サイト内検索|page:8

検索結果 合計:421件 表示位置:141 - 160

141.

薬剤耐性てんかん患者に対するEPA、DHAの無作為化二重盲検比較試験

 オメガ3脂肪酸(EPA、DHA)は、神経機能の維持および調整に重要な役割を果たしていると知られており、抗けいれん効果を有するとのエビデンスがある。スーダン・ハルツーム大学のFatma A. S. Ibrahim氏らは、薬物治療抵抗性てんかん患者の発作率に対するEPA、DHAの効果について検討を行った。Epilepsy & Behavior誌オンライン版2018年8月28日号の報告。 薬物治療抵抗性てんかん患者99例(5~16歳:85例、17~45歳:14例)を対象に、二重盲検ランダム化プラセボ対照臨床研究を実施した。対象患者は、DHA群33例(DHA 417.8mg+EPA 50.8mgカプセル)、EPA群33例(EPA 385.6mg+DHA 81.2mgカプセル)、プラセボ群33例(高オレイン酸ヒマワリ油)にランダムに割り付けられ、それぞれ1年間治療を継続した。主要評価項目は、発作率に対する治療効果とした。患者の1ヵ月当たりの発作回数をモデル化するため、ランダム効果負の二項分布回帰モデルを用いた。共変量(性別、年齢、研究参加時の1週間当たりの発作率、発作のタイプ、研究参加時に併用していた抗てんかん薬の数)で調整した後、発作発生率比に対する治療効果を検討した。 主な結果は以下のとおり。・試験を完了した患者は、59例(59.6%)であった。・1ヵ月当たりの平均発作回数は、EPA群で9.7±1.2回、DHA群で11.7±1.5回、プラセボ群で16.6±1.5回であった。・年齢、性別、発作のタイプで調整後の発作発生率比は、プラセボ群と比較し、EPA群で0.61(95%CI:0.42~0.88、p=0.008、42%減少)、DHA群で0.67(95%CI:0.46~1.0、p=0.04、39%減少)であった。・EPA群とDHA群の間で、発作発生率比に差は認められなかった(p=0.56)。・EPA群、DHA群ともに、プラセボ群と比較し、発作のない日数が有意に多かった(p<0.05)。 著者らは「EPAおよびDHAは、薬物治療抵抗性てんかん患者の発作頻度の減少に有効であることが示唆された」としている。■関連記事低用量EPA+DHA、てんかん発作を抑制治療抵抗性焦点性てんかんに対する第3世代抗てんかん薬補助療法の間接比較難治性てんかん重積状態への有用な対処法

142.

重症筋無力症〔MG : Myasthenia gravis〕

重症筋無力症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義神経筋接合部の運動終板に存在する蛋白であるニコチン性アセチルコリン受容体(nicotinic acetylcholine receptor:AChR)やMuSK(muscle specific tyrosine kinase)に対する自己抗体が産生されることにより神経筋伝達の安全域が低下することで、罹患骨格筋の筋力低下、易疲労性を生じる自己免疫疾患である。■ 疫学本症は、特定疾患治療研究事業で国が指定する「特定疾患」の1つである。1987年のわが国での全国調査では本症の有病率は、5.1人/10万人と推計されたが、2006年には11.8人/10万人(推定患者数は15,100人)に上昇した1)。男女比は1:1.7、発症年齢は5歳以下と50~55歳にピークがあり、高齢発症の患者が増えていた1)。胸腺腫の合併はMG患者の32.0%、胸腺過形成は38.4%で認められていた。眼筋型MGは35.7%、全身型MGは64.3%であり、MGFA分類ではI・IIが約80%と多数を占めていた1)。また、抗AChR抗体の陽性率は73.9%であった1)。2018年の最新の全国疫学調査では、患者数は23.1人/10万人(推定29,210人)とさらに増加している。■ 病態本症の多くは、アセチルコリン(acetylcholine:ACh)を伝達物質とする神経筋シナプスの後膜側に存在するAChRに対する自己抗体がヘルパーT細胞依存性にB細胞・形質細胞から産生されて発症する自己免疫疾患である。抗AChR抗体は IgG1・3サブクラスが主で補体活性化作用を有していることから、補体介在性の運動終板の破壊がMGの病態に重要と考えられている。しかし、抗AChR抗体価そのものは症状の重症度と必ずしも相関しないと考えられている。MGにおいて胸腺は抗体産生B細胞・ヘルパーT細胞・抗原提示細胞のソース、MHCクラスII蛋白の発現、抗原蛋白(AChR)の発現など、抗AChR抗体の産生に密接に関与しているとされ、治療の標的臓器として重要である。抗AChR抗体陰性の患者はseronegative MGと呼ばれ、そのうち、約10~20%に抗MuSK抗体(IgG4サブクラス)が存在する。MuSKは筋膜上のAChRと隣接して存在し(図1)、抗MuSK抗体はAChRの集簇を阻害することによって筋無力症を惹起すると考えられている。抗MuSK抗体陽性MGは、抗AChR抗体陽性MGと比べ、発症年齢が比較的若い、女性に多い、球症状が急速に進行し呼吸筋クリーゼを来たしやすい、眼症状より四肢の症状が先行することが多い、筋萎縮を認める例が多いなどの特徴を持つ。また、検査では反復刺激試験や単一筋線維筋電図での異常の頻度が低く、顔面筋と比較して四肢筋の電気生理学的異常が低く、胸腺腫は通常合併しない。さらに神経筋接合部生検において筋の運動終板のAChR量は減少しておらず、補体・免疫複合体の沈着を認めないことから、その病態機序は抗AChR抗体陽性MGと異なる可能性が示唆されている2)。また、神経筋接合部の維持に必要なLRP4に対する自己抗体が抗AChR抗体陰性およびMuSK抗体陰性MGの一部で検出されることが報告されているが3)、筋萎縮性側索硬化症など他疾患でも上昇することが判明し、MGの病態に関わっているかどうかについてはまだ不明確である。画像を拡大する■ 症状本症の臨床症状の特徴は、運動の反復に伴う骨格筋の筋力の低下(易疲労性)、症状の日内・日差変動である。初発症状としては眼瞼下垂や眼球運動障害による複視などの眼症状が多い。四肢の筋力低下は近位筋に目立ち、顔面筋・咀嚼筋の障害や嚥下障害、構音障害を来たすこともある。重症例では呼吸筋力低下による呼吸障害を来すことがある。MGでは神経筋接合部の障害に加え、非骨格筋症状もしばしば認められる。精神症状、甲状腺疾患や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患の合併、その他、円形脱毛、尋常性白斑、味覚障害、心筋炎、赤芽球癆などの自己免疫機序によると考えられる疾患を合併することもある。とくに胸腺腫合併例に多い。MGの重症度評価にはQMGスコア(表1)やMG composite scale(表2)やMG-ADLスコア(表3)が用いられる。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 分類MGの分類にはかつてはOsserman分類が使われていたが、現在はMyasthenia Gravis Foundation of America(MGFA)分類(表4)が用いられることが多い。また近年は、眼筋型MG、早期発症MG(発症年齢3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療目標は日常生活動作に支障のない状態、再発を予防して生命予後・機能予後を改善することであり、MGFA post-intervention statusでCSR (完全寛解)、PR(薬物学的寛解)、MM(最小限の症状)を目指す。MG治療は胸腺摘除術、抗コリンエステラーゼ薬、ステロイド薬、免疫抑制剤、血液浄化療法、免疫グロブリン療法(IVIg)などが、単独または組み合わせて用いられている。近年、補体C5に対するモノクローナル抗体であるエクリズマブが承認され、難治性のMGに対して適応となっている。全身型MGに対しては胸腺摘除、ステロイド・免疫抑制剤を中心とした免疫療法が一般的に施行されている。また少量ステロイド・免疫抑制剤をベースとして血漿交換またはIVIgにステロイドパルスを併用する早期速効性治療の有効性が報告されており、MGの発症早期に行われることがある。眼筋型MGでは抗コリンエステラーゼ薬や低用量のステロイド・免疫抑制剤、ステロイドパルス6)が治療の中心となる。胸腺腫を有する例では重症度に関わらず胸腺摘除術が検討される。胸腺腫のない全身型MG症例でも胸腺摘除術が有効であることが報告されているが7)、侵襲性や効果などを考慮すると必ずしも第1選択となるとは言えず、治療オプションの1つと考えられている。胸腺摘除術後、症状の改善までには数ヵ月から数年を要するため、術後にステロイドや免疫抑制剤などの免疫治療を併用することが多い。症状の改善が不十分なことによるステロイドの長期内服や、ステロイドの副作用にてQOL8)やmental healthが阻害される患者が少なくないため、ステロイド治療は必要最小限にとどめる必要がある。抗MuSK抗体陽性MGに対して、高いエビデンスを有する治療はないが、一般にステロイド、免疫抑制剤や血液浄化療法などが行われる。免疫吸着療法は除去率が低いため行わず、単純血漿交換または二重膜濾過法を行う。胸腺摘除や抗コリンエステラーゼ薬の効果は乏しく、IVIg療法は有効と考えられている。わが国では保険適応となっていないが、海外を中心にリツキシマブの有効性が報告されている。1)ステロイド治療ステロイド治療による改善率は60~100%と高い報告が多い。ステロイド薬の導入は、初期から高用量を用いると回復は早いものの初期増悪を来たしたり、クリーゼを来たす症例があるため、低用量からの導入のほうが安全である。また、QOLの観点からはステロイドはなるべく少量とするべきである。胸腺摘除術前のステロイド導入に関しては明確なエビデンスはなく、施設により方針が異なっている。ステロイド導入後、数ヵ月以内に症状は改善することが多いが、減量を急ぐと再増悪を来すことがあり注意が必要である。寛解を維持したままステロイドから離脱できる症例は少なく、免疫抑制剤などを併用している例が多い。ステロイドパルス療法は、早期速効性治療の一部として行われたり、経口免疫治療のみでは症状のコントロールが困難な全身型MGや眼筋型MGに行われることがあるが、いずれも初期増悪や副作用に注意が必要である。ステロイドの副作用は易感染性、消化管潰瘍、糖尿病、高血圧症、高脂血症、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死、精神症状、血栓形成、白内障、緑内障など多彩で、約40%の症例に出現するとされているため、定期的な副作用のチェックが必須である。2)胸腺摘除術成人の非胸腺腫全身型抗AChR抗体陽性MG例において胸腺摘除の有効性を検討したランダム化比較試験MGTX研究が行われ結果が公表された7)。胸腺摘除施行群では胸腺摘除非施行群と比較して、3年後のQMGが有意に低く(6.2点 vs. 9.0点)、ステロイド投与量も有意に低く(32mg/隔日 vs. 55mg/隔日)、治療関連の合併症は両群で同等という結果が得られ、非胸腺腫MGで胸腺摘除は有効と結論された。全身型MGの治療オプションとして今後も行われると考えられる。約5~10%の症例で胸腺摘除後にクリーゼを来たすが、術前の状態でクリーゼのリスクを予測するスコアが報告されており臨床上有用である9)(図2)。胸腺摘除術前に球麻痺や呼吸機能障害を認める症例では、術後クリーゼのリスクが高いため9)、血液浄化療法、ステロイド投与などを術前に行い、状態を安定させてから胸腺摘除術を行うのが望ましい。画像を拡大する3)免疫抑制剤免疫抑制剤はステロイドと併用あるいは単独で用いられる。免疫抑制剤の中で、現在国内での保険適用が承認されているのはタクロリムスとシクロスポリンである。タクロリムスは、活性化ヘルパーT細胞に抑制的に作用することで抗体産生B細胞を抑制する。T細胞内のFK結合蛋白に結合してcalcineurinを抑制することで、interleukin-2などのサイトカインの産生が抑制される。国内におけるステロイド抵抗性の全身型MGの臨床治験で、改善した症例は37%で、有意な抗AChR抗体価の減少が見られた。副作用としては、腎障害と、膵障害による耐糖能異常、頭痛、消化器症状、貧血、リンパ球減少、心筋障害、感染症、リンパ腫などがある。タクロリムスの代謝に関連するCYP3A5の多型によってタクロリムスの血中濃度が上昇しにくい症例もあり、そのような症例では治療効果が乏しいことが報告されており10)、使用の際には注意が必要である。シクロスポリンもタクロリムス同様カルシニューリン阻害薬であり、活性化ヘルパーT細胞に作用することで抗体産生B細胞を抑制する。ランダム化比較試験にてプラセボ群と比較してMG症状の有意な改善と抗AChR抗体価の減少が見られた。副作用として腎障害、高血圧、感染症、肝障害、頭痛、多毛、歯肉肥厚、てんかん、振戦、脳症、リンパ腫などがある。4)抗コリンエステラーゼ薬抗コリンエステラーゼ薬は、神経終末から放出されるAChの分解を抑制し、シナプス間のアセチルコリン濃度を高めることによって筋収縮力を増強する。ほとんどのMG症例に有効であるが、過剰投与によりコリン作動性クリーゼを起こすことがある。根本的治療ではなく、対症療法であるため、長期投与による副作用を考慮し、必要最小量を使用する。副作用として、腹痛、下痢、嘔吐、流嚥、流涙、発汗、徐脈、AVブロック、失神発作などがある。5)血液浄化療法通常、急性増悪期や早期速効性治療の際に、MG症状のコントロールをするために施行する。本法による抗体除去は一時的であり、根治的な免疫療法と組み合わせる必要がある。血液浄化療法には単純血漿交換、二重膜濾過法、TR350カラムによる免疫吸着療法などがあるが、いずれも有効性が報告されている。ただしMuSK抗体陽性MGでは免疫吸着療法は除去効率が低いため、単純血漿交換や二重膜濾過血漿交換療法が選択される。6)免疫グロブリン大量療法血液浄化療法同様、通常は急性増悪時に対症療法的に使用する。有効性は血液浄化療法とほぼ同等と考えられている。本療法の作用機序としては抗イディオタイプ抗体効果、自己抗体産生抑制、自己抗体との競合作用、局所補体吸収作用、リンパ球増殖や病的サイトカイン産生抑制、T細胞機能の変化と接着因子の抑制、Fc受容体の変調とブロックなど、さまざまな機序が想定されている。7)エクリズマブ補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブの有効性が報告され11)、わが国でも2017年より全身型抗AChR抗体陽性難治性MGに保険適用となっている。免疫グロブリン大量静注療法または血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限り使用を検討する。C5に特異的に結合し、C5の開裂を阻害することで、補体の最終産物であるC5b-9の生成が抑制される。それにより補体介在性の運動終板の破壊が抑制される一方、髄膜炎菌などの莢膜形成菌に対する免疫力が低下してしまうため、すべての投与患者はエクリズマブの初回投与の少なくとも2週間前までに髄膜炎菌ワクチンを接種し、8週後以降に再投与、5年毎に繰り返し接種する必要がある。4 今後の展望近年、治療法の多様化、発症年齢の高齢化などに伴い、MGを取り巻く状況は大きく変化している。今後、系統的臨床研究データの蓄積により、エビデンスレベルの高い治療方法の確立が必要である。5 主たる診療科脳神経内科、内科、呼吸器外科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)日本神経免疫学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)難病情報センター 重症筋無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Myasthenia Gravis Foundation of America, Inc.(アメリカの本疾患の財団のサイト)1)Murai H, et al. J Neurol Sci. 2011;305:97-102.2)Meriggioli MN, et al. Lancet Neurol. 2009;8:475-490.3)Zhang B, et al. Arch Neurol. 2012;69:445-451.4)Gilhus NE, et al. Lancet Neurol. 2015;14:1023-1036.5)Grob D, et al. Muscle Nerve. 2008;37:141-149. 6)Ozawa Y,Uzawa A,Kanai T, et al. J Neurol Sci. 2019;402:12-15.7)Wolfe GI, et al. N Engl J Med. 2016;375:511-522.8)Masuda M, et al. Muscle Nerve. 2012;46:166-173.9)Kanai T,Uzawa A,Sato Y, et al. Ann Neurol. 2017;82:841-849.10)Kanai T,Uzawa A,Kawaguchi N, et al. Eur J Neurol. 2017;24:270-275.11)Howard JF Jr, et al. Lancet Neurol. 2017;16:976-986.公開履歴初回2013年02月28日更新2021年03月05日

143.

日本の地方救急診療における認知症者の臨床的特徴

 岡山大学の田所 功氏らは、救急診療における認知症者の臨床的特徴を明らかにするため、検討を行った。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2018年8月21日号の報告。 岡山県・倉敷平成病院の救急診療を受診した認知症者をレトロスペクティブに検討を行った。2014~17年の3年間に救急診療を受診した患者1万6,764例のうち、認知症者2,574例(15.4%)に焦点を当てた。 主な結果は以下のとおり。・認知症者の平均年齢は、84.9±0.1歳であり、これは全救急診療受診患者の平均年齢58.1±0.2歳よりも非常に高かった。・認知症者の入院率は54.9%であり、非認知症者の2倍以上(23.3%、p<0.01)高く、75歳以上の非認知症者(44.3%)よりも高かった。・救急診療受診および入院の最も主要な原因は、感染症(42.4%)、転倒(20.9%)であった。・認知症者の入院期間は、脳卒中、転倒、感染症、てんかん、湿疹、意識喪失、その他の原因または脱水によって延長された。・延長日数は脳卒中(64.0±5.3日)および転倒(51.9±2.1日)が、感染症、てんかん、湿疹、意識喪失、その他の原因(各々のp<0.001)または脱水(p≦0.005)よりも長かった。 著者らは「認知症者は、救急診療を受診することが多く、非認知症者よりも、高年齢、高入院率であり、とくに脳卒中および転倒により入院期間が長くなる」としている。■関連記事年間37%の認知症高齢者が転倒を経験!:浜松医大精神疾患患者、救急受診の現状は急性期病院での認知症看護、その課題は:愛媛大

144.

第5回 意識障害 その4 それって本当に脳卒中?【救急診療の基礎知識】

●今回のpoint1)発症時間を正確に把握せよ!2)頭部CTは病巣を推定し撮影せよ!3)適切な連携をとり、早期治療介入を!72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+脳出血か、脳梗塞か、画像診断が有効だけど…「脳卒中かな?」と思っても、頭部CTを撮影する前にバイタルサインを安定させること、低血糖か否かを瞬時に判断することが重要であることは理解できたと思います(表)。今回はその後、すなわち具体的に脳卒中か否かを画像を撮影して判断する際の注意点を整理しておきましょう。「CT、MRIを撮影すれば脳卒中の診断なんて簡単!」なんて考えてはいけませんよ。画像を拡大する●Rule6 出血か梗塞か、それが問題だ!脳出血か脳梗塞か、画像を撮らずに判断可能でしょうか? 臨床の現場で、脳神経内科や脳神経外科の先生が、「この患者さんは出血っぽいなぁ」とCTを撮る前につぶやいているのを聞いたことはありませんか? 結論から言えば、出血らしい、梗塞らしい所見は存在するものの、画像を撮らずに判断することは困難です。一般的に痙攣、意識障害、嘔吐を認める場合には脳出血らしいとは言われます1)。私は初療の際、40~50歳代では梗塞よりも出血らしく、とくに収縮期血圧が200mmHgを越えるような場合にはその可能性は高いなと考え、高齢者、さらに心房細動を認める場合には、十中八九その原因は「心原性脳塞栓症」だろうと考えています。みなさんもこのようなイメージを持っているのではないでしょうか?!頭部CTをまずは撮影脳出血よりも脳梗塞らしければ、CTではなく、はじめからMRIを撮影すればよいのではないでしょうか? 脳梗塞であれば血栓溶解療法という時間の制約のある有効な治療法が存在するため、より早く診断をつけることができるに越したことはありません。血栓溶解療法を行う場合には、来院から1時間以内にrt-PA(アルテプラーゼ)を静注することが推奨されています(Time is Brain!)。しかし、MRIをまず撮影することは以下の理由からお勧めしません。・頭部CTはMRIと比較して迅速に撮影可能かつ原則禁忌なし・大動脈解離の否定は絶対(1)迅速かつ安全頭部CTの撮影時間は数分です。それに対してMRIは、撮影画像を選択しても10分以上かかります。梗塞巣が広範囲の場合や、嘔吐に伴う誤嚥性肺炎併発症例においては、呼吸のサポートが必要な場合もあり、極力診断に時間がかからず、安全に施行可能な検査を選択すべきでしょう。また、MRIはペースメーカー留置患者など撮影することができない患者群がいるのに対して、CTはほぼ全例施行可能です。私が経験した唯一撮影できなかった患者は、体重が200kgあり、CTの台におさまらなかった患者さんですが、まれですよね…。(2)大動脈解離の否定脳梗塞患者では、必ず大動脈解離の可能性も意識して対応するようにしましょう。とくに左半身の麻痺を認める場合には要注意です。当たり前ですが、血栓溶解療法を大動脈解離症例に行えばとんでもないことが起こります。大動脈解離が脳卒中様症状で来院する頻度は決して高くはありませんが、忘れた頃に遭遇します。そのため、血栓溶解療法を行うことを考慮している症例では、頭部CTで出血を認めない場合には、胸部CTも併せて行い大動脈解離の評価を行います。これは施設によっては異なり、胸部CTではなく、胸部X線、またはエコーで確認している施設もあるとは思いますが、病院の導線などの問題から、頭部CT撮影時に胸部CTも併せて評価している施設が多いのではないでしょうか。大動脈解離の確定診断は通常単純ではなく造影CTですが、脳卒中疑い症例では単純CTで評価しています。もちろん検査前確率で脳卒中よりも大動脈解離の可能性が高い場合には造影CTを撮影しますが、あくまで脳卒中を疑っている中で、大動脈解離の否定も忘れないというスタンスでの話です。大動脈解離の検査前確率を上げる因子として、意識障害のアプローチの中では、バイタルサイン、発症時の様子を意識するとよいでしょう。バイタルサインでは、脳卒中では通常血圧は上昇します。それに対して、身体所見上は脳卒中を疑わせるものの血圧が正常ないし低い場合には、大動脈解離に代表される“stroke mimics”を考える必要があります(参照 意識障害 その2)。この場合には積極的に血圧の左右差を確認しましょう。Stroke mimicsは、大動脈解離以外に、低血糖、痙攣・痙攣後、頭部外傷、髄膜炎、感染性心内膜炎でしたね。また、発症時に胸背部痛に代表される何らかの痛みを認めた場合にも、大動脈解離を考えます。意識障害を認める場合には、本人に確認することが困難な場合も少なくなく、その場合には家族など目撃者に必ず確認するようにしましょう。以上から、意識障害患者では低血糖否定後、速やかに頭部CTを撮影するのがお勧めです。CT撮影時の注意事項頭部CTを撮影するにあたり、注意する事項を冒頭のpointに沿って解説してきます。1)発症時間を正確に把握せよ!血栓溶解療法は脳梗塞発症から4.5時間以内に可能な治療です。血栓回収療法は、近年可能な時間は延びつつありますが、どちらも時間的制約がある治療であることは間違いありません。麻痺や構音障害がいつから始まったのか、言い換えればいつまで普段と変わらぬ状態であったのかを必ず意識して病歴を聴取しましょう。発見時間ではなく、「発症時間」です。“Wake up stroke”といって、前日就寝時までは問題なく、当日の起床時に麻痺を認め来院する患者は少なくありません。以前は発症時間が不明ないし、就寝時と考えると4.5時間以上経過している(たとえば前日22時に就寝し、当日5時半に麻痺を認める場合など)場合には、その段階で適応外とすることが多かったと思います。しかし、最近では、発症時間が不明な場合でも、頭部MRIの画像を利用して発症時間を推定し、血栓溶解療法を行うメリットも報告されています2)。現段階では、わが国では限られた施設のみが行っている戦略と考えられているため、病歴聴取よりも画像を優先することはありませんが、「寝て起きたときには脳梗塞が起こっていた症例は血栓溶解療法の適応なし」と瞬時に判断するのは早すぎるとは思っています。60歳以上では夜間に1回以上排尿のために起きていることが多く、就寝時間を確認するだけでなく、夜間トイレにいった形跡があるか(家族が物音を聞いているなど)は確認するべきでしょう。3時頃にいったという確認がとれれば、5時半の起床時に脳梗塞症状を認めた場合、血栓溶解療法の適応内ということになるのです。なんとか目の前の脳梗塞患者の予後を良くする術はないか(血栓溶解療法、血栓回収療法の適応はないのか)を常に意識して対応しましょう。2)頭部CTは病巣を意識して撮影を!血栓溶解療法の適応のある患者では、頭部CTは迅速に撮影しますが、低血糖の除外とともに最低限確認しておくべきことがあります。バイタルサインは当たり前として、ざっとで構わないので神経所見を確認し、脳卒中だとすると頭蓋内のどの辺に病巣がありそうかを頭にイメージする癖をもちましょう。「失語+右上下肢の運動麻痺→左中大脳動脈領域?」など、異常所見を推定し、画像評価をする必要があります。たとえば、左放線冠のラクナ梗塞を認めた症例において、重度の意識障害を認める、右だけでなく左半身の運動麻痺を認めるような場合には、痙攣の合併などを考慮する必要があります。麻痺がてんかんによるものであれば、血栓溶解療法は禁忌、脳梗塞に伴う急性症候性発作であれば禁忌ではありません。3)適切な連携をとり、早期治療介入を!急性期脳梗塞は“Time is Brain!”と言われ、より早期に治療介入することが重要です。血栓溶解療法適応症例は60分以内のrt-PA静注が理想とされていますが、これを実現するのは簡単ではありません。症例のように、現場から脳梗塞疑いの患者の要請が入ったら、その段階で人を集め、CT、MRI室へ一報し、スタンバイしておく必要があります。また、採血では凝固関連(PT-INRなど)が最も時間がかかり、早く結果を出してほしい旨を検査室に伝えて対応してもらいましょう。また、患者、家族に対する病状説明も重要であり、初療にあたる医師と病状説明する医師の2名は最低限確保し、対応するとよいでしょう。実際、この症例では、要請時の段階で医師を集め、来院後迅速に所見をとりつつ低血糖を否定しました。その後、頭部CT、胸部CTを撮影し、early CT signsや大動脈解離は認めませんでした。突然発症であり発症時間が明確であったため、急性期脳梗塞を疑いrt-PAの準備、家族への病状説明を行いつつ頭部MRIとMRAを撮影しました。結果、左中大脳動脈領域の急性期脳梗塞と診断し、血栓溶解療法を行う方針となりました。脳梗塞を疑うことはそれほど難しくありませんが、短時間で診断し、適切な診療を行うことは容易ではありません。Stroke mimicsを常に意識しながら対応すること、役割分担を行い皆で協力して対応しましょう!次回は「Rule 7 菌血症・敗血症が疑われたfever work up!」、高齢者の意識障害で多い感染症の診るべきポイントを解説します。1)Runchey S, et al. JAMA. 2010;303:2280-2286.2)Thomalla G, et al. NEJM. 2018;379:611-622.

145.

添付文書改訂:ゼルヤンツ錠/トレリーフ錠/リムパーザ錠【下平博士のDIノート】第7回

ゼルヤンツ錠5mg画像を拡大する<使用上の注意>過去の治療において、ほかの薬物療法(ステロイド、免疫抑制薬または生物製剤)による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与します。<用法・用量>導入療法では、通常、成人に、トファシチニブとして1回10mgを1日2回、8週間(効果不十分な場合はさらに8週間)投与し、維持療法では1回5mgを1日2回経口投与します。なお、維持療法中に効果が減弱した患者、過去の薬物治療において難治性の患者(TNF阻害薬無効例など)では、1回10mgを1日2回投与することができます。感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とTNF阻害薬などの生物製剤や、タクロリムス、アザチオプリンなどの強力な免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<Shimo's eyes>関節リウマチ治療薬として用いられてきたJAK阻害薬のトファシチニブに、国の指定難病である潰瘍性大腸炎の適応が追加されました。潰瘍性大腸炎の国内患者数は、2016年までの10年間で約1.9倍に増えました。2016年11月にメサラジン錠(商品名:リアルダ錠1200mg)、2017年12月にブデソニド(同:レクタブル2mg注腸フォーム)が相次いで発売され、海外で広く使用されているベドリズマブ(同:エンタイビオ点滴静注)も2018年7月に承認取得しています。治療選択肢が増えることにより、治療の目標となる寛解導入や寛解維持が以前より容易になることが期待されます。また、個々の患者さんの症状・生活習慣・経済状況などに合わせた治療で、より患者さんのQOL向上が見込めるでしょう。トレリーフ錠/OD錠25mg画像を拡大する<用法・用量>通常、成人にゾニサミドとして、1日1回25mgを経口投与します。<Shimo's eyes>ゾニサミドはもともと抗てんかん薬として開発され、のちにパーキンソン病治療薬として開発された薬剤です。抗てんかん薬としてはエクセグランの商品名で、パーキンソン病治療薬としてはトレリーフの商品名で、効能・効果と用法・用量を区別して発売されています。レビー小体型認知症のパーキンソニズムは、パーキンソン病のパーキンソニズムと原因や症状が同じであることから開発が進められ、追加承認となりました。ゾニサミドは、ドパミンレベルを上昇させることで、レボドパの抗パーキンソン作用を増強・延長し、レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを改善します。通常、レボドパ含有製剤との併用療法で使用されると予想できます。レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを適応症とする初めての薬なので、患者さんの新たな選択肢として治療への貢献が期待されます。リムパーザ錠100mg/150mg画像を拡大する<使用上の注意>(1)本剤の術前・術後薬物療法としての有効性および安全性は確立していません。(2)アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬およびタキサン系抗悪性腫瘍薬を含む化学療法歴のある患者を対象とします。(3)承認された体外診断薬などを用いた検査により、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異(病的変異または病的変異疑い)を有することが確認された患者に投与します。<用法・用量>通常、成人にはオラパリブとして300mgを1日2回、経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。100mg錠と150mg錠の生物学的同等性は示されていないため、300mgを投与する際に100mg錠を使用することはできず、100mg錠は減量時のみ使用します。<Shimo's eyes>オラパリブは、DNA損傷応答(DDR)機能を標的とした新規の作用機序を持つ、世界初のPARP阻害薬です。DNAの相同組換え修復機構が機能していないがん細胞に対して特異的に細胞死を誘導します。もともとは白金系抗悪性腫瘍薬感受性の再発卵巣がん治療薬として発売されましたが、今回の適応追加により、国内で初めて、BRCA遺伝子陽性の遺伝性乳がん治療薬として使用されることになりました。BRCA遺伝子は、アンジェリーナ・ジョリーさんが陽性であったことでも知られています。本剤は、悪心・嘔吐が高頻度で認められているため、服薬指導の際に、脱水が起こらないように水分補給や食事の工夫などのアドバイスができるとよいでしょう。

146.

リジン尿性蛋白不耐症〔LPI:lysinuric protein intolerance〕

1 疾患概要■ 定義二塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、オルニチン)の輸送蛋白の1つである y+LAT-1(y+L amino acid transporter-1)の機能異常によって、これらのアミノ酸の小腸での吸収障害、腎での再吸収障害を生じるために、アミノ酸バランスの破綻から、高アンモニア血症をはじめとした多彩な症状を来す疾患である。本疾患は常染色体劣性遺伝を呈し、責任遺伝子SLC7A7の病因変異が認められる。現在は指定難病となっている。■ 疫学わが国での患者数は30~40人と推定されている。■ 病因y+LAT-1 は主に腎、小腸などの上皮細胞基底膜側に存在する(図)。12の膜貫通領域をもった蛋白構造をとり、分子量は約40kDaである。調節ユニットである 4F2hc(the heavy chain of the cell-surface antigen 4F2)とジスルフィド結合を介してヘテロダイマーを形成することで、機能発現する。本蛋白の異常により二塩基性アミノ酸の吸収障害、腎尿細管上皮での再吸収障害を来す結果、これらの体内プールの減少、アミノ酸バランスの破綻を招き、諸症状を来す。所見の1つである高アンモニア血症は、尿素回路基質であるアルギニンとオルニチンの欠乏に基づくと推定されるが、詳細は不明である。また、SLC7A7 mRNAは全身の諸臓器(白血球、肺、肝、脾など)でも発現が確認されており、本疾患の多彩な症状は各々の膜輸送障害に基づく。上述の病態に加え、細胞内から細胞外への輸送障害に起因する細胞内アルギニンの増加、一酸化窒素(NO)産生の過剰なども関与していることが推定されている。画像を拡大する■ 症状離乳期以降、低身長(四肢・体幹均衡型)、低体重が認められるようになる。肝腫大も受診の契機となる。蛋白過剰摂取後には約半数で高アンモニア血症による神経症状を呈する。加えて飢餓、感染、ストレスなども高アンモニア血症の誘因となる。多くの症例においては1歳前後から、牛乳、肉、魚、卵などの高蛋白食品を摂取すると嘔気・嘔吐、腹痛、めまい、下痢などを呈するため、自然にこれらの食品を嫌うようになる。この「蛋白嫌い」は、本疾患の特徴の1つでもある。そのほか患者の2割に骨折の既往を、半数近くに骨粗鬆症を認める。さらにまばらな毛髪、皮膚や関節の過伸展がみられることもある。一方、本疾患では、約1/3の症例に何らかの血液免疫学的異常所見を有する。水痘の重症化、EBウイルスDNA持続高値、麻疹脳炎合併などのウイルス感染の重症化や感染防御能の低下が報告されている。さらに血球貪食症候群、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性肝炎、関節リウマチ)合併の報告がある。成人期以降には肺合併症として、間質性肺炎、肺胞蛋白症などが増える傾向にある。無症状でも画像上の肺の線維化がたびたび認められる。また、腎尿細管病変や糸球体腎炎も比較的多い。循環器症状は少ないが、運動負荷後の心筋虚血性変化や脳梗塞を来した症例もあり、注意が必要である。■ 分類本疾患の臨床症状と重症度は多彩である。一般には出生時には症状を認めず、蛋白摂取量が増える離乳期以後に症状を認める例が多い。1)発症前型同胞が診断されたことを契機に、診断に至る例がある。この場合も軽度の低身長などを認めることが多い。2)急性発症型小児期の発症形態としては、高アンモニア血症に伴う意識障害や痙攣、嘔吐、精神運動発達遅滞などが多い。しかし、一部では間質性肺炎、易感染、血球貪食症候群、自己免疫疾患、血球減少などが初発症状となる例もある。3)慢性進行型軽症例は成人まで気付かれず、てんかんなどの神経疾患の精査から診断されることがある。■ 予後早期診断例が増え、精神運動発達遅延を呈する割合は減少傾向にある。しかし、肺合併症や腎病変は、アミノ酸補充にもかかわらず進行を抑えられないため、生命予後に大きく影響する。水痘や一般的な細菌感染は、腎臓・肺病変の重症化を招きうる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)高アンモニア血症を来す尿素サイクル異常症の各疾患の鑑別のため血中・尿中アミノ酸分析を提出する。加えてLDHやフェリチンが上昇していれば本疾患の可能性が高まる。確定診断には遺伝子解析を検討する。■ 一般血液検査所見1)血清LDH上昇:600~1,000IU/L程度が多い。2)血清フェリチン上昇:程度は症例によって異なる。3)高アンモニア血症:血中アンモニア高値の既往はほとんどの例でみられる。最高値は180~240μmol/L(300~400μg/dL)の範囲であることが多いが、時に600μmol/L (1,000μg/dL)程度まで上昇する例もある。また、食後に採血することで蛋白摂取後の一過性高アンモニア血症が判明し、診断に至ることがある。4)末梢白血球減少・血小板減少・貧血上記検査所見のほか、AST/ALTの軽度上昇(AST>ALT)、TG/TC上昇、貧血、甲状腺結合蛋白(TBG)増加、IgGサブクラスの異常、白血球貪食能や殺菌能の低下、NK細胞活性低下、補体低下、CD4/CD8比の低下などがみられることがある。■ 血中・尿中アミノ酸分析1)血中二塩基性アミノ酸値(リジン、アルギニン、オルニチン)正常下限の1/3程度から正常域まで分布する。また、二次的変化として、血中グルタミン、アラニン、グリシン、セリン、プロリンなどの上昇を認めることがある。2)尿の二塩基性アミノ酸濃度は通常増加(リジンは多量、アルギニン、オルニチンは中等度、シスチンは軽度)なかでもリジンの増加はほぼ全例にみられる。まれに(血中リジン量が極端に低い場合など)、これらのアミノ酸の腎クリアランスの計算が必要となる場合がある。(参考所見)尿中有機酸分析における尿中オロト酸測定:高アンモニア血症に付随して尿中オロト酸の増加を認める。■ 診断の根拠となる特殊検査1)遺伝子解析SLC7A7(y+LAT-1をコードする遺伝子)に病因変異を認める。遺伝子変異は今まで50種以上の報告がある。ただし本疾患の5%程度では遺伝子変異が同定されていない。■ 鑑別診断初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。1)尿素サイクル異常症の各疾患2)ライソゾーム病3)周期性嘔吐症、食物アレルギー、慢性腹痛、吸収不良症候群などの消化器疾患 4)てんかん、精神運動発達遅滞5)免疫不全症、血球貪食症候群、間質性肺炎初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。<診断に関して留意する点>低栄養状態では血中アミノ酸値が全体に低値となり、尿中排泄も低下していることがある。また、新生児や未熟児では尿のアミノ酸排泄が多く、新生児尿中アミノ酸の評価においては注意が必要である。逆にアミノ酸製剤投与下、ファンコーニ症候群などでは尿アミノ酸排泄過多を呈するので慎重に評価する。3 急性発作で発症した場合の診療高アンモニア血症の急性期で種々の臨床症状を認める場合は、速やかに窒素負荷となる蛋白を一旦除去するとともに、中心静脈栄養などにより十分なカロリーを補充することで蛋白異化の抑制を図る。さらに薬物療法として、L-アルギニン(商品名:アルギU)、フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウムなどが投与される。ほとんどの場合は、前述の薬物療法によって血中アンモニア値の低下が得られるが、無効な場合は持続的血液透析(CHD)の導入を図る。■ 慢性期の管理1)食事療法十分なカロリー摂取と蛋白制限が主体となる。小児では摂取蛋白0.8~1.5g/kg/日、成人では0.5~0.8g/kg/日が推奨される。一方、カロリーおよびCa、Fe、ZnやビタミンDなどは不足しやすく、特殊ミルクである蛋白除去粉乳(S-23)の併用も考慮する。2)薬物療法(1)L-シトルリン(日本では医薬品として認可されていない)中性アミノ酸であるため吸収障害はなく、肝でアルギニン、オルニチンに変換されるため、本疾患に有効である。投与により血中アンモニア値の低下や嘔気減少、食事摂取量の増加、活動性の増加、肝腫大の軽減などが認められている。(2)L-アルギニン(同:アルギU)有効だが、吸収障害のため効果が限られ、また浸透圧性下痢を来しうるため注意して使用する。なおL-アルギニンは、急性期の高アンモニア血症の治療としては有効であるが、本症における細胞内でのアルギニンの増加、NO産生過剰の観点からは、議論の余地があると思われる。(3)L-カルニチン2次性の低カルニチン血症を来している場合に併用する。(4)フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウム血中アンモニア値が不安定な例ではこれらの定期内服を検討する。その他対症療法として、免疫能改善のためのγグロブリン投与、肺・腎合併症に対するステロイド投与、骨粗鬆症へのビタミンD製剤やビスホスホネート薬の投与、成長ホルモン分泌不全性低身長への成長ホルモンの投与、重炭酸ナトリウム、抗痙攣薬、レボチロキシン(同:チラーヂンS)の投与などが試みられている。4 今後の展望小児期の発達予後に関する最重要課題は、高アンモニア血症をいかに防ぐかである。近年では、早期診断例が徐々に増えることによって正常発達例も増えてきた。その一方で、早期から食事・薬物療法を継続したとしても、成人期の肺・腎合併症は予防しきれていない。その病因として、尿素サイクルに起因する病態のみならず、各組織におけるアミノ酸の輸送障害やNO代謝の変化が想定されており、これらの病態解明と治療の開発が望まれる。5 主たる診療科小児科、神経内科。症状により精神科、腎臓内科、泌尿器科、呼吸器内科への受診も適宜行われている。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター リジン尿性蛋白不耐症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Sperandeo MP, et al. Hum Mutat. 2008;29:14-21.2)Torrents D, et al. Nat Genet. 1999;21:293-296.3)高橋勉. 厚労省研究班「リジン尿性蛋白不耐症における最終診断への診断プロトコールと治療指針の作成に関する研究」厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 平成22年度総括分担研究報告書;2011.p.1-27.4)Charles Scriver, et al(editor). The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York City:McGraw-Hill;2001:pp.4933-4956.5)Sebastio G, et al. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2011;157:54-62.公開履歴初回2018年8月14日

147.

ギャンブルがアルコール消費に及ぼす影響

 アルコールとギャンブルとの関連を調査した実験的研究では、主にアルコールのギャンブル行動への影響に焦点が当てられている。逆に、ギャンブルがその後のアルコール消費に及ぼす影響については、ほとんど論じられていなかった。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のJuliette Tobias-Webb氏らは、ギャンブルとその成果が、後のアルコール消費に及ぼす影響について、2つの実験を行い評価した。Journal of Gambling Studies誌オンライン版2018年7月11日号の報告。 実験1では、参加者53例には、アルコールを含む飲料を30分間要求することができる自由摂取試験(ad libitum consumption test)を実施した。実験2では、参加者29例には、ビールのテイスティング検査手順(beer taste test procedure)に従い、ビールの種類の評価を課した。両実験において、日常的にギャンブルを行う男性は、アルコールが提供される前に、30分間テレビを見る群かスロットマシーンを行う群に割り付けられた。 主な結果は以下のとおり。・実験1において、ギャンブルは、アルコール飲料の注文数、消費量、飲酒ペース、飲酒意向を有意に増加させた。・実験2では、これらの影響は確認されなかった。・両実験において、ギャンブルの成果とアルコール消費との関連は認められなかった。 著者らは「これまでの研究と関連し、特定の条件下でのギャンブルがアルコール消費を促進する点は、ギャンブルとアルコールが互いに増強する可能性のあるフィードバックループを形成していることを意味する。しかし、両実験における結果の相違は、影響の境界条件を示唆しており、今後の研究を行ううえで、ギャンブルとアルコール消費との関連を測定するためには、方法論的考察の検討が必要である」としている。■関連記事ギャンブル依存とADHD症状との関連アルコール依存症に対するバクロフェン治療に関するメタ解析アルコール依存症治療に期待される抗てんかん

148.

アルコール依存症に対するバクロフェン治療に関するメタ解析

 アルコール依存症(AD:alcohol dependence)治療に対するバクロフェンの有効性(とくに用量の効果)に関して、現在のエビデンスのシステマティックレビューは不十分である。オランダ・アムステルダム大学のMimi Pierce氏らは、現在利用可能なランダム化プラセボ対照試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。European neuropsychopharmacology誌オンライン版2018年6月19日号の報告。 AD患者に対するバクロフェンとプラセボを比較した、2017年9月までのRCT文献をシステマティックに検索した。バクロフェン治療効果、バクロフェン用量緩和効果(低用量[30~60mg]vs.高用量[60mg超])、治療前のアルコール消費量について検討を行った。経過時間(TTL)、禁断日数の割合(PDA)、エンドポイントで禁断となった患者の割合(PAE)の3つを治療アウトカムとした。 主な結果は以下のとおり。・39レコードから13件のRCTが抽出された。・バクロフェン群は、プラセボ群と比較し、TTLの有意な増加(8 RCT、852例、SMD:0.42、95%CI:0.19~0.64)、PAEの有意な増加(8 RCT、1,244例、OR:1.93、95%CI:1.17~3.17)、PDAの有意でない増加(7 RCT、457例、SMD:0.21、95%CI:-0.24~0.66)が認められた。・全体として、低用量で実施された研究は、高用量で実施された研究よりも、より良い有効性を示した。・また、高用量での忍容性は低かったが、重篤な有害事象はまれであった。・メタ回帰分析では、治療前の日々のアルコール消費量がより多い場合、バクロフェンの効果がより強いことが示唆された。 著者らは「バクロフェンは、AD治療、とくに大量飲酒者の治療に有効であると考えられる。高用量治療は、低用量治療よりも忍容性が低く、必ずしも優れているとは言えない」としている。■関連記事アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬アルコール使用障害患者の認知症発症予防のためのチアミン療法不眠症とアルコール依存との関連

149.

男性てんかん患者におけるバルプロ酸の生殖内分泌機能への影響に関するメタ解析

 バルプロ酸(VPA)は、ブロードスペクトラムな抗てんかん薬(AED)であり、ほとんどの特発性および症候性の全般てんかんに対し、第1選択薬として用いられる。多くの研究において、AEDが男性の生殖内分泌不全を引き起こすことが示唆されているが、これらの機能不全に関する明確な病因はわかっていない。中国医科大学附属第一病院のShanshan Zhao氏らは、男性てんかん患者における生殖内分泌機能に対するVPAの影響を評価するため、システマティックレビュー、メタ解析を実施した。Epilepsy & Behavior誌オンライン版2018年6月22日号の報告。 2017年12月までの電子データベースから適格文献を検索した。VPA治療を行った男性てんかん患者(治療群)における生殖因子、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEAS)、アンドロステンジオン(ADION)について、標準化平均差(SMD)と95%信頼区間(CI)を用いて対照群との比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・6つの文献より、316例が抽出された。・治療群のFSH(SMD:-1.33、95%CI:-2.60~-0.07、p=0.039)およびテストステロン(SMD:-0.45、95%CI:-0.87~-0.03、p=0.038)レベルは、対照群と比較し、有意な減少が認められた。・治療群においてSHBG(SMD:0.41、95%CI:-0.21~1.03、p=0.197)、DHEAS(SMD:0.20、95%CI:-0.06~0.45、p=0.126)、ADION(SMD:0.73、95%CI:-0.10~1.57、p=0.086)レベルの増加およびLH(SMD:-0.71、95%CI:-1.49~0.07、p=0.075)レベルの低下が認められたが、統計学的に有意な差は認められなかった(p>0.05)。 著者らは「VPAは、男性てんかん患者の生殖内分泌機能不全に影響を及ぼす可能性がある。臨床医は、生殖可能年齢の男性てんかん患者にVPAを処方する際には、慎重に行うべきである」としている。■関連記事スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬使用に関する比較研究8種類の抗てんかん薬における主要な先天性奇形リスク比較のコホート研究寛解後、抗てんかん薬はすぐに中止すべきか

150.

双極性障害における精神医学的入院リスクのための単剤療法の比較

 米国・ニューメキシコ大学のAnastasiya Nestsiarovich氏らは、双極性障害患者の精神医学的入院リスクについて、29種類の薬剤を比較した。Bipolar disorders誌オンライン版2018年6月19日号の報告。 Truven Health Analytics MarketScanデータベースを用いて、リチウム、第1世代または第2世代の抗精神病薬、気分安定抗てんかん薬、抗うつ薬の29種類の処方箋情報を有する、双極性障害または統合失調感情障害患者19万894例を抽出した。競合リスク回帰分析を用いて、精神医学的入院リスクの比較を行った(患者の年齢、性別、併存疾患、前処置薬により調整)。他の競合リスクは、単独療法の終了および非精神医学的入院とした。 主な結果は以下のとおり。・リチウムよりも精神医学的入院リスクが有意に低かった薬剤は、以下の3剤であった。●バルプロ酸(相対リスク[RR]:0.80、p=0.00032)●アリピプラゾール(RR:0.80、p=0.00035)●bupropion(RR:0.80、p=0.00028)・精神医学的入院リスクが有意に高かった薬剤は、以下の8剤であった。●ハロペリドール(RR:1.57、p=0.00094)●クロザピン(RR:1.52、p=0.017)●fluoxetine(RR:1.17、p=0.0037)●セルトラリン(RR:1.17、p=0.0032)●citalopram(RR:1.14、p=0.013)●デュロキセチン(RR:1.24、p=0.00051)●ベンラファキシン(RR:1.33、p=0.000001)●ziprasidone(RR:1.25、p=0.0062) 著者らは「これまでに報告された、双極性障害の薬物療法に関する最大のレトロスペクティブ観察研究では、治療開始2ヵ月以内に患者の大部分が単独療法を終了することが示唆されている。精神医学的入院リスクは、各薬剤間で約2倍の変化が認められた。本データでは、短期間の双極性障害の管理において、リチウムと気分安定薬の使用を支持している。また、ドパミン作動薬であるアリピプラゾールおよびbupropionは、各クラスの他剤よりも良好なアウトカムを示した。抗うつ薬のアウトカムに関しては、ベースライン時の気分の極性により異なる可能性があり、さらなる調査が必要である」としている。■関連記事双極性障害、リチウムは最良の選択か双極性障害に対するアリピプラゾールの評価~メタ解析双極性障害、再入院リスクの低い治療はどれか

151.

てんかん診療ガイドライン2018』発刊

 前回のガイドライン発刊から約8年。その間に、新規治療薬の登場や適応追加、改正道路交通法など、てんかんを取り巻く環境は大きく変化している。2018年7月2日、大塚製薬株式会社が主催したプレスセミナー「てんかん診療ガイドライン2018」にて、てんかん診療ガイドライン作成委員会委員長の宇川 義一氏(福島県立医科大学 神経再生医療学講座教授)が登壇し、日本神経学会が監修したガイドラインの主な改訂点について語った。てんかん診療ガイドライン2018はGRADEシステムを採用 本ガイドラインは、2部で構成されている。第1部は診療ガイドライン、第2部では3つのクリニカルクエスチョン(CQ)に対してシステマティック・レビュー(SR)を行っている。また、エビデンスの質の評価は、GRADE working groupが提唱する方法で行い、「高(high)」「中(moderate)」「低(low)」「非常に低(very low)」にグレーディングされている。“けいれん”と“てんかん” “けいれん”とは「全身または一部の骨格筋が、不随意な硬直性または間代性収縮を起こすこと」であり、患者は持続的あるいは断続的なぴくつきを訴える。眼瞼けいれんなど、てんかんと無関係な病態でもけいれんを起こす。一方、“てんかん”とは「大脳神経細胞群の突発的・同期性過剰放電に基づく現象」を示し、けいれんを起こす時も起こさない時もある。宇川氏によると、「“epilepsy”はてんかんという病名を意味し、発作そのものを意味しない。さらに“convulsion”と“spasms”はいずれもけいれんと訳されるが、前者は[てんかんによるけいれん]を指し、後者は[末梢神経由来・筋肉由来のものなど]を指す」と指摘。また、同氏は「てんかんという日本語は、病名として使う場合と症状として使う場合がある。これには英語の概念を日本語訳したことによる混乱が影響している」と日本語訳の解釈について言及した。てんかん診療ガイドラインに薬物開始時期が追加 薬物療法を開始するに当たり、開始時期とその予後についてしばしば議論される。本ガイドラインでは「初回てんかん発作で薬物療法を開始すべきか」というCQにおいて、「初回の非誘発性発作では、ある条件を除き原則として抗てんかん薬の治療は開始しない。ただし、高齢者では初回発作後の再発率が高いため、初回発作後に治療を開始することが多い」と記されるようになった。ただし、「医学的根拠があれば初回発作から開始する場合もある」と同氏は述べている。第2世代薬も第1選択へ 2006年以降、日本において第2世代に分類される薬剤では、11剤が承認・販売された。これらは全般てんかん・部分てんかん、それぞれの新規発症患者だけでなく、高齢発症患者に対しても使用が推奨されるようになった。てんかんとの鑑別に注意が必要な疾患 成人において、てんかんと鑑別されるべき疾患は11項目に上る。なかでも、失神(神経調節性、心原性など)と心因性非てんかん発作(PNES)は突然発症の意識消失で救急外来を訪れる患者の40%を占めるため、これらの患者のてんかんを否定することが必要である。失神発作は発作後に意識変化や疲労、倦怠感を伴わない点が特徴であるため、鑑別には一般の検査(脳波、MRI、CT)だけでなく、心血管性の原因を精査することが重要とされる。それでも鑑別が難しい場合はビデオ脳波同時記録も行う。これらの診断を誤ると「間違って、てんかん患者として抗てんかん薬を服用し続ける原因につながる」と同氏は注意を促している。 そして、てんかんを誘発する原因として、1)脳卒中、2)睡眠不足、3)急性中毒(薬物、アルコール)・薬物離脱・アルコール離脱の3項目が該当する。これについて同氏は「まずは原疾患治療に抗てんかん薬をオンして治療を行っていくが、症状の改善に応じて抗てんかん薬をオフすることが可能」と説明した。てんかん診療ガイドラインの今後の課題 最後に同氏は「毎年は改訂できないが、年に1回の頻度で追補版を学会ホームページに公開している。これからも先生方の意見を基にガイドラインをブラッシュアップしていきたい」と締めくくった。

152.

親の年齢とてんかんリスクに関するレジストリベース調査

 出産時の母親、父親の年齢および親の年齢差と子供のてんかんリスクとの関連について、デンマーク・オーフス大学のJulie W. Dreier氏らが検討を行った。Epilepsia誌オンライン版2018年6月13日号の報告。 研究グループは、1981~2012年にデンマークで生まれたすべての単生児について、プロスペクティブ人口ベースレジストリ研究を実施した。Cox回帰分析を用いて、てんかんのハザード比(HR)および95%信頼区間(95%CI)を推定し、交絡調整を行った。 主な結果は以下のとおり。・研究期間中に158万7,897例、合計2,500万人年をフォローアップし、てんかん患者2万1,797例を抽出した。・母親の年齢が20歳未満で、父親が母親より5歳以上年上の夫婦に生まれた子供において、てんかんの過剰なリスクが認められた(HR:1.17、95%CI:1.07~1.29)。・両親の年齢差が大きくなるとてんかんリスクが増加し、父親が母親よりも15歳以上年上で、そのリスクは最も高かった(調整HR:1.28、95%CI:1.16~1.41)。・両親の年齢差を考慮した際、母親の年齢とは対照的に、父親の年齢は子供のてんかんリスクに関連する独立因子ではなかった(p=0.1418)。・母親の年齢および両親の年齢差との関連は、てんかんのサブタイプにおいて不変であり、てんかん発症年齢により修正されたが、その影響は子供の生後10年間において最も顕著であった。 著者らは「母親の年齢および両親の年齢差は、父親の年齢と無関係に、子供のてんかんリスクとの関連が認められた。本結果は、父親の年齢が高いとde novo変異が子供のてんかんリスクを高めるとの仮説を支持しなかった」としている。■関連記事スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬使用に関する比較研究小児てんかんに対するレベチラセタムとフェノバルビタールの有効性比較母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か

153.

日本発の治療薬を世界中の患者さんへ

 2018年6月20日、ノーベルファーマ株式会社は、「ラパリムスゲル0.2%」(一般名:シロリムス外用ゲル剤)が、「結節性硬化症に伴う皮膚病変」の治療薬として6月6日に発売されたことを期し、本剤に関する記者発表会を都内で開催した。発表会では、結節性硬化症の概要のほか、本剤の開発経緯や特徴などの講演が行われた。患者さんの声に応えて研究・開発された治療薬 発表会では、金田 眞理氏(大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座 皮膚科学教室 講師)を講師に迎え、「結節性硬化症に伴う皮膚病変の治療革命」をテーマに講演が行われた。 「結節性硬化症」(以下「TSC」と略す)とは、タンパク質キナーゼのmTORが恒常的に活性化することで、皮膚、神経系、腎、肺、骨など諸部位に過誤腫や過誤組織を形成する疾患。最近では胎児期の心横紋筋腫をきっかけに発見される例も増えてきているという。精神遅滞、てんかん、血管線維腫が3主徴とされ、とくに皮膚症状は99%の患者で起こり、顔面にできる血管線維腫は、患者のQOLやADLを低下させ、長年苦しめてきた。治療では、根治療法はなく、個々の症状への対症療法が行われている。 皮膚病変の治療では、mTOR阻害薬の内服薬のほか外科的治療が行われてきたが、内服薬では効果が緩徐で長期服用が必要とされることから副作用の懸念があり、外科治療では全身麻酔による処置が必要なことも多く、患者や患者家族からは痛みのない、外用薬の開発が望まれていた。そうした患者らの声を受けて、同氏が研究・開発した外用薬が「ラパリムスゲル」である。 同氏による医師主導治験では、1日2回塗布で12週後の効果を検討すると、小さな腫瘤や白斑などは消失し、縮小効果は成人よりも小児の方に大きく効果がみられたほか、線維性局面も同様に小児の方に効果が大きくみられたという。 問題点について同氏は「塗布を中止すると再燃すること、塗布の継続期間や頻度、効果判定や長期使用の安全性など課題も多い」と指摘する。最後に「今回の治療薬開発プロセスが、今後のわが国の創薬モデルとなりうると考える」と展望を述べ、講演を終えた。先駆け審査指定制度の第1号として誕生 本剤は、日本から世界に発信をするという意味合いで、厚生労働省の定める先駆け審査指定制度*の第1号として認定され、承認された治療薬である。適用症は「TSCに伴う皮膚病変」であり、世界初となる。作用機序としては、TSCで恒常的に活性化しているmTORをシロリムスが阻害することで皮膚病変の症状を緩和する。 本剤は、2015年から検証試験および長期試験(国内第III相試験)が行われ、TSCに伴う血管線維腫に対し、ラパリムスゲル群(n=30)とプラセボ群(n=32)に分け、12週後の改善度を比較した結果、ラパリムスゲル群は改善率60.0%に対し、プラセボ群は0%(p<0.001 Fisherの直接確率検定)だった。また、線維性頭部局面の改善度に対し、ラパリムスゲル群(n=13)とプラセボ群(n=16)で同様に12週後の改善度を比較した結果、ラパリムスゲル群は改善率46.2%に対し、プラセボ群は6.3%(p=0.026 Fisherの直接確率検定)とラパリムスゲル群の有効性が確認された。安全面についてみると、12ヵ月の長期試験で有害事象を伴う中止にいたらなかった患者割合は97.9%だった。また、主な副作用としては、皮膚乾燥、適用部位刺激感、ざ瘡、そう痒症、ざ瘡様皮膚炎、眼刺激などが報告されたがいずれも重篤なものはないという。用法・用量は、通常1日2回患部に適量を塗布。薬価は3,855 円(0.2% 1g)となる。*先駆け審査指定制度とは、対象疾患の重篤性など、一定の要件を満たす画期的な新薬などについて、開発の早期段階から対象品目に指定し、薬事承認に関する相談・審査で優先的な取扱いをすることで、承認審査の期間を短縮することを目的としたもの。

154.

遺伝性ジストニア〔Dystonia〕

1 疾患概要■ 概念・定義ジストニアは、捻転性・反復性のパターンを持った異常な筋収縮により姿勢や動作が障害される病態と定義されているが、その本態は姿勢や自動運動など意識せずに遂行できる運動のプログラム単位の異常ということができる。(1)動作(または姿勢)特異性、(2)一定のパターンを持った動作である、(3)感覚トリックを有する(たとえば軽く健側の手で患側の手を触れることで症状が軽減するなど)という3点がそろう不随意運動である。過去には心因性疾患の1つとして捉えられることも多かったが、現在では基底核疾患の1つとされている。ジストニアを主徴として遺伝性を示す疾患には(1次性)遺伝性ジストニアと遺伝性神経変性疾患、遺伝性代謝疾患がある。遺伝性ジストニアは浸透率の低いものが多く、孤発性とみなされているものも多い。また、同じ遺伝子による病態であっても発症年齢などによる修飾が大きく同じ疾患と診断できない場合も多いとされている。■ 疫学難治性疾患研究の「ジストニアの病態と疫学に関する研究」研究班での調査によると、ジストニアの頻度は人口10万人あたり15~20例とされ、その中で遺伝性ジストニアの頻度は人口10万人あたり0.3例とされている。わが国における遺伝性ジストニアではDYT5ジストニア(瀬川病)の頻度が最も高く、次いでDYT1ジストニアが多いとされている。確定診断は遺伝子診断で行うが、「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009」(日本神経学会)に示された手順に準じて行う必要がある。■ 病因ジストニアの発症メカニズムとしては、特定の姿勢や自動運動に際して不必要な筋の活動が見られ、基底核運動ループの筋を収縮させる直接路とその周辺の筋を抑制する間接路のバランスの破綻が想定されている。同じ基底核疾患であるパーキンソン病が、ドパミンの相対的な欠乏によって運動が遅く、小さくなるのと逆であるといえる。ジストニアにおいて、遺伝性ジストニアと孤発性ジストニアの原因がどう異なっているかは、まだ解明されていない。よって、両者の区分も実際は非常に難しく、遺伝性の判別が比較的容易であった発症年齢の若いタイプのジストニアから順に抽出され、定義され、遺伝性ジストニアというカテゴリーが確立されてきたといえる。よって、いまだ見出されていないタイプの遺伝性ジストニアが存在する可能性が示唆され、孤発性として分類されているものがあると予想される。■ 症状遺伝性ジストニアにおいて、DYTシリーズでは現在1~20まで分類があり、本稿では比較的頻度が高く、治療法の報告がある群を中心に症状を述べる。DYT1ジストニアは、全身性捻転性ジストニアで10歳前後の発症の場合に考慮すべきジストニアである。ジストニアが下肢か腕から始まり、全身に広がる。下肢発症の症例のほうが、より若年発症で全身に広がる頻度が高いといえる。進行により罹患部位の変形を来す。瀬川病(DYT5)は、わが国で発見されたドーパ反応性の遺伝性ジストニアで、常染色体優性遺伝形式をとるが不完全浸透で女性優位(4:1またはそれ以上)に発症する。家系により遺伝子変異部位は異なる。発症年齢は10歳以下が多く、下肢ジストニアで発症し、歩行障害を示す。体幹捻転の要素はない。尖足、内反尖足などの足の変形が多い。著明な日内変動を示し、昼から夕方にかけて症状が悪化し、睡眠によって改善する。固縮、姿勢時振戦があり低用量のL-dopaにより著明に改善する。DYT8ジストニア(発作性非運動誘発性ジスキネジア1)は、不完全浸透の常染色体優性遺伝であり、小児期に発症する。非運動誘発性の発作性のジストニア、舞踏アテトーゼが症状で、一側の上下肢に生じることが多いが、両側のことも体幹や顔面を含むこともある。アルコール・カフェイン摂取、緊張感、疲労などが誘因になるとされる。DYT10ジストニアは、反復発作性運動誘発性ジスキネジアであり、常染色体優性で小児期から成人期に発症する。急激な随意運動に伴って発作性のジストニアを一側の上下肢に生じ転倒する。両側のこともある。10~30秒で5分を超えない発作を1日に数十回~数日に1回の頻度で繰り返すとされる。DYT11ジストニアは、不完全浸透の常染色体優性遺伝で、小児期~青年期にミオクローヌスとジストニアを来す。ミオクローヌスは頸部、上肢に見られ、ジストニアは捻転ジストニア、頸部ジストニア、書痙などである。アルコールで著明に改善するとされており、精神科的異常を伴うことが多いとされる。DYT12ジストニアは、不完全浸透の常染色体優性遺伝であり、14~45歳に急性に発症し、数分~1ヵ月で症状は完成し、症状が固定するとされる。顔面口部に強いジストニアを呈する。肉体的あるいは心理的なストレスの後に発症する傾向がある。DYT18ジストニアは、小児期に発症する。運動練習、持続的な運動、とくに歩行の後でジストニア、舞踏アテトーゼ、バリスムなどの不随意運動を生じる。てんかん発作を伴うものが多い。頭部MRI検査で多系統萎縮症様の被殻尾側の異常所見やFDG-PET検査で異常側視床の取り込み低下を認める。■ 分類遺伝性ジストニアは、遺伝様式、ジストニアの発症年齢、全身性か局所性か、持続性か発作性かで分類される(表)。表 遺伝性ジストニアの分類I 1次性捻転ジストニア1)全身性ジストニアDYT1ジストニア、DYT2ジストニア、 DYT17ジストニア2)局所性・分節性ジストニアDYT4ジストニア、DYT6ジストニア、 DYT7ジストニア、DYT13ジストニアII ジストニア-パーキンソニズム1)ドパ反応性ジストニアDYT5ジストニア・DYT12ジストニア・DYT16ジストニア2)ミオクローヌスジストニアDYT11ジストニア・DYT15ジストニアIII 発作性ジストニアDYT8ジストニア・DYT9ジストニア・DYT10ジストニア・DYT18ジストニア・DYT19ジストニア・DYT20ジストニアIV 2次性ジストニア1)神経変性疾患(遺伝性神経変性疾患、遺伝性代謝性疾患に伴うジストニア)で頻度の高い疾患DYT3ジストニア・SCA1、2、3、17、PARK2、6、15、家族性痙性対麻痺、PANK(pantothenate kinase associated neurodegeneration)、有棘赤血球舞踏病、ハンチントン病、レーバー病、GM1ガングリオシドーシス、GM2ガングリオシドーシス(テイ・サックス病)、ニーマン・ピック病C型、レット症候群2)代謝性疾患ウィルソン病■ 予後ジストニア自体で生命が脅かされることはない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先述のように、「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009」(日本神経学会)に示された手順に準じて、確定診断は遺伝子診断で行う必要がある。DYT1は、常染色体優性遺伝で原因遺伝子は9q34の150kbの領域に位置しており、TorsinA遺伝子のアミノ酸コード領域中のCAG欠失が見出された。この変異がDYT1の原因である。DYT5は、日本の瀬川 昌也氏らによってはじめて報告された。常染色体優性遺伝をとるが不完全浸透で女性に多い。GCH1遺伝子上の機能喪失型変異によって引き起こされることがわかっている。GCH1遺伝子は、ドパミン合成速度を制御する機能を持つ。GCH1遺伝子の機能喪失型変異による酵素活性の不足は、黒質線条体のドパミン作用性ニューロンにおけるドパミン減少を導き、このようなドパミン減少によってジストニア症状が引き起こされていると推測されている。これまでGCH1遺伝子には60以上の異なった変異が報告されている。このような高い変異率が実現されるメカニズムはいまだ不明である。DYT8は、不完全浸透型の常染色体優性遺伝形式を示し、原因遺伝子はMR-1(MIM609023)である。DYT10の原因遺伝子はPRRT2(proline-rich transmembrane protein 2)である。DYT11は、不完全浸透型の常染色体優性遺伝形式を示し、病因遺伝子産物はSGCE(ε-sarcoglycan)で平滑筋、神経系に分布する。DYT12は不完全浸透型の常染色体優性遺伝形式を示し、原因遺伝子はATP1A3である。DYT18は常染色体優性遺伝形式を示し、原因遺伝子はSLC2A1である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)局所性ジストニアの場合は、ボツリヌス治療が第1選択となる。とくに眼瞼痙攣と痙性斜頸に対するボツリヌス治療は高いエビデンスがある。ボツリヌス治療以外の薬物治療としては、眼瞼痙攣などの顔面ジストニアに対しては塩酸トリヘキシフェニジル(商品名:アーテン、トレミン)などの抗コリン薬、クロナゼパム(同:リボトリール、ランドセン)、ジアゼパム(同:ダイアップ)などのベンゾジアゼピンの効果が報告されている。痙性斜頸に対しては抗コリン薬、クロナゼパムやジアゼパムなどのベンゾジアゼピン、バクロフェン(同:ギャバロン、リオレサール)などが使われる。重症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。書頸などの上肢ジストニアにおいても、他の局所ジストニアと同様の内服治療を行う以外に、神経ブロックなどが効果的な場合もあるが、有効性は低いといわれている。全身性ジストニアにおいても、特定部位の筋弛緩が生活の質の改善または合併症の進行予防にボツリヌス治療は有効である。また、DYT1は淡蒼球のDBSが著効を呈する。DYT5などのドパ反応性ジストニアは少量のL-dopa(同:ドパストン、ドパゾール)が劇的に奏効する。ボツリヌス毒素の筋肉注射治療は、大量反復投与では毒素に対する抗体産生が作用を無効化するため問題になる。なお、使用に当たっては講習会出席により得られる資格が必要である。4 今後の展望ジストニアに対するボツリヌス治療単独では、治療困難な例も多く、そのような治療抵抗性のジストニアに対しては薬物治療の併用がすすめられる。ゾルピデム(商品名:マイスリーほか)は不眠症などの治療に用いられるが、50~70mg/日という高濃度のゾルピデム治療が視床や視床下核のGABAA受容体に結合し、また淡蒼球にもなんらかの影響を及ぼす結果、大脳基底核-視床-大脳皮質運動野の経路を直接的に、あるいは間接的に改善することでジストニアの治療につながっている可能性があり、治療抵抗性のジストニアに対し、ゾルピデムによる治療も新たな治療方法として期待できる。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 遺伝性ジストニア(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)梶龍兒ほか. 臨床神経. 2008;48:844-847.2)田宮元. Brain Nerve. 2005;57:935-944.3)長谷川一子. ジストニア. 中外医学社;2012.p.20-52.4)梶龍兒 編集. ジストニアのすべて―最新の治療指針. 診断と治療社;2013.p.93-94.公開履歴初回2018年06月26日

155.

ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法

 ベンゾジアゼピン(BZD)治療抵抗性アルコール離脱は、利用可能な薬剤に関するエビデンスが限定的であるため、多くの施設において課題となっている。現在、アルコール離脱に対して、NMDA受容体アンタゴニストであるケタミンを用いた研究が報告されている。米国・Advocate Christ Medical CenterのPoorvi Shah氏らは、ICU(集中治療室)におけるBZD治療抵抗性アルコール離脱患者への、症状コントロールに対する補助的なケタミン持続点滴療法の効果およびロラゼパム静注の必要性について評価を行った。Journal of medical toxicology誌オンライン版2018年5月10日号の報告。 2012年8月~2014年8月に、ロラゼパム静注に補助的なケタミン療法を追加した重度のアルコール離脱患者を対象とし、レトロスペクティブレビューを行った。アウトカムは、症状コントロールまでの時間、ロラゼパム静注の必要性、ケタミンの初日および最大日の注入速度、ケタミンの副作用とした。 主な結果は以下のとおり。・分析に含まれた対象患者は、30例であった。・ロラゼパム静注開始後のケタミンの平均開始時間は、41.4時間であった。・すべての患者において、ケタミン開始後1時間以内に初期の症状コントロールが認められた。・ケタミンの注入速度中央値は、初日で0.75mg/kg/時、最大日で1.6mg/kg/時であった。・ケタミン開始後24時間で、ロラゼパムの注入速度の有意な低下が認められた(-4mg/時、p=0.01)。・中枢神経系の副作用が報告された患者はいなかった。・高血圧が2例で報告され、ケタミン関連の頻脈の報告はなかった。 著者らは「BZD治療抵抗性アルコール離脱患者に対するケタミン併用は、症状コントロールを可能とし、ロラゼパム静注の必要性を潜在的に減少させる可能性がある。BZD治療抵抗性アルコール離脱患者のための最適な投与量、開始時期、治療場所を決定するためには、さらなる研究が必要である。NMDA受容体を介するケタミンの作用機序は、BZD治療抵抗性アルコール離脱に対し有益である可能性がある」としている。■関連記事アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬不眠症とアルコール依存との関連アルコール摂取量削減のためのサービングサイズ変更効果

156.

抗うつ薬は長期の体重増リスク/BMJ

 抗うつ薬処方と体重増加の関連を10年間フォローアップした結果、抗うつ薬処方は長期にわたる体重増のリスクと関連している可能性が示された。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのRafael Gafoor氏らが、同国のプライマリケア・データベースを利用した住民ベースのコホート研究の結果、明らかにしたもので、BMJ誌2018年5月23日号で発表した。結果を踏まえて著者は、「抗うつ薬治療の必要性を示す場合は、体重増加の可能性を考慮すべきである」とまとめている。肥満は世界的な課題で、抗うつ薬の使用は広がりつつある。これまで短期試験において、抗うつ薬使用と体重増加の強い関連性が示されているが、個々の抗うつ薬に関する長期的リスクのデータは存在していなかった。英国プライマリケア・データベースで住民コホート研究 研究グループは、英国内にある一般診療所のデータを集めたUK Clinical Practice Research Datalinkの2004~14年のデータを用いて、抗うつ薬処方と体重増加の長期的な関連性を調べた。被験者は、BMIに関する3つ以上の記録があった男性13万6,762例、女性15万7,957例。 主なアウトカムは、抗うつ薬処方、5%以上体重増の発生率、過体重または肥満への移行であった。年齢、性別、うつ病の記録、併存疾患、同時に処方された抗てんかん薬または抗精神病薬、所得レベル、喫煙、食事療法のアドバイスについて補正後のPoissonモデルを用いて、補正後率比を推算し評価した。5%以上の体重増、処方群は非処方群の1.21倍、体重増リスクは6年間以上持続 試験開始年において、抗うつ薬を処方されていたのは、男性1万7,803例(13.0%)、女性3万5,307例(22.4%)で、平均年齢は51.5歳(SD 16.6)であった。 フォローアップ183万6,452人年において、5%以上体重増の新たなエピソード発生率は、抗うつ薬非処方群で8.1/100人年、処方群で11.2/100人年と有意差が認められた(補正後率比:1.21、95%信頼区間[CI]:1.19~1.22、p<0.001)。 体重増のリスクは、フォローアップ中、少なくとも6年間は増大が続いていた。治療2年目に、抗うつ薬治療群で5%以上体重増の新たなエピソードを認める被験者数は、27例(95%CI:25~29)であった。また、試験開始時に正常体重であった被験者で、過体重または肥満に移行した被験者の補正後率比は、1.29(1.25~1.34)、過体重だった被験者が肥満に移行した同率比は、1.29(1.25~1.33)であった。 体重増加との関連について、抗うつ薬のクラス間には大きなばらつきがみられた。 著者は、関連には因果関係がない可能性があり、残余交絡因子が関連の過大評価に寄与している可能性があるとしている。

157.

不眠症とアルコール依存との関連

 アルコールを“睡眠補助”として使用した際のリスクを評価するため、米国・ウェイン州立大学のTimothy Roehrs氏らは、睡眠前のエタノールの鎮静・催眠効果での耐性の発現、その後のエタノール用量漸増、気分の変化、エタノール“愛好”について評価を行った。Sleep誌オンライン版2018年5月12日号の報告。 対象は、不眠症以外に関しては医学的および精神医学的に健康であり、アルコール依存および薬物乱用歴のない21~55歳の不眠症患者。試験1において、24例に対し睡眠前にエタノールを0.0、0.3、0.6g/kg(各々8例)投与し、夜間睡眠ポリグラフ(NPSG)を8時間収集した。試験2において、エタノール0.45g/kgまたはプラセボによる6日間の前処置を行った後、睡眠前のエタノールまたはプラセボのどちらを選ぶか、7日以上の選択の夜にわたり評価した。 主な結果は以下のとおり。・エタノール0.6g/kg投与は、総睡眠時間および第2夜の第3~4段階の睡眠を増加させたが、これらの効果は第6夜には失われた(p<0.05)。・6日間のエタノールでの前処置は、プラセボでの前処置と比較し、選択の夜におけるエタノール自己投与が多かった(p<0.03)。 著者らは「本研究は、不眠症患者の“睡眠補助”としてのアルコール使用に伴うリスクを明示する最初の研究である。エタノール投与開始の初期には、NPSGの睡眠および鎮静作用の自己報告が改善したが、第6夜には消失した。耐性については、睡眠前のエタノール自己投与の増加と関連が認められた」としている。■関連記事アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査よりアルコール依存症治療に期待される抗てんかん

158.

8種類の抗てんかん薬における主要な先天性奇形リスク比較のコホート研究

 抗てんかん薬による催奇形リスクを比較したエビデンスは不十分であり、とくに投与量に関連したエビデンスが不足している。スウェーデン・カロリンスカ大学病院のTorbjorn Tomson氏らは、抗てんかん薬の先天性奇形の発症頻度を比較するため、単剤療法で最も一般的に使用される8種類の抗てんかん薬について検討を行った。The Lancet. Neurology誌オンライン版2018年4月18日号の報告。 EURAP国際レジストリに基づいた、縦断的プロスペクティブコホート研究を実施した。妊娠時に抗てんかん薬の単剤療法を受けていた女性の妊娠データを、EURAPに参加している42ヵ国よりプロスペクティブに特定した。各妊娠期、出産時、出産1年後のフォローアップデータを収集した。主要な目的は、一般的に使用される8種類の抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、オクスカルバゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、トピラマート、バルプロ酸)のうち1剤を投与された妊婦の子における、出産1年後の主要な先天性奇形リスクの比較とした。また、用量依存性が特定された場合には、さまざまな用量の範囲でリスクを比較した。潜在的な交絡因子および予後因子で調整した後、ロジスティック回帰を用いて治療間の直接比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・1999年6月20日~2016年5月20日までに適格基準を満たした妊婦は、7,555例であった。・そのうち、8種類の抗てんかん薬のうち1剤を投与された妊婦は、7,355例であった。・薬剤ごとの主要な先天性奇形の有病率は以下のとおりであった。 ●バルプロ酸:1,381例中142例(10.3%) ●フェノバルビタール:294例中19例(6.5%) ●フェニトイン:125例中8例(6.4%) ●カルバマゼピン:1,957例中107例(5.5%) ●トピラマート:152例中6例(3.9%) ●オクスカルバゼピン:333例中10例(3.0%) ●ラモトリギン:2,514例中74例(2.9%) ●レベチラセタム:599例中17例(2.8%)・主要な先天性奇形の有病率は、カルバマゼピン(p=0.0140)、ラモトリギン(p=0.0145)、フェノバルビタール(p=0.0390)、バルプロ酸(p<0.0001)の妊娠時の用量に依存して増加した。・調整後の多変量解析では、ラモトリギン325mg/日以下よりも、カルバマゼピンの全用量、バルプロ酸の全用量、フェノバルビタール80mg/日超において、主要な先天性奇形の有病率が有意に高かった。・バルプロ酸650mg/日以下は、レベチラセタム250~4,000mg/日と比較し、主要な先天性奇形リスクの増加と関連が認められた(オッズ比:2.43、95%CI:1.30~4.55、p=0.0069)。・カルバマゼピン700mg/日超は、レベチラセタム250~4,000mg/日と比較し、主要な先天性奇形リスクの増加と関連が認められた(オッズ比:2.41、95%CI:1.33~4.38、p=0.0055)。・カルバマゼピン700mg/日超は、オクスカルバゼピン75~4,500mg/日と比較し、主要な先天性奇形リスクの増加と関連が認められた(オッズ比:2.37、95%CI:1.17~4.80、p=0.0169)。 著者らは「本検討より、催奇形リスクは、抗てんかん薬の種類や用量により異なることが示唆された。ラモトリギン、レベチラセタム、オクスカルバゼピンに関連する主要な先天性奇形リスクは、抗てんかん薬の使用がなかった妊婦の子について報告された結果と同程度であった。本知見より、治療選択肢に関連するリスクの比較を考慮した、抗てんかん薬の合理的な選択が可能となる。なお、本検討ではトピラマートとフェニトインの症例数が少ないため、慎重に考慮すべきである」としている。■関連記事スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬使用に関する比較研究新規抗てんかん薬の催奇形性リスクは妊娠中のSSRI使用、妊婦や胎児への影響は

159.

血栓回収ハンズオン【Dr. 中島の 新・徒然草】(218)

二百十八の段 血栓回収ハンズオン「血栓回収のハンズオンをやるから興味ある方は参加してください」と大学の脳外科医局から関連病院に呼びかけがあったので、ある土曜日に出かけてきました。血栓回収というのは、脳梗塞の急性期に血管内治療により主幹動脈から血栓を機械的に除去して脳血流の再灌流を図る治療法です。これまでは t-PA を静脈注射して血栓溶解を図っていたのですが、次第に血栓回収療法がメインになりつつあるように思います。脳外科医を名乗るからにはこの治療ができなくてはならない、ということで昨年から大学の医局主催で練習会が始まりました。昨年は70人の参加、今年はそれ以上の参加者数だということで、その人気ぶりというか皆の感じている必要性がよく分かります。昨年は70代の先生も参加して周囲を驚かせていましたが、今年の最年長は60代、某病院の副院長先生でした。また医学生や初期研修医向けのブースもあり、シミュレーターやゲームを使って血管内治療の面白さを体感してもらい、できればリクルートにつなげようという試みがなされていました。会場は、とあるビルの1フロアです。現役の脳外科医用には、ガイディングカテーテルのシステム組立て用のテーブルと模型から血栓回収を行うテーブルの2種類があり、順に練習するようになっていました。私なんかは血管内治療どころか血管造影すら何年もやっていないので、三方活栓やらインサーターやらトルクデバイスやら、わけのわからないモノに囲まれて戸惑ってしまいました。それでも若いインストラクターに教えてもらいながら練習しているうちに、徐々にサマになってきたような気がします。昭和とか平成初期卒業の先生の中には遠巻きにして眺めているだけの人も大勢居たので、「取り残されているのは自分だけじゃないんだ」と、何となく安心しました。練習会の後半はガイディングカテーテルのシステム組み立てのタイムトライアルです。完全にバラバラにした部品を使ってシステムを組み立てるというものです。単に時間を測るのも面白くないので、2人で向かいあっての対決方式でした。当院のレジデント達が対決しましたが、雑談しながら2人とも手慣れた感じで組み立てていきます。感心して見ていたところに現れた某先生。ミもフタもない一言を放ちました。某先生「タイム・イズ・マネーとか言われているのに、1から組み立てるのって無駄やんか。最初から組み立ててあるパッケージとか無いわけ?」この先生は日頃パーキンソン病やてんかんなどを専門にしているだけあって、血管内治療医の汗と涙にはあまり理解がありません。でも正論といえば正論です。つい私も言ってしまいました。中島「いくらゴルゴ13だって、相手に攻撃されてからM16を組み立てているようではアカンやろ」インストラクター「確かに最初から組み立ててあるシステムがあったら便利ですよね。どうしてそういうものがないのかな?」レジデント「こうやって組み立てるのも無駄といえば無駄な気がしてきました」中島「まあまあ、若者は要らんこと考えずに頑張っといたらエエんや」そんなこんなで晴れた休日の午後、血栓回収の練習でいい汗をかくことができました。ハンズオンの後は最年長先生の挨拶です。最年長「われわれが若い時にこんな練習会があったら良かったのに、と思います。心から今の若い人が羨ましい!」まったくその通りだわい、と私も思います。ところで、ちょっと気になって調べてみたところ、急性期脳梗塞治療の場合は「タイム・イズ・マネー」じゃなくて、「タイム・イズ・ブレイン」が正しいようです。まあ、マネーでもブレインでも大事なものには違いありませんが。というわけで最後に1句血栓を 老いも若きも 回収す

160.

アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

 アルコール依存症患者における不眠症の有病率は、36~91%であり、アルコール離脱後も持続する可能性がある。禁酒患者の不眠症を、アカンプロサートが減少させることが示唆されている。フランス・モンペリエ大学のPascal Perney氏らは、アカンプロサートは実際に不眠症を軽減させるのか、そしてその作用機序をより理解するため、大規模臨床試験データベースを用いて有効性の評価を行った。Alcohol and alcoholism誌オンライン版2018年3月30日号の報告。 本研究の目的は、個々の患者データのメタ解析を行い、不眠症の軽減に対するアカンプロサートの有効性の評価をすることである。12件の研究より3,508例が抽出された。6ヵ月間のフォローアップ後、ベースラインからの平均不眠症減少率は、アカンプロサート群で45%、対照群で26%であった(p<0.001)。 不眠症が記録されたアカンプロサートに関するすべてのランダム化試験より、患者データを抽出してメタ解析を行った。主要評価項目は、ハミルトンうつ病・不安評価尺度より得られた短時間睡眠指数(SSI:Short Sleep Index)により測定された、6ヵ月のフォローアップ後の不眠症の変化とした。メタ解析は、ランダム化治療効果、ランダム化試験効果およびベースライン重症度の共変量の調整を伴う、2レベルマルチレベル(患者/試験)混合モデルを用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・12件の研究より3,508例が抽出された。そのうち不眠症の患者は59.8%(95%CI:58.1~61.4)であった。・精神疾患既往歴、重度の依存、独居、γ-GTレベル異常が、不眠症のリスク因子であった。・6ヵ月間のフォローアップ後、ベースラインからの平均SSI減少率は、アカンプロサート群で45%、対照群で26%であった(治療効果:19%、95%CI:12.5~25.5、p<0.001)。・単変量媒介モデルでは、不眠症に対する禁酒の媒介効果は、不眠症軽減に対するアカンプロサート全体的効果の55.7%であった。 著者らは「アルコール依存症患者では、不眠症が一般的に認められる。不眠症は、禁酒により減少するが、アカンプロサート治療で、より減少する」としている。■関連記事認知症発症に対するアルコール使用障害の影響に関するコホート研究アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬お酒はうつ病リスク増加にも関連

検索結果 合計:421件 表示位置:141 - 160