サイト内検索

検索結果 合計:71件 表示位置:1 - 20

1.

敗血症性ショックにおけるバソプレシンの最適な開始時期(OVISS強化学習研究)(解説:寺田教彦氏)

 敗血症性ショックは「急性循環不全により細胞障害・代謝異常が重度となり、ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義される(『日本版敗血症診療ガイドライン2024』)。早期診断のためのスコアリングやバンドルの整備、知識の広報などのキャンペーンにより、徐々に死亡率は改善しているものの、今でも重篤な病態である。 敗血症性ショックの初期蘇生では、蘇生輸液のみで目標血圧を維持できない場合、並行して血管収縮薬の投与も行われる。世界的な診療ガイドラインを参考にすると(Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:1974-1982.)、第一選択薬としてノルアドレナリンが使用されているが、ノルアドレナリンのみで血圧が保てない場合に、第二選択薬としてバソプレシンが使用されている。本邦のガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン2024 』においても、「CQ3-7:敗血症性ショックに対して、血管収縮薬をどのように使用するか?」に対して、ノルアドレナリン+バソプレシンと第二選択薬としてバソプレシンの使用が弱く推奨されている。バソプレシンは、高価な薬剤ではなく国内でも広く使用されているが、使用開始のタイミングについては明確な基準がなく、現場では医師や医療機関ごとに判断されているのが実情である。 世界的にもバソプレシン使用開始のタイミングに関するコンセンサスはなく、本研究では、敗血症性ショック患者の電子カルテデータを用い、強化学習によりバソプレシンの最適な開始時期を導出し、外部データセットでその有効性と死亡率低下との関連を検証した。この強化学習は、医療におけるAI応用の中でも、動的な意思決定を必要とする分野で注目されており、与えられた環境内での「行動」と「報酬」の関係を学習して最適な行動方針を導出する手法である。 本研究結果の要約は、ジャーナル四天王「敗血症性ショック、強化学習モデルのバソプレシン投与で死亡率低下/JAMA 」に記載されている。 筆者らも指摘しているとおり、バソプレシンを早期に投与することで、カテコラミンの使用量を減少させ、頻脈性不整脈や心筋虚血のリスクを軽減できる可能性があり、また、バソプレシンの相対的欠乏の補正や糸球体濾過圧の改善といった理論的な利点も期待される。本研究結果は、敗血症性ショックに対してより早期にバソプレシンを併用することで予後が改善する可能性を示唆しており、今後のRCT(Randomized Controlled Trial)による検証が期待される。さらなるエビデンスが蓄積されれば、本研究で示唆されたような「より早期の併用」が新たな治療戦略として確立される可能性がある。 加えて、敗血症性ショックに対してノルアドレナリンとバソプレシンを併用した場合、血行動態が改善すれば昇圧薬の漸減が行われる。現時点では、両薬剤を併用中の患者において、ノルアドレナリンを先に漸減することで低血圧の発生頻度が低いとされており、これに関する系統的レビューとメタアナリシスが報告されている(Song JU, et al. J Korean Med Sci. 2020;35:e8.)。今後、昇圧薬の離脱戦略においても同様の機械学習を用いた最適化手法が提示されることで、現場の診療判断をさらに支援することが期待される。

2.

敗血症性ショック、強化学習モデルのバソプレシン投与で死亡率低下/JAMA

 すでにノルエピネフリンを投与されている敗血症性ショック患者において、臨床医による実際の平均的な治療パターンと比較して強化学習(reinforcement learning)モデルは、より多くの患者で、より早期に、ノルエピネフリンの用量がより少ない時点でのバソプレシンの投与開始を推奨し、これに準拠すると死亡率が低下することが、フランス・パリ・シテ大学のAlexandre Kalimouttou氏らが実施した「OVISS試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月18日号で報告された。強化学習モデルの妥当性を検証する米国のコホート研究 研究グループは、複数の電子健康記録のデータセットに強化学習を適用し、ノルエピネフリンの投与を受けている敗血症性ショックの成人の重症患者において、短期的アウトカムと入院中のアウトカムの両方を改善するよう最適化されたバソプレシンの投与開始規則の治療結果を導き出し、これを検証し、評価を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 強化学習モデルの作成には、2012~23年にカリフォルニア州の5つの病院で、Sepsis-3基準の敗血症性ショックの定義を満たした患者3,608例(モデル作成コホート)の電子健康記録を用いた。投与開始規則の評価には、カリフォルニア州のデータセットから628例と、米国の227病院の1万217例(検証コホート)から成る3つの外部データセットを用いた。投与開始時のSOFA、乳酸値も低い モデル作成コホート3,608例の年齢中央値は63歳(四分位範囲[IQR]:56~70)、2,075例(57%)が男性で、敗血症性ショック発症時のSOFAスコア中央値は5点(IQR:3~7)であった。検証コホート1万217例の年齢中央値は67歳(IQR:57~75)、5,743例(56%)が男性で、SOFAスコア中央値は6点(IQR:4~9)だった。 検証コホートでは、臨床医による実際のバソプレシン投与開始と比較して強化学習モデルによるバソプレシン投与開始は、適応となる患者の割合が高く(87%vs.31%、p<0.001)、発症からの時間中央値が短く(4時間[IQR:1~8]vs.5時間[1~14]、p<0.001)、ノルエピネフリンの用量中央値が少なかった(0.20μg/kg/分[IQR:0.08~0.45]vs.0.37μg/kg/分[0.17~0.69]、p<0.001)。 また、強化学習モデルによるバソプレシン投与開始は、開始時のSOFAスコア中央値(7点vs.9点、p<0.001)および血清乳酸値中央値(2.5mmol/L[IQR:1.7~4.9]vs.3.6mmol/L[1.8~6.8]、p<0.001)が低かった。院内死亡率が有意に低下 検証コホートでは、臨床医による実際のバソプレシン投与開始に比べ、強化学習モデルによる投与開始規則は報酬の期待値が高かった(重み付け重点サンプリングの差:31[95%信頼区間[CI]:15~52])。また、バソプレシンの投与開始がモデルによる投与開始規則と異なる場合と比較して、同規則と投与開始が同様である場合は院内死亡率(主要アウトカム)の補正後オッズ比(OR)が低かった(OR:0.81[95%CI:0.73~0.91])。 著者は、「バソプレシンの早期投与は、医師の臨床上の警戒心や積極的なモニタリングの増加につながり、アウトカムの改善をもたらした可能性があり、強化学習モデルによる規則はアウトカムと関連しているようにみえるものの、交絡が真の効果をあいまいにしている可能性もある」としている。

3.

海外番組「セサミストリート」(続編・その1)【実はこだわりは能力だったの!?だから男の子に多いんだ!(自閉症の機能)】Part 2

なんで自閉症になるの?自閉症は、コミュニケーションがうまくできない、こだわりが強すぎるという症状があることがわかりました。それでは、なぜそうなるのでしょうか?その答えは、胎児期に男性ホルモンが多すぎていたからです。これは、胎児期アンドロゲン仮説と呼ばれる有力な原因仮説です2)。アンドロゲンとは、男性ホルモンの総称です。その代表が、テストステロンです。もともと胎児のデフォルトは女性です。遺伝的に男性の場合は、胎児期に自らのY染色体の発現によって精巣からこの男性ホルモンを分泌して(ホルモンシャワー)、体と心(脳)を男性化させていきます。その量が多すぎるのが自閉症の原因だということです。実際の研究では、妊娠6ヵ月時に採取した羊水中の男性ホルモン濃度が高ければ高いほど、4歳時と8歳時のそれぞれの共感性の指数が低くなり、システム化の指数が高くなるという結果が出ています2)。これは、自閉症形質の発現を意味します。また、薬指の長さに対する人差し指の長さの比較(指比)の研究では、一般女性→一般男性→自閉症の人(男女とも)の順に人差し指が短くなっていくことが確かめられています3)。これは、胎児期の男性ホルモン濃度が高くなっていく順番と同じです。なお、自閉症は男女とも人差し指が同じくらい短くなることから、自閉症の発症には胎児期の男性ホルモンが相当影響していることが示唆されます。実際の臨床でも、胎児期に先天的に男性ホルモン(厳密にはテストステロンではなくデヒドロエピアンドロステロン)濃度が高い病態(先天性副腎過形成症)では、男女ともに顕著に人差し指が短くなっていることが確かめられています。そして、システム化の指数が高くなるという結果が出ています4)逆に、胎児期に男性ホルモン(テストステロン)濃度が低い病態(クラインフェルター症候群、アンドロゲン不応症)の男性は、人差し指が長くなっていることも確かめられています。さらに、自閉症の男性の精通の時期は平均よりも早くなる一方、自閉症の女性の初潮は平均よりも遅くなることもわかっています2)。逆に、自閉症の人はオキシトシン濃度(女性ホルモン)が平均を下回っていることもわかっています2)。オキシトシンは「絆ホルモン」とも呼ばれ、これが少ないと人とのコミュニケーションへの動機づけ(共感性)が低くなります。さらに、脳の画像研究においては、一般的に女性よりも男性の方が脳の非対称性が大きいことがわかっていますが、自閉症の人はその非対称性がさらに大きくなっていることもわかっています5)。以上より、自閉症とは、男性的な脳機能が過剰になった状態、つまり超男性脳とも呼ばれています。そして、だからこそ自閉症は男の子(男性)に多いのです。実際に自閉症の80%は男性です。ちなみに、ジュリアは、女の子の設定になっています。この多様性の時代、発症率が低い女の子(女性)をあえて自閉症のキャラクターにしたのでしょう。定型発達においても、システム化は、明らかに女の子よりも男の子が高いです。たとえば、男の子(男性)は、乗り物、仕組み(ルール)、戦い(スポーツ)、勝ち負けなど、ものや結論(結果)への興味が強いです。そして、成長すると、理屈っぽくなる分、女性ほど察しようとしないです。一方で、共感性は、明らかに男の子よりも女の子が高いです。たとえば、女の子(女性)は、ぬいぐるみ集め、人形遊び、料理、おしゃべりなど、人や関係性(プロセス)への興味が強いです。そして、成長すると、情緒的になる分、男性ほど説明しようとしないです。つまり、システム化とは、とくに男性にもともと備わっている能力であると言えます。そして、その能力が高まりすぎた状態を自閉症と呼んでいると言えます。それでは、システム化が高くなると、なぜ連動して共感性が低くなってしまうのでしょうか? 言い換えれば、なぜ自閉症はコミュニケーションの障害とこだわりはセットなのでしょうか?(次回に続く)1)ザ・パターン・シーカーpp.93-95:サイモン・バロン・コーエン、化学同人、20222)自閉症スペクトラム入門pp.134-135:サイモン・バロン・コーエン、中央法規、20113)指からわかる男の能力と病p.31、pp.100-101:竹内久美子、講談社α新書、20134)共感する女脳、システム化する男脳pp.186-187:サイモン・バロン・コーエン、NHK出版、20055)脳からみた自閉症p.129:大隅典子、講談社、2016自閉症についての関連記事大人の自閉症への対応のコツ結婚できない男【空気を読まない】[改訂版]<< 前のページへ■関連記事海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 1伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子供は言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 2ガリレオ【システム化、共感性】

4.

切迫早産、オキシトシン受容体拮抗薬vs.プラセボ/Lancet

 妊娠30週0日~33週6日の切迫早産の治療として、子宮収縮抑制薬atosibanは新生児のアウトカム改善に関して、プラセボに対する優越性を示さなかった。オランダ・アムステルダム大学のLarissa I van der Windt氏らAPOSTEL 8 Study Groupが、国際多施設共同無作為化比較試験「APOSTEL 8試験」の結果を報告した。オキシトシン受容体拮抗薬のatosibanは、切迫早産の特異的な治療薬として欧州などで承認済みの子宮収縮抑制薬である。子宮収縮抑制薬は、国際ガイドラインで切迫早産の治療薬として推奨されており、出産を遅延することが示されているが、新生児アウトカムへのベネフィットは明らかにされていなかった。著者は、「子宮収縮抑制薬の主目的は新生児のアウトカム改善でなければならない。今回の結果は、妊娠30週0日~33週6日の切迫早産の治療薬としてatosibanを標準使用することに対して疑問を投じるものであった」と述べ、「われわれの試験結果は、国ごとの実践のばらつきを減らし、切迫早産の患者に対するエビデンスベースの治療提供に寄与するものになるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月3日号掲載の報告。妊娠30週0日~33週6日の切迫早産に投与、新生児の周産期死亡と6疾患を評価 APOSTEL 8試験は、オランダ、イングランド、アイルランドの26病院で行われ、妊娠30週0日~33週6日の切迫早産における子宮収縮抑制薬atosibanの新生児疾患および死亡の改善に関して、プラセボに対する優越性を評価した。 妊娠30週0日~33週6日の切迫早産を有する18歳以上の単胎または双胎妊娠の女性(インフォームド・コンセントに署名済み)を、atosiban群またはプラセボ群に無作為に1対1の割合で割り付けた(施設ごとに層別化)。 主要アウトカムは、周産期死亡(死産および出産後28日までの死亡と定義)および6つの重篤な新生児疾患(気管支肺異形成症[BPD]、グレード1超の脳室周囲白質軟化症[PVL]、グレード2超の脳室内出血[IVH]、Bell’sステージ1超の壊死性腸炎[NEC]、グレード2超またはレーザー治療を要する未熟児網膜症[ROP]、培養検査で確認された敗血症)の複合とし、ITT解析にて評価した。治療効果は相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)で推算した。主要アウトカムの相対リスク0.90 2017年12月4日~2023年7月24日に、計755例が無作為化され、752例がITT解析に組み入れられた(atosiban群375例、プラセボ群377例)。ベースライン特性は両群で類似しており、母体年齢中央値はatosiban群30.0歳、プラセボ群31.0歳、妊娠時BMI中央値は両群とも23.4、白人が両群ともに80%であり、妊娠中の喫煙者は両群とも12%、未経産婦は63%と65%、単胎妊娠が80%と85%などで、無作為化時の妊娠期間中央値は両群とも31.6週であった。ITT集団の新生児数はatosiban群449例、プラセボ群435例であった。 主要アウトカムは、atosiban群の新生児で37/449例(8%)、プラセボ群で40/435例(9%)に報告された(RR:0.90[95%CI:0.58~1.40])。 周産期死亡は、atosiban群3/449例(0.7%)、プラセボ群4/435例(0.9%)であった(RR:0.73[95%CI:0.16~3.23])が、全死亡例で試験薬との関連はおそらくないと見なされた。母体有害事象は両群で差異はなく、また母体の死亡の報告はなかった。

5.

早発卵巣不全は自己免疫疾患と関連

 早発卵巣不全(POI)と診断された女性で、重度の自己免疫疾患の有病率が上昇するという研究結果が、「Human Reproduction」に9月25日掲載された。 オウル大学病院(フィンランド)のSusanna M. Savukoski氏らは、1988~2017年に自然発症のPOIと診断された女性3,972人と一般女性対照群1万5,708人を対象として、集団ベースの登録研究を行い、POI診断前後の重症自己免疫疾患との関連を検討した。 解析の結果、POIの女性における1つ以上の重度の自己免疫疾患の有病率は5.6%であった。POI女性は対照群と比較して、基準日以前に、多腺性自己免疫症候群、アジソン病、血管炎、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、サルコイドーシス、炎症性腸疾患(IBD)、甲状腺機能亢進症を含む、複数の特異的な自己免疫疾患の有病率が高かった。1型糖尿病または強直性脊椎炎の有病率に、差は見られなかった。POI診断後の最初の3年間に重度の自己免疫疾患と初めて診断される標準化罹患比は2.8であったが、12年後には1.3に減少した。 著者らは、「この研究結果は、POIの発症機序に自己免疫機構が重要な役割を果たしているという仮説を補強するものである」と述べている。

6.

妊婦の抑うつ、不安、オキシトシンが子どもへの情緒的絆に影響

 妊娠中の母親の抑うつや不安、唾液中オキシトシン濃度が、子どもに対する情緒的な絆に影響する可能性を示唆する研究結果が新たに報告された。この研究は大阪大学大学院ウィメンズヘルス科学教室の渡邊浩子氏、金粕仁美氏らによるもので、「Archives of Women's Mental Health」に2月26日掲載された。 子どもに対する情緒的な絆を「ボンディング」という。この情緒的な絆が十分に形成されない状態は、ボンディング障害やボンディング不全と呼ばれる。周産期のメンタルヘルスにおいてボンディング障害は重要な問題であり、産褥期に子どもに対する拒絶や怒りの感情を経験することもある。育児行動にも影響を及ぼすことから、ボンディングの改善は子ども虐待の防止にもつながる。 著者らは今回の研究で、京都府の1つの医療機関において、初産婦、20~40歳、精神疾患の既往がないなどの基準を満たす妊婦を対象に、妊娠中のメンタルヘルスやホルモン濃度と産後のボンディングとの関連を検討した。妊娠中期に抑うつと不安の状態を評価し、血中コルチゾール濃度と唾液中オキシトシン濃度を測定した。ボンディングは、「赤ちゃんをいとしいと感じる」「赤ちゃんのことが腹立たしくいやになる」などの質問(10項目)からなる「赤ちゃんへの気持ち質問票(MIBS-J)」を用いて、産後2~5日、1カ月、3カ月の時点で評価した。なお、MIBS-Jは得点が低いほどボンディングが良好であることを示す。 評価対象者66人(平均年齢31.8±3.8歳)のうち、妊娠中に抑うつのあった人(エジンバラ産後うつ病質問票による評価で9点以上)は14人(21.2%)、不安のあった人(状態・特性不安検査による評価で42点以上)は19人(28.8%)だった。ホルモン濃度の中央値(四分位範囲)は、コルチゾールが21.0(16.6~24.1)μg/dL、オキシトシンが30.4(19.2~114.2)pg/mLという結果が得られた。 ボンディングの指標であるMIBS-Jの得点の中央値(四分位範囲)は、産後2~5日が2.00(1.00~3.00)、1カ月が1.00(0.00~3.00)、3カ月が0.00(0.00~2.00)だった。すなわち、ボンディングは産後2~5日および1カ月の時点では低いが、3カ月の時点で有意に高くなることが示された。 次に、MIBS-Jの得点と関連する要因が検討された。産後2~5日では、産後の社会的支援、妊娠中の抑うつ、不安、オキシトシン濃度の4つが、MIBS-Jの得点と有意に関連していることが明らかとなった。産後1カ月の時点では、世帯収入、流産歴、産後の社会的支援、妊娠中の不安の4つが有意に関連していた。3カ月の時点では、有意な関連が見られたのは産後の社会的支援のみだった。妊娠中のコルチゾール濃度に関しては、いずれの時点でもMIBS-Jとの有意な関連は認められなかった。 以上の結果から著者らは、「妊娠中の抑うつ、不安、唾液中オキシトシン濃度の低さは産後2~5日のボンディングの低下を予測し、妊娠中の不安は1カ月時点のボンディングの低下も予測する」と結論。妊娠中にこれらをスクリーニングすることで、ボンディング障害のリスクを評価し、介入できる可能性があると述べている。また、産後の社会的支援が全ての時点でボンディングの高さと関連していたことから、その重要性についても指摘している。

7.

ペット型ロボットが血液内科の無菌室で活躍

 造血幹細胞移植を受ける血液がん患者は、治療に伴い、身体的にも心理的にも大きな痛みを経験する。新たな研究により、患者が血液内科の無菌室で治療・療養している間、犬型ロボットの「aibo」と触れ合うことで、心理的ストレスが軽減されることが明らかとなった。東京医科大学血液内科学分野の研究チームによる研究結果であり、「Scientific Reports」に2月27日掲載された。 強い抗がん剤を使用する血液がん患者は、感染症を予防するため無菌室に入室する。閉鎖的な空間で長期療養を要することから、一般病棟の患者と比べて不眠や抑うつが多く生じる。近年、慢性疾患患者の精神的ケアの一つとしてセラピードッグなどが導入されつつあるが、免疫力が低下している血液がん患者には適していない。そこで著者らは、人工知能(AI)を搭載したソニーグループ株式会社の犬型ロボット「aibo」を導入し、患者の心理面に及ぼす効果を検証した。 今回の研究は、東京医科大学病院で2020年2月~2022年8月に造血幹細胞移植を受けた患者を対象に行われた。対象患者はaibo群と対照群にランダムに分けられ、aibo群の患者はaiboに好きな名前を付けて、無菌室で触れ合うことができた。無菌室に入室し、移植を受け、無菌室退室に至るまで、ストレスホルモンである唾液クロモグラニンA(CgA)、血清オキシトシン、血清コルチゾールの値が定期的に測定された。 解析対象の患者21人のうち、aibo群は11人(男性4人、女性7人)で年齢中央値は48歳(範囲24~65歳)、対照群は10人(男性7人、女性3人)で同57歳(44~67歳)だった。 CgA値について、入室時からの平均変化量を比較すると、移植時にはaibo群で121±135%、対照群で287±358%、退室時には同順に65±42%、218±258%となり、それぞれ有意な群間差が認められた。すなわち、aibo群では退室時のストレスレベルが有意に低下していた一方で、対照群では上昇していることが明らかとなった。また、オキシトシンとコルチゾールの測定結果からも、aibo群ではストレスが軽減している可能性が示された。 さらに、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)を用いて抑うつ症状を比較した結果、aibo群と対照群で合計点数に有意な差は見られなかったが、精神運動状態の項目は、aibo群で入室時の1.6点から退室時の0.5点へと有意に改善していた(対照群では0.2点から0.3点)。 以上から著者らは、「aiboの導入により、造血幹細胞移植を受ける血液がん患者のメンタルヘルスを改善できることが示唆された」と結論付けている。ただ、移植後の身体的疼痛が強い期間はaiboと過ごせる時間が短くなることから、効果を最大化できるタイミングや、医療費・入院期間も踏まえた有用性などに関しては、さらなる検討が必要だとしている。 なお、著者らによると、aiboは実際の犬のように「もふもふ」とはしていないが、毛で覆われていないため、免疫力の低下している人でも感染を防ぎやすいという。aiboは歌ったり、踊ったりする。なでると喜ぶ。室内の散歩やラジオ体操を一緒にすることで体を動かし、手洗いやうがいも促してくれる。著者らは、「aiboのおかげで、患者と病棟スタッフとのコミュニケーションも良好だった」と付け加えている。※aiboは、ソニーグループ株式会社の商標です。

8.

分娩後異常出血、ドレープによる早期検出と一連の初期治療が有効/NEJM

 分娩後異常出血について、目盛り付き採血ドレープによる早期検出と、子宮マッサージ、オキシトシンやトラネキサム酸投与などによる一連の初期治療により、重度分娩後異常出血や出血による開腹手術または母体死亡の複合リスクの低下に結び付くことが示された。世界保健機関(WHO)のIoannis Gallos氏らが、ケニア、ナイジェリアなど80の病院を対象に行った国際クラスター無作為化比較試験の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2023年5月9日号掲載の報告。重度分娩後異常出血、出血による開腹手術や母体死亡の統合リスクを比較 研究グループは、経膣分娩を行った女性を対象に、分娩後異常出血に関する多種の介入を評価した。介入は、分娩後異常出血の早期検出を目的とした目盛り付き採血ドレープと、一連の初期治療(子宮マッサージ、オキシトシン、トラネキサム酸、静脈内輸液、検査、エスカレーション)で、介入群の病院に対しては実施戦略によるサポートを行った。対照群の病院では、通常ケアが行われた。 主要アウトカムは、重度分娩後異常出血(失血量1,000mL超)、出血による開腹手術、出血による母体死亡の複合だった。主要な副次アウトカムは、分娩後異常出血の検出、一連の治療順守だった。主要複合アウトカムの発生率、通常ケア群4.3%に対し介入群1.6% ケニア、ナイジェリア、南アフリカ共和国、タンザニアの2次レベルの病院、合計80ヵ所で、経膣分娩を行った21万132例を対象に試験を行った。 データの得られた病院および被験者において、主要アウトカムのイベント発生は、通常ケア群4.3%に対し、介入群は1.6%だった(リスク比:0.40、95%信頼区間[CI]:0.32~0.50、p

9.

女性の頻尿、どう尋ねるべき?【Dr.山中の攻める!問診3step】第13回

第13回 女性の頻尿、どう尋ねるべき?―Key Point―1日3L以上の排尿と強い口渇があるかを確認する2回以上の夜間頻尿があると生活に支障をきたす医師が質問をしないと女性は尿失禁を訴えないことが多い症例:76歳 女性主訴)頻尿現病歴)2週間前から頻尿と排尿時痛がある。近くの診療所で抗菌薬の処方を受けたが、症状の改善はない。尿の排出時、下腹部に痛みを生じる。3日前からトイレに間に合わず尿を漏らすことが増えてきたため紙パンツを使用するようになった。夜間の排尿回数は5回。熟眠できない。既往歴)変形性関節症薬剤歴)なし生活歴)機会飲酒、喫煙:5本/日(20歳~)身体所見)体温36.8℃、血圧132/80mmHg、心拍数86回/分、呼吸回数18回/分意識:清明腹部:軟。膨隆なし。下腹部に軽度の圧痛あり経過)尿意切迫感と頻尿、切迫性尿失禁の症状から過活動膀胱を疑い牛車腎気丸を処方した。尿意切迫感は改善を認めた。その後、ナースに「最近、子宮脱が気になっている」との訴えがあった。子宮脱も夜間多尿の原因となっていた可能性がある。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!年をとると過活動膀胱に罹患する割合が増加する(70代で20%、80歳以上で35%)1)カルシウム拮抗薬は夜間頻尿を起こす成人女性の25%に尿失禁がある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】多尿(>3L/日)か確認する2)問診:口渇の程度、飲水量、塩分摂取量、利尿薬、アルコールやカフェイン摂取心因性多飲症では1日3~5Lの飲水により低ナトリウム血症を起こすスポット尿のナトリウム濃度(mmol/L)を17で割ると、尿1LあたりのNaCl量(g)が推定できる。この数値に尿量(L)をかければ1日あたりの推定食塩摂取量となる多尿があれば、尿浸透圧を測定する。250mOsm/kg以下ならば水利尿、300mOsm/kg以上ならば浸透圧利尿である水利尿の原因:尿崩症(中枢性、腎性)、心因性多尿浸透圧利尿の原因:糖尿病、薬剤(マンニトール)、ナトリウム負荷、利尿薬、腎不全【STEP3-1】夜間は何度トイレに起きるか就寝後に2回以上、排尿のため起きなければならない症状を夜間頻尿と呼ぶ健常者では抗利尿ホルモン(バソプレシン)は夜間に多く分泌されるため、夜間尿は少なくなる。<夜間頻尿の原因>夜間のみ尿量が多くなる夜間多尿、膀胱容量の減少(過活動性膀胱、前立腺肥大症、間質性膀胱炎、骨盤臓器脱)、睡眠障害<夜間多尿の原因>高血圧、心不全、腎不全、睡眠時無呼吸症候群、寝る前の水分過剰摂取【STEP3-2】尿失禁はあるか2)3)4)◆新たに出現した尿失禁の鑑別診断(DIAPERS)Drug(薬剤)Atrophic vaginitis(萎縮性膣炎)Endocrine(高血糖、高カルシウム血症)Stool impaction(宿便)Infection(感染症:とくに尿路感染症)Psychological(うつ、認知症、せん妄)Restricted mobility(運動制限)(表)尿失禁のタイプ画像を拡大する<参考文献・資料>1)日本泌尿器科学会:頻尿(ひんにょう)とは2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 2018. p294-295,p3432-3436.3)MKSAP19 General Internal Medicine1. 2021. p95-98.4)山中克郎ほか. UCSFに学ぶ できる内科医への近道. 改訂4版. 2012. p343.

10.

ちびまる子ちゃん(続々編)【その教室は社会の縮図? 男子校と女子校の危うさとは?(恋愛能力)】Part 1

今回のキーワード中学受験男女別学恋愛(生殖)における非認知能力恋愛心理の臨界期「反応性恋愛障害」恋愛の機能男性の恋愛能力女性の恋愛能力昨今、中学受験のための教育熱が加熱しているようです。その中でも、とくに男子校と女子校のエリート中学校は人気があります。その理由は、異性を意識せずに学業に専念して、将来的にエリート大学に入学してエリート職に就くことを多くの親が見越しているからでしょう。または、同性同士で切磋琢磨して、「個性が際立つ」という意見もあるようです。とくに女子は、リーダーシップを育むことができるという意見もあるでしょう。そのベネフィットがある一方で、そのリスクはないでしょうか? ベネフィットばかりに目が向き、そのリスクをあまり気にしていない親が多いようです。そして、そのリスクについて、アカデミックに掘り下げた記事があまり見当たりません。この答えを探るために、今回も、アニメ「ちびまる子ちゃん」のキャラクターを使います。このアニメのキャラクターたちは、前回の記事で、小学校のエリート教育のリスクの考察のために登場してもらいました。今回は、ちびまる子ちゃんのクラスメイトを選抜した男子校と女子校を想定し、そこから男女別学のリスクを、恋愛心理の視点で明らかにします。そして、その根拠を、脳科学的に、発達心理学的に、そして進化心理学的に掘り下げます。さらに、恋愛を「能力」として捉え直し、恋愛の機能を解き明かします。最後に、共学であっても別学であっても、私たち(または私たちの子どもたち)はどうすればいいのかという恋愛の本質に迫ってみましょう。なお、今回は、異性愛に焦点を当てています。同性愛や性別違和(性同一性障害)については、割愛します。男子校と女子校に進学しそうなキャラクターは?ちびまる子ちゃんのクラスメイトは、まる子をはじめとするさまざまなキャラクターがいました。その中で、男子校と女子校のエリート中学校に進学しそうなキャラクターは誰でしょうか?エリート中学校が選ぶ基準は、基本的に試験の学力(認知能力)と小学校の内申点(学校活動)です。これを踏まえて、誰が合格するかを一緒に想像してみましょう。(1)エリート男子校最も合格する可能性が高いのは、丸尾君です。彼は、生真面目キャラで、勉強熱心であることに加えて、学級委員になることに執着する典型的な優等生です。前回の記事で彼と一緒にエリート小学校にいそうであると考察した花輪クンも合格する可能性はあります。ただし、花輪クンは、学校活動に丸尾君ほど積極的ではない点で、どちらかで言うと、丸尾君が選ばれるでしょう。そもそも、花輪クンは、セレブキャラで、語学力がすでにあるため、海外のエリート学校に行ってしまうかもしれません(2)エリート女子校最も合格する可能性が高いのは、みぎわさんです。彼女は、思い込みキャラですが、丸尾君と同じく、勉強もできて、学級委員を務めあげる優等生です。ちなみに、前回の記事で彼女と一緒にエリート小学校にいそうであると考察した城ヶ崎さんは、みぎわさんほど合格の可能性は高くないです。その理由は、城ヶ崎さんは、お嬢様キャラで、とくに勉強熱心ではなく、学校活動もみぎわさんほどしていないからです。むしろ、城ヶ崎さんは、エリート中学校にいるとしたら、エリート小学校からエスカレーター式に上がってきている場合でしょう。そして、そのまま女子大まで進学しそうなキャラクターでしょう。なお、たまちゃんは、しっかり者キャラで優等生であるため、合格する可能性はあります。前回の記事で、彼女は、小学校受験では、頑張ったとしても、父親が変わり者であるため、親子面接で惜しくも落とされると考察しました。中学受験では、親子面接がないことが多いため、可能性が出てきます。ただし、彼女は、友達を大事にするキャラクターなので、まる子と一緒に公立中学校に進学する道を選ぶでしょう。男女別学のリスクとは?ちびまる子ちゃんのキャラクターの中で、エリート男子校にいる典型的なキャラクターは丸尾君で、エリート女子校にいる典型的なキャラクターはみぎわさんであることがわかりました。それでは、ここから、この2人のキャラクターをイメージしながら、男女別学のリスクを大きく3つ挙げ、脳科学的に解釈してみましょう。(1)身近にいる異性を好きになれない-消極性エリート男子校に進学した思春期の丸尾君、エリート女子校に進学した思春期のみぎわさんは、勉強に部活(おそらく文化系)に励むでしょう。しかし、1日に多くの時間を過ごすその学校には、異性はいません。その代わりとして、ネット・アニメ・マンガなどに出ている理想化された異性のアイドルやキャラクターへの思い入れを強めてしまうでしょう。理想化された男性は、昔から「王子様」と呼ばれています。最近、理想化された女性は「女神」と呼ばれているようです。そして、その分、必然的に、実際の現実的な異性を好きになる経験が少なくなるでしょう。男女別学のリスクの1つ目は、身近にいる異性を好きになれない、つまり恋愛への消極性です。実際に、ある結婚相談所でのアンケート調査で、「(実は)結婚したくない」と回答した人は、共学出身の男性が18%であるのに対して、男子校出身者は28%であることがわかっています。また、共学出身の女性が8%であるのに対して、女子校出身者は11%であることがわかっています。つまり、とくに男子校出身者は結婚に消極的になりがちであることが示唆されました。女性よりも男性にこの傾向が見られる原因として、もともと男性は女性よりも共感性が低いという性差が考えられます。これは、恋愛の量的な問題と言えます。なお、「結婚したくないけど、身近にいる異性を好きになる」人は、そもそも結婚相談所に入らないことが想定されますので、除外します。「(実は)結婚したくない」のに結婚相談所に入っている理由は、親など周りからの推奨(または圧力?)が推測されます。自分の意に反して親などに従ってしまう点で、自分らしい人生を送ることへの消極性も、伺えます。また、現実的な異性との結婚には消極的ですが、相変わらず「王子様」や「女神」との結婚を夢見ていることも、伺えます。しかしながら、男子校出身者については、この婚活における内面的なディスアドバンテージが、エリートになることによる社会的地位や経済力などの外面的なアドバンテージによって、ある程度緩和または相殺されている可能性はあります。つまり、エリート男性になった丸尾君は、実は結婚に消極的ですが、婚活ではモテてしまうということです。男女別学は、それだけ現実の異性への「惚れ慣れ」ができなくなるリスクがあると言えます。この「惚れ慣れ」は、恋愛(生殖)における自発性(非認知能力)とも言い換えられます。脳科学的に言えば、これは、現実的な異性を好きになる経験の積み重ねによる快感(ドパミン活性化)によって高まると考えられます。(2)異性をそのまま受け止められない-ストレス脆弱性思春期の丸尾君は、女子たちが時に情緒的になるのを見慣れることはありません。一方で、思春期のみぎわさんは、男子たちが理屈っぽくなるのを見慣れることはありません。そして、そんな2人は、異性を好きになって告白してフラれたり、付き合って喧嘩別れしたり、仲直りしたりする経験を積み重ねることはありません。一方で、「王子様」や「女神」は、当然ながらアイドルビジネスであるため、彼らを気持ち良くさせる都合の良いリアクションを徹底的に演じます。そんな「王子様」にみぎわさんは、かなりハマってしまいそうです。そして、その分、必然的に、実際の現実的な異性を理解する経験が少なくなるでしょう。男女別学のリスクの2つ目は、異性をそのまま受け止められない、つまり恋愛へのストレス脆弱性です。実際に、結婚相談所でのアンケート調査の結婚相手に求める条件において、「性格」「金銭感覚」の項目の割合は、共学出身の男性と女性のどちらも、男子校出身者と女子校出身者を上回ったのに対して、「家柄」「同じ出身地」の項目の割合は、男子校出身者と女子校出身者のどちらも、共学出身の男性と女性を上回ることがわかっています。さらに、男子校出身者は「収入」「仕事内容(勤務先)」、女子校出身者は「自分の両親との良好な関係」「容姿」の項目を重視する傾向があることがわかりました。つまり、共学出身の男性と女性はより内面を、男子校出身者と女子校出身者はより外面を重視する傾向があることが示唆されました。この原因として、男子校出身者と女子校出身者は、相手選びにおいて、わかりにくい内面よりも、わかりやすい外面(スペック)に頼ってしまうことが考えられます。さらに、恋愛において、異性を理解する経験が少ないと、自分自身を理解する経験も少なくなる、つまり自分自身をそのまま受け止められないリスクもあります。なぜなら、恋愛は、自分が受け止めるだけでなく、相手から受け止めてももらう「合わせ鏡」(相互作用)で成り立っているからです。つまり、丸尾君は「女神」を求め続ける永遠の「少年」になってしまい、みぎわさんは「王子様」を待ち続ける永遠の「お姫様」になってしまうということです。結果的に、大人と大人の関係として、内面的に自分に合う(釣り合う)相手を見極めることを軽視してしまい、相手選びの外面的なハードルばかりが上がってしまいます。また、フラれた場合、納得ができず、ついストーカー行為をしてしまう場合もあるでしょう。これは、恋愛の質的な問題と言えます。男女別学は、それだけ現実の「異性慣れ」ができないリスクがあると言えます。この「異性慣れ」は、生殖におけるセルフコントロール(非認知能力)とも言い換えられます。脳科学的に言えば、これは、現実的な異性を受け止める経験(曝露)の積み重ねによるストレス耐性(セロトニン不活性化の抑制)によって高まると考えられます。(3)異性と一緒にいて楽しめない-排他性思春期の丸尾君とみぎわさんは、それぞれの男子校と女子校で、同性のクラスメイトたちとの連帯感(同調性)を強めるでしょう。これは、「男子校ノリ」「女子校ノリ」と呼ばれています。また、丸尾君やみぎわさんがそれぞれ思い入れるアニメやマンガで登場する「女神」や「王子様」は、どんどん積極的にアプローチしてくるので、丸尾君やみぎわさんは何もしなくても良いことになります。これは、多くの人が望む性的ファンタジーです。だからこそ、そういうストーリーがよく作られるわけです。そして、よく売れます。そしてまたよく作られるというからくりがあります。現実の異性は違うことを、実体験として理解することが難しくなります。つまり、同性同士の連帯感と理想化した異性との性的ファンタジーが高まる分、必然的に、実際の異性と一緒にいる時間を積極的に楽しむ経験が少なくなるでしょう。男女別学のリスクの3つ目は、異性と一緒にいて楽しめない、つまり恋愛への排他性です。実際に、イギリスの研究調査において、共学出身の男性よりも、男子校出身者のほうが、42歳までに離婚や別居に至るリスクがやや高いということがわかっています。この原因として、異性と一緒にいて楽しむ経験を積むことがなく、楽しもうと積極的になっていないことにより、一緒にいることがむしろ苦痛に感じてしまうことが考えられます。たとえば、男性はどうしていいかわからずに楽しく思えない、女性は受け身になって不満に感じるだけで楽しく思えないことです。さらに、「男性なんだから女性の気持ちを考えてリードしてほしい(察してほしい)」「女性が急に怒るのはやめてほしい(説明してほしい)」など、相手の問題にすり替えてしまい、許せなくなってしまうことです(認知的不協和)。とくに、女性は、男性から性的に見られることに慣れていない場合は、一緒にいることがただの苦行になってしまいます。そして、結果的に、ますます恋愛経験を積むチャンスが減ってしまいます。男女別学は、それだけ現実の異性との「交際慣れ」ができないリスクがあると言えます。この「交際慣れ」は、恋愛(生殖)における共感性(非認知能力)とも言い換えられます。脳科学的に言えば、これは、異性と一緒にいる経験の積み重ねによる同調(オキシトシンとドパミンが連動的に活性化)によって高まると考えられます。次のページへ >>

11.

ちびまる子ちゃん(続々編)【その教室は社会の縮図? 男子校と女子校の危うさとは?(恋愛能力)】Part 2

どうやって恋愛能力を高めるの?男女別学のリスクとは、身近にいる異性を好きになれない(消極性)、異性をそのまま受け止められない(ストレス脆弱性)、異性と一緒にいて楽しめない(排他性)であることがわかりました。言い換えれば、現実の異性への「惚れ慣れ」(自発性)、「異性慣れ」(セルフコントロール)、「交際慣れ」(共感性)という恋愛(生殖)における非認知能力が高まらないことがわかりました。つまり、恋愛を「能力」として、捉え直すことができます。名付けるなら、恋愛能力です。これは、心理学者フロムの「愛するという技術(art of loving)」という名言を裏付けます。それでは、どうやってこの恋愛能力を高めましょうか? 言い換えれば、どうやって異性を好きになり、受け止め、一緒にいて楽しめるのでしょうか?その答えは、現実の異性への「惚れ慣れ」「異性慣れ」「交際慣れ」をとくに思春期にすることです。つまり、思春期にこそ、この生殖における非認知能力を高める練習をする必要があるということです。この理由を、愛着形成や性格形成のメカニズムをヒントにして、癖になりやすさ(嗜癖性)の臨界期の観点から、発達心理学的に掘り下げてみましょう。なお、臨界期とは、特定の刺激に対して脳(脳神経回路)が反応しやすい(可塑性が高い)特定の時期です。これは、反応しやすくなる時期と反応しにくくなる期限があることを意味します。期限があるのは、次のステップ(発達段階)に進むために必要な脳のメカニズムであると考えられています。(1)愛着という能力は乳児期に高まる愛着とは、乳児が授乳する母親にくっついていたいと思うことです。これは、抱っこや愛撫などの親との肌の触れ合いの刺激に繰り返し曝されることで、乳児の脳内のオキシトシンとドパミンが連動的に活性化され、親を後追いする愛着行動として発達していきます。このメカニズムがなければ、乳児はおっぱいをもらうアピールができずに餓死してしまうかもしれません。この点で、愛着は、依存行動(嗜癖)であると同時に能力であると言えます。名付けるなら、愛着能力です。この依存形成(愛着形成)の期間(臨界期)は、生後半年から2歳までの乳児期であることがわかっています。つまり、授乳期に一致します。この期間で、愛着能力が高まり、特定の親への愛着が固定化されるのです。逆に言えば、臨界期がなければ、次々と違う大人への愛着行動を示してしまい、親子の絆が定まらなくなります。また、この期間に、ネグレクト(虐待)によって愛着行動をしていないければ、愛着は充分に形成されません。これは、反応性愛着障害と呼ばれます。なお、愛着の嗜癖性の詳細については、関連記事1をご覧ください。(2)性格という能力は児童期・思春期で高まる性格とは、周りの人に対しての、その人の感じ方、考え方、行動の仕方です。これは、学校環境(社会環境)での友達とのかかわりの刺激に繰り返し曝されることで、子どもの脳内のドパミン、セロトニン、オキシトシンが主に活性化され、周りの人たちにうまくつながっていようとする社会適応行動として発達していきます。このメカニズムがなければ、子どもは社会に出て周りとうまくやっていきたいと思えず、社会生活をするのが難しくなります。この点で、性格も、愛着と同じく、依存行動(嗜癖)であると同時に能力であると言えます。名付けるなら、社会適応能力です。この依存形成(性格形成)の期間(臨界期)は、児童期と思春期であると考えられます。つまり、義務教育の期間にほぼ一致します。この期間で、社会適応能力が高まり、アイデンティティという性格が固定化されるのです。それ以降は30歳くらいまでに徐々に可塑性がなくなっていくと考えられます。逆に言えば、臨界期がなければ、自分の性格も相手の性格も定まらず、人間関係を安定して築くのが難しくなるでしょう。また、この期間に、不登校、いじめ、非行などによって社会適応行動をしていなければ、性格は適応的には形成されないリスクがあります。これは、パーソナリティ障害と呼ばれます。なお、性格の嗜癖性の詳細については、関連記事2をご覧ください。(3)恋愛という能力は思春期に高まる恋愛とは、すでにご説明した通り、異性を好きになり、受け止め、一緒にいて楽しめることです。そして、これは、実際の異性とのかかわりの刺激に繰り返し曝されることで、思春期特有の性ホルモンが活性化され、脳内のドパミン、セロトニン、オキシトシンの活性化とあいまって、異性に近づこうとする恋愛行動として発達していくことが考えられます。この点で、恋愛も、愛着や性格と同じように考えれば、依存行動(嗜癖)であると同時に能力であると言えます。この依存形成(恋愛心理の形成)の期間(臨界期)は、まさに思春期であると推定されます。その一番の根拠は、性ホルモンを分泌する生殖器の発達が10~20歳までの思春期に限定されていることです。実際に、初恋の年齢で最も多いのは10歳前後で、その初恋相手で最も多いのはクラスメイトであることがわかっています。逆に、10歳以降にクラスメイトなどの実際の異性からの刺激を極端に排除すれば、先ほどのアンケート調査で示されたように、量的にも質的にも恋愛行動での問題が現れるというわけです。つまり、この期間で、恋愛能力が高まり、見た目や性格などの異性の好みのタイプ(恋愛心理)が固定化されるのです。それ以降は30歳くらいまでに徐々に可塑性がなくなっていくと考えられます。逆に言えば、臨界期がなければ、新しく別のタイプの異性を好きになる可能性があり、特定の好みの異性とのパートナーシップを安定して築くのが難しくなるでしょう。ちょうど、友情は、児童期で不特定多数の友達たちによって量的に育まれますが、思春期になると同じ好みや考え方の特定少数の親友によって質的に育まれていきます。同じように、恋愛心理は、思春期である程度の異性のクラスメイトたちによって量的に育まれますが、成人期になると好みのタイプの特定の交際相手によって質的に育まれていくと言えるでしょう。これは、成人期の発達段階(エリクソンによる)である親密性を裏付けます。ちなみに、不倫については、まったく別の生殖戦略になります。この心理の詳細については、関連記事3をご覧ください。よって、男女別学だけでなく、共学であっても、この期間に、恋愛行動をある程度していなければ、恋愛能力が充分に高まらないと言えます。この状態は、名付けるなら「反応性恋愛障害」です。なお、これは、理想化した異性は好きだけど実際の異性は好きになれないという葛藤がある場合に限定します。そもそも異性そのものが好きではない同性愛や無性愛(アセクシャル)は除外します。<< 前のページへ | 次のページへ >>

12.

ちびまる子ちゃん(続編)【その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?(社会適応能力)】Part 2

学校環境は性格にどれくらい影響を与えるの?エリート教育のリスクとは、勉強以外が軽視されること(消極性)、うまく行かない状況が軽視されること(ストレス脆弱性)、自分たち以外が軽視されること(排他性)であることが分かりました。それでは、いったい学校環境は性格にどれくらい影響を与えるのでしょうか? その程度と根拠を行動遺伝学的に掘り下げてみましょう。なお、行動遺伝学の基本知識については、関連記事2をご覧ください。まず、どの性格の特性(ビッグ・ファイブなど)の研究においても、遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、概ね50%:0%:50%であることが分かっています。つまり、性格に影響があるのは、遺伝と家庭外環境であることが分かります。逆に、家庭環境の影響の違いはないことが分かります。なお、性格に、家庭環境の影響の違いがないことは驚きです。この原因については、性格を非認知能力に置き換えて、癖になりやすさ(嗜癖性の強さ)の観点から、関連記事3で詳しく解説しています。さらに、性格への影響度について、児童期、青年期、成人期の各年齢でそれぞれ分けて見てみると、児童期は70%:0%:30%、青年期は50%:0%:50%、成人期は40%:0%:60%となります。つまり、年齢が上がっていくにつれて、遺伝の影響は70%→50%→40%とどんどん減っていく一方、家庭外環境の影響は30%→50%→60%とどんどん増えています。なお、家庭環境の影響は0%→0%→0%と影響度は見られません。家庭外環境の影響度は、児童期から青年期にかけて急増する一方、成人期以降は一気に鈍化しています。このことから、児童期から青年期に多くの時間を過ごす学校環境は経時的に遺伝を上回り性格に影響を与えていると結論付けることができます。これは、従来から発達心理学で指摘されている「ギャング・エイジ」(仲間時代)を裏付けます。そして、成人すると性格形成の可塑性がなくなるというパーソナリティ特性の定義を裏付けます。この点で、青年期が終わる20歳までが、性格形成の臨界期と言えるでしょう。逆に言えば、臨界期がないとしたら、自分はこういう人間であるというアイデンティティ(性格)が定まらず、そして相手とはこういう人間であるという他者のアイデンティティ(性格)も定まらず、人間関係(社会環境)を安定して築いていくのが難しくなってしまうでしょう。ちなみに、学力(認知能力)への家庭外環境の影響度については、児童期25%→青年期30%→成人初期20%と大きな変化はありません。むしろ、学力(認知能力)に影響を与えるのは、年齢が上がれば上がるほど遺伝になることが分かっています。つまり、学校環境は、学力よりも圧倒的に性格に影響を与えていると結論付けることができます。そして、エリート教育(学校環境)は、そのベネフィットとされていた学力(認知能力)への影響力が思ったほどなく、むしろ自己愛性パーソナリティになるリスクを高めているだけという可能性も出てきます。なお、認知能力への遺伝、家庭環境、家庭外環境のそれぞれの影響度の詳細については、関連記事4をご覧ください。家庭環境ではなく学校環境で高まる心理は?性格に影響を与えるのは、家庭環境ではなく、学校環境であることが分かりました。それでは、家庭環境になく学校環境にあるもの、つまり家庭環境ではなく学校環境で高まる心理とは何でしょうか? その心理を大きく3つ挙げてみましょう。(1)相手にしてほしいという好奇心―快感1つ目の心理は、相手にしてほしいという好奇心です。これは、友達をはじめとしていろいろな人と仲良くなる状況によって、ドパミンが活性化して得られる快感です(社会的報酬)。ひと言で言うと「人好き」になることです。これが、「世間慣れ」(自発性)を高めます。つまり、「出会いが人をつくる」と言えます。この心理は、新しい出会いの刺激(嗜癖性)がない家庭環境では高まりません。ちなみに、この心理が高まり過ぎたのが、好かれることにハマってしまう状態(共依存)です。この詳細については、関連記事5をご覧ください。(2)相手にされないという恐怖心―不安2つ目の心理は、相手にされないという恐怖心です。これは、仲違いや仲間外れなど友達が自分を受け入れてくれない状況によって、セロトニンが不活性化して得られる不安です(社交不安)。この不安への曝露が、「ストレス慣れ」(セルフコントロール)を高めます。つまり、「ストレスが人をつくる」と言えます。昨今、このメカニズムは、ストレス関連成長(SRG)と呼ばれています。これは、むしろほどほどのストレスが人間的成長を促すという考え方です。この心理は、人間関係のストレスの刺激がない(ストレス耐性ができない)家庭環境では高まりません。ちなみに、この心理が高まり過ぎたのが、気を使い過ぎてしまう状態(過剰適応)です。この詳細については、関連記事6をご覧ください。(3)相手にされているという連帯感―同調3つ目の心理は、相手にされているという連帯感です。これは、いろいろな友達と一緒にいて同じことをする状況によって、オキシトシンとドパミンが連動的に活性化して得られる同調です。これが、「弱者慣れ」(共感性)を高めます。つまり、「つながりが人をつくる」と言えます。この心理は、友達とずっと一緒にいるという刺激(嗜癖性)がない家庭環境では高まりません。ちなみに、この心理が高まり過ぎたのが、いじめ被害者が罪悪感を抱くこと(ストックホルム症候群)です。この詳細については、関連記事7をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

13.

ステロイド投与に関連する臨床試験の難しさ:心肺蘇生の現場から(解説:香坂俊氏)

(1)敗血症性ショック症例に対するステロイド投与今回のテーマはVAM-IHCA試験という院内の心停止症例に対してバソプレシン+メチルプレドニゾロンを投与するかどうかというRCTなのであるが(JAMA誌掲載)、このテーマに関しては少し昔の話から始めさせていただきたい。ステロイドが集中治療の現場に登場したのは、2002年くらいからではないだろうか。Annane氏らによってフランスで敗血症性ショック症例を対象としたRCTが行われ(300例)、ACTH負荷不応だった患者に対して・ヒドロコルチゾン50mg(6時間ごと)+フルドロコルチゾン50mg(24時間ごと)を7日間実施すると、プラセボと比較して、ICU死亡(58% vs.70%)や院内死亡(61% vs.72%)が減少したと報告された。この研究を契機に、敗血症性ショックにはACTH試験を行い不応性であればステロイド投与を行うというのが普及した。当時自分はニューヨークで内科のレジデントをやっていたが、ICUのことが詳しかった同僚※に「これどうなの?」とか聞いたりして、四苦八苦しながらそのプロトコールを実施していた記憶がある。しかし、このフランスのRCTは小規模なものであり、プロトコール外で副腎ステロイド複合体阻害薬が投与されていた症例が少なからずいたこと、フルドロコルチゾンが単なる交絡因子であった可能性、そして対照群で抗菌薬投与の遅れがあったなど、議論の余地が結構残されていた。その後、さまざまな小規模あるいは中規模の試験が行われたが、明確な結論を得るに至らず、2018年にようやく満を持してADRENAL試験(3,800例)の結果が報告された。その結果であるが、Among patients with septic shock undergoing mechanical ventilation, a continuous infusion of hydrocortisone did not result in lower 90-day mortality than placebo. というものであった。(2)心停止症例に対するステロイド投与前置きが長くなったが、今回デンマークで行われたVAM-IHCA試験の結果を拝読し、Annane氏らの敗血症性ショックに対するRCTの結果が重なった。VAM-IHCAは501人の院内心停止症例を対象としており、蘇生時にバソプレシン+メチルプレドニゾロン(40mg)、あるいは通常どおりエピネフリンを投与するかどうかをランダム化したものであり(Annane氏らの研究と異なりメチルプレドニゾロンの投与は蘇生時の1回のみ)、結果としてROSC(return of spontaneous circulation)の率は改善したものの(42% vs.33%)、30日生存率の改善には至らなかった(10% vs.12%)。VAM-IHCAではAnnane氏らの研究と同様にさまざまな交絡が指摘されており、たとえば24時間生存したプラセボ群の患者の実に46%が何らかのステロイドの投与が行われていた。また、プライマリエンドポイントはあくまでROSCであり、生存率を検証するための症例数はこの研究ではそもそも担保されていなかったという限界もある。今後この領域でADRENALのような決定的な臨床試験が行われるか? そこはかなり難しいように思われるが、デンマークを含む北欧諸国の成熟したregistry-based RCTのシステムを用いればもしかすると可能かもしれない(3)今後心肺蘇生のプロトコールは変更されるか?敗血症性ショックに対するステロイド治療の歴史を体験してきた身としては、この領域の試験の難しさは身に染みてわかっているつもりである。ステロイドにはα受容体をアップレギュレートする効果があり、また全身的な炎症反応が不活化されている状況下で相対的な副腎機能低下を補うことも期待される。しかし、このように「想定されるベネフィット」も臨床試験の検証があってのものであり、VAM-IHCA試験の結果を踏まえて、すぐにASLSなどの心肺蘇生のプロトコールが変更されることはないだろう。ステロイド治療は、一部のCPR-refractoryの患者群のみに用いられるべき、と捉えるのが現段階での最適解ではなかろうか。※現Intermountain LDS HospitalのICU Directorである田中 竜馬氏

14.

院内心停止、バソプレシン+メチルプレドニゾロンは有益か/JAMA

 院内心停止患者において、バソプレシン+メチルプレドニゾロン投与はプラセボ投与と比較して自己心拍再開を有意に増大することが示された。しかしながら、本投与が長期生存にとって、有益なのか有害なのかは確認できなかったという。デンマーク・オーフス大学のLars W. Andersen氏らが、512例を対象に行った無作為化試験の結果を報告した。先行研究で、院内心停止へのバソプレシン+メチルプレドニゾロン投与は、アウトカムを改善する可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2021年9月29日号掲載の報告。 エピネフリン投与後に、最大4回まで投与 研究グループは、デンマークの10病院で、2018年10月15日~2021年1月21日に院内心停止が認められた成人患者512例を対象に、プラセボ対照無作為化二重盲検試験を行った。 被験者を2群に分け、エピネフリン初回投与後に、初回投与として一方にはバソプレシン(20 IU)+メチルプレドニゾロン(40mg)を(245例)、もう一方にはプラセボを(267例)を投与した。その後、エピネフリン追加投与後に、バソプレシン+メチルプレドニゾロンまたはプラセボを、それぞれ最大4回まで投与した。追跡期間(90日間)の最終追跡日は2021年4月21日だった。 主要アウトカムは、自己心拍再開。副次アウトカムは、30日時点の生存および良好な神経学的アウトカム(脳機能カテゴリースコア1または2)などとした。自己心拍再開、バソプレシン+メチルプレドニゾロン群42%、プラセボ群33% 無作為化を受けた512例のうち、適格条件を満たした501例を対象に解析した。平均年齢は71歳(SD 13)、男性の割合は64%だった。 自己心拍再開が認められたのは、バソプレシン+メチルプレドニゾロン群100例(42%)、プラセボ群が86例(33%)だった(リスク比[RR]:1.30[95%信頼区間[CI]:1.03~1.63]、リスク差:9.6%[95%CI:1.1~18.0]、p=0.03)。 30日時点の生存は、バソプレシン+メチルプレドニゾロン群23例(9.7%)、プラセボ群31例(12%)だった(RR:0.83[95%CI:0.50~1.37]、リスク差:-2.0%[95%CI:-7.5~3.5]、p=0.48)。 30日時点の良好な神経学的アウトカムの達成例は、それぞれ18例(7.6%)、20例(7.6%)だった(RR:1.00[95%CI:0.55~1.83]、リスク差:0.0%[95%CI:-4.7~4.9]、p>0.99)。 自己心拍再開患者において、高血糖症の発症がバソプレシン+メチルプレドニゾロン群77例(77%)、プラセボ群63例(73%)で認められ、また高ナトリウム血症がそれぞれ28例(28%)、27例(31%)報告された。

15.

個別に投与量を設定するFSH製剤「レコベル皮下注12μg/36μg/72μgペン」【下平博士のDIノート】第81回

個別に投与量を設定するFSH製剤「レコベル皮下注12μg/36μg/72μgペン」今回は、ヒト卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤「ホリトロピン デルタ(遺伝子組換え)(商品名:レコベル皮下注12μg/36μg/72μgペン、製造販売元:フェリング・ファーマ)」を紹介します。本剤は、血清抗ミュラー管ホルモン値(AMH)および体重に基づいた個別の投与量アルゴリズムにより、患者ごとの投与量設定が可能なペン型注入器付き注射薬です。<効能・効果>本剤は、生殖補助医療における調節卵巣刺激の適応で、2021年3月23日に承認されました。投与の適否は、患者およびパートナーの検査を十分に行った上で判断されます。原発性卵巣不全が認められる場合や妊娠不能な性器奇形または妊娠に不適切な子宮筋腫の合併などがある場合には使用できません。また、甲状腺機能低下、副腎機能低下、高プロラクチン血症および下垂体または視床下部腫瘍などが認められた場合は、当該疾患の治療を優先します。<用法・用量>通常、ホリトロピン デルタとして、投与開始前の血清抗ミュラー管ホルモン値および体重に基づき、下表に従い算出した投与量を、月経周期2日目または3日目から1日1回皮下投与します。なお、1日投与量は6~12μgの範囲内とします。超音波検査および血清エストラジオール濃度の測定によって、十分な卵胞の発育が確認されるまで本剤の投与を継続します。本剤の最終投与後、卵胞成熟を誘起した後、採卵します。なお、本剤投与時に卵巣反応の不良または過剰(卵巣過剰刺激症候群またはその徴候を含む)が認められた患者における調節卵巣刺激には、他剤の使用を考慮します。<安全性>日本人女性を対象に行われた臨床試験において、本剤投与群の副作用発現率は18.8%(32/170例)であり、主な副作用は卵巣過剰刺激症候群10.6%(18例)、卵巣腫大2.9%(5例)、骨盤液貯留2.4%(4例)などでした。重大な副作用として、卵巣過剰刺激症候群(10.6%)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬はFSH製剤と呼ばれ、女性の卵巣に作用して、黄体形成ホルモンと共に卵胞を育てます。2.凍結を避け、2~8℃で保管してください。使用開始後は室温(30℃以下)で保管し、使用開始後28日を超えたものは使用しないでください。3.医療機関において、在宅自己注射教育を受けた人または家族の方のみ自己注射できます。注射部位は腹部の皮下とし、毎日少しずつ場所をずらしてください。自己判断で使用を中止したり、量を加減したりしないでください。4.使用し忘れた場合は、気が付いたときにすぐ1回分を使用してください。ただし、次に使用する時間が近い場合はその回は使用せず、次の指示された時間に1回分を使用し、後日、医師に報告してください。決して2回分を一度に使用しないでください。5.悪心・嘔吐、下腹部の強い痛み、腹部の張り、尿量の減少、急激な体重増加などが認められた場合は、すみやかに医療機関へ連絡してください。<Shimo's eyes>FSHは卵胞の発育を促すため、生殖補助医療における調節卵巣刺激に広く用いられています。しかし、標準用量を投与した場合、卵巣予備能が高い患者では卵巣過剰刺激症候群に至る可能性がある一方、卵巣予備能が低い患者では十分な採卵数が期待できない可能性があります。そのため、生児の獲得が達成可能な採卵数を得つつも、卵巣過剰刺激症候群の発現リスクを最小限に抑えることが課題となっています。卵巣過剰刺激症候群は、卵胞が過剰に刺激されることによって、卵巣の肥大や腹水・胸水の貯留などの症状が起こります。重症例では、腎不全や血栓症などさまざまな合併症を引き起こすことがあるため、早期に発見し処置を行うことが重要です。日本人女性における発現割合は20%以上との報告もあり、多くの場合は投与後7~10日に症状が重くなります。本剤は、血清抗ミュラー管ホルモン値および体重に基づいた個別の投与量アルゴリズムにより、患者ごとに投与量を設定します。至適用量を投与することで、しっかりと卵胞を発育しつつ、安全性リスクを軽減することが期待できます。海外では欧州で2016年12月に承認されて以来、2020年11月までに63の国と地域で承認されています。服薬指導では、お腹の張りや悪心・嘔吐、体重の増加など卵巣過剰刺激症候群の自覚症状について十分に説明を行い、安全に治療を進められるようにサポートしましょう。参考1)PMDA 添付文書 レコベル皮下注12μgペン/レコベル皮下注36μgペン/レコベル皮下注72μgペン

16.

そして父になる(その2)【なんで血のつながりにこだわるの?(血縁心理の起源)】Part 2

(2)年を重ねると保守化するから-社会脳約300万年前に人類が家族をつくるようになってから、さらに家族を最小単位として血縁で集まった部族をつくるようになりました。これが、社会の起源です。この時、部族という社会の中で、助け合うために周り人たちとうまくやっていこうとする心理が進化しました(社会脳)。この心理は、子育てをする親世代、さらに孫の育児のサポートをする祖父母世代で、より高まっていきました。血のつながりにこだわる原因として、2つ目は、年を重ねると保守化するからです。保守とは、個人の自由や権利を重んじるリベラル(革新)とは対照的に、血のつながりをはじめとした社会の秩序を重んじる心理です。脳科学的にも、年齢が高くなるほど、脳内に占めるいわゆる感情中枢(扁桃体)の割合が相対的に大きくなり、保守化することが分かっています。実際に、良多が30歳代に対して、彼の父親は60歳代です。つまり、先ほどの子どもにとっての親子観も合わせると、血のつながりへのこだわり度は、高齢男性>若年男性>男児と言えます。これは、「良多の父親>良多と雄大>琉晴と慶多」の順番を支持します。(3)自分に似ている子どもをかわいく思う感覚を知ってしまうから-排他性約300万年前以降に人類が部族をつくるようになってから、災害、犯罪、戦争などによって親を失った子どもを、部族内の助け合いの心理(社会脳)から、部族の誰かが代わりに育てるようになったでしょう。これが、養子の起源です。この時、子どもがいない人は、養子たちを公平に育てるでしょう。一方、実子がすでにいる人は、養子よりも実子が自分に似ていることでかわいく思えてしまい、不公平に育てるリスクが高まるでしょう。なぜなら、先ほどもご説明しましたが、生み子(実子)に比べて育ての子(継子)が虐待死に至るリスクは、数倍から数十倍に跳ね上がるからです。血のつながりにこだわる原因として、3つ目は、自分に似ている子どもをかわいく思う感覚を知ってしまうからです(排他性)。実際に、見た目や言動が似ていることで、同調や共感の心理が高まり、親密感が増すことが分かっています。これは、体臭についても言えるでしょう。つまり、自分と似ている人に好感を持つということです。これは、脳内ホルモン(オキシトシン)との関係が指摘されています。逆に言えば、自分と似ていない人には、相対的に好感を持たないです。つまり、オキシトシンは、似ている人への親密性を高める「愛情ホルモン」であると同時に、似てない人への排他性を高める「差別ホルモン」であるというわけです。実際に、成人した養子本人(里子も含む)への親子観の調査(対象者が7名と少ないながら)において、実子がいない3人全員が自分も養子の育ての親になる意向があると回答したにもかかわらず、実子がすでにいる4人は養子の育ての親になる意向がないと回答しました。これは、もともと養親に育てられたことで血のつながりにこだわらないように影響を受けていたのに、実子を生んだことで血のつながりにこだわるように回帰していったことが考えられます。養子は、あくまで実子ができない場合の次善の策であることが分かります。つまり、血のつながりへのこだわり度は、実子がいる人>実子がいない人と言えます。これは、「みどりとゆかり>良多の義理の母親」の順番を支持します。なお、自分と似ている、つまり共通点のある相手には、親近感を抱く心理は、一緒にいたらコストが少なくて済むからであるという考え方(社会的交換理論)があります。これは、血縁のある人に親近感を抱く心理につながっているとシンプルに考えることもできるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

17.

週1回投与のヒト成長ホルモン製剤「ソグルーヤ皮下注5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第77回

週1回投与のヒト成長ホルモン製剤「ソグルーヤ皮下注5mg/10mg」今回は、長時間作用型ヒト成長ホルモンアナログ製剤「ソマプシタン(遺伝子組換え)(商品名:ソグルーヤ皮下注5mg/10mg、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、重症の成人成長ホルモン分泌不全症患者に週1回投与することで、体脂肪量の減少と筋肉・骨組織の成長を促し、体組成のバランスを改善します。<効能・効果>本剤は、成人成長ホルモン分泌不全症(重症に限る)の適応で、2021年1月22日に承認されました。診断および重症の基準は、最新の「成人成長ホルモン分泌不全症の診断と治療の手引き」の病型分類を参照することとされています。<用法・用量>通常、ソマプシタン(遺伝子組換え)として1.5mgを開始用量とし、週1回、同一曜日に皮下注射します。開始用量は年齢、性別、合併症などに応じて適宜増減します。60歳超の患者では1.0mg、経口エストロゲン服用中の女性患者では2.0mgが目安となっています。その後の投与量は、患者の臨床症状および血清インスリン様成長因子-I(IGF-I)濃度などの検査所見に応じて、最高用量8.0mgを超えない範囲で調整します。なお、投与量の調整は投与開始後2~4週間に1回を目安に行い、増量する場合は1回当たり0.5~1.5mgを目安とします。副作用の発現や血清IGF-I濃度が基準範囲上限を超えた場合は、投与量の減量や一時的な投与中止など適切な処置を行います。<安全性>第III相試験の併合結果333例中85例(25.5%)で副作用が確認され、主な副作用として、頭痛11例(3.3%)、関節痛、疲労各9例(2.7%)、末梢性浮腫7例(2.1%)、浮動性めまい、感覚鈍麻、体重増加、血中クレアチンホスホキナーゼ増加各4例(1.2%)などが報告されています。重大な副作用として、甲状腺機能亢進症および糖尿病(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.週1回投与する持続性の成長ホルモン製剤です。肝臓に働き掛け、体脂肪量を減少させ、筋肉や骨組織の成長を促し、体組成のバランスを改善します。2.大腿部、腹部などに皮下注射してください。注射箇所は毎回変更し、同一部位に短期間に繰り返し注射しないでください。3.浮腫、関節痛、視覚異常、頭痛、悪心または嘔吐、頻尿などの症状が見られたらご連絡ください。4.投与を忘れた場合は、あらかじめ定められた投与日から3日以内であれば、気付いた時点でただちに投与し、その後は元の曜日に投与してください。投与日から3日を超えていた場合は1回分スキップして、次の投与日に投与します。なお、曜日を変更する必要がある場合は、前回の投与から少なくとも4日間以上の間隔を空けてください。5.使用開始前後にかかわらず冷蔵庫で保管し、開封したものは6週間以内に使用してください。冷蔵庫がない環境での保管は、遮光・室温(30℃以下)で通算3日間(72時間)までとしてください。<Shimo's eyes>成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)とは、成人において成長ホルモン(GH)の分泌が損なわれることで、易疲労感やスタミナ低下、体脂肪の増加、筋肉・骨塩量の低下、血中脂質高値などさまざまな自覚症状や代謝異常を来す慢性疾患です。通常、GH補充療法が行われますが、GH分泌不全は生涯続くことが多いため、長期または生涯にわたる治療が必要です。従来のソマトロピン製剤(商品名:ノルディトロピン注、ジェノトロピン注、ヒューマトロープ注、グロウジェクト注、ソマトロピンBS注)は、主に1日1回の皮下投与製剤であることから、毎日の治療に負担を感じる患者も少なくないことが課題となっています。本剤は週1回投与の長時間作用型ヒト成長ホルモン誘導体であり、内分泌専門医の管理指導の下、自己注射が可能な製剤です。1.5mLカートリッジに入った溶解操作が不要なリキッドタイプで、複数回投与可能な使い捨てプレフィルドペン型注入器に装填されています。1回の投与量は、5mg剤が0.025~2mgまで0.025mg刻み、10mg剤が0.05~4mgまで0.05mg刻みで設定可能です。ソマプシタンの構造としては、101位のロイシン残基をシステイン残基に置換したアミノ酸骨格に、アルブミン側鎖が接合しており、内因性アルブミンとの可逆的な非共有結合により、本剤の消失が遅延することで作用持続時間が延長されます。注意すべきポイントとして、GHはインスリン感受性と耐糖能を低下させるため、血糖値とHbA1cなどのモニタリングが必要な点が挙げられます。また、甲状腺機能の低下や良性頭蓋内圧の亢進、血清コルチゾール値の低下、中枢性副腎皮質機能低下症が顕在化する可能性があるので注意が必要です。GHの体液貯留作用により、本剤による治療開始時に手足の浮腫、手根管症候群、関節痛、筋肉痛などが見られる場合がありますが、治療継続中に消失することも多いため、軽度であれば経過観察となることもあります。自己注射は、基本的にはインスリン注射と同様の手順で行います。使用済みの注射器・針の廃棄方法は、かかりつけ医や主治医、薬剤師に相談するよう伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 ソグルーヤ皮下注5mg/ソグルーヤ皮下注10mg

18.

治療抵抗性統合失調症患者におけるオキシトシン系機能障害

 治療抵抗性統合失調症(TRS)は、重度の陽性症状のみならず他の症状とも関連する非常に複雑な病態生理を有している。また、統合失調症では、自閉スペクトラム症と重複する心理的および生物学的プロファイルが注目されている。千葉大学の仲田 祐介氏らは、治療抵抗性統合失調症患者におけるオキシトシン系機能障害について、検討を行った。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2021年3月30日号の報告。 TRS患者30例、寛解期統合失調症(RemSZ)患者28例、ASD患者28例を対象に、一般的な認知機能および社会的認知機能障害とオキシトシン系機能障害との関連について、比較検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・3群間でオキシトシン濃度に差は認められなかった。・TRS群の血中オキシトシン濃度は、処理速度および心の理論のスコアと正の相関が認められたが、RemSZ群およびASD群では、いずれのスコアにおいても有意な関連は認められなかった。・オキシトシン受容体遺伝子の一塩基多型であるRs53576は、統合失調症患者の社会的認知機能に影響を及ぼしていた。 著者らは「全体的な調査結果は予備的なものである」としながらも「TRS患者の重篤な認知機能障害にオキシトシンシステムの機能障害が関連していると考えられる」とし「この結果は、TRS患者がASD患者と共通の生物学的特性に基づいて初期の神経発達異常を有している可能性を示唆している」としている。

19.

オキシトシンによる分娩誘発、陣痛活動期に継続すべきか中止すべきか?/BMJ

 胎児の状態と子宮収縮のモニタリングが保証される環境において、オキシトシンによる誘発の中止は、帝王切開率のわずかな上昇につながる可能性があるが、子宮過刺激および胎児心拍異常のリスクを有意に低下したことが示された。デンマーク・Randers Regional HospitalのSidsel Boie氏らが、同国の9病院とオランダの1病院で実施した国際共同無作為化二重盲検比較試験「Continued versus discontinued oxytocin stimulation in the active phase of labour:CONDISOX」の結果を報告した。これまで4件のメタ解析では、いったん陣痛活動期に入れば、オキシトシンの投与を中止しても分娩の経過は継続し、帝王切開のリスクが低くなることが示されていた。しかし、2018年のCochrane reviewで過去の研究の質が疑問視され、多くの試験が、バイアスリスクが高いまたは不明と判断されていた。BMJ誌2021年4月14日号掲載の報告。オキシトシンが帝王切開率低下と関連するかを検証 CONDISOX試験の対象は、正期産、頭位、単胎で選択的陣痛誘発または陣痛前破水によりオキシトシンを投与された女性で、陣痛活動期(子宮口開大6cm以上、10分間に3回以上の子宮収縮)に入った時点で、オキシトシン継続群または中止群(プラセボとして生理食塩水を投与)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。施設、出産経験の有無およびオキシトシンの適応(選択的陣痛誘発、陣痛前破水)による層別化も行われた。 主要評価項目は、帝王切開による分娩であった。 2016年4月8日~2020年6月30日に、計1,200例が無作為化された(継続群593例、中止群607例)。帝王切開率は中止群と継続群で差はなし 帝王切開率は、中止群16.6%(101例)、継続群14.2%(84例)であった(相対リスク:1.17、95%信頼区間[CI]:0.90~1.53)。また、帝王切開歴のない経産婦94例における帝王切開率は、中止群7.5%(11/147回)、継続群0.6%(1/155回)であった(相対リスク:11.6、95%CI:1.15~88.7)。 オキシトシン中止は、分娩所要時間の延長(無作為化から分娩までの時間の中央値:中止群282分vs.継続群201分)、過剰刺激のリスク低下(3.7%[20/546例]vs.12.9%[70/541例]、p<0.001)、胎児心拍異常のリスク低下(27.9%[153/548例]vs.40.8%[219/537例]、p<0.001)と関連していたが、母体および新生児の他の有害アウトカムについては両群で類似していた。 なお、著者は研究の限界として、割り付けられた介入を受けなかった女性の割合がかなり高かったこと、助産師が分娩誘発を再開する場合にオキシトシンの使用を選択することが多かったことなどを挙げている。

20.

カインとアベル(後編)【なんで嫉妬は「ある」の?どうすれば?】Part 1

今回のキーワードジェラシーマネジメント自己受容マインドフルネス自己実現アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)バウンダリー前半では、なぜ嫉妬をするのかという疑問にお答えしました。それでは、そもそもなぜ嫉妬は「ある」のでしょうか? そして、嫉妬にどうすればいいのでしょうか? これらの答えを探るために、今回も、テレビドラマ「カインとアベル」を取り上げます。このドラマを通して、嫉妬の起源を進化心理学的に掘り下げます。そして、アンガーマネジメントのように、ジェラシーマネジメントを一緒に考えてみましょう。なんで志向性嫉妬は「ある」の?まずは、自分の地位が取られることへの不安である志向性嫉妬の起源を3つの段階に分けて、考えてみましょう。(1)同胞関係約2億年前に哺乳類が誕生してから、子どもたちはその母親からの乳やエサが与えられることによって、兄弟(同胞)で一緒に育てられるようになりました。兄弟同士がおっぱいやエサを奪い合う中、自分の取り分が少ない時にストレス(嫉妬)を感じれば、より鳴き声をあげて前に出るなどのアピールを母親にするようになり、取り分を失わないでしょう。1つ目の起源は、同胞関係です。この兄弟間の格差の是正のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。実際に、マウスの行動実験(拘束ストレス)において、単独でストレスを受ける場合よりも、5匹のマウスの中で自分だけがストレスを受ける場合で、嫌悪記憶がより強化され、ストレスホルモン(コルチコステロン)がより増加したという結果が出ています。ちなみに、発達心理学的には、赤ちゃん(生後5ヵ月)の嫉妬も観察されています。実際に、赤ちゃんが、目の前で母親が人形を大事に抱っこしていると怒り出すことが確認できます。また、幼児が、下の子が生まれたことによる嫉妬で、赤ちゃん返りすること(退行)もよく確認されます。なお、先ほどのマウスの行動実験(拘束ストレス)において、単独でストレスを受ける場合よりも、5匹のマウスが一緒にストレスを受ける場合で、嫌悪記憶が弱まり、ストレスホルモン(コルチコステロン)が減少したという結果も出てきます。これは、嫉妬の対象(ライバルなど)が自分と同じ状況(不幸)になることで嫉妬が解消されると説明できます。これが、いわゆる「メシウマ(他人が不幸で今日も飯がうまい)」の心理の起源です。(2)上下関係約2000万年前には類人猿が誕生し、サルたちがケンカの強さによる序列によって群れをつくるようになりました(社会性)。ボスの地位を争う中、2番手のサルは、ボスザルに対してストレス(嫉妬)を感じれば、ボスザルになるチャンスに、より敏感に反応できるでしょう。このストレスには、「競争ホルモン」(テストステロン)が関係していることが考えられています。2つ目の起源は、上下関係です。この上下間の闘争のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。実際に、サル(フサオマキザル)の行動実験(報酬分配ゲーム)において、好きなエサとまずいエサを分配する権限が与えられた2番手のサルは、下っ端のサルにはランダムにエサを与えていたのに対して、ボスザルにはまずいエサを与える選択をより多くしたという結果が出てきます。(3)協力関係約700万年前に人類が誕生し、300万年前にアフリカの森からサバンナに出て、血縁の家族同士が助け合いによって部族集団をつくるようになりました(社会脳)。集団で狩りをする中、自分ではなく別のメンバーが手柄を上げれば、自分は集団に認められず、そのメンバーが認められたことになります。この時、ストレス(嫉妬)を感じれば、次の狩りでは自分がもっとがんばって手柄を挙げて集団から認められたいと思うでしょう。この時のストレスは、相手に向けば嫉妬ですが、自分に向けば悔しさ(後悔)になります。3つ目の起源は、協力関係です。この仲間同士の協力のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。ちなみに、原始の時代の当時から、人類は、嫉妬を恥ずかしく思ったり、隠すようにもなりました。なぜなら、嫉妬を前面に出すと、協力関係が維持できなくなり、集団全体にとってはデメリットだからです。この点で、嫉妬する時に人は能面(無表情)になることも納得が行くでしょう。なんで性的嫉妬は「ある」の?次に、自分のパートナーが取られることへの不安である性的嫉妬の起源を考えてみましょう。約700万年前に人類が誕生して、男性(父親)は狩りをして、その食料を女性(母親)と分け合い、女性(母親)はその男性との間にできた子どもを育てるという性別役割分業をするようになりました。300万年前には、特定の男性と特定の女性のつがい(夫婦)が一緒に子育てをして共同生活をするようになりました(一夫一妻型)。この時、相手の浮気でストレス(嫉妬)を感じれば、より相手から離れないようになるでしょう。このストレスには、「愛着ホルモン」(オキシトシンバソプレシン)が関係していることが考えられています。つまり、性的嫉妬の起源は、一夫一妻型の夫婦関係です。この夫婦関係の維持のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。実際に、ハタネズミの研究において、つがいになるプレーリーハタネズミとつがいにならないサンガクハタネズミは、それぞれオキシトシンバソプレシンの受容体の脳内の分布がまったく違うという結果が出てきます。その分布は、プレーリーハタネズミは快感の中枢(側坐核)であるのに対して、サンガクハタネズミは恐怖の中枢(扁桃体)にあります。この分布の違いによって、プレーリーハタネズミは、つがいであることでドパミンも活性化されて「依存」的になり(愛着形成)、つがいにならない(浮気をする)ことに「禁断症状」(嫉妬)が出るというわけです。一方、サンガクハタネズミは、交尾の時に恐怖が和らぐだけで、つがいにならない(浮気をする)ことに「禁断症状」(嫉妬)が出ることはありません。ちなみに、そもそもなぜプレーリーハタネズミとサンガクハタネズミにはこのような違いがあるかについては、生態環境の違いが考えられます。それは、プレーリー(草原)とサンガク(山岳)の違いです。これは、300万年前に人類が森(山岳)からサバンナ(草原)に出た時に、つがいを作り部族集団を作った状況に重なります。森は資源が豊かで身を守るところが多い一方、サバンナは資源が少なく身を守るところが少ないという違いがあります。この違いによって、プレーリーハタネズミも300万年前以降の人類も、一緒に子育てをすること(アロペアレンティングという広い意味での生殖)のためにつがいになったと言えるでしょう。一方で、それでも浮気をする心理はまた別にあります。その詳細については、関連記事3をご参照ください。 次のページへ >>

検索結果 合計:71件 表示位置:1 - 20