるウルソデオキシコール酸の意外な特性を活かした処方提案ですので参考になれば幸いです。患者情報70歳、女性(施設入居)基礎疾患:原発性胆汁性肝硬変、心不全、糖尿病、逆流性食道炎内服管理:自己管理処方内容(介入時)1.ウルソデオキシコール酸100mg 3錠 分3 毎食後2.ラベプラゾール錠10mg 1錠 分1 朝食後3.フロセミド錠40mg 1錠 分1 朝食後4.インスリンリスプロ注 1日3回 毎食直前 朝4−昼4−夕4単位5.インスリングラルギン注 1日1回 就寝前 6単位本症例のポイント施設入居時、残薬だけで3ヵ月は生活できるほど大量に薬が余っていました。血糖コントロールは当然不良でしたが、患者さんに危機感はなく、「血糖自己測定(SMBG)は家事の際にしみて痛いから嫌だ」、「毎食後の注射は煩わしいから嫌だ」と訴えていました。薬剤師の訪問開始後、治療の必要性を伝えたり手技を確認したりしたものの、それでも毎回のように残薬があり、インスリンリスプロの単位数は4-4-4→6-6-4→6-6-6と、だんだん増量となっていきました。そうこうしているうちに、HbA1cは15.6まで上昇し、医師より血糖管理不良の判断がなされ、インスリングラルギンの単位数が16単位へ増量となりました。なお、ウルソデオキシコール酸については、昼・夕分はほとんど手が付けられておらず、肝機能も悪化気味でした。インスリン注射をきちんと打てていない理由は何かあらためて探ってみたところ、この患者さんは間食が大好きで、一日中何かしら食べていることが判明。さらに、インスリン単位数を上げているので間食を増やしてもいいのだと都合よく解釈し、実際には打っていないこともわかりました。そのような治療意識の低さが日々の内服薬の服薬アドヒアランスにも影響していました。患者さんの問題点を整理すると、(1)患者さんの病識不足による血糖管理不良、(2)内服アドヒアランス不良に伴う肝機能・心不全の悪化の2点だと考えました。患者さんにとって現状で何が一番負担かを聴取すると、毎食前のインスリンと毎食後の内服薬だという話を聞くことができました。ほぼすべてが負担と感じている状況ですが、服薬回数を減らすことでアドヒアランス向上につながる可能性があると思い、ウルソデオキシコール酸の服薬回数に着目しました。ウルソデオキシコール酸(UDCA)の薬理作用<利胆作用>:細胞障害性の胆汁酸トランスポーター発現→胆汁量増(胆汁うっ滞改善作用)<置換作用>:細胞障害の強い疎水性胆汁酸とUDCA(親水性:細胞障害なし)と置き換わることによる肝障害の軽減上記の置換作用は、投与回数ではなく総投与量が相関しているため、1日1回にまとめることは可能。ただし、消化器系副作用が増加するという報告もあるため注意が必要。このことから、ウルソデオキシコール酸を朝にまとめることで内服回数を1日1回に減らすことが可能と考えました。また、根本の問題である血糖管理も、インスリンリスプロ注をほとんど使用していないためであり、朝の内服に合わせたインスリングラルギンによる治療管理の提案と間食の節制などの指導を行うこととしました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、ウルソデオキシコール酸を朝にまとめることと、インスリングラルギンを朝単回にしてリズムを作るのはどうか提案しました。医師もコンプライアンスについて問題視していたため、まずはきちんと内服とインスリンを打つことが先決との返答をいただき、承認を得ることができました。その後、ウルソデオキシコール酸とほかの内服薬の服用タイミングがそろったことから一包化しました。すると、内服管理が朝のみになったことで本人の負担が軽減され、飲み忘れることがなくなりました。また、内服とインスリンの使用機会も同一となり、インスリンを確実に打てるようになりました。血糖推移も血糖管理手帳によると300~400台から120~200台まで改善しました。結果が良くなってきたことで、患者さんの意識が少しずつ変化し、今ではかなり自信がついたと感じています。間食をダラダラ食べ続けることが減ったことも影響していると考えます。なお、ウルソデオキシコール酸の投与回数を1回/日にまとめたことで消化器系副作用が懸念されていましたが、胸焼けや悪心などの症状の出現はなく経過しています。上垣佐登子ほか. 肝臓. 2007;48:559-561.

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日本人2型糖尿病患者における経口血糖降下薬使用とうつ病リスク~コホート研究

 2型糖尿病(T2DM)は、うつ病のリスク因子だといわれている。脳内のインスリン抵抗性は、うつ病の潜在的な役目を果たすため、T2DM患者の将来のうつ病リスクは、T2DM治療に使用される経口血糖降下薬(OHA)の種類によって変わる可能性がある。日本大学の秋元 勇人氏らは、特定の種類のOHAがT2DMに併存するうつ病リスクと関連しているかについて、検討を行った。Pharmacology Research & Perspectives誌2019年11月21日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・日本人T2DM患者4万214例、うつ病群1,979例と非うつ病群3万8,235例に分類した。・うつ病発症のオッズ比(OR)は、以下においてDPP-4阻害薬のほうが有意に低かった。 ●年齢(10年間の調整OR[AOR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.99~1.07、p=0.1211) ●性別(女性のAOR:1.39、95%CI:1.26~1.53、p<0.0001) ●HbA1c(1.0%のAOR:1.18、95%CI:1.11~1.26、p<0.0001) ●T2DMの罹病期間(1年間のAOR:1.00、95%CI:0.99~1.01、p=0.4089) ●7つの症状歴(AOR:0.31、95%CI:0.24~0.42、p<0.0001)・他の種類のOHAでは、有意な関連は認められなかった。 著者らは「T2DM治療に対しDPP-4阻害薬を使用することは、うつ病リスクの低さと関連している」としている。

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医療者が共有できていない、重症低血糖とその背景

 2019年10月29日、日本イーライリリー主催のプレスセミナー「糖尿病患者さんと家族の意識調査から見る、重症低血糖の実態」が開催され、山内 敏正氏(東京大学大学院医学研究科糖尿病・代謝内科 教授)が「低血糖・重症低血糖について」、岩倉 敏夫氏(神戸市立医療センター中央市民病院)が「糖尿病患者さんと家族調査結果から見える課題」と題して重症低血糖について解説した。会の後半に行われたトークセッションでは、患者代表の大村 詠一氏(元エアロビック競技日本代表)が、低血糖発現時の状況や医療者とのコミュニケーションに関する本音を語った。重症低血糖はどう重症なのか? 低血糖は食事摂取量の低下や摂取時間の遅れ、エネルギー消費の増大、インスリン感受性の改善、薬剤の影響などが原因で生じる。これに対する生理反応として、血糖値がおおよそ70mg/dL以下になると交感神経や中枢神経症状などが起こりやすい。 一般的に重症低血糖は、非糖尿病者では生理的に来しえない54mg/dL未満の場合と、低血糖の回復に際し“他者による介助が必要な重度認知機能障害に関連する低血糖”に定義される。この状態に陥ると、糖尿病患者の脳や筋骨格系、心血管系に影響し、急性期では認知機能や作業パフォーマンスの低下、慢性期ではQOL低下や運転・雇用の制限などの問題を抱えてしまう。これを踏まえて山内氏は「重症低血糖は短期的かつ長期的に悪影響を与え、生命を脅かす危険性がある。とくに認知機能における記憶や言語処理などに影響を及ぼす」とコメントし、「まずは、低血糖に対する本人の自覚が大切。しかし、運動後6~15時間後の低血糖発生は夜間睡眠時に及ぶ場合もある。このような場合を踏まえ、本人だけではなく周囲の理解も必要」と話した。重症低血糖を発症しやすい患者とは 日本糖尿病学会による糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告(1型糖尿病[T1D]:240例、2型糖尿病[T2D]:480例)では発症者の傾向を病型別に分けて調査している。この調査報告によると、T1DとT2Dの平均HbA1c値はそれぞれ、7.5%、6.8%であった。前駆症状(交感神経系刺激症状)の発現率は、T1Dで41%、T2Dで56.9%の患者に見られ、重症低血糖の発症年齢の中央値はT1Dが54歳、T2Dの中央値は77歳、とくにT2D患者は65歳以上が83%を占めていた。過去に重症低血糖を起こし受診歴がある患者はそれぞれ67.8%、33.1%であった。また、重症低血糖に影響した要因について、医師への調査によると、食事の内容・タイミングの不適合が最も多く、全体の40%を占めた。次いで、薬剤の過量もしくは誤投与が27%と続いた。T2Dに限定して症低血糖の原因薬剤を抽出したところ、インスリン群で61%、SU薬群で33%であった。この結果を踏まえ同氏は、「重症低血糖は防げるにもかかわらず、同一患者が複数回起こしているケースがある。本人・家族だけではなく医療者による工夫も必要」と問題提起した。 また、重症低血糖の発症患者として高齢者が問題視されている。とくに75歳以上の2型糖尿病のSU治療群での低血糖割合が多い。熊本宣言2013を受け、75歳以上の高齢者に対するHbA1c値のあり方が厳格化されつつある中で、「75歳以上のSU薬使用においてHbA1cの下限値7.0%を設けたことは世界で初の試みだった。これがさらに浸透すれば今回の調査報告に比べ低血糖症状の患者が半数以下に減らせるのではないか」と、同氏は今後の結果報告に期待した。医療者、6割もの患者の低血糖症状を把握できず 重症低血糖による意識障害に陥った場合、第三者(家族、友人、介護者…)によるフォローが患者の生命予後の鍵となる。重症低血糖対策への意識調査を糖尿病患者とその家族に実施した岩倉氏によると、低血糖の認知度の高さに(糖尿病患者:77%、糖尿病患者の同居家族:76%)比して、「重症低血糖の認知はそれぞれ25%、40%にとどまった」と、現状を懸念した。 重症低血糖を経験した患者では予防策に対する意識が高く、「ブドウ糖を含む飲食物を摂取」「血糖測定の実施」のほか、「食事の量」や「運動」に注意を払っていた。しかし、重症低血糖に関する相談や情報共有を医療者と共有している患者はたったの37%しかいないことが明らかになった。なお、相談される医療者は、医師、薬剤師、看護師の順であったが、岩倉氏は「患者から直接相談されるだけではなく、薬剤師や看護師などから患者情報を得ることもある」とコメントした。年齢を重ねると低血糖症状にも変化 最後に行われたトークセッションでは、患者代表の大村氏が自身の経験や血糖値管理の本音を吐露。幼少期から1型糖尿病を発症した同氏は「外食の場合、写真と実物の量が異なることがあるので、配膳されてから注射するなど、糖質が配膳されるタイミングで投与するなどの工夫をしている」と話した。また、同氏の場合、血糖値が20~30mg/dL程度にならないと重症低血糖の症状が表れず、日頃から60~70mg/dLの値を経験していたという。そのため、「先生に低血糖の有無を聞かれても、自覚症状がないので言わないこともある。さらに、加齢に伴い低血糖症状にも変化が表れているので、患者自身が身体変化について医療者と共有する意識を持つことが大切」と実体験を語った。これに、岩倉氏は「まずは血糖値を知って不安を払拭することが何よりも大切」と、アドバイスした。

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統合失調症患者のインスリン抵抗性有病率とその特徴

 いくつかの研究において、統合失調症患者は、インスリン抵抗性リスクが高いことが示唆されている。中国・北京大学のChen Lin氏らは、中国人統合失調症入院患者におけるインスリン抵抗性の有病率および臨床的相関について調査を行った。Comprehensive Psychiatry誌オンライン版2019年11月7日号の報告。 対象は、統合失調症患者193例(男性:113例、女性:80例)。血漿グルコースおよび脂質レベルに関するデータを含む人口統計および臨床データを収集した。認知機能の評価には、Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status(RBANS)、精神症状の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いた。インスリン抵抗性を評価するHOMA-IRのカットオフ値は、1.7に設定した。 主な結果は以下のとおり。・インスリン抵抗性の有病率は、37.82%(73例)であった。・インスリン抵抗性患者は、そうでない患者と比較し、ウエスト/ヒップ比、BMI、空腹時血糖、トリグリセリド(TG)、LDLレベルが有意に高かった(各々p<0.05)。・バイナリロジスティック回帰分析では、喫煙、BMI、TG、LDLレベルが、インスリン抵抗性の有意な予測因子であった。・相関分析では、ウエスト/ヒップ比、BMI、LDLレベルが、インスリン抵抗性と有意に相関していることが示唆された(Bonferroni補正:p<0.05)。・多変量線形回帰分析では、BMIと空腹時血糖が、インスリン抵抗性と関連していることが示唆された。・異なる抗精神病薬を使用している患者間で、インスリン抵抗性に有意な差は認められなかった。 著者らは「中国人統合失調症患者では、インスリン抵抗性およびそのリスク因子を有する割合が高かった。統合失調症患者のインスリン抵抗性発生を防ぐためにも、BMIやウエスト周囲を減らし、タバコの本数を減らすための積極的な体重管理が不可欠である」としている。

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新規作用機序のimeglimin、インスリン併用下の有効性・安全性

 2型糖尿病の新規治療薬候補として期待されるimegliminは、ミトコンドリアの機能障害改善という新しいメカニズムを持つ。現在、本剤の開発を手掛けるフランスのバイオ医薬品企業Poxel SA(以下、Poxel社)は、大日本住友製薬と共同で、日本人1,100例以上を対象とした3つの第III相臨床試験で構成される「TIMES試験」(Trials of IMeglimin for Efficacy and Safety)を実施中だ。 2019年11月26日、Poxel社は、TIMES3試験における、非盲検下36週間継続投与試験の結果を公表した。 TIMES3試験は、インスリン製剤を使用しても効果不十分な日本人2型糖尿病患者を対象に、imeglimin 1,000mgを1日2回およびインスリン製剤の併用療法による有効性および安全性を検討する16週間のプラセボ対照二重盲検無作為化試験と、それに続く36週間の非盲検・継続投与試験である。主要評価項目は、HbA1cのベースラインからの変化量。 前半の、imeglimin群とプラセボ群で比較した16週間のHbA1c変化量は、統計学的な有意差を示したことがすでに報告されている(‐0.60%、p<0.0001)。今回新たに報告された内容は、後半の36週継続投与試験について。 主な結果は以下のとおり。・前半の16週から継続して、imegliminおよびインスリンを計52週間併用した群におけるHbA1cの変化量は、ベースラインから‐0.64%だった。・前半の16週はプラセボを服用し、その後imegliminおよびインスリンを36週間併用した群では‐0.54%だった。・imegliminの安全性および忍容性は、52週間全体を通して良好だった。・最初の16週間で、imeglimin群において発現した有害事象は、プラセボ群と類似しており、36週間継続投与試験における安全性および忍容性プロファイルも、それらの結果と一貫していた。 Poxel社は、近日中にTIMES3試験の全データを関係学会で発表する。現在継続中のTIMES2試験(日本人2型糖尿病患者を対象としたimeglimin単剤療法および他の経口血糖降下剤との併用療法による長期安全性および有効性を検討する52週間、非盲検並行群間比較の第III相臨床試験)の結果は、2019年末に判明する予定だ。

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メトホルミンとDPP-4阻害薬との早期併用療法の有効性は実証されたか?(解説:住谷哲氏)-1144

 2型糖尿病患者には程度の差はあるがインスリン抵抗性とインスリン分泌不全の両者が存在する。したがって病態生理学的にはその両者に早期から介入する薬物療法が、その一方だけに介入する薬物療法よりも血糖管理においてより有効であることは理解しやすい。血糖降下薬の有効性を評価する指標はいくつもあるが、どれだけ長期間にわたってHbA1cを<7.0%に維持可能であるかを示すdurabilityもその1つである。インスリン抵抗性改善薬であるメトホルミンとインスリン分泌不全改善薬のDPP-4阻害薬であるビルダグリプチンを診断直後から併用することが(early combination therapy:早期併用療法)、メトホルミン単剤で治療を開始して血糖コントロールが維持できなければビルダグリプチンを併用する段階的治療(sequential metformin monotherapy:段階的治療)に比較してdurabilityを延長できるか否かを検討したのが本試験である。 本試験は試験デザインが複雑で、かつ治療失敗treatment failureという見慣れないエンドポイントが設定されているので論文を一読するだけでは内容を容易に理解しがたい。試験に組み込まれたのは2型糖尿病診断後2年以内、未治療(メトホルミン使用4週間以内は許容されている)、HbA1c 6.5~7.5%の初回治療患者である。3週間のrun-in期間でメトホルミンを1,500mgまで増量を試みて、メトホルミン1,000mg以上服用できた患者のみ無作為化された。つまり本試験は最初から併用療法で治療を開始するinitial combination therapyではない。2,001例の患者が早期併用療法群(メトホルミン1,000mg+ビルダグリプチン50mg x 2)と段階的治療(メトホルミン1,000mg+プラセボ x 2)の2群に1対1に振り分けられた。すべての患者で無作為化後の4週間にメトホルミンは2,000mgまで増量が試みられた。患者は13週ごとに受診したが、HbA1c 7.0%以上が連続した2回の受診で認められた場合にその時点で治療失敗と定義された。主要評価項目は1回目の治療失敗までの時間(period 1)とした。2回目の治療失敗までの時間(period 2)は副次評価項目とされた。段階的治療は1回目の治療失敗後にメトホルミン+ビルダグリプチンの併用療法に移行した。つまりperiod 2の治療法は両群で同一となっている。試験観察期間が予定より短くなることの多いevent-driven型の心血管アウトカム試験とは異なり、すべての患者は無作為化後5年にわたり観察された。 試験開始5年後の主要評価項目のイベント発生率は段階的治療が62.1%、早期併用療法が43.6%であった。別の表現にすると50%の患者が1回目の治療失敗に至るまでの時間(median observed time to treatment failure)が段階的治療では36.1ヵ月、早期併用療法では61.9ヵ月(これはカプランマイヤー曲線からの推定値である)、つまり早期併用療法において段階的治療に比較してdurabilityが約2年延長したことになる。副次評価項目のイベント発生率は本文に記載がないが、Figure 3Bのグラフから読み取ると多く見積もって段階的治療が45%、早期併用療法が35%であった。 以上の結果をどのように解釈したら良いのだろうか? period 1で検討されたdurabilityは早期併用療法で約2年延長することが証明された。しかし段階的治療のイベント発生率は62.1%であり、約40%の患者はメトホルミン単剤のみで5年間HbA1c<7.0%を維持できたことになる。さらに実臨床でより重要なのは、治療失敗する前から併用する早期併用療法と、メトホルミン単剤で開始して治療失敗した後に併用する段階的治療とを比較した副次評価項目である。その差はわずかに10%であり、単純にいえば90%の患者はどちらの治療法でも結果は同じだったことになる。しかしこの点についても解釈に注意が必要である。実臨床で併用療法に移行する、言い換えればメトホルミンに他の血糖降下薬を追加するのは容易でないのに対して、本試験では1回目の治療失敗患者はすべて併用療法に移行している点である。したがってリアルワールドにおける両群の差が10%以上になる可能性は十分にある。 2型糖尿病治療においてもclinical inertiaの重要性が強調されている。しかしあらゆる治療にはbenefitとharmがある。天秤の皿の一方に載せるのがclinical inertiaとすればもう一方の皿に載せるべきはovertreatmentであろう。もしすべての患者に早期併用療法を実施したとすると、本試験の結果によればその中の約40%の患者は不要な治療、すなわちovertreatmentを受けたことになる。本試験はclinical inertiaとovertreatmentとのバランスの重要性をVERIFYした試験といっても良いだろう。(12月2日 一部記事内容を修正いたしました)

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1型DMにはクローズドループシステムが有用/NEJM

 1型糖尿病患者において、クローズドループ型インスリン注入システム(人工膵島)の利用は、リアルタイム持続血糖モニター(CGM)機能付きインスリンポンプ(CSII)の利用と比較して、血糖値が目標範囲内であった時間の割合を増加させることを、米国・バージニア大学のSue A. Brown氏らが、6ヵ月間の多施設共同無作為化試験「International Diabetes Closed Loop trial:iDCL試験」で明らかにした。クローズドループ型インスリン注入システムは、1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善する可能性があり、これまでのメタ解析ではその有効性が示されていた。NEJM誌オンライン版2019年10月16日号掲載の報告。リアルタイムCGM機能付きCSIIと比較、血糖値目標範囲内の達成時間を評価 研究グループは、2018年7月12日~10月9日の期間で、1型糖尿病患者をクローズドループ型インスリン注入システムで治療を受けるクローズドループ群またはリアルタイムCGM機能付きCSIIで治療を受ける対照群のいずれかに、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、CGMで測定される血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)であった時間の割合。intention-to-treat集団を対象として線形混合効果回帰モデルを用いて解析した。 合計168例が無作為にクローズドループ群(112例)、対照群(56例)に割り付けられた。患者の平均年齢は33歳(範囲:14~71)、糖化ヘモグロビン値は5.4~10.6%であった。全168例が試験を完遂した。クローズドループシステムのほうが血糖コントロール良好 血糖値が目標範囲内であった平均(±SD)時間割合は、クローズドループ群でベースライン時61±17%から6ヵ月間で71±12%まで上昇したが、対照群はいずれも59±14%で変化しなかった(補正後群間差:11ポイント、95%信頼区間[CI]:9~14、p<0.001)。 副次評価項目(血糖値が>180mg/dLであった時間割合、平均血糖値、糖化ヘモグロビン値、血糖値が<70mg/dLまたは<54mg/dLであった時間割合)に関しては、いずれも事前に定義した有意差の階層的基準をすべて満たし、クローズドループ群が良好であることが認められた。 6ヵ月間で血糖値が<70mg/dLであった時間割合の補正後群間差(クローズドループ群-対照群)は-0.88ポイント(95%CI:-1.19~-0.57、p<0.001)、6ヵ月時の糖化ヘモグロビン値の補正後群間差は-0.33ポイント(-0.53~-0.13、p=0.001)であった。クローズドループ群において、システムがクローズドループ・モードであった時間の割合(中央値)は、6ヵ月間にわたり90%であった。 両群とも重篤な低血糖イベントの発生は認めなかった。クローズドループ群で糖尿病性ケトアシドーシスが1例報告された。

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第30回 抗精神病薬による体重増加、薬剤ごとに差【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗精神病薬による体重増加、脂質異常症や高血糖などの代謝障害は比較的よく知られている副作用で、とくに第1世代に比べて第2世代の抗精神病薬で高頻度に報告されています。治療継続の妨げになったり、長期的な心血管イベントのリスクが上昇したりすることがあるため、長期間服用するためには体重や検査値のチェックが欠かせません。今回は、体重増加の機序や薬剤による違い、対処方法について紹介します。体重増加の機序体重増加の原因は特定されておらず、薬剤の影響で食欲が亢進して過剰に摂食したというだけでなくさまざまな説があります。実際、自覚的な食事量が変わらなくても体重が増加しているケースもあるように思います。その機序として、脂質酸化の減少と炭水化物酸化の増加、セロトニン/ドパミン/ヒスタミンなどの各種受容体への作用、視床下部ペプチドによって食欲亢進や満腹感低下が生じる可能性が指摘されています。さらに、摂食やエネルギー代謝に関わるペプチドであるアディポネクチンの減少、抗精神病薬により脂肪組織から放出されるホルモンであるレプチンに対する耐性がカロリー摂取量の増加と脂肪組織の増加の機序として考えられています1)。ダイエットに関心がある患者さんで、アディポネクチンやレプチンを知っている方にお会いしたことがありますので、そういう患者さんに詳しく説明し過ぎるとアドヒアランスに影響しかねないため注意が必要な場合もあると思います。総脂肪率増加の程度1つ以上の精神障害や攻撃性のため精神病薬を検討している6~18歳の患者144例を、経口アリピプラゾール(49例)、オランザピン(46例)またはリスペリドン(49例)にランダムに割り付けて12週間治療し、総体脂肪率およびインスリン感受性を調べた試験があります。12週時点で、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)で測定した総脂肪率は、リスペリドンで1.18%増加、オランザピンで4.12%増加、アリピプラゾールで1.66%増加しました。インスリン刺激によるグルコース消失率の変化は、リスペリドンで2.30%増加、オランザピンでは29.34%減少、アリピプラゾールで30.26%減少となっており、薬剤間で有意差はありませんでした。MRIによる腹部脂肪測定では、皮下脂肪はリスペリドンまたはアリピプラゾールよりもオランザピンで有意に増加していました。なお、すべての治療群で行動の改善がみられています2)。体重増加の薬剤間比較体重増加の程度は薬剤によって異なりますが、とくにクロザピンやオランザピンでその程度が大きいことが示唆されています。第2世代抗精神病薬で治療された患者の体重、コレステロールおよびグルコースの変化を評価した48のランダム化比較試験のシステマティックレビューの結果は次のとおりです3)。クロザピンはリスペリドンと比較して体重が増加した(平均差[MD]:2.86kg、95%信頼区間[CI]:1.07~4.65、459例の患者を対象とした4試験の分析)。オランザピンは以下の薬剤よりも有意に体重が増加した。○アミスルプリド※(MD:2.1kg、95%CI:1.29~2.94、671例の患者を対象とした3試験の分析)○アリピプラゾール(MD:3.9kg、95%CI:1.62~6.19、患者656例を対象とした2試験の分析)○クエチアピン(MD:2.68kg、95%CI:1.1~4.26、患者1,173例を対象とした7試験の分析)○リスペリドン(MD:2.44kg、95%CI:1.61~3.27、2,302例の患者を対象とした16試験の分析)○ジプラシドン※(MD:3.82kg、95%CI:2.96~4.69、1,659例の患者を対象とした5試験の分析)※国内未承認体重増加の対処方法日本神経精神薬理学会が作成した『統合失調症薬物治療ガイドー患者さん・ご家族・支援者のためにー』において、体重増加の対処方法の例として薬剤変更が挙げられています4)。実際に、心血管疾患の危険因子を改善するために、オランザピン、クエチアピンまたはリスペリドンからアリピプラゾールに切り替えた非盲検のランダム化比較試験がありますので見てみましょう5)。上記3剤のいずれかにより治療されている統合失調症ないし統合失調感情障害を有する患者215例(平均年齢41歳)を、アリピプラゾールへの切り替え群(109例)またはそのまま継続した群(106例)にランダムに割り付けて24週間経過をみています。全患者が、BMI≧27kg/m2および非HDLコレステロール≧130mg/dLで、プライマリアウトカムは非HDLコレステロール値の変化です。両群を比較した結果は、平均体重減少は3.6kg対0.7kg(p<0.001)、平均非HDLコレステロール減少は20.2mg/dL対10.8mg/dL(p=0.01)、トリグリセライドは25.7mg/dL減少対7mg/dL増加(p=0.002)であり、切り替えに一定の効果を認めています。安易に薬剤を切り替えたり中止したりすることは避けなければなりませんが、体重や体脂肪率増加の理由、程度、発現時の代替案などを聞かれる機会もあるかと思いますので、参考にしていただければと思います。1)Maayan L, et al. Expert Rev Neurother. 2010;10:1175-1200.2)Nicol GE, et al. JAMA Psychiatry. 2018;75:788-796.3)Rummel-Kluge C, et al. Schizophr Res. 2010;123:225-233.4)日本神経精神薬理学会編. 統合失調症薬物治療ガイドー患者さん・ご家族・支援者のためにー. 日本神経精神薬理学会;2018.5)Stroup TS, et al. Am J Psychiatry. 2011;168:947-956.

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糖尿病診療ガイドライン2019を公開~日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:門脇 孝)は、『糖尿病診療ガイドライン2019』を発行し、同会のホームページ上で公開を始めた。 糖尿病診療ガイドラインは、エビデンスに基づく糖尿病診療の推進と糖尿病診療の均てん化を目的に3年ごとに改訂されて、今回の第6版が最新版となる。糖尿病診療ガイドライン2019はCQ・Q方式を踏襲し、付録も充実 糖尿病診療ガイドライン2019の記載方式は2016年版と同様に「CQ・Q方式」とし、推奨グレードも策定委員の投票で決定し、合意率も記載されている。また、今般では、CQ・Qの各項目を適宜見直すとともに、必要に応じ新たなCQ・Qを設定している。 糖尿病診療ガイドライン2019の内容としては、新しい文献をできうる限り引用し、これらの知見を取り上げているほか、付録としてわが国における大規模臨床試験「J-DOIT 1〜3」「JDCP study」「J-DREAMS」を紹介している。とくに食事療法に関しては、従来の標準体重の代わりに目標体重という概念を取り入れ、より個々の症例に対応可能な柔軟な食事療法が示されている。もちろん日本動脈硬化学会や日本高血圧学会の最新のガイドラインを参考に、これらとの齟齬がないような改訂が行われている。糖尿病診療ガイドライン2019は21項目で詳細に診療方針を記載 糖尿病診療ガイドライン2019は「糖尿病診断の指針」から始まり、「糖尿病治療の目標と指針」「食事療法」「運動療法」「血糖降下薬による治療(インスリンを除く)」など大きく21項目に分け、その中にCQまたはQ、その両方が記載される構成である。 たとえば、「血糖降下薬による治療(インスリンを除く)」のQ5-1「血糖降下薬の適応はどう考えるべきか?」に対し、ステートメントとして2項目が詳細に説明されている。 糖尿病診療ガイドライン2019の策定に関する委員会では、「このガイドラインがわが国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに、さらに発展を続けていくことを願っている」と糖尿病診療への活用に期待を寄せている。 詳しくは、同学会のホームページを参照されたい。また、糖尿病診療ガイドライン2019の書籍については10月中旬に南江堂より発刊される予定。

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第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?高齢糖尿病患者は罹病期間が長い例が多く、進行した合併症を有する例も多く経験します。今回はいわゆる三大合併症について解説します。合併症の進展予防には血糖管理だけではなく、血圧、脂質など包括的な管理が必要となりますが、すべてを厳格にコントロールしようとするがあまり“ポリファーマシー”となり、症例によっては、かえって予後を悪化させる場合もありますので、実際の治療に関しては個々の症例に応じて判断していくことが重要になります。Q1 微量アルブミン尿が出現しない場合も? 糖尿病腎症の管理について教えてください。高齢糖尿病患者でも、高血糖は糖尿病腎症の発症・進展に寄与するため、定期的に尿アルブミン・尿蛋白・eGFRを測定・計算し、糖尿病腎症の病期分類を行うことが推奨されています1)。症例にもよりますが、血液検査は外来受診のたび、尿検査は3~6カ月ごとに実施していることが多いです。高齢者では筋肉量が低下している場合が多く、血清Cre値では腎機能をよく見積もってしまうことがあり、BMIが低いなど筋肉量が低下していることが予想される場合には、血清シスタチンCによるeGFR_cysで評価します。典型的な糖尿病腎症は微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、ネフローゼ、腎不全に至ると考えられており、尿中アルブミン測定が糖尿病腎症の早期発見に重要なわけですが、実際には、微量アルブミン尿の出現を経ずに、あるいは軽度のうちから腎機能が低下してくる症例も多く経験します。高血圧による腎硬化症などが、腎機能低下に寄与していると考えられていますが、こういった蛋白尿の目立たない例を含め、糖尿病がその発症や進展に関与していると考えられるCKDをDKD (diabetic kidney disease;糖尿病性腎臓病)と呼びます。加齢により腎機能は低下するため、DKDの有病率も高齢になるほど増えてきます。イタリアでの2型糖尿病患者15万7,595例の横断調査でも、eGFRが60mL/min未満の割合は65歳未満では6.8%、65~75歳で21.7%、76歳以上では44.3%と加齢とともにその割合が増加していました2)。一方、アルブミン尿の割合は65歳未満で25.6%、 65~75歳で28.4%、76歳以上で33.7%であり、加齢による増加はそれほど目立ちませんでした。リスク因子としては、eGFR60mL/min、アルブミン尿に共通して高血圧がありました。また、本研究では80歳以上でDKDがない集団の特徴も検討されており、良好な血糖管理(平均HbA1c:7.1%)に加え良好な脂質・血圧管理、体重減少がないことが挙げられています。これらのことから、高齢者糖尿病の治療では、糖尿病腎症の抑制の面からも血糖管理だけではなく、血圧・脂質管理、栄養療法といった包括的管理が重要であるといえます。血圧管理に関しては、『高血圧治療ガイドライン2019』では成人(75歳未満)の高血圧基準は140/90 mmHg以上(診察室血圧)とされ,降圧目標は130/80 mmHg未満と設定されています3)。75歳以上でも降圧目標は140/90mmHg未満であり、糖尿病などの併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指すとしています。しかしながら、こうした患者では収縮期血圧110mmHg未満によるふらつきなどにも注意したほうがいいと思います。降圧薬は微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はACE阻害薬かARBの使用が優先されますが、微量アルブミン尿や蛋白尿がない場合はCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も使用します。腎症4期以上でARB、ACE阻害薬を使用する場合は、腎機能悪化や高K血症に注意が必要です。また「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、75歳以上で腎症4期以上では、CCBが第一選択薬として推奨されています4)。腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤(ESA)の使用については、75歳以上の高齢CKD患者では「ESAと鉄剤を用い、Hb値を11g/dL以上、13g/dL未満に管理するが、症例によってはHb値9g/dL以上の管理でも許容される」となっています。高齢者ではESAを高用量使用しなければならないことも多く、その場合はHbA1c 10g/dL程度を目標に使用しています。腎臓専門医への紹介のタイミングは日本腎臓学会より示されており、蛋白尿やアルブミン尿の区分ごとに紹介基準が示されているので、ご参照ください(表)。画像を拡大するQ2 網膜症、HbA1cの目安や眼科紹介のタイミングは?高血糖が糖尿病網膜症の発症・進展因子であることは高齢者でも同様です。60歳以上の2型糖尿病患者7万1,092例(平均年齢71歳)の追跡調査では、HbA1c 7.0%以上の患者ではレーザー光凝固術の施行が10.0%以上となり、HbA1c 6.0%未満の患者と比べて約3倍以上となっています5)。また、罹病期間が10年以上の高齢者糖尿病では、10年未満の患者と比べて重症の糖尿病性眼疾患(失明、増殖性網膜症、黄斑浮腫、レーザー光凝固術施行)の頻度は高くなりますが、80歳以上ではその頻度がやや減少すると報告されています6)。このように、高齢糖尿病患者では罹病期間が長く、光凝固術の既往がある例も多く存在します。現在の血糖コントロールが良好でも、罹病期間が長い例では急激に糖尿病網膜症が進行する場合があり、初診時は必ず、その後も少なくとも1年に1回の定期受診が必要です。増殖性前網膜症以上の網膜症が存在する場合は急激な血糖コントロールにより網膜症が悪化することがあり、緩徐に血糖値をコントロールする必要があります。どのくらいの速度で血糖値を管理するかについて具体的な目安は明らかでありませんが、少なくとも低血糖を避けるため、メトホルミンやDPP-4阻害薬単剤から治療をはじめ、1~2ヵ月ごとに漸増します。インスリン依存状態などでやむを得ずインスリンを使用する場合には血糖目標を緩め、食前血糖値200mg/dL前後で許容する場合もあります。そのような場合には当然眼科医と連携をとり、頻回に診察をしていただきます。患者さんとのやりとりにおいては、定期的に眼科受診の有無を確認することが大切です。眼科との連携には糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳が有用です。糖尿病連携手帳を渡し、受診を促すだけでは眼科を受診していただけない場合には、近隣の眼科あての(宛名入りの)紹介状を作成(あるいは院内紹介で予約枠を取得)すると、大抵の場合は受診していただけます。また、収縮期高血圧は糖尿病網膜症進行の、高LDL血症は糖尿病黄斑症進行の危険因子として知られており、それらの管理も重要です。高齢者糖尿病の視力障害は手段的ADL低下や転倒につながることがあるので注意を要します。高齢糖尿病患者797人の横断調査では、視力0.2~0.6の視力障害でも、交通機関を使っての外出、買い物、金銭管理などの手段的ADL低下と関連がみられました7)。J-EDIT研究でも、白内障があると手段的ADL低下のリスクが1.99倍になることが示されています8)。また、コントラスト視力障害があると転倒をきたしやすくなります9)。Q3 高齢者の糖尿病神経障害の特徴や具体的な治療の進め方について教えてください。神経障害は糖尿病合併症の中で最も多く、高齢糖尿病患者でも多く見られます。自覚症状、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下により診断しますが、高齢者では下肢振動覚が低下しており、70歳代では9秒以内、80歳以上では8秒以内を振動覚低下とすることが提案されています10)。自律神経障害の検査としてCVR-Rがありますが、高齢者では、加齢に伴い低下しているほか、β遮断薬の内服でも低下するため、結果の解釈に注意が必要です。検査間隔は軽症例で半年~1年ごと、重症例ではそれ以上の頻度での評価が推奨されています1)。しびれなどの自覚的な症状がないまま感覚障害が進行する例もあるため、自覚症状がない場合でも定期的な評価が必要です。とくに、下肢感覚障害が高度である場合には、潰瘍形成などの確認のためフットチェックが重要です。高齢者糖尿病では末梢神経障害があると、サルコペニア、転倒、認知機能低下、うつ傾向などの老年症候群を起こしやすくなります。神経障害が進行し、重症になると感覚障害だけではなく運動障害も出現し、筋力低下やバランス障害を伴い、転倒リスクが高くなります。加えて、自律神経障害の起立性低血圧や尿失禁も転倒の誘因となります。また、自律神経障害の無緊張性膀胱は、尿閉や溢流性尿失禁を起こし、尿路感染症の誘因となります。しびれや有痛性神経障害はうつのリスクやQOLの低下だけでなく、死亡リスクにも影響します。自律神経障害が進行すると神経因性膀胱による排尿障害、便秘、下痢などが出現することがあります。さらには、無自覚低血糖、無痛性心筋虚血のリスクも高まります。無自覚低血糖がみられる場合には、血糖目標の緩和も考慮します。また、急激な血糖コントロールによりしびれや痛みが増悪する場合があり(治療後神経障害)、高血糖が長期に持続していた例などでは緩徐なコントロールを心がけています。中等度以上のしびれや痛みに対しては、デュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬が推奨されていますが、高齢者では副作用の点から三環系抗うつ薬は使用しづらく、デュロキセチンかプレガバリンを最小用量あるいはその半錠から開始し、少なくとも1週間以上の間隔をあけて漸増しています。両者とも効果にそう違いは感じませんが、共通して眠気やふらつきの副作用により転倒のリスクが高まることに注意が必要です。また、デュロキセチンでは高齢者で低Na血症のリスクが高くなることも報告されています。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂; 2017.2)Russo GT,et al. BMC Geriatr. 2018;18:38.3)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;20194)日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社会; 20185)Huang ES, et al. Diabetes Care.2011; 34:1329-1336.6)Huang ES, et al. JAMA Intern Med. 2014; 174: 251-258.7)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int. 2004;4:27-36.8)Sakurai T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:117-126.9)Schwartz AV, et al. Diabetes Care. 2008;31: 391-396.10)日本糖尿病学会・日本老年医学会編著. 高齢者糖尿病ガイド2018. 文光堂; 2018.

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高リスク2型糖尿病の心血管リスク、リナグリプチンvs.グリメピリド/JAMA

 心血管リスクが高い比較的早期の2型糖尿病患者の治療において、DPP-4阻害薬リナグリプチンはSU薬グリメピリドに対し、心血管死、非致死的な心筋梗塞・脳卒中の複合のリスクが非劣性であることが、米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らが行ったCAROLINA試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年9月24日号に掲載された。2型糖尿病は心血管リスクを増加させる。リナグリプチンの心血管安全性を評価したプラセボ対照比較試験では非劣性が示されているが、実対照薬との比較試験は実施されていなかった。43ヵ国607施設が参加した実薬対照非劣性試験 本研究は、43ヵ国607施設が参加した二重盲検無作為化実薬対照非劣性試験であり、2010年11月~2012年12月の期間に患者登録が行われた(Boehringer IngelheimとEli Lilly and Companyの助成による)。 対象は、HbA1c 6.5~8.5%の2型糖尿病で、心血管リスク因子として、(1)アテローム動脈硬化性心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患)、(2)2つ以上のリスク因子(2型糖尿病罹患期間>10年、収縮期血圧>140mmHg、喫煙など)、(3)年齢70歳以上、(4)細小血管合併症(腎機能障害、増殖網膜症など)を満たす患者であった。 被験者は、通常治療に加えて、リナグリプチン(5mg、1日1回)を投与する群またはグリメピリド(1~4mg、1日1回)を投与する群に無作為に割り付けられた。担当医には、臨床的必要性に応じて、主にメトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジンジオン系薬、インスリンを追加または用量を調整することで、血糖降下治療を強化することが奨励された。 主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合とし、リナグリプチンのグリメピリドに対する非劣性の評価が行われた。両側検定で、ハザード比(HR)の95.47%信頼区間(CI)の上限値<1.3を満たす場合に非劣性と判定した。体重が1.54kg低く、低血糖が少ない 6,033例(平均年齢64.0歳、2,414例[39.9%]が女性、平均HbA1c値7.2%、罹患期間中央値6.3年、大血管疾患42%、メトホルミン単剤療法59%)が解析の対象となった。フォローアップ期間中央値は6.3年だった。 主要アウトカムは、リナグリプチン群が3,023例中356例(11.8%、2.1/100人年)、グリメピリド群は3,010例中362(12.0%、2.1/100人年)で発生し、非劣性の判定基準を満たした(HR:0.98、95.47%CI:0.84~1.14、非劣性のp<0.001)。一方、優越性は認められなかった(p=0.76)。 主な副次アウトカムとして、主要アウトカムに不安定狭心症による入院を加えて解析を行ったところ、リナグリプチン群が3,023例中398例(13.2%、2.3/100人年)、グリメピリド群は3,010例中401例(13.3%、2.4/100人年)で発生していた(HR:0.99、95%CI:0.86~1.14)。 全死因死亡(HR:0.91、95%CI:0.78~1.06、p=0.23)、心血管死(1.00、0.81~1.24、p=0.99)、心血管系以外の原因による死亡(0.82、0.66~1.03、p=0.08)には有意な差はみられなかった。 HbA1c値の平均変化は、当初、リナグリプチン群よりもグリメピリド群で良好であったが、全体では両群間に有意な差はなかった(256週までの補正後平均重み付け平均差:0%、95%CI:-0.05~0.05)。また、グリメピリド群で早期にわずかな体重増加が認められ、その後は増加せずに維持されたが、全体ではリナグリプチン群のほうが体重が低かった(-1.54kg、-1.80~-1.28)。 有害事象は、リナグリプチン群が2,822例(93.4%)、グリメピリド群は2,856例(94.9%)で発現した。重篤な有害事象は、それぞれ46.4%および48.1%にみられた。 審査によって確定された急性膵炎は、リナグリプチン群15例(0.5%)、グリメピリド群16例(0.5%)に認められ、慢性膵炎は3例(0.1%)および0例(0.0%)、膵がんは16例(0.5%)および24例(0.8%)にみられた。また、1回以上の低血糖エピソードは、それぞれ320例(10.6%)および1,132例(37.7%)で発現し(HR:0.23、95%CI:0.21~0.26)、重症低血糖は10例(0.3%)および65例(2.2%)、入院を要する低血糖は2例(0.1%)および27例(0.9%)に認められた。 著者は「心血管へのベネフィットが証明されているメトホルミン治療後に、さらなる血糖降下治療を要する場合は、リナグリプチンなどのDPP-4阻害薬は低血糖や体重増加のリスクが少ない選択肢となる」としている。

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インスリン療法開始時の選択肢にも有用ーゾルトファイ配合注

 インスリン療法時の低血糖回避が血糖コントロール不良を招き、心疾患の発症に影響を及ぼすことがある。このようなジレンマを新たな薬剤が解決してくれるかもしれない-。 2019年9月26日、ノボノルディスクファーマがゾルトファイ配合注フレックスタッチの発売を記念してプレスセミナーを開催。綿田 裕孝氏(順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 教授)が「インスリン デグルデク/リラグルチド(IDegLira):2型糖尿病治療の新たな選択肢」と題して、新薬の有用性について語った。新たな配合剤の適応やメリットは? 今回発売されたIDegLira(商品名:ゾルトファイ配合注)は、インスリンとGLP-1受容体作動薬を組み合わせた製剤で、インスリン療法が適応となる2型糖尿病に投与可能である。1日1回の用法で2剤が同時投与でき、“注射時刻は原則として毎日一定とする”という条件を守れば、患者のライフスタイルに応じた投与スケジュールを作成できる。これに対し、綿田氏は「患者QOLやアドヒアランス向上にも寄与する」と、コメントした。持効型インスリン/GLP-1配合剤はこれまでの治療不安を払拭できるか 2型糖尿病のインスリン治療には、「低血糖」「体重増加」「血糖コントロール」の3つのアンメットメディカルニーズが存在する。低血糖を起こすと、救急搬送や入院にかかる費用だけではなく、事故や就労不能、業務効率低下といった社会経済にも影響を及ぼし、さらにはHbA1cの目標値達成を阻害する。そして、インスリン治療がもたらす体重増加がHbA1cの目標達成の障壁となり、Basalインスリンを投与する2型糖尿病患者の半数以上はHbA1cの目標値を達成していない。 このような問題が生じることから、インスリン治療に抵抗を示す医師も少なくない。綿田氏が示したデータによると、医師の理想より、実際にインスリン治療を開始する時期は遅れており、患者が実際にインスリン治療を医師から薦められた際の平均HbA1cは9.6%であった1)。GLP-1受容体作動薬との組み合わせで副作用軽減 GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制するため、インスリンと比べても低血糖リスクは少ない。心血管疾患リスク低下や体重減少も報告されていることから、GLP-1受容体作動薬の併用はインスリン治療のデメリット改善につながる。GLP-1受容体作動薬を単独で投与すると胃腸障害(悪心、嘔吐、下痢)の出現頻度は高いが、「IDegLiraは10ドーズにリラグルチドとして0.36mg含有と少量のため、徐々に用量を増加していくと、単独で使用するよりも副作用の出現は低いと考えられる」と、同氏は述べた。 日本人を対象としたIDegLiraの大規模臨床試験(DUAL I JAPAN試験2)、DUAL II JAPAN試験3))結果によると、低血糖リスクや体重増加、悪心などのリスクを回避しながらHbA1cの変化量および平均値の改善を達成した。これを踏まえて同氏は「インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬はそれぞれの課題を有しているが、併用することでお互いを補い合う作用が期待できる治療法である。ほかのインスリン療法と比較しても好ましい治療法であることがメタ解析からも示唆された」と述べ、「IDegLiraはBasalインスリンからの治療強化だけではなく、新規にインスリン療法を開始する際の選択肢にもなる」と締めくくった。

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