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謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBも後半戦に突入したこの週末は、埼玉県の高校野球ファンの友人に同行して、上尾市にあるUDトラックス上尾スタジアムまで県大会3回戦の試合を観戦してきました。観戦した東京農大三高校対松山高校、熊谷商業対所沢高校の試合は3回戦ながらそれぞれ見ごたえある投手戦で楽しめました。しかし、おそらく40度は超えていたであろう観戦席の暑さには参りました(この日は埼玉や群馬など関東内陸部で軒並み39度を観測)。毎年、埼玉の県大会は何試合か現地で観戦しているので、暑さはそれなりに覚悟していたのですが、16日は桁違いでした。選手も大変そうで、ベンチに直射日光が当たっていた1塁側の農大三高では、試合中に何人の選手の足がつっていました。この先、温暖化が今以上に進むと、夏の全国高等学校野球選手権大会も地方大会から開催方法を真剣に考えなければならないかもしれません(朝5時試合開始とか)。選手だけではなく、観戦する側にとっても暑さはそれこそ死活問題になってきています。さて、今回は7月5日のNHKの報道で明らかになった岡山大学病院眼科で起きた検査費用の不正徴収について書いてみたいと思います。報道を読む限りでは、どうも謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件です。「目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査」で3万円自費徴収7月5日、NHKは「岡山大学病院が、眼科で治療を受けていた複数の患者に対し、本来は病院が負担するべき検査費用を支払わせていたことが、関係者への取材で分かった」と報じました。NHKの報道によれば、岡山大病院は今年1月、眼科で治療を受けていた70代の患者に対し、目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査を実施。この検査は大学病院が研究目的で行ったもので、本来費用は全額病院が負担するべきでしたが、3万円あまりの検査費用を全額患者に請求し、支払わせていたとのことです。患者から指摘を受けた大学病院は、不適切な請求だったことを認め、6月に検査費用を全額返金。その他にも不正徴収していた患者は20人以上おり、やはり返金したとのことです。なお、最初のNHK報道では「研究目的」とされていた検査は、その後「補助的検査」であったと岡山大病院は訂正しました。何か臭いますね。患者23人、総額は124万円NHKの報道を受け、各メディアも動き、岡山大病院は7月6日に眼科外来で患者23人の検査費用を誤徴取していたことが判明した、と正式に発表しました。岡山大病院が病院のウェブサイトに掲載したお詫びの文書、「岡山大学病院における検査費用の誤徴取について」によれば、自費診療で行った検査は診断の補助的検査として実施した検査で、「全額本院負担とすべきであった」として、誤って徴収していた患者23人にはすべて返金手続きを取った、とのことです。同病院は「今回の事例は、医師の保険診療への理解不足、患者さんへの説明不足等が招いたこと」として「患者さんやそのご家族、また地域の皆さまに、ご迷惑とご心配をおかけしましたことは深くお詫び申し上げます」と謝罪しています。なお、各紙報道等によれば、不正徴収が行われていたのは2019年4月~2023年2月で、目の炎症を調べる補助的な検査の費用として1人につき数万円程度徴収、総額は124万円に上っていました。1月下旬に受診した患者から大学宛に「全額負担はおかしいのではないか」との訴えがあり、病院側が調査を進めていました。NHK報道等で明るみに出たことで、7月6日の公表と相成ったわけです。「補助的な検査」とは何の検査だったのか?この報道を読んで、いくつかの疑問点が浮かんできました。一つ目は、「補助的な検査」とは何の検査だったのか、自費を徴収された患者の疾患は何だったのか、という点です。岡山大病院はWebサイトにわざわざ「お詫び文」を掲載しながら、肝心なその点について詳細を何も書いていません。NHKも各紙報道もその点について詳しく書いていません。岡山大病院が敢えて公にしていないと考えられます。これでは「私、ある悪いことをしました。ごめんなさい」と言ってるだけです。悪いことは何なのか、どう悪かったのか説明しないのでは、謝罪とは言えないのではないでしょうか。検査名や検査機器を隠さなければならない理由が何かあるのでは、と勘ぐってしまいます。本当に「補助的検査」だったのか?二つ目は、NHK報道で最初「研究目的」とされていた検査を、その後「補助的検査」と岡山大病院が訂正している点です。前田 嘉信病院長のコメントでもわざわざその点に言及しています。本当に「補助的検査」だったのでしょうか。実際には研究目的の検査で、しかも研究だという同意を患者から取っていなかったとしたら、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省による「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)に抵触してしまいます。大学病院という研究機関にあって、この指針違反は重大な問題です。「患者さんへの説明不足等が招いたこと」と岡山大病院自身が謝罪している点も気になります。具体的な検査内容や検査機器、患者の疾患名がわからないとそんなことまで勘ぐってしまいます。保険診療と併せての自費検査は混合診療なのでは?三つ目は、保険診療と併せての自費検査は混合診療に該当し、健康保険法違反ではないかということです。保険診療においては基本的に、評価療養や選定療養などで定められた診療等について保険外療養費制度を活用する以外、自費診療との”混合”を認めていません。23人もの患者に堂々と混合診療を提供していたとは驚きです。岡山大病院は今年5月に中国四国厚生局長に報告書を提出したそうですが、仮に混合診療と判定されれば何らかの行政処分が下るはずです。自費徴収したお金はどこに流れていたのか?四つ目は、自費徴収したお金はどこに流れていたか、です。報道等では、発覚のきっかけとなる診療を担当した医師は、眼科で独自に料金を徴収、病院の正規の領収書とは別に、眼科独自の領収書も発行していたとのことです。眼科の医師が自分のポケットに入れていたのか、あるいは病院の会計に入れてたのか…。そもそも、保険外療養費制度を活用するにしても、病院の会計窓口ではなく、診療科の窓口で医師が自費の料金を徴収するなんて聞いたことがありません。「医師の保険診療への理解不足」と岡山大病院は説明していますが、本当にそうなのでしょうか。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?というわけで、岡山大病院の広報に問い合わせてみたという、知人の記者に何があったのか聞いてみました。彼によれば、岡山大病院は検査名や患者の疾患名の公表を頑なに拒んでおり、検査名、疾患名はわからなかったそうです。「とくに疾患名は患者さんのプライバシーもある」と言われたとのこと。医師が徴収していた「自費分については、検査機器のメーカーに全額行っていた」と答えたそうです。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?それが事実なら、それはそれで大きな問題です。検査機器メーカーも現時点で公表されていません。ガバナンス不全が際立つ岡山大病院岡山大病院(と同大医学部)の不祥事については、本連載では「第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず」でも書きましたが、その他にもいくつかの事件で世間を騒がせてきました。まず、新型コロナ関連の交付金の過大受給です。岡山大病院は、新型コロナの入院患者を受け入れる病床を確保した医療機関を補助するための「空床補償」と呼ばれる交付金を、実際よりも高額な病床の単価で申請し、2022年度までの2年間で、合わせて19億円余りを過大に受給していたことが判明しています。その他、岡山大前学長の槇野 博史氏のスキャンダルとして、「2,000万円の私的流用」と「3億円不正経理」が2023年2月14日付の週刊誌「FLASH」ですっぱ抜かれています。同記事は、「槇野氏は、岡山大学病院長時代、約2,000万円もの大学のお金を自身の趣味である写真に注ぎ込んだ。監査法人が2022年6月3日に3億円の不正経理を指摘しているにもかかわらず、大学はこのことを公表していない」と書いています。「FLASH」はまた、2023年3月7日付の「岡山大学病院『がん患者の半数が放り出される』異常事態に…シーメンス社と結んだ250億円契約を白紙撤回」と題する記事で、岡山大学病院がシーメンスヘルスケア社と交わしていた放射線治療装置、診療棟建設、機材の維持管理等の契約を2021年8月に突如白紙撤回した事件についても書いています。同記事は、この白紙撤回も槇野氏の判断で行われたと書いています。こう見てくると、旧六医大の一つで歴史ある岡山大医学部、岡山大病院ですが、ガバナンスに相当問題がありそうです。「患者さんの信頼にこたえられるような病院づくりをしてまいる所存でございます」と、今回の事件で前田病院長は殊勝なコメントしていますが、眼科の不正徴収について検査名、機器メーカーを公表しない、できないという事実だけでも、相変わらず「信頼」からは程遠い病院だなと思いました。