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てんかん重積、レベチラセタムvs.ホスフェニトインvs.バルプロ酸/Lancet

 てんかん重積状態の小児・成人・高齢者は、レベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸に対して類似した反応を示し、約半数の患者で治療が成功したことが示された。米国・国立小児病院のJames M. Chamberlain氏らが、米国の58施設の救急部門で実施した多施設共同無作為化二重盲検responsive-adaptive試験「ESETT試験」で対象を小児まで拡大した後の、3つの年齢群のアウトカムについての解析結果を報告した。ベンゾジアゼピン抵抗性あるいは確定したてんかん重積状態は、小児と成人で病態生理は同じものと考えられていたが、根本的な病因や薬力学の違いが治療に対して異なった影響を及ぼす可能性があった。結果を踏まえて著者は、「3剤のいずれもベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態に対する、第1、第2選択薬の候補と考えられる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年3月20日号掲載の報告。ベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態の患者で、年齢群別に検討 研究グループは、2歳以上で、5分以上の全身痙攣発作に対し十分量のベンゾジアゼピンで治療を受けたことがあり、救急部門にてベンゾジアゼピン系薬の最終投与後5分以上30分未満の持続性または再発性の痙攣が続く患者を対象に試験を行った。 ベイズ法を用いるとともに年齢を層別化(<18歳、18~65歳、>65歳)して、response-adaptive法によりレベチラセタム群、ホスフェニトイン群およびバルプロ酸群に無作為に割り付けた。すべての患者、治験責任医師、治験スタッフおよび薬剤師が、治療の割り付けに関して盲検化された。 有効性の主要評価項目は、薬剤投与後1時間時点での追加の抗てんかん薬を必要としない意識の改善を伴う臨床的に明らかな発作消失とし、安全性の主要評価項目は、致死的な低血圧または不整脈とした。有効性および安全性は、intention-to-treat解析で評価した。年齢群を問わず3剤への反応は同等、約半数の患者が治療成功 2015年11月3日~2018年12月29日に478例が登録され、小児225例(<18歳)、成人186例(18~65歳)、高齢者51例(>65歳)の計462例が割り付けられた。レベチラセタム群が175例(38%)、ホスフェニトイン群が142例(31%)、バルプロ酸群が145例(31%)で、ベースラインの特性は各年齢群・治療群間でバランスが取れていた。 有効性の主要評価項目を達成した患者の割合は、レベチラセタム群で小児52%(95%信頼区間[CI]:41~62)、成人44%(95%CI:33~55)、高齢者37%(95%CI:19~59)であり、ホスフェニトイン群で小児49%(95%CI:38~61)、成人46%(95%CI:34~59)、高齢者35%(95%CI:17~59)、バルプロ酸群で小児52%(95%CI:41~63)、成人46%(95%CI:34~58)、高齢者47%(95%CI:25~70)であった。 有効性または安全性の主要評価項目は、各年齢群とも治療群間で差はなかった。また、安全性の副次評価項目は、小児の気管内挿管を除いていずれの年齢群も治療群間による差は認められなかった。

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メチルマロン酸血症〔Methylmalonic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義メチルマロン酸血症は常染色体劣性遺伝形式をとる有機酸代謝異常症である。メチルマロニルCoAムターゼという酵素の活性が低いために、身体が特定のアミノ酸(イソロイシン、バリン、スレオニン、メチオニン)や奇数鎖脂肪酸、コレステロールを適切に処理できず、メチルマロン酸をはじめとする中間代謝産物が蓄積し、代謝性アシドーシスを伴うさまざまな症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国における新生児マススクリーニングの試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)では、本症は11万人に1人の発症頻度だった。これは有機酸代謝異常症の中ではプロピオン酸血症(5万人に1人)に次ぐ頻度だったが、プロピオン酸血症患者の中には少なくとても小児期にはほぼ無症状の最軽症型が多く含まれるため、臨床的に問題となる有機酸代謝異常症の中では本症が最多の疾患である。■ 病因メチルマロニルCoAを異化する際に必要なメチルマロニルCoAムターゼの活性低下が原因である。先天的にメチルマロニルCoAムターゼの活性が低値の場合と、補酵素であるコバラミン(ビタミンB12)の代謝に異常がある場合に分けられる。いずれの場合も常染色体劣性遺伝形式をとる。■ 症状1)代謝不全発作疾患のコントロールが良好であれば無症状だが、感染症罹患・経口摂取不良、タンパク質過剰摂取時に代謝不全発作を起こしうる。活気不良、哺乳・食事摂取不良、嘔気・嘔吐、筋緊張低下、呼吸障害(多呼吸・努力呼吸・無呼吸)、意識障害といった症状が数時間~数日単位で進行し、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスや高アンモニア血症を伴う。2)中枢神経症状急性代謝不全により高アンモニア脳症や低酸素性虚血性脳症を来すと、重度の神経学的後遺症(精神運動発達遅滞、てんかん、筋緊張亢進など)を残しうる。大脳基底核病変により不随意運動が生じることもある。急性の代謝不全発作を起こさずとも、慢性進行性に上記の症状が出現することがある。3)嘔気・嘔吐メチルマロン酸血症の患者は、臨床的に明らかな代謝不全とは言えない場合でも嘔気・嘔吐の症状を呈することが多い。4)腎機能障害尿細管間質の慢性的な障害により腎機能が徐々に低下し、腎不全に至る例が存在する。正確な発症年齢や合併率はまだ明らかではないが、メチルマロン酸血症のサブタイプにより発症頻度が異なるとの報告がある。この腎機能障害は肝移植を受けた症例でも進行することが知られている。5)その他汎血球減少や視神経委縮、拡張型・肥大型心筋症、膵炎の合併報告がある。■ 分類1)分子遺伝学的分類Mut0:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定感度以下の症例Mut-:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定可能な症例cblA、cblB、cblD-variant2:コバラミンの代謝異常によるメチルマロン酸単独の増加(なお、cblC、cblE、cblF、cblGはホモシステイン増加を伴う)2)臨床的分類(1)発症前型新生児マススクリーニングにより代謝不全発作を起こす前に診断された症例。(2)急性発症型哺乳によるタンパク負荷が始まる新生児期と、食事間隔が空き、感染症罹患が増える乳幼児期に多い。前者はMut0の症例が多く、新生児マススクリーニングの結果が出る前に発症することもある。(3)遅発型成長発達遅延や食思不振、反復性嘔吐が徐々に進行する症例。小さな代謝発作を周期性嘔吐症や胃腸炎と診断されていることがある。経過中に重篤な代謝不全発作を起こすこともある。■ 予後代謝不全発作により脳症を併発した場合は重度の神経学的後遺症を残すことが少なくない。肝移植を受けた症例の多くで症状の改善が報告されているが、代謝不全発作や中枢神経症状の進行を完全に抑えられるわけではない。また、肝移植実施の有無に関わらず腎機能障害は進行し、腎移植が必要になることがある。移植の有無に関わらず、ほぼ全例でタンパク質摂取制限またはビタミン剤などの内服が生涯必要となる。代謝不全を可能な限り回避することが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 新生児マススクリーニング新生児マススクリーニングでC3またはC3/C2高値(C5-OH増加なし)を指摘された場合は、メチルマロン酸血症あるいはプロピオン酸血症を疑って精密検査を開始する。新生児マススクリーニングで指摘された時点で代謝不全になりかけている症例も存在するため、診断を詰めることよりも、まずは急性期治療が必要な状態かどうかを判断することが重要である。メチルマロン酸血症とプロピオン酸血症は、診察と一般検査のみで鑑別することは困難であり、急性期治療がほぼ同じであるため、初期治療の際に診断がついていなくても構わない。■ 外来で代謝疾患を疑う場合メチルマロン酸血症は、新生児マススクリーニングの結果が出る前に症状を呈する症例や、新生児マススクリーニングでは発見できない例が存在するため、新生児マススクリーニングで異常が無かったとしても本疾患を否定することはできない。感染症や絶食後の急激な全身状態の増悪、not doing well、努力呼吸、意識障害、けいれん、筋緊張低下といった病歴の患者を診察する際には、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、尿路サイクル異常症、ミトコンドリア異常症を念頭に置く必要がある。メチルマロン酸血症はその重要な鑑別診断である。1)問診と診察新生児期には哺乳量と体重増加量、嘔気・嘔吐、活気不良、傾眠傾向、努力呼吸(呻吟やクスマウル呼吸、多呼吸など)といった症状が、生後数日の時点から増悪傾向にないかを特に注意する。メチルマロン酸血症などの有機酸代謝異常症は、胎児期には母親が代謝を担ってくれるため無症状で、出生後哺乳によるタンパク負荷が始まってから症状が出現する。そのため、生直後は元気だったが徐々に活気不良となった、という病歴の方が有機酸代謝異常症らしい。乳幼児期以降では、離乳食が進み食事間隔が空いたときや感染症(特に胃腸炎)に罹患したときに急性代謝発作を起こしやすい。また、代謝不全による慢性の食思不振や反復する嘔気・嘔吐を、周期性嘔吐症やケトン性低血糖症と診断されていることがある。いずれの場合もアニオンギャップ陽性の代謝性アシドーシスを起こし、糖入りの点滴で症状が軽快するため原疾患に気付きにくい。検査ではアンモニアの測定や尿中有機酸分析が鑑別に有用である。2)検査メチルマロン酸血症の鑑別に必要な検査尿中有機酸分析(最低0.5mL、-20℃冷凍)、血漿アミノ酸分析39種類(血漿0.5mL、-20℃冷凍)、血漿総ホモシステイン(0.3mL冷蔵)、ビタミンB12(血清0.6mL冷蔵)、アシルカルニチン分析(ろ紙血最低1スポット、常温乾燥、乾燥後-20℃冷凍保存可)状態の評価に必要な検査血液ガス分析、アンモニア、一般生化学検査、血糖(血液ガス分析で代用可能)、血液像、尿定性(pH、ケトン体)※乳酸・ピルビン酸、遊離脂肪酸、血中ケトン体分画、頭部MRIも全身状態の評価や他の代謝異常疾患を鑑別する際に有用な検査である。3)鑑別(図)メチルマロン酸血症と確定した後は、ビタミンB12を内服させて反応性を評価する。病型診断にはメチルマロニルCoAムターゼ活性測定と遺伝子検査が有用である。図 メチルマロン酸血症の鑑別診断フローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 慢性期の管理母乳や調整粉乳に特殊ミルク(商品名:雪印S-22、S-23)を一定の割合で混合し、自然タンパクを制限しつつ必要なカロリーを確保する。薬物療法としてはメチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるビタミンB12や、有機酸の排泄促進目的でL-カルニチンを使用する。乳酸高値の場合はビタミンCを併用することもある。メトロニダゾールやラクツロースによる腸内細菌のプロピオン酸産生抑制も有効である。経口摂取が困難な場合は経管栄養を併用する。これらの治療を行っても代謝発作を起こすリスクが高い場合は肝移植を検討する。学童期以降に問題となりやすい腎機能低下に対して腎移植が必要になることもある。■ 代謝不全発作時基本的には他の有機酸代謝異常症の代謝不全と同じ対応でよい。急性期にはタンパク質摂取を中止し、異化抑制のためブドウ糖液で十分なエネルギーを確保する。ビタミンB12とL-カルニチンの投与も行う。高アンモニア血症に対して、急性期であればカルグルミン酸も有効である。循環・呼吸不全を安定化させても代謝性アシドーシスによるアシデミア(pH5 主たる診療科小児科、神経内科、移植外科、肝臓内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター メチルマロン酸血症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾患情報センター メチルマロン酸血症(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年03月16日

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処方薬が自主回収に 処方理由を掘り下げた代替薬の提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第16回

 製薬会社からの「自主回収のお知らせ」は、ある日突然アナウンスされます。「代替薬はどうしますか?」と医師に丸投げするのではなく、服用理由や副作用リスクを考慮しながら代替薬を提案しましょう。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患:慢性心不全、心房細動、高血圧症、糖尿病、症候性てんかん、甲状腺機能低下症既 往 歴:1年前に外傷性くも膜下出血で入院服薬管理:一包化処方内容1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠60mg 2錠 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.トルバプタン錠7.5mg 1錠 分1 朝食後5.レボチロキシンナトリウム錠50μg 1錠 分1 朝食後6.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後7.メトホルミン錠250mg 2錠 分2 朝夕食後8.リナグリプチン錠5mg 1錠 分1 朝食後9.テルミサルタン錠20mg1錠 分1 朝食後10.ラメルテオン錠8mg 1錠 分1 夕食後11.ミアンセリン錠10mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんの訪問薬剤管理指導を始めてから3ヵ月目に、MSDよりミアンセリン錠10mgの自主回収(クラスII)のアナウンスが入りました。理由は、安定性モニタリングにおいて溶出性が承認規格に適合せず、効果発現が遅延する可能性があるとのことで、使用期限内の全製品の回収と出荷停止が行われました。そこで、医師にミアンセリンから代替薬への変更を提案することにしました。服用契機は、入院中にせん妄が生じたため処方されたと記録されていました。また、以前からこの患者さんには不眠傾向があり、睡眠薬の代替としていることも考えられました。高齢者では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬により、せん妄や意識障害のリスクが懸念されるため、5HT2a受容体遮断作用により睡眠の質を改善するとともに、H1受容体遮断作用により睡眠の量も改善するミアンセリンが代替薬として少量投与されることがあります。なお、ラメルテオンもせん妄リスクのある患者で有効とするデータもあり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬のリスクを回避しつつ、せん妄と不眠症の両方の改善を目指していると思われました1)。これらの背景を考慮したうえで、代替薬としてトラゾドンを考えました。トラゾドンは、弱いセロトニン再取り込み阻害作用と、強い5HT2受容体遮断作用を併せ持つ薬剤です。睡眠に関しては、全体の睡眠時間を増加させ、持続する悪夢による覚醒やレム睡眠量を減らす効果を期待して処方されることもあり、せん妄と不眠症を有するこの患者さんには最適と考えました。処方提案と経過医師に「ミアンセリン自主回収に伴う代替薬」という表題の処方提案書を作成し、トラゾドンへの変更を提案しました。標準用量では過鎮静やふらつき、起立性低血圧など薬剤有害事象の懸念があると考え、少量の25mgを提案し、認知機能や運動機能低下の有害事象をモニタリング項目として観察することを記載しました。その結果、医師の承認を得ることができました。処方変更後、過鎮静やふらつきなどはなく、せん妄の再燃や入眠困難、中途覚醒などの症状もなく経過しています。1)Hatta K, et al. JAMA Psychiatry. 2014;71:397-403.2)山本雄一郎著. 日経ドラッグインフォメーション編. 薬局で使える 実践薬学. 日経BP社;2017.3)Sateia MJ, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2017:13;307-349.doi: 10.5664/jcsm.6470.

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妊娠中のマクロライド系抗菌薬、先天異常への影響は/BMJ

 妊娠第1期のマクロライド系抗菌薬の処方は、ペニシリン系抗菌薬に比べ、子供の主要な先天形成異常や心血管の先天異常のリスクが高く、全妊娠期間の処方では生殖器の先天異常のリスクが増加することが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのHeng Fan氏らの調査で示された。妊娠中のマクロライド系抗菌薬処方に関する最近の系統的レビューでは、流産のリスク増加には一貫したエビデンスがあるが、先天異常や脳性麻痺、てんかんのリスク増加には一貫性のあるエビデンスは少ないと報告されている。また、妊娠中のマクロライド系抗菌薬の使用に関する施策上の勧告は、国によってかなり異なるという。BMJ誌2020年2月19日号掲載の報告。マクロライド系抗菌薬の処方と子供の主要な先天異常を評価 研究グループは、妊娠中のマクロライド系抗菌薬の処方と、子供の主要な先天異常や神経発達症との関連を評価する目的で、地域住民ベースのコホート研究を行った(筆頭著者は英国Child Health Research CIOなどの助成を受けた)。 解析には、UK Clinical Practice Research Datalinkのデータを使用した。対象には、母親が妊娠4週から分娩までの期間に、単剤の抗菌薬治療としてマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)またはペニシリン系抗菌薬の投与を受けた、1990~2016年に出生した10万4,605人の子供が含まれた。 2つの陰性対照コホートとして、母親が妊娠前にマクロライド系抗菌薬またはペニシリンを処方された子供8万2,314人と、研究コホートの子供の同胞5万3,735人が解析に含まれた。妊娠第1期(4~13週)、妊娠第2~3期(14週~分娩)、全妊娠期間に処方を受けた妊婦に分けて解析した。 主要アウトカムとして、欧州先天異常監視機構(EUROCAT)の定義によるすべての主要な先天異常および身体の部位別の主要な先天異常(神経、心血管、消化器、生殖器、尿路)のリスクを評価した。さらに、神経発達症として、脳性麻痺、てんかん、注意欠陥多動性障害、自閉性スペクトラム障害のリスクも検討した。マクロライド系抗菌薬は研究が進むまで他の抗菌薬を処方すべき 主要な先天異常は、母親が妊娠中にマクロライド系抗菌薬を処方された子供では、8,632人中186人(1,000人当たり21.55人)、母親がペニシリン系抗菌薬を処方された子供では、9万5,973人中1,666例(1,000人当たり17.36人)で発生した。 妊娠第1期のマクロライド系抗菌薬の処方はペニシリン系抗菌薬に比べ、主要な先天異常のリスクが高く(1,000人当たり27.65人vs.17.65人、補正後リスク比[RR]:1.55、95%信頼区間[CI]:1.19~2.03)、心血管の先天異常(同10.60人vs.6.61人、1.62、1.05~2.51)のリスクも上昇した。 全妊娠期間にマクロライド系抗菌薬が処方された場合は、生殖器の先天異常のリスクが増加した(1,000人当たり4.75人vs.3.07人、補正後RR:1.58、95%CI:1.14~2.19、主に尿道下裂)。また、妊娠第1期のエリスロマイシンは、主要な先天異常のリスクが高かった(同27.39 vs.17.65、1.50、1.13~1.99)。 他の部位別の先天異常や神経発達症には、マクロライド系抗菌薬の処方は統計学的に有意な関連は認められなかった。また、これらの知見は、感度分析の頑健性が高かった。 著者は、「マクロライド系抗菌薬は、妊娠中は注意して使用し、研究が進むまでは、使用可能な他の抗菌薬がある場合は、それを処方すべきだろう」としている。

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神経疾患は自殺死のリスクを高めるか/JAMA

 1980~2016年のデンマークでは、神経疾患の診断を受けた集団は、これを受けていない集団に比べ、自殺率が統計学的に有意に高いものの、その絶対リスクの差は小さいことが、同国Mental Health Centre CopenhagenのAnnette Erlangsen氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年2月4日号に掲載された。神経学的障害は自殺と関連することが示されているが、広範な神経学的障害全体の自殺リスクの評価は十分に行われていないという。約730万人で、神経疾患の有無別の自殺死を評価 研究グループは、神経疾患を有する集団は他の集団に比べ、自殺による死亡のリスクが高いかを検証し、経時的な関連性を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(デンマーク・Psychiatric Research Foundationの助成による)。 1980~2016年に、デンマークに居住していた15歳以上の730万395人を対象とした。1977~2016年に、頭部外傷、脳卒中、てんかん、多発ニューロパチー、筋神経接合部疾患、パーキンソン病、多発性硬化症、中枢神経系感染症、髄膜炎、脳炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、認知症、知的障害、その他の脳疾患で受診した124万8,252例のデータを用いた。 主要アウトカムは、1980~2016年の期間に発生した自殺死とした。Poisson回帰を用い、社会人口学的因子、併存疾患、精神医学的診断、自傷行為で補正した発生率比(IRR)を推算した。ALSとハンチントン病で自殺死率が最も高い 1億6,193万5,233人年の期間に、730万人以上の集団(男性49.1%)で3万5,483人(追跡期間中央値:23.6年、IQR:10.0~37.0、平均年齢:51.9[SD 17.9]歳)が自殺死した。 自殺死の77.4%が男性で、14.7%(5,141人)が神経疾患の診断を受けていた。自殺死の割合は、神経疾患群が10万人年当たり44.0、非神経疾患群は10万人年当たり20.1で、補正後IRRは1.8(95%信頼区間[CI]:1.7~1.8)であり、神経疾患群で有意に高かった。診断からの期間によって、補正後IRRには違いがみられ、診断後1~3ヵ月が3.1(95%CI:2.7~3.6)と最も高く、10年以降は1.5(1.4~1.6)であった。 自殺死の補正後IRRが最も大きい疾患は、ALS(補正後IRR:4.9、95%CI:3.5~6.9)およびハンチントン病(4.9、3.1~7.7)であった。多発性硬化症の補正後IRRは2.2(1.9~2.6)、頭部外傷は1.7(1.6~1.7)、脳卒中は1.3(1.2~1.3)、てんかんは1.7(1.6~1.8)だった。 非神経疾患群と比較して、認知症(補正後IRR:0.8、95%CI:0.7~0.9)、アルツハイマー病(0.2、0.2~0.3)、知的障害(0.6、0.5~0.8)は、自殺死の補正後IRRが低かったが、認知症では診断から1ヵ月以内の補正後IRRは3.0(1.9~4.6)と高い値を示した。 また、神経疾患群では、神経疾患による受診回数が増えるに従って自殺率が上昇した(受診回数1回の補正後IRR:1.7[95%CI:1.6~1.7]、2~3回:1.8[1.7~1.9]、4回以上:2.1[1.9~2.2]、p<0.001)。 神経疾患群の自殺死は、1980~99年の10万人年当たり78.6から、2000~16年には10万人年当たり27.3に減少し、同様に非神経疾患群では26.3から12.7に低下した。 他の死因による競合リスクを考慮すると、アルツハイマー病を除く神経疾患群は非神経疾患群に比し、診断から1~3ヵ月に自殺死の累積発生率(絶対リスク)が増加していた。神経疾患群における30年間の自殺死の絶対リスクは0.64%(95%CI:0.62~0.66)であり、そのうちハンチントン病は1.62%(1.04~2.52)、筋神経接合部/筋疾患は1.19%(1.11~1.27)だった。 著者は、「ALSとハンチントン病の自殺死リスクが最も高いが、より頻度の高い疾患である頭部外傷や脳卒中、てんかんでも高い値を示した。認知症の診断直後のリスク増加は、引き続き注目に値する」としている。

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アレキサンダー病〔Alexander disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義最初の報告は1949年にAlexanderが記載した精神遅滞、難治性痙攣、および水頭症を認めた生後15ヵ月の乳児剖検例である。この症例の病理学的特徴は、大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に認められた多数のフィブリノイド変性で、後にこれはローゼンタル線維と同一であることが判明した。以後約50年間にわたりアレキサンダー病は「病理学的にアストロサイト細胞質にローゼンタル線維を認める乳児期発症の予後不良の進行性大脳白質疾患」と認識されてきた。しかし、2001年にBrennerらによりローゼンタル線維の構成成分の1つであるグリア線維性酸性タンパク(GFAP)をコードする遺伝子GFAPが病因遺伝子として報告されて以降、乳児期発症例とは臨床像がまったく異なる成人期発症で緩徐進行性の経過を示す症例が相次いで報告された。現在ではアレキサンダー病は「乳児期から成人期まで幅広い年齢層で発症するGFAP遺伝子変異による一次性アストロサイト疾患で、病理学的にはアストロサイト細胞質のローゼンタル線維を特徴的所見とする」と定義される。■ 疫学新生児期から70歳以上の高齢者まで幅広い年齢層で発症がみられる。わが国の有病者率は270万人あたり1人と推定される。しかし、未診断の症例や他の神経変性疾患(パーキンソン症候群や脊髄小脳変性症など)と診断されている症例が、少なからず存在すると思われる。臨床病型別頻度は、延髄・脊髄優位型が約半数と最も多く、大脳優位型が1/4強、中間型が1/4弱である(臨床病型については後述の「症状・分類」を参照)。わが国での全国調査によると延髄・脊髄優位型の約65%で常染色体優性遺伝形式を示唆する家族内発症がみられるが、遺伝学的あるいは病理学的検査により確定診断された家系の報告は非常に少なく、浸透率も不明である。一方、大脳優位型はほぼ全例がde novo変異である。■ 病因GFAP遺伝子変異による機能獲得性機序が考えられているが、病態には変異GFAPの発現量増加が重要と考えられている。これは、(1)ヒト野生型GFAPを過剰発現させたトランスジェニックマウスにおいてGFAP発現量に比例した寿命の短縮とローゼンタル線維の出現を認める、(2)変異GFAP遺伝子を単一コピーのみ導入したモデルマウスは臨床表現型を十分に示さない、という動物モデルの知見に基づく。ヒトのアレキサンダー病においてはGFAP遺伝子のmultiplicationの報告はなく、変異GFAPの量的変化に影響を与える遺伝的および環境因子の存在が示唆される。変異GFAPによるアストロサイトの機能障害としてプロテアソーム系の機能低下、ストレス経路への影響、異常なカルシウムシグナル変化、炎症性サイトカインの増加、グルタミン酸トランスポーターの発現低下と機能異常などが報告されている。もう1つの病理学的特徴である脱髄については、モデルマウスの研究からK緩衝系の異常によるミエリン形成や維持の障害が推測されているが詳細な機序は不明である。■ 症状・分類発症年齢により乳児型(2歳未満の発症)、若年型(2~12歳未満の発症)および成人型(12歳以上の発症)に分類されるが、近年、神経症状および画像所見に基づいた病型分類が提唱されており、本稿ではこの新しい病型分類を記載する。1)大脳優位型(1型)主に乳幼児期発症で、機能予後不良の重症例が多い。痙攣、大頭症、精神運動発達遅延が主な症状である。痙攣は難治性とされるが、コントロール良好で学童期ごろには軽減する症例も散見される。大頭症は乳児期に目立つ。経過とともに痙性麻痺、構音障害、発声障害、嚥下障害などの延髄・脊髄症状が顕在化する。新生児期発症例では水頭症、頭蓋内圧亢進、難治性痙攣を来し、生命予後は不良である。2)延髄・脊髄優位型(2型)四肢筋力低下、痙性麻痺、四肢・体幹失調、構音障害、発声障害、嚥下障害、自律神経障害(起立性低血圧、膀胱直腸障害、睡眠時無呼吸)といった延髄・脊髄症状が、種々の組み合わせで認められる。筋力低下にはしばしば左右差が認められる。上記以外の症候として約20%に筋強剛、約15%に口蓋振戦を認める(自施設解析データ)。大頭症、精神運動発達遅延は通常認めない。前頭側頭型認知症に類似した認知症を呈する症例もある。一過性の「反復性嘔吐」が唯一の症状で、MRIにて両側延髄背側に結節状病変を示す小児の報告がある。3)中間型(3型)発症時期は幼児期から成人期まで幅広い。大脳優位型および延髄・脊髄優位型の両者の特徴を有する。大脳優位型の長期生存例、および精神運動発達遅延を伴う延髄脊髄優位型のパターンが含まれる。精神運動発達遅延については、初診時まで医療機関で評価されず、小学生時に学力低下により支援学級に編入したなどの経歴をもつ症例がある。また、熱性痙攣やてんかんの既往歴をもつ症例も少なからず存在する。複視や側彎などの脊柱異常を伴うことも多い。■ 予後大脳優位型の生命予後は約14年と報告されている。新生児期発症例は、生後数週~数ヵ月で死亡することが多い。難治性痙攣や栄養障害、感染症などのため学童期までに死亡する症例が多いが、一方で学童期までに痙攣などが消失するなど、大脳症状が安定化する症例も少なからず認められる。このような症例は、学童期以降に歩行障害や嚥下障害などの延髄・脊髄症状が緩徐に進行して中間型に移行する。延髄・脊髄優位型の生命予後は、約25年と大脳優位型と比較すると良好だが、無症候あるいは非常に軽微な異常にとどまる症例から運動麻痺・球症状・呼吸症状が急激に増悪する症例まで症例差が大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)頭部および脊髄MRI検査による特徴的な所見がアレキサンダー病を疑う手がかりとなる。確定診断は遺伝子検査および病理学的検査による。近年は、遺伝子検査にて確定診断が行われる傾向にあるが、新規変異や非典型例では慎重な判定が必要となる。■ MRI検査1)大脳優位型前頭部優位の広範な大脳白質異常が特徴的である。その他、脳室周囲の縁取り(T2強調画像で低信号、T1強調画像で高信号を示す)、基底核と視床の異常、脳幹の異常(特に中脳と延髄)、造影効果がみられうる。2)延髄・脊髄優位型延髄・頸髄の萎縮・異常信号が特徴的である。典型的には橋が保たれた延髄・上位頸髄の著明な萎縮が認められ、その形状はオタマジャクシ様の特徴的な所見を示す(tadpole appearance)。高齢者や軽症例では延髄・頸髄の萎縮が目立たないことがあるが、このような症例では延髄錐体の異常信号と延髄外側および最後野付近の萎縮を伴い、水平断にて延髄にメダマチョウの眼状紋様の所見がみられる(eye spot sign)。大脳・中脳・橋の錘体路の異常信号は通常認めない。10代前半から20歳代の若年例では延髄の結節・腫瘤様異常がみられることが多い。その他、小脳歯状核門の信号異常やFLAIR像にて中脳の縁取り(midbrain periventricular rim)も高率にみられる所見である。大脳MRIではT2強調画像にて“periventricular garland”と表現される側脳室壁に沿った花弁状の高信号が認められる。この病変は造影効果を示すこともあり、この部分にはローゼンタル線維が多いとされる。3)中間型大脳優位型と延髄脊髄優位型の両者の特徴をもつ型と定義した通り、比較的広範な大脳白質病変と延髄・頸髄の萎縮・異常信号を認める。成人症例では大脳白質病変は嚢胞化を伴う傾向があり、延髄・頸髄の萎縮は高度である。■ 遺伝子検査これまで100種類以上のGFAP遺伝子変異が報告されている。大多数がミスセンス変異であるが、インフレーム挿入/欠失変異、終止コドン近傍のフレームシフト変異およびスプライス変異の報告もある。CpGが関与するR79、R88、R239、R416が置換される変異は、人種を越えて認められる。前3者が置換される変異は、大脳優位型および中間型に認められ、R416が置換される変異はすべての型で報告されている。一方、延髄・脊髄優位型において頻度の高い変異は特に存在しない。■ 病理学的検査大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に特徴的なローゼンタル線維を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では対症療法にとどまる。痙攣に対する抗てんかん薬の投与、栄養管理、併発する感染症に対する抗菌薬の投与、学習障害や認知機能障害に対する療育・ケアが行われる。痙性麻痺に対して抗痙縮薬や抗てんかん薬の投与が使用されることがある。4 今後の展望変異GFAP発現抑制を治療標的としたアンチセンス核酸とドラッグリポジショニングに関する動物実験レベルの報告がある。アンチセンス核酸を投与したモデルマウスの報告では安全性、髄液中のGFAP蛋白量の劇的な減少、ローゼンタル線維の消失が確認されている。近年、核酸医薬の技術発展は目覚ましく、神経難病領域においても脊髄性筋萎縮症では実用化されている現状を鑑みると、本症に対する治療開発も期待される。一方、ドラッグリポジショニングの候補薬剤としてセフトリアキソン、クルクミン、リチウムが報告されているが、いずれも現時点では臨床応用には至っていない。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」班 ホームページ(診断基準や典型的な画像所見なども掲載)難病情報センター アレキサンダー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Alexander WS. Brain. 1949;72:373-381.2)Brenner M, et al. Nat Genet. 2001;27:117-120.3)Yoshida T, et al. J Neurol. 2011;258:1998-2008.4)Prust M, et al. Neurology. 2011;77:1287-1294.5)Messing A, et al. Am J Pathol. 1998;152:391-398.6)Hagemann TL, et al. Ann Neurol. 2018;83:27-39.公開履歴初回2020年02月17日

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先天性トキソプラズマ感染症

1 疾患概要■ 概念・定義トキソプラズマはトーチ症候群の1つで、胎児感染(先天性感染)を起こすと、胎児・新生児期より水頭症、脳内石灰化、小頭症、網脈絡膜炎、小眼球症、精神神経・運動障害、肝脾腫などを起こす。遅発型として、成人までに痙攣、網脈絡膜炎、精神神経・運動障害などを起こすことがある。小腸粘膜などから母体内に侵入したトキソプラズマ原虫は、マクロファージを含む白血球に侵入し、血流に乗って全身へ広がる。妊婦では、まず胎盤に感染して、その後胎児脳や肝臓などの実質臓器に感染する。胎盤はトキソプラズマ感染が生じやすい組織でシストを形成し持続感染する。母体感染から胎児感染の成立まで、数ヵ月かかる。胎児感染のリスクは母体が感染した時期によって異なり、妊娠14週までの初感染で胎児感染率は10%以下と低いが症状は重度である。15〜30週の初感染で胎児感染率は20%、31週以降では60〜70%と高いが不顕性や軽症が多くなる。生後数年して眼病変が確認され、先天性トキソプラズマ症と診断されるケースもある。■ 疫学わが国の妊婦のトキソプラズマ抗体保有率は2〜10%である。2011年の報告では、妊婦抗体スクリーニングと治療を行った状況下として、先天性トキソプラズマ感染児の発生は、10,000分娩あたり1.26人と推計されている1)。2019年の報告でも、妊娠第1三半期の初感染率は0.13%で、感染児の発生は10,000分娩あたり0.9人(北海道)〜2.6人(宮崎県)と推計されている2)。■ 病因トキソプラズマは、ネコ科動物を終宿主とする細胞内寄生原虫で、中間宿主として多くの恒温動物に感染する。ヒトには感染動物の筋肉に含まれるシストや、ネコ科動物の糞便中のオーシストに汚染された土、食物や水を介して経口感染する。丈夫な壁の内側に多数の虫体を含むシストやオーシストは、環境中でも長期間生存して感染源となる。病原体としては栄養型、シスト、オーシストの3型が知られている。眼、鼻の粘膜や外傷から感染する可能性はあるが、その頻度は低いと考えられる。栄養型は急増虫体と呼ばれており、細胞内に寄生して急激に増殖するが、消毒液や胃酸で容易に不活化されるため、経口摂取による感染はまれである。ヒトへの感染は主に、シストやオーシストの経口感染によって起こる。加熱不十分な食肉中のシスト、飼い猫のトイレ掃除、園芸、砂場遊びなどによって手に付いたオーシスト、または洗浄不十分な野菜や果物に付着していたオーシストが、口から体内に入り感染が成立することが多い。■ 症状本症の3主徴は網脈絡膜炎、脳内石灰化、水頭症であるが、臨床的にそろうことはまれである。そのほかに、小頭症、血小板減少による点状出血、貧血などがある。これらはサイトメガロウイルスやジカウイルスによる先天性感染症でも同様の症状を呈することがあるため、鑑別が必要になる。精神運動発達遅延、てんかん、視力障害などの神経学的・眼科的後遺症につながることがある。■ 予後本症の1〜2%が死亡や知的障害となり、4〜27%に網膜脈絡膜炎を引き起こし、永続的な片側視力障害を残す。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症の診断は次の通り行う。また、検査の留意点を下に示す。●AまたはBが確認されれば、先天性感染があると診断する。A. 生後12ヵ月以上まで持続するトキソプラズマIgG陽性(母体からの移行抗体は、通常生後6〜12ヵ月で陰性化)B. 生後12ヵ月未満の場合、以下の項目のうち1つ以上満たす(1)児血のトキソプラズマIgGが母親の抗体価と比べて高値で持続する、または上昇するとき(2)児血のトキソプラズマIgMが陽性(3)児血、尿、または髄液からトキソプラズマDNAがPCR検査で検出(4)トキソプラズマ初感染の母親から出生した児で、児血のトキソプラズマIgGが陽性でかつ、先天性トキソプラズマ症の臨床症状を有するとき■ 疫学新生児血のトキソプラズマIgM陽性は、先天性感染児の1/4程度であること、新生児血でトキソプラズマIgMが陰性であってもトキソプラズマDNAが陽性の症例や、新生児血でトキソプラズマIgMとトキソプラズマDNAがともに陰性だが、羊水でDNA陽性で、かつ出生時に頭蓋内石灰化が見つかり先天性トキソプラズマ症と診断されたわが国の報告1)があるので留意する。Bの項目がすべて無くとも、Aの生後12ヵ月の検査でトキソプラズマIgG陰性が証明されなければ、先天性感染無しとは診断できない。トキソプラズマIgM陽性妊婦からの出生児は所見がなくても全員、生後12ヵ月までフォローアップと血液検査が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)スピラマイシン(商品名:同)が2018年8月に保険適用となった。また、IgG avidityは、標準化された検査法ではなく、検査機関毎に基準値が異なるため、その臨床的な正確性は明らかではない。それらを踏まえて、「トキソプラズマ妊娠管理マニュアル」が改訂され、2020年1月10日に第4版が発行された。妊娠初期にトキソプラズマIgGを測定し、IgG陰性者に妊娠中の初感染予防のための教育と啓発を行う。妊娠後期にIgGを再測定し、妊娠中にIgGが陽性化した初感染妊婦を同定する。IgG陽転化妊婦からの出生児は、精査と診断、フォローアップや治療を行う。IgG陽性妊婦ではIgMを測定する。IgM陽性では初感染疑いとして、胎児超音波断層法などの精査とスピラマイシン治療を行う。必要であれば、同意を得てIgG avidity測定(自費)、IgGを再検する。トキソプラズマIgM陽性妊婦のうち、およそ7割はpersistent IgMないし偽陽性で本当の妊娠中の初感染ではない(図)。図 トキソプラズマの妊婦スクリーニング方法画像を拡大するスピラマイシンによる治療の開始は、IgM値、IgG値の変化、生肉や飲料水以外の水の摂取、洗浄不十分な野菜や果物の摂取、猫の排泄物との接触、土いじり、砂場遊び、海外旅行 (中南米・中欧・アフリカ・中東・東南アジア)などの感染リスク行動の有無、リンパ節腫脹や発熱など症状の有無、および胎児の超音波所見を総合的に評価して決める。不安が強い場合など、羊水中トキソプラズマDNAをPCR検査する選択肢もある。しかし、羊水トキソプラズマDNA PCR検査は標準化されておらず、先天性感染に対して偽陽性および偽陰性があることに留意する。トキソプラズマは細胞内寄生感染を起こすため、羊水PCR陰性でも胎児感染を完全には否定できない。羊水PCR陽性例などで、胎児感染と診断したケースの胎児治療では、スピラマイシンは効果がない。胎児治療として、妊娠16〜27週の間はピリメタミン(同:ダラプリム)+スルファジアジン(同:同名)+ホリナート(同:ロイコボリン)による治療を行う。ピリメタミンは催奇形性が報告されており、ピリメタミンとスルファジアジンによる治療は妊娠16週以降とする。妊娠28週以降のスルファジアジンの投与については新生児核黄疸のリスクがあるため、ピリメタミン、スピラマイシンに変更する。一方、欧米では胎児感染例に対しては、ピリメタミンとスルファジアジンが分娩まで使用される。胎児感染が確定的な症例などで、妊娠28週以降もピリメタミンとスルファジアジンで治療する場合は、核黄疸リスクに留意しながら同意を得て行う。核黄疸リスクを回避するため、胎児感染が確定的な症例では妊娠28週以降分娩までピリメタミン+ロイコボリンで治療する場合もある。4 今後の展望保険適用の治療薬が使用できるようになったため、「トキソプラズマ初感染が疑われる妊婦」とは、トキソプラズマIgG陽性で問診などで症状があった、ないしIgM陽性の妊婦であると判断し、これら初感染疑いの妊婦にスピラマイシン投与が推奨される。現在のIgG avidityの測定は検査機関によって基準値は異なり、その臨床的な正確性は明らかではないため、この結果のみに基づいて保険適用薬の使用の可否を決めることは困難であり、誤って判断する危険性もある。したがって、今回の改定では、まだ標準化されていない保険収載のないIgG avidity検査を、妊婦スクリーニングに必須な検査として組み込むことを避けた。保険適用に向けて、IgG avidity検査を用いた妊婦のトキソプラズマ抗体スクリーニングは臨床研究として行われ、その有用性が証明されることが期待されている。5 主たる診療科産婦人科、小児科、耳鼻咽喉科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報神戸大学産科婦人科母子感染予防のホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)母子感染の予防と診療に関する研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会「トーチの会」(患者とその家族および支援者の会)1)Yamada H, et al. J Clin Microbiol.2011;49:2552-2556.2)Yamada H, et al. J Infect Chemother.2019;25:427-430.公開履歴初回2020年02月17日

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

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ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹、風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

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てんかん重積状態が止まらないときの薬剤選択(解説:岡村毅氏)-1162

 精神科医をしていると、世界はいまも謎に満ちていると感じる。ほかの科ではどうであろうか? 教科書だけ見ていると、多くのことが既知になり、予測可能になったように思われる。でも臨床現場はいまだにわからないことだらけだ。医師になって17年が過ぎたが、闇の中で意思決定をし続けなければならない臨床医学に、私はいまだに戦慄することがある。 精神医学の例を挙げだすと深みにはまるので、神経学の例を挙げよう。たとえば、てんかん重積状態である。ベンゾジアゼピンが効かない場合どうすればよいのだろうか? 日本神経学会のガイドラインでは、ホスフェニトインあるいはフェノバルビタールあるいはミダゾラムあるいはレベチラセタムとある。要するに、どれが優れているかわからないのだ。 いま、てんかん重積状態の患者がいるとしよう。初めにベンゾジアゼピンを使うところまでは、自信を持って進める。それでも止まらない場合…そこから先は闇の中を歩まねばならない。 本研究は、米国で一般的に使われるホスフェニトイン、レベチラセタム、バルプロ酸の静脈投与を救命救急科において多施設ランダム化二重盲検試験で比較したものである。連邦規則21 CFR 50.24に基づき、本人の同意は取られることなく試験が行われた。てんかん重積が止まらない状態では生命の危険があり、何が最も効くかはわかっておらず、意識消失しているので同意は取れないため、同意を集めていては研究のしようがないからである。また、現状でも3つの薬剤のどれを使うかは、その施設や担当医の裁量に任されており、患者サイドの体験(何が最も効くかはわからないが何かを投与される)は変わらない。 さて結果は、3剤の優劣は見いだされなかった(いずれも45~47%の効果)。この結果はこれまでの観察研究などの結果とも整合する。 本研究こそは、臨床医が日々接している謎(あるいは闇)を照らすものだ。いま再び、てんかん重積状態の患者がいるとして、初めにベンゾジアゼピンを使うところまでは自信を持って進める。しかし止まらない。この論文が出るまでは、この時点でもはや見える世界の端に到達してしまっていた。しかしこの論文を知ったいま、どれを使ってもほぼ同じ効果が見込めることがわかったので、闇を前にしたときの戦慄は多少抑えられることだろう。人間を相手にしているのだから、私たち臨床医は永久に闇に囲まれてはいるのだけれど。

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てんかん重積、レベチラセタムvs.ホスフェニトインvs.バルプロ酸/NEJM

 ベンゾジアゼピン系薬治療抵抗性の痙攣性てんかん重積状態の患者に対し、静注用抗痙攣薬レベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸は、いずれも効果は同等で、約半数で1時間以内に発作停止と意識レベル改善が認められることが明らかにされた。有害事象の発現頻度も3剤間で同程度だった。米国・バージニア大学のJaideep Kapur氏らが、384例を対象に行った適応的デザイン・無作為化二重盲検試験の結果で、NEJM誌2019年11月28日号で発表した。これまで、同患者への薬剤選択について十分な研究は行われていなかった。60分後までの発作停止と意識レベル改善を比較 研究グループは、ベンゾジアゼピン系薬治療抵抗性の痙攣性てんかん重積状態の小児および成人を対象に、適応的デザイン・無作為化二重盲検試験を行った。 被験者を無作為に3群に分け、静注用抗痙攣薬のレベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸をそれぞれ投与し、有効性と安全性を比較した。 主要アウトカムは、抗痙攣薬を追加せず、薬剤の注入開始から60分後までの臨床的に明らかな発作停止と、意識レベルの改善とした。各薬剤の有効性が最も高い/最も低い事後確率を算出して評価した。 安全性アウトカムは、生命を脅かす血圧低下または不整脈、気管内挿管、発作の再発、死亡などだった。3剤の発作停止・意識レベル改善率、45~47%と同等 試験には2015年11月3日~2017年10月31日に400例が登録された。そのうち16例は再発により2回登録された患者で、2度目の登録データは除外し、384例をintention-to-treat(ITT)の解析対象とした(レベチラセタム群145例、ホスフェニトイン群118例、バルプロ酸群121例)。なお本試験は、計画されていた中間解析で事前規定の無益性基準(1つの薬剤の優劣を見いだすことが無益である)を満たしたため、2017年11月に登録が中止となった。 ITT集団のベースラインにおける患者特性は3群間で類似していた。全被験者の55%が男性で、小児および思春期(最年長は17歳)が39%、18~65歳が48%、65歳超が13%だった。また、10%で心因性発作があったことが確認された。 主要アウトカムの60分後までの発作停止と意識レベルの改善は、レベチラセタム群は68例(47%、95%信用区間[Crl]:39~55)、ホスフェニトイン群は53例(45%、同:36~54)、バルプロ酸群は56例(46%、38~55)で認められた。各薬剤の有効性が最も高い事後確率は、それぞれ0.41、0.24、0.35だった。 安全性については、数値的には血圧低下と気管内挿管はホスフェニトイン群で他の2群に比べて多く、また死亡はレベチラセタム群で他の2群に比べて多かったが、いずれも有意差はなかった。

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脊髄小脳変性症〔SCD : spinocerebellar degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義脊髄小脳変性症は、大きく遺伝性のものと非遺伝性のものに分けられる。非遺伝性のものの半分以上は多系統萎縮症であり、多系統萎縮症では小脳症状に加えてパーキンソン症状(体の固さなど)や自律神経症状(立ちくらみ、排尿障害など)を伴う特徴がある。また、脊髄小脳変性症のうち、遺伝性のものは約3分の1を占め、その中のほとんどは常染色体優性(顕性)遺伝性の病気であり、その多くはSCA1、SCA2などのSCA(脊髄小脳失調症)という記号に番号をつけた名前で表される。SCA3型は、別名「Machado-Joseph病(MJD)」と呼ばれ、頻度も高い。常染色体性劣性(潜性)遺伝形式の脊髄小脳変性症は、頻度的には1.8%とまれであるにもかかわらず、数多くの病型がある。近年、それらの原因遺伝子の同定や病態の解明も進んできており、疾患への理解が深まってきている。多系統萎縮症は一般的に重い病状を呈し、進行がはっきりとわかるが、遺伝性の中には進行がきわめてゆっくりのものも多く、ひとまとめに疾患の重症度を論じることは困難である。一方で、脊髄小脳変性症には痙性対麻痺(主に遺伝性のもの)も含まれる。痙性対麻痺は、錐体路がさまざまな原因で変性し、強い下肢の突っ張りにより、下肢の運動障害を呈する疾患の総称で、家族性のものはSPG(spastic paraplegia)と名付けられ、わが国では遺伝性ではSPG4が最も多いことがわかっている。本症も小脳失調症と同様に、最終的には原因別に100種類以上に分けられると推定されている。細かな病型分類はNeuromuscular Disease CenterのWebサイトにて確認ができる。■ 症状小脳失調は、脊髄小脳変性症の基本的な特徴で、最も出やすい症状は歩行失調、バランス障害で、初期には片足立ち、継ぎ足での歩行が困難になる。Wide based gaitとよばれる足を開いて歩行するような歩行もみられやすい。そのほか、眼球運動のスムーズさが損なわれ、注視方向性の眼振、構音障害、上肢の巧緻運動の低下なども見られる。純粋に小脳失調であれば筋力の低下は見られないが、最も多い多系統萎縮症では、筋力低下が認められる。これは、錐体路および錐体外路障害の影響と考えられる。痙性対麻痺は、両側の錐体路障害により下肢に強い痙性を認め、下肢が突っ張った状態となり、足の曲げにくさから足が運びにくくなり、はさみ歩行と呼ばれる足の外側を擦るような歩行を呈する。進行すると筋力低下を伴い、杖での歩行、車いすになる場合もある。脊髄が炎症や腫瘍などにより傷害される疾患では、排尿障害や便秘などの自律神経症状を合併することが多いが、本症では合併が無いことが多い。以下、本稿では次に小脳失調症を中心に記載する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別診断小脳失調症については、治療可能なものを調べる必要がある。治療可能なものとして、橋本脳症が多く混ざっていることがわかってきており、甲状腺機能が正常かどうかにかかわらず、抗TPO抗体、抗TG抗体陽性例の測定が必要である。陽性時には、診断的治療としてステロイドパルス療法などの免疫療法の反応性を確認する必要がある。ステロイド治療に反応すれば橋本脳症とするのが妥当であろう。その他にもグルテン失調症などの免疫治療に反応する小脳失調症も存在する。また、抗GAD抗体陽性の小脳失調症も知られており、測定する価値はある。悪性腫瘍に伴うものも想定されるが、実際に悪性腫瘍の関連で起こることはまれで、腫瘍が見つからないことが多い。亜急性の経過で重篤なもの、オプソクローヌスやミオクローヌスを伴う場合には、腫瘍関連の自己抗体が関連していると推定され、悪性腫瘍の合併率は格段に上がる。男性では肺がん、精巣腫瘍、悪性リンパ腫、女性では乳がん、子宮がん、卵巣がんなどの探索が必要である。ミトコンドリア病(脳筋症)の場合も多々あり、小脳失調に加えて筋障害による筋力低下や糖尿病の合併などミトコンドリア病らしさがあれば、血清、髄液の乳酸、ピルビン酸値測定、MRS(MRスペクトロスコピー)、筋生検、遺伝子検査などを行うことで診断が可能である。劣性遺伝性の疾患の中に、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(ataxia with vitamin E deficiency : AVED)という病気があり、本症は、わが国でも見られる治療可能な小脳変性症として重要である。本症は、ビタミンE転送蛋白(α-tocopherol transfer protein)という遺伝子の異常で引き起こされ、ビタミンEの補充により改善が見られる。一方、アルコール多飲が見られる場合には、中止により改善が確認できる場合も多い。フェニトインなど薬剤の確認も必要である。おおよそ小脳失調症の3分の1は多系統萎縮症である。まれに家族例が報告されているが孤発例がほとんどである。通常40代以降に、小脳失調で発症することが多く、初発時にもMRIで小脳萎縮や脳血流シンチグラフィー(IMP-SPECT)で小脳の血流低下を認める。進行とともに自律神経症状の合併、頭部MRIで橋、延髄上部にT2強調画像でhot cross bun signと呼ばれる十字の高信号や橋の萎縮像が見られる。SCAの中ではSCA2に類似の所見が見られることがあるが、この所見があれば、通常多系統萎縮症と診断できる。さらに、小脳失調症の3分の1は遺伝性のものであるため、遺伝子診断なしで小脳失調症の鑑別を行うことは難しい。遺伝性小脳失調症の95%以上は常染色体性優性遺伝形式で、その80%以上は遺伝子診断が可能である。疾患遺伝子頻度には地域差が大きいが、わが国で比較的多く見られるものは、SCA1、 SCA2、 SCA3(MJD)、SCA6、 SCA31であり、トリプレットリピートの延長などの検査で、それぞれの疾患の遺伝子診断が可能である。常染色体劣性遺伝性の小脳失調症は、小脳失調だけではなく、他の症状を合併している病型がほとんどである。その中には、末梢神経障害(ニューロパチー)、知的機能障害、てんかん、筋障害、視力障害、網膜異常、眼球運動障害、不随意運動、皮膚異常などさまざまな症候があり、小脳失調以上に身体的影響が大きい症候も存在する。この中でも先天性や乳幼児期の発症の疾患の多くは、知能障害を伴うことが多く、重度の障害を持つことが多い。小脳失調が主体に出て日常生活に支障が出る疾患として、アプラタキシン欠損症(EAOH/AOA1)、 セナタキシン欠損症(SCAR1/AOA2)、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(AVED)、シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症(ARSACS)、軸索型末梢神経障害を伴う小脳失調症(SCAN1)、 フリードライヒ失調症(FRDA)などがある。このうちEAOH/AOA1、SCAR1/AOA2、 AVED、ARSACSについては、わが国でも見られる。遺伝性も確認できず、原因の確認ができないものは皮質小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy: CCA)と呼ばれる。CCAは、比較的ゆっくり進行する小脳失調症として知られており、小脳失調症の10~30%の頻度を占めるが、その病理所見の詳細は不明で、実際にどのような疾患であるかは不明である。本症はまれな遺伝子異常のSCA、多系統萎縮症の初期、橋本脳症などの免疫疾患、ミトコンドリア病などさまざまな疾患が混ざっていると推定される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)小脳失調症の治療は、正確な原因診断に関わっている。上記の橋本脳症、GAD抗体小脳失調、そのほかグルテン失調症など他の自己抗体の関与が推定される疾患もあり、原因不明であれば、一度はステロイドパルスをすることも検討すべきであろう。ミトコンドリア病では、有効性は確認されていないがCoQ10、L-アルギニンなども治療薬の候補に挙がる。ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様発作症候群(MELAS)においてはタウリンの保険適用も認められ、その治療に準じて、治療することで奏功できる例もあると思われる。小脳失調に対しては、保険診療では、タルチレリン(商品名: セレジスト)の投与により、運動失調の治療を試みる。また、集中的なリハビリテーションの有効性も確認されている。多系統萎縮症の感受性遺伝子の1つにCoQ2の異常が報告され、その機序から推定される治療の臨床試験が進行中である。次に考えられる処方例を示す。■ SCDの薬物療法(保険適用)1) 小脳失調(1) プロチレリン(商品名:ヒルトニン)処方例ヒルトニン®(0.5mg) 1A~4A 筋肉内注射生理食塩水(100mL) 1V 点滴静注2週間連続投与のあと、2週間休薬 または 週3回隔日投与のどちらか。2mg投与群において、14日間連続投与後の評価において、とくに構音障害にて、改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(2) タルチレリン(同:セレジスト)処方例セレジスト®(5mg)2T 分2 朝・夕食後10mg投与群において、全般改善度・運動失調検査概括改善度で改善を認める。28週後までに構音障害、注視眼振、上肢機能などの改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(3) タンドスピロン(同:セディール)処方例セディール®(5~20mg)3T 分3 朝・昼・夕食後タンドスピロンとして、15~60mg/日有効の症例報告もあるが、無効の報告もあり。重篤な副作用がなく、不安神経症の治療としても導入しやすい。2) 自律神経症状起立性低血圧(orthostatic hypotension)※水分・塩分摂取の増加を図ることが第一である。夜間頭部挙上や弾性ストッキングの使用も勧められる。処方例(1) フルドロコルチゾン(同:フロリネフ)〔0.1mg〕 0.2~1T 分1 朝食後(2) ミドドリン(同:メトリジン)〔2mg〕 2~4T 分3 毎食後(二重盲検試験で確認)(3) ドロキシドパ(同:ドプス)〔100mg〕 3~6T 分3 毎食後(4) ピリドスチグミン(同:メスチノン)〔60mg〕 1T/日■ 外科的治療髄腔内バクロフェン投与療法(ITB療法)痙性対麻痺患者の難治性の症例には、検討される。筋力低下の少ない例では、歩行の改善が見られやすい。4 今後の展望多系統萎縮症においてもCoQ2の異常が報告されたことは述べたが、CoQ2に異常がない多系統萎縮症の例のほうが多数であり、そのメカニズムの解析が待たれる。遺伝性小脳失調症については、その原因の80%近くがリピートの延長であるが、それ以外のミスセンス変異などシークエンス配列異常も多数報告されており、正確な診断には次世代シークエンス法を用いたターゲットリシークエンス、または、エクソーム解析により、原因が同定されるであろう。治療については、抗トリプレットリピートまたはポリグルタミンに対する治療研究が積極的に行われ、治療薬スクリーニングが継続して行われる。また、近年のアンチセンスオリゴによる遺伝子治療も治験が行われるなど、遺伝性のものについても治療の期待が膨らんでいる。そのほか、iPS細胞の小脳への移植治療などについてはすぐには困難であるが、先行して行われるパーキンソン病治療の進展を見なければならない。患者iPS細胞を用いた病態解析や治療薬のスクリーニングも大規模に行われるようになるであろう。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脊髄小脳変性症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Neuromuscular Disease Center(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者、患者家族向けの情報)1)水澤英洋監修. 月刊「難病と在宅ケア」編集部編. 脊髄小脳変性症のすべて. 日本プランニングセンター;2006.2)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. N Engl J Med. 2013; 369: 233-244.公開履歴初回2014年07月23日更新2019年11月27日

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脳梗塞・心筋梗塞既往歴のない患者でのアスピリン中止提案 【うまくいく!処方提案プラクティス】第8回

 今回は、抗血小板薬の中止提案を行った症例を紹介します。抗血小板薬の目的が動脈硬化性疾患の1次予防なのか2次予防なのかによって治療や提案すべき薬剤が異なってきますので、普段から患者さんの既往歴などの情報を得て、エビデンスを提示しながら提案できるとよいでしょう。患者情報80歳、女性(個人在宅)、体重:53kg、Scr:0.8基礎疾患:アルツハイマー型認知症、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症、症候性てんかん、心房細動、高血圧症、脂質異常症血  圧:130/70台服薬管理:同居の長男夫婦がカレンダーにセットされた薬で管理、投薬。長男夫婦の在宅時間に合わせて用法を朝夕・就寝前に設定。往  診:月2回処方内容1.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ウルソデオキシコール酸錠100mg 3錠 分1 朝食後4.L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 2錠 分2 朝夕食後5.バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg 2錠 分2 朝夕食後6.プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 夕食後7.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前8.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週木曜日9.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後(新規追加)本症例のポイントこの患者さんは、もともと循環器系の複合的な疾患がありますが、主治医からの診療情報提供書やケアマネジャーからのフェイスシートによると、脳梗塞や心筋梗塞の既往はありませんでした。ところが今回、心房細動と診断され、アスピリン腸溶錠が開始になったため大変驚きました。脳梗塞・心筋梗塞後などの再発予防目的(2次予防)としての抗血小板薬服用は臨床的使用意義が大きいことが確認されています。しかし、発症を未然に防ぐ目的(1次予防)の抗血小板薬の服用は、臨床効果よりも有害事象が上回ることが指摘されています。【JPAD試験1)】対象:動脈硬化性疾患の既往歴のない30〜85歳の2型糖尿病患者2,539例方法:アスピリン(81mgまたは100mg)投与群と非投与群に1:1に無作為に割り付けた(追跡中央値4.37年)評価項目:動脈硬化性疾患結果:動脈硬化性疾患の発現はアスピリン投与群で13.6件/1,000人年、非投与群で17.0件/1,000人年とアスピリン群で20%低い傾向にあるものの、統計学的有意差はなかった。【JPPP試験2)】対象:高血圧、脂質異常症、糖尿病を有する60〜85歳の日本人1万4,464例方法:既存の薬物療法+アスピリン(81mgまたは100mg)併用群と既存の薬物療法のみの群に無作為に1:1に割り付けた(追跡中央値5.02年)評価項目:心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合アウトカム結果:複合的アウトカムの発現率はアスピリン投与群で2.77%、アスピリン非投与群で2.96%とほぼ同等であったが、胃部不快感、消化管出血、さらに重篤な頭蓋外出血の有害事象はアスピリン投与群で有意に多かった。処方医は私が普段から訪問同行していない医療機関の医師でしたので、治療方針や処方意図は十分に把握できていないものの、上記の低用量アスピリンの1次予防のエビデンスから今回のアスピリン腸溶錠の中止および代替案の提示が必要と考えました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、JPAD試験とJPPP試験のデータを紹介し、1次予防のアスピリン腸溶錠の臨床的意義は低く、むしろ消化管出血などの有害事象のリスクがあるため、他剤への変更を提案しました。代替案については、心房細動における1次予防には直接経口抗凝固薬(DOAC)が適応と考え、腎機能・体重に合わせた補正用量であるエドキサバン30mg/日を提示しました。その後、トレーシングレポートを読んだ医師より電話連絡があり、提案のとおりにアスピリンを中止してエドキサバン30mgに変更する承認を得ることができました。速やかに処方変更の対応を行い、患者さんは胃部不快感や胃痛もなく経過しています。またエドキサバン変更後の皮下出血や鼻出血などの出血兆候もなく、副作用モニタリングは現在も継続中です。今回の症例のように1次予防の抗血小板薬については、基礎疾患や現病歴から適応の判断を検討し、医師とディスカッションを行うことで変更が可能かもしれません。1)Ogawa H, et al. JAMA. 2008;300:2134-2141.2)Ikeda Y, et al. JAMA. 2014;312:2510-2520.

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日本人高齢者のてんかん有病率は中年の約3倍、その原因は~久山町研究

 てんかんは小児期から老年期まで、すべての年齢層でみられる一般的な慢性神経疾患である。運転中にドライバーが発作を起こせば重大事故につながるリスクがあり、たびたび社会問題としても報じられている。米国・ロチェスターにおける研究では、てんかんの発生率が乳児と高齢者で高く、有病率が加齢と共に増加することが報告されているが、国内における人口ベースの研究はほとんどない。今回、京都府立医科大学の田中 章浩氏らが久山町研究で調べたところ、高齢者におけるてんかん有病率は中年の約3倍であり、症例の半数以上が高齢で最初の発作を経験していることがわかった。研究結果は、Epilepsia誌に掲載され、現在、神戸市で開催されている第53回日本てんかん学会でも報告された。 本研究は、久山町研究のサブスタディとして実施。2012年6月~13年11月の期間に、地域居住の40歳以上(4,679例)を対象に、心血管リスク因子とてんかん発作の経験の有無についての調査を実施し、このうち3,333例(居住者の71.2%)が登録された。 調査は対面のインタビュー形式で、てんかんの既往歴の有無および現在抗てんかん薬を服用しているか否かについて聞き取りが行われた。既往歴の定義は、過去5年以内に少なくとも1回の発作を起こし、神経科医の医師などによって診断された活動性てんかんのエピソードを有するか、抗てんかん薬を使用し、治療を受けていることとした。 調査の結果、23例がてんかんと診断され、有病率は1,000人あたり6.9症例(95%信頼区間[CI]:4.1~9.7)であった。この結果に有意な性差は認められなかった(p=0.23)。年齢層でみると、40~64歳の中年層(1,000人あたり3.6症例、95%CI:0.7~6.4)よりも、65歳以上の高齢層(1,000人あたり10.3症例、95%CI:5.4~15.1)で有意に高く、その差は約3倍の開きがあった(p=0.02)。てんかんの主な原因は脳血管疾患であった(n=11、てんかん症例の48%)。また、症例の半数以上が、65歳以上で初回エピソードを経験していることもわかった(n=13、同57%)。 著者らは、「今回の研究結果は、高齢者の脳血管疾患と関連して、てんかんの有病率が増加することを示唆している。将来的なてんかんリスクを軽減するためにも、脳血管疾患の予防が非常に重要である」と述べている。

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低リスク妊娠、第3期のルーチン超音波は有益か?/BMJ

 低リスク単胎妊娠において、妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことは通常ケアと比較して、出産前の在胎不当過小(SGA)胎児の検出率を高めるが、重度有害周産期アウトカムの発生減少には結びつかないことが明らかにされた。オランダ・アムステルダム大学医療センターのJens Henrichs氏らが、1万3,046例の妊婦を対象に行った無作為化比較試験の結果で、著者は「妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことを支持しない結果であった」とまとめている。BMJ誌2019年10月15日号掲載の報告。妊娠28~30週、34~36週に超音波検査を提供し通常ケアと比較 研究グループは2015年2月1日~2016年2月29日にかけて、オランダ国内の助産施設60ヵ所を通じて登録した、16歳以上の低リスク単胎妊娠の妊婦を対象に無作為化比較試験を行った。 施設では通常のケアとして、定期的な子宮底長測定と、臨床的に必要な超音波検査を行った。試験開始3、7、10ヵ月の各時点で、被験者の3分の1をコントロール群から介入群に割り付け、介入群に対しては、通常ケアに加え、妊娠28~30週、34~36週に2回のルーチン超音波検査を提供した。両群に対して同様の多専門的アプローチを行い、胎児発育の特定とケアを行った。 主要アウトカムは、複合重度有害周産期アウトカム(周産期死亡、Apgarスコア4未満、意識障害、仮死、てんかん発作、補助呼吸、敗血症、髄膜炎、気管支肺異形成症、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、壊死性腸炎と規定)だった。副次アウトカムは、母体の重篤な病的状態、自然分娩・出生だった。重度有害周産期アウトカム発生、介入群32%、コントロール群19% 試験には1万3,520例(平均妊娠22.8週)が登録され、解析には、オランダ全国周産期レジストリまたは病院記録のデータがある1万3,046例(介入群7,067例、コントロール群5,979例)が包含された。 SGA胎児の検出率は、コントロール群19%(78/407例)に対し、介入群は32%(179/556例)と有意に高率だった(p<0.001)。 一方で、主要アウトカム発生率は、介入群1.7%(118例)、コントロール群1.8%(106例)だった。交絡因子を補正後、両群には有意差は認められなかった(オッズ比[OR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.70~1.20)。 なお、介入群ではコントロール群に比べ、誘発分娩の発生率が高く(OR:1.16、95%CI:1.04~1.30)、陣痛促進の発生率は低かった(0.78、0.71~0.85)。母体のアウトカムとその他の産科学的介入について有意な差はなかった。

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スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS : Stevens-Johnson Syndrome〕、中毒性表皮壊死症〔TEN : Toxic Epidermal Necrolysis〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬疹(薬剤性皮膚障害)は軽度の紅斑から重症型までさまざまであるが、とくにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)型薬疹と中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)型薬疹は重篤な経過をたどり、死に至ることもある。両疾患はウイルス感染症や細菌感染症に続発して生じることもあるが、原因の大半は薬剤であるため、本稿では両疾患をもっぱら重症型薬疹の病型として取り扱う。■ 疫学近年、薬剤による副作用がしばしばマスコミを賑わせているが、薬疹は目にみえる副作用であり、とくに重症型薬疹においては訴訟に及ぶこともまれではない。重症型薬疹の発生頻度は、人口100万人当たり、SJSが年間1~6人、TENが0.4~1.2人と推測されている。2009年8月~2012年1月までの2年半の間に製薬会社から厚生労働省に報告されたSJSおよびTENの副作用報告数は1,505例(全副作用報告数の1.8%)で、このうち一般用医薬品が被疑薬として報告されたのは95例であった。原因薬剤は多岐にわたり、上記期間にSJSやTENの被疑薬として報告があった医薬品は265成分にも及んでいる。カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎薬、セフェム系やニューキノロン系抗菌薬、アロプリノールなどの痛風治療薬、総合感冒薬、フェノバルビタールなどの抗不安薬による報告が多いが、それ以外の薬剤によることも多く、最近では一般用医薬品による報告が増加している。■ 病因薬疹は薬剤に対するアレルギー反応によって生じることが多く、I型(即時型)アレルギーとIV型(遅延型)アレルギーとに大別できる。I型アレルギーによる場合は、原因薬剤の投与後数分から2~3時間で蕁麻疹やアナフィラキシーを生じる。一方、大部分を占めるIV型アレルギーによる場合は、薬剤投与後半日から2~3日後に、湿疹様の皮疹が左右対側に生じることが多い。薬剤を初めて使用してから感作されるまでの期間は4日~2週間のことが多いが、場合によっては10年以上安全に使用していた薬剤でも、ある日突然薬疹を生じることがある。患者の多くは薬剤アレルギーの既往がなく突然発症するが、重症型薬疹の場合はウイルスなど感染症などが引き金になって発症することも多い。男女差はなく中高年に多いが、20~30代もまれではない。近年、免疫反応の異常が薬疹の重症化に関与していると考えられるようになった。すなわち、免疫やアレルギー反応は制御性T細胞とヘルパーT細胞とのバランスによって成り立っており、正常な場合は、1型ヘルパーT細胞による免疫反応を制御性T細胞が抑制している。通常の薬疹では(図1)、1型ヘルパーT細胞が薬剤によって感作されて薬剤特異的T細胞になり、同じ薬剤の再投与により活性化されると薬疹が発症する。画像を拡大するしばらく経つと制御性T細胞も増加・活性化するため、過剰な免疫反応が抑制され、薬疹は軽快・治癒する。ところが、重症型薬疹の場合(図2)は、ウイルス感染などにより制御性T細胞が抑制され続けているため、薬疹発症後も免疫活性化状態が続く。薬剤特異的T細胞がさらに増加・活性化しても、制御性T細胞が活性化しないため、薬剤を中止しても重症化し続ける。画像を拡大する細胞やサイトカインレベルからみた発症機序を示す(図3)。画像を拡大する医薬品と感染症によって過剰な免疫・アレルギー反応を生じ、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CD8 陽性T細胞)や単球、マクロファージが表皮細胞を傷害してネクロプトーシス(ネクローシスの形態をとる細胞死)を誘導し、表皮細胞のネクロプトーシスが拡大することによりSJSやTENに至る、と考えられている。■ 症状重症型薬疹に移行しやすい病型として、とくに注意が必要なのは多形滲出性紅斑で、蕁麻疹に似た標的(ターゲット)型の紅斑が全身に生じ、短時間では消退せず、重症例では皮膚粘膜移行部にびらんを生じ、SJSに移行する。SJSは、全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発し、口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部や口腔内の粘膜にびらんを生じる。しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を来すが、一般に体表面積の10%を超えることはない。38℃以上の発熱や全身症状を伴うことが多く、死亡もまれではない。TENは最重症型の薬疹で、全身の皮膚に広範な紅斑と、体表面積の30%を超える水疱、表皮剥離、びらんなど表皮の重篤な壊死性障害を生じる。眼瞼結膜や角膜、口腔内、外陰部に粘膜疹を生じ、38℃以上の高熱や激しい全身症状を伴い、死亡率は30%以上に及ぶ。救命ができても全身の皮膚に色素沈着や視力障害を残し、失明に至ることもある。また、皮膚症状が軽快した後も、肝機能や呼吸器などに障害を残すことがある。なお、表皮剥離が体表面積の10%以上30%未満の場合、SJSからTENへの移行型としている。■ 予後SJS、TENともに、薬剤を中止しても適切な治療が行われなければ非可逆的に増悪し、ステロイド薬の全身投与にも反応し難いことがある。皮疹の経過は多形滲出性紅斑 → SJS → TENと増悪していく場合と、最初からSJSやTENを生じる場合とがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)薬疹は皮疹の分布や性状によってさまざまな病型に分類されるが、重症型薬疹は一般に、(1)急激に発症し、急速に増悪、(2)全身の皮膚に新鮮な発疹や発赤が多発する、(3)結膜、口腔、外陰などの粘膜面や皮膚粘膜移行部に発赤やびらんを生じる、(4)高熱を来す、(5)全身倦怠や食欲不振を訴える、などの徴候がみられることが多い。皮膚のみならず、肝腎機能障害、汎血球・顆粒球減少、呼吸器障害などを併発することも多いため、血算、白血球分画、生化学、非特異的IgE、CRP、血沈、尿検査、胸部X線撮影を行う。また、ステロイド薬の全身投与前に糖尿病の有無を調べる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療の実際長年安全に使用していた薬剤でも、ある日突然重症型薬疹を生じることもあるため、基本的に全薬剤を中止する。どうしても中止できない場合は、治療上不可欠な薬剤以外はすべて中止するか、系統(化学構造式)のまったく異なる、患者が使用した経験のない薬剤に変更する。急速に増悪することが多いため、入院させて全身管理のもとで治療を行う。最強クラスの副腎皮質ステロイド薬(クロベタゾールプロピオン酸など)を外用し、副腎皮質ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン 30~60mg/日)を行う。治療効果が乏しければ、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン 1,000mg/日×3日)およびγグロブリン(献血グロベニン 5g/日×3日)の投与を早急に開始する。反応が得られなければ、さらに血漿交換や免疫抑制薬(シクロスポリン 5mg/kg/日)の投与も検討する。■ 原因薬剤の検索治癒した場合でも再発予防が非常に重要である。原因薬剤の検索は、皮疹の軽快後に再投与試験を行うのが最も確実であるが、非常にリスクが大きい。入院させて通常処方量の1/100程度のごく少量から投与し、漸増しながら経過をみるが、薬疹に対する十分な知識や経験がないと、施行は困難である。再投与試験に対する患者の了解が得られない場合や、安全面で不安が残る場合は、皮疹消退後にパッチテストを行う。パッチテストは非常に安全な検査で、しかも陽性的中率が高いが、感度は低く60%程度しか陽性反応が得られない。また、ステロイド薬の内服中は陽性反応が出にくくなる。In vitroの検査では「薬剤によるリンパ球刺激試験」(drug induced lymphocyte stimulation test:DLST)が有用である。患者血清中のリンパ球と原因薬剤を反応させ、リンパ球の幼若化反応を測定するが、感度・陽性的中率ともにパッチテストよりも低い。DLSTは薬疹の最盛期にも行えるが、発症から1ヵ月以上経つと陽性率が低下する。したがって、再投与試験を行えない場合はパッチテストとDLSTの両方を行い、両者の結果を照合することにより原因薬剤を検討する。現在、健康保険では3薬剤まで算定できる。4 今後の展望近年、重症型薬疹の発症を予測するバイオマーカーとして、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)(主要組織適合遺伝子複合体〔MHC〕)の遺伝子多型が注目されている。すなわち、HLAは全身のほとんどの細胞の表面にあり免疫を制御しているが、特定の薬剤による重症型薬疹(SJS、TEN)の発症にHLAが関与しており、とくに抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノール)による重症型薬疹と関連したHLAが相次いで発見されている。さらに、同じ薬剤でも人種・民族により関与するHLAが異なることが明らかになってきた(表)。画像を拡大するたとえば、日本人のHLA-A*3101保有者がカルバマゼピンを使用すると、8人に1人が薬疹を発症するが、もしこれらのHLA保有者にカルバマゼピン以外の薬剤を使用すると、薬疹の発症頻度が1/3になると推測されている。また、台湾では、カルバマゼピンによる重症型薬疹患者のほぼ全員がHLA-B*1502を保有しており、保有者の発症率は非保有者の2,500倍も高いといわれている。そのため台湾では、カルバマゼピンとアロプリノールの初回投与前には、健康保険によるHLA検査が義務付けられている。このようにあらかじめ遺伝子多型が判明していれば、使用が予定されている薬剤で重症型薬疹を起こしやすいか否かが予測できることになる。5 主たる診療科複数の常勤医のいる基幹病院の皮膚科、救命救急センター※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報医薬品・医療機器等安全性情報 No.290(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.293(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.285(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SJS患者会(SJSの患者とその家族の会)1)藤本和久. 日医大医会誌. 2006; 2:103-107.2)藤本和久. 第5節 粘膜症状を伴う重症型薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症). In:安保公介ほか編.希少疾患/難病の診断・治療と製品開発.技術情報協会;2012:1176-1181.3)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2016;126:1637-1685.公開履歴初回2014年01月23日更新2019年10月21日

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日本人てんかん患者に対するレベチラセタムの有効性と安全性

 レベチラセタムは、焦点性てんかんおよびてんかん重積状態の急性期治療に使用される忍容性の高い抗てんかん薬であり、随伴症状を伴う患者において第1選択薬として使用される。しかし、日本人てんかん患者におけるレベチラセタムの有効性および安全性に、血中レベチラセタム濃度がどのような影響を及ぼすかはよくわかっていない。神戸医療センターの関本 裕美氏らは、日本人てんかん患者におけるレベチラセタムの有効性と安全性に対する血中濃度の影響について分析を行った。Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics誌オンライン版2019年8月10日号の報告。 本研究は、レベチラセタムで治療されたてんかん患者255例を対象に、レベチラセタム単独群と他の抗てんかん薬併用群における有効性および安全性を比較したレトロスペクティブコホート研究である。レベチラセタムと併用した抗てんかん薬の血中濃度、臨床検査値、副作用などの臨床パラメータを電子カルテより抽出し、分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・レベチラセタムと他の抗てんかん薬併用は、シトクロムP450活性に影響を及ぼす薬剤であったとしても、血中レベチラセタム濃度に影響を及ぼさなかった。・レベチラセタムは、併用された抗てんかん薬の血中濃度に有意な影響を及ぼすことはなかった。・血中レベチラセタム濃度は、高齢および腎機能障害患者において有意な増加が認められたが、副作用の発現率は上昇しなかった。 著者らは「日本人てんかん患者に対し、レベチラセタムは、他の抗てんかん薬と併用して使用する場合でも、血中濃度モニタリングを用いた用量調整を行うことなく、効果的かつ安全に使用できる」としている。

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転移性前立腺がん患者に対してのエンザルタミドは、ファーストラインとしても有効(解説:宮嶋哲氏)-1088

 本研究は、アンドロゲン依存性転移性前立腺がん患者を対象にアンドロゲン除去療法(ADT)とともに、エンザルタミド追加群と標準治療群(通常の抗アンドロゲン薬追加)の2群において3年全生存率(OS)、無増悪生存期間(PFS)ならびに有害事象を評価項目としたオープンラベルランダム化比較第3相試験(ENZAMET trial)である。 対象となった1,125症例の平均観察期間は34ヵ月、患者年齢中央値は両群ともに69歳であった。症例の約60%がGleason score 8~10であり、平均臓器転移数は3ヵ所で、15~17%の患者でドセタキセル早期導入がなされていた。3年OSはエンザルタミド追加群80%に対し、標準治療群72%でエンザルタミドは有意に死亡リスクを低下させ、3年PFSでもエンザルタミド追加群67%に対し標準治療群37%で、エンザルタミドは有意に再発を低下させた。有害事象により治療困難となった症例はエンザルタミド追加群で多く(33症例)、とくに倦怠感とてんかん発作が著明であった。 去勢抵抗性前立腺がん患者においてアンドロゲン受容体阻害薬であるエンザルタミドはOSを延長することが知られ、エンザルタミドはセカンドラインという位置付けだが、内分泌未治療転移性前立腺がん患者においてもADTにエンザルタミドを併用することでOSとPFSに寄与することが示された。以上より、内分泌未治療転移性前立腺がんに対するファーストラインとしてエンザルタミドの有効性が示唆された。

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てんかん患者の日中の眠気と交通事故リスク

 愛知医科大学の松岡 絵美氏らは、てんかん患者における日中の過度な眠気や睡眠障害について、とくに抗てんかん薬に焦点を当て検討を行い、てんかん患者における睡眠関連問題が交通事故リスクと相関するかについて調査を行った。Seizure誌2019年7月号の報告。 てんかん患者325例でエプワース眠気尺度(ESS)を、322例でピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて評価した。運転免許証を有するてんかん患者239例が、交通事故に関連する質問に回答した。てんかん患者の交通事故と日中の眠気や睡眠障害は関連が認められなかった てんかん患者の眠気と交通事故に関する調査の主な結果は以下のとおり。・焦点性てんかんにおいて、意識障害、年齢、ラコサミドの投与は、それぞれESSスコアに有意な影響を及ぼすことが示唆された。・バルプロ酸およびラコサミドの投与は、抗てんかん薬以外の睡眠改善薬と同様に、PSQIによる睡眠障害に有意な影響を及ぼすことが示唆された。・全体の交通事故に対し、年齢とLEVは交通事故発生に影響を及ぼした。・てんかん発作に関連する交通事故に対し、有意な影響を及ぼす唯一の因子は、睡眠改善薬であった。・てんかん発作と関連しない交通事故に対し、有意な影響を及ぼす因子は見当たらなかった。・これら3つの交通事故とESSスコアまたはPSQIスコアとの間に相関は認められなかった。 著者らは「てんかん患者の交通事故と日中の眠気や睡眠障害は関連が認められなかった。さらに、抗てんかん薬は、日中の眠気や交通事故リスクの増加に影響を及ぼしていなかった」としている。

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高齢者のてんかん治療とADLとの関連

 高齢者におけるてんかん発作の抑制は、比較的容易であると広く考えられている。これは、高齢者の生活様式がてんかんの治療結果に影響を及ぼしている可能性があるとも考えられる。聖隷浜松病院てんかんセンターの藤本 礼尚氏らは、高齢てんかん患者のADLを調査し、てんかんの治療結果との比較を行った。Psychogeriatrics誌オンライン版2019年5月6日号の報告。 てんかんセンターに紹介された65歳以上の患者177例中、84例がてんかんと診断された。その後ADLレベルに応じて3群(ADL 1群:ADLに支障なし、ADL 2群:一部の手段的日常生活動作のみ支障あり、ADL 3群:一部の基本的なADLに支障あり)に分類し、ADLと治療アウトカムについて検討を行った。てんかん症候群および抗てんかん薬の使用も評価した。 主な結果は以下のとおり。・発作から完全に解放された患者45例(53.6%)、発作が80%以上減少した患者23例(27.4%)、発作が50%以上減少した患者5例(6%)、発作の減少が50%未満であった患者11例(13.1%)であった。・発作から完全に解放された患者の割合は、ADL 1群で81.4%(35例)、ADL 2群で28.0%(7例)、ADL 3群で19.0%(3例)であった。・3群間に明らかな有意差が認められた(F=6.145、p=0.003)。 著者らは「本結果を踏まえ、てんかん治療を行う際には、ADLを考慮するべきである」としている。

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