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がん治療中のその輸液、本当に必要ですか?/日本臨床腫瘍学会

 がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに 猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。 このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは 近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている2)。「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:・浮腫→疼痛、倦怠感・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛 これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった4)。 実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。

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わが国初の原発性手掌多汗症治療薬「アポハイドローション20%」【下平博士のDIノート】第123回

わが国初の原発性手掌多汗症治療薬「アポハイドローション20%」今回は、原発性手掌多汗症治療薬「オキシブチニン塩酸塩ローション(商品名:アポハイドローション20%、製造販売元:久光)」を紹介します。本剤はわが国初の原発性手掌多汗症の適応を有する治療薬であり、いわゆる「手汗」を抑制することで、QOLの向上や労働生産性の改善が期待されています。<効能・効果>原発性手掌多汗症の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得し、6月1日より発売されています。本剤は抗コリン作用を有するため、閉塞隅角緑内障の患者、前立腺肥大など排尿障害のある患者、重篤な心疾患のある患者、腸閉塞または麻痺性イレウスのある患者、重症筋無力症の患者は禁忌となっています。<用法・用量>1日1回、就寝前に適量を両手掌全体に塗布します。1回の塗布量は、両手掌に対しポンプ5押し分が目安です。本剤は可燃性であるため、保存および使用の際には火気を避けます。<安全性>第III相比較試験において、下記の副作用が認められました。1~5%未満適用部位皮膚炎、適用部位そう痒感、適用部位湿疹、皮脂欠乏症、口渇0.1~1%未満適用部位紅斑、皮膚剥脱、口角口唇炎、尿中ブドウ糖陽性なお、重大な副作用として、血小板減少、麻痺性イレウス、尿閉(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、手のひらの皮膚から吸収され、エクリン汗腺の受容体をブロックすることで、発汗を抑えます。2.1日1回、就寝前にポンプ5押し分を目安として、両手の手のひら全体に塗布してください。3.起床後、手を洗うまでの間は、眼や塗布部位以外に触れないようにしてください。もし塗布時に眼に入った場合は、刺激や散瞳作用があるため、直ちに水で洗い流してください。4.眼の調節障害やめまい、眠気が現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作を行う際には注意してください。5.消化管運動が低下する恐れがあるので、消化器症状が現れた場合は使用を中止し、医療機関を受診してください。6.妊婦または妊娠している可能性のある人は医師に相談してください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国初の原発性手掌多汗症に適応を有する薬剤です。原発性局所多汗症は、頭部・顔面、手掌、足底、腋窩に温熱や精神的負荷の有無に関わらず、日常生活に支障を来すほどの大量の発汗が生じる状態で、そのうち手掌部に発現するものが原発性手掌多汗症です。国内における原発性手掌多汗症の有病率は5.33%で、学習効率や労働生産性の低下、精神的苦痛、対人関係への悪影響など、患者のQOLが低下することがあります。「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版」において、原発性手掌多汗症に対する第1選択の治療法は、20%~50%塩化アルミニウム外用療法および水道水イオントフォレーシス療法とされています。しかし、塩化アルミニウム外用薬は保険適用外であり、イオントフォレーシスは患者自身による機器購入または機器を有する医療機関への通院が必要です。本剤の有効成分であるオキシブチニン塩酸塩は、エクリン汗腺に発現するムスカリンM3受容体に対して抗コリン作用を有することにより、抑汗作用を示します。本剤の代謝物であるN-デスエチルオキシブチニン(N-Desethyloxybutynin:DEO)も臨床効果に関与することが示唆されています。なお、オキシブチニン塩酸塩は、頻尿治療薬のポラキスやネオキシテープと同じ成分です。12歳以上の原発性手掌多汗症患者284例を対象にした国内第III相比較試験において、投与4週後に発汗量が50%以上改善した患者の割合は、プラセボ群と比較して本剤群で有意に高いことが認められました。本剤塗布から手を洗うまでの行動制限を可能な限り少なくするため、日中の塗布を避け、1日1回就寝前に塗布します。万一、塗布時に眼に入った場合は、散瞳作用および眼刺激性があることから、直ちに水で洗い流します。また、発汗を抑制するため、気温や湿度が高い場所や運動時などでも汗が出ず、体温が上がる恐れがあるため、熱中症対策も指導しましょう。なお、なお、1回の塗布量のポンプ5押し分は約0.5mLに相当し、最初の空打ち分を差し引くと、1本で約7日分に相当します。手掌多汗症の患者のQOL低下はアトピー性皮膚炎やざ瘡よりも大きいという報告もあります。保険適用の治療選択肢が増えることは朗報です。関連サイトHamm H, et al. Dermatology. 2006;212:343-353.

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局所進行大腸がんにおける、術前化学療法の有用性は?(NeoCol)/ASCO2023

 局所進行大腸がん初回治療の標準治療は切除と術後補助化学療法だが、ほかのがん種で広がる術前化学療法は有効なのか。この点について検討したランダム化比較第III相NeoCol試験の結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で、デンマーク・Danish Colorectal Cancer Center SouthのLars Henrik Jensen氏が発表した。・対象:浸潤が5mm以上と評価されたT3あるいはT4、PS0~2、18歳以上の大腸がん患者・試験群(術前化学療法群):3サイクルのCAPOX、または4サイクルのFOLFOX後に手術、術後の状態に応じて術後補助化学療法・対照群(標準治療群):先行手術、術後の状態に応じて8サイクルの術後補助化学療法・評価項目:[主要評価項目]無病生存期間(DFS)[副次評価項目]術後補助化学療法を受ける割合、全生存期間(OS)、有害事象、QOL 主な結果は以下のとおり。・2013年10月~2021年11月に3ヵ国の9施設において術前化学療法群126例と標準治療群122例が登録された。45%が女性、年齢中央値66歳、PS0が90%、ベースラインのStageはT3が73%だった。・術前術後を合わせた化学療法サイクル数中央値は、標準治療群5.9に対し、術前化学療法群は4.8だった。・術後補助化学療法を必要とした患者は、標準治療群のほうが多かった(73% vs.59%、p=0.03)。・2年時点のDFSは両群で同等であり(p=0.94)、OSも同等だった(p=0.95)。・術後合併症はイレウス(標準治療群:8% vs.術前化学療法群:4%)、吻合部漏出(同:8% vs.2%)の発生率が高かった。・Grade3以上の有害事象は下痢(標準治療群:14% vs.術前化学療法群:13%)、末梢神経障害(同:11% vs.7%)の頻度が高かったが、両群で大きな差はみられなかった。 Jensen氏は「術前化学療法は標準治療と比較して、DFSおよびOSに優位性は示されなかった。しかし、術前化学療法は、化学療法サイクル数、術後合併症、および病期の進行の点で標準療法よりも好ましい結果をもたらしていた」とした。

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気管挿管時の誤嚥回避に、レミフェンタニルは有効か/JAMA

 手術室での迅速導入気管挿管時に、誤嚥のリスクがある成人患者において、即効性オピオイドであるレミフェンタニルは神経筋遮断薬と比較して、重度合併症を伴わない初回挿管の成功に関して非劣性を達成できず、むしろ統計学的に有意に劣ることが、フランス・ナント大学のNicolas Grillot氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年1月3日号に掲載された。フランス15施設の無作為化非劣性試験 本研究は、フランスの15施設が参加した非盲検無作為化非劣性試験であり、2019年10月~2021年4月の期間に、患者の登録が行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、手術室での全身麻酔時に経口気管挿管を要し、肺誤嚥のリスク因子(術前空腹期間が6時間未満、腸閉塞、麻酔前12時間以内の嘔吐、術前12時間以内の外傷、重度の症候性の胃食道逆流など)を1つ以上有する患者であった。 被験者は、催眠薬投与直後にレミフェンタニル(3~4μg/kg)または神経筋遮断薬(サクシニルコリン[スキサメトニウム]またはロクロニウム1mg/kg)の静脈内投与を受ける群に無作為に割り付けられた。両群とも投与終了から30~60秒後に気管挿管が開始された。 主要アウトカムは、重度合併症を伴わない初回挿管の成功であった。合併症は、消化物の肺への誤嚥、酸素飽和度の低下、血行動態の重度の不安定化、持続性不整脈、心停止、重度のアナフィラキシー反応と定義された。事前に規定された非劣性マージンは7.0%。非劣性の可能性は残る 1,150例(平均年齢50.7歳[SD 17.4]、女性573例[50%])が無作為化の対象となり、1,130例(98.3%)が試験を完遂した。両群に575例ずつが割り付けられた。腸管閉塞・イレウス・嘔吐が613例(54.1%)にみられ、気管挿管の理由として最も多かったのは消化管の手技であった。 as-randomized集団(無作為化の対象となったすべての患者)では、重度合併症を伴わない初回挿管の成功の割合は、レミフェンタニル群が66.1%(374/575例)、神経筋遮断薬群は71.6%(408/575例)であり(補正後群間差:-6.1%、95%信頼区間[CI]:-11.6~-0.5、非劣性のp=0.37)、レミフェンタニル群の劣性が示された。 per-protocol集団(割り付けられた薬剤の投与を受けた全適格例)では、レミフェンタニル群の66.2%(374/565例)、神経筋遮断薬群の71.3%(403/565例)で、重度合併症を伴わない初回挿管の成功が達成された(補正後群間差:-5.7%、両側95%CI:-11.3~-0.1、非劣性のp=0.32)。 試験薬投与から挿管成功までの平均時間は、レミフェンタニル群が2.5分(SD 1.0)、神経筋遮断薬群も2.5分(SD 1.2)であった(補正後平均群間差:0.0分、95%CI:-0.1~0.2)。術後7日の時点での肺炎の発生率は、それぞれ0.5%および0.4%だった(0.1%、-0.5~0.7)。 重度の有害事象は、レミフェンタニル群が2.1%、神経筋遮断薬群は0.5%で発現した(補正後群間差:1.8%、95%CI:0.4~3.2)。また、血行動態不安定が、それぞれ3.3%(19/575例)および0.5%(3/575例)で認められた(2.8%、1.2~4.4)。 著者は、「レミフェンタニルの効果は神経筋遮断薬よりも統計学的に有意に劣っていたが、効果推定値の信頼区間が広いため、非劣性の可能性が残されており、両群の差の臨床的妥当性について結論するには限界がある」と指摘している。

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第139回 情報過多でも希少疾病の患者が孤立する理由

私のような仕事をしている者のもとにはさまざまな企業・組織からプレスリリースや記者会見などの案内が届く。一昔前はこうしたリリースなどはメディア各社が所属する記者クラブに一括して届き、それを基に各社の記者が会見などに出席することが一般的な流れだった。このため以前の本連載で私のようなフリーは、この点でかなり不利であると書いた。それでも世の連絡手段が電話中心からインターネットを介したメール中心になったことでかなり改善はしている。そのためほぼ毎日のように、どこからかはメールでリリースが届く。そうした中、医療関係のニュースリリースで最近一番増えているのは、製薬企業が主催する疾患啓発のプレス向けセミナーである。もちろん主催する製薬企業側は啓発対象疾患の治療薬を有し、セミナーの中心は対象疾患のキーオピニオンリーダー(KOL)とされる医師の講演である。ただし、一昔前と比べ、実際のセミナー内容には変化が認められる。まず、2018年に厚生労働省が策定した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」の影響で、セミナー内で直接的に主催製薬企業の製品名が出てくることはかなり少なくなった。中にはKOLの医師が治療の実際について解説する際も、主催企業の製品も含め一般名すら言及されることなく、「A薬」「B薬」などと伏字にされていることもある。また、かつてはこうしたセミナーが取り扱う疾患は高血圧症や糖尿病などいわゆるコモンディジーズが多かったが、現在は製薬企業の新薬開発トレンドを反映し、がん、神経疾患、希少疾患などのケースが多い。とくに国内での患者数が数百人という希少疾患のプレスセミナーは激増と言ってもいい。しかも、この手のケースでは専門医に加え、実際の患者さんがセミナーに登壇することもある。正直、私のように医療をテーマとして取材する記者も数多くの希少疾患すべてに関して詳細な知識があるわけでもなく、こうした機会にはなるべく出席しようと思って、足しげく通っている。先日も製薬企業が主催したある希少疾患のセミナーに出席した。その希少疾患とは「短腸症候群」である。短腸症候群とは先天的あるいは後天的な事情で小腸が通常より短くなっている状態のこと。具体的な原因には小腸軸捻転症や壊死性腸炎、クローン病などで小腸を切除したなどが挙げられる。私もこの主催企業の開発品一覧でこの疾患名を見たことはあったが、具体的にどのようなものであるかはほとんど知識がなかった。KOL医師の説明によると「実は明確な学術的定義はない」という点がまず驚きだった。ただ、海外などでは小腸の75%以上を切除していることなどを要件とし、日本国内では障害者手帳交付基準の小腸障害として、小腸の長さが成人で1.5m未満、小児で75cm未満という基準もあるという。小腸が短いため、食事による生命維持や成長に不可欠な栄養吸収が不十分になり、頻回な下痢、脱水、体重減少などに悩まされる。経腸栄養剤や中心静脈栄養で不足分の栄養を補うことが治療の中心となる。外科的な腸管延長手術や一部の内科的な治療があるものの、現時点では限界がある。再生医療も検討され始めたばかりだ。そして静脈管理が長期化すると腸管不全関連肝障害やカテーテル関連血流感染症などで命を落とすこともある。セミナーでは患者会「一般社団法人 短腸症候群の会」の代表理事である高橋 正志氏が発言した。高橋氏は中学1年生以降に絞扼性イレウスを繰り返して4回目の入院で小腸壊死が発覚し、小腸切除手術を受け、短腸症候群となった。現在は経腸栄養療法や下痢、低マグネシウム血症の対症療法を受け続けている。就労を目指したものの、非正規で週1~2回のアルバイトをして生活を続けているという。2010年からブログを通じて短腸症候群の情報発信や情報収集を始め、2014年に現在の患者会を立ち上げた。患者会立ち上げのきっかけについて高橋氏は次のように語った。「とにかく情報がなかったというのが一番の理由。自身が住んでいたのは半ば医療過疎のような地域で医師も短腸症候群という名前しか知らなかった状態。これからどうなっていくのか、どんな治療をすれば良くなっていくのか全然わからず、とにかく情報が欲しかった。今から30年前のことでインターネットもそれほど発達しておらず、調べる方法もなかった。そうした中で自分なりに調べてきたが、その後体調が悪化し、学業もあきらめざるを得ず、社会参加のきっかけとも考えてブログを開始した」高橋氏が語ったことは希少疾患では現在でよくありがちなことだろう。もっとも近年はインターネットの発展とともに希少疾患の情報も入手しやすくはなっている。実は今回のセミナーに当たって、予習的に私はGoogle検索をかけていた。そこで1ページ目に出てきた検索結果は、上から順に製薬会社A社(今回のセミナーの主催会社)の一般生活者・患者向け疾患啓発ホームページ、MSD(旧メルク)マニュアル、A社の短腸症候群治療薬ホームページ、栄養療法食品会社B社ホームページ、国立研究開発法人 国立成育医療研究センター・小児慢性特定疾病情報センターホームページ、A社の医療従事者向けホームページである。希少疾患の情報が得やすくなったとは言われているが、この検索結果に「これしかないの?」とやや驚いた。私が過去に検索を試みた希少疾患の中でも極めつけに情報が少ない印象だったからだ。より細かいことを言えば、検索結果1ページ目でほぼ中立的と言えるのはMSDマニュアルと小児慢性特定疾病情報センターのみである。もっとも私はA社やB社のページが偏っているというつもりもない。たとえば、筆頭に出たA社の患者向けホームページは図や平易な表現を使用し、検索結果一覧に出てきたホームページの中では最も患者が読みやすいと言っても過言ではない。だが、ここでの問題は逆にA社やB社のように短腸症候群の患者向けの製品を有する企業がない希少疾患の場合、患者が自分の疾患について知る手段はさらに限定されるということ。そして中立的と言える2つのホームページは専門用語が数多く登場し、お世辞にも患者にわかりやすいとは言えない。結局、治療手段が少なければ少ないほど、情報面からも患者は追い込まれてしまうことになる。高橋氏は患者会を結成した結果、「ほかの患者もかなり孤立しているというか、周りに同じ患者がいないということでかなり悩み、苦労していることがわかった」とも話した。私はセミナーの質疑応答の際に高橋氏に短腸症候群になった当初(90年代前半)はどのようにして情報収集していたのかを尋ねてみた。すると次のような答えが返ってきた。「担当の先生があまり詳しくなかったので、できたこととしては図書館で資料検索して、(自分が在住する)県内の図書館同士の連携貸し出しで、少しでも専門書と思われるものを取り寄せて読んでみるということをしていた。中には『この本なら大丈夫かな』と思って取り寄せたら、先生の単なるエッセーだったということもあった」一方、現在はどうか?「今はインターネットで先生方が利用するような情報を入手できるようになったので、語学の問題が何とかなれば海外の論文まで見ることができるようになったので、その辺はかつてとはまるっきり違う。ただし、インターネットの情報は玉石混交が甚だしいので、その辺を見極める目をきちんと養っておかないと簡単に迷ってしまうのではないかと思う」この変化をどう捉えるかどうかは人によって異なるかもしれない。私個人は少なくとも日常生活ですらさまざまな困難を抱える患者が語学などの努力をしなければ、自分の疾患やその治療の最新情報を得られないというのは必ずしも喜ばしいとばかりは言えないのではないかと考えてしまう。今回のセミナーでは高橋氏を含む3人の短腸症候群の患者さんが登場したが、一様にメディアが短腸症候群の問題を報じることへの期待が高いこともひしひしと感じた。これは今回の短腸症候群のように治療選択肢が限られ、そうした治療を欠かさず続けてもなお、一般人にとってごく当たり前の日常と思われがちな就学・就労、結婚などが思うに任せないことが多い疾患ではなおのことだ。彼らがこうした日常生活を送るためには社会の受容が大きな意味を持つため、情報拡散力のあるメディアへの期待が高いことはよくわかる。しかし、メディア界に身を置くものにとっては、インターネット中心に移行しつつある現在特有の限界も感じている。紙メディア中心の時代と違って今はページビュー(PV)という形で読者の反応がリアルタイムでわかり、それゆえにメディアはPVが取れる、今風で言うバズるテーマに偏りがちな傾向は年々強くなっている。ネットメディアではまさにこのPVが編集者や執筆者の評価に直結してしまう。その結果、かつて以上に希少疾患のように患者数、周囲で身近に感じる関係者が少ないテーマは置き去りにされがちな危険性がある。実際、医療をテーマに一般向けにも執筆する自分が編集者と企画相談をする際、企画採用のカギを握るのは患者数であることも少なくないからだ。その意味で一般にあまり馴染みのない疾患を少しでも取り上げる機会は、実を言うとそうした疾患に著名人が罹患した時やその結果として亡くなった時である。実例を挙げれば、先日亡くなったプロレスラー・アントニオ猪木氏の死因は、国内患者数が2,000人に満たない希少疾患の全身性アミロイドーシスだったが、その際は各メディアがこの疾患のことを取り上げた。もっともそうしたメディアの“手法”には「死の商人」的な批判も存在する。あれやこれやと考えれば考えるほどメディア側も打つ手が限られてくる。かと言って、公的情報の充実を求める声を上げるだけではかなり無責任になる。理想を言えば、ある意味採算を度外視できる公的サイトと、われわれ一般向けの伝え手とがコラボレーションできれば最も望ましい姿なのだが、公的機関と民間が手を携えるというのは思っているより高い壁がある。その意味では希少疾患の患者がメディアに期待したいのと同じくらい、この領域の一般向け報道ではメディア側も誰かの助けが欲しいと思う瞬間は少なくない。希少疾患の報道という重い宿題をどう解決していくべきなのか?実はここ最近、ひたすら悩み続けている。

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「ブスコパン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第80回

第80回 「ブスコパン」の名称の由来は?販売名ブスコパン®錠10mg※ブスコパン注20mgは錠剤のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])ブチルスコポラミン臭化物 (JAN)効能又は効果下記疾患における痙攣並びに運動機能亢進胃・十二指腸潰瘍、食道痙攣、幽門痙攣、胃炎、腸炎、腸疝痛、痙攣性便秘、機能性下痢、胆のう・胆管炎、胆石症、胆道ジスキネジー、胆のう切除後の後遺症、尿路結石症、膀胱炎、月経困難症用法及び用量通常成人には1回1~2錠 (ブチルスコポラミン臭化物として10~20mg) を1日3~5回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】(1)出血性大腸炎の患者[腸管出血性大腸菌(O157等)や赤痢菌等の重篤な細菌性下痢患者では、症状の悪化、治療期間の延長をきたすおそれがある。](2)閉塞隅角緑内障の患者[抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させることがある。](3)前立腺肥大による排尿障害のある患者[更に尿を出にくくすることがある。] (4)重篤な心疾患のある患者[心拍数を増加させ、症状を悪化させるおそれがある。](5)麻痺性イレウスの患者[消化管運動を抑制し、症状を悪化させるおそれがある。](6)本剤に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年12月1日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年7月(改訂第6版)医薬品インタビューフォーム「ブスコパン®錠10mg」2)サノフィe-MR:製品情報

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4週に1回の投与で片頭痛発作を予防する「アイモビーグ皮下注70mgペン」【下平博士のDIノート】第85回

4週に1回の投与で片頭痛発作を予防する「アイモビーグ皮下注70mgペン」今回は、ヒト抗CGRP受容体モノクローナル抗体製剤「エレヌマブ(遺伝子組換え)(商品名:アイモビーグ皮下注70mgペン、製造販売元:アムジェン)」を紹介します。本剤は、4週間に1回の投与で、片頭痛発作の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、片頭痛発作の発症抑制の適応で、2021年6月23日に承認され、8月12日に発売されました。片頭痛発作の前兆の有無にかかわらず月に複数回以上発現している、または慢性片頭痛であることを確認したうえで本剤の適用を考慮します。なお、非薬物療法、片頭痛発作の急性期治療などを適切に行っても日常生活に支障を来している患者にのみ投与できます。<用法・用量>通常、成人にはエレヌマブ(遺伝子組換え)として70mgを4週間に1回皮下投与します。なお、本剤投与開始後3ヵ月が経過しても症状の改善が認められない場合や、頭痛発作発現の消失・軽減などにより日常生活に支障を来さなくなった場合は、本剤の投与中止を考慮します。<安全性>片頭痛患者を対象とした国内第III相試験において、副作用はプラセボ群で3.1%(4/131例)、本剤投与群で8.5%(11/130例)が認められました。主な副作用は、便秘、注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹など)、傾眠などでした。なお、重大な副作用として、発疹、血管浮腫およびアナフィラキシーを含む重篤な過敏症反応と重篤な合併症(腸閉塞、糞塊、腹部膨満およびイレウスなど)を伴う便秘が海外で報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛に関与するとされる神経ペプチドの受容体をブロックすることで、片頭痛発作の発現を予防します。2.発熱、発疹、まぶたや口唇周囲の腫れ、呼吸困難など、アナフィラキシーが疑われる症状が現れた場合は、すぐに報告・受診してください。注射後1週間以上経過してから発現することもあります。3.注射した部位に、赤み、かゆみ、痛み、腫れなどの症状が現れることがあります。これらの症状が長引く場合は、ご相談ください。4.お薬のせいで眠くなることがあります。車の運転や機械の操作、高所での作業などを行う場合はご注意ください。5.本剤の使用中に、血圧が上昇したり高血圧が悪化したりすることがあります。自宅で血圧計を用いるなど、血圧の変動に注意してください。6.まれに重い便秘症状が現れることがあります。とくに初回投与後は便通の変化に注意し、便秘症状が続く場合には早めにご連絡ください。<Shimo's eyes>片頭痛が起きる成因として、三叉神経から放出された神経ペプチドであるCGRPがCGRP受容体に結合することで、血管が過度に拡張して炎症が波及して片頭痛発作が起こるという説が有力です。予防にはロメリジン、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリン、ベラパミルなどが用いられています。効果を得られない患者も少なくありませんでしたが、抗体医薬品が登場したことにより、片頭痛の治療選択肢が広がりました。本剤は、世界で初めて承認されたカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連の抗体医薬品であり、わが国では2021年4月にガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)、同年8月にフレマネズマブ(同:アジョビ)が発売されました。この2剤はCGRPに結合して活性を阻害しますが、本剤はCGRPの受容体に直接作用し、CGRPの結合を防いでシグナル伝達を阻害します。CGRP関連薬剤は4週間に1度(フレマネズマブは4週間に1度あるいは12週間に1度)の皮下投与で予防効果を発揮します。なお、すでに発現している片頭痛発作を緩解する薬剤ではないため、本剤投与中に発作が発現した場合には、必要に応じてトリプタンなどの急性期治療薬を使用します。本剤の注射針カバーは天然ゴム(ラテックス)を含み、アレルギー反応を起こす恐れがあるため、投与に際してはアレルギー歴の確認が必要です。デバイスはオートインジェクターであり、外箱を冷蔵庫から取り出し、30分以上待って室温に戻してから使用します。現状は自己注射が認められておらず、原則として外来受診時の投与となります。主な副作用として、便秘、注射部位反応、傾眠などが報告されています。便秘の既往歴を有する患者および消化管運動低下を伴う薬剤を併用している患者では発現リスクが高くなる恐れがあるので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 アイモビーグ皮下注70mgペン

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便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る【Dr.山中の攻める!問診3step】第6回

第6回 便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る―Key Point―大腸がんを疑うアラームサインに注意しよう薬剤が便秘の原因となっていることは多い下剤を処方する際、「酸化マグネシウム」は腎機能低下時に高マグネシウム血症を起こすので要注意!症例:76歳男性主訴)排便困難現病歴)12日前から便が突然出なくなった。4日前に近医で浣腸をしてもらったが排便なし。酸化マグネシウムと大腸刺激性下剤の処方を受けたが、やはり排便がないため当院を受診した。嘔吐はあるが腹痛はない。既往歴)老人性難聴薬剤歴)定期内服薬なし生活歴)たばこ:10本/日 x 55年間、酒:1合/日身体所見)意識清明、体温36.7℃、血圧120/50mmHg、心拍数92/分、SpO2:95%[室内気]直腸診を施行したところ、肛門から8cm、12時方向にカリフラワー様の約4×4cmの腫瘤を触知し易出血性であった。結局、直腸癌と診断され人工肛門増設のため緊急手術となった。大腸イレウスは珍しいが、穿孔すれば腹膜炎となるので緊急処置が必要となることも念頭に入れておくべき。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!大腸がんを疑うアラームサイン1) ―大腸がんの可能性はないのか鉄欠乏性貧血体重減少便潜血陽性血便便の狭小化高齢者の急性便秘大腸がんの家族歴50歳以上で大腸内視鏡検査を受けたことがない【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】二次性の便秘を考える薬剤は二次性便秘の最大の原因である。薬剤歴の正確な聴取が大切である便秘を起こす薬剤2)3)はこちら降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬)、麻薬抗コリン薬(ブチルスコポラミン、抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬)抗ヒスタミン薬、NSAIDs、鉄剤高齢者の鉄欠乏性貧血は消化管の悪性腫瘍をまず考える便の狭小化+腹痛+液状便はS状結腸から直腸にかけての高度狭窄が示唆される症状である。大腸内視鏡の前処置で腸閉塞や腸管穿孔をきたす可能性があるため、腹部レントゲン検査と腹部CT検査を検査前にオーダーする甲状腺機能低下症、自律神経障害を起こす糖尿病やパーキンソン症候群、低カリウム血症、高カルシウム血症、うつ病、妊娠は便秘の原因となる【STEP3】治療1)を検討しよう毎日排便がないのは異常であるというイメージが TVコマーシャルなどによって作られているが、週に3回または1日3回の排便は正常である週3回以上排便があれば、病的ではないことを伝える。水分と食物繊維を十分にとる。朝食後15分間はトイレに座り、力まずに排便するよう指導する。改善がなければ、ポリエチレングリコール(商品名:モビコール)または酸化マグネシウムを処方する。酸化マグネシウムは腎機能低下時に高マグネシウム血症(嘔気・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、意識障害)を起こす。効果が不十分ならルビプロストン(商品名:アミティーザ)を少量から検討する。大腸刺激性薬剤(センノシド、ピコスルファート)は習慣性や依存性が強いので頓用で用いる<参考文献・資料>1)山中 克郎企画. 総合診療 ヤブ化を防ぐ!総合診療基本のき. 医学書院.2019. p.1089-1091.(中野弘康 便秘)2)John P, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018 .p.35-38.3)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編. 慢性便秘症診療ガイドライン. 2017.

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全身性ALアミロイドーシスにダラキューロ承認/ヤンセンファーマ

 2021年8月、ヤンセンファーマは抗CD38抗体「ダラキューロ配合皮下注(一般名:ダラツムマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)、以下ダラキューロ」について、全身性ALアミロイドーシス治療における承認を取得したことを発表した。今回の承認は、未治療患者を対象に、ボルテゾミブ+シクロホスファミド+デキサメタゾン(CBD)療法に対するダラキューロの上乗せ効果を評価した第III相試験ANDROMEDAの結果に基づいたもの。同社は9月2日にメディアセミナーを実施し、日本赤十字社医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンターの鈴木 憲史氏と石田 禎夫氏が、病態の特徴や新薬による治療の展望について講演を行った。 最初に鈴木氏が全身性ALアミロイドーシスの疾患の病態について講演を行った。ALアミロイドーシスは血中にアミロイドと呼ばれる異常タンパク質が発現し、全身のさまざまな臓器に沈着して機能障害を起こす病気の総称で、死因は心臓死が多くを占める。日本では年間530人ほど、人口100万人あたり4.2人が罹患し、国内の総患者数は3,000人程度とされる指定難病である。 鈴木氏は「進行すると予後は悪く、透析が必要となる患者も多い。早期診断、早期治療が非常に重要だが、多くの医師は一生に一人の患者を診るかどうかで見逃されがち。確定診断までに診察した医師の数が5名以上の患者が30%いるなど、診断が遅れて悪化するケースが多い」と説明した。 さらに新規罹患者数について「指定難病の登録数は530人ほどだが、診断されずにいる人や診断されないまま亡くなる人もいると思われ、実際は年間800人ほどではないか」とした。「初診の主訴はむくみや舌肥大であることが多く、整形外科、循環器内科、消化器内科、腎臓内科、そして一般内科医にこの疾患を知ってもらい、早期発見につなげたい」とし、下記のような原因不明の症状がある患者には、血清フリーライトチェーンの検査を行って欲しい、と述べた。【診断時の主な臨床症状】心臓/うっ血性心不全、不整脈腎臓/尿蛋白、ネフローゼ症候群肝臓/肝肥大、肝不全消化管/難治性下痢、下血消化管穿孔イレウス神経/低血圧、神経障害その他/舌肥大、眼周囲の内出血【診断確定には】・骨髄で単クローン形式細胞の証明、腹壁脂肪組織と骨髄生検でのアミロイド検出、血清フリーライトチェーン(FLC)のκ/λ比で確定 続いて石田氏が、「従来の全身性ALアミロイドーシスの治療はメルファラン+デキサメタゾンまたは自家末梢血幹細胞移植で、移植不適の患者にできることは限られていた。ANDROMEDA試験の結果では、心アミロイドーシスや高齢者など予後不良が予測される群でも高い有効性が報告されており、さらに自家末梢血幹細胞移植における完全奏効(CR)+部分奏効(VGPR)率は70%前後なのに対し、ダラキューロ上乗せ群は79%と同等以上で、今後は日本を含めた世界のALアミロイドーシスの移植不適患者に対する標準療法はCBD+ダラキューロになり、移植適応患者にも導入療法として検討されるだろう」とまとめた。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 消化器(消化管)

第1回 ピロリ菌感染症関連第2回 消化管悪性腫瘍第3回 消化管出血 腹部緊急疾患第4回 消化管機能性疾患第5回 感染症 炎症性腸疾患第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。消化器の消化管については、公立豊岡病院の宮垣亜紀先生がレクチャー。消化管は内視鏡画像の診断がポイント。豊富な症例画像を使って、頻出の内視鏡検査問題を徹底的にトレーニングします。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 ピロリ菌感染症関連消化管は、内視鏡画像診断がポイント。非専門医にとっては普段見慣れない内視鏡画像ですが、試験に出題される疾患はある程度絞られているので、それを押さえれば攻略できます。第1回は、胃十二指腸潰瘍や胃がんのリスクとなるヘリコバクター・ピロリ菌。ピロリ菌に起因する疾患は、胃がんや潰瘍だけではありません。ピロリ菌感染関連疾患は、内視鏡で胃炎を証明し、ピロリ菌を証明するための各種検査も覚えておくことが重要です。第2回 消化管悪性腫瘍消化管悪性腫瘍には、胃がん、大腸がん、食道がん、消化管間質腫瘍GISTがありますが、共通して問われやすいのは、リスクファクター、内視鏡所見の診断、疾患に関する知識です。胃がんは内視鏡所見から深達度と組織型を診断し、内視鏡的粘膜下層剥離術の適応を判断。近年のトピックスとして、バレット食道がんの報告が増えています。粘膜下腫瘍の形態をとるGISTは、どの消化管でも起こりえます。超音波内視鏡やCTで診断します。第3回 消化管出血 腹部緊急疾患消化管出血と、試験に出題されやすい腹部緊急疾患について、身体所見、検査、治療を整理します。上部消化管出血の中でも緊急性が高いのは静脈瘤出血。静脈瘤結紮術で治療します。下部消化管出血で最もコモンな疾患は虚血性腸炎と大腸憩室出血。X線・CTで特徴的な画像所見を示すS状結腸軸捻転。腸閉塞とイレウスは概念を混同しないように注意。生の海産物を摂取した後の激烈な腹痛はアニサキス症を疑います。第4回 消化管機能性疾患機能性疾患の中でもよく出題される食道アカラシア。見た目ではっきりわかる腫瘍があるわけではないので、内視鏡検査では見つかりにくく、食道造影やマノメトリーという検査が有用です。新たな治療法として、経口内視鏡的括約筋切開術POEMが注目されています。機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群は器質的疾患の除外が重要。胃食道逆流症にはびらん性と非びらん性があり、同じ薬剤でも効果に差があります。第5回 感染症 炎症性腸疾患多岐にわたる腸管感染症から、感染性腸炎、アメーバ性大腸炎、抗菌薬起因性腸炎について解説します。感染性腸炎は、抗菌薬が必要な状況の見極めがポイント。内視鏡的所見が特徴的なアメーバ性大腸炎。潰瘍の周囲にタコいぼ様びらんが見られます。日常臨床でもよくある潰瘍性大腸炎は、重症度に応じて薬剤か手術を選択。非連続性の全層性の肉芽腫性炎症が起きるクローン病は、狭窄を考慮しながら適した画像検査を選択します。第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌好酸球性消化管疾患は、原因がまだ明らかになっていないアレルギー疾患です。遺伝性疾患では、大腸にポリープが多発する家族性腺腫性ポリポーシスは、放置するとがん化するため、大腸全摘が必要です。Peutz-Jeghers症候群は過誤腫性ポリープで、こちらはほとんどがん化しません。毛細血管拡張の画像所見が特徴的なオスラー病も覚えておきましょう。消化管内分泌のトピックスとして、神経内分泌腫瘍のガストリノーマについて確認します。

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「コロネル」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第53回

第53回 「コロネル」の名称の由来は?販売名コロネル錠 500mg コロネル細粒 83.3%一般名(和名[命名法])ポリカルボフィルカルシウム (JAN)効能又は効果過敏性腸症候群における便通異常(下痢、便秘)及び消化器症状用法及び用量通常、成人にはポリカルボフィルカルシウムとして1日量1.5~3.0g(錠:3~6錠、細粒:1.8~3.6g)を3回に分けて、食後に水とともに経口投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】1.急性腹部疾患(虫垂炎、腸出血、潰瘍性結腸炎等)の患者[症状を悪化させるおそれがある。]2.術後イレウス等の胃腸閉塞を引き起こすおそれのある患者[症状を悪化させるおそれがある。]3.高カルシウム血症の患者[高カルシウム血症を助長するおそれがある。]4.腎結石のある患者[腎結石を助長するおそれがある。]5.腎不全(軽度及び透析中を除く)のある患者6.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年5月26日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年4月改訂(第14版)医薬品インタビューフォーム「コロネル®錠500mg/コロネル®細粒83.3%」2)アステラスメディカルネット:製品情報

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膵がん末期患者の下痢をコデインリン酸塩でコントロール【うまくいく!処方提案プラクティス】第34回

 今回は、末期がんの患者さんの下痢に対して、コデインリン酸塩錠で対処した症例を紹介します。代表的な副作用である便秘を活用することで、最終的には疼痛・排便の両方がコントロールできましたが、もっと早くから介入できていたら…という後悔が残った事例です。患者情報87歳、女性基礎疾患膵体部がん(c Stage4b、本人へは未告知)、左加齢性黄斑変性症既往歴子宮筋腫手術、腰椎圧迫骨折、左大腿部頸部骨折診察間隔毎週訪問処方内容1.トラセミド錠4mg 1錠 分1 朝食後2.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後3.ナイキサン錠100mg 2錠 分2 朝食後・就寝前4.酪酸菌配合錠 4錠 分2 朝食後・就寝前5.パンクレリパーゼカプセル150mg 2カプセル 分2 朝食後・就寝前6.乾燥硫酸鉄徐放錠 2錠 分2 朝食後・就寝前7.ポラプレジンク錠75mg 2錠 分2 朝食後・就寝前8.ロペラミドカプセル1mg 2カプセル 分2 朝食後・就寝前9.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 就寝前10.ロフラゼプ酸エチル錠1mg 1錠 分1 就寝前本症例のポイントこの患者さんは、膵体部がんの進行による疼痛と頻回の下痢で体力消耗が激しく、その便処理のために同居する長女の介護負担が非常に大きい状態でした。内服薬の管理も本人では難しく、出勤前と帰宅後に内服支援をする長女のために朝食後と就寝前で統一していました。下痢に関しては以前から悩みの種で、過去の治療において半夏瀉心湯やタンニン酸アルブミンで治療をするも抑えることはできず、現在の治療でも整腸薬のみではまったく効果はありませんでした。ロペラミドも追加しましたがコントロールには至らず、本人と長女の精神的・身体的な疲弊が限界に達していました。そのような中、医師より、どうにか今の服薬管理環境で下痢をコントロールできる内服薬はないかという電話相談がありました。この患者さんは、過去に子宮筋腫の手術歴があり、イレウスのリスクもあることから止瀉作用の過剰発現には注意を払う必要があります。しかし、今も疼痛があり、今後も病勢が進行する可能性から、オピオイド導入のタイミングと考えて、腸管内のオピオイド受容体を刺激して腸管蠕動を抑制するコデインリン酸塩錠の投与について検討しました。処方提案と経過医師に、疼痛と排便コントロールの両方を兼ねて、現行のロペラミドに加えて、弱オピオイドのコデインリン酸塩錠の追加を提案しました。用法については、長女より夜間から明け方の便失禁で困っているという話があったため、20mg錠を朝・夕食後(長女帰宅時に服用)・就寝前の分3で服用する方法を伝えました。医師からは、強オピオイドの導入も考えていたが段階を踏んで治療をしよう、と承認を得ることができ、早速当日の夜より服用開始となりました。投与開始3日目にフォローアップのため訪問したところ、夜間の便失禁が減り、本人と長女の心身の負担が軽減できていました。しかしその後、これまでの度重なる便失禁や病状悪化が影響してか、食事がほとんど摂れずに水分摂取がやっとの状態になっていきました。そして、病状悪化から内服も困難な状態となり、フェンタニルクエン酸塩貼付薬とモルヒネ塩酸塩水和物液での緩和医療へ切り替えることになりました。複数の止瀉薬を検討していた段階で提案することができず、医師から相談を受けるまでなかなか知恵を絞りきれなかったことを反省する事例となりました。

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重症急性膵炎〔Severe acute pancreatitis〕

1 疾患概要■ 概念急性膵炎は、膵内で病的に活性化された膵酵素が膵を自己消化する膵の急性炎症である。炎症が膵内にとどまって数日で軽快する軽症例が多いが、一部は炎症が全身に波及して、多臓器障害や血液凝固障害を引き起こす重症急性膵炎となる。急性膵炎から慢性膵炎への移行は10%前後であり、多くの急性膵炎は可逆性で膵に後遺障害は残さない。■ 疫学急性膵炎の2016年における発症頻度は10万人当たり61.8人で、増加傾向にある。男女比は2:1で、発症時の平均年齢は男性で59.9歳、女性で66.5歳である。重症度は、軽症が76.4%、重症が23.6%となる。重症急性膵炎発症時の平均年齢は63.1歳で、男性で60.2歳、女性で69.4歳である。■ 発症機序・成因食べ物を消化する膵酵素は、膵腺房細胞で生成され、食間では消化機能のない不活性型として蓄えられている。摂食により膵酵素の中のトリプシノーゲンが膵管を介して十二指腸内に放出され、エンテロキナーゼの作用により活性型であるトリプシンに転換され、食物を消化する。この膵酵素の活性化が種々の病的要因により膵内で起こり、膵が自己消化されるのが急性膵炎である。膵内外での炎症反応はサイトカインカスケードを活性化し、高サイトカイン血症によるSIRS(systemic inflammatory response syndrome)を来す。重症例では高度のSIRS反応の結果、炎症メディエーターによる血管内皮細胞の障害から全身末梢血管の透過性が亢進し、組織浮腫と血管内脱水を来す。そして、臓器還流障害から肺や腎臓などの臓器障害が起こり、さらに免疫系や凝固系の障害や播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を合併する。また、高度の血管内脱水にともなって全身の末梢血管に血管攣縮を来たし虚血状態を生じ、膵では膵壊死が起こる。発症後期には、膵および膵周囲の壊死部に感染を生じ死亡に至る例がみられる。感染を起こすのは大腸菌などの腸管由来の細菌がほとんどである。健常人では、腸内細菌に対するバリアを備えているが、急性膵炎では腸管壁の透過性が亢進し細菌毒素が腸管粘膜を通過して腸管外へ移行するbacterial transformationが引き起こされる。さらに、全身免疫機能低下が加わり感染を惹起させる。アルコール性と胆石性が2大成因であり、成因が特定できない特発性がそれに次ぐ。男性ではアルコール性(43%)が多く、発症年齢は40~50歳代が多い。女性では胆石性(38%)が多く、発症は60歳以上の高齢者が多くなっている。その他の成因としては、膵腫瘍、手術、内視鏡的膵胆管造影(ERCP)、高脂血症、膵管形成異常、薬剤性などがある。重症急性膵炎の成因は、アルコール性(35%)、胆石性(30%)、特発性(19%)の順である。■ 症状急性膵炎では、ほとんどの例で上腹部を中心とした強い腹痛と圧痛を認める。その他には、嘔気・嘔吐、背部への放散痛、食思不振、発熱などもしばしば認められる。重症急性膵炎では、ショック、呼吸不全、乏尿、脳神経症状、腹部膨隆(イレウス、腹水)、SIRS(高・低体温、頻脈、頻呼吸)などの重要臓器機能不全兆候がみられる。■ 予後2016年の全国調査における急性膵炎患者の死亡率は1.8%であり、軽症例で0.5%、重症例で6.1%であった。重症急性膵炎の死亡率は2011年の調査時の10.1%より約4割減少した。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)急性膵炎の診断は、上腹部痛と圧痛、膵酵素の上昇、および膵の画像所見のうち2項目を満たし、他の膵疾患や急性腹症を除外する診断基準によって行われる(表1)。急性膵炎診療ガイドライン2015に記載されている臨床指標のPancreatitis Bundles 2015(表2)と診療のフローシート(図1)にそって、診断と治療を行う。重症急性膵炎は死亡率が高いので重症例を早期に検出する目的で、急性膵炎診断後、直ちに重症度判定を行い、経時的に重症度判定を繰り返す必要がある。急性膵炎の重症度判定基準(表3)は、9つの予後因子と造影CTによる造影CT Gradeからなり、各1点の予後因子の合計が3点以上か、造影CT Gradeが2以上の場合重症と診断される(図2~4)。それぞれ単独で重症と診断される例より、両者の組み合わせで重症となる例では死亡率が高い。急性膵炎は病理学的には、浮腫性膵炎、出血性膵炎と壊死性膵炎に分類されるが、臨床的には膵および膵周囲の病変は改訂アトランタ分類によって分類される(表4、図5)。発症4週間を経過すると炎症により障害された組織を取り囲む組織の器質化が進み、4週以降は壊死を伴わない液体貯留は仮性嚢胞となるが、壊死を伴う場合には内部に壊死を含む被包化壊死となりWON (wall-off necrosis)と呼ばれる。表1 急性膵炎の診断基準(厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班)1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある2.血中または尿中に膵酵素の上昇がある3.超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。 ただし、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。注:膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測定することが望ましい表2 Pancreatitis Bundles 20151.急性膵炎診断時、診断から24時間以内、および、24~48時間の各々の時間帯で、厚生労働省重症度判定基準の予後因子スコアを用いて重症度を繰り返し評価する。2.重症急性膵炎では、診断後3時間以内に、適切な施設への転送を検討する。3.急性膵炎では、診断後3時間以内に、病歴、血液検査、画像検査などにより、膵炎の成因を鑑別する。4.胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸の出現または増悪などの胆道通過障害の遷延を疑う症例には、早期のERCP+ESの施行を検討する。5.重症急性膵炎の治療を行う施設では、造影可能な重症急性膵炎症例では、初療後3時間以内に、造影CTを行い、膵造影不良域や病変の拡がりなどを検討し、CT Gradeによる重症度判定を行う。6.急性膵炎では、発症後48時間以内は十分な輸液とモニタリングを行い、平均血圧*65mmHg以上、尿量0.5mL/kg/h以上を維持する。7.急性膵炎では、疼痛のコントロールを行う。8.重症急性膵炎では、発症後72時間以内に広域スペクトラムの抗菌薬の予防的投与の可否を検討する。9.腸蠕動がなくても診断後48時間以内に経腸栄養(経空腸が望ましい)を少量から開始する。10.胆石性膵炎で胆嚢結石を有する場合には、膵炎沈静化後、胆嚢摘出術を行う。*:平均血圧=拡張期血圧+(収縮期血圧-拡張期血圧)/3図1 急性膵炎の基本的診療方針画像を拡大する表3 急性膵炎の重症判定基準(厚生労働省難治性疾患に関する調査研究班 2008年)画像を拡大する図2 浮腫性膵炎(矢印)のCT所見画像を拡大する図3 造影CT所見における膵造影不良域(矢印)画像を拡大する図4 重症急性膵炎の造影CT所見。腎下極以遠まで炎症の進展を認める画像を拡大する表4 急性膵炎に伴う膵および膵周囲病変の分類(改訂アトランタ分類)画像を拡大する図5 重症急性膵炎の造影CT所見。薄壁被膜で被包化された左側腹部広範に広がる液貯留腔画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 輸液急性膵炎と診断したら入院治療を行い、意識状態・体温・脈拍数・血圧・尿量・呼吸数・酸素飽和度などをモニタリングする。膵外分泌刺激を回避するために絶食とし、初期輸液と十分な除痛を行う。急性膵炎では発症初期より血管内脱水を起こすので、乳酸リンゲル液などの細胞外液による十分な輸液を行う。ショックまたは脱水状態の患者には、短時間の急速輸液(150~600mL/時間)を行うが、過剰輸液にならないように十分に注意する。脱水状態でない患者には、130~150mL/時間の輸液をしながらモニタリングを行う。平均動脈圧(拡張期血圧+(収縮期血圧―拡張期血圧)/3)が65mmHg以上と尿量0.5 mL/kg/時間以上が確保されたら、急速輸液を終了し輸液速度を下げる。■ 薬物療法急性膵炎の疼痛は激しく持続的であり、非麻薬性鎮痛薬であるブプレノルフィン(商品名:レペタン)などにより十分にコントロールする。軽症例では予防的抗菌薬は必要ないが、重症例や壊死性膵炎では発症後72時間以内に予防的に抗菌剤を投与することが推奨されている。ガベキサートメシル酸塩などの蛋白分解酵素阻害薬の経静脈的投与による生命予後や合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていない。■ 栄養療法経腸栄養を行うことは腸管からのbacterial transformationを減少させるので、感染予防策として腸管合併症のない重症例では入院後48時間以内に開始することが望ましい。原則としてTreitz靭帯を超えて空腸まで挿入した経腸栄養チューブを用いることが推奨されるが、空腸に経腸栄養チューブが挿入できない場合は十二指腸内や胃内に栄養剤を投与しても良い。腹痛の消失、血中膵酵素値などを指標として経口摂取の開始時期を決める。■ Abdominal compartment syndrome(ACS)の診断と対処腹腔内圧(intra-abdominal pressure:IAP)が12mmHg以上をIAH(intra-abdominal hypertension)、腹腔内圧が20mmHg以上かつ新たな臓器障害/臓器不全が発生した場合をACS(abdominal compartment syndrome)と診断する。重症急性膵炎の4~6%にACSが発症する。通常膀胱内圧で測定するIAP 12mmHg以上が持続または反復する場合は、内科的治療(消化管内減圧、腹腔内減圧、腹壁コンプライアンス改善、適正輸液と循環管理)を開始して、IAP 15mmHg以下を管理目標とする。IAP>20mmHgかつ新規臓器障害を合併した患者に対して、内科的治療が無効である場合のみ外科的減圧術を考慮する。■ 特殊治療十分な食輸液にもかかわらず、循環動態が安定せず、利尿が得られない重症例やACS合併例に対しては持続的血液濾過(continuous hemofiltration:CHF)/持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)を導入すべきである。しかし、上記以外の重症急性膵炎にルチーンに使用することは推奨されない。膵の支配動脈から動注することにより、膵の炎症の鎮静化や進展防止および感染予防を目的とする蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法は、重症急性膵炎または急性壊死性膵炎の膵感染低下、死亡率低下において有効性を示す報告があるが有用性は確立していない。動注療法は保険適応がないため臨床研究として実施することが望ましい。動注療法の真の有効性と安全性を検証するより質の高いランダム化比較試験(RCT)が必要である。■ 胆石性性膵炎における胆道結石に対する治療急性胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例や胆道通貨障害の遷延を疑う症例では、早期にERCP/内視鏡的乳頭切開術(endoscopic sphincterotomy:ES)を施行すべきである(図6)。しかし、上記に該当しない症例に対する早期のERCP/ES施行の有用性は否定的である。急性胆石性膵炎の再発予防のため、手術可能な症例では膵炎鎮静化後速やかに、胆嚢摘出術の施行が推奨される。図6 胆石性膵炎の診療方針画像を拡大する■ 膵局所合併症に対するインターベンション治療壊死性膵炎では保全的治療が原則であるが、感染性膵壊死ではドレナージかネクロセクトミーのインターベンション治療を行う。できれば発症4週以降の壊死巣が十分に被包化されたWONの時期に、経皮的(後腹膜経路)もしくは内視鏡的経消化管的ドレナージをまず行い(図7)、改善が得られない場合は内視鏡的または後腹膜的アプローチによるネクロセクトミーを行う。図7 単純X線所見。被包化壊死(WON)と胃内にダブルピッグテイルプラスチックステントを留置画像を拡大する4 今後の展望遅滞ない初期輸液や経腸栄養などの重症化阻止や感染予防のための方策を講じた急性膵炎診療ガイドラインの普及により、急性膵炎特に重症急性膵炎の死亡率は大きく低下した。今後、急性膵炎発症や重症化の機序のさらなる解明、ガイドラインのさらなる普及、後期合併症対策の改良などが期待される。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。1)Masamune A, et al. Pancreatology. 2020;20:629-636.2)武田和憲、他. 厚生労働科学研究補助金難治性疾患国副事業難治性膵疾患に関する調査研究、平成17年度総括・分担研究報告書. 2006;27-34.3)急性膵炎診療ガイドライン2015(第4版)、金原出版.2015.4)Banks PA, et al. Gut. 2013;62:102-111.公開履歴初回2021年02月11日

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慢性特発性偽性腸閉塞症〔CIPO:Chronic Idiopathic Intestinal Pseudo-obstruction〕

1 疾患概要■ 定義・疾患概念慢性特発性偽性腸閉塞症(Chronic Idiopathic Intestinal Pseudo-obstruction:CIPO)は腸管の輸送能が障害されることにより、機械的な閉塞機転がないにもかかわらず腹部膨満、腹痛、嘔吐などの消化管閉塞症状を引き起こす消化管運動異常疾患1)。■ 疫学わが国では約1,300人(推定)、平均年齢58歳、男女比1:1.4、症状発現から診断確定まで平均2年もかかる2,3)。■ 病因と病態病因は依然不明であるが家族内発症が報告されており、何らかの遺伝的要因が関与すると考えられている。本疾患は原因不明の腸管運動の低下・廃絶により、腸管内容の輸送能が低下して腹部膨満、嘔気・腹痛などの消化管閉塞症状、画像で鏡面像を特徴とする腸管拡張像を呈し、小腸の消化吸収機能の低下による栄養障害を呈していくものと考えられている(図1)。図1 CIPO臨床症状と病態画像を拡大する■ 分類病理学的検索により以下の分類が用いられている1)筋性Myopathy(非家族性先天性,非家族性後天性,家族性遺伝性)2)神経性Neuropathy(非家族性先天性、非家族性後天性、家族性遺伝性)3)間葉系細胞の異常Mesenchymopathy(カハールの介在細胞の異常、炎症性など)かつては障害消化管が大腸にのみ限局する大腸限局型偽性腸閉塞症(Chronic Colonic Pseudo-obstruction)が提唱されていたが、現在は巨大結腸症の範疇に入ると考えられている。■ 予後特発性は著しいQOLの低下を認めるが生命予後は悪くない。しかし、極端な体重減少では死亡することがあるので体重減少には注意が必要である(40kg以下になったら注意が必要で、入院により積極的栄養療法を行う)。続発性の予後は原疾患いよることが多く予後不良である。2 診断2,5)  (検査・鑑別診断も含む)【診断基準】(厚労省研究班診断基準)以下の7項目をすべて満たすもの(1)腹部膨満、嘔気・嘔吐、腹痛などの入院を要するような重篤な腸閉塞症状を長期に持続的または反復的に認める(2)新生児期発症では2ヵ月以上、乳児期以降の発症では6ヵ月以上の病悩期間を有する(3)画像診断では消化管の拡張と鏡面像を呈する*1)(4)消化管を閉塞する器質的な病変を認めない(5)腸管全層生検のHE染色で神経叢に形態異常を認めない(6)小児ではMegacystis microcolon intestinal hypoperistalsis syndrome(MMIHS)とSegmental Dilatation of intestineを除外する(7)続発性Chronic Intestinal Pseudo-Obstruction(CIPO)を除外する*2)*1)新生児期には,立位での腹部単純X線写真による鏡面像は,必ずしも必要としない。*2)除外すべき続発性CIPOを別表1に示す。別表1 続発性CIPO画像を拡大する〔重症度分類〕腹痛、腹部膨満、嘔気・嘔吐などの腸閉塞症状により、日常生活が著しく障害されており、かつ以下の3項目のうち、少なくとも1項目以上を満たすものを、重症例とする。(1)経静脈栄養を必要とする(2)経管栄養管理を必要とする(3)継続的な消化管減圧を必要とする*1)*1)消化管減圧とは、腸瘻、胃瘻、経鼻胃管、イレウス管、経肛門管などによる腸内容のドレナージをさす小腸運動異常の診断には小腸シネMRIが非常に有効である4)。3 治療 (治験中・研究中のものも含む) 治療は大きく分けて「栄養療法」と「消化管減圧療法」が行われる(図2)。別表1 続発性CIPO画像を拡大する■ 栄養療法腹部症状による食事量の減少、腸管の消化吸収能の低下による栄養障害の是正が治療では重要となる。まずは1回に食べる食事の量を極力減らした低残差食を1日多数回に分けて腸管の負担を減らすことからはじめ、体重減少などの程度に応じて成分栄養を用いた経管栄養や中心静脈療法が行われる。長期の在宅中心静脈療法になることがある。■ 腸管減圧療法腸管内圧亢進による直管壁の菲薄化とそれによる消化吸収能力の廃絶の進展防止のために早期から腸管減圧を積極的に行う。腹部膨満に対して非吸収性抗菌薬の投与を一定期間に限定して行う。減圧のタイミングを逸すると絞扼性イレウスを起こし、絶対的手術適応になることがある。減圧は急性期にはイレウス管や胃管を用いることが行われる。長期的にはこれまで小腸瘻が増設されたが、増設場所によっては1日3Lを超える排液がありその水電解質管理に難渋する。最近は早期から胃瘻経由の減圧チューブ(Jejunum tube)であるPEG-Jを入れて減圧ポイントをチューブ先端位置の変更できる侵襲性が低い内視鏡治療が行われる(チューブ長は60cmから120cmまで各種発売されている)。PEG-Jの登場で本疾患の入院期間が劇的に短縮され、腸管減圧による腹部症状の改善に加え、栄養状態の改善、社会復帰の促進がはかれるようになった6)。(図3)図3 3DCTによるPEG-J治療前後の比較画像を拡大する4 今後の展望厚生労働省研究班の研究および啓発で不要な外科手術例が減るようになってきた。今後は、いかに早く診断し、早期の減圧療法の介入が疾患による栄養障害やQOLの低下を阻止できるかが重要なポイントと思われる。わが国ではシネMRIで非侵襲的な診断ができるメリットを生かすべきであろう。小腸内細菌異常増殖(SIBO)に関しては、非吸収性の抗菌薬は保険適用がなかったが現在国内で治験中であり、保険適用で認められれば使うべき患者にタイムリーに使えるようになると期待される。本疾患の原因は以前不詳であるので、原因遺伝子の同定が原因療法のためには喫緊の課題であろう。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)慢性偽性腸閉塞症のインフォメーションサイト難病情報センター1)Stanghellini V, et al. Neurogastroenterol Motil. 2007;19:440-452.2)中島 淳. 慢性偽性腸閉塞症の診療ガイドChronicIntestinalPseudo-obstruction(CIPO) 平成23年厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究班編 第1版.2012.3)Iida H,et al. J Epidemiol. 2013;23:288-294.4)Ohkubo H,et al. Am J Gastroenterol. 2013;108:1130-1139.5)田口智章. ヒルシュスプルング病類縁疾患診療ガイドライン・実用版:平成26年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))「小児期からの希少難治性消化管疾患の移行期を包含するガイドラインの確立に関する研究」.2017.6)Ohkubo H,et al. Neurogastroenterol Motil. 2017;29.doi:10.1111/nmo.13127.公開履歴初回2020年04月14日

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全身性強皮症〔SSc:systemic sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)は、指趾から左右対称性に中枢側へと及ぶ線維性皮膚硬化を主徴とし、しばしば内臓(肺、食道病変の頻度が高い)にも線維性硬化を伴う慢性疾患である。■ 疫学わが国では約2万人が特定疾患として認定されている。しかし、見逃されている症例や他の膠原病とされている症例、軽症例では患者自身が受診していないことも多く、正確な患者数は不明である。男女比は1:12で、30~50歳代の女性に好発する。まれに、幼児期~小児期、70歳以降の高齢者に発症することもある。■ 病因SScの病因は不明である。本症は、(1)線維性硬化(皮膚におけるコラーゲンの過剰蓄積。内臓病変では臓器傷害部位をコラーゲンが置換する)、(2)末梢循環障害(レイノー現象、指趾潰瘍など)、(3)免疫異常(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体などの自己抗体産生)の3要素によって特徴付けることができる。ただし、自己抗体そのものが疾患を惹起しているわけではなく、SSc特異的自己抗体を産生しやすい遺伝的背景とSScを発症させる疾患感受性の遺伝的背景とが密接にリンクしていると考えられる。■ 症状初発症状としてはレイノー現象(典型例では、寒冷刺激などによって手指が白色、紫藍色、赤色の3相性に変化する。図1)、手指の腫脹・こわばり(図2)が多い。その後、強指症に代表される皮膚硬化が明確となり、皮膚潰瘍・壊疽、肺線維症(図3)、逆流性食道炎をしばしば伴う。手指の屈曲拘縮、肺高血圧症、心外膜炎、不整脈、右心不全、腎クリーゼ(乏尿と高血圧)、関節炎、筋炎、偽性イレウス(腸閉塞)(図4)、吸収不良、便秘、下痢など合併することがある。図1 レイノー現象による手指の蒼白化画像を拡大する図2 手指の浮腫性硬化画像を拡大する図3 肺線維症画像を拡大する図4 偽性イレウス画像を拡大する■ 分類強皮症にはSScと限局性強皮症(Localized scleroderma)とがある。SScは皮膚硬化が肘・膝を超えるびまん皮膚硬化型(diffuse cutaneous type SSc)と肘・膝より遠位側に留まる限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とに分類される。びまん皮膚硬化型は内臓病変が重症である確率が高い。びまん皮膚硬化型では、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の陽性率が高く、内臓病変は重症化しやすい。限局皮膚硬化型では抗セントロメア抗体の陽性率が高く、生命予後に関わる内臓病変として肺高血圧症がある。SSc特異的自己抗体の有無は病型判別に役立つ。なお、皮膚硬化が部分的に生じる限局性強皮症(localized scleroderma)とSScの限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とは別疾患であり、混同してはならない。■ 予後日本人の成人発症SSc患者の10年生存率は88%である。先に述べたように、びまん皮膚硬化型SScでは内臓病変が重症化しやすく、内臓病変が生命予後を左右する。内臓病変は慢性に進行するわけではなく、重症例は発症5、6年以内に急速に進行することが多い。このような症例を正確に見極め、できるかぎり早期に治療を開始して組織破壊を抑制し、組織損傷を軽減することが重要である。一方、限局皮膚硬化型SScでは、肺高血圧症以外に重篤な内臓病変を合併することは少なく、生命予後について過度の心配は不要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SScは、症例毎に多彩な症状を呈するため、診断に際しては皮膚病変、内臓病変の正確な評価が不可欠である。分類(診断)基準案として厚生労働省研究班(表1)のものと、欧米リウマチ学会のもの(表2)を示す。表2はポイント制であり、早期例の診断に有用性が高い。特に、爪上皮の出血、後爪郭部毛細血管異常は早期診断には重要である(図5)鑑別すべき疾患として、腎性全身性線維症(造影剤を使用された腎不全患者に発症)、汎発型限局性強皮症(斑状強皮症、帯状強皮症などの限局性病変が多発したもの)、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群などが挙げられる(表1)。表1 全身性強皮症診断基準(厚生労働省研究班,2014)◎大基準両側性の手指を超える皮膚硬化◎小基準(1)手指に限局する皮膚硬化*1(2)爪郭部毛細血管異常*2(3)手指尖端の陥凹性瘢痕,あるいは指尖潰瘍*3(4)両側下肺野の間質性陰影(5)抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の何れかが陽性◎除外基準以下の疾患を除外すること腎性全身性線維症、汎発型限局性強皮、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群【診断の判定】大基準、あるいは小基準(1)および(2)~(5)のうち1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断する【注釈】*1:MCP関節よりも遠位に留まり、かつPIP関節よりも近位に及ぶものに限る*2:肉眼的に爪上皮出血点が2本以上の指に認められる、またはcapillaroscopyあるいはdermoscopyで全身性強皮症に特徴的な所見が認められる*3:手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く表2 アメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会の分類(診断)基準(2013)画像を拡大する図5 後爪郭部の毛細血管拡張と爪上皮内の点状出血画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点でSScを完治させる、あるいは進行を完全に抑制できる薬剤はない。しかし、ある程度の効果が期待できる治療薬は揃いつつある。(1)皮膚硬化に対する副腎皮質ステロイド(少量内服、20mg/日以下)(2)肺線維症(間質性肺炎)に対するシクロフォスファミド・パルス療法(点滴静注を1回/月、6回)(3)逆流性食道炎に対するプロトンポンプ阻害薬(内服)(4)末梢循環障害に対するプロスタサイクリンなど(5)肺高血圧症、手指潰瘍再発に対するエンドセリン受容体拮抗薬(内服)(6)腎クリーゼに対するアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(内服)4 今後の展望強皮症を含む自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序は不明である。近年の研究成果からは、自然免疫(innate immunity)の制御異常が注目されている。自然免疫は獲得免疫(acquired immunity)が成立するまでの期間に働く生体防御システムであり、外来性病原体に由来する、あるいは我々自身の体細胞に由来する物質の刺激によって始動する。これらの物質は生体の恒常性を破綻させる可能性があるため、自然免疫システムは炎症を起こしてこれら物質を排除しようとする。この炎症が上手くコントロールされて適切な段階で終息すれば正常状態であるが、炎症が遷延化して臓器損傷が慢性に進行するのが異常状態であり、これこそが自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序ではないかと推測されている。したがって、最初にスイッチオンする物質の種類、その後の自然免疫による炎症の強弱によって患者さんごとの多様な病態が形成されると考えられる。根本治療薬の開発は、発症機序の解明を待たねばならないが、炎症制御に関わるさまざまな生体物質を制御する薬剤(分子標的薬)の探索へと向かうであろう。5 主たる診療科皮膚科、膠原病内科(SScを専門とする医師がいることが望ましい)。罹患臓器の重症度によって呼吸器内科、循環器内科、消化器内科などに診療する。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター全身性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)平成26年度厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診断ガイドライン作成事業」(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月10日

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Dr.林の笑劇的救急問答15

第1回 この腹痛!原因がわからない第2回 コワい腹痛!お腹が柔らかいのに?第3回 身じろぎできない腹痛!急性腹症?第4回 痛みに波がある腹痛!腸閉塞? 15年目に突入の今シーズンは「腹痛」がテーマ!原因がわからない!診断できない!そんな腹痛を「胃腸炎」や「便秘」とゴミ箱診断していませんか?確かに腹部救急は難しく、診断に時間がかかります。救急を受診した腹痛患者のうちおよそ1~2割が診断不能で、さらに、そのうち2割が悪化すると言われています。重大な腹痛を見逃さないために、いろいろな原因を想起できるようになりましょう。上巻では血管系の疾患、急性腹症、腸閉塞などを中心に、腹痛のさまざまな原因とその対処法について解説します。見つけるポイントはどこか、何をもって疑うか、そして、そのときに取るべき対応は?ピットフォール満載の爆笑症例ドラマと、Dr.林のわかりやすい講義で楽しく、しっかりと学んでください。第1回 この腹痛!原因がわからない救急を受診する腹痛患者のうち、診断不能なのは10~20%程度といわれています。身体診察で、腹部が柔らかいからといって、「重大な腹痛であることを除外していませんか?確かに腹膜刺激症状は重要な所見ですが、腹膜刺激症状が出ない疾患で、命に係わる疾患もあります。血管系の疾患もその1つ。見逃さないためのポイントをしっかりと学んでください。第2回 コワい腹痛!お腹が柔らかいのに?腹膜刺激症状は、腹痛診療の根幹をなす身体所見です。しかしながら、腹膜刺激症状が出ないコワい疾患も多数あり、それらをしっかりと頭に入れておくことが必要です。今回は、まずは、それらの疾患はどのようなものがあるのかを考え、その中でもとくにコワい「血管系疾患の腹痛」について解説します。見逃さないための診断のコツやポイント、CTをとるべきタイミングと読み方についても詳しくお教えします。つ・ま・り、今回も楽しく学べます!  ↑   この意味は番組でご確認ください!第3回 身じろぎできない腹痛!急性腹症?今回の腹痛のテーマは「急性腹症」、主に腹膜炎について取り上げます。急性腹症は、いかに早く診断し、治療するかの時間との勝負です。腹痛患者のそれぞれの状態や疾患による痛がり方、腹膜刺激症状の出方、身体診察の仕方など、なぜそうなのかの理由も含めて林寛之先生がしっかりとお教えします。これであなたも急性腹症に強くなれるはず。そうすれば、1人でも多くの患者の命を救うことができます。第4回 痛みに波がある腹痛!腸閉塞?今回のテーマは「腸閉塞」。腸閉塞は機械的な閉塞のことで、イレウス(麻痺性)とは異なる疾患であることをまず理解しておきましょう。腸閉塞は術後の癒着による閉塞が最も多く、痛みが間欠的、手術歴あり、排便・排ガスがないという典型的な病歴であれば、腸閉塞を強く疑うことは難しくありません。しかしながら、そのほかにも、ヘルニア、がんなど、さまざまな原因によって引き起こされます。それぞれのパターンの腸閉塞を想起できるよう、どのように病歴を聴取し、診察していくのか。Dr.林が詳しく、わかりやすく解説します。身体所見であるHowship-Romberg徴候や、造影CT画像のbeak sign、Whirl signなど、診断に有用なポイントもしっかりとお見せします。

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世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」【下平博士のDIノート】第36回

世界初、経皮吸収型の統合失調症治療薬「ロナセンテープ20mg/30mg/40mg」今回は、抗精神病薬「ブロナンセリン経皮吸収型製剤(商品名:ロナセンテープ20mg/30mg/40mg)」を紹介します。本剤は、統合失調症治療薬として初めての経皮吸収型製剤であり、これまで経口薬での管理が困難だった患者のアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、統合失調症の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月10日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはブロナンセリンとして40mgを1日1回貼付します。患者の状態により、1日量上限の80mgを超えない範囲で適宜増減することができます。本剤は、胸部、腹部、背部のいずれかに貼付し、24時間ごとに貼り替えて使用します。<副作用>国際共同第III相試験における安全性解析対象例521例中、臨床検査値異常を含む副作用が310例(59.5%)に認められました。主な副作用はパーキンソン症候群(14.0%)、アカシジア(10.9%)、適用部位紅斑(7.7%)などでした。また、国内第III相長期投与試験における安全性解析対象例200例中、臨床検査値異常を含む副作用が137例(68.5%)に認められました。主な副作用は適用部位紅斑(22.0%)、プロラクチン上昇(14.0%)、パーキンソン症候群(12.5%)、適用部位そう痒感(10.0%)、アカシジア(9.0%)、不眠(8.0%)などでした。なお、同成分の経口薬では重大な副作用として、高血糖(0.1%)、悪性症候群、遅発性ジスキネジア、麻痺性イレウス、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、横紋筋融解症、無顆粒球症、白血球減少、肺塞栓症、深部静脈血栓症、肝機能障害、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡(いずれも頻度不明)が認められているため、経皮吸収型製剤でも注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内のドパミン、セロトニンなどのバランスを整えることで、幻聴、妄想、不安、緊張、意欲低下などの症状を和らげます。2.毎日同じ時間を目安に、前日に貼った薬を剥がしてから、前回とは異なる場所に新しい薬を1日1回貼ってください。3.胸部、腹部、背部のいずれにも貼付可能ですが、発疹、水ぶくれ、過度の日焼けやかゆみが生じることがあるので、貼付時~2週間程度は貼付部位が直射日光に当たらないようにしてください。4.使用後は、接着面を内側にして貼り合わせ、子供の手の届かないところへ捨ててください。5.眠気、注意力・集中力・反射運動能力の低下などが起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事しないでください。6.本剤の使用により、高血糖が現れることがあります。喉の渇き、過度の水分摂取、尿の量が多い、尿の回数が多いなど、いつもとは違う症状が現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、世界で初めて統合失調症を適応として承認された経皮吸収型製剤です。本剤および同成分の経口薬(錠剤・散剤)は、非定型抗精神病薬のセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)に分類され、既存のSDAとしては、リスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(同:ルーラン)、パリペリドン(同:インヴェガなど)があります。統合失調症の治療では、アドヒアランス不良による再発・再燃率の高さがしばしば問題となります。貼付薬である本剤には、貼付の有無や投与量を視認できるため、投薬管理が容易にできるというメリットがあります。また、食事のタイミングを考慮する必要がなく、食生活が不規則な患者さんや嚥下困難などで経口服薬が困難な患者さんへの投与も可能ですので、アドヒアランスの向上が期待できます。消化器系の副作用軽減も期待できますが、一方で貼付部位の皮膚関連副作用には注意が必要です。貼付薬は激しい動きによって剥がれることもありますが、患者さん自身が剥がしてしまうこともあります。かゆみなどの不快感で剥がしていることもありますので、理由や希望を聞き取るとよいでしょう。なお、薬物相互作用については経口薬と同様となっていますが、グレープフルーツジュースとの相互作用は主に消化管で生じるため、本剤では併用注意は設定されていません。経口薬から本剤に切り替える場合、次の投与予定時刻から本剤を使用することが可能です。一方で、本剤から経口薬へ切り替える場合には、添付文書の用法・用量に従って、1回4mg、1日2回食後経口投与より開始し、徐々に増量する必要があります。患者さんが安心して治療継続できるよう、副作用や併用薬、残薬などの聞き取りを行い、しっかりサポートしましょう。

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アドヒアランス不良のカリウム薬の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第3回

 今回は、長期間にわたってカリウム薬を服用していたことに着目した症例です。患者さんより聴取した不満を契機に医師へ血液検査結果を基にした中止提案を行い、中止後の検査値や自覚症状に問題がないことを医師および患者さんと確認し、無事に中止することができました。患者情報外来患者、70歳、女性、身長:154cm、体重:52kg現病歴:高血圧、骨粗鬆症投薬時に、毎食後の服薬が苦痛で、L−アスパラギン酸カリウムの服用をよく忘れるとの相談あり(医師には伝えていない)。市販薬やサプリメントの使用はなし。食事は規則正しく1日3食で、食事摂取量にむらはなし。処方内容(1、3の内科からの処方薬は10年以上服用中)1.テルミサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドールカプセル0.25μg 1カプセル 分1 朝食後3.L−アスパラギン酸カリウム錠300mg 3錠 分3 毎食後症例のポイント患者さんは上記1と3の処方薬を長年服用していますが、L−アスパラギン酸カリウムを毎食後に服用することを苦痛に感じていました。たびたびあった服用忘れを医師には伝えていなかったため、アドヒアランスが良好だということを前提に処方が継続されている可能性がありました。L−アスパラギン酸カリウムは、薬剤性低カリウム血症のカリウム補給に用いられることが多くあります。低カリウム血症の原因となる薬剤として、漢方薬(芍薬甘草湯など市販薬にも成分として含まれるので要注意)や利尿薬(とくにループ利尿薬)、グリチルリチン酸、インスリンが挙げられますが、この患者さんの処方内容からは薬剤性の低カリウム血症が生じている可能性は低いと考えられました。患者さんから聞き取った範囲では、1日3食しっかりと食事を摂取していることから、食事でカリウムが著しく不足しているとも考えにくいです。直近の血液検査結果を持参してもらうと、アドヒアランス不良であったにもかかわらず、血清カリウム値は4.5mEq/Lと充足しており、中止しても大きな影響はないと推察しました。医師に血液検査結果と患者さんの希望について話をしてみたところ、そもそもL−アスパラギン酸カリウムの処方を開始したのは前医のため処方意図がわからないこと、血清カリウムなどのL−アスパラギン酸カリウムの評価を失念されていたことが発覚し、L−アスパラギン酸カリウムの処方が中止となりました。その際、次回診察の際にカリウム値の採血を提案しました。低カリウム血症とは、血清カリウム値が3.5mEq/L未満の場合であり、2.5~3.0mEq/Lが中等症、2.5mEq/L未満は重症と定義されている。2.5mEq/L未満の重症ないし急速な低下時には、心臓(不整脈)、筋肉(筋力低下・倦怠感・麻痺・筋痙攣)、消化管(イレウス・食欲不振・嘔気)、腎臓(多尿・腎機能障害)などに症状が出現する。とくにジギタリス製剤服用中の患者では致死的不整脈が起こりやすいので、血清カリウム値のモニタリングが重要となる。処方提案と経過L−アスパラギン酸カリウムの中止から1ヵ月後に患者さんが再来局されました。血液検査で血清カリウム値は4.1mEq/Lと基準値内であり、食欲不振や倦怠感・筋力低下による症状などの低カリウム血症に基づく症状もありませんでした。患者さんは薬局に相談したことで負担となっていた薬剤を中止できたことを喜んでくださり、信頼関係の構築にもつながって血圧・血液検査の提示や相談の機会も増えました。

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絶食治療患者の消化吸収力と血糖管理/糖尿病学の進歩

 2019年3月1~2日に開催された第53回糖尿病学の進歩において、瓜田 純久氏(東邦大学総合診療・救急医学講座)が「絶食治療を要する疾患で救急搬送された糖尿病患者の臨床経過と栄養管理」について講演し、絶食治療による消化吸収とそれに付随する血糖値変動について講演した(特別企画1:低栄養リスクのある糖尿病患者の栄養サポートと栄養管理)。救急搬送される糖尿病患者の栄養状態とは? 慢性的な栄養不足は、栄養障害によるランゲルハンス島細胞の栄養不良、β細胞量と機能の低下などを引き起こす。そして、救急搬送される患者の多くには、β細胞機能不全を招くほどの急性の負荷が生じている。このような状況下での低栄養を防ぐため、瓜田氏は同施設における2005年7月からの1,531名のカルテを用いて、糖尿病患者の急性疾患時の栄養状態をケトアシドーシス以外の観点から解析した。 まず、救急搬送された患者の糖尿病の有無と絶食期間を調べるために、入院後3日以上の絶食が必要な症例を抽出、HbA1cで区分したところ、HbA1cが6%より高い患者の割合は4割程度であった。また、高齢糖尿病入院患者の栄養状態をMNA-SF1)(簡易栄養状態評価表)で評価したスペインの研究2)によると、入院患者の54%に低栄養または低栄養の恐れがあったという。これらのことから、急性疾患によって搬送される糖尿病患者は、意外と栄養状態が悪いということが明らかになった。栄養障害の原因を探る方法 同施設で入院後3日以上の絶食が必要な症例は、肺炎、急性腸炎、憩室炎、イレウス、消化管出血、虫垂炎、尿路感染症などが全体の45%を占め、同氏が担当する症例には、糖尿病患者の血糖コントロールを悪化させるような急性疾患が多く含まれている。そこで、同氏らは、栄養障害がみられる全患者に対して「食事摂取状況の写真撮影とRapid turnover protein(RTP:レチノール結合タンパク)によるタンパク漏出測定による診断」を実施し、栄養障害の早期発見に努めている。 タンパク質の合成障害や摂取不足がある状態では、半減期(Alb:20日、Tf:7~10、Pre Alb:3~4日、RTP:半日)が短い成分ほど大きく低下するが補いやすい。この性質を活かし、栄養障害がタンパク合成能、摂取不足どちらに起因しているものかをRTPで判断する。たとえば、1900kcalの食事をしっかり食べているにもかかわらずAlb値が下がる糖尿病患者に対し、この検査を実施すると合成障害とわかり、「糖尿病患者のタンパク合成能は落ちていない」と判断することができるという。ただし、下痢、体重減少、貧血、腹部膨満感、浮腫、無力脱力感などがある場合は、まずは、消化管検査や心電図を含む主要な検査を実施して評価を行うことが望ましく、それらに異常がない場合は、開腹などの既往歴や吸収障害を惹起する薬剤(ステロイド、刺激性下剤、酸分泌抑制薬など)の服用を確認してから、低栄養と断定する」と、栄養評価時の注意ポイントを示した。食事を再開した時の消化吸収力と血糖コントロール 絶食治療後の明確な食事再開基準はなく、患者の意思に委ねられている。同氏は、この問題を解決する方法として“呼気中水素総排出量”の算出が有用と考えている。これは炭水化物の消化吸収を表す指標で、絶食期間中は低値を示す。実際に、同氏の解析したデータでも食事再開時は消化吸収の効率が低下していることが明らかとなり、「糖尿病患者の血糖値に“食べた物がすべて反映されている”という考えを間引かなければならない」とし、「たった1日の絶食が消化吸収阻害に影響を及ぼしている」と、絶食におけるリスクを示した。 最後に同氏は「絶食治療により、消化吸収は大きく変化する。絶食治療は必要であるが、血糖、栄養、消化吸収を同時に評価する必要性がある」と締めくくった。■参考1)Nestle Nutrition Institute:MNA-SF2)Sanz Paris A,et al. Nutr Hosp. 2013;28:592-599.

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