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先天性トキソプラズマ感染症

1 疾患概要■ 概念・定義トキソプラズマはトーチ症候群の1つで、胎児感染(先天性感染)を起こすと、胎児・新生児期より水頭症、脳内石灰化、小頭症、網脈絡膜炎、小眼球症、精神神経・運動障害、肝脾腫などを起こす。遅発型として、成人までに痙攣、網脈絡膜炎、精神神経・運動障害などを起こすことがある。小腸粘膜などから母体内に侵入したトキソプラズマ原虫は、マクロファージを含む白血球に侵入し、血流に乗って全身へ広がる。妊婦では、まず胎盤に感染して、その後胎児脳や肝臓などの実質臓器に感染する。胎盤はトキソプラズマ感染が生じやすい組織でシストを形成し持続感染する。母体感染から胎児感染の成立まで、数ヵ月かかる。胎児感染のリスクは母体が感染した時期によって異なり、妊娠14週までの初感染で胎児感染率は10%以下と低いが症状は重度である。15〜30週の初感染で胎児感染率は20%、31週以降では60〜70%と高いが不顕性や軽症が多くなる。生後数年して眼病変が確認され、先天性トキソプラズマ症と診断されるケースもある。■ 疫学わが国の妊婦のトキソプラズマ抗体保有率は2〜10%である。2011年の報告では、妊婦抗体スクリーニングと治療を行った状況下として、先天性トキソプラズマ感染児の発生は、10,000分娩あたり1.26人と推計されている1)。2019年の報告でも、妊娠第1三半期の初感染率は0.13%で、感染児の発生は10,000分娩あたり0.9人(北海道)〜2.6人(宮崎県)と推計されている2)。■ 病因トキソプラズマは、ネコ科動物を終宿主とする細胞内寄生原虫で、中間宿主として多くの恒温動物に感染する。ヒトには感染動物の筋肉に含まれるシストや、ネコ科動物の糞便中のオーシストに汚染された土、食物や水を介して経口感染する。丈夫な壁の内側に多数の虫体を含むシストやオーシストは、環境中でも長期間生存して感染源となる。病原体としては栄養型、シスト、オーシストの3型が知られている。眼、鼻の粘膜や外傷から感染する可能性はあるが、その頻度は低いと考えられる。栄養型は急増虫体と呼ばれており、細胞内に寄生して急激に増殖するが、消毒液や胃酸で容易に不活化されるため、経口摂取による感染はまれである。ヒトへの感染は主に、シストやオーシストの経口感染によって起こる。加熱不十分な食肉中のシスト、飼い猫のトイレ掃除、園芸、砂場遊びなどによって手に付いたオーシスト、または洗浄不十分な野菜や果物に付着していたオーシストが、口から体内に入り感染が成立することが多い。■ 症状本症の3主徴は網脈絡膜炎、脳内石灰化、水頭症であるが、臨床的にそろうことはまれである。そのほかに、小頭症、血小板減少による点状出血、貧血などがある。これらはサイトメガロウイルスやジカウイルスによる先天性感染症でも同様の症状を呈することがあるため、鑑別が必要になる。精神運動発達遅延、てんかん、視力障害などの神経学的・眼科的後遺症につながることがある。■ 予後本症の1〜2%が死亡や知的障害となり、4〜27%に網膜脈絡膜炎を引き起こし、永続的な片側視力障害を残す。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症の診断は次の通り行う。また、検査の留意点を下に示す。●AまたはBが確認されれば、先天性感染があると診断する。A. 生後12ヵ月以上まで持続するトキソプラズマIgG陽性(母体からの移行抗体は、通常生後6〜12ヵ月で陰性化)B. 生後12ヵ月未満の場合、以下の項目のうち1つ以上満たす(1)児血のトキソプラズマIgGが母親の抗体価と比べて高値で持続する、または上昇するとき(2)児血のトキソプラズマIgMが陽性(3)児血、尿、または髄液からトキソプラズマDNAがPCR検査で検出(4)トキソプラズマ初感染の母親から出生した児で、児血のトキソプラズマIgGが陽性でかつ、先天性トキソプラズマ症の臨床症状を有するとき■ 疫学新生児血のトキソプラズマIgM陽性は、先天性感染児の1/4程度であること、新生児血でトキソプラズマIgMが陰性であってもトキソプラズマDNAが陽性の症例や、新生児血でトキソプラズマIgMとトキソプラズマDNAがともに陰性だが、羊水でDNA陽性で、かつ出生時に頭蓋内石灰化が見つかり先天性トキソプラズマ症と診断されたわが国の報告1)があるので留意する。Bの項目がすべて無くとも、Aの生後12ヵ月の検査でトキソプラズマIgG陰性が証明されなければ、先天性感染無しとは診断できない。トキソプラズマIgM陽性妊婦からの出生児は所見がなくても全員、生後12ヵ月までフォローアップと血液検査が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)スピラマイシン(商品名:同)が2018年8月に保険適用となった。また、IgG avidityは、標準化された検査法ではなく、検査機関毎に基準値が異なるため、その臨床的な正確性は明らかではない。それらを踏まえて、「トキソプラズマ妊娠管理マニュアル」が改訂され、2020年1月10日に第4版が発行された。妊娠初期にトキソプラズマIgGを測定し、IgG陰性者に妊娠中の初感染予防のための教育と啓発を行う。妊娠後期にIgGを再測定し、妊娠中にIgGが陽性化した初感染妊婦を同定する。IgG陽転化妊婦からの出生児は、精査と診断、フォローアップや治療を行う。IgG陽性妊婦ではIgMを測定する。IgM陽性では初感染疑いとして、胎児超音波断層法などの精査とスピラマイシン治療を行う。必要であれば、同意を得てIgG avidity測定(自費)、IgGを再検する。トキソプラズマIgM陽性妊婦のうち、およそ7割はpersistent IgMないし偽陽性で本当の妊娠中の初感染ではない(図)。図 トキソプラズマの妊婦スクリーニング方法画像を拡大するスピラマイシンによる治療の開始は、IgM値、IgG値の変化、生肉や飲料水以外の水の摂取、洗浄不十分な野菜や果物の摂取、猫の排泄物との接触、土いじり、砂場遊び、海外旅行 (中南米・中欧・アフリカ・中東・東南アジア)などの感染リスク行動の有無、リンパ節腫脹や発熱など症状の有無、および胎児の超音波所見を総合的に評価して決める。不安が強い場合など、羊水中トキソプラズマDNAをPCR検査する選択肢もある。しかし、羊水トキソプラズマDNA PCR検査は標準化されておらず、先天性感染に対して偽陽性および偽陰性があることに留意する。トキソプラズマは細胞内寄生感染を起こすため、羊水PCR陰性でも胎児感染を完全には否定できない。羊水PCR陽性例などで、胎児感染と診断したケースの胎児治療では、スピラマイシンは効果がない。胎児治療として、妊娠16〜27週の間はピリメタミン(同:ダラプリム)+スルファジアジン(同:同名)+ホリナート(同:ロイコボリン)による治療を行う。ピリメタミンは催奇形性が報告されており、ピリメタミンとスルファジアジンによる治療は妊娠16週以降とする。妊娠28週以降のスルファジアジンの投与については新生児核黄疸のリスクがあるため、ピリメタミン、スピラマイシンに変更する。一方、欧米では胎児感染例に対しては、ピリメタミンとスルファジアジンが分娩まで使用される。胎児感染が確定的な症例などで、妊娠28週以降もピリメタミンとスルファジアジンで治療する場合は、核黄疸リスクに留意しながら同意を得て行う。核黄疸リスクを回避するため、胎児感染が確定的な症例では妊娠28週以降分娩までピリメタミン+ロイコボリンで治療する場合もある。4 今後の展望保険適用の治療薬が使用できるようになったため、「トキソプラズマ初感染が疑われる妊婦」とは、トキソプラズマIgG陽性で問診などで症状があった、ないしIgM陽性の妊婦であると判断し、これら初感染疑いの妊婦にスピラマイシン投与が推奨される。現在のIgG avidityの測定は検査機関によって基準値は異なり、その臨床的な正確性は明らかではないため、この結果のみに基づいて保険適用薬の使用の可否を決めることは困難であり、誤って判断する危険性もある。したがって、今回の改定では、まだ標準化されていない保険収載のないIgG avidity検査を、妊婦スクリーニングに必須な検査として組み込むことを避けた。保険適用に向けて、IgG avidity検査を用いた妊婦のトキソプラズマ抗体スクリーニングは臨床研究として行われ、その有用性が証明されることが期待されている。5 主たる診療科産婦人科、小児科、耳鼻咽喉科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報神戸大学産科婦人科母子感染予防のホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)母子感染の予防と診療に関する研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会「トーチの会」(患者とその家族および支援者の会)1)Yamada H, et al. J Clin Microbiol.2011;49:2552-2556.2)Yamada H, et al. J Infect Chemother.2019;25:427-430.公開履歴初回2020年02月17日

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

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ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹、風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

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てんかん重積状態が止まらないときの薬剤選択(解説:岡村毅氏)-1162

 精神科医をしていると、世界はいまも謎に満ちていると感じる。ほかの科ではどうであろうか? 教科書だけ見ていると、多くのことが既知になり、予測可能になったように思われる。でも臨床現場はいまだにわからないことだらけだ。医師になって17年が過ぎたが、闇の中で意思決定をし続けなければならない臨床医学に、私はいまだに戦慄することがある。 精神医学の例を挙げだすと深みにはまるので、神経学の例を挙げよう。たとえば、てんかん重積状態である。ベンゾジアゼピンが効かない場合どうすればよいのだろうか? 日本神経学会のガイドラインでは、ホスフェニトインあるいはフェノバルビタールあるいはミダゾラムあるいはレベチラセタムとある。要するに、どれが優れているかわからないのだ。 いま、てんかん重積状態の患者がいるとしよう。初めにベンゾジアゼピンを使うところまでは、自信を持って進める。それでも止まらない場合…そこから先は闇の中を歩まねばならない。 本研究は、米国で一般的に使われるホスフェニトイン、レベチラセタム、バルプロ酸の静脈投与を救命救急科において多施設ランダム化二重盲検試験で比較したものである。連邦規則21 CFR 50.24に基づき、本人の同意は取られることなく試験が行われた。てんかん重積が止まらない状態では生命の危険があり、何が最も効くかはわかっておらず、意識消失しているので同意は取れないため、同意を集めていては研究のしようがないからである。また、現状でも3つの薬剤のどれを使うかは、その施設や担当医の裁量に任されており、患者サイドの体験(何が最も効くかはわからないが何かを投与される)は変わらない。 さて結果は、3剤の優劣は見いだされなかった(いずれも45~47%の効果)。この結果はこれまでの観察研究などの結果とも整合する。 本研究こそは、臨床医が日々接している謎(あるいは闇)を照らすものだ。いま再び、てんかん重積状態の患者がいるとして、初めにベンゾジアゼピンを使うところまでは自信を持って進める。しかし止まらない。この論文が出るまでは、この時点でもはや見える世界の端に到達してしまっていた。しかしこの論文を知ったいま、どれを使ってもほぼ同じ効果が見込めることがわかったので、闇を前にしたときの戦慄は多少抑えられることだろう。人間を相手にしているのだから、私たち臨床医は永久に闇に囲まれてはいるのだけれど。

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てんかん重積、レベチラセタムvs.ホスフェニトインvs.バルプロ酸/NEJM

 ベンゾジアゼピン系薬治療抵抗性の痙攣性てんかん重積状態の患者に対し、静注用抗痙攣薬レベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸は、いずれも効果は同等で、約半数で1時間以内に発作停止と意識レベル改善が認められることが明らかにされた。有害事象の発現頻度も3剤間で同程度だった。米国・バージニア大学のJaideep Kapur氏らが、384例を対象に行った適応的デザイン・無作為化二重盲検試験の結果で、NEJM誌2019年11月28日号で発表した。これまで、同患者への薬剤選択について十分な研究は行われていなかった。60分後までの発作停止と意識レベル改善を比較 研究グループは、ベンゾジアゼピン系薬治療抵抗性の痙攣性てんかん重積状態の小児および成人を対象に、適応的デザイン・無作為化二重盲検試験を行った。 被験者を無作為に3群に分け、静注用抗痙攣薬のレベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸をそれぞれ投与し、有効性と安全性を比較した。 主要アウトカムは、抗痙攣薬を追加せず、薬剤の注入開始から60分後までの臨床的に明らかな発作停止と、意識レベルの改善とした。各薬剤の有効性が最も高い/最も低い事後確率を算出して評価した。 安全性アウトカムは、生命を脅かす血圧低下または不整脈、気管内挿管、発作の再発、死亡などだった。3剤の発作停止・意識レベル改善率、45~47%と同等 試験には2015年11月3日~2017年10月31日に400例が登録された。そのうち16例は再発により2回登録された患者で、2度目の登録データは除外し、384例をintention-to-treat(ITT)の解析対象とした(レベチラセタム群145例、ホスフェニトイン群118例、バルプロ酸群121例)。なお本試験は、計画されていた中間解析で事前規定の無益性基準(1つの薬剤の優劣を見いだすことが無益である)を満たしたため、2017年11月に登録が中止となった。 ITT集団のベースラインにおける患者特性は3群間で類似していた。全被験者の55%が男性で、小児および思春期(最年長は17歳)が39%、18~65歳が48%、65歳超が13%だった。また、10%で心因性発作があったことが確認された。 主要アウトカムの60分後までの発作停止と意識レベルの改善は、レベチラセタム群は68例(47%、95%信用区間[Crl]:39~55)、ホスフェニトイン群は53例(45%、同:36~54)、バルプロ酸群は56例(46%、38~55)で認められた。各薬剤の有効性が最も高い事後確率は、それぞれ0.41、0.24、0.35だった。 安全性については、数値的には血圧低下と気管内挿管はホスフェニトイン群で他の2群に比べて多く、また死亡はレベチラセタム群で他の2群に比べて多かったが、いずれも有意差はなかった。

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脊髄小脳変性症〔SCD : spinocerebellar degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義脊髄小脳変性症は、大きく遺伝性のものと非遺伝性のものに分けられる。非遺伝性のものの半分以上は多系統萎縮症であり、多系統萎縮症では小脳症状に加えてパーキンソン症状(体の固さなど)や自律神経症状(立ちくらみ、排尿障害など)を伴う特徴がある。また、脊髄小脳変性症のうち、遺伝性のものは約3分の1を占め、その中のほとんどは常染色体優性(顕性)遺伝性の病気であり、その多くはSCA1、SCA2などのSCA(脊髄小脳失調症)という記号に番号をつけた名前で表される。SCA3型は、別名「Machado-Joseph病(MJD)」と呼ばれ、頻度も高い。常染色体性劣性(潜性)遺伝形式の脊髄小脳変性症は、頻度的には1.8%とまれであるにもかかわらず、数多くの病型がある。近年、それらの原因遺伝子の同定や病態の解明も進んできており、疾患への理解が深まってきている。多系統萎縮症は一般的に重い病状を呈し、進行がはっきりとわかるが、遺伝性の中には進行がきわめてゆっくりのものも多く、ひとまとめに疾患の重症度を論じることは困難である。一方で、脊髄小脳変性症には痙性対麻痺(主に遺伝性のもの)も含まれる。痙性対麻痺は、錐体路がさまざまな原因で変性し、強い下肢の突っ張りにより、下肢の運動障害を呈する疾患の総称で、家族性のものはSPG(spastic paraplegia)と名付けられ、わが国では遺伝性ではSPG4が最も多いことがわかっている。本症も小脳失調症と同様に、最終的には原因別に100種類以上に分けられると推定されている。細かな病型分類はNeuromuscular Disease CenterのWebサイトにて確認ができる。■ 症状小脳失調は、脊髄小脳変性症の基本的な特徴で、最も出やすい症状は歩行失調、バランス障害で、初期には片足立ち、継ぎ足での歩行が困難になる。Wide based gaitとよばれる足を開いて歩行するような歩行もみられやすい。そのほか、眼球運動のスムーズさが損なわれ、注視方向性の眼振、構音障害、上肢の巧緻運動の低下なども見られる。純粋に小脳失調であれば筋力の低下は見られないが、最も多い多系統萎縮症では、筋力低下が認められる。これは、錐体路および錐体外路障害の影響と考えられる。痙性対麻痺は、両側の錐体路障害により下肢に強い痙性を認め、下肢が突っ張った状態となり、足の曲げにくさから足が運びにくくなり、はさみ歩行と呼ばれる足の外側を擦るような歩行を呈する。進行すると筋力低下を伴い、杖での歩行、車いすになる場合もある。脊髄が炎症や腫瘍などにより傷害される疾患では、排尿障害や便秘などの自律神経症状を合併することが多いが、本症では合併が無いことが多い。以下、本稿では次に小脳失調症を中心に記載する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 鑑別診断小脳失調症については、治療可能なものを調べる必要がある。治療可能なものとして、橋本脳症が多く混ざっていることがわかってきており、甲状腺機能が正常かどうかにかかわらず、抗TPO抗体、抗TG抗体陽性例の測定が必要である。陽性時には、診断的治療としてステロイドパルス療法などの免疫療法の反応性を確認する必要がある。ステロイド治療に反応すれば橋本脳症とするのが妥当であろう。その他にもグルテン失調症などの免疫治療に反応する小脳失調症も存在する。また、抗GAD抗体陽性の小脳失調症も知られており、測定する価値はある。悪性腫瘍に伴うものも想定されるが、実際に悪性腫瘍の関連で起こることはまれで、腫瘍が見つからないことが多い。亜急性の経過で重篤なもの、オプソクローヌスやミオクローヌスを伴う場合には、腫瘍関連の自己抗体が関連していると推定され、悪性腫瘍の合併率は格段に上がる。男性では肺がん、精巣腫瘍、悪性リンパ腫、女性では乳がん、子宮がん、卵巣がんなどの探索が必要である。ミトコンドリア病(脳筋症)の場合も多々あり、小脳失調に加えて筋障害による筋力低下や糖尿病の合併などミトコンドリア病らしさがあれば、血清、髄液の乳酸、ピルビン酸値測定、MRS(MRスペクトロスコピー)、筋生検、遺伝子検査などを行うことで診断が可能である。劣性遺伝性の疾患の中に、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(ataxia with vitamin E deficiency : AVED)という病気があり、本症は、わが国でも見られる治療可能な小脳変性症として重要である。本症は、ビタミンE転送蛋白(α-tocopherol transfer protein)という遺伝子の異常で引き起こされ、ビタミンEの補充により改善が見られる。一方、アルコール多飲が見られる場合には、中止により改善が確認できる場合も多い。フェニトインなど薬剤の確認も必要である。おおよそ小脳失調症の3分の1は多系統萎縮症である。まれに家族例が報告されているが孤発例がほとんどである。通常40代以降に、小脳失調で発症することが多く、初発時にもMRIで小脳萎縮や脳血流シンチグラフィー(IMP-SPECT)で小脳の血流低下を認める。進行とともに自律神経症状の合併、頭部MRIで橋、延髄上部にT2強調画像でhot cross bun signと呼ばれる十字の高信号や橋の萎縮像が見られる。SCAの中ではSCA2に類似の所見が見られることがあるが、この所見があれば、通常多系統萎縮症と診断できる。さらに、小脳失調症の3分の1は遺伝性のものであるため、遺伝子診断なしで小脳失調症の鑑別を行うことは難しい。遺伝性小脳失調症の95%以上は常染色体性優性遺伝形式で、その80%以上は遺伝子診断が可能である。疾患遺伝子頻度には地域差が大きいが、わが国で比較的多く見られるものは、SCA1、 SCA2、 SCA3(MJD)、SCA6、 SCA31であり、トリプレットリピートの延長などの検査で、それぞれの疾患の遺伝子診断が可能である。常染色体劣性遺伝性の小脳失調症は、小脳失調だけではなく、他の症状を合併している病型がほとんどである。その中には、末梢神経障害(ニューロパチー)、知的機能障害、てんかん、筋障害、視力障害、網膜異常、眼球運動障害、不随意運動、皮膚異常などさまざまな症候があり、小脳失調以上に身体的影響が大きい症候も存在する。この中でも先天性や乳幼児期の発症の疾患の多くは、知能障害を伴うことが多く、重度の障害を持つことが多い。小脳失調が主体に出て日常生活に支障が出る疾患として、アプラタキシン欠損症(EAOH/AOA1)、 セナタキシン欠損症(SCAR1/AOA2)、ビタミンE単独欠乏性運動失調症(AVED)、シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症(ARSACS)、軸索型末梢神経障害を伴う小脳失調症(SCAN1)、 フリードライヒ失調症(FRDA)などがある。このうちEAOH/AOA1、SCAR1/AOA2、 AVED、ARSACSについては、わが国でも見られる。遺伝性も確認できず、原因の確認ができないものは皮質小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy: CCA)と呼ばれる。CCAは、比較的ゆっくり進行する小脳失調症として知られており、小脳失調症の10~30%の頻度を占めるが、その病理所見の詳細は不明で、実際にどのような疾患であるかは不明である。本症はまれな遺伝子異常のSCA、多系統萎縮症の初期、橋本脳症などの免疫疾患、ミトコンドリア病などさまざまな疾患が混ざっていると推定される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)小脳失調症の治療は、正確な原因診断に関わっている。上記の橋本脳症、GAD抗体小脳失調、そのほかグルテン失調症など他の自己抗体の関与が推定される疾患もあり、原因不明であれば、一度はステロイドパルスをすることも検討すべきであろう。ミトコンドリア病では、有効性は確認されていないがCoQ10、L-アルギニンなども治療薬の候補に挙がる。ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様発作症候群(MELAS)においてはタウリンの保険適用も認められ、その治療に準じて、治療することで奏功できる例もあると思われる。小脳失調に対しては、保険診療では、タルチレリン(商品名: セレジスト)の投与により、運動失調の治療を試みる。また、集中的なリハビリテーションの有効性も確認されている。多系統萎縮症の感受性遺伝子の1つにCoQ2の異常が報告され、その機序から推定される治療の臨床試験が進行中である。次に考えられる処方例を示す。■ SCDの薬物療法(保険適用)1) 小脳失調(1) プロチレリン(商品名:ヒルトニン)処方例ヒルトニン®(0.5mg) 1A~4A 筋肉内注射生理食塩水(100mL) 1V 点滴静注2週間連続投与のあと、2週間休薬 または 週3回隔日投与のどちらか。2mg投与群において、14日間連続投与後の評価において、とくに構音障害にて、改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(2) タルチレリン(同:セレジスト)処方例セレジスト®(5mg)2T 分2 朝・夕食後10mg投与群において、全般改善度・運動失調検査概括改善度で改善を認める。28週後までに構音障害、注視眼振、上肢機能などの改善を認める。1年後の累積悪化曲線では、プラセボ群と有意差を認めず。(3) タンドスピロン(同:セディール)処方例セディール®(5~20mg)3T 分3 朝・昼・夕食後タンドスピロンとして、15~60mg/日有効の症例報告もあるが、無効の報告もあり。重篤な副作用がなく、不安神経症の治療としても導入しやすい。2) 自律神経症状起立性低血圧(orthostatic hypotension)※水分・塩分摂取の増加を図ることが第一である。夜間頭部挙上や弾性ストッキングの使用も勧められる。処方例(1) フルドロコルチゾン(同:フロリネフ)〔0.1mg〕 0.2~1T 分1 朝食後(2) ミドドリン(同:メトリジン)〔2mg〕 2~4T 分3 毎食後(二重盲検試験で確認)(3) ドロキシドパ(同:ドプス)〔100mg〕 3~6T 分3 毎食後(4) ピリドスチグミン(同:メスチノン)〔60mg〕 1T/日■ 外科的治療髄腔内バクロフェン投与療法(ITB療法)痙性対麻痺患者の難治性の症例には、検討される。筋力低下の少ない例では、歩行の改善が見られやすい。4 今後の展望多系統萎縮症においてもCoQ2の異常が報告されたことは述べたが、CoQ2に異常がない多系統萎縮症の例のほうが多数であり、そのメカニズムの解析が待たれる。遺伝性小脳失調症については、その原因の80%近くがリピートの延長であるが、それ以外のミスセンス変異などシークエンス配列異常も多数報告されており、正確な診断には次世代シークエンス法を用いたターゲットリシークエンス、または、エクソーム解析により、原因が同定されるであろう。治療については、抗トリプレットリピートまたはポリグルタミンに対する治療研究が積極的に行われ、治療薬スクリーニングが継続して行われる。また、近年のアンチセンスオリゴによる遺伝子治療も治験が行われるなど、遺伝性のものについても治療の期待が膨らんでいる。そのほか、iPS細胞の小脳への移植治療などについてはすぐには困難であるが、先行して行われるパーキンソン病治療の進展を見なければならない。患者iPS細胞を用いた病態解析や治療薬のスクリーニングも大規模に行われるようになるであろう。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脊髄小脳変性症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Neuromuscular Disease Center(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者、患者家族向けの情報)1)水澤英洋監修. 月刊「難病と在宅ケア」編集部編. 脊髄小脳変性症のすべて. 日本プランニングセンター;2006.2)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. N Engl J Med. 2013; 369: 233-244.公開履歴初回2014年07月23日更新2019年11月27日

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脳梗塞・心筋梗塞既往歴のない患者でのアスピリン中止提案 【うまくいく!処方提案プラクティス】第8回

 今回は、抗血小板薬の中止提案を行った症例を紹介します。抗血小板薬の目的が動脈硬化性疾患の1次予防なのか2次予防なのかによって治療や提案すべき薬剤が異なってきますので、普段から患者さんの既往歴などの情報を得て、エビデンスを提示しながら提案できるとよいでしょう。患者情報80歳、女性(個人在宅)、体重:53kg、Scr:0.8基礎疾患:アルツハイマー型認知症、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症、症候性てんかん、心房細動、高血圧症、脂質異常症血  圧:130/70台服薬管理:同居の長男夫婦がカレンダーにセットされた薬で管理、投薬。長男夫婦の在宅時間に合わせて用法を朝夕・就寝前に設定。往  診:月2回処方内容1.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ウルソデオキシコール酸錠100mg 3錠 分1 朝食後4.L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 2錠 分2 朝夕食後5.バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg 2錠 分2 朝夕食後6.プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 夕食後7.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前8.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週木曜日9.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後(新規追加)本症例のポイントこの患者さんは、もともと循環器系の複合的な疾患がありますが、主治医からの診療情報提供書やケアマネジャーからのフェイスシートによると、脳梗塞や心筋梗塞の既往はありませんでした。ところが今回、心房細動と診断され、アスピリン腸溶錠が開始になったため大変驚きました。脳梗塞・心筋梗塞後などの再発予防目的(2次予防)としての抗血小板薬服用は臨床的使用意義が大きいことが確認されています。しかし、発症を未然に防ぐ目的(1次予防)の抗血小板薬の服用は、臨床効果よりも有害事象が上回ることが指摘されています。【JPAD試験1)】対象:動脈硬化性疾患の既往歴のない30〜85歳の2型糖尿病患者2,539例方法:アスピリン(81mgまたは100mg)投与群と非投与群に1:1に無作為に割り付けた(追跡中央値4.37年)評価項目:動脈硬化性疾患結果:動脈硬化性疾患の発現はアスピリン投与群で13.6件/1,000人年、非投与群で17.0件/1,000人年とアスピリン群で20%低い傾向にあるものの、統計学的有意差はなかった。【JPPP試験2)】対象:高血圧、脂質異常症、糖尿病を有する60〜85歳の日本人1万4,464例方法:既存の薬物療法+アスピリン(81mgまたは100mg)併用群と既存の薬物療法のみの群に無作為に1:1に割り付けた(追跡中央値5.02年)評価項目:心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合アウトカム結果:複合的アウトカムの発現率はアスピリン投与群で2.77%、アスピリン非投与群で2.96%とほぼ同等であったが、胃部不快感、消化管出血、さらに重篤な頭蓋外出血の有害事象はアスピリン投与群で有意に多かった。処方医は私が普段から訪問同行していない医療機関の医師でしたので、治療方針や処方意図は十分に把握できていないものの、上記の低用量アスピリンの1次予防のエビデンスから今回のアスピリン腸溶錠の中止および代替案の提示が必要と考えました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、JPAD試験とJPPP試験のデータを紹介し、1次予防のアスピリン腸溶錠の臨床的意義は低く、むしろ消化管出血などの有害事象のリスクがあるため、他剤への変更を提案しました。代替案については、心房細動における1次予防には直接経口抗凝固薬(DOAC)が適応と考え、腎機能・体重に合わせた補正用量であるエドキサバン30mg/日を提示しました。その後、トレーシングレポートを読んだ医師より電話連絡があり、提案のとおりにアスピリンを中止してエドキサバン30mgに変更する承認を得ることができました。速やかに処方変更の対応を行い、患者さんは胃部不快感や胃痛もなく経過しています。またエドキサバン変更後の皮下出血や鼻出血などの出血兆候もなく、副作用モニタリングは現在も継続中です。今回の症例のように1次予防の抗血小板薬については、基礎疾患や現病歴から適応の判断を検討し、医師とディスカッションを行うことで変更が可能かもしれません。1)Ogawa H, et al. JAMA. 2008;300:2134-2141.2)Ikeda Y, et al. JAMA. 2014;312:2510-2520.

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日本人高齢者のてんかん有病率は中年の約3倍、その原因は~久山町研究

 てんかんは小児期から老年期まで、すべての年齢層でみられる一般的な慢性神経疾患である。運転中にドライバーが発作を起こせば重大事故につながるリスクがあり、たびたび社会問題としても報じられている。米国・ロチェスターにおける研究では、てんかんの発生率が乳児と高齢者で高く、有病率が加齢と共に増加することが報告されているが、国内における人口ベースの研究はほとんどない。今回、京都府立医科大学の田中 章浩氏らが久山町研究で調べたところ、高齢者におけるてんかん有病率は中年の約3倍であり、症例の半数以上が高齢で最初の発作を経験していることがわかった。研究結果は、Epilepsia誌に掲載され、現在、神戸市で開催されている第53回日本てんかん学会でも報告された。 本研究は、久山町研究のサブスタディとして実施。2012年6月~13年11月の期間に、地域居住の40歳以上(4,679例)を対象に、心血管リスク因子とてんかん発作の経験の有無についての調査を実施し、このうち3,333例(居住者の71.2%)が登録された。 調査は対面のインタビュー形式で、てんかんの既往歴の有無および現在抗てんかん薬を服用しているか否かについて聞き取りが行われた。既往歴の定義は、過去5年以内に少なくとも1回の発作を起こし、神経科医の医師などによって診断された活動性てんかんのエピソードを有するか、抗てんかん薬を使用し、治療を受けていることとした。 調査の結果、23例がてんかんと診断され、有病率は1,000人あたり6.9症例(95%信頼区間[CI]:4.1~9.7)であった。この結果に有意な性差は認められなかった(p=0.23)。年齢層でみると、40~64歳の中年層(1,000人あたり3.6症例、95%CI:0.7~6.4)よりも、65歳以上の高齢層(1,000人あたり10.3症例、95%CI:5.4~15.1)で有意に高く、その差は約3倍の開きがあった(p=0.02)。てんかんの主な原因は脳血管疾患であった(n=11、てんかん症例の48%)。また、症例の半数以上が、65歳以上で初回エピソードを経験していることもわかった(n=13、同57%)。 著者らは、「今回の研究結果は、高齢者の脳血管疾患と関連して、てんかんの有病率が増加することを示唆している。将来的なてんかんリスクを軽減するためにも、脳血管疾患の予防が非常に重要である」と述べている。

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低リスク妊娠、第3期のルーチン超音波は有益か?/BMJ

 低リスク単胎妊娠において、妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことは通常ケアと比較して、出産前の在胎不当過小(SGA)胎児の検出率を高めるが、重度有害周産期アウトカムの発生減少には結びつかないことが明らかにされた。オランダ・アムステルダム大学医療センターのJens Henrichs氏らが、1万3,046例の妊婦を対象に行った無作為化比較試験の結果で、著者は「妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことを支持しない結果であった」とまとめている。BMJ誌2019年10月15日号掲載の報告。妊娠28~30週、34~36週に超音波検査を提供し通常ケアと比較 研究グループは2015年2月1日~2016年2月29日にかけて、オランダ国内の助産施設60ヵ所を通じて登録した、16歳以上の低リスク単胎妊娠の妊婦を対象に無作為化比較試験を行った。 施設では通常のケアとして、定期的な子宮底長測定と、臨床的に必要な超音波検査を行った。試験開始3、7、10ヵ月の各時点で、被験者の3分の1をコントロール群から介入群に割り付け、介入群に対しては、通常ケアに加え、妊娠28~30週、34~36週に2回のルーチン超音波検査を提供した。両群に対して同様の多専門的アプローチを行い、胎児発育の特定とケアを行った。 主要アウトカムは、複合重度有害周産期アウトカム(周産期死亡、Apgarスコア4未満、意識障害、仮死、てんかん発作、補助呼吸、敗血症、髄膜炎、気管支肺異形成症、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、壊死性腸炎と規定)だった。副次アウトカムは、母体の重篤な病的状態、自然分娩・出生だった。重度有害周産期アウトカム発生、介入群32%、コントロール群19% 試験には1万3,520例(平均妊娠22.8週)が登録され、解析には、オランダ全国周産期レジストリまたは病院記録のデータがある1万3,046例(介入群7,067例、コントロール群5,979例)が包含された。 SGA胎児の検出率は、コントロール群19%(78/407例)に対し、介入群は32%(179/556例)と有意に高率だった(p<0.001)。 一方で、主要アウトカム発生率は、介入群1.7%(118例)、コントロール群1.8%(106例)だった。交絡因子を補正後、両群には有意差は認められなかった(オッズ比[OR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.70~1.20)。 なお、介入群ではコントロール群に比べ、誘発分娩の発生率が高く(OR:1.16、95%CI:1.04~1.30)、陣痛促進の発生率は低かった(0.78、0.71~0.85)。母体のアウトカムとその他の産科学的介入について有意な差はなかった。

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スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS : Stevens-Johnson Syndrome〕、中毒性表皮壊死症〔TEN : Toxic Epidermal Necrolysis〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬疹(薬剤性皮膚障害)は軽度の紅斑から重症型までさまざまであるが、とくにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)型薬疹と中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)型薬疹は重篤な経過をたどり、死に至ることもある。両疾患はウイルス感染症や細菌感染症に続発して生じることもあるが、原因の大半は薬剤であるため、本稿では両疾患をもっぱら重症型薬疹の病型として取り扱う。■ 疫学近年、薬剤による副作用がしばしばマスコミを賑わせているが、薬疹は目にみえる副作用であり、とくに重症型薬疹においては訴訟に及ぶこともまれではない。重症型薬疹の発生頻度は、人口100万人当たり、SJSが年間1~6人、TENが0.4~1.2人と推測されている。2009年8月~2012年1月までの2年半の間に製薬会社から厚生労働省に報告されたSJSおよびTENの副作用報告数は1,505例(全副作用報告数の1.8%)で、このうち一般用医薬品が被疑薬として報告されたのは95例であった。原因薬剤は多岐にわたり、上記期間にSJSやTENの被疑薬として報告があった医薬品は265成分にも及んでいる。カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎薬、セフェム系やニューキノロン系抗菌薬、アロプリノールなどの痛風治療薬、総合感冒薬、フェノバルビタールなどの抗不安薬による報告が多いが、それ以外の薬剤によることも多く、最近では一般用医薬品による報告が増加している。■ 病因薬疹は薬剤に対するアレルギー反応によって生じることが多く、I型(即時型)アレルギーとIV型(遅延型)アレルギーとに大別できる。I型アレルギーによる場合は、原因薬剤の投与後数分から2~3時間で蕁麻疹やアナフィラキシーを生じる。一方、大部分を占めるIV型アレルギーによる場合は、薬剤投与後半日から2~3日後に、湿疹様の皮疹が左右対側に生じることが多い。薬剤を初めて使用してから感作されるまでの期間は4日~2週間のことが多いが、場合によっては10年以上安全に使用していた薬剤でも、ある日突然薬疹を生じることがある。患者の多くは薬剤アレルギーの既往がなく突然発症するが、重症型薬疹の場合はウイルスなど感染症などが引き金になって発症することも多い。男女差はなく中高年に多いが、20~30代もまれではない。近年、免疫反応の異常が薬疹の重症化に関与していると考えられるようになった。すなわち、免疫やアレルギー反応は制御性T細胞とヘルパーT細胞とのバランスによって成り立っており、正常な場合は、1型ヘルパーT細胞による免疫反応を制御性T細胞が抑制している。通常の薬疹では(図1)、1型ヘルパーT細胞が薬剤によって感作されて薬剤特異的T細胞になり、同じ薬剤の再投与により活性化されると薬疹が発症する。画像を拡大するしばらく経つと制御性T細胞も増加・活性化するため、過剰な免疫反応が抑制され、薬疹は軽快・治癒する。ところが、重症型薬疹の場合(図2)は、ウイルス感染などにより制御性T細胞が抑制され続けているため、薬疹発症後も免疫活性化状態が続く。薬剤特異的T細胞がさらに増加・活性化しても、制御性T細胞が活性化しないため、薬剤を中止しても重症化し続ける。画像を拡大する細胞やサイトカインレベルからみた発症機序を示す(図3)。画像を拡大する医薬品と感染症によって過剰な免疫・アレルギー反応を生じ、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CD8 陽性T細胞)や単球、マクロファージが表皮細胞を傷害してネクロプトーシス(ネクローシスの形態をとる細胞死)を誘導し、表皮細胞のネクロプトーシスが拡大することによりSJSやTENに至る、と考えられている。■ 症状重症型薬疹に移行しやすい病型として、とくに注意が必要なのは多形滲出性紅斑で、蕁麻疹に似た標的(ターゲット)型の紅斑が全身に生じ、短時間では消退せず、重症例では皮膚粘膜移行部にびらんを生じ、SJSに移行する。SJSは、全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発し、口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部や口腔内の粘膜にびらんを生じる。しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を来すが、一般に体表面積の10%を超えることはない。38℃以上の発熱や全身症状を伴うことが多く、死亡もまれではない。TENは最重症型の薬疹で、全身の皮膚に広範な紅斑と、体表面積の30%を超える水疱、表皮剥離、びらんなど表皮の重篤な壊死性障害を生じる。眼瞼結膜や角膜、口腔内、外陰部に粘膜疹を生じ、38℃以上の高熱や激しい全身症状を伴い、死亡率は30%以上に及ぶ。救命ができても全身の皮膚に色素沈着や視力障害を残し、失明に至ることもある。また、皮膚症状が軽快した後も、肝機能や呼吸器などに障害を残すことがある。なお、表皮剥離が体表面積の10%以上30%未満の場合、SJSからTENへの移行型としている。■ 予後SJS、TENともに、薬剤を中止しても適切な治療が行われなければ非可逆的に増悪し、ステロイド薬の全身投与にも反応し難いことがある。皮疹の経過は多形滲出性紅斑 → SJS → TENと増悪していく場合と、最初からSJSやTENを生じる場合とがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)薬疹は皮疹の分布や性状によってさまざまな病型に分類されるが、重症型薬疹は一般に、(1)急激に発症し、急速に増悪、(2)全身の皮膚に新鮮な発疹や発赤が多発する、(3)結膜、口腔、外陰などの粘膜面や皮膚粘膜移行部に発赤やびらんを生じる、(4)高熱を来す、(5)全身倦怠や食欲不振を訴える、などの徴候がみられることが多い。皮膚のみならず、肝腎機能障害、汎血球・顆粒球減少、呼吸器障害などを併発することも多いため、血算、白血球分画、生化学、非特異的IgE、CRP、血沈、尿検査、胸部X線撮影を行う。また、ステロイド薬の全身投与前に糖尿病の有無を調べる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療の実際長年安全に使用していた薬剤でも、ある日突然重症型薬疹を生じることもあるため、基本的に全薬剤を中止する。どうしても中止できない場合は、治療上不可欠な薬剤以外はすべて中止するか、系統(化学構造式)のまったく異なる、患者が使用した経験のない薬剤に変更する。急速に増悪することが多いため、入院させて全身管理のもとで治療を行う。最強クラスの副腎皮質ステロイド薬(クロベタゾールプロピオン酸など)を外用し、副腎皮質ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン 30~60mg/日)を行う。治療効果が乏しければ、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン 1,000mg/日×3日)およびγグロブリン(献血グロベニン 5g/日×3日)の投与を早急に開始する。反応が得られなければ、さらに血漿交換や免疫抑制薬(シクロスポリン 5mg/kg/日)の投与も検討する。■ 原因薬剤の検索治癒した場合でも再発予防が非常に重要である。原因薬剤の検索は、皮疹の軽快後に再投与試験を行うのが最も確実であるが、非常にリスクが大きい。入院させて通常処方量の1/100程度のごく少量から投与し、漸増しながら経過をみるが、薬疹に対する十分な知識や経験がないと、施行は困難である。再投与試験に対する患者の了解が得られない場合や、安全面で不安が残る場合は、皮疹消退後にパッチテストを行う。パッチテストは非常に安全な検査で、しかも陽性的中率が高いが、感度は低く60%程度しか陽性反応が得られない。また、ステロイド薬の内服中は陽性反応が出にくくなる。In vitroの検査では「薬剤によるリンパ球刺激試験」(drug induced lymphocyte stimulation test:DLST)が有用である。患者血清中のリンパ球と原因薬剤を反応させ、リンパ球の幼若化反応を測定するが、感度・陽性的中率ともにパッチテストよりも低い。DLSTは薬疹の最盛期にも行えるが、発症から1ヵ月以上経つと陽性率が低下する。したがって、再投与試験を行えない場合はパッチテストとDLSTの両方を行い、両者の結果を照合することにより原因薬剤を検討する。現在、健康保険では3薬剤まで算定できる。4 今後の展望近年、重症型薬疹の発症を予測するバイオマーカーとして、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)(主要組織適合遺伝子複合体〔MHC〕)の遺伝子多型が注目されている。すなわち、HLAは全身のほとんどの細胞の表面にあり免疫を制御しているが、特定の薬剤による重症型薬疹(SJS、TEN)の発症にHLAが関与しており、とくに抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノール)による重症型薬疹と関連したHLAが相次いで発見されている。さらに、同じ薬剤でも人種・民族により関与するHLAが異なることが明らかになってきた(表)。画像を拡大するたとえば、日本人のHLA-A*3101保有者がカルバマゼピンを使用すると、8人に1人が薬疹を発症するが、もしこれらのHLA保有者にカルバマゼピン以外の薬剤を使用すると、薬疹の発症頻度が1/3になると推測されている。また、台湾では、カルバマゼピンによる重症型薬疹患者のほぼ全員がHLA-B*1502を保有しており、保有者の発症率は非保有者の2,500倍も高いといわれている。そのため台湾では、カルバマゼピンとアロプリノールの初回投与前には、健康保険によるHLA検査が義務付けられている。このようにあらかじめ遺伝子多型が判明していれば、使用が予定されている薬剤で重症型薬疹を起こしやすいか否かが予測できることになる。5 主たる診療科複数の常勤医のいる基幹病院の皮膚科、救命救急センター※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報医薬品・医療機器等安全性情報 No.290(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.293(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.285(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SJS患者会(SJSの患者とその家族の会)1)藤本和久. 日医大医会誌. 2006; 2:103-107.2)藤本和久. 第5節 粘膜症状を伴う重症型薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症). In:安保公介ほか編.希少疾患/難病の診断・治療と製品開発.技術情報協会;2012:1176-1181.3)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2016;126:1637-1685.公開履歴初回2014年01月23日更新2019年10月21日

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日本人てんかん患者に対するレベチラセタムの有効性と安全性

 レベチラセタムは、焦点性てんかんおよびてんかん重積状態の急性期治療に使用される忍容性の高い抗てんかん薬であり、随伴症状を伴う患者において第1選択薬として使用される。しかし、日本人てんかん患者におけるレベチラセタムの有効性および安全性に、血中レベチラセタム濃度がどのような影響を及ぼすかはよくわかっていない。神戸医療センターの関本 裕美氏らは、日本人てんかん患者におけるレベチラセタムの有効性と安全性に対する血中濃度の影響について分析を行った。Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics誌オンライン版2019年8月10日号の報告。 本研究は、レベチラセタムで治療されたてんかん患者255例を対象に、レベチラセタム単独群と他の抗てんかん薬併用群における有効性および安全性を比較したレトロスペクティブコホート研究である。レベチラセタムと併用した抗てんかん薬の血中濃度、臨床検査値、副作用などの臨床パラメータを電子カルテより抽出し、分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・レベチラセタムと他の抗てんかん薬併用は、シトクロムP450活性に影響を及ぼす薬剤であったとしても、血中レベチラセタム濃度に影響を及ぼさなかった。・レベチラセタムは、併用された抗てんかん薬の血中濃度に有意な影響を及ぼすことはなかった。・血中レベチラセタム濃度は、高齢および腎機能障害患者において有意な増加が認められたが、副作用の発現率は上昇しなかった。 著者らは「日本人てんかん患者に対し、レベチラセタムは、他の抗てんかん薬と併用して使用する場合でも、血中濃度モニタリングを用いた用量調整を行うことなく、効果的かつ安全に使用できる」としている。

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転移性前立腺がん患者に対してのエンザルタミドは、ファーストラインとしても有効(解説:宮嶋哲氏)-1088

 本研究は、アンドロゲン依存性転移性前立腺がん患者を対象にアンドロゲン除去療法(ADT)とともに、エンザルタミド追加群と標準治療群(通常の抗アンドロゲン薬追加)の2群において3年全生存率(OS)、無増悪生存期間(PFS)ならびに有害事象を評価項目としたオープンラベルランダム化比較第3相試験(ENZAMET trial)である。 対象となった1,125症例の平均観察期間は34ヵ月、患者年齢中央値は両群ともに69歳であった。症例の約60%がGleason score 8~10であり、平均臓器転移数は3ヵ所で、15~17%の患者でドセタキセル早期導入がなされていた。3年OSはエンザルタミド追加群80%に対し、標準治療群72%でエンザルタミドは有意に死亡リスクを低下させ、3年PFSでもエンザルタミド追加群67%に対し標準治療群37%で、エンザルタミドは有意に再発を低下させた。有害事象により治療困難となった症例はエンザルタミド追加群で多く(33症例)、とくに倦怠感とてんかん発作が著明であった。 去勢抵抗性前立腺がん患者においてアンドロゲン受容体阻害薬であるエンザルタミドはOSを延長することが知られ、エンザルタミドはセカンドラインという位置付けだが、内分泌未治療転移性前立腺がん患者においてもADTにエンザルタミドを併用することでOSとPFSに寄与することが示された。以上より、内分泌未治療転移性前立腺がんに対するファーストラインとしてエンザルタミドの有効性が示唆された。

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てんかん患者の日中の眠気と交通事故リスク

 愛知医科大学の松岡 絵美氏らは、てんかん患者における日中の過度な眠気や睡眠障害について、とくに抗てんかん薬に焦点を当て検討を行い、てんかん患者における睡眠関連問題が交通事故リスクと相関するかについて調査を行った。Seizure誌2019年7月号の報告。 てんかん患者325例でエプワース眠気尺度(ESS)を、322例でピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて評価した。運転免許証を有するてんかん患者239例が、交通事故に関連する質問に回答した。てんかん患者の交通事故と日中の眠気や睡眠障害は関連が認められなかった てんかん患者の眠気と交通事故に関する調査の主な結果は以下のとおり。・焦点性てんかんにおいて、意識障害、年齢、ラコサミドの投与は、それぞれESSスコアに有意な影響を及ぼすことが示唆された。・バルプロ酸およびラコサミドの投与は、抗てんかん薬以外の睡眠改善薬と同様に、PSQIによる睡眠障害に有意な影響を及ぼすことが示唆された。・全体の交通事故に対し、年齢とLEVは交通事故発生に影響を及ぼした。・てんかん発作に関連する交通事故に対し、有意な影響を及ぼす唯一の因子は、睡眠改善薬であった。・てんかん発作と関連しない交通事故に対し、有意な影響を及ぼす因子は見当たらなかった。・これら3つの交通事故とESSスコアまたはPSQIスコアとの間に相関は認められなかった。 著者らは「てんかん患者の交通事故と日中の眠気や睡眠障害は関連が認められなかった。さらに、抗てんかん薬は、日中の眠気や交通事故リスクの増加に影響を及ぼしていなかった」としている。

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高齢者のてんかん治療とADLとの関連

 高齢者におけるてんかん発作の抑制は、比較的容易であると広く考えられている。これは、高齢者の生活様式がてんかんの治療結果に影響を及ぼしている可能性があるとも考えられる。聖隷浜松病院てんかんセンターの藤本 礼尚氏らは、高齢てんかん患者のADLを調査し、てんかんの治療結果との比較を行った。Psychogeriatrics誌オンライン版2019年5月6日号の報告。 てんかんセンターに紹介された65歳以上の患者177例中、84例がてんかんと診断された。その後ADLレベルに応じて3群(ADL 1群:ADLに支障なし、ADL 2群:一部の手段的日常生活動作のみ支障あり、ADL 3群:一部の基本的なADLに支障あり)に分類し、ADLと治療アウトカムについて検討を行った。てんかん症候群および抗てんかん薬の使用も評価した。 主な結果は以下のとおり。・発作から完全に解放された患者45例(53.6%)、発作が80%以上減少した患者23例(27.4%)、発作が50%以上減少した患者5例(6%)、発作の減少が50%未満であった患者11例(13.1%)であった。・発作から完全に解放された患者の割合は、ADL 1群で81.4%(35例)、ADL 2群で28.0%(7例)、ADL 3群で19.0%(3例)であった。・3群間に明らかな有意差が認められた(F=6.145、p=0.003)。 著者らは「本結果を踏まえ、てんかん治療を行う際には、ADLを考慮するべきである」としている。

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てんかん薬、皮膚がんリスクと関連?

 抗てんかん薬と皮膚がんリスクとの関連を検討した、デンマーク・南デンマーク大学のKasper Bruun Kristensen氏らの報告によると、大半の抗てんかん薬では、皮膚がんとの関連は認められなかったが、カルバマゼピンとラモトリギンで有棘細胞がん(SCC)との関連が認められたという。抗てんかん薬には光感作性のものがあるが、これまで、それらが皮膚がんリスクを増大するかは不明であった。なお、本検討では皮膚がんの重要なリスク因子に関するデータ(日光曝露など)が入手できず、結果は限定的であった。著者は、「所見が再現性のあるものか、また、さらにほかの設定で特性付けられるかを調べる必要があり、直接的な臨床的意味のあるものではない」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2019年5月28日号掲載の報告。 研究グループは、一般的な抗てんかん薬と基底細胞がん(BCC)、SCC、および悪性黒色腫(MM)との関連を調べる目的で、デンマークにおいて、2004~15年に皮膚がんと診断された患者と非疾患対照群を1対10に割り付けたコホート内症例対照研究を行った。 皮膚がん発症について、抗てんかん薬累積使用が多い群(1日量500以上と定義)と非使用群を比較し、オッズ比(OR)で評価した。 主な結果は以下のとおり。・大半の抗てんかん薬は、皮膚がんと関連していなかった。・SCCとの関連は、カルバマゼピン使用(OR:1.88、95%信頼区間[CI]:1.42~2.49)、およびラモトリギン使用(OR:1.57、95%CI:1.12~2.22)で認められた。カルバマゼピンについては、用量依存のエビデンスが認められた。・ただし、推定される絶対リスクは低く、たとえばSCCを1人が発症するには、カルバマゼピンで6,335人年の高累積曝露が必要であった。

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てんかんや統合失調症患者の早期死亡率~コホート研究

 デンマーク・オーフス大学のKatrine M. Andersen氏らは、てんかんおよび統合失調症患者の死亡率を、絶対的および相対的な尺度によって決定するための検討を行った。Epilepsia誌オンライン版2019年5月11日号の報告。 本研究は、1960~87年にデンマークで生まれ、25歳の誕生日時点でデンマークに居住していた住民を対象とした集団ベース全国規模コホート研究である。25歳以前にてんかんおよび統合失調症と診断された患者を特定し、死亡または移住について2012年までフォローアップを行った。主要アウトカムは、全死亡率とした。分析には、Cox回帰を用いた。てんかんと統合失調症の合併患者の死亡率は12.8倍 てんかんおよび統合失調症患者の死亡率について主な結果は以下のとおり。・2,416万7,573人年(中央値:15年)フォローアップを行った。・死亡率は、てんかんおよび統合失調症でなかった住民と比較し、てんかん患者で4.4倍(95%信頼区間[CI]:4.1~4.7)、統合失調症患者で6.6倍(95%CI:6.1~7.1)、てんかんと統合失調症の合併の患者で12.8倍(95%CI:9.1~18.1)であった。・50歳時点での推定累積死亡率は、てんかんおよび統合失調症でなかった住民で3.1%(95%CI:3.0~3.1)、てんかん患者で10.7%(95%CI:9.7~11.8)、統合失調症患者で17.4%(95%CI:16.0~18.8)、てんかんと統合失調症合併の患者で27.2%(95%CI:15.7~40.1)であった。 著者らは「てんかんおよび統合失調症の患者は、死亡率が非常に高い。とくに、両疾患を合併している患者では、25~50歳の間に4人に1人が死亡しており、臨床的に注意が必要である」としている。

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焦点性てんかん重積状態に対する薬理学的治療のレビュー

 てんかん重積状態(SE)は、罹患率や死亡率が高く、神経学的に急を要する。SEのタイプは、予後因子の1つであるといわれている。スペイン・Hospital Universitario Severo OchoaのN. Huertas Gonzalez氏らは、SE治療に関連するさまざまな学会や専門家グループの最新レコメンデーションおよび最新研究を分析し、焦点性SEのマネジメントに関する文献を評価した。Neurologia誌オンライン版2019年5月7日号の報告。 2008年8月~2018年8月に公表された成人の焦点性SEおよび他のタイプの薬理学的治療に関する研究をPubMedより検索した。 主な結果は以下のとおり。・SEの治療に関連するレビュー、治療ガイドライン、メタ解析、臨床試験、ケースレポートより、29件の出版物を特定した。・焦点性SEと全般性SEについて説明した報告は、3件だけであった。4件は焦点性SEのみに焦点が当てられており、7件はけいれん性と非けいれん性を分類し、焦点発作の有無を記録していた。・焦点性SEに対する推奨治療は、ステージI、IIの全般性SEに対する治療と変わらなかった。【静脈内投与可能な場合】ロラゼパムまたはジアゼパムの静脈内投与【静脈内投与不可能な場合】ミダゾラム筋肉内投与【発作が継続する場合】フェニトイン、バルプロ酸、レベチラセタム、ラコサミドの静脈内投与・難治性焦点性SE患者では、麻酔薬の使用をできるだけ遅らせるべきである。 著者らは「入手可能なエビデンスでは、焦点性SEに対する薬理学的治療は、全般性SEと異なるべきであることを示唆するには不十分である。より多くの患者を対象とした、さらなる研究が求められる」としている。

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抗精神病薬治療患者における脳波の変化~システマティックレビュー

 オーストラリア・モナッシュメディカルセンターのAnvesh Jackson氏らは、さまざまな抗精神病薬に関連した脳波(EEG)の変化を特徴付けるため、システマティックレビューを行った。Epilepsy & Behavior誌オンライン版2019年4月15日号の報告。 Medline、PsycINFO、PubMedを用いてシステマティックに検索を行い、PRISMAガイドラインを順守した。抗精神病薬治療の有無による比較を含む記述的なEEG結果を報告した主な研究論文(てんかん患者を除く)について分析を行った。アウトカムは、てんかん性放電の有無またはEEG低下とした。可能な限り、同様の介入および方法を用いた研究からプールしたデータの分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・14論文、665例の患者についてレビューを行った。・プールされたデータを分析したところ、クロザピンにおいて、EEG低下(オッズ比:16.9、95%信頼区間[CI]:5.4~53.2)およびてんかん性放電(オッズ比:6.2、95%CI:3.4~11.3)が最も一般的に認められた。・1つの研究において、フェノチアジン系抗精神病薬によるてんかん性放電の有意な増加が報告されたが、各薬剤の影響については分析されていなかった。 著者らは「本レビューでは、抗精神病薬の中でクロザピンが、最も頻繁にEEG低下およびてんかん性放電を誘発することが示唆された。他の抗精神病薬および脳波の変化に影響を及ぼす投与量、血中濃度、用量調整、治療期間を含む共変量に関するデータは限られていた」としている。

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BZP系薬剤抵抗性の小児けいれんてんかん重積、2次治療は?/Lancet

 ベンゾジアゼピン系薬剤抵抗性のけいれん性てんかん重積状態の小児における第2選択薬について、レベチラセタムはフェニトインに対し優越性は示されなかった。ニュージーランド・Starship Children's HospitalのStuart R. Dalziel氏らによる233例を対象とした非盲検多施設共同無作為化比較試験「ConSEPT」の結果で、Lancet誌オンライン版2019年4月17日号で発表した。本症の小児における第2選択薬は、フェニトインが現行では標準薬とされているが、効果があるのは60%に過ぎず、副作用が多く認められるという。レベチラセタムは新しい抗けいれん薬で、急速投与が可能であり、潜在的により有効であること、副作用プロファイルへの許容もより大きいことが示唆されている。レベチラセタムvs.フェニトイン、てんかん発作臨床的消失率を比較 ConSEPTは、レベチラセタムまたはフェニトインのいずれが、ベンゾジアゼピン系薬剤抵抗性のけいれん性てんかん重積状態の小児における第2選択薬として優れているかを明らかにすることを目的とした試験。2015年3月19日~2017年11月29日にかけて、オーストラリアとニュージーランドの13ヵ所の救急救命部門(ER)を通じて、けいれん性てんかん重積状態で、ベンゾジアゼピン系薬による1次治療で効果が得られなかった、生後3ヵ月~16歳の患者を対象に行われた。 研究グループは被験者を5歳以下と5歳超に層別化し、無作為に2群に分け、一方にはフェニトイン(20mg/kg、20分で静脈または骨髄内輸液)を、もう一方にはレベチラセタム(40mg/kg、5分で静脈または骨髄内輸液)を投与した。 主要アウトカムは、試験薬投与終了5分後のてんかん発作の臨床的消失で、intention-to-treat解析で評価した。投与終了5分後のてんかん発作の臨床的消失率、50~60%で同等 試験期間中に639例のけいれん性てんかん重積状態の小児がERを受診していた。そのうち127例は見逃され、278例は適格基準を満たしていなかった。また、1例は保護者の同意を得られず、ITT集団には残る233例(フェニトイン群114例、レベチラセタム群119例)が含まれた。 試験薬投与終了5分後にてんかん発作の臨床的消失が認められたのは、フェニトイン群60%(68例)、レベチラセタム群50%(60例)であった(リスク差:-9.2%、95%信頼区間[CI]:-21.9~3.5、p=0.16)。 フェニトイン群の1例が27日時点で出血性脳炎のため死亡したが、試験薬との関連はないと判断された。そのほかの重篤な有害事象は認められなかった。

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